「--マスター」
「あん、なんだよ」
「--マスターは私の事、どう思っていらっしゃるのですか?」
「・・・あ?」
『貴方のその一言が〜あなたの一番になりたい』
私のマスターは、いわゆる『バンカラ』と呼ばれるものらしい。
いまや絶滅寸前の絶滅危惧種。
保護指定動物。
レッドデータアニマル。
「弱きを助けよ。強きをくじけ。それが漢の進む道。」
何なんでしょうか、この思想は。
私には理解不能です。
大体にして、『漢』と書いて『おとこ』と読ませる事にどんな理由があるのでしょう。
本当に、理解不能な世界です。
それはそれとして。
マスターのご両親は大企業の経営者で、息子の教育にまでは手が回らなかった、らしい。
大体が家に一人で放置されていたマスター。
そこで『立派な』バンカラに育ってしまった我が子を見て。
何が何でもこのままではいけないと思ったのでしょう。
優秀なメイド兼、家庭教師となるメイドロボ、HM-13の導入を決定したようです。
そんなわけで私。
ただいま、バンカラ様のお世話係をしております。
「セリオー、飯まだかー?」
「--はい、ただいま」
この人は本当にずぼらだ。底抜けに。
自分一人では、特に必要がない事以外は絶対やろうともしないし、ましてや優秀なメイドである
私が来てからは、そんなもろもろの事も私に押し付けてしまっている。
「お、今日は若鶏のから揚げか」
「--はい。マスターの好みは、データとして把握しております」
「まあ、そんなこたぁどうでもいいや、飯にしようぜ、飯」
「--・・・はぁ」
万事が万事、この調子。
人の苦労も何も、この人は理解しているのかいないのか。
まあ、この人に、他人の心を思いはかれという方が無理なのでしょうね。
・・・朴念仁。
面と向かってそういえたら、どんなに楽な事でしょう。
しかし私はメイドロボ。マスターの不利になる事は決して行わないのです。
・・・想像するだけです。
しかし、そんな彼に、私が惹かれてしまったのはいつの事からでしょう。
顔は・・・まあ、並よりは良いでしょうか。
性格は・・・ずぼら、朴念仁、無愛想。三冠王ですね。
スタイルは・・・柔道部とか仰っていましたっけ。かなりがっしりした感じです。
こんな人のどこに私は惹かれたのでしょう?
自分でも良くわかりません。
ただ、この恋愛感情は本物。それだけははっきりと自覚できる。
そうなってしまった理由が判らないだけ。
そこに、私は困惑しているのだ。そしてもう一つ。
彼の意思。彼は果たして私をどう見ているのか。
これらが解決しない限り、私は安心できそうにない。
ある日、買い物の帰り道。
私は偶然マスターを見かけました。
あの人は、なにやら他校の生徒らしき不良集団と争っているようでした。
マスターの危機とあっては、何もしないわけにはいかない。
私が飛び出して、マスターを助けようとした時、その時には全ては終わってました。
あっという間に叩きのめされた不良達。悠然と佇むマスター。
格の違い、でしょうか。逃げ去ってゆく不良達。
私はマスターへとゆっくりと近づいてゆく。
「あ、あの、ありがとうございました!」
ふと、足が止まる。
良く見るとマスターの背後に隠れるように小さな影。・・・女性?
「ん、気をつけろよ。ああいう連中は容赦ねえからな」
「は、はい。本当に何とお礼を言ったらいいのか・・・」
「特に気にすんな。んじゃな」
「あ、あの!」
「あん?」
「お、お名前、とか・・・」
「新城直人だ。それじゃな。」
私は、なぜか声をかけることができませんでした。
ちくりと、胸が痛んだような気がします。
なぜ、あの人は人助けをしただけなのに。良い行いをしたはずなのに。
私はその日一日、マスターとまともに口を聞けませんでした。
・・・私は、マスターの何なんでしょう・・・。
それからしばらくたったある日。
帰宅したマスターを見た私は、声を失いました。
体中ぼろぼろ。怪我だらけ。一体何があったのか。私はマスターを問い詰めました。
「・・・前に蹴散らしてやった連中のお礼参りだ。奴等、自分らじゃ勝てないもんだからって格上のプロを
助っ人に呼んできやがった。まあ、結局ぶっ倒してやったけどな。」
そう言うと、マスターは玄関先に倒れこむように・・・。私はとっさに飛び出して、マスターを支えます。
本当に、馬鹿な人・・・。そんなの、わざわざ相手をする事もないでしょうに。
私はマスターをそっと抱きしめます。その感触。そこから、私はふと、思い当たりました。
私がマスターに感じていたこの愛情は、母性愛から出たものではないのかと。
まるで、幼い子が、母親に対する我侭をぶつけるような。
そんなマスターの態度に、私は何時しか、愛情を注ぐようになっていたのかもしれません。
私はとりあえず、マスターを部屋へと連れて行き、ぼろぼろになった服を着替えさせました。
その前に服を脱がせて、体中の怪我の治療。
マスターは私にされるがままになっていました。怪我の治療も終わり、私に背を向けるマスター。
その背中に、私は思わず飛びついて、積日の疑問を口にしたのでした。
「--マスター」
「あん、なんだよ」
「--マスターは私の事、どう思っていらっしゃるのですか?」
「・・・あ?」
「--私は・・・マスターの事、好きです。愛しています。」
「--・・・マスターは、私の事を、どう見ていらっしゃるのですか?ただのメイド?それとも・・・?」
ついに言ってしまった。私の心の内を。
そして・・・マスターはおもむろに口を開いた
「・・・俺だって、その、何て言うか・・・セリオの事は、嫌いじゃないって言うか・・・。」
「--私が欲しいのは、そんな曖昧な言葉ではありません!」
思わず怒鳴ってしまう私。冷静沈着なはずの私はなりを潜め、ただ、そこには自分の感情をぶつける一人の女が居るだけでした。
「俺は、その、嫌いじゃないっていうのじゃ、駄目なのか?」
「--そんな言葉で納得できません!」
「・・・くそっ」
「--・・・マスター、はっきりとおしゃってください。でないと、私は胸が張り裂けてしまいそうです。」
「セリオ、俺は・・・」
「・・・俺は・・・」
「--マスター・・・」
「・・・」
「--・・・」
「・・・俺は、セリオの事、多分、好き、なんだと思う」
「ただ、わからねえんだ。この好きって感情が、単なる好きって感情なのか、それとも家族に対する好きって感情なのか」
「セリオはさ、俺にとってみれば、お袋、みたいな存在なんだよな。いつも家を開けっ放しの、あっちのお袋と違ってさ」
「だから、純粋に好きとか言えねえんだ。どうしても、そこに俺に足りない『家族』を意識しちまって・・・」
「--・・・マスター」
「すまねえ、セリオ。こんな返事で。けど、俺は・・・」
「--良いんです、良いんですよ、私は」
私はいつの間にか、涙を流していました。
家族だって、何だっていい。マスターが、私をようやく『好き』と言ってくれた。その安心感。
それが、私の中の最後の結界を破壊してしまった。もう歯止めが利かない。プロテクトでも抑えきれない。
「--だったら、家族じゃなく、一人の女として、私を意識させてみせます。何時までかかってでも」
私は、静かにマスターをベッドに押し倒しました。マスターは・・・抵抗は、しませんでした。
マスターは今日も『バンカラ』です。
なんでも最近は、付近の学校の悪辣な連中を叩きのめして、『総番』と呼ばれる存在にクラスチェンジしたらしい。
私には良く判りませんが、何事も役職が付くのは良い事です。
いっそのこと、夢は大きく、全国統一。そんな事も良いでしょう。私だって、いつでもお手伝いしますよ?
「ただいま、セリオ」
「--はい、お帰りなさいませ。マスター」
直ちに全身をチェック。少し、服装に乱れが見られます。また喧嘩でもなさったのでしょう。女っ気は・・・なし。
「--今日は、お怪我はございませんか?」
「ちょっとからかわれてた女生徒を助けただけだ、特に問題ねーよ」
むっ。私の顔が、自分でもわかるぐらいに引きつります。
「と、とりあえず、俺は部屋に戻るからよ」
あわててその場から逃げ出すマスター。
でも、まあ、良いでしょう。この程度のことは、大目にみましょう。
所詮あの人の終着駅は、私になると決めているのですから。
今更メモリーの変更はできません。バンカラにだって勝てない存在があることを教えて差し上げます。
せいぜい観念してくださいね。マスター。
※>76様。なんだか書いているうちに話が間違った方向へと。
結局何が書きたいのかさっぱり判らないお話しになってしまいました。
もうちょっと甘甘ラブラブな路線で攻めたほうが、話もまとまって良かったかもしれませんね。猛省。
とにもかくにも、こんな駄文でよろしければ、受け取ってやってください。
読んでいただいた方。わざわざありがとうございました。