さきわう国のセリオさん Part15

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80犬せりお ◆1SERIOtxaU
>>74
毎日、店の前を通る貴方。
時々、顔を出し、文庫本を数冊、買っていかれますね。
貴方の顔は、良く覚えています。
だって・・・私が『一目惚れ』してしまった相手なのですから。

『セリオの一目惚れ〜FeelingHeart』

初めて、貴方と出会ったのは、去年の春先。
私がこの書店にレンタルされてきたばかりの時でした。
店主一人では、なかなか整理が行き届かなかったのか、多少乱雑に棚に収められている本類。
それを私が、一冊一冊、手作業で棚に整理し直してゆく。
単純な作業。
しかし、私はメイドロボ。
そういった作業は苦になりません。
だからこそ、こちらの店主様も私をレンタルされたのだと思います。

「すみません、今日発売の本なんですけれど・・・」
「--はい?」
突然の背後からの声。
ふと振り向くと、そこに貴方が居た。
一目見たとき、私のメモリーの中で、何かが弾けました。
「えっと、今日発売の新刊、まだお店のほうに出ていないみたいで・・・」
「--あ、はい。ただいま」
「--どうぞ、こちらでよろしいでしょうか?」
正常な対応をしているつもりの私。
しかし、そのメモリーの中では、貴方の顔がフラッシュバックされ、
そのお蔭で作業にぎりぎりの容量になっていました。
81犬せりお2/5 ◆1SERIOtxaU :04/01/14 17:21 ID:jf0Induh
それからも、貴方はしばしばお店の方へと顔をお出しになられましたね。
買い物は、いつも決まって文庫本が数冊。
出勤の途中に読むのでしょうか。
それとも、家に帰ってから、じっくりと一人の時間に費やすのでしょうか。
貴方がお店に入ってから、出て行くまでのわずかな時間、
時間にしてみれば、ほんの10分やそこらの時間でしょう。
そのわずかな時間だけが、私にとっての至福の一時。
貴方の顔を見、その声を聞き、その手に触れ、そして去ってゆく姿を見送る。
それだけが、至福の一時。

お店に入らなくても、貴方は朝、いつも決まった時間にお店の前を通る。
どちらへご出勤なのでしょう?
スーツを着こなし、悠然と歩いてゆく貴方。
時として、そのスーツを乱しながら、走ってゆく事もありますね。
大抵そんな時は、いつもの時間から少し遅れている時。
私はいつも、その時間になるとお店の外の掃除を始めます。
道路を掃き清め、お店のウインドウを水拭きする。
そんな私を背に、駅へと向かって行く貴方。
その背中をお見送りする事が、私の一日の始まりでもあります。

毎朝毎朝、変わらず店の前を行く。
その姿が、たまに見えないと不安になる。
何かあったのではないだろうか。
あるいはご病気で、寝込んでいらっしゃるのではないか。
たった一日、貴方の姿を見ないだけで、私の心は乱れ、その日の仕事に身が入らなくなる。
そんな事を、貴方はご存知でしょうか。
82犬せりお3/5 ◆1SERIOtxaU :04/01/14 17:22 ID:jf0Induh
そして決まった時間に、貴方は駅から帰ってくる。
もちろん、その時間に私は外の掃除を始める。
「セリオタイプは良く働くねぇ」
店主様の言葉。
すみません店主様。これは私の不出来な心からしている事。
決して、労働意欲から来ているものではないのです。
夕闇に染まろうとする街を、貴方は歩いてゆく。
そして、お店の前を通りがかる。
私は念じます。
『どうか貴方が、本を買っていらっしゃいますように』と。
商売気など毛頭無い、と言ってしまっては店主様に申し訳ないでしょうか。
私はただ、貴方と触れ合える時間がほしいだけ。わずかな一時が。

そして貴方は、ふと立ち止まり、思い出したようにお店の中へと入ってゆく。
私はすぐさま、店の中へと戻り、レジへと付く。
貴方がゆっくりと本を吟味している様をレジから眺める。
すらりとした長身が、お店の中を行ったり来たり。
その度に、私の視線も行ったり来たり。
そして目当ての本を見つけたのか、貴方がレジへと向かってくる。
その瞬間、私の『胸』は激しく高鳴る。いえ、そう感じているだけで、実際はそんな機能無いはずなのに。

「すみません、この本ください」
「--はい、○○○円になります」
「えっと、じゃあこれで」
「--はい、ありがとうございました」
たったこれだけの会話。それだけで、私は『幸せ』というものを感じられる。
メイドロボには無いと思っていたその感情。
私は今、確かにそれを感じている。
83犬せりお4/5 ◆1SERIOtxaU :04/01/14 17:23 ID:jf0Induh
貴方は感じていらっしゃるでしょうか。
私の貴方を見つめる視線を。
熱い、その熱を帯びたそれは、ただ貴方のみに注がれているというのに。

貴方は感じていらっしゃるでしょうか。
私の貴方への言葉を。
わずかな恥じらいを帯びたそれは、、ただ貴方の為だけに紡ぎ出される言葉。

貴方は、感じていらっしゃるでしょうか。
私の貴方の手に触れる手を。
ほんの僅かに緊張に震えるそれは、何時でも貴方に触れたがっているのに。

貴方がお店を出てゆくその背中をお見送りする。
そんな日が何度続いたでしょうか。
そうして、まもなく貴方と出会ってから一年が経とうとしています。
まもなく、私のレンタル期限も切れ、この書店から、他の場所へとレンタルに回されることになるでしょう。
あるいは、誰か他のユーザーの方にお買い上げいただくことになるかもしれません。

その前に、そう、その前に。
一言でいい、貴方に伝えたい。
私の『気持ち』を。
私の心からのそれは、言葉にしてしまえば、きっと元の力を失ってしまうだろうけれど。
それでも、私は伝えたい。
たった一言、貴方に、『愛しています』と。
それだけが、今の私の望み。

そんなある日の事でした。
貴方が、いつもと違うお時間に、いつもと違う真面目な顔をしていらっしゃったのは。
84犬せりお5/5 ◆1SERIOtxaU :04/01/14 17:24 ID:jf0Induh
貴方は、店主様と何か真剣なお顔でお話しをされていました。
受け答えする店主様が、時々チラッとこちらを見ます。
何でしょう。何か私に関係するお話なのでしょうか。

その後、店主様は私のレンタル先である来栖川のセンターのほうへと連絡をしていらっしゃるようでした。
なぜか私のほうを見て、優しく微笑みながら。
貴方といえば、じっとお店の中で佇みながら、私の方を見ています。
勢い、視線が合ってしまう。
気恥ずかしくなって、思わず視線をそらしてしまう。
それでも、ついまた視線を合わせてしまう。
その繰り返し。何時果てるとも知れないそれは、店主様の笑い声で終わりを告げました。

「今センターのほうに連絡しておいたよ。受付はしておいてくれるとさ」
「・・・そうですか、すみません、わざわざ。こういう事は初めてなので、勝手が判らなくてつい、お願いを・・・」
「いいって事さ。なに、そういう話なら、私としても頼みを断るわけにはいかんしなぁ。何しろうちの看板娘だったのだから」

貴方が、私へと近づいてくる。そして、その口から信じられない言葉が飛び出した。
「・・・君を、引き取りたいんだ。いま、センターのほうへ、君の買取の予約を入れてもらった。もちろん正式な契約は
後になるけれど、少なくとも予約は完了した。」
「--・・・えっと、あの、その・・・」
「ごめん、突然で。実は君のこと、初めて見た時から、ずっと気になっていて・・・。迷惑かもしれないけれど、
君のレンタル終了の頃合を見計らって、こうやってお邪魔させてもらった。」
「--迷惑だなんて、そんな、そんな事ないです」
「--私も、ずっと、ずっと前から貴方の事を・・・」
「おやおや、それじゃあ二人は両思いだったってわけなのかい?」
店主様が声を上げてお笑いになられます。
「これは何というか、愉快だねぇ。うちの店始まって以来の珍事件だ。まさかうちの店が恋の手助けをするなんて」
私と貴方は、ただ黙って俯いてしまいました。たぶん真っ赤になっているだろうお互いの顔を、まともに見られなくて。
85犬せりお/おまけ ◆1SERIOtxaU :04/01/14 17:26 ID:jf0Induh
その後、私は正式に契約をし、貴方の元へと『嫁ぎ』ました。
今では貴方と二人、幸せに暮らしています。
時々思い出します。
貴方と、初めて出会った時の事を。
あの感動は、きっと一生忘れる事はないでしょう。
メモリーの奥底に眠る記録。
それはきっと、私の一生の宝物。



※74様、こんな内容になってしまって申し訳ありません。
何しろレスを読んでから情景が目に浮かび、すぐに一発書き。
ろくな推敲もしていないので文も荒れ荒れです。
ですが、セリオの一目惚れ。なかなか自分としては面白い題材だと思いました。
機会があれば、またチャレンジしてみたい題材ではありますね。
今回は、こんな駄文を読んでいただき、ありがとうございました。