パシャパシャパシャ。
実際にそんな音は聞こえないが、それにふさわしい勢いで女の子が駆け寄ってくる。
鞄を頭の上に置くというなかなか様式美がわかった子だ。
俺の隣に駆け込むと激しく息をつく。
日ごろから運動をしていないからだろう。
友達に誘われても、放課後は用があるからといって何もしていなかったようだったし。
その時の彼女の口調を思い出して、喉が少し詰まった。
詰まりこんだ何かを吐き出すためか、あれから煙草の本数が増えた。
ヤケ煙草なんてのもあるのかな、と思いながら、一本取り出す。
時化たその先に火をつけながら、隣にいる女の子の顔を見ないまま声を出した。
そろそろ、息が落ち着いてきそうだったから。
「あけましておめでとう、かな。恵美梨ちゃん」
「はぁ、はぁ、はぁ、はあ?
……あぁ、功ちん。あけまして…おめでとう……はぁ」
「もう少し落ち着いてからのほうが良かった?」
「そう……して……」
アイツらしく始業式はサボりだったから、今日は去年と変わりなかった。
その今日は、息が落ち着いて、恵美梨ちゃんがそのことを思い出すまで。
キレイな思い出にするための一日目だ。
ほとんど煙になってくれていないそれを、捨てた。
傾げた髪からこぼれた雫が目に入って、視界がかすかににじんだ。
あの日、上を向いて帰った俺の目に飛び込んできた雪のように。