葉鍵ロワイアル II 作品投稿スレ!2

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261ラストリゾート
「外が騒がしいな」
この殺戮ゲームの主催者、篁が一人嘲り笑う。
ホールは青白い光に包まれていた。そして篁も。

スタート地点近くの中央ホール。今晴子達がいるホールのすぐ近くのホール。
今篁は、そこに護衛もなく一人で佇んでいた。
すごい自信。恐らく因縁浅からぬ那須宗一を筆頭に、何人もの人間が一番に恨みを抱いているであろう、
たとえゲームに乗った人間でも、まともな思考を残している者であれば真っ先に殺されてもおかしくはない篁が、だ。
だが、ただ佇んでいるだけのその老人は素人が見てもまったくスキがなかった。

ラストリゾート。知るものは知っているであろう。
篁エネルギーの最高傑作ともいえるソレは、まさに夢のディフェンスシステムだった。
剣も銃弾も通さない。頼れるのは己が肉体のみ。
青い光に包まれた篁は、まさにそのラストリゾートの力によって、半無敵であった。

だが、齢80にも及ぶはずの老体である篁。肉体的な力は少し力のある大の男であれば簡単に倒せる……と思うのが普通だ。
だが、見る者は誰もがそうはとらなかった。
どうみても見た目は齢50そこそこの顔。肉体的には瑞々しい壮年のそれだった。
そして、一番目をひくのはその鋭い眼光。この男の前では、余程精神力の強さに長けた者でなければ、
誰もが蛇に睨まれた蛙となるだろう。
精神力が高い人間は、逆にこう思うかもしれない。

  この男はもう人間じゃない と。
262ラストリゾート:04/05/19 00:18 ID:89QcaC/V
突如、篁以外に人の気配がした。
「醍醐か」
「はっ」
醍醐と呼ばれた男もまた、那須宗一やリサ=ヴィクセンとは何かと縁の深い男だった。
宗一らエージェント仲間では「狂犬・醍醐」と呼ばれている傭兵隊長。
蔑称として「吊られた男(ハングドマン)」などという者もいたが――それはすべて宗一のせいなのであるが、それはまた別の話だ。
「目障りな犬共が嗅ぎまわってるようですが……」
消しますか?と醍醐は篁に指示を仰ぐ。
「捨て置け。攻め込んできたら、軽くあしらって丁重にゲームに送り返せばよい」
「それがクソガキ――いえ、那須宗一でも?」
醍醐が、宗一と闘いたがってるのは篁も知ってはいた。だが、篁は鼻で笑って。
「ならぬ」
「……。御意」
苦虫を噛み潰したような表情ではあったが、その場で片膝をついて頭を下げる。大した忠犬だった。
狂犬と呼ばれた醍醐でも、この男の前では従順な犬と化す。
「クソ――いや、あの男が殺し合いに参加するとは思えませぬが」
だが、やはり完全にはあきらめきれないのだろう。主人に向かって食い下がる。
「それも一興よ。いろんな生き様の人間がいてこそ、華がある」
篁は宗一の顔を思い浮かべる。かつては一度、形の上では不覚をとった最強のエージェント。
――実際には、篁は敗れたなどとは露ほどにも思ってはいなかったし、
  篁の目的を考えれば、むしろ篁の勝利といえるのだが、それもまたこのゲームとは関係ない別の話だ――
(どこまでも抗ってみせよ、那須の宗一)
篁は、それさえも楽しんでいた。
263ラストリゾート:04/05/19 00:19 ID:89QcaC/V
「もう一つ」
醍醐が、笑う。
「女に振られたか、宗一よ」
そう言って篁が嘲う。醍醐も同じように顔を歪めた。報告するまでもなく、それらを知っているようだった。
「『ソレ』はどうやら、こちらへ――」
「ククク、ハハハ――」
篁が高笑いで返す。奴等はどこまで楽しませてくれるのか。
「潰せ」
「ハッ!」


【篁、醍醐 現在地スタート地点のホール ラストリゾート起動中】


※今の所、主催側は基本的に参加者を殺害しません。
(と言っても、一応、何かの事故とかなら話は別としとく。これは参加者同士の殺し合いの話だが、決め付けはよくないので)
264青年は雌伏する:04/05/19 00:24 ID:tGZsREdJ
 ―――さて、問題が出来たな。
 芳野祐介は思わず手に取った煙草をしげしげと見つめながら一本取り出すと、
同じく箱の中に仕舞われていたライターを取り出し火をつけた。ずいぶん久し
ぶりの喫煙になったものだ、そう思うと不思議と笑みが零れた。持ち主は既に
ここにはいないようだ、まだ5本残っていたわけだが、どうせ戻ってくること
もないだろうし自分がもらっても問題ないだろう、祐介はそういうことでその
煙草をまるごと拝借した。
 職員室はがらんとしている。かつては沢山の教師や生徒がここに集っていた
のだろうに、ずいぶんと変わり果てたものだと感じる。別に誰かに荒らされた
わけでもないし、何か災害があったわけでもない。それでも思う。この荒涼さ
は―――既に終わってしまったところの空気だ、と。
 くゆる紫煙を戯れに手で手繰り寄せる、だがそんなものは簡単に手の中から
抜け出てしまった、残るものなど何もない。
 下には、敵がいる。
 予想外の来敵に思わず衝撃を覚えた祐介は階段を上がってヤツらから距離を
置こうとした。ああ、自分以外は全て敵だから、来敵という言葉に誤用は無い。
とにかく、いきなりあんなものを見たら驚かずにはいれない。小熊か何かは知
らないが、あれをまともに相手にしていてはこちらがやられてしまうだろうと
いう予感があった。
「…………いや、そもそも動物なのか、あれは」
 少なくとも、自分の智識の範囲内ではない。まさかあれも参加者なのだろう
か。あれの名前が実は芳野祐介だったとしても、どうしてそれを否定すること
ができるのだろうか。そんなトリッキーな仕掛けがあったとしても、どうせ本
質には変わりない。殺すか、殺されるか。
 煙草を二本の指で弄びながら無言で職員室の奥に入っていくと、祐介はある
ものに目をつけた。
265青年は雌伏する:04/05/19 00:25 ID:tGZsREdJ
「ガス給湯器……か」
 祐介はつまみを試しにいじってみる、すると問題なく給湯器は機能した。思
ったより音がでかいのですぐにつまみを元に戻す。
「…………」
 祐介は元栓を目だけで探索する、がどうも棚が邪魔になってその場所まで見
えない。面倒くさくなって、煙草を持っていない方の手で給湯器の差込口付近
から無理やり線を引っこ抜いた。すると案の定ガスがシュウシュウと音を出し
て漏れ出してきた。
 片手にもった煙草にはまだ火が生きている。ここで自爆してしまっては元も
子もないので祐介はそれを握りつぶした。
 二階にこれが通っているということは、恐らく一階も同じものがついている
のだろう。机や本棚の位置は違っていても、こういった機材の配置は同じよう
なところにせねばなるまい。
(どうでもいいが……学校でガスは危ないと思うぞ)
 場違い過ぎたので口には出なかった。何せ、それを利用しようとしている人
間が正に自分なのだから。
 煙草を拝借した机は入り口側だ、といっても入り口は二箇所あるので、遠い
方の入り口ということになる。祐介はそこまで戻ると次の襲撃の算段を立て始
める。策は二重に三重に、幸運にもこちらにはそれなりの武器があるのだから。
「……そうだな、獣は無視して、女の子だけやるか」
 目の前に立てかけた狙撃銃を見ながら、そんなことを思いついた。
 電気工事屋の仕事についていたことは幸運だった。昔の俺なら、こんな重装
備など持ち歩けようはずも無かったから。歌うことしか知らないで、自分しか
見えないで、生きていくことのつらさも気づかないで、ただ一つのことしかや
っていなかった、そんな俺なら。……それを、懐かしいと思うのは感傷だろう
か。そんな青春が、もう今や、取り戻せなくなってしまったことが、ありあり
と感じられる。
 銃を担ぐと、そのまま窓際へと移動する。そして再び近くにライフルを置き
なおすと、音を立てないように窓を開いた。
「思えば、遠くまで来たものだ」
 誰知らず、祐介はそんなことを呟いていた。
266青年は雌伏する:04/05/19 00:27 ID:tGZsREdJ
【098 芳野祐介 所持品 手製ブラックジャック*2
 ライフル(予備マガジン2つ)  サブマシンガン(予備マガジン1つ) ことみの救急箱 煙草(残り5本)とライター】
【現在地は二階職員室、一階職員室直上】
【皐月の存在には気づいている】
【一階に誰かいることには気づいているが、智代だとは知らない】
【皐月は芳野に気づいていない】
267呼吸:04/05/19 00:29 ID:IZfNZ15I
 目の前を川が流れている。
 小さく、音を立てて川を流れている。
「……」
 ゲンジマル(35)は川に釣り糸を垂らしていた。いや、正確には釣り糸ではない。自分の衣服の袖を破り、糸を解き捻り会わせた物だ。竿は、小さな竹を削った物。浮きは木の枝そして、
 光岡と別れた後、結局そのままその場所で一夜を過ごした。目を覚まし、体をほぐしていると、定時放送が聞こえた。
「ハクオロ殿……トウカ殿………ユズハ…確かオボロ殿の妹だな」
 共に戦ったことは昨日のように思い出される。しかし、ハクオロが誰かに殺されるとは全くの予想外だった。
「…無事でいて下され」
 心の中に、自分の主君の顔が浮かぶ。心がざわめく。
「…落ち着け」
 そして、呼吸を整えるために、現在は釣り糸を垂らしている。食料の調達という目的ではない。
「………」
 川の中に垂らされた針に全神経を集中させる。エサはミミズ。墓を掘ったときに取った物だ。針はダーツの針を取り、曲げた物だ。だが、それには「返し」が付いていない。
「……ふぅ」
 息を小さく吐いた。その時、浮きが上下する。
(まだだ)
 魚の呼吸を感じ取る。手に握られた竿に全神経を集中させる。
(フッ!)
 浮きが沈んだ瞬間、完璧なタイミングで竿を弾いた。竿には、大振りなヤマメがかかっている。
「…感覚までは奪われなかったようだ」
 自分の手を握りしめる。エヴェンクルガとしての自分の力が大分押さえられているのは痛烈に実感している。
「この様子では、他の者達も…」
 能力を押さえられ、苦心していることだろう。
268呼吸:04/05/19 00:36 ID:IZfNZ15I
「日が、昇ってきたか」
 魚を腹に入れた後―――火は使えなかったが―――しばらくは、ダーツをいろいろといじっていた。
「……よし」
 大分時間を費やし、大分手に馴染んできた。多少なりと、弓の心得があったのが幸いしたのだろう。
 視線を横に向ける。10メートル先の木に一匹の羽虫が留まっていた。
「コォォォォ…」
 呼吸を合わせる。木の呼吸を感じる。草の呼吸を感じる。虫の呼吸を感じる。武芸者として、極限までに研ぎ澄まされた「集中力」が辺りの呼吸を感じ取る。武人の境地の1つであり「心眼」と呼ばれる場合もある。
「………」
 虫を見る。呼吸を合わせる。世界には、自分、そして虫のみ。それ以外に何もなく、ただそれだけだ。
「…シッ!」
 短い気合いの言葉と共にダーツが投げられる。恐ろしいほどの速度で飛んでいったダーツは、羽虫の羽を一部吹き飛ばし、木の幹に刺さった。羽を損傷しながらも、虫は空へ飛び立っていった。
「…まだまだか」
 呼吸を落ち着け、今投げたダーツを回収する。そして、荷物をまとめて歩き出した。

【ゲンジマル ダーツの訓練。ある程度は使えるようになった。クーヤの創作を開始する】
【所持品:ダーツ(残り6本)、手製の釣り道具、ミミズ(後2匹)、針のないダーツ】
【朝(放送終了)】
269青年は雌伏する:04/05/19 00:52 ID:tGZsREdJ
>266
×【皐月は芳野に気づいていない】
○【皐月も芳野の存在自体には気付いている】
270狂炎:04/05/19 01:20 ID:Zc4yG4U6
「中々見つからないものですね…」
一人殺し終えたセリオは、次なる獲物を求めてさ迷っていた。
その姿は堂々として、はっきりいって無防備そのものだった。
当然のことで、戦闘データの無いセリオは腕力その他はまだしも、行動自体は無力な一般人のそれと変わらないのだ。
いや、単なる一般人よりもむしろ悪い、と言っていい。
セリオはサテライトシステムその他諸々の機能を付けた結果、感情という一要素が著しく乏しい。
自分で思考する、ということが成し難いのだ。
よって、サテライトシステムによるデータの収集が無いセリオは自分の機体運営以外について、ちぐはぐな行動しか取れない上に、それを自覚するだけの感性も持たないのだ。
よって、

ドンッ!

凶弾を胸に食らって倒れたのは、仕方の無い事だった。
そして、セリオにとって不幸だったのは、セリオを撃った男は、弾丸が相手に当たったぐらいで満足できない精神状況にいたことだ。
ダッ 
ダッ
ダッ
と、駆け足で長瀬祐介はセリオの倒れた場所に到達した。
何のためらいも無く、火炎放射器でセリオの体を燃やした。
表皮はすぐに燃え、基本的に精密機械であるセリオはすぐに活動を止めた。
燃えればいい、と思った。
誰も、いない。
自分の知っている人間は全ていなくなってしまった。
だから、全部燃えてしまえば、それでいい、と。

【052 セリオ 死亡】
【062 長瀬祐介 所持品 火炎放射器 (砲身に損傷・燃料は6割強),ジグ・ザウエルショート9mm(残弾0発) , 果物ナイフ】
【定時放送より2時間後】
【残り65名】
271名無しさんだよもん:04/05/19 01:30 ID:G++tB7jK
>>202-203は作者さんよりNG宣言がでていました
272風とともに?(1):04/05/19 01:39 ID:hgrwmL1o
「すごいですっ。本物の凄腕のヒットマンです」
「スゲェな、ヒットマンかよ・・・ほれ、友好の証だ。普段なら金取るんだが今日は特別にタダにしといてやらぁ」
(この夫婦、どっかずれてる・・・)
どうやら、夫婦の仲では浩之と理緒=凄腕のヒットマン、らしい。
とりあえず手渡された袋の中身を見て・・・・・・浩之は首をかしげた。
「・・・なんだよ、コレ?」
その中に入っていたのは、パン。
「これか?これはだな・・・早苗のパンだっ」
秋生が自信満々にいった。
「あんたの奥さんのパンか・・・・・・で?」
こんなものを自分に渡してなんになるというのか?
浩之は少し警戒しつつも秋生に問い掛けた。
「だからな、これは早苗のパンなんだよ。別に裏とかなんにもないからとりあえずもらっとけ」
秋生がやけにさわやかな笑みを浩之に向ける。
「・・・・・・・・・」
(怪しい・・・)
この男に敵意がないのは明らかのようだが、それでもこのパンには何かがあるような気がする・・・浩之の第六感がなんとなくそう告げているような感じがした。
浩之は何も言わず、パンも受け取らずに訝しげな視線だけを秋生に向ける。
273風とともに?(2):04/05/19 01:39 ID:hgrwmL1o
「あー、わかんねーのかコンチクショー!これはな、早苗のパンなんだよ!うちのパン屋で毎日売れ残るそれはもう伝説的なパンなんだっ!」
浩之の態度に精神的限界がきたらしく、うがーっ!という奇妙な声とともに秋生が叫ぶ。
浩之は内心ため息をついていた。
(この人、めちゃくちゃだ・・・つーか意味わからん)
「・・・・・・それは、そんなに、まずいものなんですか?」
再び問い掛けられる声に、秋生は自信たっぷりにはっきりと答えた。
「おうよ、何せ早苗のパンだからなっ」
答えたあとで、秋生は今の問いかけが男の声でないことに気が付いた。
ふとよぎる、嫌な予感に背後を振り返ると―――
「やっぱり・・・わたしのパンは・・・・」
じわり。
背後にいた早苗の目が潤み始める。
(しまった・・・)
秋生がそう思うのが早かったか、それとも。
「わたしのパンはどこに行ってもお荷物でしかないんですねーっ!」
次の瞬間には早苗はその場から走り去っていた。
「クソッ」
秋生は小さくつぶやいたあと、浩之からパンの袋をひったくる。
「早苗ーーーーー!おまえのパンは最高だーーーーーーー!」
そして、一部始終のやり取りを見ていた浩之と理緒に目もくれずに早苗を追いかけていった。

そして、その場には理緒と浩之が残される。
「なんか嵐のような人たちだったね・・・」
呆然と理緒がつぶやく。
「あ、ああ・・・」
同じく呆然と浩之がつぶやいた。

その数分後、二人はお互いに自己紹介すらしていなかったことに気が付いた。

【古河秋生、古河早苗ともに再び森の中を迷走】
【結局パンは渡さなかったので装備に変更なし】
【時刻 深夜3時20分ごろ】
274覚悟と根性by外道:04/05/19 02:00 ID:emg4p+J7
僕はうずくまる瑠璃子さんに転がるように駆け寄った。
切断された彼女の右肘からとめどめなく血があふれ出ている。
「腕の付け根を締め付ければ止まるかも!」
それでは間に合わない、と脳裏をかすめたが、もたもたしていたら瑠璃子さんが死んでしまう。
とりあえず、僕のズボンのベルトを使ってみたが、あまり効果はなかった。
どうする? どうする!? どうすれば血を止められる!?
「ねえ、長瀬ちゃん」
彼女は痛みに顔をしかめながら、焦る僕に告げる。
「傷口を焼けば血は━━」
「駄目だっ! そんなことしたら、腕が元通りに繋がらなくなるよ!」
彼女を説得しつつ、さらにベルトを締め付けた。
「痛い! 痛いよ、長瀬ちゃん!」
「我慢して!」
さっきよりは出血の勢いが弱まったような気がする。だけど、それだけ。

血が、止まらない。

「長瀬ちゃんっ!!」
彼女の一際大きい声にベルトを持つ手が緩む。
「お願い、でないと、わたし、死んじゃう」
死ぬ? 瑠璃子さんが?
嫌だ、月島さんに続いて彼女まで失いたくない。
でも、焼いたら、彼女の肌に一生消えない跡が残る。
「優勝したら、腕を再生してくれるよ」
僕の心の葛藤を読んだのか、痛みを我慢しながら彼女は無理に微笑んだ。
275覚悟と根性2by外道:04/05/19 02:01 ID:emg4p+J7
そうだ、何を迷う必要がある? たとえ、どちらか死んでも、残る1人優勝すればいいじゃないか。
「分かったよ」
覚悟を決めた。
まず、彼女を燃え盛る家のそばにしゃがませ、右肘を前に突き出すように言った。
僕は上半身を倒し、彼女の右腕が雨に掛からないようにし、
自分のポケットから拳銃を取り出すと、マガジンを排出させ、残り1発となった弾丸をつまみ取る。
今からどこかの映画で見たことを真似てやってみる。
もし、失敗したら━━ちらりと火炎放射器の傷付いた砲身を見て、目を背けた。

チャンスは、一度。

震える指で弾頭をつまみ、そっと引き抜き、捨てる。
残った薬夾(やっきょう)を右手の親指と中指で挟み、人差し指でとんとんと叩いて、彼女の傷口に火薬を振りかけた。
「瑠璃子さん、いくよ?」
「うん」
震える声で彼女が頷く。その様子に思わず抱きしめたくなったが、事が事だ。
衝動を押さえ込むと、彼女の右腕を両腕でしっかり握る。
そして、そのまま、

燃え盛る家の炎に彼女の傷口を突っ込んだ。

一瞬、彼女の右肘が白い閃光に包まれ、次の瞬間、先端がたいまつのように燃え上がる。
「ぎっっっ、ぃぃいあああああああああ!!」
「瑠璃子さん、瑠璃子さん、しっかりして!」
276覚悟と根性3by外道:04/05/19 02:02 ID:emg4p+J7
女の子とは思えない、信じられない力で暴れられ、僕はその場に放り出された。
彼女は悲鳴を上げながら腕を抱え込んで地面を転げ回る。
僕はただ、励ますことしかできなかった。
30秒くらいたったろうか? 彼女はうずくまって呼吸を荒げるまで落ち着いた。
おそるおそる近付き、声をかけてみる。
「瑠璃子さん?」
「……な……が……せち……ん」
彼女がゆっくりと上体を起こす。その顔は、涙と鼻水と涎にまみれて、きれいな顔が台無しだった。
あいにく、ハンカチやティッシュを持っていなかったので、僕はYシャツの袖で彼女の顔を拭う。
「……ありがとう」
彼女は鼻を啜りながら疲れた顔で微笑んだ。
「傷、見せて」
両手にとって炎に照らす。転がったせいで泥まみれだったから、よく分からない。
だが、雨で徐々に汚れが洗い落とされてゆく。

血は……出ていない!

「やった、成功だ!」
「そう、……良かった……」
「!? 瑠璃子さん!?」
突然、彼女がくたりと上体を傾けたため、僕は慌てて彼女を支えた。

「ちょっと、疲れちゃった……」
多量の血を失ったのと、傷を焼いた激痛で、心身ともに衰弱したようだ。
そこで、気付いた。

彼女の体が、妙に冷たかった。
277覚悟と根性4by外道:04/05/19 02:04 ID:emg4p+J7
いけない、思っていたよりも危険な状態だ!
どうする? こんな島に医者なんているのか? いるわけないだろ! 殺し合いに医者……!?
はた、と気付いた。
そうだ、病院! 忘れていた。
昼間、森の中を進んでいるとき、町が見えた。そっちに行かなかったのは、崖で降りられなかったためだ。
そこに行けば、病院があるかもしれない。
僕は空になった拳銃と、火炎放射器を放り捨てて身軽になると、
彼女を背負い、折り畳み傘を拾って頭上にかかげる。
町があると思われる方角の道路にそって駆けだした。

暗い夜道を駆ける。時折、彼女の顔を覗き込むけど、相変わらず蒼白だ。
彼女は、大丈夫だよ、と無理をして微笑む度に、僕の心が引き裂かれそうになる。

町はまだか!?

傘はもう、用をなさないほど、僕らは濡れてしまっていたが、ないよりましだろう。
こんな所を他の殺人鬼に狙われたら、ひとたまりもない。
そういえば、日没あたりの放送で、11人が死んだと聴いた。
つまり、殺人鬼は最低でも11人、いや、僕らのように組んでいたら、……22人か?
なんてことだ、ということは、生き残っている者の4分の1が
……いや、次の放送にはさらに10人以上、死んでいるに違いない。
278覚悟と根性5/5by外道:04/05/19 02:05 ID:emg4p+J7
つまり、殺人鬼は全体の3割を占めている計算になる。

死んでたまるか。必ず、月島さんと瑠璃子さんの3人で帰るんだ!

どれぐらい走っただろうか、僕はひっひっと情けない呼吸でふらふらと町に入った。

病院はどこだろう。
瑠璃子さん、もう少しの辛抱だから、きっと助かるから……!
だから、それまで、死なないで。

やがて。
住宅地の外れにひっそりと建つ、木造平屋を見つけ出した。
看板は診療所とあった。病院はであることに違いない。
僕はよたよたと歩きながら玄関をくぐり抜けた。

【057月島瑠璃子 装備無し: 右肘切断
傷口を塞いだものの、出血多量で極度の疲労 自身では行動不能】
【062長瀬祐介 果物ナイフ 肉体的に疲労】
【チェーンソーはエンジンをかけたまま、
火炎放射器(砲身に損傷・燃料は8割強)、
及び、シグ・ザウエルショート9mm(残弾0)、
森の民家の側の地面に放置】
【午前0時ぐらい】
【現在地 住宅地外れの診療所】
279:04/05/19 02:06 ID:ZbWP9ess
 栗原透子と言う名の臆病な兎は逃げていた。足がもつれ息が切れる。
知り合ったばかりの友人を見捨てて逃げた。風に流れて聞こえた
猛獣の唸り声、とても人間が発したとは思えない破砕音。ああ、きっと
アレは骨が砕けた音に違いない。
「助けて助けてよぉ……」
 嫌な音が耳をついて離れない、猛獣の吐く息が今にも首筋を撫でそうだ。
恐怖に駆られ、気がつくと走り、疲労で倒れては幻聴に叩き起こされ逃げる。
何時の間にか夜は明け、定時の放送も行われていた筈だ。
 だが、透子の耳には自分が見捨てた長岡志保の死を告げる放送も
聞こえてはいなかった。もつれる足はただ逃げる為に動き、思考は
幻聴への恐怖と愛する少年への思慕……そして破裂せんばかりの
罪悪感だけで占められている。
「ご……ごめんなさい、長岡さん、ごめんなさいっ」
 そして、断罪の主は現れる。臆病で卑怯な兎を喰らう残忍で一途な狼
が牙をむく。
「臆病者の逃げ方は決まっていますわ。水が低きに流れるように楽な方へ、
走りやすい方へと逃げる。例えば、山中なら下へ……道を外れた麓へと」
 その狼……カルラは鉄塊の如き大刀を手に酷薄な視線を透子へ向けていた。
「兎狩りの鉄則ですわ」
 ゆらりと大刀の切っ先が透子へと向けられた。
「ひっ!」
 凶器の顎から逃がれようと後ずさりして、足がもつれぺたりと尻餅をついた。
疲労と恐怖で膝が笑い、立ち上がる事すら出来ない。
 もうここには自分を庇ってくれる人はいない。因果は巡るのだ。
280:04/05/19 02:07 ID:ZbWP9ess
 か細い息がヒューヒューと漏れる。その息はどんどんと小さくなっていた。
喉の奥に鉄の味の塊。なのに生きようとあがく透子の肉体は聴覚も視覚も苦痛から
逃避させてくれなかった。いや、この苦痛はきっと友人を見捨てた罰なのだろう。
「一刀で苦しまず絶命させてあげようと思いましたのに……」
 カルラが痛ましげに透子を見下ろす。袈裟懸けに振り下ろされたカルラの大刀は
透子の身体を肩口から切り裂き身体を鮮血に染め上げた。だが、即死必定の
刃は、透子が身を仰け反らせた為に僅かばかりの延命時間と絶望的な苦痛を刻む事と
なったのである。
「止めが必用かしら?それとも言い残す事があれば聞いて差し上げますわよ」
 ぼんやりとした視線を向ける透子にカルラは尋ねた。
「もっとも、わたくしは狩る側。伝える事があっても、あなたの知り合いに会ったら
斬り捨ててしまいますがね」
 そう言いながら苦笑いした。愛する者の為に誰であろうと狩ると決めたのだ。
 透子の口が微かに動く。何か伝えたい事があるのだろう。手も上げられぬ透子に
反撃の手段はもう無い。カルラはそれでも慎重に膝を突き、屈んで透子へ耳を近づけた。
「き……木田君も……しーちゃんもころ……させな……い……」
281:04/05/19 02:07 ID:ZbWP9ess
 ぐらりと傾いた透子の体がカルラへと倒れる、落ちた頭がカルラの右手首へ噛み付いた
「くっ!!」
 万力の様に透子の顎がカルラの手首を噛み砕かんとする。歯が骨に当たるジャリっとした
嫌な音がした。
「放しなさい!……このっ!!」
 噛み付いた顎を強引にはがそうと、手近な幹へ透子を叩きつけようと手を振り上げる。
だが次の瞬間、透子の身体は糸が切れたかのように崩れ落ちた。僅かばかり残された
彼女の生命の火が燃え尽きたのである。
「やってくれましたわね」
 忌々しげにカルラは崩れ落ちた透子の亡骸をにらみつけた。手首から流れる血が掌を染める。
利き腕の動脈からの出血、何より筋肉を傷つけられ握力は半分以下だろう。これでは大刀を
握れても振るえるかどうか怪しい。とりあえず布を巻けば血は止まりそうでは有る。
「臆病な兎は何も無いがゆえにその身を火中へ……。貴方にも命をかける大切な人が
いらしたのね」
 透子の守らんとした二人の名を覚え、カルラは微かに黙祷した。戦士としてではなく
愛する者の為に浅ましくも生きる女性としての共感ゆえに。

【栗原透子:死亡】
【カルラ:右手首に怪我、握力半分以下】
【栗原透子のバックは近くに落ちています。中身は次の人にお任せします】
282民家での夜1/3:04/05/19 02:22 ID:JdaTj7tt
二人で歩き始めてから二時間、ついに少年とあさひは森を抜け、住宅街へたどり着いた。
「これでやっと休めそうだね」
「そう、ですね」
少年の言葉に、あさひは息を切らせながら答えた。
「ごめん、もっとゆっくり歩いた方がよかったね」
「いえ、私は大丈夫で…きゃっ!」
そう言って歩き出そうとしたあさひのからだがふわり、と持ち上がった。
気がつくと、あさひは少年に「お姫様だっこ」をされていた。
「えっ、あっ、あの、自分で歩けますから…」
「いいからいいから」
少年はあさひを抱えたまま歩き出した。


「この辺でいいかな?」
住宅街のなかを少し歩いたあと、少年はある家の前で立ち止まった。
少年はあさひをその場におろすと、その家の玄関に向かった。
玄関を少し開け中をのぞき込み、特に異常がないことを確認すると、少年はあさひとと一緒に家の中に入った。
あさひは玄関にあった電気のスイッチを入れようとしたが、少年に止められた。
「ゲームに乗ってる人たちに見つかるといけないからね」
少年はそう言って、家の中を調べ始めた。
(すごい…こんなに暗いのに)
あさひもだいぶ闇に目が慣れていたが、少年の動きは昼間と同じように見えているかのようだった。
「あさひちゃんはそこのソファーで休んでなよ」
あさひは少年を手伝おうかと思っていたが、足手まといになると思い、少年に言われたとおりリビングのソファーに腰掛けた。
283民家での夜2/3:04/05/19 02:23 ID:JdaTj7tt
「とりあえず役に立ちそうなのはこんなとこかな」
家の中を一通り見て回った少年が持ってきたのは、双眼鏡、十徳ナイフ、腕時計、ノートとペン、そして非常食だった。
少年はそれらをテーブルの上に置くと、あさひに話しかけた。
「そろそろ何か食べようか」

その日の食事は、少年が見つけた鯖の缶詰とカンパンだった。
それらを食べ終えた後、二人は持ち物を整理することにした。
あさひが持っていたのは、支給された食料とS&W M36、それの予備の弾が20発、そして彼女の眼鏡とハンカチ。
少年はそれらを確認すると、自分のバッグを開いた。
そこから出てきたのは、食料と―――
「…キーホルダー?」
「みたいだね」
それは、ちゃちな鎖に青い石がつながったキーホルダーだった。

その後、二人は相談し、S&W M36と予備の弾、腕時計、カセットウォークマンと食料の大半を少年が、キーホルダー、双眼鏡、十徳ナイフ、ノートとペン、そして残りの食料と彼女の眼鏡とハンカチをあさひが持つことにした。

「もうこんな時間か」
少年に言われてあさひが腕時計をのぞき込むと、夜の十一時を過ぎていた。
「今日はもう寝ようか」
「はい」
「じゃあ二階にベッドがあったから移動しよう」
少年に言われ、あさひはその後を追いかけた。
少年は階段の前に立ち止まると、あさひに言った。
「お先にどうぞ。気をつけてね」
少年に言われるままに、あさひは階段をゆっくりと上った。
少年はそのあとに続く。
あさひが階段を上り終えると、再び少年が前を歩き、「ここだよ」といって寝室のドアを開けた。
284民家での夜3/3:04/05/19 02:24 ID:JdaTj7tt
その部屋にはベッドが一つしかなかった。
「あ、あの…」
顔を真っ赤にするあさひ。
「ああ、何も二人で寝ようってわけじゃないよ。一応念のためにどちらかが起きてた方がいいと思ってね」
それを聞いてあさひはほっとした。
「じゃあ、少年さんが先に寝て下さい」
「少年さんって…まあいいや。あさひちゃんこそ先にどうぞ」
「でも私はさっき寝ましたし」
「まあまあ。レディーファーストっていうじゃない」
微笑みながら少年は半ば強引にあさひをベッドに寝かしつけた。
「…わかりました。ただ、ちゃんと起こして下さいよ」
「OK。それじゃおやすみ」
「おやすみなさい」

「ちゃんと起こして下さいよ」
「OKOK」
「ちゃんとですよ」
「わかったって」
そういったやりとりを繰り返しているうちに、いつの間にかあさひは眠りについた。

【桜井あさひ就寝、少年はそのそばで起きている】
【少年の所持品 S&W M36(残り弾数5、予備の弾20)、腕時計、カセットウォークマン、食料】
【桜井あさひの所持品 キーホルダー、双眼鏡、十徳ナイフ、ノートとペン、食料、眼鏡、ハンカチ】
【時間は午前0時頃】
285外道:04/05/19 03:16 ID:emg4p+J7
>274-278はNGとなったようです。
286追憶の影:04/05/19 03:56 ID:EAOeYrpO

 目を閉じればすぐに聞こえてくる。
 誰かが誰かを殺す音。誰かが誰かに殺される音。
 ぽつりぽつりとリズミカルに雨樋から垂れ落ちる雫に耳を傾けながら、
 杜若きよみはふと自分の身の上に関して思考を寄せた。

 自分は人ならざるものである。
 あの日杜若きよみは、確かに坂神蝉丸に看取られて
 花咲ききらぬままにその生涯を閉じたはずなのだ。
 それがどうだろうか。
 目を開けるとそこは白道の末に辿りついた極楽浄土などではなく、
 地下深くに掘り下げられた、無機質な研究室の一角だった。
 覆製身としての「杜若きよみ」の人生はこの日から――

 そもそも自分の半生を「人生」などと呼べるのだろうか?

 また一つ、銃声が鳴った。
 悠長なものねと、きよみは思った。

 俊伐は「杜若きよみ」を求めた。
 自分は、俊伐の求める「杜若きよみ」にはなれなかった。
 それ故に俊伐は、単なる手駒以上の扱いを施すことが無かった。
 有り体に言えば見限られたのである。
287追憶の影:04/05/19 03:57 ID:EAOeYrpO

 それなら、自分が胸に抱くこの感情をどう説明できるだろうか。
 単なる「杜若きよみ」に対するあてつけなのか?
 自分が「杜若きよみ」では無い事への嫉妬なのか?

 いくら考えても答えの出ない事は先刻承知だった。
 もう何十年も欠かさず自問してきた問答が、昨日今日で解ける道理もない。
 隣で寝ているあかりという少女が寝返りを打ち、毛布がめくれた。

 だからあたしは、蝉丸さんに逢いに行くんだもの。
 蝉丸さんとに逢って、あたしの気持ちが本当にあたしの気持ちなのか確めるの。
 それでもし、蝉丸さんを好きなのがあたしではないただの「杜若きよみ」だったら、

 あたし、蝉丸さんを殺さなくちゃならないわ。

 あたしが本当の「杜若きよみ」にならなくちゃいけないんですものね。
 俊伐さんの鼻を明かして、この気持ちを伝えるのよ。
 あたしが「生まれて初めて」あの人に伝えるの。
 あの人、どんな顔するかしらね、ふふ……


 3人が目を覚ましたのは、放送の入る直前であった。
 それぞれの意味を以って、3人の意識を覚醒させて。

【017杜若きよみ、024神岸あかり、084松浦亮起床】
【017杜若きよみ 改造銃の残弾3(隠し持っている)】
【024神岸あかり 筆記用具 木彫りの熊 きよみの銃の予備弾丸6発】
【084松浦亮 修二のエゴのレプリカ】
【第二回放送を聞く】
288 ◆PnwVttXh0I :04/05/19 05:36 ID:wu65tlo+
 伏見修二の死体を埋葬し終えた時紀達は、野宿に適した場所を探して森の中をさまよっていた。
 疲れているためか、さっきまでは頻繁に口を開いていた観鈴も、今は黙って時紀の後ろについてきている。
 沙耶もその更に後ろで、時折物思いに耽るように立ち止まりながら歩いていた。
 通り雨があったせいで、木も下草も湿っている。
 横になるのは無理だとしても、どこか地面の乾いたところで座って休むくらいのことはしたかった。
(にしても……)
(さっきの男の死体、妙に綺麗だったな)
 修二の死体に人と争ったような形跡はなく、腹部以外に目立った外傷はなかった。
(背後から忍び寄って振り返ったところを一突き、ってのは考えにくいだろうな)
(とすると……)
 だまし討ち。
 そう考えるのが自然だった。
 敵意がないフリをして近づき、油断したところをブスリ。
(…………)
 気が滅入る。
 いったい誰を信じていいのか。
(……!!)
 立ち止まり、慌てて振り向く。
 後ろを歩いている二人のどちらかが、今まさに自分を殺そうとしているのではないかと夢想して。
「ど、どうしたの?」
「……なに、いきなり」
 二人は突然振り返った時紀に怪訝な視線を向ける。
 無論、時紀を殺そうなどとしていなかった。
「……いや、なんでもねーよ」
 ポケットから煙草を取り出してくわえ、火を付けて再び歩きだした。
(……落ち着け)
(こんなことで疑心暗鬼になってたら、主催者の思うつぼだ)
289 ◆PnwVttXh0I :04/05/19 05:36 ID:wu65tlo+
 そうしてしばらく歩くと、時紀達の目の前に胴回り六メートルはあろうかという大木が現れた。
 沢山の葉に雨が遮られ、根本付近の地面は乾いている。
「ここらでひとまず休むか?」
 観鈴が頷き、沙耶も反対しなかったので、この場所で休むことにした。
 観鈴は木の根本に寝転がり――よほど疲れていたんだろう、すぐさま静かな寝息を立て始めた。
 沙耶もその隣に座り、木に寄りかかる。
 手にした銃を見つめながら何か考えごとをしているようだ。
 時紀は二人の前に立ち、見張りをすることにした。
 ――静かだった。
 草木は湿っているせいでほとんどそよがず、観鈴の小さな寝息が聞こえる以外はほとんど無音。
(俺も少し仮眠したいな……)
 時紀が沙耶に見張りを頼もうとした、そのとき、

 パキッ!

 木が折れるような音が聞こえた。
 次いで聞こえてきたのは、舌打ちのような音。
 沙耶が、寄りかかっている木の方を指さしている。
(木の裏か……)
「そこに誰かいるのか!?」
 時紀は木に向かって問いかける。
 反応はないが、かすかに人の気配がある。
 おそらく、一人。
 鎌をしっかり握り、誰かが飛び出してきても大丈夫なように身構える。
 沙耶も立ち上がって、攻撃に対応できる体勢をつくった。
 そして観鈴は……。
 まだ寝ていた。
 緊張感のない顔で寝息立て続けている。
(こいつは……!)
 そんな観鈴に若干の苛立ちを覚えながら、時紀は再び木の裏側の相手に声をかけた。
「こちらは別に争うつもりはない、ひとまず出てきてもらいたい。……信用してもらえるなら」
 沙耶が一瞬時紀を見て、「……勝手に決めないで」と言いたげな表情をした。
290 ◆PnwVttXh0I :04/05/19 05:42 ID:wu65tlo+
 木の陰から、ゆっくりと少年が姿を現し、時紀達の目の前に立った。
 ご丁寧に両手を頭の後ろに回している。
 髪は短く切りそろえられ、眼鏡をかけていた。
 そのせいか、なんとなく計算高そうな印象を与える容貌である。
「僕は麻生春秋。もう手を下ろしてもいいかな?」
「……ああ」
 春秋と名乗った少年は、時紀の構えていた鎌を見て軽く苦笑すると、手を下ろした。
 その手に何も握られてないことを確認して、時紀と沙耶はようやく警戒を解く。
「……ところで、三人ならもう一人いるんじゃないの?」
 春秋が二人に訊いた。
「……あ」
「……あ」
 時紀と沙耶は異口同音に言い、観鈴が寝ている場所を見る。

「にはは、往人さん……おかあさん……」
 未だに緊張の解けない三人の傍らで、観鈴は幸せそうな表情を浮かべ、全く緊張感のない寝言を漏らしていた……。


【031木田時紀 鎌】
【094宮路沙耶 南部十四年式(残弾9)】
【023神尾観鈴 けろぴーのぬいぐるみ】
【003麻生春秋】
【ボウガン(残弾5)は近くに転がってます】

【時刻:夜明け前】
291 ◆PnwVttXh0I :04/05/19 05:53 ID:wu65tlo+
すみません、289と290の間に下の二つが入ります……。

(俺も大分無茶なことを言ってるな……)
(会ったばかり、いや、まだ声だけで、会ってもいない人間を信用しろだなんて……)
少しの沈黙の後、
「……そっちは何人いるの?」
という声が聞こえた。
若干高めだが男の声だろう。
「……三人だ」
再びいくらかの沈黙。
 そして。
「そっか、じゃ、僕に勝ち目はなさそうだね……。降参。投降するよ……。でも、油断した瞬間に襲いかかる、なんてことはしないでよ?」
 その言葉を聞き、戦わずに済みそうなことを安心した時紀だったが。
「……待って」
 沙耶はまだ納得できないようだった。
「アンタ、これまでに誰か殺した?」
 時紀と出会ったときにもしていた質問を、木の裏の相手に投げかける。
「……その声はシャープネスの人だね?」
 時紀にはよく分からない質問が返ってきた。
292 ◆PnwVttXh0I :04/05/19 05:56 ID:wu65tlo+
(……シャープネス?)
 二人は知り合いなんだろうか。
「質問してるのはこっち。……どうなの、殺したの?」
 その質問は、たとえ相手が知り合いだとしても関係ないらしい。
 毅然とした態度で答えを促す。
「……いや、まだ誰も殺してないよ。信じてもらえるかどうかは、分からないけど」
「……そう」
 相手の返事は時紀を安心させた。
 もし既に誰かを殺した人間だとしたら、そいつをどう扱えばいいかわからない。
 そしてそいつが殺したのが自分の知り合いだとしたら……。
(そういや恵美梨や功は無事かな……)
 妹と悪友の顔を思い浮かべる。
「……で、どうすればいいのかな?」
 木の裏からの言葉で我に返る。
「とりあえず武器は捨てるよ?」
 時紀達は別にそこまで要求していなかったが、相手は持っていた武器を投げ捨てた。
 それは時紀の二メートルほど前に落下する。
 ……ボウガンだった。
(鎌じゃ勝てなかっただろうな……)
「じゃ、出ていってもいいかな」
「……よし、ゆっくりとこっちに来い」
 相手が他にも武器を持っているかは分からないが、いちいち疑っていたら埒があかない。
 それに、妙な動きを見せたら沙耶が撃つだろう。
293春原陽平(1/3):04/05/19 08:30 ID:1JzDUa5p
「なんでだよ…」
彼には何がどうなったのか理解できなかった。
確かに敵の動きは止めたはずだ。
だが、敵は平然と動いている。
よく見て見ると敵の足からは金属質の何かが覗いている。
(ロボット!?)
そう、敵は人間ではなかったのだ。
(そんなのって・・・ありかよ?)
彼は背中、腹部と左肩の痛みで意識が朦朧としていた。
敵が刃物をもち、ゆっくりと近づいてくるのが見える。
彼はただ無邪気だった頃・・・もう戻れはしない日常を思い出していた。
294春原陽平(2/3):04/05/19 08:31 ID:1JzDUa5p
彼にとって、一番の親友、岡崎朋也とすごした日々。
(そういえば、初めて合ったときのあいつ、アホみたいに笑ってたなぁ)
目立つ下級生、智代にちょっかいを出しては、返り討ちにあったこと。
(智代ちゃん、手加減とかしないんだもんなぁ・・・)
男と分かっていながらも柊ちゃんを諦められなかったこと。
(・・・あのときの僕はどうかしてた)
芽衣を騙すために早苗さんに恋人の振りをしてもらったこと。
(早苗さん・・・良い匂いがしたなぁ、あんなにやさしい人が本当に彼女だったら良かったのになぁ)
彼の住む部屋の寮母、美佐枝さんのこと。
(おっぱい・・・見たかった)
ヒトデ好きの不思議な下級生、風子と鵺(ぬえ)を彫刻でどっちが上手か競争したこと。
(あれは、絶対僕の勝ちだったはずだ、怪我さえ・・・怪我さえしなければっ)
杏に告白された日のこと
(あいつも僕の立場考える余裕とかなかったんだろうな・・・岡崎・・・あんた、うらやましいッス)
いつも笑顔だった有紀寧に春原コーヒーをいれられたこと。
(僕って・・・ろくな思い出ないんですかねぇ!)
渚ちゃんと合唱部の奴らを見返すためにバスケに一生懸命になったこと。
(渚ちゃんのおかげで、一つのことに夢中になれたんだよな・・・)

そして――芽衣をいじめる胸くそ悪いサッカー部の連中を、親友と二人でぶちのめした日のこと。
(芽衣をいじめる奴は、いつだって僕と岡崎がやっつけてやる)
一瞬のことだった。死に際に見る走馬灯という奴だろう。
295春原陽平(3/3):04/05/19 08:31 ID:1JzDUa5p
意識が目に前の敵に戻ると、もう敵はすぐ目の前にいた。
怖かった。死にたくなかった。泣き叫んで命乞いをしたかった。
――だが、ここで声を上げたら芽衣が戻ってくるかもしれない。
(そんなかっこ悪いこと・・・出来ないよな)

彼は願った
(岡崎・・・芽衣のことは、お前に任せる、お前なら・・・何とかしてくれるって信じてる)

そして死神が刃物を振りかぶる。




(ごめんな…やくそく、だめだった)

【団欒の終焉の春原一人称視点】
296288修正 ◆PnwVttXh0I :04/05/19 11:33 ID:wu65tlo+
 伏見修二の死体を埋葬し終えた時紀達は、野宿に適した場所を探して森の中をさまよっていた。
 疲れているためか、さっきまでは頻繁に口を開いていた観鈴も、今は黙って時紀の後ろについてきている。
 沙耶もその更に後ろで、時折物思いに耽るように立ち止まりながら歩いていた。
 通り雨があったせいで、木も下草も湿っている。
 横になるのは無理だとしても、どこか地面の乾いたところで座って休むくらいのことはしたかった。
(にしても……)
(さっきの男の死体、妙に綺麗だったな)
 修二の死体に人と争ったような形跡はなく、腹部以外に目立った外傷はなかった。
(背後から忍び寄って振り返ったところを一突き、ってのは考えにくいだろうな)
(とすると……)
 だまし討ち。
 そう考えるのが自然だった。
 敵意がないフリをして近づき、油断したところをブスリ。
(…………)
 気が滅入る。
 いったい誰を信じていいのか。
(……!!)
 立ち止まり、慌てて振り向く。
 後ろを歩いている二人のどちらかが、今まさに自分を殺そうとしているのではないかと夢想して。
「ど、どうしたの?」
「……なに、いきなり」
 二人は突然振り返った時紀に怪訝な視線を向ける。
 無論、時紀を殺そうなどとしていなかった。
「……いや、なんでもねーよ」
 そう言って再び歩き出す。
 出来る限り、平静を装って。
(……落ち着け)
(こんなことで疑心暗鬼になってたら、主催者の思うつぼだ)
 考えながら無意識にポケットを探ってしまうのが悲しい。
 この島に来る前も煙草を吸っていたが、こんなにも切実に煙草が欲しいと思ったのは、初めてだった。
297皐月と智代:04/05/19 15:39 ID:TKsPpi4w
――芳野祐介が丁度二階へと上がった同時刻――

カタカタカタ――タン!
智代は芳野の経歴をすべて読み終えると、それを封じ込めるかのようにキーボードのスペースを強く叩いた。
続いてプリンタを再び起動させ、マウスカーソルを動かす。

念の為、芳野祐介の顔写真もプリントアウトする。
今のそれは、先にプリントアウトした岡崎朋也や那須宗一の画像を印刷したのとはまったく意図は違う。
芳野祐介。一緒に行動すべきではない人間の一人。
カッカッと軽快な機械音と共にプリンタから少しずつ芳野の姿が排出される。
旧型のプリンタである為、少々その動作は遅い。
手持ち無沙汰に外を見やる。いい天気だった。夜半に雨が降ったとは思えないくらい。
(こんな日に、こんな所にいるのはまったくもってもったいないな……)
漠然と、そんな場違いな事を考えながら、平穏な日常を懐かしむようにすっと目を細めた。
(帰りたいな。あの日の当たる場所に)
その為の算段として、どんなことをすればいいのだろうか。
素人目にみても、簡単に脱出できるような状況ではない。
まさしく八方塞がりだった。
「あのー……」
突然、入り口の方から声が聞こえた。まったく知らぬ聞き覚えもない人の声。
「――!!」
張り詰めるような緊張感を全身に巡らせつつ、そちらへ振り向いた。
298皐月と智代:04/05/19 15:40 ID:TKsPpi4w
皐月と主は、階段をそのまま通り過ぎた。一階へと留まる。
チラリと見えた人影。男。銃を手に、こちらを見るやすっと物陰に消えた男。
男はどこへ行ったのか。ゆっくりと警戒しながら進む。
彼女の勘は、なかなかに鋭い。世界一の称号を持つエージェント、宗一や
ID13の地獄の雌狐、リサもお墨付きのその勘の鋭さは、こんな時にでも鈍ってなかった。

あの男は、なにか危険だ。
見た目、装備、皐月を見た瞬間の行動からして、人畜無害には見えないがそれだけじゃない。
殺気といえばいいのか、怒気といえばいいのか、そんな冷たいオーラみたいなものを感じ取っていた。
逃げろ、と心が警報を鳴らしもしたが、そうはしなかった。
そこに至るまでにはいろんな思いがあったが、簡単に一言でいうならば。
それも、一つの勘だ。

これから自分はどうすべきか。
皐月はカタカタとキーボードの鳴り続いていた通路へと目を向けた。つまり、一階だ。
皐月がどうしたいにしろ、その動物的勘はひとまずは正しかったといえる。
階段を上って二階へと行けば、もうそれだけで無事には済まなかっただろう。
或いは。その無事で済まぬは芳野であったかもしれないが、もうそれは誰にも分からないことだ。


しきりに辺りを気にしつつも、抜き足差し足忍び足。
主も案外、皐月の気持ちを分かってくれている。物音を立てずに行動してくれる。頼もしいことだ。
やがてはあるひとつの扉の近くにまでやってくる。
ほんのわずか、扉は開いていた。
中からは、すでにカタカタというタイプ音ではなく、カツカツというプリンタの音が漏れていた。
背後を警戒しつつ、そっとそこから中を窺う。
中にいるのがあの男で、いきなりドン!なんてことがあっては一大事。
即座に逃走できるように、全身を弛緩し、バネを溜め、目をぎょろりと回した。
299皐月と智代:04/05/19 15:40 ID:TKsPpi4w
中にいたのはあの男ではなかった。女の子だ。利発そうな眼鏡っ子だった。
ただ、どこか憂いを帯びている。
少し思考し、さっと決断。
よし、声をかけよう。
篁を倒すなら、危険な橋だって渡らねば。逃げるだけでは何も解決しない。
できればその前に橋を叩いておきたいものだが。
「あのー……」
いつでも離脱できるようにだけはして、そっと声をかける。ほんの少し、扉を開く。
「――!!」
時が止まった。微妙な空気だ。ニコッと愛想笑いを浮かべてみる。……無反応だった。
うーん、困った。いつもだったらバッガッダッ!っで一呼吸の内に仲良くしてみせるのだが。
今回は状況が状況だけに、それだけで信頼を得るには難しい。
それに――自分よりもむしろ、パートナーの主に目を向けられている気がする。
ああ、初めて見たら、そりゃみんな驚く。自分だって食われるかと思ったし。などと皐月は頭を捻った。
「えと、眼鏡、似合うよ? ……」
って何を言ってるのか。ああ、とんだ恥さらしだ。わずかに顔が紅潮する。
室内にいた女の子は、きょとんと、一瞬何が起こったか分からないようなそんな呆けた表情で目をパチクリさせた後、
「これは、伊達だ。視力はいいぞ」
不敵に笑って見せた。その微笑みに、はじめて見た時の憂いを帯びた感情はない。
「あ、そうなの?」
「お前は、面白いな」
彼女は完全に警戒を解いた――とまではまだ行ってないようだが。
一応、話は通じる人物だ、と皐月は考える。
「一人なの?」
「……そうだな。一人は寂しい」
少し考えて、そう言った。
「坂上智代。あなたは?」
「えっ、あ、そうか。湯浅皐月。この子はトンヌラ。っても私がつけただけで別に本当の名前じゃないけど。
 おとなしいし、ちょっと見た目怖いけどよく見ると可愛いし。……害はないよ?」
本当はある。
300皐月と智代:04/05/19 15:46 ID:R0v1lubw
「えと、智代さん――」
「智代でいいぞ。堅苦しいのは苦手なんだ。できればこちらも皐月と呼ばせてもらえると嬉しい」
「ん。分かった。智代、今は何を?」
ゲームに乗った?とは聞かなかった。脱出考えてる?とも篁をぶっ潰したい?とも。
「いろいろだ。いろいろ頑張らなければならないことがある。――この男とか」
親指で、プリンターを指した。もうそろそろプリントアウトも終わりだ。芳野祐介の顔写真があった。
「……」
その指に導かれ、その男の顔を凝視する。
そう。皐月にも見覚えがある。かつてテレビで見た、酒と薬に溺れ、消えていった悲劇のミュージシャン。
確か、芸名は芳野祐介。恐らく本名も同じであったはずだ。詳しいことは知らないが。
そして。
「さっき見たよ。最初はてっきり、智代と一緒にいる人かと思ってたけど」
プリントアウトした芳野の顔写真を手にとって、皐月が呟く。
「……なんだって?」
智代を見た時と違い、皐月の心が警報を鳴らした人物。
少し話しただけでも今なら分かる。この智代とは全然波長が合わぬ、まるで別世界の人間だ。
智代とその男は一緒にはいない。
「今、この学校にいる」
ザワリと風が鳴った気がした。


【095 湯浅皐月 主(トンヌラ) 騎乗中】
【038 坂上智代 所持品 CD 鋏 眼鏡】
301皐月と智代作者:04/05/19 17:07 ID:R0v1lubw
少々訂正。

>>299
×「これは、伊達だ。視力はいいぞ」
○「「これは、伊達だ。視力はあんまりよくはないが」

指摘がありましたので訂正させて頂きます。
302別離、そして邂逅:04/05/19 18:54 ID:ztaZ0sOW
「うにゅ・・・あさ・・・?」
名雪が目を覚ますと、そこは見慣れた自分の部屋ではなかった。
(あれ・・・ここはどこ・・・?)
あたりをみまわす。そこで彼女の思考は停止した。
彼女の目に真っ先に入ったものは首。それも、見覚えのある顔であった。よく見ると首の周りのシーツが赤く染まっている。
(うそだよね・・・・春原君のいたずらだよね・・うん、そうに決まってる。)
そう考え首を持つ。途端、流れ出す鮮血。
「ひっ!」
名雪は反射的に首を窓の外に投げ捨てた。
そして自分が寝ている間に何が起こったかを理解した名雪は耳をふさいで部屋の隅でガタガタ震えていた。
(怖い・・怖いよ!)
(助けて、お母さん!)
(死にたくない!)
(こんなむごい死に方なんてしたくない!)
名雪の思考は同じところを延々とループしていた・・


岡崎朋也は芳野祐介を探していた。
(どこにいやがる、芳野ォ!)
智代に治療してもらったとはいえ、体の節々が痛む。普段の朋也ならば無理に動く事はしなかっただろう。
だが、今の朋也を突き動かしているのは芳野に対する憎悪、ただそれのみであった。
(必ず殺す)
しばらく歩いた後、とりあえず武器を調達するために入った民家から出た矢先、突然空から降ってきた何かが朋也の体を掠めた。
反射的に彼はその物体に目をやる。途端、絶句。
「おい・・・・嘘だろ・・・・・」
それは春原の首であった。
303別離、そして邂逅:04/05/19 18:55 ID:ztaZ0sOW
「ははは、お前何やってんだよ。いくらお前が人外生物だからといっても、首まで飛ばせるとは知らなかったぞ。」
「・・・・・・・」
「そうだ。俺ついにヤレたんだぜ。しかも相手はあの杏だ。とても気持ちよかったぞ。どうだ、うらやましいだろ?もてない春原君」
「・・・・・・・・」
「お前のいつも聞いてるあの曲、マジにダサいぞ。そうだ、俺がもっとイケてるラップを考えて録音しておいてやるよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「何か・・・・何か言えよ・・・・・」
「頼む、言ってくれ・・・・・」
「いってくれぇー!」
しかし、朋也の悲痛な叫びも虚しく春原は相変わらず黙り込んだまま。うんともすんとも言わない。
ようやく親友の無残な死を理解した朋也は
「う、う、うわぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・」
泣いた。涙が枯れるまで泣いた。





不意に前を向くと、窓が空いている家があった。それは春原の首が飛んできた方角でもあった。
朋也は首があの窓から投げられたのだと直感した。
「あそこの奴か!あいつが春原を!」
朋也は今しがた民家で仕入れた包丁を構えると、民家に突入して行った
そして春原の首が投げられたであろう部屋の前に。
(絶対に殺してやる!)
そう意気込んで部屋に突入した朋也であったが・・
中にいたのは・・・
(えっ・・・杏・・・・?)
304別離、そして邂逅:04/05/19 18:56 ID:ztaZ0sOW
中で見たのは枕元が赤く塗れたベッドに洋服ダンス、未開封のバッグにそして突然の朋也の突入で恐慌状態になった杏似の女がいた・・
杏似の女に一瞬意識を奪われた朋也であったが、すぐに目的を思い出した。暴れる女を押さえつけ、そして首本に包丁を突きつけ
「おい、金髪の男を殺したのはお前の仕業か?!答えやがれ!」
と聞いた。
女の子もこうされることによって少しは正気に戻ったのか、
「し・・しらないよ・・・・わたしがおきたら・・春原くんの首が枕元に・・・・それで・・怖くなって・・・」
「嘘付け!お前が殺したんだろ!」
「ほ、ほんとだよ。な、なにもわからないんだよ・・・・・」
怯えたようにしゃべる女の様子を見て朋也は考えた。
(こいつ・・まさかほんとに知らないのか・・・・?)
そして気づく。
「そういやなんで春原を知ってるんだ?」
「い、一緒に行動してたの・・・・」
そういって女の子は昨日の自分の行動を説明し始めた。
ひたすら走ってたときに春原と会った事、一緒に行動するようになったこと、第一回目の放送で自分と春原の知り合いが二人も死んでいることを
知りショックを受けたところを芽衣ちゃんに慰められた事、そして昨日の自分の意識は野原で途切れたにもかかわらず、目覚めたらベッドにいた事
をたどたどしい口調で説明した。
「じゃあ殺したのはお前じゃないんだな?」
「う、うん。」
「そうか、わかった。」
そういって朋也は女を押さえつけるのをやめ、包丁を下げた。
「名前は?」
「えっ?」
「あんたの名前だよ。」
「私は・・水瀬名雪です。」
「そうか。俺は岡崎朋也だ。呼ぶ時は好きに呼んでくれたらいい。」

【朋也、名雪と出会う】
【朋也の所持品 包丁、ダンボール、英和辞典 】
【時間は午前10時ごろ】
305名無しさんだよもん:04/05/19 20:17 ID:tysaoqAl
現在マーダーって 芳野、しのぶ、澪に後はカルラに長瀬ちゃんくらいか?(祐介が二人いて紛らわしい)
306一人の森、二人の世界:04/05/19 20:23 ID:hgrwmL1o
周りを警戒しつつ、ベナウィ(082)は森の中を歩いていた。
(皆はどこにいるのでしょうか)
いまだ見つからぬ仲間たちのことに思いをはせつつ、歩みを進める。
────と、そのとき。
「────────」
「────────」
だんだんと近づいてくる声。何かを叫んでいるようだ。
その声はだんだんこちらへと近づいてきている。
(何事です!?)
とっさに槍を構える。が────
「わたしのパンなんて・・・っ、わたしのパンなんてーーーーーーーーーーー!!!」
「俺はっ・・・俺は大好きだコンチクショーーーーーーーー!!」
向こう側から姿を現したのは一組の男女。
古河秋生(079)と古河早苗(080)だった。
(・・・あれは何なのでしょう)
呆然としながら、ベナウィはそれを見ていた。

(声をかけて、注意するべきなのでしょうか・・・?)
大声で叫びながら、走っている二人。
・・・あれでは、居場所を自らさらしているようなものだ。
このままでは、おそらく二人は攻撃の標的になってしまう恐れがある。
しかし、攻撃されない・・・という確信はなかった。
(あれがもしも油断させる作戦であるなら・・・)
悩んでいるうちにも、彼らは止まることなくこちらへと走ってくる。

【082 ベナウィ 槍(自分の物)、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード】
【079 古河秋生 古河早苗特製パン 4個、古河秋生専用金属バット、硬式ボール10球】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、所持品はすべて秋生が預っている】
【時刻:午前8時40分頃】
 ざざぁ…ざざぁ…
 カァ、カァ、カァ…

 潮の漣の音と水鳥の鳴き声が微かに届く、海の家。
 屋根からぽたりと落ちる雫は、音を立てることなく地面に吸い込まれていく。
 雨が上がった後の眩しい朝陽が、海の向こうからそれを照らし出す。
 その中で、四人の人間が寝ていた。
「負けた…なんか知らんが俺は負けた…」
「ワッフルが、ワッフルがぁ…」
「お母さん…あのジャムはだめです…」
「ハクオロさん…助けて…」
 ――訂正。その四人は寝ているのではなく、昏倒していた。
 六時間程前に強烈な毒物コンボを食らって倒れた、北川潤・広瀬真希・古河渚・エルルゥの四人である。
 寝言ではなくうわ言が、静かな家の外まで聞こえてくる。
 そんな四人の中で真っ先に目を覚ましたのは、薬膳をする身として比較的味覚のダメージに強いエルルゥだった。

「ん…」
 瞼を開けたとたん、窓からの陽光に目を射貫かれる。
「朝…か…」
 むくりと体を起こして、エルルゥは周りを見渡した。
 ――ある意味非常に凄惨たる光景だったことは、この際気にしないことにする。
(えーっと…)
 昨夜の事を思い出す。
(…昨日は確か、北川さんと広瀬さんがここに来て…で、渚さんが持ってたあの「じゃむ」と「わっふる」を食べて…)
 と、そこまで考えて慌てて首を振った。
 口の中に、再びあの味が広がってしまう気がして。
(…忘れよう、うん)
 固く頷いて、立ち上がる。
 そして、窓の外を見て。
(朝ご飯の準備の前に…少しぐらい、いいよね)
 エルルゥは、静かに戸口まで歩いていった。


「うわぁ…」
 エルルゥは広がる海を見て、昨日に続く二度目の感嘆の声を上げた。戸口からだとやや遠いが、そんなことなど全く問題ないくらい心を奪われる。
 もっとも、正確に言うとその光景は二度目ではない。
 斜めに降り注ぐ陽光が水面に反射してきらきらと光っており、浜辺から少し離れたところでは水鳥の群れが長い影を作っている。
 聞こえるのは、波の音、鳥の鳴き声。
 それら全てが、自分の目に広がっている。
 昨日初めて見たとき以上の、美しい光景だった。
「……」
 呆けたように、その光景に見とれる。
 朝の到来を実感させるそれは、エルルゥにとっては新鮮だった。
「綺麗…」
 エルルゥは呟いた。
 それを見ていると、今までのことが全て嘘のように思えてきた。
 血のにおい、爆音、叫び声。
 直接見ずとも感じた全ての記憶が、浄化される。
 ――この島にも、こんなに綺麗な光景がある。
 これさえ見せれば、皆殺し合いなんか止めてくれる。
 そんな気がした。
 その海はそれぐらい、エルルゥの目に美しく映っていた。
 見ているときは――現実を忘れられる。
 悲しい、現実を。

(みんなが起きたら、これを見せてあげよう…)
(きっと、綺麗だって言ってくれる…)
(渚さんも、北川さんも、広瀬さんも…)


(でも…やっぱり、一番一緒に見たいのは…)

 ゾクッ――

 その時、甘い夢を見ていたエルルゥの体に、急に悪寒が走った。
「えっ…!?」
 そこで、意識は現実に引き戻される。
(何、今の…)
 エルルゥは不安げに、きょろきょろと辺りを見回す。
 家の中では、相変わらず三人がうわ言を言いながら伸びている。
 輝いている海は、波の強さを増している。
 そして水鳥の群れは、いつのまにか移動していた。
(今のは…?)
 今――自分は、海を見ながら考えていた。
 みんなと一緒に、この海を見たいと。
 でも。
 一番一緒に見たいのは。
 一番、傍にいて欲しいのは。

 ゾクッ――

 再び、悪寒。
(また…)
 エルルゥは体を縮こまらせた。

 物凄く、嫌な予感がする。

(そんな…でも…)
 自分が。
(そんなこと…)
 一番、傍にいて欲しいのは。


「…ハクオロさん?」

 思わずそう呟いた、その時――
 ――放送が、聞こえた。


 波が、更に激しさを増す。
 その強くなった漣の音を背に、鳥達は飛んでいく。
 水鳥が去った後の朝陽は、どこか物悲しい。


【011 エルルゥ 所有物:乳鉢セット 薬草類 バッグ】
【030 北川潤 所有物:便座カバー メリケン粉5kg×2】
【072 広瀬真希 所有物:メリケン粉5kg, 『超』『魁』ジッポライター】
【081 古河渚 所有物:謎ジャム、練乳ワッフル】
【時間:定時放送直前】
311新造人間:04/05/19 21:32 ID:8PfztU4w
「ミコト。イザナミノミコト。かたかなみっつでミコト。呼ぶときはミコトちゃん」

赤ん坊をカミュはそう名づけた。
彼女の頭に最初に思い浮かんだのがその名だったのだ。
「ミコトか……いい名だな……」
オボロも異論はないようだ、カミュの腕の中のミコトに話しかける。

蝉丸は船から聞こえてくる2人の会話を夕暮れの浜辺で釣竿を垂らしながら黙って聞いていた。
支給品のパンと水もまだ残ってはいる。
船に帰ってきた時に網と釣竿に掛かっていた魚も数匹いたが、4人分の食料としては心もとない。
戦闘による傷で血が少なくなっているオボロ、蝉丸はもとより
生まれて間もない赤ん坊には何よりも栄養が必要だ、食料の調達は必須だった。

(来たか……)
針に一匹の魚が寄ってくる、しばらくは針の周りを警戒しつつ巡回していた。
やがて餌の誘惑に負けたのか、魚は針に付いた虫に喰いつこうとしている。

(今だ!)
魚の口が餌に触れようとした刹那―――

「オギャア! オギャア!」
(む!?)
急な赤ん坊の泣き声で、蝉丸の竿を上げる手が一瞬遅れる。
魚はその隙に逃げてしまった。
蝉丸は竿を置き、船のほうに向かった。
「…………どうした?」
見れば2人がミコトを必死にあやしている。
312新造人間:04/05/19 21:33 ID:8PfztU4w
お腹が空いたのかとカミュは思い、パンを飲み込みやすいようにと咀嚼し、水と共にミコトの口に入れた。
だが泣き止まない、パンと水では駄目らしい。

「ど、ど、どうしよ!?」
「むう……やはり赤子にとって一番必要なものと言えば……」
蝉丸はミコトからカミュへと視線を移す。

「母乳か」
「母乳だな」
2人の視線がカミュの胸元に集まる。
「えっ? えっ? えっ?」
自分に何を期待されてるかわかり、戸惑うカミュ。
「それだけ立派なモンがついてるんだ、母乳ぐらい出るだろう」
「出ないってばぁ〜〜〜!」
「確かにな、俺が昨夜吸ったときには、出なかったが……
 なせばなる、なせねばならぬ何事もだ
 大人では無理だが、赤子の吸引では出るやもしれん」
「蝉丸おじ様、どさくさにまぎれてものすごいこと言ってないっ!?」
ミコトよりも大きな声で叫びだすカミュ。

その時―――

「そこまでですの!」
突如聞こえてくる声。
313新造人間:04/05/19 21:34 ID:8PfztU4w
(しまった―――)
蝉丸は自分の失敗を悔やんだ。
このように大声で騒げば、誰かに発見されてしまうことは当然のことなのだ。
浜辺を見る、黒髪長髪、袴姿の少女が立ち、アビスボートの蝉丸たちを見上げていた。
必死で走って来たのだろうか、息が荒い。
両手に持っているのはトンファーだろうか?

「いたいけな少女と赤ちゃんを泣かせるなんて……
 あなた達はこのゲームに乗った悪の秘密結社の戦闘員ですのね!
 その子たちを解放するですの!」
「まあ待て、これはちょっとした誤解だ……」
蝉丸は、少女の方から意識を切らずに、木刀を持つ。
「もしもの時にはこれはお前が使え」
蝉丸はオボロに果物ナイフと短刀を預ける、話によれば彼は弐刀流の使い手とのことだ。
今の身体ではほとんどまともに戦闘はできないだろうが
それでも本来の戦闘スタイルになれば、最大限の実力を発揮できるだろう。
「お前たちとその子はそこにいろ」
蝉丸は3人を制し、船を下りる。

口ではカミュとミコトを助けるようなとは言っているが
出会ったばかりの人間だ、その後本当に危害を加えないという保証は無い。
誰にも指を触れさせない、護ると決めた以上は簡単に信用して引き渡すわけにはいかないのだ。
自身の身体を見る、深刻な深さのものこそ無いが、夥しい数の傷痕だ。
(満身創痍の身体だが、この戦争が終わるまでは持ってくれ……)
314新造人間:04/05/19 21:34 ID:8PfztU4w
浜辺で対峙する2人。

「どうしても…………離す気はないんですの?」
「ああ……」
「わかりましたの……
 たった一つの命を捨てて、生まれ変わった不死身の体
 鉄の悪魔をたたいて砕く!
 すばるがやらねば誰がやる! 覚悟ですの!」

浜辺を蹴り、殴り掛かかるすばる。

痛みの上に、重ねられる痛み。
疲労の上に、重ねられる疲労。
すばるはかなりの使い手だった、トンファーによる攻撃を木刀で防ぎながら蝉丸は思う。

(このような真っ直ぐな戦いができる者が、悪人のはずが無い)
(どうにかして、説得させねば―――)

そう感じ、木刀ですばるの手のトンファーを叩き落とそうとたときだった。
「大影流合気術―――」
すばるはトンファーを捨て、蝉丸の手首と服を掴むと
「流牙旋風投げッ!」
蝉丸の大きな身体を宙に舞わせた。
(合気ッッ!? ここにきて……ッッ!)
空中で2回転し、砂浜に叩きつけられる蝉丸。
315新造人間:04/05/19 21:35 ID:8PfztU4w
かろうじて受身は取ったものの、全身を強打し立ち上がるのもやっとであった。

(今のをもう一撃受ければ―――)

しかし、すばるには最早追撃をしてこなかった。

「どうした……?」
「あなたは……悪い人じゃないですの。
 もし、すばるに対して本気で襲い掛かってきていたのなら
 その程度のダメージで済むはずないですの」

合気とは危害を加えようとする敵の力を、そのまま自分の力へと変換し敵へ返す。
敵の加える攻撃の力が強大であればあるほど、敵自身に返る力は強大になってしまう。
蝉丸も合気道は取得しているので、そのことは瞬時に理解した。
「……単に、もう力が無かったのかもだけかも知れんぞ」
「それに、その目……その目は正義の味方しかできない目ですの!」
(お前もな)
蝉丸は自分よりも遥かに純粋な目をした少女を見て、そう呟いた。
「なんにせよ、わかってくれたようで何よりだ……」
316新造人間:04/05/19 21:36 ID:8PfztU4w
その時、泣き声に気付き
「助けを呼ぶ声がしますの!」
と、急に海のほうに駆け出したすばるから遅れること数分。
慣れない獣道を走って、ようやく追いつく人影があった。

その人物に気付いた船の中のカミュが叫ぶ。
「……お姉さま!?」
彼女はその呼びかけに答える
「―――カミュ?」

【37 坂神蝉丸 切り傷 打撲が二十数箇所 所持品 木刀】
【16 オボロ 右足に負傷 左脇腹打撲、及び肋骨数本骨折  所持品 果物ナイフ 短刀】
【25 カミュ 所持品 気配を消す装置 ハクオロの仮面 ユズハの服 ミコト】
【86 御影すばる 所持品 トンファー グレネード残り2個(殺傷力は無いがスタン効果とチャフ効果を合わせ持つ) 小さなスケブ ペン いくつかの似顔絵(うたわれキャラのもの)】
【09 ウルトリィ 所持品 ハクオロ?の似顔絵】
【アビスボートで出会う、時間は午後5時くらい】
317生きるということ:04/05/19 21:47 ID:0YPUZJ2r
「……もうなくなっちゃったな」
 藤井冬弥(73番)は須磨寺雪緒(50番)と遅い朝食を摂った。
 正確な時間は分からなかったが、日が結構高く昇ってきている辺りあまり早い時間とは言えない。
 二人ともなるべく節約していただが、とうとう最後の食料が尽きた。
 いや、今まで良く持ったというべきだろう。二人はあまり行動していないということもあったが、
 他の参加者の中には、もう自分の食料を全て消費してしまった者もいる。
「とにかく、食べられる物を探さないといけないわね」
 食料採集。生きていく上で食物は必要不可欠だ。この島においてもそれは例外ではない。
 唯一つ違う点を上げるとするなら、それに危険が伴うところである。
「丁度よく食べられる木の実が生っている木とかあればいいんだけどな」
「……そんな都合のいいことがあるわけが無いわ」
 この二人には、別の参加者と決定的に違う点があった。
 それは、殆ど場所の移動をしていなく、施設らしい施設を一度も目にしていない点である。
 一口に言えば情報不足。二人には最初のホール以外に人口の建造物があるか否かさえも把握できていない。
 そこら辺に生えている雑草の中には食べられるものもあるにはあるが、冬弥も雪緒もそういったサバイバルの知識は無く、
 逆に毒があるものに当たってはまずいと考え、雑草を調理するといった考えは却下された。それに調理器具さえない。
「人って、水さえあれば結構な日にちは持つらしいけれど?」
「冗談言うな。今の食事だって全然足りなくて腹の虫が鳴り出しそうなんだ。我慢できないって」
 それに、いつこの殺し合いが終わるか分からない。
 とにかく、二人は寝床として親しんだ海岸を離れることにした。
318生きるということ:04/05/19 21:48 ID:0YPUZJ2r
 海岸線を東へ慎重に二人は進む。
 森の中は確かに隠れるところはあるだろうが、同じ景色ばかりで方向が分かりにくい。
 同じところをぐるぐる回ってずっと森の中、という展開は避けたい。
 ならば、少しぐらい見通しがよくても迷う心配のあまり無い海岸線を進むに限るのだ。
「……あそこ、小屋があるわ」
 雪緒が指差す。たしかにその先、ぽつんと小屋が建っていた。
「そうだな。中には何もなさそうだが……」
「……昨日」
 雪緒は、呟くように言い始めた。
「海岸線に、足跡があったわ。それは東に向かっていて、今私たちが進んでいる方向も……」
「東だな」
 二人で顔を見合わせた。
 足跡の持ち主がここを訪れていない保証は、無い。そして、その人物がゲームに乗っていない保証も。
 自然と冷や汗が出てくる。先ほどまでは何でもなかった小屋の雰囲気が、今では不気味に感じる。
 冬弥は迷っていた。
 中の様子は、知っておきたい。食料があるかもしれない。だが、万一人がいれば……。
 冬弥が行くか行かぬか迷っていると、雪緒が足を進める。
「藤井さんは、ここで待っていて」
「え、お、おい!」
 冬弥を尻目に、小屋の近くまで近づいていく。
 冬弥は逆に取り残された形になった。冬弥は慌てて雪緒の後についていった。
319生きるということ:04/05/19 21:49 ID:0YPUZJ2r
 小屋に近づいてみると、話し声が聞こえる。
 いや、話し声というより言い争いに近い。そっと窓から中を覗きこんだ。
 窓の中は、二人には衝撃の強い光景だった。
 体格のいい青年に、ナイフ一本で切りかかる男。そして……死体、三つ。
 死体などそれまで見たことの無かった二人だ、その出血量に嘔吐感がこみ上げてくる。
(う、うげっ……)
 どこか甘えがあったかもしれない。今までのことは、嘘なんじゃないか。
 放送も出鱈目で、自分のように殺し合いなどしないものしかこの島にいないんじゃないか。
 そんな儚い期待も打ち破られる。殺し合いという、現実を突きつけられて。
 冬弥は、雪緒の手を掴んだ。掴んで、走った。がむしゃらに。
 小屋の中の者たちが自分らに気付いたかどうかはどうでもいい。とにかく、この場から離れたかった。
 小屋が見えなくなったところで雪緒の手を離し、やっと一息つく。
「やっぱり、皆生きるのに必死なのね」
 諦めにも似た、雪緒の言葉が聞こえる。
 そして、冬弥は生きるということを再確認した気がした。
 自分にああいったことができるのか? 答えは、もちろん否だ。
 他人の殺し合いを見て、恐怖で逃げ出してしまう自分が、人を殺すことなどどうして出来ようか。
 だが、殺さなければ殺される。生き残れるのは、たった二人。
 自分以外が全員同士討ち。そんなのは夢物語だ。やはり、生き残るには自分が手を染めるしか……無い。
 手が、わずかに震える。人を殺すことに、恐怖を感じる。改めて現実を突きつけられると、なおさらそうだった。
 冬弥は生き残りたいと考えている。それが、他人を手にかける事だということも分かっている。だが……
(俺は……本当に、人を殺せるのか?)
 迷いは、冬弥の心に残ったままである。

【50 須磨寺雪緒 所持品なし】
【73 藤井冬弥 所持品グロッグ17 弾残り11発】
【蝉丸とオボロの戦闘を目撃 午前中の出来事】
320嵐の前の……1/2 ◆gereKU42C6 :04/05/19 21:54 ID:axG23OTT
 冬弥たちの狙撃に失敗した晴香は森の中を駆けていた。
(ここまで来れば大丈夫かしら)
 一旦足を止め、振り向いて後ろを確認してみる。
 追っ手の姿は見えなかった。
(でもまさか、由依が死んでいたなんて)
 逃げている途中、篁の嫌な声が聞こえた。
 その中で晴香は由依の死を知った。
(やっぱ由依じゃここで生き残るのは無理だったみたいね)
 知り合いが死んだというのに晴香は冷静だった。
 自分はこんなにも冷酷な人間だったろうか。
 だが命を落とした者に対していちいち感情を抱いている暇はない、それが例え知り合いだったとしても。
 ここは殺し合いの場なのだ。
 次の瞬間には自分が死んでいるかもしれない。
 そして自分はこれから多くの人々を殺そうとしているのだ。
(良祐、待っててね)

 さらに進んで森の外れまでやってきた晴香は、焼け落ちた民家を発見した。
(誰かが放火でもしたのかしら……)
 しばらく焼け跡を探ったが特に何も見つからなかった。
(あら? あそこに見えるのは……)
 海岸のほうになにやら建物が見える。
 北川たちがいる海の家だ。
(少なくともここにいるよりはマシね)
 晴香は海の家へと歩を進めた。
(もし先客がいたら……邪魔するヤツは皆殺しよ)
321嵐の前の……2/2 ◆gereKU42C6 :04/05/19 21:55 ID:axG23OTT
 晴香は自分の後をつけている者がいることに気付いていなかった。
「ウーン、このまま後を追うべきか?」
 追跡者の正体はエディだった。
 彼はあの後森の中に潜伏していたが、晴香を発見して後を追ってきたのだ。
「それにしても、みんなどこにいるんだろうナ」
 晴香を発見する前に2回目の定時放送を聞いていたエディだったが、宗一たちは無事なようでほっとしていた。
(ウーン……)
 晴香が海の家に向かうのを見ながら、エディはこれからどうするべきか悩んでいた。


 晴香の他に海の家に向かう人影があった。
 足元はふらつきながらも、その目はしっかりと海の家を見据えている。
 なぜそこに向かっているのかはわからなかった。
 ただ、直感で人が集まっていそうな気がした。
 閃光弾の効果はとっくに切れていた。
 殺虫スプレーを顔面に受けてすこぶる気分は悪かったが。
 だが、もはや人格が壊れて元には戻りそうにない香里にはそんなことを考える思考は存在していなかった。
 当然、2回目の定時放送など、彼女の耳には入っていなかった。
 聞こえるのは、いるはずのない栞の声だけ。
「……そうよ。みーんな殺してやるんだから。そして栞とあたしだけが生き残るのよね? フフフ……」
 右手には果物ナイフが光っていた。

【091 巳間晴香 海の家へ ワルサーPP/PPK(残弾6発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ】
【010 エディ どうするか迷っている 盗聴器 先の尖った木の枝数本】
【087 美坂香里 海の家へ 果物ナイフ】
【2日目朝、定時放送から約30分後
322エディの推察:04/05/19 21:55 ID:O7NoF3e1
『諸君、昨晩はよく眠れたか? さて、ここまでの死亡者だが、
 6番、一ノ瀬ことみ。15番、緒方理奈。20番、柏木初音。29番、木田恵美梨。43番、沢渡真琴。
 45番、霜村功。49番、スフィー。54番、立川郁美。59番、ディー。60番、トウカ。61番、長岡志保。
 63番、名倉由依。67番、ハクオロ。70番、氷上シュン。75番、藤林杏。77番、伏見修二。
 92番、宮内レミィ。97番、ユズハ。99番、リアン。以上19名、生存者は70名だ。
 一日で三十人の大盛況、こちらとしては嬉しい限りである。これからもそのペースを落とさずに殺し合ってもらいたい』

「勝手なこと言ってラア」
 エディはしかめっ面で放送を聞き、そう一言だけ吐き捨てた。
 ここは島の南端、そしてエディの視線の先には東京タワーを100分の1に縮小したような塔が立っていた。遠目からなので
断定は出来ないが高さはおよそ3メートルほど、一見してただの電波塔に見える。
 だがエディはそれで片づけなかった。疑わしき物は全て疑うのが彼の仕事だからだ。
 昨夜燃える小屋から脱出しついでに森から抜けたとき目の前に広がってのは住宅街。その中にあった一軒の家で休息をとり
夜明け前に再び始動したエディは今までずっと海岸線に沿って移動していた。島の大体の大きさを把握しようと思ってのことだ。
 定期的に休みながら足を進め、時に人影をやり過ごしながらこの鉄塔を発見したとき、まるで計ったかのようにそこから
あの男の声が響き始めたのだ。
323エディの推察:04/05/19 21:56 ID:O7NoF3e1
 目の前の建物を睨み付けながらエディはゲーム開始前、ホールでの篁の言葉を思い返した。

『君らの能力は封じられている。特殊な結界を張らせてもらっていてね』
『諸君らの体内に、小型の爆弾を埋め込ませてもらった』
『島には管理者を数名降ろしてあるが』

 あの鉄塔がその「特殊な結界」とやらの起点かもしれない。そう考えてエディはふと考えた。そもそもその「結界」とは
どんなものなのか。あのラストリゾ−トをさらに改良した物だろうか。純粋なエネルギーで銃弾や鉄鋼を遮断する代物だ、
そうでなくてもあの篁、人の能力を封じるなんてトンデモ兵器の一つや二つ持ってても納得できそうだ。
(いや、確証もないのにそんなこと考えてもしょうがネエナ)
 頭を切り換える。
 体内にあるという爆弾。機能はそれだけではないだろう。すくなくとも発信器と盗聴器も内蔵されているはずだ。
そうでなければ死亡者がわかることや今持っている盗聴器が働いていることの説明が付かない。
 あの鉄塔はその忌々しいものの送受信装置として機能している、その可能性は高いとエディは踏んだ。
 それともう一つ、おそらく送電の役割も担っている。昨夜過ごした住宅街の様子を思い浮かべながら彼は顎を撫でつけた。
あの住宅街には何でもあったがただ一つ、普通のそれにあるはずの物がなかった。電信柱。そう、あそこには電線が
なかったのだ。
 ここからは見えないが送電室の様な場所があるかもしれない。そこを乗っ取り電気系統を乗っ取れば、一気にこちらに
形勢は傾く。篁のヤロウに一泡吹かせることが出来る。
 だがそんな場所を無防備に放っておくとは考えにくい。管理者と名乗る武装集団があそこを守っているに違いない。

 そしてエディは再び鉄塔を睨み付ける。
 彼が考え、そして出した結論は──
324エディの推察:04/05/19 21:58 ID:O7NoF3e1
「ダァメだ。ヤッパ情報が少なすぎる」
 天を仰ぐことだった。何しろ今までの推理は全てエディの憶測に過ぎない。全くの的外れと言うことも有りうるのだ。
そもそも武器も何もない状態で乗っ取るだの破壊するなど、そんなこと出来るはずもない。
「ソーイチか姐さんと合流するのが先決だナ。マッタク奴らどこでなにしてんだ」
 愚痴をぼやきながらエディは鉄塔に背を向け、海岸線沿って歩いていった。


【エディ、海岸線で鉄塔発見、だがそのまま立ち去る。知り合いの捜索】
【010エディ 装備:盗聴器 先の尖った木の枝数本】
【時間 第二回定時放送直後】
【鉄塔の場所は島の南端、地図で表すとハクオロたちのいた横穴と河口の中間あたり】
325名無しさんだよもん:04/05/19 22:08 ID:O7NoF3e1
「嵐の前の……」とかぶってしまったので>>322-324はNGということで進めて下さい。
お騒がせしました。
326名無しさんだよもん:04/05/19 23:02 ID:Z4TZkpuD
岡崎朋也は先ほど知り合った水瀬名雪と共に歩を進めていた。
「岡崎さん、どこに向かってるの?」
ずっと黙っていた名雪が話し掛けてくる。
「ああ、俺は芳野祐介って奴を探してるんだ。目の前で大切な人を…。俺はあいつを許す事なんてできない」
朋也の拳に力がこもる。
「………」
名雪はそれを黙って聞いている事しかできなかった
「だからそいつを探そうと思う、それでいいか?」
「……うん…」
そう言うのが精一杯だった。そしてまたしばらくの沈黙が続く。
間ができるとどうしてもさっきの事が頭をよぎる。変わり果ててしまったあいつの事を…
「……春原…」
何となく言葉が口から漏れる。と、
「呼んだか?岡崎」
急に横から名前を呼ばれる。振り向くとそこにいたのは
「お前、何シケたツラしてんだよ」
春原だった。
「す、春原!お前さっき…」
死んじまったじゃないか、という言葉は言えなかった。横の名雪は驚いて凍り付いているようだった。
「…無事だったのか?」
そんなわけは無いと頭ではわかっているが聞かずにはいられなかった。じゃなかったら今目の前にいるのは何なのか。
「あーそれなんだが気が付いたらここにいたんだよね」
と、笑いながら答える。どう考えてもおかしかったが春原がここにいる、それだけは事実だった。
「とりあえず無事だったんだな。良かった、あまり心臓に悪い事しないでくれ」
「いつも僕がおちょくられてばかりだったけど、初めてお前に一泡吹かせられたみたいだな」
「悪い冗談はこれきりにしてくれよ、ははっ」
二人で笑いあった。名雪はまだ固まったままだったが
「…ああ、これっきりだ」
「さて、じゃあ春原、まずはどこか行っちまった芽衣ちゃんを探そうぜ」
327親友2:04/05/19 23:04 ID:Z4TZkpuD
「ああ、その事だけどな」
春原の顔が真面目になる
「ん?」
「芽衣の事はお前に任せていいか?」
「…どういうことだ?」
「僕はちょっと一緒に行けないんだよね」
申し訳なさそうにそう言う。
「何言ってるんだよ、芽衣ちゃんを守るのはお前の役目だろ?」
「そうだよ。でも岡崎になら任せられると思ったんだ」
「俺をかってくれるのはありがたいんだが、やっぱお前の方がいいだろ」
「…僕には行かないと行けない所があるんだよね」
「芽衣ちゃんより大事な事なのか?」
「…僕だって行きたいよ!でも…無理なんだよ…」
「…どうしたんだよ春原、お前なんか変だぞ?」
朋也にかまわず春原は話を続ける
「だから僕が行く前に約束して欲しいんだ。芽衣を僕の代わりに守るって」
「…ああ、かまわないが。芽衣ちゃん可愛いしそれは全然OKだ」
朋也は不思議そうにしながらもそう答える。
「よかった、それだけが気がかりだった。そろそろ行かないと。岡崎、お前はどうか知らないけど僕は岡崎の事親友だと思ってたよ」
「え?春原?」
「さようなら親友、楽しかったよ」
春原がそこまで言うと周りに光が立ち込める
「春原?春原!」
朋也が叫ぶ。と、光が徐々に引いていった。
光がはれ、元に戻った時春原の姿はなかった。代わりにあったのは小さな光だった
328親友3:04/05/19 23:05 ID:Z4TZkpuD
「…すの…は…ら」
光に手を伸ばすと光は手のひらへ吸い込まれていった
(たのんだよ)
一瞬春原の声が聞こえたような気がしたがそれきり聞こえてくる事は無かった。
「………」
しばしの沈黙、そして
「…水瀬」
隣でまだ固まっている名雪へ声をかける
「え、あ、い、今のって…」
そんな事はわかるわけが無かった。しかし一つだけ言えることがあった
「芽衣ちゃんを探しに行こう、いいか?」
それが春原の願いだって事だ
「…もちろん、だよ」
名雪も快く承諾してくれた。そして朋也は手のひらを見つめる
「お前の前じゃ一度も言わなかったけどな、俺だってお前の事は親友だと思ってるさ」
空に向かってそう呟いた

【朋也は芳野を探す事よりも芽衣を探す事を優先】
【朋也の所持品 包丁、ダンボール、英和辞典 】
【名雪の所持品 後の書き手に依存】
329名無しさんだよもん:04/05/19 23:06 ID:Z4TZkpuD
>>326タイトル付け忘れました、親友1です
330招かれざる狩猟者:04/05/19 23:35 ID:AFaCy4kT
テーブルの上には野菜サラダにベーコンエッグ、バターの塗られたトーストとレトルトのコーンスープがそれぞれ二人分置かれていた。だが、それを食す二人──立田七海と牧村南の手は遅く、また食卓の雰囲気も些か沈んだものだった。
原因は勿論、目覚まし代わりに鳴り響いた二回目の定時放送──。

一回目の放送と同様、その放送では二人が見知った者の名前は流れなかったが、一日が経たぬ内に既に三十もの命が失われていたという実事は、充分に二人の心に陰を落としていた。
そして何より、見知った者の名前こそ無かったものの、聞き知った者の名前はそこにあったのだから。

「ベナウィさん……ハクオロさんに会えたんでしょうか」
「……」
七海のその問いかけに、南は言葉を返す事ができなかった。
いつもの南なら暖かい言葉の一つでも掛けて七海の心を軽くしようと努めていたであろうが、この島の現実が南の心にも重石となりのし掛かりそれを成す事はできなかった。

結局その後は重苦しい沈黙が続き、二人がすっかり冷めてしまった朝食を採り終えたのは随分と経ってからであった。
331招かれざる狩猟者:04/05/19 23:37 ID:AFaCy4kT
食事を終えて間もなく。七海はキッチンで先程使用した食器を洗い、南はリビングの窓から外の様子を眺めていた。
リビングには東西に大きな出窓が一つずつ存在し、現在南がいるのは東側の窓の方である。

二人が居るこの別荘は、まるで外界との隔絶を目的として建てられたかの如くの位置に存在していた。

まず、北側と西側は低いながらも断崖絶壁。見渡す限り蒼い海ばかりが広がっている。
南側と東側はひたすらに平らな枯れた大地。一応、南側には丘陵地帯が、東側には森林が見える事は見えるのだが、どちらもそこまでの距離は有に200m程はあり、その間には気紛れ程度に枯れ木が数本寂しげに存在しているだけ。
さながら、無の中心の有。それがこの別荘だった。

しかし、その“無”が存在するが故に、多くの参加者はその場で森から、或いはまさに別荘から他の参加者に狙撃される可能性を危惧し、この別荘に近付く事が無かった。

しかし裏を返せばこの別荘は、一度辿り着いてさえしまえば、接近する他の参加者を確実に発見できる優秀な行動拠点でもあった。

そしてその特性が故、南は今まさにこの別荘に接近してくる存在に気付く事ができた。
332翌朝に目が醒めて:04/05/19 23:38 ID:j4V4MdEP
「猪名川さん、体はもう痛まない?」
 洞窟内、懐中電灯のおぼろげな明かりが照らす僅かな空間の中には、小中大の3人の少女
の姿があった。川を下る途中に洞窟へ迷い込んだ猪名川由宇、そして、睡眠を取るため避難
してきた河島はるかとアルルゥの二人である。
 由宇とはるか達は昨晩偶然出会い、やや騒動気味な出会いで混乱こそしたものの、今はお
互いの目的のために協力し合う仲と言っても良い状態にまでなっていた。
由宇の目的は友人と共に生きて脱出する事であり、そして、はるかとアルルゥの目的もまた
同じだった。戦いを望んではいない。
 三人は即ち目的を同じとする仲間であると言えた。
「ああ、もう大丈夫や。細かい傷はカサブタが直してくれるやろ」
「そう? でも、無理は駄目よ。化膿したら大変だから」
「せやな、その言葉、肝に命じとくわ」
 現在、外界は朝である。日は昇り、獣の目の醒める時刻。
だが、洞窟内で一夜近く時間を過ごした三人には、その感覚が無い。
彼らの周囲の空間は狭く、暗く、ジメジメとしていて、懐中電灯の明かりですら眩しい。
はるか達の辿って来た道を戻りさえすれば明りも見えてくるだろうが、今、彼らがお互いを
認識しあっていられるのは一本のか細い光のおかげであった。
 その光の輪の隅、話し込む二人のすぐ横で、もぞもぞと動くものがいる。
「うぅん、はるかおね〜ちゃん…おはよぅ」
 アルルゥだ。
良く寝たのと、二人の会話が聞こえたりで、どうやら目が醒めたらしい。
まだ少し眠そうに顔をさするアルルゥを視界に見とめ、はるかが申し訳無さそうに謝る。
「あ、ゴメンね、アルちゃん。起こしちゃった?」
さも、優しいお姉ちゃんのような印象の彼女。右手でさりげなく懐中電灯を逸らす。
「んーん。よく眠れたから…ありがと」
「あちゃ。すまんなー、ウチが声デカいばっかりに」
 由宇が気まずそうに額を指でかく。アルルゥののんびりした様を見てか、その表情が少し
緩んだ。
333名無しさんだよもん:04/05/19 23:39 ID:j4V4MdEP
あ。ごめん。間違えて送信を押しました。
332はスルーしてください。
改めて投稿します。
334招かれざる狩猟者:04/05/19 23:41 ID:AFaCy4kT
「まったく…惨めなものね…」

激痛に苛まれる左肩を押さえながら島を徘徊する事数時間。幸か不幸か他の参加者に会う事の無かった石原麗子は、やがて現状では困難な待ち伏せ、奇襲戦法をとる事を捨て、同じリスクを背負うのなら、と安全に身体を癒せれる拠点を探す事に賭けたのだ。
どうにも普段の彼女らしからぬ綱渡りな行動であるが、仙命樹の効力が結界の力によって抑えられている今、当然傷の自然治癒が期待できないのだから、ある意味当然の行動とも言えた。

瑠璃子の右腕は邪魔だけでなく、それを所持していると“被害者”を演じ、気のいい参加者を騙す事ができなくなると判断し、先の戦闘の直後、適当な所に破棄してきた。

やがて、麗子の視界の先にはだだっ広い空間と、その先に在る一件の建物が見えた。

「!七海ちゃんちょっと来て」
「どうしたんですか、南お姉さん?」
森林から現れた麗子の姿を認めた南は、キッチンにいる七海を呼び寄せた。
「あっ!」
七海も麗子の姿に気付き声を上げる。
「なんだか、怪我してるみたいですよ!」
それは南も気付いていた。しかし、だからと言って麗子を単純に誰かに襲われた被害者と判断する事は、今の南──厳密には、この島に来てからの南にはできなかった。

335招かれざる狩猟者:04/05/19 23:42 ID:AFaCy4kT
やがて、麗子の姿が少しずつ、少しずつ別荘へと近付いて来、それと共に、その様子も明確に観察できるようになってくる。
鉄パイプを持った右手で、左肩を押さえている。表情にははっきりと苦痛の色が滲みだしており、その歩みも力がない。

更に麗子が近付いて来、そこでようやく麗子の方も南達の存在に気付いた。
三人の視線が絡む。

「!──七海ちゃん隠れて!」
「え、えっ!?」
「早く!」
「は、はい!」
重ねて南に促され、七海は戸惑いながらも一階の寝室へと駆け込んだ。
それを確認すると、南はテーブルの上に置いていたアイスピックを手にし、玄関とリビングを繋ぐ扉の前に仁王立ちした。
(あの目は───)
あの一瞬、南は感じ取ったのだ。
獣のような冷たい危険さを。弱き人間の本能で。

(隠れた──という事は、戦闘能力は無いということかしら?フフ、賭けは当たりみたいね)

南達がこちらに向かって来ない事が解ると、麗子は狩猟者の笑みを浮かべた。


【05番 石原麗子 所持品:鉄パイプ、ベレッタ(残弾11)。瑠璃子の右腕はどこかに破棄】
【56番 立田七海 所持品:鋸、金槌】
【83番 牧村南 所持品:携帯食料一式、アイスピック】
【時刻:二日目午前八時頃】
【残り65人】
336翌朝に目が醒めて (再投):04/05/19 23:45 ID:j4V4MdEP
「猪名川さん、体はもう痛まない?」
 洞窟内、懐中電灯のおぼろげな明かりが照らす僅かな空間の中には、小中大の3人の少女
の姿があった。川を下る途中に洞窟へ迷い込んだ猪名川由宇、そして、睡眠を取るため避難
してきた河島はるかとアルルゥの二人である。
 由宇とはるか達は昨晩偶然出会い、やや騒動気味な出会いで混乱こそしたものの、今はお
互いの目的のために協力し合う仲と言っても良い状態にまでなっていた。
由宇の目的は友人と共に生きて脱出する事であり、そして、はるかとアルルゥの目的もまた
同じだった。戦いを望んではいない。
 三人は即ち目的を同じとする仲間であると言えた。
「ああ、もう大丈夫や。細かい傷はカサブタが直してくれるやろ」
「そう? でも、無理は駄目よ。化膿したら大変だから」
「せやな、その言葉、肝に命じとくわ」
 現在、外界は朝である。日は昇り、獣の目の醒める時刻。
だが、洞窟内で一夜近く時間を過ごした三人には、その感覚が無い。
彼らの周囲の空間は狭く、暗く、ジメジメとしていて、懐中電灯の明かりですら眩しい。
はるか達の辿って来た道を戻りさえすれば明りも見えてくるだろうが、今、彼らがお互いを
認識しあっていられるのは一本のか細い光のおかげであった。
 その光の輪の隅、話し込む二人のすぐ横で、もぞもぞと動くものがいる。
「うぅん、はるかおね〜ちゃん…おはよぅ」
 アルルゥだ。
良く寝たのと、二人の会話が聞こえたりで、どうやら目が醒めたらしい。
まだ少し眠そうに顔をさするアルルゥを視界に見とめ、はるかが申し訳無さそうに謝る。
「あ、ゴメンね、アルちゃん。起こしちゃった?」
さも、優しいお姉ちゃんのような印象の彼女。右手でさりげなく懐中電灯を逸らす。
「んーん。よく眠れたから…ありがと」
「あちゃ。すまんなー、ウチが声デカいばっかりに」
 由宇が気まずそうに額を指でかく。アルルゥののんびりした様を見てか、その表情が少し
緩んだ。
337名無しさんだよもん:04/05/19 23:47 ID:j4V4MdEP
「あ、由宇おねーちゃんもおはよぅ〜」
「おはよ。昨日の夜は驚かせてゴメンな」
「大丈夫」
 アルルゥはそう言って、一瞬微笑みのような表情を浮かべると、すぐさまはるかの方に向
き直って、今度は少し甘えるように言った。
「はるかおねーちゃん、アルルゥお腹減っちゃった」
「そうね、缶詰が少しならあるから、皆で食べましょうか」
 このはるかの言葉に一番嬉しそうにしたのは由宇だ。彼女は昨日から何も食べていない。
「そらええな!丁度腹の虫がなっとったとこなんや」
「由宇おねーちゃんも、一緒に食べる」
 アルルゥがニッコリと笑う。
「もう。猪名川さんたら」
 はるかも微笑んだ。
「食べるのも特技の内なんやで、ウチは」
 冗談めかした調子で由宇も笑う。
外の世界で行われている惨劇を僅かに忘れる事が出来たためか、それとも、これから待ち受
ける過酷な試練にくじけぬためか。
 三人は微笑んだ。ただ、生きるために。
 はるかが缶詰を開ける音が、パキリ、パキリと、洞窟内を木霊するのだった…。

【27河島はるか 04アルルゥ 07猪名川由宇が合流 睡眠を取った後、食事を済ませる】
【三人で仲間を探し、脱出する方法を探す目的で動く】
【時刻は朝】
338盲目の祈り:04/05/19 23:57 ID:2EQmKp3T
小屋の中は薄暗い。
だが、明るかろうと暗かろうと彼女には関係が無い。
彼女は、目が見えない。

みさきは民家の片隅で膝を抱えていた。
自分があの場にいても足手まといになるだけだろう。
自分のために人が傷つくのは嫌だった。
――偽善。
ならば、何故光岡と一緒にいるのか。
自分と一緒に居る限り、光岡は自分を守り、傷つく。
かと言って、光岡と別れれば、待っているのは確実な死。
――ジレンマ

多分、自分はまだ死にたくないのだ、と思う。
殺し合いを強要されたとき、確かに自分は生を諦めた。
だが、光岡と会い、希望を持った今、再びそれを諦めることなど出来なかった。
まだ、自分は生きたい。
もう一度あの学校へ行き、学食のカレーを食べたい。
掃除をさぼり、親友に追いかけられたい。
声は出せないけど、小さな体で一生懸命に頑張っている後輩の演劇が見たい。
屋上で出会った、変わった男の子と競争の約束をしたい。
こんな不自由な体でも、まだやりたいことがこんなにもある。
――生きて、帰りたい。
339盲目の祈り:04/05/19 23:59 ID:2EQmKp3T
光岡は今、自分のために闘ってくれている。
自分には、祈ることしか出来ない。
目が見えないことがこんなにももどかしいことだなんて、今まで思ったことは無かった。
自分のために人が傷つき、死んでしまうかもしれない予感。
死なないで欲しい。
再び自分の前に現れて、皮肉めいた声で話し掛けて欲しい。

祈った。
いるのかどうかすらもわからない神様に、祈った。

光岡さんが、無事でありますように――


ドアが開いた。
「光岡さん?」
答えは、無い。
「光岡さん、だよね…?」
近づいてくる。
光岡では無い、そう思った。
「………殺さないで…」
懇願。
「私、目が見えないんです。 だから、貴方を傷つけることなんて出来ないから、だから――」
侵入者が口を開く。
340盲目の祈り:04/05/20 00:01 ID:wm7xxe8C

「光岡悟だよ、みさき。 少し冗談が過ぎた。すまん。」


この直後、光岡は生まれて初めて女の子を泣かすことになる。


【028 川名みさき 白い杖】
【089 光岡悟 日本刀 デザートイーグル(残り3発)】
341五月の暴風は突然に:04/05/20 00:06 ID:huP/aJ7h
芳野は耳をすます。開け放たれた窓の向こう、わずかに聞こえる誰かの話し声。
(……真下か)
苦々しく顔を歪める。どうやらこちらへ来る気配は感じられない。
(少し手を替えるか)
窓を閉める。せっかくガスを充満させているのに開けっ放しにするのは意味はない。
使えるものはないか。辺りを見回す。服がいくつかその辺の椅子に脱ぎ捨てられてある。
(だらしのない教師達だ)

廊下にそっと顔を出し、辺りを伺う。廊下向かいには『理科準備室』とのプレートがあった。
再度職員室に戻る。鍵がないか探す為だ。――辺りを少し探ったが見当たらない。
あまり悠長にはしてられないだろう。鍵の捜索をすっぱりあきらめ、教員机の引き出しを開け放つ。
「これにするか」
少々荒っぽいが仕方がない。
いくつかの引き出しから、ガムテープとスパナを持ち出し、再び廊下へと戻る。
理科準備室の窓にガムテープを貼り付け、ガシガシとスパナで殴りつける。
ガラスは簡単に割れた。音の反響はまったくといっていいほどない。
割れた窓に手を差し込み鍵を開けると、開いた窓からスッと中に入り込む。
目的の物はすぐ見つかった。用済みとなったテープは破棄、スパナは武器となるかもしれないので
乱暴にポケットに突っ込んでおく。どうせ大してかさばるものでもない。
適当にそこらの棚からアルコールの瓶をいくつか手に取り、再び職員室へと戻る。
ここまでの所要時間、約2分。
脱ぎ捨てられていたいくつかの服の袖を乱暴に結びつけ、ロープのようにすると
アルコールをこちらも乱暴にぶちまける。
残ったアルコールも適当に引っこ抜いたガス栓のあたりに残らずぶちまける。
準備を終え、窓をもう一度少し開け耳を澄ます。まだかすかに話声が聞こえる。
どうやら間に合ったようだ。再び窓を閉める。ここまでの所要時間約4分。
アルコールでほどよく濡れたロープ変わりの服の端をガス栓の根元に括りつけ、
もう片方は廊下まで引いてくる。
さて。スピード勝負だ。
置いておいた所持品を持ち、ライターで火をつける。
服はよく燃えた。それは導火線となってすごい勢いで職員室内へと向かう。
芳野はそれを横目で確認しながら一気に階下へと走った。
342五月の暴風は突然に:04/05/20 00:08 ID:huP/aJ7h
「その男は――危険だ」
智代の言葉に皐月は頷いた。皐月にもそんな印象らしい。
「詳しいことは後での方がいいな」
智代がスッと立ち上がる。芳野祐介。朋也の敵。
先程別れたばかりなのに。自分が先にこんなところで出会うなんて思いも寄らなかった。
「いろいろあるが、私の友の仇なんだ」
その智代の言葉に、皐月は真顔に戻った。
「殺すの?」
真剣だった。智代もそれに応える。
「……安全が先だ。私の目的。みんなが帰れる居場所をつくることだ。私の、朋也の。その為には――」
「主催者、篁をやっつける!」
皐月が、そう言った。
(……そういう考え方もアリか)
智代は目の前の女の子を見直しながらに見つめた。分かってるね智代、といった感じの表情。
脱出と打倒篁、同時にやってしまおうというのだ。なんて頼もしいのか。
頼れる仲間に、一つ尋ねる。
「どうやって?体内爆弾もある。ここは逃げられない孤島の島。そして、篁自身――とても強い」
スタート時に見ただけだったが、智代ですらあの男の吹きだすような気に気圧されてた位だ。
ヤツはあまりに高い目標だ。
「爆弾をなんとかして、なんとかして篁に近付いて、なんとかして篁をやっつける」
……とても頼もしい言葉だった。
「具体的には?」
しょうがないな、と言った風に智代は溜息をついた。皐月の無鉄砲な所は朋也に似てるかもしれない。
「それはこれから。帰る場所は自分達で切り開く。でしょ?」
「――それはそうだな」
智代も笑った。
「皐月。一緒に、来て欲しい」
「モチ。私も智代と行きたい」
皐月も破顔した。お互い、軽く拳を小突き合わせて、
「まずはここから無事に――」
瞬間だった。
白い閃光。すべてが一瞬で。濁流が――皐月と智代を飲み込む。
343五月の暴風は突然に:04/05/20 00:09 ID:huP/aJ7h
芳野は一階へ降り立ち、すぐさま手近の教室に入り込むと窓を乱暴に開け放った。
そして、廊下側の戸口へ取って返し、廊下と窓の向こうの外観の両方を見通せる位置に陣取り、
ライフルをぐっと構えた。
間に合った。疲労によって上がる息をむりやり抑え、ジっとその時を待つ。
今にも、二階でそれなりの規模の大爆発がおこるはずだ。
あの構造上、恐らく、ガスが繋がっている真下の室内にも小規模の爆発が起こるはずだった。
そうなってくれれば楽――だが、もし仮にそれほど影響なくても所詮は小娘。慌てて顔を廊下に出すはずだ。
一目散に逃げ出すかもしれない。後はおびき出されてきた奴を狙い撃ちにすればよい。
この位置であれば、そいつらが逃げた場所が廊下だろうが外だろうが狙い撃ちにすることが可能だった。
百パーセント命中させられる程の腕はなかったが、そればかりは仕方がない。まだ素人なのだから。
今回は逃げまどう獲物を狙うだけのハントだ。殺し合いにも満たない楽な仕事だ。
そう考え、気を落ち着け、その時を待つ。

すぐに訪れた。
「なっ……!?」
大音響と共に学校全体が揺れ動き、鼓膜が破裂するかのような衝撃に顔をしかめる。
(聞いてないぞこんな爆発はっ!どういう構造してんだこの学校は!)
爆風と爆煙により、女――皐月と智代がいた教室から出る影がまったく見えない。
(もしか、今のだけで、死んだんじゃないのか?)
はるかに予想外なまでに予想以上の爆発とその成果に、一瞬の気の緩みと油断。
反応が遅れた。
344五月の暴風は突然に:04/05/20 00:10 ID:huP/aJ7h
廊下に飛び出す影。
間一髪、人間には反応しきれぬ速度でそこを飛び出した者。それは獣だった。
騎乗には皐月。飛び出してきたのは二人。芳野の目にはそう映った。
智代はそこには見えない――
「ぐぅ……!」
渾身の力を込めて、皐月は腕を曲げる。もう片方の手は決して離れえぬよう、獣の美しい体毛を力一杯握り締める。
「――っ!」
声にならない叫び。爆風と、主の跳躍時に生じた慣性に任せて力を振り絞り、それをたぐりよせる。
煙の中から引き寄せたそれを強引に主へと叩きつける。
智代だった。ピクリとも動かない。だが、その無事を皐月は確認する暇すらもない。
着地と共に、主がさらに横へと飛んだ。振り落とされぬよう、抱え込んだ智代ごと皐月は身を屈める。
未だ冷めぬ爆煙の向こう、風を切って飛んでくるソレを先読みでかわす。
前を見据えた。煙の向こう。あの男だ。手にライフルを構え、こちらを狙いすましているのが見えた。
このままでは、また狙撃される。智代を、守らなければ。
皐月は覚悟を決めた。

「トンヌラ――GO!」
体より先に口に乗せた言葉。逃げろ!獣のケツをひっぱたく。
同時に――閃光。舞い上がった皐月の髪がさらに宙を舞った。耳をつんざくその衝撃に身体ごと吹き飛ばされる。
「行けぇっ!」
もう一度叫び、自分と主を繋ぐ最後の手綱、主の体毛から手を離す。
チラリと主の背に乗せられた智代が視界に入った。無事でいてくれ。そう祈って。
脱出せよ!皐月の命に従い、駆け抜ける主。ここで一旦お別れだ。
そして残された自分は――いや、だからこそまだ死ねない。
地面に叩きつけられながら、皐月も、まだ形を残した教室へと転がりこむ。
345五月の暴風は突然に:04/05/20 00:11 ID:huP/aJ7h
――迅いっ!
爆発の規模が大きすぎた。わずかに反応が遅れ、第一撃、第二撃と立て続けにはずした。
予想以上に、獣の動きは素早かった。すべては生じた油断の為。芳野のミスだった。
視界に見えるは、一人の女を乗せた廊下を駆け抜ける獣の姿と、振り落とされ、手近の教室に転がりこむ女の姿だった。
(とんだハントだ!)
芳野は的を一点に絞る。もう獣と、同乗した女は無視だ。――もう追いつけない。

皐月が入り込んだ教室の扉へと目を向ける。チラリと服が覗いていた。
近付きつつ、鉛玉を叩きつける。丸見えだ。
灼熱の塊に撃ち抜かれ、跳ね回るソレがふわりと宙を舞った。
鉛玉とダンスを踊ったのは――スカートだけ。それを身に付けた人物はいない。
(まさか、逃げられ――!)
刹那、視界に影が走る――銃口を向ける間もなく、ソレはとびかかってきた。
(――上っ!? 猿か、コイツはっ!)
教室の死角から、掃除用具箱と見られる棚の最上段から飛び掛ってきた下半身を晒した痴女。
その実態は、色気もへっちゃくれもない、ただの女猿だった。
そのまま、勢いに乗って頭突きを見舞われる。衝撃に目から火花が飛び散ったかのような感覚。
「くそっ!」
倒れ込みそうになりながらも、グッと上体を反らし、ライフルを横凪ぎに力任せに振るった。
柔らかい手応えと共に皐月の身体が離れる。
そのままライフルを構えようとするも踏ん張りきれず、一歩二歩と後ずさる。
仰向けに倒れそうになる瞬間、ライフルから手を離し、背後に手をついた。反動をつけて前へと飛ぶ。
皐月も同じように――、いや、そのまま屈んだままこちらを睨みつけた。
346五月の暴風は突然に:04/05/20 00:12 ID:huP/aJ7h
もうそれは、逃げる小動物と狩人の図ではなかった。獣と獣の死合いそのもの。
捨てた銃を拾う暇はない。
起き上がった反動そのままに、放たれた弾丸のように皐月に飛びかかる。
ライフルの銃身に打ちつけられた腹を押さえながら、皐月も前へと飛ぶ。
タイミングがずれる。芳野が叩きつけるはずだった拳は空をきる。
そのままタックル。臓腑を貫くようなその衝撃に芳野の全身が呻き声をあげる。
だが、所詮は皐月は女の子だった。不意をつかれつつも芳野は足を開いて踏ん張り、
それを前へと膝で蹴りはがす。
同時に懐からブラックジャックを手にとり、よろけた皐月めがけて振るう。
皐月はそれをかわさなかった。かわせなかったのかもしれないが、かわす気はなかった。
再び馬鹿の一つ覚えのように、前傾姿勢で芳野へと向かって飛びつく。
袋が皐月の左肩口にぶち当たる。
手製のブラックジャックとはいえ、充分な手応え。

それでも皐月の勢いは止まらなかった。再び皐月のぶちかましが芳野に決まる。
が、今度は芳野もそれを簡単に抑えきった。
ただでさえ女の体当たり、しかも肩に怪我を負っていてはその威力は無いに等しかった。
皐月の身体をガッチリと捕まえる。捕まえてしまえばそれまで。
終わりだ。
このまま極めて絞め落としてやる。
347五月の暴風は突然に:04/05/20 00:12 ID:huP/aJ7h
皐月は最後の抵抗なのか、足を後ろへと振り上げた。
(――金的!?)
男にとって、それはとてつもない苦痛を伴うものだ。
芳野は反射的に上体を屈め、襲いくるそれを手で押さえる。いや、押さえてしまったというべきか。
わずかに――スキができる。
金的を防いだ芳野の上体に伸ばされる皐月の手。襟口をがっちりと捕まえる。
――視界が上下にぶれる。ガクンと、みぞおちに軽い衝撃。
跳ね上げられた――重力から解き放たれる――視界が反転する。
眼下には、肩の痛みを堪え、それでも勝ち誇ったかのような皐月の不敵な笑み。
上空へ投げ、いや、蹴り上げられた芳野の身体が回転する。天井が、とても近い。
五月の軽やかな風が、芳野の頬を撫で、全身を吹き抜けた。

「ごふっ!」
暗転する視界。肺から空気が押し出される。
床に背中をしたたか打ちつけ、のたうち回る。
芳野にとって幸運だったのは、皐月の肩がイカれ、投げが不十分だったことと、
すでに追い討ちできるほどの体力が皐月に残されてはいなかったことか。
肺がきしみ、息のできぬ身体に鞭打ちながら、拳を握りしめ立ち上がる。
(俺は死ねない……)
必死で消し飛びそうな意識を繋ぐ。
眼前に広がるは、左腕をだらんと下げ、身体をひきずるようにして窓へと向かう皐月の後ろ姿だった。
なんて無防備。だが、芳野も皐月の元までは走れない。
震える手でライフルを手繰り寄せ――
348五月の暴風は突然に:04/05/20 00:13 ID:huP/aJ7h
そして、皐月にとって幸運だったのは。

「ぐっ……ハァハァ……チェック……メイトだ」
皐月は、教室の窓を開け放ち、外へと逃げ出そうとした皐月へと銃口を向けた。
兎一匹に随分とてこずらされた。息も絶え絶えに、狙いを定める。
窓枠に乗った皐月が、気だるそうにこちらを向いた。
力を使い果たしたかのような、すべてをやり終えたかのような、そんな表情。
極度の疲労と痛みに脂汗を浮かべながら、それでも皐月は笑った。
「何が……おかしい?」
「もう……駄目だと思ってた。だけど。
 私の……勝ちだよ……。私は、一人じゃ……ない、んだから……ね」
確かに予想外のことがあったとはいえ、大の男が小娘にここまで追い詰められた。
それはある意味負けも同然かもしれない。芳野は鼻で笑って返した。
「あの世で……自慢話でも……しておくんだな」
皐月は、柵にかけた手を離すと、教室の――校舎の外へと身を踊らす。
地面につく頃にはあの世行きだ。
真正面、この距離。これほど疲労していたのはこの島に来て初めてだったが、もう外さない。
芳野は引き金を――

それを待ち構えていたかのように、窓の外。
一陣の銀色の風が右から左へと吹き抜けた。
皐月が手をのばす。がっちりと皐月を捕らえる力強い手。それはまるで白馬の王子。
それに導かれ、引き寄せられる。
森の主と坂上智代。
「――やらせるかっ、芳野っ!」
左腕で皐月を抱き、残った右腕で手に持った獲物を大きく振りかぶった。
一閃――それはキラリと太陽の光を乗せ、芳野と皐月の間を切り裂く。
「な……」
芳野は、撃てなかった。
349五月の暴風は突然に:04/05/20 00:14 ID:huP/aJ7h
カラカラと床を滑る銀色の鋏を呆然と眺め、ただ一人立ち尽くす。
(あんな小娘共に、負けたのか――)
作戦に穴がなかったとは言わない。所詮、素人が考えだした浅はかな作戦だ。
それでも、まだ厳しい社会にすらも飛び出していない女達に遅れをとるとは思わなかった。
ようやく、打ちつけた背中の痛みも引いてくる。
自分は大した怪我すらない。向こうは手負いになった。なのに何だ――
「くそっ……!」
芳野は負けた。強い敗北感に打ちのめされつつも、
のそりと散らばった武器を拾い集めた。
(いや、最後に――勝てばいいんだ)
だが、悔しさは拭えなかった。


【098 芳野祐介 所持品 手製ブラックジャック*2 スパナ
 ライフル(予備マガジン2つ)  サブマシンガン(予備マガジン1つ) ことみの救急箱 煙草(残り5本)とライター】
【095 湯浅皐月 所持品 主 騎乗中】
【038 坂上智代 所持品 眼鏡 朋也、宗一、芳野の写真 主 騎乗中】
【智代、皐月共に学校脱出   皐月 下半身下着姿 左肩骨折 極度の疲労】 
【CDはパソコンと共に爆発に巻き込まれました】
350五月の暴風は突然に:04/05/20 00:28 ID:huP/aJ7h
修正、というほどでもないのですけど。
次の書き手に任せるって意味で

×【CDはパソコンと共に爆発に巻き込まれました】
○【CDはどうなったか不明】

にしておきます。指摘ありがとうございました。


でも本文にも推敲時のゴミとか手直しミスとか見落としとかで変な文章がところどころに。だめぽ('A`)
変なところは脳内補完でお願いします。。。
351仲間のために:04/05/20 00:41 ID:kSAJ5lc5
 エルルゥ(11番)は海の家の中の一同を見回した。
 皆、よく寝ている。
(良かった……まだ、誰も起きていないのね)
 予感はあった。そんな気がしていたが、ただの予感だけど信じられなくて。
 だけど、あれではっきりした。
 エルルゥは、聞いたのだ。定時放送で、ハクオロの死を。
 悲しくないわけが無い。胸が潰れそうだった。心臓がドクンとなった。
 堪えても、堪えても、涙がこみ上げてくる。それを必死で押さえ込む。
 他の三人には、悟られてはいけない。辛い思いは、自分だけで十分だ。
 三人の寝息が、自分の理性を保ってくれる。もし一人だったらどうなっていただろうか。
 おそらくは泣き崩れていただろう。そして、ハクオロの後を追おうとしたかもしれない……。
 仲間の存在を、つくづくありがたいと感じた。
「……うぅん」
 時折声が漏れてくる。
(せめて、みんなの前では笑顔でいないと……)
 一生懸命作る、笑顔。決して悟られてはいけない、放送の出来事。
 そして、目を覚ます仲間たち。
「あ、お早うございます。エルルゥさん、お早いですね」
 古河渚(81番)が起きぬけに笑顔で「お早う」という。
 もちろん、エルルゥもそんな渚に笑顔で、
「お早うございます」
 と返した。
 エルルゥの機転は、正解だったかもしれない。
 同時に杏やことみが既にこの世にいないことを渚が知ったら、渚の笑顔は瞬く間に消えてしまっただろうから。
 北川潤(30番)、広瀬真希(72番)も起きて、四人は朝食の準備を始めた。
 殺し合いという非日常の中の、ほっとした安らぎの時間。
 だが、そんな安らぎも、崩れていく。一人の来訪者の手によって……。
352仲間のために:04/05/20 00:42 ID:kSAJ5lc5
 ドアが、開け放たれた。殺戮の開始の合図ともなる、ドアが。
 来訪者、巳間晴香(91番)は辺りを嘗め回すように眺める。
 海の家に、人は四人。女が三人で、男が一人。朝食中で武器を持っている気配は……無い。
「ん、なんだ君――――!?」
 北川は話しかけようとして、気付いた。晴香の手に握られている、ワルサーに。
 晴香が、にやりと笑った。そして、その照準を北川に向け撃ち……
「でぇぇぇいっっ!!」
「……ッ!?」
 放てなかった。撃とうとしたところで、広瀬が咄嗟にテーブルを蹴り飛ばし邪魔をしたのだ。
 スカートの中はばっちり北川に見られたが、この状況で恥もへったくれも無い。ちなみに白だった。
「早くこっちへ!!」
 エルルゥが奥の隣の部屋へ誘導する。
 晴香の手に持っているもの、銃はエルルゥにとって初見のものだったが、広瀬の行動から敵襲と判断、
 直ぐに脱出経路を確認しそちらへと向かう。この判断力はハクオロたちとたびたび赴いた戦での賜物である。
 広瀬はそれからメリケン粉の袋を開け、晴香にぶちまけた。
 辺りに舞う、白い煙。それから、すぐさまエルルゥの下へと走る。
 エルルゥ、渚、広瀬、北川の順で隣の部屋へ。隣の部屋には北川が壊した裏口がある。そこから逃げられる。
「……待ちなさい!!」
 煙の奥から晴香の声が聞こえてくる。そんな声を尻目に、四人は逃げおおせた。
 ……はずだった。
 順番が悪かった。彼が最後で無ければよかったかもしれない。
 運が悪かった。この状況で、更に来訪者が無ければよかったかもしれない。
 偶然の重ね合わせだが、そこに来訪者はやってくる。
「……誰かいるのかしら?」
 狂気を携え、入り口から海の家にと侵入する。
 不覚にも、彼は足を止めてしまったのだ。この島に来て初めての知り合いの声に。
 不覚にも、彼は振り向いてしまったのだ。新たな来訪者の姿を確認するために。
「……美坂?」
 彼の呟きとともに響く、一発の銃声。晴香の銃口から零れる硝煙。
 晴香の銃弾が、北川の体を貫いていた。
353仲間のために:04/05/20 00:43 ID:kSAJ5lc5
 崩れ落ちる北川。後ろの来訪者に行く、晴香の注意。
 広瀬は、最初分からなかった。何故、北川が足を止めたのか。
 だが、現実には彼は胸を抱えて蹲っている。晴香の注意が新たに来た人物に行っている為、第二撃は来ない。
 広瀬は北川を引っ張り、とりあえずドアを閉めた。運良く、薬の入ったエルルゥのバッグはこちら側の部屋においてある。
「北川さんっ!」
 渚が呼びかけてみると、北川は弱々しく返事をした。
「……古河さんか。ちっ……俺も、ドジったね」
 エルルゥが直ぐに止血する。だが、その出血は留まるところを知らない。
 そう言いながら、北川はふらふらと立ち上がった。
 そのまま、ドアに手をかける。そして、ドアノブを握る。
「……何してるんですかっ! 今動いたら……」
「あんた……薬師なんだろ? それなら、俺の状況……分かると思うんだがな。
 俺はもう……助からない。何処やられたかは、わかんねぇけどな……」
 エルルゥを手で制す。
 止血した、布の上から滲み出て、ぽたぽたと垂れる血液。
「実はな……後から来たほう、知り合いだったんだ。俺の、クラスで隣の席の奴だ。
 せめて、あいつを……あのクソッタレから、守ってやらないとな。それに、お前らが逃げるまでの時間稼ぎにも……なる。
 へっ、かっこよすぎるな俺。相沢には、到底真似できないだろ……」
「そ、そんなっ! アンタ何言ってんのよ……!!」
「広瀬、あばよっ!! お前も、転校生とやらに負けない生き方しろよっ!!」
 最後の力を振り絞って、北川は向かう。香里を助けるため、三人を助けるため。
 だが、皮肉にも……その守るべきもの、香里ですら狂気に飲まれているのである。
 北川の、死へのカウントダウンは始まった。
354仲間のために:04/05/20 00:43 ID:kSAJ5lc5
【11 エルルゥ 所持品 乳鉢セット 薬草類 バッグ】
【72 広瀬真希 所持品 『超』『魁』ライター】
【81 古河渚 所持品 初期装備(不明)】
【91 巳間晴香ワルサーPP/PPK(残弾5発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ】
【87 美坂香里 果物ナイフ】
【30 北川潤 最後の力を振り絞って香里を助け&時間稼ぎに行く 出血多量
 所持品はポケットに突っ込んだ便座カバーのみ メリケン粉は最初の部屋に放置しっぱなし】
355仲間のために:04/05/20 01:38 ID:kSAJ5lc5
↑追記【渚・広瀬・北川の三人は第二回定時放送を聞いてない】
356「白き神々の座」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/20 02:18 ID:jtQCZ2jS
 もうどれくらい走っただろうか。
 あの獣耳の男が追ってこないとようやく確信して、澪は足を止めた。
 木の影に隠れて、それを背に、へたり込む。息が乱れたまま収まらない。
 重装備での全力疾走は、澪の小さな体には結構な負担だった。
 その重量物の一つ。水の詰まった水筒を、一気に飲み干す。
 ぬるい、何の味も付いていない水が、この上なくおいしかった。
 ぼーっとへたり込んだまま、逃げている過程で放送が聞こえたのを思い出す。 
 必死だったのであまり耳には入ってこなかったが、知り合いの名前はなかった、と思う。
 それよりも、三十人もすでに死んでいるという事実の方が大事だった。
 ――あとこれを、二回と半分も繰り返せば、終わるの。
 そう計算通りにはいかないだろうが、それは自分を奮い立たせる一つの目安にはなる。
 澪は汗を拭い、立ち上がった。
 早く終わらせたいのなら、自分もその流れを加速させるべきだ。
357「白き神々の座」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/20 02:20 ID:jtQCZ2jS
「あさひちゃん」
 体を揺すぶられ、名を呼ばれ、眠っていた意識が覚醒する。
 目の前には、少年、と名乗った不思議な少年……彼のアップ。
「え……え? きゃっ!?」
 しーっと、唇に指を当てる少年のしぐさに、慌ててあさひは口をふさいだ。
「驚かせてごめんね。でも、放送が始まるんだ」
「放送? ……あ」
 窓の外、電灯の脇につけられたスピーカーから、雑音が走る。
『諸君、昨晩はよく眠れたか?』
 と嫌がらせのように聞いてくる声。そして、死亡者の通達。
 あさひは、次々と読み上げられる名前の中に、知り合いがいないことにほっとする。
 人が死んでいくのはもちろん悲しいが、知り合いか、そうでないかはまた別感情だ。
 だけど――一瞬、少年の顔が固く強張るのを見てしまった。
 放送が終わる。少年は、窓の外をじっと見ていた。怒りも、悲しみも表すことなく、ただ静かに。
「あの……」
「ん? なに?」
「……お知り合い、なくなったんですか?」
「うん……友達の友達、ってくらいの関係かな。それほど親しいわけでもなかったけど」
 いつもの静かな笑みが、どこか無理しているようにも見える。
「ごめんなさい……」
「いや、気にしないで。僕も本気で悲しんでいるわけでもないんだ。――少し、寂しいだけで」
「……ごめんなさい」
 少年は、自分よりもよっぽど落ち込んでしまっているあさひを見て、かえって申し訳ないような気持ちになる。
 特殊な環境下にいた自分は、本当に、大して悲しくもないのだ。
 諦めるということに慣れてしまっている自分はいい。が、あさひを悲しませるのは本意ではなかった。
358「白き神々の座」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/20 02:21 ID:jtQCZ2jS
「そうだね……それじゃ」
「え?」
「慰めてよ」
 ベッドの上で上体を起こしただけのあさひの膝の上に、ゴロリと転がった。 
「え? え? あっ、あの、その、あう、あ……」
 戸惑っていたあさひの手が、やがて落ち着き、少年の髪をなで始める。
「あの……えっと、えっと」
 カンペはない。だから、どもりながらも自分の中で懸命に言葉を探す。
 でも出てこない。友人を亡くした人を、簡単に慰めるような言葉なんて、出てこない。
 何をいっても傷つけてしまいそうな気がした。だから、黙って髪を撫で続ける。
 と、少年が喉を鳴らして笑った。
「あ、あの?」
 少年が、背を丸める。
「くすぐったい」
 こらえきれず、声を上げて笑い出した。
「え、ええっ?」
 くるりと上を向いた顔には、いたずらっぽい笑顔しか残っていなかった。
「あ、あの……」
「そればっかりだね」
「え?」
「ほんとに、僕はそんなに悲しんじゃいないんだ。
 だから、あさひちゃんが僕の代わりに悲しんだり、戸惑ったりしなくても、いいんだよ」
359「白き神々の座」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/20 02:23 ID:jtQCZ2jS
「……でも」
「でもはなし」
「う……」
「ストもなしね」
「はい?」
 少年はくすくすと笑いながら、宙をさまようあさひの指に、自分の指を絡めた。
「女の子の手は、柔らかくって気持ちいいね」
「は、はいいいっ!?」
 たちまち真っ赤になったあさひを見て、少年はまた笑った。

 二人は食事をとり、いつでも出られるように荷物をまとめ、そして、
「――どうする?」
 と、少年が聞いた。
 このままでいるか、それとも動くか。動くにしても、何を目的として、どう動くのか。
「あっ、あたし……」
 あさひは考えた。考えてはみたが……何も、分からない。
 殺しに回るのは論外だ。誰か知り合いと会いたいが、どこにいるのかは分からない。
 そして外には、明らかに殺人ゲームを承知した人達がいる。
 だからといって、ここでこのままゲームが終わるのを待てばいいのか。
「わっ、分かりません……」
「うん……じゃあここで見張りながら、もう少し待とう。
 誰か知り合いが通ったのなら、呼びかければいいし、やばそうな人が来たら、隠れている。
 あてもなく彷徨うのは、危険だし、ここなら生活に不自由はない。
 他の家に行けば、まだ食料もあるかもしれないしね」
 その真っ当な結論に、あさひは尊敬混じりの視線を投げながら、コクコクと頷いた。
 ――あさひちゃんも、まだ疲れているみたいだしね。
 少年は、それは口に出さずに、見張りの順番を決めた。
360「白き神々の座」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/20 02:25 ID:jtQCZ2jS
 何事もなく午前が終わり、正午を回ろうとしたその時――。
「しょっ、少年さんっ!」
 椅子に座ってリラックスしていた少年が、跳ね起きる。
「誰か来た?」
 カーテンの隙間から、あさひが指を差す。
 そこに、スケッチブックを抱えた小柄な少女がいた。
 スケッチブックには穴が空いている。おそらくは……銃痕だ。
 少女は住宅街の入り口から、街路を覗き込み、覚悟を決めたように走って、隣の家の軒先にはいる。
 中に人がいるかどうか、十分確認してから、ゆっくりとノブを引き、
 再度、確認して――一気に駆け込んだ。
 二人の間から、緊張がため息となって抜ける。
「知り合い?」
 あさひは首を振る。
「どうしたものかな……」
「あっ、あのっ、あんな小さい子なんだし……」
「いや……」
 一見、無害には見える。だけど、この状況下で人がどう転ぶかは、誰にも分からない。
 リュックは重そうで、もしかしたら使える武器を持っているかもしれない。
 だけど、その武器が自分たちに向けられない保証はない。
 気になるのは……彼女は警戒はしていたが、怯えている様子はなかったこと。
 彼女が殺し屋側に回ったなら、あの家の探索を終えたら、次は隣のこの家に来るだろう。
 静かに隠れていれば、そのままやり過ごせるかもしれない。隣りに居着く可能性もある。
 それと、妙に焦った様子なのが気になった。
 敵か、それ以外のものか。先手を打つか、逃げるか。
 少年たちは、選択を迫られた。 
361「白き神々の座」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/20 02:26 ID:jtQCZ2jS
 澪は警戒に警戒を重ね、そしてこの家には誰もいないと確信し――一気に駆け込んだ。
 ドアを開いたその先は、彼女のための密室だった。
 あえて鍵はかけず、クレイモアを目の前にセットし、このドアを開けた無礼者を抹殺する準備を整える。
 右手にはデリンジャー。左手は――下着にかかっている。
 朝、少しばかり、水を飲みすぎた。
 が、森の中で粗相をするような、そんなはしたない上月澪など存在していようはずもない。
 我慢すること数十分、森をさまよい、川を超え、ええい、こうなったら、
 と覚悟を決めた直後に住宅街を発見したとき、澪は確かに天使の祝福のラッパを聞いた。
 それでも忍耐力を総動員し、警戒を怠らないように、スカートに黄色い染みを作らないように、
 ゆっくりと周りを確かめるのがこの島での生き延び方。
 そしてようやく、汚れのない白い便座にて、澪は解放の時を迎え――。
 天使のような無垢な微笑みを見せながら、幸福のため息をもらした。 

【桜井あさひ 少年 住宅街の一つで街路を見張っている】
【少年の所持品 S&W M36(残り弾数5、予備の弾20)、腕時計、カセットウォークマン、食料】
【桜井あさひの所持品 キーホルダー、双眼鏡、十徳ナイフ、ノートとペン、食料、眼鏡、ハンカチ】
【上月澪 住宅街の一つの某個室で 『なにしてるか聞いたら殺すの』 】
【上月澪の所持品…M18指向性散弾型対人地雷クレイモア(一個、目の前に設置、残り一個)、
 イーグルナイフ、 レミントン・デリンジャー(装弾数2発、予備弾16発)、 詩子の配布武器スタンロッド】
【澪のスケッチブックには穴があいている】
【二日目正午】
362誰がために男は戦う 1/4:04/05/20 03:02 ID:KgnT/uG3

「美坂に手ェ出すんじゃねぇっっ!」

扉を蹴り開け、颯爽と飛び出した、筈だった。
格好良く名乗りを上げて、銃弾の雨をかいくぐって、美坂の手を引いて、

勿論、そんな力は残っていなかった。

実際はといえば、服を真っ赤に染めた少年がひとり、扉の隙間から倒れるように姿を現すなり
部屋中に散乱する雑貨を蹴散らしながら壁に激突し、もうもうと舞うメリケン粉に塗れて
擦れた声をあげていただけだった。

紫色の髪をした少女は、この騒々しい闖入者を一瞬だけ横目で見ると、再び波打つ髪の少女に
目を戻し、要するに彼は徹底的に無視されていた。

北川潤は、その生涯の最期まで道化であろうとしていた。
363誰がために男は戦う 2/4:04/05/20 03:03 ID:KgnT/uG3

実際のところ、巳間晴香にとって武器を持たない瀕死の少年など問題ではなかった。
明らかに正気ではないナイフ女が切迫した脅威として迫っていた。
こちらは拳銃、向こうは刃物、常識では勝負にならないが、何せ距離が近すぎる。
体勢も悪かった。
少年を撃った直後、背後の気配に驚いて構えずに振り向いてしまったのが拙かった。
この距離、少しでもワルサーを動かしたら均衡が破れる。
一発で確実に仕留められなければ、あのナイフは私を抉る。
白く煙る部屋の中、殺意と狂気を乗せた刃物というものは、ひどくギラついて見えた。

―――向こうの部屋の連中は……もう遅いか。

彼らの選択が逃亡にせよ迎撃にせよ、時間をかけ過ぎた。
奇襲の混乱に乗じての一撃離脱、それが失敗したのならば退くべきだった。

―――結局、仕留められたのは阿呆が一人だけか……。

そして退路にはサイコなナイフ女。
何のことはない、狩人気取りの自分など、所詮は話にならないド素人だったというだけの話だ。
一刻も早く撤退すべき状況で、動けない。
倒れ伏す少年を嗤えるものか。

白い部屋の三人は動かない。
364誰がために男は戦う 3/4:04/05/20 03:05 ID:KgnT/uG3

北川潤は、動かない身体と格闘していた。
血は刻々と流れ出し、意識は寸断されていた。
極彩色の悪夢と、激痛だったり鈍痛だったりする全身の感覚と、いつだって楽しかったあの教室を、
交互に行き来していた。

いつも眠そうだった少女が見えた。
短い間だけど、一緒にバカをやった仲間が見えた。

ほんの少しだけ、恋をしていたかもしれない少女が、見えた気がした。

惚れた女のひとりも、俺は護れないのか。
畜生。
畜生、畜生畜生畜生、眼を開けろ北川潤。あの娘を護れ。


眼を開けた。
狭い部屋の中で、雪が、降っているように見えた。

逆光に照らされて、美坂香里に雪が積もっていた。
少年は、叫んだ。


香里が動いた。
晴香に向かって駆け、順手に構えた右手のナイフを逆袈裟に凪ぐ。
北川の絶叫に気を取られた晴香は反応が一瞬遅れた。
下から迫る軌跡に対し反射的にワルサーを持ち上げようとして、絶望的に間に合わないことを悟り、
迫る刃の銀色に圧され、眼に映った相手の脚に向かって、トリガーを、部屋中に満ちた小麦の粉末の、
酸素と可燃物が充満した箱の中心で、引いた。
365誰がために男は戦う 4/4:04/05/20 03:06 ID:KgnT/uG3

結局のところ、北川潤に為し得たことなど多くはなかった。
彼が抱いていたのは夢と希望と楽観主義で、それは誰ひとり救うことはできず、
ポケットに詰まっていたのは大逆転の秘策ではなく、便座カバーだった。

それでも、北川潤は、その生涯の最期まで、誇り高く道化であったのだと。
彼のほかに喪われることなく続く命の数が、そう語っていた。


美坂香里は夢を見ていた。
ずっと、楽しい夢だけを見ていた。

眼を醒ました彼女に遺されていたのは、無数の裂傷と激痛と、少年の声の記憶。
少年が叫んだのは、たったひとりの少女の名。


【30 北川潤 死亡】
【87 美坂香里 満身創痍 果物ナイフは喪失】
【91 巳間晴香 行方不明】
【残り63名】
366悲劇の痕:04/05/20 05:38 ID:bV0hISkB
「くっ…がっ…あっ…」
海の家の外を、傷だらけの体を引きずる様に晴香は移動していた。
咄嗟の判断で、小麦粉を撃ち、爆発させたが、その威力は晴香の想像をうわまあっていた。
全身に手酷い裂傷を食った。
気絶しなかったのは、あそこで気絶すれば死ぬ――という強烈な危機感があったからだ。
状況は余り変わらない。
海の家の側の、周囲から丸見えの場所を、晴香は必死で進んでいた。
「つっ…!」
痛みで膝が落ち、不自然な体勢で倒れた。
銃が手から離れた。
慌てて拾おうとしたその銃はしかし、寸前で突然現われた足に踏み付けられた。
ゆっくりと、視線を上に向けた。
そこには、褐色の肌を持つ男がいた。
エディだった。
エディは悩んだ末結局晴香を追っていたのだ。
理由は、眼だ。
晴香の、その年齢には似つかわしく無い据わった眼に、エディは殺人者の匂いを感じた。
その己の判断を実証する為、エディは晴香の後を付けた。
程無く到着した海の家。
まずいかな、とエディは思ったが、中に人がいるかもわからない状況で下手に動く事をナビとしての判断力が許さなかった。
そして、そろそろと家の近くによって中の状況を探ろうとした所で、銃声を聞いた。
ついで、爆音。
確実に何かが起こっていることを感じたエディは入り口に廻ろうとして、そこから出てくる満身創痍の晴香を見つけた。
手に持つ銃から、被害者だとは全く思わなかった。
エディは用心深く晴香に近付き、そして晴香が倒れたのと同時に、すぐ側まで駆け寄ったのだ。
367悲劇の痕:04/05/20 05:39 ID:bV0hISkB
エディは、銃から足を離し、それを手に取った。
「私を殺すの?」
この状況でよくも――と、思えるほど冷静な声で晴香は尋ねた。
おかしい。
この時になってようやく、晴香は自分がおかしくなっていることを実感した。
今思えば、このゲームに乗っている時点でおかしいのだ。
権力を持つ人間、というものがどれだけ愚劣か晴香は知っている。
これだけの人数をかき集め、殺し合いをさせる人間が、果たして生き残った人間を生かす、などという約束を守るだろうか?
「(ありえない、わね…)」
自分は死ぬ、そう思うと、不思議に頭が明晰になった。
完全な八方塞の状態では、人は殺し合わない。
絶望するか、知恵を凝らしてそこから逃げようとするからだ。
だから、一つだけ逃げ道を作る。
最後の二人になれば、助かると。
完全に逃げ道を失った人間にとって、それは何とも甘美な誘いだ。
その先に、罠があるか、などとは誰も考えない。
絶望したくないからだ。
生きる希望に縋りたいからだ。
――帰りたいからだ。
家族の元に
有触れた日常に
愛する人の胸に――
それぞれの欲望を大義名分にして、人は殺し合う、あのと篁いう男の人形のように――
「なんて、愚か」
晴香は笑った。
無様な自分自身を、心から――
368悲劇の痕:04/05/20 05:41 ID:bV0hISkB
「中に一人、まだ生きてる女がいるわ」
笑いを止めて、晴香は言った。
「だいぶ酷い怪我をしてるから、速く治療してあげたほうがいい」
だから、とっとと私を殺しなさい、と晴香は言って、その場に崩れ落ちた。
限界だったのだろう。
傷の痛みに耐えきれず、晴香は気を失った。
後に残されたエディは顔をしかしめた。
殺す――と、少なくとも先程まではそう思っていた。
しかし、今の彼女のまるでつきものの落ちたような笑みを見て、幾分躊躇した。
彼女が、家にいる女を助けろ、といった時の顔は、殺人鬼のそれではなかった。
こういう状況下において、多少なりとも狂うのは仕方が無い。
そこから正気に戻ったのならそれでいいのではないか、とエディは思っている。
なんにせよ、殺人への嫌悪感から衝動的に目の前の少女を殺すことができないぐらい、彼は現実というものを知りすぎている。
「(ま、問題はあるがナ…)」
海の家を見た。
そこに生存者がいるというのならば、その誰かは、この少女のことを許さないだろう。
「――――」
数秒考えた後、とりあえず死には至らない傷だ、と判断したエディは、自分が潜んでいた茂みに晴香を隠し、海の家に向かった。
それから晴香のもっていた荷物を担ぎ、エディは海の家に向かった。
369悲劇の痕:04/05/20 05:46 ID:gvW9KX+a
「ワオ…」
中はとんでもないことになっていた。
先だっての爆音に相応しい破壊の傷跡が、壁や柱や床の至るところに残っていた。
その中心で、倒れた男に縋る様に、その少女は泣いていた。
歩み寄ろうとした足に、果物ナイフが当たった。
それを手に取り、ポケットにしまった。
少女は、こちらを向きもしない。
「どうしたもんかあな…」
なんともいえない終わった光景に、エディは、ぽりぽりと頭を掻いてため息を付いた。

【10 エディ 盗聴器 尖った木の枝数本 ワルサーPP/PPK(残弾4発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ、果物ナイフ
【91 巳間晴香  失神中】
【87 美坂香里 満身創痍】
370包み込む業火:04/05/20 11:51 ID:vkRnKeU0
グシュ!!

茂みの中で刃物が肉を抉る音が響く。
「こんなところで気絶してる君が悪いんだよ」
ナイフを心臓から引き抜くと彼は彼女の首を切り落とした。
「念には念のためにね…」
血に塗れた手に火炎放射器を握ると次に彼は目の前の建物へとひっそりと近づいた。
そして容赦なく火をつける。
海の家は燃え始める。
火が回ったのを満足げに眺めると彼はそのまま後を去っていった。
業火に焼き包まれて、中にいた者も全て燃え始めていく。
彼等が気づいた時には火は全て回っていて手遅れだった。
そして後には何も残らなかった。

【10 エディ 死亡】
【91 巳間晴香  死亡】
【87 美坂香里 死亡】
【11 エルルゥ 死亡】
【72 広瀬真希 死亡】
【81 古河渚 死亡】
【062 長瀬祐介 所持品 火炎放射器 (砲身に損傷・燃料は5割強), ジグ・ザウエルショート9mm(残弾0発), 果物ナイフ】
371包み込む業火:04/05/20 11:51 ID:vkRnKeU0
【残り57人】
372包み込む業火 改訂:04/05/20 12:55 ID:vkRnKeU0
グシュ!!

茂みの中で刃物が肉を抉る音が響く。
「こんなところで気絶してる君が悪いんだよ」
ナイフを心臓から引き抜くと彼は彼女の頚動脈をざっぱりと引き裂いた。
「念には念のためにね…」
血が噴水のように溢れる。
血に塗れた手に火炎放射器を握ると次に彼は目の前の建物へとひっそりと近づいた。
そして容赦なく火をつける。
海の家は燃え始める。
火が回ったのを満足げに眺めると彼はそのまま後を去っていった。
そして後には何も残らなかった。

【91 巳間晴香  死亡】
【062 長瀬祐介 所持品 火炎放射器 (砲身に損傷・燃料は5割強), ジグ・ザウエルショート9mm(残弾0発), 果物ナイフ】
【残り56人】
373名無しさんだよもん:04/05/20 12:56 ID:SaDkxw0C
>>205
             L -‐ '´  ̄ `ヽ- 、   〉
          /           ヽ\ /
        //  /  /      ヽヽ ヽ〈
        ヽ、レ! {  ム-t ハ li 、 i i  }ト、
         ハN | lヽ八l ヽjハVヽ、i j/ l !
         /ハ. l ヽk== , r= 、ノルl lL」
        ヽN、ハ l   ┌‐┐   ゙l ノl l
           ヽトjヽ、 ヽ_ノ   ノ//レ′
    r777777777tノ` ー r ´フ/′
   j´ニゝ        l|ヽ  _/`\
   〈 ‐ ぶっちゃけ  lト、 /   〃ゝ、
   〈、ネ..         .lF V=="/ イl.
   ト |お前の態度がとニヽ二/  l
   ヽ.|l.        〈ー-   ! `ヽ.
      |l気に入らない lトニ、_ノ    ヾ、
      |l__________l|   \    ソ
374名無しさんだよもん:04/05/20 12:58 ID:SaDkxw0C
すまん、誤爆だ。
>>205よ、気にしないでくれ
375包み込む業火 改訂:04/05/20 13:10 ID:vkRnKeU0
失礼訂正【残り62人】
376名無しさんだよもん:04/05/20 13:15 ID:YP/JtyeW
             L -‐ '´  ̄ `ヽ- 、   〉
          /           ヽ\ /
        //  /  /      ヽヽ ヽ〈
        ヽ、レ! {  ム-t ハ li 、 i i  }ト、
         ハN | lヽ八l ヽjハVヽ、i j/ l !
         /ハ. l ヽk== , r= 、ノルl lL」
        ヽN、ハ l   ┌‐┐   ゙l ノl l
           ヽトjヽ、 ヽ_ノ   ノ//レ′
    r777777777tノ` ー r ´フ/′
   j´ニゝ        l|ヽ  _/`\
   〈 ‐ >>370-372 lト、 /   〃ゝ、
   〈、ネ..         .lF V=="/ イl.
   ト |NGになったのとニヽ二/  l
   ヽ.|l.        〈ー-   ! `ヽ.
      |l気にしないで lトニ、_ノ    ヾ、
      |l__________l|   \    ソ
377名無しさんだよもん:04/05/20 13:18 ID:FrJr9yfk
うむ、NGだ。
以降、定期的に荒らしがくるだろうが、スルーで。
378包み込む業火 改訂:04/05/20 13:18 ID:vkRnKeU0
>>376は気に食わないというだけの理由でのNGです。
ちゃんとNGだNGだと叫ぶだけではなく理由を提示してもらわないと納得がいきません。
379名無しさんだよもん:04/05/20 13:22 ID:rhSLpgEd
>>376
NGの理由は読めばすぐわかるので無問題です。

あと、実況スレの作者のIDのレスを読めば一層理解できます。
380包み込む業火 改訂:04/05/20 13:24 ID:vkRnKeU0
では、実況スレを見た次の書き手と夜組に判断任せましょうよ。
今は明らかに正常に判断してない。
381平和の決壊1:04/05/20 14:36 ID:Jgu3O70P
北川は惨劇の現場に戻っていった。私たちを守るために。
広瀬真希は考える。
「…まず逃げ道を確保しましょう。他に敵が待ち伏せしてないか外を見てくるわ」
こんな時に自分でも驚くほど冷静であった。北川のあの怪我では考えたく無いが長くはもたないだろう。
北川が頑張ってくれているのだ、自分達が生き残らなければ申し訳が立たない。
「エルルゥさんは古河さんをお願いね。あと余裕があったら食料もバッグに詰めておいて」
エルルゥはしっかりとうなずく。
(エルルゥさんは大丈夫そうね。問題は…)
ふと古河渚へ目をやる。震えながら青い顔をしている
(あの子はあまり大丈夫じゃなさそうね。目の前であんな事があったら普通はそうなるか…私もどうかしちゃったのかしらね)
そして裏口の方へ向かう。身を隠しながら外の気配をうかがう。見た感じは誰もいない…だが
(どこからか狙われてるかもしれないわね…)
疑い出したらきりが無かった。
(…もう、本当に私どうにかしてるわ。)
と言っておもむろに外に身を乗り出す。しかし、特に周りに変化は無かった
(あまり心臓に良くないわね、自分を囮にするだなんて…)
しかし、身を呈して裏口の安全は確保された。これならばここから逃げられるだろう。それを確認し戻る
部屋へ戻るとエルルゥが渚の頭を撫でながら何かを話していた。隣からはまだ物音がしていた
「裏は今のところ安全みたいね」
382平和の決壊2:04/05/20 14:37 ID:Jgu3O70P
声をかけるとこちらへ顔をむける
「そうですか、こちらの準備も大丈夫です。食料も詰めておきました」
エルルゥはそう答えた。渚を見るとまだ少し顔色は悪いが震えは止まっていた
(いけそうね)
エルルゥの的確な行動に感謝しながら二人を裏口へ誘導する。
「…まず私がいくからその後について来てね」
二人に声をかけ外の様子をうかがい、先ほどと状況が変わっていない事を願いつつ外へ踏み出した。
目で合図すると二人も出てくる
「まずは身を隠す場所を探しましょ。古河さん、あまり大丈夫そうじゃないみたいだし…」
三人は歩き出す。少し離れたところで背後の家から爆音がし、三人が振り返る
「…何の音でしょう」
エルルゥが呟く
「何か爆発したみたいね。あんな狭い所で…」
家の中はしんと静まり返っている。いったい何が起こっているのだろうか。
北川はどうなってしまったのか、それが真希は気になってしまった
「私、見てくるわ。あなた達はこの辺の茂みにでも隠れてて」
と言って家の方へ走り出す
「あ、待ってください真希さん」
エルルゥが声をかけるも真希は走る事を止めなかった。

家の裏からは入らずに横へまわる。そして家の正面をうかがうと誰かが入っていくのが見えた
(いまのは……敵かしら…)
真希は入り口へと足音を立てないように静かに歩いていった…
383平和の決壊3:04/05/20 14:38 ID:Jgu3O70P
【11 エルルゥ 所持品 乳鉢セット 薬草類 バッグ 食料と水多めに所持】
【72 広瀬真希 所持品 『超』『魁』ライター バッグ 食料と水多めに所持】
【81 古河渚 所持品 バッグ 食料と水多めに (ワッフルとジャムは海の家に置き去り)】
384205:04/05/20 18:42 ID:y7Wzmr83
>374
うい。
……ピンポイントだったから驚いたw
385名無しさんだよもん:04/05/20 20:05 ID:8ww4OP+a
笑顔の綻び

 パンをもった奇怪な夫婦漫才師(としか彼らには見えなかった)が疾風(はやて)のごとく去ったあと、
藤田浩之(074)と雛山理緒(071)は先ほどの洞穴で再度休むことにした。雨はすぐに降り止んだし、理緒謹製の下着は
すでに完成していたが、そのために理緒は一睡もしていないのである。今動くという選択肢はこのコンビには無かった。
「とりあえず…今日のところはおつかれ。俺はもう十分休んだし、見張ってるから朝まで休みなよ」
「そうだね、とりあえず下着作ってみたけど、こんなのでよかった?」
「十分だろ、てか俺にはここまではできないよ。それじゃ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
「あ、ところでさ」
「ん、なに?藤田くん」
「理緒ちゃんも、かばん二つ持ってたよね、あれってやっぱり拾ったの?いや、俺は拾ったんだけどさ」

 浩之は目の前でおかしな耳を持つ女の子が死んだ様子を思い出した。ああいうふうに人が――やっぱり
あの子も人なのだろう、知っている誰かを呼びつつけていたのだし――吹き飛ぶ様子がゲームの中ではなく
現実だ、というのがどうにも納得できない。
 自分が狙われていることに気づき、荷物を拾って逃走できたのは我ながら上出来だったと思う。そうでなければ…
浩之は考えるのをやめた。なんとなく寒気がしたからだ。雨の水気を含んだ夜気や理緒に学生服を貸しているせい
だけでないことを浩之は自覚していた。
386笑顔の綻び2:04/05/20 20:06 ID:8ww4OP+a
「…あ、うん、そう、拾ったんだよ」
「あ、ごめん、へんなこと聞いちゃった?、それじゃ、改めておやすみ」
 
 一方そう答えた理緒は浩之の制服の下で震えていた。二つ目のバッグの持ち主のことを思い出してしまったからである。
 殺し合いだ、なんていわれて気分が悪くなって沢で休んでいた。大丈夫か、と声をかけてくれた、大きなハンカチを
もった男の人。ティッシュペーパー殺人のことを思い出して思わず、その首をもっていた注射器で刺してしまった。
 あの人は、生きているのだろうか。もし死んでいたら…殺したのが自分だったら…もし何かの間違いで他の人に
殺されていたら…武器がないせいで自分の身を守れなかったのなら…
 怖かった。ただひたすら、怖かった。
(大丈夫だから)
 その男の人はそういっていた――気がする。そうであってほしい。そうでなければ…
 私は、笑っていられるだろうか。

 眠りは浅く、そして短いものだった。ちょうど二回目の定時放送が流れてきたのである。
 睡眠をとっている間の理緒にとっての幸運は、浩之にその笑顔の綻びを感づかれなかったことだけだった。

【074藤田浩之:クレジットカード、小銭入り長紐付き巾着袋、クッション、バッグ2つ所持 服に当て布】
【071雛山理緒:筋弛緩剤、注射器一式(針3セット)、枕大の石、裁縫道具、手作り下着、バッグ2つ所持】
【定時放送直前】
387狂気の後1:04/05/20 21:09 ID:lVl+I/Dl
視界がぼうっとする。
前が良く見えない。
手に触れるのは何かの感触。

…?

目をこらしても、視界がぼやけて何も見えない。
触って確かめてみると暖かかった。

…なんだろ、これ。

もっとよく確かめてみる。
さわさわ、さわさわ。
掌に、濡れる感触。
それは、あとからあとからぽたぽたと降り注いでいて。
――そうしてようやく気づいた。

…ああ、あたし泣いてるんだ。

一体自分が今まで何をしていたのか、まるで思い出せない。
いや、思い出す気にもならない。
そこだけすっぽりと抜け落ちているようで、怖い。
何も考えたくない。
何も分からない。
388狂気の後2:04/05/20 21:10 ID:lVl+I/Dl

どうして泣いているのか
――分からない
どうして、身体が痛むのか
――分からない
どうして、こんなにも、胸が痛いのか
――――分からない

分からないまま泣き続けた。


「…どうしたもんかナ」
目の前で泣きじゃくる少女を尻目に、エディは困惑していた。
倒れている少年と、そしてそれに縋る様にして泣いている少女。

「(部屋中に舞う粉…小麦粉?…ナルホド、引火して爆発したんだナ)」
状況だけで推理してみる。
この少年と少女は顔見知りだったのだろう。
そして、一緒に行動していた。
そこへ現れる銃を持った少女。
抵抗しただろうが、果物ナイフと銃では勝ち目は歴然としている。
揉み合いの末に、偶然にも(もしくは計算して?)メリケン粉が舞い、発砲した瞬間に爆発。
そして逃げる少女。
しかし、少年の方は無事では済まなかった、という事だろう。
389狂気の後3:04/05/20 21:10 ID:lVl+I/Dl
ぽりぽりと頭を掻いて、罪悪感が押し寄せるのを感じた。
外で様子を伺っている間に、状況は既に取り返しのつかない事になっていたようである。
少年は、きっともう息はしていまい。
「(クソッ、オレっちがもっと早く踏み込んでいれば――)」

しかし、このままにしておくわけにはいかない。
気を取り直し、そっと近づく。
「ダイジョーブかい、嬢ちゃん?」
エディの問い掛けにも、少女は何の反応もしなかった。
少年の身体を確かめるように、泣き続ける。
「(チッ…ムリもねェ…、目の前でヤラれたんだ…泣くなって方が酷ダナ)」
だが、この場所ではその行動すら命取りになる。
「…嬢ちゃん、このままだとそこら辺のヤツにヤラれちまう…。
そんなコトになったら、その少年だって悲しむダロ?」
諭す様な口調で言った。
どうするか良く考えていた訳ではなかったが、このままにはしておけなかった。

ぴくり、と少女が反応した。
虚ろな瞳がエディに振り向く。

「――どうして…?」
「…どうしてって、そりゃあ…」
言いよどむ。
「――どうして、あたし、泣いてるの…?」
「―――?」
390狂気の後3:04/05/20 21:11 ID:lVl+I/Dl
エディは気づいた。
この少女の瞳には何も映していないという事に。

「――あたし、分からない…何も…。
ここは何処…?
みんな、どこにいるの…?」
少女はうわごとのように「分からない」を繰り返す。

「(ナンテコッタ…――クソッ!)」
目の前に居るのは、か弱い少女で。
「(コレがオマエの望んだコトか…!篁!)」
どう見ても、精神が蝕まれていた。

「あ…」
少女が何かに気づいたように声を上げた。
「ねぇ…、コレ何…?」
「―――!」
それは北川の変わり果てた姿。
「…最初は、暖かかったの――…。
でも、だんだん冷たくなってきて…、ねぇ、コレ、何…?」

エディは答えない。答えられない。

「目の前が、良く見えなくて…。」
「――ソイツは…、涙を拭けばイイんじゃネーノ…?」
「あ…、そう、そうか…」

そして、一番辛い現実を突きつけるしか出来なかった。

「――…き、たがわ、くん…」
391狂気の後5:04/05/20 21:12 ID:lVl+I/Dl


「いやぁぁああああああああッッ!!!」
香里の瞳に色が篭る。
それは、果てしなく後悔の色を湛えていた。


【010 エディ 所持品 盗聴器 尖った木の枝数本 ワルサーPP/PPK(残弾4発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ、果物ナイフ 】
【087 美坂香里 所持品 なし】

>>390
訂正【狂気の後4】でした。
392「覚醒」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/20 21:59 ID:p9qgkkvz
 クーヤを探し、彷徨うゲンジマルは、森を抜け、開けた場所に出た。
 幾ばくかの畑と、土の付いた農作業具。それに、雨露をしのげそうなガレージ。
 ちょうど入り口はこちら側を向いていて、シャッターは下りていない。
 だから、その中に人がいるのを、ゲンジマルは容易く確認することができた。
「女人か……」
 年の頃は二十歳を過ぎたかどうかといったところ。
 柔らかさの足りない奇妙な布で、体を覆っているのは、布団の代わりだろうか。
 あまりにも無防備なその姿は、戦士にはほど遠い。
「ふむ……」
 他に人の気配はない。少し悩み、接触してみることにした。
 もしかしたら、クーヤを見かけているかもしれないし、なにか有益な情報が聞けるかもしれない。
 念のために、罠がないか細心の注意を払いつつ、軒先まで来た。
 彼女――高倉みどりは、ここまで来てもぐっすりと眠っていた。
 武器らしきものは見あたらず、昨日の雨にやられたのか、服が干されている。
「失礼――」
 何度か小声で呼びかけると、みどりはようやく目を覚ましたようだ。 
「……はい?」
「就寝中の所、失礼いたす――」
 そして、驚愕の叫びが上がった。
「きゃああああああっ!」
 無理もない。見知らぬ初老の男。片目には眼帯。おかしな耳。恰幅のいい体格に鎧まで。
 そんな者が寝覚めた途端、目の前にいるのだ。悲鳴の一つも上げたくなる。
 そういえば、某ボクシング漫画のセコンドに、こんな顔があったようにも思う。
393「覚醒」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/20 22:00 ID:p9qgkkvz
「ぬっ」
「んんっ!」
 声を聞きつけられては大事と、ゲンジマルはみどりの口をふさいだ。
 代わりにみどりは手足を振り回して暴れ出す。
 殺される、犯される、切り刻まれるっ! 
 そんな恐怖が非力な彼女の脳を占め、ゲンジマルですら手を焼くほどに、激しく抵抗する。
 通常、錯乱した者には当て身を喰らわせるのだが、それでは元も子もない。
「落ち着かれよ。某、そなたに危害を加えるつもりはござらぬ」
 抑えめながらも、力の入った声と、鋭い、真摯な眼光。
 それがかろうじて、みどりの理性を繋ぎ止めた。
 みどりはまだ怯えていたが、あるいはヘタに抵抗すれば命がないとでも思ったか、何度も頷いた。
 それを確認し、ゆっくりとゲンジマルは手を離す。
 そして、一歩下がり、頭を下げた。
「驚かすつもりではなかった、許されよ」
 そのままじっと動かない。
「あ、あの……」
 微動だに。
 まるで置物のようになったゲンジマルに、みどりはようやく安堵する。
「あの、私もいきなりだったから、大声を上げたりしてしまって、申し訳ありません。
 気にしていませんから、どうぞ、お顔をお上げください」
「ご丁寧に、痛み入りまする」
 が、ゲンジマルは顔を上げない。みどりは困り笑顔で首を傾げ、
「あの、もういいですよ」
「いえ、失礼ながら、なにか着物を召していただかぬ事には――」
「え?」
394「覚醒」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/20 22:03 ID:p9qgkkvz
 自分の体を見下ろした。
 布団代わりに巻き付けていたシートは、先の騒動で剥がれ落ち、
 その下にはスクール水着に包まれた豊満な体が、ラインも露わに露出していた。
 というか、伸びきってます。限界まで。ぱっつんぱっつん。
「きゃ……」
 と叫びそうになり、慌てて口を押さえる。
 ゲンジマルは微動だにしない。
「重ね重ね、申し訳ござらぬ」
 っつーか、わざとだろ、あんた。
 そんな突っ込みをしたい気分を抑え、再びシートを巻き付け、呼吸が整うまでに、約2分。
「その、それで……なんの御用ですか?」
「は」
 ゲンジマルは名を名乗り、主君の特徴を伝え、あるいはそれに似た容姿のものを見なかったか問うた。
 みどりは少し考えたが、
「すみませんけど、あのホールを出てからは、見ていませんね」
 そもそも、幸か不幸か、スフィーの遺体以外とは対面していない。
「左様で……。どなたか尋ね人があるならば、某も知る限りお伝えするが」
 そう言ってはくれたが、スフィーは遺体を目にし、
 リアンも夜明けの放送で、その名前を呼ばれるのを夢うつつに聞いた。
 海の向こうには健太郎がいるだろう。父も必死で探していると思う。
 が、この島には頼れる者は誰もいない。
「いえ……もう、誰も……誰もいないんです」
「……失礼」
 重い沈黙の中、ゲンジマルは自分の出会った危険と思われる人物、
 名倉友里の特徴を教え、頼れそうな人物、光岡の名と特徴を告げる。
395「覚醒」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/20 22:06 ID:p9qgkkvz
「では、某、我が主を捜さねばならぬので」
「あっ、あの……」
 救いを求めるように伸ばされかけた手を、言葉で遮って、
「某はクーヤ様に仕える身。まずは皇の元に馳せ参じ、その身を守ることを第一とせねばなりませぬ。
 クーヤ様にお会いできたならば、そなたの事を告げ、共に救えるよう尽力いたす。が、今はまだ――」
 この、どちらかといえば小柄な体には、鋼の意志が詰め込まれていることを悟る。
 その主従の絆の前には、ただ偶然出会っただけの自分に、止める権利もすがる資格もない。
「……はい。あなたがクーヤ様と出会えるよう、及ばずながら祈っております」
 一礼し、風のように静かにゲンジマルは去った。
 誰もいなくなった空間なのに、まだ、張りつめたような気配が残っている。
 そのせいでか、少し時代劇風の言葉がうつっていたのだが、そのことには気づいてなかった。
 みどりは頬に指を当てた。
 もしもゲンジマルが、すぐにクーヤを見つけられたら、ここに取って返してきてくれる可能性は高い。
 見た目は強面だが、言葉遣いと誠実な態度は、十分信頼に値する。
 そしてもう一人。彼が信じた光岡という男。
 彼の人を見る目は確かなようにも思う。
 何より、彼はここからそう離れていない、川の近くにいるらしい。
 動いてしまった可能性も高いが、探せば出会うことができるかもしれない。
 このガレージは、開けた土地にある建物で、あまりにも目立つ。
 できれば、動いた方がいいとは思うのだが……その前に。
「とりあえず、着替えないと……」
396「覚醒」 ◆U2dbpJmxQs :04/05/20 22:07 ID:p9qgkkvz
 すっかり乾いた衣服を手に取り、少し悩む。
 このスク水、かなりきつい。一晩体を締め付けられたせいで、あまり疲れが取れなかった。
 かといって、これを脱いで私服を着るとなると、とても人には言えないような、痴女じみた状態になる。
 万が一転んだり、スカートが破れようものなら……。
「はぁっ……」
 何故か背中がゾクゾクした。が、理性が、それはいくらなんでもまずい、と警句を発する。
 そうよね、脱ぐわけにはいかないわよね。そんなはしたない。
 みどりはそう自分を納得させながら、スク水の上から私服を着込んだ。
 ――図らずも、先ほどのゲンジマルとの遭遇で目覚めかけた、見られる快感は駆逐された。
 それは単純に、一晩味わった食い込む快感が、時間の分、それを上回っていたと言うだけの話。
 袖に服を通そうと腕を伸ばすたびに、スカートを履こうと腰をかがめるたびに、
 きりきりと食い込んでくる、伸縮性の低いスク水の布地。
「んんっ……」
 みどりは妖しい感覚にとらわれながら、ようやく服を着終わった。
 これでもうスカートの中が見えても大丈夫。
 その下はスクール水着が――伸びきり、食い込んだスクール水着が、隠してくれているのだから。
 そう考えただけで、理解しがたい喜びが、背中を這い上がってきた。
「さて、どうしようかしら……」
 悩む表情は、どこかなまめかしさを湛え、体は媚びるようにひねられていた。

【ゲンジマル 所持品 ダーツ(残り6本・練習し、ある程度は使えるようになっている)
 手製の釣り道具、ミミズ(後2匹)、針のないダーツ】
【高倉みどり 所持品 スクール水着(着用) 白うさぎの絵皿 ここで見つけたライター】 
【二日目朝 放送終了から約一時間後】
397悪夢の仮説:04/05/20 22:30 ID:oPaIXo3A
「ずいぶん日が昇ってるね」
 穴の中から地上へ戻ってきた所で、河島はるか(027)はまぶしそうに目を細めつつそう言った。当然ながら、
事前に十分聞き耳を立てて周囲に人がいないことを確認済みである。
「あ〜、お天道様がこんなに恋しいとは思わなんだわ」
 続いて出てきた猪名川由宇(007)が、大きく伸びをした。体のあちこちに絆創膏を貼り付け、それでもなお
あちこちに生傷が残っている姿はぱっと見かなり変だが、彼女らしいと言えば彼女らしいかも知れない。
「ん」
 最後にひょこっと顔を出したのはアルルゥ(004)。とりあえずおなか一杯なのでご機嫌である。
「……放送、聞き逃しちゃったかな」
「あー、この日の高さだとあり得るな〜。うちはずーっとダンジョン探索やっとったから、2〜3回連続で
聞き逃しとるかも知れん」
「ドラゴンはいた?」
「ドラゴンどころかスライムベスも出ぇへんかった」
「ん、レベルアップしそびれたね」
「……あんた結構素質あるな」
 などと漫才を繰り広げつつ、一方の年長者二人はちょっと複雑な表情。聞き逃した放送の内容を知りたくも
あり、知るのが怖くもあり。お互い、安否を確認したい相手はいるのだが……少なくとも今の時点でそれを
知る手段はなかった。
 そういう状況でウジウジせずに簡単に頭を切り換えられるのもこの二人の特徴である。
「住宅街は無いかな?」
「何やいきなり」
 もっとも、唐突さという点でははるかの方が一枚上手のようだった。
「ん、水と食糧を補給したいし布団で寝たい」
「……そんなに寝てへんかったんか?」
「んー、6時間ぐらいかなあ」
「そんなんで寝たいゆーな。3日完徹程度は基本や基本。その程度の体力もあらへんで同人作家がつとまるか」
「アルちゃんは体、大丈夫? どこか痛くない?」
「ん、へーき」
「無視すんなコラ」
 ついでに言えば、何となく由宇の方が振り回されているようにも見えた。
『こいつ、トッポイ顔しとるけどそーとー手強いかもな……あーハリセン無いのが惜しまれるわ……』
 などと時と場所もわきまえずに関西人の血をたぎらせる由宇であったが。
398悪夢の仮説:04/05/20 22:32 ID:oPaIXo3A
「猪名川さん」
「何や?」
「ここはどこで、今はいつだと思う?」
「……はぁ?」
 この掛け合いから、恐るべき話が展開されようとはさすがに想像の範疇外であった。

 質問の意味を理解するまでにしばらく時間を要した。
「えーっと……」
 ネタで返そうかとも思ったが、ちょっとそう言う雰囲気ではない気がした。幼馴染みの冬弥ですら何を
考えてるのか掴めないのが河島はるかだから、ついさっき出会ったばかりの由宇がその思考を読めるはずも
無いが、何故かそういう気がした。
「時間でゆーたら午前10時頃っぽいけど……」
「あ、時間じゃなくて日付。場所もそれに準ず」
「準ずってどうせいちゅーねん」
 苦笑。こいつやっぱりオモロイわ。
「そやなぁ。爆弾埋め込まれたゆーから何日かは麻酔で眠らされとったかも知れんけど、うちらが拉致られて
から今まで一週間は経っとらへんのちゃうか? 場所……てゆーかこの島やけど、草木の種類を見るにあんま
日本と違う気せーへんし、絶海の孤島とは言え日本からあんま離れとらん思うわ」
「…………」
「あの主催のジジイは『脱出は不可能だ』みたいな事ゆーとったけど、その気になれば筏でも組んで、
魚取りながらでも脱出できる思うわ。日本近海なら一週間もすればどっかの船に見つけてもらえるやろ……
まぁ追っ手が来たらやばいけどな」
「…………」
「それに、ただでさえこんだけの人間が一気に行方不明になっとるんや、警察が黙っとらんはずや。何となく
背後にばかでかい黒幕がいそうやから、もみ消される可能性も無きにしもあらずやけど……」
「……つまり」
「あん?」
「猪名川さんの場合、元いた場所とこの島とで、季節がそんなに変わってないんだね」
「あん? 何を藪から棒に……」
 言っとるんや、と続けようとして、由宇の思考は急停止した。
「……どーゆー意味や」
「ん」
399悪夢の仮説:04/05/20 22:33 ID:oPaIXo3A
 はるかは由宇の顔を正面から見据えて、言った。
「わたしは12月16日に拉致されて、ここに連れて来られた」
「!!」
「だからこの島が、どうも初夏っぽいからちょっとびっくりしてる」
「……待てや。12月16日ぃ? うちが拉致られたんは6月下旬やで。いくら何でも変やろが」
「ん、そうでもないかも」
 狼狽する由宇を尻目に、はるかは何かを悟ったかのようにうんうんと頷くのであった。
「……つまり、あんたは拉致られてから半年近く眠らされとったって事か?」
「多分違うと思う」
「んな事ゆーたかて、この島はどう見ても冬やあらへんで。……あ、実はここは南半球で、眠らされとった
んはうちの方って可能性もあるのか」
「それも多分違うと思う」
 淡々としたはるかの態度が、こうなると何となく癪に障る。元々由宇はのんびりした性格ではない。自然、
その口調も厳しくなってこざるを得なかった。
「えー加減にせえや、うちはまどろっこしいのが嫌いなんや。言いたいことがあるならはっきり言え」
「アルちゃん、お水飲む?」
「ん(こくこく)」
「えー加減にせえ!」
 思わず絶叫する由宇。ハリセンを持っていたら力の限りはるかをしばいていたに違いない。
「猪名川さん」
 それもはるかは動じること無く、変わらぬ口調で話を続ける。
「今度はなんや!」
「アルちゃんはどこから来たと思う?」
「……へ?」
 いきなり話題が全然違う所にすっ飛んで、由宇は一瞬呆けた。
「どこからって……」
「少なくとも日本じゃないし、多分外国でもないよね」
「……って、あ!?」
 今度の大声は怒りが発した物ではない。驚愕が発した物だった。
400悪夢の仮説:04/05/20 22:33 ID:oPaIXo3A
 そうだ、そう言えばそうだ。何故こんな事に自分は今まで気づかなかったのか。
 それとも……気づいていながら無意識のうちに考えないようにしていたのか。
 犬耳や尻尾を持つ人間は即売会場で見慣れていたから外見そのものに大した違和感を感じてはいなかった
が、それでもコスプレではなく本物を装備した人間は知る限り地球上には存在しないって事ぐらい、知らぬ
自分ではなかったはずなのに。
「この子の耳や尻尾は本物。昨日お風呂に一緒に入ったから間違いないよ」
「せ……せやけど……」
「と言うわけで、最初の質問に戻るよ。ここはどこで、今はいつか」

 ……やばい。
 なんだかとてつもなくやばい。
 命の危険とかそういうレベルの話じゃなく、もっと違う所が尋常でなくやばい。
 そんな危機感を抱きまくる由宇だが、それでもはるかの言葉を遮ることは出来なかった。
「……(ごくり)」
「これはわたしの仮説だけど……この状況を説明するにはこれぐらいしか思い浮かばない」
 その次に出てくる言葉は由宇にも予測できた。
 はるかと由宇で、元々いた世界に季節のずれがある事。
 アルルゥが明らかに、ホモ・サピエンスとは別種の知的生命体であること。
「みんな目の前のことに必死で考える暇が無いのかも知れないけど、殺し合いなんかやってる場合じゃ
ないよねこれ」
 特にこれといった感情を乗せずに訥々と出てくるはるかの言葉が、頭の中で幾重にも反響する。


「この島は、私たちが元々いた世界じゃない。時間と空間を飛び越えた、どこか別の世界だと思う」
401悪夢の仮説:04/05/20 22:34 ID:oPaIXo3A
「……はは……」
 由宇は笑った。笑うしかなかった。
 あり得ない。そんな荒唐無稽な話があっていいはずがない。
 ネタやろこれは? みんながよってたかってうちをハメようとしとるんやろ?
 ……虚勢だった。どんなに否定してもアルルゥは目の前にいる。犬耳を傾け、尻尾をひょいひょいと
揺らして、大きな瞳でこっちを見ている。
 足下が急に頼りなくなった気がした。踏みしめていた地面が突然消失したかのような浮遊感を感じた。
 それは錯覚だった。今の今まで盤石だったはずの常識の喪失、何を信じたらいいのか分からない世界。
そんな精神的不安定がもたらす錯覚だった。
 異界出身のスフィーやリアン、それを知る五月雨堂の面々あたりならまだ落ち着いていられたかも
知れないが、由宇にそれを望むのは酷というものだろう。
 嘘や、と叫びたい。耳を塞いで目を閉じて絶叫したい。
 でも由宇は、辛うじて踏みとどまった。何となれば、爆弾発言の当事者が平気な顔をしていたから。
「河島さん……アンタ、なんで平気なんよ……」
「ん?」
「ムチャクチャやで……ここがパラレルワールドやって? 別世界やって? そんな三流SF、漫画の中
だけで十分やっての……」
「違う可能性もあるよ」
「なぬ?」
「私たちがマインドコントロールを受けていて、ここに来る前の記憶を改変されているとか、本当は地球に
アルちゃんの種族が存在しているのに、いないものと思いこまされているとか」
「…………」
 そっちの方がまだ可能性が高そうに思えてしまうのが情けない、と由宇は思った。どっちにしたって
荒唐無稽きわまりない妄言としか思えない内容なのに。
「まあ、真実はおいおい明らかになると思うよ。もっと情報が集まったら仮説も変わってくるだろうし」
 言いながらはるかは、荷物を背負った。缶詰はほとんど食べてしまったのでかなり軽くなっている。
「それまで生き残っていられれば、だけど」
「……う」
402悪夢の仮説:04/05/20 22:34 ID:oPaIXo3A
 由宇は我に返った。
 そうだった。とにもかくにも生き残らねばならないのだった。
 ここが異世界だろうと何だろうと、殺されたらゲームオーバーなのだ。
「そやな。世界がどうこうなんて哲学者めいたこと考えとる暇は、あんま無いんやった」
 頭を大きく振って、由宇も自分の荷物を掴んだ。
「考えるためには生き残らねばならん。古代ギリシャで哲学が栄えたんは、連中が考え事に没頭しとっても
死なずに済む豊かさを手に入れとったからや。そして、ここは戦場や!」
 頭をきれいに切り換えて、サバイバルモード全開モードの由宇。
「世界がどうあれ、うちらの目標は変わらん。つまり、生きて脱出する。そやな?」
「ん」

 それは逃避だったかも知れない。だが、世の中には逃げても恥にならない状況が確かに存在するのだ。

「とりあえず、水と食料か?」
「ん。あと、アルちゃんのお父さんやお姉ちゃんも探さないと」
「んー……」
「何や? うちの周りうろうろしてからに」
「由宇おね〜ちゃんも尻尾がない」
「……あー、そりゃあらへんわなぁ」
「へん」
「変ってアルルゥ、そらないで。うちに言わせればアルルゥの方が変やわ」
「う……」
「ああぁ済まん済まん、うちが悪かった。アルルゥは変やないから泣いたらあかんっ」
「やれやれだね」
「……河島さんにそれ言われるとそこはかとなく傷つくのはなんでやろな」
 様々な想いを内に秘めて、三人の旅はまだ始まったばかり。

【007 猪名川由宇 所持品:ロッド(三節棍にもなる)、手帳サイズのスケブ】
【027 河島はるか 所持品:懐中電灯、ビニールシート、果物ナイフ、救急セット、缶詰(残り3個)】
【004 アルルゥ 所持品:なし】
【二日目午前10時ごろ】
 冬弥たちの狙撃に失敗した晴香はリサの追撃を振り切った後、しばらく森の中を東に進んでいた。
(でもまさか、由依が死んでいたなんて)
 逃げている途中、篁の嫌な声が聞こえた。
 その中で晴香は由依の死を知った。
(やっぱ由依じゃここで生き残るのは無理だったみたいね)
 知り合いが死んだというのに晴香は冷静だった。
 自分はこんなにも冷酷な人間だったろうか。
 だが命を落とした者に対していちいち感情を抱いている暇はない、それが例え知り合いだったとしても。
 ここは殺し合いの場なのだ。
 次の瞬間には自分が死んでいるかもしれない。
 そして自分はこれから多くの人々を殺そうとしているのだ。
(良祐、待っててね)

 さらに進んで森の外れまでやってきた晴香は、焼け落ちた民家を発見した。
 長瀬祐介が火炎放射器で燃やしたものだが、雨のせいで火は治まっていた。
(誰かが放火でもしたのかしら……)
 しばらく焼け跡を探ったが特に何も見つからなかった。
(あら? あそこに見えるのは……)
 海岸のほうになにやら建物が見える。
 北川たちがいる海の家だ。
(少なくともここにいるよりはマシね)
 晴香は海の家へと歩を進めた。
(もし先客がいたら……邪魔するヤツは皆殺しよ)
 晴香は自分の後をつけている者がいることに気付いていなかった。
「ウーン、このまま後を追うべきカ?」
 追跡者の正体はエディだった。
 彼はあの後森の中に潜伏していたが、晴香を発見して後を追ってきたのだ。
「それにしても、みんなどこにいるんだろうナ」
 晴香を発見する前に2回目の定時放送を聞いていたエディだったが、宗一たちは無事なようでほっとしていた。
(ウーン……)
 晴香が海の家に向かうのを見ながら、エディはこれからどうするべきか悩んでいた。


 晴香の他に海の家に向かう人影があった。
 足元はふらつきながらも、その目はしっかりと海の家を見据えている。
 なぜそこに向かっているのかはわからなかった。
 ただ、直感で人が集まっていそうな気がした。
 閃光弾の効果はとっくに切れていた。
 殺虫スプレーを顔面に受けてすこぶる気分は悪かったが。
 だが、もはや人格が壊れて元には戻りそうにない香里にはそんなことを考える思考は存在していなかった。
 今の彼女の心には誰の言葉も届かないだろう。
 聞こえるのは、いるはずのない栞の声だけ。
「……そうよ。みーんな殺してやるんだから。そして栞とあたしだけが生き残るのよね? フフフ……」
 右手には果物ナイフが光っていた。

【091 巳間晴香 海の家へ ワルサーPP/PPK(残弾6発)、出刃包丁、タオルケット×2、ビスケット1箱、ペットボトルのジュース×3、婦人用下着1セット、トートバッグ】
【010 エディ どうするか迷っている 盗聴器 先の尖った木の枝数本】
【087 美坂香里 海の家へ 果物ナイフ】
【2日目朝、定時放送から約3時間後】
時間軸を修正しましたので>>320-321と差し替えお願いします
406それでも誰かを好きになる:04/05/20 22:46 ID:kSAJ5lc5
 放送を二人でしんみりと聞く。
「……僕のほうには知り合いはいなかったよ」
「姉さんもよ。そうちゃん、元気みたいね」
 七瀬彰(66番)と梶原夕菜(21番)は住宅街の民家で、顔も知らぬ死者たちに黙祷を捧げた。
 そして、軽い朝食を済ませる。
 済ませた後は、何もすることが無くただ家の中で時が流れるのを待っていた。
 退屈しのぎに、彰がミステリー小説の話を振ってみる。
 夕菜はそれを退屈と取らずに、ただ笑って話を聞いてくれていた。
「……で、そこのトリックなんだけれど、
 いきなりそれまでの殺人事件と関係の無い犯行現場である別荘の持ち主が密輸してる疑惑が浮かび上がって、
 あれよあれよという間にその仲介している商人を問い詰めて、さらには隠し階段で事件が解決しちゃうんだ。酷いでしょ?」
「まあ……」
 そんな談笑が、暫く続いていた。
407それでも誰かを好きになる:04/05/20 22:47 ID:kSAJ5lc5

 彰たちが談笑している頃、
「……住宅街ね」
 藤井冬弥(73番)、須磨寺雪緒(50番)の二人は、あれから森を突っ切って住宅街まで来た。
 最初は道を確認しつつ海岸線を移動していたのだが、途中から隠れやすい森の中を選んだのは、
 実際の殺し合いを目の当たりにして、人との接触の危険性を再確認したためである。
「どうする? 食料とか……あるかもしれないけど」
「こういった場所は、逆に人も集まりやすいわね。森や海岸と違ってリスクは十分上がるわ」
 雪緒が心配そうに呟いた。
 彼女は、何かと自分らの安全を気にかけてくれる。
 人の少ないと思われるほうに、冬弥を誘導してくれている。そんな感じだ。
 雪緒は本当の意味で頭が良い、冬弥はそう思った。成績や知識があるだけでは、頭が良いとはいえない。
 こういった場面でそれを活用できることが、頭の良さである。
「大丈夫。俺が、雪緒ちゃんのことは守るから」
 雪緒の手を引いて、慎重に住宅街に近づいていく。
 そんな冬弥の行動に、雪緒は優しく微笑んだ。信頼、その言葉が全てを表しているのだろう。
 雪緒の自然な笑みに、冬弥が魅力を感じないはずは無かったが、それを押し込めて道を横切った。
 とりあえず、手近な民家の窓を覗いてみる。すると、影が二つ見えた。
 生憎、物陰に隠れて人の姿は見えない。時々笑いが零れてくる。楽しそうな雰囲気だ。
「……誰か、先客がいるみたいね。争いごとになる前に離れたほうが良いかもしれないわ」
「いや、ちょっと待って。この声は……」
 冬弥は耳をひそめてみる。……間違いない。
 昨日、あれほど求めた親友の声。……彰の、声だ。
 感激で、手足が震えてくるのに気付く。いても経ってもいられなくなった冬弥は、勢いよく民家のドアを開けた。
408それでも誰かを好きになる:04/05/20 22:48 ID:kSAJ5lc5
「彰っ!!」
 冬弥は彰の名を呼びながら、部屋へと入っていく。
 その後ろには、冬弥のいきなりの行動にちょっと戸惑いながらも雪緒が続く。
「……冬弥!?」
 驚いたのは彰のほうである。ミステリーの話題で気を紛らわせていたところに突然の客。
 しかも、それが見ず知らずの人ではなく、自分のよく見知った顔。
 初めて会えた知り合いに、二人はお互いに喜んだ。
「彰ちゃん、お知り合い?」
 ちょうどいい頃に、夕菜が声を掛ける。
「あ、うん。藤井冬弥って言う、僕と同じ大学に通ってる友達だよ」
「初めまして、藤井冬弥です」
「あら、ご親切にどうも。梶原夕菜です。彰ちゃんには随分お世話になってます」
「やだな、姉さん。世話になったのは僕のほうだよ」
 にっこり微笑んで冬弥に挨拶を返す。
 良かった、この人は悪い人ではない。冬弥は直感的にそう判断した。
 ただ、彰がこの女性のことを「姉さん」と呼んでいるのが気になったが。
「……ところで、その人は?」
 彰は雪緒に目が行った。
「初めまして、須磨寺雪緒です。藤井さんには……いろいろと、お世話になりました」
 その言葉に、冬弥は照れくさくなる。
 確かに、第二回定時放送での件が思い出されるが、それよりも雪緒の的確な指示のほうが役に立ったのではとも思える。
 雪緒に悲しい思いをさせない。そう公言してしまった。
 このまま、雪緒と一緒に生き残る算段をするのも悪くない。そう考えてずっと一緒に行動してきたのだ。
 四人は、冬弥と彰の仲介の下比較的簡単に打ち解け暫く会話を楽しんだ。
409それでも誰かを好きになる:04/05/20 22:49 ID:kSAJ5lc5
「冬弥、ちょっと」
 暫くしてから、彰が冬弥のことを手招きする。
「どうした?」
「いや、二人で話があるから。ちょっと来て欲しいんだ」
 彰以外の三人が顔を見合わせる。
 冬弥は特に深く考えずに同意し、彰の後を着いて階段を上った。
 二階の一室、六畳間の和室で二人は向き合った。
「で、話って何だよ?」
 彰は、先ほどまで笑顔でいたのだが、戸が閉まるのを確認すると、顔をきりっとひきしめる。
「冬弥……率直に聞くよ。あの、須磨寺さんって言う子、どう思ってるの?」
「……どうって?」
「好きか、嫌いかってこと」
「いや、嫌う理由なんか無いだろ?」
「そういう意味じゃないよ。……分かってるんだろ? あの子の気持ち」
 彰の言葉が、冬弥の胸にぐさりと突き刺さった。
 核心を突く言葉だった。生き残るための決意の他に、冬弥が先送りにしていた現実、
 今、ここで改めて突きつけられた。
「ちょっと話してみて分かったよ。あの子、冬弥に惚れてる。何があったかは知らないけれど。
 冬弥……君はどうなんだ?」
 自分がどうかって? 簡単だ。自分だって惹かれている。
 雪緒が時折見せる愛らしい表情が、瞼に浮かんでくる。今まで意図的に、口に出さなかった現実。
 それでも、今度ばかりは言わねばなるまい。
410それでも誰かを好きになる:04/05/20 22:51 ID:kSAJ5lc5
「……俺も、雪緒ちゃんが好きだ」
「やっぱりね」
 冬弥の答えは予想していたのだろう。呆れ顔で彰は溜息をついた。
「……由綺は、どうするんだよ?」
 由綺。この企画に参加していない、冬弥の恋人。
 今、冬弥は自分がどれほど背徳的な感情を抱いているかは理解している。
 あえて、口に出したくなかった。考えたくなかった。現実から、目を背けていたかった。
 それも、彰の一言一言が容赦なく自分を現実に引き戻す。
 返せる言葉が無い。
「呆れたよ。由綺というものがありながら、須磨寺さんの気持ちをもてあそんだって言うのか。
 ここに由綺がいないことをいいことに、さぞかし楽しい思いをしてきたんだね」
 彰の挑発的な台詞が、冬弥を苛立たせる。
 返す言葉が見つからないだけに、一層冬弥はカッとなった。
 そして、反射的にグロッグを彰の鼻先に突きつけていた。
「もう一度、言ってみろよ……。いくらお前でも、その頭に穴が開くぞ」
「それで、僕を撃つのか? そんなことしたって、現実はかわりゃしないのにさ。
 うまくお前と須磨寺さんが生き残れたとしても、君らが傷つくのは目に見えてる。
 はっきり言おう。冬弥、君がちゃんとしない限り、何をしようが絶対に君らは幸せになんかなれない」
 冬弥の脅しに屈することなく、彰は言い切った。
 冬弥が撃つことは無いと踏んでいたかどうかは分からないが。
 ゆっくりと、グロッグを握る冬弥の手が下がっていく。
「……なら、どうすればいいんだよ。俺は、雪緒ちゃんが好きだ。
 けれど……由綺は、俺の恋人だ。裏切ることなんて、出来ない……」
411それでも誰かを好きになる:04/05/20 22:51 ID:kSAJ5lc5
 彰の体が一瞬沈んだ。
 そして……冬弥の体に伝わる、一瞬の衝撃。
 彰は、冬弥を殴った。精一杯の、力を込めて。
「……ふざけるなよ。自分のことだろ? せめて、自分でケリつけろよ。
 由綺を裏切れないなんて、聞こえは良いがただの都合のいい言い訳じゃないか。自分の本音で、ぶつかってみろよ」
 殴った後、冬弥の横を通り過ぎようとする。
 諦めもあったのかもしれない。このまま、冬弥は人間として最低の人種になってしまうのか、という。
 冬弥の体が揺れる。何かを、予兆するように。ぶつぶつと何か呟いているのが聞こえる。
 次の瞬間……彰が、宙に舞った。
 冬弥が渾身の一撃で、彰を殴りつけたのだ。
「……分かってるさ。俺が本当に好きなのは、雪緒ちゃんだってことを!
 例え、由綺を失っても俺は、雪緒ちゃんを取る!」
 冬弥は、下へと走る。自分が真に愛するものが誰かを告げるために。
 それが、由綺を悲しませる結果になるとしてももう迷わない。
 彰は頬を擦りながら起き上がった。
「……いたた。冬弥も世話が焼けるよ、自分の言うべきことも満足に言えないなんてさ」
 そしてぼやく。自分はつくづく友達想いの奴だ、と痛感しながら。

【21 梶原夕菜】
【50 須磨寺雪緒】
【66 七瀬彰】
【73 藤井冬弥】
【所持品変更なし 午前中】
412名無しさんだよもん:04/05/20 23:17 ID:w9m/CaH7
つかの間の心の休息を終え個室を出る。
個室のクレイモアを玄関にセットし直して、間取りの確認を行う。
一通り間取りを確認すると澪はダイニングの椅子に腰掛け、これまでの行動を省みた。
始めに脳裏を掠めるのはやはりオボロのことだった。

今までは出会った相手は確実に仕留めてきた。
故にわたしがゲームに乗った事を知っている者はいない。
相手が乗っていなければ接触し、隙を見せた所で仕留める。
それは小さい体躯と演技力を活かした必殺の方程式。

だが、これからはそうはいかない。
知られてしまったから。
わたしがゲームに乗ってしまっている事を。
仕留め損なったから。
真正面からの殺気に恐怖して。

弾痕のついたスケッチブックを見る。
これを見た相手は間違いなく警戒するに違いない。
つまりは他者に接触する手段を失ってしまったことになる。
これでは騙し討ちに持ち込む事が出来ない。
早急に替わりのスケッチブックを手に入れる必要がある。
商店街か、もしくは学校でなら入手できるかもしれない。

次に放送の事。 これまでに30人死んでいるらしい。
このうちわたしが殺したのが5人。
つまりは…
そう、ゲームに乗った参加者はわたしだけじゃないということ。
それも結構な人数が居そうなのは疑う余地がない。
ゲームに乗っている相手には騙し討ちは通用しない。
奇襲か罠か正攻法か、その時々に応じてもっとも効果的なものを選ばなければならない。
413名無しさんだよもん:04/05/20 23:17 ID:w9m/CaH7
手持ちの武器を確認する。
黒髪の女性を罠に嵌め、また修二を騙し討つ小道具として使ったクレイモアは残り2つ。
もっとも、一つは今玄関口に仕掛けてあるわけだけど。

修二を殺すのに使った大型のナイフ。
これを使った後は返り血に注意しないといけない。 騙し討つならなおさらだ。

ハクオロ達を騙し討つのに使った小型の拳銃。 弾数は残り18発。
銃の威力自体は高くない。 その半面、ポケットの中に仕舞える利便性は大きい。

詩子の配布武器であったスタンロッドは充電式らしい。 柄の部分にプラグが内蔵されている。
連続起動がどれぐらい出来るかは使ってみないとわからないけど。

と、ここまで確認してユズハのバッグを開けてもいないことに気が付く。
バッグを開けて確認するが武器らしい武器は入っていなかった。
代わりに入っていたものはベストタイプの防弾/防刃チョッキ。
取り扱い説明書を信用するならばハンドガンなら44マグナムやトカレフのような大型のものでも止める事が出来るらしい。
その上重さは2kg強と軽い。
もしもハクオロがこれを身に付けてたら…
ふと、そんな事が脳裏を過ぎった。



【036上月澪 所持品…クレイモア(残り1個)、イーグルナイフ、レミントン・デリンジャー(装弾数2発、予備弾16個)、スタンロッド】
【ユズハの初期配布品は防弾/防刃チョッキでした】
【スケッチブックには穴が二箇所開いています】
【玄関にクレイモアを設置しています】
【白き神々の座より5分経過】
414アルペジオーネ:04/05/20 23:58 ID:yoK4b5aV
「…できた」
 格闘すること30分。橘敬介(55)は、溜息をついて肥後の守を机においた。手に生傷をいくつも作り、ようやく作品が完成した。
「…しかし」
 できあがった作品を見て苦笑した。どう見ても、自分が作ろうと思った物には見えない。
「うぅん…」
 その時、後ろで寝ている少女、三井寺月代(85)がそんな声を漏らした。
「おや?」
 少し硬くなっていた腰を逸らし、立ち上がった。
「……初音ちゃん?」
 寝ぼけ眼で、少女は起きあがっていた。そして、ふと、橘と目が合う。
「やぁ、目が覚めたかい?」
 しばらく、理解ができなかったようだが、ぴったり5秒後短い悲鳴と共に、恐怖を露わにしてのけぞった。
「こ…殺さないで…」
 そんな姿を見て、橘はいたたまれない気持ちになる。さっき死んだ少女と言い、この少女と言い、こんな子達が、なぜ死の恐怖に怯えなければ行けないのだろうか?
「…信じられないかもしれないけど、信じて欲しい。大丈夫、殺さない。手を挙げるつもりはないよ」
 少女と目を合わせる。少女は、何かを感じ取ったのか、少し落ち着いたようだ。
「ごめんね、勝手に上がらせて貰ったよ。えぇと…君は?」
「…三井寺、月代です」
「橘敬介、よろしく」
 そう言って左手を差し出す。おずおずと手を差し出す月代だが、突然、橘が焦ったように左手を見つめた。
「…あれ? こら、出て来いって!」
 ぶんぶんと左手を振り回す。突然の行動に、月代は呆気にとられている。
「てい!」
 短い気合いと共に左手を大きく振った。すると、ポン、と言う音と共に袖から白い造花が飛び出した。
「…ふぅ、えっと、みっともないところを見せたけどよろしく」
 苦笑いして、花を差し出した。今まで沈んでいた月代は、ほんの少しだけ、口に笑みを浮かべた。
415アルペジオーネ:04/05/21 00:07 ID:C1VIbHmH
「…そうか、そんなことが」
 橘と月代は机に向かい合って座っている。そして、これまでの経緯をお互いに話しているのだが、月代の話を聞いて驚いた。
 初音という少女との出会い、月代を殺そうとしたが最後の最後で思いとどまり、自分で毒をあおり命を落とす。
 これでは、月代から笑顔が失ったわけもわかった。橘はやり場のない怒りに包まれた。
(理不尽すぎる。………彼女が何かしたのか? 死んだ少女も何かしたのか? ……この馬鹿げた事のせいで)
「…どうすれば、いいんだろう」
 月代の声は絶望しか感じられなかった。その声を来て、ふと記憶をよぎる1つの声。
(また、誰かを笑わせてあげて下さい)
 自分が死を看取った少女の声が聞こえる。しかし、自分に出きるのだろうか? 深い絶望に包まれた彼女に笑わせることが。
「とりあえず、何か口に入れよう。辛いかもしれないけど、食事をとらないと…」
 橘は、苦し紛れにそんなことを呟いた。言葉と共に、自分のバックを漁る。
「…うん」
 月代もそれに倣って、鞄のチャックを開けた。とりあえず、食事をとる意志はあることに橘は少し胸を撫で下ろした。
「あれ…?」
 月代は鞄を探る手を止めて、声を漏らした。
「どうしたんだい?」
「…これ」
 鞄から取り出したのは、4つの弦が張ってあり、木目色をした1つの楽器。
「…ヴァイオリン?」
「…いや、これはヴィオラだね」
 ヴァイオリンより少し大振りな楽器、ヴィオラを手にとって橘は呟いた。
「これが、君の支給武器?」
「みたい…」
 橘は、月代共々苦笑した。
「こんな物でどう戦えというんだが」
 そう呟いて、A線を弾いた。
「…弾けるの?」
 月代が興味深そうに訪ねてくる。
「昔、ヴァイオリンを習ってたことがあってね。でも…」
 不器用でやめた、とは恥ずかしくて言えなかった。
「へぇ…」
 感心したように、月代が溜息をもらした。
416アルペジオーネ:04/05/21 00:20 ID:C1VIbHmH
「弓、あるかい」
 そんな様子の月代を見た橘は、月代にそう言った。
「えっ? えっと…」
 鞄の中を覗き込むと、すぐに見つかったのでそれを渡した。
「よっと」
 ミュートが付いていたので、駒に取り付けて音量を落とす。弓を張り、軽く弾いてみた。
 ミュートを付けているから、音量は落ちるが、豊かな音が響いた。
「………」
 無言で、じっと橘の様子を見ている。何を求めているかはだいたいわかった。
(…ヴィオラも囓ったとはいえ…弾けるかな?)
 自信はなかった、だが目の前で期待に満ちた顔をしている月代。そして、死んだ少女の最後の言葉。
(やるしかないか)
 無言で、弓を動かし始めた。曲は、シューベルトの「アルペジオーネ・ソナタ」
 正直、演奏は酷い物だった。テンポは滅茶苦茶だし音程も酷かった。聞けた物じゃないのだが…。
(僕が、笑わせる。この子を!)
 情熱だけは、溢れている。月代は黙って演奏を聴いていた。
 下手くそだと思う。音が汚いと思う。この曲もいい曲だとは思うけどちょっと暗いような気がする。
 それでも、何か泣けた。何もしてないのに、涙が止まらなかった。
(初音ちゃん…ごめんね。私、苦しんでる初音ちゃんに何もできなかった。…でも、私生きる。絶対に生きるから)
 そう心の中で呟き、再び泣いた。

【橘敬介(55) 所持品:肥後ノ守、その他ガラクタ(要整理、手品の道具などがある)、手首に万国旗、釣り糸、釣り針、ハンカチ、水入り容器】
【三井寺月代(85) 支給武器:ヴィオラ】
【今後の方針未定。ただいま小さな演奏会中】
【午前中】
417名無しさんだよもん:04/05/21 00:23 ID:C1VIbHmH
追加です。

【三井寺月代 所持品:青酸カリ・スコップ・初音のリボン】
【橘が何を作ったかは次の人にお任せです】
418女郎蜘蛛 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 00:45 ID:7u546AUN
「それ以上近づかないでください!」
「誰ッ!?」

辿り着いたホールの中には先客、少女が二人。
何かのユニフォームのようなものを着た少女がスティックを構え、もう一人の少女を庇うように仁王立ちになっていた。
尤も、その足の震えを隠し切ることを出来てはいないが。

「こんっの、クソアマァァァァァァ!」

ボールをぶつけられた衝撃から立ち直った晴子が、銃口を少女に向け、引き金を絞る。

「死にさらせえええええ!」
「待ってっ!」
「ひっ!」

パパパパパパパパパパッ!

爆竹が連続で爆発するような兇弾は放たれ、ホールの壁に孔を穿って行く。
しかし、兇弾が少女二人を蹂躙することは無かった。
419女郎蜘蛛 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 00:46 ID:7u546AUN
「ッ!いきなり何を邪魔しくさってんねんコラァ!」

明日菜が咄嗟に晴子を押し倒したからだった。

「ちょっと落ち着いてください!」
「落ち着くも何もあいつらは先に攻撃してきたんやで!?」
「いいから落ち着きなさいってば!」

パァン!

明日菜の平手打ちの音が、ホールに響き渡る。
一瞬、茫然自失となった晴子の耳に何事かを囁き、その手からUZIを取り上げて、明日菜は少女のほうへと向かう。

「ヒッ!」
「こ、来ないでっ!」

突然の銃撃を受けた二人は地面にへたり込み、近づいてくる明日菜からあとずさって何とか逃げようとする。

「そう怖がらないで、って言っても、あんなことの後じゃ無理かな」

そう言ってUZIを床に置く。

「ほら、これなら大丈夫でしょ?」
「あ…」

それを見てようやく少し平静を取り戻したのか、二人は逃げることをやめる。
420女郎蜘蛛 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 00:47 ID:7u546AUN
「ごめんなさいね、突然攻撃されたから相方がブチ切れちゃって。あの人、更年期障害で怒りっぽいのよ」
「誰が更年期障害のオバハンやねんボケェ!」

よっこいせ、といった感じで、押し倒されて今まで床に寝そべっていた晴子がようやく立ち上がる。

「違ったんですか?」
「アホか!ウチはまだ二十代や!」
「……くすっ」
「ようやく笑ってくれたわね」



「まずは自己紹介からはじめましょうか。アタシは麻生明日菜。呼ぶときは明日菜でいいわ」
「ウチは神尾晴子や。ウチも晴子って呼んでくれてかまへんで」
「あ、あたしは葉月真帆です」
「あたしは大庭詠美ちゃん様よ!」

武器の放棄と漫才によってなんとか落ち着きを取り戻した四人は、車座になって自己紹介を始めていた。

「真帆ちゃんたちは、どうしてここに?」
「ええっと、初めは森の中を彷徨ってたんですけど」
「そこであたしと会ったのよね」
「そうそう、それで一緒に行動してたんですけど、いつのまにかここに来ちゃってて」
「あら、アタシたちと似たような理由なのね」
「そうなんですか?」
「ええ、アタシたちも偶然森の中で出会って、迷っているうちにここに戻ってきてしまったのよ」

お互い、方向音痴だと困るわね、と言って笑いあう。
どうやら、向こうは大分こちらに心を許してきているらしい。
421女郎蜘蛛 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 00:49 ID:7u546AUN
話はなおも明日菜主導で進む。

「それでね、一つ聞きたいんだけど」
「何をです?」
「あなたたち、このゲームをどうにかして壊すつもりはない?」
「ええっ!?」

真帆、詠美の二人は当然として、晴子までもがこの話に驚く。

「アタシね、ずっと考えていたのよ。このゲームの主催者を倒せば、みんな揃って無事に帰れるんじゃないか、って」
「なっ!?あんた本気で言うとるんか!?」
「ええ、本気よ」

食って掛かる晴子をさらりと受け流して、明日菜は話を続ける。
422女郎蜘蛛 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 00:49 ID:7u546AUN
「初めに、タカムラ、って男が言ってたわよね。ここは離島で、翼を持つものでも体力が続かないほど陸地から離れている、って」
「ああ、なんかそんなことも言うとったな」

参加者の中には、翼のようなものを持つものも居たことを思い出す。

「じゃあ、そんな場所にアタシたちはどうやって連れてこられたのかしら?」
「そりゃ船か飛行機かなんかで運んで……あ」
「まさか……」
「この島のどこかには、アタシたちをここまで連れてきた"ナニカ"があるってことでしょ?」

「いやいやいや、ちょい待ちぃや。そうは言うけどや、もしかしたらウチらを連れてきた乗り物は、運ぶだけ運んでだらもうどっかへ行ってしもうたんかも知れへんで?」
「それはあるかもしれないけど、そうだとしても、他にも何か乗り物は残されているはずだわ」
「なんでや」
「だって、篁たちはまだこの島にいるじゃない」
「そういえば…」

ホールでの説明の後、篁たちはどこかへ行ってしまったが、この島から出たような形跡は無い。

「と言うことは、彼ら主催者側の人間用の脱出手段が、この島にはまだ残されているってことじゃない?」
「う…むぅ」
「明日菜さん……名推理です……」
「ふみゅー。ちょっと凄いかも」

「だから、アタシたちは主催者を倒して、この島を脱出しようと思うの。このゲームに乗って殺し合いをするなんて、まっぴらごめんだわ」
423女郎蜘蛛 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 00:50 ID:7u546AUN
「そうだ」

「お互い、探している人の情報を交換しない?ちなみに、アタシは木田時紀って言う男の子を探しているんだけど」
「え、木田先輩とお知り合いなんですか?」
「先輩、ってことは、真帆ちゃんは時…木田君の後輩だったの?」
「はい、先輩には色々お世話になっています。明日菜さんは、先輩とどういう関係なんですか?」
「ああ、彼はうちのお店でバイトしているのよ。維納夜曲というケーキ屋なんだけどね。知らない?」
「あ、維納夜曲なら知ってます。エミちゃんがよくケーキを買いに行ってました。あ、エミちゃんっていうのは木田先輩の妹さんなんです」
「知ってるわ。詳しいことは知らないんだけど、木田君がうちにバイトに来たのも、その恵美梨チャンのためらしいし」
「へー、そんな理由があったんですかー。あの先輩がエミちゃんのために〜、なんて、意外だなぁ」
「ふふ、よかったら真帆ちゃんも今度来てね。きっと木田君は嫌がると思うけど」
「あはは、確かに先輩は絶対嫌そうな顔をするでしょうね。いつか絶対行かせてもらいますよ。でも、今は…」
「あ…」
もしよかったら、今度来てちょうだい。木田君はきっと嫌がると思うけど」
再度沈黙が訪れる。

「あー、もう、辛気臭いのう!」

次の沈黙を打ち破ったのは晴子だった。

「次はウチが聞く番や。あんたら、神尾観鈴、っちゅう女の子を見いひんかったか?長い髪をこう、後ろで一つに束ねててな、がお、とか変な口癖のある子なんやけど、知らんか?」
「いえ、ちょっと見てないですね…、すみません」
「あたしも見てないわよ」
「さよか…」

どこにおるんや観鈴、と呟いて、晴子はうな垂れる。
424女郎蜘蛛 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 00:51 ID:7u546AUN
「それで、話を元に戻すけど、木田君をどこかで見なかった?」
「いえ、見ていませんね。あたしがあったのは詠美ちゃんだけです」
「ふみゅん、おなじく」
「そう…。アタシも、晴子さん以外の人とは誰とも会っていないのよ。ねえ、晴子さん?」
「えぇ?あ、ああ、そうやな。ウチも明日菜ちゃん以外、誰とも会ってないで、うん」
「そうだったんですか…それじゃあ仕方ないですね」
「この島、狭いようで、意外と広いのね。まあ、もしも木田君に会ったら、麻生明日菜が探していた、って伝えてちょうだい」
「神尾観鈴も頼むで」
「わかりました。覚えておきます」
「真帆ちゃんたちには尋ね人はいないの?」
「えっと……霜村功っていう人を探しているんです」
「あたしは……う〜ん、牧村南、って人と、猪名川由宇…もかなぁ?」
「わかった。それじゃこっちも会ったら伝えておくわ」
「お願いします。って、もしかして、お二人はもう行っちゃうんですか?」
「今すぐ出るつもりは無いけど、夜が明けたら行くつもりよ」
「一緒に行ってくれないんですか?」

ようやく、自分たちを守ってくれそうな、信用できそうな大人が二人も見つかったのに。
見捨てるんですか?というような目で、真帆と詠美は明日菜たちを見つめる。

「そんな目で見られても困るんだけどな」

明日菜は照れ隠しに頬を掻いてみせる。
425女郎蜘蛛 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 00:52 ID:7u546AUN
「えっとね、さっき、私たちは主催者を倒そうと思う、って言ったでしょ」
「はい」
「それには、仲間がいると思うの。今の状態だと、アタシたち二人と真帆ちゃんたちを入れて、四人かな?」
「えぇっ!?私はそんな、できませんよ!」
「でしょ?女の子にそんな大それたことは出来ないと思うの。だから、私は仲間を集める」

「そのためには、二手に分かれて、より多くの人にこの話を持ちかけたほうが効率がいいと思うの」
「ふみゅ」
「だから、アタシたちはアタシたち二人で。真帆ちゃんたちは真帆ちゃんたち二人で行動して、できるだけ多くの人にこの話を持ちかけてほしいのよ」
「なるほど……」
「だからアタシたちは行くけど、それでもいいかしら?」
「そう…ですね…」
「お願いできる?」

真帆と詠美の目をじっと見据える。

「う…ん。わかりました。どこまでできるかどうかはわからないけど、やってみようと思います」
「あたしも怖いけど、頑張ってみる」
「ありがとう。お互い頑張って、早くこのふざけたゲームを終わらせましょう」
「はい!」
426女郎蜘蛛 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 00:53 ID:7u546AUN
「どういうつもりや」

明日菜と晴子は、少し仮眠を取ったと言う真帆と詠美に見張りを任せ、ホールの床に寝ていた。

「黙って話を合わせろ、言われて付き合った結果がこれや。何を考えとる?」
「何のこと?」

晴子は二人に聞こえないように小声で、しかし強い口調で明日菜に問い掛ける。

「主催者を倒してみんなで脱出する。それは本気か、って聞いとるんや」
「ああ」

襲われたら、戦う。
こちらから攻撃したっていい。
明日菜はそう言っていたはずだった。

「半分は方便、残りの半分は本気かな」
「へぇ…会うた時とは言うてることが全然違うやないの。襲われたら殺したってええんちゃうん?」
「ま、やろうとしていることは一緒ですよ」

時紀さえ居れば他には誰も要らない。
その考えについては何も変化は無い。
427女郎蜘蛛 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 00:53 ID:7u546AUN
「別にね、このゲームは壊せなくてもいいんですよ」
「どういうこっちゃ?」
「さっきも言いましたが、主催者側を倒して、みんな無事に帰れるなら言うことは無い」
「それはウチも同じや。せやけど、そうそううまくいくなんて思ってへん」
「そりゃアタシだってそうですよ。彼女たちは撒き餌、一種の保険ですよ」
「保険やて?」
「ええ、保険」

「このゲームを壊そうとする人間は、このゲームに乗っている人間と敵対する」

「そして、このゲームを壊そうとしていると聞けば、同じ目的をもつものは、無条件で味方だと思う」

「馬鹿は馬鹿同士で潰し合って、のこのこと近づいてくるお人好しは後ろから殺す」

「つまり、どっちに転んでも、損をすることは無い、ノーリスク・ハイリターン」

「アタシのような非力な女は、絶えず他人を利用していないと、生きていけませんよ」
「へぇ」



「ほなら、ウチも利用してる、ってことか?」

二人の視線が絡み合い、交錯し、見詰め合う。

「それは」



「あなたも同じことじゃないんですか?」
428女郎蜘蛛 ◆QGtS.0RtWo :04/05/21 00:54 ID:7u546AUN



「ふん」

「お互い、尋ね人が見つかって残り四人になったら、殺し合いやな」
「そうですねー。そうならないように祈ってますよ。晴子さん怖いから」
「ハン!雌狐が言いよるわ」

「でもまぁ」

「観鈴が見つかるまでは、仲間やと思っといたる」
「そりゃどーも。あたしも木田君が見つかるまでは、とりあえず仲間っていうことにしておきますよ」


【068 葉月真帆 ラクロスのユニフォーム&スティック&ボール3つ(回収した)】
【013 大庭詠美 護身用スタンガン】
【002 麻生明日菜 ナイフ ケーキ】
【022 神尾晴子 千枚通し マイクロUZI(残弾60)】
【明日菜、晴子ペアは真帆、詠美ペアと一緒に行動するつもりは無い】
【明日菜の「ゲームを壊す」という発言は嘘。隙あらば他の参加者を殺すつもり】
【時刻は深夜にさしかかろうというころ】
429打倒篁失敗:04/05/21 01:09 ID:HZRTnOtl
「それ以上近づかないで下さい!」
「わわっ!」
 いきなりボールをぶつけられた二人は、ササッと飛びのくようにホールから出る。
「誰?」
 中にはショートカットの少女二人。突然の来訪者に驚き身を寄せ合うようにしてこちらを見ている。
「……な、何用?」
 沈黙の二組、しばしのお見合いの後。その内の一人、真帆が突然口を開いた。
「もしかして……明日菜さんですか!?」
「えっと……」
 誰だっけ。
 ラケットを投げ出して、真帆が明日菜に飛びつく。余程心細かったのだろうか。
 明日菜もその行動に一瞬面食らったような感じだったが、とりあえず真帆を抱いてやった。
 いきなり刺されないかと腰がひけてる明日菜が、晴子側からは丸見えで笑いをこらえるのに必死だった。
(……どうする?)
(んー、もうちょっと様子見ます?)
(そろそろ情報も必要やしなぁ……。なんかあんたの知り合いのようやし、
 いきなり殺すんも気がひけるしなぁ。んー、今回はあんたに判断任せるわ)
(そうやって私に汚れ役を被らせようとしないで下さい。どーせ最後までには殺すクセに。
 それに……誰だっけ?)
 真帆を抱きつつ、目だけでやりとりする二人を見ながら、今まで黙っていた詠美が口をはさんだ。
「……二人、ツーカー?」
 このままでは遅かれ早かれもうすぐ殺されるというのに。呑気なものだ。
 形だけの自己紹介を済ませ、形だけの語り合いをする。
 真帆と詠美には思いもよらないことだろうが、晴子と明日菜にとっては
 この語らいはその程度のものだった。
430打倒篁失敗:04/05/21 01:10 ID:HZRTnOtl
 真帆と詠美の話を半ば適当に聞き流しながら。
 二人を殺す算段を取っていた晴子と明日菜。詠美と真帆の命はもはや風前の灯だった。
 恐らくこのまま夜がふければ、真帆と詠美、就寝後二度と目覚めることはあるまい――
――だが、そんな詠美と真帆の不幸せも長くは続かなかった。
「へ?」
「聞いてなかったんですか?」
「だから、篁のおじさん。まだあそこのホールにいるのよ」
「本当に?」
 晴子と明日菜が二人顔を見合わせる。思いもよらぬその言葉に耳を傾ける。
(どうする?)
(ゲームに乗らないで生きて帰れるならそれに越したことはないんじゃないでしょうか)
(そういやここに来たんは篁のジジイいないか確かめる為だったしなぁ)
(乗っとく?この話)
(ほんとのトコは、あんま手汚したくなかったしな。……モノは試しでやったるか?)
 ひそひそと二人話し合い、結論を導き出す。
「というわけで決めました。4人で篁を倒しませんくぁうぁぐんんってやめて下さい晴子さん」
 明日菜が代表して応える。その反応は多種多様だった。泣きそうに顔を歪めつつも控えめに手をつきあげる詠美。
 ガクガクと明日菜の頭を叩いて音頭を取る晴子、困ったような、ひきつったような感じで溜息をつく真帆。
「即断即決はちょっと……。いろいろと問題あると思いますよ。たとえば篁の他にだって敵はたくさんいると思いますし、
 こんな孤島じゃ帰り方だってわかんないし、一番の問題は体内に埋め込ま――」
「よし、やったろやん!」
 全然聞いてなかった。立ち上がり、即先行しようとする晴子を必死で止める真帆。
 とりあえずこの面子内では苦労性のようだ。
「頼むから聞いてください!……その、なんかあそこ、不気味だし。その、とりあえずチャンスを待ったほうがいいと……」
「チャンスって?」
 憮然とした表情のまま晴子が座り直した。
「たとえば篁が一人で出てくるだとか。たとえばですけどね。そういったことです。きっと警備も厳重なんだろうし……」
 まともにいったら、恐らく返り討ちにあうと真帆はそう告げた。
(……どうする?ゲームに乗るのとどっちが賢いか)
(乗るか、反るか、ですか)
431行動方針:04/05/21 01:10 ID:LIUC4kFk
あれから30分、ようやく光岡はみさきをなだめ、泣き止ませることに成功した。
「さて、これからどうしたものか……」
「そうだね……」
光岡は疲れ果てた顔で、みさきは泣き腫らした目で、二人はこれからの行動方針について話し合ってた。
「仲間を集めて脱出……これが一番の上策だと思うが、現時点では辛いだろう」
「うん、武器も仲間も必要だもんね」
「そこで、信頼のできる仲間を集めようと思う」
「そうだね、それがいいよ。光岡さんにはそういう人がいるの?」
「ああ、昔からのなじみが一人。あいつと合流できれば心強いのだが……」
ふう、とため息を漏らす光岡。
「みさきにはこの島に信頼のできる人物はいるのか?」
「えっと……一人いるよ、澪ちゃんっていう子。ちっちゃくて元気一杯の子、しゃべれないからスケッチブックを持ってるんだよ」
「そうか……」
みさきはまだ知らない、その上月澪がマーダーになってしまったということを。
みさきはまだ知らない、その上月澪が自分の邪魔になる人間を容赦なく殺してきたことを。
「じゃあ、当面の目的はその二人の捜索、及び他の敵意の無い参加者達との接触。異論は無いな?」
「うん!」

【028川名みさき 所持品:白い杖】
【089光岡悟 所持品:日本刀,デザートイーグル(残り3発)】

【行動方針は知り合いの捜索と敵意の無い参加者との接触】
432打倒篁失敗:04/05/21 01:11 ID:HZRTnOtl
 結局――4人はそこで夜を明かし、朝の定時放送を聞いた。
 そこに詠美と真帆の名前はない。結局、そういうことだ。

 晴子と明日菜にとっては、大事な人の名前が挙がらない、安心できる放送だった。
 詠美と真帆にとっては、そうでもないようで。知り合いの為、知らない人の為。
 悲しみをたたえた黙祷を捧げた。その後、しばし無言の時が続く。


「んで、いつまで待てばいいんや?」
 沈黙に耐えかねた晴子がいらついたように頭をボリボリと掻く。
「……そんなこといわれても」
「ねえ」
「うがー、もう待てるかい!ちゃっちゃと篁のジジイぶっ殺してそれですむことやろ!」
 晴子が切れた。
「ちょっとちょっと、落ち着いて。カルシウムでもとりましょうよ」
 そんなものない。
「落ち着けるかアホウ!こんなことしてたら――」
 観鈴が死ぬかもしれん。という言葉までは発さなかった。
 口に出してしまえば、そうなってしまう気がして。現実が怖かったから。
 その途中で途切れた言葉に、明日菜は時紀の事を頭に思い描く。
 晴子と同じ思いだった。大切な人を思う。それだけは二人、偽りの無い心の重ねあい。
433打倒篁失敗:04/05/21 01:12 ID:HZRTnOtl
「晴子さん。私、感動しました。……行きましょう!」
 いざとなったら晴子を置いて逃げればいいだけだし、とかほんのちょっとだけ考える。
 一応、ほんのちょっとだけ。明日菜とてそこまで黒くはない。本当にそうなったら迷わずそうしそうだが。
「あんたらはそこで震えてればいいんじゃ!」
「ふみゅ〜ん、この人達怖い……」
「あの、もう少し落ち着いて。それに私達の体の中にはまだ爆――」
「知るかボケ!」
 たしなめようとした真帆と詠美……の方はたしなめてなかったか。
 ともかく、突然キレた晴子といきなり乗り気になった明日菜は、
 二人を置いてホールの入り口へと駆け出した。
「どうしよう……」
「でも、追いかけないと」
 スタンガンとスティックを手に、真帆と詠美も遅れて走り出した。


 二人、ホールの入り口の前に立ち、扉を少しだけ開いて中を覗き見る。
 青白い光に包まれるホールの中、篁がたった一人で突っ立っていた。
 警備なんて全然厳重じゃなかった。ただ、青白く光るホールと同じように蒼い。そんな篁は不気味に見える。
 でもそれだけだった。何を思って、何を考えてそこに一人いるのだろう。
(あの人、馬鹿なんでしょうか)
 とりあえず、二人には馬鹿に見えたようだ。
(馬鹿で結構。いつまでもこのけったくそ悪いジジイの思惑に乗せられるかっちゅーの!)
 いや、一人だけになった。
(いや、あなたじゃなくて。首謀者殺してゲーム破壊して。それで殺し合いなんかせずにすみますもんね)
(そうや。どーせならいっちばん憎い奴にズドンと)
(どーせなら時紀クンと私の為にライバル大虐殺してからの方が良かったかなー)
(ん?何か言ったか?)
(いえいえ何も)
(でも……こんな所に一人でいるってことは、やっぱりここには何か大事なものでもあるんでしょーか?
 まさか、入った瞬間どこからか私兵団がわらわら沸いてきたりとか)
(知らんけど、さっさといてまえばそんなことどーでもいいやろ。もし囲まれたら……鼻を摘みにとか言えばいいんや)
(鼻はつみたくないです)
434打倒篁失敗:04/05/21 01:13 ID:HZRTnOtl
 バン!と扉を開け放つ。
「一人で武器も持たずにいるなんてすごい自信ですね!」
「このけったくそ悪いゲームもここで終いや!」
 お互い、決めゼリフを吐きながらホール中央部へとなだれ込む。
 中には佇む老人一人。チラリと二人を見て、逃げるでもなく構えるでもなく、ただ嗤う。

 まず、晴子が先行する。手に持った銃で先制の弾丸の嵐を浴びせる。
 そして、それを盾にするように明日菜。地を駆け、構えたナイフで篁めがけて突進する。
 篁はゆっくりと正面を向き、それらと相対する。

 弾丸シャワーが篁を襲い、ナイフを構え走る明日菜の身体が篁と交錯する。
「とどめや!」
 その明日菜の背中を踏み台にしてタンっ!と上空へと羽ばたいた晴子が、
 千枚通しで篁の頭よ砕けよとばかりに脳髄へと突き刺した。
 ピタ。
 …
 ……
 …………。
「ピタ?」
 篁はただその場に立ち、軽く両手を動かしただけだった。
 明日菜のナイフを左手――しかも素手――で握りしめる。
 晴子の千枚通しは突き通されることなく篁の右掌の表面でピタリと止まる。
「……」
「えっと……」
 篁の身体を幾つも貫いた――はずだった弾丸がコロンコロンと地面に転がる。
「へへ……」
「あはは……お、面白かった?」
 二人、篁に愛想笑いを浮かべる。微妙に引きつってて可愛くない。
 篁は、無傷だった。

 ぶっちゃけ、ありえなーい。
435打倒篁失敗:04/05/21 01:14 ID:HZRTnOtl
「気は済んだかね?……さ、ゲームに戻りたまえ」
 二人、首根っこをひっつかまれる。
「ここで君らを殺すのは容易だが……考えてもみたまえ。
 君達の身体の中の爆弾を。逃げ場などもう、どこにもないのだよ」
 すっかり忘れていた。そういえばそんなものもあったっけ?悠長にそんなことを考える。
 というかこの二人、本当に真帆の話全然聞いてなかったわけだ。
 そんな思考の最中、無理矢理二人ホールの外へと放り出される。
「ここはもうすぐ騒がしくなる。……もう一度言う。ゲームに戻るといい」
 二人合わせば結構な重量――ついでに体重は秘密だ――をまるでバレーボールかのように軽く投げ出す。

 放り出された二人。
「……」
「何ですか、アレ?」
 背後から声が聞こえる。それはもうアレ扱いの人の声。
「忘れ物だよ。これも持ってきたまえ」
 それぞれの武器、ナイフやらなんやらも同じようにホールの外へ放りだされた。
 ゴン!その内の一つ、マイクロUZIが晴子の後頭部に当たった。不運な人だ。
 ホールの扉が再び音を立てて閉まった。残される二人。
「……えと、アレ、無茶苦茶強いんですけど」
 横で悶絶する晴子をよそにぼーぜんと呟く明日菜。
「……強いとかそんな次元じゃなかった気するけどな」
 頭をさすりながら、晴子が愚痴る。人か?アイツ。

 駄目だ。あれには勝てない。

「なんで私達、殺されなかったんでしょう?」
 今あった、狐につままれたかのような、夢のような出来事に、恐怖も驚愕も危機感も浮かばず。
 感覚がすっかり麻痺していた。
「あー、やっぱり――」
 円満に脱出は無理か?
 何か、変なとこだけ冷静になった。
436打倒篁失敗:04/05/21 01:16 ID:HZRTnOtl
「大丈夫ですか?」
 真帆が駆けより声をかけてくる。詠美も後に続いた。
「身体の方はなんとかな……」
 心のケアもしてくれ。こんな島だから神経すり減らしてるんだろうか。
 とても地のような気もするが。ともかく、二人の無事にほっと真帆は胸を撫で下ろす。
「無事で良かったです。二人に何かあったら……私……」
 一晩ですっかり心を許してしまったのだろうか。頼れる年上二人に抱きついて目に涙を浮かべた。
 一番信頼できるのは実は詠美なんだが――どの道頼りにはならないか。

(えっと、どうします?)
(あんたが泣かせたんや。うちは知らん)
(あなたもです。……そうではなくてこれからどうします?)
(はぁ、もうええわ。あんたの知り合いってどっか抜けてんなぁ)
(あなたもです。っじゃなくって。全然人の話聞いてませんね。これからの予定、どうします?)
(そんなアイコンタクトだけで分かるかい!
 ……これじゃ勝算ゼロやん。あんなバケモン倒すなんて夢のような話やったなー……やっぱ地道に、一人ずつ参加者片付けてこか?)
(通じてるじゃないですか。はぁ……。死にたくないですもんねぇ……。
 目の前の二人は?とりあえず裏切らないってことでは信用できそうですけど)
(盾くらいには使えるかもしれんけど……人数多すぎてもアレやしなぁ……
 どうせ生き残りは二人までやし)
437打倒篁失敗:04/05/21 01:16 ID:HZRTnOtl
(このまま現状維持で様子見っていうのも悪くないですけどねぇ)
(情が移ったんか? ま、めくるめく官能の一夜を4人で明かしたしな)
(変なこと言わないで下さい。意識しちゃうじゃないですかって何言わせるんですか)
(実はいつ裏切ろうかと虎視眈々と狙ってたりしてなぁ?人は見かけによらないってか。ナハハ)
(私達が言うと説得力ありますね)
(なんや?あんたも裏切るつもりか?)
(いや、今のところそんなつもりはないですけどってか勝手に心読まないで下さい)
(今のところってなんや!)
(言葉のアヤですよー。ってアイコンタクトで言葉のアヤってなんですか)
(一人突っ込みごくろーさん)
(それよりさっき私の背中思いっきり踏み台にしましたよね。
 すっごく痛かったんですけど)
(ままま、そんな些細なこと気にすんな。明日菜ちゃーん、話すりかえるのは汚いで)

「……二人、ツーカー?」
 目をパチクリさせながら激しく無言のやりとりを交す二人に、詠美が目をパチクリさせた。
 この人はこの人で危機感が足りない。天然だった。
 すでに落ち着いていた真帆が三人をせかす。
「あ、あの、ここでこのままはヤバいですし、とりあえずここからは急いで離れたほうがいいんじゃ?」
 真帆の言葉をきっかけに四人、一目散に駆け出した。


【068 葉月真帆 ラクロスのユニフォーム&スティック&ボール3つ(また拾った)】
【013 大庭詠美 護身用スタンガン】
【002 麻生明日菜 ナイフ ケーキ】
【022 神尾晴子 千枚通し マイクロUZI(残弾70)】
【篁総帥 ラストリゾートのホールで一人 現時間はもうすぐミルト到着する頃】
438打倒篁失敗:04/05/21 01:20 ID:HZRTnOtl
ぐあっ、ごめん。>>429-430 >>432-437はNGでお願いします。
439守りたいもの:04/05/21 01:37 ID:SjuYemXm
(アレは・・いくらなんでも無防備すぎでしょう・・・)
作戦の可能性をあらかた否定したベナウィは男女に声をかけることに決めた。
(ですが・・・用心は必要ですね・・)
ベナウィは女が来るのを見計らって飛び出した。そして・・
「質問が有ります。」
「ひゃっ!」
いきなり槍を突きつけられ動揺する女。
だが、次の言葉は出なかった。後ろを走っていた男が右手に金属の棒らしきものをもって襲いかかってきたからだ。
「早苗!逃げろ!」
その一言で女も我に返ったのだろう。すぐさま後ろに逃げた。
対峙するベナウィと男。
(罠だったのですか・・・・?)
男の獲物は刀ぐらいの長さがある金属の棒
こっちの獲物は槍。獲物の長さからいってこっちが圧倒的に有利だ。
(しかもあの構え、どうやら剣を知らないようですね・・)
そしてうなり声を上げ男が突撃してくる。
「もらったあ!」
「ぐっ!」
ポケットに隠していた球体を自分の腹に向かって投げ込む男。
反射的に槍で球体を防ぐベナウィ。
体勢が崩れ少し隙が出来る。それを見逃さず男は踏み込むと側頭部を狙って金属の棒を振ってきた。
だが、身体能力は衰えていても流石はベナウィ。すぐさま体勢を立て直すと自分の頭を狙ってきた凶器を弾き飛ばし、そして男を槍の柄で突き飛ばした。
弾き飛ばされ、地面に転がる男。
だが、男はすぐさま立ち上がると弾き飛ばされたバットを持ってこちらに向かってくる。
(何で向かってくるのです・・・!)
そしてまた男が向かってきた・・・
440守りたいもの:04/05/21 01:42 ID:SjuYemXm
ベナウィが男を突き飛ばす、そして男は立ち上がって向かってくる事が何回繰り返されただろうか・・
男を切れば良かったのだが、何故かベナウィにはそれが出来なかった。
(何故でしょう・・・何故切る気が起きないのでしょうか・・)
そして・・
「ぐは・・」
ついに力尽きたのか、男は立ち上がらなくなった。そして・・・
「俺の・・・・負けだわ。おい、アンちゃん、俺の・・・・命をやるから・・・・こいつを・・・見逃してくれねえかな?」
息も絶え絶えながら何のためらいもなくその一言を言い放つ男。
「秋生さん!」
「お前には・・・・・・渚を探す役目があるだろ。それに二人とも死んだらあいつは・・・・立ち直れなくなる。頼む。行ってくれ。」
「嫌です!秋生さんを見捨てて行けるはずが無いです!私を置いて行かないでください・・・」
女は言葉半ばでもう泣いていた・・・・・・・・・
この二人の様子を見てベナウィは戦闘中に感じていた違和感の正体をはっきりと理解した。
(この男は守るもののために戦っていたのですね・・)
「さあ、どうした、殺りな!」
「いえ、私の負けです。」
そこには槍を地面に投げ捨てたベナウィと呆然とする男女が残された・・


441守りたいもの:04/05/21 01:51 ID:SjuYemXm
お互い自己紹介や行動目的の交換を終え、呼び止めた理由を説明するベナウィ。
「・・・というわけだったのです。よろしければご同行しましょうか?私でもあなた方の身を守ることはできます。」
「それは・・ありがたいのですが・・いいんですか?」
秋生の応急手当をしながら早苗が言う。
秋生はもはや何も言う気力も無いのか早苗のされるままになっていた。
「ええ、戦いをしない人を逃がすのは我らの聖皇の遺志でも有ります。任せてください。」
しばらくして、どうにか秋生が起きれるようになったときベナウィが問うた。
「ところで・・・さっきのは何だったのですか?」
「さっきのって?」
怪訝そうに聞く秋生。
「さっきのおっかっけっこですよ。」
「ああ、これはいつものことだ。気にすんな。」
「はい!いつものことなんです。」
即答する秋生と早苗。そこには終始明るく、その場にいる人をを笑顔にさせるよな暖かいムードが流れていた。
そのムードに触れたベナウィはハクオロたちとのあの騒がしくも楽しかった日々を思い出していた・・

【ベナウィ、古川夫妻と同行】
【082 ベナウィ 槍(自分の物)、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード】
【079 古河秋生 古河早苗特製パン 4個、古河秋生専用金属バット、硬式ボール10球 かなりの疲労】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、所持品はすべて秋生が預っている】
【時刻:午前9時40分頃】
442行動方針 改定:04/05/21 01:59 ID:LIUC4kFk
あれから30分、ようやく光岡はみさきをなだめ、泣き止ませることに成功した。
「さて、これからどうしたものか……」
「そうだね……」
光岡は疲れ果てた顔で、みさきは泣き腫らした目で、二人はこれからの行動方針について話し合ってた。
「仲間を集めて脱出……これが一番の上策だと思うが、現時点では辛いだろう」
「うん、武器も仲間も必要だもんね」
「そこで、信頼のできる仲間を集めようと思う」
「そうだね、それがいいよ。光岡さんにはそういう人がいるの?」
「ああ、昔からのなじみが一人。最初に集合した広場で見つけた。あいつと合流できれば心強いのだが……」
ふう、とため息を漏らす光岡。
「みさきにはこの島に信頼のできる人物はいるのか?」
「えっと……わからないや」
「……謝る必要は無い。こっちこそ配慮の無い質問で悪かった……」
考えてみればそうだ、盲目のみさきにホールに知り合いがいたかどうか確かめるすべは無かった。
二人の間に気まずい沈黙が流れる。沈黙を破ったのは光岡だった。
「じゃあ、当面の目的は俺の知り合い、坂神蝉丸の捜索、及び他の敵意の無い参加者達との接触。異論は無いな?」
「うん!」

【028川名みさき 所持品:白い杖】
【089光岡悟 所持品:日本刀,デザートイーグル(残り3発)】

【行動方針は知り合いの捜索と敵意の無い参加者との接触】
443行動方針 改定:04/05/21 02:00 ID:LIUC4kFk
えっと、>>431は没で>>442を採用してください。
444行動方針 改定の改定:04/05/21 02:06 ID:LIUC4kFk
あれから30分、ようやく光岡はみさきをなだめ、泣き止ませることに成功した。
「さて、これからどうしたものか……」
「そうだね……」
光岡は疲れ果てた顔で、みさきは泣き腫らした目で、二人はこれからの行動方針について話し合ってた。
「仲間を集めて脱出……これが一番の上策だと思うが、現時点では辛いだろう」
「うん、武器も仲間も必要だもんね」
「そこで、信頼のできる仲間を集めようと思う」
「そうだね、それがいいよ。光岡さんにはそういう人がいるの?」
「ああ、昔からのなじみが一人。最初に集合した広場で見つけた。あいつと合流できれば心強いのだが……」
ふう、とため息を漏らす光岡。
「みさきにはこの島に信頼のできる人物はいるのか?」
「えっと……わからないや。ごめんなさい」
「……謝る必要は無い。こっちこそ配慮の無い質問で悪かった……」
考えてみればそうだ、盲目のみさきにホールに知り合いがいたかどうか確かめるすべは無かった。
二人の間に気まずい沈黙が流れる。沈黙を破ったのは光岡だった。
「じゃあ、当面の目的は俺の知り合い、坂神蝉丸の捜索、及び他の敵意の無い参加者達との接触。異論は無いな?」
「うん!」

【028川名みさき 所持品:白い杖】
【089光岡悟 所持品:日本刀,デザートイーグル(残り3発)】

【行動方針は坂神蝉丸の捜索と敵意の無い参加者との接触】
【時間は朝10時ごろ】
445機械の残したモノ:04/05/21 02:18 ID:NkT9u2AC
 燃える炎が人を模した少女の肌をなめ上げる。
 いやらしく這い登る火の掌は瞬く間に全身を覆った。
端正であったその表情が焼け落ち、その下から現れる金属質の輝き、
メイドロボのガラスの瞳は虚ろに殺戮者を見つめ続けた。
「長瀬ちゃん熱いよう」
 だが、ガラスだった筈の虚ろな瞳は、自分を見つめていてくれた
彼女の瞳にフェードする。
 自分の手にした火炎放射器の炎が瑠璃子さんへと向けられていた。
「やめろ、やめろっ!やめてくれ!!」
 自分の手が動かない、悲鳴を上げ、燃えて崩れる彼女をただ見ている
しかない。そして真っ赤な炎の中で愛する少女の肌がずるりと落ちて
醜いむき出しの機械の顔が向けられる。鉄の骨に絡みついたコード。
伸ばされたそれは、かつて自分を優しく包んでいた筈の掌だった。
「na……が……ぜziゃあぁぁaa……nん……」
 くぐもった電子音が自分の名を呼ぶ、金属音と電子音がノイズとなって
脳髄をやすりがけた。かつて癒された電波ではない、不快な痛みが
長瀬祐介の病んだ精神をさらに傷つけていった。
446機械の残したモノ:04/05/21 02:19 ID:NkT9u2AC
 荒い息をおさめるため祐介は、手近な樹にもたれかかった。先刻
殺した……いや、壊したメイドロボ。焼け落ちる金属の身体を見た
祐介の心に芽生えた他愛の無い妄想は、狂気を栄養分として枝を
広げていた。
 ひょっとして、この島で殺しあっている人間はすべて機械なのではないか?
長瀬祐介の、月島瑠璃子のその他大勢の人達の記憶を移されたロボット達が
ゲームとして戦わされているのではないのか?
 そうだとしたら、今自分が考えている行動も狂気も誰かの命令なのでは
ないのだろうか。瑠璃子さんと結んだ約束ですら誰かの演出では……。
 浮かんだ疑問と、繰り返す幻覚。それは自分の狂気と非道に苦しむの祐介の
心の片隅に残った良心の悲鳴でもあった。
 あるいは、それは人の為に作られたHMX−13セリオの最後に残した
「人の為に役に立つ事」だったのかもしれない。
 長瀬祐介の狂気の天秤は揺れている。その天秤を揺らす機械の手はどちらに
それを傾けるのだろうか?

【062 長瀬祐介 所持品 火炎放射器 (砲身に損傷・燃料は6割強),ジグ・ザウエルショート9mm(残弾0発) , 果物ナイフ】
【定時放送より5時間後】
447まどろみに堕ちて:04/05/21 02:27 ID:ruDYTq14
 住宅街の外れ。舗装の剥がれた歪な道路が、森へ、浜辺へと続いている。
その道路の脇、やや森寄りの薄暗く隠れた場所に、奇妙な物体が浮いている。
パっと見た感じは銀色の円盤。ギザギザな円周を持つそれは、まるでギアのような。
弱弱しい低回転を保ちつつ、滞空したまま、微動だにしない。
風でも吹けば掻き消えてしまいそうなくらい、それは虚ろな存在だった。
この世に残した未練――親友や恋人、肉親――との邂逅を望みながら。
鈍く光るギアが三枚、いつ途切れるのか、空しく回転を続けている。

************************

「もうすぐお昼だね、松浦君」
 神岸あかり(024)が小さな声で呟く。
傍らに松浦亮(084)、そのさらに横に杜若きよみ(017)が座っている。
「ああ、そろそろ何か、食べる物が必要だ」
 亮は頷き、続けて
「俺ときよみが何か探して来よう」
と、きよみの方を振り返ってそう提案した。
きよみは突然の提案に少し驚いた表情を浮かべ、そして静かに頷いた。
「いいわ。私だって、何か食べなくちゃ」
「住宅街という場所は好都合だった。何かあるはずだろう」
「なら、私も・・・」
 あかりが立ち上がろうとする。心なしか、足元がおぼついていない。
そんなあかりを、亮が両手で制した。
「駄目だ」
 もう一度座らせる。
「どうして?私だって一緒に…」
「お前は疲労している。俺にも解る。顔が赤いぞ」
 あかりは「んー」と俯いて、「そんな事、ないよ」と消え入りそうな声で答えた。
「駄目だ。食料は俺ときよみで何とかなる。お前はここで休め。」
「そうよ。私たちに任せて、安心して寝てるといいわ」
「足手まといにはならないから…」
 あかりは素直に引き下がらない。
448まどろみに堕ちて:04/05/21 02:29 ID:ruDYTq14
「駄目だ」
 亮がまた、あかりの顔を見て念を押す。自然とあかりと見詰め合う形になった。
二人の目線が交差する。意思疎通とまでは行かない。までも、お互いの表情から、何を考えているのかくらいは何となく解る。
そのような距離で、じっと互いの反応を待っていた。
「…解った。早く戻ってきてね。松浦君、杜若さん」
「…。」
「勿論よ。私は必ず戻ってくるつもり」
 先に折れたのはあかりだった。亮はまだあかりを見つめている。きよみは既に、戸口に向かって歩き始めていた。
あかりも視線を外せずにいて、少し戸惑いつつ、(あたし見てるのって、他に見るところがないから、かな)などと思っていた。
だが。
「本当に大丈夫か?」
 亮が再び口を開く。今度は質問の形だ。本当に良いのかと聞いてくる。
「意外と心配性なんだね、松浦君。押しは強いのに」
「心配するのは当たり前だ」
 亮が視線を外して、答えた。今はきよみの方を向いている。
扉を少し外に開いて、様子を伺っているきよみが、振り返り手招きする。
「外は大丈夫。今のうちよ」
 亮は頷いて、視線はそのまま、あかりの肩に手を乗せた。
「行って来る。横になって休んで、だが決して寝るな」
「うん、わかった。でも…」
「でも、何だ?」
「気をつけてね。心配してるの、松浦君だけじゃないんだから」
 意外そうな表情で亮があかりを見る。先ほどあかりが引かなかった理由は、寂しいからでは無かったのだ。
この子は亮の事を心配している。そこから出た強情だった。
449まどろみに堕ちて:04/05/21 02:31 ID:ruDYTq14
「俺は決して嘘を付かない。だから安心しろ。ここで待っているんだ」
「うん。本当に気をつけて」
 あかりが頷く。亮も頷いた。戸口に立つきよみが、二人を急かした。
「早くして。機会はが長く続くとは限らないから」
「杜若、お前は丸腰だ。慌てるのは危険だぞ」
 亮がややトーンを落とした声で返す。きよみがふふっと笑う。
「大丈夫。行きましょう。私は“用心深いのよ”」
 そこに何か含みのような物が果たしてあっただろうか。
「…今、行く。」
 亮は少し考えたあと、静かに戸口へと向かう。扉の取っ手に手をかけたとき、
「…気をつけて」
 あかりが最後に声をかけて、外に出た亮が扉を閉めた。
疲労気味の神岸あかりを残し、松浦亮と杜若きよみは部屋を出て行った。
 あかりは手の中に拳銃の弾を握りしめ、押入れの近くでシャケを加えている木彫りの熊をじっと見つめていた。
その瞳に去来する様々な思いは、追憶である。かつての生活、幼馴染の事を思い出していた。
(いつもは私が、起こしに行く役なのに、変だよね)
思いがけず、涙があふれた。ぎゅっと目を瞑る。一適もこぼし落とさぬように。
流してしまえば、挫けてしまいそうだから。不安に負けてしまいそうだから。
(浩之ちゃぁん…、私、凄く、凄く恐いよ…助けて…、声が聞きたいよ…)
閉じた瞼の奥の暗闇が、やがてまどろみを連れてきて、あかりは眠りへと落ちていく。
意識の途絶える前の、わずかな間、あかりはヴィオラの演奏を聴いた気がした。
暗くて、悲しくて、歪んだ音。しかし、あかりは不思議と心地の良い物を感じていた。
懐かしい。おちゃらけているけど、芯は真面目で、優しくて・・・まるで。
(浩之、…ちゃん)
あかりの手の中から、いくつかの弾丸が、ジャラ、と音を立てて落ちた。

【松浦亮(084)と杜若きよみ(017)は食料を探しに住宅街散策へ】
【神岸あかり(024)は再び眠りの中へ】
【杜若きよみは違法改造マグナムと隠し弾丸(未装填3発)所持】
【松浦亮は修二のプロクシ型ギミックを所持】
【神岸あかりは残りの装備(筆記用具・熊の置物・予備弾丸(六発))所持】
【時間軸は正午前・午前中 正確な時刻は不明】
450かぜのみち:04/05/21 02:39 ID:MIY8j+cC
 さざ波に誘われるように街を出て、海岸線を歩く。
 潮風にのって気まずい空気が流れていくことを、二人して期待していたのかもしれない。
 さくさくと小気味よく、互いの足音を聞いていた。

「それにしても……すまなかったな。冗談が過ぎた」
 もう少し器用なつもりだったのだがな。そう反省しつつ、光岡は謝罪した。
 心に問えば、もはや彼女を単なる保護対象とは見ていない。
 それだけに、彼女の瞳と視線を合わせることが出来なかった。
「光岡さん」
「ん?」
「私、いつも思ってたことがあるんだよ」
「ほう」
 海岸線を眺めながら歩を進める光岡のうしろで、彼女は立ち止まる。

「私は、誰かの負担になりたくない」
 何を馬鹿な。そう言われるかもしれない。
 だがそれは、この島だからというレベルの問題ではなかった。
 どうせ目が見えないのだ。世界の果てまで闇ならば、どこにいようが無茶な話なのだ。
「私の背負っているハンデを、誰かに背負わせる事が、耐えられないから」

 五、六歩離れたところで光岡は立ち止まり、振り返った。
「みさき」
 罪悪感ではなく、憐憫の情などでもなく。
 光岡は彼女のもとへと歩み寄ろうと、一歩を踏み出した。
「来ないで」
 厳しい表情を保って、彼女が一歩下がる。
 二人の距離は、縮まらない。
「――ここで、お別れしよう?」
451かぜのみち:04/05/21 02:41 ID:MIY8j+cC
 

 ざあ、と波音が高くなった気がした。
 吹き付ける潮風が、二人のあいだを駆け抜ける。
「みさき」
「さよならだよ、光岡さん」
「みさき、俺が護る。決してお前を死なせはしない。
 お前を独り死の闇に追いやることなど、何があってもさせはしない」
「光岡さん――」
 みさきの顔が歪む。
 光岡は風を突き抜けて、彼女のもとへ駆け寄った。
 だが。

「――冗談、だよ」
 光岡の焦りをよそに、みさきはにっこり笑って、そう言った。
「……」
 やられた。光岡はぼりぼりと頭を掻きながら、再び踵を返して歩きはじめた。
 もう少し器用なつもりだったのだがな。再びそう思いながら、苦笑する。

 その背中に、とさりとわずかな重み。
「みさき?」
 彼女が後ろから抱き付いていた。
「光岡さん。私……馬鹿だから、言葉通りに受け取るよ?」
「……構わない。俺が護る。俺に任せろ」

 再び潮風が吹き付ける。
 けれど二人のあいだに、道などなかった。
「……ありがとう、光岡さん」
452かぜのみち:04/05/21 02:45 ID:MIY8j+cC
 
 
 そんな二人の進む先に、足跡があった。
 そろそろ砂浜が終わり、岩場が増えてきていたので、発見できたのは幸運だったかもしれない。
「ふむ……女だな。それなりの長身で、姿勢がいい。
 戦闘向きの靴を履いてはいないが、運動能力は悪くなさそうだ」
「そんなことまで分かるんだ」
「ああ。大体の体重や、筋肉のつき方、効き足や時には利き腕も推測できる場合がある」

 みさきはちょっと自分の足跡を振り向いてみたりするが、意味がないので諦めた。
 どうせ見えていたって、判りはしないのだ。
「……光岡さんは、デリカシーがないよ」
「デリカシー? すまんが、日本語で言ってもらえるか?」
 素でそう答える光岡に、みさきはむくれた。
  
453かぜのみち:04/05/21 02:47 ID:MIY8j+cC
 がき、がしゃん。
 慣れない拳銃をこねくり回し、さんざん苦労して、どうにかマガジンを交換した。
(……どうかしてるわね)
 ふらりと出た海岸沿いは風が強く、疲労を癒すには適さない場所だった。
 風を避けるように砂浜を抜けた岩場を登り、仮眠をとったのち、しのぶは自分の装備を確かめていた。
 愚かしいことに、交換用の弾があるにもかかわらず、空っぽの拳銃を持って歩いていた。
(どうかしないわけ、ないんだけど)
 びゅう、と風が頭上を飛び越える。
 不愉快に思いながら、潮溜まりを通り抜ける際に濡らしてしまったビスケットを捨て、無事なものを齧る。
 かなりの人数が死んでいる。自分が行なったものもあるが、それにしても多い。
 自分は比較的、他人に遭遇していないほうかもしれない。
(透子は、どうしてるかしら?)
 性格的に、誰かと一緒になれば、その後をついて行く。
 そうでなければ、どこかに隠れるだろう。そう思った。

 しのぶは岩場を登ったあと、最初に周囲を見回していた。
 かなり道を戻ることになるが、砂浜の先に街が見えたのを覚えている。
 山暮らしでもない限り、街の方が安心できるだろうから、家屋に隠れている人間は少なくないはずだ。
(どうせ、あてもないのだし。仕方ないわね)
 億劫ではあるが、岩場を降りて街に向かうことにした。

 向かい風に逆らいながら、彼女は岩場を降りていく。
 その先に、自分の存在を予想している人間がいるなどと、思ってもいなかった。


【039榊しのぶ ブローニングM1910(残弾7)・ナイフ・米軍用レーション(10食分)・缶切3つ・12本綴りの紙マッチ3つ小型ガスコンロ】

【028 川名みさき 白い杖】
【089 光岡悟 日本刀 デザートイーグル(残弾3)】
「なぁんだこりゃ」
 目覚めてすぐ、浩之はすっかり忘れていたサクヤの鞄のことを思い出し、中を開けてみた。
 なんで俺はこんなもん持って、何も不思議に思わなかったんだ、と思いつつ、じゃきじゃきと音を立てる。
 その音を聞いて、理緒も目を覚まして寄ってきた。
「んー……藤田君、なにそれ?」
「なにそれって……見たまんまの高枝切りバサミ」
 じゃきじゃき。
「かなりえぐいよなー、これ」
 首でもちょんぱしろとでもいうのか。映画に出てきた、手がハサミな男を思い出す。
 だが、二人に与えられた品物の中で、まともに武器として使えそうなものは、これくらいだろう。
「まぁ……相手が怖がって逃げてくれるかもしれないしな」
「あはは……」
 まだ半分寝ぼけた様子で、理緒が笑った。
 その時、定時放送が入った。
 二人の間に緊張が走る。名前が次々に呼ばれる。強張った体を、不愉快な声が通り抜けてゆく。
『61番、長岡志保』
 浩之の体がはっきりと動揺した。理緒も顔くらいは知っている相手だ。
 良く勝手に教室に飛び込んできては、色々な噂をばらまいていく。
『92番、宮内レミィ』
 こちらも理緒に面識はないが、あの派手な金髪はいやでも目に付く。
 ああ、死んじゃったんだ……。
 理緒にとっては、その程度の感慨だった。悲しいけど、どちらも直接の友達ではない。
 だけど、浩之は違っていた。
 志保が死んだ。あの脳天気な声で「志保ちゃんニュース!」とデマを振りまく彼女の姿は、もう見られない。
 レミィが死んだ。明るい笑顔で、得意げに四字熟語を並び立てる様は、もう見られない。
 好きとか嫌いとか、そういう問題ではなく、どちらも大切な友達だった。
 自分の生活の大半を占める、学校という場所。そこを構成する重要なパーツが、一つずつ。
 外れて、亡くなった。
「う……ぐぁっ」
 胃の内容物が、ぶちまけられた。ほとんど消化しきってしまって、胃液ばかりが出てくる。
 だけど、止まらない。
「ふっ、藤田くんっ!」
 理緒が背中をさする。ツンとした匂いと、目と鼻の先に集まる熱い痛み。
 元気だった二人の姿が、上手く思い出せない。見てもいない惨殺シーンが脳裏に浮かぶ。
 血にまみれた、志保、レミィ、そして――あかり。
 あかり。あかりっ!
 いやだいやだいやだ。あかりが死ぬ。そんなことは考えたくもない。
 志保も、レミィも大切な友人だ。だけど、あかりはもっと大事だ。
 ずっと小さい頃から、一緒にいるのが当たり前の、かけがえない人。
 失われてからでは、きっとこの二人とは比較にならないほど後悔するのが、先の想像から分かる。
 だけど、この島にいる限り、死はあかりの元に着実に迫っている。
 逃れる方法はただ一つ、このゲームに生き残ること。
 人数は、二人まで。
 二人まで?
「藤田君、平気……?」
 じゃあ、この女は何だ?
 雛山理緒。自分を慕ってくれる、けなげなバイト少女。
 貧乏だけど、家族のために一生懸命頑張っている、気持ちのいい少女。
 でも、邪魔になる。
 あかりと帰るためには邪魔になる。そうじゃないか?
「ふ、藤田君……?」
 怯える声に、かえって煽られた。
 なんだ? 何をしている? 理緒ちゃんの肩に手をかけて、首に触れて、どうするつもりだ?
 簡単だ。こんな細い首。たぶん、きゅっと締めたら、すぐに終わる。
「藤田君……やだ、ちょっと、冗談……でしょ? ねぇ」
 違う。違わない。どっちだ。落ち着け、浩之。ゆっくり考えろ。簡単な事じゃないか。
 あかりと理緒ちゃん。あかりの方が、大事だろう?
 指に力が籠もった。
「かっ……あっ」
 理緒の表情が歪む。苦しんでいる。暴れている。死んでいく。
 もう止められない。ここまで来たら、殺すしかない。
 ごめん。わりぃって思う。でも、あかりが、あかりが、こうしないとあかりが死ぬんだっ!
 ああ、そうだ、さっきの高枝切りバサミなら、苦しまずにひと思いに殺せたかもしれないな。
 ごめんな。でももうおそいよな。ここまできたら、一気に――。
 そう思ってたら、下から衝撃が来た。
「ぐぁっ……」
 理緒の振り回した足が、浩之の金的を直撃した。
 殺意も何もかも消し飛ぶような衝撃が、真下から跳ね上がる。
 普通ならそこを攻撃するのを少しはためらうものだが、理緒も必死だった。
 容赦なくつま先が、蹴り上げていた。
 脂汗が浮く。情けなく腰を突き出す恰好で倒れながら、呻く。涙が出た。
「つ……」
 影が覆い被さった。
「え……?」
 振りかぶったバッグ。その中には、枕大の石が入っている。
 理緒は、さっきまでの浩之と同じ顔をしていた。
 死の恐怖に怯え、それに押されるように、殺意に引きつった表情。
「あ……」
「ああああああああっ!」
 叫びと共に、バッグが叩きつけられる。何度も、何度も。
 血が飛び散り、骨が砕け、脳漿が弾け、肉が潰れてゆく。
 殺される。殺される。自分も殺される。二人みたいに。イヤだいやだ、そんなのはイヤだっ!
 手から石が滑り落ちた。
「いやああああああっ!」
 恐怖に駆られた思考が、手近な物品に目を付ける。
 高枝切りバサミで胸を刺した。何度も何度も。浩之の服が瞬く間に紅に染まり、肉が掻き乱されてゆく。
 手応えが気持ち悪い、不愉快だ。それを断ち切りたくて、何度もハサミを交差させる。
 浩之が死んでいくことが分かっているのに、でも腕が止まらない。止めたいのに、止まらない。
 狂的な叫びが洞窟にこだまするが、浩之は、それを聞く器官をすでに失っていた。
 ただ、血と叫びと涙だけが、尽きることなく続いた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
 どうしよう、どうしよう。殺してしまった、死んでしまった。
 大好きだった人。密かに想っていた人。でも、振り向いてくれなかった人。
 それが自分の手で肉塊に変わった。
「うっ……」
 血の匂いに、自分の為した行為に、体が拒絶反応を示す。
 浩之がぶちまけた吐瀉物の上に、自分も同じものを吐き出した。
 違う、違う。自分が悪いんじゃない。だって、藤田君がひどいことしたから。
 私は悪くない。私だって帰りたい。帰りたかったの――藤田君と一緒に。
 その藤田君の胸から上は、原形を留めていなかった。
「あ、あ……」
 自分がしてしまった結果が、無惨な肉塊になって転がっている。
「ど、どうしよう……やだ、藤田君が……」
 考えた。懸命に考えた。どうすればいいんだろう。
 人を殺してしまったなんて、誰にも言えない。でも、きっとばれる。
 藤田君はここにいて、自分がここにいて、それを監視されている。絶対にばれる。
 いや、もう知られている。
 自分が犯罪者になって捕まったりしたら、もう、終わりだ。
 幼い弟たちは、あの家にいられなくなり、収入も大幅に減って、きっと一家離散か心中コース。
 典型的な凋落のパターンだ。
 ちがうちがう。自分は悪くない。正当防衛だよ。だって藤田君が、私を殺そうとしたから。
 でも、だめだ。そんな言い訳は通じない。死んだ人は帰ってこないんだから。
 ばれちゃダメだ。知られちゃダメだ。
 そうだ、神岸さん。あの人が知ったら、きっと私を許さない。ううん、絶対。
 じゃあ、どうすればいい? どうすれば……、ああ、そうだ、いいことを思い出した。
 このゲームに勝ったら、願いを叶えてくれるって言った。
 全部なくしてもらおう。今あったことを全部。
 そのためには殺さなくっちゃいけない。この島にいる人全員。
 特に、神岸あかりさん。二人残ったとしても、この人だけは生き残らせちゃダメだ。絶対に。
 全部の荷物をかき集め、重かったけど、無理矢理背負った。
 浩之の死体を引きずって外に出し、草むらに隠した。
 なんでそんなことをしたのかは分からない。ただ、隠さなきゃと思ったから。
 ああ、もう。そんなことをしている暇はないのに。
 武器は少ない、力も弱い。でも、絶対にやらなきゃいけないことがある。
 神岸あかりさんを、殺さないと。
 殺さなきゃ――。
 殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ。
 

【71 雛山理緒・所持品 筋弛緩剤、注射針一式(針3セット)、枕大の石、裁縫道具、手作り下着、高枝切りバサミ、
            クレジットカード、小銭入り長紐付き巾着袋、クッション、バッグ4つ所持。
            石と高枝切りバサミは、血で汚れている】
【71 雛山理緒 マーダー化。神岸あかりを殺すために動き始める】
【74 藤田浩之 死亡】
【二日目 朝の定時放送直後】
【残り62名】
460逃げる思考(1/4):04/05/21 07:39 ID:74+kL2V+
 お兄ちゃん。
 私のお兄ちゃん。
 ちょっとかっこつけだけど、私が泣いたらいつも駆けつけてきてくれる。
 そんなお兄ちゃん。
 ――自慢できないけど、誇りに思っているお兄ちゃん。

 永続的に繰り返される風景。思い出したくない光景。蘇ってくる鮮明な記憶。頭の中で悲鳴を上げる。
 全てを忘れたい。全てを忘れられたら良いと思う。実際それができるならなんの躊躇いもなくそれを選ぶだろう。
 泣きたくなる。見たくない。フィードバック。リピート。取り払いたい。できない。それが自分の弱さ。
 人間なら誰だって弱い部分がいくつかある、問題はそれをどう支えあっていくか。そんなテレビ画面の向こうから伝わってきそうな陳腐な言葉。
 流れるのは感動的な音楽。結局陳腐なセリフで人を感動させるには演出に凝るしかない。
 失敗したら責められるのはセリフ。成功したら褒められるのは演出。単純な上下関係は歴然としていて、演出はどう転んでも損はしない。
 そんなもの。
 この状況も同じ。演出があまりに酷過ぎる。感動とは別の涙を流したくなるぐらい。違いなんてそれほどない。この状況と自分の間にブラウン管がないだけ。それだけの話。
 どうせならあればいいと思う。自分が見たもの、自分が聞いたもの、自分が感じたもの全てが他人事であれば。それなら単純に主人公の行動に一喜一憂していられる。
 考えてみれば不思議なことなのかもしれない。自分のことよりも他人事の方がよっぽど感情移入がしやすい。ヒロインが死ねば感動して泣き、主人公が生き残れば感動して泣く。
 どうせ主人公は自分ではない。主人公が感じている辛さは同情と哀れみという形に変えて受け取れる。主人公が感じている嬉しさはそのまま受け取れる。
 主人公の弱さなんて所詮共感はできない。
461逃げる思考(2/4):04/05/21 07:41 ID:74+kL2V+
 でも今は自分が主人公。その間にはブラウン管も活字もスピーカーも何もない。感情移入はできない。そのかわり全てを共感できる。太陽のように明るい感情も闇のように暗い感情も全て。
 主人公が泣けばそれが自分の悲しみ。主人公の弱さはそのまま自分の痛み。そんな中で使い古された陳腐なセリフなんて言えない。他人事だからこそ言える感動の言葉は決して自分に使うものではない。
 故に弱さはそのまま残る。全てが自分の負荷になる。慰めを見出すのは本来なら自分ではないはずの主人公。
 でもそれが今は自分。見出すことなんかできない。慰めの変わりにあるのは痛みと弱さ。弱いから痛みができて、痛みがあるから弱い。それは決して他人事では味わえない苦痛。
 弱さ。痛み。全ては脳内で繰り返される。見たくもないそれを見てしまう弱さ、痛み。他人事ではそれはない。思い出しても感動するだけ。
 痛くない。自分自身ではないから。過去を共有することは決してないから。
 自分であればそうはいかない。繰り返される光景は自分の過去の光景。痛みが入り交じる、弱さを思い起こさせる記憶。

『逃げろ…逃げるんだ! 芽衣!』

 目の前で繰り広げられる光景。現れた死神。倒れる体。背中からでる血液。広がっていく紅、紅、紅。
 何もかもがゆっくりと、しかし一瞬で。直前まで作られていた朝ご飯は既に食べられるという使命を果たせずにいる。
 死神の目はそれをつまらなそうに見ている。無機質な瞳。見えない感情。聞こえるのは叫び声。

『さあ行け! 俺の…お兄ちゃんの死を無駄にするな!!』

 溢れる涙。滲んでいく視界。少しずつ霞んでいく兄の姿。視界から、自分から、何もかもが消えていく。
 唐突に揺れる視界。自分が首を振っているのだということに気付くのに二秒。無我夢中。何も考えられない。左右に散っていく雫。
462逃げる思考(3/4):04/05/21 07:41 ID:74+kL2V+
 少しだけ晴れる視界。見えるのは兄と死神。血の海に倒れる兄と、血の海を創造する死神。やがて再びそれも滲んでいく。嫌。霞んで欲しくない。見えなくなったら消えてしまいそうで。紅い視界、佇む死神、それらがあってなお消えて欲しくない兄の姿。
 それでも。
 走った。
 死神に背を向けて。
 兄の体に背を向けて。

『それで…きっと、みんなで帰れるから』

 約束。心を取り戻した兄がたてた誓い。そのときは希望の言葉。今となっては叶わなかった戯言。
 それは昔の話。24時間も立ってない、ついさっきのことだったけど、昔の話。

『――芽衣を傷つけるんじゃねぇ』

 わけもわからず走っていた自分。弱かった心。零れ落ちた弱さの証。隠すことのできない恐怖。そして助けてくれた言葉。
 それは最初の話。長い一日の始まり。兄妹という名の絆。

 嬉しかった。本当に嬉しかった。
 助けてくれた兄が、泣かせてくれた兄が、いつもよりかっこよかった兄が、徹夜で見張をしてくれた兄が、全て嬉しさの象徴だった。
 いつまでも続けばよかった。いつまでも傍にいてくれればよかった。現実を離れ、ただ笑いあっていればよかった。
 それだけで自分は嬉しかったから。
 命を張ってまで護ってくれなくてもよかったから。
 最後に自分は、兄の傍にいることができなかった。笑いあっていることができなかった。いつまでも続くと思っていた嬉しさの象徴は、一人の死神によってまるで砂の塔を崩すようにいとも簡単に壊れてしまった。
463逃げる思考(4/4):04/05/21 07:42 ID:74+kL2V+
 壊れてしまった砂の塔は、また作りなおせば良い。でも、再び完璧に同じものを作ることはできない。最初から多少不恰好のままでも強度を求めて作っていればよかったのに、崩される危険を考えずに形を美しく仕上げてしまったから。
 取り戻せない砂の塔。
 それがもろかったことを悔やんだ時には、もう遅い。

「ごめんなさい…」
 呟き。
 それは、水瀬名雪に向けられてのものか。
 或いは、兄に向けられてのものか。

 春原芽衣。自称『伝説の春原陽平』の妹。
 彼女は、その全ての感情を溜め込んだまま、一軒の民家にかけこんだ。


【春原芽衣 別の民家へ 所有物:なし】
【中に人がいるかどうかは次の書き手に依存】
464別れ、出会い、そして決断:04/05/21 09:16 ID:qm3iFQSs
自分が先頭、後ろに秋生、そしてその後ろに早苗。
彼は位置関係を確認すると唐突に口を開いた。
「早苗さんのパンは…まずいです。」
遠慮がち、しかしキッパリとそう言い放つ。
「なっ、てめぇっ!」
「わたしのパンは…わたしのパンは、ファンタジーな存在の人にも嫌われていたんですねーっ!!」
目に涙を溜めながら早苗は走っていく。
「ちくしょう、てめぇ」
「俺は大好きだーーーーーーーっ!!」
こうして古河夫妻はこの場から姿を消した。



しばらく歩くと秋生が彼に耳打ちしてきた。
「早苗のパンがまずいとか絶対言うんじゃねぇぞ。」
「それは…何故ですか?」
おかしなことを言う人だ、と思いながら彼は尋ねる。
「いいから絶対言うな。でないと、またさっきの鬼ごっこが始まる。」
秋生はちょっとげんなりしたふうにそう言った。
その様子をみた早苗が不思議そうにたずねる。
「なんの相談ですかっ?」
「いや、なんでもないんだ、なっ」
「はい、なんでもないですよ」
彼は状況を察し、秋生に合わせて相づちをうった。
それが数分前のことである。
465別れ、出会い、そして決断:04/05/21 09:17 ID:qm3iFQSs
(ふぅ、良かった、うまくいきましたね)
彼は古河夫妻が走り去ったのを確認すると目の前に視線を集中し、槍を構える。
「………」
そこに誰がいるのか、大体見当はついていた。
がさっ
相手も隠れていても無駄と気がついたのか、それともあまりの奇妙な光景に、出てくるタイミングを失っただけだったのか、姿を現す。
手には巨大な刀、そして彼と同じような耳、来客の正体は…カルラだった。
「一体、今のはなんでしたの?」
「そうですね…相手が相手だけに、戦いになったら護りながらというのは危険だと判断したので、逃げてもらいました。」
「あら、話が早いですわね…でも、私に戦うつもりはありませんわ」
「それは良かった、では、一体どういったご用件でしょう?」
彼は気を抜かずにカルラに問う。
「あなたが、どういった考えで、他の人間と行動しているのかは分かりませんが、
私達が命を賭けお守りすべき存在…聖上は、もういないんですのよ」
「そうです、だから、私は聖上の意思、戦わない人々を逃がすことを優先して動いているまでです。」
カルラは驚いたような表情をした。
「あなたらしくもないですわ、冷静さを失っているようですわね。聖上をお守りすることが出来なかった以上、
死を選ぶべきではないのですか?…それにお忘れになって?生き残れるのは2人、そして、最後まで生き残ったものには…」
彼はカルラの言葉に驚いた、確かに、聖上を護れなかった以上、武人として、死を選ぶべきだ。
しかし、聖上はそれを止めてくださった、自分に居場所をあたえてくださった。それを裏切るわけにはいかない。
「しかしっ…」
「まだ、話は終わっていませんわ。最後まで残ったものには、何でも一つ願いが叶う…お忘れになって?」
カルラはからかうようにそう言う。
466別れ、出会い、そして決断:04/05/21 09:18 ID:qm3iFQSs
確かに、冷静なつもりでいた、冷静なつもりだったが、実のところ聖上の死により冷静さを失っていたのかもしれない。
「まったく、呆れましたわ、それで、単刀直入にいいますわ、私と手を組みませんこと?」
つまりは二人で生き残ろうという提案であろう。
カルラの強さは良く知っている。確かに、カルラと手を組めば二人で生き残ることは容易であろう。
しかし、そのためには今まで会ってきた人々や、戦友たちも手にかけることになる。
彼、ベナウィ(082)は悩んでいた…。

【079 古河秋生 古河早苗特製パン 4個、古河秋生専用金属バット、硬式ボール10球 早古河苗を追って走っている。限界が近いかも?】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、所持品はすべて秋生が預っている、ベナウィの言葉にショックをうけどこかへと】
【082 ベナウィ 槍(自分の物)、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード、彼の決断は次の方にまかせます。】
【026 カルラ ハクオロの鉄扇 カッター 自分の大刀、栗原透子のバック中身不明】
【時刻午前10時ごろ】
467追加:04/05/21 09:30 ID:qm3iFQSs
【カルラ:右手首に怪我、握力半分以下】
468回想録:04/05/21 09:30 ID:Dvhniu1f
第二回定時放送が始まった。
その放送が始まった時、その男の体はもうすでに死んでいた。
麻生春秋の死体だった。そいつを殺した者はボウガンなどには目もくれない。
何故なら、殺した者にとって、もはや、とあること以外に興味がなかったから。
だが、死んだはずのその男の意識はまだあった。心臓が止まっても、息が止まっても。
彼の意識は死にきれないその瞬間をさまようのか。



――結局、あの時春秋は投降することを選んだ。
現れた男はおそらく下っ端の私兵が何人か。その中心に巨躯の傭兵隊長。
そして。
「醍醐、下がれ」
「篁!」
黒幕、篁が一歩前に進み出る。
「気にするな。ただ夜風に当たりたくなっただけでな。
 それに今の所、我々に参加者を傷つけるつもりは毛頭ない。安心してゲームを続けるといい」
闘う必要は、なかったようだ。だが。
「余裕だな。参加者はみんな、あんたに恨みを抱いてると思うよ。
 ゲームに乗った者もそれは同様。こんな所を歩いていると――」
BANG!と指で自らのこめかみをつつく。
「フフ。果たしてそうかな?私は優勝者二名には人の一生を賭けても余りある賞品を用意したはずだ。
 何でも願いが叶う。その為だけに殺す者は、却って我々に仇なす者を排除しようとするかもしれん」
「眉唾だね。何でも願いが叶う?はっ!」
「それは優勝して確かめてみることだ。
 まぁ願いを100に増やせだとか、そういった類のものは叶えられんがね」
ふう、と息をついて、そこから去ろうとする。
「待て!」
思わず呼び止める。篁の足が止まった。
469回想録:04/05/21 09:31 ID:Dvhniu1f
「一つだけ聞かせろ」
「……何かね?」
「こんなことしたあんたの――あんた自身の目的だ」
「あったとして、答えるとでも思っているのか?」
「……」
「ククク、少しだけ話してやろうか?」
そう言って、篁は手で部下達を下げさせる。醍醐を先頭に、篁を残してそこを去っていく。
「何だ?」
「部下達にはあまり聞かせたくはないのでね……。では、第二回の定時放送の予定でも話そうか」
「……は?」
理解ができない。
「……。6番、一ノ瀬ことみ。15番、緒方理奈。20番、柏木初音。29番、木田恵美梨。43番、沢渡真琴。
 45番、霜村功。49番、スフィー。54番、立川郁美。59番、ディー。60番、トウカ。61番、長岡志保。
 63番、名倉由依。67番、ハクオロ。70番、氷上シュン。75番、藤林杏。77番、伏見修二。
 92番、宮内レミィ。97番、ユズハ。99番、リアン。以上死者19名。ふむ、まあこんなところか」
何を言っているんだ?この男は。
「では、続いて第三回の定時放送の予定でも話そうか。ん?クク、これはおもしろい。
 君も出会っただろう?伊吹風子と言ったかな。人にあって人にあらず。
 ――彼女には悪いことをしてしまったね。本体の方を連れてくるべきだったか。
 まあ、消失と同時に本体も本来の居場所で死んでしまったろうがね。後の祭りか。
 彼女が存在するにはこの世界ではきつすぎたようだ。だが、いいものを見させてもらったよ。
 自我の存在を失ってもなお、その想いだけは失われることはない。強い娘だ。
 人の生き様、生きたいと願うエネルギー。それはとても強く、そして本当に面白い。
 彼女もまた最高のサンプルの一つだったよ。それはすばらしい光の玉の欠片なことだろう。
 いや、まだ生きている彼女に過去形なのはさすがに失礼だったかな?麻生春秋も浮かばれぬ。
 ――話がそれてしまったね。さて、続きといこうか――」
470回想録:04/05/21 09:32 ID:Dvhniu1f
「もういい」
それを遮る。ヘドが出そうだった。フウコとかいう少女を目撃したあの時よりもずっと胸クソが悪い。
「フフフ。話を変えようか。並列世界というのはご存知かな?
 アナザーだとかそういった方が分かり易いか?まぁ、どう呼んでくれても結構だ。
 要は、とある分かれ道に立った時、どちらを選択し、どういう進み方をするのか。
 人はその時その時で多種多様な選択をし、未来を自分で選びとっていく。
 その可能性の一つ一つが並列世界。それは本来誰にも分からぬことだと思うがね」
「……何が言いたい?」
「君が知りたいのではなかったのか?まあいい。ここで出会ったも何かの縁だ。
 もう少しだけ話しておこうか。その並列世界を知ることができたなら?いわゆる世界を知る力だ。
 君が、私自身が、もしも、こうありえたかもしれないという過去を、未来を知りえることができたなら」
一旦言葉を切る。春秋にも、ようやくこの男が何が言いたいのかが理解できた。
「先程の名前の羅列。外れる未来もありえるわけだね」
「その通り。君はなかなかに賢い。――今はまだ可能性のひとつにすぎんよ」
「それはただの予言だ。例えば、今ここで僕がお前に襲いかかったら――お前が倒れる未来もあるわけだ。
 そしてもしも、僕が敗れて死ねば――。お前のセリフに、僕の名前はなかったろう?」
「それは君自身が一番よく分かっているのだろう?君の心に少しでもその気があれば、そういった未来もありえたかもしれない。
 先程、君が我々に気付いた時、話をするか、投降するか、逃げるか。迷ったようにな」
「……。『今はまだ可能性のひとつにすぎない』とお前は言ったな。それはどういう意味だ?」
471回想録:04/05/21 09:33 ID:Dvhniu1f
「今はまだほんの少し、その先を夢見るだけの力にすぎん。
 未来は未だ、我が思い描く通りにはならん。
 世界を知る力。過去を、未来を。すべての並列世界を。森羅万象すべてを知りえた者を。
 人はなんと呼ぶのだろうね?このゲームの終焉。その時、その存在となるのが我だ」
「そんなものになって何をするんだ。どうやってそんなものになれるというんだ?」
「……少々喋りすぎたようだ。あとは君自身が考えるといい。
 最後にひとつだけ。ここで君に出会ったのは、偶然だよ。私のまだ知りえなかった未来だ。
 さて、話は終わりだ。君自身が選び取る物語に幸あらんことを」





今放送は終わった。間に合わなかったわけか。今思えば、ヤツは僕だからここまで話していたのだろうか。
誰にも言うこともなく、誰にも知られることなく、ただ朽ちていく。
どうせ死ぬなら、できれば放送が始まる前までにきっちり殺しきってほしかったものだ。
ヤツの言ったセリフとは違う未来が待ってたのに。ヤツの言ったセリフと同じ今を聞かずにすんだのに。
どうやってるかまでは知らないが、ヤツは『それ』に近づいているというのか。――人が死ぬたびに。
クソ、お前はせめて生き延びろよ。せいぜい第三回の定時放送まではな。
横では無邪気な顔でヒトデを作成している少女。最後にそれを瞳に映して、僕の意識は遂に永遠の暗闇へと吸い込まれていく。


【03 麻生春秋 死亡】
【残り61人】
472回想録:04/05/21 09:55 ID:Dvhniu1f
>>468-471
NGでお願いします。すいません。
473新たな居場所:04/05/21 10:03 ID:sL1P1UR0
「バカヤローーーーーーーーーー!!」
振り返ると、数m先には秋生と早苗が立っていた。
・・・・・・いったいいつからいたのか。
カルラとの会話に集中しすぎていたのか、それとも身体能力の低下のせいか。
どちらにしろ・・・二人の気配に気がつかなかった。
「お前は「聖上」の意思を継ぐって決めたんだろっ!!男だったら貫け!どこまでだって突っ走れっ!」
どこからかはわからないがカルラとの話を聞かれていたらしい。
つくづく武人失格だ、と自嘲の笑みを浮かべる。
「おまえがその意志を貫けるように、俺たちもおまえを守ってやる!お前自身も!お前の心も!お前は俺たちを守るといったように!
俺たちがおまえと一緒に生きてやるから・・・・・・・・だから、俺たちと来いっ!」
ありったけの声で秋生は叫ぶ。
そして、ベナウィのほうへと手を差し出した。
「ベナウィさんっ!」
その後ろで、早苗もベナウィを呼ぶ。
(ああ、なんて・・・)
なんて彼らはこんなに暖かいのだろう、と思う。
出会って、数十分もたっていない自分と一緒に生きると言ってくれている。
その身を危険にさらしてまで、こうして戻ってきてくれた。
(私は・・・)
ベナウィはカルラに向き直った。
そして、はっきりとその決意を口にする。
「申し訳ありませんが、私はあなたと組むことはできません」
・・・自分を信じていてくれる、彼らがいる限り。
もう、迷いはしない。
「私には・・・新たに守るものができましたから」
ベナウィは微笑して言った。
474新たな居場所:04/05/21 10:06 ID:sL1P1UR0
【ベナウィとカルラの交渉決裂】
【079 古河秋生 古河早苗特製パン 4個、古河秋生専用金属バット、硬式ボール10球 限界が近いかも?】
【080 古河早苗 早苗のバッグ、所持品はすべて秋生が預っている】
【082 ベナウィ 槍(自分の物)、紅茶入り水筒、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、ショートソード】
【026 カルラ ハクオロの鉄扇 カッター 自分の大刀、栗原透子のバック中身不明、右手首に怪我、握力半分以下】
【時刻午前10時15分ごろ】
 ああ、いけない。もう新聞配達の時間だ。体が覚えている、毎日の習慣。
 おかしいなぁ、目覚まし鳴らないよ。それにいつもより体が重い感じ。なんでだろ。
 うー、起きたくない。でもそういうわけにもいかない。
「……ちゃん」
 ちょっと待って良太。すぐ起きて、朝ご飯作るから。
「理緒ちゃん」
「うん……分かったってば、良太」
「いや、俺良太じゃねーって」
「……へ?」
 目を開くと、苦笑した様子の浩之の顔が。
「ふっ、藤田君!? なぜうちにっ?」
「いや、俺ら今、絶海の孤島にいるんだが……」
「……あ、そか」
 暗い洞窟の壁面を見て納得した。バイトにいく必要はない、学校に行く必要もない。
 それでも生きることが、いつも以上に困難な場所。
「あはは……」
 失意が、何故か笑いになって零れる。その時、定時放送が入った。
 二人の間に緊張が走る。名前が次々に呼ばれる。強張った体を、不愉快な声が通り抜けてゆく。
『61番、長岡志保』
 浩之の体がはっきりと動揺した。理緒も顔くらいは知っている相手だ。
 良く勝手に教室に飛び込んできては、色々な噂をばらまいていく。
『92番、宮内レミィ』
 こちらも理緒に面識はないが、あの派手な金髪はいやでも目に付く。
 ああ、死んじゃったんだ……。
 理緒にとっては、その程度の感慨だった。悲しいけど、どちらも直接の友達ではない。
 だけど、浩之は違っていた。
 志保が死んだ。あの脳天気な声で「志保ちゃんニュース!」とデマを振りまく彼女の姿は、もう見られない。
 レミィが死んだ。明るい笑顔で、得意げに四字熟語を並び立てる様は、もう見られない。
 好きとか嫌いとか、そういう問題ではなく、どちらも大切な友達だった。
 自分の生活の大半を占める、学校という場所。そこを構成する重要なパーツが、一つずつ。
 外れて、亡くなった。
「う……ぐぁっ」
 胃の内容物が、ぶちまけられた。ほとんど消化しきってしまって、胃液ばかりが出てくる。
 だけど、止まらない。
「ふっ、藤田くんっ!」
 理緒が背中をさする。ツンとした匂いと、目と鼻の先に集まる熱い痛み。
 元気だった二人の姿が、上手く思い出せない。見てもいない惨殺シーンが脳裏に浮かぶ。
 血にまみれた、志保、レミィ、そして――あかり。
 あかり。あかりっ!
 いやだいやだいやだ。あかりが死ぬ。そんなことは考えたくもない。
 志保も、レミィも大切な友人だ。だけど、あかりはもっと大事だ。
 ずっと小さい頃から、一緒にいるのが当たり前の、かけがえない人。
 失われてからでは、きっとこの二人とは比較にならないほど後悔するのが、先の想像から分かる。
 だけど、この島にいる限り、死はあかりの元に着実に迫っている。
 逃れる方法はただ一つ、このゲームに生き残ること。
 人数は、二人まで。
 二人まで?
「藤田君、平気……?」
 じゃあ、この女は何だ?
 雛山理緒。自分を慕ってくれる、けなげなバイト少女。
 貧乏だけど、家族のために一生懸命頑張っている、気持ちのいい少女。
 でも、邪魔になる。
 あかりと帰るためには邪魔になる。そうじゃないか?
「ふ、藤田君……?」
 怯える声に、かえって煽られた。
 なんだ? 何をしている? 理緒ちゃんの肩に手をかけて、首に触れて、どうするつもりだ?
 簡単だ。こんな細い首。たぶん、きゅっと締めたら、すぐに終わる。
「藤田君……やだ、ちょっと、冗談……でしょ? ねぇ」
 違う。違わない。どっちだ。落ち着け、浩之。ゆっくり考えろ。簡単な事じゃないか。
 あかりと理緒ちゃん。あかりの方が、大事だろう?
 指に力が籠もった。
「かっ……あっ」
 理緒の表情が歪む。苦しんでいる。暴れている。死んでいく。
 もう止められない。ここまで来たら、殺すしかない。
 ごめん。わりぃって思う。でも、あかりが、あかりが、こうしないとあかりが死ぬんだっ!
 理緒の口から泡が零れる。見開いた目には血管が浮かび、信じられない、という風に浩之を見ている。
 窒息は苦しいって聞いたことがある。せめて、なにか武器があったら、もっと楽に殺せてあげたかもしれない。
 ごめんな。でももうおそいよな。ここまできたら、一気に――。
 そう思ってたら、下から衝撃が来た。
「ぐぁっ……」
 理緒の振り回した足が、浩之の金的を直撃した。
 殺意も何もかも消し飛ぶような衝撃が、真下から跳ね上がる。
 普通ならそこを攻撃するのを少しはためらうものだが、理緒も必死だった。
 容赦なくつま先が、蹴り上げていた。
 脂汗が浮く。情けなく腰を突き出す恰好で倒れながら、呻く。涙が出た。
「つ……」
 影が覆い被さった。
「え……?」
 振りかぶったバッグ。その中には、枕大の石が入っている。
 理緒は、さっきまでの浩之と同じ顔をしていた。
 死の恐怖に怯え、それに押されるように、殺意に引きつった表情。
「あ……」
「ああああああああっ!」
 叫びと共に、バッグが叩きつけられる。何度も、何度も。
 血が飛び散り、骨が砕け、脳漿が弾け、肉が潰れてゆく。
 殺される。殺される。自分も殺される。二人みたいに。イヤだいやだ、そんなのはイヤだっ!
「いやああああああっ!」
 叩きつける何度も何度も。浩之の服が瞬く間に紅に染まり、肉が掻き乱されてゆく。
 手応えが気持ち悪い、不愉快だ。それを断ち切りたくて、石を振るたびに、手応えが変わってゆく。
 浩之が死んでいくことが分かっているのに、でも腕が止まらない。止めたいのに、止まらない。
 狂的な叫びが洞窟にこだまするが、浩之は、それを聞く器官をすでに失っていた。
 ただ、血と叫びと涙だけが、尽きることなく続いた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
 どうしよう、どうしよう。殺してしまった、死んでしまった。
 大好きだった人。密かに想っていた人。でも、振り向いてくれなかった人。
 それが自分の手で肉塊に変わった。
「うっ……」
 血の匂いに、自分の為した行為に、体が拒絶反応を示す。
 浩之がぶちまけた吐瀉物の上に、自分も同じものを吐き出した。
 違う、違う。自分が悪いんじゃない。だって、藤田君がひどいことしたから。
 私は悪くない。私だって帰りたい。帰りたかったの――藤田君と一緒に。
 その藤田君の胸から上は、原形を留めていなかった。
「あ、あ……」
 自分がしてしまった結果が、無惨な肉塊になって転がっている。
「ど、どうしよう……やだ、藤田君が……」
 考えた。懸命に考えた。どうすればいいんだろう。
 人を殺してしまったなんて、誰にも言えない。でも、きっとばれる。
 藤田君はここにいて、自分がここにいて、それを監視されている。絶対にばれる。
 いや、もう知られている。
 自分が犯罪者になって捕まったりしたら、もう、終わりだ。
 幼い弟たちは、あの家にいられなくなり、収入も大幅に減って、きっと一家離散か心中コース。
 典型的な凋落のパターンだ。
 ちがうちがう。自分は悪くない。正当防衛だよ。だって藤田君が、私を殺そうとしたから。
 でも、だめだ。そんな言い訳は通じない。死んだ人は帰ってこないんだから。
 ばれちゃダメだ。知られちゃダメだ。
 そうだ、神岸さん。あの人が知ったら、きっと私を許さない。ううん、絶対。
 じゃあ、どうすればいい? どうすれば……、ああ、そうだ、いいことを思い出した。
 このゲームに勝ったら、願いを叶えてくれるって言った。
 全部なくしてもらおう。今あったことを全部。
 そのためには殺さなくっちゃいけない。この島にいる人全員。
 特に、神岸あかりさん。二人残ったとしても、この人だけは生き残らせちゃダメだ。絶対に。
 全部の荷物をかき集め、重かったけど、無理矢理背負った。
 藤田君の死体を引きずって外に出し、草むらに隠した。
 なんでそんなことをしたのかは分からない。ただ、隠さなきゃと思ったから。
 ああ、もう。そんなことをしている暇はないのに。
 武器は少ない、力も弱い。でも、絶対にやらなきゃいけないことがある。
 神岸あかりさんを、殺さないと。
 殺さなきゃ――。
 殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ。
 

【71 雛山理緒・所持品 筋弛緩剤、注射針一式(針3セット)、枕大の石、裁縫道具、手作り下着、
            クレジットカード、小銭入り長紐付き巾着袋、クッション、バッグ4つ所持。
            石は血で汚れている】
【71 雛山理緒 神岸あかりを殺すために動き始める】
【74 藤田浩之 死亡】
【二日目 放送直後】
【残り62名】


>>454-459の修正版です。アイテムに関して勘違いしておりました。混乱させて、申し訳ないです。
481名無しさんだよもん:04/05/21 13:38 ID:aAUctwfR
葉鍵ロワイアル II 作品投稿スレ! 3
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1085114275/
482名無しさんだよもん:04/05/21 23:59 ID:WTRjVssw
ズガン!

参加者は全員死亡した。


よって   終   了
483名無しさんだよもん:04/05/22 00:04 ID:y1m2mBAD
ズガンッ!
は何かを考察するスレになりました。
484名無しさんだよもん
魔理沙音頭

幻想郷の栄える地球を守るため
キノコの力で魔女がすごくなり
すごい魔女をすごくした

オー 魔理沙 ベリーナイス
アリスはしょんぼりした

ミサマリは密の味
レザマリはエレガント
マスタースパークで一気にKOすることもある

「すごい魔女だ。」

うーーあーー(オートラストスペル) 
魔理沙