【名前を】左1・十波由真スレ【憶えよう?】

このエントリーをはてなブックマークに追加
41名無しさんだよもん
(中略)
 がっくりしてきびすを返す。これで一日空きが出来てしまったな…。
 どこで時間を潰そうかと考えながら街を歩く。赤信号で足を止めた花屋の前で、大きく開いた白い花が視界の隅を横切った。
まるでトランペットのような…トランペット?
そう言えば十波の吹奏楽部のパレードって今日だったような…。
気がつくと、いつの間にか花屋へと足を踏み入れていた。
 息を切らせて会場に辿り着くと、談話しながら散らばりつつある部活の連中の姿が見えた。結局パレードには間に合わなかったか…。
花をそっと袋の中に隠してから、さりげなく声をかける。
「ごめん、十波いるかな?」
吹奏楽部の女生徒「由真ならついさっき帰ったけど?」
 …今日はすべてにおいて間が悪い。仕方ないので広場のベンチで噴水を背にして休憩を入れる。袋から花を取り出してぼんやりと眺める。
気まぐれで無駄になってしまった彼らはちょっと気の毒な感じがする。
軽く欠伸をして顔を上げたところで、通りすぎかけていた由真と目があった。唐突な出会いに、お互い、一瞬沈黙してしまう。
由真「…こんなところで何してるの? デートの待ち合わせ?」
「違うっ!」
 慌てて花を隠そうとするが遅かった。
由真「何? 誰か女の人へのプレゼント?」
「だから違うっ!」
 ぼけへのつっこみの感覚で答えたつもりなのに、つい語気が強くなってしまった。由真は目をぱちくりさせて、一瞬だけ軽く唇を尖らせた。
由真「よし! じゃ、あたしが当たってたらカラオケ一回分おごりね」
「……」
42名無しさんだよもん:03/12/18 03:10 ID:6xy1VQBN
 しばらく考えてみたものの気の利いた返答が思いつかず、そのまま花を彼女へ向かって突きだした。
「演奏お疲れさま」
由真「……なぬ?」
 こういう展開は予想していなかったのか、由真はその場で真面目に考え込んでしまう。
「別に深い意味なんてないからな」
由真「それはあたしの勝ちでいいのかな?」
「…好きにしてくれ 」
 がっくりと座り込んだそのとき、由真はひまわりが咲いたような笑顔を浮かべた。
由真「ありがと。…やっぱ、あたしの方がおごらなきゃね」
 一瞬返事が遅れてしまった。
「い、いいよ。別にそんなつもりじゃないから」
 由真は花束に顔を埋めるようにしてくすくす笑った。
由真「そっかー。見に来てくれてたんだ…」
「…いや、正確には見てないんだけど…」
由真「…なんじゃそりゃー」
 後ろめたさを感じて告白すると由真は頬を膨らませたが、言うほど怒ってもいないようだ。
由真「じゃあ、やっぱワリカンだね」
「ああ、それなら付き合うぞ」
 ようやくいつもの調子が戻ってきた。
「どれか持とうか?」
 吹奏楽部の制服の入った鞄を肩に掛けて右手にトランペット、左手に花の由真を見やってそう声をかけるる。
由真「あ、こっちは平気」
 そんなことを言ってくるくると指の先でトランペットを回して見せる由真。
43名無しさんだよもん:03/12/18 03:12 ID:6xy1VQBN
「おいおい、大切な楽器をそんな扱いしてバチが当たらないのか?」
由真「お客様扱いしてちゃだめなんだよ、体の一部なんだから」
「聞いたようなことを…」
 しかし、擦り傷は残りながらも丁寧に磨き上げられ、よくよく使い込まれたトランペットを見ると、確かにそんな気もしてくるから不思議だ。
「消去法で言うと…やっぱその鞄か」
 口にこそ出さなかったが、大切そうに花束を握りしめている様子からみると、それが正解らしい。
由真「えへへ、悪いね、一番重いのを」
「わかってやってるんだろ」
 鞄を受け取って歩き始めながら、ふと、やっぱり由真が演奏しているところはちょっと見ておきたかったな、と一瞬だけ軽く後悔したが、まあ、忘れることにした。取り敢えずはカラオケだ。