Key新作 CLANNAD - クラナド - part50
■高橋
先日、約20年の付き合いになる友人であり、業界で同じ仕事を続けてきた
青紫こと竹林明秀くんが、交通事故でこの世を去りました。
事故は11月23日(日)午前9時38分、自宅近くの大きな交差点で起こ
りました。救急車が駆けつけた時点ですでに脈はなかったそうです。
僕が彼の訃報を聞いたのは25日(火)の午後過ぎでした。生前彼と親しく
されていたお知り合いの方から連絡を受けました。彼の勤めていた会社の方が、
僕と水無月に知らせてくれるように、おっしゃってくれたそうです。すでに火
葬を終えたとのことでした。 正直、まったく実感が湧きませんでした。頭で
はしっかりと理解しているのですが、それがどういうことなのか、想像できま
せんでした。
実は、彼は十数年前、同じように交通事故を起こしたことがありました。そ
の時は、しばらく意識不明の状態が続き、ご両親からも回復しないかもしれな
い、回復したとしても後遺症は残るだろうとの説明を受けていたにもかかわら
ず、ある日を境にみるみる回復し、全快に至ったのです。死から生還した彼は、
その時の臨死体験をネタに笑いを提供することもしばしばでした。
枯葉はイラネ
ですから、今回もあの時みたく、突然ふらりと遊びに来て、何事もなかった
ような顔を見せてくれるのではないかと、訃報を受けた全員がどこかで思って
いた気がします。
訃報を受けた翌日の午後、僕と水無月、親しかった友人ふたりと、彼と身近
に過ごしていた方の5人で、彼の部屋に残された荷物の片付け、整理を行って
きました。
滅多に帰ることなく、すっかり物置と化していたその部屋は、前にいた会社
で僕と机を並べて仕事していた空間を、そっくりそのまま持ってきたような感
じでした。荷物整理に当たった全員が、そのままだなあ、という感想を抱いた
と思います。
ガチャガチャで引き当てたよくわからないおもちゃ、食玩のおまけ、疲れ目
を冷やすくまのぬいぐるみ、頭を叩くと鳴くガチョウのぬいぐるみ、チョロQ、
チョコエッグのおまけ、自分の担当していたキャラクターのグッズなど。志保
はガンダムハンマーを手に持ったままでした。会社からの引っ越しの際に、手
近な物から詰め込んでいったのか、彼のモニター前に並べられて物が、そのま
まの順番で残されていました。
全部はとても整理しきれないので、要る物、要らない物に分けて、要
らない物は袋に詰めて捨てることにしました。見た目にはどうしようも
ないガラクタの数々ですが、一品一品、必ずと言っていいほど、それに
まつわるエピソードが残っている品ばかりでした。本人がこの場にいれ
ば、彼特有の説明文的な言い回しで、ひとつひとつ語ってくれただろう
と思います(と言うより語りたいが為にずっと所持していたんだと思い
ます)。そんな品を勝手に捨てていいのかと思いましたが、一応自分的
には本人に確認しながら分別していきました。
さらに翌日、荷物を一旦別の場所へ移し、そこでもう一度、部屋の持
ち主の方の立ち会いのもと、水無月と一緒にジャンル別に箱に詰め直し
ました。大量のマンガ本、ゲームのCD、彼が携わった仕事のグッズの
数々、ファンの方にいただいた同人誌やファンレター、仕事に使用した
資料の数々(イルカに関する物、犬、猫、フェレットに関する物、英会
話、銃に関する物、車に関する物など) 資料は膨大な量でしたが、そ
れでも彼の作品を知っている人間なら、どの作品に使用したかすぐに思
い出すことのできるものばかりでした。
彼が高校時代から描き溜めていたマンガや小説などの自分の原稿は劣
化しないよう、きちんとファイルやクリアケースに仕舞われていました。
多分、彼と身近だった人間のほどんどが一度は見せられている作品たち
です。彼が事故当時に所持していたクリアケースにも、高校時代に僕や
田舎の仲間たちと描いた下手くそで恥ずかしい連作マンガなどが入って
いました。彼にとってはそれを持ち歩いていることがすでにネタのひと
つで、初見の人に、なんでこんな物を持ち歩いてるのかと言わせたいと
本人はよく言ってました。それらの入ったクリアケースが無惨に割れて
いたのが、事故の凄惨さを物語っていて、居たたまれない気持ちになり
ました。
彼のお気に入りだったCD(工藤静香、石井竜也(米米クラブ)、広
瀬香美、グラディウス、ビートマニアなど)、愛して止まないシューテ
ィングゲーム関連、バイブルのように読み返し、ボロボロになっていた
オールアバウトナムコ。
中学・高校時代、連日のように夜遅くまで一緒に遊び、卒業後も大阪
へ出て自分の近くに暮らし、自分が仕事で助けを求めたがきっかけで、
同じ業界で仕事をすることになりました。世間から厳しい批評を受け、
一度は業界から完全に身を退くことを決意した彼ですが、一年ほどして、
やはり物を書く仕事をしたいと言って復帰し、別の会社に就職しました。
会社が違うので深くまで突き詰めた作品の話はできませんでしたが、そ
れでも中学からの田舎の友人が近い場所にいて、同じ業界で頑張ってい
ることに、心強さを感じました。それは今でも変わりません。彼の徹底
した自己作品への愛情と、目の前にいる人間を楽しませたいという精神
は、自分の作品作りの強い指針になってくれると思います。
彼のことを文章にしてこの場で告知してしまうのは、正直どうかと思
いました。彼がいなくなったことをひしひしと感じてしまうのと同時に、
彼本人がこのような公の場に名が出ることをあまり望まなかったからで
す。ですが、同郷の友人であり、同じ業界で働く人間として、やはり僕
がみなさんにお伝えしなければいけないと思いました。
中学時代から一緒に馬鹿なことをやってきた友人であり、仕事での楽
しい時と辛い時を同時に経験してきた掛け替えのない味方のご冥福を心
からお祈りします。
お疲れ様です!
彼の葬儀は11月30日(日)、彼と僕の実家である石川県で行われます。
【2003.11.28】