光岡は直感した。
(…この男)
その独眼の男、かなりできる。…むしろ自分以上。恐らく、純粋な剣技では敵わないだろう
ゲンジマルは直感した。
(この男)
その長身の男……単純な力量なら上だ。だが、長年培ってきた経験が警鐘を鳴らす。この男は、自分にはない何かを持っている。
お互い、向かい合う。光岡の腰には日本刀。対してゲンジマルは徒手空拳。二人はにらみ合いを続ける。
サラ…サラ…サラ
川の流れる音がする。
ザァァァァァァ…
風が吹いている。
「…名は?」
光岡が静寂を破った。
「ゲンジマルだ」
思い声でそう応える。
「…私は光岡悟。ただ水を汲みに来ただけだ。横を通らせて貰うぞ」
「あぁ。ただ…」
ちらりと、郁美が埋葬されている所を見た。
「わかっている、死者への礼儀は弁えてつもりだ」
光岡は、墓の前に跪き、手を合わせた。
住宅街の建物の一つ。
「はぁ、はっ…はっ…はぁはあ…はっ―――」
その家の一つの中で、二人分の激しい呼吸音だけが聞こえる。
苦しそうな顔をして、七瀬彰(66)と梶原夕菜(21)が座りこんでいた。
レミィとの交戦後、とにかく二人、無我夢中で走った。
ここに来たのもなんてことはない、走っている途中建物の群を見つけ、とにかく身を隠したかったからだ。
なるべく奥のほうにある建物を選んだことは選んだ、けれど殺人鬼に対してあまり効果は期待できなかった。
―――だいぶ落ち着いてきたその時、夕菜のお腹がかわいらしく『くぅ〜』っと鳴った。
「…あっ」
真っ赤になって俯く夕菜。考えたらこの島に来てから何も食べてなかった。
「ごはん食べようか。僕、食料ないか見てくるね…」
彰は、台所の方に移動した。
二人とも気が滅入っていた。初めてゲームに乗った人を見て、そして狙われて。
彰はさっきの戦闘の事を気にしていた、足が震え何も出来ず、自分を助けるため夕菜が危険に晒されたことを。
夕菜は怖かった。初めてゲームに乗った人を見て。なんとか逃げられたからよかったが、彰が、殺される所だった。
―――彰を失いたくない。それだけで、今を保っているようなものだった。
「このぐらいしかなかったよ、有っただけよかったけどね」
そうして彰が持ってきたのは、みかんの缶詰2個だった。
「じゃあ今日はこれと、貰った食べ物、少し食べようね」
「うん。そうしようか、あ、はい割り箸…これしか無くてさ…」
会話も、やっぱり元気なさげだった。
それから無言で、缶詰を食べる。お互い、何か話そうと思っていたけど気まずくて何も言い出せなかった。
空腹を満たした後、もう一度眠ろう――と思ったが、
ちょっと眠れそうになかった。
「寝つきはいい方なんだけどなー」
さっきは、極度の緊張と激しい疲労の為、こんなところでも気がついたらぐっすりと寝ていた。
だが意識的に眠ろう眠ろうとすると、これからのこと、みんなのこと、いろいろなことが頭を巡って
とてもじゃないが寝つけそうになかった。
第一、いつ誰かに寝首を掻かれるか怖い。
皐月の傍らでは、主――皐月はトンヌラと名付けた――が気持ちよさそうに眠っている。
「はぁ、結局今日は、宗一にもみんなにも、このコにもいいご飯食べさせてあげられなかったなー」
と一人ぼやいた。
皐月は知らない。この主がすでに大変結構なご馳走を頂いてたことを。
主にとってみれば、皐月がさっき食べた非常食よりもよっぽど高級なものだ。
といっても、もし皐月にとってのそれは、間違いなく喉を通るまでもなく嘔吐するような代物だが。
そして、皐月にとってみれば主の性格は幸運だったといえる。
この主は、完全なる野生の動物ではない。
誰でも喰らうのであれば、先の空腹時、わざわざ遠くへ出向いたりせず横で眠っていた皐月を喰らえばよかったのだ。
出向いたとしても、皐月の為に食料をとってきてやることなどなかった。
今の主にとっては皐月は大事なご主人様であったので、空腹時でも喰われることはない。
(ついでにいえば。主は雑食で、別に人間と同じ食事でも、それなりの量さえあれば普通に満足することもできるのだが)
ともかくいろいろとあれど、何だかんだで一人と一匹は上手くやっていた。
「今日はもう休もうか」
そう切り出したのは夕菜。ここに来てからニ、三時間は経っていた。眠れそうに無かったが、体は疲れていた。
「うん、ベッドもあるしね…、僕、下で寝るから」
「え、私が下で寝るよ。彰ちゃん、ベッドで寝て…」
「大丈夫だよ。僕、どこでも寝れるからさ」
「…うん…じゃあ、ありがとう、彰ちゃん」
夕菜はベッドの中に入る。
彰はベッドの横に、クローゼットで見つけたタオルケット掛け布団にして。バッグを枕代わりにして寝た。
無言の時間が流れていく。十分ほど経って彰が口を開いた。
「姉さん、起きてる?」
「うん、起きてるよ」
「…これから、どうする?」
「…そうちゃんを探したい……けど…」
人を探す、ということは外に出歩く、たくさんの人に会う、ということだ。その中にはもちろん、ゲームに乗っている人間もいるだろう。
「僕も、友達に会いたい…けどまず、ここで待機しない?」
「うん、私もそれに賛成、かな」
二人ともたいした武器も持ってないのに、外を出歩くなんて危険だと考えた。
「…姉さん、さっきはごめん…何も出来なくて、足手まといで…」
さっきまで言えなかったこと、言いたかったことを言った。
「ううん、気にしないで…私だって、あの状況だったら、きっと動けなかったよ…。
それにね、彰ちゃんと居ると安心できるの、私、彰ちゃんが居なかったらきっとおかしくなってたよ…」
夕菜も思っていた気持ちをそのまま伝えた
そして、シンとなる。気づけば雨が降っていた。
二人、雨の音を聞いて黙っていた。食事の時のような気まずさは、無かった。
そして二人とも、寝た。
手を合わせ、て立ち上がった。光岡は、傍らに置いてあったバケツを手に取った。
「…ゲンジマル。貴方は」
光岡は口を開いた。
「愚問。武人としての道に反する行いはしない」
光岡は苦笑した。そう、人を殺すような人間が死者に礼儀を払うはずがない。
「光岡殿…」
「ゲンジマル殿、愚問だ。……私には守るべき人間が居る」
そう呟いて、水を汲んだ。
「そうか」
それだけ言って、ゲンジマルは腰を下ろした。
「邪魔をした。…失礼する」
光岡は踵を返した。
「……また、相見えるときがあるのならば、その時に」
ゲンジマルもそう言葉を返した。
【光岡 水を汲む】
【ゲンジマル 埋葬完了】
【時刻 夜】
眠っている主の頭を撫でながら、空を見上げる。
そろそろ行動を開始、と思ったけど、主がまだ寝てるのでその場で留まる。
「もしかしたら私を探してるかも知れないけれど、ごめんね」
誰にでもなくそう呟く。でも、頭に浮かんでたのは宗一の顔だった。
宗一の顔と変わりばんこにこれからのことが浮かぶ。
みんなで脱出。それはかなり困難なことのように思えた。
あの篁の顔が浮かぶ。世界でも有数の大財閥、篁財閥の総帥。
個人資産だけでも何十兆にも及ぶという経済界の化物。
彼に比べれば、あの来栖川財閥でさえもただの紙きれのようなものだろう。
あんなに間近で見たのは初めてだった。
殺し合いゲーム。生き残りが二人になるまで殺し合いを続ける。
ご丁寧にも、逃げられないよう爆弾が埋め込まれている。
下手に篁に逆らえば、その場で死が待っている。
皐月にはよく理解しきれないこともあった。
(えと、確か結界がどうとかこうとか――よく分かんないや)
能力を封じられるとかなんとか。皐月の料理の腕も封じられてしまってるのだろうか。
(私の料理がゆかり並にとか。それはちょっとやだなぁ)
親友に対してとても失礼だった。話も脱線している。
おっとっと、と律儀に声に出して、思考を元に戻した。
なんにしても、とても正常な人間が考えることとは思えなかった。
そもそも篁は本当に人間なのか?確か、篁は宗一がその手で倒したはずだ。
――世間では、ただの突然の謎の失踪事件として片付けられていたようだが。
あの広間で集められた時の、宗一の驚愕は忘れられない。
篁は何を考えてこんなことをしたのだろうか。
【66 七瀬彰 カッター】
【21 梶原夕菜 無し】
【缶詰は全て食べました。住宅街で休むことに、これからの行動は家の中で待機】
【就寝した時は、一時ごろです】
86 :
名無しさんだよもん:04/05/18 00:08 ID:cgx9bLM1
考えても分からないことだらけだった。そもそも考えるのは苦手なのだ。
思いついたら一直線一本槍。それが皐月のスタイルだった。
いつしか、皐月は篁を出し抜くようなことを考えていた。
といっても具体的な有効案があるわけじゃない。
篁が参加者にやられると嫌なこととか、そういったこと。何でもいい。
篁の頭に斬斬剣。気持ちいいだろうな。その先に待ってるのは死一択かもだけど。
篁に股間蹴り。ああ、見たい。内股で股間を押さえて情けなく跳ねる篁の姿。
篁にメイ=ストーム。宗一相手と違って、手加減なし。
一方通行、地獄までの片道切符。五月の風が篁をあの世まで運んでくれる。お釣りはいらないとっといて。
……何でもいい、とか考えてたらどうでもいい案しか浮かばなかった。というか案ですらなくただの妄想だった。
もう少しだけ、建設的に考えてみる。
篁が望むこと。望まないこと。
篁が何故このような凶行に出たのか。そこに求めた篁の答えは何なのだろうか。
篁がこのようなゲームを目論んだのには、きっと何か大切な理由があるはずだ。
できるなら、その篁の求めたモノをめちゃくちゃにしてやれないだろうか。
「だって、悔しいじゃない」
悪の総帥にいいように踊らされるのは。
もし、そんな理由などない。篁のそれがただの金持ちの気まぐれからくるものであったら。
「……腹が立つからあいつにメイ=ストーム」
単純だった。
「……グル…」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
ともかく、どう行動するにしても一人と一匹だけじゃ限界があるかもしれない。
【95 湯浅皐月 武器 主(トンヌラ=ムックル)】
【主(ムティカパ) 起きた】
投稿前にリロード
ゲンジマル襲撃後、ひたすら次のターゲットを求めて移動し続けていた名倉友里であったが、森の中を行けども行けども
遭遇するのは死体のみであった。
(ッ・・・・何なのこの死体の多さは!)
しかも、どの死体も友里が本やテレビ等で仕入れていた知識にはない、彼女にとってまったく未知の「死」であった。
ある死体は首と手首が切り落とされていて、またある死体は主催者に逆らったので体内の爆弾を爆発させられたのだろうか、もはやミンチであった。
さすがの友里もこれを見たときは吐いてしまった。
それらのような、異常な死体を目の当たりにするにつれ、友里の心に焦りが生まれてきた。
(由依、由依、どうか無事でいてね!絶対一緒に帰るわよ!帰ってまた二人でやり直すわよ!)
しかし友里の願いも空しく、彼女の妹、名倉由依はすでに死んでいた。しかも皮肉な事に、死んですらなお最愛の姉に受け入れられずに。
幸いなことに、由依が死んだことも、由依の肉片をみて自分が吐いた事も知らない友里にとってただひとつの目的は
他者を殺害し続けること、ただそれのみであった。
90 :
名無しさんだよもん:04/05/18 00:22 ID:cgx9bLM1
91 :
敗者への鎮魂歌:04/05/18 00:23 ID:nzZ5KxdX
そして話は深夜に飛ぶ。
結局森の中でターゲットを発見できなかった友里は、
(もしかしたら間抜けなことに明かりをつけてる家も有るかもしれないしね・・・それにもし電気をつけてる家がなかったとしても
物資を調達できる。)
そう考え少しの休息の後、森を出て住宅街に移動する事に決めた。
一通り住宅街をみまわして、特に明かりのついている家がなかったのでどこの家で待ち伏せをしようかと、門のそばの柱に隠れて思案に暮れていた。
と、その時、視界の隅にツインテールのジャージ姿の女の子が家の中に入って行くのが見えた。
(武器は・・・持っていないようね。)
そして、1時間ほどたっても女の子は出てこなかった・・・・・
その代わりに、男と女が家の中に入って行き、そしてさっき入った女の子や今の女とは違う、女がこっちに向かって走ってきた。
(何があったが知らないけどチャンスだわ!)
そうして友里は柱から飛び出すと走ってきた少女に向かって引き金を三回引いた。
発射された弾丸は一発が少女の左肩に、二発目が右腿に、三発目は腹部に命中し、少女の体をズタズタに破壊した。
(さて、見たところ男と女も接近戦用の武器しか持ってなかったし、殺るか。)
そうして名倉友里は今地面に倒れている少女が出てきた家に入ろうとしていた。
【064 名倉友里 093 宮沢有紀寧を銃撃。デザートイーグル 4発消費】
【093 宮沢有紀寧は左手右足腹部に被弾。重症】
92 :
名無しさんだよもん:04/05/18 00:24 ID:M4F72lbp
「芳野おおおおっ」
俺は叫びながら、芳野との間を詰めた。
だがそれよりも早く、芳野が体勢を立て直した。
銃口を眉間に突きつけられる。
「動くな」
だが銃口を突きつけられても、不思議と怖くはなかった。
ただ、怒りと悲しみと苦しみと、ない交ぜになった激情がせりあがってくる。
「なんで……」
俺は芳野を睨んだ。
乾いた視線、乾いた声、乾いた笑い、芳野祐介はこんなにも乾いた人間だったのか。
「なんでっ、なんで杏を殺したっ、なんであんたがこんなことするんだよっ」
芳野祐介は、芳野祐介は……。
音楽が好きで、歌が好きで、ギターが好きで。
演奏するのが好きで、人に聞かせるのが好きで。
春原の漫才みたいな演奏でも。
――約束だな。
そう言ってギターを聞かせてくれて。
「俺は、俺は本当に感動したんだ……」
あんたのギターを聞いた時に。
「俺の知ってるあんたは、芳野祐介はっ、殺し合いやってる連中だってギター一つで感動させるような人だろっ」
あの時の笑顔が、頭に浮んだ。
――僕達、バンドやってるんす。
――そいつは、いいなっ。
あの時見せてくれた笑顔は、嘘だったのか。
「答えろっ、芳野祐介っ」
93 :
名無しさんだよもん:04/05/18 00:24 ID:cgx9bLM1
そして、散るは男の生き様。
94 :
芳野と朋也:04/05/18 00:25 ID:M4F72lbp
「岡崎」
芳野祐介は顔色一つ変えない。
「歌ってやるよ」
「は?」
「お前を殺した後、お前達のために歌ってやる」
芳野はサブマシンガンの引き金を引いた。
引き金を引く音。
だが。
「……ち」
弾切れだ。
芳野はそのまま銃身を横に振った。俺は頭を下げて、それをかわし、芳野の顔面を殴った。
地面に押し倒し、馬乗りになる。
「くそっ、くそっ、くそっ」
俺は叫びながら、芳野の顔面を殴った。拳が皮膚を潰し、骨に当る感触。
痛い。拳が痛い、拳が痛い、心が痛い。
その瞬間、芳野が手を大きく振った。
左肩に衝撃。俺は痛みで体を崩し、芳野は俺の下から脱した。
顔を上げた。芳野の手にはブラックジャック。立ち上がり、俺を見下ろす。
「お前の知っている芳野祐介は、もう死んだ」
ヒュン、ヒュン、ヒュン。
ブラックジャックを回す音。
「だから、お前も死ね」
【98 芳野祐介 所持品 手製ブラックジャック*2 ライフル(予備マガジン2つ) サブマシンガン(予備マガジン2つ)(弾切れ) ことみの救急箱】
【14 岡崎朋也 所持品 ダンボール】
>92
すいません、題名&下げ忘れました。
96 :
あなたはだあれ:04/05/18 00:28 ID:c/SP9wqa
「〜と、いう訳ですばるは同人紙を描いてますのー」
ウルトリィが泣き止んだあと、すばるはウルトリィの気を紛らわせるため、自分たちのことを話していた。
大好きな特撮のこと。思いを形にするこみパのこと。そこで出会った仲間たちのこと…
ウルトリィはこみパなどは正直ピンとこなかったが、すばるのそれらへの熱い想いと友情は伝わった気がした。
「そこでは、頼まれてスケブ、つまりキャラの絵を描くこともあるんですの…って、そうですの!」
すばるが話の途中で突然立ち上がった。
「ど、どうしたんですか?」
ウルトリィが少し驚きながら聞いた。
「すばるがみんなの似顔絵を描いてあげますの!そうすればみんなを探してだれかに聞く時にずっと分かりやすくなりますの!」
確かにそれならば、口で伝えるより分かりやすいし、持っていると彼らが近くウルトリィは思った。
「まあ、それじゃあお願いしましょうかしら」
「まかせてくださいですの!」
そういって、すばるはどこからか小さなスケブとペンを取り出した。
そして、ウルトリィにみんなの特徴を聞きつつ、すばるの似顔絵かきは開始された。
「今日はここまでにしますのー」
すばるはあたりが暗くなり始めたので、そう言ってスケブを描く手を止めた。
「じゃあ、見せてもらってもいいかしら」
「どうぞですのー」
にこにことするすばるから、ウルトリィは描き終えたスケッチの中の一枚もらった。
そして、言葉を失った。
訂正
【093 宮沢有紀寧は左手右足腹部に被弾。重症】
↓
【093 宮沢有紀寧は左肩右足腹部に被弾。重症】
漏れもsage忘れてた。 スマン
そのスケブには、大きくそして突き出でいる目をして、頭の上に大きな角のようなものが一本ついている、昆虫のような人のようなものの顔が大きく描かれていた。
『…これは…だれ、でしょうか…』
ウルトリィはもしかしてすばるは自分の知人でも描いたのではないかと思ったが、
「どうですの、似てますの?」
「……」
どうやら違うらしい。
しかし、少なくとも自分の仲間にはこんな人?はいないはずだが…
「……禍日神?」
思わずそう言ってしまった。
「違いますのー。ハクオロさんですのー。仮面がちょっと分からなかったので、仮面○イダー剣のブ○イドをモデルに使いましたの」
すばるによると、どうやらこれはハクオロらしい。
しかし、そういわれてから見ても、ウルトリィにはとてもハクオロには見えなかった。
「…あの、この横に書いてある『ヘシン』というのは…」
「オンドゥル語ですの。『ウェイ』のほうが良かったですの?」
「………」
「似てますの?」
「…………」
「…似てませんの?」
ウルトリィがどう言おうか迷っていると、すばるは何かに気づいたかのようにはっとした。
「そうでしたの!さっきは角が二本と言ってましたの!こんな単純なことを間違えてしまうなんて、すばるは同人作家として失格ですの…今すぐ描き直しますの!……ああ!でも、角が二本のラ○ダーは3人もいますのー。どうすればいいんですのー!」
何かが根本的に間違っているような気がしたが、ウルトリィにはそうも言えなく
悩んでいるすばるを見てる間にあたりはさらに暗くなっていった。
99 :
名無しさんだよもん:04/05/18 00:33 ID:cgx9bLM1
「なぜ?なぜなの…どうしてあなたが…」
「どうして?まあ、白々しい。あなたみたいな人、本当は大嫌いだったのよ!」
目の前のできごとが理解できずに狼狽する香里。
守るべきものを失い、愛する人を自らの手で殺し、行き着く先を見出すことのできない詩子。
詩子の放ったボーガンの矢は香里の足元に深々と突き刺さっている。
もしもあのとき、香里が立ち止まらなければ、
一本目が彼女のふとももをやすやすと通り、二本目が顔面に打ち込まれていただろう。
詩子に躊躇いは無かった。最初から香里を殺す気でいた。
二日前までは二人で共に、生き延びるために結束していた仲。
人を殺すことを互いに禁じ、互いに信じ、互いにかばった仲。
だが、今、香里の前に立ちはだかるは、荒野の獣の瞳で獲物を見据える鬼神のごとき詩子。
「そうね。私から約束を破ることは謝っておくわ」
「そんなことはどうでも良いの」
事態を飲み込み、腹をくくった香里の即答に詩子の眉がかすかに跳ねる。
香里は詩子の微妙な感情の変化に気付いたのか気付かないのか言葉をつなぐ。
「正直、私はあなたが誰かを殺そうとするのなら助けるつもりだった。
あなたが自殺しようとするのなら共に死ぬつもりだった。でも、あなたは違うかったのね」
香里の視線に迷いは無い。だが、それが詩子をさらに苛立たせる。
「…似顔絵のことは後にして、もう暗くなってきたし、寝る場所などを考えましょうか」
しばらくしてから、いつまでも終わりそうもなく悩んでいるすばるに、ウルトリィはそう言った。
「そうですの!寝る場所を探さないといけませんの!」
元気に立ち上がるすばるを見て、ウルトリィも少し元気になった気がした。
「それにしても…」
元気に歩いて行くすばるのについていきながら、これをハクオロ様に見せたらどういう反応をするだろうかと考えて、ウルトリィはクスッと笑った。
日没はもうそこまできていた。
【086 御影すばる 所持品 トンファー グレネード残り2個(殺傷力は無いがスタン効果とチャフ効果を合わせ持つ) 小さなスケブ ペン いくつかの似顔絵(うたわれキャラのもの)】
【009 ウルトリィ 所持品 ハクオロ?の似顔絵】
>96
すいません、自分もsage忘れました。
102 :
名無しさんだよもん:04/05/18 00:46 ID:cgx9bLM1
「足元に一本。暗闇のかなたに一本。これで二本。昨日一本を失い、詩子。あなたが持ってるのはあと、一本ね」
「くっ…。さすが香里ね。よくもまあそんな細かいことまで…。
でもあなたのその機転の良さに助けられてきたのも事実なのよね。で?
確かに、今私の手元にある矢は一本だけ。でも、それを丸腰のあなたがどうやって応戦するつもり?
よしんば、避けれたとしても私にはこのボーガンそのものが凶器になる。あなたに勝ち目は無いわよ」
「そうね。今のままじゃ、私に勝ち目は無いわ」
言いながら、香里は足元の矢を引き抜く。詩子は動かない。
「さ、これでどう?私の凶器は矢よ。あなたの矢を良ければ互角に持ち込めるわ」
詩子は何も言わずに構えた。これ以上、会話を続けると悪人になりきれないから。
標準がぶれてしまうから…。そして、その隙を香里は絶対に逃さない。詩子はそれを知っている。
美坂香里とはそう言う女の子だと言うことを、詩子は知っている。
だからこそ、詩子は香里に命を預け、パートナーとしてここまで来たのだから…。
構えたままの詩子。香里は歩を進めるが詩子はまったく動かない。
「………。」
「詩子。私、正直ね、いつかこう言う日が来ると思ってた。私の心はあなたで一杯だったけど、
あなたの心には別の人が住んでいた。そうよね?だから、その人が私たちの前に現れたら、
私たちの関係は終わると思ってたから。覚えてる?私たちが最初に出会ったときのこと…」
詩子はできるだけ聞かないでいた。香里は冗談でこう言うことを言う子じゃない。
それはわかっている。同時に“こう言うときだからこそ”、こう言う話を持ち出し、駆け引きのできる子だとも…。
詩子は迷っていた。打つか、死ぬか、逃げるか…。そのどれもが、
詩子にとっては、最悪の展開。全ての選択肢が間違いだとして、テストなら放棄できる。
でも、それが人生と言う名の選択肢だったら、果たして、どれを選べば良いのだろう?
迷っている暇は無い。 香里の姿はもはや、目前まで来ていたのだから…。
ビンッ!
夜の森に、弾く音が響く。音に驚いた鳥が羽ばたいた。
103 :
名無しさんだよもん:04/05/18 00:47 ID:3vifxtx7
104 :
力と代償:04/05/18 00:47 ID:zv7qq88c
浅見邦博(01)は、ほとんどフィルターまで吸いきって煙草をもみ消した。そして、ちらりと傍らのバックを見た。
「…何をするにも武器だ」
ちらり、と鞄を見る。もちろん、出発してすぐ鞄の中を探した。しかし、武器らしい物はいっこうに出てこない。拳銃も、ナイフも何もない。
「……何もないって、事はねえだろ」
邦博はそう呟いてもう一度鞄を漁り始めた。水、パン、形見の探知機…。ふと、それを手に取る。
「…恵美梨」
その時、彼は初めて彼女の名前を呼んだ。何故、そんな気持ちになったかはわからない。邦博は、頭を振ると再び鞄を漁り始めた。
「ん?」
すると、鞄の奥底に小さな、本当に小さな、片手で収まるほどの瓶があった。
「何だこれ?」
中には小さな白い錠剤が二粒、そして紙切れが入っていた。それをとりだし、広げてみる。
取り扱い注意!
この薬は、飲めば30秒間普通では考えられないような身体能力が得られます。ただし、30秒を過ぎればそのリバウンドで体中の骨や筋肉が悲鳴を上げます。多分、薬が切れた後はまともな行動ができません。
そして、くれぐれも飲むのは一錠まで。二錠飲むと30秒経った後、死にます。
「だったら何で二錠入れるんだよ」
そう呟いて唾を吐いた。
「…二錠、か」
殺したい人間、春秋、亮、そして、風子とか言う女。
「…まずは、あの女だ」
そう呟いて、瓶を握りしめた。
【浅見邦博 支給武器:身体能力増強剤 効果30秒 激しいリバウンド 2回使うと死ぬらしい】
【とりあえずのターゲットは風子】
そして話は深夜に飛ぶ。
結局森の中でターゲットを発見できなかった友里は、
(もしかしたら間抜けなことに明かりをつけてる家も有るかもしれないしね・・・それにもし電気をつけてる家がなかったとしても
物資を調達できる。)
そう考え少しの休息の後、森を出て住宅街に移動する事に決めた。
一通り住宅街をみまわして、特に明かりのついている家がなかったのでどこの家で待ち伏せをしようかと、門のそばの柱に隠れて思案に暮れていた。
と、その時、視界の隅にツインテールのジャージ姿の女の子が家の中に入って行くのが見えた。
(武器は・・・持っていないようね。)
そして、1時間ほどたっても女の子は出てこなかった・・・・・
その代わりに、男と女が家の中に入って行き、そしてさっき入った女の子や今の女とは違う、女がこっちに向かって走ってきた。
(銃声が聞かれると厄介ね・・・離れたところで殺す)
そうして友里は柱から飛び出すと走ってきた少女の後をつけて走った。
幸い少女は錯乱していたのかこっちの追撃に気づくこともなく・・
(そろそろね)友里は引き金を三回引いた。
発射された弾丸は一発が少女の左肩に、二発目が右腿に、三発目は背中に命中し、弾は全弾貫通、少女の体をズタズタに破壊した。
(さて、見たところ男と女も接近戦用の武器しか持ってなかったし、殺るか。)
そうして名倉友里は今地面に倒れている少女が出てきた家に向かおうとしていた。
【064 名倉友里 093 宮沢有紀寧を銃撃。デザートイーグル 4発消費】
【093 宮沢有紀寧は左肩右足背中に被弾。重症】
設定矛盾スマン
「秋生さんっ、秋生さんっ」
軽くゆすられる体と、妻である早苗の切羽詰った声。
その中で秋生は目を覚ました。
「大変ですよっ、雨が降ってきちゃいましたっ」
その言葉に秋生は体を起こし、空を見る。
空からは、少しずつ雨が降り始めていた。
「このままじゃヤバいな・・・行くぞ早苗」
「はいっ」
慌てずに――しかし急いで、二人は歩き出した。
【時刻 深夜1時15分ごろ】
【とりあえず雨宿りをできるところを求めて森をさまよう】
見つけた物は
まだ日が昇る前。南に移動をしていたカルラは海岸付近にたどり着くと
近くにあった叢の中に身を隠し休息を取り始めた
「結局…あれから誰にも会えませんでしたわ」
リサと出会った後、夜通しで森を探索していたのだが誰一人と発見できず今に至っており、
流石に疲労が溜まっていたので少しの間休む事にしたのである
(あら…?これは…)
叢に座り込み、両手を伸ばした先に触れた物は、ハクオロ達が祐介から
逃亡する際に放置していったカルラの大刀だった
「これは・・・私の刀・・・」
武器には違いないのだが…あまりにも重く、そして大きすぎる為に誰もまともに使う事が
出来ずに放置され続け、今に至っているのだった
(今の私には少々重いですわね…それでも使えない事はありませんわ)
手元に引き寄せて感触を確かめ、異常が無いことを確認するとハクオロの鉄扇を仕舞い込んだ
(やはり…使い慣れた武器の方が勝手がよろしいですわね…これで主様を探すことが
大分と楽になりましたわ…暫く休息を取ったら再び探しに出るとしましょう…
どうせなら日の昇る方向に…)
カルラは知らない。彼女の探している主は既にこの世には居ないということを……
【026 カルラ 自分の大刀 ハクオロの鉄扇 カッター】
【午前4時頃の出来事】
【定時放送前に東に移動開始】
それからどうなったか朋也には分からない。
朋也は痛みで目が覚めた。
「う、うう…………」
芳野が朋也が死んだことをちゃんと確認しなかったのか、
単に見逃してくれたのかは謎だが、とにかく自分は生きている。それでも獲物でしたたかに殴られたみたいだが。
おそらく、顔は見る影も無く腫れているだろう。その勢いで壁にも叩きつけられたみたいだ。
体はまだ満足に動かせない。ここまでのことは夢かとも思ったが、
血の気の無い杏の顔で現実に引き戻される。
……まだ、はっきりと覚えている。朋也の目の前に現れ、唐突に杏を奪っていった芳野の姿。
杏は、もう笑うことは無い。泣く事も無い。起こることも無い。
やりきれない気持ちがふつふつと沸いてくる。
「……ちくしょう」
悔しさで、涙が溢れてきた。芳野に対してあまりにも無力だった。
今頃芳野は何をしているだろうか。また、人を襲っているのか、それとももう殺されたか……。
朋也は痛みをこらえ立ち上がった。脳をぶたれたせいか、まだ意識が朦朧としている。
杏の目を閉じて、両手を腕の前に組んでやる。どんどん沸いてくる、自責の念。
情けなかった。女一人守れない、自分が。
許せなかった。無抵抗な杏を殺した、芳野が。
洞窟を出た。朝日が目に染み込む。まだ頭に浮かんでくる、憎い顔。
「……決めた。俺は、芳野を殺す」
そう呟き、ふらつきながらも朋也は歩き出した。
【14 岡崎朋也 満身創痍ながらも芳野祐介へ復讐を決意。所持品はダンボールと杏の英和辞書】
【98 芳野祐介 朋也を打ち漏らした後は不明 洞窟にはいないことは明らか サブマシンガンのマガジン残り一つ】
芳野祐介(98番)は洞窟を出てからもまだ心に引っかかるものがあった。
『俺の知ってるあんたは、芳野祐介はっ、殺し合いやってる連中だってギター一つで感動させるような人だろっ』
岡崎朋也(14番)の言葉がまだ頭に響く。
不覚にも、心を動かされた。
朋也が知っている自分は、また、あの人が知っている自分でもあるのだ。
その自分が死んだならなんなのだ? 自分のやっていることに意味はあるのか?
答えは出せなかった。自分の行動が矛盾だらけにも思えた。
そしてそのまま朋也が死んだことを確認しないで出てきてしまった。ある意味それは失態とも言える。
「まぁ、岡崎に塩を送ったとでも考えておくか。流石に二度目は無いが」
芳野の中では答えは既に決まっている。今は、突っ走るだけ。
例えそれがあの人の望まないことだとしても、あの人が幸せになりさえすればそれでいい。
「一先ずは、食料だな」
芳野は住宅街へと移動を開始した。
そして鳴り出す二回目の定時放送。それも気にせず芳野は二日目の行動を開始した。
彼は知らない、朋也に命を狙われている現状を。知っていたとしても行動事態は変わらないだろうが。
【98 芳野祐介 住宅街へ移動開始】
110 :
願い:04/05/18 01:56 ID:fDvI4DFM
彼女の眼前に置かれている物は、包丁に、タオルケット。ビスケットに、ペットボトルのジュース。更に女性用の下着。そして、それ等を詰め込んでいたトートバッグと、支給されたバッグ。
勿論、彼女──巳間晴香は決して、この島で商売をやろうなどとは微塵も考えていない。
では、この大量の物資は何なのか?答えは“戦利品”である。いや、正確には“窃盗物”であろうか。
スタートより約一時間後。桜井あさひに遭遇するよりも前。晴香が最初に発見したのは、他の参加者ではなく、切り立った低い岸壁に建った一件の別荘だった。
意を決して入った別荘内には他の参加者の姿は無く、そこで晴香が取った行動はシンプルだった。
取り敢えず適当な袋──現在携帯しているトートバッグだ──を発見すると、別荘中を引っ掻き回す様に探索し、そうして見つけた物資をそれに詰め込み、足早に別荘を立ち去ったのだ。
その後、桜井あさひとの遭遇を経て、晴香は今度は住宅街の中の一件の家に身を潜めた。
大通りに面し、かつそちら側に窓があるこの家は、気配を殺して外を動く参加者に奇襲をかけるにはまさにうってつけだった。
──尤も、今みたいに外が暗いのに室内の電気スタンドを点けていれば話は別だが。
111 :
願い:04/05/18 01:57 ID:fDvI4DFM
「それにしても、ね…」
晴香は並べられた物品の中から下着をひょいと摘むと、それをまじまじと見つめた。明らかにこれだけが他の物品と比して有用性が低いのに、つい持って来てしまった。
「他の下着なんて見るのどれくらいぶりかしらね」
思い出される。この島に来る直前まで自分が居た狂信教団FARGOの事が。そこのC棟という隔離区画で受け続けていた屈辱の日々が。
個室も無い。シャワーも無い。そして勿論着替えも無い。あるのは精神の苦痛のみ。
できればそんな場所も、そこで過ごしてきた日々も思い出したくもないのだが、そういう訳にはいかなかった。
「良祐……」
最愛の兄は、まだそこに居るのだから。
このゲームで生き残れば、どんな願いでも叶えると主催者は言っていた。
ならば、私は必ず生き残り、FARGOと言う枷から良祐を解き放つ。
それが、巳間晴香の願いだった。
(できれば由依と一緒に生き残りたいものね…)
彼女が既にこの世の存在ではない事も知らず、晴香はそう思った。
【巳間晴香 所持品:ワルサーPP/PPK(残弾7発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ】
【別荘を荒らしたのは晴香】
【時刻:午前零時頃】
【残り70人】
112 :
選択の時:04/05/18 02:05 ID:ozzClPK5
「夜が明けるわね」
「ああ」
白み始めた水平線を並んで見ている二人の男女──須磨寺雪緒と藤井冬弥。
(これから……どうすればいい)
昨夜一晩考え、未だ答えの出ない問い。グルグルと回る思考を抱えながら、ふと隣に佇む少女を見る。
「なに?」
雪緒はすぐにその視線に気付いた。
「いや……すこしは眠れたのかと思って」
「ええ。……あなたはそうじゃなかったみたいだけど」
そう言って雪緒はふわりと冬弥の顔に手を伸ばす。
「クマが出来てる」
されるがまま、冬弥はすぐ正面にある雪緒の瞳をのぞき込む。
出会ったときと何も変わっていない、少なくとも冬弥はそう感じた。銃を向けられたときも、自分の震えを
見抜いたときも、昨夜も、眠っているときも、そして今も。この少女は変わらない。馬鹿馬鹿しい殺し合いの中で、
この狂気の戦場で、自分が生きることと死ぬことと殺すことをずっと考えてる中で、彼女はずっとこんな瞳をしていた。
──それも当たり前だ、だって、この娘はもうとっくの昔に死んでいる──
不意にそんな馬鹿馬鹿しく恐ろしい考えが浮かぶ。
(まさか)
(もしかしたら)
(だって)
(本当に──)
雪緒はまだじっと冬弥を見つめていた。その視線に耐えきれないとばかりに彼が目をそらした、その時。
「ごめんなさいね、お二人さん。ちょっと時間ある?」
陽光を弾くブロンドの女性が二人の前に佇んでいた。
113 :
選択の時:04/05/18 02:06 ID:ozzClPK5
どうしてその時そうしたのか、冬弥は後になって思い出すことが出来なかった。
ただ、
「退がれ!」
「キャッ!」
無我夢中ではじき飛ばした雪緒からそんな可愛らしい悲鳴が出たことが全てだったのかもしれない。
一晩中握りしめていたグロッグ17を標的に向ける。震えはなかった。そのまま引き金を引けば終わる。冬弥は
迷うことなくその人差し指を──
「フッ!」
動かすことは叶わなかった。それより一瞬早く標的──リサ・ヴィクセンのミドルキックが冬弥の手を打ちつけたのだ。
冬弥の手から銃が落ちる。下は砂地のため音はほとんどしなかった。
しかしそれで終わらない。武器はもう一つある。草薙の剣。ズボンの後ろにくくりつけたそれを引き抜き、勢いだけで
横薙ぎに振るう。
それをリサはただしゃがんだだけでやり過ごした。そしてそのまま冬弥の足を刈る。バランスを失い、無様に転がる冬弥。
砂が口に入った。だがそれがどうした。ここで自分が死ぬわけには──!
「チェックメイトよ。Boy?」
顔を上げた冬弥の鼻っ面に拾ったグロッグを突きつけ、足で草薙の剣を踏みつけながら、リサが勝利の笑みを浮かべていた。
そのまま、僅かな時間が流れる。
「……殺さないのか」
静寂を破ったのは冬弥。
「誰もそんなこと言ってないわ。幾つか聞きたいことがあるから声をかけただけ」
「聞きたいこと?」
「ええ、まず──」
どうにか立ち直った雪緒がリサの言葉を反芻。銃を下ろし、やっと話が出きるとばかりに微笑むリサ。
だが、言葉の続きは新たなる銃声にかき消された。
114 :
選択の時:04/05/18 02:08 ID:ozzClPK5
「ッ、あなたたち伏せて!」
借りるわよ、と小声で呟き右手にグロッグ、左手に草薙の剣を握りしめ腰と頭が水平になるほどの低姿勢でリサは砂地を駆ける。
襲撃者がいる場所は見当が付く。ただ一つ隠れられそうな場所、二十メートルほど先にある防砂林に向かって走る。
(外した──!)
目一杯注意して撃ったが、やはり素人がハンドガンで二十メートル先の人間に当てるのは無理があったか。
巳間晴香は手元のワルサーPPKを憎らしげに見つめるとすぐさま反転して逃げ出した。止まっている人間に当たらなかったものが
猛スピードで近づいてくる人間に当たる道理はない、それくらいは承知の上だった。
(ついてないわね……結局昨日も待ち伏せの甲斐無かったし……でもまあいいわ。だけど、次は必ず……)
残弾はあと6発。手に馴染み始めたそれで一体何人殺せるか。そんなことを考えながら、少女は一目散に離脱する。
リサが晴香の狙撃地点にたどり着いたとき、そこには最早誰も居なかった。
「逃げられたわ。でもしばらくは安全だと思う」
冬弥と雪緒の元に戻ってきたリサは開口一番そう告げた。そして、やや慌てたように言葉を続ける。
「単刀直入に言うわ。わたしと組んでこのゲームの主催者を倒す気はない?」
その言葉に、冬弥は雷に打たれたかのような勢いで下げていた顔を上げた。
静寂。
今度の静寂は長かった。
115 :
選択の時:04/05/18 02:09 ID:ozzClPK5
それを破ったのはまたしても冬弥。
「……駄目だ、俺には人殺しなんて出来ない。死にたくもない。ましてこのゲームの大ボスに挑むなんて絶対に無理だ」
だが、その言葉はさざ波の音にかき消されそうなほど小さかった。
「そう? ならあなたが彼女を守ったのは何故?」
「……違う、そんな立派なものじゃ……」
リサの挑戦的な瞳を冬弥は見ることが出来ない。それが何よりも情けなく、冬弥は知らず拳を握りしめた。
そのことに二人の女性は気が付いている。だが二人ともなにも言わず、また僅かな間が空いた。
「まあいいわ。無理強いする気はないし」
とリサ。そのまま冬弥たちに背を向けてしまう。
「じゃあこの武器はもらっていくわね。いいでしょ? 戦えないあなたが持っていても仕方がないし」
その言葉に冬弥は激しい怒りを覚えた。何故。何故数分前に会った女性にそんなことを言われなくてはならないのか。
殺し合いは怖いことで、それは当たり前のことで、そんなまるで自分が臆病者みたいに言われる筋合いなど──!
「おい!」
振り絞った声を出す。同時に鳩尾にもの凄い衝撃を受け、冬弥は思わず片膝に崩れた。
「藤井君──!?」
僅かに驚いたような雪緒の声を認識する。その目に映るグロッグ17。ああ、これを投げつけられたのか──次に
気付いたとき、冬弥は目にもとまらぬ速さでそれを拾い、反射的にリサの背中に向けて発砲した。
銃声。
116 :
選択の時:04/05/18 02:11 ID:ozzClPK5
喉元にひやりとした刃の感触。冬弥には何が起こったのか解らなかった。
だが傍らにいた雪緒は全てを見ていた。振り返り拳銃を冬弥に向けて投げつけたリサがそのまま、彼がリサから目を離した
隙に流れるような速さで背後へと移動したのを。
「ねえあなた、一つ聞き忘れたことがあるんだけどいい?」
冬弥を殺せる一歩前の姿勢のまま、リサがそんな言葉を雪緒に投げかける。質問の内容はパンチパーマの陽気な黒人男性を
見なかったかというものだった。心当たりのない雪緒は首を振って答える。そしてリサは全て終わったとばかりに力を抜き、冬弥を
解放した。
「──考えなさい。一体どうすればいいのかをね」
その言葉に雪緒も冬弥も何も返すことができなかった。
凛とした背中をたたえ、草薙の剣を持ったリサが立ち去ろうとする。
そこに、あの男の声が響き始めた──。
【リサ、草薙の剣を入手。立ち去ろうとする】
【冬弥と雪緒がどうするか、それは次の書き手の方におまかせ】
【晴香、不意打ち失敗、そのまま逃走。どこへ向かったかは不明】
【073藤井冬弥 装備:グロッグ17(残弾数11) 050須磨寺雪緒 装備:なし】
【100リサ・ヴィクセン 装備:草薙の剣】
【091巳間晴香 装備:ワルサーPP/PPK(残弾7発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ】
【時間 朝方、第二回定時放送が始まる】
ざくっ ざくっ
例の民家の裏庭。
みさきは白い杖で、光岡は民家に置いてあったスコップで穴を掘っている。
死体はきれいな顔だった。
どこかで見たことがある顔だ。街で擦れ違ったか、街頭テレビで観たのだろう。
死因は毒だから、しばらくしたら肉が変色するかもしれない。
そうなる前に弔うべきだと思った。
友里は走っていた。
あの男は強敵だ。由依と一緒に帰るためにはあの男を殺さねばならない。
武器のアドバンテージがあるうちに、相手に足手まといがいるうちに殺さなくてはならない。
有紀寧を襲うのに少し家から離れすぎたか、元の場所に戻る頃にはすっかり息が上がっていた。
柱にもたれ、息を整える。
(まだ二人は家の中にいる。今出てきたとしても、ここから狙撃すれば良い)
足音を忍ばせ、走る。
民家の扉に張り付き、一気に蹴り開ける。
――いない。
この部屋にも、その部屋にも、あの部屋にも、いない!
自分が有紀寧を追っている間に移動したのか? 電気をつけたままで?!
いや、電気がついているということはこれは自分を誘い込む罠なのではないか?!
友里は混乱しはじめていた。
音が聞こえた。
「今の音、何?」
「喋るな」
気配を研ぎ澄ませる。
影花藤幻流の極意、心眼。
自分達がいた民家の中に、一人。 …恐らく、殺人者。
「みさき、この辺りは民家が多く、明かりがついているものは例の民家しかない。
どこでも良い、民家に隠れていろ」
みさきは黙って頷いた。
「死んじゃ、嫌だよ」
それだけ言い、走って行った。
(犬飼よりも遥かに器用だな)
そう思うと少し可笑しくなった。
まだ近くにいる。
深呼吸を繰り返し、自分を落ち着かせ、言い聞かせる。
先に相手を見つけ、男を一発、女を一発撃つ。
裏庭、だろうか?
何故そう思ったかは解らない。 多分、勘。
裏庭にいなければ諦めたほうがいいかも知れない。
――裏庭に、居なければ。
(さて)
歩き出す、民家の方へ。
犬飼の下にいる自分でもなく、蝉丸と意地を張り合う自分でもない。
強化兵で無い今、最も強化兵らしい戦いをしようとしている。
皮肉。
だがこんな皮肉ならば歓迎だ。 人が、守れるのだから。
大日本帝国陸軍特殊歩兵部隊所属、光岡悟。
――参る。
――そして、二人は遭った。
【089 光岡悟 日本刀 名倉友里と遭遇、戦闘開始】
【028 川名みさき 白い杖 少し離れた民家に非難】
【064 名倉友里 デザートイーグル(4発消費)光岡悟と遭遇、戦闘開始】
【時間 朝方】
森の中に、そびえ立つ巨木があった。
直径にして2メートル。
そして、その巨大な木の幹に貼りつくようにして、三人が立っていた。
海側に少年少女が各一名。島の中央側に少年一名。
きわめて不幸なことに、彼らはこれほど接近するまで、相手の存在に全く気が付いていなかった。
更に言えば、ここまで来て、気付いてしまった事こそが、不幸であったとも言える。
「てなわけで広瀬くん。この状況の、一体どこが、三文の徳なんだ?」
「なによ、たまたま目が覚めちゃったんだから、しょーがないでしょ!」
ヒソヒソと語り合う少年と少女は、北川潤と広瀬真希である。
交代で休息をとったあと、海辺に建っていたプレハブの、あまりの塩臭さに辟易して、森側に逃げてきた。
まだまだ夜中であったのに、移動を熱心に勧めたのは、広瀬のほうだった。
お肌が、髪が、と愚痴を垂れ流されて、心を塩漬けにされた挙句、北川はたたき起こされたのだ。
「早起きは三文の徳よ」なんて御約束の台詞とともに。
「マジかよ!?」
「うっわ、何!?」
「裏の奴、ボウガン持ってやがんぞ! 不公平だな!」
「悔しいわねー。まともな武器持ってる奴が近くにいると、なんだか無性に惨めよねー」
まともな武器を持っていない、彼女たちならではの感想であった。
「なんつーか、貧しさに負けたって感じだな?」
「ほんとよね、世間に負けたって感じよ?」
(……馬鹿だ)
麻生春秋は、失望を隠せなかった。
(正真正銘の、馬鹿がいる)
誰に見られるわけでもないが、彼がこれほど好悪をあらわにすることは、それほどない。
まず、小声で話しているくせに、丸聞こえであること。
そして、幹の反対側の男。
さっきから、こちらの様子を伺っているのだが、頭の毛がヒョコヒョコと顔を出す合図をしているのだ。
はっきり言って、いつでも殺せそうである。
あまりの馬鹿さ加減に殺す気がしなかったのも、事実ではあるが。
(あーもう。なんか、やる気失くすよね)
どうせ敵対するなら、向こうもそれなりのノリを見せてくれないと、こちらとしても戦いにくい。
一発打ち込んでみようかと思った、その刹那。
剣呑な台詞が、耳に入った。
『なんだっけ。あれだ、水蒸気爆発』
『はあ?』
彼らに、一体どんな隠し玉が?
この島到着以来、はじめてかつ最大の緊張の時が、ついに訪れるのか。
期待と不安。そのリアルなスパイスに春秋は心をときめかし、耳を澄ました。
『……違った、バスガス爆発だわ』
『そりゃ早口言葉でしょ』
春秋は思わず、ひとりで膝カックンしていた。
緊張の時、訪れず。
『冗談だよ、粉塵爆発って奴だ』
『なにそれ?』
『俺に考えがある。とりあえず、このメリケン粉を、撒き散らすんだ。俺に任せろ』
『う、うんっ』
もうだめだった。
我慢の限界だった。
『ゲホ、ゲホゲホ、く、苦しいぞっ』
『ゲホ、てゆーか北川、こんなんで爆発したら、死ぬのアタシたちじゃん、アンタ馬鹿?』
幹の裏へと、足早に回る。
眼鏡にメリケン粉が張り付いたって、気にしない。
北川と広瀬が、どうにかこうにか粉塵の中から這い出した時、目の前に少年が立っていた。
「……君たち、馬鹿だろ?」
曇りガラスのように表情の読めない眼鏡をかけて、春秋は言い切った。
「ぶ、無礼な奴だな!」
「そーよ、アンタ年下でしょ!? ナマイキじゃない! 座席に画鋲置くわよっ!」
「広瀬、せこ……」
「うわ、北川の裏切り者!」
「いや、座席ねーし……」
延々とボケ続ける二人の前で、春秋はひとり、果てしなく呆れていた。
(馬鹿ばっかりだ……)
気分はもう、被害者だった。
【030北川潤 便座カバー メリケン粉5キログラム】
【072広瀬真希 『超』『魁』ジッポライター】
【メリケン粉一個ずつ消費】
【003麻生春秋 ボウガン 矢5本 戦う気力萎え萎え】
【夜明け前】
『諸君、昨晩はよく眠れたか? さて、ここまでの死亡者だが、
6番、一ノ瀬ことみ。15番、緒方理奈。20番、柏木初音。29番、木田恵美梨。43番、沢渡真琴。
45番、霜村功。49番、スフィー。54番、立川郁美。59番、ディー。60番、トウカ。61番、長岡志保。
63番、名倉由依。67番、ハクオロ。70番、氷上シュン。75番、藤林杏。77番、伏見修二。
92番、宮内レミィ。97番、ユズハ。99番、リアン。以上19名、生存者は70名だ。
一日で三十人の大盛況、こちらとしては嬉しい限りである。これからもそのペースを落とさずに殺し合ってもらいたい』
125 :
選択の時:04/05/18 02:44 ID:ozzClPK5
スマン、細かいミスだけど一応。
× 091巳間晴香 装備:ワルサーPP/PPK(残弾7発)
○ 091巳間晴香 装備:ワルサーPP/PPK(残弾6発)
ご迷惑おかけしました。
「そういえば、あなたの名前は何ですか?」
森の中を歩きながら、桜井あさひ(42)は少年(46)に尋ねた。
「名前?無いよ」
少年はそれまでと変わらぬ笑みを浮かべながら答えた。
「名前が…無い?」
「そう。だから僕のことは少年とでもよんでくれればいいよ」
「でも…」
あさひは言葉を続けようとしたが、変わらぬ笑みを浮かべる少年の目に何かを感じ取り、結局それ以上は何も言えなかった。
そのまましばらく歩いていると、ふと、少年が足を止めた。
「どうしました?」
「あそこに何か落ちてる」
「えっ?」
あさひは少年が指さす方向を見てみたが、彼女は何も見つけることができなかった。
しかし少年が「それ」に向かって歩き出したので、あさひはあわててその後を追った。
「…なんだろうね、これは」
少年は「それ」を拾い上げて言った。
「カセットウォークマン…でしょうか」
それは、春原が投げ捨てたカセットウォークマンだった。
「これも支給品の一つかな?」
「とりあえず聞いてみます?」
「えっ?聞く?」
「はい。この中にどんな音が入っているか…」
そこで少年は、それが音楽を録音、再生さする機械だと言うことを理解した。
(そういえば郁未もこんなのを持ってたな)
「そうだね。そうしようか」
少年はウォークマンの使い方を知らなかったので、操作をあさひに任せることにした。
(下手にいじって何かあるといけないしね)
あさひは少年にウォークマンを渡されると、中のカセットを一旦最初まで巻き戻した後、二つに分かれたイヤホンの片方を少年の耳にはめさせ、もう片方を自分の耳にはめた後、再生のスイッチを入れた。
『YO! YO! オレ岡崎! 春原、お前は…ウーパールーパー!』
「……………」
「……………」
「……これは何だい?」
「……さぁ…」
「……………」
「……………」
あさひは停止スイッチを押した。
「これどうします?」
あさひはウォークマンを少年に渡した後尋ねた。
「とりあえず持って行こう。別にじゃまになるモノでもないし、もしかしたら何かの役に立つかもしれないし」
そう言って、少年はウォークマンをポケットにしまった。
「これからどうします?」
「今日のところはもう夜だし、どこか休めそうなところを探して休もう。
そして明日からは、味方になってくれそうな人を探そう」
「そうですね」
「じゃあ行こうか」
「はい」
二人がカセットを最後まで再生すると爆発するということに気がつくはずも無かった。
【少年 カセットウォークマンを発見】
【二人は休めるところを捜して移動中】
【時間は午後九時頃】
風が湿り気を帯びてきた。
もしかすると、雨が近いのかもしれなかった。
それでもきよみは、歩みを止めようとはしなかった。
これは賭けだった。
当てもない投げやりな運命に自分の薄汚れた命を賭けた、
そうそう勝ち味のない冗談めいたゲームだった。
「そろそろ…誰か出てきてくれないかしら?」
それでもきよみは、自分が負けるとは考えていなかった。
そう考えようとすることを、色褪せない想い出が許さないのだ。
ベッドの上に体を投げ出す度に、何度彼の姿を思い浮かべただろう。
果てなく白い病床の風景に、その笑顔は何よりも輝いていた。
「ええ、そうよ。あたしは蝉丸さんと一緒になるまで死ねないんだもの」
それからどれくらい歩いただろうか。
時計も無ければろくな明かりも無く、自分がどこに向かって進んでいるのかも分からなかった。
それでも何かを感じながら、きよみの行く道は変わらない。
手掛かりになるのは、薄い月明り。
緩やかな下り坂に差し掛かった頃、次第に目の前が開けてきた。
ぼんやりとではあるが、光めいたものがきよみの網膜に飛び込む。
どうやら住宅街に下りてきたようだ。
僅かながらに人の気配、話し声が聞こえてくる。若い男と女の二人組のようだ。
(さて…開けてびっくり玉手箱、といった所かしらね…)
きよみはゆっくりと、改造銃を痛めていない左手に持ち替えた。
そして自らの身体を木陰に潜ませながら、気配のある方に向かって、叫んだ。
「誰か?誰かそこにいるの?助けて欲しいわ!」
きよみの声に驚いたように、二つの気配は立ち止まり、物陰に隠れた。
これでいい。きよみは心の中でほくそえんだ。
声を掛けられた瞬間に攻撃を仕掛けてくるような物騒な連中なら、
勝手に殺し合いでもして間引きをしてくれるだろう。
何の警戒も無く自分を受け入れるような腑抜けた連中には、端っから用など無い。
この程度の適度な緊張感を持ってくれる奴らでなければ、
私の背中はそうそう預けられない。
しばらくして、物陰の向こうから若い男が話し掛けてきた。
「こっちに攻撃する意思はない。あなたは誰だ?今までどこに居た?」
「あたし杜若きよみ。よく分からないんだけど、森の中にいたらいきなり襲われて…」
「あなたは一人なのか?連れはいないのか?」
「私は…蝉丸さんを探して、それで、一人で…そうしたら、いきなり…」
「怪我はしているか?」
五月蝿い男は魅力半減ね、ときよみはそう呟いた。
「襲われた時に右手を…動かすと痛いけど、平気よ」
「そっちの武器は何だった?」
(ね、ねえ、亮さん、あの人…)
(あかり、ちょっとだけ待ってくれ。俺にはまだあの人が信用できないんだ)
「なぜ俺達にコンタクトを取った?」
「一人じゃ不安なの。こんな血腥い所にか弱い女性がひとりぼっちじゃ心細くって。
一人より二人か三人の方が安心でしょう?」
亮は不安だった。
草叢の向こうから聞こえる声だけを頼りに、俺は彼女を信頼していいのだろうか。
彼女の目的は、俺達と共に行動する、ひいてはそのセミマルって男性に会うこと。
そのために俺達をボディーガードか何かにでも使いたいのだろう。
それじゃ、こっちにメリットはあるのだろうか。
横に座っているあかりに瞳を向けると、怯えと憐憫の入り混じった視線を返してきた。
彼女の言いそうなことはもう大体分かる。
『可哀想だから、一緒に連れて行ってあげてください』だ。
それが彼女の優しさなんだろう。そして、弱さだ。
出会ってしまったからには、最後まで…ヒロユキに逢わせてやるまで
面倒を見るべきだと考えている。
その為には、この状況をどう乗り切るか…
(あかり、これ持っててくれ)
亮は、持っていた修二のエゴのレプリカをあかりに手渡した。
何を意図しているのか量りかねているあかりに、亮はそっと耳打ちした。
(今からあいつと会って話してくる。万一のことがあったらそれで援護してくれ)
(えっ、そ、そんなの、でも…)
(俺が何か合図したら、適当な方向にぶっ放してくれればいい。あとはうまくやる)
(で、でも…亮さんに何かあったら…!)
(あかり、俺を信じろ。…大丈夫、ヒロユキって奴に逢わせるまで守ってやるさ)
そう言い残して、亮は相手に感付かれないようにそっと立ち上がる。
その姿はどこか浩之ちゃんに似ていると、あかりは思った。
「信じていいんだな?」
「信じて欲しいのはあたしの方じゃない?」
「…そりゃそうだ。悪いけど姿を見せてくれないか?
声だけで判断したり、されたりするのは嫌いなんだ」
「…いいわ。でも、出てきた途端にズドン、なんて御免よ」
「…お互い様だろう」
きよみと亮は、同時に姿を表した。
「要求はわかった。そっちの武器は何だった?」
「銃らしいけれど、弾が残り少なくて…そっちは?」
「こっちか?まあ、玩具みたいなものだ」
「冗談。…まあ、守ってくれる人に疑いを向けるのは良くないわね」
「………ま、いいだろう。その代わり条件がある」
「なぁに?」
「あなたの銃を預かって、もう一人いる俺の仲間に持たせる」
「却下。あなたのお仲間が私を後ろから撃たないっていう保証はないでしょう?」
「このままあなたを見捨てて仲間のもとに帰っていいんだが?」
「…いいわ。呑みましょう。その代わり、こっちからも一ついいかしら?」
「ああ、どうぞ」
「残り少ないとはいえ、まだ弾が残っている限り銃は簡単には渡せないわ。
だからこうしましょう。銃は私が、残りの弾はその仲間の人に」
「OK。余った弾を出してくれ」
きよみは銃に弾丸が入っていないことを亮に確認させたうえで、
ポケットから未装填の6発の予備弾丸を取り出し、渡した。
「これで信じてくれる気になったかしら」
「…一応、な」
亮は、自分の影になるように、物陰に隠れているあかりを呼び出した。
こうして共に行動することになった三人は、
とりあえず寝床を確保するために住宅街に下りることにした。
「あれ…?」
住宅地の一角に差し掛かった頃、あかりがふと首をかしげた。
「どうした、あかり?」
「この辺って、誰も住んでないみたいなのに、どうしてこんなに片付いているのかなって」
「そんなの当たり前じゃないかしら?そんな事より、早く寝床に着きましょう」
「そうだな。あかり、話は後だ。行くぞ」
「あっ、うん…」
程なくして、三人は一軒の住宅にもぐりこんだ。
電気を点けず、暗闇の中で三人が毛布を引きあい、絨毯の上に寝転がる。
溜まっていた疲れが噴き出したのか、あかりはすぐに眠りに落ちていった。
亮は考えている。
自分はきよみを信じていない。
だが、あかりの手前もあって、この女の申し出を無碍に断るわけには行かなかった。
(俺は甘いか、修二…)
答える者はいなかった。
きよみは考えている。
いつ、下着の中に隠した残り3発の弾丸を装填するかを。
【017杜若きよみ、024神岸あかり&084松浦亮と行動を共に…?そして、住宅街で就寝】
【017杜若きよみ 改造銃の残弾3(隠し持っている)】
【024神岸あかり 筆記用具 木彫りの熊 きよみの銃の予備弾丸6発】
【084松浦亮 修二のエゴのレプリカ】
【就寝時刻は10時頃】
121-123はNGらしいので無しでヨロ
やはり熱があるときに体を動かすと、自分が感じている以上に体力を使うらしい。古河渚はエルルゥの姿を眺めながらウトウトしていた。
エルルゥはというとレトルト食品をお湯で温める作業に、もとい、ガスや水道に夢中だった
(このつまみを捻れば火が出てくる…こっちを捻れば水が出てくる。さきほどは明かりが点きました。この島には不思議な物が沢山ですね…)
鍋に目を移す
(…調理が温めるだけで良いそうですが本当にこれだけでいいのでしょうか…)
そんなこんなで仕度が終わりテーブルに食事が並べられる。
「お待たせしました、それではいただきましょう」
「はい、ありがとうございます」
席に着き食事を始める。レトルトや缶詰が主体とはいえ、まともな食事は丸一日ぶり
渚は普段食べない量を食べ、エルルゥは初めての味に大興奮であった。
今も島は混沌としていたが、ここの風景だけは間違いなく平和そのものだった。
「「ごちそうさまでした」」
二人で手を合わせ箸を置く。そして白湯を飲みながら一息つく
「こんなに美味しい物を食べたのは初めてです。しかも温めるだけでいいなんて素晴らしいです」
食事が終わったあともエルルゥは興奮冷め止まぬと言った感じだった。
「それにですね…」
とそこまで言って少し真剣な顔つきになる。
「どうしました?」
渚が尋ねる
「何か聞こえませんか?」
「え?」
そう言われて耳を澄ますと確かに人の声のようなものが微かに聞こえる。
雨戸もカーテンも閉まっているので光が漏れてはいないと思うが念のためエルルゥが明かりを消す
そして渚の隣に腰を降ろす。かすかに渚が震えている。それをエルルゥは自分の胸の中へ抱きしめ
「大丈夫」
とだけ呟いた。
また話し声が聞こえたと思うと入り口がガタガタと揺れる。どうやら開けようと試みたようだ。
声が遠ざかる。声の特徴から男と女のようだ。諦めたとは思えない、裏口の方へ回ったのだろう。
同じように裏の方からガタガタと音がする。入ってきた時に鍵をかけてきたのでそのままでは開かない。
そして少しの静寂のあとバアンッと大きな音が。
「……ぅ…ぅ…おと……さ…おか………ぁさ…」
その音で渚が泣き出してしまう。エルルゥは裏口につながる調理場のほうを睨みながら渚を抱きしめる手の力を強める
「さて、物色させていただきますか」
調理場奥の通路から声が聞こえてくる
「ちょっと待ちなさい」
「あ?」
「どうやら先客がいるみたいね。美味しそうな臭いがただよってるし…」
「そういえばそうだな」
どうやらこれ以上息を潜めていても無駄なようだった。ならばとエルルゥは侵入者へ声をかける
「私たちを殺しに来たのですか?こちらに戦う意思はありません。ですから私達は見逃して貰えないでしょうか」
終わりの方は少し泣き声になってしまっていた
「何か怖がらせちゃったみたいだよ?」
「あんたがドアを蹴破ったりするからでしょ」
「お前だってノリノリだったじゃないかー!」
「ほら大声出さない、また怖がらせちゃうわよ」
やや沈黙があり、女の方が話してくる
「えーと、こっちにも戦う意思はありません。怖がらせてゴメンね、そっちに行っていいかしら?」
かくして座席に四人が向かい合う形で座っている
「とりあえずごめんね〜、この馬鹿がびっくりさせたりするから」
「馬鹿っていうなーっつーかお前がやれっていったんじゃないかー」
「はいはい、うるさいうるさい。とりあえず自己紹介しよか。私は広瀬真希。で、こっちの阿呆が」
「北川潤だって馬鹿の次は阿呆かよ」
「あんたなんか阿呆でももったいないわよ。で、お二人さんは?」
「エルルゥと申します」
「古河渚…です」
二人のハイテンションぶりに威圧されながらも自己紹介をすます
「とりあえず話したい事は色々あるけど、そのまえに…」
広瀬が話し掛ける
「何か食べる物無いかな?私お腹すいちゃって」
あははと笑う
「ふふっ、ちょっとまっててくださいね」
エルルゥが笑いながら調理場のほうへむかう
「俺も腹減った〜」
北川が叫ぶ
「静かにしなさい阿呆。あんたは壊した裏口の修理が終わるまで食事抜きよ」
「ヒデエ…」
「…くすっ」
漫才のようなやり取りに渚が笑みを漏らす
「やっと笑ってくれたわね、よろしくね」
「よろしくお願いします。えへへ」
「見たか、女の子を笑顔にさせる北川マジックを!」
「はいはい、さっさと裏口直してきてね」
「マヂヒデエ…」
海辺の夜は平和に更けていく…
【まだ0時まわってません次の人で就寝→朝って感じか?】
【持ち物 011エルルゥ 乳鉢セット 薬草類 バッグ】
【持ち物 030北川潤 便座カバー メリケン粉5kg×2】
【持ち物 072広瀬真希 メリケン粉5kg, 『超』『魁』ジッポライター】
【持ち物 081古河渚 初期装備(支給品不明後の書き手に依存)】
秋生と早苗は雨の森を小走りに移動する。
「あー、くそっ、どっかに雨宿りできる場所はないのか!?」
「う〜ん、このままじゃパンが濡れてしまいますね」
「ああ、このままじゃベチャベチャのまずいパンになっちまうな」
と、その足が唐突に止まる。
「………」
「っとと、どうした早苗?って、あ」
「やっぱり……」
「わー!待て!うそ!今のナシ!ノーカンだって!」
「やっぱり私のパンなんておいしくないんですねーーー!」
「そんなことないぞーーー!早苗ーーーーー愛してるーーーーーーー!」
「……何、あいつら」
向こうから変な男女二人組みが、何事かを叫びながら走ってくる。
その声で浩之は目を覚ました。
「何なんだろうね……」
理緒も唖然とした表情で同じモノを見ていた。
「うわぁぁぁぁああああん!」
「待ってくれ早苗ぇぇぇぇええええ!」
「秋生さんのバカああああぁぁぁぁ!」
「誤解だああああぁぁぁぁ!」
「えっ…と……」
恋人同士の喧嘩……?
「アレ…どうしようか?」
とりあえず理緒ちゃんに話を振ってみる。
「どう…しましょう?」
何というかアレは……理解に苦しむ。
「とりあえず、声をかけてみてはどうでしょう?」
「そう…だな。アレならいきなり攻撃されることは無いだろう」
と言うか、アレに突然攻撃されたら、間違いなく死ぬ気がする。
それに、あの大声で誰かがこちらへ近づいてくるかもしれない。
それだけは勘弁してほしいところだ。
「よし」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「早苗ぇぇぇぇ!愛してるから戻ってきてくれぇぇぇぇぇぇ!」
「そこの二人ッ!」
ぴたっ、と変な二人組みの足が止まる。
一瞬の沈黙。
「ぬおおおおっ!?いつからそこにいたっ!?」
「凄腕のヒットマンさんですか!?」
うわ、やっぱり声かけたの、失敗だったかも。
【古河秋生、早苗 藤田浩之と雛山理緒に出会う】
【74 藤田浩之 クレジットカード、小銭入り長紐付き巾着袋、クッション、バッグ2つ所持 服に当て布】
【71 雛山理緒 筋弛緩剤、注射針一式(針3セット)、枕大の石、裁縫道具、手作り下着、バッグ2つ所持】
【79 古河秋生 古河早苗特製パン 4個、古河秋生専用金属バット、硬式ボール10球】
【80 古河早苗 早苗のバッグ、所持品はすべて秋生が預っている】
【時刻 深夜2時すぎごろ】
スフィーとの戦闘ともいえぬ戦闘の後、セリオは住宅街の民家の一つに身を隠していた。
時刻は9時を回り、辺りは闇に包まれ始めていた。
(困りました)
明かりのない部屋の中で、セリオは別に困ってもいないような表情で頭部の思考回路に演算を走らせる。
……というか、そもそもメイドロボは困りなどしない。保留事項があるという意味だろう。
それはともかくとして、そのセリオの悩みというのは、電力が通常稼動でぴったり24時間分しか供給されていない事だ。
管理側は他の参加者とのバランスを取ったつもりなのかもしれないが、実際の所は飢えてもしばらく動ける人間と違ってメイドロボであるセリオは電力が切れたらそこで停止、恐らくはリタイアとずいぶん厳しい状況だった。
セリオのバッグに入っているのがバッテリーではなく、食料というのも片手落ちだ。
……まあ、これは他の参加者とのすり合わせもあるので仕方なかったが。
ともかく、ずいぶんな悪待遇だが、セリオ本体はメイドロボの鑑のごとくそれに文句をつけるでもなく演算を続ける。
(現在の残り電力量は...約62%)
民家に身を隠してからは、辺りの警戒をするセンサー類を除いて各部の稼働率を抑えてはいるが、それでも消耗は避けられない。
島には電気も通っているようだし充電さえすれば問題ないのだが、ここでまた充電中は無防備で外部の情報さえ得ることが出来ないという欠点が浮上する。
(人間の睡眠に当たるということでしょうか?)
これも、かなりの衝撃でもない限り途中で再起動出来ないという点で、他の参加者と比べてかなり不利だった。
(……ゲームバランスが悪いです)
管理者側、文句はないが批評はされた模様。
(残存電力量、現在時刻、一定範囲内の予想敵対者数等から今後の行動を決定...判断不能 保留)
そして、別のタスクより隠れてから数度目になる保留が導き出される。
スタート時の予測よりもゲームに乗った人数が多かったこと、この住宅街に感知できる有形無形の人の痕跡がこれも予測以上に多いことがセリオに安易な充電を許さなった。
この予測の大幅な外れが『困った』の何より主な要因だ。
かといって充電なしという選択も考えられない事も拍車をかけていた。
信頼性の落ちてきた予測だが、夜の方が人間の活動も落ち着くだろう事も一因ではある。
そうして何度目かのループに突入した、およそ10時ごろ。
(残存電力量、現在時刻、一定範囲内の予想敵対者数等から今後の行動を決定...充電行動を推奨)
変化が起こった。
理由は何のこともなく、電力残量が60%を切り、今まで保っていたバランスが傾いたというものだったが。
ともあれ、セリオは自らの計算に従い充電の準備を始めた。
その際に、バッグや荷物は隣の部屋に隠しておく。
控え室やスタート前のホールでセリオを見て覚えているものには無意味であろうが、わずかでも参加者だと思われる要素は廃除したほうが良いと判断しての行動だ。
それ以外にも、充電中のメイドロボを意味もなく破壊するような人間がいないとも限らなかった(何しろ酷い極限状況だ)が、残念ながらそのリスクは無視せざるを得ない。
(私は、ふたたび目覚めることが出来るでしょうか?)
全ての準備を終えた後、電源の落ちる前の瞬間、メイドロボらしからぬ疑問がセリオに沸いた。
しかし、それを自覚する間もなくセリオの機能はプツリと切れた。
【052 セリオ コルト.25オート(他の荷物とあわせて別室に隠してあります):充電開始】
【午後10時ごろ】
144 :
子供:04/05/18 07:19 ID:31T/Tv8Q
『………………59番、ディー。60番、トウカ。61番、長岡志保。
63番、名倉由依。67番、ハクオロ。70番、氷上シュン。75番、藤林杏。77番、伏見修二。
92番、宮内レミィ。97番、ユズハ。99番、リアン。以上19名…………』
定時放送の死者で蝉丸の見知った者の名は無い、麗子はまだ生き延びているようだ。
だがカミュにとっては、そうではなかった。
自らの手で殺めたディー以外にも、親しい人間が含まれていたからだ。
「ハクオロおじ様……ユズっち……トウカ姉様……」
呆然とした表情で、死者の名を呟くカミュ。
「ウソ……ウソだよね!? そんな……
う……う、うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「落ち着けカミュ、お前がいま感じている感情は……」
蝉丸は先程に続き、またしてカミュをなだめようとした。
今度は更に鎮めるのが困難そうだ。
しかし、カミュを落ち着かせたのは蝉丸の言葉ではなく、自分自身の内部から聞こえてくる声だった。
『いいのよ』
「えっ?」
カミュの心に直接語りかけてくる声。
『お父様は、眠りにつきたかったんだから……』
「誰……!?」
「だからしずまれ、カミュ」
すでに蝉丸の声は、届いていなかった。
『子供の望みは、お父様の望み』
『だから私たちは、望みをかなえてあげただけ……あなたが気に病むことは無いの』
「でも……」
『ユズハやトウカも、お父様といっしょのところへ行けたんだから……』
「…………」
カミュは、しぶしぶ納得したようだ。
145 :
子供:04/05/18 07:20 ID:31T/Tv8Q
2人は、島の探索をすることにした。
船に網や釣竿などがあったので、出発前に海岸に仕掛けておく。
戻ってきたときに運が良ければ、魚が捕まっているかもしれない。
船から海岸沿いに1キロほど歩いたところだろうか、2人は小屋を見つけた。
外から中の様子を伺う、生きた人間の気配は無い……。
しかし、死んだ人間の臭いがした……血の香りが漂いすぎている。
「カミュ、お前はしばらく外で待っていろ」
蝉丸は警戒しつつ小屋の扉を開ける。
そこに転がっていたのは3人の男女の死体であった。
1人は男の死体、顔に奇妙な仮面を着けているせいで年齢はよくわからない。
2人は女の死体、共に10代半ばであろうか。1人は獣を模したような奇妙な耳や尻尾をしていた。
3人とも、銃弾を身体に数発受けて死亡していた。
蝉丸は、男の死体に近寄る、顔に触れると、ゆっくりと仮面が外れた。
仮面が落ちた下の死に顔は、ディーの死に顔に似ていたように見える。
(仮面の男……もしや……こいつが……ハクオロか?)
(そしてこの少女は……)
蝉丸は中に殺人者が隠れていないのを確認すると、カミュを呼ぶ。
「カミュ、入れ……お前にとって、辛いことが待っているかもしれないが……」
146 :
子供:04/05/18 07:21 ID:31T/Tv8Q
カミュは部屋の死体を見て、言葉を失った。
死体を見るのは初めてではない。
いや、戦場では自らの術法で殺した人間も少なくないのだ。
しかし、カミュにとって、数少ない人間の親友の一人であったユズハ。
正室ではなかったとはいえ、深い仲であったハクオロ。
見知らぬとはいえ、自分と同世代の少女。
その死体を直接見るショックというのは、凄まじいものがあるだろう……。
「ユズっち……おじさま……」
その時蝉丸は小屋へ何者かが近寄る気配を感じた。
「カミュ、隠れろ」
放心状態になりかけていたカミュだったが、蝉丸の言葉で我を取り戻すと
物陰に潜み、気配を消す装置を作動させた。
蝉丸は木刀を構え侵入者に備えた。
10メートル……5メートル……扉の前……。
そして扉が開かれた。
147 :
子供:04/05/18 07:21 ID:31T/Tv8Q
(ここにユズハがいる―――)
なぜか、オボロには直感でそれがわかった。
「ユズハっ!」
痛む足を引きずりながら、オボロは小屋の扉を乱暴に開いた。
彼が真っ先に目に付いたのは愛すべき妹ユズハの……死体。
「あ……ああ……あああ…………」
しかも傍らにはもう2つ男女の死体が転がっている。
男のほう死体の横には、仮面が転がっていた。
「……兄……者?」
オボロはその場で膝を突いた。
「ユズハ……兄者……」
放送を聞いた時点では、まだ心は信じていなかったのだろう。
しかし、こうして実際に目の当たりにしては、もう否定できない。
「お前の知人だったのか……」
蝉丸は、オボロに話しかける。
放心していたオボロは、声を掛けられてようやく小屋に潜む蝉丸の存在に気付いたようだ。
蝉丸の手に持つ木刀を見る。
148 :
子供:04/05/18 07:22 ID:31T/Tv8Q
「そうか……貴様か……
貴様がユズハと兄者を……!」
「違う、俺先程ここに来たば……」
「五月蝿ぁぁぁい!」
オボロは蝉丸の返答を待たずに果物ナイフを持ち飛び掛った。
「殺(シャー!)」
「くっ!」
木刀で防ぐ蝉丸。
「貴様が! 貴様が! 貴様がっ!!!」
怒りに任せ激しく切りかかり続けるオボロ。
全身の負傷のせいで、思うように動けず防戦一方の蝉丸。
麗子との戦いで傷を負っている身体に、更に切り傷が増えていく。
しかし、オボロの足の負傷の影響はそれ以上に大きい。
最初こそ怒りによる爆発力でカバーしていたものの
冷静に対処する蝉丸には見切れない速さではなかった。
(できれば傷つけたくはなかったが……やむをえん)
「すまぬっ!」
蝉丸の木刀がオボロの胴を叩く。
「がああっ!」
横に吹き飛び、小屋の壁に激突するオボロ。
149 :
子供:04/05/18 07:23 ID:31T/Tv8Q
あの感触では、脇腹の骨が折れただろう、何本かは内臓まで達しているかもしれない。
蝉丸は倒れたオボロの顔の前に木刀を出す。
「一本だな……もう一度言うが、この3人を殺したのは俺ではない」
「……そうか、だが、もう誰が殺したかなんてどうでもいい…………」
口から血を吐きながらオボロは答えた。
先程道で会った、スケッチブックを持った少女のことを思い出す。
ユズハのことを知っていると書き、オボロを撃った……恐らくは、奴が犯人なのだろう。
「俺も殺せ、ユズハと兄者が死んだ今、俺が生き続ける理由などない……」
「……そうか……」
「ダメだよボロボロッ!」
オボロは、突如聞こえてきた声に驚いた。
(この声は―――?)
「死ぬなんて言っちゃ、ダメダメ、ダメだからね!」
「カミュ……?」
突如目の前に現れた少女に、オボロは驚いた。
小屋の外から誰かが入ってきた様子はなかった。
ならば同室にいたはずだが、何故存在に気付かなかったのか?
しかし、今のオボロにはさして重要なことではなかった。
「その名で呼ぶなと言っただろ……だが、もうそれもどうでもいい
お前はユズハとよく遊んでくれたな……感謝している
だが、その頼みは聞けないな、俺はもう疲れたんだ……
さあ、そこの男、早く殺ってくれ」
蝉丸は無言だった。
150 :
子供:04/05/18 07:28 ID:31T/Tv8Q
「やだよ……おじ様や、ユズっちが悲しんじゃうよ…………」
「そうか……手間を掛けてすまないが
俺の死体は、2人と同じところに埋めてくれ」
「そういうことじゃなくて……!」
「そうだな……とりあえず、死者の埋葬はしなければ……」
蝉丸は、ディーの死体を放置していたことを気にしていた。
(体力を消耗したくなかったとはいえ、ひどいことをしたものだ)
(せめて、この小屋の者たちは弔ってやらねばなるまい)
蝉丸は、ユズハの元へ立ち寄り、抱きかかえた。
「悪いな……」
オボロが呟く。
(む?)
蝉丸は小屋の外へ出ようとする時に、違和感を感じた。
ユズハの身体から、生命の息吹を感じたのである。
(まさか……?)
蝉丸はユズハを再び床に置き服を脱がした、下腹部が細い身体には不釣合いに膨らんでいる。
「おい、何をしている!?」
オボロは起き上がろうとする。
「カミュ、少しその男を押さえておいてくれ」
「え? あ、あ、うん……」
蝉丸の命令に従い、オボロを止めるカミュ。
(まだ外に出るほどは育ってないのだろうが……)
蝉丸は、短刀を取り出し、ユズハの下腹部に当てる。
(だが、このまま死体の中にいても長くは持つまい……一か八かだな)
蝉丸はユズハの肌を切り裂き、臓器を露出させた!
151 :
子供:04/05/18 07:29 ID:31T/Tv8Q
「やめろォォォォォ!」
絶叫するオボロ。
「蝉丸おじ様!? どうしちゃったの!?」
オボロを静止しながらも、困惑するカミュ。
(ここか)
冷静に、ゆっくりとユズハの臓器を切り裂く蝉丸。
「やはり……」
ユズハの腹部から取り上げたもの……それは一瞬の沈黙の後、大きな産声をあげた。
「ふぎゃあああぁぁぁ!」
「ユズハと……」
「おじ様の……」
「……子供だ」
152 :
子供:04/05/18 07:30 ID:31T/Tv8Q
「こんな状況で、その子がいつまで生きられるかはわからないが……」
3人の死体を小屋のそばの叢に埋めた後、蝉丸はオボロに向かってそう話しかけた。
「この子は俺が護る……! 絶対に、必ず……!」
まだ目も開かない赤ん坊を抱きしめながら、目に涙をためたオボロはそう答える。
先程までの態度とはうってかわって、生き抜く気力全快の返事だ。
「オボロ……お前「この島で人は殺さない」と誓えるか?
もし誓えないなら……どこか俺の目の届かない場所へ消えてくれ
だが……もし……誓うなら……
何人たりともお前達には指一本触れさせん!!
俺の目が黒いうちはな…………約束する」
「ああ……」
2人の漢が、熱い友情で結ばれた。
死んだ3人の埋葬が済んだ後、生きた3人は船に戻ることにした。
「2人とも、別れは済んだか?」
「あっ、そうだ……」
カミュは出発前に小屋に入ると、一つの物を持ってきた。
ハクオロの仮面とユズハの服である。形見にするのだろうか。
最後まで墓の前にいたオボロも、ようやく決心がついたようだ。
「ユズハ……兄者……それじゃあ、行ってくるよ……
この子のことは何も心配要らない……だから……お休み……」
【蝉丸 切り傷 打撲が二十数箇所 所持品 木刀 短刀】
【オボロ 右足に負傷 左脇腹打撲、及び肋骨数本骨折 所持品 果物ナイフ ハクオロとユズハの子供】
【カミュ 所持品 気配を消す装置 ハクオロの仮面 ユズハの服】
【アビスボートへ戻る 時間は昼過ぎぐらい】
目的の変換
「なっ…嘘…ですわ…」
最初は聞き間違いかと思った。
日が昇り始め、東へ移動していたカルラに聞こえてきたのは
第二回定時放送…そこで自らの探している主の名が呼ばれてしまったのだ
(もう…主様は……)
目標であったハクオロが既に居ない以上、目標を失ってしまったカルラは
放心状態に陥ってしまい、その場に座り込んでしまっていた……
森の中で座り込んでしまってからどれくらい経ったであろうか…
これから先、どうするかを考えていた彼女は一つの可能性を思い立った
(この戦で生き残れば…主様を生き返らせる事が出来るかもしれませんわ…)
そう…自らが優勝し、ハクオロの復活を望むという事を考えれば全てが解決するのである
覚悟を決めたカルラは立ち上がり自分の支給品であったハクオロの鉄扇をバッグに仕舞い込み、
先程入手した自分の大刀を構えると戦いの優勝を目指し西に歩を進めた
カルラは行く。主の復活を望む為に優勝を目指す殺戮者と化して……
【026 カルラ ハクオロの鉄扇 カッター 自分の大刀】
【第二回定時放送直後の出来事】
【カルラは東に移動開始】
【カルラの方針:優勝を目指し、ハクオロの復活を望む(無差別殺戮者化)】
再会は、優しい朝陽の中だった。
教室で休息を取り、そのまま第二回の定時放送を聴くことになった。
今回もまた、死亡者の中に、知った名前が入っている。
(藤林杏、一ノ瀬ことみ……)
一ノ瀬ことみ。
天才物理学者である故一ノ瀬夫妻の一人娘。全国模試では全教科トップ10に入る、学校一の才女。
智代の通っている高校で、彼女の名を知らないものは少ない。
そしてもう一人、
(……藤林、杏、だと?)
第一回放送に名前の挙がっていた、藤林椋の双子の姉。
妹と同じくクラス委員を務め、妹と対照的な明るく前向きな性格で、常に皆の中心となっていた。
そんな彼女達も、もういない。
「くそっ!」
握り締めた拳で、机を叩く。鈍い音が誰もいない校舎に響く。
自分の力だけで助けられたとは思わない。
だけど、きっと理不尽な最期を迎えたであろう彼女達を思うと、悔しさで一杯になる。
この信じがたい悲劇を仕組んだ者達と、そして何より、無力な自分に。
行こう。
定時放送からそこそこの時間もたった。充分とは言わないまでも、睡眠もとった。休息はもう充分だ。
終わらせてやる。終わらせなければならないんだ。
そんな時――窓の外に、確かに、知った顔が、
一瞬だけ虚をつかれ、すぐに後を追う。
ああ、よかった――
こんな絶望の下だけど、あいつは、まだ生きている――
「朋也っ!」
名を呼ばれ、振り返る。
同じ高校の制服と長い髪が、何よりもまず目に映った。
聞いたことのある声。地獄のような一日を挟んで、随分と懐かしい気がした。
走ってくる女の子の姿。
「智代……」
椋を殺されて、信じられると思っていた人に、最愛の人をも奪われて。
身も心もずたぼろになって、それでも、朋也は彼女を信じられた。
自分はまだ、人を信じることが出来る。
それは、暗い心に射す、ほんの一筋の光のように思えた。
この朝陽よりも弱弱しいけれど、それでも確かな、希望に思えた。
智代は満身創痍な朋也をそのまま保健室に引きずり込んだ。
学校の保健室程度の設備でも、応急処置には充分だった。
「これで、よし……と。どうだ、なかなかのものだろう。女の子だからな、この程度は楽勝だ」
実際智代の処置はかなりのもので、とても『この程度』で済むものではない。
素早さ。正確さ。包帯もろくに巻けない女の子も多々いる中、どれをとっても一流だ。
昔いろいろと無茶をしてた頃に身につけた技術だろうが、朋也は敢えて詮索はしなかった。
「悪いな。実は結構きつかったんだ」
控えめな感謝の言葉。その言葉だけで、智代は満足だった。
「礼を言われるほどのことでもない。それより、何があった」
「襲われた。それだけ」
億劫な返事を寄越す。
(それだけじゃないだろう……)
思ったが、智代はそれ以上の追求をしなかった。
朋也の目が、それを拒んでいたから。
「そうか。わかった。なら次はこっちの話を聞いてくれないか?」
智代は話し出す。この島に来てからのことを。
自分たちと同じ学校の生徒が女の子を襲っていたこと。
一回目の放送を聴いて、この悲劇を止めようと決意したこと。
CDに入っていた個人データのこと。
協力すべき人物は誰かということ。
「私はこれから、那須宗一という人物を探す。放送では呼ばれていないし、彼ほどの人物が簡単に死ぬとは思えない」
(そりゃお前だって同じだろう)
朋也は口には出さず、心の中だけでツッコミを入れた。
「そこでだ、朋也」
一旦言葉を切る。
「仲間は多ければ多いほどいい。お前はこの島で最初に出会った、信頼できる人物だ。私と一緒に来て欲しい」
わかっていた。話の流れから、このような展開になることは。
この島から脱出するためにも、それが一番いいことはわかっていた。
だが、わかっていても、首を縦に振ることはできない。
今の朋也には、何にも増してやるべきことがあったから。
だから、
「悪いけど、それはできない」
即答した。
「何故だ!? 馬鹿なお前だって、この状況がどんなものかわかっているはずだろう!?」
「馬鹿は余計だ」
言って立ち上がる。
「世話になったよ、ありがとう。あと、お前は無事でよかった」
歩き出す朋也の手を掴む。
離さないように、強く。
「痛い」
「理由を話せ。何故、一緒に来てくれない」
「俺にはやらなきゃいけないことがあるからだ」
「ならそれは何だ!」
沈黙が降りる。風が窓を鳴らす音も、小鳥の鳴き声も、
二人の耳には届かない。
朋也は動かない、動こうともしない。
智代は離さない、離そうともしない。
膠着状態を打ち破ったのは朋也からだった。
振り返り、言った。
「話、してやろうか」
その目は、きっとどんな絶望よりも暗い色をしていた。
智代が初めて見る目だった。
「杏と椋が殺されたんだ」
「……知っている」
「二人とも、俺の目の前で殺されたんだ」
「――何?」
「芳野っていう奴がいる。お前は知らないだろうけど、俺達の町の人間だ。
元プロミュージシャンで、今は電気工事をやってる。俺はあの人の歌が大好きだった。正直、尊敬してた」
「……」
「杏を殺したのはそいつだ。俺はそいつを――」
(ああ、その先は言わないでくれ。
お前の口から、そんな言葉を、聞きたくはない)
「殺しに行く」
訂正
【カルラは東に移動中(移動中に放送)】
「ふざけるなっ!」
両手で朋也の襟を掴み、詰め寄る。
お互いの顔と顔の距離は僅か。呼吸がはっきりと感じられる。
そんなことは関係がなかった。
「行ってどうなる! 殺してどうなる! 死んでいった人間達が、それで帰ってくるわけじゃないだろう!」
それはきっと、朋也にはわかっているはずだった。わかっているだろうことを、智代はきちんとわかっていた。
それでも、言葉は止まらない。
「仇を取ってくれとでも言ったか! そうじゃないだろう! 二人とも、お前が無事であることを第一に願ったんじゃないのか!?」
杏の最期を思い出す。椋の最期を思い出す。
智代の言う通りだった。本当に、智代の言う通りだったんだ。
「ここで殺し合いでもしてみろ! それこそ、これを仕組んだ連中の思惑通りじゃないか!」
知っている。それは、あの放送の後に、杏が朋也に言った言葉だったから。
「殺し合いからは何も生まれやしないんだ! 何も残りやしないんだ! そうに決まっている!」
「それでも、俺は――」
「それでも行くと言うなら!」
智代は机の上に手を伸ばす。目的の物を、手探りで見つけ出す。
手に握られているのは、銀色に輝く鋏。
「これで私を殺してから行け」
「な、に?」
「私を殺してから行けと言っている」
朋也の手に、鋏を握らせる。
「私は逃げも隠れもしないぞ。お前に人殺しなんて絶対にできない。
私が生きている限り、ここから出しはしないぞ。そんな理由で行くなんて私は絶対に認めない」
「……智代らしくもない、言ってることが滅茶苦茶だ」
「そうさせてるのはお前だ。やるのか? やらないのか?」
見詰め合う。智代の目は真剣そのもの。
朋也が本気で殺しにかかれば、智代は本当に殺される。
そのくらいの覚悟。同時に、朋也は絶対にそんなことをしないと、強く強く信じている。
そんな瞳の色をしていた。
朋也は握った鋏に視線を落とし、目を瞑る。
今でも鮮やかに思い出せる。あまりにもあっけなかった、杏の最期。
愛する人の最期。
芳野を殺してやると、
絶対に殺してやると、
あの時確かに決めたんだ。
その為なら、
「ばかやろう……」
鋏を左手に持ち変える。右腕は、肩から腕に上がらないから。
「ばかやろう……」
もう一度呟き、
ゆっくりと左腕を上げ、
一気に振り下ろした。
智代は最後まで朋也を見続けていた。
動かなかった。
笑っていた。
微笑んでいた――
振り下ろされた鋏は弧を描き、
そのまま真っ直ぐに、
地面に叩きつけられた。
「馬鹿。お前を殺す意味なんて、どこにもないだろ」
「そうだな」
「だけど俺は行くからな」
「だめだ。行かせない」
再び腕を取る。
「駄々っ子かお前は」
「どうしてだ。この島には、お前が守るべき人がまだいるだろう。
お前がそんなことするのを、誰一人望んではいないだろう。
お前のやるべきことがあるだろう」
「離せよ。離してくれないと、俺はどこにも行けない。
あいつを殺さないと、俺はどこにも行けないんだ」
「だから――」
「俺は杏が好きだった。杏も俺をを好きだと言ってくれた。
それが理由に、ならないか?」
その言葉が、
戒めを解く、
最後の言葉。
朋也は保健室の扉を開ける。
智代はもう追ってこない。
廊下には冷たい風が吹いていた。
風に乗って、誰かの泣き声が聞こえる。
まさか智代ではないだろう。あいつが、まさか、泣くなんてことは――
「はぁ」
溜息一つ。
廊下の先には昇降口がある。
その先に待っているのは絶望だ。
もう止まらない。
あいつを殺すか、自分が死ぬか。
誰もこんな結末を望んでいなくても、それでも進むしかない。
復讐だけが、今の自分の拠り所だから。
自分にはそれしか残されていないから。
昇降口にさしかかる。
ドアを開ける音が、廊下に響いた。
そして、声も、また。
「朋也が好きなんだ!! 私は、お前の傍にいたいんだ!」
知っていた。智代の気持ちはなんとなく。
気付いていたんだ。
こんなにも胸が痛いのは、きっとそのせいだから。
気持ちに応えることは出来ないから。
行かなければいけないから。
「お前のやろうとしていること、私は絶対に認めない!」
「だけど」
「絶対に、生きて帰ってきて欲しい……」
最後の方は、小さい声だったけれど、
朋也には確かに届いていた。
朋也は一度だけ振り向いて、
手を上げて微笑んだ。
杏を失ってからは、初めて見せる、笑顔。
こうして約束は交わされた。
その行方は、まだ、誰も知らない。
【岡崎朋也 武器等現状維持 約束】
【坂上智代 保健室で鋏入手】
「退く気はないか?」
光岡悟(89番)は、いまだ牙を向ける相手に低い声で忠告した。
「愚問ね」
その光岡の忠告にも耳を貸さず、今動き出そうとする獣が一人。
名倉友里(64番)はデザートイーグルを構えた。
(拳銃か……。あの大きさでは反動も凄まじいものがあろう。二撃目が勝負どころだが、急所に当たれば即死だな)
相手の銃の大きさから、戦略を慎重に練る。
幾ら自分が仙命樹を得ているとはいえ、銃に刀では分が悪い。よほど上手くやらなければ勝つのは難しいだろう。
友里のほうもこれ以上弾は消費したくない故に、次の一発が中々放てなかった。
残り四発、友里としては絶対に外せない。相手の動きから見て素人ではない、気を見ないとあてることは難しそうだ。
光岡が横に飛ぶ。友里はそれを目で追うだけで発砲はしない。
今撃っても外れることは目に見えている。そうしたら、手痛いしっぺ返しが来ることは目に見えていた。
光岡のほうもこうやって揺さぶってはいるが、いざ攻勢には出られなかった。
前に詰めようとすると、友里がデザートイーグルで牽制する。これ以上前に詰めるのは危険な賭けだ。
暫く、どちらも攻撃に出られなかった。
だが、そんな状態も長くは続かなかった。転機というべき、定時放送である。
皮肉なことに、友里の注意を逸らすに十分な放送だった。
『……。61番、長岡志保。63番、名倉由依。67番、ハクオロ。70番、氷上……』
友里の注意が、放送に行く。瞳を驚愕と、絶望の色に染めて。
光岡はそれを見逃さなかった。そこの隙をついて一気に攻勢に出る。
「……!?」
友里はそれに気付き発砲するも、狙いも定まってない弾が光岡に当たるはずも無く、銃弾は空しく空を切った。
光岡はそのままの勢いで友里に突進し、一気に首を斬った。
血飛沫があたりに飛び散り、朝焼けをより赤く染める。
友里のデザートイーグルを回収し、その場を去る。みさきの下へと向かうために。
「おそらく知人が呼ばれたのだろうが、悪く思うな。運もまた、実力のうちだ」
光岡の最後の言葉も、友里には聞こえていなかった。
【89 光岡悟 友里からデザートイーグル(残り三発)回収】
【64 名倉友里 死亡】
【残り69人】【定時放送直後】
オボロは少女――上月澪と一戦交えたあと、少女が来た方角へと向かっていた。
歩く、歩く、ただひたすら。
(こっちに、ユズハがいるはずなんだ)
気がつくと、夜明けが来てしまっていた。
眩しい朝日が、まるで絶望を知らせる悪魔に見えた。
「クソッ」
オボロは忌々しげにそう言葉を吐く。
一歩、また一歩、と歩を進める度に足に痛みが走る。
疲労、怪我、もはやオボロの体力は限界に近いものがあった。
(まだユズハは生きているはずだ、そう、生きている)
次の一歩を踏み出そうとしたとき。
足がもつれ、オボロは倒れてしまった。
―――そしてそのまま気を失った。
・
・
・
『諸君、昨晩はよく眠れたか?…………以上19名…………』
・
・
・
「んっ」
ガバッ!
(しまった!気を失ったいたのか!)
オボロはあわてて太陽を見る。
太陽の高さは先程からほとんど変化はなかった。
オボロは立ち上がり、また歩き出す。
しばらく歩くと・・・遠くに小屋が見えた。
(!?ユズハ・・・あそこにユズハがいる?)
彼は鋭い直感でそう感じとっていた。
オボロは今まで以上に歩くスピードを上げた。
(足の痛みなど関係ない。急ぐんだ。急げ!)
このとき、オボロはまだ知らなかった。この後彼が目にする光景を…。
【016 オボロ 果物ナイフ 気を失っていたのはほんの2、3分程度】
【オボロは第二回定時放送を聞いていない】
【蝉丸との出会いの直前】
森の隙間から、光が射し込み始めた。
大木を背に眠っていたクーヤが、目蓋を透かしてくる光で目を覚ます。
「んむ……」
背中が痛い。何だろう、この固い閨は。床上手なサクヤの仕事とも思えない。
だいたい、起こしに来ないとは何事だ。むー、と膨れながら、目をこしこしと擦り、あくびを一つ。
そんな寝ぼけた思考が一気に――目の前で横になっている、耕一の姿で醒まされる。
ここには、サクヤはいない。少なくとも、すぐ近くには。もしかしたら、どこにも。
どこにも、いないかもしれない。
体が細かく震え始めた。大丈夫だ、大丈夫。サクヤが自分を置いていなくなるなど、あろうはずがない。
ゲンジマルだっている。ハクオロだっている。耕一だってついている。
その耕一が言ったのだ、敵の騙そうとする罠なんだって。だから、信じる。
耕一を信じているのだから、その言ったことも。
なのに、震えは止まらなかった。
「コウイチ……コウイチっ……」
耕一の体を揺さぶった。が、よほど眠りが深いのか、起きそうにない。
そうだ、よく考えたら、後一回自分は交代で起きる番があったはずなのに、眠ってしまっている。
きっと、黙って代わってくれたのだ。
やっぱり起こすのはやめよう……そう思った矢先、耕一は薄く目を開けた。
「ん、なんだ……初音ちゃん?」
「え……?」
その幸福そうな顔に、ひどく戸惑う。何もしていないのに、申し訳ないような気分になった。
「……あれ? あぁ、そうか……ごめん」
なにかを悟ったような、諦めたような表情。
「おはよう、クーヤ」
痛々しかったけれど、でも懸命に、耕一は笑顔を作った。
「……うむ」
同じようにしようとして、ろくに声すら出せなかった。
自分が未熟者だということを、まざまざと痛感する。皇は、いつでも堂々としていなければならないのに。
「どうかした?」
「いっ、いや……なんでもない。ちょっと、疲れているだけだ」
「……そうだな。俺も少し、疲れたかも。日が昇ったばかりだし、もう少し寝ようか?」
「何を言う。日が昇ってから目を覚ますのでは、遅すぎるくらいだ」
普通、日の出、日の入りを基準に活動するものを、何をのんきな、と一瞬腹を立てかけるが。
「いや……よい、もう少し、眠るがよい」
先ほどの、見張りをすっ飛ばした件を思い出す。
「あー、いいのかい?」
「うむ、許す」
「それじゃ、お言葉に甘えて……」
耕一が、大きな獣のようなあくびをした、その時、
『ザッ――』
放送が入った。
『諸君、昨晩はよく眠れたか?』
聞くだけで不快になる声に、耕一も一気に目を覚まし、上体を起こす。
激しい怒りと憎しみと、そして不安を覚えながら、続きを待った。
『さて、ここまでの死亡者だが、6番、一ノ瀬ことみ。15番、緒方理奈――』
カ行が始まる。
『20番、柏木初音』
柏木――柏木、柏木耕一、柏木……初音? 耕一が話してくれた、さっき名前を呼んだ、一番末っ子の……。
耕一が、恐ろしい勢いで立ち上がった。肉体が怒りで膨れあがっている。
血走った目で、声の発生元を呪い殺そうと、睨みつけている。
そばにいるだけで、震えが走るような憎悪。
「おっ……」
『29番、木田恵美梨。43番、沢渡真琴。45番、霜村功』
「おおおおおおおおおおおおっ!」
肺腑から叫びが迸る。振りかぶった拳が、幹に叩きつけられた。
揺らぐ大木から木の葉が散る。拳の先からは、鮮血が散った。
「こっ、コウイチっ! よさぬかっ!」
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
『49番、スフィー。54番、立川郁美。59番、ディー。60番、トウカ』
ディー? あの強力な力を持ったあの男まで?
そしてトウカ。ハクオロが、戦力の要だと言ったエヴェンクルガの戦士。
そんな者までが、こうも容易く命を落とすのか。
動揺しつつも、木を叩き続ける耕一を、必死で押さえる。だが、耕一は止まらない。
爪を立て、引き裂こうとする。だが、傷つくのは耕一の体ばかりだ。
「やめてくれっ! コウイチっ! そんなことをしても……」
最初とは、まるで逆だった。
たぶんあの時は、自分が先に錯乱してしまったから、耕一は冷静になれたのだ。
今は逆に、耕一が先に激昂し、自分が止めている。自分だって悲しいのに。
悲しいのに、でも、人が嘆いている姿は、見ていてとても辛い。
耕一は泣いていた。その涙に誘われるように、自分の目からも涙がこぼれるのが分かる。
抱きしめ、触れた背中から、怒りの鼓動と、深い悲しみが伝わってきて、クーヤの胸までも締め付けてくる。
なのに。
『61番、長岡志保。63番、名倉由依。67番、ハクオロ』
――え?
67番、ハクオロ。
――え、え、え?
67番、ハクオロ。
怒りよりも悲しみよりも、ただ驚愕のみが心を染めた。
その気配を感じたのか、耕一も動きを止めている。
『70番、氷上シュン。75番、藤林杏。77番、伏見修二。
92番、宮内レミィ。97番、ユズハ。99番、リアン。以上19名、生存者は70名だ。
一日で三十人の大盛況、こちらとしては嬉しい限りである。
これからもそのペースを落とさずに殺し合ってもらいたい』
えぇと、ユズハ? そうだ、ユズハ。ハクオロが話してくれた、病弱で、盲目の少女。
年が近いから、きっといい友達になれるだろうといっていた少女。
誰が言っていた? ハクオロが。
そのハクオロは? え? え? え?
67番、ハクオロ。
「――ウソだ」
なぜか、笑っていた。
「そうだ、ウソに決まっている。サクヤだけでなく、ハクオロまでなんて……。
それに、ディーやトウカだって、強いのだぞ。アヴ・カムゥすら倒せるような戦士たちだ。
ハクオロやその二人が、ましてやサクヤが、そう簡単に死ぬようなことなどあるものか……。
なぁ、コウイチ……」
ぎゅっと広い背中を抱きしめる。不安を消すように。悪夢を打ち消すように。
だけど、コウイチは黙ったまま、ただ体を震わせている。
「コウイチっ! なんで今度は否定してくれぬのだっ!
昨日みたいに、あいつらの罠だって、なんで言ってくれない!?
おかしいではないか……。そんなことあるはずないであろう?
ハクオロはな、仮面を付けた変な男だが、色々なことを知っていて、優しくて、暖かくて……、
そうだ、ちょうど今のこの背中のように……」
ハクオロの顔が、声が、仕草が、胸の内いっぱいに広がり、声を詰まらせる。
「あっ……」
耕一も、なにかをこらえるように、震える息を吐いた。
「うぁっ……」
「くっ……」
重なった声が、やがて号泣となった。
崩れ落ち、膝をついた耕一に引きずられるように、クーヤもその背にすがりつく。
その背中から伝わる互いの温もりだけが、せめてもの慰めだった。
五分ほどだろうか。ひどく無防備な時間。ひどく無防備な声。そして、ひどく無造作な接近者。
がさりと茂みを分け出てきた影に、二人はとっさに立ち上がる。
「ふふっ……なぁに、あなた達、泣いたりして……」
どこをどう彷徨っていたのか、その女の服は泥や木の葉で汚れ、だらしなく崩れている。
顔には生気がなく、瞳には正気がない。眠っていないのか、血走った目の下にはクマができている。
薄ら笑いを浮かべたその女は――美坂香里だった。
視界はまだ、完全には戻ってはいない。
が、ぼんやりとしていても、それが栞でない別の人間で、敵と分かればどうでも良かった。
香里はけらけらと、明らかに常軌を逸した笑いを立てる。
「バカみたい。何が悲しいんだか知らないけれど……安心して」
手にしていた果物ナイフを構えた。
「どうせこのゲームに勝つのは私達姉妹だもの。もう、悲しまなくていいようにしてあげるっ!」
先ほどまでのだらけた動きが嘘のように、素早く襲いかかる。
「クーヤっ!」
とっさに耕一が、クーヤを突き飛ばす。その合間をナイフが走った。鮮血が飛ぶ。
突き飛ばした左腕が、切り裂かれている。
「こっ、コウイチっ!」
「下がってろっ!」
そう言ったはいいが、耕一も、ナイフ相手に素手では近づけない。
滅茶苦茶に振り回してくるため、先読みもしづらい。
「くっ……」
左腕は、痛いというより痺れている感じだ。思った以上に深かったらしく、出血が激しい。
その時、運悪く、木の根を踏んで足を滑らした。膝をつき、体を支えようとした左腕が痛んだ。
「つっ!」
「あははははっ! ほら、死ねって言ってる!」
香里はナイフを逆手に構え、両手で振り下ろす。その手首を耕一はギリギリの所で掴んだ。
「なにしてんのっ! 栞が死ねって言っているんじゃないっ! 死・に・な・さ・い・よおおっ!」
白刃が迫る。香里は女とは思えない力で、耕一を刺し殺そうとする。
体勢の悪さと、左腕の損傷で、じりじりと差し込まれる。
「ほらっ! 死になさいっ! 私と栞が幸せになるために、死になさいよあなたっ!」
刃が目前に迫った。
「ふざけるなっ! この痴れ者がっ!」
香里の側頭部を、荷物の入った鞄が吹き飛ばした。
クーヤもまた、香里に負けず劣らずの必死さで鞄を振り回し、その度に中身が零れる。
「邪魔するなっ! ケダモノっ!」
「誰がケダモノであるかっ! 無礼者っ!」
耕一の目の前に転がってきたのは、支給品の殺虫スプレー。
「おいっ!」
「なによっ!」
振り向いたその顔にめがけて、殺虫剤を浴びせた。
「きゃっ……ああああああっ!」
香里は激痛にのたうち回り、狂乱しながら、去っていった。
木にぶつかり、枝を引っ掛けながらも、まるで気にしない様子で、全力で逃亡した。
耕一達は、追いかける気にもならず、その場にへたり込んだ。
と、クーヤは真っ赤に染まった耕一の腕に気づいた。
「……あっ、こ、コウイチっ! 血がっ!」
「あ、ああ……うわ、すごいな、こりゃ……」
「とっ、とにかく、止血せねば……ど、どうすればよいのだ?」
パニックに陥るクーヤを見ていたら、なぜか耕一の方が落ち着いてしまう。
「なんでもいいから、とりあえず根元を縛って、傷口を覆えばいいんだけど」
「さ、サランラップでよいのか?」
「いや、ちょっとダメかも……なにか布でないと」
「わかった!」
クーヤは上着を脱ぎ、切り裂こうとしてできず、歯を使って、無理矢理引き裂いた。
不格好ながらも布を幾重にも巻き付ける。
もとが上着なだけに、耕一の手は倍以上に膨れあがったが、鮮血が染み出してくるのは止まった。
「……すまぬな、コウイチ」
「いや、平気だよ、これくらい」
「余がすまぬと言っておるのだ。おとなしく謝罪を受け取れ」
「……分かりました、皇。光栄であります」
二人の間に、苦笑が漏れた。
最期にぐるりと巻き付けて縛り、応急処置を終える。
クーヤはいたわるように、その腕をさすりながら、呟いた。
「なぁ、コウイチ……。先ほどの者も、栞とかいう大切な人を、失ったのであろうか……?」
「うん……たぶんね」
あの瞳は、狂気に犯されてはいたけど、たぶん、自分たちと同じ悲しみを持っていたと思う。
「哀れであるな……」
「うん……」
「……決めたぞ」
「え?」
「人の心を傷つけ、弄び、無為に人の命を、我が同胞の命を奪う、このようなことを許してはならぬ。
余は決めた。同士を集い、力を合わせ、ふざけた真似をした者共を、
サクヤを、ハクオロを殺した奴らを……一人残らず地獄(ディネボクシリ)に叩き込んでくれるっ!」
「いや、しかし……」
気持ちは分かる。耕一だってそうしたいし、そうするつもりだった。
だが、爆弾が……と言いかけた耕一を遮って、
「余が決めたのだ! クンネカムンの皇たる、このアムルリネウルカ・クーヤの名にかけて、必ずだ!」
ぐっ、とクーヤは両腕に力を込め、雄々しく宣言した。
「いた、いた、痛い、クーヤ。そこ、怪我! 握るのやめてくれ!」
「あっ、す、すまぬ……、すまぬが……だが、決めたのは本当だ。……無理だと思うか、コウイチ?」
無理なら、一人でもやる。そんな決意がクーヤの瞳にあった。
もちろんそんな瞳を見て、無視できる耕一ではない。
何より、その願いは、自分のものと重なっているのだ。
「もちろん俺も一緒に戦う。最初からそのつもりだったさ」
千鶴と初音の無念を晴らし、必ずその罪を贖わせると。
クーヤは満足げに頷いた。
「うむ、それでこそ、余の見込んだ男だ」
クーヤは立ち上がり、耕一に手を差し伸べた。
自分よりはるかに小さい少女が、ひどく大きく見える。そして、朝の光を受けて、綺麗にも見えた。
剣を捧げる騎士の気持ちが、少し分かるような気がした。
耕一は、剣の代わりに、拳をクーヤの手のひらに重ね、力強く握った。
互いに、微笑みを浮かべる。
もう二人の顔に、涙は残っていなかった。
【033 アムルリネウルカ・クーヤ テンション最高潮】
【018 柏木耕一 左腕を負傷。使えるが、いつもの半分程度の力。応急処置のみ】
【共有アイテム 殺虫スプレー サランラップ残り25mほど】
【087美坂香里 疲れ切った状態で、目は閃光弾と、殺虫スプレーを喰らって、かなりまずい状態。
閃光弾の効果くらいは終わってるかもしれないけど、次の人に任せます。果物ナイフ所持】
【時刻 二日目早朝、定時放送直後】
176 :
選択の時:04/05/18 08:52 ID:ozzClPK5
もう一個ミスがあったよ_| ̄|○
× 【100リサ・ヴィクセン 装備:草薙の剣】
○ 【100リサ・ヴィクセン 装備:パソコン、草薙の剣】
もう本当にごめんなさい。も、もう忘れてるの無いよね(゚Д゚;≡;゚д゚)
177 :
笑い:04/05/18 09:08 ID:sJIwr9xH
夜が明ける。日の出が差し込もうとしていた。絶望的な状況の中、宮沢有紀寧(93)はまだ生きていた。
「はぁ…はぁ…」
ここまで生きていたのは奇跡だろう。だが、出血量はおびただしく、もう長く生きていられる状況ではなかった。
「…寒い」
体が急速に冷えていく。目がかすれてきてぼやける。
ごめんなさい、猫さん。貴方に罪はなかった。
ごめんなさい、女の人。貴方に罪はなかった。
涙が一滴こぼれる。絶望、後悔、死への恐怖。そのような物が合わさって流れた涙だった。
その時、がさり、近くの茂みが揺れた。
(…誰?)
乗った人だろうか? でも構わない。どうせ、もう長くない。この苦しい状況を終わらせてくれるのだったら大歓迎だ。
残り少ない力を総動員して、音の下方向に顔を向ける。表れたのは、ワイシャツ姿の男性だった。彼女を見て一瞬驚いたが、近づいてくる。
「大丈夫かい?」
どう見ても大丈夫ではない彼女の姿を見てそう言ったのは、橘敬介(64)だった。
178 :
笑い:04/05/18 09:15 ID:sJIwr9xH
「…貴方は?」
「橘敬介、君は?」
「宮沢…有紀寧…」
そう呟いて苦しげに息を吐き出した。
敬介は、彼女の傷を見る。肩と足と背中、三つに銃創があった。辺りは傷口から流れた血液で真っ赤だ。正直、もうどうしようもなかった。
「……誰がこんな事を」
拳を握りしめ、押し殺すように呟いた。
この少女は自分の娘と同じぐらいの年だ。
夢もあっただろう。
好きな人も居ただろう。
帰るべき日常もあっただろう。
光り輝く未来もあっただろう。
それを、一瞬のうちに奪い取った。たった3発の鉛玉、そしてこの狂気。
「…………わからない。でも、いいんです」
自嘲気味に少女が呟く。
「えっ…?」
「…私も、人を殺しました」
ザァ、と朝の風が吹く。もうすぐ日が完全に昇るだろう。その中で、彼は言葉を失っていた。
「…君が?」
「…はい。後、猫も殺しました。…猫も、あの女の人も何もしてなかった。だけど…私は殺してしまった」
涙がこぼれる。
179 :
笑い:04/05/18 09:25 ID:sJIwr9xH
彼は、少女の後悔の言葉を黙って聞いていた。
彼女が誰を殺したのかわからない。晴子かもしれない。観鈴かもしれない。だが、問いただす気になれなかった。
少女は、自分のした行いを悔い、絶望の中で死んでいこうとしている。その姿を見ると、何も言えなかった。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい」
苦しげに息を吐きながら、涙を流し謝罪の言葉を呟く。しばらく沈黙していた彼だったが、何かを思い立ち、ポケットの中から1つの棒のような物をとりだした。
「この棒の先っぽを引っ張ってごらん?」
そう言って、少女に先端を向ける。
「…え?」
「いいから」
にっこりと微笑む。少女は、震える手で棒の先端を引っ張った。
ポン!
「きゃっ…」
そんな音がして、棒の先端から花が飛び出した。
「…わぁ」
感嘆の息をもらす。
「はい、どうぞ」
ビニール製の安っぽい花を彼女に握らせる。そして、パンと手を合わせた。
「…え?」
合わせた手を広げる。すると、するするする、とそでの中から万国旗が姿を現した。
「…ふふ」
そのチープな手品に、思わず笑みがこぼれた。
180 :
笑い:04/05/18 09:35 ID:sJIwr9xH
彼は、少女の笑みを見て満足した。
「…もう少し練習した方がいいですよ」
悪戯っぽく、少女が呟く。
「ごめんね。まだまだ駆け出しだから」
そう言って、彼も笑った。
少女の息が小さくなっていく。目はもう閉じられていく。少しずつ、少しずつ、胸の鼓動が緩慢になっていった。
「…」
彼は、黙って手を握ってあげることしかできなかった。
「……ありがとう、優しい手品師さん」
「……」
再び目を開き、橘を見つめる。
「……また、誰かを笑わせてあげて下さい」
「…あぁ。頑張るよ」
そう言って、強く手を握った。その言葉を聞いて、少女は満足げに微笑み、再び目を閉じた。
もう、その目が開くことはなかった。
それから数分後、少女は死んだ。笑みを浮かべ、片手には彼から貰った花を強く握りしめながら。
「…優しい手品師さん、か」
心の中であの少年に感謝し、少女の冥福を祈った後、彼は、声を押し殺して泣いた。
【093 宮沢有紀寧 死亡】
【064 橘敬介 宮沢有紀寧の死を看取る】
【064 橘敬介 所持品:肥後ノ守、その他ガラクタ(要整理、手品の道具などがある)、手首に万国旗、釣り糸、釣り針、ハンカチ、水入り容器を所持】
【明け方、定時放送前】
// ,ィ
ト、 ./ /-‐'´ .|
| V .⊥,.ィ /'7
| / // / ./ /
| // | / // / 生命の誕生
_>-‐|/l/‐-く/ヽ、
/ `<⌒
/ ヽ
{ >;''ニニゞ,;アニニY
{ ¨´,ニ=゚='" ,.ヘ=゚:く {
i1(リ r;:ドヽ {
ヾ=、 に二ニヽ`|
| i . { ト、 /ヽ/i
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| i . { ヽヽ//ノ .ト、 /ヽ/i ト、 /ヽ/i ト、 /ヽ/i ト、 /ヽ/i
| i . { / ヽ | //ヽ/i | //ヽ/i | //ヽ/i | //ヽ/i
| i . { | ,,_ _,| ヽヽ//ノ ヽヽ//ノ ヽヽ//ノ ヽヽ//ノ
| i . { N "゚'` {"゚`lリ / ヽ / ヽ. / ヽ / ヽ
| i . { ト.i ,__''_ ! | ,_ _,| | ,,_ _,| | ,,_ _,| | ,_ _,|
| i . { \ ー .イ N "゚'` {"゚`lリ N "゚'` {"゚`lリN "゚'` {"゚`lリN "゚'` {"゚`lリ
| i . {⌒゙'^(_⌒ヽ ト.i ,__''_ ! ト.i ,__''_ ! ト.i ,__''_ ! ト.i ,__''_ !
ノ!i ヽ、 \ \,)ノ `J \ ー .イ \ ー .イ \ ー .イ \ ー .イ
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'ト、\. ,ゝ \二ニソ ,)ノ `J ,)ノ `J ,)ノ `J ,)ノ `J
不器用
宮沢有紀寧という少女を看取ったあと、橘敬介(055)は住宅街に踏み込んだ。
短めのダッシュと歩行を繰り返すことで足はそれなりに動くようにはなったが、本調子には程遠い。
当分、激しい行動は自重したほうがよさそうだ。
今の自分は人を殺せる状態ではない。彼はそう判断していた。確かに成人男性ではあるがそれに見合った力は
萎えた体では出せそうにない。しかしそれ以上に、死んでいくものを目の前にして、子供だまししかしてやれない
自分に対して憤りを禁じえなかった。
(……また、誰かを笑わせてあげて下さい)
もう自分には誰も、たとえ自分を殺そうとする者であっても、殺せそうにない。観鈴を晴子に預けた十年前、
あのときから自分は生きてはいなかった。この島に放り出されても変わらず、死にとらわれていた。
それだけに…自分がそうさせたのもかかわらず、少女の最期の笑顔が彼には堪えた。
「殺さずに…か」
殺さずに「家族」を護る。無謀というよりすでに正気の沙汰ではない。頭では無理とわかっていてもその条件を満たす
方法を追い求めて深みにはまる、敬介の不器用な面だった。
住宅街でも少し奥まった場所にある民家の引き戸の前にいつしか敬介は立っていた。あたりは静まり返っている。
ものがなしさ、とでもいうのだろうか。朝の澄んだ空気がいっそう、澄みわたっているように感じられる。
敬介は戸を開けた。
少女が一人、部屋の中で倒れている。
ゆっくりと近づいてみるが反応はない。
テーブルの上には赤いリボンと薬瓶。
ラベルが見えた――青酸カリ。
!?
まさか。
183 :
不器用2:04/05/18 12:07 ID:QSHxGNnG
少女の肩に手をかけ、ゆっくりと起こす。ほっとした。まだ――あたたかい。
「蝉丸ぅ…」
心配はない。それが解ると一気に力が抜けた。
そのまま抱きかかえて畳に寝かせ、敬介はガラクタの整理を始めた。
ポケットを返すとあの少年からもらった(あえて敬介はそう脳内で表現した)手品道具に加え、
ピン類各種、小型のレンチ、太さがまちまちの針金の束、その他ポケットに入る大きさの小物が音を立てて
なだれ落ちてきた。どうやらあの少年には敬介と同じく、とりあえず使えそうなものをポケットに放り込む癖が
あったらしい。それらを整理して、敬介はちょっと童心にかえってみることにした。工作である。
民家には材料になりそうなものがかなりたくさんある。一通り物色したあと、敬介は作業を開始した。
「ここまで不器用だったかな、僕は」
木を削りながら敬介はぼやく。確かに慣れない作業ではあるのだが、敬介のそれは度を越していた。
気づかぬうちに手には無数の切り傷ができている。相手が食材で得物が包丁であればこんなことにはならないのだが…。
「しかし…下手すると僕が死にかねないな、この調子じゃ」
頼りない割に使用者に多大なダメージを負わせたその小刀を見つめる。使い方によっては何とかなるかも
しれないが今のところこの小刀と敬介との相性は最悪といえた。自分には生憎リストカットの趣味はない。
あの少女が目を覚ますまでは死ぬわけにはいかない。肥後ノ守と男の格闘は続く。
【055橘敬介:釣り糸3巻、釣り針の束、肥後ノ守、住井のバッグ(食料入)、手首に万国旗、ハンカチ、水入り容器、
手品道具、ピン類各種、小型のレンチ、針金の束、その他(小物がまだあるかも)、工作の材料】
【085三井寺月代:支給品不明、青酸カリ・スコップ・初音のリボン、現在泣きつかれて睡眠中】
【橘敬介、工作中。致命的に不器用なことが判明】
彼は、少女の笑みを見て満足した。
「…もう少し練習した方がいいですよ」
悪戯っぽく、少女が呟く。
「ごめんね。まだまだ駆け出しだから」
そう言って、彼も笑った。
気が付けば、朝の定時放送が始まっていた。しかし、あまり耳に入らない。少なくとも、晴子と観鈴の名前はなかった。少女は、放送に反応を示さない。死が、目の前まで迫っていた。
息が小さくなっていく。目が閉じられていく。少しずつ、少しずつ、胸の鼓動が緩慢になっていった。
「…」
彼は、黙って手を握ってあげることしかできなかった。
「……ありがとう、優しい手品師さん」
「……」
再び目を開き、橘を見つめる。
「……また、誰かを笑わせてあげて下さい」
「…あぁ。頑張るよ」
そう言って、強く手を握った。その言葉を聞いて、少女は満足げに微笑み、再び目を閉じた。
もう、その目が開くことはなかった。
それから数分後、少女は死んだ。笑みを浮かべ、片手には彼から貰った花を強く握りしめながら。
「…優しい手品師さん、か」
放送はいつの間にか終わっていた。握られた手が冷たくなっていく。最後に強く握りしめた後、手を離し、花を握らせたまま両手を胸の上に置いた。
心の中であの少年に感謝し、少女の冥福を祈った後、彼は、声を押し殺して泣いた。
【093 宮沢有紀寧 死亡】
【064 橘敬介 宮沢有紀寧の死を看取る】
【064 橘敬介 所持品:肥後ノ守、その他ガラクタ(要整理、手品の道具などがある)、手首に万国旗、釣り糸、釣り針、ハンカチ、水入り容器を所持】
【明け方 定時放送直後】
【残り68人】
すみません、差し替えをお願いします。
「同人女をナメたらあかんで!」
一声吼え、川下へ向けて歩き出した。
……のはずいぶん昔のことだったような気がする。
「はぁ……参ったわ……」
彼女らしからぬ疲れた声で嘆息するのは、猪名川由宇(007)であった。
注意一秒怪我一生。いや、この島ではそれどころじゃない。注意一秒一発即死。
そりゃまあ、自分には少なからず猪突猛進な部分があるのは認めよう。名前にも猪の文字があるし。いや
それはあんま関係あらへんか。
けど、歩き出してほんの数十歩で落とし穴に落ちるなんて……モロにギャグマンガやんか。
しかもそれがただの落とし穴やのうて、ごろんごろん転がり落ちたあげくにばかでかい洞窟にまで放り
出されるたぁ笑えんわ。本当は落とし穴やなしに単なる自然の穴やったかも知れんけど、んなこたこの際
どうでもいい。我ながら不注意にも程があるわ……大場かに知られた日には何言われるか分からんな。
うちは体はって恥をかなぐり捨ててようやく笑いを取れるような、お笑い業界のシタッパに就職する気は
あらへんで。だいたい和樹を引きずり込んで旅館の跡を継がにゃ〜なら……ってこんな状況で何考えとるんや
うちはっ!
あかん、こんなアホな事まで妄想するたあ結構参っとるかも知れん。
へたり。
爆裂パワーを誇る由宇の体とて食糧を補給しなければエネルギー切れを起こすし、寝なければ頭がぼける。
本来だったら数日の徹夜程度ではびくともしない耐久力を誇るのだが、転げ落ちた際に体のあちこちに
擦り傷切り傷打撲傷を受け、しかも何の明かりもない洞窟の中を手探りで何時間も進んで来たとあっては
さすがに普段と勝手が違った。
「あー……ちょっときっついわ……」
手探りで荷物の中から水筒を取り出し、残り少なくなった水を喉に流し込んだ。何時間放浪したのか
分からないが、既に一日分の食料は底をつきつつあった。
「どうやったら出れるんやろか、この洞窟」
耳をすましても何の音もしない。目をこらしても何も見えない。そこら中を触ってみても、返ってくるのは
岩の硬い感触だけ。
そんな中に何時間も放り込まれているのと、島の上で殺し合いの恐怖に怯えつつ動き回るのと、果たして
どっちが厳しいかは由宇には分からない。
ひょっとしたらこのまま出口が分からずに飢え死にするかも知れない、と思うとぞっとするが、
「冗談やないっ!」
そこは関西同人界が誇る熱血爆弾娘である。
「こんな所で死ねるかっ! うちは生き残る! こっから脱出するんや! 何度でも言うが、同人女を
ナメたらあかんでー!!」
洞窟の壁にひびが入りそうなほどの絶叫だった。根拠のない虚勢とも言うが。
あかんでー、 かんでー、 でー……
何度も反響したその声が消えるか消えないかというあたりで。
「……ん?」
闇にさんざん慣らされた由宇の視界の片隅に、何かが入ってきた。
光だ。ほんのわずか、本当にほんのわずかだけ、目の前に広がる洞窟の壁の一部に光が当たっている。
「……なんや?」
由宇は近づこうとして、一瞬ためらった。この島が今どんな状態にあるのかを思い出したのである。
その光の先に、殺意を抱く何者かがいる可能性は否定できない。
そうこうしてるうちに、その光は消えた。
一応音を立てないようにして、その場所へ行ってみる。
「今の光……どこかから差し込んできたみたいやったな」
もう何も見えないので周囲を手探りで調べてみる。と、上へ登れそうな穴が開いているのが分かった。
「……行くしかあらへんな」
その先に何があるかは分からない。今のが太陽の光なのか人工の光なのかも分からない。
だが少なくとも、このまま闇の中をさまよい続けるよりはマシだった。
女は度胸や。
胸の内でつぶやくと、待ち受ける物に警戒しながら由宇はその穴へと歩を進めた。
その頃。
「……気のせいか」
何か聞こえたような気がしたので洞窟の奥の方を照らしてみた河島はるか(027)は、懐中電灯をしまい込んで
再び眠りについていた。
その胸の中ではアルルゥ(004)が、起きる気配もなくすやすやと眠っていた。
じりじりと上ってきた猪名川由宇が、慎重に慎重を期していたにもかかわらずこの二人に思いっきり
つまづいて、ずべらっしゃああと派手な擬音と共に地面に突っ伏したのはその10分後の事であった。
【007 猪名川由宇 全身に小さな怪我を負いまくり、はるか&アルルゥに遭遇 所持品:ロッド(三節棍にもなる)、手帳サイズのスケブ】
【027 河島はるか 由宇に安眠妨害される 所持品:懐中電灯、ビニールシート、果物ナイフ、救急セット、缶詰少々】
【004 アルルゥ 同じく由宇に安眠妨害される 所持品:なし】
【定時放送の少しあとぐらい 三人とも洞窟の中で放送は聞いていない】
188 :
遺志:04/05/18 15:49 ID:fDvI4DFM
支給された食料を口にし、残っていた水でそれを流し込む。そして、心の渇きを無理矢理に癒やす。
空になった容器に目の前の川の水を汲み、容器を満たす。そして、心の重石を無理矢理に浮き上がらせる。
(……皆を探さないといけませんね)
森の中の川の畔で、ベナウィは一人、これから進むべき道を考えていた。
柊勝平の遺体を埋葬してから、更に森の中を徘徊する事数時間。ベナウィは二体目の遺体を発見した。
前進が焼け焦げ黒色化し、手足が千切れかけていたいその遺体──ソレは生前霜村功と呼ばれていた──を先の勝平の遺体と同様に埋葬し、僅かばかりの水と食料を供えると、ベナウィは減少した水を補給するべく水場を探し始めた。
これが約一時間前の事。
それから約三十分後。耳障りなノイズと共に、二回目の放送が聞こえてきた。
『━━60番、トウカ。61番、長岡志保。63番、名倉由依。67番、ハクオロ。70番、氷上シュン。75番、藤林杏。77番、伏見修二。92番、宮内レミィ97番、ユズハ。99番━━』
最初は耳を疑った。しかし、すぐにその現実を受け容れた。
その哀しすぎる現実を。
189 :
遺志:04/05/18 15:51 ID:fDvI4DFM
始まりは、もう随分と前の話。
インカラ皇に仕えていた時。反乱群を率いるあの御方と出会った。
敵として。
時が経ち。ケナシコウルペ王朝が滅んだ時。國と共に散ろうとした私をあの御方は救い、新たな道へと導いてくれた。
時に命を受け砦を護り。
時に政務を放り出され悩ませられ。
時に共に囲炉裏を囲み暖かさを受け。
数え上げるとキリがない思い出。あの御方の手足となり、その側で新たな國が幸せに満ちてゆく様を見るのは何事にも代え難い喜びだった。
──しかし。もう。あの御方はいない。ならば、自分が為すべき事は何か?
──あの御方が護ろうとしたであろう、皆の幸せを護る事。その為に、この戯事を終わらせる事。島を蝕む狂気を取り払い、皆の命を救う事。
(聖上……トウカ殿……ユズハ殿……どうかお安らかに……)
木漏れ日を受け煌めく川面を背にし、ベナウィは新たなる道に向けて歩みだした。
【82番 ベナウィ 所持品:槍(自分の物)、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、紅茶入り水筒、ショートソード】
【支給された食料は全て消費。水補給】
【ゲームの終了に向け、うたわれ勢の捜索開始】
【時刻:二日目、午前六時半頃】
【残り68人】
『諸君、昨晩はよく眠れたか? さて、ここまでの死亡者だが、
6番、一ノ瀬ことみ。15番、緒方理奈。20番、柏木初音。29番、木田恵美梨。43番、沢渡真琴。
45番、霜村功……』
淡々と流れる放送の声。
その中で、藤井冬弥(73番)は、顔見知りの名前を聞いて悲しみに暮れる。
緒方理奈、冬弥にとってはすっかり顔馴染だった彼女は冬弥のバイト先の喫茶店にもよく来てくれていた。
テーブルに面と向かって話したことも幾らかある。トップアイドルなのに、トップアイドルらしくない女の子。
「まさか、理奈ちゃんが……」
その中で、今までの自分の行いを後悔した。確かに、自分が何かしたところで理奈は救えなかっただろうが、
それでも、自分が逃げていないで前に向かっていればどうにかなったのではないか、という自責の念がふつふつと沸いてくる。
後悔するのなら逃げなければいい。子供にだって分かる論理だ。だが、冬弥は逃げるより他に何も出来ない。
それは冬弥が弱いから、だ。ここで言う弱さは、肉体的なものではない。
死に脅え、他人を殺すことも自ら死ぬことも出来ない自分は弱い。
死を受け入れ、流れに任せるがままの須磨寺雪緒(50番)よりも弱い。冬弥は自分で分かっていた。
自分で分かっている故に、行動を起こせないままだった。
先ほどリサ=ヴィクセン(100番)に発砲した時だって、無我夢中だった。
自分が生き残るために、必死だから出来たことだ。普段ならあんな行動は出来るはずも無い。
「二人とも、知り合いが亡くなったみたいね」
リサが同情するように言った。
そこで冬弥はふと違和感を覚える。……「二人」とも?
はっとなって横を振り向いてみた。雪緒は先ほどと変わらずにその場に立っている。
たった一つ、違うところは……目に涙をためていた。
「雪緒……ちゃん」
名前を読んでみた。返事は返ってこない。
返事の代わりに、雪緒は駆け出した。海岸のほうへ。
「お、おいっ!!」
その場に取り残される形で、冬弥とリサが残った。が……
「何してるの? 早く行ってあげなさい。あの子、あのままじゃ何しでかすか分からないわ」
リサが冬弥の背中を叩く。
冬弥はこくりと頷くと、雪緒の後を追って走った。逃げずに立ち向かえる、精一杯の勇気を出して。
「あなたの彼女ぐらい、あなたで守りなさい」
後ろからリサの声が聞こえてくる。
自分は別に彼女がいる、と否定している暇はなかった。
雪緒は簡単に見つかった。
岸辺で、水平線の向こうをただ眺めている。
初めて会ったときより、不思議な感じがして、儚げだった。
冬弥は雪緒の横に立った。雪緒から反応は、無い。
「……俺も、知り合いが死んだ。雪緒ちゃんもテレビで見たことあるかもしれないけれど、緒方理奈っていう子。
悲しかったけれど……もう、逃げたくない。現実から目を背けることは、したくない。だから、君も……」
説得するように、雪緒に語りかける。
そんな時、雪緒が口を開いた。
「……私には、学校で慕ってくれる後輩がいたわ。幾ら突き放しても、それでも私を慕ってくれて、
ギターを弾いてあげると喜んで、バイト先のケーキ屋にも私がいるときには毎日来てくれて……。
突き放していたから、大丈夫だと思っていたのに。こんな悲しい思いしたくなかったから、突き放したのに……」
すすり泣いて、言葉を一言一言出していく。
(そうか……どこか、人を突き放しているように感じたのは、このためだったのか……)
冬弥は感じ取った。雪緒が、自分と変わらない、精神的に弱い少女であったことを。
彼女は、怖かったのだ。好きなものが、自分の手から離れていくことを。
だから、あえて死ぬことに抵抗を示さなかった。そして、誰が死んでも悲しまないように、他人に、心の境界線を引いていたのだ。
その態度はこの島につれてこられるずっと以前からそうだったのだろう。ここにいるのは、心が壊れた少女なんかじゃない。
傷つくのを人一倍恐れた、純粋な女の子だ。
冬弥は、居た堪れなくなってそっと雪緒の背を抱いた。
「……やめて、優しくなんかしないで……」
「……え?」
「今優しくされたら、私は、藤井さんのことを……好きになってしまうわ」
完全に、その儚い心がむき出しになっていた。ほんの少しの衝撃で、パリンと割れてしまいそうな……。
そんな雪緒の態度はたどたどしく、今にも潰れそうで、冬弥には放っておけなかった。
「そうは、行かないよ。今君を、放っておくことなんて出来ない……。辛いのなら、好きなだけ泣けばいいさ。
俺は、雪緒ちゃんに悲しい思いは、絶対にさせないから」
冬弥がそう返事をすると、雪緒は、それまで我慢していたものを一気に吐き出すかのように、泣いた。
声を出して、冬弥の胸に顔をうずめて泣いた。
冬弥は雪緒の頭を、優しく撫でてやった。小さい子をなだめるように、優しく……。
ひとしきり泣いた後、雪緒は冬弥に面と向かって、言った。
「藤井さん、ありがとう……大分、気が晴れたわ」
「ああ、うん」
恥ずかしくなって顔を背ける。
勢いだけで言ってしまった台詞だが、冷静になれば顔から火が出るような浮ついた台詞だ。
「私も、生き残りたいと思えるようになったわ」
「あ、ああ。それがいいさ、うん」
何より、あの台詞じゃまるで、恋人宣言しているようなものじゃないか。
自分には由綺という彼女がいるのに……。そう考えて、冬弥は少し自己嫌悪に陥る。
(だから、彰やはるかに優柔不断って言われるんだよな……)
そんなことを考えながら、冬弥は雪緒と歩き出すのだった。
【50 須磨寺雪緒 所持品なし】
【73 藤井冬弥 グロッグ17残り11発】
【100 リサ=ヴィクセン 草薙の剣は持ち逃げしたまま冬弥たちと別れる 所持品 ノートパソコン 草薙の剣】
【残り68人】
194 :
Fetish!:04/05/18 18:14 ID:T7cVHmCV
突然の通り雨にぐしょぬれになりながら、高倉みどりは転がるようにガレージの中に避難する。
しかも途中ぬかるみに足を取られ転んでしまい、服はずぶぬれの上にドロだらけになっている。
このままでは風邪を引いてしまう。
みどりは手探りでガレージの壁を探り、やがてスイッチの類を発見する、と天井の裸電球が明々と点る。
と、狭い中にいくつかの農作業具が建てかけられているのが分かる、さらに外に畑のようなものが見えた。
どうやらここは納屋のようだった。
と、その足元に都合良くライターを発見したみどりは、空の燃料缶の中に木片や紙くずを入れて火を付けて暖を取る。
外からは未だにトタン屋根を打つ、雨だれの激しい音が聞こえる。
ぱちぱちと薪が弾ける音も聞こえる中で、みどりは早く冷えた身体を温めようと火に近づく。
「せめて下着だけでも…」
みどりは服を脱ぎ捨てると、ブラとパンティを火に近づけ、早く乾かそうとしたが…
「あちちちっ」
火が皮肉にもその下着に飛び火し、無残にも下着は灰になってしまったのだった…。
「どうしましょう…」
全裸のまま、うつむいてしまうみどり。
他の濡れた衣服が乾くまではまだまだ時間がかかる、野宿を避けることが出来たのは幸運だったが…。
裸では心もとない。
さらに例え服が乾いても、ノーブラ・ノーパンでこの先過ごさなければならないのか。
それもいやだった。
だが…手が無いわけではない、あまりやりたくない手ではあるが。
みどりは無言でバックから例のスクール水着を取り出した。
あれから野ざらしでは可哀相とスフィーの遺体を埋葬した際に形見として回収したものだ。
「こんな小さいの…」
頬を染めるみどり、だがこのまま素っ裸で過ごすよりは遥かにマシなように思えた。
そして、みどりは意を決すると、そっとスクール水着の中に自分の身体を入れていくのだった。
「あっ…あっ…あああっ」
虫のように身体を左右にくねらせて、スクール水着をより肌になじませようとするみどり。
確かに狭く…苦しいが、それ以上の快感がこみ上げてくる。
スフィーもきっと同じ気持ちだったに違いない、自分と同じく悶え、悦びの喘ぎを発しながら、
小さな水着を着用している、スフィーの姿がみどりにははっきりと想像できた。
「きついけど、でもそれが…気持ちいい…」
身体が完全に水着になじんだのを確認し、うっとりと水着を撫でまわすみどり。
何時の間にか雨はやんでいた、だがこのまま出歩くのは危険なように思えた、服もまだ乾いていないし。
それに、もう少しだけ…楽しんでいたい。
水着姿のまま、ビニールシートに包まり、みどりはひとまず朝までここで過ごす事を決めた。
【53 高倉みどり 所持品 スクール水着・ 白うさぎの絵皿】
(朝まで休息)
運命というものを神様が握っているのなら。
何て残酷なことをするのだろうか。
住宅街のはずれにある、小さな学校。
だが、元々規模の小さいこの島にあるには不釣合いな程大きい。
今は誰も学ばず、佇んでいるだけの学び舎。
こんな時でも、今一人の生徒を外へと送り出した。
やっぱり、それでもそこは学び舎だった。
――朋也が好きなんだ!! 私は、お前の傍にいたいんだ!
――お前のやろうとしていること、私は絶対に認めない!
そんな悲痛な、そして想いのこもった叫びを背に、男は校舎を後にする。
『俺は、芳野を殺す。そうしなければ、前には進めない。もうどこにも行けない』
そうして、前だけを見て進む。
だけど。
前に進んで、そこが悲しくない世界だなんて――誰かは思ってくれるのだろうか。
杏はいつでも今でも自分の中で輝いている。たった今も。
でもそれは動かないセピア色のフォトグラフのような思い出で。
動かないもの悲しい思い出だ。違う。止まっているのは自分なのだ。
前へと進む。
たとえ、そこが後悔だけしか残らない場所だったとしても。
誰もが、杏もがそれを望んでなかったとしても。この場所から前へと進みたかった。
ただ。「生きて帰ろう」その気持ちだけは持ち続けていきたい。
約束だからな。
約束ももう思い出だったけど、それは自分の胸の中で、美しい色のついた動画フィルムのように鮮明に動いてた。
朋也は、前へと進んだ。
なんてすれ違い。
丁度朋也が去る逆方向より、一人の男が歩を進めていた。
眼前に広がるのは静かな校舎。
わずかに手前、人気のないと思われた校舎から悲痛な叫び声が聞こえた。
それはとても強い思いの込められた叫び声。
(人がいるのか)
男は校舎へと足を向けた。人がいるなら、殺せる。
殺して、生き残って、アイツを幸せにする。
男にとって、人の声はもうその程度の雑音だった。
その辺の住宅街の民家から調達した残った干し肉をかじって咀嚼すると、残りは道端に捨てた。
いらないなら邪魔なだけだ。闘うのならな。食料はまた調達すればいい。
かつては、音楽で、言葉で人を感動させたこともあった。
人の言葉で揺り動かされた事もあった。自分の愛しいあの人の言葉も、
先程まみえた岡崎の言葉も。
かつての自分であれば、校舎から聞こえた叫びにも、何か感じるものがあったのかもしれない。
だが、今現在の彼、芳野祐介の心の奥まではどんな言葉もどんな音楽も届かない。震えない。
全部虚構だ。まやかしだ。
智代はまだそこから動かなかった。
自分の思いだけでも、朋也の心に届いたのだろうか。
いや、きっと届いたはずだ。
なら、生きて帰ろう。約束を果たすんだ。
朋也の帰ってこれる場所を作るのだ。
朋也がもし、自分の傍にいたくなかったとしても。
自分の思いが成就されなかったとしても。
帰ってきた時に傍にいたい。支えたい。
多少、強引にでも。再び朋也が、新しい居場所を見つけるまでだっていい。
そう、自分は目標の為に頑張りつづけてきたじゃないか。
頑張って、これまでのすさんだ自分の生き方を正して頑張り抜いて。生徒会長にだってなれたのだ。
今度も、きっとそれはできる。
頬を流れた自分の涙はもう乾いていたけど。そっと目元を拭った。
アイツを信じて、自分は自分にできることをやるのだ。
「ってどうしたの?」
朋也とも芳野とも違った方角で。丁度校門の裏側に面したあたり。
一緒に歩いていた武器兼パートナー、の主が鼻を利かせはじめた。
皐月は、主が起きてからしばらく定時放送を聞いた。
見知った名前こそなかったが、何もできなかった、何もしてあげられなかった自分に暗い影を落としていた。
偽善と言われてしまえばそれまでだが、それでも、そう思うことは間違いじゃない。皐月はそう思う。
だけど立ち止まったらそこまでだ。今は、少しでも多くの人を助け、脱出するんだ。
そして、是非にも主催者――篁の野望も打ち砕きたい。馬鹿げたゲームを開催したことを心から後悔する位に。
ああいう悪の総帥が人の命を弄んで、高みの見物しながらせせら笑ってるなんて許せなかった。
宗一達も、きっとおんなじ気持ちのはずだ。
先程、この辺から人の声が聞こえた。
定時放送のような無機質な声とは違う。強い感情のこもった、意思の込められた声。
その声を便りに、慎重にここまでやってきた。
「この中に人がいるの?」
「ガル…」
そうだ、と言わんばかりに主が小さく唸って、その先を見据えた。
単に人の気配を感じただけだったのかもしれない。本当に匂いを嗅ぎ取っていたのかもしれない。
それは皐月には分からなかったが。
もしかしたら、主は(おいしそうな人の匂い♪非常食にキープだ)とか思ってるのかもしれないが、
例の人喰い事件を知らぬ皐月には分からないどころかそんな思考にも及ばなかった。
主は先の食事で充分腹を満たした為、人を喰う程空腹になるにはまだまだ時間がかかりそうだったが。
「でも、ここからはいくら私でも行けないなぁ。トンヌラもいるし。正面に回ろっか?」
皐月もそちらを見渡す。こちら側――校舎の裏側は結構高い壁で仕切られていた為、ここから校舎に入るには
絶望的に思えた。運動神経には自信もあったし、泥棒家業で培った身のこなしで
頑張ればいけないこともないが、絶対正面に回る方が早い。
「モフモフ」
突然、主が皐月の服の裾に噛み付いて引っ張った。
「ちょっと、ちょっと待って!そんなに引っ張ったら服が脱げるって!」
仕方がなく、主に主導権を受け渡すと、体ごと持ち上げられて、主の背中に乗せられる。
「え?乗れって?」
「ヴォフ♪」
皐月は、主の背中に乗ったのはこれが初めてだった。馬とは違うし、そんな風に考えたこともなかった。
「えと、これでいいの?」
皐月がしっかりと体を起こしたのを確認して、バッっと跳ね上がった。
「うわわっ!ちょっと!」
天性のバランス感覚でなんとか振り下ろされる前に主の体毛にしがみつく。
突然だった為、並の人間であれば間違いなく振り下ろされていただろう。
アルルゥ達のように最初から乗り心地を知っているのであればともかくも。
一っ飛びで一気に学校の敷地内へと入り込んだ。
「す、凄い。凄いよトンヌラ!」
なんの巡りあわせか。一人が去り、一人が残り。
二人と一匹が学校へと足を運んだ。
神様はとても意地が悪い。
【14 岡崎朋也 学校を去る 所持品 ダンボール】
【98 芳野祐介 腹を満たして学校へ向かう 所持品 手製ブラックジャック*2
ライフル(予備マガジン2つ) サブマシンガン(予備マガジン1つ) ことみの救急箱】
【95 湯浅皐月 学校の敷地内へ 所持品兼パートナー 主(騎乗中)】
【38 坂上智代 学校の保健室 所持品 CD 鋏 眼鏡】
201 :
196:04/05/18 18:53 ID:uzvjkZFw
前に書いてた話の題名書いちゃった。
>>196の題名は「すれ違い、巡りあい」です。
202 :
外道:04/05/18 19:31 ID:0NhWt3JW
雨が降る中、おぼつかない足取りで歩く瑠璃子さんに肩を貸し、僕らは歩き続ける。
少しずつ、少しずつ、前へ。
時折、彼女の顔を覗き込むけど、相変わらず蒼白だ。
彼女は、大丈夫だよ、と無理をして微笑む度に、僕の心が引き裂かれそうになる。
彼女は右肘から少し下の部分を切断されたうえ、出血が酷かったので、
僕のベルトで腕の付け根を縛り、僕のYシャツの腕の箇所を破いて傷口を包むように巻きつけ、
応急処置を済ませておいた。
切断された腕は置いてきた。
僕は、繋がるかもしれないから持って行こう、と言い張ったんだけど、
優勝したとき、腕を再生してもらうから、と返された。
どのみち、チェーン・ソーで切断されたのだ、
傷口はぐずぐずになっており、手術でも縫合は難しいに違いない。
火炎放射器は彼女を運ぶのに邪魔だったので捨ててきた。
武器はクソ生意気な女が捨てていった鉄パイプを、
ズボンのベルトを通す部分に粗末な縄でくくりつけ、
アスファルトの上をがりがりと引きずっているものだけ。
拳銃を奪われたのが痛い。
今、僕らは住宅地に向かっている。彼女をどこか安全な家に休ませなくては。
203 :
外道:04/05/18 19:34 ID:0NhWt3JW
住宅地に入ると早速、安全そうな家を探すことにした。
とりあえず、近くの民家から傘を持ち出し、雨をしのぐ…ここに来るまで随分濡れてしまっていたが、ないよりましだ。
彼女の怪我をきちんと治療できる場所が欲しい。どこかに診療所の類いがあるはずだ。
先程この地を通り過ぎざま、僕らは火炎放射器で全てを焼き払おうとした。
だが、一軒一軒燃やしていくたび、燃料の消耗が激しく、
人を殺す分まで使ってしまいそうだったので、火の海にする計画は頓挫した。
今は雨が降っているので勢いは弱まってはいるものの、
火を消してくれる者がいないため、かなりの範囲に渡って延焼したようで、
住宅地は所々で煙が上がり、中にはまだ炎に包まれて黒煙をあげている家があった。
僕らは診療所まで燃えていないか心配したが、杞憂だった。
住宅地の外れにひっそりと建つ、木造平屋を見つけ出したのだ。
【長瀬祐介 鉄パイプを所持】
【月島瑠璃子 無所持 右肘から下を欠損 出血により歩行はきつい】
【午前3時頃】
【題は『濡れネズミ』】
204 :
外道:04/05/18 19:37 ID:0NhWt3JW
追加。
【住宅地外れの診療所】
205 :
外道:04/05/18 19:41 ID:0NhWt3JW
スマソ、番号忘れた。
【長瀬祐介(62)】
【月島瑠璃子(57)】
でした。
もはやヒトのテをあつめる機械と化している伊吹風子。
純真なゆえの狂気に身を焦がしていた
そしてそこに一人の女性が近づいてくる。
「むむむ、新しい人が来ました!早速あの人のヒトデをもらいましょー」
あゆの首を背中の羽リュックにつめ、近づいていった。
「こんばんはー」
「…」
「風子、いまヒトデ集めてるんです!とってもかわいいヒトデですっ」
「いっぱい集めて集めてみんなに配るんですっお姉ちゃんの結婚式に出てもらうためにっ」
「ふーん」
「だからあなたのヒトデくださいっ!」
「…そんなの持ってないわ」
「いいえありますよー…そこにっ」
動物的なすばやさでナイフを横になぎ払う
「っ!」
「あらあらだめですよ、せっかくきれいなヒトデ作ろうと思っているのにっ」
「…あなた」
「ほら見てくださいちょっと違うけどこんなのも作れるんですよっ」
風子はリュックからあゆの首を出した
「ああんっきれいです。これならみんなきっとよろこんでくれますっ」
常軌を逸した風子に対して、彼女は小さなナイフを出した。
「だから…あなたのもくださいっっ!」
迷いも無く、乱れも無く、ただ一直線に風子のナイフが彼女ののどに・・・・・・・
『どすっ』
…届く前に榊しのぶのナイフが伊吹風子の首を貫いていた
「…は…はれ……?」
「単純なことよ、あなたとあたしでは腕のリーチが違う。あなたのナイフが届く前に
あたしのナイフの刃があなたにたどり着いただけ。それに」
ナイフをぐるんと時計回り
『ぐじゅじゅ!』
「ガハ!」
「真っ正直に向かってくるなんて、身体能力のある相手に対して自殺行為、
だから銃を使うまでも無かった」
右足で前蹴りしてナイフを抜く
風子は首から血を吹き、そのまま仰向けに倒れた。
『ヒュー…ヒュー』
(…なんで…なんで…)
(今までは簡単にできたのに…)
もはや声を上げることもできない風子
「そして決定的だったのは覚悟。あなたはただの臆病者なのよ」
(…あたしが臆病者?)
「一見狂化していて強そうに見えるけど、ただ現実から目をそむけているだけ。
この状況にあわせるために、自分を壊しているだけだわ」
(…あ…)
「それはただの逃げ、信念を持っている相手には勝てるわけが無い。」
(暗い…クライよおねえちゃん…)
「眠りなさい」
(おねえちゃっ…)
しのぶは風子の持っていたナイフを持ち主の胸につき立てた
「ふう…」
一息ついて出発のとき、ふと傍らの死体を見る
この子もきっと普段は明るいいい子だったんだろう。
少し透子に面影が似ていた気がする。
「信念か…」
あんなことを言ったが、自分にも果たしてそんなものがあるのだろうか。
目的のために、簡単に2人も殺した私に。
ただの逃げではないのか。
生き残るための。
わからない。
わからない。
事故に矛盾を抱え、
彼女は海のほうに向かっていった。
そしてそこには
何も残らなかった
【伊吹風子(8)死亡 消滅】
【榊しのぶ(39)装備:ブローニングM1910(残弾0発、予備マガジン一つ)・ナイフ・米軍用レーション
(12食分)・ビスケット類の食料・缶切3つ・12本綴りの紙マッチ3つ小型ガスコンロ
】
【午前1時ごろ】
【残り67人】
━━夢を見ていた。
穏やかな日々。
いつまでも続く平凡な毎日。
少女には妹がいた。
少女は妹が大好きだった。
澄んだ瞳をした、心優しい妹だった。
妹は生まれつき体の弱い子だった。
少女の誕生日に、妹は絵をプレゼントしてくれた。
入院中で何も買いにいけなくてごめんねと絵を描いてくれた。
少女は生まれて初めて嬉しくて泣いた。
その後少女は、妹の命が長くないことを知った。
少女は妹を避けるようになった。
それでも妹は、自分に微笑みかけてくれた。
少女にはそれが辛かった。
最初から妹なんかいなければよかったとも思った。
辛かった。
ただ辛かった。
しかし
奇跡が起きた。
何故そうなったのかは分からない。
妹の病状は絶望的だったはずだ。
神様が不幸な妹を見かねて、助けてくれたのだろうか?
妹の病気が治り、一緒に学校に行けるようになったのだ。
私たちは世界一仲のいい姉妹だと少女は思っていた。
少女は妹が大好きだった━━
そう、これはただの夢。
現実は辛すぎて・・・。
少女にはそれを受け入れる程の強さを持ってはいなかった。
少女、美坂香里(087)は疲れ果て、いつのまにか森の中で眠っていた・・・。
【美坂香里(087) 森の中 持ち物果物ナイフ】
【時刻 二日目朝、耕一との戦いの30分後くらい】
>>210 の差し替えです
「ふう…」
一息ついて出発のとき、ふと傍らの死体を見る
この子もきっと普段は明るいいい子だったんだろう。
少し透子に面影が似ていた気がする。
「信念か…」
あんなことを言ったが、自分にも果たしてそんなものがあるのだろうか。
目的のために、簡単に2人も殺した私に。
ただの逃げではないのか。
生き残るための。
わからない。
わからない。
事故に矛盾を抱え、
彼女は朝焼けの海のほうに向かっていった。
そしてそこには
何も残らなかった
【伊吹風子(8)死亡 消滅】
【榊しのぶ(39)装備:ブローニングM1910(残弾0発、予備マガジン一つ)・ナイフ・米軍用レーション
(10食分)・ビスケット類の食料・缶切3つ・12本綴りの紙マッチ3つ小型ガスコンロ】
【定時放送後】
【残り67人】
ウルトリィはすばるよりも先に目覚めた。
すばるは今も横ですやすやと眠っている。
結局適当な場所は見つからず二人は野宿することになったのだが。
(あまり眠れませんでしたわ)
オンカミヤリューの巫女であるウルトリィは当然ながら野宿などしたことはなかった。
ムントがこのことを知ればどれだけ驚くだろう。
心の中で「姫様〜〜〜」と嘆くムントの顔が思い浮かぶ。
(でも、今の状況を考えると仕方ありませんね)
現況ではいつ敵襲があってもおかしくない。
そんな中で無事に朝を迎えることができたのは運に恵まれていたからであろうか。
だが、彼女はこれから悲しい知らせを聞くこととなる。
(そろそろすばるさんを起こさないと……)
もうだいぶ明るいので動き始めたほうが無難だろう。
そう思ったウルトリィがすばるの身体を揺すろうとしたとき……
『諸君、昨晩はよく眠れたか? さて、ここまでの死亡者だが……』
ああ、また多くの人々の命が奪われたのか。
自分の知っている者の名が呼ばれないか恐怖するのはこれで2回目だ。
次々と呼ばれていく犠牲者たちの名。
ウルトリィにはその者たち全員の魂が鎮まるように祈ることしかできなかった。
犠牲者たちの名はまだ続いている。
『……63番、名倉由依。67番、ハクオロ――』
「……え?」
それは唯一の希望の光だと思っていた人の名だった。
『……以上19名、生存者は70名だ。
一日で三十人の大盛況、こちらとしては嬉しい限りである。これからもそのペースを落とさずに殺し合ってもらいたい』
篁の声などもう聞こえていなかった。
ただ、ハクオロの名が呼ばれたことが信じられなくて。
(ハクオロ様っ……)
もう二度と涙は流すまいと思っていたのに。
涙は止まることなく流れ続ける。
泣きたいときに泣けない人はかわいそうな人だと。
そう教えてくれたのは隣で寝ているすばるではなかったか。
(……でも、泣いてばかりいるわけにはいきません)
自分にはまだ最愛の妹であるカミュがいる。
妹を守ることこそが姉としての役目ではないか。
(私、ハクオロ様の分まで生きてみせます)
すばるの描いた似顔絵を大事に抱えて。
ウルトリィは生き残ることを決意した。
【009 ウルトリィ ハクオロの似顔絵】
【086 御影すばる(睡眠中) トンファー, グレネード残り2個, 小さなスケブ, ペン】
【2日目朝、定時放送直後】
>ログ屋氏
51話の見えざる殺し屋のログに不要な文字列が混入しています。
>【アルルゥのバッグはその辺に放置】
また、82話の降りかかる火の粉で名倉由依は死亡しているのですが、タイトル一覧の方で赤文字になっていません。
お手数ですが、修正お願いします。
うわ、誤爆です。
申し訳無い。
決めた筈だった。
約束した筈だった。
弱っていた心を、元に戻してくれた者に。
――『みんなで帰る』と。
現実は、認めたつもりだった。
死者についても、受け入れたつもりだった。
柊勝平。藤林椋。
二人は、死んだ。
もう、いない。戻ってこない。
だけど、少しは前向きになろうと思った。
『あいつ』のためにも、かっこいいとこ見せてやろうと思ってた。
だから、変な耳の奴が来たときも、土下座したい衝動を必死に抑えた。
護ってやらなきゃいけなかったから。
結果、どうにかそいつを退けて、少し悦に浸っていたのに。
これなら、みんなで帰れるかもしれない。
そう思っていたのに。
みんな、と言っても、やっぱり死者は戻ってこない。
例えあの時呼ばれなかった89人全員が生き残っても、他の11人はいない。
それで再び日常に戻れるなどと、虫のいいことは考えてなかった。
それに、残った89人にしても、その中の何人かは死ぬだろうとは思っていた。
なら何故自分は、『みんなで帰ろう』と言ったのか。
何故自分は、『みんな』と言ったのか。
現実的に、それは不可能なのに、何故?
――そんなの決まっていた。
結局、赤の他人の死はそれほど感情的にはなれないから。
名前も知らない奴が死んでも、実感が湧かないから。
つまり――
『みんな』というのは、暗に自分達の知り合いを指していたのだ。
誰かの前でかっこつけても、中身までは変わるわけではない。
でも、それでは『あいつ』に不安がられてしまう。
だからせめて、その中身までは見せるまいと。
みんな――『みんな』で帰れれば、その中身は見せずに済むだろうと。
なのに。
現実は、やはり非常だった。
『諸君、昨晩はよく眠れたか?』
定時放送。
その瞬間も、願っていたのだ。
みんなで帰りたい、と。
定時放送が行われるということは、誰かしら死んでいるということはわかっていたのに。
みんなで帰ることは無理だということぐらいわかっていたのに。
否――わかっていたからこそ。
『みんな』で、帰りたかったのだ。
でも。
それを、聞いてしまった。
『――75番、藤林杏。77番――』
――その瞬間。
希望が、また一つ。
打ち砕かれた。
「…お兄ちゃん?」
――声が、聞こえた。
『あいつ』の声。
『約束した者』の、声だ。
「起きたのか、芽衣」
「うん…なんか音が聞こえて」
「どうだった? 初めての野宿は」
「別に。ちょっと怖かったけど」
「怖い?」
「だって…もし誰か来たら…」
「――その心配はするな。僕が見張ってるんだから」
「うん…」
「まだ寝てていいぞ。名雪さんが起きそうにないし」
「お兄ちゃんこそ。徹夜でしょ?」
「僕は慣れてるからいい」
「でも…」
「余計な心配するなって。僕を誰だと思ってるんだ?」
「…お兄ちゃん、なんか変だよ? どうしたの?」
「別に」
「別にって…」
「とにかく、寝てろって」
振り向きたくなかった。
振り向くことができなかった。
自分のかっこつけで、親友とも呼べる存在に涙を流さないわけにはいかなかったから。
【047 春原芽衣 048 春原陽平 090 水瀬名雪 結局野宿】
【春原、放送を聞く。他の二人は寝ていて聞いていない】
【春原 所有物:トカレフ(残り7発) ニードルガン残弾不明】
【芽衣 所有物:なし】
【名雪のは未だ不明】
【時間:放送直後】
広瀬真希(72)、北川潤(30)、エルルゥ(11)、古川渚(81)の4人が出会ってから約一時間、 一通り自己紹介が終わり和やかとした雰囲気の中、その事件は起こった・・・
「そういえばさあ」
唐突に北川が切り出す。
「ん、なんでしょうか?」
「エルルゥさんの武器は聞いたけど、古川さんの武器って何さ?俺らの武器は・・・・」
そう言ってため息をつく北川、広瀬。惨め過ぎて言葉が出ないようだ。
「そういえば私も見てません。渚さん、見せていただけませんか?」
「そうですね。見てみましょう。」
そうして渚のバッグから出てきた物体を見て、一同は固まった。
「これらってさあ・・」
「ああ・・・・」
「これらは・・何なんですか?」
「ビンに入ったジャム・・・ですか・・・・・でもこんな色のジャム見たこと・・・それに・・ワッフル?」
「何か説明するものは無いの?」
「えっと・・ありました。」
それには
(ただの食料)と書かれていた。
「広瀬よ・・この雰囲気・・・どう思う・・・?」
「なんとなく嫌な予感がするわね・・・・」
「ハハハハハ・・・・」
苦笑いするエルルゥ。そして破局点はやってきた。
「皆さん、食後のデザートにこのお菓子を食べませんか?」
そう提案するゴキ触覚の子。
(北川、何とかしなさい、あんなまがまがしそうな雰囲気を発している食べ物、食べたくないわよ!)
(嫌な予感がします!助けてください・ハクオロさん!)
周りの空気に流されしょうがなく異議を唱えようとする北川。
「あの・・古川さん・・・」
「何ですか、北川さん・・・・」
瞳をうるわせながら上目遣いで北川を見上げる渚、こうなると北川にもはや拒否権は無い。
「いや、何でもない・・一緒に食べようぜ!なっ、広瀬も、エルルゥさんも!」
「この場合私にも拒否権なんで無いんでしょうね・・・」
「うううううう・・・・・」
そしてとどめの一言が言い放たれる。
「あ、ジャムもおいしそうなのでロシアンティーも入れますね。」
そうして台所へと嬉しそうに歩いていくアホな子。
その後にはおもぐるしい空気と
「「「はぁー・・・・・・・・」」」というため息だけが残された。
そして、
「では手を合わせてください。いただきます。」
「「「いただきます・・」」」
そしてデザートタイムが始まった・・・
4人は知らなかった。これから自分たちが何を食そうとしていたかを・・・・・
ジャムは水瀬家住人にとって禁忌とされているジャム、通称謎ジャムであった。
そしてワッフルは大の甘党、里村茜特注の練乳入りワッフルであった。
そうとも知らずにそんな物を食べた彼らの運命は・・・・
「く、何よこの甘さ!?口の中が・・・・・」
「は、早く、茶を・・・・ブフォ!」
「だんだん意識が遠くなってきました・・・・」
「・・・・・・・・・(すでに気絶)」
ある意味青酸カリやテトラ・エチール鉛すらも凌駕する毒物コンボであった・・・・
【持ち物 011エルルゥ 乳鉢セット 薬草類 バッグ】
【持ち物 030北川潤 便座カバー メリケン粉5kg×2】
【持ち物 072広瀬真希 メリケン粉5kg, 『超』『魁』ジッポライター】
【持ち物 081古河渚 謎ジャム、練乳ワッフル】
【状態・・全員昏倒(笑)大体12時ぐらい】
目を、覚ました。
いつの間に寝てしまったのか。
惨劇の場を離れ、それなりに居心地のよさそうなところで、夜を明かそうと決めた。
しかし下手に探知機など持っていたせいで、夜通し表示板を睨む結果になるかと思われた。
実際のところは雨が止んだ時すら知らないのだから、それなりの時間、眠りに入っていたのだろう。
「……ハッ。馬鹿臭ぇな」
邦博は独り笑った。自嘲的な笑い。
だが、どこか清々しくもあった。
(死ぬ時ゃ、死ぬ。それまでは、俺のやりたいようにやる。それが俺のスタンスだろうが?)
思わず笑い声が漏れる。
「ハッハハハ。やるだけやって、駄目なら駄目で、諦めがつくってもんだ。――そうだろがよ?」
台詞の最後を、振り返りながら背後の人物に向けてやった。
「wow……great.。それ、どういう魔法?」
警戒心と好奇心を織り交ぜた表情のまま、立ち上がったのは金髪の女性。
邦博が夜な夜な徘徊した繁華街に溢れる、眉毛の黒い金髪女とはわけが違う。
リサ・ヴィクセンは、正真正銘、生粋のブロンド美人であった。
「ほお。起きがけっから、大した美人のお出ましだな」
「どういたしまして。実は狐に騙されてるのかも?」
リサが小さく笑う。
以前なら、これだけで腹を立てていたかもしれない邦博だが、今は違った。
恵美梨に出会う前よりも、彼女を失う前よりも、そして自分を失い、怒りを募らせた昨晩よりも。
邦博は心のどこかに余裕を持っていた。
「ふん。その狐が、俺になんの用だ?」
「出来れば先に、私の質問に答えてほしいのだけれど。後学のためにもね」
意外と話せる相手と見たのか、軽口を交えつつ、リサが尋ねる。
「いいだろう。今回は教えてやる。だが、俺に指図するのは、それで終わりだ」
リサは肩をすくめた。
「テイシュカンパクってやつ? それとも――」
それとも、ここで殺りあう気?
そんな不穏な言葉が発せられる前に、邦博は言葉を被せた。
「――違ぇ。単に俺がムカつくからだ」
「救われないわよ、それ」
「ヘッ。構わねえよ。俺はな、そういう人間なんだよ」
再び、リサは肩をすくめた。
「いいわ。私の用事を先に言う」
「ほう。なんの心変わりだよ」
「別に。至ってsimple。仲間が、欲しいの」
「ありがちだな」
「そうね。でも、気に入らない奴がいるから。ちょっと倒してやろうと思ってる」
珍しく、真顔だった。
むしろ邦博の顔の方が、ニヤついていたかもしれない。
「そりゃあ、気が合うな。俺も気に入らない奴がいる。ぶっ殺してやろうと思っている」
「フフ。同じじゃないわ。あなたの獲物は兎。大した獲物でもないでしょう?」
既に先ほどの真顔は消えて、再び笑みに本心らしき物は隠されている。
そして、挑発している。
だが邦博にも、それは分かっていた。挑発に乗らないだけの余裕もあった。
(チッ。さっきの狐ってのは、自分のことかよ)
心の中で舌打ちする。
「そうまで言うなら、聞かせろよ。お前の獲物は、なんだって言うんだ?」
片眉を上げて、返事を待つ邦博。
対するリサは、再び笑みを消して、毅然と立っていた。
「私の獲物は――篁。ここに来た時、ホールで偉そうにしていた老人よ」
「……本気、か?」
邦博から見た篁の印象は、主催者のボスである。
あまりに高く、遠い目標だった。考えてみたことすらなかった。
「本気も本気。考えてみて。あなたは他人に指図されるのが嫌い。それなら、なんで――」
「――面白ぇ。いいだろう」
みなまで言わせず、邦博は立ち上がった。
「手を、貸してやってもいいぜ」
鞄を二つ持ち上げて、誘うように歩き出す。
リサも慌てて後を追う。
「だがな。俺は俺の獲物を諦めるつもりはねえ。それが、兎一匹だってな」
またもや、リサは肩をすくめた。
【001 浅見邦博 身体能力増強剤(効果30秒 激しいリバウンド 2回使うと死ぬらしい) レーダー(25mまで) 鞄二つ】
【100 リサ・ヴィクセン 装備:パソコン、草薙の剣】
【一応の共闘ですが、邦博は未だに風子や春秋を許してはいません】
坂上智代は保健室から一階の職員室に戻った。
最初に決めた目標、それは殺し合いに参加していない者達を一人でも多く救う事だった。
だが今、朋也と約束してしまった。
ここで待っていると。待っているから、帰ってきてくれと。
ここでじっとしているだけでは、誰も助ける事などできない。
だから、最初の目標はもう叶わない。
それでも、何かできる事があるのではないのかと、智代は再びパソコンを立ち上げた。
ふと思い立ち、ある名前を探す。
芳野祐介、芳野祐介――。
芳野祐介。どこかで聞いた事があるような気がするが、詳しく知っているわけではなかった。
「あった……」
顔写真が映し出される。
智代はそれを目に焼き付けた。
それから芳野の経歴を見る。
そこに書かれていた経歴は、一人の音楽好きの青年が、夢を求め、一度は音楽界の頂点を極め、そして堕落していった話だった。
いや、そこで終わりではない。
その青年はどん底まで落ちた後、生まれ故郷に戻り、一人の女性と再会し、そしてまた幸せに暮らしていたという。
青年の故郷。
それは智代達が暮らしていた町だった。
あの町――
思い出すと、涙が零れそうになった。
231 :
あの町:04/05/18 22:01 ID:M4F72lbp
芳野祐介は音を立てないように校舎に忍び込んだ。
下駄箱を土足で上がると、何かを踏みつけた感触。足の裏を見ると、画鋲が刺さっていた。
見れば、地面に画鋲がまかれている。
作業着のままだったのが幸いした。安全靴の上からなので、ダメージはない。
だが罠が仕掛けられているという事が、芳野を神経質にさせた。
慎重に行かなくてはいけない。
ふと、一階の廊下に微かに音が響いていた。
カタカタカタカタ。
キーボードを叩く音に似ている。
芳野は口元を歪めた。
さて、どうやって殺すか。
【38 坂上智代 学校の保健室 所持品 CD 鋏 眼鏡】
【98 芳野祐介 腹を満たして学校へ向かう 所持品 手製ブラックジャック*2
ライフル(予備マガジン2つ) サブマシンガン(予備マガジン1つ) ことみの救急箱】
232 :
230:04/05/18 22:02 ID:M4F72lbp
またやった。すみません、>230の題名は>231と同じで。
ミルトは朝霧の中を駈ける。
霧が晴れた時に何があるのかも分からないままに。
『なるようになる』とは助手席の女性の言葉だったろうか?
その意見には賛同しかねる。
『なるようになる』ではいけないのだ。
『そうしたい』と思ったら達成しなくては意味がない。
望むのはマスターである宗一。
私はそれを達成する力だ。
しかし機械の身である私が何かを望んでもいいのなら……たったひとつ……
「黙ってても気が滅入るだけでしょ。おばさんは気にしないで若い者同士仲良くしなさいな」
「あんただって十分若いだろうが……こんな状況でなかったら口説い──いてぇ!」
後ろからゆかりが笑顔で宗一の頬をつねっていた。
「ゆかり……運転中は洒落になってな──」
ゴンッ!
突然シートの背もたれが前方に動き、宗一は額をぶつけた。
『シートが誤作動しました。最近お構いいただいてなかったもので整備不良があったようです』
「……お前もか、ミルト」
そんな様子を見てあたしは笑顔になる。
「女の嫉妬は怖いわよ。ってか浮気性の男はこっちから願い下げるし」
内心ほっとした。
(なんとか空気は変わった見たいね…)
先程の2回目の放送では宗一達の知り合いの名こそ呼ばれはしなかったが、また藤林の性の人間が呼ばれた。
恐らく血縁者か何かなのだろう。
いや……例え知り合いでなかったとしても既に30人近い人間がこの島で命を落としている。
どうしても車内の空気は重くなる。
もっともそのうちの一人の命を奪ったのは他ならぬ自分だ。
それについては言い訳はしない。
ただこう思う。
宗一達を出会わなければ自分の身を守る為に自分も殺す側に回っていたかもしれない。
己を見失わずに済んだのは、目的がはっきりしていた宗一達と行動を共にする事が出来たからか。
(なんか今日のあたしは感傷的ねぇ……)
思考をやめ、中断して再び車内に意識を向けると再びそこには重苦しい沈黙が戻っていた。
「なんでまた黙っちゃうのよ!」
「いや、だって話題ないし…」
本当はない訳じゃない。
ただいつものゆかりとのやり取りを人前でやるとなるとさすがの宗一でも躊躇する。
だからといって美佐枝に話を振れば、ミルトとゆかり2人かがリの挟撃が待ち受けているのだ。
この状況下での任務(黙らない事)はさしものナスティボーイでも至難の業だ。
ここは慎重に行かねばならない。
(さて、どうしたもんか…)
宗一君が困っている。
ここは専属ナビゲーター志望の私がフォローしないと!
……でも何を話したらいいんだろう?
えっと、そうだ!
「願い事…」
「願い事?」
相良さんが鸚鵡返しする。
「みんな何を願うんでしょうね…」
しまった! 逆に空気が重くなった!
ど、どうしよう……
「篁を倒す。出来るだけ早くに」
さすが宗一君。ナイスフォロー!
……ってあれ? 何時の間にか立場が逆転してる?
「さっさと帰って猫を抱いて寝たい。それくらいかな…」
相良さんは予想通り現実的というかなんというか……
「あんたはどうなの? やっぱりこいつと結婚?」
「え゛っ!?」
そうくるとは少し予想外だった。
思わず声が上擦ちゃった。
いけない、いけない。ナビゲーターたるもの常に冷静であれ。
「そりゃいつかは……とは思いますけど……」
ああああああああああああああああああああ!
私は宗一君の前でなんて事を言ってるんだろう!
早く弁解しないと……いや、しなくてもいいのかな?
私の願い。
それはマスターへの裏切りになるのかもしれない。
……例えそうだったとしても。
ミルトの速度が緩やかに落ちて停止する。
『マスター、すいません。燃料切れです』
「……は? 待て、確かに一日中走り続けてたけどさ、そのくらいでお前の燃料が切れる訳が…」
その通りです。
やはりあなたは私の事を一番よく知っているし、よく見ている。
でもだからこそ……私がマスターだと認めた人だからこそ、こうしなくてはいけない。
ドアを開け、車体を急発進、急旋回。
荷物ごと中に居る人間を車外に排出する。
「おい! ミルト! 一体なんのつもりだ!」
マスターの正面に向き直る。
我ながら器用なものだ。
『お別れです。御武運を、ナスティボーイ』
その言葉を最後に私は再び走り出す。
私は力。
マスターの目標を達成する為の力。
ならば枷になってはいけない。
「あいつ、一体なんの……!」
怒りを隠せない宗一だったが
「宗一君、これ……」
ゆかりの差し出したミルトの操作説明書を見て絶句する。
それには車としての操作方法以外に、罠としての使用方法が記されていた。
(エンジンをはじめ、10箇所に爆弾!? 爆発時間は起動してから24時間後……)
その紙を知らず知らずのうちに宗一は握りつぶした。
「あの馬鹿……!」
車体に仕掛けられた爆弾の爆発まで残された時間はあまりない。
最後まで最高のエージェント、ナスティボーイの相棒としていたい。
それが私のささやかな願い。
全速力で最初の場所……中央ホールに向かう。
どうせ散る運命ならば願わくば主催者を道連れに。
【040 相良美佐枝 装備:ゾリオン(使用回数4回)、電池一個】
【065 那須宗一 装備:長弓、矢30隻】
【078 伏見ゆかり 装備:なし】
【ミルト 中央ホールへ 仕掛けられた爆弾爆発まで僅か】
伏見修二の遺体を発見するまで、それほど時間がかからなかった。
「………ホントに死んだのね」
ぽつり、と宮路沙耶(94)が呟いた。
あれから、歩き始めて数十分したところで、青年の遺体を発見した。腹部に刺された跡が残っている。死体はすっかり冷たくなっており、命の鼓動は感じられない。
「……」
木田時紀(31)は、黙ってその姿を見つめた。神尾観鈴(23)は、初めて見た死体に動揺し、時紀の背中に隠れている。
(…チッ)
正直、自分も動揺している。死体なんて生まれて始めて見た。だが、後ろではもっと動揺している女が居る。自分があたふたするわけには行かない。
「おい…」
振り返り、こっそり観鈴に話しかける。
「…少し席を外すぞ」
観鈴は、ちらり沙耶を見た後
「うん」
と、小さく頷いた。
「…馬鹿」
沙耶は修二の遺体を前に跪く。そっと、顔を撫でた。もうすぐ夜になる。気温が下がっているのもあるが、ぞっとするほど冷たかった。
「あっさり、死んで…」
冷たくなった手を握る。
「馬鹿じゃないの…!」
胸に顔を埋めて、押し殺した声で泣いた。
「馬鹿じゃないの!」
震える声で、再びそう呟いた。
「…ねぇ、時紀さん」
遺体のある場所から少し離れた木の麓に、二人は座っていた。
「あ? 何だよ?」
めんどくさそうに返事をする。
「…あの男の人、沙耶さんの恋人かな?」
「………さぁな」
目を合わせずに、そう返事をした。これは、他人が踏み込んでは行けない事と思った。彼の死体を見つけたときの、沙耶の表情からはさまざまな感情が伺えた。自分なんかでは理解できないような複雑な。
「………どうして死んじゃったのかな?」
「殺されたんだろ? 当たり前だろうが」
少し、苛立ちを含めて、そう言った。
「…どうして、殺されちゃったのかな?」
「…ば」
馬鹿、とは言え無かった。観鈴の声が、深い悲しみをたたえていたからだ。
「……何で、酷いよ」
観鈴の声は震えていた。
(泣いているのか? こいつ?)
時紀には理解できなかった。言葉を交わしたこともない、会ったこともない人間のために少女は涙をこぼす。
同情もする。哀れみも感じる。だが、涙は出ない。所詮、他人なのだ。このゲームに巻き込まれた以上、死人が出るのは当然なのだ。
「えぐっ…酷いよ…」
それでも少女は涙をこぼす。会ったことのない誰か。誰かにとって大切な誰かのために、その人の分まで涙をこぼす。
「……チッ」
時紀は、黙ってハンカチを差し出した。柄ではないが、五月蠅い妹が持ち歩くように口を酸っぱくして言うからだ。
(…確かに、役に立ったな)
心の中で、妹に―――皮肉にも、もう死んで居るが―――礼を言う。
「…ありがとう、時紀さん」
隣では、観鈴がまだ涙を流している。
(…今夜はこの辺で野宿になりそうだな)
そう思考を巡らせて、時紀は天を仰いだ。
【木田時紀(31) 神尾観鈴(23) 宮路沙耶(94):伏見修二の死体を発見】
【時刻は夜】
【所持品 木田時紀:鎌】
【所持品 宮地沙耶:南部十四式拳銃(残弾残り9)】
【所持品 神尾観鈴:けろぴーのぬいぐるみ】
241 :
あの町:04/05/18 22:52 ID:M4F72lbp
坂上智代は保健室から一階の職員室に戻った。
(朋也には朋也の、そして私には私のやるべき事がある)
最初に決めた目標、それは殺し合いに参加していない者達を一人でも多く救う事だった。
そのためには、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。
智代は再びパソコンを立ち上げた。
ふと思い立ち、ある名前を探す。
芳野祐介、芳野祐介――。
芳野祐介。どこかで聞いた事があるような気がするが、詳しく知っているわけではなかった。
「あった……」
顔写真が映し出される。
智代はそれを目に焼き付けた。
それから芳野の経歴を見る。
そこに書かれていた経歴は、一人の音楽好きの青年が、夢を求め、一度は音楽界の頂点を極め、そして堕落していった話だった。
いや、そこで終わりではない。
その青年はどん底まで落ちた後、生まれ故郷に戻り、一人の女性と再会し、そしてまた幸せに暮らしていたという。
青年の故郷。
それは智代達が暮らしていた町だった。
あの町――
思い出すと、涙が零れそうになった。
242 :
あの町:04/05/18 22:52 ID:M4F72lbp
芳野祐介は音を立てないように校舎に忍び込んだ。
下駄箱を土足で上がると、何かを踏みつけた感触。足の裏を見ると、画鋲が刺さっていた。
見れば、地面に画鋲がまかれている。
作業着のままだったのが幸いした。安全靴の上からなので、ダメージはない。
だが罠が仕掛けられているという事が、芳野を神経質にさせた。
慎重に行かなくてはいけない。
ふと、一階の廊下に微かに音が響いていた。
カタカタカタカタ。
キーボードを叩く音に似ている。
芳野は口元を歪めた。
さて、どうやって殺すか。
【38 坂上智代 学校の保健室 所持品 CD 鋏 眼鏡】
【98 芳野祐介 腹を満たして学校へ向かう 所持品 手製ブラックジャック*2
ライフル(予備マガジン2つ) サブマシンガン(予備マガジン1つ) ことみの救急箱】
すみません、これを230‐231と差し替えてください。
「さて、どないしよ?」
「どうしましょう?」
ホールへ向かうと決めてから約3,40分。
二人はようやくホールへと辿り着き、近くの草むらから様子を窺っていた。
……手は依然ガッチリ繋がれたままで。
「パッと見た感じ人の気配は無いようやけど、微妙なところやな」
ホールの入り口は正面に一つ。
窓が幾つかあるが、どれも高い位置に備え付けられており、中を窺い知ることは出来ない。
爆発物やガス類でも使われない限りは、攻め難く、守り易い建物と言えるだろう。
そして問題がもう一つ。
「ここを突っ切る、っていうのはちょっと……」
ホールと森との間には10mほどの空隙がある。
身を隠すものの無い、狙い撃ちの恐怖。
この空隙が、二人を未だ森に押し止めていた。
「う〜〜ん……」
「う〜〜ん……」
二人は頭を抱えていた。
片手で。
「この機関銃をラ○ボーよろしく乱射しながら、入り口に向かって突撃する、っちゅうんはどうや?」
「駄目です。もし誰も居なかった場合、弾が勿体無さ過ぎます」
「ほなら、明日菜ちゃんが、おいしいケーキはいかがですか〜?とかなんとか言いながらそのケーキを持って歩いていくっちゅうんわ?」
「………」
「ジョークやがな。そんな怖い目で見なや」
「ラン○ーとか、ケーキとか、バカなことばっかり言ってないで、ちょっとは真面目に打開策を考えてくださいよ。とは言え」
使えるものが無さ過ぎる。
「ううぅ〜〜ん……」
「ううぅ〜〜ん……」
二人はまだ頭を抱えていた。
勿論、片手で。
「だあああああああああああああ!」
「うわっ、どうしたんですか!?」
「もうええのんじゃあ!」
ブン!とついに晴子が手を振り解く。
「ウチは決めたで」
「なっ!?」
がしゃり、と銃を構える。
ブッコム
「特攻」
「はぁ!?」
「もうこうなったら特攻しかないで!?」
「ちょっと!落ち着いてください!今までの話を全部無かったことにするつもりですか!?」
「アカン!止めても無駄やでっ!だってな……」
「もうええかげん飽きたんじゃあ!」
ここへ辿り着いてからすでに30分は経っている。
正直、手持ちの道具でできそうなことは出尽くした気もする。
「大体な、ここでごちゃごちゃうじうじいつまでも考えとって、ほんまにええ案が浮かぶと思うんか?」
「それは……」
「な?」
確かに、ここで無い頭と道具を捏ね繰り回したところで妙案が出てくるとは思えない。
「と、いうこっちゃ」
「いや、確かに晴子さんの言い分もわかりますけど、もう少し冷静に…」
「ふははははは!今のウチは大統領だってブン殴れるでー!でも、飛行機だけは堪忍やでー」
晴子さん、やる気です。
「あー、ちょっと!もうちょっとだけ考えましょ!ね!?」
「Aチィィィムゥゥゥゥゥゥ!」
「うわっ、走ったっ!」
ついにブチ切れて走り出す晴子。追う明日菜。
「オラオラー!邪魔するやーつは指先ひーとーつでー蜂の巣やでぇぇぇぇ!」
「駄目です!危ないですってば!」
「タマとったらああああああ!」
たかが10m、されど10m。
長い長い10mを全力疾走し、なんとかホールへ辿り着く。
「ゴールッ!」
「わあああああ!」
「タカムラ覚悟ぉぉぉ!」
ビュンッ!
ベコンッ!
「へぶぉあっ!」
「晴子さんっ!?」
先行して突っ込んでいた晴子の顔に、何かがぶち当たる。
「それ以上近づかないでください!」
「誰ッ!?」
辿り着いたホールの中、其処には先客が居た。
【068 葉月真帆 ラクロスのユニフォーム&スティック&ボール2つ(一つは晴子にぶち当てた)】
【013 大庭詠美 護身用スタンガン】
【002 麻生明日菜 ナイフ ケーキ】
【022 神尾晴子 千枚通し マイクロUZI(残弾80)】
【二人は最初のホールに到着】
【真帆、詠美ペアと、明日菜、晴子ペアが出会う】
【時刻は夜7時ごろ】
「ねえ〜トンヌラぁ、ホントにここ誰かいるの?」
「ヴォフ」
「何でそんなことわかるのよ…あっ、野生の勘ってやつ?」
「ヴォフ♪」
微妙に会話が成り立っている一人と一匹。
トンヌラは皐月を背に乗せ校内を歩いていた。
「モフ!?」
トンヌラの足が止まった。足元の何かを凝視する。
「なになに……これ画鋲? しかもこんなにたくさん…」
画鋲――智代が仕掛けた簡易なトラップ。
「これ…誰かが仕掛けた罠ね…。と、いうことはやっぱり誰かいるのね」
「ヴォフヴォフ〜♪」
自分の野生の勘が当たったのか妙に嬉しそうなトンヌラ。
「誰かいませんか〜、と言いたいけど誰がいるかわからない以上うかつに声は出せないもんね」
学校内にいる人物が皐月に対して友好的とは限らない。出会った瞬間襲い掛かる者が何人いるかわからない。
そんな状況で声を出すのは極めて危険だ。
その時だった。
カタカタカタカタ……。
「ヴォ!?」
「どうしたの! トンヌラ」
耳を立て警戒のポーズを取るトンヌラ。
カタカタカタカタ……
「聞こえたっ! これは…キーボードを叩く音!?」
昔取った杵柄と言うべきものか。
泥棒家業のおかげで皐月は小さな音にも敏感だった。
「誰かいるのは確かみたいね…トンヌラっ方角はわかる?」
「ヴォフ!」
目の前の廊下の曲がり角の向こう。
智代がいる職員室。
湯浅皐月。
坂上智代。
芳野祐介。
――役者が揃い舞台は完成する。あとは開演時間を待つのみ。
――三人の物語の結末やいかに。
【095 湯浅皐月 トンヌラ騎乗中 角を曲がれば芳野と接触】
【038 坂上智代 所持品 CD 鋏 眼鏡】
【098 芳野祐介 所持品 手製ブラックジャック*2
ライフル(予備マガジン2つ) サブマシンガン(予備マガジン1つ) ことみの救急箱 皐月の存在には気付かず】
「瑠璃子さん…… 瑠璃子さん……」
暗い、暗い森から、雨音と供に声が聞こえる。
僕、長瀬祐介の声だ。
ここは昨日襲撃した家の直ぐ近くにある木の下。
目の前には血まみれの女の子が一人。
彼女の顔は蒼白、何より右肘より先が……
ベルトやシャツで懸命に傷口を縛ってみたものの、出血は弱まるだけで止まらない。
僕に出来ることは一つ。彼女の名前をひたすら呼び続ける、ただそれだけ。
今更のように気づく。
何て……僕は無力な存在なのだろう――
あれから何時間経ったのだろう。何時の間にか雨は止みうっすらと光が射している。
「……が…せちゃ……」
微かに彼女、瑠璃子さんが口を開く。
なんだい、と僕は声を聞き漏らさぬよう口元に耳を近づけるが、
『諸君、昨晩はよく眠れたか?……』
それとほぼ同時に何処からか放送が響いてくる。
うるさい、邪魔だ。
瑠璃子さんの声が…… もしかしたら最後になるかもしれない声が聞こえないじゃないか!
頼むから……黙っててくれ!!
「放送…あったんでしょ、ねぇ」
芽衣は不安げに陽平へと尋ねる、名雪は未だに陽平の背中で寝息を立てつづけている。
「だれも死んじゃいない、大丈夫だ」
少し心が痛んだが、不安がらせるよりはいい。
「でも…名雪さん、大丈夫かな…いくら起こしても起きないって、ちょっと変じゃない?」
「そうだな」
あれからずっと名雪は眠りつづけている、確かに少し変だ。
「ねぇ…あれみてよ」
芽衣が指差した先にあったもの…。
「マジかよ、畜生!」
そこには何軒かの家が建っていたのだ、それは自分たちが野宿をしたポイントから、
歩いて僅か15分程度の場所だった。
「かーっ、なんか腹立つな」
足元の石を蹴り飛ばす陽平、それを笑顔でなだめる芽衣
「まま、折角休めるんだし」
「ま、そういやそうだな」
背中で眠りつづける名雪も心配だったが、突然の雨で濡れた制服も乾かしておきたいし、
ここらで腰を落ちつけるのもいいだろう。
「じゃ、適当な家で朝メシと行くか!」
「さてと、朝メシ朝メシっと」
ガスと電気・水道が生きていることを確認し、満足げに頷く陽平。
その向こうでは洗濯機の回る音が聞こえる。
Tシャツにトランクス1枚、腰にバスタオル姿のラフなスタイルで冷蔵庫を開ける陽平だったが。
「やっぱそこまで上手くはいかないよな」
期待に反して冷蔵庫にはほとんど何も入ってなかった、あったのは賞味期限があやしい卵のパックのみだ。
「ま、火通せば大丈夫だろ」
陽平はコンロに火を入れると早速朝食を作り始めた。
その頃。
「2人…ですか」
隣の家から不穏な呟きが漏れる、そこにいたのは充電を終えたばかりのセリオだった
彼女の目に映るのは、流し場で洗濯をしてる少女と、台所で目玉焼きを作っている少年の姿。
セリオは無言でそっと勝手口へと回った。
「お兄ちゃん、洗濯終わったよ」
乾燥機から出したてホカホカの制服をダイニングの床にばふっと放り投げる芽衣
彼女も兄同様下着姿かと思いきや、どこから見つけてきたのか
彼女は無地のトレーナーにスカートというスタイルだった。
「お兄ちゃんもここの服着ればいいのに」
「男がスカートなんてはけるか、っとこっちも完成だ」
陽平は目玉焼きとスクランブルエッグとゆで卵を皿に盛りつける、そ
して芽衣が二階のベッドで未だ眠っている名雪をもう1度起こそうとしたその時だった。
陽平の背後で音も無く勝手口のドアが開く、振り向く間も無かった。
ぱん
妹の目前、背中から血を流し倒れる兄、そしてその背後には少女の姿をした死神が立っていた。
「…っ…っ」
突然の悲劇に悲鳴も上げられない芽衣、その目の前には苦痛にのたうつ陽平。
弾丸は陽平の背中から腹部を貫通していた。
自らの血の海に染まりながらも、陽平はテーブルの上のバッグに手を伸ばそうとする。
だが、それよりもセリオの方が早い、銃声と同時に陽平の左肩に穴があく。
そしてセリオは未だに棒立ち状態の芽衣に向けて銃口を向ける、その時だった。
その瞬間、信じられないような挙動で立ちあがった陽平がセリオへと踊りかかる。
そして芽衣の呪縛が解けた。
「逃げろ…逃げるんだ!芽衣」
「やだよ…お兄ちゃんを置いてなんかいけないよ」
どすんばたんともみ合いながら必死で声を絞り出す陽平。
「行くんだ…お兄ちゃんの…これが」
そこから先は出来る事なら言いたくはなかった、だがいわなければならない、その時が来たのだ。
「最後のお願いだ」
その言葉を聞いて、芽衣の目から涙が溢れ出す。
「さあ行け!俺の…お兄ちゃんの死を無駄にするな!!」
芽衣はさらに数回いやいやをしたが…やがて涙ながらに玄関へと走り去る。
そしてそれをやっとのことで陽平を振りほどいたセリオが追おうとするが。
「いかせねぇ…ぜ」
陽平が不敵に呟く、その手にはニードルガンがあった。
針がセリオの足元に突き立つ、これでもう相手は歩けない…しかし
「…なんでだよ」
「脚部の人造皮膚コーティングの剥離を確認…ですが」
セリオはテーブルの上に戦利品を並べていく。
「デザートイーグル…それからニードルガンに包丁、なかなかの収穫です」
血の海となったキッチンで武器の確認をするセリオ、その視線がダイニングに放り出されている衣類に向けられる。
「これは好都合です、制服が血で汚れてしまいましたので」
セリオは早速返り血に塗れた自分の制服を芽衣の制服と取り変え始めた。
そして芽衣だったが…
「どうしよう…」
彼女は大事な忘れ物をしている事に気がついていた、だがそれを取り戻すために戻る勇気はなかった。
「ごめんなさい…」
芽衣は心の中で謝りながらひたすら逃げつづけた。
「?」
勝手口を1歩出たセリオ、その矢先、足元に転がる物体を怪訝そうに見つめる。
それは無念の表情で非業の死を遂げた春原陽平の生首だった、そう彼は中華包丁によって
一撃でその首を刎ねられたのだった。
セリオはそれを拾い上げてしばらく観察していたが、やがて飽きたのかそれを空へと投げ捨てる。
それは半ば開け放たれた2階の窓へ吸いこまれるように入っていく。
そしてそれにはもう構わず、セリオもまた何処かへと消えていった。
そしてその2階には、
「くーっくーっ」
未だに寝息を立てつづける大事な忘れ物こと水瀬名雪がおり、
その枕元には投げこまれた陽平の生首が鎮座しているのであった。
「……、……」
瑠璃子さんはぱくぱくと口を動かしている。
雑音が流れているせいで(おそらく流れていなくても同じだっただろうが)
殆ど意味は判らない。
僕は出来るだけ笑顔を保ちながらうんうんと頷く。
その度に瑠璃子さんは嬉しそうな顔をする。
なんとなく、今はそれだけで楽しかった。
そんな事を何度繰り返しただろうか、
ふと視線を逸らすと瑠璃子さんは左手を上げてる。
ああ、そうか。
僕は瑠璃子さんの意図を察し左手を伸ばす。
そして、二人はそのまま小指を重ね合わせた。
ゆーびきーりげんまんうそついたーらはりせんぼんとーす、ゆびきった。
「ながせ……ゃん……って」
最後に、しっかりと僕の目を見ながら、瑠璃子さんは息絶えた。
「それじゃ少しの間待っててね。必ず……生き返らせてあげるから」
装備を整え、僕は背後で眠っている瑠璃子さんに話しかける。
おそらくこれがこの島で人と交わす最後の会話になるだろう。
瑠璃子さんも、月島先輩も、太田さんも、もういない。
この島で僕は――本当にひとりぼっちになってしまったのだから。
【057 月島瑠璃子 死亡】
【062 長瀬祐介 所持品 火炎放射器 (砲身に損傷・燃料は8割強), ジグ・ザウエルショート9mm(残弾1発), 果物ナイフ】
【定時放送より30分程経過】
(文中のデザートイーグルはトカレフの間違いです)
【セリオ 所有物: トカレフ(残り7発) ニードルガン(残弾不明) 中華包丁 コルト25】
【春原芽衣 所有物:なし】
【水瀬名雪 所有物:不明】
【春原陽平 死亡】
【残り66名】
>>255と
>>256の間に挿入お願いします
セリオはまるでそれがどうかしたのかといわんばかりに、陽平へと振り帰る。
針が突き立った個所から、金属質の何かが覗いていた。
(ロボット!?)
ニードルガンは殺傷ではなく痛みで相手の抵抗力を失わせるのが目的の武器だ、
したがって痛覚の無い機械相手に使っても無駄以外の何物でもなかったのだった。
セリオはゆっくりと陽平へと近づき、その足元に転がっていた中華包丁を拾い上げる。
もう陽平は何もすることができなかった、ただ心の中で…
(ごめんな…やくそく、だめだった)
妹と無事とそして詫びの言葉を呟くことしか彼には出来なかった、そして中華包丁を振りかぶるセリオ
それが春原陽平の最後の風景となった。
「外が騒がしいな」
この殺戮ゲームの主催者、篁が一人嘲り笑う。
ホールは青白い光に包まれていた。そして篁も。
スタート地点近くの中央ホール。今晴子達がいるホールのすぐ近くのホール。
今篁は、そこに護衛もなく一人で佇んでいた。
すごい自信。恐らく因縁浅からぬ那須宗一を筆頭に、何人もの人間が一番に恨みを抱いているであろう、
たとえゲームに乗った人間でも、まともな思考を残している者であれば真っ先に殺されてもおかしくはない篁が、だ。
だが、ただ佇んでいるだけのその老人は素人が見てもまったくスキがなかった。
ラストリゾート。知るものは知っているであろう。
篁エネルギーの最高傑作ともいえるソレは、まさに夢のディフェンスシステムだった。
剣も銃弾も通さない。頼れるのは己が肉体のみ。
青い光に包まれた篁は、まさにそのラストリゾートの力によって、半無敵であった。
だが、齢80にも及ぶはずの老体である篁。肉体的な力は少し力のある大の男であれば簡単に倒せる……と思うのが普通だ。
だが、見る者は誰もがそうはとらなかった。
どうみても見た目は齢50そこそこの顔。肉体的には瑞々しい壮年のそれだった。
そして、一番目をひくのはその鋭い眼光。この男の前では、余程精神力の強さに長けた者でなければ、
誰もが蛇に睨まれた蛙となるだろう。
精神力が高い人間は、逆にこう思うかもしれない。
この男はもう人間じゃない と。
突如、篁以外に人の気配がした。
「醍醐か」
「はっ」
醍醐と呼ばれた男もまた、那須宗一やリサ=ヴィクセンとは何かと縁の深い男だった。
宗一らエージェント仲間では「狂犬・醍醐」と呼ばれている傭兵隊長。
蔑称として「吊られた男(ハングドマン)」などという者もいたが――それはすべて宗一のせいなのであるが、それはまた別の話だ。
「目障りな犬共が嗅ぎまわってるようですが……」
消しますか?と醍醐は篁に指示を仰ぐ。
「捨て置け。攻め込んできたら、軽くあしらって丁重にゲームに送り返せばよい」
「それがクソガキ――いえ、那須宗一でも?」
醍醐が、宗一と闘いたがってるのは篁も知ってはいた。だが、篁は鼻で笑って。
「ならぬ」
「……。御意」
苦虫を噛み潰したような表情ではあったが、その場で片膝をついて頭を下げる。大した忠犬だった。
狂犬と呼ばれた醍醐でも、この男の前では従順な犬と化す。
「クソ――いや、あの男が殺し合いに参加するとは思えませぬが」
だが、やはり完全にはあきらめきれないのだろう。主人に向かって食い下がる。
「それも一興よ。いろんな生き様の人間がいてこそ、華がある」
篁は宗一の顔を思い浮かべる。かつては一度、形の上では不覚をとった最強のエージェント。
――実際には、篁は敗れたなどとは露ほどにも思ってはいなかったし、
篁の目的を考えれば、むしろ篁の勝利といえるのだが、それもまたこのゲームとは関係ない別の話だ――
(どこまでも抗ってみせよ、那須の宗一)
篁は、それさえも楽しんでいた。
「もう一つ」
醍醐が、笑う。
「女に振られたか、宗一よ」
そう言って篁が嘲う。醍醐も同じように顔を歪めた。報告するまでもなく、それらを知っているようだった。
「『ソレ』はどうやら、こちらへ――」
「ククク、ハハハ――」
篁が高笑いで返す。奴等はどこまで楽しませてくれるのか。
「潰せ」
「ハッ!」
【篁、醍醐 現在地スタート地点のホール ラストリゾート起動中】
※今の所、主催側は基本的に参加者を殺害しません。
(と言っても、一応、何かの事故とかなら話は別としとく。これは参加者同士の殺し合いの話だが、決め付けはよくないので)
―――さて、問題が出来たな。
芳野祐介は思わず手に取った煙草をしげしげと見つめながら一本取り出すと、
同じく箱の中に仕舞われていたライターを取り出し火をつけた。ずいぶん久し
ぶりの喫煙になったものだ、そう思うと不思議と笑みが零れた。持ち主は既に
ここにはいないようだ、まだ5本残っていたわけだが、どうせ戻ってくること
もないだろうし自分がもらっても問題ないだろう、祐介はそういうことでその
煙草をまるごと拝借した。
職員室はがらんとしている。かつては沢山の教師や生徒がここに集っていた
のだろうに、ずいぶんと変わり果てたものだと感じる。別に誰かに荒らされた
わけでもないし、何か災害があったわけでもない。それでも思う。この荒涼さ
は―――既に終わってしまったところの空気だ、と。
くゆる紫煙を戯れに手で手繰り寄せる、だがそんなものは簡単に手の中から
抜け出てしまった、残るものなど何もない。
下には、敵がいる。
予想外の来敵に思わず衝撃を覚えた祐介は階段を上がってヤツらから距離を
置こうとした。ああ、自分以外は全て敵だから、来敵という言葉に誤用は無い。
とにかく、いきなりあんなものを見たら驚かずにはいれない。小熊か何かは知
らないが、あれをまともに相手にしていてはこちらがやられてしまうだろうと
いう予感があった。
「…………いや、そもそも動物なのか、あれは」
少なくとも、自分の智識の範囲内ではない。まさかあれも参加者なのだろう
か。あれの名前が実は芳野祐介だったとしても、どうしてそれを否定すること
ができるのだろうか。そんなトリッキーな仕掛けがあったとしても、どうせ本
質には変わりない。殺すか、殺されるか。
煙草を二本の指で弄びながら無言で職員室の奥に入っていくと、祐介はある
ものに目をつけた。
「ガス給湯器……か」
祐介はつまみを試しにいじってみる、すると問題なく給湯器は機能した。思
ったより音がでかいのですぐにつまみを元に戻す。
「…………」
祐介は元栓を目だけで探索する、がどうも棚が邪魔になってその場所まで見
えない。面倒くさくなって、煙草を持っていない方の手で給湯器の差込口付近
から無理やり線を引っこ抜いた。すると案の定ガスがシュウシュウと音を出し
て漏れ出してきた。
片手にもった煙草にはまだ火が生きている。ここで自爆してしまっては元も
子もないので祐介はそれを握りつぶした。
二階にこれが通っているということは、恐らく一階も同じものがついている
のだろう。机や本棚の位置は違っていても、こういった機材の配置は同じよう
なところにせねばなるまい。
(どうでもいいが……学校でガスは危ないと思うぞ)
場違い過ぎたので口には出なかった。何せ、それを利用しようとしている人
間が正に自分なのだから。
煙草を拝借した机は入り口側だ、といっても入り口は二箇所あるので、遠い
方の入り口ということになる。祐介はそこまで戻ると次の襲撃の算段を立て始
める。策は二重に三重に、幸運にもこちらにはそれなりの武器があるのだから。
「……そうだな、獣は無視して、女の子だけやるか」
目の前に立てかけた狙撃銃を見ながら、そんなことを思いついた。
電気工事屋の仕事についていたことは幸運だった。昔の俺なら、こんな重装
備など持ち歩けようはずも無かったから。歌うことしか知らないで、自分しか
見えないで、生きていくことのつらさも気づかないで、ただ一つのことしかや
っていなかった、そんな俺なら。……それを、懐かしいと思うのは感傷だろう
か。そんな青春が、もう今や、取り戻せなくなってしまったことが、ありあり
と感じられる。
銃を担ぐと、そのまま窓際へと移動する。そして再び近くにライフルを置き
なおすと、音を立てないように窓を開いた。
「思えば、遠くまで来たものだ」
誰知らず、祐介はそんなことを呟いていた。
【098 芳野祐介 所持品 手製ブラックジャック*2
ライフル(予備マガジン2つ) サブマシンガン(予備マガジン1つ) ことみの救急箱 煙草(残り5本)とライター】
【現在地は二階職員室、一階職員室直上】
【皐月の存在には気づいている】
【一階に誰かいることには気づいているが、智代だとは知らない】
【皐月は芳野に気づいていない】
267 :
呼吸:04/05/19 00:29 ID:IZfNZ15I
目の前を川が流れている。
小さく、音を立てて川を流れている。
「……」
ゲンジマル(35)は川に釣り糸を垂らしていた。いや、正確には釣り糸ではない。自分の衣服の袖を破り、糸を解き捻り会わせた物だ。竿は、小さな竹を削った物。浮きは木の枝そして、
光岡と別れた後、結局そのままその場所で一夜を過ごした。目を覚まし、体をほぐしていると、定時放送が聞こえた。
「ハクオロ殿……トウカ殿………ユズハ…確かオボロ殿の妹だな」
共に戦ったことは昨日のように思い出される。しかし、ハクオロが誰かに殺されるとは全くの予想外だった。
「…無事でいて下され」
心の中に、自分の主君の顔が浮かぶ。心がざわめく。
「…落ち着け」
そして、呼吸を整えるために、現在は釣り糸を垂らしている。食料の調達という目的ではない。
「………」
川の中に垂らされた針に全神経を集中させる。エサはミミズ。墓を掘ったときに取った物だ。針はダーツの針を取り、曲げた物だ。だが、それには「返し」が付いていない。
「……ふぅ」
息を小さく吐いた。その時、浮きが上下する。
(まだだ)
魚の呼吸を感じ取る。手に握られた竿に全神経を集中させる。
(フッ!)
浮きが沈んだ瞬間、完璧なタイミングで竿を弾いた。竿には、大振りなヤマメがかかっている。
「…感覚までは奪われなかったようだ」
自分の手を握りしめる。エヴェンクルガとしての自分の力が大分押さえられているのは痛烈に実感している。
「この様子では、他の者達も…」
能力を押さえられ、苦心していることだろう。
268 :
呼吸:04/05/19 00:36 ID:IZfNZ15I
「日が、昇ってきたか」
魚を腹に入れた後―――火は使えなかったが―――しばらくは、ダーツをいろいろといじっていた。
「……よし」
大分時間を費やし、大分手に馴染んできた。多少なりと、弓の心得があったのが幸いしたのだろう。
視線を横に向ける。10メートル先の木に一匹の羽虫が留まっていた。
「コォォォォ…」
呼吸を合わせる。木の呼吸を感じる。草の呼吸を感じる。虫の呼吸を感じる。武芸者として、極限までに研ぎ澄まされた「集中力」が辺りの呼吸を感じ取る。武人の境地の1つであり「心眼」と呼ばれる場合もある。
「………」
虫を見る。呼吸を合わせる。世界には、自分、そして虫のみ。それ以外に何もなく、ただそれだけだ。
「…シッ!」
短い気合いの言葉と共にダーツが投げられる。恐ろしいほどの速度で飛んでいったダーツは、羽虫の羽を一部吹き飛ばし、木の幹に刺さった。羽を損傷しながらも、虫は空へ飛び立っていった。
「…まだまだか」
呼吸を落ち着け、今投げたダーツを回収する。そして、荷物をまとめて歩き出した。
【ゲンジマル ダーツの訓練。ある程度は使えるようになった。クーヤの創作を開始する】
【所持品:ダーツ(残り6本)、手製の釣り道具、ミミズ(後2匹)、針のないダーツ】
【朝(放送終了)】
>266
×【皐月は芳野に気づいていない】
○【皐月も芳野の存在自体には気付いている】
270 :
狂炎:04/05/19 01:20 ID:Zc4yG4U6
「中々見つからないものですね…」
一人殺し終えたセリオは、次なる獲物を求めてさ迷っていた。
その姿は堂々として、はっきりいって無防備そのものだった。
当然のことで、戦闘データの無いセリオは腕力その他はまだしも、行動自体は無力な一般人のそれと変わらないのだ。
いや、単なる一般人よりもむしろ悪い、と言っていい。
セリオはサテライトシステムその他諸々の機能を付けた結果、感情という一要素が著しく乏しい。
自分で思考する、ということが成し難いのだ。
よって、サテライトシステムによるデータの収集が無いセリオは自分の機体運営以外について、ちぐはぐな行動しか取れない上に、それを自覚するだけの感性も持たないのだ。
よって、
ドンッ!
凶弾を胸に食らって倒れたのは、仕方の無い事だった。
そして、セリオにとって不幸だったのは、セリオを撃った男は、弾丸が相手に当たったぐらいで満足できない精神状況にいたことだ。
ダッ
ダッ
ダッ
と、駆け足で長瀬祐介はセリオの倒れた場所に到達した。
何のためらいも無く、火炎放射器でセリオの体を燃やした。
表皮はすぐに燃え、基本的に精密機械であるセリオはすぐに活動を止めた。
燃えればいい、と思った。
誰も、いない。
自分の知っている人間は全ていなくなってしまった。
だから、全部燃えてしまえば、それでいい、と。
【052 セリオ 死亡】
【062 長瀬祐介 所持品 火炎放射器 (砲身に損傷・燃料は6割強),ジグ・ザウエルショート9mm(残弾0発) , 果物ナイフ】
【定時放送より2時間後】
【残り65名】
「すごいですっ。本物の凄腕のヒットマンです」
「スゲェな、ヒットマンかよ・・・ほれ、友好の証だ。普段なら金取るんだが今日は特別にタダにしといてやらぁ」
(この夫婦、どっかずれてる・・・)
どうやら、夫婦の仲では浩之と理緒=凄腕のヒットマン、らしい。
とりあえず手渡された袋の中身を見て・・・・・・浩之は首をかしげた。
「・・・なんだよ、コレ?」
その中に入っていたのは、パン。
「これか?これはだな・・・早苗のパンだっ」
秋生が自信満々にいった。
「あんたの奥さんのパンか・・・・・・で?」
こんなものを自分に渡してなんになるというのか?
浩之は少し警戒しつつも秋生に問い掛けた。
「だからな、これは早苗のパンなんだよ。別に裏とかなんにもないからとりあえずもらっとけ」
秋生がやけにさわやかな笑みを浩之に向ける。
「・・・・・・・・・」
(怪しい・・・)
この男に敵意がないのは明らかのようだが、それでもこのパンには何かがあるような気がする・・・浩之の第六感がなんとなくそう告げているような感じがした。
浩之は何も言わず、パンも受け取らずに訝しげな視線だけを秋生に向ける。
「あー、わかんねーのかコンチクショー!これはな、早苗のパンなんだよ!うちのパン屋で毎日売れ残るそれはもう伝説的なパンなんだっ!」
浩之の態度に精神的限界がきたらしく、うがーっ!という奇妙な声とともに秋生が叫ぶ。
浩之は内心ため息をついていた。
(この人、めちゃくちゃだ・・・つーか意味わからん)
「・・・・・・それは、そんなに、まずいものなんですか?」
再び問い掛けられる声に、秋生は自信たっぷりにはっきりと答えた。
「おうよ、何せ早苗のパンだからなっ」
答えたあとで、秋生は今の問いかけが男の声でないことに気が付いた。
ふとよぎる、嫌な予感に背後を振り返ると―――
「やっぱり・・・わたしのパンは・・・・」
じわり。
背後にいた早苗の目が潤み始める。
(しまった・・・)
秋生がそう思うのが早かったか、それとも。
「わたしのパンはどこに行ってもお荷物でしかないんですねーっ!」
次の瞬間には早苗はその場から走り去っていた。
「クソッ」
秋生は小さくつぶやいたあと、浩之からパンの袋をひったくる。
「早苗ーーーーー!おまえのパンは最高だーーーーーーー!」
そして、一部始終のやり取りを見ていた浩之と理緒に目もくれずに早苗を追いかけていった。
そして、その場には理緒と浩之が残される。
「なんか嵐のような人たちだったね・・・」
呆然と理緒がつぶやく。
「あ、ああ・・・」
同じく呆然と浩之がつぶやいた。
その数分後、二人はお互いに自己紹介すらしていなかったことに気が付いた。
【古河秋生、古河早苗ともに再び森の中を迷走】
【結局パンは渡さなかったので装備に変更なし】
【時刻 深夜3時20分ごろ】
僕はうずくまる瑠璃子さんに転がるように駆け寄った。
切断された彼女の右肘からとめどめなく血があふれ出ている。
「腕の付け根を締め付ければ止まるかも!」
それでは間に合わない、と脳裏をかすめたが、もたもたしていたら瑠璃子さんが死んでしまう。
とりあえず、僕のズボンのベルトを使ってみたが、あまり効果はなかった。
どうする? どうする!? どうすれば血を止められる!?
「ねえ、長瀬ちゃん」
彼女は痛みに顔をしかめながら、焦る僕に告げる。
「傷口を焼けば血は━━」
「駄目だっ! そんなことしたら、腕が元通りに繋がらなくなるよ!」
彼女を説得しつつ、さらにベルトを締め付けた。
「痛い! 痛いよ、長瀬ちゃん!」
「我慢して!」
さっきよりは出血の勢いが弱まったような気がする。だけど、それだけ。
血が、止まらない。
「長瀬ちゃんっ!!」
彼女の一際大きい声にベルトを持つ手が緩む。
「お願い、でないと、わたし、死んじゃう」
死ぬ? 瑠璃子さんが?
嫌だ、月島さんに続いて彼女まで失いたくない。
でも、焼いたら、彼女の肌に一生消えない跡が残る。
「優勝したら、腕を再生してくれるよ」
僕の心の葛藤を読んだのか、痛みを我慢しながら彼女は無理に微笑んだ。
そうだ、何を迷う必要がある? たとえ、どちらか死んでも、残る1人優勝すればいいじゃないか。
「分かったよ」
覚悟を決めた。
まず、彼女を燃え盛る家のそばにしゃがませ、右肘を前に突き出すように言った。
僕は上半身を倒し、彼女の右腕が雨に掛からないようにし、
自分のポケットから拳銃を取り出すと、マガジンを排出させ、残り1発となった弾丸をつまみ取る。
今からどこかの映画で見たことを真似てやってみる。
もし、失敗したら━━ちらりと火炎放射器の傷付いた砲身を見て、目を背けた。
チャンスは、一度。
震える指で弾頭をつまみ、そっと引き抜き、捨てる。
残った薬夾(やっきょう)を右手の親指と中指で挟み、人差し指でとんとんと叩いて、彼女の傷口に火薬を振りかけた。
「瑠璃子さん、いくよ?」
「うん」
震える声で彼女が頷く。その様子に思わず抱きしめたくなったが、事が事だ。
衝動を押さえ込むと、彼女の右腕を両腕でしっかり握る。
そして、そのまま、
燃え盛る家の炎に彼女の傷口を突っ込んだ。
一瞬、彼女の右肘が白い閃光に包まれ、次の瞬間、先端がたいまつのように燃え上がる。
「ぎっっっ、ぃぃいあああああああああ!!」
「瑠璃子さん、瑠璃子さん、しっかりして!」
女の子とは思えない、信じられない力で暴れられ、僕はその場に放り出された。
彼女は悲鳴を上げながら腕を抱え込んで地面を転げ回る。
僕はただ、励ますことしかできなかった。
30秒くらいたったろうか? 彼女はうずくまって呼吸を荒げるまで落ち着いた。
おそるおそる近付き、声をかけてみる。
「瑠璃子さん?」
「……な……が……せち……ん」
彼女がゆっくりと上体を起こす。その顔は、涙と鼻水と涎にまみれて、きれいな顔が台無しだった。
あいにく、ハンカチやティッシュを持っていなかったので、僕はYシャツの袖で彼女の顔を拭う。
「……ありがとう」
彼女は鼻を啜りながら疲れた顔で微笑んだ。
「傷、見せて」
両手にとって炎に照らす。転がったせいで泥まみれだったから、よく分からない。
だが、雨で徐々に汚れが洗い落とされてゆく。
血は……出ていない!
「やった、成功だ!」
「そう、……良かった……」
「!? 瑠璃子さん!?」
突然、彼女がくたりと上体を傾けたため、僕は慌てて彼女を支えた。
「ちょっと、疲れちゃった……」
多量の血を失ったのと、傷を焼いた激痛で、心身ともに衰弱したようだ。
そこで、気付いた。
彼女の体が、妙に冷たかった。
いけない、思っていたよりも危険な状態だ!
どうする? こんな島に医者なんているのか? いるわけないだろ! 殺し合いに医者……!?
はた、と気付いた。
そうだ、病院! 忘れていた。
昼間、森の中を進んでいるとき、町が見えた。そっちに行かなかったのは、崖で降りられなかったためだ。
そこに行けば、病院があるかもしれない。
僕は空になった拳銃と、火炎放射器を放り捨てて身軽になると、
彼女を背負い、折り畳み傘を拾って頭上にかかげる。
町があると思われる方角の道路にそって駆けだした。
暗い夜道を駆ける。時折、彼女の顔を覗き込むけど、相変わらず蒼白だ。
彼女は、大丈夫だよ、と無理をして微笑む度に、僕の心が引き裂かれそうになる。
町はまだか!?
傘はもう、用をなさないほど、僕らは濡れてしまっていたが、ないよりましだろう。
こんな所を他の殺人鬼に狙われたら、ひとたまりもない。
そういえば、日没あたりの放送で、11人が死んだと聴いた。
つまり、殺人鬼は最低でも11人、いや、僕らのように組んでいたら、……22人か?
なんてことだ、ということは、生き残っている者の4分の1が
……いや、次の放送にはさらに10人以上、死んでいるに違いない。
つまり、殺人鬼は全体の3割を占めている計算になる。
死んでたまるか。必ず、月島さんと瑠璃子さんの3人で帰るんだ!
どれぐらい走っただろうか、僕はひっひっと情けない呼吸でふらふらと町に入った。
病院はどこだろう。
瑠璃子さん、もう少しの辛抱だから、きっと助かるから……!
だから、それまで、死なないで。
やがて。
住宅地の外れにひっそりと建つ、木造平屋を見つけ出した。
看板は診療所とあった。病院はであることに違いない。
僕はよたよたと歩きながら玄関をくぐり抜けた。
【057月島瑠璃子 装備無し: 右肘切断
傷口を塞いだものの、出血多量で極度の疲労 自身では行動不能】
【062長瀬祐介 果物ナイフ 肉体的に疲労】
【チェーンソーはエンジンをかけたまま、
火炎放射器(砲身に損傷・燃料は8割強)、
及び、シグ・ザウエルショート9mm(残弾0)、
森の民家の側の地面に放置】
【午前0時ぐらい】
【現在地 住宅地外れの診療所】
279 :
兎:04/05/19 02:06 ID:ZbWP9ess
栗原透子と言う名の臆病な兎は逃げていた。足がもつれ息が切れる。
知り合ったばかりの友人を見捨てて逃げた。風に流れて聞こえた
猛獣の唸り声、とても人間が発したとは思えない破砕音。ああ、きっと
アレは骨が砕けた音に違いない。
「助けて助けてよぉ……」
嫌な音が耳をついて離れない、猛獣の吐く息が今にも首筋を撫でそうだ。
恐怖に駆られ、気がつくと走り、疲労で倒れては幻聴に叩き起こされ逃げる。
何時の間にか夜は明け、定時の放送も行われていた筈だ。
だが、透子の耳には自分が見捨てた長岡志保の死を告げる放送も
聞こえてはいなかった。もつれる足はただ逃げる為に動き、思考は
幻聴への恐怖と愛する少年への思慕……そして破裂せんばかりの
罪悪感だけで占められている。
「ご……ごめんなさい、長岡さん、ごめんなさいっ」
そして、断罪の主は現れる。臆病で卑怯な兎を喰らう残忍で一途な狼
が牙をむく。
「臆病者の逃げ方は決まっていますわ。水が低きに流れるように楽な方へ、
走りやすい方へと逃げる。例えば、山中なら下へ……道を外れた麓へと」
その狼……カルラは鉄塊の如き大刀を手に酷薄な視線を透子へ向けていた。
「兎狩りの鉄則ですわ」
ゆらりと大刀の切っ先が透子へと向けられた。
「ひっ!」
凶器の顎から逃がれようと後ずさりして、足がもつれぺたりと尻餅をついた。
疲労と恐怖で膝が笑い、立ち上がる事すら出来ない。
もうここには自分を庇ってくれる人はいない。因果は巡るのだ。
280 :
兎:04/05/19 02:07 ID:ZbWP9ess
か細い息がヒューヒューと漏れる。その息はどんどんと小さくなっていた。
喉の奥に鉄の味の塊。なのに生きようとあがく透子の肉体は聴覚も視覚も苦痛から
逃避させてくれなかった。いや、この苦痛はきっと友人を見捨てた罰なのだろう。
「一刀で苦しまず絶命させてあげようと思いましたのに……」
カルラが痛ましげに透子を見下ろす。袈裟懸けに振り下ろされたカルラの大刀は
透子の身体を肩口から切り裂き身体を鮮血に染め上げた。だが、即死必定の
刃は、透子が身を仰け反らせた為に僅かばかりの延命時間と絶望的な苦痛を刻む事と
なったのである。
「止めが必用かしら?それとも言い残す事があれば聞いて差し上げますわよ」
ぼんやりとした視線を向ける透子にカルラは尋ねた。
「もっとも、わたくしは狩る側。伝える事があっても、あなたの知り合いに会ったら
斬り捨ててしまいますがね」
そう言いながら苦笑いした。愛する者の為に誰であろうと狩ると決めたのだ。
透子の口が微かに動く。何か伝えたい事があるのだろう。手も上げられぬ透子に
反撃の手段はもう無い。カルラはそれでも慎重に膝を突き、屈んで透子へ耳を近づけた。
「き……木田君も……しーちゃんもころ……させな……い……」
281 :
兎:04/05/19 02:07 ID:ZbWP9ess
ぐらりと傾いた透子の体がカルラへと倒れる、落ちた頭がカルラの右手首へ噛み付いた
「くっ!!」
万力の様に透子の顎がカルラの手首を噛み砕かんとする。歯が骨に当たるジャリっとした
嫌な音がした。
「放しなさい!……このっ!!」
噛み付いた顎を強引にはがそうと、手近な幹へ透子を叩きつけようと手を振り上げる。
だが次の瞬間、透子の身体は糸が切れたかのように崩れ落ちた。僅かばかり残された
彼女の生命の火が燃え尽きたのである。
「やってくれましたわね」
忌々しげにカルラは崩れ落ちた透子の亡骸をにらみつけた。手首から流れる血が掌を染める。
利き腕の動脈からの出血、何より筋肉を傷つけられ握力は半分以下だろう。これでは大刀を
握れても振るえるかどうか怪しい。とりあえず布を巻けば血は止まりそうでは有る。
「臆病な兎は何も無いがゆえにその身を火中へ……。貴方にも命をかける大切な人が
いらしたのね」
透子の守らんとした二人の名を覚え、カルラは微かに黙祷した。戦士としてではなく
愛する者の為に浅ましくも生きる女性としての共感ゆえに。
【栗原透子:死亡】
【カルラ:右手首に怪我、握力半分以下】
【栗原透子のバックは近くに落ちています。中身は次の人にお任せします】
二人で歩き始めてから二時間、ついに少年とあさひは森を抜け、住宅街へたどり着いた。
「これでやっと休めそうだね」
「そう、ですね」
少年の言葉に、あさひは息を切らせながら答えた。
「ごめん、もっとゆっくり歩いた方がよかったね」
「いえ、私は大丈夫で…きゃっ!」
そう言って歩き出そうとしたあさひのからだがふわり、と持ち上がった。
気がつくと、あさひは少年に「お姫様だっこ」をされていた。
「えっ、あっ、あの、自分で歩けますから…」
「いいからいいから」
少年はあさひを抱えたまま歩き出した。
「この辺でいいかな?」
住宅街のなかを少し歩いたあと、少年はある家の前で立ち止まった。
少年はあさひをその場におろすと、その家の玄関に向かった。
玄関を少し開け中をのぞき込み、特に異常がないことを確認すると、少年はあさひとと一緒に家の中に入った。
あさひは玄関にあった電気のスイッチを入れようとしたが、少年に止められた。
「ゲームに乗ってる人たちに見つかるといけないからね」
少年はそう言って、家の中を調べ始めた。
(すごい…こんなに暗いのに)
あさひもだいぶ闇に目が慣れていたが、少年の動きは昼間と同じように見えているかのようだった。
「あさひちゃんはそこのソファーで休んでなよ」
あさひは少年を手伝おうかと思っていたが、足手まといになると思い、少年に言われたとおりリビングのソファーに腰掛けた。
「とりあえず役に立ちそうなのはこんなとこかな」
家の中を一通り見て回った少年が持ってきたのは、双眼鏡、十徳ナイフ、腕時計、ノートとペン、そして非常食だった。
少年はそれらをテーブルの上に置くと、あさひに話しかけた。
「そろそろ何か食べようか」
その日の食事は、少年が見つけた鯖の缶詰とカンパンだった。
それらを食べ終えた後、二人は持ち物を整理することにした。
あさひが持っていたのは、支給された食料とS&W M36、それの予備の弾が20発、そして彼女の眼鏡とハンカチ。
少年はそれらを確認すると、自分のバッグを開いた。
そこから出てきたのは、食料と―――
「…キーホルダー?」
「みたいだね」
それは、ちゃちな鎖に青い石がつながったキーホルダーだった。
その後、二人は相談し、S&W M36と予備の弾、腕時計、カセットウォークマンと食料の大半を少年が、キーホルダー、双眼鏡、十徳ナイフ、ノートとペン、そして残りの食料と彼女の眼鏡とハンカチをあさひが持つことにした。
「もうこんな時間か」
少年に言われてあさひが腕時計をのぞき込むと、夜の十一時を過ぎていた。
「今日はもう寝ようか」
「はい」
「じゃあ二階にベッドがあったから移動しよう」
少年に言われ、あさひはその後を追いかけた。
少年は階段の前に立ち止まると、あさひに言った。
「お先にどうぞ。気をつけてね」
少年に言われるままに、あさひは階段をゆっくりと上った。
少年はそのあとに続く。
あさひが階段を上り終えると、再び少年が前を歩き、「ここだよ」といって寝室のドアを開けた。
その部屋にはベッドが一つしかなかった。
「あ、あの…」
顔を真っ赤にするあさひ。
「ああ、何も二人で寝ようってわけじゃないよ。一応念のためにどちらかが起きてた方がいいと思ってね」
それを聞いてあさひはほっとした。
「じゃあ、少年さんが先に寝て下さい」
「少年さんって…まあいいや。あさひちゃんこそ先にどうぞ」
「でも私はさっき寝ましたし」
「まあまあ。レディーファーストっていうじゃない」
微笑みながら少年は半ば強引にあさひをベッドに寝かしつけた。
「…わかりました。ただ、ちゃんと起こして下さいよ」
「OK。それじゃおやすみ」
「おやすみなさい」
「ちゃんと起こして下さいよ」
「OKOK」
「ちゃんとですよ」
「わかったって」
そういったやりとりを繰り返しているうちに、いつの間にかあさひは眠りについた。
【桜井あさひ就寝、少年はそのそばで起きている】
【少年の所持品 S&W M36(残り弾数5、予備の弾20)、腕時計、カセットウォークマン、食料】
【桜井あさひの所持品 キーホルダー、双眼鏡、十徳ナイフ、ノートとペン、食料、眼鏡、ハンカチ】
【時間は午前0時頃】
285 :
外道:04/05/19 03:16 ID:emg4p+J7
>274-278はNGとなったようです。
286 :
追憶の影:04/05/19 03:56 ID:EAOeYrpO
目を閉じればすぐに聞こえてくる。
誰かが誰かを殺す音。誰かが誰かに殺される音。
ぽつりぽつりとリズミカルに雨樋から垂れ落ちる雫に耳を傾けながら、
杜若きよみはふと自分の身の上に関して思考を寄せた。
自分は人ならざるものである。
あの日杜若きよみは、確かに坂神蝉丸に看取られて
花咲ききらぬままにその生涯を閉じたはずなのだ。
それがどうだろうか。
目を開けるとそこは白道の末に辿りついた極楽浄土などではなく、
地下深くに掘り下げられた、無機質な研究室の一角だった。
覆製身としての「杜若きよみ」の人生はこの日から――
そもそも自分の半生を「人生」などと呼べるのだろうか?
また一つ、銃声が鳴った。
悠長なものねと、きよみは思った。
俊伐は「杜若きよみ」を求めた。
自分は、俊伐の求める「杜若きよみ」にはなれなかった。
それ故に俊伐は、単なる手駒以上の扱いを施すことが無かった。
有り体に言えば見限られたのである。
287 :
追憶の影:04/05/19 03:57 ID:EAOeYrpO
それなら、自分が胸に抱くこの感情をどう説明できるだろうか。
単なる「杜若きよみ」に対するあてつけなのか?
自分が「杜若きよみ」では無い事への嫉妬なのか?
いくら考えても答えの出ない事は先刻承知だった。
もう何十年も欠かさず自問してきた問答が、昨日今日で解ける道理もない。
隣で寝ているあかりという少女が寝返りを打ち、毛布がめくれた。
だからあたしは、蝉丸さんに逢いに行くんだもの。
蝉丸さんとに逢って、あたしの気持ちが本当にあたしの気持ちなのか確めるの。
それでもし、蝉丸さんを好きなのがあたしではないただの「杜若きよみ」だったら、
あたし、蝉丸さんを殺さなくちゃならないわ。
あたしが本当の「杜若きよみ」にならなくちゃいけないんですものね。
俊伐さんの鼻を明かして、この気持ちを伝えるのよ。
あたしが「生まれて初めて」あの人に伝えるの。
あの人、どんな顔するかしらね、ふふ……
3人が目を覚ましたのは、放送の入る直前であった。
それぞれの意味を以って、3人の意識を覚醒させて。
【017杜若きよみ、024神岸あかり、084松浦亮起床】
【017杜若きよみ 改造銃の残弾3(隠し持っている)】
【024神岸あかり 筆記用具 木彫りの熊 きよみの銃の予備弾丸6発】
【084松浦亮 修二のエゴのレプリカ】
【第二回放送を聞く】
伏見修二の死体を埋葬し終えた時紀達は、野宿に適した場所を探して森の中をさまよっていた。
疲れているためか、さっきまでは頻繁に口を開いていた観鈴も、今は黙って時紀の後ろについてきている。
沙耶もその更に後ろで、時折物思いに耽るように立ち止まりながら歩いていた。
通り雨があったせいで、木も下草も湿っている。
横になるのは無理だとしても、どこか地面の乾いたところで座って休むくらいのことはしたかった。
(にしても……)
(さっきの男の死体、妙に綺麗だったな)
修二の死体に人と争ったような形跡はなく、腹部以外に目立った外傷はなかった。
(背後から忍び寄って振り返ったところを一突き、ってのは考えにくいだろうな)
(とすると……)
だまし討ち。
そう考えるのが自然だった。
敵意がないフリをして近づき、油断したところをブスリ。
(…………)
気が滅入る。
いったい誰を信じていいのか。
(……!!)
立ち止まり、慌てて振り向く。
後ろを歩いている二人のどちらかが、今まさに自分を殺そうとしているのではないかと夢想して。
「ど、どうしたの?」
「……なに、いきなり」
二人は突然振り返った時紀に怪訝な視線を向ける。
無論、時紀を殺そうなどとしていなかった。
「……いや、なんでもねーよ」
ポケットから煙草を取り出してくわえ、火を付けて再び歩きだした。
(……落ち着け)
(こんなことで疑心暗鬼になってたら、主催者の思うつぼだ)
そうしてしばらく歩くと、時紀達の目の前に胴回り六メートルはあろうかという大木が現れた。
沢山の葉に雨が遮られ、根本付近の地面は乾いている。
「ここらでひとまず休むか?」
観鈴が頷き、沙耶も反対しなかったので、この場所で休むことにした。
観鈴は木の根本に寝転がり――よほど疲れていたんだろう、すぐさま静かな寝息を立て始めた。
沙耶もその隣に座り、木に寄りかかる。
手にした銃を見つめながら何か考えごとをしているようだ。
時紀は二人の前に立ち、見張りをすることにした。
――静かだった。
草木は湿っているせいでほとんどそよがず、観鈴の小さな寝息が聞こえる以外はほとんど無音。
(俺も少し仮眠したいな……)
時紀が沙耶に見張りを頼もうとした、そのとき、
パキッ!
木が折れるような音が聞こえた。
次いで聞こえてきたのは、舌打ちのような音。
沙耶が、寄りかかっている木の方を指さしている。
(木の裏か……)
「そこに誰かいるのか!?」
時紀は木に向かって問いかける。
反応はないが、かすかに人の気配がある。
おそらく、一人。
鎌をしっかり握り、誰かが飛び出してきても大丈夫なように身構える。
沙耶も立ち上がって、攻撃に対応できる体勢をつくった。
そして観鈴は……。
まだ寝ていた。
緊張感のない顔で寝息立て続けている。
(こいつは……!)
そんな観鈴に若干の苛立ちを覚えながら、時紀は再び木の裏側の相手に声をかけた。
「こちらは別に争うつもりはない、ひとまず出てきてもらいたい。……信用してもらえるなら」
沙耶が一瞬時紀を見て、「……勝手に決めないで」と言いたげな表情をした。
木の陰から、ゆっくりと少年が姿を現し、時紀達の目の前に立った。
ご丁寧に両手を頭の後ろに回している。
髪は短く切りそろえられ、眼鏡をかけていた。
そのせいか、なんとなく計算高そうな印象を与える容貌である。
「僕は麻生春秋。もう手を下ろしてもいいかな?」
「……ああ」
春秋と名乗った少年は、時紀の構えていた鎌を見て軽く苦笑すると、手を下ろした。
その手に何も握られてないことを確認して、時紀と沙耶はようやく警戒を解く。
「……ところで、三人ならもう一人いるんじゃないの?」
春秋が二人に訊いた。
「……あ」
「……あ」
時紀と沙耶は異口同音に言い、観鈴が寝ている場所を見る。
「にはは、往人さん……おかあさん……」
未だに緊張の解けない三人の傍らで、観鈴は幸せそうな表情を浮かべ、全く緊張感のない寝言を漏らしていた……。
【031木田時紀 鎌】
【094宮路沙耶 南部十四年式(残弾9)】
【023神尾観鈴 けろぴーのぬいぐるみ】
【003麻生春秋】
【ボウガン(残弾5)は近くに転がってます】
【時刻:夜明け前】
すみません、289と290の間に下の二つが入ります……。
(俺も大分無茶なことを言ってるな……)
(会ったばかり、いや、まだ声だけで、会ってもいない人間を信用しろだなんて……)
少しの沈黙の後、
「……そっちは何人いるの?」
という声が聞こえた。
若干高めだが男の声だろう。
「……三人だ」
再びいくらかの沈黙。
そして。
「そっか、じゃ、僕に勝ち目はなさそうだね……。降参。投降するよ……。でも、油断した瞬間に襲いかかる、なんてことはしないでよ?」
その言葉を聞き、戦わずに済みそうなことを安心した時紀だったが。
「……待って」
沙耶はまだ納得できないようだった。
「アンタ、これまでに誰か殺した?」
時紀と出会ったときにもしていた質問を、木の裏の相手に投げかける。
「……その声はシャープネスの人だね?」
時紀にはよく分からない質問が返ってきた。
(……シャープネス?)
二人は知り合いなんだろうか。
「質問してるのはこっち。……どうなの、殺したの?」
その質問は、たとえ相手が知り合いだとしても関係ないらしい。
毅然とした態度で答えを促す。
「……いや、まだ誰も殺してないよ。信じてもらえるかどうかは、分からないけど」
「……そう」
相手の返事は時紀を安心させた。
もし既に誰かを殺した人間だとしたら、そいつをどう扱えばいいかわからない。
そしてそいつが殺したのが自分の知り合いだとしたら……。
(そういや恵美梨や功は無事かな……)
妹と悪友の顔を思い浮かべる。
「……で、どうすればいいのかな?」
木の裏からの言葉で我に返る。
「とりあえず武器は捨てるよ?」
時紀達は別にそこまで要求していなかったが、相手は持っていた武器を投げ捨てた。
それは時紀の二メートルほど前に落下する。
……ボウガンだった。
(鎌じゃ勝てなかっただろうな……)
「じゃ、出ていってもいいかな」
「……よし、ゆっくりとこっちに来い」
相手が他にも武器を持っているかは分からないが、いちいち疑っていたら埒があかない。
それに、妙な動きを見せたら沙耶が撃つだろう。
「なんでだよ…」
彼には何がどうなったのか理解できなかった。
確かに敵の動きは止めたはずだ。
だが、敵は平然と動いている。
よく見て見ると敵の足からは金属質の何かが覗いている。
(ロボット!?)
そう、敵は人間ではなかったのだ。
(そんなのって・・・ありかよ?)
彼は背中、腹部と左肩の痛みで意識が朦朧としていた。
敵が刃物をもち、ゆっくりと近づいてくるのが見える。
彼はただ無邪気だった頃・・・もう戻れはしない日常を思い出していた。
彼にとって、一番の親友、岡崎朋也とすごした日々。
(そういえば、初めて合ったときのあいつ、アホみたいに笑ってたなぁ)
目立つ下級生、智代にちょっかいを出しては、返り討ちにあったこと。
(智代ちゃん、手加減とかしないんだもんなぁ・・・)
男と分かっていながらも柊ちゃんを諦められなかったこと。
(・・・あのときの僕はどうかしてた)
芽衣を騙すために早苗さんに恋人の振りをしてもらったこと。
(早苗さん・・・良い匂いがしたなぁ、あんなにやさしい人が本当に彼女だったら良かったのになぁ)
彼の住む部屋の寮母、美佐枝さんのこと。
(おっぱい・・・見たかった)
ヒトデ好きの不思議な下級生、風子と鵺(ぬえ)を彫刻でどっちが上手か競争したこと。
(あれは、絶対僕の勝ちだったはずだ、怪我さえ・・・怪我さえしなければっ)
杏に告白された日のこと
(あいつも僕の立場考える余裕とかなかったんだろうな・・・岡崎・・・あんた、うらやましいッス)
いつも笑顔だった有紀寧に春原コーヒーをいれられたこと。
(僕って・・・ろくな思い出ないんですかねぇ!)
渚ちゃんと合唱部の奴らを見返すためにバスケに一生懸命になったこと。
(渚ちゃんのおかげで、一つのことに夢中になれたんだよな・・・)
そして――芽衣をいじめる胸くそ悪いサッカー部の連中を、親友と二人でぶちのめした日のこと。
(芽衣をいじめる奴は、いつだって僕と岡崎がやっつけてやる)
一瞬のことだった。死に際に見る走馬灯という奴だろう。
意識が目に前の敵に戻ると、もう敵はすぐ目の前にいた。
怖かった。死にたくなかった。泣き叫んで命乞いをしたかった。
――だが、ここで声を上げたら芽衣が戻ってくるかもしれない。
(そんなかっこ悪いこと・・・出来ないよな)
彼は願った
(岡崎・・・芽衣のことは、お前に任せる、お前なら・・・何とかしてくれるって信じてる)
そして死神が刃物を振りかぶる。
(ごめんな…やくそく、だめだった)
【団欒の終焉の春原一人称視点】
伏見修二の死体を埋葬し終えた時紀達は、野宿に適した場所を探して森の中をさまよっていた。
疲れているためか、さっきまでは頻繁に口を開いていた観鈴も、今は黙って時紀の後ろについてきている。
沙耶もその更に後ろで、時折物思いに耽るように立ち止まりながら歩いていた。
通り雨があったせいで、木も下草も湿っている。
横になるのは無理だとしても、どこか地面の乾いたところで座って休むくらいのことはしたかった。
(にしても……)
(さっきの男の死体、妙に綺麗だったな)
修二の死体に人と争ったような形跡はなく、腹部以外に目立った外傷はなかった。
(背後から忍び寄って振り返ったところを一突き、ってのは考えにくいだろうな)
(とすると……)
だまし討ち。
そう考えるのが自然だった。
敵意がないフリをして近づき、油断したところをブスリ。
(…………)
気が滅入る。
いったい誰を信じていいのか。
(……!!)
立ち止まり、慌てて振り向く。
後ろを歩いている二人のどちらかが、今まさに自分を殺そうとしているのではないかと夢想して。
「ど、どうしたの?」
「……なに、いきなり」
二人は突然振り返った時紀に怪訝な視線を向ける。
無論、時紀を殺そうなどとしていなかった。
「……いや、なんでもねーよ」
そう言って再び歩き出す。
出来る限り、平静を装って。
(……落ち着け)
(こんなことで疑心暗鬼になってたら、主催者の思うつぼだ)
考えながら無意識にポケットを探ってしまうのが悲しい。
この島に来る前も煙草を吸っていたが、こんなにも切実に煙草が欲しいと思ったのは、初めてだった。
――芳野祐介が丁度二階へと上がった同時刻――
カタカタカタ――タン!
智代は芳野の経歴をすべて読み終えると、それを封じ込めるかのようにキーボードのスペースを強く叩いた。
続いてプリンタを再び起動させ、マウスカーソルを動かす。
念の為、芳野祐介の顔写真もプリントアウトする。
今のそれは、先にプリントアウトした岡崎朋也や那須宗一の画像を印刷したのとはまったく意図は違う。
芳野祐介。一緒に行動すべきではない人間の一人。
カッカッと軽快な機械音と共にプリンタから少しずつ芳野の姿が排出される。
旧型のプリンタである為、少々その動作は遅い。
手持ち無沙汰に外を見やる。いい天気だった。夜半に雨が降ったとは思えないくらい。
(こんな日に、こんな所にいるのはまったくもってもったいないな……)
漠然と、そんな場違いな事を考えながら、平穏な日常を懐かしむようにすっと目を細めた。
(帰りたいな。あの日の当たる場所に)
その為の算段として、どんなことをすればいいのだろうか。
素人目にみても、簡単に脱出できるような状況ではない。
まさしく八方塞がりだった。
「あのー……」
突然、入り口の方から声が聞こえた。まったく知らぬ聞き覚えもない人の声。
「――!!」
張り詰めるような緊張感を全身に巡らせつつ、そちらへ振り向いた。
皐月と主は、階段をそのまま通り過ぎた。一階へと留まる。
チラリと見えた人影。男。銃を手に、こちらを見るやすっと物陰に消えた男。
男はどこへ行ったのか。ゆっくりと警戒しながら進む。
彼女の勘は、なかなかに鋭い。世界一の称号を持つエージェント、宗一や
ID13の地獄の雌狐、リサもお墨付きのその勘の鋭さは、こんな時にでも鈍ってなかった。
あの男は、なにか危険だ。
見た目、装備、皐月を見た瞬間の行動からして、人畜無害には見えないがそれだけじゃない。
殺気といえばいいのか、怒気といえばいいのか、そんな冷たいオーラみたいなものを感じ取っていた。
逃げろ、と心が警報を鳴らしもしたが、そうはしなかった。
そこに至るまでにはいろんな思いがあったが、簡単に一言でいうならば。
それも、一つの勘だ。
これから自分はどうすべきか。
皐月はカタカタとキーボードの鳴り続いていた通路へと目を向けた。つまり、一階だ。
皐月がどうしたいにしろ、その動物的勘はひとまずは正しかったといえる。
階段を上って二階へと行けば、もうそれだけで無事には済まなかっただろう。
或いは。その無事で済まぬは芳野であったかもしれないが、もうそれは誰にも分からないことだ。
しきりに辺りを気にしつつも、抜き足差し足忍び足。
主も案外、皐月の気持ちを分かってくれている。物音を立てずに行動してくれる。頼もしいことだ。
やがてはあるひとつの扉の近くにまでやってくる。
ほんのわずか、扉は開いていた。
中からは、すでにカタカタというタイプ音ではなく、カツカツというプリンタの音が漏れていた。
背後を警戒しつつ、そっとそこから中を窺う。
中にいるのがあの男で、いきなりドン!なんてことがあっては一大事。
即座に逃走できるように、全身を弛緩し、バネを溜め、目をぎょろりと回した。
中にいたのはあの男ではなかった。女の子だ。利発そうな眼鏡っ子だった。
ただ、どこか憂いを帯びている。
少し思考し、さっと決断。
よし、声をかけよう。
篁を倒すなら、危険な橋だって渡らねば。逃げるだけでは何も解決しない。
できればその前に橋を叩いておきたいものだが。
「あのー……」
いつでも離脱できるようにだけはして、そっと声をかける。ほんの少し、扉を開く。
「――!!」
時が止まった。微妙な空気だ。ニコッと愛想笑いを浮かべてみる。……無反応だった。
うーん、困った。いつもだったらバッガッダッ!っで一呼吸の内に仲良くしてみせるのだが。
今回は状況が状況だけに、それだけで信頼を得るには難しい。
それに――自分よりもむしろ、パートナーの主に目を向けられている気がする。
ああ、初めて見たら、そりゃみんな驚く。自分だって食われるかと思ったし。などと皐月は頭を捻った。
「えと、眼鏡、似合うよ? ……」
って何を言ってるのか。ああ、とんだ恥さらしだ。わずかに顔が紅潮する。
室内にいた女の子は、きょとんと、一瞬何が起こったか分からないようなそんな呆けた表情で目をパチクリさせた後、
「これは、伊達だ。視力はいいぞ」
不敵に笑って見せた。その微笑みに、はじめて見た時の憂いを帯びた感情はない。
「あ、そうなの?」
「お前は、面白いな」
彼女は完全に警戒を解いた――とまではまだ行ってないようだが。
一応、話は通じる人物だ、と皐月は考える。
「一人なの?」
「……そうだな。一人は寂しい」
少し考えて、そう言った。
「坂上智代。あなたは?」
「えっ、あ、そうか。湯浅皐月。この子はトンヌラ。っても私がつけただけで別に本当の名前じゃないけど。
おとなしいし、ちょっと見た目怖いけどよく見ると可愛いし。……害はないよ?」
本当はある。
「えと、智代さん――」
「智代でいいぞ。堅苦しいのは苦手なんだ。できればこちらも皐月と呼ばせてもらえると嬉しい」
「ん。分かった。智代、今は何を?」
ゲームに乗った?とは聞かなかった。脱出考えてる?とも篁をぶっ潰したい?とも。
「いろいろだ。いろいろ頑張らなければならないことがある。――この男とか」
親指で、プリンターを指した。もうそろそろプリントアウトも終わりだ。芳野祐介の顔写真があった。
「……」
その指に導かれ、その男の顔を凝視する。
そう。皐月にも見覚えがある。かつてテレビで見た、酒と薬に溺れ、消えていった悲劇のミュージシャン。
確か、芸名は芳野祐介。恐らく本名も同じであったはずだ。詳しいことは知らないが。
そして。
「さっき見たよ。最初はてっきり、智代と一緒にいる人かと思ってたけど」
プリントアウトした芳野の顔写真を手にとって、皐月が呟く。
「……なんだって?」
智代を見た時と違い、皐月の心が警報を鳴らした人物。
少し話しただけでも今なら分かる。この智代とは全然波長が合わぬ、まるで別世界の人間だ。
智代とその男は一緒にはいない。
「今、この学校にいる」
ザワリと風が鳴った気がした。
【095 湯浅皐月 主(トンヌラ) 騎乗中】
【038 坂上智代 所持品 CD 鋏 眼鏡】
少々訂正。
>>299の
×「これは、伊達だ。視力はいいぞ」
○「「これは、伊達だ。視力はあんまりよくはないが」
指摘がありましたので訂正させて頂きます。
「うにゅ・・・あさ・・・?」
名雪が目を覚ますと、そこは見慣れた自分の部屋ではなかった。
(あれ・・・ここはどこ・・・?)
あたりをみまわす。そこで彼女の思考は停止した。
彼女の目に真っ先に入ったものは首。それも、見覚えのある顔であった。よく見ると首の周りのシーツが赤く染まっている。
(うそだよね・・・・春原君のいたずらだよね・・うん、そうに決まってる。)
そう考え首を持つ。途端、流れ出す鮮血。
「ひっ!」
名雪は反射的に首を窓の外に投げ捨てた。
そして自分が寝ている間に何が起こったかを理解した名雪は耳をふさいで部屋の隅でガタガタ震えていた。
(怖い・・怖いよ!)
(助けて、お母さん!)
(死にたくない!)
(こんなむごい死に方なんてしたくない!)
名雪の思考は同じところを延々とループしていた・・
岡崎朋也は芳野祐介を探していた。
(どこにいやがる、芳野ォ!)
智代に治療してもらったとはいえ、体の節々が痛む。普段の朋也ならば無理に動く事はしなかっただろう。
だが、今の朋也を突き動かしているのは芳野に対する憎悪、ただそれのみであった。
(必ず殺す)
しばらく歩いた後、とりあえず武器を調達するために入った民家から出た矢先、突然空から降ってきた何かが朋也の体を掠めた。
反射的に彼はその物体に目をやる。途端、絶句。
「おい・・・・嘘だろ・・・・・」
それは春原の首であった。
「ははは、お前何やってんだよ。いくらお前が人外生物だからといっても、首まで飛ばせるとは知らなかったぞ。」
「・・・・・・・」
「そうだ。俺ついにヤレたんだぜ。しかも相手はあの杏だ。とても気持ちよかったぞ。どうだ、うらやましいだろ?もてない春原君」
「・・・・・・・・」
「お前のいつも聞いてるあの曲、マジにダサいぞ。そうだ、俺がもっとイケてるラップを考えて録音しておいてやるよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「何か・・・・何か言えよ・・・・・」
「頼む、言ってくれ・・・・・」
「いってくれぇー!」
しかし、朋也の悲痛な叫びも虚しく春原は相変わらず黙り込んだまま。うんともすんとも言わない。
ようやく親友の無残な死を理解した朋也は
「う、う、うわぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・」
泣いた。涙が枯れるまで泣いた。
不意に前を向くと、窓が空いている家があった。それは春原の首が飛んできた方角でもあった。
朋也は首があの窓から投げられたのだと直感した。
「あそこの奴か!あいつが春原を!」
朋也は今しがた民家で仕入れた包丁を構えると、民家に突入して行った
そして春原の首が投げられたであろう部屋の前に。
(絶対に殺してやる!)
そう意気込んで部屋に突入した朋也であったが・・
中にいたのは・・・
(えっ・・・杏・・・・?)
中で見たのは枕元が赤く塗れたベッドに洋服ダンス、未開封のバッグにそして突然の朋也の突入で恐慌状態になった杏似の女がいた・・
杏似の女に一瞬意識を奪われた朋也であったが、すぐに目的を思い出した。暴れる女を押さえつけ、そして首本に包丁を突きつけ
「おい、金髪の男を殺したのはお前の仕業か?!答えやがれ!」
と聞いた。
女の子もこうされることによって少しは正気に戻ったのか、
「し・・しらないよ・・・・わたしがおきたら・・春原くんの首が枕元に・・・・それで・・怖くなって・・・」
「嘘付け!お前が殺したんだろ!」
「ほ、ほんとだよ。な、なにもわからないんだよ・・・・・」
怯えたようにしゃべる女の様子を見て朋也は考えた。
(こいつ・・まさかほんとに知らないのか・・・・?)
そして気づく。
「そういやなんで春原を知ってるんだ?」
「い、一緒に行動してたの・・・・」
そういって女の子は昨日の自分の行動を説明し始めた。
ひたすら走ってたときに春原と会った事、一緒に行動するようになったこと、第一回目の放送で自分と春原の知り合いが二人も死んでいることを
知りショックを受けたところを芽衣ちゃんに慰められた事、そして昨日の自分の意識は野原で途切れたにもかかわらず、目覚めたらベッドにいた事
をたどたどしい口調で説明した。
「じゃあ殺したのはお前じゃないんだな?」
「う、うん。」
「そうか、わかった。」
そういって朋也は女を押さえつけるのをやめ、包丁を下げた。
「名前は?」
「えっ?」
「あんたの名前だよ。」
「私は・・水瀬名雪です。」
「そうか。俺は岡崎朋也だ。呼ぶ時は好きに呼んでくれたらいい。」
【朋也、名雪と出会う】
【朋也の所持品 包丁、ダンボール、英和辞典 】
【時間は午前10時ごろ】
現在マーダーって 芳野、しのぶ、澪に後はカルラに長瀬ちゃんくらいか?(祐介が二人いて紛らわしい)
周りを警戒しつつ、ベナウィ(082)は森の中を歩いていた。
(皆はどこにいるのでしょうか)
いまだ見つからぬ仲間たちのことに思いをはせつつ、歩みを進める。
────と、そのとき。
「────────」
「────────」
だんだんと近づいてくる声。何かを叫んでいるようだ。
その声はだんだんこちらへと近づいてきている。
(何事です!?)
とっさに槍を構える。が────
「わたしのパンなんて・・・っ、わたしのパンなんてーーーーーーーーーーー!!!」
「俺はっ・・・俺は大好きだコンチクショーーーーーーーー!!」
向こう側から姿を現したのは一組の男女。
古河秋生(079)と古河早苗(080)だった。
(・・・あれは何なのでしょう)
呆然としながら、ベナウィはそれを見ていた。
(声をかけて、注意するべきなのでしょうか・・・?)
大声で叫びながら、走っている二人。
・・・あれでは、居場所を自らさらしているようなものだ。
このままでは、おそらく二人は攻撃の標的になってしまう恐れがある。
しかし、攻撃されない・・・という確信はなかった。
(あれがもしも油断させる作戦であるなら・・・)
悩んでいるうちにも、彼らは止まることなくこちらへと走ってくる。
【082 ベナウィ 槍(自分の物)、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード】
【079 古河秋生 古河早苗特製パン 4個、古河秋生専用金属バット、硬式ボール10球】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、所持品はすべて秋生が預っている】
【時刻:午前8時40分頃】
ざざぁ…ざざぁ…
カァ、カァ、カァ…
潮の漣の音と水鳥の鳴き声が微かに届く、海の家。
屋根からぽたりと落ちる雫は、音を立てることなく地面に吸い込まれていく。
雨が上がった後の眩しい朝陽が、海の向こうからそれを照らし出す。
その中で、四人の人間が寝ていた。
「負けた…なんか知らんが俺は負けた…」
「ワッフルが、ワッフルがぁ…」
「お母さん…あのジャムはだめです…」
「ハクオロさん…助けて…」
――訂正。その四人は寝ているのではなく、昏倒していた。
六時間程前に強烈な毒物コンボを食らって倒れた、北川潤・広瀬真希・古河渚・エルルゥの四人である。
寝言ではなくうわ言が、静かな家の外まで聞こえてくる。
そんな四人の中で真っ先に目を覚ましたのは、薬膳をする身として比較的味覚のダメージに強いエルルゥだった。
「ん…」
瞼を開けたとたん、窓からの陽光に目を射貫かれる。
「朝…か…」
むくりと体を起こして、エルルゥは周りを見渡した。
――ある意味非常に凄惨たる光景だったことは、この際気にしないことにする。
(えーっと…)
昨夜の事を思い出す。
(…昨日は確か、北川さんと広瀬さんがここに来て…で、渚さんが持ってたあの「じゃむ」と「わっふる」を食べて…)
と、そこまで考えて慌てて首を振った。
口の中に、再びあの味が広がってしまう気がして。
(…忘れよう、うん)
固く頷いて、立ち上がる。
そして、窓の外を見て。
(朝ご飯の準備の前に…少しぐらい、いいよね)
エルルゥは、静かに戸口まで歩いていった。
「うわぁ…」
エルルゥは広がる海を見て、昨日に続く二度目の感嘆の声を上げた。戸口からだとやや遠いが、そんなことなど全く問題ないくらい心を奪われる。
もっとも、正確に言うとその光景は二度目ではない。
斜めに降り注ぐ陽光が水面に反射してきらきらと光っており、浜辺から少し離れたところでは水鳥の群れが長い影を作っている。
聞こえるのは、波の音、鳥の鳴き声。
それら全てが、自分の目に広がっている。
昨日初めて見たとき以上の、美しい光景だった。
「……」
呆けたように、その光景に見とれる。
朝の到来を実感させるそれは、エルルゥにとっては新鮮だった。
「綺麗…」
エルルゥは呟いた。
それを見ていると、今までのことが全て嘘のように思えてきた。
血のにおい、爆音、叫び声。
直接見ずとも感じた全ての記憶が、浄化される。
――この島にも、こんなに綺麗な光景がある。
これさえ見せれば、皆殺し合いなんか止めてくれる。
そんな気がした。
その海はそれぐらい、エルルゥの目に美しく映っていた。
見ているときは――現実を忘れられる。
悲しい、現実を。
(みんなが起きたら、これを見せてあげよう…)
(きっと、綺麗だって言ってくれる…)
(渚さんも、北川さんも、広瀬さんも…)
(でも…やっぱり、一番一緒に見たいのは…)
ゾクッ――
その時、甘い夢を見ていたエルルゥの体に、急に悪寒が走った。
「えっ…!?」
そこで、意識は現実に引き戻される。
(何、今の…)
エルルゥは不安げに、きょろきょろと辺りを見回す。
家の中では、相変わらず三人がうわ言を言いながら伸びている。
輝いている海は、波の強さを増している。
そして水鳥の群れは、いつのまにか移動していた。
(今のは…?)
今――自分は、海を見ながら考えていた。
みんなと一緒に、この海を見たいと。
でも。
一番一緒に見たいのは。
一番、傍にいて欲しいのは。
ゾクッ――
再び、悪寒。
(また…)
エルルゥは体を縮こまらせた。
物凄く、嫌な予感がする。
(そんな…でも…)
自分が。
(そんなこと…)
一番、傍にいて欲しいのは。
「…ハクオロさん?」
思わずそう呟いた、その時――
――放送が、聞こえた。
波が、更に激しさを増す。
その強くなった漣の音を背に、鳥達は飛んでいく。
水鳥が去った後の朝陽は、どこか物悲しい。
【011 エルルゥ 所有物:乳鉢セット 薬草類 バッグ】
【030 北川潤 所有物:便座カバー メリケン粉5kg×2】
【072 広瀬真希 所有物:メリケン粉5kg, 『超』『魁』ジッポライター】
【081 古河渚 所有物:謎ジャム、練乳ワッフル】
【時間:定時放送直前】
311 :
新造人間:04/05/19 21:32 ID:8PfztU4w
「ミコト。イザナミノミコト。かたかなみっつでミコト。呼ぶときはミコトちゃん」
赤ん坊をカミュはそう名づけた。
彼女の頭に最初に思い浮かんだのがその名だったのだ。
「ミコトか……いい名だな……」
オボロも異論はないようだ、カミュの腕の中のミコトに話しかける。
蝉丸は船から聞こえてくる2人の会話を夕暮れの浜辺で釣竿を垂らしながら黙って聞いていた。
支給品のパンと水もまだ残ってはいる。
船に帰ってきた時に網と釣竿に掛かっていた魚も数匹いたが、4人分の食料としては心もとない。
戦闘による傷で血が少なくなっているオボロ、蝉丸はもとより
生まれて間もない赤ん坊には何よりも栄養が必要だ、食料の調達は必須だった。
(来たか……)
針に一匹の魚が寄ってくる、しばらくは針の周りを警戒しつつ巡回していた。
やがて餌の誘惑に負けたのか、魚は針に付いた虫に喰いつこうとしている。
(今だ!)
魚の口が餌に触れようとした刹那―――
「オギャア! オギャア!」
(む!?)
急な赤ん坊の泣き声で、蝉丸の竿を上げる手が一瞬遅れる。
魚はその隙に逃げてしまった。
蝉丸は竿を置き、船のほうに向かった。
「…………どうした?」
見れば2人がミコトを必死にあやしている。
312 :
新造人間:04/05/19 21:33 ID:8PfztU4w
お腹が空いたのかとカミュは思い、パンを飲み込みやすいようにと咀嚼し、水と共にミコトの口に入れた。
だが泣き止まない、パンと水では駄目らしい。
「ど、ど、どうしよ!?」
「むう……やはり赤子にとって一番必要なものと言えば……」
蝉丸はミコトからカミュへと視線を移す。
「母乳か」
「母乳だな」
2人の視線がカミュの胸元に集まる。
「えっ? えっ? えっ?」
自分に何を期待されてるかわかり、戸惑うカミュ。
「それだけ立派なモンがついてるんだ、母乳ぐらい出るだろう」
「出ないってばぁ〜〜〜!」
「確かにな、俺が昨夜吸ったときには、出なかったが……
なせばなる、なせねばならぬ何事もだ
大人では無理だが、赤子の吸引では出るやもしれん」
「蝉丸おじ様、どさくさにまぎれてものすごいこと言ってないっ!?」
ミコトよりも大きな声で叫びだすカミュ。
その時―――
「そこまでですの!」
突如聞こえてくる声。
313 :
新造人間:04/05/19 21:34 ID:8PfztU4w
(しまった―――)
蝉丸は自分の失敗を悔やんだ。
このように大声で騒げば、誰かに発見されてしまうことは当然のことなのだ。
浜辺を見る、黒髪長髪、袴姿の少女が立ち、アビスボートの蝉丸たちを見上げていた。
必死で走って来たのだろうか、息が荒い。
両手に持っているのはトンファーだろうか?
「いたいけな少女と赤ちゃんを泣かせるなんて……
あなた達はこのゲームに乗った悪の秘密結社の戦闘員ですのね!
その子たちを解放するですの!」
「まあ待て、これはちょっとした誤解だ……」
蝉丸は、少女の方から意識を切らずに、木刀を持つ。
「もしもの時にはこれはお前が使え」
蝉丸はオボロに果物ナイフと短刀を預ける、話によれば彼は弐刀流の使い手とのことだ。
今の身体ではほとんどまともに戦闘はできないだろうが
それでも本来の戦闘スタイルになれば、最大限の実力を発揮できるだろう。
「お前たちとその子はそこにいろ」
蝉丸は3人を制し、船を下りる。
口ではカミュとミコトを助けるようなとは言っているが
出会ったばかりの人間だ、その後本当に危害を加えないという保証は無い。
誰にも指を触れさせない、護ると決めた以上は簡単に信用して引き渡すわけにはいかないのだ。
自身の身体を見る、深刻な深さのものこそ無いが、夥しい数の傷痕だ。
(満身創痍の身体だが、この戦争が終わるまでは持ってくれ……)
314 :
新造人間:04/05/19 21:34 ID:8PfztU4w
浜辺で対峙する2人。
「どうしても…………離す気はないんですの?」
「ああ……」
「わかりましたの……
たった一つの命を捨てて、生まれ変わった不死身の体
鉄の悪魔をたたいて砕く!
すばるがやらねば誰がやる! 覚悟ですの!」
浜辺を蹴り、殴り掛かかるすばる。
痛みの上に、重ねられる痛み。
疲労の上に、重ねられる疲労。
すばるはかなりの使い手だった、トンファーによる攻撃を木刀で防ぎながら蝉丸は思う。
(このような真っ直ぐな戦いができる者が、悪人のはずが無い)
(どうにかして、説得させねば―――)
そう感じ、木刀ですばるの手のトンファーを叩き落とそうとたときだった。
「大影流合気術―――」
すばるはトンファーを捨て、蝉丸の手首と服を掴むと
「流牙旋風投げッ!」
蝉丸の大きな身体を宙に舞わせた。
(合気ッッ!? ここにきて……ッッ!)
空中で2回転し、砂浜に叩きつけられる蝉丸。
315 :
新造人間:04/05/19 21:35 ID:8PfztU4w
かろうじて受身は取ったものの、全身を強打し立ち上がるのもやっとであった。
(今のをもう一撃受ければ―――)
しかし、すばるには最早追撃をしてこなかった。
「どうした……?」
「あなたは……悪い人じゃないですの。
もし、すばるに対して本気で襲い掛かってきていたのなら
その程度のダメージで済むはずないですの」
合気とは危害を加えようとする敵の力を、そのまま自分の力へと変換し敵へ返す。
敵の加える攻撃の力が強大であればあるほど、敵自身に返る力は強大になってしまう。
蝉丸も合気道は取得しているので、そのことは瞬時に理解した。
「……単に、もう力が無かったのかもだけかも知れんぞ」
「それに、その目……その目は正義の味方しかできない目ですの!」
(お前もな)
蝉丸は自分よりも遥かに純粋な目をした少女を見て、そう呟いた。
「なんにせよ、わかってくれたようで何よりだ……」
316 :
新造人間:04/05/19 21:36 ID:8PfztU4w
その時、泣き声に気付き
「助けを呼ぶ声がしますの!」
と、急に海のほうに駆け出したすばるから遅れること数分。
慣れない獣道を走って、ようやく追いつく人影があった。
その人物に気付いた船の中のカミュが叫ぶ。
「……お姉さま!?」
彼女はその呼びかけに答える
「―――カミュ?」
【37 坂神蝉丸 切り傷 打撲が二十数箇所 所持品 木刀】
【16 オボロ 右足に負傷 左脇腹打撲、及び肋骨数本骨折 所持品 果物ナイフ 短刀】
【25 カミュ 所持品 気配を消す装置 ハクオロの仮面 ユズハの服 ミコト】
【86 御影すばる 所持品 トンファー グレネード残り2個(殺傷力は無いがスタン効果とチャフ効果を合わせ持つ) 小さなスケブ ペン いくつかの似顔絵(うたわれキャラのもの)】
【09 ウルトリィ 所持品 ハクオロ?の似顔絵】
【アビスボートで出会う、時間は午後5時くらい】
「……もうなくなっちゃったな」
藤井冬弥(73番)は須磨寺雪緒(50番)と遅い朝食を摂った。
正確な時間は分からなかったが、日が結構高く昇ってきている辺りあまり早い時間とは言えない。
二人ともなるべく節約していただが、とうとう最後の食料が尽きた。
いや、今まで良く持ったというべきだろう。二人はあまり行動していないということもあったが、
他の参加者の中には、もう自分の食料を全て消費してしまった者もいる。
「とにかく、食べられる物を探さないといけないわね」
食料採集。生きていく上で食物は必要不可欠だ。この島においてもそれは例外ではない。
唯一つ違う点を上げるとするなら、それに危険が伴うところである。
「丁度よく食べられる木の実が生っている木とかあればいいんだけどな」
「……そんな都合のいいことがあるわけが無いわ」
この二人には、別の参加者と決定的に違う点があった。
それは、殆ど場所の移動をしていなく、施設らしい施設を一度も目にしていない点である。
一口に言えば情報不足。二人には最初のホール以外に人口の建造物があるか否かさえも把握できていない。
そこら辺に生えている雑草の中には食べられるものもあるにはあるが、冬弥も雪緒もそういったサバイバルの知識は無く、
逆に毒があるものに当たってはまずいと考え、雑草を調理するといった考えは却下された。それに調理器具さえない。
「人って、水さえあれば結構な日にちは持つらしいけれど?」
「冗談言うな。今の食事だって全然足りなくて腹の虫が鳴り出しそうなんだ。我慢できないって」
それに、いつこの殺し合いが終わるか分からない。
とにかく、二人は寝床として親しんだ海岸を離れることにした。
海岸線を東へ慎重に二人は進む。
森の中は確かに隠れるところはあるだろうが、同じ景色ばかりで方向が分かりにくい。
同じところをぐるぐる回ってずっと森の中、という展開は避けたい。
ならば、少しぐらい見通しがよくても迷う心配のあまり無い海岸線を進むに限るのだ。
「……あそこ、小屋があるわ」
雪緒が指差す。たしかにその先、ぽつんと小屋が建っていた。
「そうだな。中には何もなさそうだが……」
「……昨日」
雪緒は、呟くように言い始めた。
「海岸線に、足跡があったわ。それは東に向かっていて、今私たちが進んでいる方向も……」
「東だな」
二人で顔を見合わせた。
足跡の持ち主がここを訪れていない保証は、無い。そして、その人物がゲームに乗っていない保証も。
自然と冷や汗が出てくる。先ほどまでは何でもなかった小屋の雰囲気が、今では不気味に感じる。
冬弥は迷っていた。
中の様子は、知っておきたい。食料があるかもしれない。だが、万一人がいれば……。
冬弥が行くか行かぬか迷っていると、雪緒が足を進める。
「藤井さんは、ここで待っていて」
「え、お、おい!」
冬弥を尻目に、小屋の近くまで近づいていく。
冬弥は逆に取り残された形になった。冬弥は慌てて雪緒の後についていった。
小屋に近づいてみると、話し声が聞こえる。
いや、話し声というより言い争いに近い。そっと窓から中を覗きこんだ。
窓の中は、二人には衝撃の強い光景だった。
体格のいい青年に、ナイフ一本で切りかかる男。そして……死体、三つ。
死体などそれまで見たことの無かった二人だ、その出血量に嘔吐感がこみ上げてくる。
(う、うげっ……)
どこか甘えがあったかもしれない。今までのことは、嘘なんじゃないか。
放送も出鱈目で、自分のように殺し合いなどしないものしかこの島にいないんじゃないか。
そんな儚い期待も打ち破られる。殺し合いという、現実を突きつけられて。
冬弥は、雪緒の手を掴んだ。掴んで、走った。がむしゃらに。
小屋の中の者たちが自分らに気付いたかどうかはどうでもいい。とにかく、この場から離れたかった。
小屋が見えなくなったところで雪緒の手を離し、やっと一息つく。
「やっぱり、皆生きるのに必死なのね」
諦めにも似た、雪緒の言葉が聞こえる。
そして、冬弥は生きるということを再確認した気がした。
自分にああいったことができるのか? 答えは、もちろん否だ。
他人の殺し合いを見て、恐怖で逃げ出してしまう自分が、人を殺すことなどどうして出来ようか。
だが、殺さなければ殺される。生き残れるのは、たった二人。
自分以外が全員同士討ち。そんなのは夢物語だ。やはり、生き残るには自分が手を染めるしか……無い。
手が、わずかに震える。人を殺すことに、恐怖を感じる。改めて現実を突きつけられると、なおさらそうだった。
冬弥は生き残りたいと考えている。それが、他人を手にかける事だということも分かっている。だが……
(俺は……本当に、人を殺せるのか?)
迷いは、冬弥の心に残ったままである。
【50 須磨寺雪緒 所持品なし】
【73 藤井冬弥 所持品グロッグ17 弾残り11発】
【蝉丸とオボロの戦闘を目撃 午前中の出来事】
冬弥たちの狙撃に失敗した晴香は森の中を駆けていた。
(ここまで来れば大丈夫かしら)
一旦足を止め、振り向いて後ろを確認してみる。
追っ手の姿は見えなかった。
(でもまさか、由依が死んでいたなんて)
逃げている途中、篁の嫌な声が聞こえた。
その中で晴香は由依の死を知った。
(やっぱ由依じゃここで生き残るのは無理だったみたいね)
知り合いが死んだというのに晴香は冷静だった。
自分はこんなにも冷酷な人間だったろうか。
だが命を落とした者に対していちいち感情を抱いている暇はない、それが例え知り合いだったとしても。
ここは殺し合いの場なのだ。
次の瞬間には自分が死んでいるかもしれない。
そして自分はこれから多くの人々を殺そうとしているのだ。
(良祐、待っててね)
さらに進んで森の外れまでやってきた晴香は、焼け落ちた民家を発見した。
(誰かが放火でもしたのかしら……)
しばらく焼け跡を探ったが特に何も見つからなかった。
(あら? あそこに見えるのは……)
海岸のほうになにやら建物が見える。
北川たちがいる海の家だ。
(少なくともここにいるよりはマシね)
晴香は海の家へと歩を進めた。
(もし先客がいたら……邪魔するヤツは皆殺しよ)
晴香は自分の後をつけている者がいることに気付いていなかった。
「ウーン、このまま後を追うべきか?」
追跡者の正体はエディだった。
彼はあの後森の中に潜伏していたが、晴香を発見して後を追ってきたのだ。
「それにしても、みんなどこにいるんだろうナ」
晴香を発見する前に2回目の定時放送を聞いていたエディだったが、宗一たちは無事なようでほっとしていた。
(ウーン……)
晴香が海の家に向かうのを見ながら、エディはこれからどうするべきか悩んでいた。
晴香の他に海の家に向かう人影があった。
足元はふらつきながらも、その目はしっかりと海の家を見据えている。
なぜそこに向かっているのかはわからなかった。
ただ、直感で人が集まっていそうな気がした。
閃光弾の効果はとっくに切れていた。
殺虫スプレーを顔面に受けてすこぶる気分は悪かったが。
だが、もはや人格が壊れて元には戻りそうにない香里にはそんなことを考える思考は存在していなかった。
当然、2回目の定時放送など、彼女の耳には入っていなかった。
聞こえるのは、いるはずのない栞の声だけ。
「……そうよ。みーんな殺してやるんだから。そして栞とあたしだけが生き残るのよね? フフフ……」
右手には果物ナイフが光っていた。
【091 巳間晴香 海の家へ ワルサーPP/PPK(残弾6発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ】
【010 エディ どうするか迷っている 盗聴器 先の尖った木の枝数本】
【087 美坂香里 海の家へ 果物ナイフ】
【2日目朝、定時放送から約30分後
『諸君、昨晩はよく眠れたか? さて、ここまでの死亡者だが、
6番、一ノ瀬ことみ。15番、緒方理奈。20番、柏木初音。29番、木田恵美梨。43番、沢渡真琴。
45番、霜村功。49番、スフィー。54番、立川郁美。59番、ディー。60番、トウカ。61番、長岡志保。
63番、名倉由依。67番、ハクオロ。70番、氷上シュン。75番、藤林杏。77番、伏見修二。
92番、宮内レミィ。97番、ユズハ。99番、リアン。以上19名、生存者は70名だ。
一日で三十人の大盛況、こちらとしては嬉しい限りである。これからもそのペースを落とさずに殺し合ってもらいたい』
「勝手なこと言ってラア」
エディはしかめっ面で放送を聞き、そう一言だけ吐き捨てた。
ここは島の南端、そしてエディの視線の先には東京タワーを100分の1に縮小したような塔が立っていた。遠目からなので
断定は出来ないが高さはおよそ3メートルほど、一見してただの電波塔に見える。
だがエディはそれで片づけなかった。疑わしき物は全て疑うのが彼の仕事だからだ。
昨夜燃える小屋から脱出しついでに森から抜けたとき目の前に広がってのは住宅街。その中にあった一軒の家で休息をとり
夜明け前に再び始動したエディは今までずっと海岸線に沿って移動していた。島の大体の大きさを把握しようと思ってのことだ。
定期的に休みながら足を進め、時に人影をやり過ごしながらこの鉄塔を発見したとき、まるで計ったかのようにそこから
あの男の声が響き始めたのだ。
目の前の建物を睨み付けながらエディはゲーム開始前、ホールでの篁の言葉を思い返した。
『君らの能力は封じられている。特殊な結界を張らせてもらっていてね』
『諸君らの体内に、小型の爆弾を埋め込ませてもらった』
『島には管理者を数名降ろしてあるが』
あの鉄塔がその「特殊な結界」とやらの起点かもしれない。そう考えてエディはふと考えた。そもそもその「結界」とは
どんなものなのか。あのラストリゾ−トをさらに改良した物だろうか。純粋なエネルギーで銃弾や鉄鋼を遮断する代物だ、
そうでなくてもあの篁、人の能力を封じるなんてトンデモ兵器の一つや二つ持ってても納得できそうだ。
(いや、確証もないのにそんなこと考えてもしょうがネエナ)
頭を切り換える。
体内にあるという爆弾。機能はそれだけではないだろう。すくなくとも発信器と盗聴器も内蔵されているはずだ。
そうでなければ死亡者がわかることや今持っている盗聴器が働いていることの説明が付かない。
あの鉄塔はその忌々しいものの送受信装置として機能している、その可能性は高いとエディは踏んだ。
それともう一つ、おそらく送電の役割も担っている。昨夜過ごした住宅街の様子を思い浮かべながら彼は顎を撫でつけた。
あの住宅街には何でもあったがただ一つ、普通のそれにあるはずの物がなかった。電信柱。そう、あそこには電線が
なかったのだ。
ここからは見えないが送電室の様な場所があるかもしれない。そこを乗っ取り電気系統を乗っ取れば、一気にこちらに
形勢は傾く。篁のヤロウに一泡吹かせることが出来る。
だがそんな場所を無防備に放っておくとは考えにくい。管理者と名乗る武装集団があそこを守っているに違いない。
そしてエディは再び鉄塔を睨み付ける。
彼が考え、そして出した結論は──
「ダァメだ。ヤッパ情報が少なすぎる」
天を仰ぐことだった。何しろ今までの推理は全てエディの憶測に過ぎない。全くの的外れと言うことも有りうるのだ。
そもそも武器も何もない状態で乗っ取るだの破壊するなど、そんなこと出来るはずもない。
「ソーイチか姐さんと合流するのが先決だナ。マッタク奴らどこでなにしてんだ」
愚痴をぼやきながらエディは鉄塔に背を向け、海岸線沿って歩いていった。
【エディ、海岸線で鉄塔発見、だがそのまま立ち去る。知り合いの捜索】
【010エディ 装備:盗聴器 先の尖った木の枝数本】
【時間 第二回定時放送直後】
【鉄塔の場所は島の南端、地図で表すとハクオロたちのいた横穴と河口の中間あたり】
「嵐の前の……」とかぶってしまったので
>>322-324はNGということで進めて下さい。
お騒がせしました。
岡崎朋也は先ほど知り合った水瀬名雪と共に歩を進めていた。
「岡崎さん、どこに向かってるの?」
ずっと黙っていた名雪が話し掛けてくる。
「ああ、俺は芳野祐介って奴を探してるんだ。目の前で大切な人を…。俺はあいつを許す事なんてできない」
朋也の拳に力がこもる。
「………」
名雪はそれを黙って聞いている事しかできなかった
「だからそいつを探そうと思う、それでいいか?」
「……うん…」
そう言うのが精一杯だった。そしてまたしばらくの沈黙が続く。
間ができるとどうしてもさっきの事が頭をよぎる。変わり果ててしまったあいつの事を…
「……春原…」
何となく言葉が口から漏れる。と、
「呼んだか?岡崎」
急に横から名前を呼ばれる。振り向くとそこにいたのは
「お前、何シケたツラしてんだよ」
春原だった。
「す、春原!お前さっき…」
死んじまったじゃないか、という言葉は言えなかった。横の名雪は驚いて凍り付いているようだった。
「…無事だったのか?」
そんなわけは無いと頭ではわかっているが聞かずにはいられなかった。じゃなかったら今目の前にいるのは何なのか。
「あーそれなんだが気が付いたらここにいたんだよね」
と、笑いながら答える。どう考えてもおかしかったが春原がここにいる、それだけは事実だった。
「とりあえず無事だったんだな。良かった、あまり心臓に悪い事しないでくれ」
「いつも僕がおちょくられてばかりだったけど、初めてお前に一泡吹かせられたみたいだな」
「悪い冗談はこれきりにしてくれよ、ははっ」
二人で笑いあった。名雪はまだ固まったままだったが
「…ああ、これっきりだ」
「さて、じゃあ春原、まずはどこか行っちまった芽衣ちゃんを探そうぜ」
327 :
親友2:04/05/19 23:04 ID:Z4TZkpuD
「ああ、その事だけどな」
春原の顔が真面目になる
「ん?」
「芽衣の事はお前に任せていいか?」
「…どういうことだ?」
「僕はちょっと一緒に行けないんだよね」
申し訳なさそうにそう言う。
「何言ってるんだよ、芽衣ちゃんを守るのはお前の役目だろ?」
「そうだよ。でも岡崎になら任せられると思ったんだ」
「俺をかってくれるのはありがたいんだが、やっぱお前の方がいいだろ」
「…僕には行かないと行けない所があるんだよね」
「芽衣ちゃんより大事な事なのか?」
「…僕だって行きたいよ!でも…無理なんだよ…」
「…どうしたんだよ春原、お前なんか変だぞ?」
朋也にかまわず春原は話を続ける
「だから僕が行く前に約束して欲しいんだ。芽衣を僕の代わりに守るって」
「…ああ、かまわないが。芽衣ちゃん可愛いしそれは全然OKだ」
朋也は不思議そうにしながらもそう答える。
「よかった、それだけが気がかりだった。そろそろ行かないと。岡崎、お前はどうか知らないけど僕は岡崎の事親友だと思ってたよ」
「え?春原?」
「さようなら親友、楽しかったよ」
春原がそこまで言うと周りに光が立ち込める
「春原?春原!」
朋也が叫ぶ。と、光が徐々に引いていった。
光がはれ、元に戻った時春原の姿はなかった。代わりにあったのは小さな光だった
328 :
親友3:04/05/19 23:05 ID:Z4TZkpuD
「…すの…は…ら」
光に手を伸ばすと光は手のひらへ吸い込まれていった
(たのんだよ)
一瞬春原の声が聞こえたような気がしたがそれきり聞こえてくる事は無かった。
「………」
しばしの沈黙、そして
「…水瀬」
隣でまだ固まっている名雪へ声をかける
「え、あ、い、今のって…」
そんな事はわかるわけが無かった。しかし一つだけ言えることがあった
「芽衣ちゃんを探しに行こう、いいか?」
それが春原の願いだって事だ
「…もちろん、だよ」
名雪も快く承諾してくれた。そして朋也は手のひらを見つめる
「お前の前じゃ一度も言わなかったけどな、俺だってお前の事は親友だと思ってるさ」
空に向かってそう呟いた
【朋也は芳野を探す事よりも芽衣を探す事を優先】
【朋也の所持品 包丁、ダンボール、英和辞典 】
【名雪の所持品 後の書き手に依存】
テーブルの上には野菜サラダにベーコンエッグ、バターの塗られたトーストとレトルトのコーンスープがそれぞれ二人分置かれていた。だが、それを食す二人──立田七海と牧村南の手は遅く、また食卓の雰囲気も些か沈んだものだった。
原因は勿論、目覚まし代わりに鳴り響いた二回目の定時放送──。
一回目の放送と同様、その放送では二人が見知った者の名前は流れなかったが、一日が経たぬ内に既に三十もの命が失われていたという実事は、充分に二人の心に陰を落としていた。
そして何より、見知った者の名前こそ無かったものの、聞き知った者の名前はそこにあったのだから。
「ベナウィさん……ハクオロさんに会えたんでしょうか」
「……」
七海のその問いかけに、南は言葉を返す事ができなかった。
いつもの南なら暖かい言葉の一つでも掛けて七海の心を軽くしようと努めていたであろうが、この島の現実が南の心にも重石となりのし掛かりそれを成す事はできなかった。
結局その後は重苦しい沈黙が続き、二人がすっかり冷めてしまった朝食を採り終えたのは随分と経ってからであった。
食事を終えて間もなく。七海はキッチンで先程使用した食器を洗い、南はリビングの窓から外の様子を眺めていた。
リビングには東西に大きな出窓が一つずつ存在し、現在南がいるのは東側の窓の方である。
二人が居るこの別荘は、まるで外界との隔絶を目的として建てられたかの如くの位置に存在していた。
まず、北側と西側は低いながらも断崖絶壁。見渡す限り蒼い海ばかりが広がっている。
南側と東側はひたすらに平らな枯れた大地。一応、南側には丘陵地帯が、東側には森林が見える事は見えるのだが、どちらもそこまでの距離は有に200m程はあり、その間には気紛れ程度に枯れ木が数本寂しげに存在しているだけ。
さながら、無の中心の有。それがこの別荘だった。
しかし、その“無”が存在するが故に、多くの参加者はその場で森から、或いはまさに別荘から他の参加者に狙撃される可能性を危惧し、この別荘に近付く事が無かった。
しかし裏を返せばこの別荘は、一度辿り着いてさえしまえば、接近する他の参加者を確実に発見できる優秀な行動拠点でもあった。
そしてその特性が故、南は今まさにこの別荘に接近してくる存在に気付く事ができた。
「猪名川さん、体はもう痛まない?」
洞窟内、懐中電灯のおぼろげな明かりが照らす僅かな空間の中には、小中大の3人の少女
の姿があった。川を下る途中に洞窟へ迷い込んだ猪名川由宇、そして、睡眠を取るため避難
してきた河島はるかとアルルゥの二人である。
由宇とはるか達は昨晩偶然出会い、やや騒動気味な出会いで混乱こそしたものの、今はお
互いの目的のために協力し合う仲と言っても良い状態にまでなっていた。
由宇の目的は友人と共に生きて脱出する事であり、そして、はるかとアルルゥの目的もまた
同じだった。戦いを望んではいない。
三人は即ち目的を同じとする仲間であると言えた。
「ああ、もう大丈夫や。細かい傷はカサブタが直してくれるやろ」
「そう? でも、無理は駄目よ。化膿したら大変だから」
「せやな、その言葉、肝に命じとくわ」
現在、外界は朝である。日は昇り、獣の目の醒める時刻。
だが、洞窟内で一夜近く時間を過ごした三人には、その感覚が無い。
彼らの周囲の空間は狭く、暗く、ジメジメとしていて、懐中電灯の明かりですら眩しい。
はるか達の辿って来た道を戻りさえすれば明りも見えてくるだろうが、今、彼らがお互いを
認識しあっていられるのは一本のか細い光のおかげであった。
その光の輪の隅、話し込む二人のすぐ横で、もぞもぞと動くものがいる。
「うぅん、はるかおね〜ちゃん…おはよぅ」
アルルゥだ。
良く寝たのと、二人の会話が聞こえたりで、どうやら目が醒めたらしい。
まだ少し眠そうに顔をさするアルルゥを視界に見とめ、はるかが申し訳無さそうに謝る。
「あ、ゴメンね、アルちゃん。起こしちゃった?」
さも、優しいお姉ちゃんのような印象の彼女。右手でさりげなく懐中電灯を逸らす。
「んーん。よく眠れたから…ありがと」
「あちゃ。すまんなー、ウチが声デカいばっかりに」
由宇が気まずそうに額を指でかく。アルルゥののんびりした様を見てか、その表情が少し
緩んだ。
あ。ごめん。間違えて送信を押しました。
332はスルーしてください。
改めて投稿します。
「まったく…惨めなものね…」
激痛に苛まれる左肩を押さえながら島を徘徊する事数時間。幸か不幸か他の参加者に会う事の無かった石原麗子は、やがて現状では困難な待ち伏せ、奇襲戦法をとる事を捨て、同じリスクを背負うのなら、と安全に身体を癒せれる拠点を探す事に賭けたのだ。
どうにも普段の彼女らしからぬ綱渡りな行動であるが、仙命樹の効力が結界の力によって抑えられている今、当然傷の自然治癒が期待できないのだから、ある意味当然の行動とも言えた。
瑠璃子の右腕は邪魔だけでなく、それを所持していると“被害者”を演じ、気のいい参加者を騙す事ができなくなると判断し、先の戦闘の直後、適当な所に破棄してきた。
やがて、麗子の視界の先にはだだっ広い空間と、その先に在る一件の建物が見えた。
「!七海ちゃんちょっと来て」
「どうしたんですか、南お姉さん?」
森林から現れた麗子の姿を認めた南は、キッチンにいる七海を呼び寄せた。
「あっ!」
七海も麗子の姿に気付き声を上げる。
「なんだか、怪我してるみたいですよ!」
それは南も気付いていた。しかし、だからと言って麗子を単純に誰かに襲われた被害者と判断する事は、今の南──厳密には、この島に来てからの南にはできなかった。
やがて、麗子の姿が少しずつ、少しずつ別荘へと近付いて来、それと共に、その様子も明確に観察できるようになってくる。
鉄パイプを持った右手で、左肩を押さえている。表情にははっきりと苦痛の色が滲みだしており、その歩みも力がない。
更に麗子が近付いて来、そこでようやく麗子の方も南達の存在に気付いた。
三人の視線が絡む。
「!──七海ちゃん隠れて!」
「え、えっ!?」
「早く!」
「は、はい!」
重ねて南に促され、七海は戸惑いながらも一階の寝室へと駆け込んだ。
それを確認すると、南はテーブルの上に置いていたアイスピックを手にし、玄関とリビングを繋ぐ扉の前に仁王立ちした。
(あの目は───)
あの一瞬、南は感じ取ったのだ。
獣のような冷たい危険さを。弱き人間の本能で。
(隠れた──という事は、戦闘能力は無いということかしら?フフ、賭けは当たりみたいね)
南達がこちらに向かって来ない事が解ると、麗子は狩猟者の笑みを浮かべた。
【05番 石原麗子 所持品:鉄パイプ、ベレッタ(残弾11)。瑠璃子の右腕はどこかに破棄】
【56番 立田七海 所持品:鋸、金槌】
【83番 牧村南 所持品:携帯食料一式、アイスピック】
【時刻:二日目午前八時頃】
【残り65人】
「猪名川さん、体はもう痛まない?」
洞窟内、懐中電灯のおぼろげな明かりが照らす僅かな空間の中には、小中大の3人の少女
の姿があった。川を下る途中に洞窟へ迷い込んだ猪名川由宇、そして、睡眠を取るため避難
してきた河島はるかとアルルゥの二人である。
由宇とはるか達は昨晩偶然出会い、やや騒動気味な出会いで混乱こそしたものの、今はお
互いの目的のために協力し合う仲と言っても良い状態にまでなっていた。
由宇の目的は友人と共に生きて脱出する事であり、そして、はるかとアルルゥの目的もまた
同じだった。戦いを望んではいない。
三人は即ち目的を同じとする仲間であると言えた。
「ああ、もう大丈夫や。細かい傷はカサブタが直してくれるやろ」
「そう? でも、無理は駄目よ。化膿したら大変だから」
「せやな、その言葉、肝に命じとくわ」
現在、外界は朝である。日は昇り、獣の目の醒める時刻。
だが、洞窟内で一夜近く時間を過ごした三人には、その感覚が無い。
彼らの周囲の空間は狭く、暗く、ジメジメとしていて、懐中電灯の明かりですら眩しい。
はるか達の辿って来た道を戻りさえすれば明りも見えてくるだろうが、今、彼らがお互いを
認識しあっていられるのは一本のか細い光のおかげであった。
その光の輪の隅、話し込む二人のすぐ横で、もぞもぞと動くものがいる。
「うぅん、はるかおね〜ちゃん…おはよぅ」
アルルゥだ。
良く寝たのと、二人の会話が聞こえたりで、どうやら目が醒めたらしい。
まだ少し眠そうに顔をさするアルルゥを視界に見とめ、はるかが申し訳無さそうに謝る。
「あ、ゴメンね、アルちゃん。起こしちゃった?」
さも、優しいお姉ちゃんのような印象の彼女。右手でさりげなく懐中電灯を逸らす。
「んーん。よく眠れたから…ありがと」
「あちゃ。すまんなー、ウチが声デカいばっかりに」
由宇が気まずそうに額を指でかく。アルルゥののんびりした様を見てか、その表情が少し
緩んだ。
「あ、由宇おねーちゃんもおはよぅ〜」
「おはよ。昨日の夜は驚かせてゴメンな」
「大丈夫」
アルルゥはそう言って、一瞬微笑みのような表情を浮かべると、すぐさまはるかの方に向
き直って、今度は少し甘えるように言った。
「はるかおねーちゃん、アルルゥお腹減っちゃった」
「そうね、缶詰が少しならあるから、皆で食べましょうか」
このはるかの言葉に一番嬉しそうにしたのは由宇だ。彼女は昨日から何も食べていない。
「そらええな!丁度腹の虫がなっとったとこなんや」
「由宇おねーちゃんも、一緒に食べる」
アルルゥがニッコリと笑う。
「もう。猪名川さんたら」
はるかも微笑んだ。
「食べるのも特技の内なんやで、ウチは」
冗談めかした調子で由宇も笑う。
外の世界で行われている惨劇を僅かに忘れる事が出来たためか、それとも、これから待ち受
ける過酷な試練にくじけぬためか。
三人は微笑んだ。ただ、生きるために。
はるかが缶詰を開ける音が、パキリ、パキリと、洞窟内を木霊するのだった…。
【27河島はるか 04アルルゥ 07猪名川由宇が合流 睡眠を取った後、食事を済ませる】
【三人で仲間を探し、脱出する方法を探す目的で動く】
【時刻は朝】
小屋の中は薄暗い。
だが、明るかろうと暗かろうと彼女には関係が無い。
彼女は、目が見えない。
みさきは民家の片隅で膝を抱えていた。
自分があの場にいても足手まといになるだけだろう。
自分のために人が傷つくのは嫌だった。
――偽善。
ならば、何故光岡と一緒にいるのか。
自分と一緒に居る限り、光岡は自分を守り、傷つく。
かと言って、光岡と別れれば、待っているのは確実な死。
――ジレンマ
多分、自分はまだ死にたくないのだ、と思う。
殺し合いを強要されたとき、確かに自分は生を諦めた。
だが、光岡と会い、希望を持った今、再びそれを諦めることなど出来なかった。
まだ、自分は生きたい。
もう一度あの学校へ行き、学食のカレーを食べたい。
掃除をさぼり、親友に追いかけられたい。
声は出せないけど、小さな体で一生懸命に頑張っている後輩の演劇が見たい。
屋上で出会った、変わった男の子と競争の約束をしたい。
こんな不自由な体でも、まだやりたいことがこんなにもある。
――生きて、帰りたい。
光岡は今、自分のために闘ってくれている。
自分には、祈ることしか出来ない。
目が見えないことがこんなにももどかしいことだなんて、今まで思ったことは無かった。
自分のために人が傷つき、死んでしまうかもしれない予感。
死なないで欲しい。
再び自分の前に現れて、皮肉めいた声で話し掛けて欲しい。
祈った。
いるのかどうかすらもわからない神様に、祈った。
光岡さんが、無事でありますように――
ドアが開いた。
「光岡さん?」
答えは、無い。
「光岡さん、だよね…?」
近づいてくる。
光岡では無い、そう思った。
「………殺さないで…」
懇願。
「私、目が見えないんです。 だから、貴方を傷つけることなんて出来ないから、だから――」
侵入者が口を開く。
「光岡悟だよ、みさき。 少し冗談が過ぎた。すまん。」
この直後、光岡は生まれて初めて女の子を泣かすことになる。
【028 川名みさき 白い杖】
【089 光岡悟 日本刀 デザートイーグル(残り3発)】
芳野は耳をすます。開け放たれた窓の向こう、わずかに聞こえる誰かの話し声。
(……真下か)
苦々しく顔を歪める。どうやらこちらへ来る気配は感じられない。
(少し手を替えるか)
窓を閉める。せっかくガスを充満させているのに開けっ放しにするのは意味はない。
使えるものはないか。辺りを見回す。服がいくつかその辺の椅子に脱ぎ捨てられてある。
(だらしのない教師達だ)
廊下にそっと顔を出し、辺りを伺う。廊下向かいには『理科準備室』とのプレートがあった。
再度職員室に戻る。鍵がないか探す為だ。――辺りを少し探ったが見当たらない。
あまり悠長にはしてられないだろう。鍵の捜索をすっぱりあきらめ、教員机の引き出しを開け放つ。
「これにするか」
少々荒っぽいが仕方がない。
いくつかの引き出しから、ガムテープとスパナを持ち出し、再び廊下へと戻る。
理科準備室の窓にガムテープを貼り付け、ガシガシとスパナで殴りつける。
ガラスは簡単に割れた。音の反響はまったくといっていいほどない。
割れた窓に手を差し込み鍵を開けると、開いた窓からスッと中に入り込む。
目的の物はすぐ見つかった。用済みとなったテープは破棄、スパナは武器となるかもしれないので
乱暴にポケットに突っ込んでおく。どうせ大してかさばるものでもない。
適当にそこらの棚からアルコールの瓶をいくつか手に取り、再び職員室へと戻る。
ここまでの所要時間、約2分。
脱ぎ捨てられていたいくつかの服の袖を乱暴に結びつけ、ロープのようにすると
アルコールをこちらも乱暴にぶちまける。
残ったアルコールも適当に引っこ抜いたガス栓のあたりに残らずぶちまける。
準備を終え、窓をもう一度少し開け耳を澄ます。まだかすかに話声が聞こえる。
どうやら間に合ったようだ。再び窓を閉める。ここまでの所要時間約4分。
アルコールでほどよく濡れたロープ変わりの服の端をガス栓の根元に括りつけ、
もう片方は廊下まで引いてくる。
さて。スピード勝負だ。
置いておいた所持品を持ち、ライターで火をつける。
服はよく燃えた。それは導火線となってすごい勢いで職員室内へと向かう。
芳野はそれを横目で確認しながら一気に階下へと走った。
「その男は――危険だ」
智代の言葉に皐月は頷いた。皐月にもそんな印象らしい。
「詳しいことは後での方がいいな」
智代がスッと立ち上がる。芳野祐介。朋也の敵。
先程別れたばかりなのに。自分が先にこんなところで出会うなんて思いも寄らなかった。
「いろいろあるが、私の友の仇なんだ」
その智代の言葉に、皐月は真顔に戻った。
「殺すの?」
真剣だった。智代もそれに応える。
「……安全が先だ。私の目的。みんなが帰れる居場所をつくることだ。私の、朋也の。その為には――」
「主催者、篁をやっつける!」
皐月が、そう言った。
(……そういう考え方もアリか)
智代は目の前の女の子を見直しながらに見つめた。分かってるね智代、といった感じの表情。
脱出と打倒篁、同時にやってしまおうというのだ。なんて頼もしいのか。
頼れる仲間に、一つ尋ねる。
「どうやって?体内爆弾もある。ここは逃げられない孤島の島。そして、篁自身――とても強い」
スタート時に見ただけだったが、智代ですらあの男の吹きだすような気に気圧されてた位だ。
ヤツはあまりに高い目標だ。
「爆弾をなんとかして、なんとかして篁に近付いて、なんとかして篁をやっつける」
……とても頼もしい言葉だった。
「具体的には?」
しょうがないな、と言った風に智代は溜息をついた。皐月の無鉄砲な所は朋也に似てるかもしれない。
「それはこれから。帰る場所は自分達で切り開く。でしょ?」
「――それはそうだな」
智代も笑った。
「皐月。一緒に、来て欲しい」
「モチ。私も智代と行きたい」
皐月も破顔した。お互い、軽く拳を小突き合わせて、
「まずはここから無事に――」
瞬間だった。
白い閃光。すべてが一瞬で。濁流が――皐月と智代を飲み込む。
芳野は一階へ降り立ち、すぐさま手近の教室に入り込むと窓を乱暴に開け放った。
そして、廊下側の戸口へ取って返し、廊下と窓の向こうの外観の両方を見通せる位置に陣取り、
ライフルをぐっと構えた。
間に合った。疲労によって上がる息をむりやり抑え、ジっとその時を待つ。
今にも、二階でそれなりの規模の大爆発がおこるはずだ。
あの構造上、恐らく、ガスが繋がっている真下の室内にも小規模の爆発が起こるはずだった。
そうなってくれれば楽――だが、もし仮にそれほど影響なくても所詮は小娘。慌てて顔を廊下に出すはずだ。
一目散に逃げ出すかもしれない。後はおびき出されてきた奴を狙い撃ちにすればよい。
この位置であれば、そいつらが逃げた場所が廊下だろうが外だろうが狙い撃ちにすることが可能だった。
百パーセント命中させられる程の腕はなかったが、そればかりは仕方がない。まだ素人なのだから。
今回は逃げまどう獲物を狙うだけのハントだ。殺し合いにも満たない楽な仕事だ。
そう考え、気を落ち着け、その時を待つ。
すぐに訪れた。
「なっ……!?」
大音響と共に学校全体が揺れ動き、鼓膜が破裂するかのような衝撃に顔をしかめる。
(聞いてないぞこんな爆発はっ!どういう構造してんだこの学校は!)
爆風と爆煙により、女――皐月と智代がいた教室から出る影がまったく見えない。
(もしか、今のだけで、死んだんじゃないのか?)
はるかに予想外なまでに予想以上の爆発とその成果に、一瞬の気の緩みと油断。
反応が遅れた。
廊下に飛び出す影。
間一髪、人間には反応しきれぬ速度でそこを飛び出した者。それは獣だった。
騎乗には皐月。飛び出してきたのは二人。芳野の目にはそう映った。
智代はそこには見えない――
「ぐぅ……!」
渾身の力を込めて、皐月は腕を曲げる。もう片方の手は決して離れえぬよう、獣の美しい体毛を力一杯握り締める。
「――っ!」
声にならない叫び。爆風と、主の跳躍時に生じた慣性に任せて力を振り絞り、それをたぐりよせる。
煙の中から引き寄せたそれを強引に主へと叩きつける。
智代だった。ピクリとも動かない。だが、その無事を皐月は確認する暇すらもない。
着地と共に、主がさらに横へと飛んだ。振り落とされぬよう、抱え込んだ智代ごと皐月は身を屈める。
未だ冷めぬ爆煙の向こう、風を切って飛んでくるソレを先読みでかわす。
前を見据えた。煙の向こう。あの男だ。手にライフルを構え、こちらを狙いすましているのが見えた。
このままでは、また狙撃される。智代を、守らなければ。
皐月は覚悟を決めた。
「トンヌラ――GO!」
体より先に口に乗せた言葉。逃げろ!獣のケツをひっぱたく。
同時に――閃光。舞い上がった皐月の髪がさらに宙を舞った。耳をつんざくその衝撃に身体ごと吹き飛ばされる。
「行けぇっ!」
もう一度叫び、自分と主を繋ぐ最後の手綱、主の体毛から手を離す。
チラリと主の背に乗せられた智代が視界に入った。無事でいてくれ。そう祈って。
脱出せよ!皐月の命に従い、駆け抜ける主。ここで一旦お別れだ。
そして残された自分は――いや、だからこそまだ死ねない。
地面に叩きつけられながら、皐月も、まだ形を残した教室へと転がりこむ。
――迅いっ!
爆発の規模が大きすぎた。わずかに反応が遅れ、第一撃、第二撃と立て続けにはずした。
予想以上に、獣の動きは素早かった。すべては生じた油断の為。芳野のミスだった。
視界に見えるは、一人の女を乗せた廊下を駆け抜ける獣の姿と、振り落とされ、手近の教室に転がりこむ女の姿だった。
(とんだハントだ!)
芳野は的を一点に絞る。もう獣と、同乗した女は無視だ。――もう追いつけない。
皐月が入り込んだ教室の扉へと目を向ける。チラリと服が覗いていた。
近付きつつ、鉛玉を叩きつける。丸見えだ。
灼熱の塊に撃ち抜かれ、跳ね回るソレがふわりと宙を舞った。
鉛玉とダンスを踊ったのは――スカートだけ。それを身に付けた人物はいない。
(まさか、逃げられ――!)
刹那、視界に影が走る――銃口を向ける間もなく、ソレはとびかかってきた。
(――上っ!? 猿か、コイツはっ!)
教室の死角から、掃除用具箱と見られる棚の最上段から飛び掛ってきた下半身を晒した痴女。
その実態は、色気もへっちゃくれもない、ただの女猿だった。
そのまま、勢いに乗って頭突きを見舞われる。衝撃に目から火花が飛び散ったかのような感覚。
「くそっ!」
倒れ込みそうになりながらも、グッと上体を反らし、ライフルを横凪ぎに力任せに振るった。
柔らかい手応えと共に皐月の身体が離れる。
そのままライフルを構えようとするも踏ん張りきれず、一歩二歩と後ずさる。
仰向けに倒れそうになる瞬間、ライフルから手を離し、背後に手をついた。反動をつけて前へと飛ぶ。
皐月も同じように――、いや、そのまま屈んだままこちらを睨みつけた。
もうそれは、逃げる小動物と狩人の図ではなかった。獣と獣の死合いそのもの。
捨てた銃を拾う暇はない。
起き上がった反動そのままに、放たれた弾丸のように皐月に飛びかかる。
ライフルの銃身に打ちつけられた腹を押さえながら、皐月も前へと飛ぶ。
タイミングがずれる。芳野が叩きつけるはずだった拳は空をきる。
そのままタックル。臓腑を貫くようなその衝撃に芳野の全身が呻き声をあげる。
だが、所詮は皐月は女の子だった。不意をつかれつつも芳野は足を開いて踏ん張り、
それを前へと膝で蹴りはがす。
同時に懐からブラックジャックを手にとり、よろけた皐月めがけて振るう。
皐月はそれをかわさなかった。かわせなかったのかもしれないが、かわす気はなかった。
再び馬鹿の一つ覚えのように、前傾姿勢で芳野へと向かって飛びつく。
袋が皐月の左肩口にぶち当たる。
手製のブラックジャックとはいえ、充分な手応え。
それでも皐月の勢いは止まらなかった。再び皐月のぶちかましが芳野に決まる。
が、今度は芳野もそれを簡単に抑えきった。
ただでさえ女の体当たり、しかも肩に怪我を負っていてはその威力は無いに等しかった。
皐月の身体をガッチリと捕まえる。捕まえてしまえばそれまで。
終わりだ。
このまま極めて絞め落としてやる。
皐月は最後の抵抗なのか、足を後ろへと振り上げた。
(――金的!?)
男にとって、それはとてつもない苦痛を伴うものだ。
芳野は反射的に上体を屈め、襲いくるそれを手で押さえる。いや、押さえてしまったというべきか。
わずかに――スキができる。
金的を防いだ芳野の上体に伸ばされる皐月の手。襟口をがっちりと捕まえる。
――視界が上下にぶれる。ガクンと、みぞおちに軽い衝撃。
跳ね上げられた――重力から解き放たれる――視界が反転する。
眼下には、肩の痛みを堪え、それでも勝ち誇ったかのような皐月の不敵な笑み。
上空へ投げ、いや、蹴り上げられた芳野の身体が回転する。天井が、とても近い。
五月の軽やかな風が、芳野の頬を撫で、全身を吹き抜けた。
「ごふっ!」
暗転する視界。肺から空気が押し出される。
床に背中をしたたか打ちつけ、のたうち回る。
芳野にとって幸運だったのは、皐月の肩がイカれ、投げが不十分だったことと、
すでに追い討ちできるほどの体力が皐月に残されてはいなかったことか。
肺がきしみ、息のできぬ身体に鞭打ちながら、拳を握りしめ立ち上がる。
(俺は死ねない……)
必死で消し飛びそうな意識を繋ぐ。
眼前に広がるは、左腕をだらんと下げ、身体をひきずるようにして窓へと向かう皐月の後ろ姿だった。
なんて無防備。だが、芳野も皐月の元までは走れない。
震える手でライフルを手繰り寄せ――
そして、皐月にとって幸運だったのは。
「ぐっ……ハァハァ……チェック……メイトだ」
皐月は、教室の窓を開け放ち、外へと逃げ出そうとした皐月へと銃口を向けた。
兎一匹に随分とてこずらされた。息も絶え絶えに、狙いを定める。
窓枠に乗った皐月が、気だるそうにこちらを向いた。
力を使い果たしたかのような、すべてをやり終えたかのような、そんな表情。
極度の疲労と痛みに脂汗を浮かべながら、それでも皐月は笑った。
「何が……おかしい?」
「もう……駄目だと思ってた。だけど。
私の……勝ちだよ……。私は、一人じゃ……ない、んだから……ね」
確かに予想外のことがあったとはいえ、大の男が小娘にここまで追い詰められた。
それはある意味負けも同然かもしれない。芳野は鼻で笑って返した。
「あの世で……自慢話でも……しておくんだな」
皐月は、柵にかけた手を離すと、教室の――校舎の外へと身を踊らす。
地面につく頃にはあの世行きだ。
真正面、この距離。これほど疲労していたのはこの島に来て初めてだったが、もう外さない。
芳野は引き金を――
それを待ち構えていたかのように、窓の外。
一陣の銀色の風が右から左へと吹き抜けた。
皐月が手をのばす。がっちりと皐月を捕らえる力強い手。それはまるで白馬の王子。
それに導かれ、引き寄せられる。
森の主と坂上智代。
「――やらせるかっ、芳野っ!」
左腕で皐月を抱き、残った右腕で手に持った獲物を大きく振りかぶった。
一閃――それはキラリと太陽の光を乗せ、芳野と皐月の間を切り裂く。
「な……」
芳野は、撃てなかった。
カラカラと床を滑る銀色の鋏を呆然と眺め、ただ一人立ち尽くす。
(あんな小娘共に、負けたのか――)
作戦に穴がなかったとは言わない。所詮、素人が考えだした浅はかな作戦だ。
それでも、まだ厳しい社会にすらも飛び出していない女達に遅れをとるとは思わなかった。
ようやく、打ちつけた背中の痛みも引いてくる。
自分は大した怪我すらない。向こうは手負いになった。なのに何だ――
「くそっ……!」
芳野は負けた。強い敗北感に打ちのめされつつも、
のそりと散らばった武器を拾い集めた。
(いや、最後に――勝てばいいんだ)
だが、悔しさは拭えなかった。
【098 芳野祐介 所持品 手製ブラックジャック*2 スパナ
ライフル(予備マガジン2つ) サブマシンガン(予備マガジン1つ) ことみの救急箱 煙草(残り5本)とライター】
【095 湯浅皐月 所持品 主 騎乗中】
【038 坂上智代 所持品 眼鏡 朋也、宗一、芳野の写真 主 騎乗中】
【智代、皐月共に学校脱出 皐月 下半身下着姿 左肩骨折 極度の疲労】
【CDはパソコンと共に爆発に巻き込まれました】
修正、というほどでもないのですけど。
次の書き手に任せるって意味で
×【CDはパソコンと共に爆発に巻き込まれました】
○【CDはどうなったか不明】
にしておきます。指摘ありがとうございました。
でも本文にも推敲時のゴミとか手直しミスとか見落としとかで変な文章がところどころに。だめぽ('A`)
変なところは脳内補完でお願いします。。。
エルルゥ(11番)は海の家の中の一同を見回した。
皆、よく寝ている。
(良かった……まだ、誰も起きていないのね)
予感はあった。そんな気がしていたが、ただの予感だけど信じられなくて。
だけど、あれではっきりした。
エルルゥは、聞いたのだ。定時放送で、ハクオロの死を。
悲しくないわけが無い。胸が潰れそうだった。心臓がドクンとなった。
堪えても、堪えても、涙がこみ上げてくる。それを必死で押さえ込む。
他の三人には、悟られてはいけない。辛い思いは、自分だけで十分だ。
三人の寝息が、自分の理性を保ってくれる。もし一人だったらどうなっていただろうか。
おそらくは泣き崩れていただろう。そして、ハクオロの後を追おうとしたかもしれない……。
仲間の存在を、つくづくありがたいと感じた。
「……うぅん」
時折声が漏れてくる。
(せめて、みんなの前では笑顔でいないと……)
一生懸命作る、笑顔。決して悟られてはいけない、放送の出来事。
そして、目を覚ます仲間たち。
「あ、お早うございます。エルルゥさん、お早いですね」
古河渚(81番)が起きぬけに笑顔で「お早う」という。
もちろん、エルルゥもそんな渚に笑顔で、
「お早うございます」
と返した。
エルルゥの機転は、正解だったかもしれない。
同時に杏やことみが既にこの世にいないことを渚が知ったら、渚の笑顔は瞬く間に消えてしまっただろうから。
北川潤(30番)、広瀬真希(72番)も起きて、四人は朝食の準備を始めた。
殺し合いという非日常の中の、ほっとした安らぎの時間。
だが、そんな安らぎも、崩れていく。一人の来訪者の手によって……。
ドアが、開け放たれた。殺戮の開始の合図ともなる、ドアが。
来訪者、巳間晴香(91番)は辺りを嘗め回すように眺める。
海の家に、人は四人。女が三人で、男が一人。朝食中で武器を持っている気配は……無い。
「ん、なんだ君――――!?」
北川は話しかけようとして、気付いた。晴香の手に握られている、ワルサーに。
晴香が、にやりと笑った。そして、その照準を北川に向け撃ち……
「でぇぇぇいっっ!!」
「……ッ!?」
放てなかった。撃とうとしたところで、広瀬が咄嗟にテーブルを蹴り飛ばし邪魔をしたのだ。
スカートの中はばっちり北川に見られたが、この状況で恥もへったくれも無い。ちなみに白だった。
「早くこっちへ!!」
エルルゥが奥の隣の部屋へ誘導する。
晴香の手に持っているもの、銃はエルルゥにとって初見のものだったが、広瀬の行動から敵襲と判断、
直ぐに脱出経路を確認しそちらへと向かう。この判断力はハクオロたちとたびたび赴いた戦での賜物である。
広瀬はそれからメリケン粉の袋を開け、晴香にぶちまけた。
辺りに舞う、白い煙。それから、すぐさまエルルゥの下へと走る。
エルルゥ、渚、広瀬、北川の順で隣の部屋へ。隣の部屋には北川が壊した裏口がある。そこから逃げられる。
「……待ちなさい!!」
煙の奥から晴香の声が聞こえてくる。そんな声を尻目に、四人は逃げおおせた。
……はずだった。
順番が悪かった。彼が最後で無ければよかったかもしれない。
運が悪かった。この状況で、更に来訪者が無ければよかったかもしれない。
偶然の重ね合わせだが、そこに来訪者はやってくる。
「……誰かいるのかしら?」
狂気を携え、入り口から海の家にと侵入する。
不覚にも、彼は足を止めてしまったのだ。この島に来て初めての知り合いの声に。
不覚にも、彼は振り向いてしまったのだ。新たな来訪者の姿を確認するために。
「……美坂?」
彼の呟きとともに響く、一発の銃声。晴香の銃口から零れる硝煙。
晴香の銃弾が、北川の体を貫いていた。
崩れ落ちる北川。後ろの来訪者に行く、晴香の注意。
広瀬は、最初分からなかった。何故、北川が足を止めたのか。
だが、現実には彼は胸を抱えて蹲っている。晴香の注意が新たに来た人物に行っている為、第二撃は来ない。
広瀬は北川を引っ張り、とりあえずドアを閉めた。運良く、薬の入ったエルルゥのバッグはこちら側の部屋においてある。
「北川さんっ!」
渚が呼びかけてみると、北川は弱々しく返事をした。
「……古河さんか。ちっ……俺も、ドジったね」
エルルゥが直ぐに止血する。だが、その出血は留まるところを知らない。
そう言いながら、北川はふらふらと立ち上がった。
そのまま、ドアに手をかける。そして、ドアノブを握る。
「……何してるんですかっ! 今動いたら……」
「あんた……薬師なんだろ? それなら、俺の状況……分かると思うんだがな。
俺はもう……助からない。何処やられたかは、わかんねぇけどな……」
エルルゥを手で制す。
止血した、布の上から滲み出て、ぽたぽたと垂れる血液。
「実はな……後から来たほう、知り合いだったんだ。俺の、クラスで隣の席の奴だ。
せめて、あいつを……あのクソッタレから、守ってやらないとな。それに、お前らが逃げるまでの時間稼ぎにも……なる。
へっ、かっこよすぎるな俺。相沢には、到底真似できないだろ……」
「そ、そんなっ! アンタ何言ってんのよ……!!」
「広瀬、あばよっ!! お前も、転校生とやらに負けない生き方しろよっ!!」
最後の力を振り絞って、北川は向かう。香里を助けるため、三人を助けるため。
だが、皮肉にも……その守るべきもの、香里ですら狂気に飲まれているのである。
北川の、死へのカウントダウンは始まった。
【11 エルルゥ 所持品 乳鉢セット 薬草類 バッグ】
【72 広瀬真希 所持品 『超』『魁』ライター】
【81 古河渚 所持品 初期装備(不明)】
【91 巳間晴香ワルサーPP/PPK(残弾5発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ】
【87 美坂香里 果物ナイフ】
【30 北川潤 最後の力を振り絞って香里を助け&時間稼ぎに行く 出血多量
所持品はポケットに突っ込んだ便座カバーのみ メリケン粉は最初の部屋に放置しっぱなし】
↑追記【渚・広瀬・北川の三人は第二回定時放送を聞いてない】
もうどれくらい走っただろうか。
あの獣耳の男が追ってこないとようやく確信して、澪は足を止めた。
木の影に隠れて、それを背に、へたり込む。息が乱れたまま収まらない。
重装備での全力疾走は、澪の小さな体には結構な負担だった。
その重量物の一つ。水の詰まった水筒を、一気に飲み干す。
ぬるい、何の味も付いていない水が、この上なくおいしかった。
ぼーっとへたり込んだまま、逃げている過程で放送が聞こえたのを思い出す。
必死だったのであまり耳には入ってこなかったが、知り合いの名前はなかった、と思う。
それよりも、三十人もすでに死んでいるという事実の方が大事だった。
――あとこれを、二回と半分も繰り返せば、終わるの。
そう計算通りにはいかないだろうが、それは自分を奮い立たせる一つの目安にはなる。
澪は汗を拭い、立ち上がった。
早く終わらせたいのなら、自分もその流れを加速させるべきだ。
「あさひちゃん」
体を揺すぶられ、名を呼ばれ、眠っていた意識が覚醒する。
目の前には、少年、と名乗った不思議な少年……彼のアップ。
「え……え? きゃっ!?」
しーっと、唇に指を当てる少年のしぐさに、慌ててあさひは口をふさいだ。
「驚かせてごめんね。でも、放送が始まるんだ」
「放送? ……あ」
窓の外、電灯の脇につけられたスピーカーから、雑音が走る。
『諸君、昨晩はよく眠れたか?』
と嫌がらせのように聞いてくる声。そして、死亡者の通達。
あさひは、次々と読み上げられる名前の中に、知り合いがいないことにほっとする。
人が死んでいくのはもちろん悲しいが、知り合いか、そうでないかはまた別感情だ。
だけど――一瞬、少年の顔が固く強張るのを見てしまった。
放送が終わる。少年は、窓の外をじっと見ていた。怒りも、悲しみも表すことなく、ただ静かに。
「あの……」
「ん? なに?」
「……お知り合い、なくなったんですか?」
「うん……友達の友達、ってくらいの関係かな。それほど親しいわけでもなかったけど」
いつもの静かな笑みが、どこか無理しているようにも見える。
「ごめんなさい……」
「いや、気にしないで。僕も本気で悲しんでいるわけでもないんだ。――少し、寂しいだけで」
「……ごめんなさい」
少年は、自分よりもよっぽど落ち込んでしまっているあさひを見て、かえって申し訳ないような気持ちになる。
特殊な環境下にいた自分は、本当に、大して悲しくもないのだ。
諦めるということに慣れてしまっている自分はいい。が、あさひを悲しませるのは本意ではなかった。
「そうだね……それじゃ」
「え?」
「慰めてよ」
ベッドの上で上体を起こしただけのあさひの膝の上に、ゴロリと転がった。
「え? え? あっ、あの、その、あう、あ……」
戸惑っていたあさひの手が、やがて落ち着き、少年の髪をなで始める。
「あの……えっと、えっと」
カンペはない。だから、どもりながらも自分の中で懸命に言葉を探す。
でも出てこない。友人を亡くした人を、簡単に慰めるような言葉なんて、出てこない。
何をいっても傷つけてしまいそうな気がした。だから、黙って髪を撫で続ける。
と、少年が喉を鳴らして笑った。
「あ、あの?」
少年が、背を丸める。
「くすぐったい」
こらえきれず、声を上げて笑い出した。
「え、ええっ?」
くるりと上を向いた顔には、いたずらっぽい笑顔しか残っていなかった。
「あ、あの……」
「そればっかりだね」
「え?」
「ほんとに、僕はそんなに悲しんじゃいないんだ。
だから、あさひちゃんが僕の代わりに悲しんだり、戸惑ったりしなくても、いいんだよ」
「……でも」
「でもはなし」
「う……」
「ストもなしね」
「はい?」
少年はくすくすと笑いながら、宙をさまようあさひの指に、自分の指を絡めた。
「女の子の手は、柔らかくって気持ちいいね」
「は、はいいいっ!?」
たちまち真っ赤になったあさひを見て、少年はまた笑った。
二人は食事をとり、いつでも出られるように荷物をまとめ、そして、
「――どうする?」
と、少年が聞いた。
このままでいるか、それとも動くか。動くにしても、何を目的として、どう動くのか。
「あっ、あたし……」
あさひは考えた。考えてはみたが……何も、分からない。
殺しに回るのは論外だ。誰か知り合いと会いたいが、どこにいるのかは分からない。
そして外には、明らかに殺人ゲームを承知した人達がいる。
だからといって、ここでこのままゲームが終わるのを待てばいいのか。
「わっ、分かりません……」
「うん……じゃあここで見張りながら、もう少し待とう。
誰か知り合いが通ったのなら、呼びかければいいし、やばそうな人が来たら、隠れている。
あてもなく彷徨うのは、危険だし、ここなら生活に不自由はない。
他の家に行けば、まだ食料もあるかもしれないしね」
その真っ当な結論に、あさひは尊敬混じりの視線を投げながら、コクコクと頷いた。
――あさひちゃんも、まだ疲れているみたいだしね。
少年は、それは口に出さずに、見張りの順番を決めた。
何事もなく午前が終わり、正午を回ろうとしたその時――。
「しょっ、少年さんっ!」
椅子に座ってリラックスしていた少年が、跳ね起きる。
「誰か来た?」
カーテンの隙間から、あさひが指を差す。
そこに、スケッチブックを抱えた小柄な少女がいた。
スケッチブックには穴が空いている。おそらくは……銃痕だ。
少女は住宅街の入り口から、街路を覗き込み、覚悟を決めたように走って、隣の家の軒先にはいる。
中に人がいるかどうか、十分確認してから、ゆっくりとノブを引き、
再度、確認して――一気に駆け込んだ。
二人の間から、緊張がため息となって抜ける。
「知り合い?」
あさひは首を振る。
「どうしたものかな……」
「あっ、あのっ、あんな小さい子なんだし……」
「いや……」
一見、無害には見える。だけど、この状況下で人がどう転ぶかは、誰にも分からない。
リュックは重そうで、もしかしたら使える武器を持っているかもしれない。
だけど、その武器が自分たちに向けられない保証はない。
気になるのは……彼女は警戒はしていたが、怯えている様子はなかったこと。
彼女が殺し屋側に回ったなら、あの家の探索を終えたら、次は隣のこの家に来るだろう。
静かに隠れていれば、そのままやり過ごせるかもしれない。隣りに居着く可能性もある。
それと、妙に焦った様子なのが気になった。
敵か、それ以外のものか。先手を打つか、逃げるか。
少年たちは、選択を迫られた。
澪は警戒に警戒を重ね、そしてこの家には誰もいないと確信し――一気に駆け込んだ。
ドアを開いたその先は、彼女のための密室だった。
あえて鍵はかけず、クレイモアを目の前にセットし、このドアを開けた無礼者を抹殺する準備を整える。
右手にはデリンジャー。左手は――下着にかかっている。
朝、少しばかり、水を飲みすぎた。
が、森の中で粗相をするような、そんなはしたない上月澪など存在していようはずもない。
我慢すること数十分、森をさまよい、川を超え、ええい、こうなったら、
と覚悟を決めた直後に住宅街を発見したとき、澪は確かに天使の祝福のラッパを聞いた。
それでも忍耐力を総動員し、警戒を怠らないように、スカートに黄色い染みを作らないように、
ゆっくりと周りを確かめるのがこの島での生き延び方。
そしてようやく、汚れのない白い便座にて、澪は解放の時を迎え――。
天使のような無垢な微笑みを見せながら、幸福のため息をもらした。
【桜井あさひ 少年 住宅街の一つで街路を見張っている】
【少年の所持品 S&W M36(残り弾数5、予備の弾20)、腕時計、カセットウォークマン、食料】
【桜井あさひの所持品 キーホルダー、双眼鏡、十徳ナイフ、ノートとペン、食料、眼鏡、ハンカチ】
【上月澪 住宅街の一つの某個室で 『なにしてるか聞いたら殺すの』 】
【上月澪の所持品…M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(一個、目の前に設置、残り一個)、
イーグルナイフ、 レミントン・デリンジャー(装弾数2発、予備弾16発)、 詩子の配布武器スタンロッド】
【澪のスケッチブックには穴があいている】
【二日目正午】
「美坂に手ェ出すんじゃねぇっっ!」
扉を蹴り開け、颯爽と飛び出した、筈だった。
格好良く名乗りを上げて、銃弾の雨をかいくぐって、美坂の手を引いて、
勿論、そんな力は残っていなかった。
実際はといえば、服を真っ赤に染めた少年がひとり、扉の隙間から倒れるように姿を現すなり
部屋中に散乱する雑貨を蹴散らしながら壁に激突し、もうもうと舞うメリケン粉に塗れて
擦れた声をあげていただけだった。
紫色の髪をした少女は、この騒々しい闖入者を一瞬だけ横目で見ると、再び波打つ髪の少女に
目を戻し、要するに彼は徹底的に無視されていた。
北川潤は、その生涯の最期まで道化であろうとしていた。
実際のところ、巳間晴香にとって武器を持たない瀕死の少年など問題ではなかった。
明らかに正気ではないナイフ女が切迫した脅威として迫っていた。
こちらは拳銃、向こうは刃物、常識では勝負にならないが、何せ距離が近すぎる。
体勢も悪かった。
少年を撃った直後、背後の気配に驚いて構えずに振り向いてしまったのが拙かった。
この距離、少しでもワルサーを動かしたら均衡が破れる。
一発で確実に仕留められなければ、あのナイフは私を抉る。
白く煙る部屋の中、殺意と狂気を乗せた刃物というものは、ひどくギラついて見えた。
―――向こうの部屋の連中は……もう遅いか。
彼らの選択が逃亡にせよ迎撃にせよ、時間をかけ過ぎた。
奇襲の混乱に乗じての一撃離脱、それが失敗したのならば退くべきだった。
―――結局、仕留められたのは阿呆が一人だけか……。
そして退路にはサイコなナイフ女。
何のことはない、狩人気取りの自分など、所詮は話にならないド素人だったというだけの話だ。
一刻も早く撤退すべき状況で、動けない。
倒れ伏す少年を嗤えるものか。
白い部屋の三人は動かない。
北川潤は、動かない身体と格闘していた。
血は刻々と流れ出し、意識は寸断されていた。
極彩色の悪夢と、激痛だったり鈍痛だったりする全身の感覚と、いつだって楽しかったあの教室を、
交互に行き来していた。
いつも眠そうだった少女が見えた。
短い間だけど、一緒にバカをやった仲間が見えた。
ほんの少しだけ、恋をしていたかもしれない少女が、見えた気がした。
惚れた女のひとりも、俺は護れないのか。
畜生。
畜生、畜生畜生畜生、眼を開けろ北川潤。あの娘を護れ。
眼を開けた。
狭い部屋の中で、雪が、降っているように見えた。
逆光に照らされて、美坂香里に雪が積もっていた。
少年は、叫んだ。
香里が動いた。
晴香に向かって駆け、順手に構えた右手のナイフを逆袈裟に凪ぐ。
北川の絶叫に気を取られた晴香は反応が一瞬遅れた。
下から迫る軌跡に対し反射的にワルサーを持ち上げようとして、絶望的に間に合わないことを悟り、
迫る刃の銀色に圧され、眼に映った相手の脚に向かって、トリガーを、部屋中に満ちた小麦の粉末の、
酸素と可燃物が充満した箱の中心で、引いた。
結局のところ、北川潤に為し得たことなど多くはなかった。
彼が抱いていたのは夢と希望と楽観主義で、それは誰ひとり救うことはできず、
ポケットに詰まっていたのは大逆転の秘策ではなく、便座カバーだった。
それでも、北川潤は、その生涯の最期まで、誇り高く道化であったのだと。
彼のほかに喪われることなく続く命の数が、そう語っていた。
美坂香里は夢を見ていた。
ずっと、楽しい夢だけを見ていた。
眼を醒ました彼女に遺されていたのは、無数の裂傷と激痛と、少年の声の記憶。
少年が叫んだのは、たったひとりの少女の名。
【30 北川潤 死亡】
【87 美坂香里 満身創痍 果物ナイフは喪失】
【91 巳間晴香 行方不明】
【残り63名】
366 :
悲劇の痕:04/05/20 05:38 ID:bV0hISkB
「くっ…がっ…あっ…」
海の家の外を、傷だらけの体を引きずる様に晴香は移動していた。
咄嗟の判断で、小麦粉を撃ち、爆発させたが、その威力は晴香の想像をうわまあっていた。
全身に手酷い裂傷を食った。
気絶しなかったのは、あそこで気絶すれば死ぬ――という強烈な危機感があったからだ。
状況は余り変わらない。
海の家の側の、周囲から丸見えの場所を、晴香は必死で進んでいた。
「つっ…!」
痛みで膝が落ち、不自然な体勢で倒れた。
銃が手から離れた。
慌てて拾おうとしたその銃はしかし、寸前で突然現われた足に踏み付けられた。
ゆっくりと、視線を上に向けた。
そこには、褐色の肌を持つ男がいた。
エディだった。
エディは悩んだ末結局晴香を追っていたのだ。
理由は、眼だ。
晴香の、その年齢には似つかわしく無い据わった眼に、エディは殺人者の匂いを感じた。
その己の判断を実証する為、エディは晴香の後を付けた。
程無く到着した海の家。
まずいかな、とエディは思ったが、中に人がいるかもわからない状況で下手に動く事をナビとしての判断力が許さなかった。
そして、そろそろと家の近くによって中の状況を探ろうとした所で、銃声を聞いた。
ついで、爆音。
確実に何かが起こっていることを感じたエディは入り口に廻ろうとして、そこから出てくる満身創痍の晴香を見つけた。
手に持つ銃から、被害者だとは全く思わなかった。
エディは用心深く晴香に近付き、そして晴香が倒れたのと同時に、すぐ側まで駆け寄ったのだ。
367 :
悲劇の痕:04/05/20 05:39 ID:bV0hISkB
エディは、銃から足を離し、それを手に取った。
「私を殺すの?」
この状況でよくも――と、思えるほど冷静な声で晴香は尋ねた。
おかしい。
この時になってようやく、晴香は自分がおかしくなっていることを実感した。
今思えば、このゲームに乗っている時点でおかしいのだ。
権力を持つ人間、というものがどれだけ愚劣か晴香は知っている。
これだけの人数をかき集め、殺し合いをさせる人間が、果たして生き残った人間を生かす、などという約束を守るだろうか?
「(ありえない、わね…)」
自分は死ぬ、そう思うと、不思議に頭が明晰になった。
完全な八方塞の状態では、人は殺し合わない。
絶望するか、知恵を凝らしてそこから逃げようとするからだ。
だから、一つだけ逃げ道を作る。
最後の二人になれば、助かると。
完全に逃げ道を失った人間にとって、それは何とも甘美な誘いだ。
その先に、罠があるか、などとは誰も考えない。
絶望したくないからだ。
生きる希望に縋りたいからだ。
――帰りたいからだ。
家族の元に
有触れた日常に
愛する人の胸に――
それぞれの欲望を大義名分にして、人は殺し合う、あのと篁いう男の人形のように――
「なんて、愚か」
晴香は笑った。
無様な自分自身を、心から――
368 :
悲劇の痕:04/05/20 05:41 ID:bV0hISkB
「中に一人、まだ生きてる女がいるわ」
笑いを止めて、晴香は言った。
「だいぶ酷い怪我をしてるから、速く治療してあげたほうがいい」
だから、とっとと私を殺しなさい、と晴香は言って、その場に崩れ落ちた。
限界だったのだろう。
傷の痛みに耐えきれず、晴香は気を失った。
後に残されたエディは顔をしかしめた。
殺す――と、少なくとも先程まではそう思っていた。
しかし、今の彼女のまるでつきものの落ちたような笑みを見て、幾分躊躇した。
彼女が、家にいる女を助けろ、といった時の顔は、殺人鬼のそれではなかった。
こういう状況下において、多少なりとも狂うのは仕方が無い。
そこから正気に戻ったのならそれでいいのではないか、とエディは思っている。
なんにせよ、殺人への嫌悪感から衝動的に目の前の少女を殺すことができないぐらい、彼は現実というものを知りすぎている。
「(ま、問題はあるがナ…)」
海の家を見た。
そこに生存者がいるというのならば、その誰かは、この少女のことを許さないだろう。
「――――」
数秒考えた後、とりあえず死には至らない傷だ、と判断したエディは、自分が潜んでいた茂みに晴香を隠し、海の家に向かった。
それから晴香のもっていた荷物を担ぎ、エディは海の家に向かった。
369 :
悲劇の痕:04/05/20 05:46 ID:gvW9KX+a
「ワオ…」
中はとんでもないことになっていた。
先だっての爆音に相応しい破壊の傷跡が、壁や柱や床の至るところに残っていた。
その中心で、倒れた男に縋る様に、その少女は泣いていた。
歩み寄ろうとした足に、果物ナイフが当たった。
それを手に取り、ポケットにしまった。
少女は、こちらを向きもしない。
「どうしたもんかあな…」
なんともいえない終わった光景に、エディは、ぽりぽりと頭を掻いてため息を付いた。
【10 エディ 盗聴器 尖った木の枝数本 ワルサーPP/PPK(残弾4発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ、果物ナイフ
【91 巳間晴香 失神中】
【87 美坂香里 満身創痍】
グシュ!!
茂みの中で刃物が肉を抉る音が響く。
「こんなところで気絶してる君が悪いんだよ」
ナイフを心臓から引き抜くと彼は彼女の首を切り落とした。
「念には念のためにね…」
血に塗れた手に火炎放射器を握ると次に彼は目の前の建物へとひっそりと近づいた。
そして容赦なく火をつける。
海の家は燃え始める。
火が回ったのを満足げに眺めると彼はそのまま後を去っていった。
業火に焼き包まれて、中にいた者も全て燃え始めていく。
彼等が気づいた時には火は全て回っていて手遅れだった。
そして後には何も残らなかった。
【10 エディ 死亡】
【91 巳間晴香 死亡】
【87 美坂香里 死亡】
【11 エルルゥ 死亡】
【72 広瀬真希 死亡】
【81 古河渚 死亡】
【062 長瀬祐介 所持品 火炎放射器 (砲身に損傷・燃料は5割強), ジグ・ザウエルショート9mm(残弾0発), 果物ナイフ】
【残り57人】
グシュ!!
茂みの中で刃物が肉を抉る音が響く。
「こんなところで気絶してる君が悪いんだよ」
ナイフを心臓から引き抜くと彼は彼女の頚動脈をざっぱりと引き裂いた。
「念には念のためにね…」
血が噴水のように溢れる。
血に塗れた手に火炎放射器を握ると次に彼は目の前の建物へとひっそりと近づいた。
そして容赦なく火をつける。
海の家は燃え始める。
火が回ったのを満足げに眺めると彼はそのまま後を去っていった。
そして後には何も残らなかった。
【91 巳間晴香 死亡】
【062 長瀬祐介 所持品 火炎放射器 (砲身に損傷・燃料は5割強), ジグ・ザウエルショート9mm(残弾0発), 果物ナイフ】
【残り56人】
>>205 L -‐ '´  ̄ `ヽ- 、 〉
/ ヽ\ /
// / / ヽヽ ヽ〈
ヽ、レ! { ム-t ハ li 、 i i }ト、
ハN | lヽ八l ヽjハVヽ、i j/ l !
/ハ. l ヽk== , r= 、ノルl lL」
ヽN、ハ l ┌‐┐ ゙l ノl l
ヽトjヽ、 ヽ_ノ ノ//レ′
r777777777tノ` ー r ´フ/′
j´ニゝ l|ヽ _/`\
〈 ‐ ぶっちゃけ lト、 / 〃ゝ、
〈、ネ.. .lF V=="/ イl.
ト |お前の態度がとニヽ二/ l
ヽ.|l. 〈ー- ! `ヽ.
|l気に入らない lトニ、_ノ ヾ、
|l__________l| \ ソ
失礼訂正【残り62人】
L -‐ '´  ̄ `ヽ- 、 〉
/ ヽ\ /
// / / ヽヽ ヽ〈
ヽ、レ! { ム-t ハ li 、 i i }ト、
ハN | lヽ八l ヽjハVヽ、i j/ l !
/ハ. l ヽk== , r= 、ノルl lL」
ヽN、ハ l ┌‐┐ ゙l ノl l
ヽトjヽ、 ヽ_ノ ノ//レ′
r777777777tノ` ー r ´フ/′
j´ニゝ l|ヽ _/`\
〈 ‐
>>370-372 lト、 / 〃ゝ、
〈、ネ.. .lF V=="/ イl.
ト |NGになったのとニヽ二/ l
ヽ.|l. 〈ー- ! `ヽ.
|l気にしないで lトニ、_ノ ヾ、
|l__________l| \ ソ
うむ、NGだ。
以降、定期的に荒らしがくるだろうが、スルーで。
>>376は気に食わないというだけの理由でのNGです。
ちゃんとNGだNGだと叫ぶだけではなく理由を提示してもらわないと納得がいきません。
>>376 NGの理由は読めばすぐわかるので無問題です。
あと、実況スレの作者のIDのレスを読めば一層理解できます。
では、実況スレを見た次の書き手と夜組に判断任せましょうよ。
今は明らかに正常に判断してない。
北川は惨劇の現場に戻っていった。私たちを守るために。
広瀬真希は考える。
「…まず逃げ道を確保しましょう。他に敵が待ち伏せしてないか外を見てくるわ」
こんな時に自分でも驚くほど冷静であった。北川のあの怪我では考えたく無いが長くはもたないだろう。
北川が頑張ってくれているのだ、自分達が生き残らなければ申し訳が立たない。
「エルルゥさんは古河さんをお願いね。あと余裕があったら食料もバッグに詰めておいて」
エルルゥはしっかりとうなずく。
(エルルゥさんは大丈夫そうね。問題は…)
ふと古河渚へ目をやる。震えながら青い顔をしている
(あの子はあまり大丈夫じゃなさそうね。目の前であんな事があったら普通はそうなるか…私もどうかしちゃったのかしらね)
そして裏口の方へ向かう。身を隠しながら外の気配をうかがう。見た感じは誰もいない…だが
(どこからか狙われてるかもしれないわね…)
疑い出したらきりが無かった。
(…もう、本当に私どうにかしてるわ。)
と言っておもむろに外に身を乗り出す。しかし、特に周りに変化は無かった
(あまり心臓に良くないわね、自分を囮にするだなんて…)
しかし、身を呈して裏口の安全は確保された。これならばここから逃げられるだろう。それを確認し戻る
部屋へ戻るとエルルゥが渚の頭を撫でながら何かを話していた。隣からはまだ物音がしていた
「裏は今のところ安全みたいね」
声をかけるとこちらへ顔をむける
「そうですか、こちらの準備も大丈夫です。食料も詰めておきました」
エルルゥはそう答えた。渚を見るとまだ少し顔色は悪いが震えは止まっていた
(いけそうね)
エルルゥの的確な行動に感謝しながら二人を裏口へ誘導する。
「…まず私がいくからその後について来てね」
二人に声をかけ外の様子をうかがい、先ほどと状況が変わっていない事を願いつつ外へ踏み出した。
目で合図すると二人も出てくる
「まずは身を隠す場所を探しましょ。古河さん、あまり大丈夫そうじゃないみたいだし…」
三人は歩き出す。少し離れたところで背後の家から爆音がし、三人が振り返る
「…何の音でしょう」
エルルゥが呟く
「何か爆発したみたいね。あんな狭い所で…」
家の中はしんと静まり返っている。いったい何が起こっているのだろうか。
北川はどうなってしまったのか、それが真希は気になってしまった
「私、見てくるわ。あなた達はこの辺の茂みにでも隠れてて」
と言って家の方へ走り出す
「あ、待ってください真希さん」
エルルゥが声をかけるも真希は走る事を止めなかった。
家の裏からは入らずに横へまわる。そして家の正面をうかがうと誰かが入っていくのが見えた
(いまのは……敵かしら…)
真希は入り口へと足音を立てないように静かに歩いていった…
【11 エルルゥ 所持品 乳鉢セット 薬草類 バッグ 食料と水多めに所持】
【72 広瀬真希 所持品 『超』『魁』ライター バッグ 食料と水多めに所持】
【81 古河渚 所持品 バッグ 食料と水多めに (ワッフルとジャムは海の家に置き去り)】
384 :
205:04/05/20 18:42 ID:y7Wzmr83
>374
うい。
……ピンポイントだったから驚いたw
笑顔の綻び
パンをもった奇怪な夫婦漫才師(としか彼らには見えなかった)が疾風(はやて)のごとく去ったあと、
藤田浩之(074)と雛山理緒(071)は先ほどの洞穴で再度休むことにした。雨はすぐに降り止んだし、理緒謹製の下着は
すでに完成していたが、そのために理緒は一睡もしていないのである。今動くという選択肢はこのコンビには無かった。
「とりあえず…今日のところはおつかれ。俺はもう十分休んだし、見張ってるから朝まで休みなよ」
「そうだね、とりあえず下着作ってみたけど、こんなのでよかった?」
「十分だろ、てか俺にはここまではできないよ。それじゃ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
「あ、ところでさ」
「ん、なに?藤田くん」
「理緒ちゃんも、かばん二つ持ってたよね、あれってやっぱり拾ったの?いや、俺は拾ったんだけどさ」
浩之は目の前でおかしな耳を持つ女の子が死んだ様子を思い出した。ああいうふうに人が――やっぱり
あの子も人なのだろう、知っている誰かを呼びつつけていたのだし――吹き飛ぶ様子がゲームの中ではなく
現実だ、というのがどうにも納得できない。
自分が狙われていることに気づき、荷物を拾って逃走できたのは我ながら上出来だったと思う。そうでなければ…
浩之は考えるのをやめた。なんとなく寒気がしたからだ。雨の水気を含んだ夜気や理緒に学生服を貸しているせい
だけでないことを浩之は自覚していた。
「…あ、うん、そう、拾ったんだよ」
「あ、ごめん、へんなこと聞いちゃった?、それじゃ、改めておやすみ」
一方そう答えた理緒は浩之の制服の下で震えていた。二つ目のバッグの持ち主のことを思い出してしまったからである。
殺し合いだ、なんていわれて気分が悪くなって沢で休んでいた。大丈夫か、と声をかけてくれた、大きなハンカチを
もった男の人。ティッシュペーパー殺人のことを思い出して思わず、その首をもっていた注射器で刺してしまった。
あの人は、生きているのだろうか。もし死んでいたら…殺したのが自分だったら…もし何かの間違いで他の人に
殺されていたら…武器がないせいで自分の身を守れなかったのなら…
怖かった。ただひたすら、怖かった。
(大丈夫だから)
その男の人はそういっていた――気がする。そうであってほしい。そうでなければ…
私は、笑っていられるだろうか。
眠りは浅く、そして短いものだった。ちょうど二回目の定時放送が流れてきたのである。
睡眠をとっている間の理緒にとっての幸運は、浩之にその笑顔の綻びを感づかれなかったことだけだった。
【074藤田浩之:クレジットカード、小銭入り長紐付き巾着袋、クッション、バッグ2つ所持 服に当て布】
【071雛山理緒:筋弛緩剤、注射器一式(針3セット)、枕大の石、裁縫道具、手作り下着、バッグ2つ所持】
【定時放送直前】
視界がぼうっとする。
前が良く見えない。
手に触れるのは何かの感触。
…?
目をこらしても、視界がぼやけて何も見えない。
触って確かめてみると暖かかった。
…なんだろ、これ。
もっとよく確かめてみる。
さわさわ、さわさわ。
掌に、濡れる感触。
それは、あとからあとからぽたぽたと降り注いでいて。
――そうしてようやく気づいた。
…ああ、あたし泣いてるんだ。
一体自分が今まで何をしていたのか、まるで思い出せない。
いや、思い出す気にもならない。
そこだけすっぽりと抜け落ちているようで、怖い。
何も考えたくない。
何も分からない。
どうして泣いているのか
――分からない
どうして、身体が痛むのか
――分からない
どうして、こんなにも、胸が痛いのか
――――分からない
分からないまま泣き続けた。
「…どうしたもんかナ」
目の前で泣きじゃくる少女を尻目に、エディは困惑していた。
倒れている少年と、そしてそれに縋る様にして泣いている少女。
「(部屋中に舞う粉…小麦粉?…ナルホド、引火して爆発したんだナ)」
状況だけで推理してみる。
この少年と少女は顔見知りだったのだろう。
そして、一緒に行動していた。
そこへ現れる銃を持った少女。
抵抗しただろうが、果物ナイフと銃では勝ち目は歴然としている。
揉み合いの末に、偶然にも(もしくは計算して?)メリケン粉が舞い、発砲した瞬間に爆発。
そして逃げる少女。
しかし、少年の方は無事では済まなかった、という事だろう。
ぽりぽりと頭を掻いて、罪悪感が押し寄せるのを感じた。
外で様子を伺っている間に、状況は既に取り返しのつかない事になっていたようである。
少年は、きっともう息はしていまい。
「(クソッ、オレっちがもっと早く踏み込んでいれば――)」
しかし、このままにしておくわけにはいかない。
気を取り直し、そっと近づく。
「ダイジョーブかい、嬢ちゃん?」
エディの問い掛けにも、少女は何の反応もしなかった。
少年の身体を確かめるように、泣き続ける。
「(チッ…ムリもねェ…、目の前でヤラれたんだ…泣くなって方が酷ダナ)」
だが、この場所ではその行動すら命取りになる。
「…嬢ちゃん、このままだとそこら辺のヤツにヤラれちまう…。
そんなコトになったら、その少年だって悲しむダロ?」
諭す様な口調で言った。
どうするか良く考えていた訳ではなかったが、このままにはしておけなかった。
ぴくり、と少女が反応した。
虚ろな瞳がエディに振り向く。
「――どうして…?」
「…どうしてって、そりゃあ…」
言いよどむ。
「――どうして、あたし、泣いてるの…?」
「―――?」
エディは気づいた。
この少女の瞳には何も映していないという事に。
「――あたし、分からない…何も…。
ここは何処…?
みんな、どこにいるの…?」
少女はうわごとのように「分からない」を繰り返す。
「(ナンテコッタ…――クソッ!)」
目の前に居るのは、か弱い少女で。
「(コレがオマエの望んだコトか…!篁!)」
どう見ても、精神が蝕まれていた。
「あ…」
少女が何かに気づいたように声を上げた。
「ねぇ…、コレ何…?」
「―――!」
それは北川の変わり果てた姿。
「…最初は、暖かかったの――…。
でも、だんだん冷たくなってきて…、ねぇ、コレ、何…?」
エディは答えない。答えられない。
「目の前が、良く見えなくて…。」
「――ソイツは…、涙を拭けばイイんじゃネーノ…?」
「あ…、そう、そうか…」
そして、一番辛い現実を突きつけるしか出来なかった。
「――…き、たがわ、くん…」
「いやぁぁああああああああッッ!!!」
香里の瞳に色が篭る。
それは、果てしなく後悔の色を湛えていた。
【010 エディ 所持品 盗聴器 尖った木の枝数本 ワルサーPP/PPK(残弾4発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ、果物ナイフ 】
【087 美坂香里 所持品 なし】
>>390 訂正【狂気の後4】でした。
クーヤを探し、彷徨うゲンジマルは、森を抜け、開けた場所に出た。
幾ばくかの畑と、土の付いた農作業具。それに、雨露をしのげそうなガレージ。
ちょうど入り口はこちら側を向いていて、シャッターは下りていない。
だから、その中に人がいるのを、ゲンジマルは容易く確認することができた。
「女人か……」
年の頃は二十歳を過ぎたかどうかといったところ。
柔らかさの足りない奇妙な布で、体を覆っているのは、布団の代わりだろうか。
あまりにも無防備なその姿は、戦士にはほど遠い。
「ふむ……」
他に人の気配はない。少し悩み、接触してみることにした。
もしかしたら、クーヤを見かけているかもしれないし、なにか有益な情報が聞けるかもしれない。
念のために、罠がないか細心の注意を払いつつ、軒先まで来た。
彼女――高倉みどりは、ここまで来てもぐっすりと眠っていた。
武器らしきものは見あたらず、昨日の雨にやられたのか、服が干されている。
「失礼――」
何度か小声で呼びかけると、みどりはようやく目を覚ましたようだ。
「……はい?」
「就寝中の所、失礼いたす――」
そして、驚愕の叫びが上がった。
「きゃああああああっ!」
無理もない。見知らぬ初老の男。片目には眼帯。おかしな耳。恰幅のいい体格に鎧まで。
そんな者が寝覚めた途端、目の前にいるのだ。悲鳴の一つも上げたくなる。
そういえば、某ボクシング漫画のセコンドに、こんな顔があったようにも思う。
「ぬっ」
「んんっ!」
声を聞きつけられては大事と、ゲンジマルはみどりの口をふさいだ。
代わりにみどりは手足を振り回して暴れ出す。
殺される、犯される、切り刻まれるっ!
そんな恐怖が非力な彼女の脳を占め、ゲンジマルですら手を焼くほどに、激しく抵抗する。
通常、錯乱した者には当て身を喰らわせるのだが、それでは元も子もない。
「落ち着かれよ。某、そなたに危害を加えるつもりはござらぬ」
抑えめながらも、力の入った声と、鋭い、真摯な眼光。
それがかろうじて、みどりの理性を繋ぎ止めた。
みどりはまだ怯えていたが、あるいはヘタに抵抗すれば命がないとでも思ったか、何度も頷いた。
それを確認し、ゆっくりとゲンジマルは手を離す。
そして、一歩下がり、頭を下げた。
「驚かすつもりではなかった、許されよ」
そのままじっと動かない。
「あ、あの……」
微動だに。
まるで置物のようになったゲンジマルに、みどりはようやく安堵する。
「あの、私もいきなりだったから、大声を上げたりしてしまって、申し訳ありません。
気にしていませんから、どうぞ、お顔をお上げください」
「ご丁寧に、痛み入りまする」
が、ゲンジマルは顔を上げない。みどりは困り笑顔で首を傾げ、
「あの、もういいですよ」
「いえ、失礼ながら、なにか着物を召していただかぬ事には――」
「え?」
自分の体を見下ろした。
布団代わりに巻き付けていたシートは、先の騒動で剥がれ落ち、
その下にはスクール水着に包まれた豊満な体が、ラインも露わに露出していた。
というか、伸びきってます。限界まで。ぱっつんぱっつん。
「きゃ……」
と叫びそうになり、慌てて口を押さえる。
ゲンジマルは微動だにしない。
「重ね重ね、申し訳ござらぬ」
っつーか、わざとだろ、あんた。
そんな突っ込みをしたい気分を抑え、再びシートを巻き付け、呼吸が整うまでに、約2分。
「その、それで……なんの御用ですか?」
「は」
ゲンジマルは名を名乗り、主君の特徴を伝え、あるいはそれに似た容姿のものを見なかったか問うた。
みどりは少し考えたが、
「すみませんけど、あのホールを出てからは、見ていませんね」
そもそも、幸か不幸か、スフィーの遺体以外とは対面していない。
「左様で……。どなたか尋ね人があるならば、某も知る限りお伝えするが」
そう言ってはくれたが、スフィーは遺体を目にし、
リアンも夜明けの放送で、その名前を呼ばれるのを夢うつつに聞いた。
海の向こうには健太郎がいるだろう。父も必死で探していると思う。
が、この島には頼れる者は誰もいない。
「いえ……もう、誰も……誰もいないんです」
「……失礼」
重い沈黙の中、ゲンジマルは自分の出会った危険と思われる人物、
名倉友里の特徴を教え、頼れそうな人物、光岡の名と特徴を告げる。
「では、某、我が主を捜さねばならぬので」
「あっ、あの……」
救いを求めるように伸ばされかけた手を、言葉で遮って、
「某はクーヤ様に仕える身。まずは皇の元に馳せ参じ、その身を守ることを第一とせねばなりませぬ。
クーヤ様にお会いできたならば、そなたの事を告げ、共に救えるよう尽力いたす。が、今はまだ――」
この、どちらかといえば小柄な体には、鋼の意志が詰め込まれていることを悟る。
その主従の絆の前には、ただ偶然出会っただけの自分に、止める権利もすがる資格もない。
「……はい。あなたがクーヤ様と出会えるよう、及ばずながら祈っております」
一礼し、風のように静かにゲンジマルは去った。
誰もいなくなった空間なのに、まだ、張りつめたような気配が残っている。
そのせいでか、少し時代劇風の言葉がうつっていたのだが、そのことには気づいてなかった。
みどりは頬に指を当てた。
もしもゲンジマルが、すぐにクーヤを見つけられたら、ここに取って返してきてくれる可能性は高い。
見た目は強面だが、言葉遣いと誠実な態度は、十分信頼に値する。
そしてもう一人。彼が信じた光岡という男。
彼の人を見る目は確かなようにも思う。
何より、彼はここからそう離れていない、川の近くにいるらしい。
動いてしまった可能性も高いが、探せば出会うことができるかもしれない。
このガレージは、開けた土地にある建物で、あまりにも目立つ。
できれば、動いた方がいいとは思うのだが……その前に。
「とりあえず、着替えないと……」
すっかり乾いた衣服を手に取り、少し悩む。
このスク水、かなりきつい。一晩体を締め付けられたせいで、あまり疲れが取れなかった。
かといって、これを脱いで私服を着るとなると、とても人には言えないような、痴女じみた状態になる。
万が一転んだり、スカートが破れようものなら……。
「はぁっ……」
何故か背中がゾクゾクした。が、理性が、それはいくらなんでもまずい、と警句を発する。
そうよね、脱ぐわけにはいかないわよね。そんなはしたない。
みどりはそう自分を納得させながら、スク水の上から私服を着込んだ。
――図らずも、先ほどのゲンジマルとの遭遇で目覚めかけた、見られる快感は駆逐された。
それは単純に、一晩味わった食い込む快感が、時間の分、それを上回っていたと言うだけの話。
袖に服を通そうと腕を伸ばすたびに、スカートを履こうと腰をかがめるたびに、
きりきりと食い込んでくる、伸縮性の低いスク水の布地。
「んんっ……」
みどりは妖しい感覚にとらわれながら、ようやく服を着終わった。
これでもうスカートの中が見えても大丈夫。
その下はスクール水着が――伸びきり、食い込んだスクール水着が、隠してくれているのだから。
そう考えただけで、理解しがたい喜びが、背中を這い上がってきた。
「さて、どうしようかしら……」
悩む表情は、どこかなまめかしさを湛え、体は媚びるようにひねられていた。
【ゲンジマル 所持品 ダーツ(残り6本・練習し、ある程度は使えるようになっている)
手製の釣り道具、ミミズ(後2匹)、針のないダーツ】
【高倉みどり 所持品 スクール水着(着用) 白うさぎの絵皿 ここで見つけたライター】
【二日目朝 放送終了から約一時間後】
「ずいぶん日が昇ってるね」
穴の中から地上へ戻ってきた所で、河島はるか(027)はまぶしそうに目を細めつつそう言った。当然ながら、
事前に十分聞き耳を立てて周囲に人がいないことを確認済みである。
「あ〜、お天道様がこんなに恋しいとは思わなんだわ」
続いて出てきた猪名川由宇(007)が、大きく伸びをした。体のあちこちに絆創膏を貼り付け、それでもなお
あちこちに生傷が残っている姿はぱっと見かなり変だが、彼女らしいと言えば彼女らしいかも知れない。
「ん」
最後にひょこっと顔を出したのはアルルゥ(004)。とりあえずおなか一杯なのでご機嫌である。
「……放送、聞き逃しちゃったかな」
「あー、この日の高さだとあり得るな〜。うちはずーっとダンジョン探索やっとったから、2〜3回連続で
聞き逃しとるかも知れん」
「ドラゴンはいた?」
「ドラゴンどころかスライムベスも出ぇへんかった」
「ん、レベルアップしそびれたね」
「……あんた結構素質あるな」
などと漫才を繰り広げつつ、一方の年長者二人はちょっと複雑な表情。聞き逃した放送の内容を知りたくも
あり、知るのが怖くもあり。お互い、安否を確認したい相手はいるのだが……少なくとも今の時点でそれを
知る手段はなかった。
そういう状況でウジウジせずに簡単に頭を切り換えられるのもこの二人の特徴である。
「住宅街は無いかな?」
「何やいきなり」
もっとも、唐突さという点でははるかの方が一枚上手のようだった。
「ん、水と食糧を補給したいし布団で寝たい」
「……そんなに寝てへんかったんか?」
「んー、6時間ぐらいかなあ」
「そんなんで寝たいゆーな。3日完徹程度は基本や基本。その程度の体力もあらへんで同人作家がつとまるか」
「アルちゃんは体、大丈夫? どこか痛くない?」
「ん、へーき」
「無視すんなコラ」
ついでに言えば、何となく由宇の方が振り回されているようにも見えた。
『こいつ、トッポイ顔しとるけどそーとー手強いかもな……あーハリセン無いのが惜しまれるわ……』
などと時と場所もわきまえずに関西人の血をたぎらせる由宇であったが。
「猪名川さん」
「何や?」
「ここはどこで、今はいつだと思う?」
「……はぁ?」
この掛け合いから、恐るべき話が展開されようとはさすがに想像の範疇外であった。
質問の意味を理解するまでにしばらく時間を要した。
「えーっと……」
ネタで返そうかとも思ったが、ちょっとそう言う雰囲気ではない気がした。幼馴染みの冬弥ですら何を
考えてるのか掴めないのが河島はるかだから、ついさっき出会ったばかりの由宇がその思考を読めるはずも
無いが、何故かそういう気がした。
「時間でゆーたら午前10時頃っぽいけど……」
「あ、時間じゃなくて日付。場所もそれに準ず」
「準ずってどうせいちゅーねん」
苦笑。こいつやっぱりオモロイわ。
「そやなぁ。爆弾埋め込まれたゆーから何日かは麻酔で眠らされとったかも知れんけど、うちらが拉致られて
から今まで一週間は経っとらへんのちゃうか? 場所……てゆーかこの島やけど、草木の種類を見るにあんま
日本と違う気せーへんし、絶海の孤島とは言え日本からあんま離れとらん思うわ」
「…………」
「あの主催のジジイは『脱出は不可能だ』みたいな事ゆーとったけど、その気になれば筏でも組んで、
魚取りながらでも脱出できる思うわ。日本近海なら一週間もすればどっかの船に見つけてもらえるやろ……
まぁ追っ手が来たらやばいけどな」
「…………」
「それに、ただでさえこんだけの人間が一気に行方不明になっとるんや、警察が黙っとらんはずや。何となく
背後にばかでかい黒幕がいそうやから、もみ消される可能性も無きにしもあらずやけど……」
「……つまり」
「あん?」
「猪名川さんの場合、元いた場所とこの島とで、季節がそんなに変わってないんだね」
「あん? 何を藪から棒に……」
言っとるんや、と続けようとして、由宇の思考は急停止した。
「……どーゆー意味や」
「ん」
はるかは由宇の顔を正面から見据えて、言った。
「わたしは12月16日に拉致されて、ここに連れて来られた」
「!!」
「だからこの島が、どうも初夏っぽいからちょっとびっくりしてる」
「……待てや。12月16日ぃ? うちが拉致られたんは6月下旬やで。いくら何でも変やろが」
「ん、そうでもないかも」
狼狽する由宇を尻目に、はるかは何かを悟ったかのようにうんうんと頷くのであった。
「……つまり、あんたは拉致られてから半年近く眠らされとったって事か?」
「多分違うと思う」
「んな事ゆーたかて、この島はどう見ても冬やあらへんで。……あ、実はここは南半球で、眠らされとった
んはうちの方って可能性もあるのか」
「それも多分違うと思う」
淡々としたはるかの態度が、こうなると何となく癪に障る。元々由宇はのんびりした性格ではない。自然、
その口調も厳しくなってこざるを得なかった。
「えー加減にせえや、うちはまどろっこしいのが嫌いなんや。言いたいことがあるならはっきり言え」
「アルちゃん、お水飲む?」
「ん(こくこく)」
「えー加減にせえ!」
思わず絶叫する由宇。ハリセンを持っていたら力の限りはるかをしばいていたに違いない。
「猪名川さん」
それもはるかは動じること無く、変わらぬ口調で話を続ける。
「今度はなんや!」
「アルちゃんはどこから来たと思う?」
「……へ?」
いきなり話題が全然違う所にすっ飛んで、由宇は一瞬呆けた。
「どこからって……」
「少なくとも日本じゃないし、多分外国でもないよね」
「……って、あ!?」
今度の大声は怒りが発した物ではない。驚愕が発した物だった。
そうだ、そう言えばそうだ。何故こんな事に自分は今まで気づかなかったのか。
それとも……気づいていながら無意識のうちに考えないようにしていたのか。
犬耳や尻尾を持つ人間は即売会場で見慣れていたから外見そのものに大した違和感を感じてはいなかった
が、それでもコスプレではなく本物を装備した人間は知る限り地球上には存在しないって事ぐらい、知らぬ
自分ではなかったはずなのに。
「この子の耳や尻尾は本物。昨日お風呂に一緒に入ったから間違いないよ」
「せ……せやけど……」
「と言うわけで、最初の質問に戻るよ。ここはどこで、今はいつか」
……やばい。
なんだかとてつもなくやばい。
命の危険とかそういうレベルの話じゃなく、もっと違う所が尋常でなくやばい。
そんな危機感を抱きまくる由宇だが、それでもはるかの言葉を遮ることは出来なかった。
「……(ごくり)」
「これはわたしの仮説だけど……この状況を説明するにはこれぐらいしか思い浮かばない」
その次に出てくる言葉は由宇にも予測できた。
はるかと由宇で、元々いた世界に季節のずれがある事。
アルルゥが明らかに、ホモ・サピエンスとは別種の知的生命体であること。
「みんな目の前のことに必死で考える暇が無いのかも知れないけど、殺し合いなんかやってる場合じゃ
ないよねこれ」
特にこれといった感情を乗せずに訥々と出てくるはるかの言葉が、頭の中で幾重にも反響する。
「この島は、私たちが元々いた世界じゃない。時間と空間を飛び越えた、どこか別の世界だと思う」
「……はは……」
由宇は笑った。笑うしかなかった。
あり得ない。そんな荒唐無稽な話があっていいはずがない。
ネタやろこれは? みんながよってたかってうちをハメようとしとるんやろ?
……虚勢だった。どんなに否定してもアルルゥは目の前にいる。犬耳を傾け、尻尾をひょいひょいと
揺らして、大きな瞳でこっちを見ている。
足下が急に頼りなくなった気がした。踏みしめていた地面が突然消失したかのような浮遊感を感じた。
それは錯覚だった。今の今まで盤石だったはずの常識の喪失、何を信じたらいいのか分からない世界。
そんな精神的不安定がもたらす錯覚だった。
異界出身のスフィーやリアン、それを知る五月雨堂の面々あたりならまだ落ち着いていられたかも
知れないが、由宇にそれを望むのは酷というものだろう。
嘘や、と叫びたい。耳を塞いで目を閉じて絶叫したい。
でも由宇は、辛うじて踏みとどまった。何となれば、爆弾発言の当事者が平気な顔をしていたから。
「河島さん……アンタ、なんで平気なんよ……」
「ん?」
「ムチャクチャやで……ここがパラレルワールドやって? 別世界やって? そんな三流SF、漫画の中
だけで十分やっての……」
「違う可能性もあるよ」
「なぬ?」
「私たちがマインドコントロールを受けていて、ここに来る前の記憶を改変されているとか、本当は地球に
アルちゃんの種族が存在しているのに、いないものと思いこまされているとか」
「…………」
そっちの方がまだ可能性が高そうに思えてしまうのが情けない、と由宇は思った。どっちにしたって
荒唐無稽きわまりない妄言としか思えない内容なのに。
「まあ、真実はおいおい明らかになると思うよ。もっと情報が集まったら仮説も変わってくるだろうし」
言いながらはるかは、荷物を背負った。缶詰はほとんど食べてしまったのでかなり軽くなっている。
「それまで生き残っていられれば、だけど」
「……う」
由宇は我に返った。
そうだった。とにもかくにも生き残らねばならないのだった。
ここが異世界だろうと何だろうと、殺されたらゲームオーバーなのだ。
「そやな。世界がどうこうなんて哲学者めいたこと考えとる暇は、あんま無いんやった」
頭を大きく振って、由宇も自分の荷物を掴んだ。
「考えるためには生き残らねばならん。古代ギリシャで哲学が栄えたんは、連中が考え事に没頭しとっても
死なずに済む豊かさを手に入れとったからや。そして、ここは戦場や!」
頭をきれいに切り換えて、サバイバルモード全開モードの由宇。
「世界がどうあれ、うちらの目標は変わらん。つまり、生きて脱出する。そやな?」
「ん」
それは逃避だったかも知れない。だが、世の中には逃げても恥にならない状況が確かに存在するのだ。
「とりあえず、水と食料か?」
「ん。あと、アルちゃんのお父さんやお姉ちゃんも探さないと」
「んー……」
「何や? うちの周りうろうろしてからに」
「由宇おね〜ちゃんも尻尾がない」
「……あー、そりゃあらへんわなぁ」
「へん」
「変ってアルルゥ、そらないで。うちに言わせればアルルゥの方が変やわ」
「う……」
「ああぁ済まん済まん、うちが悪かった。アルルゥは変やないから泣いたらあかんっ」
「やれやれだね」
「……河島さんにそれ言われるとそこはかとなく傷つくのはなんでやろな」
様々な想いを内に秘めて、三人の旅はまだ始まったばかり。
【007 猪名川由宇 所持品:ロッド(三節棍にもなる)、手帳サイズのスケブ】
【027 河島はるか 所持品:懐中電灯、ビニールシート、果物ナイフ、救急セット、缶詰(残り3個)】
【004 アルルゥ 所持品:なし】
【二日目午前10時ごろ】
冬弥たちの狙撃に失敗した晴香はリサの追撃を振り切った後、しばらく森の中を東に進んでいた。
(でもまさか、由依が死んでいたなんて)
逃げている途中、篁の嫌な声が聞こえた。
その中で晴香は由依の死を知った。
(やっぱ由依じゃここで生き残るのは無理だったみたいね)
知り合いが死んだというのに晴香は冷静だった。
自分はこんなにも冷酷な人間だったろうか。
だが命を落とした者に対していちいち感情を抱いている暇はない、それが例え知り合いだったとしても。
ここは殺し合いの場なのだ。
次の瞬間には自分が死んでいるかもしれない。
そして自分はこれから多くの人々を殺そうとしているのだ。
(良祐、待っててね)
さらに進んで森の外れまでやってきた晴香は、焼け落ちた民家を発見した。
長瀬祐介が火炎放射器で燃やしたものだが、雨のせいで火は治まっていた。
(誰かが放火でもしたのかしら……)
しばらく焼け跡を探ったが特に何も見つからなかった。
(あら? あそこに見えるのは……)
海岸のほうになにやら建物が見える。
北川たちがいる海の家だ。
(少なくともここにいるよりはマシね)
晴香は海の家へと歩を進めた。
(もし先客がいたら……邪魔するヤツは皆殺しよ)
晴香は自分の後をつけている者がいることに気付いていなかった。
「ウーン、このまま後を追うべきカ?」
追跡者の正体はエディだった。
彼はあの後森の中に潜伏していたが、晴香を発見して後を追ってきたのだ。
「それにしても、みんなどこにいるんだろうナ」
晴香を発見する前に2回目の定時放送を聞いていたエディだったが、宗一たちは無事なようでほっとしていた。
(ウーン……)
晴香が海の家に向かうのを見ながら、エディはこれからどうするべきか悩んでいた。
晴香の他に海の家に向かう人影があった。
足元はふらつきながらも、その目はしっかりと海の家を見据えている。
なぜそこに向かっているのかはわからなかった。
ただ、直感で人が集まっていそうな気がした。
閃光弾の効果はとっくに切れていた。
殺虫スプレーを顔面に受けてすこぶる気分は悪かったが。
だが、もはや人格が壊れて元には戻りそうにない香里にはそんなことを考える思考は存在していなかった。
今の彼女の心には誰の言葉も届かないだろう。
聞こえるのは、いるはずのない栞の声だけ。
「……そうよ。みーんな殺してやるんだから。そして栞とあたしだけが生き残るのよね? フフフ……」
右手には果物ナイフが光っていた。
【091 巳間晴香 海の家へ ワルサーPP/PPK(残弾6発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ】
【010 エディ どうするか迷っている 盗聴器 先の尖った木の枝数本】
【087 美坂香里 海の家へ 果物ナイフ】
【2日目朝、定時放送から約3時間後】
放送を二人でしんみりと聞く。
「……僕のほうには知り合いはいなかったよ」
「姉さんもよ。そうちゃん、元気みたいね」
七瀬彰(66番)と梶原夕菜(21番)は住宅街の民家で、顔も知らぬ死者たちに黙祷を捧げた。
そして、軽い朝食を済ませる。
済ませた後は、何もすることが無くただ家の中で時が流れるのを待っていた。
退屈しのぎに、彰がミステリー小説の話を振ってみる。
夕菜はそれを退屈と取らずに、ただ笑って話を聞いてくれていた。
「……で、そこのトリックなんだけれど、
いきなりそれまでの殺人事件と関係の無い犯行現場である別荘の持ち主が密輸してる疑惑が浮かび上がって、
あれよあれよという間にその仲介している商人を問い詰めて、さらには隠し階段で事件が解決しちゃうんだ。酷いでしょ?」
「まあ……」
そんな談笑が、暫く続いていた。
彰たちが談笑している頃、
「……住宅街ね」
藤井冬弥(73番)、須磨寺雪緒(50番)の二人は、あれから森を突っ切って住宅街まで来た。
最初は道を確認しつつ海岸線を移動していたのだが、途中から隠れやすい森の中を選んだのは、
実際の殺し合いを目の当たりにして、人との接触の危険性を再確認したためである。
「どうする? 食料とか……あるかもしれないけど」
「こういった場所は、逆に人も集まりやすいわね。森や海岸と違ってリスクは十分上がるわ」
雪緒が心配そうに呟いた。
彼女は、何かと自分らの安全を気にかけてくれる。
人の少ないと思われるほうに、冬弥を誘導してくれている。そんな感じだ。
雪緒は本当の意味で頭が良い、冬弥はそう思った。成績や知識があるだけでは、頭が良いとはいえない。
こういった場面でそれを活用できることが、頭の良さである。
「大丈夫。俺が、雪緒ちゃんのことは守るから」
雪緒の手を引いて、慎重に住宅街に近づいていく。
そんな冬弥の行動に、雪緒は優しく微笑んだ。信頼、その言葉が全てを表しているのだろう。
雪緒の自然な笑みに、冬弥が魅力を感じないはずは無かったが、それを押し込めて道を横切った。
とりあえず、手近な民家の窓を覗いてみる。すると、影が二つ見えた。
生憎、物陰に隠れて人の姿は見えない。時々笑いが零れてくる。楽しそうな雰囲気だ。
「……誰か、先客がいるみたいね。争いごとになる前に離れたほうが良いかもしれないわ」
「いや、ちょっと待って。この声は……」
冬弥は耳をひそめてみる。……間違いない。
昨日、あれほど求めた親友の声。……彰の、声だ。
感激で、手足が震えてくるのに気付く。いても経ってもいられなくなった冬弥は、勢いよく民家のドアを開けた。
「彰っ!!」
冬弥は彰の名を呼びながら、部屋へと入っていく。
その後ろには、冬弥のいきなりの行動にちょっと戸惑いながらも雪緒が続く。
「……冬弥!?」
驚いたのは彰のほうである。ミステリーの話題で気を紛らわせていたところに突然の客。
しかも、それが見ず知らずの人ではなく、自分のよく見知った顔。
初めて会えた知り合いに、二人はお互いに喜んだ。
「彰ちゃん、お知り合い?」
ちょうどいい頃に、夕菜が声を掛ける。
「あ、うん。藤井冬弥って言う、僕と同じ大学に通ってる友達だよ」
「初めまして、藤井冬弥です」
「あら、ご親切にどうも。梶原夕菜です。彰ちゃんには随分お世話になってます」
「やだな、姉さん。世話になったのは僕のほうだよ」
にっこり微笑んで冬弥に挨拶を返す。
良かった、この人は悪い人ではない。冬弥は直感的にそう判断した。
ただ、彰がこの女性のことを「姉さん」と呼んでいるのが気になったが。
「……ところで、その人は?」
彰は雪緒に目が行った。
「初めまして、須磨寺雪緒です。藤井さんには……いろいろと、お世話になりました」
その言葉に、冬弥は照れくさくなる。
確かに、第二回定時放送での件が思い出されるが、それよりも雪緒の的確な指示のほうが役に立ったのではとも思える。
雪緒に悲しい思いをさせない。そう公言してしまった。
このまま、雪緒と一緒に生き残る算段をするのも悪くない。そう考えてずっと一緒に行動してきたのだ。
四人は、冬弥と彰の仲介の下比較的簡単に打ち解け暫く会話を楽しんだ。
「冬弥、ちょっと」
暫くしてから、彰が冬弥のことを手招きする。
「どうした?」
「いや、二人で話があるから。ちょっと来て欲しいんだ」
彰以外の三人が顔を見合わせる。
冬弥は特に深く考えずに同意し、彰の後を着いて階段を上った。
二階の一室、六畳間の和室で二人は向き合った。
「で、話って何だよ?」
彰は、先ほどまで笑顔でいたのだが、戸が閉まるのを確認すると、顔をきりっとひきしめる。
「冬弥……率直に聞くよ。あの、須磨寺さんって言う子、どう思ってるの?」
「……どうって?」
「好きか、嫌いかってこと」
「いや、嫌う理由なんか無いだろ?」
「そういう意味じゃないよ。……分かってるんだろ? あの子の気持ち」
彰の言葉が、冬弥の胸にぐさりと突き刺さった。
核心を突く言葉だった。生き残るための決意の他に、冬弥が先送りにしていた現実、
今、ここで改めて突きつけられた。
「ちょっと話してみて分かったよ。あの子、冬弥に惚れてる。何があったかは知らないけれど。
冬弥……君はどうなんだ?」
自分がどうかって? 簡単だ。自分だって惹かれている。
雪緒が時折見せる愛らしい表情が、瞼に浮かんでくる。今まで意図的に、口に出さなかった現実。
それでも、今度ばかりは言わねばなるまい。
「……俺も、雪緒ちゃんが好きだ」
「やっぱりね」
冬弥の答えは予想していたのだろう。呆れ顔で彰は溜息をついた。
「……由綺は、どうするんだよ?」
由綺。この企画に参加していない、冬弥の恋人。
今、冬弥は自分がどれほど背徳的な感情を抱いているかは理解している。
あえて、口に出したくなかった。考えたくなかった。現実から、目を背けていたかった。
それも、彰の一言一言が容赦なく自分を現実に引き戻す。
返せる言葉が無い。
「呆れたよ。由綺というものがありながら、須磨寺さんの気持ちをもてあそんだって言うのか。
ここに由綺がいないことをいいことに、さぞかし楽しい思いをしてきたんだね」
彰の挑発的な台詞が、冬弥を苛立たせる。
返す言葉が見つからないだけに、一層冬弥はカッとなった。
そして、反射的にグロッグを彰の鼻先に突きつけていた。
「もう一度、言ってみろよ……。いくらお前でも、その頭に穴が開くぞ」
「それで、僕を撃つのか? そんなことしたって、現実はかわりゃしないのにさ。
うまくお前と須磨寺さんが生き残れたとしても、君らが傷つくのは目に見えてる。
はっきり言おう。冬弥、君がちゃんとしない限り、何をしようが絶対に君らは幸せになんかなれない」
冬弥の脅しに屈することなく、彰は言い切った。
冬弥が撃つことは無いと踏んでいたかどうかは分からないが。
ゆっくりと、グロッグを握る冬弥の手が下がっていく。
「……なら、どうすればいいんだよ。俺は、雪緒ちゃんが好きだ。
けれど……由綺は、俺の恋人だ。裏切ることなんて、出来ない……」
彰の体が一瞬沈んだ。
そして……冬弥の体に伝わる、一瞬の衝撃。
彰は、冬弥を殴った。精一杯の、力を込めて。
「……ふざけるなよ。自分のことだろ? せめて、自分でケリつけろよ。
由綺を裏切れないなんて、聞こえは良いがただの都合のいい言い訳じゃないか。自分の本音で、ぶつかってみろよ」
殴った後、冬弥の横を通り過ぎようとする。
諦めもあったのかもしれない。このまま、冬弥は人間として最低の人種になってしまうのか、という。
冬弥の体が揺れる。何かを、予兆するように。ぶつぶつと何か呟いているのが聞こえる。
次の瞬間……彰が、宙に舞った。
冬弥が渾身の一撃で、彰を殴りつけたのだ。
「……分かってるさ。俺が本当に好きなのは、雪緒ちゃんだってことを!
例え、由綺を失っても俺は、雪緒ちゃんを取る!」
冬弥は、下へと走る。自分が真に愛するものが誰かを告げるために。
それが、由綺を悲しませる結果になるとしてももう迷わない。
彰は頬を擦りながら起き上がった。
「……いたた。冬弥も世話が焼けるよ、自分の言うべきことも満足に言えないなんてさ」
そしてぼやく。自分はつくづく友達想いの奴だ、と痛感しながら。
【21 梶原夕菜】
【50 須磨寺雪緒】
【66 七瀬彰】
【73 藤井冬弥】
【所持品変更なし 午前中】
つかの間の心の休息を終え個室を出る。
個室のクレイモアを玄関にセットし直して、間取りの確認を行う。
一通り間取りを確認すると澪はダイニングの椅子に腰掛け、これまでの行動を省みた。
始めに脳裏を掠めるのはやはりオボロのことだった。
今までは出会った相手は確実に仕留めてきた。
故にわたしがゲームに乗った事を知っている者はいない。
相手が乗っていなければ接触し、隙を見せた所で仕留める。
それは小さい体躯と演技力を活かした必殺の方程式。
だが、これからはそうはいかない。
知られてしまったから。
わたしがゲームに乗ってしまっている事を。
仕留め損なったから。
真正面からの殺気に恐怖して。
弾痕のついたスケッチブックを見る。
これを見た相手は間違いなく警戒するに違いない。
つまりは他者に接触する手段を失ってしまったことになる。
これでは騙し討ちに持ち込む事が出来ない。
早急に替わりのスケッチブックを手に入れる必要がある。
商店街か、もしくは学校でなら入手できるかもしれない。
次に放送の事。 これまでに30人死んでいるらしい。
このうちわたしが殺したのが5人。
つまりは…
そう、ゲームに乗った参加者はわたしだけじゃないということ。
それも結構な人数が居そうなのは疑う余地がない。
ゲームに乗っている相手には騙し討ちは通用しない。
奇襲か罠か正攻法か、その時々に応じてもっとも効果的なものを選ばなければならない。
手持ちの武器を確認する。
黒髪の女性を罠に嵌め、また修二を騙し討つ小道具として使ったクレイモアは残り2つ。
もっとも、一つは今玄関口に仕掛けてあるわけだけど。
修二を殺すのに使った大型のナイフ。
これを使った後は返り血に注意しないといけない。 騙し討つならなおさらだ。
ハクオロ達を騙し討つのに使った小型の拳銃。 弾数は残り18発。
銃の威力自体は高くない。 その半面、ポケットの中に仕舞える利便性は大きい。
詩子の配布武器であったスタンロッドは充電式らしい。 柄の部分にプラグが内蔵されている。
連続起動がどれぐらい出来るかは使ってみないとわからないけど。
と、ここまで確認してユズハのバッグを開けてもいないことに気が付く。
バッグを開けて確認するが武器らしい武器は入っていなかった。
代わりに入っていたものはベストタイプの防弾/防刃チョッキ。
取り扱い説明書を信用するならばハンドガンなら44マグナムやトカレフのような大型のものでも止める事が出来るらしい。
その上重さは2kg強と軽い。
もしもハクオロがこれを身に付けてたら…
ふと、そんな事が脳裏を過ぎった。
【036上月澪 所持品…クレイモア(残り1個)、イーグルナイフ、レミントン・デリンジャー(装弾数2発、予備弾16個)、スタンロッド】
【ユズハの初期配布品は防弾/防刃チョッキでした】
【スケッチブックには穴が二箇所開いています】
【玄関にクレイモアを設置しています】
【白き神々の座より5分経過】
「…できた」
格闘すること30分。橘敬介(55)は、溜息をついて肥後の守を机においた。手に生傷をいくつも作り、ようやく作品が完成した。
「…しかし」
できあがった作品を見て苦笑した。どう見ても、自分が作ろうと思った物には見えない。
「うぅん…」
その時、後ろで寝ている少女、三井寺月代(85)がそんな声を漏らした。
「おや?」
少し硬くなっていた腰を逸らし、立ち上がった。
「……初音ちゃん?」
寝ぼけ眼で、少女は起きあがっていた。そして、ふと、橘と目が合う。
「やぁ、目が覚めたかい?」
しばらく、理解ができなかったようだが、ぴったり5秒後短い悲鳴と共に、恐怖を露わにしてのけぞった。
「こ…殺さないで…」
そんな姿を見て、橘はいたたまれない気持ちになる。さっき死んだ少女と言い、この少女と言い、こんな子達が、なぜ死の恐怖に怯えなければ行けないのだろうか?
「…信じられないかもしれないけど、信じて欲しい。大丈夫、殺さない。手を挙げるつもりはないよ」
少女と目を合わせる。少女は、何かを感じ取ったのか、少し落ち着いたようだ。
「ごめんね、勝手に上がらせて貰ったよ。えぇと…君は?」
「…三井寺、月代です」
「橘敬介、よろしく」
そう言って左手を差し出す。おずおずと手を差し出す月代だが、突然、橘が焦ったように左手を見つめた。
「…あれ? こら、出て来いって!」
ぶんぶんと左手を振り回す。突然の行動に、月代は呆気にとられている。
「てい!」
短い気合いと共に左手を大きく振った。すると、ポン、と言う音と共に袖から白い造花が飛び出した。
「…ふぅ、えっと、みっともないところを見せたけどよろしく」
苦笑いして、花を差し出した。今まで沈んでいた月代は、ほんの少しだけ、口に笑みを浮かべた。
「…そうか、そんなことが」
橘と月代は机に向かい合って座っている。そして、これまでの経緯をお互いに話しているのだが、月代の話を聞いて驚いた。
初音という少女との出会い、月代を殺そうとしたが最後の最後で思いとどまり、自分で毒をあおり命を落とす。
これでは、月代から笑顔が失ったわけもわかった。橘はやり場のない怒りに包まれた。
(理不尽すぎる。………彼女が何かしたのか? 死んだ少女も何かしたのか? ……この馬鹿げた事のせいで)
「…どうすれば、いいんだろう」
月代の声は絶望しか感じられなかった。その声を来て、ふと記憶をよぎる1つの声。
(また、誰かを笑わせてあげて下さい)
自分が死を看取った少女の声が聞こえる。しかし、自分に出きるのだろうか? 深い絶望に包まれた彼女に笑わせることが。
「とりあえず、何か口に入れよう。辛いかもしれないけど、食事をとらないと…」
橘は、苦し紛れにそんなことを呟いた。言葉と共に、自分のバックを漁る。
「…うん」
月代もそれに倣って、鞄のチャックを開けた。とりあえず、食事をとる意志はあることに橘は少し胸を撫で下ろした。
「あれ…?」
月代は鞄を探る手を止めて、声を漏らした。
「どうしたんだい?」
「…これ」
鞄から取り出したのは、4つの弦が張ってあり、木目色をした1つの楽器。
「…ヴァイオリン?」
「…いや、これはヴィオラだね」
ヴァイオリンより少し大振りな楽器、ヴィオラを手にとって橘は呟いた。
「これが、君の支給武器?」
「みたい…」
橘は、月代共々苦笑した。
「こんな物でどう戦えというんだが」
そう呟いて、A線を弾いた。
「…弾けるの?」
月代が興味深そうに訪ねてくる。
「昔、ヴァイオリンを習ってたことがあってね。でも…」
不器用でやめた、とは恥ずかしくて言えなかった。
「へぇ…」
感心したように、月代が溜息をもらした。
「弓、あるかい」
そんな様子の月代を見た橘は、月代にそう言った。
「えっ? えっと…」
鞄の中を覗き込むと、すぐに見つかったのでそれを渡した。
「よっと」
ミュートが付いていたので、駒に取り付けて音量を落とす。弓を張り、軽く弾いてみた。
ミュートを付けているから、音量は落ちるが、豊かな音が響いた。
「………」
無言で、じっと橘の様子を見ている。何を求めているかはだいたいわかった。
(…ヴィオラも囓ったとはいえ…弾けるかな?)
自信はなかった、だが目の前で期待に満ちた顔をしている月代。そして、死んだ少女の最後の言葉。
(やるしかないか)
無言で、弓を動かし始めた。曲は、シューベルトの「アルペジオーネ・ソナタ」
正直、演奏は酷い物だった。テンポは滅茶苦茶だし音程も酷かった。聞けた物じゃないのだが…。
(僕が、笑わせる。この子を!)
情熱だけは、溢れている。月代は黙って演奏を聴いていた。
下手くそだと思う。音が汚いと思う。この曲もいい曲だとは思うけどちょっと暗いような気がする。
それでも、何か泣けた。何もしてないのに、涙が止まらなかった。
(初音ちゃん…ごめんね。私、苦しんでる初音ちゃんに何もできなかった。…でも、私生きる。絶対に生きるから)
そう心の中で呟き、再び泣いた。
【橘敬介(55) 所持品:肥後ノ守、その他ガラクタ(要整理、手品の道具などがある)、手首に万国旗、釣り糸、釣り針、ハンカチ、水入り容器】
【三井寺月代(85) 支給武器:ヴィオラ】
【今後の方針未定。ただいま小さな演奏会中】
【午前中】
追加です。
【三井寺月代 所持品:青酸カリ・スコップ・初音のリボン】
【橘が何を作ったかは次の人にお任せです】
「それ以上近づかないでください!」
「誰ッ!?」
辿り着いたホールの中には先客、少女が二人。
何かのユニフォームのようなものを着た少女がスティックを構え、もう一人の少女を庇うように仁王立ちになっていた。
尤も、その足の震えを隠し切ることを出来てはいないが。
「こんっの、クソアマァァァァァァ!」
ボールをぶつけられた衝撃から立ち直った晴子が、銃口を少女に向け、引き金を絞る。
「死にさらせえええええ!」
「待ってっ!」
「ひっ!」
パパパパパパパパパパッ!
爆竹が連続で爆発するような兇弾は放たれ、ホールの壁に孔を穿って行く。
しかし、兇弾が少女二人を蹂躙することは無かった。
「ッ!いきなり何を邪魔しくさってんねんコラァ!」
明日菜が咄嗟に晴子を押し倒したからだった。
「ちょっと落ち着いてください!」
「落ち着くも何もあいつらは先に攻撃してきたんやで!?」
「いいから落ち着きなさいってば!」
パァン!
明日菜の平手打ちの音が、ホールに響き渡る。
一瞬、茫然自失となった晴子の耳に何事かを囁き、その手からUZIを取り上げて、明日菜は少女のほうへと向かう。
「ヒッ!」
「こ、来ないでっ!」
突然の銃撃を受けた二人は地面にへたり込み、近づいてくる明日菜からあとずさって何とか逃げようとする。
「そう怖がらないで、って言っても、あんなことの後じゃ無理かな」
そう言ってUZIを床に置く。
「ほら、これなら大丈夫でしょ?」
「あ…」
それを見てようやく少し平静を取り戻したのか、二人は逃げることをやめる。
「ごめんなさいね、突然攻撃されたから相方がブチ切れちゃって。あの人、更年期障害で怒りっぽいのよ」
「誰が更年期障害のオバハンやねんボケェ!」
よっこいせ、といった感じで、押し倒されて今まで床に寝そべっていた晴子がようやく立ち上がる。
「違ったんですか?」
「アホか!ウチはまだ二十代や!」
「……くすっ」
「ようやく笑ってくれたわね」
「まずは自己紹介からはじめましょうか。アタシは麻生明日菜。呼ぶときは明日菜でいいわ」
「ウチは神尾晴子や。ウチも晴子って呼んでくれてかまへんで」
「あ、あたしは葉月真帆です」
「あたしは大庭詠美ちゃん様よ!」
武器の放棄と漫才によってなんとか落ち着きを取り戻した四人は、車座になって自己紹介を始めていた。
「真帆ちゃんたちは、どうしてここに?」
「ええっと、初めは森の中を彷徨ってたんですけど」
「そこであたしと会ったのよね」
「そうそう、それで一緒に行動してたんですけど、いつのまにかここに来ちゃってて」
「あら、アタシたちと似たような理由なのね」
「そうなんですか?」
「ええ、アタシたちも偶然森の中で出会って、迷っているうちにここに戻ってきてしまったのよ」
お互い、方向音痴だと困るわね、と言って笑いあう。
どうやら、向こうは大分こちらに心を許してきているらしい。
話はなおも明日菜主導で進む。
「それでね、一つ聞きたいんだけど」
「何をです?」
「あなたたち、このゲームをどうにかして壊すつもりはない?」
「ええっ!?」
真帆、詠美の二人は当然として、晴子までもがこの話に驚く。
「アタシね、ずっと考えていたのよ。このゲームの主催者を倒せば、みんな揃って無事に帰れるんじゃないか、って」
「なっ!?あんた本気で言うとるんか!?」
「ええ、本気よ」
食って掛かる晴子をさらりと受け流して、明日菜は話を続ける。
「初めに、タカムラ、って男が言ってたわよね。ここは離島で、翼を持つものでも体力が続かないほど陸地から離れている、って」
「ああ、なんかそんなことも言うとったな」
参加者の中には、翼のようなものを持つものも居たことを思い出す。
「じゃあ、そんな場所にアタシたちはどうやって連れてこられたのかしら?」
「そりゃ船か飛行機かなんかで運んで……あ」
「まさか……」
「この島のどこかには、アタシたちをここまで連れてきた"ナニカ"があるってことでしょ?」
「いやいやいや、ちょい待ちぃや。そうは言うけどや、もしかしたらウチらを連れてきた乗り物は、運ぶだけ運んでだらもうどっかへ行ってしもうたんかも知れへんで?」
「それはあるかもしれないけど、そうだとしても、他にも何か乗り物は残されているはずだわ」
「なんでや」
「だって、篁たちはまだこの島にいるじゃない」
「そういえば…」
ホールでの説明の後、篁たちはどこかへ行ってしまったが、この島から出たような形跡は無い。
「と言うことは、彼ら主催者側の人間用の脱出手段が、この島にはまだ残されているってことじゃない?」
「う…むぅ」
「明日菜さん……名推理です……」
「ふみゅー。ちょっと凄いかも」
「だから、アタシたちは主催者を倒して、この島を脱出しようと思うの。このゲームに乗って殺し合いをするなんて、まっぴらごめんだわ」
「そうだ」
「お互い、探している人の情報を交換しない?ちなみに、アタシは木田時紀って言う男の子を探しているんだけど」
「え、木田先輩とお知り合いなんですか?」
「先輩、ってことは、真帆ちゃんは時…木田君の後輩だったの?」
「はい、先輩には色々お世話になっています。明日菜さんは、先輩とどういう関係なんですか?」
「ああ、彼はうちのお店でバイトしているのよ。維納夜曲というケーキ屋なんだけどね。知らない?」
「あ、維納夜曲なら知ってます。エミちゃんがよくケーキを買いに行ってました。あ、エミちゃんっていうのは木田先輩の妹さんなんです」
「知ってるわ。詳しいことは知らないんだけど、木田君がうちにバイトに来たのも、その恵美梨チャンのためらしいし」
「へー、そんな理由があったんですかー。あの先輩がエミちゃんのために〜、なんて、意外だなぁ」
「ふふ、よかったら真帆ちゃんも今度来てね。きっと木田君は嫌がると思うけど」
「あはは、確かに先輩は絶対嫌そうな顔をするでしょうね。いつか絶対行かせてもらいますよ。でも、今は…」
「あ…」
もしよかったら、今度来てちょうだい。木田君はきっと嫌がると思うけど」
再度沈黙が訪れる。
「あー、もう、辛気臭いのう!」
次の沈黙を打ち破ったのは晴子だった。
「次はウチが聞く番や。あんたら、神尾観鈴、っちゅう女の子を見いひんかったか?長い髪をこう、後ろで一つに束ねててな、がお、とか変な口癖のある子なんやけど、知らんか?」
「いえ、ちょっと見てないですね…、すみません」
「あたしも見てないわよ」
「さよか…」
どこにおるんや観鈴、と呟いて、晴子はうな垂れる。
「それで、話を元に戻すけど、木田君をどこかで見なかった?」
「いえ、見ていませんね。あたしがあったのは詠美ちゃんだけです」
「ふみゅん、おなじく」
「そう…。アタシも、晴子さん以外の人とは誰とも会っていないのよ。ねえ、晴子さん?」
「えぇ?あ、ああ、そうやな。ウチも明日菜ちゃん以外、誰とも会ってないで、うん」
「そうだったんですか…それじゃあ仕方ないですね」
「この島、狭いようで、意外と広いのね。まあ、もしも木田君に会ったら、麻生明日菜が探していた、って伝えてちょうだい」
「神尾観鈴も頼むで」
「わかりました。覚えておきます」
「真帆ちゃんたちには尋ね人はいないの?」
「えっと……霜村功っていう人を探しているんです」
「あたしは……う〜ん、牧村南、って人と、猪名川由宇…もかなぁ?」
「わかった。それじゃこっちも会ったら伝えておくわ」
「お願いします。って、もしかして、お二人はもう行っちゃうんですか?」
「今すぐ出るつもりは無いけど、夜が明けたら行くつもりよ」
「一緒に行ってくれないんですか?」
ようやく、自分たちを守ってくれそうな、信用できそうな大人が二人も見つかったのに。
見捨てるんですか?というような目で、真帆と詠美は明日菜たちを見つめる。
「そんな目で見られても困るんだけどな」
明日菜は照れ隠しに頬を掻いてみせる。
「えっとね、さっき、私たちは主催者を倒そうと思う、って言ったでしょ」
「はい」
「それには、仲間がいると思うの。今の状態だと、アタシたち二人と真帆ちゃんたちを入れて、四人かな?」
「えぇっ!?私はそんな、できませんよ!」
「でしょ?女の子にそんな大それたことは出来ないと思うの。だから、私は仲間を集める」
「そのためには、二手に分かれて、より多くの人にこの話を持ちかけたほうが効率がいいと思うの」
「ふみゅ」
「だから、アタシたちはアタシたち二人で。真帆ちゃんたちは真帆ちゃんたち二人で行動して、できるだけ多くの人にこの話を持ちかけてほしいのよ」
「なるほど……」
「だからアタシたちは行くけど、それでもいいかしら?」
「そう…ですね…」
「お願いできる?」
真帆と詠美の目をじっと見据える。
「う…ん。わかりました。どこまでできるかどうかはわからないけど、やってみようと思います」
「あたしも怖いけど、頑張ってみる」
「ありがとう。お互い頑張って、早くこのふざけたゲームを終わらせましょう」
「はい!」
「どういうつもりや」
明日菜と晴子は、少し仮眠を取ったと言う真帆と詠美に見張りを任せ、ホールの床に寝ていた。
「黙って話を合わせろ、言われて付き合った結果がこれや。何を考えとる?」
「何のこと?」
晴子は二人に聞こえないように小声で、しかし強い口調で明日菜に問い掛ける。
「主催者を倒してみんなで脱出する。それは本気か、って聞いとるんや」
「ああ」
襲われたら、戦う。
こちらから攻撃したっていい。
明日菜はそう言っていたはずだった。
「半分は方便、残りの半分は本気かな」
「へぇ…会うた時とは言うてることが全然違うやないの。襲われたら殺したってええんちゃうん?」
「ま、やろうとしていることは一緒ですよ」
時紀さえ居れば他には誰も要らない。
その考えについては何も変化は無い。
「別にね、このゲームは壊せなくてもいいんですよ」
「どういうこっちゃ?」
「さっきも言いましたが、主催者側を倒して、みんな無事に帰れるなら言うことは無い」
「それはウチも同じや。せやけど、そうそううまくいくなんて思ってへん」
「そりゃアタシだってそうですよ。彼女たちは撒き餌、一種の保険ですよ」
「保険やて?」
「ええ、保険」
「このゲームを壊そうとする人間は、このゲームに乗っている人間と敵対する」
「そして、このゲームを壊そうとしていると聞けば、同じ目的をもつものは、無条件で味方だと思う」
「馬鹿は馬鹿同士で潰し合って、のこのこと近づいてくるお人好しは後ろから殺す」
「つまり、どっちに転んでも、損をすることは無い、ノーリスク・ハイリターン」
「アタシのような非力な女は、絶えず他人を利用していないと、生きていけませんよ」
「へぇ」
「ほなら、ウチも利用してる、ってことか?」
二人の視線が絡み合い、交錯し、見詰め合う。
「それは」
「あなたも同じことじゃないんですか?」
「ふん」
「お互い、尋ね人が見つかって残り四人になったら、殺し合いやな」
「そうですねー。そうならないように祈ってますよ。晴子さん怖いから」
「ハン!雌狐が言いよるわ」
「でもまぁ」
「観鈴が見つかるまでは、仲間やと思っといたる」
「そりゃどーも。あたしも木田君が見つかるまでは、とりあえず仲間っていうことにしておきますよ」
【068 葉月真帆 ラクロスのユニフォーム&スティック&ボール3つ(回収した)】
【013 大庭詠美 護身用スタンガン】
【002 麻生明日菜 ナイフ ケーキ】
【022 神尾晴子 千枚通し マイクロUZI(残弾60)】
【明日菜、晴子ペアは真帆、詠美ペアと一緒に行動するつもりは無い】
【明日菜の「ゲームを壊す」という発言は嘘。隙あらば他の参加者を殺すつもり】
【時刻は深夜にさしかかろうというころ】
「それ以上近づかないで下さい!」
「わわっ!」
いきなりボールをぶつけられた二人は、ササッと飛びのくようにホールから出る。
「誰?」
中にはショートカットの少女二人。突然の来訪者に驚き身を寄せ合うようにしてこちらを見ている。
「……な、何用?」
沈黙の二組、しばしのお見合いの後。その内の一人、真帆が突然口を開いた。
「もしかして……明日菜さんですか!?」
「えっと……」
誰だっけ。
ラケットを投げ出して、真帆が明日菜に飛びつく。余程心細かったのだろうか。
明日菜もその行動に一瞬面食らったような感じだったが、とりあえず真帆を抱いてやった。
いきなり刺されないかと腰がひけてる明日菜が、晴子側からは丸見えで笑いをこらえるのに必死だった。
(……どうする?)
(んー、もうちょっと様子見ます?)
(そろそろ情報も必要やしなぁ……。なんかあんたの知り合いのようやし、
いきなり殺すんも気がひけるしなぁ。んー、今回はあんたに判断任せるわ)
(そうやって私に汚れ役を被らせようとしないで下さい。どーせ最後までには殺すクセに。
それに……誰だっけ?)
真帆を抱きつつ、目だけでやりとりする二人を見ながら、今まで黙っていた詠美が口をはさんだ。
「……二人、ツーカー?」
このままでは遅かれ早かれもうすぐ殺されるというのに。呑気なものだ。
形だけの自己紹介を済ませ、形だけの語り合いをする。
真帆と詠美には思いもよらないことだろうが、晴子と明日菜にとっては
この語らいはその程度のものだった。
真帆と詠美の話を半ば適当に聞き流しながら。
二人を殺す算段を取っていた晴子と明日菜。詠美と真帆の命はもはや風前の灯だった。
恐らくこのまま夜がふければ、真帆と詠美、就寝後二度と目覚めることはあるまい――
――だが、そんな詠美と真帆の不幸せも長くは続かなかった。
「へ?」
「聞いてなかったんですか?」
「だから、篁のおじさん。まだあそこのホールにいるのよ」
「本当に?」
晴子と明日菜が二人顔を見合わせる。思いもよらぬその言葉に耳を傾ける。
(どうする?)
(ゲームに乗らないで生きて帰れるならそれに越したことはないんじゃないでしょうか)
(そういやここに来たんは篁のジジイいないか確かめる為だったしなぁ)
(乗っとく?この話)
(ほんとのトコは、あんま手汚したくなかったしな。……モノは試しでやったるか?)
ひそひそと二人話し合い、結論を導き出す。
「というわけで決めました。4人で篁を倒しませんくぁうぁぐんんってやめて下さい晴子さん」
明日菜が代表して応える。その反応は多種多様だった。泣きそうに顔を歪めつつも控えめに手をつきあげる詠美。
ガクガクと明日菜の頭を叩いて音頭を取る晴子、困ったような、ひきつったような感じで溜息をつく真帆。
「即断即決はちょっと……。いろいろと問題あると思いますよ。たとえば篁の他にだって敵はたくさんいると思いますし、
こんな孤島じゃ帰り方だってわかんないし、一番の問題は体内に埋め込ま――」
「よし、やったろやん!」
全然聞いてなかった。立ち上がり、即先行しようとする晴子を必死で止める真帆。
とりあえずこの面子内では苦労性のようだ。
「頼むから聞いてください!……その、なんかあそこ、不気味だし。その、とりあえずチャンスを待ったほうがいいと……」
「チャンスって?」
憮然とした表情のまま晴子が座り直した。
「たとえば篁が一人で出てくるだとか。たとえばですけどね。そういったことです。きっと警備も厳重なんだろうし……」
まともにいったら、恐らく返り討ちにあうと真帆はそう告げた。
(……どうする?ゲームに乗るのとどっちが賢いか)
(乗るか、反るか、ですか)
431 :
行動方針:04/05/21 01:10 ID:LIUC4kFk
あれから30分、ようやく光岡はみさきをなだめ、泣き止ませることに成功した。
「さて、これからどうしたものか……」
「そうだね……」
光岡は疲れ果てた顔で、みさきは泣き腫らした目で、二人はこれからの行動方針について話し合ってた。
「仲間を集めて脱出……これが一番の上策だと思うが、現時点では辛いだろう」
「うん、武器も仲間も必要だもんね」
「そこで、信頼のできる仲間を集めようと思う」
「そうだね、それがいいよ。光岡さんにはそういう人がいるの?」
「ああ、昔からのなじみが一人。あいつと合流できれば心強いのだが……」
ふう、とため息を漏らす光岡。
「みさきにはこの島に信頼のできる人物はいるのか?」
「えっと……一人いるよ、澪ちゃんっていう子。ちっちゃくて元気一杯の子、しゃべれないからスケッチブックを持ってるんだよ」
「そうか……」
みさきはまだ知らない、その上月澪がマーダーになってしまったということを。
みさきはまだ知らない、その上月澪が自分の邪魔になる人間を容赦なく殺してきたことを。
「じゃあ、当面の目的はその二人の捜索、及び他の敵意の無い参加者達との接触。異論は無いな?」
「うん!」
【028川名みさき 所持品:白い杖】
【089光岡悟 所持品:日本刀,デザートイーグル(残り3発)】
【行動方針は知り合いの捜索と敵意の無い参加者との接触】
結局――4人はそこで夜を明かし、朝の定時放送を聞いた。
そこに詠美と真帆の名前はない。結局、そういうことだ。
晴子と明日菜にとっては、大事な人の名前が挙がらない、安心できる放送だった。
詠美と真帆にとっては、そうでもないようで。知り合いの為、知らない人の為。
悲しみをたたえた黙祷を捧げた。その後、しばし無言の時が続く。
「んで、いつまで待てばいいんや?」
沈黙に耐えかねた晴子がいらついたように頭をボリボリと掻く。
「……そんなこといわれても」
「ねえ」
「うがー、もう待てるかい!ちゃっちゃと篁のジジイぶっ殺してそれですむことやろ!」
晴子が切れた。
「ちょっとちょっと、落ち着いて。カルシウムでもとりましょうよ」
そんなものない。
「落ち着けるかアホウ!こんなことしてたら――」
観鈴が死ぬかもしれん。という言葉までは発さなかった。
口に出してしまえば、そうなってしまう気がして。現実が怖かったから。
その途中で途切れた言葉に、明日菜は時紀の事を頭に思い描く。
晴子と同じ思いだった。大切な人を思う。それだけは二人、偽りの無い心の重ねあい。
「晴子さん。私、感動しました。……行きましょう!」
いざとなったら晴子を置いて逃げればいいだけだし、とかほんのちょっとだけ考える。
一応、ほんのちょっとだけ。明日菜とてそこまで黒くはない。本当にそうなったら迷わずそうしそうだが。
「あんたらはそこで震えてればいいんじゃ!」
「ふみゅ〜ん、この人達怖い……」
「あの、もう少し落ち着いて。それに私達の体の中にはまだ爆――」
「知るかボケ!」
たしなめようとした真帆と詠美……の方はたしなめてなかったか。
ともかく、突然キレた晴子といきなり乗り気になった明日菜は、
二人を置いてホールの入り口へと駆け出した。
「どうしよう……」
「でも、追いかけないと」
スタンガンとスティックを手に、真帆と詠美も遅れて走り出した。
二人、ホールの入り口の前に立ち、扉を少しだけ開いて中を覗き見る。
青白い光に包まれるホールの中、篁がたった一人で突っ立っていた。
警備なんて全然厳重じゃなかった。ただ、青白く光るホールと同じように蒼い。そんな篁は不気味に見える。
でもそれだけだった。何を思って、何を考えてそこに一人いるのだろう。
(あの人、馬鹿なんでしょうか)
とりあえず、二人には馬鹿に見えたようだ。
(馬鹿で結構。いつまでもこのけったくそ悪いジジイの思惑に乗せられるかっちゅーの!)
いや、一人だけになった。
(いや、あなたじゃなくて。首謀者殺してゲーム破壊して。それで殺し合いなんかせずにすみますもんね)
(そうや。どーせならいっちばん憎い奴にズドンと)
(どーせなら時紀クンと私の為にライバル大虐殺してからの方が良かったかなー)
(ん?何か言ったか?)
(いえいえ何も)
(でも……こんな所に一人でいるってことは、やっぱりここには何か大事なものでもあるんでしょーか?
まさか、入った瞬間どこからか私兵団がわらわら沸いてきたりとか)
(知らんけど、さっさといてまえばそんなことどーでもいいやろ。もし囲まれたら……鼻を摘みにとか言えばいいんや)
(鼻はつみたくないです)
バン!と扉を開け放つ。
「一人で武器も持たずにいるなんてすごい自信ですね!」
「このけったくそ悪いゲームもここで終いや!」
お互い、決めゼリフを吐きながらホール中央部へとなだれ込む。
中には佇む老人一人。チラリと二人を見て、逃げるでもなく構えるでもなく、ただ嗤う。
まず、晴子が先行する。手に持った銃で先制の弾丸の嵐を浴びせる。
そして、それを盾にするように明日菜。地を駆け、構えたナイフで篁めがけて突進する。
篁はゆっくりと正面を向き、それらと相対する。
弾丸シャワーが篁を襲い、ナイフを構え走る明日菜の身体が篁と交錯する。
「とどめや!」
その明日菜の背中を踏み台にしてタンっ!と上空へと羽ばたいた晴子が、
千枚通しで篁の頭よ砕けよとばかりに脳髄へと突き刺した。
ピタ。
…
……
…………。
「ピタ?」
篁はただその場に立ち、軽く両手を動かしただけだった。
明日菜のナイフを左手――しかも素手――で握りしめる。
晴子の千枚通しは突き通されることなく篁の右掌の表面でピタリと止まる。
「……」
「えっと……」
篁の身体を幾つも貫いた――はずだった弾丸がコロンコロンと地面に転がる。
「へへ……」
「あはは……お、面白かった?」
二人、篁に愛想笑いを浮かべる。微妙に引きつってて可愛くない。
篁は、無傷だった。
ぶっちゃけ、ありえなーい。
「気は済んだかね?……さ、ゲームに戻りたまえ」
二人、首根っこをひっつかまれる。
「ここで君らを殺すのは容易だが……考えてもみたまえ。
君達の身体の中の爆弾を。逃げ場などもう、どこにもないのだよ」
すっかり忘れていた。そういえばそんなものもあったっけ?悠長にそんなことを考える。
というかこの二人、本当に真帆の話全然聞いてなかったわけだ。
そんな思考の最中、無理矢理二人ホールの外へと放り出される。
「ここはもうすぐ騒がしくなる。……もう一度言う。ゲームに戻るといい」
二人合わせば結構な重量――ついでに体重は秘密だ――をまるでバレーボールかのように軽く投げ出す。
放り出された二人。
「……」
「何ですか、アレ?」
背後から声が聞こえる。それはもうアレ扱いの人の声。
「忘れ物だよ。これも持ってきたまえ」
それぞれの武器、ナイフやらなんやらも同じようにホールの外へ放りだされた。
ゴン!その内の一つ、マイクロUZIが晴子の後頭部に当たった。不運な人だ。
ホールの扉が再び音を立てて閉まった。残される二人。
「……えと、アレ、無茶苦茶強いんですけど」
横で悶絶する晴子をよそにぼーぜんと呟く明日菜。
「……強いとかそんな次元じゃなかった気するけどな」
頭をさすりながら、晴子が愚痴る。人か?アイツ。
駄目だ。あれには勝てない。
「なんで私達、殺されなかったんでしょう?」
今あった、狐につままれたかのような、夢のような出来事に、恐怖も驚愕も危機感も浮かばず。
感覚がすっかり麻痺していた。
「あー、やっぱり――」
円満に脱出は無理か?
何か、変なとこだけ冷静になった。
「大丈夫ですか?」
真帆が駆けより声をかけてくる。詠美も後に続いた。
「身体の方はなんとかな……」
心のケアもしてくれ。こんな島だから神経すり減らしてるんだろうか。
とても地のような気もするが。ともかく、二人の無事にほっと真帆は胸を撫で下ろす。
「無事で良かったです。二人に何かあったら……私……」
一晩ですっかり心を許してしまったのだろうか。頼れる年上二人に抱きついて目に涙を浮かべた。
一番信頼できるのは実は詠美なんだが――どの道頼りにはならないか。
(えっと、どうします?)
(あんたが泣かせたんや。うちは知らん)
(あなたもです。……そうではなくてこれからどうします?)
(はぁ、もうええわ。あんたの知り合いってどっか抜けてんなぁ)
(あなたもです。っじゃなくって。全然人の話聞いてませんね。これからの予定、どうします?)
(そんなアイコンタクトだけで分かるかい!
……これじゃ勝算ゼロやん。あんなバケモン倒すなんて夢のような話やったなー……やっぱ地道に、一人ずつ参加者片付けてこか?)
(通じてるじゃないですか。はぁ……。死にたくないですもんねぇ……。
目の前の二人は?とりあえず裏切らないってことでは信用できそうですけど)
(盾くらいには使えるかもしれんけど……人数多すぎてもアレやしなぁ……
どうせ生き残りは二人までやし)
(このまま現状維持で様子見っていうのも悪くないですけどねぇ)
(情が移ったんか? ま、めくるめく官能の一夜を4人で明かしたしな)
(変なこと言わないで下さい。意識しちゃうじゃないですかって何言わせるんですか)
(実はいつ裏切ろうかと虎視眈々と狙ってたりしてなぁ?人は見かけによらないってか。ナハハ)
(私達が言うと説得力ありますね)
(なんや?あんたも裏切るつもりか?)
(いや、今のところそんなつもりはないですけどってか勝手に心読まないで下さい)
(今のところってなんや!)
(言葉のアヤですよー。ってアイコンタクトで言葉のアヤってなんですか)
(一人突っ込みごくろーさん)
(それよりさっき私の背中思いっきり踏み台にしましたよね。
すっごく痛かったんですけど)
(ままま、そんな些細なこと気にすんな。明日菜ちゃーん、話すりかえるのは汚いで)
「……二人、ツーカー?」
目をパチクリさせながら激しく無言のやりとりを交す二人に、詠美が目をパチクリさせた。
この人はこの人で危機感が足りない。天然だった。
すでに落ち着いていた真帆が三人をせかす。
「あ、あの、ここでこのままはヤバいですし、とりあえずここからは急いで離れたほうがいいんじゃ?」
真帆の言葉をきっかけに四人、一目散に駆け出した。
【068 葉月真帆 ラクロスのユニフォーム&スティック&ボール3つ(また拾った)】
【013 大庭詠美 護身用スタンガン】
【002 麻生明日菜 ナイフ ケーキ】
【022 神尾晴子 千枚通し マイクロUZI(残弾70)】
【篁総帥 ラストリゾートのホールで一人 現時間はもうすぐミルト到着する頃】
(アレは・・いくらなんでも無防備すぎでしょう・・・)
作戦の可能性をあらかた否定したベナウィは男女に声をかけることに決めた。
(ですが・・・用心は必要ですね・・)
ベナウィは女が来るのを見計らって飛び出した。そして・・
「質問が有ります。」
「ひゃっ!」
いきなり槍を突きつけられ動揺する女。
だが、次の言葉は出なかった。後ろを走っていた男が右手に金属の棒らしきものをもって襲いかかってきたからだ。
「早苗!逃げろ!」
その一言で女も我に返ったのだろう。すぐさま後ろに逃げた。
対峙するベナウィと男。
(罠だったのですか・・・・?)
男の獲物は刀ぐらいの長さがある金属の棒
こっちの獲物は槍。獲物の長さからいってこっちが圧倒的に有利だ。
(しかもあの構え、どうやら剣を知らないようですね・・)
そしてうなり声を上げ男が突撃してくる。
「もらったあ!」
「ぐっ!」
ポケットに隠していた球体を自分の腹に向かって投げ込む男。
反射的に槍で球体を防ぐベナウィ。
体勢が崩れ少し隙が出来る。それを見逃さず男は踏み込むと側頭部を狙って金属の棒を振ってきた。
だが、身体能力は衰えていても流石はベナウィ。すぐさま体勢を立て直すと自分の頭を狙ってきた凶器を弾き飛ばし、そして男を槍の柄で突き飛ばした。
弾き飛ばされ、地面に転がる男。
だが、男はすぐさま立ち上がると弾き飛ばされたバットを持ってこちらに向かってくる。
(何で向かってくるのです・・・!)
そしてまた男が向かってきた・・・
ベナウィが男を突き飛ばす、そして男は立ち上がって向かってくる事が何回繰り返されただろうか・・
男を切れば良かったのだが、何故かベナウィにはそれが出来なかった。
(何故でしょう・・・何故切る気が起きないのでしょうか・・)
そして・・
「ぐは・・」
ついに力尽きたのか、男は立ち上がらなくなった。そして・・・
「俺の・・・・負けだわ。おい、アンちゃん、俺の・・・・命をやるから・・・・こいつを・・・見逃してくれねえかな?」
息も絶え絶えながら何のためらいもなくその一言を言い放つ男。
「秋生さん!」
「お前には・・・・・・渚を探す役目があるだろ。それに二人とも死んだらあいつは・・・・立ち直れなくなる。頼む。行ってくれ。」
「嫌です!秋生さんを見捨てて行けるはずが無いです!私を置いて行かないでください・・・」
女は言葉半ばでもう泣いていた・・・・・・・・・
この二人の様子を見てベナウィは戦闘中に感じていた違和感の正体をはっきりと理解した。
(この男は守るもののために戦っていたのですね・・)
「さあ、どうした、殺りな!」
「いえ、私の負けです。」
そこには槍を地面に投げ捨てたベナウィと呆然とする男女が残された・・
お互い自己紹介や行動目的の交換を終え、呼び止めた理由を説明するベナウィ。
「・・・というわけだったのです。よろしければご同行しましょうか?私でもあなた方の身を守ることはできます。」
「それは・・ありがたいのですが・・いいんですか?」
秋生の応急手当をしながら早苗が言う。
秋生はもはや何も言う気力も無いのか早苗のされるままになっていた。
「ええ、戦いをしない人を逃がすのは我らの聖皇の遺志でも有ります。任せてください。」
しばらくして、どうにか秋生が起きれるようになったときベナウィが問うた。
「ところで・・・さっきのは何だったのですか?」
「さっきのって?」
怪訝そうに聞く秋生。
「さっきのおっかっけっこですよ。」
「ああ、これはいつものことだ。気にすんな。」
「はい!いつものことなんです。」
即答する秋生と早苗。そこには終始明るく、その場にいる人をを笑顔にさせるよな暖かいムードが流れていた。
そのムードに触れたベナウィはハクオロたちとのあの騒がしくも楽しかった日々を思い出していた・・
【ベナウィ、古川夫妻と同行】
【082 ベナウィ 槍(自分の物)、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード】
【079 古河秋生 古河早苗特製パン 4個、古河秋生専用金属バット、硬式ボール10球 かなりの疲労】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、所持品はすべて秋生が預っている】
【時刻:午前9時40分頃】
あれから30分、ようやく光岡はみさきをなだめ、泣き止ませることに成功した。
「さて、これからどうしたものか……」
「そうだね……」
光岡は疲れ果てた顔で、みさきは泣き腫らした目で、二人はこれからの行動方針について話し合ってた。
「仲間を集めて脱出……これが一番の上策だと思うが、現時点では辛いだろう」
「うん、武器も仲間も必要だもんね」
「そこで、信頼のできる仲間を集めようと思う」
「そうだね、それがいいよ。光岡さんにはそういう人がいるの?」
「ああ、昔からのなじみが一人。最初に集合した広場で見つけた。あいつと合流できれば心強いのだが……」
ふう、とため息を漏らす光岡。
「みさきにはこの島に信頼のできる人物はいるのか?」
「えっと……わからないや」
「……謝る必要は無い。こっちこそ配慮の無い質問で悪かった……」
考えてみればそうだ、盲目のみさきにホールに知り合いがいたかどうか確かめるすべは無かった。
二人の間に気まずい沈黙が流れる。沈黙を破ったのは光岡だった。
「じゃあ、当面の目的は俺の知り合い、坂神蝉丸の捜索、及び他の敵意の無い参加者達との接触。異論は無いな?」
「うん!」
【028川名みさき 所持品:白い杖】
【089光岡悟 所持品:日本刀,デザートイーグル(残り3発)】
【行動方針は知り合いの捜索と敵意の無い参加者との接触】
あれから30分、ようやく光岡はみさきをなだめ、泣き止ませることに成功した。
「さて、これからどうしたものか……」
「そうだね……」
光岡は疲れ果てた顔で、みさきは泣き腫らした目で、二人はこれからの行動方針について話し合ってた。
「仲間を集めて脱出……これが一番の上策だと思うが、現時点では辛いだろう」
「うん、武器も仲間も必要だもんね」
「そこで、信頼のできる仲間を集めようと思う」
「そうだね、それがいいよ。光岡さんにはそういう人がいるの?」
「ああ、昔からのなじみが一人。最初に集合した広場で見つけた。あいつと合流できれば心強いのだが……」
ふう、とため息を漏らす光岡。
「みさきにはこの島に信頼のできる人物はいるのか?」
「えっと……わからないや。ごめんなさい」
「……謝る必要は無い。こっちこそ配慮の無い質問で悪かった……」
考えてみればそうだ、盲目のみさきにホールに知り合いがいたかどうか確かめるすべは無かった。
二人の間に気まずい沈黙が流れる。沈黙を破ったのは光岡だった。
「じゃあ、当面の目的は俺の知り合い、坂神蝉丸の捜索、及び他の敵意の無い参加者達との接触。異論は無いな?」
「うん!」
【028川名みさき 所持品:白い杖】
【089光岡悟 所持品:日本刀,デザートイーグル(残り3発)】
【行動方針は坂神蝉丸の捜索と敵意の無い参加者との接触】
【時間は朝10時ごろ】
燃える炎が人を模した少女の肌をなめ上げる。
いやらしく這い登る火の掌は瞬く間に全身を覆った。
端正であったその表情が焼け落ち、その下から現れる金属質の輝き、
メイドロボのガラスの瞳は虚ろに殺戮者を見つめ続けた。
「長瀬ちゃん熱いよう」
だが、ガラスだった筈の虚ろな瞳は、自分を見つめていてくれた
彼女の瞳にフェードする。
自分の手にした火炎放射器の炎が瑠璃子さんへと向けられていた。
「やめろ、やめろっ!やめてくれ!!」
自分の手が動かない、悲鳴を上げ、燃えて崩れる彼女をただ見ている
しかない。そして真っ赤な炎の中で愛する少女の肌がずるりと落ちて
醜いむき出しの機械の顔が向けられる。鉄の骨に絡みついたコード。
伸ばされたそれは、かつて自分を優しく包んでいた筈の掌だった。
「na……が……ぜziゃあぁぁaa……nん……」
くぐもった電子音が自分の名を呼ぶ、金属音と電子音がノイズとなって
脳髄をやすりがけた。かつて癒された電波ではない、不快な痛みが
長瀬祐介の病んだ精神をさらに傷つけていった。
446 :
機械の残したモノ:04/05/21 02:19 ID:NkT9u2AC
荒い息をおさめるため祐介は、手近な樹にもたれかかった。先刻
殺した……いや、壊したメイドロボ。焼け落ちる金属の身体を見た
祐介の心に芽生えた他愛の無い妄想は、狂気を栄養分として枝を
広げていた。
ひょっとして、この島で殺しあっている人間はすべて機械なのではないか?
長瀬祐介の、月島瑠璃子のその他大勢の人達の記憶を移されたロボット達が
ゲームとして戦わされているのではないのか?
そうだとしたら、今自分が考えている行動も狂気も誰かの命令なのでは
ないのだろうか。瑠璃子さんと結んだ約束ですら誰かの演出では……。
浮かんだ疑問と、繰り返す幻覚。それは自分の狂気と非道に苦しむの祐介の
心の片隅に残った良心の悲鳴でもあった。
あるいは、それは人の為に作られたHMX−13セリオの最後に残した
「人の為に役に立つ事」だったのかもしれない。
長瀬祐介の狂気の天秤は揺れている。その天秤を揺らす機械の手はどちらに
それを傾けるのだろうか?
【062 長瀬祐介 所持品 火炎放射器 (砲身に損傷・燃料は6割強),ジグ・ザウエルショート9mm(残弾0発) , 果物ナイフ】
【定時放送より5時間後】
住宅街の外れ。舗装の剥がれた歪な道路が、森へ、浜辺へと続いている。
その道路の脇、やや森寄りの薄暗く隠れた場所に、奇妙な物体が浮いている。
パっと見た感じは銀色の円盤。ギザギザな円周を持つそれは、まるでギアのような。
弱弱しい低回転を保ちつつ、滞空したまま、微動だにしない。
風でも吹けば掻き消えてしまいそうなくらい、それは虚ろな存在だった。
この世に残した未練――親友や恋人、肉親――との邂逅を望みながら。
鈍く光るギアが三枚、いつ途切れるのか、空しく回転を続けている。
************************
「もうすぐお昼だね、松浦君」
神岸あかり(024)が小さな声で呟く。
傍らに松浦亮(084)、そのさらに横に杜若きよみ(017)が座っている。
「ああ、そろそろ何か、食べる物が必要だ」
亮は頷き、続けて
「俺ときよみが何か探して来よう」
と、きよみの方を振り返ってそう提案した。
きよみは突然の提案に少し驚いた表情を浮かべ、そして静かに頷いた。
「いいわ。私だって、何か食べなくちゃ」
「住宅街という場所は好都合だった。何かあるはずだろう」
「なら、私も・・・」
あかりが立ち上がろうとする。心なしか、足元がおぼついていない。
そんなあかりを、亮が両手で制した。
「駄目だ」
もう一度座らせる。
「どうして?私だって一緒に…」
「お前は疲労している。俺にも解る。顔が赤いぞ」
あかりは「んー」と俯いて、「そんな事、ないよ」と消え入りそうな声で答えた。
「駄目だ。食料は俺ときよみで何とかなる。お前はここで休め。」
「そうよ。私たちに任せて、安心して寝てるといいわ」
「足手まといにはならないから…」
あかりは素直に引き下がらない。
「駄目だ」
亮がまた、あかりの顔を見て念を押す。自然とあかりと見詰め合う形になった。
二人の目線が交差する。意思疎通とまでは行かない。までも、お互いの表情から、何を考えているのかくらいは何となく解る。
そのような距離で、じっと互いの反応を待っていた。
「…解った。早く戻ってきてね。松浦君、杜若さん」
「…。」
「勿論よ。私は必ず戻ってくるつもり」
先に折れたのはあかりだった。亮はまだあかりを見つめている。きよみは既に、戸口に向かって歩き始めていた。
あかりも視線を外せずにいて、少し戸惑いつつ、(あたし見てるのって、他に見るところがないから、かな)などと思っていた。
だが。
「本当に大丈夫か?」
亮が再び口を開く。今度は質問の形だ。本当に良いのかと聞いてくる。
「意外と心配性なんだね、松浦君。押しは強いのに」
「心配するのは当たり前だ」
亮が視線を外して、答えた。今はきよみの方を向いている。
扉を少し外に開いて、様子を伺っているきよみが、振り返り手招きする。
「外は大丈夫。今のうちよ」
亮は頷いて、視線はそのまま、あかりの肩に手を乗せた。
「行って来る。横になって休んで、だが決して寝るな」
「うん、わかった。でも…」
「でも、何だ?」
「気をつけてね。心配してるの、松浦君だけじゃないんだから」
意外そうな表情で亮があかりを見る。先ほどあかりが引かなかった理由は、寂しいからでは無かったのだ。
この子は亮の事を心配している。そこから出た強情だった。
「俺は決して嘘を付かない。だから安心しろ。ここで待っているんだ」
「うん。本当に気をつけて」
あかりが頷く。亮も頷いた。戸口に立つきよみが、二人を急かした。
「早くして。機会はが長く続くとは限らないから」
「杜若、お前は丸腰だ。慌てるのは危険だぞ」
亮がややトーンを落とした声で返す。きよみがふふっと笑う。
「大丈夫。行きましょう。私は“用心深いのよ”」
そこに何か含みのような物が果たしてあっただろうか。
「…今、行く。」
亮は少し考えたあと、静かに戸口へと向かう。扉の取っ手に手をかけたとき、
「…気をつけて」
あかりが最後に声をかけて、外に出た亮が扉を閉めた。
疲労気味の神岸あかりを残し、松浦亮と杜若きよみは部屋を出て行った。
あかりは手の中に拳銃の弾を握りしめ、押入れの近くでシャケを加えている木彫りの熊をじっと見つめていた。
その瞳に去来する様々な思いは、追憶である。かつての生活、幼馴染の事を思い出していた。
(いつもは私が、起こしに行く役なのに、変だよね)
思いがけず、涙があふれた。ぎゅっと目を瞑る。一適もこぼし落とさぬように。
流してしまえば、挫けてしまいそうだから。不安に負けてしまいそうだから。
(浩之ちゃぁん…、私、凄く、凄く恐いよ…助けて…、声が聞きたいよ…)
閉じた瞼の奥の暗闇が、やがてまどろみを連れてきて、あかりは眠りへと落ちていく。
意識の途絶える前の、わずかな間、あかりはヴィオラの演奏を聴いた気がした。
暗くて、悲しくて、歪んだ音。しかし、あかりは不思議と心地の良い物を感じていた。
懐かしい。おちゃらけているけど、芯は真面目で、優しくて・・・まるで。
(浩之、…ちゃん)
あかりの手の中から、いくつかの弾丸が、ジャラ、と音を立てて落ちた。
【松浦亮(084)と杜若きよみ(017)は食料を探しに住宅街散策へ】
【神岸あかり(024)は再び眠りの中へ】
【杜若きよみは違法改造マグナムと隠し弾丸(未装填3発)所持】
【松浦亮は修二のプロクシ型ギミックを所持】
【神岸あかりは残りの装備(筆記用具・熊の置物・予備弾丸(六発))所持】
【時間軸は正午前・午前中 正確な時刻は不明】
さざ波に誘われるように街を出て、海岸線を歩く。
潮風にのって気まずい空気が流れていくことを、二人して期待していたのかもしれない。
さくさくと小気味よく、互いの足音を聞いていた。
「それにしても……すまなかったな。冗談が過ぎた」
もう少し器用なつもりだったのだがな。そう反省しつつ、光岡は謝罪した。
心に問えば、もはや彼女を単なる保護対象とは見ていない。
それだけに、彼女の瞳と視線を合わせることが出来なかった。
「光岡さん」
「ん?」
「私、いつも思ってたことがあるんだよ」
「ほう」
海岸線を眺めながら歩を進める光岡のうしろで、彼女は立ち止まる。
「私は、誰かの負担になりたくない」
何を馬鹿な。そう言われるかもしれない。
だがそれは、この島だからというレベルの問題ではなかった。
どうせ目が見えないのだ。世界の果てまで闇ならば、どこにいようが無茶な話なのだ。
「私の背負っているハンデを、誰かに背負わせる事が、耐えられないから」
五、六歩離れたところで光岡は立ち止まり、振り返った。
「みさき」
罪悪感ではなく、憐憫の情などでもなく。
光岡は彼女のもとへと歩み寄ろうと、一歩を踏み出した。
「来ないで」
厳しい表情を保って、彼女が一歩下がる。
二人の距離は、縮まらない。
「――ここで、お別れしよう?」
ざあ、と波音が高くなった気がした。
吹き付ける潮風が、二人のあいだを駆け抜ける。
「みさき」
「さよならだよ、光岡さん」
「みさき、俺が護る。決してお前を死なせはしない。
お前を独り死の闇に追いやることなど、何があってもさせはしない」
「光岡さん――」
みさきの顔が歪む。
光岡は風を突き抜けて、彼女のもとへ駆け寄った。
だが。
「――冗談、だよ」
光岡の焦りをよそに、みさきはにっこり笑って、そう言った。
「……」
やられた。光岡はぼりぼりと頭を掻きながら、再び踵を返して歩きはじめた。
もう少し器用なつもりだったのだがな。再びそう思いながら、苦笑する。
その背中に、とさりとわずかな重み。
「みさき?」
彼女が後ろから抱き付いていた。
「光岡さん。私……馬鹿だから、言葉通りに受け取るよ?」
「……構わない。俺が護る。俺に任せろ」
再び潮風が吹き付ける。
けれど二人のあいだに、道などなかった。
「……ありがとう、光岡さん」
そんな二人の進む先に、足跡があった。
そろそろ砂浜が終わり、岩場が増えてきていたので、発見できたのは幸運だったかもしれない。
「ふむ……女だな。それなりの長身で、姿勢がいい。
戦闘向きの靴を履いてはいないが、運動能力は悪くなさそうだ」
「そんなことまで分かるんだ」
「ああ。大体の体重や、筋肉のつき方、効き足や時には利き腕も推測できる場合がある」
みさきはちょっと自分の足跡を振り向いてみたりするが、意味がないので諦めた。
どうせ見えていたって、判りはしないのだ。
「……光岡さんは、デリカシーがないよ」
「デリカシー? すまんが、日本語で言ってもらえるか?」
素でそう答える光岡に、みさきはむくれた。
がき、がしゃん。
慣れない拳銃をこねくり回し、さんざん苦労して、どうにかマガジンを交換した。
(……どうかしてるわね)
ふらりと出た海岸沿いは風が強く、疲労を癒すには適さない場所だった。
風を避けるように砂浜を抜けた岩場を登り、仮眠をとったのち、しのぶは自分の装備を確かめていた。
愚かしいことに、交換用の弾があるにもかかわらず、空っぽの拳銃を持って歩いていた。
(どうかしないわけ、ないんだけど)
びゅう、と風が頭上を飛び越える。
不愉快に思いながら、潮溜まりを通り抜ける際に濡らしてしまったビスケットを捨て、無事なものを齧る。
かなりの人数が死んでいる。自分が行なったものもあるが、それにしても多い。
自分は比較的、他人に遭遇していないほうかもしれない。
(透子は、どうしてるかしら?)
性格的に、誰かと一緒になれば、その後をついて行く。
そうでなければ、どこかに隠れるだろう。そう思った。
しのぶは岩場を登ったあと、最初に周囲を見回していた。
かなり道を戻ることになるが、砂浜の先に街が見えたのを覚えている。
山暮らしでもない限り、街の方が安心できるだろうから、家屋に隠れている人間は少なくないはずだ。
(どうせ、あてもないのだし。仕方ないわね)
億劫ではあるが、岩場を降りて街に向かうことにした。
向かい風に逆らいながら、彼女は岩場を降りていく。
その先に、自分の存在を予想している人間がいるなどと、思ってもいなかった。
【039榊しのぶ ブローニングM1910(残弾7)・ナイフ・米軍用レーション(10食分)・缶切3つ・12本綴りの紙マッチ3つ小型ガスコンロ】
【028 川名みさき 白い杖】
【089 光岡悟 日本刀 デザートイーグル(残弾3)】
「なぁんだこりゃ」
目覚めてすぐ、浩之はすっかり忘れていたサクヤの鞄のことを思い出し、中を開けてみた。
なんで俺はこんなもん持って、何も不思議に思わなかったんだ、と思いつつ、じゃきじゃきと音を立てる。
その音を聞いて、理緒も目を覚まして寄ってきた。
「んー……藤田君、なにそれ?」
「なにそれって……見たまんまの高枝切りバサミ」
じゃきじゃき。
「かなりえぐいよなー、これ」
首でもちょんぱしろとでもいうのか。映画に出てきた、手がハサミな男を思い出す。
だが、二人に与えられた品物の中で、まともに武器として使えそうなものは、これくらいだろう。
「まぁ……相手が怖がって逃げてくれるかもしれないしな」
「あはは……」
まだ半分寝ぼけた様子で、理緒が笑った。
その時、定時放送が入った。
二人の間に緊張が走る。名前が次々に呼ばれる。強張った体を、不愉快な声が通り抜けてゆく。
『61番、長岡志保』
浩之の体がはっきりと動揺した。理緒も顔くらいは知っている相手だ。
良く勝手に教室に飛び込んできては、色々な噂をばらまいていく。
『92番、宮内レミィ』
こちらも理緒に面識はないが、あの派手な金髪はいやでも目に付く。
ああ、死んじゃったんだ……。
理緒にとっては、その程度の感慨だった。悲しいけど、どちらも直接の友達ではない。
だけど、浩之は違っていた。
志保が死んだ。あの脳天気な声で「志保ちゃんニュース!」とデマを振りまく彼女の姿は、もう見られない。
レミィが死んだ。明るい笑顔で、得意げに四字熟語を並び立てる様は、もう見られない。
好きとか嫌いとか、そういう問題ではなく、どちらも大切な友達だった。
自分の生活の大半を占める、学校という場所。そこを構成する重要なパーツが、一つずつ。
外れて、亡くなった。
「う……ぐぁっ」
胃の内容物が、ぶちまけられた。ほとんど消化しきってしまって、胃液ばかりが出てくる。
だけど、止まらない。
「ふっ、藤田くんっ!」
理緒が背中をさする。ツンとした匂いと、目と鼻の先に集まる熱い痛み。
元気だった二人の姿が、上手く思い出せない。見てもいない惨殺シーンが脳裏に浮かぶ。
血にまみれた、志保、レミィ、そして――あかり。
あかり。あかりっ!
いやだいやだいやだ。あかりが死ぬ。そんなことは考えたくもない。
志保も、レミィも大切な友人だ。だけど、あかりはもっと大事だ。
ずっと小さい頃から、一緒にいるのが当たり前の、かけがえない人。
失われてからでは、きっとこの二人とは比較にならないほど後悔するのが、先の想像から分かる。
だけど、この島にいる限り、死はあかりの元に着実に迫っている。
逃れる方法はただ一つ、このゲームに生き残ること。
人数は、二人まで。
二人まで?
「藤田君、平気……?」
じゃあ、この女は何だ?
雛山理緒。自分を慕ってくれる、けなげなバイト少女。
貧乏だけど、家族のために一生懸命頑張っている、気持ちのいい少女。
でも、邪魔になる。
あかりと帰るためには邪魔になる。そうじゃないか?
「ふ、藤田君……?」
怯える声に、かえって煽られた。
なんだ? 何をしている? 理緒ちゃんの肩に手をかけて、首に触れて、どうするつもりだ?
簡単だ。こんな細い首。たぶん、きゅっと締めたら、すぐに終わる。
「藤田君……やだ、ちょっと、冗談……でしょ? ねぇ」
違う。違わない。どっちだ。落ち着け、浩之。ゆっくり考えろ。簡単な事じゃないか。
あかりと理緒ちゃん。あかりの方が、大事だろう?
指に力が籠もった。
「かっ……あっ」
理緒の表情が歪む。苦しんでいる。暴れている。死んでいく。
もう止められない。ここまで来たら、殺すしかない。
ごめん。わりぃって思う。でも、あかりが、あかりが、こうしないとあかりが死ぬんだっ!
ああ、そうだ、さっきの高枝切りバサミなら、苦しまずにひと思いに殺せたかもしれないな。
ごめんな。でももうおそいよな。ここまできたら、一気に――。
そう思ってたら、下から衝撃が来た。
「ぐぁっ……」
理緒の振り回した足が、浩之の金的を直撃した。
殺意も何もかも消し飛ぶような衝撃が、真下から跳ね上がる。
普通ならそこを攻撃するのを少しはためらうものだが、理緒も必死だった。
容赦なくつま先が、蹴り上げていた。
脂汗が浮く。情けなく腰を突き出す恰好で倒れながら、呻く。涙が出た。
「つ……」
影が覆い被さった。
「え……?」
振りかぶったバッグ。その中には、枕大の石が入っている。
理緒は、さっきまでの浩之と同じ顔をしていた。
死の恐怖に怯え、それに押されるように、殺意に引きつった表情。
「あ……」
「ああああああああっ!」
叫びと共に、バッグが叩きつけられる。何度も、何度も。
血が飛び散り、骨が砕け、脳漿が弾け、肉が潰れてゆく。
殺される。殺される。自分も殺される。二人みたいに。イヤだいやだ、そんなのはイヤだっ!
手から石が滑り落ちた。
「いやああああああっ!」
恐怖に駆られた思考が、手近な物品に目を付ける。
高枝切りバサミで胸を刺した。何度も何度も。浩之の服が瞬く間に紅に染まり、肉が掻き乱されてゆく。
手応えが気持ち悪い、不愉快だ。それを断ち切りたくて、何度もハサミを交差させる。
浩之が死んでいくことが分かっているのに、でも腕が止まらない。止めたいのに、止まらない。
狂的な叫びが洞窟にこだまするが、浩之は、それを聞く器官をすでに失っていた。
ただ、血と叫びと涙だけが、尽きることなく続いた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
どうしよう、どうしよう。殺してしまった、死んでしまった。
大好きだった人。密かに想っていた人。でも、振り向いてくれなかった人。
それが自分の手で肉塊に変わった。
「うっ……」
血の匂いに、自分の為した行為に、体が拒絶反応を示す。
浩之がぶちまけた吐瀉物の上に、自分も同じものを吐き出した。
違う、違う。自分が悪いんじゃない。だって、藤田君がひどいことしたから。
私は悪くない。私だって帰りたい。帰りたかったの――藤田君と一緒に。
その藤田君の胸から上は、原形を留めていなかった。
「あ、あ……」
自分がしてしまった結果が、無惨な肉塊になって転がっている。
「ど、どうしよう……やだ、藤田君が……」
考えた。懸命に考えた。どうすればいいんだろう。
人を殺してしまったなんて、誰にも言えない。でも、きっとばれる。
藤田君はここにいて、自分がここにいて、それを監視されている。絶対にばれる。
いや、もう知られている。
自分が犯罪者になって捕まったりしたら、もう、終わりだ。
幼い弟たちは、あの家にいられなくなり、収入も大幅に減って、きっと一家離散か心中コース。
典型的な凋落のパターンだ。
ちがうちがう。自分は悪くない。正当防衛だよ。だって藤田君が、私を殺そうとしたから。
でも、だめだ。そんな言い訳は通じない。死んだ人は帰ってこないんだから。
ばれちゃダメだ。知られちゃダメだ。
そうだ、神岸さん。あの人が知ったら、きっと私を許さない。ううん、絶対。
じゃあ、どうすればいい? どうすれば……、ああ、そうだ、いいことを思い出した。
このゲームに勝ったら、願いを叶えてくれるって言った。
全部なくしてもらおう。今あったことを全部。
そのためには殺さなくっちゃいけない。この島にいる人全員。
特に、神岸あかりさん。二人残ったとしても、この人だけは生き残らせちゃダメだ。絶対に。
全部の荷物をかき集め、重かったけど、無理矢理背負った。
浩之の死体を引きずって外に出し、草むらに隠した。
なんでそんなことをしたのかは分からない。ただ、隠さなきゃと思ったから。
ああ、もう。そんなことをしている暇はないのに。
武器は少ない、力も弱い。でも、絶対にやらなきゃいけないことがある。
神岸あかりさんを、殺さないと。
殺さなきゃ――。
殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ。
【71 雛山理緒・所持品 筋弛緩剤、注射針一式(針3セット)、枕大の石、裁縫道具、手作り下着、高枝切りバサミ、
クレジットカード、小銭入り長紐付き巾着袋、クッション、バッグ4つ所持。
石と高枝切りバサミは、血で汚れている】
【71 雛山理緒 マーダー化。神岸あかりを殺すために動き始める】
【74 藤田浩之 死亡】
【二日目 朝の定時放送直後】
【残り62名】
お兄ちゃん。
私のお兄ちゃん。
ちょっとかっこつけだけど、私が泣いたらいつも駆けつけてきてくれる。
そんなお兄ちゃん。
――自慢できないけど、誇りに思っているお兄ちゃん。
永続的に繰り返される風景。思い出したくない光景。蘇ってくる鮮明な記憶。頭の中で悲鳴を上げる。
全てを忘れたい。全てを忘れられたら良いと思う。実際それができるならなんの躊躇いもなくそれを選ぶだろう。
泣きたくなる。見たくない。フィードバック。リピート。取り払いたい。できない。それが自分の弱さ。
人間なら誰だって弱い部分がいくつかある、問題はそれをどう支えあっていくか。そんなテレビ画面の向こうから伝わってきそうな陳腐な言葉。
流れるのは感動的な音楽。結局陳腐なセリフで人を感動させるには演出に凝るしかない。
失敗したら責められるのはセリフ。成功したら褒められるのは演出。単純な上下関係は歴然としていて、演出はどう転んでも損はしない。
そんなもの。
この状況も同じ。演出があまりに酷過ぎる。感動とは別の涙を流したくなるぐらい。違いなんてそれほどない。この状況と自分の間にブラウン管がないだけ。それだけの話。
どうせならあればいいと思う。自分が見たもの、自分が聞いたもの、自分が感じたもの全てが他人事であれば。それなら単純に主人公の行動に一喜一憂していられる。
考えてみれば不思議なことなのかもしれない。自分のことよりも他人事の方がよっぽど感情移入がしやすい。ヒロインが死ねば感動して泣き、主人公が生き残れば感動して泣く。
どうせ主人公は自分ではない。主人公が感じている辛さは同情と哀れみという形に変えて受け取れる。主人公が感じている嬉しさはそのまま受け取れる。
主人公の弱さなんて所詮共感はできない。
でも今は自分が主人公。その間にはブラウン管も活字もスピーカーも何もない。感情移入はできない。そのかわり全てを共感できる。太陽のように明るい感情も闇のように暗い感情も全て。
主人公が泣けばそれが自分の悲しみ。主人公の弱さはそのまま自分の痛み。そんな中で使い古された陳腐なセリフなんて言えない。他人事だからこそ言える感動の言葉は決して自分に使うものではない。
故に弱さはそのまま残る。全てが自分の負荷になる。慰めを見出すのは本来なら自分ではないはずの主人公。
でもそれが今は自分。見出すことなんかできない。慰めの変わりにあるのは痛みと弱さ。弱いから痛みができて、痛みがあるから弱い。それは決して他人事では味わえない苦痛。
弱さ。痛み。全ては脳内で繰り返される。見たくもないそれを見てしまう弱さ、痛み。他人事ではそれはない。思い出しても感動するだけ。
痛くない。自分自身ではないから。過去を共有することは決してないから。
自分であればそうはいかない。繰り返される光景は自分の過去の光景。痛みが入り交じる、弱さを思い起こさせる記憶。
『逃げろ…逃げるんだ! 芽衣!』
目の前で繰り広げられる光景。現れた死神。倒れる体。背中からでる血液。広がっていく紅、紅、紅。
何もかもがゆっくりと、しかし一瞬で。直前まで作られていた朝ご飯は既に食べられるという使命を果たせずにいる。
死神の目はそれをつまらなそうに見ている。無機質な瞳。見えない感情。聞こえるのは叫び声。
『さあ行け! 俺の…お兄ちゃんの死を無駄にするな!!』
溢れる涙。滲んでいく視界。少しずつ霞んでいく兄の姿。視界から、自分から、何もかもが消えていく。
唐突に揺れる視界。自分が首を振っているのだということに気付くのに二秒。無我夢中。何も考えられない。左右に散っていく雫。
少しだけ晴れる視界。見えるのは兄と死神。血の海に倒れる兄と、血の海を創造する死神。やがて再びそれも滲んでいく。嫌。霞んで欲しくない。見えなくなったら消えてしまいそうで。紅い視界、佇む死神、それらがあってなお消えて欲しくない兄の姿。
それでも。
走った。
死神に背を向けて。
兄の体に背を向けて。
『それで…きっと、みんなで帰れるから』
約束。心を取り戻した兄がたてた誓い。そのときは希望の言葉。今となっては叶わなかった戯言。
それは昔の話。24時間も立ってない、ついさっきのことだったけど、昔の話。
『――芽衣を傷つけるんじゃねぇ』
わけもわからず走っていた自分。弱かった心。零れ落ちた弱さの証。隠すことのできない恐怖。そして助けてくれた言葉。
それは最初の話。長い一日の始まり。兄妹という名の絆。
嬉しかった。本当に嬉しかった。
助けてくれた兄が、泣かせてくれた兄が、いつもよりかっこよかった兄が、徹夜で見張をしてくれた兄が、全て嬉しさの象徴だった。
いつまでも続けばよかった。いつまでも傍にいてくれればよかった。現実を離れ、ただ笑いあっていればよかった。
それだけで自分は嬉しかったから。
命を張ってまで護ってくれなくてもよかったから。
最後に自分は、兄の傍にいることができなかった。笑いあっていることができなかった。いつまでも続くと思っていた嬉しさの象徴は、一人の死神によってまるで砂の塔を崩すようにいとも簡単に壊れてしまった。
壊れてしまった砂の塔は、また作りなおせば良い。でも、再び完璧に同じものを作ることはできない。最初から多少不恰好のままでも強度を求めて作っていればよかったのに、崩される危険を考えずに形を美しく仕上げてしまったから。
取り戻せない砂の塔。
それがもろかったことを悔やんだ時には、もう遅い。
「ごめんなさい…」
呟き。
それは、水瀬名雪に向けられてのものか。
或いは、兄に向けられてのものか。
春原芽衣。自称『伝説の春原陽平』の妹。
彼女は、その全ての感情を溜め込んだまま、一軒の民家にかけこんだ。
【春原芽衣 別の民家へ 所有物:なし】
【中に人がいるかどうかは次の書き手に依存】
自分が先頭、後ろに秋生、そしてその後ろに早苗。
彼は位置関係を確認すると唐突に口を開いた。
「早苗さんのパンは…まずいです。」
遠慮がち、しかしキッパリとそう言い放つ。
「なっ、てめぇっ!」
「わたしのパンは…わたしのパンは、ファンタジーな存在の人にも嫌われていたんですねーっ!!」
目に涙を溜めながら早苗は走っていく。
「ちくしょう、てめぇ」
「俺は大好きだーーーーーーーっ!!」
こうして古河夫妻はこの場から姿を消した。
・
・
・
しばらく歩くと秋生が彼に耳打ちしてきた。
「早苗のパンがまずいとか絶対言うんじゃねぇぞ。」
「それは…何故ですか?」
おかしなことを言う人だ、と思いながら彼は尋ねる。
「いいから絶対言うな。でないと、またさっきの鬼ごっこが始まる。」
秋生はちょっとげんなりしたふうにそう言った。
その様子をみた早苗が不思議そうにたずねる。
「なんの相談ですかっ?」
「いや、なんでもないんだ、なっ」
「はい、なんでもないですよ」
彼は状況を察し、秋生に合わせて相づちをうった。
それが数分前のことである。
(ふぅ、良かった、うまくいきましたね)
彼は古河夫妻が走り去ったのを確認すると目の前に視線を集中し、槍を構える。
「………」
そこに誰がいるのか、大体見当はついていた。
がさっ
相手も隠れていても無駄と気がついたのか、それともあまりの奇妙な光景に、出てくるタイミングを失っただけだったのか、姿を現す。
手には巨大な刀、そして彼と同じような耳、来客の正体は…カルラだった。
「一体、今のはなんでしたの?」
「そうですね…相手が相手だけに、戦いになったら護りながらというのは危険だと判断したので、逃げてもらいました。」
「あら、話が早いですわね…でも、私に戦うつもりはありませんわ」
「それは良かった、では、一体どういったご用件でしょう?」
彼は気を抜かずにカルラに問う。
「あなたが、どういった考えで、他の人間と行動しているのかは分かりませんが、
私達が命を賭けお守りすべき存在…聖上は、もういないんですのよ」
「そうです、だから、私は聖上の意思、戦わない人々を逃がすことを優先して動いているまでです。」
カルラは驚いたような表情をした。
「あなたらしくもないですわ、冷静さを失っているようですわね。聖上をお守りすることが出来なかった以上、
死を選ぶべきではないのですか?…それにお忘れになって?生き残れるのは2人、そして、最後まで生き残ったものには…」
彼はカルラの言葉に驚いた、確かに、聖上を護れなかった以上、武人として、死を選ぶべきだ。
しかし、聖上はそれを止めてくださった、自分に居場所をあたえてくださった。それを裏切るわけにはいかない。
「しかしっ…」
「まだ、話は終わっていませんわ。最後まで残ったものには、何でも一つ願いが叶う…お忘れになって?」
カルラはからかうようにそう言う。
確かに、冷静なつもりでいた、冷静なつもりだったが、実のところ聖上の死により冷静さを失っていたのかもしれない。
「まったく、呆れましたわ、それで、単刀直入にいいますわ、私と手を組みませんこと?」
つまりは二人で生き残ろうという提案であろう。
カルラの強さは良く知っている。確かに、カルラと手を組めば二人で生き残ることは容易であろう。
しかし、そのためには今まで会ってきた人々や、戦友たちも手にかけることになる。
彼、ベナウィ(082)は悩んでいた…。
【079 古河秋生 古河早苗特製パン 4個、古河秋生専用金属バット、硬式ボール10球 早古河苗を追って走っている。限界が近いかも?】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、所持品はすべて秋生が預っている、ベナウィの言葉にショックをうけどこかへと】
【082 ベナウィ 槍(自分の物)、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード、彼の決断は次の方にまかせます。】
【026 カルラ ハクオロの鉄扇 カッター 自分の大刀、栗原透子のバック中身不明】
【時刻午前10時ごろ】
467 :
追加:04/05/21 09:30 ID:qm3iFQSs
【カルラ:右手首に怪我、握力半分以下】
468 :
回想録:04/05/21 09:30 ID:Dvhniu1f
第二回定時放送が始まった。
その放送が始まった時、その男の体はもうすでに死んでいた。
麻生春秋の死体だった。そいつを殺した者はボウガンなどには目もくれない。
何故なら、殺した者にとって、もはや、とあること以外に興味がなかったから。
だが、死んだはずのその男の意識はまだあった。心臓が止まっても、息が止まっても。
彼の意識は死にきれないその瞬間をさまようのか。
――結局、あの時春秋は投降することを選んだ。
現れた男はおそらく下っ端の私兵が何人か。その中心に巨躯の傭兵隊長。
そして。
「醍醐、下がれ」
「篁!」
黒幕、篁が一歩前に進み出る。
「気にするな。ただ夜風に当たりたくなっただけでな。
それに今の所、我々に参加者を傷つけるつもりは毛頭ない。安心してゲームを続けるといい」
闘う必要は、なかったようだ。だが。
「余裕だな。参加者はみんな、あんたに恨みを抱いてると思うよ。
ゲームに乗った者もそれは同様。こんな所を歩いていると――」
BANG!と指で自らのこめかみをつつく。
「フフ。果たしてそうかな?私は優勝者二名には人の一生を賭けても余りある賞品を用意したはずだ。
何でも願いが叶う。その為だけに殺す者は、却って我々に仇なす者を排除しようとするかもしれん」
「眉唾だね。何でも願いが叶う?はっ!」
「それは優勝して確かめてみることだ。
まぁ願いを100に増やせだとか、そういった類のものは叶えられんがね」
ふう、と息をついて、そこから去ろうとする。
「待て!」
思わず呼び止める。篁の足が止まった。
469 :
回想録:04/05/21 09:31 ID:Dvhniu1f
「一つだけ聞かせろ」
「……何かね?」
「こんなことしたあんたの――あんた自身の目的だ」
「あったとして、答えるとでも思っているのか?」
「……」
「ククク、少しだけ話してやろうか?」
そう言って、篁は手で部下達を下げさせる。醍醐を先頭に、篁を残してそこを去っていく。
「何だ?」
「部下達にはあまり聞かせたくはないのでね……。では、第二回の定時放送の予定でも話そうか」
「……は?」
理解ができない。
「……。6番、一ノ瀬ことみ。15番、緒方理奈。20番、柏木初音。29番、木田恵美梨。43番、沢渡真琴。
45番、霜村功。49番、スフィー。54番、立川郁美。59番、ディー。60番、トウカ。61番、長岡志保。
63番、名倉由依。67番、ハクオロ。70番、氷上シュン。75番、藤林杏。77番、伏見修二。
92番、宮内レミィ。97番、ユズハ。99番、リアン。以上死者19名。ふむ、まあこんなところか」
何を言っているんだ?この男は。
「では、続いて第三回の定時放送の予定でも話そうか。ん?クク、これはおもしろい。
君も出会っただろう?伊吹風子と言ったかな。人にあって人にあらず。
――彼女には悪いことをしてしまったね。本体の方を連れてくるべきだったか。
まあ、消失と同時に本体も本来の居場所で死んでしまったろうがね。後の祭りか。
彼女が存在するにはこの世界ではきつすぎたようだ。だが、いいものを見させてもらったよ。
自我の存在を失ってもなお、その想いだけは失われることはない。強い娘だ。
人の生き様、生きたいと願うエネルギー。それはとても強く、そして本当に面白い。
彼女もまた最高のサンプルの一つだったよ。それはすばらしい光の玉の欠片なことだろう。
いや、まだ生きている彼女に過去形なのはさすがに失礼だったかな?麻生春秋も浮かばれぬ。
――話がそれてしまったね。さて、続きといこうか――」
470 :
回想録:04/05/21 09:32 ID:Dvhniu1f
「もういい」
それを遮る。ヘドが出そうだった。フウコとかいう少女を目撃したあの時よりもずっと胸クソが悪い。
「フフフ。話を変えようか。並列世界というのはご存知かな?
アナザーだとかそういった方が分かり易いか?まぁ、どう呼んでくれても結構だ。
要は、とある分かれ道に立った時、どちらを選択し、どういう進み方をするのか。
人はその時その時で多種多様な選択をし、未来を自分で選びとっていく。
その可能性の一つ一つが並列世界。それは本来誰にも分からぬことだと思うがね」
「……何が言いたい?」
「君が知りたいのではなかったのか?まあいい。ここで出会ったも何かの縁だ。
もう少しだけ話しておこうか。その並列世界を知ることができたなら?いわゆる世界を知る力だ。
君が、私自身が、もしも、こうありえたかもしれないという過去を、未来を知りえることができたなら」
一旦言葉を切る。春秋にも、ようやくこの男が何が言いたいのかが理解できた。
「先程の名前の羅列。外れる未来もありえるわけだね」
「その通り。君はなかなかに賢い。――今はまだ可能性のひとつにすぎんよ」
「それはただの予言だ。例えば、今ここで僕がお前に襲いかかったら――お前が倒れる未来もあるわけだ。
そしてもしも、僕が敗れて死ねば――。お前のセリフに、僕の名前はなかったろう?」
「それは君自身が一番よく分かっているのだろう?君の心に少しでもその気があれば、そういった未来もありえたかもしれない。
先程、君が我々に気付いた時、話をするか、投降するか、逃げるか。迷ったようにな」
「……。『今はまだ可能性のひとつにすぎない』とお前は言ったな。それはどういう意味だ?」
471 :
回想録:04/05/21 09:33 ID:Dvhniu1f
「今はまだほんの少し、その先を夢見るだけの力にすぎん。
未来は未だ、我が思い描く通りにはならん。
世界を知る力。過去を、未来を。すべての並列世界を。森羅万象すべてを知りえた者を。
人はなんと呼ぶのだろうね?このゲームの終焉。その時、その存在となるのが我だ」
「そんなものになって何をするんだ。どうやってそんなものになれるというんだ?」
「……少々喋りすぎたようだ。あとは君自身が考えるといい。
最後にひとつだけ。ここで君に出会ったのは、偶然だよ。私のまだ知りえなかった未来だ。
さて、話は終わりだ。君自身が選び取る物語に幸あらんことを」
今放送は終わった。間に合わなかったわけか。今思えば、ヤツは僕だからここまで話していたのだろうか。
誰にも言うこともなく、誰にも知られることなく、ただ朽ちていく。
どうせ死ぬなら、できれば放送が始まる前までにきっちり殺しきってほしかったものだ。
ヤツの言ったセリフとは違う未来が待ってたのに。ヤツの言ったセリフと同じ今を聞かずにすんだのに。
どうやってるかまでは知らないが、ヤツは『それ』に近づいているというのか。――人が死ぬたびに。
クソ、お前はせめて生き延びろよ。せいぜい第三回の定時放送まではな。
横では無邪気な顔でヒトデを作成している少女。最後にそれを瞳に映して、僕の意識は遂に永遠の暗闇へと吸い込まれていく。
【03 麻生春秋 死亡】
【残り61人】
472 :
回想録:04/05/21 09:55 ID:Dvhniu1f
「バカヤローーーーーーーーーー!!」
振り返ると、数m先には秋生と早苗が立っていた。
・・・・・・いったいいつからいたのか。
カルラとの会話に集中しすぎていたのか、それとも身体能力の低下のせいか。
どちらにしろ・・・二人の気配に気がつかなかった。
「お前は「聖上」の意思を継ぐって決めたんだろっ!!男だったら貫け!どこまでだって突っ走れっ!」
どこからかはわからないがカルラとの話を聞かれていたらしい。
つくづく武人失格だ、と自嘲の笑みを浮かべる。
「おまえがその意志を貫けるように、俺たちもおまえを守ってやる!お前自身も!お前の心も!お前は俺たちを守るといったように!
俺たちがおまえと一緒に生きてやるから・・・・・・・・だから、俺たちと来いっ!」
ありったけの声で秋生は叫ぶ。
そして、ベナウィのほうへと手を差し出した。
「ベナウィさんっ!」
その後ろで、早苗もベナウィを呼ぶ。
(ああ、なんて・・・)
なんて彼らはこんなに暖かいのだろう、と思う。
出会って、数十分もたっていない自分と一緒に生きると言ってくれている。
その身を危険にさらしてまで、こうして戻ってきてくれた。
(私は・・・)
ベナウィはカルラに向き直った。
そして、はっきりとその決意を口にする。
「申し訳ありませんが、私はあなたと組むことはできません」
・・・自分を信じていてくれる、彼らがいる限り。
もう、迷いはしない。
「私には・・・新たに守るものができましたから」
ベナウィは微笑して言った。
【ベナウィとカルラの交渉決裂】
【079 古河秋生 古河早苗特製パン 4個、古河秋生専用金属バット、硬式ボール10球 限界が近いかも?】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、所持品はすべて秋生が預っている】
【082 ベナウィ 槍(自分の物)、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード】
【026 カルラ ハクオロの鉄扇 カッター 自分の大刀、栗原透子のバック中身不明、右手首に怪我、握力半分以下】
【時刻午前10時15分ごろ】
ああ、いけない。もう新聞配達の時間だ。体が覚えている、毎日の習慣。
おかしいなぁ、目覚まし鳴らないよ。それにいつもより体が重い感じ。なんでだろ。
うー、起きたくない。でもそういうわけにもいかない。
「……ちゃん」
ちょっと待って良太。すぐ起きて、朝ご飯作るから。
「理緒ちゃん」
「うん……分かったってば、良太」
「いや、俺良太じゃねーって」
「……へ?」
目を開くと、苦笑した様子の浩之の顔が。
「ふっ、藤田君!? なぜうちにっ?」
「いや、俺ら今、絶海の孤島にいるんだが……」
「……あ、そか」
暗い洞窟の壁面を見て納得した。バイトにいく必要はない、学校に行く必要もない。
それでも生きることが、いつも以上に困難な場所。
「あはは……」
失意が、何故か笑いになって零れる。その時、定時放送が入った。
二人の間に緊張が走る。名前が次々に呼ばれる。強張った体を、不愉快な声が通り抜けてゆく。
『61番、長岡志保』
浩之の体がはっきりと動揺した。理緒も顔くらいは知っている相手だ。
良く勝手に教室に飛び込んできては、色々な噂をばらまいていく。
『92番、宮内レミィ』
こちらも理緒に面識はないが、あの派手な金髪はいやでも目に付く。
ああ、死んじゃったんだ……。
理緒にとっては、その程度の感慨だった。悲しいけど、どちらも直接の友達ではない。
だけど、浩之は違っていた。
志保が死んだ。あの脳天気な声で「志保ちゃんニュース!」とデマを振りまく彼女の姿は、もう見られない。
レミィが死んだ。明るい笑顔で、得意げに四字熟語を並び立てる様は、もう見られない。
好きとか嫌いとか、そういう問題ではなく、どちらも大切な友達だった。
自分の生活の大半を占める、学校という場所。そこを構成する重要なパーツが、一つずつ。
外れて、亡くなった。
「う……ぐぁっ」
胃の内容物が、ぶちまけられた。ほとんど消化しきってしまって、胃液ばかりが出てくる。
だけど、止まらない。
「ふっ、藤田くんっ!」
理緒が背中をさする。ツンとした匂いと、目と鼻の先に集まる熱い痛み。
元気だった二人の姿が、上手く思い出せない。見てもいない惨殺シーンが脳裏に浮かぶ。
血にまみれた、志保、レミィ、そして――あかり。
あかり。あかりっ!
いやだいやだいやだ。あかりが死ぬ。そんなことは考えたくもない。
志保も、レミィも大切な友人だ。だけど、あかりはもっと大事だ。
ずっと小さい頃から、一緒にいるのが当たり前の、かけがえない人。
失われてからでは、きっとこの二人とは比較にならないほど後悔するのが、先の想像から分かる。
だけど、この島にいる限り、死はあかりの元に着実に迫っている。
逃れる方法はただ一つ、このゲームに生き残ること。
人数は、二人まで。
二人まで?
「藤田君、平気……?」
じゃあ、この女は何だ?
雛山理緒。自分を慕ってくれる、けなげなバイト少女。
貧乏だけど、家族のために一生懸命頑張っている、気持ちのいい少女。
でも、邪魔になる。
あかりと帰るためには邪魔になる。そうじゃないか?
「ふ、藤田君……?」
怯える声に、かえって煽られた。
なんだ? 何をしている? 理緒ちゃんの肩に手をかけて、首に触れて、どうするつもりだ?
簡単だ。こんな細い首。たぶん、きゅっと締めたら、すぐに終わる。
「藤田君……やだ、ちょっと、冗談……でしょ? ねぇ」
違う。違わない。どっちだ。落ち着け、浩之。ゆっくり考えろ。簡単な事じゃないか。
あかりと理緒ちゃん。あかりの方が、大事だろう?
指に力が籠もった。
「かっ……あっ」
理緒の表情が歪む。苦しんでいる。暴れている。死んでいく。
もう止められない。ここまで来たら、殺すしかない。
ごめん。わりぃって思う。でも、あかりが、あかりが、こうしないとあかりが死ぬんだっ!
理緒の口から泡が零れる。見開いた目には血管が浮かび、信じられない、という風に浩之を見ている。
窒息は苦しいって聞いたことがある。せめて、なにか武器があったら、もっと楽に殺せてあげたかもしれない。
ごめんな。でももうおそいよな。ここまできたら、一気に――。
そう思ってたら、下から衝撃が来た。
「ぐぁっ……」
理緒の振り回した足が、浩之の金的を直撃した。
殺意も何もかも消し飛ぶような衝撃が、真下から跳ね上がる。
普通ならそこを攻撃するのを少しはためらうものだが、理緒も必死だった。
容赦なくつま先が、蹴り上げていた。
脂汗が浮く。情けなく腰を突き出す恰好で倒れながら、呻く。涙が出た。
「つ……」
影が覆い被さった。
「え……?」
振りかぶったバッグ。その中には、枕大の石が入っている。
理緒は、さっきまでの浩之と同じ顔をしていた。
死の恐怖に怯え、それに押されるように、殺意に引きつった表情。
「あ……」
「ああああああああっ!」
叫びと共に、バッグが叩きつけられる。何度も、何度も。
血が飛び散り、骨が砕け、脳漿が弾け、肉が潰れてゆく。
殺される。殺される。自分も殺される。二人みたいに。イヤだいやだ、そんなのはイヤだっ!
「いやああああああっ!」
叩きつける何度も何度も。浩之の服が瞬く間に紅に染まり、肉が掻き乱されてゆく。
手応えが気持ち悪い、不愉快だ。それを断ち切りたくて、石を振るたびに、手応えが変わってゆく。
浩之が死んでいくことが分かっているのに、でも腕が止まらない。止めたいのに、止まらない。
狂的な叫びが洞窟にこだまするが、浩之は、それを聞く器官をすでに失っていた。
ただ、血と叫びと涙だけが、尽きることなく続いた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
どうしよう、どうしよう。殺してしまった、死んでしまった。
大好きだった人。密かに想っていた人。でも、振り向いてくれなかった人。
それが自分の手で肉塊に変わった。
「うっ……」
血の匂いに、自分の為した行為に、体が拒絶反応を示す。
浩之がぶちまけた吐瀉物の上に、自分も同じものを吐き出した。
違う、違う。自分が悪いんじゃない。だって、藤田君がひどいことしたから。
私は悪くない。私だって帰りたい。帰りたかったの――藤田君と一緒に。
その藤田君の胸から上は、原形を留めていなかった。
「あ、あ……」
自分がしてしまった結果が、無惨な肉塊になって転がっている。
「ど、どうしよう……やだ、藤田君が……」
考えた。懸命に考えた。どうすればいいんだろう。
人を殺してしまったなんて、誰にも言えない。でも、きっとばれる。
藤田君はここにいて、自分がここにいて、それを監視されている。絶対にばれる。
いや、もう知られている。
自分が犯罪者になって捕まったりしたら、もう、終わりだ。
幼い弟たちは、あの家にいられなくなり、収入も大幅に減って、きっと一家離散か心中コース。
典型的な凋落のパターンだ。
ちがうちがう。自分は悪くない。正当防衛だよ。だって藤田君が、私を殺そうとしたから。
でも、だめだ。そんな言い訳は通じない。死んだ人は帰ってこないんだから。
ばれちゃダメだ。知られちゃダメだ。
そうだ、神岸さん。あの人が知ったら、きっと私を許さない。ううん、絶対。
じゃあ、どうすればいい? どうすれば……、ああ、そうだ、いいことを思い出した。
このゲームに勝ったら、願いを叶えてくれるって言った。
全部なくしてもらおう。今あったことを全部。
そのためには殺さなくっちゃいけない。この島にいる人全員。
特に、神岸あかりさん。二人残ったとしても、この人だけは生き残らせちゃダメだ。絶対に。
全部の荷物をかき集め、重かったけど、無理矢理背負った。
藤田君の死体を引きずって外に出し、草むらに隠した。
なんでそんなことをしたのかは分からない。ただ、隠さなきゃと思ったから。
ああ、もう。そんなことをしている暇はないのに。
武器は少ない、力も弱い。でも、絶対にやらなきゃいけないことがある。
神岸あかりさんを、殺さないと。
殺さなきゃ――。
殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ。
【71 雛山理緒・所持品 筋弛緩剤、注射針一式(針3セット)、枕大の石、裁縫道具、手作り下着、
クレジットカード、小銭入り長紐付き巾着袋、クッション、バッグ4つ所持。
石は血で汚れている】
【71 雛山理緒 神岸あかりを殺すために動き始める】
【74 藤田浩之 死亡】
【二日目 放送直後】
【残り62名】
>>454-459の修正版です。アイテムに関して勘違いしておりました。混乱させて、申し訳ないです。
ズガン!
参加者は全員死亡した。
よって 終 了
ズガンッ!
は何かを考察するスレになりました。
魔理沙音頭
幻想郷の栄える地球を守るため
キノコの力で魔女がすごくなり
すごい魔女をすごくした
オー 魔理沙 ベリーナイス
アリスはしょんぼりした
ミサマリは密の味
レザマリはエレガント
マスタースパークで一気にKOすることもある
「すごい魔女だ。」
うーーあーー(オートラストスペル)
魔理沙