1 :
名無しさんだよもん:
2 :
名無しさんだよもん:04/05/15 00:12 ID:S4f8AWdL
2ゲト
3 :
参加者リスト:04/05/15 00:13 ID:z6Wkl6Yv
1浅見邦博 2麻生明日菜 3麻生春秋 4アルルゥ 5石原麗子
6一ノ瀬ことみ 7猪名川由宇 8伊吹風子 9ウルトリィ 10エディ
11エルルゥ 12太田香奈子 13大庭詠美 14岡崎朋也 15緒方理奈
16オボロ 17杜若きよみ(黒) 18柏木耕一 19柏木千鶴 20柏木初音
21梶原夕菜 22神尾晴子 23神尾観鈴 24神岸あかり 25カミュ
26カルラ 27河島はるか 28川名みさき 29木田恵美梨 30北川潤
31木田時紀 32霧島佳乃 33クーヤ 34栗原透子 35ゲンジマル
36上月澪 37坂神蝉丸 38坂上智代 39榊しのぶ 40相良美佐枝
41サクヤ 42桜井あさひ 43沢渡真琴 44芝浦八重 45霜村功
46少年 47春原芽衣 48春原陽平 49スフィー 50須磨寺雪緒
51住井護 52セリオ 53高倉みどり 54立川郁美 55橘敬介
56立田七海 57月島瑠璃子 58月宮あゆ 59ディー 60トウカ
61長岡志保 62長瀬祐介 63名倉由依 64名倉友里 65那須宗一
66七瀬彰 67ハクオロ 68葉月真帆 69柊勝平 70氷上シュン
71雛山理緒 72広瀬真希 73藤井冬弥 74藤田浩之 75藤林杏
76藤林椋 77伏見修二 78伏見ゆかり 79古川秋生 80古川早苗
81古川渚 82ベナウィ 83牧村南 84松浦亮 85三井寺月代
86御影すばる 87美坂香里 88美坂栞 89光岡悟 90水瀬名雪
91巳間晴香 92宮内レミィ 93宮沢有紀寧 94宮路沙耶 95湯浅皐月
96柚木詩子 97ユズハ 98芳野祐介 99リアン 100リサ=ヴィクセン
4 :
ルール他:04/05/15 00:14 ID:z6Wkl6Yv
現行のルールです。
1、結界により、各能力は使用不可、あるいは弱体化してます。
この結界は当分破壊できません。
2、各キャラはアイテムを一つずつ配布してもらってます。
アイテム管理のために、話の最後に、
【柏木千鶴 装備:トカレフ(残り弾数5)】
のようにアイテムを明記することを強く推奨します。
5 :
プロローグ:04/05/15 00:15 ID:z6Wkl6Yv
軽い運動場ほどの大きさの、無機質なホール。
その大部分が、見知らぬ顔だった。かろうじて顔見知りであるのは、横にいる数名。
松浦亮。宮路沙耶。浅見邦博。芝浦八重。――他に、春秋が知らぬ顔が一人。
「誰か、プロクシが出せる人、いる?」
見回し、聞く。
「無理だ」
浅見が、チッと舌打ちした後、苛ついた口調でそう答える。
「俺もだな」
「……俺も出せない」
春秋が知らない人間――修二が呟き、亮も無表情のまま続いた。
「何コレ? どうなってんの?」
「エゴ(プロクシ)という概念そのものが消滅したのか、あるいは、エゴを封じられたか……不思議ね」
不満そうな様子を隠そうともしない沙耶と、冷静な表情を崩さない八重。
「僕も、どうやっても無理みたい」
春秋は、幾度もプロクシの具現化を念じたが、まるで何も反応が無い。
「プロクシもそうだが、本当の問題はそこじゃねえ」
浅見が、短くなった煙草をプッと吐き出した。
「ここがどこで、何で俺達はこんなところにいるのか……だな」
修二が、神妙な表情で合いの手を入れる。
「全く記憶がねえ。拉致られたとしか考えようがねえが……」
「集団夢遊病……ってわけでもなさそうだしね」
言って、自身も可笑しかったのだろう。春秋は皮肉げに唇の端を釣り上げた。
『参加者の皆様、注目されたい』
その声は、厳かにホール内に響き渡った。
他の場所より一段高く設えられた壇上に、隙のない佇まいの初老の男が現れた。
「篁!」
宗一とリサが、驚きの声を上げた。
6 :
プロローグ:04/05/15 00:17 ID:z6Wkl6Yv
そちらの方を軽く睥睨し、篁はすぐに視線を戻す。
「本日、皆様に集まってもらった理由は他でもない。殺し合いをして貰う」
男の言葉は淀みなく、簡潔だった。
一瞬、凍てついたような空気がホールに走った。次の瞬間、ざわめきがあちこちに起こった。
「どういうことなのか、説明してくれませんか」
進み出たのは、月島拓也だった。
「わけが分からない。僕たちは気が付いたらここに連れていたんだ」
「言った通りだ。殺し合いをして貰う」
「今すぐに帰してもらいたい。さもなくば――」
「なくば、なんだね?」
凄む月島を、篁は表情を変えずに受け流した。
ヒィ……イィ……ィ……
「電波が……集まらない!?」
「今、君は私に牙を向けたわけだ」
篁は、狼狽する月島をよそに、すっと右手を上げた。
彼の後ろに控える軍人風の男が、月島に無言で銃を向けた。
「貴様――!」
宗一が駆け寄ろうとした時には、すでに遅かった。
「がっ!!」
弾丸は、正確に月島の心臓を貫いた。
「お兄ちゃん!」
「月島さん!」
「いやぁ!」
瑠璃子が、祐介が、香奈子が、それぞれ悲鳴をあげる。
「さて」
惨状を一顧だにせず、平静な声で篁は続けた。
「我々が本気であることは理解されたと思う。説明を続けようか」
7 :
プロローグ:04/05/15 00:18 ID:z6Wkl6Yv
「てめえ……!」
「抑えろ、ソーイチ」
いきり立つ宗一を、エディが必死になだめる。
「月島君が死んだから、番号がずれて62番、長瀬祐介」
「……!?」
名を呼ばれ、震える瑠璃子を抱いていた祐介がはっと顔をあげた。
「今、電波が使えるかね」
「なぜ、電波のことを……」
知っている。
祐介はそう告げようとしたが、後半は震えて声にならなかった。
「プロクシ使いの諸君も、FARGOの不可視の力を扱う諸君も、法術を操るオンカミヤムイの諸君も、また、体術を誇る諸君もそうだ」
篁は、それぞれ言葉に反応する人間の顔を見回す。
「君らの能力は封じられている。特殊な結界を張らせてもらっていてね。これも公平を期する処置だ。
また、皆が持っている武器もこちらで預からせて貰っている。同じ理由からだ」
一同は、沈黙したままだった。
何人かは篁の言葉を疑い、己の能力を試そうとしたようだが、一様に無駄に終わった。
「条件は皆同じだ。こちらで用意した武器と、必要なものには薬程度は手配してある。69番、柊勝平。君などは、薬が無くば困るだろうしな」
「……」
勝平は何か言いたそうに唇を噛みしめたが、何も反論はしなかった。
「では、これから島へ一人ずつ降りてもらう。それぞれこちらで分けたグループごとに控え室へ向かってくれたまえ。
終了条件は一つ。生き残りが二人か一人になることだ。生き残った者には賞品代わりに、何でも一つ好きな願いを叶えて差し上げる用意がある。
なお、島には食用の植物も無いことは無いが、基本的に食事を摂る手段は無い。皆がゲームの終わりに向かわねば、皆が飢えて死ぬ。
もっとも、数名には食糧を配って差し上げるから、これを奪えば強者はある程度生き延びることが出来るがね。
開催地は離島ゆえ、逃げることも不可能だ。翼を持つ諸君らでも、体力が続く距離では無いことを告げておこう。
――最後に、我々に逆らうのは自由だが、その場合先程の月島君のように命を落とすのが落ちになろう。そこは個々人で熟考したまえ」
篁はそこまでを告げ、大儀そうに襟を正した。
「では、諸君らの健闘を祈る」
8 :
プロローグ:04/05/15 00:19 ID:z6Wkl6Yv
――美坂香里(87)は、椅子に腰掛け、出発の時を待っていた。
思い出すまいとしても、あの異様な雰囲気を持つ男の演説が頭に浮かんでくる。
『諸君らの体内に、小型の爆弾を埋め込ませてもらった』
『万一にも、我々が諸君らの武力に圧倒されることなど有り得ぬのだが』
『羽蟻のようにたかる諸君らを殺すような展開になっては、大会を楽しみにしておられるお歴々にも申し訳無い』
『島には管理者を数名降ろしてあるが、もしその管理者に攻撃するようなことがあった場合――』
『諸君らはルール違反者として処分させて貰う。体内に埋めた爆弾は、分厚い金庫を爆砕する破壊力がある』
『人間の身では骨肉の一片すら残るまい。何が賢い選択であるかは言うまでも無い』
「く……」
身体のどこかに埋まっている筈の爆弾を意識すると、吐き気がするようなおぞましさを感じた。
(ふざけないで……! こんな理不尽で死ぬのは御免よ。何なのよ、これはっ……!)
また一人、参加者が控え室を出ていくのを眺めながら。
香里は、震える膝を抱きかかえるように丸まり、ただ自分の出発の時を待った。
【月島拓也 死亡】
【残り100人】
9get
遅かったか。
>1、結界により、各能力は使用不可、あるいは弱体化してます。
> この結界は当分破壊できません。
1、結界により、各能力は使用不可、うたわれ勢の身体能力は一般人クラスまで弱体化してます。
この結界は当分破壊できません。
あるいは、弱体化じゃ、能力使う人が出てくるだろうが!
まずはコイントス
控え室を出た藤田浩之(74)は、手近な草むらで自分に与えられた武器を確認することにした。
「さて、何が出るかなっと・・・これが武器か?」
入っていたのは「綾香のサイフ」だった。中には数枚の紙幣、硬貨、クレジットカードが入っている。
「買収や買い物ができるとは思えねえし、こいつで戦っても生き残れる確立は低そうだな。となると・・・」
他に武器を仕入れて戦うか。
或いは他の参加者と組んで主催者に逆らうか。
浩之は迷わなかった。
「この1円玉を投げて表が出たら殺す。裏が出たら逆らう。」
チン・・・と小さな音を立ててコインを弾く。地面に落ちたコインを確認すると、浩之は歩き出した。
「さて、まずはあかりを見つけないとな。」
地面には、一枚のコインが輝いていた。
その表側には、アラビア数字で『1』と書かれていた。
【藤田浩之(74)、「綾香のサイフ」入手。神岸あかり(24)の捜索を開始。】
【残り 100人】
取り戻したい日々
目の前で殺された瑠璃子さんのお兄さん、月島さん。
僕はどうしていいかわからなかった。
気づけば、僕は島に降り立たされていた。
「長瀬ちゃん」
瑠璃子さんだ。
「長瀬ちゃんが来るのを待ってたんだよ」
瑠璃子さん、どうしてそう平然としてられるんだ?
「…あの人たちの言ってることは本当だよ」
「どうしてわかるの?」
「電波は使えなくなったけどね、わかるの。
あの人たちは、願いを叶えれる、ううん、何か不思議な力があるの」
止まりかけていた思考が蘇り出す。
気づけば、あの場所にいたこと。
僕たちの電波が封じられて、月島さんがなすすべもなく殺されたこと。
他の力を持った人たちも、見れば異世界の住人のような人たちもいたこと。
今自分たちが立たされている絶対的不利な状況を理解した。
「長瀬ちゃんはどうしたい?」
…僕の考えは…
「ゲームに参加して月島さんを、そして瑠璃子さんを蘇らせる」
そうだ瑠璃子さんのためにも月島さんを取り戻したい。
それが僕の本心だ。
「うん、長瀬ちゃんならそう言ってくれると思った」
「二人のどちらかが絶対に優勝して、月島さんと片方を取り戻す。
約束だよ瑠璃子さん」
「うん」
ゆーびきーりげんまんうそついたーらはりせんぼんとーす、ゆびきった。
そして、僕らは行動を開始した。
【62長瀬祐介 支給品:ベレッダ@残弾数16発 サバイバルナイフ】
【57月島瑠璃子 支給品:ウィスキー 折畳式カサ】
性(さが)
「さて、一体あかりは何処に行ったんだ?」
藤田浩之(74)は神岸あかり(24)を探して森の中を彷徨っていた。
間に50人分もの間隔があったために、既にあかりは建物周辺に居なかったのだ。もっとも何時までも建物近辺でうろうろしているようなら、浩之が建物を出る頃には既に何者かによって殺されていただろう。
(あかりの奴は気が弱いからな。居るとしたら開けた場所より森の中だろう)
そう考えて森に踏み入ってから既に30分。未だに誰とも遭遇していない。
(あいつがこんな状況で一人で遠くまで行くとは思えねえし・・・森の中ってのは見当違いだったかもな。)
そう思って回れ右をしたところで、浩之はすぐさま木の陰に隠れた。人の声が聞こえたのである。
「・・・ヤさ・・・・、さま〜!」
(おいおい、こんな状況で大声出すなんて自殺行為だぞ。しかも女の子の声じゃねえか。)
考える。大声で人をおびき出して殺そうとしている?いや、それにしてもリスクが大きすぎる。何かの罠?いや、そこまでの時間は無かったはずだ。
結論:危機感ゼロのバカ。
「まったく、しょうがねえなあ。」
お決まりのセリフを呟きながら、浩之は声のする方へと向かっていった。
【藤田浩之(74)、サクヤ(41)を発見】
【残り 100人】
ハァ、ハァ、ハァ……
森の中を、物凄い速度でひたすら走り続ける男がいた。
息を荒げ、額に汗を浮かべながらも、とにかく走り続ける。
すさまじい速度で。
右手には、その男の武器と見うけられる、銀色に光る物体――果物ナイフが握られている。
そして、それ以外のものを、男は持っていない。
支給されたらしいバッグすら。
「くそ……どこだ……」
ゲームが始まってから既に三十分――その間、オボロ(16番)はユズハを探して奔走していた。
「ユズハ……待ってろよ。俺が絶対に護ってやるからな……!」
最初に控え室に集められたとき――オボロは、とにかくユズハのことだけを心配していた。
ユズハ以外にも知り合いは何人かいたが、戦を経験した者ばかり。彼等のことは『信頼』している。それに、その辺の心配はハクオロに任せていればよかった。
だが、ユズハだけは――
(ユズハがこんなゲームに参加して……長生きできるはずがない!)
オボロは、険しい表情で、走り続けた。
支給されたバッグは、武器と持ち歩くことができる程度の食料だけを持ち、あとは放置した。どうせ走るのに邪魔になるだけだから。
「ユズハ……!」
オボロは、走り続けた。
――と、その時。
「む」
オボロは、足を止めた。
今、ほんの一瞬、木の陰に黒髪の少女の姿が見えた気がしたからである。
本当にユズハなら身体を見逃すはずはないが――
「……ユズハか!?」
思わず叫ぶ。
その声に気圧されたのか、少女は少しだけ出るのを躊躇っていたようだが、やがておっかなびっくり、木の陰から姿を現した。
「えと……違うわ」
そこから出てきたのは、柚木詩子(96番)だった。
オボロはその姿を見て落胆したが、気を取り直して聞く。
「違うか……おい、黒い長髪で、かわいらしい耳があって、目を閉じている女の子を見なかったか?」
「アバウトな説明ね……」
詩子は少し困ったように溜め息をつく。そして、
「私は見てないわ。ていうか、スタートしてからだれも見てないし」
「――そうか」
オボロは、それだけを答えた。
詩子は、内心ほっとしていた。
いきなりこんな馬鹿げたゲームに放り込まれた時は、どうなるかと思っていた。折原浩平などの知り合いも見当たらない上、茜がいない。
それで、木の陰で休憩していたら、唐突に物凄い速度で男が駆けて行った――かと思いきや、自分に声をかけたのである。右手にナイフを持って。
正直、かなり怖かった。
が、
(女の子を探してるのか……なら、ゲームにはのっていないのかな)
詩子は楽観的に、そう考えた。
少なくとも、自分に危害を加えることはないと思ったからである。
しかし。
考えこんでいたオボロが、急に口を開いた。
「見てない――そして、お前は参加者だよな?」
「え? ええ」
詩子は突然の質問に、やや素っ頓狂な声を上げて答えた。
「そうか――」
オボロはそう言って、再び黙った。
(……?)
詩子が不思議に思った、
次の瞬間。
ザシュッ……
――え?
何が起こったのか、詩子には理解できなかった。
ただ、目の前の、名前も聞いていない男が、怪しく光るナイフを持っていて。
そして、首から何か吹き出る感覚があって。
つまり――
血のついたナイフを軽く拭って、オボロは再び走り出した。
「待ってろよユズハ……お前を危険な目にあわせようとするやつは、みんなお兄ちゃんが殺してやる」
【オボロの配布武器は果物ナイフ。バッグはどこかに放置】
【詩子のバッグには目もくれていない】
【96番 柚木詩子 死亡】
【残り99人】
結局の話、こんな日常から脱却したところであり得ないことが起った場合どうすればいいかというと、やっぱりいつもの日常を繰り返すのが一番いい。
それが46番、長岡志保の出した結論だった。
はじまりは、広い草原。
視界は良好で、周辺100mは草むらがずっと続いているところ。
良き取材相手を探すには、最高の条件である。
しかし逆に考えると、最悪の条件ともとれる。
「あ……あの……」
一応、自衛はしておかなければならないだろう。
「す、すいませんっ……あのっ……」
私に支給された武器はナイフだった。
ベルトとケースもついていたので、腰にまきつけてある。
「きこえてますかっ……?」
こんな極限な物語の世界の中で、人がどのような行動を取るのか。
それを取材することが、この私、志保ちゃんのここでの仕事。
それが私のいつもの日常なのだから。
ケースからナイフを取り出し、それを頭上に抱げた。
そして話しかけてくる、少女に向ける。
「それ……あぶないですよ」
ナイフの先をじっと見つめながら、少女はそう呟いた。
かすれたような、小さな声。目は澄んでいたけれど、どこか生気の感じられない少女。
最初からずっと敵意は感じられなかったから、恐怖はない。
「あなた、名前は?」
「栗原……透子……」
「そう。あなた、今どんな気持ち?」
「え、えと……。木田くんと、せっくす……したいな」
「……は?」
想定外の答えに思わず口が開いてしまう。
「わたし、木田くんと……せっくすしなきゃ、ダメなのっ!」
この子はこの状況下で混乱しているのか、それともこれが素なんだろうか。
わからない。 とにかく、このままでは埒があかないのは確かだ。
「あなた」
「……へっ?」
「その木田くんとやらと会いたい?」
「も、もちろんっ!」
「それなら、私についてきなさい。会わせてあげる」
「ほ、ほんとっ!」
「もちろんよ」
嘘だった。とりあえず、一人よりアホでも二人でいたほうが、何かと便利だろうと思ったからだ。
もしもの時は、盾にすることも出来るから。それに、この変な子を長く取材してみたくもなった。
だから私は、この子と共に歩むことを決めた。この、長く続く物語を。
どこで退場するか、判ったものじゃないけどね。
【長岡志保と栗原透子、物語に参加】
柏木千鶴(19)は考えていた。 篁の言葉について。
「終了条件は一つ。生き残りが二人か一人になることだ。」
ならば耕一さんと初音を除く参加者を全員殺し、自ら命を絶つ。
そうすれば二人を無事に帰す事が出来る。
それが柏木家の長女としての私の役目だと。
手に握られた得物は刃長41cmもある超大型ナイフ『イーグルナイフ』
(接近戦での得物としては申し分無いけれど出来る限り迅速に銃を手に入れないと・・・)
前方でカサリと音がし、千鶴の注意はそちらを向く。
それは狩猟民族であるエルクゥの血がそうさせたのかもしれない。
本能的に『弱い』相手を察知する能力が。
草むらから出てきた人物は上月澪(36)
ハンデを抱えているのに殺し合いに参加させられた哀れな娘。
彼女は私を見たかと思うと一目散に逃げ出した。
いくら鬼の力が制限されていても小娘一人に追いつけないような脚力はしていない。
私は彼女を追った。 一見して武器を持っているようには見えなかったから。
(耕一さんや初音を助ける為に初音と大差ない年頃の娘を殺す・・・ つくづく私も偽善者ね・・・)
彼女との差がみるみる縮まる。 追いつくのは時間の問題だった。
と、不意に足に抵抗を感じ私は躓いてしまった。
次の瞬間、ズドンという炸裂音。
草むらに仕掛けられたクレイモアの散弾を全身に浴び、私の意識はそこで途切れた。
(私を追いかけてきた女の人。)
(長い黒髪がみさき先輩を彷彿とさせる女の人。)
(ゴメンね、でも殺さないと帰れないの。)
千鶴の死体からイーグルナイフとバッグを回収する。
バッグの中身を詰め替えると澪はその場を立ち去った。
(早く離れないと爆音を聞いた誰かが来ちゃうの。)
【澪の配布武器はM18 指向性散弾型対人地雷 クレイモア 残り5個】
【千鶴の配布武器イーグルナイフを入手】
【19番 柏木千鶴 死亡】
【残り98人】
45番、霜村功は鬱蒼と茂る森の中を歩いていた。
「くそっ、何でこんな事になっちまったんだ」
殺しあう? 馬鹿げてる。
(そもそも俺は今まで人を殴った事だってほとんどないんだ)
あの場にいた連中、中には柄の悪そうなのもいた。
平気で人を殺してしまいそうな……。
想像すると、寒気がした。
(これからどうするか?)
殺し合いに参加する気には、まだなれない。
それよりも……。
「真帆」
真帆を助けないと。彼氏であるこの俺が、と自分を奮い立たせる。
「ん? 待てよ」
そこで彼はあることを思いついた。
功は考える。
真帆がピンチになる。
↓
颯爽と現れ、助ける。
↓
真帆のハート、(σ・∀・)σゲッツ!!
↓
脱(・∀・)童貞。
「完璧だ」
己の天才さに思わずほくそえんでしまう。
よしっ、と気合を入れて功は渡されたバックパックを開いた。中には武器が入っているらしい。
(できれば銃を、せめてナイフぐらいは入っててくれよ)
祈りながら開けた。その中には、
「めかぶ?」
スーパーで売られているプリンの容器のような物が三つ連なっている。
上には『お徳用、3パック』と印字されている。
そして商品名は、『めかぶ』
ひらがな三つで『めかぶ』
「呼ぶ時は、めかぶちゃん?」
「って、違うわっ」
違うのはゲームである。
(何だっけ、めかぶって……。えーと)
確か、海藻の一種だったような気がする。
何かの番組で見た記憶がある。何だったか。
(何かすごい使い方があったはずだ……)
そうだ、確か『めかぶ』にはとんでもなくすごい効力があった。
(えーと)
「頭に塗ると……」
確か……。
「若ハゲが直る……」
「直ってどうするっ。しかも俺ははげてないっ」
密かに心配しているのは内緒だ。
しかし、何故『めかぶ』なのか。
「武器、なんだよな……」
功は足りない頭で考えた。
そもそもひらがな三つで『めかぶ』というのがいけない。
カタカナにするとどうだろう。
『メカブ』
これだと、中々強そうである。火を吐きそうな名前である。変身しそうな名前である。それこそ『仮面ライダーメカブ』なんて番組が始まりそうな勢いである。
「待てよ」
さらに、こうするとどうだろう。
『メ・カブ』
さらに強そうである。それこそ、機関銃をぶっ放し、毒ガスを吐き、「カブとは違うのだよ、カブとは」なんて高笑いしてしまいそうである。
「そうだっ」
さらに功は思いついた。危機的状況下にあって、彼の脳味噌は活性化されているようである。
『メ・カブ』
これをアルファベットにすれば、
『Me・Cub』
「おおおおおおっ」
けして、『ミー・カブ』ではない『Me・Cub』である。よくわからないが凄そうである。
「ふふふふ」
功は一人笑った。
そもそもあの黒幕らしき男は「武器を配る」と言っていた。
つまり武器以外のものが配られるはずがない。
それならばこの『めかぶ』とてただの『めかぶ』であるはずがない。
「これは『Me・Cub』(メにアクセント)だっ」
功はバッグを担いだ。
「待ってろよ真帆おおおおおおおおおおおおおおお」
叫びながら走り出した。
「ワイラビューーーーーーーン(功語でI LOVE YOUの略『民○書房 偽説天いな大百科』より)」
霜村功。彼はまだ自分が数少ない外れを引いた事に気が付いていない。
【残り 98人】
氷上シュン(70)は、出発後一人森の中で体を休めていた。
「…殺し合い、か」
元々死に蝕まれている自分が殺し合いをする、なかなか笑えない皮肉だった。
「…どうするかな?」
まず第一に、自分は人殺しをする気はない。そもそも、自分にはそこまで生への執着がない。もう、半分死んでいるようなものだ。
だからといって、自殺をする気もない。執着はないが、生きることに飽きたわけではない。生きることは楽しいことだ。
矛盾しているようだが、自分にとってはそれが全て。自分から手放そうとは思わないが、離れていくのなら諦める。ただ、それだけのことだった。
「折原君は…巻き込まれてないようだね」
何人か、自分と同じ制服を着た人間を見かけた。彼の友人らしき人間もいたが、彼の姿は見えなかった。
「ふぅ…」
軽くため息を吐いて、自分の支給された鞄を開けてみた。
「…うわっ、これはまた」
思わず声が漏れた。小ぶりなサブマシンガン、マイクロUZIだ。重量、殺傷力共に「アタリ」といえる武器なのだが、自分にとってはどうでもいい。
「宝の持ち腐れかな?」
そう呟いて、鞄の中にマシンガンを戻した。
「はぁはぁ」
獣道を必死で逃げるウルトリィ、しかし早くも息が上がり始めている。
普段ならば空を飛ぶことも出来るし、術で反撃することも可能だ、しかし何故か身体は浮きあがらないし、
術も発動できない。
その目から涙が溢れてくる、力が使えない事がこれほどまでに心細いものなのか?
しかも…追跡者は常に一定の間合いを維持したまま、近からず遠からずで淡々と追撃を続けている。
まるでそれは生き物ではない、無機質な何かを彷彿とさせた。
「!」
視界がいきなり揺れたかと思えば、足に痛み…転んでしまったようだ。
光を背にしたその姿ははっきりと見ることができない…だがその影は死神を彷彿とさせた。
声が出ない…普段の彼女ならば死を目前にしても尚、気高さを失わないのだが、
突然の異常な状況が彼女の心を彼女の物では無くしていた。
そして死神が鎌を振り上げる…もうだめだ。
だがその時だった、突き刺さるような飛び蹴りが死神の喉に突き刺さる。
死神が一瞬体勢を崩す、さらに蹴りの放った何者かはそのまま死神の足元に何かを放り投げる。
「目をつぶるですの!」
言われたとおりにするウルトリィ、その瞬間周囲を強烈な閃光が包む。
それにひるんだのか追跡者はそのまま何処かへ逃げて行った。
「しかし…」
本当にどうするか。頭をかきながら、思考をめぐらせる。考えられる選択肢は4つ。
1.逃げ回る。
2.ゲームに乗って殺す。
3.主催者を殺して脱出。
4.自殺する。
取り合えず、真っ先に4と2は却下。となると、1と3になるのだが…。
「うーん、僕一人で主催者を倒せるわけはないから…」
結局、1と言う選択肢になる。ずいぶん消極的な選択肢にしまうことに軽く苦笑したが、ふとあることを考え付いた。
「…そうだ」
自分はここから動かない。だから、始めて出会う人に運命をゆだねてみよう。
その人が自分を殺すのなら、そうされるだろう。銃はバックの中だ。取り出してる間に殺されるだろう。
その人が主催者を倒すために仲間を求めているのなら、そうしよう。全力で力を貸す。
その人が自分を見て逃げ出すなら……まぁ、次で会う人にゆだねよう。
「さて、どうなるのかな?」
【氷上シュン(70) マイクロUZIサブマシンガン(弾数残り80)】
【残り98人】
自分はこのゲームに乗るか、反るか。
最初に自分が決めることはそれだった。
確認しよう。
自分、光岡悟(89)は今、草原にいる。
手に持っているのは支給武器――日本刀。
自分が最も得意とする武器。
剣術ならば坂神にも負けない、自負はあった。
自分の体。
仙命樹の息吹は殆ど感じられない。
今が日中だということもあるが――正直夜になっても期待はできないだろう。
そして、自分の寿命。
仮にこのゲームに乗り、自分が生き残ったとする。
しかし、そう遠くない未来、自分の寿命は尽きる。
ならば、自分が生き残ることに意味など無いではないか。
そもそも、軍人は死ぬことが仕事ではなかったか。
弱者を守り、このゲームを壊す。
軍人として、武術家として、光岡悟として、そうするべきだと思った。
それに――坂神ならば、必ずそうするだろうから。
視界に、少女が映った。
手に、白い棒のようなものを持っている。
視線を感じたのだろうか、少女がこっちを見た。
「あなたは、私を殺すんですか?」
第一声。
絶望と恐怖と諦めが入り混じった声。
少女の目は暗い。
そして、白い棒。
漸くわかった。
この少女は、目が、見えないのだ――
「殺すなら、早くしてくれませんか…
出来れば、痛くないようにしてくれると嬉しいです。」
強い怒りが湧いた。
同時に、義務感も。
「お前は、目が見えないのだな」
「はい、だから楽に殺せますよ。私の支給武器は役に立たない物ですけど」
「はじめに言っておく。
どんなことがあろうとも、俺はお前を傷つけない。
俺は、お前のような弱者を守るために死ぬ。」
さて、こうして難を逃れたウルトリィだったが…
「きれ〜な翼ですの〜素敵ですの♪」
彼女はまた別の意味で困惑していた。
自分を救ってくれたこの御影すばるとかいう少女、
やたら馴れ馴れしいのは別に構わない…だが。
この明らかに他の者たちとは違う耳や翼…それゆえに自分らは真っ先に異分子と目され、
狩りの対象となるは必定だと思っていた。
だが、この少女はそんな自分の姿をまるで意に介していないのだ。
「貴方は私の姿を見て、恐ろしいとか他の誰とも違うとか思わないのですか?」
「確かに…違っているですの」
すばるはウルトリィの言葉を否定しなかった。
「でも、そんな理由で平然と誰かを手にかけることができる人の方が、すばるはすっと恐ろしいと思うですの」
「だからすばるはそんな心無い人たちから皆を守ろうって、思ったんですの」
(この子なら…信じてもいいかも…)
まだ迷いはあったが…。
「まだ私の自己紹介がまだでしたね、私は…」
その頃…。
「バランサーに若干の誤差発生、自動修正完了まで約20分」
飛び蹴りを喰らった少女は無機質な声で呟く、その耳にはアンテナが装着されていた。
あのまま2人まとめて屠るのもありだったのだが、すばるの投下したチャフグレネードの影響で
一時的な効果とはいえレーダーが上手く働かなくなっていた、ゆえに彼女は自重したのだった。
「やってくれますね…御影すばる、さすが綾香様が手合わせを熱望していただけのことはあります」
「ですが…最終的な勝利者はこの私です…私は人間と違い決してその場凌ぎの一時の感情とやらに
惑わされる事はありませんから」
セリオは地面に座りこんだまま、冷たく微笑みつづけていた。
しかし…本当にそうなのだろうか?
その冷徹な言葉が自分に言い聞かせるような響きがあった事を
セリオは全く気がついていなかった。
【御影すばる 所持品グレネード 残り2個 (殺傷力は無いがスタン効果とチャフ効果を合わせ持つ)】
【ウルトリィ 所持品不明】
【セリオ 所持品不明】
【残り 98人】
かくして、俺と少女――川名みさき(28)は歩きはじめた。
みさきは左手で俺の右肘を持ち、右手で白い杖を使っている。
目が見えないということは、本当に辛いことなのだろう。
見知らぬ土地を歩くのにも恐怖を感じるのかもしれない。
そこが殺し合いの地ならば、尚更。
ならば、俺が彼女の目であり、彼女の支給武器なのだ。
そう、思った。
【光岡悟(89) 川名みさき(28)と行動開始】
【光岡悟 支給品:日本刀 川名みさき 支給品:白い杖】
33 :
出会い:04/05/15 01:04 ID:OVYhnSPM
気に食わなかった。
とにかく気に食わなかった。
浅見邦博(1)は煙草を咥えながら舌打ちをした。
今まで、多くの人間を廃人にしてきた。今更、人を殺すのに抵抗があるわけじゃない。
だが、邦博はいつだって、戦いたい時に戦い、食べたい時に食べ、寝たい時に寝、壊したい時に壊す。
己が望むときに、己が望むように、己が望む事をする。
他人に指図されるなど、邦博が最も嫌っていた事だ。
だが今、身体に爆弾を埋められ、人殺しを強いられている。
それが気に入らなかった。
それだけじゃない。普段、邦博を邦博たらしめている力、プロクシの具現が上手くいかない。
プロクシは邦博の力の象徴。
その力が、今はない。
その事が余計に邦博を落ち着かなくさせる。
――邦博はさ、怖いんだよね。
突然あのガキ麻生春秋の声が蘇り、苛立ちがさらに増した。
34 :
出会い:04/05/15 01:06 ID:OVYhnSPM
開けた場所に出ると、二人の少女が対峙していた。
中学生くらいの子供とそれよりかは年上らしい女だ。すでに勝負は決しているようで、小さい方が尻餅を付いて大きいのを見上げていた。
その顔は歪み、肩が震えていた。
助けようなどとは少しも思わず、煙草を咥えたまま邦博はぼんやりと眺めていた。
小さい方が邦博に気が付く。
「た、助けてくださいっ」
大きいほうの女が振り向く。目が合う。値踏みするよう、邦博を睨む。
その視線に邦博は苛立った。睨み返す。
すると女は何を勘違いしたのか、その場から逃げ出した。
ぼんやりとそれを見送った後、邦博はその場に背を向けた。
だが数歩歩くと、呼び止められる。
「ま、待って」
振り返ると、恐る恐るという雰囲気で小さい方の女が近寄ってくる。
「あ、ありがとうございました」
中学生くらいのガキだ。その顔を見て何となく幼馴染の千佳に似ていると思った。
「勘違いするな」
それだけ告げると、邦博は背を向けて歩き出した。
しばらく歩いて、邦博は振り向いた。
「ついてくるな」
「でも……」
舌打ちをして、邦博は歩く速度を速めた。
35 :
出会い:04/05/15 01:08 ID:OVYhnSPM
ふと邦博は立ち止まった。
「腹が減ったな」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
「なら私が作ってあげよっか」
いらねえと答えようとして、だが止めた。拒む理由もない。作りたいなら作らせればいい。
「作れるのか?」
「ハンバーグは得意だけど……」
「蕎麦は?」
「茹でるだけなら……」
「なら、作れ」
邦博はそれだけ言うと、また歩き出した。
「待ってよ」
ガキが慌てて追いかけてくる。
「貴方の名前は?」
「あ?」
邦博は少女の顔を見る。千佳とは似ても似つかない顔。なのに、どうして千佳に似ていると思ったのだろうか。
だがそう思っただけで、深く原因を追求する事はしなかった。
邦博は深く考えるのがあまり好きではないから。
「私は、恵美梨。木田恵美梨。貴方は?」
少女は期待に満ちた眼差しで、こちらを見てくる。邦博は舌打ちをした。
「……邦博」
「邦博さん?」
「止めろ。呼び捨てでいい。ただの邦博だ」
【邦博、恵美梨と出会う。支給品:不明】
36 :
こいねがうこと(1/4):04/05/15 01:10 ID:HsPxH/ik
…一体何だってこんなことに巻き込まれたりしたのだろう。
監視兵から見えない位置まで離れると橘敬介(055)はホールの方向に取って返した。支給された釣り糸3巻と釣り針の束はすでにバッグから取り出してある。
知らぬ間にこの島に連れてこられてからの一連の出来事は敬介の日常から大きく外れたものだった。
殺し合い。
目の前で心臓を撃ち抜かれた少年。
100人ほどの、いや、控え室に25人いたから4つ分でちょうど100人といったところだろうか、の人々のざわめき。
人を殺すために各人に渡されていく支給品のバッグ。
自分のちょうどひとつ前に光に飲み込まれた童顔の少年。
そして自分の前に開かれたドア。
しかしその中にあって、この状況と敬介とをつなぐ細い糸たりえる音声が彼の頭をかき回していた。
神尾晴子、神尾観鈴。
…どちらかと言うと日常とは遠い名前ではある。観鈴に関してはこちらの名に気づいたかどうかすら怪しい。
しかし確かに控え室のグループ分けアナウンスにその名はあり、そして…
37 :
名無しさんだよもん:04/05/15 01:14 ID:HsPxH/ik
敬介は「忸怩たる思い」を表情にしようとして完全に失敗し、そのまま片頬で笑った。
別の控え室に誘導された晴子も、同じ神尾姓を持つ観鈴も、合流したにせよ別行動をとっているにせよ、すでにここからは相当離れているはずだ。たまたま観鈴とは同じ出発点だったものの言葉をかける機会すら彼らには与えられなかった。
そのまま観鈴は6番目に、実父の目の前から、あの薄暗い部屋から去っていった。
「一体何をやっているんだ、我ながら」
敬介の中には迷いがある。彼女たちにあわす顔が、今の自分にあるだろうか?
このような正気の沙汰とは思えぬ状況(ゲーム)に彼女たちが巻き込まれた責任の一端が自分にあるとしたら?
…むろん心当たりがあるわけでは決してない。しかしその思考が彼を捕らえて離さない。
「願い、か…」
慎重に、後続の者に見つからぬよう、彼はホールから離れる。
未だ方向を定めぬ彼の頭が呼び起こしたのは主催者の老人が賞品として提示した
「願いをひとつかなえる」という言葉だった。
自分の口から出たその言葉ですらずいぶん遠く、空虚に聞こえる。
自分の願いすらそんな希薄なものなのにその願いを叶えるためにに人を殺す、という
発想は敬介とは縁遠いものであり、それゆえにこのゲームに乗ると決断した人間に対して空恐ろしさを感じずにはいられない。
いまのところ殺し合いには遭遇していないがそれも時間の問題だろう。
人にそこまでさせる個人的な、強い「願い」を持った者がいるとすれば。
自分の願いとは、一体なんだったのだろう――
水場には出来るだけ近づきたくなかった。
食料に制限がかけられているのだからそれだけ水場の確保は重要になる。
しかし他人との接触で状況を打破する賭けに出ることが敬介には出来なかった
…そのはずだった。
沢縁の木の下で苦しそうにしている少女を見るまでは。
「キミ、大丈夫か?」
あわてて駆け寄り、桜色の制服を着た少女をなるべく楽な姿勢になるように寝かせ、
枕代わりの石を空の布バッグでくるんだ。天を指す2本の前髪に見覚えがある。
日射病か、熱射病か、もともと病弱なのか、敬介には判断が出来かねたが、
何をすべきかの判断くらいはつく。
さすがに武器として取り上げられなかったらしい大判のハンカチを取り出すと
水に浸して強く絞る。少女のそばに戻るとそれを額に乗せ――
首筋にちくりと痛みが走る。顔を上げると目の前に幼さの残る少女の顔があって。
「あ〜〜〜ん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃ!」
自身の行動に相当動転している。顔が青い。二歩、三歩と後ずさり…
「落ち着きなさい、大丈夫、大丈夫だから…」
二つのバッグを手に少女は駆け出していた。森の奥へと。
既視感。そして自己嫌悪。
そうだ、いつも自分はそうだ。
今度はあの子を、追い立ててしまっているじゃないか…!
(なんも変わっとらんわ、この甲斐性なしが)
自分の願うもの――
地面に落ちたハンカチを拾い上げると川岸から離れるべく敬介は立ち上がろうとし、
体に力がはいらないことに気づいた。川が見えない場所までたどり着くと
木の根元に座り込む。
指が動かない。呼吸も浅くなっている。そんなことをいまさら冷静に観察している
自分がいる。我ながらしぶとい。
耳にはせせらぎ。背に木のごつごつした幹。指の間には草。
目には緑。
あふれかえる緑。
まばたきできないほどの緑の洪水。
そしてそれをおおうように、そら。
今となっては雲をつかむような、もうかなうことのない小さな願い。
明転も暗転もしようとしない、自分の感覚と思考。
そして――ポケットの中の小さな痛み。
少女は駆ける。何かに圧されたように。
「ティッシュで人を殺すことが出来る」なんていう雑学知識をつい一昨日仕入れてしまったばかりに。
彼女――雛山理緒(071)は未だ知らない、彼女の支給武器が筋弛緩剤であることを。
そして気づかない、もうひとつのバッグには枕としていた石が入っていることに。
【055橘敬介 :所持品 釣り糸3巻、釣り針の束 大振りのハンカチ 】
【 現在ステータス 筋弛緩剤による麻痺、呼吸は浅いが循環器には影響なし】
【071雛山理緒:所持品 筋弛緩剤と注射器一式(針含む3セット)、枕大の石、ザック×2】
なにがなんだかわからなかった。
いきなり、殺し合いをしろとか言われて。
目の前で人が死んで。
自分の名前を呼ばれた時には、もう何も考えることができなくなっていた。
ただ、怖かったから。
冷静でいることなんてできなかったから。
だから、バッグをひったくるように受け取ってから、無我夢中で走った。
とにかく、走った。
誰かが追ってくるわけでもない。
自分が狙われているわけでもない。
それでも、止まっては駄目だと思った。
目を開けるのも怖かった。
誰かを見つけてしまうのが怖かった。
だから、目をつぶって、走り続けた。
――自分の後に出発するのが誰であるかも考えずに。
少女――春原芽衣(47番)は、目の端に涙を浮かべながら走っていた。
何かから逃げ出すように。
――が、所詮中学生の、それも女子が全速力で走り続けていられる距離など、たかが知れている。
五分と走らないうちに芽衣は力尽き、その場にへなへなと座りこんでしまった。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
目をつぶったまま、肩で息をする。
「はぁ…はぁ…」
荒い呼吸を繰り返す時間が続く。
その荒い呼吸が嗚咽に変わるまで、それほどの時間は要さなかった。
「うぅ…怖いよ…怖いよ…」
溢れた涙が、頬を伝う。
精神的に強い方とはいえ、まだ中一。
この突然の出来事は、芽衣の心には重過ぎた。
「うぅ…お兄ちゃん…岡崎さん…」
堰を切ったように、とどめなく流れ続ける涙。
我慢できずに漏れる嗚咽。
呼吸が戻ってもなお――それらは止まなかった。
と、不意に。
ジャッ!
ガッ!
二つの音が、ほぼ同じに聞こえた。
「!!」
驚いた芽衣が顔を動かす。
(今の音は――?)
きょろきょろと見回して。
そして、『それ』を見た。
「うそ…」
芽衣は、愕然とした。
座りこんでいた芽衣の身体の、すぐ脇――そこの地面に、小さいさなくぼみができていた。しゅうしゅうと音をたてて煙まで出ている。
くぼみといっても、円や正方形のきれいな形ではない。
まるで、何か大量の細いもの――剣山など――でむりやり地面を抉ったような、そんなくぼみ。
そして、この地面は、アスファルト。
「何これ…」
「あ、はずしちゃった」
「!!」
突然、女の声。
芽衣は、震えながら振りかえった。
そこには、薄く笑っている太田香奈子(12番)がニードルガンを構えて立っていた。
「やっぱ射程が短いのねこれ…まぁいいわ。今度はこの距離なら外さないでしょ」
香奈子は一人呟きながら、突然のことで動けないでいる芽衣に狙いをつける。
「月島先輩が死んじゃった…なら、最後まで生き残って、先輩を蘇生させればいいだけ…よね?」
「……!」
背筋が凍りついた。
そう思えるほど、香奈子の笑みは、美しく――そして、恐ろしかった。
怖い。怖いよ。
なんなの、この人。
怖い。
撃たれる。死んじゃう。
逃げなきゃ。
逃げなきゃいけない。
なのに、なんで体が動かないんだろう。
怖い。
逃げなきゃ。
わかっているのに、動けない。
やだ。
このままじゃ撃たれて死んじゃう。
やだ。
そんなのやだ。
怖い。
怖いよ、お兄ちゃん――!!
「ごめんなさいね。あなたを殺さなかったら、生き残れないから。それに――」
全く抵抗する気なしと見てか、香奈子は余裕ぶった口調で言う。
「あなただったら、どうせ最後まで生き残ることなんてできないわよ」
引き金に指をかける。
震えるだけの、全く無力な少女に、無慈悲な一撃を食らわせるために。
香奈子は、また、笑った。
笑って、最後の死の宣告をする。
「それじゃ、」
「――!!」
芽衣は、思わず塞ぎ込んだ。
「さようなら」
――芽衣は、もう何も見ず、ただ来るであろう一撃を覚悟した。
が。
いつまでたっても、衝撃はこない。
「……?」
不審に思って顔を上げると――
香奈子の後ろに、誰かがいた。
「……」
それは、高校生くらいの金髪の男。
その男のことを、芽衣はよく知っていた。
「あ…」
そして、気付く。
その男――春原陽平(48番)が、香奈子の身体に銃を押し付けているということに。
パンパンッ!
乾いた音が当たりに二回響き、香奈子の身体が崩れ落ちた。
「――芽衣を傷つけるんじゃねぇ」
【春原 支給品:拳銃(トカレフ) 残り七発】
【香奈子 支給品:ニードルガン】
【芽衣 支給品:不明】
【香奈子はまだ死んでません。トカレフの弾は香奈子の両足に】
【残り98人】
取り戻したい日々 改訂部分
【62長瀬祐介 支給品:ベレッタ@残弾数16発】
【57月島瑠璃子 支給品:折畳式カサ】
【行動方針:どちらかが優勝する】
(何故……何故、奴が生きている?)
(篁は……俺があの時、確かに殺した! まだ生きてやがるなんて……)
那須宗一は状況を把握し、そして一つの結論をだした。
今の自分から『執行者』としての力は既に失われている。
現状で篁を倒す手段は、まだ見つかっていない。
それでも、ゲームの参加者を殺す気は全く無い。
マジで殺る気の奴が襲って来るのならば、こっちも応戦しないわけにはいかないだろうが
殺すのはあくまでも管理者側のみ……篁達だけだ。
宗一は控え室から出ると、人目に付かぬよう、近場の林に入った
周りの様子を伺う、気配は無い。所持品のチェックを始めた。
「ちっ……やっぱりか」
愛用の銃やサバイバルナイフなどの武器は勿論のこと、
エージェント仕様の腕時計や携帯電話などの電子機器も取り上げられていた。
「時計が無いんじゃ、身体の爆弾や盗聴器は見つけられそうにないな……
配布物とやらに期待するしかないか」
そう呟き、バッグを開ける。
僅かばかりの水と食料、そして―――
47 :
恐怖と悲劇〜美坂香里〜:04/05/15 01:44 ID:b04+sM4V
美坂香里(87)は一人、森の中でうずくまっていた。
「…何なのよ、一体! 死にたくない、こんなところで死にたくない……!」
一人膝を抱えてガタガタと震えながら、これから死ぬかもしれないという圧倒的な恐怖に押しつぶされそうになっていた。
(嫌よ! こんなところで栞を残して死ぬ訳には……栞!?)
そこで、参加者の中に栞がいたことを思い出す。
(そうだ、まずは栞と合流しよう。他に名雪や北川君もいたはず……まずは知り合いと合流してから…
……そういえばカバンの中身もまだ確認してなかったわね)
少し冷静になり、カバンを開けると、3本のナイフが入っていた。どうやら果物ナイフのようだ。
(まあ、何も無いよりはましね……)
そうして、行動をとろうと腰をあげ…
パンッ パンッ
突然の聞き慣れない乾いた音に、香里は思わず身をかがめた。
「OH! やっぱり動いてない獲物は撃ちにくいネ」
そう言いながら宮内レミイ(92)がゆっくりと近づいてくる。手には黒く光る銃。
「ひっ…!」
香里はしりもちを着いたまま後ろに下がる。
(この女は私を獲物と呼んだ! 確実に私を殺そうとしてる…)
いきなり目の前に現れた金髪の死神に、香里は完全にパニックに陥った。
「ハイ、動かないでネ」
そういいながらゆっくりと近づく死神。
近づきつつも銃を撃つが、一発も香里には当たらない。
しかし、香里の恐怖心を煽るには十分だった。
そして、お互い手を伸ばせば届くくらいの距離まで近づいて……
「いやあああああああああああああああああ!!」
香里はやけくそで手に持っていたナイフの一本をレミイに向かって振り回す。
「アウッ!」
完全に油断していたレミイは、銃を持ってる右手を切られ、思わず銃を取り落とした。
その隙を突いて香里はその場から走って逃げた。
「……弓?」
配布武器は弓と、そして数十隻の矢だった。
機械仕掛けのボウガンならば扱ったこともあるが、このような古典的な長弓を宗一は扱ったことはない。
しかし……弓と矢に触れながら宗一は感じる。
何故かはわからないが胸が締め付けられるほどに……懐かしい。
は弓弦を引き絞り、一本の矢を近くの木に放つ。
矢は、狙い通りの所に真っ直ぐに刺さった。
「これなら篁の頭も貫けそうだな、さて、と……」
当面は知人の捜索をすることにした。
エディやリサならば平気だろう。あの2人ならばこのようなことも慣れっこだ。
そう簡単にやられるタマじゃない。
問題は皐月とゆかり、七海と姉さんだ。
素人の彼女らでは、俺が守らなければいつまで生き延びられるか……
「今回のミッションで、誰も殺させはしない
No.1エージェントナスティボーイの名にかけて―――」
【那須宗一(65) 知人の捜索へ 装備 長弓(残り矢30隻)】
【残り98人】
「はあっ、はあっ……」
どれだけ走ったかよくわからない。とりあえずあの金髪女を振り切ることには成功したようだ。
しかし間近で死の臭いを感じた香里の頭はまだパニック状態だった。
(殺される……このままじゃ殺される……っ!)
残りのナイフを握り締めたまま、香里はガタガタと震え始めた。
(駄目……殺される! みんな狂ってる……)
ガサッ
いきなり背後の茂みが鳴り、茂みから人影が現れた。
「いやああああああ!」
反射的に香里は飛び掛かり、目を堅くつぶってナイフで人影の胸を貫いた。何度も何度も。
そして、目をあけた香里が見たのは、実の妹の亡骸だった。
【087美坂香里 所持品・果物ナイフ2本(1本はレミイのそばに放置) 極度の混乱】
【088美坂栞 所持品・不明。次の書き手に依存】
【092宮内レミイ 所持品・ジグ・ザウエルショート9mm(残弾1発) 右手に負傷。比較的軽度。バーサク状態】
【088美坂栞 死亡】
【残り97人】
50 :
(1/3):04/05/15 01:46 ID:M0J8LkPU
頭の悪い女には、縁があるのだろうか。
「あの、お名前なんて言うんですかっ」
ハチミツ色のポニーテール。背中には支給品らしいカエルのぬいぐるみを背負っている。
「あの、私、神尾観鈴って言います」
いかにも何事にも一生懸命です、みたいな、ポジティブな雰囲気が全身から滲み出ている。
「私、あのおじさんの言うことが良く分からなかったんですけど、いきなりここに連れてこられて」
「俺もだ」
さすがに無視しているのも辛くなり、俺は一言だけ答えた。
「往人さんもいないし、お母さんとも別々にされるし……困ってます」
「俺もだよ」
「困ったな……一緒に居てくれる人、いないかな……」
観鈴とかいう女は、俺にわざとらしくしょげてみせた。
……一緒に行動する? かなり頭が悪いように見えたが、それどころじゃ無い。ただの知恵遅れだ。
さっきの男の話は唐突だったが、内容は理解できた。
殺し合え。男はそう言った後、逆らった高校生を殺してみせた。
嘘は無いだろう、と俺は感じる。それを裏付けるように、俺に支給されたのは物騒な形をした鎌だった。
人くらい簡単に殺せるのは、疑いの余地が無い。
――これは、現実だ。
ならば、この女は、無防備のまま俺に話しかけてきている場合では無い筈なのだ。
「死にたいのか?」
「――え?」
「選択の余地なんか無い、強制された殺し合いを、俺達はするんだぞ」
「……え、でも……」
観鈴が顔色を曇らせた。今度は演技じゃない。
「……もっとも、俺もどうでもいい」
言って、俺は手近な樹によりかかるように腰を下ろした。タバコが無いのを思い出し、苛立ちが一瞬沸き上がる。
「俺は別に死んだって構わないし、どうなってもいい。お前、生き延びたいなら他の奴と組め」
「……あの」
観鈴は、俺の言葉など聞いていない様子で擦り寄ってきた。今にも崩れそうな笑顔を称え。
「お名前、なんて言うんですか?」
51 :
(2/3):04/05/15 01:47 ID:M0J8LkPU
「……話、聞けよ」
「友達になりましょうっ」
「はあ?」
つっけんどんに返すと、観鈴はうっと表情を強張らせたが、すぐに立ち直り、
「死にたいって、言いましたよね?」
「死にたいとは言ってねえよ。死んでも構わないっつったんだ」
「何で、そんなこと言うんですか?」
「……どうでもいいからな」
「?」
「俺の人生なんてくだらないし、生きていたいって願望も無い。だからどうでもいい」
「……そんな悲しいこと言わないで欲しいな」
気が付けば、観鈴は敬語では無くなっていた。
「私も心細いし、一緒に居て欲しいから……そんなこと言わないで欲しいな」
「……何なんだよ、お前」
「観鈴ちん」
「…………」
「ぶいっ」
笑って、ブイサインを突きつける。
(何なんだ、こいつ)
「ねえねえ、お腹空いた?」
「馴れ馴れしく話しかけんな」
「が、がお……」
がお? よく分からないが、落ち込んだという意志表示らしい。いよいよ本気で知恵遅れだ。
「あの、お名前、教えて欲しいな」
「セックスさせてくれたら考えてやる」
52 :
(3/3):04/05/15 01:48 ID:M0J8LkPU
「せっくす?」
知恵遅れには少々難しい言葉だった。俺は言い方を改める。
「俺のチンコをお前のマンコに入れるんだよ」
「……?」
「…………」
まだ理解できない様子の観鈴に、俺は醒めてしっしと手を振った。
「お前みたいな知恵遅れを抱こうとした俺がバカだった。いいからもう消えろ」
「が、がお……」
「うぜえよ」
俺は、観鈴の頭を軽く小突いた。
「イタっ」
「さっさとかどっか行けよ」
「だって、一人じゃ何していいか分からない……」
観鈴は頭を抑えたまま、泣きそうな顔でうめいた。
「知るか。どうせお前なんか生き残れやしないんだから首でも吊れよ」
「なんでそんなこと言うかなあ……」
「……お前と話してると頭痛くなってくる」
俺は会話が面倒になり、張り出した樹の根を枕にごろりと寝転がった。
「俺は寝るからな。起きた時にまだ周りうろついてたら襲うぞ」
「名前、まだ聞いてない……」
「…………」
俺はため息をつき、ぼそりと答えた。
「木田時紀」
【23 神尾観鈴 支給品 けろぴーのぬいぐるみ】
【31 木田時紀 支給品 鎌】
【残り 97人】
【ルール改訂】
食糧について:原作準拠。一日なら食いつなげる程度の水と食糧が武器以外にも支給。民家で調達も可能。
これを次スレの以降からテンプレに加えますので、書き手の方はご承知の程を。
54 :
決意(1):04/05/15 02:16 ID:eo1THRoN
柏木千鶴(19)は耕一と初音を探しながらこれからどうするか考えてた。
どうすれば耕一さんと初音を無事に生きて脱出させられるだろうか・・
選択肢は2つ
1 このゲームに乗り耕一さんと初音以外を殺し自分も死ぬ
2 主催者を倒しこのゲームを潰す
どちらも問題点がある。
1を選んだ場合自分は耕一さんと初音が殺される前に自分は他の人を全員殺せるだろうか?
鬼の力はほとんどつかえない、身体能力が常人より少しあるぐらいだしさらに武器も
短剣だ、これで銃器をもった相手に勝つのは難しいだろう・・・
もう一つの問題点は信用できるかだ。
私はどうしてもタカムラとかいう男が信用できない、あれはなんか嫌な感じがする。
人殺しをしろとかいう人がいい感じするわけないのだが人としてあれはどうにかしなきゃ
いけない気がする・・・
では2を選ぶかというとこちらも問題点がある 体内に仕込まれたという爆弾のことだ。
もしこれが本当なら抵抗はまず無理だろう。
結論をだすとどちらも可能性はすごく低いということだ。
でも可能性が低くとも私は命に代えても二人を守らなきゃいけない、なぜなら二人がとても大切だから・・
>54
千鶴はもう死んでます。
投下はスレをちゃんと読んでからお願いします。
56 :
決意(2):04/05/15 02:30 ID:eo1THRoN
どちらにするか自分は決めなければいけない、
この殺し合いの場で迷いは命取りになるからだ。
1を選ぶなら会った人を殺していく、2を選ぶなら協力者を探す必要がある。
どっちが確率高いかといえば1だろう・・・
でもそれはきっと後悔すると胸騒ぎがしている。
私はこの胸騒ぎを前にも味わったことがある。
それは水門で耕一さんを殺そうとした時 あの時私は最大の過ちをおかした・・
でも耕一さんは生きていてくれたおかげで私は救われた。
果たして今回の正解はどちらのだろう・・・
そのとき誰かの姿が見えた。
57 :
ひとで:04/05/15 02:33 ID:uj1YIX5/
「はあ……ヒトデはやっぱりかわいいですっ」
伊吹風子は五つの突起を弄くりながら、恍惚の表情をうかべていた。
この瞬間を狙われれば“死”は間違いなかったが、運よく誰も通らなかった。
そして30分後。
「はっ……というわけで、ヒトデはとってもかわいいんですっ!」
目が覚めると同時に、前方へ向かって説明しだした。
しかし返事は無い。
少年は睨んでいた。
「む、無言で睨まれたって返しません」
しかし返事は無い。
少年は睨んでいた
「わかりました。2つも取っちゃいましたし、1つ返します」
しかし返事は無い。
少年は睨んでいた。
「ではさよならです」
しかし返事は無い。
少年は追いかけれなかった。
「オレオレ、オレだよ」
59 :
ひとで:04/05/15 02:35 ID:uj1YIX5/
「どうやら風子とさっきの人を除けば、あと196ものヒトデがあるはずです。
人数分集めて、お姉ちゃんの結婚式を祝ってもらいます」
そして再びヒトデを弄くり始めた。
親指の爪が伸びていたので、赤いナイフで削ってあげた。
「はあ……余分な物を削ればヒトデはもっとかわいいですっ」
【8 伊吹風子 支給品 よく切れるナイフ】
【51 住井護 死亡】
【残り 96人】
スタート地点からある程度はなれた森の中。
二人の男女が言い争いをしている。
傍から見ればただの痴話げんかに見えただろう。
「あんたねっ、知り合いにいきなり後ろから襲い掛かるってどういう了見よっ」
「いや…、その…、驚かそうと思って…」
「なにが、驚かそうと思って…、よっ。こっちだっていきなり後ろから来られたらどうしたらいいかわからないでしょ」
「どうしたらも何も、きつい1発を貰ってるのは気のせいか?」
「先に襲い掛かってきたのはそっちでしょ。完璧に正当防衛が成り立つわよっ」
「そ、それはそうとしてもだ、俺ってことを確認しても殴り続けてたよなぁ?」
「だってあんただし」
どうやら男のほうが見下されているようだ。
「俺ってどんな風に見られてんだっ?」
「・・・・・」
明らかに格下な相手を見下した表情をする女。
「…く…」
それに対し思うところがあるのか何も言い返せない男。
「まあいいわ、知り合いがすぐに見つかったってことはかなりラッキーなことよ」
「ん、それはそうだな・・・どこかも分からない場所につれてこられてわけも分からず殺し合いをさせられるんだ」
「この状況で一人じゃ流石に嫌なものがあるしな・・・」
さっきとはうって変わってまじめな表情になる男。
「・・・・・・」
それを見て女の表情が変わる。
「なんだ?どうした?」
「ええっ、何でもないわよっ、うんっ、何でもない」
「?・・・変な奴だな・・・」
言い終えた瞬間女が何かを男に向かって投げる。
ずべしっ
61 :
決意(3):04/05/15 03:01 ID:eo1THRoN
「そこにいるのは誰?」と私は呼びかけてみた。
「私は殺しあう気はない」と出てきたのは
姿は似てないがなんとなく梓に似た雰囲気の女の子だった。
「殺しあう気がないって では貴方はこれからどうする気?」
すると予想通り、でも予想以上の答えがきた。
「決まってるじゃん、こんなゲームぶっつぶして
皆で生きてかえる、それ以外なにがあるっていうの?」
彼女の言葉は意思がこもってた 本当にそれ以外考えてない
そして絶対皆で帰るという意思が・・
きっと梓も同じことを言うと思う、私みたいにあれこれ考えるよりわずかな可能性
でも信じる道を選んでいく。
その時私の心は決まった。彼女が私の心をおしてくれたおかげで・・・
「私の名前は柏木千鶴、貴方お名前は?」
「湯浅皐月、皐月って呼んで」
私は主催者と戦う、このゲームにはのらない そしてできるだけ
たくさんの人を助ける 可能性が低いのはわかってる、でも私はわずかな光を信じてがんばろうと思う
そう決めた時、耕一や初音達が笑ってる姿が見えた。
【柏木千鶴、皐月出会う 武器短剣】
「ぐあっ!!」
「あんたなんかに変な奴だなんて言われたか無いわよっ」
「何だよ何だよチクショウ・・・」
何かをぶつけられその場にうずくまる男。
「んで、あんたの渡されたものは何なの?」
「あ?まだ見てないけど?」
「あんたほんとに馬鹿ね・・・」
「そういうお前こそなんだったんだよ」
「・・・・・・・」
今度は心底あきれた表情をする女。
「…頭が悪いのは分かってたけど目までビー球だったとはね…」
「何を言う、春原の銀球鉄砲の銀球よりはましだっ」
「それを50歩100歩って言うのよ…」
「まったく、少しは見直したと思ったらこれだもんね」
小さな声でつぶやく。
「ん?なんだ?俺の目の輝きにいまさら気が付いたか?」
またも言い終えた瞬間女が何かを男に向かって投げる。
ずべしっ
「ふがっ!!」
またも地にうずくまる男
「あほな事言ってないでさっさと鞄見せなさいっ」
「ちっ…わかったよ…」
近くあった石の上に座ってにごそごそと袋を漁る男。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
その物体の登場で二人の時間は止まる。
男はふてくされた表情のまま。
女はどこか引きつった表情のまま。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「…なぁ?…」
「…何?…」
言葉を交わしても表情は変わらない。
「これってさ、なんだと思う?…」
「あたしの見間違い出なければ、ダンボールのはずよ…」
「ああそうだな、俺にもダンボールに見える…」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
前触れも無く女が何かを男に向かって投げる。
ずべしっ
「へぶっ!!」
三度男はうずくまる。
「何だよっ、何だよっ、俺は悪くないだろっ」
「うるさいっ、誰か叩かないと気がすまなかったのよっ」
「だからってなんで俺なんだよっ?」
「あんたしかいないからでしょっ」
そこで男は思い出す。
ここには自分たち二人しかいないことを。
いつも隣の席で馬鹿をやっていた親友も。
クラスを問わず女子に囲まれていた占い好きのクラス委員長も。
いつも寮の住人の行動に頭を悩ませている寮母も。
いつも親友をボコボコにしていくラグビー部も。
学校へ続く坂の下で一人佇んでいた少女も。
ここには居ない。
ただ2年のときから付き合いのある強気な隣のクラスの委員長と自分だけ。
「そうだな…俺しか居ないんだ」
「はぁ?何分かりきったこと言ってるのよ」
「まぁいいじゃないか、俺だって男だ」
そういって立ち上がる。
「何、今まで自分のこと女の子だと思ってたの?」
「んなわけあるかっ」
「そんなことわかってるわよ」
「…ぐ…」
「まあいい、とりあえずこれからの行動だが…」
「たぶんあたしと考えてることは一緒だと思うわ」
「ほう、じゃあ言ってみな」
「とにかく知り合いを見つける、そうでなくとも信頼の置ける人物を味方につける」
どう?と勝ち誇った表情をする女。
それに対し男は、
「ったく、考えが合うのは春原をいびる時位でいいんだがなぁ」
と言いつつもにやりと不適な表情を浮かべる。
女はというとなぜか顔を赤らめ何かを考えている。
「…うわっ、だめよ、こんな考えが合っちゃ、あ、でも合意の上ってことだし…」
「…何を考えているが知らんが、多分俺はそこまで考えてないぞ」
「えっ、まぁいいじゃないの、その時はその時で」
顔を赤らめたまま慌てて答える女。
「何がなんだか分からんが、思い立ったが吉日、さっさと行くぞ、杏」
「あっ、こら待ちなさいよっ、朋也っ」
そして歩き出す。
先の見えない暗い道を。
どんな惨劇が待ち受けているとも知らず。
殺し合いがどんなものかも知らず。
今はこの二人に、希望の光を。
「んで結局お前が貰ったものは何だったんだ?」
「本当に分からないの?…」
「これよ、これ」
そういって取り出すものは。
「英和辞書…ぴったりの武器だな」
「でしょ。首を狙えば気絶させるくらいはできると思うわよ」
「笑顔で怖いこと言うなよ…」
「先手必勝よ」
「さっきと言ってることが違う気もするが…」
【14 岡崎朋也 支給品 ダンボール】
【75 藤林杏 支給品 英和辞書】
【残り 96人】
66 :
訂正:04/05/15 03:09 ID:eo1THRoN
(そして絶対皆で帰るという意思が・・)の部分は間違いです 削除です
「ぐっ……く、くぅ」
切なげな声が岩の隙間から湧き出る水のように空気を微かに震わせている。。
事実、それは漏れ出ている呼吸音だった。
がしがしと自分の首にまとわりついた何十本もある細い紐のようなモノを必死で掻き毟っているが、まったく爪がたたない。
だんだんと意識が遠ざかっていく。
突然後ろから首を絞められて、気づいたらこの状態。どんな人に首を絞められているかすらわからない。殺し合いっていうのは本当なんだということを改めて認識できたけど遅すぎた。
もう、だめかも……
意識のブレーカーが落ちようとする瞬間、ふっと首に巻かれていた拘束が解ける。急いで肺に空気を送り込もうとするが。ごほっごほっとむせかえってしまう。はっきりとしない視界にあわてて立ち去っていく人影が映る。
ふらっと倒れこもうとするところにがしっと肩を捕まえられる。またかと思い今度はすぐに振り返る。そこには心配そうに自分を見つめている瞳があった。その瞳の持ち主である坂上智代(38)はふらふらと足元のおぼつかない彼女、沢渡真琴(43)の体をしっかりと支える。
「なにをやっている? 大丈夫か?」
「だい、げほっ、じょ、げほっげほっげほっ……
「そんなわけはないみたいだな」
真琴の回復を待ってから智代は何があったのかを聞き出す。
「殺し合いにもうのっている輩がいるということか」
呟いてからため息を落とす。
「あ、ありがとう」
か細い声。
「?」
「助けてくれてありがとうって言ってるのよ」
「あ、あー、そうか。でもたまたま通りがかっただけだ。なにもしていないから礼を言われるわけにはいかん」
しかし、もし智代がここを通るのが後数分いや、数十秒遅ければ智代が絞殺死体を発見することになっていたのだ。そう考えると智代の方こそそんなもの見せられずにすんで助かったのかもしれない。
「あーっ!」
極太な声。
「な、なんだ?」
「よく見たらあんた、逃げていった人と同じような服着てるじゃない! もしかして仲間なんじゃないの? あたしを油断させる作戦ね? そのてにはひっかからないんだからっ!」
「え、それって」
言うが早いか、真琴は智代の手を引き剥がし、脱兎のごとく逃走する。
「おぼえてなさいよ〜!」
「ま、待て」
行き場なくしてしまった手はただむなしく空を掴む。
足は動かなかった。
真琴の言葉に動揺して、体が思い通りに動いてくれなかった。
「私達の高校の誰かが人を殺そうとしているというのか?」
その問いに答えてくれる人は誰もいない。
【38 坂上智代 支給品 ?】
【43 沢渡真琴 支給品 ?】
【?? 真琴を襲った人物は誰かは不明 支給品 細い紐のようなものの束】
【残り 96人】
島の西の出発地点よりやや北寄り。剥き出しの岩石が多々覗く丘陵地帯を、ベナウィ(082)は静かに、しかし迅速に移動していた。
通常、この様な場所を移動する時は、公務にせよ戦にせよウマ(ウォプタル)のシシェに乗っていたベナウィだったが、今、この島にシシェはいない。
とは言え、彼と同じくこの島に連れ来られていた、生ける伝説たるゲンジマル(035)程ではないにしろ、歴戦の武人である彼にとって、この程度の岩場を移動する事は苦ではなかった。
(何故このような事になったのかは解りませんが…)
この惨劇の起因を考える事はひとまず取り置き、ベナウィは周囲に気を配りながら、ひたすら岩場を北に進んでいた。
ベナウィが目指すのは、彼より三回前に同じ控え室を出た、彼が仕え、最も尊敬する人物──即ち、トゥスクル皇ハクオロ、その人である。
(こちらから人を殺めにいかぬ事を前提にしても、まずは聖上と合流しなければ……すべてはそれからですね)
左手には支給されたバッグを手に。右手には愛用の槍を手に、ベナウィは静かに岩場を北へと駈けて行った。
【82 ベナウィ 支給武器:槍(自分の物)】
【残り 96人】
71 :
兄妹の絆:04/05/15 03:53 ID:clKTAx5y
足を拳銃で打ち抜かれ地面に転がる香奈子(12番)
「クッ!!」
反撃を試みるが右手が軽い、撃たれたさいにガンを落としてしまったようだ
ガンを見つけ手を伸ばすがそれを敵が許す訳も無い
こめかみに鉄の感触
「動くなよ」
(…油断した………)
さっきとはまったく逆の立場の自分の姿に苦笑する
死を覚悟しその時を待つ…が、その時は一向に訪れない
「何笑ってるんだよ、気持ちわりぃな」
と言って春原(48番)がニードルガンを拾う
「あと武器は持ってないな?って開始直後に複数持ってるわけないか。もういいぜ、どこへでも行きな」
(絶好のチャンスにこの男は何を言ってるのだろうか)
「…何故殺さない」
「あ?死にたいのかお前?芽衣を殺そうとした奴だ、そうしたいのは山々だがこれ以上はアイツの目には毒だ」
と言って少女の方に一瞬目をやる
「それにその怪我じゃ俺がやらなくても結果は見えてる、強者の余裕ってやつ?( ´ー`)」
言いたい事は山ほどあったがこいつには何を言っても無駄に思えた
それよりもこの状況を改善するのが先だと判断した
「…その甘さ、命取りになるわよ……」
足を引きずりながら森の中へ香奈子は消えていく
72 :
兄妹の絆:04/05/15 03:56 ID:clKTAx5y
「…その甘さ、命取りになるわよ……」
足を引きずりながら森の中へ香奈子は消えていった
「甘さじゃないってーの、よ・ゆ・う。さてと…」
春原陽平が振り向くとずっと同じ状態で座っている自分の妹、春原芽衣(47番)が目に入る
「まったく、俺が出てくるまで待ってろっての、追いかけるのも疲れるんだからな」
しかし話し掛けるも芽衣はぼーっとしたままだ
「おーい」
しゃがみこみ目の前で手をひらひらさせると、やっと気が付いたように
「お兄ちゃん?」
とだけ声を出した
「それ以外に何に見えるんだ?」
「だってお兄ちゃんがこんなにカッコイイわけないもん…」
「それってどういう意味ですかねぇ(゚皿゚;)」
「ふふっ」
芽衣の顔に笑みがこぼれる。が、みるみる目に涙がたまっていく
「うっ…おにい……ちゃ…ん…」
兄の胸に顔をうずめ声を殺して泣き始める。その頭を撫でながら陽平は呟く
馬鹿だな、声出してもいいんだぞ。俺が、必ず守るからな
【春原陽平 トカレフ7発 ニードルガン残弾不明】
【香奈子 武器を失い足に大怪我】
2行かぶった、スマソ
「ふむ」
クーヤ様(33)は悩んでおられた。
というのも、このゲームの趣旨が、よく分からなかったからだ。
パンという音がしたが、何が起こったのかよく見えなかったし、爆弾と言われてもなんのことか。
「篁と申す者の、言っていることはよく分からなかったが……さて、願いを叶えてくれるというのは本当であろうか」
世の中そんなに甘くない、とは、皇であるところのクーヤですらそう思う。
いや、皇と言っても色々と不便で不自由なものなのだ。
クーヤ様は、言うことを聞かない家臣二名を思い出し、深々とため息。
まぁどちらにせよ、それは勝ってからのことだと頭を切り換える。
「アヴ・カムゥさえあれば、百人程度、蹴散らすのはわけないのだがな」
そんな物騒な兵器は支給されておりませぬ。
クーヤ様はリュックを漁り、なにやら武器らしく見えるものを取りだした。
「むぅ……これはなんであろ。長さから察するに、ハクオロの鉄扇のようなものか?」
それは長さ三十センチほどの、四角いカラフルな箱。ぶんぶんと振ってみたが、蝿も殺せそうにない。
クーヤ様は首をひねり、そして、サクヤに聞けば良いであろ、と結論する。
「とりあえずはゲンジマルか、サクヤを捜さねばな。
まったく、余が苦労しているというのに、二人ともどこで遊んでいるのやら」
クーヤ様は、筒を片手にリュックを背負い、とてとてと歩き出した。
歩くたびに、長い耳が、ぴこぴこ揺れる。
「はぁ……」
柏木耕一(18)はため息をついていた。
どうにも調子があがらない。
動きもいつもより緩慢で、なにか体の中を乱されているような感じがした。
特殊な能力を封じると篁は言っていたが、この肉体自身は耕一のもののはずなのに。
結界とやらが、耕一の肉体自体にも影響を及ぼしているのだろうか。
なのに、苛立ちよりも無気力に支配されていることに、愕然とする。
「まいったな……初音ちゃんや、千鶴さんを、助けなくっちゃいけないってのに……」
少なくとも、最初のホールで二人は見かけた。梓や楓は見かけなかったが、いないとはいえない。
自分は男なのだから、彼女たちを守り、救い出す義務がある。
そう、懸命に気力を奮い立たせようとするが、それすら上手くいかない。
「あー……くそっ」
篁は巧妙に参加者達を煽っていた。
おそらく、かなりの人数が望んで、あるいは追いつめられ、殺人に手を染めるだろう。
本来なら、彼女たちが早々やられるとは考えづらいが、能力を封じられては一般人と同じだ。
どんな惨劇が起こるか分かったもんじゃない。
――ならば自分は人を殺すのか? このゲームに勝ち残り、生き延びるために。
あの大切な従姉妹たちを守るために、この手を血に染めて。他の参加者を殺し尽くして。
心の中でどんどん黒い想像が膨らんでゆく。殺さなければ、殺される。大切な人も、自分自身も。
そうだ。このふざけたゲームを止めるためには、手段を選んでなんか……、
そんな歪んだ思考が渦を巻き始めた、その時。
「そこな者」
不意に、後ろから声をかけられた。
反射的に振り向き、手の中のものを相手に向ける。
そして、思わず膨れあがった、自分の殺意に愕然とする。
気配や物音に全く気づかず、不意を突かれたことが、耕一の判断力を乱していた。
相手は、あどけない少女だというのに。
「……?」
幸いなことに、相手はきょとんとしていた。
それはそうだろう。殺虫スプレーでは直接喉に流し込みでもしない限り、人は殺せない。
「何をしているのだ?」
相手は耕一の葛藤も、敵対行動もよく分かってないようで……、その大きな目を見開き、首を傾げた。
目をぱちくりさせている少女の、長い耳が揺れる。
『――耳?』
ちょっとその耳は長すぎた。個人差では補えないくらいに。
「……というわけで、余はサクヤとゲンジマルを探しているのだ」
「はぁ、そうですか……」
クーヤと名乗った少女は、どう見ても耕一より年下だが、そのえらそうな物言いに、思わず敬語になってしまった。
彼女の名はあ……あ……あ、なんとか・クーヤ。ちょっと長すぎて憶えられなかった。
どこぞの国の――予想通り、聞いたことはない国名の――女皇なのだそうだ。
にわかには信じがたいが、物腰といい、着ている服といい、それっぽくはある。心が壊れている様子もない。
人に命令するのに慣れた雰囲気というものは、そう簡単に作れるものではなかった。
「ところで、お主がさっき余に向けた、それは何だ?」
ぎく。
「えぇと、これは……知らないの、ホントに?」
「知らぬから、聞いておるのだ」
クーヤ様はご機嫌を損ねられた模様。
この世界の者ではない方に、スプレーのことを説明するのに手間取った。
「こういう風に一吹きすると、虫がころりと死んでしまうわけだ」
「……余は虫ではないぞ」
クーヤ様のご機嫌斜め度60度。
「ご、ごめん。さっきはいきなりだから、驚いてさ」
「まぁ、よいであろ。虫除けの香を詰めたものか。なかなか便利なものだな、それは」
この状況で、それがどれほど役にたつかは疑問だが、クーヤ様はお気に召したらしい。
「それより柏木とやら。これもやはり、そういった武器であるか?」
クーヤ様は右手に持っていた箱を差しだした。
耕一は封を切り、薄紙を引いて、透明な膜を引きだす。
クーヤ様は興味津々でそれを見ている。
「……これは、サランラップっていうものでさ」
「ふむ」
用途の説明をご希望であらせられる。
「えーと、レンジでチンするときに、上にかけたり……」
「れんじとは何だ?」
「えーと……」
説明するのにさんざん苦労するが、文明が違いすぎるため、結局どうにもピンとは来なかった模様。
「ふむ。要するに、食料を包んで保護したり、保存したりするものか……しかし透けて綺麗ではあるが、
弱々しくて、ちと、ものの役には立ちそうにはないな。貼りついてくるのは面白いが」
クーヤ様は気に入ったのか、ラップを伸ばしては切って遊んで、貼り付けている。
耕一の顔とかにもぺたぺたと。楽しそうだ。
耕一は顔からラップを剥がしながら、
「遊んでいると、なくなっちゃうよ」
忠告され、クーヤ様は慌てて、大事そうにリュックの中にしまい込む。
たかがラップを……と苦笑するが、稀少という意味では、彼女の世界では唯一無二の稀少物なのだろう。
が、その稀少物にずいぶんと時間をとられてしまった。
「それで、俺は俺の従姉妹たちを捜さなくっちゃいけないんだ。悪いけど……」
「ああ、それもよいであろ」
「は?」
「余もとりあえずは、サクヤとゲンジマルを探さねばならない。
だが、どうせ行くあてなど互いにないのであれば、しばし共に行動するのも良いであろ。
眉唾物ではあるが、一緒に勝ち残って、願いを叶えてもらおうではないか」
どうやら彼女はこのゲームのことを、これっぽっちも理解していないようだった。
その無邪気で爛漫な考え方に、ひたすらゲームに勝ち残る方法を探していた自分が、馬鹿らしくなってくる。
万の民を抱え、先頭に立つものは、やはり何かしらの強い影響力を持つのだろう。
それが篁の邪悪な気配をうち払ったのかも知れない。
「では行くぞ、柏木とやら」
耕一は苦笑を一つして、この女皇様につき合うことにした。
「耕一でいいよ、クーヤ」
「……」
クーヤ様は少し驚いた様子で、戸惑った視線を返された。
やはり呼び捨てというのは不敬だっただろうかと、一瞬焦る。
まさか打ち首にはされないだろうが。
「クーヤ、様……?」
恐る恐る問い返した耕一を見て、おかしそうに笑った。そして告げる。
「クーヤでよい」
クーヤは少し照れた様子でそういうと、先頭に立って歩き始めた。
【33 アムルリネウルカ・クーヤ 支給アイテム サランラップ残り25mほど すこぶる元気】
【18 柏木耕一 支給アイテム 殺虫スプレー 体に普段のキレはないが、クーヤ様オーラで精神的には健全に】
79 :
紺色の絆:04/05/15 05:30 ID:OesHMIPu
「怖いよ…けんたろ」
スフィー(49) はバックを抱きしめたまま、木陰で震えていた。
今の自分にはまるで力が無い…自分の絶対的なよりどころである魔法を失い、
しかも最愛の恋人もこの地にはいない。
もうどうしていいかわからなかった。
緊張の行為かやけに喉が渇く…スフィーはまた支給されたペットボトルに口をつけようと
バックの口をあける、と今まで気がつかなかったが…バックの片隅になにやら丸まった布状のものが
入っているのに気がつく。
「これ…」
乱雑に丸められた布地を開いて見て、スフィーは思わず顔を赤らめる。
それはいわゆるスクール水着と言われる、紺色の水着だった。
だが、スフィーが顔を赤らめたのはそれだけではない、
水着の胸の部分にゼッケンが貼られており、そこにはすふぃとマジックで記入されていたのだ。
「けんたろ…」
スフィーは思い出のスクール水着を抱きしめる。
海へ行った事…温水プール…それらが全て遠い遠い過去のようだ。
つい昨日まで五月雨堂で店番をし、Honey Beeでホットケーキをパクつく、そんな代わり映えしないが
それでも平和な日々がいつまでも続くと、ずっとそう思っていたのに。
「………」
少し考えるとスフィーは意を決したように、オーバーオールを脱ぎ、一糸纏わぬ姿となる。
そしておもむろにスクール水着の中に入っていこうとするのだった。
「きつ…でも…」
スフィーは成熟した自分の肉体に強引にスクール水着を着用…いや嵌めこんでいく。
80 :
紺色の絆:04/05/15 05:34 ID:OesHMIPu
「は…入ったんだよ…」
やっとの思いで水着を着用し、はぁはぁと頬を赤らめるスフィー。
小さなスクール水着はすでに完全な肉体となっているスフィーの身体に激しく喰いこみ、
裸以上にエロティックなシルエットをかもし出している。
それはスフィーが動くたびに、ぎゅむぎゅむと音を立ててより深くスフィーの身体を侵食していく。
だがその拘束感がスフィーにとっては、まるで健太郎に愛撫されているかのような感触に思えていた。
そしてその至福の心境はもう一つの思いも呼び覚ましていた。
そうだ、絶望してばかりもいられない…戦うのだ、そして帰るのだ、あの安らかな日々に…愛する人の胸の中に…。
「けんたろ…私を守ってね」
スフィーは着替えを終えると木陰を出て何処かへとまた歩き始める。
その足取りには、恐れはあれど絶望はなかった。
服の上からスクール水着が透けて見えはしないかと、少し心配はしていたが。
【49 スフィー 支給アイテム スクール水着(普段着の下に着用中) 】
東での出会い
「まさか・・・こんな事になるとはな」
ハクオロ(67番)は島の東に位置する海岸で悩んでいた
気が付けばこんなゲームに参加させられた訳だが、今更後悔しても
何も現状が変わるわけでもない。
「せめて・・・知っている誰かと合流できれば良いのだが・・・む?」
視界には誰も写らないのだが岩陰から気配を感じ取り、
支給された武器(大刀)を取り出して構え、急な攻撃にも対処できるような姿勢を取った
「・・・こんにちわ」
挨拶と共に岩陰から出てきたのは一ノ瀬ことみ(6番)であった
「誰だ?」
戦場で場慣れしているからなのか、特に慌てた様子もなく
問いただしたのだが、何分こんな相手は初めてなので多少の緊張は走った
「・・・・・・・・・いじめない?」
ことみは場に合わない声で問いだした
「敵意は無いということか・・・?そちらから仕掛けない限りはこちらも何もしない」
ハクオロは大刀を降ろしながらも警戒は保ち、自己紹介を始めた
「私は・・・ハクオロと言うものだ」
実際は一国の王なのだがこんな状況でそれが何の意味も成さない事を
理解しているからこそあえて隠したのであった
「ええと・・・ことみ」
「ひらがなみっつで、ことみ」
「呼ぶときは、ことみちゃん」
【6 一ノ瀬ことみ 支給アイテム 不明(次の書き手に依存)】
【67 ハクオロ 支給アイテム 大刀(カルラの武器)】
何か日本語変ですがすいません__| ̄|○
83 :
ペアハント:04/05/15 05:52 ID:HCUaTgqH
街道から少し離れた小さな森の中、一つの追跡劇が始まっていた。
追われているのは、羽の付いたリュックを背負った少女。
追うは、背に翼を持つ男。手には研がれた爪のような白刃。
この場に第三者がいれば、猛禽に狩り立てられる小鳥のように見えたかもしれない。
「うぐぅーーー! だ、だれか助けてーー!!」
叫び声こそ間抜けだが、月宮あゆ(58)の表情はこの上なく必死だ。
スタート地点から少し離れたと思えば、支給品を確認する間もなく追いかけられ始めたのだから。
「……チィ」
対する翼の男、ディー(59)も険しい表情をしている。
飛ぶことも出来ず、術も力も使えない事が彼の精神から余裕を奪い取っていた。
少女一人殺すのに、ここまで手こずる自分の不甲斐なさに苛立ちを抑えられない。
あゆとの差が縮まるどころかわずかな開きを見せ始めている事が拍車をかけていた。
もっとも、これは脚力の差と言うよりは、枝葉の散在する森中では翼が邪魔になっている事が原因だったが。
本気で逃げる相手に追いつくのは、想像するより難しい。
ここまでの大騒ぎになった時点で追跡を諦めるという選択肢もあったが、いささか冷静さを失ったディーは半ば意地になってあゆを追っていた。
84 :
ペアハント:04/05/15 05:53 ID:HCUaTgqH
やがて、あゆが一足早く森を抜けた。
急速に広がる視界の先に白衣の女性――看護婦と言うよりは女医だろうか――が見えた。
長い棒状の何かを持っている。
「そこの人、助けてよーーー!」
しめたとばかりに、あゆが大声を張り上げた。
続いてディーが森を出る。
当然、女医の姿は目に入る。
合流されては、女二人とはいえ思わぬことで足元を掬われるかもしれない。
そう思うと共にディーが速度を上げる。
障害物の無くなった事も加わり二人の速度差は逆転、見る間に距離が詰まり始めた。
そんな二人を他所に、女医は動かない。
一旦は緩みかけたあゆの表情が再び絶望に傾いていく。
が、眼鏡をかけた女医の顔には人を安心させるような、しかしどこか作ったような笑顔が張り付いていた。
その笑顔に元気付けられでもした様に、あゆは女医の後ろに隠れんと進む。
そして、すれ違う瞬間――パッと赤い何かが広がった。
女医の持つ棒状の何か、何の事は無いだだの鉄パイプだ、が右腕と共に振りぬかれていた。
あゆは、頭部に横方向のベクトルを加えられ、言葉もなく飛ぶように斜めに倒れこむ。
そのままの勢いで砂煙を上げて地を滑り、少しして止まった。
うつ伏せに倒れたため表情を見る事は出来ないが、かなりの勢いで広がっていく血溜まりがその容態を酷く端的に表していた。
85 :
ペアハント:04/05/15 05:54 ID:HCUaTgqH
「はじめまして」
白衣の女医、石原麗子(5)は倒れたあゆには目もくれず、先ほどからの作り笑顔でディーに挨拶をした。
どうやら、その笑顔は初めからあゆではなくディーに向けていたらしい。
それに対し、ディーは急速に停止して息を整えながら、無言で短刀を構える。
今の手並み、そしてこの余裕、外見からは想像も付かない手錬れである事が見て取れる。
先ほどまでの焦りは瞬時に息を潜め、冷静な警戒心が戻っていた。
「ああ、別に争う気はないわよ」
鉄パイプにこびり付いた血と肉片を振り落としながら麗子はこともなげに言った。
「……偽りではないようだな」
「ええ。ところであなた、『乗って』いるのね?」
麗子に戦意が無いことを確認し、一応の会話が始まった。
「然り。篁とやらには報いを与えねばなるまいが、まずは結界とやらをどうにかせねばならない。
その為には、この茶番を終わらせるのが確実だろう」
言葉と共に間合いを計る。
「良いわね、ぴったり同じよ。あなた、私と組む気はない?」
だが、麗子は気にも留めず、わが意を得たりと言った様子でディーに語りかける。
「なに?」
機を外されたディーが聞き返した。
「二人残れるのよ? 手早く終わらせるなら、ここは協力した方が良いんじゃないかしら」
「……ふむ」
ディーはしばし値踏みするように麗子を見た後、表情をわずかに緩めた。
それを確かめ、麗子も今度は作り物ではなく本当に笑う。
「石原麗子よ。よろしく」
鉄パイプを左手に持ち替え、麗子が右手を差し出す。
「……ディーだ」
同じく短刀を左手にディーも手を伸ばす。
こうして、二人の手は固く結ばれた。
一先ずは。
【59 ディー 短刀】
【5 石原麗子 鉄パイプ】
【58 月宮あゆ 死亡 支給品不明】
【残り 95人】
「困りました」
ゲーム開始から十数分後、手近な木立の中で空を仰ぎつつ、セリオ(52)が呟く。
現状を把握した後、セリオが真っ先に行ったのは簡易的な自己診断だった。
結果分かったのは三つ。
一つ、電子頭脳、特に記憶野に対して何らかの介入があったということ。
二つ、サテライトシステムを初めとした通信機能が使用不能になっていること。
そして三つ――最も深刻と思われる異常――アシモフコードが解除されていること。
アシモフコード、軍用を覗くほぼ全ての自立稼動AIロボットに組み込まれている三原則
生命の保護、命令への服従、自己の保存。
その全てが解除されている。
つまり、今のセリオは「人を殺すこと」も「命令を無視すること」も可能なのだ。
人を殺すことも―――
この驚愕すべき自体にセリオは
「困りました」
困っていた。
自体はそう簡単ではない。
最大の問題は、蓄積されていたサテライトシステムから得られた専門データ、スキルの多くが
閲覧不能な状態に陥っていることだ。
その上行動の指針であるアシモフコードを解除されては、
今のセリオは何の判断基準も倫理観も待たないまま世界に放り出されたも同じ状況だった。
何かしようにもどうしてよいやら分からず、またそれを考える為の経験も乏しい。
これが人間の感じる不安と言う状態なのでしょうか。
分からないことはまだある。
もし「ゲーム」の主催者が本当に単なる殺し合いを望んでいるなら、
何故セリオにそういった命令を入力しておかなかったのか。
「ゲームを盛り上げる」役として誰かを殺人者に仕立て上げたいなら、
セリオをそう仕向けるのが最も簡単かつ効果的なはすだ。
セリオ自身の自己診断では検知できない様な、潜伏型の遅効性プログラムなのかも知れないが
そうなるといよいよ持ってセリオにはどうすることも出来ない。
「困りました」
何度目かの呟き。
やはりこの場合、自分も「ゲーム」に参加するべきなのだろうか。
支給された武器―コルト.25オート―の感触を確かめるように弄びながら考える。
正直なところ、自分のスペックは戦闘向きとはいえない。
各種センサーと学習機能を使えば一般人よりは遥かに有利だろうが
会場を見た限り、明らかにその手の荒事を熟知していると思われるような人間も数人いた。
そういった人間を相手にして勝つことの出来る確立は、余り高いとはいえない。
何より―――
そんなことをする意味があるのでしょうか。
自分はロボットだ。生きてはいないのだから、死ぬということもない。破壊されるだけだ。
そう、壊されるだけだ。負けたら、壊される。廃棄される。ただそれだけ。
消耗品である自分が、わざわざ人間を殺してまで存在し続ける意味は―無い。
ならばこのまま、何もせずに破壊されるのを待つのが最良であるのだろう。
自分はロボットなのだから―――
ふーん、セリオっていうのね。私、来栖川綾香。よろしくね、セリオ。
「!」
一瞬、何かがセリオの頭の中をフラッシュバックした。
それを切欠に、次々と頭の中を巡る記憶。開発局のスタッフ、長瀬主任、マルチ、芹香、浩之、そして―――
ゆっくりと、セリオは立ち上がった。
バックを肩に書け、コルトを懐に忍ばせると、走り出す。
からっぽの頭に浮かんだのはただ一つ。
帰るのだ。
その為に、必要なことはなんでもしよう。
その考えが何なのかを反芻する間もないまま、見えないコマンドに突き動かされセリオは走る。
オートバランサーに地形修正を入力、関節部の状態をチェック、オールグリーン。
失敗した。あれから森に入った後、セリオが初めに遭遇したのは巨大な羽のようなものを生やした人間だった。
会場で見かけた、特殊メイクの類ではない、明らかに常人とは異なった人間達。
こちらにはまだ気がついていない。
ならばこれからの為にも、そのデータをとっておくことが重要だと感じたセリオは奇襲を試みることにした。
だが予想に反して、相手は反撃するどころか走って逃げるばかり。背中の羽も役には立たないらしい。
大した脅威ではない。そう判断したセリオは、足を止めようと一気に間合いを詰める。
だが―――
「複雑です。次は成功するよう頑張りましょう」
各部のチェックを終わらせ、歩き出す。「帰る」為に。
だが何故自分が帰りたいのか、その為に何を失うのか、セリオはまだ分からない。
【52 セリオ コルト.25オート(予備弾装無し)】
92 :
もう、遅い:04/05/15 07:21 ID:InjltZia
よく考えてみたらスフィーがこの島にいて健太郎がきてないということは、健太郎は魔力が届かなくて死んでるんじゃ……腕輪は外した後、ということですか?
>92
だからそういう時間的なことはぼかすのがお約束
湯浅皐月(95番)はとりあえず走っていた。
隠密行動に長けた、そんな滑るような走り。
「えと……この辺でいいか」
比較的人目につかず、それでいてこちらからは周りの状況を把握しやすい森の中でゆっくりと足を止めた。
結構長い間走っていた気がするが息は上がってない。
(さすが泥棒)
どっからか馴染み深い、そして安心できる声。失礼なツッコミが聞こえた気がして、腕を振り上げる。
が、すぐに下ろされる。
「ま、いるわけないけどね」
ゆかり、リサさん、エディさん、みんな。そして宗一。
(どうしてるだろ)
ほんのわずか、胸の奥に浮かんだ笑顔と、その彼らと歩んだ楽しかった日々に思いを馳せる。
「ん〜、こんなこと考えてる場合じゃないか。これは殺し合いなんだから」
切り替えは早い方だった。
「何とかしないとね」
諦めも悪いほうだが。
「……」
今まで何度となく気にしてきた足元をみやる。
足元にはバック。良かった、ついてきてる。
旅の道連れに、というわけではないが。なんとなく安心した自分に驚く。
「えと…武器じゃないよね、どう見ても」
自分の意志で走るバックなんか聞いたことない。
というか、足の生えたバックなんかめったにお目にかかれないだろう。
皐月に支給されたバックからは4本の獣の足が飛び出ていた。
「あ、開けるよ…?」
恐る恐る、バックのジッパーを開く。
僅かに開いた途端、まだ開ききってないそれを押し開けて獣の頭が飛び出してきた。
「うひゃっ!」
「ヴォフ〜♪」
中に入ってたのはなんと虎…のようでいて見たこともない生き物だった!
正直、バックの中から出てくるのがこんな大きい獣だとは思いもしなかった。
余程ぎゅううぎゅうに詰め込まれていたのだろう。獣は大きく伸びをして身体を気持ちよさそうに屈伸させる。
「わ、私は食べてもおいしくないよ?つ、作るの専門だから」
逃亡体勢に入る皐月。だが、結局逃げ出すことはなかった。
その瞬間、その獣が驚くほど悲しそうな瞳を皐月に向けたから。
「……利口なんだね」
しばし見つめ合った後、恐る恐る手をのばす。
その手に擦り寄ってくる獣の仕草に、思わず手を引っ込めそうになったが、結局そうはしなかった。
「はぁ、支給品の食料もみんなパァ」
バックの中に入れられていた食料はその獣に、みんな食われていた。
「ね、あんたさばいて喰っていい?」
「ヴォ…」
「いや、冗談だけど」
言葉が分かる…というわけではないが、こちらの感情は何故か伝わっているような気がする。
見たこともない獣を前に、皐月はいささか戸惑っていた。
銃器とかが入っていたほうがよっぽど気楽だったかもしれない。
「なんであんたが武器なのよ」
「ヴォル…」
「まぁ、あんたもいい災難だったって訳ね」
悪いことをした、と横で丸くなってる獣を尻目に、皐月はこれからのことに考えを巡らせる。
宗一ならどうするだろ。
「悪は討つか」
口でいうのは簡単だな。目の前に困難が押し寄せて、初めて分かるその辛さ。
「まぁ、今の私にできることは、死なない、悪には屈しない、おいしいご飯を作る、あと…」
ゆかり。ぽん、と掌と掌を叩く。小気味よいいい音がした。
「そう、ゆかり探そ。あの娘ぽわわんとしてるし心配だし」
とりあえず当面の目標をクリアしていけば自分のやることも見えてくるだろう。
「じゃ、ね、あんた獣だし…一人で生きていける?あの悪の総帥もあんただったら見逃してくれると思うしさ」
「ヴォルル…」
皐月に擦り寄ってくる。ほんの少し怖かったが、逃げなかった。
「……それとも一緒に、来る?」
正直、かなり足手まといかもしれない。だが、そう言って獣を撫であげる。
「グル…」
獣も逃げなかった。
「分かった。あとでご飯食べさせてあげるから、協力してよね」
でも、皐月もやっぱり、一人は心細いのだ。
「いつまでもあんたを『あんた』と呼ぶのは紛らわしいよね。名前有る?といっても通じないか。
ん、じゃ、あんたは今日からトンヌラ。いい?」
「ヴォ、…ヴォフ」
しぶしぶながら頷いたような気がした。
【湯浅皐月 武器 主 食料なし】
補足
※本当の名前はムックル
主(ムティカパ)
うたわれに出てきた森の主。普段は剣や矢をも通さない強靭な体毛に守られている見た目虎のような生き物だが、
雨など、水の類に触れると人間のように柔になってしまう。
この島の原理(ルール)
ズガンッ
藤田浩之が目の前で起こったことを理解するのには、約3秒ほどを要した。
5秒ほど前に声を掛けようとした少女が、何者かの銃撃(だと思う)で頭を打ち抜かれた。たったそれだけの事を理解するのに、3秒も掛かった。・・・この島では命取りとも言える時間が。
浩之が少女のバッグを掴んでその場から逃げ出したのは、自身の左にあった木が着弾してからだった。
「危機感ゼロは俺の方かよ、クソ!」
この島の現実を、浩之はあらためて思い知った。
「男の方は逃げられたか。でも深追いは禁物ね。」
無駄玉は撃てない。弾はあと10発しか無いのだ。
「私は死ねない。あの人に振り向いてもらうまでは。」
黒髪の少女は歩き出した。50年の片思いは、まだ諦めきれなかった。
【74 藤田浩之 サクヤのバッグを入手。中身はまだ見ていない】
【41 サクヤ 死亡】
【17 杜若きよみ(黒) 武器 違法改造マグナム(残り4発、替え弾6発)】
99 :
麻生春秋:04/05/15 12:01 ID:OVYhnSPM
「ボウガンか」
麻生春秋(3)は支給された武器を見ながら呟いた。
「結構重いな」
ボウガンなんて使った事がないから、どのくらいの殺傷力や射程を持つのかはわからない。
どこかで試すなり練習なりする必要があるだろう。
だがまずは、これからどうするか。
それが一番の問題だ。
黙って殺されるのを待つ、なんてのは論外だ。
大事なのは生き残る事。それがこのゲームの勝利。
多くの人間がとまどっているだろうこの時期に、隙を突いて殺しまくる。
一つの案だ。
いや、それは危険だ。目立ちすぎるし、返り討ちにあう可能性もある。
プロクシは使えない。
今の春秋はボウガンを持つただの学生なのだ。上手く立ち回らなくてはいけない。
――生き残りが二人か一人になることだ。
男の言葉。生き残るのは二人。つまりそれは、誰かと組んだ方がいいという事を示唆している。
では、誰と組むか。
100 :
麻生春秋:04/05/15 12:03 ID:OVYhnSPM
春秋は知り合いの顔を思い浮かべた。
宮路沙耶。
プロクシが使えるなら、沙耶のプロクシ、シャープネスは強力な戦力になる。だが今はただの女子高生だ。
それに沙耶が自分と組むとも思えない。一度パーティーを組むのを断られた事があるし。
パールホワイトの芝浦八重。かつて邦博に殺されたはずの少女。前から予感があったが、やはり芝浦八重は生きていた。
だが組むのは駄目だ。あれは底が知れない。下手するとこちらが引きずり込まれる。
では邦博は?
あれも駄目だ。ただの馬鹿だし、せいぜい捨て駒がいいところだろう。そんな馬鹿と組んで勝てるほど、このゲームは甘くなさそうだ。
それに春秋は邦博の恨みを買っていた。むしろ邦博は敵になる可能性が高い。
とすると……。
松浦さんか。
松浦亮は信頼できる。だが彼の性格を考えると、殺し合いに参加するとは思えない。
あるいは、積極的に人を殺している連中を逆に狙ってまわる可能性もある。
だがどちらにせよ、上手くコントロールすれば、春秋を守る煙幕となるかもしれない。
何より、松浦さんは馬鹿じゃない。
馬鹿でない事。それこそが組む相手の最低条件であり、絶対条件だ。馬鹿と組んで自滅するのは避けたい。
春秋は立ち上がった。
まずは見極める事だ。
なるべく目立たないように潜伏し、情報を集め、流れを読み、味方を増やし、最後の最後で勝利を奪う。
「ははっ」
春秋は小さく笑った。
春秋はすでに、このゲームを楽しんでいる。
【3 麻生春秋 支給品:ボウガン 矢×5本】
森の中のとある場所、道から少し離れたところに、腰掛けるのに丁度いい大きさの平たい石があった。
だがそこに座っている者はいない。かわりに鎮座しているのは七枚のタロットカード。それを順番通りに
並べ終え、藤林椋(76)は一息ついた。
彼女がやっているのはヘキサグラムスプレッドと呼ばれるタロット占いの一種だ。占い好きの椋は
都合良く支給品として入っていたタロットカードを使って、これからどうするか占うことにした。
本来タロットで自分を占うのは避けた方がよいとされているのだが、そんなことはすぐ頭の片隅に追いやった。
わけもわからず突然放り出された非日常の中で、椋は自分の日常の象徴である占いにすがったのだ。
たらりと、人差し指から流れる血を認め、椋はそれを舐め取った。支給品のタロットカードは武器としても
使えるようにという意図の下か、片側が鋭利に研ぎ澄まされていた。人差し指の傷はカードをくる時に気付かずに
ついてしまったものだ。
錆びた味が口内に広がり、椋は深く顔をしかめた。
(嫌だよ……こんなの)
ほんの指先だけの傷でも痛い。なら、殺されるなんてことはどれだけ痛いのだろう。
殺し合いなんかしたくもないし、死にたくもない。そのためにこれからどうするか、一つの指針が目の前にある。
意を決して、椋はカードを開いていった。
一枚目、過去を示すカードは逆位置の『THE MAGICIAN-魔術師』──意味は、実現しない計画。
二枚目の現在を示すカードは正位置の『THE HANGED MAN-吊し人』──試練の時。
三枚目、未来を示すカード…正位置の『THE DEATH-死神』──別れを表すカード。
四枚目に示された解決策は、正位置の『THE EMPEROR-皇帝』──頼りになる男性。
五枚目、周囲や相手の状況…正位置の『THE DEVIL-悪魔』──誘惑、障害に負ける。
六枚目、相手の潜在意識や願望を表すのは正位置の『THE WORLD-世界』──達成、ハッピーエンド。
そして最後の七枚目。それにはこれからを暗示する結果が示されている。
震える指でカードをめくろうとした瞬間。
銃声が響いた。
飛び散った赤いもので手前のカードが塗りつぶされる。なんだろう、と思う間もなく、激痛が椋の胸を襲った。
痛い。痛い。イタイ。胸。小さな穴が空いている。とくんと心臓が動くたびに激痛が走り、その小さな穴から血がこぼれる。
ああ、この赤いのは私の血だったんだ。もったいないな、このタロットカード、結構高そうなものだったのに。汚しちゃった。痛い。
石の上にうつぶせになるように倒れる椋。痛みに乱れる頭を反射的に後ろへ向けて、凶弾の送り主を見る。
目が霞む。逆光を背負っているようで、その顔は見えない。ただ、その長い髪だけが印象に残った。
(……お姉、ちゃん……?)
そんな筈はない。お姉ちゃんはそんなことしない。ああ、そう言えばお姉ちゃんは今どこにいるんだろう。
左手で胸を押さえる。痛みは治まらなかった。
(痛い。痛いよ、お姉ちゃん、お姉ちゃん……)
満足に働かない頭で姉のことを考える。何故かまだそこにいる影、その髪が目から離れなかったせいかもしれない。
倒れ伏す少女と立ちつくす影。そこに、
「椋ッ!」
「藤林!?」
声がした。こんな状況でも絶対に聞き間違うはずもない声が。
「椋! しっかりしなさい、椋!」
「クソッ!」
「待って朋也! 今はこっちが先!!」
(お姉ちゃん……岡崎、くんも……?)
目を向ける。向けたつもりだった。しかしもうその瞳にはなにも映っていなかった。
(お姉、ちゃん……)
「え? 何? 聞こえないわよ椋、あ、待って、まだ喋んないでじっとしてなさい。すぐ手当するから!」
それじゃあ駄目だ。今伝えないと。せっかく──
「……お、ねえちゃん……あのね、占いで…ね……いい、結果が、出た…の……だいじょうぶ……みんな、かえ、れ…………」
双子の姉に抱きかかえられながら、椋は左手をあげ、彼女の頬に触れる。もうその目に光はない。なのに、その動きはまるで
淀みというものがなかった。一度だけ、その頬をこすって流れる涙をぬぐう。
それで、終わった。
左腕が落ちる。
右手でつまんでいた最後のカード──『THE LOVERS-恋人』──がひらりと、落ちた。
一体これは何の冗談だ。
もう動かない少女と、その体を抱えて涙を流すその姉。
そんな二人を岡崎朋也は拳を固めて見ていた。
森の中を歩いているときにふいに聞こえた、パンという音。まるで爆竹かかんしゃく玉か、そんな勘違いをしてしまうほどの
軽い音だった。
それで立ち止まり、杏と顔を見合わせ、嫌な予感がして来てみれば、そこにいたのは倒れた藤林と見知らぬ女。
彫像のように立っていた女は杏の声を聞くと同時に逃げ出した。その姿を朋也は反芻する。
長い黒髪、見知らぬ制服、黒いストッキングをはいた、そう年も違わぬ少女。
(あいつが、藤林を、殺した……)
許せなかった。だから──
(次にあったら、殺す)
そして思い出す。彼女の、最後の言葉。
『……お、ねえちゃん……あのね、占いで…ね……いい、結果が、出た…の……だいじょうぶ……みんな、かえ、れ…………』
「藤林……お前の占い、必ず当ててやるからな……!」
二つの決意を胸に、彼は杏に歩み寄った。
【76 藤林椋 死亡 装備:タロットカード】
【残り 93人】
「ハァ、ハァ、ハァ──!」
ついさっき火を噴いたばかりの拳銃──ブローニングM1910を握りしめ、榊しのぶ(39)は木々を縫って走っていた。
死んだ、死んだ、殺した、わたしが──!
仕方がなかったのだ。バックを開けて支給品が銃だと知ったとき、これで有利だと思ってしまった。さらに良いことにそれは
女の細腕でも使えそうなスマートな銃。ご丁寧に安全装置の外し方や弾の取り替え方まで書かれた紙片付き。
これがあれば、透子を守れる。透子と二人で帰れる……そう思っていたところに見つけた人影。
殺したくなんて無かった。でも透子と二人で帰るためには、邪魔な人。そう思って気が付けばその背中に銃を向けていた。
(……あ)
何があ、なのか、もう思い出せない。殺そうなんて思ってなかったのに、いつの間にか引き金を引いていた。
当たった。胸に。そんなところ狙ってないのに。血が。背中が血に染まってた。違う。あんなつもりじゃなかった。殺すなんて。
胸なんて狙ってない。当てるなんてそんな。本当に? だって、わたしが本当に狙ったのは──!
「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
狂ったような声をあげながらしのぶは走る。その声に、ただ本人だけが気付かない。
(透子……透子……!)
そうだ。仕方がなかったんだ。透子を守ると、そう誓ったから。だからわたしは──!
「ああああああ、あ、あは、あはははははは……!」
人殺しは泣きながら笑う。大事な人を守るため、誓いを新たにする。
「──そう、わたしは、透子を守る」
この、人をコロシタ手で────。
【39 榊しのぶ 装備:ブローニングM1910(残弾6発、予備マガジン一つ)】
北川潤(30)はホールから放り出された後、近くの藪の中で座り込んでいた。
殺し合いをしろ、そう言われた。実際同い年くらいの青年が一人殺されてしまった。
なんともヘヴィだ。本当に生死がかかっている。だがしかし真に重要なことはそこでは無かった。
ホールに集まっていた連中。獣耳あり羽あり、時代錯誤みたいな風貌のやつもいた。
インパクトのある容姿に、自分の存在が霞んでいく。元々影は薄かったが、さらに薄まった。
問題はそれだけじゃない。最近出た新作品の連中だ。
やたらキャラが多いから自分のような特徴無しもいるものと淡い期待を寄せていた。
だがいざ発売されてみてどうだ。見事なまでにキャラが全員立っている。
それどころじゃない。エンディングまでありやがる。
俺だって風の辿りつく町聞きたかったよ…。
内心ぼやく。そして手にあるものを見て何度目かの溜息を漏らす。
手にあるものそれは――
大抵どの作品にも親友キャラというのがいる。主人公の数少ない男友達として日常を演出する重要なポジションだ。
もちろん自分もその親友キャラとして影ながら物語を支えてきた。決して表舞台でスポットが当たることは無いが自分のようなキャラがいなくては物語に深みが出ないのも事実だ。
親友キャラとは大なり小なりそういうものだったのだ。――だったのだ。
その暗黙の了解とも言えるものから逸脱したやつがいる。そう、今人気沸騰中の春原だ。なんで知っているかはご愛嬌。
彼、――春原陽平は非常に面白い。体を張ったギャグでこの業界、右に出るものはいないだろう。
さらに見せ所も多くある。詳しくは言いたくないが、泣かせどころもある。
彼が素晴らしいことは認めよう。実際自分があの物語の親友役をやってもあそこまで輝けるとは思わない。
認める。春原>北川だと。だけど――
「だけどこれは無いだろ…。」
手にあるものそれは、キャラクターとしての最後のプライドと…
――それと、便座カバー。
「あてつけかよ…。」
俺にもっと面白くなれってことか。もっと個性を出せってことか。
これを声に出せば面白くなれるのか?輝けるのか?……よし。
「よぅ祐一!今日も名雪ちゃんと登校か?相変わらず仲いいな!俺も美坂とそんな登校シーンしてみたいぜ…それと便座カバー」
ずーん。周りの空気が重くなっていく。虚しさ倍増だ。
溜息をし、手を見る。そこにあるのはもはや便座カバーだけだった。
【30 北川 潤 装備?:便座カバー】
107 :
ぁぁんっ:04/05/15 14:03 ID:F8GtaydQ
考えてみればボクの人生という奴は最初から波乱万丈だった。しかし。最後に訪れたこの状況は
全くもって今までの比ではない。自分の命が危険に晒されるだけならまだ判る。その程度の波乱万
丈ならば今までにもあった。しかし今のこの状況は、自分が死ぬだけではなく。自分の周囲の人間
が死に、自分の周囲の人間を自分の手で殺す。そういうことが強要される状況であり、馬鹿げてい
て、狂っていて、ボク――柊勝平の精神までも狂ってしまいそうになる波乱万丈だった。
さあ剣を持て。剣を持って目の前の敵を切り裂け。
現れるすべての敵を切り裂いたならばお前にはいのちが与えられる。
さあ、お前に与えられる剣はこれだ。
ボクがこうして持っている剣。それは比喩でもなんでもなく剣。西洋製の両刃の剣だった。ショ
ートソードと呼ばれることをボクはこの時点では知らないし、永遠に知ることもないと思う。ボク
の腕にはあまりに重すぎて、振り回すこともままならない。鞘まで鉄製で、ただ運ぶだけでも相当
の負荷が身体に掛かる。一応病気が治ったからと言って、身体の調子は万全ではない。かつては陸
上競技界のホープだったボクのその体力は、今では相当落ち込んでいた。長らく徒歩の旅を続けて
きたものの、病み上がりの身体にはその剣はあまりに重大すぎた。
一方でボクは考える。もしもボクの体調が万全で、この剣を振り回すことが出来たならば。ボク
は果たして目の前の敵を切り裂き続け、生き残ろうとするのだろうか。
ボクは病気が発覚してから後、生きることに執着などしてこなかった。もしも病気がこうして癒
えかかっていなかったならば、ボクは他の人に生きる権利を迷わず譲っていただろう。けれど、今
は違う。今のボクは少なくとも、生き続けたいと思っている。ボクに生き続けて欲しいと願ってく
れる恋人がいる。生き続けて欲しいと願ってくれる友達がいる。
だから、他人を殺して生き残ろうとするのだろうか。
彼らもまた、この島で葛藤している筈だ。人を殺さなければならないのか。殺してまで生き続け
たいのか。そんな風に考えながらこの島のどこかにいる筈だ。朋也くんや椋さんに会って、そして、
どうするのだろうか。
思わぬ再会
「ふむ・・・ことみ・・・ちゃん?」
「な〜に?」
「その・・・どうしてもそう呼ばないと駄目なのか?」
ハクオロは普段から女子と接しているとは言え、こんなタイプは初めてであり、
少々戸惑っていた
(このまま別れてもいいが・・・ここまで来れたと言う事を考えると
何か情報を持っていないとも限らないしな)
「・・・ことみでいいよ?」
「そうか・・・」
「うん」
「ではことみ、少しばかり聞きたい事があるのだが問題はないか?」
「うん・・・でも、お友達を紹介したいの」
「友達だと?」
正直、こんな状況であるが故に他人とは余計な関わりを持ちたくなかったのだが
ここで無視する訳にもいかなかった
(それに・・・ことみが無事だと言う事を考えれば危険な相手でもあるまい)
109 :
ぁぁんっ:04/05/15 14:25 ID:uj1YIX5/
考えても考えても考えても、ダメだった。
生き続けたい。だからと言って僕は他人を殺すのか。他人だから、と殺すのか。
「無理だよ……」
無理なのか。本当に無理なのか。他人の命は自分の命よりも重いのか。
「そうだよ……」
他人が助かるために自分の命を放り投げるのか。
「そうだよ……」
誰も殺さずに帰る手段などないのだから。それならば人を殺してでも生き残ろうとする方がいい。
そうじゃないのか。柊勝平。お前は間違っている。口ではそんなことを言いながら、自分の命を大
事にしたいと思っていて、その為ならばこの剣を振り回すことに躊躇いはない筈だ。
「――落ち着けよ、ボクは」
ぱんぱん、と己の頬を叩く。
今すぐすべてを決める必要などない。取り敢えず今は何も考えるな。誰かが襲い掛かってきたら
それに対処するだけでいい。とにか朋也くんや椋さんを探そう。探せば見つかるだろう。もしかし
たら誰も殺さずに帰る手段が見つかるかもしれない。OK。それでいい。今はとにかく、ボクが大好
きな友達を探しにいくことにしよう。
そう。そして、ボクが守るべき人たる、藤林椋さんを早く見つけなければ。きっと彼女もボクを
探している筈だ。とにかく歩きださなければ
唐突に鋭い痛みが胸の辺りで蠢いて、それだけで柊勝平の意識は絶える。
幸運だったのは。
勝平が、自分が守るべき人がもう死んでしまったことを知らずに、こうして死ねたことだろう。
簡単に状況を説明すれば。
勝平が考え事を終えて走り出そうとしたところで、何の気配も感じさせず、何の速度も感じさせ
ずに一人の少女が現れ、そのままゆっくりと歩き寄り、ナイフを勝平の胸の真ん中に突き刺した。
心臓からどばどばと血が出て勝平は倒れた。勝平は誰かが近づいていることにすら気づかなかった。
簡単に補足するならば。
少女の目は胡乱で、その一方で少女の手際は完璧だった。少女の小柄な体格もまた、近寄られる
ことに気づかせにくくした要因であった。そして、普通の人間ならば。こんないたいけな少女が、
何一つ迷わず、正確な手際で、人を殺そうとする、などということは到底想像できないだろう。
不運だったのは。
勝平がもう少し早く思考を終えていたならば、この少女の動きに気づくことが出来ただろう、と
言うこと。とどのつまりは、大事な大事な藤林椋さんのことを考えなければ、勝平は死なずにいら
れただろう、と言うこと。それはそれは、不運なことだろう。
結局のところ。
こんな風に、「生きるためには人を殺さなくちゃいけないのか?」などと自問しているような、
<時間の使い方を間違った奴>に、生き残られる道理があるわけがないのだ。そんな自問をしている
暇があればさっさと誰かを探して殺せという話。殺せる自信がないならどっかに身を隠せと言う話。
よーく考えよう。時間は大事である。五秒立ち止まったら殺されるかもしれない。そんな状況だ。
愛と勇気と友情と努力で何とかなるのなら、人殺しなんて起きるわけがないのだった。
そんなものである。
111 :
ぁぁんっ:04/05/15 14:27 ID:uj1YIX5/
さて。少女の顔が正気に戻る。この少女も微妙に時間の使い方を間違えている気はするが、それ
にしてもまだ勝平の億倍はマシである。
「はぁ……またまた可愛くできちゃいましたっ」
さて、勝平の手首から先はどこに行ったか。決まっている。こうして恍惚の表情で、
「ああんっ」
なんて言いながら、伊吹風子が胸に抱えているやつである。
「それじゃ行きます。あ。お姉ちゃんがもうすぐ結婚式をするので来てくださいねっ」
当然、返事なんてあるわけもなく。
「うー。みんな冷たいです……」
少しだけ悲しそうに首を傾げ、風子は小さく息を吐く。そして何事もなかったように走り去る。
まったく、殺人鬼たるもの、このくらいクールにやってほしいものである。
クールと言うか、くるうと表現した方が兆倍正しいとは思うが。
【69 柊勝平 死亡(支給品:ショートソード。死体の傍に放置)】
思わぬ再会2/2
「判った。それでは先に紹介してくれるか?」
「うん」
ことみは嬉しそうにさっきまで居た岩陰に向かって走り出すと
こちらに向かって手招きをした
(何故向こうから向かって来ないのだろうか・・・まぁ罠というわけでもなさそうだが・・・)
ハクオロは重すぎてまともに扱えない大刀を捨て、辺りにあった木の棒を拾い、
身構えながら岩陰の方に歩き、ことみの前にたどり着いた
「友達とは、一体誰の事なんだ?」
「っ!・・・その声は・・・」
「む・・・この聞き覚えのある声は・・・ユズハか!?」
「ハクオロさま・・・私です、ユズハです・・・」
岩から数メートル離れた場所にあった空洞から現れたのは間違いなくユズハ(97番)で
あったが、彼女の左足は血に染まっていた。
【97 ユズハ 左足負傷(何とか動ける程度) 武器不明】
怖い。藤井冬弥(73番)は、そう思った。
右手には、黒い拳銃。名前なんてわからない。
スタート地点から駆け出して、どのくらい走ったのかもわからない。
息が切れたから草むらに腰を下ろして、ようやく荷物の確認を済ませたばかり。
幸い、誰とも出会わずに済んでいる。
怖い。自分が住んでいた街では微塵も感じなかった、濃密な死の匂い。
それも怖いけれど、なにより怖いのは、自分が何もわからないこと。
何もわからないまま連れてこられて、何もわからないままゲームとやらに参加させられて、目の前では人が殺されて。
これからどうしたらいいかもわからない。
ホールで見た殆どの人は名前もわからないし、人かどうかもわからないのもいた。
見識のある彰やはるか、理奈ちゃんはスタート地点が別で、居場所なんかわからない。
だから、右手の指は、拳銃に貼りついたままに震えている。
数分後、さすがに移動を始めようと立ち上がった冬弥は、その女を見つけてしまった。
その、髪を二房に分けた女の目は、穏やかなのに、どこか冬弥のわからない場所、死を見つめているようで、冬弥はそれを、怖いと思った。
他の人がこんな目をしている人ばかりなら、自分はすぐにでも殺されてしまう。
わからないけど、そう思った。
「あ……」
だから、その女が自分に気づいて声を出した途端、冬弥は右手の銃をその女に向けて撃ってしまった。
ぱん、ぱん。
でも自分の弾はその女にはかすりもしない。
そんなに距離はないはずなのに。どうして当たらないのだろう。
「普通の人が拳銃なんか撃っても、当たらないと思うわ」
その女はなぜかそんなことを言いながら、こっちへ歩いてくる。わからない。
ぱん、ぱん。
当たらない。
思わずへたり込んで後ずさりしてしまった俺に、両手を空けたままのその女は近づいてくる。
「もう、撃たないの?」
そんなの、わからない。
「わたしはどっちでもいいけど、なら――」
【73 藤井冬弥 装備 グロッグ17 残段数13】
【50 須磨寺雪緒 装備不明】
訂正
思わぬ再会
での空洞とあるけど横穴の間違いでした
115 :
U.S:04/05/15 15:19 ID:1hlymXGS
「まずは、支給品の確認が先決ね。」
リサ・ヴィクセン(100)は民家の中にいた。
支給品の確認をする行為すら命取りになりかねない。
彼女はそれを知っていた。
民家の中にいるのは、他人に見つかりにくいから。
例え見つかり、そしてその相手が銃を持っていたとしても、
素手で打ち倒せる実力を彼女は持っていた。
つまり、何より先決すべきは自身の安全。
次に支給品の確認。
このゲームに乗るか否かはその後。
バッグをがさごそと漁る。
まず出てきたものは食料と水。
量からすると一日分か。
この家にも冷蔵庫はあり、中に食料も水もある。
食料を奪い合う、という状況は避けられるはずだ。
116 :
U.S:04/05/15 15:20 ID:1hlymXGS
「All right, 餓死なんてしたらNASTY BOYに笑われるわ。」
そして、置くに入っていた支給品を取り出す。
「Oh!」
彼女の支給品、固くて四角い精密機械――パソコン。
「最初に探す相手は決まったわ。」
食料、パソコンを仕舞い、立ち上がる。
このパソコンを使うことが出来る人間。
「世界一のナビ、エディ。」
【100 リサ・ヴィクセン 支給品:パソコン エディの捜索を開始】
117 :
夫婦の絆:04/05/15 15:21 ID:td3U3cnl
「むぅ・・・。」
木に登り、古河秋生(79)は、唸っていた。
「これは武器なのか?」
その手には、変わった色をした『パン』のような物体が握られていた。
「この『パン』は早苗が焼いた『パン』だよな。」
秋生(79)のバッグには他に武器らしいものは入っていなかった。
「他人に食わせることが出来れば、逃げる時間ぐらいは稼げそうだ。」
秋生(79)は、パンをバッグにしまうと木を降りた。
「とりあえず早苗と渚を捜さないとな。渚が小僧か早苗と一緒にいてくれていればいいが。」
そういうと秋生(79)は森の中を歩き出した。
しかし、すぐに立ち止まると、大きく息を吸い込んだ。
「早苗、愛してるぞー!」
と叫んだ。すると、すぐ後ろから、
「はい。」
という、若い女性の声が聞こえた。
秋生(79)が驚いて後ろを振り向くと、そこに古河早苗(80)が立っていた。
「うお、早苗。いつからいた。」
「秋生さんの呼ぶ声が聞こえたので急いで来ました。」
「早苗、渚は一緒じゃないのか。」
「はい、まだ会えていないんです。」
「そうか。じゃぁ、とりあえず渚を捜そう。そして、こんなばかげた事をやめさすんだ。」
「はい、わかりました。お願いしますね。秋生さん。」
「あぁ、任せておけ。おまえと渚は俺が守る。」
そういうと二人は、そろって歩き出した。
「ところで、早苗。おまえの武器は何だ。」
「はい、これです。」
早苗(80)は金属バットと硬式ボールを取り出した。
「これは、俺の。お互いの持ち物が入れ替わってたんだな。」
【古河秋生(79) 支給武器:古川早苗特製パン】
【古川早苗(80) 支給武器:古河秋生専用金属バット 硬式ボール10球】
【当面の目標:古川渚(81)との合流】
119 :
森の中で:04/05/15 15:29 ID:5InC7AOA
66番、七瀬彰は森の中を走っていた。
体を動かすのが苦手な彰であったが、今はじっとしていると頭がおかしくなりそうだったからだ
けど、インドアな貧弱君では、15分も走れば限界だった。
どさ…っ
前のめりで地面に倒れこむ。呼吸の乱れが激しい。そしてなにより、苦しかった。
―――殺し合い、だなんて、まるで本の世界じゃないか…それにこんなんじゃ絶対に生き残れないよ…
朦朧とする意識の中、彰はぼーっと考え事をした。
―――冬弥、はるかは今なにしてるのかな…誰も…殺してなんかないよね――
殺してなんかいない、というより、あの二人には、誰も殺さないでほしかった。
勿論、死んでいるなんて考えたくも無かった、考えないようにしていた。
―――これから、どうしようかな…、どうせ、すぐ殺されるんだろうな…
この有様だ、小さい女の子だって今の彰なら殺せるだろう
ふと、手にもっていた支給武器、カッターが見えた
―――カッター一本で銃に立ち向かうなんてカッコイイ真似、僕にできるわけないじゃない…
五分くらい休んだだろうか、だいぶ、落ち着いてきたみたいだ
「冬弥と、はるかを探そう…」
誰に言うわけでもなく、呟いた。
そうして森の中少し歩いた、すると
ガサッ…
という、木の葉の擦れる音が聞こえた。
「誰っ!?」
彰が無意識的に振り向く、そこには
「ひっ!」
完全に怯えきっている、21番梶原夕菜の姿があった
「だ…だめだめ!だめだよ!ひ、人殺しなんてしちゃだめだからね!」
尻餅をつき、涙を流して、フライパンで身を守りながら、必死に抵抗する夕菜。
彰は、なんとなくだけれども、夕菜の姿が、自分の一番好きな、澤倉美咲にかぶって見えた。
「…大丈夫、僕は殺し合いをする気なんてないよ」
120 :
森の中で:04/05/15 15:31 ID:5InC7AOA
説得力な無いな、と思いポケットの中にカッターを入れた。
「え…?ほ、本当…?」
「うん、僕こんなんだからね…どうせ生き残れないよ」
そういって彰は自虐的に笑った。
華奢な体に女の子みたいなやさしい顔立ち。虫も殺さないような彰を見て、夕菜は彰のことを安全だと認識した。
「よかった…」
本当に安心した顔で、彰に微笑む、彰はドキッとしたが、冬弥達の事を思い出し
「そ、そうだ、人を探してるんだ――」
と切り出すと、夕菜は、はっと気づき取り乱したように
「そ、そう!そうちゃん知らない!?」
と、言った
「そ、そうちゃん…?」
「そう、そうちゃん!見なかった!?」
「えっと…、僕はここに来てからあなたにしか会ってませんけど…あ、あなたは誰かに会いましたか?」
「ううん、…君以外だれにも会ってないよ…」
お互い、気まずい空気が流れる。
「えっとじゃあ僕は行くね」
そう言って歩こうとすると
「待って!」
と言う、夕菜の声が聞こえた
「あの…立てないみたいなの…」
きっと腰を抜かしてしまったんだろうな、と彰は思い
「え…、えっと、つ、つかまって」
手をのばしたのだった
「ありがとう、助けてくれて」
にっこり微笑む、夕菜。
「ううん、僕がわるいんだし」
121 :
森の中で:04/05/15 15:32 ID:5InC7AOA
そして、静寂。
彰が、そろそろ行くよと切り出そうとすると
「…あのね、一緒に行動しない?」
と夕菜が言った。
「え、いいの?でも僕、はっきり言って役に立たないよ…」
「ううん!そんなことないよ、君すごく優しいから、安心するの」
彰は少し、顔が赤くなるのを感じた。
「う、うん、ぼ、僕でよければ」
そういう彰は。とても素敵なイノセントスマイルだった。
「あ、名前聞いていなかったよね。私梶夕菜」
「僕は七瀬彰だよ」
「じゃあ彰ちゃんだね!」
「ちゃ…ちゃん」
――もう、僕二十歳になるのに…
「彰ちゃんって可愛いよね。女の子みたい」
――うう、男なのにかわいいっていわれても…
「まるで彰ちゃんって弟みたい」
――お、おとうと……
けどニコニコした顔で話す夕菜に言わないで、とは言えない彰であった
【66番七瀬彰 支給品 カッター】
【21番梶原夕菜 支給品 フライパン】
【二人、共に行動することをに】
122 :
諜報活動:04/05/15 15:38 ID:nuAQP7Uf
エディ(10)は音も立てずに叢で体を覆い隠しながら移動していた。
やがて比較的視野の広い場所に出て、腰を下ろした。
ふうっ、と息をつき、中々重そうなリュックを地に置く。
「やれやれ、とんでもねえことになっちまったナ」
頭を掻いてぼやきつつも、エディはリュックの中身を取り出した。
「なんだこりゃ?」
第一声、戸惑い。
エディの支給品は、ボタンのたくさん付いた装置だった。
「すげえ数のボタンだナ・・・・ん、これは?」
ふと、ボタンの下の数字に眼が止まる。
左上が1で横並びで一列に10番までで、合計十列、つまり右下が100。
「ふむ」
次に目に付いたのは、装置から伸びるコードとその先のヘッドフォン。
「―――――」
エディはヘッドホンをつけ、73の番号を押した。
そして、徐に脇に生えた雑草を掴み、それを引きぬく。
『プチッ』
音は、ヘッドフォンの中から聞こえて来た。
「なるほど・・・・盗聴器、か」
一応周囲に視線を飛ばしつつ、エディは適当にボタンを押し続けた。
「〜〜〜〜ッッ!!」
声無き悲鳴を出し、ヘッドフォンを耳から引き剥がしたのは19のボタンを押した時だ。
鼓膜が破れそうな炸裂音が耳を直撃した。
エディはもう一度ヘッドフォンを付けた。
もう、何の音も流れてはこなかった。
「死んだ、か」
呟きつつも、エディは素早い動作でボタンを左から順に片っ端から押し出した。
数秒後、目的の『音』を探り当て、押す手を戻し、注意深くヘッドフォンから漏れてくる音に耳を澄ます。
ゴソゴソと、リュックの中身を積め返る音がしばらく続き、やがて移動の足音が聞こえ出した後、
エディはゆっくりとヘッドフォンを外した。
「(音からして散弾?やれやれ、支給品のなかにゃとんでもねえもんがまぎれこんでるみたいんだナ)」
123 :
諜報活動:04/05/15 15:38 ID:nuAQP7Uf
それに、とエディは心の中で付け加えた。
「(人間一人殺して置いて何の声も洩らさずに行動できるとは、大したもんだ)」
36のボタンを再び押して、音を切りながらエディは舌を巻いた。
控え室で見た36番は、どこから見ても普通の少女だった。
「(やれやれ、俺っちの眼も曇ったもんだな・・・)」
自分や宗一あの女狐、それにあの奇妙な耳の生えた奴ら以外は、
ただの一般人だと思っていたのだが、どうもそうでもないらしい。
「(いや、むしろ・・)」
支給品次第では一般人でも十分脅威になる、ということかな、と思った。
油断はできない、芯からそう思った。
「とりあえず紙とペンを得るべきだが・・・」
ろくな武器も無く、人が群がりそうな民家にいくのは自殺行為では無いかと思う。
が、夜になるまではそれほど人はいないだろうし、注意深く行動すれば問題なかろう。
それに、とエディは付け加えた。
「(できればちゃんとした武器も欲しいからなあ・・・)」
ちらりと上着のポケットに隠した先が尖った木の枝を見ながらエディはリュックに盗聴器をしまった。
「(ま、でもとりあえずは様子見だナ)」
とりあえずしばらくはこうして潜伏しつつ移動し、盗聴器を使い情報を得る事だ。
そう結論し、エディは腰の高さまで生えている雑草に身を隠し、再び叢の奥深くに入り込んでいった。
【エディ(10) 民家へ 支給品 盗聴器】
【しばらくは叢を移動しつつ情報入手】
124 :
修正:04/05/15 15:40 ID:nuAQP7Uf
【エディ(10) 支給品 盗聴器】
【しばらくは叢を移動しつつ情報入手】
125 :
父親:04/05/15 15:53 ID:uQNvUGYS
「たく・・どうしてこんなことになっちまったんだよ!」
吐き捨てるように言って彼・・・古川秋生(79)は茂みの中に身を隠した。
周囲に人間がいる気配はなかったが、用心の為である。
「それにしてもよ・・・・なんで俺たちがこのゲームとやらに巻き込まれなきゃなんねぇんだよ・・・」
秋生は昨日の夜まで彼の妻や娘と平凡、だがそれでいて幸せな生活を送ってきた。
そして今日もまた日課であるところのパン焼きから平凡な一日が始まるはずであった・・・・しかし・・・・目を覚ました彼が見たものは
日常とは程遠い、悪夢と呼ぶにふさわしい現実だった・・・・・・
「さて、隠れたところでとりあえず状況を整理すっか。確かこの糞ゲームの主催者から渡されたバッグが有ったよなと・・・・どれどれ・・・・・」
早速バッグの中身を確認する秋生。その中から出てきたのは・・・・・
「連中がほざいたとおり食料に水か・・・・ん、なんだこいつは?」
秋生の手に握られていたのは某神龍玉に出てきたレーダーそっくりの物体だった・・・・
「もしかしてこいつで原作の玉のごとく参加者の位置がわかるってかぁ?」
とりあえずよくレーダー?を観察する秋生。するとレーダー?の裏側になにか白いものがあるのを見つけた。
「こいつは説明書か・・・」
真剣に目を通す秋生。読み終えて嬉しそうに
「おっしゃあ、ビンゴ!マジにレーダーだぜ!そうとわかったら早速早苗、渚を探すか。他の連中は悪いが後まわしか・・・」
こう言って真剣な顔をすると一家の主は妻と娘を探すべく歩き出した。後はどうなるか分からない。ただ、そこには守る者たちのために精一杯頑張ろうと言う男の姿が有った。
【73 古川秋夫 装備 レーダー(ただし半径30mまでしか探知不能。)】
――森のある一画――
そこに突如、美坂香里の悲鳴がこだました。
「……」
その声を聞きながら、香里のすぐ近くに佇んでいる者がいた。
支給された武器――小太刀を構え、茂みに身を潜めている。
(聖上…某は…)
音を消し、気配を殺し――ただ、その場に佇む。
いつでも飛び出せるようバッグは脇に置き、武器だけを身につけている。
履いている足袋は茂みのせいかあまりいい状態とは言えないが、それが逆にその者の雰囲気を上手く醸し出している。
その雰囲気は――剣士。
(某は…無力です…)
その剣士、トウカ(60番)は、悲痛な表情を浮かべながら心の中でそう呟いた。
目の前でいきなり、死なれた。
別に素性も何も知らない少女だったが――それでも、目の前で人が死ぬというのは、気持ちのいい者ではない。
ゲームに乗ってしまった冷静な殺人鬼に殺されるならまだしも――
恐怖によって精神が崩壊した者に、訳もわからぬまま殺された。
歳の差もそうあるまい。
「……」
――止めようと思えば、止められたのだと思う。
死んだ少女の痛みが、胸に突き刺さったような気がした。
実際に突き刺さっているのは、死んだ栞の痛みではなく、自責の念――それはわかっている。
わかっていても、否、わかっているからこそ、突き刺さる痛みは決して抜けようとはしなかった。
(くっ…)
耐えられなくなったトウカは、立ちあがった。
トウカにとって幸いだったのは、この二人の少女の関係を知らなかったことだろう。
もし知っていたら――トウカは躊躇いなく切腹を選んでいたかもしれない。
それは、トウカにとっても美坂姉妹にとっても、いいことではなかった。
香里は、ショックのあまり失神している。
どうしたものか、とトウカは考えた。
とりあえず、起こすべきか否か――
起こさなければ、いずれ他の参加者によって殺されるかもしれない。というより、殺されない確率の方が低い。
殺しあうことが前提であるこの島、そうそう都合よくゲームに乗っていない者が現れるはずがない。
かといって起こしたところで――トウカは、自分がこの少女の精神状態を元に戻すことができるとは思えなかった。
トウカは、自分のことをよく知っている。一本気な性格による説得は可能でも、このような相手の心を落ちつかせる術を、トウカはもっていない。
ハクオロ、あるいはエルルゥであれば可能かもしれないが――二人とも、今この場にはいない。
下手をしたら、再び暴走してしまう可能性もある。
それだけは避けたい。
絶対に。
(某は…)
【トウカ 支給武器:小太刀 美坂姉妹が来る前からずっとそこに佇んでいた】
【美坂香里:栞を刺したことで失神】
【傍には栞の死体】
シュンは待ち続けていた
「誰も、来ないねぇ…」
始めに出会った人に運命を託すと決めて、どのくらい時間がたっただろうか。
既に死んでいる人だっているだろう。
それは殺し合いに乗った人なのか、それとも何も分からず逃げていた人なのか。
自殺を選んだ人だっているかもしれない。
どちらにしろ死んだ人は運が悪いとしか言いようが無い。
そこまで考え自嘲する。
既に死に掛けている自分も運が悪いじゃないかと。
「せめて死ぬときは気のおける人がいた方が気分はいいかな」
学校の部室で出会った友人の姿は無かった。
同じ制服の人間もいたが見知った顔の人間はいない。
いや、会ったことはあるかもしれない。
必要が無いから覚えてないだけ。
あのまま消え行く自分にとっては全ては無意味なものだった。
ただ一つ、折原浩平との絆以外は。
ぱんっ
どこからか乾いた音が聞こえてくる。
何かが爆発するような音。
この殺し合いという状況では誰かが銃を撃ったということだろう。
まあ自分には関係ない。
ただ人が現れるのを待つだけ。
少し考える。
このまま最後まで人に出会わなかったらどうするのか?
主催者が言うには一人か二人になるまで殺し合いは続く。
最後まで何もせず残った自分と数知れず人を殺してきたかもしれない誰か。
最後まで何もせず残った自分と数知れず人が殺されたのを見てきた誰か。
非常に滑稽な状況だった。
非常に滑稽な状況だった。
その時、自分はどうするだろう。
その時、相手はどうするだろう。
相手がゲームに乗った人間だったら自分は殺されるのだろうか。
笑える。もう未来の無い人間を殺す。笑える。
相手が誰も殺さず逃げ延びた人間だったら自分はどうするのだろうか。
笑える。もう未来の無い自分が生き残る。笑える。
面白すぎた。知らない相手が自分を殺す殺さないにしても。
「始めに会った人ってのは、自分から会いに行ったって構わないよね」
そういって立ち上がる。
立ち上がった瞬間林の向こうを誰かが走る。
向こうも自分に気づいたようだ。
なぜか泣いている。
泣きながら笑っている。
「私は、私は、守らなきゃ、守らなきゃいけないのよっ!!」
そういって銃をシュンに向けて構える。
(あっけない幕切れだったかな)
ぱんっぱんっぱんっぱんっぱんっぱんっかちっかちっかちっかちっ
それは涙の為か、異常な興奮状態にあった為だろうか、6発の弾は全て外れた。
「何でっ何でよっ」
かちっかちっかちっかちっかちっかちっかちっかちっ
もう弾はでず、引き金を引く音だけが残る。
「何でっどうしてっ私はこれで透子を守らなくちゃいけないのにっ」
そしてシュンを見る。
恐怖と狂気とを乗せた顔で。
「いやああああああああああああっ」
そういって走り出す。
残るのはシュン一人。
「さてどうするべきかな」
最初に会った人間は透子なる人物を守ると言って銃を向けてきた。
しかし彼女は逃げ去ってしまった。
予想外の展開だった。
始めに出会った人の力になる。
逃げられたら次のに会った人の力になる。
始めにあった人はある人を守る為、銃を向けてきた。
それが彼女の力になるならば、それはそれでいいかもしれない。
だがそれでは何か物足りない。
何だろう?
しばらく考え込む。
そしてふと気づく。
「そうか、それじゃ僕は楽しくない」
周りに彼と彼の友達をを知る人間がいたらこう思うだろう。
ああ、ついに折原の思考が伝染したか。と
それはたぶん幸せなことなのだろう。
こうして新しい友を見つけることが出来る道を選んだのだから。
「なら次の人を探すまでだね」
とはいっても本人は自分の思考の変化に気づいていないようだが。
「取りあえず、銃声のした方向に行けば誰かいるよね」
そう言って歩き出す。
【70 氷上シュン とりあえず銃声のした方向へ移動】
【39 榊しのぶ 装備:ブローニングM1910(残弾0発、予備マガジン一つ)】
>>125 既に秋夫は使われてるぞ・・・もうちょい確認汁
俺も馬鹿だがw
さらに補足・・・
【ハクオロ 大刀(重くて武器としては殆ど使用不可能) 木の棒】
森の中、芳野祐介(98)が一人木の上で物思いにふけっていた。
「生き残れば、なんでも一つ願いを叶えてもらえるか。
俺の願いは、彼女の幸せ。
そのために、手を汚すか。
しかし、手を汚した俺を彼女が受け入れてくれるだろうか。
いや、例え、彼女が俺を受け入れてくれなくても、
俺は彼女の幸せの為にできることはすべてやろう。
それが、彼女に救われた俺の業だ。」
祐介(98)はそうつぶやくと、支給されたバックからライフルを取り出した。
そのとき木の下に霧島佳乃(32)が現れた。
「うーん、どうしようかな。」
「おねえちゃんもいないし。
とりあえず誰か、私のボディーガート1号になってくれる人を探そう。」
佳乃(32)は無用心にも周りを警戒することなくタダ歩いていた。
祐介(98)はライフルを構え、佳乃(32)の頭にねらいを定めると
「かわいそうだが死んでもらおう。彼女を幸せするために。」
そうつぶやき、ライフルの引き金を引いた。
佳乃(32)は銃声に気付く間も無く絶命した。
祐介(98)は木を降り、佳乃(32)のそばに立つと、彼女を見下ろした。
「彼女を幸せにするためか。」
「だが、所詮は俺の自己満足だな。」
「それでも俺は彼女を幸せにする。」
そうつぶやくと、佳乃(32)のバッグを回収し立ち去った。
【芳野祐介(98) 支給武器:ライフル 予備マガジン2つ】
【霧島佳乃(32) 支給武器:サブマシンガン 予備マガジン2つ】
【芳野祐介(98) 佳乃(32)のサブマシンガンを入手】
【霧島佳乃(32) 頭を打ち抜かれ死亡】
【残り91人】
133 :
132:04/05/15 17:43 ID:BZPeosXo
訂正
【芳野祐介(98) 佳乃(32)のサブマシンガン、予備マガジン2つ入手】
「この辺でいいか」
トウカは適度に柔らかい地面を見つけて、そう呟いた。
――結局、香里の方は考えても埒があかないので、それより先に他の事を済ませることにした。
(雨が降ったら、多少緩くなるかもしれないが…仕方あるまい)
他のこと――即ち、栞の埋葬。
参加者に見つかる可能性を考えると、危険極まりない行為だったが――だからといって、栞の死体を野晒しにしておくのは躊躇われた。
そもそも、参加者に見つかってまずいのは、自分の都合である。
直接的ではないとは言え、栞を死なせた――その責任を、自分の都合で放棄するようなことは、トウカにはできなかった。
「さて――」
トウカは真剣な眼で地面を見据える。
そして、そこに手をかけた。
時間を少し前に戻す。
春原陽平に逃がされた少し後。
太田香奈子は、足を引きずりながら森の中を歩いていた。
撃たれた個所がずきずきと痛む。
弾が貫通しなかったのかもしれない。
「くっ…まずいわね…」
思わぬところで邪魔が入り、獲物を逃した上武器も取られた――
最悪この上ない展開である。
武器がないから、相手に攻撃することはできない。
足を撃たれたから、走れない。
つまり、誰かと遭遇したら一巻の終り。
油断して殺すまでに時間を与えたことを、香奈子は心底悔やんだ。
同時に、芽衣の姿を思い出す。
あの、自分の前には全くの無力だった少女。
本当に、呆れるぐらい無力だった。
殺したところで、アリを踏み潰すよりもよほどあっさりしていただろう。
なのに――
そこまで考えて、春原の笑みが頭に浮かぶ。
『強者の余裕って奴?』
――反論できない。それが余計に悔しい。
『いやああああああ!』
不意に聞こえた叫び声が、香奈子の思考と歩み足を中断させた。
(叫び声…敵!?)
戸惑う。
森のせいで音が反響しているため確かなことはわからないが――ある程度の位置は、推測できた。
近いわけでもなく、遠いわけでもない。
行こうと思えば行けない距離ではなく、また避けようと思えば避けれない距離でもない。
香奈子は考える。
(敵――誰かが誰かを襲った。なら、そこにはゲームに乗った人間がいる。とすると、その人間に遭遇すれば自分も殺される)
考えるまでもない。
今自分の置かれている状況。
危険は極力避けなければならない。
でも、と香奈子は呟く。
(もし、死体を見たときの叫び声なら――そのショックで動けずにいるとしたら、これは――)
武器を調達する、またとないチャンス。
もしそうなら、急いでいかねばならない。
自分以外にも、叫び声を聞いた人間がいるはずである。
(どっち――?)
香奈子は数秒考えた。
ほんの数秒だけ。
そして。
「……行って見る、しかないわよね」
そう言った。
前者にしても後者にしても、他の人間が叫び声を聞いているのは間違いない。
ならば、下手に離れようとしても、それらと遭遇してしまうかもしれない。
どっちにしてもそうなるなら――後者の可能性に、賭けてみる他ない。
香奈子は、足を引きずって再び歩き出した。
「――む?」
持ち前のスピードで既に半分ほど穴を掘り終えたトウカは、ふと、人の気配を感じた。
(――参加者か。こんな時に…)
せめて、この穴を掘り終わるまでは待って欲しいものだ、と内心で愚痴る。
(…仕方がない)
トウカは、土から手を離した。
「……」
静かに立ちあがる。
表情が、先ほどとはまた違う、真剣な表情に変わった。
小太刀を構える。
そして。
「――」
気を、全方向に張り巡らせた。
願わくば、この気に怖気づいて近付くのを諦めて欲しい。そんな打算があった。
近づくといっても、自分にではない。
当然、美坂姉妹のこと。
栞と香里は、すぐ傍に寝かせてある。
香里が目を覚ました時に栞を見てしまわないように、それぞれ自分の両脇に。
「……」
例え片方は既に息をしていなくとも。
この二人に危害が及ぶようなことがあれば。
(っ――)
そこで、トウカは慌てて考えを打ち消した。
及ぶようなことがあれば、ではない。
及ばせてはいけないのだ。
それもできないようなら、切腹する他ない。
(……)
トウカは一度、自身を落ち着けるため、大きく息を吸った。
森の湿気を含む空気は、程よくトウカの身体に染み入る。
そして、大方位置に目星を付けてある『敵』に向かって、言った。
「…出て来い。何もしなければ、悪くはしない」
気付かれたと悟った香奈子は、咄嗟に木の陰に身を隠した。
しかし、相手は相当の腕前なのか――それで気を緩めるようなことはしなかった。
(なんなのよ…ついてないわね、ほんと)
木の幹に背中を預け、溜め息をつく。
どうするべきか。
香奈子は迷った。
今ここで逃げようとしても――恐らくは逃げ切れまい。
ちらっとだけ見えた、女。
只者ではない。
素人の自分ですらわかるほどの『気』――それが未だに張られていることが、それを証明している。
危険だった。
武器を持っていない上に負傷している自分では、正攻法どころか策を練っても勝てそうにない。
女の言葉を信用するなら、出ていって治療を受けて、あとは適当なことを言って逃げればいいのだが――その女が、どこまで信用できるかは微妙だった。
相手は、自分より強い。
それだけで、香奈子の心にはトウカに対する疑いが芽生えていた。
何をされるか、わかったものではない。
しかし、ここにいつまでも隠れているわけにもいかない。先ほどの悲鳴を聞いた連中が集まってくるかもしれないから。
もっとも、香奈子がそれを聞いてからここに歩いてくるまでには随分と時間があった。悲鳴を聞いた連中もあまりいなく、聞いたところで香奈子が最初に下したような安全策を取るものがほとんどだったのだが――香奈子本人は、それを知らない。
進退極まった。
普通に逃げるだけなら見逃してくれるかもしれないが、生憎香奈子の足は今普通の状態ではない。
(動けない…こうなったら…)
――いつまでも考えていてもどうにもならない。
だから、香奈子は手っ取り早い方法で済ませることにした。
木の影から足だけを出す。
カマを、かける。
「…私、足を怪我してるんだけど…」
「む――? 確かに、そのようだが――」
トウカは、木の陰から突然生えてきた足を見て、戸惑うように言った。
距離は多少遠いが、そこは戦場に出る身として目の良いトウカ、特に目を凝らすことなくそれを見やる。
右足のふくらはぎ。
そのある一点が、不自然に白い。
周りの皮は、まるで焼け爛れたように剥げていた。上半身側の方が剥げている面積が広い。
そして、その剥げているところからは、身――即ち肉が禍禍しく亀裂を入れている。
不自然に白い一点が骨であるということに気付いたのは、それを見てから数秒後だった。
「…どうしてそんなことに?」
トウカは、声の音量を少し上げて聞いた。
――ちなみにトウカは、重火器の存在を知らない。
だから余計に、その禍禍しさに強い印象を受けたのである。
「…撃たれたのよ、変な男に」
「そうか…」
トウカは下唇を強く噛んだ。
この女――声から察するに少女――も、被害者。
常軌を逸した、反吐がこみ上げてくるぐらい嫌になる『殺し合いゲーム』の、被害者。
トウカはもう、香奈子を攻撃する気は失せていた。
周りに張っていた『気』を解き、構えを下ろす。
そして、
「驚かせてしまったようだ。すまない…攻撃する気はないから、出てきてくれないか」
トウカは、態度を和らげて言った。
その言葉を聞いて相手も多少安心したのか、緊張が少しだけ薄れる。
その刹那、
「きゃぁ!」
木の陰で、香奈子が叫んだ。
「――! どうした!?」
咄嗟に反応したトウカが、小太刀を構えなおす。既に足は香奈子の方へ踏み出せる体制である。
――しかし、トウカが完全に構えるよりも早く、
ザシュッ……
木の裏から――性格には香奈子の首筋から、血飛沫が舞った。
全ては、一瞬の出来事だった。
「なっ…!」
あまりの早さに呆然とする。
しかしそこはエヴェンクルガ族の武士、即座に思考を切りかえる。
「何者だ!」
トウカは咄嗟に叫んだ。
香奈子のこともあるが――傍に倒れている二人に、『そいつ』を近付かせてはならない。そう思った。
だが、木の陰から出てきた者は――
「誰かと思えば――トウカかよ」
「……………オボロ、殿?」
【太田香奈子 死亡】
【残り90人】
あれ? 10だと思っていたのに7で終わった……
すいません計算ミスです _| ̄|○
「私は芝浦八重。あなたは?」
「カルラと申しますわ」
目の前に立つ女性の出で立ちは、異様の一語に尽きた。
猫のような耳と尾が生えているのだ。飾り物の類でないのは見た目だけでも分かる。
「私、人を捜しておりますの。名残惜しいのですけど、失礼致しますわ」
「ええ。ごきげんよう」
カルラと名乗った異形の女性は、そのまま、何気ない足取りで私の横を通りすぎようとした。
「一つ、聞かせてくれるかしら」
「…………」
私の言葉に、カルラが足を止める。ちょうど、真横に並んだ位置関係になる。
「カルラさんは、このゲームに乗るのかしら。それとも――」
「ふふ。肝の据わった方ですわね」
カルラは笑い、そして、迫力のある声で続けた。
「――こんなに接近した状態で、よくそんな話ができますわね?」
「……」
私はふっと笑い、それには答えず別な言葉を返した。
「私は願いを叶えてもらおうと思ってるの」
「へえ、そうなんですの」
何気ない答えを返すカルラ。
だが、互いの間にたゆたっていた空気は、今にも割れそうなほどに固化していた。
「大切な人っているかしら、カルラさんには」
「大切な人?」
カルラは、まるでその言葉をはじめて聞いたのだというように、大袈裟な口振りで反芻した。
「永劫に一つの絆で結ばれた、愛しい主人が――」
カルラの身体が、襲いかかる直前の獣のようにたわんだ。
「おりますわ!」
固めた拳を、ブン、と八重に叩きつける。
私はそれを避けようとすらせず、黙ってその一撃をこめかみに受けた。為す術もなく倒れる。
「――あら。影響は感じていましたけど、本当に随分と力が落ちてしまったのですわね」
ぐわんぐわんと揺れる意識の中で、カルラの声だけが鮮明に頭に響いていた。
ぐい、と襟を掴まれ、宙に釣り上げられるのが分かった。弱ってこれならば、この女性の本来の膂力はどれほどなのだろう。
「私、あのタカムラの言葉は癇に障りましたけど、聖上をお守りしなくてはなりませんの。あなたはここで片付けなければいけませんわ」
「…………」
私は言葉を返さなかった。どの道、喉が圧迫されているせいで声など出せないのだが。
ただ、スカートの中に仕込んでおいたカッターを抜き、振るった。
「――!」
カルラの手首から鮮血が散り、私の襟元を拘束する力が消える。私はどっと地面に落ちた。
が、落ちることをすでに予測していた私は、すぐに受身を取って体勢を立て直した。
「厭ですわね――」
血が滴る右手首を押さえながら、カルラが皮肉げに嗤う。
「あなたのその刃物による攻撃など、分かっていましたのに。身体が思うように動きませんわ」
「お気の毒ね」
私は距離を取り、カッターの刃をチキチキと伸ばした。
「ハッ!」
睨み合い、長期戦にもつれ込めば不利と悟ったのだろう。カルラは血飛沫く右手を握りしめ、まっすぐに私の顔へ放った。
衰えているとは言うが、避けられる速度では無い。
私はまたもまともにその拳を受け、後ずさった。
「チッ……」
カルラが舌打ちする。その右腕からは、新たな血が流れていた。
そう。避けられる速度では無いが、カッターを合わせられない速度でも無い。ただ、でたらめに振るうだけいい。刃がかすればいいのだから。
私は溢れる鼻血を抑えながら、カッターを構え直した。度重なるダメージで意識がやや霞んでいるが、今気絶は出来ない。
向こうの方が出血は酷い。だから、私から仕掛ける必要は全く無かった。
カルラが拳を振るい、私はそれを受けながらも斬りつける。気絶さえしなければ、この図式が崩れない限り負けない。
「……けちな刃物を振るう素人の女の子に、ここまで追い詰められるようなことがあるとは想像もしませんでしたわ」
言いながら、カルラはじり、と接近してくる。すでに彼女の間合いに入っている筈だが、今度は仕掛けてこない。
自分の胸元に左手を差し込み、また一歩じり、と接近する。
今なら、私がカッターを振るえば当たる。だが、先に動けば手痛い攻撃を受けるのは間違いなかった。
プレッシャーとの勝負。
……また一歩。
また一歩……。
(く……)
カルラは、失血で顔が青ざめてはいるが、その表情に焦りは無い。
このままプレッシャー勝負になれば、素人の私が負ける。それは間違いない。
私は、出来るだけ体勢を崩さないよう、一歩下がった。
――それが最大の失策だった。
素早くカルラの左手が動き、私の脳天に鈍い衝撃が走った。僅かに額が割れ、血が滲むのが分かった。
何かを投げつけられたようだ。衝撃に視界がブレたその瞬間、踏み込んできたカルラのしなやかな右足が私を薙ぎ倒した。
遠心力に吐きそうになったのは一瞬。樹に背中から叩きつけられ、私は痛みで動けなくなった。
「これは、聖上の大事なものですから、使いたくは無かったのですけど」
カルラの声が降ってくる。私は見上げようとしたが、首すら動かせないほどダメージが酷い。
「この短刀は貰っていきますわね。それでは、ごきげんよう」
止めは――刺さない?
そんな疑問が涌いたが、その理由はすぐに察せられることになる。
痛みとは異質な苦痛が、身体中を蝕み始めたのだ。それはさっきの飛び道具の一撃を受けた額から広がっていった。
――毒。
先程喰らった何かに、毒が仕込まれていたのだ。
(お父さん……ごめんね。私、あなたにお母さんを逢わせてあげたかった……)
私の苦痛は意識の鈍化と共に薄れていき、やがて、二度と目覚めない眠りへと堕ちた。
【26 カルラ 所持品:ハクオロの鉄扇 ※右腕を負傷、カッターを取得】
【44 芝浦八重 所持品:カッター 死亡】
水瀬名雪(90)は走っていた。昨日は絶対に家で寝たはずだ。それなのに目覚めたらなんで自分はこんなところで殺し合いに参加させられているのか。
(怖い!怖いよ!助けて・・・・お母さん、・・・・・祐一)
もとから他人に依存しがちな名雪にとって、この状況はまさに絶体絶命の状況といえよう。
さらに輪をかけて最悪なのが、スタート位置が友人である美坂香里と離れてしまったことである。
(香里・・・・どこにいるの・・・・・会いたいよ・・・)
その美坂香里は現在ショックのあまり失神しているのだが、とうぜん名雪はそのことを知る由もない。
どのくらい走っただろうか、不意に金色が目に入った。
(北川君!?でもちょっと感じが違う・・・・・)
名雪がそう感じた刹那、
「誰だ!」
相手に気づかれたのであろう、金髪の男が銃をこちらに向けてきた。
「ひっ!」
「女の子か・・・ねぇねぇ彼女、守ってあげるからさあ、おれとつき・・・ぶふぉ!」
「お兄ちゃん、こんなところでも何やってるの!?」
そう言って兄?らしき男が妹?らしき女の子に鳩尾を入れられるのを黙って見ているしかなかった名雪であった・・・・
「先ほどは兄が失礼しました。私は春原芽衣、そこで倒れてるのは私の兄で春原陽平と申します。」
「私の名前は水瀬名雪だよー。」
お互い自己紹介が終わると、話題は必然的にこれからの行動についての事となった・・・
「それで・・水瀬さん・・あなたはこのゲームに乗られるのですか?」
「・・・乗らない。ねえねえ芽衣ちゃん、芽衣ちゃんたちはこれからどうするの?」
「私たちは・・・とりあえずこのまま隠れていようと思います・・・水瀬さんはどうされるのですか?」
「私は・・・・・」
名雪の脳裏に同居人の真琴やあゆ、友人の香里、栞、北川の事が浮かんだ。
「私は・・・・・・・知り合いを探しに行くよ。みんな同じように怖がってるんだろうし、特に真琴なんて私より怖がってるはずだから・・・
だから探しに行くよ。」
「そうですか・・・・なら私たちもついて行きます。」
「芽衣!?」
「お兄ちゃんだって本当は岡崎さんを探しに行きたいんでしょ?」
「ああ・・・でもね、危険すぎるよ!芽衣だってさっき襲われただろ!?」
「そうだけど・・・それでも岡崎さんと会いたくないの?!岡崎さんも守ってあげようと思わないの?!」
「しかし・・・・・」
「あの・・・」
名雪が言いにくそうに言う。
「私一人でも行くから別にいいよ。ありがとね、芽衣ちゃん。岡崎という人にあったら芽衣ちゃんたちが探してたって言っておくよ。」
「わかりました・・・すみませんね。水瀬さん・・・」
名雪が朋也の容姿を芽衣から聞き、出発しようとしたまさにそのとき、
「ええーい、わかった、僕も行くよ!」
「お兄ちゃん!?」
「春原さん!?」
「藤林に似てる奴をほっておくのは後味が悪い。ただそれだけのことだよ!」
(それにこの子を守りきればこの子は僕にメロメロ!サイッコー!僕ウハウハ!)
「なんかおにいちゃん、ろくでもないこと考えてる顔してる・・・」
【名雪、春原兄弟と合流。ともに移動】
【名雪の武器は不明】
話を聞くところによると(もちろん、取材のためだ)どうやらこの眼鏡少女は木田くんが好きで好きでたまらなくて、木田くんの為なら死ねて、木田くんの為なら身でもなんでも差し出すといった少女だった。なんだそりゃ。
将来の夢は木田くんと結婚することで、木田くんによく似た男の子のお子さんと女のお子さんが欲しくて、でも木田くんがいらないっていうならいらないけど……。
あうぅ……。
そんな私のこと木田くんはどう思ってるのかなあ。
と、自分世界を私の目の前で構築するだけで、まあてんで話にならない。
口から出るのは木田くん木田くん木田くん木田くん。
「えと……長岡さん?」
お、珍しく別の名前を呼んだ。ああ、それは私の名前だ。
「何よ」
そっけなく答える。
「あの……ね……」
少し間隔を置いて、
「長岡さんに、好きな人……いますかっ?」
とんでもないことを聴いてきた。
わたしのすきなひとか。
脳裏に写るのは、あいつの姿。
ぶっきらぼうで、いつもぼーっとしていて、あくびばかりしているやつ。
だけど、もしもの時は、そう、こんな非常時にはとても頼りになるひと。
「あの……いるんですね」
眼鏡のレンズの向こうにある目が、心の中を見透かすようにじっと私を見つめていた。 澄んだ瞳だ。とても素直な、澄んだ瞳。
こういう娘、あいつは放っておかないだろうな。
なんとなく、そんな気がした。
あいつは何をしているのだろう……。
ちょっとだけ、浩之に会いたくなった。
「あぅぅ……木田くん。せっくす……」
流石にそこまでしたくないけれど。というか嫁入り前の娘がせっくすせっくす呟くな。
【今日の志保ちゃんメモ】 最近の若者の性の乱れが気になります。
「ははは、それじゃぁ面白いと言うよりも滑稽よ」
北川潤(30)の後方10メートルから女性の笑い声がこだまする。
「誰だ!!」
北川はすぐさま後ろを振り向き便座カバーを構えながら叫ぶ、それも真剣に…。
「あははははっ、やめて、やめて、可笑しすぎ」
声の主は先ほど以上に爆笑する、今にも腹をかかえて笑い転げそうだ、声の主は広瀬真希(72)だった、
広瀬は便座カバーを構える北川が笑いのツボに入ったらしく、「ちょっとまってね」と言いたげに手を北川に向ける、少しづづ笑い声を抑える
対する北川は敵意が無いのを感じ、笑い声が止まるのを待つ…。
「ははは、大爆笑、もう最高よ、あんた!」
広瀬は親しげに北川に話しかける、先ほどの北川の独り言を聞いていたのだ、
「仕方ないだろ!武器がこれなんだから!!」
北川はムスッとした顔をして便座カバーを広瀬に構える、構えた矢先に広瀬は大爆笑、ちょっとしたコントだった。
「あんた名前は何て言うの?」
広瀬は北川に名前を問いかける、まだクスクスと余韻が残っているが…。
「普通名前を尋ねるときは自分からだろ?」
北川は挑発的な態度をとる、便座カバーを笑われたことにたいするムスッとした顔の余韻がある
「ごめんごめん、私は広瀬真希よ、便座カバー君」
挑発的な態度をとられたにもかかわらず、広瀬は余裕の表情で答える、ある意味便座カバーのお陰だった
「北川潤だ…。」
相手が名乗ったので北川も自分の名前を名乗った、まだムスッとしている。
「で、その広瀬さんがこんな滑稽な便座カバー男に何の用で?」
もう北川はどうにでもしてくれと言わんばかりだ
「手を組まない?」
広瀬はそう囁いた。
「はぁ!何で!?」
広瀬の提案に対する北川の第一声はそれだった、確かに女手一つでいるよりは、見方が居た方がいいだろう、
しかしこんな貧乏くじの武器を引いた奴よりも、もっといい武器例えば銃を持った人間と組んだほうが
生存率が上がるのではないかと北川は思った、
「はっ!」
北川はふと思考を一旦停止し広瀬に対して身構え(便座カバー抜きに)凝視する、明らかに真剣なの表情だ
「ああ、大丈夫よ、私の所持品は銃なんかじゃないから」
広瀬は北川の思考を読み取っていたらしく淡々と答える、
しかし北川は信用しない、安心しきったところで『ズドン!』は御免被りだ、
「信用無いわね…まっ、仕方ないか。」
余裕たっぷりに答える広瀬、何でこんなに余裕があるのか北川には理解できなかった
「いい?今からわたしの所持品、投げるからね、中身みて考えて!」
とバックと投げる広瀬、中身が重たいらしく北川の手前5メートルの処で落下する、
(何で、あっさりと自分の所持品を投げられるんだ!?)
北川はそう思いつつ広瀬のバックに近づく、広瀬は北川に近づく
ジーッとバックのジッパーを開ける北川、そこで広瀬はあさって方向を見てこう呟く
「あんた、どちらかと言えば貧乏くじ引きっぱなしだったでしょう?」
淡々と喋る広瀬の話を聞きながら、北川は広瀬のバックの中に手を入れる
「わたしもそうなのよね、変な転校生が来た瞬間、私の人生、ついてない事ばかり」
「それは奇遇だな、俺も変な転校生のおかげで人生狂ったよ」
広瀬の話に加わるつもりは無かったが、何となく自分に似ているなと思い話に加わってしまった、
バッグの中身を取り出そうとする北川、何か重い紙の袋状のものだ、バックの中身を取り出した瞬間、
「そんなもので、どうしろと言うのよ…。」
広瀬はがっくりとした表情で呟いた、中身はメリケン粉が3袋だった……。
「ははははっ あははははっ」
北川と広瀬は笑う、もうどうにでもしてくれと云わんばかりの表情だ、
「これでパンでも焼くのか、はははっ」
北川は広瀬の所持品を見てそう思う、先ほど笑われた仕返しだ、それと同時に気付く、
何故広瀬が貧乏くじを引いた自分に喋りかけたのかを、同じなのだと広瀬も貧乏くじを引いたのだと
「あまり笑わないでよ…泣きたくなるでしょ。」
「はははっ」
引きつりながら笑う北川、メリケン粉では格闘家は愚か、武器を持った一般人にも勝てないだろうと・・・
「格闘家…?最凶死刑囚!?メリケン粉!!!」
北川は意味不明に思考を回転させるそして広瀬に…
「ライター入ってなかったか!」
「あ・・・、うん、入ってた…これ」
きょとんとしたした顔をして北川にライターを見せる、表に「超」裏に「魁」の文字が入ったジッポライター
北川の表情が明るく変わる、作は我にありの表情だ…。
「広瀬・・だったよな。」
「そうよ、北川」
名前を確認する二人、そして北川は
「手を組もう!、やり方しだいでは何とか成るぞ!!」
「本当!?」
嬉々として答える広瀬
「でもこれだけじゃ駄目だ、他にも色々と必要だ!」
「探しに行こう!!」
二人の表情は明るくなる、いつの間にか息が合っていた、
「よし!行くぞ!目指すは便座カバー長者だ!」
意味不明のことを言う北川、ははっと笑いながら広瀬、貧乏くじを引いた二人だったが今の彼、彼女の表情は明るかった。
【北川潤(30) 所持品 便座カバー】
【広瀬真希(72) 所持品 メリケン粉3袋 『超』『魁』ライター】
【他にも色々と必要なものをさがしに移動する】
苦渋の選択(1/2)
「一体・・・その怪我はどうしたんだ?」
「・・・・・わかりません」
「私と会った時にはもう血が流れてたの」
ハクオロはユズハの怪我の酷さに焦りを感じながらも、状況確認を怠らなかった
(とりあえず命に別状はなさそうだが・・・このままにしておく訳にも行くまい)
「とりあえず、左足を見せてくれるか?」
「はい・・・」
(命に別状はないようだが・・・出血が激しすぎる)
ハクオロはユズハに近寄り、足の怪我の状況を確認すると立ち上がった
「ことみ・・・ユズハの事をしばらく見ていてもらえないだろうか?」
「うん。でも、何処に行くの?」
「このままではユズハが危ない。怪我に効きそうな薬草を探してくる」
(とりあえず・・・あの刀は持ち運ぶには不利か・・・今の所、置いて行っても問題はないな)
苦渋の選択(2/3)
「私、薬なら持ってるよ」
ことみは既に立ち去ろうとしているハクオロに向かって言った
「何?それは一体何処にあるのだ?」
「あっち」
ことみが指差した方向は先程までハクオロが座っていた叢なのだが
確かに皆に支給されたバッグと同じものが二つ置いてあった
「一つは私のだが・・・もう一つはことみの物なのか?」
「うん・・・中身は非常用の救急セットだったの」
「そうか・・・それは良かった」
ハクオロは内心、ほっと溜息を付き、バッグの方に向かって歩こうとしたが、
それをことみが遮った。
「誰か・・・あそこにいるよ」
「む?私には何も見えないが・・・」
ハクオロがそう言った矢先、叢から出てきたのはライフルを構えた
芳野祐介(98番)だった。
「・・・彼が持っている物は危険な物なのか?」
重火器を知らないハクオロに取っては祐介の持っているライフルは
未知の物であり、武器であるかどうかの判断すら付かなかった
「あれは多分・・・M14型ライフル・・・全長112cmで装弾数は20発、M6銃剣も装着できるし
フルオート射撃も可能なライフルだから・・・結構危険だと思う」
「そうか・・・」
(正直、ライフルとやらは良く判らんが・・・危険な武器の部類に入るのであろうな・・・
それにあの男、なにやら危険な気配が漂っている・・・ユズハもいることであるし
接触を図るのは危険過ぎるか・・・しかし、このままではユズハが危険だ・・・
自分だけ危険を冒して取りに行くのも良いが、万が一失敗したら危険過ぎる
やはり・・・ここは諦めるべきか)
「・・・とりあえず移動するぞ。よいか?」
ユズハの事も含め、少し考え込んだ後にハクオロは意を決して立ち上がった
「???救急セットはいらないの?」
「今あの男と接触を図るのは正直言って危険過ぎる・・・刀も置いていくことに
なってしまうがこの際だ、仕方がないだろう。ユズハ、もう少し我慢してくれるか?」
「はい・・・私の事はお構いなく」
「よし、では私が背負おう。そちらの方が早いだろうしな」
ユズハを背中に背負い、3人は移動を開始した
【ハクオロ 大刀は南海岸沿いの叢の中に放置(バッグは所持) 木の棒所持】
【ことみ 救急セット 海岸沿いの叢の中に放置(バッグごと放置)】
【ユズハ 左足負傷 装備不明】
「おと〜さん」
その少女は、きょろきょろと辺りを見回す。
「おと〜さん、おね〜ちゃん」
耳と尻尾が元気なく垂れ下がる。
「…う〜」
アルルゥ(04)は途方に暮れていた。
手には何も持っていない。
重かったので、バッグはその辺に置いてきてしまった。
「ユズっちいない、カミュち〜いない…」
てぺてぺと森の中を歩く。
その足取りは思い。
森を歩くこと自体は苦にならない。
だが近しい人間が誰もいない一人ぼっちの状況は、恐怖となってアルルゥを包み込みつつあった。
自然、足取りは重くなった。
と…
ヒクッとアルルゥの鼻が鳴る。
「ん〜」
ふらふらと何かに導かれるようにして歩き出した。
その先には…
「あった」
蜂の巣。
アルルゥの大好物だ。
さっきの落ち込み様はどこへやら、パタパタと尻尾が振り回された。
「んふ〜」
にま〜っと笑顔を浮かべると、蜂の巣を取ろうと手を伸ばす。瞬間――
――ズガンッ
その蜂の巣が吹き飛んだ。
よほど驚いたのか、ビクーンとアルルゥの身体が硬直する。
「…外れたわ。なかなか思うようには当たらないわね」
女の声。
その声が聞こえるやいなや、アルルゥは脱兎のごとく逃げ出していた。
「待ちなさい!」
女は後を追おうとするが、
「痛っ!」
手首を押さえてその場にうずくまった。
手首が痺れ、関節に鈍い痛みが走っている。
「…強力だけど、そう何発も撃てないわね。この銃」
杜若きよみ(黒)(17)は、そう一人ごちる。
マグナムの反動はきよみの手首には強すぎたのだ。
さっきの銃弾が外れたのも、サクヤ(41)を殺害したときの痺れが残っていた為だった。
アルルゥが逃げた方を見る。
その姿は、すでに木に隠れて見えなくなっていた。
「逃げられちゃったか。まあいいわ、最終的に私が残っていればいいんだから」
全員自分で殺す必要はない。
そう考えると、きよみは銃をしまい、歩き出した。
「けど今の子、すぐ逃げだした判断力といい俊足といい、結構逞しく生き残るかもね」
「う〜」
アルルゥはまだ走っていた。
「おと〜さん、おね〜ちゃん」
びっくりしたのだ。あの音に。
逃げなければならなかったのだ。飛び出してきた蜂から。
きよみ個人のことは、アルルゥはまったく認識していなかった。
「う〜」
まだ追いかけてくる数匹の蜂から逃れる為に。
アルルゥはもう少し走り続けなければならなかった。
【04 アルルゥ 所持品:なし】
【17 杜若きよみ(黒) 所持品:違法改造マグナム(残り3発、替え弾6発) 銃の反動で手首に痛みあり】
>>154に補足・・・最後の行コピペわすれてた。・゚・(ノД`)・゚・。
【ハクオロ、ことみ、ユズハ 東へ移動】
ついでに苦渋の選択(3/3)です。疲れてるのかな・・・俺__| ̄|○
160 :
定時放送:04/05/15 19:23 ID:M0J8LkPU
『参加者の諸君、ご苦労。なかなかに盛況のようで、私も胸を撫で下ろしている。
さて、ここまでの経過をお伝えしよう。
死亡者は11名出ている。
11番、太田香奈子。19番、柏木千鶴。32番、霧島佳乃。41番、サクヤ。44番、芝浦八重。
51番、住井護。58番、月宮あゆ。69番、柊勝平。76番、藤林椋。88番、美坂栞。96番、柚木詩子。
以上の11名。生存者は89名だ。
勝利者への報酬は絶対である。どうか精励されたい。以上』
森の側道を歩いているのは伏見修二(77)
やる事は決まっていた。
亮を探し、主催者達に抗う為の仲間を集める。
あいつの事だ、同じ答えを導き出しているに違いない。
手に握られているものを見る。
支給された武器は玩具のような拳銃。
だが、力を封じられた俺にとって唯一身を守る手段であることに違いは無かった。
炸裂音が轟き、続いて木々の倒れる音が響く。
俺は身構えたが、その音は木々の向こうから聞こえただけで俺を狙ったものではないようだ。
暫くすると森の奥から一人の少女が飛び出してきた。
大急ぎで走ってきたのだろう、息が荒い。
手に握られたものはスケッチブックだろうか? 少なくとも武器には見えない。
少女は俺に気付いたらしい。 2、3歩後ろに下がると大慌てで何かを書き出した。
スケッチブックには一面を使った大きな字で【助けて欲しいの!】と書かれている。
それを見て気付く。 俺の手には銃が握られたままだ。
「大丈夫、俺はゲームに乗るつもりは無い。」
そう声をかけ、銃を構えた手を下ろして敵意がない事を示すと少女の顔に安堵の表情が浮かぶ。
しかし、すぐにその表情は曇り少女は更にスケッチブックに書き殴った。
【追われているの】
【散弾銃を持っているの】
少女のスケッチブックから事の次第を読み取った俺は少女の手を取り、少女が出てきた方と逆側の森に身を隠した。
注意を向こう側に向けたまま少女に声を掛ける。
声が出せない事は筆談している段階でわかるからあえて聞く必要もない。
「俺は伏見修二。 君はなんて名前だい?」
さらさらとペンの走る音、すぐにスケッチブックが差し出される。
【上月澪なの】
さらにペンは走る。
【バッグを置いてきてしまったの】
【なんとかこれだけは持ってこれたの。】
なるほど、言われてみればバッグは何処にも見当たらなかった。
【早くみんなに会いたいの・・・】
最後に書き足された一文を見て俺はこの少女を守る事を決意する。
正直、主催者側と戦う為の戦力にはなりえないだろうがそれでも安全を確保してあげることぐらいは出来るだろう。
「君を追っていた相手は散弾銃以外持っていたかい?」
そう尋ねると澪はふるふると首を振った。
俺はそれだけ尋ねると神経を道の向こう側に集中させた。
散弾銃を持つ相手を奇襲するにしてもやり過ごすにしても森から出てきた一瞬を先に捉えなければいけない。
十数分の間向こう側注視していたが、誰かが来る気配は無い。
「どうやら大丈夫のようだな・・・ どうやら追跡を諦めたみたいだ。」
俺はそう言いながら振り返ったその瞬間。
ザシュッ・・・・・・
(なっ・・・)
肉を切り裂く音。
体を伝う熱を感じる。
そのまま振り向く。
赤く染まった大きなナイフ。
そしてそれを持つ澪。
くずれおちる、おれの・・・カラダ・・・・・・
一枚の紙きれに書かれた文字。
【ゴメンね、私は帰りたいの。】
ナイフについた血は彼の服で拭った。
欲しかった銃を手に入れる事は出来た。
私は修二のバッグを掴んでその場を立ち去った。
(隠してきたバッグをとりに行かないといけないの)
澪が最後に残した文字。 修二は見ることが出来たのだろうか?
それは誰にもわからなかった。
【所持武器:クレイモア 残り4個 イーグルナイフ】
【修二の配布武器レミントン・デリンジャー(装弾数2発・予備弾22個)を入手】
【77番 伏見修二 死亡】
【残り88人】
スマソ、補足事項あった
【アルルゥのバッグはその辺に放置】
「む、これは……木剣……なのか?」
坂上蝉丸は、支給武器を見て、そう呟いた。
自らの半身とも言うべき跋扈の剣ほどではないにしろ、刀が支給されているならば
影花藤幻流を極めた蝉丸にとっては天の恵みだった、が―――
彼が木剣と呼んだ物は直径30センチほど、長さは1メートル50センチはあるだろうか。
それは木剣と言うにはあまりに大きすぎた。
大きく、太く、重く、そして大雑把すぎた。それはまさに丸太だった。
「…………どうすればいいんだ」
素振り用の木剣でも、このような大きな物は持ったことが無い。
(これをいまの俺が使えるのか―――?)
蝉丸は両手で抱えるような形で、丸太を持ち上げ―――
「はあっ!」
ズン―――!
近くの木を突いた。衝撃で枝が揺れ、葉が落ちる
手に軽く痺れが来るが、丸太を落としてしまうほどではない。
仙命樹による力は制限されているとは言え、日々のトレーニングは欠かしたことの無い身体だ。
多少の重さはあるものの、これならば十分使いこなすことができると感じた。
そして、隣の木にも一撃加える。
ズン―――!
「ひゃあ!?」
今度は、木の上から声がした。
葉に混じって鳥の羽が落ちてくる。
(!? 鳥……? いや、野性の鳥ならば、飛び立って逃げている筈だ)
(それにいまの声は鳥ではなく人のもの……)
蝉丸は木の上を見上げた、枝葉が多く、様子が見渡せない。
人が木の上に隠れているのであろうか?
(仙命樹の力が無くなってるとはいえ、俺に先ほどまで存在を悟られないとは……)
ズン―――!
もう一度木を揺らす。
「はわわっ!?」
間違いない、人の……女の声だ。
ズン――――――!!!
今度は先ほどまでよりも力を込めて、木を揺らす。
「きゃーーーっ!」
悲鳴と同時に、人間が落下して落ちてきた。
蝉丸は丸太を捨て、人影を抱きとめる。
天から降ってきたのは……漆黒の翼が生えた少女。
しばらくの間少女は動けず、ただ蝉丸の腕の中で固まっていた。
そして、ようやく口を開いた。
「あ、あわわわわ……お、お、ね、姉さま……
じゃなくて……お、お、お願いだから、こ、ころ、ころさな……」
「手荒な方法で落として驚かしてしまったようだな、すまぬ。
だが、静まれ。俺はお前に危害を加える気は無い」
「え……? ホ、ホントぉ……? おじ様はいい人なの……?」
蝉丸は苦笑した。
(おじ様、か……肉体年齢はそんなに経っていないのだがな)
「ああ、弱き者を護るのが俺の役目だ
俺の名は坂神蝉丸……お前は?」
「カミュ……よろしくね、蝉丸おじ様っ!」
【坂神蝉丸(37) 支給品 丸太】
【カミュ(25) 支給品不明】
【2人で行動開始】
【残り88人】
「あのね、それで…」
七瀬彰(66)と梶原夕菜(21)森の中を歩きながら会話していた
「へえ、その、そうちゃんって子は梶原さんが育てたようなものなんだ」
「あのね彰ちゃん、さっきから気になってたんだけど、梶原さんって呼ばないでほしいの」
夕菜はすこし厳しい顔をして言った。
「あ…ごめんなさい」
少し子供っぽい所もあるが、すごくいいお姉さんな夕菜に怒られ、彰はしゅんとしてしまった。
すると夕菜はいつもの笑顔に戻り
「あ、怒ってるんじゃないよ、下の名前で呼んでほしいなって」
「えっと、じゃあ、夕菜…さん?」
彰の顔が少し赤くなる
「うん!どうしたの?彰ちゃん」
ぱあっと夕菜の顔が明るくなる
「え、あはは…呼んでみただけ」
「ふふふ、そっか」
狂気溢れるこの島で、僕達周りは、とてもあったかい空気なんじゃないのかな、と彰は思った
「…あのね、本当は姉さんって呼――」
夕菜が言いかけたその時、
『参加者の諸君―――』
嫌ったらしい声がした。そしてソイツは死亡者を読み上げた。
『――――どうか精励されたい。以上』
彰は、愕然とした、
―――11人…まだ数時間しかたっていないのに、11人も死んでるんだ…狂ってる…
これは、殺し合いだ、それを深く思い知らされた。
唯一の救いは、冬弥とはるかがまだ生きていることだった。
夕菜のことが気になり、隣を見た。夕菜は、黙祷をしていた。彰も、黙祷をした。
一分くらいたっただろうか、二人とも黙祷を終えた。
「そうちゃんは…いなかったよ」
夕菜が、ぽつりと呟く
「そう…」
彰はよかったねとは言えなかった。十一人の名も知らない人になんだか申し訳なくて…おかしな話であるが
「私、すごく幸せだと思うの」
少し、間があって夕菜がそう言った
「え――?」
彰は、この状況でその言葉をいえる夕菜を一瞬不思議に思った
「だって、こんなにおかしいこの島で、こんなに優しい彰ちゃんと会えたんだもん」
少し泣きそうな顔で、けど笑いながら、夕菜は言った。
きれいな、顔だった。
「僕だって、夕菜さんと出会えてよかったよ。姉さんが、もう一人できたみたいだよ。優しい姉さんができたのは初めてだけどね」
すると、夕菜がぱぁっと明るくなり。
「彰ちゃん!」
といって抱きついてきた。というより彰の頭を夕菜胸の辺りに押し付けるようだった。
「わっちょっちょっと…」
もちろんこういったことに免疫のない彰はじたばたと抵抗した
「彰ちゃん、ありがとう姉さん。とってもうれしいよ」
彰の頭をなでながら言う。
これは、きっと姉が弟に抱きつくものと一緒のものなんだと、彰は思った。抵抗するのを止めた
「うん…ありがとう。姉さん」
彰の顔に水が降ってきた。見ると、夕菜が涙を流していた。
夕菜は、
「あのね」
さっき、狂気の放送にかき消された言葉を
「彰ちゃん、私のこと」
今
「姉さんって、呼んでほしいの」
言った。
「うん、姉さん」
七瀬彰の四人目の姉が、今、誕生した。
【七瀬彰の梶原夕菜に対する人称が『姉さん』に】
サクヤ。
その名には聞き覚えがあった。
かつて聖上が一度、「皆には黙っておいてくれ」と言って語ってくれた、クンネカムン皇、アムルリネウルカ・クーヤの侍女。しかし、彼女はこのどこまでも理不尽な島で命を落としてしまった。
(やはり…この戯事に「乗って」しまった者もいるのですね…)
岩だらけの丘陵地帯を抜けたベナウィ(082)は、それと同時に聞こえてきた放送を耳にし、それが知らせた事実に嘆いたが、その反面、サクヤ以外に彼の知る名が無かった事に、僅かばかりの安堵も覚えていた。
彼のよく知る者──オボロとカルラの両名が、既に「乗って」しまった事も知らずに。
放送より少しして、島を海沿いに更に北へと進んでいたベナウィの視界の先に、切り立った──しかし、例えそこから落ちても命に別状は無いであろうぐらいの岸壁に、一件の小屋が見えた。
(あれは…?)
周囲に他の建造物も、遮蔽物と呼べる程の物も無い位置に建つその小屋は、周囲に気を配りながら近付くにつれ、段々とその姿が明らかになってきた。
頑丈な木材で組み上げられ、派手な装飾等は一切無い、彼の知らない造りの、二階建ての小屋。それは、まさに『別荘』と呼ぶに相応しい雰囲気を醸し出していた。
そして、
(──中に誰か居るようですね。一人……二人……)
その別荘の入口近くまでベナウィが近付いた時、彼の感覚が別荘内から漂う人の気配を感じ取っていた。
【082 ベナウィ 装備:槍(自分の物)】
【現在位置:島北北西の岸壁に建つ別荘前。別荘内に人の気配×2】
【残り88人】
ぶつかる出会いはドラマチック
「ここまで、ハア、来れば、大丈夫、ゼイ、だろうな。」
1時間近い全力疾走を経て、藤田浩之(74)はようやく腰を降ろした。息は弾み、汗は流れ、靴も少し傷ついている。そんな中でもサクヤのバッグを手放さなかったのは、ほとんど無意識下の行動だった。
「ええと、俺は・・・そうだ、あかりを探してたんだったな。」
酸欠で鈍った思考は、体力とともに少しずつ回復していく。5分ほどの休憩の後、浩之はようやく手に持ったバッグへと意識を向けた。
「中身は、と。結構色々入ってるな。」
カラフルな糸や毛糸に布、鋏、大小の針、針山、指貫、ボビンに携帯用ハンディミシン。
所謂裁縫セットである。だが、それよりも浩之の目を引いたのは・・・
「おお、幻のカツサンド!『水』もあるじゃねえか。」
そう、サクヤに与えられた食料は東鳩高校購買部のカツサンドだった。ついでに飲み物は浩之にとっての『水』、つまりカフェオレである。どちらも浩之の大好物だ。
浩之の次の行動は決まったと言って良かった。
「ふう、食った食った。」
10分後、食事を終えた浩之は改めて行動を開始した。
ミシン、糸、布で小さ目の巾着を作り、硬貨を詰めて長い紐を付ける。武器一つ完成。
針山に紙幣を縫い付ける。ミシン油を垂らせば火種として使えるはずだ。紙マッチはサイフに入っていた。
革のサイフを鋏で切り裂き、服の膝や肘の部分に縫い付ける。これで転んで擦り剥いたりする危険性は減った。
布で作った袋に毛糸を詰めて衝撃吸収剤も作ったが、これはあまり役立ちそうに無かった。まあ、枕として使えば多少は回復が早くなるだろう。
家庭科の授業で習った知識だけでは、この程度が限界だった。残りはあかりと合流してから役に立ってもらうことにして、浩之は次の行動について考え始めた。
(がむしゃらに歩き回ってもあかりに会える可能性は低いな。人に訊いて回るのも良いだろうがさっきみたいな事にもなりかねねえ。とりあえずは知り合いを探すとするか。)
とりあえずの指針を決まり、ようやく歩き出そうとしたところで・・・突然の大音に再び立ち止まった。
『参加者の諸君、ご苦労。なかなかに盛況のようで・・・・・・どうか精励されたい。以上』
突如始まった放送の中に知り合いの名前は無かった。自分とあかり意外では確かセリオ、志保、理緒ちゃん、レミィが来ていたはずである。そのことに安堵して再び歩き出そうとして・・・
ドカッ
「きゃあっ!!ご、ごめんなさいごめんなさいお怪我はありませ・・・え、藤田君?」
背後から走ってきた雛山理緒(71)のタックルによって、顔面から地面に倒れこんだ。
【74 藤田浩之 小銭入り長紐巾着袋、火種、クッション、裁縫道具所持 服に当て布】
【71 雛山理緒 藤田浩之に遭遇】
書き忘れ。
浩之の所持品には他にクレジットカードがあります。
「はい」
邦博の前にどんぶりが置かれる。
「ああ」
邦博は箸を取って蕎麦を啜った。邦博の向かいの席に恵美梨が座る。
森を抜けると人気のない市街があり。邦博達は民家の内の一軒に入り、食事をとっていた。
味は蕎麦屋をしている千佳の父親には遠く及ばないが、不味くはなかった。
顔を上げると、恵美梨が邦博の顔を見ていた。
「何だ?」
「いや、どうしてだろうと思って」
恵美梨はぼんやりと宙を見ながら呟く。
「初めて邦博を見たとき、一瞬、ほんの一瞬だけど、お兄ぃに見えて。お兄ぃが助けに来てくれたんだって……」
お兄ぃ? 兄貴の事か?
「似てるのか?」
「全然。顔も体格も全く違うし。無愛想なとこと煙草が好きなとこぐらいかな、似てるのは」
「そいつは?」
「この島のどこかに……」
と言って恵美梨はうなだれた。
「ブラコンなんだな」
何となくそう思って邦博は言った。
「はぁ!?」
恵美梨は顔を上げる。
「ちっがーう!! ブラコンなんてあるわけないじゃんっ。サイアクサイアク」
何が気に入らないのか、恵美梨が喚いた。甲高い声が頭に響く。
「うるせぇ」
「いい!! アタシはお兄ぃの事なんかこれっっっっぽっちも心配なんかしてないんだからぁ!!」
「……ちっ」
女は苦手だ。男なら殴って黙らせるが、何故か殴る気が起きない。
邦博は舌打ちをして蕎麦を啜った。
そして食後。
「それで、邦博はこれからどうするの?」
「あ?」
特に考えていなかった。考えていたのは、腹を満たす事ぐらいだ。
「アタシを助けたって事は、殺し合いに参加したわけじゃないんだよね」
「違げえ」
助けようとしわけじゃない。ただ単にあの女がムカついて、睨んだら相手が勝手に逃げただけだ。
ただこれからの事を考えると、何故か心が重い。
「――アタシ、人を捜そうと思うだけど。知り合いがいるから、後、ま、お兄ぃも」
これからどうするか?
「――だから、で、――これが」
この島に来るまで邦博は戦いに明け暮れていた。プロクシの戦いだ。
プロクシの戦いは精神の高い。プロクシが傷つけば心が傷つく。やられれば廃人にされる可能性もある。
そういう意味では、この島に来た所で命の取り合いという状況はあまり変わらない。
だが今はプロクシが使えない。
自分のプロクシを強くする一番てっとり早い方法は、他人のプロクシを破壊し吸収する事だ。
そうやって、邦博は何人ものプロクシを破壊し、廃人にしてきた。
それは総て、己のプロクシを強くする為。
そして松浦亮やあのクソガキ麻生春秋のプロクシをぶち壊す為だった。
そうやって走り続ける事で、邦博は己の心の揺らぎを隠してきた。
だが今、プロクシが使えない。強制的に立ち止まらされている。
そればかりではない、かつて邦博が殺したはずの、関東圏では最強と呼ばれたプロクシ使い、パールホワイトの芝浦八重が何故か生きていた。
殺したと思っていたのに。俺がパールホワイトを殺した男だと、そう信じていたのに。
あの日、麻生春秋に敗れ、嘲られ、情けをかけられたあの日。屈辱にまみれ涙を流したあの日から邦博は強くなる事を願った。
奴らに復讐する為に。
だが何故、プロクシによる復讐を求めたのか。あの頃はプロクシであいつらを倒す事しか考えていなかった。
殺すだけなら、それこそプロクシを使わなくたってできる。
復讐なら今だって、いや、奴らがプロクシを使えない今こそが好機ではないのか。
それなのに、気が進まないのは何故だ?
「くそっ」と邦博は呟いた。
立ち止まっている。立ち止まっているから、心が揺らぐ。いらない思考が浮ぶ。迷ってしまう。
――邦博って自分が思ってるほど強くないよ。
麻生春秋の言葉。時折、悪夢のように蘇る。
――邦博はさ、怖かったんだよ。
――いつも怒ってるし、おかしな奴だなーって思ってたけど、そうか恐怖を怒りに変えてそれをエネルギーにしてたんだ。
――本当、怖がり屋だなあ。パールホワイトだけじゃなく、昨日のあいつにも、PKにも、この俺にさえ怖がってるもん。
違う。俺は怖がってなんかねえ。
頭の中にあいつの顔が浮ぶ。あの醜い笑顔を浮かべ、さも親しげに、うれしそうに、バカにしたように話し掛けてくる。
「今だって、怖いんだよね、邦博は」
ガキが。うるせえ。黙りやがれ。
「怖くて怖くて、殺されるのが怖くて、だからそんな風に揺れてるんだよね」
「プロクシが使えないから、怖いんだ。プロクシが使えないから、戦えない。走り出せないんだろ。だって邦博、臆病だもん」
「ちげえ」と邦博はうめいた。
「え?」と女の声。
加速しろ、加速しろ、加速しろ。加速すれば、心は揺れない。
迷うな、考えるな、止まるな。走り出せっ。
邦博は心の中で叫んだ。
決めた。俺は決めた。それならてめえを殺してやる。プロクシなんざ関係ねえ。
そうだ、そうだ、そうだ。俺はあの日てめえらをぶっ殺してやると誓った。裏技でも何でも使って殺してやると決めた。
麻生春秋、てめえを見つけ出し、絶対ぶっ殺してやる。
「邦博? 邦博?」
てめえだけじゃねえ、松浦亮もパールホワイトもぶっ殺してやる。気に食わない奴は全員、ぶっ殺してやる。
俺は臆病じゃねえ。俺は弱くねえ。俺は戦える。プロクシなんざなくたって戦える。
「――くにひろ、邦博っ」
「あ?」
その声で、冷静になった。
顔を上げる。
千佳。
じゃない。当然だ、あいつはこの島にはいない。恵美梨が邦博を見ていた。
「どうしたの? アタシの話聞いてた?」
「あ?」
見ると、机の上に小さな液晶テレビのような物が置かれていた。
「何だそれ?」
「はあ、聞いてなかったんだ。もう一回言うけど、これね、レーダーみたいなの」
「レーダー?」
液晶の上に、小さな光点が幾つかある。
「多分、この真ん中の点二つがアタシと邦博。周りにあるのが、誰か」
「あ? どういう事だ?」
結論だけ言え。
「つまり、これで近くにいる人の居場所がわかるみたい」
居場所がわかる?
「具体的に誰かはわかんないけど」
「便利だな」
これなら、クソガキを手っ取り早く見つけられそうだ。
「うん、だからこれでみんなを見つけようかと思って」
「寄越せ」
「は?」
「そいつを、俺に寄越せ」
「はあ!? 何言ってるの? 訳わかんないだけど」
「……ちっ」
やはり女は、それも女のガキは苦手だ。男ならかっぱらうだけなのに。
「邦博も、誰かを探したいの?」
「……ああ」
「そ。なら一緒に探そうよ」
「は?」
「結局、この光が誰かはわからないから一つずつ確かめていくしかないし、そうしてるうちに邦博の探している人も見つけられるよ」
「……ちっ」
邦博はポケットからもみくちゃの煙草を取り出した。お気に入りのシルバーのジッポで火を着ける。
「邦博?」
邦博は煙を肺まで吸い込んだ。
「……いいだろ」
邦博は答えた。
俺が麻生春秋を見つけたとき、こいつはどうなるだろうかと、そんな事を考えながら。
【1 浅見邦博 恵美梨と行動する事を決定 支給品不明】
【29 木田恵美梨 支給品 レーダー(但し秋生のとは性質が異なり、25メートルまで)】
『――58番、月宮あゆ。69番、柊勝平。76番、藤林椋。88番、美坂栞――』
その放送を聞いた瞬間、二人――春原と名雪は、凍りついた。
「嘘だろ…?」
「嘘、だよね…?」
――返事をする者は、いない。
『――勝利者への報酬は絶対である。どうか精励されたい。以上』
最後にそれだけ言い残して、放送はプツッという音と共に切れた。
「あゆちゃん…栞ちゃん…?」
「柊ちゃん…藤林…?」
二人は、ただ呆然と、呼ばれた名前を呟く。
「……」
「……」
――そして、沈黙。
「……」
「……」
言葉を失った二人は、そのまま立ち尽くしていた。
重苦しい沈黙が、三人を包みこむ。
その中で唯一凍り付いていなかった芽衣は、立ち尽くす二人にただおろおろしていた。
慰めようにも、言葉が見つからない。
なんと言えば良いのだろうか?
どんな風に言えば良いのだろうか?
いや、それ以前に、二人と同じ痛みを味わっていない自分に、声をかける権利などあるのか?
(わからないよ…)
どうしようもなく、空を見上げる。
空。
青い空。
ぽつぽつと浮かんでいる雲。
――だが、芽衣にはそんな光景など見えていなかった。
何も見えない。
見えるのは、闇のみ。
(どうしたらいいの…?)
泣きたくなってくる。
二人を元気付ける方法が、全く思いつかない。
それだけではない。
自分こそ助かりはしたが――その間に、11人もの人間が死んでいた。
それが、怖かった。
(どうしたら…)
――ふと、一人の男の笑顔が脳裏を過ぎる。
休日に商店街を一緒に歩いた、兄・陽平の数少ない友人の一人。
岡崎、朋也。
(岡崎さん…)
――そうだ。
彼なら、何と言うだろうか?
彼なら、こんな状況で落ちこんでいる友人に、何と言って励ますだろうか?
彼なら――
――あ。
そうか。
それだけでいいんだ。
たったそれだけで。
難しく考える必要なんかない。
だって――
芽衣は決意を込めて、
「お兄ちゃん…」
呼んだ。
「……」
――返事はない。
「お兄ちゃん…」
「……」
「お兄ちゃん…」
「……」
「お兄ちゃん!」
びくっ!
痺れを切らした芽衣の叫び声に、春原と名雪が肩を震わせる。
「な、なんだ、芽衣…?」
「お、大声だしちゃ、い、いけないよ、芽衣ちゃん…」
慌てて取り繕ったことがばればれの引きつった笑顔で、二人は振りかえった。
でも――芽衣は、それに落胆しても、諦めはしなかった。
「お兄ちゃん…」
芽衣は再び名を呼ぶと、春原の元へ駆け寄る。
そしてそのまま――抱きついた。
「め、芽衣…?」
「お兄ちゃん…私、お兄ちゃんと帰りたいよ…」
「……?」
芽衣のくぐもった声に、春原は戸惑う。
「ううん――お兄ちゃんだけじゃない。名雪さんも、岡崎さんも、みんなと一緒に帰りたいよ…」
「芽衣ちゃん…」
名雪が、わずかばかり驚いたように芽衣を見た。
よく見ると、春原の胸の辺り、つまり芽衣の眼が当たっている部分に、しみができている。
「お兄ちゃん…」
「……」
春原は、最初は狼狽していたが――ひたすら「お兄ちゃん」と繰り返す芽衣の声を聞くうちに、段々その表情が変わっていった。
「お兄ちゃん…」
「…安心しろ、芽衣」
「え?」
春原が突如口を開いたのに驚き、芽衣は顔を上げる。
「僕が…僕が、こんなゲームぶっ潰してやるから」
「あの篁とかいうおっさんをぶっ潰して、それで…きっと、みんなで帰れるから」
「お兄ちゃん…」
「だから、まずは泣き止めって。な?」
春原の表情は、完全にいつもの笑顔に戻っていた。
「…本当? 本当に、みんなで帰れる?」
「だから安心しろって…僕を誰だと思ってるんだい? あの伝説の春原陽平だよ?」
「ふふっ…何それ…」
芽衣は、笑った。
春原も、笑った。
空を見上げる。
空。
青い空。
ぽつぽつと浮かんでいる雲。
それらを隠していた闇が、晴れたような気がした。
自分の気持ちを、素直にぶつける。
それだけでいいんだ。
たったそれだけで。
難しく考える必要なんかない。
だって――
兄妹なんだから。
「でも、伝説って…遅刻の数が史上最大とか?」
「爽やかに決めたところでそんなこと言わないでくれますかねぇ!(゚皿゚;)」
「だってそれくらいしか思いつかないし。岡崎さんに聞いたことだけど」
「え? 春原君遅刻多いの? 私と一緒だよ〜」
「僕結構いいこと言いましたよねぇ!(゚皿゚;)」
「え、名雪さんもそうなんですか?」
「うん、いつも祐一に起こしてもらってるんだよ」
「無視すんなああああああ!! (゚皿゚;)」
↑に追加ね
【春原兄妹、名雪 行動方針:打倒管理者】
葉月真帆(68)は、その場でくるりと一回転。
使い慣れたスティックを演舞のように振り回し、ぴたりと止まると上体を倒し、足を交差させ、
お尻を向けて、スカートをちらりと持ち上げた魅惑的な状態で、ぱちんとウインク。
「じゃ〜ん、下はスパッツぅ〜☆」
と、ポーズを決めてはみたが、見せる相手はどこにもいない。
せっかく着替えたのに。
「はぁ……」
無理に上げてみたテンションも、ひたすら空回りだった。
彼女の支給品は、愛用のラクロスユニフォーム一式セット。
スティックは金属製で、多少は攻撃力がありそうだが、三つついてきたボールの殺傷力は、皆無だった。
かといって、殺傷力があったとしても、とても使う気にはなれなかったのだが。
「功センパイ、恵美梨ちゃん、センパイ、どうしているかな……」
心細げに呟いて、知り合いを求めて森の中を彷徨う。
殺し合い、爆弾、銃、願い。その全てが、彼女にとってはどうでも良かった。
どうすればよいかも分からなかった。全部が全部、理解できない。
あんな簡単に目の前で人が死んだ。
昔、祖母が死んだときに、驚くほどその体が冷たくなっていたことを思い出す。
それが恐くて悲しくて泣いたことを、鮮明に憶えている。
思い出すだけで、震えた。祖母の死も、名も知らぬ男性の死も。
冷たさが全身を侵してくる。スティックを痛いほど握りしめても、不安はいや増すばかりだ。
集まった人達の中には、屈強な男性も多かった。明らかに人間でないものもいた。
そんな中に混じって、自分が何ができるだろう。
ただ無惨に蹂躙され、殺されていく自分が容易に想像できる。
体がどうしようもなく震えた。
「みんなに会いたい……会いたいよ……」
か細い声が、森の中に掻き消えていく――その先で、ガサリと、葉擦れの音がした。
「だっ、誰っ!?」
「ふみゅっ!?」
なにかが潰れたような声が、返ってきた。
声の主が微かに身じろぎするたびに、小さな茂みが音を立てる。
おそらくはごまかそう、やり過ごそうとしているのだろうが、とうに所在はばれている。
スティックを構えた真帆も、動こうにも動けない。
恐怖がお互いを縛り付け、一分ほどの時を経て、やがて、
「ふみゅううぅぅぅ……」
という、力の抜けるような泣き声が、真帆の呪縛をほどいた。
「あ、あのー……」
「なっ、なによぉ! あっち行ってよっ! あたしはここにいないんだからっ! いないったらいないの!
あたしはこみパのくいーんなんだからねっ! ちょおちょおちょおえらいんだからぁっ!
話しかけないで、近寄らないで、殺さないで、殺さないで、殺さないでよおおおっ!」
最後の方は、完全に涙声になっていた。
自分よりももっと怯えている、おそらくは年下の少女の声を聞いて、
逆に真帆は落ち着きを取り戻し、そして、わずかに親しみを憶える。母性、と言ってもいいかもしれない。
「大丈夫。あたしはあなたを殺したりしないから。何もしないから、良かったら、出てきて?」
「……ほんとう?」
「うん。あたしもね、さっきまでずっと一人で怖がっていたから、気持ちは分かるよ。
これから先……あたし達がどうすればいいのかなんて、分からない。
分からないけど……きっと、一人でいるよりは、誰かと一緒にいるほうが、いいと思うんだ。
食料もちょっとしかないから、いつまでも隠れていられないし……なにより、寂しいから」
「……」
しばらく待っていたが、逡巡するような気配はあれど、茂みから出てくる様子はない。
真帆は寂しげに笑った。
「――ごめんね。無理なこと言っちゃったかな。じゃあ、あたしは行くから。
また……このゲームが終わったら、また、会えるといいね」
顔も見えない相手にそう告げて、立ち去ろうとすると、
「ま、待って!」
勢いよく茂みを掻き分け、出てきた少女が、タックルするように真帆にすがりついた。
「やだっ、やだっ! 行かないで、どこにも行かないでっ! 一人にしないでよおっ!
こんな所に残されて、ひとりぼっちで、ずっと震えているのなんて、いやだぁっ!」
少女――大庭詠美(13)は、涙で真帆の服を濡らしながら、叫んでいた。
「大丈夫……大丈夫だよ」
真帆は詠美の頭を優しく撫でながら、生きているその暖かさを感じた。
わけもなく、涙がこぼれた。
やがて、互いにひとしきり泣き終えて。
「え……高校三年生?」
「なによぉ」
びっくりまなこの真帆を、すねた目つきで詠美が睨む。
「いいのっ、ちょっとくらいべんきょーできなくったって、あたしにはたくさんしたぼくがいるんだからっ!」
いや、おそらく真帆が言いたいのは、知力とかそういったことではないのだが。どっちかというと、知能?
いやさ、年下か、せいぜい同い年くらいだろうと思っていた少女が、自分よりも年上だとは。
さっきまでの母親気分は何だったのだろうと、なんだかショックを受ける。
詠美は照れくさいのか、必要以上にぎゃんぎゃんとわめきながら、
「だからぁ、ともかくしたぼく共を集めないと話にならないのっ」
そのしたぼくが、下僕だと言うことを意志疎通するのに三分を要した。
「あいつらあつめて、詠美ちゃん様を救出する栄養に預からせてあげるんだからぁっ!」
ひとしきり泣いて気分が晴れたのか、詠美はすっかりもとの調子を取り戻していた。
これは栄誉かな、と真帆はなんとなくコツをつかみ始める。
「それで、えっと……あの、詠美ちゃん、でいいかな?」
なんか今さら詠美さん、とか詠美先輩、とか呼ぶ気にはなれず。
「……ほんとは詠美ちゃん様と呼ばなきゃいけないとこだけど、特別サービスしてあげる」
詠美は少々照れた様子で、妥協した。
「あはは……ありがと。それで、確認しておきたいんだけど、詠美ちゃんは、何を支給されたの?」
「スカタンガン」
「へ?」
思わず間の抜けた声が出た。
「だって、そう書いてあったんだもん」
不満げに突き出した説明書には、『スタンガン』と書かれている。
リーチは短いが、立派な武器だ。使いようによっては、大の男でも倒せるのがいい。
「うん、これ、すっごい便利だよ。役に立ちそう」
「ふっふーん、ざっとこんなもんよっ!」
真帆は思わず口走りそうになった、それにこれなら殺さなくてもすむし、という言葉を飲み込んだ。
二人はリュックをしょいなおし、元気良く立ち上がる。
「よしっ、それじゃ、友達を探しに行こうっ☆」
「ま、まぁ詠美ちゃん様をほっぽっとく頼りないしたぼくどもだけど、いれば少しくらいは役に立つわよね」
「うん、ガンバだね、詠美ちゃん!」
「え? しっぽを立てる奴?」
「はい?」
コミュニケーション失敗。
二人の言語感覚の間には、まだ深くて暗い川が流れまくっていた。
【葉月真帆(68) 支給品 ラクロスのユニフォーム&スティック&ボール3つ】
【大庭詠美(13) 支給品 護身用スタンガン】
【とりあえず、一緒に仲間を探しに行こう】
188 :
違えた道:04/05/15 22:12 ID:C2lrRGJt
「誰かと思えば――トウカかよ」
「……………オボロ、殿?」
その場では、最も似つかわしくない穏やかな風が吹いた。
「元気そうで何よりだ」
その言葉も、似つかわしくない。
「……」
一瞬の逡巡、その後トウカがゆっくりと語りだした。
「何故、こんなことを」
「……妹を、ユズハを守る為だ」
木にもたれかかるようにして少し、考えてそう言った。簡潔に。
オボロの足元にはもう物言わぬ少女の死体。
「こんなことをしても、ユズハ殿は」
「喜ばないだろうな。許してはもらえないかもしれない」
トウカが言わんとすることをはっきりそういって切ると、トウカの背後に視線を巡らす。
「その二人の女は?」
倒れている短い髪の方の一人ははっきりと死んでいるのが分かる。
もう一人のすこしウェーブがかった髪の長い方の女も、僅かながらに胸を上下しているのが見て取れた。
「お前がやったのか?」
「某は――っ……いや、そうだ。某が殺したも同然だ」
青くなるほどに唇を噛みしめる。
「そうか」
189 :
違えた道:04/05/15 22:13 ID:C2lrRGJt
オボロはすでに決断していた。
トウカは信用できる人物だ。それは分かっている。
愚直なまでに真っ直ぐなその精神。このような状況であってもそれは決して変わることはないだろう。
ユズハに会えば、きっと力になってくれる。
「もう一度問う。ユズハ殿を守る為に、このような事を続けるのか?」
「二言はない」
「たとえそれが誰にも許されなくても、か?」
「たとえそれが、地獄すらも生温い、未来永劫苦しみ続ける処であっても――」
俺の意思は変わることは無い。
トウカと、後ろで気を失っている長い髪の女を見やった。
「ならば、某は、お前を」
小太刀をすっと構える。刃先にはオボロの鋭い殺気をはらんだ眼光があった。
「倒さなければならない」
そう。たとえ、かつての仲間と矛を交えることになろうとも。
「一つだけ。ユズハに罪はない。俺が倒れれば、ユズハを――」
「全力を尽くす」
「ありがとう」
それでも、かつての仲間と道を違えるときには、胸を張って正面から受け止めようと思った。
それは今の自分の決意からすれば、馬鹿げた行為であったかもしれない。
(ユズハ、馬鹿な兄を許せ)
だがやはり、オボロにとって、彼女らも自分の誇れる仲間であったのだ。
オボロも、獲物というにはいささか頼りないナイフを逆手に構え、トウカを見据えた。
「――参る!」
190 :
違えた道:04/05/15 22:14 ID:C2lrRGJt
何も見えない闇。何も聞こえない虚無の空間。それさえも今は心地よい。
とても悲しいことが、あった気がする。
もう、何も考えたくない。
考えたくないのに。
いつしか、聞こえてくた風の音。誰かの叫び声。
もう、何も聞きたくないのに。
いやな匂い。土の匂い。草の匂い。血の匂い。
もう、何も感じたくないのに。
いやな光景。漆黒の光景。真っ白の光景。赤い光景。
血の赤。
もう、何も見たくないのに。
倒れた妹。血に染まる私の両の手。
誰かの声が私を呼び覚ます。
もう、何も知りたくないのに。
でも、私は知ってしまった。
私は、この世で一番愛していた妹を――
「いやぁーーっ!!」
こんな現実なんて、いらなかった。
こんな世界なんて、知りたくなかった。
目の前のもの、全てを否定して、消し去ってしまいたかった。
ああ、私は、何て弱い。
191 :
違えた道:04/05/15 22:15 ID:C2lrRGJt
閉じられた視界から飛びこんできたのは再び紅に染まる景色。
再び紅に染まる自分の身体。
「トウカっ!」
男の叫び声が聞こえる。
グラリと、トウカの身体が揺らいだ。
うつ伏せに倒れたトウカの背中から血が一度、噴水のように飛び出し消えた。
残ったのは、ガチリと一度、歯を鳴らした男と、両手で赤く染めた果物ナイフを膝立ちして構えた
美しいウェーブの髪の女だった。
だが赤く染まったその髪はもう、美しくも禍々しい。
【トウカ 死亡】
【残り87人】
松浦亮は考えていた。
このゲームのこと、蛍、修二、そして、もう本当にこの世からいなくなってしまった芝浦八重のことを…。
神岸あかりは走っていた
怖い。怖い。怖い。怖いっ…!
浩之ちゃんっ、志保っ、雅史ちゃんっ、みんなっ、誰かっ!
薄暗い森の雰囲気もあり、あかりの精神状態はかなり不安定だった。
どんっ、と何かにぶつかってあかりは倒れた。
頭を強く打ったためだろうか?視界がぼやけ、意識がなくなっていく。
亮は自分の背中にぶつかり倒れた少女に驚いた。すこし蛍に似ている。
声をかけてみたが反応がない。
(とりあえず、彼女が目を覚ますまではここにいるか。自分のせいで死んでしまうなんてことだけは避けたい。
それに、まだ考えないといけないことがたくさんある。)
そう思い少女の体を起こし木にもたらせ、その横に座った。
殺人…死、エゴは廃人。何が違う?わからない。願い?電波?法術?
強制、自分の身は自分で守る、人を操る、コネクト、仲間、PK、エゴ…
そういえば、まだ自分の支給品を確認していなかった。この少女が目を覚ましたとき襲われたら、もしくは「やる気」のある参加者に見つかったとき武器がないと危険だ。
「…修二のエゴ?」
出てきたものは形といい大きさといいまさに修二のエゴだった。悪く言えばただのおもちゃだが。
説明書曰く、危険ですので人に向かって発射しないでくださいだそうだ。
立ち上がり、試しに1メートルほど先にある木に撃ってみる。
キュイィィン…バシュ…
ギアは木にぶつかり、そして…めり込んでいた。
(おもちゃではないのか?)
二枚目、三枚目のギアを同じ木に撃つ…キュイィィン…バシュバシュ…
どちらも一枚目と同様にめり込んでいた。
「すごい…これがもし人に当たれば…いや、考えないでおこう」
三枚のギアは深く刺さっていて抜くのに苦労した。
亮がギアを付け直したとき修二の声が聞こえた気がした。そして、かつて、自分が八重のエゴを吸収した時と同じ感覚に襲われた。
(修二…すまん)
そして…
「ん…」
…少女が、目覚めた。
【84松浦亮 支給品:修二のエゴそっくりのおもちゃ?変化してはいません】
【24神岸あかり 亮と行動するか不明、精神不安定】
自分で自分の思考が信じられない。
なんでこんな風に思っちゃったんだろう。
民家のキッチンで、柏木初音(20)は愕然としていた。
つい今しがた、定時放送が流れてそれまでの死者の名前が読み上げられた。
そしてその中にあった、柏木千鶴の名前。
それまで、初音はどうすれば皆で元の日常に帰れるだろうと必死に考えていた。
耕一と、千鶴と、自分と、それと今一緒にいる同行者と。
怖くて震えていた自分を見つけ、励まし、一緒に行動してくれたその同行者――三井寺月代(85)は、
何か使えるものはないかと別室で家捜ししている。
キッチンでティーパックを見つけた初音は、休憩しようとお茶の用意をしており、そこで放送を聞いたのだった。
(なんで…こんな考えが浮かぶの…?)
再び自問する。
千鶴お姉ちゃんが死んだ。
この島にいる家族は残り二人。
勝ち残れるのは二人。
私と、耕一お兄ちゃんの、二人。
ちょうど、二人。
(うそ…、うそうそ!?)
皆で帰る方法は結局思いつかない。
だけど二人で帰る方法は簡単に思いつく。
千鶴が死んで、悲しい。泣きたい。それは確かだ。
悲しいはずなのに…、ほっとしている自分も確かにいる。
取捨選択の苦しみが一つ消えた。
三人以上では駄目だが、二人だけならば生き残れるのだ。
傍らに置いてある自分のバッグから支給品を取り出す。
黒く、中身の見えない小瓶。
ラベルが張ってあり、中身の名前が明記されていた。
『青酸カリ』。
初音でも、それが何か知っているほど有名な毒薬。
そして目の前には、用意したティーカップが二つ。
蓋を開けたところでハッと我に返る。
(なに…しようとしてたの、私)
恐怖する。自分の行動に。
月代がいなければ、自分は何も出来ずに、ゲームに乗った参加者に殺されていたかもしれない。
その月代を、自分は…
「初音ちゃーん、そっちなんかいいものあった〜?」
びくっと身体が震えた。
廊下の向こうから聞こえてきた声に初音の頭は真っ白になる。
「初音ちゃーん?」
「う、あ…うん、ティーパックがあったよ。ちょっと休憩してお茶にしよう?」
「お、いいね〜。そういえば喉カラカラだよ」
声と共に、月代の足音が近づいてくる。
もうすぐキッチンに入ってくる。
(どうしよう…どうしよう、耕一お兄ちゃん…)
真っ白な頭のまま、初音は考える。
冷静に見れば、この時の初音はいっぱいいっぱいだったのだ。
わけも分からずこの島に連れてこられて、耕一や千鶴と離れ離れになって…、
そして、千鶴の死を告げる放送を聞いて、まともな精神状態でいられるわけが無かったのだ。
(耕一お兄ちゃん…!)
決断。
そして、初音はその小瓶を――
【20 柏木初音 所持品:青酸カリの小瓶】
【85 三井寺月代 所持品:不明】
【初音の行動は次の書き手におまかせ】
恵美梨の持つレーダーを頼りに、邦博達は再び森の中を歩いていた。
疲れているのだろう、見ると恵美梨の顔には汗が滲んでいた。
『参加者の諸君、ご苦労――』
放送が森の中で木霊した。むかつく声だ。
「……ちっ」
『死亡者は11名出ている』
突然、恵美梨が立ち止まる。そして、空を見上げた。両手を固く結ぶ。
『44番、芝浦八重――』
邦博は顔をしかめた。
芝浦八重? あらゆるプロクシユーザーを寄せ付けなかった、最強のプロクシ、パールホワイトを持つ女が殺された?
いや、ここではプロクシは関係ない。プロクシがなければ、奴もただの女か。
春秋の顔を浮かんだ。てめえは死ぬなよ。心の中で、そう告げた。
「誰か知り合いがいたの?」
「……いや。お前は?」
「私もいなかった」
ホッとしたように恵美梨は答えた。すると突然地面に尻餅を着いた。
「あいたたた……、何だか、ホッとしたら一気に気が抜けたみたい」
恵美梨は苦笑いを浮かべた。
「貸せ」
邦博は恵美梨の荷物をひったくるように取った。
「え?」
「行くぞ」
そして邦博は歩き出した。後ろから恵美梨が追いかけてくる。
「あ、ありがと」
「黙ってろ」
「……うん」
【残り87人】
「SHIT! 逃げられました……」
美坂香里に逃げられた宮内レミイは、面白くなさそうに舌打ちした。
ひとまず、傷の治療と現状の確認をしようと近くの木の陰に座り込む。
幸い、ナイフに傷は大したことが無いらしく、ハンカチを巻いて簡単な止血だけした。
つぎに現状の確認。
「残りの弾は1発デスか……ん?」
そこにさっき自分を切った果物ナイフが落ちているのに気付く。
「OH! これはラッキーだネ」
そういいつつ、ナイフを回収し、カバンにしまう。
さて、これからどうしたものか……
ひさびさの銃を手にした興奮でむやみやたらに撃ってしまい、残弾がほとんど無くなってしまった。
予備の弾は……と思ってカバンをひっくり返してみたが、1発も見つからなかった。
さっきナイフを手に入れたといっても、ある程度相手に近づかないと効果の無い武器だ。
「何か飛び道具が欲しいヨ…」
とごちてみるが、無いものねだりをしたとこで仕方が無い。
とりあえず、レミイは簡単な落とし穴を掘って木陰に隠れることにした。
つぎに狩った人間が銃器などを持ってればいいのだが……
(でも、人間をハントできるなんてまたとない機会だネ。帰ったらDadに自慢できるヨ)
美しい金色の髪の狩人は狩りの機会を待つ。
【092宮内レミイ 所持品・ジグ・ザウエルショート9mm(残弾1発) 果物ナイフ 右手に軽症】
【レミイ、基本方針は人間狩り。当分は木陰で待機】
>>178 秋生の持ち物はレーダーじゃなくて古河早苗特製パンだよ
200 :
名無しさんだよもん:04/05/16 00:09 ID:drtKp7tV
瞬きもせず
橘敬介(055)は動かない。沢近くの木の根元に半ば倒れ込むような格好で座っている。
外傷はないが一見死体に見えなくもない。このまま誰にも気づかれずゲームが終わるのが
自分にとってのベストな展開なのかもしれない、とも思ったがすぐにその考えを振り払った。
あくまでルールに従うのであれば生き残りは二人。
あの町で見た彼女たちを思い出す。
ひとつ屋根の下で笑い合う。
今年の夏には見知らぬ青年もその中に入っていた。
…自分の場所は最初からあそこにはない。
ケーキはその青年に渡してしまった。
それでよかった。すでに自分は「生きていない」のだから。
家族。
すでに一度自分の手から消えたもの。
動くことが出来るようになったら、観鈴と晴子を探しに行こう。
あの家族を壊さぬために。
それが、今の自分の願いだ。
…敬介は自覚していない。自分の護るべき「家族」のヴィジョンの中に自分自身の姿を描かなかったことを。
『参加者の諸君、ご苦労。なかなかに盛況のようで…』
不愉快な音声が響く。あの主催者の声だ。
敬介はとっさにメモをとろうとし、改めて自分がまばたきひとつ出来ない状態であることを実感した。
そして改めて思い返す。いつもポケットに何本か入っているはずのペンが荷物を整理したときには無かった。
大腿部の同じ場所に痛みがあるのは愛用のシャーペンのせいではなく、支給品の釣り針のせいである。
しかしすでに11人。この理不尽な島で理不尽な死を遂げたものがそんなにいるとは。
『…44番、芝浦八重。51番、住井護。58番、月宮あゆ。69番、柊勝平。76番、藤林椋。…』
自分の知る名はない。音声だけでは判断できない名前もあるがが明らかに男性とわかる名前はあった。
自分が死体と誤認される確率は少しは増したかもしれない。
そしてあの放送の中に気になる数字もひとつあった。51番、住井護。
名前で判断するより前に敬介はそれが男性の名だと確信していた。自分のひとつ前に出て行った少年だ。
…控え室は薄暗く、切迫感が漂っていた。
参加者のうち25人がここに集まっている。しかし口をきくものは一人としていない。
管理者側の人間の高圧的な態度もあいまって、この狭い部屋にこれから起こる狂宴の芽が
凝縮されているような気がしてならなかった。
観鈴が出て行ったあと、敬介は下を向いていたが、ふと隣に目をやると観鈴とさして変わらない年頃の
少年が左袖手首を熱心にいじっていた。何かを押し殺しているような表情をしている。癖なのだろうか。
かちり。
それはこの音のない部屋の中ですら可聴域すれすれの、ほんの小さな音であった。
少年の口が弧を描くのと51番の呼び出しとがほぼ同時。そしてその数分後に自分はドアの前に立っていた。
『…勝利者への報酬は絶対である。どうか精励されたい。以上』
それがあの少年の最後の笑みだったのかもしれない。敬介は気分が重くなった。
一体彼はなぜ笑ったのだろう。そのときは確かに不気味に思えた。このゲームに乗ったのではないかと本気で心配した。
実際そうかもしれない。しかし――あの少年が行動することはもう、ない。
橘敬介は動かない。「生きていない」自分には似合いの姿かもしれない、と敬介は思った。
外見上彼を死体と峻別するのは、まばたきすらしない目を潤ませる涙のみだった。
【055橘敬介:依然行動不能、晴子・観鈴を探して護ることを行動方針とする。】
【 所持品に変化なし 釣り糸×3、釣り針の束、ハンカチ。バッグ自体はなし】
203 :
対極:04/05/16 00:55 ID:an/CH3z6
深い、森の中。
ゲンジマル(35)は悲しみに暮れていた。
孫娘の、死。
永い時を生きてきた。
数え切れないほどの戦友を失った。
孫なのだ。
失った人は、己の孫なのだ。
それも、このような歪んだ戦場で。
死は神聖なものだ、等と言うつもりは無い。
神聖な戦等有りはしないし、戦は常に負の物しか残さない。
だが。
どんな戦にも劣るこの戯事で、孫は、サクヤは死んだのだ。
涙は流さない。
流せば視界が歪み、命取りになる。
主君、クーヤを守らなければならない。
死ぬ事は、許されない。
204 :
対極:04/05/16 00:56 ID:an/CH3z6
手に持っていた武器を握り締める。
彼の支給品――飛刀のような、針のようなもの――ダーツ。
この武器だけでは心許無いが、今はこれで闘っていくしかないのだ。
気配を感じた。
「貴方には恨みは無いけれど、生き残るために、死んで」
立っていた女が言った。
手には、金属の塊のような物。
金属が火を噴くと同時に彼は横に跳んだ。
予測したわけではない。
歴戦の直感。
女は戸惑い、そして、身を翻して走り去った。
彼は追わなかった。
女もまた、譲れないものを守ろうとしているのがわかったから。
そして彼は歩き出した。
クーヤを守り、ハクオロを探し、このゲームを止めるために。
205 :
対極:04/05/16 00:58 ID:an/CH3z6
女――名倉友里(64)は走っていた。
生き残れるのは二人。
自分と、由依。
――どんなことがあっても、私が由依を守るから――
あの時守れなかった約束。
守るためにどんな事でもした。
不完全ながらも不可視の力を得た。
由依のために。
由依のために、自分は、人を、殺す。
あの、黒の少年であろうとも。
【035 ゲンジマル:武器 ダーツ×7 クーヤ・ハクオロの捜索開始】
【064 名倉友里:武器 デザートイーグル マーダー化】
206 :
慈悲の心:04/05/16 00:58 ID:7lovlkyH
時は定時放送よりもさかのぼる…
森を歩く一つの影、古河渚(81番)の足取りは弱い
殺人ゲームの事実が心にかける負担は大きい。が、彼女はそれだけではなかった
(体が熱い…)
ゲーム開始直前あたりから熱に襲われ始めていたのだ
視界はぼやけ、歩くこともままならない状況でも渚はあての無いまま進み続ける
(お父さん…お母さん…岡崎さん……どこにいるの…)
しかし熱のある体ではすぐに限界がきてしまった。日陰になっている木の下に移動し横になる
(…私、このまま死んじゃうのかな……)
目を閉じ思いえがくは両親の顔と一人の男の子の顔
それすらも意識自体が熱により刈り取られていく
(少しだけ眠っても良いよね…)
これは全て夢で次に目覚めた時は自分の部屋であることを願いながら少女は眠りについた
どれくらい時間がたったのだろうか、額の冷たい感触に渚は目を覚ます
切望していたことは叶わず森の中のままだった
「気が付かれましたか?」
ふいに横から声をかけられた。状態を少し起こしそちらに目をやると女の子が座っていた
体を動かした反動で額に乗せられていた手ぬぐいが落ちそうになる
「あ、そのまま横になっててください」
と言われ元の状態に戻される。
「調子の方はどうですか?」
熱はあるようだがだいぶマシになっていた
「体が熱い以外には特に…」
聞かれるままにそう答えていた
「そうですか、気休め程度ですがこれをどうぞ」
と、ペットボトルを渡される。そこの方に緑の液体が溜まっている
「解熱作用のある薬草を煎じたものです、お湯とちゃんとした道具があれば良かったのだけど…
とりあえず急ごしらえですがそれでも効果はちゃんとあるはずです」
にっこり微笑みかける。しかし渚は薬を受け取ったままかたまっている
「どうかしましたか?」
その言葉で我にかえり状況を把握する。つまりこの人は眠っている間に介抱してくれていたのだ
「いえ、何から何までありがとうございました。えと…」
「あ、自己紹介がまだでしたね、私はエルルゥと申します、よろしくおねがいしますね」
と言ってまたにっこりと微笑みかける。年は同じくらいだろうか、服装は着物に近い。そして長い耳と尻尾があった
集められた時にもそのような容姿の人達は見かけたので同じ出身なのだろう
「えと、私は古河渚です。こちらこそよろしくお願いします」
「渚さんですね、とりあえずお薬飲んだらまた少し眠った方が良いです。よくなったら水場を探しに行きましょう」
今手にしているペットボトルは最初に至急された水が入っていた物だ。それに薬が入っているということは水は全て消費してしまったことになる。
頭にのっている手ぬぐいはまだほんのり冷たい、貴重な飲み水を使ってずっと冷やしていてくれたに違いない
そう考えたとたんに涙があふれてくる。そして頬をつたって流れ落ちていった
「あ、えと、どうかしましたか?どこか具合が悪いですか?」
とエルルゥがおろおろし始める
「いえ、ただいきなりこんな島に連れてこられて殺しあえとか言われて、不安でたまらなかったんです。
こんなに親切にされるとは思ってもみなかったんです」
と言い涙をぬぐう
「私のせいで飲み水まで使わせてしまって…すいません」
「…謝らないでください、水くらいどうにかなりますよ。それよりも早く良くなってくれると嬉しいですよ?」
またもにっこりと微笑みかける
「ふふ」
二人で笑いあう、渚がこの島に来て初めて笑った時だった。
そしてこれ以上心配をかけまいとペットボトルの中身をあおる
「………」
渚の顔がさーっと曇る
「どうかしましたか?」
首をかしげるエルルゥ
「変な味がします…」
そんな生易しいものではなかったが、とりあえずそう言ってみる
「薬ですからね、蜂蜜でも混ぜられれば良かったのですが。アルルゥ…妹なんですが、アルルゥだったら何を混ぜても吐き出しちゃうんですよ」
ずっと笑顔だったエルルゥの顔が妹の事を話す時だけ表情が硬くなっていた
「妹さんのこと、心配なんですよね…」
「……そうですね…悪戯好きの悪い子ですが大好きな妹ですから」
と、またも笑顔で返される
渚は一人になりたくない、そばに誰かいて欲しいと思いつつも
「…私の事はいいですから妹さんを探しに行ってあげてください」
と言っていた。しかしエルルゥは首を横に振る
「私は病人や怪我人を置いていく事はできないんですよ、それが私の使命ですから」
目を見つめられそうエルルゥは答えた
「それとですね、渚さんが眠っている間にゲームの犠牲になった人の発表があったんです…でもその中に知っている人の名前は入っていませんでした。だからまだあの子は大丈夫…」
「…あの……」
渚は両親、それと岡崎朋也の名前がなかったか尋ね、無いとわかるとほっと胸を撫で下ろした。そして目を閉じる
(これ以上迷惑をかけないように早くよくなろう…)
エルルゥのおかげで気力の方はかなり回復したが体力の方はそうはいかない、目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきて渚は夢の世界へと落ちていった
【渚&エルルゥが供に行動】
【支給品 渚:不明 エルルゥ:乳鉢一式】
210 :
ばいばい:04/05/16 01:19 ID:zl803guo
「邦博、ちょっと冷えてきたね」
木々の隙間を、風が吹き抜け始める。
それだけではないのだろう、日が傾いてきたせいか、さすがに涼しくなってきた。
「うわ、暗ーい」
都会暮らしに慣れた邦博にとって、木々の陰が造り出す闇は、ビルのそれのように、
ネオンや街灯に消し去られることがないだけに、不気味に感じられた。
「邦博、やっぱり街に戻ろうよー」
(……ちっ)
何度となく名前を呼ばれた男、邦博は舌打ちし、考え込んだ。
(糞ったれ、俺はどうかしてたんじゃねえか?
この一分と黙ってられないガキと、何故俺は歩いている?
なんとなくだが、レーダーだって手に入れた。
そうとなれば、こいつはもう用済みにしたって構わんだろうが)
「邦博、うんこ踏むよ」
「なにっ」
立ち止まって、足元を見る。何もない。
「てめ……」
「あはは、冗談冗談、やだな、怒んないでよー」
怒りを爆発させる寸前で、視界の端に光が見えた。
レーダーの光が増えていたのだ。
211 :
ばいばい:04/05/16 01:20 ID:zl803guo
「……そこでじっとしてろ」
「え、なになに?」
無防備にキンキン声を張り出す恵美梨の口を、顎ごと掴んで、やや乱暴に黙らせる。
「黙ってろって言ってんだよ」
そのままレーダーを見せる。
幾つも増えた光の点を見て、恵美梨は目だけで驚き、頷いた。
「様子を見てくる。隠れてろよ」
不安げな恵美梨を残し、邦博は戦地へ向かった。
(……こりゃまた派手だな、オイ)
そこでは時代劇の殺陣の如くに、剣風が舞っていた。
風を切り、葉を散り飛ばし、髪をなびかせ、美しくも恐ろしい速さで刃が閃いていた。
その上、人間とは少し違うようだ。
(なんだってんだよ、コイツら)
魅入られたように固まっていた邦博だったが、やがて異変が起こった。
戦いの壮絶さのため、見物人である邦博さえ忘れていたのだが、女がいたのだ。
その忘れられていた女が、突然立ち上がり、刀を持った女を、背中から刺した。
(――やりやがった!)
最期まで見届ける必要はない。
こいつらはヤバすぎる。喧嘩に自信のある邦博でも、素手で渡り合える相手ではない。
鞄の中を確かめようとも思ったが、何故か恵美梨の顔が浮かんで、やめた。
そして恵美梨の元へと戻るために、静かにそこから離れたのだった。
212 :
ばいばい:04/05/16 01:20 ID:zl803guo
藪を掻き分け、恵美梨を探す。
たった数十メートル進んだだけで、森の薄暗がりは人を迷わせる。
だが邦博の手には、レーダーがある。見れば、問題は即解決する――はずだった。
(二つだと!)
そのレーダーの中に、先ほどの連中と、邦博のそれと、もう二つ、光があった。
つまり恵美梨の他に、何者かがいる。
「邦……!」
聞こえる、叫び。
邦博の頭が、脳が、沸騰する。駆け出す。走る。
暴力性を開放し、心を身体の先へと疾走させる。
何があっても負けないために、強くあるために。
「邦……!」
たった二文字の名前を呼ぶことも出来ずに、恵美梨は崩れ落ちた。
動脈から流れ落ちる鮮血が、彼女の意思を急速に霞ませていく。
その白い世界の中で、彼女が見たのは、邦博の怒りの形相。
(あは、似てないかな、やっぱ)
何かを叫んでいる。
自分を殺した少女に向かって、噛み付き、食い殺さんばかりに怒鳴りつけている。
薄れる意識のなかで、彼女は言った。
「ばいばい……お兄ぃ」
時紀に言ったのか、邦博に言ったのか、それは誰にも分からない。
彼女自身にも、もはや分からなかった。
213 :
ばいばい:04/05/16 01:24 ID:zl803guo
恵美梨が倒れた。
その傍らに、彼女よりも更に小さい、子供と行っても差し支えない少女がいた。
何故、あいつが殺される? この小娘は、なんだ?
「てめえっ! 何者だ!」
少女が、ゆっくりと振り向く。
異形ではなく、殺意すらなく、ただの少女が、そこに立っていた。
そして静かに、ぽつりと呟いた。
「風子……参上」
【1 浅見邦博 支給品不明 恵美梨のレーダー(25メートルまで) 鞄二人分】
【8 伊吹風子 支給品 よく切れるナイフ】
【29 木田恵美梨 死亡】
【残り86人】
【夕方です。邦博が見た戦いは、オボロとトウカのものです】
「……」
一瞬、思考が閉じた。
『77番、伏見修二』
正直なところ、鬱陶しい演説など聞く気もなかったし、事実聞き流していた。
だが、その名前だけは、宮路沙耶(94)の意識に鮮明に刻み込まれた。
(死んだの、アイツ)
どうでもいいと片付けたくなる建前。誰が側にいずとも、常にそうあり続けてきた建前。
それと相反する、抑えがたい本音。
伏見修二という人間との接触が作った、新しい自分。
その修二が、誰かに殺された。こんなにも早く。
「……殺してやる」
ぽつりと洩らした本音を、舌打ちでごまかす。
沙耶の足取りは、それまでより早くなった。
観鈴は空を見上げていた。
「やることないな……」
こんな時、いつでも彼女の空白の時間を埋めてくれたトランプは、ここには無い。
時紀は本当に寝てしまっていた。鼻を摘んで遊んでいたら殴られたので、それから怖くて触っていない。
かえるのぬいぐるみで遊ぶのにも飽きたし、本当にやることが無かった。
――お母さん、どうしてるかな。往人さん、ご飯ちゃんと食べてるかな。
そんなとりとめも無い心配が、ふと心を過ぎった時だった。
「…………」
目つきの悪い女が、観鈴のことを見下ろしていた。
「わっ」
観鈴は驚き、座ったまま後ずさった。寝ている時紀に尻がぶつかる。
「……ってえな」
目を覚ました時紀が、まず眼前の尻にうんざりとした声をあげる。
「邪魔だ」
「ひゃあっ」
無遠慮に尻を触られ、観鈴は悲鳴をあげた。
「ん……?」
時紀も、新たな人間の存在に気づいたらしい。『すけべ』とか『えっち』とかぶつぶつ呻いている観鈴を殴り、聞いた。
「おい神尾、誰だこいつは」
「がお。し、知らない……」
女は、無言のまま二人を見下ろしていた。ようやく会話の出来る雰囲気になったと察したのか、口を開く。
「アンタ達、誰か殺した?」
「は?」
「殺したかって、聞いてんの」
「なんでいちいちお前に、そんなこと言わなくちゃいけねえんだよ」
「……」
女は、無言で銃を抜いた。
「今、暇が無いの。答えて」
銃を向けられ時紀は一瞬動揺したが、それでも恐れの感情は彼には無い。
「銃つきつけりゃ喋ると思ってんのか。ますます気にくわねえ」
「…………」
女は、時紀の言葉や態度がハッタリでは無いのを察した。自棄な強がり方が、自分とよく似ていることも。
銃口は下げない。あくまで時紀に照準をつけたまま、女は呟いた。
「……男。茶髪で背の高い男を、アンタ達、殺した?」
「お前のお友達か?」
「……さあ」
「…………」
時紀は沈黙し、立ち上がった。女は一瞬ぴくりと銃口を揺らしたが、撃たなかった。
「こっちの質問に答えてくれたら、教えてやるよ」
「……何?」
「メガネをかけた、頭の悪い女を見かけなかったか?」
「アンタの恋人?」
「さあな」
「…………」
女は一瞬沈黙するが、すぐに、
「会ってない」
と答えた。
修正。
>>179-182 芽衣が空を見上げた時「青い空」になってますが、「夕焼けがかかった空」にしておきます。細かいことですけど
「そうかよ。じゃあこっちも答えてやる。誰も殺しちゃいねえよ」
「……そう」
女は、フンと鼻を鳴らし銃を下ろした。その異様に悪い目つきで最後に一度だけ二人を見据え、背を向けた。
「おい、行くのか?」
「……ここで止まってる理由なんか無いし」
「じゃあこのバカも一緒に連れていけ。邪魔で仕方ない」
言って、観鈴の背中をどんと蹴る。
「がお。ひ、ひどいなあ……」
ずっと黙っていた観鈴が、抗議の声をあげる。
「……は? アンタの連れでしょ。私に押しつけないで」
「いきなり起こして銃までつきつけといて、何言ってやがる。迷惑料だ、持ってけ」
「……勝手についてくるならいいけど」
「私モノじゃないのに……聞いてくれないのかな……」
一人人間扱いされていない観鈴が、ぶつぶつと呟く。
「時紀さんも一緒にくればいいのに」
「俺は別に何をしようとも思わねえし、余計なお世話だ」
「でも、恋人さん、きっと時紀さんのこと待ってる」
「バカのくせに、余計なとこだけ気が回りやがる」
ちっ、と時紀は舌打ちし、数瞬だけ何かを考える素振りを見せた。
「分かった、俺もついてってやる」
「やった、時紀さんも一緒」
「うぜえよ、くっつくな」
「…………」
そのやり取りを見ていた女は、付き合うのを拒否するようにさっさと一人で歩き出した。
「あ、時紀さん、行こ」
「ああ……おい、お前」
時紀と観鈴は、女に急いで追いついた。
「名前だけ聞かせてくれよ」
「沙耶」
沙耶は、振り向かずにぼそりと答えた。
【94 宮路沙耶 支給品:南部十四年式拳銃(残弾9発)】
「……皆、意外とやる気なんだなぁ」
一人森の中を進んでいた河島はるか(27)は立ち止まりぽつりと呟いた。
目の前には仰向けに倒れている男が一人。
辺りは彼から流れ出た血でちょっとした水溜りの様になっている。
はるかが見つけた死体はこれで四体目である。
皆、危険を避けようと森の中を進んでいるのだろう。
全員が同じ行動をとったら意味がないのに、と少しだけ思った。
一体目は活発そうな黒髪の少女。
突然の出来事だったのだろう、鋭利な刃物で首を切られた彼女は
何が起こったのかまるで判らない様な顔をして死んでいた。
二体目はこちらも活発そうな青い髪の女の子。
死因は銃で頭を打ち抜かれたこと。それも突然に、逃げ出そうとした痕跡すらない。
そして問題の三体目、その死体は今見つけたばかりの四体目の死体と共通点があった。
「これもない……」
そう、明らかに異常なそれは、手首から先が切断されていたのだ。
しかも今度のは何かの冗談であろうか、虚空を睨む少年の胸の上には彼自身のものと思われる
片方の手首が丁寧に置かれていた。
(ここまでやるなんて、狂ってるとしか思えない)
割と驚くことの少ないはるかもこれには吐き気を抑るのに苦労する。
この殺人者は殺しを楽しんでいるとしか思えない。
致命傷は体にある刺し傷なのだ、こんなことする必要がどこにあるのだろう?
(二時間ドラマの猟奇ものじゃないんだから勘弁してほしいなぁ)
そしてはるかは思考をめぐらせる。
1.森の中は人でいっぱい。
2.その分ノリノリの殺人者もいっぱい。
3.くわえてまだ明るいとあって活動している人もいっぱい。
「なら暗くなるまでさっき見つけた民家でのんびりしていよう」
私を探しているかもしれない冬弥や彰には申し訳ないけど、そう決めた。今、外は危険すぎる。
別にそこまで生に執着している訳じゃない。あの時、私は死んでしまったのかもしれないのだから。
だけどさっきの…… あの四体の遺体のようにはなりたくなかった。
あの殺人者達と遭遇したら生きているのは難しいだろう。
なにせ自分の支給された武器は『ハーバーサンプル 水分厳禁』と書かれた袋に入った白い粉なのである。
【河島はるか(27) 森外れの民家へ 支給品 ハーバーサンプル一袋】
もしかしたら寝ているか、失神しているのかもしれないと思った。
いや、そう思いたかっただけかもしれない。
現実から乖離した、異常な状況に自分達が陥っているということを、認めたくなかったのかもしれない。
だが近づいていくにつれ、そんな一縷の望みは吹き飛んだ。
乱れた服。不自然に曲がった頭部。そして何より、濃密な血の匂い。
触れて確かめなくても分かる。死んでいる、いや、殺されている。
何故かふと、耕一は千鶴にその胸を貫かれたときのことを思い出していた。
そう、あの時も確かこんな匂いがしたっけ。
傷口から吹き出した血と共に、温もりと命が抜けていく感覚。
ずきりと、胸が痛んだ。
「おーいコウイチ。どうなのだー」
背後からクーヤの声が聞こえる。
あれからしばらく歩いた後、森の境で二人はその先に誰か倒れてるのを発見した。
位置的に顔は見えなかったが、どうやら女の子らしい。
万一に備え、クーヤを後ろの茂みの中で待っているように言い(当人は不満そうだったが)
生死を確認するべく耕一だけが近づいたのだが―――
(置いてきたのは正解だったな)
心の中で呟く。あの子に、この状況はとても見せられない。
ここに来るまでの、他愛も無いおしゃべりを通じ、耕一はクーヤという子のことが何となく分かってきた。
一見尊大な態度は、ただ単にそういう接し方しか知らないから。
皇という立場から来る責任感と気品を漂わせる一方で、そこらの子供よりも物事を知らない。
ちょっとした立場の違いを除けば、クーヤは年相応の、世間知らずな女の子でしかない。
―後頭部を陥没させて死んでいるこの女の子も、クーヤとさして違わない歳にだろうに。
紅く染まったその顔は、驚きと恐怖に歪んでいる。
見たところ、武器の類を持っていないようだ。
誰かに追われた末、殺されたか。あるいは不意打ちを喰らったのか。
(………糞ったれ)
これではっきりした。「ゲーム」はすでに始まっているのだ。
それが、現実。
「…駄目であったか」
クーヤがやや気落ちした声で尋ねる。耕一の表情から、大体の事は予想がついたのだろう。
少女の目を閉じ、簡単に衣服を整えてやると、耕一はクーヤの元に戻った。
「ああ…どうやらこのゲームに乗り気なヤツがいるみたいだな」
重々しい沈黙が、二人の間を流れる。口火を開いたのはクーヤだった。
「なぁ、コウイチ…これは戦なのか? それともこの國では戦でもないのに見ず知らずの人間を殺すのか?」
「そんなことない! あるもんか!」
思わず語気を荒げる。だが心では自分の言葉に自信を持てなかった。
人間は、きっかけさえあれば、追い詰められればこんなに簡単に殺人者になってしまうのだろうか?
ふと頭の中に、水門で戦った鬼の姿が、柳川の顔が浮かんだ。
そして、鬼となった自分も。
生き残る為に、自分の為に他人を犠牲に出来るのか。
それはある意味では一つの強さだろう、だが
(そんな強さは、俺はいらない!)
「…すまなかった。コウイチ、許せ」
しょんぼりとして謝るクーヤの声に耕一は我に返る。
「い、いや俺の方こそ。怒鳴ったりしてゴメン…」
またしても気まずい沈黙が辺りを包む。その静寂を破ったのは耕一でもなく、クーヤでも無く―――
『…香奈子。19番、柏木千鶴。32番、霧島佳乃。41番、サクヤ。44番、芝浦八重。 51番…』
思考が停止する。血の気が引いていく。体の芯が凍りつく。
「…死んだ? クーヤが?」
絞り出した声は、まるで自分のものとは思えない。
馬鹿な、ありえない。サクヤが死んだだと? 悪い冗談だ、ハウエンクアでもこんな下手の冗談は言わない。
何か気持ちの悪いものが、クーヤの心の中を駆け巡る。
そんなはずはない! そんなはずはない!
気付いたときには、クーヤは走り出していた。
「ちょっ…待つんだクーヤ!」
後ろから耕一が静止するのも聞かず、がむしゃらに走る。
宮中に居る時は、どたどたと走りまわるなど皇としてするべきことではないとゲンジマルによく注意された。
そんなクーヤにとって、お忍びで宮を抜け出し、自由に走り回るというのはちょっとした楽しみだった。
そう、そんな時も、あの者はいつも私の後を付いてきてくれた。
何だかんだ言いつつも、私の願いを聞いてくれて、よく一緒にゲンジマルに叱られた。
『待ってくださいよぉ、クーヤ様ぁ〜』
「!」
ただでさえ走り慣れない上、ほとんど人の手が着いていない山林を全力疾走したのだ。
クーヤの足が、とうとう木の根に捕まる。頭から派手に転んだ。
すぐ様立ち上がろうとするが、足が痙攣してうまくいかない。
なんで自分は転んでいるんだろう? いつも転ぶのはあの者の方だった。
それを「やれやれ何も無いところで転ぶとは器用なヤツだな」と言って手を貸すのは、余の役目だったはずだ。
なのに、なのに。
―――サクヤは何処に居るのだ?
223 :
名無しさんだよもん:04/05/16 01:57 ID:OwagnAuO
おっつー。
「ハァ…ハァ…やっと…追いついた…」
耕一が追いついた時、クーヤは呆けたように座り込んでいた。
転んだのだろう、裾や肘に土まみれになっている。
「大丈夫か、クーヤ?」
挿し伸ばした耕一の手に、クーヤは反応を見せない。
「ク…」
「…サクヤは…どこだ?」
耕一の言葉をクーヤが遮った。その顔に空虚な笑みを浮かべながら。
「なぁ…みな余を謀っているのだろう? あの者が余を放っていなくなるわけないではないか?
それを死んだなどと、冗談が過ぎるぞ? 大方何処ぞに隠れているのだろう?
あの者はああ見えて意外とはしっこいのだ。
何せあのゲンジマルの孫だからなどうせまたそのあたりでころんでいるのをまちがえられたのだ
そうにちがいな」
「クーヤ!」
耕一の声に、クーヤがびくりとして身を縮ませる。
そう、クーヤにも分かっているはすだ。だからこそこんなに必至になって走ったのだろう。
ゲームは始まった、実際に人は死んでいるのだ。確実に。
「気持ちは分かるが落ち着いてくれクーヤ。そんなんじゃ、君まで危なく…」
「気持ちは分かるだと!」
押さえきれない感情が、ついに関を切った。
「気持ちは分かるだと! 何が分かると言うのだ! サクヤは私の友だった!
ほんの小さい頃から、余のたった一人の友だった! 臣下ではないたった一人の!
死んだだと!? 巫山戯るな! サクヤを殺したなどと、そんな者余が地獄に叩き落してやる!」
真っ白になるまできつく握った手を震わせながら、クーヤは叫んだ。
その言葉を、ただ耕一は静かに聴いていた。
ひとしきり感情を吐き出し、肩で息をするクーヤに向かって、感情を込めずにゆっくり呟く。
「さっきの放送にさ、俺の従兄弟の名前もあったよ」
クーヤの震えが、止まる。
「だけど、ここで焼けっぱちになっちゃ駄目だ。もしかしたら、あれは連中の罠で
千鶴さんもサクヤって子もまだ生きてるかもしれない。それに」
いったん言葉を切り
「俺達はまだ生きている。やれることはまだあるだろ?」
嘘だ。おそらく千鶴さん達は死んでいるだろう。だが、今つくことの出来る嘘はこれが精一杯だった。
何故自分がこんなにも冷静で居るのか、耕一自身よく分からない。
だが何となく、いま目の前にいる子を放って置けないという意識だけはあった。
「…コウイチ。頼みがある。胸を貸せ」
それまで押し黙っていたクーヤが、突然口を開いた。
耕一の返答を待たぬまま、クーヤの顔が耕一の胸(というよりも腹)にもたれ掛かる。
「クーヤ?」
自分の言葉で多少は落ち着いてくれたのだろうか。だがその表情は耕一には見えない。
「余はクンネカムンの皇だ。人前で泣く事など出来ぬ。だが、ここに居るのは余とお主だけだ。
これで最後にする、だから、黙っていて欲しい」
クーヤが上ずった声でまくし立てる。耕一は
「…誰にも、言わないよ。約束だ」
そう答えることしか出来なかった。
「………………ぅ…っ…ぇ………」
きつく耕一のシャツを握り締め、あくまで声を押し殺して、クーヤは泣いた。
皇としてでは無く、友達を、家族を無くしたちっぽけな女の子として。、
慟哭するクーヤの頭を抱きながら、耕一は自分の感情にやっと気が付いた。
冷静なのではない。怒り過ぎて、分けが分からなくなっていただけだ。
糞ったれなゲームとその主催者達に、ゲームに乗った殺人者に、何も出来ない、出来なかった自分に。
ぞわりとしたドス黒い何かが、心の中で頭をもたげる。
自分の中の鬼が、ガキリと歯を鳴らした気がした。
【耕一・クーヤ、あゆの死体に遭遇。バックは持ち去られていた模様。再び森の中】
ゲーム開始から数時間は過ぎただろうか。
伏見ゆかりは支給物が配られた車庫の中で過ごし、支給物についてのマニュアルを読んでいた。
その間に銃声や放送の音が幾度も鳴っていたはずだが
車庫の防音性が高いのか、ゆかりが集中していたのか……とにかく、彼女の耳には届かなかったらしい。
「隣に座っていた時はよくわからなかったけど……こんなにすごい車だったんですね」
一通り読み終わったあと、ゆかりは運転席でそう言うと車のキーを挿し込み、回した。
オンボードAIが立ち上がる。
『Stay on...
CHECK
CHECK
CHECK
CHECK
CHECK......OK!』
『System 901RS2 Ver.2008-0002-"S" Boot
Yes, My name is "Mild".
Dear My Pilot is you,
Are you ready?』
『START YOUR ENGINE』
世界最高のパーフェクトスポーツが、目を覚ます。
「あ、設定言語は日本語でお願いします」
『了解です。本日のご主人様は貴女ですか……行き先はどちらへ?』
「王子様を……探しに行きます」
一瞬の間の後に、ミルトは答えた。
『……男探しに恋のライバルをこき使うのは、非道中の非道だと思いませんか?』
「ご、ごめんなさぃい……思います、でも……お願いします。
ミルトさんだって、宗一君に会いに行きたいですよね?」
『致し方ありません、ところで……運転技術は上達したのですか?』
ミルトの最新データによると、ゆかりは通常のAT車を数キロ走行させただけで
エンストさせることができる天才だった。
まして、この路面が悪い島で最高クラスの運転技術が必要なミルトの操縦など……
「―――愛する人の、ためですから」
質問の答えにはなってないが、ミルトには非常に納得できる回答だった。
『行きます』
ゆかりは一度ミルトから降り、車庫のシャッターを上げる。
光の扉が、開ききる。
「始めるときは……スイッチを押す」
ゆかりは運転席でそう呟き、アクセルを踏んだ。
「レディ……」
『ゴー!』
風を切り、轟音と共に、2人の姫が愛する王子様の元へ走る―――
【78伏見ゆかり 支給品 ミルト 那須宗一の元へ】
邦博は動かなかった。いや、動けなかった。
目の前で起きた事象に現実感を失っていた。
さっきまで一緒に行動していた少女はもう冷たい躯。
彼女を殺したのはまだ年端もいかない少女。
「風子、お姉ちゃんの結婚式を祝ってもらいます」
「だから、ヒトデが必要なんです」
――何を言ってるんだ。
少女は恵美梨の右手首に刃をあてる。
ぐしゅ
ぐしゅ
ごりっ
肉を切り裂き骨を断つ。
「ああんっきれいなヒトデですっ、もうひとついいですか?」
無邪気に恍惚の表情を浮かべる少女。
左手首に刃をあてる
ぐしゅ
ぐしゅ
ごりっ
「とってもきれいなヒトデですっ」
邦博はあまりにも猟奇的な惨状に立ち尽くしていた。
ヒトデ集め
人手集め
人の手
恵美梨のヒトデ
「ん…っ、風子はよくばりです。よくばりはだめです。だからあなたに風子のヒトデをプレゼントします。とってもかわいいヒトデです」
少女は邦博にヒトデを差し出す。
「どうしたんですか? かわいいヒトデです。ここにおいときますね」
少女は邦博の足元にヒトデを置いた。
「風子の姉の結婚式、ぜひきてください。それではっ」
少女はヒトデを抱え小動物の如く森を駆けて行った。
残された邦博は立ち尽くしたままだった。
――足元に恵美梨のヒトデを残して。
【(1)浅見邦博 放心状態 荷物はそのまま 】
【(2)伊吹風子 立ち去る】
控え室を出てすぐ森に入り、自分の支給武器を確認した緒方理奈(15)が次にしたことは溜息をつくことだった。
入っていたのは何種類かの服。どこかの学校の物と思われる制服が二種、デザイン性なんて欠片もないジャージ、
デニムのジーンスと白いシャツ、それと何故かメイド服。
防弾チョッキでも入ってないか、あるいは編み込まれていないかと探ってみたが出てきた服はこれだけだった。
頭を抱えた。自分も女、それも自他共に認める日本のトップアイドルの一人だ。見てくれはともかくとして
着替えに困らないと言うのは正直ありがたい。でも。
(殺しあえって言っておきながらこれはないでしょ……)
そのまま理奈は下を向いてうずくまっていた。
ある一つのアイディアが、天啓のように下りてきたのはそれから10分ほど経ってからだった。
そして、今。
あの女が追ってこないことを確認して、理奈はスピードを緩めた。
「ハァ、ハァ……ふう」
立ち止まり、大きく息を吐いて落ち着こうとする。だがあまり効果はなかった。
心臓はまだバクバクとうるさく跳ねているし、足は今にも崩れ落ちそうで、指先だって震えている。そこにしっかりと
刻まれた、細い細い糸の痕。
「……次はもっと上手くやらないとね」
もし理奈の行動と言葉を見る者がいたなら、この少女も『ゲーム』に乗ってしまったと解釈するだろう。
だが、彼女が次に発した言葉はまるで正反対だった。
「もう少しで殺しちゃうところだったわ」
──うなだれながら考えていた。死にたくない。殺したくもない。でも、あの男の言うことが正しいのならここから生きて
帰れるのはたったの二人。帰りたい。冬弥くんと帰りたい。でもこんなゲームに乗りたくなんかない。ああ、こうしてる間に
他の参加者が勝手に殺し合って、いつのまにかわたしと冬弥くんの二人になってくれないか──
そこまで思考が至ったとき、不意に閃いた。
目の前にある、どこかの制服。控え室で見た、これと同じ服を着た少女がいた。
もし、もしもだ。
(この服を着て誰かを殺そうとすれば、相手はそれで勘違いして……)
見も知らぬ誰かを、自分の代わりに殺そうとするかもしれない。
そうだ、自分は死にたくないし、人殺しにもなりたくない。やりたい奴等は勝手にやっていればいい。自分が生き残り
やすくなるために、せいぜい引っかき回してやろう──!
それは素晴らしいアイディアのように思えた。そして理奈は服を着替え、舞台に躍り出たのだ。
最初の標的は中学生くらいの女の子だった。
理奈の支給品は服、当然武器がおまけで入っているわけでもない。だから理奈は道端に転がっていた拳大の石を握りしめ、
後ろからそれを少女──立川郁美(54)の肩口めがけて振り下ろした。
「あうっ!」
突然の衝撃に悲鳴を上げ、倒れ伏す郁美。落としたバックをかすめ取り、理奈はそのまま逃走した。
襲撃は拍子抜けするほど上手くいった。ただ、あの少女が自分の姿をきちんと認めてくれたか確認できなかったのが
残念といえば残念だ。顔を見られるわけにはいかないからである。
奪ったバックの中には細い紐の束が入っていた。それはまるで、人の首を絞めるために作られたような物だと理奈は感じた。
そして、彼女はその紐を手に、認めた二人目の標的へと近づいて──
回想は島に響く男の声で中断された。
『……58番、月宮あゆ。69番、柊勝平。76番、藤林椋。88番、美坂栞。96番、柚木詩子。以上の11名。生存者は……』
その中に冬弥の名前がないことに安堵する。同時に、思ったよりもゲームの進行が早いと思い、理奈は眉を顰めた。
「もう少しやりたかったけど、冬弥くんを先に捜した方が良さそうね」
一人ごち、木の陰で制服からジーンズとシャツに着替える。早着替えは芸能人の必須技能、ものの二分も掛からずに終わる。
そして彼女は歩き出す。今や自身の武器となった服の入ったバックを担ぎ、前へ。
冬弥との未来を迎えるために。
(今まで引っかき回すことしか考えてなかったけど、もしかしたら味方を捜すにも使えるかもしれないわね。
同じ学校だって言えば敵対心も薄れるかもしれないし……ああ、案山子みたいなのに服だけ着せて囮に
使うってのはどうかしら。でも作るのが大変そうだし……あ、そう言えば冬弥くん大道具もやってたっけ。
会えたら言ってみよう。あと冬弥くんが銃も持ってたら完璧ね。人形に近づいた人をこう、ばきゅーんって……)
聡明な彼女は考える。
どうすれば二人で生き残れるかを。
聡明な彼女は歩き続ける。
たった一つ、自分がただ人を手に掛けることよりも外れた道を進んでいることだけに気付かないままで。
【15 緒方理奈 装備:天いなとCLANNADの制服、ジャージ、ジーンズとシャツ、メイド服の衣装五点セット】
【方針 表に立たずにゲームを引っかき回す。冬弥捜索。郁美から奪ったバックの中身は自分の物に移し替えている】
【54 立川郁美 装備:細い紐の束(理奈に奪われる)、右鎖骨骨折、森の中に放置される】
(ふたり、生き残れるわけやろ)
河のせせらぎが聞こえはじめた。
薄暗い林をまもなく抜けるのだろう、赤い光が差し込んでいる。
(ウチと、観鈴やな)
せやせや、と頷く。
晴子はひとり林道を歩きながら、楽観的な思考を捏ね繰り回していた。
(それまでは誰かと手ェ組むんも悪くない。観鈴見つかるまでやけどな)
方針を固める。
彼女の望みは、娘を守ることだ。他はどうでもいい。
(居候もおらへんかったしな)
往人と観鈴の接近。
もし子供が生まれよったら、この歳で婆さんかいと思い、憂鬱だったが、今はそれどころではない。
(ま、取り合えずの仲間をさがさへんと)
そう考えを纏めたところで、何者かにばったり遭遇した。
(ふたり、生き残れる)
河のせせらぎが聞こえる。
夕日の照り返しが、彼女のブラウスを紅く染めていた。
(木田くんと、あたし)
くすりと小さく笑う。
明日菜はひとり河原を歩きながら、暗い思考を練りこんでいた。
(誰かと手を組んでもいい。木田くんを見つけたら、そこでサヨナラすればいい)
方針を固める。
彼女の望みは、時紀の心を手に入れることだ。他はどうでもいい。
(透子ちゃんも、サヨナラ)
時紀と透子の関係。
もはや逆転は不可能かと思い、諦めかけていたが、チャンスが来たのかもしれない。
(まずは、仲間を増やした方がいいわね)
そう考えを纏めたところで、何者かにばったり遭遇した。
「きゃっ」
「おわっ」
二人同時に驚く。
後ろめたい何かを隠すように、お互いが慌てて身づくろいする。
そして同時に、口を開いた。
「あの、あたしと──」
「あんな、ウチと──」
手を組みませんか、手ェ組まへんか。
……あり得ないほど不自然に、しかしあり得ないほど自然に、二人は手を組んだ。
【2 麻生明日菜 装備不明 時紀以外は利用しよっと。殺したってオッケーよね】
【22 神尾晴子 装備不明 観鈴以外は利用するで。見捨てたって構へんでー】
【五十歩百歩ですが、若干明日菜の方が黒いです】
新婚生活
「ごめんね、藤田くん。何から何までやらせちゃって。」
森の中で見つけた8畳ほどの洞窟。そこで藤田浩之(74)と雛山理緒(71)は野営の準備をしていた。
浩之にとっては見知った顔でゲームに乗るはずなど無いと分かっていたし、理緒にとっては片思い中の相手である。あっさりと手を組む事に合意した。
現在は落ちていた木の枝と先程作った火種で焚き火を起こしたところである。
「それにしても相変わらず藤田くんは凄いね。財布と裁縫道具でこんなに色々なものを作っちゃうんだから。」
「おいおい、裁縫なら俺より理緒ちゃんの方が上手いだろ。」
「出来る事と実際にやる事は違うよ〜。」
確かに理緒は主婦業や内職で裁縫に慣れているし、貧乏暮らしからリフォームも得意である。しかしこの異常な状況下でその技術を発揮できるとは思えなかった。
臨機応変な応用力と適応能力こそが浩之最大の利点であり、「浩之ちゃんはやれば何だってできるんだから。」と幼馴染に言われ続ける所以だった。
「そうだ理緒ちゃん。」
「何?」
「この布と糸で替えの下着作れないかな。ここ無人島みたいだし変なバイキンがいるかもしれない。できるだけ清潔にしておいたほうが良いと思うんだ。」
そしてその適応能力は現在も発揮されていた。確かに病原菌は未開地における脅威である。実を言うと先程の当て布もすり傷からの感染を防ぐためのものだった。
「うーん。出来なくは無いけど肌触り悪いよ。普通は綿とかの柔らかい生地で作るものだから。」
裁縫セットに入っていた布は丈夫さが売りの合成繊維。確かに下着には向かないだろう。
「この際着心地は諦める。早速作ってくれない?」
「うん、わかった。」
「俺は出来上がるまで寝てるよ。出来上がったら起こしてくれるか?常時どっちかは起きてた方が良いと思うから。」
「良いよ。おやすみ。」
・ ・ ・
黙々と縫い物を続けながら、理緒は幸せを感じていた。
憧れの藤田くんとひとつ屋根の下で2人きり。藤田くんが火を起こし、自分は裁縫。
場所が無人島の洞窟でさえなければ、新婚気分を味わうには十分であった。それに・・・
(藤田くん、ぐっすり寝てる。)
熟睡できるのは信頼の証。憧れの人が自分を頼りにしてくれていることが何よりも嬉しかった。
「う〜ん、あかりぃ。メシ作ってくれぇ」
「・・・・・・」
想い人の心に住むのが自分でないことを示す寝言だけが、唯一の問題だった。
【74 藤田浩之 クレジットカード、小銭入り長紐付き巾着袋、クッション、バッグ2つ所持 服に当て布】
【71 雛山理緒 筋弛緩剤、注射針一式(針3セット)、枕大の石、裁縫道具、手作り下着、バッグ2つ所持】
(さて……どうしようか)
一人森の中を歩きながら、少年(46)は頭の中でつぶやいた。
とりあえず彼は進んで人を殺す気は無かったが、具体的にこれからどうするかは何も決めていなかった。
ただ漠然と森の中を歩き、そのまま誰に会うこともなく、先ほど一回目の定時放送を迎えていた。(さて……どうしようか)
一人森の中を歩きながら、少年(46)は頭の中でつぶやいた。
とりあえず彼は進んで人を殺す気は無かったが、具体的にこれからどうするかは何も決めていなかった。
ただ漠然と森の中を歩き、そのまま誰に会うこともなく、先ほど一回目の定時放送を迎えていた。
(ゲームは着実に進んでいるようだね)
少年は立ち止まって放送に耳を傾けたが、死亡者の中に知った名前が無いのを確認すると、何事も無かったかのように再び歩き始めた。
そのまま二十分ほど歩いただろうか。
(誰かいる)
少年は人の気配を感じた。
物音を立てないように、そっと気配のする方へ近づいていく。
姿が確認できる位置まで近づくと、木の陰に隠れながらそっとのぞき込んだ。
そこにいたのは、黒くて長い髪の女の子だった。
その少女は震えながら、その手に拳銃を握っていた。
少年はそのまま様子を見ることにした。
しかし、しばらく経っても少女は震えたまま、動きらしい動きは何も見せなかった。
(とりあえずゲームには乗ってなさそうだし、声をかけてみようか)
そう思った少年が動こうとした瞬間、それまで震えているだけだった少女が動いた。
拳銃を持った右手を上げて、銃口を自分のこみかめに押し当てる。
そして、目をつぶり、引き金に人差し指をかけ、そのまま人差し指を動かした。
「やあ」
突然の声に驚き、少女−桜井あさひ(46)は思わず目を開き、声のした方を振り向いた。
そこには、右手に銃を持つ、黒ずくめの少年が立っていた。
そのとき初めて、あさひは自分の手からいつの間にか銃が消えていることに気がついた。
「どうしたんだい?」
微笑みながら、少年は尋ねた。
あさひはしばし呆然としていたが、やがてまた震えだし、目からぼろぼろと涙をこぼした。
「わ…わたし…わたし…」
そしてあさひは泣き出してしまった。
(まあ、こんな島だしね)
泣き出したあさひを見ながら、少年はしばらく彼女と行動することにした。
【少年、桜井あさひと行動することに】
【42 桜井あさひ 支給品 S&W M36 (残り弾数5)】
【46 少年 支給品 不明】
バッグを回収したあと、澪は森を歩いていた。
行く先にこじんまりとしたロッジを見つける。 細心の注意を払って近づいていく。
辺りには人の気配はない。 その上、誰かが来た形跡もない事を確認したわたしはロッジの扉を開ける。 珍しい奥開きの扉に鍵はかかっていなかった。
数十分後、こざっぱりした澪の姿がそこにあった。
(水道があって良かったの。)
修二を殺した時に手と顔、そしてナイフについた返り血は洗い落とした。 備えてあったタオルで水気をふき取る。 勿論、流しの水気も。
ロッジの内部は全て把握している。 扉一つに窓一つ。 粗末なベッドと暖炉があるだけの居間と簡単なキッチン。
申し訳程度の食料と数枚のタオル(一枚使用済み)に細く長いロープが一本、毛布が二枚に寝袋一つ。
わたしはタオルと毛布を一枚ずつとロープを自分のバッグに、使用済みのタオルを修二のバッグにしまい、残りを元の場所に戻した。
(もうここには用はないの。)
扉にクレイモアを仕掛ける。 奥開きの扉だから扉を開けようとした者はその瞬間に扉ごとズタズタになってくれる筈。
窓を開け、そこから外に出る。 窓をきっちりと閉めるのを忘れない。
澪はロッジをあとにした。 ロッジそのものを罠ヘと変えて・・・
一時間は歩いただろうか? 日が西に沈もうとした頃、わたしは森の東側に出ようとしていた。
そこで茂みに落ちているバッグを見つけた。
(誰かいるの?)
警戒を強める。 それはバッグがある=人が居る、ないしは居た事を示すからに違いない。
そこにあったのは柚木詩子の亡骸。
この島で初めて出会った顔見知り。
既に亡くなっていた事は放送で知っていた。 だけどこんな形で出会うとは思わなかった。
彼女は赤い池に沈んでいた。
先輩の家でのクリスマスパーティーで知り合った、思い出を共有する人物。
あの時はお酒に酔って潰れたわたしの顔に落書きをしていたのは先輩と詩子さん。
笑顔の絶えなかった日常。
それは決して帰って来る事のない日常・・・
わたしは先ほどのバッグを調べる。
手のつけられていない食料と水、握りに電源スイッチとボタンがついた金属の棒。
それがスタンロッドであることに気付くのはさほど時間はかからなかった。
バッグを開けて思いつく一つの考え。
それは死人に鞭を打つ行為。
クレイモアを繁みに隠す。 爆発方向は詩子の亡骸。
亡骸の側の草むらに修二のバッグを。 起爆コードをバッグに固定する。
コードは草むらで良いあんばいに擬装された。
このゲーム、バッグは宝箱。 そして宝箱には―――罠がある。
(だけど、わたしは帰りたいの。)
(先輩の待つあの町に。)
(だから、詩子さん・・・ゴメンね・・・)
思い出は仮面の奥に。
今はただ冷徹に。
【所持武器:クレイモア 残り2個 イーグルナイフ レミントン・デリンジャー(装弾数2発・予備弾22個)】
【ロッジで毛布1枚タオル1枚ロープ1本(約10m)入手】
【詩子の配布武器スタンロッドを入手】
【森の中のロッジの扉と詩子の間近に置いたバッグにクレイモアの起爆コード】
【河島はるかとおそらくニアミス】
【残り86人】
一歩、また一歩と眼前の建物に近付くにつれ、その中から漂う人の気配は濃くなっていた。それはつまり、中の人物が気配を殺していないという事である。
(──あるいは、中の人物がそういう技術を有していないか、ですかね)
ベナウィ(082)は別荘の入口を前にしてそう結論付けると、その建物の中へと踏み入る意を固めた。
気配が屋外まで漏れている時点で、中にいる人物が、彼が探しているハクオロである可能性は限り無く低い。寧ろ、彼とは違い戦慣れしていない人間か、もしくは、ゲームに乗る気が皆無に近い人間である可能性がかなり高かった。
そして、もしかしたらそれは、ベナウィのよく知る女性達──即ち、ハクオロの身内たるエルルゥ、アルルゥ姉妹であるかも知れないのだ。
槍は右手に持ったまま、支給品を詰めた(槍以外)バッグを持った左手で、最低限の警戒をしつつ、ベナウィは別荘の扉─鍵は掛かっていなかった─を開けた。
果たしてまず彼の視界に飛び込んだものは、扉を開いた音でこちらに気付き視線を向けた二人の女性だった。
一人は眼鏡をかけた大人の女性。もう一人は未成熟の少女で、二人の瞳には、ほんの僅かに恐怖の感情が見て取れた。
「それではベナウィさんは、そのハクオロさんと言う方を探しているのですか?」
「はい」
別荘内のリビングルーム。眼鏡の女性──牧村南(083)が、テーブル向かいのベナウィに問いかけた。
少女──立田七海(056)は、奥のキッチンでお茶を淹れている。
あの後ベナウィは、気配の主であった二人が戦闘能力を持たない人物で、かつ空手であった事を確認すると、槍とバッグを床に置いた。南達もそれで安心し、ベナウィを別荘内へと招き入れた。
南の話により、この別荘に着いたのは七海の方が先で、その時には別荘内は何者かに荒らされた形跡や、食料や武器に成り得る物が殆ど持ち去られた形跡かあったという事。南が別荘に着いたのは七海よりほんの数分後であったという事などが判った。
また、別荘内の電気系統と水道が生きている事(ベナウィが『電気』というものを理解するのに数分を要した)と、南の支給品が携帯食料一式であった事もあり、彼女達が当面この別荘を離れる気が無い事なども聞いた。無闇に動き回るのは危険だと判断したらしい。
ベナウィもまた、自分の目的──ハクオロの捜索と、これまでの経過を南に話した。
「お待たせしましたー」
やがて、七海が紅茶の入ったガラス製のポットと、人数分のティーカップをトレイに載せてやって来た。
【56 立田七海 装備:鋸】
【82 ベナウィ 装備:槍(自分の物)】
【83 牧村南 装備:携帯食料一式(缶詰、乾パン、お菓子等】
【現在位置:島北北西の別荘内】
【南&七海、当面移動の意志無し】
【ベナウィ、『電気』を知る】
【残り86人】
245 :
キヅナ:04/05/16 09:16 ID:pnbmieaj
『…絶対である。どうか精励されたい。以上』
洞窟の中、放送が終わっても岡崎朋也と藤林杏は何もしゃべれなかった
『…69番、柊勝平。76番、藤林椋。88番、美坂…』
…なんだ今の名前は…
聞き間違いだろ…
そんなわけないよな…
だってあいつ…
ぐるぐる言葉が朋也の頭を駆け巡る
ふと気づくと隣の杏がこちらを見ていた
「…ね、ねえ…。今の…ナニ」
「…」
答えることができない
「うそだよね、だって…そんなことあるわけ無いじゃない。そんな…だって」
「……」
冷静になれここで俺が変なことを言ったらだめだ
「ねえ何か言ってよ…うそだよね、今の、こんなことうそ…」
「杏」
「…え」
「…現実だ…これは現実なんだ…。 そして」
「…」
「藤林は死んだんだ」
246 :
キヅナ:04/05/16 09:18 ID:pnbmieaj
「…」
「……」
再び沈黙が落ちるそして
「ふふふ…」
「…?」
笑い声に顔を上げる
「わかったこれ夢なんだ!なーんだみょーにリアルな感じだからつい現実かと思っちゃったじゃないの
いやー参った参った」
「お、おい杏」
「朋也、あんたも夢の中なんだからもっと私に愛想良くしなさいよ。まったく夢の中でも朴念仁なんだか
ら。でもまあいいわ夢が覚めたらまたあんたにバイクぶつけてやるから覚悟しなさい」
「…杏」
「それにしてもさっさとこの夢覚めないかしら。たかが夢と入ってもあまりにも悪趣味だわ、よりによって殺し合いさせるだなんて。まったくわれながら変な設定の夢を見てるもんだわ、さっさと起きて学校で
みんなに話さ…なきゃ。起きたら涼にこの夢のこ…と話してどんな顔するかたのしみだわそんで朋也を後ろからど…ついてやって話の…きっかけを作って春原にいちゃモンつけてストレス発散していつもみたいにっ」
がばっ
両腕で後ろから杏の体を包み込む
「もういい…無理しないでいいんだ…杏」
「あ…あ…」
「俺も泣く、だからつき合ってくれ…」
「…う…うあああああああああ!!!!」
魂までも震える涙が流れた
247 :
キヅナ:04/05/16 09:19 ID:pnbmieaj
どれくらい経っただろうお互いの涙が枯れてしまうほど泣いた
俺の中にこんなに涙の流せる感情があったかと思うほど
そして腕の中の少女の温かさを感じていた
「…ねえ朋也」
「ん?」
「私決めた、絶対くだらないゲームぶっつぶす」
「…それは」
「あの篁ってやつを倒す」
「おまえ…」
「ここで殺し合いになったらあいつの思う壺よ。あんな男のために人を殺してたまるかってもんよ」
「…ああ、そうだな。それでこそ杏だ」
「うん。で、さ…一番の優先事項は」
248 :
キヅナ:04/05/16 09:19 ID:pnbmieaj
首をこちらに向け宣言する
「朋也と一緒に生き残る」
「…」
「あたしずっと好きだった…あんたのこと。ずっとうまく言えなくて涼が私に相談してきたときは
もうあきらめようと思ったけど…」
「今こんな状況になって決めたのもう後悔はしたくない。あるがままの自分でいたいって」
「わたし朋也が好き、だからふたりでがんばろ。」
笑顔
ああ、こいつやっぱかわいいわ
「キスするぞ」
「!…んんっ」
後ろから抱きついたままむさぼるように唇を合わせる杏も拒むことなくそのままあわせてくれる
俺はそのいじらしさにおぼれていった
暗い洞窟の中、二人はお互いの大切なものを与えて受け取った
【14 岡崎朋也 75 藤林杏 固い絆で結ばれる】
【二人とも、すこし疲労】
【残り86人】
一時の休息(1/2)
ハクオロ達は、海岸から東へ数百メートル程度離れたところにあった適当な
木陰に腰を下ろし、ユズハの足の治療を終え、休息を取っていた
「ふむ・・・薬の知識は余り詳しくないが、当面はこれで大丈夫だろう」
「ありがとうございます・・・」
(さて・・・これからどうするべきであろう・・・無闇に移動するのは危険過ぎるな)
「よし、ここで夜が来るのを待とう」
「大丈夫なの?」
「ユズハの怪我もある事だ・・・見通しが良く、人の活動が活発な昼間に
無闇に動くより、ここに居座って夜までに体制を整えた方が安全だろう」
ユズハに聞こえては責任を感じさせてしまう可能性がある為、ことみに耳打ちをした
「ユズハ、問題ないか?」
「はい・・・私にお構いなく」
「それでは・・・夜に備えて二人とも睡眠を取って置くんだ。ここの見張りは私がやっておく」
「・・・本当に大丈夫?」
流石に眠ることは不安なのか、ことみが詰め寄ってきた
「ああ、もし何かあったらすぐに起こす。それに・・・何があってもお前たちを守って見せるよ」
その言葉に安心したのかことみはハクオロのバッグを枕にして横になり、直に寝息を立て始めた
「ハクオロ様・・・私もお休みして構いませんでしょうか?」
「ああ、何があってもお前たちを守り抜いて見せるよ。だから今は安心して眠るんだ」
「ありがとうございます・・・」
ユズハもその言葉に安心したのであろう。木に寄りかかり寝息を立て始めた
(やはり・・・精神的に疲れていたのであろうな・・・状況が状況なだけに疲労していたのだろう)
「しかし・・・こんなに安心して眠るとは・・・それだけ信用されていると言う事か・・・
期待を裏切るわけには行かないだろうな・・・ん?何か・・・聞こえてくるな・・・」
一時の休息(2/2)
【・・・・・・58番・・・・・・精励されたい。以上】
それは第一回の定時放送であった。
(・・・もうこれだけの死人が出たのか・・・とりあえず、二人には聞かせないほうがいいだろうな)
いくら戦慣れしており、死は身近なものだとは言え状況が状況なだけに多少のショックはあった。
それに全く慣れていないこの二人に取ってどれだけの影響を与えてしまうか考えると恐ろしかった
(取り合えずは隠しておくべきか・・・必要な時が来たら話すとしよう・・・)
ハクオロは腹を決め、辺りを警戒しながら夜が更けるのを待ち始めた
【ユズハ 睡眠中 左足の治療終了(走ることは不可) 所持品不明】
【ハクオロ 木の棒 支給された食料】
【ことみ 睡眠中 食料、その他持ち物無し】
【ハクオロ一行、東に数百メートル移動した後に夜まで待機】
【ことみ、ユズハは眠っていたために放送の内容は知らず】
坂神蝉丸とカミュの2人は、カミュが上っていた木の上に潜伏することにした。
枝葉の付き具合が丁度良く、自然な体勢で寝られること。
周りからは非常に発見しにくいこと、逆にこちらからは遠くまで見渡せることなどを考えてだ。
カミュは非常によく喋り、よく表情が変わる娘だった。
喋ることで不安を吹き飛ばそうとしているのかもしれない。
蝉丸はほとんど喋らなかったが、カミュの話を真摯に聞いた。
彼女は"おんかみやりゅー"や"とぅすくる"など
蝉丸にとって聞き覚えの無い国から来たらしい。
強化兵の自分が言うのもおかしいが、明らかに一般人とは身体の作りが違う。
背中から生えた翼、形状が違う耳、月代よりも年下だろうに異常に発達している乳房など。
だが、彼女らのところでは、獣の耳や翼、尻尾などがあることはごく普通のことだそうだ。
「でも、翼が黒いのはカミュだけなんだけどね……」
ほんの少し悲しそうにカミュはそう言った。
実は戦場に立つのも初めてではないらしいが、この島では力が封じられているために
翼がほとんど役に立たず、術法が使えなくなった現状では隠れることが精一杯だったらしい。
「あ〜あ、みんなに会いたいなぁ……」
それは蝉丸も同感だった。
だが蝉丸たちの現状の支給品を考えると、迂闊に動き回るよりは一箇所に固まっていたほうがいい。
数時間前に流れた放送で、蝉丸の知った者の名は無かった。
しかし、早くも10名を超す死亡者が出ていることに憤りを感じる。
(どうすれば、この戦いを終わらせることができる……?)
そして日が落ちかけた頃―――黄昏時というやつだ―――
蝉丸の目には数十メートル先に1人の人影が見えた。
こちらの方に向かって歩いて来る。
素早く、無駄が無い、それでいて油断をしてない動きだ。素人ではない。
蝉丸とカミュは息を飲んでその様子を見ていた。
そしてその人物は10秒後、木から10メートルほどの距離で立ち止まった。
(誰だ……?)
蝉丸の心の問いに答えるように、女は答えた。
「私よ」
(この声は……!?)
「そこにいるんでしょ? 降りてきなさいよ、強化兵さん」
(間違いない、石原麗子だ……しかも、俺の存在に気付いている)
(俺は隠形法で完璧に気配を消していた筈……やはりあの女、底が知れん)
蝉丸は覚悟を決め、丸太を手に持った。
「お前は、それを使ってここで隠れていろ」
カミュのいる方にそう呟きかけると、木から飛び降りた。
「…………何故隠れているとわかった?」
「女の勘ってヤツかしらね、あるいは仙命樹が引き寄せたのかも」
対峙した蝉丸と麗子と距離は5メートルほどだろうか。
互いに相手の一挙一動をも見逃さずに話を続ける。
「今日は何の用だ? 俺はいまは医者の必要はないのだがな」
「安心して、すぐに一生必要なくなるわ」
眼鏡の奥の目が怪しげに光る……蝉丸は威圧感を感じた。
「お前は……この戦争に乗ったのか?」
蝉丸は丸太を構え、そう聞いた。
疑問ではなく、確認の意味で。
「ええ、今回は見届けるだけってわけにはいきそうにないから。
既に1人殺しているもの」
眼鏡を外し、白衣のポケットに押し込みながら麗子はそう言った。
「そうか……」
蝉丸は確信した、麗子は本気だと。
「そして……あなたもよ」
麗子も血の付いた鉄パイプを構える。
2人はじり……じり……と間合いを詰める。
武器の長さは蝉丸のほうが長い、先に動いたのは蝉丸のほうだった。
彼は間合いに入ると縦に丸太を振り下ろす!
麗子はほんの少しだけ横に動き、紙一重で丸太を避け、一歩前に出て蝉丸の左脇腹を叩く。
「無駄な動きが多いわ、いまのあなたは力に頼りすぎている」
「くっ!」
蝉丸痛みを堪えながら、今度は丸太を横に薙ぎ払った。
しかし麗子は完全に読んでいたのか後ろに下がって避ける。
「もっとも、その武器じゃ仕方ないのかしらね」
そしてまた間合いを詰め、左足を打つ。
蝶のように舞い、鉢のように刺す。
麗子の戦い方はまさにそれを地で行くような形であった。
確かに、今の麗子の腕力では、鉄パイプ一撃一撃の威力はそれほどでもない。
骨にひびぐらいは入ってるかもしれないが、蝉丸の身体ならば頭部以外の場所を
多少殴られたところで致命傷にはならない。
それでも、徐々にではあるが、確実にダメージは蓄積されていく。
対して蝉丸の丸太は当たったときの破壊力こそあるものの、モーションが大きい。
冷静に対処すれば避けることは難しくない。
そして武器の重量差を考えれば、対格差があるとは言え、どちらの方が疲労がたまるかは一目瞭然である。
数分後、傷だらけの蝉丸と、無傷の麗子が立っていた。
「残念ね、あなたは強化兵の完成例だったはずなのに……」
麗子は、両手で鉄パイプを振り上げた。
頭に渾身の一撃を加え、とどめを刺す気だろう。
(いまの俺に、かわせるだろか……)
「さよなら……」
最後の攻撃に入る、まさにその時だった。
麗子の顔に砂が、小石が飛んできた。
砂が、小石が彼女の目に入る。
「くっ……」
蝉丸は、その隙を見逃さなかった。
「すまぬ!」
残った全ての力を込め、丸太を突いた!
ガァ――――ン!
「うぐぅ……!」
麗子の左肩に丸太が激突する。
身体が数メートル後ろに吹き飛び―――倒れた。
口から血が流れ出ている。あの丸太の直撃を食らったのだ。
常人なら悪くすると即死、最低でも昏倒は免れないほどの衝撃だろう。
いくら麗子でもしばらくは起き上がれまい。
そう思うと蝉丸は気が抜けたのか、倒れ込むようにしゃがみこんだ。
「大丈夫!? 」
カミュが姿を現し、蝉丸の下へ駆け寄る。
「カミュ……さっきの砂はお前か……上で隠れていろと言っただろう」
「ごめんなさい、でもでもっ、蝉丸おじ様が危なかったから……それで……」
「責めている訳ではない、お前のおかげで助かったことは感謝している」
「……そんな……戦闘中とはいえ私が、そんな小娘の気配に……気付かないなんて……何故……」
麗子はまだ意識があった。なんという強靭な意志であろう。
しかし、立ち上がることはできないようだ。
蝉丸は、麗子の疑問に答えることにした。
そうすることで、不意打ち紛いの事で倒した償いになるわけではないのだが……。
「カミュの支給品は、裕司の開発した例の装置だった。
あれだ、お前なら話は聞いたことがあるだろう」
カミュの持つ、15センチ四方の箱を指差して蝉丸が説明を開始した。
「! ……まさか……」
「そう、持った者の『気配を消す装置』だ。
この島では改良が加えられているようだがな。
これを持った者は、俺達の隠形法以上の力を発揮することができ、そこにいながら、存在が希薄になる……。
もっとも、気配を消すと言っても、透明人間になるわけではない。
目の前に立ったり、大きな音を出したり、翼が見えたりすれば当然見つかる……そこの奴のようにな」
「なるほど……」
蝉丸が、説明を終える頃、木陰から一人の男が姿を現した。
「遅すぎるわ…………」
息も絶え絶えに麗子が喋る。
「『あの男と戦うのには、あなたは足手まといなのよ』と言ったのは貴様だろう?
だが、足手まといは……貴様のほうだったか」
「言って……くれるわね……」
麗子はそう言い残すと、意識を失った。
蝉丸は驚かなかった。
人が隠れて見ていることは、麗子との戦闘中から気付いていたからだ。
もっとも、気付いたところで目の前の麗子に集中するしかなかったのだが。
奴に戦意がないことを祈るばかりだ―――
「ええっ、ディー!?」
カミュにとって、この同族の知り合いに会うことは晴天の霹靂だったらしい。
「しばらくぶりだな、カミュ」
全く表情を変えずに挨拶を交わすディーにカミュは近付いていく。
「なんで、ここに……」
「いかん! カミュ! 近付くな!」
蝉丸は叫び、痛む身体を軋ませカミュを制止しようとした、が―――
ディーはカミュの身体を掴むと、後ろから喉元に短刀を当てた。
「デ、ディー!?」
「動くな、そこの男、武器を捨てろ。カミュの命が惜しくばな」
「む……」
蝉丸は丸太を置き、両手を上げた。
「貴様の話によれば、この装置は大層役に立つ様だ
これさえ持てば、役立たずの協力者などいなくともこの戦場を生き抜けるだろう」
ディーはカミュの持ってる装置を奪った。
「後は、さて……そうだな、貴様にその女のとどめを刺してもらうか
それから、カミュに貴様を殺してもらおう」
「貴様……」
蝉丸は、ディーを睨みつける。
「ディー……ひどいよ……昔はそんな風じゃなかったのに……!」
カミュは、泣きながら叫んだ。
ディーはそのカミュの喉に短刀を更に強く押し付ける。
「どうした? 早くやらぬか!」
「く……」
蝉丸は、麗子の元へと歩いていった。
「さあ!」
蝉丸が決心した、その時―――
カミュはディーの顔をめがけ翼を動かした!
顔に直撃する翼、拘束を解き、短刀を落としてしまう。
そして、彼女は一瞬の間に短刀を拾い、ディーの喉を真一文字に切り裂いた。
「おやすみなさい、お父様……」
「!? ムツ……」
最期の言葉は途中から口に出ることはなく、喉から吹き出る鮮血へとなった。
(そうか……)
(ああ……これで……ようやく……眠れる……)
ディーの身体はゆっくり、ゆっくりと、倒れていく。
カミュも、ディーの返り血を浴びながら、糸が切れたように倒れた。
蝉丸はただその様子を見続けていた―――
足元から、麗子の姿がなくなっていることも気付かずに。
【59 ディー死亡】
【37 坂神蝉丸、打撲・切り傷が全身十数箇所にあり 装備 丸太】
【25 カミュ 外傷はないが気絶中 装備 気配を消す装置 小刀】
【5 石原麗子 左鎖骨・肩にかけて打撲・骨折、鉄パイプとあゆの支給品を持ち逃亡】
【残り85人】
「どうして事にばっかり巻き込まれるのかしらねぇ…」
相楽美佐枝(40)は溜息をつく。
先程の放送で呼び上げられた名には知っていた人間の者もあった。
藤林椋。
前に一度美佐枝の元に相談の訪れた椋。
その時の椋からはとても人なんか殺せそうにはなかった。
それはつまり返り討ちにあったという訳でもなく、ゲームに乗っている人間も少なからず居る事を意味する。
「で? あんたもそういう人間の一人って訳?」
美佐枝の目の前に立つのは名倉由依(63)。
「私は……お姉ちゃんと一緒に帰るんです! どんな事があっても!」
その手には尖った石。
「いくらなんでもそれじゃ人は殺せないでしょ。
あたしもね〜、別にそんなに生きる事にがっついたりはしないけどわざわざ殺されたくはないし」
美佐枝は手に持った銃を由依に向けた。
「……そっちこそそんな玩具で人が殺せるはずがありません」
由依の言葉は尤もだ。
なぜならば美佐枝の武器は玩具の光線銃───ゾリオンと呼ばれる物だったのだから。
「いや、実際の話。結構やばい部類に入る武器だと思うけどね」
もし美佐枝の言葉が本当だったとして、ゾリオンから本物の銃弾が飛び出して来ても由依は殺せない。
(防弾チョッキが全部止めてくれるはずだから──!)
己に支給されたその鎧を信じ、由依は石をドスの様に構えて突撃した。
「そっか…」
美佐枝は一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべるとゾリオンの引き金を引いた。
由依は自分の身に何が起こったのかも理解する間も無く絶命したはずだ。
その体は一瞬のうちに文字通り木っ端微塵になったのだから。
美佐枝の武器、ゾリオンは特殊な信号──この場合は参加者の体内に埋め込まれた爆弾の起爆信号だが──を発して
命中すれば確実に相手を絶命させる武器であった。
「生き残るために戦うとかなんだかねぇ……。全く、あたしは漫画のキャラクターじゃないっての」
生きている人間が2人になるまで戦い続けるのか、それとも誰かが主催者を倒すのかは知らないが
結局このまま流れに身を任すしかないのだろう。
(まあ、出来る限り生きる努力はするけどね…)
【40 相楽美佐枝 武器 ゾリオン(使用回数4回) 電池一個(マガジン代わり)】
【行動方針はケセラセラ】
【63 名倉由依 死亡 防弾チョッキはズタボロ】
【残り84人】
261 :
殺人回路:04/05/16 11:50 ID:m9WiU6a6
「痛い…いたい…よぉ」
森の中、細い声でうめく郁美…本来病院のベッドで寝ていなければおかしい自分が
どうしてこんなことに?
頭の中は理不尽さと、そして人恋しさで一杯だった。
「お兄ちゃん…和樹さん…怖いよ」
その時だった。
「どうなさったのですか?」
不意に聞こえた声に振り向く郁美、そこには特徴的なアンテナをつけた制服姿の少女がいた。
(メイドロボ?)
確かに見覚えがある…確か自分の入院している病院にも何人か配属されていたはず。
(ロボットなら…大丈夫だよね)
聞いたことがある、ロボットは人間に危害を加えないように設計されていると、
だとしたらこれほど頼れる味方はいないのではないか。
郁美は自分の幸運に少しだけ感謝しながら、メイドロボ…セリオの方へふらふらと近づいていくのだった。
「そうですか…なるほど」
「顔とかよくわからなかったの…ごめんなさい」
森の中を移動しながら情報を交換しあうセリオと郁美。
262 :
殺人回路:04/05/16 11:53 ID:m9WiU6a6
「いいのですよ」
穏やかな口調とは裏腹に、セリオはやや気落ちしていた、収穫ゼロということか。
何か有益な情報が入手できると思い、まずは接近を試みたのだが時間の無駄でしかなかった。
何故彼女を選んだのか、それは傷つき弱っている人間なら後々簡単に処分できるという
狡猾な計算あっての事だ。
(ならば早速処分しましょう)
セリオは郁美を抱きかかえたまま、さらに森の中を進む、すると郁美の耳に水音が聞こえだす。
そういえば近くに小川があったっけ?
「あの…降ろしてください、水飲みたいので」
「そうですか…それは好都合です」
「え?」
一瞬の異様な雰囲気、それに気がついたときにはすでに手遅れだった。
セリオは郁美の後頭部を鷲づかみにすると、そのまま郁美の顔を水面へと押し付けたのだった。
がぼがぼと水面が泡立つ。
(お兄ちゃん、和樹さん、おねがいたすけてよ、くるしいよう、いきができないよう)
だが無情にもセリオはなおも力をこめて、郁美の顔をより深く水底へと沈めていく。
それを受けて郁美は必死で動かない身体を動かし、もがきセリオの手から脱出しようとする。
だが…。
263 :
殺人回路:04/05/16 11:55 ID:m9WiU6a6
(おにいちゃ……)
やがて、微力ながらも抵抗を続けていた郁美の身体から力が抜ける。
それを確認してセリオはようやく郁美の後頭部から手を放す。
「申し訳ありません、少々苦しかったとは推測できますが、銃弾が不足しておりまして」
セリオは相変らずの冷酷な口調で、苦悶に歪みきった郁美の死に顔を一瞥する。
またそのまま何処かへと去っていった。
そして残されたのはぷかぷかと小川を流れる郁美の死体…。
その表情は自分の不運を嘆いているかのようでもあった。
【52 セリオ 装備:コルト.25オート(予備弾装無し)】
【54 立川郁美 溺死】
【残り83人】
「いらっしゃいませー」
「コーヒーはいかがですか?」
「ありがとうございましたー」
「ふぅ…」
住宅街の民家の中、マニュアル通りのような挨拶を言い終えて宮沢有紀寧(93番)は溜め息をついた。
「…やっぱり、誰も来ませんか」
苦笑してそう呟く。
民家の中には、有紀寧以外に誰も居ない。
先程のは、ただの発声練習である。
「ひょっとしたら、岡崎先輩や春原先輩が来るかもしれないと思ったのですが…」
スタート直後、有紀寧は住宅街へと向かった。
途中、幾度か聞こえた銃撃に身体を震わせながらも。
本当は、知り合いを探したかった。
岡崎朋也、春原陽平――よく忘れられた資料室に来てくれていた先輩。
他にはいない。
自分をゆきねぇと呼ぶ、今は亡き兄の友人達。
世間からは疎まれているけど、とてもいい人たちは、いない。
頼れるのは、二人の先輩のみ。
だから、二人を探したかったが――結局、止めた。
理由は単純である。
――足手纏いになるから。
その手の集団からゆきねぇと呼ばれていても、喧嘩が強いわけではない。
むしろ、かなり非力な方だと思う。
そんな自分が二人を探しても、見つける前に誰かに殺されるのがオチ。
例え見つけても、この状況で自分が二人の力になれるとは思えなかった。
だから有紀寧はここにいる。
自分が二人を探し出すことが無理でも、二人がここを見つけてくれるかもしれない。
その時は、力になれる。
二人に、温もりを与えることができる。
そう思ったのに、二人どころかだれも来ない。
「コーヒー…冷めちゃいましたね」
有紀寧はテーブルの上に置いてある三つのコーヒーカップを残念そうに見た。
先程まで程よく湯気が立っていたコーヒー。
この家にはインスタントコーヒーしかなかったが、その分丁寧に淹れた。
なのに――
「仕方ありませんね…」
有紀寧はそのコーヒーのうち一つを持って、庭に出た。
「にゃぁ♪」
直後、猫が一匹、有紀寧に飛びついてくる。
「猫ですか…」
有紀寧はそれに特に驚いた様子もなく呟いた。
家に入ったときから庭から鳴き声が聞こえていたので、居ることは知っていたのである。
「にゃあ〜」
危うくこぼしかけたコーヒーを置き、有紀寧はその猫――ぴろの身体を持ち、じっと見つめる。
「にゃ?」
「ご主人様と、はぐれたんですか?」
「にゃあ」
「…そうですか」
ぴろの返事は、肯定として受け取っておく。
野良猫がこんなところに居るとは思えない。
「コーヒーはいかがですか?」
「にゃ?」
「冷めていますから、猫でも大丈夫だと思います」
「にゃ〜ご」
「おいしいですよ?」
「にゃあ」
返事がどういう意味なのかわからないが、できれば飲んでもらいたい。せっかく丁寧に淹れたのだから。
有紀寧はぴろを地面に下ろし、コーヒーカップを前に置く。
ぴろは、最初はなんのことかわからなかったようだが、好奇心からかおずおずとその黒い液体を舐め始めた。
「…おいしいですか?」
有紀寧が訊ねる。
ぴろはそれに答えず、コーヒーをぴちゃぴちゃと音を立てながら飲みつづけた。
「気に入ってくれましたか。よかったです」
有紀寧はそう言って踵を返し、家の中に戻る。
そして。
「場所が悪いのかもしれませんね…他の家に行きましょう」
そう言って、有紀寧はさっさと片付けを済ませて、その家を出た。
ぴくり、と、その物体が動いた。
動いて、直後に身体が震え始める。
始めはゆっくりと。
だんだん激しくなりながら。
カタ…
目の前のものが倒れる。
震えは止まらない。
震える。
震え続ける。
そして、その動きが――止まった。
【ぴろ 死亡】
【宮沢有紀寧 支給武器:毒薬(テトラ・エチール鉛)】
【その他の所持物:インスタントコーヒー】
「……たとえどんなに狂った状況であっても、それは精神的に異常なだけでヒトとしての生命活動は
普段通りなんだよね」
民家の中で定時放送を聞いた河島はるか(27)は、誰に言うともなくつぶやいた。
そこにあるのは一種の「慣れ」であった。見たくない、聞きたくない、信じたくもないし
考えたくもない……そんな、どっちを向いても絶望しか無い世界を、彼女はかつて経験して知っていたから。
更に言えば、もともと生きていることに大した意義を見出していなかった彼女は、目の前に死の恐怖を
見せつけられても狼狽する理由がなかった。死はある日突然訪れる。別にこの島に限った話ではない。
この島には「不自然な死」が普段の世界とは比べ物にならないほど高い密度で蔓延しているが、
それは量の差であって質の差ではなかった。少なくとも、はるかにとっては。
「とりあえず食事とお風呂は基本」
だからはるかは平然と、お邪魔した民家の冷蔵庫から食材を発掘して簡単な料理を作り、風呂を沸かした。
……あの時もそう。突然この世からいなくなった、大好きな兄。兄の死にただただ号泣し、わたしの方を
全く見なかった両親。冬弥の手だけがほんの少しだけわたしを支えてくれたけど、それだけ。そんな日にも
わたしはご飯を食べたしお風呂にもトイレにも入った、最後には布団の中で寝た……寝付けたかどうかは
ともかく。
精神は肉体の奴隷に過ぎない、って言ったのはニーチェだったっけ。
健全な精神は健全な肉体に宿る、ってのは確かクーベルタン男爵。精神と肉体の順序が逆だったかな?
まあどっちでもいいけど。
とにかく、人間ってのはそういう物。
むしろ肉体が切羽詰まることで精神が追いつめられる事の方が怖い。自分が自分でなくなるから。
そのためにも、まずは食事。うん。
ことことこと。穏やかに煮立った鍋がシチューの完成を告げた。
既に家の外には夜のとばりが降りて来つつあったので、はるかは電灯のスイッチを入れた。
誰かに見つかる危険性も考えたが、少し考えてつける事にした。
ここは民家。食料や寝床がある事が予想され(そして実際にあった)電気がついていようがいまいが
あらゆる種類の人を呼び寄せるだろう。そしてゲームに乗ったか正気を失ったかで殺す気満々な方々は、
電気がついていようが消えていようがこちらを発見した時点で殺しに来るはず。
一方、殺す気の無い人はどう反応するか? 電気がついていない家の中に潜む自分をどう考えるか?
罠の有無、こちらの殺意の有無に警戒するだろう。反射的な自己防衛反応で致命的な結果をもたらしてしまう
かも知れない。万が一、それが冬弥や彰だったりした日には目も当てられない。
つまり。敵はどうあっても敵。ならば敵意のない人に対し、こちら側に殺意がないことを明確に示して
不慮の事故を防ぐべきだろう。第一、どっちみち誰かを殺すことなど出来そうにない自分が戦闘準備を整え、
相手に警戒感と不信感を与えて何か得をするだろうか。答えは明らかに否。
それで殺されたら? ……別にどうって事もない。殺され方は選びたい気もするけど。
それがはるかの結論だった。死の可能性を受け入れることで初めて成立する思考。普通の人なら恐怖に負けて
そこまで考えが及ばないだろうが、彼女は死に対して、多分この島で一、二を争うほど自由であった。
「それにしても……いい家だなあ」
誰もいないダイニングでできたてのシチューを食べながら、はるかは独り言をつぶやいた。
電気はある、ガスも水道もある、洋服ダンスには服があってリビングにはソファーがあって寝室には自分が
普段使っているのよりずっと立派なベッドがある。冷蔵庫には新鮮な食材まで入っており、足りないのは
テレビぐらいだった。
そして放置されている気配も無いほど綺麗に掃除されていた。言っちゃ何だけど自分の部屋より片づいている。
けど、この島にはゲームの参加者以外には誰もいないように思える。だとすると……
「これってあの人が準備したのかな? わざわざ」
はるかは主催者の男の顔を思い出す。だとしたら、掃除を綺麗にすませたり電球が切れていなかったり、
あまつさえ絶海の孤島(と言われているだけで確認はしていないけど)に電気水道ガスを通したりするあたり、
案外几帳面なのかも知れない。
もっとも、これだけ恵まれた、アクションゲームのボーナスステージのような家があちこちに転がっている
かと言えばそれも分からない。だからとりあえず、今はある物を満喫させてもらおう。
「でも、なんでだろ?」
はるかは小首をかしげた。
そう、それは最大の疑問。そもそも何のために殺し合いをするのかがまるで分からない。冬弥や彰、自分が
巻き込まれた理由も分からない。それに……
「……凝った事するなあ」
冷蔵庫から引っ張り出した牛乳パック、シチューのルウ。そのパッケージは見たこともないメーカーの
見たこともないデザインで、しかも賞味期限が西暦3000年代になってたりする。
テレビが無い事と相まって、はて今がいつなのかすら分からない有様だ。というよりそもそも、
ここが地球なのかどうかさえも怪しい。何を無茶なことを、と自分でも苦笑するけど、色々な事実を
考え合わせるとどうにも常識など涅槃の彼方に吹っ飛んでしまった状況に今の自分は放り込まれたような
気がする。なにしろ……
がたん。リビングの方で物音がした。
かたがたがた。また物音。気配を消す様子がないと言うことは、つまり殺し屋さんタイプの人間がうっかり
立てた音ではないという事だ。
はるかが出向いたその先では……
「う〜〜?」
前時代的な着物をまとった幼い少女……アルルゥ(4)が、鍵のかかったガラス窓を頭をかしげながら
叩いていた。どうやら向こうが見えるのに通れないのが不思議らしい。ほっぺたが少し腫れているのは
何かの虫に刺されたのだろうか。
疲れているようだが、見たところ大きな怪我もしてないし何の荷物も持ってない。……荷物が無い、と
いう事は何も食べてないのかも知れない。
……なにしろ、明らかにヒトじゃない人がこうやって目の前にいるんだから。
ひこひこと揺れるアルルゥの耳と尻尾を見て、はるかは心の中で肩をすくめた。この島にはどうやら、
理不尽な死の他にも色々な物が詰め込まれているらしい。
【027河島はるか 普通の夕食と風呂と寝床を確保】
【004アルルゥ シチューの匂いに釣られる】
271 :
紅の草原:04/05/16 12:27 ID:kTLz8+lh
七瀬彰と梶原夕菜は、依然、森の中を歩いていた。
「ひっ」
これで何体目だろうか…死体を見るのは。
青い髪をした女の子だった、頭を打たれて死んでいた。
彰は女の子の前に座ると、女の子の目を閉じてやった。そして夕菜と黙祷を捧げる。
―――殺し合いの中でこんなことやってる僕達って、ものすごく甘い、バカなのかもしれないね。
誰に、というわけでもないが彰はそう思った。
敢えて言うなら、ゲームに乗っている人たちに、だろうか
―――けどできるだけ、続けたいな――僕が、今の僕を保っていられるまでは。
黙祷が終わる。目を開けると、夕菜の少し落ち込んだような顔が見える。
まあ、これだけ死体を見ているのだ、正常な方がおかしいだろう。
「ねえ?彰ちゃんこれからどこに行く?」
「えっと…とりあえず森をでようよ、ここには…人が多すぎだから」
彰は死体、と言おうとして止めた。
「うん、今日休めるいい建物があったらいいね」
辺りの空はオレンジと青空のグラデーションだ。もうじき夜が来るだろう。
それから二人は小さい声でおしゃべりをしながら歩いた。
無用心かもしれないが、じっと黙っていれば二人とも、狂ってしまいそうだったからだ
15分ほど歩いた時だろうか、カッと光が二人に射しこんだ。
「森が…おわったね」
彰が呟く。
目の前は少し開けた草原だった。少し遠くには海が見える
空は紅と、藍が混ざり合い、頭上では星が煌いていた。海に入っていく太陽が眩しいほどに赤に染まり、輝く。
とてもきれいな夕暮れだった。
「綺麗…」
夕菜が放心したように言った
「この島も、こんな事じゃなかったら、とってもいい島なのかもしれないね」
そう言って彰が一歩足を踏み出したときだった
272 :
紅の草原:04/05/16 12:28 ID:kTLz8+lh
ズボッ!
彰の足が地面に埋まった。いや、正確に言うと地面に掘ってあった穴に入った。
ひざ下、10センチほどの穴だった。
「Hey!やっとかかったネ!」
そう言って木陰の中から出てきたのは、宮内レミィ(92番)だった
片手にジグ・ザウエルショートを持っていた。そしてその銃口を彰に向ける。
二人の距離は10メートルもなかった。
―――この人はゲームに乗った人なんだっ
彰は瞬時に理解した、持っていたカッターの、刃を思いっきり出す。
けど、足が震えていて、動けそうになかった。
「No!早く動いてヨ!」
そう言いながら彰の方に近づいていくレミィ。
残り一発しかない弾丸、大切に使いたかった。
男と、女。女の武器はフライパンで、大人しそうな女だった。
男のほうも貧弱そうだったが刃物を持っていた。しかも罠にかかったエモノだった、ハンターとして
このチャンスを逃すのは不名誉な事だとレミィは思った。だから彰を先に『狩る』ことに決めた
―――何言ってるんだよこの人…もう、わけがわからないよ…姉さん、は…どこ?
夕菜はレミィの後ろでフライパンを握り締め、突っ立っていた
レミィと彰の距離はあと4メートルほどだった。
「姉さん…逃げて」
恐怖でかすれた声で彰が言う
「しかたないネ」
動いていた方が打ちやすかったが、もうさすがに自分でも外さないだろうと思いレミィは引き金を引くことにした。
「バイバイ」
273 :
紅の草原:04/05/16 12:31 ID:kTLz8+lh
そう言ったとき、殺気を感じてレミィは振り返った
そこには、レミィの頭にフライパン縦にして振り下ろしてる、夕菜の姿があった。
ドガッ
レミィの額にヒットした、ふらついてドサッと倒れた
「に、逃げるよ!彰ちゃん!」
フライパンを放り投げ手を差し出す夕菜。出会ったときとまったく逆の立場だった。
「うん!」
手をとり、走り出す。二人、海の方に走っていった。
辺りはもう夜になっていた
【66 七瀬彰 所持品 カッター】
【21 梶原夕菜 所持品 なし】
【92 宮内レミィ 所持品 ジグ・ザウエルショート9mm(残弾1発), 果物ナイフ 右手に軽傷 額を打撲 気絶中】
【フライパンはその辺に放置】
【陽が沈みました】
芳野祐介(98番)は一回目の放送を淡々と聞いていた。
犠牲者の名が挙げられる。その内の一人は自分が手を下した者のはずだ。
名前すら知らないが。知らないままのほうが罪悪感が浮かばなくていい。
知ったところで、今の自分にそんなものが浮かぶとはあまり思わなかったが。
せいぜい、このゲームに生き残り、娑婆に戻った時に平静を保てる程度には
正常な精神状態であることを祈ろう。
放送が終わった後、これからのことを頭に巡らせる。
一人でいるということは辛いことだ。
こんな状態ではぐっすりと休むこともままならない。
誰かを騙して利用、弾除け等に使う――などということも考えたが、
こんな自分だ。いつ寝首をかかれてもおかしくないこの島でそいつを信用できる、なんてことはない。
却って不安要素が増えるだけだ。一人は不便だが、気楽でいい。
今後のことを考える。一人であれば、やはり長引けば不利だと思う。何せ気の休まる暇などないのだ。
近くで騒ぎを聞きつけては自ら出向いて、チャンスとあらば一人一人撃ち殺すのが一番いいだろう。
先の出来事のように、毎度上手くいくとは限らなかったが。
先の出来事――遠目から見かけた小規模のグループを頭に浮かべる。
視力が極端にいい、とまでは言えなかったが、異様な集団だったので今でもはっきりと思い出せる。
一人は男。変な仮面を被っていた。防具なのかもしれないが、とりあえず今のところは知ったことではない。
一人は女。付け耳みたいなものをつけていた。
出発前の一団にもそういった付け耳の人物がいたような気がするが、
あの時はまだ混乱状態にあったので同一人物かまでは知らない。
最後の一人も女。よく覚えている。理由は二つ。
一つは、自分の母校の制服であること。婚約者である伊吹公子も数年前まではそこで教師として働いていた。
もう一つは――
――時は遡る。
芳野は一人の少女を殺し、さっさとその場を離れた。
銃器の欠点の一つとして、使用すると激しい銃声が鳴り響くことだ。
他にも扱いが難しい、重い、素人では狙いをつけるのは難しい、などと欠点はいくつもあるが、
まぁ、初めてにしては驚くほど上手くいったと思う。
それでも消音措置もされてない銃器なので音だけはどうしようもない。
特に用もないなら、その場からはさっさと退散した方が得策だった。
辺りを警戒しつつ、殺人現場からの移動を繰り返す内、二匹目の獲物を目で捉える。
結構まだ距離はある。達人ならここからでもさっと仕留めてみせるのだろうが、
いかんせんまだ素人。せいぜい驚かせて逃げられるのがオチだ。
相手はまだ少女のようだが、追走劇になれば重い銃器を抱えたままの芳野に勝ち目はなかった。
手ぶらになれば追いつくのは容易かもしれないが、相手が武器持ちだとすると大の男でも殺される可能性も高い。
気付かれぬよう、ゆっくりと間合いを詰めていく。
第三者がいないとも限らないので、辺りの警戒も怠らずにいた。慣れないことはするもんじゃない。相当手間取った。
女は、制服をつけていた。懐かしい制服。自分の母校の制服だ。
楽しかった、懐かしかった日々のことが、わずかに頭の隅に浮かんだが、すぐに消えた。
女が向かった先の道は傾斜になっていた。なだらかなもので、山というよりは丘に近いかもしれない。
潮の香りがする。海が近いな。海岸沿いは遮蔽物が少ない。まだ距離もある。
追おうかどうか迷ったが、もうしばらくは尾行を続ける。
しばらく。女は岩陰……横穴のようなものがあるようだ。そこで立ち止まっていた。
女の他に、何か動く陰がある。他にも誰かいる。
この間に距離を一気に詰めようかという考えも浮かんだが――
何度も言うには情けないがまだそういったことに慣れていない為、その場で様子を窺う。
まず安全第一だ。殺人そのものに快楽を見出す異常者、というわけではないから。まぁ、似たようなものかもしれないが。
目を凝らす。女か?動物の耳のようなものをつけているのが印象的だ。
ここからでは見つめあってるだけに見えた。実際そうだったのかは分からないが、しばし静寂の時が続く。
突如、制服を着た方の女が何かを手に持ち、もう一人の女に襲いかかった。
すでに一人殺している芳野がそう感じるのは滑稽だが、平穏な外の世界では知ることもなかった、
ドラマの中の作り話のような異様な光景だった。
しばらくとっくみあった後――再び場に静寂が戻った。
見つめ合っているだけかもしれない。何か言い争っているのかもしれない。
どんなやりとりが成されてるのか好奇心は沸いたが、結局近づけはしなかった。
制服の方の女がいきなり走り出したからだ。
突然であった為、ただ物陰からそれを眺めるだけに留まる。
走るたびに髪を結わえた丸い髪止めがひょこひょこと動いていた。
――わずかな時間の夢想から我に返る。
結局、あの女がいきなり走り出した一番の理由は、芳野からでは死角となって見えなかった位置から
第三者の仮面の男が現れたからだった。
あとは、いろいろとあって現在に至る。結局あの三人の後は追わなかった。
こちらの存在も気付かれていたようだし、何より追いつけそうにはなかったからだ。
彼らは、重い荷を捨て、身軽なままで逃走に入っていたから。
その後、現場を調べて、役に立つかもしれない救急セットだけは頂戴してきた。
他の持ち物はかさばるだけだったのでその場に打ち捨ててある。
制服の女のものだったのだろう。
近くに、救急セットの一つだったと見られる医療用のハサミが
まるで隠されるように投げ捨てられていた。
まだ、真新しい血がこびりついたままで。
結局、あの女達二人の間に何があったのかは芳野には分からない。
一つだけいえることは。
他人を信じるということは難しいということだけだ。
音楽と一緒だ。自分の為だけに。自分と、自分の大切な人の為だけに。
歌っていれば良かったのにな。
【芳野祐介 救急箱回収】
【ユズハを刺したのは実はことみ】
※元々持っていたサブマシンガン、ライフル、予備マガジンも持ってます。
※時間は第一回定時放送直後
※ことみとユズハの間でどんなやりとりが行われ、どういう経緯で今に至ったのかは現時点では不明。
278 :
にがおえ:04/05/16 12:55 ID:laKuwI0S
つんつん、つんつん
つんつん、つんつん
「こんなところで寝ていたら風邪をひいてしまいます」
「起きないと岡崎さんみたいな人に悪戯されます」
辺りはすっかり暗くなっていた。
少女――伊吹風子(2)が語りかけている相手は森の中でうつ伏せになったまま起きる気配はない。
「……この人と風子、そこはかとなく親近感を感じますっ」
「においですっ、におい」
風子は足元――うつ伏せになったままのダッフルコートの少女――月宮あゆ(58)に語りかける。
当然あゆは起きない、彼女は首を不自然な方向に曲げ、後頭部を陥没させて絶命してるのだから……。
「起きないのなら…悪戯しちゃいます。いいですねっ、起きるなら今のうちですっ」
返事はない。
「目を開けてまでねるなんてとってもねむいんですねっ」
「わかりました。風子、そのかわいいリュックをもらっちゃいます」
「風子のヒトデ入れにします」
ごそごそ、ごそごそ
ごそごそ、ごそごそ
「ああんっかわいいリュックっ」
279 :
にがおえ:04/05/16 12:57 ID:laKuwI0S
羽リュックの大きさはヒトデ入れには申し分のないサイズだ。
風子はまたもや恍惚の表情を浮かべている。
ふと、我に帰り。
「……風子、わるい子です。人様の物をとるなんてわるい人のすることですっ」
「おわびにヒトデをプレゼントします。どうぞっ」
ヒトデを取り出しあゆに差し出す。が、あゆは受け取らない。
「さっきの男の人もこの人も受け取ってくれません…風子少しショックです」
なぜ受け取ってくれないのか?
代わりに何かないだろうか?
風子はある人の言葉を思い出していた。
『相手の顔を、その場で彫って、プレゼントするんです』
『道ばたで似顔絵とか書いて、売ってる人とかいます。そんな感じです』
(渚さん…ヒトデより難しいかもしれませんが…風子、にがおえ彫ってみます)
「そっくりに仕立て上げますっ」
280 :
にがおえ:04/05/16 12:58 ID:laKuwI0S
風子はナイフを取り出しあゆの首にあてる、
ずぶり、ナイフが首にめりこむ。
めき、めき、めき。
めき、めき、めき、ごりっ。
「んーっ、ヒトデよりも難しいですっ、でも風子、くじけませんっ」
めきょ、めきょ、めきょ。
ごろり。
地面に転がる、完成。
「自分で言うのもなんですが、可愛くできました」
「これなら岡崎さんに馬鹿にされません」
「渚さん岡崎さん、風子、お姉ちゃんの結婚式のためがんばりますっ」
風子は立ち去る。首の無い少女を残して。
【(2)伊吹風子 よく切れるナイフ 羽リュック(ヒトデ入り)あゆの首】
【日没後です】
281 :
誤算:04/05/16 13:10 ID:X4/AJhqY
『参加者の諸君、ご苦労。なかなかに盛況のようで、私も胸を撫で下ろしている。
・・・・ ・・勝利者への報酬は絶対である。どうか精励されたい。以上』
「よく殺るねェみんな・・俺っちには真似できねえナ」
ぽりぽりと頭を掻きながら、相変わらず雑草の中に隠れて、放送を聞いたエディは言った。
「しかしミスったねこりゃ」
盗聴器を見ながら、エディは言った。
まず特徴と名を頭の中に叩き込んだ同位置からスタートした者の内25名を集中的に盗聴して、
現時点での行動を頭の中で整理していた。
しかし、そこで一つ問題が生じたのだ。
いや、問題に気が付いたというべきか。
エディは、箱の横で赤く輝く、50の文字とその真下にそれより大きく表示された、
43:37の文字に眼をやり、そして左脇に捨てた紙をもう一度取り、嘆息した。
紙には簡潔にこう書いてあった。
『使用制限100回 連続使用時間 1時間』
「(なんで気がつかねえかなあ・・よく考えたら上手すぎる話だったんだよな)」
この数字を発見した時と同様にもう一度深いため息をエディは付いた。
やはり、この異常な状況とに舞いあがっていたのだろうか?
それとも良いアイテムを得て少々興奮していたのだろうか?
どちらにせよ、気が付いた時には既に使用回数の半分を消費していた。
いつもナビとして宗一の背中を守るエディとしては考えられないミスであった。
282 :
誤算:04/05/16 13:11 ID:X4/AJhqY
「(ミスっていったらもう一つなんだよナ・・)」
もう乱用することはできないが、最初に得た情報を分析すると、どうも森にいる人間が多いらしい。
これはエディが最初に予想した事態と大きく懸け離れていた。
「(ほんと、どうしちまったんだ俺っちは・・)」
そしてついでに言うならば、異常なまでのゲームに乗った奴の多さがエディにとっては誤算であり、危険要素だった。
今のところ顔と番号が一致するのが35番だけというのが痛い。
声で聞き分けられれば、とも思ったが、精々聞き取れるのは男と女の違い程度という程に音響が悪い。
はあ、と一度ため息を付いてから、エディは注意深く周りに気を配りつつ、移動を始めた。
少々リスクがあるが、森から出る事に決めたのだ。
とりあえずの目標は民家、だが、それは最終地点。
とにかく、色々な場所を廻って情報を集める事だと思った。
「(盗聴器頻繁に使えない以上、後は実地探索するしかねえしな)」
民家、かここ以上に適した潜伏場所を探すためだ。
【エディ 移動中 とりあえず民家へ 所持品盗聴器 先の尖った木の枝数本】
修正35番→36番。
川辺で休息を取っていた時、その放送は聞こえてきた。
知っている者の名は呼ばれなかった。
まず芽生えた感情は『安堵』。次いで、『嫌悪感』。
「…今、ウチめっちゃ嫌な女やったな」
猪名川由宇(07)は舌打ちと共に吐き捨てる。
自分の知り合いが全員生きていると分かって「良かった」と思ってしまった。
だが今のこの時、死んだ11人の身内の心境はいかばかりか。
そう考えると、自分の思考にヘドが出た。
「けったくそ悪いわ」
一言呟いて気を落ち着けると、内ポケットから手帳サイズのスケブとペンを取り出す。
「同人女をナメたらあかんで」
いついかなる時でも描いたりメモったりできる必須アイテムだ。
些細なことがネタになる。
そしてここでは、些細な情報が命を分ける情報になるとも限らない。
メモ書きやイラストを飛ばして白紙のページを見つけると、放送で流れた名前と番号を書き出していく。
ついでに時間も記入しようと思ったが、あいにくと時計は無かった。
空を見る。
「…もう夕方やな。四時…六時くらいか?」
大体そんなもんだろうと当たりをつける。
記入し終わった由宇は、パンッと勢いよくスケブを閉じた。
「よっしゃ、行くか!」
十分に休息は取った。
スケブの代わりに、脇に置いてあった支給品――身の丈ほどもある長いロッドを手に取る。
この長さではバッグに収まる筈も無いが、実はスイッチ一つで三節棍になる優れものだ。
それを杖代わりにして一気に立ち上がる。
「まずは詠美や南やん達を探す。で、このムカつく場所から脱出や!」
自分の行動方針を声に出して確認する。
方法はまだ分からない。
だが必ず見つけてやる。
(大丈夫や、きっとできる)
怖がる気持ちはある。恐れる気持ちはある。
だが、それは心の奥底にしまい込む。
もし和樹がここにいたら…根性座ったあの男なら、絶対同じ結論を出す。
だから、自分も――
「同人女をナメたらあかんで!」
一声吼え、川下へ向けて歩き出した。
由宇が川下へ向かったのは幸運だったと言える。
もし川上へ向かっていたら、いずれ、決意をくじかれる光景を見ることになっていただろうから。
変わり果てた立川郁美(54)の姿を見ることになっていただろうから。
【007 猪名川由宇 所持品:ロッド(三節棍) その他所持品:手帳サイズのスケブ】
【川に沿って、川下へ移動中。 知り合いを探して脱出する方針で】
「おお、あさひやないか!」
一人あてもなく森の中を歩いていた桜井あさひ(46)が、馴染みのある声に思わずに振り返ると、そこには猪名川由宇(7)が立っていた。
「由宇さん!」
不安と恐怖で胸が一杯になっていたあさひは、由宇の姿を確認し、思わず涙をこぼした。
「あんたも無事やったか」
そんなあさひを見ながら、由宇はいつもと変わらぬ笑みを浮かべた。
「そういやあんたの武器って何や?」
情報を交換しているときに、ふと由宇があさひに尋ねた。
「あっ、まだ見てないです。これから見てみますね」
そう言ってあさひは支給されたバッグを開きだした。
「なんや。まだ見てなかったんかい」
由宇はあきれたような声を出した。
「しかし災難やなぁ」
「ええ。本当にそうですよね」
「でもまあ、最後まで生き残ると何でも一つ願いを叶えてくれるっちゅうしな」
「え?」
由宇のせりふに、バッグをのぞきこんでいたあさひは思わず顔を上げた。
その顔の横を、高速で何かが通り抜けた。
「ちっ、こんな至近距離で外してもうたか」
あさひの目に、右手で煙をあげる銃を構えた由宇の姿が飛び込んできた。
「まあ、うちも素人やしな」
銃を構えたまま、由宇がつぶやいた。
「由宇…さん?」
「うちもゲームに乗ることにしたんや。だから悪いけどあんたには死んでもらう」
そう言いながら、由宇はあさひの額に銃口をつきつけた。
(由宇さん…そんな……いや…いやっ…)
「いっ…いやああああああ!」
気がつくと、あさひは手に持っていたバッグを横へ振り回していた。
そのバッグは由宇の左腕と左脇腹に当たり、由宇は右へ倒れ込んだ。
あさひは由宇には目もくれずに、どこかへと一目散に走り出しだ。
「いつつ…逃げられたか」
体を起こしながら、由宇はあさひが走り去った方向を見た。
「まあええわ。次は気をつけなあかんな」
そういって、由宇は落とした銃を拾い上げ、その場を後にした。
(由宇さん…どうして…どうして!)
あさひの心は完全に乱れていた。
ただひたすらに、あてもなく、死にものぐるいで走り続けた。
やがて、あさひの体力は限界になり、あさひは足をもつれさせて転んだ。
転んだ拍子に口が開いたままだったバッグから、何かが飛び出した。
それは、彼女に支給された武器、S&W M36だった。
あさひはそれをおそるおそる拾い上げた。
あさひはしばらく立ちつくしていたが、ふと、彼女の頭の中にある考えが浮かんだ。
(もう…死のうかな…)
由宇に裏切られ、あさひにはもう生きる意欲は残っていなかった。
しかし、実際に銃をこみかめに当てようとした瞬間に、あさひの体は震えだし、自分の意志では動けなくなった。
しばらく彼女は死への恐怖に震えていたが、やがて決心をし、震える手で銃をこみかめに押し当て──
「…というわけ、か」
ため息をつきながら、少年(46)はあさひから聞いた話を思い出していた。
そのあさひは、疲れ切ったせいか、いつの間にか眠っていた。
あさひの顔を見ながら、少年はこれからのことを考え出した。
【7 猪名川由宇 支給品 ベレッタ M84 (残り弾数12)】
【あさひ睡眠中、少年はこれからについて考え出す】
グリーン・グリーン
高倉みどり(53)は歩いていた。ただただ歩いていた。
父も健太郎も居ない状況で殺し合いに放り込まれ、何かしていなければ気が狂いそうだった。だからといってやるべきことも見つからないため、とりあえずこうして歩いているのである。
何となく、大河ドラマで宮元武蔵が行っていた苦行を思い出しつつ、森の中を歩き続けていた。
『参加者の諸君、ご苦労。なかなかに盛況のようで・・・
突如として鳴り響いた放送に足を止め、知り合い(といってもスフィーしか居ないが)の名が呼ばれなかった事に安堵する。そしてまた歩き出そうとして・・・足の痛みに蹲った。
お嬢様育ちであるみどりが6時間近く歩き続ければ、こうなるのは当然である。しかも・・・
ぐう〜
かわいらしい音を立てておなかが鳴る。顔を赤らめつつ、ようやく食料の入ったバッグに思い当たった。簡単に食事を済ませ、ついでに武器を確認する。
「お皿?」
入っていたのは絵皿だった。それほど高級品では無さそうだが、白ウサギの模様が可愛らしい。自分には銃器や刃物よりずっとふさわしいと思った。
しばらく絵皿を堪能した後、箱の注意書きに目が止まった。
「この島のどこかにこれと対になる皿があります。2つ揃えたアナタには頼もしいパートナーが手に入るでしょう」
ここに、みどりの目標が出来た。
【53 高倉みどり 支給品:白うさぎの絵皿】
「なぁ、芽衣…」
春原が、疲れた声で芽衣に話しかけた。
「何?」
「後学のために聞いておきたいんだが、お前は何時に寝るんだ?」
「えーと…早い時で十時ぐらい…」
質問の意味を汲み取ったのか、芽衣はわざわざ「早い時で」という条件付で答える。
「だよな…早くてもそれぐらいだよな…」
はぁ、と二人で溜め息をつく。
「…どうする?」
「どうもこうも…」
「野宿なんて嫌だよな」
「うん」
「……」
「……」
――少し前の会話が、頭の中でリピートされる。
『日が沈んだな…』
『うん。今八時くらいかな』
『そうか…そろそろ宿を探さないと』
『そうだね』
『どこか心当たりあるか?』
『いや…夢中で走ってたから』
『そうか…』
『ごめんね』
『謝らなくていい。…名雪さんは?』
『……』
『名雪さん?』
『くー』
『『早っ!』』
もともと寝るのが早いうえに緊張感も重なり、名雪はかなり早い時間に寝てしまった。
もちろん寝たのなら起こせばいいのだが。
「何やっても起きやしないし…」
春原は呆れた眼で、立ったまま寝ている名雪を見る。
いろんな方法を試した。
大声を出すわけにはいかないので、とりあえず肩を叩いた。
起きない。
少し強めに叩いた。
起きない。こんなことで起きたら祐一も苦労はしまい。
揺すった。
起きない。寝言「けろぴー」。
強く揺すった。
起きない。寝言「イチゴサンデー」。
頭を殴った。
起きない。寝言「だおー」。
髪の毛を引っ張ろうとしたら芽衣に怒られたので、頬を引っ張った。
起きない。寝言「わひゃひ、ほんにゃのほ…」(訳:私、女の子…)
やるだけ無駄だと悟ったのは、寝言が「祐一」「お母さん」「朝〜朝だよ〜」「朝ごはん食べて学校にいくよ〜」ときて、そのあと「けろぴー」と続いた時だった。
「とりあえず引きずってでも動くか…」
「そうだね…」
二人は、名雪を引きずって移動を開始した。
「…そういえば」
「ん?」
「すっかり忘れてたが…お前の武器はなんなんだ?」
「あ…」
忘れていた。
いきなり誰かに襲われて、しかもそのあと兄がナンパに走ったり定時放送とやらが流れたりで、バッグを開くということすら頭になかった。
「開けてみろよ…もしかしたら、今の状況を打破できる凄いものがあるかもしれないぜ?」
「…簡易テントでも入ってなきゃ無理だと思うけど」
「……」
「……」
「…ま、とにかく開けてみろ」
「うん」
芽衣は肩にかけていたバッグを下ろし、ファスナーを開けた。
中に入っていたのは、食料、水、そして――
「…カセットウォークマン?」
芽衣が取り出した物を見て、春原は思わず呟いた。
「ちょっと貸せ」
「はい」
「……」
春原は、そのウォークマンを観察した。
恐らく、外れ武器であろう。
人を殴る時には中々強度がありそうだが、それは本来の用途とは違う。
自分のトカレフや奪ったニードルガンとは偉い違いである。
「ちぇっ…やっぱこんなはずれもあるのか」
舌打をかまして、ウォークマンを芽衣に放り投げる。
未だ「外れ武器」を目にしていなかったため、多少なりとも期待していたのだが――
「…ねぇ、お兄ちゃん」
と、芽衣が声をかけた。
「ん? どうした」
「これ…中にカセットが入ってるよ」
「何?」
春原は慌てて芽衣の手を覗き込んだ。
なるほど、確かに中にカセットが入っている。
「…聞いてみるか」
「うん」
もしかしたら、このゲームに関する情報が入っているのかもしれない。
春原はそれに期待して、イヤホンをはめ、再生ボタンを押した。
「ほい、ぽちっとな…」
ぽち。
『YO! YO! オレ岡崎! 春原、お前は…ウーパールーパー!』
ぽち。
「――何が、聞こえたの?」
芽衣が恐る恐る、わなわなと震えている春原に聞く。
春原は、震えを止めたかと思うと、
「ふざけんじゃねええええぇぇぇ!!」
ウォークマンを空の彼方に投げつけた。
「あ、何やってるの! 何が聞こえたの!?」
「あんなもの聞かんでいい! いくぞ!」
春原は憤って歩き出した。
ずるずると、名雪が引きずられる。
「あ、待ってよ!」
芽衣もそれを慌てて追いかけた。
――春原は知らなかった。
あの下手糞なラップの後に、実は重大な情報が隠されているのを。
――春原は知らなかった。
投げたカセットウォークマンがどこに落ちたのかを。
【芽衣 支給武器:カセットウォークマン(朋也のラップ入り)】
【名雪 くー】
【行動方針:宿を探すに変更】
【カセットの秘密・どこに落ちたかはまだ不明】
【時刻は夜8時ごろです】
すみません。ちゃんとリロードしてませんでした。由宇を晴香にしただけですが、書き直したのをはらせてもらいます。
「こんにちは」
一人あてもなく森の中を歩いていた桜井あさひ(46)が、声に思わずに振り返ると、そこには紫色の髪の少女が立っていた。
「あの…あなたは?」
おずおずと、あさひはその少女に尋ねた。
「巳間晴香よ」
少女−巳間晴香(91)はにっこりと微笑んで、答えた。
「そういやあなたの武器って何?」
自己紹介をすませ、情報を交換しているときに、ふと晴香があさひに尋ねた。
そのころには、あさひはすっかり晴香に心を許していた。
「あっ、まだ見てないです。これから見てみますね」
そう言ってあさひは支給されたバッグを開きだした。
「なんだ。まだ見てなかったの」
晴香はあきれたような声を出した。
「しかし災難よね」
「ええ。本当にそうですよね」
「でもまあ、最後まで生き残ると何でも一つ願いを叶えてくれるっていうしね」
「え?」
晴香のせりふに、バッグをのぞきこんでいたあさひは思わず顔を上げた。
あさひの顎のすぐ近くを、高速で何かが通り抜けた。
もし顔を上げるのが一瞬遅かったら、それは確実にあさひの頭を貫いていただろう。
「あら、外しちゃった」
あさひの目に、右手で煙をあげる銃を構えた晴香の姿が飛び込んできた。
「晴香…さん?」
「私もゲームに乗ることにしたの。だから悪いけどあなたには死んでもらうわ」
そう言いながら、晴香はあさひの額に銃口をつきつけた。
(晴香さん…そんな……いや…いやっ…)
「いっ…いやああああああ!」
気がつくと、あさひは手に持っていたバッグを横へ振り回していた。
そのバッグは晴香の左腕と左脇腹に当たり、晴香は右へ倒れ込んだ。
あさひは晴香には目もくれずに、どこかへと一目散に走り出しだ。
「いてて…油断したようね」
体を起こしながら、晴香はあさひが走り去った方向を見た。
「まあいいわ。次からは気をつけるか」
そういって、晴香は落とした銃を拾い上げ、その場を後にした。
(晴香さん…どうして…どうして!)
あさひの心は完全に乱れていた。
ただひたすらに、あてもなく、死にものぐるいで走り続けた。
やがて、あさひの体力は限界になり、あさひは足をもつれさせて転んだ。
転んだ拍子に口が開いたままだったバッグから、何かが飛び出した。
それは、彼女に支給された武器、S&W M36だった。
あさひはそれをおそるおそる拾い上げた。
あさひはしばらく立ちつくしていたが、ふと、彼女の頭の中にある考えが浮かんだ。
(もう…死のうかな…)
晴香に裏切られ、あさひにはもう生きる意欲は残っていなかった。
しかし、実際に銃をこみかめに当てようとした瞬間に、あさひの体は震えだし、自分の意志では動けなくなった。
しばらく彼女は死への恐怖に震えていたが、やがて決心をし、震える手で銃をこみかめに押し当て──
「…というわけ、か」
ため息をつきながら、少年(46)はあさひから聞いた話を思い出していた。
そのあさひは、疲れ切ったせいか、いつの間にか眠っていた。
「しかし、晴香がゲームに乗っているとはね」
あさひの顔を見ながら、少年はこれからのことを考え出した。
【91 巳間晴香 支給品 ワルサー PP/PPK (残り弾数7)】
【あさひ睡眠中、少年はこれからについて考え出す】
その家からは明かりが漏れていた。
「……どういう、事かしら?」
石原麗子(05)は、森の中からそれを見ていた。無論、茂みの中に隠れ、気配は可能な限り消している。
明らかに人がいる。何しろ、リビングのカーテンごしに人影が動いているのが見えるのだ。一つ、二つ……
あるいはもっといるだろうか。
しかもかすかに料理のにおいまで漂ってきている。これではまるで普通の民家だ。この殺人で彩られた島の
中で、こんな光景を目にするとは予想外だった。
あまりにも無防備すぎる。それが第1印象。
何故あんなにも平然と、人がここにいる事を周囲にモロにばらすような真似をするのやら。
ずきずきと痛む左肩と左腕……医者の知識を駆使して応急処置と当て木はしたが、これはかなりの重傷だと
自覚せざるを得なかった……を右手でさすりながら、麗子は考えた。
少なくともはっきりしているのは、あの場には電気があり、料理が作れる水道とガスもあるという事だ。
この傷ついた体を癒すには最適だろう。
だが麗子の心は、目の前の光景に警報を発していた。
本当にあの家は無防備なのか?
所有者の気配を消すという、予想外の道具の力で重傷を負わされたのはついさっきだ。あの家に、
それと同等以上の道具が無いという保証はどこにも無い。……否、むしろあると考えた方が、
あの無防備ぶりにも納得がいく。少なくとも自分なら、そうでないとあんな真似はしない。
そして中には複数の人間。動き方からして、恐らくほとんど無傷。動かない者も含めたら何人いるか
知れたものじゃない。ゲーム開始からこの短時間で統制の取れた大集団が出来る可能性は低いが、知り合い
同志が運良く出会えたらそうとも限らないだろう。
一方のこちらは満身創痍と言ってもいい状況で、しかも単独。
「……下手に動けないわね」
あの家の住人を排除し、占拠することを考えた場合、いささか不確定要素……それも、考えれば考える
ほど自分にとって不利に思えてくる……が多すぎた。
程なくして下した結論。
それは、誰かがあの家に攻め込むのを待つ。それであちらの防衛能力や人数構成が把握できれば、自分が
動く際に有利に働く。うまくいけば漁夫の利が得られるだろう。戦闘することなく水や食料が手に入るなら
それに越したことはない……殺さなくて済むという意味ではなく、危険を冒さずに済むという意味で。
「慎重に行かないと。またあんな事になったら笑えないわ」
これ以上怪我を負うわけに行かない。だから二度と不覚は取るわけに行かない。やるなら無傷で勝てる
見通しが立ってからにしたかった。そのためにはあせってはならない。
決意と共に、麗子は静かに移動した。民家がぎりぎり見えて、自分の身を安全に隠せる場所を探しに。
そのまま野宿になる可能性も高いが、それも覚悟の上だった。
深手を負いながらも明晰さを失わない頭脳。自分の安全を確保して敵を排除するための論理的思考。
石原麗子のそれは紛れもなく強力な武器であった。
しかし、それが同時に彼女の限界でもあった。
なぜなら民家の中にいたのは
「ん?」「ん〜(しっぽはたはた)」「ん、じゃあ片づけるね」「ん」
何故かこれで意志が通じてしまう、戦闘する意思も能力もほとんど皆無の二人だったのだから。
麗子には戦う強さがある。人を殺せる強さがある。しかし戦わない強さは、人を信じる強さはなかった。
【005石原麗子 民家の見える場所で警戒しつつ野宿体制】
【004アルルゥ&027河島はるか お食事終了】
真琴が去った後、智代は物思いに耽っていた。言わずもがな、真琴が残した言葉についてである。
「よく見たらあんた、逃げていった人と同じような服着てるじゃない! もしかして仲間なんじゃないの? あたしを油断させる作戦ね? そのてにはひっかからないんだからっ!」
その言葉が智代の胸中を延々とリフレインし続ける。
(本当に・・・本当に私たちの学校の誰かがゲームに乗ってしまったのか・・・・)
そう思ってしまったが最後、この場所は自分たちの過ごしてきた日常とは程遠いものであると認識させられ
智代は陰鬱たる気分にならざるをえなかった・・・・
(実際には真琴を襲撃した犯人は緒方理奈(15)であったわけなのだが。)
そうして智代はその場でぼんやりと座っていた・・・・
「だ・か・ら!あたしのほうが不幸なの!!」
「ち・が・う!俺のほうが不幸だ!!」
広瀬真希(72)と北川潤(30)は森の中の野道をどちらが不幸かを話しながら駆け抜けていた、時間は夕暮れ、もうすぐ日が沈みかける頃だった…。
「だから、聞いてよ!出会ってすぐの転校生に味噌汁の出汁がエグイっていわれたのよ!!そこからが運のつき!」
「それは聞いた!俺のを聞け!コミュニケーションの取れなさそうな転校生に親しみやすく自己紹介!そしたらどうだ!!『変な奴』だぞ!!」
五十歩百歩、二人は自分の不幸の始まりである『転校生』について愚痴っていた。
「便座カバーが所持品になったのはそいつの所為だ!!マジだ!あいつと出会わなければ、こんなお笑い担当の武器は手に入らん!!」
眼を血走らせながら話す北川、命が掛かっているこのゲーム、愚痴も八つ当たりも、もう真剣だ
「バックいっぱい、約米半俵、15キログラム、それを三等分して一袋5キログラム!こんなクソ重たいメリケン粉どうしろって言うのよ!!」
広瀬も自分の所持品のメリケン粉(二袋は北川に持たせている)の重みに愚痴る、愚痴る。
「くそ!!」
「あほ!!」
同じ貧乏くじを引くもの同士、とても息がぴったりだ、
「おっ、これぐらい太ければ問題ないな。」
北川(30)は、太さが5センチほどの木の棒を拾った。
「いったい、そんなものどうするの。」
「まだ、ひみつだ。ちょっとこれ持っててくれないか。」
そう言うと北川(30)は広瀬真希(72)に拾ったばかりの木の棒を渡した。
そして、バッグからU字の便座カバーを取り出し、
先端同士を縛って、輪にした。
「これでよし。それで、その木の棒を。」
「何やってるんだか、まったく分かんないんだけど。」
そう言うと広瀬は木の棒を北川に返した。
北川は木の棒を便座カバーの輪に通し、それをバッグにしまった。
「そんなもの何に使うの。」
「あぁ、俺には越えなければならない存在がいる。
それを超えるときに必要になるんだ。」
「いったい誰のこと。」
そう聞く広瀬に対し、北川は笑顔を浮かべた。
「まぁ、そのことはおいといて、そろそろ寝ないとな。」
「何こたえる気はないってこと。まぁ、いいわ。
とりあえず、寝れそうな場所を捜しましょう。」
そう言うと二人は夜の闇に消えていった。
【北川潤(30) 所持品:輪にしたU字便座カバーに木の棒を通したもの】
【北川潤(30)広瀬真希(72)寝る場所を求め移動】
【夜九時ごろ】
・・・・・・
どのくらいそうしていただろうか、不意に何かが聞こえてきた。
『参加者の諸君、・・・・・・・・・・・・・
不意に智代の意識がクリアになった。
(死亡者発表か・・・・)
・・・・・69番、柊勝平。76番、藤林椋。・・・・・・・』
(藤林・・・・まさかあの藤林か!?)
定時報告の中に藤林椋(76)が呼ばれたことを聞いた智代は藤林椋のことを思い出していた。
(朋也のクラスに遊びに行ったとき、彼女にうるさくしないでくださいと注意されたな・・・・
朋也曰く、彼女は物静かで大人しくて占いが好きで、休み時間になると机の周りが占ってもらう人達でギッシリになっていたらしいが・・・・)
注意されたことももう今となっては思い出に過ぎない。いや、過ぎなくなってしまった。
急に智代の中に自分に対する怒りがこみあがってきた。
(私は何をしているのだ!今やるべきことはゲームに乗っていない人を集める、それで脱出する!ただそれだけではないか!それをどうして今まで・・・)
怒りを自覚するや否や、智代は自分の支給武器を確かめることにした。もし、集めることが出来たとしても、守れなければ意味がないからだ。
「これは・・・CDか?まあ何か役に立つのだろう・・・」
戦闘に使えそうになかったものを引いた智代は結局自分の体を武器とすることに決めた。
素手の方が戦いに慣れているからだ。
(では、行くか。)
智代は歩き出した。その後、風に乗って
「朋也・・・・・また会えたらよいな・・・・」
という言葉が流れていった・・・
【038 坂上智代 支給品 CD(内容は後の人に任せます。)】
【行動指針、非参加者の保護。】
「で、今、どこ歩いてるわけ…。」
愚痴の言い合いが一通り終わったのか、広瀬は北川に問いかける、
「『森へ行きます…。』と置き手紙!」
北川は意味不明の言葉を広瀬に放つ、
「森の中なのは解ってるわよ!なにそれ置き手紙って、森へ行きますぅ?もののけじゃないのよ!もののけじゃあ!…手紙の才能ないんじゃないの!?」
意味不明の言葉に慣れているのか、広瀬は淡々とつっ込む、
「しらん、アンテナだ!インスピレーションだ!あの馬鹿なら、こんな事を書くはずだ!!」
どうやら北川はあの馬鹿、おそらく『転校生』のやりそうな行動を言ったのだろう、
「馬鹿ね、そいつ!大アホね!!」
「そうだ!アホだ!大馬鹿だ!!」
ふたりのボルテージが最高潮に達する…そして!
「うがぁぁぁぁ!!! むきぃぃぃぃ!!!」
大声で吼えるふたり、こいつ等こそアホで馬鹿そのものである、
「あーつかれた…。」×2
ゲーム開始から約数時間でマジで息がピッタリハイテンション…もはやこれ以上何も言うまい
「海だな…。」
「海ね…。」
野道を駆け抜けるとそこは海だった、波の音、一面の砂浜、夕焼け色の海、夕日を浴び佇むのはふたりだけ………ある意味絵になる、
「こう云う所は、プライベートで来たいものだな。」
「まったくね、何でこんなに綺麗なのかしら…。」
先ほど怒鳴りあっていたのが嘘のようだ、海の美しさがふたりの心を満たしたのだろうか…?
「これを見ていると、俺たちがちっぽけになる…。」
「当たり前よ、陸よりも海のほうが広いんだから…。」
ふたりの心の底から淡々と台詞が出てくる、まるで青春ドラマのワンシーンのようにも撮れる…。
「じゃあ、定番の奴を行きますか!」
夕日をバックに北川は広瀬に語りかける、対する広瀬も「うん」と首を縦に振る、
「あーいーざーわーの! ク ソ バ カ ヤ ロ ウ ! ! ! ! ! ! ! ! 」
「なぁーなぁーせーの! ウ ○ コ タ レ ! ! ! ! ! ! ! ! !」
ここには居ない『転校生』の名を大声でさけぶ、二人の叫び声は波音が消してくれる、半分は本気で、もう半分は冗談で、
ふたりは少しだけ良心が痛かったが、どうしても気分を落ち着かせたかった。
「あはははっ、スッキリした」
「まったくだ、本人の居ないのを理由に…。」
二人とも気分が楽になったようで、すっきりした顔をしている、いつの間にか砂浜に座りながら夕日が落ちるのを見ていた
307 :
303:04/05/16 15:50 ID:v6H5To7K
しまった、ごめん書いてるうちに書き込まれてた、俺のは忘れてくれ。
「ねえ…さっきの話の続きだけどさ…。」
海に沈む夕日を見ながら、広瀬は北川に話しかける、とても落ち着いた悲しげな表情でだ、
「先に死んで行くものと、あとに残されたもの、どっちが不幸かな?」
ふたりが組んだ矢先に提示報告が流れたのだ、僅か数時間のうちに11人、中には北川と広瀬の知人が含まれていた、
北川はゆっくりと立ち上がり掴んでいた砂を海に投げ付ける、投げ付けた砂は扇常に霧散して、パラパラと海に撒かれる、投げ終えると広瀬の下に戻る
「…どっちも…辛いな。」
北川はそう答えるしかなかった、死んでいった栞ちゃん、残された自分や美坂…。
「でもな…、広瀬が今、そう言うことを考えられることはとても大事だと思う…。」
死んでいった者がいるということは、殺した奴がいるという事、平気で人を殺せる奴にそんな考えは生まれない…。
そろそろ、潮風が強くなるな…、とりあえず今晩はあそこで休もう…。」
北川は広瀬に手を貸し立ち上がらせる、向かう先は砂浜に立っている看板のついたプレハブ小屋、ペンキがはがれているが何かは解る…海の家だ。
「役に立つものあるかな?」
「あるだろ?海の家だしな、とりあえず夕飯たのむ。」
「任せといて!何処かの乙女よりもおいしい御飯作ってあげるわ!あんたも手伝ってよ!」
「おう!チーズ竹輪一つ作れなさそうな奴とは違うトコ、見せてやる!」
愚痴と夕御飯を出汁に世間話が弾む、僅か夕食分の未来だが、そこには希望があった。
【北川潤(30) 所持品 便座カバー、メリケン粉5キログラム×2】
【広瀬真紀(72) 所持品 メリケン粉5キログラム 『超』『魁』ジッポライター】
【海の家で必需品探しと夕御飯と一晩休む予定】
310 :
302:04/05/16 15:58 ID:+qfv3cpC
島を監視するためのモニタールーム、それは全てを総括する大モニタールームといくつかの小モニタールームからなる
ここはその小モニタールームのある一室
男があくびをしながらつまらなそうにモニターを監視している。と、不意に入り口のドアが開く
「あ、篁様お疲れ様です」
入ってきたのは篁だった。男は頭を下げながら挨拶をする
「何か変わった事はないか?」
「いえ、特に報告すべき事は特にありません」
「そうか、しかし奴等も何を考えているかわからない部分がいささか多い。何か変化がありしだいすぐ報告するようにしろ」
「了解しました。それと気になった点があるのですが」
「何だ?言ってみろ」
「支給品の中に奴等の所持品だったものからそのまま支給されている奴が数人いるのですが何かのミスだったのでしょうか?」
「ああ、それか。それは本来の【あたりの支給品】とは別に用意させた【あたりの支給品】だ」
「別のあたり…ですか」
「そうだ、ランダムに選ばれた数人には元の所持品から支給してある。奴等、やたらと物騒な物を持っていたからな、使い慣れた武器を支給されればかなりの成果をあげてくれると思ったのだがな…」
「そうだったのですか…」
「うむ」
「でもあまり効果があがってないようですが…」
と、ここまで話し続けてきた篁の顔が急に凍りつく
「す、すみません、失言でした」
男が慌てて取り繕う。
「まあいい、本当の事だ。これならまだ全員に銃を配った方が面白かったかもしれんな。しかし組織の連中はあっさり終わることはお気に召さないらしい。難しいところだ…。」
しばし沈黙が続く
「話し込んでしまったな、監視のほうしっかりな」
「はい、わかりました」
と、篁が部屋を出て行く。そして歩きながら篁は考える
(このままダラダラ続けるのもつまらんな、何か企画するか…)
足音だけが妙に大きく響いていた…
【これにより自分の持ち物が支給されていてもある程度は許容されます】
【しかしあまりぶっちゃけすぎるのはご遠慮ください】
私たちの目の前で頭を打ち抜かれ、血塗れになって倒れていく男の人の姿が、
私の心にどろりとへばり付いて離れません。
私たちが住んでいた世界とはかけ離れた、敵意に満ちた空気。
その手に武器を取り、憎みあい、殺し合う…
こんな事のために、生まれてきたんじゃないのに。
(助けて…助けてください…)
スタートから約半日、リアン(99)はまだスタート地点付近にいた。
ホールのすぐ裏手にある、少し背の高い草叢に隠れてじっと蹲っていた。
誰にも見つからないように、誰にも殺されないように。
今日初めて出会った人たちが、殺し合う必要がどこにあるんでしょう。
名前も知らない人たちが、なんで奪い合わなければならないんでしょう。
その時、スピーカーから男性の声が聞こえてきた。
ホールの中で、同い年ぐらいの男の人を殺した、あの人の声が。
【…えしよう。死亡者は11名出ている。11番、太田…】
つらつらと流れる放送をぼんやりと聞きながら、思考がまた沈んでいく。
(もう…こんなに人が死んでしまった…)
(帰りたいです…)
(あの街に…)
(姉さんがいて、結花さんがいて、泰久さんがいて、そして、健太郎さんが…)
その瞬間、リアンの脳裏に浮かぶ一筋の記憶――
「姉さん!」
私は誰よりも頼りなく、しかし誰よりも頼もしい姉の姿を思い出していました。
そうだ、どうしてそんな事に気づかなかったんでしょう。
つい数時間前まで、私は姉さんと一緒に居たんです。
さっきの放送に、姉さんの名前はありませんでした。
今から探せば、逢えるかもしれません。
ああ、なんで今までそのことを考えられなかったんでしょうか。
私は、やっぱり弱いです。
…だから、少しでも前を向かなければ。
この悪意の檻の中から、牙を持たずに抜け出すために。
あの人は、最後まで生き残れば願いを一つ叶えてくれると言いました。
なら、帰ります。
姉さんと一緒に帰って、あの街に帰ります。
暫くして、リアンは草叢から這い出ると、
支給されたバッグを右肩に背負い、立ち上がった。
目の前には二つの道があった。
森へ続く暗い獣道と、やや開けた街道。
(森の中は暗いから、よく見えないですよね…)
一瞬迷った後、リアンは街道に沿って歩き出した。
この時、リアンは初めてスタートラインに立った。
迷いと戸惑いの同居した瞳のままで、ひとつかみの希望を道連れに。
【リアン(099)、所持品不明(未確認)】
【第一回放送終了後、街道沿いに歩き出す】
316 :
再出発:04/05/16 16:46 ID:4x/skHM6
『〜どうか精励されたい。以上』
放送が終了する。
すばるはその中に自分と親しい人物がいないことに安堵の息を吐く。
「でも…よかったと素直に喜ぶわけにはいかないですの」
ねぇ、ウルトリィさん、とすばるは話しかけようとしたのだが、ウルトリィの姿を見て何も言えなくなってしまう。
「どうかなさいましたか?」
ウルトリィはあくまでも穏やかな笑顔をすばるに向けてはいる。
だが、その手がふるふると震えているのをすばるは見逃さなかった…無理をしているのは明白だ。
すばるは自分の配慮が足りなかったと後悔する、だがそれを口に出すのは野暮というものだ。
それこそ心遣いを無駄にさせてしまう。
「そ、それよりも荷物のチェックですの」
慌てて話題を転換させようとするすばる、そんなすばるの様子を見て、この子は本当にいい子ねと
ウルトリィは少し救われた気分になるのだった。
まずは自分の荷物をチェックするすばる、中から出てきたのは黒光りする2本の金属棒だった。
棒の先端近くに取っ手がついている。
「トンファーですの」
すばるは目を輝かせてトンファーを装着すると、その場でポーズを決めてみせる。
見た目は地味だがトンファーは攻防一体の優れた武具だ、これからの戦いにおいてきっと役に立つに違いない。
『〜どうか精励されたい。以上』
放送が終了する。
すばるはその中に自分と親しい人物がいないことに安堵の息を吐く。
「でも…よかったと素直に喜ぶわけにはいかないですの」
ねぇ、ウルトリィさん、とすばるは話しかけようとしたのだが、ウルトリィの姿を見て何も言えなくなってしまう。
「どうかなさいましたか?」
ウルトリィはあくまでも穏やかな笑顔をすばるに向けてはいる。
だが、その手がふるふると震えているのをすばるは見逃さなかった…無理をしているのは明白だ。
すばるは自分の配慮が足りなかったと後悔する、だがそれを口に出すのは野暮というものだ。
それこそ心遣いを無駄にさせてしまう。
「そ、それよりも荷物のチェックですの」
慌てて話題を転換させようとするすばる、そんなすばるの様子を見て、この子は本当にいい子ねと
ウルトリィは少し救われた気分になるのだった。
ウルトリィの支給品は掌サイズの一見すると携帯テレビのような機械だった、
説明書には首輪探知システムと書いてある。
説明によると画面中心の矢印が自分で、その他の光が他の参加者の現在位置なのだそうだ。
GPS機能も搭載しているらしく、周囲の詳細な地形データも画面に映し出されている。
「いい武器ですの、これで人探しが楽になるですの」
やや困惑したままのウルトリィの肩に手をやり、すばるは元気付けるように声を出す。
と、その時だった。自分たちの北側、索敵範囲ギリギリの個所で2つあった光が1つ消えた…
おそらく誰かが死んだ…いや殺されたのだ、殺したであろう奴はそのまま北東に向かっている。
今この周辺に確認できる光は3つだ。3つとも現在は動きを止めているようだが、
全て自分らの北に位置している、今の状況で自分たちからコンタクトを取るのは危険なように思える。
これでは南に向かう以外に手は無い。
すばるとウルトリィはとりあえず南へと向かうことにした。
【御影すばる 所持品グレネード 残り2個 (殺傷力は無いがスタン効果とチャフ効果を合わせ持つ)】
【ウルトリィ 所持品首輪探知システム】
「ん…浩之…ちゃん?」
目覚めた少女は自分をヒロユキと呼んだ。
「違う。俺は亮。松浦亮だ。あなたの名前は?」
「…え、あ、神岸あかりです」
「率直に聞く。神岸さん、あなたはこの殺しあいに乗っているのか?」
「…いいえ」
「俺もだ。あなたに危害を加えるつもりはない。時間はあるか?話がしたい」
「…はい」
(意外と落ち着いているな。よかった)
亮は話の主導権を握るため、珍しく積極的に話をした。
あかりはこのどこか浩之に似た青年を敵として認識することはなかった。寧ろ彼の落ち着いた雰囲気から安心すら感じていた。
「まずは自己紹介からだ。二度目になるが名前は松浦亮。亮でいい。普通の高校生だと思っていい。
ここには友人と知人が何名か来ているようだ。人目に付きたくないから森に来た。あなたに出会うまでにほかの人とは会っていないが、気が付いていないだけかもしれない」
(普通の高校生…ではないがこの島では普通なはずだ)
「えっと、あのっあかりでいいです。普通の高校生です。友人がたくさん来てます。わたしも初めて人に出会いました…」
(次に何を言えばいいんだろうか?聞きたいことに誘導していかないと)
無口な亮と比較的おとなしいあかりでは会話が続かなかった。
(こんなとき修二か春秋がいてくれたら…)
そして思いだす。先ほどの感覚。修二は…。
「あのっ、それ、何ですか?亮さん」
あかりも会話が途切れるのがつらかった。だから、亮が持っているものについて尋ねた。
「?、ああこれか」
それはあかりには自転車のギアを取り外しフレームをつけただけにしか見えなかった。
亮は自分の分かる範囲でそれの説明をした。
・武器であること
・スイッチを押すとギアが高速回転し、発射されること
・ギアは大中小の三つあること
・発射まで若干時間がかかること
・ギアは発射してもはめ直せばまた使えること
・充電用のケーブルが付いていたので電動であると思われること
・おそらく近距離からでも遠距離からでも戦えること
・自分の力なら楽に扱えること
・両手が塞がるが持ちやすく、ねらいもつけやすいこと
・腕を切断できるくらいの殺傷能力があると思われること
そして、
「かといってこれで殺人をするつもりはない」
と言った。
あかりは息を吐いた。
「…本当に殺人用の武器が支給されているんですね…」
「ああ。実際少なくとももう11人も死んでいる」
「えっ、なんでそんなことがわかるんですか?」
「結構前に放送があった。聞いてないようだな。死んだのは…」
亮は暗記していた11人の名前を伝えた。あかりの表情に変化がないことから友人は含まれていなかったことが想像できる。
「待ってください。鞄にメモがありました。書いておきましょう」
亮の鞄には筆記用具は入っていなかった。あかりが全員の名前を書き終えると亮は聞いた。
「鞄に入っていたものはなんだったんだ?」
「このメモとペンとそれと、木彫りのクマとパンと水です」
「む」
(ハズレか…)
気が付けばもう日が暮れていた。
「寝床を探さないといけないな」
この森には嫌な雰囲気が漂っている。本当はもう少し早く出たかったが仕方がない。
「はい。あっ、あの。一緒に行ってもいいですか?」
「勿論。仲間と行動したほうがいいに決まっている。さぁ、行こう……あかり」
立ち上がり、あかりの手をとる。あかりも握り返す。片手には木彫りの熊。笑顔だった。
結局聞けなかった。ヒロユキとは誰なのか。
それだけじゃない…修二、俺は迷っている。俺には目的がない。それが考えた答え。
このゲームで俺はなにができる?あかりのために、自分のために。
エゴに向かいつぶやいた。
【84松浦亮 嫌な雰囲気を感じ森を出ることに】
【24神岸あかり 支給品:筆記用具、木彫りの熊(鮭をくわえている) 元気になる、後遺症はない、亮と行動を共に】
【日が暮れている】
「うう・・・姉さん・・・会いたいよぅ・・・」
嘆きに近いような呟きをしながら民家群落を歩いているのはリアン(99)である。
いつもなら姉の居場所はどれだけ離れていても感じることが出来た。
でも今はどんなに精神を集中させても感じることが出来ない。
姉を感じることが出来ない。 それはリアンにとって耐え難いものなのだ。
事実、姉がこっちの世界にやってきてたった一日で彼女を追いかけてやってきたのだ。
既に開始から6時間以上が経過し、夕日は先ほど沈んだ。
歩くのは苦にならない。
二週間もの間、南極や砂漠を歩き詰めだったこともある。
数時間前に聞いた放送では姉はまだ呼ばれていない。
それなら、必ず見つけられるはず。
腰かけるのに最適な場所を見つけ、バッグを開ける。
中から出てきたのはMealと印刷された箱。
開けてみると総計12個のパックや缶詰。
「えっと、グリルドビーフステーキ・・・ こっちはボンレスポークチョップ・・・」
そう、それは米軍の最新式レーションだったのだ。
更に箱をよく調べると、ビスケットやガム、チョコレートにクラッカーなどの食料に加え、
缶切が3つに12本綴りの紙マッチが3つ。水を沸騰させるためのものだろうか小型のガスコンロなども入っている。
それらを元通りバッグに収めると私はつかの間の休息を終え、再び歩き始めた。 さまざまなことを考えながら。
姉のこと、ゲームのこと、能力の封印のこと・・・
思考が封印のところに差し掛かったとき、不意に足が止まった。
(電波・プロクシ・不可視の力・法術・体術・・・そして、魔法。)
(どういう力かは判らないけど様々な能力を持つ人々が存在し、その力を封じられている。 それもこの島全域で。)
(仮に魔法でそのような封印を実行しようとすれば巨大な魔方陣と強力な媒体。そして3桁の術者が必要になることは疑いない。)
(それなら術体系が違い、そのレベルが遥かに高いとしても封印の中心はこの島の何処かにあるに違いない)
(姉さんを探さないといけない。 でもゲームに逆らう誰かにこのことを伝えなければいけない。)
新たに生まれた一つの目的。
それを胸に秘めリアンは再び歩き出した。
彼女は聡明である。
だが自身のことで唯一理解していないところがある。
何故、一日後にグエンディーナを出てスフィーの元に辿り着いたのが二週間後だったのか。
そう、彼女は方向音痴なのである。
【リアンの配布品:米軍用レーション(12食分)・ビスケット類の食料・缶切3つ・12本綴りの紙マッチ3つ小型ガスコンロ】
【行動指針:姉を探す・ゲームの破壊者に会う】
【残り83人】
324 :
かりそめ:04/05/16 17:05 ID:wQcuQf5O
氷上シュンは、完全に迷っていた。いい年して、迷子になっていたのである。
いや、この薄暗い森の中に入ってしまった以上、こうなることは予測できないことでもなかった。
「……参ったね」
数分、数時間おきに、殺し合いが確かに進行している。
その証拠として、何度となく絶叫や銃声が響き渡っている。
それなのに、いつまで経ってもシュンは誰にも合わないままで、いまや日が沈もうとしていた。
「ひょっとしてもう、この世の人間じゃなかったりしてね。ははは」
笑えない、冗談だった。
しかし実際には、気が付いていないだけで、既に遭遇していたのである。
捨てる神というべきか拾う神というべきか、望む望まぬは別として。
「……うわ、キショ。笑ろとるで、あの兄ちゃん」
「正気じゃないのかも。あのコ、危ない人なのかなー」
八重歯の方言女と、ショートカットのメイド。
神尾晴子と麻生明日菜が、シュンの接近をいち早く察知して、藪の中に隠れていたのだ。
「なあなあ。アンタの武器、なんやった?」
晴子は自分の千枚通しを弄びながら、メイド服の女性、明日菜に尋ねた。
「いやー、アタシも晴子さんと同じようなもんですよー」
ひょい、とナイフを構える。配給されたものは、ナイフとケーキだった。
「あちゃー、ビッとせんなあ」
「いまひとつ、ですねー」
(なんや、使えん奴っちゃな)
(ったく、使えないオバさんね)
互いに勝手な独り言を、心の中で呟いていた。
325 :
かりそめ:04/05/16 17:08 ID:wQcuQf5O
「……ところでアンタな、もし襲われたらどうする? 一応アンタの意見も聞いときたいんやわ」
明日菜は迷うことなく、即座に答える。
両者とも、このあたりの見解は、恐ろしく似通っているのだ。
「できる限り、戦うべきかなって。ホラ、せっかく二人生き残れますし。あはは」
「あー、ウチも賛成や。二人セーフなんやし、他はどうでもええよなあ。はははー」
乾いた笑いがふたつ、極めて地味に湧き上がる。
(あなたと二人じゃないですけどね)
(アンタも、どうでもええんやけどな)
一見爽やかだが、その実じっとりとした視線が交差していた。
「ぶっちゃけ、こっちから攻撃してもええよなあ?」
「あ、やっぱりそう思います? 晴子さん平和主義だったら、どうしようかと思っちゃいました」
(この小娘、ノリノリやな)
(このオバさん、とうぶん利用できそうね)
どこまでも続く、暗黒思考が、そこにあった。
「た、助けて!」
どうにもダウン方向へとはまっていくシュンの思考を、女性の声が打ち破った。
ブラウスをはだけたメイド服の女性が、駆け寄ってくる。
一瞬銃を構えようかとも思ったが、武器どころか荷物も何も持ってい彼女に対しては、不要と思われた。
「どうしたのかな?」
「あ、あっちの藪の中に!」
そう言いながら、女性はシュンを盾にするように、後へ隠れた。
(うん、これだ。僕はこういう出会いを求めてたんだ)
誰かの役に立つ。彼女を助けることが出来たのなら、自分の命の価値も、いくらか上がるのではないだろうか。
そう考えて、UZIを構える。
「あのあたりかい?」
何かがガサリと動いた気がした。そのあたりへ、銃口を向けてみる。
確実に何かがいる。彼女の言葉に嘘はない、そう考えて茂みに集中する。
(……誰だか知らないけど、悪いね)
引き金を、引いた。UZIの弾丸が、茂みに隠れた何者かを蜂の巣にする──
326 :
かりそめ:04/05/16 17:11 ID:wQcuQf5O
──はずだった。
正しくは引き金を引こうと思った瞬間、首筋に強烈な熱を感じ、脱力していたのだ。
のろのろと、振り向く。もちろんそこには、助けたはずの彼女が立っている。
笑みを、浮かべていた。感謝の笑みだろうか。
満面の笑みを、シュンにむけていた。感謝ではないと、すぐに分かった。
慈愛の欠片もない、けれど心の底から楽しそうな、不思議な、不可解な笑みだった。
「んー、危険なのは、むしろこっちかなー? なんてねー?」
明日菜が笑う。
がさり、と茂みから晴子が立ち上がり、UZIを拾いながら苦笑する。
「ウチが明日菜ちゃんを襲うわけないしなぁ」
「ゴメンねー、キミー?」
服を整えながら、明日菜はシュンの死体へ語りかけた。
だが、あくまでついでの事であり、返り血が付いてないか、念入りにチェックする方が重要だった。
だからというわけではないが、もちろん、シュンの返事はなかった。
【002 麻生明日菜 ナイフ ケーキ】
【022 神尾晴子 千枚通し マイクロUZI(残弾80)】
【二人は相変わらず】
【070 氷上シュン 死亡】
【残り82人】
榊しのぶはおびえていた。
ブローニングM1910を握り締め、ただ街道沿いの草むらで震えている
(ぶざまね…)
透子を守るといっておきながらこのざまだ。
これでは到底守るどころか自分が生き残ることすらできやしない。
「わたし…もうだめかも…」
何より心が疲れきっていたいつもの勝気な性格もここでは何の価値も無い
価値があるの武器その結果はは生か死この世界に嫌気が差していた
そこに定時放送がかかる
『参加者の諸君、ご苦労。なかなかに盛況のようで、私も胸を撫で下ろしている。
さて、ここまでの経過をお伝えしよう。
死亡者は11名出ている。』
(もうそんなに…?)
『11番、太田香奈子。19番、柏木千鶴。32番、霧島佳乃。41番、サクヤ。44番、芝浦八重。 51番……』
(……)
『…以上の11名。生存者は89名だ。
勝利者への報酬は絶対である。どうか精励されたい。以上』
(………)
歩いている。
「はぁ、もっと持病持ちに優しい地形にしてくれなかったものかな…」
氷上シュン(70)は先ほど聞こえた銃声の方向に向かって歩いていた。
舗装された道、そうでなくとも人が通れる道ならばそんなことは考えなかったろう。
「獣道なんて歩いたこと無いよ…」
3分歩けば服が何かに引っかかる、木の根につまずく。
何度となくそれを繰り返し、又歩き出そうとした時、
『参加者の諸君、ご苦労』
どこからか聞き覚えのある声が聞こえてくる。
あいつだ、スタート地点に居た「殺し合いをしろ」と言った篁とかいう奴だ。
「なんだい、今までに死んだ人でも教えてくれるのかい?」
答えが帰ってくるはずも無いがそう問いかける。
『さて、ここまでの経過をお伝えしよう。 死亡者は11名出ている。』
答えは帰ってきた。
『11番、太田香奈子。19番、柏木千鶴。32番、霧島佳乃。
41番、サクヤ。44番、芝浦八重。 51番、住井護。…』
住井護。
その名前は聞いたことがある気がした
確か彼の友達だったはずだ。
『58番、月宮あゆ。69番、柊勝平。76番、藤林椋。88番、美坂栞。96番、柚木詩子。
以上の11名。生存者は89名だ。』
柚木詩子。
この名前も聞いたことがある気がした 。
やはり彼の友達だったはずだ。
『勝利者への報酬は絶対である。どうか精励されたい。以上』
放送が終わり静粛の中、しのぶの中に新しい感情が生まれていた
(そうかヒトって簡単に死ぬんだ。だったら)
「守るより奪ったほうが早いじゃない」
「そうよ、透子が危なくなる前にあたしがみんな殺せばいいんだわ」
「ははははは!何でこんな簡単なこと思いつかなかったんだろう」
「そうよみんなみんな奪ってしまえばいいんだわ!そして最後に透子も私のものにしちゃえば完璧じゃな
い!」
「あーあ、なんでこんなこと気づかなかったのかしら、バカみたい!」
狂気の顔に笑みを浮かべた口をゆがめ天を仰ぐ
そこに道の脇を恐る恐る歩く女性が目に入ってくる
あまりにも無防備な姿で
そしてしのぶに、もはやためらいは無かった
330 :
328:04/05/16 17:15 ID:Z1eUuQDO
かぶったすまぬ
俺のはスルーテで・・・
(こいつは銃をつかうのはもったいないわね)
懐にあった何度も自分を傷つけたナイフつかむ。
今の今まで気づかなかったがこれはポケットに残っていた。
しのぶは、当然のように彼女に近づいていく。正面から
「…あらっ」
No99リアンにとって不幸だったのはまだ彼女はこの現実を正しく認識していなかったことだった
お互い無防備に近づいていく
「こんにちは」
しのぶが言う
「こんにち」
リアンは答えることはできなかった
322-323はスルーでお願いします。
血の海の中しのぶはリアンのリュックを改めていた
「ふーん食料か、これは使えるわね。うまく使えば持久戦に持ち込める」
バックいっぱいの食料を背中に担ぎ死体に見向きもせず歩き始めた
「ふふっまっててね透子。あなたを必ず私のものにして見せるわ」
晴れ晴れとしかし濁った目で彼女は進み始めた
修羅の道を
【39榊しのぶ装備:ブローニングM1910(残弾0発、予備マガジン一つ)・ナイフ・米軍用レーション
(12食分)・ビスケット類の食料・缶切3つ・12本綴りの紙マッチ3つ小型ガスコンロ】
【99リアン、腹部を刺され死亡】
【しのぶの行動指針:透子以外の全員の殺害】
【夜になってきました】
【残り81人】
>>332 うわっやば俺のせいでかなりこんがらがってしまった
322−323の設定入れてしまいました
どうしましょうこのまま?
濡れる地面
ハクオロは珍しく焦っていた。
夜になりさらに東に向かって移動を開始したのだが、程なく雨が降り始め視界が遮られ
てしまい10M先の様子でさえもまともに判断することの出来ないほどの状態であった
(厄介だな・・・視界はともかく雨音で気配を探ることすらできん・・・
この状態で武器を持った誰かに遭遇でもしたら逃げ切れる可能性は低い・・・
それに、長時間雨に当たっていると余計な体力を消耗してしまう・・・)
「ねえねえ」
「む・・・どうした?」
ハクオロが背中にユズハを背負っているのでことみが先行していたのだが
突然立ち止まり、右方向を指差していた
「向こうに・・・何か建物が見えるよ」
ことみの指差した方向は闇に包まれ殆ど何も見えなかったが
良く目を凝らしてみると確かに小さな小屋が建っていたのだった
(ふむ・・・あの小屋なら雨宿りも出来る上に周りへの警戒も可能だろう。しかし・・・
中に人が居ないとも限らない・・・もし誰か居るとしたら無闇に近づくのは危険すぎるな)
「ことみ・・・少しの間だけユズハを見ていてもらえるか?私は少し調べてくるとしよう」
背負っていたユズハを雨の当たらない木の下に降ろすとことみに預けていた
木の棒を構え、気配を隠しながらも急ぎ足で小屋の様子を確かめに行った
(特に誰かが居た形跡も無いか・・・ユズハの事も考えるとここで雨宿りするのも手だな)
「よし、あの小屋で雨宿りをするぞ」
二人の下に急いで戻ると再びユズハを背負い再び小屋に向かって歩き出した
「とりあえず・・・何か使えそうなものが無いか探して来る。二人は休んでていいぞ」
雨で全身ずぶ濡れになっている二人にそう伝えるとハクオロは小屋の探索に取り掛かった
【ハクオロ 木の棒 小屋の探索開始】
【ユズハ 小屋で休息 持ち物不明】
【ことみ 小屋で休息 持ち物無し】
【雨が降り始めました(午前1時過ぎ)】
>>334 そのままイケると思いますよ。
本来のリアンの所持品も不明でしたし。
スタートラインに立った矢先の出来事で、ちょっと可哀相ですけどねw
338 :
涙:04/05/16 17:55 ID:20mO0CsN
『〜どうか精励されたい。以上』
放送が終了する。
すばるはその中に自分と親しい人物がいないことに安堵の息を吐く。
「でも…よかったと素直に喜ぶわけにはいかないですの」
ねぇ、ウルトリィさん、とすばるは話しかけようとしたのだが、ウルトリィの姿を見て何も言えなくなってしまう。
「どうかなさいましたか?」
ウルトリィはあくまでも穏やかな笑顔をすばるに向けてはいる。
だが、その手がふるふると震えているのをすばるは見逃さなかった…無理をしているのは明白だ。
すばるは自分の配慮が足りなかったと後悔する、だがそれを口に出すのは野暮というものだ。
それこそ心遣いを無駄にさせてしまう。
「そ、それよりも荷物のチェックですの」
慌てて話題を転換させようとするすばる、そんなすばるの様子を見て、この子は本当にいい子ねと
ウルトリィは少し救われた気分になるのだった。
ウルトリィの支給品は黒光りする2本の金属棒だった、棒の先端近くに取っ手がついている。
それはトンファーと言われる近接用の武器だった。
ウルトリィは少し考えた後に、その棒をすばるへと手渡す。
「いいんですの?」
「私は体術には不得手でして、貴方の方が役立てていただけるはずです」
すばるは目を輝かせてトンファーを装着すると、その場でポーズを決めてみせる。
見た目は地味だがトンファーは攻防一体の優れた武具だ、これからの戦いにおいてきっと役に立つに違いない。
339 :
涙:04/05/16 17:59 ID:20mO0CsN
「あの…これからどうするかですけれど、私に心当たりがあるのですが」
ウルトリィの脳裏に浮かんでいたのは雄々しき仮面の男、いわずと知れたハクオロの姿だった。
彼ならばきっとこんな状況下にあったとしても希望を失うことなく、正しい道を選んでいるに違いない。
ウルトリィはハクオロがいかなる人物かをすばるへと語っていく、いやハクオロだけではなく
共に死線をくぐりぬけた戦友たちについても。
だが、やはり心細いのだろう、彼らのことを語るその顔にはいつの間にか一筋の涙が伝っていた。
死と隣り合わせの乱世に生きる自分たちにとって、死は日常…いずれ平等に振りかかるものだと覚悟していた。
だがそれでも辛いものは辛い…もしこれがカミュや…ハクオロだったとしたら。
「ごめんなさい…私の方が多分年上なのに…」
ぽろぽろと涙を地面に落とすウルトリィ、そんなウルトリィをそっと抱きしめるすばる。
「いいんですの…泣きたいときに泣けない人はきっと、かわいそうな人ですの…」
…ほんの少しだけいつもと立場が逆という奇妙な違和感を感じながら。
すばるの腕の中で静かに嗚咽を続けるウルトリィ。
だが、その涙の奥にはこれから先、どれほど辛いことがあろうとも、
もう2度と涙は見せまいと思う、強い意志の光もまた宿っていた。
【御影すばる 所持品 トンファー グレネード 残り2個 (殺傷力は無いがスタン効果とチャフ効果を合わせ持つ)】
【ウルトリィ 所持品 無し (支給品のトンファーはすばるに渡してます)】
古河秋生(79)は妻である古河早苗(80)とともに森の中を歩きながら、
まだ、合流できていない娘、古河渚(81)のこと考えていた。
(とりあえず、早苗とは合流できた。
問題は渚だが、放送を聞く限りまだ生きてはいるようだ。)
「秋生さん、渚のことを考えていますね。」
「えっ。」
妻を不安にさせまいと明るく振舞っていた秋生は、
不意に妻からかけられた言葉に驚いてしまった。
「やっぱりそうなんですね。」
「ああ。」
「大丈夫ですよ。あの子は強い子になりました。
絶対にまだ生きていますよ。きっと、合流できますよ。」
「ああ、そうだな。」
「もう、夜になってしまいましたし、そろそろ食事にしましょう。」
そういうと、早苗は近くの木の下に座り込んだ。
(結局、早苗に励まされちまったな。)
そう考えながら秋生は早苗のもとに向かった。
二人はもう仲良しになってた。
いいなあ。
「……おい、その目はなんだよ」
「は? この世がうざいと思ってるくせに何も変える勇気も無い人生だりー君を見つめる価値なんてないわよ」
「にはは」
「……んだよ。その寸評は」
「第一印象そのままを言葉にしただけよ」
「にははは」
「……殺すぞ、てめえ」
「ヤクザの事務所の中でも、そういう言葉を言えたら尊敬してあげるわ」
「にはははは」
「調子ぶっこいてんじゃねえぇ女ぁ!」
「あら、もう逆ギレ?」
「にははははははははは」
「「うるさーい!!!!!!!!!!」」
わりこみ失礼。先にどうぞ。
【欠けた家族の続き】
「お前と渚は絶対に俺が守る。」
早苗のもとにつくとこのゲームに巻き込まれて
2度目の言葉を秋生は言った。
「はい、お願いしますね。」
それに対し、早苗も前回と同じ言葉を言い、微笑んだ。
「さあ、食事にしましょう。秋生さん、バッグを貸してください。」
「ああ。」
秋生は妻と合流してから肩にかけていた2人分のバッグを下ろした。
「あっ、秋生さん。ラッキーですよ。」
「秋生さんのバッグに私のパンが入っています。」
「えっ。」
(しまった。隠しといたの忘れてバッグを渡しちまった。)
「パン以外が保存の効くもののようですし、今晩はこれを食べましょう。」
「はい、秋生さん。このパンは今朝作った自信作なんです。」
そういうと早苗は秋生の口になんと形容すればわからない色したパンを
詰め込んだ。
「むぐぅ。」
秋生はそのパンの味に意識を失いながら、
(確かに、これは武器だな。しかし、第1の被害者が俺とは。)
と考えていた。
普通の人なら口に入れただけで必殺のパンだがさすがは夫、
ものを考える余裕があった。
「あら、秋生さん。もう寝てしまったですか。」
「仕方ありません。少ししたら私と交代してくださいね。」
【古河秋生(79) 就寝(失神)】
【夜九時ごろ】
追加
【古河秋生(79) 所持品:古河早苗特製パン残り4個
早苗のバッグ、所持品はすべて秋生が預かっている。】
木田はむかついて観鈴に蹴りを入れようとした。
が、その行動は沙耶の視線に気が付いてしまい中断された。
“女の子相手に暴力?”
みたいな目で睨まれると、さすがの木田もストップさぜるを得ない。
沙耶の方も今までの自分が情緒不安定だったことを反省する。
何故、こんなところで激しい痴話喧嘩を始めてしまったのだろう。
木田を見てると、どうも心がいらついてしょうがない。
が、その余波で観鈴にも当たってしまったのは狭量としか言いようが無い。
そんな時、観鈴からとんでもない提案が出された。
「三人で握手しようよ、ね?」
“何言ってんだ、てめえ?”
“何言ってるの、アンタ?”
二人ともそう叫びたくなったが、
目に見えない観鈴の有無を言わせぬパワーに押し出され、
握手をすることになってしまった。
「……」
「……」
「さ、握手」
木田と沙耶の出番になったが、一向に握手しない。
二人とも手を差し出したまま震えている。
「……握手」
10センチ近づいた。
あと、20センチ。
「がお……してほしいな」
10センチ近づいた。
あと、10センチ
「さ、握手!」
ボカッ!!
「あ、ご、ごめん。大丈夫!?」
「やべぇマジでやっちまった! 大丈夫か!?」
観鈴は幸せそうな顔で天を見ていた。
【神尾観鈴 倒れる】
「で、アルちゃんはお父さんとお姉ちゃんを捜しているのね」
「ん、ユズっちとカミュち〜とムックルとガチャタラも」
巻き込まれた知り合いがそんなに……はるかは感情を制御しようとして失敗し、一瞬だけ顔を曇らせた。
幸い、アルルゥははるかのかすかな表情の変化には気づかなかった。それよりも目の前にある
『ほっとみるくてぃ』が美味しい。あとでおね〜ちゃんに作ってもらおう、そう思った。
「……ん〜」
「ん?」
でもそれより先に確認しなければならないことが一つ。アルルゥはそれを口に出した。
「おに〜ちゃん? おね〜ちゃん?」
はるか、一瞬目をぱちくり。ついで苦笑。確かにわたしは髪も短いし胸も無いけど、正面から突っ込みを
受けたのは初めてだ。子供って時々残酷だよね、と変な感慨を抱きながらも、
「わたしはお姉ちゃんだよ」
「ん。はるかおね〜ちゃん」
見知らぬ子に懐かれるのは悪い気はしなかった。
わたしを見る兄さんは、ひょっとしたらこんな気分だったのだろうか。はるかはふとそんな事を思った。
アルルゥが本来ならかなり人見知りする性格であることをはるかは知らない。
そのアルルゥがはるかをいきなり信じた理由は、実を言えばおなかペコペコの所に出してくれたシチューが
とても美味しかったからなのだが、それはそれで別に問題なかった。
「じゃ、今日はもう暗いから、明日になったら探そうか」
「ん」
はるかの決断はあっけなかった。
わたしは冬弥と彰を捜す。この子はお姉ちゃんやお父さん達を捜す。一緒に行動しても問題はないはず。
それに、こんな小さい子を一人で放り出すわけにもいかないし。
(いざとなったら、わたしが盾になってあげられるしね)
そういう決断が出来てしまう事は、果たして強さなのか弱さなのか。はるかには分からない。分かるのは、
そういう形でしか自分は誰かを守ることが出来ないという現実だけだ。
……誰かを守る、か。そんなこと、考えるの初めてだなあ。守って欲しい時に守ってもらえなかった記憶は
あるけど。
はるかはアルルゥを見つめた。この島で何が起きているのか、多分まだ理解していない幼い少女。犬耳と
尻尾がなんとも不思議な感じ。遺伝子的にはどう見てもホモ・サピエンスではないけど、紛れもない”人間”。
殺し合いに気を取られていたら考える余裕など無かっただろうけど、この子はどこから来たのだろう。
少なくともわたしたちが住んでいた地球上では無い。と言うことは……
「彰にまかせようっと」
あっさり思考停止した。誰にでも得手不得手はあり、こういう事は彰の得意分野だった。
「だから早く見つけないとね……」
「ん?」
「ん、こっちの事」
「ん」
とりあえず、今やるべきことは他にあった。すなわち、
「アルちゃん、お風呂入ろっか」
「ん」
疲れた体を休めること。
何かの雑誌で読んだことがあった。曰く、自衛隊の隊員は寝ることも食べることも任務の一部。自分の
体調を維持し、精神状態を維持することは立派な作戦行動である。
今の自分がなすべき事はそれだった。それはある意味とてつもなく辛いことだが、誰かがこれをやって
おかねばいつか全員が力尽きるのだ。
それに、寝て目覚めたらただの夢でした、って可能性もあるし。
……はるか自身は気づいていなかったが。
彼女は、希望も無ければ変化もなく、ただのんべんだらりと過ごしていただけの日々から、突然こんな
死と狂気と、謎と不思議に満ちた世界に放り込まれて。
ひょっとしたら、この状況を楽しんでいるのかも知れなかった。殺人鬼達とは違う意味で。
【027河島はるかと004アルルゥの行動指針:お互いの知り合いを捜す】
【夜8時頃】
350 :
すれ違い:04/05/16 18:24 ID:BBr2Ps08
霜村功(45番)は呟いた。
「……やっぱ、ただのめかぶだよなぁ」
自分の手に握られているめかぶを見つめ、思いっきりため息をつく。
「こいつで、どうやって戦えってんだよっ!!」
頭に血が上り、めかぶを地面に叩きつけようとするがやめておく。
めかぶも食べられないわけではない。
一呼吸置いて、自分の身の振り方を考えてみた。
彼がこのように先ほどとはうって変わって理性的に行動できているのは数時間前のことが発端である。
「ワイラビューーーーーーン!!」
訳のわからない奇声を発しながら功は疾走する。
よくもまあ、ここまで大きな声を出して誰にも気付かれなかったものだ。そこは賞賛に値する。
そんな折だ、不意にやってくる、定時放送。
『11番、太田香奈子。19番、柏木……』
その定時放送を聞いて、功は我に帰った。いや、我に返ったというよりは、現実に引き戻されたのだ。
『以上の11名。生存者は89名だ。勝利者への報酬は……』
既にこの島から11人もの人間が消えている。
流石にこれには、今までのおちゃらけた雰囲気を消すだけの重みがあった。
木に寄りかかる。叫びながら走りっぱなしなので疲れたのだ。
それから、じっくりと自分の今の状況について確認しだした。
351 :
すれ違い:04/05/16 18:25 ID:BBr2Ps08
「あまり、楽観は出来ないみたいだよな」
めかぶをバッグに押し込んでから考えてみた。
自分はめかぶだったが、他の者は随分と役に立つ武器を手に入れたことだろう。
11人も死傷者が出ている時点でそれは明らかだ。
そんな奴らが真帆を殺そうとしたら……思っただけでも身の毛がよだつ。
「絶対に、俺が守ってやらないとなっ」
そう言い切ってから功は歩き始める。日も傾いてきた。そろそろ安全な寝床を探さなければいけない。
例え自分の武器がめかぶでも、体は健在だ。
いざとなったら真帆の盾にもなれる。
「死ぬのなら、せめてお前の胸の中で……なーんてなっ!!」
含み笑いを漏らしながら功は森を抜ける。
状況は理解していてもそういった部分は変わっていないようだ。
だが、功が行った道の逆方向、距離にして20メートルもない地点でのこと……。
「とりあえず、安全な場所を探そうよ詠美ちゃん。もう11人も死んじゃってるんだし……」
「まっ、あたしにかかれば誰が来たってだいじょーぶだけれどねっ!!」
真帆と詠美は行く。放送を聞いても精一杯強がって。
二人は功の方向とは逆方向に進んでいた。功はもちろんそれを知らない。
【霜村 功(45番) 森を抜ける】
【大場詠美(13番) 葉月真帆(68番) 森の奥のほうへ】
【時間は大体夕方頃】
――ボトッ……
地に、カセットウォークマンが落下した。
春原と芽衣がウォークマンを見つけたバッグの中――
実は、その中で一つ、二人に確認されていない物があった。
それは、『取扱説明書』と書かれた、一枚の紙。
その下には、短い文章が書かれている。
――カセットを再生するウォークマン。中に入っているカセットは、最後まで再生すると爆発する――
たったそれだけの、『説明』とも呼べない文章。
それに気付かずかつ投げ飛ばした春原は、幸運であり、不運でもあった。
「…なんだろうね、これは」
【少年 カセットウォークマンを発見】
【カセットは最後まで再生すると爆発(機械本体はなにもない)】
「む…」
夢を見ていたようだ
時々見る奇妙な夢
何か今までとは違うような気がしたが、まあどうでもいい。
外はだいぶ暗くなって、月明かりのみがあたりを照らしている。
少し雨が降っているようだ。
このまま二度寝をしようと思ったが、ふと右腕の重みに気がつく。
ああそうか、おれこいつと…
なにかくすぐったく、誇らしいような気分になる。
こいつとこんなことになるとは想像しなかったが、こんな状況だから深く考えまい。
それにこいつ意外と…
いつもと違った初々しく激しく求め合った行為を思い出し、思わず赤面する。
更に男の生理反応もカマをもたげてきた。
「…やっべ」
「なにが?」
「うお!!」
いつの間にかこちらを見ている杏、あせる俺。
「い、いやいやいやなんでもねーぞ。うん何でもねー」
「ふーん、まっいいけど」
杏は顔を俺の胸にうずめ、においをかぐ。
「ふふ、いいかんじ。ゆめじゃないんだね」
「…ああそうだな」
ロングの髪を手で梳きながら答える。
「私ずっと好きだったから…こんなときに不謹慎だけどすごく幸せ」
「…」
「ね、キスしよ」
「おまえ…狙ってんのか?」
「?」
「そんな仕草されたら俺我慢できねーぞ」
「…あっ…そ、そうなんだ」
「…」
「…いいよ…もいっかいしよ」
「……大丈夫か?」
「うん、最初痛かったけど…終わりのほう良くなってきたし。それに…」
「…それに」
「…私も、朋也ともっとしたいかなーなんて」
夜はまだ続く
今はこの楽園のままで、目が覚めればそこは
戦場という名の地獄なのだから。
【14岡崎朋也 75藤林杏 固い絆からバカップルにクラスチェンジ】
【二人とも、さらにすこし疲労】
【夜も更けてきました】
【残り86人】
訂正
【行動指針、非参加者の保護。】
↓
【行動指針、ゲームに乗らない者の保護。】
【南東に向かって移動。】
目汚しスマソ
「なら……私はもう行くわね」
それだけ言い捨てて、須磨寺雪緒(50番)は藤井冬弥(73番)に背を向けた。
雪緒はそのまま歩き出す。呆然とする冬弥だったが、慌てて雪緒を呼び止めた。
「ま、待ってくれよ!」
「……何?」
雪緒は振り向いた。
冬弥を見つめる。それは、寂しい目で。
「どうして、俺を殺さないんだ?」
「……死にたいの?」
「いや、そういうわけじゃない」
独特の雰囲気に気圧される。
怖さはあったが、冬弥は純粋に雪緒のことが気になた。
「ただ、俺を殺すつもりじゃないんなら、どうして俺に近づいてきたんだ?」
「……あなたは、この企画に参加させられるに当たって、自分の行く末を考えた?」
「え?」
雪緒は呟いた。その瞳は明後日の方向を向いている。
「私は、多分勝ち残れない。無駄に抵抗しても苦しみが増すだけ。
なら、いっそのこと、あなたに撃ちぬかれてもいいかなと思ってたけれど、それも叶わなかった」
冬弥は震える自分の手を見つめた。
拳銃が小刻みに振動し、焦点など定まりそうに無い。誰を狙おうが、当たりそうも無かった。
雪緒はバッグから長細い箱を取り出した。
その箱を丁寧に開けていく。箱の中には一振りの刀が納められていた。
「私の武器は、この草薙の剣。説明書では伝説の剣なんて書かれているけど、所詮は伝説。
私の細い腕ではこんな大きな剣を振るうことも出来ない。使えたとしても今みたいに拳銃を突きつけられればそれで終わり。
ただ邪魔なだけ。こんなものでどうやって勝ち残れるというのかしらね」
雪緒はその剣を地面に投げ捨てた。
カラン……と音を立てて剣は転がり、冬弥の足元に当たって止まった。
「君は、これから……どうするつもりなんだ?」
「さあ……。武器にも恵まれていなかったし、私に他人を殺す度胸があるわけでもない。
ある程度時間がたったら、誰かに殺されるんじゃないかしら? 私よりも、生きる意志が強い人に」
「そうかよ……」
冬弥は下を向く。それと同時に入る、放送の声。
『……番、霧島佳乃。41番、サクヤ。44番、芝浦八重……』
二人は暫く黙って放送の声に集中した。そして、聞き終わってから雪緒がふっと笑った。
「……ね。この島には他人を蹴落としてでも生きようとする人たちが一杯。
私なんて、到底生き残れないわ。そして……私すら殺せない、あなたも」
その言葉に冬弥はカッとなった。
すぐさま自分の拳銃を構え、雪緒の鼻先に突きつける。
「誰が……生き残れないって?」
「それは、あなたよ。あなたはまだ迷っている。私を撃つか、撃たないか。
人を殺す覚悟が無くちゃ、生き残れない。そんなの当たり前でしょう? けど、あなたがここで躊躇い無く私を撃てば分からないけれど」
挑発的に雪緒が冬弥に言葉で返した。
冬弥は迷う。雪緒を撃つか、撃たないか。暫く硬直状態が続いた二人だが、やがて……。
「そう……だな。君の言うとおりだ。俺は生き残りたい……」
ゆっくりと、引き金に手を伸ばす。
それでも、雪緒は動かない。まるで、自分の人生を諦めきっているように。
銃声が、辺りに鳴り響いた。
「……どういうつもり?」
「けど、俺も君と同じだ。人を殺す度胸なんて無い」
冬弥の銃弾は、雪緒の頬を掠めただけだった。雪緒はその冬弥の行為をまたふっと笑う。
「あなたも、甘いのね。少し安心したわ。
この島にも、まだ人間らしい人間が残っていたのね……その人が、生き残れるかは別として」
雪緒はそう言い捨てて、冬弥に背を向けて歩き出した。
「お、おい。ちょっとぐらい待ってくれたっていいじゃないか」
冬弥は慌てて雪緒が投げ捨てた剣を拾うとその後に続こうとする。
「……どうしてついてくるの?」
「行き先なんて俺の勝手だ、別に君が気にすることじゃないだろ?」
「……まぁ、構わないけれど。私についてきても、生き残れる確率なんてまったく増えないわよ?」
「そんなことを期待なんかしてないさ」
冬弥は雪緒の後ろを着いて歩く。自分でもこの行動が理解できなかった。
あえて言葉に出すとしたら、この少女に興味が出てきたから……である。
【須磨寺雪緒(50番) 藤井冬弥(73番)共に移動開始】
【雪緒の武器は草薙の剣 冬弥のグロッグ17 残弾数 12 時間は放送直後】
359 :
世界一の:04/05/16 20:05 ID:kTLz8+lh
「暗くなってきたな…」
那須宗一(65)は一人ごちた。
「だいたい、本当に人いるのか?この島、誰にもあわなかっぞ」
…誰も返してはくれない。
「まぁ、十一人も死んでるんだから居るんだろうけどな」
…少し悲しくなってきた。
「隣に誰も居ないなんて久しぶりだな…気がつけばいっつも皐月、ゆかり、リサやら居て」
悪くない日常だった。
いっつもバカみたいに騒いで、楽しかった。
姉さんと一緒にいると安心した。七海といるのも面白かった
「センチメンタルにひたるなんて俺らしくもないな。」
フッと自分を鼻で笑った
「まだ、みんな生きているんだ。篁のジジイなんてぶっ倒してみんなで脱出してやる」
声に出して、意思を固めた。
「そうだ、俺は――、世界一のエージェント、NASTY BOYだ!」
よし、まずみんなを探そう、夜中まで起きていてもいいな。場合によっては、徹夜でも
【65 那須宗一 装備品 長弓(残り矢30隻)】
【目的 ルーツメンバー探しと篁撃破、脱出】
【9時ごろの話です】
三井寺月代(85)は途方に暮れていた。
何も出来ない、何をすればいいのかも分からない。こうしてる間にもじわじわと涙が浮き出てくる。
もう何時間も、彼女は民家から動いていなかった。
正確には、動くわけに行かなかった。動けない理由がそこにいたから。
目の前のベッドに横たわる少女、柏木初音(20)。苦しそうな呼吸音だけが部屋の中に響いていた。
数時間前のそれは、何でもないティータイムのはずだった。
初音のいるキッチンに戻ってみれば、美味しそうに湯気を上げる紅茶が2杯入っていた。喉がカラカラだっ
たので、特に気にすることなく
「おー、おいしそー」
と、その一つに手を伸ばした。
その時に気づくべきだったのか。初音ちゃんの顔が蒼白で、全身がかすかに震えていたことに。
「だめ!!」
「えっ?」
初音ちゃんがあたしの手首を掴んでいた。驚くほど強い力で。
思わず素っ頓狂な声を出したあたしに、初音ちゃんはびっくりしたような怖じ気づいたような顔で
「……だめ……そっちはだめなの……」
と、震える声を絞り出した。目に涙が浮かんでいた。
「それって……」
どーゆー意味? と続ける間もなかった。初音ちゃんは次の瞬間、あたしが手を伸ばそうとしたカップを
取って一気に飲み干してしまった。
「あのー?」
「ごめんなさい……ごめん……なさ……」
そして彼女は倒れたのだ。
「ちょっ、初音ちゃん? 初音ちゃんっ!」
何がなんだか分からないけど大変な事になった。とりあえず薬、何がどうなってるのか分からないけど
とにかく薬。
見回したあたしの目に飛び込んできたのは、テーブルの片隅、ティーポットの隣に置いてあった小瓶。
そのラベルには……「青酸カリ」と書いてあった。
初音が何をしたかを月代の理性が理解するまで、およそ5秒の時間を要した。
しかし月代の感情の方は、未だに混乱したまま収拾がついていない。
気を失った初音の口に指を突っ込み、中身を無理矢理嘔吐させたまではよかったが。
それからが無力だった。初音の汗をぬぐい、額に濡れタオルを当てることぐらいしかできない。これは
風邪の治療であって毒物に対してやる事ではないが、青酸カリを飲んだ人間をどう治療するかなんて
月代が知っているはずもなかった。ただ対症療法をするしかない。
同時に、色々な意味でショックが大きすぎた。
初音が自分を殺そうとしたこと。
それが成就する直前に意思を翻し、自分の死を選んだこと。
そんな状態にまで追い詰められていた初音に、自分が全然気づかなかったこと。
友達になれると思ったのに……。
それは月代の世間知らず故の甘さ。この島で見知らぬ誰かと出会って、普通に友達になれるなんて
期待する方がどうかしている。
初音はそこに、自分たちが生きて帰る可能性を高める一つの選択肢を見出してしまった。
しかし同時に、その甘さが生きて帰るべき世界の、本来の自分自身を思いださせもした。
その狭間で初音は揺らぎ……結果、この有様。
誰がこの結果を責められるというのか。
「蝉丸ぅ……」
もう何度この名を呼んだだろう。月代が困った時には必ず現れてくれる、全てを頼り切れるナイト。
しかしその声は誰にも届くことなく、部屋の壁に小さく小さく反響しただけで、消えた。
夜も更けてきた。この民家には水とガスは通っていたが、電気は切れていた。だからもう部屋の中は
真っ暗だ。さっきまで外に見えていたはずの星も、厚い雲に完全に隠されてしまった。
初音の命の火は未だ尽きていない。しかし、目を覚ますほどに回復してもいない。
荒い息、時々何かを吐くようなそぶり。だけど、何度も水を飲ませて何度も吐かせたのに、彼女の容態は
一向に回復しない。その体は火のように熱く、これ以上ないほど明確な形で生命の危険を訴えていた。
いつか目を覚ますのか、それともこのまま目を覚ますこと無く……。
「いや……いやだよぉ……」
目の前にいるのは仮にも自分を殺そうとした相手だが、月代は本気で泣いていた。
だって。最後には自分をかばってくれたんだから。
「蝉丸……誰か……誰でもいいから助けて……初音ちゃんを助けてよ……」
自らの空腹にも夜の寒さにも、夜の闇の深さにも気づかないまま。
月代はただ、初音の前にいる。
すすり泣きの声は家の外にまで漏れていた。
その嗚咽が天使を呼ぶか悪魔を呼ぶか、それとも何も呼ばないか。そこまで考える余裕が、
今の月代にあるはずもない。
【020柏木初音:自ら青酸カリを飲み行動不能、生命維持困難】
【085三井寺月代:初音の看病に付きっきり、精神的肉体的に相当疲弊】
【月代の所持品は未だ不明】【午後10時頃】
363 :
彷彿:04/05/16 20:43 ID:an/CH3z6
「誰にも会わないね。」
みさきが言う。
「そうだな…」
だが、こんな状況では会わない方が良いのかも知れない。
放送で聞いた限り、11人もの死者が出ている。
つまり、乗ってしまった人間は少なくない。
放送に互いの知り合いの名は無かった。
そのことに安堵した自分に嫌悪感を覚えた。
みさきに言ったら、自分もそうだと答えた。
みさきとは色々な事を話した。
自分は雑談が苦手だったから、殆どみさきが喋り、自分が相槌を打つという具合だったが。
学校のこと、友人のこと、家族のこと。
平和な話だった。
幾万の日本兵の死の上にその平和があるのならば、彼らの死も無駄なものでは無い、と思った。
自分はその礎になることは出来なかったが。
みさきにばかり喋らせていては悪いので、自分の話も少しばかりした。
強化兵のこと、自分の幼い日のこと、坂神の、きよみのこと。
証明する術の無い今、強化兵のことなど信じては貰えないと思ったが、みさきは
「信じられない話だけど、でも、私は信じるよ」
と言った。
明るく、人見知りしないところが月代に似ている、と思った。
364 :
彷彿:04/05/16 20:44 ID:an/CH3z6
二人は住宅街にいた。
そろそろ日も暮れかけている。
ということは、この住宅街に人が集まるかもしれない。
それを読み、森の中で夜を明かす者も少なくないかもしれない。
結局、この島に安全なところなどどこにも無いのだ。
道に何か落ちていた。
猫の死体。
近くにはコーヒーカップ。
「毒…か?」
匂いを嗅ぐ。
コーヒーの良い香りに混じる、微かな異臭。
恐らくは、この民家で淹れた物だろう。
民家の中に入る。
ミルの中に、コーヒーが入っている。
恐らく飲む者などいないだろうが、一応捨てておいた。
今日はここで夜を明かすことになるかもしれない。
みさきと一緒に猫を埋めた。
人間ならいざ知らず、猫を埋葬する気にはなれなかったが、
みさきに猫も人間も同じ命だ、と諭されて手伝うことにした。
優しいところ、儚いところが、きよみに似ている、と何となく思った。
365 :
彷彿:04/05/16 20:46 ID:an/CH3z6
「取り合えず今日はこれ以上動くのは危険だな」
「もう、夜になるの?」
「ああ、夜に徘徊するのは殺人者くらいだろうしな。
…安心しろ、料理は俺が出来る。 野戦料理だが。」
「私は好き嫌いないから大丈夫だよ。期待してるね、光岡さん。」
この後、彼はきよみに似ていると思ったことを撤回することになるのだが。
【光岡悟 川名みさき 住宅街の民家】【日暮れ直後】
【有紀寧のコーヒー捨てられる】
修正:ミルの中に→二つのカップの中に
読み返して気づきました…
武器…そう、武器だ。
真帆を守ろうにも武器がなければ話にならない。
今はなんでも良いから武器が欲しい。
霜村功(45)は現状をそう結論付けた。
例え木の棒でもめかぶよりはマシだと辺りを捜索しながら進んでいく。
暫く歩いただろうか、視界に飛びこんできたのはこの島の現実だった。
血溜まりに転がる少女の死体。
そしておそらく少女のものであろうバッグが一つ。
産まれて初めて見る死体に俺は胃の内容物を吐き出していた。
「はぁ…はぁ… 冗談キツイぜ…」
暫くして落ちついた俺はそう呟きながら、転がっているバッグを見る。
ひょっとしたら武器が入っているかも。
そんな期待が脳裏を過ぎる。
もちろん、自分と同じハズレの可能性はある。 持ち去られた後かもしれない。
だが、何が入っていたってめかぶよりはマシだ。
空なら空で現状は何も変わらない。
「こいつは頂いていくぜ。」
そう言い、バッグを手にかける。 軽い。
ズドン―――
炸裂音が辺りに轟く。
その場に残されたのは原型を留めぬ死体が2つ転がっているだけだった。
【45番 霜村功 死亡】
【残り80人】
芳野祐介(98)は先ほど拾った
角ばったこぶしより一回り小さい2つの石を見つめながら、
これからのことを考えていた。
生き残るためには銃だけではだめだ。
銃という武器は強力だが、弾がなくなってしまえば
荷物にしかならなくなる。
それに、相手が一人なら、銃を使わずに殺し、
弾を残しておきたいところだ。
素手でも人を即死させる方法はある。
しかし、相手も抵抗するだろう。
そうなるとこちらにも危険が及ぶ。
近接用の武器を確保しておかないとな。
周りを警戒しながら、近くの岩に腰を下ろすと、
靴を脱ぎ、軍足を脱いだ。
「作業着だったことが幸いしたな。」
といいながら左右それぞれの軍足に1つ石を入れた。
そして、靴を履き再び歩き出した。
このゲームを生き残り、彼女を幸せにしたら、
このゲームで死んだ人間のために歌を歌うのもいいかもしれないな。
人のために歌い、一度壊れてしまったが、俺だが、
人を殺してしまった今なら、また壊れてしまってもいいかもな。
どうせ、もう堕ちていくだけだ。
そう、堕ちていくだけ。
芳野祐介は、夜の闇に薄笑いを残し、闇に溶け込んでいった。
【芳野祐介(98) 所持品追加:手製ブラックジャック*2】
【夜11時ごろ】
369 :
対峙:04/05/16 21:36 ID:ako5R1GK
対峙する二人の女性がそこにいた。
向かい合い、まるで絵画のように微動だにしない二人。事実、それはとても絵になっていた。
そんな空間に前触れもなく割り込んだ、男の声。
『参加者の諸君、ご苦労。なかなかに盛況のようで……』
放送が始まった瞬間、目の前の女性の瞳がほんの僅かだけ揺れたのをカルラは見逃さなかった。
『……41番、サクヤ。44番、芝浦八重。51……』
名前が読み上げられる最中、目の前の女性が少しだけ憐れむような顔をしたのをリサは見逃さなかった。
「……知っている人でもいたのかしら」
「ええ。とは言ってもそう面識がある方ではなかったけれど。そういうあなたは? 随分と険しい顔をしてらしてよ?」
「あの男とはちょっとした因縁がある、とでも答えておきましょうか」
「教えては下さりませんの」
「いい女には秘密が付き物でしょう……あなただって、血の匂いを隠してる」
「……やはり、ごまかしきれるものではありませんわね」
さりげなくリサの視線から隠すようにしていた右手を持ち上げるカルラ。そこには止血のためか、破いた服が
巻き付けられている──そこまでリサが確認したところで、カルラが地を蹴った。
370 :
対峙:04/05/16 21:37 ID:ako5R1GK
凶器と化した右腕が振り下ろされる。それを紙一重で避け、同時に襲ってきた風圧にリサは戦慄した。
「──ッ、それだけの力があるならこのくだらないゲームを一緒に潰せると思ったけど、残念ね」
「それも魅力的ですわね」
だが。
あの主催者は参加者の命をその手に握っている。反旗を翻したところですぐ返り討ちにあうのがオチだ。
しかもそれは刃向かった者にとどまらず、見せしめとして他の誰かも殺されるかもしれないし、最悪の場合
リセットとして全員爆破されるかもしれない。
「だからあなたにも死んでいただきますわ」
涼しい顔で言いながら渾身の蹴りを放つカルラ。それを幅の広いバックステップでかわし、リサは距離を取る。
出会ったときと同じ間合いに二人が離れる。だがそこにいたのは最早人間の美しさを見せる女性ではなく
獣の美しさを身に纏う、二匹の豹と狐だった。
狐が口を開く。
「そう、なら仕方ないわね……」
そのまますっと身をかがめ、
「────bye!」
反転して逃げ出した。
あくまでリサの目的は篁。交渉が決裂した以上参加者、しかもやる気満々なマーダーと正面切って喧嘩する気はない。
(無事で済むかもわからないしね)
瞬時に頭を切り換えた切り札(エース)はそのまま沈み始めた日に向かって走り去る。
それをカルラは追いかけなかった。八重の時以上にリサとの戦闘は体が追いついていないと感じ、このまま追うよりは
ハクオロ探しに戻った方がいいと判断したからだ。
そして彼女は夕日に背を向けて歩き始めた。
【リサ 住宅街から西へ 装備:パソコン】
【カルラ 住宅街の外れ 装備:ハクオロの鉄扇、カッター】
腹が立つ。
本当に腹が立つ。
僕達がこんなにも絶望感に打ちひしがれているのに……
僕、長瀬祐介(062)は漠然とそんなことを考えていた。
街道から少し離れた小さな森に潜んだ僕達は信じられない光景を目の当たりにしていた。
何処からか明るい声が聞こえてくる
誰かが二人で楽しそうに歩いている
遠くの民家からは明かりが漏れてさえいる
他の参加者は何を考えているのだろう。
さっきの放送が聞こえなかったのだろか?
もう何人もの人が殺されているのに、能天気なことこの上ない。
何時まで彼らは日常の真似事をすれば気が済むのだろうか?
こんな島にいるかぎり、そんなものは何処にもないのに。
だから僕と瑠璃子さんはこのゲームに優勝する。
月島さんを生き返らせて、瑠璃子さんと供に日常に帰るのだ。
それまでなら…… どんなに非日常的な生活をしても、いいじゃないか。
「長瀬ちゃん」
瑠璃子さんに話しかけられ僕の意識は戻ってくる。
外はだいぶ暗くなって、月明かりと目の前のモノだけが辺りを照らしている。
「ああ、ごめんね」
そう言って僕は笑顔を返しながら火に包まれたモノを蹴り倒す。
森に潜んでいた僕達は面白いものを見つけた。
鞄―― 手付かずの鞄。あまりのことに初めは罠かと思ったぐらいだ。
中には食料といっしょに重たい武器が一つ。
僕が背負っているこれ、火炎放射器だ。
こんなにも素晴らしいものを、何故この鞄の持ち主は放置したのだろう。
目標はすぐに見つかった、金髪の同い年ぐらいの女の子。
まぬけにも彼女は気を失っていた。こんなにも目に付きやすい、開けた草原で。
近くにはフライパンが一つ、おそらくこれで殴られたのだろう。
殴った人も止めを刺してやればよかったのに、そうすれば彼女もこんな死に方しないで済んだ筈だ。
初めての殺人は、結構簡単だった。
至近距離から火を放てばいいのだ。
暴れられると面倒なので瑠璃子さんに脚を撃ってもらったりもした。
案の定、彼女は意味不明な叫び声を上げ暴れだす。
何度も何度も起き上がろうとしては、その度僕が蹴り倒す。
ズボンが少し焦げようと気にしない。
だってどどめを刺すには燃料や銃弾がもったいないから。
もうすぐ彼女は絶命するだろう。そうしたら僕はどうしようか?
そこでふと、さっきの光景を思い出す。
こんな絶望的な状況下でも希望を失わず前向きにいる者達。
きっと何時までも助け合っていけるとでも思っているのだろう。
正義面して皆を救おうなんて考えてる者もいるかもしれない。
馬鹿馬鹿しい、生き残れるのは二人だけなんだ。
ただ逃げ回っている者はもっとも憎むべき奴らだ。
邪魔なだけだからとっとと死んでほしい。別に願いなんてないんだろう?
そうだ、この島で安穏としている奴らを皆殺しにしてやろう。
森に、山に、川に、小屋に、民家に、洞窟に―― 籠ってる奴らを焼き払ってやる。
僕は辺りの荷物を集めている瑠璃子さんに話しかける。
「行こう、瑠璃子さん。夜は……まだ始まったばかりだ」
【057 月島瑠璃子 装備品 ベレッタ@残弾数15発 折畳式傘有】
【062 長瀬祐介 装備品 火炎放射器 メーターはほぼ満タン】
【092 宮内レミィ 死亡】
【アルルゥのバック回収(火炎放射器)】
【ジグ・ザウエルショート9mm(残弾1発)、果物ナイフを回収 フライパンは放置】
【夜八時ごろ】
【残り79人】
夜の住宅街。
野宿せずに済む寝床を確保するには、最善の場所。
しかしまた、家の中で人と遭遇してしまう可能性も高い。
緒方理奈は、その二つの要素を天秤にかけていた。
「どうようかしら…」
立ち止まって考えこむ。
ゲームを引っ掻き回してやる――それが自分の行動方針である。制服といういいアイテムもあるし、そのための行動もした。ただ、その行動には「誰かに見つかる」という前提が必要なのであるが、寝るときぐらいはそれは止めておきたかった。
「……」
考える。
住宅街は、思ったよりは広い。これなら、他の参加者と遭遇する確率は低いかもしれない。少なくとも森で寝るよりは遥かに安全だろう。
しかし、万が一罠が張ってあったりでもしたらまずい。そうでなくても、どこかの部屋に隠れていた参加者が隙を狙ってブスリ、なんてことは十分にありうる。
「……」
――数分考えた末、結局住宅街に入ることにした。もしかしたら、冬弥が居るかもしれないからである。それに、正直移動する体力が残っていない。
アイドル故に結構体力に自身はあったが、この状況では大したものではなかったらしい。
「…ここなんかいいかしら?」
理奈は、適当に見当をつけた家を観察した。
中から明かりは漏れていない。
息を殺している誰かが居るのかもしれないが、それは外からではわからない。寝ていれば好都合なのだが。
ここでいいわね、と誰に言うでもなく呟く。
判断材料があまりない以上、考えていても仕方がない。
理奈は警戒しながら、その家の玄関を開けた。
パァッ……
「いらっしゃいませー」
「!!」
突然の明りと人の声に、理奈は度肝を抜かれた。
言葉を失い、立ち尽くす。
「……!?」
「コーヒーはいかがでしょうか」
だが、そんなことはお構いなしに、宮沢有紀寧はいつものように注文を取った。
「インスタントコーヒーですが、美味しいですよ」
「……」
「丁寧に淹れましたから」
「……」
「…お客様?」
いつの間にか、理奈は客にされていた。
「ええっと…」
それで我に返ったのか、理奈が口を開く。
「はい?」
「…何、してるの?」
「コーヒーを薦めています」
「……」
わけがわからなかった。このゲームとは別の意味で。
「…えっと、」
そこまで言って、理奈は気付いた。この家の玄関は、ドア開けると自動で明りがつくシステムであるということに。
奥を覗くと、キッチンらしき場所の明りがついていた。
玄関正面からは見えないところである。
(えっと、だから…)
つまり、目の前に居るこの少女は先程までキッチンでコーヒーを淹れており、物音に気付いて玄関まで来たということだろうか。
ということはもしかしたら、もう少し待っていれば玄関の明りは少女によってつけられていたかもしれない。
「……」
「どうされました?」
有紀寧は、押し黙る理奈に声をかける。
そして理奈は、その声に反応して有紀寧の姿を改めて正視して、ようやく気付いた。
――制服が、同じ。
「制服…」
「え?」
ポツリと呟いた理奈に、有紀寧は聞き返す。
「制服、同じよね…」
「あ…そうですね。同じ学校の方ですか?」
「――そうね」
理奈は短く返したが、心の中で叫んだ。
(かかった…!!)
即座に、態度を改める。
この少女を、利用するために。
とりあえず、信頼を得るために、自己紹介を試みた。
「あの、私…」
が、そこで詰まる。
(本名言ったらいけないじゃない…!)
トップアイドルである自分が本名を明かしたら、制服の件が一発でばれてしまう。
(ええと、別の名前、別の名前…)
理奈はまた黙りこんだ。
が、
「コーヒーはいかがですか?」
有紀寧は、名前のことなどどうでも良いかのように、そう聞いた。
「えっ…いや、別に…」
思わず、反応が素に戻る。
「インスタントコーヒーですが、美味しいですよ」
「いや、いらないから…」
理奈は正直にそう答えた。
途端に、有紀寧の顔が曇る。
「…そうですか…」
心底、残念そうな顔だった。消え入りそうな声が、それを強調する。
――きっと、本当に美味しくできたのだろう。
「…本当にいりませんか…」
その様子を見て――理奈は、思わず言った。
「わかった、飲むわよ!」
「――本当ですか!?」
「ええ!」
「わかりました、では食卓にどうぞ!」
そう言って、有紀寧はさっさとキッチンに戻っていってしまった。
「あ、ちょっと…」
理奈は止めようと声をかけたが、届かなかったらしい。
「……」
残されて、急に冷静になる。
空気が気まずくなったので、思わず飲むと言ってしまったが――それで良いのか。
「……」
しかし今度は、すぐに結論がでた。
(ま、コーヒー飲むくらいいいでしょ。それで信頼を得られるなら)
理奈は、にやりと笑った。
有紀寧の淹れたコーヒーを前に据え、理奈は思考を進める。
この少女をどう利用してやろうか、と。
とりあえず信頼を得られれば、交代制で見張を提案するなりして、寝るときの危険を減らすことができる。
そうなればしめたものである。
体の疲れがとれたら、寝ているところを殺ればいい。
(明日も一緒に行動するっていう手もありね。そうなれば、いざというとき盾にできるし。それとも、人を襲ってからこの子の姿を見せ付けてやろうかしら? それとも…)
腹黒い考えを胸に置きながら、理奈はコーヒーカップを手にとった。
コーヒーからは、ほんのりと暖かい湯気が出ている。においも良い。高級な物に比べれば劣るかもしれないが、インスタントコーヒーでこれだけ出せれば完璧であろう。丁寧に淹れた、という少女の言葉は嘘ではなかったらしい。
色は、黒。
闇のような、黒。
今の自分には、それが相応しい。
テーブルの向かいでは、有紀寧が微笑みながら自分がコーヒーを飲む様子を窺っている。
(ま、いずれにしてもこの子は長く生かしてはいけないわね…)
そう心の中で呟いて、理奈はほくそ笑んだ。
(ふふふ…今のうちに笑っていなさい)
そして、コーヒーを口に運んで。
一口、すすった。
(ふふふ…ふ――)
【緒方理奈 死亡】
【残り 78人】
379 :
「グロ」:04/05/16 21:49 ID:epAN7Oef
聞えてきたのは、少女の声だった。
「こんなところで寝ていたら風邪をひいてしまいます」
「起きないと岡崎さんみたいな人に悪戯されます」
ひどく場違いな少女の明るい声だ。
麻生春秋は声のする方へと、歩いていった。
「……この人と風子、そこはかとなく親近感を感じますっ」
「においですっ、におい」
春秋は木の陰からそっとそこを覗いた。
そこにいたのは一人の少女だった。少女と言うか、まだ小学生くらいの子供だ。
暗いので、よく見えない。
ただ、少女は地面に倒れている誰かに話し掛けているようだ。
少女は何事かを色々と話していた。
どことなく、その光景は微笑ましいものがあった。
話し掛けてみるか、とさえ思った。
ただ倒れている人間が微動だにしないのが異様だった。
「YO!俺は東京湾 生まれ テトラポッド育ち
手の生えた奴は大体友達……はっ…いつの間に森を出ていました」
我を失っているときは相変わらず無防備の伊吹風子(8)
「んーっ…確か道に迷ったときは北極星を目印にとお姉ちゃんが言ってました。そうするとここは島の北側です。まったく…風子のクレバーさには脱帽です」
風子が出たところは東西に伸びる片側1車線の街道。
街道の向こうには町役場や商店街がならぶ。恐らくこの島の中心部だろうか。
「車は…来てませんね。安心して道を渡りましょう」
道路を横断しようとする。
その時だった。
ブオオオオオオオオーーーン
道の東側から爆音を共に駆ける一台のスポーツカー。
迫り来る鉄塊。
「っわわわわわっ!! とうっ」
間一髪の所で道路を渡りきる風子。
「助かりましたっ……歩行者がいるのに減速しないなんて酷い車です。ドライバーの顔が見たいです」
「でもっ、とってもかっこいい車でした。風子もあんな車でデートしたいです」
風子は集める、姉の結婚式のために。
381 :
「グロ」:04/05/16 21:49 ID:epAN7Oef
雲に覆われていた月が出る。
辺りが明るくなった。
その瞬間、少女は倒れている人間の首にナイフを当てた。
鳥肌が立った。
春秋は息を飲み、とっさに木の影に隠れる。
「んーっ、ヒトデよりも難しいですっ、でも風子、くじけませんっ」
フウコ。それが名前か?
少女は首を完全に切断した。
「自分で言うのもなんですが、可愛くできました」
「これなら岡崎さんに馬鹿にされません」
「渚さん岡崎さん、風子、お姉ちゃんの結婚式のためがんばりますっ」
ナギサ? 誰だ? オカザキ? お姉ちゃん? あいつの仲間か?
少女は首を抱えて、走り去っていった。
しばらく過ぎて、春秋は息を吐き、地面にしゃがみこんだ。
「グロ」
【3 麻生春秋 風子の事を知る】
「宗一君、無事でしょうか…」
ミルトを運転する伏見ゆかり(78)は夜の街道を豪快にかっ飛ばしていた。
『心配ありませんマスター、彼はああ見えても世界一のエージェントです』
「そうですね、ありがとうミルト」
ブオオオオオーーーッ
島の闇を切り裂くヘッドライト。ゆかりの運転技術でこうも走ることができるのはミルトのおかげだろう。ミルト様々だ。
「宗一君は何処ですか〜。あれっ……ミルトっ!! 前っ前ッ! 危ないッ!」
ヘッドライトに照らされた先――今道を渡らんとする少女の姿が浮かび上がった。
ブオオオオオーーーーーンッ
間一髪少女の脇を通りすぎるミルト
『申し訳ありませんマスター、私の判断ミスです』
「いえ…わたしもぼーっとしてたもので…。ミルト、さっきの女の子が抱えていたものは……」
『恐らく……』
ゆかりはさっきの光景を思い出していた。ヘッドライトに浮かび上がる少女、その胸に抱えられていた人の首を……。
「ねえ、ミルト…夢を見たはどちらでしょう?」
『どちらも見ていませんよ、私もマスターも』
ゆかりは駆ける、愛する人のために。
【伊吹風子(8) 商店街へ。 よく切れるナイフ 羽リュック あゆの首】
【伏見ゆかり(78) 宗一を探しに島の西側へ。 ミルト】
【午後八時ぐらいです】
ぐああ…被った…どうしよう…
グロ→夢を…の順なら問題無いと思われ。
すまん、俺焦りすぎです。
被ってないよ。「グロ」は風子があゆの首を切断しているところを春秋が目撃した話だから。
死人のペース落ちてきたね。
これじゃ30人殺害なんてとてもとても・・・
「あれは。」
さすがにずるずると引きずられるのはつらいらしく
うっすらと目を開けていた水瀬名雪(90)は、
何かを見つけ、ふらふらと走っていった。
「どうしたの、名雪ちゃん。」
突然走り出した、名雪を見て春原陽平(48)と春原芽衣(47)の兄弟が
名雪を追いかけていった。
春原兄弟が追いつくと、呆然としている美坂香里(87)に
寝起きで意識がはっきりと名雪が声をかけていた。
「香里、香里ってば。しっかりしてよ。」
その光景を見た陽平は、すぐさま香里に声をかけた。
「へーぇ、香里ちゃんって言うのか。どう一緒に行かない。
大丈夫、僕が守ってあげるよ。」
しかし、名雪の声にも反応しない香里が答えるわけもなく、
「お兄ちゃん、黙ってて。」
と妹に叱られるだけだった。
「名雪さん、この人は。」
「あ、うん。私の親友で、美坂香里っていうの。」
名雪は、未だ呆然としている香里の代わりに紹介した。
389 :
まこぴークエスト:04/05/16 21:57 ID:lwulGwOV
「えぐっ……うっ…」
沢渡真琴(43)は泣いていた。
(いったいなんなのよぅ!)
さっき、知らない女にいきなり殺されかけた。
怖かった。凄く怖かった。
そこで、別の知らない女が助けてくれた。
でも、その女もさっきの女と同じ制服を着てた。
さっきと女の仲間に違いない。
だから逃げた。
それからはがむしゃらに走った。
走って、走って、疲れ果てて、木陰にへたり込んだ。
それから泣いた。自然と涙が出てきた。
(祐一ぃ……怖いよ……)
ただ、声を抑えて泣きつづけた。
そして、泣きつかれた真琴はそのまま眠りについた。
>>378 すいません、書き忘れました _| ̄|○
【有紀寧 理奈の制服類、細い紐の束を回収】
【インスタントコーヒー、毒薬所持は変わらず】
【時刻は十時ごろ】
杜若きよみは木の幹に寄りかかって休みながら考える。
残弾数、3+6=9発。
そう、このままでは「最高でも9人までしか」殺せないのだ。
先ほどの放送では11人の名前しかなかったのだから、
自分が蝉丸と一緒に帰る為には、あと87人に死んで貰わなければ困るのだ。
防御手段としてこの改造銃を使うことを考えれば、
このままの単独での行動には限界がある。
ならば、どうするべきか。
答えは決まっていた。誰かの力を借りればいい。
自分で言うのもおこがましいが、この容姿には魅力がある。
出会った男性に三つ指でも立てれば、そう無下にはされないだろう。
一瞬考えた末、きよみは行動を開始した。
夜の闇を抜けて、生ぬるい風の吹くほうへ。
手首の切り落とされた少女の死体、背中にナイフの突き立てられた女性の死体。
いくつもの亡骸の側を通り過ぎる度に、きよみの心は踊る。
あと幾つの人名が奪われればいいのかを心の中で指折り数えながら。
【杜若きよみ(017)、次に逢った人間と行動を共にする】
【武器の変更、消費なし。時刻は放送終了後、日が落ちた頃】
392 :
まこぴークエスト:04/05/16 21:58 ID:lwulGwOV
真琴が目を覚ましたとき、あたりはすでに闇に包まれていた。
寝ぼけたまま目をこすっていると、真琴のお腹がなった。
「あう〜……おなかすいたぁ」
支給品のリュックを確認していなかった真琴は、リュックを開いてみた。
「ごはんと、お水と……キノコ?」
そう、真琴が手にしたのは食べた人の性格を反転させるアレであった。
「あう〜、キノコ嫌い〜」
そういって、乱暴にリュックの中にキノコを押し込んで、携帯食料をほおばった。
そうして、ある程度腹が膨らんだあと、真琴は立ち上がった。
こんな怖い島をうろつくのは嫌だったが、それと同じくらい野宿も嫌だった。
とりあえずゆっくり眠りをつける場所を見つけようと、真琴は行動を開始した。
(洞窟……?)
真琴が歩き始めてすぐ、岩陰にぽっかり開いた洞窟を見つけた。
「あう〜、なんか漫画みたい……」
そう言いながらも、いい所を見つけたと真琴は洞窟の中に入っていった。
そして、洞窟を進むと…
……あ……っん…………………や…
「…?」
洞窟の中からうめき声らしい声が聞こえてきた。
(あ……あう〜、人がいるなんて聞いてないわよぅ)
洞窟を引き返しますか?
→はい
いいえ
【43沢渡真琴 所持品:セイカクハンテンダケ】
【14岡崎朋也 75藤林杏 真っ最中w】
【真琴、進むか引くか考え中】
「香里、香里。いったい何があったの。」
「名雪。」
名雪が香里に声をかけ続けること数分、
始めて香里からの反応があった。
とはいえ、香里の目はうつろで、普段の面影はまったくなかった。
「ふふ、聞いて名雪。私ね、栞を殺したの。」
その告白を聞き、名雪は文字通り目がさめるほど驚いた。
しかし、香里は名雪の驚いた顔に気付くことなく話を続けた。
「誰かから逃げていたとき、いきなりね、前に栞が現れたの。
でも、それが栞だなんてわからなくて、
私は身を守るために栞を殺したわ。」
「でも、それは事故だよ。香里のせいじゃないよ。」
名雪は香里に諭すように話しかけた。
「事故でも、殺したのは私。」
「でもね、栞の死体がないの。
きっと神様が生き返らしてくれたんだわ。
一度、妹なんていないと思い込もうとしたけど、
今度こそ、私が守るわ。誰かを殺してでも。」
そういうと、香里はおぼつかない足取りで立ち上がった。
「香里、どこ行くの。」
「栞を探しに行くのよ。」
「栞ちゃんは死んじゃったんだよ。どこにもいないよ。
放送で名前が呼ばれたんだよ。」
「でも、生き返ったの。生きてるのよ。ほら、名雪の後ろにいるわ。」
香里の言葉に驚き、後ろを振り返る名雪、しかしそこには誰もいなかった。
「栞、今度こそお姉ちゃんが守ってあげるからね。」
歩き出そうとする香里の肩を名雪がつかんだ。
「だめだよ、栞ちゃんはもういないの。」
「邪魔しないで。」
香里は叫ぶと、果物ナイフを取り出し、名雪の手を切りつけた。
そして、痛さのあまり香里の肩から手を離した名雪に、
香里は、
「名雪、たとえあなたでも、私の邪魔するのなら殺すわ。」
「ふふ、栞待っててね。」
というと、本人にしか見えない妹の幻を追いかけていってしまった。
「香里、待ってよ。」
手の痛みをこらえながら、香里の後を追おうとする名雪を芽衣が引きとめた。
「だめです。あの人は危険です。名雪さん、殺されます。」
「でも、香里は親友なの。お願い芽衣ちゃん行かせて。」
「絶対、だめです。」
名雪と芽衣の押し問答を陽平が止めた。
「よし、3人で香里ちゃんを追おう。3人なら危険も少ない。」
その言葉に対する二人反応は対照的だった。
「春原君ありがとう。」
「お、お兄ちゃんがまともなことを言った。」
そして、3人は香里を追い、歩き出した。
まともなことを言った陽平だが、
(これで名雪ちゃんの好感度UP。
それと、グットエンドフラグ、たぶんGET。)
やっぱりろくなことを考えてなかった。
【水瀬名雪(90) 右手を切られる。通常行動は問題なし。ただし、数分後就寝】
【夜9時ごろ】
【トウカ、香奈子、栞は香里が失神中にオボロが埋めたということで】
帰るために
「う〜ん、どうしよう。」
夕日の中、一人思案に暮れる妙齢の美女。非情に絵になる光景である。
…肌着は随分と変態的だったが。
スフィー(49)を悩ませているのは、元の世界への帰り方である。
「あのおじさん倒しちゃえば良いんだろうけど、魔法無しで銃に勝つのは無理だろうし…」
「だからと言って人を殺すなんて絶対に嫌だし…」
「あーーーっ!もう、こんな時に魔法が使えないなんて!」
先程からこれの繰り返しである。途中に入った放送にも、日が沈みかけている事にも気付いていない。
結局、この永久ループが終わったのは30週目が終わった時だった。
ズガンッ!
「愚かです。」
食料の入ったバッグを掴み、セリオ(52)はその場から立ち去った。
そう、こんな開けた場所で声を上げ続ければ、こうなる事など十分に予測できたはずなのである。
それこそが、彼女に生きて帰る為に最初にすべきことだった。
【49 スフィー 死亡】
【52 セリオ スフィーの食料とバッグを入手 コルト.25オート所持】
【残り 77人】
396 :
邦博:04/05/16 22:33 ID:epAN7Oef
浅見邦博は岩に腰掛けながら、空を見上げた。
煙草の煙を思いっきり吸う。
木々の間から見えていた月が、雲に隠れる。
「……ちっ」
頭の中はごちゃごちゃしていて、様々な感情が渦を巻く。
手にあるのは、レーダー。その中に、光点は一つ。
つまりこの周囲には、自分だけがいるということだ。
恵美梨の死体は放置してきた。
思うこと、浮ぶ感情、蘇る記憶、それらは明確な形を取らず、ただぐるぐると回っている。
ごちゃごちゃと心を撹拌している。
邦博はそれが何であるか考えようとはしない。考えるのは嫌いなのだ。
ただ一つ、むかつくと思った。
そしてぶっ殺すべきクソガキのリストに、新しい名前が加わった。パールホワイトが消え、新たな奴が加わる。一人消え、一人加わる。プラスマイナス、ゼロだ。
麻生春秋、松浦亮、自分を風子とか呼ぶクソガキ。
それだけだ。何も変わらない。何一つ変わりゃしねえ。
もう一度、空を見上げた。
雲間から、月が見えた。
不意に、邦博の頬を一つ、涙が伝った。
それは、かつて麻生春秋に敗れた時に流した涙と同じかどうか。
邦博は考えない。
考えるのは、やめだ。
後はただ、駆け抜けるだけだから。
【001 浅見邦博 所持品:恵美梨のレーダー 支給品 支給品:不明】
二人で、道なき道を進んでいく。
藤井冬弥(73番)は、須磨寺雪緒(50番)の後を黙ってついて歩いていた。
互いに名前を確認した後は、ひたすら無言。
たまに冬弥が会話を振っても、雪緒はただ相槌を打つだけだった。
森を抜け、海辺に出る。日はすっかり落ちて、前面には暗い海が佇んでいるだけだ。曇っているため星も出ていない。
雪緒は変わらず、海岸に向けて歩いていく。
「なあ、こんな見渡しのいいところにいれば一発で見つかるよ?」
「……言わなかったかしら? 私は、誰かに殺されてもそれで構わない」
冬弥の呼びかけにもそうきっぱり言い切る。
今ここに人気がまったく無いことを普通は喜ぶべきなのだろうが、
この少女はそんなことは大したことでもない、と眉一つ動かさない。
「……見て」
雪緒は冬弥に呼びかけた。雪緒の視線は海岸の砂浜にいっている。
「砂浜……荒れてる」
潮が満ち始めた砂浜、その陸に近い部分にくっきりと残っている何人かの足跡。
つい数刻前まで誰かがいたことを物語っていた。
足跡の一方が東の方角に向かっている。数は……二人。
「誰かが、いたみたいだな。それもついさっきまで」
「ここから、逃げたほうがいいかもしれないわね。生き残りたいのなら……」
意外だった。先ほどまで自分が死ぬことすら容認していた雪緒の口から、そんな言葉が出るとは思わなかった。
「…………」
「……どうしたの?」
「君は……俺に殺されるために俺の前に飛び出したんだよな?」
冬弥がそう言ってから、雪緒は冬弥が言わんとしていることに気付いた。
「ええ。確かに私は今死んでも構わない。けれど……あなたは違うでしょう?」
「ああ。それはそうだけど……」
「ただの雑音だと思ってくれて結構だわ。その雑音が、あなたにとって有益か否かなだけ」
雪緒はそれだけ言ってから砂浜を離れ、近くの草に身を預けた。
冬弥も無言でそれに続く。
「……逃げないの? こんな見晴らしのいい場所にいれば見つかりやすいって言ったのはあなたよ?」
「さあ、何でだろうね……。君が気になったから、かな」
「それは、きっと私の心が壊れているからね。ただ、物珍しいだけよ」
心の壊れた。このフレーズが冬弥の中に残った。
あえて、聞き返しはしなかった。何か、触れられたくない部分に感じたから。
かわりに、その場を去らずに雪緒のそばにいることにする。まだ、この少女のことが気になるから。
暫く、目を瞑って考え込んでみた。頭に浮かぶのは、この企画に参加している自分の知り合い。
放送が真実である限り、彰や理奈やはるかは死んでない。由綺がこの企画に参加していないことが、冬弥にとって救いだった。
だが、今気になる者は、そういった知り合い以外にも現れている。
自分の横で空を見つめている少女、須磨寺雪緒。一体何が彼女をこのようにしているのだろうか?
「藤井さん」
呼ばれて冬弥は振り向いた。
雪緒はいつの間にか隣にはいなく、代わりに藪の中で手招きする。
「生き残りたいのなら、そんなところにいないほうがいいわよ」
「……分かった」
冬弥は雪緒の言うとおり、藪の中に身を隠すことにした。
【藤井冬弥(73番) 須磨寺雪緒(50番)】
【ことみの救急箱があった藪の奥に身を隠す 時間帯は日没後】
【残り77人】
「あう〜」
雨の中を少女は走る。
走る。
走る。
走る。
さながら猟師に追われる獣。
走る。走る。走る。
雨を避けて。
猟師を避けて。
寝床を探して。
「あっ!」
獣は終に寝床へ辿り着く。
「ここなら雨に濡れないですむ♪」
ガチャリ。
ズドン。
そして獣は罠の中へ。
そこは永遠の寝床。
【43沢渡真琴 死亡】
【荷物もバラバラになる】
書き忘れ。
399の舞台は澪の仕掛けたロッジで、これで入り口のクレイモアは起動、消滅しました。
「ひとつ聞くわ、あなた殺しあう気ある?」
ゾリオンを目の前の男に向け相良美佐枝は尋ねた。
「必要ならね、でもあんたとはやんないよ」
目の前の女に、NASTY BOY那須宗一は答えた
「…へえ、なんで?」
「まずその質問をした時点で殺し合いに消極的だということ。
更にその武器、おそらく銃タイプの武器だが使用回数はそう多くなさそうだ
そしてあんたが美人
その3点からあんたはまだ俺の敵じゃない」
「ふーん頭切れるのね」
「ま、ね」
お互い武器を下げる
向こうが隠れていたとはいえ、まったく気配を感じなかったのは大きな失態だ。
今回はうまく切り抜けられそうだが、これからは注意しようと惣一は肝に銘じた。
「…で?何でいきなり声をかけた?」
「仲間がほしかったから…といったら?」
「…知り合いいないのか?」
「んーいるといったらいるんだけど、まあ今はともかく生き残るのが最優先だし。」
「そのときはそのとき…か」
「ええ。…どう?」
正直一人でも十分なほどいける自信があった、
だが今この女は強力な武器を持っていると直感でわかった。
ここで倒すべきかそれとも仲間として行動を共にするか…
3分ほど考えて出した結論は
「条件付で」
「なに?」
少しキビしめに行くか…
「1つ、常に俺の前を歩くこと
2つ、俺の仲間に手を出さないこと
3つ、持っている武器の性能を教えること」
「いいわよ」
「即答かよ!!」
「あなた強そうで、しかもお人よしそうだしあんたみたいなやつ知ってんのよ」
「…」
「これからよろしく。…ええと」
「…那須、那須宗一」
「相良美佐枝、よろしくね」
その笑顔に宗一はふと、姉の面影を見たような気がした
【那須宗一と相良美佐枝以後行動を共にする】
【宗一は警戒強めだが何か親近感あり、美佐枝はあくまでケセラセラ】
【残り75人】
406 :
休憩中:04/05/16 23:22 ID:RZN4+q/x
「とりあえず・・・何か使えそうなものが無いか探して来る。二人は休んでていいぞ」
「はい、ハクオロさま」
「えっと、私も手伝」
「無用だ。今は体を休めておいてくれ」
「……はい」
休んでいろ、とは言われたが、先ほど少し睡眠をとった為、睡魔は襲ってはこなかった。
二人、並んで座って、雨の音をじっと聞いていた。
「寒くない?」
「ううん、大丈夫」
「こうしていてあげるね」
ことみが、ユズハの手を取った。ことみでも、力をきゅっと込めれば砕けてしまいそうな、そんな柔らかな手。
慈しむようにそっと包んだ。
407 :
休憩中:04/05/16 23:23 ID:RZN4+q/x
心が張り裂けてしまいそうだった。
いきなり、右も左も分からない場所に連れてこられて。
「殺し合いをしてもらう」
気持ちの悪い声。
『外』からやってきたわるものの声。
お父さんもお母さんもいなくなってしまったあの頃。
静寂が支配する、あの広くて暗い家の中、鳴り響いた温度の感じられない電話の音より。
電話の向こうから聞こえてきた、知らない人の声より。
ずっと怖かった。ずっと気持ち悪かった。
涙さえも、出なかった。
どこをどう歩いたのだろう。気がついたらお外にいた。
眼前に広がる海が青くて、あの日のお父さんとお母さんを奪い去ってしまった悲しい空を連想させて、下を向いた。
顔を上げればあの嫌いな空が。
ずっとずっと大切だった――私の宝物だった、お父さんとお母さんを奪ってしまった空が。
今視界をよぎったら、私の足元から何かが崩れていってしまいそうだったから。
408 :
休憩中:04/05/16 23:24 ID:RZN4+q/x
「……」
ここまで届く穏やかな波の音に紛れて、かすかに聞こえた布ずれの音。
「!?!?!っ」
振り向く。誰かがいた。
怖かった。私を『外』に連れ出したわるものも、外で徘徊する参加者達も。
夢中で、持っていた道具の一つを手にして振り上げた。
吸いつくように私の両手に納まったのは、鋏だった。
私のずっと持っていた鋏とは違ったけれど。
振り下ろす。嫌な感触。景色が一瞬だけ赤く染まる。
「……ぁ」
その時初めて、目の前の人が声を上げた。
女の子の声。その音色は、とてもか細くて儚かった。
思わず顔を上げる。視界が広がる。
目に止まったのは少女の瞳。その瞳が映していたのは、その少女の喜びでも悲しみでも痛みでもなかった。
昔にご本で読んだ、恐ろしい般若のような顔をした『わるもの』そのものだった。
その事実に、私は一歩下がる。視界が広がる。私の瞳に映したくなかったものが映る。
空はとっても青かった。
私だったんだ。
わるものになってしまえば、わるものは、わるものじゃなくなるって。
私の仲間になるんだって、心のどこかで思ってしまったんだ。
わるものは、私だったんだ。
私がいいこでいなかったから、お父さんもお母さんも、帰ってこなかった。
私が悪い子だったら、この娘が帰ってこなくなる。
違う。もう、私は悪い子なんだ。
「……誰、ですか?」
「……ことみ。一ノ瀬ことみ。ひらがなみっつでことみ。呼ぶときはことみちゃん」
私はそれから嘘をついた。
私は悪い子だから。悪い子の声は空のかみさままで届かないから。
誰か。私じゃない誰か。この子を助けて。
410 :
休憩中:04/05/16 23:25 ID:RZN4+q/x
「ことみちゃんこそ、大丈夫?」
ユズハの手を包み込んでいた手がわずかに震えていた。
ユズハはことみの手の上に空いていたもう一方の手をそっと合わせる。
「うん。大丈夫、なの」
だけど、少し声も震えてしまった。
ユズハの言葉、一つ一つが、ことみの心を抉る。
ユズハがあの時感じた痛みは、こんなものじゃなかったはずだ。
ことみはあの時、死ぬ覚悟をしていた。
ずっといいこでいたかったのに、自分で選んで悪い子になってしまった。
ことみはもう、誰からも許されないと思っていた。
そんなことで罪が消えるとは思っていなかったが、それでもそんな覚悟をしていた。
だが、違ったのだ。
――「一体・・・その怪我はどうしたんだ?」
――「・・・・・わかりません」
あの時、ユズハは確かにそう言った。
目の見えない彼女にとっては、一体あの時何があったかも分かっていないのだろう。
その痛みを与えた人物がこんなそばにいる。
かりそめの笑顔と、このまま気付かれなければいいという卑しい心で本当の自分を隠したままで。
その事実さえも、ことみの心に深く影を落とす。
これさえ、たとえいっときでも悪に荷担したことみに対する、神様が与えた罰なのだろう。
(私は、どんな罰でも受けるから。だから、この子を)
『わるもの』達から助けてやってほしい。
「ごめんね。もうちょっとだけ、このままでいてほしいの」
「……はい」
言わなくちゃ。嫌われても蔑まれても――そしてそれで殺されてしまっても。
たとえ、自分の行き着く先が、父と母の待つ、明るい所ではなかったとしても。
411 :
休憩中:04/05/16 23:26 ID:RZN4+q/x
潮の香りを頼りに、ここまでやってきた。
「お兄さま…」
とても優しいお兄さまのことを思う。でも、その優しいお兄さまの表情までは脳裏に浮かばない。
私の目が、お兄さまの顔を映したことなどなかったから。
それでも必死で想い描いた表情。とても懐かしくて優しい匂いがした。
ここまで届く穏やかな潮の香りに紛れて、かすかに感じた人の香り。
怖くはなかった。とても優しい香りだったから。
それは私の知る匂いとはどれとも違うものだったけれど。
だけど、空を切り裂く音と共に、左足に感じた鈍い痛み。
「……ぁ」
じわりと広がるその痛みと共にわずかに浮かび上がた恐怖に思わず声を漏らす。
少しの静寂の後、足音。
「……誰、ですか?」
412 :
休憩中:04/05/16 23:27 ID:RZN4+q/x
一度、浮かび上がった恐怖は、すでに消え去っていた。
「ごめんなさい。私、目が見えなくて、そして、身体が弱いから
――会ったばかりなのに迷惑をかけてしまいました」
「え……っと、ユズハちゃん」
「はい」
「もう、大丈夫」
とても短い間だったけど、もうお友達になれたんだと思う。
「わるものは、どこかへ行っちゃったから」
ことみちゃんが、笑ってそう言った。でもそれはすごく悲しみを湛えたままの声色で。
「だからね。もう迷惑なんかじゃ、ないの。迷惑なん……かじゃ……」
ことみちゃんはとても、優しい。
だから私は嘘をついた。
「ことみちゃんが、追い払ってくれたんですね。――ありがとう」
そう。ことみちゃんの言う『わるもの』はどこかへ行ってしまった。
ことみちゃんが追い払ってくれた。
他の誰が信じなくても、私はそう信じることにした。
「……」
「ありがとう」
ことみちゃんの優しい匂いがかすれてしまいそうだったから、ことみちゃんを包んだ空気がまた震え出しそうだったから。
もう一度、そう声をかけた。
413 :
休憩中:04/05/16 23:27 ID:RZN4+q/x
二人手をつないだままずっといた。
「もう、寒くはないですか?」
「うん」
ことみの吐息がユズハの鼻腔をくすぐる。
ことみがにっこりと微笑んだ……ような気がした。
だけど、それは今にも泣き出してしまいそうで。
「あのね、ユズハちゃん、私……――っ!?」
その言葉を、強引に塞いだ。ことみの甘い香りが口の中いっぱいに広がる。
ことみもそっと目を閉じた。自然、二人の手がお互いの背中に添えられる。
ユズハと深く繋がったまま、ことみの口が言葉を紡ぐ。
――ごめんなさい、そしてありがとう
声にはならない言葉だったが、体と心で感じ取れた。
ユズハは、もう一度、ことみを強く信頼することを心に誓った。
もしも、この先二人が引き裂かれても。
あの出会った時の悲しみがことみを押しつぶしてしまいそうになっても。
ことみの追い払った『わるもの』が、再び襲いかかる日がやってきたとしても。
ユズハはずっとことみを信じ続けようと誓った。
二人はもう親友だったから。
今二人がしている行為はもう、とても親友同士の戯れには見えなかったけれど――
【ハクオロは現在小屋探索中】
【ユズハ、ことみ 休憩中】
回想メインですので、時間は
>>335からほとんど経ってません。
段落が下がってるのが回想部分、それ以外は現実です。
399はボツでお願いします。
「でね、木田くんがね…」
暗がりの中でもこの女というのは緊張感が無いのか。
相変わらず男の話を続けていた。
「あんたね、男の話じゃなくて、女の友達っていないの?」
「…え…」
立ち止まり、ぽかんと口をあける。
その瞬間。
『参加者の諸君、ご苦労』
拡張機を通した声が耳に届いた。
どうやら死亡者は11名出ているらしい。
わたしの知り合いは、まだ生きているようだ。
「どうやら、あなたの木田くんもまだ生きているようね…」
「…い、うん、しーちゃんも…まだ生きてる」
「しーちゃん?」
「あたしの、友達…」
どうやらこの子にも女性の友達はいるらしい。
しかし…。
「あうっ…」
ずてんと、透子は地面に倒れこんでいた。
「また転んだの? 暗くて地面見えないんだから、気を張って歩きなさいっていったのに」
「ごっ…ごめんなさいっ…」
こんな子の友達でいられるやつは、よほど気の長いやつか良いやつか、頭のおかしいやつのどれかだと思う。
普通の真剣では、耐え切れない。
ドジだし、のろまだし、たまにドモるし。そんなところがかわいいって男なら思うが、同姓としては…。
ま、私にとっては面白い取材材料なのよ。だからもう少しこの子と居ようと思うわけで。
【今日の志保ちゃんレポート】栗原透子に女の友達は居るらしい
「──ですから私、もっとお料理とか身の回りのこととかできるようになって、そーいちさんに喜んでもらいたいんです」
「ふふっ。七海ちゃんは本当にそーいちさんの事が大好きなのね」
「はいっ!」
島内の惨劇がまるで別世界の出来事の様に、別荘内では七海の話をBGMに穏やかな時が流れていた。
ティーブレイク開始直後、七海が「お二人の事をいろいろ聞きたいです」と言い、最初はやんわりと断ったベナウィだったが、南が「せめてお茶の間だけでも、逆に七海ちゃんのお話を聞いてあげませんか?」と提案し、それぐらいなら、とベナウィも承諾したのだ。
その後は、ベナウィが別荘を訪れる前に南達が行っていた、『大掃除』と言う名の物資探索を三人で再開する運びとなった。
七海以前にここを訪れた何者かの手により雑然としていた別荘内だったが、男手が加わった事もあり、事はほんの一時間程で完了した。
結果、アイスピックと金槌が一本ずつ発見され、南と七海がそれぞれそれらを。それとは別に、二階の窓から取り外したワイヤータイプのカーテンレールをベナウィが所有する事となった。
食料も既に粗方持ち去られた後だったが、持ちきれなかったのか、冷蔵庫の中には幾分かの野菜や肉類が残っていた。
「これだけあれば丸一日は保ちそうね。お米が無いのが少し残念ですけれど…」
熟れたトマトを手に取りながら、南がそう言った。
「……ん……あ、あれ?」
「おはよう」
目を覚ました桜井あさひ(42)に向かって、少年(46)はほほえみかけた。
「お、おはようございます」
状況が把握できないあさひは、反射的にそう答えることしかできなかった。
すでに日は沈み、辺りはすっかり闇に包まれていた。
「わたし…いつの間に眠って…」
「うん。疲れてるみたいだし」
「ご、ごめんなさい」
「いいよ。気にしなくて」
それっきり、あさひは黙り込んでしまった。
あさひが少年に話しかけたのはそれから十分ほど後のことだった。
「あ、あの、さっきはありがとうございました」
「どういたしまして」
「それでは、わたしはそろそろ行きま…」
「ちょっと待って」
立ち上がろうとしたあさひを征するように、少年はあさひに言った。
「一緒に行かないかい?」
「え………」
「こんな島だし、一人よりも二人の方がいいよ」
「………」
再び黙り込んでしまったあさひの――何かとまどっているかのような態度を感じ取った少年は、彼女がまだ自分を完全に信用しきっていないということに気がついた。
(まあ、心を許した相手に裏切られたんだしね)
あさひも、頭の中では少年がゲームに乗っていないことは十分理解していた。
そうでなければ自殺しようとしていた自分を助けるはずがないし、眠った自分が起きるまで待っていることもないだろう。
そして何より、彼女は彼を信じたかった。
彼に微笑みかけられたとき、彼女は本当に安心し、嬉しかったから。
だからこそ、すべてを話したのだ。
しかし彼女の中には、晴香に裏切られたときの恐怖、そして絶望が根強く残っていて、それを払拭することができなかった。
どれくらい沈黙が続いたであろうか。
少年は、それまでとまどっといたあさひの中で何か決意のようなモノが生まれたような気がした。
それと同時に、あさひはついに口を開いた。
「………信じて、いいですか?」
「…いいよ」
少年は笑って答えた。
そして、ふたりは歩き出した。
【あさひ、少年移動開始】
【時刻は夜8時ごろです】
【少年がカセットウォークマンを発見するのはこの少し後です】
見つけた物は?
「結局…見つかった物はこの位か」
小屋の探索を終えたハクオロは居間で見つけた物を整理していた
鍋の蓋、携帯用ガスコンロ(ガスボンベは無し)、ロウソク2本、ロープ5M、雑誌数冊、
空の2Lペットボトル2本、湿った花火、100円ライター…
(やはり武器になるような物は無いか…しかし、何かに使えるかも知れぬ以上幾つかは
持って行って損にはなるまい)
自分のバッグに使えそうな物…鍋の蓋、ロープ、ペットボトル、花火、ライター、ロウソクを
仕舞い込むと小窓を開け外の様子を確認しておいた
(雨は…小雨になっている。今すぐ出発するのも構わないが…二人の体力の事を考えると
出来るだけ休息を取っておく事に越したことはないであろうな)
周辺の安全を確認すると居間に戻り床に座り込んだ
(これからどうするべきであろうか…武器も無しに歩き回るのは危険過ぎる…
とりあえず身を守る程度の装備は必要であろう…)
床に座り考えていると足元に転がっていたユズハのバッグが目に入った
(む、そういえばユズハに支給された武器は何だったのだ?妙に重たかったのだが…)
ユズハのバッグを拾い上げ、中身を探っていると黒い銃身が目に入った
(これは…思わぬところで武器が手に入ったな…これで二人を守り切る事が出来るかもしれん)
バッグの中に入っていたのは当たり武器の一つであるAL47突撃ライフルであった・・・・・・
【ハクオロ 木の棒 小屋で見つけた物所持】
【ことみ 睡眠中】
【ユズハ 睡眠中 AK47突撃ライフル 残弾30発 予備マガジン×3】
【雨が上がり始めました(午前二時辺り)】
421 :
ひとくい:04/05/17 00:16 ID:9btcNHMO
ふたりは、この島で出会い、そして仲良くなった。
少なくとも志保は、そんな気がしていた。
もう添い遂げた彼氏のこと、まだ向かい合えぬ彼のこと。
そんな楽しく切ない話題を、繰り返し繰り返し、語り続けた。
年頃の少女の、いたってありきたりな会話だった。
「あう?」
「どしたの?」
しかし、夢が覚めるのは、いつだって唐突なものなのかもしれない。
「長岡さん、この影って……?」
「え? ええっ……!?」
見上げる彼女達の視線の先に、死があった。
夜闇を遮る、巨大な何かが、そこにあった。
緩やかな風に乗って、鼻をつく獣臭が流れてくる。
地響きのような咆哮が、彼女たちの脚を竦ませる。
そして小刀のような爪と、牙。まさしくそれは、死と恐怖の象徴だった。
「ひ、ひいっ!」
「や、やだやだやだ……!」
少女が、二人。長岡志保と栗原透子。
その心が逃げ惑う。
だが、身体はまるで付いていかなかった。
ただ無力に腰を抜かしたまま、後へと這いずるのみだ。
422 :
ひとくい:04/05/17 00:18 ID:9btcNHMO
「ヴオオオォォォォ……」
獣が低く、威嚇するような声を放つ。
「きゃあっ!」
思わず志保の後に隠れる透子。
志保は、そんな透子を見て、わずかな勇気を振り絞った。自分が戦うしかないのだ。
ナイフを抜き、震える腕に勇気を乗せて、獣の前に突きつける。
「く、来るんじゃないわよ! ただで食われると思ったら、大間違いなんだからねっ!」
ざっ
一瞬、奇妙な間があった……ような、気がした。
目の前を、爪が一閃していた。
そう思ったときには既にナイフが消え、彼女の掌は原形をとどめていなかった。
「ぎ……あああぁぁぁあああ!!」
志保が絶叫する。手が破裂したかのように、砕け千切れていた。
傍らの透子を逃がそうとして、残った腕を押し出して――掴めなかった。
もはやそこに、透子の姿はなかったのだ。
志保を置いて、笑う膝をどうにか御しながら、逃げ出す透子。
「ご……ごめんなさい、長岡さん、ごめんなさいっ!」
護ろうとした、助けようとした。ほんの少しの後悔が、小さく渦巻いた。
(盾にしてやろうだなんて、思ってた、のに――まるっきり、逆じゃない)
ただ苦痛だけが、ただ無念だけが、残っていた。
(バカ、みたい)
自分を、笑うしかなかった。
ごきっ
423 :
ひとくい:04/05/17 00:20 ID:9btcNHMO
再び、爪の一閃。今度は脇腹。
「ひぎ――」
そして続く絶叫は、瞬時に虚空へ吸い込まれた。
肩から上が、獣の顎の中へと取り込まれていたからだ。
ばきん ごきん
魂すら消え、あとはただ、食料となるのみだった。
やがては主と呼ばれた人喰い虎の、糞となるだけである。
「……ん?」
皐月は、いつの間にか眠ってしまっていた。
食料を探して動き回ったが、結局付け合せに使う香草がいくつか見つかっただけ。
ただ疲労だけが残り、満足に空腹を満たすこともできず、倒れるように眠っていた。
「あれ? トンヌラ、どっか行ってたの?」
「ヴォフ」
そこには何故か、鞄があった。
皐月の物ではない。中には食料と水があり、武器はなかった。
「……拾ってきたんだ?」
奇妙に思えたが、もはや何人も死んでいる以上、拾ってきたのだろうと結論付けた。
ありがたく、いただこう。
これで明日も、頑張れる。
自身を励ましつつ、皐月は空腹を満たした。
【034栗原透子 逃亡 装備不明のまま】
【061長岡志保 死亡 ナイフは死体の残骸にまみれています。鞄は皐月の元へ】
【残り76人】
【095湯浅皐月 志保の食料摂取 皐月はトンヌラの人喰いを知りません】
【ムックル(=主=トンヌラ) 皐月の武器。満腹しないと、他人を喰う場合があります】
「それではお二人共、どうか充分にお気をつけて」
「ええ。ベナウィさんも。早くハクオロさんにお会いできると良いですね」
「はい」
場所は別荘の玄関先。下足箱上の置き時計は午後8時を指し示している。
物資の分配が済んだ後、再度お互いの行動指針を確認しあってから、ベナウィは別荘を離れる事にした。
正直、非力な女性を二人残して発つのは彼にとって後ろ髪を引かれる思いだったが、一刻も早く、そんな危惧さえも抱かぬよういられる状況を手繰り寄せる為にもと、ベナウィは当初の目的通り、ハクオロの捜索を優先させる事にした。
時は既に夜。多くの参加者が徘徊するであろう昼日中より、この時間帯の方が探し人を見つけ易いと践んでの事でもあった。
すっと、七海が水筒をベナウィに差し出す。
「ベナウィさん。これ、さっきのお茶を入れておきましたから、持って行ってください」
「ありがとうございます。もしそーいちさんに出会えたら、七海さんがここに居る事をお伝えしておきます」
「はい!よろしくお願いします」
ほんのりと温もりの伝わる水筒を七海から受け取り、ベナウィはにこやかに微笑んで言った。
「…それでは、また」
「はい。またお会いできると良いですね」
「またお会いしましょうね!」
三人で手を握り合い再会の約束を交わすと、ベナウィは静かに宵闇の中へと消えて行った。
【82番 ベナウィ 所持品:槍(自分の物)、ワイヤータイプのカーテンレール(3m×2)、紅茶入り水筒】
【83番 牧村南 所持品:携帯食料一式、アイスピック】
【56番 立田七海 所持品:鋸、金槌】
【時刻:午後8時】
【残り77人】
修正;
【残り77人→残り76人】
426 :
紅いソレ:04/05/17 00:37 ID:T1ozaB0U
「ふむ、ペースが落ちてきたな…」
目には底の見えない闇を宿し、そしてあくまで冷静に篁は呟く。
「そろそろ頃合いだ。アレを出せ」
暗闇のなかをトラックが走っていた。トラックには大きな特殊容器が一つ積まれ、運転している兵士は、それを森のなかに放置することが任務であった。
だが、気付かなかった。何しろ森のなかの道だ。揺れで破損した容器からゲル状の赤い物質がすべて出ると、ソレは生物ではないはずなのに明確な殺意を兵士にむけた。
「うわぁぁぁぁぁぁ……!!」
気付いたときは遅すぎた。兵士は溶けるようにあくまで紅いソレの一部と化し、ソレは絶望とも怨念ともとれる声を出しながら怠慢な動作で森の闇へと消えた。兵士の声を以て…。
【スライム?森のなかへ、トラック放置】
>>426の作者さま。
お手数ですが、感想スレまでお越しください。
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
MUJINUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
430 :
幻想幻夢:04/05/17 01:16 ID:fJ69kxOT
世界には私しかいなかった
丘にあるたった一つの小屋
この世界で「人」は私一人だった
それは悠久に続くものと思っていた
しかしその時は唐突におとずれる
変わってしまったのは世界の方だろうか
それとも私だろうか
どちらかはわからない
しかし確実に「変わって」しまったのだ
431 :
名無しさんだよもん:04/05/17 01:31 ID:7kOBmx6W
私はいつも空を見ていた。
それなのに、あなたは違う人を見ている。
私はそれが悲しくて寂しくて哀しくて、
けれども、あなたの前では心を殺して振舞った。
あなたの痛む表情は見たくなかったから。
そのあなたはもういない。
あなたを殺したのは私の姉。
あなたが見つめていたのは私の姉。
だから、私は姉を殺す。そしてあなたの後を追います。
落葉と奇術師の形見
身動きの取れない状態で一晩休み、暁闇の中橘敬介(055)は森へと踏み込んだ。
まだ足取りはおぼつかず、体を引きずるようにゆっくり歩くことしかできなかったが、かまわず進む。
手が動かせるようになったとき、身につけていた分だけで簡単な食事をした。かなりぬるくなっていた
水を喉に流し込んだあと空の容器に沢の水を詰めた。通り雨があったらしく起きたときにはずぶぬれになっていたが、
一応絞れる分の服は絞った。いい気分ではないがこの際仕方がない。
観鈴と晴子を探す。三人生き残って最後にはあの二人を町に送り届ける。どのような願いも、とあの老人は言って
いたが、「人を生き返らせる」という発想はこの時点の敬介の中には無かった。
ゆっくりと、確実に、暁闇の中を、敬介は歩く。
そして夜が明けるころ見知ったものと遭遇する。放送の時ひっかかった51という数字に。
無言で再会したカラス色の髪の少年は何も映さない目で天を睨んでいた。
それは明らかに刺殺体だったがどうしても目に付くのは欠けた両手首。うち片方は胸の上に置かれている。
…気味が悪い。少年には失礼だろうがそう思わざるを得ない。
目を閉ざしてやる。引きつった顔はそのままだが睨まれるよりだいぶましである。
そして…左の袖口を裏返した。やはり気になるのだ。スタート地点でのあの笑みが。
シャツの袖口にとめつけてあるのは安全ピンやらゼムピンやらクリップ式のヘアピンその他もろもろ。
そしてそれに押さえられる形で袖の裏にとめつけられていたものを引っ張り出す。
手にしたそれはなんとも緊張感に欠ける代物だった。
たこ糸を数本よりあわせた紐に、ごく小さな布切れがいくつもいくつもくっついてくる。
「…万国旗?」
色とりどりであったであろう旗はすでに血がついてまだらになっている。しかしその場違いかつ滑稽な代物に、
いつしか敬介の口元は緩んでいた。死せる奇術師が最後に笑わせたのは見知らぬ男。
「確かに、それもありかもしれない」
少年の笑みの理由がわかった気がした。
ポケットや右袖からおそらく支給品だっただろう肥後ノ守、ポケットからも使えそうなものを失敬して、敬介は
少年のそばに穴を掘りはじめた。恩人をそのままにしておくのは気が引けたからである。残された左手首は袖の中に
押し込んだ。血はある程度雨で流されているため、違和感はない…右手に目を向けなければ。
穴に少年を下ろし、やわらかい土をかぶせていく。その中に落ち葉が多少混じる。
敬介は唖然とした。
「落ち葉、だって――!」
今でこそスーツを着ているがこの島に連れ込まれる前はワイシャツでの生活が続いていたはずだ。
それがここではこうだ。確かに沢で身動きが取れなかったときに見たのは緑の木である。しかしここには
量こそそう多いわけではないが確かに枯葉が積もっている。そういえば今埋めているこの少年の制服は
カーディガン…おそらく冬服だろう。この不整合はどういうことか。
敬介は眩暈を覚えた。まるで季節感がない。メモを取ろうとしたときにシャーペンと手帳がないことは気づいていた。
あの手帳には確かにカレンダーがあり、7月23日の項にはメモを――
なぜあの何の変哲もない手帳が取り上げられたのだろう。敬介は訝った。シャーペンについては心当たりがある。
あれはいささか特殊な形状で、ペーパーナイフとして使うこともできる。武器としては最弱の部類だろうが
はずれの支給品よりは役に立つだろう――この状況下では。しかし手帳はどうしても納得がいかなかった。
とはいえ、ここで主催者側に直談判などできようはずもない。しかも自分は孤立しているのだ。
目の前で、最初に殺された学生が目に浮かぶ。目の前の、半ば土に埋もれた少年が目に焼きつく。
…現実。
体に埋め込まれている爆弾。
生きて護るために殺さなければならないということ。
自分はいつも、そういつも甘いのだ。
行動が取れなかったことで失念していたのかもしれない。流されていたのかもしれない。
「僕というやつは、いつもこうだ」
ふと、手元を見やる。両手を開ける必要性から手首に巻いておいた万国旗が視界に入る。
なぜだか笑えた。笑いながら、泣けた。
感情の起伏が激しくなっているのかもしれない。しかし、それも悪くない。
観鈴を笑わせてやりたい。晴子を笑わせてやりたい。
この島の状況では困難なことかもしれない、でもそれが願い。
彼女たちを笑わせてやること。
…近くに咲いていた花を手向けると、敬介は死体の下にひかれていたバッグを持ってその場をあとにした。
ポケットは文字通りガラクタだらけで、どこかで整理する必要がある。もう一度振り返ると、
「ありがとう」
敬介は走り出した。手首に巻かれた紐がそのあとを追った。
【055橘敬介:行動開始、住井の死体から肥後ノ守その他ガラクタたくさん(要整理)、万国旗をせしめる
釣り糸、釣り針、ハンカチ、水入り容器を所持】
【夜明け前から朝にかけての出来事です】
ある日 パパと 2人で 語り合ったさ
高倉みどり(53)は、またもや歩いていた。
最も先程までのような闇雲な歩き方ではない。今のみどりには明確な目的がある。
この島のどこかにある「絵皿」を探し出し、自分の持つ白うさぎの絵皿と引き合わせる事。
骨董好きの自分にとってこれほどピッタリな仕事も無い。それに・・・
「早くお友達に会わせてあげないと、お皿が可愛そうですものね。」
曰く、『骨董には魂が宿る』。それは父、宗純に繰り返し言われてきた事であり、今では持論でもある。みどりには、皿に描かれたうさぎが悲しんでいるように思えた。
「随分と日が傾いてきましたねえ。そろそろ寝る所を探さないと。」
結局、日没までに皿を見つけることは出来なかった。森の中をうろうろしていただけなのだから、当然といえば当然である。
「やっぱり一人で探すより人に手伝ってもらった方が良いかしら。」
実は、先程から気になっていた場所がある。森の中で一箇所、僅かにだが煙の上がっている場所があるのだ。火の無い所に煙は立たぬ。火があるということは、そこに人が居ると言う事である。
ここまで出来るだけ人に会わないように来たみどりだが、人を探すならあの場所に行くのが一番だろう。
「悩んでいても仕方ありませんね。行きましょう。」
こうしてみどりは歩きつづける。今度は少年と少女の待つ洞窟へと。
【53 高倉みどり 目的:絵皿を探す 現在は浩之と理緒の居る洞窟へ向かっている】
【残り 76人】
古河渚が目を覚ます、どれくらい時間がたったのだろうか。太陽を確認するとだいぶ傾いていて、夕方前といったところだろうか。
何か夢をみていたような気がする。とても大事な事だったと思うが内容までは思い出せなかった。
目だけを使ってまわりを見渡す
(そうか、知らない島に来てるんだった。やっぱり夢じゃない…)
やはり目が覚めたら何もかも夢だったという願望は捨てきれないでいた
(もう、昨日までの日常には戻れないのかな…)
「渚さん、起きられましたか?」
考えを巡らせていると隣に座っていた少女、エルルゥに声をかけられる。
「はい、おはようございます」
「調子はいかがですか?」
体の方を気にしてみる。微熱程度は残っているが活動するには問題ないと思う。
「だいぶよくなったみたいです」
「それは良かったです」
エルルゥがさも自分のことのように喜び笑いかけてくる
「起き上がれますか?」
上体だけ起こしたところで額に手を当てられる
「…………ん、まだ少し熱が残っているみたいですが大分下がりましたね。あとは何か食べた方がいいですね、食べられそうですか?」
熱があった時はそんな空腹感など無かったが熱が下がり朝から何も食べていない状況では愚問であった。
「はい、お腹空きました。えへへ」
渚が笑顔で返すとエルルゥはとても嬉しそうだった。そして二人でバッグをあさる
「こっちの紙状の入れ物に入っている物は食べられる物とわかったのですがこっちの硬い筒は何でしょうか?」
エルルゥが栄養固形食と缶詰を手にし、尋ねてくる。
「これは食べ物を保存しておくための容器でですね…」
と言って自分の缶詰を手に取る。缶切の必要ないタイプだったのでプルタブを起こし引っ張って開封する
「こうやって開けてください。中身は…乾パンのようですね」
そんなこんなで二人で食事を進めていった。
後の事を考えると全部食べてしまうわけにもいかないので、その辺は考えてとる事にした。水はエルルゥは全て使ってしまったので渚の水を二人で少しづつ飲んだ。
「…水を探さないと駄目ですね」
エルルゥが呟くようにそう言った。食料はまだ若干の余裕があるが水はそうはいかない。
「夜になる前にちゃんと休める場所も探したいですし…渚さん、少し辛いかと思いますが歩けますか?」
と、申し訳なさそうに聞いてくる。それを渚は笑顔で返す。
「私なら大丈夫です。この程度なら日常茶飯事…って言うのも変ですけど、慣れていますから」
と言ったらエルルゥが、え?といった様な表情で固まってる。
「えっとですね、私体が弱くていつも熱出しちゃうんですよ、それで…」
「そうだったんですか…でも無理だけはしないでくださいね」
「わかってます、これ以上迷惑かけたら両親に叱られます」
「私は迷惑だなんて少しも思ってません。辛いのに辛いと言ってもらえないほうが困りますから」
「はい、では日が落ちる前に行きましょう」
と言って二人は立ち上がりそれぞれの荷物を持つ。
「肩、お貸ししましょうか?」
「あ、いえ、大丈夫ですので」
「そうですか」
「ただ…」
「はい、何でしょう?」
「…手を…繋いでもらえないでしょうか」
と聞くとエルルゥは何も言わずに微笑むと、手を差し出してきた。
渚も笑顔でその手に自分の手を乗せ、しっかりと繋ぎ歩き出した。
(もう、これは夢じゃない…これは現実…)
渚が眠る前に夢である事を切望することはこの時から無くなった
突然終わってしまった日常。昨日までの日常にはもう戻れないかもしれない。
しかし、渚は終わってしまった日常に、すがる事はもう無い。
次の楽しいこととか、うれしいことを見つければいいだけだろ。
あんたの楽しいことや、うれしいことは一つだけなのか?ちがうだろ
いつか少年から聞いた言葉を胸に、少女は前に歩き続ける
※補足
固形栄養食=いわゆるカロリーメイトっぽいの
【二人の持ち物:渚の支給品は後の書き手に依存 食糧を消費、水はあと少し
薬草類(描写はされていませんが渚が寝ている間にある程度採取)
乳鉢セット(「当たり」により自分の持ち物より支給された物) 】
「この島にも、こんなものがあったのだな」
夜空を見上げると、黒い雲が薄くかかっていた。
恐らく一雨来る。そう考えた智代は、できるだけ大きい建物を探した。
どうせ雨宿りするなら、人が多い方が『仲間を集める』という目的を叶え易いと思ったからである。
逆に考えれば人が多い分危ないのであるが、智代はその危険性をあまり深く考えなかった。
飛び道具にはまずいが、ナイフレベルなら素手でもどうにかなる。
そして飛び道具は、障害物の多い建物内では不利に働く筈だった。
そう判断して歩くこと数分。智代は意外と早く、目当ての『大きい建物』を見つけたのである。
しかし――大きい建物と言っても、これは予想外だった。
「学校…か」
制服、定時放送――それらのことを一瞬思い出した智代は、期待と不安、喜びと悲しみが入り交じった微妙な表情で呟いた。
ざっ、ざっ、ざっ……
グラウンドの、一度も踏まれていないであろう砂の感触を踏みしめながら歩く。
桜が咲いていないことを残念に思いながら、智世は校舎へと向かった。
校門の正面の校舎にかかっていた時計――暗くて見えにくかったが、どうやら現在時刻は十時過ぎらしい。
寝る時間としては、早くもないし遅くもない。
(今晩はここで夜を明かすか…)
そんなことを考えながら、正面玄関へと近付く。
距離は、それほどのものではなかった。
玄関の扉に手をかけ――開ける前に、ガラスを通して中を覗く。
薄い雲に覆われて弱くなった月明かりが、校舎の中に智代の影を作る。
真っ先に目に入ったのは、予想通り下駄箱だった。
その向こうには、下駄箱と垂直になる向きに廊下と、上に続く階段がある。
智代は慎重に、人の気配を探った。
「ふむ…」
とりあえず、玄関付近に人の気配はない。
「――行くか」
智代は自分自身に発破をかけるように呟いて、扉を開いた。
キィ…
耳障りな音が鼓膜に響く。
その音に眉をひそめつつ、智代は校舎内へ侵入していった。
下駄箱を素通りし、土足で廊下に足を踏み入れる。
生徒会長としてあるまじき行為だが、気にしないことにしておいた。
――が。
(ふむ…)
智代は不意に振りかえる。
まず最初に感じた違和感は、下駄箱だった。
(上履きが…入っている…?)
素通りした下駄箱――その半分に、上履きがしっかりと入っていた。
しかし、智代はグラウンドに足を踏み入れた時の感触を覚えている。
あれは間違いなく、誰にも使われていなかった。
そしてこの廊下も――というより学校全体から、使われているような雰囲気が全く感じ取れない。
ということは。
(全て…全て、演出ということか?)
智代は再び前を向いた。
そこにあるのは、掲示板。
何も貼られていない、ぴかぴかの掲示板。
なのに、何故かその脇には画鋲ケースが置いてある。
「手間のかかることを…」
智代は、思わずそうぼやいた。
そして、画鋲ケースを手に持ち、二階へと続く階段に一歩踏み出した。
【智代 画鋲ケース(画鋲30個入り)を入手。誰も居ない学校に侵入】
【時刻は十時過ぎ】
【学校は三つの校舎からできています】
>>436の補足
時刻は終了時点で20:00ごろ。途中何事も無ければ
>>237の直後ぐらいに洞窟に着きます。
森外れの民家の監視を始めてから二時間ぐらいが過ぎただろうか。
麗子の望む変化が、監視先付近で早くも起きていた。
大型の銃器を持った二人組みが現れたのだ。
二人組みの少年の方は、迷うことも無く大型の銃器―いや火炎放射器だ―で、民家に火を放ち始めた。
(……まあ、あれなら警戒も必要ないわよね)
いささか無用心なようだが、確かに家ごと燃やしてしまえば大抵の術や策など踏み潰してしまえるだろう。
そのうち中の人間が飛び出してくるだろうが、この有利な状況とあの武器ならそう負けはしないと踏むのも間違った判断ではないかもしれない。
声を上げて笑う少年と、クスクスと笑う少女を見ながら、麗子はそう考えた。
まあ、それでもどんでん返しがあるかもしれぬ、と最後まで顛末を見届けようとしているうちにふと笑い続ける二人を、隙だらけ、と思った。
なるほど、確かに完全に攻め手に回った気になっている二人は周囲への警戒を怠っていた。
そして、後のことを考えてみれば、あの火炎放射器はとても魅力的な武器に思えた。
多少の危険は冒してでも手に入れたい、それに家が燃えてしまう以上はこのまま座しても得るものは無い。
麗子はそう考え決断を下す。
そうなれば襲撃の準備だが、左腕がまるで当てにならない以上、鉄パイプでは決定打にかけるだろう。
ならばと、麗子は器用に右手一本で月宮あゆの支給品を取り出す。
出来れば使いたくはなかった、何しろ隠密性が0に等しい上に近接用の武器だ。
攻撃力自体に不満は無いが、飛び道具を相手にするに相性は最悪ともいえた。
が、贅沢を言っていられるような状況ではないこともまた事実。
(ある程度は賭けることも必要……か)
自嘲するよう笑って、麗子は無骨なそれを右腕に半ば括り付けるように持ち、スターターロープを口にくわえた。
「アハハハハハ! やる気の無い奴らはさっさと死んでしまえばいいんだよ!」
一方で長瀬祐介は狂ったように笑っていた。
玄関に窓と戸と、一通りの出入り口に火を付け終わり、満足そうに笑っている。
声の大きさではなく、その質が深い狂気を感じさせた。
あるいは、日常からはみ出たという意味では彼は既に狂ってしまっているのかもしれない。
そしてその狂気が伝染したように、もしくはこちらが発生源なのか、月島瑠璃子も隣でドロリとした微笑を浮かべている。
しかし、その燃え始める家屋を半ば恍惚と見上げる二人をさえぎるように ブルン! とすぐ後ろから轟音が聞こえた。
「アハハハハ……ハ?」
聴いた瞬間はバイクか車のエンジン音かと思った。
しかし、ぼんやりと振り返ってみれば目に入るのは、チェーンソーを上段に持ち上げ、咥えたロープを首で引き絞りながら突っ込んでくる白衣の女性。
あまりにシュールな光景に目を奪われ祐介の反応が遅れた。
更には、知らぬ間にかなり近くまで接近されていたことも災いし、手元の火炎放射器では対処できない状況にまで追い込まれていた。
対する麗子は、容赦なく動作を始めたチェーンソーを目の前の少年に振り下ろす。
「うわあっ!?」
しかし、祐介もかろうじて火炎放射器の砲身を盾のようにして振り下ろされる刃を凌いだ。
だが、走ってきた相手の勢いは殺しきれず体勢を崩してしまう。
麗子はそこに全体重をかけてチェーンソーを押し込んでいく。
自然と麗子を上にする鍔競り合いのような形となった。
一般的なそれと違うのは、片方の武器が一方的に切断されようとしていることだろうか。
加えて何ともいえない金属同士が擦れ合う高音と、火花が辺りに散る。
「な、な、何なんだよ、お前は!?」
先ほどまでの狂気から一気に覚めて祐介が叫んだ。
見る間にチェーンソーが砲身に食い込んでいく。
(……どこまでもツイてないわね!)
優勢を自覚しながらも、麗子が内心で己の運勢を罵る。
本来、性差の上に片腕のハンデまで加わっては、いかに祐介が小柄な少年といえど、力でもって麗子に勝ち目は無かった。
しかし、機先を制したことで互角以上の体勢に持ち込めた。
その上、武器の特質が味方をし、負傷による体力の減少が問題になる前に、砲身を切断して勝てるといった状況にまで持ち込めた。
だが、このままでは火炎放射器を破壊してしまい、当初の武装の増強という目的を達せられるかどうかは怪しい。
麗子の表情は厳しいものへと変わっていった。
パンッ
そこで傾きかけた天秤を止めるかのごとく、火薬の弾ける音がした。
「……長瀬ちゃん!」
「瑠璃子さん!」
少し遅れて我に返った瑠璃子のベレッタが発砲されたのだ。
火炎放射器のみを武器と思い、予想以上に高い二人組の火力を読みきれなかった麗子のらしくないミスだった。
負傷や詰まっていく状況が、本人にも気付かない焦りを呼んだのだろう。
しかし今の射撃自体は、弾丸が麗子の少し後ろを通り過ぎたのみだ。
二人が肉薄するほど接近しているため、瑠璃子には思い切った射撃が出来ないのだ。
そこに付け込み、麗子が更に状況を展開させる。
まずは自分と同じく瑠璃子に視線を向ける祐介の鳩尾を蹴り飛ばし、その反動でチェーンソーを砲身から引き抜く。
「……ぐっ!?」
虚を突かれた形になる祐介が体勢を崩し切って倒れた。
麗子はそれには構わず、返す刃で瑠璃子に向かって疾走する。
「こ、来ないでっ!」
「……つっ……」
怯みながらの瑠璃子の三射目が麗子の左肩を穿った。
しかし、顔をしかめながらも麗子は止まらない。
(どう……せ、使えない左腕なら、他に当たるよりは!)
自らを鼓舞するように、一連の流れを肯定的に捉える。
ついで四射目、しかし外れ。
前回こそ当たったが、今回は素人が撃ってもそうそう当たるものではないとの賭け通りだ。
こうして、ついには瑠璃子の前にたどり着き、そのままチェーンソーを一閃した。
「えっ……? あ、あ、あああああああああ!?」
バッと血の花が咲き、ベレッタを握ったままの右肘から下が地に落ちた。
鮮血が噴き出す右腕を抱え込み、瑠璃子は呻きながら地面にぺたりと蹲った。
一方、麗子は今度は無防備な瑠璃子には目もくれず、いまだ回転を続けるチェーンソーを祐介に向けて力の限り投擲する。
起き上がり、こちらに狙いを向けかけていた祐介が、慌てて転がりこれを避ける。
その間に麗子は地面に落ちた右腕――否、正確にはそれに付随するベレッタを自由になった右手で拾い上げた。
(オーケー。あとは中の連中とでも潰しあってて頂戴!)
そして、一杯の右手で左肩を抑えながら、そのままの勢いで一目散に走り去っていく。
想像以上に大変な綱渡りになってしまったが、銃が手に入ったのは十分な収穫だった。
「クソ、待てよっ!!」
再び立ち上がり、叫びながら銃口を向けるが、祐介は火炎放射器を撃てない。
それほど射程距離の長い武器でもないし、今しがたの損傷による誤作動も不安だ。
そして、何より蹲る瑠璃子が目に入ってしまった。
一目見ただけで出血が尋常な速度ではないとわかった。
そのため、祐介は森へと消えていった麗子を見届けることも無く、本人以上に顔を青くして瑠璃子に駆け寄る。
自らがつけた炎の音とガタガタと主無く暴れ続けるチェーンソーが煩く、わずかな間にささくれ立った気に障った。
――そしてまた一方で、はるかとアルルゥの休む家にも本格的に炎が回り始めていた。
【005石原麗子 鉄パイプ, ベレッタ(残弾11with 瑠璃子の右腕): 左肩に被弾、更に鎖骨にかけて打撲・骨折】
【057月島瑠璃子 折畳式カサ: 右肘切断 出血多量】
【062長瀬祐介 火炎放射器(砲身に損傷・燃料は8割強), ジグ・ザウエルショート9mm(残弾1発), 果物ナイフ】
【027河島はるか&004アルルゥ ハーバーサンプル一袋:入浴後だろうか。火事への対応は不明】
【チェーンソーは地面に放置】
【午後10時ぐらい】
448 :
災難:04/05/17 04:40 ID:xoK+Hkct
森の中に立つ小屋の一つに入り、エディはふうとため息を付いた。
辺りはすっかり闇に沈んでおり、これから深夜にかけて再び探索を行う為に、少しここで休息を取ろう、とエディは考えていた。
表情の見え難い顔に、疲労の色が濃く浮かんでいる。
叢から叢へ、神経を研ぎ澄ましつつ森の中を探索していたのだから、流石にナスティボーイのナビといえど、身に溜まった疲労は相当のものであった。
森での探索では、幸か不幸か、参加者とは出会う事が無かったが、無残に打ち捨てられた死骸がいくつもあった。
一際眼を引いたのが、手首から先を切断された死骸であった。
凶人――
そう呼ばれる人間と、わりとバラエティに富んだ半生の中で遭遇したこともあるが、ろくな武器も持てないこの状況で、そんな人間と同じ場所にいるなどということは流石にぞっとしない。
ふう、ともう一度深いため息をつきながら、エディは適当な場所に腰掛けた。
そして頭の中で状況を整理する。
自分と同じ場所からスタートした24名は、2、6、13、18、21、22、27、32、34、36、41、44、47、48、49、51、61、66、67、73、78、90、95、99番。
まずあの時点で死亡していた32、41、44、51番を除外して残り20名。
次に集団での行動が確認できた者の中から、ゲームに乗った一組、2番麻生明日菜、22番神尾晴子を抜粋。
35番上月澪と加えて集中的に盗聴。
78番伏見ゆかり、というかゆかりは車、95番の皐月は何か音からしてかなり巨大な生物を引いたらしい。
得物の中ではどちらも大当たりに属するだろう、というか事実でかい。
やはりソーイチは女に恵まれてるな、とエディは思った。
449 :
災難:04/05/17 04:41 ID:xoK+Hkct
ともかく、今現在得ている情報はこの程度。
放送で挙げられた死者の数を考えると、まだまだ数多くのゲームに乗った参加者はいるだろうし、心細いことこの上ない。
かといって、今この段階で妄りにはもう盗聴器は使えない。
「(つっても定期的にマーダーは盗聴する必要があるよナ)」
そう思い、エディはリュックに手を伸ばそうとして、それから眉を顰めた。
木材が焦げる匂いがした。
だけでなく、窓から見える外の景色は既に赤く、煙が立ちこめている。
「Shit!」
短く吐き捨てつつも荷物を手繰り寄せ、すぐに窓の近くに伏せ、外の様子を窺いながら頭脳を動かす。
焼き殺す気か?と思ったが疲れはしても、ここに至るまでの痕跡は消してきたし、入った瞬間にも人目は無かった。
そして、この島に来ている人間の割合を思い出す。
大半はこの非日常に耐えられそうに無い学生、ならば――
「(狂ったか!?)」
狂気に侵された無差別の放火行為、そう判断し、エディは窓の外に誰もいないことを確認してから、助走をつけて跳躍した。
ガシャ―ン!!
ガラスの割れる音と共に、エディは窓から外に飛び出し、そのまま前転しつつ、森の方に全力で逃走した。
「あれ、逃げられらたみたいだね長瀬ちゃん」
「うん、そうみたいだね。残念だね瑠璃子さん。今度はもっと人の多い場所にいこうか?」
「そうだね、じゃあ民家のほうにいこう」
歪な笑みを浮かべて、二人は燃え盛る小屋を後にした。
【エディ 逃亡中 小屋→森の中 所持品盗聴器 先の尖った木の枝数本】
【午後9時前後】
450 :
感感俺俺:04/05/17 05:17 ID:6UaX7MIu
蝉丸はカミュの元に駆け寄り、様子を伺った。
脈はある、返り血は浴びているが、彼女自身の傷は無いようだ。
次にディーを見た、喉の深い傷は彼が事切れていることを能弁に語っている。
何故か死に顔はとても安らかだった。
そして、麗子の方を見る―――彼女は、既にその場にはいなかった。
(逃げたか……)
しかし、蝉丸には追跡するという選択はなかった。
気絶したカミュを置いて行くなどということはできない。
蝉丸はカミュの手から短刀を取り、丸太を加工することにした。
このままではあまりにも大きすぎる。
一撃の破壊力こそはあるものの、あまりにも小回りがきかなすぎることは
先程の麗子との対戦で痛いほど痛感した。
そのまま持ち運ぶのは得策ではないと判断し、丸太の一部を短刀で切り削り、木刀にした。
これで威力は落ちるものの持ち運びに不便なく、扱いやすくなった。
「さてと……」
蝉丸はまだ目覚めないカミュと3人分の支給品を抱え、多量の水のあるところへ歩き出した。
2人とも身体は血で汚れすぎている。『気配を消す装置』があるとはいえ
今のままでは血の香で発見されてしまう可能性は低くない。洗い流さなければならない。
ディーの死体はそのままにしておいた。
あんな男だったとはいえ、カミュの知り合いだ。
地に埋め墓を作り、手厚く埋葬しておきたいところだったが
いまはそんな作業で余分な体力を消耗している場合ではない。
本来ならば、強化兵である蝉丸なら、常人の数十倍の回復力を持つ。
先程の戦闘で負った傷はもう完全に治り、地を掘ることなどなんでもないことだろう。
だがこの島では仙命樹の力は抑制されている。
傷が癒え、万全の状態になるにはまだ時間が掛かりそうだ。
451 :
感感俺俺:04/05/17 05:17 ID:6UaX7MIu
蝉丸は程なくして、海岸に辿り着き、そこで、『アビス・ボート』と書かれている船を見つけた。
外から中の様子を伺う……気配は無い。
タラップを上り、船内に入る。やはり人はいないようだ。
これで島から脱出できるか? と一瞬考えたが、主催者は「離島ゆえ、逃げることも不可能だ」と言っていた。
おそらく、燃料はないのであろう。
もし燃料があったとしても、蝉丸は陸軍所属だったために、船や飛行機の操作経験はない。
車ならば運転したことがあるが、現代の船など計器類やボタンの数々を見ても、どうすれば動かせるのか全くわからない。
万一動かせて島から離れたとして、体内の爆弾とやらが爆破しない保証も無い。
そして直感だが、何より名前からして沈みそうな予感がする。
しかし、船内には簡単なシャワー・トイレ・寝室などが付いており、ただ過ごすとしても便利に思えた。
目立つため、長くいられないだろうが今夜はここで過ごすことにしよう。
蝉丸はカミュを起こすことにした。身体を揺する。
「起きろ」
「う〜ん、姉さま……あと5分だけ……」
「俺は姉さまではない、起きろ」
目をこすりながら、しぶしぶ起きるカミュ。
「あれ? ここってどこ……? おじ様は誰……?」
まだ寝ぼけているらしい。
「俺は坂神蝉丸。森から移動して、いまは島の海岸の船の中だ」
「あ……そうだ! ディー……ディーは!?」
「女……麗子の行方はわからない、男は……死んだ」
「………………」
452 :
感感俺俺:04/05/17 05:18 ID:6UaX7MIu
カミュは自分の先程の出来事を思い出すと、顔が暗くり黙ってしまった。
無理も無い、知り合いの男に刃物を突きつけられて
そして正当防衛とは言え、それで刺し返してしまったのだ。
肉体的よりも精神的負担が大きかったのだろう。
蝉丸にはどのような言葉を掛けていいのか、わからなかった。
「…………お前は、そこの部屋で服と身体の血を洗え
俺は見張りを兼ねて、外で洗う、何かあったら呼びに来い」
蝉丸はシャワー室の方を指差しながらそう言い、外へ向かった。
船外に出ると、蝉丸は服を脱ぎ、褌姿で海に入った。
海水が傷に染みるが、身体と服の血を洗う。
仙命樹の力が弱いせいか、水に対する苦手意識も普段よりも和らいでいるようだ。
海から出て船上へ戻る。
服を乾かしている間、褌一枚でしばらく見張りを続けていたが、人影はないようだ。
後ろのドアが開き、カミュが話しかけてきた。
「どうした?」
「ねぇ、蝉丸おじ様……喉がかわいちゃった……」
「そうか……水と食料はバッグにある、お前が全て飲み食いしても構わ―――む……!?」
後ろを振り返りながら言うと、蝉丸は驚いた。
カミュの身体は、褌姿一枚の自分よりも布が少ない姿……つまり全裸だったからだ。
453 :
感感俺俺:04/05/17 05:19 ID:6UaX7MIu
「ど、どうした? 服がまだ乾いてないのだろうが
若い女子がそんな格好で人前に……」
しかしカミュは気にするそぶりも無く、蝉丸に近付く。目の色が今までとは別の光を放っていた。
「違うの……おじ様の……飲みたい……」
そう言うと、カミュは蝉丸の胸に顔を近付け、傷跡を舐め始めた。
「な……」
「うふふ……おいし……」
満足そうに笑うカミュ。
「ねぇ、蝉丸おじ様……身体が……熱いの……」
こ、これは……蝉丸は頭が熱くなりながらも、冷静に考え始めようとした。。
(カミュに付いた返り血は、ディーのだけではない、抱き上げたりしている時に、俺の血も―――)
(そして、今も血を舐めた)
(弱まっているのだろうが仙命樹の血には催淫効果がある)
(この事態を解決するには、異性の気をやるしかない、ならば……)
実際にはカミュの症状は蝉丸の血ではなく
彼女自身に流れている血の影響が大きかったのだろうが、蝉丸はそのことを知らなかった。
「ねぇ……おじさまぁ……いいでしょ……」
頬を紅潮させ、上目使いでせがむカミュに、蝉丸は覚悟を決めた。
「カミュ、よく聞け……
お前がいま感じている感情は精神的疾患の一種だ
しずめる方法は俺が知っている、俺に任せろ」
【蝉丸 カミュ 夜中にアビスボート】
【所持品 丸太→木刀 気配を消す装置 短刀】
太陽が沈んで随分と経ち、辺りは闇の帳に包まれていた。
森を抜け、ひたすら東の方へと向かっていたのだが…
(雨が降ってきたの〜)
(雨宿りできる場所を探すの〜)
スケッチブックを持った少女は雨宿り出来そうな場所へと向かって駆け出した。
(こんな事ならロッジに潜伏してたほうが良かったの…)
数十分は走り続けただろうか、幸いな事に一つの小屋があった。だが…
(先客がいるの…)
困った事に小屋の中には少なくとも二人以上いる気配がする。
悟られぬように窓から中の様子をこっそりと伺う。
仮面をつけた男の人が一人、肩を寄せ合う女の人が二人。
真っ向から戦うには分が悪い。 なぜなら相手の武装も判らないのだ。
ほんの少し考えた後、ちょっとした下準備を済ませると意を決して扉の前へと立った。
コンコン。
扉をノックする音で夢うつつだった私は現実の世界に引き戻される。
目をこすり横を見る。 真横にはユズハちゃんの顔がある。
先ほどのキスを思い出し、自然と顔が赤くなった。
コンコン。
再びドアをノックする音が部屋に響く。
ハクオロさんは手に木の棒を握り、険しい顔で扉の前に立っていた。
手を動かし、奥に隠れる事を指図する。
私は指示に従いユズハちゃんの手をとって二人で奥へと隠れた。
「こんな夜分に何用かな?」
私は夜更けの来訪者にそう声を掛けた。
だが、返事はない。
その様子に不信感を強める。
すると、扉の下から一枚の紙が差し出された。
紙を手に取るとそこには【雨宿りさせてほしいの】と書かれている。
警戒を解かずに扉を開けるとそこには雨に濡れた小さな少女が一人立っていた。
私は少女を小屋に招き入れ、扉に鍵をする。
「ことみ、奥にタオルがあった筈だ。 持ってきてくれないか?」
奥から出てきたことみからタオルを受け取り、目の前の少女に手渡すと少女はスケッチブックとバッグを置き、頭を拭き始めた。
ほんの少しだけ間を置き、私は少女に問い掛けた。
「私の名前はハクオロ。君の名前は?」
少女は床に置いたスケッチブックを手にとりペンを走らせた。
【上月澪なの】
【さっきはすぐにお返事できなくてゴメンなの】
澪はバッグを開けると中に入っていた大きなナイフを私に差し出した。
【それが支給品だったの】
【あげるの】
「いいのかい?」
【構わないの】
【どのみち私には使えないの】
武器のない現状、素直に澪の好意を受け取りナイフを手に取る。
ずっしりと重い。 確かにこのナイフは澪の手におさまるには無骨すぎる気がした。
ちらりとバッグを覗く。 だが、澪のバッグの中にはパンと水以外何も見当たらなかった。
「ことみ、ユズハを連れてこっちに来てくれ。」
私がそう呼びかけるとことみがユズハをつれて奥から出てきた。
【上月澪なの】
「私は一ノ瀬ことみ、彼女はユズハ。 澪ちゃんよろしくね。」
ことみから紹介をうけたユズハは軽く会釈する。 だが、澪はユズハをまじまじと見ていた。
なるほど、目を閉じたままのユズハを不思議に思ったのだろう。
私は澪にユズハの目の事を教えると澪はスケッチブックに更に書き足した。
【みさき先輩と一緒なの】
【みさき先輩もこの島にいるの】
【会いたいの】
私は思う。
澪を先輩に会わせてやりたいと。
そして、決心を固める。
彼女達を島を徘徊する殺戮者達から護りきると…
自己紹介を終えた後はちょっと雑談しておやすみ。
【眠いの】と書き残して一番最初に眠りについたのは澪ちゃん。
ユズハちゃんに寄り添ってすやすや寝息をたててる澪ちゃんにちょっとジェラシー。
澪ちゃんの頭を撫でながら柔和な笑みを浮かべているのはユズハちゃん。
二人を見てると母性ってこういう感じなのかなって思ってしまう。
澪ちゃんが寝ている反対側、私も澪ちゃんに負けじとユズハちゃんに寄り添う。
ユズハちゃんが私の頭を撫でてくれているのを感じる。
昼間の疲れからか意識が闇に落ちるのにたいして時間はかからなかった。
夢。
夢を見ていた。
家族の夢。
ハクオロさんがお父さんでユズハちゃんがお母さん。
澪ちゃんは可愛い私の妹。
笑顔の絶えない家庭でみんな幸せに暮らしていた。
それは非日常が見せたうたかたの夢。
幸せな日常の夢…
「夜が、明けるな。」
私はそう呟くと寄り添って眠る3人を見た。
ハンデを背負いながらも心の強さと優しさを胸に生きているユズハ。
可憐で心優しく気の効くユズハの同行者ことみ。
アルルゥとは似ている訳ではないが、それでもどこかアルルゥを彷彿とさせる澪。
「澪、もし良ければ私達と一緒に仲間を探そう」
そう、それが私の出した答え。
【うれしいの】
そう書かれたスケッチブックが差し出され、私は安堵する。が。
パン!パン!
音が二回響き、同時に左胸に激痛が走る。
手で抑える、手が赤く染まる。
体から熱が奪われていく。何故?
どうしてこうなったのかが理解できない。
視界が歪む。
澪の右手に…黒い、か…げ……
「え、なに…」
音が二回響いたと思ったら私の目の前でハクオロさんが倒れた。
目の前にいるのは澪ちゃん。
いま聞こえた音はなに?
澪ちゃんの手からスケッチブックが消えている。
黒く光る物。
銃声?
銃声。
なんで?
なんで澪ちゃんが?
パン!
痛い。
お腹を見る。
赤、血の赤。
痛い、いたいいたい。
パン!
え・・・
ユズハちゃん?
ユズハちゃん!
赤い。
赤い胸元。
なぜ、こんなの。
こんなの、嘘。
嘘だよね…澪ちゃん…
口から血が零れる。
視界が歪む。
いしき、が…
デリンジャーの弾を詰め込み、ポケットにしまう。
小屋の影に隠したバッグをとりに外に出る。
夜中から降り出した雨はすっかりあがっている。
澄んだ空気が体に気持ちいい。
バッグを回収し小屋に戻る。
雨のせいで予想通りバッグや毛布、タオルはびしょびしょ。パンも食べれないだろう。
でもクレイモアとスタンロッドはなんとか水浸しになるのを防げた。
水も確保できている。
無事な道具をハクオロのバッグに移し替える。
奥の部屋からわずかばかりの食料を。 これもバッグに詰め込んだ。
ハクオロに譲ったナイフとユズハのバッグを手に取る。
(あのね)
(うれしかったのはホントなの。)
(でもね、一緒に行くわけにはいかなかったの。)
寄り添って事切れている二人を見やる。
二人の手を重ね合わせて、
(サヨナラなの…)
わたしは小屋を後にした。
【所持武器:クレイモア 残り2個 イーグルナイフ・レミントン・デリンジャー(装弾数2発・予備弾18個)・スタンロッド】
【ユズハの支給品を入手。 中身はまだ不明。】
【パンは駄目になりましたが小屋から代わりの食料を入手しています。】
【時系列的には一番進んでいます。 朝の定期報告の少し前として下さい。】
【6番 一ノ瀬ことみ 死亡】
【67番 ハクオロ 死亡】
【97番 ユズハ 死亡】
【残り73人】
洞窟の中は暗くジメジメとしていた。
真琴の耳には喘ぎ声が聞こえている。
だが、性行為の知識がない真琴はそれを察することができず、途絶えることなく発せられる得体の知れない声は真琴の心を恐怖で苛んでいく。
『何? いったいなんなのよぉ…」
この先に誰かがいるのかは分かる。だが、いったい何をしているのだろうか?
真琴は推理をしてみるが、無論、知識がなければ真相に辿り着きようもない。
声は聞きようによっては喜んでいるようにも、苦しんでいるようにも聞こえる。
その相反する感情の源を調べるため、真琴は少しずつ近づいていく。
「!」
洞窟の奥、岩の裂け目から月の光が降り注いだところには二人の男女がいた。
そしてその女が着ていたのは…
『ま、またあの服!』
真琴の中にあの時の恐怖がよみがえった。
後ろから突然、紐で首を絞められたので顔はよく見えなかった。だが、真琴を襲ったのは間違いなくあの制服の女だった。
そして真琴には…その女が男を襲っているように見えた。
『ひっっ!!』
制服の女が上から男の首を絞めている。そして、男は苦しみの、女は嬉びの声をあげている。真琴にはそう聞こえた。
真琴はその場から動けず、ただ制服の女の行為に目が離せなくなっていた。
やがて、男はそのうめき声を止めた。
『こ…ころされた?』
そして、制服の女が立ち上がり、
『ま、まさか…』
真琴の方を見た。
『!!』
次は、自分が殺されると思い、真琴は逃げ出した。
「どーした? 杏」
「んー。誰かいたのかと思ったけど、気のせいかな?」
暗闇の中を真琴は走った。
『なんで、なんで、なんでよー! どうして、行く先々にあの制服の女がいるのよぉ』
暗い山道を何度も転びそうになりながら走り続けた。
だが、走っても走っても。あの制服の女が自分を追いかけている気がする。
暗闇は恐怖心をかき立て、風の音は殺人者の荒い息を思い起こさせた。
後ろは振り向かなかった。振り向いたらすぐそこにあの女がいると思ったから。
やがて、走り続けた真琴の前に一件のロッジが見えた。
『あそこに入れば!』
家に入って鍵をかければあの女も追って来れない。そう思って真琴は思いきってロッジの扉を開けた。
「やった! 助かった!!」
その瞬間。
軽い爆発音が聞こえ、扉越しの散弾が真琴を貫通した。
真琴は状況も理解できず絶命した。
だが、ただ一つの幸いは。
その死に顔が恐怖から逃れ、喜びに満ちていた顔だったことだ。
【43沢渡真琴 死亡(所持はすべてクレイモアで破壊)】
【14岡崎朋也 75藤林杏 第一ラウンド終了】
ゆっくりと呼吸を整えて深く目を閉じ、自分の中に眠る「それ」に呼びかける。
熱くほとばしる、ドロドロとしたエネルギーを想像する。
身体を駆け巡る、暴力的な命の奔流のイメージ。
細胞が活性化し、神経が加速する。
もう一人の自分自身を、「狩猟者」を呼び覚ます。
鍵は開けた。檻は開け放たれたのだ。
出て来い、そして、そして―――。
「………やっぱり駄目か」
今日何度目かの試行が失敗に終わり、耕一は浅く溜息をついた。
すでに真夜中を過ぎただろうか。
あの後も探索を続けたが、結局尋ね人は見つからずじまい。
必要以上に警戒しなが探したせいか、大した距離を歩いたわけではないのに精神的な疲労が大きく、
クーヤの体力も限界に思えた。
耕一はとりあえず、森の中心から少し外れた所にある大木の根元に野営することを提案した。
ここならば、大きく張り出した根の陰になり、見つかる可能性も低いだろうと考えたのだ。
「クソッ」
再度の試行も、やはり失敗に終わった。
駄目だ。自分のなかにある「鬼」の力は確実に感じることが出来るのに、
それが一向に発現しない。
自分の体に何か異常があるのではないかと思い、色々と考えてみたが、
思い当たるような不調は一向に見つからない。
一つ、いつもと違うところがあるとするならば、心に感じる妙な重圧感だ。
まるで、何か獰猛な獣に見据えられたような冷たい圧力。
危機感やプレッシャーとは、普段あまり関わりのない人間である耕一にとって
それは不快感や恐怖よりも、不気味さを感じる類のものだった。
(そういえば、連中おかしなこと言ってたな。不可視の力とか、プロクシとか、法術とか)
ホールで聞いた筧の言葉を思い出す。
『君らの能力は封じられている。特殊な結界を張らせてもらっていてね』
得意気に話すあの男の顔を思い出すと吐き気がしたが、その言葉の意味をもう一度考え直す。
(俺達の鬼の力や、他の連中の持ってる諸々の能力の力をまとめて押さえつけられるもの…)
他の能力者達の力が、具体的にどんなものか分からないが、少なくとも連中がわざわざ封印するってことは
それだけ殺傷能力の高い強力なものなのだろう。
それをまとめて封印出来るような強大な力。
想像を絶するような圧倒的な何か。
とても思いつかない。
初めて鬼へと変わったあの日、耕一は一時的にだが確実に、
あらゆる命の上位に位置する狩猟者、最強の生物になったことを肌で感じた。
柳川と戦った時でさえ、全く負ける気がしなかった。
自惚れではなく、実際にそう感じていたのだ。これで、誰も悲しませないで済む。そう思った。
あの人の悲しみを、止めることが出来る。それが嬉しかった。
なのに―。
「鬼の力がないと…俺は大切な人を守ることも出来ないのかよ…」
親父や伯父さんを死に追いやって、俺達の家族を苦しめてきたものが、肝心な時に役に立たないなんて。
いや、違うな。
役立たずはお前さ。この期に及んでまだ俺に頼ろうとしているお前自身だ。
檻の中から、アイツの囁きが聞こえた気がした。
まだ初音ちゃんだって見つかっていっていうのに!
こんなところでグズグズしてられないってのいうのに!
気持ちは焦るばかりで、妙案なんて浮かんでこない。
どうすればいい、どうすれば。
俺も他の連中と同じように、誰かを殺すのか? 殺して殺して、最後の二人になるまで殺しまくるのか?
嫌だ。そんなこと出来るもんか。俺は殺さない、』絶対に!
だがもうこんなに殺されている。連中は狡猾だ。あの千鶴さんだって殺された。
だからって殺すのか? 柳川のようになれっていうのか?
こんな状況だ。殺したって、誰が責められる? 助けたいんだろう? もう失いたくないんだろう?
違う、違う違う!
「きっとなにか他にいい解決策があるはずだ…きっとなにか…」
「いえ…」
「ないんです…」
あの時と同じように。
千鶴さんが、選択を迫る。俺は―――。
「…ん…」
「!」
横からした声に、耕一は思わず我に返る。
隣では、膝を抱くようにしてクーヤが眠っていた。
思い出した。ここで野営するのを決めた後、確か交代に眠ることに決めたんだった。
その後、どっちが先に寝るかちょっとした言い争いになったんだっけ。
「体力が持たないだろ、いいから先に寝ろって!」
「余を子ども扱いする気かコウイチ!」
何であんなことで喧嘩したんだろう。思い返すとちょっと可笑しくなる。
だがあの時、クーヤの表情を見てほっとしたのを覚えている。よかった、と。
身体を動かさないよう首だけ回し、クーヤの顔を覗き込む。
決して穏やかな寝顔とはいえないが、うなされてはいないようだった。
そうだ、俺は何を考えていたのだろう。
この子に言ったのは俺じゃないか。焼けっぱちになるな。まだやれることはあるはずだ、と。
例えこの子を落ち着かせる為の言葉だったとしても、俺はあの時確かにそう思ったはずだ。
それが何だ、一人になった途端怖気づきやがって。
ここに梓でもいたらブン殴られてるところだ。
そうだ、梓、楓ちゃん、初音ちゃん。
他人を殺して、踏みにじったその手で、みんなに再会することなんて出来るか?
そんな弱い心で、千鶴さんに顔向けできるか?
俺は、みんなともう一度会うんだ。その為に、このゲームを生き抜く。
狡猾に、抜け目なく残酷に。絶対に死んでやるもんか。頼まれたって殺してやるもんか!
俺は生き抜く、守り抜く、生かし抜いてやる!
暗い夜空に、従姉妹達のことを想う。
初音ちゃんは、いま何処に居るのか。あの性格だ、きっと怯えているに違いない。
梓、楓ちゃん。彼女達はどうしているのだろう。この「ゲーム」には参加していないようだが、隆山で無事でいるのだろうか。
そして、クーヤ。
考えてみればおかしな出会いだった。見たこともないような服。聞いたこともないような國。
そしてその耳。
やっぱり、人間じゃないんだろうな。今更ながら、耕一は自分がとんでもないところに放り込まれたことを実感する。
もっとも、鬼の血を引く自分だって十分ファンタジーな存在であるのだが。
彼女と一緒で無かったら、自分も千鶴さんの死を聞いた時、おかしくなっていただろう。
殺戮者に、あの男のようになっていたかも知れない。
あの後気丈に振舞っていたが、サクヤという子の死は、彼女の心に消えない深い傷を残す。
残った知り合い、ゲンジマルとハクオロと言ったか。
会わせてやりたい。それが、今の耕一の出来る唯一の恩返しに思えた。
「しかしこうして見ると、可愛いけどやっぱりまだ子供だな。初音ちゃんより少し下位かな」
子供をあやす様な気持ちで、耕一はクーヤの栗色の髪を撫でようとした。だが―。
ピョコッ。
「うぉっ!」
耕一の手を察知したのだろうか、クーヤの長い耳が突然動いた。思わず手を引っ込める。
「…ウサギみたいだなとは思ってたけど、まさかこんなに動くもんだったとはなぁ…」
失礼かなとは思いつつも、まじまじと見てしまう。
全体を覆う、髪の毛とはまた違った細く柔らかそうな毛。薄く弾力のありそうなフォルム。
………触りたい…
先程までの悲しみと決意は、どうやら頭の片隅に弾き飛ばされたらしい。
心に流れる鬼神楽のビートにのせられて、耕一は中年親父の表情でゆっくり手を伸ばす。
ふに
「うぉぉ!」
ふにふに
「うぉぉぉぉ!」
信じられない。程よい弾力と暖かさ。手触り、そして愛らしさ!
この世のものとは思えない…まさにアルティメット・シイング!
「これに比べりゃ梓の胸なんてゴム風船だ!」
思わず天を仰ぎ、素晴らしき神の御技に感謝する。視線をクーヤに戻すと
「あ」
紅くなってこっちを睨み付ける翠の双眸。
「〜〜〜〜〜っ!」
神は耕一に代価を要求した。もみじ一枚。
「信じられん! 礼儀知らずにも程があるぞこのうつけ! クンネカムンなら打首にしているところだ!」
「だから謝ってるじゃないか! なんで耳触ったぐらいでそんなに青筋立てるんだ!」
「耳触った位!? 耳触った位と言ったか!」
あれから10分。耕一とクーヤの、小声のまま全力で言い争うという世にも器用な口喧嘩は未だ続いていた。
時々耕一には意味の分からない単語が飛び出したのだが、悪口に国境は無い、多分バカとかアホとか
そういう罵詈雑言の類だろうと解釈した(「ウォプタルにも劣る」という言葉の意味を理解できなかったのは幸いだったが)
耕一は、まだ知らない。
千鶴が耕一と初音を生かすために「ゲーム」に乗り、そして殺されたことも。
初音が姉の死に心を揺らされ、「ゲーム」に乗りかけて今死の淵を彷徨っていることも。
今の耕一には、知る由も無い。
【耕一、クーヤ 森の中心部で野営】
「なんだかなあ……」
目を覚ました河島はるかはやれやれ、という感じで首を振った。
襲撃の予想をしなかったわけじゃない。けど、食料の奪取や自分たちの殺害というゲームの展開を有利にする
為の襲撃ではなく、単純に破壊だけを目的とする連中が来るのはちょっと予想外だった。
相手は身を隠そうとすらしていない。そりゃまあ火炎放射器なんか持っていれば気が大きくなるのも仕方ない
けど、不用心だなあと思う。
なんだかんだ言ってもこんな状況である。
暖かい布団の中で寝ていても、状況を把握している人間の眠りが深くなることはそうそう無いのだ。
奇声と言ってもいい大声と共に自分たちの休む家に向けて火が放たれた瞬間に、一気に覚醒した。
把握してない隣の少女は何もかも安心しきってぐっすり寝ているけど。
『アハハハハハ! やる気の無い奴らはさっさと死んでしまえばいいんだよ!』
そんな声が聞こえた。正気とは思えなかった。
「話し合いが通じる相手じゃないね」
ならば結論、逃げる。
「アルちゃん、アルちゃん」
「……ん……ん〜」
アルルゥは夢の中からなかなか戻ってこなかったが、この状態ではのんびりしていられない。
家の中には煙が充満し始めていた。
『うわあっ!? な、な、何なんだよ、お前は!?』
そんな声が聞こえた。
敵の敵が来たのかな、とはるかは判断した。明らかに狼狽したその調子は、自分たちが攻撃されることを
想定していなかったと見える。
炎が燃え上がる音がだんだん大きくなってきたが、それでも色々な音が聞こえる。
エンジンの音、金属質の何かを切断するような音、タイヤのパンクするような……否、これは多分銃の音。
つぶし合いが始まったようだ。それは当然かも知れない。複数がここを見つけることは十分予想できたから。
その複数が、どうやら全部殺人許容派っぽいのがちょっとはるかは悲しいが。
『本当に、みんなやる気満々なんだなあ』
そんな争乱を避けるように、はるかは裏口へ回った。
その背中にはアルルゥがぴったり張り付いている。
「おね〜ちゃん……」
「ん、火が怖い?」
(こくこくこくっ)
それはそうだ。一階はもはやほとんど火の海。熱気が今にも髪を焦がしそうだし、煙も凄まじい。
そんな中ではるかは普段通り。アルルゥが辛うじて理性を保っていられるのはそのおかげだった。
「アルちゃん、今からしばらく走るよ。頑張って付いてきてね」
明日以降のために見繕っておいた荷物を背負うと、はるかは状況打開の切り札を手に取った。
……消化器。普通の家ならまず備えているであろう物が、この家にもあった。
時代も場所もわからないこの島だが、自分がよく知っているデザインになっているのは運がいい。
もうこの家を救うことは出来ないが、人二人が通る空間を空ける程度は出来るはず。
はるかはそう信じ、火の回った勝手口へノズルを向けた。
勢いよく吹き出した泡は、全て使い尽くすことで期待した程度の消化力を発揮してくれた。
祐介と瑠璃子、それに麗子は。
自分たちの戦いに精一杯で、はるかとアルルゥの動きに気づく余裕はなかった。
両者の間に存在した燃え上がる家も、逃亡のための目隠しになってくれた。
【027河島はるか&004アルルゥ 燃え上がる家から脱出】
【家の中からいくつかの物品を調達、内容はお任せだけど量は多くない】
【午後10時ぐらい、雨が降り出す少し前】
ああ――
薄れていく意識の中で、ハクオロは嘆いた。
――どうして、こんなことになったのだろうか?
いつものように――いつもと同じように、ベナウィに仕事を積まれ、遊んでやることができずにアルルゥに拗ねられ、オボロとクロウとカミュに飯をとられ、カルラに酒に付き合わされ、トウカの生真面目っぷりに悩まされ――
いつもと同じように、ウルトリィとエルルゥと三人で苦笑を浮かべつつ、その日は床についたはずだった。
「おやすみなさい、ハクオロさん…」
そんな優しい声を聞きながら。
なのに。
気付けば、それはなくなっていた。
それは、あまりにも唐突で。
あまりにも非現実的で。
信じることができなかったのだと思う。
頭では理解していても、結局この『ゲーム』の存在を心の奥底で否定していたのだ。
そうでなければ。
もっと早く――最初から、エルルゥやアルルゥ、その他の仲間達を探しに走れば。
ことみのことも、無視して進めば良かった。
そうすれば、こんなことにはならなかった。
もしかしたら、この二人も澪に会うことがなかったのかもしれない。
――澪。
突然訪れた、言葉をしゃべることができない少女。
【うれしいの】
そう書かれたスケッチブック。
今でも信じられない。
黒い影。
激痛。
思い出す。
黒い影は、確かに見た。
でも――信じられない。
あのか弱そうな少女が、人を殺すなんて。
もしかしたら、違うのかもしれない。
たまたまそのタイミングで、別の襲撃者が来たのかもしれない。
――そうだ。
きっとそうだ。
そのはずだ。
違う。
違う。
違う、違う。
違う、違う、違う!
――違う!!
頭の中で必死にそれを否定する。
別の襲撃者。
本当にそんな者が居たのか?
目を覚ませ。
現実を見据えろ。
これは『ゲーム』だ。
どんな人間が殺し合いに走っても、おかしくない。
…はは。
そうだ。
これは『ゲーム』。
参加者百人、うち生き残るのは、たったの二人。
そうだ。
それに早く気付いていれば良かったんだ。
――違う!
違わない。
違いやしない。
事実、自分は今こうして死のうとしている。
――違う!
否定するな。
その否定の生み出した結果が、これだ。
自分はもう、助からない。
それに――サクヤが、既に死んでいる。
サクヤ…
サクヤは、どうして死んだのだろうか?
クーヤのことを何よりも大事に思っている彼女は、最期にクーヤの傍にいることができたのだろうか?
――クーヤはどうか?
主としてではなく友として、サクヤの死を看取ることができたのだろうか?
放送でサクヤの名前が呼ばれた時、それを受け入れただろうか?
…いや、あいつのことだ。
取り乱したに違いない。
あいつはそうだ。
傍にいる者がなだめてやらなければ、すぐにあいつは暴走する。
――でも、『傍にいる者』は、もうこの世に居ない。
誰か、クーヤの傍にいてやってくれているだろうか?
誰かが――
――ああ、もう長くないな。
ことみとユズハはどうしたのだろう。
澪に殺されたのだろうか?
そうだとしたら、すごく残念だ。
結局自分は、何一つ護れずに死んだのか。
エルルゥやアルルゥを探しにいく事もせず。
なのに、出会った仲間さえ護れない。
何一つ護れずに――
――エルルゥ。
――アルルゥ。
――オボロ、ベナウィ。
――カルラ、トウカ。
――ウルトリィ、カミュ。
――クーヤ、ゲンジマル。
済まない――先に眠らせてもらう。
お前達は、生き残れ。
護るべきものを、護ってやれ。
愚か故に何もできずに死ぬのは、私だけで十分だ。
ユズハも道連れにしてしまったことが心残りだが。
オボロ――許してくれ。
…みんな――
死ぬな――
「…ハクオロさん?」
【残り72人】
断ち切られた妹、断ち切られた姉を、書いたものだが。
すまん、寝ていた。しばらく寝不足が続いてたもんで。
流れた無視したもの書いてしまって、ごめんなさい。
本人としては、没にして下さい。
こんなもの書いてしまってこの罪、万死に(ry
480 :
479:04/05/17 09:08 ID:alKWx8wW
あと、遅くなってすまなかった。
わかった、このまま没にしてくれ。
あと、遅くなってすまなかった。
今度は、ageちまった。
おまけに481の書き込みは感想の方に書き込もうしたのに、失敗した。
重ね重ねごめんなさい。
この罪、万死に(ry**3
読み手に徹しようかな。
483 :
名無しさんだよもん:04/05/17 11:42 ID:iY+UpL0j
静かな夜に聞こえる叫び声。
声に驚き身を起こすが、声は自分の口から出ているものだった。
海に潜ったかのように全身は汗をかき、
対して、喉は渇いていた。
悪夢か。それとも予知夢か…。
夢の内容すら覚えていない。
だが、恐怖感だけははっきりと手に取るように残っている。
もう時間は残されていないのかもしれない。
ベッドをおり、鏡の前に立つと、
古傷がいやでも目に付く。
次に夢を見るときには傷は増えているのだろう。
いや、夢を見ることができるかどうかもあやしいものだ。
次に夢が見ることができれば、それはそのまま一日を生き延びたと言うことだ。
死んだほうがましかもしれないほどの悪夢の一日を…。
いや、それでも生きたい。死んだら終わりだ。その先には何もない。
どれほど苦しくても生きていれば先はある。
「死んだほうがまし」と言うのは弱者の詭弁にすぎない。
隣の部屋で自分があげた叫び声を同じような声が響いた。
どうやら同伴者も同じ苦しみを感じているようである。
互いに互いを信用せず、互いに互いを疑わず、
不思議だ。会ったばかりだと言うのに。
だが、それも限界に近いのかもしれない。
愛し守り抜くか、殺すか、どちらかに針が揺れなければ、
二人とも死んでしまう。そんな気がする。
だからと言って、簡単に愛するとか殺すとかできる気がしない。
まあ、良い。もういちど眠ろう。次、起きるときには答えが出ているだろうから。
それとも、次に目がさめるときが来なければ答えを出さなくても良いのかな…。
誰かの足音が近づいてくるのを知りながら、自ら眠りに落ちる直前、そう思った。
水瀬名雪(90) 睡眠中に寝首をかかれる
【残り71人】
485 :
名無しさんだよもん:04/05/17 13:45 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
486 :
名無しさんだよもん:04/05/17 13:46 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
487 :
名無しさんだよもん:04/05/17 13:48 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
488 :
名無しさんだよもん:04/05/17 13:49 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
489 :
名無しさんだよもん:04/05/17 13:49 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
490 :
名無しさんだよもん:04/05/17 13:50 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
491 :
名無しさんだよもん:04/05/17 13:50 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
492 :
名無しさんだよもん:04/05/17 13:51 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
493 :
名無しさんだよもん:04/05/17 13:52 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
494 :
名無しさんだよもん:04/05/17 13:52 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
495 :
名無しさんだよもん:04/05/17 13:53 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
496 :
名無しさんだよもん:04/05/17 13:53 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
497 :
名無しさんだよもん:04/05/17 13:54 ID:KNyq2fAf
(*^-^*)
いつも補足してばっかりですけど、今回も…
>>478 エルルゥがハクオロを見つけたわけではありません。
嫌な予感がした――みたいなのもついでに書くつもりだったんですが、時間軸揃えなければいけないので書きませんでした。
紛らわしい表現ですいません。
そこへ核爆弾が飛んできた。
ギャー。
全員死亡した。
END