「秋子さーん、ご飯まだですかー?」
「は…はい…もうすぐ…げほっ…うぅ…」
秋子は39度の熱を押して、祐一の為に必死に料理を作っていた。
眼がかすみ、まともに頭も働かないが、どうにか食事を作り終えた。
「お…お待たせしました、祐一さん…げほっ、げほ…」
秋子が豚のしょうが焼きをテーブルに置く。
その直後、祐一は秋子の右足を踵で思いっきり踏んだ。
「ぐぅっ…!」
「おっせぇよ、愚図が! こんなしょぼい食事つくんのにいつまで時間かけてんだ、え!?
それにさっきの咳で唾がかかっちまったじゃねえかよ、
風邪が伝染ったらどうすんだよ、それくらい考えろ、タコ!」
秋子は俯いたまま何も言わない。
「謝れ!」
祐一は秋子の腹に蹴りをぶち込んだ。
「うげえぇっ!」
たまらず秋子は腹を押さえ、その場にしゃがみこむ。
「ひぃっ、ひゅうぅ…ごめっ…ごめんなさい、ごめんなさいごめ…ぐへぇ…」
機械的に謝る秋子に、祐一は蝿でも見るような視線を向ける。
「あー、もういいですよ、ひどい事してすいませんね、
なんか秋子さん見てるとむかつくんで…。
そんなふうに謝られると飯がまずくなるし…じゃ、いただきます…」
祐一の許しを得て、秋子はよろよろと立ち上がった。
食事を咀嚼する祐一に背を向け、秋子はゆっくりと歩きだす。
突然、椅子から立ち上がる音がした。
反応する間もなく、秋子は背に衝撃を受け、シンクに叩きつけられた。
「がはっっ」
秋子はその衝撃に、しばらく動けなかった。
祐一が秋子の髪を乱暴に掴み、顔を持ち上げる。
「あひぃっ…かひぃ…」
「しょっぺえよ、これ…」
「ひぃ…ごめんなさい、ごめんなさぁい…」
持ち上げられていた頭を、今度は力ずくで押し下げられた。
「ねえ秋子さん、ちょっと風邪ひいてるからって、怠けてんじゃないすかぁ?
俺のこと舐めてんじゃないすかぁ、あ・き・こ・さ・ん?」
頭にどぼどぼと冷たい何かをけられている。蛇口からの水だった。
「ひっ…やぁ…やあぁ…」
ただでさえ熱で弱っている身体に、すさまじい悪寒が走る。
「ちっ、しょうがねえな、ちょっと焼き入れてやるか…」
今度はお下げを引っ張られ、どこかに引きずられていく。
シュボッ!
祐一がガスに点火した。秋子は祐一の意図を察し、血の気が引いた。
しかしもはや抵抗する気力も体力もなく、秋子は顔を火に押し付けられた。
「ぎゃあああああああ! がああああっああっ!!!」
顔の皮膚が焼かれ、眉毛が焼かれ、髪を焼かれている。
逃げようとするが、祐一の腕力の前に、秋子はただ焼かれるだけだった。
「あははは! こいつぁ面白え! もっとわめけ! もっと!」
鼻から炎の熱気が入り、肌と毛が焼かれる音が妙にはっきり聞こえる。
「ギエエエエ…グ…アァア…ア…」
祐一の邪悪な哄笑と、秋子の断末魔のような悲鳴がキッチンに響く。
7年前別れた少年が、このような凶悪な男に成長するとは思いもよらなかった。
これからの苦難に満ちた生活を想像しながら、秋子は意識が遠のくのを感じていた。