葉鍵ロワイアル II 作品投稿スレ!2

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435打倒篁失敗:04/05/21 01:14 ID:HZRTnOtl
「気は済んだかね?……さ、ゲームに戻りたまえ」
 二人、首根っこをひっつかまれる。
「ここで君らを殺すのは容易だが……考えてもみたまえ。
 君達の身体の中の爆弾を。逃げ場などもう、どこにもないのだよ」
 すっかり忘れていた。そういえばそんなものもあったっけ?悠長にそんなことを考える。
 というかこの二人、本当に真帆の話全然聞いてなかったわけだ。
 そんな思考の最中、無理矢理二人ホールの外へと放り出される。
「ここはもうすぐ騒がしくなる。……もう一度言う。ゲームに戻るといい」
 二人合わせば結構な重量――ついでに体重は秘密だ――をまるでバレーボールかのように軽く投げ出す。

 放り出された二人。
「……」
「何ですか、アレ?」
 背後から声が聞こえる。それはもうアレ扱いの人の声。
「忘れ物だよ。これも持ってきたまえ」
 それぞれの武器、ナイフやらなんやらも同じようにホールの外へ放りだされた。
 ゴン!その内の一つ、マイクロUZIが晴子の後頭部に当たった。不運な人だ。
 ホールの扉が再び音を立てて閉まった。残される二人。
「……えと、アレ、無茶苦茶強いんですけど」
 横で悶絶する晴子をよそにぼーぜんと呟く明日菜。
「……強いとかそんな次元じゃなかった気するけどな」
 頭をさすりながら、晴子が愚痴る。人か?アイツ。

 駄目だ。あれには勝てない。

「なんで私達、殺されなかったんでしょう?」
 今あった、狐につままれたかのような、夢のような出来事に、恐怖も驚愕も危機感も浮かばず。
 感覚がすっかり麻痺していた。
「あー、やっぱり――」
 円満に脱出は無理か?
 何か、変なとこだけ冷静になった。
436打倒篁失敗:04/05/21 01:16 ID:HZRTnOtl
「大丈夫ですか?」
 真帆が駆けより声をかけてくる。詠美も後に続いた。
「身体の方はなんとかな……」
 心のケアもしてくれ。こんな島だから神経すり減らしてるんだろうか。
 とても地のような気もするが。ともかく、二人の無事にほっと真帆は胸を撫で下ろす。
「無事で良かったです。二人に何かあったら……私……」
 一晩ですっかり心を許してしまったのだろうか。頼れる年上二人に抱きついて目に涙を浮かべた。
 一番信頼できるのは実は詠美なんだが――どの道頼りにはならないか。

(えっと、どうします?)
(あんたが泣かせたんや。うちは知らん)
(あなたもです。……そうではなくてこれからどうします?)
(はぁ、もうええわ。あんたの知り合いってどっか抜けてんなぁ)
(あなたもです。っじゃなくって。全然人の話聞いてませんね。これからの予定、どうします?)
(そんなアイコンタクトだけで分かるかい!
 ……これじゃ勝算ゼロやん。あんなバケモン倒すなんて夢のような話やったなー……やっぱ地道に、一人ずつ参加者片付けてこか?)
(通じてるじゃないですか。はぁ……。死にたくないですもんねぇ……。
 目の前の二人は?とりあえず裏切らないってことでは信用できそうですけど)
(盾くらいには使えるかもしれんけど……人数多すぎてもアレやしなぁ……
 どうせ生き残りは二人までやし)
437打倒篁失敗:04/05/21 01:16 ID:HZRTnOtl
(このまま現状維持で様子見っていうのも悪くないですけどねぇ)
(情が移ったんか? ま、めくるめく官能の一夜を4人で明かしたしな)
(変なこと言わないで下さい。意識しちゃうじゃないですかって何言わせるんですか)
(実はいつ裏切ろうかと虎視眈々と狙ってたりしてなぁ?人は見かけによらないってか。ナハハ)
(私達が言うと説得力ありますね)
(なんや?あんたも裏切るつもりか?)
(いや、今のところそんなつもりはないですけどってか勝手に心読まないで下さい)
(今のところってなんや!)
(言葉のアヤですよー。ってアイコンタクトで言葉のアヤってなんですか)
(一人突っ込みごくろーさん)
(それよりさっき私の背中思いっきり踏み台にしましたよね。
 すっごく痛かったんですけど)
(ままま、そんな些細なこと気にすんな。明日菜ちゃーん、話すりかえるのは汚いで)

「……二人、ツーカー?」
 目をパチクリさせながら激しく無言のやりとりを交す二人に、詠美が目をパチクリさせた。
 この人はこの人で危機感が足りない。天然だった。
 すでに落ち着いていた真帆が三人をせかす。
「あ、あの、ここでこのままはヤバいですし、とりあえずここからは急いで離れたほうがいいんじゃ?」
 真帆の言葉をきっかけに四人、一目散に駆け出した。


【068 葉月真帆 ラクロスのユニフォーム&スティック&ボール3つ(また拾った)】
【013 大庭詠美 護身用スタンガン】
【002 麻生明日菜 ナイフ ケーキ】
【022 神尾晴子 千枚通し マイクロUZI(残弾70)】
【篁総帥 ラストリゾートのホールで一人 現時間はもうすぐミルト到着する頃】
438打倒篁失敗:04/05/21 01:20 ID:HZRTnOtl
ぐあっ、ごめん。>>429-430 >>432-437はNGでお願いします。
439守りたいもの:04/05/21 01:37 ID:SjuYemXm
(アレは・・いくらなんでも無防備すぎでしょう・・・)
作戦の可能性をあらかた否定したベナウィは男女に声をかけることに決めた。
(ですが・・・用心は必要ですね・・)
ベナウィは女が来るのを見計らって飛び出した。そして・・
「質問が有ります。」
「ひゃっ!」
いきなり槍を突きつけられ動揺する女。
だが、次の言葉は出なかった。後ろを走っていた男が右手に金属の棒らしきものをもって襲いかかってきたからだ。
「早苗!逃げろ!」
その一言で女も我に返ったのだろう。すぐさま後ろに逃げた。
対峙するベナウィと男。
(罠だったのですか・・・・?)
男の獲物は刀ぐらいの長さがある金属の棒
こっちの獲物は槍。獲物の長さからいってこっちが圧倒的に有利だ。
(しかもあの構え、どうやら剣を知らないようですね・・)
そしてうなり声を上げ男が突撃してくる。
「もらったあ!」
「ぐっ!」
ポケットに隠していた球体を自分の腹に向かって投げ込む男。
反射的に槍で球体を防ぐベナウィ。
体勢が崩れ少し隙が出来る。それを見逃さず男は踏み込むと側頭部を狙って金属の棒を振ってきた。
だが、身体能力は衰えていても流石はベナウィ。すぐさま体勢を立て直すと自分の頭を狙ってきた凶器を弾き飛ばし、そして男を槍の柄で突き飛ばした。
弾き飛ばされ、地面に転がる男。
だが、男はすぐさま立ち上がると弾き飛ばされたバットを持ってこちらに向かってくる。
(何で向かってくるのです・・・!)
そしてまた男が向かってきた・・・
440守りたいもの:04/05/21 01:42 ID:SjuYemXm
ベナウィが男を突き飛ばす、そして男は立ち上がって向かってくる事が何回繰り返されただろうか・・
男を切れば良かったのだが、何故かベナウィにはそれが出来なかった。
(何故でしょう・・・何故切る気が起きないのでしょうか・・)
そして・・
「ぐは・・」
ついに力尽きたのか、男は立ち上がらなくなった。そして・・・
「俺の・・・・負けだわ。おい、アンちゃん、俺の・・・・命をやるから・・・・こいつを・・・見逃してくれねえかな?」
息も絶え絶えながら何のためらいもなくその一言を言い放つ男。
「秋生さん!」
「お前には・・・・・・渚を探す役目があるだろ。それに二人とも死んだらあいつは・・・・立ち直れなくなる。頼む。行ってくれ。」
「嫌です!秋生さんを見捨てて行けるはずが無いです!私を置いて行かないでください・・・」
女は言葉半ばでもう泣いていた・・・・・・・・・
この二人の様子を見てベナウィは戦闘中に感じていた違和感の正体をはっきりと理解した。
(この男は守るもののために戦っていたのですね・・)
「さあ、どうした、殺りな!」
「いえ、私の負けです。」
そこには槍を地面に投げ捨てたベナウィと呆然とする男女が残された・・


441守りたいもの:04/05/21 01:51 ID:SjuYemXm
お互い自己紹介や行動目的の交換を終え、呼び止めた理由を説明するベナウィ。
「・・・というわけだったのです。よろしければご同行しましょうか?私でもあなた方の身を守ることはできます。」
「それは・・ありがたいのですが・・いいんですか?」
秋生の応急手当をしながら早苗が言う。
秋生はもはや何も言う気力も無いのか早苗のされるままになっていた。
「ええ、戦いをしない人を逃がすのは我らの聖皇の遺志でも有ります。任せてください。」
しばらくして、どうにか秋生が起きれるようになったときベナウィが問うた。
「ところで・・・さっきのは何だったのですか?」
「さっきのって?」
怪訝そうに聞く秋生。
「さっきのおっかっけっこですよ。」
「ああ、これはいつものことだ。気にすんな。」
「はい!いつものことなんです。」
即答する秋生と早苗。そこには終始明るく、その場にいる人をを笑顔にさせるよな暖かいムードが流れていた。
そのムードに触れたベナウィはハクオロたちとのあの騒がしくも楽しかった日々を思い出していた・・

【ベナウィ、古川夫妻と同行】
【082 ベナウィ 槍(自分の物)、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード】
【079 古河秋生 古河早苗特製パン 4個、古河秋生専用金属バット、硬式ボール10球 かなりの疲労】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、所持品はすべて秋生が預っている】
【時刻:午前9時40分頃】
442行動方針 改定:04/05/21 01:59 ID:LIUC4kFk
あれから30分、ようやく光岡はみさきをなだめ、泣き止ませることに成功した。
「さて、これからどうしたものか……」
「そうだね……」
光岡は疲れ果てた顔で、みさきは泣き腫らした目で、二人はこれからの行動方針について話し合ってた。
「仲間を集めて脱出……これが一番の上策だと思うが、現時点では辛いだろう」
「うん、武器も仲間も必要だもんね」
「そこで、信頼のできる仲間を集めようと思う」
「そうだね、それがいいよ。光岡さんにはそういう人がいるの?」
「ああ、昔からのなじみが一人。最初に集合した広場で見つけた。あいつと合流できれば心強いのだが……」
ふう、とため息を漏らす光岡。
「みさきにはこの島に信頼のできる人物はいるのか?」
「えっと……わからないや」
「……謝る必要は無い。こっちこそ配慮の無い質問で悪かった……」
考えてみればそうだ、盲目のみさきにホールに知り合いがいたかどうか確かめるすべは無かった。
二人の間に気まずい沈黙が流れる。沈黙を破ったのは光岡だった。
「じゃあ、当面の目的は俺の知り合い、坂神蝉丸の捜索、及び他の敵意の無い参加者達との接触。異論は無いな?」
「うん!」

【028川名みさき 所持品:白い杖】
【089光岡悟 所持品:日本刀,デザートイーグル(残り3発)】

【行動方針は知り合いの捜索と敵意の無い参加者との接触】
443行動方針 改定:04/05/21 02:00 ID:LIUC4kFk
えっと、>>431は没で>>442を採用してください。
444行動方針 改定の改定:04/05/21 02:06 ID:LIUC4kFk
あれから30分、ようやく光岡はみさきをなだめ、泣き止ませることに成功した。
「さて、これからどうしたものか……」
「そうだね……」
光岡は疲れ果てた顔で、みさきは泣き腫らした目で、二人はこれからの行動方針について話し合ってた。
「仲間を集めて脱出……これが一番の上策だと思うが、現時点では辛いだろう」
「うん、武器も仲間も必要だもんね」
「そこで、信頼のできる仲間を集めようと思う」
「そうだね、それがいいよ。光岡さんにはそういう人がいるの?」
「ああ、昔からのなじみが一人。最初に集合した広場で見つけた。あいつと合流できれば心強いのだが……」
ふう、とため息を漏らす光岡。
「みさきにはこの島に信頼のできる人物はいるのか?」
「えっと……わからないや。ごめんなさい」
「……謝る必要は無い。こっちこそ配慮の無い質問で悪かった……」
考えてみればそうだ、盲目のみさきにホールに知り合いがいたかどうか確かめるすべは無かった。
二人の間に気まずい沈黙が流れる。沈黙を破ったのは光岡だった。
「じゃあ、当面の目的は俺の知り合い、坂神蝉丸の捜索、及び他の敵意の無い参加者達との接触。異論は無いな?」
「うん!」

【028川名みさき 所持品:白い杖】
【089光岡悟 所持品:日本刀,デザートイーグル(残り3発)】

【行動方針は坂神蝉丸の捜索と敵意の無い参加者との接触】
【時間は朝10時ごろ】
445機械の残したモノ:04/05/21 02:18 ID:NkT9u2AC
 燃える炎が人を模した少女の肌をなめ上げる。
 いやらしく這い登る火の掌は瞬く間に全身を覆った。
端正であったその表情が焼け落ち、その下から現れる金属質の輝き、
メイドロボのガラスの瞳は虚ろに殺戮者を見つめ続けた。
「長瀬ちゃん熱いよう」
 だが、ガラスだった筈の虚ろな瞳は、自分を見つめていてくれた
彼女の瞳にフェードする。
 自分の手にした火炎放射器の炎が瑠璃子さんへと向けられていた。
「やめろ、やめろっ!やめてくれ!!」
 自分の手が動かない、悲鳴を上げ、燃えて崩れる彼女をただ見ている
しかない。そして真っ赤な炎の中で愛する少女の肌がずるりと落ちて
醜いむき出しの機械の顔が向けられる。鉄の骨に絡みついたコード。
伸ばされたそれは、かつて自分を優しく包んでいた筈の掌だった。
「na……が……ぜziゃあぁぁaa……nん……」
 くぐもった電子音が自分の名を呼ぶ、金属音と電子音がノイズとなって
脳髄をやすりがけた。かつて癒された電波ではない、不快な痛みが
長瀬祐介の病んだ精神をさらに傷つけていった。
446機械の残したモノ:04/05/21 02:19 ID:NkT9u2AC
 荒い息をおさめるため祐介は、手近な樹にもたれかかった。先刻
殺した……いや、壊したメイドロボ。焼け落ちる金属の身体を見た
祐介の心に芽生えた他愛の無い妄想は、狂気を栄養分として枝を
広げていた。
 ひょっとして、この島で殺しあっている人間はすべて機械なのではないか?
長瀬祐介の、月島瑠璃子のその他大勢の人達の記憶を移されたロボット達が
ゲームとして戦わされているのではないのか?
 そうだとしたら、今自分が考えている行動も狂気も誰かの命令なのでは
ないのだろうか。瑠璃子さんと結んだ約束ですら誰かの演出では……。
 浮かんだ疑問と、繰り返す幻覚。それは自分の狂気と非道に苦しむの祐介の
心の片隅に残った良心の悲鳴でもあった。
 あるいは、それは人の為に作られたHMX−13セリオの最後に残した
「人の為に役に立つ事」だったのかもしれない。
 長瀬祐介の狂気の天秤は揺れている。その天秤を揺らす機械の手はどちらに
それを傾けるのだろうか?

【062 長瀬祐介 所持品 火炎放射器 (砲身に損傷・燃料は6割強),ジグ・ザウエルショート9mm(残弾0発) , 果物ナイフ】
【定時放送より5時間後】
447まどろみに堕ちて:04/05/21 02:27 ID:ruDYTq14
 住宅街の外れ。舗装の剥がれた歪な道路が、森へ、浜辺へと続いている。
その道路の脇、やや森寄りの薄暗く隠れた場所に、奇妙な物体が浮いている。
パっと見た感じは銀色の円盤。ギザギザな円周を持つそれは、まるでギアのような。
弱弱しい低回転を保ちつつ、滞空したまま、微動だにしない。
風でも吹けば掻き消えてしまいそうなくらい、それは虚ろな存在だった。
この世に残した未練――親友や恋人、肉親――との邂逅を望みながら。
鈍く光るギアが三枚、いつ途切れるのか、空しく回転を続けている。

************************

「もうすぐお昼だね、松浦君」
 神岸あかり(024)が小さな声で呟く。
傍らに松浦亮(084)、そのさらに横に杜若きよみ(017)が座っている。
「ああ、そろそろ何か、食べる物が必要だ」
 亮は頷き、続けて
「俺ときよみが何か探して来よう」
と、きよみの方を振り返ってそう提案した。
きよみは突然の提案に少し驚いた表情を浮かべ、そして静かに頷いた。
「いいわ。私だって、何か食べなくちゃ」
「住宅街という場所は好都合だった。何かあるはずだろう」
「なら、私も・・・」
 あかりが立ち上がろうとする。心なしか、足元がおぼついていない。
そんなあかりを、亮が両手で制した。
「駄目だ」
 もう一度座らせる。
「どうして?私だって一緒に…」
「お前は疲労している。俺にも解る。顔が赤いぞ」
 あかりは「んー」と俯いて、「そんな事、ないよ」と消え入りそうな声で答えた。
「駄目だ。食料は俺ときよみで何とかなる。お前はここで休め。」
「そうよ。私たちに任せて、安心して寝てるといいわ」
「足手まといにはならないから…」
 あかりは素直に引き下がらない。
448まどろみに堕ちて:04/05/21 02:29 ID:ruDYTq14
「駄目だ」
 亮がまた、あかりの顔を見て念を押す。自然とあかりと見詰め合う形になった。
二人の目線が交差する。意思疎通とまでは行かない。までも、お互いの表情から、何を考えているのかくらいは何となく解る。
そのような距離で、じっと互いの反応を待っていた。
「…解った。早く戻ってきてね。松浦君、杜若さん」
「…。」
「勿論よ。私は必ず戻ってくるつもり」
 先に折れたのはあかりだった。亮はまだあかりを見つめている。きよみは既に、戸口に向かって歩き始めていた。
あかりも視線を外せずにいて、少し戸惑いつつ、(あたし見てるのって、他に見るところがないから、かな)などと思っていた。
だが。
「本当に大丈夫か?」
 亮が再び口を開く。今度は質問の形だ。本当に良いのかと聞いてくる。
「意外と心配性なんだね、松浦君。押しは強いのに」
「心配するのは当たり前だ」
 亮が視線を外して、答えた。今はきよみの方を向いている。
扉を少し外に開いて、様子を伺っているきよみが、振り返り手招きする。
「外は大丈夫。今のうちよ」
 亮は頷いて、視線はそのまま、あかりの肩に手を乗せた。
「行って来る。横になって休んで、だが決して寝るな」
「うん、わかった。でも…」
「でも、何だ?」
「気をつけてね。心配してるの、松浦君だけじゃないんだから」
 意外そうな表情で亮があかりを見る。先ほどあかりが引かなかった理由は、寂しいからでは無かったのだ。
この子は亮の事を心配している。そこから出た強情だった。
449まどろみに堕ちて:04/05/21 02:31 ID:ruDYTq14
「俺は決して嘘を付かない。だから安心しろ。ここで待っているんだ」
「うん。本当に気をつけて」
 あかりが頷く。亮も頷いた。戸口に立つきよみが、二人を急かした。
「早くして。機会はが長く続くとは限らないから」
「杜若、お前は丸腰だ。慌てるのは危険だぞ」
 亮がややトーンを落とした声で返す。きよみがふふっと笑う。
「大丈夫。行きましょう。私は“用心深いのよ”」
 そこに何か含みのような物が果たしてあっただろうか。
「…今、行く。」
 亮は少し考えたあと、静かに戸口へと向かう。扉の取っ手に手をかけたとき、
「…気をつけて」
 あかりが最後に声をかけて、外に出た亮が扉を閉めた。
疲労気味の神岸あかりを残し、松浦亮と杜若きよみは部屋を出て行った。
 あかりは手の中に拳銃の弾を握りしめ、押入れの近くでシャケを加えている木彫りの熊をじっと見つめていた。
その瞳に去来する様々な思いは、追憶である。かつての生活、幼馴染の事を思い出していた。
(いつもは私が、起こしに行く役なのに、変だよね)
思いがけず、涙があふれた。ぎゅっと目を瞑る。一適もこぼし落とさぬように。
流してしまえば、挫けてしまいそうだから。不安に負けてしまいそうだから。
(浩之ちゃぁん…、私、凄く、凄く恐いよ…助けて…、声が聞きたいよ…)
閉じた瞼の奥の暗闇が、やがてまどろみを連れてきて、あかりは眠りへと落ちていく。
意識の途絶える前の、わずかな間、あかりはヴィオラの演奏を聴いた気がした。
暗くて、悲しくて、歪んだ音。しかし、あかりは不思議と心地の良い物を感じていた。
懐かしい。おちゃらけているけど、芯は真面目で、優しくて・・・まるで。
(浩之、…ちゃん)
あかりの手の中から、いくつかの弾丸が、ジャラ、と音を立てて落ちた。

【松浦亮(084)と杜若きよみ(017)は食料を探しに住宅街散策へ】
【神岸あかり(024)は再び眠りの中へ】
【杜若きよみは違法改造マグナムと隠し弾丸(未装填3発)所持】
【松浦亮は修二のプロクシ型ギミックを所持】
【神岸あかりは残りの装備(筆記用具・熊の置物・予備弾丸(六発))所持】
【時間軸は正午前・午前中 正確な時刻は不明】
450かぜのみち:04/05/21 02:39 ID:MIY8j+cC
 さざ波に誘われるように街を出て、海岸線を歩く。
 潮風にのって気まずい空気が流れていくことを、二人して期待していたのかもしれない。
 さくさくと小気味よく、互いの足音を聞いていた。

「それにしても……すまなかったな。冗談が過ぎた」
 もう少し器用なつもりだったのだがな。そう反省しつつ、光岡は謝罪した。
 心に問えば、もはや彼女を単なる保護対象とは見ていない。
 それだけに、彼女の瞳と視線を合わせることが出来なかった。
「光岡さん」
「ん?」
「私、いつも思ってたことがあるんだよ」
「ほう」
 海岸線を眺めながら歩を進める光岡のうしろで、彼女は立ち止まる。

「私は、誰かの負担になりたくない」
 何を馬鹿な。そう言われるかもしれない。
 だがそれは、この島だからというレベルの問題ではなかった。
 どうせ目が見えないのだ。世界の果てまで闇ならば、どこにいようが無茶な話なのだ。
「私の背負っているハンデを、誰かに背負わせる事が、耐えられないから」

 五、六歩離れたところで光岡は立ち止まり、振り返った。
「みさき」
 罪悪感ではなく、憐憫の情などでもなく。
 光岡は彼女のもとへと歩み寄ろうと、一歩を踏み出した。
「来ないで」
 厳しい表情を保って、彼女が一歩下がる。
 二人の距離は、縮まらない。
「――ここで、お別れしよう?」
451かぜのみち:04/05/21 02:41 ID:MIY8j+cC
 

 ざあ、と波音が高くなった気がした。
 吹き付ける潮風が、二人のあいだを駆け抜ける。
「みさき」
「さよならだよ、光岡さん」
「みさき、俺が護る。決してお前を死なせはしない。
 お前を独り死の闇に追いやることなど、何があってもさせはしない」
「光岡さん――」
 みさきの顔が歪む。
 光岡は風を突き抜けて、彼女のもとへ駆け寄った。
 だが。

「――冗談、だよ」
 光岡の焦りをよそに、みさきはにっこり笑って、そう言った。
「……」
 やられた。光岡はぼりぼりと頭を掻きながら、再び踵を返して歩きはじめた。
 もう少し器用なつもりだったのだがな。再びそう思いながら、苦笑する。

 その背中に、とさりとわずかな重み。
「みさき?」
 彼女が後ろから抱き付いていた。
「光岡さん。私……馬鹿だから、言葉通りに受け取るよ?」
「……構わない。俺が護る。俺に任せろ」

 再び潮風が吹き付ける。
 けれど二人のあいだに、道などなかった。
「……ありがとう、光岡さん」
452かぜのみち:04/05/21 02:45 ID:MIY8j+cC
 
 
 そんな二人の進む先に、足跡があった。
 そろそろ砂浜が終わり、岩場が増えてきていたので、発見できたのは幸運だったかもしれない。
「ふむ……女だな。それなりの長身で、姿勢がいい。
 戦闘向きの靴を履いてはいないが、運動能力は悪くなさそうだ」
「そんなことまで分かるんだ」
「ああ。大体の体重や、筋肉のつき方、効き足や時には利き腕も推測できる場合がある」

 みさきはちょっと自分の足跡を振り向いてみたりするが、意味がないので諦めた。
 どうせ見えていたって、判りはしないのだ。
「……光岡さんは、デリカシーがないよ」
「デリカシー? すまんが、日本語で言ってもらえるか?」
 素でそう答える光岡に、みさきはむくれた。
  
453かぜのみち:04/05/21 02:47 ID:MIY8j+cC
 がき、がしゃん。
 慣れない拳銃をこねくり回し、さんざん苦労して、どうにかマガジンを交換した。
(……どうかしてるわね)
 ふらりと出た海岸沿いは風が強く、疲労を癒すには適さない場所だった。
 風を避けるように砂浜を抜けた岩場を登り、仮眠をとったのち、しのぶは自分の装備を確かめていた。
 愚かしいことに、交換用の弾があるにもかかわらず、空っぽの拳銃を持って歩いていた。
(どうかしないわけ、ないんだけど)
 びゅう、と風が頭上を飛び越える。
 不愉快に思いながら、潮溜まりを通り抜ける際に濡らしてしまったビスケットを捨て、無事なものを齧る。
 かなりの人数が死んでいる。自分が行なったものもあるが、それにしても多い。
 自分は比較的、他人に遭遇していないほうかもしれない。
(透子は、どうしてるかしら?)
 性格的に、誰かと一緒になれば、その後をついて行く。
 そうでなければ、どこかに隠れるだろう。そう思った。

 しのぶは岩場を登ったあと、最初に周囲を見回していた。
 かなり道を戻ることになるが、砂浜の先に街が見えたのを覚えている。
 山暮らしでもない限り、街の方が安心できるだろうから、家屋に隠れている人間は少なくないはずだ。
(どうせ、あてもないのだし。仕方ないわね)
 億劫ではあるが、岩場を降りて街に向かうことにした。

 向かい風に逆らいながら、彼女は岩場を降りていく。
 その先に、自分の存在を予想している人間がいるなどと、思ってもいなかった。


【039榊しのぶ ブローニングM1910(残弾7)・ナイフ・米軍用レーション(10食分)・缶切3つ・12本綴りの紙マッチ3つ小型ガスコンロ】

【028 川名みさき 白い杖】
【089 光岡悟 日本刀 デザートイーグル(残弾3)】
「なぁんだこりゃ」
 目覚めてすぐ、浩之はすっかり忘れていたサクヤの鞄のことを思い出し、中を開けてみた。
 なんで俺はこんなもん持って、何も不思議に思わなかったんだ、と思いつつ、じゃきじゃきと音を立てる。
 その音を聞いて、理緒も目を覚まして寄ってきた。
「んー……藤田君、なにそれ?」
「なにそれって……見たまんまの高枝切りバサミ」
 じゃきじゃき。
「かなりえぐいよなー、これ」
 首でもちょんぱしろとでもいうのか。映画に出てきた、手がハサミな男を思い出す。
 だが、二人に与えられた品物の中で、まともに武器として使えそうなものは、これくらいだろう。
「まぁ……相手が怖がって逃げてくれるかもしれないしな」
「あはは……」
 まだ半分寝ぼけた様子で、理緒が笑った。
 その時、定時放送が入った。
 二人の間に緊張が走る。名前が次々に呼ばれる。強張った体を、不愉快な声が通り抜けてゆく。
『61番、長岡志保』
 浩之の体がはっきりと動揺した。理緒も顔くらいは知っている相手だ。
 良く勝手に教室に飛び込んできては、色々な噂をばらまいていく。
『92番、宮内レミィ』
 こちらも理緒に面識はないが、あの派手な金髪はいやでも目に付く。
 ああ、死んじゃったんだ……。
 理緒にとっては、その程度の感慨だった。悲しいけど、どちらも直接の友達ではない。
 だけど、浩之は違っていた。
 志保が死んだ。あの脳天気な声で「志保ちゃんニュース!」とデマを振りまく彼女の姿は、もう見られない。
 レミィが死んだ。明るい笑顔で、得意げに四字熟語を並び立てる様は、もう見られない。
 好きとか嫌いとか、そういう問題ではなく、どちらも大切な友達だった。
 自分の生活の大半を占める、学校という場所。そこを構成する重要なパーツが、一つずつ。
 外れて、亡くなった。
「う……ぐぁっ」
 胃の内容物が、ぶちまけられた。ほとんど消化しきってしまって、胃液ばかりが出てくる。
 だけど、止まらない。
「ふっ、藤田くんっ!」
 理緒が背中をさする。ツンとした匂いと、目と鼻の先に集まる熱い痛み。
 元気だった二人の姿が、上手く思い出せない。見てもいない惨殺シーンが脳裏に浮かぶ。
 血にまみれた、志保、レミィ、そして――あかり。
 あかり。あかりっ!
 いやだいやだいやだ。あかりが死ぬ。そんなことは考えたくもない。
 志保も、レミィも大切な友人だ。だけど、あかりはもっと大事だ。
 ずっと小さい頃から、一緒にいるのが当たり前の、かけがえない人。
 失われてからでは、きっとこの二人とは比較にならないほど後悔するのが、先の想像から分かる。
 だけど、この島にいる限り、死はあかりの元に着実に迫っている。
 逃れる方法はただ一つ、このゲームに生き残ること。
 人数は、二人まで。
 二人まで?
「藤田君、平気……?」
 じゃあ、この女は何だ?
 雛山理緒。自分を慕ってくれる、けなげなバイト少女。
 貧乏だけど、家族のために一生懸命頑張っている、気持ちのいい少女。
 でも、邪魔になる。
 あかりと帰るためには邪魔になる。そうじゃないか?
「ふ、藤田君……?」
 怯える声に、かえって煽られた。
 なんだ? 何をしている? 理緒ちゃんの肩に手をかけて、首に触れて、どうするつもりだ?
 簡単だ。こんな細い首。たぶん、きゅっと締めたら、すぐに終わる。
「藤田君……やだ、ちょっと、冗談……でしょ? ねぇ」
 違う。違わない。どっちだ。落ち着け、浩之。ゆっくり考えろ。簡単な事じゃないか。
 あかりと理緒ちゃん。あかりの方が、大事だろう?
 指に力が籠もった。
「かっ……あっ」
 理緒の表情が歪む。苦しんでいる。暴れている。死んでいく。
 もう止められない。ここまで来たら、殺すしかない。
 ごめん。わりぃって思う。でも、あかりが、あかりが、こうしないとあかりが死ぬんだっ!
 ああ、そうだ、さっきの高枝切りバサミなら、苦しまずにひと思いに殺せたかもしれないな。
 ごめんな。でももうおそいよな。ここまできたら、一気に――。
 そう思ってたら、下から衝撃が来た。
「ぐぁっ……」
 理緒の振り回した足が、浩之の金的を直撃した。
 殺意も何もかも消し飛ぶような衝撃が、真下から跳ね上がる。
 普通ならそこを攻撃するのを少しはためらうものだが、理緒も必死だった。
 容赦なくつま先が、蹴り上げていた。
 脂汗が浮く。情けなく腰を突き出す恰好で倒れながら、呻く。涙が出た。
「つ……」
 影が覆い被さった。
「え……?」
 振りかぶったバッグ。その中には、枕大の石が入っている。
 理緒は、さっきまでの浩之と同じ顔をしていた。
 死の恐怖に怯え、それに押されるように、殺意に引きつった表情。
「あ……」
「ああああああああっ!」
 叫びと共に、バッグが叩きつけられる。何度も、何度も。
 血が飛び散り、骨が砕け、脳漿が弾け、肉が潰れてゆく。
 殺される。殺される。自分も殺される。二人みたいに。イヤだいやだ、そんなのはイヤだっ!
 手から石が滑り落ちた。
「いやああああああっ!」
 恐怖に駆られた思考が、手近な物品に目を付ける。
 高枝切りバサミで胸を刺した。何度も何度も。浩之の服が瞬く間に紅に染まり、肉が掻き乱されてゆく。
 手応えが気持ち悪い、不愉快だ。それを断ち切りたくて、何度もハサミを交差させる。
 浩之が死んでいくことが分かっているのに、でも腕が止まらない。止めたいのに、止まらない。
 狂的な叫びが洞窟にこだまするが、浩之は、それを聞く器官をすでに失っていた。
 ただ、血と叫びと涙だけが、尽きることなく続いた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
 どうしよう、どうしよう。殺してしまった、死んでしまった。
 大好きだった人。密かに想っていた人。でも、振り向いてくれなかった人。
 それが自分の手で肉塊に変わった。
「うっ……」
 血の匂いに、自分の為した行為に、体が拒絶反応を示す。
 浩之がぶちまけた吐瀉物の上に、自分も同じものを吐き出した。
 違う、違う。自分が悪いんじゃない。だって、藤田君がひどいことしたから。
 私は悪くない。私だって帰りたい。帰りたかったの――藤田君と一緒に。
 その藤田君の胸から上は、原形を留めていなかった。
「あ、あ……」
 自分がしてしまった結果が、無惨な肉塊になって転がっている。
「ど、どうしよう……やだ、藤田君が……」
 考えた。懸命に考えた。どうすればいいんだろう。
 人を殺してしまったなんて、誰にも言えない。でも、きっとばれる。
 藤田君はここにいて、自分がここにいて、それを監視されている。絶対にばれる。
 いや、もう知られている。
 自分が犯罪者になって捕まったりしたら、もう、終わりだ。
 幼い弟たちは、あの家にいられなくなり、収入も大幅に減って、きっと一家離散か心中コース。
 典型的な凋落のパターンだ。
 ちがうちがう。自分は悪くない。正当防衛だよ。だって藤田君が、私を殺そうとしたから。
 でも、だめだ。そんな言い訳は通じない。死んだ人は帰ってこないんだから。
 ばれちゃダメだ。知られちゃダメだ。
 そうだ、神岸さん。あの人が知ったら、きっと私を許さない。ううん、絶対。
 じゃあ、どうすればいい? どうすれば……、ああ、そうだ、いいことを思い出した。
 このゲームに勝ったら、願いを叶えてくれるって言った。
 全部なくしてもらおう。今あったことを全部。
 そのためには殺さなくっちゃいけない。この島にいる人全員。
 特に、神岸あかりさん。二人残ったとしても、この人だけは生き残らせちゃダメだ。絶対に。
 全部の荷物をかき集め、重かったけど、無理矢理背負った。
 浩之の死体を引きずって外に出し、草むらに隠した。
 なんでそんなことをしたのかは分からない。ただ、隠さなきゃと思ったから。
 ああ、もう。そんなことをしている暇はないのに。
 武器は少ない、力も弱い。でも、絶対にやらなきゃいけないことがある。
 神岸あかりさんを、殺さないと。
 殺さなきゃ――。
 殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ。
 

【71 雛山理緒・所持品 筋弛緩剤、注射針一式(針3セット)、枕大の石、裁縫道具、手作り下着、高枝切りバサミ、
            クレジットカード、小銭入り長紐付き巾着袋、クッション、バッグ4つ所持。
            石と高枝切りバサミは、血で汚れている】
【71 雛山理緒 マーダー化。神岸あかりを殺すために動き始める】
【74 藤田浩之 死亡】
【二日目 朝の定時放送直後】
【残り62名】
460逃げる思考(1/4):04/05/21 07:39 ID:74+kL2V+
 お兄ちゃん。
 私のお兄ちゃん。
 ちょっとかっこつけだけど、私が泣いたらいつも駆けつけてきてくれる。
 そんなお兄ちゃん。
 ――自慢できないけど、誇りに思っているお兄ちゃん。

 永続的に繰り返される風景。思い出したくない光景。蘇ってくる鮮明な記憶。頭の中で悲鳴を上げる。
 全てを忘れたい。全てを忘れられたら良いと思う。実際それができるならなんの躊躇いもなくそれを選ぶだろう。
 泣きたくなる。見たくない。フィードバック。リピート。取り払いたい。できない。それが自分の弱さ。
 人間なら誰だって弱い部分がいくつかある、問題はそれをどう支えあっていくか。そんなテレビ画面の向こうから伝わってきそうな陳腐な言葉。
 流れるのは感動的な音楽。結局陳腐なセリフで人を感動させるには演出に凝るしかない。
 失敗したら責められるのはセリフ。成功したら褒められるのは演出。単純な上下関係は歴然としていて、演出はどう転んでも損はしない。
 そんなもの。
 この状況も同じ。演出があまりに酷過ぎる。感動とは別の涙を流したくなるぐらい。違いなんてそれほどない。この状況と自分の間にブラウン管がないだけ。それだけの話。
 どうせならあればいいと思う。自分が見たもの、自分が聞いたもの、自分が感じたもの全てが他人事であれば。それなら単純に主人公の行動に一喜一憂していられる。
 考えてみれば不思議なことなのかもしれない。自分のことよりも他人事の方がよっぽど感情移入がしやすい。ヒロインが死ねば感動して泣き、主人公が生き残れば感動して泣く。
 どうせ主人公は自分ではない。主人公が感じている辛さは同情と哀れみという形に変えて受け取れる。主人公が感じている嬉しさはそのまま受け取れる。
 主人公の弱さなんて所詮共感はできない。
461逃げる思考(2/4):04/05/21 07:41 ID:74+kL2V+
 でも今は自分が主人公。その間にはブラウン管も活字もスピーカーも何もない。感情移入はできない。そのかわり全てを共感できる。太陽のように明るい感情も闇のように暗い感情も全て。
 主人公が泣けばそれが自分の悲しみ。主人公の弱さはそのまま自分の痛み。そんな中で使い古された陳腐なセリフなんて言えない。他人事だからこそ言える感動の言葉は決して自分に使うものではない。
 故に弱さはそのまま残る。全てが自分の負荷になる。慰めを見出すのは本来なら自分ではないはずの主人公。
 でもそれが今は自分。見出すことなんかできない。慰めの変わりにあるのは痛みと弱さ。弱いから痛みができて、痛みがあるから弱い。それは決して他人事では味わえない苦痛。
 弱さ。痛み。全ては脳内で繰り返される。見たくもないそれを見てしまう弱さ、痛み。他人事ではそれはない。思い出しても感動するだけ。
 痛くない。自分自身ではないから。過去を共有することは決してないから。
 自分であればそうはいかない。繰り返される光景は自分の過去の光景。痛みが入り交じる、弱さを思い起こさせる記憶。

『逃げろ…逃げるんだ! 芽衣!』

 目の前で繰り広げられる光景。現れた死神。倒れる体。背中からでる血液。広がっていく紅、紅、紅。
 何もかもがゆっくりと、しかし一瞬で。直前まで作られていた朝ご飯は既に食べられるという使命を果たせずにいる。
 死神の目はそれをつまらなそうに見ている。無機質な瞳。見えない感情。聞こえるのは叫び声。

『さあ行け! 俺の…お兄ちゃんの死を無駄にするな!!』

 溢れる涙。滲んでいく視界。少しずつ霞んでいく兄の姿。視界から、自分から、何もかもが消えていく。
 唐突に揺れる視界。自分が首を振っているのだということに気付くのに二秒。無我夢中。何も考えられない。左右に散っていく雫。
462逃げる思考(3/4):04/05/21 07:41 ID:74+kL2V+
 少しだけ晴れる視界。見えるのは兄と死神。血の海に倒れる兄と、血の海を創造する死神。やがて再びそれも滲んでいく。嫌。霞んで欲しくない。見えなくなったら消えてしまいそうで。紅い視界、佇む死神、それらがあってなお消えて欲しくない兄の姿。
 それでも。
 走った。
 死神に背を向けて。
 兄の体に背を向けて。

『それで…きっと、みんなで帰れるから』

 約束。心を取り戻した兄がたてた誓い。そのときは希望の言葉。今となっては叶わなかった戯言。
 それは昔の話。24時間も立ってない、ついさっきのことだったけど、昔の話。

『――芽衣を傷つけるんじゃねぇ』

 わけもわからず走っていた自分。弱かった心。零れ落ちた弱さの証。隠すことのできない恐怖。そして助けてくれた言葉。
 それは最初の話。長い一日の始まり。兄妹という名の絆。

 嬉しかった。本当に嬉しかった。
 助けてくれた兄が、泣かせてくれた兄が、いつもよりかっこよかった兄が、徹夜で見張をしてくれた兄が、全て嬉しさの象徴だった。
 いつまでも続けばよかった。いつまでも傍にいてくれればよかった。現実を離れ、ただ笑いあっていればよかった。
 それだけで自分は嬉しかったから。
 命を張ってまで護ってくれなくてもよかったから。
 最後に自分は、兄の傍にいることができなかった。笑いあっていることができなかった。いつまでも続くと思っていた嬉しさの象徴は、一人の死神によってまるで砂の塔を崩すようにいとも簡単に壊れてしまった。
463逃げる思考(4/4):04/05/21 07:42 ID:74+kL2V+
 壊れてしまった砂の塔は、また作りなおせば良い。でも、再び完璧に同じものを作ることはできない。最初から多少不恰好のままでも強度を求めて作っていればよかったのに、崩される危険を考えずに形を美しく仕上げてしまったから。
 取り戻せない砂の塔。
 それがもろかったことを悔やんだ時には、もう遅い。

「ごめんなさい…」
 呟き。
 それは、水瀬名雪に向けられてのものか。
 或いは、兄に向けられてのものか。

 春原芽衣。自称『伝説の春原陽平』の妹。
 彼女は、その全ての感情を溜め込んだまま、一軒の民家にかけこんだ。


【春原芽衣 別の民家へ 所有物:なし】
【中に人がいるかどうかは次の書き手に依存】
464別れ、出会い、そして決断:04/05/21 09:16 ID:qm3iFQSs
自分が先頭、後ろに秋生、そしてその後ろに早苗。
彼は位置関係を確認すると唐突に口を開いた。
「早苗さんのパンは…まずいです。」
遠慮がち、しかしキッパリとそう言い放つ。
「なっ、てめぇっ!」
「わたしのパンは…わたしのパンは、ファンタジーな存在の人にも嫌われていたんですねーっ!!」
目に涙を溜めながら早苗は走っていく。
「ちくしょう、てめぇ」
「俺は大好きだーーーーーーーっ!!」
こうして古河夫妻はこの場から姿を消した。



しばらく歩くと秋生が彼に耳打ちしてきた。
「早苗のパンがまずいとか絶対言うんじゃねぇぞ。」
「それは…何故ですか?」
おかしなことを言う人だ、と思いながら彼は尋ねる。
「いいから絶対言うな。でないと、またさっきの鬼ごっこが始まる。」
秋生はちょっとげんなりしたふうにそう言った。
その様子をみた早苗が不思議そうにたずねる。
「なんの相談ですかっ?」
「いや、なんでもないんだ、なっ」
「はい、なんでもないですよ」
彼は状況を察し、秋生に合わせて相づちをうった。
それが数分前のことである。
465別れ、出会い、そして決断:04/05/21 09:17 ID:qm3iFQSs
(ふぅ、良かった、うまくいきましたね)
彼は古河夫妻が走り去ったのを確認すると目の前に視線を集中し、槍を構える。
「………」
そこに誰がいるのか、大体見当はついていた。
がさっ
相手も隠れていても無駄と気がついたのか、それともあまりの奇妙な光景に、出てくるタイミングを失っただけだったのか、姿を現す。
手には巨大な刀、そして彼と同じような耳、来客の正体は…カルラだった。
「一体、今のはなんでしたの?」
「そうですね…相手が相手だけに、戦いになったら護りながらというのは危険だと判断したので、逃げてもらいました。」
「あら、話が早いですわね…でも、私に戦うつもりはありませんわ」
「それは良かった、では、一体どういったご用件でしょう?」
彼は気を抜かずにカルラに問う。
「あなたが、どういった考えで、他の人間と行動しているのかは分かりませんが、
私達が命を賭けお守りすべき存在…聖上は、もういないんですのよ」
「そうです、だから、私は聖上の意思、戦わない人々を逃がすことを優先して動いているまでです。」
カルラは驚いたような表情をした。
「あなたらしくもないですわ、冷静さを失っているようですわね。聖上をお守りすることが出来なかった以上、
死を選ぶべきではないのですか?…それにお忘れになって?生き残れるのは2人、そして、最後まで生き残ったものには…」
彼はカルラの言葉に驚いた、確かに、聖上を護れなかった以上、武人として、死を選ぶべきだ。
しかし、聖上はそれを止めてくださった、自分に居場所をあたえてくださった。それを裏切るわけにはいかない。
「しかしっ…」
「まだ、話は終わっていませんわ。最後まで残ったものには、何でも一つ願いが叶う…お忘れになって?」
カルラはからかうようにそう言う。
466別れ、出会い、そして決断:04/05/21 09:18 ID:qm3iFQSs
確かに、冷静なつもりでいた、冷静なつもりだったが、実のところ聖上の死により冷静さを失っていたのかもしれない。
「まったく、呆れましたわ、それで、単刀直入にいいますわ、私と手を組みませんこと?」
つまりは二人で生き残ろうという提案であろう。
カルラの強さは良く知っている。確かに、カルラと手を組めば二人で生き残ることは容易であろう。
しかし、そのためには今まで会ってきた人々や、戦友たちも手にかけることになる。
彼、ベナウィ(082)は悩んでいた…。

【079 古河秋生 古河早苗特製パン 4個、古河秋生専用金属バット、硬式ボール10球 早古河苗を追って走っている。限界が近いかも?】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、所持品はすべて秋生が預っている、ベナウィの言葉にショックをうけどこかへと】
【082 ベナウィ 槍(自分の物)、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード、彼の決断は次の方にまかせます。】
【026 カルラ ハクオロの鉄扇 カッター 自分の大刀、栗原透子のバック中身不明】
【時刻午前10時ごろ】
467追加:04/05/21 09:30 ID:qm3iFQSs
【カルラ:右手首に怪我、握力半分以下】
468回想録:04/05/21 09:30 ID:Dvhniu1f
第二回定時放送が始まった。
その放送が始まった時、その男の体はもうすでに死んでいた。
麻生春秋の死体だった。そいつを殺した者はボウガンなどには目もくれない。
何故なら、殺した者にとって、もはや、とあること以外に興味がなかったから。
だが、死んだはずのその男の意識はまだあった。心臓が止まっても、息が止まっても。
彼の意識は死にきれないその瞬間をさまようのか。



――結局、あの時春秋は投降することを選んだ。
現れた男はおそらく下っ端の私兵が何人か。その中心に巨躯の傭兵隊長。
そして。
「醍醐、下がれ」
「篁!」
黒幕、篁が一歩前に進み出る。
「気にするな。ただ夜風に当たりたくなっただけでな。
 それに今の所、我々に参加者を傷つけるつもりは毛頭ない。安心してゲームを続けるといい」
闘う必要は、なかったようだ。だが。
「余裕だな。参加者はみんな、あんたに恨みを抱いてると思うよ。
 ゲームに乗った者もそれは同様。こんな所を歩いていると――」
BANG!と指で自らのこめかみをつつく。
「フフ。果たしてそうかな?私は優勝者二名には人の一生を賭けても余りある賞品を用意したはずだ。
 何でも願いが叶う。その為だけに殺す者は、却って我々に仇なす者を排除しようとするかもしれん」
「眉唾だね。何でも願いが叶う?はっ!」
「それは優勝して確かめてみることだ。
 まぁ願いを100に増やせだとか、そういった類のものは叶えられんがね」
ふう、と息をついて、そこから去ろうとする。
「待て!」
思わず呼び止める。篁の足が止まった。
469回想録:04/05/21 09:31 ID:Dvhniu1f
「一つだけ聞かせろ」
「……何かね?」
「こんなことしたあんたの――あんた自身の目的だ」
「あったとして、答えるとでも思っているのか?」
「……」
「ククク、少しだけ話してやろうか?」
そう言って、篁は手で部下達を下げさせる。醍醐を先頭に、篁を残してそこを去っていく。
「何だ?」
「部下達にはあまり聞かせたくはないのでね……。では、第二回の定時放送の予定でも話そうか」
「……は?」
理解ができない。
「……。6番、一ノ瀬ことみ。15番、緒方理奈。20番、柏木初音。29番、木田恵美梨。43番、沢渡真琴。
 45番、霜村功。49番、スフィー。54番、立川郁美。59番、ディー。60番、トウカ。61番、長岡志保。
 63番、名倉由依。67番、ハクオロ。70番、氷上シュン。75番、藤林杏。77番、伏見修二。
 92番、宮内レミィ。97番、ユズハ。99番、リアン。以上死者19名。ふむ、まあこんなところか」
何を言っているんだ?この男は。
「では、続いて第三回の定時放送の予定でも話そうか。ん?クク、これはおもしろい。
 君も出会っただろう?伊吹風子と言ったかな。人にあって人にあらず。
 ――彼女には悪いことをしてしまったね。本体の方を連れてくるべきだったか。
 まあ、消失と同時に本体も本来の居場所で死んでしまったろうがね。後の祭りか。
 彼女が存在するにはこの世界ではきつすぎたようだ。だが、いいものを見させてもらったよ。
 自我の存在を失ってもなお、その想いだけは失われることはない。強い娘だ。
 人の生き様、生きたいと願うエネルギー。それはとても強く、そして本当に面白い。
 彼女もまた最高のサンプルの一つだったよ。それはすばらしい光の玉の欠片なことだろう。
 いや、まだ生きている彼女に過去形なのはさすがに失礼だったかな?麻生春秋も浮かばれぬ。
 ――話がそれてしまったね。さて、続きといこうか――」
470回想録:04/05/21 09:32 ID:Dvhniu1f
「もういい」
それを遮る。ヘドが出そうだった。フウコとかいう少女を目撃したあの時よりもずっと胸クソが悪い。
「フフフ。話を変えようか。並列世界というのはご存知かな?
 アナザーだとかそういった方が分かり易いか?まぁ、どう呼んでくれても結構だ。
 要は、とある分かれ道に立った時、どちらを選択し、どういう進み方をするのか。
 人はその時その時で多種多様な選択をし、未来を自分で選びとっていく。
 その可能性の一つ一つが並列世界。それは本来誰にも分からぬことだと思うがね」
「……何が言いたい?」
「君が知りたいのではなかったのか?まあいい。ここで出会ったも何かの縁だ。
 もう少しだけ話しておこうか。その並列世界を知ることができたなら?いわゆる世界を知る力だ。
 君が、私自身が、もしも、こうありえたかもしれないという過去を、未来を知りえることができたなら」
一旦言葉を切る。春秋にも、ようやくこの男が何が言いたいのかが理解できた。
「先程の名前の羅列。外れる未来もありえるわけだね」
「その通り。君はなかなかに賢い。――今はまだ可能性のひとつにすぎんよ」
「それはただの予言だ。例えば、今ここで僕がお前に襲いかかったら――お前が倒れる未来もあるわけだ。
 そしてもしも、僕が敗れて死ねば――。お前のセリフに、僕の名前はなかったろう?」
「それは君自身が一番よく分かっているのだろう?君の心に少しでもその気があれば、そういった未来もありえたかもしれない。
 先程、君が我々に気付いた時、話をするか、投降するか、逃げるか。迷ったようにな」
「……。『今はまだ可能性のひとつにすぎない』とお前は言ったな。それはどういう意味だ?」
471回想録:04/05/21 09:33 ID:Dvhniu1f
「今はまだほんの少し、その先を夢見るだけの力にすぎん。
 未来は未だ、我が思い描く通りにはならん。
 世界を知る力。過去を、未来を。すべての並列世界を。森羅万象すべてを知りえた者を。
 人はなんと呼ぶのだろうね?このゲームの終焉。その時、その存在となるのが我だ」
「そんなものになって何をするんだ。どうやってそんなものになれるというんだ?」
「……少々喋りすぎたようだ。あとは君自身が考えるといい。
 最後にひとつだけ。ここで君に出会ったのは、偶然だよ。私のまだ知りえなかった未来だ。
 さて、話は終わりだ。君自身が選び取る物語に幸あらんことを」





今放送は終わった。間に合わなかったわけか。今思えば、ヤツは僕だからここまで話していたのだろうか。
誰にも言うこともなく、誰にも知られることなく、ただ朽ちていく。
どうせ死ぬなら、できれば放送が始まる前までにきっちり殺しきってほしかったものだ。
ヤツの言ったセリフとは違う未来が待ってたのに。ヤツの言ったセリフと同じ今を聞かずにすんだのに。
どうやってるかまでは知らないが、ヤツは『それ』に近づいているというのか。――人が死ぬたびに。
クソ、お前はせめて生き延びろよ。せいぜい第三回の定時放送まではな。
横では無邪気な顔でヒトデを作成している少女。最後にそれを瞳に映して、僕の意識は遂に永遠の暗闇へと吸い込まれていく。


【03 麻生春秋 死亡】
【残り61人】
472回想録:04/05/21 09:55 ID:Dvhniu1f
>>468-471
NGでお願いします。すいません。
473新たな居場所:04/05/21 10:03 ID:sL1P1UR0
「バカヤローーーーーーーーーー!!」
振り返ると、数m先には秋生と早苗が立っていた。
・・・・・・いったいいつからいたのか。
カルラとの会話に集中しすぎていたのか、それとも身体能力の低下のせいか。
どちらにしろ・・・二人の気配に気がつかなかった。
「お前は「聖上」の意思を継ぐって決めたんだろっ!!男だったら貫け!どこまでだって突っ走れっ!」
どこからかはわからないがカルラとの話を聞かれていたらしい。
つくづく武人失格だ、と自嘲の笑みを浮かべる。
「おまえがその意志を貫けるように、俺たちもおまえを守ってやる!お前自身も!お前の心も!お前は俺たちを守るといったように!
俺たちがおまえと一緒に生きてやるから・・・・・・・・だから、俺たちと来いっ!」
ありったけの声で秋生は叫ぶ。
そして、ベナウィのほうへと手を差し出した。
「ベナウィさんっ!」
その後ろで、早苗もベナウィを呼ぶ。
(ああ、なんて・・・)
なんて彼らはこんなに暖かいのだろう、と思う。
出会って、数十分もたっていない自分と一緒に生きると言ってくれている。
その身を危険にさらしてまで、こうして戻ってきてくれた。
(私は・・・)
ベナウィはカルラに向き直った。
そして、はっきりとその決意を口にする。
「申し訳ありませんが、私はあなたと組むことはできません」
・・・自分を信じていてくれる、彼らがいる限り。
もう、迷いはしない。
「私には・・・新たに守るものができましたから」
ベナウィは微笑して言った。
474新たな居場所:04/05/21 10:06 ID:sL1P1UR0
【ベナウィとカルラの交渉決裂】
【079 古河秋生 古河早苗特製パン 4個、古河秋生専用金属バット、硬式ボール10球 限界が近いかも?】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、所持品はすべて秋生が預っている】
【082 ベナウィ 槍(自分の物)、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード】
【026 カルラ ハクオロの鉄扇 カッター 自分の大刀、栗原透子のバック中身不明、右手首に怪我、握力半分以下】
【時刻午前10時15分ごろ】
 ああ、いけない。もう新聞配達の時間だ。体が覚えている、毎日の習慣。
 おかしいなぁ、目覚まし鳴らないよ。それにいつもより体が重い感じ。なんでだろ。
 うー、起きたくない。でもそういうわけにもいかない。
「……ちゃん」
 ちょっと待って良太。すぐ起きて、朝ご飯作るから。
「理緒ちゃん」
「うん……分かったってば、良太」
「いや、俺良太じゃねーって」
「……へ?」
 目を開くと、苦笑した様子の浩之の顔が。
「ふっ、藤田君!? なぜうちにっ?」
「いや、俺ら今、絶海の孤島にいるんだが……」
「……あ、そか」
 暗い洞窟の壁面を見て納得した。バイトにいく必要はない、学校に行く必要もない。
 それでも生きることが、いつも以上に困難な場所。
「あはは……」
 失意が、何故か笑いになって零れる。その時、定時放送が入った。
 二人の間に緊張が走る。名前が次々に呼ばれる。強張った体を、不愉快な声が通り抜けてゆく。
『61番、長岡志保』
 浩之の体がはっきりと動揺した。理緒も顔くらいは知っている相手だ。
 良く勝手に教室に飛び込んできては、色々な噂をばらまいていく。
『92番、宮内レミィ』
 こちらも理緒に面識はないが、あの派手な金髪はいやでも目に付く。
 ああ、死んじゃったんだ……。
 理緒にとっては、その程度の感慨だった。悲しいけど、どちらも直接の友達ではない。
 だけど、浩之は違っていた。
 志保が死んだ。あの脳天気な声で「志保ちゃんニュース!」とデマを振りまく彼女の姿は、もう見られない。
 レミィが死んだ。明るい笑顔で、得意げに四字熟語を並び立てる様は、もう見られない。
 好きとか嫌いとか、そういう問題ではなく、どちらも大切な友達だった。
 自分の生活の大半を占める、学校という場所。そこを構成する重要なパーツが、一つずつ。
 外れて、亡くなった。
「う……ぐぁっ」
 胃の内容物が、ぶちまけられた。ほとんど消化しきってしまって、胃液ばかりが出てくる。
 だけど、止まらない。
「ふっ、藤田くんっ!」
 理緒が背中をさする。ツンとした匂いと、目と鼻の先に集まる熱い痛み。
 元気だった二人の姿が、上手く思い出せない。見てもいない惨殺シーンが脳裏に浮かぶ。
 血にまみれた、志保、レミィ、そして――あかり。
 あかり。あかりっ!
 いやだいやだいやだ。あかりが死ぬ。そんなことは考えたくもない。
 志保も、レミィも大切な友人だ。だけど、あかりはもっと大事だ。
 ずっと小さい頃から、一緒にいるのが当たり前の、かけがえない人。
 失われてからでは、きっとこの二人とは比較にならないほど後悔するのが、先の想像から分かる。
 だけど、この島にいる限り、死はあかりの元に着実に迫っている。
 逃れる方法はただ一つ、このゲームに生き残ること。
 人数は、二人まで。
 二人まで?
「藤田君、平気……?」
 じゃあ、この女は何だ?
 雛山理緒。自分を慕ってくれる、けなげなバイト少女。
 貧乏だけど、家族のために一生懸命頑張っている、気持ちのいい少女。
 でも、邪魔になる。
 あかりと帰るためには邪魔になる。そうじゃないか?
「ふ、藤田君……?」
 怯える声に、かえって煽られた。
 なんだ? 何をしている? 理緒ちゃんの肩に手をかけて、首に触れて、どうするつもりだ?
 簡単だ。こんな細い首。たぶん、きゅっと締めたら、すぐに終わる。
「藤田君……やだ、ちょっと、冗談……でしょ? ねぇ」
 違う。違わない。どっちだ。落ち着け、浩之。ゆっくり考えろ。簡単な事じゃないか。
 あかりと理緒ちゃん。あかりの方が、大事だろう?
 指に力が籠もった。
「かっ……あっ」
 理緒の表情が歪む。苦しんでいる。暴れている。死んでいく。
 もう止められない。ここまで来たら、殺すしかない。
 ごめん。わりぃって思う。でも、あかりが、あかりが、こうしないとあかりが死ぬんだっ!
 理緒の口から泡が零れる。見開いた目には血管が浮かび、信じられない、という風に浩之を見ている。
 窒息は苦しいって聞いたことがある。せめて、なにか武器があったら、もっと楽に殺せてあげたかもしれない。
 ごめんな。でももうおそいよな。ここまできたら、一気に――。
 そう思ってたら、下から衝撃が来た。
「ぐぁっ……」
 理緒の振り回した足が、浩之の金的を直撃した。
 殺意も何もかも消し飛ぶような衝撃が、真下から跳ね上がる。
 普通ならそこを攻撃するのを少しはためらうものだが、理緒も必死だった。
 容赦なくつま先が、蹴り上げていた。
 脂汗が浮く。情けなく腰を突き出す恰好で倒れながら、呻く。涙が出た。
「つ……」
 影が覆い被さった。
「え……?」
 振りかぶったバッグ。その中には、枕大の石が入っている。
 理緒は、さっきまでの浩之と同じ顔をしていた。
 死の恐怖に怯え、それに押されるように、殺意に引きつった表情。
「あ……」
「ああああああああっ!」
 叫びと共に、バッグが叩きつけられる。何度も、何度も。
 血が飛び散り、骨が砕け、脳漿が弾け、肉が潰れてゆく。
 殺される。殺される。自分も殺される。二人みたいに。イヤだいやだ、そんなのはイヤだっ!
「いやああああああっ!」
 叩きつける何度も何度も。浩之の服が瞬く間に紅に染まり、肉が掻き乱されてゆく。
 手応えが気持ち悪い、不愉快だ。それを断ち切りたくて、石を振るたびに、手応えが変わってゆく。
 浩之が死んでいくことが分かっているのに、でも腕が止まらない。止めたいのに、止まらない。
 狂的な叫びが洞窟にこだまするが、浩之は、それを聞く器官をすでに失っていた。
 ただ、血と叫びと涙だけが、尽きることなく続いた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
 どうしよう、どうしよう。殺してしまった、死んでしまった。
 大好きだった人。密かに想っていた人。でも、振り向いてくれなかった人。
 それが自分の手で肉塊に変わった。
「うっ……」
 血の匂いに、自分の為した行為に、体が拒絶反応を示す。
 浩之がぶちまけた吐瀉物の上に、自分も同じものを吐き出した。
 違う、違う。自分が悪いんじゃない。だって、藤田君がひどいことしたから。
 私は悪くない。私だって帰りたい。帰りたかったの――藤田君と一緒に。
 その藤田君の胸から上は、原形を留めていなかった。
「あ、あ……」
 自分がしてしまった結果が、無惨な肉塊になって転がっている。
「ど、どうしよう……やだ、藤田君が……」
 考えた。懸命に考えた。どうすればいいんだろう。
 人を殺してしまったなんて、誰にも言えない。でも、きっとばれる。
 藤田君はここにいて、自分がここにいて、それを監視されている。絶対にばれる。
 いや、もう知られている。
 自分が犯罪者になって捕まったりしたら、もう、終わりだ。
 幼い弟たちは、あの家にいられなくなり、収入も大幅に減って、きっと一家離散か心中コース。
 典型的な凋落のパターンだ。
 ちがうちがう。自分は悪くない。正当防衛だよ。だって藤田君が、私を殺そうとしたから。
 でも、だめだ。そんな言い訳は通じない。死んだ人は帰ってこないんだから。
 ばれちゃダメだ。知られちゃダメだ。
 そうだ、神岸さん。あの人が知ったら、きっと私を許さない。ううん、絶対。
 じゃあ、どうすればいい? どうすれば……、ああ、そうだ、いいことを思い出した。
 このゲームに勝ったら、願いを叶えてくれるって言った。
 全部なくしてもらおう。今あったことを全部。
 そのためには殺さなくっちゃいけない。この島にいる人全員。
 特に、神岸あかりさん。二人残ったとしても、この人だけは生き残らせちゃダメだ。絶対に。
 全部の荷物をかき集め、重かったけど、無理矢理背負った。
 藤田君の死体を引きずって外に出し、草むらに隠した。
 なんでそんなことをしたのかは分からない。ただ、隠さなきゃと思ったから。
 ああ、もう。そんなことをしている暇はないのに。
 武器は少ない、力も弱い。でも、絶対にやらなきゃいけないことがある。
 神岸あかりさんを、殺さないと。
 殺さなきゃ――。
 殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ。
 

【71 雛山理緒・所持品 筋弛緩剤、注射針一式(針3セット)、枕大の石、裁縫道具、手作り下着、
            クレジットカード、小銭入り長紐付き巾着袋、クッション、バッグ4つ所持。
            石は血で汚れている】
【71 雛山理緒 神岸あかりを殺すために動き始める】
【74 藤田浩之 死亡】
【二日目 放送直後】
【残り62名】


>>454-459の修正版です。アイテムに関して勘違いしておりました。混乱させて、申し訳ないです。
481名無しさんだよもん:04/05/21 13:38 ID:aAUctwfR
葉鍵ロワイアル II 作品投稿スレ! 3
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1085114275/
482名無しさんだよもん:04/05/21 23:59 ID:WTRjVssw
ズガン!

参加者は全員死亡した。


よって   終   了
483名無しさんだよもん:04/05/22 00:04 ID:y1m2mBAD
ズガンッ!
は何かを考察するスレになりました。
484名無しさんだよもん
魔理沙音頭

幻想郷の栄える地球を守るため
キノコの力で魔女がすごくなり
すごい魔女をすごくした

オー 魔理沙 ベリーナイス
アリスはしょんぼりした

ミサマリは密の味
レザマリはエレガント
マスタースパークで一気にKOすることもある

「すごい魔女だ。」

うーーあーー(オートラストスペル) 
魔理沙