>>114 ・・・俺は、戦場を駆ける戦場ジャーナリスト。
数多の戦場を駆け巡り、いくつもの生と死をその目とカメラとに焼き付けてきた。
そんな俺は今回、ヨーロッパ東部のとある国へ取材に来ている。
いつものように、ただ一人、危険な戦場に身を置く。
そのはずだったのだが・・・。
『戦場の風〜Northern Girl』
「・・・どうしてお前がいるんだ!?」
「--・・・はい?」
俺の質問に、心底判らない、といった風な顔をする彼女。
「お前、家で留守番しているはずじゃなかったのか?」
彼女はHM-13。通称セリオ。いつも海外を飛び回り、荒れ放題な我が家の惨状を何とかしようと、
前回の取材から帰ってすぐ、購入したものである。
『二、三ヶ月もすれば帰る。それまで、家の事を頼む』
そう言い残して出かけたはずだったのだが、その彼女が、なぜか今ここに居る。
「--私の最優先事項は御主人様のお世話です。それを放棄する事はできません」
「俺の言いつけ放棄してるだろ!?留守番!そう言ったはずだっ」
「--・・・申し訳ありませんが、メモリーに残っておりません」
すっとぼけやがった。・・・メイドロボの癖に。
「大体、どうやってここまで来たんだよ?」
「--どう、と言われましても、御主人様の後を付いて予約した飛行機に乗り込み、この場へと向かうトラックを
ヒッチハイクする御主人様の後ろから乗り込み、徒歩で移動する御主人様の・・・」
「ああ!もういい!よくわかった!」
「--ご理解いただき、恐縮です」
「・・・そういう意味じゃねぇ」
・・・まったく、今度の取材はトラブルが続きそうだ。
・・・俺は、戦場を駆ける戦場ジャーナリスト。
吹きすさぶ風が良く似合う 非情のジャーナリストと人の言う。
そのはずだったのだが・・・。
「--御主人様、こちらのお野菜のほうがお得です」
「・・ああ」
「お肉は保存の効く物の方がよろしいですね」
「・・・・・・ああ」
俺達は今、街のバザーに来ている。
今回の俺の取材スタイルは基本的に野宿。
まともに使えるホテルが戦闘でほとんど残っていない上に、残っているのはVIPクラス御用達の、ターゲットからも
わざわざはずされるような超高級ホテルと、危険を承知で泊まるしかない物騒な宿だけ。
そんなわけで、食料の買出しに来ているのだが・・・。
缶詰、レトルト、インスタント。そんなもので済ませようと思っていた俺を尻目に、セリオはゆっくりと食材を
吟味してゆく。・・・野宿でも、まともな料理を作る気で居るらしい。
なんでもわざわざ手荷物で調理用具まで持ち込んできたとか。俺には、こいつの考えている事が良くわからない。
結局、俺は何をしているかと思えば、セリオの後を付いて荷物持ちだ。
戦場の、あの肌を刺すピリピリとした緊張感。それが今ではまったりとしたお買い物ツアーご一行様。
「何をしてるんだ、俺は・・・」
「--御主人様、次はあちらの露店の方に・・・御主人様?」
「吹きすさぶ風が良く似合う・・・」
「--ていっ!」
ぽかっ!
「あうちっ!」
「--お買い物の最中によそ見をしないでください。ほら、次へ行きますよ」
「俺か?俺が悪いのか?」
「--御主人様は物覚えが良くて助かります」
こいつ、本当にメイドロボか?さりげない皮肉まで言うとは、最近の技術は進歩したもんだ。くそっ!
・・・俺は、戦場を駆ける戦場ジャーナリスト。
炎の匂い 染みついてむせる さよならは言ったはずだ 別れたはずさ。
なのだが・・・。
「--御主人様、お食事の準備ができました。」
「ああ、わかった」
その持てる能力をフルに生かし、セリオは野外でも立派な食事をこしらえてくれた。
日本と比べれば北に位置するこの国では、冬のこの時期に暖かい食事と言うのは正直、とてもありがたい。
・・・懐柔されたわけじゃないぞ。そこ、勘違いしないように。
「滅び行く者のために・・・」
そう呟きながら、フラスコに入れたジャック・ダニエルを啜る。このテネシーウイスキーが、俺の戦場の友だ。
「--お酒もほどほどになさってくださいね。ほら、お料理が冷め・・・」
視線が他所を向く。数人の男達が、俺達を眺めている。手に銃を持ちながら。
『革命派の連中か・・・』
おそらく、バザーでの買い物の時から、つけられていたのだろう。連中は軍資金のためには強盗から誘拐まで
何でもする。・・・おそらく、外国人という事で狙われたのだろう。ここは有り金でも渡して・・・。
すすっとセリオが連中に近づく。そのあまりの自然な動作に、男達は何も反応できない。そして、セリオは動いた。
一人目に当身。そのまま流れるような動作で二人目の顎に掌打を叩き込む。三人目、とっさに銃を構えようとする。
だが、遅い。セリオは華麗な回し蹴りを相手の側頭部に叩き込み、全てを終わらせた。
「--まったく、手癖の悪い方たちですね」
そう言いながら、連中の一人が持っていたAK-47を手に取る。・・・お気に召さなかったのか、すぐに捨てる。
そして一人の腰から一丁の拳銃を抜き取る。JERICHO 941。
「--まあ・・」
なにやらうっとりとしている。なんだかやばげな雰囲気だ。そして弾薬を集めながら俺に言い放つ。
「--・・・お料理、冷めないうちにお食べになってくださいね?」
・・・俺は、戦場を駆ける戦場ジャーナリスト。
さらば やさしき日々よ もう戻れない もう帰れない・・・
ところで・・・。
「うおっ!」
状況は今、切迫している。昨日の連中の報復か、革命派の連中に追われた俺達は、いま、廃墟と化した街の中を
逃げ惑っている。・・・問題は、俺がセリオの小脇に抱えられているということだ。
「--あまり暴れないでください、御主人様」
言いながらも走りながら後方に向けて銃を撃つ。幾人か撃ち倒したようだ。
だが、まだだいぶ数が居る。セリオは廃墟の一つに走りこむ。
「--ここで、しばらくお待ちになってください。邪魔者を排除してまいります」
そう告げると、銃を片手に外へと走り去ってゆく。
取り残された俺は、一人考える。
「何がどうなって、こんな事になったのやら・・・」
目の前に一つの死体。おそらく、ここが廃墟になる時の戦闘で死んだのだろう。肌身離さず持っていたカメラの
すかさずシャッターを切る。もはや身に付いた習性のような物だ。
外では銃声が聞こえる。あのセリオの事だ。やられる事はないと思うが、この戦争の中で確実に幾人かは
俺のセリオの手で死んでいる・・・。そう考えると、なんともいえない気持ちになる。
本来なら、傍観者であるはずのジャーナリスト。それに関わって命を落としていくとは・・・。
「ふん・・・」
俺は、フラスコからウイスキーを啜る。・・・味など、判らない。
チャキッ。
俺の後頭部に突きつけられる鉄器。ジーザス。俺はゆっくりと両手を上げる。
ほらみろ、ろくなもんじゃない。あのセリオと関わってからこっち、こんな事ばかりだ。
最大限の尊敬をこめてこう呼んでやろう。「死神セリオ」と。
そのとたん、背後の奴が撃ち倒された。
「--お待たせしました御主人様。お掃除、終わりました。」
「死神の鎌は、誰一人逃さず、か」
「--はい?」
返り血に染まったセリオは、心底不思議そうな顔で俺を見たもんだ。
まったく・・・ろくなもんじゃない。
・・・俺は、戦場を駆ける戦場ジャーナリスト。
本当の悲しみが知りたいだけ 泥の河に浸かった人生も悪くはない 一度きりで終わるなら。
そんな訳で・・・。
俺達は、空港のロビーに来ている。
帰りの飛行機が出るまで、まだ時間がありそうだ。
結局仕事のほうは、『セリオの』撃ち倒した死体写真ばかりになった。
これが戦場の真実だとは、受け取った依頼主も思いもしないだろうよ。
「--楽しかったですね。御主人様」
「どこがだ!俺は死ぬ思いをしたんだぞ?」
「--死ななかったのだから、よろしいじゃありませんか」
彼女はしれっと言い放つ。
「もう絶対にお前は連れて行かない!俺はそう決めた!」
「--それは無理というものです御主人様。私は世界中、御主人様のいらっしゃる所ならどこでも・・・」
そっと俺の手をとる。
「・・・どこでも、着いていく所存にございます。」
勘弁してくれ。
俺はただ、以前のような孤独で、静かな職業に・・・。
「--御主人様は、私が全身全霊を持ってお守りいたします。ですから」
職業に・・・。
「--ですから、御主人様。全身全霊を持って、私を養ってください。幸せにしてください」
「--でないと私、御主人様をかばいきれないかも・・・」
・・・これは、態のいい脅迫じゃないのか?
「--・・・飛行機、出るみたいですよ?」
アナウンスを聞いたセリオが立ち上がる。
「--参りましょう、御主人様」
「--私、きっと御主人様の良いパートナーになれますわ」
・・・何度でも言うさ。
ほんっと、勘弁してくれ・・・。
「ところでセリオ・・・」
「--なんでしょう、御主人様?」
「・・・その銃は置いてけ」
「--嫌です。やっと手に入れたワンオブサウザンドなんです。もう手放せません」
「荷物チェックで引っかかるだろうが!置いてけっ!!」
「--大丈夫です。密輸の方法くらい、どうとでも・・・」
「お・い・て・け!」
「--・・・御主人様。私を敵に廻すと死にますよ?」
「・・・」
上機嫌のセリオを見ながら、俺は思う。
・・・こいつを作った来須川の責任者、絶対に只者じゃねぇ・・・。
っていうか趣味に走りすぎだ。どこの世界にこんな常識はずれのメイドロボが居るものか。
「--では、そういう事で」
搭乗口へと向かうセリオ。
俺達の奇妙な旅は、今、始まったばかりのようだ。
※>114様。すみません、ごめんなさい。どこをどう間違ったのか
こんなお話しになっちゃいました。相も変わらずの一発書き、反省しております。
自分で読んでもさっぱり意味がわからないなんて・・・。一遍死んでみるか。
とにかく、お目汚し失礼しました。