静寂して、それでいて煌びやかな部屋にあるベッドに俺と月宮あゆは裸でいた
「もう、祐一君さっきは激しすぎだよ! 初めてじゃなければすぐ感じるってわけじゃないんだからね!!」
「悪い悪い、今度からは気をつけるよ」
もちろん悪びれなどない、怒ったあゆの顔は結構かわいいものがある・・・
幸せだった、あゆは7年前に事故で一時は意識不明の重態に陥っていたが2ヶ月前
あゆは奇跡的に意識を取り戻し、今こういうところにいてもおかしくない間柄である。
勿論名雪や秋子さんにラブホにいるなどと直接言ったわけではない(まあ秋子さんが「了承」というだろうけど・・・)
だが俺たちの中はいわゆる公認の間柄であった、まさにミラクルドリームだ。
だが、夢というものは悪いほうに向っていくものである・・・
その日俺は水瀬家に来客していたあゆにご馳走を振舞うために秋子さんと名雪が
腕によりをかけて料理を作ろうとしたものの、材料が足りず俺は買出しに出かけていた。
買出しを終えた俺が目にした光景はすざましいものであった・・・
開け放たれた玄関のドアと荒らされた玄関が真っ先に俺の目に飛びついた、
そして意味不明な落書きと電話の音であった。
「ミスター・アイザワかしら?」
声は英語、しかも中年女性だった、俺は過去の海外生活で培った英語スキルで応対した
「警察を呼んでくれないか、どうやら強盗が入ったらしい」
「悪いけど力にはなれないわ」
ガチャリ、電話は切れた。
あゆとセックルするよりエスカレイヤーとセックルした方が断然良いと思われ
そして、応接間のほうを何気なく振り向くと秋子さんと名雪の死体があった!
「名雪! 秋子さん!」
そして俺は秋子さんが手に何かを持っているのに気がついた。
「これは・・・銃・・・」
そこにあったのは映画で時折見るオートマチックという類のホワイトカラーの銃だった
おもちゃというには重過ぎる代物だ、俺は悪い予感を振り払うようにしてソレを手に二階に上がっていった
「助けて祐一君! どこなの!」
階段を上がる俺の耳にあゆの悲鳴が俺の自室から聞こえてきた。
「あゆ! どうしたんだあゆ!」
俺はすぐにドアノブに手をかけるも内側から鍵をかけられていいるらしく、びくともしなかった。
そのとき俺は名雪の部屋と俺の部屋がバルコニーでつながっている事を思い出した、俺はすぐさま名雪の部屋に入り
バルコニーへと向っていった、そして俺の部屋にはあゆの首にイカレた浮浪者風の男の手が押しつぶしている光景であった!
「人殺し!!」
俺はバルコニーから男に向って銃を弾が空になるまで撃ち込んだ。
「あゆ!! 大丈夫かあゆ!!」
返事はない、あゆは冷たい人形と化していたのだ・・・
俺はあらん限り慟哭した・・・
お。リアルタイム。
嬉しくない。
俺はショーというものが余り好きではない、だが奴等は俺に特等席を用意してくれていたのだ。
しばらくして俺はあゆの亡骸を名雪達と一緒に並べ、そのときようやく秋子さんがなぜ本物の銃を持っていたのかという疑問が浮かんだ。
その答はすぐに明らかとなった、食器棚がありえない倍位置にあり、元あった場所にはハッチのようなものがあり
開けっ放しであった、その中は裸電球で当りを照らされた階段とその底にあるPCがあった。
PCの隣にはショーケースのようなものがあり、中には手榴弾やサブマシンガンや果てには
グレネードランチャーなどもあった、一箇所だけ持ち出された形跡のあるところもあったが、それが何かは考えるまでもなかった。
PCには様々な人物の斜線をひかれた顔写真とプロフィールのリストがあった、ただ一人
「モンタナ・F・ドルフィーネ」を除いての話だが・・・
モンタナ・F・ドルフィーネ、彼女は表の顔はニューヨークに本社を置く多国籍企業「モンタナコーポレーション」の会長であり、その事業内容は製薬会社であった
だが彼女の裏の顔はモルヒネなどを密造等を行うマフィアのスポンサーであり自ら開発した新薬を人体実験する魔女であった、
先の男が彼女のモルモットとして紹介されていた、この惨劇の目的が秋子さんの始末であり名雪とあゆは巻き添えだったというわけだ。
このリストからして斜線の意味は始末された人物と見ていいだろう、そして黒幕らしき人物が彼女であるのはこのリストを見れば一目瞭然だ
ただ先の電話もあり、彼女が日本に来日している可能性もなきにあらずであり、まず俺は東京においてある支社を第一目標にした。
このとき俺は魔女に復讐を誓った。
私には人として甲斐性が元々なく、如何なるような身の上を持った人間
であると言えども虐げてきたのではないのか、という疑惑の影のようなもの
が常に自身の深い部分を捉えていた。その深い部分を私は探そうとして、
その源泉たる湖を常に見張り、そして溺れることすら出来ずに遠くから眺める
ことしかできなかった。いや、既に溺れていたのだろうか。
溺れる私は、どこか底に沈むことすらも出来やせず、滾々と澄んだ
青の中に埋もれてしまっているのだ。もがこうにも、水はあまりに質量を
持っておらず、私には捉えらる術を持っていなかった。
敗北のなかで生きる事の辛さ、悔恨。
彼女と七年ぶりに再会したときだって、そうだったじゃないか。
あの眼球を捕らえるような透き通る藍色の髪は、私の心の内の湖を
自発的に思い出させるに十分過ぎるのであったのだ。
つまり、見入ってしまっていたのだ、彼女の肉体全てに。
髪だけに象徴されたわけではない。
心情と混同してしまったわけなのでもなく、それは、それは、
私の全てを許容する筈の存在、価値を湛えているものとして存在していた、
いや、存在しなくてはならなかったのだ。
俺は北川と香里に別れの挨拶の電話をした、だが二人とも留守だった。むしろその方がよかった。
俺は「もうここには帰って来れない」とだけ留守電にいれ水瀬家を後にした。
このとき俺はこれがほんの始まりであったことに気づいていなかった・・・
次回第一話「華音駅」おたのしみに。