青い空、隣には誰かがいる。始め、あまりにリアルな「それ」は夢とは思えなかった…
「えーと、青空が……あ、あれ? 長森」
「浩平、寝ぼけてるんだね。でも、今日はいい天気だよ」
長森はそういうとシャッとカーテンを開ける。
長森は朝が弱いオレをこうして学校がある日は起こしに来るのだ。
そして学校では住井達と馬鹿をやり。長森と一緒に帰り道に寄り道する。
オレはこの生活に満足していた。そう今だけを楽しむこの生活に…
ある日、オレは退屈凌ぎとしてラジオを適当に周波数を合わせて聴いていた。
そして何気に聴いていた番組の中から気になる番組を見つけた。
「みさお」
「一弥の」
「「お気楽人生相談レディオ」」
みさお……確かに、その番組の少女はそう言っていた。
その名前を聞いたときオレの頭の片隅に何かがよぎった。そのときはさほど気にしていなかった。
ラジオそのものはパーソナリティだけが楽しんでいる、いわゆる屑番組といった感じだった。
だが、それでもオレはこれを視聴し続けていた。日に日にオレの中における「ラジオ」の存在は大きなものとなっていった…
「残念ですが」
医者は頭を下げてそう言い放つ。ぼくにとってそれはとても悲しくて…そしてとても受け入れられない宣告だった。
ベッドには妹であるみさおが冷たい死体となっていた…
「はっ!!」
悪夢から覚めたオレはあることに気がついた、死んだ妹と「みさお」の声が同じだという事に…
そしてその日からオレに対し何者かが囁き始めた。
「お前、何だかんだ言ってアレが妹に見えるんだろう? いっそのことアレの元に押しかけて来いよ」
と、こう囁く。
「いい加減現実を受け止めろ!アレは赤の他人だ」
一方、こう囁く奴もいる。
そして囁きはラジオを聴くたびに大きくなってきた…
そして、俺はついにあのラジオに葉書を出す事にした。
「こんにちは。
オレには昔、白血病の妹がいました。
妹は懸命に病気に戦いました。
しかし神は残酷な仕打ちを妹に対して行いました。
妹が亡くなったあとオレは叔母に引き取られました。
そして幼馴染や悪友と馬鹿やっていたりするのですが、妹のことが心のどこかに引っかかっているのです。
「このままではいけない」とオレの中の何者かが囁きます、だが一方で「みさおと永遠に一緒にいれればいいのに…」と囁きます。
正直言ってオレはこのように囁いてくる「何者」に対してどう答えればいいのか悩んでいます。
このことに関する二人のご意見を聞かせてください。
中崎市中崎町 演奏少年」
ははは、ウソで固まっているじゃないか。本当は、ただみさおに会いたい。そしてお前の声が聞きたいと書きたいだけなのに…
その葉書を出してから1ヵ月がたってもオレの葉書は一向に読まれなかった。更にその頃からラジオが放送されなくなってきた…
オレはラジオが放送されない事について放送局に問い合わせようと。新聞のテレビ欄をひったくったときある事実に気がついた。
テレビ欄にあのラジオの放送局が何処にもないのだ。だがあて先という形で放送局の位置はわかっていたため、あまり気にはしなかった…
そして2月14日、オレはついに痺れを切らし放送局に向った。電話連絡が出来ない以上直接問い詰めるしかないからだ。
放送局の受付は閑散としており、まるで無人なのでは…と勘繰らせるほどであった。
局内を適当に歩いていると控え室から話し声が聞こえてきた。
「みさおさん……ぼくに、チョコ作ってくれたの…?」
この少年の声は確か「一弥」という相方の声だ。
「んー…作った、って言う程高度なことしてないけどね。一応、かず君用に」
この毒舌にして甘い声の持ち主、間違いないみさおだ!
どうやら此処はあの番組の控え室らしい。
「えっと……あの……」
「…現物渡した方が早いねw はい、これかず君に」
「あ、ありがと、みさおさん! えへ……うれしい……みさおさんの手作りだ…えへへへ…」
「あのね…これだけのチョコにプラスして、更に一つ増えたんだよ? …う、嬉しいかぁ?」
「すごく。だって、この中にみさおさんのチョコなんてないもの……これだけだもの」
「……それはまあ、確かに…」
どうやら一弥は相当な量のチョコをもらっているようだ。
オレはその控え室に入らなかった。なぜそうしたのかは未だにわからない。
そして二人の会話は続く。
「みさおさん。…これ、義理チョコだよね?」
「そうだね。お歳暮やお中元みたいなものかもw お世話になったあの人に、って感じかな?」
「それでもいいもん。大事に食べるから……ほんとにありがとう、みさおさん」
「……召し上がれ」
「でも……じゃあ、本命チョコはもう渡したんだよね。
……みさおさんの…す、すすっ、す、好きなひと、に……」
「いや、そんなモン渡してないけど。…ていうか、あたしの好きな人って誰?」
「……………えーと…………………みさおさん、ぼく質問があります。いいですか?」
「んむ。許可します」
「義理チョコ、ぼく以外の誰にあげたの?」
「皆無」
「…いままでのバレンタインデーはどうしてたの?」
「チョコこさえて他人にあげるのは今回が初めてですが……何か?」
「それは…『生まれてはじめて』って……そういうこと?」
「そういうコト」
えっ!?
オレは我が耳を疑った。
「お兄ちゃん…えっと…その」
みさおはもじもじと赤面しながら何か言いたそうだった。
「お兄ちゃん…これ受け取って」
みさおはそう言って小さな包みを差し出す。
ぼくはその包みを開ける。中身はハートの形をしたチョコと「お兄ちゃん大好き」という小さなレターだった。
「チョコあげるのはお兄ちゃんだけだからね」
みさおは赤面しながらそういった。その言葉にぼくも恥ずかしくなった……
オレは放心状態でその場から離れた。
そしてオレは「みさおはもういない」という事実をようやく受け入れることができた。
オレが放送局から出て振り返るとそこにはただの更地があるだけだった。
「……これは一体?」
後にあの葉書はあて先が存在しないという理由で送り返された。
オレはその葉書を破り捨てた。
もう必要ないからだ。
そしてオレは「みさお」という過去のしがらみからようやく卒業できたのだ。
それ以降オレはもう二度とラジオを聴くことはなくなった。
あのラジオが一体何だったのかなど、今のオレにはどうでもいいことだった。
そして囁きももう聞こえなくなった…