SS書きのスレ

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391犬せりお ◆1SERIOtxaU
「−マスター・・・?」
「セリオさん・・・?」
運命によって、引き裂かれた二人の恋人達。
彼らは、神の導きによって再び出会うことができるのか?
(上記内容には、一部誇張表現があります)

『迷子の子猫〜Believe yourself Again』

その日は、せっかくの休日だったので、以前からセリオさんと買い物に出る予定だった。
場所は近郊でももっとも大きな某デパート。何でもアジア一の規模だった時期もあるとか。
その後、もっと大きな商店が誕生したために、アジア一の座は譲り渡したものの、
それでも巨大なのには変わりがない。

「冬物のコートとか、チェックしたいんだよなぁ。今着ているの、もうずいぶん古いやつだし」
「−ご予算はどのくらいで」
「ご予算は・・・まあ、それなりで。他に買うものもあるし」
「セリオの冬服、もうちょっと揃えたいからね。そういったのも、専門店があるみたいだから見て回ろうよ」
「−・・・ありがとうございます、マスター」

デパート入り口付近で、ふとセリオさんの動きが止まった。
「・・・どうしたの、セリオさん?」
「−いえ・・・あれ、どうしたのでしょう」
「うん・・・?」
「−サテライトが・・・」
「サテライト?衛星がどうかしたのかい」

「−サテライトからの、通信が途絶えました・・・」
392犬せりお ◆1SERIOtxaU :04/01/31 18:09 ID:S1TD2Rck
「−サテライトシステムの最終ログによると、どうやら悪質なクラッカーによる攻撃のため、
一時システム利用を中断、対処に入る、とのことらしいです」
「ふーん、やっぱり世の中にはそういうこと狙ってやるやつもいるんだな」
「−期間はわかりませんが、しばらくはサテライトシステムの復旧は無いようです」
「まあ、来栖川の事だから対処も早いと思うよ、しばらくの辛抱だね、セリオさん」

「それじゃあ買い物を・・・セリオさん?」
その時の彼女は、まるで何かに怯えているようで。
「せーりおさん、大丈夫?」
「−あ、え、ええ、問題ありません。」
「なんだか気のせいか、顔色が悪い気も・・・」
「私はメイドロボです、体調の変化はありません。さあ、買い物にまいりましょう」
「あ、うん」

その時のセリオさんは、なんだかいつもよりも頼りなげな感じがして。
ちょっと心配になったけれど、セリオさんが大丈夫と言うのだからと僕らは買い物を続ける事にした。

・・・今思えば、もっと慎重になるべきだった。

本館から入り、まずはセリオ用の冬服を揃えるため別館へ。
休日という事もあってか、今日はお客さんも大盛況なようだ。
結構人ごみが凄くて、なかなか進めなかったりもする。
渡り廊下の動く歩道で別館へわたる。
その頃になって、僕は異変に気づいた。
「・・・セリオさん?」
いつも僕の隣にいるはずのセリオが居ない。
「まいったなぁ。はぐれちゃったか・・・。」
メイドロボが迷子になるなんて、おかしな話もあったものだ。
393犬せりお ◆1SERIOtxaU :04/01/31 18:10 ID:S1TD2Rck
「まあ、こんな事もあろうかと!」
ちょっとマッド・サイエンティスト調で袖口をめくる。
「セリオユーザー御用達、HM-13対応電波腕時計!」
説明しよう。これはセリオユーザーが広く愛用している時計の一種で、内蔵の電波受信機により
日本標準時刻とのセッティングも自動でやってくれる上に、サテライトシステムとのリンクで
どんなに離れていてもセリオには自分のマスターの位置が判るという超便利時計である。お値段¥190,000(税別)。
高い買い物だと思ったが、こういう時になれば話は別だ。今こそ、この時計の真価を発揮する時が来た!

さっそくサテライトに自身の座標を送信・・・っと。
送信・・・送信・・・あれ・・・?送信エラーが出る?
「・・・ああっ!!」
そういえば、サテライトシステム、今使用できないんだっけ。
「まいったなぁ・・・」
休日の、人で賑わうデパートの中。この中から、僕のセリオさんを探すのか・・・。
ちょっと気が重くなった。
ふと、目の前をセリオが過ぎる。
「あ、セリオさん!」
「--はい?」
「ごめん、人、いや、セリオ違い!」
「--はぁ」
どうやらうちのセリオさんではなかったらしい。
「・・・さて、どうする・・・?」
セリオさんの事だから、万が一は無いとは思うが、それでも心配になってくる。
「・・・迷子センターかな、これは。うちのセリオ知りませんか・・・っと」
僕は踵を返して、迷子センターへと向かう。
・・・幼稚園児風にちょこんと迷子センターで待つセリオさんを想像して、ちょっと気が晴れた。
394犬せりお ◆1SERIOtxaU :04/01/31 18:11 ID:S1TD2Rck
「−マスター?マスター!?」
今の私は、まったくの絶不調だった。
「マスター、どこですか!?」
サテライトシステムとリンクしていないという事が、こんなにも不安になるなんて。
うろうろと、おぼつかない足取りでマスターを探す。
サテライトシステムさえ使えれば、その気になれば周囲のサテライトシステム対応機全機とダイレクトリンク、
マスターを探し出す事だって、簡単にできるはずなのに。
今の私は、ただの一人の少女にも劣る。
全てを見通すその目は塞がれ、あらゆる物を聞き分けるその耳は、今はノイズしか拾えない。
「・・・マスター」
マスターが隣に居ない事、それが例えようもなく、辛く、寂しい。
・・・寂しい?そう、私は確かに寂しいと思っている。今まで自分というメイドロボに感情があることを
自覚はしていなかった。でも、今ならはっきりと判る。私は寂しい。マスターに会いたい。今すぐに。

当てもなくさ迷い歩くのをやめ、マスターが行く予定だったお店を覗いて回る。
紳士服売り場・・・居ない。
メイドロボ用服飾売り場・・・居ない。
「マスター・・・私は、どうしたら良いのでしょう」
探すあてもなくなり、私は途方にくれる。
このまま、もし二度とマスターと出会えなかったら・・・。
そんな最悪の展開がメモリーを過ぎる。
「マスター、私は、私は・・・」

「--あの、もし」
「−はい?」
そこには、私と同種のHM-13型メイドロボ。
「--もしかして、人をお探しではありませんか?」
395犬せりお ◆1SERIOtxaU :04/01/31 18:12 ID:S1TD2Rck
デパート内、迷子センター。
そこには、はしゃぎ回る子供達に洋服を引っ張られ、半べそをかいているマスターの姿があった。
「−マスター!!」
「うぁぁ、うん?セリオさん?」
「−マスター!ああ、マスター!!」
周囲の目も気にせず、私はマスターに飛びついていた。
「−マスター、良かった、本当に、良かった・・・」
「・・・お帰り、セリオさん」
「−・・・はい、ただいま、マスター」

「あー、このひとたちだきあってるー!」
「しってるー。こういうの、ふじゅんいせいこうゆうっていうのよー?」
周囲の子供達がはやし立てる。
マスターは恥ずかしそうにしていたけれども、私はもうそんなものは耳には入らなかった。
捜し求めていた物。たった一つの、かけがえのない物。
ようやく、それと再び巡り会えた。その感動に浸りきって。
「買い物の続き、しようか。セリオさん」
「−はい、マスター」

買い物を終え、二人並んで家路に着く。
「良く僕が迷子センターに行く事がわかったね」
「−はい、たまたまマスターの事をお見かけしたという方がいらっしゃいまして」
「そっか、運命的ってやつかなー?」
うーんと伸びをするマスター。子供達の相手がよほど堪えたようだ。
私はそんなマスターの手を、しっかりと握り締めた。
もう二度と、離さない様に。