「美由希さん! 忍さん!! さくらさん!!!」
人間達の凶刃によって、次々と倒れていく仲間たち。
村に点けられた炎が、さながら地獄絵図のようだった。
7歳の祐一には、耐えられる様な光景ではなかった。
「祐一! こっちだ! 早く来い!!」
幼馴染の晃也が叫ぶ。
晃也の隣には、少し震えている女の子がいた。
泣き声をあげないように、必死で晃也の袖を握っていた。
誰もが必死だった。
「へぇ…、今度も子供が相手かよ…。」
下卑た声と共に現れる人間たち。
新たに祐一をターゲットにする。
その手には、女の子の生首があった。
「あゆ…、あゆぅぅぅっ!!!」
呆然と立ち尽くしたまま、幼馴染だった少女の名前を呼ぶ。
いま、先程までの。
「くそっ…、祐一早くしろ!!」
晃也が必死で声をかけるが、祐一は動けなかった。
唇から、血が流れ落ちている。
あゆを殺された男たちに飛び掛りたい気持ちを必死に抑えて
いるのだ。
それもその筈、晃也とあゆは兄妹だったのだから。
この場で一番悔しいのは、間違いなく晃也だった。
その時祐一の目の前に、男が立った。
「恭也さん…。」
自分たちの剣の師匠でもあり、兄的存在でもあった高町恭也が
風のように現れたのだ。
「早く逃げろ、祐一。 此処は俺がなんとしても抑える。」
両手の小太刀を構え、人間たちと対峙する。
眼に見える数だけで10対1。
あとは煙で見えないが、おそらく数えるのも嫌になるほど、
人間たちがいるのだろう。
「きょうや、さん…。」
祐一が呆然とつぶやく。
まもなく戦い−いや、これを戦いと呼ぶには語弊があるが−
が始まった。
10数人を相手に、必死で戦う恭也。
その光景を、眼に焼き付けるかのごとく、祐一は見ていた。
「いい加減にしろ! お前は恭也さんの気持ちを踏みにじる
つもりか!! 今、俺たちがやらなければいけないのは、
此処で呆然としている事じゃないだろう!!」
そんな祐一の腕を無理やり引っ張って晃也は走り出す。
語気の強い発言とは裏腹に、眼には大粒の涙が浮かんでいた。
「俺達が、必ず…。」
最後までその言葉を言う事は無く、晃也は祐一の腕を捕まえた
まま、村を走り去った。
それから五分もした後だろうか、30人の人間を倒した恭也が
力尽きて人間たちに殺されたのは…。
これは、祐一たち『亜族』の復讐の物語…。