1 :
名無しさんだよもん:
丸で無人のような街を葉鍵キャラが冒険するスレです
2 :
コテとトリップ:04/07/17 19:29 ID:2i+zy4Dn
丸い町ってどんなのだ
このスレは以下
>>3の疑問を解決するスレとなりました
スペースコロニーとかだろ
丸いのだ ころころー
だんごですっ^ヮ^
「まるで」(「あたかも」の意)の誤植だろ。終了。
…俺ってホント面白みのない奴だな…。
>>8 間違った事を偉そうに言って終了させんな
↓以下何事もなかった様に
>>3の疑問を解決してあげてください↓
10 :
名無しさんだよもん:04/07/17 20:27 ID:G9bZBxpP
さいたま
11 :
祈原:04/07/18 00:18 ID:IFLuj9C8
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,,ヽ;. ..:::" ''''::/l::;:;:;:/
._./''';;iiヾ;;,,, _,.‐'' .K'"
ノ (l ~`''‐、:;.,_,_,..-‐''´ i iヽ
大丈夫、これは夢だから……
12 :
祈原:04/07/18 00:27 ID:IFLuj9C8
よ、よいこのみんな、みんなそろそろ、
月厨ネタとか あきちゃってるんじゃないのかい?
そのとおりだと思うぞ
>>14 誰が見ても糞は君だろうに。
毎日引き篭もっていないでたまには巣から出たまえ。
16 :
名無しさんだよもん:04/07/19 10:27 ID:RstsHSOM
1の思惑とずれまくっているな
>>18 実は知ってる。
1と2はプレイした。山岡晃さんのサウンドは最高だと思った。
Ashes And Ghostとか、Betrayalとか。
20 :
名無しさんだよもん:04/07/20 10:49 ID:2HpT51fG
20
メビウスじゃないのかよ
メビウスは糞
なんと
すてきな
ところで誰かSH4やった?
26 :
祈原:04/07/22 00:39 ID:Fe5oWgtG
いのりん♪
サイレントスズカと同じイントネーションで
29 :
祈原:04/07/22 23:02 ID:EaZ2JC9a
なにかな?
いつか見たあの境界線の縁に
君が喪くした夢をすべて詰め込んで
大丈夫、これは夢だから
サイレント葉鍵
丸=●
つまり、このスレの
>>1は2ちゃんねるの回し者だったんだよ!
しかし…このゲームって小説(SS)書くのには向かないと思うな。
戦闘シーンを書くとどうしてもグロくなるし。
かといって何も起こらない、ってのもつまらないし。
35 :
名無しさんだよもん:04/07/29 07:29 ID:IqyyhFfq
元ネタはスティーブン・キングの短編の「霧」だよね
36 :
祈原:04/07/29 22:05 ID:lLCCYe/i
世界設定、それから宗教にかぶれた婆さんとか、最後のメモとかね。
異界のモデルはまんまジェイコブスラダー。
いたる絵の子が近づくとラジオのノイズが鳴り出す
女の子の顔が霧に包まれてよく見えない
ライトに群がる女の子達
そんなサイレント葉鍵
雫:瑠璃子と祐介の心象世界はあれで何っぽい
痕:狂った世界でも鬼の戦闘能力なら楽勝だぜ!
鳩:ロビーの中の人ならぬマルチの中の人
コミパ:部屋からでられん?缶詰には最適やな、締め切りは来週やで
39 :
祈原:04/07/30 00:42 ID:mYyivTE9
サイレント葉鍵
浩平は幼女みずかを追って不思議の世界へ
入院していた折原みさおはぁゃιぃ儀式の生贄に。
血を流しながら迫ってくる清水な(ryのムービーは最恐です。
サイレント葉鍵2
7年前に事故死したはずの幼馴染あゆから祐一宛てに手紙が届く
北川はずっとピザ食ってます。真琴が刃物振り回して襲ってくるのでシャレになってません。
そして衝撃のラスト。秋子のしわざ、だたのか?
サイレント葉鍵3
初の女性主人公天沢郁未が活躍。道端に落ちてる栄養ドリンクを腰に手を当てて、ファイト一発、一気飲み。。
親を殺したぁゃιぃ宗教団体と対決します。葉子さんが年相応に老けてます。
クリアするといろんな木のコスチュームが充実してます。
サイレント葉鍵4
引き篭もりの葉鍵ヲタが主人公。
ヲタレベルに応じて徐々に壁のポスターや棚いっぱいのフィギュア、抱き枕等のヲタグッズに部屋が侵食されてゆきます。
壁にあいた穴は四谷さんが出入りするだけです。
とりあえず舞に剣の代わりに鉄パイプ持たして、真っ昼間から学校でサイレントヒル
舞の目にはみんな魔物に見えるんですよー
41 :
名無しさんだよもん:04/08/12 02:52 ID:s5uaT7My
サイレントヴォイス
星が降りしきるペントハウスで?
43 :
名無しさんだよもん:04/08/14 01:45 ID:MF80XlfZ
「雪の降る街で、あなたの事を待っています」
ある日、俺の元に一通の手紙が届いた。差出人は、不明。
本来なら悪戯として片付けてしまうはずだったそれ。しかし、俺には妙に心に引っかかるものがあった。
雪の降る街……サイレントヒル。そこで、何が俺を待っているのだろうか……。
駅から降り、俺は繁華街へと足を踏み入れた。まだそこかしこに雪が残る街並み。とぼとぼと歩く。
予定では、昔の知り合いが迎えに来てくれるはずなのだが……。
「……何だ?」
目の前の交差点。そこでじっと道路を見つめる少女。見覚えがある顔立ち。間違いない。
あれは、名雪だ。
水瀬名雪。俺がかつてこの街に滞在していた時、お世話になっていた家族の娘だ。
彼女が迎えに来てくれるはずだったのだが……その彼女は、じっと道路を眺めている。
「よう、名雪」
声をかけると、初めてこちらに気がついたように振り向く。
「祐一? 帰ってきたんだね、この街に」
唐突に彼女は、俺の胸に飛び込んでくる。
「待っていたんだよ、ずっと……」
「それじゃあの手紙、お前が出したのか?」
しかし、その言葉に名雪は不思議そうな顔を見せる。
「手紙って、何の事? わたしは知らないよ」
名雪ではないとすると、誰があの手紙を……? 俺にはこの街に知り合いは大して多くはない。
差出人は限られている。俺は手紙を取り出し、名雪に見せる。
「……これ、何?」
「俺に届いた手紙だ。差出人のこと、何か分からないか?」
名雪はどこか悲しそうな瞳で、俺の事を見る。
「とにかく、早く私の家にいこ? お母さんも待ってるよ?」
そして俺達は、夕暮れに染まる街を歩いていく。水瀬家へ向かって。
繁華街を抜け、市街地へと入る。辺りはすでに薄闇に覆われている。
「祐一が帰ってきてくれて、わたし嬉しいよ」
本当に楽しそうに、名雪は俺の隣を歩く。名雪とは、そんなに深い付き合いではなかったと思うのだが……。
いくつもの角を曲がり、そして再びひとつの角を曲がる。
雪に覆われた道路、そこには、赤い染みが広がっていた。
「……何だよ、これ……?」
しゃがみ込んで、指で触れてみる。ぬるっとした感触。間違いない、これは……血だ。
「おい名雪、ここで何かあったのか?」
「分からないよ。辺りには誰もいないし……」
その時、俺の視界の端をかすめる物があった。ゆっくりと、角を曲がっていく。
「あ、祐一!」
引き止める名雪の声も聞かず、俺はその影の後を追った。
「……こっちに来たはずだけど……え?」
角を曲がった先。そこは袋小路になっていた。行き止まりには、ゴミ袋がいくつか積み重ねられている。
その場所に。
グシャ……グチュ……
生理的に嫌悪感を感じさせる音と共に、ひとつの影が何かを行っていた。
「おい、あんた……」
声をかけると、その影はゆっくりと振り向く。棒切れのような両足、腕は無く、まるで腐った肉のような色合いの体。
「うっ、な、何だよ、これ……」
思わず吐き気がして、口を押さえる。その化け物は……人間を喰らっていたのだ。
ゆらゆらとした動きで、ゆっくりとこちらに近づいてくる。逃げようとして、俺は思わず雪で滑り、その場に転倒する。
『こんなの、何かの夢だ……ありえない、こんな異常な事……』
それでも俺は、懸命にもがき、逃げようとする。しかし焦っているためか、体がいうことを聞かない。
何とか塀を支えにして立ち上がる。化け物はすでに目の前まで迫っている。腐乱衆。気分が悪くなる。
「う、うあぁっ!」
その時、自分の横に雪かき用らしいスコップが突き立っているのが目に入る。とっさにそれに手を伸ばし、
化け物に向かって振り上げる。
「来るなっ、来るなよっ!」
ぐしゃっ! 肉が潰れる音がする。それでも俺は構わずに、何度もスコップを振り上げ、化け物を滅多打ちにする。
そして気がついたときには、化け物は赤黒い体液を撒き散らし、雪の中に倒れていた。
夕焼けのような赤い水と赤い雪が街のあちこちにあるんだな
そして街は翼人と、うぐぅ人で満ちている
スコップを手に、路地裏から戻る。そこには、変わらぬ場所で名雪が俺を待っていた。
「どうしたの祐一、何かあったの?」
「……いや、何でもない」
今の経験は、あまりにも俺の常識から外れている。白昼夢。しかし、化け物を叩きのめした感触は、
確かに俺の腕に残っている。気持ちの悪い……感触。
辺りを警戒しながら、俺は名雪と家路を急ぐ。いつの間にか、街には霧が立ち込めていた。
霧の中、俺達はさ迷い歩く。もはや本当に水瀬気へ向かって歩いているのかさえ、分からない。
「名雪、本当にこっちの方角でいいのか?」
「うん、間違いないと思うよ。……たぶん」
この街に住んでいる名雪にも、あまりはっきりとは分からないらしい。それともうひとつ、気になっている事がある。
さっきから、辺りを蠢く何かの気配を感じるのだ。それはゆっくりと、俺達を取り囲んでいくような感じがする。
早くこんな場所からは抜け出したい。そう思いながら、ひたすら霧の中を歩く。
「祐一、ついたよ」
そして俺達は、ようやく水瀬家の玄関をくぐったのだった。
「お帰りなさい、名雪」
玄関では、この家の家主、秋子さんが優しい笑みで出迎えてくれた。さっきまでの緊張が嘘のようだ。
「お久しぶりね、祐一さん」
どうやら俺の事を覚えていてくれたらしい。俺は挨拶もそこそこに、先ほどからの疑問をぶつける。
「この街、おかしいですよ。一体何が起こっているんですか?」
頬に手を当て、小首をかしげる秋子さん。
「何かあったの、名雪?」
「ううん、霧が出たけど、いつもの事だよね」
霧に包まれた街。しかしそれは、俺の記憶の中の街とは、微妙に異なっているような気がする。
「ちょっと早いけど、夕食にしましょうね。名雪、手伝ってちょうだい」
「うん!」
仲の良い家族そのままの姿で、台所へとふたりは消えていく。俺は手にしていた血糊のついたスコップを、
そっと玄関に立てかけた。
翌日から、俺は学校に通う事になった。初めての場所だが、うまくやっていけるだろうか。
「祐一なら、きっと大丈夫だよ」
名雪はそう言うが、そううまくいくものだろうか。
しかし、俺の予想とは裏腹に、意外と転入はスムーズにいった。友人らしきものもできた。
美坂香里という、どこか不思議な感じのする女生徒と、北川潤という男だ。
だが、俺はいまいち彼らと深く付き合おうという気にはならなかった。何故そんな事を思ったのか……
理由は自分でも、よく分からない。
放課後、俺は名雪と別れてひとり街を歩いていた。見覚えのない景色を眺めながら、あても無く歩みを進める。
ポケットからあの手紙を取り出し、開く。
『雪の降る街で、あなたの事を待っています。こんな事を言う資格なんてないけれど、
それでも、あなたに会いたいから。あの思い出の場所で、いつまでも待っています』
手紙を読みながら歩いていると、唐突に一人の少女とぶつかってしまった。雪の小道に、倒れこむ少女。
「きゃっ!」
「ああ、悪い。よそ見してた……大丈夫か?」
少女の手をとり、助け起こす。氷のように、冷たい手。幸い、何処にも怪我はないようだ。
「痛いところとか、無いよな? それじゃ、俺行くから……」
「待ってください」
少女に、呼び止められる。
「そっちは、危ないですよ?」
「危ない? 何のことだ?」
気がつくと、辺りには霧が立ち込めていた。あの嫌な記憶を思い出す。霧の中の、化け物……。
かさっ、かささっ……
目を凝らすと、目の前の霧の中から、何かがこちらに近づいてくる。薄ぼんやりとした姿。
間違いない、あの時の化け物だ。
俺は慌てて、周囲を見回す。道端の街路樹の添え木が、僅かに壊れかけている。力を込めて引っ張ると、
それはメキメキと音をたてて引き抜かれた。
木の棒を手に、化け物を睨みつける。少女をかばうように。こんな化け物相手に、この少女に何かあっては困る。
俺は棒切れを振りかぶると、化け物に向かって走り寄った。
ひゅん、ぐさっ!
叩きつけた棒切れには、釘が飛び出していた。それが化け物の体に刺さる。
何度も何度も、執拗に攻撃を加える。体液が噴き出し、雪を汚していく。 それでも、化け物は倒れない。
やはりこんな武器では、力不足なのか。
化け物は動きを止める。その瞬間を狙って、渾身の力で棒切れを振りかぶる。
ぶしゅーっ!
突如として、化け物は体液を俺に向かって吹き付けてきた。目にそれが入り、痛みが俺を襲う。
目を開けていられない。ゆっくりと化け物が近づいてくる気配を感じる。
このまま、俺はやられてしまうのだろうか。
キチキチ・・・キチ……
背後から、何かの音が聞こえる。かろうじて痛みを振り払い、目を開ける。そこには、カッターナイフを手に、
化け物に向かっていく少女の姿があった。
鋭いカッターの刃が、化け物を切りつける。うめき声のような気持ちの悪い声をあげながら、倒れる化け物。
そこへ少女は何度も切りつける。噴水のように、体液が飛び散る。それでも少女は手を止める事はない。
ぐしゃぐしゃにされていく化け物。思わず吐き気がする。そして少女は、止めとばかりに化け物の体を踏みつけた。
グジュ……
嫌な音をたてて、化け物は動かなくなった。
「大丈夫ですか?」
少女が俺に声をかける。
「ああ、何とか……」
どうやら俺もあまり深手は負っていないらしい。何とか普通に歩けるようだ。
「この化け物……一体何なんだ?」
雪の道に横たわる化け物。もう動かないそれを眺める。
「いつの頃からか、この街に現れるようになったんです。忌まわしい、何か……」
少女はげしっと化け物の死体を足蹴にする。
「助かったよ。まさかまた、こいつとやりあう事になるなんて……」
あまりにも現実離れしているこれは、確かにそこに存在しているようだ。
「とにかく、この霧の中は危険だな。早く家に戻った方がいい。君の家まで送るよ」
少女はどこか唖然と俺の顔を眺めて、そしてこくんと頷いた。
「君の名前は、なんていうんだ?」
霧の中を並んで歩きながら、彼女に問いかける。
「私は栞、美坂栞です」
「美坂……?」
どこかで聞いたような名前だ。
「俺は祐一、相沢祐一だ」
「祐一、さん?」
少女はにっこりと微笑んで、俺の手を引く。
「それじゃあ祐一さん、私の家まで、しっかりエスコートしてくださいね?」
霧の中をひたすら歩く。途中、何度もあの化け物と出くわした。そのたびに戦い、殺し、
或いは息を殺してやり過ごし……。
俺の両手が血で汚れきった頃、俺達は一軒の家の前に辿り着いていた。
「ここが、私の家です」
表札にかかった『美坂』の文字。それを眺めていると、不意に後ろから声をかけられた。
「相沢君?」
「な、何だ、香里か……脅かすなよ」
不思議そうな顔で、俺の姿を眺める香里。
「どうしたの、こんなところで?」
「いや、栞を送ってきたんだけど……」
「……栞?」
どこか慌てたように、辺りを見回す香里。しかし気がつくと、栞の姿は何処にも無かった。
「あれ、さっきまで一緒にいたんだが」
「夢でも見たんじゃないの? だって……」
いつの間にか、霧も晴れてきていた。まるで今までの全てが、夢だったかのように……。
翌日、俺は商店街を歩いていた。秋子さんに買い物を頼まれたのだ。
「……ん?」
スーパーの入り口まで来ると、ひとりの少女が俺の前に立ちふさがった。
「……あぅーっ」
なにやら俺の顔を眺めて、何かを思い出そうとしているかのような少女。
「どうした、俺の顔に何かついてるのか?」
「あなた、誰よぅ」
それはこっちの台詞だ。見知らぬ少女にいきなり睨みつけられたのでは、
俺のほうが被害者といえるだろう。
「俺は祐一だ。お前こそ、誰なんだ?」
「祐一、ゆういち……」
どこか遠い目をする少女。俺を見ているようで、見ていない瞳。
遠い昔、その瞳を見た覚えがあるような気がする……。
「真琴、真琴!」
その時、店の奥からひとりの少女が駆けてくる。
「勝手に離れないでくださいと、あれほど言ったでしょう!……あなたは?」
俺の方を見る、癖っ毛の少女。
「ただの通りすがりだ。この子、お前の知り合いなのか?」
ツインテールの少女を、その娘の前に押し出す。
慌てて癖っ毛の少女はそれを抱きとめる。
「真琴、無事ですか? 何か酷い事、されませんでしたか?」
酷いことを言う。俺が女の子をどうにかする人間なものか。
「あなた、真琴に何もしていないでしょうね?」
「するわけないだろうが」
「……真琴、行きましょう。帰りに肉まん買っていきましょうね」
「うん、美汐!」
そのままふたりは立ち去っていく。あのふたりの関係は、俺には分からないが……
どこか壊れたような印象を受ける。
ただ友人を大事にしている少女のようにも見えるが、あの美汐という娘、どこかおかしい。
それに、あの真琴という少女。何か引っかかる。
それはただの気のせいだろうか?
俺は買い物を済ませると、街の雑踏の中へと踏み出した。
その日の夜、俺は学校に忍び込んでいた。
俺が名雪に借りたノートを、教室に置き忘れてきてしまったからだ。
「どうしても必要なんだよ」
その名雪の言葉に断ることもできずに、俺はこうして夜の学校の中に足を踏み入れている。
「……静かだな」
俺の足音しか、聞こえるものはない。ふと窓の外を見ると、うっすらと霧が出てきていた。
この霧が出ると、ろくな事はない。俺は足早に教室を目指した。
「よし、後はこれを持って帰れば……」
ノートを手に、教室を出る。すると、廊下の端に人影が見えたような気がした。
また、化け物か何かだろうか。暗い廊下の中、じりじりと後ずさる。
キシャァッ!
唐突に響く、何かの叫び声。思わずぺたりと廊下にへたり込んでしまう。
目線の先の廊下では、何か奇妙な造形の生き物が、ひとりの人間にいたぶられている。
その人間は、剣のような物を手に、何度も何度も、その生き物に斬りつけている。
血を吹き出し、悶え苦しむ化け物。その足を掴むと、人影はブンとこちらに化け物を放り投げた。
ごろりと転がって、俺の足元に横たわる化け物。まだ僅かにピクピクと動いている。
「な、何なんだよ、一体!」
俺は腰を抜かしたまま、何とかその場から逃げ出そうとする。するとこちらに気がついたのか、
人影はゆっくりと歩み寄ってくる。制服を着た、少女。その手には、鈍く光る剣を持って。
「うわ、うわぁ!」
必死の思いで立ち上がると、俺は廊下を走り出す。あの少女には、何か薄ら寒いものを感じた。
近寄れば、その全てを切り刻んでしまいそうな……。
暗い廊下を、ひたすら走る。転びそうになりながらも、昇降口へ向かう階段を降りようと……。
「……」
「ひっ!」
目の前には、俺の後を追っていたはずの少女の姿。ゆっくりと剣を構え、俺に狙いを定める。
もと来た道へと踵を返す。どういう手を使ったのかは知れないが、あの少女は確実に俺を殺そうと追ってきている。
ひたひたと、足音が迫ってくる。無我夢中で走りながら、何とか逃げる手段を考える。
ふと目の前に、非常用の消火器の姿が見える。俺はそれを掴むと、後方に向かって噴射した。
もうもうと白い煙が立ち込める。その隙に、俺は階段を飛び降りるように駆け下りる。
これでしばらくは時間が稼げたはずだ。そのまま職員用昇降口に走り寄る。これでこの異常な学校からもおさらばだ。
「……そんな、馬鹿な……」
しかし、俺の目の前には出口を塞ぐように立ち、剣を構える少女の姿。どうやって先回りしたのか……。
「ここまでかよ……」
俺は力を抜き、目を閉じる。ゆっくりと少女が迫ってくる気配がする。後はただ、斬られるだけだ……。
「祐一さん!」
昇降口の方から、声が聞こえた。目を開けてみると、そこには見知った少女の姿。
「栞? 何でこんなところに……」
栞は剣を持った少女にカッターナイフを投げつける。難なくそれを弾き落とす少女。
しかし、その時には栞は二本目のカッターを投擲していた。
「……!」
剣を持った手に突き刺さり、少女は剣を取り落とす。
「今のうちです、祐一さん!」
その声に、慌てて少女の脇を抜け、昇降口に走り寄る。そしてそのまま栞の手を引いて、
学校の外へと飛び出した。
白い霧が立ち込める校庭。そこをふたりで走りぬける。
「助かったよ、栞。ありがとうな」
「いえ、祐一さんには御世話になりましたから」
しかし何故、彼女はこんなところに現れたのだろう。そう尋ねると、
「……乙女の秘密です」と、栞は悪戯っぽく笑った。
霧の中、再び栞を家に送り届け、俺は家路を急ぐ。徐々に霧も晴れてきているようだ。
これならば、また変なものに出会うこともないだろう。
どうも霧が出ているときは、奇妙な事が起こる気がする。それは恐らく、偶然ではない。
水瀬家に戻り、寝ぼけ眼の名雪に問いかける。
「なぁ、この街って霧が出るたびにおかしくなっていないか?」
「何言ってるの祐一、おかしいことなんて何もないよー」
「でも、名雪も化け物くらいは見たことがあるんじゃないのか?」
「化け物? 祐一、何か変なものでも食べたの?」
まったく話にならない。名雪には、何も感じないのだろうか。この街を覆う、何か異常なもの。
とにかく、俺は俺の目的を果たさなければならない。謎の手紙。その差出人を、突き止めなければ。
ベッドに横になり、目を閉じる。遠くなっていく意識の中、誰かが俺を呼んでいるような気がした……。
ここは、サイレントヒル…… 全ての罪と愛が集う街……
おお、なんか大作が投下され取る、ザ・セル見た後にたまたま葉鍵板をのぞいたらこんないいものと出会えるとは
55 :
名無しさんだよもん:04/08/14 11:30 ID:MF80XlfZ
その日、俺が学校に行くと、教室の中はとある噂で持ちきりになっていた。
何でも、一年のとある少女が、変死したというらしい。獣のようなものに噛み殺されて……。
その少女の名は、天野美汐というらしい。どこかで聞いたことのあるような、そんな名前だった。
「怖い事が起こるんだね」
名雪は少々怯えているようだった。しかし、俺は驚かなかった。今まで何度か、化け物を相手にしてきたのだ。
それを考えれば、そんな事が起こってもおかしくはないと思う。
この街は、異常だ。何かが世間とはずれている。化け物といい、霧といい……。
ふと気がつけば、香里が俺の顔をじっと眺めていた。
「どうした、香里?」
「……相沢君、あなた、どうして栞の事を知っているの……?」
「それは、道で偶然出会って……」
「嘘を言わないで! だって、あの子は……もう……」
どこか感情的になっている香里。それを見て、北川が側にやってくる。
「おい相沢、美坂を困らせたら、俺がただじゃおかないぜ?」
「いや、別にそんなつもりは……」
「俺を怒らせるなよ、相沢」
それだけ言うと、北川は席に戻っていった。なにやらうつむいて、話しかけることが躊躇われる香里。
俺はため息をひとつつくと、自分の席へとついた。
昼休み。霧の立ち込める校庭に、俺は購買で買ったサンドイッチを片手に出てきていた。
何となく香里と北川の雰囲気に、教室にいることが躊躇われたのだ。
するとそこには、あの少女の姿があった。
「こんにちは、祐一さん」
「栞か……なんでこんなところにいるんだ?」
栞は花壇の縁に腰掛けた俺の隣に、ちょこんと座る。
「祐一さんに会いに来ました」
「俺なんかと会って、楽しいか?」
「はい! 祐一さんは、何故か私のことが見えるみたいですから」
よく分からない。見えるといっても、こうして栞は確かに存在しているし、触れる事だってできる。
「美味しそうな、サンドイッチですね」
「……食べるか?」
「はい、頂きます」
そのまま俺達は、サンドイッチを食べながら昼休みを過ごした。
「祐一さん、今日はお暇ですか?」
「まぁ、放課後ならな」
「だったら私と、お出かけしませんか? 特別に私の正体も教えちゃいます」
栞の、正体……? 一体何のことだろう。しかし、興味がわいたのも事実だ。
「そうだな……放課後に、校門で待っていてくれ」
「はい。今日は霧が深いので、きっと楽しい放課後になりますよ」
放課後、乳白色の霧に包まれた校門。そこに栞は立っていた。
名雪と共にそこへ来た俺は、彼女の元へ駆け寄る。
「酷いよ祐一、急に走るなんてー」
名雪が文句を言う。
「名雪、俺は栞と出かけるから、先に帰っていてくれ」
「栞? 誰の事?」
傍らに立つ少女を指さす。
「ここにいるだろう。こいつが栞だ」
「祐一、その冗談あまり面白くないよ」
名雪はあくまでボケ倒すつもりらしい。まぁ、自分よりも見知らぬ女の子の事をとる俺に、
少々怒っているのかもしれない。
「とにかく、夕食までには戻るから、な?」
「うん、よく分からないけど……分かったよ」
そのまま名雪はひとり去っていく。
「さて、行くか栞?」
「はい、ご案内します」
相変わらず、霧の街はどこか不気味な雰囲気を漂わせていた。
もしかしたら、あの化け物たちが俺達の側にいるかもしれない……そんな気がする。
しかし、特に襲われることも無く、俺達は歩いてゆく。
やがて俺達は、ひとつの巨大な建物の前にやってきていた。
「ここは……病院か?」
「はい。ここが目的地です」
並んで入り口をくぐる。しんと静まり返った病院の中。
何故か待合室にも受付にも、人の気配はない。
「どうなってるんだ、一体……?」
「霧が出ているので、裏の世界になっているんです。祐一さん、何か武器を持っていった方がいいですよ?」
武器……? 辺りを見回せば、丁度待合室の椅子に、投げ捨ててある松葉杖。
まるでついさっきまで、そこに誰かがいたかのように……。
俺はそれを手に、先へと進む栞の後に続く。長い廊下。人の気配がまるで無いそこを、
かつかつと足音を響かせながら歩く。
カラカラカラ……
突然、目の前を空っぽの車椅子が横切っていく。思わず松葉杖を構えてしまう。
「心配しなくても、何もしてきませんよ」
そのままエレベーターに乗り込む。栞がスイッチを押し、ぐんとエレベーターは上昇する。
扉が開き、外に出る。何故か明かりひとつ灯ってはおらず、薄暗闇の廊下。
ずり……ずり……
何かが這いずるような音が聞こえる。暗闇の中、じっと廊下の奥を目を凝らして見る。
次第に、はっきりとしてくる影。……看護婦?
しかし、様子がおかしい。足を引きずるようにこちらに迫ってくる。そして、その手にきらめくメス。
「お、おい、やばいんじゃないのか、栞?」
「看護婦さんは、嫌いです。いつも痛い注射とか……顔では笑っているのに、私のこと……」
栞はカッターナイフを手にする。
「だから、滅茶苦茶にしてやるんです」
すぐ側まで来た看護婦。しかし、その顔は焼け爛れたように何もない。思わず鳥肌が立つ。
そして看護婦はメスを振り上げる。それをかわしながら、その胸にカッターを突き立てる栞。
ぐぎゃぁぁっ!
身の毛もよだつような悲鳴をあげる看護婦。床に倒れると、ジタバタと苦しみ悶える。
栞はそんな看護婦をちらりと眺めると、無造作に足でその頭を踏み潰した。
グシャッ……
卵を潰すように、ぐしゃぐしゃになる頭。脳漿らしきものが、どろりと床に広がる。
ずり……ずりずり……
気がつけば、背後の廊下から無数ともいえる看護婦の群れが、こちらに向かってきていた。
「逃げるぞ、栞!」
あれだけの数を相手にするのは、無謀だ。俺の手にした松葉杖だけでは、あんな数倒せっこない。
栞の手を引き、走る。ざわめきながら、後を追ってくるらしい無数の気配。
いくつもの角を曲がり、ひた走る。
「祐一さん、こっちです!」
栞の導きに従って、ひとつの病室に飛び込む。
サァーッ!
突如として、目の前が真っ白になる。そして気がついた時には、俺は病室の中に立っていた。
窓から差し込む日の光。すでに霧は晴れ、青い空が見える。目の前には空っぽのベッド。
側に花が一輪、活けてある。
「……相沢君?」
気がつけば、そのベッドの前に座っている香里。
「どうして、ここに?」
「あ、ああ。栞に案内されて……」
傍らを見るが、そこには栞の姿はない。見回してみても、陰も形もない。
何処に消えたんだ……?
「栞? おい、栞!」
「何を言っているの、相沢君。栞なんて、いるわけがないじゃない」
「でも俺は、確かに栞と……」
「いるわけないのよ!」
叫ぶ香里。その顔は真っ青だ。
「だって、だって……栞は、あたしの妹は、もう死んでるのよ!」
……意味が分からずに、唖然とする。栞が、死んでいる?
そんなはずはない。俺は何度も栞と出会い、今日だって……。
「一ヶ月前に、この病室で死んだの。あたしは最期を看取ったから、間違いはないの」
「そんな、馬鹿な……」
それじゃあ、俺の出会った栞は、一体?
「ねぇ、何で相沢君が栞の事を知っているの? 何でこの場所に来れたの?」
「それは、栞に案内されて」
「いい加減なことを言わないで! ねぇ、どうしてなの、どうしてなのよ!」
俺に掴みかからんばかりの勢いの香里。その時、病室の外から北川が飛び込んできた。
「相沢、お前なんでここに……美坂、大丈夫か?」
半狂乱になっている香里。その体を、北川が抱きしめる。
「栞はもういないのよ! あたしが、あの娘の事を!」
「落ち着け美坂! 栞ちゃんはお前のせいで死んだんじゃない! 相沢、お前美坂に何をした!」
「俺は、何もしていない」
しかし、北川は鋭く俺の事を睨みつける。まるで親の敵でも見るかのように。
「相沢……お前はやっぱり美坂を傷つけるんだな。お前は、許せないやつだ」
俺はたまらず、病室を飛び出す。いつの間にか廊下は煌々と明かりがつき、何人もの患者や看護婦が
行き来している。あの薄暗い病院は、なんだったんだ?
病院を飛び出し、建物を振り仰ぐ。俺の見た全ては、幻だったのだろうか。あの看護婦も、
気味の悪い廊下も、繋いだ栞の手の温もりも。
夕暮れが近づく街の中、俺はとぼとぼと歩いた。何もかも、理解できない。
俺は本当に、この街に生きているのか……?
水瀬家に戻ると、秋子さんが優しく出迎えてくれた。それだけでどこか、心が安らぐ。
勧められるままに、風呂に入る。湯の中に沈むと、混濁していた意識がゆっくりと解きほぐされていく。
「祐一、電話だよー」
脱衣所から、名雪の声が聞こえる。
「俺に? 誰からだ?」
「えっと、北川くん」
あのキレかかっていた北川が、俺に何の用だ?
「何だかすぐに学校に来てくれって言って、切れちゃった」
夜の学校。あまり行きたくはない。あの夜の出来事、刀を持った少女に追い回された事。
その出来事が、まだ頭の片隅に残っている。
しかし、呼ばれたのならば行くしかないだろう。
風呂から出ると、着替えて玄関を出る。
「気をつけてね?」
名雪が心配そうに、見送ってくれた。
……静かに闇の中に佇む学校。道を行く途中から、また霧が出てきた。何だか嫌な予感がする。
もしもまた襲われたら、どうしようもない。俺は昇降口の辺りを探る。すると、傘立てに一本の傘が立てかけてあった。
それを手に取り、校舎の中に踏み入る。頼りない武器だが、無いよりはましだろう。
しかし、北川はどこにいるのだろうか。霧に包まれた校舎の中、俺はさ迷い歩く。
校舎の中にはいないようだ。すると、後は体育館ぐらいしか……。
渡り廊下を渡り、体育館に足を踏み入れる。真っ暗な体育館の中。
「おい、北川、いるか?」
俺の声も、闇に飲み込まれていく。いないのか。俺は諦めて、体育館から出ようと……。
「待っていたぞ、相沢」
背後から響く声。どこにいるのかは分からないが、北川は確かにここにいる。
「何の用だ、こんなところに呼び出して?」
「お前は、美坂を、いや香里を傷つけた。お前の存在が、彼女を苦しめる。だから、ここでお前を消す!」
パーンッ!
突如として響く銃声。左腕を、何かがかすめる。焼け火箸を押し付けられたような、鋭い痛み。
北川が、銃を使った? 何処からそんな物を持ち出したのか、いや、何故そこまで俺を目の敵にする?
「死ねよ相沢! 香里の、俺の前から、永遠にいなくなれっ!」
俺は体育館の外に飛び出そうとする。しかし、何故か扉が開かない。鍵はかかっていないはずなのに、
いくら押しても引いてもびくともしない。
ここで死ぬわけにはいかない。何とかして、北川を止めなければ……。俺は手に持った傘を握り締める。
暗闇の中、北川も俺の居場所ははっきりとは分からないはずだ。
足音を忍ばせ、ゆっくりと奥へと進む。北川の気配を、何とかして探りながら。
ギシッ、ギシ……
床板を踏む音が聞こえる。俺はそっと忍び寄ると、その音の背後に回りこんだ。おぼろげに闇の中に見える人影。
それに向かって、思い切り傘を振り下ろす。
「ぐあっ!」
先制の攻撃が、北川に命中する。下手に銃を使われるわけにはいかない。そのまま滅多矢鱈に打ち下ろす。
ボコッ、バキッ、グシャ……
柔らかい人間の体を、鈍器で殴る音が響く。もはや俺は、逃げる事なんて考えてはいなかった。
ただ目の前の敵を、徹底的に破壊する事、それだけを考えていた。
「あ、相沢! 貴様ぁ!」
パーンッ!
銃声が響き、俺の脇腹の辺りを銃弾がかすめる。鋭い痛み。しかし、脳内麻薬が出ているのだろうか、
あまり気にはならない。
そのまま滅多打ちにする。徐々に、北川の動きが弱まっていく。
「うああぁっ!」
俺は傘を垂直にし、倒れこむ北川の体をその先端で突き刺す。ズブリという、気味の悪い手応え。
「がぼっ、げぼっ!」
がくがくと震える北川の体。そのままぐいっと傘を押し込む。ずぶずぶと深く貫かれる北川。
そして一際大きくぴくんと体が跳ねると、そのまま北川は動かなくなった。
「はぁっ、はぁっ……」
傘を手放し、その場にへたり込む。そして気がつく。俺は……北川を、この手で殺してしまった。
慌ててその体をまさぐる。ぬらりと、手につく血糊。
「うわ、うわあぁっ!」
俺が、殺した。俺が、北川を殺した。この手で、殺した。
カチャリと、足元で何かが音を立てる。拾い上げると、それは一丁の拳銃だった。
「お前が、こんなもの使うから、俺は……俺はっ!」
気がつくと、いつの間にか体育館の扉が開き、そこから月光が差し込んでいた。霧はどうやら晴れたらしい。
俺は拳銃をポケットにしまうと、北川の体から傘を引き抜いて歩き出した。
どうしようもない、殺人者の自分を呪いながら……。
水瀬家に戻り、傷の手当てをし、ベッドに潜り込む。もう自分が何をしたのかは、考えない事にした。
どうかしていた。いくら殺されそうになったからといって、クラスメートをこの手で殺してしまった。
明日には、間違いなく大きな事件になっている事だろう。
「おとなしく、自首するか」
自分でも、おかしいことだとは分かっている。あの時の俺は、どこか変だった。
まるで押さえ込まれていた闘争本能が、体を突き破って溢れ出てきたような。
そのまま目を閉じ、眠りの中に身を任せた。
……朝を迎え、学校へと辿り着く。予想通り、学校の中は大騒ぎになっていた。
「……相沢君、おはよう」
香里がどこか疲れたような顔で、俺に挨拶する。
「香里どうしたの? どこか変だよ?」
名雪の無邪気な質問。しかし、彼女なりに気は使っているのだろう。
「体育館で、北川君の死体が見つかったの。拳銃で、自分の頭を撃ちぬいた姿で」
「そんな馬鹿な!」
俺は思わず大声を上げていた。北川の死因は、俺が傘で突き殺した事だ。拳銃で自殺なんて、そんなはずはない。
「本当よ。頭の銃創以外は、綺麗な体だそうよ」
体ががくがくと震える。思わず、ポケットの中の物に手を伸ばす。それは、昨日持ち帰った北川の拳銃。
「自殺に使った拳銃は、見つかったのか?」
「ええ、彼の横に落ちていたそうよ」
ならば、この手に触れるものは何だ。俺が確かに持ち帰ったこれは、何なんだ?
俺は、本当に昨晩北川と殺しあったのか? 意識がはっきりとしない。ふらふらと、椅子に倒れこむ。
「ちょっと祐一、大丈夫?」
名雪が心配げに、俺の背中をさする。その手の暖かさも、どこか作り物めいて、うそ臭い。
「俺は、どうかしちまったのか……」
部活があるという名雪と別れて、下校する。こんな事件があった日でも、学校というものは正常に機能するらしい。
気がつけば、再び街は霧に覆われていた。
この霧が出ると、いつも不可思議な体験をする。もしかしたら、この霧が全ての元凶ではないのだろうか。
とにかく、もうこれ以上余計な事に関わらないように、俺は家路を急ぐ。
「……何だ?」
目の前の道路に、犬のような何かがうずくまっている。しかし、犬にしては妙に大きい。
ちょっとした大型犬くらいはありそうだ。
このまま進んでは、きっと酷い目にあう。そう思って振り向くと。
「なっ、そんな馬鹿な!」
背後の道路は陥没し、底も見えないような奈落の谷に姿を変えていた。
確かに今歩いてきた場所なのに、そんな馬鹿なことがあるものか。
背後から、グルル……という唸り声が聞こえる。振り向けば、犬のような何かがこちらを睨みつけ、牙をむいていた。
これ以上、下がる事もできない。逃げ場は無い。
「グワァッ!」
唐突に飛び掛ってくる何か。その体毛は金色に輝き、まるで狐の化け物かと見紛う。
「ぐっ!」
牙がかすめ、俺の腕を切り裂く。滴り落ちる血が、道路を濡らす。
このまま逃げ続ける事にも、限界があるだろう。何しろ唯一の逃げ道は、あの獣に塞がれている。
だとすれば、何とかして排除する以外にない。
俺はポケットの中の拳銃を手にする。じりじりとにじり寄ってくる獣。
慎重に銃の狙いをつけ、そして獣は飛び掛ってきた。
パーンッ!
狙い澄ました弾丸は、真っ直ぐ獣の体内へとめり込んでいった。
「……やったのか?」
道路にうずくまり、息も絶え絶えといった感じの獣。やがてその体は霧に包まれると、姿を変えた。
「お前は……」
そこには、あの日商店街で出会った……少女の姿があった。
確か、真琴とかいったはずだ。
「おい、大丈夫か! しっかりしろ!」
慌てて駆け寄る。しかし彼女の体から溢れ出る血は、大きな血溜まりを作っていく。
「あぅ……祐一……?」
「お前、何で俺の事を……こんな……」
微かに身じろぎし、俺の腕を掴む。
「あなただけは……許せないんだから……あたしを捨てた、あなただけは……」
徐々に、霧が晴れていく。それと共に、少女の姿も薄くなっていく。
「許せない……許せないのよぅ! 何で捨てたの! あたしは、祐一と一緒にいたかったのに……」
俺はそっと消えゆく彼女に手を伸ばす。そっと頬に触れると、少女は……真琴は微かに微笑んだ。
「美汐じゃ、駄目だったの。だから殺しちゃった。やっぱり、祐一じゃ、ない、と……」
そして掻き消すように、彼女の姿は消えてしまった。辺りは霧も晴れ、いつもの通りに戻っている。
「何だよ、何なんだよ! 俺の見ているものは、何だっていうんだよ!」
俺はただ、叫ぶ事しかできなかった。
夜の闇に包まれた街の中を、一人歩く。俺は自分を見失いかけていた。
信じられないようなことばかりが起こり、俺の精神をずたずたにしていく。
そんな現状に、俺はもう耐えられなかった。
誰でもいいから、俺を罰して欲しい。北川を殺し、真琴という少女を殺した俺を。
ポケットから、あの手紙を取り出す。
『雪の降る街で、あなたの事を……。こんな事を言う資格なんて……
それでも、……に会いたいから。あの思い出の……いつまでも待って……』
手紙の文字が、消えている? 雪で滲んだのかとも思ったが、そうではない。物理的に消えているのだ。
もしかしたら、これも幻覚なのではないだろうか。俺はまた、夢と現をいったりきたりしているのではなかろうか。
目の前の道路を、一人の少女がふらふらと歩いている。どこか危なげなその足元。
予想通り、その少女は雪道に倒れこんでしまった。慌てて駆け寄り、抱き起こす。
「大丈夫か?」
「はい、平気です……」
うちの高校の制服を着ている少女。リボンの色からすると、三年生だろうか。
「佐祐理ったら馬鹿ですから、こんな事で人に迷惑かけちゃうんですね」
どこか自虐的な言葉。捕まえていないと、どこかに消えてしまいそうなその存在。
「佐祐理は、罰せられなければならないんです。一弥を殺してしまった佐祐理には……」
「よく分からないけど、佐祐理……さん? あまり思いつめるのは、よくない。さぁ、家に帰るんだ」
「帰る家なんて、ありません。もう、佐祐理は生き続けることに疲れたんです」
ひたすら自分の存在を否定する言葉を続ける彼女。その姿が何だか、自分を見ているようで、胸に痛い。
「舞が来てくれれば……佐祐理も楽になれるのに」
「舞……?」
ぞわっ!
背後から、猛烈な殺気が突き刺さってくる。慌てて振り向くと、そこにはあの剣を持った少女の姿。
「あ……うっ!」
思わず後ずさる。その少女に感じる、本能的な恐怖。毛穴が音を立てて開いていくように感じる。
「ああ、舞……!」
佐祐理さんは、そんな少女に向かい合う。
「佐祐理を、罰しに来てくれたんですね?」
舞と呼ばれた少女は、何も答えずに剣を構え、俺に狙いを定める。
「どうして……どうしてこの人なんですか? 佐祐理をこの罪から解き放ってくれないんですか、舞?」
「……その男が、罰を欲しがっているから」
舞はゆっくりと言葉を紡ぐ。俺が、罰を欲しがっている?
「舞、お願いだから佐祐理を罰して! お願い……」
ゆっくりと舞は首を振る。佐祐理さんは、がっくりと道路に座り込む。いつの間にか、辺りは霧に覆われていた。
「嫌だ……俺はまだ、死にたくない……」
じりじりと迫ってくる舞。霧の中のその姿は、どこか幻想的にも思え、そして何よりも恐怖を感じさせる。
あれほど俺は罰を求めていたのに、死と向き合った今は、それから逃げようとしている。
そして舞は、一気に距離を詰め、剣を振りかぶった。
「舞っ!」
スローモーションのように感じる一瞬。佐祐理さんが、俺の前に飛び出してくるのが見える。
そして彼女は、ざっくりと舞の剣に貫かれていた。
「あ、あはは……ようやく、佐祐理も解放されるんですね。この罪から……」
どさっと雪の中に崩れ落ちる佐祐理さん。溢れ出る血が、雪を真っ赤に染めていく。
「一弥……お姉ちゃん、今行くからね……」
俺はただ、その光景を眺めていた。そして舞は面白くもなさそうに剣を引き抜くと、俺の方を向く。
「あなたに、罰を……」
「祐一さん!」
霧の中に響く、知った声。この声は、栞だ。
「早くこっちへ! もうすぐ霧が晴れます!」
大慌てで舞の前から逃げ出し、声の方へ走る。ゆっくりと追いかけてくる舞。
角を曲がったところから、こちらを手招きしている栞。
「栞、お前は……」
「お話は後です。さぁ、逃げましょう!」
栞に手を引かれ、走り出す。どんどんと離されていく舞。その姿を振り返りながらも、俺は足を止めない。
「あいつは……舞っていうのは、何者なんだ?」
走りながら、栞に問いかける。
「彼女はあなたの罪の意識が生み出した魔物。クリミナル……」
やがて舞の姿が消え、俺達は走るのを止めた。
肩で息をつきながら、栞の姿を眺める。もし香里の言っていた事が真実ならば、ここにいる栞は……。
「栞、お前は一体……」
「私は、私ですよ。美坂栞です」
「でも、お前は死んだって、香里が……」
栞はふふっと微笑む。
「そうですよ。でも、死んだ人間がここにいちゃいけないなんてこと、ありませんよね?」
でも、それはおかしな事だ。死人が現世に再び現れるなんてことは、ありえない。
「でも、祐一さんはもうひとり、死んだはずの人間に出会っているはずですよ?」
死んだはずの人間に、出会っている? 栞以外に、そんな存在がいるとでもいうのだろうか。
思いつきもしない。そんな事、分からない。
「ここはそういう街なんです。全ての罪と愛が集う街……」
俺には、罪だけしか存在しない。だから、この街に呼ばれたのだろうか。
あの手紙。あれもこの街という場所そのものが生み出したものなのかもしれない。
しかし、この俺の罪の記憶は、何処から生まれているものなのだろう。記憶の中に、刻み付けられたかのような傷。
「そろそろ霧が晴れます。また、しばらくお別れですね」
栞は俺から離れ、笑顔で手を振る。
「さようなら、祐一さん。また霧の中で会いましょう」
そして霧が晴れると共に、栞の姿は掻き消えた。
香里の様子は、いつもと変わらないように見えた。北川が死んでから、多少は落ち込んでいるかと思ったのだが。
俺に対する眼差しも、以前のように戻っている。
その日の昼休み、名雪がうきうきと弁当を広げていた。
「今日もお母さん、私の好物ばかり入れてくれたよー」
「……名雪、あなた……」
それっきり、香里は黙り込む。
どこか不自然にも感じたが、特に気にすることもないだろう。
「相沢君、後でちょっと話があるんだけど」
香里が俺の耳元に口を寄せ、そう囁く。
「ああ、それじゃあ放課後にな」
「祐一、何こそこそお話してるの?」
「名雪には関係のないことだ」
「うー。わたし、お邪魔虫?」
うーうー唸る名雪は放っておいて、俺達は授業に戻る。
香里から話か……少々気になる。そして放課後。
「話って、何だ?」
俺達は屋上に来ていた。風を受けて、香里は目を細める。
「栞の、話か?」
「そうね、それもあるわ」
香里は俺に振り向き、言葉を続ける。
「相沢君が何で栞の事を知ったのか……それはもういいわ。
でも、もしも栞に会ったというのなら、その方法をあたしにも教えて欲しいの」
「会って、どうするんだ?」
香里は目を伏せる。どこか悲しげなその表情。
「あたしは、栞が死ぬことから目を背けてきたの。栞の病気を、直視しようとしないで」
夕焼けが、辺りを照らす。香里の顔も、赤く染まっている。
「謝りたいのよ。あの時、あなたを見てあげられなくて、ごめんなさいって……」
その香里の気持ちは、痛いほど俺の胸に突き刺さる。大切な人を、見捨てるしかなかった香里。
その気持ちは、どこか俺の中の何かを揺さぶる。
「栞は、霧の時に現れる。それ以外は、よく分からない」
俺にも、確実に栞と会う方法は分からない。ただ、霧の時にまた会おうという言葉。
それだけが、道しるべとなる。
「そう……それと、こっちが本題なんだけど」
香里はじっと俺の目を見る。そして。
「名雪は……まだ秋子さんが死んだことを受け入れられないの?」
俺は、耳を疑った。秋子さんが、死んだ? そんなはずはない。俺は毎日秋子さんと顔を合わせている。
そんな彼女が、死んでいるはずはない。
「死んだって、何の冗談だよ? 言って良い事と、悪い事が……」
「商店街の交差点で、車に跳ねられて死んだのよ。どうしたの、相沢君?」
そんな馬鹿な……。しかし、香里が冗談を言っているようには見えない。
ならば、俺が見ている秋子さんは何だ? 栞と同じく、死んだ人間だとでもいうのか?
その時、栞の言葉を思い出す。
『でも、祐一さんはもうひとり、死んだはずの人間に出会っているはずですよ?』
まさか、そんな……。
「相沢君、名雪のこと、何とかしてあげて。あのまま妄想の中で生きていたら、きっとあの娘壊れちゃうから」
その言葉を背に、俺は屋上から出る。名雪の心。それを癒す資格が、俺にあるのだろうか。
水瀬家に帰ると、名雪が台所で料理していた。
「祐一、もうすぐできるから、待っててね?」
「……名雪、秋子さんは?」
「えっと、祐一のお部屋のお掃除してると思うよ?」
俺は階段を上り、部屋のドアを開ける。そこには、机の上に放り出してあったあの手紙を眺める秋子さんの姿。
「……秋子さん」
「あら、お帰りなさい、祐一さん」
俺はドアを閉め、秋子さんに向かい合う。
「このお手紙、誰からなのかしら?」
「俺にも、分かりません。それを探すために、この街に来たんですから。それよりも秋子さん、
お話があるんですが」
秋子さんの瞳を見つめ、言葉を続ける。
「あなたは、死んだんじゃないんですか?」
「……」
困ったような顔で、秋子さんは俺を見る。そしてゆっくりと口を開いた。
「私は名雪の心の中の姿。あの娘が私を望んだから、霧の海から生まれたの」
「それが、正しい事なんですか?」
「あの娘はまだひとりじゃ生きられないわ。祐一さんがあの娘を守ってくれるなら、それが一番だけど」
秋子さんはドアを空け、部屋の外に出る。
「その手紙を見て、祐一さんも昔の事を思い出したのかしら?」
昔の、事……?
ズキンと、胸の奥が痛んだような気がした。
「月宮あゆちゃん。祐一さんと、とても仲良しだったあの子。思い出した?」
「あゆ……月宮、あゆ……?」
頭が痛い。何か思い出す事を、必死で体が拒んでいるような。
朦朧とする意識の中、必死であゆという名前を繰り返す。
『祐一くん!』
「あゆ……なんで、俺は忘れていたんだ?」
月宮あゆ。昔、俺がこの街にいた頃、よく一緒に遊んだ少女。
そして俺が引っ越す時に、別れ……別れ? よく思い出せない。
「秋子さん、あゆは今、何をしているんですか?」
秋子さんは口ごもる。
「秋子さん!」
「……まだ、全部を思い出してはいないのね。あのね祐一さん、あゆちゃんは……」
「はぁっ、はぁっ……」
俺は病院へ向かって走っていた。目指すのはひとつの病室。
『あゆちゃんは、意識不明なの。あの日、木から落ちて……』
「はぁっ、はぁっ!」
病院に飛び込み、教えてもらった病室を目指す。
「……あゆ……」
そこには、真っ白なベッドの上で、瞳を閉じる少女の姿。
真っ白な肌の色、か細い腕。ベッドの上の生活が長い事を、物語っている。
そっとその側に寄り、その腕を取る。僅かに体温を感じさせるその腕。
「あゆ、お前が俺を呼んだのか?」
少女からの返事はない。静かな病室。窓の外は、真っ白な霧に覆われている。
「彼女が呼んだんじゃありませんよ」
その声に振り向くと、病室の入り口に栞が立っていた。
「この街に祐一さんを呼んだのは、祐一さん自身です」
「……なんだって?」
ゆっくりと病室の中に入り、俺の隣に腰を下ろす。
「あのお手紙、まだ持っていますか?」
ポケットの中から、手紙を取り出す。そして開いてみると。
「……?」
手紙には、何も書いてはおらず、ただ真っ白な紙が広がっていた。
「なんだよ、これ……?」
「祐一さんも、気がつき始めているんです。真実に……」
真実? あゆのことを思い出した俺に、まだ何か思い出していない事があるのか?
「栞は、何か知っているのか」
くすすっと栞は微笑む。
「あの場所へ、行ってみたらどうですか? あゆさんと遊んだ、そしてあゆさんが意識を失った、あの場所へ」
俺は霧の中、栞とふたりであの場所へと向かっていた。
途中で化け物のいくつもの気配を感じ、そのたびに蹴り殺した。
どこかそうすることが、喜びとなっている事を感じながら。
そして、俺達はその場所へと辿り着いた。大きな切り株。そこには、一本の木が立っていたはずだった。
「ここが、あゆの落ちた場所……」
「本当に、落ちたんでしょうか?」
その栞の言葉に、彼女の顔を見る。
「祐一さんは、まだ思い出してはいないんですね。あの時、ここで何が起こったのか……」
「……何が、起こったんだ?」
栞はうーんと口元に指を当てて、考え込む。
「祐一さんが私のものになってくれるなら、教えてあげてもいいですよ?」
「……構わない。教えてくれ、栞」
俺は即答した。この胸の内のざわめくもの。それの正体を知るためならば、俺は……。
栞はにっこりと微笑む。そして、口を開いた。
「あゆさんは、祐一さんが突き落としたんですよ」
俺の頭の中が、スパークする。記憶の堰が切れ、怒涛のように溢れ出してくる。
『祐一くん、もういなくなっちゃうんだね』
『仕方がないだろ。親の決めた事なんだから』
『でも、ボクは祐一くんと離れたくないよ……』
『わがまま言うなよ。どうにもならないんだ』
『でも、でも……』
必死で俺にしがみつくあゆ。俺達は木の上に登っていた。そこで眺める、街の景色が好きだったから。
『嫌だよ、行かないでよ祐一くん!』
『あゆ……』
いつまでたっても、離れようとしなかったあゆ。俺も深い悲しみを感じていた。分かれるのが辛いならば、
その悲しみを消したいと思っていた。
そう、あゆがいるから俺は悲しいのだ。だから、彼女がいなくなれば……。
子供の、幼稚な考え。子供の残虐性。それが、その行動を引き起こしたのだ。
『あゆ、さようならだ』
『えっ、祐一くん……!』
ゆっくりと木から落ちていくあゆ。俺はその姿を、じっと眺めていた。
口元に、薄笑いさえ浮かべながら。
「あ……うあぁ……!」
俺はぼろぼろと涙を流していた。俺が、あゆをあんな酷い目にあわせたんだ。
「祐一さんは、その事をずっと心の中で悔やんでいたんですね。だから、あの手紙が生み出された。
祐一さん、あの手紙はあなたが生み出したものなんですよ? この街に残る後悔を、忘れなかったから」
俺はポケットから手紙を取り出す。真っ白な、何も書いていないそれ。手に取ると、徐々にその姿はぼやけ、
そして俺の手の中で消えていった。
「街の中の化け物。あれも、祐一さんの心が生み出したものです。祐一さんの中の残虐性の現れ。
その証拠に、他の人には見えないはずですよ」
俺が叩き潰してきた化け物は、俺自身だったのか。思えば化け物をどこか嬉々として殺してきた俺。
それは、自分自身を痛めつけることを俺が望んでいたからなのか。
「そして、祐一さんは自分が罰せられる事を望みました。その結果生み出されたのが、クリミナル……」
栞はじっと林の奥を眺める。祐一が振り仰ぐと、林の奥から、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる少女。
「舞……」
俺はじっと立ち尽くす。彼女が自分を罰してくれるというのならば、それもいいだろう。
もはや俺には、生きている価値もない。あゆを傷つけてしまった俺には……もう、何もない。
やがて舞は俺の前に立つ。
「……決心は、ついた?」
「ああ。俺の罪を、罰してくれ」
舞はゆっくりと剣を振り上げる。俺は目を閉じ、その時を待つ。
そして舞が剣を振り下ろす音が聞こえ……。
……何も起こらない。俺はゆっくりと目を開ける。
そこには、自らの腹を剣で突き刺し、倒れる舞の姿があった。
「何で、こんな……俺を罰するんじゃなかったのか」
「……祐一、あなたは生きて苦しむの。永遠の責め苦の中に身を置く……それが、あなたの罰……」
血の海の中、ゆっくりと舞は事切れる。俺を罰するものは、いなくなってしまった。
もう、俺は永遠の罪の意識の中で生き続けるしかないのだろうか。この命が尽きるまで。
「祐一さん、約束、覚えていますか?」
栞が俺の前に立ち、そう言う。
「私のものになってくれるって、約束です」
もう、どうでもいい。何もかも。
「ああ、好きにしてくれ……」
栞は満面の笑みを浮かべる。
「それでは、行きましょうか」
栞は俺に顔を寄せ、そっと唇を重ねる。口付けを交わし終えると、俺の体は糸が切れたように、
ゆっくりとその場に崩れ落ちる。
俺を見下ろす栞。どこか緩んだ唇、風もないのに、ゆったりとたゆたうショートボブの髪、冷たくも潤んだ瞳。
「私のいる場所は、ちょっと暗くて冷たいですけど、祐一さんと一緒ならきっと楽しいですよね」
次第に、体の力が抜けていく。胸の鼓動も、弱まっていくのが分かる。
「さぁ、行きましょう。祐一さん」
そして俺は、暗闇の中へと落ちていった。
その病室の、眠り続けていた少女が目覚めたという事は、病院中の話題になっていた。
もう何年も意識不明を続けていた少女。それが不意に目覚めたのである。
「祐一くん……どこなの……?」
彼女が最初に発した言葉。それは、ただひたすらに愛するものを求める言葉。
しかし、もう彼がその言葉に答えることはない。
愛も苦しみも、絶望も後悔も。全ては、儚い霧のように消え去っていく。
「祐一くん……ボク、寂しいよ……会いたいよ、祐一くん……」
たとえ全てが許されるとしても、もう時計の針は戻らない。
すべては、霧の海の中に……。
ここは、サイレントヒル…… 全ての罪と愛が集う街……
見事なクロスオーバーです。ちょっと感動した。
GJ!
面白かったです!!
83 :
名無しさんだよもん:04/08/15 00:08 ID:wxUUddvo
久しぶりに良い長編を見たよ。GJだね!
うんん・・・GJ!
設定としてはサイレントヒル2かな?
文字が消える手紙とか・・・。
まぁ、なんにせよもう一度GJ!
>>43 面白かったよ。
なんつーか、話の組み立て方がうまい。
また気が向いたら短編でもいいから書いてね。
久々にPS立ち上げて初代サイレントヒルやったけど、
オープニングデモの曲いいよね。
マンドリン(フラメンコギター?)の使い方とか。
2以降はなんか小奇麗すぎて、あんま気分悪くならないので嫌(w
初代の大味なとこが良いのになあ。
(そういやデザイナー変わったんだっけ)
ちょっと前、オカ板でサイレンが良いとかいう話があった。
87 :
名無しさん@初回限定:04/08/23 11:37 ID:VNFaA5Ch
「ここが、サイレントヒル……」
私は、神岸あかり。ごく普通の高校生。
今私は、冬休みを利用してとある街へとやってきている。
サイレントヒルと呼ばれる街。本当の名前は、別にあるらしいけれど、
いつの頃からかそう呼ばれている場所。
昔は観光地として有名だったらしいけれど、今はちょっと寂れている。
何故、そんな場所に私が来たのか……。
私には、好きな人がいた。ずっと小さな頃からの、幼馴染。いつかは私の事を
振り向いてもらいたいと思っていた人。
どこか不器用だった彼は、私の気持ちには気がついてはくれなかった。けれども、
私は諦めなかった。この思いが届くと信じて、疑わなかった。
近くて遠いふたりの距離。過ぎてゆく日常。
しかし、それは唐突に終わりを告げた。
夏のある日、彼は死んだ。殺されたのだ。
警察も捜査をしたけれど、結局犯人が見つかる事は無かった。
いつも隣にいた存在が、ぽっかりと抜け落ちてしまった感覚。私はただ日々を過ごした。
そして季節は巡り、冬が来て。私はある噂を耳にした。
『失ったものが、見つかる場所 それが、サイレントヒル』
それに縋るように、私はここに立っている。
「凄い霧……」
バスから降り立った私を出迎えたのは、街を覆う乳白色の霧だった。それは幻想的ともいえるのだろうけれど、
どこか吸い込まれてしまいそうな、そんな感覚を受ける。
さて、これからどうしよう。ここに来れば彼と出会える、そんな淡い期待はあったけれども
具体的にどうすればいいのかまでは考えていなかったから。
街へと続く小道を歩く。うっそうとした木々に囲まれ、静けさと霧に包まれた道程。
何だか、ちょっと怖い。どこか別の世界に通じているような、そんな気がして。
……どれだけ、歩いただろう。急に目の前に、ぽっかりと広がった広場。
そこはどうやら教会の敷地のようだった。霧の中にぼやける教会の尖塔と、辺りに立ち並ぶ墓石。
そこに、ひとりの人影が佇んでいた。
「……誰?」
こちらを振り向く人影、どうやら私と同じくらいの年頃の女の子みたい。
「あ、ごめんなさい。ちょっと道に迷っちゃって。街へは、この道を行けばいいんですか?」
私はその娘に尋ねる。
「えっと、そこの道を真っ直ぐ歩けば街に行けるけれど……今は、行かない方がいいと思うよ?」
何でこの人は、そんな事を言うのだろう。
「今、街は何だか変な事になってるみたいなんだよ」
「変な事?」
「そう。この霧のせいだと思うけれど、ちょっと様子がおかしいんだよ」
よく分からない。様子がおかしいって、どういうことなのかな。
それでも、私はあの街に行かなくちゃならない。どうしても、会いたい人がいるから。
私はその娘の教えてくれた方角へと、歩みを進める。
「ちょっと待ってよ。本当に変なんだよ?」
「それでも、私は行かなくちゃいけないの。大切な人が、この街にいるかもしれないから……」
それを聞いた女の子は、どこか悲しげな表情を見せる。
「それじゃあ、私と同じだね。私もこの街に、会いたい人がいるんだよ」
もしかしたら、彼女も何か大事な人を無くしたのかもしれない。私と同じように。
「私は長森瑞佳だよ。あなたのお名前は?」
「神岸あかりです。ねぇ長森さん、もし迷惑じゃなかったら、一緒に街まで行かない?」
その私の誘いに、長森さんは首を振る。
「私はもう少し、ここにいるよ。気をつけてね、神岸さん」
長森さんは、その場で私の事を見送る。霧の中、私は街へ向かって歩き出した。
どれだけ道を歩いたのだろう。ようやく、市街地らしい所へと辿り着いた。しかし、どこか様子がおかしい。
季節外れの寂れた観光地だけど、何故かまったく人通りがない。車も、人も、何も通らない静かな街。
長森さんの言っていた様子がおかしいって、このことなのかな。
とぼとぼと通りを歩く。霧の中、ひとりで街の中を歩いていると、何だか不思議な気持ちになってくる。
「一体、どうしちゃったのかな……?」
人の気配がない街って、こんなにも違和感を感じるものなの?
その時、ふと霧の向こうに誰かの人影が見えたような気がした。
誰だか分からないけれど、この変な状況のことを聞いてみた方がいいかもしれない。
私はその後を追う。しかし、いくら走っても追いつけない。まるで砂漠の蜃気楼のように。
「待って! お願い!」
私の声も、霧の中に吸い込まれていく。そして気がつくと、私は湖のほとりに辿り着いていた。
さっきまで追いかけていた人影も、こっちへ来たはずなのに、影も形も姿は見えない。
他に道なんてないのに。まさか湖の中へ入っていったとも思えないし。
「気のせい……だったのかな」
霧に覆われた湖を眺める。静かに打ち寄せる波。こうしていると、思い出す。彼と幼い頃、
一緒に海で遊んだ事。
水を怖がっていた私に、泳ぎを教えてくれたのも、彼だったっけ。口では勝手なことを言っていたけれど、
その心は、本当に誰よりも優しかった。
忘れることのない、大切な思い出……。
「あれ、人がいる……」
その声に、振り返る。そこには、一人の女の子が立っていた。
「良かったよー。この街、誰もいないのかと思ってたから」
トテトテとこちらに駆け寄ってくる。どこか眠そうな瞳をした娘。この街の住人なのかな。
「あなたは誰? どうしてここにいるの?」
彼女が問いかけてくる。それは、私の方が聞きたいことだけど。
「私は神岸あかり。この街に、人を探しに来たの」
「わたしは水瀬名雪だよ。人を探しに来たんだったら、わたしと同じだね」
あの長森瑞佳という娘と、この水瀬名雪という娘。私たちは、みんな同じ目的のために、この街に来ているみたい。
「でも変だよね。何で街の中に誰もいないのかな?」
水瀬さんが、不思議そうな顔で首をかしげる。彼女にもこの異変の理由は分からないらしい。
「みんなでどこかに出かけてるとか……そんな訳ないよね」
どんなに考えても、説明がつかない。もしかしたら、これは全部夢で、この街の事も目が覚めれば
消えてなくなってしまうのかもしれない。
でも、それはありえない事。私は、確かにここに立っているから。
「あかりさん、わたしそろそろ行くね。祐一の事、探さなくちゃ」
バイバイと手を振って、水瀬さんは去っていく。私も、彼を探さなくちゃ。本当に会える保障はないけれど、
僅かでも、幻影でも、もういちど一目会いたいから。
彼のはにかんだような笑顔を、見たいから。
当ても無く、霧の街を歩く。ふと見上げた、道路脇のアパート。その窓に、人影が見えたような気がした。
その姿には、見覚えがあるような気がして。
私は、ふらふらとそのアパートに足を踏み入れた。
薄暗い廊下。僅かに蛍光灯が、辺りを照らしている。
何だか、ちょっと薄気味悪いと思ってしまう。
古い造りなのか、歩くたびに床が軋んでいるような気もする。
「何だか、嫌な感じがする……」
人気のない建物って、こんなにも印象が変わってしまうものなのかな。
キイィ……
突如として、目の前の部屋のドアが開く。思わず後ずさってしまうけれど、特に何も起こる様子はない。
そっと部屋の中を覗き込む。人の気配はないみたい。部屋の中、床の上に鈍く光る何か。
「何かな……?」
足を踏み入れ、側に寄ってみる。それは、一本の包丁だった。
何処にでもあるような、ありふれたもの。ただちょっと違っていたのは、僅かに刃の部分に何かがこびりついている事。
「これって、もしかして血?」
赤黒く変色したもの。確かにそれは、人の血液に間違いなかった。慌てて部屋の中を見回す。
もしかしたら、これで誰かが刺されているかもしれない。
しかし、部屋の中はがらんとして誰の気配も感じられない。ぽつんと包丁が置いてあるだけ。
包丁を手にとってみる。何故か、ズキンと胸が痛んだ。
……知っている。私は、この包丁を、知っている。
手に馴染む感覚。それは、日常的に使っていた道具に感じられるもの。
その刃を見ていると、何かを思い出せそうな……でも、思い出してはいけないような……。
私はその包丁を手に、部屋から出ようとした。その時、背後の古ぼけたテレビが点灯する。
『……ザ……ザザ……』
砂嵐のような画面。ノイズに混じって、何かが微かに聞こえる。
『……町の……高校生……藤……犯……』
プツリ。注意深く耳を傾けた時には、再びテレビは消え、ブラウン管には何も映らなくなってしまった。
「今の、何だったのかな」
今度こそ私は、主のいない部屋から、外へと踏み出した。
街を覆う霧は、一層深くなっているように感じる。そういえば、この街に来てからどれだけ時間が経ったのだろう。
時も、季節も、何もかも関係ないように、霧がたゆたっているこの街。
私は、何をしているんだろう。当てもなく、ただひとりの幻想を追い求めて。
うつむいていた顔をあげると、目の前に見知った姿。長森……瑞佳さん。
「長森さん! 探している人には、会えた?」
私の声に、初めてこちらに気がついたような長森さん。その腕には、ウサギのぬいぐるみを抱えている。
「神岸さん……ううん、まだ会えないよ。でに、見つけたものはあるよ」
私の視線に気がついたのか、そっとぬいぐるみを差し出す。
「これ、バニ山バニ夫っていうんだよ。私の大切な人が、プレゼントしてくれたんだよ」
愛嬌のあるぬいぐるみ。それをそっと、愛しむように抱きしめる長森さん。
「私と浩平の、大切な思い出……」
浩平。それがきっと、彼女の捜し求める人なんだと思う。それはきっと、彼女の恋人……。
「神岸さんは、何か見つけたの?」
私はそっとポケットを押さえる。その中に収められた、血糊のついた包丁。彼女の宝物に比べて、
それはあまりにも異質なもの。
「ううん、私はまだ何も……見つけてないの」
「見つかるといいね、神岸さんの大切な物」
私たちは手を振って分かれる。本当に、私は何かを見つけることができるのかな。
霧の中、ちらちらと空から何かが舞い降りてきた。そっと手にとってみると、あっという間に手の平で溶けて消える。
「そっか、雪が降ってきたんだ」
季節は冬。天気予報は見ていないけれど、雪が降ってきてもおかしくない。
大粒の牡丹雪は、ゆっくりと街を覆っていく。白い霧の中、降りしきる白い結晶。
さくさくと、降り積もる雪の中を歩く。子供の頃、彼とよく雪合戦をして遊んだっけ。
いつも雪まみれにされて、泣いてしまった私。慌てて慰めてくれた彼。
仲直りに雪だるまを作って、次の日には溶けて消えて、また私は悲しくて泣いて……。
道の向こう、屈みこんで何かをしている青い髪の少女。
「うんしょ、よいしょ……」
近寄って、声をかける。
「何をしているの、水瀬さん?」
一生懸命、雪を相手にしていた彼女。私の方を振り仰ぎ、ふにゃっと笑う。
「雪うさぎ、作ってたんだよ」
その手元には、小さな白いうさぎ。本当に、よくできていると思う。
「わたしね、雪の街に住んでるから、こういうの得意なんだよー」
そっと手の平に乗せられた雪うさぎ。雪の街に住む少女の、心が込められたもの。
「雪うさぎには、思い出があるの。ちょっと悲しい事だけど、それでも大切な……」
思い出を、形にして残す事。思えば、私にはそれが無いのかもしれない。
記憶はたくさん、思い出がたくさん。でも、何一つ形には残っていない。
それが……私。
「祐一に会ったらね、今度こそこれを渡すんだよ。あの日受け取ってもらえなかった、私の気持ちと一緒に」
「祐一、さん?」
「わたしの幼馴染。ちょっと意地悪だけど、とっても優しいの」
水瀬さんは、その祐一さんに雪うさぎを渡せるのだろうか。この街に来たって事は、もう普通には会えないってこと。
失われた何かを手に入れられる場所、それがこの街、サイレントヒルだから……。
公園のベンチに座って、舞い降りる雪を眺める。全てが白く覆われていく街。
白は汚れのない色だけど、それはなんだか私には眩しすぎる。
誰もいないこの街。いつか私も、この白の中に溶けていきそうで……。
ぴとっ。
首筋に、冷たい何かが触れる。慌てて振り向くと、そこには長森さんが缶ジュースを片手に微笑んでいた。
「なんだか元気がないよ、神岸さん?」
缶ジュースを私に手渡してくる。
「お店に誰もいないから、貰ってきちゃったんだよ」
「それっていけないことだと思うよ? お金払わないと……」
「だ、大丈夫だもん、ちょっとだけだから……怒られないと思うもん」
私はあたふたと慌てる彼女を前に、微笑んでジュースを受け取る。私の隣に腰掛ける長森さん。
「……神岸さんは、この街に誰を探しに来たの? 大切な人って言ってたけど」
ジュースに口をつけ、その問いに答える。
「私の一番近くて、そして遠い人。ずっと一緒にいて、けれど何も知らなかった人」
「……好きな人、だったんだ?」
そうなんだと、思う。幼馴染への感情だと思っていたそれは、失って初めて恋心だと気がついた。
「私も同じだよ。いつも一緒で、世話がかかる相手で、でもいなくなって初めて、気がついたんだよ」
いなくなった大切な人を求めて、この街に集まった三人。本当は、心の中では分かっているのかもしれない。
ここに来ても、もう会えはしないって。
失ったものは、決して帰らない。溶けて消える雪のように、消して掴めない霧のように。
再び別れて、街を歩く。もう、諦めた方がいいのかもしれない。届く事のない思い出を胸に、
いつもの街で、いつもの生活に戻って。
白で覆われた街の中、一際白くその姿をさらす建物。どこか古ぼけた感じの、病院。
その一室に、ほのかに明かりが灯っている。
光に誘われるように、私は病院の中へと足を踏み入れる。微かに漂う、消毒液の匂い。
キンッ!
急に頭が痛くなる。閉じた瞳の奥に光が走り、ふらふらとその場に崩れ落ちてしまう。
『出血が酷い! すぐに輸血を……』
『脈拍が弱まっています! 心肺蘇生の……』
『駄目です、芹香さん! 入ってきちゃ……』
今のは、何? 幻聴? でも、どこかで聞いたようなおぼろげな感覚。
気持ちが……悪い。私の中の何かが、胸から溢れ出してくるようで。
よろめきながら、明かりの灯っていた病室へと入る。そこには、椅子に腰掛け空っぽのベッドを見つめる
水瀬さんの姿があった。
ゆっくりとこちらを振り向く。その顔は、悲しみとよく分からない何かの感情で彩られていた。
「わたしね、お母さんと引き換えに祐一を無くしちゃったんだよ……」
話が、まったく分からない。彼女は何を苦しんでいるのだろう。
「私が現実を受け入れなかったから、せっかく祐一が私の事を見てくれたのに、私は閉じこもって、泣いて……」
ふらふらと椅子から立ち上がり、部屋の出口へと向かう。
「祐一、ベンチで冷たくなってた。わたし、二度も遅刻しちゃった。だから、今度は遅れないで迎えに行くの。
きっと寒がりの祐一、今でもあの場所で震えながら待ってるから……」
「水瀬さん!」
彼女の様子は、明らかにおかしかった。何かが彼女の中で壊れてしまった、そんな感じを受ける。
「この街に来て、良かったよ。色々見て、感じて、そして気がついたから。出会える事を期待しないで、
待っているだけじゃなくて、迎えに行ってあげなくちゃ駄目なんだよ……」
水瀬さんはふにゃっと微笑んだ。
「あかりさんも、見つけてあげてね。あなたの大事な人を」
そして彼女は、病室から出て行った。
しばらく、その場で呆然としちゃっていた。水瀬さんの言葉、それを反芻しながら。
そして慌てて彼女の後を追う。なんだか、放っておいちゃダメ。そんな気がして。
病院の外に飛び出すと、もう彼女の姿は何処にも見えなかった。ただ雪道に、点々と足跡が続いている。
それを追って、走り出す。でも、そんな私の目の前に、もうひとりの少女の姿があった。
「……あなたは、誰?」
何もない空間に向かって、語りかける彼女。長森瑞佳さん。
「あなたが、浩平を連れていったの? どうして、そんな事をするの?」
「長森さん、しっかりして! 何を言ってるの、長森さん!」
慌てて彼女の肩を揺さぶる。しかし、その瞳は私を見てくれない。虚空を見つめ、憑かれたように言葉を紡ぐ。
「私、そんな約束してないよ! ただ、苦しんでいる浩平を見ていられなかっただけだよ!」
ぶんぶんと頭を振り、涙の雫を散らす。
「浩平は約束してくれたんだよ! 私と一緒にいるって! 永遠なんかじゃない、限りはあるけれど、
私がいるこの世界を選んでくれたんだよ! 一緒に……歩いてくれるって……もう離さないって……」
長森さんは、もう半狂乱になっていた。何か押さえ込んでいた感情が、一気に爆発してしまったかのように。
「痛みの無い世界なんて、嘘だよ! 奇麗事だけの世界なんて、無いんだよ! ……永遠は、そんなものは、妄想だよ!」
ふと、彼女の前に小さな幼女の姿が見えたような気がした。瞬きをすると、それは消えてしまったけれど。
「返してっ! 私の大切な人を、返してよ!」
ズキンッ!
また、頭痛がする。頭の中に、フラッシュバックする何か。
『姉さん、もう泣かないで。そんな姉さんの姿、浩之だって見たくはないわよ』
嫌。溢れてこないで。そんな記憶、私に見せないで。
黒縁の写真。泣き崩れるみんな。
そしてひとり涙を流さない、私。
「いやぁーっ!」
雪道に座り込んでしまう私。そして気がつけば、長森さんの姿は消えてしまっていた。
私の中に渦巻く何か。それは出口を求めて、私の心を突き破ろうとしている。
このままだと、私は壊れちゃう。
思い出したくないの? 忘れたままでいたいの? 目を背けたいの?
分からない、分からないよ……。
ふと、ポケットの中の包丁を手にする。じっと見ていると、ますます胸の痛みが酷くなってくる。
「あのふたりを、探さなくちゃ……」
包丁をしまい、私は力なく歩き出した。
足跡を辿ったその先。駅前の雪の降り積もったベンチ。そこに、彼女は座っていた。
「水瀬……さん……?」
目を閉じ、眠っているようなその顔。肩にも、頭にも雪は降り積もり、辺りを覆う霧と雪とに包まれて……。
……彼女は、死んでいた。
すっかり冷たくなってしまったその体。もう、動く事はない。
何故? どうして? さっきまであんなに……生きて、いたのに。
まるで生きる事を自分から放棄したように、彼女は息を引き取っていた。
もしかしたら、彼女は雪に呼ばれたのかもしれない。
真っ白なそれは、きっと何もかも包み込んで、そして無に返すのだ。
でも、水瀬さんはどこか安らかな顔をしていた。まるで捜し求めていたものに、ようやく出会えたかのように。
私は彼女の体を、そっとベンチに横たえると、再び歩き始めた。
もうひとりの彼女を、探すために。
『あなたが……あなたが浩之を! 姉さんの浩之を……!』
僅かな先も見えない霧の海の中、そんな声が聞こえたような気がした。
滑り台も、ブランコも、何もかもが白い霧の中。いつの間にか雪は止んでいた。
その公園の中で、長森さんは佇んでいた。
「長森さん……」
力なくうなだれ、じっと足元を見ている長森さん。そして私に気がつかないように、口を開く。
「そっか……全部、私が悪かったんだね……」
淡い光と共に、彼女の前に幼女の姿が現れる。その姿はどこか、長森さんに似ているような気がする。
「私が約束したんだよね。浩平の悲しみを、取り去りたいって……」
幼女はにっこりと微笑み、手を伸ばす。その手を取る長森さん。
「いいよ、行こう、私。約束したんだもん、三人で永遠に一緒だよ」
「長森さん!」
私の叫びに、こちらを振り向くふたり。そして長森さんは微笑んだ。
「浩平に、会えるんだよ。こんなに嬉しいことは、ないよ……」
その言葉を最後に、ふたりの姿は光に包まれ消えていった。
訳も無く、悲しい。涙が、とまらない。ぼやける視界の中、いつか見た光景が広がる。
『証拠は、あるんですか? 凶器だって、見つかってないんでしょ?』
『あ、あなた以外の誰が、浩之の事を!』
『私はただの幼馴染。来栖川先輩とのことは、応援していました』
怒りに彩られた綾香さんの顔を、私は何の感情も無く眺めていた。
いつの間にか、あの湖の側へ来ていた。水面は霧に覆われ、その全てを見通すことはできない。
「……あのふたりは、会えたんだ……大切な人に」
結果はどうあれ、それはあのふたりにとっては幸せな事かもしれない。
でも、私だけはまだ彼の欠片にも触れられない。
何が足りないの? あのふたりにあって、私に無いものは何?
分からない……分からないよ……。
ポケットから、固い感触のそれを取り出す。血のこびりついた包丁。
じっと眺める。何かが、手に伝わってくるような感じがする。
ズブリとした、柔らかい何かの感触。
ぬらりとした、温かい流れるもの。
……ぽたり。
包丁から、血の一滴が湖の水面に落ちた。
赤い、赤い血。
それは私の心の中を塗りつぶし、そして一点に収束する。
『あかり、どう……して……』
『悪いのは……全部……私を見てくれなかった、あんな先輩だけを見ているから……』
気がつくと、私は笑っていた。涙を流しながら、大声で笑っていた。
そう、そうなんだ。私が、刺したんだ。この手で、彼の事を。
どす黒い嫉妬に飲み込まれた、私の手で。彼の胸に包丁を突き立てて……。
私に足りなかったものは、この罪の意識だったんだ。
私の周囲を、霧が渦巻く。その時になって、私は初めて理解した。
同じ道を歩めば、いつかは必ず追いつける。同じ行為を行えば、きっと手が届く。また会える。
あの二人は、それを知ったんだ。
だから、私は。
「浩之ちゃん、今行くね?」
胸を包丁で貫き、湖の中を漂う少女。その姿も、やがて霧の中に飲み込まれていく。
霧は、そのものを映す鏡だという。
心のうちに秘めた後悔。それを映し出し、自分自身に投げかける。
そしてそれを受け入れた時、新たな道が開ける。
愛には愛を、憎しみには憎しみを、悲しみには悲しみを。
彼女たちが受け取ったものは、何だったのだろうか。
少なくとも、三人の少女は苦しみからは解放されたのだ。
誰も彼女たちを、責めることはできない。
霧の街は、ただ静かに佇むだけ……。
ここは、サイレントヒル…… 全ての罪と愛が集う街……
キタ――――(・∀・)――――!!!!
GJ!いいもの見せてもらいました!
GJ!
2ベースなのかのう?
激しく好みの出来でしたよ、つぎはUFOエンドとかもねらってくれんじゃろか
感動した!
105 :
祈原:04/08/23 23:04 ID:5QC0Yp8c
おおすげー
でもあんま難しいのはもう勘弁・・・
なんつうか、純粋に薄気味悪さを味わいたいね
おおう、今日SIREN中古で買ったら、こんなネタが
いやぁ1stステージで10分くらい警官と鬼ごっこしてたよ
>>107 このスレッドはサイレントヒルのスレッドだからな。
こんな寂れたスレで潔癖になってどうするよ?
>>108 そのサイレンは初代サイレントヒルのスタッフが作ってるんだよ
どうやらコナミは居心地が悪かったらしいな
111 :
名無しさんだよもん:04/09/05 22:40 ID:Da4Ehoya
うほっ いい葉鍵
サイレントヒルらしくいい廃れっぷりですな。
しかし今の葉鍵版はこんだけ放置しても落ちないんだ。
>>112 即死ライン突破したスレッドは圧縮が来ない限り落ちないよ。
最近はお姉チャンバラにはまっとる
彩→綾香でうまいことストーリーできそうな気がしないでもない
できない。