>>164 「末期がん・・・ですか」
「ええ、このままでは、もって後半年・・・」
「な、何とかする方法はないんですか?」
「・・・一つだけ、ないとは言い切れませんが・・・」
「私、生きたいんです!お願いします、先生!」
「・・・判りました。しかし、後悔しないでくださいね」
『働く彼女〜Working Doll』
末期がんにより、余命あと半年と宣言された私。
それでも、私は生きたいと強く願った。
その結果、試される事になった、ある一つの方法。
人間の体を捨て、機械の体として生まれ変わる。
そうすれば、理屈的にはあらゆる病から開放される。
そして、私はその道を選んだ。
ベースとなる機体は私の希望でHM-13型、通称『セリオ』にしてもらった。
・・・私にも、ささやかな見栄というものがあったのだ。
こうして、私はメイドロボの体に移植される事となった。
世界でも例がないわけではないこの手術。
執刀医は、以前マルチタイプへの移植をも経験した事があるという医師だった。
何でも、そのマルチタイプはお供のセリオタイプと仲良く暮らしているらしい。
「大丈夫です。怖い事は何もありません。ただ、あるがままを受け入れなさい」
私は、全身麻酔にその身をゆだねながら、来るべき自分の未来へと思いをはせていた。
「あーあー、君。聞こえるかね」
「--・・・」
「君、システムの調子の方はどうかね」
「はい先生。若干の揺らぎが見られますが、ほぼ安定してきているようです」
「後は彼女の目覚めを待つだけか。うん・・・?」
私は目を開ける。眩しい。
「落ち着いて、ゆっくりと目を開いてごらん。まだCCDの方に目の感覚が慣れていないんだろう。」
「じきに眩しさも取れる。それまでゆっくりとしているといい」
「先生・・・私の手術の方は・・・?」
「ああ、成功だ。これで君は晴れてセリオとして生まれ変わったというわけだ」
「セリオ・・・私が・・・セリオ・・・」
「しばらくは体の違和感が残るだろうがね。何、心配は要らんよ。じきに慣れる」
先生は椅子に深く腰掛け、私の方を見る。
「さて、一段落したようだし、金額のお話と行こうか」
「金・・額・・・?」
「ああ、君。君は確かに署名したはずだ。『いかなる料金の支払いにも応じます』とね」
「料金・・・そんなにかかるんですか?」
「まあ、かかるといえばかかるな。なーに、そんなにたいした額じゃない。払えないほどではない」
「いくら・・・いくらなんです?」
「うん、まあ、その、なんだ」
「先生!」
「・・・手術代込みで、ざっと1000万ほどだ」
「1000万・・・」
私は、その金額を聞いたとたんに、恥ずかしくもオーバーヒートを起こしてしまった、らしい。
その日から、私の手術代を稼ぐ日々が始まった。
メイドロボとはいえ、セリオタイプの事。
職種を選ばなければ、その仕事を見つけることはたやすい・・・はずだった。
「ああ、だめだめ、うちはもうセリオタイプを2台導入しているから」
「うちは人間主義がモットーでね。メイドロボを働かせるわけにはいかんのだよ」
「セリオタイプ・・・?うちが必要としているのはマルチタイプだよ。あのぽやーとした所が・・・」
現実社会の壁は厳しい。
ましてや、不慣れな体で、付属のサテライトサービスのサポートも受けられない(使用料がかかるから)私は、
メイドロボとしても不完全極まりないものだからだ。
『こうなったら、もう水商売しかないかも・・・』
そう思い、その一角へと足を向ける。
メイドロイドパブ、スナック、キャバクラ・・・。
上を見れば、もっといかがわしい店だって、いくらでもある。
こういったところで働けば、お給料もいいと聞くし、借金もすぐに返済できるかもしれない。
でも。やっぱり少し抵抗感がある。
訂正。少しじゃない。だいぶ抵抗感がある。
私はその一角から足を向けた。
もっとまともな仕事を探すために。
ふと、電柱に張られたポスターに目が留まる。
『居酒屋まるち亭 新装開店につき、従業員募集中!経験とわず。メイドロボ歓迎』
私はそのポスターを手に、面接会場へと急いだ。
「セリオさーん、こっちにビール追加ね!」
「--はい、ただいま」
「セリオさん、こっちにも生中追加、あと焼き鳥セットもね」
「--はい、少々お待ちください」
居酒屋での仕事など、経験のない私であったが、そこはセリオタイプの事。
なれない仕事もすぐにこなせるようになり、私は店の中でも一目おかれる存在となっていった。
なじみのお客さんも増え、いまでは『まるち亭のセリオ』として、看板娘のような存在だ。
「ねぇ、セリオさんは何か目的とかあって働いているの?」
お客さんが問いかける。
「--目的、ですか」
「--私は、私自身を手に入れるために働いています」
「--新しく手に入れた、人生のために、私は働いています」
『まるち亭のセリオ』の話はあちこちに広まった。
自分自身を買い戻すため、必死で働いている一人のセリオ。
そのおかげか、固定客もつき、まるち亭は毎日大繁盛だ。
「セリオさん、こっちに生中三つ!」
「--はい、お待ちを!」
「やあ、どうもどうも、また来ちゃったよ」
「--あら、いらっしゃいませ。さ、奥の座席へどうぞ」
まるち亭の一日は忙しい。
しかし、これも私が手に入れた新しい人生の一部なのだ。
半年の枷から、私を解き放ってくれたこの体に。
私は今、とても感謝している。
そして数年後。
「・・・確かに1000万。領収させていただきました」
「--はい、それでは」
「サポートとか必要なときはいつでも来なさい。もちろん、お金は取るけどね」
「--・・・はい、ありがとうございます」
私は、晴れて自由の身となった。
もう、私を縛るものは何もない。
私は、結局まるち亭での仕事を続ける事にした。
あそこには、私の事を待っていてくれる多くの人達がいるし、何より、とても居心地が良かった。
あの場所なら、私の居場所として相応しいかもしれない。
何より、定期的な収入も、メンテナンスのためには必要だものね。
こうして、私は居場所を一つ手に入れた。
かけがえのない、場所。
空を見上げる。
真っ青な空。広く、どこまでも広く。
私は背伸びをする。
さあ、どこへ行こうか。
『世界は広大だわ』と、どこかの誰かが言っていた様な気がする。
今の私には、無限の可能性と、機械の体。
HM-13 セリオ。私のもう一つの名前。
おそらく生涯を共にすべき名前だ。
そして、私は歩き出す。
まだ見ぬ明日へと。
※164様。こんな脈絡のない文になって申しわけございません。
一発書き+校正無し。テスト前だっていうのに、何やってるんでしょうこの馬鹿。
本当はもっと料金を支払い終わった後のセリオを書いてみたかったのですが。
馬鹿は馬鹿だと思って、笑って見逃してくだされば幸いです。