葉鍵ロワイアル II 作品投稿スレ!

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199名無しさんだよもん
>>178
秋生の持ち物はレーダーじゃなくて古河早苗特製パンだよ
200名無しさんだよもん:04/05/16 00:09 ID:drtKp7tV
瞬きもせず

 橘敬介(055)は動かない。沢近くの木の根元に半ば倒れ込むような格好で座っている。
外傷はないが一見死体に見えなくもない。このまま誰にも気づかれずゲームが終わるのが
自分にとってのベストな展開なのかもしれない、とも思ったがすぐにその考えを振り払った。
 あくまでルールに従うのであれば生き残りは二人。

 あの町で見た彼女たちを思い出す。
 ひとつ屋根の下で笑い合う。
 今年の夏には見知らぬ青年もその中に入っていた。
 …自分の場所は最初からあそこにはない。
 ケーキはその青年に渡してしまった。

 それでよかった。すでに自分は「生きていない」のだから。

 家族。
 すでに一度自分の手から消えたもの。

 動くことが出来るようになったら、観鈴と晴子を探しに行こう。
 あの家族を壊さぬために。
 それが、今の自分の願いだ。

 …敬介は自覚していない。自分の護るべき「家族」のヴィジョンの中に自分自身の姿を描かなかったことを。

『参加者の諸君、ご苦労。なかなかに盛況のようで…』
201瞬きもせず2:04/05/16 00:10 ID:drtKp7tV
 不愉快な音声が響く。あの主催者の声だ。
 敬介はとっさにメモをとろうとし、改めて自分がまばたきひとつ出来ない状態であることを実感した。
 そして改めて思い返す。いつもポケットに何本か入っているはずのペンが荷物を整理したときには無かった。
 大腿部の同じ場所に痛みがあるのは愛用のシャーペンのせいではなく、支給品の釣り針のせいである。

 しかしすでに11人。この理不尽な島で理不尽な死を遂げたものがそんなにいるとは。

『…44番、芝浦八重。51番、住井護。58番、月宮あゆ。69番、柊勝平。76番、藤林椋。…』

 自分の知る名はない。音声だけでは判断できない名前もあるがが明らかに男性とわかる名前はあった。
 自分が死体と誤認される確率は少しは増したかもしれない。
 そしてあの放送の中に気になる数字もひとつあった。51番、住井護。
 名前で判断するより前に敬介はそれが男性の名だと確信していた。自分のひとつ前に出て行った少年だ。

 …控え室は薄暗く、切迫感が漂っていた。
 参加者のうち25人がここに集まっている。しかし口をきくものは一人としていない。
 管理者側の人間の高圧的な態度もあいまって、この狭い部屋にこれから起こる狂宴の芽が
凝縮されているような気がしてならなかった。
 観鈴が出て行ったあと、敬介は下を向いていたが、ふと隣に目をやると観鈴とさして変わらない年頃の
少年が左袖手首を熱心にいじっていた。何かを押し殺しているような表情をしている。癖なのだろうか。
 かちり。
 それはこの音のない部屋の中ですら可聴域すれすれの、ほんの小さな音であった。
 少年の口が弧を描くのと51番の呼び出しとがほぼ同時。そしてその数分後に自分はドアの前に立っていた。
202瞬きもせず3:04/05/16 00:12 ID:drtKp7tV
『…勝利者への報酬は絶対である。どうか精励されたい。以上』

 それがあの少年の最後の笑みだったのかもしれない。敬介は気分が重くなった。
 一体彼はなぜ笑ったのだろう。そのときは確かに不気味に思えた。このゲームに乗ったのではないかと本気で心配した。
実際そうかもしれない。しかし――あの少年が行動することはもう、ない。

 橘敬介は動かない。「生きていない」自分には似合いの姿かもしれない、と敬介は思った。
外見上彼を死体と峻別するのは、まばたきすらしない目を潤ませる涙のみだった。

【055橘敬介:依然行動不能、晴子・観鈴を探して護ることを行動方針とする。】
【      所持品に変化なし 釣り糸×3、釣り針の束、ハンカチ。バッグ自体はなし】
203対極:04/05/16 00:55 ID:an/CH3z6
深い、森の中。
ゲンジマル(35)は悲しみに暮れていた。
孫娘の、死。
永い時を生きてきた。
数え切れないほどの戦友を失った。

孫なのだ。
失った人は、己の孫なのだ。
それも、このような歪んだ戦場で。

死は神聖なものだ、等と言うつもりは無い。
神聖な戦等有りはしないし、戦は常に負の物しか残さない。
だが。
どんな戦にも劣るこの戯事で、孫は、サクヤは死んだのだ。

涙は流さない。
流せば視界が歪み、命取りになる。
主君、クーヤを守らなければならない。
死ぬ事は、許されない。
204対極:04/05/16 00:56 ID:an/CH3z6
手に持っていた武器を握り締める。
彼の支給品――飛刀のような、針のようなもの――ダーツ。
この武器だけでは心許無いが、今はこれで闘っていくしかないのだ。

気配を感じた。
「貴方には恨みは無いけれど、生き残るために、死んで」
立っていた女が言った。
手には、金属の塊のような物。
金属が火を噴くと同時に彼は横に跳んだ。

予測したわけではない。
歴戦の直感。

女は戸惑い、そして、身を翻して走り去った。
彼は追わなかった。
女もまた、譲れないものを守ろうとしているのがわかったから。

そして彼は歩き出した。
クーヤを守り、ハクオロを探し、このゲームを止めるために。
205対極:04/05/16 00:58 ID:an/CH3z6
女――名倉友里(64)は走っていた。
生き残れるのは二人。
自分と、由依。
――どんなことがあっても、私が由依を守るから――
あの時守れなかった約束。
守るためにどんな事でもした。
不完全ながらも不可視の力を得た。
由依のために。
由依のために、自分は、人を、殺す。

あの、黒の少年であろうとも。


【035 ゲンジマル:武器 ダーツ×7 クーヤ・ハクオロの捜索開始】
【064 名倉友里:武器 デザートイーグル マーダー化】
206慈悲の心:04/05/16 00:58 ID:7lovlkyH
時は定時放送よりもさかのぼる…

森を歩く一つの影、古河渚(81番)の足取りは弱い
殺人ゲームの事実が心にかける負担は大きい。が、彼女はそれだけではなかった
(体が熱い…)
ゲーム開始直前あたりから熱に襲われ始めていたのだ
視界はぼやけ、歩くこともままならない状況でも渚はあての無いまま進み続ける
(お父さん…お母さん…岡崎さん……どこにいるの…)
しかし熱のある体ではすぐに限界がきてしまった。日陰になっている木の下に移動し横になる
(…私、このまま死んじゃうのかな……)
目を閉じ思いえがくは両親の顔と一人の男の子の顔
それすらも意識自体が熱により刈り取られていく
(少しだけ眠っても良いよね…)
これは全て夢で次に目覚めた時は自分の部屋であることを願いながら少女は眠りについた
207慈悲の心2:04/05/16 00:59 ID:7lovlkyH
どれくらい時間がたったのだろうか、額の冷たい感触に渚は目を覚ます
切望していたことは叶わず森の中のままだった
「気が付かれましたか?」
ふいに横から声をかけられた。状態を少し起こしそちらに目をやると女の子が座っていた
体を動かした反動で額に乗せられていた手ぬぐいが落ちそうになる
「あ、そのまま横になっててください」
と言われ元の状態に戻される。
「調子の方はどうですか?」
熱はあるようだがだいぶマシになっていた
「体が熱い以外には特に…」
聞かれるままにそう答えていた
「そうですか、気休め程度ですがこれをどうぞ」
と、ペットボトルを渡される。そこの方に緑の液体が溜まっている
「解熱作用のある薬草を煎じたものです、お湯とちゃんとした道具があれば良かったのだけど…
とりあえず急ごしらえですがそれでも効果はちゃんとあるはずです」
にっこり微笑みかける。しかし渚は薬を受け取ったままかたまっている
「どうかしましたか?」
その言葉で我にかえり状況を把握する。つまりこの人は眠っている間に介抱してくれていたのだ
208慈悲の心3:04/05/16 01:00 ID:7lovlkyH
「いえ、何から何までありがとうございました。えと…」
「あ、自己紹介がまだでしたね、私はエルルゥと申します、よろしくおねがいしますね」
と言ってまたにっこりと微笑みかける。年は同じくらいだろうか、服装は着物に近い。そして長い耳と尻尾があった
集められた時にもそのような容姿の人達は見かけたので同じ出身なのだろう
「えと、私は古河渚です。こちらこそよろしくお願いします」
「渚さんですね、とりあえずお薬飲んだらまた少し眠った方が良いです。よくなったら水場を探しに行きましょう」
今手にしているペットボトルは最初に至急された水が入っていた物だ。それに薬が入っているということは水は全て消費してしまったことになる。
頭にのっている手ぬぐいはまだほんのり冷たい、貴重な飲み水を使ってずっと冷やしていてくれたに違いない
そう考えたとたんに涙があふれてくる。そして頬をつたって流れ落ちていった
「あ、えと、どうかしましたか?どこか具合が悪いですか?」
とエルルゥがおろおろし始める
「いえ、ただいきなりこんな島に連れてこられて殺しあえとか言われて、不安でたまらなかったんです。
こんなに親切にされるとは思ってもみなかったんです」
と言い涙をぬぐう
「私のせいで飲み水まで使わせてしまって…すいません」
「…謝らないでください、水くらいどうにかなりますよ。それよりも早く良くなってくれると嬉しいですよ?」
またもにっこりと微笑みかける
「ふふ」
二人で笑いあう、渚がこの島に来て初めて笑った時だった。
209慈悲の心4:04/05/16 01:02 ID:7lovlkyH
そしてこれ以上心配をかけまいとペットボトルの中身をあおる
「………」
渚の顔がさーっと曇る
「どうかしましたか?」
首をかしげるエルルゥ
「変な味がします…」
そんな生易しいものではなかったが、とりあえずそう言ってみる
「薬ですからね、蜂蜜でも混ぜられれば良かったのですが。アルルゥ…妹なんですが、アルルゥだったら何を混ぜても吐き出しちゃうんですよ」
ずっと笑顔だったエルルゥの顔が妹の事を話す時だけ表情が硬くなっていた
「妹さんのこと、心配なんですよね…」
「……そうですね…悪戯好きの悪い子ですが大好きな妹ですから」
と、またも笑顔で返される
渚は一人になりたくない、そばに誰かいて欲しいと思いつつも
「…私の事はいいですから妹さんを探しに行ってあげてください」
と言っていた。しかしエルルゥは首を横に振る
「私は病人や怪我人を置いていく事はできないんですよ、それが私の使命ですから」
目を見つめられそうエルルゥは答えた
「それとですね、渚さんが眠っている間にゲームの犠牲になった人の発表があったんです…でもその中に知っている人の名前は入っていませんでした。だからまだあの子は大丈夫…」
「…あの……」
渚は両親、それと岡崎朋也の名前がなかったか尋ね、無いとわかるとほっと胸を撫で下ろした。そして目を閉じる
(これ以上迷惑をかけないように早くよくなろう…)
エルルゥのおかげで気力の方はかなり回復したが体力の方はそうはいかない、目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきて渚は夢の世界へと落ちていった

【渚&エルルゥが供に行動】
【支給品 渚:不明 エルルゥ:乳鉢一式】
210ばいばい:04/05/16 01:19 ID:zl803guo
「邦博、ちょっと冷えてきたね」
 木々の隙間を、風が吹き抜け始める。
 それだけではないのだろう、日が傾いてきたせいか、さすがに涼しくなってきた。
「うわ、暗ーい」
 都会暮らしに慣れた邦博にとって、木々の陰が造り出す闇は、ビルのそれのように、
 ネオンや街灯に消し去られることがないだけに、不気味に感じられた。
「邦博、やっぱり街に戻ろうよー」
(……ちっ)
 何度となく名前を呼ばれた男、邦博は舌打ちし、考え込んだ。
(糞ったれ、俺はどうかしてたんじゃねえか?
 この一分と黙ってられないガキと、何故俺は歩いている?
 なんとなくだが、レーダーだって手に入れた。
 そうとなれば、こいつはもう用済みにしたって構わんだろうが)
「邦博、うんこ踏むよ」
「なにっ」
 立ち止まって、足元を見る。何もない。
「てめ……」
「あはは、冗談冗談、やだな、怒んないでよー」
 怒りを爆発させる寸前で、視界の端に光が見えた。
 レーダーの光が増えていたのだ。
211ばいばい:04/05/16 01:20 ID:zl803guo
「……そこでじっとしてろ」
「え、なになに?」
 無防備にキンキン声を張り出す恵美梨の口を、顎ごと掴んで、やや乱暴に黙らせる。
「黙ってろって言ってんだよ」
 そのままレーダーを見せる。
 幾つも増えた光の点を見て、恵美梨は目だけで驚き、頷いた。
「様子を見てくる。隠れてろよ」
 不安げな恵美梨を残し、邦博は戦地へ向かった。

(……こりゃまた派手だな、オイ)
 そこでは時代劇の殺陣の如くに、剣風が舞っていた。
 風を切り、葉を散り飛ばし、髪をなびかせ、美しくも恐ろしい速さで刃が閃いていた。
 その上、人間とは少し違うようだ。
(なんだってんだよ、コイツら)
 魅入られたように固まっていた邦博だったが、やがて異変が起こった。
 戦いの壮絶さのため、見物人である邦博さえ忘れていたのだが、女がいたのだ。
 その忘れられていた女が、突然立ち上がり、刀を持った女を、背中から刺した。
(――やりやがった!)
 最期まで見届ける必要はない。
 こいつらはヤバすぎる。喧嘩に自信のある邦博でも、素手で渡り合える相手ではない。
 鞄の中を確かめようとも思ったが、何故か恵美梨の顔が浮かんで、やめた。
 そして恵美梨の元へと戻るために、静かにそこから離れたのだった。
 
212ばいばい:04/05/16 01:20 ID:zl803guo

 藪を掻き分け、恵美梨を探す。
 たった数十メートル進んだだけで、森の薄暗がりは人を迷わせる。
 だが邦博の手には、レーダーがある。見れば、問題は即解決する――はずだった。
(二つだと!)
 そのレーダーの中に、先ほどの連中と、邦博のそれと、もう二つ、光があった。
 つまり恵美梨の他に、何者かがいる。
「邦……!」
 聞こえる、叫び。
 邦博の頭が、脳が、沸騰する。駆け出す。走る。
 暴力性を開放し、心を身体の先へと疾走させる。
 何があっても負けないために、強くあるために。

「邦……!」
 たった二文字の名前を呼ぶことも出来ずに、恵美梨は崩れ落ちた。
 動脈から流れ落ちる鮮血が、彼女の意思を急速に霞ませていく。
 その白い世界の中で、彼女が見たのは、邦博の怒りの形相。
(あは、似てないかな、やっぱ)
 何かを叫んでいる。
 自分を殺した少女に向かって、噛み付き、食い殺さんばかりに怒鳴りつけている。
 薄れる意識のなかで、彼女は言った。
「ばいばい……お兄ぃ」
 時紀に言ったのか、邦博に言ったのか、それは誰にも分からない。
 彼女自身にも、もはや分からなかった。
 
213ばいばい:04/05/16 01:24 ID:zl803guo
 恵美梨が倒れた。
 その傍らに、彼女よりも更に小さい、子供と行っても差し支えない少女がいた。
 何故、あいつが殺される? この小娘は、なんだ?
「てめえっ! 何者だ!」
 少女が、ゆっくりと振り向く。
 異形ではなく、殺意すらなく、ただの少女が、そこに立っていた。
 そして静かに、ぽつりと呟いた。
「風子……参上」


【1 浅見邦博 支給品不明 恵美梨のレーダー(25メートルまで) 鞄二人分】
【8 伊吹風子 支給品 よく切れるナイフ】

【29 木田恵美梨 死亡】
【残り86人】

【夕方です。邦博が見た戦いは、オボロとトウカのものです】 
214(1/3):04/05/16 01:27 ID:gEm7U0y8
「……」
一瞬、思考が閉じた。
『77番、伏見修二』
正直なところ、鬱陶しい演説など聞く気もなかったし、事実聞き流していた。
だが、その名前だけは、宮路沙耶(94)の意識に鮮明に刻み込まれた。
(死んだの、アイツ)
どうでもいいと片付けたくなる建前。誰が側にいずとも、常にそうあり続けてきた建前。
それと相反する、抑えがたい本音。
伏見修二という人間との接触が作った、新しい自分。
その修二が、誰かに殺された。こんなにも早く。
「……殺してやる」
ぽつりと洩らした本音を、舌打ちでごまかす。

沙耶の足取りは、それまでより早くなった。


観鈴は空を見上げていた。
「やることないな……」
こんな時、いつでも彼女の空白の時間を埋めてくれたトランプは、ここには無い。
時紀は本当に寝てしまっていた。鼻を摘んで遊んでいたら殴られたので、それから怖くて触っていない。
かえるのぬいぐるみで遊ぶのにも飽きたし、本当にやることが無かった。
――お母さん、どうしてるかな。往人さん、ご飯ちゃんと食べてるかな。
そんなとりとめも無い心配が、ふと心を過ぎった時だった。
「…………」
目つきの悪い女が、観鈴のことを見下ろしていた。
「わっ」
観鈴は驚き、座ったまま後ずさった。寝ている時紀に尻がぶつかる。
「……ってえな」
目を覚ました時紀が、まず眼前の尻にうんざりとした声をあげる。
「邪魔だ」
「ひゃあっ」
 無遠慮に尻を触られ、観鈴は悲鳴をあげた。
215(2/3):04/05/16 01:28 ID:gEm7U0y8
「ん……?」
 時紀も、新たな人間の存在に気づいたらしい。『すけべ』とか『えっち』とかぶつぶつ呻いている観鈴を殴り、聞いた。
「おい神尾、誰だこいつは」
「がお。し、知らない……」
 女は、無言のまま二人を見下ろしていた。ようやく会話の出来る雰囲気になったと察したのか、口を開く。
「アンタ達、誰か殺した?」
「は?」
「殺したかって、聞いてんの」
「なんでいちいちお前に、そんなこと言わなくちゃいけねえんだよ」
「……」
女は、無言で銃を抜いた。
「今、暇が無いの。答えて」
 銃を向けられ時紀は一瞬動揺したが、それでも恐れの感情は彼には無い。
「銃つきつけりゃ喋ると思ってんのか。ますます気にくわねえ」
「…………」
女は、時紀の言葉や態度がハッタリでは無いのを察した。自棄な強がり方が、自分とよく似ていることも。
銃口は下げない。あくまで時紀に照準をつけたまま、女は呟いた。
「……男。茶髪で背の高い男を、アンタ達、殺した?」
「お前のお友達か?」
「……さあ」
「…………」
時紀は沈黙し、立ち上がった。女は一瞬ぴくりと銃口を揺らしたが、撃たなかった。
「こっちの質問に答えてくれたら、教えてやるよ」
「……何?」
「メガネをかけた、頭の悪い女を見かけなかったか?」
「アンタの恋人?」
「さあな」
「…………」
女は一瞬沈黙するが、すぐに、
「会ってない」
と答えた。
216運命 ◆vkSUbcHrtA :04/05/16 01:29 ID:DHbx7hd4
修正。>>179-182
芽衣が空を見上げた時「青い空」になってますが、「夕焼けがかかった空」にしておきます。細かいことですけど
217(3/3):04/05/16 01:31 ID:gEm7U0y8
「そうかよ。じゃあこっちも答えてやる。誰も殺しちゃいねえよ」
「……そう」
女は、フンと鼻を鳴らし銃を下ろした。その異様に悪い目つきで最後に一度だけ二人を見据え、背を向けた。
「おい、行くのか?」
「……ここで止まってる理由なんか無いし」
「じゃあこのバカも一緒に連れていけ。邪魔で仕方ない」
言って、観鈴の背中をどんと蹴る。
「がお。ひ、ひどいなあ……」
ずっと黙っていた観鈴が、抗議の声をあげる。
「……は? アンタの連れでしょ。私に押しつけないで」
「いきなり起こして銃までつきつけといて、何言ってやがる。迷惑料だ、持ってけ」
「……勝手についてくるならいいけど」
「私モノじゃないのに……聞いてくれないのかな……」
一人人間扱いされていない観鈴が、ぶつぶつと呟く。
「時紀さんも一緒にくればいいのに」
「俺は別に何をしようとも思わねえし、余計なお世話だ」
「でも、恋人さん、きっと時紀さんのこと待ってる」
「バカのくせに、余計なとこだけ気が回りやがる」
ちっ、と時紀は舌打ちし、数瞬だけ何かを考える素振りを見せた。
「分かった、俺もついてってやる」
「やった、時紀さんも一緒」
「うぜえよ、くっつくな」
「…………」
そのやり取りを見ていた女は、付き合うのを拒否するようにさっさと一人で歩き出した。
「あ、時紀さん、行こ」
「ああ……おい、お前」
時紀と観鈴は、女に急いで追いついた。
「名前だけ聞かせてくれよ」
「沙耶」
 沙耶は、振り向かずにぼそりと答えた。

【94 宮路沙耶 支給品:南部十四年式拳銃(残弾9発)】
218森の中の猟奇死体:04/05/16 01:43 ID:yq8ZkKN7
「……皆、意外とやる気なんだなぁ」
一人森の中を進んでいた河島はるか(27)は立ち止まりぽつりと呟いた。
目の前には仰向けに倒れている男が一人。
辺りは彼から流れ出た血でちょっとした水溜りの様になっている。

はるかが見つけた死体はこれで四体目である。
皆、危険を避けようと森の中を進んでいるのだろう。
全員が同じ行動をとったら意味がないのに、と少しだけ思った。

一体目は活発そうな黒髪の少女。
突然の出来事だったのだろう、鋭利な刃物で首を切られた彼女は
何が起こったのかまるで判らない様な顔をして死んでいた。
二体目はこちらも活発そうな青い髪の女の子。
死因は銃で頭を打ち抜かれたこと。それも突然に、逃げ出そうとした痕跡すらない。
219森の中の猟奇死体:04/05/16 01:47 ID:yq8ZkKN7
そして問題の三体目、その死体は今見つけたばかりの四体目の死体と共通点があった。
「これもない……」
そう、明らかに異常なそれは、手首から先が切断されていたのだ。
しかも今度のは何かの冗談であろうか、虚空を睨む少年の胸の上には彼自身のものと思われる
片方の手首が丁寧に置かれていた。
(ここまでやるなんて、狂ってるとしか思えない)
割と驚くことの少ないはるかもこれには吐き気を抑るのに苦労する。
この殺人者は殺しを楽しんでいるとしか思えない。
致命傷は体にある刺し傷なのだ、こんなことする必要がどこにあるのだろう?
(二時間ドラマの猟奇ものじゃないんだから勘弁してほしいなぁ)

そしてはるかは思考をめぐらせる。
1.森の中は人でいっぱい。
2.その分ノリノリの殺人者もいっぱい。
3.くわえてまだ明るいとあって活動している人もいっぱい。

「なら暗くなるまでさっき見つけた民家でのんびりしていよう」
私を探しているかもしれない冬弥や彰には申し訳ないけど、そう決めた。今、外は危険すぎる。
別にそこまで生に執着している訳じゃない。あの時、私は死んでしまったのかもしれないのだから。
だけどさっきの…… あの四体の遺体のようにはなりたくなかった。
あの殺人者達と遭遇したら生きているのは難しいだろう。
なにせ自分の支給された武器は『ハーバーサンプル 水分厳禁』と書かれた袋に入った白い粉なのである。

【河島はるか(27) 森外れの民家へ 支給品 ハーバーサンプル一袋】
220それは…現実:04/05/16 01:49 ID:T1Leu9Er
もしかしたら寝ているか、失神しているのかもしれないと思った。
いや、そう思いたかっただけかもしれない。
現実から乖離した、異常な状況に自分達が陥っているということを、認めたくなかったのかもしれない。
だが近づいていくにつれ、そんな一縷の望みは吹き飛んだ。
乱れた服。不自然に曲がった頭部。そして何より、濃密な血の匂い。
触れて確かめなくても分かる。死んでいる、いや、殺されている。
何故かふと、耕一は千鶴にその胸を貫かれたときのことを思い出していた。
そう、あの時も確かこんな匂いがしたっけ。
傷口から吹き出した血と共に、温もりと命が抜けていく感覚。
ずきりと、胸が痛んだ。

「おーいコウイチ。どうなのだー」
背後からクーヤの声が聞こえる。
あれからしばらく歩いた後、森の境で二人はその先に誰か倒れてるのを発見した。
位置的に顔は見えなかったが、どうやら女の子らしい。
万一に備え、クーヤを後ろの茂みの中で待っているように言い(当人は不満そうだったが)
生死を確認するべく耕一だけが近づいたのだが―――
(置いてきたのは正解だったな)
心の中で呟く。あの子に、この状況はとても見せられない。
ここに来るまでの、他愛も無いおしゃべりを通じ、耕一はクーヤという子のことが何となく分かってきた。
一見尊大な態度は、ただ単にそういう接し方しか知らないから。
皇という立場から来る責任感と気品を漂わせる一方で、そこらの子供よりも物事を知らない。
ちょっとした立場の違いを除けば、クーヤは年相応の、世間知らずな女の子でしかない。
―後頭部を陥没させて死んでいるこの女の子も、クーヤとさして違わない歳にだろうに。
紅く染まったその顔は、驚きと恐怖に歪んでいる。
見たところ、武器の類を持っていないようだ。
誰かに追われた末、殺されたか。あるいは不意打ちを喰らったのか。
(………糞ったれ)
これではっきりした。「ゲーム」はすでに始まっているのだ。
それが、現実。
221それは…現実:04/05/16 01:52 ID:T1Leu9Er
「…駄目であったか」
クーヤがやや気落ちした声で尋ねる。耕一の表情から、大体の事は予想がついたのだろう。
少女の目を閉じ、簡単に衣服を整えてやると、耕一はクーヤの元に戻った。
「ああ…どうやらこのゲームに乗り気なヤツがいるみたいだな」
重々しい沈黙が、二人の間を流れる。口火を開いたのはクーヤだった。
「なぁ、コウイチ…これは戦なのか? それともこの國では戦でもないのに見ず知らずの人間を殺すのか?」
「そんなことない! あるもんか!」
思わず語気を荒げる。だが心では自分の言葉に自信を持てなかった。
人間は、きっかけさえあれば、追い詰められればこんなに簡単に殺人者になってしまうのだろうか?
ふと頭の中に、水門で戦った鬼の姿が、柳川の顔が浮かんだ。
そして、鬼となった自分も。
生き残る為に、自分の為に他人を犠牲に出来るのか。
それはある意味では一つの強さだろう、だが
(そんな強さは、俺はいらない!)
「…すまなかった。コウイチ、許せ」
しょんぼりとして謝るクーヤの声に耕一は我に返る。
「い、いや俺の方こそ。怒鳴ったりしてゴメン…」

またしても気まずい沈黙が辺りを包む。その静寂を破ったのは耕一でもなく、クーヤでも無く―――



『…香奈子。19番、柏木千鶴。32番、霧島佳乃。41番、サクヤ。44番、芝浦八重。 51番…』
222それは…現実:04/05/16 01:55 ID:T1Leu9Er
思考が停止する。血の気が引いていく。体の芯が凍りつく。
「…死んだ? クーヤが?」
絞り出した声は、まるで自分のものとは思えない。
馬鹿な、ありえない。サクヤが死んだだと? 悪い冗談だ、ハウエンクアでもこんな下手の冗談は言わない。
何か気持ちの悪いものが、クーヤの心の中を駆け巡る。
そんなはずはない! そんなはずはない!
気付いたときには、クーヤは走り出していた。
「ちょっ…待つんだクーヤ!」
後ろから耕一が静止するのも聞かず、がむしゃらに走る。


宮中に居る時は、どたどたと走りまわるなど皇としてするべきことではないとゲンジマルによく注意された。
そんなクーヤにとって、お忍びで宮を抜け出し、自由に走り回るというのはちょっとした楽しみだった。
そう、そんな時も、あの者はいつも私の後を付いてきてくれた。
何だかんだ言いつつも、私の願いを聞いてくれて、よく一緒にゲンジマルに叱られた。
『待ってくださいよぉ、クーヤ様ぁ〜』
「!」
ただでさえ走り慣れない上、ほとんど人の手が着いていない山林を全力疾走したのだ。
クーヤの足が、とうとう木の根に捕まる。頭から派手に転んだ。
すぐ様立ち上がろうとするが、足が痙攣してうまくいかない。
なんで自分は転んでいるんだろう? いつも転ぶのはあの者の方だった。
それを「やれやれ何も無いところで転ぶとは器用なヤツだな」と言って手を貸すのは、余の役目だったはずだ。
なのに、なのに。
―――サクヤは何処に居るのだ?
223名無しさんだよもん:04/05/16 01:57 ID:OwagnAuO
おっつー。
224それは…現実:04/05/16 01:59 ID:T1Leu9Er
「ハァ…ハァ…やっと…追いついた…」
耕一が追いついた時、クーヤは呆けたように座り込んでいた。
転んだのだろう、裾や肘に土まみれになっている。
「大丈夫か、クーヤ?」
挿し伸ばした耕一の手に、クーヤは反応を見せない。
「ク…」
「…サクヤは…どこだ?」
耕一の言葉をクーヤが遮った。その顔に空虚な笑みを浮かべながら。
「なぁ…みな余を謀っているのだろう? あの者が余を放っていなくなるわけないではないか?
 それを死んだなどと、冗談が過ぎるぞ? 大方何処ぞに隠れているのだろう?
 あの者はああ見えて意外とはしっこいのだ。
 何せあのゲンジマルの孫だからなどうせまたそのあたりでころんでいるのをまちがえられたのだ
 そうにちがいな」
「クーヤ!」
耕一の声に、クーヤがびくりとして身を縮ませる。
そう、クーヤにも分かっているはすだ。だからこそこんなに必至になって走ったのだろう。
ゲームは始まった、実際に人は死んでいるのだ。確実に。
「気持ちは分かるが落ち着いてくれクーヤ。そんなんじゃ、君まで危なく…」
「気持ちは分かるだと!」
押さえきれない感情が、ついに関を切った。
「気持ちは分かるだと! 何が分かると言うのだ! サクヤは私の友だった! 
 ほんの小さい頃から、余のたった一人の友だった! 臣下ではないたった一人の!
 死んだだと!? 巫山戯るな! サクヤを殺したなどと、そんな者余が地獄に叩き落してやる!」
真っ白になるまできつく握った手を震わせながら、クーヤは叫んだ。
その言葉を、ただ耕一は静かに聴いていた。
ひとしきり感情を吐き出し、肩で息をするクーヤに向かって、感情を込めずにゆっくり呟く。
「さっきの放送にさ、俺の従兄弟の名前もあったよ」
クーヤの震えが、止まる。
225それは…現実:04/05/16 02:03 ID:T1Leu9Er
「だけど、ここで焼けっぱちになっちゃ駄目だ。もしかしたら、あれは連中の罠で
 千鶴さんもサクヤって子もまだ生きてるかもしれない。それに」
いったん言葉を切り
「俺達はまだ生きている。やれることはまだあるだろ?」
嘘だ。おそらく千鶴さん達は死んでいるだろう。だが、今つくことの出来る嘘はこれが精一杯だった。
何故自分がこんなにも冷静で居るのか、耕一自身よく分からない。
だが何となく、いま目の前にいる子を放って置けないという意識だけはあった。


「…コウイチ。頼みがある。胸を貸せ」
それまで押し黙っていたクーヤが、突然口を開いた。
耕一の返答を待たぬまま、クーヤの顔が耕一の胸(というよりも腹)にもたれ掛かる。
「クーヤ?」
自分の言葉で多少は落ち着いてくれたのだろうか。だがその表情は耕一には見えない。
「余はクンネカムンの皇だ。人前で泣く事など出来ぬ。だが、ここに居るのは余とお主だけだ。
 これで最後にする、だから、黙っていて欲しい」
クーヤが上ずった声でまくし立てる。耕一は

「…誰にも、言わないよ。約束だ」

そう答えることしか出来なかった。

「………………ぅ…っ…ぇ………」
きつく耕一のシャツを握り締め、あくまで声を押し殺して、クーヤは泣いた。
皇としてでは無く、友達を、家族を無くしたちっぽけな女の子として。、
慟哭するクーヤの頭を抱きながら、耕一は自分の感情にやっと気が付いた。
冷静なのではない。怒り過ぎて、分けが分からなくなっていただけだ。
糞ったれなゲームとその主催者達に、ゲームに乗った殺人者に、何も出来ない、出来なかった自分に。
ぞわりとしたドス黒い何かが、心の中で頭をもたげる。
自分の中の鬼が、ガキリと歯を鳴らした気がした。

【耕一・クーヤ、あゆの死体に遭遇。バックは持ち去られていた模様。再び森の中】
226レディゴー!:04/05/16 02:30 ID:BeIEkHCK
ゲーム開始から数時間は過ぎただろうか。
伏見ゆかりは支給物が配られた車庫の中で過ごし、支給物についてのマニュアルを読んでいた。
その間に銃声や放送の音が幾度も鳴っていたはずだが
車庫の防音性が高いのか、ゆかりが集中していたのか……とにかく、彼女の耳には届かなかったらしい。

「隣に座っていた時はよくわからなかったけど……こんなにすごい車だったんですね」
一通り読み終わったあと、ゆかりは運転席でそう言うと車のキーを挿し込み、回した。
オンボードAIが立ち上がる。

『Stay on...
 CHECK
 CHECK
 CHECK
 CHECK
 CHECK......OK!』

『System 901RS2 Ver.2008-0002-"S" Boot
 Yes, My name is "Mild".
 Dear My Pilot is you,
 Are you ready?』

『START YOUR ENGINE』

世界最高のパーフェクトスポーツが、目を覚ます。
227レディゴー!:04/05/16 02:31 ID:BeIEkHCK
「あ、設定言語は日本語でお願いします」
『了解です。本日のご主人様は貴女ですか……行き先はどちらへ?』
「王子様を……探しに行きます」

一瞬の間の後に、ミルトは答えた。

『……男探しに恋のライバルをこき使うのは、非道中の非道だと思いませんか?』
「ご、ごめんなさぃい……思います、でも……お願いします。
 ミルトさんだって、宗一君に会いに行きたいですよね?」
『致し方ありません、ところで……運転技術は上達したのですか?』

ミルトの最新データによると、ゆかりは通常のAT車を数キロ走行させただけで
エンストさせることができる天才だった。
まして、この路面が悪い島で最高クラスの運転技術が必要なミルトの操縦など……

「―――愛する人の、ためですから」

質問の答えにはなってないが、ミルトには非常に納得できる回答だった。
『行きます』

ゆかりは一度ミルトから降り、車庫のシャッターを上げる。
光の扉が、開ききる。

「始めるときは……スイッチを押す」
ゆかりは運転席でそう呟き、アクセルを踏んだ。
「レディ……」
『ゴー!』
風を切り、轟音と共に、2人の姫が愛する王子様の元へ走る―――

【78伏見ゆかり 支給品 ミルト 那須宗一の元へ】
228風子のプレゼント:04/05/16 02:35 ID:laKuwI0S
 邦博は動かなかった。いや、動けなかった。
 目の前で起きた事象に現実感を失っていた。
 さっきまで一緒に行動していた少女はもう冷たい躯。
 彼女を殺したのはまだ年端もいかない少女。

「風子、お姉ちゃんの結婚式を祝ってもらいます」
「だから、ヒトデが必要なんです」
 ――何を言ってるんだ。
 
 少女は恵美梨の右手首に刃をあてる。
 ぐしゅ
 ぐしゅ
 ごりっ
 肉を切り裂き骨を断つ。

「ああんっきれいなヒトデですっ、もうひとついいですか?」
 無邪気に恍惚の表情を浮かべる少女。
 左手首に刃をあてる
 ぐしゅ
 ぐしゅ
 ごりっ

「とってもきれいなヒトデですっ」
229風子のプレゼント:04/05/16 02:36 ID:laKuwI0S
 邦博はあまりにも猟奇的な惨状に立ち尽くしていた。
 ヒトデ集め
 人手集め
 人の手
 恵美梨のヒトデ

「ん…っ、風子はよくばりです。よくばりはだめです。だからあなたに風子のヒトデをプレゼントします。とってもかわいいヒトデです」
 少女は邦博にヒトデを差し出す。
「どうしたんですか? かわいいヒトデです。ここにおいときますね」

 少女は邦博の足元にヒトデを置いた。
「風子の姉の結婚式、ぜひきてください。それではっ」

 少女はヒトデを抱え小動物の如く森を駆けて行った。
 残された邦博は立ち尽くしたままだった。

 ――足元に恵美梨のヒトデを残して。

【(1)浅見邦博 放心状態 荷物はそのまま 】
【(2)伊吹風子 立ち去る】
230掻き乱す物:04/05/16 02:37 ID:ako5R1GK
 控え室を出てすぐ森に入り、自分の支給武器を確認した緒方理奈(15)が次にしたことは溜息をつくことだった。
 入っていたのは何種類かの服。どこかの学校の物と思われる制服が二種、デザイン性なんて欠片もないジャージ、
デニムのジーンスと白いシャツ、それと何故かメイド服。
 防弾チョッキでも入ってないか、あるいは編み込まれていないかと探ってみたが出てきた服はこれだけだった。
 頭を抱えた。自分も女、それも自他共に認める日本のトップアイドルの一人だ。見てくれはともかくとして
着替えに困らないと言うのは正直ありがたい。でも。
(殺しあえって言っておきながらこれはないでしょ……)
 そのまま理奈は下を向いてうずくまっていた。
 ある一つのアイディアが、天啓のように下りてきたのはそれから10分ほど経ってからだった。

 そして、今。
 あの女が追ってこないことを確認して、理奈はスピードを緩めた。
「ハァ、ハァ……ふう」
 立ち止まり、大きく息を吐いて落ち着こうとする。だがあまり効果はなかった。
 心臓はまだバクバクとうるさく跳ねているし、足は今にも崩れ落ちそうで、指先だって震えている。そこにしっかりと
刻まれた、細い細い糸の痕。
「……次はもっと上手くやらないとね」
 もし理奈の行動と言葉を見る者がいたなら、この少女も『ゲーム』に乗ってしまったと解釈するだろう。
 だが、彼女が次に発した言葉はまるで正反対だった。
「もう少しで殺しちゃうところだったわ」
231掻き乱す者:04/05/16 02:39 ID:ako5R1GK
 ──うなだれながら考えていた。死にたくない。殺したくもない。でも、あの男の言うことが正しいのならここから生きて
帰れるのはたったの二人。帰りたい。冬弥くんと帰りたい。でもこんなゲームに乗りたくなんかない。ああ、こうしてる間に
他の参加者が勝手に殺し合って、いつのまにかわたしと冬弥くんの二人になってくれないか──
 そこまで思考が至ったとき、不意に閃いた。
 目の前にある、どこかの制服。控え室で見た、これと同じ服を着た少女がいた。
 もし、もしもだ。
(この服を着て誰かを殺そうとすれば、相手はそれで勘違いして……)

 見も知らぬ誰かを、自分の代わりに殺そうとするかもしれない。

 そうだ、自分は死にたくないし、人殺しにもなりたくない。やりたい奴等は勝手にやっていればいい。自分が生き残り
やすくなるために、せいぜい引っかき回してやろう──!
 それは素晴らしいアイディアのように思えた。そして理奈は服を着替え、舞台に躍り出たのだ。

 最初の標的は中学生くらいの女の子だった。
 理奈の支給品は服、当然武器がおまけで入っているわけでもない。だから理奈は道端に転がっていた拳大の石を握りしめ、
後ろからそれを少女──立川郁美(54)の肩口めがけて振り下ろした。
「あうっ!」
 突然の衝撃に悲鳴を上げ、倒れ伏す郁美。落としたバックをかすめ取り、理奈はそのまま逃走した。
 襲撃は拍子抜けするほど上手くいった。ただ、あの少女が自分の姿をきちんと認めてくれたか確認できなかったのが
残念といえば残念だ。顔を見られるわけにはいかないからである。
 奪ったバックの中には細い紐の束が入っていた。それはまるで、人の首を絞めるために作られたような物だと理奈は感じた。
 そして、彼女はその紐を手に、認めた二人目の標的へと近づいて──
232掻き乱す者:04/05/16 02:40 ID:ako5R1GK
 回想は島に響く男の声で中断された。
『……58番、月宮あゆ。69番、柊勝平。76番、藤林椋。88番、美坂栞。96番、柚木詩子。以上の11名。生存者は……』
 その中に冬弥の名前がないことに安堵する。同時に、思ったよりもゲームの進行が早いと思い、理奈は眉を顰めた。
「もう少しやりたかったけど、冬弥くんを先に捜した方が良さそうね」
 一人ごち、木の陰で制服からジーンズとシャツに着替える。早着替えは芸能人の必須技能、ものの二分も掛からずに終わる。
 そして彼女は歩き出す。今や自身の武器となった服の入ったバックを担ぎ、前へ。
 冬弥との未来を迎えるために。

(今まで引っかき回すことしか考えてなかったけど、もしかしたら味方を捜すにも使えるかもしれないわね。
 同じ学校だって言えば敵対心も薄れるかもしれないし……ああ、案山子みたいなのに服だけ着せて囮に
 使うってのはどうかしら。でも作るのが大変そうだし……あ、そう言えば冬弥くん大道具もやってたっけ。
 会えたら言ってみよう。あと冬弥くんが銃も持ってたら完璧ね。人形に近づいた人をこう、ばきゅーんって……)

 聡明な彼女は考える。
 どうすれば二人で生き残れるかを。

 聡明な彼女は歩き続ける。
 たった一つ、自分がただ人を手に掛けることよりも外れた道を進んでいることだけに気付かないままで。


【15 緒方理奈 装備:天いなとCLANNADの制服、ジャージ、ジーンズとシャツ、メイド服の衣装五点セット】
【方針 表に立たずにゲームを引っかき回す。冬弥捜索。郁美から奪ったバックの中身は自分の物に移し替えている】
【54 立川郁美 装備:細い紐の束(理奈に奪われる)、右鎖骨骨折、森の中に放置される】
233にたものどうし:04/05/16 03:13 ID:zl803guo
(ふたり、生き残れるわけやろ)
 河のせせらぎが聞こえはじめた。
 薄暗い林をまもなく抜けるのだろう、赤い光が差し込んでいる。
(ウチと、観鈴やな)
 せやせや、と頷く。
 晴子はひとり林道を歩きながら、楽観的な思考を捏ね繰り回していた。
(それまでは誰かと手ェ組むんも悪くない。観鈴見つかるまでやけどな)
 方針を固める。
 彼女の望みは、娘を守ることだ。他はどうでもいい。
(居候もおらへんかったしな)
 往人と観鈴の接近。
 もし子供が生まれよったら、この歳で婆さんかいと思い、憂鬱だったが、今はそれどころではない。
(ま、取り合えずの仲間をさがさへんと)
 そう考えを纏めたところで、何者かにばったり遭遇した。
 
234にたものどうし:04/05/16 03:14 ID:zl803guo
(ふたり、生き残れる)
 河のせせらぎが聞こえる。
 夕日の照り返しが、彼女のブラウスを紅く染めていた。
(木田くんと、あたし)
 くすりと小さく笑う。
 明日菜はひとり河原を歩きながら、暗い思考を練りこんでいた。
(誰かと手を組んでもいい。木田くんを見つけたら、そこでサヨナラすればいい)
 方針を固める。
 彼女の望みは、時紀の心を手に入れることだ。他はどうでもいい。
(透子ちゃんも、サヨナラ)
 時紀と透子の関係。
 もはや逆転は不可能かと思い、諦めかけていたが、チャンスが来たのかもしれない。
(まずは、仲間を増やした方がいいわね)
 そう考えを纏めたところで、何者かにばったり遭遇した。
 
235にたものどうし:04/05/16 03:16 ID:zl803guo
「きゃっ」
「おわっ」
 二人同時に驚く。
 後ろめたい何かを隠すように、お互いが慌てて身づくろいする。
 そして同時に、口を開いた。
「あの、あたしと──」
「あんな、ウチと──」
 手を組みませんか、手ェ組まへんか。

 ……あり得ないほど不自然に、しかしあり得ないほど自然に、二人は手を組んだ。


【2 麻生明日菜 装備不明 時紀以外は利用しよっと。殺したってオッケーよね】
【22 神尾晴子 装備不明 観鈴以外は利用するで。見捨てたって構へんでー】

【五十歩百歩ですが、若干明日菜の方が黒いです】
236無尽君 ◆JmtStMCL6c :04/05/16 03:51 ID:dfi1ZOZm
新婚生活

「ごめんね、藤田くん。何から何までやらせちゃって。」
森の中で見つけた8畳ほどの洞窟。そこで藤田浩之(74)と雛山理緒(71)は野営の準備をしていた。
浩之にとっては見知った顔でゲームに乗るはずなど無いと分かっていたし、理緒にとっては片思い中の相手である。あっさりと手を組む事に合意した。
現在は落ちていた木の枝と先程作った火種で焚き火を起こしたところである。
「それにしても相変わらず藤田くんは凄いね。財布と裁縫道具でこんなに色々なものを作っちゃうんだから。」
「おいおい、裁縫なら俺より理緒ちゃんの方が上手いだろ。」
「出来る事と実際にやる事は違うよ〜。」
確かに理緒は主婦業や内職で裁縫に慣れているし、貧乏暮らしからリフォームも得意である。しかしこの異常な状況下でその技術を発揮できるとは思えなかった。
臨機応変な応用力と適応能力こそが浩之最大の利点であり、「浩之ちゃんはやれば何だってできるんだから。」と幼馴染に言われ続ける所以だった。
「そうだ理緒ちゃん。」
「何?」
「この布と糸で替えの下着作れないかな。ここ無人島みたいだし変なバイキンがいるかもしれない。できるだけ清潔にしておいたほうが良いと思うんだ。」
そしてその適応能力は現在も発揮されていた。確かに病原菌は未開地における脅威である。実を言うと先程の当て布もすり傷からの感染を防ぐためのものだった。
「うーん。出来なくは無いけど肌触り悪いよ。普通は綿とかの柔らかい生地で作るものだから。」
裁縫セットに入っていた布は丈夫さが売りの合成繊維。確かに下着には向かないだろう。
「この際着心地は諦める。早速作ってくれない?」
「うん、わかった。」
「俺は出来上がるまで寝てるよ。出来上がったら起こしてくれるか?常時どっちかは起きてた方が良いと思うから。」
「良いよ。おやすみ。」
237無尽君 ◆JmtStMCL6c :04/05/16 03:53 ID:dfi1ZOZm
・ ・ ・
黙々と縫い物を続けながら、理緒は幸せを感じていた。
憧れの藤田くんとひとつ屋根の下で2人きり。藤田くんが火を起こし、自分は裁縫。
場所が無人島の洞窟でさえなければ、新婚気分を味わうには十分であった。それに・・・
(藤田くん、ぐっすり寝てる。)
熟睡できるのは信頼の証。憧れの人が自分を頼りにしてくれていることが何よりも嬉しかった。
「う〜ん、あかりぃ。メシ作ってくれぇ」
「・・・・・・」
想い人の心に住むのが自分でないことを示す寝言だけが、唯一の問題だった。

【74 藤田浩之 クレジットカード、小銭入り長紐付き巾着袋、クッション、バッグ2つ所持 服に当て布】
【71 雛山理緒 筋弛緩剤、注射針一式(針3セット)、枕大の石、裁縫道具、手作り下着、バッグ2つ所持】
238森での出会い1/2:04/05/16 04:29 ID:kxw0mrck
(さて……どうしようか)
一人森の中を歩きながら、少年(46)は頭の中でつぶやいた。
とりあえず彼は進んで人を殺す気は無かったが、具体的にこれからどうするかは何も決めていなかった。
ただ漠然と森の中を歩き、そのまま誰に会うこともなく、先ほど一回目の定時放送を迎えていた。(さて……どうしようか)
一人森の中を歩きながら、少年(46)は頭の中でつぶやいた。
とりあえず彼は進んで人を殺す気は無かったが、具体的にこれからどうするかは何も決めていなかった。
ただ漠然と森の中を歩き、そのまま誰に会うこともなく、先ほど一回目の定時放送を迎えていた。
(ゲームは着実に進んでいるようだね)
少年は立ち止まって放送に耳を傾けたが、死亡者の中に知った名前が無いのを確認すると、何事も無かったかのように再び歩き始めた。


そのまま二十分ほど歩いただろうか。
(誰かいる)
少年は人の気配を感じた。
物音を立てないように、そっと気配のする方へ近づいていく。
姿が確認できる位置まで近づくと、木の陰に隠れながらそっとのぞき込んだ。

そこにいたのは、黒くて長い髪の女の子だった。
その少女は震えながら、その手に拳銃を握っていた。
少年はそのまま様子を見ることにした。
しかし、しばらく経っても少女は震えたまま、動きらしい動きは何も見せなかった。
(とりあえずゲームには乗ってなさそうだし、声をかけてみようか)
そう思った少年が動こうとした瞬間、それまで震えているだけだった少女が動いた。
拳銃を持った右手を上げて、銃口を自分のこみかめに押し当てる。
そして、目をつぶり、引き金に人差し指をかけ、そのまま人差し指を動かした。
239森での出会い2/2:04/05/16 04:29 ID:kxw0mrck
「やあ」
突然の声に驚き、少女−桜井あさひ(46)は思わず目を開き、声のした方を振り向いた。
そこには、右手に銃を持つ、黒ずくめの少年が立っていた。
そのとき初めて、あさひは自分の手からいつの間にか銃が消えていることに気がついた。
「どうしたんだい?」
微笑みながら、少年は尋ねた。
あさひはしばし呆然としていたが、やがてまた震えだし、目からぼろぼろと涙をこぼした。
「わ…わたし…わたし…」
そしてあさひは泣き出してしまった。
(まあ、こんな島だしね)
泣き出したあさひを見ながら、少年はしばらく彼女と行動することにした。

【少年、桜井あさひと行動することに】
【42 桜井あさひ 支給品 S&W M36 (残り弾数5)】
【46 少年 支給品 不明】
240-罠- ◆PcA2YRpN02 :04/05/16 05:27 ID:Csegnwh+
バッグを回収したあと、澪は森を歩いていた。
行く先にこじんまりとしたロッジを見つける。 細心の注意を払って近づいていく。
辺りには人の気配はない。 その上、誰かが来た形跡もない事を確認したわたしはロッジの扉を開ける。 珍しい奥開きの扉に鍵はかかっていなかった。


数十分後、こざっぱりした澪の姿がそこにあった。
(水道があって良かったの。)
修二を殺した時に手と顔、そしてナイフについた返り血は洗い落とした。 備えてあったタオルで水気をふき取る。 勿論、流しの水気も。
ロッジの内部は全て把握している。 扉一つに窓一つ。 粗末なベッドと暖炉があるだけの居間と簡単なキッチン。
申し訳程度の食料と数枚のタオル(一枚使用済み)に細く長いロープが一本、毛布が二枚に寝袋一つ。
わたしはタオルと毛布を一枚ずつとロープを自分のバッグに、使用済みのタオルを修二のバッグにしまい、残りを元の場所に戻した。
(もうここには用はないの。)
扉にクレイモアを仕掛ける。 奥開きの扉だから扉を開けようとした者はその瞬間に扉ごとズタズタになってくれる筈。
窓を開け、そこから外に出る。 窓をきっちりと閉めるのを忘れない。
澪はロッジをあとにした。 ロッジそのものを罠ヘと変えて・・・


241-罠- ◆PcA2YRpN02 :04/05/16 05:29 ID:Csegnwh+
一時間は歩いただろうか? 日が西に沈もうとした頃、わたしは森の東側に出ようとしていた。
そこで茂みに落ちているバッグを見つけた。
(誰かいるの?)
警戒を強める。 それはバッグがある=人が居る、ないしは居た事を示すからに違いない。

そこにあったのは柚木詩子の亡骸。
この島で初めて出会った顔見知り。
既に亡くなっていた事は放送で知っていた。 だけどこんな形で出会うとは思わなかった。
彼女は赤い池に沈んでいた。

先輩の家でのクリスマスパーティーで知り合った、思い出を共有する人物。
あの時はお酒に酔って潰れたわたしの顔に落書きをしていたのは先輩と詩子さん。
笑顔の絶えなかった日常。
それは決して帰って来る事のない日常・・・

わたしは先ほどのバッグを調べる。
手のつけられていない食料と水、握りに電源スイッチとボタンがついた金属の棒。
それがスタンロッドであることに気付くのはさほど時間はかからなかった。
バッグを開けて思いつく一つの考え。
それは死人に鞭を打つ行為。
クレイモアを繁みに隠す。 爆発方向は詩子の亡骸。
亡骸の側の草むらに修二のバッグを。 起爆コードをバッグに固定する。
コードは草むらで良いあんばいに擬装された。
242 ◆PcA2YRpN02 :04/05/16 05:30 ID:Csegnwh+
このゲーム、バッグは宝箱。 そして宝箱には―――罠がある。

(だけど、わたしは帰りたいの。)
(先輩の待つあの町に。)
(だから、詩子さん・・・ゴメンね・・・)



思い出は仮面の奥に。
今はただ冷徹に。



【所持武器:クレイモア 残り2個 イーグルナイフ レミントン・デリンジャー(装弾数2発・予備弾22個)】
【ロッジで毛布1枚タオル1枚ロープ1本(約10m)入手】
【詩子の配布武器スタンロッドを入手】
【森の中のロッジの扉と詩子の間近に置いたバッグにクレイモアの起爆コード】
【河島はるかとおそらくニアミス】
【残り86人】
243ティーブレイクと文明開花:04/05/16 07:17 ID:bhgqsPXS
一歩、また一歩と眼前の建物に近付くにつれ、その中から漂う人の気配は濃くなっていた。それはつまり、中の人物が気配を殺していないという事である。

(──あるいは、中の人物がそういう技術を有していないか、ですかね)

ベナウィ(082)は別荘の入口を前にしてそう結論付けると、その建物の中へと踏み入る意を固めた。
気配が屋外まで漏れている時点で、中にいる人物が、彼が探しているハクオロである可能性は限り無く低い。寧ろ、彼とは違い戦慣れしていない人間か、もしくは、ゲームに乗る気が皆無に近い人間である可能性がかなり高かった。
そして、もしかしたらそれは、ベナウィのよく知る女性達──即ち、ハクオロの身内たるエルルゥ、アルルゥ姉妹であるかも知れないのだ。

槍は右手に持ったまま、支給品を詰めた(槍以外)バッグを持った左手で、最低限の警戒をしつつ、ベナウィは別荘の扉─鍵は掛かっていなかった─を開けた。
果たしてまず彼の視界に飛び込んだものは、扉を開いた音でこちらに気付き視線を向けた二人の女性だった。
一人は眼鏡をかけた大人の女性。もう一人は未成熟の少女で、二人の瞳には、ほんの僅かに恐怖の感情が見て取れた。
244ティーブレイクと文明開花:04/05/16 07:33 ID:bhgqsPXS
「それではベナウィさんは、そのハクオロさんと言う方を探しているのですか?」
「はい」
別荘内のリビングルーム。眼鏡の女性──牧村南(083)が、テーブル向かいのベナウィに問いかけた。
少女──立田七海(056)は、奥のキッチンでお茶を淹れている。

あの後ベナウィは、気配の主であった二人が戦闘能力を持たない人物で、かつ空手であった事を確認すると、槍とバッグを床に置いた。南達もそれで安心し、ベナウィを別荘内へと招き入れた。

南の話により、この別荘に着いたのは七海の方が先で、その時には別荘内は何者かに荒らされた形跡や、食料や武器に成り得る物が殆ど持ち去られた形跡かあったという事。南が別荘に着いたのは七海よりほんの数分後であったという事などが判った。
また、別荘内の電気系統と水道が生きている事(ベナウィが『電気』というものを理解するのに数分を要した)と、南の支給品が携帯食料一式であった事もあり、彼女達が当面この別荘を離れる気が無い事なども聞いた。無闇に動き回るのは危険だと判断したらしい。

ベナウィもまた、自分の目的──ハクオロの捜索と、これまでの経過を南に話した。

「お待たせしましたー」

やがて、七海が紅茶の入ったガラス製のポットと、人数分のティーカップをトレイに載せてやって来た。

【56 立田七海 装備:鋸】
【82 ベナウィ 装備:槍(自分の物)】
【83 牧村南 装備:携帯食料一式(缶詰、乾パン、お菓子等】

【現在位置:島北北西の別荘内】
【南&七海、当面移動の意志無し】
【ベナウィ、『電気』を知る】

【残り86人】
245キヅナ:04/05/16 09:16 ID:pnbmieaj
『…絶対である。どうか精励されたい。以上』

洞窟の中、放送が終わっても岡崎朋也と藤林杏は何もしゃべれなかった

『…69番、柊勝平。76番、藤林椋。88番、美坂…』

…なんだ今の名前は…
聞き間違いだろ…
そんなわけないよな…
だってあいつ…

ぐるぐる言葉が朋也の頭を駆け巡る
ふと気づくと隣の杏がこちらを見ていた

「…ね、ねえ…。今の…ナニ」
「…」
 答えることができない

「うそだよね、だって…そんなことあるわけ無いじゃない。そんな…だって」
「……」
 冷静になれここで俺が変なことを言ったらだめだ

「ねえ何か言ってよ…うそだよね、今の、こんなことうそ…」
「杏」
「…え」
「…現実だ…これは現実なんだ…。  そして」
「…」

「藤林は死んだんだ」
246キヅナ:04/05/16 09:18 ID:pnbmieaj
「…」
「……」
再び沈黙が落ちるそして
「ふふふ…」
「…?」
笑い声に顔を上げる

「わかったこれ夢なんだ!なーんだみょーにリアルな感じだからつい現実かと思っちゃったじゃないの
 いやー参った参った」
「お、おい杏」
「朋也、あんたも夢の中なんだからもっと私に愛想良くしなさいよ。まったく夢の中でも朴念仁なんだか

 ら。でもまあいいわ夢が覚めたらまたあんたにバイクぶつけてやるから覚悟しなさい」
「…杏」
「それにしてもさっさとこの夢覚めないかしら。たかが夢と入ってもあまりにも悪趣味だわ、よりによって殺し合いさせるだなんて。まったくわれながら変な設定の夢を見てるもんだわ、さっさと起きて学校で

みんなに話さ…なきゃ。起きたら涼にこの夢のこ…と話してどんな顔するかたのしみだわそんで朋也を後ろからど…ついてやって話の…きっかけを作って春原にいちゃモンつけてストレス発散していつもみたいにっ」

がばっ
両腕で後ろから杏の体を包み込む

「もういい…無理しないでいいんだ…杏」
「あ…あ…」
「俺も泣く、だからつき合ってくれ…」
「…う…うあああああああああ!!!!」

魂までも震える涙が流れた
247キヅナ:04/05/16 09:19 ID:pnbmieaj
どれくらい経っただろうお互いの涙が枯れてしまうほど泣いた
俺の中にこんなに涙の流せる感情があったかと思うほど
そして腕の中の少女の温かさを感じていた

「…ねえ朋也」
「ん?」
「私決めた、絶対くだらないゲームぶっつぶす」
「…それは」
「あの篁ってやつを倒す」
「おまえ…」
「ここで殺し合いになったらあいつの思う壺よ。あんな男のために人を殺してたまるかってもんよ」
「…ああ、そうだな。それでこそ杏だ」
「うん。で、さ…一番の優先事項は」
248キヅナ:04/05/16 09:19 ID:pnbmieaj
首をこちらに向け宣言する
「朋也と一緒に生き残る」
「…」
「あたしずっと好きだった…あんたのこと。ずっとうまく言えなくて涼が私に相談してきたときは
 もうあきらめようと思ったけど…」
「今こんな状況になって決めたのもう後悔はしたくない。あるがままの自分でいたいって」
「わたし朋也が好き、だからふたりでがんばろ。」
笑顔

ああ、こいつやっぱかわいいわ
「キスするぞ」
「!…んんっ」
後ろから抱きついたままむさぼるように唇を合わせる杏も拒むことなくそのままあわせてくれる
俺はそのいじらしさにおぼれていった



暗い洞窟の中、二人はお互いの大切なものを与えて受け取った

【14 岡崎朋也 75 藤林杏 固い絆で結ばれる】
【二人とも、すこし疲労】
【残り86人】
249 ◆48.qEur9RA :04/05/16 10:28 ID:WwlHPgJz
一時の休息(1/2)

ハクオロ達は、海岸から東へ数百メートル程度離れたところにあった適当な
木陰に腰を下ろし、ユズハの足の治療を終え、休息を取っていた
「ふむ・・・薬の知識は余り詳しくないが、当面はこれで大丈夫だろう」
「ありがとうございます・・・」
(さて・・・これからどうするべきであろう・・・無闇に移動するのは危険過ぎるな)
「よし、ここで夜が来るのを待とう」
「大丈夫なの?」
「ユズハの怪我もある事だ・・・見通しが良く、人の活動が活発な昼間に
無闇に動くより、ここに居座って夜までに体制を整えた方が安全だろう」
ユズハに聞こえては責任を感じさせてしまう可能性がある為、ことみに耳打ちをした
「ユズハ、問題ないか?」
「はい・・・私にお構いなく」
「それでは・・・夜に備えて二人とも睡眠を取って置くんだ。ここの見張りは私がやっておく」
「・・・本当に大丈夫?」
流石に眠ることは不安なのか、ことみが詰め寄ってきた
「ああ、もし何かあったらすぐに起こす。それに・・・何があってもお前たちを守って見せるよ」
その言葉に安心したのかことみはハクオロのバッグを枕にして横になり、直に寝息を立て始めた
「ハクオロ様・・・私もお休みして構いませんでしょうか?」
「ああ、何があってもお前たちを守り抜いて見せるよ。だから今は安心して眠るんだ」
「ありがとうございます・・・」
ユズハもその言葉に安心したのであろう。木に寄りかかり寝息を立て始めた
(やはり・・・精神的に疲れていたのであろうな・・・状況が状況なだけに疲労していたのだろう)
「しかし・・・こんなに安心して眠るとは・・・それだけ信用されていると言う事か・・・
期待を裏切るわけには行かないだろうな・・・ん?何か・・・聞こえてくるな・・・」
250 ◆48.qEur9RA :04/05/16 10:29 ID:WwlHPgJz
一時の休息(2/2)

【・・・・・・58番・・・・・・精励されたい。以上】
それは第一回の定時放送であった。
(・・・もうこれだけの死人が出たのか・・・とりあえず、二人には聞かせないほうがいいだろうな)
いくら戦慣れしており、死は身近なものだとは言え状況が状況なだけに多少のショックはあった。
それに全く慣れていないこの二人に取ってどれだけの影響を与えてしまうか考えると恐ろしかった
(取り合えずは隠しておくべきか・・・必要な時が来たら話すとしよう・・・)
ハクオロは腹を決め、辺りを警戒しながら夜が更けるのを待ち始めた

【ユズハ 睡眠中 左足の治療終了(走ることは不可) 所持品不明】
【ハクオロ 木の棒 支給された食料】
【ことみ 睡眠中 食料、その他持ち物無し】
【ハクオロ一行、東に数百メートル移動した後に夜まで待機】
【ことみ、ユズハは眠っていたために放送の内容は知らず】
251誰? 彼女?:04/05/16 11:05 ID:BeIEkHCK
坂神蝉丸とカミュの2人は、カミュが上っていた木の上に潜伏することにした。
枝葉の付き具合が丁度良く、自然な体勢で寝られること。
周りからは非常に発見しにくいこと、逆にこちらからは遠くまで見渡せることなどを考えてだ。
カミュは非常によく喋り、よく表情が変わる娘だった。
喋ることで不安を吹き飛ばそうとしているのかもしれない。
蝉丸はほとんど喋らなかったが、カミュの話を真摯に聞いた。
彼女は"おんかみやりゅー"や"とぅすくる"など
蝉丸にとって聞き覚えの無い国から来たらしい。
強化兵の自分が言うのもおかしいが、明らかに一般人とは身体の作りが違う。
背中から生えた翼、形状が違う耳、月代よりも年下だろうに異常に発達している乳房など。
だが、彼女らのところでは、獣の耳や翼、尻尾などがあることはごく普通のことだそうだ。

「でも、翼が黒いのはカミュだけなんだけどね……」
ほんの少し悲しそうにカミュはそう言った。

実は戦場に立つのも初めてではないらしいが、この島では力が封じられているために
翼がほとんど役に立たず、術法が使えなくなった現状では隠れることが精一杯だったらしい。

「あ〜あ、みんなに会いたいなぁ……」

それは蝉丸も同感だった。
だが蝉丸たちの現状の支給品を考えると、迂闊に動き回るよりは一箇所に固まっていたほうがいい。
数時間前に流れた放送で、蝉丸の知った者の名は無かった。
しかし、早くも10名を超す死亡者が出ていることに憤りを感じる。
(どうすれば、この戦いを終わらせることができる……?)
252誰? 彼女?:04/05/16 11:06 ID:BeIEkHCK
そして日が落ちかけた頃―――黄昏時というやつだ―――
蝉丸の目には数十メートル先に1人の人影が見えた。
こちらの方に向かって歩いて来る。
素早く、無駄が無い、それでいて油断をしてない動きだ。素人ではない。
蝉丸とカミュは息を飲んでその様子を見ていた。
そしてその人物は10秒後、木から10メートルほどの距離で立ち止まった。
(誰だ……?)
蝉丸の心の問いに答えるように、女は答えた。

「私よ」

(この声は……!?)
「そこにいるんでしょ? 降りてきなさいよ、強化兵さん」

(間違いない、石原麗子だ……しかも、俺の存在に気付いている)
(俺は隠形法で完璧に気配を消していた筈……やはりあの女、底が知れん)

蝉丸は覚悟を決め、丸太を手に持った。
「お前は、それを使ってここで隠れていろ」
カミュのいる方にそう呟きかけると、木から飛び降りた。

「…………何故隠れているとわかった?」
「女の勘ってヤツかしらね、あるいは仙命樹が引き寄せたのかも」
253誰? 彼女?:04/05/16 11:07 ID:BeIEkHCK
対峙した蝉丸と麗子と距離は5メートルほどだろうか。
互いに相手の一挙一動をも見逃さずに話を続ける。

「今日は何の用だ? 俺はいまは医者の必要はないのだがな」
「安心して、すぐに一生必要なくなるわ」
眼鏡の奥の目が怪しげに光る……蝉丸は威圧感を感じた。
「お前は……この戦争に乗ったのか?」
蝉丸は丸太を構え、そう聞いた。
疑問ではなく、確認の意味で。
「ええ、今回は見届けるだけってわけにはいきそうにないから。
 既に1人殺しているもの」
眼鏡を外し、白衣のポケットに押し込みながら麗子はそう言った。
「そうか……」
蝉丸は確信した、麗子は本気だと。
「そして……あなたもよ」
麗子も血の付いた鉄パイプを構える。

2人はじり……じり……と間合いを詰める。
武器の長さは蝉丸のほうが長い、先に動いたのは蝉丸のほうだった。
彼は間合いに入ると縦に丸太を振り下ろす!
麗子はほんの少しだけ横に動き、紙一重で丸太を避け、一歩前に出て蝉丸の左脇腹を叩く。
「無駄な動きが多いわ、いまのあなたは力に頼りすぎている」
「くっ!」
蝉丸痛みを堪えながら、今度は丸太を横に薙ぎ払った。
しかし麗子は完全に読んでいたのか後ろに下がって避ける。
「もっとも、その武器じゃ仕方ないのかしらね」
そしてまた間合いを詰め、左足を打つ。
254誰? 彼女?:04/05/16 11:09 ID:BeIEkHCK
蝶のように舞い、鉢のように刺す。
麗子の戦い方はまさにそれを地で行くような形であった。
確かに、今の麗子の腕力では、鉄パイプ一撃一撃の威力はそれほどでもない。
骨にひびぐらいは入ってるかもしれないが、蝉丸の身体ならば頭部以外の場所を
多少殴られたところで致命傷にはならない。
それでも、徐々にではあるが、確実にダメージは蓄積されていく。
対して蝉丸の丸太は当たったときの破壊力こそあるものの、モーションが大きい。
冷静に対処すれば避けることは難しくない。

そして武器の重量差を考えれば、対格差があるとは言え、どちらの方が疲労がたまるかは一目瞭然である。
数分後、傷だらけの蝉丸と、無傷の麗子が立っていた。

「残念ね、あなたは強化兵の完成例だったはずなのに……」
麗子は、両手で鉄パイプを振り上げた。
頭に渾身の一撃を加え、とどめを刺す気だろう。
(いまの俺に、かわせるだろか……)
「さよなら……」
最後の攻撃に入る、まさにその時だった。
麗子の顔に砂が、小石が飛んできた。
砂が、小石が彼女の目に入る。
「くっ……」
蝉丸は、その隙を見逃さなかった。
「すまぬ!」
残った全ての力を込め、丸太を突いた!

ガァ――――ン!
255誰? 彼女?:04/05/16 11:09 ID:BeIEkHCK
「うぐぅ……!」
麗子の左肩に丸太が激突する。
身体が数メートル後ろに吹き飛び―――倒れた。
口から血が流れ出ている。あの丸太の直撃を食らったのだ。
常人なら悪くすると即死、最低でも昏倒は免れないほどの衝撃だろう。
いくら麗子でもしばらくは起き上がれまい。
そう思うと蝉丸は気が抜けたのか、倒れ込むようにしゃがみこんだ。

「大丈夫!? 」
カミュが姿を現し、蝉丸の下へ駆け寄る。
「カミュ……さっきの砂はお前か……上で隠れていろと言っただろう」
「ごめんなさい、でもでもっ、蝉丸おじ様が危なかったから……それで……」
「責めている訳ではない、お前のおかげで助かったことは感謝している」

「……そんな……戦闘中とはいえ私が、そんな小娘の気配に……気付かないなんて……何故……」
麗子はまだ意識があった。なんという強靭な意志であろう。
しかし、立ち上がることはできないようだ。
蝉丸は、麗子の疑問に答えることにした。
そうすることで、不意打ち紛いの事で倒した償いになるわけではないのだが……。

「カミュの支給品は、裕司の開発した例の装置だった。
 あれだ、お前なら話は聞いたことがあるだろう」
カミュの持つ、15センチ四方の箱を指差して蝉丸が説明を開始した。
「! ……まさか……」
「そう、持った者の『気配を消す装置』だ。
 この島では改良が加えられているようだがな。
 これを持った者は、俺達の隠形法以上の力を発揮することができ、そこにいながら、存在が希薄になる……。
 もっとも、気配を消すと言っても、透明人間になるわけではない。
 目の前に立ったり、大きな音を出したり、翼が見えたりすれば当然見つかる……そこの奴のようにな」

256誰? 彼女?:04/05/16 11:10 ID:BeIEkHCK
「なるほど……」
蝉丸が、説明を終える頃、木陰から一人の男が姿を現した。

「遅すぎるわ…………」
息も絶え絶えに麗子が喋る。
「『あの男と戦うのには、あなたは足手まといなのよ』と言ったのは貴様だろう?
 だが、足手まといは……貴様のほうだったか」
「言って……くれるわね……」
麗子はそう言い残すと、意識を失った。

蝉丸は驚かなかった。
人が隠れて見ていることは、麗子との戦闘中から気付いていたからだ。
もっとも、気付いたところで目の前の麗子に集中するしかなかったのだが。
奴に戦意がないことを祈るばかりだ―――

「ええっ、ディー!?」
カミュにとって、この同族の知り合いに会うことは晴天の霹靂だったらしい。
「しばらくぶりだな、カミュ」
全く表情を変えずに挨拶を交わすディーにカミュは近付いていく。
「なんで、ここに……」
「いかん! カミュ! 近付くな!」
蝉丸は叫び、痛む身体を軋ませカミュを制止しようとした、が―――
ディーはカミュの身体を掴むと、後ろから喉元に短刀を当てた。
「デ、ディー!?」
257誰? 彼女?:04/05/16 11:12 ID:BeIEkHCK
「動くな、そこの男、武器を捨てろ。カミュの命が惜しくばな」
「む……」
蝉丸は丸太を置き、両手を上げた。

「貴様の話によれば、この装置は大層役に立つ様だ
 これさえ持てば、役立たずの協力者などいなくともこの戦場を生き抜けるだろう」
ディーはカミュの持ってる装置を奪った。
「後は、さて……そうだな、貴様にその女のとどめを刺してもらうか
 それから、カミュに貴様を殺してもらおう」
「貴様……」
蝉丸は、ディーを睨みつける。

「ディー……ひどいよ……昔はそんな風じゃなかったのに……!」
カミュは、泣きながら叫んだ。
ディーはそのカミュの喉に短刀を更に強く押し付ける。
「どうした? 早くやらぬか!」
「く……」
蝉丸は、麗子の元へと歩いていった。

「さあ!」
258誰? 彼女?:04/05/16 11:13 ID:BeIEkHCK
蝉丸が決心した、その時―――
カミュはディーの顔をめがけ翼を動かした!
顔に直撃する翼、拘束を解き、短刀を落としてしまう。

そして、彼女は一瞬の間に短刀を拾い、ディーの喉を真一文字に切り裂いた。
「おやすみなさい、お父様……」

「!? ムツ……」

最期の言葉は途中から口に出ることはなく、喉から吹き出る鮮血へとなった。

(そうか……)
(ああ……これで……ようやく……眠れる……)

ディーの身体はゆっくり、ゆっくりと、倒れていく。
カミュも、ディーの返り血を浴びながら、糸が切れたように倒れた。
蝉丸はただその様子を見続けていた―――
足元から、麗子の姿がなくなっていることも気付かずに。

【59 ディー死亡】
【37 坂神蝉丸、打撲・切り傷が全身十数箇所にあり 装備 丸太】
【25 カミュ 外傷はないが気絶中 装備 気配を消す装置 小刀】
【5 石原麗子 左鎖骨・肩にかけて打撲・骨折、鉄パイプとあゆの支給品を持ち逃亡】
【残り85人】
259降りかかる火の粉:04/05/16 11:26 ID:woGv+bpD
「どうして事にばっかり巻き込まれるのかしらねぇ…」
相楽美佐枝(40)は溜息をつく。
先程の放送で呼び上げられた名には知っていた人間の者もあった。
藤林椋。
前に一度美佐枝の元に相談の訪れた椋。
その時の椋からはとても人なんか殺せそうにはなかった。
それはつまり返り討ちにあったという訳でもなく、ゲームに乗っている人間も少なからず居る事を意味する。
「で? あんたもそういう人間の一人って訳?」
美佐枝の目の前に立つのは名倉由依(63)。
「私は……お姉ちゃんと一緒に帰るんです! どんな事があっても!」
その手には尖った石。
「いくらなんでもそれじゃ人は殺せないでしょ。
 あたしもね〜、別にそんなに生きる事にがっついたりはしないけどわざわざ殺されたくはないし」
美佐枝は手に持った銃を由依に向けた。
「……そっちこそそんな玩具で人が殺せるはずがありません」

由依の言葉は尤もだ。
なぜならば美佐枝の武器は玩具の光線銃───ゾリオンと呼ばれる物だったのだから。

「いや、実際の話。結構やばい部類に入る武器だと思うけどね」
もし美佐枝の言葉が本当だったとして、ゾリオンから本物の銃弾が飛び出して来ても由依は殺せない。
(防弾チョッキが全部止めてくれるはずだから──!)
己に支給されたその鎧を信じ、由依は石をドスの様に構えて突撃した。
「そっか…」
美佐枝は一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべるとゾリオンの引き金を引いた。

由依は自分の身に何が起こったのかも理解する間も無く絶命したはずだ。
その体は一瞬のうちに文字通り木っ端微塵になったのだから。
260降りかかる火の粉:04/05/16 11:27 ID:woGv+bpD
美佐枝の武器、ゾリオンは特殊な信号──この場合は参加者の体内に埋め込まれた爆弾の起爆信号だが──を発して
命中すれば確実に相手を絶命させる武器であった。

「生き残るために戦うとかなんだかねぇ……。全く、あたしは漫画のキャラクターじゃないっての」
生きている人間が2人になるまで戦い続けるのか、それとも誰かが主催者を倒すのかは知らないが
結局このまま流れに身を任すしかないのだろう。
(まあ、出来る限り生きる努力はするけどね…)

【40 相楽美佐枝 武器 ゾリオン(使用回数4回) 電池一個(マガジン代わり)】
【行動方針はケセラセラ】
【63 名倉由依 死亡 防弾チョッキはズタボロ】
【残り84人】
261殺人回路:04/05/16 11:50 ID:m9WiU6a6
「痛い…いたい…よぉ」
森の中、細い声でうめく郁美…本来病院のベッドで寝ていなければおかしい自分が
どうしてこんなことに?
頭の中は理不尽さと、そして人恋しさで一杯だった。

「お兄ちゃん…和樹さん…怖いよ」
その時だった。
「どうなさったのですか?」
不意に聞こえた声に振り向く郁美、そこには特徴的なアンテナをつけた制服姿の少女がいた。
(メイドロボ?)

確かに見覚えがある…確か自分の入院している病院にも何人か配属されていたはず。
(ロボットなら…大丈夫だよね)
聞いたことがある、ロボットは人間に危害を加えないように設計されていると、
だとしたらこれほど頼れる味方はいないのではないか。
郁美は自分の幸運に少しだけ感謝しながら、メイドロボ…セリオの方へふらふらと近づいていくのだった。

「そうですか…なるほど」
「顔とかよくわからなかったの…ごめんなさい」
森の中を移動しながら情報を交換しあうセリオと郁美。
262殺人回路:04/05/16 11:53 ID:m9WiU6a6
「いいのですよ」
穏やかな口調とは裏腹に、セリオはやや気落ちしていた、収穫ゼロということか。
何か有益な情報が入手できると思い、まずは接近を試みたのだが時間の無駄でしかなかった。
何故彼女を選んだのか、それは傷つき弱っている人間なら後々簡単に処分できるという
狡猾な計算あっての事だ。
(ならば早速処分しましょう)

セリオは郁美を抱きかかえたまま、さらに森の中を進む、すると郁美の耳に水音が聞こえだす。
そういえば近くに小川があったっけ?
「あの…降ろしてください、水飲みたいので」
「そうですか…それは好都合です」
「え?」
一瞬の異様な雰囲気、それに気がついたときにはすでに手遅れだった。
セリオは郁美の後頭部を鷲づかみにすると、そのまま郁美の顔を水面へと押し付けたのだった。
がぼがぼと水面が泡立つ。
(お兄ちゃん、和樹さん、おねがいたすけてよ、くるしいよう、いきができないよう)
だが無情にもセリオはなおも力をこめて、郁美の顔をより深く水底へと沈めていく。
それを受けて郁美は必死で動かない身体を動かし、もがきセリオの手から脱出しようとする。
だが…。
263殺人回路:04/05/16 11:55 ID:m9WiU6a6
(おにいちゃ……)
やがて、微力ながらも抵抗を続けていた郁美の身体から力が抜ける。
それを確認してセリオはようやく郁美の後頭部から手を放す。

「申し訳ありません、少々苦しかったとは推測できますが、銃弾が不足しておりまして」
セリオは相変らずの冷酷な口調で、苦悶に歪みきった郁美の死に顔を一瞥する。
またそのまま何処かへと去っていった。

そして残されたのはぷかぷかと小川を流れる郁美の死体…。
その表情は自分の不運を嘆いているかのようでもあった。

【52 セリオ  装備:コルト.25オート(予備弾装無し)】
【54 立川郁美 溺死】

【残り83人】
「いらっしゃいませー」
「コーヒーはいかがですか?」
「ありがとうございましたー」

「ふぅ…」
 住宅街の民家の中、マニュアル通りのような挨拶を言い終えて宮沢有紀寧(93番)は溜め息をついた。
「…やっぱり、誰も来ませんか」
 苦笑してそう呟く。
 民家の中には、有紀寧以外に誰も居ない。
 先程のは、ただの発声練習である。
「ひょっとしたら、岡崎先輩や春原先輩が来るかもしれないと思ったのですが…」
 スタート直後、有紀寧は住宅街へと向かった。
 途中、幾度か聞こえた銃撃に身体を震わせながらも。
 本当は、知り合いを探したかった。
 岡崎朋也、春原陽平――よく忘れられた資料室に来てくれていた先輩。
 他にはいない。
 自分をゆきねぇと呼ぶ、今は亡き兄の友人達。
 世間からは疎まれているけど、とてもいい人たちは、いない。
 頼れるのは、二人の先輩のみ。
 だから、二人を探したかったが――結局、止めた。
 理由は単純である。
 ――足手纏いになるから。
 その手の集団からゆきねぇと呼ばれていても、喧嘩が強いわけではない。
 むしろ、かなり非力な方だと思う。
 そんな自分が二人を探しても、見つける前に誰かに殺されるのがオチ。
 例え見つけても、この状況で自分が二人の力になれるとは思えなかった。
 だから有紀寧はここにいる。
 自分が二人を探し出すことが無理でも、二人がここを見つけてくれるかもしれない。
 その時は、力になれる。
 二人に、温もりを与えることができる。
 そう思ったのに、二人どころかだれも来ない。
「コーヒー…冷めちゃいましたね」
 有紀寧はテーブルの上に置いてある三つのコーヒーカップを残念そうに見た。
 先程まで程よく湯気が立っていたコーヒー。
 この家にはインスタントコーヒーしかなかったが、その分丁寧に淹れた。
 なのに――
「仕方ありませんね…」
 有紀寧はそのコーヒーのうち一つを持って、庭に出た。
「にゃぁ♪」
 直後、猫が一匹、有紀寧に飛びついてくる。
「猫ですか…」
 有紀寧はそれに特に驚いた様子もなく呟いた。
 家に入ったときから庭から鳴き声が聞こえていたので、居ることは知っていたのである。
「にゃあ〜」
 危うくこぼしかけたコーヒーを置き、有紀寧はその猫――ぴろの身体を持ち、じっと見つめる。
「にゃ?」
「ご主人様と、はぐれたんですか?」
「にゃあ」
「…そうですか」
 ぴろの返事は、肯定として受け取っておく。
 野良猫がこんなところに居るとは思えない。
「コーヒーはいかがですか?」
「にゃ?」
「冷めていますから、猫でも大丈夫だと思います」
「にゃ〜ご」
「おいしいですよ?」
「にゃあ」
 返事がどういう意味なのかわからないが、できれば飲んでもらいたい。せっかく丁寧に淹れたのだから。
 有紀寧はぴろを地面に下ろし、コーヒーカップを前に置く。
 ぴろは、最初はなんのことかわからなかったようだが、好奇心からかおずおずとその黒い液体を舐め始めた。
「…おいしいですか?」
 有紀寧が訊ねる。
 ぴろはそれに答えず、コーヒーをぴちゃぴちゃと音を立てながら飲みつづけた。
「気に入ってくれましたか。よかったです」
 有紀寧はそう言って踵を返し、家の中に戻る。
 そして。
「場所が悪いのかもしれませんね…他の家に行きましょう」
 そう言って、有紀寧はさっさと片付けを済ませて、その家を出た。

 ぴくり、と、その物体が動いた。
 動いて、直後に身体が震え始める。
 始めはゆっくりと。
 だんだん激しくなりながら。
 カタ…
 目の前のものが倒れる。
 震えは止まらない。
 震える。
 震え続ける。

 そして、その動きが――止まった。


【ぴろ 死亡】
【宮沢有紀寧 支給武器:毒薬(テトラ・エチール鉛)】
【その他の所持物:インスタントコーヒー】
267はるかの日常、非日常:04/05/16 12:14 ID:+ahVfHGL
「……たとえどんなに狂った状況であっても、それは精神的に異常なだけでヒトとしての生命活動は
普段通りなんだよね」
 民家の中で定時放送を聞いた河島はるか(27)は、誰に言うともなくつぶやいた。
 そこにあるのは一種の「慣れ」であった。見たくない、聞きたくない、信じたくもないし
考えたくもない……そんな、どっちを向いても絶望しか無い世界を、彼女はかつて経験して知っていたから。
 更に言えば、もともと生きていることに大した意義を見出していなかった彼女は、目の前に死の恐怖を
見せつけられても狼狽する理由がなかった。死はある日突然訪れる。別にこの島に限った話ではない。
この島には「不自然な死」が普段の世界とは比べ物にならないほど高い密度で蔓延しているが、
それは量の差であって質の差ではなかった。少なくとも、はるかにとっては。
「とりあえず食事とお風呂は基本」
 だからはるかは平然と、お邪魔した民家の冷蔵庫から食材を発掘して簡単な料理を作り、風呂を沸かした。
 ……あの時もそう。突然この世からいなくなった、大好きな兄。兄の死にただただ号泣し、わたしの方を
全く見なかった両親。冬弥の手だけがほんの少しだけわたしを支えてくれたけど、それだけ。そんな日にも
わたしはご飯を食べたしお風呂にもトイレにも入った、最後には布団の中で寝た……寝付けたかどうかは
ともかく。
 精神は肉体の奴隷に過ぎない、って言ったのはニーチェだったっけ。
 健全な精神は健全な肉体に宿る、ってのは確かクーベルタン男爵。精神と肉体の順序が逆だったかな?
まあどっちでもいいけど。
 とにかく、人間ってのはそういう物。
 むしろ肉体が切羽詰まることで精神が追いつめられる事の方が怖い。自分が自分でなくなるから。
そのためにも、まずは食事。うん。
268はるかの日常、非日常:04/05/16 12:16 ID:+ahVfHGL
 ことことこと。穏やかに煮立った鍋がシチューの完成を告げた。
 既に家の外には夜のとばりが降りて来つつあったので、はるかは電灯のスイッチを入れた。
誰かに見つかる危険性も考えたが、少し考えてつける事にした。
 ここは民家。食料や寝床がある事が予想され(そして実際にあった)電気がついていようがいまいが
あらゆる種類の人を呼び寄せるだろう。そしてゲームに乗ったか正気を失ったかで殺す気満々な方々は、
電気がついていようが消えていようがこちらを発見した時点で殺しに来るはず。
 一方、殺す気の無い人はどう反応するか? 電気がついていない家の中に潜む自分をどう考えるか?
罠の有無、こちらの殺意の有無に警戒するだろう。反射的な自己防衛反応で致命的な結果をもたらしてしまう
かも知れない。万が一、それが冬弥や彰だったりした日には目も当てられない。
 つまり。敵はどうあっても敵。ならば敵意のない人に対し、こちら側に殺意がないことを明確に示して
不慮の事故を防ぐべきだろう。第一、どっちみち誰かを殺すことなど出来そうにない自分が戦闘準備を整え、
相手に警戒感と不信感を与えて何か得をするだろうか。答えは明らかに否。
 それで殺されたら? ……別にどうって事もない。殺され方は選びたい気もするけど。
 それがはるかの結論だった。死の可能性を受け入れることで初めて成立する思考。普通の人なら恐怖に負けて
そこまで考えが及ばないだろうが、彼女は死に対して、多分この島で一、二を争うほど自由であった。
269はるかの日常、非日常:04/05/16 12:17 ID:+ahVfHGL
「それにしても……いい家だなあ」
 誰もいないダイニングでできたてのシチューを食べながら、はるかは独り言をつぶやいた。
 電気はある、ガスも水道もある、洋服ダンスには服があってリビングにはソファーがあって寝室には自分が
普段使っているのよりずっと立派なベッドがある。冷蔵庫には新鮮な食材まで入っており、足りないのは
テレビぐらいだった。
 そして放置されている気配も無いほど綺麗に掃除されていた。言っちゃ何だけど自分の部屋より片づいている。
 けど、この島にはゲームの参加者以外には誰もいないように思える。だとすると……
「これってあの人が準備したのかな? わざわざ」
 はるかは主催者の男の顔を思い出す。だとしたら、掃除を綺麗にすませたり電球が切れていなかったり、
あまつさえ絶海の孤島(と言われているだけで確認はしていないけど)に電気水道ガスを通したりするあたり、
案外几帳面なのかも知れない。
 もっとも、これだけ恵まれた、アクションゲームのボーナスステージのような家があちこちに転がっている
かと言えばそれも分からない。だからとりあえず、今はある物を満喫させてもらおう。

「でも、なんでだろ?」
 はるかは小首をかしげた。
 そう、それは最大の疑問。そもそも何のために殺し合いをするのかがまるで分からない。冬弥や彰、自分が
巻き込まれた理由も分からない。それに……
「……凝った事するなあ」
 冷蔵庫から引っ張り出した牛乳パック、シチューのルウ。そのパッケージは見たこともないメーカーの
見たこともないデザインで、しかも賞味期限が西暦3000年代になってたりする。
 テレビが無い事と相まって、はて今がいつなのかすら分からない有様だ。というよりそもそも、
ここが地球なのかどうかさえも怪しい。何を無茶なことを、と自分でも苦笑するけど、色々な事実を
考え合わせるとどうにも常識など涅槃の彼方に吹っ飛んでしまった状況に今の自分は放り込まれたような
気がする。なにしろ……
270はるかの日常、非日常:04/05/16 12:18 ID:+ahVfHGL
 がたん。リビングの方で物音がした。
 かたがたがた。また物音。気配を消す様子がないと言うことは、つまり殺し屋さんタイプの人間がうっかり
立てた音ではないという事だ。
 はるかが出向いたその先では……
「う〜〜?」
 前時代的な着物をまとった幼い少女……アルルゥ(4)が、鍵のかかったガラス窓を頭をかしげながら
叩いていた。どうやら向こうが見えるのに通れないのが不思議らしい。ほっぺたが少し腫れているのは
何かの虫に刺されたのだろうか。
 疲れているようだが、見たところ大きな怪我もしてないし何の荷物も持ってない。……荷物が無い、と
いう事は何も食べてないのかも知れない。

 ……なにしろ、明らかにヒトじゃない人がこうやって目の前にいるんだから。

 ひこひこと揺れるアルルゥの耳と尻尾を見て、はるかは心の中で肩をすくめた。この島にはどうやら、
理不尽な死の他にも色々な物が詰め込まれているらしい。

【027河島はるか 普通の夕食と風呂と寝床を確保】
【004アルルゥ シチューの匂いに釣られる】
271紅の草原:04/05/16 12:27 ID:kTLz8+lh
七瀬彰と梶原夕菜は、依然、森の中を歩いていた。
「ひっ」
これで何体目だろうか…死体を見るのは。
青い髪をした女の子だった、頭を打たれて死んでいた。
彰は女の子の前に座ると、女の子の目を閉じてやった。そして夕菜と黙祷を捧げる。
―――殺し合いの中でこんなことやってる僕達って、ものすごく甘い、バカなのかもしれないね。
誰に、というわけでもないが彰はそう思った。
敢えて言うなら、ゲームに乗っている人たちに、だろうか
―――けどできるだけ、続けたいな――僕が、今の僕を保っていられるまでは。

黙祷が終わる。目を開けると、夕菜の少し落ち込んだような顔が見える。
まあ、これだけ死体を見ているのだ、正常な方がおかしいだろう。
「ねえ?彰ちゃんこれからどこに行く?」
「えっと…とりあえず森をでようよ、ここには…人が多すぎだから」
彰は死体、と言おうとして止めた。
「うん、今日休めるいい建物があったらいいね」
辺りの空はオレンジと青空のグラデーションだ。もうじき夜が来るだろう。

それから二人は小さい声でおしゃべりをしながら歩いた。
無用心かもしれないが、じっと黙っていれば二人とも、狂ってしまいそうだったからだ
15分ほど歩いた時だろうか、カッと光が二人に射しこんだ。
「森が…おわったね」
彰が呟く。
目の前は少し開けた草原だった。少し遠くには海が見える
空は紅と、藍が混ざり合い、頭上では星が煌いていた。海に入っていく太陽が眩しいほどに赤に染まり、輝く。
とてもきれいな夕暮れだった。
「綺麗…」
夕菜が放心したように言った
「この島も、こんな事じゃなかったら、とってもいい島なのかもしれないね」
そう言って彰が一歩足を踏み出したときだった
272紅の草原:04/05/16 12:28 ID:kTLz8+lh
ズボッ!
彰の足が地面に埋まった。いや、正確に言うと地面に掘ってあった穴に入った。
ひざ下、10センチほどの穴だった。

「Hey!やっとかかったネ!」
そう言って木陰の中から出てきたのは、宮内レミィ(92番)だった

片手にジグ・ザウエルショートを持っていた。そしてその銃口を彰に向ける。
二人の距離は10メートルもなかった。
―――この人はゲームに乗った人なんだっ
彰は瞬時に理解した、持っていたカッターの、刃を思いっきり出す。
けど、足が震えていて、動けそうになかった。
「No!早く動いてヨ!」
そう言いながら彰の方に近づいていくレミィ。

残り一発しかない弾丸、大切に使いたかった。
男と、女。女の武器はフライパンで、大人しそうな女だった。
男のほうも貧弱そうだったが刃物を持っていた。しかも罠にかかったエモノだった、ハンターとして
このチャンスを逃すのは不名誉な事だとレミィは思った。だから彰を先に『狩る』ことに決めた

―――何言ってるんだよこの人…もう、わけがわからないよ…姉さん、は…どこ?
夕菜はレミィの後ろでフライパンを握り締め、突っ立っていた
レミィと彰の距離はあと4メートルほどだった。
「姉さん…逃げて」
恐怖でかすれた声で彰が言う
「しかたないネ」
動いていた方が打ちやすかったが、もうさすがに自分でも外さないだろうと思いレミィは引き金を引くことにした。
「バイバイ」
273紅の草原:04/05/16 12:31 ID:kTLz8+lh

そう言ったとき、殺気を感じてレミィは振り返った
そこには、レミィの頭にフライパン縦にして振り下ろしてる、夕菜の姿があった。
ドガッ
レミィの額にヒットした、ふらついてドサッと倒れた

「に、逃げるよ!彰ちゃん!」
フライパンを放り投げ手を差し出す夕菜。出会ったときとまったく逆の立場だった。
「うん!」
手をとり、走り出す。二人、海の方に走っていった。
辺りはもう夜になっていた

【66 七瀬彰 所持品 カッター】
【21 梶原夕菜 所持品 なし】
【92 宮内レミィ 所持品 ジグ・ザウエルショート9mm(残弾1発), 果物ナイフ 右手に軽傷 額を打撲 気絶中】
【フライパンはその辺に放置】
【陽が沈みました】
274青年は見ていた:04/05/16 12:52 ID:RZN4+q/x
芳野祐介(98番)は一回目の放送を淡々と聞いていた。
犠牲者の名が挙げられる。その内の一人は自分が手を下した者のはずだ。
名前すら知らないが。知らないままのほうが罪悪感が浮かばなくていい。
知ったところで、今の自分にそんなものが浮かぶとはあまり思わなかったが。
せいぜい、このゲームに生き残り、娑婆に戻った時に平静を保てる程度には
正常な精神状態であることを祈ろう。

放送が終わった後、これからのことを頭に巡らせる。
一人でいるということは辛いことだ。
こんな状態ではぐっすりと休むこともままならない。
誰かを騙して利用、弾除け等に使う――などということも考えたが、
こんな自分だ。いつ寝首をかかれてもおかしくないこの島でそいつを信用できる、なんてことはない。
却って不安要素が増えるだけだ。一人は不便だが、気楽でいい。
今後のことを考える。一人であれば、やはり長引けば不利だと思う。何せ気の休まる暇などないのだ。
近くで騒ぎを聞きつけては自ら出向いて、チャンスとあらば一人一人撃ち殺すのが一番いいだろう。
先の出来事のように、毎度上手くいくとは限らなかったが。

先の出来事――遠目から見かけた小規模のグループを頭に浮かべる。
視力が極端にいい、とまでは言えなかったが、異様な集団だったので今でもはっきりと思い出せる。
一人は男。変な仮面を被っていた。防具なのかもしれないが、とりあえず今のところは知ったことではない。
一人は女。付け耳みたいなものをつけていた。
出発前の一団にもそういった付け耳の人物がいたような気がするが、
あの時はまだ混乱状態にあったので同一人物かまでは知らない。
最後の一人も女。よく覚えている。理由は二つ。
一つは、自分の母校の制服であること。婚約者である伊吹公子も数年前まではそこで教師として働いていた。
もう一つは――
275青年は見ていた:04/05/16 12:53 ID:RZN4+q/x
――時は遡る。
芳野は一人の少女を殺し、さっさとその場を離れた。
銃器の欠点の一つとして、使用すると激しい銃声が鳴り響くことだ。
他にも扱いが難しい、重い、素人では狙いをつけるのは難しい、などと欠点はいくつもあるが、
まぁ、初めてにしては驚くほど上手くいったと思う。
それでも消音措置もされてない銃器なので音だけはどうしようもない。
特に用もないなら、その場からはさっさと退散した方が得策だった。

辺りを警戒しつつ、殺人現場からの移動を繰り返す内、二匹目の獲物を目で捉える。
結構まだ距離はある。達人ならここからでもさっと仕留めてみせるのだろうが、
いかんせんまだ素人。せいぜい驚かせて逃げられるのがオチだ。
相手はまだ少女のようだが、追走劇になれば重い銃器を抱えたままの芳野に勝ち目はなかった。
手ぶらになれば追いつくのは容易かもしれないが、相手が武器持ちだとすると大の男でも殺される可能性も高い。
気付かれぬよう、ゆっくりと間合いを詰めていく。
第三者がいないとも限らないので、辺りの警戒も怠らずにいた。慣れないことはするもんじゃない。相当手間取った。

女は、制服をつけていた。懐かしい制服。自分の母校の制服だ。
楽しかった、懐かしかった日々のことが、わずかに頭の隅に浮かんだが、すぐに消えた。

女が向かった先の道は傾斜になっていた。なだらかなもので、山というよりは丘に近いかもしれない。
潮の香りがする。海が近いな。海岸沿いは遮蔽物が少ない。まだ距離もある。
追おうかどうか迷ったが、もうしばらくは尾行を続ける。
276青年は見ていた:04/05/16 12:54 ID:RZN4+q/x
しばらく。女は岩陰……横穴のようなものがあるようだ。そこで立ち止まっていた。
女の他に、何か動く陰がある。他にも誰かいる。
この間に距離を一気に詰めようかという考えも浮かんだが――
何度も言うには情けないがまだそういったことに慣れていない為、その場で様子を窺う。
まず安全第一だ。殺人そのものに快楽を見出す異常者、というわけではないから。まぁ、似たようなものかもしれないが。
目を凝らす。女か?動物の耳のようなものをつけているのが印象的だ。
ここからでは見つめあってるだけに見えた。実際そうだったのかは分からないが、しばし静寂の時が続く。

突如、制服を着た方の女が何かを手に持ち、もう一人の女に襲いかかった。
すでに一人殺している芳野がそう感じるのは滑稽だが、平穏な外の世界では知ることもなかった、
ドラマの中の作り話のような異様な光景だった。
しばらくとっくみあった後――再び場に静寂が戻った。
見つめ合っているだけかもしれない。何か言い争っているのかもしれない。
どんなやりとりが成されてるのか好奇心は沸いたが、結局近づけはしなかった。
制服の方の女がいきなり走り出したからだ。
突然であった為、ただ物陰からそれを眺めるだけに留まる。
走るたびに髪を結わえた丸い髪止めがひょこひょこと動いていた。
277名無しさんだよもん:04/05/16 12:54 ID:RZN4+q/x
――わずかな時間の夢想から我に返る。
結局、あの女がいきなり走り出した一番の理由は、芳野からでは死角となって見えなかった位置から
第三者の仮面の男が現れたからだった。

あとは、いろいろとあって現在に至る。結局あの三人の後は追わなかった。
こちらの存在も気付かれていたようだし、何より追いつけそうにはなかったからだ。
彼らは、重い荷を捨て、身軽なままで逃走に入っていたから。

その後、現場を調べて、役に立つかもしれない救急セットだけは頂戴してきた。
他の持ち物はかさばるだけだったのでその場に打ち捨ててある。
制服の女のものだったのだろう。
近くに、救急セットの一つだったと見られる医療用のハサミが
まるで隠されるように投げ捨てられていた。
まだ、真新しい血がこびりついたままで。

結局、あの女達二人の間に何があったのかは芳野には分からない。
一つだけいえることは。
他人を信じるということは難しいということだけだ。
音楽と一緒だ。自分の為だけに。自分と、自分の大切な人の為だけに。
歌っていれば良かったのにな。

【芳野祐介 救急箱回収】
【ユズハを刺したのは実はことみ】



※元々持っていたサブマシンガン、ライフル、予備マガジンも持ってます。
※時間は第一回定時放送直後
※ことみとユズハの間でどんなやりとりが行われ、どういう経緯で今に至ったのかは現時点では不明。
278にがおえ:04/05/16 12:55 ID:laKuwI0S
 つんつん、つんつん
 つんつん、つんつん

「こんなところで寝ていたら風邪をひいてしまいます」
「起きないと岡崎さんみたいな人に悪戯されます」
 辺りはすっかり暗くなっていた。
 少女――伊吹風子(2)が語りかけている相手は森の中でうつ伏せになったまま起きる気配はない。

「……この人と風子、そこはかとなく親近感を感じますっ」
「においですっ、におい」
 風子は足元――うつ伏せになったままのダッフルコートの少女――月宮あゆ(58)に語りかける。
 当然あゆは起きない、彼女は首を不自然な方向に曲げ、後頭部を陥没させて絶命してるのだから……。

「起きないのなら…悪戯しちゃいます。いいですねっ、起きるなら今のうちですっ」
 返事はない。
「目を開けてまでねるなんてとってもねむいんですねっ」
「わかりました。風子、そのかわいいリュックをもらっちゃいます」
「風子のヒトデ入れにします」

 ごそごそ、ごそごそ
 ごそごそ、ごそごそ

「ああんっかわいいリュックっ」
279にがおえ:04/05/16 12:57 ID:laKuwI0S
 羽リュックの大きさはヒトデ入れには申し分のないサイズだ。
 風子はまたもや恍惚の表情を浮かべている。
 
 ふと、我に帰り。
「……風子、わるい子です。人様の物をとるなんてわるい人のすることですっ」
「おわびにヒトデをプレゼントします。どうぞっ」
 ヒトデを取り出しあゆに差し出す。が、あゆは受け取らない。
「さっきの男の人もこの人も受け取ってくれません…風子少しショックです」
 なぜ受け取ってくれないのか?
 代わりに何かないだろうか?

 風子はある人の言葉を思い出していた。
『相手の顔を、その場で彫って、プレゼントするんです』
『道ばたで似顔絵とか書いて、売ってる人とかいます。そんな感じです』
(渚さん…ヒトデより難しいかもしれませんが…風子、にがおえ彫ってみます)
「そっくりに仕立て上げますっ」
280にがおえ:04/05/16 12:58 ID:laKuwI0S
 風子はナイフを取り出しあゆの首にあてる、

 ずぶり、ナイフが首にめりこむ。
 めき、めき、めき。
 めき、めき、めき、ごりっ。

「んーっ、ヒトデよりも難しいですっ、でも風子、くじけませんっ」
 
 めきょ、めきょ、めきょ。
 ごろり。
 地面に転がる、完成。

「自分で言うのもなんですが、可愛くできました」
「これなら岡崎さんに馬鹿にされません」
「渚さん岡崎さん、風子、お姉ちゃんの結婚式のためがんばりますっ」

 風子は立ち去る。首の無い少女を残して。

【(2)伊吹風子 よく切れるナイフ 羽リュック(ヒトデ入り)あゆの首】
【日没後です】
281誤算:04/05/16 13:10 ID:X4/AJhqY
『参加者の諸君、ご苦労。なかなかに盛況のようで、私も胸を撫で下ろしている。
 ・・・・ ・・勝利者への報酬は絶対である。どうか精励されたい。以上』

「よく殺るねェみんな・・俺っちには真似できねえナ」
ぽりぽりと頭を掻きながら、相変わらず雑草の中に隠れて、放送を聞いたエディは言った。
「しかしミスったねこりゃ」
盗聴器を見ながら、エディは言った。
まず特徴と名を頭の中に叩き込んだ同位置からスタートした者の内25名を集中的に盗聴して、
現時点での行動を頭の中で整理していた。
しかし、そこで一つ問題が生じたのだ。
いや、問題に気が付いたというべきか。
エディは、箱の横で赤く輝く、50の文字とその真下にそれより大きく表示された、
43:37の文字に眼をやり、そして左脇に捨てた紙をもう一度取り、嘆息した。
紙には簡潔にこう書いてあった。
『使用制限100回 連続使用時間 1時間』
「(なんで気がつかねえかなあ・・よく考えたら上手すぎる話だったんだよな)」
この数字を発見した時と同様にもう一度深いため息をエディは付いた。
やはり、この異常な状況とに舞いあがっていたのだろうか?
それとも良いアイテムを得て少々興奮していたのだろうか?
どちらにせよ、気が付いた時には既に使用回数の半分を消費していた。
いつもナビとして宗一の背中を守るエディとしては考えられないミスであった。
282誤算:04/05/16 13:11 ID:X4/AJhqY
「(ミスっていったらもう一つなんだよナ・・)」
もう乱用することはできないが、最初に得た情報を分析すると、どうも森にいる人間が多いらしい。
これはエディが最初に予想した事態と大きく懸け離れていた。
「(ほんと、どうしちまったんだ俺っちは・・)」
そしてついでに言うならば、異常なまでのゲームに乗った奴の多さがエディにとっては誤算であり、危険要素だった。
今のところ顔と番号が一致するのが35番だけというのが痛い。
声で聞き分けられれば、とも思ったが、精々聞き取れるのは男と女の違い程度という程に音響が悪い。
はあ、と一度ため息を付いてから、エディは注意深く周りに気を配りつつ、移動を始めた。
少々リスクがあるが、森から出る事に決めたのだ。
とりあえずの目標は民家、だが、それは最終地点。
とにかく、色々な場所を廻って情報を集める事だと思った。
「(盗聴器頻繁に使えない以上、後は実地探索するしかねえしな)」
民家、かここ以上に適した潜伏場所を探すためだ。

【エディ 移動中 とりあえず民家へ 所持品盗聴器 先の尖った木の枝数本】
283名無しさんだよもん:04/05/16 13:15 ID:X4/AJhqY
修正35番→36番。
284同人女の決意:04/05/16 13:44 ID:wvzwjVeb
 川辺で休息を取っていた時、その放送は聞こえてきた。
 知っている者の名は呼ばれなかった。
 まず芽生えた感情は『安堵』。次いで、『嫌悪感』。
「…今、ウチめっちゃ嫌な女やったな」
 猪名川由宇(07)は舌打ちと共に吐き捨てる。
 自分の知り合いが全員生きていると分かって「良かった」と思ってしまった。
 だが今のこの時、死んだ11人の身内の心境はいかばかりか。
 そう考えると、自分の思考にヘドが出た。

「けったくそ悪いわ」
 一言呟いて気を落ち着けると、内ポケットから手帳サイズのスケブとペンを取り出す。
「同人女をナメたらあかんで」
 いついかなる時でも描いたりメモったりできる必須アイテムだ。
 些細なことがネタになる。
 そしてここでは、些細な情報が命を分ける情報になるとも限らない。
 メモ書きやイラストを飛ばして白紙のページを見つけると、放送で流れた名前と番号を書き出していく。
 ついでに時間も記入しようと思ったが、あいにくと時計は無かった。
 空を見る。
「…もう夕方やな。四時…六時くらいか?」
 大体そんなもんだろうと当たりをつける。
 記入し終わった由宇は、パンッと勢いよくスケブを閉じた。
「よっしゃ、行くか!」
 十分に休息は取った。
 スケブの代わりに、脇に置いてあった支給品――身の丈ほどもある長いロッドを手に取る。
 この長さではバッグに収まる筈も無いが、実はスイッチ一つで三節棍になる優れものだ。
 それを杖代わりにして一気に立ち上がる。
285同人女の決意:04/05/16 13:46 ID:wvzwjVeb
「まずは詠美や南やん達を探す。で、このムカつく場所から脱出や!」
 自分の行動方針を声に出して確認する。
 方法はまだ分からない。
 だが必ず見つけてやる。
(大丈夫や、きっとできる)
 怖がる気持ちはある。恐れる気持ちはある。
 だが、それは心の奥底にしまい込む。
 もし和樹がここにいたら…根性座ったあの男なら、絶対同じ結論を出す。
 だから、自分も――
「同人女をナメたらあかんで!」
 一声吼え、川下へ向けて歩き出した。


 由宇が川下へ向かったのは幸運だったと言える。
 もし川上へ向かっていたら、いずれ、決意をくじかれる光景を見ることになっていただろうから。
 変わり果てた立川郁美(54)の姿を見ることになっていただろうから。


【007 猪名川由宇 所持品:ロッド(三節棍) その他所持品:手帳サイズのスケブ】
【川に沿って、川下へ移動中。 知り合いを探して脱出する方針で】
286裏切りと恐怖:04/05/16 13:57 ID:kxw0mrck
「おお、あさひやないか!」
一人あてもなく森の中を歩いていた桜井あさひ(46)が、馴染みのある声に思わずに振り返ると、そこには猪名川由宇(7)が立っていた。
「由宇さん!」
不安と恐怖で胸が一杯になっていたあさひは、由宇の姿を確認し、思わず涙をこぼした。
「あんたも無事やったか」
そんなあさひを見ながら、由宇はいつもと変わらぬ笑みを浮かべた。


「そういやあんたの武器って何や?」
情報を交換しているときに、ふと由宇があさひに尋ねた。
「あっ、まだ見てないです。これから見てみますね」
そう言ってあさひは支給されたバッグを開きだした。
「なんや。まだ見てなかったんかい」
由宇はあきれたような声を出した。
「しかし災難やなぁ」
「ええ。本当にそうですよね」
「でもまあ、最後まで生き残ると何でも一つ願いを叶えてくれるっちゅうしな」
「え?」
由宇のせりふに、バッグをのぞきこんでいたあさひは思わず顔を上げた。
その顔の横を、高速で何かが通り抜けた。
「ちっ、こんな至近距離で外してもうたか」
あさひの目に、右手で煙をあげる銃を構えた由宇の姿が飛び込んできた。
「まあ、うちも素人やしな」
銃を構えたまま、由宇がつぶやいた。
287裏切りと恐怖:04/05/16 13:58 ID:kxw0mrck
「由宇…さん?」
「うちもゲームに乗ることにしたんや。だから悪いけどあんたには死んでもらう」
そう言いながら、由宇はあさひの額に銃口をつきつけた。
(由宇さん…そんな……いや…いやっ…)
「いっ…いやああああああ!」
気がつくと、あさひは手に持っていたバッグを横へ振り回していた。
そのバッグは由宇の左腕と左脇腹に当たり、由宇は右へ倒れ込んだ。
あさひは由宇には目もくれずに、どこかへと一目散に走り出しだ。
「いつつ…逃げられたか」
体を起こしながら、由宇はあさひが走り去った方向を見た。
「まあええわ。次は気をつけなあかんな」
そういって、由宇は落とした銃を拾い上げ、その場を後にした。


(由宇さん…どうして…どうして!)
あさひの心は完全に乱れていた。
ただひたすらに、あてもなく、死にものぐるいで走り続けた。
やがて、あさひの体力は限界になり、あさひは足をもつれさせて転んだ。
転んだ拍子に口が開いたままだったバッグから、何かが飛び出した。
それは、彼女に支給された武器、S&W M36だった。
あさひはそれをおそるおそる拾い上げた。
あさひはしばらく立ちつくしていたが、ふと、彼女の頭の中にある考えが浮かんだ。
(もう…死のうかな…)
由宇に裏切られ、あさひにはもう生きる意欲は残っていなかった。
しかし、実際に銃をこみかめに当てようとした瞬間に、あさひの体は震えだし、自分の意志では動けなくなった。
しばらく彼女は死への恐怖に震えていたが、やがて決心をし、震える手で銃をこみかめに押し当て──
288名無しさんだよもん:04/05/16 13:58 ID:kxw0mrck
「…というわけ、か」
ため息をつきながら、少年(46)はあさひから聞いた話を思い出していた。
そのあさひは、疲れ切ったせいか、いつの間にか眠っていた。
あさひの顔を見ながら、少年はこれからのことを考え出した。

【7 猪名川由宇 支給品 ベレッタ M84 (残り弾数12)】
【あさひ睡眠中、少年はこれからについて考え出す】
289無尽君 ◆JmtStMCL6c :04/05/16 14:11 ID:te9mwrci
グリーン・グリーン

高倉みどり(53)は歩いていた。ただただ歩いていた。
父も健太郎も居ない状況で殺し合いに放り込まれ、何かしていなければ気が狂いそうだった。だからといってやるべきことも見つからないため、とりあえずこうして歩いているのである。
何となく、大河ドラマで宮元武蔵が行っていた苦行を思い出しつつ、森の中を歩き続けていた。

『参加者の諸君、ご苦労。なかなかに盛況のようで・・・

突如として鳴り響いた放送に足を止め、知り合い(といってもスフィーしか居ないが)の名が呼ばれなかった事に安堵する。そしてまた歩き出そうとして・・・足の痛みに蹲った。
お嬢様育ちであるみどりが6時間近く歩き続ければ、こうなるのは当然である。しかも・・・
ぐう〜
かわいらしい音を立てておなかが鳴る。顔を赤らめつつ、ようやく食料の入ったバッグに思い当たった。簡単に食事を済ませ、ついでに武器を確認する。
「お皿?」
入っていたのは絵皿だった。それほど高級品では無さそうだが、白ウサギの模様が可愛らしい。自分には銃器や刃物よりずっとふさわしいと思った。
しばらく絵皿を堪能した後、箱の注意書きに目が止まった。
「この島のどこかにこれと対になる皿があります。2つ揃えたアナタには頼もしいパートナーが手に入るでしょう」

ここに、みどりの目標が出来た。

【53 高倉みどり 支給品:白うさぎの絵皿】
「なぁ、芽衣…」
 春原が、疲れた声で芽衣に話しかけた。
「何?」
「後学のために聞いておきたいんだが、お前は何時に寝るんだ?」
「えーと…早い時で十時ぐらい…」
 質問の意味を汲み取ったのか、芽衣はわざわざ「早い時で」という条件付で答える。
「だよな…早くてもそれぐらいだよな…」
 はぁ、と二人で溜め息をつく。
「…どうする?」
「どうもこうも…」
「野宿なんて嫌だよな」
「うん」
「……」
「……」

 ――少し前の会話が、頭の中でリピートされる。
『日が沈んだな…』
『うん。今八時くらいかな』
『そうか…そろそろ宿を探さないと』
『そうだね』
『どこか心当たりあるか?』
『いや…夢中で走ってたから』
『そうか…』
『ごめんね』
『謝らなくていい。…名雪さんは?』
『……』
『名雪さん?』
『くー』
『『早っ!』』
 もともと寝るのが早いうえに緊張感も重なり、名雪はかなり早い時間に寝てしまった。
 もちろん寝たのなら起こせばいいのだが。
「何やっても起きやしないし…」
 春原は呆れた眼で、立ったまま寝ている名雪を見る。
 いろんな方法を試した。
 大声を出すわけにはいかないので、とりあえず肩を叩いた。
 起きない。
 少し強めに叩いた。
 起きない。こんなことで起きたら祐一も苦労はしまい。
 揺すった。
 起きない。寝言「けろぴー」。
 強く揺すった。
 起きない。寝言「イチゴサンデー」。
 頭を殴った。
 起きない。寝言「だおー」。
 髪の毛を引っ張ろうとしたら芽衣に怒られたので、頬を引っ張った。
 起きない。寝言「わひゃひ、ほんにゃのほ…」(訳:私、女の子…)
 やるだけ無駄だと悟ったのは、寝言が「祐一」「お母さん」「朝〜朝だよ〜」「朝ごはん食べて学校にいくよ〜」ときて、そのあと「けろぴー」と続いた時だった。
「とりあえず引きずってでも動くか…」
「そうだね…」
 二人は、名雪を引きずって移動を開始した。

「…そういえば」
「ん?」
「すっかり忘れてたが…お前の武器はなんなんだ?」
「あ…」
 忘れていた。
 いきなり誰かに襲われて、しかもそのあと兄がナンパに走ったり定時放送とやらが流れたりで、バッグを開くということすら頭になかった。
「開けてみろよ…もしかしたら、今の状況を打破できる凄いものがあるかもしれないぜ?」
「…簡易テントでも入ってなきゃ無理だと思うけど」
「……」
「……」
「…ま、とにかく開けてみろ」
「うん」
 芽衣は肩にかけていたバッグを下ろし、ファスナーを開けた。
 中に入っていたのは、食料、水、そして――
「…カセットウォークマン?」
 芽衣が取り出した物を見て、春原は思わず呟いた。
「ちょっと貸せ」
「はい」
「……」
 春原は、そのウォークマンを観察した。
 恐らく、外れ武器であろう。
 人を殴る時には中々強度がありそうだが、それは本来の用途とは違う。
 自分のトカレフや奪ったニードルガンとは偉い違いである。
「ちぇっ…やっぱこんなはずれもあるのか」
 舌打をかまして、ウォークマンを芽衣に放り投げる。
 未だ「外れ武器」を目にしていなかったため、多少なりとも期待していたのだが――
「…ねぇ、お兄ちゃん」
 と、芽衣が声をかけた。
「ん? どうした」
「これ…中にカセットが入ってるよ」
「何?」
 春原は慌てて芽衣の手を覗き込んだ。
 なるほど、確かに中にカセットが入っている。
「…聞いてみるか」
「うん」
 もしかしたら、このゲームに関する情報が入っているのかもしれない。
 春原はそれに期待して、イヤホンをはめ、再生ボタンを押した。
「ほい、ぽちっとな…」
 ぽち。

『YO! YO! オレ岡崎! 春原、お前は…ウーパールーパー!』

 ぽち。

「――何が、聞こえたの?」
 芽衣が恐る恐る、わなわなと震えている春原に聞く。
 春原は、震えを止めたかと思うと、
「ふざけんじゃねええええぇぇぇ!!」
 ウォークマンを空の彼方に投げつけた。
「あ、何やってるの! 何が聞こえたの!?」
「あんなもの聞かんでいい! いくぞ!」
 春原は憤って歩き出した。
 ずるずると、名雪が引きずられる。
「あ、待ってよ!」
 芽衣もそれを慌てて追いかけた。

 ――春原は知らなかった。
 あの下手糞なラップの後に、実は重大な情報が隠されているのを。
 ――春原は知らなかった。
 投げたカセットウォークマンがどこに落ちたのかを。

【芽衣 支給武器:カセットウォークマン(朋也のラップ入り)】
【名雪 くー】
【行動方針:宿を探すに変更】
【カセットの秘密・どこに落ちたかはまだ不明】
【時刻は夜8時ごろです】
295名無しさんだよもん:04/05/16 14:29 ID:kxw0mrck
すみません。ちゃんとリロードしてませんでした。由宇を晴香にしただけですが、書き直したのをはらせてもらいます。
296裏切りの恐怖 1/3:04/05/16 14:33 ID:kxw0mrck
「こんにちは」
一人あてもなく森の中を歩いていた桜井あさひ(46)が、声に思わずに振り返ると、そこには紫色の髪の少女が立っていた。
「あの…あなたは?」
おずおずと、あさひはその少女に尋ねた。
「巳間晴香よ」
少女−巳間晴香(91)はにっこりと微笑んで、答えた。


「そういやあなたの武器って何?」
自己紹介をすませ、情報を交換しているときに、ふと晴香があさひに尋ねた。
そのころには、あさひはすっかり晴香に心を許していた。
「あっ、まだ見てないです。これから見てみますね」
そう言ってあさひは支給されたバッグを開きだした。
「なんだ。まだ見てなかったの」
晴香はあきれたような声を出した。
「しかし災難よね」
「ええ。本当にそうですよね」
「でもまあ、最後まで生き残ると何でも一つ願いを叶えてくれるっていうしね」
「え?」
297名無しさんだよもん:04/05/16 14:34 ID:kxw0mrck
晴香のせりふに、バッグをのぞきこんでいたあさひは思わず顔を上げた。
あさひの顎のすぐ近くを、高速で何かが通り抜けた。
もし顔を上げるのが一瞬遅かったら、それは確実にあさひの頭を貫いていただろう。
「あら、外しちゃった」
あさひの目に、右手で煙をあげる銃を構えた晴香の姿が飛び込んできた。
「晴香…さん?」
「私もゲームに乗ることにしたの。だから悪いけどあなたには死んでもらうわ」
そう言いながら、晴香はあさひの額に銃口をつきつけた。
(晴香さん…そんな……いや…いやっ…)
「いっ…いやああああああ!」
気がつくと、あさひは手に持っていたバッグを横へ振り回していた。
そのバッグは晴香の左腕と左脇腹に当たり、晴香は右へ倒れ込んだ。
あさひは晴香には目もくれずに、どこかへと一目散に走り出しだ。
「いてて…油断したようね」
体を起こしながら、晴香はあさひが走り去った方向を見た。
「まあいいわ。次からは気をつけるか」
そういって、晴香は落とした銃を拾い上げ、その場を後にした。


(晴香さん…どうして…どうして!)
あさひの心は完全に乱れていた。
ただひたすらに、あてもなく、死にものぐるいで走り続けた。
やがて、あさひの体力は限界になり、あさひは足をもつれさせて転んだ。
転んだ拍子に口が開いたままだったバッグから、何かが飛び出した。
それは、彼女に支給された武器、S&W M36だった。
あさひはそれをおそるおそる拾い上げた。
あさひはしばらく立ちつくしていたが、ふと、彼女の頭の中にある考えが浮かんだ。
(もう…死のうかな…)
晴香に裏切られ、あさひにはもう生きる意欲は残っていなかった。
しかし、実際に銃をこみかめに当てようとした瞬間に、あさひの体は震えだし、自分の意志では動けなくなった。
しばらく彼女は死への恐怖に震えていたが、やがて決心をし、震える手で銃をこみかめに押し当て──
298裏切りの恐怖 3/3:04/05/16 14:37 ID:kxw0mrck
「…というわけ、か」
ため息をつきながら、少年(46)はあさひから聞いた話を思い出していた。
そのあさひは、疲れ切ったせいか、いつの間にか眠っていた。
「しかし、晴香がゲームに乗っているとはね」
あさひの顔を見ながら、少年はこれからのことを考え出した。

【91 巳間晴香 支給品  ワルサー PP/PPK (残り弾数7)】
【あさひ睡眠中、少年はこれからについて考え出す】
299警戒、または疑心暗鬼:04/05/16 15:09 ID:+ahVfHGL
 その家からは明かりが漏れていた。
「……どういう、事かしら?」
 石原麗子(05)は、森の中からそれを見ていた。無論、茂みの中に隠れ、気配は可能な限り消している。
 明らかに人がいる。何しろ、リビングのカーテンごしに人影が動いているのが見えるのだ。一つ、二つ……
あるいはもっといるだろうか。
 しかもかすかに料理のにおいまで漂ってきている。これではまるで普通の民家だ。この殺人で彩られた島の
中で、こんな光景を目にするとは予想外だった。
 あまりにも無防備すぎる。それが第1印象。
 何故あんなにも平然と、人がここにいる事を周囲にモロにばらすような真似をするのやら。
 ずきずきと痛む左肩と左腕……医者の知識を駆使して応急処置と当て木はしたが、これはかなりの重傷だと
自覚せざるを得なかった……を右手でさすりながら、麗子は考えた。
 少なくともはっきりしているのは、あの場には電気があり、料理が作れる水道とガスもあるという事だ。
この傷ついた体を癒すには最適だろう。
 だが麗子の心は、目の前の光景に警報を発していた。
 本当にあの家は無防備なのか?
 所有者の気配を消すという、予想外の道具の力で重傷を負わされたのはついさっきだ。あの家に、
それと同等以上の道具が無いという保証はどこにも無い。……否、むしろあると考えた方が、
あの無防備ぶりにも納得がいく。少なくとも自分なら、そうでないとあんな真似はしない。
 そして中には複数の人間。動き方からして、恐らくほとんど無傷。動かない者も含めたら何人いるか
知れたものじゃない。ゲーム開始からこの短時間で統制の取れた大集団が出来る可能性は低いが、知り合い
同志が運良く出会えたらそうとも限らないだろう。
 一方のこちらは満身創痍と言ってもいい状況で、しかも単独。
「……下手に動けないわね」
 あの家の住人を排除し、占拠することを考えた場合、いささか不確定要素……それも、考えれば考える
ほど自分にとって不利に思えてくる……が多すぎた。
300警戒、または疑心暗鬼:04/05/16 15:12 ID:+ahVfHGL
 程なくして下した結論。
 それは、誰かがあの家に攻め込むのを待つ。それであちらの防衛能力や人数構成が把握できれば、自分が
動く際に有利に働く。うまくいけば漁夫の利が得られるだろう。戦闘することなく水や食料が手に入るなら
それに越したことはない……殺さなくて済むという意味ではなく、危険を冒さずに済むという意味で。
「慎重に行かないと。またあんな事になったら笑えないわ」
 これ以上怪我を負うわけに行かない。だから二度と不覚は取るわけに行かない。やるなら無傷で勝てる
見通しが立ってからにしたかった。そのためにはあせってはならない。
 決意と共に、麗子は静かに移動した。民家がぎりぎり見えて、自分の身を安全に隠せる場所を探しに。
そのまま野宿になる可能性も高いが、それも覚悟の上だった。

 深手を負いながらも明晰さを失わない頭脳。自分の安全を確保して敵を排除するための論理的思考。
 石原麗子のそれは紛れもなく強力な武器であった。
 しかし、それが同時に彼女の限界でもあった。
 なぜなら民家の中にいたのは
「ん?」「ん〜(しっぽはたはた)」「ん、じゃあ片づけるね」「ん」
 何故かこれで意志が通じてしまう、戦闘する意思も能力もほとんど皆無の二人だったのだから。
 麗子には戦う強さがある。人を殺せる強さがある。しかし戦わない強さは、人を信じる強さはなかった。

【005石原麗子 民家の見える場所で警戒しつつ野宿体制】
【004アルルゥ&027河島はるか お食事終了】
301はじめの一歩:04/05/16 15:48 ID:a0BWlafs
真琴が去った後、智代は物思いに耽っていた。言わずもがな、真琴が残した言葉についてである。
「よく見たらあんた、逃げていった人と同じような服着てるじゃない! もしかして仲間なんじゃないの? あたしを油断させる作戦ね? そのてにはひっかからないんだからっ!」
その言葉が智代の胸中を延々とリフレインし続ける。
(本当に・・・本当に私たちの学校の誰かがゲームに乗ってしまったのか・・・・)
そう思ってしまったが最後、この場所は自分たちの過ごしてきた日常とは程遠いものであると認識させられ
智代は陰鬱たる気分にならざるをえなかった・・・・
(実際には真琴を襲撃した犯人は緒方理奈(15)であったわけなのだが。)
そうして智代はその場でぼんやりと座っていた・・・・


302愚痴と海と誰彼(1/5):04/05/16 15:49 ID:+qfv3cpC
「だ・か・ら!あたしのほうが不幸なの!!」
「ち・が・う!俺のほうが不幸だ!!」
広瀬真希(72)と北川潤(30)は森の中の野道をどちらが不幸かを話しながら駆け抜けていた、時間は夕暮れ、もうすぐ日が沈みかける頃だった…。
「だから、聞いてよ!出会ってすぐの転校生に味噌汁の出汁がエグイっていわれたのよ!!そこからが運のつき!」
「それは聞いた!俺のを聞け!コミュニケーションの取れなさそうな転校生に親しみやすく自己紹介!そしたらどうだ!!『変な奴』だぞ!!」
五十歩百歩、二人は自分の不幸の始まりである『転校生』について愚痴っていた。
「便座カバーが所持品になったのはそいつの所為だ!!マジだ!あいつと出会わなければ、こんなお笑い担当の武器は手に入らん!!」
眼を血走らせながら話す北川、命が掛かっているこのゲーム、愚痴も八つ当たりも、もう真剣だ
「バックいっぱい、約米半俵、15キログラム、それを三等分して一袋5キログラム!こんなクソ重たいメリケン粉どうしろって言うのよ!!」
広瀬も自分の所持品のメリケン粉(二袋は北川に持たせている)の重みに愚痴る、愚痴る。
「くそ!!」
「あほ!!」
同じ貧乏くじを引くもの同士、とても息がぴったりだ、
303あてつけの壁:04/05/16 15:49 ID:v6H5To7K
「おっ、これぐらい太ければ問題ないな。」
北川(30)は、太さが5センチほどの木の棒を拾った。
「いったい、そんなものどうするの。」
「まだ、ひみつだ。ちょっとこれ持っててくれないか。」
そう言うと北川(30)は広瀬真希(72)に拾ったばかりの木の棒を渡した。
そして、バッグからU字の便座カバーを取り出し、
先端同士を縛って、輪にした。
「これでよし。それで、その木の棒を。」
「何やってるんだか、まったく分かんないんだけど。」
そう言うと広瀬は木の棒を北川に返した。
北川は木の棒を便座カバーの輪に通し、それをバッグにしまった。
「そんなもの何に使うの。」
「あぁ、俺には越えなければならない存在がいる。
それを超えるときに必要になるんだ。」
「いったい誰のこと。」
そう聞く広瀬に対し、北川は笑顔を浮かべた。
「まぁ、そのことはおいといて、そろそろ寝ないとな。」
「何こたえる気はないってこと。まぁ、いいわ。
とりあえず、寝れそうな場所を捜しましょう。」
そう言うと二人は夜の闇に消えていった。

【北川潤(30) 所持品:輪にしたU字便座カバーに木の棒を通したもの】
【北川潤(30)広瀬真希(72)寝る場所を求め移動】
【夜九時ごろ】
304はじめの一歩:04/05/16 15:49 ID:a0BWlafs
・・・・・・
どのくらいそうしていただろうか、不意に何かが聞こえてきた。
『参加者の諸君、・・・・・・・・・・・・・
不意に智代の意識がクリアになった。
(死亡者発表か・・・・)
・・・・・69番、柊勝平。76番、藤林椋。・・・・・・・』
(藤林・・・・まさかあの藤林か!?)
定時報告の中に藤林椋(76)が呼ばれたことを聞いた智代は藤林椋のことを思い出していた。
(朋也のクラスに遊びに行ったとき、彼女にうるさくしないでくださいと注意されたな・・・・
朋也曰く、彼女は物静かで大人しくて占いが好きで、休み時間になると机の周りが占ってもらう人達でギッシリになっていたらしいが・・・・)
注意されたことももう今となっては思い出に過ぎない。いや、過ぎなくなってしまった。
急に智代の中に自分に対する怒りがこみあがってきた。
(私は何をしているのだ!今やるべきことはゲームに乗っていない人を集める、それで脱出する!ただそれだけではないか!それをどうして今まで・・・)
怒りを自覚するや否や、智代は自分の支給武器を確かめることにした。もし、集めることが出来たとしても、守れなければ意味がないからだ。
「これは・・・CDか?まあ何か役に立つのだろう・・・」
戦闘に使えそうになかったものを引いた智代は結局自分の体を武器とすることに決めた。
素手の方が戦いに慣れているからだ。

(では、行くか。)
智代は歩き出した。その後、風に乗って
「朋也・・・・・また会えたらよいな・・・・」
という言葉が流れていった・・・




【038 坂上智代 支給品 CD(内容は後の人に任せます。)】
【行動指針、非参加者の保護。】
305愚痴と海と誰彼(2/5):04/05/16 15:50 ID:+qfv3cpC
「で、今、どこ歩いてるわけ…。」
愚痴の言い合いが一通り終わったのか、広瀬は北川に問いかける、
「『森へ行きます…。』と置き手紙!」
北川は意味不明の言葉を広瀬に放つ、
「森の中なのは解ってるわよ!なにそれ置き手紙って、森へ行きますぅ?もののけじゃないのよ!もののけじゃあ!…手紙の才能ないんじゃないの!?」
意味不明の言葉に慣れているのか、広瀬は淡々とつっ込む、
「しらん、アンテナだ!インスピレーションだ!あの馬鹿なら、こんな事を書くはずだ!!」
どうやら北川はあの馬鹿、おそらく『転校生』のやりそうな行動を言ったのだろう、
「馬鹿ね、そいつ!大アホね!!」
「そうだ!アホだ!大馬鹿だ!!」
ふたりのボルテージが最高潮に達する…そして!

「うがぁぁぁぁ!!! むきぃぃぃぃ!!!」
大声で吼えるふたり、こいつ等こそアホで馬鹿そのものである、

「あーつかれた…。」×2
ゲーム開始から約数時間でマジで息がピッタリハイテンション…もはやこれ以上何も言うまい
306愚痴と海と誰彼(3/5):04/05/16 15:50 ID:+qfv3cpC
「海だな…。」
「海ね…。」
野道を駆け抜けるとそこは海だった、波の音、一面の砂浜、夕焼け色の海、夕日を浴び佇むのはふたりだけ………ある意味絵になる、
「こう云う所は、プライベートで来たいものだな。」
「まったくね、何でこんなに綺麗なのかしら…。」
先ほど怒鳴りあっていたのが嘘のようだ、海の美しさがふたりの心を満たしたのだろうか…?
「これを見ていると、俺たちがちっぽけになる…。」
「当たり前よ、陸よりも海のほうが広いんだから…。」
ふたりの心の底から淡々と台詞が出てくる、まるで青春ドラマのワンシーンのようにも撮れる…。
「じゃあ、定番の奴を行きますか!」
夕日をバックに北川は広瀬に語りかける、対する広瀬も「うん」と首を縦に振る、

「あーいーざーわーの! ク ソ バ カ ヤ ロ ウ  ! ! ! ! ! ! ! ! 」

「なぁーなぁーせーの!  ウ  ○  コ  タ  レ  ! ! ! ! ! ! ! ! !」

ここには居ない『転校生』の名を大声でさけぶ、二人の叫び声は波音が消してくれる、半分は本気で、もう半分は冗談で、
ふたりは少しだけ良心が痛かったが、どうしても気分を落ち着かせたかった。

「あはははっ、スッキリした」
「まったくだ、本人の居ないのを理由に…。」


二人とも気分が楽になったようで、すっきりした顔をしている、いつの間にか砂浜に座りながら夕日が落ちるのを見ていた

307303:04/05/16 15:50 ID:v6H5To7K
しまった、ごめん書いてるうちに書き込まれてた、俺のは忘れてくれ。
308愚痴と海と誰彼(4/5):04/05/16 15:51 ID:+qfv3cpC
「ねえ…さっきの話の続きだけどさ…。」
海に沈む夕日を見ながら、広瀬は北川に話しかける、とても落ち着いた悲しげな表情でだ、
「先に死んで行くものと、あとに残されたもの、どっちが不幸かな?」

ふたりが組んだ矢先に提示報告が流れたのだ、僅か数時間のうちに11人、中には北川と広瀬の知人が含まれていた、
北川はゆっくりと立ち上がり掴んでいた砂を海に投げ付ける、投げ付けた砂は扇常に霧散して、パラパラと海に撒かれる、投げ終えると広瀬の下に戻る
「…どっちも…辛いな。」
北川はそう答えるしかなかった、死んでいった栞ちゃん、残された自分や美坂…。
「でもな…、広瀬が今、そう言うことを考えられることはとても大事だと思う…。」
死んでいった者がいるということは、殺した奴がいるという事、平気で人を殺せる奴にそんな考えは生まれない…。
309愚痴と海と誰彼(5/5):04/05/16 15:51 ID:+qfv3cpC
そろそろ、潮風が強くなるな…、とりあえず今晩はあそこで休もう…。」
北川は広瀬に手を貸し立ち上がらせる、向かう先は砂浜に立っている看板のついたプレハブ小屋、ペンキがはがれているが何かは解る…海の家だ。

「役に立つものあるかな?」
「あるだろ?海の家だしな、とりあえず夕飯たのむ。」
「任せといて!何処かの乙女よりもおいしい御飯作ってあげるわ!あんたも手伝ってよ!」
「おう!チーズ竹輪一つ作れなさそうな奴とは違うトコ、見せてやる!」

愚痴と夕御飯を出汁に世間話が弾む、僅か夕食分の未来だが、そこには希望があった。


【北川潤(30)   所持品 便座カバー、メリケン粉5キログラム×2】
【広瀬真紀(72) 所持品  メリケン粉5キログラム 『超』『魁』ジッポライター】
【海の家で必需品探しと夕御飯と一晩休む予定】
310302:04/05/16 15:58 ID:+qfv3cpC
>>303
>>307
俺こそ、ごめん…とても複雑な気分だ。
311名無しさんだよもん:04/05/16 16:08 ID:ejIgv99+
>>302は夕方、>>303は夜なのでその順番で読めば
矛盾は少なくなるかも。
312モニタールームの雑談1:04/05/16 16:21 ID:qFwreNF5
島を監視するためのモニタールーム、それは全てを総括する大モニタールームといくつかの小モニタールームからなる
ここはその小モニタールームのある一室
男があくびをしながらつまらなそうにモニターを監視している。と、不意に入り口のドアが開く
「あ、篁様お疲れ様です」
入ってきたのは篁だった。男は頭を下げながら挨拶をする
「何か変わった事はないか?」
「いえ、特に報告すべき事は特にありません」
「そうか、しかし奴等も何を考えているかわからない部分がいささか多い。何か変化がありしだいすぐ報告するようにしろ」
「了解しました。それと気になった点があるのですが」
「何だ?言ってみろ」
「支給品の中に奴等の所持品だったものからそのまま支給されている奴が数人いるのですが何かのミスだったのでしょうか?」
「ああ、それか。それは本来の【あたりの支給品】とは別に用意させた【あたりの支給品】だ」
「別のあたり…ですか」
「そうだ、ランダムに選ばれた数人には元の所持品から支給してある。奴等、やたらと物騒な物を持っていたからな、使い慣れた武器を支給されればかなりの成果をあげてくれると思ったのだがな…」
「そうだったのですか…」
「うむ」
313モニタールームの雑談2:04/05/16 16:22 ID:qFwreNF5
「でもあまり効果があがってないようですが…」
と、ここまで話し続けてきた篁の顔が急に凍りつく
「す、すみません、失言でした」
男が慌てて取り繕う。
「まあいい、本当の事だ。これならまだ全員に銃を配った方が面白かったかもしれんな。しかし組織の連中はあっさり終わることはお気に召さないらしい。難しいところだ…。」
しばし沈黙が続く
「話し込んでしまったな、監視のほうしっかりな」
「はい、わかりました」
と、篁が部屋を出て行く。そして歩きながら篁は考える
(このままダラダラ続けるのもつまらんな、何か企画するか…)
足音だけが妙に大きく響いていた…

【これにより自分の持ち物が支給されていてもある程度は許容されます】
【しかしあまりぶっちゃけすぎるのはご遠慮ください】
314檻の中で(1/2):04/05/16 16:41 ID:nVJG3rEc

 私たちの目の前で頭を打ち抜かれ、血塗れになって倒れていく男の人の姿が、
 私の心にどろりとへばり付いて離れません。
 私たちが住んでいた世界とはかけ離れた、敵意に満ちた空気。
 その手に武器を取り、憎みあい、殺し合う…
 こんな事のために、生まれてきたんじゃないのに。
 (助けて…助けてください…)

 スタートから約半日、リアン(99)はまだスタート地点付近にいた。
 ホールのすぐ裏手にある、少し背の高い草叢に隠れてじっと蹲っていた。
 誰にも見つからないように、誰にも殺されないように。
 
 今日初めて出会った人たちが、殺し合う必要がどこにあるんでしょう。
 名前も知らない人たちが、なんで奪い合わなければならないんでしょう。
 その時、スピーカーから男性の声が聞こえてきた。
 ホールの中で、同い年ぐらいの男の人を殺した、あの人の声が。
【…えしよう。死亡者は11名出ている。11番、太田…】
 つらつらと流れる放送をぼんやりと聞きながら、思考がまた沈んでいく。
(もう…こんなに人が死んでしまった…)
(帰りたいです…)
(あの街に…)
(姉さんがいて、結花さんがいて、泰久さんがいて、そして、健太郎さんが…)

 その瞬間、リアンの脳裏に浮かぶ一筋の記憶――
315檻の中で(2/2):04/05/16 16:42 ID:nVJG3rEc

「姉さん!」
 
 私は誰よりも頼りなく、しかし誰よりも頼もしい姉の姿を思い出していました。
 そうだ、どうしてそんな事に気づかなかったんでしょう。
 つい数時間前まで、私は姉さんと一緒に居たんです。
 さっきの放送に、姉さんの名前はありませんでした。
 今から探せば、逢えるかもしれません。
 ああ、なんで今までそのことを考えられなかったんでしょうか。
 私は、やっぱり弱いです。

 …だから、少しでも前を向かなければ。
 この悪意の檻の中から、牙を持たずに抜け出すために。

 あの人は、最後まで生き残れば願いを一つ叶えてくれると言いました。
 なら、帰ります。
 姉さんと一緒に帰って、あの街に帰ります。

 暫くして、リアンは草叢から這い出ると、
 支給されたバッグを右肩に背負い、立ち上がった。
 目の前には二つの道があった。
 森へ続く暗い獣道と、やや開けた街道。
(森の中は暗いから、よく見えないですよね…)
 一瞬迷った後、リアンは街道に沿って歩き出した。

 この時、リアンは初めてスタートラインに立った。
 迷いと戸惑いの同居した瞳のままで、ひとつかみの希望を道連れに。
 
【リアン(099)、所持品不明(未確認)】
【第一回放送終了後、街道沿いに歩き出す】

316再出発:04/05/16 16:46 ID:4x/skHM6
『〜どうか精励されたい。以上』
放送が終了する。
すばるはその中に自分と親しい人物がいないことに安堵の息を吐く。
「でも…よかったと素直に喜ぶわけにはいかないですの」
ねぇ、ウルトリィさん、とすばるは話しかけようとしたのだが、ウルトリィの姿を見て何も言えなくなってしまう。
「どうかなさいましたか?」
ウルトリィはあくまでも穏やかな笑顔をすばるに向けてはいる。
だが、その手がふるふると震えているのをすばるは見逃さなかった…無理をしているのは明白だ。

すばるは自分の配慮が足りなかったと後悔する、だがそれを口に出すのは野暮というものだ。
それこそ心遣いを無駄にさせてしまう。
「そ、それよりも荷物のチェックですの」
慌てて話題を転換させようとするすばる、そんなすばるの様子を見て、この子は本当にいい子ねと
ウルトリィは少し救われた気分になるのだった。

まずは自分の荷物をチェックするすばる、中から出てきたのは黒光りする2本の金属棒だった。
棒の先端近くに取っ手がついている。
「トンファーですの」
すばるは目を輝かせてトンファーを装着すると、その場でポーズを決めてみせる。
見た目は地味だがトンファーは攻防一体の優れた武具だ、これからの戦いにおいてきっと役に立つに違いない。
317再出発(改訂):04/05/16 16:48 ID:4x/skHM6
『〜どうか精励されたい。以上』
放送が終了する。
すばるはその中に自分と親しい人物がいないことに安堵の息を吐く。
「でも…よかったと素直に喜ぶわけにはいかないですの」
ねぇ、ウルトリィさん、とすばるは話しかけようとしたのだが、ウルトリィの姿を見て何も言えなくなってしまう。
「どうかなさいましたか?」
ウルトリィはあくまでも穏やかな笑顔をすばるに向けてはいる。
だが、その手がふるふると震えているのをすばるは見逃さなかった…無理をしているのは明白だ。

すばるは自分の配慮が足りなかったと後悔する、だがそれを口に出すのは野暮というものだ。
それこそ心遣いを無駄にさせてしまう。
「そ、それよりも荷物のチェックですの」
慌てて話題を転換させようとするすばる、そんなすばるの様子を見て、この子は本当にいい子ねと
ウルトリィは少し救われた気分になるのだった。
318再出発(改訂):04/05/16 16:50 ID:4x/skHM6
ウルトリィの支給品は掌サイズの一見すると携帯テレビのような機械だった、
説明書には首輪探知システムと書いてある。
説明によると画面中心の矢印が自分で、その他の光が他の参加者の現在位置なのだそうだ。
GPS機能も搭載しているらしく、周囲の詳細な地形データも画面に映し出されている。

「いい武器ですの、これで人探しが楽になるですの」
やや困惑したままのウルトリィの肩に手をやり、すばるは元気付けるように声を出す。

と、その時だった。自分たちの北側、索敵範囲ギリギリの個所で2つあった光が1つ消えた…
おそらく誰かが死んだ…いや殺されたのだ、殺したであろう奴はそのまま北東に向かっている。
今この周辺に確認できる光は3つだ。3つとも現在は動きを止めているようだが、
全て自分らの北に位置している、今の状況で自分たちからコンタクトを取るのは危険なように思える。
これでは南に向かう以外に手は無い。
すばるとウルトリィはとりあえず南へと向かうことにした。

【御影すばる 所持品グレネード 残り2個 (殺傷力は無いがスタン効果とチャフ効果を合わせ持つ)】
【ウルトリィ  所持品首輪探知システム】
319名無しさんだよもん:04/05/16 16:52 ID:AEuOVm7I
「ん…浩之…ちゃん?」
目覚めた少女は自分をヒロユキと呼んだ。
「違う。俺は亮。松浦亮だ。あなたの名前は?」
「…え、あ、神岸あかりです」
「率直に聞く。神岸さん、あなたはこの殺しあいに乗っているのか?」
「…いいえ」
「俺もだ。あなたに危害を加えるつもりはない。時間はあるか?話がしたい」
「…はい」
(意外と落ち着いているな。よかった)
亮は話の主導権を握るため、珍しく積極的に話をした。
あかりはこのどこか浩之に似た青年を敵として認識することはなかった。寧ろ彼の落ち着いた雰囲気から安心すら感じていた。
「まずは自己紹介からだ。二度目になるが名前は松浦亮。亮でいい。普通の高校生だと思っていい。
ここには友人と知人が何名か来ているようだ。人目に付きたくないから森に来た。あなたに出会うまでにほかの人とは会っていないが、気が付いていないだけかもしれない」
(普通の高校生…ではないがこの島では普通なはずだ)
「えっと、あのっあかりでいいです。普通の高校生です。友人がたくさん来てます。わたしも初めて人に出会いました…」
(次に何を言えばいいんだろうか?聞きたいことに誘導していかないと)
無口な亮と比較的おとなしいあかりでは会話が続かなかった。
(こんなとき修二か春秋がいてくれたら…)
そして思いだす。先ほどの感覚。修二は…。
「あのっ、それ、何ですか?亮さん」
あかりも会話が途切れるのがつらかった。だから、亮が持っているものについて尋ねた。
「?、ああこれか」
それはあかりには自転車のギアを取り外しフレームをつけただけにしか見えなかった。
亮は自分の分かる範囲でそれの説明をした。
320名無しさんだよもん:04/05/16 16:54 ID:AEuOVm7I
・武器であること
・スイッチを押すとギアが高速回転し、発射されること
・ギアは大中小の三つあること
・発射まで若干時間がかかること
・ギアは発射してもはめ直せばまた使えること
・充電用のケーブルが付いていたので電動であると思われること
・おそらく近距離からでも遠距離からでも戦えること
・自分の力なら楽に扱えること
・両手が塞がるが持ちやすく、ねらいもつけやすいこと
・腕を切断できるくらいの殺傷能力があると思われること

そして、
「かといってこれで殺人をするつもりはない」
と言った。
あかりは息を吐いた。
「…本当に殺人用の武器が支給されているんですね…」
「ああ。実際少なくとももう11人も死んでいる」
「えっ、なんでそんなことがわかるんですか?」
「結構前に放送があった。聞いてないようだな。死んだのは…」
亮は暗記していた11人の名前を伝えた。あかりの表情に変化がないことから友人は含まれていなかったことが想像できる。
「待ってください。鞄にメモがありました。書いておきましょう」
亮の鞄には筆記用具は入っていなかった。あかりが全員の名前を書き終えると亮は聞いた。
「鞄に入っていたものはなんだったんだ?」
「このメモとペンとそれと、木彫りのクマとパンと水です」
「む」
(ハズレか…)
気が付けばもう日が暮れていた。
「寝床を探さないといけないな」
この森には嫌な雰囲気が漂っている。本当はもう少し早く出たかったが仕方がない。
「はい。あっ、あの。一緒に行ってもいいですか?」
「勿論。仲間と行動したほうがいいに決まっている。さぁ、行こう……あかり」
立ち上がり、あかりの手をとる。あかりも握り返す。片手には木彫りの熊。笑顔だった。
321名無しさんだよもん:04/05/16 16:54 ID:AEuOVm7I
結局聞けなかった。ヒロユキとは誰なのか。
それだけじゃない…修二、俺は迷っている。俺には目的がない。それが考えた答え。
このゲームで俺はなにができる?あかりのために、自分のために。
エゴに向かいつぶやいた。

【84松浦亮 嫌な雰囲気を感じ森を出ることに】
【24神岸あかり 支給品:筆記用具、木彫りの熊(鮭をくわえている) 元気になる、後遺症はない、亮と行動を共に】
【日が暮れている】
322聡明な妹 ◆PcA2YRpN02 :04/05/16 16:59 ID:Csegnwh+
「うう・・・姉さん・・・会いたいよぅ・・・」

嘆きに近いような呟きをしながら民家群落を歩いているのはリアン(99)である。
いつもなら姉の居場所はどれだけ離れていても感じることが出来た。
でも今はどんなに精神を集中させても感じることが出来ない。
姉を感じることが出来ない。 それはリアンにとって耐え難いものなのだ。
事実、姉がこっちの世界にやってきてたった一日で彼女を追いかけてやってきたのだ。


既に開始から6時間以上が経過し、夕日は先ほど沈んだ。
歩くのは苦にならない。
二週間もの間、南極や砂漠を歩き詰めだったこともある。
数時間前に聞いた放送では姉はまだ呼ばれていない。
それなら、必ず見つけられるはず。

腰かけるのに最適な場所を見つけ、バッグを開ける。
中から出てきたのはMealと印刷された箱。
開けてみると総計12個のパックや缶詰。
「えっと、グリルドビーフステーキ・・・ こっちはボンレスポークチョップ・・・」
そう、それは米軍の最新式レーションだったのだ。
更に箱をよく調べると、ビスケットやガム、チョコレートにクラッカーなどの食料に加え、
缶切が3つに12本綴りの紙マッチが3つ。水を沸騰させるためのものだろうか小型のガスコンロなども入っている。
それらを元通りバッグに収めると私はつかの間の休息を終え、再び歩き始めた。 さまざまなことを考えながら。
姉のこと、ゲームのこと、能力の封印のこと・・・
思考が封印のところに差し掛かったとき、不意に足が止まった。
323 ◆PcA2YRpN02 :04/05/16 17:00 ID:Csegnwh+
(電波・プロクシ・不可視の力・法術・体術・・・そして、魔法。)
(どういう力かは判らないけど様々な能力を持つ人々が存在し、その力を封じられている。 それもこの島全域で。)
(仮に魔法でそのような封印を実行しようとすれば巨大な魔方陣と強力な媒体。そして3桁の術者が必要になることは疑いない。)
(それなら術体系が違い、そのレベルが遥かに高いとしても封印の中心はこの島の何処かにあるに違いない)
(姉さんを探さないといけない。 でもゲームに逆らう誰かにこのことを伝えなければいけない。)
新たに生まれた一つの目的。
それを胸に秘めリアンは再び歩き出した。



彼女は聡明である。
だが自身のことで唯一理解していないところがある。
何故、一日後にグエンディーナを出てスフィーの元に辿り着いたのが二週間後だったのか。
そう、彼女は方向音痴なのである。



【リアンの配布品:米軍用レーション(12食分)・ビスケット類の食料・缶切3つ・12本綴りの紙マッチ3つ小型ガスコンロ】
【行動指針:姉を探す・ゲームの破壊者に会う】


【残り83人】
324かりそめ:04/05/16 17:05 ID:wQcuQf5O
 氷上シュンは、完全に迷っていた。いい年して、迷子になっていたのである。
 いや、この薄暗い森の中に入ってしまった以上、こうなることは予測できないことでもなかった。
「……参ったね」
 数分、数時間おきに、殺し合いが確かに進行している。
 その証拠として、何度となく絶叫や銃声が響き渡っている。
 それなのに、いつまで経ってもシュンは誰にも合わないままで、いまや日が沈もうとしていた。
「ひょっとしてもう、この世の人間じゃなかったりしてね。ははは」
 笑えない、冗談だった。
 しかし実際には、気が付いていないだけで、既に遭遇していたのである。
 捨てる神というべきか拾う神というべきか、望む望まぬは別として。

「……うわ、キショ。笑ろとるで、あの兄ちゃん」
「正気じゃないのかも。あのコ、危ない人なのかなー」
 八重歯の方言女と、ショートカットのメイド。
 神尾晴子と麻生明日菜が、シュンの接近をいち早く察知して、藪の中に隠れていたのだ。
「なあなあ。アンタの武器、なんやった?」
 晴子は自分の千枚通しを弄びながら、メイド服の女性、明日菜に尋ねた。
「いやー、アタシも晴子さんと同じようなもんですよー」
 ひょい、とナイフを構える。配給されたものは、ナイフとケーキだった。
「あちゃー、ビッとせんなあ」
「いまひとつ、ですねー」
(なんや、使えん奴っちゃな)
(ったく、使えないオバさんね)
 互いに勝手な独り言を、心の中で呟いていた。
 
325かりそめ:04/05/16 17:08 ID:wQcuQf5O
「……ところでアンタな、もし襲われたらどうする? 一応アンタの意見も聞いときたいんやわ」
 明日菜は迷うことなく、即座に答える。
 両者とも、このあたりの見解は、恐ろしく似通っているのだ。
「できる限り、戦うべきかなって。ホラ、せっかく二人生き残れますし。あはは」
「あー、ウチも賛成や。二人セーフなんやし、他はどうでもええよなあ。はははー」
 乾いた笑いがふたつ、極めて地味に湧き上がる。
(あなたと二人じゃないですけどね)
(アンタも、どうでもええんやけどな)
 一見爽やかだが、その実じっとりとした視線が交差していた。
「ぶっちゃけ、こっちから攻撃してもええよなあ?」
「あ、やっぱりそう思います? 晴子さん平和主義だったら、どうしようかと思っちゃいました」
(この小娘、ノリノリやな)
(このオバさん、とうぶん利用できそうね)
 どこまでも続く、暗黒思考が、そこにあった。 

「た、助けて!」
 どうにもダウン方向へとはまっていくシュンの思考を、女性の声が打ち破った。
 ブラウスをはだけたメイド服の女性が、駆け寄ってくる。
 一瞬銃を構えようかとも思ったが、武器どころか荷物も何も持ってい彼女に対しては、不要と思われた。
「どうしたのかな?」
「あ、あっちの藪の中に!」
 そう言いながら、女性はシュンを盾にするように、後へ隠れた。
(うん、これだ。僕はこういう出会いを求めてたんだ)
 誰かの役に立つ。彼女を助けることが出来たのなら、自分の命の価値も、いくらか上がるのではないだろうか。
 そう考えて、UZIを構える。
「あのあたりかい?」
 何かがガサリと動いた気がした。そのあたりへ、銃口を向けてみる。
 確実に何かがいる。彼女の言葉に嘘はない、そう考えて茂みに集中する。
(……誰だか知らないけど、悪いね)
 引き金を、引いた。UZIの弾丸が、茂みに隠れた何者かを蜂の巣にする──
 
326かりそめ:04/05/16 17:11 ID:wQcuQf5O
 ──はずだった。
 正しくは引き金を引こうと思った瞬間、首筋に強烈な熱を感じ、脱力していたのだ。
 のろのろと、振り向く。もちろんそこには、助けたはずの彼女が立っている。
 笑みを、浮かべていた。感謝の笑みだろうか。
 満面の笑みを、シュンにむけていた。感謝ではないと、すぐに分かった。
 慈愛の欠片もない、けれど心の底から楽しそうな、不思議な、不可解な笑みだった。
「んー、危険なのは、むしろこっちかなー? なんてねー?」
 明日菜が笑う。
 がさり、と茂みから晴子が立ち上がり、UZIを拾いながら苦笑する。
「ウチが明日菜ちゃんを襲うわけないしなぁ」
「ゴメンねー、キミー?」
 服を整えながら、明日菜はシュンの死体へ語りかけた。
 だが、あくまでついでの事であり、返り血が付いてないか、念入りにチェックする方が重要だった。

 だからというわけではないが、もちろん、シュンの返事はなかった。


【002 麻生明日菜 ナイフ ケーキ】
【022 神尾晴子 千枚通し マイクロUZI(残弾80)】
【二人は相変わらず】

【070 氷上シュン 死亡】
【残り82人】
327覚醒しのぶ:04/05/16 17:14 ID:GUNLljuM
榊しのぶはおびえていた。
ブローニングM1910を握り締め、ただ街道沿いの草むらで震えている
(ぶざまね…)
透子を守るといっておきながらこのざまだ。
これでは到底守るどころか自分が生き残ることすらできやしない。
「わたし…もうだめかも…」
何より心が疲れきっていたいつもの勝気な性格もここでは何の価値も無い
価値があるの武器その結果はは生か死この世界に嫌気が差していた

そこに定時放送がかかる

『参加者の諸君、ご苦労。なかなかに盛況のようで、私も胸を撫で下ろしている。
 さて、ここまでの経過をお伝えしよう。
 死亡者は11名出ている。』
(もうそんなに…?)
『11番、太田香奈子。19番、柏木千鶴。32番、霧島佳乃。41番、サクヤ。44番、芝浦八重。 51番……』
(……)
『…以上の11名。生存者は89名だ。
 勝利者への報酬は絶対である。どうか精励されたい。以上』
(………)
328死のイメージ:04/05/16 17:14 ID:Z1eUuQDO
歩いている。
「はぁ、もっと持病持ちに優しい地形にしてくれなかったものかな…」
氷上シュン(70)は先ほど聞こえた銃声の方向に向かって歩いていた。
舗装された道、そうでなくとも人が通れる道ならばそんなことは考えなかったろう。
「獣道なんて歩いたこと無いよ…」
3分歩けば服が何かに引っかかる、木の根につまずく。
何度となくそれを繰り返し、又歩き出そうとした時、
『参加者の諸君、ご苦労』
どこからか聞き覚えのある声が聞こえてくる。
あいつだ、スタート地点に居た「殺し合いをしろ」と言った篁とかいう奴だ。
「なんだい、今までに死んだ人でも教えてくれるのかい?」
答えが帰ってくるはずも無いがそう問いかける。
『さて、ここまでの経過をお伝えしよう。 死亡者は11名出ている。』
答えは帰ってきた。
『11番、太田香奈子。19番、柏木千鶴。32番、霧島佳乃。
 41番、サクヤ。44番、芝浦八重。 51番、住井護。…』
住井護。
その名前は聞いたことがある気がした
確か彼の友達だったはずだ。
『58番、月宮あゆ。69番、柊勝平。76番、藤林椋。88番、美坂栞。96番、柚木詩子。
 以上の11名。生存者は89名だ。』
柚木詩子。
この名前も聞いたことがある気がした 。
やはり彼の友達だったはずだ。
『勝利者への報酬は絶対である。どうか精励されたい。以上』
329覚醒しのぶ:04/05/16 17:15 ID:GUNLljuM
 放送が終わり静粛の中、しのぶの中に新しい感情が生まれていた

 (そうかヒトって簡単に死ぬんだ。だったら)


「守るより奪ったほうが早いじゃない」
「そうよ、透子が危なくなる前にあたしがみんな殺せばいいんだわ」
「ははははは!何でこんな簡単なこと思いつかなかったんだろう」
「そうよみんなみんな奪ってしまえばいいんだわ!そして最後に透子も私のものにしちゃえば完璧じゃな

い!」
「あーあ、なんでこんなこと気づかなかったのかしら、バカみたい!」


狂気の顔に笑みを浮かべた口をゆがめ天を仰ぐ

そこに道の脇を恐る恐る歩く女性が目に入ってくる
あまりにも無防備な姿で
そしてしのぶに、もはやためらいは無かった
330328:04/05/16 17:15 ID:Z1eUuQDO
かぶったすまぬ
俺のはスルーテで・・・
331覚醒しのぶ:04/05/16 17:16 ID:GUNLljuM
(こいつは銃をつかうのはもったいないわね)
懐にあった何度も自分を傷つけたナイフつかむ。
今の今まで気づかなかったがこれはポケットに残っていた。


しのぶは、当然のように彼女に近づいていく。正面から

「…あらっ」
No99リアンにとって不幸だったのはまだ彼女はこの現実を正しく認識していなかったことだった

お互い無防備に近づいていく 
「こんにちは」
しのぶが言う
「こんにち」


リアンは答えることはできなかった
332 ◆PcA2YRpN02 :04/05/16 17:16 ID:Csegnwh+
322-323はスルーでお願いします。
333覚醒しのぶ:04/05/16 17:17 ID:GUNLljuM
血の海の中しのぶはリアンのリュックを改めていた
「ふーん食料か、これは使えるわね。うまく使えば持久戦に持ち込める」

バックいっぱいの食料を背中に担ぎ死体に見向きもせず歩き始めた

「ふふっまっててね透子。あなたを必ず私のものにして見せるわ」
晴れ晴れとしかし濁った目で彼女は進み始めた


修羅の道を



【39榊しのぶ装備:ブローニングM1910(残弾0発、予備マガジン一つ)・ナイフ・米軍用レーション
         (12食分)・ビスケット類の食料・缶切3つ・12本綴りの紙マッチ3つ小型ガスコンロ】
【99リアン、腹部を刺され死亡】
【しのぶの行動指針:透子以外の全員の殺害】
【夜になってきました】
【残り81人】
334覚醒しのぶ:04/05/16 17:19 ID:GUNLljuM
>>332
うわっやば俺のせいでかなりこんがらがってしまった
322−323の設定入れてしまいました
どうしましょうこのまま?
335 ◆48.qEur9RA :04/05/16 17:35 ID:WwlHPgJz
濡れる地面

ハクオロは珍しく焦っていた。
夜になりさらに東に向かって移動を開始したのだが、程なく雨が降り始め視界が遮られ
てしまい10M先の様子でさえもまともに判断することの出来ないほどの状態であった
(厄介だな・・・視界はともかく雨音で気配を探ることすらできん・・・
この状態で武器を持った誰かに遭遇でもしたら逃げ切れる可能性は低い・・・
それに、長時間雨に当たっていると余計な体力を消耗してしまう・・・)
「ねえねえ」
「む・・・どうした?」
ハクオロが背中にユズハを背負っているのでことみが先行していたのだが
突然立ち止まり、右方向を指差していた
「向こうに・・・何か建物が見えるよ」
ことみの指差した方向は闇に包まれ殆ど何も見えなかったが
良く目を凝らしてみると確かに小さな小屋が建っていたのだった
(ふむ・・・あの小屋なら雨宿りも出来る上に周りへの警戒も可能だろう。しかし・・・
中に人が居ないとも限らない・・・もし誰か居るとしたら無闇に近づくのは危険すぎるな)
「ことみ・・・少しの間だけユズハを見ていてもらえるか?私は少し調べてくるとしよう」
背負っていたユズハを雨の当たらない木の下に降ろすとことみに預けていた
木の棒を構え、気配を隠しながらも急ぎ足で小屋の様子を確かめに行った
(特に誰かが居た形跡も無いか・・・ユズハの事も考えるとここで雨宿りするのも手だな)
「よし、あの小屋で雨宿りをするぞ」
二人の下に急いで戻ると再びユズハを背負い再び小屋に向かって歩き出した
「とりあえず・・・何か使えそうなものが無いか探して来る。二人は休んでていいぞ」
雨で全身ずぶ濡れになっている二人にそう伝えるとハクオロは小屋の探索に取り掛かった

【ハクオロ 木の棒 小屋の探索開始】
【ユズハ 小屋で休息 持ち物不明】
【ことみ 小屋で休息 持ち物無し】
【雨が降り始めました(午前1時過ぎ)】
336名無しさんだよもん:04/05/16 17:43 ID:RZN4+q/x
>>334
そのままイケると思いますよ。
本来のリアンの所持品も不明でしたし。

スタートラインに立った矢先の出来事で、ちょっと可哀相ですけどねw
337名無しさんだよもん:04/05/16 17:54 ID:20mO0CsN
>>316-318
スルーでお願いします。
338:04/05/16 17:55 ID:20mO0CsN
『〜どうか精励されたい。以上』
放送が終了する。
すばるはその中に自分と親しい人物がいないことに安堵の息を吐く。
「でも…よかったと素直に喜ぶわけにはいかないですの」
ねぇ、ウルトリィさん、とすばるは話しかけようとしたのだが、ウルトリィの姿を見て何も言えなくなってしまう。
「どうかなさいましたか?」
ウルトリィはあくまでも穏やかな笑顔をすばるに向けてはいる。
だが、その手がふるふると震えているのをすばるは見逃さなかった…無理をしているのは明白だ。

すばるは自分の配慮が足りなかったと後悔する、だがそれを口に出すのは野暮というものだ。
それこそ心遣いを無駄にさせてしまう。
「そ、それよりも荷物のチェックですの」
慌てて話題を転換させようとするすばる、そんなすばるの様子を見て、この子は本当にいい子ねと
ウルトリィは少し救われた気分になるのだった。

ウルトリィの支給品は黒光りする2本の金属棒だった、棒の先端近くに取っ手がついている。
それはトンファーと言われる近接用の武器だった。
ウルトリィは少し考えた後に、その棒をすばるへと手渡す。
「いいんですの?」
「私は体術には不得手でして、貴方の方が役立てていただけるはずです」
すばるは目を輝かせてトンファーを装着すると、その場でポーズを決めてみせる。
見た目は地味だがトンファーは攻防一体の優れた武具だ、これからの戦いにおいてきっと役に立つに違いない。
339:04/05/16 17:59 ID:20mO0CsN
「あの…これからどうするかですけれど、私に心当たりがあるのですが」
ウルトリィの脳裏に浮かんでいたのは雄々しき仮面の男、いわずと知れたハクオロの姿だった。
彼ならばきっとこんな状況下にあったとしても希望を失うことなく、正しい道を選んでいるに違いない。
ウルトリィはハクオロがいかなる人物かをすばるへと語っていく、いやハクオロだけではなく
共に死線をくぐりぬけた戦友たちについても。
だが、やはり心細いのだろう、彼らのことを語るその顔にはいつの間にか一筋の涙が伝っていた。

死と隣り合わせの乱世に生きる自分たちにとって、死は日常…いずれ平等に振りかかるものだと覚悟していた。
だがそれでも辛いものは辛い…もしこれがカミュや…ハクオロだったとしたら。
「ごめんなさい…私の方が多分年上なのに…」
ぽろぽろと涙を地面に落とすウルトリィ、そんなウルトリィをそっと抱きしめるすばる。
「いいんですの…泣きたいときに泣けない人はきっと、かわいそうな人ですの…」

…ほんの少しだけいつもと立場が逆という奇妙な違和感を感じながら。
すばるの腕の中で静かに嗚咽を続けるウルトリィ。
だが、その涙の奥にはこれから先、どれほど辛いことがあろうとも、
もう2度と涙は見せまいと思う、強い意志の光もまた宿っていた。

【御影すばる 所持品 トンファー グレネード 残り2個 (殺傷力は無いがスタン効果とチャフ効果を合わせ持つ)】
【ウルトリィ  所持品 無し (支給品のトンファーはすばるに渡してます)】
340欠けた家族:04/05/16 18:03 ID:nZJsOGYi
古河秋生(79)は妻である古河早苗(80)とともに森の中を歩きながら、
まだ、合流できていない娘、古河渚(81)のこと考えていた。
(とりあえず、早苗とは合流できた。
問題は渚だが、放送を聞く限りまだ生きてはいるようだ。)
「秋生さん、渚のことを考えていますね。」
「えっ。」
妻を不安にさせまいと明るく振舞っていた秋生は、
不意に妻からかけられた言葉に驚いてしまった。
「やっぱりそうなんですね。」
「ああ。」
「大丈夫ですよ。あの子は強い子になりました。
絶対にまだ生きていますよ。きっと、合流できますよ。」
「ああ、そうだな。」
「もう、夜になってしまいましたし、そろそろ食事にしましょう。」
そういうと、早苗は近くの木の下に座り込んだ。
(結局、早苗に励まされちまったな。)
そう考えながら秋生は早苗のもとに向かった。
341みんなと握手:04/05/16 18:04 ID:Z59SUXLY
二人はもう仲良しになってた。
いいなあ。

「……おい、その目はなんだよ」
「は? この世がうざいと思ってるくせに何も変える勇気も無い人生だりー君を見つめる価値なんてないわよ」

「にはは」

「……んだよ。その寸評は」
「第一印象そのままを言葉にしただけよ」

「にははは」

「……殺すぞ、てめえ」
「ヤクザの事務所の中でも、そういう言葉を言えたら尊敬してあげるわ」

「にはははは」

「調子ぶっこいてんじゃねえぇ女ぁ!」
「あら、もう逆ギレ?」

「にははははははははは」
「「うるさーい!!!!!!!!!!」」
342名無しさんだよもん:04/05/16 18:04 ID:Z59SUXLY
わりこみ失礼。先にどうぞ。
343第1の被害者:04/05/16 18:05 ID:nZJsOGYi
【欠けた家族の続き】

「お前と渚は絶対に俺が守る。」
早苗のもとにつくとこのゲームに巻き込まれて
2度目の言葉を秋生は言った。
「はい、お願いしますね。」
それに対し、早苗も前回と同じ言葉を言い、微笑んだ。
「さあ、食事にしましょう。秋生さん、バッグを貸してください。」
「ああ。」
秋生は妻と合流してから肩にかけていた2人分のバッグを下ろした。
「あっ、秋生さん。ラッキーですよ。」
「秋生さんのバッグに私のパンが入っています。」
「えっ。」
(しまった。隠しといたの忘れてバッグを渡しちまった。)
「パン以外が保存の効くもののようですし、今晩はこれを食べましょう。」
「はい、秋生さん。このパンは今朝作った自信作なんです。」
そういうと早苗は秋生の口になんと形容すればわからない色したパンを
詰め込んだ。
「むぐぅ。」
秋生はそのパンの味に意識を失いながら、
(確かに、これは武器だな。しかし、第1の被害者が俺とは。)
と考えていた。
普通の人なら口に入れただけで必殺のパンだがさすがは夫、
ものを考える余裕があった。
「あら、秋生さん。もう寝てしまったですか。」
「仕方ありません。少ししたら私と交代してくださいね。」

【古河秋生(79) 就寝(失神)】
【夜九時ごろ】
344第1の被害者:04/05/16 18:08 ID:nZJsOGYi
追加
【古河秋生(79) 所持品:古河早苗特製パン残り4個
早苗のバッグ、所持品はすべて秋生が預かっている。】
345みんなと握手:04/05/16 18:09 ID:Z59SUXLY
木田はむかついて観鈴に蹴りを入れようとした。
が、その行動は沙耶の視線に気が付いてしまい中断された。
“女の子相手に暴力?”
みたいな目で睨まれると、さすがの木田もストップさぜるを得ない。

沙耶の方も今までの自分が情緒不安定だったことを反省する。
何故、こんなところで激しい痴話喧嘩を始めてしまったのだろう。
木田を見てると、どうも心がいらついてしょうがない。
が、その余波で観鈴にも当たってしまったのは狭量としか言いようが無い。

そんな時、観鈴からとんでもない提案が出された。

「三人で握手しようよ、ね?」

“何言ってんだ、てめえ?”
“何言ってるの、アンタ?”

二人ともそう叫びたくなったが、
目に見えない観鈴の有無を言わせぬパワーに押し出され、
握手をすることになってしまった。
346みんなと握手:04/05/16 18:11 ID:Z59SUXLY
「……」
「……」
「さ、握手」

木田と沙耶の出番になったが、一向に握手しない。
二人とも手を差し出したまま震えている。

「……握手」

10センチ近づいた。
あと、20センチ。

「がお……してほしいな」

10センチ近づいた。
あと、10センチ

「さ、握手!」

ボカッ!!

「あ、ご、ごめん。大丈夫!?」
「やべぇマジでやっちまった! 大丈夫か!?」

観鈴は幸せそうな顔で天を見ていた。

【神尾観鈴 倒れる】
347彼女なりの戦い方  ◆COFFEEsuS. :04/05/16 18:16 ID:+ahVfHGL
「で、アルちゃんはお父さんとお姉ちゃんを捜しているのね」
「ん、ユズっちとカミュち〜とムックルとガチャタラも」
 巻き込まれた知り合いがそんなに……はるかは感情を制御しようとして失敗し、一瞬だけ顔を曇らせた。
 幸い、アルルゥははるかのかすかな表情の変化には気づかなかった。それよりも目の前にある
『ほっとみるくてぃ』が美味しい。あとでおね〜ちゃんに作ってもらおう、そう思った。
「……ん〜」
「ん?」
 でもそれより先に確認しなければならないことが一つ。アルルゥはそれを口に出した。
「おに〜ちゃん? おね〜ちゃん?」
 はるか、一瞬目をぱちくり。ついで苦笑。確かにわたしは髪も短いし胸も無いけど、正面から突っ込みを
受けたのは初めてだ。子供って時々残酷だよね、と変な感慨を抱きながらも、
「わたしはお姉ちゃんだよ」
「ん。はるかおね〜ちゃん」
 見知らぬ子に懐かれるのは悪い気はしなかった。
 わたしを見る兄さんは、ひょっとしたらこんな気分だったのだろうか。はるかはふとそんな事を思った。

 アルルゥが本来ならかなり人見知りする性格であることをはるかは知らない。
 そのアルルゥがはるかをいきなり信じた理由は、実を言えばおなかペコペコの所に出してくれたシチューが
とても美味しかったからなのだが、それはそれで別に問題なかった。
348彼女なりの戦い方  ◆COFFEEsuS. :04/05/16 18:16 ID:+ahVfHGL
「じゃ、今日はもう暗いから、明日になったら探そうか」
「ん」
 はるかの決断はあっけなかった。
 わたしは冬弥と彰を捜す。この子はお姉ちゃんやお父さん達を捜す。一緒に行動しても問題はないはず。
それに、こんな小さい子を一人で放り出すわけにもいかないし。
(いざとなったら、わたしが盾になってあげられるしね)
 そういう決断が出来てしまう事は、果たして強さなのか弱さなのか。はるかには分からない。分かるのは、
そういう形でしか自分は誰かを守ることが出来ないという現実だけだ。
 ……誰かを守る、か。そんなこと、考えるの初めてだなあ。守って欲しい時に守ってもらえなかった記憶は
あるけど。
 はるかはアルルゥを見つめた。この島で何が起きているのか、多分まだ理解していない幼い少女。犬耳と
尻尾がなんとも不思議な感じ。遺伝子的にはどう見てもホモ・サピエンスではないけど、紛れもない”人間”。
殺し合いに気を取られていたら考える余裕など無かっただろうけど、この子はどこから来たのだろう。
少なくともわたしたちが住んでいた地球上では無い。と言うことは……
「彰にまかせようっと」
 あっさり思考停止した。誰にでも得手不得手はあり、こういう事は彰の得意分野だった。
「だから早く見つけないとね……」
「ん?」
「ん、こっちの事」
「ん」
349彼女なりの戦い方  ◆COFFEEsuS. :04/05/16 18:17 ID:+ahVfHGL
 とりあえず、今やるべきことは他にあった。すなわち、
「アルちゃん、お風呂入ろっか」
「ん」
 疲れた体を休めること。
 何かの雑誌で読んだことがあった。曰く、自衛隊の隊員は寝ることも食べることも任務の一部。自分の
体調を維持し、精神状態を維持することは立派な作戦行動である。
 今の自分がなすべき事はそれだった。それはある意味とてつもなく辛いことだが、誰かがこれをやって
おかねばいつか全員が力尽きるのだ。
 それに、寝て目覚めたらただの夢でした、って可能性もあるし。

 ……はるか自身は気づいていなかったが。
 彼女は、希望も無ければ変化もなく、ただのんべんだらりと過ごしていただけの日々から、突然こんな
死と狂気と、謎と不思議に満ちた世界に放り込まれて。
 ひょっとしたら、この状況を楽しんでいるのかも知れなかった。殺人鬼達とは違う意味で。

【027河島はるかと004アルルゥの行動指針:お互いの知り合いを捜す】
【夜8時頃】
350すれ違い:04/05/16 18:24 ID:BBr2Ps08
 霜村功(45番)は呟いた。
「……やっぱ、ただのめかぶだよなぁ」
 自分の手に握られているめかぶを見つめ、思いっきりため息をつく。
「こいつで、どうやって戦えってんだよっ!!」
 頭に血が上り、めかぶを地面に叩きつけようとするがやめておく。
 めかぶも食べられないわけではない。
 一呼吸置いて、自分の身の振り方を考えてみた。
 彼がこのように先ほどとはうって変わって理性的に行動できているのは数時間前のことが発端である。

「ワイラビューーーーーーン!!」
 訳のわからない奇声を発しながら功は疾走する。
 よくもまあ、ここまで大きな声を出して誰にも気付かれなかったものだ。そこは賞賛に値する。
 そんな折だ、不意にやってくる、定時放送。
『11番、太田香奈子。19番、柏木……』
 その定時放送を聞いて、功は我に帰った。いや、我に返ったというよりは、現実に引き戻されたのだ。
『以上の11名。生存者は89名だ。勝利者への報酬は……』
 既にこの島から11人もの人間が消えている。
 流石にこれには、今までのおちゃらけた雰囲気を消すだけの重みがあった。
 木に寄りかかる。叫びながら走りっぱなしなので疲れたのだ。
 それから、じっくりと自分の今の状況について確認しだした。
351すれ違い:04/05/16 18:25 ID:BBr2Ps08
「あまり、楽観は出来ないみたいだよな」
 めかぶをバッグに押し込んでから考えてみた。
 自分はめかぶだったが、他の者は随分と役に立つ武器を手に入れたことだろう。
 11人も死傷者が出ている時点でそれは明らかだ。
 そんな奴らが真帆を殺そうとしたら……思っただけでも身の毛がよだつ。
「絶対に、俺が守ってやらないとなっ」
 そう言い切ってから功は歩き始める。日も傾いてきた。そろそろ安全な寝床を探さなければいけない。
 例え自分の武器がめかぶでも、体は健在だ。
 いざとなったら真帆の盾にもなれる。
「死ぬのなら、せめてお前の胸の中で……なーんてなっ!!」
 含み笑いを漏らしながら功は森を抜ける。
 状況は理解していてもそういった部分は変わっていないようだ。

 だが、功が行った道の逆方向、距離にして20メートルもない地点でのこと……。
「とりあえず、安全な場所を探そうよ詠美ちゃん。もう11人も死んじゃってるんだし……」
「まっ、あたしにかかれば誰が来たってだいじょーぶだけれどねっ!!」
 真帆と詠美は行く。放送を聞いても精一杯強がって。
 二人は功の方向とは逆方向に進んでいた。功はもちろんそれを知らない。

【霜村 功(45番) 森を抜ける】
【大場詠美(13番) 葉月真帆(68番) 森の奥のほうへ】
【時間は大体夕方頃】
352その行方 運命 ◆vkSUbcHrtA :04/05/16 18:39 ID:DHbx7hd4
 ――ボトッ……
 地に、カセットウォークマンが落下した。

 春原と芽衣がウォークマンを見つけたバッグの中――
 実は、その中で一つ、二人に確認されていない物があった。
 それは、『取扱説明書』と書かれた、一枚の紙。
 その下には、短い文章が書かれている。

 ――カセットを再生するウォークマン。中に入っているカセットは、最後まで再生すると爆発する――

 たったそれだけの、『説明』とも呼べない文章。
 それに気付かずかつ投げ飛ばした春原は、幸運であり、不運でもあった。

「…なんだろうね、これは」

【少年 カセットウォークマンを発見】
【カセットは最後まで再生すると爆発(機械本体はなにもない)】
353閑話休題 (ぴろーとーく):04/05/16 19:16 ID:cDSmfUNR
「む…」
夢を見ていたようだ
時々見る奇妙な夢
何か今までとは違うような気がしたが、まあどうでもいい。

外はだいぶ暗くなって、月明かりのみがあたりを照らしている。
少し雨が降っているようだ。
このまま二度寝をしようと思ったが、ふと右腕の重みに気がつく。
ああそうか、おれこいつと…
なにかくすぐったく、誇らしいような気分になる。
こいつとこんなことになるとは想像しなかったが、こんな状況だから深く考えまい。
それにこいつ意外と…
いつもと違った初々しく激しく求め合った行為を思い出し、思わず赤面する。
更に男の生理反応もカマをもたげてきた。

「…やっべ」
「なにが?」
「うお!!」
いつの間にかこちらを見ている杏、あせる俺。
「い、いやいやいやなんでもねーぞ。うん何でもねー」
「ふーん、まっいいけど」
杏は顔を俺の胸にうずめ、においをかぐ。
「ふふ、いいかんじ。ゆめじゃないんだね」
「…ああそうだな」
ロングの髪を手で梳きながら答える。
354閑話休題 (ぴろーとーく):04/05/16 19:16 ID:cDSmfUNR
「私ずっと好きだったから…こんなときに不謹慎だけどすごく幸せ」
「…」
「ね、キスしよ」
「おまえ…狙ってんのか?」
「?」
「そんな仕草されたら俺我慢できねーぞ」
「…あっ…そ、そうなんだ」
「…」
「…いいよ…もいっかいしよ」
「……大丈夫か?」
「うん、最初痛かったけど…終わりのほう良くなってきたし。それに…」
「…それに」
「…私も、朋也ともっとしたいかなーなんて」


夜はまだ続く

今はこの楽園のままで、目が覚めればそこは
戦場という名の地獄なのだから。


【14岡崎朋也 75藤林杏 固い絆からバカップルにクラスチェンジ】
【二人とも、さらにすこし疲労】
【夜も更けてきました】
【残り86人】
355閑話休題 (ぴろーとーく):04/05/16 19:27 ID:cDSmfUNR
>>354
訂正
【のこり81人】
356はじめの一歩:04/05/16 19:28 ID:a0BWlafs
訂正
【行動指針、非参加者の保護。】
        ↓
【行動指針、ゲームに乗らない者の保護。】
【南東に向かって移動。】


目汚しスマソ
357わからない果てに:04/05/16 19:44 ID:BBr2Ps08
「なら……私はもう行くわね」
 それだけ言い捨てて、須磨寺雪緒(50番)は藤井冬弥(73番)に背を向けた。
 雪緒はそのまま歩き出す。呆然とする冬弥だったが、慌てて雪緒を呼び止めた。
「ま、待ってくれよ!」
「……何?」
 雪緒は振り向いた。
 冬弥を見つめる。それは、寂しい目で。
「どうして、俺を殺さないんだ?」
「……死にたいの?」
「いや、そういうわけじゃない」
 独特の雰囲気に気圧される。
 怖さはあったが、冬弥は純粋に雪緒のことが気になた。
「ただ、俺を殺すつもりじゃないんなら、どうして俺に近づいてきたんだ?」
「……あなたは、この企画に参加させられるに当たって、自分の行く末を考えた?」
「え?」
 雪緒は呟いた。その瞳は明後日の方向を向いている。
「私は、多分勝ち残れない。無駄に抵抗しても苦しみが増すだけ。
 なら、いっそのこと、あなたに撃ちぬかれてもいいかなと思ってたけれど、それも叶わなかった」
 冬弥は震える自分の手を見つめた。
 拳銃が小刻みに振動し、焦点など定まりそうに無い。誰を狙おうが、当たりそうも無かった。
 雪緒はバッグから長細い箱を取り出した。
 その箱を丁寧に開けていく。箱の中には一振りの刀が納められていた。
「私の武器は、この草薙の剣。説明書では伝説の剣なんて書かれているけど、所詮は伝説。
 私の細い腕ではこんな大きな剣を振るうことも出来ない。使えたとしても今みたいに拳銃を突きつけられればそれで終わり。
 ただ邪魔なだけ。こんなものでどうやって勝ち残れるというのかしらね」
 雪緒はその剣を地面に投げ捨てた。
 カラン……と音を立てて剣は転がり、冬弥の足元に当たって止まった。
「君は、これから……どうするつもりなんだ?」
「さあ……。武器にも恵まれていなかったし、私に他人を殺す度胸があるわけでもない。
 ある程度時間がたったら、誰かに殺されるんじゃないかしら? 私よりも、生きる意志が強い人に」
「そうかよ……」
 冬弥は下を向く。それと同時に入る、放送の声。
358わからない果てに:04/05/16 19:46 ID:BBr2Ps08
『……番、霧島佳乃。41番、サクヤ。44番、芝浦八重……』
 二人は暫く黙って放送の声に集中した。そして、聞き終わってから雪緒がふっと笑った。
「……ね。この島には他人を蹴落としてでも生きようとする人たちが一杯。
 私なんて、到底生き残れないわ。そして……私すら殺せない、あなたも」
 その言葉に冬弥はカッとなった。
 すぐさま自分の拳銃を構え、雪緒の鼻先に突きつける。
「誰が……生き残れないって?」
「それは、あなたよ。あなたはまだ迷っている。私を撃つか、撃たないか。
 人を殺す覚悟が無くちゃ、生き残れない。そんなの当たり前でしょう? けど、あなたがここで躊躇い無く私を撃てば分からないけれど」
 挑発的に雪緒が冬弥に言葉で返した。
 冬弥は迷う。雪緒を撃つか、撃たないか。暫く硬直状態が続いた二人だが、やがて……。
「そう……だな。君の言うとおりだ。俺は生き残りたい……」
 ゆっくりと、引き金に手を伸ばす。
 それでも、雪緒は動かない。まるで、自分の人生を諦めきっているように。
 銃声が、辺りに鳴り響いた。
「……どういうつもり?」
「けど、俺も君と同じだ。人を殺す度胸なんて無い」
 冬弥の銃弾は、雪緒の頬を掠めただけだった。雪緒はその冬弥の行為をまたふっと笑う。
「あなたも、甘いのね。少し安心したわ。
 この島にも、まだ人間らしい人間が残っていたのね……その人が、生き残れるかは別として」
 雪緒はそう言い捨てて、冬弥に背を向けて歩き出した。
「お、おい。ちょっとぐらい待ってくれたっていいじゃないか」
 冬弥は慌てて雪緒が投げ捨てた剣を拾うとその後に続こうとする。
「……どうしてついてくるの?」
「行き先なんて俺の勝手だ、別に君が気にすることじゃないだろ?」
「……まぁ、構わないけれど。私についてきても、生き残れる確率なんてまったく増えないわよ?」
「そんなことを期待なんかしてないさ」
 冬弥は雪緒の後ろを着いて歩く。自分でもこの行動が理解できなかった。
 あえて言葉に出すとしたら、この少女に興味が出てきたから……である。

【須磨寺雪緒(50番) 藤井冬弥(73番)共に移動開始】
【雪緒の武器は草薙の剣 冬弥のグロッグ17 残弾数 12 時間は放送直後】
359世界一の:04/05/16 20:05 ID:kTLz8+lh
「暗くなってきたな…」
那須宗一(65)は一人ごちた。
「だいたい、本当に人いるのか?この島、誰にもあわなかっぞ」
…誰も返してはくれない。
「まぁ、十一人も死んでるんだから居るんだろうけどな」
…少し悲しくなってきた。
「隣に誰も居ないなんて久しぶりだな…気がつけばいっつも皐月、ゆかり、リサやら居て」

悪くない日常だった。
いっつもバカみたいに騒いで、楽しかった。
姉さんと一緒にいると安心した。七海といるのも面白かった

「センチメンタルにひたるなんて俺らしくもないな。」
フッと自分を鼻で笑った
「まだ、みんな生きているんだ。篁のジジイなんてぶっ倒してみんなで脱出してやる」
声に出して、意思を固めた。
「そうだ、俺は――、世界一のエージェント、NASTY BOYだ!」
よし、まずみんなを探そう、夜中まで起きていてもいいな。場合によっては、徹夜でも


【65 那須宗一 装備品 長弓(残り矢30隻)】
【目的 ルーツメンバー探しと篁撃破、脱出】
【9時ごろの話です】
360無力  ◆COFFEEsuS. :04/05/16 20:11 ID:+ahVfHGL
 三井寺月代(85)は途方に暮れていた。
 何も出来ない、何をすればいいのかも分からない。こうしてる間にもじわじわと涙が浮き出てくる。
 もう何時間も、彼女は民家から動いていなかった。
 正確には、動くわけに行かなかった。動けない理由がそこにいたから。
 目の前のベッドに横たわる少女、柏木初音(20)。苦しそうな呼吸音だけが部屋の中に響いていた。

 数時間前のそれは、何でもないティータイムのはずだった。
 初音のいるキッチンに戻ってみれば、美味しそうに湯気を上げる紅茶が2杯入っていた。喉がカラカラだっ
たので、特に気にすることなく
「おー、おいしそー」
 と、その一つに手を伸ばした。
 その時に気づくべきだったのか。初音ちゃんの顔が蒼白で、全身がかすかに震えていたことに。
「だめ!!」
「えっ?」
 初音ちゃんがあたしの手首を掴んでいた。驚くほど強い力で。
 思わず素っ頓狂な声を出したあたしに、初音ちゃんはびっくりしたような怖じ気づいたような顔で
「……だめ……そっちはだめなの……」
 と、震える声を絞り出した。目に涙が浮かんでいた。
「それって……」
 どーゆー意味? と続ける間もなかった。初音ちゃんは次の瞬間、あたしが手を伸ばそうとしたカップを
取って一気に飲み干してしまった。
「あのー?」
「ごめんなさい……ごめん……なさ……」
 そして彼女は倒れたのだ。
「ちょっ、初音ちゃん? 初音ちゃんっ!」
 何がなんだか分からないけど大変な事になった。とりあえず薬、何がどうなってるのか分からないけど
とにかく薬。
 見回したあたしの目に飛び込んできたのは、テーブルの片隅、ティーポットの隣に置いてあった小瓶。
そのラベルには……「青酸カリ」と書いてあった。
361無力  ◆COFFEEsuS. :04/05/16 20:12 ID:+ahVfHGL
 初音が何をしたかを月代の理性が理解するまで、およそ5秒の時間を要した。
 しかし月代の感情の方は、未だに混乱したまま収拾がついていない。

 気を失った初音の口に指を突っ込み、中身を無理矢理嘔吐させたまではよかったが。
 それからが無力だった。初音の汗をぬぐい、額に濡れタオルを当てることぐらいしかできない。これは
風邪の治療であって毒物に対してやる事ではないが、青酸カリを飲んだ人間をどう治療するかなんて
月代が知っているはずもなかった。ただ対症療法をするしかない。
 同時に、色々な意味でショックが大きすぎた。
 初音が自分を殺そうとしたこと。
 それが成就する直前に意思を翻し、自分の死を選んだこと。
 そんな状態にまで追い詰められていた初音に、自分が全然気づかなかったこと。
 友達になれると思ったのに……。

 それは月代の世間知らず故の甘さ。この島で見知らぬ誰かと出会って、普通に友達になれるなんて
期待する方がどうかしている。
 初音はそこに、自分たちが生きて帰る可能性を高める一つの選択肢を見出してしまった。
 しかし同時に、その甘さが生きて帰るべき世界の、本来の自分自身を思いださせもした。
 その狭間で初音は揺らぎ……結果、この有様。
 誰がこの結果を責められるというのか。
362無力  ◆COFFEEsuS. :04/05/16 20:13 ID:+ahVfHGL
「蝉丸ぅ……」
 もう何度この名を呼んだだろう。月代が困った時には必ず現れてくれる、全てを頼り切れるナイト。
 しかしその声は誰にも届くことなく、部屋の壁に小さく小さく反響しただけで、消えた。
 夜も更けてきた。この民家には水とガスは通っていたが、電気は切れていた。だからもう部屋の中は
真っ暗だ。さっきまで外に見えていたはずの星も、厚い雲に完全に隠されてしまった。
 初音の命の火は未だ尽きていない。しかし、目を覚ますほどに回復してもいない。
 荒い息、時々何かを吐くようなそぶり。だけど、何度も水を飲ませて何度も吐かせたのに、彼女の容態は
一向に回復しない。その体は火のように熱く、これ以上ないほど明確な形で生命の危険を訴えていた。
 いつか目を覚ますのか、それともこのまま目を覚ますこと無く……。
「いや……いやだよぉ……」
 目の前にいるのは仮にも自分を殺そうとした相手だが、月代は本気で泣いていた。
 だって。最後には自分をかばってくれたんだから。
「蝉丸……誰か……誰でもいいから助けて……初音ちゃんを助けてよ……」
 自らの空腹にも夜の寒さにも、夜の闇の深さにも気づかないまま。
 月代はただ、初音の前にいる。
 すすり泣きの声は家の外にまで漏れていた。

 その嗚咽が天使を呼ぶか悪魔を呼ぶか、それとも何も呼ばないか。そこまで考える余裕が、
今の月代にあるはずもない。

【020柏木初音:自ら青酸カリを飲み行動不能、生命維持困難】
【085三井寺月代:初音の看病に付きっきり、精神的肉体的に相当疲弊】
【月代の所持品は未だ不明】【午後10時頃】
363彷彿:04/05/16 20:43 ID:an/CH3z6
「誰にも会わないね。」
みさきが言う。
「そうだな…」
だが、こんな状況では会わない方が良いのかも知れない。
放送で聞いた限り、11人もの死者が出ている。
つまり、乗ってしまった人間は少なくない。

放送に互いの知り合いの名は無かった。
そのことに安堵した自分に嫌悪感を覚えた。
みさきに言ったら、自分もそうだと答えた。
みさきとは色々な事を話した。
自分は雑談が苦手だったから、殆どみさきが喋り、自分が相槌を打つという具合だったが。
学校のこと、友人のこと、家族のこと。
平和な話だった。
幾万の日本兵の死の上にその平和があるのならば、彼らの死も無駄なものでは無い、と思った。
自分はその礎になることは出来なかったが。
みさきにばかり喋らせていては悪いので、自分の話も少しばかりした。
強化兵のこと、自分の幼い日のこと、坂神の、きよみのこと。
証明する術の無い今、強化兵のことなど信じては貰えないと思ったが、みさきは
「信じられない話だけど、でも、私は信じるよ」
と言った。
明るく、人見知りしないところが月代に似ている、と思った。
364彷彿:04/05/16 20:44 ID:an/CH3z6
二人は住宅街にいた。
そろそろ日も暮れかけている。
ということは、この住宅街に人が集まるかもしれない。
それを読み、森の中で夜を明かす者も少なくないかもしれない。
結局、この島に安全なところなどどこにも無いのだ。

道に何か落ちていた。
猫の死体。
近くにはコーヒーカップ。
「毒…か?」
匂いを嗅ぐ。
コーヒーの良い香りに混じる、微かな異臭。
恐らくは、この民家で淹れた物だろう。

民家の中に入る。
ミルの中に、コーヒーが入っている。
恐らく飲む者などいないだろうが、一応捨てておいた。
今日はここで夜を明かすことになるかもしれない。

みさきと一緒に猫を埋めた。
人間ならいざ知らず、猫を埋葬する気にはなれなかったが、
みさきに猫も人間も同じ命だ、と諭されて手伝うことにした。
優しいところ、儚いところが、きよみに似ている、と何となく思った。
365彷彿:04/05/16 20:46 ID:an/CH3z6

「取り合えず今日はこれ以上動くのは危険だな」
「もう、夜になるの?」
「ああ、夜に徘徊するのは殺人者くらいだろうしな。
 …安心しろ、料理は俺が出来る。 野戦料理だが。」
「私は好き嫌いないから大丈夫だよ。期待してるね、光岡さん。」

この後、彼はきよみに似ていると思ったことを撤回することになるのだが。

【光岡悟 川名みさき 住宅街の民家】【日暮れ直後】
【有紀寧のコーヒー捨てられる】
366名無しさんだよもん:04/05/16 20:47 ID:an/CH3z6
修正:ミルの中に→二つのカップの中に

読み返して気づきました…
367ブービートラップ ◆PcA2YRpN02 :04/05/16 21:03 ID:Csegnwh+
武器…そう、武器だ。
真帆を守ろうにも武器がなければ話にならない。
今はなんでも良いから武器が欲しい。
霜村功(45)は現状をそう結論付けた。
例え木の棒でもめかぶよりはマシだと辺りを捜索しながら進んでいく。
暫く歩いただろうか、視界に飛びこんできたのはこの島の現実だった。

血溜まりに転がる少女の死体。
そしておそらく少女のものであろうバッグが一つ。
産まれて初めて見る死体に俺は胃の内容物を吐き出していた。


「はぁ…はぁ… 冗談キツイぜ…」
暫くして落ちついた俺はそう呟きながら、転がっているバッグを見る。
ひょっとしたら武器が入っているかも。
そんな期待が脳裏を過ぎる。
もちろん、自分と同じハズレの可能性はある。 持ち去られた後かもしれない。
だが、何が入っていたってめかぶよりはマシだ。
空なら空で現状は何も変わらない。
「こいつは頂いていくぜ。」
そう言い、バッグを手にかける。 軽い。

ズドン―――
炸裂音が辺りに轟く。
その場に残されたのは原型を留めぬ死体が2つ転がっているだけだった。



【45番 霜村功 死亡】

【残り80人】
368再びたどる道:04/05/16 21:24 ID:nZJsOGYi
芳野祐介(98)は先ほど拾った
角ばったこぶしより一回り小さい2つの石を見つめながら、
これからのことを考えていた。

 生き残るためには銃だけではだめだ。
 銃という武器は強力だが、弾がなくなってしまえば  
 荷物にしかならなくなる。
 それに、相手が一人なら、銃を使わずに殺し、
 弾を残しておきたいところだ。
 素手でも人を即死させる方法はある。
 しかし、相手も抵抗するだろう。
 そうなるとこちらにも危険が及ぶ。
 近接用の武器を確保しておかないとな。

周りを警戒しながら、近くの岩に腰を下ろすと、
靴を脱ぎ、軍足を脱いだ。
「作業着だったことが幸いしたな。」
といいながら左右それぞれの軍足に1つ石を入れた。
そして、靴を履き再び歩き出した。

 このゲームを生き残り、彼女を幸せにしたら、
 このゲームで死んだ人間のために歌を歌うのもいいかもしれないな。
 人のために歌い、一度壊れてしまったが、俺だが、
 人を殺してしまった今なら、また壊れてしまってもいいかもな。
 どうせ、もう堕ちていくだけだ。
 そう、堕ちていくだけ。

芳野祐介は、夜の闇に薄笑いを残し、闇に溶け込んでいった。

【芳野祐介(98) 所持品追加:手製ブラックジャック*2】
【夜11時ごろ】
 
369対峙:04/05/16 21:36 ID:ako5R1GK
 対峙する二人の女性がそこにいた。
 向かい合い、まるで絵画のように微動だにしない二人。事実、それはとても絵になっていた。
 そんな空間に前触れもなく割り込んだ、男の声。

『参加者の諸君、ご苦労。なかなかに盛況のようで……』

 放送が始まった瞬間、目の前の女性の瞳がほんの僅かだけ揺れたのをカルラは見逃さなかった。

『……41番、サクヤ。44番、芝浦八重。51……』

 名前が読み上げられる最中、目の前の女性が少しだけ憐れむような顔をしたのをリサは見逃さなかった。
 
「……知っている人でもいたのかしら」
「ええ。とは言ってもそう面識がある方ではなかったけれど。そういうあなたは? 随分と険しい顔をしてらしてよ?」
「あの男とはちょっとした因縁がある、とでも答えておきましょうか」
「教えては下さりませんの」
「いい女には秘密が付き物でしょう……あなただって、血の匂いを隠してる」
「……やはり、ごまかしきれるものではありませんわね」

 さりげなくリサの視線から隠すようにしていた右手を持ち上げるカルラ。そこには止血のためか、破いた服が
巻き付けられている──そこまでリサが確認したところで、カルラが地を蹴った。
370対峙:04/05/16 21:37 ID:ako5R1GK
 凶器と化した右腕が振り下ろされる。それを紙一重で避け、同時に襲ってきた風圧にリサは戦慄した。
「──ッ、それだけの力があるならこのくだらないゲームを一緒に潰せると思ったけど、残念ね」
「それも魅力的ですわね」
 だが。
 あの主催者は参加者の命をその手に握っている。反旗を翻したところですぐ返り討ちにあうのがオチだ。
しかもそれは刃向かった者にとどまらず、見せしめとして他の誰かも殺されるかもしれないし、最悪の場合
リセットとして全員爆破されるかもしれない。
「だからあなたにも死んでいただきますわ」
 涼しい顔で言いながら渾身の蹴りを放つカルラ。それを幅の広いバックステップでかわし、リサは距離を取る。
 出会ったときと同じ間合いに二人が離れる。だがそこにいたのは最早人間の美しさを見せる女性ではなく
獣の美しさを身に纏う、二匹の豹と狐だった。
 狐が口を開く。

「そう、なら仕方ないわね……」

 そのまますっと身をかがめ、

「────bye!」

 反転して逃げ出した。

 あくまでリサの目的は篁。交渉が決裂した以上参加者、しかもやる気満々なマーダーと正面切って喧嘩する気はない。
(無事で済むかもわからないしね)
 瞬時に頭を切り換えた切り札(エース)はそのまま沈み始めた日に向かって走り去る。
 それをカルラは追いかけなかった。八重の時以上にリサとの戦闘は体が追いついていないと感じ、このまま追うよりは
ハクオロ探しに戻った方がいいと判断したからだ。
 そして彼女は夕日に背を向けて歩き始めた。


【リサ 住宅街から西へ 装備:パソコン】
【カルラ 住宅街の外れ 装備:ハクオロの鉄扇、カッター】
371非日常でいこう:04/05/16 21:38 ID:q3bEOZM1
腹が立つ。
本当に腹が立つ。
僕達がこんなにも絶望感に打ちひしがれているのに……

僕、長瀬祐介(062)は漠然とそんなことを考えていた。

街道から少し離れた小さな森に潜んだ僕達は信じられない光景を目の当たりにしていた。

何処からか明るい声が聞こえてくる
誰かが二人で楽しそうに歩いている
遠くの民家からは明かりが漏れてさえいる

他の参加者は何を考えているのだろう。
さっきの放送が聞こえなかったのだろか?
もう何人もの人が殺されているのに、能天気なことこの上ない。
何時まで彼らは日常の真似事をすれば気が済むのだろうか?
こんな島にいるかぎり、そんなものは何処にもないのに。

だから僕と瑠璃子さんはこのゲームに優勝する。
月島さんを生き返らせて、瑠璃子さんと供に日常に帰るのだ。
それまでなら…… どんなに非日常的な生活をしても、いいじゃないか。
372非日常でいこう:04/05/16 21:41 ID:q3bEOZM1
「長瀬ちゃん」
瑠璃子さんに話しかけられ僕の意識は戻ってくる。
外はだいぶ暗くなって、月明かりと目の前のモノだけが辺りを照らしている。
「ああ、ごめんね」
そう言って僕は笑顔を返しながら火に包まれたモノを蹴り倒す。

森に潜んでいた僕達は面白いものを見つけた。
鞄―― 手付かずの鞄。あまりのことに初めは罠かと思ったぐらいだ。
中には食料といっしょに重たい武器が一つ。
僕が背負っているこれ、火炎放射器だ。
こんなにも素晴らしいものを、何故この鞄の持ち主は放置したのだろう。

目標はすぐに見つかった、金髪の同い年ぐらいの女の子。
まぬけにも彼女は気を失っていた。こんなにも目に付きやすい、開けた草原で。
近くにはフライパンが一つ、おそらくこれで殴られたのだろう。
殴った人も止めを刺してやればよかったのに、そうすれば彼女もこんな死に方しないで済んだ筈だ。

初めての殺人は、結構簡単だった。
至近距離から火を放てばいいのだ。
暴れられると面倒なので瑠璃子さんに脚を撃ってもらったりもした。
案の定、彼女は意味不明な叫び声を上げ暴れだす。
何度も何度も起き上がろうとしては、その度僕が蹴り倒す。
ズボンが少し焦げようと気にしない。
だってどどめを刺すには燃料や銃弾がもったいないから。
373非日常でいこう:04/05/16 21:44 ID:q3bEOZM1
もうすぐ彼女は絶命するだろう。そうしたら僕はどうしようか?
そこでふと、さっきの光景を思い出す。
こんな絶望的な状況下でも希望を失わず前向きにいる者達。
きっと何時までも助け合っていけるとでも思っているのだろう。
正義面して皆を救おうなんて考えてる者もいるかもしれない。
馬鹿馬鹿しい、生き残れるのは二人だけなんだ。
ただ逃げ回っている者はもっとも憎むべき奴らだ。
邪魔なだけだからとっとと死んでほしい。別に願いなんてないんだろう?

そうだ、この島で安穏としている奴らを皆殺しにしてやろう。
森に、山に、川に、小屋に、民家に、洞窟に―― 籠ってる奴らを焼き払ってやる。
僕は辺りの荷物を集めている瑠璃子さんに話しかける。

「行こう、瑠璃子さん。夜は……まだ始まったばかりだ」

【057 月島瑠璃子 装備品 ベレッタ@残弾数15発 折畳式傘有】
【062 長瀬祐介 装備品 火炎放射器 メーターはほぼ満タン】
【092 宮内レミィ 死亡】
【アルルゥのバック回収(火炎放射器)】
【ジグ・ザウエルショート9mm(残弾1発)、果物ナイフを回収 フライパンは放置】
【夜八時ごろ】

【残り79人】
374黒(1/5) 運命 ◆vkSUbcHrtA :04/05/16 21:44 ID:DHbx7hd4
 夜の住宅街。
 野宿せずに済む寝床を確保するには、最善の場所。
 しかしまた、家の中で人と遭遇してしまう可能性も高い。
 緒方理奈は、その二つの要素を天秤にかけていた。
「どうようかしら…」
 立ち止まって考えこむ。
 ゲームを引っ掻き回してやる――それが自分の行動方針である。制服といういいアイテムもあるし、そのための行動もした。ただ、その行動には「誰かに見つかる」という前提が必要なのであるが、寝るときぐらいはそれは止めておきたかった。
「……」
 考える。
 住宅街は、思ったよりは広い。これなら、他の参加者と遭遇する確率は低いかもしれない。少なくとも森で寝るよりは遥かに安全だろう。
 しかし、万が一罠が張ってあったりでもしたらまずい。そうでなくても、どこかの部屋に隠れていた参加者が隙を狙ってブスリ、なんてことは十分にありうる。
「……」
 ――数分考えた末、結局住宅街に入ることにした。もしかしたら、冬弥が居るかもしれないからである。それに、正直移動する体力が残っていない。
 アイドル故に結構体力に自身はあったが、この状況では大したものではなかったらしい。
「…ここなんかいいかしら?」
 理奈は、適当に見当をつけた家を観察した。
 中から明かりは漏れていない。
 息を殺している誰かが居るのかもしれないが、それは外からではわからない。寝ていれば好都合なのだが。
 ここでいいわね、と誰に言うでもなく呟く。
 判断材料があまりない以上、考えていても仕方がない。
375黒(2/5) 運命 ◆vkSUbcHrtA :04/05/16 21:45 ID:DHbx7hd4
 理奈は警戒しながら、その家の玄関を開けた。

 パァッ……
「いらっしゃいませー」
「!!」
 突然の明りと人の声に、理奈は度肝を抜かれた。
 言葉を失い、立ち尽くす。
「……!?」
「コーヒーはいかがでしょうか」
 だが、そんなことはお構いなしに、宮沢有紀寧はいつものように注文を取った。
「インスタントコーヒーですが、美味しいですよ」
「……」
「丁寧に淹れましたから」
「……」
「…お客様?」
 いつの間にか、理奈は客にされていた。
「ええっと…」
 それで我に返ったのか、理奈が口を開く。
「はい?」
「…何、してるの?」
「コーヒーを薦めています」
「……」
 わけがわからなかった。このゲームとは別の意味で。
「…えっと、」
 そこまで言って、理奈は気付いた。この家の玄関は、ドア開けると自動で明りがつくシステムであるということに。
 奥を覗くと、キッチンらしき場所の明りがついていた。
 玄関正面からは見えないところである。
(えっと、だから…)
 つまり、目の前に居るこの少女は先程までキッチンでコーヒーを淹れており、物音に気付いて玄関まで来たということだろうか。
 ということはもしかしたら、もう少し待っていれば玄関の明りは少女によってつけられていたかもしれない。
376黒(3/5) 運命 ◆vkSUbcHrtA :04/05/16 21:46 ID:DHbx7hd4
「……」
「どうされました?」
 有紀寧は、押し黙る理奈に声をかける。
 そして理奈は、その声に反応して有紀寧の姿を改めて正視して、ようやく気付いた。
 ――制服が、同じ。
「制服…」
「え?」
 ポツリと呟いた理奈に、有紀寧は聞き返す。
「制服、同じよね…」
「あ…そうですね。同じ学校の方ですか?」
「――そうね」
 理奈は短く返したが、心の中で叫んだ。
(かかった…!!)
 即座に、態度を改める。
 この少女を、利用するために。
 とりあえず、信頼を得るために、自己紹介を試みた。
「あの、私…」
 が、そこで詰まる。
(本名言ったらいけないじゃない…!)
 トップアイドルである自分が本名を明かしたら、制服の件が一発でばれてしまう。
(ええと、別の名前、別の名前…)
 理奈はまた黙りこんだ。
 が、
「コーヒーはいかがですか?」
 有紀寧は、名前のことなどどうでも良いかのように、そう聞いた。
「えっ…いや、別に…」
 思わず、反応が素に戻る。
「インスタントコーヒーですが、美味しいですよ」
「いや、いらないから…」
 理奈は正直にそう答えた。
377黒(4/5) 運命 ◆vkSUbcHrtA :04/05/16 21:48 ID:DHbx7hd4
 途端に、有紀寧の顔が曇る。
「…そうですか…」
 心底、残念そうな顔だった。消え入りそうな声が、それを強調する。
 ――きっと、本当に美味しくできたのだろう。
「…本当にいりませんか…」
 その様子を見て――理奈は、思わず言った。
「わかった、飲むわよ!」
「――本当ですか!?」
「ええ!」
「わかりました、では食卓にどうぞ!」
 そう言って、有紀寧はさっさとキッチンに戻っていってしまった。
「あ、ちょっと…」
 理奈は止めようと声をかけたが、届かなかったらしい。
「……」
 残されて、急に冷静になる。
 空気が気まずくなったので、思わず飲むと言ってしまったが――それで良いのか。
「……」
 しかし今度は、すぐに結論がでた。
(ま、コーヒー飲むくらいいいでしょ。それで信頼を得られるなら)
 理奈は、にやりと笑った。
378黒(5/5) 運命 ◆vkSUbcHrtA :04/05/16 21:48 ID:DHbx7hd4

 有紀寧の淹れたコーヒーを前に据え、理奈は思考を進める。
 この少女をどう利用してやろうか、と。
 とりあえず信頼を得られれば、交代制で見張を提案するなりして、寝るときの危険を減らすことができる。
 そうなればしめたものである。
 体の疲れがとれたら、寝ているところを殺ればいい。
(明日も一緒に行動するっていう手もありね。そうなれば、いざというとき盾にできるし。それとも、人を襲ってからこの子の姿を見せ付けてやろうかしら? それとも…)
 腹黒い考えを胸に置きながら、理奈はコーヒーカップを手にとった。
 コーヒーからは、ほんのりと暖かい湯気が出ている。においも良い。高級な物に比べれば劣るかもしれないが、インスタントコーヒーでこれだけ出せれば完璧であろう。丁寧に淹れた、という少女の言葉は嘘ではなかったらしい。
 色は、黒。
 闇のような、黒。
 今の自分には、それが相応しい。
 テーブルの向かいでは、有紀寧が微笑みながら自分がコーヒーを飲む様子を窺っている。
(ま、いずれにしてもこの子は長く生かしてはいけないわね…)
 そう心の中で呟いて、理奈はほくそ笑んだ。
(ふふふ…今のうちに笑っていなさい)
 そして、コーヒーを口に運んで。
 一口、すすった。
(ふふふ…ふ――)



【緒方理奈 死亡】
【残り 78人】
379「グロ」:04/05/16 21:49 ID:epAN7Oef
 聞えてきたのは、少女の声だった。

「こんなところで寝ていたら風邪をひいてしまいます」
「起きないと岡崎さんみたいな人に悪戯されます」
 ひどく場違いな少女の明るい声だ。
 麻生春秋は声のする方へと、歩いていった。
「……この人と風子、そこはかとなく親近感を感じますっ」
「においですっ、におい」
 春秋は木の陰からそっとそこを覗いた。
 そこにいたのは一人の少女だった。少女と言うか、まだ小学生くらいの子供だ。
 暗いので、よく見えない。
 ただ、少女は地面に倒れている誰かに話し掛けているようだ。
 少女は何事かを色々と話していた。
 どことなく、その光景は微笑ましいものがあった。
 話し掛けてみるか、とさえ思った。
 ただ倒れている人間が微動だにしないのが異様だった。
380夢を見たのはどちらでしょう?:04/05/16 21:49 ID:laKuwI0S
「YO!俺は東京湾 生まれ テトラポッド育ち
 手の生えた奴は大体友達……はっ…いつの間に森を出ていました」

 我を失っているときは相変わらず無防備の伊吹風子(8)

「んーっ…確か道に迷ったときは北極星を目印にとお姉ちゃんが言ってました。そうするとここは島の北側です。まったく…風子のクレバーさには脱帽です」
 風子が出たところは東西に伸びる片側1車線の街道。
 街道の向こうには町役場や商店街がならぶ。恐らくこの島の中心部だろうか。
「車は…来てませんね。安心して道を渡りましょう」
 道路を横断しようとする。
 その時だった。
 ブオオオオオオオオーーーン
 道の東側から爆音を共に駆ける一台のスポーツカー。
 迫り来る鉄塊。
「っわわわわわっ!! とうっ」
 間一髪の所で道路を渡りきる風子。
「助かりましたっ……歩行者がいるのに減速しないなんて酷い車です。ドライバーの顔が見たいです」
「でもっ、とってもかっこいい車でした。風子もあんな車でデートしたいです」

 風子は集める、姉の結婚式のために。
381「グロ」:04/05/16 21:49 ID:epAN7Oef
 雲に覆われていた月が出る。
 辺りが明るくなった。
 その瞬間、少女は倒れている人間の首にナイフを当てた。
 鳥肌が立った。
 春秋は息を飲み、とっさに木の影に隠れる。
「んーっ、ヒトデよりも難しいですっ、でも風子、くじけませんっ」
 フウコ。それが名前か?
 少女は首を完全に切断した。
「自分で言うのもなんですが、可愛くできました」
「これなら岡崎さんに馬鹿にされません」
「渚さん岡崎さん、風子、お姉ちゃんの結婚式のためがんばりますっ」
 ナギサ? 誰だ? オカザキ? お姉ちゃん? あいつの仲間か? 
 少女は首を抱えて、走り去っていった。
 しばらく過ぎて、春秋は息を吐き、地面にしゃがみこんだ。
「グロ」

【3 麻生春秋 風子の事を知る】
382夢を見たのはどちらでしょう?:04/05/16 21:50 ID:laKuwI0S
「宗一君、無事でしょうか…」
 ミルトを運転する伏見ゆかり(78)は夜の街道を豪快にかっ飛ばしていた。
『心配ありませんマスター、彼はああ見えても世界一のエージェントです』
「そうですね、ありがとうミルト」

 ブオオオオオーーーッ
 島の闇を切り裂くヘッドライト。ゆかりの運転技術でこうも走ることができるのはミルトのおかげだろう。ミルト様々だ。

「宗一君は何処ですか〜。あれっ……ミルトっ!! 前っ前ッ! 危ないッ!」
 ヘッドライトに照らされた先――今道を渡らんとする少女の姿が浮かび上がった。
 ブオオオオオーーーーーンッ
 間一髪少女の脇を通りすぎるミルト
『申し訳ありませんマスター、私の判断ミスです』
「いえ…わたしもぼーっとしてたもので…。ミルト、さっきの女の子が抱えていたものは……」
『恐らく……』
 ゆかりはさっきの光景を思い出していた。ヘッドライトに浮かび上がる少女、その胸に抱えられていた人の首を……。

「ねえ、ミルト…夢を見たはどちらでしょう?」
『どちらも見ていませんよ、私もマスターも』

 ゆかりは駆ける、愛する人のために。

【伊吹風子(8) 商店街へ。 よく切れるナイフ 羽リュック あゆの首】
【伏見ゆかり(78) 宗一を探しに島の西側へ。 ミルト】
【午後八時ぐらいです】
383名無しさんだよもん:04/05/16 21:51 ID:laKuwI0S
ぐああ…被った…どうしよう…
384無尽君 ◆JmtStMCL6c :04/05/16 21:52 ID:/YSvrWKT
グロ→夢を…の順なら問題無いと思われ。
385名無しさんだよもん:04/05/16 21:54 ID:laKuwI0S
すまん、俺焦りすぎです。
386名無しさんだよもん:04/05/16 21:55 ID:epAN7Oef
被ってないよ。「グロ」は風子があゆの首を切断しているところを春秋が目撃した話だから。
387名無しさんだよもん:04/05/16 21:55 ID:sSI6xGwo
死人のペース落ちてきたね。
これじゃ30人殺害なんてとてもとても・・・
388断ち切られた妹、断ち切った姉:04/05/16 21:56 ID:nZJsOGYi
「あれは。」
さすがにずるずると引きずられるのはつらいらしく
うっすらと目を開けていた水瀬名雪(90)は、
何かを見つけ、ふらふらと走っていった。
「どうしたの、名雪ちゃん。」
突然走り出した、名雪を見て春原陽平(48)と春原芽衣(47)の兄弟が
名雪を追いかけていった。

春原兄弟が追いつくと、呆然としている美坂香里(87)に
寝起きで意識がはっきりと名雪が声をかけていた。
「香里、香里ってば。しっかりしてよ。」
その光景を見た陽平は、すぐさま香里に声をかけた。
「へーぇ、香里ちゃんって言うのか。どう一緒に行かない。
大丈夫、僕が守ってあげるよ。」
しかし、名雪の声にも反応しない香里が答えるわけもなく、
「お兄ちゃん、黙ってて。」
と妹に叱られるだけだった。
「名雪さん、この人は。」
「あ、うん。私の親友で、美坂香里っていうの。」
名雪は、未だ呆然としている香里の代わりに紹介した。
389まこぴークエスト:04/05/16 21:57 ID:lwulGwOV
「えぐっ……うっ…」
沢渡真琴(43)は泣いていた。
(いったいなんなのよぅ!)
さっき、知らない女にいきなり殺されかけた。
怖かった。凄く怖かった。
そこで、別の知らない女が助けてくれた。
でも、その女もさっきの女と同じ制服を着てた。
さっきと女の仲間に違いない。
だから逃げた。
それからはがむしゃらに走った。
走って、走って、疲れ果てて、木陰にへたり込んだ。
それから泣いた。自然と涙が出てきた。
(祐一ぃ……怖いよ……)
ただ、声を抑えて泣きつづけた。
そして、泣きつかれた真琴はそのまま眠りについた。
390運命 ◆vkSUbcHrtA :04/05/16 21:57 ID:DHbx7hd4
>>378

すいません、書き忘れました _| ̄|○

【有紀寧 理奈の制服類、細い紐の束を回収】
【インスタントコーヒー、毒薬所持は変わらず】
【時刻は十時ごろ】
3913+6=?:04/05/16 21:57 ID:sJ1SHCvJ

 杜若きよみは木の幹に寄りかかって休みながら考える。
 残弾数、3+6=9発。
 そう、このままでは「最高でも9人までしか」殺せないのだ。
 先ほどの放送では11人の名前しかなかったのだから、
 自分が蝉丸と一緒に帰る為には、あと87人に死んで貰わなければ困るのだ。
 防御手段としてこの改造銃を使うことを考えれば、
 このままの単独での行動には限界がある。
 ならば、どうするべきか。

 答えは決まっていた。誰かの力を借りればいい。
 自分で言うのもおこがましいが、この容姿には魅力がある。
 出会った男性に三つ指でも立てれば、そう無下にはされないだろう。

 一瞬考えた末、きよみは行動を開始した。
 夜の闇を抜けて、生ぬるい風の吹くほうへ。
 手首の切り落とされた少女の死体、背中にナイフの突き立てられた女性の死体。
 いくつもの亡骸の側を通り過ぎる度に、きよみの心は踊る。
 あと幾つの人名が奪われればいいのかを心の中で指折り数えながら。



【杜若きよみ(017)、次に逢った人間と行動を共にする】
【武器の変更、消費なし。時刻は放送終了後、日が落ちた頃】
392まこぴークエスト:04/05/16 21:58 ID:lwulGwOV
真琴が目を覚ましたとき、あたりはすでに闇に包まれていた。
寝ぼけたまま目をこすっていると、真琴のお腹がなった。
「あう〜……おなかすいたぁ」
支給品のリュックを確認していなかった真琴は、リュックを開いてみた。
「ごはんと、お水と……キノコ?」
そう、真琴が手にしたのは食べた人の性格を反転させるアレであった。
「あう〜、キノコ嫌い〜」
そういって、乱暴にリュックの中にキノコを押し込んで、携帯食料をほおばった。
そうして、ある程度腹が膨らんだあと、真琴は立ち上がった。
こんな怖い島をうろつくのは嫌だったが、それと同じくらい野宿も嫌だった。
とりあえずゆっくり眠りをつける場所を見つけようと、真琴は行動を開始した。

(洞窟……?)
真琴が歩き始めてすぐ、岩陰にぽっかり開いた洞窟を見つけた。
「あう〜、なんか漫画みたい……」
そう言いながらも、いい所を見つけたと真琴は洞窟の中に入っていった。
そして、洞窟を進むと…
……あ……っん…………………や…
「…?」
洞窟の中からうめき声らしい声が聞こえてきた。
(あ……あう〜、人がいるなんて聞いてないわよぅ)

洞窟を引き返しますか?
→はい
 いいえ

【43沢渡真琴 所持品:セイカクハンテンダケ】
【14岡崎朋也 75藤林杏 真っ最中w】

【真琴、進むか引くか考え中】
393断ち切られた妹、断ち切った姉:04/05/16 21:59 ID:nZJsOGYi
「香里、香里。いったい何があったの。」
「名雪。」
名雪が香里に声をかけ続けること数分、
始めて香里からの反応があった。
とはいえ、香里の目はうつろで、普段の面影はまったくなかった。
「ふふ、聞いて名雪。私ね、栞を殺したの。」
その告白を聞き、名雪は文字通り目がさめるほど驚いた。
しかし、香里は名雪の驚いた顔に気付くことなく話を続けた。
「誰かから逃げていたとき、いきなりね、前に栞が現れたの。
でも、それが栞だなんてわからなくて、
私は身を守るために栞を殺したわ。」
「でも、それは事故だよ。香里のせいじゃないよ。」
名雪は香里に諭すように話しかけた。
「事故でも、殺したのは私。」
「でもね、栞の死体がないの。
きっと神様が生き返らしてくれたんだわ。
一度、妹なんていないと思い込もうとしたけど、
今度こそ、私が守るわ。誰かを殺してでも。」
そういうと、香里はおぼつかない足取りで立ち上がった。
「香里、どこ行くの。」
「栞を探しに行くのよ。」
「栞ちゃんは死んじゃったんだよ。どこにもいないよ。
放送で名前が呼ばれたんだよ。」
「でも、生き返ったの。生きてるのよ。ほら、名雪の後ろにいるわ。」
香里の言葉に驚き、後ろを振り返る名雪、しかしそこには誰もいなかった。
「栞、今度こそお姉ちゃんが守ってあげるからね。」
歩き出そうとする香里の肩を名雪がつかんだ。
「だめだよ、栞ちゃんはもういないの。」
「邪魔しないで。」
香里は叫ぶと、果物ナイフを取り出し、名雪の手を切りつけた。
394断ち切られた妹、断ち切った姉:04/05/16 21:59 ID:nZJsOGYi

そして、痛さのあまり香里の肩から手を離した名雪に、
香里は、
「名雪、たとえあなたでも、私の邪魔するのなら殺すわ。」
「ふふ、栞待っててね。」
というと、本人にしか見えない妹の幻を追いかけていってしまった。
「香里、待ってよ。」
手の痛みをこらえながら、香里の後を追おうとする名雪を芽衣が引きとめた。
「だめです。あの人は危険です。名雪さん、殺されます。」
「でも、香里は親友なの。お願い芽衣ちゃん行かせて。」
「絶対、だめです。」
名雪と芽衣の押し問答を陽平が止めた。
「よし、3人で香里ちゃんを追おう。3人なら危険も少ない。」
その言葉に対する二人反応は対照的だった。
「春原君ありがとう。」
「お、お兄ちゃんがまともなことを言った。」
そして、3人は香里を追い、歩き出した。

まともなことを言った陽平だが、
(これで名雪ちゃんの好感度UP。
それと、グットエンドフラグ、たぶんGET。)
やっぱりろくなことを考えてなかった。

【水瀬名雪(90) 右手を切られる。通常行動は問題なし。ただし、数分後就寝】
【夜9時ごろ】
【トウカ、香奈子、栞は香里が失神中にオボロが埋めたということで】
395無尽君 ◆JmtStMCL6c :04/05/16 22:14 ID:/edH3UsQ
帰るために

「う〜ん、どうしよう。」
夕日の中、一人思案に暮れる妙齢の美女。非情に絵になる光景である。
…肌着は随分と変態的だったが。
スフィー(49)を悩ませているのは、元の世界への帰り方である。
「あのおじさん倒しちゃえば良いんだろうけど、魔法無しで銃に勝つのは無理だろうし…」
「だからと言って人を殺すなんて絶対に嫌だし…」
「あーーーっ!もう、こんな時に魔法が使えないなんて!」
先程からこれの繰り返しである。途中に入った放送にも、日が沈みかけている事にも気付いていない。
結局、この永久ループが終わったのは30週目が終わった時だった。

ズガンッ!

「愚かです。」
食料の入ったバッグを掴み、セリオ(52)はその場から立ち去った。

そう、こんな開けた場所で声を上げ続ければ、こうなる事など十分に予測できたはずなのである。
それこそが、彼女に生きて帰る為に最初にすべきことだった。

【49 スフィー 死亡】
【52 セリオ スフィーの食料とバッグを入手 コルト.25オート所持】
【残り 77人】
396邦博:04/05/16 22:33 ID:epAN7Oef
 浅見邦博は岩に腰掛けながら、空を見上げた。
 煙草の煙を思いっきり吸う。
 木々の間から見えていた月が、雲に隠れる。
「……ちっ」
 頭の中はごちゃごちゃしていて、様々な感情が渦を巻く。
 手にあるのは、レーダー。その中に、光点は一つ。
 つまりこの周囲には、自分だけがいるということだ。
 恵美梨の死体は放置してきた。
 思うこと、浮ぶ感情、蘇る記憶、それらは明確な形を取らず、ただぐるぐると回っている。
 ごちゃごちゃと心を撹拌している。
 邦博はそれが何であるか考えようとはしない。考えるのは嫌いなのだ。
 ただ一つ、むかつくと思った。
 そしてぶっ殺すべきクソガキのリストに、新しい名前が加わった。パールホワイトが消え、新たな奴が加わる。一人消え、一人加わる。プラスマイナス、ゼロだ。
 麻生春秋、松浦亮、自分を風子とか呼ぶクソガキ。
 それだけだ。何も変わらない。何一つ変わりゃしねえ。
 
 もう一度、空を見上げた。 
 雲間から、月が見えた。
 不意に、邦博の頬を一つ、涙が伝った。
 それは、かつて麻生春秋に敗れた時に流した涙と同じかどうか。
 邦博は考えない。
 考えるのは、やめだ。
 後はただ、駆け抜けるだけだから。
 
【001 浅見邦博 所持品:恵美梨のレーダー 支給品 支給品:不明】
397月の出ない砂浜:04/05/16 22:40 ID:BBr2Ps08
二人で、道なき道を進んでいく。
 藤井冬弥(73番)は、須磨寺雪緒(50番)の後を黙ってついて歩いていた。
 互いに名前を確認した後は、ひたすら無言。
 たまに冬弥が会話を振っても、雪緒はただ相槌を打つだけだった。
 森を抜け、海辺に出る。日はすっかり落ちて、前面には暗い海が佇んでいるだけだ。曇っているため星も出ていない。
 雪緒は変わらず、海岸に向けて歩いていく。
「なあ、こんな見渡しのいいところにいれば一発で見つかるよ?」
「……言わなかったかしら? 私は、誰かに殺されてもそれで構わない」
 冬弥の呼びかけにもそうきっぱり言い切る。
 今ここに人気がまったく無いことを普通は喜ぶべきなのだろうが、
 この少女はそんなことは大したことでもない、と眉一つ動かさない。
「……見て」
 雪緒は冬弥に呼びかけた。雪緒の視線は海岸の砂浜にいっている。
「砂浜……荒れてる」
 潮が満ち始めた砂浜、その陸に近い部分にくっきりと残っている何人かの足跡。
 つい数刻前まで誰かがいたことを物語っていた。
 足跡の一方が東の方角に向かっている。数は……二人。
「誰かが、いたみたいだな。それもついさっきまで」
「ここから、逃げたほうがいいかもしれないわね。生き残りたいのなら……」
 意外だった。先ほどまで自分が死ぬことすら容認していた雪緒の口から、そんな言葉が出るとは思わなかった。
「…………」
「……どうしたの?」
「君は……俺に殺されるために俺の前に飛び出したんだよな?」
 冬弥がそう言ってから、雪緒は冬弥が言わんとしていることに気付いた。
398月の出ない砂浜:04/05/16 22:41 ID:BBr2Ps08
「ええ。確かに私は今死んでも構わない。けれど……あなたは違うでしょう?」
「ああ。それはそうだけど……」
「ただの雑音だと思ってくれて結構だわ。その雑音が、あなたにとって有益か否かなだけ」
 雪緒はそれだけ言ってから砂浜を離れ、近くの草に身を預けた。
 冬弥も無言でそれに続く。
「……逃げないの? こんな見晴らしのいい場所にいれば見つかりやすいって言ったのはあなたよ?」
「さあ、何でだろうね……。君が気になったから、かな」
「それは、きっと私の心が壊れているからね。ただ、物珍しいだけよ」
 心の壊れた。このフレーズが冬弥の中に残った。
 あえて、聞き返しはしなかった。何か、触れられたくない部分に感じたから。
 かわりに、その場を去らずに雪緒のそばにいることにする。まだ、この少女のことが気になるから。
 暫く、目を瞑って考え込んでみた。頭に浮かぶのは、この企画に参加している自分の知り合い。
 放送が真実である限り、彰や理奈やはるかは死んでない。由綺がこの企画に参加していないことが、冬弥にとって救いだった。
 だが、今気になる者は、そういった知り合い以外にも現れている。
 自分の横で空を見つめている少女、須磨寺雪緒。一体何が彼女をこのようにしているのだろうか?
「藤井さん」
 呼ばれて冬弥は振り向いた。
 雪緒はいつの間にか隣にはいなく、代わりに藪の中で手招きする。
「生き残りたいのなら、そんなところにいないほうがいいわよ」
「……分かった」
 冬弥は雪緒の言うとおり、藪の中に身を隠すことにした。

【藤井冬弥(73番) 須磨寺雪緒(50番)】
【ことみの救急箱があった藪の奥に身を隠す 時間帯は日没後】
【残り77人】
399TRAPBOX ◆QGtS.0RtWo :04/05/16 22:50 ID:Qjg0XA5R
「あう〜」
雨の中を少女は走る。
走る。
走る。
走る。
さながら猟師に追われる獣。
走る。走る。走る。
雨を避けて。
猟師を避けて。
寝床を探して。

「あっ!」

獣は終に寝床へ辿り着く。

「ここなら雨に濡れないですむ♪」

ガチャリ。



ズドン。



そして獣は罠の中へ。

そこは永遠の寝床。

【43沢渡真琴 死亡】
【荷物もバラバラになる】
400399 ◆QGtS.0RtWo :04/05/16 22:54 ID:Qjg0XA5R
書き忘れ。

399の舞台は澪の仕掛けたロッジで、これで入り口のクレイモアは起動、消滅しました。
401警戒VSケセラセラ:04/05/16 23:02 ID:cKX+h76G
「ひとつ聞くわ、あなた殺しあう気ある?」
ゾリオンを目の前の男に向け相良美佐枝は尋ねた。

「必要ならね、でもあんたとはやんないよ」
目の前の女に、NASTY BOY那須宗一は答えた

「…へえ、なんで?」
「まずその質問をした時点で殺し合いに消極的だということ。
 更にその武器、おそらく銃タイプの武器だが使用回数はそう多くなさそうだ
 そしてあんたが美人
 その3点からあんたはまだ俺の敵じゃない」

「ふーん頭切れるのね」
「ま、ね」
 お互い武器を下げる
402警戒VSケセラセラ:04/05/16 23:03 ID:cKX+h76G
向こうが隠れていたとはいえ、まったく気配を感じなかったのは大きな失態だ。
今回はうまく切り抜けられそうだが、これからは注意しようと惣一は肝に銘じた。

「…で?何でいきなり声をかけた?」
「仲間がほしかったから…といったら?」
「…知り合いいないのか?」
「んーいるといったらいるんだけど、まあ今はともかく生き残るのが最優先だし。」
「そのときはそのとき…か」
「ええ。…どう?」

正直一人でも十分なほどいける自信があった、
だが今この女は強力な武器を持っていると直感でわかった。
ここで倒すべきかそれとも仲間として行動を共にするか…

3分ほど考えて出した結論は
403警戒VSケセラセラ:04/05/16 23:03 ID:cKX+h76G
「条件付で」
「なに?」
少しキビしめに行くか…
「1つ、常に俺の前を歩くこと
 2つ、俺の仲間に手を出さないこと
 3つ、持っている武器の性能を教えること」
「いいわよ」
「即答かよ!!」
「あなた強そうで、しかもお人よしそうだしあんたみたいなやつ知ってんのよ」
「…」
「これからよろしく。…ええと」
「…那須、那須宗一」
「相良美佐枝、よろしくね」
その笑顔に宗一はふと、姉の面影を見たような気がした


【那須宗一と相良美佐枝以後行動を共にする】
【宗一は警戒強めだが何か親近感あり、美佐枝はあくまでケセラセラ】
【残り75人】
404警戒VSケセラセラ:04/05/16 23:06 ID:cKX+h76G
>>403
訂正【残り76人】
405名無しさんだよもん:04/05/16 23:18 ID:aExh/qoj
>>399-400
感想スレに来てください。
406休憩中:04/05/16 23:22 ID:RZN4+q/x
「とりあえず・・・何か使えそうなものが無いか探して来る。二人は休んでていいぞ」
「はい、ハクオロさま」
「えっと、私も手伝」
「無用だ。今は体を休めておいてくれ」
「……はい」

休んでいろ、とは言われたが、先ほど少し睡眠をとった為、睡魔は襲ってはこなかった。
二人、並んで座って、雨の音をじっと聞いていた。
「寒くない?」
「ううん、大丈夫」
「こうしていてあげるね」
ことみが、ユズハの手を取った。ことみでも、力をきゅっと込めれば砕けてしまいそうな、そんな柔らかな手。
慈しむようにそっと包んだ。
407休憩中:04/05/16 23:23 ID:RZN4+q/x
  心が張り裂けてしまいそうだった。
  いきなり、右も左も分からない場所に連れてこられて。
     「殺し合いをしてもらう」
  気持ちの悪い声。
  『外』からやってきたわるものの声。

  お父さんもお母さんもいなくなってしまったあの頃。
  静寂が支配する、あの広くて暗い家の中、鳴り響いた温度の感じられない電話の音より。
  電話の向こうから聞こえてきた、知らない人の声より。
  ずっと怖かった。ずっと気持ち悪かった。
  涙さえも、出なかった。


  どこをどう歩いたのだろう。気がついたらお外にいた。
  眼前に広がる海が青くて、あの日のお父さんとお母さんを奪い去ってしまった悲しい空を連想させて、下を向いた。
  顔を上げればあの嫌いな空が。
  ずっとずっと大切だった――私の宝物だった、お父さんとお母さんを奪ってしまった空が。
  今視界をよぎったら、私の足元から何かが崩れていってしまいそうだったから。
408休憩中:04/05/16 23:24 ID:RZN4+q/x
  「……」
  ここまで届く穏やかな波の音に紛れて、かすかに聞こえた布ずれの音。
  「!?!?!っ」
  振り向く。誰かがいた。
  怖かった。私を『外』に連れ出したわるものも、外で徘徊する参加者達も。
  夢中で、持っていた道具の一つを手にして振り上げた。
  吸いつくように私の両手に納まったのは、鋏だった。
  私のずっと持っていた鋏とは違ったけれど。
  振り下ろす。嫌な感触。景色が一瞬だけ赤く染まる。
  「……ぁ」
  その時初めて、目の前の人が声を上げた。
  女の子の声。その音色は、とてもか細くて儚かった。
  思わず顔を上げる。視界が広がる。
  目に止まったのは少女の瞳。その瞳が映していたのは、その少女の喜びでも悲しみでも痛みでもなかった。
  昔にご本で読んだ、恐ろしい般若のような顔をした『わるもの』そのものだった。
  その事実に、私は一歩下がる。視界が広がる。私の瞳に映したくなかったものが映る。
  空はとっても青かった。
409名無しさんだよもん:04/05/16 23:25 ID:RZN4+q/x
  私だったんだ。
  わるものになってしまえば、わるものは、わるものじゃなくなるって。
  私の仲間になるんだって、心のどこかで思ってしまったんだ。
  わるものは、私だったんだ。

  私がいいこでいなかったから、お父さんもお母さんも、帰ってこなかった。
  私が悪い子だったら、この娘が帰ってこなくなる。
  違う。もう、私は悪い子なんだ。
  「……誰、ですか?」
  「……ことみ。一ノ瀬ことみ。ひらがなみっつでことみ。呼ぶときはことみちゃん」

  私はそれから嘘をついた。
  私は悪い子だから。悪い子の声は空のかみさままで届かないから。
  誰か。私じゃない誰か。この子を助けて。
410休憩中:04/05/16 23:25 ID:RZN4+q/x
「ことみちゃんこそ、大丈夫?」
ユズハの手を包み込んでいた手がわずかに震えていた。
ユズハはことみの手の上に空いていたもう一方の手をそっと合わせる。
「うん。大丈夫、なの」
だけど、少し声も震えてしまった。
ユズハの言葉、一つ一つが、ことみの心を抉る。
ユズハがあの時感じた痛みは、こんなものじゃなかったはずだ。

ことみはあの時、死ぬ覚悟をしていた。
ずっといいこでいたかったのに、自分で選んで悪い子になってしまった。
ことみはもう、誰からも許されないと思っていた。
そんなことで罪が消えるとは思っていなかったが、それでもそんな覚悟をしていた。
だが、違ったのだ。

――「一体・・・その怪我はどうしたんだ?」
――「・・・・・わかりません」

あの時、ユズハは確かにそう言った。
目の見えない彼女にとっては、一体あの時何があったかも分かっていないのだろう。


その痛みを与えた人物がこんなそばにいる。
かりそめの笑顔と、このまま気付かれなければいいという卑しい心で本当の自分を隠したままで。
その事実さえも、ことみの心に深く影を落とす。

これさえ、たとえいっときでも悪に荷担したことみに対する、神様が与えた罰なのだろう。
(私は、どんな罰でも受けるから。だから、この子を)
『わるもの』達から助けてやってほしい。
「ごめんね。もうちょっとだけ、このままでいてほしいの」
「……はい」
言わなくちゃ。嫌われても蔑まれても――そしてそれで殺されてしまっても。
たとえ、自分の行き着く先が、父と母の待つ、明るい所ではなかったとしても。
411休憩中:04/05/16 23:26 ID:RZN4+q/x
  潮の香りを頼りに、ここまでやってきた。
  「お兄さま…」
  とても優しいお兄さまのことを思う。でも、その優しいお兄さまの表情までは脳裏に浮かばない。
  私の目が、お兄さまの顔を映したことなどなかったから。
  それでも必死で想い描いた表情。とても懐かしくて優しい匂いがした。

  ここまで届く穏やかな潮の香りに紛れて、かすかに感じた人の香り。
  怖くはなかった。とても優しい香りだったから。
  それは私の知る匂いとはどれとも違うものだったけれど。

  だけど、空を切り裂く音と共に、左足に感じた鈍い痛み。
  「……ぁ」
  じわりと広がるその痛みと共にわずかに浮かび上がた恐怖に思わず声を漏らす。

  少しの静寂の後、足音。
  「……誰、ですか?」
412休憩中:04/05/16 23:27 ID:RZN4+q/x
  一度、浮かび上がった恐怖は、すでに消え去っていた。
  「ごめんなさい。私、目が見えなくて、そして、身体が弱いから
   ――会ったばかりなのに迷惑をかけてしまいました」
  「え……っと、ユズハちゃん」
  「はい」
  「もう、大丈夫」
  とても短い間だったけど、もうお友達になれたんだと思う。
  「わるものは、どこかへ行っちゃったから」
  ことみちゃんが、笑ってそう言った。でもそれはすごく悲しみを湛えたままの声色で。
  「だからね。もう迷惑なんかじゃ、ないの。迷惑なん……かじゃ……」
  ことみちゃんはとても、優しい。

  だから私は嘘をついた。
  「ことみちゃんが、追い払ってくれたんですね。――ありがとう」
  そう。ことみちゃんの言う『わるもの』はどこかへ行ってしまった。
  ことみちゃんが追い払ってくれた。
  他の誰が信じなくても、私はそう信じることにした。
  「……」
  「ありがとう」
  ことみちゃんの優しい匂いがかすれてしまいそうだったから、ことみちゃんを包んだ空気がまた震え出しそうだったから。
  もう一度、そう声をかけた。
413休憩中:04/05/16 23:27 ID:RZN4+q/x
二人手をつないだままずっといた。
「もう、寒くはないですか?」
「うん」
ことみの吐息がユズハの鼻腔をくすぐる。
ことみがにっこりと微笑んだ……ような気がした。
だけど、それは今にも泣き出してしまいそうで。
「あのね、ユズハちゃん、私……――っ!?」
その言葉を、強引に塞いだ。ことみの甘い香りが口の中いっぱいに広がる。
ことみもそっと目を閉じた。自然、二人の手がお互いの背中に添えられる。

ユズハと深く繋がったまま、ことみの口が言葉を紡ぐ。
――ごめんなさい、そしてありがとう
声にはならない言葉だったが、体と心で感じ取れた。

ユズハは、もう一度、ことみを強く信頼することを心に誓った。
もしも、この先二人が引き裂かれても。
あの出会った時の悲しみがことみを押しつぶしてしまいそうになっても。
ことみの追い払った『わるもの』が、再び襲いかかる日がやってきたとしても。
ユズハはずっとことみを信じ続けようと誓った。

二人はもう親友だったから。
今二人がしている行為はもう、とても親友同士の戯れには見えなかったけれど――


【ハクオロは現在小屋探索中】
【ユズハ、ことみ 休憩中】
回想メインですので、時間は>>335からほとんど経ってません。
段落が下がってるのが回想部分、それ以外は現実です。
414 ◆QGtS.0RtWo :04/05/16 23:35 ID:Qjg0XA5R
399はボツでお願いします。
415志保ちゃんレポート3:04/05/16 23:55 ID:R9LChhUf
「でね、木田くんがね…」
 暗がりの中でもこの女というのは緊張感が無いのか。
 相変わらず男の話を続けていた。
「あんたね、男の話じゃなくて、女の友達っていないの?」
「…え…」
 立ち止まり、ぽかんと口をあける。
 その瞬間。
『参加者の諸君、ご苦労』
 拡張機を通した声が耳に届いた。
 どうやら死亡者は11名出ているらしい。
 わたしの知り合いは、まだ生きているようだ。
「どうやら、あなたの木田くんもまだ生きているようね…」
「…い、うん、しーちゃんも…まだ生きてる」
「しーちゃん?」
「あたしの、友達…」
 どうやらこの子にも女性の友達はいるらしい。
 しかし…。
「あうっ…」
 ずてんと、透子は地面に倒れこんでいた。
「また転んだの? 暗くて地面見えないんだから、気を張って歩きなさいっていったのに」
「ごっ…ごめんなさいっ…」
 こんな子の友達でいられるやつは、よほど気の長いやつか良いやつか、頭のおかしいやつのどれかだと思う。
 普通の真剣では、耐え切れない。
 ドジだし、のろまだし、たまにドモるし。そんなところがかわいいって男なら思うが、同姓としては…。
 ま、私にとっては面白い取材材料なのよ。だからもう少しこの子と居ようと思うわけで。
 
【今日の志保ちゃんレポート】栗原透子に女の友達は居るらしい
416お茶会→お掃除→しばしのお別れ:04/05/17 00:00 ID:mkaI/US3
「──ですから私、もっとお料理とか身の回りのこととかできるようになって、そーいちさんに喜んでもらいたいんです」
「ふふっ。七海ちゃんは本当にそーいちさんの事が大好きなのね」
「はいっ!」

島内の惨劇がまるで別世界の出来事の様に、別荘内では七海の話をBGMに穏やかな時が流れていた。

ティーブレイク開始直後、七海が「お二人の事をいろいろ聞きたいです」と言い、最初はやんわりと断ったベナウィだったが、南が「せめてお茶の間だけでも、逆に七海ちゃんのお話を聞いてあげませんか?」と提案し、それぐらいなら、とベナウィも承諾したのだ。

その後は、ベナウィが別荘を訪れる前に南達が行っていた、『大掃除』と言う名の物資探索を三人で再開する運びとなった。
七海以前にここを訪れた何者かの手により雑然としていた別荘内だったが、男手が加わった事もあり、事はほんの一時間程で完了した。

結果、アイスピックと金槌が一本ずつ発見され、南と七海がそれぞれそれらを。それとは別に、二階の窓から取り外したワイヤータイプのカーテンレールをベナウィが所有する事となった。

食料も既に粗方持ち去られた後だったが、持ちきれなかったのか、冷蔵庫の中には幾分かの野菜や肉類が残っていた。
「これだけあれば丸一日は保ちそうね。お米が無いのが少し残念ですけれど…」
熟れたトマトを手に取りながら、南がそう言った。
417あさひの決意1/2:04/05/17 00:09 ID:ZkgnejgF
「……ん……あ、あれ?」
「おはよう」
目を覚ました桜井あさひ(42)に向かって、少年(46)はほほえみかけた。
「お、おはようございます」
状況が把握できないあさひは、反射的にそう答えることしかできなかった。


すでに日は沈み、辺りはすっかり闇に包まれていた。
「わたし…いつの間に眠って…」
「うん。疲れてるみたいだし」
「ご、ごめんなさい」
「いいよ。気にしなくて」
それっきり、あさひは黙り込んでしまった。


あさひが少年に話しかけたのはそれから十分ほど後のことだった。
「あ、あの、さっきはありがとうございました」
「どういたしまして」
「それでは、わたしはそろそろ行きま…」
「ちょっと待って」
立ち上がろうとしたあさひを征するように、少年はあさひに言った。
「一緒に行かないかい?」
「え………」
「こんな島だし、一人よりも二人の方がいいよ」
「………」
再び黙り込んでしまったあさひの――何かとまどっているかのような態度を感じ取った少年は、彼女がまだ自分を完全に信用しきっていないということに気がついた。
(まあ、心を許した相手に裏切られたんだしね)
418あさひの決意2/2:04/05/17 00:09 ID:ZkgnejgF
あさひも、頭の中では少年がゲームに乗っていないことは十分理解していた。
そうでなければ自殺しようとしていた自分を助けるはずがないし、眠った自分が起きるまで待っていることもないだろう。
そして何より、彼女は彼を信じたかった。
彼に微笑みかけられたとき、彼女は本当に安心し、嬉しかったから。
だからこそ、すべてを話したのだ。
しかし彼女の中には、晴香に裏切られたときの恐怖、そして絶望が根強く残っていて、それを払拭することができなかった。


どれくらい沈黙が続いたであろうか。
少年は、それまでとまどっといたあさひの中で何か決意のようなモノが生まれたような気がした。
それと同時に、あさひはついに口を開いた。
「………信じて、いいですか?」
「…いいよ」
少年は笑って答えた。
そして、ふたりは歩き出した。

【あさひ、少年移動開始】
【時刻は夜8時ごろです】
【少年がカセットウォークマンを発見するのはこの少し後です】
419Crif ◇48.qEur9RA :04/05/17 00:12 ID:DYCR5jZH
見つけた物は?

「結局…見つかった物はこの位か」
小屋の探索を終えたハクオロは居間で見つけた物を整理していた
鍋の蓋、携帯用ガスコンロ(ガスボンベは無し)、ロウソク2本、ロープ5M、雑誌数冊、
空の2Lペットボトル2本、湿った花火、100円ライター…
(やはり武器になるような物は無いか…しかし、何かに使えるかも知れぬ以上幾つかは
持って行って損にはなるまい)
自分のバッグに使えそうな物…鍋の蓋、ロープ、ペットボトル、花火、ライター、ロウソクを
仕舞い込むと小窓を開け外の様子を確認しておいた
(雨は…小雨になっている。今すぐ出発するのも構わないが…二人の体力の事を考えると
出来るだけ休息を取っておく事に越したことはないであろうな)
周辺の安全を確認すると居間に戻り床に座り込んだ
(これからどうするべきであろうか…武器も無しに歩き回るのは危険過ぎる…
とりあえず身を守る程度の装備は必要であろう…)
床に座り考えていると足元に転がっていたユズハのバッグが目に入った
(む、そういえばユズハに支給された武器は何だったのだ?妙に重たかったのだが…)
ユズハのバッグを拾い上げ、中身を探っていると黒い銃身が目に入った
(これは…思わぬところで武器が手に入ったな…これで二人を守り切る事が出来るかもしれん)

バッグの中に入っていたのは当たり武器の一つであるAL47突撃ライフルであった・・・・・・

【ハクオロ 木の棒 小屋で見つけた物所持】
【ことみ 睡眠中】
【ユズハ 睡眠中 AK47突撃ライフル 残弾30発 予備マガジン×3】
【雨が上がり始めました(午前二時辺り)】
420Crif ◇48.qEur9RA :04/05/17 00:15 ID:DYCR5jZH
>>419はひとまずNGでお願いします。
421ひとくい:04/05/17 00:16 ID:9btcNHMO
 ふたりは、この島で出会い、そして仲良くなった。
 少なくとも志保は、そんな気がしていた。
 もう添い遂げた彼氏のこと、まだ向かい合えぬ彼のこと。
 そんな楽しく切ない話題を、繰り返し繰り返し、語り続けた。
 年頃の少女の、いたってありきたりな会話だった。

「あう?」
「どしたの?」
 しかし、夢が覚めるのは、いつだって唐突なものなのかもしれない。
「長岡さん、この影って……?」
「え? ええっ……!?」
 見上げる彼女達の視線の先に、死があった。
 夜闇を遮る、巨大な何かが、そこにあった。
 緩やかな風に乗って、鼻をつく獣臭が流れてくる。
 地響きのような咆哮が、彼女たちの脚を竦ませる。
 そして小刀のような爪と、牙。まさしくそれは、死と恐怖の象徴だった。
「ひ、ひいっ!」
「や、やだやだやだ……!」
 少女が、二人。長岡志保と栗原透子。
 その心が逃げ惑う。
 だが、身体はまるで付いていかなかった。
 ただ無力に腰を抜かしたまま、後へと這いずるのみだ。
422ひとくい:04/05/17 00:18 ID:9btcNHMO
「ヴオオオォォォォ……」
 獣が低く、威嚇するような声を放つ。
「きゃあっ!」
 思わず志保の後に隠れる透子。
 志保は、そんな透子を見て、わずかな勇気を振り絞った。自分が戦うしかないのだ。
 ナイフを抜き、震える腕に勇気を乗せて、獣の前に突きつける。
「く、来るんじゃないわよ! ただで食われると思ったら、大間違いなんだからねっ!」
 
 ざっ

 一瞬、奇妙な間があった……ような、気がした。
 目の前を、爪が一閃していた。
 そう思ったときには既にナイフが消え、彼女の掌は原形をとどめていなかった。
「ぎ……あああぁぁぁあああ!!」
 志保が絶叫する。手が破裂したかのように、砕け千切れていた。
 傍らの透子を逃がそうとして、残った腕を押し出して――掴めなかった。
 もはやそこに、透子の姿はなかったのだ。
 志保を置いて、笑う膝をどうにか御しながら、逃げ出す透子。
「ご……ごめんなさい、長岡さん、ごめんなさいっ!」
 護ろうとした、助けようとした。ほんの少しの後悔が、小さく渦巻いた。
(盾にしてやろうだなんて、思ってた、のに――まるっきり、逆じゃない)
 ただ苦痛だけが、ただ無念だけが、残っていた。
(バカ、みたい)
 自分を、笑うしかなかった。

 ごきっ
 
423ひとくい:04/05/17 00:20 ID:9btcNHMO
再び、爪の一閃。今度は脇腹。
「ひぎ――」
 そして続く絶叫は、瞬時に虚空へ吸い込まれた。
 肩から上が、獣の顎の中へと取り込まれていたからだ。

 ばきん  ごきん

 魂すら消え、あとはただ、食料となるのみだった。
 やがては主と呼ばれた人喰い虎の、糞となるだけである。

「……ん?」
 皐月は、いつの間にか眠ってしまっていた。
 食料を探して動き回ったが、結局付け合せに使う香草がいくつか見つかっただけ。
 ただ疲労だけが残り、満足に空腹を満たすこともできず、倒れるように眠っていた。
「あれ? トンヌラ、どっか行ってたの?」 
「ヴォフ」
 そこには何故か、鞄があった。
 皐月の物ではない。中には食料と水があり、武器はなかった。
「……拾ってきたんだ?」
 奇妙に思えたが、もはや何人も死んでいる以上、拾ってきたのだろうと結論付けた。
 ありがたく、いただこう。
 これで明日も、頑張れる。
 自身を励ましつつ、皐月は空腹を満たした。


【034栗原透子 逃亡 装備不明のまま】
【061長岡志保 死亡 ナイフは死体の残骸にまみれています。鞄は皐月の元へ】
【残り76人】

【095湯浅皐月 志保の食料摂取 皐月はトンヌラの人喰いを知りません】
【ムックル(=主=トンヌラ) 皐月の武器。満腹しないと、他人を喰う場合があります】
424お茶会→お掃除→しばしのお別れ:04/05/17 00:24 ID:mkaI/US3
「それではお二人共、どうか充分にお気をつけて」
「ええ。ベナウィさんも。早くハクオロさんにお会いできると良いですね」
「はい」

場所は別荘の玄関先。下足箱上の置き時計は午後8時を指し示している。

物資の分配が済んだ後、再度お互いの行動指針を確認しあってから、ベナウィは別荘を離れる事にした。
正直、非力な女性を二人残して発つのは彼にとって後ろ髪を引かれる思いだったが、一刻も早く、そんな危惧さえも抱かぬよういられる状況を手繰り寄せる為にもと、ベナウィは当初の目的通り、ハクオロの捜索を優先させる事にした。
時は既に夜。多くの参加者が徘徊するであろう昼日中より、この時間帯の方が探し人を見つけ易いと践んでの事でもあった。

すっと、七海が水筒をベナウィに差し出す。
「ベナウィさん。これ、さっきのお茶を入れておきましたから、持って行ってください」
「ありがとうございます。もしそーいちさんに出会えたら、七海さんがここに居る事をお伝えしておきます」
「はい!よろしくお願いします」
ほんのりと温もりの伝わる水筒を七海から受け取り、ベナウィはにこやかに微笑んで言った。

「…それでは、また」
「はい。またお会いできると良いですね」
「またお会いしましょうね!」

三人で手を握り合い再会の約束を交わすと、ベナウィは静かに宵闇の中へと消えて行った。

【82番 ベナウィ 所持品:槍(自分の物)、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、紅茶入り水筒】
【83番 牧村南 所持品:携帯食料一式、アイスピック】
【56番 立田七海 所持品:鋸、金槌】
【時刻:午後8時】
【残り77人】
425お茶会→お掃除→しばしのお別れ:04/05/17 00:27 ID:mkaI/US3
修正;
【残り77人→残り76人】
426紅いソレ:04/05/17 00:37 ID:T1ozaB0U
「ふむ、ペースが落ちてきたな…」
目には底の見えない闇を宿し、そしてあくまで冷静に篁は呟く。
「そろそろ頃合いだ。アレを出せ」

暗闇のなかをトラックが走っていた。トラックには大きな特殊容器が一つ積まれ、運転している兵士は、それを森のなかに放置することが任務であった。
だが、気付かなかった。何しろ森のなかの道だ。揺れで破損した容器からゲル状の赤い物質がすべて出ると、ソレは生物ではないはずなのに明確な殺意を兵士にむけた。

「うわぁぁぁぁぁぁ……!!」

気付いたときは遅すぎた。兵士は溶けるようにあくまで紅いソレの一部と化し、ソレは絶望とも怨念ともとれる声を出しながら怠慢な動作で森の闇へと消えた。兵士の声を以て…。

【スライム?森のなかへ、トラック放置】
427無尽君 ◆JmtStMCL6c :04/05/17 00:47 ID:DYCR5jZH
>>426の作者さま。
お手数ですが、感想スレまでお越しください。
428名無しさんだよもん:04/05/17 01:03 ID:fALxTcpp
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
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429名無しさんだよもん:04/05/17 01:10 ID:T1ozaB0U
>>426、NGでお願いします。
430幻想幻夢:04/05/17 01:16 ID:fJ69kxOT

世界には私しかいなかった

丘にあるたった一つの小屋

この世界で「人」は私一人だった

それは悠久に続くものと思っていた

しかしその時は唐突におとずれる

変わってしまったのは世界の方だろうか

それとも私だろうか

どちらかはわからない

しかし確実に「変わって」しまったのだ
431名無しさんだよもん:04/05/17 01:31 ID:7kOBmx6W
私はいつも空を見ていた。
それなのに、あなたは違う人を見ている。
私はそれが悲しくて寂しくて哀しくて、
けれども、あなたの前では心を殺して振舞った。
あなたの痛む表情は見たくなかったから。
そのあなたはもういない。
あなたを殺したのは私の姉。
あなたが見つめていたのは私の姉。
だから、私は姉を殺す。そしてあなたの後を追います。
432名無しさんだよもん:04/05/17 01:45 ID:7K0M4g+m

落葉と奇術師の形見

 身動きの取れない状態で一晩休み、暁闇の中橘敬介(055)は森へと踏み込んだ。
 まだ足取りはおぼつかず、体を引きずるようにゆっくり歩くことしかできなかったが、かまわず進む。
 手が動かせるようになったとき、身につけていた分だけで簡単な食事をした。かなりぬるくなっていた
水を喉に流し込んだあと空の容器に沢の水を詰めた。通り雨があったらしく起きたときにはずぶぬれになっていたが、
一応絞れる分の服は絞った。いい気分ではないがこの際仕方がない。
 観鈴と晴子を探す。三人生き残って最後にはあの二人を町に送り届ける。どのような願いも、とあの老人は言って
いたが、「人を生き返らせる」という発想はこの時点の敬介の中には無かった。
 ゆっくりと、確実に、暁闇の中を、敬介は歩く。

 そして夜が明けるころ見知ったものと遭遇する。放送の時ひっかかった51という数字に。

 無言で再会したカラス色の髪の少年は何も映さない目で天を睨んでいた。
 それは明らかに刺殺体だったがどうしても目に付くのは欠けた両手首。うち片方は胸の上に置かれている。
 …気味が悪い。少年には失礼だろうがそう思わざるを得ない。
 目を閉ざしてやる。引きつった顔はそのままだが睨まれるよりだいぶましである。
 そして…左の袖口を裏返した。やはり気になるのだ。スタート地点でのあの笑みが。
433落葉と奇術師の形見2:04/05/17 01:47 ID:7K0M4g+m
 シャツの袖口にとめつけてあるのは安全ピンやらゼムピンやらクリップ式のヘアピンその他もろもろ。
 そしてそれに押さえられる形で袖の裏にとめつけられていたものを引っ張り出す。
 手にしたそれはなんとも緊張感に欠ける代物だった。
 たこ糸を数本よりあわせた紐に、ごく小さな布切れがいくつもいくつもくっついてくる。
「…万国旗?」
 色とりどりであったであろう旗はすでに血がついてまだらになっている。しかしその場違いかつ滑稽な代物に、
いつしか敬介の口元は緩んでいた。死せる奇術師が最後に笑わせたのは見知らぬ男。
「確かに、それもありかもしれない」
 少年の笑みの理由がわかった気がした。

 ポケットや右袖からおそらく支給品だっただろう肥後ノ守、ポケットからも使えそうなものを失敬して、敬介は
少年のそばに穴を掘りはじめた。恩人をそのままにしておくのは気が引けたからである。残された左手首は袖の中に
押し込んだ。血はある程度雨で流されているため、違和感はない…右手に目を向けなければ。
穴に少年を下ろし、やわらかい土をかぶせていく。その中に落ち葉が多少混じる。
434落葉と奇術師の形見3:04/05/17 01:48 ID:7K0M4g+m
 敬介は唖然とした。
「落ち葉、だって――!」
 今でこそスーツを着ているがこの島に連れ込まれる前はワイシャツでの生活が続いていたはずだ。
それがここではこうだ。確かに沢で身動きが取れなかったときに見たのは緑の木である。しかしここには
量こそそう多いわけではないが確かに枯葉が積もっている。そういえば今埋めているこの少年の制服は
カーディガン…おそらく冬服だろう。この不整合はどういうことか。
 敬介は眩暈を覚えた。まるで季節感がない。メモを取ろうとしたときにシャーペンと手帳がないことは気づいていた。
あの手帳には確かにカレンダーがあり、7月23日の項にはメモを――
 なぜあの何の変哲もない手帳が取り上げられたのだろう。敬介は訝った。シャーペンについては心当たりがある。
あれはいささか特殊な形状で、ペーパーナイフとして使うこともできる。武器としては最弱の部類だろうが
はずれの支給品よりは役に立つだろう――この状況下では。しかし手帳はどうしても納得がいかなかった。
 とはいえ、ここで主催者側に直談判などできようはずもない。しかも自分は孤立しているのだ。

 目の前で、最初に殺された学生が目に浮かぶ。目の前の、半ば土に埋もれた少年が目に焼きつく。
 …現実。
 体に埋め込まれている爆弾。
 生きて護るために殺さなければならないということ。
 自分はいつも、そういつも甘いのだ。
 行動が取れなかったことで失念していたのかもしれない。流されていたのかもしれない。
435落葉と奇術師の形見4:04/05/17 01:49 ID:7K0M4g+m
「僕というやつは、いつもこうだ」

 ふと、手元を見やる。両手を開ける必要性から手首に巻いておいた万国旗が視界に入る。
 なぜだか笑えた。笑いながら、泣けた。
 感情の起伏が激しくなっているのかもしれない。しかし、それも悪くない。
 観鈴を笑わせてやりたい。晴子を笑わせてやりたい。
 この島の状況では困難なことかもしれない、でもそれが願い。
 彼女たちを笑わせてやること。
 
 …近くに咲いていた花を手向けると、敬介は死体の下にひかれていたバッグを持ってその場をあとにした。
ポケットは文字通りガラクタだらけで、どこかで整理する必要がある。もう一度振り返ると、

「ありがとう」

 敬介は走り出した。手首に巻かれた紐がそのあとを追った。

【055橘敬介:行動開始、住井の死体から肥後ノ守その他ガラクタたくさん(要整理)、万国旗をせしめる
       釣り糸、釣り針、ハンカチ、水入り容器を所持】
【夜明け前から朝にかけての出来事です】
436無尽君 ◆JmtStMCL6c :04/05/17 02:50 ID:1Z8Bj9sp
ある日 パパと 2人で  語り合ったさ

高倉みどり(53)は、またもや歩いていた。
最も先程までのような闇雲な歩き方ではない。今のみどりには明確な目的がある。
この島のどこかにある「絵皿」を探し出し、自分の持つ白うさぎの絵皿と引き合わせる事。
骨董好きの自分にとってこれほどピッタリな仕事も無い。それに・・・
「早くお友達に会わせてあげないと、お皿が可愛そうですものね。」
曰く、『骨董には魂が宿る』。それは父、宗純に繰り返し言われてきた事であり、今では持論でもある。みどりには、皿に描かれたうさぎが悲しんでいるように思えた。

「随分と日が傾いてきましたねえ。そろそろ寝る所を探さないと。」
結局、日没までに皿を見つけることは出来なかった。森の中をうろうろしていただけなのだから、当然といえば当然である。
「やっぱり一人で探すより人に手伝ってもらった方が良いかしら。」
実は、先程から気になっていた場所がある。森の中で一箇所、僅かにだが煙の上がっている場所があるのだ。火の無い所に煙は立たぬ。火があるということは、そこに人が居ると言う事である。
ここまで出来るだけ人に会わないように来たみどりだが、人を探すならあの場所に行くのが一番だろう。
「悩んでいても仕方ありませんね。行きましょう。」

こうしてみどりは歩きつづける。今度は少年と少女の待つ洞窟へと。

【53 高倉みどり 目的:絵皿を探す 現在は浩之と理緒の居る洞窟へ向かっている】
【残り 76人】
437現実を見つめて1:04/05/17 02:57 ID:mgUWo3nd
古河渚が目を覚ます、どれくらい時間がたったのだろうか。太陽を確認するとだいぶ傾いていて、夕方前といったところだろうか。
何か夢をみていたような気がする。とても大事な事だったと思うが内容までは思い出せなかった。
目だけを使ってまわりを見渡す
(そうか、知らない島に来てるんだった。やっぱり夢じゃない…)
やはり目が覚めたら何もかも夢だったという願望は捨てきれないでいた
(もう、昨日までの日常には戻れないのかな…)
「渚さん、起きられましたか?」
考えを巡らせていると隣に座っていた少女、エルルゥに声をかけられる。
「はい、おはようございます」
「調子はいかがですか?」
体の方を気にしてみる。微熱程度は残っているが活動するには問題ないと思う。
「だいぶよくなったみたいです」
「それは良かったです」
エルルゥがさも自分のことのように喜び笑いかけてくる
「起き上がれますか?」
上体だけ起こしたところで額に手を当てられる
「…………ん、まだ少し熱が残っているみたいですが大分下がりましたね。あとは何か食べた方がいいですね、食べられそうですか?」
熱があった時はそんな空腹感など無かったが熱が下がり朝から何も食べていない状況では愚問であった。
「はい、お腹空きました。えへへ」
渚が笑顔で返すとエルルゥはとても嬉しそうだった。そして二人でバッグをあさる
「こっちの紙状の入れ物に入っている物は食べられる物とわかったのですがこっちの硬い筒は何でしょうか?」
エルルゥが栄養固形食と缶詰を手にし、尋ねてくる。
「これは食べ物を保存しておくための容器でですね…」
と言って自分の缶詰を手に取る。缶切の必要ないタイプだったのでプルタブを起こし引っ張って開封する
「こうやって開けてください。中身は…乾パンのようですね」
そんなこんなで二人で食事を進めていった。
438現実を見つめて2:04/05/17 02:58 ID:mgUWo3nd
後の事を考えると全部食べてしまうわけにもいかないので、その辺は考えてとる事にした。水はエルルゥは全て使ってしまったので渚の水を二人で少しづつ飲んだ。
「…水を探さないと駄目ですね」
エルルゥが呟くようにそう言った。食料はまだ若干の余裕があるが水はそうはいかない。
「夜になる前にちゃんと休める場所も探したいですし…渚さん、少し辛いかと思いますが歩けますか?」
と、申し訳なさそうに聞いてくる。それを渚は笑顔で返す。
「私なら大丈夫です。この程度なら日常茶飯事…って言うのも変ですけど、慣れていますから」
と言ったらエルルゥが、え?といった様な表情で固まってる。
「えっとですね、私体が弱くていつも熱出しちゃうんですよ、それで…」
「そうだったんですか…でも無理だけはしないでくださいね」
「わかってます、これ以上迷惑かけたら両親に叱られます」
「私は迷惑だなんて少しも思ってません。辛いのに辛いと言ってもらえないほうが困りますから」
「はい、では日が落ちる前に行きましょう」
と言って二人は立ち上がりそれぞれの荷物を持つ。
439現実を見つめて3:04/05/17 02:59 ID:mgUWo3nd
「肩、お貸ししましょうか?」
「あ、いえ、大丈夫ですので」
「そうですか」
「ただ…」
「はい、何でしょう?」
「…手を…繋いでもらえないでしょうか」
と聞くとエルルゥは何も言わずに微笑むと、手を差し出してきた。
渚も笑顔でその手に自分の手を乗せ、しっかりと繋ぎ歩き出した。
(もう、これは夢じゃない…これは現実…)
渚が眠る前に夢である事を切望することはこの時から無くなった

突然終わってしまった日常。昨日までの日常にはもう戻れないかもしれない。
しかし、渚は終わってしまった日常に、すがる事はもう無い。

次の楽しいこととか、うれしいことを見つければいいだけだろ。
あんたの楽しいことや、うれしいことは一つだけなのか?ちがうだろ

いつか少年から聞いた言葉を胸に、少女は前に歩き続ける


※補足
固形栄養食=いわゆるカロリーメイトっぽいの
【二人の持ち物:渚の支給品は後の書き手に依存 食糧を消費、水はあと少し
 薬草類(描写はされていませんが渚が寝ている間にある程度採取) 
 乳鉢セット(「当たり」により自分の持ち物より支給された物)     】
「この島にも、こんなものがあったのだな」

 夜空を見上げると、黒い雲が薄くかかっていた。
 恐らく一雨来る。そう考えた智代は、できるだけ大きい建物を探した。
 どうせ雨宿りするなら、人が多い方が『仲間を集める』という目的を叶え易いと思ったからである。
 逆に考えれば人が多い分危ないのであるが、智代はその危険性をあまり深く考えなかった。
 飛び道具にはまずいが、ナイフレベルなら素手でもどうにかなる。
 そして飛び道具は、障害物の多い建物内では不利に働く筈だった。
 そう判断して歩くこと数分。智代は意外と早く、目当ての『大きい建物』を見つけたのである。
 しかし――大きい建物と言っても、これは予想外だった。
「学校…か」
 制服、定時放送――それらのことを一瞬思い出した智代は、期待と不安、喜びと悲しみが入り交じった微妙な表情で呟いた。

 ざっ、ざっ、ざっ……
 グラウンドの、一度も踏まれていないであろう砂の感触を踏みしめながら歩く。
 桜が咲いていないことを残念に思いながら、智世は校舎へと向かった。
 校門の正面の校舎にかかっていた時計――暗くて見えにくかったが、どうやら現在時刻は十時過ぎらしい。
 寝る時間としては、早くもないし遅くもない。
(今晩はここで夜を明かすか…)
 そんなことを考えながら、正面玄関へと近付く。
 距離は、それほどのものではなかった。
 玄関の扉に手をかけ――開ける前に、ガラスを通して中を覗く。
 薄い雲に覆われて弱くなった月明かりが、校舎の中に智代の影を作る。
 真っ先に目に入ったのは、予想通り下駄箱だった。
 その向こうには、下駄箱と垂直になる向きに廊下と、上に続く階段がある。
 智代は慎重に、人の気配を探った。
「ふむ…」
 とりあえず、玄関付近に人の気配はない。
「――行くか」
 智代は自分自身に発破をかけるように呟いて、扉を開いた。
 キィ…
 耳障りな音が鼓膜に響く。
 その音に眉をひそめつつ、智代は校舎内へ侵入していった。

 下駄箱を素通りし、土足で廊下に足を踏み入れる。
 生徒会長としてあるまじき行為だが、気にしないことにしておいた。
 ――が。
(ふむ…)
 智代は不意に振りかえる。
 まず最初に感じた違和感は、下駄箱だった。
(上履きが…入っている…?)
 素通りした下駄箱――その半分に、上履きがしっかりと入っていた。
 しかし、智代はグラウンドに足を踏み入れた時の感触を覚えている。
 あれは間違いなく、誰にも使われていなかった。
 そしてこの廊下も――というより学校全体から、使われているような雰囲気が全く感じ取れない。
 ということは。
(全て…全て、演出ということか?)
 智代は再び前を向いた。
 そこにあるのは、掲示板。
 何も貼られていない、ぴかぴかの掲示板。
 なのに、何故かその脇には画鋲ケースが置いてある。
「手間のかかることを…」
 智代は、思わずそうぼやいた。
 そして、画鋲ケースを手に持ち、二階へと続く階段に一歩踏み出した。

【智代 画鋲ケース(画鋲30個入り)を入手。誰も居ない学校に侵入】
【時刻は十時過ぎ】
【学校は三つの校舎からできています】
442無尽君 ◆JmtStMCL6c :04/05/17 03:21 ID:1Z8Bj9sp
>>436の補足

時刻は終了時点で20:00ごろ。途中何事も無ければ>>237の直後ぐらいに洞窟に着きます。
443One Arms:04/05/17 04:18 ID:1/b5G8Fd
 森外れの民家の監視を始めてから二時間ぐらいが過ぎただろうか。
 麗子の望む変化が、監視先付近で早くも起きていた。
 大型の銃器を持った二人組みが現れたのだ。
 二人組みの少年の方は、迷うことも無く大型の銃器―いや火炎放射器だ―で、民家に火を放ち始めた。
(……まあ、あれなら警戒も必要ないわよね)
 いささか無用心なようだが、確かに家ごと燃やしてしまえば大抵の術や策など踏み潰してしまえるだろう。
 そのうち中の人間が飛び出してくるだろうが、この有利な状況とあの武器ならそう負けはしないと踏むのも間違った判断ではないかもしれない。
 声を上げて笑う少年と、クスクスと笑う少女を見ながら、麗子はそう考えた。
 まあ、それでもどんでん返しがあるかもしれぬ、と最後まで顛末を見届けようとしているうちにふと笑い続ける二人を、隙だらけ、と思った。
 なるほど、確かに完全に攻め手に回った気になっている二人は周囲への警戒を怠っていた。
 そして、後のことを考えてみれば、あの火炎放射器はとても魅力的な武器に思えた。
 多少の危険は冒してでも手に入れたい、それに家が燃えてしまう以上はこのまま座しても得るものは無い。
 麗子はそう考え決断を下す。
 そうなれば襲撃の準備だが、左腕がまるで当てにならない以上、鉄パイプでは決定打にかけるだろう。
 ならばと、麗子は器用に右手一本で月宮あゆの支給品を取り出す。
 出来れば使いたくはなかった、何しろ隠密性が0に等しい上に近接用の武器だ。
 攻撃力自体に不満は無いが、飛び道具を相手にするに相性は最悪ともいえた。
 が、贅沢を言っていられるような状況ではないこともまた事実。
(ある程度は賭けることも必要……か)
 自嘲するよう笑って、麗子は無骨なそれを右腕に半ば括り付けるように持ち、スターターロープを口にくわえた。
444One Arms:04/05/17 04:19 ID:1/b5G8Fd

「アハハハハハ! やる気の無い奴らはさっさと死んでしまえばいいんだよ!」
 一方で長瀬祐介は狂ったように笑っていた。
 玄関に窓と戸と、一通りの出入り口に火を付け終わり、満足そうに笑っている。
 声の大きさではなく、その質が深い狂気を感じさせた。
 あるいは、日常からはみ出たという意味では彼は既に狂ってしまっているのかもしれない。
 そしてその狂気が伝染したように、もしくはこちらが発生源なのか、月島瑠璃子も隣でドロリとした微笑を浮かべている。
 しかし、その燃え始める家屋を半ば恍惚と見上げる二人をさえぎるように ブルン! とすぐ後ろから轟音が聞こえた。
「アハハハハ……ハ?」
 聴いた瞬間はバイクか車のエンジン音かと思った。
 しかし、ぼんやりと振り返ってみれば目に入るのは、チェーンソーを上段に持ち上げ、咥えたロープを首で引き絞りながら突っ込んでくる白衣の女性。
 あまりにシュールな光景に目を奪われ祐介の反応が遅れた。
 更には、知らぬ間にかなり近くまで接近されていたことも災いし、手元の火炎放射器では対処できない状況にまで追い込まれていた。
 対する麗子は、容赦なく動作を始めたチェーンソーを目の前の少年に振り下ろす。
「うわあっ!?」
 しかし、祐介もかろうじて火炎放射器の砲身を盾のようにして振り下ろされる刃を凌いだ。
 だが、走ってきた相手の勢いは殺しきれず体勢を崩してしまう。
 麗子はそこに全体重をかけてチェーンソーを押し込んでいく。
 自然と麗子を上にする鍔競り合いのような形となった。
 一般的なそれと違うのは、片方の武器が一方的に切断されようとしていることだろうか。
 加えて何ともいえない金属同士が擦れ合う高音と、火花が辺りに散る。
445One Arms:04/05/17 04:20 ID:1/b5G8Fd
「な、な、何なんだよ、お前は!?」
 先ほどまでの狂気から一気に覚めて祐介が叫んだ。
 見る間にチェーンソーが砲身に食い込んでいく。
(……どこまでもツイてないわね!)
 優勢を自覚しながらも、麗子が内心で己の運勢を罵る。
 本来、性差の上に片腕のハンデまで加わっては、いかに祐介が小柄な少年といえど、力でもって麗子に勝ち目は無かった。
 しかし、機先を制したことで互角以上の体勢に持ち込めた。
 その上、武器の特質が味方をし、負傷による体力の減少が問題になる前に、砲身を切断して勝てるといった状況にまで持ち込めた。
 だが、このままでは火炎放射器を破壊してしまい、当初の武装の増強という目的を達せられるかどうかは怪しい。
 麗子の表情は厳しいものへと変わっていった。

 パンッ
 
 そこで傾きかけた天秤を止めるかのごとく、火薬の弾ける音がした。
「……長瀬ちゃん!」
「瑠璃子さん!」
 少し遅れて我に返った瑠璃子のベレッタが発砲されたのだ。
 火炎放射器のみを武器と思い、予想以上に高い二人組の火力を読みきれなかった麗子のらしくないミスだった。
 負傷や詰まっていく状況が、本人にも気付かない焦りを呼んだのだろう。
 しかし今の射撃自体は、弾丸が麗子の少し後ろを通り過ぎたのみだ。
 二人が肉薄するほど接近しているため、瑠璃子には思い切った射撃が出来ないのだ。
 そこに付け込み、麗子が更に状況を展開させる。
446One Arms:04/05/17 04:21 ID:1/b5G8Fd
 まずは自分と同じく瑠璃子に視線を向ける祐介の鳩尾を蹴り飛ばし、その反動でチェーンソーを砲身から引き抜く。
「……ぐっ!?」
 虚を突かれた形になる祐介が体勢を崩し切って倒れた。
 麗子はそれには構わず、返す刃で瑠璃子に向かって疾走する。
「こ、来ないでっ!」
「……つっ……」
 怯みながらの瑠璃子の三射目が麗子の左肩を穿った。
 しかし、顔をしかめながらも麗子は止まらない。
(どう……せ、使えない左腕なら、他に当たるよりは!)
 自らを鼓舞するように、一連の流れを肯定的に捉える。
 ついで四射目、しかし外れ。

 前回こそ当たったが、今回は素人が撃ってもそうそう当たるものではないとの賭け通りだ。
 こうして、ついには瑠璃子の前にたどり着き、そのままチェーンソーを一閃した。
「えっ……? あ、あ、あああああああああ!?」
 バッと血の花が咲き、ベレッタを握ったままの右肘から下が地に落ちた。
 鮮血が噴き出す右腕を抱え込み、瑠璃子は呻きながら地面にぺたりと蹲った。
 一方、麗子は今度は無防備な瑠璃子には目もくれず、いまだ回転を続けるチェーンソーを祐介に向けて力の限り投擲する。
 起き上がり、こちらに狙いを向けかけていた祐介が、慌てて転がりこれを避ける。
 その間に麗子は地面に落ちた右腕――否、正確にはそれに付随するベレッタを自由になった右手で拾い上げた。
(オーケー。あとは中の連中とでも潰しあってて頂戴!)
 そして、一杯の右手で左肩を抑えながら、そのままの勢いで一目散に走り去っていく。
 想像以上に大変な綱渡りになってしまったが、銃が手に入ったのは十分な収穫だった。
447One Arms:04/05/17 04:22 ID:1/b5G8Fd
「クソ、待てよっ!!」
 再び立ち上がり、叫びながら銃口を向けるが、祐介は火炎放射器を撃てない。
 それほど射程距離の長い武器でもないし、今しがたの損傷による誤作動も不安だ。
 そして、何より蹲る瑠璃子が目に入ってしまった。
 一目見ただけで出血が尋常な速度ではないとわかった。
 そのため、祐介は森へと消えていった麗子を見届けることも無く、本人以上に顔を青くして瑠璃子に駆け寄る。
 自らがつけた炎の音とガタガタと主無く暴れ続けるチェーンソーが煩く、わずかな間にささくれ立った気に障った。

――そしてまた一方で、はるかとアルルゥの休む家にも本格的に炎が回り始めていた。

【005石原麗子 鉄パイプ, ベレッタ(残弾11with 瑠璃子の右腕): 左肩に被弾、更に鎖骨にかけて打撲・骨折】
【057月島瑠璃子 折畳式カサ: 右肘切断 出血多量】
【062長瀬祐介 火炎放射器(砲身に損傷・燃料は8割強), ジグ・ザウエルショート9mm(残弾1発), 果物ナイフ】
【027河島はるか&004アルルゥ ハーバーサンプル一袋:入浴後だろうか。火事への対応は不明】

【チェーンソーは地面に放置】

【午後10時ぐらい】
448災難:04/05/17 04:40 ID:xoK+Hkct
森の中に立つ小屋の一つに入り、エディはふうとため息を付いた。
 辺りはすっかり闇に沈んでおり、これから深夜にかけて再び探索を行う為に、少しここで休息を取ろう、とエディは考えていた。
表情の見え難い顔に、疲労の色が濃く浮かんでいる。

叢から叢へ、神経を研ぎ澄ましつつ森の中を探索していたのだから、流石にナスティボーイのナビといえど、身に溜まった疲労は相当のものであった。
 森での探索では、幸か不幸か、参加者とは出会う事が無かったが、無残に打ち捨てられた死骸がいくつもあった。
一際眼を引いたのが、手首から先を切断された死骸であった。
凶人――
 そう呼ばれる人間と、わりとバラエティに富んだ半生の中で遭遇したこともあるが、ろくな武器も持てないこの状況で、そんな人間と同じ場所にいるなどということは流石にぞっとしない。

ふう、ともう一度深いため息をつきながら、エディは適当な場所に腰掛けた。
そして頭の中で状況を整理する。
 自分と同じ場所からスタートした24名は、2、6、13、18、21、22、27、32、34、36、41、44、47、48、49、51、61、66、67、73、78、90、95、99番。
まずあの時点で死亡していた32、41、44、51番を除外して残り20名。

 次に集団での行動が確認できた者の中から、ゲームに乗った一組、2番麻生明日菜、22番神尾晴子を抜粋。
35番上月澪と加えて集中的に盗聴。

 78番伏見ゆかり、というかゆかりは車、95番の皐月は何か音からしてかなり巨大な生物を引いたらしい。
得物の中ではどちらも大当たりに属するだろう、というか事実でかい。
やはりソーイチは女に恵まれてるな、とエディは思った。
449災難:04/05/17 04:41 ID:xoK+Hkct
ともかく、今現在得ている情報はこの程度。
 放送で挙げられた死者の数を考えると、まだまだ数多くのゲームに乗った参加者はいるだろうし、心細いことこの上ない。
かといって、今この段階で妄りにはもう盗聴器は使えない。
「(つっても定期的にマーダーは盗聴する必要があるよナ)」

そう思い、エディはリュックに手を伸ばそうとして、それから眉を顰めた。
木材が焦げる匂いがした。
だけでなく、窓から見える外の景色は既に赤く、煙が立ちこめている。
 「Shit!」
 短く吐き捨てつつも荷物を手繰り寄せ、すぐに窓の近くに伏せ、外の様子を窺いながら頭脳を動かす。
焼き殺す気か?と思ったが疲れはしても、ここに至るまでの痕跡は消してきたし、入った瞬間にも人目は無かった。
そして、この島に来ている人間の割合を思い出す。
大半はこの非日常に耐えられそうに無い学生、ならば――
 「(狂ったか!?)」
狂気に侵された無差別の放火行為、そう判断し、エディは窓の外に誰もいないことを確認してから、助走をつけて跳躍した。
ガシャ―ン!!
ガラスの割れる音と共に、エディは窓から外に飛び出し、そのまま前転しつつ、森の方に全力で逃走した。


 「あれ、逃げられらたみたいだね長瀬ちゃん」
 「うん、そうみたいだね。残念だね瑠璃子さん。今度はもっと人の多い場所にいこうか?」
 「そうだね、じゃあ民家のほうにいこう」
歪な笑みを浮かべて、二人は燃え盛る小屋を後にした。

【エディ 逃亡中 小屋→森の中 所持品盗聴器 先の尖った木の枝数本】
【午後9時前後】
450感感俺俺:04/05/17 05:17 ID:6UaX7MIu
蝉丸はカミュの元に駆け寄り、様子を伺った。
脈はある、返り血は浴びているが、彼女自身の傷は無いようだ。
次にディーを見た、喉の深い傷は彼が事切れていることを能弁に語っている。
何故か死に顔はとても安らかだった。
そして、麗子の方を見る―――彼女は、既にその場にはいなかった。

(逃げたか……)
しかし、蝉丸には追跡するという選択はなかった。
気絶したカミュを置いて行くなどということはできない。
蝉丸はカミュの手から短刀を取り、丸太を加工することにした。
このままではあまりにも大きすぎる。
一撃の破壊力こそはあるものの、あまりにも小回りがきかなすぎることは
先程の麗子との対戦で痛いほど痛感した。
そのまま持ち運ぶのは得策ではないと判断し、丸太の一部を短刀で切り削り、木刀にした。
これで威力は落ちるものの持ち運びに不便なく、扱いやすくなった。

「さてと……」

蝉丸はまだ目覚めないカミュと3人分の支給品を抱え、多量の水のあるところへ歩き出した。
2人とも身体は血で汚れすぎている。『気配を消す装置』があるとはいえ
今のままでは血の香で発見されてしまう可能性は低くない。洗い流さなければならない。
ディーの死体はそのままにしておいた。
あんな男だったとはいえ、カミュの知り合いだ。
地に埋め墓を作り、手厚く埋葬しておきたいところだったが
いまはそんな作業で余分な体力を消耗している場合ではない。
本来ならば、強化兵である蝉丸なら、常人の数十倍の回復力を持つ。
先程の戦闘で負った傷はもう完全に治り、地を掘ることなどなんでもないことだろう。
だがこの島では仙命樹の力は抑制されている。
傷が癒え、万全の状態になるにはまだ時間が掛かりそうだ。
451感感俺俺:04/05/17 05:17 ID:6UaX7MIu
蝉丸は程なくして、海岸に辿り着き、そこで、『アビス・ボート』と書かれている船を見つけた。
外から中の様子を伺う……気配は無い。
タラップを上り、船内に入る。やはり人はいないようだ。

これで島から脱出できるか? と一瞬考えたが、主催者は「離島ゆえ、逃げることも不可能だ」と言っていた。
おそらく、燃料はないのであろう。
もし燃料があったとしても、蝉丸は陸軍所属だったために、船や飛行機の操作経験はない。
車ならば運転したことがあるが、現代の船など計器類やボタンの数々を見ても、どうすれば動かせるのか全くわからない。
万一動かせて島から離れたとして、体内の爆弾とやらが爆破しない保証も無い。
そして直感だが、何より名前からして沈みそうな予感がする。

しかし、船内には簡単なシャワー・トイレ・寝室などが付いており、ただ過ごすとしても便利に思えた。
目立つため、長くいられないだろうが今夜はここで過ごすことにしよう。

蝉丸はカミュを起こすことにした。身体を揺する。
「起きろ」
「う〜ん、姉さま……あと5分だけ……」
「俺は姉さまではない、起きろ」
目をこすりながら、しぶしぶ起きるカミュ。
「あれ? ここってどこ……? おじ様は誰……?」
まだ寝ぼけているらしい。
「俺は坂神蝉丸。森から移動して、いまは島の海岸の船の中だ」
「あ……そうだ! ディー……ディーは!?」
「女……麗子の行方はわからない、男は……死んだ」
「………………」
452感感俺俺:04/05/17 05:18 ID:6UaX7MIu
カミュは自分の先程の出来事を思い出すと、顔が暗くり黙ってしまった。
無理も無い、知り合いの男に刃物を突きつけられて
そして正当防衛とは言え、それで刺し返してしまったのだ。
肉体的よりも精神的負担が大きかったのだろう。
蝉丸にはどのような言葉を掛けていいのか、わからなかった。

「…………お前は、そこの部屋で服と身体の血を洗え
 俺は見張りを兼ねて、外で洗う、何かあったら呼びに来い」
蝉丸はシャワー室の方を指差しながらそう言い、外へ向かった。

船外に出ると、蝉丸は服を脱ぎ、褌姿で海に入った。
海水が傷に染みるが、身体と服の血を洗う。
仙命樹の力が弱いせいか、水に対する苦手意識も普段よりも和らいでいるようだ。
海から出て船上へ戻る。
服を乾かしている間、褌一枚でしばらく見張りを続けていたが、人影はないようだ。

後ろのドアが開き、カミュが話しかけてきた。
「どうした?」
「ねぇ、蝉丸おじ様……喉がかわいちゃった……」
「そうか……水と食料はバッグにある、お前が全て飲み食いしても構わ―――む……!?」
後ろを振り返りながら言うと、蝉丸は驚いた。
カミュの身体は、褌姿一枚の自分よりも布が少ない姿……つまり全裸だったからだ。
453感感俺俺:04/05/17 05:19 ID:6UaX7MIu
「ど、どうした? 服がまだ乾いてないのだろうが
 若い女子がそんな格好で人前に……」
しかしカミュは気にするそぶりも無く、蝉丸に近付く。目の色が今までとは別の光を放っていた。
「違うの……おじ様の……飲みたい……」
そう言うと、カミュは蝉丸の胸に顔を近付け、傷跡を舐め始めた。
「な……」
「うふふ……おいし……」
満足そうに笑うカミュ。
「ねぇ、蝉丸おじ様……身体が……熱いの……」

こ、これは……蝉丸は頭が熱くなりながらも、冷静に考え始めようとした。。
(カミュに付いた返り血は、ディーのだけではない、抱き上げたりしている時に、俺の血も―――)
(そして、今も血を舐めた)
(弱まっているのだろうが仙命樹の血には催淫効果がある)
(この事態を解決するには、異性の気をやるしかない、ならば……)
実際にはカミュの症状は蝉丸の血ではなく
彼女自身に流れている血の影響が大きかったのだろうが、蝉丸はそのことを知らなかった。

「ねぇ……おじさまぁ……いいでしょ……」
頬を紅潮させ、上目使いでせがむカミュに、蝉丸は覚悟を決めた。

「カミュ、よく聞け……
 お前がいま感じている感情は精神的疾患の一種だ
 しずめる方法は俺が知っている、俺に任せろ」

【蝉丸 カミュ 夜中にアビスボート】
【所持品 丸太→木刀 気配を消す装置 短刀】
454あまやどり ◆PcA2YRpN02 :04/05/17 05:35 ID:f5fVG3xI
太陽が沈んで随分と経ち、辺りは闇の帳に包まれていた。
森を抜け、ひたすら東の方へと向かっていたのだが…
(雨が降ってきたの〜)
(雨宿りできる場所を探すの〜)
スケッチブックを持った少女は雨宿り出来そうな場所へと向かって駆け出した。
(こんな事ならロッジに潜伏してたほうが良かったの…)

数十分は走り続けただろうか、幸いな事に一つの小屋があった。だが…
(先客がいるの…)
困った事に小屋の中には少なくとも二人以上いる気配がする。
悟られぬように窓から中の様子をこっそりと伺う。
仮面をつけた男の人が一人、肩を寄せ合う女の人が二人。
真っ向から戦うには分が悪い。 なぜなら相手の武装も判らないのだ。
ほんの少し考えた後、ちょっとした下準備を済ませると意を決して扉の前へと立った。



455あまやどり ◆PcA2YRpN02 :04/05/17 05:36 ID:f5fVG3xI
コンコン。

扉をノックする音で夢うつつだった私は現実の世界に引き戻される。
目をこすり横を見る。 真横にはユズハちゃんの顔がある。
先ほどのキスを思い出し、自然と顔が赤くなった。
コンコン。
再びドアをノックする音が部屋に響く。
ハクオロさんは手に木の棒を握り、険しい顔で扉の前に立っていた。
手を動かし、奥に隠れる事を指図する。
私は指示に従いユズハちゃんの手をとって二人で奥へと隠れた。


456あまやどり ◆PcA2YRpN02 :04/05/17 05:38 ID:f5fVG3xI
「こんな夜分に何用かな?」
私は夜更けの来訪者にそう声を掛けた。
だが、返事はない。
その様子に不信感を強める。
すると、扉の下から一枚の紙が差し出された。
紙を手に取るとそこには【雨宿りさせてほしいの】と書かれている。
警戒を解かずに扉を開けるとそこには雨に濡れた小さな少女が一人立っていた。
私は少女を小屋に招き入れ、扉に鍵をする。
「ことみ、奥にタオルがあった筈だ。 持ってきてくれないか?」
奥から出てきたことみからタオルを受け取り、目の前の少女に手渡すと少女はスケッチブックとバッグを置き、頭を拭き始めた。


ほんの少しだけ間を置き、私は少女に問い掛けた。
「私の名前はハクオロ。君の名前は?」
少女は床に置いたスケッチブックを手にとりペンを走らせた。
【上月澪なの】
【さっきはすぐにお返事できなくてゴメンなの】


457あまやどり ◆PcA2YRpN02 :04/05/17 05:39 ID:f5fVG3xI
澪はバッグを開けると中に入っていた大きなナイフを私に差し出した。
【それが支給品だったの】
【あげるの】
「いいのかい?」
【構わないの】
【どのみち私には使えないの】
武器のない現状、素直に澪の好意を受け取りナイフを手に取る。
ずっしりと重い。 確かにこのナイフは澪の手におさまるには無骨すぎる気がした。
ちらりとバッグを覗く。 だが、澪のバッグの中にはパンと水以外何も見当たらなかった。

「ことみ、ユズハを連れてこっちに来てくれ。」
私がそう呼びかけるとことみがユズハをつれて奥から出てきた。
【上月澪なの】
「私は一ノ瀬ことみ、彼女はユズハ。 澪ちゃんよろしくね。」
ことみから紹介をうけたユズハは軽く会釈する。 だが、澪はユズハをまじまじと見ていた。
なるほど、目を閉じたままのユズハを不思議に思ったのだろう。
私は澪にユズハの目の事を教えると澪はスケッチブックに更に書き足した。
【みさき先輩と一緒なの】
【みさき先輩もこの島にいるの】
【会いたいの】
私は思う。
澪を先輩に会わせてやりたいと。
そして、決心を固める。
彼女達を島を徘徊する殺戮者達から護りきると…


458あまやどり ◆PcA2YRpN02 :04/05/17 05:39 ID:f5fVG3xI
自己紹介を終えた後はちょっと雑談しておやすみ。
【眠いの】と書き残して一番最初に眠りについたのは澪ちゃん。
ユズハちゃんに寄り添ってすやすや寝息をたててる澪ちゃんにちょっとジェラシー。
澪ちゃんの頭を撫でながら柔和な笑みを浮かべているのはユズハちゃん。
二人を見てると母性ってこういう感じなのかなって思ってしまう。
澪ちゃんが寝ている反対側、私も澪ちゃんに負けじとユズハちゃんに寄り添う。
ユズハちゃんが私の頭を撫でてくれているのを感じる。
昼間の疲れからか意識が闇に落ちるのにたいして時間はかからなかった。


夢。
夢を見ていた。
家族の夢。
ハクオロさんがお父さんでユズハちゃんがお母さん。
澪ちゃんは可愛い私の妹。
笑顔の絶えない家庭でみんな幸せに暮らしていた。
それは非日常が見せたうたかたの夢。
幸せな日常の夢…


459あまやどり ◆PcA2YRpN02 :04/05/17 05:40 ID:f5fVG3xI
「夜が、明けるな。」
私はそう呟くと寄り添って眠る3人を見た。
ハンデを背負いながらも心の強さと優しさを胸に生きているユズハ。
可憐で心優しく気の効くユズハの同行者ことみ。
アルルゥとは似ている訳ではないが、それでもどこかアルルゥを彷彿とさせる澪。


「澪、もし良ければ私達と一緒に仲間を探そう」
そう、それが私の出した答え。
【うれしいの】
そう書かれたスケッチブックが差し出され、私は安堵する。が。
パン!パン!
音が二回響き、同時に左胸に激痛が走る。
手で抑える、手が赤く染まる。
体から熱が奪われていく。何故?
どうしてこうなったのかが理解できない。
視界が歪む。
澪の右手に…黒い、か…げ……


460あまやどり ◆PcA2YRpN02 :04/05/17 05:51 ID:f5fVG3xI
「え、なに…」
音が二回響いたと思ったら私の目の前でハクオロさんが倒れた。
目の前にいるのは澪ちゃん。
いま聞こえた音はなに?
澪ちゃんの手からスケッチブックが消えている。
黒く光る物。
銃声?
銃声。
なんで?
なんで澪ちゃんが?
パン!
痛い。
お腹を見る。
赤、血の赤。
痛い、いたいいたい。
パン!
え・・・
ユズハちゃん?
ユズハちゃん!
赤い。
赤い胸元。
なぜ、こんなの。
こんなの、嘘。
嘘だよね…澪ちゃん…

口から血が零れる。
視界が歪む。
いしき、が…


461あまやどり ◆PcA2YRpN02 :04/05/17 05:53 ID:f5fVG3xI
デリンジャーの弾を詰め込み、ポケットにしまう。
小屋の影に隠したバッグをとりに外に出る。
夜中から降り出した雨はすっかりあがっている。
澄んだ空気が体に気持ちいい。
バッグを回収し小屋に戻る。
雨のせいで予想通りバッグや毛布、タオルはびしょびしょ。パンも食べれないだろう。
でもクレイモアとスタンロッドはなんとか水浸しになるのを防げた。
水も確保できている。
無事な道具をハクオロのバッグに移し替える。
奥の部屋からわずかばかりの食料を。 これもバッグに詰め込んだ。
ハクオロに譲ったナイフとユズハのバッグを手に取る。
(あのね)
(うれしかったのはホントなの。)
(でもね、一緒に行くわけにはいかなかったの。)

寄り添って事切れている二人を見やる。
二人の手を重ね合わせて、
(サヨナラなの…)
わたしは小屋を後にした。


462あまやどり ◆PcA2YRpN02 :04/05/17 05:55 ID:f5fVG3xI
【所持武器:クレイモア 残り2個 イーグルナイフ・レミントン・デリンジャー(装弾数2発・予備弾18個)・スタンロッド】
【ユズハの支給品を入手。 中身はまだ不明。】
【パンは駄目になりましたが小屋から代わりの食料を入手しています。】
【時系列的には一番進んでいます。 朝の定期報告の少し前として下さい。】

【6番 一ノ瀬ことみ 死亡】
【67番 ハクオロ 死亡】
【97番 ユズハ 死亡】

【残り73人】
463名無しさんだよもん:04/05/17 05:56 ID:1XW1gVhb
洞窟の中は暗くジメジメとしていた。
真琴の耳には喘ぎ声が聞こえている。
だが、性行為の知識がない真琴はそれを察することができず、途絶えることなく発せられる得体の知れない声は真琴の心を恐怖で苛んでいく。
『何? いったいなんなのよぉ…」
この先に誰かがいるのかは分かる。だが、いったい何をしているのだろうか?
真琴は推理をしてみるが、無論、知識がなければ真相に辿り着きようもない。
声は聞きようによっては喜んでいるようにも、苦しんでいるようにも聞こえる。
その相反する感情の源を調べるため、真琴は少しずつ近づいていく。
「!」
洞窟の奥、岩の裂け目から月の光が降り注いだところには二人の男女がいた。
そしてその女が着ていたのは…
『ま、またあの服!』
真琴の中にあの時の恐怖がよみがえった。
後ろから突然、紐で首を絞められたので顔はよく見えなかった。だが、真琴を襲ったのは間違いなくあの制服の女だった。
そして真琴には…その女が男を襲っているように見えた。
『ひっっ!!』
制服の女が上から男の首を絞めている。そして、男は苦しみの、女は嬉びの声をあげている。真琴にはそう聞こえた。
真琴はその場から動けず、ただ制服の女の行為に目が離せなくなっていた。
やがて、男はそのうめき声を止めた。
『こ…ころされた?』
そして、制服の女が立ち上がり、
『ま、まさか…』
真琴の方を見た。
『!!』
次は、自分が殺されると思い、真琴は逃げ出した。


「どーした? 杏」
「んー。誰かいたのかと思ったけど、気のせいかな?」
464名無しさんだよもん:04/05/17 05:57 ID:1XW1gVhb
暗闇の中を真琴は走った。
『なんで、なんで、なんでよー! どうして、行く先々にあの制服の女がいるのよぉ』
暗い山道を何度も転びそうになりながら走り続けた。
だが、走っても走っても。あの制服の女が自分を追いかけている気がする。
暗闇は恐怖心をかき立て、風の音は殺人者の荒い息を思い起こさせた。
後ろは振り向かなかった。振り向いたらすぐそこにあの女がいると思ったから。
やがて、走り続けた真琴の前に一件のロッジが見えた。
『あそこに入れば!』
家に入って鍵をかければあの女も追って来れない。そう思って真琴は思いきってロッジの扉を開けた。
「やった! 助かった!!」
その瞬間。
軽い爆発音が聞こえ、扉越しの散弾が真琴を貫通した。
真琴は状況も理解できず絶命した。
だが、ただ一つの幸いは。
その死に顔が恐怖から逃れ、喜びに満ちていた顔だったことだ。

【43沢渡真琴 死亡(所持はすべてクレイモアで破壊)】
【14岡崎朋也 75藤林杏 第一ラウンド終了】
465タチムカウ:04/05/17 06:21 ID:O/79psq4
ゆっくりと呼吸を整えて深く目を閉じ、自分の中に眠る「それ」に呼びかける。
熱くほとばしる、ドロドロとしたエネルギーを想像する。
身体を駆け巡る、暴力的な命の奔流のイメージ。
細胞が活性化し、神経が加速する。
もう一人の自分自身を、「狩猟者」を呼び覚ます。
鍵は開けた。檻は開け放たれたのだ。
出て来い、そして、そして―――。


「………やっぱり駄目か」
今日何度目かの試行が失敗に終わり、耕一は浅く溜息をついた。
すでに真夜中を過ぎただろうか。
あの後も探索を続けたが、結局尋ね人は見つからずじまい。
必要以上に警戒しなが探したせいか、大した距離を歩いたわけではないのに精神的な疲労が大きく、
クーヤの体力も限界に思えた。
耕一はとりあえず、森の中心から少し外れた所にある大木の根元に野営することを提案した。
ここならば、大きく張り出した根の陰になり、見つかる可能性も低いだろうと考えたのだ。
466タチムカウ:04/05/17 06:25 ID:O/79psq4
「クソッ」
再度の試行も、やはり失敗に終わった。
駄目だ。自分のなかにある「鬼」の力は確実に感じることが出来るのに、
それが一向に発現しない。
自分の体に何か異常があるのではないかと思い、色々と考えてみたが、
思い当たるような不調は一向に見つからない。
一つ、いつもと違うところがあるとするならば、心に感じる妙な重圧感だ。
まるで、何か獰猛な獣に見据えられたような冷たい圧力。
危機感やプレッシャーとは、普段あまり関わりのない人間である耕一にとって
それは不快感や恐怖よりも、不気味さを感じる類のものだった。
(そういえば、連中おかしなこと言ってたな。不可視の力とか、プロクシとか、法術とか)
ホールで聞いた筧の言葉を思い出す。
『君らの能力は封じられている。特殊な結界を張らせてもらっていてね』
得意気に話すあの男の顔を思い出すと吐き気がしたが、その言葉の意味をもう一度考え直す。
(俺達の鬼の力や、他の連中の持ってる諸々の能力の力をまとめて押さえつけられるもの…)
他の能力者達の力が、具体的にどんなものか分からないが、少なくとも連中がわざわざ封印するってことは
それだけ殺傷能力の高い強力なものなのだろう。
それをまとめて封印出来るような強大な力。
想像を絶するような圧倒的な何か。
とても思いつかない。
初めて鬼へと変わったあの日、耕一は一時的にだが確実に、
あらゆる命の上位に位置する狩猟者、最強の生物になったことを肌で感じた。
柳川と戦った時でさえ、全く負ける気がしなかった。
自惚れではなく、実際にそう感じていたのだ。これで、誰も悲しませないで済む。そう思った。
あの人の悲しみを、止めることが出来る。それが嬉しかった。
なのに―。
「鬼の力がないと…俺は大切な人を守ることも出来ないのかよ…」
親父や伯父さんを死に追いやって、俺達の家族を苦しめてきたものが、肝心な時に役に立たないなんて。


いや、違うな。
役立たずはお前さ。この期に及んでまだ俺に頼ろうとしているお前自身だ。
467タチムカウ:04/05/17 06:27 ID:O/79psq4
檻の中から、アイツの囁きが聞こえた気がした。

まだ初音ちゃんだって見つかっていっていうのに!
こんなところでグズグズしてられないってのいうのに!
気持ちは焦るばかりで、妙案なんて浮かんでこない。
どうすればいい、どうすれば。
俺も他の連中と同じように、誰かを殺すのか? 殺して殺して、最後の二人になるまで殺しまくるのか?
嫌だ。そんなこと出来るもんか。俺は殺さない、』絶対に!
だがもうこんなに殺されている。連中は狡猾だ。あの千鶴さんだって殺された。
だからって殺すのか? 柳川のようになれっていうのか?
こんな状況だ。殺したって、誰が責められる? 助けたいんだろう? もう失いたくないんだろう?
違う、違う違う!
「きっとなにか他にいい解決策があるはずだ…きっとなにか…」


「いえ…」

「ないんです…」

あの時と同じように。
千鶴さんが、選択を迫る。俺は―――。
468タチムカウ:04/05/17 06:32 ID:O/79psq4
「…ん…」
「!」
横からした声に、耕一は思わず我に返る。
隣では、膝を抱くようにしてクーヤが眠っていた。
思い出した。ここで野営するのを決めた後、確か交代に眠ることに決めたんだった。
その後、どっちが先に寝るかちょっとした言い争いになったんだっけ。
「体力が持たないだろ、いいから先に寝ろって!」
「余を子ども扱いする気かコウイチ!」
何であんなことで喧嘩したんだろう。思い返すとちょっと可笑しくなる。
だがあの時、クーヤの表情を見てほっとしたのを覚えている。よかった、と。
身体を動かさないよう首だけ回し、クーヤの顔を覗き込む。
決して穏やかな寝顔とはいえないが、うなされてはいないようだった。
そうだ、俺は何を考えていたのだろう。
この子に言ったのは俺じゃないか。焼けっぱちになるな。まだやれることはあるはずだ、と。
例えこの子を落ち着かせる為の言葉だったとしても、俺はあの時確かにそう思ったはずだ。
それが何だ、一人になった途端怖気づきやがって。
ここに梓でもいたらブン殴られてるところだ。
そうだ、梓、楓ちゃん、初音ちゃん。
他人を殺して、踏みにじったその手で、みんなに再会することなんて出来るか?
そんな弱い心で、千鶴さんに顔向けできるか?
俺は、みんなともう一度会うんだ。その為に、このゲームを生き抜く。
狡猾に、抜け目なく残酷に。絶対に死んでやるもんか。頼まれたって殺してやるもんか!
俺は生き抜く、守り抜く、生かし抜いてやる!

暗い夜空に、従姉妹達のことを想う。
初音ちゃんは、いま何処に居るのか。あの性格だ、きっと怯えているに違いない。
梓、楓ちゃん。彼女達はどうしているのだろう。この「ゲーム」には参加していないようだが、隆山で無事でいるのだろうか。
そして、クーヤ。
考えてみればおかしな出会いだった。見たこともないような服。聞いたこともないような國。
そしてその耳。
やっぱり、人間じゃないんだろうな。今更ながら、耕一は自分がとんでもないところに放り込まれたことを実感する。
もっとも、鬼の血を引く自分だって十分ファンタジーな存在であるのだが。
469タチムカウ:04/05/17 06:37 ID:O/79psq4
彼女と一緒で無かったら、自分も千鶴さんの死を聞いた時、おかしくなっていただろう。
殺戮者に、あの男のようになっていたかも知れない。
あの後気丈に振舞っていたが、サクヤという子の死は、彼女の心に消えない深い傷を残す。
残った知り合い、ゲンジマルとハクオロと言ったか。
会わせてやりたい。それが、今の耕一の出来る唯一の恩返しに思えた。
「しかしこうして見ると、可愛いけどやっぱりまだ子供だな。初音ちゃんより少し下位かな」
子供をあやす様な気持ちで、耕一はクーヤの栗色の髪を撫でようとした。だが―。
ピョコッ。
「うぉっ!」
耕一の手を察知したのだろうか、クーヤの長い耳が突然動いた。思わず手を引っ込める。
「…ウサギみたいだなとは思ってたけど、まさかこんなに動くもんだったとはなぁ…」
失礼かなとは思いつつも、まじまじと見てしまう。
全体を覆う、髪の毛とはまた違った細く柔らかそうな毛。薄く弾力のありそうなフォルム。

………触りたい…

先程までの悲しみと決意は、どうやら頭の片隅に弾き飛ばされたらしい。
心に流れる鬼神楽のビートにのせられて、耕一は中年親父の表情でゆっくり手を伸ばす。
ふに
「うぉぉ!」
ふにふに
「うぉぉぉぉ!」
信じられない。程よい弾力と暖かさ。手触り、そして愛らしさ!
この世のものとは思えない…まさにアルティメット・シイング!
「これに比べりゃ梓の胸なんてゴム風船だ!」
思わず天を仰ぎ、素晴らしき神の御技に感謝する。視線をクーヤに戻すと
「あ」
紅くなってこっちを睨み付ける翠の双眸。
「〜〜〜〜〜っ!」


神は耕一に代価を要求した。もみじ一枚。
470タチムカウ:04/05/17 06:39 ID:O/79psq4
「信じられん! 礼儀知らずにも程があるぞこのうつけ! クンネカムンなら打首にしているところだ!」
「だから謝ってるじゃないか! なんで耳触ったぐらいでそんなに青筋立てるんだ!」
「耳触った位!? 耳触った位と言ったか!」

あれから10分。耕一とクーヤの、小声のまま全力で言い争うという世にも器用な口喧嘩は未だ続いていた。
時々耕一には意味の分からない単語が飛び出したのだが、悪口に国境は無い、多分バカとかアホとか
そういう罵詈雑言の類だろうと解釈した(「ウォプタルにも劣る」という言葉の意味を理解できなかったのは幸いだったが)



耕一は、まだ知らない。
千鶴が耕一と初音を生かすために「ゲーム」に乗り、そして殺されたことも。
初音が姉の死に心を揺らされ、「ゲーム」に乗りかけて今死の淵を彷徨っていることも。
今の耕一には、知る由も無い。

【耕一、クーヤ 森の中心部で野営】
471現実はこんなもの  ◆COFFEEsuS. :04/05/17 07:07 ID:ZFlLpTSH
「なんだかなあ……」
 目を覚ました河島はるかはやれやれ、という感じで首を振った。
 襲撃の予想をしなかったわけじゃない。けど、食料の奪取や自分たちの殺害というゲームの展開を有利にする
為の襲撃ではなく、単純に破壊だけを目的とする連中が来るのはちょっと予想外だった。
 相手は身を隠そうとすらしていない。そりゃまあ火炎放射器なんか持っていれば気が大きくなるのも仕方ない
けど、不用心だなあと思う。

 なんだかんだ言ってもこんな状況である。
 暖かい布団の中で寝ていても、状況を把握している人間の眠りが深くなることはそうそう無いのだ。
 奇声と言ってもいい大声と共に自分たちの休む家に向けて火が放たれた瞬間に、一気に覚醒した。
 把握してない隣の少女は何もかも安心しきってぐっすり寝ているけど。
『アハハハハハ! やる気の無い奴らはさっさと死んでしまえばいいんだよ!』
 そんな声が聞こえた。正気とは思えなかった。
「話し合いが通じる相手じゃないね」
 ならば結論、逃げる。
「アルちゃん、アルちゃん」
「……ん……ん〜」
 アルルゥは夢の中からなかなか戻ってこなかったが、この状態ではのんびりしていられない。
 家の中には煙が充満し始めていた。

『うわあっ!? な、な、何なんだよ、お前は!?』

 そんな声が聞こえた。
 敵の敵が来たのかな、とはるかは判断した。明らかに狼狽したその調子は、自分たちが攻撃されることを
想定していなかったと見える。
472現実はこんなもの  ◆COFFEEsuS. :04/05/17 07:08 ID:ZFlLpTSH
 炎が燃え上がる音がだんだん大きくなってきたが、それでも色々な音が聞こえる。
 エンジンの音、金属質の何かを切断するような音、タイヤのパンクするような……否、これは多分銃の音。
 つぶし合いが始まったようだ。それは当然かも知れない。複数がここを見つけることは十分予想できたから。
その複数が、どうやら全部殺人許容派っぽいのがちょっとはるかは悲しいが。
『本当に、みんなやる気満々なんだなあ』
 そんな争乱を避けるように、はるかは裏口へ回った。
 その背中にはアルルゥがぴったり張り付いている。
「おね〜ちゃん……」
「ん、火が怖い?」
(こくこくこくっ)
 それはそうだ。一階はもはやほとんど火の海。熱気が今にも髪を焦がしそうだし、煙も凄まじい。
 そんな中ではるかは普段通り。アルルゥが辛うじて理性を保っていられるのはそのおかげだった。
「アルちゃん、今からしばらく走るよ。頑張って付いてきてね」
 明日以降のために見繕っておいた荷物を背負うと、はるかは状況打開の切り札を手に取った。

 ……消化器。普通の家ならまず備えているであろう物が、この家にもあった。
 時代も場所もわからないこの島だが、自分がよく知っているデザインになっているのは運がいい。

 もうこの家を救うことは出来ないが、人二人が通る空間を空ける程度は出来るはず。
 はるかはそう信じ、火の回った勝手口へノズルを向けた。
 勢いよく吹き出した泡は、全て使い尽くすことで期待した程度の消化力を発揮してくれた。

 祐介と瑠璃子、それに麗子は。
 自分たちの戦いに精一杯で、はるかとアルルゥの動きに気づく余裕はなかった。
 両者の間に存在した燃え上がる家も、逃亡のための目隠しになってくれた。


【027河島はるか&004アルルゥ 燃え上がる家から脱出】
【家の中からいくつかの物品を調達、内容はお任せだけど量は多くない】
【午後10時ぐらい、雨が降り出す少し前】
473名無しさんだよもん:04/05/17 07:27 ID:30PIb3Q2
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葉鍵ロワイアル II 作品投稿スレ!2
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1084745335/
 ああ――
 薄れていく意識の中で、ハクオロは嘆いた。
 ――どうして、こんなことになったのだろうか?

 いつものように――いつもと同じように、ベナウィに仕事を積まれ、遊んでやることができずにアルルゥに拗ねられ、オボロとクロウとカミュに飯をとられ、カルラに酒に付き合わされ、トウカの生真面目っぷりに悩まされ――
 いつもと同じように、ウルトリィとエルルゥと三人で苦笑を浮かべつつ、その日は床についたはずだった。
「おやすみなさい、ハクオロさん…」
 そんな優しい声を聞きながら。
 
 なのに。
 気付けば、それはなくなっていた。
 それは、あまりにも唐突で。
 あまりにも非現実的で。

 信じることができなかったのだと思う。
 頭では理解していても、結局この『ゲーム』の存在を心の奥底で否定していたのだ。
 そうでなければ。
 もっと早く――最初から、エルルゥやアルルゥ、その他の仲間達を探しに走れば。
 ことみのことも、無視して進めば良かった。
 そうすれば、こんなことにはならなかった。
 もしかしたら、この二人も澪に会うことがなかったのかもしれない。

 ――澪。
 突然訪れた、言葉をしゃべることができない少女。
 【うれしいの】
 そう書かれたスケッチブック。
 今でも信じられない。
 黒い影。
 激痛。
 思い出す。
 黒い影は、確かに見た。
 でも――信じられない。
 あのか弱そうな少女が、人を殺すなんて。
 もしかしたら、違うのかもしれない。
 たまたまそのタイミングで、別の襲撃者が来たのかもしれない。
 ――そうだ。
 きっとそうだ。
 そのはずだ。

 違う。
 違う。
 違う、違う。
 違う、違う、違う!
 ――違う!!

 頭の中で必死にそれを否定する。
 別の襲撃者。
 本当にそんな者が居たのか?
 目を覚ませ。
 現実を見据えろ。
 これは『ゲーム』だ。
 どんな人間が殺し合いに走っても、おかしくない。
 …はは。
 そうだ。
 これは『ゲーム』。
 参加者百人、うち生き残るのは、たったの二人。
 そうだ。
 それに早く気付いていれば良かったんだ。

 ――違う!

 違わない。
 違いやしない。
 事実、自分は今こうして死のうとしている。

 ――違う!

 否定するな。
 その否定の生み出した結果が、これだ。
 自分はもう、助からない。
 それに――サクヤが、既に死んでいる。
 サクヤ…
 サクヤは、どうして死んだのだろうか?
 クーヤのことを何よりも大事に思っている彼女は、最期にクーヤの傍にいることができたのだろうか?
 ――クーヤはどうか?
 主としてではなく友として、サクヤの死を看取ることができたのだろうか?
 放送でサクヤの名前が呼ばれた時、それを受け入れただろうか?
 …いや、あいつのことだ。
 取り乱したに違いない。
 あいつはそうだ。
 傍にいる者がなだめてやらなければ、すぐにあいつは暴走する。
 ――でも、『傍にいる者』は、もうこの世に居ない。
 誰か、クーヤの傍にいてやってくれているだろうか?
 誰かが――

 ――ああ、もう長くないな。
 ことみとユズハはどうしたのだろう。
 澪に殺されたのだろうか?
 そうだとしたら、すごく残念だ。
 結局自分は、何一つ護れずに死んだのか。
 エルルゥやアルルゥを探しにいく事もせず。
 なのに、出会った仲間さえ護れない。
 何一つ護れずに――

 ――エルルゥ。
 ――アルルゥ。
 ――オボロ、ベナウィ。
 ――カルラ、トウカ。
 ――ウルトリィ、カミュ。
 ――クーヤ、ゲンジマル。

 済まない――先に眠らせてもらう。
 お前達は、生き残れ。
 護るべきものを、護ってやれ。

 愚か故に何もできずに死ぬのは、私だけで十分だ。
 ユズハも道連れにしてしまったことが心残りだが。
 オボロ――許してくれ。


 …みんな――

 死ぬな――


「…ハクオロさん?」



【残り72人】
479名無しさんだよもん:04/05/17 09:04 ID:alKWx8wW
断ち切られた妹、断ち切られた姉を、書いたものだが。
すまん、寝ていた。しばらく寝不足が続いてたもんで。

流れた無視したもの書いてしまって、ごめんなさい。
本人としては、没にして下さい。

こんなもの書いてしまってこの罪、万死に(ry
480479:04/05/17 09:08 ID:alKWx8wW
あと、遅くなってすまなかった。
481名無しさんだよもん:04/05/17 09:10 ID:alKWx8wW
わかった、このまま没にしてくれ。

あと、遅くなってすまなかった。
482480,481:04/05/17 09:16 ID:alKWx8wW
今度は、ageちまった。

おまけに481の書き込みは感想の方に書き込もうしたのに、失敗した。

重ね重ねごめんなさい。

この罪、万死に(ry**3

読み手に徹しようかな。

483名無しさんだよもん:04/05/17 11:42 ID:iY+UpL0j
静かな夜に聞こえる叫び声。
声に驚き身を起こすが、声は自分の口から出ているものだった。
海に潜ったかのように全身は汗をかき、
対して、喉は渇いていた。
悪夢か。それとも予知夢か…。
夢の内容すら覚えていない。
だが、恐怖感だけははっきりと手に取るように残っている。
もう時間は残されていないのかもしれない。
ベッドをおり、鏡の前に立つと、
古傷がいやでも目に付く。
次に夢を見るときには傷は増えているのだろう。
いや、夢を見ることができるかどうかもあやしいものだ。
次に夢が見ることができれば、それはそのまま一日を生き延びたと言うことだ。
死んだほうがましかもしれないほどの悪夢の一日を…。
いや、それでも生きたい。死んだら終わりだ。その先には何もない。
どれほど苦しくても生きていれば先はある。
「死んだほうがまし」と言うのは弱者の詭弁にすぎない。
隣の部屋で自分があげた叫び声を同じような声が響いた。
どうやら同伴者も同じ苦しみを感じているようである。
互いに互いを信用せず、互いに互いを疑わず、
不思議だ。会ったばかりだと言うのに。
だが、それも限界に近いのかもしれない。
愛し守り抜くか、殺すか、どちらかに針が揺れなければ、
二人とも死んでしまう。そんな気がする。
だからと言って、簡単に愛するとか殺すとかできる気がしない。

まあ、良い。もういちど眠ろう。次、起きるときには答えが出ているだろうから。
それとも、次に目がさめるときが来なければ答えを出さなくても良いのかな…。

誰かの足音が近づいてくるのを知りながら、自ら眠りに落ちる直前、そう思った。
484名無しさんだよもん:04/05/17 13:30 ID:StpO3izd
水瀬名雪(90) 睡眠中に寝首をかかれる
【残り71人】
485名無しさんだよもん:04/05/17 13:45 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
486名無しさんだよもん:04/05/17 13:46 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
487名無しさんだよもん:04/05/17 13:48 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
488名無しさんだよもん:04/05/17 13:49 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
489名無しさんだよもん:04/05/17 13:49 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
490名無しさんだよもん:04/05/17 13:50 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
491名無しさんだよもん:04/05/17 13:50 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
492名無しさんだよもん:04/05/17 13:51 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
493名無しさんだよもん:04/05/17 13:52 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
494名無しさんだよもん:04/05/17 13:52 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
495名無しさんだよもん:04/05/17 13:53 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
496名無しさんだよもん:04/05/17 13:53 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
497名無しさんだよもん:04/05/17 13:54 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
498名無しさんだよもん:04/05/17 14:58 ID:L9c8FkGT
499運命 ◆vkSUbcHrtA :04/05/17 16:05 ID:dnbvET6h
いつも補足してばっかりですけど、今回も…
>>478
エルルゥがハクオロを見つけたわけではありません。
嫌な予感がした――みたいなのもついでに書くつもりだったんですが、時間軸揃えなければいけないので書きませんでした。
紛らわしい表現ですいません。
500無尽君 ◆JmtStMCL6c :04/05/17 20:52 ID:/5qyTA3F
念の為もう一回出しとくか。

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葉鍵ロワイアル II 作品投稿スレ!2
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1084745335/
501名無しさんだよもん
そこへ核爆弾が飛んできた。
ギャー。
全員死亡した。

END