1 :
名無しさんだよもん:
☆東北
大名 軍団長/城主
陸奥 オリカカン オリカカン
陸中 スオンカス スオンカス
陸前 ワーベ ワーベ
磐城 カンホルダリ カンホルダリ
岩代 クーヤ クーヤ
(以上、1868年以前は全て「陸奥」)
羽後 インカラ インカラ
羽前 二ウェ 二ウェ
☆関東
大名 軍団長/城主
下野 大庭詠美 -
上野 水瀬秋子 倉田佐祐理
常陸 大庭詠美 大庭詠美
下総 - -
上総 - -
安房 - -
北武蔵 千堂和樹 千堂和樹
南武蔵 千堂和樹 牧村南
相模 千堂和樹 澤田真紀子
☆中部
大名 軍団長/城主
信濃 緒方英二 -
甲斐 緒方英二 緒方英二
伊豆 千堂和樹 高瀬瑞希
飛騨 - -
美濃 長森瑞佳 住井護
駿河 緒方英二 -
遠江 緒方英二 -
三河 長森瑞佳 椎名香穂
尾張 長森瑞佳 長森瑞佳
北越後佐渡 水瀬秋子 月宮あゆ
南越後 水瀬秋子 水瀬秋子
越中 柳川祐也 -
能登 柳川祐也 柳川祐也
加賀 柳川祐也 -
☆近畿
大名 軍団長/城主
近江 長瀬祐介 長瀬祐介
伊勢志摩 遠野家 遠野母
伊賀 霧島佳乃 霧島佳乃
越前 柏木賢治 柏木賢治
若狭 柏木賢治 柏木千鶴
山城 (神奈備命) (不在)
摂津 長瀬祐介 太田香奈子
河内 長瀬祐介 月島瑠璃子
和泉 篁 篁
大和 長瀬祐介 桂木・吉田
丹後 - -
丹波 - -
播磨淡路 橘 橘
但馬 - -
紀伊 神尾観鈴 神尾観鈴
☆中国
大名 軍団長/城主
因幡 岡田/那須 -
伯耆 岡田目久美 -
出雲 岡田目久美 岡田目久美
石見隠岐 長瀬源五郎 -
美作 那須宗一 湯浅皐月
備前 那須宗一 那須宗一
備中 伊藤 伊藤
備後 宮内レミィ 宮内レミィ
安芸 藤田浩之 藤田浩之
周防長門 長瀬源五郎 長瀬源五郎
☆四国
大名 軍団長/城主
讃岐 犬飼 -
伊予 犬飼 -
阿波 坂神蝉丸 -
土佐 坂神蝉丸 -
☆九州・沖縄
大名 軍団長/城主
筑前対馬 宮田健太郎 宮田健太郎
筑後 宮田健太郎 -
豊前 高槻 高槻
豊後 高槻 -
肥前壱岐 宮田健太郎 高倉みどり
肥後 ルミラ ルミラ
日向 那須二郎 那須二郎
大隅 ティリア -
薩摩 ティリア ティリア
琉球 ガディム ガディム
優位同盟([盟]盟主、[従]従属大名)
[盟]那須家→[従]伊藤家
軍事同盟
緒方家←→千堂家
那須家←→岡田家
宮田家←→ティリア家
不戦協定
緒方家←→長森家
強制停戦中(秋まで)
水瀬家←→千堂家←→大庭家
友好関係(無同盟)
長瀬家←→長森家
交戦中
水瀬家←→柳川家
岡田家←→藤田家・宮内家
乙。
またーりと。
書き手増えるといいなぁ。
>1
乙
>1さん おつかれさまです。
>1
乙カレー
諸勢力同士の関係
○宗教勢力は基本的に互いに不仲。特に日蓮宗はどこからも嫌われている。
○吉利支丹も他の寺社勢力から嫌われる度合いが強い。
○高野山と根来寺は対立関係。
○日蓮宗は国人との関係も悪いが、商人とは友好。特に堺町衆とは親密。
○本願寺は意外と融和的。
○長吏衆は基本的にどの諸勢力とも不仲。
○国人と商人は基本的に中立だが、不仲な地方も多い。
○旧仏教・神道と朝廷はおおむね友好。
○伊賀流・甲賀流は思いがけぬ遠方の勢力と友好関係にあることがある。
>1さん、新スレ立てお疲れさま。
そして投下…
その日の午前。
言い含めてあった通りに演説する甥の声を遠くに聞きながら、
水瀬秋子は少数の供回りをつれて陣を抜けだしていた。
目指すは関川河口、直江津の町。
春日山城を囲む柳川軍の陣営からも、四半里程度しか離れていない場所である。
当然のことながら陸路移動中に歩哨に見つかれば誰何は受けるし、場合によっては命も危ないだろう。
しかし、秋子にはべつの移動路があった。
関川河口東岸の漁村から、直江津の港への直接移動、である。
些少の礼金で村長に船を出させられるのも、ここが南越後だから、だ。
国人の娘として生まれ育った彼女にとって、この地は全体が庭のようなもの。
乳母日傘の育ちとは縁遠い身ならではの身軽さとも言える。
久しぶりに見る直江津の町。
北側を海に、東側を関川に、といった形で
海からの物品と山からの物品のふたつを交易できる、春日山城の事実上の城下町、だ。
大型船の見当たらぬ空いた港に小舟をつけ、身軽に桟橋に飛ぶ。
貸し馬屋の馬の背からすこし背伸びをして見通せば、
町の南側、比較的貧しい町人たちの住む地区のあちこちから、
まだ消えぬ煙のくすぶりが何本も立ち上っているのがわかる。
近隣で戦があれば、家は焼かれ、畑は荒らされる。それはこの時代の必然だ。
だからこそ、私はここに来たんだ、と、秋子は自分に言い聞かせる。
彼女の行く先は、直江津町衆・福永邸。
魚売りの零細商人から身を起こし、直江津町衆中の有力者となった男の屋敷だ。
秘してのこととはいえ、突然の国主来訪には
海千山千の商人といえどそう安易なことも出来ない。
急いで着替えてきたであろう上等な衣類、その額に浮かぶのは冬には似合わぬ汗。
「これはお待たせいたしました、水瀬様。 ご一報下されば準備などいたしましたものを」
「……そのような有様では無いこと、あなたはご承知でしょう?
ここに来るまでの間にも、焼かれた町並みなど、つぶさに見て参りましたわ」
「いやはや、柳川の手勢の乱入で、直江津の町も大騒ぎでございまして。
関川の東側に水瀬様が陣をお敷きになって、町中から軍兵がいなくなるまで、
連中、徴発だと称してさんざん金穀を巻き上げていった次第……」
「……力無き領主のせいだ、と?」
「いえいえ、そのような暴言を吐くほどまでに早死にしたいとは思いませぬ故……」
「……そうですか」
にこり、と笑う秋子。
その笑顔のまま、彼女は一拍おいて口を開く。
そして、場は凍り付いた。
「……な、なんですと? もう一度……」
「焼いた町、奪われた金穀は、一万の軍勢の運送料に見合うものでしたか?」
「……何のことやら、わたくしめにはさっぱり」
「越後に柳川軍を導き入れる役割、いかほどの金で引き受けられたのです?」
「存じかねますな、そのようなことをいきなり言われても……」
「とぼけられるのも結構ですけれど、港に直江津の大船が一隻も無いのを、どうご説明なさるのです?」
「たまたま運送の日付が重なったのでしょう、ええ」
「……そうですか。 重なった日付のおかげか、あるいは」
「あるいは?」
「そう、恐らくは糸魚川の港あたりで、柳川軍の帰りを待っているのか」
「……」
「だんまりを決め込まれるのなら、それでも結構です。
何もお話になっていただけないのなら、私たちで私たちなりの対応をさせていただくだけ、ですから」
「……そう、ですか」
「……ところで」
笑顔を崩さぬまま、秋子は腰を浮かせつつ一言。
「商人にとっては利が第一なら、侍にとっては何が第一か、お分かりですか?」
「……さぁ、何でしょうな」
「少なくとも……証拠や理屈では、ありませんよ?」
「……有無を言わさず、町を焼く、と?」
「その程度で済ませてもらえると思っていらっしゃるのですか。
平和だった南越後に、我が春日山の城下町でありながら敵国の軍兵を引き込んだ罪。
いかなる理屈をこねられても、許して許される類の罪ではありません」
「……」
「今回の戦で家を焼かれた者たち、田畑を荒らされた者たちは、
それが同じ越後の直江津町衆の仕業と分かれば、どうなさると思います?」
「……そういう話を広める、とでもおっしゃるので?」
「それ以外にありえることでは無いのですから、まず疑念を挟まれない」
ふるふると震える額、それに浮かぶのはもはや冷や汗か。
その首がかくりと落ちるのを見て、秋子は上げかけた腰を再び下ろす。
「……恫喝に屈して、一度行った取引を反故にするなど、
商人のとれる道ではありませぬ」
「……やっと、お話ができましたね」
笑顔。 さっきまでの笑みとは違う、懐に刀を呑まぬ笑みだ。
「素直に話してくだされれば、こちらもいさかい事を広げたくはないのですよ?
同じ国に生まれ育ち、町衆と国主として知らぬ仲でもないでしょう。
腹を割って話していただければ、私なりに配慮はいたします」
「……ですが、なんと言われようと、
裏の取引とはいえ、一度結んだ取引です」
「……その取引、直江津側では誰がまとめ役なのです?」
「……恥ずかしながら、私めが」
「……たしか、あなた自身が持つ大船の数は……」
「はい、3隻で」
「その3隻に限って、取引の履行を許しましょう」
「……よろしいので?」
「ええ、直江津の町衆が水瀬に寝返っても、あなた自身は取引に忠実だった。
商人にとって大事なのは、一銭にもならぬ町の名誉ではなく、大金を生み出す己の信用、でしょう?」
「自らの暖簾を汚すことだけは、出来ぬことですので。
しかし、そのようなことを刀で脅してやらせようとは、水瀬様は案外と心無き方なのですな」
「いえいえ、今日はその他にもいくつかお願いがあって参りましたゆえ」
「お聞きしましょうか」
「今回の戦で焼かれた春日山城下町、そして直江津の町の復興を」
「……?」
「越後の金と米、海からの産物と交易、山からの産物、
この地はまだまだ取引で豊かになる町だとは思いませんか?
私はこの町を、水瀬の都にふさわしい規模の町に作り替えようと思っています」
「……さて、どれほどのものになるやら」
「私の考えるところでは、五万かそこらの人を住まわせられるだけの町になるだけの力は、
この地には充分あると思っております」
「堺や京、博多に次ぐ規模の町に、この直江津が成りうる、と?」
「ええ、団結した町衆の協力があれば」
「……ホラ話としても面白い。その話はひとまず聞いておきましょう、前向きに。
で、『いくつか』というからには、まだ他にもあるのでしょう?」
「ええ、早舟を出していただきたい、のです」
「というと、柏崎か新潟、はたまた佐渡へ?」
「……いえ、加賀へ」
今回は一日も時間が進んでいない…w
町衆の人の名字は、直江津市の歴史を紐解いて適当に。
あと人口五万というのは、史実の春日山城下町最盛期の人口、だそうで。
まー、そのレベルまで城下町が大きくなるころには、
中の展開が早いこのスレではおそらく天下統一がなされちゃってるでしょうが。
以上、即死回避をば。
一応、必要かもしれない可能性があるので、今回仮で作りますた。
http://jbbs.shitaraba.com/otaku/1362/hakagiyabou.html 中の人「専用」の打ち合わせ専用掲示板です。但し一応アドレスは公開しますです。
一:中の人同士のキャラのクロスオーバー
二:中の人同士の担当大名変更
三:日本全体の詳細設定
四:中の人同士の戦争の総指揮官の決定
五:正直話が詰まった。
等、ネタバレになるが、どうしても打ち合わせなければ
ならない事についての相談場所としてお使いくだされ。
だが、
1:戦争については基本的に原則だけ決めて後は出たとこ勝負
2:できるだけ中の人は名乗ること。外の人も入ってもいいがネタバレ覚悟で。
3:過度の馴れ合いはしない。ここでも駄目なネタバレなら最後の手段でメールを使え。
4:たいやきは盗らない、盗らせない。
5:辺境の女は怖い。だが貧乳の女はもっと怖い。
以上。上のルールは状況に応じて変化する可能性もはちみつくまさん。
>>21 で、乙。
戦争は体力気力を使いますですよ。本当。
米の実る暇も無いわ。
24 :
宮田の人:03/11/30 02:46 ID:on9YV2Lj
>>1さん乙華麗。
こちらも業務連絡w
>ティリア・ルミラの中の人
高倉戦はルミラ戦後1年の事と言うことにしたいので、
ルミラ宮田戦の年を決めて欲しいです。
>篁の中の人
ちょい役でキャラ一人お借りしたいんですけど。
播州に出現すると都合悪いキャラいたら教えて下さい。
即死回避。
まだ気づいてない書き手がいるかもしんないからいいんでねーのか?
きみは注意書きも読まんでリンク踏むのかね、何でも叩きゃいいってもんじゃないぞ
>>27 あまり目立つところにリンクを張ってはまずいのではないでしょうか?
この話題はこの辺で。
今までに話で登場した役職と官位
神奈備命(征夷大将軍)
ワーべ(奥州探題)
大庭詠美(関東管領)
高倉宗純(九州探題)
遠野・橘・霧島家(紀伊御三家)
緒方英二(従五位上 少納言)
牧村南(正七位上 大膳少進)
柳也(正八位下 左衛門大志)
柳也は本編より
高倉家は滅んだから九州探題は無しか?
>29
正確に言うと、官位と幕府役職とは切り離して考えるべきだな。
官位・朝廷役職
神奈備命(征夷大将軍)
緒方英二(従五位上 少納言)
牧村南(正七位上 大膳少進)
柳也(正八位下 左衛門大志)
征夷大将軍ってのは位階にすると本来四位相当なんだが、
江戸期には正二位級にまで上昇してますな。
で、征夷大将軍の下に「武家内部の私的役職」として、
奥州探題職・ワーベ、関東管領職・大庭詠美、
九州探題職・高倉宗純、そして紀伊御三家がある…と。
だから朝廷が詠美を朝敵認定するってぇのは、
幕府をまるごと否定するか、そうでなきゃ幕府の統治能力を朝廷が認めなくなったことの証でもある。
この世界の後世の歴史教科書では、
おそらくこの朝敵認定が「戦国のはじまり」を告げる大事件として記述されることになる…のかな?(笑)
一応、前スレ埋め立て終了しました。
>24
ルミラ達が宮田家と一戦交えるのは永禄二年夏頃の予定で
(合戦そのものは短期間で停戦になります)、その合戦がこちらの
一応の目標地点です。なつみの方はその半年ほど前からリアンの
献策で大隅に出張して頂く予定です。
しかし、そうすると、こちらのプロローグの鹿児島訪問と高倉戦が
ほぼ同時期ということですね。なつみたん、大忙し(w
ああ、でもその時期なら高倉戦を前にルミラ達を牽制しておく必要が
ある訳で、あの鹿児島出張はそういう意味があったのですな。
埋め立て乙、よく集めたもんだ。
話は変わるが、某家庭用メイドロボはどうした?
来栖川家家宝のお茶くみ人形のことか?
魔法もある程度までは認められてるんだからいいんじゃないかな
少々の手傷じゃ死にませんよ
死なないだけだけどな…
セリオなんかサテライトシステム無いから完全に木偶人形だし。
自分の意志を持たせると完全に時代錯誤の産物になってしまう。
意志持ち程度ならきりしたんばてれんの妖術かはたまたなんかの呪いか、で済む話だが、
マルチはお茶くみすらまともにこなせるかどうか疑問だし、
セリオはサテライトシステムを戦国風に翻訳することが致命的に困難。
出来たとしても、戦国の世に普遍的に存在する職業にしかなれないだろう
(忍術なんかの特殊な技能はその秘密性自体が価値なわけで、
セリオに組み込めるようなカタチの分析をさせてくれる可能性はまずあり得ない)
むしろ、人間という扱いにする手もあるが。
でもそれやると役だけでなくキャラも立たないぞ…
できれば修正版SSと共に返したかったんですが……
>前スレ772
当面はいいんちょだけで十分です。欲を言えば神尾家と、国崎達が来てない今の内に
優位同盟を組んでおきたい所ですが……寝首を掻くようで嫌だし、傭兵とはいえ二千も
捨てちゃう訳だから、流石にそんな余裕はありません。
>宮田の人
醍醐と長瀬以外ならOKです。ちょい役っていうのなら使い終わった後、
フリーにして貰えると有り難いです。キャラのストックが増えますので。
一日
久瀬の出番はまだ〜?
、と前スレのAAを見て思った。
緒方家が久瀬の越後復帰を大義名分に攻め込むのか
それとも蹴鞠道に邁進したり風雅の世界に生きてしまうのか
越後−甲斐戦争は史実と逆の動機で始まる…のか?
那須・柏木が反長瀬同盟結んだら、長瀬の力をそぐ絶好の機会でもあるからねえ。
緒方は主軸を対長瀬のままで行くのか、対水瀬に転換するのか・・・。
「……そんな訳で領土も増えたことだし兵力の再編成、増強を考えてみた。まずは駿河・遠江から」
東海方面軍 一万二千(駿府城)
フランク長瀬(軍団長)
南明義(副官)
中崎勉
南森
村田
「と、いうことで頼んだよフランクさん」
「……」
──フランク長瀬
名族長瀬の庶流にして七瀬彰の叔父、そしてこの地方では珍しい切支丹。
余りにも無口な為に家中でも忘れられやすい存在だが文官として地味に活躍する人物である。
因みにモットーは『見ざる、言わざる、聞からず』
「東海四人衆の人達と一緒に旧渡辺軍の編入、そして駿府城と堤防の改修に重点を置いて頑張ってもらいたい。
得意なんでしょ、そういうの?」
「……」
どことなくいい加減な態度を感じさせる気楽な顔で頷く。
そんな彼ではあったが、若い頃は貿易で栄える長門に留学し従弟にあたる長瀬源五郎と供に様々な技術を得ていた。
緒方家に移ってからはもっぱらその知識を彰や美咲の手助けに使って裏方に徹していたが、間違いなく一流の内政官である。
「あと新しい水軍を組織してもらいたい。駿河湾に残っている船の概要を見せてもらったんだけどねぇ……」
「安宅船一隻に関船三隻、小早二十隻…… これってどうなの?」
「うーん、海賊退治ぐらいはできると思うよ、たぶんだけど」
「それじゃ駄目じゃないの。何でこんなに少ないのよ?」
「駿府城を落とした時に殆どが逃げた、こればっかりはどうしようもないって」
基本的に内陸国だったこともあり緒方家の人間は海軍音痴である。
その為に多少は船の知識があるフランクを軍団長に据えたという事情もあった。
「じゃあ次、信濃な」
信濃方面軍 八千(海津城)
緒方理奈(軍団長)
河島はるか(副官)
七瀬彰(内政奉行)
信濃方面軍の主な役割は緒方家一の城郭と規模を誇る海津城を使った北陸、北関東からの防備および威圧である。
ただ信濃は南北に長い国なので第二の拠点として深志城に方面軍の三分の一が詰めている。
「内政奉行の職は澤倉さんに任せていたがあんなことになってしまったので、七瀬君に彼女の家臣も含めて
引き継いでもらうことにした。それと理奈にはあっちに着き次第、至急にやってもらいたいことがある」
「何よ? あんまりあっちに行ったりこっちに行ったりするのはもう懲り懲りよ」
「詳しい知らせが届いてないからよく解らないんだけど、柳川家が水瀬領へ侵攻したらしい」
「それは…… でも雪山の向こうのことじゃない、首を突っ込むなんて無理よ」
「いやね、越中方面で敗れた水瀬兵と残党狩りをしていた柳川軍が何時の間にか国境を越えたらしくてちょっとした騒ぎになったらしい。
どれだけ頑張ったか知らないけど、この寒い中ご苦労様って感じだな」
「何ですって!」
「別に数も被害も大したことなかったっぽいんだけどな。これ以上何かあるといけないからよく監視しておいてくれ。
もっとも彼らの決戦はもう終ってるかもしれないけど」
「そして最後に甲斐」
本国防衛軍 三千(躑躅ヶ崎館)
緒方英二(軍団長)
久瀬
予備軍 一万(躑躅ヶ崎館)
森川由綺(軍団長)
篠塚弥生(副官)
観月マナ
寺田信子
日立泉
「先程終った事前協議で千堂家との同盟はほぼ確実となった。あとは文章の交換だけだ。
よって甲斐の守りはこんなもんでいいだろう。由綺ちゃん達には何かあった時の為に予備兵力として甲斐に留まってもらう」
「なるほどね……」
「どうした? そんなしたり顔して」
「……別に」
「ねえ、総兵力を計算してみたんだけど合計で三万三千。今回の戦いで領土は百二十万石前後になったんだからもう少し
動員できないの? 折角大きな鉱山が二つもあるわけだし」
「三方ヶ原決戦で遠江が少々荒れてな、少し休ませようと思うんだよ。それに鉱山の金は別のことに充てたい」
「別のことって何よ?」
「例の部隊の強化に朝廷への寄付、その他もろもろってところかな」
「兄さんの趣味丸出しのあれね…… 確かに考えはいいと思うけど役に立つの?」
「実戦投入しなきゃ解らないけどうちにも欲しいだろ、長瀬家の馬鈴部隊や千堂家の特攻騎兵隊みたいなの」
「そんな不純な動機だったの…… 目眩がしてきたわ……」
「他に質問は……ないな。よし、これで緊急評定を終了する」
「あっ!」
「英二さん!」
評定が終わり澤田真紀子との会談に向かう途中の英二に駆け寄る者が二人。
美濃より帰って来たばかりの由綺と彰の二人である。余程急いでいたのかまだ旅装束のままだ。
「冬弥君と美咲さんのことなんですけど……」
「そんなことある筈がないですよね! だって冬弥には……」
口々に喚く二人に、英二は非情な言葉を返す。
「……残念ながら事実だよ」
「嘘…… 二人ともそんな人じゃ無い……」
「解ってる。俺も信じたくなかったんだけどな。でもね、これを見てくれ。
澤倉さんが書いた内応状。これを見る限りじゃ……」
「……っ!」
「由綺! あ、失礼します!」
走って行く由綺とそれを追いかける彰、そしてそれを見ながら英二は呟く。
「藤井君は幸せ者だなぁ、まだ信じてる人がこんなにいるぞ?」
(でもな青年、君にチャンスが無かった訳じゃないんだ。澤倉さんと逃げずに留まるって選択肢も
無実なのだから死を覚悟してでも躑躅ヶ崎に戻って来ることも出来た筈だろ?
しかし君は行ってしまった。澤倉さんの無実を信じて、残される由綺ちゃん達の気持ちも考えずに)
「そんな君は……由綺に相応しくないんだよ」
動員力は過去ログから三百/一万石としてみました、石高は長篠の戦い時の武田家から。
それにしても海軍の規模って普通はどんなもんなんだろうか?
調べても安宅船=戦艦、関船=巡洋艦みたいなことしかわからなかった。
あら。英二さんったらなぁんて自己中なお人なんざんしょ。捕まったら躑躅ヶ崎に
辿り着く前に闇に葬られるのが確実と思わせておきながら、死を覚悟で戻って来い
だなんて。
これで本当に戻ってきたら「情勢をろくに判断できない大馬鹿だね。
幾ら無実だからって、これだけ濃厚な疑いが有るのに放免できるはずが無いだろう。
君のような間抜けは、やっぱり由綺に相応しくないんだよ」とか言って処刑なさい
ますんでしょ。まず処断ありき。理由は後からついてくるってわけざますわね。
性格が捻じ曲がり尽くし切っていらっしゃいますわ。でもそんな無理矢理な
自己正当化をしないと心の安定を保てないのなら、まだ人間味のかけらくらいは
残っていらっしゃるのかしら。これすらも芝居、演出の類でやっていらっしゃるの
なら、本気で黒ウィツに貴方の破滅を願ってみたくなってきましたわ。
…済まん。最初変な書き出しにしたら全文にわたって変な口調になってしまった。
許せ(笑)
本編でも弥生さんと組んで冬弥を動揺させたり脅かしたり
ああだこうだ理由をつけて離そうとしてたからなぁ。
もしかして本当の目的は由綺だったのかw
>53
水軍規模については(対柳川戦関連で)僕も調べてみたんですが、
……規模を推測させてくれるような資料、ぜんぜん無し。
厳島の戦いに小早川家が6・70隻の船を参加させた、程度のことしかわかんなかったです。
そもそも「水軍」とひとくくりにしてます(ノブヤボ設定だよなぁ)けど、
実際は海からのアガリだけで食っていけた本当の「水軍」は瀬戸内海くらいにしか居ず、
ほかのほとんどの地方では「陸上を支配してる土豪が片手間に海賊稼業」レベルだった、そうで。
そりゃあ信長の九鬼水軍が毛利方の村上水軍の前に惨敗するわけだ……。
本格的な水軍でもない小早川家ですら6・70隻の船を持っていたわけですから、
渡辺家もそれくらいの船を持つ土豪を配下に組み込んでいてもさほどおかしくはなかったでしょうね。
そのうち半数が渡辺家崩壊と共に遁走、残り半分が降伏…といったところですか。
遁走した連中はそれぞれの地元で本来の仕事に戻っているでしょう
(要するに海賊稼業。そもそも史実では「水軍」じゃなくて「海賊衆」と呼ばれるほうが多かった)から、
それをどうするかは英二さんの判断次第ですな。
>>54 「理屈は後から貨車で付いてくる」といった政治家がおりましたな。
その人の地盤は尾張だけど(生まれは美濃)。
確かに身の破滅を願わずにはいられない性格ですが、ライバル・長瀬家と
えげつなさではどちらが上か? なかなか難しい。
葉鍵設定のおかげで非葉鍵勢力の三島水軍(村上水軍)はこの世界では若干
弱くなっている。それでも大庭家の中の人がゲスト出演させた水軍を除くと
最強クラスには変わりない。
江尻水軍配下は史実では今川滅亡後武田に仕えたので、顔ぶれを除けばほぼ
史実通りの展開でしょうね。
藤田家が盟友の来栖川滅亡に一役かったり、長瀬家が協力者であるはずの緒方軍を行く先々で出し抜いたり挑発したり
しまいにゃ冬弥一行を連れて行く。千堂家も同盟組んでる水瀬家の領地を奪ってどさくさに紛れて無理矢理停戦、
宮田家は世話になった高倉家を滅ぼして隠居させてたりする。どの家も相当酷いことやっていて、
むしろ緒方家は長瀬家の謀略に対して受身を取って精々反撃は間者狩りをするぐらいだ。
それなのに一番悪役に見えるのは何故か?
やっぱりWAでの冬弥の敵役として何やっても余裕の態度をとる完璧な大人のイメージの為だと思ったが
緒方家の場合、謀略対象が他家じゃなく身内に対して行われているからなんだな。
これを知られたらオガタリーナに首を刎ねられてしまいます。
戦国時代、身内に謀略をかけるのって、珍しくも何ともなかったけどね。
気のせいかもしれんが、むしろお家騒動がない家の方が珍しいような気がする。
>60
でもこのスレじゃ珍しいっしょ。
史実の大名家は、大概「豪族の連合体」だから
それぞれの豪族は自前の領土と軍を持ってたわけで
可能なら寝返りもOK、領主の血縁かついで内紛起こすのもOK、っていう状態。
そりゃあお家騒動も味方への謀略も起きるわけですよ。 大名家としての統合力が弱いんだもの。
ところがこのスレの「大名」は作品間で区切られているせいで、
戦国大名のような「豪族連合」というより近代以降の国民国家に近い性格になってますから。
自然と、味方を裏切るような行為への風当たりはきつくなる…と。
なるほど。緒方家って今まさに家内統一の真っ最中な訳か。
藤田家だと、まだ統一が必要なまで勢力が大きくなってない。
長森家は未だに豪族連合の域を出ていない。
水瀬家は久瀬という火種は有るものの、既に家中統一は実行済み。
柏木/柳川家は統一できなくて分裂状態。
近江長瀬家は既に家中統一は完了してて他家の取り込みを開始したところ。
紀伊御三家は統一の機運さえ全く無い。
ってわけで、家中統一の暗黒面が一番見えやすいのが緒方家ってことか。
ちょっとだけ英二さんに対する個人的印象を変えることにしようっと。
WA自体が天使出るまで一番分裂しそうでどろどろしていた話だったからね
まさか冬弥の浮気癖を見こして・・・
雑談ばっかでも何なので、投下。
今回はほとんど番外編です。 その割に自分にとっては過去最長ですが。
ちゃぷ、ちゃぷ。
船腹を打つ波の音が、床板を通して聞こえてくる。
昨日の朝に直江津を出て、いまは夕方前。
この調子なら、明日のこの時間には充分御山御坊の門前町に入れそうですね、と
水瀬秋子はつぶやいた。
つぶやいたものの、答える者は居ない。
いま、船は乗員の休憩と補給のために輪島の港に入っている。
正規の船員は荷物の積み込みに忙しいし、
彼女が連れてきたお付きの者も、今は甲板で港の役人と話をしている最中だ。
正確に言えば、今の彼女は「水瀬家当主」ではなく、
直江津町衆から御山御坊への献金を運ぶ早舟の、
その船主の家の使用人、である。
お付きの者は船の護衛のために雇われた武士という扱いで、
現在柳川家と協力関係にある直江津町衆の出した船、ということで
加賀までの船路はそう邪魔されることはないだろう…、というのが、
水瀬秋子の読みであった。
決戦場として想定されている以上、柳川方の諜報網がまだ生きていると考えられ
当然兵たちの気も相当高ぶっているはずの越中国内にはあえて寄港せず、
ひさしく戦乱の声の聞こえない能登、
それも柳川家の本拠から離れ日本海航路の主要港として船の出入りも多い輪島にて寄港、
というかたちで、なるたけ身元がバレる危険を避けた渡航計画。
柳川方が、自分が単身敵地潜入することを想定して忍軍に指示を出していた、とかいうのならともかく
両家の命運をかけた大いくさの真っ最中に、一方の総大将が自ら密使となって陣を離れる、など
まともな知性のある人間なら予想すらしない行動のはず。
まあ、これで自らの手勢四千騎はあの戦では後詰め程度にしか役立たない遊軍になってしまったが、
柳川方が南越後で水瀬軍を殲滅させようと意図している可能性が低い以上、大した問題ではない。
と、「ごとり」と音をたてて甲板へと続く階段の落としぶたが上から開けられた。
差し込む陽光、それを背にうけつつ降りてくる男たち数名。
水夫頭、用心棒、船主のつけた船目付(つまり、町衆の家の雇い人だ)、
そして柳川の紋入りの胴丸をつけた足軽2人。
「このとおり、ここは臨時の船室でございまして、
今は下女ひとりが居るだけで…」
船目付がすらすらと口上を述べる。
「ふん、確かにその通りだな」
「まあ魚心に水心ってのもあるけどなぁ、ひゃひゃ」
柳川兵二人の反応。
「……おつとめ御苦労様です」
その言葉に、船目付がそっと懐中から小さな包みを出し、兵士に握らせる。
「うむ、問題なしだ」
「だな」
「ありがとうございます」
…これで、検問突破。
乾坤一擲の大勝負にすら連れて行けないような兵では、やはりこの程度ですね…と思いつつ、
秋子も「ありがとうございます」と兵二人に頭を下げる。
勘働きも鈍く、士気もあがらない。
上陸地での検問も、ここ輪島での通過証を見せれば問いつめられることはまず無い。
今回の行程でもっとも危険な瞬間は、過ぎ去ったのだ……
柳川兵が船を降りた後も、まだ船の準備は続く。
出港は明朝早くの予定だから今夜はまだ時間がある、と
船目付、用心棒、下女の三人は陸に宿をとることにした。
だが、秋子ですらその行為が、
「危険な場所は抜けた」という気のゆるみに自分たちすら絡め取られていたことの結果だとは、
我が身に危険が降りかかるまで気づけなかったのだが……。
「主人」と「用心棒」に宿の手配をさせている間、
秋子はひとり、茶屋で休んでいた。
日暮れの近い町、通りを歩く人々もそれぞれに足早に家路を急ぐ者ばかり。
戦の士気、政の監督、そのようなことばかりでろくに外を出歩かなくなってしまった最近の自分を思うと、
思い出すのは新婚の頃の、小さな土豪の妻として過ごした日々のこと。
郎党の妻子たちとのかしましいおしゃべり、時に自ら町に買い出しに出かけたり、
下半身の話やら何やらの上品とは言いづらい馬鹿話をしながらの洗濯、
口喧嘩、戦のときのそれぞれの夫の帰りを待つ顔、
喜びも悲しみも共に分かち合って生きていた、豊かとは言えないけれど寂しくはなかった日々。
夕刻になって帰ってくる夫に、ねぎらいの言葉をかけたときの嬉しそうな顔。
毎日の夕餉にひとつだけ手製の献立を混ぜていたのを分かってくれていたときの、あの嬉しさ。
……すべては、一本の流れ矢に打ち砕かれた、夢。
と、秋子を我に返したのは、外から聞こえる子供の泣き声。
「あらあら……どうしたの?」
「か、かか、かかさま(母様)が……」
店の外に出て様子を見てみると、泣いているのは四つくらいの男の子。
家路を急ぐ人の波、他に気にする人もいないようだ。
「うんうん、かかさまがどうしたの?」
「……いない」
「っていうと……んーと、かかさまとはぐれちゃったのかな?」
「……」こくり。
「最後にかかさまと一緒に居たのは、どこ?」
「んとね、んとね……あっち」
「そうなの……うん、じゃあちょっと待っててね?」
さっと店の中に戻り、支払いと言づて−宿が閉まった後は船に戻ります−を頼む。
懐の銭で小さな飴を買い、再び外へ。
ぐずりながら動かず待っていた男の子。
「うん、よく待ってたね、えらいえらい」
飴を口中に含んだ男の子の頭を撫でてやると、そのうち落ち着いてきたようだ。
「じゃあ、おばちゃんと一緒に、かかさまを探しにいこうか」
「……うん」
手を引いて歩き出す。
男の子が母親とはぐれた場所は、どうやら一区画離れた魚屋の前のようだった。
ほんのわずかな時間手を離していた間に、男の子が何かに気を取られて歩いていってしまい、
雑踏に紛れて分からなくなってしまった、ということか。
ありがちといえば実にありがちな迷子だが、えてしてそういうことほど実際に起こるもの。
一瞬気をそらしてしまった母親、そんな瞬間に限って他のモノに気を取られてしまった男の子。
どっちが悪いというわけでもない。単に巡り合わせの問題だ。
そして、いろいろ物騒なこの時代、
その巡り合わせがそのまま親子の別離につながりかねないというのも、あながち冗談ではない。
こんなお節介を焼いてる場合ではない、というのも事実ではあるが、
ひとりの母親としてこんな状況を見過ごせるわけもないし、見過ごしたくもなかった。
既に閉まった魚屋の前でしばし待つ。
こういうときは下手に動き回るとかえって見つからないものなのよ、と
不安がる男の子の手を握ってやりながら、ゆっくりと話しかける。
それから小半時ほどの時間を経て、やっと両親らしき男女が戻ってきた。
髪を振り乱し息もあがり、そうとう走り回っていたのが一目でわかる。
安堵で泣きじゃくりながら抱きつく我が子の背中を撫でつつ、何度も何度も礼を言う母親。
職人風の父親も、「何かお礼をしなくちゃあ…」と恐縮することしきり、だ。
数刻ぶりにそろった家族三人が、我が家へと急ぎ足で夕闇の中に消えていく。
「おばちゃん、ありがとうー」と、父親の背中で手を振り別れを告げる男の子。
それを見送りながら、秋子はたしかに寂しさを覚えていた。
私はいったい、何をしているのだろう……と。
善事の後の満足感より、そうした我が身への寂しさが勝る自分の心根に、
秋子はふかくため息をついた。
茶屋へ戻るべく、通りを歩く。
人並みもとぎれがちな時間、日もほとんど沈み、西の空がわずかに赤みを残すばかり。
南越後に帰れば一国を統べる領主であっても、ここではただの女。
わずかな不安を映したのか、無意識に早まる足。
それが……すれ違いかけた足軽たちの刀の鞘に、小袖の端をひっかけることに繋がるとは、
当の本人も思ってもいなかっただろう。
「あ…」
「おい、何しやがる、このアマ!」
鞘を引かれて転びかけた足軽が、振り向いて怒鳴る。
「も、申し訳ありませんっ!」
取り急ぎ頭を下げる秋子。しかし兵たちはそのまま彼女を人垣で囲む。
右手は商家の板戸、他の三方を四人で囲み、じりじりと近づいてくる。
「すみませんでした、私の、不注意で……」
「んーぁ、つまりお嬢ちゃんが悪いってぇことなんだよなぁ、ん?
俺たち柳川の兵が頑張ってるから能登国は平和だってぇのに、とんだことをしてくれてよぉ…」
「え、あ、その」
「……悪いって思ってるんならなぁ、ちょいとつき合ってもらえねーかい? ほらよぉ、いいとこ知ってるんだからよぉ……」
「い、いいとこ…って」
「ちょいと歩いてもらうけどなぁ、みんなが楽しくなれる茶屋だって、なーあ?」
「へへ、そうそう」
「酌だよ、酌してもらうだけだからよー?」
「……」
こいつらが自分を連れ込もうとしている場所が、普通の「茶屋」でないことはすぐ分かる。
いわゆる連れ込み茶屋……場所代と飲食料を取って、後は中で何が為されようが知らぬ存ぜぬの場所。
あるいはこいつらはこういったやり口で暇を潰すのを、しばしばやっているのかもしれない。
領主の兵に乱暴されたからといって、普通の名も無き女性が訴え出ることなど出来ようはずもない、
そういう立場を利用して悪事を重ねているのではないか……
そうとすら思えてしまうほどに、連中の行動には躊躇が無かった。
回りを囲む兵たちの下卑た視線が、自分の衣類の下の肉体を品定めしているのが嫌でもわかる。
助けて、と大声を上げられるならそうしたいところだが、それを許さぬ我が身の立場。
兵のひとりがとつぜん伸ばした手。 もつれかける足でそれをかわすが、どん、と背中が戸板に当たった。
「おいおい、お嬢ちゃん? 大きな音立てたらお店のヒトに迷惑でしょー?」
と、二の腕をぐいと掴まれる。
あっ、と上がりかかった悲鳴は、しかしその腕が思い切り前に引かれたことでかき消されてしまう。
男の力で振られた身体、恐怖にもつれる足はそれを支えきれず、
秋子は地面に腰を落としてしまう。
「さあ、そんじゃあ楽しいトコに行こうかねぇ……」
舌なめずりしながら近づいてくる、男の手。
「(こんな、所で……っ)」
脳裏に最悪の展開がよぎり、下唇を噛む。
……と、その時。
「こちらの侍は、若い女を拐かすのが仕事なのかな?」
兵たちと地面に倒れた秋子の間に、割って入った男、一人。
「なんだ、この野郎!」
「俺らに邪魔する気かぁ?!」
「……あまりにもお前達の非道、目に余る」
「っ……ざけんな!」
割って入った男に、兵たちは飛びかかる。
「あ、危ないっ!」
秋子が思わず声をあげようとした、その刹那。
男は長い黒髪を翻して一人目の兵をかわし、背中を手に持った「何か」で撃つ。
とびかかる二人目の兵の眉間を、「何か」で強打。
さらに襲いくる三人目の肩口を、さらに強打。
そして最後の兵の腕を後ろ手に極める。
ここまでわずか一・二秒、畳水練ではない、実戦で鍛えた動きだ。
男は腕を極めた相手に、背後から問いかける。
「どうする、まだやるか?」
「……ま、参った」
「よし」
そして、男は秋子のほうを向く。
黒髪の陰に隠れていた顔、その顔を見たとき、秋子は少し驚いた。
白い仮面。 顔の上半分を覆い隠す、白い仮面だ。 角がついているせいか、鬼の仮面にも見えないことはない。
だが、不思議と秋子は男のそのような奇妙な出で立ちにも、さほどの恐怖は感じなかった。
理由はひとつ。 男の目だ。
さっきの柳川兵たちの、酒と獣欲に澱んだ目とは、まるきり違う。
仮面の下からのぞく男の目は、知性の光とあたたかさを兼ねそなえた、一人前の男の目、だ。
「ああ、そこの娘さん…」
「……」
「……あの?」
「……え、私ですか?」
「一応そのつもりなのだが。 済まないが、少しだけつき合ってもらえないか。 こいつらに仕上げをしておきたいのでね」
「……?」
「ああ、大丈夫だ。手間は取らせない」
「……りょ、了承……です」
普段なら一秒で出るはずの台詞が乱れがちなのは、まだ動揺が収まってないせいなのだろうか。
男が茶屋に兵たちを連れ込んでやらせたのは、要するに「手打ちの酒」だった。
「女将、しかと見といてくれ。
このお侍さんたちがこのお嬢さんにお酌を頼んだ、で、お嬢さんが酌をした、それで終わりだ、とな。
ここの酒代は私が払っておいてやろう、それで遺恨なし、全て水に流す、ということで。
……文句は、無いな?」
「……」
「……」
「返事は?!」
「へ、へいっ」
ぶたれた所をおさえつつ、弱々しく答える兵たち。
「よし。 …じゃ、お嬢さん」
「あ、あの……」
「どうしました?」
「『お嬢さん』と呼ばれるのは、ちょっと」
そんなに若くないんですから、と続けるつもりだったが、男は何を早のみこみしたのか、
「ああ、確かに失礼でした。申し訳ない。 ……じゃ、あなたのお名前は?」
「……あき、と申します」
「じゃ、あき殿、誓いの酒を」
「はい」
促された秋子は、兵たちが手に持たされた杯に酒を注いで回る。
さきほどの獣の目をした彼らは恐ろしかったが、こうやって大人しくなっていると普通の人、だ。
ひとりめ、ふたりめと目を見て安心したのか、最後の一人には酒を注ぎつつ
「…もう、あんなことはしたら駄目ですよ? 主君の名誉も台無しになっちゃいますからね」
などと、いつもの笑みを取り戻してかるく小言まで言う始末。
それに兵が「…はい」なんて頷いてしまったりするものだから、
一行が入り込んできたときにはかなり強張った茶屋の中の空気も、一気に和らぐというもの。
そして、秋子はこの回りくどい儀式の意図にも気づいた。
茶屋の人間を証人にして、今回のいざこざが後を引かないようにすること。
手打ちという形を取ることによって、柳川家の兵たちに最低限の面子は保たせてやろうということ。
それは恐らく、自分をこの町か近隣の住人と見て、
次にこの町に出入りするときに報復されることがないように、という配慮でもあるのだろう。
この奇抜な出で立ちの男は、案外と大人の配慮がある男のようだ。
兵たちが店を辞去した後、男は秋子にも言った。
「いろいろ手間をかけさせて、済まなかった。
本当ならあのような連中の側になど居たくもなかっただろうに、あなたには辛いことを…」
「いえ、それなりに面白かったですよ?
あの人たち、すっかり怯えてしまっていて、さっきの怖さがすっかり消えてしまってましたし。
……そうそう、あの人たちだけじゃなくて、あなたにも、ね?」
手中の徳利をかるく傾け、男に酒を勧めるしぐさをしてみせると、
「そうですか、それでは私もあなたの酌にあずかりましょう」
と、男は笑った。
騒がしい茶屋の片隅の机で、差し向かいにさしつさされつの酒。
周囲の喧噪とかけ離れた、えらく穏やかな光景だ。
男は秋子に「ハクオロ」と名乗る。
姓はない、との言葉から、彼がみちのくの民であることを秋子は悟った。
失礼ですが、と前置きしつつ、みちのくの民は皆異形の姿をしていると聞いていましたが…と尋ねる秋子に、
ハクオロは、私も家に帰れば異形の姿なんですよ、と笑ってみせた。
「…それで、みちのくの民は、その、普通は…」
「和人の住む土地には出てこない、と、そう思われますか?」
「……はい。重ね重ね失礼ですけど」
「飢饉、です」
「飢饉?」
秋子にとっては意外な言葉だった。
先年、一昨年と越後では気象に恵まれたことからかなりの豊作であり、
それがゆえに先の久瀬戦からの一連の戦争を賄いえたのだから。
地理的にはさほど離れていないみちのくで飢饉、というのは、
秋子の考える外のことであったとしても彼女を責められまい。
男は続ける。
「去年の頭に大きな噴火がありましてね。それと夏の大雨、嵐。
おかげで私たちの主食である、モロロの出来が酷かった。
また、納租のためにコメを栽培している地方もあるのですが、
それもこのところの出来が芳しくないのです……」
「……つまり?」
「村の住人に頼まれて、ね。
何かしら食えるモノを買い出してきてくれぬか、ということなんです。
船の調達、途中の水軍衆への通行料の支払い、苦労しましたが…」
「お金のままではお腹はふくれない、ということですね?」
「ええ。幸い、私はこの姿ですから、まだ比較的和人にも受け入れてもらえる」
「……」こくり、と頷く秋子。
領主の娘として時にみちのくの旅商人を見かけたこともあり、彼女自身はそうでもないが、
みちのくの民に対してはやはり根強い忌避感情が民の間にはある。
鳥獣の姿と混ざったヒト、翼の生えたヒト、では、
民がその存在に恐れおののき、それが差別感情に転化するのを止めるのも難しい。
「まぁ、そういうわけで、村の動かせる金をはたいてここまで買い出しに来たのですが、
この度、水瀬家と柳川家との大いくさのせいで全体的に相場の値上がりが進んでしまって」
「……お困りなんです、か?」
「正直に言えば、その通りです。
戦があれば商人たちが値をつり上げる、のはどこでも変わりませんが、
和人に似ているというだけでは、なかなか交渉も上手くはいかないもので……」
「……」
「いや、こんな愚痴で耳を汚させてしまって申し訳ない。
あき殿のような綺麗な方に酌までさせておいて、その上愚痴まで聞かせては沽券に関わります」
「……い、いえ、そんな」
「どちらにしろ今夜はもう米問屋も閉まったあとで、考えてもどうにもならんのです。
忘れてもらえれば有り難い」
「……はい」
秋子は、わずかに目を伏せた。
半刻ほどの後、「船目付」と「用心棒」が茶屋の暖簾をくぐってきた。
二人と目が合った秋子は、ハクオロに「連れが戻ってきました」と告げる。
「そうですか、それはよかった。
あなたと話せた小半時、楽しく過ごさせてもらいましたよ」
ハクオロは微笑う。
「……いえ、そんな。
危ないところを助けていただいて、大したお礼も出来ず……」
「いえ、美人の酌で落ち着いて一献傾けられれば、あの程度のことの礼には充分ですよ」
「……あの、ちょっと待ってください、ハクオロさま」
「……?」
秋子はさっと席を立つ。
そして「船目付」から紙と墨を借りてさらさらと何かを書いた。
その書き付けを懐紙で覆い、飯場からもらった笹の葉で包み、懐中から紫と桃の二色織りの紐で縛る。
出来あがった封書を、秋子は「私のお礼です」とハクオロに渡した。
「これは?」
「これを直江津の町の、福永という商人に渡してください。
なるべく急いで、出来れば今旬の間に」
「……しかし」
「あと、中は絶対に見てはいけませんよ? 紐もほどいちゃ駄目です。
……悪いことは、言いませんから。ね?」
「い、いや、その、私は……」
「ね?」
「……その」
「ね?」
「……はい」
目の前の女性の、奇妙な迫力に頷かざるをえないハクオロ。
「楽しかったです」と深々と頭を下げ、連れと共に茶屋を出て行く女を、
半分呆然と眺めて見送るしか、彼には出来なかった。
翌々日、言われたとおりに直江津町衆にその封書を渡したハクオロは、
あまりにも予想外の結果に驚かざるを得なかった。
封書の紐自体、水瀬の家の公文書にしか用いられぬ紐であり、
その書状の中身はこうなっていた。
「代金は水瀬家の支払いで、米三百石を買い上げるものなり。
この封書を持参した者の指示に従い、購入した米を運ばれよ。
なお、輸送にかかる費用は水瀬家が全額支払うものとする
水瀬秋子 花押」
そして封書の付記に、
「私のことは、この家の使用人だとでも言っておいてください。
国主である私ではなく、ひとりの女子として私を助けてくれた方なので」とあるのを、
あの雌狐も、案外とお遊びが好きなのだな、と、読み手の福永某は笑っていただろうことは想像に難くない。
船腹に満載の米を積んだ、行きに倍する船を率いて故郷に帰る間も、
ハクオロの表情から狐に摘まれたような部分が消えることは無かった。
が、それはまた別の話であり、別の刻・別の場で改めて語ることにしよう。
前半後半に分けて日を改めることも考えましたが、
前半だけ読んだヒトに痛くもない腹を探られるのも嫌なんで…。
ハクオロは出しはしましたが、当分こっちに絡む可能性は無いです。
秋子さんには秋子さんの戦いが、ハクオロにはハクオロの日々がある。
もしかしたらこのまま二度と会うことなく死ぬのかもしれません。
…タイトルは、そういう意味です。
>>54 >>57 やっぱりそう思いますよね、自分でも驚くばかりの悪役っぷりです。
けど実は当初の思惑とは180度逆の方向に進んじゃてるんですよ、これ。
ここに書くのもなんですんで今は使っていない外部の中の人専用に詳しいこと書いておきました。
あくまで裏設定なのであんまり気にしないでくださいましな。
>>79 秋子さん、御山御坊まで行って栞達の救出をするつもりなのかな?
ハクオロの面で能面とか般若の面を想像してしまった。
正体を疑われたら「能役者です」とか
>80
大丈夫、秋子さんは栞がどこに居るか知りません。
そしておいらも栞にはもうちょっと柳川の陣営に居てもらおうとか思ってたりします。
彼女にはやってもらいたいことが少々あるので。 今のうちに。
しかし中の人が居るトコを相手にすると予想外の展開とは起きるもの、で…。
リレーSSの醍醐味とはいえ、怖い、怖い。
ようやく何故、冬弥達が水瀬領に行くことになっていたのか、
途中で何回か奪い合いになっていたのかわかりますた。
そのころは『中の人がいる大名家の行動』についても特に話がなかったからね。
>>81 緒方・宮田は「分かりやすいワル」であり、長瀬祐介・藤田は「分かりにくいワル」
に見える。後者はやっていることのえげつなさ(特に藤田家は同盟国の人間を殺した
唯一の大名家)に比べ、一見ワルに見えない。保科、千堂は中間あたりで、
水瀬はこの面子ではむしろ善良。そしてお馬鹿な大庭、岡田(笑)。
緒方家は締め付けを強めれば強めるほどどこかから不満が漏れそうな状況に
なっているし、宮田家は言い訳が利かない状況。「博多襲撃はただの嫌がらせの
つもりだった」といわれて素直に受け取る人間はいないだろう。まあこっちは
気が付けば江藤家になっていそうだが。
藤田家はこの状況で来栖川綾香を保護したのは鉄面皮にも程があるが、仮に
犯行がバレてもいつの間にか丸め込んでしまいそうだ。
84 :
83:03/12/07 17:21 ID:V+2tnIJr
間違えました。
>>81は
>>80さんの誤りです。
ついでに81さんの感想は同意です。中の人同士の知恵比べ。
………膠着状態になると揚げ足取り比べになりますが。
300石という微妙な数字がいいですね。
そろそろ神奈様キボンヌ
大名思考中
思考中
おお、生きてた
ここいらで何の意味もなく祐介の性格問題のSSまだー?と聞いてみる
91 :
長瀬の人:03/12/10 08:27 ID:GF0OExT7
>90
現在書いている最中ですので、もう少しだけ待って下さい……(汗
半分は書き終えているので……
なう ろぉでぃんぐ
それでは漏れは柏木―那須まだー?と聞いてみる
すいません、柏木パートは忙しくてぜんぜん書けていません。
書きたい人がいるなら中の人チェンジも構いませんよ。
師走でみんな忙しいんですよ・・・リアルで。
こちらもまだ紀伊と東北半分だ・・・
96 :
名無しさんだよもん:03/12/11 14:35 ID:IDrw2+2c
そんなことより誰彼キボンヌ
みんなそれなりに忙しいんだよ。
葉鍵戦国スレでは中の人を常時募集中です…?
てすと
夜襲による交戦の後、フレイ軍は加治木城には入らずに再び森の中に姿を消し、
一方のラントール軍は少し南に動いて周囲を見渡しやすい場所に陣を構え直した。
かくしてここ数日間、ラントール軍と加治木城のシオン軍、見えないフレイ軍との対峙は
表面的には特に何事も起こらず、しかし緊張を孕んで続いていた。だが、その睨み合いは
ほどなく断ち切られることとなった。思わぬ知らせが鹿児島から届いたのである。
「何だって? 撤退!? どういうことなんだよ」
「どうもこうも、閣下直々の御命令ですからな」
「ちょっと待ってよ。確かにこの前の夜襲で多少の被害は出たけど、こちらの
優位が揺らぐようなものじゃないだろ?」
「いや、こちらとは関係ない話なのですよ。実は、坊津で暴動が起こったようでしてな」
「そんなの僕達の知ったことじゃないよ。一揆の類くらい何度も封殺してきてるでしょ、
ラントール家は。地元の代官あたりに任しとけばいいじゃないか」
「いや、それが、いきなり代官所が制圧されたらしくてですな、当然鹿児島から
軍が派遣されたようなのですが……」
「ひょっとして、やられちゃったの?」
「面目ない。そのまま枕崎まで制圧されてしまったとのことで」
「なるほど。それでこの軍が必要になったと……」
「では早速転進させて頂きますぞ」
「ちょっと待った。どうやって撤退するつもり? 敵はあのギースだ、長い距離じゃない
とは言え、簡単に撤退できるなんて思わない方がいい。敵地からの撤退戦は難しいんだ」
「それではウィル殿はどうお考えで?」
頷いたウィルは作戦を説明し始めた。それは単なる撤退というには技巧的に過ぎる
とも思えるものであったが、自信に溢れたウィルの態度と理路整然とした説明に
ラントール軍の指揮官達も次第にその気にさせられていった。
(何よりこのままやられっぱなしという訳にはいかないからね。)
「じゃあ撤退開始は明日の夕刻、今夜は作戦の準備を。絶対気付かれないようにね」
「ギース殿、ラントール軍が動いたわ」
夕刻、ラントール軍の動きを確認したティリアは、フィーユを監視に残し、
急いで加治木城のギースの元を訪れた。
「ほう。どう動きましたかな?」
「それが、全軍挙げて南西に動き始めたのよ」
「南西? なるほど。それなら撤退か罠か、どちらかですな」
「やっぱりそうよね。で、ギース殿はどっちだと思う?」
「まず戦況を見ますに、常識的にはこの状況での撤退は考えにくいですな。ただ……」
「ただ?」
「相手がラントールというのを考えなければなりませぬ。トゥル43世は気紛れな人物。
戦局より自分の感情を優先させることがこれまでもしばしばあったことはティリア殿も
ご存知の通り。それに、民草の不満がかなり高まっていると聞きますし、国元でいつ
何が起こっても不思議ではありませぬ」
「う〜ん。ある意味厄介な相手よねぇ」
「次に戦術面から考えてみますと、もし罠だとすれば、それはこちらをおびき出しての
反撃か、油断を誘って備えを解いた所への反撃が目的でしょう。ただ、こちらが
警戒して動かなければ全くの無駄です。逆に撤退だとすれば、相手が警戒して
動かなければそれはそれでいい。そう考えれば、開戦間もないこの時期に相手が
引っ掛かるかどうか怪しい罠のため全軍を動かす可能性より、急に撤退が決まったため
全軍を動かさざるを得なくなった可能性が高いでしょう」
「なるほど」
「それで、ティリア殿はどうなさるおつもりじゃ?」
「そうね。罠なら無視、撤退なら追撃が正しいんでしょうけれど、私はどちらでも敢えて
地の利を生かしてみたいわね。動機はどうあれ、敵が動いた今こそ仕掛ける機会だわ」
「ふふ。実はわしもそう思っていたのです。今回の敵の性格を考えても、やはりこの時期に
この動き方は十中八九撤退でしょう。そして、今回の敵なら、たとえ撤退だとしても
何らかの罠が仕掛けてあるはずです。ですが、それは我々にとっても一つの機会。
敵の罠を逆手に取ることが出来るかもしれませぬ。地の利はこちらにありますからな」
「それで、その罠はどこだと見る?」
「別府川、ですな」
加治木城南の陣地を出たラントール軍はゆっくり南西方向へ移動していた。まずは錦江湾に
沿って走る街道まで出て、そのまま重富方面に向かう。竜ヶ水を押さえている今、重富まで
辿り付けば鹿児島までは邪魔が入ることなく撤退できる。加治木から重富までは二里余り、
急げば一刻かからない距離である。しかし、ラントール軍は敢えてゆっくり移動していた。
「敵襲だ!」
突如怒号が響いた。後尾からフレイ軍が襲い掛かって来たのである。
「やっぱり来たね」
それを聞いたウィルは笑みを浮かべると自ら殿の部隊に指示を出した。
「交戦しつつ後退! 上手く引き付けてよ」
フレイ軍は最初に矢を射掛け、かつ間髪を入れずラントール軍に突撃してきた。
その先頭に立つ青揃えの若武者はラントール兵と真っ先に槍を交え、即座に数人を
打ち倒した。この隊を率いるフィーユである。しかし、フレイ軍の襲撃を予測していた
ラントール軍もウィルの指揮ですぐに反撃の態勢を整え、フレイ軍を迎え撃った。
ウィルが指揮するラントール軍の殿に配されていたのは、竜ヶ水陥落時に重富から
背後を襲った軍中屈指の精鋭千余名であり、この黄昏時の戦でも落ち着いた戦い振りを
見せた。しかし、フィーユ率いるフレイ軍五百名は武勇の家の名に恥じず、先頭で戦う
フィーユその人を筆頭に個々の強さでこのラントールの精鋭をも上回り、数の差を
カバーして互角の戦いに持ち込んでいた。後尾でこの精鋭同士の激しい戦闘が続く中、
一時移動を止めていたラントール軍の本体は行軍を再開し、ゆっくり西へ動き始めた。
「よし、ここからが腕の見せ所だね」
姶良郡の平地を流れて錦江湾に注ぐいくつかの川のうち、別府川は最も広い河口を
持っている。その別府川と街道が交差する長い橋を万余の軍勢が渡っていた。
その軍勢の最後尾では、先刻からの戦闘が未だ継続していた。ラントール軍の殿は
引きつつ強敵と戦うという難題にかなり消耗を強いられていたが、何とか戦線を維持
していた。やがてその戦闘が橋の上に差し掛かったのを確認し、ウィルは声を張り上げた。
「よし! 全速で渡れ!」
その声を聞いてラントール軍はばらばらと走って橋を渡り出したが、一方のフィーユも
その動きを見て指示を出した。
「全軍全速後退!」
フレイ軍のその動きにウィルが顔をしかめた。
「しまった! 読まれたか。まあいい、まだ間に合う。鉄砲隊! 橋の東を狙え!」
橋の下から銃声が轟いた。そして叫びが響いた。橋の西側に。
「ぐぁあああああっ」
「ば、馬鹿な! どこを狙っている!」
絶叫と怒号の中、ウィルは顔を青ざめさせた。
「まずい! 全軍全速で前進! 一刻も早く重富へ!」
ひとしきりの銃声の後、河川敷の草叢から立ち上がった兵達が掲げるはシオン家の旗、
その前で指揮する老人こそがこの戦で初めて動いたシオン家家老ギース・デルムであった。
「フィーユ殿、よくぞここまで時間を稼いで下すった」
そして、一度引いていたフィーユ隊がラントール軍に再び突撃してきた。
銃撃で混乱し、更に全速撤退の指示が出たこの状態のラントール軍には、最早
フレイ軍に立ち向かう気力は残されていなかった。青の戦士が無人の野を行くが
如くラントール兵を薙ぎ払い、続く猛者達も若き指揮官に遅れるなとばかりに
槍を振るう。数ではるかに劣る敵兵に後尾を蹂躙されつつ、しかしウィルは敢えて進軍を
ひたすら急がせた。別府川から重富までわずか一里、もはやなりふり構わず逃げるのが
最も被害が少ないと見たのである。遅れる兵は容赦なく置いて行き、敵への壁とする、
その非情な方針を貫き、重富に到着したときには何とか敵と距離を取れていた。
「ふぅ。伏兵を先に襲われるとはね。ギース・デルム、本当に恐ろしい男だ。
……くくく。だけど、まだまだ甘いね。ここに兵力を配置していないとは」
刹那、北方から馬蹄が響いた。
「ここが勝負! みんな、行くわよ!」
先頭に立って号令をかけた戦士が高らかに名乗りを上げる。
「我が名はティリア! 音に聞こえしフレイ家が嗣子なり!
我と思わん者はかかって来なさい!」
既にラントール軍に抵抗力は残されていなかった。ティリア率いるフレイ軍の猛攻の中、
見る見る討ち減らされて行く。やがて、フィーユの部隊も追い付いてきた。
それはもはや戦ではなく、ラントール軍が一方的に袋叩きにされるだけだった。
「くっ。まだだ。後一手残ってる。みんな急げ! 急いで竜ヶ水に向うんだ!」
多大な被害を出しながら、ラントール軍は崖と海に挟まれた隘路に向かって退却していく。
「ここまでね。追撃やめ!」
隘路に入る直前、フレイ軍はティリアの号令で動きを止めた。
「馬鹿な! 何故追って来ない!!」
隘路の山側に伏せられたもう一隊の鉄砲隊は、結局働きの場を得ることはなかった。
この撤退戦で、フレイ軍、シオン軍の戦死者はどちらも十数名、対するラントール軍は
死者、脱落者合わせて三千名を超える記録的惨敗となった。結局この出兵でラントールは
要衝竜ヶ水を得たものの、四千名近い損耗を出したことになる。この失敗はラントール家に
とっての致命傷の一つとなった。ただし、シオン家にとっても、この戦で竜ヶ水が取られた
ことは大きく、やがて滅亡の原因の一つとなるのである。一方、ティリアとフィーユはこの一戦で
武名を上げ、フレイ家の武勇はサーゼのみにあらずということを強く印象付けることとなった。
深夜、錦江湾上に浮かぶ小舟の上で年端も行かない少年が一人櫂を漕いでいた。
全身を赤く血で染め、疲労の色が濃いが、それでもその目には不敵な光が宿っていた。
と、その少年の前に、海上、深い闇の中から白い影が浮かび上がってきた。
「キーッヒッヒッヒ。ウィルよ、大口叩いておいて随分な状況ではないか。
折角このワシが手助けしてやったというのに」
「またお前か。うるさいなぁ。へぼどもが勝手に撤退しちゃったんだからしょうが
ないよ。大体手助けったって桜島のシオン軍の件を教えてくれただけじゃないか」
「じゃがお主があ奴めらに完敗したのは事実じゃ」
「だからどうしたんだよ。そもそも撤退が決まった時点でシオンを潰すのは不可能に
なってる。ラントールがどうなろうがあんたには痛くも痒くもないだろ? 僕と同じでね」
「だから逃げてきたんじゃな」
「違うよ。あいつらが僕を消そうとしたんでね」
「無能者には適切な対応じゃろうな」
「だから違うって。僕達と奴等の契約はシオンとの戦だけ。それを、暴動の鎮圧如きに
僕を使おうとするから当然断ってやったんだよ。そしたら……」
「ふむ。内情を知り過ぎたということか。なるほど。その血は返り血じゃったか」
「当たり前だよ。ラントールのへぼ兵士共程度でこの僕を何とか出来るわけないだろ」
「まあ道理じゃな。で、これからどうするつもりじゃ」
「お前がどう考えているかは知らないけど、僕は教会の一員だ。それに従うだけだよ」
「その教会の一員がワシらに手を貸すとはのう」
「勘違いするなよ。僕はお前たちに力を貸したつもりはない。ラントールと教会の
契約に従って戦っただけだ。お前はシオンが目障りだったから僕にあの情報を持って
来たってことだろ? 僕はその情報が有益だったから利用したまでで、単なる利害の
一致に過ぎない。そもそもお前は僕ら教会、いやこの国の民全員の敵だ。
何だったら今ここでこの僕が潰してやってもいいんだぞ?」
「キーッヒッヒッヒ。無駄じゃ無駄じゃ。お主如きにこのワシをどうにか出来ると思うてか。
それにワシにはわかるぞ。お主はどちらかと言えば教会よりワシらに近い人間じゃ。
そうでなければワシの正体を知っていてなお話を聞こうなどという気を端から
起こすはずがないわ。結局お主は戦そのものを楽しんでいるだけなのじゃ。
見える、見えるぞ、ワシらに従ってこの国の民全てを敵に回し、嬉々として戦うお主の姿がな」
「舐めるな! この悪霊が!」
ウィルはゆらりと立ち上がると影に向かって目にも止まらぬ速さで剣を一閃させた。
少年の体格に似合わぬ恐るべき剛剣を受けた影は一瞬揺らめき、そして消えた。
「まあそう怒るな。お主が竜ヶ水を取り、シオンの力を削いでくれたことにはこのワシも
感謝しておるのじゃからな。シオン家は遠からず破滅する。このワシの手によってな。
いずれお主が我らの元に来る日、楽しみにしておるぞ。キーッヒッヒッヒッヒッヒ…………」
邪悪な笑い声はなおしばらく響いていたが、やがてそれも消え、後にはただ深い闇が残った。
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ウィルに関してはNW本編と Bungle x2 の情報から、有能だが倫理観に欠ける、
バトルマニア、無邪気な少年タイプという感じで書いています。最初はちょい役の
つもりだったのデスが……。次回は雀鬼一家のラントール攻略戦の予定。
教会……。この時点のウィルって月教所属なんすか?
このウィルと高槻が協力関係にあるとすると……。
…………(考えている)。
…………(どんどん考えている)。
…………(どんどんどんどん考えている)。
;o;(怖い考えになってしまった)。
107 :
105:03/12/14 23:09 ID:HN52Zy87
>106
ウィル君の所属に関しては、一応切支丹を想定してます。
資金援助と引き換えに優秀な軍事顧問を派遣するという契約ですね。
月教も考えたんですけど、それではウィル君がやり過ぎで
追放なり幽閉なりされるという感じの展開がやりにくいので。
というか御指摘の通り普通に高槻と意気投合しそうだし……。
彼はあくまで意図せざる疫病神ということで。
乙、まとめサイトに載せていもいいかも。
次回更新時にぜひ。
普段はROMしている者です。
SRC(シミュレーションRPG作成ツール)で、日本地図を舞台にした
葉鍵キャラ出演のシナリオを試作してみました。
各キャラの配置は、だいたい葉鍵の野望に準拠しています。
微妙にスレ違いかもしれませんが、反応があればデータをうpして
みるかもしれません。
そりゃ、うp希望。
お願いします
俺も作ろうと考えたことがあるが挫折した。城作成が意外と難しくて。
俺の分まで頑張って下さいと勝手に応援してみる。
うp希望です。
113 :
110:03/12/16 01:31 ID:NYBKEx7Q
これはもう…GJ!!というしかない。
つーか、あの音楽と共に、全キャラが登場するシーンはちょっと壮観。
では、早速徹夜でプレイしますわ。
物凄い勢いで霧島姉妹が長瀬に殲滅されとります。
これで今まで出てきた戦いを作ったら面白いんじゃないか?
長瀬で進めてみました。
修羅モードの九品仏と住井天翔に悩まされ、必殺の破壊爆弾。
…味方全滅だよ、畜生。
マップ兵器は使いどころが難いですね。
数値から観たら葉サイドはえらく攻撃力が小さいと思ったら、
実際はそれほどでもないというか鍵より強いですね。
どうなってんだろ…?
長瀬イージーモードをクリア。
面白かったです、マジ感謝。
祐介&拓也の電波攻撃は強力だけど、地理的に西と東で強国同士に挟まれるのが厄介でした。
柏木勢の助っ人に耕一が出るかどうかが勝負の分かれ目かな?
耕一&拓也のコンビで、東鳩勢の蹴散らしました。
取り敢えずやってみた。
顎とセフィロスに爆笑。
開発版でやったら、激怒と友情・愛で敵と中立ばかり有利になる。
しかも、城取りルールに気付かなかった。
キツイわけだ。 ……勿論負けますた。
何はともあれ、サンクス。
>113
宮田家はー?
まじアンのデータなら、某井戸端にあったはず……。
まじアン好きとしては、寂しい……。
120 :
110:03/12/16 23:40 ID:qznZpf1+
意外と好評のようで、ほっとしました。
今回は全国マップでしたが、地方マップで野戦を再現したり、城内マップで
篭城戦を再現することもできそうな感じです。
>>116 テストプレイでも住井は強かったです。これでも多少攻撃力を削ったのですが。
大半の鍵キャラとは別ソースなせいもあるでしょう。
>>117 easyモードの助っ人は、元城主が出てくる仕様になっています。
(柏木本城を落とした場合は、必ず耕一が出てきます。)
長瀬家だと、速攻でだよもんを倒してONE勢をそのまま味方NPCに
してしまうのがよいかもしれません。
>>118 光岡悟の顔グラファイルが見つからなかったので、FF7データからセフィロスを
そのままコピーしてしまいました。
開発版(v1.7.**)だと、精神コマンドの他に、敵がきちんと防御・回避を
使い分けるので、難易度があがっています。
>>119 ぐぐって井戸端SRCにがたどり着きましたが、まじアンデータは見つかり
ませんでした。置き場所の手がかりあればいいのですが。
緒方家はどうすればいいんだ(´Д`,,)
tp://www.cty-net.ne.jp/~ugoo-ayu/cgi-bin/saga2/img/img2.html
俺は全くSRCのことも著作権のことも詳しくないので。
使えないかもしれないし、使わせてもらえないかもしれない。
これって南か北の端の方の勢力が有利だな。引きこもって他が潰れるの待てばいいし。
しかし技とかおもいっきしAIRRPGだな。
そりゃあ、北の端の人は自分の勢力を有利にする事に心血注いでるからな。
俺設定爆発だけにとどまらず、わざわざ鎖国扱いにして他からの介入はおろか
侵攻もできないようにしてるし。
それどころか、隙さえ見つければ他勢力の弱体化と、余念がないよな。
バトロワだとあまり大勢を一人で動かそうとしても書き込みが追いつかず、
あっさり殺されて策が潰えるわけだが、さて葉鍵戦国ではどうなるか?
>>124 実際の歴史なら引きこもりは圧倒的な物量で潰されて終わり。
だが、葉鍵戦国は一筋縄では行かない。ところで123さんはSRCのことでは?
引き篭ってる勢力をどこが飲み込むかが肝心なわけで。
関東東北を糾合して水瀬を踏み潰す戦略の千堂か、
東北の覇王になりうる男に縁をもとうとしてる水瀬か。
後者は善意の援助ではあっても、うたわれ本編の戦乱のきっかけと同じ効果のものを
ヤマユラの村に与えかねない。
大名思考中
今まで全然話題にも上らないが、一番統一に近い地方って、四国だよね
>>129 中の人がいないから。
放っておくと1行で周りの勢力が取りかねない雰囲気。
>127
そうか、あれって「敵に塩を送る」イベントネタだったのか。気付かなかった。
しかし水瀬は柳川戦が終ってもかなりピンチじゃないか?
かなりダメージ負ってるし、おそらく千堂との対決にもなるだろうし。
さらに本拠地春日山城のすぐ近くに千堂と同盟を結んだ緒方もいる。
えらいこっちゃ
現状認識からいけば、確かに>132の言うとおり。
僕が引き継いだ時点で主力武将のうち二人が負傷退場、二人が虜囚状態(?)で戦力に出来ず
どちらもそれなりの復活SSを投下せねば戦線復帰が難しい状況。
おまけに最大動員兵力の三割を伏線なしのイベント的に冥土送りにされたのは非常に痛い。
兵力減少を補うのは収穫期まで待たざるを得ないでしょうから、
いまの手持ちの戦力では越後と上野の領有が精一杯で
越中を取って攻撃を三軍団で受けとめる体制を築くのは無理ぽです。
>79の最後の一文は、そーいう意味。 情勢次第ではこっちは詰みです。
とはいえ不確定要因がひとつでもあるうちは諦めないのが、一家の主の務めというもの。
美坂姉妹やさゆりんみたいに近親者の死如きで人生投げてしまうようでは
大名ってぇもんは務まらんのです…
っていうか書く時間がねぇよ! 年内ぜんぶ14時間夜勤労働ってどーいうこったよ!
当時はNGそのものがなかったので、NGは中の人が強引に是正するか先に予防線張るしか方法がなかった。こっちの問題は、下手すると東北シナリオ全体が破壊されかねないと当時感じた為に起こした問題の副作用さね。
まあ強制同盟が八月まであるので、千堂大庭が動くことはとりあえずありません。
兵士の値段も高くなるんでとりあえず内政です。
まあこれは藤田とか犬飼とか中の人が休んでたりいない所も同じでしょう。
特に千堂家はオートバトルでも素でかなりいけるわな…政権しっかりしてるし。
>>134 普通に考えれば、水瀬家の状況は秋になってすぐ動けるほど甘くはないでしょう。
今のままなら千堂絶対有利に変わりなし。
それはともかく、あまり広範囲をシナリオ通りに動かそうとしても無理が出ますよ。
>135
>無理が出る
なに。そうなったら、またまた他の人の所に手を出そうとするだけだろうさw
……よくよく考えたら、千堂って大庭にも渡辺にも、まともに戦力出してないんだよな
それに同盟相手の水瀬に対して『おおっぴらに』裏切り行為かましてるし
(言い訳がましい事してごまかしている様だけども)
他人の戦力を消耗させるだけさせておいて、自分は美味しい所だけ持っていく……
ある意味では、英二さん以上に極悪人じゃないのか?
>>136 戦略や人物の性格上無理のない範囲なら極悪人でも問題なし。
しかし、スレッドの存在意義を問われかねない言動(進行が間に合わなければ
説明をすっ飛ばして結果だけ書き、説明は外部スレに書こうとか)が
時折あるので、そうなったらすぐ止めなければなりますまい。
目立ってる奴を叩いたからって、自分が高級な人間になるわけじゃない。
他人を見下した言動をとって、自尊心を満足させる事が出来る奴がいたとしたら、
相当に薄っぺらいプライドだし、それを匿名でやるのならなおさらだ。
2chでそんなこといわれても。
更新完了です。
……NGでたところの分はどうしましょう?
どっかにまとめておくかなぁ……
あと、とりあえず皆さんまたーりといきましょや。
叩いてるところ叩かれてるところみてても気分はよくないからね。
>>110さん
SRC葉鍵戦国、リンクしてもよいですか?
141 :
西進計画:03/12/20 22:17 ID:sLgNKaMW
「これで同盟は無事締結された。我々は出来る限り千堂家の関東統一を支援すると伝えておいて欲しい」
緊急評定の後、英二は躑躅ヶ崎館の一室で千堂家家臣、澤田真紀子と対面していた。
もっとも既に面倒な交渉は文官同士で終了しており、後は書状に花押を入れているだけであったのだが。
「にしても久しぶりだね真紀子さん」
「はい、その節は色々とお世話になりました」
英二と真紀子はかつて起こった千庭の乱の折に共謀して小田原城に迫った緒方軍の進軍停止と渡辺軍の出兵を最小限に抑えたことがあった。
もともと緒方家としてはまったく大庭家征伐などやる気がなく勅命で渋々出陣していただけ、
渡辺家にもそのような雰囲気があったのでことは簡単に進み、千堂家に下り戦いが終わるまでの日数をあっさりと稼いだのだ。
「ところで青年……いや、千堂和樹君のことだけどね」
「何か?」
「いや、大したことじゃないんだけど、彼のことが知りたいんだよ。
君程の人が仕えているんだ。よかったら何がお眼鏡に叶ったのか聞かせてくれないかな?
なかなか熱い青年のようだけども」
英二はいつもの軽い口調ながらもどこか真剣な顔で尋ねる。
これから千堂家を信頼して東方の守りを緩くしようとしているのだ。どの程度の人物かぐらいは訊いておきたい。
「そうですね。……しいて言えば可能性でしょうか」
「可能性?」
少々予想外の返答に一瞬戸惑ったが続きを促がす。
「そうです。彼はまだまだ甘いところも、未熟なところもあります。
ですがそれを補って余りある才能と情熱が感じられるのです」
「君がそこまで言い切るとはね。人を見る目は確かなようだからその通りなんだろう」
「それに良い仲間にも恵まれています。彼らはどんな時でも千堂君を裏切ることはないでしょうし、千堂君も彼らを信頼しています。
千堂家家臣団には忠誠心とはまた違った、お互いの強い絆があるのです」
「仲間ねぇ……」
どこか乾いたような声で呟く。続けて何か言おうと口を開こうとするがそこに家臣が入ってくる。
「失礼いたします、祝宴の準備が完了しました。どうぞ御席の方へ」
「じゃいこうか真紀子さん。この同盟に相応しい席を用意させてもらった。
それを見て当家が千堂家にどれだけ期待しているか確かめていってくださいな」
142 :
西進計画:03/12/20 22:21 ID:sLgNKaMW
「随分と大騒ぎをしていたようですね」
同盟締結の盛大な祝宴が終わり、真紀子達使者一行が相模へと帰って三日。
尾張より戻ってきた弥生は英二の下を訪れ、これまでの報告を行おうとしていた。
「残念ながら長森家との軍事同盟は締結に至りませんでした」
「……」
「詳しいことは後ほど文章に纏めさせていただきます」
「……」
「……どこを見ているのですか?」
いい加減痺れを切らしたのか弥生は問い掛ける。
いつまでも返事をしない英二の視線は明らかに外へと向いている。
「いや、あの中庭ではしゃいでいるお嬢ちゃんは誰?」
「誰と言われましても、長森家から留学に来た椎名繭殿ですが。
既に知らせが届いているものとばかり思っていたのですが」
「いや、俺は椎名さんと聞いていたからてっきり椎名香穂さんのことかと」
「留学とは言っても実際は人質の様なものですから。子供の方が効果があると踏んだのでは?」
「へぇ…… 長森の皆さんもなかなか思い切ったことをするな。とりあえずお嬢ちゃんは弥生さんが預かっといてくれ」
「解りました」
「ところでこれから如何なさるので?」
「そう、それなんだよ。藤井君達が行方不明になったせいでこの後予定していた悠凪作戦は大義名分を失ってしまった。
折角この為に海津城を拡張したのになぁ。ついでに長森家との交渉も事実上の失敗ときた。ほんと、困ったもんだ」
英二はそう言いながら苦笑する。
143 :
西進計画:03/12/20 22:25 ID:sLgNKaMW
悠凪作戦──演出作戦の後に予定されていた水瀬領侵攻作戦の通称である。
千堂家、長森家と同盟を結び両脇を固めた後、冬弥達を越後国内に追い込み謀反の責任を全て水瀬家かぶせる。
そしてそれを口実に宣戦を布告。同盟国と協力し合い、手薄になっている本拠地春日山城を一気に落とし致命傷を与える。
……筈だったのだが、誤算続きにより作戦の遂行は難しくなっていた。
「申し訳御座いません」
「仕方がない、邪魔されまくりだったしな。弥生さんだって解っているだろう?」
「長瀬祐介……ですか」
「そう、我々の行くところ常に奴らの影があった。
何で長森家の危機を救ったのに不戦協定止まりなんだ? 長瀬家の使者が清洲に着くまであんなに交渉は順調だったのに。
何で何時の間に三河が長森領になってるんだ? 深山雪見は長瀬祐介と接触を持つまでは尾張に留まっていたのに。
何でその深山軍にいた氷上シュンが信濃に侵入してきたんだ? 決起するにしても、もっと後でもよかっただろうに。
ついでに時を同じくして藤井君達が消えている。これは何だ?」
「答えるまでもないですね」
「ははは、お蔭で半年もかけて立てた折角の計画が台無しだ。……ここまでされて黙っている訳には、いかないよな」
「……では」
「これ以上長瀬家を放置することは当家にとっていずれ大事になると判断する。悠凪作戦は中止だ中止。
予定を変更して西進作戦の計画を行うとするか」
「致し方ありませんね」
「……第一目標は長瀬に踊らされ、ことごとく俺達の期待を裏切ってくれた長森家だ。
信頼関係のない協定などどちらともなく崩れる。彼女達にはとっとと御退場していただこう」
144 :
西進計画:03/12/20 22:29 ID:sLgNKaMW
「まずは兵の意思統一からだ。まだ長瀬家は俺達と一緒に渡辺家と戦った仲間だと思っている者も少なからずいる。
目を覚まさせる為にさっきの長瀬祐介謎の行動を領内に流してくれ。どんな馬鹿でもいい加減気づくだろう」
「承知しました。至急忍衆へ伝えます」
「多少の誇張は構わない。ついでに千堂家を持ち上げるとしよう、対比させるには丁度いいだろう?
金五千貫の話なんて思いっきり美談になるし」
「なるほど、同じ援軍でも大違いですからね」
「で、長森家だが…… 家中の様子はどうだったかな?」
「見かけは一枚岩の様ですが、今回の件で確実にひびが入っています。
特に当家寄りの里村殿の立場は孤立を深めるばかり。全滅覚悟で殿を務めたにも関わらず美濃国主を外される程ですから」
「付け入るなら今だな。よし、彼女の内応工作を始めよう。忍衆の指揮は俺が引き受ける。
弥生さんには別に頼みたいことがあるからね」
「頼みたいこと…… いったい何ですか?」
「以前、堺に高井さんを通していろいろ注文した物があるんだけど、悪いけど取りに行ってもらいたいんだ。
護衛の船は出すから、頼むよ」
「……本当にそれだけですか? それならば他にも人がいますでしょうに」
「さすが弥生さん、察しがいい」
「あっちへ着いたらそこを拠点とし、反長瀬包囲網の構築を目指して欲しい」
「やはりそうですか。何か当てでも?」
「ああ、まずは播磨大名、橘大納言だ」
「橘? あの公家大名のですか?」
「そうだ。何としても彼を説き伏せるんだ、金が必要ならいくらでも送る。
他にも仲間に加えられそうな大名がいたらどんどん交渉してくれ。
出来れば紀伊御三家のどれかが理想なんだけどな」
145 :
西進計画:03/12/20 22:31 ID:sLgNKaMW
>>140 更新乙です。
手が空いたら掲載順の方も更新して欲しいかも。
>地図造りだよもん氏
城名の変更とかってできますか?
ちょっとやってみたいことがあるので…
しかし堺にはどれだけの武将がいるのだろうか
篁家臣団の規模もはっきりしてないしなあ。
146 :
110:03/12/20 23:22 ID:d6cRnu8Y
>>141-144 お疲れです。
長瀬家としては誘導したとおりの展開になったといえるのかな?
少なくとも水瀬家との接触を断とうという意図ははっきり感じ取れましたしね。
もちろん、こういう裏があるとまでは気づかなかったわけですが………。
しかし、つくづく長森家は難儀だな……………。国力は未だに緒方家と
互角以上のはずだが、にも関わらず単独で戦えば連載1回(4〜5レス)で
滅亡する雰囲気。ある意味信じられない。
>>145 緒方家の中の人、乙です。
城名変更出来ますよ。具体的にはどこですか?
>147
致命的なまでに大名に凄みが無いからなぁ……
水瀬家は秋子さん、緒方家には英二、
千堂家には大志、長瀬家には祐介、と
連載一回で潰しづらいような「格」持ちが居るが、
長森家にはそれにふさわしいような奴がだーれも居らんからなぁ。
茜の動向が鍵になりそう。
英二の甘言に流されるか、突っぱねるか、逆に利用するか…
国力差は少ないかもしれないけど兵力差がやばすぎ。
長森家は対清水、広瀬、渡辺と連戦で壊滅状態
主力は深山勢みたいなもんだ。
それに引き換え緒方家は渡辺戦でも相手の兵力を分散させてから合戦、ついでに
援軍の猪名川軍を有効活用して犠牲を最小限に抑えている。
今じゃ旧渡辺系を傘下に治め四個軍団を保有、後方の安全も確保だし。
長瀬家が表からでも裏からでも手助けしないと蹂躙されちまいますよ
兵力の回復を待ってくれるはずないし。
真正面からぶつかったら勝ち目無いな。
付け入る隙があるとすれば英二の策略好きを逆手に取ることか。
諜報戦ではどう足掻いてもかなわないけど、まだ手が無いわけじゃない。
>152
そうだなぁ、長森家に自分以上の策士なんかいないって先入観もあるだろうからなぁ。
もっとも、実行するにしても滅茶苦茶綱渡りで成功率低いけどw
少なくとも長森家に降伏する手はないな。
それこそ四の五の理由をつけて殺されるのが落ちだ。
…という印象なんだよな、今の緒方家は。
>>151 序盤から包囲網状態でしたからね。特にどこと対立しているわけではないのに
交通の要所に位置しているからどこからもつけ狙われる。
そう、長森瑞佳は長瀬・緒方雄飛のための生け贄なのだ!
長瀬が美濃進出してもメリットあるのかね?
むしろ緒方に対する盾として残しておきたいのでは。
畿内の動き次第だとは思うが。
というか、正直緒方の思考も納得しがたいものがあるんだが……
明示的に味方でない者はすべて敵、っていう
極端な二元論に陥ってるからな……>英二さん
戦国の世は殺伐としてますな
緒方家としては水瀬戦を始める為、ちゃんとした同盟にするつもりだったんだから
中途半端な立場とられて困ってるってのもあるんだろう。
家中に反緒方な気風があって援軍も望めないし長瀬家の影響力も気にしなきゃいかんだろうし。
事実、長森家臣団は長瀬家に好意的な者の方が多い。
敵に回る可能性がある以上、滅ぼして完全に支配下においた方が安全だと判断したんだろ。
基本的な思考が性悪説っぽいし。
まあ裏切り謀略上等な葉鍵戦国じゃ無理も無いが。
敵勢力を滅ぼすことに必要なコストが
史実の戦国時代とくらべて圧倒的に安いからなぁ、このゲーム。
長森が脅威になる可能性があるから叩こう、というだけなら分かるが、
対水瀬から対長瀬へ完全に方針転換したように見えるからな……
そんな短絡的な思考でいいのかね、と思う。
裏で何を画策しているのか知らないから、読んでいるこっちすら踊らされている可能性もあるが。
>>162 素直に長森家に攻め込んでも悪役になるだけだから、長瀬包囲網との
二正面作戦で行くようだ。
畿内を引っかき回すのなら大庭家の中の人と共同歩調が取れるな。
もう一枚裏があるかも知れないし、何もないかも知れない。
葉鍵戦国は兵農分離がゆきわたってますか?
一国を切り取ったら普通固めに数年は必要だよなぁ。
あるいは全員が上杉謙信のノリで生きてるのか。
まあ甲信を地盤にしている以上緒方は外へ外へと押し出していく他に食べる方法がないのも確かか。
まぁ全勢力公平に兵農分離が行き渡っている、というのなら、特に問題ないべ。
数年単位のスパンになると、各勢力で時間軸を合わせるのも大変だろうし。
義理や契約が紙より薄い世界なんですね
長森が滅ぶと丸裸になる長瀬と緒方による、周辺諸国に対する外交攻勢が起こりそうですな。
>>166 武田信玄は諏訪氏や今川氏を騙し討ちしたが、それでも発端から開戦まで
諏訪氏で1年、今川氏は実に7年のタイムラグがある。今川氏に至っては
嫡男義信らを犠牲にしてようやく開戦した。
(諏訪氏は父信虎の追放、今川氏は桶狭間合戦より起算)
裏切り者といわれた人物でも、実際には長い年月を経て初めて裏切りを実行
しているのだが、この世界は裏切っても風当たりがあまりにも弱い。
強いて言えば大坂の陣で、冬の和平から夏に豊臣が滅亡するまで5ヶ月と
いうのがあるが、これは徳川が圧倒的に強大だからこそできたごり押し。
そう、アメリカが激しい反対を押し切ってイラクを征服したように。
そもそも緒方家は、渡辺家が長森家を攻撃した留守を狙って漁夫の利を
得たのだから、長森家を恨むのは筋違いというものだが……
上司(長瀬祐介)に直接手を出せず部下(長森)に当たり散らす様をみている気分だ。
こうしてみると長瀬祐介家は実にうまくやっている。
前スレに書いた蒼天録風政略フェイズをみてももっとも活発に謀略を繰り広げた
のは他ならぬ長瀬家。長森家も間接的に攻撃している。
にもかかわらず善玉の地位を手に入れようとしている。
皆さん神視点で語りすぎ、どの家もそんなに深く内情知らないんだから。
緒方家としては
よし、渡辺家倒して東海制圧。ついでに長森家に恩をうって同盟だ♪
あ、あれ? 何でこんなに妨害されてるの? 渡辺の間者じゃないみたいだし……
猪名川軍まで乱入かよ! 複雑になってまいりますた。
……ふぅ、やっと渡辺軍主力を倒したぞ。次は三河をとるかな。
え? 『ここは長森家の深山勢が占領した、帰れ!』
相談なしに来てそりゃないだろ、助けて里村さーん!
はぁ? 降格くらった? しかも不戦協定止まりかよ、何か長森と長瀬仲良くなってるし。
あの二人が行方不明になった!? 長瀬家の影がちらほら見える……
……そうかいそうかい、お前ら助けてやったのに敵対する気まんまんだな。
それならこっちだってやらせてもらう!
ぐらいな気持ちなんじゃないか?
お前ら、議論ばっか盛り上がりすぎですよ。
次の作品を待ちましょう。
長瀬家が上手くやってるというより、よそがあまりに謀略の後始末に無頓着なだけのような。
大名思考中
敵対勢力に大義名分を与えないのも政略のうちですよー
思考中
一揆!一揆!
ターン処理中...
-各国政略中-
舞「一揆、嫌いじゃない・・・・。」
>>180 そのセリフとともにニヤリとして一揆起こした農民を切り捨ててたりしたら
なんか嫌だなぁw
, -――-、―-、_ 川澄舞が一揆衆を全滅させました。
/ ‐- 、
/ `ゝ
>>4おり あっさり捕まってんじゃねえよクズ
, -――- / 〃/ , , , , 、 、 ヽ`ヽ >>つ9宮へ。役立たず、氏ね。
< _| /,/ / , | ,l | | | | i i 、 N
>>323 てめえ結局何歳だよ
ヽ、 ゝ|〃 / /ナナ7lノlノlノナナ | | レ′
>>9-1000 存在自体がぽんぽこたぬきさん。
入 / 7 |ミ|/|/ |-=・=- -=・=|ノ|ノレ′
ヽ _/ / 八(6| |" ̄ ' ̄.! i'
| | | / lヾ| | ヽ==' / |
>>7瀬へ 無駄な事諦めてとっとと修羅に入んな
| L| | | |` ┬, ´ | |
| | | | /| | ̄~T | |
| |_ / .| |'´~只~ヽ| |
……一方、南越後。
相沢祐一と沢渡真琴の両名が春日山城に入り、関川東岸に水瀬軍、西岸に柳川軍がにらみ合っている情勢である。
春日山城から柳川軍の陣営を眺めるに、城の東側、すなわち関川と春日山城に挟まれた平野部には
柳川家の重鎮・長瀬源三郎率いる軍が布陣しているのが見えるだろう。
その北側、春日山城の正面方向には、柳川の総帥・柳川祐也の本陣が。
そしてそこから西側に、いわば軍の退路を確保する後詰めのかたちで阿部貴之の部隊が控えている。
総勢、一万余。春日山城を力攻めするには足りているとは言いづらい戦力だが、水瀬家がそれを座視できるほど小さな戦力でもない。
構図としては、柳川側が想定した通りに南越後で水瀬家主力を食いつかせることに成功したと言っていい。
だが。
「……ですけどねぇ」
誰に聞かせるでもなくひとりごちている長面は、長瀬源三郎。
彼は先刻の軍議のやりとりを思い出していたのである。
「予想通り、水瀬家は軍使を追い返してきましたな」
長瀬の言葉に、柳川祐也も頷く。
「あれでまともに話を聞くようなら、水瀬家などとうの昔に滅びているさ。
わざわざ頭をひねって無礼な文面を考えた甲斐もないというものだ。
水瀬秋子本人があの程度の挑発に乗ってきてくれるとは思わんが、配下の連中はまだまだ小僧同然…
そう思ってはいたんだがな」
「抜け駆けしてくれる将でも出てくれれば儲けものだったんですけどねぇ」
「何もさせずしっかり手綱を握ってるあたり、伊達に女の分際で頭は張ってない、といったところか」
「私が若い頃はまだ水瀬なんて南越後の国人に過ぎなかったんで、それ思えば舐めたもんじゃないですよ」
「まぁ、それは判っている……。だからこそ『狩る』ためにいろいろ小細工を用意したんだからな」
「…でしたねぇ」
「これまでのところ、相手はほぼ予想通りの動きをしてくれている。ここからが正念場だ、長瀬、お前次第だぞ」
「はーい、はい。そこらへんはまぁ、お任せあれ、殿」
ほんの一刻前に主君にそう言ったばかりなのだが、
柏木家の将として長年戦場を巡った彼の戦場勘は、事態がそれほど易しくないことを告げている。
計画では、本格的な戦端が開かれたら、一揉みした後に軍を退き輸送船団の待つ糸魚川に移動することになっている。
その殿を担当するのは、当然自分たち長瀬勢だ。
前方から渡河して押し寄せてくる水瀬軍一万強、そしてこちらが退くと判ったら恐らくは打って出てくるであろう城兵数千。
それらに退路をふさがれぬように、こちらが崩されぬように、
そして最後の最後には、味方が乗船する時間をうまく作り出さないといけない。
いくら相手が女子供が率いる軍とはいえ、そうそう楽にこなせる仕事ではない。
だが、それだけなら初めから判っていること、その程度のことで不安になったりなど、いくさ人にはあり得ぬことだ。
彼の不安を一語で表せば、「順調すぎる」これに尽きる。
水瀬側の動きは、こちらの予想をほぼ外れていない。
外れていないということは、すなわち水瀬側がこちらの策にすっかり嵌っているか、
あるいは……嵌っていると見せかけて何らかの手を打っている、そのどちらかだということだ。
言い出せば疑心暗鬼もきりがないが、長瀬源三郎の勘はたしかに危険を告げていた。
目の前に水瀬軍は布陣している、背後に春日山城がある、動員可能な戦力の大半がここに集まっているはずだ。
もっとも恐ろしいのが、密かに春日山城背後の高山地帯を抜けてこちらの退路を断っていた場合、だ。
退却を急ぐ本軍が伏兵に襲われれば、場所如何によっては大混乱に陥る可能性もある。
柳川の殿自身は柏木の血に違わず、常人の域を遙かにこえた個人的武勇を誇る荒武者だ。
しかし、軍全体が混乱に陥ってしまえばその武勇も、我が身を守る役にすら立たないのが戦場のならい。
そしてその状態を切り抜けられたとしても、軍が潰走してしまえば生存者は
国人や農民たちの落ち武者狩りに追われながら土地勘も無い場所をひたすら走破せねばならない。
柏木家の後継争いをやらねばならない大事な身を、そんな危険にさらすことなど出来ようか?
幸い、その状況だけは無さそうだ。
水瀬家でそうしたことに長けた武将と言えば、行軍の早さで知られる水瀬名雪だが
いかに彼女といえど、この雪山を越えるのは無理だ。
まして上野からの強行軍であり、もしそれを為し得たとしても、
疲弊しきった兵では本陣を混乱に陥れるのは無理だろう。
それを為しうるのはよほどの統率力を持った将だけだが、
彼女にそこまでの軍才が無いのは調査の上だ。 ……それが出来るならとうに家督を継いでいるだろう。
では、関川東岸に居る水瀬軍に何ができるのか。
炊飯の煙が多めにあがっていることから、今日のうちには開戦されるだろうと予想はできる。
が、特に陣を移したり、再編成をしたりといった派手な動きは見られない。
柳川祐也の本陣に正対するような位置で縦十字の水瀬軍本陣があり、その南側に美坂勢。
そこから南側に相沢・沢渡という順番で陣営が並んでいる。
「南側の連中をどこまで引き寄せられるかが、今回の戦のキモになるかねぇ……?」
のほほんとした面で呟く源三郎。
長瀬の一族として、柏木家の宿将として、柳川祐也の片腕として、
長年戦場を駆けてきた彼の人生の中でも最大の苦戦となる一週間が、始まろうとしていた。
両軍の戦端が開かれたのは、資料によれば朝の四つ。現代風に言えば午前九時から十一時あたりとなろうか。
しかし、その発火点は長瀬源三郎の予想外の場所であった……。
北の本陣のざわめきは、煙草盆に灰を落とす源三郎の耳にも届いていた。
そしてしばし後、使番が本陣からの指令を伝えに駆け込んでくる。
「春日山城から城兵が出撃、殿は旗本衆を率いて迎撃に当たられております。
殿は、『長瀬隊の参加は無用、水瀬軍の挟撃への対処を優先させよ』との仰せです」
「承った、と伝えてくれ」
「はっ、では……」
「……ああ、ちょいと待った」
「?」
「一杯呑んでくか?」
「……長瀬殿、今は陣中ですぞ。そのようなことをして、長瀬殿は罪を問われないでしょうが
若輩の私もそうだとは限らないのですし。 ……失礼します」
「……うーん、大丈夫だと思うんだがなぁ。 うちの大将、あれでけっこう話分かるほうだぞ?
そうでなきゃ私が担ぐはずもないだろうし、死んだらこれだって飲めないんですけどねぇ……」
ある意味不謹慎な独り言だ。
柳川祐也は苛立っていた。
春日山城から押し出してきた城兵、ざっと二千余か。
柳川軍旗本衆の約半数、しかも留守居の烏合の衆が味方の接近を待ちきれず突破を図った……
となれば、無理押しで無駄な兵の損失を避けるより、城から引き離しつつ集団が伸びるのを待ち
頃合いを見て横腹からの突撃で蹴散らす……、なんら難しいところのない戦になるはずであった。
それを見越して長瀬源三郎には「加勢無用」と伝えたのだし、
兵の練度、自らの戦機を見る目からしても一蹴できるはずの相手だった。
しかし、彼らは違った。
見たところ、彼らの戦いぶりは簡素ながら要点を押さえたものだ。
部隊を四つに分け、四辺に集団をそれぞれ配置し互いに連携を保っている。
こちらが距離を開ければ弓射を、連携を突き崩さんとこちらが先駆けを命じれば側面からの攻撃を。
軍法書通りの芸のない戦法ではあるが、それなりに組織だった戦い方が出来るということは
必ずしも相手が予想していたような烏合の衆ではないということだ。
そして、さらに厄介なのは、兵数の多さが思ったほどこちらの優勢をもたらしてくれていないということ。
側面からの攻撃をなんとか凌いで正面の敵集団に食いつけば、後は兵数で押し切れるはずなのだが
むしろ前線での競り合いはこちらの不利を示していた。
鬨と共に兵を押し出させても、側面を脅かされ、正面の敵軍は川中の岩のようにこちらの流れに抗している。
四半刻もあれば片づくと思っていた相手に一刻近くも粘られているのは、
「鬼」と謡われた猛将・柳川祐也にとっては予想外の屈辱だった。
そして……予想とは逆の順番になったが、南方で水瀬方の美坂勢の渡河が始まったようだ。
旗本衆が城兵に手こずっている間に渡河、そのまま包囲陣に移ろうという心づもりか?
気になるのはこちらと川を挟んで四半里ほどの距離に向かい合っている水瀬軍本陣に、
未だ美坂勢の渡河にも城兵の突撃にも呼応する動きが見えないこと、だ。
現在両軍の戦闘参加兵力はほぼ互角と言っていい。
その状態であの雌狐が動かない、すなわち戦機を窺っているということは
あちらが単純な勝利を望んでいるわけではないことの証、だ。
敵の疲弊を見計らっての戦闘参加、すなわち新手の参加による衝撃でこちらの士気崩壊を引き起こそうとする企みか。
「小癪な女だ…」
祐也は呟いた。
連続投稿制限ウザー……
そろそろ神戸中継東京行きバスの時間なんで、後半は大晦日にでも。
ではみなさん、よいお祭りを。 参加されない方は生暖かく狂宴を見守って。
じゃあこの隙に秋子暗殺話でも書くか。
東方腐敗は死なんと思うがな。W
…源三郎キャラ変わりました?
>193
前回は当主の面前だったけど
今回はそうじゃないからリラックスモードなんじゃないか?
コミケは寒かった。
長瀬祐介 長瀬家大名(近江)
長瀬源一郎 長瀬家家臣(近江)
長瀬源二郎 長瀬家大津城主(近江)
長瀬源三郎 柳川家筆頭家老(南越後)
長瀬源四郎 来栖川家宿将(戦死)
長瀬源五郎 来栖川家摂政(長門)
フランク長瀬 緒方家東海方面軍軍団長(駿河)
七瀬彰 緒方家家臣(信濃)
長瀬源之助 宮田家家臣(筑前)
長瀬源次郎 未登場
はっきりとしている設定が
祐介と源二郎が親子、源一郎・源二郎・源三郎が兄弟。
源四郎と源五郎が親子、源五郎とフランクが従兄弟同士。
そして彰の叔父がフランク。 ……だったような
ところで近畿以西の中の人ーず、生きてますかー?
ちょっと不安です。
永禄元年春 大隅国肝属郡(きもつきぐん)高山(こうやま)
大隅半島の東、志布志湾に注ぐ肝属川は、暴れ川ではあるが豊かな水量を誇り、
シラス土壌のため雨が多い割に農業用水に苦労するこの地方では、貴重な水源として
いわば母なる川となっている。そのため、肝属川の下流域は古来大隅国の中心地の
一つとして栄えてきた。肝属川下流の南側に迫る肝属山地の北端、国見山の一角に
フレイ家の居城である高山城がある。天然の断崖を城壁とし、築城以来敵の侵入を
許したことがないため、難攻不落と称えられる山城である。その高山城下、フレイ家
当主サーゼの屋敷に一人の老人が訪れていた。シオン家家老ギース・デルムである。
先の戦への援軍に対し、謝意を表するための訪問だが、もう一つ、重要な目的が
この訪問にはあった。しかし、その件を切り出すとギースの目の前の立派な髭を蓄えた
厳めしい男は渋い表情になった。頑固な旧友の予想通りの反応にギースは苦笑した。
「やはり例の話、受けては下さらぬか」
「このサーゼ・フレイ、義のためにシオン家をお助け申し上げているのであって、
それ以上は望まぬ。そのことは他ならぬ貴公が最もよく御存知だと思っていたが」
「それは重々承知。ですが、我が殿の意向は固いのです。勇者ジークとサムスが施した
ガディムの封印はおおよそ二百年が限界とされています。そして、南北朝の世から
今は既に二百年。そうであれば、ガディムの監視者にはそれに相応しい智勇、そして
義が必要です。そう、それこそ勇者、と呼ばれるほどの。当世でそれらを兼ね備える
のは、サーゼ様、まさにあなたを措いていない。我が殿はそうお考えなのです」
「確かに封印のことはこのわしも承知しておりますし、だからこそ、これまで
シオン家をお助け申し上げてきたのです。それに、そもそもわしは老い先短い身、
そのような重責を負うことはとうてい出来ませぬ」
「では……ティリア殿、というのは?」
「何をおっしゃるか! あ奴は未熟者。とてもそのような器ではない」
「本当にそうお思いですか? この度の戦、拝見しましたが、ティリア殿の素質は
サーゼ様にも劣るものではないと見ました。補佐するフィーユ殿もなかなかの逸材。
今回あの二人を援軍にお願いしたのは、一つにはサーゼ様抜きであの子達が
どれだけやれるかを見極めるのが目的だったのですが、予想以上のものを見せて
くれました。サーゼ様があの二人を遣して頂くことに同意なさったのも、あの子達の
素質を見極める意図がおありだったのでしょう?」
「それはないとは言わんが……。ともかく今のあ奴では論外だ」
「フフ。なかなか厳しいですな。この国にはびこる無能な、あるいは義なき者どもの
ことを思えば、わしの目からは十分以上に見えまするが」
「今回にしろ、相手は所詮ラントール。はるかに厳しい敵と対したときどうなることか」
「いや、今回の敵はラントールにしてはなかなかでしたぞ? 多分どこかから顧問でも
雇ったのでしょうが。……そうそう、ラントールと言えば、大規模な暴動が起こって
いるようですな。坊津、枕崎が陥ちたとか」
「うむ。いよいよラントール家の横暴も限界に近付いて来たと見えるな。民の反抗を
封じるためいろいろやって来たものの、とうとう押さえきれなくなって来たか」
「実は、それだけでなく、今回は暴動の中心に強力な指導者がいるらしいのですよ」
「ほう? どのような?」
「どうやら外来者のようです。欧州から流れ着いた元貴族と称しているという噂で、
名は……何と言いましたかな……そう、ルミラじゃ。ルミラ=ディ=デュラル」
--------------------------------------------------------------------------------
高山城は島津氏と南九州の覇を争った大隅の名族、肝付氏の居城で、信長の野望では
「肝付城」と表記されることもある城です。高山町周辺は古墳も多く、古来栄えた土地でしたが、
島津貴久・義久と互角に戦った肝付兼継・良兼が没し、肝付氏が島津氏に屈服すると、島津の
重臣であった伊集院忠棟の施策で肝属川中流の鹿屋に政治機能が移され、現在では普通の
田舎町になっています。なお、肝付氏の嫡流の一人は国民的アニメの声優をやっておられます。
スネ夫か!
__,,,,_
/´  ̄`ヽ,
/ 〃 _,ァ---‐一ヘヽ
i /´ リ}
| 〉. -‐ '''ー {!
| | ‐ー くー |
ヤヽリ ´゚ ,r "_,,>、 ゚'}
ヽ_ ト‐=‐ァ' !
ゝ i、 ` `二´' 丿
r|、` '' ー--‐f´
_/ | \ /|\_
/ ̄/ | /`又´\| |  ̄\
朝廷が200をゲットしたようです。
>199
そうです。本名は肝付兼正で、兼の一字は先祖伝来のものとか。
スネ夫の「スネ」が作中同様の扱いになっている(先祖伝来の
もので、親戚みな名前にスネの字が入っている)のは
中の人がヒントになったのではないかと想像。
>>201 それはない。
野比家の「のび」が代々名乗っているように、原作でそうした名付けを
採用している(源家だけは違うようだ)。
ところで、スネ夫が先祖は家老と自慢したのに腹を立て、のび太(先祖は狩人、
ただしてんで弱い)が戦国時代に行って歴史を変えようとする話があるのだが、
今考えると意味深である。ごく初期の話なので、アニメとは無関係だが。
それに、のび太たちは東京都練馬区の出身なのだが、戦国時代は豊島氏滅亡後、
太田氏→北条氏と支配が移り変わっている。どれも滅亡した家であり、戦国以来
ずっと家老を務めたというスネ夫の自慢に該当する大名家が存在しないのだが…。
(北条家は支流が狭山藩となったが、骨川家が地元を離れたとは考えにくい)
ドラの今の声優陣は基本的にみな二代目担当じゃなかったっけ?
水瀬軍が勝利でなく殲滅を狙っているらしきことは、柳川祐也にとっては目論見通りの展開だ。
三方面から伸びる水瀬軍の手をするりと抜け、連中の怒りを誘う形で越中に退く。
こちらが傷つきすぎず、あちらも傷つけすぎず、ただ面目だけを奪う形の勝利。
そして越中に報復にやってくる水瀬勢を、周到な準備で迎え撃つ……。
加賀・越中奪還から続く壮大な罠にあの雌狐をからめとるための、最後の餌をばらまいているのが現状。
さて、そうなるとこちらとしては……。
「貴之に伝令を。 お前の出番が来た、横から押しまくれ、とな」
後詰めの阿部勢と旗本衆で城兵をまず叩く。
同時に長瀬勢が殿軍の位置に座り、追ってくるであろう水瀬軍に痛打を浴びせる。そして速やかに撤退。
早期に戦力を集中させて各個撃破を狙わなかったのは確かに自分たちが水瀬軍を侮っていた証であるし、
城兵の予想外の善戦も恐らくは水瀬秋子の小細工なのだろう。
が、そうと判った以上、この地に長居しすぎて無駄な危険を背負い込む必要も無い。
今戦場を駆けている軍兵は、柳川家にとって最後の切り札とも言える精兵。
無駄に失って済ませられる類のものでもないのだから、退く機を見いだせれば退くにこしたことはない。
あとは水瀬勢が予想通りに釣られてくれるか……それを願うのみ、だ。
ほとんど同様のことを、長瀬源三郎も考えていた。
というより、祐也の軍法の師として幼い頃から祐也の後見人的な立場にいたのだから、
祐也が源三郎と同じことを考えていた、と言うべきか。
彼の陣からは、南側の水瀬方の動きがよくみえる。
先ほどから続く矢いくさの中、頃合いよしと見たか、美坂勢の渡河が始まっている。
源三郎は川中の敵を狙いなさい、と指示を出す。 河を半ば渡りたる敵を討つ、の兵法だ。
だが、当主の妹を捕らわれ、復讐の念に燃えているであろう美坂勢を弓射だけで撃退できるとは、源三郎
ももとから思ってはいない。
遅かれ早かれ美坂勢はこちらの手勢との白兵戦に入るだろう、そのときに相沢・沢渡勢に押し包まれれば
最悪乱戦となって退く機を失うことにもなりかねない。
その前に少しでも美坂勢の鋭鋒を削いでおき、相沢・沢渡の両勢の渡河が五分方済んだところで退くつも
りであった。
のだが……、ここで源三郎は主君かつ弟子と同じ違和感を味わうことになる。
「……相沢殿と沢渡のお嬢さんは、居眠りでもしてるんでしょうかね?」
そう、動きが鈍すぎる。
本来なら美坂勢の渡河に合わせて相沢・沢渡の両軍は、弓か鉄砲かでこちらを射すくめ、味方の渡河をし
やすくさせてやるのが兵法というものだろう。それがかなわぬのなら、三軍揃っての渡河で一気に押し渡る
のが、結果的に一番損害を小さくする方法のはず。
それなのに、相沢勢も沢渡勢ものろのろとした動きでしかなく、美坂勢を支援する気が見えてこない。
「まあ、それならそれでいいでしょう。 騎馬隊を除く総勢は退き口の用意を。騎馬隊は号令あるまで待機、
です」
そう、相手の動きが悪いのならそれはそれで都合が良いのだ。
もともと疲弊した水瀬軍だ、猪武者の沢渡真琴やボンボンの相沢祐一では、兵をうまく駆りたてられなか
ったのだとしてもそれはそれでおかしくはない話でもある。
無論、あの動きの遅い両軍にこちらの精兵が噛みつけば、一刻もしないうちに多くの首級をあげることも
不可能ではないだろう。戦気の乏しい軍団など、しょせんは案山子の群れと変わらない。
「命拾いしましたねぇ、相沢殿? こちらはここで戦うつもりはもとからないですよ?」
と、つぶやいてみる。
美坂勢の一部が関川を渡りきったとの報が入った時、源三郎は近習に馬を引かせた。
「さぁ、仕事仕事。騎馬隊は私と共に敵を攪拌する、でもって他の連中は打ち合わせ通り北へ向けて撤退、
よろしくお願いしますよ?」
未だ渡河をはじめたばかりの相沢・沢渡勢、どういうことかは知らないがこの両勢を戦力化するつもりな
ら、美坂勢が勢いに乗ってこちらを殿の本陣と遮断するのが不可欠だろう。
その前、美坂勢が上陸したてのところを襲い、河中に突き落としてくれる。
攻めるときに攻める、という兵法の基本を、この小僧たちに思い知らせてやらねばなるまい……!
川岸に上がった一団の美坂勢の兵の群れを、斜めから馬蹄にかけていく騎馬武者の列。
それを避けようと後ろずさる美坂の兵は、上陸しようとする味方とぶつかって集団の動きを止める。
相手の動きが止まったところで、源三郎はもう一隊の騎馬隊を押し出させる。
馬蹄で、馬上からの槍で、美坂の兵たちはつぎつぎと蹴散らされ、突き伏せられる。
前方での苦戦が徐々に後方に伝わって美坂勢全体の動きが止まっていくのが、源三郎には手に取るように分かっていた。
頃合いとみて軍配を翻し、騎馬隊を退かせる。
一度止まった集団がふたたび動き出すまでにはしばらく時間がかかる、その時間を稼ぎ得たことが源三郎にとっての勝利であった。
既に北方に退いている本陣、その後を追う長瀬勢の先発隊。
「さ、皆も後を追いかけてくれ」
満足そうに源三郎は言った。
っていうわけで、前哨戦終了。
後藤さん混じってるって言うな。
そして、あけましておめでとうございます。
読み手の皆様、書き手の皆様、ことしもよろしく〜
ども。
あけぼのましておめでとうございます。
__,,,,,,
,.-'''"-─ `ー,--─'''''''''''i-、,,
,.-,/ /::::::::::::::::::::::!,, \
( ,' i:::::::::::::::::::::;ノ ヽ-、,,/''ー'''"7
`''| |:::::::::::::::::::::} ``ー''"
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'、 `-=''''フ'ー''ヽ、::::::::::/ヽ、-─-、,,-'''ヽ
\_/ ヽ--く _,,,..--┴-、 ヽ
``" \>
あけぼのましておめでとう
大名思考中……
なう ろぉでぃんぐ
圧縮起きるならはやく起きてくれよー
メンテしておきます。
寒い〜
前スレhtml化されました。
この位置は大丈夫なのかよ
もうそろそろS.O.D.が流れます。
遠ざかり行く春日山城を馬上から見ながら、長瀬源三郎は思う。
「次にこの城を見るときが、柳川家が北陸の主となるときであれば」と。
予定通り、関川においての水瀬方の包囲網は抜け出した。
名のある将を二人捕らえたかたちに持ち込み、春日山の城下町を焼いたことで、水瀬方が国内の動揺を収めるためには柳川領への報復を行わねばならぬ状態にまで持ち込んだ。
越中の国人衆たちとの関係構築に二日しか掛けられなかったのは心残りだが、それでも手付けの金を支払うことで、来る水瀬軍の来襲への協力の約束を取り付けることも出来た。
そして、決戦の中核となる精兵の損失も、最小限に留めることが出来た。
殿の言葉を借りれば「水瀬秋子を狩る」ための準備は、ひととおり用意できたはず、だ。
あとは追撃をしかけてくる水瀬勢を食い止めさえ出来れば……。
源三郎の予想では、関川で多少美坂勢を衝いた程度では足止めにはならず、相沢勢や沢渡勢に一度は接敵されると踏んでいた。
そのための用意もぬかりなかったのだが、どうしたことか、春日山城のふもとを離れる今となっても、相沢勢も沢渡勢も、無論美坂勢も追いついてはこない。
そして、もうひとつ不可解だったのは……敵の総帥、水瀬秋子の動きだった。
春日山城兵の押し出しと協調して柳川本陣を衝くのが常道なのだろうが、それも無し。
阿部勢に側面を衝かれた城兵が城に戻ったのち、予定通り撤退を始めた柳川本陣に追撃をかけるでもなし。
あげくの果てには、味方を混乱に追い込んで殿の任務を果たしつつあるこの長瀬勢に強襲をかけるでも、なし。
相沢祐一や沢渡真琴、美坂香里といった若造連中が肝心なときに戦機を掴みきれないというのなら、別におかしなことでもない。
源三郎自身も若かりし日には血気にはやるか臆したかのどちらかで戦機を見のがし、叱責されたことも二度や三度はある。
胸中に熱と氷の双方を抱えなければ将としての仕事は為し得ず、そしてその心構えは長年いくさ場を走り回った末にようやく手
に入る類のものなのだから。
しかし、水瀬秋子はそのような凡将の類では無い。
南越後の小さな国人領主でしかなかった水瀬家を率い、十数年で越後はおろか北陸全道にその名を轟かせた一世の姦雄
−女性だが−だ。くぐってきた修羅場の数が匹敵しうるのは、水瀬・柳川の両家を見回しても恐らくは自分だけだろう。
その水瀬秋子の率いる手勢が、開戦から半日ちかくを経過した今となっても、動いていない。
それを思うと、源三郎を「気持ち悪い」「不快」に近い感覚が襲ってくる。長年の戦場経験を持つ者にしか分からない、戦の流
れの不自然なよどみだ。
言うまでもなく、その「よどみ」は、水瀬秋子が何らかの意図を持ってあえて動かないでいることを意味している。
では、その意図とは、何か。
まず考えられることとしては、戦場経験の少なさをまた露呈した指揮下の部隊にこちらがさらなる攻撃を加えることへの警戒、
だが……それはあまりにもこの長瀬源三郎を舐めているのと同義だ。
殿の部隊の戦功は取った首の数ではなく生きて戻った兵の数によって計られるものなのだから。
つぎに考えられること……相沢、美坂、沢渡の三軍がまた動けるようになってから、一気に反撃を開始するという手。
本陣が単独で待ちかまえる敵に挑むことは危険であり、その危険を避けるために……というのなら、あり得ない話でもない。
だが、そうだとするなら「獲物」になりうる柳川勢は、もはや虎口を脱しつつある。
ひとつ、まずい可能性がある。水瀬秋子がこちらの手を読んで、追撃自体を無意味だと止めさせている場合、だ。
この場合、下手をするとこちらは出兵に費やした金穀が無駄になっただけで終わる可能性も、無いでもない。
が、その危険性もはじめから分かっていたことだ。だからこちらは危険を冒して水瀬領深くまで踏み込み、
水瀬家が南越後で築いてきた威信に充分泥を塗りつけられるだけの戦果をあげようと計画を立て、その計画も実行に移されたのだ。
もはや水瀬には「柳川家を放置して足下を切り崩される」か「柳川領に踏み込んで罠にかかる」か、
そのどちらかの選択枝しか残されていないのだから。
そこまで考えたとき、近習の若い騎馬武者が隊列の後方から源三郎に駆けよってきた。そして一言、「敵の追撃です、相沢勢」と告げる。
考えすぎ、だったのかもしれない。不可解な静止でこちらの決断を迷わせ、そこに勝機を得ようとする小細工だったのかもしれんな、と源三郎は一人胸中でつぶやく。いずれにせよ、少々時間は前後はしたが、事態はやはり予想通りに動いているではないか。
源三郎は采配を翻した。あとは配下が打ち合わせ通りにやってくれれば、負けは無い。
源三郎の采配一下、隊列からひとまとまりの兵が抜け出す。
街道は両側を木立に囲まれ、雪どけのぬかるみで歩きやすいとは言いづらい状態だ。
その両側の木立や茂みに、兵たちはつぎつぎと身を潜めた。
兵たちが手に手に持った黒びかりする金属の棒……火縄銃。
その兵たちに、鉄砲頭が薬包を渡していく。
鉄砲足軽たちが渡された薬包で初射の用意をしている間、鉄砲頭は少し街道を逆行して歩いている。
そして頃合いよしと見たか、街道沿いの木の大きめの枝を一本、下側に折り曲げる。
兵たちの準備が整ったのを確かめ、彼もまた茂みの中に隠れた。
それからしばらくの後。
馬蹄の響き、鎧の触れあう音を響かせながら、一団の軍勢が街道を歩んできた。
旗印は「竹に飛び雀」、相沢家の家紋を掲げている。
その先頭の兵が、さきほどの折り曲げられた枝の下を通りがかった瞬間。
道の両側……意表を突かれた相沢方の兵たちにとっては、四方八方からのようにも感じられただろう……から
凄まじい轟音が鳴り響き、隊列の外側にいた数名の兵たちが血や脳漿を吹き散らしながら骸と化す。
誰かが、伏勢だ、と叫ぶが、その声は二度目の轟音と、そして不意をうたれて恐慌に陥った兵たちの阿鼻叫喚にもみ消されていく。
この時代、飛び道具の王者は弓であり、鉄砲はあくまでも補助的な兵器にすぎない。
当時の鉄砲は威力においても射程においても熟練した射手の用いる弓に劣る、不完全なシロモノにすぎないのだから当然であろう。
だが、その場合においてでも鉄砲の価値を認めている武将は数多い。
弓はその使用に本格的な訓練と長年の熟練を要するのに対し、
鉄砲は装薬の調合や火縄の扱い、射撃の指揮などに専門職としての鉄砲頭を必要とするとはいえ、
射撃自体は特に熟練を要しない扱いの簡易さがある。
そして、何より重要なのは、射撃の際に発せられる生物の生理に反した轟音だ。
よほどの剛の者でもない限り、轟音とそれによって降り注ぐ死の危険に対して平静で居られるわけがない。
臆病な生物である馬なども、この轟音を恐れて恐慌に陥る可能性は極めて大きい。
その利点を買って、長瀬源三郎は今回の戦で殿を命じられることを予測し、鉄砲組をはるばるこの南越後まで連れてきたのだが、
その周到な準備は最良の結果をもたらしていた。
一度足が止まった人間の集団は、ふたたび態勢を整えて動き出すにはそれなりの時間を必要とする。
まして状況は最悪、兵たちは恐慌に陥りつつある状態だ。
このような状態では、相沢祐一が追撃を命じようが兵たちの耳には届かない。
その混乱を尻目に、長瀬軍鉄砲組は本隊に合流すべくさっさと現場を離れていた。
後に残るは十数名の相沢勢の死体と、不意をうたれて混乱の極みの相沢勢、
そして声を枯らして追撃を叫ぶものの、兵たちに応えてもらえぬ滑稽な将の姿、のみ。
まあ、つなぎの話。 保守がてら、ってことで…・。
火縄銃の「危害射程」は確かに熟練した射手の撃つ強弓に匹敵します。
が、「有効射程」となるとはるかに短いのが実情。
江戸時代に入ってからの鉄砲教本には「相手の白目が見えてから撃て」とまで描かれてるくらい、
当時の鉄砲は狙ったとこには飛ばないシロモノ、だったわけで…
何か…柳川勢負けそう(´・ω・`)
能登の嵐カコよかったから柳川派の漏れ
とは言え、柳川は戦力の割に勝ちすぎていたのは事実
そのしっぺ返しで負けるとしても、それはしょうがないだろうな
むしろ気になるのは、何故柳川が勝ちすぎの戦をしたのか?と言うところではないかと
元の領地である加賀はともかく、越中を取らなければならなかった理由が未だに解からない
東北、近畿、中国、d子に保科の中の人はいきてる?
二ヶ月近い新作なしは不安だ
前までがはやすぎただけ。
師走で忙しかったし音信もないわけじゃないから大丈夫だと。
もっと大変なところは山ほど
230 :
名無しさんだよもん:04/01/09 13:41 ID:RqHGyoLU
400まで落ちてて危険なのであげ
大名思考中
三日以上立っても、200ちょいまでしか下がらないのはちょっと意外
信濃・海津城
川中島を一望するこの城に理奈達が入ってきたのは評定が終わり、五日経ってからのことだった。
しかし、そこでは思いがけないことが起きていた。
「水瀬の兵がいるですって?」
「およそ百名程」
「聞いてなかったけど」
「これには深いわけがありまして……」
そう言って奉行衆の一人はこれまでの経緯を説明し始めた。
「幸い柳川方の兵はそのうち帰っていったのですが、水瀬方の兵はそうもいかないようで。
とりあえず領内を歩き回られるのは困りますので城に入れて上の指示を待つことにしたのです」
「大体のところは判ったわ。それで指揮官は誰なの?」
「北川潤とか申しております」
「聞かない人ね」
「水瀬家家臣団といったら相沢、美坂、沢渡、倉田に川澄が有名ですからね。越中軍を率いていたようです」
「とにかく、会いましょう。今どこにいるの?」
「既に皆様方と供に大広間に集まっております」
「来た来た。北川君、あれが理奈ちゃん」
「お、お世話になってます!」
先に大広間へ来ていたはるかの紹介で北川は若干、緊張した面持ちで姿勢を正し挨拶をする。
「……どうも。ていうかこれは何よ?」
返事もそこそこに理奈は部屋を見渡す。
海津城は緒方家で唯一天守閣を持つ城。ただ天守閣と言ってもそれほど大きくはなく三層程度のもので
その一階にある大広間は躑躅ヶ崎のそれと同じ位の広さがあり何時でも本格的な軍議が出来る設計になっていた。
しかしその中心には本来在り得ないものが設置されている。何よりも目を引くそれは──
「囲炉裏」
のんびりと手をかざしながら答えるはるか。
そう、床を四角に切って防寒や煮炊きの為に火を焚けるようにしたあれである。
「撤去」
「寒いからやだ。……ん、彰、蜜柑持って来て。お茶も」
「うぅ……なんで僕が」
「私にもお願いできませんか?」
いつも間にやら城の侍大将達も加わり和気藹々とした雰囲気になっている。
「火事にでもなったらどうするの!? そもそもこの城はおかしいわ!
城門入ってすぐに設置してある石像とか…… 一体どうなってるのよ」
「外国からの輸入品で『くずおれる男』だって。趣があっていいよね」
「趣があるとかの問題じゃなないでしょう。とりあえず設計責任者出て来なさい!」
「図面書いたのは英二さんだって。それをもとに冬弥が築城」
「あの人は……」
「怒ってないで近くにこない? 暖かいよ」
「……この城でまともなのは私だけね」
「一緒にしないでください……」
「そう、大変だったわね」
理奈は家臣団を整列させた後、北川からここに来るまでの経緯を聞いていた。
勿論囲炉裏の火は消されている。
「……越後の戦況とか判らないですか?」
少し心配そうな表情をしながら北川は訊ねる。
彼が知っているのは春日山城が包囲されたまでだった。
それ以降は逃げるのに精一杯で何一つとして判っていなかった。
「残念ながら。やっぱり気になるわよね」
「そりゃもう」
緒方家としても知りたいのは同じであったが、柳川の兵がまだうろついてるかもしれない以上
国境を越えて間者を出すのは難しかったのだ。また変にいざこざを起こされても困る。
「関東に集まっていた主力が戻ってるだろうからたぶん陥落はしてないと思うんですけど……
そういえば大庭戦はどうなったのか判りませんか?」
「え?」
「佐祐理さん達の関東軍だから大庭家を滅ぼして下野、常陸と占領したのかもなあ。
帰って結果聞くのが楽しみだ」
(本当のこと、言えない……)
水瀬家、大庭家、それに千堂家を巻き込んだ戦いの顛末は承知している。
死者だけで両軍合わせ1万を優に超えるという冗談のようなことになった上に、水瀬は関東への影響力を大幅に後退させているのだ。
さらに水瀬領であった武蔵を千堂家は奪っている。今は隠しておいた方がいいだろう……
「理奈様」
一通り話を終え廊下に出てきた理奈に、少し太めの女性の側近が寄ってきて耳元で呟く。
「久瀬殿が来ており至急に面会を求めています」
「……こんな時に」
天守閣三階・城主の部屋
「……見ましたよ」
そこで理奈と対面した久瀬は開口一番に呟く。
「見まごう事なきあの触覚! 水瀬家家臣北川潤ではないですか!」
「怒鳴らなくても聞こえるわ。もっと静かに喋ってちょうだい」
「これは失礼」
こほん、と咳払いをして、何事もなかったかのように話を進める。
「で、どうするんですか?」
「どうするもなにも安全な場所まで送っていくだけよ。
敵意をもって入ってきたんじゃないって話だし」
「なりません、さっさと始末しましょう! 今なら秘密裏にことを進められます」
「……物騒ね。彼方が水瀬家の人間を嫌いなことは判ってるけど、私情を持ち込まないで」
「私情とかそういう問題ではありません。現状をよく考えてください」
久瀬は確かに嫌いではあったがそれだけで始末しろと言ってるのではない。
偶然とはいえ柳川の兵と戦っているのだ、ここで北川達を丁重な態度でもてなしたら最悪、柳川家と合戦になりかねない。
それに千堂家との関係もある。
「大丈夫。柳川家も敵は増やしたくないだろうし、千堂家もこんな些細なことにとやかく言う筈がないわ。
名目上だけど水瀬・千堂の同盟も秋までは続くって話よ」
「では始末とまでは言いませんがとりあえず躑躅ヶ崎に送りましょう。
領土侵犯しているのですからそれぐらいは……」
「それは絶対に駄目」
「何故?」
「兄さんの所に送るとすごく嫌な予感がするの」
「いや、予感って」
「別にいいじゃない。一々大騒ぎする程のことじゃなし。
とにかく北川潤は水瀬家に返す、判った?」
「知らないですよ……」
北川の話は続けても無駄と判断して久瀬は本来する筈の話を始めた。
「今回僕がここまで来たのは英二様からの命令を伝える為です」
「つまりパシリ」
「それだけ重要ってことですよっ!」
そう言いつつ、持って来ていた籠の中から沢山の書状を取り出す。
「ええと何々…… 重要事項『粉雪作戦』について?」
相変わらず名前つけてるの好きね……と思いながらも流し読みを始める理奈。
だが、次第にその表情が曇っていく。
「目標は…… 長森家!?」
「問題でも?」
「大有り。何で相手が長瀬家じゃないの? 理由を聞かせて」
「英二様は敵に回る可能性がある以上、滅ぼし支配下におく方が安全だと判断なさったようです。
既に篠塚殿、森川殿も賛同しておりますが」
「そうでしょうね」
緒方家の方針を決めているのは英二と弥生である。
さらに由綺はとやかく言うタイプではない、事実上方針に異議を唱えることが出来るのは理奈だけなのだ。
「こんな時だからこそ長森家を味方に引き入れる努力を続けるべきじゃない?
それに大義名分はどうするの? 下手をすれば私達悪役よ」
「そのうちに見つかるとか申してましたが」
「……さてはでっち上げるつもりね」
「……随分と物騒な思考をしているのですね」
「彼方は兄さんの本性を知らないからそう言えるのよ。
人が困ったり怒ったりしたりするのを見て喜ぶ最低男なんだから」
「あの、この前の評定からずっと思っていたのですが若しかして兄弟仲……」
「良さそうに見えるの?」
(ああ、この家、直に内乱でも起こるんじゃ……)
「……そうだ。久瀬君」
「改まってどうしたんですか?」
「これから兄さんのこと…… 監視しててくれる?」
「えっ?」
「最近本当におかしいのよ、見てて判るぐらい。
裏で私達が知らない悪事の一つや二つしてても不思議じゃないわ」
「えっ? えっ?」
理奈は突然の不味げな話にうろたえている久瀬に一気に続ける。
「ついでだから彼方が知ってる機密も全部話しちゃいなさい。
私の知らないことぐらいあるでしょ」
「え、いや……」
「あ、やっぱり隠していることあるのね」
久瀬は仕官すると同時に空席であった奉行に任命されていた。
少々異例であったが、結果はどうあれ統治経験があるのが選ばれた理由らしい。
また冬弥達の調査をまかされた関係上、他の家臣より知っていることもあった。
「……」
「言っちゃいなさいよ。誰にも喋らないから」
「あったとしても言う訳にはいきません」
「ふーん。そう…… ねえ、ちょっと見て欲しい物があるんだけど」
おもむろに立ち上がると理奈は久瀬をある部屋に案内した。
そこはまだ整理されておらず、運ばれてきたばかりの荷物が数多く積まれている部屋だった。
その中から特に何重にも包装された一品を取り出し、包みを解き始める。
出てきたものは……絵画だった。
「どう、この絵?」
そう言って少し得意げに見せびらかす。
「渡辺家侵攻の時に高天神城の宝物庫から見つけたの」
「……ちょっとまってください」
渡辺家・高天神城の宝物庫・絵画。それらが意味するのは……
「もしかしてこれはっ!」
「渡辺家三大家宝の一つ『瀟湘八景図』よ」
絵画『瀟湘八景図』、香炉『千鳥香炉』、名刀『宗三左文字』。
知る人ぞ知る渡辺家の御宝である。
瀟湘八景図こそ無事だったものの、千鳥香炉は駿府城崩壊で、宗三左文字は渡辺茂雄戦死により行方不明になっていた。
それを理奈は南明義降伏の折に受け取っていたのである。
英二には他の名品は送っているし、高天神城のものは部下に分け与えるなり好きにしてよいと戦前に言われていたので
文句を言われる筋合いはない……と思う。
「欲しい?」
「そりゃもう。何時かはこのような物を所有できる身分になりたいですね」
「譲ってもいいわよ」
「本気ですか!?」
「ただし条件があるわ。
さっき言った通りに兄さんの監視および彼方が知っている機密を全て教えなさい」
(やっぱり)
「……久瀬君、よく聞いて。今は裏切りや謀略なんかが横行する世の中。
でもね、こんな時代だからこそ正義を貫くことも大切だと思うの。
長森家侵攻なんてもってのほか、不戦協定結んでるのにあの長森瑞佳がちょっかい出してくる訳ないでしょう?
兄さんがおかしなことをしていたら諫言しなきゃいけないし、場合によっては止めさせなきゃいけない」
「正義ですか……」
久瀬は考える。
英二への義理+久瀬の立場>>>>>>理奈に協力、なのは間違いない。
そこに理奈の言う正義が加わったらどうなるだろうか?
英二への義理+久瀬の立場>>>>>理奈に協力+正義。こんなもんだろう、長森家がどうなろうと知ったことじゃない。
しかし瀟湘八景図、これはでかい。なんてったって城が建っちゃう位の代物だ。
それに協力して英二の長森家への謀略を見つけ弾劾したら…… 英二は失脚。たぶん理奈が当主に、そうしたら出世は間違えなし。
万が一ばれたとしても『理奈様の命令に身分の関係上逆らえませんでした(涙』とか言って責任転換出来るだろう。
分の悪い賭けではない。緒方英二…… 暫く近くにいて判ったんだが確かに謀略大好きっぽい、それに例の謀反話だってかなり怪しいところがある。
……腹はきまった。
「確かにそうですね。やはりどんな時でもやってはいけないことはあります。
正義>>>>>越えられない壁>>>>>悪事なのは当たり前、及ばずながら協力させていただきます」
なかなか進まないもので
>地図造りだよもん氏
まだ決まったわけじゃないんで今はいいです。
とりあえず出来るかどうかを訊いてみたかったので…
触覚キター!w 触覚というか食客というか。
何か緒方家にとって面倒な話になってきたなぁ。
逆に言えば見てる側としては面白いんだけどね。
長森家消えるのも微妙になってきたな
薩摩国枕崎近郊
坊津(ぼうのつ)の暴動を鎮圧するために鹿児島の指示で指宿(いぶすき)から
派遣されたラントール軍千五百名は、東隣の枕崎から坊津へ向う街道上を進軍していた。
日は中天高く、そろそろ正午を迎えようとしていた。
と、唐突に、街道の横手の林の中から鬨の声が上がった。
「敵襲か?!」
「坊津はまだまだ先だぞ!?」
ラントール軍の指揮官は最後尾で馬に乗り、ゆっくり進んでいたが、予定外の事態に
顔を顰めつつも、馬を止めて応戦の指示を出そうとした。
「小癪な奴らめ、だが正規の軍たる我らが来た以上、好きにさせるわけにはいかん」
しかし、その背後では、何時の間にかそこに立っていた赤い髪の娘が、彼女の身長
ほどもあるかと思われる巨大な鎌を音もなく振り上げていた。
「……死ね」
指示を仰ぎに振り返った部下の目に奇妙なものが映った。
「敵襲です! 御指、示、をぅううわぁあああ!」
そこにあったのは、馬上に見覚えのある立派な鎧、しかし、首があったはずの場所からは
ただ紅い液体が噴き出すのみであった。
指揮官の奇怪な死に混乱するラントール軍の前に、明らかに兵士ではない男達を引き
連れた奇妙な一行が現れた。その中から一人の女が進み出ると、兵達に語りかけた。
「聞きなさい。あなた達は今の主の横暴を知っているはずよ。それなのに何故
その片棒を担ぐの? あなた達の妻子を苦しめる片棒を。今からでも遅くない。
私達に手を貸しなさい。私達ならあの男を倒すことが出来る」
奇妙な威厳を持つ女の声に魔力でもあるかのごとく、ラントール軍の兵士達は
四半刻もしないうちにその女に従っていた。
一日後 薩摩国枕崎 桜之城
「さて、どうしたものかしらね」
枕崎の地頭館を兼ねている桜之城で、手に入った絵地図を眺めながらルミラは
頭を捻っていた。参謀格のメイフィアが偵察に出ていることもあり、ルミラ自身が
戦略を練らなければならないのである。エビルやフランソワーズは決して知力が
低いわけではないが、積極的に参謀を務めるような性格ではないし、他は余り
戦略的な頭を持っていない。ルミラ自身は戦場の経験も豊富であるし、武門の
主として一通りの兵法を心得てもいるが、やはり別の視点からのチェックは欲しい。
いずれにせよ、この時点で最大の問題は情報である。地形はどうか、風土はどうか、
敵軍の規模や錬度、士気はどうなのか。その意味でこの地図は非常に有り難かった。
この地方の大体の地形と位置関係が把握できるからである。後はメイフィアの報告を待ち、
これまで町衆やラントール軍の兵たちに聞いた情報を総合して判断する必要がある。
ルミラ達が坊津の代官所を占拠してからのラントール軍の反応は迅速だった。暴動を
鎮圧するため急遽集められた討伐隊が占拠三日後には指宿から派遣されてきたのである。
薩摩中南部を支配するラントール家は、海外や琉球との貿易で栄えてきた家だが、
現当主トゥル43世は利殖に走る余りに厳し過ぎる税を課し、民衆の不満が高まっていた。
そのため、ラントール家は民衆反乱には殊に敏感であり、主要な町には地頭館か代官所、
地理的な要地には城を設けて睨みを利かせていた。薩摩半島の南部では指宿城が
緊急のときに軍を動員する役目を果たしており、坊津の動きに即応したのであった。
しかし、軍の動きは迅速だったものの、動員された兵の士気は低かった。現当主の
横暴は明らかであり、それに多くの兵も嫌気が差していたのである。ラントール家の
支配下では元々さして大きな一揆や暴動は起こっていなかった。不満が少なかったと
いうわけではない。ほとんどが町や村レベルで封殺されていたのである。過去最大の
暴動でも、代官所が落とされるようなことはなかった。その意味でも、今回は
これまでと違う、そのことを肌で感じながらの出動だったのである。
動員された兵は千五百、一つの町の暴動を鎮圧するには十分な兵数のはずだった。
しかし、偵察と情報伝達に長けた、たまとメイフィアにより、かなり早い時期に動きを
察知されていたラントール軍は、坊津のはるか手前で、戦闘態勢すら整わないうちに
エビルによって指揮官を倒され、浮き足立った所に現れたルミラと坊津の町衆の説得で、
ほとんどそっくり反乱側に寝返ってしまったのである。ルミラはそのまま坊津と指宿の
間にある枕崎の町に進軍し、地頭館がある桜之城を急襲した。鎮圧軍を送り出して
油断していた地頭以下ラントールの役人達は全く抵抗できなかった。何事かと固唾を飲む
枕崎の住民に対しては、ルミラと坊津の町衆が説得を行い、この町をそっくり味方に
つけることに成功した。この間わずか半日、鮮やかな手並みであった。
ルミラは考えていた。薩摩半島南部の険阻な地形を利して守るか、一気に攻め込むか。
こちらの軍勢は坊津、枕崎の町衆と先の討伐軍合わせて二千、決して十分な戦力とは
言えない。一方、地形を見るに、鹿児島との間には山地が横たわり、軍の往来の
障害になっている。これらの条件だけならば守るより攻めるほうが難しそうだが、
だからと言って守りに徹していればいいかというと、そうとも言えない。しっかりした
根拠も農業地帯との繋がりもない現状では、時間経過と共にジリ貧になっていくのは
目に見えているからである。指宿城の存在も問題である。ここを何とかしなければ
攻めるも守るもままならない。考え込むルミラの前で白い霧が生じたかと思うと、
収束して人の形を取り、すぐに金髪の女性の姿となった。
「ルミラ様、只今戻りました」
「ご苦労様。で、どうだった?」
「少しずつ集まって来ていますね。既に千以上、城の規模からして、最終的には
五千近くに達するかもしれません」
「なら……そちらに関しては速戦速決、これしかないわね」
「御意。遅れれば遅れるほど不利になるでしょう」
「問題はその後ね。攻め込むには兵力が足りないし、かといって長期戦は無理。
メイフィア、あなたならどうする?」
「やはり出来るだけ早く決着をつけるのが得策と思われます。私達の有利な点と言えば、
高い士気と勢い、そしてまだ敵に実力を知られていないことです。これらは長引くに
連れて失われる条件です。兵力が足りないのは事実ですが、増やす見込みがないわけ
ではありませんし、戦い方によっては地形を味方にもつけられますから。しかし、
これくらいのことはルミラ様ならもう御検討済みでしょう? 本当に考えておられるのは
速攻の具体策、そういうことではありませんか?」
「ふふ。流石にお見通しね。じゃあ、改めて、どう攻めればいいと思う? この地図を
見たところ、この薩摩半島だけでも、南東部に指宿城と頴娃(えい)城、中南部に
知覧(ちらん)城、西部に加世田(かせだ)城と伊作(いざく)城、中部に一宇治城と
いう具合で、目標たるラントールの本拠、鹿児島の内城以外にも注意すべき拠点が
いくつもあるわ。鹿児島以北は無視するとしてもね。これは厄介だわ」
「進軍の経路は大きく分けて二通り考えられますね。一つは頴娃・指宿を落として
半島の東岸を北上する経路。こちらは海と山に挟まれた狭い海岸地帯を進むことに
なりますが、直接鹿児島を叩けます。もう一つはここから北上して知覧を落とし、
万之瀬川(まのせがわ)を下って半島の西岸に出、北上しながら西部、中部の城を
落として行く経路。これは距離が長く、城をいくつか落とさなければなりませんが、
西部の農業地帯を確保出来ます」
「東なら速攻にはもってこい、ただし、現有兵力からの積み上げは望めないわね。
西の場合は一歩ずつ根拠を作りながらの進軍ということね。上手くやれば各地の民を
味方につけて兵力を増やせるかもしれない。ただ時間はかかる」
「そのことに関係があるのですが、興味深い話を二つ、耳にしました」
「興味深い話?」
「はい。実は……」
その話を聞いたルミラは「我が事成れり。ついてるわね」と呟き、即座に進軍の方針を
定めたと伝えられる。これがデュラル家の名を世に知らしめた鹿児島攻略戦の始まりとなった。
遅くなりましたが、あけおめことよろ。
枕崎市は漁業の町。鰹節など有名ですね。
薩摩半島内の位置関係はこんな感じ。
伊集院 鹿児島
吹上 谷山
加世田 知覧 喜入
坊津 枕崎 頴娃 指宿
東ルートは枕崎→頴娃→指宿→喜入(きいれ)→谷山→鹿児島
西ルートは枕崎→知覧→加世田→吹上(ふきあげ)→伊集院→鹿児島
(伊作城は吹上、一宇治城は伊集院)
なお、エビルの台詞はLF97準拠。結構過激だったのね。
>202 なるほど。偶然ですか。それはそれで凄い。
通字持ちキャラを通字持ちな人がやるとは。
>203 そ、そうでしたか。最近見てないんで知らんかったです。
>247
「ドラえもん」には黒歴史となってる「初代ドラえもん」がありまして、
このとき肝付さんはなんとジャイアン役だったらすぃw
249 :
247:04/01/16 00:37 ID:K1YXIvKa
>248
うぁ。それも気が付いてなかったです。ドラは奥が深い。
みんなが振り返る版、見てたんですがねぇ。
>>249 ドラえもんは6巻に最終回と思える話がある。『小学三年生』1974年3月号
掲載の初出では『小学四年生』4月号に続くと明記されているし、
7巻の次の話で復帰して、以後何事もないかのように続いている。だから
最終回ではない、というのが現在の公式設定。
しかし、実は本当の最終回になる可能性があった。
『ド・ラ・カルト〜ドラえもん通の本〜』(小学館ドラえもんルーム編、
小学館文庫)によれば、どうもこの時初代アニメ版ドラえもん(日本テレビ系列)
終了の煽りを食って打ち切りになりそうだったらしいのである。
藤子プロはこのアニメを大変恨んでいるらしく(F先生の評価も
低かったらしい)、現在のテレビ朝日系列放映版が成功を収めてからは、
故人の遺志かスタッフの意向か徹底して抹殺を図っている。
小学館でドラえもん関連の書籍は山ほど出ているが、これらを読んでも
日テレ版の存在すら知ることは難しい。『ド・ラ・カルト』はついぽろっと
本当の事情を漏らしたような気がする。
水瀬・千堂の同盟って(形だけだけど)残ってたんだな。
何とか続く可能性は?
もともと停戦の機運たいしてなかったとこをごり押しで停戦させたわけだし、
彩問題を遺恨にさせないのも困難。
関東統一が水瀬にとっては、危険な大勢力を形成させることを意味するわけだし、
千堂が関東ヒキコモリのちゃん様より危険な存在であることもまた事実。
同盟組みかえはあれど、現状継続は難しそう。
>>252 この停戦は千堂家が主導権を握っているからその意向次第でどうにでもなる。
大庭が実質噛ませ犬に使われている現状で動けるのは水瀬だけだが、
柳川に加え緒方の動静がなお不透明だから、水瀬から破棄することはできない。
大庭が水瀬と組むことはあり得ず、千堂はすでに緒方と同盟中だから
下手に動けば水瀬包囲網へ発展する危険がある。葉鍵戦国の大名は
基本的に信義のない連中だが、利害が一致するからしばらくは持つだろう。
水瀬は柳川を退けてもまだまだ苦しい。
逆に千堂は、大庭狙いがはっきりしている。水瀬と二正面作戦するほどの
余裕はないが、無理しなければ当分は安泰。
大庭滅亡のシナリオはもう完成しているはずだ。
このままだと水瀬・千堂は休戦状態のまま、千堂が大庭を潰すだろうが…。
これに関しては「中の人」的事情も絡んで一番頭が痛いところなんですがね。
彩に関しては当初は寝返って水瀬家側に出奔する話だったので、
それ「だけ」に関してはまあ良かったんですが、
一番まずかったのは彩ごと川越本城奪取しちゃった事だったんですよ。
支城だったらOKだったんですが、本城ごと寝返られたら下手したらゲームバランス
ぶち壊す可能性もあり、相当な威信力の差が無い限りやってほしくない訳で。
寝返りはともかく、本城移動だけはさすがにそれはNGだった訳です。
だが、当時NG制度が無かったようなものだったので、仕方なくこうしたんです。
(武将がいなくて、名の無い足軽頭だけ城を守ってても、普通に考えればまあ
守れない事は無い。特にゲームとはいえSSなのでそのぐらいは平然とやるであろうと。)
本城を取る事が国を支配することと同義に近く、逆に言えば領土の99%を千堂家か
大庭家で取ったとしても本城水瀬に取られたら国は一応水瀬家所有になってしまう訳で。
それで大庭防衛軍の軍隊指揮まで半分むこうが取ってましたからなあ。
それだけはちょっとやめれと当時こちらとしても思ってましたわ。
そこら辺酌量しないといけないんで、ちと難しいんです。「彩編」の対応も難しいですし。
まあ、あそこで放置してたら
大庭滅亡・さらなる領土拡大でえらいことになってたよな
だけども、大庭の人は「東北シナリオに彩が必要」だからNGを出したがっていたのに
それが千堂に行ってたりしてるし、また、「城の奪取方法」に問題があるのならば
それと同じ方法を用いる事自体がそもそもおかしいのではないかな?と個人的には思うので
>254の言葉通りに受け取るのはまだ早いかな?と。
まぁ、その点も含めて彩編を如何書くのかを楽しみにはしていますがw
北川とか久瀬って、自由度が高くて面白いな。
思考中
おいしいところは北川と決まってますが、いろんな意味で。
守
保守。
保守。
大名(中の人)思考中。
リアライズとやらはどーすんだ?
あれは葉鍵じゃないような。
板の管轄範囲だからいいんじゃない?
ていうか、新作は無理に出さなくてもいいでしょう…
ネタがあるならともかく。
大名(中の人)思考中。
Z80並みの処理速度だな。
薩摩国知覧(ちらん)
枕崎陥落からニ日後、枕崎の北東二里あまりの台地に位置する知覧城では、二百名の兵を
連れて現れた女とこの町を治める地頭が話し合いを行っていた。欧州の貴族と名乗るその女、
ルミラ=ディ=デュラルに協力と援軍を求められ、地頭は苦慮していたのである。
ラントール家が支配する薩摩中南部では、先代以前から仕える家臣や国人が地頭として治める町と、
現当主が直接任命する代官が治める町があり、地頭と代官では鹿児島に対する態度に温度差があった。
もちろん一概には言えないが、概ね前者は横暴を極めるトゥル43世と距離を置いており、
逆に後者は甘い汁を共有する運命共同体的連帯感を持っていた。知覧をはじめとする薩摩半島
中西部には前者に属する土地が多く、トゥル43世を苦々しく思う地頭も少なくなかったが、
鹿児島に睨まれて軍を派遣でもされれば一たまりもないとの判断もあり、沈黙を守ってきた。
今度のルミラの要求に対して、知覧の地頭もラントールを一応主筋と仰ぐ身であれば、
当然相手を敵として認識すべきだが、民の苦境もわかっているし、もう鹿児島のやり方は
限界だという認識もある。ただ、これでも相手がいい加減な人物ならば、最初から迷うことも
ないのだが、実際に相対したその女は、貴族という名乗りは決して虚言ではないであろうと
信じざるを得ない、圧倒的な威厳を備えていた。本人だけでなく、脇に控える部下と思しき
金髪の女も、立ち居振舞いの端々に現れる知性は侮れぬ相手と見えた。
考慮の結果、地頭は一つの条件を提示した。すなわち、現在指宿方面に向っているという
反乱軍の本隊が、鹿児島から本格的な討伐軍が派遣される前に指宿城を落としたなら、
知覧は少なくともルミラ達の敵には回らないとの条件である。指宿が早期に落ちたなら
知覧に兵が向けられる可能性は低くなると踏んだのである。
その条件を聞いたルミラは艶然と微笑み、首を縦に振った。
「わかったわ。貴方の立場ならこういう条件になるでしょうね」
「私達としては、鹿児島攻略に北上する我が軍の後背を衝かないと保証してくれさえすれば
問題ありませんわ。指宿が今日中に落ちるのは間違いないですし。ただ……」
「ただ?」
「見方によっては随分日和った態度とも取れますわね。日本の武士はもっと堂々として
強きに媚びず、潔いものだと聞いていたのですけれど」
金髪の女、メイフィアのその言葉に地頭の顔色が変わった。
「くっ。そこまで言われるとは心外。だが、そちらこそ、今日中に間違いなく指宿が落ちる
などとは、随分な大言壮語を吐いたものだな。……こうしよう。もしも今日中に指宿城が
落ちたなら、援軍でも何でも出してやろう、その代わり、落ちなかったら、わしらは
あんた達の敵に回る。これでどうだ?」
メイフィアの挑発にまんまと乗せられた地頭の言葉に、すかさずルミラが答えた。
「うふふ。面白いわね。その話、乗せてもらうとするわ」
「後悔するなよ?」
「ええ。後悔なんかしないわ。たとえどんな結果になろうともね。それに、私は信じてる、
いえ、知ってるわ。あの子達の力を」
かくして一つの町の態度を決める賭けが成立したのである。
同刻 薩摩国頴娃(えい)
「あーっはっはっ! 骨まで残らず燃えちまいなっ!」
鮮やかに晴れ渡った日差しの中、薩摩富士とも呼ばれる美しい開聞岳を間近に望む平地で、
指宿城と頴娃城の兵力を結集したラントール軍の討伐隊とイビル率いる反乱軍の一隊が
激突していた。枕崎陥落から僅か二日後に、頴娃・指宿を目指して東へ行軍を開始した
反乱軍の迅速な動きに対して、ラントール軍は急遽薩摩半島南端部を睨む両城の兵力を
合わせて対抗せんとしたのである。両軍の兵数はいずれも千五百でほぼ拮抗しており、
戦いの行方は誰にもわからないかに見える。しかし、実際には同数でぶつかった時点で
既に勝敗は決していた。士気が全く違った上に、イビルには切り札があったのである。
「うわあああっ! 火だ! 火だあっっ!」
「単なる火計だ! 落ち着いて戦え!」
「い、いや、でも、火元は一体どこなんだ?」
「まさか、魔法か?」
「ば、馬鹿な! たかが一揆軍のくせに魔法使いなどいるわけがないっ」
自陣に突然吹き上がった炎に、ラントール軍はたちまち恐慌状態に陥った。
その炎の巨大さ、猛々しさは、まさに地獄の火炎の如く思われたのである。
ラントール軍のその有様を見て、イビルは高らかに叫んだ。
「今だっ! 突撃!」
恐ろしげな槍を手に、炎を上げる敵陣に真っ先に突っ込み、敵兵を当たるを幸い薙ぎ倒す
イビルの姿に、味方の兵も負けじと続く。槍が漂わせる禍禍しい気配もイビルの強さを
ますます引き立て、それが更に味方の士気を高め、敵の意気を挫いた。元々士気の低かった
ラントール兵が我先に逃げ出し、敵陣が崩壊するまで、さして時間はかからなかった。
同刻 薩摩国指宿(いぶすき)
同じ頃、頴娃での決戦に全兵力を投入した結果無防備となった指宿城には、池田湖方面を
急行して抜けて来たエビル率いる三百名が攻め込んでいた。これも相手を戦略のない単なる
暴徒と甘く見たラントール軍の判断ミスではあったが、この場合はむしろ敵に悟らせず迅速な
行軍を行った反乱軍を誉めるべきだったかもしれない。いずれにせよ、エビル隊は城に残った
数十名のラントール兵を瞬時に蹴散らし、残るは本丸に立て篭もる城代以下二十数名となっていた。
「……降伏か、死か、お前達はどちらかを選ぶことが出来る」
エビルの呼びかけに、城代は憎憎しげな表情をした。
「何ぃ? 下賎の者共がッ! ふざけたことを! 貴様らこそ覚悟しておけよ。
討伐軍が貴様ら賊徒共を破って戻ってくるまでたいしてかからんからな」
「……そうか。お前はそちらを選ぶのだな」
答えるエビルの表情が微かに曇る。もっとも、その表情がそうであると理解できる者は
古くからの仲間だけであったろう。
「……バイバイ」
その言葉はほとんど物理的な痛みを伴うほどの痛切な悲しみを持って発せられた。
その場にいる敵味方全員が、震えるようなその響きに息を飲んだ瞬間、
城代が表情を失い、倒れた。
「御城代!」
「どうなされたのですか?!」
「し、死んでる……」
「な、何!?」
「……お前たちは、どうする?」
エビルの再度の呼びかけで投降しない者は、今度は一人もいなかった。
同日夕刻 薩摩国知覧
その日の夕刻、知覧城に慌てた様子の男が駆け込んで来た。そのまま、地頭とルミラの
会見が続く城の一室に現れる。
「只今斥候が戻って参りました。確かに指宿は陥ちたとのこと」
「な!」
「ほら、言ったとおりでしょ?」
「うぐぐ」
「で、どうするつもり?」
「くっ! 信じられん。あの指宿城が一日で落ちるとは……だが、わしも武士の端くれ、
二言はない。さあ、好きなだけ兵達を連れて行くがいい」
「ふふ。経過はどうあれ、そして今後はどうあれ、今この時に味方になってくれるのは
本当に助かる。改めてお礼を言わせてもらうわ」
「だから好きに……え? あ、……は?」
「援軍の人数は貴方に一任ということにさせてもらうわ。くれぐれもこの町にとって
無理のない人数でお願い。民が無駄に苦しむのでは本末転倒だから」
それを聞いた地頭は目を見開いた。今のラントール家の発想に慣れさせられた身には、
思いもよらない言葉だったのである。
結局知覧城はルミラ達に五百名の援軍を出した。翌々日、出発の準備が整ったのを
見ると、ルミラはフランソワーズにこの援軍を率いて本隊に合流するよう命じると共に、たま
には偵察、メイフィアには各方面の連携を確実に行うための情報伝達を任せるべく指示を出した。
そして、ルミラ自身はアレイと兵二百を連れて西へと進路を向けた。
目指すは加世田城、薩摩半島西部最大の拠点である。
会戦後 薩摩国頴娃
戦闘があっけなく終わり、一息ついた頃、イビルの本格的な戦闘指揮を初めて目にした
兵達が首を傾げながら近づいてきた。
「ところでイビルさん、さっきの火攻めはどうやったんっすか?
何だかえらく効率良かったですが」
「あー、アレね。まあ単なる火術だ。別に種も仕掛けもねーよ」
「火術? 種も仕掛けもない? ……ま、まさか、魔法、とか?」
「魔法ねぇ。んー、厳密に言うと違うな」
「そ、そうっすよね。違いますよね。あー、びっくりした。イビルさんって
槍術は凄いけど魔法使いって印象じゃないっすから」
「そりゃそうだよな。魔法は賢者の技。魔法使いってったらシオンのギース様
みたいな人だよな、普通」
「厳密にって言ったろ? まあ魔法みたいなもんと思っときゃ、そう間違いじゃねーよ」
「「な、なんだってーーー!」」
「そ、そんな! 信じられない」
「ま、まさかイビルさんみたいな頭悪そ……あ、いやいや何でもないっす」
ボカボカッ!
「あたたたっ」
「ひ、ひどいっすよ」
「……お前らなぁ、オレを何だと思ってんだよ」
兵達のあまりと言えばあまりの反応に憮然とするイビルであった。
「ところで、さっき話に出たギースってなどんな奴なんだ?」
「シオン家の御家老っすよ。鹿児島の奴等がどんな大軍で加治木に攻めて行っても全然
ものともしない、すっごい軍師様っすね。高山のサーゼ様と一緒に何回も鹿児島の
連中を撃退してますわ。あ、サーゼ様ってのは当代最強の一人っていう剣豪っす。
剛のサーゼ、柔のギースったら九州じゃ知らない奴いないんじゃないっすかね?」
「ギース様なら賢者としても有名だね。魔法と建築では当代右に出る人はいないって話。
桜島のデルムの塔とか凄い建物だって噂を聞いたな」
「デルムの塔?」
「破壊神ガディムを監視するために作られた塔ですよ。シオン家のお役目なんで」
「あ、イビルさんはこの国の人じゃなかったっすよね。ガディムってのは昔この国を
荒らしまわったおっそろしい神様っすよ」
「ふ〜ん。そんなでも神って言うのか……。まあいいや。いずれにしてもそのギースって
奴は術使いとしても俺とは相当タイプが違いそうだな。むしろメイフィアに近いか?
ま、俺は槍でも戦えるからな。頭を使う仕事は他のヤツに任せるよ」
「イビルさ〜〜ん。志低いっす」
「そうですよ。さっき話に出たサーゼ様なんか、すごい剣士ってだけじゃなくって、賢者と
しても知られてますよ。薬に詳しくて、京の都からも話を聞きに来る人がいるとか」
「えぇい、うるさいッ! そんな奴ぁ例外だよ例外。いいからお前等さっさとあっち行って
本隊の移動準備手伝って来い!」
「全く短気なんだから……」
「やっぱり頭悪そうっす……」
「だから早く行けー!!」
「「へ〜い」」
「やれやれ。全くあいつ等ときたら……。しっかし、こんな所でガディムなんて名前を
耳にするたーね。一応後でルミラ様のお耳に入れとくとすっか」
うぐぅ。コピペミス。
>275のラストに
それは、ラントールの本軍が加治木からの撤退戦で大敗を喫した、まさにその日のことであった。
の1行を追加して下さい。
---------------------------------------------------------------------------------------
開聞岳は富士山っぽいシルエットの美しい山です。標高は約千メートル。
イッシーで有名な?池田湖と大鰻で知られる鰻池もこの近くです。池田湖は一応九州最大の湖。
指宿は温泉とかで有名ですね。砂蒸し温泉とか。
薩摩の小京都、知覧はお茶と武家屋敷と特攻基地の町ってイメージ。
イビルの火術はLF97の「灼熱地獄」、エビルの即死技は同じく「死の言葉」です。
歴史ゲーム的な効果は前者が「火計」とか「放火」、後者が「暗殺」あたりを想定。
九州も長いね
久々の新作乙
>>279 シナリオ開始前から書けば長くなるのも致し方なし。
五百とはかなり気合い入った支援だな。 ルミラ、なかなかやる。
283 :
名無しさんだよもん:04/02/05 02:36 ID:mca1qfXV
にゃり。
なう ろぉでぃんぐ
大名思考中
次に動くのはどの大名家か。
試行錯誤中
File not Found
大名思考中
NullPointerException
∧_∧
( ・∀・) | | ガッ
と ) | |
Y /ノ 人
/ ) < >__Λ∩
_/し' //. V`Д´)/ ←
>>290 (_フ彡 /
駿河国の中心―――駿府
長らく渡辺家の本拠地として発展してきた東海随一、そして日本有数の都市である。
先の戦いで火災や略奪に見舞われ一時は混沌とした状態にあったが、新たに領主に封ぜられた
フランク長瀬の入城により落ち着きを取り戻し、今では焼失地区や城の再建が始まっていた。
「お、久しぶり」
「ん? 南じゃないか」
駿府城改修の指揮を執っている村田のところへ突然南は現れた。
やや街の中心から離れたところに位置する駿府城、ここでフランク長瀬配下の村田、中崎、南森が作業を進めている。
「あんまり進んでないみたいだな」
「ほっとけ」
と言うのは人手、木材の多くが街の修復や船作りに廻されているからである。
実際は瓦礫の除去が多少進んでいる程度で何時完了するのか見通しすら立っていなかった。
「お前、遠江の城主に任命されたんじゃなかったけ。こんなところでどうした?」
「ただの定期報告に来ただけだって。そんなことよりフランクさんは何処だ?」
「この時間だと南蛮渡来の宗教の礼拝に行ってるな。結構掛かるかもしんないが大人しくまってるんだな」
「俺だけが待ってるんならいいんだが、あれを見てみろよ」
「……何だあの団体さんは。どこかで見たことあるような」
「森川由綺軍団長以下幕僚の皆さんだ。至急フランクさんに面会を求めている」
―――駿府城下の屋敷
「観月さんは陸路長森家に、私と由綺さんは海路堺へ向うことなりました。道中の護衛よろしくお願いします。
詳しいことは控えていた者に伝えてありますので後ほどお聞きください」
大慌てで帰ってきたフランクに弥生は簡素に用件を伝えた。
フランクはいつも通り無言で頷く。
海軍の建て直しを計っている今、護衛の船の引き抜きは痛かったが拒否する権限などあるはずもなかった。
「ところで東海の情勢はどうですか?」
どうぞ、と呟き先ほど南から渡されたばかりの報告書を弥生に手渡す。
「『渡辺家水軍残党が決起を企んでいる』に『三河長篠城改修開始』……ですか」
困ったことだと言いたげにフランクは首を傾ける。
ただでさえ少ない船を由綺達の護衛に廻すのだ、残党が本格的に海賊行為でも始めたら防ぐことは難しい。
その上、長篠城改修である。おそらく緒方家を意識しての行動であろう。
「長森家も…… いえ、三河の深山は私達の動きに気づいているのかもしれませんね」
(残党と通じているのかもしれません。彼女なら支援も可能でしょう)
「関連を調べようにも簡単に尻尾を出すはずはなさそうですね」
(そうでしょうな)
「とりあえず三河の監視を強化しておいてください。今はそれぐらいでいいでしょう」
(判った)
―――戻って駿府城改修現場
夕刻、作業も終わり誰もいない筈のそこで、活動を続ける部隊があった。
「ほらほらほらほら! どんどん掘れ掘れ!」
「ここで間違え無いんですよね?」
「当たり前だ。もう七日目、今日中には見つかるはずだ!」
瓦礫を退け掘り進めているのは中崎隊。彼らはそこである物を捜していた。
「絶対この下に宝物庫があった筈だ!」
そう、それは失われた駿府城の宝である。
「何で俺だけ三河の土地失ってそのままなんだよ。差別だろ!」
「今まで中崎様が東海一の富豪でしたのに…… よりによって南如きに抜かれるとは」
「もうこんな所いられるかっ! 金目のものを奪ったら四国にでも逃げて一旗上げるぞ!」
―――更に時間が経ち……
「とうとうやりましたね」
「ああ、間違い無さそうだな」
ぽっかりと空いた空洞。松明で奥を照らすとそこには不自然な空間が広がっていた。
「よし、全員降りてるぞ!」
「さすが髭、溜め込んでたな」
地下に降りた中崎隊一行を待ち受けていたのは予想通り、いや、予想以上の宝の山であった。
「すげー、千両箱だよ」
「あっちにはこれまた高そうな壷がっ!」
「おお、いかにも名刀ぽいぞコレ!」
「殆ど緒方のやつらに持ってかれたと思ってたが…… まさかこんなに残っていたとは」
「マジで独立も夢じゃないぞ!」
「どうやって持ち去るよ?」
「てか、髭の奴その気になれば上洛できたんじゃね?」
「俺達の時代がついに!」
大騒ぎする中崎隊。
しかし彼らの幸運もそこまでだった。
「……あんた達、何やってんの?」
「「「えっ?」」」
「……宝物庫を捜してた?」
突然現れた女、観月マナは座り込んでいる中崎達を見下ろし間の抜けた声で問い返した。
彼女がここに来たのは偶然であった。
寝る前に折角駿府まで来たのだから……と家臣と城下をお忍びで散歩して
帰りになんとなく立ち寄ったのが誰もいない筈の駿府城。そこで活動を続ける中崎達を見つけたのである。
「はい! 瓦礫の下に埋もれる幾多の財宝、是非皆様方に役立ててもらおうと我ら一同、休む間を惜しんで掘り進めていた次第であります。
隠していたのは驚かせようと思っていただけで独り占めしようなんて、これっぽっちも考えてません!!」
「ふーん…… ご苦労なことね」
「いえいえこの程度、なんでもございません」
「それじゃこれはこっちの好きにさせてもっていいのね?」
「ええもうご自由に!」
その返事を聞き終わらないうちにマナは踵を返し穴の外へ戻って行った。
「中崎様話が違っ」
「馬鹿、静かにしろ! 独り占めにしようとしたのがバレたらどうなるか……」
既に見つかった宝を運び出すために続々と兵が集まり出している。もう、どうする事もできない。
「大丈夫、これだけの宝を見つけ出したのだ。きっとかなりの褒賞を……」
「なるほど」
そんな話をしているうちと集まりだした兵の中から一人が近づいて来た。
「あのー。中崎様ですか?」
「うむ、いかにも」
「これを」
そう言って布に包まれた小物を手渡す。
「……はい?」
「どうしたのですか?」
「いや、これは……」
「渡辺家の財宝を見つけた中崎様への感謝の印、らしいです。遠慮なくお受け取りください」
用を済ますと兵はさっさと戻って行った。
「これだけ……?」
「みたいですね」
「……」
「……」
「……許すまじ」
三河・岡崎城
「……深山様」
「何かあったの?」
「どうやら清洲に緒方家の使者が向かっているようです」
「目的は?」
「判りません。それともう一つ、最悪の事態が訪れつつあります」
「……」
「駿府に潜ませている内通者からの情報ですが緒方家は当家への侵攻を決意したようです。
規模、時期など一切不明」
「判ったわ、引き続き緒方家に工作を続けなさい」
「はっ」
「……清洲へ行って報告する必要がありそうね」
本当になかなか進まないもので
ここらでいったん緒方家置いて、将軍様を進めようと思うのですが
以前の橘敬介ネタ少し再利用していいでしょうか? >詠美の中の人
てか、神奈動かしちゃっていいのかな?
さてこの財宝、兄貴がとるか妹がとるか。
触角もとい食客を抱える妹君は、その気になれば
身柄返還と引き替えに北の大姉から金もひっぱれそうだ。
甲信越の嵐、未だおさまる気配なし・・・?
>298
ええと、『他の中の人の範囲には手を出さない』というのが
スレの中の暗黙のルールらしいから、あまり好ましくないと思われ>神奈
それと長瀬の人、詠美の人は水瀬の人待ちの様子だから
足並みをある程度合わせた方が良いのでは?
……以上、外野からの意見具申でした
>>298>>300 あまり動きがないようなら時間を区切って他の大名家も動かせるようにしてよいのでは。
ただその場合は必ず予告を入れるという条件で(放置期間が1〜2ヶ月を超えた場合とか)、
かつ予告を入れてからも猶予期間を決めておいて。
すいません、仕事が多忙で時間がなかなか取れません。
神奈様も柏木家もご自由に動かして構いません。
#私自身、神奈様の中の人二代目だし。
1〜2ヶ月じゃ長すぎだろ。
放置入ってると感じた時点で書いていいと思う。
何かしら時間的基準は入れた方がいいと思う
それに放置の理由も書いている中の人も居るのだから
そこの所は考えるべきだと思うが
……正直に言えば、一人の中の人が多数の大名書くようになって
自分の贔屓キャラを勝たせるために、それ以外のキャラが
まるっきり何も考えていない馬鹿キャラになる(大庭や御三家に目立つ)のは、見ていて物悲しいと言うだけなんだが
何て言うかさ、キャラ名が書かれた将棋の駒を動かしているように見えて嫌なのよ
それぞれのキャラにだって、都合とか、そういったものがあるだろうし
『戦国だから』とか言う理由で戦していたり、『相手に言われたから、それに従いました』的な外交とか
読んでいて何だし
せめて、『何でその様な判断をするのか』とかそういった事書いて欲しいと思う
SSは書いた者勝ちだし、何も書いていない一名無しがこんなこと言うのは
嵐みたいな物なんだが、どうしても言いたくなった
……でしゃばりスマン、吊ってくる
俺スレスト者なのな・・・。
>大庭の人
こっちも当面多忙で、北陸戦線を早急に終わらせられない状態。
関東戦線はこちらは当面上野維持が精一杯なんで、
武蔵でのドンパチからは一時撤退です。 っつーか動ける武将いないんで上野防衛も安泰じゃないですが。さゆまいペアはどっちも紫色だし。
薩摩国喜入(きいれ)近郊
昼なお暗い山道を、二十人の兵士と一人の少女が歩いていた。時間的には真昼間なのだが、
分厚い照葉樹の樹冠に阻まれ、ろくに日が差し込まないのである。
「なあ、お嬢ちゃん」
「……何ですか?」
リーダー格らしく先頭を歩く兵士が、隣を歩く少女に声を掛けた。
「こんな道だけど、大丈夫かい?」
「……はい。問題ありません」
答える少女は金髪碧眼、この国の娘ならば髪結いもまだ済ませていない年頃に見える。
一方の兵士達は、反乱軍の本隊に合流するため知覧城で集められた五百人中でも
選りすぐりの山に慣れた男たちである。しかし、少女はその屈強な男達に混じって山道を行き、
全く遅れる気配もなければ、疲れの色すら見せない。彼等は、合流地点の喜入に向って進む主力に
先んじて偵察しつつ急行する先発部隊である。連絡役のメイフィアが、偵察のため鹿児島に向った
たま の補佐がまずは急務と判断してそちらに向ったため、本隊との連絡の役割を担う先発隊が
必要となったのである。
「そんなに小っちゃいのに、よく頑張るなぁ」
「……ルミラ様の御命令ですから」
「それにしても辛いだろうに」
「……代々デュラル家にお仕えする身ですし、これくらいどうということもありませんから」
「うう。なんて健気な。……おい、お前ら! 俺達はこのお嬢ちゃんの力になるぞ!」
「おお!」
「意義なし!」
「……少々お静かにお願いします」
少女は盛り上がる兵士達を制すると、側方の暗い下層木の茂みに声を掛けた。
「そちらの方々、何か御用ですか?」
「ほう。俺達に気付いたか。なかなかやるな」
その声とともに現れたのは、熊を連想させる鍛えぬかれた体躯と剣呑な目付きを併せ持つ男、
そして、どうにも統一感に欠ける、しかし明らかに法の外にいる者達と分かるニ十人ほどの
男達であった。突然現れた怪しい男達に、兵士達は武器を構え、少女を庇うように前に出た。
弱兵と謗られるラントール軍出身の兵士達ではあるが、この地域では相対的に精鋭と言っても
そう間違いではないレベルの兵である。並の山賊ならば同数で遅れを取ることはまずないであろう。
だが、熊の如き男は余裕綽々の態度で兵士達を見回すと再度口を開いた。
「お前ら、ラントールの兵どもだな? 単刀直入に言わせてもらうぜ。死にたくなけりゃあ
ここに身ぐるみ置いてけや。そうすりゃ命だけは助けてやる」
「大言壮語したもんだな。たかが山賊が我等知覧の精兵に勝てると思うのか?」
兵士達のリーダーのその言葉に、男はニヤリと笑った。
「思うぜ? お前らもサラ・フリートの盗賊団と言えば名前くらいは聞いたことあるだろ?」
「な!」
「サラの盗賊団だと?!」
その名に兵士達はざわめいた。サラ・フリートという女盗賊の率いる盗賊団は、ここ数年
勢力を伸ばしている新興の盗賊団であったが、専らラントール家やロイハイト家の代官所や
関係する有力者の邸宅を狙うことで知られ、サラの名はラントール家やロイハイト家の
関係者にとっては当然ながら嫌悪の対象、逆に彼等に収奪される薩摩の民にとっては畏怖と共に
少々の憧れを持って囁かれる名でもあった。彼等の戦闘力は正規軍をも上回るものがあり、
ラントール軍も度々煮え湯を飲まされていたのである。
「へっ。お前らラントール兵如きに俺らが負けるかよ。同じ人数で俺らに勝ちたかったら
噂に聞く高山の戦士団でも連れてくるんだな」
「くっ」
リーダーは厳しい表情で男と睨み合う。と、その前に少女が進み出た。
「……お待ち下さい。私達はラントール軍ではありません」
「何だとぉ?」
改めて少女に視線を向けた男は、少々目を見張ると、続いてやや目を細めた。
「ほう……これはこれは。なりはチビだが……」
その男に向って、中肉中背で頭に鉢巻を巻いた、この場にいるからには盗賊なのだろうが、
それにしてはやや攻撃的な雰囲気に欠ける若い男が話し掛けた。
「旦那、こりゃあ外れのようですぜ。サラ様の指示はあくまでラントール軍の妨害です」
「いや、まだわからんな。俺達を恐れて嘘をついてないと何故わかる?」
「我等を愚弄するか!」
「てめーにゃ聞いてねぇよ。お嬢ちゃん、証明できるか? 無理だろ?」
「……枕崎、頴娃、指宿は落ちました。知覧はラントールから離反しました。
私達は知覧から指宿の北、喜入へ進んでいます。これでお信じ頂けませんか?」
「枕崎の敗残兵とか、知覧のラントールに与する兵が鹿児島を目指しても同じ道になるよなぁ」
「……此度のラントールとの戦、私達は一刻を争っているのです。……聞けばあなた方も
ラントールを敵とする御様子。……敵を利する気がないのであれば、この場は私をお信じ下さい」
「そうだな、お嬢ちゃん、そうまで言うなら通してやってもいいかもな。
……ただし、通行料を払ってもらう、今すぐに。……あんたの体でな」
その言葉を聞いて兵士達は激昂した。
「き、貴様ぁ!」
「この外道め!」
「けっ。お前ら如き、この俺の敵にはならねぇよ」
男の言葉にますます兵士達が殺気立ち、正に一触即発となったそのとき、少女は静かに口を開いた。
「……それくらいで済むのでしたら、いかようにもなさって下さい。
こちらの皆さんはルミラ様の大事なお味方です。こんな所で失うわけにはいきません」
「なっ!」
「お嬢ちゃん!」
「ほぉ。なかなかいい度胸だな」
少女の言葉に意表を衝かれて混乱する兵士達、狂暴な笑みを浮かべる男、そしてあくまで静穏で、
表情を変えない少女。その奇妙な均衡を破ったのは先程の若い盗賊だった。
「旦那、いい加減にしといて下さいよ。サラ様がそういうのをとことんお嫌いというのは、
他ならぬ旦那が一番よく分かってるでしょう?」
それを聞いて男はふっと表情を改めた。
「へっ。俺が本気だとでも思ったのか? 俺はそこのお嬢さんの覚悟を試しただけだ。
第一、俺は子供にゃ興味ねぇ」
「え?」
「な?」
意外な言葉に絶句する兵士達。少女は相変わらず表情を変えない。
「お嬢さん、その覚悟に免じて俺はあんたを信じることにするぜ。あんたならラントールの連中如き
恐れるほどの相手じゃないかもな。……そうだ、あんたの名前、教えてくれんか?」
「……フランソワーズ」
「フランソワーズか、いい名だ。俺はアール、サラの盗賊団の副頭目だ。騒がせたな。
野郎共! 撤収だ」
「へい」
盗賊達は風のように視界から姿を消し、後には気配も残らなかった。
「お嬢ちゃん! なんて無茶を!」
「……あの方に私を破壊しようという意図はないと見受けられました。
ならば申し上げた通りこの場では皆さんの無事の方が重要です」
「くっ。なんて不甲斐ないんだ! 俺達はっ!!」
その日、少女は忠実な部下を二十人得た。
「なかなか肝の据わった子でしたね」
「ああ、あれはいい女だ」
「いい女?」
「レムよ、このアール、伊達に何百人も女を抱いてきちゃあいねぇ。
俺には分かる。あれはただのガキなんかじゃない。飛びっきりの女だ」
「まあ、人形みたいに整った顔立ちの子だとは思いましたがね。
でも、旦那、さっきは子供には興味ないって」
「分かってねぇな。ああいう女は強引にモノにしても意味ねぇんだよ」
「そんなもんですかね? 俺にはよくわかりませんや」
----------------------------------------------------------------------------
喜入町は鹿児島市と指宿市の間の町。ここのメヒルギ群落はマングローブの北限です。
盗賊団メンバーのうち、アールは原作では世界中でズンパンしていた怪力の女好き盗賊、
レムはロイハイトでサラとエリアの手助けをした侵入路確保の名手です。
ある意味全員大ボケだが、まぁこういうのもカリスマっつーか。
保守。
まだまだ時間が……
まった!
守
思考中
南越後、糸魚川。
春日山城下での戦いから一日余りが経過し、一万弱の柳川軍もこの地に集結を済ませている。
慣れぬ土地、面従腹背の民や国人たちという悪環境の中、丸一日弱でここにまでたどりついた柳川軍は、
やはり精兵と呼ばれるに相応しいだけの働きを見せていると言っていい。
昼前に斥候がたどり着き日暮れ前にはほぼ全軍がこの地に到達、次の命令を待っている状態だ。
だが、その次なる命令はなかなか発されない。
柳川祐也の本陣での軍議に予想外の要因が持ち込まれた結果であった。
「結局、残るか乗るか、そのどちらかなんだよね…」
阿部貴之が呟く。ぽつぽつと覇気の足りない口調なのは、どちらの選択枝にも賛成できないという意志のあらわれ、だ。
「残れば……この後数日に渡って水瀬軍の追撃を受けることになりますな」
長瀬源三郎が続ける。
「いまの時点で真っ向から決戦すれば、ゆめ遅れを取る相手ではない。だが、敵地での行軍は兵の士気を著しく低下させるのは……」
「それだけならともかく、……親不知で襲われたら、どうしようもない」
長瀬と阿部の二人が交互に話を引き取っている。 その様子を柳川祐也は黙って見ていた。否、見ているのではなく、彼もまた考え
を巡らせていたのである。
南越後からの脱出用に柳川軍が手配した、直江津町衆の大船。
本来ならこの時間には十隻以上の大船に分乗し、柳川軍は海上で一息入れているはずだった。
が、現実はそうはなっていない。居るのはほんの三隻のみ、だ。
大船の船頭の話によれば、関川河畔での戦いがあったその日の早朝に突如水瀬勢が直江津の町に乱入、港を抑えられてしまった、と
のこと。なんとか出港できたのはこの三隻だけだった、ということだ。 信じていい話かどうかは判らないが、とりあえず当初の脱出
経路が使えなくなったことだけは、事実だ。
こちらが立てた一連の計画の中で、もっとも危険な瞬間。 そこを見事に突いてきたのは、さすがは「越後の雌狐」といったところ
か。 いや、もしかしたらあの女は、こちらが南越後にまで手を伸ばしてくることを読み、逆にこちらを死地に誘い込むべく罠を張っ
たのではないのか。 ……やくたいもない想像ばかりが脳裏をかすめる。
いや、このようなことでは、な。 目の前の長瀬が昔の俺にこう言っていたではないか。
「敵の姿を正しく知らねばいくさは出来ない、慢心で敵を見れば小さく見え過ぎ、臆心で敵を見れば大きく見え過ぎる」と。
いま俺が考えるべきことはただひとつ、貴之が言う「残るか乗るか」のどちらが柳川家にとって有利な選択か、ということだけだ。
目を閉じ、ひとつ深く息を吸う。 くっと腹に力を込め、柳川祐也は口を開いた。
「源三郎、あの船にはどれほどの人間が乗れる?」
「は、……三隻合計で二千ほど、かと」
「よし、俺は七尾に帰る。 各隊の中で腕の効く順に総勢二千を選び、船に乗せろ。
貴之、おまえは俺に同行しろ。 源三郎、残りの兵は貴様に預けた」
「「はっ」」
貴之と源三郎の声が重なる。
辛い、選択だ。
現状の柳川軍の戦力でも、恐らく数刻のうちに追いついてくるであろう水瀬軍と戦うことは不可能ではない。
が、それは勝っても得るものの無い戦いだ。 水瀬の庭であるこの南越後では、水瀬軍は土地の人間の協力を受けられるいっぽう、
こちらは不休の警戒を続けなくてはならない。 二度三度と襲撃を受ければ、如何に精兵といえど傷つき疲れ、まともに戦う力を早晩
失うだろうことは疑い無い。 そして、疲弊した兵・傷ついた兵では迅速な移動は期待できないし、それだけ水瀬勢や水瀬方の国人衆
の襲撃を受けやすくなる。 国人連中もこちらを見のがしては水瀬への義理立てが出来ない以上、静観してはくれまい。
それだけならよくある撤退戦で、これまでの道程の延長線上のモノでしかない。 が、問題はこの先の難所、親不知・子不知だ。
日本海の荒波が直接山肌を洗い、波が引いた僅かな間を、親も子も気遣う暇もないほどに急いで通らないと波に呑まれるという、大
軍の移動経路としては最悪に近い条件の場所だ。
この場所を通過するには、最低でも数日はかかろう。 その間に水瀬軍の襲撃が無いわけも無く、難所通過のために陣を解かねばな
らない、軍と呼べない状態にならざるをえない状態でどれだけ耐えることが出来るか。
そのような状態に全軍をさらすわけにはいかない。 貴重な精兵を一人でも多く能登に連れ帰らねばならない現状で、ほかに選択の
道は無い。
しかしながら主立った将が全員兵を見捨てて逃げ出したとあっては、柳川家の武名にかかわる。 ここは誰かしんがりを任せるに足
るだけの将に残留した兵を率いてもらい、少しでも多くの者を越後から脱出させてもらわねばならない。
そして、そうした無茶は、源三郎に命じられるのが柳川家の常である。
一瞬、源三郎と祐也の視線が交錯する。
すまぬ。いつも無理ばかり頼む。
お気になされるな。 それが私の望むところ。
そなたにはどれほど礼を言っても足りぬ。
いえ、殿の幼少のみぎりから、私は殿に我が知るあらゆる軍法・武術を教えてきたのですから。
なおさらではないか。
いえ、殿が私の教えた技をもって天下に名を轟かせてくれること、それだけが我が望み。 そうなれば我が名も殿と共に生き続けましょう。
許さぬぞ、勝手に死ぬことは。
判っております、まだまだ殿には教えたりぬことがありますゆえ。
その言葉、背いたら許さぬぞ。 黄泉にまで連れ戻しに往くから、そう思え。
一瞬の間にそうしたやりとりを目と目で交わす主従。
阿部貴之は、そうしたふたりのことを、正直羨ましいと思った。 柳川祐也の側小姓あがりで武将となった彼だが、いくら柳川と近
しい立場に居るといっても、こういったいわば「いくさ人」同士の信頼はまったく別の次元にあるものなのだから。
そして、柳川祐也が席を立ち、長瀬源三郎も席を立つ。
ただただ床几に腰を落としていた阿部貴之だが、「急げよ、貴之」との祐也の言葉で我にかえった。
自分もいまから急いで自軍の兵を選抜せねばならないのだから。
おひさです。 ほんとにひさしぶりに時間が出来たんで、ちょいと投下。
名門・長瀬の三男坊でありながら、雪深い能登に生きざるを得ない源三郎。
これまた名門・柏木の血を引く者でありながら、柏木を名乗ることさえ許されなかった祐也。
その二人が師弟として出会ったときに、立場を越えた共感を抱くのはむしろ当然ではないか、と。
……腐女子的展開ってゆーな。
322 :
名無しさんだよもん:04/03/02 00:13 ID:gRuRZvPB
age
保守しておきます。
ちゃんと読んでます。
皆さんの続き期待して待ってるんです。
薩摩国加世田(かせだ)
「そぉーれっ! あったれーッ!」
「げふっ」
欧州風の鎧を身に纏った小柄な少女から元気一杯の掛け声と共に放たれた拳は、彼女の
体格からは想像も出来ない重さで、木刀を振り下ろそうとした兵士を一撃の下に沈黙させた。
「それまで! 勝者、アレイ」
「おおー! 八人抜き」
「強い! 素手対木刀なのに」
「……てゆーか俺らが弱いだけなのでわ」
「そ、それは言わない約束」
両者を取り囲む兵士達が騒ぐ中、一人の初老の男が傍らに立つ青年に話し掛けた。
「どうじゃ、あの娘の戦いぶり、お主はどう見る」
「ふむ、面白い。たいした腕力だな。単純だが大事な素質だ。あれならば力押しだけでも
そこらの兵では相手にならんだろう。だが、技術はまだ進歩の余地があるな。
一流の戦士の目から見れば、攻略が難しいという程の相手じゃない」
「ほう。では、折角の機会じゃ。その一流の戦士の力、久々に見せてもらうとするかな」
「うむ。異存ない。元よりそのつもりだ」
彼等が話をするその間にも、次の対戦が始まっていた。
「いっきまーす! えぇーいっ!」
「どわああぁぁぁっ」
今度は開始早々体当たりを仕掛けた少女に、相手の兵士は易々と吹き飛ばされた。
「それまで! 勝者、アレイ!」
「あと一人で十人抜きか」
「今度は誰だ?」
「俺が行こう」
「おー、ついに伯斗さんが動いた!」
次に名乗りを上げたのは、先程の青年であった。名を伯斗龍二という。
薩摩半島西部の加世田の町は、万乃瀬川が東シナ海に流れ込む河口の平地に出来た町である。
この地域は、海からの強風に運ばれる砂と塩の害に悩まされながらも、万乃瀬川流域の
広い平地そのものを資本に一つの農業地帯を成している。この地を治めるハーケンの一族は、
かつて勇者ジークとサムスがガディムと戦った折、炎の加護を信ずる民を率いて邪神の軍勢との
決戦に参加し、風の民を率いたシオン家に次ぎ、水のフレイ家や氷のロイハイト家と並ぶ功績を
上げたことで知られる。後年、経済力を背景に台頭したラントール家が幕府への多大な献金で
薩摩守護代の地位を得ると、地理的にその勢力圏内に位置するハーケン氏は、独自の勢力圏を
築いたロイハイト家と異なり、争いを避けて地頭として守護代の治下に組み込まれる形となった。
とはいえ、元々ラントール一族とも対等以上の存在、その後もある程度の独立性は保たれてきた。
そのような経緯から、ハーケンの一族が治める加世田の地はラントール家にとっては自らの権威の
正当性の象徴であると同時に、思う通りにならない目の上の瘤的な存在でもあった。
現当主はさして目立つ人物ではないが、薩摩半島西部の多くの地頭達と同様、現守護代トゥル43世の
やり方には批判的であり、鹿児島とは距離を置く形となっていた。結果、このところ加世田を
中心に薩摩半島西部一帯は鹿児島の直接支配下にある諸地域からの人口流入が起こっており、
そのことをそろそろ認識し始めた鹿児島側と、加世田を中心とする西部一帯との摩擦が表面化
し始めていた。そして、この度の暴動に際して、ラントール家はハーケン一族に対してついに
旗幟を鮮明にするよう求めてきたのである。鹿児島の要求は二つ。すなわち、この度の暴動を
鎮圧するための兵二千名を供出すること、そして、嫡子を鹿児島に人質として寄越す事である。
これは当主をいたく悩ませた。ラントール家に搾取される民の窮状を見ればこれを見殺しに
するのは忍びないし、まだ髪結い前の少女である嫡子をかの暗君の元にやるのも不安が大きい。
かといって、単独で鹿児島に抗するだけの力もない。先方の要求を黙殺すれば、暴動鎮圧後に
兵が向けられるのがどこかは一目瞭然である。対応に困った当主は、とりあえず加世田城に
兵士を集めるだけ集めてから、様子見に転じていた。とはいえ余り時間はない。鹿児島に協力の
意を表明するなら暴動が鎮圧される前でなければならないし、何か他の手を打つにしても
急を要するのは明白である。その加世田城にルミラ率いる二百名の兵士達がが現れたのは、
まさにその折のことであった。
「貴方、迷ってるわね」
城主、すなわちハーケン氏の当主に面会したルミラの第一声を聞き、初老の城主は当惑したが、
それは表情に出さず問いで返した。
「どうしてそう思いなさる」
「この兵力は私たちと戦うために集められたもののはずね。しかし、それにも関わらず貴方は
ここで私と話し合いをしているわ。なら答えは一つ。それは貴方が迷っているため。違う?」
「まさにおっしゃる通りじゃな」
ルミラの答えに城主は苦笑した。
「なら我らの迷う所以も分かると思う。その我らに何を期待しているのじゃ?」
一転厳しい表情での城主の問いに、ルミラは真っ直ぐ相手の目を見て答えた。
「単刀直入に言わせて貰うわ。貴方たちの協力があれば私たちは確実に勝てる。
逆に、貴方たちが敵に回れば苦しくなるわ。つまり、貴方は今薩摩の民の命運を
その手に握っているのよ。さて、どうするおつもり? それを答えて欲しいのよ」
「確実に勝てる……とおっしゃるか。根拠を示して頂きたい」
「指宿城が私たちの手に落ちた今、鹿児島以南で主だった兵力が集まっているのは、私たちの
本隊とこの城よ。ラントールの本軍は今遠征の最中。すぐに引き返して来ると思うけれど、
私たちには手があるわ。この手は、もしあなた達が協力してくれれば確実に成功するし、
動かなくても五分五分。逆にあなた達が敵に回れば苦しくなるけどね」
「そのような手、本当にあるとは思えませぬな。鹿児島の本軍は万を軽く超える。
あの大軍を何とかするのは至難の技と思いまするが」
「ふふ。なら聞いて頂戴。単純な話よ」
ルミラの説明を聞いて城主は唸った。
「なるほど。確かに単純ですな。だが、それが本当なら何故敵に回るかもしれない
わしにお話なさる?」
「それも単純ね。貴方はこの状況で迷っていた。普通に考えれば勝ち目のない方に味方する
ことを考えてね。つまり、貴方の真情がどちらにあるかは明白じゃない?
少なくともこちらへの誠意は期待できるんじゃないかしら」
「ふむ。そうお考えか。それは買いかぶりだと思うが……。しかし、本当に上手くいくものか、
わしには判断しかねるな。……そうだな。あ奴を呼ぶか」
城主が呼んだのは、目付きの鋭い、しかし、どこか人を食った雰囲気を持つ青年であった。
こちらでは珍しい西洋風の剣を携えているのが人目を引く。
「こちらは?」
「俺は伯斗龍二。浪々の身だが、今はこの城に世話になっている。一応仕事はあるが、まあ食客だな」
(この紋章は……? それに、この男、この雰囲気、どこかで……)
その青年、そして青年が持つ剣に刻まれた紋章を見て、何かを思い出しかけたルミラだが、
すぐには出て来ず、結果怪訝な表情を表に出すことになってしまった。
「いや、この男、こんな奴じゃが、腕は確かじゃし、これでなかなか信頼出来る。
それについてはわしが保証しよう」
「あ、いえ、別に……ああ、城主殿のおっしゃることは信用するわ」
珍しく少し言葉を濁したルミラだったが、城主はあまり気に留めた様子もなく、
とりあえず青年に一通りの説明をしてから問いを投げ掛けた。
「伯斗、戦士としての意見を聞きたい。どう思う?」
「そうだな。目算あっての策か、机上の空論か、どちらも有り得る。思うに、彼らが本当に
戦士なのか、ただの煽動家なのか、そこを見極めればいいんじゃないのか?」
「つまりどういうことじゃ?」
「彼らの腕前を見て判断したらどうかってことだ」
「ふふ。面白そうね」
かくして双方代表を選んでの試合と相成ったのである。
「むむ。この人は出来る人です。わたくしもそれなりの構えを取らなければなりません」
鎧も着ず、自然体で木刀を上段に構えた伯斗を見て、アレイは珍しく一瞬厳しい表情になると、
これまでとは違い、がっちりと腰を落とした構えを取った。
「ふむ。待ちか。それも一策だな。なら、こちらから行かせてもらう」
そう呟くと、伯斗はアレイに向って踏み込んだ。
「! 速いです!」
それはいっそ無造作に思えるような気軽な動作だったが、その一瞬で数歩あったはずの間合いが
木刀の届く距離まで縮まっていた。そして、間髪入れず打ち下ろされた木刀の軌跡をその目で
捕らえ得たのは、その場にいた大勢のうちでもほんの僅かしかいなかった。しかし、アレイが
待っていたのは、その文字通り目にも止まらぬ剣閃が彼女を捉えんとする、まさにその瞬間であった。
「今です! えーいっ、そぉれぇーーーっ!」
並の兵士が視認も出来ないほどの剣勢を鎧の腕で受け流し、青年の懐を捕らえたと思った瞬間−
どーーーーん!
「は、はれ?」
「勝者、伯斗!」
地響きを立てて派手に地面に転がっていたのはアレイの方であった。
「おおーーーっ!」
「な、何だ? 何が起こったんだ?」
「俺もよく分からんかったが、流石伯斗さんだ」
兵達が騒ぐ中、地面に転がったまま目をぱちくりさせる少女に、青年は手を差し伸べた。
「お嬢ちゃん、後の先狙いは正当な技だが、相応の技術が必要だ。あんたの技術がそれほど
低いわけでもないが、相手が悪かったな。前の試合みたいにその力を活かして体当たりを
やった方がまだ勝ち目あったろう」
「ううー。あれだけの剣筋が囮で足技が本命だったなんてー。何だかずるっぽい気がしますー」
「フッ。悪いな。俺の本業は間者でね。こういうのが得意なんだよ」
そう言うと、伯斗は人の悪い笑みを浮かべた。
「今度は私の出番かしら」
そう言ってゆっくり進み出てきたのは、それまで黙って試合を眺めていたルミラであった。
「素手でよろしいのか?」
審判役の年配の兵士の問いかけに、ルミラは妖艶な微笑を浮かべて頷いた。
「ええ。構わないわ」
そのまま腕を組んで立ち、微笑を崩さずに伯斗に向かって呼びかけた。
「さあ、いらっしゃい」
その言葉に木刀を構えかけた伯斗であったが、ルミラの目を凝視すると、構えを解いた。
「いや、止めておこう。俺とあんたがまともに戦ったらどちらも無事では済むまい」
「何故そう思うのかしら。素手の女一人に」
「それを俺に言って欲しいのか? 俺は別に構わないが」
「ふふ。珍しい能力ね。魔法の力を感知したのかしら? それとももう一つの方?」
「両方だ。どちらかだけなら俺の技術で対処できる」
構えを解いた両者を見て、先ほど青年と言葉を交わした初老の男、ハーケンの当主が語りかけた。
「さて、どうやら結論が出たようじゃな」
「ああ。彼らは間違いなく戦いに慣れている。それに、特別な力を持つ存在だ」
「ということは……」
「あれは煽動家による机上の空論ではないと見ていいんじゃないか。彼らは信さえ置けるならば
味方として頼みとするに足ると思う」
「信、か。それについてはもう判断しておる。この状況で民の側に立って戦っているという
その一点だけを見ても彼らは信用に値するのではないかの」
「その評価は光栄だわね」
「それに、あれだしな」
伯斗が指す先では、アレイを取り囲んだ加世田の兵士達が今度は腕相撲の勝負を挑んでいた。
「今度は負けないぞ!」
「返り討ちにして差し上げます!」
ただしアレイ一人に二人がかりではあったが。
かくして、ルミラ一行はハーケン一族の協力と兵二千人を得たのである。
二日後 薩摩国加世田近郊
新たに二千名の兵力を加え、翌々日に加世田城を出発したルミラ達は、城を出てしばらくしてから
行軍の足を止め、鹿児島に偵察に出たメイフィア達の報告をアレイと共に待っていた。
しかし、この日のルミラは珍しく何か考え事にふける風情であった。
「あいつ、一体……」
「ルミラ様、どうかなさったのですか?」
「いや、なんでもないわ……あ、そうね、アレイ、あなたはあの伯斗龍二という男、どう思った?」
「う〜ん。お強いですね。正直わたくしでは勝てそうにありません。もちろんルミラ様
ほどではないにしろ、少なくともイビルさん達とはいい勝負ではないかと」
「その他に気が付いたこととか」
「いえ、特にはありませんが」
「そう」
「どうかなさったのですか?」
「ああ、別になんでもないから」
「?」
(あの紋章、ナイト家の……? それに、あの能力……いや、まさかね)
薩摩国万之瀬川河口
万之瀬川の河口付近は古来海上交通の要地の一つとして発達している。その河口にいくつかある
港の一つに、船を待つ二つの人影があった。一人は青年、もう一人は髪結い前の少女である。
「お嬢さん、船は大丈夫な方か?」
「はい、へいきです」
「ふむ。それは頼もしい」
青年の名を伯斗龍二、少女の名をフロリア・ハーケンという。
薩摩国鹿児島
「結構な人数にゃ」
「う〜ん。一万人ってとこかしらねぇ」
磯街道から竜ヶ水へ抜ける隘路を背にした、内城に程近い海岸、ラントール家とシオン家が
対立する前は桜島と船が往来するための港であったその地に、ラントール本軍の兵士達が
集合していた。加治木からの厳しい撤退戦で大幅に数を減らし、連戦の疲れを濃厚に滲ませては
いるが、予備隊を加えたこともあり、その人数はなお圧倒的であった。近くの廃屋から様子を窺う
たまとメイフィアにとっても、これだけの大軍を見るのは故国を出て以来となる。
だが、彼らは一向に恐れる様子もなかった。
「じゃ、あたしは報告に行って来るわ。次は例の場所で」
そう言うと、メイフィアの姿は薄れ、文字通り消えてしまった。
「さて、こっちも行くかにゃ」
音も立てることなく、たまも廃屋を立ち去った。
やがて、大軍もゆっくりと南へ動き始めた。
決戦の時が近付いていた。
----------------------------------------------------------------------------------
加世田城は島津家がまだ分裂して相争っていた時代、薩州島津家の本拠地だった城ですが、
1538年、島津日新斎と貴久親子に攻められ、落城します。これが彼らの躍進の始まりを告げる
ことになります。なお、この戦いで日新斎は多くの城兵が帰宅する大晦日から元日にかけての
夜を狙って攻め寄せ、勝利をもぎ取っていますが、戦上手というべきか姑息というべきか……。
そんな加世田城ですが、小学校の用地の一部だった時代に崩され、今では記念碑と小さな公園
しか残っていません。 なお、アレイの掛け声は例によって LF97 に準拠。
う。ミス。
>327の下から二行目、「がが」は「が」です。
>332の四行目、「アレイと共に」を削ってください。
あの人キター!! 南九州編もいよいよ佳境ですな。
ラジオスレの次はここに狙いをつけたか
あんな(元)人気スレの次にこんな過疎スレで、何が「狙い」だよw
時間が出来次第更新予定
保守でござる。
342 :
名無しさんだよもん:04/03/25 21:53 ID:tsAcNmAu
ageておこう
「東なら速攻にはもってこい、ただし、現有兵力からの積み上げは望めないわね。
西の場合は一歩ずつ根拠を作りながらの進軍ということね。上手くやれば各地の民を
味方につけて兵力を増やせるかもしれない。ただ時間はかかる」
「そのことに関係があるのですが、興味深い話を二つ、耳にしました」
「興味深い話?」
「はい。実は……情勢はこちらに味方しているかもしれません」
「というと?」
「まず一つ、ラントールの本軍は、現在他所へ出兵して出払っています。
距離的には一日で帰って来れる程度の所ですが、交戦相手はかなり手強いようです。
それも兵数ではなく、軍事的能力で」
「つまり、こちらに回すために帰還を急げば足下をすくわれかねない、か」
「もう一つ、この地方の領主や役人のうち、鹿児島を積極的に支持している者は必ずしも
多くないようです。特に、西部はかなり批判的なようですね」
「つまり、十分調略可能、と」
「そうですね、特にここ、加世田という町が重要そうです。ここの領主はかなり声望が
あるのだとか。味方に出来れば西部は少なくとも敵に回らないでしょう」
「なるほど……わかったわ。我が事成れり。ついてるわね。これなら両面作戦が成り立つわ。
東岸を通っての侵攻と西部の城主達の調略を並行しつつ、本命は……ね」
「いつもの作戦、ですか」
「例によって、よっぽどうまくタイミングを合わせなければならないけれど、
こっちにはメイフィアという切り札がいるからね」
「恐れ入ります」
「主力部隊はイビルとエビルに預けるわ。指宿城を落としてから東海岸をそのまま北上してもらう。
ラントール軍と正面から戦うことになるけれど、あの子達なら不安はないしね。
私は西へ向かうとするわ。ここでどれだけ味方を得られるかが鍵だからね。貴方たちにも
とりあえず隣の知覧まで来てもらうけど、上手く行ったらアレイとフランには遊軍の指揮、
たまと貴方にはいつものように情報収集と連絡を頼むことになると思う」
「わかりました」
「じゃ、作戦会議といきましょうか。皆を呼んで来て頂戴」
薩摩国鹿児島
眼前に展開するラントールの大軍を廃屋の中から見やりつつ、数日前に
枕崎は桜之城の一室で交わされた会話をメイフィアは思い起こしていた。
「結構な人数にゃ」
「う〜ん。一万人ってとこかしらねぇ」
横で敵軍の様子を眺める たまの言葉に相槌を打ちつつ、考えを巡らせる。
(今の所ルミラ様の思惑通りの展開ね。でも、ここからが正念場だわ。
さてさて、この幸運を続かせるようにしないとね。
……ん?……雨?)
折りしも天から落ちてきた水滴に気付き、メイフィアは微かに表情を変えた。
「じゃ、あたしは報告に行って来るわ。次は例の場所で」
「……ん?……雨?」
ラントール兵の一人がそんな呟きをもらしたが、万に達する大軍の中にあって、
その呟きは本人を含めて誰も気に留めることなく風に流されていった。
-----------------------------------------------------------------------------------
年度末につき遅れております。年度明け二週間くらいまで時間取れないかも……。
じゃあ、保守っときますね
〃┏━━ 、
| ノノソハ))) / ̄ ̄ ̄ ̄
Λ_リリ* ´ー`)リ < うぐぅあげ♪
( ⊂#~ ∞~~#⊃ \____
( つ/_∞__|~
|(__)_)
(__)_)
ふふん、無駄な足掻きだぜ!
俺の部屋に誰かいる…!!
鯖が移転しました
保守
薩摩国谷山
反乱軍に落とされた指宿城を奪還すべく薩摩半島の東岸を南下するラントール軍
一万は、鹿児島から谷山郡に入っても更に南下を続けていた。加治木での惨敗の
直後であり、兵士達の足取りは軽くはなかったが、今度の敵は天下に武名轟く
シオンやフレイの軍などとは異なる、単なる一揆の鎮圧という意識があり、
そのため軍中にさほど緊張感はなかった。しかし、それが根拠のない安心で
あったと彼らが気付かされるまで、一日もかからないこととなる。
昼を過ぎて夕刻近くに至る頃合、ラントール軍は喜入郡との境界近くに差し掛かった。
先刻から本格的に雨が降り始め、霧まで出てきたため、徐々に視界が悪くなってきている。
このあたりは、山が海岸線まで迫り、狭い街道のみが海岸を走る、北の竜ヶ水と同様の
難所である。海岸線に沿って曲がりくねる街道は、仮に敵の勢力下であったならば
最大限の警戒を持ってしかるべき場所だったはずだが、まだ自分たちの勢力圏にいるという
安心感があり、この大軍は無造作に行軍していた。ここ数日間、間者からの報告がなく、
反乱軍に大きな動きはないとラントール軍の上層部は考えていたのである。
だが、これは油断であった。
大きなカーブの一つを先頭の部隊が曲がった途端、霧を裂いて矢の雨が襲ってきた。
「ぐぁあああ!」
「敵襲だ!」
突然の襲撃で先頭の部隊が混乱する間に、敵兵が突っ込んで来た。弓での応戦も
出来ないまま白兵戦に突入する。先手を取られ、混乱した軍が落ち着きを取り戻して
態勢を立て直すまでに要した暫時の間に、ラントール軍の先鋒はかなりの打撃を受けていた。
しかし、元々が一万の大軍、落ち着いて戦えば優勢は変わらないはずである。
ここまで敵軍が北上していたことは予想外であったが、見たところせいぜい千余、
しかも統一感がなく、いかにも寄せ集めの観を呈していた。かくして、指宿の陥落を
知っているにも関わらず、また、実際相手に先手を取られたにも関わらず、
ラントール軍が敵を甘く見たのは、ある意味仕方がなかったかもしれない。
「敵は寄せ集めの寡兵ぞ! 一気に押しつぶせ!」
号令一下、反撃に転じようとしたラントール軍だったが、生憎そうは問屋が下ろさなかった。
左手は海岸線、右手は海岸間近まで山が迫る地形は、ラントール軍に人数差を生かした
押し潰す戦いを許さなかったのである。この地形で一度に戦えるのはお互いせいぜい数十人、
しかも、敵兵は単なる一揆とは思えない程度には戦慣れしていた。これではそうそう一気に
決着がつくはずもない。だが、ラントール軍はこの時点ではまだ危機感を抱いていなかった。
「指宿の連中が一部寝返ったか。だが奴等如きにこの人数差はどうにもならん。
ともかく攻め続けろ! 先に音を上げるのは奴等だ」
反乱軍の先頭に立ってラントール軍と刃を交える部隊は、知覧から来た兵士たちを中心に、
枕崎や頴娃で投降した指宿兵を加えた構成となっている。後方で待機する兵士たちは、
指揮官の指示に応じて前線の兵士と交替し、あるいは前線の薄い部分に加勢し、
負傷者を迅速に後方に収容する。後方には町衆が控え、負傷者の手当てや前線から戻った
兵士の武器食料の補給を担当している。両軍が激突して一刻、戦いは前線でこそ間断なく
剣戟の音が響き続けているものの、全体としては持久戦の様相を呈していた。
前線における正確かつ円滑な部隊運用により、反乱軍の消耗が最小限に押さえられて
いたためである。両軍が激しく刃を交える前線近くで兵士たちに指示を送るその指揮官は、
まだ幼い少女としか見えなかった。
「……敵は大軍ですが、ここなら一度に攻めては来られません。
……今は耐えて下さい。真夜中まで粘ればこちらの勝ちです」
--------------------------------------------------------------------------------
横山光輝先生の御冥福をお祈り申し上げます。TV版の赤影は子供の頃大好きでした。
そう言えば、あれってまさにこれくらいの年代のお話でしたよね。三国志は一巻しか
目を通しておりませんが(黄祖が出るあたり)、えらく詳しいので驚いた記憶があります。
今年は世代的に馴染みの深い方々の訃報が相次ぎます……。
谷山郡は今の鹿児島市南部。戦場に想定しているのは、鹿児島市の南端あたりです。
ここも竜ヶ水同様、国道が海岸沿いを走っていて、国道の方はやっぱり渋滞の名所。
ところで、調べてみたら竜ヶ水に街道が通ったのは明治天皇の行幸の時だそうで、
それ以前はあまり通行に使われていなかった模様。orz
ただ、理由としては島津家の別荘の前だからということらしいので、大名島津家が
存在しないこの世界では街道があっても問題ないということで脳内補完おながいします。
とりあえず保守っておこう。
加賀、御山御坊。
加賀国における一向教団の本山とも言うべき大寺院である。
だが、周囲に矢竹を隙間なく植えた土塁、その回りに堀割という、国人の城塞に匹敵する守りを施された姿を
見れば、それが単なる「寺院」だと思う者は誰も居ようはずがない。
周辺の村落を「寺界」と名付けて事実上の所領とし、領主に対して不輸不入を主張することすらある、一個の
独立した勢力の本拠としての姿が、そこにあった。
その御山御坊の本堂、もっとも寺院としての性質が強い場所。
そこから朝の光に紫の袈裟を輝かせながら、一人の壮年の僧形の男が歩み出て来る。そして数歩を隔ててその後に続く、十人ほどの僧侶たち。
一団の歩みは穏やかでその表情も柔らかい。が、その姿を見た者たちは、皆顔をこわばらせて平伏するばかり。
そしてその口から漏れるは、一向宗徒にとって何より価値ある念仏だ。
「南無阿弥陀仏…」「南無阿弥陀仏…」
衆生救済の仏「阿弥陀如来」への帰依を己の心に刻みこみ、ただただ全てを阿弥陀如来の御手に委ねることで
極楽往生を目指す、簡単に言えばこれが一向宗の教義である。戦乱の世に翻弄される人々の心の救いとして、こ
の加賀でも一向宗は多くの信者を得ているのである。
念仏の唱和を導く、紫衣の僧侶。 す、と濡れ縁に歩みたち、庭に平伏する人々の前に歩み出る。
「おお、法橋(ほっきょう)様…」「法橋様…」平伏する人々の口から漏れる、その名。
静かなざわめきが収まるのを待って、その紫衣の僧侶は口を開く。
現在行方不明の顕如から加賀宗徒の命運を託された者として、このうち続く戦乱の悲しみを背負い生きる人々
を、阿弥陀如来の教えで救えるのは……我しか、居らぬのだ。
説法を終え、私室に戻ろうと回廊を歩んでいたところで、
「法橋様!」
彼を呼び止めたのは、最近本願寺から派遣されてきた若い僧侶だ。
「何事ぞ?」
「早急に御目通りを願いたいと言う者が…」
「…いずこから来た者か?」
「越後、直江津の町より。町衆連の使いであると申して居ります」
「ふむ。 …良かろう、良かろう。どこに待たせてあるか?」
「吾梅の間に」
うむ、と頷き、彼は歩むさきを変えた。
壱松、爾竹、参舎利、志紺……来客用の間の並ぶ廊下を歩く。
吾梅の間の障子に手をかけようとしたとき、法橋の鼻を芳しい香りがくすぐった。いつだったか、どこで嗅い
だか思い出せぬ、されどどこか懐かしく甘い、その香り。
す、と障子を滑らせる。 後ろについてきていた若僧が、法橋様であらせられる、と目見えの口上をし
た。 その声に沿うように、来客三人が平伏する。
「お待たせしましたな」
法橋が軽く頭を下げる。その鷹揚な態度は、…顔を上げた瞬間、凍り付くことになるのだが。
明らかに動揺を隠せぬ法橋は、慌てて若い僧侶に別棟で来客ふたりの接待を命じている。
そして、この棟には誰も近づけるなという彼の命が解かれるのは、昼も近くなってからのことであった。
視点を吾梅の間の中に戻そう。
部屋の襖絵に描かれる梅、畳敷きの部屋。先ほどから鼻孔をくすぐる芳香は、襖絵の柄に相応しい晩冬の日だ
まりのかすかな温もりをすら思い起こさせてくれる、不思議な香りだ。
そして、その襖絵の前、部屋の奥に平伏している一人の女。
「……そなた。いや、貴女は」
「お久しぶりです、七里さま」
「ま、まさか、何故、貴女が、ここに……?!」
「祐一さんたちに後はお任せして、ちょっと遠出してみたんです」
まるで夕食の支度を任せたかのように、あっさりと話す女。
「ば、馬鹿、な……」
法橋は驚かざるを得ない。 この女が「任せてきた」ことは、とてつもない重大事のはずではないのか? 水
瀬家本拠・春日山城下に、北陸に名だたる「能登の鬼」柳川祐也率いる一万の軍勢を迎え撃つことが、この女、
水瀬秋子にとっては夕食の支度程度のことでしかないというのか。
……だが。
「……いや、貴女はそういう女性(にょしょう)でしたな。 立ち居振る舞いに似合わぬ、とんでもなく足軽い
女性、だった。 もうあれから十五年は経ったのか……」
「そうですね…… 思えばあっという間だったような、気もします」
今を去ること十余年前、水瀬秋子が僅かな手勢と共に上洛した折、道中であるこの御山御坊に一月ほど滞在、
僧や使用人たちに混じって、雑用や家事、説法やら何やらの寺院の日々に触れていったことがある。
越後の宗徒からの紹介でここを訪れた彼女は、御山御坊にとっては客人だ。
「客人にそのようなことはさせられません」との下男下女たちの言葉にも、是非お手伝いをさせてください、と
の返答で、滞在の間にひととおりの寺の些事に手を染めていったのだったか。 のみならず、暗く風通しの悪か
った庫裏の改修やら何やら、「ああ、いかにも主婦の困りそうなことであることよ」と納得いくような面からの
改善を申し出て行ったりと、客人というより客分に近いようなかたちでの滞在をしていったものだ。
それから十年。
盤石と思われていた守護大名中屈指の名門・柏木家の統治は崩れ、柏木領は能登の七尾を本拠とする柳川祐也
率いる七尾柏木と越前の一ノ谷を本拠とする一ノ谷柏木の両勢力に分断されてしまった。両勢力は柏木家の正統
を争い、勢力の前線であると同時に柏木一族の父祖の地とされる加賀もまた、戦乱と無縁では居られなくなって
しまったのである。
現当主の嫡子である柏木耕一、先代当主の娘で各地に大きな所領を持つ「柏木四姉妹」が集う一ノ谷柏木。
現当主の異母弟にして知勇兼備の猛将として名高い柳川祐也、柏木家の宿老・長瀬源三郎が率いる七尾柏木。
すでに領主としての務めを果たしえぬ状態の現当主・柏木賢治の後を、はたして誰が継ぐかというありふれた
お家騒動であり、加賀の諸土豪たち、そして法橋にとっては、この柏木家の内乱は何ら大義のない無用の戦だ。
出来れば中立を保っていたいというのが正直なところであったが、情勢はそれを許さない。
高まる両勢力間の緊張に、これら諸勢力は旗幟の決断を迫られた。そしてその大半は柏木家の軍事・政治の両
翼を擁する七尾柏木に加担、かくして畝田にて行われた両軍の決戦は、一向教徒の支援や国人衆の参戦を得た柳
川軍の大勝に終わり、加賀は七尾柏木の領するところとなったのである。
七尾柏木が勝とうが、一ノ谷柏木が勝とうが、国人衆や法橋をはじめとする一向宗徒にはどうでもいいことだ。
ただこの両者の勢力が加賀国内で拮抗し、戦乱が長く続くことは願い下げである。民の幸せも宗門の発展も、平
和なくして有り得るものではない、と、そう考えたがゆえの決断であった。
一方、水瀬秋子の十数年もまた、平穏とは縁遠いものであった。
家長を失った水瀬家にもはや家領を統治する力は無い、と、かねてから不仲だった近隣の土豪が水瀬家領への
進撃を開始、守護の久瀬家に仲裁を求めるも統治の意欲に乏しかった守護はこれを放置するという事態に陥って
いたのである。
家中の大人(この場合、老人たち、程度の意味である)に、取り急ぎ家中をまとめる旗頭としての期待のみで
秋子は当主に推されることとなった。だが、薄氷を踏むような勝利が続く間に、家中の者は徐々に気づき始めて
いた。この未だあどけなさすら残す年齢の華奢な未亡人が、なんたる偶然か、類い希なほどの将としての素質を
持っていたということに。
一年が過ぎたとき、水瀬の代替わりを狙って兵を起こした者はみな攻め滅ぼされていた。
五年が過ぎたとき、水瀬家は南越後中五指に入る土豪と化していた。
十年が過ぎたとき、水瀬秋子は事実上南越後最大の国人勢力の主として知られるようになっていた。
そして彼女についたふたつ名が、「越後の雌狐」。
その強大化した勢力に対し遅まきながら討伐の兵をあげた久瀬家だが、統治の実績にも乏しい守護の軍勢に加
勢する者は、反水瀬の理由があるものばかりであり、討伐軍の意気はあがらない。
そして長引く交戦の最中、事態を大きく揺るがす変化が起きる。
清和源氏の流れを汲む、北越後最大の土豪勢力・倉田家。
北越後に本拠を置く守護の久瀬家と、南越後最大の国人である水瀬家との抗争に中立を保っていた倉田家だが、
ついに水瀬方に組することを宣言、北越後各地で久瀬家方の勢力を攻撃し始めたのである。
久瀬家の南越後派遣軍は士気を失い崩壊、かくして南越後は水瀬家の領するところとなった。
久瀬家に対し、柳川祐也は隣国の守護として軍事支援を決定、南越後の戦乱はさらに国境を越えて波及するこ
とになる。
そうした戦乱を柳川方から支えたのは、豊かな土地とみなされてきた加賀の民であった。
税は先々代当時の五公五民から六公四民になり、さらに数々の賦役・徴発が重なる。
暮らしを支えられなくなった者は逃散して一向寺領に逃げ込み、暮らしをなんとか立ちゆかせている者も、憂
き世の救いを一向宗に求めるに至った。
法橋の考えとは裏腹に、平和ではなく戦乱こそが一向教団を育てつつあったのである。
お久しぶりです。 なんか趣味に走りすぎかもしれんなぁ、僕……
「法橋」、俗名で言えばノブヤボの加賀本願寺領の定番武将・七里頼周。
史実では加賀一揆を牛耳るために本願寺から本尊持たされて送り込まれた寺仕えの武士ですが、
この世界ではまだ加賀一揆は起きてないんで……。
って、しまった、俺。 一ノ谷ってそれじゃあ源平合戦だ…
「一乗谷」に脳内訂正よろしくオネガイシマス
お、ひさびさだ。乙
新作乙〜。書き手さん一名生存確認。お話は裏工作の部分で砂。
実在の人物の扱いをどうするかってのは問題ではあるね。
相当人数足りないし、まあ端役ならいいとは思うけど。
保守
生き残ってたか…
保守ってみる
>>365 一向宗などの宗教がらみは実在人物からませないとどうにもならない面もあると思う。
……それを言い始めるとイロイロあるのは承知だが(鉄砲関係とか)
保守
370 :
110:04/05/05 19:12 ID:LBvxGD8t
数ヶ月の間があいてしまいましたが、SRC版葉鍵戦国をアップデートしてみました。
URLは、
>>146 を参照してください。