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んじゃ導入な:
ジャラッ
いかにも独り者といった小ぢんまりした卓に、財布と家の鍵を無造作に投げる。
別に見るわけでもないTVを何となくつけると、そのまま万年床に上半身を投げ出す。
丁度、目線に在った部屋電がチカチカ緑色に光り、留守禄の再生を促していた。
電話は3つ下の従姉妹の梓からだった。
伝言内容は新居の住所と新しい電話番号、それと進学を断念した、というものだった。
千鶴さんが亡くなってもう3ヶ月が経っていた・・・・
地場の有力企業の会長の死亡はセンセーショナルに報道された。
週刊誌などでも俺の親父や叔父夫婦との死因も絡めて、面白可笑しく伝えられた。
その後の鶴来屋は、プロパーの専務とメインバンクからの出向者とともに経営されることになり
好奇の目に晒された創業者一族の色は一掃されることになった。
議決権の無い優先株を持ち、鶴来屋に関与し続けることは出来たのだが、姉妹の相談の結果
株を含む全ての資産は処分された。
その中に姉妹が育ったあの屋敷も含まれていたのだ。