残された二人は暫くポカンとしたかと思うと、
「ねぇねぇいたる!あれってどう思う!?絶対男よねっ!?」
みきぽんは悔しそうにみきぽんが出て行ったドアを睨んだ。
「ははは……、どうかなぁ。まあみきぽんだって浮いた話の一つや二つあっても全然可笑しくないけど」
いたるはちょっと困った顔をしてしのり〜に返事をした。
つい最近いたるもしのり〜に訊問された為、みきぽんに同情してしまうのだ。
「はぁ〜〜、結局独り身は私だけって事だったのね…」
「なっ、私は違うよっ!本当にちがうんだからっ!」
自称業界一の美女―――実は他称でも十分通用するのだが―――のため息交じりの愚痴を聞いて、いたるまでもが焦って否定を繰り返した。
「あっ、麻枝君!」
しのり〜は突然声を張り上げたかと思うといたるの後ろに向けて指をさした。
途端にいたるは飛び上がって後ろを向く。
「あっあのねっ! 今のは違うの! ちょっとしのり〜が…、がっ?」
しかしその先には誰もいない。
顔を前に戻すと、そこにはしたり顔のしのり〜が待っていた。
「あ〜やだやだ! 何を否定しようとしたのかな〜〜〜。『今のは違うの!』だってさ」
「………」
もはやいたるには何も言い返す事ができなかった………。
「はぁ〜〜、どの服にしようかなぁ〜」
みきぽんの手はクローゼットの中で忙しなく服をとっかえひっかえしていった。
「やっぱりワンピースが好みでしゅかね〜。黒のドレスも捨てがたいでしゅね〜〜」
彼女にしては珍しく悩んだ表情をしている。
少なくともKEYの面々には見せたことはないはずだ。
そこには今までの彼女からは想像もできない、淑女がいた。
彼女がみきぽんだとは、よもや誰も信じまい。
ゆっくりとその男は近づいて来て、右手をみきぽんに向けて振った。
「やあ、久しぶりだね」
「はい、お久しぶりです」
みきぽんの頬はほんのりと朱色に上気していた。
彼女が目の前の男性にかつての上司以上の好意を抱いていることは誰の目でも明らかだ。
「YETさん…」
YETと呼ばれた男はやや決まりが悪そうに
「ONE2が作られているらしくて。麻枝くん達は怒っちゃって」
「そうらしいね。知り合いから聞いたよ」
みきぽんはTacticsを辞めたはずのかつての上司がそのことを知っていたので、ちょっと驚いた。
「俺も頑張ったんだが……力及ばず。すまないね」
「そんなっ……! あなたのせいではありません
「あれから大変だったんですよ、久弥君はいなくなっちゃうし……」
「漫画の原作をするらしいね」
それを聞くとみきぽんは驚いたように目を瞬く。
「知っていたのですか……」
YETは照れ笑いをする。
「久弥君や樋上君達がね、コミケで俺のところまでわざわざ挨拶にくるんだよ。もう上司でも何でもないのにさ」
「そうだったんですか」
「それもお互いがお互いの目を盗んで来るんだよな。余計な心配をかけない様にしているんだろうけどさっ。でもその様子見てるとなんだか可笑しくなっちゃって、思わず吹き出してしまったよ」
「そうだったんですか」
二人は顔を合わせてクスクス笑う。
「まあ、その時に教えてもらった訳さ」
ひとしきり笑いあって、少しの空白。
みきぽんはやや悩んだ表情をし、口を開く。
「やはりあなたは私達と共に来るべきでした。あなたなら反発しあうあの二人を従わせることが出来たと思います」
会社の辞める時の彼の顔がちらつく。
「久弥君、もう帰ってこないかも知れません」
「俺はそれでもいいと思っているよ。俺たちにはもっと色んな道があってもいいはずだ」
みきぽんはその言葉を聞いて驚いた。
まさかそんな考え方があるとは夢にも思わなかったからだ。
と同時に、それはもっともらしい意見に思えて、同時に少し悔しかった。
YETよりも自分の方が長くいるのに、YETの方が彼を良く知っていたからだ。
そんな思いもあってか少し意地の悪い質問をする。
「YETさんは、もう久弥君が帰ってこないとお思いですか?」
「全然」
まるで今までの自分の意見を全否定するかのごとく、YETはあっさりと覆す。
「あいつは骨のずいからシナリオ屋だ。これはちょっとやそっとで忘れられるものではない」
「それに、俺にも責任があるしな」
「どういうことですか?」
「んっ、なんでもない」
YETの見せた表情は考えないことにし、話を続ける。
「でも、あなたがいないせいで製作ペースはガタンと落ちました」
「それは仕方ないさ。素晴らしい作品を作る代償だ。それに戸越…君、だっけ? 優秀な人材が揃っているじゃないか。もう俺は必要とされてはいないんだよ」
「私は今でもあなたが必要だと思っています」
みきぽんは食い下がる。
「よしてくれよ。上からは押さえ込まれ下からは突き上げられ、もうこりごりだよ」
「あなたは私たちのことなら何でも知っているのですね」
「そうでもないさ」
かいかぶりさ……と、YATは思う。
実際自分は何もしていない。
自分は上司でありながら部下を守れなかったのだと思う。
シナリオライターには色々なタイプがいる。
駄作でも大量に生み出す能力を持つ者。
平均的な作品をこつこつと仕上げる者。
時間を掛けて大作を手がける者。
そして麻枝・久弥両名とも後者だった。
ONEは売れた。
会社は売れる商品は大量生産すれば良いと考えていた。
良作は作れるかもしれないが名作は意図して作れるものではない。
ましてや歴史に名を残すONE並の作品とすれば尚更だ。
YETは、彼等二人を、意図して名作を作れる、史上稀に見る天才だと評価していた。
そして天才はコントロールすることができない。
彼等のやりたいようにやらせようとも考えていた。
しかし、事態はYETの思惑とは違った様相を呈してきていた。
社命が下ったのだ。
社員を潰しかねないスケジュールだった。
YETは当時の事を、社長が嵌っていた宗教に寄付する為の資金が必要だったのだろうと回顧する。
ともかく早く新作を作れと上からの圧力に彼等を守るのも限界がきていた。
社員にとって社命は絶対である。
が、彼等の才能はそれ以上に惜しかった。
そしてYETは決断した。
彼等をビジュアルアーツへ手引きしたのだ。
これは当然服務規程違反だ。
YETの社内での扱いは酷くなり『やる気が出ないのはYETのせい』などと影口も叩かれた。
それでも運が良いのか悪いのか首にはされなかった。
社内で仕切れる人材が必要だったからだ。
実はYET自身も皆と一緒にビジュアルアーツへ行く予定であった。
しかし彼はTacticsの中でも地位が高かった。
重要なポジションにいた為に、彼等に着いていくことが出来なかったのである。
結局YETはTacticsに残り数本の作品を世に送り出すが、どれも彼等達と作った作品には及ばず依頼退職をする。
そして現在はフリーとして同人活動をこなしつつ依頼のあった仕事をこなしているという訳だ。
「あなたは馬鹿です」
「オイオイ、酷いな」
YETは少しも傷ついた様子を見せず、そんなことをいう。
「大馬鹿です」
「そんなに馬鹿馬鹿っていうなよ。俺だって傷ついちゃ……」
みきぽんは泣いていた。
はらはらという言葉どうりに。
「本っ当! どうしようもないくらいの……」
そこでみきぽんは初めて言葉をつまらせた。
「あなたは……」
二人の間を な風が駆け抜けていく。
「なんで、そんなに……、やさしいのですか……?」
「あなたには、何も残ってはいない!」
それは、彼女の悲痛な心の叫びだった。
「そうでもないさ」
YETは軽い口調で、しかし真剣な眼差しで、
「夢が残った。お前たちと一緒に見た、夢がさ」
「なんて格好付けちゃって。俺らしくなかったかな?」
「そんなことない。そんなこと、ないです」
「それに俺だって諦めた訳じゃないさ。必ずまたのし上がってみせる。かつてお前たちと共に見たあの栄光を、この手に掴むその日まで!」
「ははっ。手を貸して欲しい欲しい時は素直にそういうさ」
「送るよ」
「ずいぶん親切なんですね」
「誰にでもって訳じゃないよ」
みきぽんは疑わし気に彼を問う。
「mikuさんとは?」
それを聞くとYETはまたもや困った顔をしる。
「だから彼女とはあくまで同人のサークルのメンバーとしての付き合いだよ。何度も言ってるだろ?」
「そうですが……、あんまり優しくされちゃうと本気になっちゃいますよ」
顔も口調も冗談っぽくしたが、みきぽんは密かに本気だった。
「ははっ。そうなったらそうなったで大歓迎さ!」
YATは冗談とも本気とも付かない返事でかえす。
「ひょっとしたら、それはそう先のことではないのかも知れない……」
YETはみきぽんの消えていった改札口を見つめ、誰とはなしに呟いた。
842 :
未整理:04/03/17 12:20 ID:2Z+ro9MQ
蛭田ァァァーーー!!。どこまで俺の邪魔をすれば気が済むんだ!もうお前の時代は終わったんだ!俺の前に汚ねぇ面みせんじゃねェェーーー!!
いいだろう。こちらにはカーネリアンがいる。三傑の一人がなァ!後はァ、俺とォ、テメェのォ、シナリオの力で勝負だあぁぁぁーーーーーー!!!
菅野さん、私では役不足ですわ。あなたの足を引っ張ります。
いや、あなた以外に頼める人はいません。もしも負けるとすれば、それは、私の、不徳の成す処です。
それに………私は、貴女と一緒に勝ちたいのです!
相手はカリスマ原画家の初仕事、しかもこれ見よがしに宣伝費使ってくる!どうする。どうすれば勝てるんだ!勝って、彼女に華を添えたいのに!!!
843 :
未整理:04/03/17 12:21 ID:2Z+ro9MQ
ふふっ、共闘か……。それもいい。だがそれで一体何と戦うつもりなのかね?
そんなのは決まっている! に殴り込みをかけてきた厚顔無恥の無礼者どもだ!
知れたことを!
麻枝はイライラした様に声を荒げた。
やつ等は共闘している!
その法案が可決された時!一体誰が得をするのか!!
よく考えるんだ!
彼等はただ目の前に餌をちらつかされて利用されているに過ぎん
まだ気づかないのか!
それは不気味な胎動を続け、我々の眼を欺きつつ、少しづつ、少しづつ、迫ってくる!
そしてっ!!!
それが全てをっ、真の姿をあらわした時!!
もう……、我々に打つ手はない……………
yatは俯いたかと思うと、突然ハッとなって夜空を見上げた
いや、今日はここまでにしておこう。
………どうやら我々は監視されているようだ
844 :
未整理:04/03/17 12:22 ID:2Z+ro9MQ
………………………………………上空八万メートル。
それは、その漆黒の空には不釣合いな、巨大なモニュメントはそこにあった。
「大臣!監視衛星が見破られました!」
イヤホンとマイクの付いたヘッドギアを被った、やや疲れた顔つきの仕官は信じられないといった表情をして彼の主に報告した。
「YETめ!小癪な小僧めが!どこまで私の邪魔をするんだ!平民の分際で!!!
やたらとごてごてした服を着た老女は、歯をギリギリとならし悔しげに地団太を踏んだ
そして、彼女は右ポケットに入った写真をそっと取り出した。
彼女の息子の写真である
しかし、十年前の物だ
この写真の青年―――二十歳少しの貧相な目付きをした男は、彼の自室から一歩も出ていない。
もう十年近くなる
彼女はその写真に向かって一度だけ微笑んだかと思うと、すぐに元の生真面目そうな目付きに戻った」
「おのれLEAF!おのれKEY!この法案の邪魔は誰にもさせないわよ!それがあの子の為なんだから!」
845 :
未整理:04/03/17 12:22 ID:2Z+ro9MQ
「なんだ。放って置けば私の勝ちになったんじゃない」
(でもそれで本当にいいの?牙をもがれた虎に勝って、それで満足できるの?)
七瀬葵には彼等とは異なるファン層を持っている。
もしも彼等を動かせばかなり有効な手段と言えた
いかるに盗作呼ばわりされた日
そして、復讐を胸に頂点へ上り詰めようと決意した日
「ねえ、魚住くん?
「なんでしょう?
魚住はにこやかに応える
(もしもあたしが一番になれなくても、わたしのことを好きでいてくれる?)
永瀬はその言葉を口にしようとしたが、少し迷った後にそれを飲み込んだ。
「ううん、なんでもない
「ふふっ、まったくいつまで経っても私はコンプレックスの塊ね」
まゆは静かに手をキーボードに乗せ、ゆっくりと文章を綴っていった。
このときのまゆは、普段の彼女からは想像もつかない、驚くほどの安らかな表情をしていたという。
846 :
未整理:04/03/17 12:23 ID:2Z+ro9MQ
巨大掲示板群2チャンネル……。
男は最初、そこの一ユーザーに過ぎなかった。
とりわけ『エロげー』板と『エロゲネタ』板、そして『Leaf・key』板を好んでいた。
どこにでもいる男だった。
しかし彼はエロゲーを、誰よりも愛していた。
男は子供が好きだった。
だから子供を傷つける行為が大嫌いだった。
しかし、同時に彼は架空の児童の性の表現は好きだった。
児童ポルノ法には賛成であった。
それゆえ、悪法になるのが赦せなかった。
松田太郎………。
その男は、つまり、そんな男であった。
多くのものは彼を誹った
自らの趣味に社会的負い目を感じているからだった。
しかし彼はそんな者達でさえも辛抱強く説得した。
煽りは暫く続いたが、気が付けば彼の周りにはたくさんの人だかりが出来ていた。
誹謗中傷に晒していた者たちでさえ、彼にとっては同志であった。
旗を掲げて
松田を旗印に
盲目の羊達は、今、夢から醒め、
847 :
未整理:04/03/17 12:24 ID:2Z+ro9MQ
「しかしなぁ、麻枝
「なんだ
「この間に天下を取ろうと、本当に考えなかったのか?
これには麻枝がびっくりした
いつもの彼女の絵からはそれがかんじられなかったのである
「それは…俺にもわからん」
「ONE2をやってた」
「まだ発売してないだろ? なんだ? 流出版か?」
「いや、やっぱなんでもない」
「なんだそりゃ」
モニターに映った『秋桜の空に』
「俺等よりよっぽど…いや、やめておこう…」
最終更新日が約二年前だった。
葉鍵も随分かわったなぁ。
非常に読みやすいが、面白いのかつまらないのか判別しにくいな。
みきぽんカワイイな。
俺が主に活動したのは避難所で、今は無きgreenサーバーなんだよな。
手元にはあるが、ネット上に存在していないのは悲しくもあるな。
隣のハカロワ」はにぎわっていたのに、仮想戦記は取っ付き悪さのせいで人気はいまいち。
他の作家軍の実力はピカイチだっただけに、もったいなかったなぁ。
葉鍵に魅力を感じなくなってきたし、もう書くことは無いだろうが。
とはいえ、事後処理に付き合っていただいたお二方ありがとうと言わせてもらおう。
読みやすかったということは、少なくとも小説としてはまとまっていたのだろう。
完成していないが。
面白いかつまらないかは、もうよくわからん。
当時nntとRってのが鍵と葉を担当していて、じゃあ俺はってんで、その外堀を埋めつつ児ポ法に向けて格戦力を集結させようってシナリオを描いていたんだよ。
みきぽんが可愛くかけたならそれでOKとしておこうか。
''Good bye, 仮想戦記!''
雪。
雪を見ている。
毎日見る雪。
終わりのない雪。
雪に終わりがなくなったのはいつだろう?
これが血であることに気づいたのはいつだろう。
八月十九日?十月二十六日?
それともほんの数分前?
その答えさえも雪の中に霞んで・・・流れているのかさえわからない時間の中で・・・
ただ、待つことしかできなくて。
だから、いまも待ち続けている。
日露戦争100周年記念
KANON的日露戦争
昼休み、祐一と北川は教室でダベっていた。
「おい、図書館にエロ本が置いてあるらしいぜ?」
「はぁ?まさか?」
「本当だって、なんでも江川達也の日露戦争物語っつう奴」
「あーあの東大でひたすらやりまくる話か?」
「そうそう、それ。少し頭の弱そうな水野遙と熱血主人公がやりまくる話・・・だよな。まあ、面白そうだから借りにいこうぜ。」
「にしても、今になってなんで?ずっと前に終わった漫画だと思ったけどな。」
「さあ、気にすんなって」
そして、図書館に行ってみると、入ってすぐ右の新刊の棚には日露戦争物語は無く。
とりあえずPCで検索してみると、立ち入り禁止秘蔵図書室にそれはあるという。
俺たちは善は急げと、暗い秘蔵図書室の前にきた。ノブをひねる、が開かない。
「どうする?祐一?」
「ふふ、一つ手がある。」
「おお、そうか。じゃあやってくれ。」
すると突然祐一は泣き叫ぶような声を出し、突然ドアを叩き始めた。
「た、助けてくれ。魔物に!MONSTARに襲われる!」
北川は豹変ぶりにびびったが、その一瞬で剣を持った舞が突如現れたことのほうがびびったようだった。
「あの?どちら様?物騒な得物など持ちあるいちゃって・・・」
「・・・」
舞は無視。
そして、剣を構えるとドアの鍵穴を貫いた。
「ヒィ」
北川はさらにびびった。
「サンキュー舞」
そして、ギィという音がしてドアが開いた。
中は何年も開かれなかったためか、酷く埃くさく、所々蜘蛛の巣も張ってある。
二人が入るかどうか躊躇っているところ、舞がつかつか先に入って、中を見渡した。、
「・・・魔物どこ?」
「魔物なんていないぞー、何か聞き間違えたんじゃないのかぁー?」
「そんな。確かに聞いた。」
「耳あか詰まっているんじゃないか?今とってやろう。どれ、そこに寝なさい。」
「いい・・・」
舞は残念そうに構えていた剣をだらんと垂らして、とぼとぼと図書室から出て行ってしまった。
「あの人なんだったんだ・・・つかやりすぎじゃないか?」
「いいって、後は佐祐理さんがどうにでも。」
「・・・」
北川はなんだかヤバい奴と友達になったな、と思った。
「お、発見したぞ。」
歩いてすぐ前の棚に「×××××日露戦争物語」と書かれた本を見つけた。
その本はいい感じに古くさく、とても神秘的な感じがした。
祐一が手に取った。
そして、自分の手元まで持って行き、開いた。
北川がどんなものかと、本の上に首を突っ込む。
本を見たのは同時だった。
その瞬間、まばゆい光に包まれ、祐一と北川は本の中に吸い込まれてしまった。
少し時間が経ってから、顔を紅くした舞が、戻ってきた。
「祐一。やっぱり耳掃除したい・・・」
舞は部屋の中に入って、辺りを見回した。
図書室の中には祐一と北川は居らず。そこにはKANON的日露戦争物語という本だけが残されていた。
「どこ・・・?」
気がつくと、石造りのぼろぼろの、まるで北朝鮮にあるような民家に、二人は立っていた。
ずいぶん寒い。体の先端部分から、文字通り身を切るような寒さが伝わってくる。
祐一の住んでいる町は日本の中でも緯度の高い位置にあるが、ここまで寒いものなのだろうか?
ふと、自分の体を見ると、さっき着ていた制服と違うことがわかった。
まるで全身タコの墨を塗ったように黒い、学ランのような服。それもぼろぼろで何年も着古された感じの服だった。
その学ランには胸の方に変な飾りが大量にあって、これではまるでエライ将校が着る軍服のようだ。
一方、北川の方も同じ服を着ている。だが、北川は俺より胸の飾りが圧倒的に少なかった。
もし、俺らが軍人だとしたら、北川は俺よりずっと低い階級だろうな。
俺はそんなことを思い、鼻でプッと笑ってやった。
しかし、北川は俺の方を見ず、呆然として、目をまっすぐ前にし、凝り固まったままであった。
北川と俺の目の前には、両脇に小利口そうな男と偏屈そうな男を侍り、
その家に元からあったようなぼろい椅子に腰掛けながら、上品に机に手をつくにこやかな女性がいた。
「それで旅順へいこうとするんですか?」
聞き覚えのある声。毎日家で聞いている声だ。その声の主はすぐ物事を納得し、全て分かった上で必ず賛同してくれる。その時言う言葉は決まっている。
「了承」
そう。この言葉だ。
それを言うと、自分達と同じように軍服(?)に身を包んだ秋子さんは、深刻な面持ちで紙にペンを走らせている。
(なあ、あれ名雪の母さんだよな?)
(ああ。なんで学校の図書室にいるんだ?・・・いやここは図書室じゃないか。それになんだか異常に寒い。俺はこの歳までこんな寒さを経験したことないぞ。服装も変になってるし、ああもうわけわかんねぇよ!)
少し混乱ぎみの北川は突発的にだろう。大きな声を出してしまった。
それに反応し、秋子さん(?)が北川の方を向く。
「どうしました?北川潤少佐?」
「少佐?」
「ええ・・・何か質問でも?満州軍参謀次長”随行官”北川潤少佐。」
「何を言っているんですか?名雪のお母さん。わけがわからないんですけれど・・・」
「おかしいですね?祐一さん。北川少佐には説明していないんですか?」
「は?え?説明ですか?」
「仕方がありませんね。最初からおいどんが説明しましょう。」
「おいどん?」
いきなりの薩摩弁による人称表現に、二人とも顔を見合わせて驚いた。
「何から説明しましょうか・・・
そうですね。
とりあえず、我々日本軍の現状と、次の作戦における第一作戦目標を教えます。
我々日本軍は、満州平野まで、戦線を延ばしてきました。
遼陽、沙河会戦と大勝ならずも、辛勝した日本軍25万は今、奉天でロシア陸軍相率いる軍勢30余万と対峙しています。
しかし、勝っては来ましたが次の戦いは勝てるかどうかわかりません。
理由を子々細々に申し上げますと、
まず砲数の差に開きがあります。
ロシア1200門に対して、日本960門。
さらに日本軍は砲弾も欠乏しています。
次に兵質の差です。
ロシアはシベリア鉄道から送られてきた若くてぴんぴんとした新兵、それに対して日本は
遼陽会戦、沙河会戦でかなりやられて、補給されてきた老兵ばかり、その上連戦連戦で兵の疲労は極限に達しています。
そして、残念なことですが、経済的な差もあります。砲弾だけでなく、兵糧やその他戦争を行うための必需品が底をついています。
このまま戦争を続けると日本軍は戦わずして、ロシア軍に敗北することになるでしょう。
ですから、この局面を打開するため、旅順港要塞で東洋艦隊を陸から攻めている第三軍4万5千を奉天に持って行き、ロシア陸軍に対して短期決戦を、今すぐにでも行いたいのです。
しかし、旅順の戦闘は思わしくなく、すぐに落ちるとは思えません。そこで、日本軍きっての名参謀といわれた、祐一総参謀次長を派遣することになりました。
そして、あなたはその名参謀長の祐一さんの随行官となったのです。わかりましたか?」
秋子さんはまるで子供に諭すように話した。
「わかったか?北川?」
祐一もまるで子供に諭すように言った。
「なんでお前が言うんだよ!つかお前はわかったのかよ?」
「全然。」
北川は口をぽかんとあけてしまった。
「俺は随行官だからいいけど、お前は指揮するんだぞ?おい!名雪のお母さん!もう一度こいつに、ちゃんと説明してやってくれよ。」
北川が祐一を指さしながら、秋子さんの方を向いた。
秋子さんは怪訝そうな表情を作り、困ったように言った。
「あの・・・私には子供はいませんが。」
「え?あなた秋子さんじゃ・・」
「お前、上官に向かってため口とは何だ!?お前は少佐、水瀬参謀総長殿は大将の位。あまり不敬な態度を取ると軍法会議にかけるぞ!?」
左隣にいた偏屈そうな男が突然怒鳴りつけた。
秋子さんは慌てて北川をフォローした。
「まあまあ、北川少佐も悪気があってやっているわけではないでしょう。許してくれませんか。」
しかし、その隣で黙っていた士官が、
「いえ、そうはいきません。祐一次長はいいのですが、一少佐がこういうことをするのは、今後の軍の威権に関わる問題です。」
と反論をする。
「仕方ないですね。了承します。けれど、あまり痛くはしないでくださいね。」
秋子さんはすぐに納得して、賛同してしまった。
「ヒィ!?そんなぁ名雪のお母さん!?」
秋子さんはできるだけ北川を刺激しない口調で言った。
「北川少佐、とりあえずこの部屋をでてください。処分は後々通達しますから。大丈夫ですよ。赤ジャムを少し食べるだけの刑にしますから。」
祐一は驚いた表情を浮かべる。
「な!?祐一。お前なんで驚いてるんだよ!?なぁ。なんか言ってくれよ!?」
祐一は俯いたままだ。
北川は下士官達に両腕を捕まれ、出て行かされた。
「そんなぁ。俺は何もしてないのに!?」
「NOOOOOおおおおぉっぉぉぉ・・・」
ドアがバタンと閉まり、北川の悲痛な叫び声が聞こえなくなったところで、
秋子さんは椅子から立ち上がり、祐一の腕にたわわな胸をおしつけて甘い声を出した。
「邪魔者はいなくなりましたね。」
「え?秋子さんの差し金だったのか?」
「いえ、二人が気を利かせてくれたのでしょう。彼らはあなたと私の中を知っていますから。」
秋子さんの胸は、ぴっちりした軍服を着て、いかにも苦しそうだった。
祐一は心臓をどきどきさせて、自然にその手を、彼女の軍服のボタンへと伸ばしていった。
ちなみに、こっからはエロ日露戦争になってきます。
ホモしちゅをむりやり、変換。
日露戦争の英雄達がKANONのキャラになりあっちで、あはーん。
こっちでうふーんしちゃいます。
ええ・・・
とりあえず、呪われないように明日は乃木大将の墓参りにいってこようか。
Payne2のMODを切り貼りしてる間にColddayの中の人は何処へ行ってしまったのだろうか……
上から2番目、3番目のボタンを外して、分厚い上着の中へ手を滑り込ませる。
そして、薄手のシャツの上から豊満な胸を揉みしだいていく。
手の平は柔らかい肉から、手の甲は分厚い上着によって圧迫され、ひどく手を動かしにくい。
俺がそれでもむりやり揉みしだいていくものだから、秋子さんは苦しそうに机に手をついて、外に漏れないよう口を閉じてあえでいた。
「う・・あ・・・」
秋子さんは口から真っ白な息を吐き、風邪を引いたかのようにひどく顔を火照らしていた。
俺はその様子を見かね、赤ちゃんを触るように弱々しい手つきへと動きを変えた。
ゆっくりと、ゆっくりと、割れそうなガラスをもつように、彼女の体に触れていった。
その時、秋子さんはにこりと汗をほんのり垂らした顔で笑った。
「いつもと違って、優しいですね。祐一さん。」
祐一はどきっとして、手を止めてしまった。
「どうしたんですか?」
祐一は少し探りを入れてみた。
「別に対したことでは無いんですが、そのいつもはどうだったのかと思いまして、」
「いつもなら、こうがばっとしていますね。」
「どんな風に・・?」
「こうですよ」
俺の体を抱きしめて、俺をところどころ欠けている石の床へと倒した。
「驚きましたか?今日は私が攻めで、祐一さんが受けです。」
「え?あ、いや・・」
「拒否しても駄目です。もう私は我慢できません。」
秋子さんはズボンのチャックを開け、祐一のそそり立つ肉棒を取り出した。
脱ぎにくそうに彼女はズボンを脱いでいき、あらわな秘部を露出する。
そこはとろとろとしていて、もう滴り落ちそうなほど濡れていた。
歳の割にはピンク色で綺麗だと思う。
ひくひくと動き続ける俺の肉棒に、だんだんとそれが近づき、
秋子さんの温度、膣をねじり込んでいく感覚、ぬめぬめとした感触など様々な快感が一気に伝わってきた。
俺は少しうっ・・と小さな声を出した。
「本当に今日はかわいいですね。」
そういうと体を倒し、全体で俺を覆い被さる。
大きな胸が胸の上に置いてある。顔のすぐに下に秋子さんの顔があった。
例えが悪いかもしれないが、秋子さんは芋虫のように腰を伸縮させて、俺の肉棒を出たり入ったりしている。
その間、小さく突起が出ている乳房が、動くたびに手の中央の敏感な部分を擦っていくのが堪らなかった。
じゅぷじゅぷ・・・
規則正しい音が響いて、その動きに対応して、首から下に秋子さんとの接触を何度も繰り返す。
気持ちの高ぶりで俺は内部から温められているようであった。
「いいですか?」
「ああ、いい。」
「それは良かった。いつもと違って素直ですね。」
秋子さんはたぶん俺が本当の祐一だと思っているのだろう。
でも、俺は前にいた参謀次長相沢祐一ではなく、普通の高校二年生相沢祐一なのだ。
それを考えると背徳感がして、体中から出る汗の量が増えた。
だが当然、そんな些細な変化に気づかない秋子さんは、俺を本物であると思っている。
「こんなに激しいのは出会って以来ですか?」
「う、はぁはぁ・・そうですか・・?」
「まあ、かわいい。」
秋子さんの腰の動きが速くなる。
俺は尿道からゼリー状の固まりが上がってくるのがわかった。
「で、でる・・」
「じゃあ、出してください。」
さすがに秋子さんに出すのはまずい。妊娠してしまったらどうするんだ?
「そ、それはちょっと。勘弁してください」
秋子さんはにこやかな表情から一転、目を細めてどんより暗い表情になった。
「そうですよね。わかりました」
肉棒からずるりと秋子さんがでていく。
そこが興奮の最頂点だった。
咽頭の先から白濁した液が飛び出ていった。
それから、秋子さんはぽつりと言った。
「ここだけはいつもと一緒か・・官職が違わなければ、いつも一緒にいられて、最後まですることもできるのに、」
俺はくらくらして、よく聞こえなかったがそんな内容だった気がする。
それから、俺は秋子さんから総司令代理として、第3軍に直轄的に命令できる委任状を貰い、旅順への汽車に乗っていった。もちろん、北川も同伴している。
停車場であった時の北川は頬がこけ、目に隈ができ、常にジャムジャムとつぶやき続けている程、豹変していたが、汽車に乗って数時間もすると、元の明るい北川に戻っていた。
秋子さんが言うには効力がそんなに長くないかららしい。俺はあの薬を飲まされて生きていられた北川を少し関心した。家に帰ったら、イチゴサンデーでもおごってやろう。
汽車が停車場から出発し、窓から秋子さんの方を見ると、寂しそうな顔をして、涙をながした女性がいて、俺は窓から顔を出さずにそのままベッドに就寝しようとした。
「おい。手も振ってやらないのかよ?かー冷てぇな。俺はその点違うぜ!」
そういうと窓から顔をだそうとしたのでぶん殴って寝かせてやった。
あの人にとっても、あんなもんは人に見せたいものではないだろう。
秘蔵図書室にて・・・
「ここが問題の場所です。」
秘蔵図書館のある学園地下室には、おろしたてのごとく綺麗なブレザー姿の高校生くらいの青年が、ドアを指さして立っていた。
鍵穴が何か鋭いもので紙のように破れ、その傷口から中の図書室が見えるようになっている。
「今日の昼食後、職務中の図書館職員に、秘蔵図書室ドア付近において、何名か騒ぐ生徒ありとの報告を受けた。
図書館職員が立ち入り禁止場所であるため、注意を促そうとしたが、その際、ドアが壊されていることを発見。2名を叱ったが、二人は容疑を否認。
確かにドアは鋭利な刃物で鍵穴を貫かれており、二人の服のポケット、手、靴の中、口の中、胃の中にもそのようなものを発見できなかったので、容疑者とされなかった。
目撃者の証言としては、「秘蔵図書室付近で剣をもった背の高い女子学生を目撃した」との報告を何名か受けている。これはたぶんに僕の私見ですが、その女子学生とは・・・」
大きめのリボンをつけた、背は女子としては中くらいの女子学生は、冷静な表情で久瀬の顔を見て言った。
「舞だ。と言いたいんですね。」
その男子学生は不敵な表情を浮かべる。
「そうです。」
「舞は昼休み私と一緒にいました。ですから・・・」
「アリバイはあると?いや、生徒会の学校保安委員会の報告によると、川澄さんは12:45分頃、屋上から一度出てきて、後12:55分頃にまた屋上へと戻っています。この空白の10分間、何をしていたんでしょうね。佐祐理さん」
佐祐理は驚いた。
「まさか、そんなところまで見られているんですか?」
久瀬はますます片方の唇を釣り上げ、不敵な表情を浮かべる。
「ええ、情報戦は基本でしょう?うちの父さんはマスコミ関係なので、その手の工作はお手の物。モスクワ大学卒は伊達じゃないんですよ。」
「そうですか。でもこういうことは良くないと思います。」
自分の自慢話をあっさりとはらわれた久瀬は、眉をつりあげ少し表情をゆがめた。
「見識は人それぞれですよ。それと、この事件についてですが、すぐに犯人は割れると思います。
もし仮に、これは例え話の一つとしてですが、川澄さんが犯人だった場合、今度は退学を免れないと思います。ですが、その場合もこの生徒会長の強権を発動すれば、退学執行を遅らせ、十分に卒業を可能にすることができますよ。」
佐祐理は顔色を変えない。
「そうですか。」
久瀬は自分に酔っているのか、そのまま半開きのドアを通過して、秘蔵図書室の中へ入っていき、まるで演劇のように気取った調子で落ちていた本を取り上げた。
ぱんぱんと本の上にのっていた埃を払いのけると、表紙の上方部に「KANON的日露戦争」という表記がはっきりと書かれているのが確認できた。
久瀬は中身を読まないで、題名だけを見て言った。
「私の家は名声はあるんですが、如何せんお金が無い。この秘蔵図書室にあるこんな古ぼけた一冊の本すら買えない程にね。ここにある本は何処で仕入れたのか、エカテリーナ2世の秘蔵本だったらしいですよ。
絵画の他にも本もたくさん集めていたんですかね。いやはや金持ちはいい。」
だらだらと、本筋と関係の無い話を喋り続ける久瀬に、佐祐理は怪訝そうに彼女の背よりずっと高い久瀬を、顔を上げて見上げた。
「あの・・・何をおっしゃりたいのでしょう?」
「そういえば、エカテリーナ2世といえば、何人もの男性を娼婦として、あ、違いますね。娼夫として、囲っていたらしいですよ。」
本を後ろ手に持ち、手を組んだ状態で、久瀬はじりじりと佐祐理に近寄ってきた。
「この事件についてですが、私としては生徒会長の強権を発動して、うやむやにしたいと思います。
自分で言うのもなんですが、気に入らない人をバンバン切っていっては、良くないと思うんですよ。漢帝国を打ち立てた劉邦のように和で人の上に立ちたいと思っています。ええ、劉邦のように、」
久瀬は佐祐理の肩に手を下ろすと、耳にそっと口を近づけた。
「ちなみに、英雄色を好むということわざは彼から生まれたらしいですね。」
佐祐理の喉から、ごくんと、生唾を飲む音がした。
「脅迫ですか・・・?こんなことをしても、佐祐理はそんなことをしませんよ。」
「いえ、決定事項です。」
その時、突然夕立が降り始めた。
今は冬なのにもかかわらずにだ。
エルニーニョやラニーニャ現象が、今日び騒がれているなか、その影響の一つかもしれない。
外にいる下校途中の生徒達はとまり木を見つけたり、街路の店先でとりあえず雨宿りをする。彼女らの目の前で滝のような豪雨が降り続け、その雨音が耳をふさぎ、人々の活発な動きを止めていった。
ある地下室では、叫び声がしていた。それもこの豪雨がかき消していたのだろう。
男は本を持ちながら肘で彼女の腕を押さえつけている。
片方の腕で、女の胸元のリボンを乱暴にほどくと、中のボタンを金具がひしゃげるほどの力で取り外していった。
シャツも引きはがし、残ったブラジャーを横にずらそうとする。
男が興奮した手つきでブラジャーに手を触れた瞬間。
女は最大限の力を振り絞って、暴れた。
が、男の力の方が圧倒的に強く、彼女の反撃は、男の持っていた本を床に落とすことしかできなかった。本はパラッと中がみくられて真っ白な紙面を露わにする。
「ふ、おとなしくしだがっていれば良いんですよ!」
そういう男の目には、彼女の綺麗な肌とブラジャーだけが見えていた。
男の想像ではブラジャーの中身をもう想像していたにちがいない。男はもう興奮で肉棒を立たせていた。
そして、片手でブラジャーの位置をずらしていき、その毎日思い続けた想像と現実が一致するのか、目で確かめようとした。
が、そこで久瀬の目は光で全く見えなくなった。
その地下室からでる叫び声は、その時から一切聞こえなくなっていた。
これは夢。
そう、夢だろう。
絶対に夢にちがいない。
乾燥した大地に猫じゃらしや雑草のたぐいが群生し、転々と種々の雑木林が茂り、
まるで地面が波打つように大地は歪曲している中で、一人今はいないはずの男の子が、その猫じゃらしの海にぽつんといた。
男の子は佐祐理の肉親で子供の頃、病院でいつもいつも会っていた。
もちろん、死の床まで連れ添っていた。
名は一弥という。
その子の顔のつくりは、ぽっちゃりしたほうで顔には丸みがあり、おかっぱ頭で可愛らしい笑顔が特徴の、優しい印象がする子供だった。死ぬ前は頬がこけてその様子はすっかり無くなってしまったが。
佐祐理は、今の今まで一弥のことを思い続けてきた。また会えたらいいと思った。叶わない願いでも、奇跡が起こってなんとかなってくれないかと思った。
しかし、現実は厳しかった。
舞と一弥を重ね合わせて、その願いを少しでも叶えている気分になって、今まで過ごしてきた。
その願いは永遠に叶わないと思ったから。
一弥は軍服姿に身を包み、ほんのすこしだけ成長した顔に似合わない軍帽を頭に乗せて笑っていた。
ずっとずっと、見ることがないであろうと思った笑顔に、佐祐理は喜び、駆け寄って、
一弥をずっと抱きしめていた。
「どうしたのお姉ちゃん?」
懐かしい声が聞こえていた。
それから、彼に色々質問した。
ここがどこなのかを、何故軍服を着ているのかを、暖かすぎるが今はいつなのかを、何をどうやってるのかを。
彼は簡単明瞭、軍人らしい口ぶりで答えた。
「作戦内容の確認ですね。わかりました。
ここは旅順要塞の丁度北方、水師営といわれる高台です。私は中尉として、伝令の仕事をしています。
伝令の内容は残念なことですが、1904年8月19日に開始された第一次攻撃により、第三軍五万のうち、三分の一にあたる、一万五千の死傷者を出す大失敗に終わったため。
私の所属する第15連隊へ一時退却という参謀本部の決定を伝達して、今またその返書を参謀本部へ送り返しているところです。」
佐祐理はきょとんとしたまま、自分が乗ってきた(彼女の記憶には無いが)小さなロバを背もたれに、話を聞いていた。
水師営やら、第三軍やら、初めて聞く単語に佐祐理はとまどっていた。
それに、1904年。これはどういうことなのだろう。ちなみに今は2004年だ。
こんなことは子供でも知っている。
「あの、ごめんね。話がよく飲み込めない。」
「え?報告に不備があったのでしょうか?すいません。まだ若輩なもので、口頭では満足に答えることはできませんでしたか・・・」
佐祐理は彼のよそよそしい語り方に、胸に刺さるような違和感を覚えた。
あなたは本当に一弥なの?
口に出かかった言葉をあわてて飲み込んで、その後も”一弥”に質問を続けた。
分からない所を繰り返し繰り返し聞いて、とりあえず一弥の言った話を総合すると、
今、日本はロシアと戦争状態にあること。
日本の第一軍、第二軍の本隊はいまだロシア側とは大きな衝突はせず、遼陽にて敵軍と対峙したまま、月日を重ねているとのこと。
私たちがいる第三軍は東洋艦隊が8月10日に日本海軍と戦い、大打撃を受け、目下の作戦であるバルチック艦隊との挟撃を目的とした要塞港潜伏へと意向を覆したために、
陸から旅順要塞港を攻め、バルチック艦隊が来るまでに、日本海にいる戦艦を全滅させようとしたこと。
そして、その第三軍を率いている総司令官は佐祐理であること。
それを一弥は何を今更な顔つきで、
佐祐理は半分ほうけた調子で、話を交わしていた。
それから二人は、参謀本部へとちょこちょこ動く馬に乗りながら移動した。ここでは敵の砲弾が飛んできて危ないという理由からだ。
佐祐理が乗ってきた動物は子供のロバだろうと思っていたが、それは日本の馬だったらしい。
西洋の軍馬と違って農耕用や移動用が主で、早さよりも体力が要求されるから。こんなにちっこいものになってしまったということだ。
それを話すと一弥は悲しそうな顔をして
「これじゃ露軍にも負けますよね・・・」
と落ち込んでしまったので、彼女は一生懸命、他の戦地はどうなのかと聞いてみた。
日露戦争は日本が勝ったくらいのことは知っていたので、他の戦地はここよりは勝っているだろうと、場の雰囲気を味方の朗報で和ませようとしたからだった。
一弥は喜んで鴨緑江渡河戦やら、海軍が東洋艦隊に大打撃を与えた黄海海戦やらを嬉しそうに語った。
佐祐理にはよく分からなかったが、あの笑顔が見られたので、退屈はしなかった。
夕方になってようやく参謀本部に着いた。
空は澄み渡る青色から、西から大きく広がる赤色、真ん中の橙色、東の藍色へと、塗り替えられ、ずいぶんと綺麗に見える。
その中でも東の赤色がよどみが無くて、一番いい。
そちらの方にある参謀本部の一角の募舎をみると、背の高い眼鏡をかけた人が立っているのが見えた。
「あっちです。」
一弥がその人のいる募舎を指をさす。
その綺麗な風景の中ぽつりと立つ人影を、近づきながらじっと目をこらしてみると、
それは・・・
「こんばんわ。佐祐理さん」
あの地下室のことが無かったように、ぬけぬけと挨拶をする、久瀬参謀長がいた。
「奇遇ですね。また仲良くやりましょう。」
佐祐理は普段、嫌な顔をしない方だが、この時だけは傍目にも分かるように眉をひそめて、顔を歪ませた。前方からの光が輪郭をはっきり映し出す。
その形相に久瀬は少したじろいだ。
一弥に倉田司令官のすぐ下の位に久瀬参謀長がいると聞いていた時から、佐祐理はこのことを知っていた。
トンデモ設定だけど乙だ。北洋艦隊じゃないかってのも堅いこと言わない。
ただ、同じ単語の重複が多い時は言い換え、指示語を使ったりで直した方がよくないか?
あと
〜前方からの光が輪郭をはっきり映し出す。 下から3行目の部分。
前後の文脈から言えば、ヤな奴に会った佐祐理の不快感を暗喩する情景描写になるんじゃないか?何の関係もない描写なので唐突に感じた。
あと前方から来たのは何の光かと想像させる材料が無い。
レスTHAX
全くレスがないから欝でした。ありがとでやんす。
すいません。顔の輪郭で、顔のが抜けてるから、変に感じたんだと思われます。
>>前方から来たのは何の光
これ、東の赤色(西の赤色の間違い)で想像させようとしたんですけど。
つまり、夕焼けの太陽からの光ってことで・・・
にしても、誤植が多すぎるな・・・推敲しないでだしちゃったから。あたりまえなんだけど・・・
すいません。次からはちゃんとします。(汗
後、東洋艦隊であってます。
旅順 ウラジオにいたのはロシア東洋艦隊(ロシア第一太平洋艦隊)
バルチック艦隊(ロシア第二・第三太平洋艦隊)
です。
つかこれ、坂の上の雲とか読んでないとさっぱりわかんないだろうな・・
坂の上の雲を正史と思わせる様なレスはやめとき
へい。わかりました。
坂の上の雲は間違っている部分が結構あるので、資料としてはあまり使えないです。
ちなみにこれはネットとか、図書館で借りた機密日露戦史を資料として使ってまつ。
だから、これも結構間違っているかも。
そこら辺は生暖かく見舞ってくだちぃ。
879 :
874:04/03/23 17:22 ID:XworApsK
北洋艦隊はスマンかった、知ったかだった。
ところで日露戦争の流れを追うなら、児島穣の日露戦争の方が分かりやすいと思う。資料読むより
小説の方が楽しいしな。
>>879 探したんですが、児島穣氏の日露戦争が図書館にありませんでした。
これだけのために買うのもなんなので、やっぱり見送ることになるかな・・・
その後、一弥は書状を提出すると、また元の戦地へと急ぎ帰っていった。
佐祐理は名残おしそうに彼の背中を見送っていたが、すぐにまた会いに行けばいいと思い、
久瀬参謀長も含めた他の参謀達と共に、第二次総攻撃の作戦計画案を決めるため、席へと座った。
部屋の中は大きなテーブルがあり、急造したてでまだ新しい棚が横に置いてあり、他に目立つところといえば、夜中で暗いのに、豆電球ひとつしかないところだろうか。
そんな暗い会議室の中で、会議の内容は終始、第一次総攻撃と同様、東北の一番堅固な陣地(松樹山、二竜山、望台、東鶏冠山)を攻撃することに一致していた。
満州総司令部から特派されている天野中将も、「本部も同意見です」と答えた。
久瀬参謀長が「海軍が西の203高地を占領してくれといっていますが、これは愚案です。
この場所を観測地点として、旅順港にいる艦船を、9月15日に日本本国から送ってくる28センチの一番大きな糎榴弾砲で攻撃してくれれば、
すぐに終わる話だと、空想を述べていますが、私が見るところ、これは成功しませんね。
陸上から港に浮かんでいる艦に砲撃は当たりません。当たったとしても艦が沈むほどの打撃は与えられないでしょう。何より、観測地点を得るためだけに兵を大量に消耗する攻撃は、
陛下の赤子つまり兵にとっても、我々参謀本部にとっても激痛を伴うものです。
痛みの感じない遠くにいる人間が横やりをださないでほしいものですね。」
装飾過多で長ったらしい発言をした。
久瀬はたぶん佐祐理と同じくらいの時に来たと思われるのだが、昼間からずっと様々な書類を暗記していたらしい。佐祐理と会った時も何かの紙の束を持っていた。
「それと工作兵を使っての要塞攻撃をした方がいいかもしれません。」
久瀬の傲慢な口調の話が終わった所で、佐祐理が決議をした。
参謀本部、全会一致で計画案は決定される。
「ではこれで決まりですね。」
佐祐理はよくわからない会議に異議を唱える訳もなく。
第一次総攻撃に無かった、穴抗作業による地中からの要塞爆破を加えて、第二次総攻撃は東北方面を中心に歩兵突撃をかけることに決定した。
翌朝、さっそく一弥に会いに行こうと、彼の配置場所を聞くため、近くに起居している天野中将の寝室を訪れた。
満州本隊からの派遣参謀が、各師団の厳密な配置を知っているかは疑問だったが、参謀本部内で知り合いといえば、あの久瀬参謀長くらいしかいない。
朝からあの嫌味な顔を見るべきでないし、万が一に備え、常に警護の軍人を連れていないと久瀬には会うべきではないと固く決めていた。ちなみにその軍人は一弥だというのも、ほんわか決めていた。
ドアをコンコンと叩く。
「・・・」
が返事がない。
もう一度叩く。
「・・・」
が返事がない。
「あのーおはようございます。佐祐理です。いらっしゃらないのでしょうか?」
「・・・」
が返事がない。
「仕方がありません。他の人に相談しましょう。」
「私でよければ、相談に乗りますよ。」
返事があった。
幽霊のように突如、隣に現れた天野中将に佐祐理は驚いて、
「はぇー」
と力の無い声を出した。
「はぇ?」
訳の分からない声に目をぱちぱち何度も瞬きながら、天野中将も驚いた。
奇妙な雰囲気が辺りを取り巻く。
時間も無いので、その雰囲気を断ち切って、佐祐理は天野中将に一弥の居場所を聞いた。
「あの、一弥中尉のいる師団の配置場所ってわかりますか?」
天野中将は少し考えて言った。
「すいません。ちょっとわからないです。そういう細かいことは久瀬参謀長くらいしか暗記していないかもしれません。」
予想はしていたが、やはり駄目だった。
佐祐理は大きなため息を吐いた。
「そうですか、呼び止めてしまってすいません。後は久瀬参謀長に聞いておきます。」
背に腹は変えられない。他の人も連れて、このことを久瀬に聞こう。まさか白昼堂々襲ってくることはないだろう。そんな事を思っていた佐祐理だった。
しかし、
「・・・久瀬参謀長に聞きに行ってきます。」
そう言って、天野中将が先に行ってしまった。
そこらへんにあった椅子に座り、佐祐理は彼女を待っていた。
数分後、天野中将は駆け足で戻ってきて、苦しそうに息をはぁはぁ吐きながら、ひざに手をついて数秒立ちつくす。
佐祐理は椅子から立ち上がった。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。あまり運動をしていないので、少し息ができないですけど。」
佐祐理はとりあえず、自分の座っていた椅子に彼女を座らせた。
「何もそんなに頑張らなくてもいいのに・・・」
ふぅっと、天野中将が喋れるくらいに息を吹き返すと、手短かに一弥のいる陣地の場所を教えてくれた。203高地の手前の大頂子山に駐屯しているとのことだった。
それを語った後、天野中将はこう言った。
「毎日、あの人とひっついてる司令官の御身を気遣っただけです。朝からあの人に会いたいなんて人はどこにもいないですから。」
天野中将に感謝しつつ、佐祐理は太陽が地平線から登ってすぐ、小さな日本馬でちょこちょこと参謀本部を出た。