「はい、岡崎です。って椋? 結構久しぶりじゃない。どうしたの?
ふんふん。へぇそうなの。すごいわね、それ。きっと朋也喜ぶわ。
悪いわね、あんたも勝平君のことで大変なのに。え? そうなんだ。
良かったじゃない。ようやくあんたも落ち着けるってとこか。
そうね、また会いましょ。家族ぐるみでね。うん、じゃね」
「ただいまーってくぁー、こいつもう寝てやんの。せっかく早めに
帰ってきたのになぁ」
「おかえり、朋也。その子、今日たくさん走り回ってたから疲れちゃった
みたい」
「はぁ…。自分の子供が起きてるのを週末しか見られない父親ってどうよ」
「ぶつくさ言わない。忙しいのはいいことよ。そのお陰で収入も安定して、
この子だって幼稚園にやれてるし、あたしも育児に専念できるんだから。
ま、すぐお味噌汁温めるから席についてて」
「おかずはなんなんだ」
「特製とんかつ」
「あれか。そいつは楽しみだ」
「でね、朋也。椋から電話があったのよ」
「椋から? なんだって?」
「今病院で、再生医療の臨床試験をやろうとしてて、患者を探してるんだって」
「再生医療、ねぇ。失われた組織を回復するっていうあれ?」
「そう、それ。で、今回試験しようとしている技術は腱の再生して埋め込み、
並行して神経接合を行うものなんだって」
「まさかそれを俺に受けろ、と? 腕の治療を?」
「もちろん、いきなり決定するわけじゃないけど、椋は推薦できる立場にいるから
朋也はどうだってさ」
「うーん、仕事を長期にわたって休むのはなあ」
「あんまりかからないらしいわよ。髄から細胞を取り出すのに、無菌室で一週間。
腱の培養中は通常生活に戻ってて良くって、暫く後、手術とリハビリで一ヶ月だって」
「充分長いぞ。医療休暇は取れるけど無給だし、この忙しい時期に同僚に
かなり迷惑をかけちまう」
「ふぅ……ん。受けたくないなら仕方ないけど、最後の機会かもしれないのよ?
技術が確立した後だと治療費も全額かかっちゃうし、年齢的にも無理になるかも」
「受けたくないわけじゃないけど、あまり困ってないしなあ」
「それは嘘でしょ。公園で他のお父さんが子供を高い高いしてあげてたのを見て、
この子、あんたにせがんだじゃない。その時、頭を撫でてあげるだけだった。
見ていてすごく痛々しかったわよ。あたしも辛かったし」
「…」
「無理に、とは言わないけどあたしは受けて欲しいのよ。この子のためにも、ね」
「やっほー、朋也。リハビリ頑張ってる?」
「おお、愛しき妻にかわいい・・・あれ? かわいい我が子はどこいった?」
「母さんに預けてきたわよ」
「あれ? そうなのか」
「岡崎さん。嘘をつきましたか?」
「いや、そういうつもりは」
「あれ、なに? この子」
「リハビリ仲間の伊吹風子ってんだが、一応こいつは俺達とタメだぞ」
「嘘っ!?」
「今、とっても失礼なことを言われた気がします」
「あははー、ごめんごめん。でもかわい……、若々しいから同い年には見えないわ」
「最近まで何年も昏睡してたそうだからな」
「そうなんだ……。大変ね。ところで、伊吹さん。朋也にどんな嘘をつかれたの?」
「俺の子はかわいいんだぞ、風子の大好きなヒトデなんか目じゃないって言われました。
それで、会わせてくれるって言うのでこの部屋に来てました」
「あー、そうだったんだ。それならつれて来れば良かった。あの、伊吹さん、
明日つれてくるから、それでいい?」
「はい、楽しみにしてます」
「俺も楽しみにしてるんだからな。我が子に会えないなんて気が狂いそうだ」
「大げさねぇ。あたしが週に3回は来てるのに」
「もちろん来てくれるのは嬉しいが、妻が子の変わりになるわけじゃないっ」
「はいはい、わかったわかった」
「んーっ、かわいいですっ」
「どうだ、まいったか」
「別に岡崎さんにやられたわけではないです」
「強がりな奴だな」
「それにしても、本当に可愛いお子さんですねっ」
「ありがとう、公子さん」
「おねぇちゃん」
「どうしたの、ふぅちゃん」
「風子もかわいい子供が欲しいです」
「じゃあまずはいい人を見つけないとね」
「風子と杏さんは綺麗さで実力伯仲だと思います」
「あははー、そ、そう?」
「ですから、この子より可愛い子を産むには朋也さんより美形な男性を見つけねばなりません」
「そいつは難題だな」
「要するに若い男性であれば誰でもいいと言うことです」
「おいっ!」
「こら、ふぅちゃん。岡崎さん失礼でしょ」
「あははは、まー気にしない気にしない」
「おい、風子。この写真を見ろ」
「はい? ………(* ´ヮ`)」
「ちょっと朋也、何見せたのよ……ヒトデの群れ?」
「ってちょっと朋也、伊吹さんになに目隠ししてるのよ!」
「まあ見てろって」
「……わーっ! まっくらですっ! 何も見えませんっ! おねぇちゃん、どこですかっ」
「ここよ、ふぅちゃん」
「風子、暗闇ですっ。 おねぇちゃん、助けてくださいっ」
「はいはい」
「怖かったですっ」
「あっはっはっはっは」
「あぁ、あの伊吹さん、ごめんね。今の朋也のいたずら」
「そうだったんですか。最悪ですっ」
「失礼なこと言った仕返しだ」
「風子のお相手の条件に岡崎さんより礼儀正しいっていうのが加わりました。
でも一向に母集団が変化しません」
「まだいうかよ」
「朋也、入院生活が楽しいものでよかったわね」
「そうだな。リハビリはきついが退屈はしてないな」
「伊吹さん達とは退院してもいいお付き合いができたらいいわね」
「ちょっと大変そうだけど、まあ同意だな」
お邪魔します
「ふぅ、この公園も久しぶりだな」
「明日から仕事なんだし、のんびりしてよ」
「ああ」
「岡崎さん、お久しぶりです」
「あ、お久しぶりです。えーとお子さん、少し大きくなりました?」
「お互いに、ですね」
「はは、そうですか。自分の子は入院中も会ってましたからあんまりわかりませんでしたよ」
「まあそんなもんでしょうね。それにしても入院、大変でしたな」
「いえいえ、結構楽しかったですよ」
「そうなんですか?」
「それに入院の価値はありましたから。おい、ちょっとパパのところに来い」
「ほーら、高い高い」
「岡崎さん、肩はすっかり宜しいようですね。こうしちゃいられない」
「?」
「ほら、お父さんの所においで。高い高ーい」
「お、負けませんよ。高ーい高ーい」
「やりますな。高ーい、高ーい」
『たかーい、たかーい』