葉鍵で大長編ドラえもんを製作しないか? Vol.6
ジャイアン「ここではリレーだってやってるんだ!この俺様のかっこいい姿を気軽にどんどん書いてくれよな!!」
静香「もちろん自分だけが書く新作も大歓迎よ。書き上げたらいつでも落としに来てね」
ドラえもんのび太と葉鍵の国予告編(第一スレより)
「そ、その『ゲーム入りこみ靴さえあれば!」
「ぼくの最新のマシンにインストールしてあるゲーム世界に入り込めるって!?」
「国崎さんに会えるのかしら……」
「ドラえも〜ん!!」
秘密道具、ゲーム入りこみ靴で
「狐とはなによぅ! タヌキのクセに!!」
「タヌキとはなんだタヌキとは!!」
葉鍵ゲームの世界に旅立つドラたち
「スネ夫さん、本当にそれでみさきの目が治るのね……!」
「もちろんですよ深山先輩。22世紀の道具があれば、光をとりもどせるんです」
新しい出会いと、冒険を楽しむ5人は
「おれを弟子にしてくれよ〜!!!」
「って、耕一もこいつになんとか言ってやってくれよ」
「あら梓、せっかくだしタケシさんの師匠になってあげればいいじゃないの」
つかのまの楽しい時間を過ごす
「みてみてしずかちゃん、マシュマロみたいだよ」
「のび太さん、それは犬なんじゃないかしら?」
「ぴっこり」
しかし……
「スネ夫このやろう!! 何がウイルス対策は万全だ! お前のせいで栞が……ッ!!」
「タケシさん、今はスネ夫さんを責めてる場合じゃないわッ」
この世界を消しさろうとするウイルス群
「……ドラえもん……さん……電波…届い………」
「瑠璃子さんッ!! 消えちゃだめだッ!!」
次々と消去される、葉鍵キャラたち
「破損率83%……ウイルス除去…失敗……」
「セリオでも不可能となると、残された希望は……」
世界を救えるのは、ドラえもんたちだけ
「ゲーック! 俺が助けられるのもここまでだ! 後は任せたぜ!!」
「冬弥のためなら……それでもいいよ」
「そんなのいらないッ!! そんなの新刊のネタに使えないッ!」
いざゆけ、ドラたち!!
葉鍵の世界を救うために立ち上がれ!!!
『劇場版ドラえもん のび太と葉鍵の国』来春放映予定。
↑訂正。ただいま放映中。
スネ夫「ドラえもん、これは何?」
ドラえもん「これは葉鍵の国を勧めるに当たっての十戒石板だよ。十戒とは十の戒めだ。戒めとはしてはならないことだ」
スネ夫「もし破ったら?」
ドラえもん「雷に打たれる! ……じゃなくて、叩きにあう!!」
スネ夫「八つしかないのは?」
ドラえもん「…………仕様だよ」
ドラえもんのび太と葉鍵の国の十戒石板
一、ドラえもんと葉鍵を混同させて一つのSSを作るのが目的である。
二、この世界の「敵」となっているウイルスと闘うのが大まかなストーリーである。
三、一応ドラとクロスさせているものだが、一つの話の中にドラキャラを出さなくても構わない。
四、同様にドラキャラだけで一つの話を作ってもいい。
五、ひみつ道具は基本的にどんな道具でも出して良い。ただしオリジナルはいけない(ゲーム入り込み靴だけ例外)。
六、ウイルスはオリジナルで構わない。元ネタがあってもよい。
七、歴史に辻褄が合わなくなるためドラキャラ五人はあぼーんしてはいけない。
八、自分の萌えキャラがあぼーんされても文句を言ってはいけない。
今のドラえもんはつまらなすぎる。
安全性だけを重視した冒険に何の価値がある?
8 :
魚雷発射:03/11/12 20:51 ID:keEOhh/n
じつはウイルスはドラえもんという落ちをきぼんぬしているが駄目か?
>>1
ほしゅほしゅ
>1
新スレ乙
保守しておこう
保守age
保守ついでにネタ投下(トリビア風に)
ドラえもんは
実はRRに感染していた
むしろ超先生は不二子先生からもとうさk
補足トリビア
ドラ「他の三人の危険が危ない!」
ドラえもんのび太のパラレル西遊記より引用
そのころの坂神邸では、
「おじいちゃん、蝉丸大丈夫かなぁ〜」
「何、心配は要らんさ。奴も強化兵、油断さえしなければたいていの敵には負けまい」
月代、高子、蝉丸老人の三人がいた。
蝉丸が出て行ってから外には一歩も出ず、家でおとなしく事件の解決を待っている。
「でも、蝉丸さんはああ見えて抜けているところがありますから……」
高子が不安そうに言う。
「ね、やっぱり心配だよ〜!!」
三人がそう会話していたその時、乱入者は現れた。
ガシャン!
ガラスの割れる音とともに、一匹の獣が中に入ってきた。
その獣に三人が同時に戦慄する。
その獣が、ギリシャ神話に出てくるキマイラと全く同じ姿だからだったからだ。
「な、何あれ!?」
キマイラはすうっと息を吸い込んだ。
そして次の瞬間、
キマイラは炎を吐き出した。
「い、いかん!!」
これに真っ先に反応したのは、蝉丸老人だった。
老人は月代を抱えて逃げ出そうとするが、間に合うわけもなく、
「ぐうぅっ!!!」
月代と高子の盾となって炎を浴びる形となった。
「お、おじいちゃん!!」
「つ、月代! 高子! 逃げるんじゃ!!」
老人は苦しみの表情の中そう叫ぶ。
「で、でもご主人様を放っては……!!」
「いいから逃げろ!!」
その老人の剣幕に押されたのか、高子は頷き、
「月代ちゃん! こっちへ!!」
月代の手を取って裏口へと駆け出した。
それに対しキマイラが再び炎を吐こうと月代たちに顔を向けるが、老人が両手を広げそれを阻む。
「そうはいかんぞ!!」
結局、それが老人の最後の言葉となった。
キマイラは容赦なく老人に向かって炎を浴びせ、老人と部屋を燃やし尽くす。
老人は声を出す暇もなく、光の粒となって消えた。
そして坂神邸の後に残ったのは、焼け焦げた部屋と、キマイラ一匹だけである。
【月代・高子 逃亡】
【蝉丸老人 あぼーん】
あぼーんリスト
砧夕霧
美坂栞
水瀬秋子
蝉丸老人
ドラえもん 聖の話を聞き長瀬刑事のいる警察署へ
のび太 麗子の手により川に転落
ジャイアン 真琴と共に水瀬家近郊のウイルス駆逐
スネ夫 蝉丸と日本一の弟の下へ向かう
静香 少女をウイルスから助け出す
各キャラの動き(ウイルス登場以前のキャラは除外)
国崎・観鈴・晴子・そら ウイルスに襲われた後家に帰る
佳乃・聖・ポテト 霧島診療所で待機
北川・舞・佐祐理 ウイルスを倒しつつ技術者を探す
真琴 ジャイアンと共に水瀬家近郊のウイルス駆逐
祐一・香里・名雪・留美 ウイルスに襲われた後不明。おそらく技術者を探しに行ったと思われる。
美汐 学校から脱出。身を隠すため安全な場所を探す。
柳川 外回りと称し長瀬から逃げる
長瀬刑事 警察署にてゲームプレイ中
蝉丸 スネ夫と日本一の弟の下へ向かう
月代・高子 坂神邸から脱出。その後は不明。
麗子 のび太とスネ夫を襲撃。どうやら何かあるっぽい。
何か最近ドラじゃなくて鯖っぽくなってるような気がするのは
精神的疾患の一種ですか?
そのうちドラ達もあぼーんしていって結局最後はデータ消去。
ドラえもんのび太と葉鍵の国の十戒石板
三、一応ドラとクロスさせているものだが、一つの話の中にドラキャラを出さなくても構わない。
これがよくないんだろ。ドラキャラが出てない話なんてこのスレには必要ない。
>>24 同意。
投下しても全くレスがないことからもわかるだろうに
26 :
同志:03/11/16 23:54 ID:iQzs9lrE
>>24 そのルール作ったのは俺です……これはドラをよく知らない書き手のためにと思って入れたものですが、余計だったようですね。
じゃあ、そのルールは封印ということで良いですか?>ALL
それと、今更だけど以前書いていた「雪の降る街」のほうは需要あるのでしょうか?
>じゃあ、そのルールは封印ということで良いですか?>ALL
yes.
>それと、今更だけど以前書いていた「雪の降る街」のほうは需要あるのでしょうか?
no.
のびたが奇跡を追体験する流れにしかならんような気がす>雪の〜
実は大どんでん返しが待ってるんだ。だから書かせろってなら書けばいーんじゃね?
保守
30 :
名無しさんだよもん:03/11/20 23:14 ID:A6gI6Kyt
あのさぁ・・・前半おもしろげに見せることは素人でもできる。
しかし最後は尻すぼみになり、話は徐々に破綻してきてだめになる。
ここのすれはまさにそのパターン。脳内で「こんな話いいな できたらいいな」
じゃ完成にはこぎ着けないだろ。
最後考えずに、話書く方がむり。まぁ素人ではよくいるのかもしれないがね。
>>30 そこまで言うなら自分で書いてみせろヴォケが
>>30 リレーでやろうと決まった時にプロット云々という話が出たが、
どいつもこいつも何も考えなかったおかげで、結局破綻しちまった訳なんだよな。
言えるのは、このスレの企画、「ドラえもんと葉鍵を組み合わせる」という事が、やってみると意外にもとんでもなく難しかったということだ。
・・・俺的には、もう一度やり直してみたいのだがな、リレー。
33 :
32:03/11/21 03:04 ID:x9SLAP/V
ごめん、うそ。
今にして思えばハカロワが完結したのは奇跡だったんだな。
うおゃちめう だんへいたらたっかつみ
保守
構想思案中。ちょっと待て・・・。
構想を練ってるのもいいが、
シナリオは書き手にまかせるんじゃなくて
スレ住人全員であらかじめ決めたらどうだ?
ただでさえ人がいないんだから
このままいったら間違いなく破綻するぞ
>>39 あ・いや、ちょっと勘違いしてると思うんですが、
自分が考えてるのは「葉鍵の国」の続きじゃなくて
まったくの新作。一人で書きつづけるやつね。
あと1週間ほどくれや。
とりあえず保守!!
保守っとく
>40
あいよー
神降臨保守
,ィ, (fー--─‐- 、、
. ,イ/〃 ヾ= 、
N { \
ト.l ヽ l
、ゝ丶 ,..ィ从 | キバヤシ
\`.、_ _,. _彡'ノリ__,.ゝ、 | 「こみパ」はジャイ子と茂手もて夫との恋愛談。(40巻 他参照)
`ゞf‐>n;ハ二r^ァnj< y=レヽ 「うたわれるもの」は「アニマルプラネット」を思い出すのだが・・・。
. |fjl、 ` ̄リj^ヾ)  ̄´ ノ レ リ
ヾl.`ー- べl,- ` ー-‐' ,ン
l r─‐-、 /:|
ト、 `二¨´ ,.イ |
_亅::ヽ、 ./ i :ト、
-‐''「 F′:: `:ー '´ ,.' フ >ー、
ト、ヾ;、..__ , '_,./ /l
ヽl \\‐二ニ二三/ / /
_
, ‐''´~ `´ ̄`‐、
ヽ‐'´ `‐、
≦ ヽ
≦ , ,ヘ 、 i タナカ
l イ/l/|/ヽlヘト、 │ 「考えすぎですよキバヤシさん!!
|/ | ! | | ヾ ヾヘト、 lそれなら天使のいない12月もドラえもんネタがあるっていうんですか!?」
! ‐;-、 、__,._-─‐ヽ. ,.-'、
} ' (:)〉 ´(.:)`i |//ニ !
゙! 7  ̄ | トy'/
! `ヽ" u ;-‐i´
ヽ ` ̄二) /ヽト、
ヽ、 ー / ゝ
\ __, ‐' / / \
 ̄ i::::: / /
146 : ◆b6fyBIDx/k :03/11/11 19:57 ID:???
,. ─- 、,,.___
,イ〃 `ヽ,__
. N. {' \
. N. { ヽ
. N.ヽ` 〉
N.ヽ` ,.ィイ从 / 「もちろんだ!
. ヾミ.___-‐=彡'ノノノ__,ゞミ=-_rく 今回の天使のいない12月も
lrf´ゞ“モ=ヾーf =モチ<}rv^i ! リーフ東京はドラえもんネタを堂々と使っているんだよ!!」
ヾト、` ̄,り「弋!  ̄´ノ ソ
!  ̄ ii{_,.  ̄ /r'´
,ゝ、 iー-ー、 , ' |\
-‐''7´ ドヽ. `ニニ´ ./;; | ヾ''ー-
/ ト、 ` ー-- ´ ,;' ,イ :|
. / :ト、` ー-、 r--‐_'´/ |
/ _,..、-‐\  ̄! レ' 厂 /へ、 :|
T´ ヽ\l.0| V / / / \ |
T´ ヽ\l.0| V / / / \ |
,. -─- 、._
,. ‐'´ `‐、
/ ヽ、_/)ノ
/ / ̄~`'''‐- 、.._ ノ
i. /  ̄l 7ナワヤ
,!ヘ. / ‐- 、._ |/ 「バカ言うなよ!
. |〃、!ミ: -─ゝ、 __ .l あの欝&エロシナリオのどこにドラネタなんてあるんだよ!?
!_ヒ; L(.:)_ `ー'"〈:)_,` /
/`゙i ´ ヽ !
_/:::::::! ,,..ゝ!
_,,. -‐ヘ::::::::::::::ヽ、 r'´~`''‐、 /
! \::::::::::::::ヽ `ー─ ' /
i、 \:::::::::::::::..、 ~" /
.! \ `‐、. `ー;--'´
ヽ \ \ /
,. -─v─- 、 、
__, ‐'´ `ヽ
..≦ `i,
..≦ i、
1 イ/l/|ヘ ヽヘ i
l,_|/ ! ! | ヾ ヾ ヽ_、,l`ヘ .,|
.レ二ヽ、 、__∠´_"` ! / イケダ
riヽ_(:)_i '_(:)_/ |i)' 「そうですよ!
!{ ,! ` μ! いくら、保守代わりのMMRネタだからって
゙! ヽ ' u ,i! いい加減な事言わないでください!」
!、 ‐=ニ⊃ ,,ハ
ヽ ‐- / "ト、
ヽ.___,._/ // \
//イ;;::::: //〃 ヽ、
/ /i:::::. // ヽ
ヽ、.三 ミニ、_ ___ _,. ‐'´//-─=====-、ヾ /ヽ
,.‐'´ `''‐- 、._ヽ /.i ∠,. -─;==:- 、ゝ‐;----// ヾ.、
[ |、! /' ̄r'bゝ}二. {`´ '´__ (_Y_),. |.r-'‐┬‐l l⌒ | }
゙l |`} ..:ヽ--゙‐´リ ̄ヽd、 ''''  ̄ ̄ |l !ニ! !⌒ //
. i.! l .::::: ソ;;:.. ヽ、._ _,ノ' ゞ)ノ./
` ー==--‐'´(__,. ..、  ̄ ̄ ̄ i/‐'/
i .:::ト、  ̄ ´ l、_/::|
! |: |
ヽ ー‐==:ニニニ⊃ !:: ト、
いや・・・、これは俺の直感なんだが、
今回のリーフは何か俺たちにメッセージを送っているような気がする!
それも・・・切実な『何か』を!!
よし、MMR調査開始だ!
MMR第一章 「天使のいない12月」は映画ドラえもんへの警告状だった!?
タナカ「最初からAAなんて使わなきゃ良かったですね、ミスしまくりですよ!」
ナワヤ「しかも
>>46の◆b6fyBIDx/k さんは俺達とはまったく関係ないんだぞ!!」
キバヤシ「スマン・・・ここで謝っておく。本当に関係ないです」
イケダ「ここはSSスレらしく文章だけでやっていきましょう」
キバヤシ「ところで『天いな』とドラえもんを結ぶ線は見つかったか?」
タナカ「そうですね・・・無理矢理探してみたら、麻生 明日菜シナリオで主人公の妹の恵美梨ちゃんが『カメラ付きケータイ〜』と大山のぶ代口調で言ってたことぐらいですかね」
ナワヤ「それぐらいなら特に珍しいギャグでもないな」
キバヤシ「いや、それはシナリオライターがドラえもんを意識しているという何よりの証拠だ。他にはないか?」
イケダ「あとは・・・やっぱりメインヒロインの栗原透子がのび太とだぶりますね。眼鏡と何をやっても駄目なところとか」
ナワヤ「あとイジメられっ子という点も忘れるな」
キバヤシ「成る程、やはり栗原透子が一番怪しいな。徹底的に調べつくすんだ!」
MMR調査班「了解!!」
・・・
キバヤシ「どうだ?透子シナリオにドラえもんを思わせるところがあるか?」
タナカ「・・・僕はケータイのメールのやりとりあたりを調べてるんですが・・・。そもそも原作ドラえもんの時にはケータイはあまり普及してません。せいぜいポケベルぐらいです。『ちやんと使うえるよ』などの迷言なんかもありません」
ナワヤ「俺はラストからエンディングまでの流れを見ているが、これも何もないな」
イケダ「主人公のアレな関係もドラえもんと考えてみましたが何もありません。ていうかあるわけありませんが」
キバヤシ「むう・・・やはり考えすぎたか・・・?」
イケダ(早く気づけよ!)
タナカ「・・・そう言えば捨て犬を拾うイベントがありますね。これなんかドラえもんらしいじゃないですか?拾ったがいいが飼えないというところも」
ナワヤ「チャウチャウっぽいから『ポイ』というのも、『のび太と大魔境』の腹ペコだから『ペコ』と同じような感覚だな」
キバヤシ「無論、俺もそれは気づいた。だが、主人公とヒロインが『拾ってください』とか書いた張り紙を書いたり、『飼ってくれませんか?』と街中を訪ね回ったりするシーンがあれば、なんとかドラえもんとこじつけられるのだが・・・」
イケダ「あっさりと解決してしまいますね。主人公の家で飼うか、明日菜さんにもらってもらうか」
キバヤシ「しかし捨て犬か・・・犬? ・・・待てよ! 確か今度の映画のタイトルは『のび太のワンニャン時空伝』じゃないか!?この犬ネタが関係してるに違いない!!」
ナワヤ「おいおい、キバヤシ。映画が公開されるのは来年4月だろ? それとも、まさかお前、藤子Fプロが『天いな』からパクるとか言うんじゃないだろうな?」
キバヤシ「流石にそこまでは言わないが・・・。ナワヤ知らないのか? この『のび太のワンニャン時空伝』はドラえもんのある原作を参考に製作されることを!?」
ナワヤ「原作を参考に製作・・・て? どういうことだ?」
タナカ「つまり、第10巻「のび太の恐竜」が発展させて大長編第1作品『のび太の恐竜』が作られたように、F先生没後、藤子Fプロは何度か同じようなことをしてきたわけです。例えば「ふしぎ風使い」は「台風のフー子」・・・のように」
キバヤシ「そしてこの『のび太のワンニャン時空伝』は・・・。あ・・・アレ待てよ! た・・・確か「天使のいない12月」は一度発売延期になってなかったか!?」
イケダ「ええ、8月8日に延期発表してますね。この時は発売3週間前と随分急な告知だったので非難の声も出たみたいですね。
参考 Leaf-東京組新作 「天使のいない12月」Part5スレ
ttp://wow.bbspink.com/leaf/kako/1059/10599/1059909971.html
キバヤシ「そうか・・・! 全てがわかったぞ!! こ・・・これは緊急事態だ!!」
ナワヤ「ど・・・? どうしたキバヤシ!? 何がわかったてんだ!」
キバヤシ「いいか、よく考えろ。最初に言ったようにリーフ東京はドラえもんと深い関係が有る!」
イケダ(だれも同意してないだろ!)
キバヤシ「だからリーフは映画ドラえもんを応援してるという事も言えるのだ! 映画の新作タイトル発表は月刊コロコロコミック8月号!! 毎月15日発売のコロコロだから7月15日!! 3週間しか離れていないんだよ!!」
ナワヤ「ま・・・まさかキバヤシ・・・? お前は!?」
キバヤシ「そうだ!!」
,.ィ , - 、._ 、
. ,イ/ l/  ̄ ̄`ヽ!__
ト/ |' { `ヽ. ,ヘ
N│ ヽ. ` ヽ /ヽ / ∨
N.ヽ.ヽ、 , } l\/ `′
. ヽヽ.\ ,.ィイハ | _|「天使のいない12月」が発売延期になったのは
ヾニー __ _ -=_彡ソノ u_\ヽ、 | \ 新作映画「のび太のワンニャン時空伝」の告知と
.  ゙̄r=<‐モミ、ニr;==ェ;ュ<_ゞ-=7´ヽ >深い関係があったんだよ!!
. l  ̄リーh ` ー‐‐' l‐''´冫)'./ ∠__
゙iー- イ'__ ヽ、..___ノ トr‐' /
l `___,.、 u ./│ /_
. ヽ. }z‐r--| / ト, | ,、
>、`ー-- ' ./ / |ヽ l/ ヽ ,ヘ
_,./| ヽ`ー--‐ _´.. ‐''´ ./ \、 \/ ヽ/
-‐ '''"  ̄ / :| ,ゝ=< / | `'''‐- 、.._
/ !./l;';';';';';';\ ./ │ _
_,> '´|l. ミ:ゝ、;';';_/,´\ ./|._ , --、 | i´!⌒!l r:,=i
. | |:.l. /';';';';';|= ヽ/:.| .|l⌒l lニ._ | ゙ー=':| |. L._」 ))
l. |:.:.l./';';';';';';'! /:.:.| i´|.ー‐' | / | |. ! l
. l. |:.:.:.!';';';';';';';'| /:.:.:.:!.|"'|. l' │-==:|. ! ==l ,. -‐;
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. l |:.:.:.:.:.:.l;';';'/:.:.:.:.:.:.:.:.:.|. \:::::\::::: ヽ ::::::!′ :::| .:/
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ナ ゝ ナ ゝ / 十_" ー;=‐ |! |!
cト cト /^、_ノ | 、.__ つ (.__  ̄ ̄ ̄ ̄ ・ ・
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,. ‐'´ `‐、 __, ‐'´ ヽ, ‐''´~ `´ ̄`‐、
/ ヽ、_/)ノ ≦ ヽ‐'´ `‐、
/ / ̄~`'''‐- 、.._ ノ ≦ ≦ ヽ
i. /  ̄l 7 1 イ/l/|ヘ ヽヘ ≦ , ,ヘ 、 i
,!ヘ. / ‐- 、._ u |/ l |/ ! ! | ヾ ヾ ヽ_、l イ/l/|/ヽlヘト、 │
. |〃、!ミ: -─ゝ、 __ .l レ二ヽ、 、__∠´_ |/ | ! | | ヾ ヾヘト、 l
!_ヒ; L(.:)_ `ー'"〈:)_,` / riヽ_(:)_i '_(:)_/ ! ‐;-、 、__,._-─‐ヽ. ,.-'、
/`゙i u ´ ヽ ! !{ ,! ` ( } ' (:)〉 ´(.:)`i |//ニ !
_/:::::::! ,,..ゝ! ゙! ヽ ' .゙! 7  ̄ | トy'/
_,,. -‐ヘ::::::::::::::ヽ、 r'´~`''‐、 / !、 ‐=ニ⊃ /! `ヽ" u ;-‐i´
! \::::::::::::::ヽ `ー─ ' / ヽ ‐- / ヽ ` ̄二) /ヽト、
i、 \:::::::::::::::..、 ~" / ヽ.___,./ //ヽ、 ー / ゝ
.! \ `‐、. `ー;--'´ //イ;;::::: //〃 \ __, ‐' / / \
ヽ \ \ / / /i:::::. //  ̄ i::::: / /
つづく。
期待揚げ。
57 :
名無しさんだよもん:03/11/30 03:58 ID:4pI26nOv
上手くオチ決まれば神認定。
>「のび太のワンニャン時空伝」
・・・え?これマジで次回作のタイトル?
>>58 Yes.
ドラえもんもうだめぽと思った奴がどれだけいたことか・・・
60 :
続き:03/12/01 02:09 ID:WVYVZ//O
タナカ「そ・・・そんなバカな!!」
ナワヤ「お・・・おいキバヤシいくらなんでも! よ・・・よしわかった! 仮にお前の言うとおりドラえもんの新作映画告知のせいで『天いな』が発売延期されていたとする・・・!
だがその理由は何だ!? 『天いな』はただの18禁エロゲー・・・リーフは小学館とも藤子Fプロとも関係ないんだぞ!!」
キバヤシ「無論、『天いな』の改正作業の為だ!! 俺たちに『ワンニャン時空伝』の過ちを気づかせる為に!!」
イケダ「あ・過ち・・・!? そ・・・そのドラえもん映画に過ちなんかあるんですか!? ある意味『天いな』のほうが過ちを犯しているというなら納得出来ますが・・・」
キバヤシ「いいか・・・!? 一度話をまとめよう。 まず7月15日、ドラえもん新作映画『のび太のワンニャン時空伝』が告知される。その後、8月8日突然『天使のいない12月』の発売延期が発表される。
俺はこの発売延期をドラ新作映画の告知が関係してると読んだ! 何故なら『ワンニャン時空伝』は大きな過ちがあったからだ! では何故来年4月に公開される映画の内容を8月8日の地点でリーフ東京は知っていたか?
それはこの『ワンニャン時空伝』にはある原作を参考に製作される為だったんだ! それがてんとう虫コミックスドラえもん第22巻 『のら犬 イチの国』!!(公式情報)」
タナカ「そ・・・それはドラえもんファンなら知られてることですが・・・!? しかしこの話のどこが問題なんですか!?」
61 :
続き:03/12/01 02:10 ID:WVYVZ//O
ナワヤ「ええと、例によって野良犬を拾ってきたのび太がこっそり犬を飼い始めるも、結局バレてしまう。困ったドラえもんたちは山奥へ捨てに行こうとするがそこは野犬だらけ。
増えすぎた野犬とそれによって不足するえさの事を危惧したドラえもんは、恐竜が出てくる以前の約3億年前へ連れて行く。えさに困らない為に未来道具を使えるようになるまで進化放射線源で野良犬たちを進化させた。
だがドラえもん達が進化放射線源を置きっぱなしで現在へ帰っていった為に、野良犬達は千年で超高度の文明を築き上げたのだった・・・。だいたいはこんなところだな。詳しい説明は面倒だからコミックスを読んでくれ」
イケダ「まさに藤子SF(sukosi fusigi)ですね。いい話だと思いますが?」
キバヤシ「ここで重要になってくるのは『天いな』のポイ・・・つまり野良犬あたりが問題になってくるんだ!」
タナカ「ポイ? ポイ=イチってことですか? イチは全然チャウチャウっぽい犬ではありませんよ?」
キバヤシ「観点が違う。問題なのはポイが出てくるイベントなんだよ!」
イケダ「ちょ・・・ちょっと待ってください!! 少し説明がややこしくって・・・!」
62 :
続き:03/12/01 02:11 ID:WVYVZ//O
キバヤシ「よし! いいか!? 『天いな』で初めてポイが出てくるのはルートによって微妙に違うが、最短ルートでは放課後、透子が野良犬のポイにエサをあげている所に主人公 木田が出くわしたシーンだ!
まず最初に透子がポイにアジフライをあげる。その後、透子が『犬さん、ハンバーグとか食べるかな?』木田『肉だろ? 食うんじゃねえのか? 犬だから』透子『じゃあ、あした、お弁当作ってもらって入れてもらおうかな・・・』そして・・・」
イケダ「雪緒の『殺したいの?』・・・これはハンバーグには玉ねぎが入っているから止めろっていうことですが・・・」
キバヤシ「話をドラえもんに戻す。同様に野良犬を拾ってきたドラえもん達はエサに困るが、ある道具を使って解決するんだ!! だがここで藤子・F・不二雄はとんでもない過ちを犯したんだよ!! それが・・・」
63 :
続き:03/12/01 02:16 ID:WVYVZ//O
,イ/ l/  ̄ ̄`ヽ!__
ト/ |' { `ヽ. ,ヘ
N│ ヽ. ` ヽ /ヽ / ∨
N.ヽ.ヽ、 , } l\/ `′
. ヽヽ.\ ,.ィイハ | _|
ヾニー __ _ -=_彡ソノ u_\ヽ、 | \
.  ゙̄r=<‐モミ、ニr;==ェ;ュ<_ゞ-=7´ヽ >
. l  ̄リーh ` ー‐‐' l‐''´冫)'./ ∠__ この衝撃的画像だ!!
゙iー- イ'__ ヽ、..___ノ トr‐' /
ttp://www.geocities.co.jp/SiliconValley-SanJose/8589/hanba.gif l `___,.、 u ./│ /_
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>、`ー-- ' ./ / |ヽ l/ ヽ ,ヘ
_,./| ヽ`ー--‐ _´.. ‐''´ ./ \、 \/ ヽ/
-‐ '''"  ̄ / :| ,ゝ=< / | `'''‐- 、.._
/ !./l;';';';';';';\ ./ │ _
_,> '´|l. ミ:ゝ、;';';_/,´\ ./|._ , --、 | i´!⌒!l r:,=i
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l. |:.:.l./';';';';';';'! /:.:.| i´|.ー‐' | / | |. ! l
. l. |:.:.:.!';';';';';';';'| /:.:.:.:!.|"'|. l' │-==:|. ! ==l ,. -‐;
l |:.:.:.:l;';';';';';';';| /:.:.:.:.:| i=!ー=;: l | l. | | / //
l |:.:.:.:.:l;';';';';';';'|/:.:.:.:.:.:.!│ l l、 :| | } _|,.{:: 7 ))
l |:.:.:.:.:.:l;';';';';'/:.:.:.:.:.:.:.:| |__,.ヽ、__,. ヽ._」 ー=:::レ' ::::::|; 7
. l |:.:.:.:.:.:.l;';';'/:.:.:.:.:.:.:.:.:.|. \:::::\::::: ヽ ::::::!′ :::| .:/
64 :
続き:03/12/01 02:18 ID:WVYVZ//O
、_,.-'""`´""ヽ
Σ ヽ
| /i'i^iヘ、 ,、、 |
!'.__ ' ' ``_,,....、 .| ハンバーガー?・・・
} 'o〉 `''o'ヽ |',`i
| 7  ̄ u |i'/.
. ヽ `''⊃ , 'v>、
\二-‐' //
_,,.-‐-..,,_
/ `''.v'ν
i' / ̄""''--i 7
!ヘ /‐- 、u. |'
|'' !゙ i.oニ'ー'〈ュニ! それって・・・
,`| u ..ゝ!
<:::::\ (二> /
\::::\ '' /
\ \. , ̄
_,,..--v--..,_
Σ´ `、
| ,.イi,i,i,、 、,、 |
|ノ-、 ' ` `,_` .|
iiヽ~oj.`'<_o.7,iリ ネギ入ってるじゃねえかよ!!
. ‖ .j i
! _`-っ /
\ '' /〃\
65 :
続き:03/12/01 02:19 ID:WVYVZ//O
ナワヤ「だ・・・だが『無料ハンバーガー製造機』だろ!! ハンバーグとは違って玉ねぎは入ってないんじゃねえのか!?」
タナカ「落ち着いてくださいナワヤさん! ハンバーガーとはハンバーグをパンで挟んだものを言うんですよ!! 当然マクドナルドのハンバーガーにも玉ねぎが入っています!!」
キバヤシ「問題なのは次の映画がこの場面を使われる可能性が大だと言う事だ!! 今までは何十編も有る短編のたった一話の一部分に過ぎなかった問題のシーンが、今度は全国の子供達に映画館でこのシーンを見ることになる!!」
イケダ「それはまずい!! 今の子供達はなんでも真似したがりますからね!! このシーン同様に犬にハンバーガーを与えてしまったら!!」
キバヤシ「そうだ!!」
66 :
続き:03/12/01 02:23 ID:WVYVZ//O
,. - "゙` - 、
,. ' . ` 、 ` -、
/ , i i! . . . 、 、 `、`、`、
,.′/ ! i ! . 、 、 、`、 ヽ 、`、
_rー-i ! i ii ! i 、 、 ヽ`、 i i i
く'⌒`7| i i ! !、 、 \`、、 ゙ 、 i ! i! i
/~゙"´!i i! i _i,-ャ弋 ヾゝー、 i ! i i !
i ゙、 !i!、!ヽ丶_ ヾ` -ヾヽヾ! ! !i !i i!
i `. ( :::、 -'" ` '"` ,´!リi!ノi!i!ハ!
i ! i `、`-、 ゝ /i i
i ! i i _`,、i`-、  ̄´ , '!i i i まさに「リアル雪緒症候群」
i ! i i iト'⌒r'-、_ ` -r'´ ||i ! ! とも言うべき子供達が急増し!!
i i ! ii ,.-"、.._ `r'´!`r、ij i i
!i i i ii, '~^ - 、,~^ 。"く::::`゙-!、 i
i i i jノ ::::: ~/`>、 `-、:::::`゙-、
i ! ,!′ ,' i′。`、,-´ :::: `i
,. ,. ' ~ヽ! ::::` 、:: ト、
,. ' !:: .. .:. 。 ::!:: :::i `、
' i`、 :::. ::: ゙. : ::: `、 ` 、
,' / ! :`-、 :::::::.: : :゙i:: :: `、 、 ` 、
, / ! ::::.. `-、:::: ::。 ...:::::!: :: ::: `i`、、` 、
i i `i ...... `-、 ::::::::::::: : ..:::..:::::::;!::: ..:::: :: .::i" ゙`、 ` 、
!! i i:::.. :::::::::...`、:::::::::....: :。::::;_,/i .::::: ..::::::!, -'^~ミ` 、 !
i i ,. i i::::::.. . ::::::::.`、_,.- '^゙~ ̄::::::::/: ::::: ._,. -´ー ´ ̄ `i!!
! i ! 、! !::::::::::::.. :::::.......`-i___,.-r'^゙i`i:..ー '´-^ 、`、 ノ !
67 :
続き:03/12/01 02:24 ID:WVYVZ//O
, / `ー---─一''"~´ ̄`ヾヽ
i i| ilレ ミミミミ''"`─- 、
, .,i! i !/i i ミミミミヾ ミヾ ゙ヽ
.i ,!i l.| ' i ゞ 彡ミミミヾ ミヾヾ `ヽ
, i!、k ヽ、 ヽ 彡ミミ ミヾヾ ゙
li l ヾ、 ヾ _,,== ミヘベ
, |i、ヽ ヽ、 ヽ ヾ ゙
!ヾ ヽー- _ ー- ,,__ 〃ヾ
ヾヽヾ ‐- ,,___ /ソツ、ヾゞ、ヾヾ
` 、`ー- 、...,,─-- __,, 彡ソソ ヾゞゞミミ
ヽ.、 `ー --- .,,─-- __,, 彡ソソノ,; ,,-弋ミミミミ
\ ゙ー‐- 、..,,,____,,. --彡彡彡'"'",ィ'-====、ヽミミミ
``,.-、-─r,=====、:;;,,::;;::f" ,.'i´ o`i 冫ヽ ]-'´ ∧∧
゙iヾ ニill 〈 (.O)ーi` ̄´i _`_-_'....' li ゙_/ ヽ
゙i ill::::::::;ー-‐γ'i'::l,⌒ヾ`)::::::::::;;'' 〃u \
゙i :ill::::::::;; ソ::::;i,、, ヾ:::::::;''' _,,ノ' ,r-|
゙i、 ゙`‐=='"..::::::;i,, .,,, ゙゙'''''"~´ l_|
ヾ.イ '''"..-一、 u .lヽ
ヽ :;;l ̄´ _,,,...,.ヽ ,イ_〉人類の未来は
゙i. u ;;iェ'´ i' ヾト! ./:! \破滅に追いやられるんだよ!!!
゙!. :;;Fi、 ,,.ツ ./;:;: ゙i
./゙i ヽ ゙;ヽニ二ニ-'´ ./ :;:; / ヘ
/ i ヽ :..,,-‐' /::;' ;:; / /∨\/
68 :
続き:03/12/01 02:25 ID:WVYVZ//O
ナ ゝ ナ ゝ / 十_" ー;=‐ |! |!
cト cト /^、_ノ | 、.__ つ (.__  ̄ ̄ ̄ ̄ ・ ・
ミミ:::;,! u `゙"~´ ヾ彡::l/VvVw、 ,yvヾNヽ ゞヾ ,. ,. ,. 、、ヾゝヽr=ヾ
ミ::::;/  ゙̄`ー-.、 u ;,,; j ヾk'! ' l / 'レ ^ヽヘ\ ,r゙ゞ゙-"、ノ / l! !ヽ 、、 |
ミ/ J ゙`ー、 " ;, ;;; ,;; ゙ u ヾi ,,./ , ,、ヾヾ | '-- 、..,,ヽ j ! | Nヾ|
'" _,,.. -─ゝ.、 ;, " ;; _,,..._ゞイ__//〃 i.! ilヾゞヽ | 、 .r. ヾ-、;;ノ,.:-一'"i
j / ,.- 、 ヾヽ、 ;; ;; _,-< //_,,\' "' !| :l ゙i !_,,ヽ.l `ー─-- エィ' (. 7 /
: ' ・丿  ̄≠Ξイ´,-、 ヽ /イ´ r. `ー-'メ ,.-´、 i u ヾ``ー' イ
\_ _,,......:: ´゙i、 `¨ / i ヽ.__,,... ' u ゙l´.i・j.冫,イ゙l / ``-、..- ノ :u l
u  ̄ ̄ 彡" 、ヾ ̄``ミ::.l u j i、`ー' .i / /、._ `'y /
u `ヽ ゙:l ,.::- 、,, ,. ノ ゙ u ! /_  ̄ ー/ u /
_,,..,,_ ,.ィ、 / | /__ ``- 、_ l l ``ーt、_ / /
゙ u ,./´ " ``- 、_J r'´ u 丿 .l,... `ー一''/ ノ ト 、,,_____ ゙/ /
./__ ー7 /、 l '゙ ヽ/ ,. '" \`ー--- ",.::く、
/;;;''"  ̄ ̄ ───/ ゙ ,::' \ヾニ==='"/ `- 、 ゙ー┬ '´ / \..,,__
、 .i:⌒`─-、_,.... l / `ー┬一' ヽ :l / , ' `ソヽ
ヾヽ l ` `ヽ、 l ./ ヽ l ) ,; / ,' '^i
69 :
続き:03/12/01 02:26 ID:WVYVZ//O
タナカ「そ・・・! そうか!! 飼っていた犬が死んだくらいで『欝だ死のう』と嘆いてたあの雪緒はちょっと大げさじゃないかと思っていたんですが!!」
キバヤシ「そうだ!! 全てはこの衝撃の事実を俺たちに知らせようとしたシナリオ担当の三宅章介の痛切なアピールだったんだ!!」
ナワヤ「そうか!! 雪緒のツインテールも静香ちゃんみたいだと思ったら・・・そういうことだったのか!!」
イケダ(それは違う気が・・・)
キバヤシ「これはドラえもんを愛するリーフ東京から、ドラえもんを愛する俺たちへの警告状だったんだ!!
俺達葉信者はこれから起こる大惨事の数々と日本の未来を守る為に決起せよ・・・!!
というメッセージがこの『天使のいない12月』の須摩寺 雪緒シナリオに込められていたんだ!!」
タナカ「し・・・しかし、どうすればいいんだ!! 藤子Fプロに投書でもすればいいんですか!?」
キバヤシ「いや・・・それでは駄目だ!! ・・・実は雪緒シナリオにはもう一つリーフ東京からのメッセージがあったんだ!!」
タナカ・イケダ・ナワヤ「な・なんだってー!!」
71 :
70:03/12/01 02:27 ID:ke2o0zCi
まだ途中だったのね_| ̄|○
72 :
続き:03/12/01 02:27 ID:WVYVZ//O
キバヤシ「雪緒スレでよく盛り上がるネタに『雪緒は金持ちそうに見えて何故か蕎麦屋の娘』という設定があることは知ってるか?」
タナカ「ええ。確か家が汚い蕎麦屋とか・・・」
ナワヤ「だが、雪緒が子供の頃のCGはやたらと高そうな服を着ていて、数年前ブームだったゴールデンレトリバーを飼い、ピアノを弾き、さらにギター、さらに留学も考えていたことを考えるとどう考えても汚い蕎麦屋の娘の筈がないような・・・」
イケダ「雪緒スレでも妄想・・・ではなく考察のほうが続いてますね」
キバヤシ「そう! あまりに設定とは異なりすぎている!! これはまたまた俺たちに対するメッセージだ!!
いいか? こんな話を聞いたことがある! ビジュアルノベルの原画はシナリオが完成してから製作にとりかかるのが一番だが、それではスケジュールに間に合わない! そこでシナリオが完成するより先に原画担当へ『こんなCGを描いてくれ』と発注することがあるそうだ!」
タナカ「そうか! つまりシナリオ担当が雪緒が子供の頃の原画を描いてもらう時に、『金持ちそうな女の子が幸せそうにゴールデンを抱いているのを頼む』とかなんとか頼んだんだ!」
ナワヤ「じゃあ、何だ? プレイヤー側が不可思議に思う『汚い蕎麦屋の娘』という設定は、わざわざその原画発注の後に付け加えたってのか!?」
キバヤシ「そういうことだ!! 無論、付け加えられたのはドラ映画告知から発売日の間ということになる!!」
タナカ「し・・・! しかし!! どういう意味が!?」
キバヤシ「いいか!? キーワードは蕎麦屋!!」
73 :
続き:03/12/01 02:28 ID:WVYVZ//O
まず蕎麦屋をローマ字に直す。すると『SOBAYA』
諸君、手持ちのキーボードを見てもらいたい!!
「S」の下に「と」と平仮名である筈だ!この要領で『SOBAYA』を見ると『とらこちんち』になる!!
「とらこ」 とは虎の子供
「ちん」は唐突だがKeyのAirを思い出してもらいたい。『観鈴ちん』のように『〜ちゃん』の意味、つまり女の子!!
「ち」は家だ!〜ちゃんの家と繋がるだろう!
虎の子供の家・・・そう!
「蕎麦屋」が示すものはイメージキャラクターが虎の女の子の
同人ショップ「とらのあな」だったんだよ!!
_____ _________________________
∨
|丶 \  ̄ ̄~Y〜 、
| \ __ / \
|ゝ、ヽ ─ / ヽ |
│ ヾ ゝ_ \ |
│ ヽ_ _ / /| |\ \|
\ヽ _ // / | \ |
ヽ\二_二// ∠二二二| ヘ|
| | | ヽゝソゝ|TT|<ゝソ フ |/b}
ヾ| ヽ___ ノ/|| .ミ__ ノ | ノ
| 凵@ /フ
| .F二二ヽ /|/
\. |/⌒⌒| イヽ
/. \ ==′/ |.| |
 ̄|| ヽ__/ / / ̄
\ヽ_____ノ ノ
───―――
74 :
続き:03/12/01 02:29 ID:WVYVZ//O
な・・なんだってぇぇぇぇぇー!
_,,.-‐-..,,_ _,,..--v--..,_
/ `''.v'ν Σ´ `、_,.-'""`´""ヽ
i' / ̄""''--i 7 | ,.イi,i,i,、 、,、 Σ ヽ
. !ヘ /‐- 、u. |' |ノ-、 ' ` `,_` | /i'i^iヘ、 ,、、 |
|'' !゙ i.oニ'ー'〈ュニ! iiヽ~oj.`'<_o.7 !'.__ ' ' ``_,,....、 .|
. ,`| u ..ゝ! ‖ .j (} 'o〉 `''o'ヽ |',`i
_,,..-<:::::\ (二> / ! _`-っ / | 7  ̄ u |i'/
. |、 \:::::\ '' / \ '' /〃.ヽ `''⊃ , 'v>、
!、\ \. , ̄ γ/| ̄ 〃 \二-‐' //
75 :
続き:03/12/01 02:30 ID:WVYVZ//O
キバヤシ「・・・微妙にリアクションが薄いな・・・」
タナカ「今までの比べるとインパクトがないですから」
キバヤシ「とにかく、葉っぱ信者は同人という分野でこのメッセージを広めろ・・・、恐らくリーフはそう言いたかったに違いない!! 特に『天いな』の同人を作る奴は絶対だ!!
このメッセージを受け取った奴は同人誌の片隅にでも俺たちの考察を書いてくれ! MMRとの約束だ!」
76 :
続き:03/12/01 02:31 ID:WVYVZ//O
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
_,,r-‐''"´ ^ `N /l/ `ヽ
彡 N! l `、
,, -‐- ,,-彡 l ヽ l` ´ ``‐ 、
彡´ | ,,w,,wヽヽ ,, | `ヽ‐‐-- 、
_彡 | //レ/ハl/ハ\ヾー _,, ,,r,,/lヾ | } `‐、
ハl/ ,/ハlヾヾ,l、 /三f、,,_ _,ヾニ_ ____彡ノノノノノ_ヾヾ | ,l、 、 l、_ ,、-‐、 |
/レ /l,,_/__ヽ lヾ ヽモ-ヽl ´fモチ7ヽ={ r‐ィッヾ ヽ-r'´〒fデF`lェr‐、ハlヽヽヽ l ヽ |
l`=l fモチ)_{´ヽl!l :l l ll !l `┴ー/ソl⌒ッ`┴┴' }//l l、 ,,、ァtッヒヽ、rゥ _,,ェヒ‐ l,-、
ヾ}弋_シl弋 ヽl ヽ- ヽl lゝ__,ノ | ゞ___ノl/l / l `~゙´ lァノl 、fモチ lヾ;|
ヾl `' `''´lヽ ── /l\l l、, l_ノ 〈 _ l!ノ l、, lソ
}\  ̄ ̄ ,ィl \  ̄ / l l ___ / ── 丿 ─‐ 丿
,/\ \__// \ \___/ ,,-''\|\ _ /|\ - / |、 ` / ,|、
-‐' \_,,-‐'\ `ヽ、 ,,r' /| \ / .| \__/ ,,rヽ‐-‐ '' / l`ヽ
,,-‐'' \ /\/\ / \. \____/ /\ ,,-‐'' /\ ,/ l ヽ
-‐''´ \/ }゙ _,,,‐''\ \ / /l\‐'' / `ヽ、_ l
_,,-‐'' ヽ \ / / l ''‐-、,/ `‐-、_
_,,-‐''´ ヽ /V<´ / l `‐- 、,,_
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君も未来の為に戦ってくれ!俺たちMMRと共に日本の未来を救おう!!(第1章 完)
乙、がんばれよ。
test
しろいきうけつきはどうなったのカナ?
82 :
名無しさんだよもん:03/12/02 19:17 ID:ianT6Bq3
話の焦点が2転3転するのはどうかなと…
オチが見えなかったというよりかは、見当をつけることの
到底出来ないオチがいきなり出てきて、面食らった感じを
最後受けた。
…いや、雰囲気とかかなり面白かったけどね。
オモロかったよ。良かったら、また頼んます
本編の続きを書いてみようと思ったのだが、コミパの原作を知らないので、
ネタだけ投下。
Airドラエロ同人を無事に書上げた3人は、印刷屋に行く途中、誰とも出会わない事に気付く。
男性陣は、誰にも会わなかったことに気付かなかったが、瑞希だけが、その違和感に気付く。
そして、いつもの印刷屋に行き、千沙と合流。何故か、自分達が妄想した、ドラネタと似たような状況。
(誰も居なくなった街を救うために、ドラえもんが霧島診療所に出向く)
通りになっているのではないか、と言うことを更に妄想する。
以前にあったコミパのコピペを使ってみたのだが、面白くないかもしれん。
できれば、コミパを知ってるヤツが書いてくれると嬉しい。
とりあえず千沙とか言ってる時点でダメだ。
>>82 >見当をつけることの到底出来ないオチがいきなり出てきて
これこそMMRの真骨頂かとw
88 :
諸注意:03/12/06 04:34 ID:x/F0c7tF
――願ったのは束の間の安らぎ
叶ったのは永遠という贖罪――
少年は誰よりも、人の幸せを願い
少年は誰よりも、人の不幸を悲しむことが出来た…。
――でも「優しさで守れるあしたなんかどこにもない」――
大長編ドラえもん 「のび太の天使のいない12月」
「でね、のび太さん。…って聞いてるの?」
「えっ? ああ…ええと、なんだったっけ?」
「もう! のび太さんったら!」
早いものでもう12月で冬の季節。北風が吹く街中の通りで、ランドセルを背負ったぼくと静香ちゃんはふたりで並んで歩いていたのだった。
「…気持ちはわかるわよ、放課後残されて先生のお説教をうけてしょんぼりするのは無理ないわ。でもね、いつまでも落ち込んだままなんてのび太さんらしくないわ」
「そうかな…? ぼくだってたまには本当に落ち込む時だってあるよ…」
「だから、今日はあたしは美味しいものごちそうしてあげるって言ってるじゃない。せっかく近所に美味しいケーキ屋さんを見つけたから紹介してあげようと思ったのに…」
「…そうだったね。でもさ、これって『買い食い』ってやつじゃない? ランドセル背負ったままでそのお店行くのってまずいんじゃないの?」
「そんなのことはどうだっていいのよ、いつまでも落ち込んでるのび太さんなんか見たくないもの」
「ふーん」
上の空で返事を返してしまう。どうやらこれは僕自身でも重症なんだってことがわかった。先生からのお説教は自慢じゃないけど珍しいことじゃない。でも、今度のはいつものとちょっと違っていた。…ある課題を出されたことが、ぼくの気分を落ち込ませる。
「野比、君には毎日、自分自身の生活を見直す必要性があると思うがね?」
「そうですか? ぼくなりに結構頑張ってるつもりなんですけど」
「いーや! 君の頑張っているはアテにならん!」
「…そうですね、ぼくもそう思います」
「ハァ…、だからね、先生は君の考え方を知りたいのだよ。日々どんなことを考えながら、毎日を送ったら良いか!
自分の未来をより輝かしいものするためには今すべきことは何か!! 君は確かにまだ小学生でまだまだ未来なんて先のことと思っているが、人生はそれこそ花のように短い!!
君もそろそろ自分自身で色々なことを考え初めてもいいと思うがね。 どうだね野比?」
「そうですね、考えておきます」
すみません、途中から聞いてませんでした。…とは言えない。
「そこで、君にこれをやろう」
先生はそう言うとおもむろに机の引き出しからノート1冊を取り出した。
「日記帳だよ。これに毎日、今日の出来事を書き込みなさい」
「え〜、日記ですか〜? 日記ってどうもメンドくさいんだよなぁ」
「面倒とか言うんじゃない! いいか、野比。これを冬休み明けまで毎日付けて、先生に提出しなさい!」
「ええ〜っ!! それってぼくだけの冬休みの宿題ってことですか!!」
「そうだ。いいかね? 毎日休むことなく書き続けるんだぞ」
「そんなぁ…」
「毎日、一言ずつでいいから。毎日自分自身の人生を反省してみるといいだろう」
「…」
日記を書くという作業も面倒なのだが、問題なのはぼくの生活を文章で書き続けるというのが嫌だったのだ。
思い返してみれば、ぼくの毎日なんてろくでもないことだらけ。そんなものを自分自身で毎日確認するなんて苦痛そのものだったのだ。
「ここよ、のび太さん」
「え…? ああ、いつのまに着いたんだ。そのケーキ屋さん」
また少しの間ボンヤリとしてしまったらしい。あたりを見渡すと見慣れぬ住宅街の中だった。よく見ると目の前のアパートの下にこじんまりとしたそれらしき店がある。
「うん。『維納夜曲』(ういんやきょく)っていうの。」
「うぃん? 薬局?」
…『うぃん』てなんだろう? パソコンのことかな? 確かウィンドウズってやつ。
「『ウィーン 夜曲』よ! ここのパティシェがウィーンで修行してたから、そんな名前がついたのかもね」
「ふうん、薬局と間違える人が出てきそうだね」
「のび太さんだけよ、薬局と間違える人なんて」
「そっかなー? どちらにしろ漢字が読めないや」
「そうね、ちょっと珍しい店名よね。雑誌で美味しいケーキ屋さんの特集してた時に目に留まったんだけど、やっぱり最初は読めなかったわ。
でも、読み方がわかった時、なかなかおしゃれ名前だと思ったわよ?」
「でもさー、やっぱりお客さんに覚えてもらいやすい名前のほうがいいよね。この『維納夜曲』だって読み方のほうは覚えればなんてことないけど、書くほうじゃ漢字じゃ無理だよ。
絶対間違えて覚えちゃいそうだよね。よく、普通の人がやらかす『ドラエもん』とか『藤子不二夫』みたいに」
「…ま・いいわ、早く入りましょ」
そそくさと静香ちゃんは店の中へ入ってしまう。
「あ・ま、待ってよ!」
慌ててぼくも後を追った。
扉を開けると「ちりんちりん」と鈴の音が店内に響いた。
しゃれたインテリアの数々が目に飛び込んだ時、ぼくなんかはなんだか場違いのような気がした。
「いらっしゃいませー」
カウンター越しに制服を着た店員のお姉さんが笑顔で挨拶してくる。
「さ、どれでもいいから好きなの選んじゃってちょうだい」
「うん、ええと…?」
ケーキか、ケーキってどんなのあったけか? と首を捻ったその時だった。
「あ…っ!」
突然そのお姉さんはぼく達を見るなり息を呑んでいた。硬直したまま何も喋ろうとしない。
「…?」
「じーっ……」
お姉さんはぼく達を舐めるように眺めている…。何だろう? やはりランドセル背負ったままじゃまずかったのだろうか? 静香ちゃんも同様にうろたえている様子だ。
「…もしかしてキミ達…」
「…!」
やっぱり買い食いはまずかったか…!
「カップル!?」
「へ?」
「小学生のカップル!? やだー! かわいー☆」
「…」
お姉さんは何やら自分ひとりでおおはしゃぎである。心配して損した。
「ち…ちがいます! あたしたちただの友達です! ねえのび太さん!?」
「え…? ああ、はいそうです」
静香ちゃん、いくらお姉さんにからわれたって、そこまでキッパリと言わなくたって…。
「うんうん、今はただの友達でも、そのうちに彼氏、彼女の関係になるわけよ。お姉さんはちゃーんとそういうことわかってるんだから!」
「ちがいます!! そんなんじゃありませんってば!!」
「まあまあ、そんなにムキにならないで。でも、小学生同士なんて見てると初々しくていいわね〜。ほぉ〜んとにピュア、純粋? 純愛みたいでお姉さんはうっとりしちゃうわ〜」
「…もう!」
静香ちゃんはお姉さんの勢いに負けて反論出来ないみたいだ。
「どうかしたのか!?」
厨房からここの板前…じゃなくてパティシェらしき男の人が出てくる。…のは、いいが。
「何かあったのか? 明日菜!?」
「ううん、何でもないの! ちょっとお客さんに憧れていただけです!」
「何? お客さんに…憧れる!?」
男の人はそういうとぼく達のほうを眺める。
…デカイ…それがぼくの第一印象、続いてコワイ。この人が本当にケーキ焼いてるのか? と疑うほどに。体格はぼくのパパと比べられないほどたくましい。お菓子職人というより格闘家って感じだ。
「君達、何かこの店員に何かされたのか?」
…ホントに怖い…。
…あれ? あのお姉さん、よく見るとこのおじさんの裏でこっそりと手を合わせてぼく達に謝ってるみたい。ええと、つまりはこのおじさんに怒られたくないから口裏合わせろってことか。
「なんでもないです。ただ、あたしのお友達がお財布忘れたから、店員さんが気を使ってくれただけで…」
「え?」
「は?」
突然静香ちゃんが言い出したことにぼくとお姉さんは意味がわからない。
「『代わりに払ってあげる』って言われちゃたから、ちょっとびっくりしちゃって…」
「…え!?」
「…」
静香ちゃんちょっと凄い。…そしてちょっと酷い。
「ほう? お前が代わりに払うと?」
ちょっと意外そうな顔でパティシェは店員さんの顔を見る。
「え…? ええ、はい。ほらお客さんは小学生だから、ここはうちのお客さんの年齢層の開拓…とかなんとかで、今日はサービス、サービス…って感じで」
「うむ。ま・お前が金を払うなら、勝手にやってくれていいが…」
「でしょ? せっかく私なりにお店の事考えてるんだから、給与のこと考えておいてくださいね。オ・ジ・サ・マ☆」
…オジサマ?
「…まあいい。とにかくあまりお客さんに迷惑をかけるんじゃないぞ」
「はーい!」
「それと、君達!」
「…うっ!」
…何故かオジサマはぼく達のほうを睨む。
「ウチに来てくれるのは嬉しい事だが、ランドセルを背負ったままってのは、あまり感心しないことだな」
「…ごめんなさい」
「まあ、今回は五月蝿いことは言わない。気分が不味くなれば、ケーキだって不味くなる。それに…」
オジサマは明日菜さんを横目で睨む。
「明日菜も何かやらかしたようだし、あまり君達に物を言えない立場だしな」
「あれ? オジサマもしかしてアタシのこと見てた?」
「…お前の事など解らないが、そこのうろたえてる少年を見れば何となくはわかるさ」
「えっ…!?」
ぼくの方へ一斉に視線が集まる。反射的に慌てて顔を伏せてしまった。
…やれやれ。
「とにかく、しっかり頼むぞ。明日菜も、君達も」
「はーい」
そう言うとオジサマは慌てて厨房に入っていった。本当はとても忙しかったんだろう。ちょっと悪かったな、と思った。
「ええと、…あはは!」
その場の雰囲気をごまかすように明日菜と呼ばれてた店員は笑い出した。
「えーと、じゃあしょーがないな。それじゃーここにあるのから適当に選んじゃって」
「ここ」とはショーケースのことである。…本当にどれでもいいのかな?
「いえっ! そんなあたし…あの時はちょっと、カッっとなっちゃっただけで、別に本気で言った訳じゃないんです!」
慌てて静香ちゃんは手を振る。またまた顔が赤くなってるところが静香ちゃんらしいというか。
「いいから、いいから。 子供はエンリョなんかしないの!」
「いいえ! 本当に悪いですから!」
明日菜さんは微笑みながら勧めるが、静香ちゃんは必死である。実に真面目すぎるのがきみらしい。
「…ハハ〜ン」
「…?」
突如、明日菜さんはニヤリと笑った。
またもや、嫌な予感がした。
「そうかそうか。恋する乙女からカレへのプレゼントだもんね! 自分で払わなくっちゃ意味ないもんねぇ〜。ごめん! お姉さんったら野暮なこと言っちゃったね!」
「……」
この人、まったく反省していない。
「眼鏡君!」
「!」
ぼくのことか?
「君はモテモテみたいだけど、女泣かせちゃダメだぞ! いい? お姉さんが一言アドバイス。この後、彼女から誘われたら焦らず、臆せず、清く正しい紳士のような態度を取るの! それでOK☆ わかった?」
「…わかりません」
誘われる、って何が?
「ああ、もうとにかくのび太さん! この中からさっさと食べたいの選んでちょうだい!」
静香ちゃんが何やら喚いているので仕方なくケーキ選んでみることにした。
「……」
何だか難しい名前のケーキがずらっと並んでいる。
「……」
値段もちょっと高い。だいたい300円ぐらいからって感じだ。
「それにしても…」
目の前にケーキがずら〜っと並んでいるのを見ると…。
「…おいしそうだねえ〜」
「! のび太さんよだれよだれ!!」
「…おっと!」
ありゃありゃ…みっともないったらありゃしない。
「眼鏡君ってホント、素直ね〜」
「素直すぎるのが困ったところなんです」
…なんだか耳に痛い言葉が聞こえたような気がするが聞かなかったことにする。
「じゃあ、決めた! このショートケーキにする!」
「え? ショートケーキ?」
意外そうな顔をする女性2人。
「あれ? なんかまずかった?」
「ううん。そんなことはないけど…」
「まあ…のび太さんがそう言うなら別に構わないけど、目の前にこんなにたくさん珍しい名前のケーキとか、盛り付けがおしゃれなケーキがある中で、
ショートケーキを選ぶっていうのも何だか意外っていうか…、あ、もしかして値段のこと気にしてるの?」
「違うよ、ぼくはね、食べ物の前では正直なんだ。ショートケーキだっていいじゃないの、ぼくが食べたいんだし。
それに、ぼくはこの中にある中じゃ一番美味しそうに見えるのはショートケーキなの!」
「ふうん…じゃあショートケーキ2つください」
「2つ!?」
「あたしの分も入れて、よ。そういう考え方もあるかなあって思ってね」
「やっぱり眼鏡君は素直だ。面白いくらいに」
今度は何やらニコニコする女性2人。何が何だかよくわからなかった。
98 :
天いな作者:03/12/06 05:00 ID:x/F0c7tF
今日はここまで…。
_,.. -─ ─-、 しァ
/!/ヽ‐'" / イ⌒ヽ
,l_/ l l / /! ヽ
|l /lハ// V| ! ハ
| l / イ ヽヽ/Vl !
| ハVヽト`ー- ' イ/ ,ィ/! \ ∧l |
、ト、 \ ヽー- ' _,..ィ/ // ハ ト、 l!
\ ヽ_,.メ、<イ_/__,.._-=ニ-ヽ _,/ 何故かMMRが好評のようで…微妙な気分ですw
ヽi`、| 、‐rッヾ =|二|-=_rッァ `}',.}
{ ヽ!  ̄ シノ! ヽヽ  ̄ //リ
ヽヽ!`ー--‐'´/| ` ー--‐ ' /./
\! ヾ_,. /‐'
_ィニlヽ __ ,イiヽ、
_,. -‐'" l | \ `二´ ,r' l ! `ヽ、._
_,. -‐ '" l | \ / | l `` ー- 、._
‐'" _,. -‐  ̄`ヽrァr--`‐──'‐‐-r ,! ! `` ー-
_,.ィ´ ヽ、._ ヽ ./ /i l
のび太好きなんだな。
続きに期待。
のびたと天いなのページに行ってみたが、もううたわれは書かないのか…
漏れが書きたいが、文才はさっぱりだしうたわれは未プレイだし…どうすればいいんだ
明日菜さんカワイイすw
うたわれ……つづきヨミタカターヨ
! ‐;-、 、__,._-─‐ヽ. ,.-'、
} ' (:)〉 ´(.:)`i |//ニ !
゙! 7  ̄ | トy'/
>>99 と、いうか主人公だし〜。あの木田の代わりだし〜。
>>100 うたわれはやるべし。
ただアレに手を付けるのは止めたほうがいいかと・・・。
ちなみに「しりとり」で「り」から始まる言葉に「輪姦」を選んだことが今でもプチ・トラウマだったりするw
>>101 明日菜さんはとにかくセリフがムズい!!
特に☆!! 慣れたらなんとかなるのか?
>>102 今でも下ネタを使ったことを何気に後悔してる作品ですので…w
コレが終わったら考えときます。
「はいはい、紅茶はサービス。ケーキ食べたら紅茶飲まなくてどうするの?」
「あのー」
「はいはい、お金のことは聞かない聞かない。それじゃゆっくりしてってね〜☆」
明日菜さんは軽やかにその場から去っていった。
「…でも、きれいな人よね。スタイルもいいし」
「う〜ん、考えてみれば…」
確かにこんな美女はぼくの周りににいなかった気がする。静香ちゃんが『美少女』とするなら。
「で、どう? 少しは気分が晴れた?」
「うん、もちろんもちろん! ケーキはおいしいし、紅茶はおいしいし!」
「…、まあいっか。でも確かにそうね、ショートケーキって言ってもここのは格別においしいわ。スポンジの柔らかさからクリームの甘さの加減まで、他のとは比べ物にならないわね」
「うんうん、おいしいおいしい」
「…ねえ、のび太さん。ショートケーキってキャンドルみたいよね?」
「うん?」
突然、静香ちゃんが語り出す。
「ほら、クリームの白さがロウソクの蝋、真っ赤なイチゴが炎に例えるの」
「ああ、キャンドルってろうそくね。うんうん、そうね」
「確かにショートケーキはおいしいわ。でもね、ショートケーキは特別な意味もあるのよ?」
「そうだよね、おいしいったらありゃしないよね、ショートケーキは」
「汚れを知らない純白に、燃えるような情熱の赤。それだけで神聖な意味を持つと思わない?」
「そうかもね、うまいこと、この上ないってやつだよね」
「…結婚式のウエディングケーキも考えてみればショートケーキ…よね?」
「うんうん、うまいよね。それもおいしい…」
「……」
「……」
「……」
「……? あれ? どうしたの静香ちゃん? 食べないの?」
「ううん。もういいわ、のび太さんにはまだこういう話は難しすぎるのよ」
「ええ? でもこのショートケーキはおいしいと思うがなあ…?」
「…誰もそんなことは聞いてないわよ」
「え? あ? 何だい? そう怒らないでよ」
「大丈夫よ、怒ってなんかないわ。…だいたいそれじゃあたし、いつもいつでものび太さんのこと怒らなくちゃいけないんだから、疲れちゃうわよ」
「?? そうかい、まあいいか」
「それじゃあ、のび太さんに話を合わせてあげるから、今度はちゃんと聞いててね」
「わかったよ」
「……」
そこまで言うと静香ちゃんは少しの間黙り込んで目を閉じながら何かを考え始めた。
…そこまで話をぼくに会わせるということが難しいのだろうか? ちょっと心配になってきた。
「じゃあね、こんな話をしましょう」
1分ほど経った後、静香ちゃんはそっと目を開いてそう言った。
「天使っていると思う?」
「え?」
凄く真面目な顔で何を言い出すかと思えば…?
「天使よ。天の使い。のび太さんだって一度はイラストなんかで見たことがあるでしょう? 羽を生やした、性別のない、純粋な瞳を持った子供達を」
「ええっと…。うん、まあそれらしきものは絵本で見たことはあるよ。お菓子のキャラクターでも天使ってあったしね」
「そう…。天使はね、12月に舞い降りるの。イエス・キリストの誕生日を祝うために。そしてみんなに幸せをもたらすのよ」
「12月に…ってクリスマスのこと?」
「そう。だから、のび太さんに聞きたいの。天使っていると思う?」
「それは…」
静香ちゃんは真面目にこの問題を聞いている。だから正直困った。天使とか神様とか、そういうことをぼくは信じてもいるし、信じきってもいないような気がする。
でも…静香ちゃんは全然違うことを聞いているような気がした。
それは「天使がいるかいないか」という問題じゃなく、もっと違うことを。
……。
少し悩んだあげく、ぼくは口を開いた。
「天使はいるよ、信じればちゃんと舞い降りてくるんだから…。例えば、そう、ここにも」
「? どういうこと?」
静香ちゃんが珍しくぼくの話を興味有りげに聞いている。
「つまりさ、天使ってのはみんなに幸せをもたらすんでしょ? …じゃあぼくを幸せにした人も天使ってことじゃないかな」
「…それじゃここのケーキが天使ってことかしら…?」
「ぼくは『人』って言ったんだよ」
「…さっきのおじさん?」
「…ちがうよ。…君はぼくにとっては天使みたいだよ、静香ちゃん」
「……」
…自分で言ってて本当に恥ずかしくなった、言わなきゃ良かった…。
「…ほんとうにそんなことをさらって言う所がのび太さんらしいというか…もう何て言ったらいいか…」
あーあ、静香ちゃんまで顔を真っ赤にして…どうすりゃいいんだろ?
「…早く食べちゃいましょ、いつまでもここでダラダラと食べてちゃお店の人に悪いわ」
「…うん、そうだね、さっさと食べちゃおうね」
気まずい雰囲気。やだな…。怒らせちゃったかもな…。
食べ終わった後、店を出た。
あの店員のお姉さん…、明日菜さんは残念そうに「もっとゆっくりしてけばいいのに…」と言ってくれたが、「あんまり遅くなると家の人にうるさく言われるんです」と静香ちゃんは丁寧に断っていた。
住宅街を抜け、街中の方へ歩き出す。来る時には気づかなかったが、あの店は学校から見て家の方とは正反対の場所にあった。ここからだと家まで30分は歩くことになるのか。
時刻は5時を過ぎ、辺りは次第に暗くなってきている。
「まいったな〜、日が落ちる前に帰らないとママがうるさいんだよなー」
「あたしもよ。ごめんなさいね、時間のこと考えておけばよかったわ」
「別に静香ちゃんが謝ることじゃないさ。それにしても何て言い訳しようかな…? 先生にお説教されてました…ってだけじゃ、ちょっとねえ…」
今度はママにお説教されてしまう。
「あたしもどうしようかな…。あたしも先生にお説教受けてましたってことにしちゃおうかな…」
「…って、何で静香ちゃんが先生にお説教されなくちゃいけないのさ?」
「遅刻して、廊下に立たされて、テストで赤点ばっかり取ってたから…で、どう?」
「それってぼくのこと? ひどいなあ、イヤミ?」
「そうじゃないけどね、一度そういう生活をしてみたい…って思って」
「え? 何でさ? ぼくは静香ちゃんのような生活をしてみたいよ」
「のび太さんのほうが味があるじゃない?」
「…? よくわかんないなあ…」
「今までとは違う生き方をしてみたら、ひとつの物が違う物のように見えてくる…。のび太さんは普通の人とは全然違う生き方をしてるから、違う見方が出来てるみたい。さっきのショートケーキの時にそう思ったのよ」
「ショートケーキの時?」
「いいな…って思ったから、のび太さんが素直でいられることが」
「はぁ〜、ぼくにはサッパリわかんないよ」
「そうかしら? …多分、のび太さんの良さは、将来他の人からもそう言われることだと思うわ」
「へえ。そんな人、ぼくを知ってる人じゃ静香ちゃんの他にはいないけどな」
「のび太さんはこの先生きていく上で色んな人と出会うと思う。その時、のび太さんのそんな素直なところが他の人に迷惑をかけることもあるし、…助けることだってあると思う。だからね、のび太さんはいつも笑っていてほしいの、素直なままでいてほしいの。そう…思うの」
「…どうしたのさ? 何だか思い詰めた顔して。大丈夫?」
「なんだかね、最近色々考えるの。秋が来ると物悲しくなるって言うじゃない? でも、もう冬が来て、色々と忙しくなって、そんなふうに落ち着いて自分の事考えられなくなるっていうのも結構寂しくなっちゃって…」
「…」
「…何だか慌しいわね、忙しいと言うより。何かね、あたしはまだここに居たいのに、周りの大人達がとやかく騒いであたしを勢いだけで大人にさせようとしてるみたいで、最近時間の流れが速く感じちゃう。
実はあたしもね、そんなふうに大人になるんだって少し前までは思ってた。でもね、12月になってから、ちょっと寂しい気持ちになっちゃって…」
「そうかな…。ぼくはまだ大人になることなんて考えたこともないけどね」
「だから、のび太さんを見てることでもう少しいい考え方が出来ないかなって思ったの。でも…やっぱり何も思い浮かばなかった。て、いうか、考えること自体が無駄なんじゃないかって思った」
「ふうん? それって…ええと? 結局ぼくはどうすればいいの?」
「何にもしなくていいわよ。ただ『のび太さん』でいて欲しいの」
「……何だかよくわかんなくなってきちゃったけど、取り合えずぼくなりに『のび太』を頑張ってみるよ」
「そうね。頑張ってね、のび太さん!」
取り留めのない会話、でもそのおかげで寒さを忘れることが出来た。普段あまり落ち着いて見ることがない商店街のクリスマス一色の派手なイルミテーションが、今、この瞬間は目に眩しい位にキラキラしてる。
クリスマス…、あの時の自分が言った「天使」が思い出されて、時折恥ずかしさのあまりぼくは一人で顔が真っ赤になっていた。…なんていうか、本当にバカみたいだ。
「きれいよね。クリスマスって。何もかもが輝いてる」
「そうだね。そういうのってなんかいいよね」
「本当に夢があるイベントよね。今年も夢見ながらクリスマスを迎えたいわ…」
「夢のないクリスマスなんかあるかい?」
「あるかも知れないわ、ないとは言い切れない。まだ経験したことがないだけで」
「まだ12月の初めだよ? いいよ、今からそんな夢のない心配事しなくたって」
「そうよね…、あたしもそう思うわ。疲れてるのかしらね、あたし」
「静香ちゃんは真面目すぎ、考えすぎだよ。もっと明るく考えちゃうんだ。そうすればクリスマスだってサンタクロースだって…天使だって来るさ」
…また、バカなことを言った気がする。
「そうね、のび太さんは考えなさ過ぎるから素敵だわ」
「…ほめてるの? それ」
「そうよ?」
「…むう」
そんなことを言ってるうちに、そろそろぼくの家に着いてしまう。あたりは真っ暗、なんて言えばいいのやら?
「あ〜あ、結局言い訳が思いつかなかったよ」
「こうなったら正直に話してみたら?」
静香ちゃんは何だか楽しそうに「ふふっ」と笑っている。
「まさか。じゃあ、しょうがない。静香ちゃんが風邪を引いたから家まで送ってあげて、そんでもって看病してあげた…とかで行ってみるか!」
「あら、それっていいじゃない? じゃあ、あたしもそうしようっと。のび太さん、そんな感じで話合わせてね?」
「じゃあ静香ちゃんもね、お互い話合わせておこう!」
「二人だけの秘密、ね。のび太さん」
「え…あ、うん。そうだね」
二人だけの秘密っていう響きにちょっとドキッてした。
「じゃあね、本当に風邪なんか引かないでね」
「うん、それじゃあね。また明日、ばいば〜い!」
手を振って見送る。本当は家まで送って行ってあげたかったのに、静香ちゃんはのび太さんだってこれ以上遅れるわけにはいかないでしょ? と、断られてしまった。
「…ああ、そうだ。のび太さん、あのことだけどね」
突然静香ちゃんはぼくの方を振り返る。
「……?」
あのことって何だろう?
静香ちゃんは落ち着かない様子で辺りをキョロキョロと見渡した後、一度頷いてこんなことを言った。
「あたしものび太さんのこと、あたしの天使みたいだと思う!」
「……」
静香ちゃんは笑顔だった。どこまでも、どこまでも……。
「じゃあね! のび太さん! また明日会いましょう!」
「……」
「…ハクション!!」
しばらくその場で突っ立っていたが、流石に体も冷えてきたらしい。
「さっさとうちに入ろう…」
まったく、本当に風邪を引いたら静香ちゃんのせいだ。…本当に静香ちゃんて人は…。
静香ちゃん、絶対小学生とは思えない話をしてますな・・w
でも面白いので可。
優
{ `ー' _儿_k/ _⊥ノメ′ -‐''! リ |
/,.-'ノ〈いj /f::::i}'´ ,=-、/ノ │
. 〈 / ,ゝヘ `ー' 〈::;ノ' lノ l
V , ヘ. \" _ '''ノ′ 、_ノ
>>112 う〜む…。その点については「うたわれ」からの課題でした。
「小学生」である彼らが18禁エロゲーの世界で活躍させることが、
このスレの見所であり、魅力でもあるですが、なかなかなんとも。
まあ、静香ちゃんに関しては原作でも大人びた発言が目立つキャラなので
一応、その分のび太のほうを馬鹿にしたつもりです。
無理矢理結論を出すならば、
この物語はまだ子供だと安心しきってるのび太と
大人になることを自覚し、恐れ始めている静香ちゃんが「現実」という
どうしても乗り越えられない壁にぶち当たってしまうことによって
否が応でも大人へと成長してしまう物語とでも言うのでしょうか??
この話はまた別な時にまた。
>>113 すぐる? やさしい? それともゆう?
「やあ、おかえり」
そこには、いつもようにどらやきを食べながらマンガを読むドラえもんの姿があった。
「うん、ただいま。ママどっか行ったの?」
「うん。買い物に行った。なんか夕飯の材料が足りないからって慌てて買いに行ったよ」
「なあんだ、ガッカリだなあ」
静香ちゃんとの秘密が意味なくなった。
「…? ガッカリ?」
「あ、いや、何でもない」
「そう。それよりさ、随分遅いじゃない。ランドセル背負ったままでどっか行ってたの?」
「ああ、まあね」
「どこに?」
「ひ・み・つ。ランランラ〜ン」
「…ま・いいか」
「あ、そうだ。日記か書かなくちゃいけないんだった」
「日記? どうして面倒くさがり屋のきみが?」
「先生からの宿題なんだよ、毎日書けって」
「へえ〜、じゃあ頑張りなさい」
ひとまず机に座る。んでもって、ランドセルから日記帳を取り出す。
「でも、やっぱりメンドくさいよなあ〜」
今日はハテ、なんて書こうか? 先生にお説教された? いやあそれより今日はもっといいことが色々と…。でも、これ先生に出すんだよなあ…。じゃあ他に書くことは…?
「ドラえもん、今日さ、君なんか面白いことあった?」
「…のび太くん、日記っていうのは自分のことを書くものなんだよ」
「でもさ、ぼくのほうには今日一日日記に書くようなことがなかったんだよ。だから君のほうの出来事でなんかない? これ宿題なんだから困るんだよ。
「知らないよ、宿題なら余計嘘なんて書けないじゃない」
「そうだよなあ、それじゃあこうしよう。『日記を書く宿題を出された。書く事がない』…と」
「…まあ、先生も君に宿題を出したらどんな結果になるかくらいわかってるだろうし、いいんじゃないの」
「ようし、頑張ってこのまま冬休み明けまで続けちゃおう!」
「…もはや、ぼくの言ったことすら気にしていない…」
と、その時。下からドアが開く音。
「ただいま〜、あら? のびちゃん帰ってたの?」
「うん! ママが出て行った後すぐに!」
「まあ、いいわ。それよりちょっと、お手伝い頼めるかしら?」
「はぁ〜い」
取り合えずぼくはママのご機嫌を取ることにした。
「…いや〜、なんか、お鍋ばっかり続くなあ〜」
「ま、別にいいじゃないか。お鍋はおいしいんだから」
「まあね」
部屋に戻る。そろそろ眠くなってきた。
「寝ようか、今日は色々と疲れたよ」
「そう? ま、そうだね。遅刻しないように早く寝るべきだね」
「さっさと寝よう。ふぁあ〜」
ぼくはさっさと着替え、とっとと布団を敷いた。
「…そうだ、君にも聞いておこうかな」
「? 何さ?」
ぼくは着替えた後、ドラえもんが寝ようとしてる押入れの方へと振り向いた。
「…君さ、天使っていると思う?」
「て、天使? 天使って羽が付いてるあれのこと?」
「そう、あれ」
「て、天使…ねえ…?」
ドラえもんは余程ぼくの質問が意外だったらしく、考え込んでいる。
「…まあ、神様とか天使とか仏様っていうのはいるって考える人にはいるもんだし、いないと決め付けちゃってる人にはいないもんだから…」
「君はどうなのさ?」
「ぼくは…あまり考えたことがないな、天使っていうのがいるってのは。だって、天使っていうのは神様とかと違って、居るっていう実感が少しも湧かないもの」
「…ふうん、普通はそんなもんなのか…」
あれは…何ていうか、今考えたらその場の雰囲気に釣られてつい言っちゃった言葉なんだよなあ…。
「でもさ、何でそんなこと聞くんだい?」
「別に、ただ何となく考えただけだよ。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
天使…か、そう言えばドラえもんの言うとおり、今まで考えたこともなかった…
…静香ちゃんがぼくの天使みたいっていうのは…嘘は吐いていない。
…でも、ぼくが静香ちゃんの天使みたいってどういうことなんだろうか?
…天使って何をすれば天使になれるんだろう…
…どうして、ぼくは天使みたいって言われたんだろう…
…わからない、今は…
…ぐう…
優良可の優かと
やっとるなー。完結目指してがんばれよ。同人誌作ったら買ってやっから。
保守
待機
| ノ u ヽ / u u └| ∩____∩
/ ● ● | | ● ● ヽ/ u └|
| u ( _●_) ミ 彡 (_●_ ) u |● ● ヽ
遅れてきた…。もうちょっと営業努力しますw
>>121 同人誌ですか…。むう、コレ出すのに20万くらいかかりそうだ…。
「ほらっ! 起きなってば! のび太くん!!」
「え…あ、うう〜ん」
目を擦る。もう、朝なのか…。
「ふぁあ〜、よく寝たなあ〜」
「早くしないと遅刻するよ!」
「わかってるよ」
ぼくはいつものように学校に行くことにした。
登校中、静香ちゃんに会ったらどうしよう? 昨日のことについて何て言えばいいんだろう…?
そんなことばかり考えていたら、学校に行くのがなんだかおっくうになってきた。
しかし、それでも行かなくちゃいけないのが学校という場所なわけで。
…とか、なんとか考えてる間に学校に着いてしまった。途中で静香ちゃんとは会わなかった。当然と言えば当然だ。
あの子は始業に間に合うかどうかのギリギリでやってくるぼくなんかより、余裕を持って早く来てるに違いないのだ。
ドアを開ける。いつもの教室。
そしてやはりいつもの席に静香ちゃんはいた。
「…よし!」
静香ちゃんに「おはよう」って言うだけなのに、ぼくはやたらと歩くことに力んでいた。静香ちゃんは今日使う教科書の確認をしている…。
「……あー、えーと」
ええと、朝のあいさつは「おはよう」だよな。うん、おはように違いないな…!
…とくだらない事を確認してるその時だった。
「あ、のび太さん。おはよう」
「…あ、おはよう」
そして静香ちゃんは忙しそうに再び視線を教科書に向けてしまった。
ぼくの姿を見ても動揺する気配もない。ぼくの姿を見ても顔を赤らませる仕草もない。
それはいつものように、当たり前のようにそこで今日の時間割の確認をしてる。
「…ぼくが勝手に考えすぎてたのかなあ?」
軽い気持ちで言ったのかも知れない。だってあの子は誰にだって優しいんだから、ぼくを喜ばせようとしてただけだったりして。
「……そんなもんだよなあ。…どうせ、そんなもんさ、アハハ…」
でも…。例え、それが冗談であっても、君の言葉はこんなにもぼくを戸惑わせるんだ…。
「おい、のび太。今度の日曜わかってんよな?」
「……」
「のび太!!」
ゴツンッ! という鈍い音。同時に頭に鋭い衝撃。
「…って、痛いなぁ! 何するんだよ!」
「ばかやろ! おれさまが話かけてんのにボ〜ッっとしてやがるからだぞ!!」
「そうだ、そうだ! ちゃんと話を聞かないのび太が悪いぞ!」
「はいはい…。で、何だっけ?」
気がつけばもう昼休みだった。どうやらジャイアンはぼくをゲンコツで殴ったらしい。
ジャイアンとスネ夫…。ああ、またなんかろくでもないこと言いに来たな…。
「今度の日曜は対チラノズの試合なんだぞ! その為に今日は猛練習を行う! 特にのび太! 今日はお前を徹底的に鍛え直す!!」
「え〜っ!? 何もこんな寒い日に練習なんかしなくても…」
「あのな、のび太。今日は寒いからこそ練習することに意義があるんだぞ。ジャイアンの言うとおりだぞ」
「そうだ、スネ夫、お前よくわかってんな!」
「まあね。今度の試合は特に負けられない重要な試合だからね!」
「そうだ! 重要な試合なんだ! だからこそ我がチームの弱点とも言うべきのび太を叩き直すことで今度の試合に勝つ! そう考えたんだ!」
「さっすがジャイアン! ジャイアンズの監督として最高の判断だよ!」
「そうだろ! そうだろ! ガハハハハ!!」
「…」
つまりはこうか。ジャイアンはぼくを叩き直したいわけじゃなく、単に殴りたい。
スネ夫はジャイアンのシゴキに参加したくないから徹底的にぼくに押し付けようとしてる…ってことだ。
「…と、いう訳だ! 学校終わったら川原のグラウンドに集合! 来なけりゃぶん殴る!!」
「わかったわかったよ! 行きますよ! 行けばいいんだろ!」
「いいか!? 早く来いよ! 早く来なけりゃぶん殴る!!」
「わかったってば!」
結局言うとおりにされちゃうんだよな。でもこればかりはしょうがないってもんだよな。
「じゃあ気をつけて帰るように!」
「せんせい、さよーならー!」
ドタバタと帰っていくみんな。ぼくもそろそろ帰らなくちゃいけない。
「のび太さん」
「!」
その声は…!?
「一緒に帰りましょう」
「え…、う、うん! 帰ろう!」
紛れもなく静香ちゃんその人だった。
ドジンって初期投資結構かかるんでつね
20万なら仮に原稿用紙500枚分として300部くらいか?
売り捌けると思うぞ。買うから夏コミで売ってくれ。
 ̄ !:::::::::::::::::/ \ r-、 /
ヽ:::r‐、::/ / ~'i i:) | ィノ
Y ヽ ! (:ノ' っ ゙ '' ト_
ヽ` '''' } `ヽ,
>>130 金が…。
「…そう、野球の試合があるの」
「うん、あいつらったらまたぼくをシゴくつもりなんだよ!」
「大変ね、のび太さんも」
「大変とか、そんなどころじゃないって!」
話すことはなんてこともない他愛無いこと。でもそれでぼくはじゅうぶん幸せだった。それだけでいいんだ。それ以上を願うなんてバチが当たるじゃないか。
「あたしもね、ピアノのおけいこがあるの。その先生も厳しいの」
「へえ、嫌にならない?」
「ううん、しようがないの。だってね、もう、そろそろなのよ。ピアノのコンクールが」
「ピアノのコンクール…か。良かったらぼくも聴きに行っていいかな?」
「もちろんよ。あ、でもただクリスマス当日なのよ? 予定とか入ってないの?」
「え? ああ、なるほど! クリスマスにコンサートをやるのか! ええと、それってイブのほう? それとも25日のほうかな?」
「25日のほうよ。午前10時から午後4時まで、会場はここから電車で20分くらいのところよ。コンサートは24日と25日、どちらかに参加出来るんだけど、開催24日は毎年恒例のみんなでやるパーティがあるしね。
25日ならのび太さんみたいに聴きに来てくれるほうも問題ないかなって思ったけど…」
「うんうん! 大丈夫だよ! 24日なら何かあるかもしんないけど、25日ならヒマしてるに違いないって!」
「そう。じゃ、きっと来てね」
「うん! 楽しみにしてるよ」
それでコンサートの話は終いとなった。忘れると困るからぼくはわざわざ手にマジックでこの事を書いておいたのだ。それほど楽しみだったのだ、このコンサートは。
だって静香ちゃんのピアノで迎えるクリスマス。他にそれ以上の幸せがあるだろうか? いや、ないに違いない。今からウキウキものだ。
「あ、そうそう。ドラちゃんも一緒に誘って来てね」
「え? ドラえもんも〜?」
いらない。正直、いらない。
「いろんな人に演奏を聞いてもらうほうが、あたしも嬉しいのよ」
「…じゃあ、静香ちゃんがそう言うなら、誘っとく」
「あら? 何でそんなに嫌々そうなの?」
「べっつに〜」
ただ、面白くないだけですよ。
「変な人ね」
静香ちゃんはこっちの気持ちを知ってか知らずか、楽しそうに笑っていたのだった。
「じゃあ、また明日ね」
「うん。じゃあね」
ぼくは静香ちゃんを家まで見送って別れた。
「…結局、聞けなかったなあ、『天使』のこと」
ぼくにとって静香ちゃんという人は分からないことがあったなら何でも聞ける模範的な先生みたいな人だ。だから、この『天使』も直接聞けば解決するんじゃないか、と思ってた。
「だめなんだろうなあ、そおいうのって」
ほんと、だめ。こういうの。静香ちゃんも言ってたけど、こういうのってぼくには難しすぎる。
…いや、違うような。静香ちゃんが背伸びしずぎてるんじゃないかな? うん、普通そういうのって小学生であるぼくが分からなくて普通なんだよなあ。
―あ。でも、分からないのが普通だと思ってるぼく自身がまだ子供ってことなのかしら?
「どっちにしろ、クリスマスまでに考えとくべきだな。ちゃんとぼくなりに考えとかなきゃだめなんだよな! こういうのは!」
「なんのこと?」
「だ・か・ら…。って、え?」
目の前にあるのは、巨大で真っ青な物体。
「うわっ!!」
「ワッ! なんだ? どうした?」
その青いやつはぼく同様に驚いて辺りをキョロキョロしてる。
「…って、なんだ。ドラえもんじゃないか」
「何だ、じゃないよ。ウチの前でぶつくさ言っててうろうろしてるんだもん、そっちこそどうかしたのかい?」
「え? ウチ?」
辺りを見渡してみる。なるほど、確かにここはぼくの家の前。
「ウチに着いてることすらわかんないなんて。何かあったの? また先生に怒られたとか?」
「まさか。きみね、いつもぼくが先生に怒られてるとでも思ってるの?」
「そう…思ってるけど?」
「うわ…、やな奴だな〜。そういうのは嘘でもなんか一言フォローしてやるのが友達ってもんだろ?」
「ハイハイ、それはいいとしてさ。なんかあったわけ?」
「う〜んとだね…」
しまった、言い訳を考えてなかった…。
「ま、いろいろあるわけですよ、ぼく位の年齢になるとですね〜」
「で? 何がいろいろあったわけ? 言ってごらんよ、相談に乗ってあげるから」
「う…っ!」
まいったな…、むやみに怒鳴り返してもかえって疑ってくるわけだし…。
「まあさ、ホラ。ええと…、いろいろぼくにもブライペートなことがあるもんなんだよ? いろいろと〜まあ、いろいろと…さ」
「『プライベート』でしょ? ま、どうしても打ち明けられないってならいいけどさ」
「うん。もし、さ。ぼくが本当にどうしようもなくなったらその時は助けてよ。でも…今ぼくが抱えてる問題は自分自身でしばらくの間は考えてみたいんだ。ぼく一人の力でね」
「ふうん。なんだか知らないけど結構マジメに考えてるみたいじゃない。そこまで言うならぼくも何も言わないけどさ」
「そうそう。ぼくも一人で悩む時期が来たんだよ」
「ま・とにかく、がんばりなさい」
「うん。あ、そうそう! 今何時だった?」
「え? ええっと…3時半過ぎくらいかな?」
「ワ! まずいなあ! ジャイアンに野球の練習に誘われてるんだ! きっとあいつカンカンだぞ〜!」
「え、じゃあ早く急ぎなさいよ! こんなところでボヤボヤしてる場合じゃないじゃんか!」
「そうだよな! まったく、本当に静香ちゃんの言うとおりだよ! おちおち考えてこんでられないぐらい毎日が忙しいや!」
「エッ? 静香ちゃん?」
「ゲッ! あー、いや。何でもないんだほんとに何でも!」
「…ヘェ〜」
なんか、ドラえもんの目線がいやらしく感じる。
「とにかくダッシュだ!」
ぼくは、その場から逃げるように家に駆け込んだ。
「あら、のびちゃん帰ったの? 遊びに行くなら宿題済ませてからにしなさいよ!」
居間のほうから聞こえるうるさいママの声を無視して2階へと駆け上がる。まずはランドセルをその辺に放り投げ、次にバットとグローブを用意する。
「よし! 行ってくるか!」
今度はそそくさと静かに、そしてなるべく早く階段を駆け下りる。あんまりうるさく降りるとそれ以上にママがうるさくなる。
「行ってきまーす!」
「あ! こら! のびちゃん宿題は!?」
聞こえなかったことにする。いつもなら追いかけてくるはずだけど、何せもう12月。コタツに入ってる敵の動きは鈍い。
外に出た。…考えてみたらやっぱり寒い。
「うわ〜寒いなあ〜。やっぱ行くの止めようかなーっ!」
「さっきまで平気だったから大丈夫なんじゃないの?」
「…」
ドラえもんは相変わらず憎まれ口を叩く。
「そんじゃ行ってくるよ。ほどほどにやってくる」
「行ってらっしゃい」
「バーローーー!! 遅いぞ! のび太!!」
川原のグラウンドには既にいつものジャイアンズのメンバーが集まっている。
「今日は、みんなお前の為に集まったもんなんだぞ! そのお前が遅れてどうすんだよ!」
「…頼んでもないのに…」
「…なんか言ったか?」
「あー、いや。なんでもないです」
この川原のグラウンドは、いつもの狭い空き地と違ってガラスを割る心配もなく、のびのびと運動出来る場所ではあるのだが、
その便利さが故に中学生やらがたまに部活動の試合やってたり、隣町の子達が使ってたりと中々空かない場所であったのだ。
場所も家から遠い為、たまにしかこの場所は使われない。だけど今日はこの寒さ。北風が吹く中いまどき外で遊ぼうとするほうが珍しいってもんだ。
「我がジャイアンズはチラノズに今の所5連敗してる! 今度こそは勝たなくてはいけない!! そこで今日は特別特訓を行う!
おれさまが考えたスペシャルメニューだぞ! お前らありがたく思え! 特にのび太! お前は徹底的に叩き直す! 覚悟しておくように! 取り合えず準備運動開始!!」
ジャイアンのありがたみのないミーティングが終わり、準備体操に入る。
「やれやれ…」
1・2・3…と。
「ところでさー、こんな話知ってるか?」
どこからともなく、誰かのおしゃべりが耳に飛び込んでくる。いいよな、余裕があるやつは。
「ケーキ屋できたの知ってる? 隣町に」
…ん?
「知らない」
「なんかさ、話によるとその店員さんがすごい美人らしいぜ! 明るくてサービス良くてお姉さんって感じで!」
「へえ、ほんとかよ、それ」
…明日菜さんのことか? いや、多分そうに違いないよなあ。
「でさ、ここからは噂なんだけど。そのお姉さん、高校生の男が店に入ってきたらさ、突然その男を胸で抱きしめたんだってさ!」
「胸で!?」
…抱きしめる!? あの胸に!?
「…え? だってさ、そのお姉さんとその男は恋人どおしとか…だったんじゃないのか?」
「いやいや、ちがうちがう! 全然お互い見知らぬ人だってよ!」
「えー? じゃあ何? それもサービスってやつなのか?」
「どうやらそうらしいぜ! 一度行ってみないか?」
「でもさ、何だかぼったくられそうじゃん? そのケーキ屋」
…本当だろうか? でも、あの明日菜さんならやりかねないよなあ。いやいや、でも、いきなり見知らぬ人を抱きしめるなんてどうかしてる。それにぼくが行ったときには抱きしめられていない。
ウソに決まってる。…待てよ、もしかしてさっき言ってたようにぼったくられてた…とか? いやいや、それはない。
「で? そのケーキ屋何ていうの?」
「ええと…確か雨印家 『極』だ!」
「へえ、和菓子やってんだ。そのケーキ屋」
「たぶんね」
…あめじるしや? きょく?
「よーし! じゃあそろそろ練習はじめんぞー!!」
「オーウ!!」
雨印家 『極』は苦しいぞ、有淫夜巨躯でどうだ?
…ダメぽ。
__ ∠{ / | L| | .ト |`ーi H |_ヽl |l | | l)ll!''''''''iiii、
}||llllll{ 、 l ̄ゝ'、 `|`N | >,ゝ-、V! | .| | ノ、,,} ヽヽ.
‘|| \ ∨、i"{::;:i "{.:;}}" |ノノイ’}i;, l ヽヽ..
{/{ 〃`i.、 、_ヽ:ノ `-´´ '!7",!)ノ '!i;, | | `
今回はいろいろと大変です…
「まずは、のび太!! お前からだ!!」
「……やっぱり」
まずは千本ノックである。と言っても結局練習は千本ノックのみである。何故なら今日はとんでもなく寒いからジャイアンでさえ動きたくないのだ。今日は何て天気だ。
「寒いなあ〜」
川原だから風を遮るものがまったくない。だから非常に寒い。
「のび太! 今お前が感じてる感情は精神的疾患の一種だ! 叩き直す方法は俺が知ってる。おれに任せろ!! 行くぞ〜!」
「どーぞー」
「そりゃ!」
カーン! っと心地いい音を立ててライナー性のボールが飛ぶ。
「おっ! 取れる!」
ボールは勢いよくぼくのほうへ転がってくる。これは取れる!
「それっ!」
…。
……アレ?
「ト・ン・ネ・ル〜ッ!!」
遠くで落胆するような声と怒鳴り声が聞こえてくる。
「あ」
後ろを振り返ると確かにそこにはぼくを無視するように転がっていくボール。
「あ〜あ。こら、待ってよー」
これだから川原は嫌なんだ。果てしなく追いかけなくちゃいけない。
「どこだ〜?」
ボールは予想以上に遠くへ飛んだらしい。厄介なのがグラウンドの周りは整備されてなくて雑草が茂ってることだ。12月だからある程度は枯れてるんだけれど。
「まいったまいった…」
足場が悪い。歩くだけで疲れる。もうやる気がない。もとからないんだけど、さらになくなったというか…。
「よっと。やれやれ…」
ようやく拾いあげた…その時。
「ん?」
何か…聞こえてくる…?
「えっほ、えっほ」
ぼくは慌ててグラウンドまで走る。
「何やってやがった! 遅いぞ…って、お前何だそりゃ?」
ぼくはそのままの勢いでホームの所まで『それ』を持ちながら走った。
「なんだなんだ?」
他のメンバーがざわつき始める。
「お前…何だ? そのダンボールは?」
「え〜と…その〜」
思わずみんなと目が合わないように下へ逸らしてしまう。悪いことはしていない…はずなのに、そうやってジロジロ見られると何故かまずいことをしてしまった気がする。
「ワン!」
「え!?」
「あ…」
ダンボールに入っているそれはひょっこり顔を出した。
「まさか…捨て犬!」
「う…うん、どうやらそうなんだ」
川原でボールの先に見つけた小さなダンボール。中から犬の鳴き声がしてるのを気がついてるのに、ぼくは誰かに「そうしなさい」って命令されたかのように思わずそれを開けてしまったのだった。
一見チャウチャウのような子犬。けれど、多分雑種なんだろう。お世辞にもきれいな犬とは言えない。
「ハァ〜、お前は何で捨て犬なんか拾ってくるんだ〜?」
「だってさ、いつボールが飛んでくるかどうかわかんない所に置いといておくわけにはいかないじゃないか」
「そういう意味じゃねえんだけどよ…」
「…え?」
ジャイアンは何か言いたそうなのに、何故か口ごもってしまっている。…じつにジャイアンらしくないというか、何かその様子が…怖かった。
「つまりさ、それは捨て犬なんだよ、捨て犬。わかってる?」
代わりに口を開いたのはスネ夫だった。
「捨て犬ってことは、捨てられてるわけだよ。そいつを捨てたやつには理由がある。じゃあそんな厄介なものを拾ったやつはどうなるかわかる?」
「…あ」
何か…スネ夫が言いたいことがわかってきた。
「それは生き物なわけ。拾う為にはそれなりの覚悟と理由がいるのよ、わかるか?」
「で…、でも! ぼくはただ単に拾い上げてどっかに移動させようだけで…そんなこと難しい事考えてないよ!」
そこでスネ夫は大きなため息一つ。
「だーかーらー、お前はもっと頭を使えっての! 『拾う』っていうのは『飼う』とか『面倒をみる』ってことじゃなくて、捨てられた生き物の場合、関わりをもった地点で『拾う』ってことなの!
そんなの、言われなくたってわかってるだろ? お前の場合はもう何度も経験してることなんだからさー」
「…!」
そう…、何度も経験してきたこと…。
捨て犬っていう『物』と関わった時、ぼくという人間はどういうことになるのか…。
自分自身のことくらいわかってる…、わかってはいる…。
「今はその辺に置いておくとして、帰る時はそれをこの寒い中、ここに置いて帰らなきゃいけないんだろ? その時ぼく達が嫌な気分になるじゃないの!」
―わかってるのに!
「…じゃ、じゃあ何だよ! スネ夫はこの犬が死んじゃってもいいってわけ? この寒さじゃここに置いてけぼりにしたら死んじゃうんだよ! …死んじゃったらどうするのさ!」
「その言葉、そっくりお前に返すよ。この犬はお前から見つけた。だから、お前ひとりで責任を取るべきなんだよ」
「…責任なんて…」
「取れないわけだろ? 今まで何度もやってきたじゃないの。お前の家じゃ飼えないし、ぼくたちの家だって飼えない。
飼い主なんてそうそう見つかるもんじゃない。…どうだ? これからその犬、どうするか、どうなるか…お前、考えられるか?」
「……」
本当は自分じゃ何も出来ないってことぐらいわかってる。今までだってそう、ドラえもんに頼ってきたからぼくは今まで見てきた捨てられた犬や猫たちを助けてあげることが出来たんだ。
でも、考えてみたらあれはドラえもんの不思議な道具で助けてきたんだ。ぼくは何もしてないし、何もできない。何もやってきていない…。
だから、そう、この捨てられた犬だって普通なら助かる見込みが限りなく0だってことも……。
つまりは、この犬は飼い主に殺されたのも同然なんだ。飼い主は殺すつもりでここにこの犬を捨てたんだ。ぼくはそれをどうすることもできない…。
「ハァ、またドラえもんに頼るのもいいけどさ、少しは現実を見たらどうだ? 捨て犬、猫なんてそれこそ日本中にゴマンっているんだぞ。
じゃあそれを全部が全部なんとか出来るかって言ったら無理なの! そりゃぼくだって捨て猫、犬を助けてあげたいと思うけどさ、これはもうしょうがないんだよ」
――っ!!
「なッ…!! しょうがない…。って、何だよ!? しょうがないって! この犬はまだ生きてるんだぞ!! 死んでもしょうがないなんて…そんなことがありえないんだ! あっちゃいけないんだ!!」
無性に腹が立った。スネ夫はそんなぼくの態度に少し圧倒されていたみたいだった。
「…まあ、しょうがないって言うのは、ほら世の中にはそういう色々な問題を抱えてるっていう意味で、まあどうしようもないこともあるもんだ…と」
「何だよ! それって結局、この犬が殺されて当たり前の世の中になってるってことじゃないか! そんなのぼくは認めないぞ!! 認めてやるもんか!!」
「だーかーら…」
「う・る・さ・い!!!」
「―!」
そこで割り込むように怒鳴ったのはジャイアンだった。
「スネ夫の言ってることが正しい。のび太、お前は考え方が子供すぎる!」
「ジャイアン…?」
ぼくは驚いた。ジャイアンは意外にも真面目な顔をして話しているもんだから…。
ああ…、そうか。ジャイアンの家はムクっていう犬を飼っているんだ…。
え? じゃ…、なんでスネ夫の言ってることが正しいってことになっちゃうんだよ!
「いいか、のび太! お前は犬を飼ったことがないからわかんないだろうがな、犬っていうのは生き物なんだ! いい意味でも悪い意味でもな!!」
「…いい意味でも…悪い意味でも…?」
「犬だって生きている。だから生きているからこそ面倒だってかかる! 犬を育てるのはただじゃない、手間もかかる。犬は一人じゃ何もできないんだよ。
だから誰かが守ってやんなくちゃいけない…だろ?」
「あ…、ああ」
その通りだと、思う。だから、ますます…意味がわからない。
「例えば、のび太。今、目の前にガリガリに痩せた犬と痩せたのび太と痩せた牛がいるとする。このなかでお前ならどうする?」
「え…ええ!?」
いきなりの難問にしばし呆然となる。ど…どうすればいいんだ?
「と…とりあえず牛を食べちゃうかな…?」
―あ!
「お前が牛を食べるのも、野菜を食べるのも生きていくためには、しょうがないから食べるんだろ? しょうがないから殺すんだ。 捨て犬だって同じだぞ?
簡単な気持ちで飼い主だって捨てたわけじゃないと思うぞ。本当にどうしようもないからここに捨てたんだ。殺すことに決めたんだ。
いいか、例えば自分でもいい、誰かを守るためには誰かを犠牲にしなくちゃいけないんだ。のび太、今お前がのんびりと生きている社会だって、いっつも誰かが犠牲となって成り立ってる。
この犬もその一つなんだ。お前もな、優しすぎるのはいいけどな、そろそろ勉強したらどうなんだ? 『優しさで守れるあしたなんかどこにもない』ってことをよ。
スネ夫、だいたいお前が言いたいことってこんなもんだろ?」
「え? あ、うん。そんな感じ」
スネ夫は突然話題を振られてちょっと動揺しているように見える。
「でもさ、なんか感心しちゃったよ。『ガリガリに痩せた犬と痩せたのび太と痩せた牛』っていうの」
「ムクを飼うときにおやじにそう言われちまってな…。あんときはショックだったけど今考えてみるとなんとなくだけどわかっちまうよな…」
「ほんと。のび太、つまりはお前はまだまだお子ちゃまってことなんだよ」
「……」
「仕方ねえからお前ちょっと練習抜けていっからさっさと何とかしちまえよ。保健所に連絡するなりさ、それともどっかもっと助かりそうな場所に置いてくるとかさ」
「もしくはドラえもんに預けてくるとか」
ぼくを呆れたように見つめるジャイアンと馬鹿にするような笑いを浮かべるスネ夫。
「だから、さ。つまりはこういうことなの!」
…そこから先は聞きたくない。だって…。
「ぼくたちが捨て犬を見つけたら、どうすれば一番いいか。それは…」
…それは。
「見て見ぬ振りしてりゃいいってこと! その犬が勝手に死んじゃうのを待ってりゃいいのさ! 関わって面倒なことになりたくないじゃん?」
そんなこと、最初からわかっていたんだ。
―!!
そんなの…。
「―そんなのってないよーーーっ!!」
ぼくは走った。子犬が入ったダンボールを抱きながら。
途中、涙が溢れてた。気づいても拭うことなんて考えていられない。
つまづいた。
ひざから血が出た。
痛かった。本当は痛かった。
でも走ることを止めることなんか出来なかった。
止めたらみっともないくらいその場で大騒ぎしながら泣いちゃうことぐらい…わかってた。
―何となくわかってた、この犬が厄介な物だってことぐらい―
―みんなが言うように死んじゃってもいいって思われてることぐらい―
―でも、助けてあげたかった―
―本当は捨て犬を見つけた時に助けてあげたいって思ってた―
―でも、どうすることもできない…―
―本当に馬鹿だった。馬鹿みたいだった―
―ぼくはスーパーマンでもウルトラマンでもない。ただの馬鹿なんだ―
―何にも出来ないってこともわかってないほどの馬鹿だったんだ―
―毎回毎回こんなぼくの態度で馬鹿を見るぼく…―
「それでもいいんだ! それはたいした問題じゃないんだ…」
―結局、ぼくはこの犬が死んじゃうのが怖いんだ。
―その怖さに…その現実にぼくはただ逃げてるだけなんだ。
「……」
足が止まる。
この犬を見つめてみる。
まだ生きているか心配になってきたから。
…死んでない
「―馬鹿!」
ぼくは慌てて首を振った。
何やってんだ! ぼくはこの犬が死ぬのを見届ける為に引き取ってるわけじゃないだろう!?
「何やってるんだよ…本当に」
目の前に小さな子犬。無邪気に舌を出してるどこにでもいるような雑種の犬。
この世の中のことなんか何も知らない子犬…。
「死ななくちゃいけない…。いや、殺される為に捨てられたやつ…」
何だか…もう、ぼくが生きているのが嫌になってきた。
「ハァ、ごめんね…。頼りにならない馬鹿なぼくで」
「アウ?」
ははは…、本当に無邪気なやつだ…。
無邪気すぎて、こっちはますます辛くなっちゃうじゃないか…。
そこから、どんな風にさまよったかわからない。
でも気がついたら、何故か学校の裏山にいた。
「何でまた…裏山なんかにいるんだろ?」
「…ワン!」
「……」
子犬をじっと見つめてみる。
(それともどっかもっと助かりそうな場所に置いてくるとかさ)
ああ、ジャイアンがそんなこと言ってたっけ。
で、無意識のうちに裏山へ来てたのか…。
「そういえば…ここに野ウサギが居たことがあったっけ…」
今は冬眠してるに決まってるよな…。
よくよく考えてみれば裏山じゃどうしようもないじゃないか。この時期に食べられるようなものでも生えてるわけじゃないし、寒さを防ぐものがあるわけでもない。
「いっそのこと…、ここで飼ってみようか? ほら穴でも掘ってさ」
「アウ?」
「いや…やっぱダメだよなあ」
「……」
「他には…う〜ん…」
「……」
―え?
「お、おい? お前どうしたんだよ! 黙り込んじゃって!」
「…キュウ…」
慌てて子犬の体に触った。
「―熱い!」
熱が出てるんだ! 考えてみればあの寒い川原で、何にも考えられてない汚いダンボールの中に置かれてるんだ…無事でいられるわけがなかったんだ。
「ウ〜! どうすりゃいいんだよ!!」
「……」
息遣いも弱弱しい…。もう…。
「―! チクショオ!!」
上着を脱いだ。そして犬に被せてやる。でも! こんなもので寒さを凌げるわけがないのはわかってる!
「待ってろ! 今あいつを呼んできてやるから!!」
ぼくはシャツ一枚のまま一目散に家へと走った。
乙〜。
理知的なジャイアン。
のび太なにげにカコイイなw
乙! 天いなっぽい展開が(・∀・)イイ!!
これって他のリレーがやってる派手な展開ばっかしの奴と違って、
まったり読ませる感じが俺好みだ。頑張ってくれ。
| ノ \ _ヽ
/  ̄ ヽ | ∩
| ( _●_) ミ ( E)
皆さんレスあんがとー。これからも営業努力致します。
家に辿りついたのはそれから30分くらいだろうか? 情けないことに川原から裏山まで走った疲れで体力がもたなくて、途中ちょっとだけ歩いてきてしまった。
玄関のドアを乱暴に開ける。ママが何か騒いでるみたいだが気にしていられない。
階段を駆け上る。左の襖、そこがぼくの部屋。
バンッ! と物凄い音を立てて、襖を開いた。
「ワッ! なんだい!? この寒いのにそのカッコ!?」
そこにちゃんと奴はいた。こっちはこんなに大変な目にあっているのに、ウスラボンヤリとマンガを読みながらどらやきを食べていたらしい。
「ドっ…ドラえ…っ、ゲホゲホッ! い! 犬が!! ハ…ハックションッ!!」
「あーあ、もう汚いなあー。そんな格好してるから…」
「そ…、そんなことよりー、ゼエゼエ…」
息切れと咳きのせいで全然喋れやしない。
「『着せ替えカメラ』」
ドラえもんがポケットからひょいと取り出したカメラ…、それはカメラに取られたほうが好きな洋服に着せ替えられるっていう結構お馴染みの道具だった。
「はい、チーズ」
「ぶいっ!」
…あ、こんなときにポーズを取ってる場合じゃなかった。
と、思ってるうちにぼくは分厚いコートを着てる姿になっていた。
「あと、『ただのおしぼり』と『暖かいお茶』。何だか知らないけど急いでるんでしょ? でもね、まずちゃんと話せるくらいまで、ちょっと落ち着きなさい」
「おう…、チーン!」
おしぼりで顔を拭いたあと、鼻をかんだ。
「…お茶で火傷するな…」
「あちッ!!」
「という前に火傷したか…」
「ハァ…ハァ…」
なんとか落ち着いてきた…。
「で、何があったわけ?」
ドラえもんは腕組みをしてこちらが話しかけてくるのを待っている。
「うん、実は…犬なんだ」
「犬?」
相手は頭を捻っている。
「えっと、そう。捨て犬を拾ってさ…」
あ!
「でも…その犬、今にも死んじゃいそうなんだよ! そうだ! こんなところでボヤッとしてる場合じゃなかった! は…早くあの犬の所に行かないと!!」
「わかった! ややこしい問題は後にして今はとにかくその犬を助けなきゃ! ってことだろ?」
「そう!」
さすがはドラえもん。話がわかる!
「で? 今その犬はどこにいるの?」
「え? あ、裏山にいるよ」
「なんだ、ここまで連れてくれば良かったのに!」
「……」
頭を抱えた。そうだ、ここに連れてくればもっと早く助けてあげられたのに!
「まあいいや、とにかく早く現場に急ごう!」
「う…うん!」
「『どこでもドア』! よっと!」
お馴染みのピンク色のドアが目の前に現れた。
「さ、行くよ!」
「うん!」
ドアを開くとそこは裏山だった。もう既に日が落ちかけている…。
強い北風が突き刺さるように顔に当たる。昼間より余計に寒くなっている、早くしなきゃ…!
「あ! のび太くん、くつ! くつ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!?」
「ハァ…、で、その犬はどこにいるの?」
「えっと…」
確かダンボールにはぼくのシャツを被せていたから、それを目印に探せば…。
「ね、のび太くん。あれ…」
「ん?」
ドラえもんが丸い手で差した方向、それは高い木の枝…?
「あっ!!」
…に、引っかかってるぼくのシャツ!!
「この風だもの、飛ばされたんだね」
「ワァ! どうしよう!? 余計に事態が悪化した!!」
「やれやれ…」
「ええと…、ダンボール! そうだ、あの犬はダンボールに入ってんだ! ダンボール探せ! ダンボール!!」
「ね、のび太くん。あれ…」
「今度は何!?」
ドラえもんが丸い手で差した方向、それは草薮の中…?
「ゲッ!」
…に引っかかってるあのダンボール!!
「この風だもの、飛ばされたんだね」
「バ…バカな! あの犬は熱が出ててまともに歩けないはずだぞ!! どこ行ったっていうのさ!?」
「ぼくに聞かれても…」
「えー!? もう、そんなー!!」
「ハイハイ、もう泣くな」
そう言いながらドラえもんはポケットをゴソゴソとあさり始めた。
「はい、『タイムテレビ』」
「タイム…テレビ?」
「犬は確かにここにいたんだろ?」
「う…、うん! 間違いない!」
「なら、君が犬から離れてる間に何かあったんだ。それをこれで見てみようじゃない」
「そ…そうだね」
「犬から離れたのはいつごろ?」
「ええっーと、50分くらい前かな?」
「50分前っと…」
ドラえもんはタイムテレビの電源を入れ、ダイヤルを回して調節し始めた。
ぼくは食い入るようにモニタを見守ることにした。そこに一株の不安に駆られながら。
『ウ〜! どうすりゃいいんだよ!!』
「あ! ここだ!」
テレビに映る姿、聞こえるぼくの声、間違いなくこのへんからだ。
『待ってろ! 今あいつを呼んできてやるから!!』
走っていくモニタに映るぼく。犬はそんなぼくの姿を見送っている。
「さて、問題はここからだね」
「……」
1分たった…犬はまだぼくが去ったほうを見ている。
2分…3分…まだ動こうとしない。まるでテレビが止まってるかのように、ただじっとぼくが行った方向に顔を向けたっきり動かない。
4分…。
「あ! 動いた!」
犬はそっとダンボールから出た。そして…。
『ワン!』
と、一つ吼えたか思うと。
「ええっ!? 走り出した!!」
それはぼくが行った方向へ、ぼくと同じように一目散に。
「そ…、そんな…。確かにあの時の犬はもう息も絶えそうだったのに!」
あれは…なんかの見間違いだったのだろうか? 熱が出てたっていうのも、あの今にも息を引き取りそうな様子も…もしかして子犬の演技だったんだろうか?
「のび太くん、よく見てみなよ、この犬…」
「え?」
ドラえもんに言われ、よーく犬を見てみる。
「―! な―!?」
よく見るとこの犬の行動はおかしい。一直線に走ってるように見えてたがそうじゃない。フラフラと、まるで酔っ払ったかのような奇妙な走り方。なんだか…目も開いてないように…見える。
「嘘…だろ!? あ…あいつ!?」
「この犬は君を探してるんだよ…命を懸けて! 最後の力を振り絞って!!」
その姿を見てて震えが止まらない―。歯がガタガタ鳴ったっきり止まらない―。
怖い。その姿は生き物じゃないように見える。まるで壊れかけたおもちゃ。まるでネジが切れかけた人形―。
キャンキャン鳴きながら犬は目も開けらないまま走る。時に木にぶつかったり、転んだりしながらも走ることを止めようとしない―、
それはぼくがさっき裏山まで走ったように―。でも、それとこれとは全然状況が違う。この犬は―この犬は今、本当に死にかけているんだから!
まだ犬は走る。まだ生きている。だから怖い―犬にこんなことをさせてしまった自分が―!
「バカバカバカバカバカー!! 何やってんだよ!! そんな…、ぼくは…、お前を…、助けてやるって言ったのにーーーー!!」
本当にバカな…犬だ…。そんなところがぼくに似て…どうするんだ…。
「のび太くん…しっかり! まだこの犬は終わってないよ! 頑張っているんだよ!!」
「ウッ…ウッ…!」
もう、まともに見ていられない―。
「あ、ホラ! 見ろ! 遂に町に出たぞ!!」
「……」
涙を拭ってモニタを見る。町に出たと言っても方向は既に全然違う。犬はそれでもよたよたと頼りなさげに歩く。もう…最初に駆け出し始めた勢いはない。
「もう…やめてくれ…」
本当にぼくは…大馬鹿だった…何も…かも…。
―ぼくは目を閉じた。もう開けられない。もう…ぼくは…。
『…わ、子犬さん〜』
……。
『どうしたの? 迷子なの?』
……。
『かわいー、どうしたのかな? ずいぶん急いでるみたいだけどー?』
……。
『キャッ! ふぇ、倒れ…ちゃった?』
―!
『や…やだ! 熱が出てる!』
…。
(見て見ぬ振りしてりゃいいってこと! その犬が勝手に死んじゃうのを待ってりゃいいのさ! 関わって面倒なことになりたくないじゃん?)
「そうだよ―。この犬は、 も う し ょ う が な…」
『待ってて! 今助けてあげるから!!』
―!!
目を開ける。モニタに映されていたもの―。
それは、眼鏡をかけた女子高生があの犬を抱いている姿だった。
d子キター乙
163 :
名無しさんだよもん:03/12/24 03:06 ID:LeVUqorv
おっ、サイト更新されとんな。
}ト.{-ェ:ュL_.」,ィェュ}/!:7 「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
l.| `ー‐'´ `ー‐ ' .! } | 天使なんかいない…!!
l /L__ 」、 l‐' _ノ
今度からもうちょっと急ぎます。いつまで経っても終わらない。
「…ドラえもん」
「…しばらく、様子を見よう」
ぼくは頷いた。
この女の人は犬を抱いたまま町中を走る。もちろん、犬は裏山を歩いてきたもんだから汚いったらありゃしない。
でも、この人はそんなことは気にしていないみたいだった。
『頑張って! もうちょっとで病院だから!』
「…そうか、動物病院に連れて行くのか」
「……」
ぼくは天に祈る思いで成り行きを見守るしかなかった。
その人が動物病院に着いたのは10分くらいだっただろうか。
どうやら病院側は最優先でその犬の診察をしてくれるらしい。
女の人はその間待合室で固唾を飲んで待っている。その表情は重い。
―どうやら、本当に心配してくれてるみたいだ。あの汚い子犬のことを―。
「ハッ! …ハックョーン!!」
「! って何だ、ドラえもんのくしゃみじゃないか! 脅かさないでよ!」
「ウ〜、さむいさむい。ねえねえ、そろそろ部屋に戻らない?」
「な、何言ってるんだよ! まだまだぼくにはこの犬を見守る責任が…!」
「部屋でもタイムテレビは見れるからさ〜、このままじゃぼくたちが風邪引いちゃうよ」
「でも…まだ…問題は解決してないし…」
「でもさ、その人がちゃんと病院に連れてってくれたんなら、ぼくはやることないよ。まあ、それは後にしてとにかく部屋に戻ろ!」
「うん、そうしようか」
ぼくはタイムテレビを持ったまま部屋に戻った。
「あ〜さむいさむい。ストーブ点けなきゃ…」
ドラえもんは心底寒そうだ。
「まったく…、君は暖かい格好してるのに…ぼくは裸なんだから…ブツブツ」
「そんなことでブツブツ言われても…」
ドラえもんは余程寒かったらしく、さっきから鼻をかむ音が部屋の中で響いてる。
ぼくはモニタから目を外せずにいた。―その時。
「あ!」
この女の人、何か思い立ったように立ち上がって、そのまま病院から出て行ってしまった。
「どどどど、どういうつもりなんだろ!?」
「心配しなくても大丈夫でしょ」
「もう! そんなのんきなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
女の人が向かった先はコンビニだった。電話でもかけるつもりなんかな?
いや、違う。あの病院に電話はあった。お腹でも減ったか?
…女の人はコンビニに入るなり、カウンター脇の機械の前に行った。そして財布を取り出す。
「ああ、お金か。診察代を引き出そうとしてるんだね」
「ほら、大丈夫だったでしょ」
引き出したお金はモニタからじゃよく見えなかったが結構あった。1万円札3〜4枚ってところか?
「……」
(犬だって生きている。だから生きているからこそ面倒だってかかる! 犬を育てるのはただじゃない、手間もかかる。)
「あ〜あ、そうだよなあ。とにかくお金がないんじゃお話にならないのかー」
「そうだよ。だから貯金しなさいってあれほど言ったじゃない」
「…ま、それとこれとは違う問題だから」
ぼくたちがそうこう言ってるうちに女の人は病院へと戻っていった。
「ごはんよー!」
下から響いてくるママの声。時計を見ればもう7時を回っていた。
「一回ご飯食べようよ。タイムテレビは時間を調節すればいつからでも見れるんだし」
「うん」
でも、晩ご飯を食べていながらも、あの犬と女の人が頭から離れなかった。
ご飯を済ませた後もタイムテレビを覗いていた。
あれから女の人は待合室でしばらく待ったあと、お医者さんから説明を受けていた。
どうやら今はなんとか犬の容態は落ち着いたが、様子を見る為に今夜一晩入院することになったらしい。
女の人はそれを聞いた後はホッと胸を撫で下ろし、診察代と入院費、およそ3万円を支払ったあと、病院を出たのだった。
「…はぁ」
「? のび太くん、どうしたのさ? 犬は一応助かったってのに、ため息なんか吐いちゃって」
「いや、さ。今回ぼくって大騒ぎしたくせにまたまた結局何も出来なかったなーって、結局ぼくは何も出来ない奴なんだなって思った。それだけなんだけど、さ」
犬が助かってくれれば一応それでいいけど。でも、やっぱりこの事実はちょっとだけ辛い。
「別にそんなこと、君が気に病むことないと思うけどね。この犬だって君がいなければ助からなかった運命にあったと思うよ。
この人は高校生だけど、君はまだ小学生。まだまだ守ってもらわなきゃ生きていけない立場じゃないの。
そもそも、ひとつの命を助けるなんてそうそう出来るもんじゃないし、今回は君なりに頑張ってきたんだし、そのおかげで犬は助かった。いいじゃないの、それで」
「…でもさ、もし…、あの時、この犬が目の前で死んじゃってたら…って思うと、ちょっと怖いというか、その時ぼくはどうなっちゃてたんだろうって感じで…」
そんな時、ぼくはこれから何を考えて生きていけばいいんだろう? 生き物はいつか死ぬ。
それはぼくもそうだし、パパやママだって…考えたくないけど静香ちゃんだって誰だってそうなんだ。だから本当はこの世の中って物凄く怖いのかもしれない。
今がとても幸せなぶん、一番恐ろしいことって本当は今、幸せであることがいつまでも続くわけじゃないことに気づくことなんだろうか…。
「それじゃあ、君は何もできないじゃないの」
「え?」
「今、君のまわりにはたくさん君を愛してくれてる人がいる。でもさ、いつかその人達はいなくなってしまうのは君だってわかってるじゃない? じゃあ君はその人達を拒むっていうの?」
「……」
「まだまだ、君も子供じゃない。しっかりしなさいよ」
「はいはい。わかってますよ」
ドラえもんにはそっけない返事をしておいた。
…ああ、そうか。それじゃあぼくはいつまでたってもドラえもんと別れられないってことじゃないか。
まったく、また情けない態度を見せてしまったな…。
「でさ、この犬ももうこの人に預けちゃったら?」
「…やっぱりそう思う?」
「そうだよ。もともと君はこの犬の飼い主じゃないし、世話は出来てもこの犬を飼えない立場にあるんでしょ?
でもこの人はわざわざ病院まで連れてったわけじゃない。それなりにこの犬を助けてあげよう、世話をしてあげようって覚悟があるんじゃない?
ならさ、もうぼく達が出て行くこともないと思うな。君が言うような『責任』っていうのも今はこの人にあるわけだし、
この人にはこの犬の世話を見る『権利』だってあるじゃない。でしょ?」
「まあね、もうこの犬にはぼくは必要ないのかもね」
「まあ、そんなもんさ。犬にとって一番幸せな選択を選んであげるのも君の使命だよ」
「……そっか。今この犬はこの人に預けられて幸せなんだもんね。うん、幸せなのが一番いいよ」
「…でさ、ここまで言っておいてこんなこと言いたくないんだけどさー」
「? なんだよ」
ドラえもんはモニタを覗き込む。何故か困った顔をしている。
「この人…どう思う?」
「どう…思うって?」
「なーんか、頼りなさそうなんだよなあ。パッとしないし」
「おいおい、ひどいこと言うなよー! この人は犬の命の恩人なんだぞー!」
「わかってるけどさ、なんかオーラが君に似てるんだよ。それでさっきからなんか嫌な予感がしててさー」
「え〜?」
改めて女の人を観察してみる。確かに今時の女子高生にしては地味なショートカットの黒髪。
黒い眼鏡をかけているぶん余計に地味に見える。身長もちょっとばかし低め。
地味で統一してるから真面目っぽいって言えばそうなんだけど、気弱そうに見えるから言い換えればパッとしない。
いい人らしいのは確かなんだけど、いささか頼りないように見えてならない。
それって、ぼくそっくり?
「う〜ん…。いや、大丈夫! この人貯金あるもの!」
「まあそうだね。それが君との決定的な違いかもね」
「…ま、大丈夫さ。きっと…」
頼りないだろうがなんだろうが、犬はこの人に預けるしかないじゃないの…。
『あーそうだ。あとで、しーちゃんにちょっと相談してみようかな…?』
「『しーちゃん』ってこの人の友達かな?」
「多分そうでしょ…アレ?」
何故かそこでドラえもんは頭を捻る。
「あーそうだ! 『しーちゃん』で思い出したんだけどさ」
「へ?」
「昼間に静香ちゃんがぼくの所に来たんだよ」
「静香ちゃん?」
…ああ、そういえばその問題もあったのか。
「で、ぼくを訪ねてきたの?」
「ううん、ぼくのほうに用事があったみたいだよ」
「えー? ドラえもんを訪ねてきたって言うの?」
「そう。…なんか問題でもあんの?」
「別に。まあ、いいや、でー何の用だったの?」
「うーんとね、しばらくの間『石ころぼうし』を貸して欲しいってさ」
「『石ころぼうし』!?」
「うん。あの被ると道端に落ちてる石ころみたいに無視される…っていうか、透明人間になれるっていう、あれ」
「えー? な・なんで石ころぼうしなんか…?」
「ぼくも理由を聞いてみたけど一度はぐらされちゃってさ、何か言いたくなさそうだったからそれ以上聞かなかったけど」
「石ころぼうし…ねえ?」
考えてみる。石ころぼうしは透明人間になれるような…他の人から見えなくなる道具。
それを使う理由は自分の姿が他の人に見られると困るからだろう。
何かの冒険中ならまだしも、普通の日常なら自分がやましいことをしてるっていう自覚がない限り滅多な事じゃ使わないような気がする。
しかし、それがぼくとかジャイアンならまだしも、あの静香ちゃんが使う? 一体静香ちゃんに何が??
「また何でなんだろうねー?」
「さあ? でもさ、静香ちゃんにも色々あるんじゃないのー?」
「し、しかしあの静香ちゃんが、だよー? 気にならない?」
「そりゃ気にはなるけどさー。まあ静香ちゃんだからね、君みたいに変な使われ方はしないと思ってるから別に心配はしてないけどね」
ドラえもんに軽蔑したような目で見られてちょっとムカついた。
「そーじゃなくてさ! 何で静香ちゃんが石ころぼうしなんか使うことになってるのか! ってことだよ!
一体どんな秘密を持ってるのか、とか! そもそもさ、石ころぼうしなんか変な使い方しか思いつかないじゃん!!」
「変な使い方て…。まあいいや。でもさー、別にいいじゃない。あの子がどんなことに使ってたってさ。
それについてぼく達がどうこうと詮索する必要ないじゃないの?」
「あーいや、別にさ、ちょっと気になるんだよ。興味があるっていうかー」
「くだらない。静香ちゃんは全部心の中を隅々まで君に見せなくちゃいけないってわけ?
ぼくの道具は君だけのものじゃない、みんなを幸せにするものなの!
たぶん、静香ちゃんだってどうしても必要だから石ころぼうしなんてわざわざ借りに来たんでしょ! まったく、君も悪趣味というか―」
「ハイハイ。お説教なんて聞きたくありませんよーだ! それに、ドラえもんはぼくの言いたいことをぜーんぜんわかってないんだから!」
「へえ? どこがどういう風にわかってないってわけ?」
「フン! 言いたくないよ!」
「…まったく、…わからないやつだ」
「はぁ〜。ま、いいや」
再びモニタを覗き込む。あの女の人はもう自宅であるマンションに帰っちゃったみたいだ。モニタに映し出されているのはマンションのドアばかり。
「……どうか、あの犬のことをお願いします」
モニタに向かってパンパンと手を叩いて目を閉じてお辞儀する。
何もできないぼくはこんなことしかできないけど、本人の前でやりたかったことだけど、ぼくなりに心を込めたつもりだ。
「じゃあ…またね」
誰に、というわけでもなく、ただそうひとこと言ってモニタの電源を切った。映像は途絶えてただの真っ黒い画面になった。
「…さてと。あ〜今日は疲れたなーっ! とっとと寝ちゃおうーっと!」
思わずあくび。やれやれ、今日もごくろうさんな一日だった…。
「ちょっとちょっと! 何か重要なこと忘れてない?」
「あん? 重要なこと? そんなんないよー」
「日記! 先生から宿題として出されてたでしょうが!」
「あー、そうだったねえ。すっかり忘れてたや」
「こらこら鼻をほじらない!」
イラ立つドラえもんがちょっと面白くてもうちょっとからかってやろうかー、と思ったが、とにかく今は眠かった。
「しょうがないなー、とっとと終わらせちゃうか」
そう言って机に向かう。そんでもって日記帳。
「えーっと、今日は何があったっけー?」
まずジャイアンに野球に誘われる。んでノック…つまりは球拾い。んで犬拾う。んでぼくが離れてるうちに女子高生が犬拾う。
「…説明するのめんどくさーい。んーと、まとめて書いちゃうかー。えーと、ちょちょいのちょいっと! できた!!」
「…ちょっと、10秒かかってないんだけど?」
「まあまあ見てごらんドラ君。これがプロの日記の書き方というものだよ?」
…と自信満々にドラえもんに見せる。実を言うとほんとうに自信作だったりする。
「…? 『やきゅう、そしていぬひろい』って何だい? この『いぬひろい』っていう意味不明な日本語は?」
いぶかしげにドラえもんはぼくに日記を返す。
「ははは。よく聞いてくれた。この『いぬひろい』っていうのは、『球拾い中に犬を拾った』、これを短縮した見事な書き方なんだ!
時間をかけずに正確に日記にするのがプロってもんだよ! ってドラえも〜ん、聞いてる?」
「はいはい、それじゃぼくは寝ます。おやすみ」
ドラえもんはそう言いながら押入れの襖を開けた。
「チェ。自分から聞き出したくせに」
仕方なく、ぼくも布団を敷いて寝ることにした。
布団の中で目を閉じる。
…そして今日の騒がしい生活が思い出される―。
死にそうな犬…。そしてあの犬に対して死ねばいいと言うスネ夫とジャイアン。
でも、それを助けようとしたぼくとあの女の人…。
…正しいことをしたのはぼくたちだ。それは間違いないんだ。
でも、ジャイアンたちの言ってることだって間違ってないような気がするんだ。
わからない…。
そうだ。もし…静香ちゃんだったらこんな時どうするんだろう?
正直、あまり考えたくないことだった。あの子ならどっちでもあり得るような気がした。
あの子だって人間だ。お人形さんじゃない。ただのいい子じゃない。血が通った人間なんだ。論理的な判断だってできる子なんだ。
―あ。
そうだ…。
そう言えば…思い出した。
そうだ―、あの子は―!
ドラえもんの映画コミックス買った。6作入って¥950。
ネタ浮かんだらSS書くかも。
しかしすさまじい勢いだな。
完成してるのを順次貼ってるの?
彡 ヽ
彡 ● ● ウマ──!!
彡 ( l
>>174 安っ! 頑張って考えてみておいてください。
>>175 前作の「うたわれ」はそんな感じでしたが
今回のは全くストックがありません。
しかし、1日で投下する量はだいたい原稿用紙10枚ちょっとぶんくらいしかないので、
それほど大した勢いでもないです。
「ほらっ! 朝だよー!! 学校に遅刻するよ!!」
「え? あ、朝か…」
目を擦る…。そう言えば寝る前になんか考えてたようなー。ま、いいや。夢でも見てたんだろう。
「さぁて、学校行かなくちゃなー!」
背伸びして、一つあくび。今日もなんだか忙しい一日になりそうな予感がした。
「行ってきまーす!」
慌てて家を飛び出した。遅刻ギリギリなのはいつもこと。
「そういえば…。犬、あれからどうなったかなー」
動物病院で入院してたっけ。元気になってたらいいよなあー。
もし―、そうだったら会ってみたいなぁ…。
「―会わないほうがいいのかも知れないけどさ、ちょっと姿を見たいだけなんだよな。あの犬が幸せになったことを直に見てみたいだけ。会って何しようってなわけじゃなくてー」
あの犬はぼくを探してたんだ。だから、元気になった時でもぼくを探してたらどうしよう? とか、そんな幸福なことを考えていただけ―。
教室に入る。時間はいつものとおりギリギリセーフだ。
「あ、来た来た!」
突然ぼくのほうに向けられる視線を感じる。そのひとつがスネ夫とジャイアンだった。
―嫌な予感。
やつらは何故か複雑そうな顔でぼくに近づいてくる。
「…なんか用?」
「なんか用? じゃねえよ! 取り合えず自分の席にランドセル下ろせよ」
「あ…ああ」
やだやだ…。まったく…何の用があるんだか?
「で、どうなったんだよ? あの犬」
「え?」
「お前一人で行っちまって帰ってこねえんだもんよ! なんとかしといたら帰ってこいって言っといただろ? 結局どうなったんだっつう話よ」
「ああ、なんだその話か。うん、あの犬なら女子高生に拾われていったよ」
「え、な・何!? あの汚い子犬が拾われたのか!?」
ジャイアンとスネ夫は心底驚いているらしく冷や汗を流している。
「うん。しかもその人、ちゃあんと病院まで連れてっていったんだよ。自分のお金で入院費出してくれたりしてさ!」
「し…信じられない! あの汚い犬にそんなことをする人がいるなんて!
あ、まさか! あの犬ってあの時よく見てなかったから気づかなかっただけで、本当は雑種なんかじゃなくて物凄く珍しい犬種で、
物凄く高い値段で売られてる犬だったとか!? ハァ〜」
スネ夫はショックのあまり訳がわからない状態になっている。
「あの犬がそんなわけないでしょ」
「しかし、どうやってその女の人はその犬を飼うつもりになったんだ?」
「ええとー、女の人の目の前でその犬倒れちゃったんだ。で、その人が慌てふためいて病院に連れて行ったっていうわけ」
「う、う〜ん。倒れちゃって…ねえ? それでも入院費を自分から出すっていうのはちょっとあり得ねえ話じゃねえか?」
「でも実際あの人払ったわけだし。そのおかげで犬は助かったわけだし」
「ハァ〜。捨て犬にそんなことまでするなんて…、まるで天使みたいな人だな!」
―!
スネ夫がポカーンと口を開けてる横でぼくは何かが引っかかった。
「天使…」
「なあなあ、その人ってどういう人? もしかして、美人だったりするのか!?」
スネ夫は何故か興奮している。
「あんまり…。どっちかっていうと冴えないっていうか、パッとしない人」
何だかひどい言い草だが、ここで嘘をついても仕方ない。
「ああん? 冴えない人? う・う〜ん…。ひょっとしてただの物好きだったりして…」
―おいおい…。
「ああ、でも! 眼鏡をかけてるから地味に見えただけで、外したならひょっとすると美人かも!」
「何? 眼鏡をかけてるのかよ、その人。 眼鏡をかけてて物好きでパッとしないんじゃまるでのび太じゃねえか!」
ジャイアンはどうしてかちょっと呆れている。
「あー、そうかそうか。『類は友を呼ぶ』ってみたいに『犬は類を選ぶ』みたいな感じね! なーんだ、そんなら何ら不思議はないね」
スネ夫は納得した素振りを見せる。
「いやいや、ちょっと待ってよー。その人いい人なんだってば!」
「いい人なのはいいさ。でもさ、ひょっとするとのび太みたいに飼えないくせに拾ってた、みたいなことがあり得そうな気がするんだよなー」
「…ドラえもんもそんなこと言ってたけどー」
―とにかくその人を馬鹿にするのは止めてほしいんだけど。
「ま、なんとかなったならそれでいいさ。でもよ、のび太! これで野球の練習をさぼれたって思うなよ! また予定が出来たらその時に猛特訓だ! いいな!」
「はいはい…」
「忘れんなよ! 代わりにぼくたちがシゴかれたってことも!」
「…はいよ」
―やだなあ、ぼくへのメンバーの態度が怖いじゃない。
「じゃあなー」
「……」
あいつらが行った後でぼくは隠れてクスッて笑ってしまった。
―なんだ。あいつらだって、何だかんだ言いながらあの犬のこと、心配してたんじゃないか―。
「それにしても…、天使…か」
スネ夫の言った何気ない一言が今でも頭に引っかかってる。
「あの人が…ねえ」
スネ夫はただ単にあの人がものすっごく優しいっていう意味で『天使』って言ったんだと思う。
でも―、ぼくが静香ちゃんに言った『天使』っていうのとは違う…、と思う。
ええと、それは〜、何とも言えない感じで。
―そう、違うと信じたい。静香ちゃんがぼくに言った『天使』っていうのも…。
ああ、そうだ―。ちょっと思い出した。
だってあの子はぼくの―。
キンコンカンコーン
学校のチャイム。昼休みに入った。クラスメートの何人かはボールとかを持ってはしゃぎながら元気良く外に出て行った。
昼休みっていつもならみんながみんな元気良く外へ出て行くようなものだけど、しかしもう12月。寒くて外に出たがらない人もいるわけだ。そのひとりがぼく。
「ファ〜、ちょっと昼寝しょうかなあ〜?」
ちょっと眠い。やっぱり最近色々と疲れてるからだろうか…。
「のび太さん」
「え?」
聞いたことのある声、後ろを振り返る。
「…静香ちゃん」
「あら? 昼寝の邪魔しちゃったかしら?」
「いや、そんなことないよ…」
さっきまで考えていたことを思い出すとちょっとドキドキしてしまう―。
「取り合えず用件を短めに話すわね。昨日ドラちゃんに借りた『石ころぼうし』の事、聞いてるかしら?」
「あ、ああ…。聞いてるけど」
「あれ、しばらく貸して欲しいって言ってもらっていいかしら?」
「あ、あれ? 確かドラえもんもそう言ってたけどな。しばらく貸すってこと」
ぼくがそう言うと、何故か静香ちゃんは急にソワソワし始めた。
「えっと…、確か昨日あたし3日か4日間ぐらい貸してって頼んだと思うのよ。でもね、もしドラちゃんがいいって言うなら1ヶ月…、もしくは数ヶ月ぐらい貸してほしいのよ―」
「い、1ヶ月! 数ヶ月も!? そんなに借りるの!?」
「そう…なのよ。もし、ドラちゃんがいいって言うならって話なんだけど…」
「…」
静香ちゃんは未だにモジモジしてる。それは多分自分でもあつかましいお願いだってわかっているのだろう。ぼくは―、やはりその理由が聞きたくなった。
「でもさ〜、何でまた1ヶ月以上も借りるのさ? いくらなんでもそんなに借りるって言うならちゃあんと理由を話しておかないとドラえもんだって困るんじゃないのー?」
ぼくは適当な理由をつけて何とか静香ちゃんの事情を聞きだしてやろうかと思った。
静香ちゃんはちょっと困った顔をしながら、少しの間だけ黙りこんでしまった。
だがここで引き下がるわけにはいかない。ぼくは待つ事にした。
そして、静香ちゃんは意を決したように頷いた後、口を開いた。
「えっとー、実はね…こっそり会いたい人がいるのよ…」
「―え?」
な…ッ!?
「でもねー、その人あたしと違うところにいるっていうかー、あたしには場違いな場所にいるっていうか…その…」
顔を赤らませてたどたどしく喋るその姿が―。
「ちょっと遠くからこっそりと見ていたい。眺めていたい―って考えちゃうのよ…」
ものすごく―。
「…そう。そんならいいんだ! あんなやつの道具なんて…適当に使っちゃえばいいんだよ!」
「そんな…。でも、のび太さん、ドラちゃんによろしくって言っておいてね」
「うん! 約束する!」
「じゃ! あたし委員会のお仕事があるから! それじゃあね」
「うん。頑張ってね…」
静香ちゃんがぼくじゃない誰かに心奪われてるあの姿が―、ぼくを激しくイラださせた。
「くそう! 何だって言うんだよ! 一体誰なんだ―!?」
誰にも聞こえないように呟く。痛いって思うぐらいに拳を握り締めている。
―さっきは静香ちゃんに悟られないように必死だった。もしぼくがあの場で怒っていたら相手を探りにくくなるような気がした。
「許せない…。そいつが絶対に許せない―!」
しかし…心当たりがぼくにはまったくない―。この学校の奴じゃないことは確か―。じゃあ一体誰なんだろう―? わざわざ石ころぼうしを使う理由、場所的にはどこだろう?
「わかんないなーっ!」
頭をメチャクチャに掻いた。考えれば考えるほど、ぼくの頭はパニック状態だ。
「まったく…一体何を考えてるんだよ…静香ちゃんは…」
君の目の前にはぼくがいるじゃないか―。
誰なんだyow
| (-=・=- -=・=- ) |
/ < / ▼ ヽ > 、
く彡彡 ( _/\__) ミミミ ヽ
>>183 さあ、誰でしょうw
学校が終わった後、ぼくは全速力で家へと帰った。
途中何回かあの犬のことが頭の中に過ぎったが、済まないがそれは後回しにすることにする!
帰ったらドラえもんに相談したい事がある。
それは今後の静香ちゃんについて―。
今も、そしてこれからもぼくの大事な人について―!
「ただいま!」
またまた乱暴に襖を開ける。
「やあ、おかえり。あの犬に会いに行くんでしょ? その為にそんなにも急いで帰ってきたんでしょ? ぼくにも一目会わせてよ」
何も知らないドラえもんはニコニコしている。どうやら今度はせんべいを食べながら新聞を読んでいたらしい。
「ちょっと、その前に話があるんだけど!」
ぼくは部屋のその辺にランドセルを放り投げた。
「え? あの犬に会いに行くんじゃないの?」
「それはあとで。それよりちょっと重大なお話があります」
ぼくはそう言いながらその場であぐらを掻いた。
「やれやれ…また何かややこしいことになってるな…?」
ドラえもんはガッカリした様子でぼくに倣うようにあぐらを掻く。
「何を言ってるんだよ! 今回の問題の発端は君にも深く関わっています。ですから君にも責任ってもんがある!!」
ぼくはたまらずゲンコツで畳を殴った。
「あー、イテテ…」
「オイオイ…。一体なんだって言うんだい? ぼくには何のことやらさっぱり…」
ぼくはキッ! っとドラえもんを睨んだ。
「うるさい! 静香ちゃんのことなんだよ!! あの石ころぼうしが今問題になってるんだ!!」
「ハァ…。また、その話か…。で、どうかしたの?」
「実は――、こんなことになってたんだよ!!」
「ウーム、なるほどなるほど。よーく、わかった」
全てを説明し終えるとドラえもんは少し難しい顔になった。
「で、君はどう思う?」
「…数ヶ月借りるっていうのはちょっとなあ…。一応未来の道具だからあまりぼくの知られていない所でずっと使われ続けるっていうのは…少し問題だなあ」
「そーじゃなーーいっ!! 問題はそこじゃなぁーーい!!」
「…ハイハイ。問題なのは静香ちゃんがのび太くんがまったく知らない誰かに恋してるってことでしょ?」
「こ…こい!?」
自分でもわかっていたことだったけど、他人に言われると結構ショックだ…。
「君から聞いた感じだと、そんなふうに思うけど」
「こ…こい? コイ? こーいこいこいこーい〜。こいーこいーこ…」
「お…おい君、白目を向くなよ。生きてるかい?」
ドラえもんにガクガク揺さぶられながらようやく正気に戻った。
「…ど・う・ぢ・て…?」
「君ね、ショックなのはよーくわかりますよ。まあ〜でもね、静香ちゃんだって誰かを好きになる事ぐらいあるんじゃないのー?」
「ああああ〜」
またクラクラと…、めまいが…。
「まあさ、これを機に君もね、そいつが誰だかわかんないけどさ、静香ちゃんを勝ち取るためにも自分を磨こうと努力してみたらどうだい?」
「……」
「静香ちゃんもさ、一時の気の迷いというか…、ただの憧れに過ぎなかったりすると言いますか、本気じゃないと思うけどねえ〜」
「……」
――ようやく意識がハッキリしてきた。
――そうだ。今日ぼくがドラえもんに相談しようとしたのはこんなつまらないお説教を聴きたいわけじゃない。
――ある提案。ここでぼくの人生で重大な決断をする為に―!
「ドラえもん!!」
「おっ! ついに今までのグータラな毎日に気づかされたか!?」
「そうじゃない!!」
「なーんだ…」
ドラえもんはつまんなさそうである。
「いいかい! 何故静香ちゃんはそんなやつのことが好きになったか!?」
「会った事も見たこともないんだもん。知らないよー」
「さっきも君がちょっとだけ言ってたじゃないか! 『一時の気の迷い』って!」
「え? でもアレは君も元気出させようとしただけで…」
「そんなことはいい! とにかく静香ちゃんがぼく以外の誰かを好きになったのは、本当に魔がさしたっていうか! 気の迷いっていうか! ちょっとした過ちだったんだよ!」
「過ち、ですか」
呆れているドラえもんを無視する。
「過ちです!! これは明らかなぼくへの裏切りなんです!!」
「ねえねえ、それはちょっと言いすぎじゃないのー? バカみたい」
「…む! いいかね、君。君はひとつ重要なことを忘れてるじゃないか!!」
「えぇ〜? 何だろう?」
コイツめ、適当に頭を捻って考えてる振りしてるなー。
「いいか! わからないなら教えてやろう!!」
ぼくはすぅ〜っと息を吸い込んだ。
「ぼくは静香ちゃんと結婚するっていう未来があるんだよーーー!!!」
「……」
ドラえもんは耳がキーンって言ってるらしく、辛そうにもがいている。
「わかったかい!?」
「はいはい。それにしてもそんなこと大きな声で言うんじゃないって。誰かに聞こえたらどうすんだよ……」
「あ! まずい!!」
この家にはママがいるじゃないか!!
「それでさ、君と結婚するっていう未来と、今回の静香ちゃんの君以外の人への心の移り変わりとどう関係あるってのさ?」
「な…なに? 君、ぜんぜんわかってないじゃない! もしも、さ。今回の静香ちゃんの気の迷いがきっかけでぼくの未来が変わっちゃったとしたら、
石ころぼうしなんて貸した君のせいなんだってことだよ!!」
「そんなー。ぼくが石ころぼうしを貸す前から静香ちゃんはその人のこと好きになってたじゃないの。ぼくに問題を押し付けようとするのは困るなー」
「キーッ! アレだよ、ホラ! 『お酒を飲んで運転して事故を起こしちゃったら、その人にお酒を勧めた人にも罪になる』!
君は石ころぼうしを静香ちゃんに貸した! つまり、そいつと静香ちゃんの仲が上手くいくように手助けした! ホラ見ろ。君も飲酒運転と一緒だよ!」
「はぁ〜。まぁ、そういうことにしとくかな……」
「それなら君も責任がある! 君も静香ちゃんの目を覚ますよう、ぼくに協力しなさい!」
「いいじゃないのさー。君との結婚はまだまだ先のことなんだし、まだまだ君達小学生だしー」
「お互いが結婚する前だったら、将来のお婿さんが目の前にいるってのに誰を好きになってもいいってことかい!?」
そこでドラえもんは喋るのが疲れたようにため息一つ。
「だーかーらさ、静香ちゃん側は将来君と結婚することを知らないじゃないの。君のことなんかまだ意識してないじゃないのー。だから、これから君はこれから自分を磨くよう努力するの!
静香ちゃんが君を意識するのはこれからのこと――」
ドラえもんはそこで話を止めた。みるみるうちに顔が強張っていく。
「な、なんだよ……。その顔はー」
そうだ、ぼくは今とんでもなくニヤ〜ッってしてる。目の前に鏡があったら自分自身で気味が悪いって思うくらいに――。
「ドラえもん、今、君、何て言った?」
「……え? え〜と、『静香ちゃんが君を意識するのはこれからのこと――』って言ったけど?」
ドラえもんは「それが何か?」って言いたそうな顔をしてる。
――それが、今回の話の焦点なのさ。
今更ながら「…」や「―」を単独で使うのは書き方として間違っていたんだ!
でも、2つ繋げて書くと横書きの場合、見づらくなるから
このSSでは1つだけのと2つのやつを入り乱れて使うことにする!
_____ _________________________
∨
|丶 \  ̄ ̄~Y〜 、
| \ __ / \
|ゝ、ヽ ─ / ヽ |
│ ヾ ゝ_ \ |
│ ヽ_ _ / /| |\ \|
\ヽ _ // / | \ |
ヽ\二_二// ∠二二二| ヘ|
| | | ヽゝソゝ|TT|<ゝソ フ |/b}
ヾ| ヽ___ ノ/|| .ミ__ ノ | ノ
| 凵@ /フ
今までミスしてた単なる言い訳ですが……。
大長編ドラえもん「のび太の天使のいない12月」公式サイト (今現在はここで運営中)
ttp://www.geocities.co.jp/SiliconValley-SanJose/8589/dora129.htm
まあエロゲのテキストなんかは「……。」だ罠。
もれは「てん」で登録している。
>190
「・・・」で登録。こっちの方が楽だぞ。
まぁ今さらかもしれんが
のび太って第三者としてみてると腹たつ性格だよな
星の記憶の伝承者さんのサイトが消えてる。
オトナの静ちゃんがいいな
今のテレビね
あけおめ。
作者よ。12月が終わったが、是非とも完結まで頑張ってくれたまえ。
ほしゅ
訂正、ていうかミス。
57話と58話の間に以下の文が入ります。
「心配ない。ママならさっき年賀状出しに言った」
「へ? あ、そうなの? なーんだ、ヒヤヒヤしちゃったよー」
思わず冷や汗まで掻いちゃったじゃないの。
サイトのほうは鯖移転の都合でちょっと公開できない状況です。
まったりお待ちください。
>>192 私の書き方が悪いだけです……。
>>195 ありがとうございます。頑張りますんで。
「いいかい。さっきのをもうちょっと言い足すと『ぼくは静香ちゃんをこんなにも意識してるのに』って付けられるんだよ。そこまではわかるだろ?」
「ま・まあね……」
「じゃあ、何でぼくは静香ちゃんを意識してるかって言ったら、君は何て答える?」
「そ、そうだねえ。例えば、静香ちゃんが可愛いから、とか? 後は、そうだねえ〜。気配りがいいとかー、料理が得意だとかー、優しいとか」
「まあ、つまり静香ちゃんがこれ以上ないってくらい理想的な女の子。――って言うのもひとつある。でもさ、もう少しぼくには違う理由があるんだよ」
「違う理由? どんなことだい?」
「それはさ、ぼくは知ってるのさ、静香ちゃんと結婚するっていう未来を! だってさ、目の前に将来結婚するって言われてる相手がいるんだよ、気になっちゃうじゃん!」
「……ああ、なるほどね」
「なるほどね。じゃないだろ? このことに対し君はどう思う?」
ここでドラえもんは少しの間考える素振りを見せた。
「そうねえ……。君がよく頑張った結果じゃないのかな? もちろん、将来、君が大人になるまで努力したらって言う話だけど」
「ヘン! わかってないねえ君は」
「え? どんなことがわかってないってのさ?」
「ぼくの言いたいことが、だよ。君はしょっちゅう言うじゃないか、『のび太くん次第で未来が変わることがある』ってさ」
「そうね。そう言うね」
「そこでさ、ひとつだけ。提案があるんだ」
「え? なんだい?」
そこでぼくはドラえもんの顔を見た。
ドラえもんは実に平和そうな顔をしている。
ああ、これからぼくの言うことでドラえもんはカンカンに怒るんだろうなあ――。それがわかっている。
今までイタズラ半分で怒らせた事って何度かある。それでもイラださせるぐらいでなんとか済んだ。でも、今回はそうじゃすまないんだろう。
怒り狂うか、呆れかえるか、どちらにしろロクなことにならないに違いない。
こういうのって罪悪感っていうんだろう。ぼく自身間違ってる事ってわかってるのかも知れない。
――まあいいさ、それは大した問題じゃない。それを乗り越えた後の結果が問題なんだ。
「なんだよ、もったいぶらないでさっさと言っちゃいなさいよ」
わかってるはずさ。ドラえもんだって。
――世界で誰よりも静香ちゃんの幸せを願ってるのはぼくだってことぐらい――!
息を吸い込んだ。そして言った。
「静香ちゃんに、ぼくと結婚するっていう未来を、教えてあげようと思うんだ」
「――な!?」
ドラえもんの表情がみるみるうちに凍りつく。
「そ……!」
それが怒りの表情に変わるのに時間はかからなかった。
「そんなことが許されると思ってるのかーーーー!!!」
近所中に響き渡るようなとんでもなく大きな声。
「うるさいよ、近所迷惑だよ」
「そんなこと言ってる場合じゃない!! 今、君はなんて言ったか、わかっているのかー!?」
「ああ、わかってるさ。直接ぼくの未来の奥さんに言う前に、一応、君に報告しとこうと思ってね」
「ふざけてるんじゃない!! これは君自身の問題なんだ! 素晴らしい人生を送っている静香ちゃんを巻き込むなー!」
「フン……!」
こうなったら正面から堂々と君と戦ってやる――!
「ぼくが言いたいのは簡単なことだよ。静香ちゃんは今、ぼくのことをまったく意識していない。でもぼくは目の前にいる女の子が結婚相手だって知ってるから意識しちゃうわけ。
じゃあさ、静香ちゃんがぼくと結婚するっていう未来を知ったら、ぼくを結婚相手として意識し出すだろ?
ぼくのことを考えるようになれば、もうぼくを好きになってるってのと一緒のようなもんさ。何せ見せられる未来は疑いようがない未来人、ドラえもんを通されている。
もう静香ちゃんはこれをもう避けられることのない運命って思いだすのさ。そうすれば万事解決ってわけ!
どうだい? ぼくが考えたハッピーエンドに繋がるシナリオは?」
「何言っているんだ!? まだ君と静香ちゃんが結婚するっていう未来は確定したわけじゃない! 未来は変えられることもある!
君が静香ちゃんと結婚する未来だってまだ可能性の一つに過ぎないんだ! そんなことをしたら可能性が壊れるかもしれない!
いや、壊れるに決まってる! 君は、きみは本当にどうかしてるよ――!!」
「どうかしてるのは君さ。ぼくは静香ちゃんと結婚するっていう未来をより確実にする為に、こういう提案をしてるんじゃないか。
ぼくの未来は下手をすればドン底になる。だから今のうちに手を打っておくべきなんだ。そもそも、その為に君がここにいるんじゃないの?
何も、ぼくばっかりに努力しろ、努力しろって騒いでないで、そういう工夫をしてみるってのも考えてみたらどうだい?」
「ふざけないでくれよ!? 君の未来が真っ暗になったのは堕落した君自身のせいじゃないかー!努力する苦しみは後に幸せに変わる!
君はそういった過程を辿るべきなんだ!!」
「フン! 僕達は夫婦になる運命にあるの。確かに未来を静香ちゃんに教える事は問題かもしれない。でもさ、夫婦ってものはお互い苦しみあって、そして助け合っていくもんだろう?」
「馬鹿じゃないの? まだ結婚もしてないくせに」
「ぼくはもう結婚させられたようなもんさ、君の手によってね」
「――何?」
殺気を感じる鋭い視線。しかし、負けていられない。
「言ってやるさ、ぼくの人生は君に操られてる。静香ちゃんとの結婚という未来の方向にね。ぼくの未来をより良い方向へと変える。
それが君がここに来た理由だし、君の使命でもあるわけ。そうだろう? 考えてもみなよ、ぼくの未来は静香ちゃんの未来とも物凄い関係がある。
切っても切れないわけ」
「だから、何だって言うのさ?」
「要するに、君は静香ちゃんの面倒も見るべきだってことさ。ぼくの側ばかりで騒いでないでさ、
静香ちゃん側でも何か色々と上手くいくように頑張ってくれってこと!」
「……意味が、わからないんだけど? ぼくはただのお世話ロボットだよ。静香ちゃんにしてあげることなんて何もない」
「それは思い込みさ。君は道具の力で何だって出来る。そうでなくても、君はぼくと静香ちゃんの運命を支えるくらいのことは出来る。
そうだよ、これから君は静香ちゃんがぼくに惚れてくれるようになんとか上手くやってみたらどうだい?」
「そんなことをしたって、例え静香ちゃんが君と結婚したどころでロクなことにならないだろ!
今のロクでもない君のまま大人になったら意味がない!!」
「だから、今度からは君が2人分の面倒を見るのさ。ぼくを支えつつも静香ちゃんはぼくが好きになってくれるように君はちょっと頑張ってくれたまえ、
と、こういうわけだよ。ま、要するに今まで以上に頑張ってよ、静香ちゃん側は少し強引なくらいにさ」
「……つまり、君は静香ちゃんをぼくという“道具”で手に入れようというわけか!」
「そっちのほうが未来は確実にいい方向に進むと思わない? それが例え、静香ちゃんはぼくのことを自分から好きになるわけじゃないにしたって、
これは運命だもの。仕方ないってもんさ。静香ちゃんはぼくのことを好きになってハッピー、ぼくは静香ちゃんを手に入れられてハッピー、
ドラえもんはそんなぼく達を見届けてめでたしめでたし!」
「……そんな運命になんかさせないぞ! そんなことにぼくは協力しない!」
「君は馬鹿だね。さっきから言ってるじゃないの! 君はぼくにその『運命』って奴を見せてしまった。静香ちゃんだってその運命を辿るわけ。
これは君が望んだことじゃないの?」
「違う!」
「違わないじゃないか! そもそも君に否定する権利はないよ!」
互いにしばらく睨みあった。もうこうなったら引き返すことは出来そうにない!
「ぼくは……、君を一人前の立派な人間にしてあげようとこの場所に来たんだ。その目的の為だったら、別に君が静香ちゃんと結婚しなくたって別に良かったんだ!
たまたま結果がそうであっただけだったんだよ。君にはまだまだわかってもらえないかもしれないけど、人生は結婚して終わるわけじゃないぞ。
まだまだ先は長い、一人の女性にうつつ抜かしてるだけが人生じゃない! 君には厳しい社会やら人生やらを乗り切ってもらいたくて、ぼくはここにいるんだ!!」
「……でも、同じように君にはわかってもらえないかも知れないけど! 静香ちゃんはぼくにとって全てなんだ! 天使のような存在なんだ!!
ほかのことなんてどうでもいい……。例えその為に未来が悲惨なことになろうとも、ぼくはどんな手段を取っても静香ちゃんを手に入れるぞ!!
その為に、君には否でも協力してもらう!! それがぼくにとって一番の幸せなんだ!!」
そう言ってぼくは部屋を飛び出した。
「あ! 待て!!」
ドラえもんが追いかけてくるのがわかる。
「待つもんか! 元から君を説得する必要なんかなかったんだ、直接静香ちゃんにこのことを話せばいいんだ!」
階段を駆け下りる。しかしその後、玄関で靴を履かなくちゃいけない。
「チッ!」
靴を履き替える合間にもドラえもんは追ってくる。ぼくはまだ履き終わってもいないのにドアノブに手をかけた。
――あいつを止めるには、これしかない!!
「待てええっ! 逃がすかあ!!」
ドラえもんが飛び掛ってくる、その瞬間――!
「えーーいっ!!」
ぼくは飛んでくるドラえもんをかわして避け、全身のありったけの力を込めてドアを勢いよく引いた!
「え!?」
突っ込んできた勢いのままドラえもんは――!
バァァン!!
……と、とんでもない音を立てながらドアに激突した。
「う〜ん」
チャンスは目を回している今しかない。慌てて靴を履きなおした。
「ごめんな! あとでどらやきでも買ってやるから!」
ぼくは全力疾走でその場から逃げ出した。
途中、遠くから「この大馬鹿ものーーっ!!」って声が聞こえた気がしなくもなかった。
59思いっきりミスってました。あ〜。
とりあえず今日はこの辺で。
面白いなぁ。ドラえもんという素材と天使のいない12月という素材を混ぜると、
これだけのものが作れるんだ。
題材が天いなってことで、良い意味で皆の期待を裏切って欲しい。
205 :
192:04/01/04 14:12 ID:AunQquxf
面白いですねぇ。
そしてやり場のない怒りがこみ上げてくるw
小さい頃、周りにこんな友達がいなくてよかったよ。
作者さんの書き方を悪いとは全く思ってないので、
がんがってください。
かなり動きが出てきたね
ホッシュホッシュ
「さてと……問題の静香ちゃんは今どこだろう!?」
走りながら考えた。家にいると考えるのが普通だろうが、家を出てるかも知れない。その場合問題なのは静香ちゃんが石ころぼうしを持っていることだ。
相手が見えないんじゃどうしようも出来ない。
「でも、いいさ。要するに教えればいいんだ! そう、例えここでドラえもんに捕まろうがなんだろうが、
ぼく達が同じ学校、同じ町、同じ時代に生きている限り、この事実さえ教えれば運命は宿命へと変わるんだ!」
そうなれば、もう何も心配する事はない。ドラえもんも反対することはできない。反対したらぼくは静香ちゃんと結婚できない。
そうしたら困るのはドラえもんなんだ! だって使命を果たす事ができないんだもの!
(ぼくは……、君を一人前の立派な人間にしてあげようとこの場所に来たんだ。
その目的の為だったら、別に君が静香ちゃんと結婚しなくたって別に良かったんだ! たまたま結果がそうであっただけだったんだよ。)
実際、ドラえもんが言っていた静香ちゃんとの未来のほかにぼくが幸せになれる選択肢ってあるのだろうか? 正直0に近いと思う。あるわけがない。そうしたらぼくは静香ちゃんと結婚するほかはないんだ! ほんと、ドラえもんも何を意地になってるんだか!
「なんて簡単な理論なんだろう! ぼくが静香ちゃんと結婚することはやっぱり運命的なことだったわけだ! ハッピーエンドはすぐそこだ!
いやっほう、ぼくって最高ーっ!! アハハハハ!!」
――!!
「――ハッ!?」
ぼくはふらついてしまったあげくに膝を地面に付いてしまった。
「な――、何!?」
何だか首のところがジンジン痛い。それに頭がクラクラする! 目の前がぼやける……。
これは普通じゃない、貧血でも起こした? まさか!
――!
目を擦る。はっきりと見えていないけど確かに目の前に何かいる。全体的に青っぽい影が見える!?
「『ドラキュラセット』。血じゃなくて脳から記憶を吸い取る道具」
――その声。言うまでもない!
「ド、ドラえもん!? 一体何をした!!」
ようやく見えてきた。ドラえもんは黒いマントで身を覆い、歯にキバのようなものを付けている。
「君から記憶を吸い取ったのさ、君の未来の事をかけらも残さずに!」
「――え!? あ、まさか!」
「そうだ! 君には当分静香ちゃんと結婚するっていう未来を忘れてもらう!!」
「な、なにぃーー!?」
なんてことしやがる!! って飛び掛ってやりたいけど、正直、意識を保つだけで精一杯だ。
「それと、君と静香ちゃんに何があったかは知らないけど、ここ数日間のことも忘れてもらう。ただ、忘れる量が多いからしばらく時間がかかるけど」
「――ちっくしょう!」
悔しい! やっぱり相談なんかしなきゃ良かった!
「のび太くん。何でぼくが君に静香ちゃんと結婚するっていう未来を見せてあげたと思う?」
「な、何?」
そんなこと――、知らない。
「君に頑張る目標を定めてあげたかったの。……実はこれは君へのお詫びのつもりだったんだ、本当は」
「――え?」
「君と初めて出会った時に『ジャイ子と結婚してドン底の人生を歩む』っていう未来を教えてしまったことだよ。
本当は、未来なんか教えちゃいけなかったのかもしれない。まだ生きている人に対して未来を教えてあげるなんて凄く失礼なことだって思う。
君には君なりに切り開いていくはずの未来があったんだから」
「……」
違う。失礼なんてそんなこと――、は、ないのに……。
「でも君には余りに悲惨な未来を変えるために厳しい現実を認識させてあげた。そうじゃなきゃ君はもうどうしようも出来ないレベルだった。
それはわかってほしい。だから教えてあげたんだ、幸せな未来、源 静香との結婚を」
「……」
もう、声も出ない……。とっくに目が開いていない。
「しかし、それで君が堕落してしまう結果となってしまったかもしれない。ぼくの責任でもある、だからぼくが君の手で忘れさせてあげるよ。
でも、それは永久じゃない。しばらく時間が経てば、多分1か月ほど経てば君は全てを思い出すだろう。
……その時までに何とか、考え方を改めて欲しいんだ」
「……」
「そう言えば『天使』だっけ? 君は静香ちゃんのことを天使って言ってたけど、これからはその天使もいないかもね。
あの子は今、君以外の誰かを好きになってるわけだし」
「……」
「君の心の支えとなっていた天使はもういない。これから、君は『天使のいない12月』を過ごすといい。そして君は色々と勉強してくるといいさ。
もういない誰かさんに、ね」
「――!」
ガン! と何かを打ちつけた音。多分それはぼくが地面に頭を打ち付けた物だったのだろう。
でも、もうその時には、ぼくの意識はなかったのだった。
「う、う〜ん」
何だか、視界がぼやけている。
「ふぁ〜っ」
思わずあくび。目を擦る。
「……あれ?」
ここはぼくの部屋。でもってぼくはパジャマじゃなくて普通の服のまま布団で寝ていた?
時刻は4時半。窓の外はもうそろそろ日が落ちそうだ。
「起きた?」
声のした方向を振り向くとそこには座布団であぐらを掻いてるドラえもんの姿。
「あ、あれ!? ぼく昼寝してたんだっけ!?」
何だか妙な胸騒ぎ、言い知れぬ不安感に駆られている。
「だって、さっきまで寝てたんだから昼寝してたんでしょ? 寒いからって布団まで出して」
「あ、ああ〜、そうだよねえ。そうだ、そうだよなあ〜?」
何だか……、変な夢を見ていた気がする……。
「そう言えば、えっと、何か今日犬がどうたらこうたらって考えてたけど何だったけ?」
「え!?」
何故かドラえもんは驚いている。
「確か……、拾った犬が何かあってさ、そしたら誰かがその犬拾った……、とかそんなことがあった気がするんだよね」
「……たぶんそれは昨日君が犬を拾った、それでもって目を離してる隙に女子高生がその犬を拾った。そんなことがあったんじゃない?」
「そーだ、そーだ! 確かそんなことがあったぞ! 何だか知らないけどすっかり忘れてた!」
「やれやれ、君は覚えるのも苦手だったのは知ってるけど、忘れることも苦手だったのか。
ま、肝心なことはきれいさっぱり忘れてくれてるみたいだからいいけどさ」
「……? 何か言った?」
「別に」
何故か拗ねた顔を見せている。
「あっそ。じゃ、今からその犬に会ってくるよ。ドラえもんも来る?」
「いいよ、今日は一日反省してる」
「え? どうかしたの? ガールフレンドのミイちゃんでも怒らせたの? それともどらやきでも腐らせた?」
「あ〜、気にしなくていいよ。それよりさっさと会ってきなさい。真っ暗になる前に」
「あいよ。それじゃタケコプター貸して」
「はいはい」
タケコプターを受け取った。これで暗くなるまでにはギリギリ帰ってこられるだろう。
「あ、それとあの犬が今どこにいるかわかる道具ないの?」
「え?」
「そう言えばぼくさ、今どこにあの犬がいるか知らないんだよ。あの女子高生もよく知らないし」
「やれやれ……」
たいそう面倒くさそうにドラえもんはポケットをあさり始めた。
「『進路アドバイザー』(※41巻)」
ドラえもんが取り出したのは、……丸い棒に野球のボールみたいなのが付いてる道具。
「困ったときにこれに質問してみる。すると進むべき道筋が出てくる」
「??」
「実際にやってみるよ。まずスイッチを入れる。そして『昨日の犬はどこ?』、こんな感じで質問する。すると……」
何やらボールからカタカタと音を立てながら紙テープみたいのが出てきた。
「ホラ、これに『左、直、右、右、左……』って書いてあるでしょ。家を出たらこの通りに道を進めばあの犬に会えるってわけ」
「えっと……?」
「つまりさ、『直』なら曲がり角を無視して直進。『右』なら次の曲がり角を右に。『左』なら左。そんな具合にずっと進むわけ」
「ああ、だいたいわかった。それじゃ行ってくる」
「あのさ、そのテープを見ながら進むわけだけど車には気をつけるんだよ。うっかりトラックに跳ねられちゃったなんてシャレじゃ済まないんだからね!」
「わかったよー」
次回からもう少し気合入れていきます。
公式サイト、まだ鯖のほうが準備できてません〜。
>>209-213 乙。のびたの性格が相当ひねくれてるな…天いなを題材にしているから仕方ないかもしれんが
216 :
名無しさんだよもん:04/01/08 10:15 ID:L3SA7dL/
普段から逃げてばかりで自信のないのび太。いつものように先生に叱られ、ジャイアンからいじめられ、空き地に寄り道をする。
がっくりと落ち込んでいるのび太の上空から何か降ってくる、風までも切るかのような刀が。
ザクッ
刀が地面に突き刺さる。まるで濡れているかのような刀が。空を、辺りを見渡しても誰もいなかった。
あと一歩で自分に刺さる直前だったので怖くなり、大急ぎで家に帰る。
「ドラえも〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」 挿入歌 「ドラえもんのうた」
【ドラえもんのび太と戦国時代】
映倫 12325
翌日、恐る恐る、空き地に行ってみたが、刀はなくなっていた。その日を境に日常でも、夢の中でも戦をするような声に悩まされる。
ドラえもんにも相談するが、疲れているのだろうと言われるだけだった。それでも確かに聞こえてくる。
現代では聞き慣れない言葉、「武士道」、「潔さ」、「打ち首」など、のび太には理解できないものばかりだった。
そんなこんなで疲れ果てるのび太を、またジャイアンとスネ夫にいじめる。
空き地にまで追いやられ執拗にいじめを続けるジャイアンとスネ夫、その時、のび太がいつもと違う眼を向ける。 そして…
「無礼者!!」
自分でも言うつもりがなかったに口が動いていた。唖然とする二人。その言葉に反応するかのように、またあの刀が空から降ってきた。
身体が動いた、静かに刀を掴む、ジャイアンたちに刀を構えるのび太。いつもと違うのび太に怖くなったのか、逃げ出すジャイアンとスネ夫。
「お見事です、殿」
どこから聞こえたのか、その言葉と同時に、いつも見慣れた空き地ではなくなり、広大な野原に立っていた、戦国時代に。
後に、この時代からのび太、他の4人はかけがえのないモノを知ることになる…
【ドラえもんのび太と戦国時代】〜より引用文
原作 藤子・F・不二雄 監督 藤本 弘 助監督 才野 茂
しんちゃんぽいな
218 :
名無しさんだよもん:04/01/09 10:31 ID:To6Usq3n
頭が痛くなった…
ポカポカと陽気のいい春の季節。そのあたたかい日射しは学校も包み込んだ。
「野比ィ、野比ッ!」
何度も呼ばれるが気持ちよさそうに夢の中に入っている。
「ふぁ…?……は……はい!」
「授業中に居眠りとは何を考えておる!この問題を前に出てやってみなさい!」
「……はい」
黒板の前でもじもじする。チョークを持つがその手は動かない。
「どうした、早くやりなさい」
「…分かりません」
「こんな簡単な問題が分からんとは授業中いったい何を聞いていたんんだ!
もういい!出木杉、答えなさい」
「はい、27です」
「よし」
「最近みんな、たるんどる。出木杉を見習いなさい
宿題は間違えずやってくるしテストはいつも100点だ
今日はたっぷり宿題を出す。忘れずにしっかりやってくるように」
「「「ええ〜〜〜〜〜〜!!?」」」
教室に不満の声が上がる。
「野比は廊下に立っていなさい!」
「……はい」
「先生もひどいよ…あんなに宿題を出されたら朝までやっても終わらないよ……」
一人でとぼとぼと歩いているなか、辺りが暗くなる。
ゴチン!
突然、頭に強い衝撃が走る。
「痛いッ!」
「やい!のび太!!」
「おまえのせいだからな!」
校門で待ち伏せていたのはいつもの二人だった。
「……………」
「今日はジャイアンズの練習日なのにだいなしになっちまっただろ!」
「そうだ、そうだ!どうしてくれるんだ!!」
食いつくようにのび太を責める二人。また殴ろうとするジャイアン。
「し、知らないよ!!」
すかさず逃げ出す。
「「こら、逃げるのか!!」」
なんとか逃げきれたがしょぼくれて下校するのび太。
「ハァ、ハァ…ボクだって好きで怒られているわけじゃないのに…」
後ろを振り向くが誰もいない、逃げ切れたようだ。
曲がり角にしずかちゃんがいるのが見えた。
「そうだ!しずちゃんに教えてもらおう!!
ついでにおしゃべりしようっとウヒョヒョ!しずかちゃーーーん!!!」
「あら、のび太さん」
「やぁ、のび太くん」
(出木杉!?)
「のび太くんもいま帰りなの?いっしょに帰ろうよ」
「ああ…」
出来杉に誘われてなにか釈然としないのび太。
「でも出木杉さんって本当に頭がいいのね」
「いやぁ、たまたまだよ」
さわやかな笑顔で話す出来杉。
(くぅ〜!「たまたまだよ」だよって!キザなセリフ!)
「一人で勉強しているのにあれだけ成績がいいんでしょう。尊敬するわ、ねぇのび太さん」
「……うん」(くそぅ〜!見てろ〜!!)
内心が怒りで爆発する。
「ちょっと用事を思い出したから先に帰るね」
「ええ、さよなら。のび太さん」
かけ足で家に直行するがいつまでも二人の笑い声が聞こえてくる。
のび太の家の門の前に立ち止まる。右手には0点の答案を握りしめている。
「宿題のことはママにだけは気づかれないようにしないとな」
そ〜っと扉を開く。気づかれていないようだ。
ガシャン
急に閉まるドアの音が予想外に大きく驚く。
でも気づかれたような様子がない。
(いないのかな?)
居間のふすまをおそるおそる開けてみるが誰もいなかった。
そーっと台所も見ていたがやはりいない。
「ママー、帰ったよ」
辺りに声をかけてみるが返事はなかった。
「そうか、買い物か」
くつろいでおいしそうにどら焼きを食べているドラえもん。
ドタドタドタドタドタ!!
そこに階段を登ってくる音がする。
勢いよく扉が開かれる。
「ドラえもん!」
「おかえり、またジャイアンに追っかけられたのかい?」
ランドセルを放り投げ、すごい勢いでドラえもんに向かっていく。
「ドラえもん!先生がまた宿題をどっちゃり出したんだよ!それに出木杉のやつめ!
しずちゃんとデレデレしてるんだ! こうなったら今日の宿題をやって見返してやる」
支離滅裂な言動を興奮して早口ではなす。
「じゃ、早くやったほうがいいね」
「だから例のペン出してよ」
のび太が手をさしのべる。その手は鉛筆をもつような手になっていた。
「例のペン?」
きょとんとするドラえもん。
「またまた〜、分かっているくせに〜。コンピューターペンシルのことだよ」
「もう使わないって約束しただろ!!」
「今回だけ!お願い!もう二度と使わないからさ」
「いま見返すって言ったじゃないか!?」
「僕の頭であれだけの宿題をやったら一年かかっても出来ないって君も分かってるだろ」
「あきれた!」
「ねぇ〜、ドラえもんく〜ん。今日の僕のおやつをあげるからさ〜」
「……今回だけだよ」
「さすが!ドラえもん!分かってる!!」
ポケットをごそごそさせながらあきれているドラえもん。
「ホントに、もう…………」
バチン!
スイッチの切れるような音と共にドラえもんが突然倒れる。
「ん?」
いつもの声の返事がない。
「ドラえもん。どら焼き食っちゃうぞ」
どら焼きを食うふりをするが反応がない。
「どうしたの!?ドラえもん!!」
いくらゆすっても反応がなかった。
「どうしたんだよ!ドラえもん!!しっかりして!!」
しばらくぼーっとしているのび太。やがてカラスの鳴く声が聞こえてくる。
部屋が赤く染められる、夕焼けが見えてきた。何かを思い出しそうになった。
「そうだタイムふろしきだ!!」
急いでドラえもんのポケットに手をつっこんだ。無我夢中で。
だけどいつもの広がるような開放感がなくなっている。ただのポケットになっていた。
「何なんだよ!一体!!」
焦りを抑えられない。
押し入れにあるスペアポケットも試してみたが同じだった。普通のポケットになっている。
「タイムマシン!」
机の一番上の引き出しを開けたが、ただの机になっていた。
「………そんな」
他の引き出しも開けてみたがただの机だった。何もする術がない。
「…お願いだよ…目を覚まして…もうわがままなんて言わないよぅ…
…自分の力で100点を取る……絶対に困らせたりなんてしないから!
…そうだ!…おやつだって全部ドラえもんにあげるよ!!だから!!!」
止めどなく流れる涙がドラえもんを濡らす。
「…………………」
何の反応がない
「わああああああああああああああああああ!!!!」
バチバチチバチチチッチチチチチチチチチチチチチチチ!!!!!
「なんだ!?」
空間にひずみが出き始める。そこから見覚えのあるタイムマシンが現れた。
ただいつもと違うのはぼろぼろになっていた。見慣れた黄色いロボットがタイムマシンに座っていた。
「…ドラミちゃん!良かった!!」
さらに涙が出るのが押さえられなかった。やっと辺りが明るくような気がした。
「のび太さん!お兄ちゃんは!?」
「それが大変なんだよ!!」
横たわっているドラえもんを見る。
「やっぱり……」
ドラえもんの状態を診るドラミ。まずドラえもんのポケットに手を入れた。
それから引き出しを調べた。
「まさか…ドラミちゃんも」
「ええ…私の四次元ポケット、道具も使用不能になっているの」
「…それじゃ…ドラえもんは大丈夫なの……?」
「のび太さん!私もここには長くはいられないの!!
タイムマシンも無理をさせたからあと一回ぐらいしか使えないわ」
急いでタイムマシンに乗り込むドラミ。
「待って!ドラミちゃん!!ドラえもんは!?」
「…お兄ちゃんは…もう動かないかもしれない」
「……そんな」
バチチチッッチチチチチチチチチチチチチチ
再び空間にひずみが広がる。その反動か、ドラミのタイムマシンから煙が出ている。
「でも…のび太さんがお兄ちゃんのことを想っていくれているなら
いままで経験してきたことをずっと覚えてくれるなら
もしかしたら未来政府を覆せるかも……………」
話が途中のまま途切れる。
バシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ
ドラミのタイムマシンが消える。日が沈んだ…
「のびちゃーん、帰ってきたの〜?」
一階から母親の声が聞こえてくる。
「…………………」
・
・
・
・
・
・
「野比、出木杉よくやった。 いつも全問正解しているのは野比と出木杉だけだ
それにひきかえ、剛田と骨川はなんだやってこないとは!廊下に立ってなさい!!」
・
・
「しずかちゃん、一緒に帰らない?」
「ごめんなさい。出来杉さん。友達と約束してるの」
「そう、じゃあね」
・
・
「のび太さん。いっしょに帰りましょ」
「うん」
・
・
「すごいわね、のび太さん。昨日の宿題はとくに難しかったのに
それに前回のテストは100点だったもの。尊敬するわ」
「ありがとう」
かすかな笑顔を見せる。
「ねぇ、これからうちに遊びに来ない?」
恥ずかしそうにのび太を誘う、しずかちゃん。
「ごめん、用事があるんだ。さよなら」
「……そう」
見送るのび太の後ろ姿にはどこか陰があった。
(忘れちゃったのかな…ドラちゃんのこと…)
「あ、雪だ…」
落ちてくる雪に手をさしのばすしずかちゃん。
・
・
「やい、のび太!」
「お前みたいな真面目な奴がいるからこっちが迷惑するんだぞ!」
「……………」
ゴチン!
力任せにのび太を殴るジャイアン。
「……………」
何の表情も表さない。ジャイアンの眼をしっかりと見つめる。
「な、なんだよやるのか!?」
「もう行っていい?」
「あ…ああ」
「どうしたのジャイアン、行っちゃうよ?」
「…あいつ…どうしちまったんだ…」
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
のび太が突然、大人のように変貌する。
とまどう、親、周囲の友人たち。
しずかちゃんがそんなのび太に恋をするのは無理がなかった。
誰より違う目をする少年、誰よりも違う世界を生きる少年になったから。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
そして物語は15年後へ…
工エエェ(´д`)ェエエ工
・
・
・
ドラえもんが止まってから15年。
この月日は、ドラえもんを忘れていくには充分な時間だった。
未来とつながりが絶たれたときから次第に、ドラえもんとの思い出も消えていくようになった。
トントントンッ
「そろそろ帰ってくるころね」
時計を見ながら料理を手際よく終わらせる。
「ただいま」
(帰ってきた)
エプロンを脱ぎ、玄関に迎えに行く。
「おかえりなさい、あなた」
「ああ」
のび太の靴をきちんと整える。
「ご飯にします?」
「頼む」
コートを預かりハンガーに掛ける。のび太はそのまま階段を登っていく。
「ご飯ができたら呼びます」
「ああ」
いい香りがするスープの味見をする。
「うん、今日も上出来ね!」
料理の用意ができたので二階へのび太を呼びにいく。
コンコン
鉄製のドアを軽く扉をたたく。
「ご飯の用意ができましたよ」
部屋から返事がない。
「仕事部屋のほうかしら?」
足をさらに奥へ運ばせる。
(めずらしいわね。私がいるときは行かないのに)
コンコン
「ご飯ですよ」
「ああ、静香、入ってきてくれ」
小さな返事が扉の向こうから聞こえてきた。
(どうしたのかしら。この部屋には入らせてくれなかったのに)
「はい、失礼します」
鉄製のドアを開ける。
手にひんやりと冷たいのが伝わってくる。
「…え?」
ドアを開けたらもう一つドアがあった。
(どういうこと?)
二つ目の扉は木製のドアだった。
「入ります」
「ああ」
ギィ
少しきしませながら扉を開ける。
開けた先に広がる光景にはどこか違和感があった。
どこかで見たような部屋の配置。
「ここは…昔のあなたの部屋」
幼少の頃の、のび太の部屋そのものだった。
今では懐かしい、畳、机などがそろっている。
「長い間、秘密にしてたね」
「どういうことなの……これがあの時の……」
「うん、この思い出だけは、壊したくないから、失いたくなかったから」
「…いいえ、やっと話してくれて嬉しいわ、あなた」
「すまない」
部屋にまだ何かがあった。のび太が移動すると確認できた。
真ん中にそれはあった。どこか非常に懐かしくさせるものが。
「覚えているかい?」
「…ええ」
「…みんなは記憶を失っていったのに、なぜか君だけは覚えていたね
だから僕は大人になっても君に近づいたのかもしれない、この想いを共有したかったから」
「それだけの為だけに…?」
「うんん、それだけじゃない、君を好きだという気持ちは子供のころから少しも変わらないよ。静香」
「…うれしい」
「それは?」
「僕が、僕なりに15年間築いてきたものだよ」
「それであの職業に…
なぜ、あの日からあなたが遠い人になったか、やっと分かったわ」
「つらい想いをさせたね」
「いいえ、それでも、私とても幸せでしたから」
「ありがとう」
ずっと造っていた部品のようなものを丁寧に組み込む。
ブウウウウン
短い起動音が鳴った。
「やぁ、のび太くん
宿題はできたかい?」
「できたよ、ドラえもん」
完
せめて葉鍵と絡めてくれよ…
コピペでしょ?
>>241-242 すみません。書きこむところを間違ったみたいです…
リンク先から移動してきたので。本来、カキコするところは別の板でした。
>>243 かっこいいサイトですねぇ。
お気に入りに追加しました。
お騒がせしました。失礼します。
保守
保
>>244 がんばってください。
そのスレで『幽霊舞踏会』とかやってたの、実は私なんで。
「えーと次は『左』と……、結構面倒くさいなあ!」
こんなのが全部で30はある。それにちゃんと自分が今どこまで行っているか覚えておかなくちゃいけない。
「次を『直』と。えっと、昨日はあの人どこら辺で犬を拾ったんだっけ?」
そうだ……、そう言えば昨日のこと、確かに大泣きして大騒ぎしたのは覚えてる。しかし、何故かどことなくモヤがかかっているようにハッキリとしない。
「疲れてるのかなー、ぼくも」
家帰ったらまた寝よう。暖かい布団でグッスリ寝る。それがぼくにとって一番の幸せなんだ、これ以上幸せな事ってあるかい?
「そろそろかなあ?」
ちょっとドキドキしてきた。考えてみればあの犬はまだ助かったかどうかわからない。
「大丈夫、だよなあ……」
病院のお医者さんは一応犬の容態は落ち着いたとか言ってたはずなんだ、でも100%助かったとは言っていなかった。
「次を『左』。ってアレ? ここ公園じゃないか」
目の前には見慣れぬ小さな公園。地面に降りてタケコプターを外す。飛んでたままじゃ目立ちすぎるから。
「こっそり見るだけ、気づかれないように……」
ぼくはゆっくりと足を踏み入れることにした。
テープは次の『直』で終わり。目立たないよう道の端を隠れるように歩く。
「ここで『直』。いよいよか……!」
道さえ間違っていなければ、いるはずだ。昨日のあの子犬が……。
「それにしても、公園か……」
思わず嫌な想像してしまう。またダンボールに捨てられてたらどうしよう、とか。
ひょっとしてもう死んじゃってて埋められてるんじゃないか……、とか。
「……あ〜あ、自分で考えてて暗くなってきちゃった」
頭を抱えたその時……。
「……アウ!」
「――!」
今、かすかだけど、犬の鳴き声が……。
「ふふ、ポイ、おなかいっぱいになった?」
「アウ!」
ぼくは木の陰に隠れながらゆっくりと声のするほうに近づいた。
「ポイ、今日は首輪を買ってきたんだよ」
「アウ?」
「ノミ避けの効果もあるんだって。あたし、犬飼った事ないからこれからそういうこと、色々勉強しなくちゃダメだよね……」
「アウ……」
「あれ? 喉渇いちゃったの? えっと……、麦茶でいいのかなー? たぶん大丈夫だよね」
「アウ!」
そこにいたのは、紛れもなく昨日の女子高生とあの子犬だった。
それは実に幸せそうな風景。とても昨日死にかけてた犬と思えないくらい元気そうだった。
「よかった……、これでいいんだ。本当によかった」
ため息一つ。肩の力が抜けた。ようやく気が晴れた。もうあの人に任せておけば大丈夫だろう。
「……帰ろっかな。もうあの子犬は幸せなんだ。邪魔しちゃ悪いし」
ぼくが家に帰るためにタケコプターを頭を付けた、その時。
「あ、こら! ポイ、どこ行くの!?」
「え?」
突如慌てたようなあの人の声に振り向くと。
「ゲッ!?」
なんとあの子犬、ぼくのほうに向かってまっしぐらに走ってくるじゃないか!!
「マズイ、逃げなくちゃ!」
全速力で真上に飛んだ。上なら追ってこれ――!
――ガン!!
その瞬間、頭に衝撃。そんでもって眩暈。目の前には星がひ〜らひら〜。
ちょっと待て、一体なんだってのさ!?
ワケわからないまま地面にあえなくおしりから墜落した。
「アタタタ……」
頭を摩る。思いっきりでっかいたんこぶが出来ている、おまけに情けない事に涙目だ。
真上を見上げる。そしたら木の枝が2、3本折れていた。
あー、そっか! 木の真下にいるってこと忘れてた……。
でもこの程度で済んでよかったかもしれない。枝が細かったからまだしも、もしも太い枝だったら結構危なかった。
――その時、顔を舐められる感触。目を開けると、そこには子犬が。
「って! こらやめろ! あっち行けったら、しっしっ!」
慌てて追い払おうとするも。
「あ、あの……。君、だいじょうぶ?」
遅かった。目の前には眼鏡の女子高生が心配そうに立っていた。
「えっと……、はい、大丈夫です。なんでもないです」
「何だか、すっごい音したよ? 本当にだいじょうぶなの?」
何故かこの人は当のぼく以上にうろたえている。
「いえいえ! へっちゃらですよ!」
とりあえず元気だってことをアピールする。
「そう? ならいいけど……。ところで、君、その犬にずいぶん懐かれてるね」
「え!?」
「実はね、あたし……、その犬拾ったの。だからね、本当の飼い主がいるんじゃないかなって探してるんだけど……」
お姉さんは少し戸惑った顔をした後に思い切ったふうに言った。
「……もしかして、君、この犬のこと知ってる!?」
「いえいえ! ぜーんぜん知りません、こんな犬!」
知ってる、とか言ったら話がややこしくなりそうだから慌てて否定した。
「アウ?」
そこで少し悲しそうな顔をする犬。気持ちはわかってるけどそういう顔しないで欲しいな……。
「そう……なんだ。じゃあ何でこの犬、こんなに君に懐いてるんだろうね……?」
複雑そうな顔。
「いやいや! えっと、それは、ぼくは犬や猫によく懐かれるんですよ! アハハ……」
滅茶苦茶だけどそんな言い訳しか思いつかない。
「ふうん、そう、なんだ……」
「この犬、ポイっていうんですか? もしかしてお姉さんがその名前付けたの?」
「え? あ……、うん」
「何でポイっていうんですか?」
「え、えっと……、チャウチャウっぽいから、ポイ……」
「え?」
ええと、何だかコメントしずらい名前だなー。
「ヘ、ヘン、かな……?」
「え? いやいやとってもいい名前だと思うますよ! ハイ!」
「ほ、ほんと!?」
「う、うん! ほんと! ほんと!」
「そう……、よかった……!」
随分嬉しそうなお姉さん。余程自信がなかったのか?
「そ、それじゃ! ぼくはこれで!」
そう言ってぼくは回れ、右で全速力で逃げ出した。
「あ、ま、待ってー!」
「アウ!」
待てるわけがない、ぼくは今度こそタケコプターで空へと逃げたのだった。
「やれやれ……」
地上ではお姉さんがぼくのことをきょろきょろと探している。しかし、ぼくは空にいるから見つかるわけがない。
「もしかしてぼくに何か言いたいことでもあったのかな?」
まさか。そんなことはないだろう。
それに、何か言いたかったのはぼくのほうだったんだ。嘘まで吐いて犬を否定したのは犬にとっては悪かったかもしれない。
でも、それで犬がぼくのことを嫌いになって忘れてくれたら……。
イヤ、そうなってくれたほうがいいんだ。
「ただいまーっと」
家に到着したころには早いものでもう日が落ちかけている。
台所ではママが忙しそうに夕食の準備をしている。
「いま帰ったの? 早く宿題やっちゃいなさいよ」
「はーい」
2階ではドラえもんが相変わらず拗ねていた。
「犬さ、元気そうだったよ。名前も付けてた、『ポイ』っていうの」
「ふーん、そう、よかったね」
「なんだよー、その興味なさそうな態度は」
「別に、落ち込んでるだけさ」
「やだねえ。ただでさえ真っ青な顔なのに余計に暗くなっちゃってさ」
「フン!」
やれやれ、何を拗ねてるんだか。
「そういえば日記を付けてた気がする……」
机の上にはノートが一冊、これが日記帳だろう。
「えっと、昨日が『やきゅう、そしていぬひろい』。おとといが『日記を書く宿題を出された。書く事がない』。
……? おとといはいいとして昨日のは何だっけ? この『いぬひろい』っていうの」
「だから言ったじゃないの! もっとちゃんと書かなきゃダメじゃないか!」
「う〜む。ちょっと反省します」
ハテ、今日は何があったっけか?
「う〜ん、今日は『犬に会った。名前はポイ』と」
今までよりは中身がある日記になったと思う。
それから夕食、それでもって寝る時間になった。
「やだなー、そういえばおととい何があったけ? 何にも思い出せないなあー」
「いつものことでしょ、忘れやすいのは」
「なんかあった気がするけど、まあいいや、寝よう」
疲れた。最近疲れやすいかも。ぼくも年を取ったもんだ。
……グゥ。
d子っぽくてイイナ
「朝だ! 起きろ〜!!」
今日もドラえもんの騒がしい声で目が覚めた。
「あ〜、おはようドラえもん」
「ホラ、さっさと急いで!」
あ〜、忙しい。
「行ってきます!」
「車に気をつけるんだよ!」
本日も冬空は快晴だ。何となく今日は何かいいことありそうだ。
学校に到着。今日も教室にはいつものクラスメートが慌しく授業の準備に追われている。
「今日も遅刻しなかったぞ。ぼくってえらいなあ〜」
他の人から見れば当たり前のことながらも、何だか感動してしまった。
「うんうん、こりゃあ朝から気分がいいや」
明日からもこんなふうに出来るといいと思う。
そんなことを考えながらランドセルを下ろしつつ席に座った。
「……?」
……あれ、心のなかで何かが抜けている感じ。
昨日感じた妙な不安感が再び、何かがぼくを慌てさせる――。
「え? な、なんだろ……!?」
訳がわからないまま辺りを見回す。だけどいつもと同じ、特に変わったところはない――?
「あ、あれ? 今日静香ちゃん休みなの?」
ぽっかり空いた一つの席。源静香の席がそこにあった。
「まさか、遅刻? そりゃあないよね。じゃあ、ぼくより後に来るだけなのかな?」
でも、ぼくだって遅刻することなく間に合っただけで随分早く来たってわけじゃない。どちらかというとチャイムが鳴るギリギリだった。
キーンコーンカーンコーン……。
「あ、鳴っちゃった……。風邪でもひいたのかしら?」
それにしても……、なんでこんなにあの子のことが気になるんだろう?
それから朝のホームルームでわかったことはやはり静香ちゃんは風邪をひいて休んでいるらしかった。
「……なんだかなあ」
何かが引っかかっている。それは心のなかで魚の小骨でも刺さっているかのように。
「――ま、いいさいいさ。明日になれば元気になってるだろ」
いちいちこんなことで思い詰めてたって仕方がない。今はあの子が元気になるように願うだけさ……。
「おい、のび太」
「ん……? あ、なんだジャイアンか」
そこに立っていたのはジャイアンとスネ夫。
「喜べ、いいニュースがあるぞ」
「?」
不吉な予感。
「今日からしばらくの間、お前は野球に出なくていいことになったぞ」
「……え?」
そこでスネ夫が一歩前に出る。
「つまりだな、今までどうしても人数の都合上お前を使わなきゃゲームが出来なかったってわけだ。ところがな、この前いい選手がいたんだ」
「いい選手?」
「そう、昨日見つけたんだ。冬休みの間こっちに住んでる男の子が。ほら、北海道の子ってさ、東京より早く冬休みが始まるじゃん?
だからさ、もうこっちにいるんだって。そいつがめちゃくちゃうまくってさ、当分うちのメンバーにいてもらうことになったってわけ」
「……で、ぼくを外したわけー? そんな〜」
ぼくは野球は下手だが嫌いなわけじゃないんだ。出来ないのは嫌だ。
そこでジャイアンが説明する。
「安心しろ。年末のゲームに出てもらうまでだ。年明けたら向こうに帰っちまうってよ」
「なんだ、そんならいいや」
「いいや、じゃねえだろ! それまでちゃんと自主トレーニングしておくように! そうじゃねえと本当にメンバーから外すからな!」
「わかったよお」
「以上、ジャイアンズからの監督命令だ。じゃあな」
「ジャイアン、命令と言うより通告じゃないの?」
「そんなことはどうだっていいんだっつうの! さあ練習だぞ! みんなを集めて来い!」
「オッケー」
なんだかんだ言いながら二人は行ってしまった。
――そう言えばもう昼休みか。最近外に出て遊んでないな。
「ま、寒いし」
チラッと窓の外を見る。みんなはこの寒い中元気に遊んでいる。そう、男子で教室にいるのはぼく一人。
女の子の一部は編み物なんかではしゃいでいる。もちろんそこからぼくに話しかけてくる人はいない。
「……ああ、ぼくって孤独だなあ」
そんなつまらないことを呟いたあと、ぼくはこの時間を昼寝に使うことにした。
「先生、さよーならー」
そして今日も学校が終わった。明日は土曜、学校は休みである。もちろんその次の日も日曜で休み、2連休だ。
「その代わり宿題出されたなあ、嫌だ嫌だ」
『ゆとり政策』とやらで時間割が変わって休みが増えればそのかわり宿題を増やす。あの人はそういう先生だ。
「家帰ったらやろっかな。うん、やるべきだ」
たまにはぼくが真面目になったっていいのだ。そうさ、何せ2学期が終わったら怖い怖い通信簿がやってくるんだから。
「あーあ、静香ちゃんが風邪ひいてなければ、宿題教えに行こうと思ったんだがなあー」
風邪ならしょうがないってもんだよな。
ホッシュホッシュ
微妙に訂正
「あーあ、静香ちゃんが風邪ひいてなければ、宿題教えに行こうと思ったんだがなあー」
↓
「あーあ、静香ちゃんが風邪ひいてなければ、宿題教えてもらおうと思ったんだがなあー」
立場がまったく逆じゃん。
「ただいまー。ママー、おやつ〜!」
「はいはい、ちゃんとうがい手洗いしてからね」
「は〜い」
「ジャ〜ン! いい? 驚かないでよ、のびちゃん!」
「な、なにさ?」
妙にママが張り切っているからぼくが思わずうろたえる。
「今日のおやつはケーキなのよ!」
「ケーキ!? うわぁい! やったあ〜」
ママは冷蔵庫から紙製の真っ白い箱を取り出す。
「これね、有名なお店らしいのよ。何かの雑誌で紹介されてたらしいんですって!」
ママがそんなことを言っていると2階からドタドタと何かが降りてくる音が聞こえてきた。
「なになに? ケーキだって!?」
その正体は舌をだらしなく垂らしたドラえもんである。
「うわあ、来ると思った! うまい食べ物の話をすると必ずドラえもんがどこからともなくやってくるんだから〜」
「ムッ! なんだと!?」
「こら、のびちゃん! ……ちゃんとドラちゃんのぶんもあるわよ!」
「本当!? やったね!」
「先着順だぞ! ぼくから先に選ぶんだい!」
ママはオレンジジュースを用意していた。
「じゃあ開けるわよ」
ママがそっと開けると、そこにはケーキが3つ。
ちょっと見かけが違う2つのチーズケーキ、それとチョコボールみたいのが乗っけられてるケーキ、うまそうだ。
「ぼくはこのチョコレートのやつ!」
一番甘そうでうまそうだ。ところがママがそれを制する。
「ダメよ! これはザルツブルガートルテ! お酒が入ってるの! これはママのぶん!」
「なーんだ。じゃあぼくはこのチーズケーキ。ええと……これはレアチーズケーキっていうんだっけかな?」
「のびちゃん、それはトプフェンオーバストルテっていうのよ。レアチーズケーキでも一応間違ってはいないけれどね」
「ええと、ぼくはこのチーズケーキ、なんていうの?」
ドラえもんのは焼きチーズケーキだ。
「確かねそれはゲバッケネ トプフェントルテよ」
「ゲバッケネ?」
「ウィーン風ベイクドチーズケーキらしいわよ」
「なるほど、まあおいしそうだから名前はなんでもいいんだけどね」
「早く食べようよ! いただきまーす!」
ぼくは早速ラップを取ってフォークで食べてみた。
「ウマ〜イ!」
「あら! これは本当においしいわ!」
「うん! こりゃおいしい!」
みんなで感嘆の声を上がる。これはかなり上等な味だ。
「そうそう、このお店ここからちょっと遠くってね。歩いて30分くらいかかっちゃったかな。でも、その甲斐があったわね。あ、それと変わったお店の名前なのよ、ちょっと覚えづらいくらい」
「へえ〜、何て名前なの」
ドラえもんが応対する。ぼくはひたすら食べる事に夢中になっていた。
「えっと確か、『維納夜曲』っていうのよ」
――!?
ウインヤキョク……。
どこかで聞いたような……、そして何かそこであった気が……!
「エ? 牛飲馬食?」
「違うわよドラちゃん! ウィーンの夜曲じゃないかしら?」
「ヘエー、でも牛飲馬食のほうが面白いかな。ってあれ? のび太くんどうしたの? さっきから全然食べてないじゃない」
「え! あ……、いや何でもないよ。うん! このトプヘーオーバーはおいしいなあ!」
ぼくの中の何かがざわめく。何か、何かがそこにある気がする……。
「……うん、ごちそうさま」
「ごちそうさま!」
そこでドラえもんはひとつ伸びをする。
「さぁて、4時から『全世界キャットショー』が始まるんだ! 見なくっちゃ!」
そう言って居間の方へ走っていってしまった。
「……どうしようかな」
このモヤモヤを解消する方法、それはそこに行くべきなんじゃないか……。何かが待ち受ける『維納夜曲』に。
「よし!」
ママは台所で洗い物をしている。
「ママ!」
「なあに? のびちゃん」
「パパのぶんは?」
「え?」
「パパのケーキはどうしたのさ? ぼくたちだけで食べちゃ悪いじゃない?」
「まあ……そうね。パパ最近太ってるの気にしてるみたいだから買わなかったんだけど、だからって買わなかったのはちょっと可愛そうだったかもね」
「だろ? だから今からぼくが買ってくるよ!」
「ええ!? 今から行くの?」
ママはそこで洗い物の手を止める。
「大丈夫だって、ドラえもんの道具さえあればすぐに飛んでいけるって!」
「そうねえ、でも道がわからないんじゃないの? ここから結構遠くてさらに裏通りにあるお店だから迷いやすいのよねえ」
「いやいや、それもドラえもんの道具でなんとかするさ!」
「まあ、のびちゃんがパパの為に行くっていうのなら止めはしないけどね」
「よし! 決まりだ!」
「ドラえもん!」
「あ? 何、今から始めるところなんだから話しかけないでくれない?」
「ママにお使い頼まれたんだ、ちょっと道具かしてちょうだいよ」
「え?」
「……ふうん、なるほど。じゃあ昨日貸した『進路アドバイザー』と『タケコプター』を貸しておくよ」
「よしきた!」
「それじゃ、がんばってね。オッ! 始まったぞお〜!」
ドラえもんがテレビに夢中になっているのを尻目にぼくは玄関を飛び出した。
「左、直、右、右、左……」
今日は晴れてはいるが昨日と比べると風がある。このぶんだと雪が降るのも近いかもしれない。
「寒いなあ〜」
何せ空を飛んでいるから余計に風が当たる。指がガタガタ震える。手袋でもしておくんだったか?
「何となく昨日と同じ方向みたいだな……」
そういえば昨日会ったお姉さん、名前を聞いてなかった。聞いておけばよかったかな?
「いや、もうぼくは関わらないほうがいいのさ」
あの犬、今どうしているだろう? 名前は確かポイっていったか?
「ポイ、か……。何だか響きがポイ捨てのポイって感じであんまし良くないなあ」
思いかけず失礼なことを呟いた。ちょっと反省。
「おっと! どこまで行ったかな?」
この道具の欠点は自分がどこまで行ったかしっかりと覚えておかなくちゃいけないこと。今更ながらうっかり者のぼくには不適切な道具のような気がする。
「下手したら思いっきり迷っちゃうからなあ。まったく、ドラえもんももうちょっと便利な道具持ってないのかしら」
しかしもうここまで飛んできたら引き返すのもめんどくさい。
「えっと……、学校の裏山を越えていくのか」
裏山に沿って進むということだ。右手にはぼくの学校。この脇を通っていく。
このてっぺんに一本杉があるこの山はぼくが通う小学校だけじゃなくて中学校(宇宙開拓史参照)や高校もあるのだ。東京では数少ない自然豊かな環境がこの場所を選ばせるのだろう。
「次は『右』。まだまだ続くなあ、もっともっと先なんだ。確かにこりゃあ遠いや」
やがて高校が見えてきた。何て高校なのかは知らない。
「あのお姉さん、もしかしてこの学校に通ってるのかな? あの時は私服だったからわかんないけど」
それはどうでもいい。今はケーキ屋さんを……。
と、その時。
「……アウ」
「!」
一気にブレーキをかけた。今ぼくは地上から20メートルの位置にいる、なのに犬の鳴き声がかすかに聞こえた。
「この鳴き声……!」
辺りを見渡す。高校の敷地内は特に何もない。道路を眺めてみても何も見えない。
「でも、確かに聞こえたんだよな。あの犬の声が」
確かにどこかにいると思う。何か見落としてる?
その時、またどこかで『アウ!』っていう鳴き声が……。
「もしかして学校の屋上!?」
その人は寒々しい学校の屋上で子犬と一緒に座り込んでいた。
いや、黄昏ていたという表現が正しいのかもしれない。その後姿がなんだかとても孤独そうに見えた。
その後姿でもわかる、この人は昨日の眼鏡のお姉さんってことが。
「どう……、したんですか?」
お姉さんはビクッ! っと驚いたような反応を見せたあと震えながらぼくのほうを振り向いた。でも声をかけたのがぼくだってことがわかると今度は目を丸くした。
「なんで……、君がこんなところにいるの!?」
そりゃ小学生が高校の屋上にいれば誰だって驚くだろう。でも今はそれどころじゃない。
「その犬……」
「あ……!」
ぼくは指差すとお姉さんは慌てたようにその犬を隠すような素振りを見せた。でもそれは無駄なことだってわかったらしい。
「アウ!」
犬は相変わらず元気そうで、今にもぼくの所に飛びかかってきそうだ。でもお姉さんは必死になって犬を抱きしめている。
「何かあったんですか?」
「……」
何も言わなくたってわかる。大変なことが起きてることぐらい。
「……実はね、その……、君に話があるの……」
顔を下に背けたままお姉さんはボソッっと言ったと思ったら。
「この犬、君が飼ってくれない!?」
「ええっ!?」
何やら予想外の事を言ってきた。
「……この子ね、最初迷子だと思ったの。昨日の君の時のように人懐っこかったから……。でもね、色々と昨日警察とかに問い合わせてみたらそういう迷子の届出はないって……。保健所にも、どこにも出てないって!」
……まさか。嫌な予感がしてきた。
「だからね、どうしようかなって考えた。ほんとうに何度も考えた! でもね、うちマンションだから飼えないの……。飼う事なんて出来ないの……! ほんとうにどうしよう……!!」
そこでお姉さんはワッと泣き出してしまった。
そうか……。この人も結局飼えなかったのか……。
拾った日のことを思い出す。あの時ぼくはこの人はこの犬に関わる以上、飼う覚悟で拾ったとか、もしくは拾った後はなんとかしてくれるんじゃないかって思ってた。でも違うんだ、この人はこの犬が死ぬのを見ているのを見過ごすわけにはいかなかっただけなんだ!
ただそれだけのこと。そこに責任も覚悟も何もない。ただこの人は優しすぎただけ……。それはぼくと同じように。
でも、優しさで守れるあしたなんかどこにもない。今更ながらこの人はそのことに気づいてしまったんだ。
「しーちゃんにも……、お友達にもあたし相談したの。でもね、しょうがないっていうの、その犬はしょうがないって言うの! そんなのイヤ! やだよぉ……」
(なッ…!! しょうがない…。って、何だよ!? しょうがないって! この犬はまだ生きてるんだぞ!! 死んでもしょうがないなんて…そんなことがありえないんだ! あっちゃいけないんだ!!)
「この犬はまだ生きているんだよ……! まだここで、こうして息をしてる! あたし、この犬を助けてあげたいの、あげたかったの! でも、それは出来なかった、あたしがバカだから……! 何にも出来ないバカだから……!!」
―本当に馬鹿だった。馬鹿みたいだった―
―ぼくはスーパーマンでもウルトラマンでもない。ただの馬鹿なんだ―
―何にも出来ないってこともわかってないほどの馬鹿だったんだ―
「だから……、せめてこの犬を出来る限り守らなくちゃって思った。学校に連れてきた。でも居場所なんてなかった、屋上しかなかったの……。
でも、もう……ダメなの、先生達が大騒ぎしてる……。この子を保健所に連れて行くって、探し回ってる! そんなことさせない……、させたくない! でも、……でもぉ……、うっ、ひっく……」
「……」
「だから……、だからお願い! 君だけが頼りなの! 君、確か昨日犬とかに懐かれやすいって言ってたよね? だから、この子……出来たら……、飼ってあげられないかな?
じゃないとこの子、死んじゃう……! あたしのせいで死んじゃう!! お願い……、おねがいだからぁ……!」
「――それは、できません」
「!」
ハッ! っと驚いたように口に手を当てるお姉さん。そして、しばらくして口を開いた。
「そう……、だよね。いきなりそんなこと言われても無理だよね。あたし、バカだから……」
「そうじゃないんです!」
「え!?」
ぼくが言いたいことはこの人を責めるような言葉でもない。この人を慰めてあげるような言葉でもない。
「ぼくも拾ったんです。その、子犬を……」
ぼくはぼくが馬鹿だってことを言わなくちゃいけないんだ!
「えっ? ど、どういう意味!?」
驚くお姉さん。ぼくは意を決して全てを話すことにした。
「ぼくは最初その犬がダンボールに入ってるのを見たんです。でもぼくも家じゃ飼えないってこと、わかってたんです。
どうしようかと悩んでいるうちにその犬が病気で死んじゃいそうになって……! ぼくは助けを求めるために一度家に帰ったんです。でもその間にその犬、お姉さんに拾われてて……」
お姉さんは戸惑いながらぼくの話を聞いている。
「お姉さんに拾われて、病院に運ばれたってわかった時、てっきりお姉さんがこの犬の面倒を見てくれるのかなって思い込んでました。それでぼくの責任はなくなったって思い込んでました!
しかも、ぼくはずうずうしくも関係ない振りしてその犬に会いに行ってました。ぼくは、ぼくは、その犬を捨てた人間と同じ、ずうずうしい馬鹿な奴です!」
ぼくは膝まづいた。
「ごめんなさい! お姉さん一人にその犬を押し付けて!!」
「そ、そんな……!」
「ぼくだって馬鹿なんです。お姉さんなんかよりもとんでもなく馬鹿なんです……!」
「そうじゃない……、君はそんなんじゃないよ!」
「ぼくは……」
こんなことで許されるわけじゃないんだ。本当はこんななんじゃ済まないんだ!
ところが、その時にぼくの頭の上に暖かい感触。お姉さんが手を置いているのがわかった。
「顔を上げて……、あたしだって君とおんなじ……。君だけが悪いんじゃないよ、あたしだって悪いの」
ぼくは言われた通り顔を上げた。お姉さんはぼくに対して微笑んでいた。
「だから、君が謝る必要なんかまったくない……。あたしだって、本当は君に謝らなくちゃいけないかもしれないよ……、せっかく君の代わりにこの犬を世話して世話してあげようと思ったのに、こんなことになっちゃうなんて……」
ぼくは慌てて首を振った。そんなことはないんだ。このお姉さんはぼくなんかより十分に頑張っていた!
「だから、君は……」
その時だった。
ガン! ガン!
「!?」
「!?」
屋上のドアから聞こえてくる乱暴に叩く音。
「栗原! 栗原いるんだろう! お前が犬を連れているのを見たって奴がいるんだ! 観念しろ!!」
「ふぇえ……! いや! 来ないで!!」
「ど、どうしよう!?」
多分あれはお姉さんが言ってたこの犬を保健所に連れて行こうとするこの学校の先生だろう。連れて行かれたら一貫の終わりだ。そうなればこの犬は保健所に連れて行かれて殺されるだけだ。
「いや……、いやぁ!!」
お姉さんは自分の耳を塞いで泣き叫んでいる。パニック状態だ。その一方、犬はお姉さんを必死になだめようと顔を舐めまわしている。
――この状況でこの犬を助けられるのはぼくだけだ。今度はぼくがこの犬を救う番なんだ!
「やるしかない!」
ぼくは無理矢理お姉さんから犬を引き剥がした。
「え!? な、何するの!?」
「ぼくがこの犬を助けるんです! ちょっと待ってて!」
ぼくはまずタケコプターを頭に付けた。そしてポケットにしまっておいたあの道具を取り出す。
「進路アドバイザー!」
「……ふぇ?」
お姉さんは当然のことながらぼくがやっていることをわかっていない。
「説明はあと! 見てて!」
スイッチを入れた。ぼくがこれから向かう先は維納夜曲じゃない!
そこで、ふとスネ夫が言っていた言葉を思い出す。
「ハァ〜。捨て犬にそんなことまでするなんて…、まるで天使みたいな人だな!」
天使はこの人の他にもいるのか? いると信じたい、いると信じてる!
「この犬を飼ってくれる人! 全速力で探して!!」
機械はチン! って、まるで昔の電子レンジのような音を立てた。ぼくの命令がうまく伝わった証拠だ。それからチチチチチ……と音を立て始めた。どうやら今までと違い検索する人物がはっきりしていない為に時間がかかるようだ。
「早く! 早くしろって!」
「……」
お姉さんは訳がわからないままぼくの様子を心配そうに覗き込んでいる。
ドアは今でもガンガン鳴っている。打ち破るようなことはしないだろうけど、カギを持ってこられたらお終いだ。先生なら合鍵ぐらい持っていても不思議じゃない。
「まだ!?」
やっぱりこんな犬、飼ってくれる人なんかいないのかな……?
『ピンポーン!』
唐突に機械から心地いい音が鳴った。そしてカタカタと例の「右、左……」とか書いてある紙が出てくる。
「……ハハ! あはははは!! よーしっ! やったね!!」
思わずガッツポーズだ!
「??」
お姉さんは結局何が何だかわかっていない。
「突然ですけどこの犬を飼ってくれる人が見つかりました!」
「ふぇ!? ど、どうやって!?」
「詳しい説明はあとで! ぼくが今からその人に会って来ます! お姉さんはまだ学校があるんでしょ!? ぼく一人で飛んでいきますから!」
「ま、待って! あたしも一緒に行く!」
「それはできないです。だってタケコプターは一つしか……」
ぼくが話していたその時、遂にドアが開けられた!
「きゃっ!?」
「――! じゃあ今日5時に校門でもう一度会いましょう!!」
「え!? え!?」
「それじゃいってきます!!」
乙〜! なかなか(・∀・)イイ展開だった…
乙乙
275 :
ネタです:04/01/21 20:34 ID:mEEKINaK
,. ─- 、,,.___
,イ〃 `ヽ,__
. N. {' \
. N. { ヽ
. N.ヽ` 〉
N.ヽ` ,.ィイ从 / 「我々はとんでもない事実に気付いてしまった!!
. ヾミ.___-‐=彡'ノノノ__,ゞミ=-_rく 元Leafのシナリオライターの竹林明秀氏を知っているか?」
lrf´ゞ“モ=ヾーf =モチ<}rv^i !
ヾト、` ̄,り「弋!  ̄´ノ ソ
!  ̄ ii{_,.  ̄ /r'´
,ゝ、 iー-ー、 , ' |\
-‐''7´ ドヽ. `ニニ´ ./;; | ヾ''ー-
/ ト、 ` ー-- ´ ,;' ,イ :|
. / :ト、` ー-、 r--‐_'´/ |
/ _,..、-‐\  ̄! レ' 厂 /へ、 :|
T´ ヽ\l.0| V / / / \ |
_
, ‐''´~ `´ ̄`‐、
ヽ‐'´ `‐、
≦ ヽ
≦ , ,ヘ 、 i
l イ/l/|/ヽlヘト、 │ 「竹林明秀と言うと……。
|/ | ! | | ヾ ヾヘト、 l 先日交通事故でお亡くなりになった青紫のことですね?
! ‐;-、 、__,._-─‐ヽ. ,.-'、 それが一体どうしたと言うんですか」
} ' (:)〉 ´(.:)`i |//ニ !
゙! 7  ̄ | トy'/
! `ヽ" ;-‐i´
ヽ ` ̄二) /ヽト、
ヽ、 ー / ゝ
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. N. { ヽ
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N.ヽ` ,.ィイ从 / 「彼は超先生という愛称でこの葉鍵板において親しまれてきた……。
. ヾミ.___-‐=彡'ノノノ__,ゞミ=-_rく 彼も亡くなってしまい葉鍵板では神は存在しなくなったかのように思えた。
lrf´ゞ“モ=ヾーf =モチ<}rv^i ! だが!! 実は彼の資質を持つものが存在したんだ!!」
ヾト、` ̄,り「弋!  ̄´ノ ソ
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-‐''7´ ドヽ. `ニニ´ ./;; | ヾ''ー-
/ ト、 ` ー-- ´ ,;' ,イ :|
. / :ト、` ー-、 r--‐_'´/ |
/ _,..、-‐\  ̄! レ' 厂 /へ、 :|
T´ ヽ\l.0| V / / / \ |
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,. ‐'´ `‐、
/ ヽ、_/)ノ
/ / ̄~`'''‐- 、.._ ノ
i. /  ̄l 7
,!ヘ. / ‐- 、._ |/
. |〃、!ミ: -─ゝ、 __ .l 「な……!?
!_ヒ; L(.:)_ `ー'"〈:)_,` / まさか、超先生を超える逸材がこの板に存在するというのか!?」
/`゙i ´ ヽ !
_/:::::::! ,,..ゝ!
_,,. -‐ヘ::::::::::::::ヽ、 r'´~`''‐、 /
! \::::::::::::::ヽ `ー─ ' /
i、 \:::::::::::::::..、 ~" /
.! \ `‐、. `ー;--'´
ヽ \ \ /
,. ─- 、,,.___
,イ〃 `ヽ,__
. N. {' \
. N. { ヽ
. N.ヽ` 〉
N.ヽ` ,.ィイ从 / 「いや、この板ではない……。
. ヾミ.___-‐=彡'ノノノ__,ゞミ=-_rく と言うより、ネット上には存在しないと言ったほうが正しいだろう」
lrf´ゞ“モ=ヾーf =モチ<}rv^i !
ヾト、` ̄,り「弋!  ̄´ノ ソ
!  ̄ ii{_,.  ̄ /r'´
,ゝ、 iー-ー、 , ' |\
-‐''7´ ドヽ. `ニニ´ ./;; | ヾ''ー-
/ ト、 ` ー-- ´ ,;' ,イ :|
. / :ト、` ー-、 r--‐_'´/ |
/ _,..、-‐\  ̄! レ' 厂 /へ、 :|
T´ ヽ\l.0| V / / / \ |
ヽ、.三 ミニ、_ ___ _,. ‐'´//-─=====-、ヾ /ヽ
,.‐'´ `''‐- 、._ヽ /.i ∠,. -─;==:- 、ゝ‐;----// ヾ.、
[ |、! /' ̄r'bゝ}二. {`´ '´__ (_Y_),. |.r-'‐┬‐l l⌒ | }
゙l |`} ..:ヽ--゙‐´リ ̄ヽd、 ''''  ̄ ̄ |l !ニ! !⌒ //
. i.! l .::::: ソ;;:.. ヽ、._ _,ノ' ゞ)ノ./
` ー==--‐'´(__,. ..、  ̄ ̄ ̄ i/‐'/
i .:::ト、  ̄ ´ l、_/::|
! |: |
ヽ ー‐==:ニニニ⊃ !:: ト、
「だが、超先生の後継者たる人物は存在したんだ。
まず、大長編ドラえもんの10番目の作品を見てくれ」
,. -─v─- 、 、
__, ‐'´ `ヽ
..≦ `i,
..≦ i、
1 イ/l/|ヘ ヽヘ i
l,_|/ ! ! | ヾ ヾ ヽ_、,l`ヘ .,|
.レ二ヽ、 、__∠´_"` ! /
riヽ_(:)_i '_(:)_/ |i)' 「大長編ドラえもんの10番目ですか……?
!{ ,! ` μ! 確か……「のび太のアニマル惑星」でしたね?」
゙! ヽ ' u ,i!
!、 ‐=ニ⊃ ,,ハ
ヽ ‐- / "ト、
ヽ.___,._/ // \
//イ;;::::: //〃 ヽ、
/ /i:::::. //
,. ─- 、,,.___
,イ〃 `ヽ,__
. N. {' \
. N. { ヽ
. N.ヽ` 〉
N.ヽ` ,.ィイ从 /
. ヾミ.___-‐=彡'ノノノ__,ゞミ=-_rく 「違う! ここで重要なのは劇場版だ!!
lrf´ゞ“モ=ヾーf =モチ<}rv^i ! つまり、「ドラえもんのび太のパラレル西遊記」のことを指す!」
ヾト、` ̄,り「弋!  ̄´ノ ソ
!  ̄ ii{_,.  ̄ /r'´
,ゝ、 iー-ー、 , ' |\
-‐''7´ ドヽ. `ニニ´ ./;; | ヾ''ー-
/ ト、 ` ー-- ´ ,;' ,イ :|
. / :ト、` ー-、 r--‐_'´/ |
/ _,..、-‐\  ̄! レ' 厂 /へ、 :|
T´ ヽ\l.0| V / / / \ |
,. -─v─- 、 、
__, ‐'´ `ヽ
..≦ `i,
..≦ i、 「パラレル西遊記と言ったら……
1 イ/l/|ヘ ヽヘ i F氏が体調不良のために大長編が書けず、
l,_|/ ! ! | ヾ ヾ ヽ_、,l`ヘ .,| 劇場版において原作が存在しない作品のことじゃないですか」
.レ二ヽ、 、__∠´_"` ! /
riヽ_(:)_i '_(:)_/ |i)'
!{ ,! ` μ!
゙! ヽ ' ,i!
!、 ‐=ニ⊃ ,,ハ
ヽ ‐- / "ト、
ヽ.___,._/ // \
//イ;;::::: //〃 ヽ、
/ /i:::::. // ヽ
.ト│|、 |
. {、l 、ト! \ / ,ヘ |
i. ゙、 iヽ / / / ヽ │
. lヽミ ゝ`‐、_ __,. ‐´ / ,.イ \ ヽ |
`‐、ヽ.ゝ、_ _,,.. ‐'´ //l , ‐'´, ‐'`‐、\ |
ヽ、.三 ミニ、_ ___ _,. ‐'´//-─=====-、ヾ /ヽ
,.‐'´ `''‐- 、._ヽ /.i ∠,. -─;==:- 、ゝ‐;----// ヾ.、
[ |、! /' ̄r'bゝ}二. {`´ '´__ (_Y_),. |.r-'‐┬‐l l⌒ | }
゙l |`} ..:ヽ--゙‐´リ ̄ヽd、 ''''  ̄ ̄ |l !ニ! !⌒ //
. i.! l .::::: ソ;;:.. ヽ、._ _,ノ' ゞ)ノ./
` ー==--‐'´(__,. ..、  ̄ ̄ ̄ i/‐'/
i .:::ト、  ̄ ´ l、_/::|
! |: |
ヽ ー‐==:ニニニ⊃ !:: ト、
ヽ 、__,,.. /:;;: .!; \
ヽ ::::::::::: /:::;;:: /
「そうだ。つまり俺が言いたいのはこのときの脚本家もとひら了氏のことだ。
まず、この「パラレル西遊記」の全体の流れを良く見てくれ。
すると、ある点に気がつくはずだ…………」
,. -─- 、._
,. ‐'´ `‐、
/ ヽ、_/)ノ
/ / ̄~`'''‐- 、.._ ノ
i. /  ̄l 7
,!ヘ. / ‐- 、._ |/ 「西遊記のゲームの中のキャラクターが歴史改変を起こし、
. |〃、!ミ: -─ゝ、 __ .l それを元通りに修正するためにドラたちが奮闘する話だろ?
!_ヒ; L(.:)_ `ー'"〈:)_,` / それが一体超先生の何処に繋がるんだ?」
/`゙i ´ ヽ !
_/:::::::! ,,..ゝ!
_,,. -‐ヘ::::::::::::::ヽ、 r'´~`''‐、 /
! \::::::::::::::ヽ `ー─ ' /
i、 \:::::::::::::::..、 ~" /
.! \ `‐、. `ー;--'´
ヽ \ \ /
,. ─- 、,,.___
,イ〃 `ヽ,__
. N. {' \
. N. { ヽ
. N.ヽ` 〉 「ああ、大まかなストーリーはそれで間違いない。
N.ヽ` ,.ィイ从 / だが、ここで注目して欲しいのは最後の場面。
. ヾミ.___-‐=彡'ノノノ__,ゞミ=-_rく 牛魔王の城にドラミが助けに来る場面だ。
lrf´ゞ“モ=ヾーf =モチ<}rv^i ! 似てはいないか……? あの作品に……」
ヾト、` ̄,り「弋!  ̄´ノ ソ
!  ̄ ii{_,.  ̄ /r'´
,ゝ、 iー-ー、 , ' |\
-‐''7´ ドヽ. `ニニ´ ./;; | ヾ''ー-
/ ト、 ` ー-- ´ ,;' ,イ :|
. / :ト、` ー-、 r--‐_'´/ |
/ _,..、-‐\  ̄! レ' 厂 /へ、 :|
T´ ヽ\l.0| V / / / \ |
_
, ‐''´~ `´ ̄`‐、
ヽ‐'´ `‐、
≦ ヽ
≦ , ,ヘ 、 i 「い、一体何に似ているというのですか!?
l イ/l/|/ヽlヘト、 │ まさか超先生の作品に似ているとでも……」
|/ | ! | | ヾ ヾヘト、 l
! ‐;-、 、__,._-─‐ヽ. ,.-'、
} ' (:)〉 ´(.:)`i |//ニ !
゙! 7  ̄ | トy'/
! `ヽ" ;-‐i´
ヽ ` ̄二) /ヽト、
ヽ、 ー / ゝ
\ __, ‐' / / \
 ̄ i::::: / /
,. ─- 、,,.___
,イ〃 `ヽ,__
. N. {' \
. N. { ヽ
. N.ヽ` 〉
N.ヽ` ,.ィイ从 /
. ヾミ.___-‐=彡'ノノノ__,ゞミ=-_rく 「その通りだタナカ!!
lrf´ゞ“モ=ヾーf =モチ<}rv^i ! 西遊記では唐突にドラミが助けに来るが、
ヾト、` ̄,り「弋!  ̄´ノ ソ それを誰彼に置き換える!」
!  ̄ ii{_,.  ̄ /r'´
,ゝ、 iー-ー、 , ' |\
-‐''7´ ドヽ. `ニニ´ ./;; | ヾ''ー-
/ ト、 ` ー-- ´ ,;' ,イ :|
. / :ト、` ー-、 r--‐_'´/ |
/ _,..、-‐\  ̄! レ' 厂 /へ、 :|
T´ ヽ\l.0| V / / / \ |
.ト│|、 |
. {、l 、ト! \ / ,ヘ |
i. ゙、 iヽ / / / ヽ │
. lヽミ ゝ`‐、_ __,. ‐´ / ,.イ \ ヽ |
`‐、ヽ.ゝ、_ _,,.. ‐'´ //l , ‐'´, ‐'`‐、\ |
ヽ、.三 ミニ、_ ___ _,. ‐'´//-─=====-、ヾ /ヽ
,.‐'´ `''‐- 、._ヽ /.i ∠,. -─;==:- 、ゝ‐;----// ヾ.、
[ |、! /' ̄r'bゝ}二. {`´ '´__ (_Y_),. |.r-'‐┬‐l l⌒ | }
゙l |`} ..:ヽ--゙‐´リ ̄ヽd、 ''''  ̄ ̄ |l !ニ! !⌒ //
. i.! l .::::: ソ;;:.. ヽ、._ _,ノ' ゞ)ノ./
` ー==--‐'´(__,. ..、  ̄ ̄ ̄ i/‐'/
i .:::ト、  ̄ ´ l、_/::|
! |: |
ヽ ー‐==:ニニニ⊃ !:: ト、
ヽ 、__,,.. /:;;: .!; \
ヽ ::::::::::: /:::;;:: /
「まずはドラえもんたちを坂神蝉丸に、
牛魔王を暴走御堂に、そして人ではないがドラミを跋扈の剣に置き換えるんだ!
するとどうだ!! 何の伏線もなしに出てきたと言う剣が、
正にドラミにもぴったり当てはまってしまうんだ!!」
,. -─- 、._
,. ‐'´ `‐、
/ ヽ、_/)ノ
/ / ̄~`'''‐- 、.._ ノ
i. /  ̄l 7 「な……!!
,!ヘ. / ‐- 、._ u |/ ちょっとまてキバヤシ!!
. |〃、!ミ: -─ゝ、 __ .l たしかにそれはお前のいう通りかもしれん!
!_ヒ; L(.:)_ `ー'"〈:)_,` / だが、それだけで決めてしまうのは安直すぎやしないか!?」
/`゙i u ´ ヽ !
_/:::::::! ,,..ゝ!
_,,. -‐ヘ::::::::::::::ヽ、 r'´~`''‐、 /
! \::::::::::::::ヽ `ー─ ' /
i、 \:::::::::::::::..、 ~" /
.! \ `‐、. `ー;--'´
ヽ \ \ /
,ィ, (fー--─‐- 、、
. ,イ/〃 ヾ= 、
N { \
ト.l ヽ l
、ゝ丶 ,..ィ从 |
\`.、_ __ ,. _彡'ノリ _,.ゝ、 | 「分かっている……。
`ゝf‐ゞ゙ujヾ二r^ァuj< y=レヽ. だが、それだけではないんだ!
. |fjl、  ̄.リj^ヾ.)  ̄ ノ レ リ 注目すべき点はほかにもある!!
ヾl.`ー- べ!゙‐ ` ー-‐' ,ン コミックス版上巻の120Pだ!」
l f,.ニニニヽ u /:|
ト、 ヽ.__.丿 ,イ |
_亅::ヽ、 ー / i :ト、
-‐''「 F′:: `:ー '´ ,.' フ >ー、
ト、ヾ;、..__ , '_,./ /l
ヽl \\‐二ニ二三/ / /
,. -─v─- 、 、
__, ‐'´ `ヽ
..≦ `i,
..≦ i、 「120Pと言えばもう上巻の終わり……一体何が。
1 イ/l/|ヘ ヽヘ i えーと、台詞を抜粋してみると……。
l,_|/ ! ! | ヾ ヾ ヽ_、,l`ヘ .,| 『他の三人の危険があぶない!!』
.レ二ヽ、 、__∠´_"` ! / …………ってこれは!?」
riヽ_(:)_i '_(:)_/ |i)'
!{ ,! ` μ!
゙! ヽ ' u ,i!
!、 ‐=ニ⊃ ,,ハ
ヽ ‐- / "ト、
ヽ.___,._/ // \
//イ;;::::: //〃 ヽ、
/ /i:::::. // ヽ
,. -─- 、._
,. ‐'´ `‐、
/ ヽ、_/)ノ
/ / ̄~`'''‐- 、.._ ノ
i. /  ̄l 7
,!ヘ. / ‐- 、._ u |/
. |〃、!ミ: -─ゝ、 __ .l 「リ……リアルリアリティじゃないか!!」
!_ヒ; L(.:)_ `ー'"〈:)_,` /
/`゙i u ´ ヽ !
_/:::::::! ,,..ゝ!
_,,. -‐ヘ::::::::::::::ヽ、 r'´~`''‐、 /
! \::::::::::::::ヽ `ー─ ' /
i、 \:::::::::::::::..、 ~" /
.! \ `‐、. `ー;--'´
ヽ \ \ /
,ィ, (fー--─‐- 、、
. ,イ/〃 ヾ= 、
N { \
ト.l ヽ l
、ゝ丶 ,..ィ从 |
\`.、_ __ ,. _彡'ノリ _,.ゝ、 | ∧
`ゝf‐ゞ゙ujヾ二r^ァuj< y=レヽ. l\ /
. |fjl、  ̄.リj^ヾ.)  ̄ ノ レ リ __| `
ヾl.`ー- べ!゙‐ ` ー-‐' ,ン \ そうだ!ここで注目して欲しいのはこれが1988年放映だと言うことだ。
l f,.ニニニヽ u /:| _∠, 対する誰彼はその十年以上も後のことだ。
ト、 ヽ.__.丿 ,イ | / つまりもとひら了がRRを超先生よりも先に確立したんだ!
_亅::ヽ、 ー / i :ト、 ´ ̄| 言い換えるならそれを超先生が参考にしたと言うことだ!
-‐''「 F′:: `:ー '´ ,.' フ >ー、 l/、 ,ヘ
ト、ヾ;、..__ , '_,./ /l ∨
ヽl \\‐二ニ二三/ / /
,イ/ l/  ̄ ̄`ヽ!__
ト/ |' { `ヽ. ,ヘ
N│ ヽ. ` ヽ /ヽ / ∨
N.ヽ.ヽ、 , } l\/ `′
. ヽヽ.\ ,.ィイハ | _| つまり……
ヾニー __ _ -=_彡ソノ u_\ヽ、 | \
.  ゙̄r=<‐モミ、ニr;==ェ;ュ<_ゞ-=7´ヽ > もとひら了こそが
. l  ̄リーh ` ー‐‐' l‐''´冫)'./ ∠__ RRの真の創始者
゙iー- イ'__ ヽ、..___ノ トr‐' /葉鍵板の新たな
l `___,.、 u ./│ /_神となるべき存在
. ヽ. }z‐r--| / ト, | ,、 なのだ!!
>、`ー-- ' ./ / |ヽ l/ ヽ ,ヘ
_,./| ヽ`ー--‐ _´.. ‐''´ ./ \、 \/ ヽ/
-‐ '''"  ̄ / :| ,ゝ=< / | `'''‐- 、.._
/ !./l;';';';';';';\ ./ │ _
_,> '´|l. ミ:ゝ、;';';_/,´\ ./|._ , --、 | i´!⌒!l r:,=i
. | |:.l. /';';';';';|= ヽ/:.| .|l⌒l lニ._ | ゙ー=':| |. L._」 ))
l. |:.:.l./';';';';';';'! /:.:.| i´|.ー‐' | / | |. ! l
. l. |:.:.:.!';';';';';';';'| /:.:.:.:!.|"'|. l' │-==:|. ! ==l ,. -‐;
l |:.:.:.:l;';';';';';';';| /:.:.:.:.:| i=!ー=;: l | l. | | / //
l |:.:.:.:.:l;';';';';';';'|/:.:.:.:.:.:.!│ l l、 :| | } _|,.{:: 7 ))
l |:.:.:.:.:.:l;';';';';'/:.:.:.:.:.:.:.:| |__,.ヽ、__,. ヽ._」 ー=:::レ' ::::::|; 7
. l |:.:.:.:.:.:.l;';';'/:.:.:.:.:.:.:.:.:.|. \:::::\::::: ヽ ::::::!′ :::| .:/
. l |:.:.:.:.:.:.:∨:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.! /ヽ::: `::: :::: ....::..../
ナ ゝ ナ ゝ / 十_" ー;=‐ |! |!
cト cト /^、_ノ | 、.__ つ (.__  ̄ ̄ ̄ ̄ ・ ・
,. -─- 、._ ,. -─v─- 、._ _
,. ‐'´ `‐、 __, ‐'´ ヽ, ‐''´~ `´ ̄`‐、
/ ヽ、_/)ノ ≦ ヽ‐'´ `‐、
/ / ̄~`'''‐- 、.._ ノ ≦ ≦ ヽ
i. /  ̄l 7 1 イ/l/|ヘ ヽヘ ≦ , ,ヘ 、 i
,!ヘ. / ‐- 、._ u |/ l |/ ! ! | ヾ ヾ ヽ_、l イ/l/|/ヽlヘト、 │
. |〃、!ミ: -─ゝ、 __ .l レ二ヽ、 、__∠´_ |/ | ! | | ヾ ヾヘト、 l
!_ヒ; L(.:)_ `ー'"〈:)_,` / riヽ_(:)_i '_(:)_/ ! ‐;-、 、__,._-─‐ヽ. ,.-'、
/`゙i u ´ ヽ ! !{ ,! ` ( } ' (:)〉 ´(.:)`i |//ニ !
_/:::::::! ,,..ゝ! ゙! ヽ ' .゙! 7  ̄ | トy'/
_,,. -‐ヘ::::::::::::::ヽ、 r'´~`''‐、 / !、 ‐=ニ⊃ /! `ヽ" u ;-‐i´
! \::::::::::::::ヽ `ー─ ' / ヽ ‐- / ヽ ` ̄二) /ヽト、
i、 \:::::::::::::::..、 ~" / ヽ.___,./ //ヽ、 ー
ワロタ、もとひら了って何者?
______ ______
r' ,v^v^v^v^v^il /
l / jニニコ iニニ!. /
i~^' fエ:エi fエエ)Fi ! 凄いです! まさか葉鍵&ドラ&MMRを
ヽr > V ! 自分以外でやってくれる人がいるとは。
l !ー―‐r l <. 自分も他にネタ探してみます。
__,.r-‐人 `ー―' ノ_ ヽ
ノ ! ! ゙ー‐-- ̄--‐'"ハ ~^i \_
ヽ ! ヽ、_ _.ノ i \  ̄ ̄ ̄ ̄
ヾV / ! /.入
タケコプターで一気に飛んだ。ぼくが空を飛んでいる事で下のほうが騒がしくなっているが構っていられない。
「アウ!」
犬は興奮してジタバタと動く。
「コラ! おとなくしろよ、落ちたらシャレにならないんだから!」
「アウ……」
すると犬は素直に言うことを聞いてくれた。
「まったく、これ以上ぼくたちを困らせないでよ……」
君の為に色々と大変なことになってる人達がいるんだから……。
あとはいつもの要領だった。「右」とか「左」とか紙の書いてある通りに進む。
「それほど、ここから遠くないな。残り5個くらいかな?」
次を左、と。辺りはもう見慣れない住宅地。いったいどういう人が待っているっていうんだろ?
次を直、そして左、これでお終いだ!
「着いた!」
でも、そこはただの何て事のない住宅地の道路。人はおろかネコ一匹いやしない。
「あれ〜、おっかしいな……」
何だか凄く嫌な予感がしてきた。もしかして途中で道を間違えたのか!?
「とりあえず、ちょっと見てみるか」
「アウ!」
辺りをキョロキョロ見渡す。だけど特に変わったところはないような……。
――!
いきなり胸がドキッ! ってした。
おかしい。ここは始めてきたはずの道。ところが何故かいつか見た事がある景色。
「いったいどういうこと?」
冷や汗を流しつつも、もう少し何かないか探してみる。すると……。
「あれ? あれってこじんまりとしてるけどお店か。えっと……? ――あ!?」
ぼくの目に飛び込んできた文字。それは『維納夜曲』。確かに看板にはそう書いてある!
「まさか……!?」
絶句した。まさかとは思うけど辿るべき紙を間違えた!? ぼくはこの犬を飼っている人を探していたんじゃなくて、『維納夜曲』のほうを辿っていたとか!?
「そんなあ〜!」
もしそうだとしたら冗談じゃ済まされない。今度こそあのお姉さんに謝っても謝りきれないぞ!
と、とりあえず2つの紙テープを確認してみる。2つの長さは違う。間違えないとは思うのだけど……?
「あ、あれ? これって、アラ?」
二つの紙テープをよく見てみるとひとつ気づいたことがあった。それは途中から進行方向がまったく同じように示されていたことだったのだ。
「つ、つまり。『維納夜曲』にこの子犬を飼ってくれるひとがいるってこと!?」
もちろんこの進路アドバイザーはこの『道』を示しているだけで『維納夜曲』を指していた訳じゃない。でもその確率は高いと思う。
「……行ってみるか」
「アウ!」
「お前、あまり騒ぐなよ。お店なんだから」
ぼくは『維納夜曲』のドアを開けた……。と、それと同時に鳴りたてる鈴の音。
これもいつかどこかで体験したこと。けど、何故か思い出せない……。
「いらっしゃ……、あら?」
そこに立っているのはショートカットでスタイル抜群の店員のお姉さん。この人もいつかここで出会った気がする。
「あ! いつかの眼鏡君じゃない!」
そう言ってお姉さんはニコニコしている。やはりぼくは一度ここに来たことがある……?
「あれ? 今日は彼女連れじゃないの?」
「か……、かのじょ?」
「あの子よ。髪をカニのハサミのように2つに束ねてる可愛い子。君と一緒に来たじゃないの!」
――!?
そんな子はぼくが知ってる限りじゃ、あの子しかいない。
でも、なんで!? どうしてぼくはそのことを忘れてるんだ!?
「じゃあ、もしかしてアタシに会いに来てくれた? あー、でもそんな感じじゃないわねー」
って、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。
「え、えっとですねえ。ええっと……」
今のぼくの状況をどう説明すればいいんだろう?
「ところでその子犬、可愛いわねー」
「え?」
「でも、あまり犬を連れてこられるのはちょっと困るかなー。ま、アタシは細かい事を気にしないんだけど、ウチの店長が怒ったら怖いわよ〜! 怒鳴られるじゃ済まないかも!」
お姉さんは何だかとっても楽しそうに話している。しかしぼくは焦っていた。
「あ、いや、そうじゃなくて、えっと……」
店内を見渡す。ところが店内はこのお姉さん以外に誰もいない。
「……? もしかしてキミ、その犬……?」
「あ……、その〜」
「もしかして、拾ったの?」
「ええっと、ハイ。そうなんです」
「そうなんだー、で、もしかしてキミの家じゃ飼えなくて困ってるとか?」
「その通りです……」
何もかも悟られてしまったらしい。参ったな、こんな捨て犬を連れてケーキ屋に入ってくるぼくなんか追い出されるに決まってる。そりゃそうだ、ここお店なんだもん。
「――で、その犬、キミはこれからどうする気なの?」
「飼い主を探してここまで来たんですけど、なかなか見つからないんです……」
「なるほどね、実に眼鏡君らしいじゃない。捨て犬を拾ったけど飼えないなんて」
「ごめんなさい、頭が悪くって……」
「ううん、キミのことをけなして言ったつもりじゃないの。逆に褒めてるつもり。本当に優しいんだなあってね」
「そんなことは……」
「お姉さん、ちょっとキミにホレちゃったぞ☆ かっこいいー」
「……ええっと。とにかく、その犬飼ってくれそうな人、心当たりありませんか?」
「そうねー。うん、いる!」
かなりの即答だった。
「いる!? どこにいるんですか!? 紹介してください!!」
「ここ」
「え?」
しかしここにはこのお姉さん以外誰も居ない。
「キミの目の前にいるわよ」
「……ま、まさか」
「良かったらアタシがその子引き取ってあげようか?」
「え、ええ〜っ!?」
ぼくは驚きのあまり2、3歩後ずさりしてしまった。
「もしかして、不満?」
お姉さんは口を尖らせている。
「い、いえそんなことは! で、でもいいんですか? こんないきなりやってきた見も知らぬ子犬の面倒を見るなんて!」
「見も知らぬ、じゃないわ」
「え?」
「今、こうして知り合ったじゃない!」
「……」
それは確かにそうだけれども……。
「私ね、一匹犬を飼ってるの。だからもう一匹増えたからってどうってことないわ」
「……」
「それに、自慢じゃないけど家もそれなりに広いしね」
お姉さんは『どう?』と言わんばかりのニコニコ笑顔。
でもぼくはちょっとだけためらっていた。
「本当に飼ってくれるのなら助かるんですけど……、でもこの犬だって手間もかかります、お金もかかります。お姉さんを疑うわけじゃないんですけど、そんな簡単に引き受けてもらっちゃっていいんですか?」
この世の中には最後まで責任を持てず、この犬を殺す為に捨てた人がいるっていう事実。その為にこの犬が死に掛けていたあの日。否が応でも思い出されてしまう。
「……なるほど。じゃあこの犬を今日から眼鏡君だって思って大事にしちゃう! これで、どう?」
「……」
「冗談だってば! でも、そうね。この子犬をアタシの家族だと思って大切にするのは本当。私が出来る限りのことはして育てて見せるわ。キミに誓ってみせるから!」
「……」
「確かにこの子犬は今初めてアタシと出会ったわ。でもね、私は本気でこの犬を本気で愛してみせる自信があるの! それは何故だと思う?」
「……わかりません」
「キミとこの犬、同じ目をしているから……」
「え?」
ぼくは犬の顔を覗きこんだ。この犬の目が……?
「本当に短い時間だけど、アタシはね、キミの人間性を見てきたの。あの日の素直なところも、そしてこうして捨て犬を拾ってきたところも。
キミは優しい、そして素晴らしい人だって思う。だからアタシは今、素直に思えるの、『この犬を育ててみたい』ってね。もちろん興味本位って言われてしまえばそれまでかもしれない。
けどね、アタシは本気で愛してみせる。愛することは理屈じゃないと思う。時間も関係ないし、過程がどうってわけじゃない。
ただ『愛してる』って気持ち、『幸せを願う』気持ちがあればそれでいいじゃない。アタシは絶対にこの犬を幸せにしてみせる! アタシの命を懸けてでもキミに誓うわ!!」
「よろしくお願いします!」
ぼくはこの人を信じる事にした。この人もまさしく天使だ。本当に天使のような人じゃないか……!
「あ、そうそう。名前はあるの?」
「はい。ポイっていうんです!」
「ポイ? チャウチャウっぽいから『ポイ』?」
「よくわかりましたね!」
正直ビックリだ。
「あれ? 名前はキミが付けたんじゃないの?」
「えっと、その……、色々あって……」
「ふうん。まあいいわ、詳しいことは後で聞くけど……。えっと、そのポイちゃんを引き受けたのはいいけど今は見ての通りのバイト中なのよね。だからキミのほうでもうしばらくの間だけ預かっててくれないかな?」
「え?」
「この店を出て北の方角に真っ直ぐ行って2つめを左に曲がると公園があるの。そこで5時半に会いましょう。私、今日バイト早引きさせてもらうから……。 ポイちゃんはそこで受け渡してもらうってことでいい?」
「ハイ! じゃあ5時半までに必ずそこにいます!」
「うん、じゃそういうことで! あ、それならそうと早くこの店から出たほうがいいかも。店長に見つかったら大変だから!」
「わかりました! それじゃ一度、さようなら!」
ぼくはくるっと一回りして立ち去ろうとしたときだった。
「待って! 君、名前何ていうの? 一度聞いておきたいの」
「ぼく? ぼくは野比のび太です」
「のび太君ね。アタシは明日菜、麻生明日菜」
「明日菜さん……か。それじゃあ明日菜さん、また会いましょう!」
「うん、必ず行くわ!」
明日菜さん(裏)は発動するのかなぁ
>>297 ドラえもんのび太のパラレル西遊記の脚本書いた人。
主に八十年代後半から九十年代前半のドラえもんの脚本を担当。
この映画にはキャラとしてこの人出てくるけどチョイ役。
なお、余談だがパラレル西遊記には銀閣と金閣が入れ替わっているシーンがあったり、
何処でもドアで移動したときにひょうたんの中の溶解液が外に流れ出なかったりと突っ込みどころもある。
ちなみにもとひら了は前のトランスフォーマー(マイクロン伝説)をとても面白くしてくれた人だったりする。
ところで星の記憶の伝承者の人はどうしちゃったのかな。
みんなで過去に行くんだろうなぁと楽しみにしてたんだが。
>>305 小学生相手じゃマズイでしょう。色々と……。
『〜の危険があぶない!!』って色々と使えそう
保守の時は『スレの危険があぶない!!』とか
ぼくは再び大空を飛んでいた。行くべき先は眼鏡をかけたお姉さんの高校。
「とりあえずは一件落着ってことかな?」
色々と不思議な出来事だった。『維納夜曲』に行く途中にあの眼鏡のお姉さんに出会って、そして飼い主を探し始めたら結局『維納夜曲』に行き着いてしまったなんて。
「それにしても……」
気がかりなのは明日菜さんが言っていたこと。ぼくは静香ちゃんと一緒に『維納夜曲』に行った……?
「覚えてないんだよな〜」
明日菜さんがぼくのこと覚えてるってことはそう昔の事じゃない。いくらぼくでも、きれいさっぱり忘れるなんて事あるのか?
「うーん、明日……、いや来週月曜日に聞いてみるかな」
静香ちゃんの家に押しかけていくのはまずい。何故なら静香ちゃんは風邪を引いている。
「まあいいさ。とにかく今はこの犬をとにかくしなくっちゃね」
「アウ!」
ぼくは少し速度を上げた。約束の時間は5時、間に合わせなくちゃいけない。
学校に到着した。校門前ではもう既に何人かの高校生達が下校し始めている。学校の時計は4時40分。結構早めに着いてしまった。
「あ!」
ぼくは眼鏡をお姉さんが佇んでいるのを発見して手を振った。
「あ……、君!」
眼鏡のお姉さんもこちらに気づいてくれたのか駆け寄ってくる。
「その……、どうだったの?」
心配そうな顔をして聞いてきた。確かに飼い主を探しに行ったのに、結局犬を連れて帰っているのは妙な事だって思うだろう。
「ちゃんと見つかりましたよ! 飼い主さんが!」
「ホ……、ホント!?」
「ハイ! 今、その人バイト中なんで受け渡すのは5時半ということなんです」
「えっと、じゃ、今度こそあたしも行っていいかな……」
自信のない態度。どうやらぼく一人だけで飼い主を探してきたから気にかけているようだ。かまいっこないのに。
「もちろんもちろん! ていうかお姉さんも絶対会うべきですよ! 何たってこの犬を助けたのはお姉さんのほうなんだもの!」
「そんな……!」
褒められて照れている。結構分かりやすい人のようだ、やっぱりぼくに似ている気がしなくもない。
「誰? その子」
「え?」
突如後ろから声をかけられたぼくとお姉さんは同時に振り返る。するとそこに立っていた人は……。
「授業終わったら一目散に飛び出して……」
背が高くて髪が長くて気が強そうなお姉さんだった。まるでこの眼鏡のお姉さんとは正反対。
「し、しーちゃん……」
「え!? この人が?」
この眼鏡のお姉さんの友達っていうからもっと冴えない感じの人だと思ってたのに!
「もしかしてこの子と待ち合わせてたの?」
「う、うん。そう……」
「で、誰なのその子。私、会ったことないけど……」
「えとね、この子がね……。その……子犬を飼ってくれる人を見つけてきてくれたんだよ……」
「え? その子犬、助かったんだ……」
「そう……だよ」
「そう、良かったじゃない……」
「う、うん……」
「……」
「……」
「……」
いや〜な雰囲気。
それはあの時眼鏡のお姉さんが言ってた、『しーちゃんもしょうがないって言っていた』が問題になってるんだろう。まずい言い方をするならこの人もこの犬を見殺しにしようとしていたことになる。
しかし、一応もうこの犬の問題は解決したことになっている。いまさら目の前でケンカしてもらっても困るもんだ。
「行こう、お姉さん。約束の時間に間に合わなくなるよ」
「え、あ……うん」
そこでちょっと慌てたのは“しーちゃん”だ。
「じゃ、じゃあ私はこれで帰るわ。じゃあね、透子!」
「あっ、しーちゃん……」
ちょっとだけ寂しそうな顔をして“しーちゃん”の後姿を見送る眼鏡のお姉さん。でも、まあこのことがきっかけで仲違いすることはまずないだろう。
この人のことだから明日になればなんてことないように笑顔であの“しーちゃん”に話しかけてくるだろう。きっとそういう優しい人だ。
「じゃ、行こうか」
「うん。そうだね……」
ぼくと眼鏡のお姉さんは明日菜さんが言っていた公園に向かって歩き出した。ポイはぼくが抱いている。
「ところで君、名前はなんていうのかな?」
「ぼくは野比のび太。お姉さんは?」
「あたしは栗原透子。えっと、のび太君でいい?」
「いいですよ。ぼくも透子さんって呼びますから!」
それからぼくはこれから出会う明日菜さんのことを話し始めた。
「その人、一匹子犬飼ってるから大丈夫って言うんですよ。話を聞いてみた感じではしっかりしてる人みたいだから大丈夫だと思いますよ」
「そうなんだ。じゃあ今度こそポイは幸せになれるだね……」
そこで思わず涙ぐみそうになる透子さん。さっきからそういう事が多くて困る。
「そうですそうです! だからしっかりしてくださいってば〜!」
「う、うん……。ごめんなさいぃ……」
正直、大丈夫なのかな、この人……。他人のことは全く言えない身分だけどここまで来るとさすがに心配になる。
ああ、でもこの人は“しーちゃん”がいるんだっけ。多分あの人がこの人の面倒を見ているのかもしれない。影でしっかりと支えているのかもしれない。
――それは、ぼくとドラえもんの関係のように……。
「ねえ、あの……、ひとつだけ聞いていいかな……」
「はいはい。なんでもどうそ!」
ようやく立ち直ってくれたらしい。やれやれ……。
「えっと、さっきのび太君……。なんか空を飛んでたみたいだけど……」
「え?」
「あ、あの! ……人間が空を飛ぶわけないってわかってるんだけどね、でも……何度見ても空を飛んでるように見えたから……、その……」
「ああ、はいはい。そうですよ、ぼくは空を飛べるんです!」
ぼくは「どーだ!」と威張ったポーズを取ってみた。
「ええっ! ……やっぱり本当に空を飛んでたの!?」
「はい! えっと……」
ぼくはポケットからアレを取り出した。
「ハイ、タケコプター!」
「タ、タケ……?」
「これをですね、頭かどこかにくっつけると空を飛べる事が出来るんです!」
「そ、そんなちっちゃなプロペラで飛ぶ事が出来るの!?」
「え、えっと……。詳しい原理ってのはわかんないですけど、なんなら透子さん今から飛んでみます?」
「え、あ、あたしはいいよぉ……。なんだか怖いし……」
「大丈夫ですよ! 何たって飛ぶのは大空ですから交通事故なんてことは一切ありません!」
「そうじゃなくて……その……」
「その?」
「……高い所とか、苦手だし……」
「……」
まあ、そういう意見もあるだろう。それに慣れない人が使うと暴走しちゃうこともあるし。(日本誕生参照)
じゃあぼくがやってみせようかなー、と思ったけどやめた。今はそれよりもやることがあるし。
「それって今時の小学生の流行のおもちゃなの?」
「え? いや、そういうわけじゃないんですけどね」
訳を説明するとちょっと長くなるので話さないでおく。
「でも、ちょっとだけうらやましいな……。空を自由に飛べるなんて……」
透子さんはそう言うと冬の澄み切った空を見上げた。
「今までは空に近い場所で憧れてただけ。でもその場所を鳥のように飛べるなんて……。そんなの、あたし一度も体験したことないよ……。きっと、きっと……そこはどこまでも自由なんだね。それって本当に素敵なことだって思うよ……。だから、君が本当にうらやましいな……」
「……透子さんも今はダメでも、いつかきっと空を飛んでみるといいよ。すんごく気持ちいいんだから!」
「うん! その時はよろしく頼むね、のび太君!」
「アウ!」
「あはは、ポイはもうやめておいたほうがいいよ!」
そういうとポイは不満そうに顔を背けてしまった。
「あははは」
公園に着いたのは5時5分くらいだっただろうか。
「なーんだ、やっぱり昨日透子さんと出会った公園なんじゃないか」
「ここにその明日菜さんって人が来るの?」
「そうそう、きっと来ますって。それにしても……ちょっと寒いなあ」
さっきまで空を飛んでいたこともあってなんだかひどく寒くなってきた。ぼくは人一倍寒がりなんだ。
「ちょっと早めに来すぎたな。どうしよ……」
「ね、あの……あたしのコート貸してあげようか?」
「え?」
透子さんは今学校の制服姿である。コートなんか着ていない。
「実はね、あたしのマンションすぐそこなの。だからちょっと取ってきてあげる!」
「え、あ、あの! いいですってば!!」
と、止める声も聞かずに透子さんは走り去ってしまった。
それから15分後のことである。透子さんは言ってたとおりコートを持って来た。
「えっと、そのー慌てて持ってきちゃったからあたしのなんだけど……」
「……」
女物だ。派手な物じゃないけど、どう見てもぼく向けの物ではないことは確かである。
「やっぱり……、だめ、だよね……」
ションボリと俯く透子さん。って、そんな事されたら断るに断れないじゃないの!
「いえいえ、とっても嬉しいですよ! 喜んで着させてもらいますから!」
「そ、そう……?」
とは言ったものの……、ぼくのセーターにはポイの毛がこびり付いている。このまま着るのはちょっとためらわれる。
「いっそのこと、脱いじゃおう」
ぼくはセーターを脱いでからコートを着込むことにした。
「……」
ちょっと大きいけど元々透子さんの背が低いおかげでなんとか着れないことないものの……。
「うん! 似合う似合う!」
さすがにちょっと目の前の女子高生の服を着てるとなるとなあ……。
「ずいぶん暖かそうだね。良かった……!」
「いえ、恥ずかしいだけです……」
wwww |毎度毎度SSご苦労天いなを作った作者よ。
(◎_◎) < これからは私が葉鍵板の超先生だ。
_φ___⊂)_ |青紫といったものにいつまでも未練を抱いていたら君たちの危険が危ない。
/旦/三/ /|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| |
| もとひら神 |/
それからさらに15分後、つまり5時35分のことである。
「ごめーん! 待った〜!?」
遠くから走ってくる明日菜さんの姿があった。
「ハァ〜、ごめんごめん! 制服から着替えるのにちょっと手間取っちゃってね〜! あれ、その人は?」
明日菜さんが言ってるのは透子さんのことである。
「えっと、この人もぼく同様にこのポイを拾って助けてくれた人なんです」
「え、えっと……よろしくお願いします……」
「……ちょっと訳を聞かせてもらえないかしら?」
「なるほどねー。なんだかワケありなんだ、この子」
「「ご、ごめんなさい!」」
「って、どうしてキミ達が謝るの!」
明日菜さんは笑う。
「だって、何だかその……、そう言われると明日菜さんに厄介な物を押し付けてる感じで……何だか悪くて……」
「あれ? キミ達はこの犬を厄介払いしてたのかなー」
「いえ! そんなことはないです!」
ぼくはちょっと慌てた。
「愛していたんでしょう? なら、かえって育てるほうの気力も増すってものよ。自信持ってもいいんじゃない?」
「……えっと、そうですね、そうします。ですから……、本当にポイをよろしくお願いします!」
「お願いします!」
ぼく達は頭を必死に下げた。ぼく達は明日菜さんにこんなことしか出来ないけど、それでも精一杯誠意を込めているつもりなんだ。
「あららー。もう! まるでおふたりさんから養子をもらってるみたいね! こりゃ〜責任重大だわ!」
「エ、養子?」
「ふぇ……」
隣で透子さんは真っ赤になって照れていた。
「じゃ、アタシはこれで帰るけど、どう? これからウチに寄っていかない?」
「いえ、ぼくは遅くなると家族が心配しますし」
「あたしも……」
「そう。じゃ、しっかりポイちゃんを預かりましたから! いつでもウチに遊びにいらっしゃいなさいよ! この子はあなた達の子でもあるんだから……ね?」
「ハイ! そう言ってもらえると嬉しいです」
「じゃあね、ポイ……」
「アウ!」
これからお別れだっていうのにポイはおとなしくしている。まさか明日菜さんの胸に抱かれているのが気に入っているのか? いや、ちょっと違う。それというよりはこの犬は誰にでもくっついていくような人懐っこい奴なんだ。でもかえってそれでぼくは安心できるもんだ。
「じゃ、行こうかポイちゃん!」
「アウ〜」
明日菜さんは後ろを振り返った。そして家路へと歩き出す。
「ポイ〜!」
透子さんはもはや泣き出しそうだ。いや、既に泣いている。
「あ、そうだ」
明日菜さんはそこで急に立ち止まり、ぼく達の方に振りかえった。
「せっかくこうして不思議な縁でアタシたち知り合ったんだもの。もう1度だけお互い自己紹介しておきましょうか」
ぼく達3人と1匹は夕日の前に立った。ぼく達はこの犬を守る為に、そして自分が愛する物の為に立ち上がった仲間だった。
それは世界を変えるわけでもない、助けられたのは大勢いる捨て犬達のたった1匹に過ぎない。けれど、ぼく達にはこうして力を合わせてこの犬を救う事が出来た達成感があったのだ。
「アタシは麻生明日菜」
「ぼくは野比のび太!」
「あたしは……栗原透子」
「みんな、これからもよろしくね!」
3人でお互い握手した。これからはぼく達は友達とも呼べる仲になるといいと思う。いや、ぼく達はもう友達なんだ! その誓いがこの握手なんだ!
「じゃ……、またね! のび太君! 透子ちゃん!」
「じゃあさようなら! 明日菜さん! ポイ!」
「ばいばいー、ポイ〜!」
「アウ〜」
ぼく達はお互い姿が見えなくなるまで手を振り続けた……。
「さてと、ぼく達も帰りましょうか! えっと……、このコートは……」
「いいよ、今日そのまま着て行っちゃっても。あたしのコートなら家に何枚かあるから……」
「じゃあ、そうさせてもらおうかな。じゃあさよならー」
「あっ! ちょっと待って!」
セーターを持ってタケコプターで飛ぼうとした時だった。
「そのセーター。ポイの毛が随分ついちゃってるよね……」
「え、まあそうですね……」
「あたし、家でお洗濯してくるから、今日一日だけそのセーター、貸してくれないかな?」
「えー? いいですよー、このぐらいどうってことないですから!」
「でもぉ……、あたし、今日何もしてないし……」
「……」
ここで断っても透子さんのことだから結局首を振って必死に頼み込んでくると思う。そんならこの人がやりたいようにやらせればいいか。
「じゃあお願いしますね」
「うん! 明日までにはなんとかきれいにしておくから! ……じゃあ住所教えてくれないかな? ちゃんと届けに行くよ」
ぼく達はお互いの住所を教えあった。そう言えば明日菜さんの家の住所を聞くのをうっかり忘れていた、が、まあ維納夜曲に行けばいつでも会えるだろう。その時にでも聞けばいい。
「じゃあ、また明日!」
「それじゃあね、のび太くん!」
ぼくは今度こそタケコプターで家へと急ぐ事にした。
「あ……! いっけない、パパのケーキ買いに行く途中だったんだっけ」
「よっと!」
パパのケーキを買った後、ぼくは2階の窓から侵入した。
「おかえり……。って何だい? そのコート!」
「シーッ! 静かにしてくれよ!」
それを聞かれるのが嫌だったからわざわざ2階から入ってきたっていうのに!
「のびちゃん、帰ってるの?」
下から響いてくるママの声。
「ワッ! ……しょうがない、このコートどっかに隠しといて。あとで説明するから!」
ぼくは急いで脱いだ後ドラえもんに渡した。
「なんなんだよコレは〜?」
苦笑いを浮かべるドラえもんを無視してひとまず1階に降りる事にした。
「ヘェ〜。またまた色んなことになってたわけだ!」
「そうだよ! 君がテレビに夢中になってる間に本当に大変だったんだから!」
夕食前の時間、ぼくは今日起きた出来事をドラえもんに報告していたのだった。
「まあ、いいんじゃないの。今度こそハッピーエンドでしょ?」
「だといいけどねえ〜」
めでたい事なのに思わず苦笑い。最近不幸なんだか運がいいのかよくわからないことが続いている。じゃあ今度はとんでもない不幸がやってきたりして。
「あ、そうそう。ちょっとドラえもんに聞きたい事があったんだけどさー」
「ん、なあに?」
ちょっとぼくは言いたいことを頭のなかでまとめた後、言ってみた。
「ぼくさ、今日行ってきた維納夜曲に前に一度静香ちゃんと行ってきたことがあるらしいんだ。でもさ、ぼくそのことすっかり忘れててさー」
「――! 静香ちゃんと!?」
何故かドラえもんは急に渋い顔になる。
「そう、なんかほんの数日前に行ってたらしいんだけどねー。君さ、そのこと知ってた?」
「……いや、知らないねえ」
「そう。……おっかしいなあ、一体何でそんな店行ったんだっけかなあ〜」
ぼくは再び訳が分からず首を傾げた。
「――維納夜曲、か」
ドラえもんはひっそりと呟いていた。
それから宿題を出来る限りやった。まあぼくなりにそれなりにやってみた。
それからこれもいつの間にか宿題にされていた日記を片付ける。
「さあて寝るか。今日はなかなかいい日だったなあ〜」
『買い物、そしていぬわたし』。今日は本当にいい日だった……。
100レス達成。この際いくつかお願いみたいな物を……
このSSはゲームのシナリオ1話をまるごとパロディにしてしまうという突飛なものであるんですが
多分、これを読んでくださっている方の中には未プレイの方も割といるんじゃないかと思います。
前回の「うたわれ」は原作+ドラえもん、という具合に原作の要素に上塗りされたような感じで
話を進めていった訳ですがl、
今回の「天いな」はシナリオそのものを改変しています。まったくゲーム通りには進んでいません。
当然といえば当然です。のび太が透子と関係を持ってからスタートなんて出来ないですんで。
しかし、この重要な冒頭部分を欠かしていることによって、シナリオそのものの主題が変わってきています。
最早、原作のシナリオとかけ離れています。
そこで前回「うたわれやったことないんですけど興味が沸きました」というあり難い感想がありましたが
今回の「天いな」はゲームとはまったくの別物と割り切ってください。あくまでも2次創作です。
これを読んで「『天使のいない12月』ってこういう話なんだ!」と考えてもらっちゃうと
非常に原作のほうに失礼に思う程のシロモノなもので。
>>316 _n
( l _、_
\ \ ( <_,` )
ヽ___ ̄ ̄ ) グッジョブ!!
/ /
天いなはむずい
「ファ〜」
カーテンを突き抜けて届けられている眩しい太陽の光。どこかしこから聞こえる鳥が囀る声。朝がやってきたのだ。
あくび、そしてしばらくボーッっとした後、ゆっくりと起きることにした。
「いやあ、学校が休みってのはゆっくり出来ていいもんだなあ〜」
モタモタと下に降りて朝食を取る事にした。
時刻は朝の9時。本日も中々の快晴。
「あ、そうだ! 今日、透子さんがうちにやってくるんだ!」
しかもぼくのセーター持参で。いつ来るんだろう?
「そういえば、ぼくも透子さんのコート預かってるじゃないか。確か昨日……」
ぼくは押入れの下の段をガサコソとあさり始めた。
「そうそう、箱まで用意して入れてたんだよなあ」
お中元の菓子折りの箱を使ってここに隠しておいたんだ。ママに見つかるとうるさいしね。
「透子さんがうちに来るのは構わないよなあ。適当に色々と言い訳しとけばなんとかなるでしょ」
ぼくは一度たたんであったコートをバッ! っと広げた。
……一応汚くはなっていないと思う。しかし、ほこりっぽくなっているかも知れない。
「借りた物は一度クリーニングしとくのが礼儀ってもんかな。ちゃんとそうするべきだよね」
貯金箱を取り出す。中身を出してみる。420円。足りるのか?
「一応ドラえもんに相談しておくか」
「ハイ『円ピツ』〜」
「エ〜ッ!? もっといい道具はないのー?」
「それじゃ『未来小切手帳』〜」
「おんなじだよ!!」
『円ピツ』は一見ただの鉛筆に見える道具だけど、普通の紙に例えば「400円」って円ピツで書いたらどこのお店でも400円分の紙幣として使える道具だ。
使える値段の範囲は限りがないけど、これは将来自分が働いて稼ぐお金を使ってるだけで後で返さなくちゃいけない。つまり、この道具は言わば『超簡単にその場で借金が出来る道具』である。『未来小切手帳』もまったく同じような道具である。
「君ね、透子さんもポイを助けるためにお金出してたんだから、そのくらい自腹で出したらどうだい」
ドラえもんはママに言いつけられたのか居間の掃き掃除をしている。
「ハイハイ、わかりましたよー。しょうがないなー」
ぼくは商店街にあるクリーニング屋さんに行くことにした。
「うわ〜、800円もするのか〜」
しかし払わないわけにいかない。しかたなく円ピツで「400円」と書いた。
「ありがとうございました。12時までには終わると思いますので」
「じゃあ、よろしくお願いします」
「あーあ。いつ透子さんが来るのかわからないんじゃ家を出るわけにはいかないなあ」
「君ね、そういうときにこそ宿題をやっておきなさいよ。そしたら明日は思う存分遊んでいいから」
「はいはい。そうしておきますよ」
ぼくは嫌々ながらノートを開いた。
「結構あるんだよなあ〜。嫌だ、嫌だ」
窓の外はいい天気だ。寒いとわかっていながらも遊びに行きたかった。
「ジャイアン達、今頃、野球の練習でもやってるのかなー。いいよなあ〜」
昨日は随分張り切っていたしな。きっとスネ夫たちもシゴかれてるに違いない。
……そういえば最近みんなと遊んでいない。みんな忙しいと言えばそうなのかも知れない。でも、それが少しだけ寂しくもあった。そういえば前にそんなことを静香ちゃんが言っていた気がする。確か、いつの日か。
「いいさ、今のうちに勉強してけばいいんだ。通信簿の為だもの」
今は勉強が友達さ。なあんちゃって。
「おい、起きろ。お昼ごはんだぞ!」
「え? あ、もうそんな時間?」
気がつけばすっかり寝ていた。
「宿題は〜?」
「ああ、少しは進んだ」
ドラえもんは「ほんとうかねえ?」なんて言いながら先に下へ降りていった。
「ま、2分の1くらいは進んでるだろー」
やれやれ、本当に出しすぎだっていうの!
食べ終わると午後1時10分ほど。そろそろクリーニング屋さんまでコートを取りに行かなくちゃいけない。
「それじゃ、行ってくる」
「帰ったら宿題の続きをやるんだよ」
「ドラえもんはそればっかりだなぁ〜」
家から商店街のクリーニング屋さんまで15分歩く。
「何とか透子さんがうちに来る前に取ってこないと!」
ぼくが急いでいる最中のことだった。商店街で見知った顔を見つけた。
「おばさん!」
「あら、のび太さん」
その人は静香ちゃんのママである。
「静香ちゃん、今日はどんな具合なんですか?」
「それがねえ、ちょっと今ね、一時的に入院してるのよ……」
「ええ!? 大丈夫なんですか?」
「お医者様の話によるとね……。それが……」
「それが?」
ところがおばさんはそこでハッ! としたように口を押さえると。
「……あ、やっぱり何でもないわ。それじゃ、今後とも静香のことをよろしくね」
「え? あ、あの……?」
そう言って足早に立ち去ってしまった。
「なんなんだろ……」
さっきの怪しげな態度、何か隠していたような気がする。人にはあまり言えない何かを。
「うーむ?」
つまり静香ちゃんは単なる風邪ではなかった? ひょっとしてとんでもない大病だった!?
「まさか! そんならそうと言うだろうし、それに、もしそうだとしたらもっと暗い顔してると思うがな……?」
一人娘が大病だって知ったらノイローゼになっててもおかしくないし……。じゃあ一体風邪でないとなると何だろう? 仮病? スネ夫じゃあるまいし!
「どちらにしろ、深く考えないほうが静香ちゃんの為かな」
世の中には知らないほうが幸せなことがあるのさ。そんなもんさ。
クリーニング屋さんに着いた。ぼくは伝票を渡した。
「はい、出来ておりますよ。どうそ」
ぼくはビニール袋で包まれたコートを受け取る。さすがに綺麗になっている。お金はちょっとかかったけどやっぱり頼んでよかった。
「あ、それとなんですけどね……」
店員の女の人はそう言うとレジの横の棚から何やら小さくて黒っぽい物を取り出した。
「これがポケットの中に入ってたんですよ。どうやら生徒手帳のようなんですけど……」
「生徒手帳?」
受け取るなり確認してみた。確かにこれは生徒手帳のようである。
ははぁ。あの時の透子さん随分慌ててたから、うっかり入れっぱなしになってたの気づかなかったんだな。ぼくもあまりいじってたりしなかったから気づかなかったけど。
「ありがとうございましたー」
店を出る。ちょっと悪いなと思いながらも中身を確認してみる。そこには確かに『栗原透子』の名前、顔写真、そして住所とか学年とか。
「3年なのか、あの人。色々な意味で大丈夫なのかなぁ〜」
って、他人のことは言えなかったりしちゃうんだけど。
「生徒手帳? そりゃまずいんじゃないの。だってそろそろ大学受験のシーズンじゃないの。もしも何かの用で必要になったら大変じゃないの」
「でも大丈夫だと思うよー。家はそんなに遠いって訳じゃないから、必要ならすぐに取りに来るだろうし、それに今日はそのうち向こうからやってくるんだしさ」
「まあ、それもそうかな……」
「それにしても遅いなあ〜。クリーニングするにしたってこんなに時間はかかるもんじゃないと思うがなー」
時刻はそろそろ3時を回る。
「まさか……道に迷ってるなんてことは!」
「そんな馬鹿な〜。君じゃあるまいしー」
「……いや、でも有り得るかも知れないぞ。透子さんに油断は禁物だ!」
「ほんと、君とおんなじだね」
「ちょっと待ってよ! もう4時半だよ!!」
もうそろそろ暗くなってきている。さすがにただごとではない気がしてきた。
「確かに。まさか本当に道に迷ってるなんてことがあったのかも知れないねえ……」
「だろ!? いや、そうとしか考えられないだろ!」
少なくとも約束を忘れるような人ではない。ならば何かあったに違いない。
「貸して! 『タケコプター』と『進路アドバイザー』!」
「ハイ。気をつけて行っておいで」
「おう!」
ぼくはコートが入った菓子折りの箱を持った後、玄関を飛び出した。
略称なんだが、のび天とかのほうが良かないか
なんだか軽いノリでいいね。
「透子さんのいる場所は?」
『ピンポーン!』
検索は10秒ともかからなかった。
「……えっと、こりゃあ昨日の公園辺りだな。でも公園とはちょっとだけ違うみたい」
もしかして自分の家にいる?
「何はともあれ行ってみたらわかるさ! 出発!」
タケコプター装着、再びぼくは隣町のほうへと飛んだ。
「ある程度は確認しなくてもわかるな。あの高校まで道程は同じみたいだから」
これで3日連続の隣町への移動である。ここまで来ると何だか因縁めいた物すら感じる……。
「それにしても何が?」
なんとなくぼくのカンじゃ大したことではないと思う。案外つまらないことで困っていそうな、そんな気がする。
「あの人の電話番号でも聞いておけば良かったなあ〜」
それにぼくのほうの電話番号も教えておけばよかった。今更遅いけど。
高校が見え始めてきた。思えば昨日、この高校の屋上で透子さんと出会ったことでぼくは買い物を中断する羽目になったのだ。
「今日は何もないよねー」
眺めてみると女子高生がひとり佇んでいるだけである。夕陽でも眺めているのだろう。
「そういえば今日は夕陽がきれいだな〜。おっと、そんなこと言っていられない。早く行かないと……」
――アレ?
もう一度屋上に目を戻す。
――アレレ?
目を擦る。
……は?
一つおかしいことに気づいた。
それはあの女子高生が立っている位置である。
静かに屋上に降り立った。あの人の後ろ側に。
「……何してるんですか?」
「……え?」
そこで初めてその女の人はぼくの存在に気づいたらしくぼくのほうを振り向いた。でも、小学生のぼくが突然屋上にいることにもまったく驚くことはなかった。
「さあ、なんだと思う?」
何を考えているのかまったくわからない目。口だけの穏やかな微笑。
「……タイタニックごっこ?」
ぼくは最悪の言葉を避けた。これが何かの冗談であって欲しかった。
女の人はクスリ……と笑った後、首を横に振った。
「違うわ、今日はね空がとってもキレイだから。ここから飛んでみようかなって思っただけよ……」
風が吹いた。ツインテールが夕陽に照らされてキラキラ光っていた。
「飛び降りたら……、死んじゃうじゃないですか」
冗談だと思ってた、そう思ってた。
「そうね。一回試しに死んでみようと思っただけ……」
すごく、穏やかな顔でそう言った。
「……」
動けなかった。力づくでも止めるべきなのに……。
「でも、今日はやめておこうかな。君に見られちゃったしね」
そう言うと女の人は軽々と欄干を乗り越えてきた。
「……」
「それじゃ。ごめんなさいね、変な物を見せてしまって」
そして何てことないような顔でぼくとすれ違う。屋上から出て行こうとしているようだった。
「……待ってよ!」
ぼくはそこでようやく声が出た。その人はドアを開けた直後みたいだった。
「何?」
それは今までのことが何でもないような態度だった。
「何で……!? 何が、どうして!?」
言いたいことがまとまらない。この人は悲痛な顔をしているわけじゃない。何を考えているのかまるでわからない、恐怖。
それは目の前にいる人が人間じゃないような気さえしてきた。この人は……この人は……!?
「そうね……。一言で言うと、『神様に挑戦したい』ってところかな」
「か……、かみさま?」
「そう。例えて言うなら、生まれた時に神様は私にレールを敷いた。だから、私はこのレールに乗って生きてきた。ところが今、唐突にここで私が死ねば神様を裏切ることになると思わない?」
「!?」
まるで言っていることがわからない。
「どんな人間だってレールに敷かれたどおりにしか生きる事は出来ない。でも私はそんな生き様に飽きてきただけ。それじゃ私は『生きている』じゃなくて神様に『生かされている』じゃない。世の中ってあまりリアルじゃないから、そう思えるだけなんだけどね……」
ここまでの説明でぼく自身がわかったところは何一つなかった。
「でも……、もし今、君に出遭った事も、レールのうちに組み込まれてる事だとしたら……」
そこでその人はニッコリ微笑んだ。
「運命的ね」
そこでガタン! と音を立ててドアは閉まった。
「……」
考えていた、あの人が言っていた言葉を。でもわかるわけがなかった。あの人は間違いなく異常だった。でも、もしもぼくがもっと頭が良かったら、それが分かる事が出来たかも知れなかった。でも、今はまるで意味がわからなかった。
自殺。死。そんなことはまるで遠い世界の事だと思ってた。でも違った。それは今、確かにぼくの横を通り過ぎて行ったのだ。
「――っ!!」
ぼくはドアをとんでもない勢いで開けた。そして階段を駆け下りる!
――バカげてる! そんなことはバカげてる!!
考えてみろ。まだあの人は高校生、そんな所で死んで一体何になるって言うんだ!
探す、見つからない! 廊下には誰も見当たらない! 教室をひとつひとつしらみつぶしに探すしかないのか!?
「そこの君! ここで何をしてるのかね!?」
「――!」
いつの間にそこに立っていたのは眼鏡をかけた嫌味ったらしいこの学校の先生。
「君、もしかしてまだ小学生かね? この学校に何の用かね」
無視する。キョロキョロしてみるもやっぱりいない。
「コラ、聞いてるのかね!? どうやらじっくり話を聞く必要がありそうだ……。さあ職員室に来たまえ!」
そう言うとこの先生はぼくの腕を強引に掴んだ。
「――っ! この、何をするんだよっ!!」
そういった後、思わずぼくは思いっきりその先生の手に噛み付いていた。
「イッッデエエエエ〜〜ッ!!」
絶叫する先生。
「――くそっ!」
ぼくはその場から逃げ出す羽目になった。
「――このガキッ!! 待ちやがれ!!」
来た道を全速力で戻る。階段を駆け上がり急いでドアを閉める。そして鍵をかけた。
「このっ!! コラッ、開けろ!! そんな所から逃げられると思うのか!?」
ドアを乱暴に叩く音が響く。しかし、そんなことはどうでも良かった。
フラフラと再び夕陽の前に立つ。頭が痛い……。
「なっ……」
神様に挑戦とか、裏切るとか、そんなふざけたこと言っちゃって……!
「なっ……!」
変な物? レール? 飽きた!? そんな滅茶苦茶なことがあり得てたまるか!!
「なんだって言うんだよーーーっ!!」
しかし、夕陽は何も答えてくれなかった。
家に着いた。当然コートは手に持ったままである。
「おかえり。アレ? どうしたんだよ、透子さんは」
「友達と喋ってた。どうやら忘れてたらしくって……」
もちろん嘘だった。ぼくはあれから何もする気も起こらず結局帰ってきてしまった。
「そう……。まああんまり落ち込むんじゃないよ」
「え?」
「さっきから死にそうな顔をしてるけど……」
「ああ……。大丈夫だよ」
……頭が痛い。
>>337 ?
>>250との関連性がわからん・・・。
わかるのは、誰ですか!?が物凄く懐かしいネタってことくらいか。
>>338 いや、天翔記スレの250のことじゃないの?
ややこしいことしてスンマセン…
結局、今日は透子さんがウチにやってくることはなかった。
「さて、寝るか……」
「日記は?」
「また明日ね……」
「……」
ドラえもんはそれ以上何も言ってこなかった。
……今、この瞬間。あの人が死のうとしてるんじゃないか。さっきからそんなことばかり考えていた。
あの時もっともっと色々言いたいことがあったはずだった。でもあの瞳に何も言えなかった、何も言わせてはくれなかった。
あの人は悲しいから死のうとしてたわけじゃない。せっぱつまってたから死のうとしてたわけじゃない。何がなんだかわからない理由で死のうとしていた。
思い出す。ぼくにとって一番身近に感じてしまった死。
それは、おばあちゃんが亡くなったあの日のこと。
それまで毎日ぼくに噛み付いてきた犬を追っ払ってくれるほど元気だったおばあちゃんが、急に寝たきり生活になってしまったのはまだ幼稚園児の頃。あの日々の中でぼくは毎日毎日元の元気なおばあちゃんが元気になってくれるように祈ってた。
……本当に本当に、助けてあげたいって思ってた。
「のびちゃんがダルマさんのように転んでも転んでもおっきしてくれると嬉しいんだけどね」
それが、おばあちゃんからのぼくへの遺言になってしまった。
でも誓った。
「ぼく、ダルマになる。何回転んでもおっきする。ちゃあんとひとりでおっきしてみせるから!」
だからぼくはこうしておばあちゃんの死から立ち直れる事が出来た。今、こうしておばあちゃんもぼくのことを見守ってくれているに違いない。
……でもあの人の場合は全然違う。あの人は……自殺しようとしているんだ。
自殺なんて考えたこともない言葉だった。わざわざ自分から死にに行くなんて何の意味があるのかわからない。自殺は死に意味を持たせることなんじゃないだろうか。
でも、あの人は少し違うような気がする。『神様に挑戦する』なんて言っていたけどそれは多分自分をごまかす為の言い訳なんじゃないのか……? じゃあ結局あの人は何を考えているんだろう。
……何でぼくがこんなに悩まなくちゃいけないんだろう? 一体それが何になるっていうんだろう?
もしも、おばあちゃんが生きていたら、答えを教えてくれるかもしれなかった。
でも……。
「う……」
朝の目覚めは最悪だった。今日が日曜だったからいいものの……。
「朝ごはん……」
時計を見るともう9時半を過ぎていた。
「のびちゃん! 遅いじゃじゃないの!」
「う、うん」
「まあまあ、いいじゃないか。たまの日曜なんだし、のび太もゆっくりしたいだろ?」
「パパ! パパがそんなに甘やかすから、のび太が調子に乗るんですよ!」
「そうですよ! のび太君は最近だらけすぎです!」
「……ま、のび太も遅れるのはほどほどにしとけよ、な?」
「うん」
相変わらず家族はうるさいくらいに元気みたいだった。
部屋に戻る。今日はどういうふうに過ごせばいいんだろ……。
「それじゃぼくはちょっと出かける」
ドラえもんはそういうとポケットを探り始めた。
「どこ行くのさ?」
「ちょっとね……」
ドラえもんが取り出したのは『タケコプター』と『進路アドバイザー』。
「それじゃ、行ってくる」
「ああ……」
特に興味もなかった。
窓の外は昨日よりかは雲が多いけれど晴れ渡っている。
「……」
机に向かうも何もする気が起きない。ボヤッとして時間を過ごしていた。
「……」
机に顔を突っ伏せる。ちょっとだるい……。
『ピンポーン』
チャイムの音。続いてママが玄関に向かう音が下から響いてくる。
「はーい。えっと、どちらさま? ……え、なあに? のび太に用? のび太〜!」
誰か来た?
「……もしかして」
「あっ……、のび太くん!」
「のび太、この人だあれ?」
……やっぱり透子さんだった。手に持っている紙袋はあのセーターが入っているのだろうか。
「えー、じゃあ2階に上がってくれませんか?」
「あ、うん……、じゃあお邪魔します……」
ママのことを気にしながらもそそくさと透子さんは中に入る。
「それで、のびちゃん。あの人は誰なのよ」
「おともだち」
「おともだち〜?」
疑いの眼差し。そりゃ確かに女子高生がぼくのお友達ってのは始めてのことだけどさ。
「とにかく! 失礼のないようにするのよ。わかったわね!」
「はいはい」
「ごめんなさい!」
部屋に着くなり透子さんは頭を下げる。
「あたし……あたし、昨日来るって言ったのに……!」
泣き出しそうな勢いで……、ああもう泣いている。
「ちょちょちょっと!! 泣かないでくださいよー! ここぼくの家で家族も居るんですから〜」
「う……うん、で、でもぉ……」
「何かワケがあるんでしょ? 聞かせてくださいよ」
「うん……」
とにかく座らせて落ち着かせる事にした。
「で、どうしたんです?」
「じ、実はね……、君のセーターにポイの毛がたくさん付いてたでしょ? だからね、クリーニングに出す前に取っておこうと思ったの。
で、でもね、ガムテープとかで取っちゃうと、もしかして痛んじゃったりしちゃうかなって! だから……指で取ろうとしたけど中々……、だからピンセットで……」
「……もういいです。大体わかりました」
道に迷ってくれたほうがわかりやすくて良かったかも……。
「ごめんね、困ったんじゃないかって心配で……」
「別にそうでもないですよ。代えのセーターくらいはありましたし。それにしても昨日一日中そのセーターと戦ってたんですか……?」
「ううん、昨日学校あったから……。なんかあたし3年だから受験前ってことで」
「ああ、なるほど」
だから昨日のあの人は学校の屋上なんかにいたのか……。と、いうことはあの人は3年……?
「あ、あれ? どうしたの。……やっぱり、気に障ってるのかな」
「……ハッ! あ、いえそんなことまったくないんですよ! あはは……」
最近ボヤっとしてしまう癖が付いちゃったみたいだ。これはあまり良くない。
「……え、えっと、そのー、のび太君、これから時間あるかな?」
透子さんは再び落ち着かない様子を見せてきた。
「うーんと、今日はまったくのヒマですけど?」
「……じゃ、じゃあこれから維納夜曲に行ってみない?」
「維納夜曲に?」
「うん。ポイを預かってる明日菜さんに近況を聞いてみたいのと、……これはお礼と言うのもなんだけとー、お店のお客さんとして訪ねることで、そこでアルバイトしてる明日菜さんの評判も上がってくれるかなって」
「なるほど〜。明日菜さんはお客さんを増やしたことになるんだもんね。よし、ぼくも行きましょう!」
「えっ、一緒に来てくれる?」
「うん! ぼくももう一度維納夜曲のケーキを食べてみたかったんだ!」
おいしいケーキを食べる事で気が晴れるかもしれないし。
「うん、じゃあ今日はあたしがおごってあげるから」
「え、いいんですか?」
「気にしなくていいよ、お金の事なら。誘ったのはあたしのほうだし……、それにあたし高校生でのび太君小学生だもん。のび太君はおごってもらうのはキライなほうなの?」
「いや、そんなことはないですが……」
「じゃあ、それでいいね」
なんだか透子さんは張り切っている。ポイのことを聞きに行くのが嬉しいのか。それともぼくにお姉さんぶってみたいのか。どちらにしろ元気で何よりだ。
「しーちゃん? しーちゃんはあたしといつも仲良しだよ」
「え? あ、そうですか。なら、いいんですけどね」
おとといの事は結局この人にとってはなんでもなかったらしい。
「それよりのび太君! タケコプターっていうのは……」
「ああ、今日は持ってないんですよ。明日にでも持ってきますね」
「そ、そう……」
透子さんはちょっぴり残念そうに肩を落とす。
「……ドラえもんに相談しておいたほうがいいかも知れませんね。あいつ道具のことに関しては結構うるさいから」
「ド、ドラえもん?」
「ああ、えっとそいつが色々と不思議な道具を持ってるわけなんです。うーん、説明するとちょっと長くなるんですけど、未来のロボットで――」
ぼくは維納夜曲に着くまで透子さんにドラえもんのことを聞かせてあげた。未来からやってきたネコ型ロボットなんて思えば随分突飛なことだったけど透子さんは疑いもせずに真剣に聞いてくれた。
「そ、そうなんだ……。本当に君は不思議な子なんだね……。ちょっとびっくりしちゃった」
「でも実際に本人に会ってみると、あんまり未来のロボットって感じがしないと思いますよ。愛嬌がある姿がただのタヌキの置物みたいで」
「へぇ……。じゃあ尚更会ってみたいなあ……」
透子さんは微笑んでいた。未知なる道具に夢を抱いている姿はまるで子供のようだ。
いや、ドラえもんって奴は誰でも子供にしてしまうような、そんな魅力がある奴だとぼくは思う……。
歩く事30分。ようやく維納夜曲にたどり着いた。
「ちょっと遠かったですね、透子さん大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。でも疲れたことでもっとケーキがおいしく感じると思うよ」
「だったらいいんですけどね」
喉も渇いた。また明日菜さんがおいしい紅茶をサービスしてくれないかな。
「じゃ、行きましょうか」
「うん!」
ドアを開けると心地いいベルの音。なかなか気分が良くなってきた。
「いらっしゃいませ、お客様」
早速声をかけてきてくれる女の店員さん――!
「!!」
――長いツインテール。まるで何を考えているのかわからない、死んでいるようでいながらも透き通った瞳。その顔、髪型。
それは、2度と会ってはならない人だったかもしれない。しかしぼくは再び出会ってしまった。
死に憧れているひとりの少女。死ぬ事しか考えていないひとりの自殺志願者に――!
「……」
「どうかなさいましたか?」
硬直してるぼくを見かねて透子さんがぼくの手を引いた。
「ほらほら、そこに明日菜さんいるよ」
「――え、あ、うん。明日菜さーん」
「あ!」
奥のテーブルを拭いていた明日菜さんはこっちにやってきた。
「いらっしゃい! 二人ともよく来てくれたわね。ゆっくりしていってねー」
「じゃ、おじゃましまーす」
「まるで、この店が明日菜さんの店みたいだね……」
ぼくはまたまたショートケーキを、透子さんはチーズケーキを選んだあと、手近のテーブルの席に座った。
「……」
「ど、どうしたの? さっきから、なんかお腹が痛そうな顔してるけど……」
「え、いやあ何でもないんですよー。あははー、いやこのケーキはおいしいなあ!」
嘘だった。本当はケーキの味なんて全然わからなかった。
――気になる。あの人のことが。あの人は間違いなく死にたがっている。本当に死ぬ気なら例えば今ケーキを食べているこのフォークだって出来るわけだ。例えば首とか手首とかに突き刺せば……。
だから、いつ、あの人が自殺してもおかしくない。
「――ほ、ほんとうに大丈夫なの?」
「へ、へっちゃらですよ、うん……」
ぼくのほうもおかしくなってきそうだ。あの人を見てると生きてる心地がしなかった。
あれから……すぐだったな。おばあちゃんが亡くなったのは。
おばあちゃん、ぼく起きるよ。
これから何回も何十回も転んだりするだろうけど。
そのたびにきっと起き上がるから。
だから、安心しててね。おばあちゃん。
うろ覚えだけど、思い出して泣いちゃったよ!
おばあちゃんは蛇足かなって思ったけどやっぱり付けて良かった。
それにしてもドラえもんはおばあちゃんが出てくるだけで相当イメージアップ出来るな。ある意味最強キャラだw
「こーら、どこ見てるの」
「え?」
透子さんとは明らかに違う、あっけらかんとした声。
「他の娘に見とれるなんてひどいわ、のび太君! このお店にはアタシっていう素敵なマドンナがいるっていうのにー!」
「……」
空気が静まり返った。
「っていうのはアメリカンなジョークということで置いといて、ポイちゃん元気にしてるわよ!」
「ホ、ホントですか!」
「ええ、うちもう一匹飼ってるんだけど、けんかもせずに仲良くやってる。前に透子ちゃんが病院連れてってもらったから健康面でも心配はないし、もうアタシの家族の一員になってるわ」
「よかった……! よかったね、のび太君!」
「ああ、うん。そうだね……」
何でこんなにいいニュースだっていうのに、ぼくはこんなにも気分が晴れないんだろう。
「それじゃお邪魔しましたー」
「またいつでもきてねー」
「……」
結局ぼくはあの人のことをまったく聞かずじまいだった。
「おいしかったねー」
「う、うん」
「あたし初めてこのお店来たけどこんなにおいしいケーキ屋さんがあったなんて……。ちょっと感激しちゃったよ。また今度行こうね」
「うん……」
――今、この瞬間、あの人が死んでいるかもしれない。
「!」
何を考えているんだ! そんなこと考えてたらキリがない、でも……。
「……」
「どうしたの?」
足が止まった。急に心音が上がる。手が震え出す。
脳裏に浮かぶのはあの人の穏やかな死にたがっている微笑。思い出すのはあの時の恐怖と空しさ。それはもうやりきれないほどの悲しさだった。
「……透子さんは先に帰ってて。ぼくはやることがあるから!」
「えっ? あ、のび太君!?」
ぼくは一目散に来た道を引き返していた。
「いらっしゃ……、あら、のび太君? 何、忘れ物?」
店では明日菜さんがぼく達がさっきまでいたテーブルの後片付けをしていた。問題のあの人は皿でも洗っているのか姿は見えない。
「違うんです! えっと、そうだ! 店長さんに会わせて下さい!」
「え? オジサマね。オジサマー、のび太君がー!」
するとすぐに奥からあの見かけがおっかない店長がやってきた。
「おお、君はいつぞやの……」
「お願いです……」
思いっきり頭を下げた。そして気合を入れて一言言った!
「ぼくをここで働かせてください!!」
「なッ……! 何ィイイイッ!?」
「ええーっ!? のび太君が〜!?」
「お願いします!!」
「……ひとまず、話を聞こうか。中に入ってくれ」
「フン……。ケーキ屋に興味が出てきたから働いてみたい、か。なるほど、理由はそれだけか?」
「……はい!」
「とても、……それだけとは見えないがな」
待合室の中、店長はフフンと鼻で笑った。
「……」
ぼくがここで働きたい理由。
実はそんなこと、ぼく自身わかってないかもしれなかった。
本当に、気がつけば、働きたいと思っただけだった。そこに理由はないと思うんだ。
……でも、ただひとつ挙げるなら、「あの人の側にいてあげたい」、そんな感じなんだろう。何故、そんなことを考え出したかは知らないけれども。
「まあ、こちら側は働きたい奴を拒む理由もない。これからケーキ屋は稼ぎ時だ、ネコの手も借りたいってもんだ。それが例え、君みたいな小学生でも手伝ってくれるってのなら有り難いと思う」
「――なら、働かせてくれんですね!」
「いや、いくつか問題がある。それはまずお前が小学生だってことだ。経営者が労働者をアルバイトとして採用することが出来るのは高校生からだ。だから給料を払う事は出来ない。無償で働いてもらうことになる。それでいいか?」
「かまいません。最初からお金なんてもらうつもりなんかなかったんですから」
「それと、もう一つ。お前にとってはただのお手伝いだろうが、こっちは商売でやっている。働くっていうのならこちらはそれなりに厳しい態度を取らせてもらうことになる。
本来はそういった認識が出来ている高校生からアルバイトという形で働かせているんだ。だがお前は自分から働きたいって言ってきたからにはそういった覚悟と責任ってものが認識できているんだろうな?」
「……はい」
「自信がないか。……まあ、これからうんと思い知らせてやるさ。最後にひとつ、俺が止めろと言ったらすぐにこの店の手伝いを止めてもらう。使い物にならない奴なんてこの店にはいらんからな」
「わかりました。精一杯頑張ります!」
「……よし。何のつもりだかは知らないが、しっかり働けよ。それで、名前を聞いてなかったな」
「野比のび太です」
「のび太、か。じゃあ、のび太、いつから働く?」
「なるべく早いうちに、出来れば明日から」
「じゃあ明日から来い。それまでにこちら側も用意をしておこう。そっちもそれまでに覚悟を決めておけ。それと今日夕方にでもお前の保護者の方に確認の電話を入れておく、ちゃんと伝えておいてくれ。
今日俺がお前に伝えたいことはそれだけだ。詳しい話や説明は明日にしよう」
「わかりました。それじゃ失礼します、また明日」
席を立った。その場から出て行こうとした時「……何考えてるだか」と鼻で笑う声が後ろから聞こえた。
「ねえねえ、のび太君本気なのー?」
待ち伏せていた明日菜さんが笑顔で聞いてくる。
「もっちろん! 明日からお願いしますね明日菜さん!」
「へぇ……。ふふ、これから楽しくなりそうねー」
明日菜さんは楽しそうに笑う。その隙にあの人を目で探してみた。……だが、どこにも見当たらなかった。まだ厨房の中にいるのか。
「そうそう、さっきのび太君見てたでしょ? この店にはもうひとり女の子がいるのよ。その子の名前が、須磨寺雪緒ちゃんね。ここでアルバイトしてるのはアタシとその子だけ」
「すまでら……ゆきお、か」
「今日は今彼女ちょっと忙しそうだから、明日にでも自己紹介してもらうわ」
「それじゃまた明日。今度はお客さんじゃなくてお手伝いとしてお店にやってきます」
「期待してるからねー」
維納夜曲から出るとそこには透子さんがいた。「先に帰ってて」って言ったのに……。
「……ど、どうしたの? 忘れ物?」
「ううん、違うんです。ぼく明日から維納夜曲で働く事になったんです」
「え、えーっ!? 働くって……、じゃあここでアルバイトするの?」
「ぼく小学生だからアルバイトじゃなくてお手伝いって形なんですけどね」
「へえー、偉いなあ〜。のび太君はまだ小学生なのに……」
「……」
ぼくは偉いって褒められる奴なんかじゃない。店長にどうして働きたいかって言われたけどしっかりした理由もなかった。
そんなのが軽々とお店のお手伝いなんかしていいのだろうか? こんなフラフラしてる心境のぼくがまともに働くことなんか出来るのだろうか……。実を言うと今から不安だらけだった。
「あたしも働いてみようかな……。維納夜曲で」
「よした方がいいですよ、維納夜曲だけは」
「……どうして?」
「さあ。あまりいい所じゃないですよ。あの店は」
「? だってのび太君は明日からそこで働く事になるんでしょ」
「だから色々と困ってるんですよね……」
「??」
「ハイ、ハイ……いえ、そんなことは。しかし、いや、ですが……! ハ、ハイ。そうおっしゃるのでしたなら……。では何卒お願いいたします。い、いえ、本当に本当に出来の悪い息子ですがよろしくお願いいたします!! では……」
ママは電話を切った。
「ね、嘘じゃなかっただろ?」
「ハァ……。のびちゃんがまさかあの維納夜曲のお手伝いをするなんて……」
「いいじゃないか。店長もそのことを認めてくれたんだしさ」
「ハァ〜」
ママは何故かガッカリしたままだった。
がんばれ、超がんばれ
特に働こうとしているのび太、激がんがれ。
保守
「ただいま〜」
玄関のほうから聞こえるドラ声。あいつしかいない。
「オ〜イ、ドラえもーんニュースニュース!」
玄関先では『甘井家』の紙袋を持っているドラえもんがいる。何故か元気がない。
「なんだい……? ぼくさ今疲れてるんだけど」
「いいからいいから! とにかく上でおやつでも食べながら聞いてくれよ」
「ハァ? 君が維納夜曲を手伝うだって?」
「そうさ、一生懸命頑張ったらお礼にあのおいしいケーキをただで食べられるかもしれないじゃない?」
「……君ね、正直言うとさ、何考えてるんだかわからないんだけど」
「ぼくは君が何言ってるのかわからないね。まあ、もう一つ理由を挙げるならあの維納夜曲で修行したら将来ケーキ職人に、……えっとそうそう、パティシェっていうのになれるじゃない! かっこいいと思わない?」
「……実を言うとさ、ぼくもついさっき維納夜曲に行ってきたんだよ」
「えっ!? そうなのー?」
すれ違わなかったのがちょっと不思議だ。
「昨日のケーキ食べてさ、ちょっと興味を持ったわけ。それで行ってみたらそりゃもう大変でさー」
そこでドラえもんは困ったようにため息をついた。
「……どういうこと?」
嫌な予感がしてきた。あの人が……。
「いや、さ。何かそこでアルバイトしてる女の人がぼくを見て悲鳴上げたの。何事? と思った次の瞬間『カワイー!!』って抱きついてくるの。そりゃもう騒々しいから他のお客さんに睨まれるわ、ぼくもお店の迷惑だって思ったから無理矢理逃げて来たんだ」
「ハハァ、それ明日菜さんだろ?」
「さあ? 名前なんて聞いてないけど……」
あの店でそんなことをする人は明日菜さんしかいない。『明日菜さんはドラえもんキラー』、覚えておこう。
「しょうがないから帰りがけに『甘井家』のドラヤキ買って帰ってきたというわけ」
「なるほどね。でさ、ぼくが維納夜曲のお手伝いすることをどう思う?」
「別に……。がんばれ、としか言い様がないね」
「あん? もっと他にないのかよー」
「ないね」
「のび太が、お店を手伝うとはな……。しかしまた何で?」
「そりゃぼくの将来の為に今から頑張ってみようと思ってさ、将来ケーキ屋さんになるってのもかっこいいかなって」
パパは複雑な顔を見せてきた。夕食のテーブル、パパの箸からから揚げが転げた。パパは渋い顔でそれを手で拾う。
「……しかし、のび太なんかがお手伝いなんて。かえって迷惑じゃないのかい?」
「店長はぼくが使えないと思ったらすぐに切り捨てようとするぐらいサッパリしてる人だもん。迷惑だって思ったらすぐに止めさせるだろうし、それにぼくだってそれなりに覚悟してるさ」
「ハァ〜、ま、それもひとつの社会勉強だろう。出来る限りやってみるといいさ」
「そうだね、がんばってみるさ!」
「……」
ドラえもんはあれから何も言ってこなかった。もっとガヤガヤと口うるさく言ってくるかと思ってた。それはもう鬱陶しいくらいに。でも知らん振りの無反応に最初は何だか腹が立った。
でも、正直、心細かった。支えてくれるんじゃないかって期待してた。
けど、そんなことを口に出して言えるはずもなかった。だってこれは自分自身で決めた事なんだから……。
「さあて、寝るか。明日から忙しくなりそうだ」
布団も敷いた、パジャマも着た。あとは寝るばかりとなった。しかし……。
「なあ、ドラえもん。ぼくが維納夜曲で働く事にさ、本当に何も言うことがないのかよ」
押入れによじ登ろうとしてる後姿のドラえもんにどうしても聞いておきたかった。
「ないない。自分で勝手に手伝うって決めたんでしょ。だったら自分ひとりで最後まで頑張ってみるんだね、それじゃぼくは眠いからおやすみっと」
ドラえもんは最後まで振り向くことなく戸は閉ざされた。
「何だよ! べー、だ!」
電気を消した。見えるのは窓から見える明るい月と、まばらな電灯と、家々からこぼれる灯火のような光のみになった。――静かだった。
「ほんとうに冷たい奴だなあ……」
布団に入った。今夜は特に冷えた。
「そりゃあ、自分から言い出したことだけどさ」
これが本当にただのお店の手伝いだったら、こんなにおどおどしなくていいってのに……。
夜中、冷えたせいか目が覚めてしまった。
「……おしっこ」
下に降りてトイレに向かわなくちゃいけない……。
用を済ませた。2階へと戻る。
「寒いなー、これからもっと寒くなるんだろうな……。やだやだ、明日からママに頼んで湯たんぽでも使わないと眠れないよなー」
身震いしながら布団に潜り込もうとしてる時だった。
「……の・び・太」
「!?」
押入れから聞こえる不気味な声。……でもちょっとよく考えてみればドラえもんの寝言だって気づいた。
「まったく、おどかしてくれちゃって……」
もう、さっさと寝てしまおうと目を閉じたその瞬間だった。
「のび太……がんばれ……」
ぼくの耳にはそんなふうに聞こえた。
……バカなやつめ。言われなくたってわかってるさ。
ぼく達はそういうもんなのさ、きっと……。
朝が来た。今日は月曜、学校がいつものようにある。
「じゃあ行ってくる。今日は学校終わったら家に帰らずにそのまま維納夜曲に行くから」
「一度帰ってからのほうがいいんじゃない? ママね、それまでに向こうの方々の為に挨拶状を書いておいてあげるから」
「いいってば! そんなのいらないよー。あの人はそういうのかえって欲しがらないタイプだと思うなー」
「いいから! 一度うちに帰るのよ、いいわね!」
「はーい」
教室では相変わらず空気がざわついている。男子は年末の野球の話とかそれ以外のスポーツの話とか。女子のほうはクリスマスの話題が耳に飛び込んでくる。
師走っていうけど小学生も忙しい。そう、このぼくも今日からとんでもなく忙しくなるんだろう。
「のび太さん」
後ろからトンと肩を叩かれた。
「ああ、静香ちゃんじゃないか」
そういえば静香ちゃんは金曜日に学校を休んでいる。今日は月曜でつまりは3日ぶり。それにしても随分懐かしい感じがする。
「そういえば風邪引いてたって話だったけど、ちゃんと治ったのかい?」
「……ええ、すっかりよくなったわ。みんなに心配かけちゃったようで申し訳なく思ってるのよ。あ、それはそうと……」
静香ちゃんは手に持っていたものを差し出した。
「この石ころぼうし、遅くなっちゃったけどドラちゃんに返しておいてもらえないかしら」
「アレ? 静香ちゃん石ころぼうしなんか借りてたっけ?」
渡された布きれを広げてみる。なるほど、確かにこれは石ころぼうしだ。
「こんなの何に使ってたの? いつ借りたっけ」
だがそこで静香ちゃんはぼくから目線を逸らした。
「ううん、別にたいしたことじゃなかったのよ。ちょっと用があって借りてただけ。前にちょっとだけのび太さんに話した事あるけど、忘れちゃったならそれはそれでいいの。もうそれはあたしにとって必要なくなったから……」
「あっそう? なら、まあいいや」
「じゃあ、よろしくね」
石ころぼうしをポケットにしまった。それと同時にチャイムが鳴ったのだった。
乙です
天いなやろうかな.原作も知っといたほうがいいような気がしてきた.
保守
程なくして先生がやってきて早速出席を取る事になった。
「……源」
「はい」
先生はハッ! と出席簿から顔を逸らし静香ちゃんを見つめる。
「おお、源! 来ていたのか。お前今日は大丈夫なのか?」
「はい。心配かけてすみませんでした」
「いや、そんなことはいいんだ。それにしてもお前、今朝まで入院してたんだって!?」
クラスのみんなが一斉に「エエーッ!?」と驚いたような声を上げた。ぼくは事前におばさんの方から話は聞いていたので驚くまでには至らなかった。
「……ええ、まあ。つい先程退院って形になって今朝は病院から車での登校なんです。でも、まったくたいしたことなかったんですよ? 土曜の朝にはもう熱はすっかり下がっていたんですから。ママがあまりに心配性なものでわざわざ入院させられただけなんです」
「しかしだな、つい先程まで入院していたことは事実なんだぞ。それにしても何でこんな重大な事を先生か学校に連絡してくれなかったのかね? 先生は今朝初めてご父兄からそのことを聞いて心臓が飛び上がるかと思うほどびっくりしたんだぞ。
金曜日に休んだときはただの風邪としか聞いていなかったからな」
「すみません。ママったら随分慌てふためいていたものだからすっかり忘れてたんだと思います」
……そうだろうか? おととい見かけた買い物をしてるあの姿、そんなにも慌てていたように見えない。それに、入院ともなれば学校側に連絡を忘れるなんてことが有り得るだろうか?
学校が休み中と言っても入院ともなれば連絡ぐらいしておくのが常識だろう。1泊2日ならまだいいとしても静香ちゃんの場合、金曜から数えて3泊も入院していたことになる。例え風邪をこじらせただけだとは言え、3泊って結構深刻な状態だったんじゃないだろうか。
「そうか? とにかく無理するんじゃないぞ。気分が悪くなったらすぐに誰でもいいから周りにきちんと伝えるんだぞ。いいか、遠慮しなくていいからな」
「はい、大丈夫ですから」
……つまり、忘れていた訳ではなかったとする。と、したら敢えて連絡しなかったのは別に理由があった?
そう言えばおととい、おばさんはぼくに詳細を教えてくれなかった。言う事を恐れて逃げられてしまったような気すらした。
そうなると、……えっと、どうなるんだろう?
そこでざわついている教室内の中である会話が耳に付いた。
「ねえねえジャイアン、何だかおかしくない?」
「何だよスネ夫。何か引っかかる所でもあったのか?」
「いいかい。さっきまでの静香ちゃんの説明が全部本当のことだったとするとだね、土曜の朝には熱が下がっていた、しかし退院したのは今朝。
普通さ、風邪を引いて入院するとしたらかなりの重病だと思わない?」
「そりゃそうだろ。おれ、風邪引いたことあるけど入院なんかしたことねえし、そんな話も聞いた事ねえな」
「でしょ? つまりさ、よっぽどとんでもない程の重病じゃなきゃ入院させてもらえないわけだ。しかし木曜日には静香ちゃんは学校に来ていたわけじゃん。
すると金曜日に風邪を引いたのはいいけど、たった一日で熱が下がってるじゃないの。こりゃあおかしいよ」
「でも風邪ってこじらすと一気に40度くらいまで上がることってあるらしいぞ。そんなんなら入院したって不思議はねえんじゃねえの?」
「問題はこのあとだよ。土曜の朝には熱は完全に下がっていた。それならめでたしめでたしですぐに退院になるじゃない。ところが退院したのは今朝、つまり月曜の朝。この2日間はどういうことなんだろうね?」
「さあ、わかんねえなあ」
「つまり静香ちゃんは風邪で入院した訳じゃなかった。一応熱は下がったが様子見ということでわざわざ2日間も入院させることになった。しかし普通の病気じゃそんなことはしない。つまり静香ちゃんの病気と言うのは――!」
「コラ! 骨川、いつまでも喋ってるんじゃない!」
「ハ、ハイ。すみません……」
「いいか、お前達。この先数日間でいいから源をよーく見てやれよな。それがクラスメートの役割ってもんだぞ、わかったな?」
そこかしこから『はーい』と大きな声が上がる。しかしスネ夫はそれっきり黙り込んでしまった。惜しい所で切れてしまったもんだ。
しかしスネ夫が言っていたことと、ぼくがさっきまで考えていた事をまとめてみると一つの結論に辿りついた。
静香ちゃんは風邪を引いて入院した訳じゃなく、別の病気だった。それをおばさんはひたすら嘘をつくことで隠そうとしていた。それはもちろん一人娘の静香ちゃんの為を思って。
ひょっとするとこんな感じじゃないのだろうか。しかし考えてみれば今朝に無事退院してるし、結局どうでもいいって言ってしまえばどうでもいいことだ。
そんなことより問題はあの人なんだから……。
――今、この瞬間、あの人が死んでいるかもしれない。
いやだいやだ。いつまでこんな心配なんかしなくちゃいけないんだろう……。早く無事を確認したい。じゃないと本当に落ち着いていられないんだから……。
そういえばこういう感情って何て言うんだろう。
……別になんてこともないさ、まったく。
今日の授業も特に何てこともなく終わった。
「それじゃあ気をつけて帰るように! 源、大丈夫か?」
「はい、今日だけは家族が車で迎えに来てくれますから。それに今日一日調子も良かったし、全然大丈夫ですよ」
「そうか、じゃあまた明日!」
「先生、さようなら!!」
「さあて、と」
一度家に帰らなくちゃいけない。挨拶状とやらを取りに行かなくちゃ。
「のび太さーん!」
廊下の向こう側から呼んでいるのはあの静香ちゃん、慌てたように駆け寄ってくる。
「どうしたのさ? 今日は車で帰るとか言ってたんじゃないの?」
「ええ、そうなんだけね。ちょっと伝えておきたい事があったの。覚えてる? ピアノのコンクールのこと」
「え、コンクール? えっと……何だったっけ」
「ほら、クリスマスにやるって言ってたじゃない。あれ、出ないことになっちゃったの」
「そうなんだ」
「ごめんなさいね、自分から招待しといて。また別のコンクールには必ずのび太さんを誘うから、また今度という事で」
「いいよいいよそのくらい。それじゃまた明日」
「それじゃあね、のび太さん」
静香ちゃんは忙しいのかまたもや慌しく走り去ってしまった。
……ピアノのコンクールか。そう言えば静香ちゃんはバイオリンの他にピアノもやってたんだっけ。あの子も本当に頑張ってるよな、ぼくもしっかりしなくっちゃな。
家に帰ってママから筆ペンで「挨拶状」と書かれた白い封筒を受け取った。
「それじゃあ、のびちゃん、しっかりやってくるのよ」
「ああ、わかってるさ。ドラえもんは?」
「ドラちゃん? 買い物に出かけてもらってるわよ。『のび太も頑張ってるから』って自分から引き受けてたわ」
「……そう。なら行ってくる」
「気をつけて行ってらっしゃいね!」
維納夜曲までタケコプターで20分ほど。着くのは4時ちょっと過ぎってところになるだろうか。
「何時何分に来いって言われてなかったな。昨日は向こうが準備してるって言ってたけど勝手に行っていいのかしら?」
お店のお手伝いなんかしたことないからわかんないや。でもしっかりやっておかなきゃ……。
――そばについててあげないと、危なくて見てられないから。
370 :
363:04/02/10 10:09 ID:VaxAWjUk
>369
乙です
> 一応このSS的にはプレイするのを推奨します。
んーやっぱりそうだよねぇ.暇な時中古で買ってきますわ.
371 :
名無しさんだよもん:04/02/10 18:35 ID:f1LgDSeK
age
すげー面白いっすね、ついつい読み入ってしまいました。
ところで、真帆ちゃんに出番はあるんですか?
キャラスレが・・なんで少々心配。(*^п^)<ホンメイハアスナサン
程なくして維納夜曲に到着した。
「一応店員ってことになってるけど、正面から入っていいのかな?」
しかし、考えた所で正面以外の入り方も聞いてなかったからわかるはずもなく、結局普通に入ることにした。
「こんにちわー」
「いらっしゃま……、あ」
「ん?」
気がつくと急に視界が真っ暗になった。
「来たのね、のび太君! 維納夜曲へようこそ☆」
どうやら胸で抱きしめられているらしい。いや待って、胸!?
「ちょ、ちょっと明日菜さん!?」
慌ててその場から逃げる。ど、どういうことっ!?
「あー、お姉さんのお乳から逃げ出すなんてちょっとショック〜。本当のお乳なんだけどな。ふかふかなのが自慢なのにー」
「確かにふかふか……。い、いやそういうことではなくてですね!」
いきなりの事に頭がパニックになる。
「おっ、来たのか?」
奥からやってきた店長。どうやらこの会話を聞いて出てきたらしい。
「4時10分か。だいたいこの時間に学校が終わるのか?」
「ハ、ハイッ!」
声が裏返っていた。
「……何だか知らんが随分落ち着きがないな。お前がまた体裁のないことをしたんだろ?」
「そんなことないわ。アレはね、のび太君っていう新人の為のアタシなりの歓迎の気持ちなんだけどなー」
「無駄に心を乱させてるだけだ! いくらなんでも相手は小学生であることを考えろ。せっかく手伝いに来てくれているのいうのに」
「……はぁ」
確かにここに来るまでの緊張は幾分か取れたかも知れないけど……。代わりに頭がクラクラしてきた。
「今日から働いてもらうことになるのだが、それなりに説明しておかなくちゃいけないことがある。よく聞いておけよ」
「ハイ」
「そう言えば俺の名前を言ってなかったな。俺は巣鴨文吾。この店のパティシェ兼店長だ」
「この店はひとりで全部のケーキを作っているんですか?」
「そうだ」
うわー。こんなおっかない男の人があんな美味しいケーキ作ってるの? 嘘みたい。
「納得が行かなそうな顔をしているな……」
「あー、いえいえ。ところで明日菜さんは何でオジサマって呼んでるんです?」
なんかちょっと引っかかった。
「これは俺の姪っ子で……、またそこでそういう納得の行かなそうな顔をするな! 姪と言っても俺のつがいの縁者だ」
「なるほど。それなら納得です」
「明日菜、自己紹介しろ」
「麻生明日菜。ぴちぴちの女子大生〜☆」
ポーズまで決めている。
「女子大生? 最近、学校行ってるのか?」
「え、えと……、コンパのあるときだけ……」
「行く気がないならとっととやめろ」
「やだも〜ん☆」
「ったく……」
なんか結局この人見かけどおりの人らしい。
「とにかくだ。なにかあったら、まず明日菜に聞けばいい。ほとんど、店の看板娘みたいなものだ。店のことなら、皿の枚数から金庫の暗証番号まで俺よりよく知っている」
「ええ、のび太君が知りたいこと、お姉さんが何でも教えてア・ゲ・ル」
何故か語尾にハートマークが付きそうなくらい甘い声で囁く。
「あん、とうとう言っちゃった☆ 恥ずかしいぃっ!」
「……気にしなくていい。病気みたいなものだ」
「は、はあ……」
でも、ちょっと気になるような。
「とりあえず、いまはこんなところだ。のび太がやってもらうのは主に片付けだ。店に慣れてきたら仕込みなんかもやってもらうことになる。愛想はいらん、要領良くやってくれ」
「わかりました」
「だが、今は差し当たってしてしまうことは……ないな。とりあえず、店に慣れてくれ。あとは明日菜に任せる」
「はい、オジサマ」
「じゃあ、着替えて入ってくれ。着替えは奥にある。」
小学生の制服なんか用意してあるのか。
「わかりました、オジサマ」
「お前までオジサマと呼ぶな!」
うわ、明日菜さんのがうつった!
「……おやっさんでいい。好きに呼べ」
「はい……」
おやっさんは奥へ戻っていった。
「ふふ、ちょっと腰が引けた? オジサマ、普段から迫力あるけど、怒るともっと怖いわよ。アタシも一度ものすごく怒られたことあったけど、もう本当に怖くて叩かれてもないのに泣いちゃったもの。あれでも柚美オバサマのおかげで、だいぶ丸くなったらしいんだけど」
「柚美オバサマ?」
「オジサマの奥様。少し前までここで働いてたんだけどね」
「ひょっとしておやっさん逃げられちゃったんですか? かわいそうに」
「違うわよ。ふたり目の子供を妊娠したの。でも、オジサマ、お店休めないでしょ。だから大事をとって実家に戻られているの。二人目だけど少し遅い妊娠というのもあるし……。だから人手が足りないって訳。
まあ、のび太君の場合はアルバイトじゃなくて違う立場にあるけど、雪雄チャンを雇ったのはその為なのよ」
「雪緒……って昨日の女子高生のことですか?」
「昨日いたでしょ、あのポニーテールの子。今日もあの子お店に出てくるからその時自己紹介してもらうからね」
「……はい」
「それじゃあ、お仕事はじめましょうか?」
「はい!」
「のび太ク〜ン、着替えた〜?」
「ええ、まあ……」
何が用意してあるかと思えば子供用の白衣とエプロンだった。明日菜さん達のと比べるとぼくのは給食のおばちゃんみたいだった。
「うんうん、かわいい〜! よく似合ってる☆」
「あの〜明日菜さん。ぼくは何をしたら?」
「そうね。とりあえず愛想よくあいさつしてくれるだけでいいわ。のび太君は小学生だからお客様に好印象を与えるかもしれないし、あの珠美チャンもよく挨拶まわりしてたのよ」
「珠美チャン?」
「オジサマのお子さんでまだ小学生なの。たまーにお手伝いしてもらうんだけど、結構お客様に好印象持ってもらえてね、お店としてもなかなか有りがたい存在なんだけど、本当にたまーにしか手伝ってもらえないのよね」
「へえ、それじゃあもしかしてぼくを手伝うことを認めてくれたのは……?」
「珠美チャンのおかげかもね。もちろんのび太君の働きたいっていう熱意もあったと思うけどね。ま、のび太君はいてくれるだけでお店としてはお客様を集める効果があると思うの。だからね愛想よくしてもらえると助かるんだけどな」
「わかりました、努力します」
「よろしい」
明日菜さんが頷いた、と同時にドアのベルが鳴った。
「いらっしゃ……、ああ雪緒チャン」
「こんにちは」
「……」
……あの人だった。
「雪緒チャン紹介するわね、この子が昨日働きたいって言ってきた小学生。名前はのび太君」
「……よろしくお願いします」
「わたしは須磨寺雪緒です。こちらこそよろしくね、のび太君」
にっこりと笑顔でお手本のような挨拶。もしかしておとといのことを忘れてるのだろうか?
「とりあえず着替えてきます」
「そうね」
「……」
……何故だろう、あの人の前だと上手く言葉が出ない。あの人に言いたいことはいくらでもあるのに、それを言うのがためらわれるオーラを放っているように感じる。
「可愛い子でしょ? 昨日からここに来てもらってるんだけど中々物覚えが良くって助かってる。仲良くしてあげてね」
「……はい」
……怖かった。
明日菜さんと雪緒さん、つまり女の人の制服は中々しゃれた物で、女子高生御用達のオシャレなこの店に良く似合っていた。
「雪緒チャンはこの辺の学校に通ってる女子高生で今何年だっけ?」
「3年です。えっと、のび太君って言ったっけ」
「はい」
「……もしかしてどこかで会ったかしら?」
「……おととい、学校で」
「!」
雪緒さんはそこで少しだけ驚いた後、「……ああ」と少しバツが悪そうな顔で納得していた。
「あれ? 二人とも知り合いだったの。どこで知り合ったの」
「ちょっと前に一度会ったんです」
ぼくに喋らせないかのように雪緒さんが前に出た。
「そう。じゃあ仲良くやってちょうだいね」
「はい」
どこかでちょっとしたピンチでのお助けキャラとして出してみたら如何?
保守
明日菜さんと雪緒さん、つまり女の人の制服は中々しゃれた物で、女子高生御用達のオシャレなこの店に良く似合っていた。
「雪緒チャンはこの辺の学校に通ってる女子高生で今何年だっけ?」
「3年です。えっと、のび太君って言ったっけ」
「はい」
「……もしかしてどこかで会ったかしら?」
「……おととい、学校で」
「!」
雪緒さんはそこで少しだけ驚いた後、「……ああ」と少しバツが悪そうな顔で納得していた。
「あれ? 二人とも知り合いだったの。どこで知り合ったの」
「ちょっと前に一度会ったんです」
ぼくに喋らせないかのように雪緒さんが前に出た。
「そう。じゃあ仲良くやってちょうだいね」
「はい」
「いらっしゃいませー」
この店はやはり放課後に寄ってくる女子高生のお客さんが多かった。やっぱりこの店の味は場所が悪いながらも結構知られているようで、それなりに繁盛していた。
「いらしゃいませー、お客様」
皿洗いをしながらお客が来れば大きな声で挨拶。今日の仕事はこれだけだった。お店に慣れてもらうことがぼくの最初の課題だとおやっさんは言う。不満はない。
「やだ、小学生の子が働いてるよー」
「かわいー」
「ありがとうございますー」
明日菜さんが言っていたように、高校生からお年寄りまでぼくが働いている姿は好印象を与えているらしくよく声をかけられた。嬉しいと言えばそうなんだけど、その度に挨拶をするのが正直面倒でもあった。
明日菜さんはカウンターでお持ち帰りの人との応対と会計に勤めている。雪緒さんはお客さんが来れば応対に行き、注文を取る。二人の仕事ぶりはかなり正確だった。
聞く所に拠れば明日菜さんは結構昔からこの店で働いているらしく、それはまだ小学生の頃からこの維納夜曲にしょっちゅう入り浸れていたらしい。この店でアルバイトをすることになったのも自然な流れだと思う。そもそも明日菜さんとおやっさんは血縁関係らしいし。
……雪緒さんは何故こんなアルバイトをしようと思ったんだろう?
「おい、のび太。皿がなくなったら挨拶にまわれよ」
「……は、はい!」
「ボヤッとするなよ、仕事はテキパキとやれ。それをまず心がけろよ」
「はい」
おやっさんは今までぼくが受けていた印象とは比べ物にならないほど、仕事中は迫力があった。まだ、ただの皿洗いだけしかやっていないのに、あの学校の先生なんかよりよっぽど厳しかった。働くっていうのはこういう感じなのかもしれない。
「じゃあ、のび太君。お冷のおかわりに行ってくれない?」
ぼくは明日菜さんからポットを渡される。
「いい? プラスチック製のコップが置いてあるのがお水のお客様、それ以外がお茶だから。空になってるのを探してみて。お客様に聞いて回ってもいいわ」
「はい」
ポットは意外にも重い。この仕事、意外にも力を使うことが多かった。一度おやっさんにそう言った時に笑われた。「お前の根性が足りないだけだ」、と。
「お冷のおかわりありませんかー?」
すると、ひとりの高校生同士のカップルのうちの男の人が手を挙げた。
「はーい」
急いでテーブルに向かった。
「頼むよ」
「はい」
差し出されたコップに水をそそぐ。だがこれが中々神経を使った。ポットは結構重くて、さらにテーブルは小学生のぼくからすると結構高く感じた。加減するのが、難しい。
「うわ!」
上手く加減したはずなのに入れすぎて少しだけこぼれてしまった。
「あーあ、これじゃあ飲めないなー」
苦笑いを浮かべる男子高校生。
「スミマセンスミマセン……!」
仕方なくひたすらに頭を下げる。しかしこの後どうすればいいのかサッパリわからない。
「ほら、まずはフキンでテーブルを拭いて。コップは新しいのを用意するといいわ」
「あ、ありが……」
言葉が途切れた。後ろを振り向くと雪緒さんの顔がそこにあったから。
「それじゃわたしは新しいのを持ってくるから」
「……はい」
ぼくはとにかく渡されたフキンでテーブルを拭くことにした。
覚悟はある程度出来ていた、想像も出来ていたが、やはり怖かった。
目の前に死にたがっているとわかってる人がいる。いつ死ぬかわかったもんじゃない。
だから、ここに来た。なのに声をかけるのすら、まともに出来たものではなかった。
一種の脅迫のようなものだった。
あの日、「わたしはいつ死ぬかわからない」って言われてしまったような気がした。
そんな物を見せられたら放っておくわけにもいかなかった。
例えば、今にも道路に飛び出しそうな子猫がいたとする。そんなものを見せられた人間は少なからず助けてあげたいって思うだろう。雪緒さんはぼくにとってそういう存在になってしまった。
――それが当の本人が気にしなくても、気がおかしくなりそうな程に怖かった。
……あの日の死にかけていたポイを見ているようで怖かった。
「はぁ……」
時刻午後7時ちょうどになった。ようやく客も来なくなった。
「よし、じゃあのび太、今日はもう上がれ」
おやっさんが厨房から出てきた。
「……はい」
「どうした? 疲れたか」
「はい、かなり」
「フン、まだお前には皿洗いと挨拶程度しか頼んでいないつもりなんだがな。明日からはもっと色々とやらせるつもりだ。ま、それでもやる気があるなら、またいつでも手伝いに来い」
「いえ、明日また来ます」
「そうか。今日はそれなりによくやった。これ、持っていけ」
おやっさんはいつの間にかお持ち帰り用の箱をレジの下の棚に用意していた。
「お前のお母さんに、こちらからもよろしくって言っておいてくれ」
「はい。必ず伝えます」
「じゃあ、また明日」
「待って、のび太君」
そこで引き止めたのは意外にも雪緒さんだった。
「一緒に帰りましょうか、わたしももう上がるつもりなんだけど」
「……いえ、ひとりで帰れますから」
「もう、のび太クン。誘われているんだから送ってってあげたら?」
「……」
「それじゃ、さようなら」
「また明日ねー。気をつけて帰ってねー」
「はーい」
「それじゃ、駅まで送っててくれないかしら」
「……はい」
雪緒さんと二人で慣れない道を並んで歩く。何を喋っていいものかまったくわからなかった。風はなく夜空も澄んでいたが、やはり心が重い。
「ひょっとして、わたしのせいなのかな?」
「……え?」
「君が落ち込んでいる理由」
気がつけば雪緒さんに顔を覗き込まれていた。ぼくは何も言う事ができなかった。
「たいしたことないと思ってたんだけどな」
「それはもしかして雪緒さんが、屋上から飛び降りる所をぼくに見られたことの事ですか?」
「他に理由がわたしのほうじゃ思いつかないんだけど」
「……たいしたことない訳ないじゃないですか。どうかしてますよ」
「わたしも自分の事をそう思ってるかも」
「……」
どうも会話が雪緒さんのペースになってしまう。
「ごめんなさいね、って謝っても遅いかしら」
「そうかも知れませんね。ぼくはもう維納夜曲をお手伝いするって、おやっさんにも家族のほうにも言っちゃったわけだし」
「……そう。やっぱり君がお手伝いしてるのもわたしのせいなんだ」
申し訳なさそうな顔で顔をうつむかせている。
「かまいませんよ、どうせもう遅いんです」
「どうしたら君に償えるのかしら……?」
「そんなの決まってるじゃないですか」
ぼくはそこで一度立ち止まった。
「約束してください。絶対に死なないでください。自殺なんかしないでください。ただそれだけです」
雪緒さんはそこで無表情で一言。
「それは出来ないわ」
……予想していた答えだった。
「なぜ?」
「前に言わなかったかしら」
「あんなの説明になってませんよ! どういうことか説明してください!!」
ぼくは維納夜曲で働いている姿をずっと見ていた。だけど真面目に働いているその姿はとても死にたがっているようには見えなかった。
「……一言で言えばわたしは心が壊れているの」
「何ですって?」
「壊れているの、何も考えられないくらいにね」
自嘲気味に言っていた。それは自分自身馬鹿げたことを言っているのをわかっているってことだろうか。
「じゃあ、ぼくがここであなたに何を言っても無駄ってことですか?」
「申し訳ないけど、そういうことかもしれないわね」
「……なるほどね。分かりやすい説明でした」
頭を抱えた。こりゃあぼくの手に負えない気がした。
でも、一つだけとっておきの手段があった。だけど、それを言う前に雪緒さんが言ってしまった。
「他の人には黙っていてくれないかしら。わたしが死にたがっている狂人だってこと。このことを知っているのはわたしとあなただけだから」
「だったら、屋上で飛び降りるなんていう自殺の仕方なんかしないでくださいよ。目に付くじゃないですか」
「そうね。でもあんなに美しい空を眺めながら死ぬなんてロマンチックだと思わない?」
「ちっとも」
「でしょうね」
雪緒さんは楽しそうだった。
あの日もそう、死について語る雪緒さんは本当に楽しそうだった。だから自殺なんてことを本気で考えているってことがわかった。それはもう嫌になるほどに。
「でもね、それが最後の希望なの」
「……?」
「この世界からの最後の逃げ道。それがなくなってしまうのが一番怖い」
「……」
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ \
/⌒ヽ / '''''' '''''' ヽ
| / | (●), 、(●) |
| | | ,,ノ(、_, )ヽ、,, |
| | | `-=ニ=- ' |
| | ! `ニニ´ .!
| / \ _______ /
| | ////W\ヽヽヽヽ\
| | ////WWWヽヽヽヽヽヽヽ
| | ////WWWWヽヽヽヽヽヽヽ
E⊂////WWWWWヽヽヽヽヽヽヽ
E////WWWWWWヽヽヽヽヽヽヽ
| | //WWWWWWWヽヽヽヽヽヽ
大長編ドラえもん「のび太の天使のいない12月」公式サイト
ttp://www.tekipaki.jp/~superkoarakko/dora129.htm
なかなかいい感じに雪緒さんですね。
ただゲームの時点では2年生でしたよ。
(もちろん全ての登場人物は18歳以上ですw)
駅まで維納夜曲まで10分程だった。六文字駅、結構大きめの駅だった。
「それじゃ、随分君の家から遠回りになってしまったわね」
「ここまで送ってくれって頼んだのは雪緒さんじゃないですか」
「そう言えばそうだった、ごめんなさいね。今度からはもうこんな面倒なこと頼まないから安心して」
「いえ、明日も出来れば送らせてください」
せめて、ぼくの出来る範囲でこの人を監視しておきたかったから。
「……それじゃ、お願いしようかな、よろしく頼むわね。それじゃ……」
そう言って雪緒さんは一度だけ手を振った後、駅に向かって歩き出してしまった。
その後姿を眺めていた。やはりどこかその辺の人達と雰囲気が違うような気がした。
「それじゃ……」
ぼくはその後姿にポツリとつぶやいた後ポケットのタケコプターを取り出そうとした。
「ああ、そうだ」
雪緒さんはそう言って振り向いた。
「何ですか?」
手に持っていたタケコプターをポケットに戻す。
「一つだけ君と約束できることがあるわね。それを伝えておこうと思って」
微笑を浮かべながらこう言った。
「あなたの前では死なない」
「……」
「それと、お店の中じゃ君には笑っていて欲しいな。そうしたら、こちらとしても気分がいいから」
「じゃあ笑ってみせます。そのかわり、ぼくの前じゃ死なないって約束してくれますか?」
「そうね、絶対に約束してあげる」
「……わかりました。ぼくは雪緒さんのこと信じることにしますから」
「それじゃあ、また明日」
「それじゃ……」
雪緒さんは今度こそ駅のホームに吸い込まれていった。
『あなたの前では死なない』。雪緒さんのこの一言に、今日ぼくが働いたことに意義があったと信じたい。
「ただいまー」
駅からタケコプターで飛ぶ事40分、随分と時間がかかってしまった。
「おかえりなさい、維納夜曲はどうだったの?」
真っ先に玄関先に出てきたのはママだった。
「いやあ、結構大変だったよ。ほら、これおみやげ」
「あら、お手伝いしてもらえた上にそんなものまで頂いたの? ちゃんとお礼は言ってきたの?」
「ああ。とにかく今日は本当に疲れたよ」
と、そこへ上からドスドスと足音を立てて降りてくる奴がひとり。
「のび太君、どうだった!? お店に迷惑かけてないかって心配でさ」
「よぉ、ドラえもん。しっかりやってきたよ」
「そう? なら、いいんだけど……」
「心配するなよ、ちゃんとそれなりに出来ていたさ。それよりご飯早くしてくれないかなー」
「はいはい」
「まあ、また美味しそうなケーキ。これって売れ残りの物じゃないんじゃないかしら? 気を使ってしまったら申し訳ないわ」
「そうそう、おやっ……、じゃなくて店長がママによろしくってさ」
「そう。ちゃんとこれからも頑張るのよ」
「うん」
ぼくは夕食の時間中、ちょっと考え込んでいた。明日は何時に行こうかな、詳しく聞くのを忘れていた。ぼくはお手伝いっていう立場だからいつでもいいのだろうか?
「それにしてもいつ食べてもおいしいわね、この維納夜曲のケーキは」
「そうだね、ママ。4つも持って帰ってくるなんてのび太君も偉いねえ」
「もう! 二人ともそれはぼくがちゃんと働いてきたおかげだからね!」
「わかってるって」
ドラえもん達はひとまずぼくがしっかり働いてきたことに満足そうだった。でも、どうしてぼくが維納夜曲で働く気になったのはまだわかっていないようだった。何だか二人の期待を裏切ってる気分になった。
出されていた宿題をいい加減にやって、ぼくは寝る事にした。
「明日も手伝いに行くのかい?」
「ああ、出来れば毎日行きたいって思ってる」
「そう、やる気があるんなら止めはしないよ。でもやるならしっかりね」
「おう」
ドラえもんはそこで一拍置いたあと申し訳なさそうに俯いた。
「……昨日は何だかやる気のなさそうに見えたからさ。結構きつく言っちゃったけど」
「別に気にしてないよ。なあに、ぼくを信じとけって」
「じゃあ、そうしとくよ。無理はしないでね」
「ああ、大丈夫だ。心配するなって! じゃっ、明日も忙しいからここでおやすみー」
「ああ、おやすみ」
電灯を消した。
寝る前に一度だけ神様に祈っておいた。
「明日も無事な姿で雪緒さんに会えますように……」
ミスった。六文字駅→八文字駅
こどもぽるた−ぽるたニューズフラッシュ
http://www.kodomo-porta.com/newz/newz/031128tw/ >全員(ぜんいん)のお友だちが、日本のキャラクターを知ってたよ。一番の人気者(にんきもの)は、やっぱりみんな大好き「ドラえもん」!
ほかにも、ポケモン、デュエル、コナン、ガンダム……。
おお、多拉A夢で台湾と国際交流が出来るじゃないか!
と、思って台湾版2ch葉鍵板に
「葉鍵的大長篇多拉A夢」を立てたくて仕方ないけど時間が悪いのか繋がらない…。
乙ディス。毎回楽しませてもらってマス。
>>391 たらえーむん?かねえ。
保守
朝が来た。なんとなく昨日の疲れが残っている気がした。
「ふぁあ〜、学校に行きながら働くって大変だなー」
しかし、だらけていられない。ぼくには色々とやらなくちゃいけないことがある。12月は本当に忙しくなった。
「じゃあ行ってくる。今日こそは家に戻らずに維納夜曲に向かうから」
「そう、気をつけて行ってくるのよ」
「うん、じゃあ行ってくるよ」
学校に着いた。席に着いた後ランドセルの中身を取り出す。
「あれ?」
見慣れない布切れが出てきた。
「そうだ、昨日静香ちゃんから石ころぼうし預かってたんじゃないか」
落とすといけないからってランドセルに入れておいたのをすっかり忘れていた。ドラえもんも何も言ってこなかったし。
「ってことはドラえもんも石ころぼうしのことを忘れているのかな? ならいいや、当分ぼくが預かっておこうっと」
なかなかいい道具を手に入れた。これさえあれば姿を隠して色々と出来る。例えば……、えっと特に今は思いつかないが色々と。
教室内をざっと見渡すと、静香ちゃんは今日もちゃんと出席していた。このことは黙っておこう。
昼休みは相変わらず外に出ずウスラボンヤリと昼寝していた。元気に外で遊んでいる子と違ってぼくは疲れているんだ。だってぼくは働いているんだから……。
「のび太さん」
そこで声をかけてきたのは静香ちゃんである。
「どうしたの? 外で遊んでると思ってたけど」
「あたしは何故かママに止められているのよ。こんな寒い中外に出たら、また熱がぶり返すんじゃないかって余計な心配しちゃってるから。それより、のび太さんこそ元気ないじゃないのよ」
「ぼくは元気がないわけじゃなくて疲れてるだけだよ」
「へえ、のび太さんでもそんなことあるの?」
「失礼だなあ。ぼくはね色々と忙しいの!」
「あら、ごめんなさいね」
静香ちゃんは口を押さえて穏やかに笑う。
「そうだわ、のび太さんは今の時間暇なの?」
「そうだけど、何?」
「うん、実は見てもらいたいものがあってね」
そう言うと静香ちゃんは自分のスカートのポケットをまさぐり始めた。
「これ! 携帯電話なの」
それは眩しいほど真っ赤な携帯電話だ。
「え、学校に持ってきちゃいけないんじゃないのー?」
「ママが先生に持ってくる事を無理矢理に説得して許可してくれたみたい」
「へえ、なんだか凄いねえ君のママ」
「そうなの、ちょっと考えすぎよね……」
何故か顔が曇っている。
「それも、前に入院したことと関係してるの?」
「そうみたいね。ところでのび太さんは携帯電話を持ってないの?」
静香ちゃんはあまり入院のことに触れて欲しくないのか、突然話題を切り替えてきた。
「持ってるわけないじゃないの。うちは未だに車もパソコンもFAXもないんだよ」
「へえ、22世紀のロボットがいるのに不思議なものね」
「ぼくのママに一度そう言ってやってよー」
それから他愛のないお喋りが10分ほど続いた。主にピアノやらバイオリンやらのおけいこのこと。
「へえ、ピアノのコンクールに出ることを止めたのは、あの入院のせいだったの」
「そうなの。ママが止めろってうるさくて。本当に頑張っていたんだけどね」
「そうか……」
何かさっきからおかしな会話が続く。『ママに止められた』って言葉が何度か続いた。
入院のせいでピアノを止めたってどういう意味なんだかよくわからない。しかしそれを聞くのは何だかためらわれた。『ママ』が必死になって隠している気がしたから。
「……ねえ、のび太さん。今日の放課後はどうしてるの?」
「え、えっと――」
答えに詰まった。あまり維納夜曲で働いている事は知られたくなかったのだ。知り合いに働いている姿を見せたくなかった。それはそこで働いている理由が特別な物であったから。
「さっきも言ったろ? 色々と忙しいんだ」
「そう。また維納夜曲に行こうって誘おうって思ったんだけど……、残念ね」
「!」
そのうち維納夜曲に来るつもりなんだろうか? 嫌だなあ。上手くその時だけ厨房に逃げる事にしよう。しかし、そんなことがおやっさんが許してくれるだろうか?
「まあ、元気出してちょうだいね」
「ああ」
そして静香ちゃんは行ってしまった。昼休みの間一体何をやっているのか、と思えば読書しているらしい。
「元気出して……か。その言葉、ぼくの代わりにあの人に言ってくれないかなあ……」
ぼくはひとつあくびした後、結局この時間は昼寝することに決めた。
「先生さようなら!」
学校が終わった。タケコプターで飛べば維納夜曲まではすぐだ。
「急ごうっと」
ぼくは大空へと飛んだ。
「3時50分か。家に寄らずに真っ先にここに来るとこの時間になるんだな?」
「はい、そうです」
厨房でおやっさんは生地を練りながらぼくと話していた。先程からドン! ダン! と力強く生地を叩いている音が響いている。
「しかし昨日は4時ちょっと過ぎだっただろ。そうだな……、この際のび太は4時半からのシフトってことにするか?」
「ええっ!? ぼくはお手伝いだから、いつでもいい訳じゃないんですか!?」
「まあそういう訳でもあるんだが、こちらとしてもきちんと時間を把握しておきたいっていうのもあるんでな。一応お前も就業員のひとりでもあるわけだし。須磨寺のほうもそういうことになっているから、そうしとけ、な?」
「……わかりました」
まあ、雪緒さんと一緒にいれればいい訳だし。
「それと、お前。携帯電話持っていないのか?」
「え? はい、持ってませんけど」
「そうか、よし。じゃあ、そうだな……」
おやっさんは一度手を止めて、時計を眺めながら考えている。
「6時半だ。のび太、今日は6時半に上がれ」
「え?」
「その後にお前にはやってもらうことがあるんだ」
そこでひょっこりと明日菜さんがカウンターから顔を出した。
「そうそう、このアタシとねー」
「え、明日菜さんと?」
「そう。何だと思う?」
「さぁ?」
「うふふ。なんとお姉さんとデートなのです☆」
「……は?」
「なあに? その嬉しくなさそうなリアクションはー?」
「え、いや、そういう問題じゃなくてそれはどういう?」
そこでおやっさんは前に出る。
「お前はもうここの店員の一人として働いている。だから連絡のために携帯電話のひとつぐらい持ってもらいたくてな」
「しかしお金なんかぼく持ってませんよ。もらってもいないし」
「だからこそ、だ。携帯は俺の名義でお前に貸す、だが金は俺から出す。何、気にするな。恐らくお前のこれからの働きぶりを時給に換算したら通話料もたいしたことはないだろう。ただしお前がこの店の手伝いを辞めるなら、その時はとっとと俺に返してもらおう。それが条件だ」
「つまり、今のび太クンが着てる制服と同じ感覚だと思えばいいんじゃないの? このお店で働くつもりならタダで貸し出します。でも辞めるときは当然返してねってこと」
「なるほど、だいたいわかりました」
「本当なら俺がお前と一緒に買いに行くべきなんだろうが、店長兼パティシェの俺が店を離れるわけにはいかんからな。そうなるとこの店で成人してるのは明日菜しかいない」
「そう、だからお姉さんとデートってわけ」
「はぁ……」
「明日菜、くれぐれも余計な事はしないで用が済んだらさっさと帰るんだぞ」
「えー、せっかくオジサマ公認でのび太クンとのデートが出来るのに。さっさと帰るなんてもったいないんですけどー」
「遅くなればのび太の両親が心配されるだろう! お前もいい加減大人なんだからその辺をわきまえろ!」
「ハーイ」
明日菜さんは渋々と口を尖らせながら了解している。何だか今から嫌な予感がしてきた。
「こんにちは」
ベルが鳴ったと同時に聞こえてくる聞き覚えのある声。
「ああ雪緒チャン。こんにちは」
「……こんにちは」
「皆さん、今日もよろしくお願いしますね」
さあて、今日も仕事だ。頑張らなくちゃいけない。全てはこの人の為だ。
すれ違いさま、雪緒さんは笑顔で言ってきてくれた。
「今日もがんばりましょう」
「はい、がんばりましょう!」
この人に負けたくはない。それはこの人の自殺を許してしまう。
「じゃあ笑ってみせます。そのかわり、ぼくの前じゃ死なないって約束してくれますか?」
「そうね、絶対に約束してあげる」
笑ってみせる。今日も元気にやってやるんだ!
乙〜
>399
見てきたよ >台湾2ch
あれってきちんとした中国語なの?言ってる意味はなんとなく分かるけど.
ともかくドラえもんのAAにワロタ
藤子風おやっさん密かに期待してます。
昨日と同じように皿洗いがメインなのだが、それ以外に今日は調理器具の洗浄も任された。ビニール手袋を着けた手で、熱過ぎるくらいのお湯でガシガシと力を入れて洗う。
「いいか、洗剤は付け過ぎるな。でも確実に綺麗に油ひとつ残らず洗え。さらにもっとテキパキと急いでやれ。ただし皿は割るなよ」
「結構厳しいんですねぇ」
しかも立ちっぱなしっていうのも結構辛い。考えてみれば2時間強ずっと立っていなくてはならないのだ。
「当たり前だ。飲食店でもっとも気を使うのは味なんかよりも衛生面のほうなんだぞ。皿一枚洗うのにも神経を使うのが常識なんだ」
「そうなんですか。初めて聞きました」
「それと、皿を割ることやナイフ等での指のケガも問題だ。ケガも危ないがそれによって流れる血もな、食品を扱うという関係で危ないんだ」
「そうなんですか。初めて聞きました」
「色々と勉強していくといいさ。こういう知識は生活の上で一生使える物だからな。……おっと」
おやっさんは慌ててオーブンを開ける。一応中のスポンジはまったく焦げてはいなかった。
「ふふ、どうやらオジサマはのび太クンのこと気に入ったみたいね」
そこでまたもや顔を出しているのは明日菜さん。
「オジサマってお子さんが女の子しかいないじゃない。のび太クンを自分の子供のように思ってるのよ、きっと」
「はぁ」
……そう言われてもなあ。
「ねえ、のび太クン。将来なりたいものってある?」
「え? そうですね……」
考えてみる。でも、あんまりそういうこと考えてみたことってない。
「かっこいい仕事がいいですね。あと儲かるやつがいいです」
「じゃあケーキ屋さんになったら?」
「え〜?」
「オイ、喋ってないで集中して仕事しろ」
後ろから楽しそうな雰囲気を一気にぶち壊すような怖い声が。
「ハーイ」
ケーキ屋さんか。それも面白そうかもしれないな……。そんなことを考えていたら、急にあの日の雪緒さんの屋上での姿を思い出した。
「おっと、いけない……」
未来を自分から投げ出そうとしてる人がいる。浮かれてる場合じゃない。やらなくちゃいけないことがある……。それはあの人を見守ることだった。そのことに気づいてもらえれば、責めて考え直してくれれば……。
雪緒さんは今日も真面目に働いている。愛想もいいし行儀もいい。どこから見ても頑張っている。
忘れるな。自分がここにいる理由。
「6時半よー、さ、行きましょ」
「え? もうそんな時間ですか」
時計を見ると確かにそんな時間だった。外はもう真っ暗だ。
「じゃ、行ってこい。くれぐれも寄り道だけはするなよな」
「わかってますよー、これでもアタシ立派な大人なんですから」
「……わかったな、のび太」
「はい」
「ちょっとー、アタシは無視なの〜?」
悔しいそうな顔をしてる明日菜さんに構わず、まずはとっとと着替えることにした。
ランドセルを背負って更衣室を出た。明日菜さんはまだいない。
「ランドセル、明日からは家に置いてからやってこいよな」
「はい、そうしておきます」
仕事が終わってから背負うランドセルはいつも以上に重く感じる……。
「ケーキ持っていっていいぞ。用意しておいたのがそこの棚にある」
「ありがとうございます。家族も喜んでいるもので」
ママがおやつが出してくれなくなったのだけど。
「あと携帯のことは親に話さなくていい。気を使われたくないし、お前のほうも余計な詮索はされたくないだろう。もし親に持っているのを悟られたら遠慮なく俺に言え。その時は俺がきちんと説明しておこう」
「はあ、ありがとうございます」
その時、後ろからドアが開く音が。
「おまたせー、じゃあ行きましょうか」
明日菜さんはいつも以上にウキウキしている。
「明日菜に金もハンコも全部持たせてある。明日菜、頼んだからな」
「はい、オジサマ」
「それじゃあ、また明日だ。気をつけて行ってこいよ」
「はい、お疲れ様でしたー」
店から出る前に挨拶しておかなきゃいけない人がいる。
雪緒さんはまだテーブルの拭き掃除をしていた。
「お疲れ様でした」
と、笑顔で言われた。
「また、明日もよろしくお願いします――」
「ええ、また明日」
「……」
――また明日。その言葉が嘘じゃないって信じたい。
「雪緒チャン! お疲れ様ー」
「はい、お疲れ様でした」
「今夜も寒いね、のび太クン」
「そうですねー。実に寒いですね」
駅前まで再び並んで歩く。でも今日の相手は明日菜さん。
「ねえねえ、覚えてる? 将来ケーキ屋さんになったら、っていうの」
「ええ。なんか、いきなりそう言われてもって感じです」
「オジサマはウィーンで何年も修行して、ナントカってコンクールで入賞した実力もあるし、その時に培ったコネもある。今からオジサマの足元で頑張って働いておけば、きっと将来物凄いパティシェになれるわよ」
「でも、ぼくは物凄い不器用だからなあ……」
今日も結構怒られた。皿は結局2、3枚割るわ、コップに注ぎ過ぎて溢れちゃうわで大変だった。
「才能もきっとないですよ。ぼくなんか頭も悪いし、まず海外で修行なんて考えられないや」
「そんなことないわ。才能はね、99%の努力で成り立ってるの。きっと、努力すればキミは何だって出来る。だってまだキミは小学生なんだもの!」
「……そんなもんかなあ」
「そんなものよ。キミは恵まれてると思うな……」
「……?」
一瞬、明日菜さんの雰囲気が変わった気がした。しかし、それはすぐに消え失せた。
「駅前に携帯専門のショップがあるの。案内してあげるわね」
「は、はい」
店に着いた。何だか置いてあるのは携帯電話だけのはずなのに物凄い数がある。
「じゃーん☆ なんとオジサマから5000円も預かってるの! って5000円じゃ、あんまりいいの買えないよね。ちょっとケチってるわねー」
「え、えっと、そういうもんなんですか?」
そういうことはサッパリわからない。もともと携帯電話なんて縁のない家に生まれ育ったものだから。
「まあ、でも少し型遅れのなら余裕で買えるかな。モノによっては1円から売ってるしね」
「ふーん、1円ねえ……。って、1円!? 今1円って言いました!?」
「そうよ。それがどうしたの?」
携帯電話が……1円? ど、どういうことだろう!?
「だって……、1円じゃ5000円あったら携帯電話が5000個も買えちゃうじゃないですか!!」
「……のび太クン。5000個も携帯電話を買ってどうするの?」
「え、えっと……。鳴ったらちょっとウルサイかも……」
「あはははっ! いくらなんでもそれはないでしょう、のび太クン!」
明日菜さんは腹を抱えて笑い出す。
「そういうのはね、通話料なんかでお金を取るの。あと、在庫処分とかね」
「そういうもんなんですかー。1円なんて驚いちゃったなあ」
「こっちは笑わせてもらったわ。そんなこと言い出すなんて、のび太クンぐらいなものよ」
今でも笑いが収まっていないらしい。
「じゃあ、その1円のやつでいいです。安上がりだし」
「5000個買うの?」
「1個でいいですってば!」
とにかく店員さんに来てもらった。
「色はどうします? 色々と種類がございますけど」
「ウ〜ム」
1円の型遅れと言っても結構あるもんだ。
「じゃあ、シルバーで」
「……のび太クン。オヤジくさい」
「エー?」
ピカピカしてていいと思ったんだけどなあ。
「どうせなら、もっと派手なのがいいわよ。コレなんかどう?」
「え?」
明日菜さんが手に持ったのは眩い程の赤色。札の説明によるとワインレッド。
って、これって……。
「赤色なんて女の子みたいで嫌ですよ」
「いいじゃない、アタシ好みだし。スミマセーン、これにします」
「……勝手に決められちゃった」
静香ちゃんと一緒の色かー。なんだかなあ……。
「じゃあ、この契約書にご記入お願いします。ご兄弟でいらっしゃいますか?」
「いえ、この子はアタシのカレシです」
ガッ! と派手な音を立てて机に頭を打ち付けてしまった。幸い眼鏡は割れていない。
「と、言うのは冗談でアタシは保証人の姪です。今日は代理で来ました」
「そんな冗談言う必要ないじゃないですか〜」
「では、一度お電話で確認させていただきますがよろしいですね」
「はい、かまいません」
店員は足早に立ち去ってしまった。
「それにしても電話一つに物凄い数があるんですねー。なんか電話の他にも、色々ゴチャゴチャ機能もくっついてるみたいで面白そうですね。こんな小さな道具一つに色んなことが出来るなんて凄いや!」
余談だけど、22世紀のドラえもんの道具は大きな道具なのに使う用途が1種類しかなくて使い捨てなのが多い。
「メールは使いこなしたほうがいいわね。仕事の連絡の際には電話じゃなくてメールを主に使うから」
「ヘエー。カメラ付きなんてものもあるんだー。ちょっと値段が張るけどいいかも知れないなあ。維納夜曲のみんなとか、色んな人や物をどこでも手軽に撮れるなんておもしろ――!」
明日菜さんのほうを振り向いた、そして言葉に詰まった。何故なら明らかに不愉快そうな顔をしていたから……。
「え、えっと。明日菜さん?」
「ああ、ごめんなさい。アタシって写真ってキライなの。撮られるのも撮るほうもね」
「そう……なんですか?」
「時間を永久に保存しておくなんてことが出来るなんて、気味が悪い」
「……」
何か複雑な訳がありそうだけど、敢えて聞かないことにした。
今回は少し奇怪なネタの使い方をしてみました。
>>400 それは中国語ではなく
韓国語でもなく
ただ漢字を並べただけ・・・・・・
>>401 当分先になりそうです。
のび太=透子的な改変ですね
面白かった
「人生やりなおし機」で明日菜さんを救ってくれ、ドラえもん!
・・・本編関係ないやん、失礼。
でも、この二人ってなんとなく気が合いそうだな。
保守
「ありがとうございましたー」
色々と手続きを済ませた後、店を出た。ある程度説明を聞いていたから、なんとなく使い方はわかったつもりだった。わかんなくなったら静香ちゃんか明日菜さんかに聞けばいい。携帯によると時刻は7時ちょうどぐらい。
「それにしても、まっかっかだなあ」
真っ暗でも結構目立つ。
「いいじゃないの。何か赤色って熱いイメージで、見てるだけで何でも出来そうな気がしない?」
「ぼくには似合わないです」
「そんなことないって!」
足は自然と歩いてきた道を戻っていた。
「家に寄っていかない? ポイちゃんも待ってるわ」
「でも、おやっさんが……」
「もう! オジサマはいいの。のび太クンが一人で決めて」
「……やっぱり遠慮します、家族も心配するし」
「はぁ。のび太クンはきっといつか、今夜お姉さんの家に来なかったことを後悔すると思うな」
「どうしてですか?」
「大人になればわかるわよ」
「……? あんまり意味がわかんないんですけど」
「のび太クンは、そういう何にもわかってないところがいいの」
「余計にわかんなくなっちゃった」
頭を掻いた。世の中って難しい。それはそうと今夜の夜空は美しい。
――あれ?
ぼくは歩いていくうちに、維納夜曲の周辺じゃなくて全く見慣れない道を歩いていることに気づいた。
「明日菜さん……?」
「ウチまで送ってくれてもいいんじゃない? 昨日、キミが雪緒チャンを送ってったように」
「……」
「ありがとう、ここまで送ってもらって」
「いいんですよ、これも仕事のうちって考えてますから」
「もうっ、連れない言い方ね」
それは多分、あの人に影響されてるからかも知れない。
「で、結局寄ってかないワケ?」
「はい、そうです」
「しょうがないなー、本当に後悔しても知らないんだからね」
明日菜さんはいたずらっぽく笑った。
「あっ、そうだ。もう一つ、のび太クンは将来絶対に後悔することがあります」
「なんでしょう?」
そこで明日菜さんの雰囲気が一転して真剣な顔になった。それは今までに見たことがなかった顔。
思いかげない事に圧倒されてしまった。それはぼくが小学生で相手が20を越えているからもあるけど、それ以上に明日菜さんそのものが何か得体の知れないオーラがあったから。
一拍の間を置いて言った。
「それはね、お姉さんを選んでくれなかったコト」
「エ?」
どういうこと……。
「……お姉さんはね、キミが維納夜曲で働きたいって言ってきた時、てっきりアタシ目当てで来てくれたんだって思ったの。
だってアタシにはそれしか考えられなかったから、オジサマもキミが働きたいって理由がわからないって言ってたから。でもね、まさか雪緒チャンとキミが知り合いだったんてね……」
何だか言いたい事がわかってきた。
「お姉さんは期待してたんだけどなー。それはキミをからかっているんじゃなくて真剣にね。ところが、まさか雪緒チャンに負けていたとは、思いもしなかったわよ」
明日菜さんは自嘲するように笑った。何だかその笑い方に毒があるように見えた。
「ち……、違いますよ! ぼくはそんな雪緒さんの事をどういうふうにも思ってませんって!」
「嘘はお姉さんの前じゃ通じないわよ? ダテにキミの2倍も生きてるワケじゃないんですから」
「……」
まったく口が利けなかった。まったく明日菜さんの言うとおりだった。この人にはまったく嘘はつけないだろう。
問題は雪緒さんのことをどう話すかという事だった。昨日交わした約束、「雪緒さんが死にたがっている事は誰にも言わない」という口約束。どうすればいいんだ。
「別にアタシはキミを責めている訳じゃないんだけどな」
「……え?」
「前にもキミに言ったじゃない。人を好きになるのは理屈じゃないってね。だから、キミが雪緒チャンのことをどう考えてるか、なんてアタシがキミに問い詰める事なんか出来ないわ。
まあ、今回の場合はアタシが一人で勝手に舞い上がっていただけなんだけど。でもね、のび太クン。キミにはそれだけアタシに惹かせる魅力があったの」
「……ぼくなんかじゃ明日菜さんなんて不釣合いですよ。それにぼくの事を買いかぶり過ぎてます。ぼくはまだ何にも知らない、ただの小学生だっていうのに」
「だから、アタシが色々なこと教えてあげようと思ってね。お姉さんはのび太クンの人生を手引きしてあげようって勝手に思ってた。でもね、流石のアタシでも小学生の男の子の恋を邪魔することなんか出来なかった。……どうやら以前の彼女よりも本気みたいだしね」
「『以前の彼女』?」
「髪型がカニのハサミの子。あの子は本気じゃなかったんだ、まあいいけどね。ひょっとするとアタシと同じタイプかも」
……静香ちゃんのことか。でもあの子は、ぼくとは全く関係ないと思うのに。
「アタシ、見てて辛いのよね。キミが頑張っているのを見るのが」
「え?」
「素直、もしくは純粋って言うのかな? ピュアなキミを見てるとアタシという存在が物凄く薄汚く思えてきちゃう。本当に純粋過ぎてアタシを怯えさせてくれた。……もうっ、本当に女泣かせなんだから!」
苦笑していた。目に光る物を見た。
「……キミのお嫁さんになる人は幸せね。それでいて物凄く不幸。のび太クンという存在に圧倒されちゃうんじゃないかな。キミが大人になるまで何が起こるかはアタシには知る由もないけれど、どうかそのままでいて欲しいな。
今のキミのような素直で美しい存在であって欲しい……」
「……正直、なんて答えを明日菜さんに言えばいいのかわからないけど」
ぼくを見つめているその顔は、答えを求めていた。
「努力してみます。精いっぱい『のび太』を頑張ってみますから……」
「そう。それでいいのよ」
明日菜さんはニッコリと笑った後、自分のはめている腕時計を見た。
「悪いわね、随分引き止めちゃって。ここからキミの家までどれくらいなの?」
「たいしたことないですよ。では……」
ぼくは家路へと足を向けた。
「待って」
ぼくのほうに駆け寄ってくる音。それに振り向いた。
「何――? ムグッ!?」
目の前には明日菜さんの顔。そして唇には暖かい感触。
「――! うわあああっ!?」
慌てて2,3歩逃げた。随分動揺したせいか尻餅までついた。
「いいじゃない? 最後くらい恋人らしいことしたって。だってこれはデートだったんだから」
「そ、そういう問題じゃ――!」
「もうっ、これはアタシっていうオンナの気持ちなんだから。受け取ったからにはグチグチと余計な事は言わないの!」
「……はあ」
「それじゃあ、また明日。気をつけて帰ってね」
「……はい。それじゃあ」
明日菜さんはそれ以上何も言う事なく家の中へ入っていった。
「……帰るか」
ポケットからタケコプターを取り出して、頭に付けた。
「ハハハ……」
今、思い出してみるとくすぐったい気持ちになる。本当にどうしようもならないくらいに。
「エヘヘ……ウッシッシ……、アハハハハッハ〜ッ!!」
頭が沸騰しそうだった。
「ただいまーっ」
ニヤけた顔をまず頬を叩く事で締めてから、中に入った。
「おかえりなさい。今日も大変だったでしょう」
「あ、ま、まあねー」
なんかあんなことがあった後に、ママの顔を見るとものすんごく罪悪感を感じるのは何故かしら?
「あら? 何か嬉しいことでもあったの」
「え? ……おっと」
また顔がニヤけてきた。気を緩めるとこれだ。
「いやいや、何でもないよ。……アハアハ」
「?」
夕食を済ませ、あとは寝るだけになった。
「どう、仕事のほうは? しっかりやってるの」
「ああ、そりゃあもうおかしくなるくらいにね。ケーキ屋でおかしい。エヘヘ……」
「……確かに今日の君はおかしいけどね。まあ、ごきげんなようで何よりで」
「そう? それじゃあごきげんよう」
ぼくは布団に入った後も中々寝付けなかった。色んな事が頭の中を過ぎっていた。
……12時、1時。
……2時になってようやく眠れた。その間に宿題やらをやっていたが、間違いなく全問不正解であるだろう。
それはどうでもよかった。そんなことよりひとつだけお願いしなくちゃいけないことがあった。
「明日も無事な姿で雪緒さんに会えますように……」
明日、また維納夜曲で働けることが嬉しかった。そして、雪緒さん達と会えるのが嬉しかった。
……人を好きになるのは理屈じゃない、か。
よい明日菜さん・・・
「朝だーーっ! 遅刻するぞ!!」
「う〜っ?」
「早くっ! 急げーっ!!」
「うー」
頭が痛い。当然のことながら物凄く寝不足だった。
「あっ! そういえば昨日携帯電話を買ってもらったんだっけ……?」
部屋を見渡す。ドラえもんは先程朝ごはんを食べに下に降りていていない。
今のうちに急いで赤い携帯電話をランドセルにしまった。
この携帯のことは、結局この家の誰にも言っていなかったのだ。
「まだかっ!?」
「おっと! ハイハイ、今行くよ!」
「走れーっ! 全力疾走っ!!」
「う〜っ」
食パンを咥えてダッシュ。しかし寝不足のぼくに全力疾走なんて出来る訳がなかった。
しかも今日は朝から雨。なんだか不吉な予感がした。
「コラ! 野比は遅刻か!!」
「うー、スミマセン。何分寝不足な物で」
「なら、目が覚めるまで廊下に立っとれ!!」
キャハハハハ!! とクラスのみんなに笑われながら教室を出た。
「……こうなったのは誰のせいなんだろう?」
呟いても答えを言ってくれる人はいない。
昼休み、ひどく眠いので寝て過ごした。そしてあっという間に放課後が来てしまった。
「さてと、帰るかな」
今日も維納夜曲に行かなきゃ……、っと思ったその時だった。
「そうだ! そういえばアレがあったんだっけ!」
「静香ちゃん!」
ぼくから声をかけた。ちょっと報告したいことがあったのだ。
「のび太さん、どうしたの?」
静香ちゃんはランドセルに教科書を詰めている。帰る準備をしていたようだ。
「ちょっとちょっと、来てよ。あんまり人に知られたくないことだからさ」
「?」
手招きすると静香ちゃんは興味有りげにぼくの席に寄ってきた。そこでぼくはランドセルから、あの携帯電話を取り出した。
「ほーら、けいたいでんわ〜」
ドラえもんをちょっと真似てみた。
「エッ!? それ、どうしたの?」
「え、えっとね……。うん、ママが買ってきてくれたの。昨日」
「ヘェー。よくあのおばさんが買う気になったものね」
ヒドイ言われようだが、そう思われても仕方ないくらい、うちのママはケチで知られている。
「あ、ああ。ホラ、世の中色々と怖いニュースがあるじゃない? 例えばどっかの小学校に変なおじさんがやって来たアレとかさ。そういうことを必死で説明したらママが渋々了解してくれてさ。まあ、そんなことはいいとして、静香ちゃんの電話番号教えてよ」
「ええ、いいわよ。それにしても、あたしとまったく同じ色なのね」
「い、いや! それは断じて同じにしようとした訳じゃなくってさ。あす……、じゃなくてママが勝手に決めてきたんだよ!」
「ふーん。おばさんが真っ赤な色を選んできたの?」
「ま、まあね」
冷や汗がダラリと流れた。
「まあいいわ。はい、送ったわよ」
「え、何が?」
「メール。そこに電話番号も書いてあるわよ」
「え、えっと〜? メールってどうやるんだっけ?」
あのドラえもんの道具と違って実に操作がわかりにくい。
「……ちょっと貸してごらんなさい」
そう言って静香ちゃんはぼくの手から携帯を取り上げてしまった。結構興味があるらしい。
「うーんと、あ、ホラあった。勝手にアドレス帳に入れておくわね」
「あ、ああ……」
アドレスちょうって何だ?
「あら? 何か、あたしのとは違うメールがもう1通来てるわよ」
「へえ。ちょっとさ、読んでみて」
「いいの?」
「へいきへいき。別になんてことないでしょ」
操作するのが面倒だから人に任せることにしたい。
「えっとー、件名『いとしののび太クンへ』」
「ん? ケンメイって何だい。いい歳ってどういうこと?」
「ちょっとあんたは黙ってなさい」
何故か静香ちゃんは物凄く怖い顔でぼくを睨む。仕方がないので黙る事にした。
「……?」
それから1分が経った。
「まだなの? そんなに長いメールなの?」
「……じゃあ読み上げるわね。『のび太クン、やっほー☆ 昨日は小学生のクセに紳士的な態度をお姉様に見てくれたけど、次からはそうはいかなくてよ? またチャンスがやって来たら今度はチューだけじゃ済ませないんだから☆
ふふ、次こそお姉様の魅力全開のデートに誘ってあげるからね! それまで覚悟しておけ、このボクネンジンっ! 貴方の奴隷、明日菜より』」
それは、今まで生きてきた中で一番の恐怖だった。それを読む静香ちゃんの声も内容も。
「……ハハ、間違い電話と同じように間違いメールってのもあるんだねえ」
「このメールにはハッキリと『のび太クン』ってあるんだけど」
非常にマズイ。こちらが気を抜いたら気絶しそうな程に、静香ちゃんの睨み方がハンパじゃない。
「ちょっとのび太さん。ここで話すのもなんだから、場所を変えましょう」
そう言って、ずかずかと教室から出て行こうとする。
「ちょっ、待ってよー」
階段の踊り場に移動した。無論誰もいやしない。
「で、どういうことかしら? 明日菜って誰なの」
今でも静香ちゃんの怒りは納まっていない。いや、先程より増している。
「ハ、ハハ……。え、えっとああっそそそうだ、きっとのっのび太っていうおんなじ名前の人がいたんだね。アハアハハハッ……」
「そんなワケがないでしょう!!」
バシーンッ!! っと平手打ちが物凄い音を立てた。
「チューだのデートだの奴隷だの、あんたなんかサイッテー!! 一体コレは何なのよ!」
「だから、ふざけてるんだよその人〜。そんなに君が怒ることないじゃないかー」
涙を堪えながら、誤解を解こうとするも静香ちゃんは何故か鬼の形相でぼくに迫る。
「あんたなんかに、こんなふざけたメール送る人って誰なの! 『お姉様』!? あんたは一体昨日何をしでかしたの!?」
「……ううっ。ただ昨日ちょっと、そのお姉様にチューされただけで」
あ。
「――こ、この18禁男っ!!」
意味不明なことを突然言われたあと、思いっきり右ストレートで殴られた。
「あんたなんかもう2度と顔を交わしたくもないわ! それじゃあね!」
倒れてるぼくをほったらかして、さっさと去ってしまった。
イメージ映像
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〈〈〈〈 ヽ ,ィ⊃ , -- 、
〈⊃ } ,r─-、 ,. ' / ,/ }
∩___∩ | | { ヽ / ∠ 、___/ |
| ノ ヽ ! ! ヽ ヾ、 ' ヽ_/ rュ、 ゙、 /
/ ● ● | / \ l , _;:;::;:;)、! {`-'} Y
| ( _●_) ミ/ ,,・_ ヽj ,;:;:;ノ' ⊆) '⌒` !
彡、 |∪| / ’,∴ ・ ¨ l ;::)-‐ケ }
/ __ ヽノ / 、・∵ ’ ヽ. ;:丿‐y /
(___) / (ヽ、__,.ゝ、 ~___,ノ ,-、
大長編ドラえもん「のび太の天使のいない12月」公式サイト
ttp://www.tekipaki.jp/~superkoarakko/dora129.htm
いきなり修羅場突入ですか(汗
・・しかし、このしずちゃんはしのぶチックですな。
ワロタ、しずかがんがれ。
ho
家に帰った。そそくさと2階に上がった。
「おかえり。ってどうしたの、その顔! ジャイアンにでも、いじめられたのか!?」
ドラえもんがびっくりした顔で寄ってくる。
「ウ、ウ……、うわぁぁあん! 静香ちゃんがぼくをいじめるんだよう〜っ!」
「ハァ!?」
ドラえもんはでっかい口を開けたまま呆けている。
「えっと、えっと……」
しかしアレはとても説明できたもんじゃない。
「まあ、とにかくいじめられたんだよ〜」
「いやいや、何がなんだかわからないんだけど」
「何か妙な勘違いされちゃってさー」
「それってどんなことなんだよ?」
「ええっと、それは〜ぼくには良くわからないんだけどねー。何か仲直りできるいい道具ないかなぁ?」
「そう言われてもなあ……」
考え込むドラえもん。しかしふと時計を見ると一つ重大な問題があった。
「ゲッ! 今から行かないと維納夜曲に間に合わなくなるじゃないか!」
「はぁ。とにかくさっさと行ってきなさいよ」
「しょうがない。明日ぼくがなんとか説得してみるよ。それじゃあ!」
タケコプターを頭に装着。傘と靴を持って急いで窓から飛び出した。
「それにしても……。何であそこまで怒ったんだろうなあ……」
怒り狂ってたといっても、まさか平手打ちの上に殴られるとは思わなかった。しかもかなり本気だった。
「ヒドイよなあ。これもみんな明日菜さんのせいじゃないかしら?」
しかしあの人に文句言っても、なんか上手い具合に切り返されるだけのような気がする。
「ううっ。もう何もかも嫌になった」
「いらっしゃいませー。あら、のび太クン。ちょっと遅刻よ」
ムッとぼくは無意識のうちに明日菜さんを睨んでいた。
「あらら? どうかしたの。……あら、どうしたの!? その顔!」
「ちょっと、女の子に殴られちゃって」
「……え?」
笑いを堪えているのか、口を片手で押さえていた。
「しかも明日菜さんが原因なんです。とりあえず着替えてきます」
「え〜っ? ちょっと、それってどういうことなのよー」
「アハハハッ! そう、あのメールあの子に見られちゃったんだ! そりゃあ怒るわねー」
「明日菜さんのせいじゃないですか! まったくもう!」
カウンターでぼくと明日菜さんで話し合っていた。雪緒さんはそれをはた目で眺めている。
「あれはただの冗談だったんだけどなー。まさかのび太クン以外の人に見られるとはね」
「まさかそんな凄まじい事が書いてあるとは思いませんでしたし! 今度からは絶対ふざけないでくださいよ!!」
「わかったわかった、そうしとくから。じゃあ雪緒チャン、のび太クンのキズ手当てしてあげてくれない?」
「「エッ?」」
ぼくと雪緒さんの声が被る。
「だってアタシのび太クンに嫌われてるし、それに……」
明日菜さんはぼくのほうを見る。何、雪緒さんに振ったから許してくれってことか!
「ううん、なんでもないわ。だから雪緒チャン、後はよろしくねー」
「はい」
足早に明日菜さんは厨房のほうへ立ち去ってしまった。
「〜っ!」
なんとなく言いたいことが色々とあるのだが、仕方なくガマンすることにした。
「じゃあ、のび太君。ちょっと染みるけどいい?」
「え?」
いつの間にか雪緒さんは薬用箱を用意していた。ピンセットに脱脂綿。実に素早かった。
「ひどく腫れてるわね。それにしても、いつもその子はここまで暴力的な女の子なの? こんなにも君に容赦がないなんて」
雪緒さんは消毒液で濡らした脱脂綿でぼくの頬を摩る。それにしても顔が近くなっているのでちょっと恥ずかしい。
「いえ、そんなことはないんですよ。いつもはそりゃあもう模範的な女の子なんですけどね。ただ怒ると本当に容赦がないんです」
爪で引っかかれることも多い。顔面に蹴りを食らった事すらある。
「それって、もしかしてその分君に心を許してるのかもね」
「え?」
「いくらなんでも女の子が平気で暴力を振るうなんて、そう簡単には考えられないわ。だから君のことを心から受け入れてる。きっとそういうことなのよ」
「そう、なんですかね……」
しかし、今回のは尋常じゃなかった気がする。
「それと、その子は明日菜さんのメールの意味を理解してたってことでしょう? なかなか凄い子ね」
「ええと、そういうことなんでしょうね。きっと……。しかし、ありゃあ、どういう意味なんでしょうね? 特に『奴隷』とか」
「……それは、大人になったらわかると思うわ」
結局、雪緒さんも明日菜さんと同じような言い訳をされて逃げられてしまった。
と、その時、ドアのベルが。始めてのお客である。今日は雨で客足が遠のいているのか店内には誰もいなかった。
「いいわ、アタシが出る」
明日菜さんが出て行く。
「いらっしゃ……っ! ああっ!!」
「!」
どうした? って、カウンターから顔を出してみると。
「キャーッ! また、来てくれたのーっ! 嬉しいっ!!」
「いや、ぼくはその……のび太君の様子を見に……」
あの青いネコ型ロボットだった。
「五月蝿いぞっ、明日菜!! って、なんだそりゃ?」
奥から出てきたおやっさんは目の前の奇怪なシロモノに目を奪われている。
「こ……、こんにちは。ぼくドラえもんです」
「しゃっ、喋ったあ!?」
「な、何っ!? 22世紀からのび太の面倒を見に、この時代にやってきただと!?」
「はい、そうなんです」
「そ、そうか! それは凄いな……」
維納夜曲の皆さんは意外にもドラえもんという突飛なものを、結構あっさりと受け入れたようだった。
「ネコ型ロボットか……。それにしても耳がないのはどういうことなんだ?」
「あー、それには複雑な過去がありまして」
意外にも一番興味を示しているのがおやっさんである。
「オジサマ、紹介するわね! この人ね、アタシの新しいカ・レ・シ☆」
「エ、いつから!?」
とにかく好意を示しているのが明日菜さんであり。
「世の中にはそんなこともあるのね……。不思議……」
イマイチ興味があるのかないのか、よくわからないのが雪緒さんである。
「そ、そうだ! 君は22世紀から来ているんだよな! ちょっと待っていろ!!」
おやっさんは物凄い勢いで厨房に入っていった。
「おいおい、どうして来たんだよ」
「だって、ちゃんと手伝いに行ったか気になったんだもん」
「そうよね〜。ドラちゃんは偉いわね☆」
明日菜さんはずいぶんとベッタリしている。何か気に食わない。
「おう、出来たぞ! 今年のクリスマス限定ケーキだ!」
「おおお〜っ!」
それはこの店のどのケーキよりも気合が入ってると一目でわかる程、繊細で豪華な飾りつけ。それにいつもよりも大きさがデカイ。
「さあ、22世紀の舌でコイツの味を確かめてくれ!!」
……こいつは21世紀になった今でも、ドラ焼きが大好物なロボットなんだけど。
「ウワ〜、おいしそう! いっただきまーす! ……モグモグ、うん! こりゃあ、おいしいや!!」
「何!? うまいか! 22世紀になっても俺の味は通じるか!?」
「うん! 22世紀でも、こんなおいしいケーキは売ってないと思います! 最高!!」
「おおっ! そうか、そうか!! 俺のケーキは22世紀まで最高なのか!! やった、やったぞー!!」
子供のようにはしゃぐおやっさん。ちょっと大げさな所が微笑ましい。
「良かったね、おやっさん! 維納夜曲は永遠に不滅ですよ!!」
「オジサマは最高! 22世紀どころか歴史にパティシェとして名前を残すわね!」
「おめでとうございます。維納夜曲は末永く栄えると思います」
「お前達、ありがとうな! 俺はやるぞ!! やってやるぞ!!!」
みんなでおやっさんのことをはやし立てる。よし、今のうちにご機嫌を取っておけば、後であの限定ケーキをぼくにも食べさせてくれるかも知れない。
と、その時。またもやドアのベルが。
「おっと、いけない。仕事に戻らなくちゃな」
おやっさんは厨房に戻っていった。
「いらっしゃいませ、お客様」
ぼくが挨拶しにいくと、そこで見た顔は……。
「ゲッ!?」
「え?」
「おっ?」
「のび太!?」
「ジャイアン、スネ夫!?」
最悪の知り合いがこの場にやってきてしまった。
「ど、どうしてお前がこんなところで……? それにその格好は!?」
「えーと、ぼくね、この店の手伝いをやってんの」
「な、ナニ!? どうしてそんな事やってんだ!?」
「えっとだね〜」
と、そこでぼく達の間に入ってきたのは明日菜さん。
「まあまあ。とにかく2人とも中に入ったら? ゆっくりとしていくといいわ」
「……あっ! こ、この人があの噂の!?」
スネ夫が明日菜さんに指を差す。
「エ? アタシが噂の?」
「いえ、何でもございませんよ。アハハ……」
――ああ、そう言えば一度、野球チームの噂になってたっけ。突然胸で男を抱きしめる美人の店員っての……。
それにしても……、さっきからジャイアンの態度が怪しい。ニタニタしてる目線の先にいるのは明日菜さん。アレはなんというか、抱きしめられることを期待してるんじゃなくて、……まさか明日菜さんのことを好きになったとか?
何か物凄く恐ろしい事が起きそうな予感がした。
明日菜さんは博愛主義者やね
今回のハイライト
「おおっ! そうか、そうか!! 俺のケーキは22世紀まで最高なのか!! やった、やったぞー!!」
このおやっさんに萌えた・・。ナイス!
あとジャイアン、下心丸出しはよくないぞ☆
「おめでとうございます。維納夜曲は末永く栄えると思います」
これ雪緒だよねw
「よー。なんだ、ドラえもんまで来てたのか」
「うん。のび太君の様子を見に来たの」
「それにしても、何でこの店はこんな使えない奴を働かせてるんだろうな。おれたちのチームじゃ単なるお荷物だっていうのによ」
「まったくだね。この店はそんなに人が足りてないのかねえ」
「失礼な事を言ってないで、さっさとご注文をどうぞ」
このオシャレな店内とは、全く相応しくない顔ぶれが揃っているのは実に不愉快なことであった。
「そうだな、じゃあドラえもんが今食ってる奴にしてくれ!」
「えっと、それはクリスマス限定のケーキだから、今は注文は受け付けてないんだけど」
「オイ、ちょっと待て。じゃあ何であいつは美味そうに食ってるんだよ!?」
「えっとー、それはだね〜。ドラえもんは22世紀から来てるから」
「はぁ!? そりゃどういうことだ! この店は客を選り好みするのかよ!!」
うわぁ。早速トンチンカンなことを言い出した。
「こーら、怒らない怒らない。このケーキはクリスマス限定なの、アレは試食品なのよ。だから今から予約しとけばクリスマスには絶対食べられるから、それまで待ってくれないかしら?」
「はい! お待ちします!」
「そう。ものわかりが良くていい子ね」
「エヘヘ……。おれ、何でもお姉さんの言うこと聞きますよ」
うわぁ。完全に明日菜さんにいかれちゃってるよ。
「あら? それって、もしかしてアタシのこと誘ってる?」
「ええっ?」
流石に大人の女性としての余裕を見せている。
「で、も、ねー。実は今アタシは首ったけなカレシがいるの〜」
「な、なにっ!? それはどこのどいつですか!?」
「それは……、この人。ドラちゃ〜ん☆」
そう言って明日菜さんはドラえもんに抱きつく。ジャイアンは開いた口が塞がらない。
「ド、ドラえもん……? ドラえもんがお姉さんの彼氏……だと!?」
まずい。今度は怒りでいかれ始めている。
「そうなの。可愛いし、この丸っこい所が男っぽいと思わない?」
「こ……、こんな青ダヌキが!! この野郎! また道具でも使ったんだろう!!」
「あ、青ダヌキだとーっ!! ふざけるなーっ!!」
「そっちこそ、ふざけんじゃねぇぞ!!」
ついに恐ろしい予感が的中し、取っ組み合いが始まってしまった!
「ジャイア〜ン、落ち着けってば!」
「ドラえもんも落ち着けよーっ!」
スネ夫はジャイアンを。ぼくはドラえもんを必死になって抑え付ける。
「コラァ!! 騒がしいぞお前等ァ!!」
突然その場の雰囲気を切り裂くような怒鳴り声。それによって店内は静まり返ってしまった。
流石はおやっさん。ジャイアン以上の大迫力だ。
……だが、余りに迫力があり過ぎたのか、スネ夫がパニック状態に陥った。
そして、涙声で一言。
「うわあ、地上げ屋さんだぁ!!」
「なぁにいいッ!?」
スネ夫に向けらているおやっさんの睨みは、ぼくでも殺気を感じる程にドスが効いている。そのせいでスネ夫は余計に混乱し始めている。
「あーっはっはっは! そうねー、オジサマ。そういう顔してるわね!」
そしてさらに余計な事に明日菜さんが腹を抱えて笑い出す。
「……お、お前等ぁああッ!!」
スネ夫を目掛けておやっさんが襲い掛かる。史上最悪の事態に発展してしまった。
「落ち着いてー! おやっさ〜ん!!」
「オ、オイ! おじさん! 落ち着けって!」
「落ち着いてくださーい、おじさん!!」
ぼくとドラえもんとジャイアンで、おやっさんを死ぬ気になって抑え付ける。スネ夫は気絶寸前で立ち尽くしている。いや、もう気絶しているのかも知れない。明日菜さんは既にどこかに避難したのか姿が見えない。
雪緒さんは微笑ましそうにこの異常事態を眺めているけど、正直ぼくらは必死だった。おやっさんは子供とは言えジャイアンを含む3人がかりで抑えているってのに、ジリジリと少しずつだがスネ夫に近づいている。このままじゃスネ夫の命が危ない!!
と、その時。またもやドアのベルが。
「ホ、ホラ! おやっさん、お客さん来ましたよ!」
「ムッ……!」
ようやくおやっさんの力が抜けていく。
「よかったよかった。メデタシメデタシ……って、エ?」
「あら?」
ドアの所で突っ立っている一人の少女は!
「ゲッ! 静香ちゃん!?」
「の、のび太さん!? それにみんなも!」
あ〜あ、余計に事態がややこしくなりそうな人がやってきてしまった。これで5人、遂に見事にいつものメンバーが維納夜曲に集まってしまった。
「いらっしゃいませ、お客様。お持ち帰りですか? それとも、こちらでお食事になりますか」
応対したのは手の開いていた雪緒さんであった。
「は、はい。えっと……」
静香ちゃんが雪緒さんと目を合わせたその瞬間だった。
「――!!」
静香ちゃんの目がこれ以上ないって位に見開いていた。そしてその表情が凍り付いていた。顔は見る見るうちに青ざめていき、手は遠目から見ていてもわかるくらいに激しく小刻みに震えていた。
その姿は最早異常だった。
そして次の瞬間、静香ちゃんはドアを乱暴に開けた後、物凄い勢いで走り去ってしまった。それは傘も差さないまま。
「お、お客様……?」
雪緒さんは何が何だかわからず佇んだままである。
「あ〜あ、おじさんが大騒ぎしたから静香ちゃん帰っちゃったじゃんか」
「ウググ……ッ!」
「アレ? もしかして今のは噂のあの子じゃないの。のび太クンに顔を合わせたくなかったのかもねー」
いつの間に現れた明日菜さんに肩を叩かれた。
「え、ええ……」
違う。原因はおやっさんでもぼくでもない。……間違いなく雪緒さんだ。
しかし、静香ちゃんと雪緒さんはどこで繋がってるんだ? 今も何が何だかわかっていないあの様子だと、雪緒さんは静香ちゃんのことを知らないと見える。静香ちゃんが雪緒さんを知っていて、雪緒さんが静香ちゃんを知らない?
――石ころぼうし。そう、確か静香ちゃんはそんな道具を借りていた……。
>>439 >どうしておやっさんのCGがないのか
イベントCGこと?
「あーあ。おれも維納夜曲のお手伝いしたいんだけどなあ。母ちゃんが許さねえだろうからなー。『よその店手伝うくらいならウチを手伝いな』ってな」
ジャイアンはドラえもんの限定ケーキを分けてもらって食べていた。騒ぎが落ち着いた後のおやっんの言い訳は『俺の店で騒ぐ奴は誰であろうが許さない』らしかった。お詫びにジャイアンとスネ夫は色々ケーキをご馳走になっていた。
「ぼくは……、もう2度と来たくない。ケーキはおいしいけど」
「2度と来なくていいけどケーキだけは買ってってよ。ママに頼むとかしてさ」
「ハイハイ、そうしておきます」
「じゃあ、ごちそうさん! のび太、応援してやっから、また次もケーキ食べさせてくれよな!」
「本当はここはお金払って食べるところなんだからね! 忘れないでよ!」
「じゃあ、のび太君。しっかり頑張ってね〜」
「おう、わかったドラえもん。それじゃあね」
ドラえもんとジャイアンとスネ夫はようやく帰っていった。時刻は5時30分。随分食べていったが全部タダなのか……。
「すいません、おやっさん。あんなのにやって来られて暴れさせちゃって……」
「別にお前が気にすることじゃない。俺も少し大人気なかった」
おやっさんはかなり反省しているらしい。
「……だが、今度からはお前からもよく言っておいてくれ。お前みたいな小学生を働かせているが、ここは駄菓子屋じゃない。あくまでお客の対象は大人の女性だってことをな。正直、騒がれるのなら来てもらわないほうがマシだ」
「ええ、ジャイアンを通じてよく言っておきますから」
あいつに『維納夜曲にはおっかない店長がいる』って言わせれば、なんとかなるだろう。
「さあ、仕事の続きだ」
「はい」
7時。上がる時間となった。
「じゃあお先に失礼します」
「それじゃあね。のび太クン、雪緒チャン」
「おつかれさまでした」
今日も雪緒さんを駅まで送ることになった。
雨は止んだ。しかし心の中のモヤモヤが晴れることがなかった。
「ねえ、雪緒さん。本当に静香ちゃんと会ったことがないんですか?」
「そうね。わたしが覚えている限りじゃ記憶にないわね」
「そうですか……」
「それがどうかしたの?」
「いえ、別に」
雪緒さんとぼくはそれ以上何も話すことはなかった。
「それじゃあ、また明日」
「ええ、それじゃあまた明日」
雪緒さんは笑顔で手を振りながら駅へ歩いていった。本当に死にたがっているようには見えない。
あの日、屋上から飛ぼうとしていたのがウソのようだ……。
「……でも、今でもそんなことを考えながら生きてるんだろうな。あの人は」
心が壊れている……。
「それしか考えられないよな」
静香ちゃんの心が壊れているのは。
その日は早めに寝た。前の晩、よく眠れなくって寝不足だったってこともあったから。
明日、静香ちゃんと話さなくちゃいけないことがある。明日の昼休みは眠いなんて寝ていてはいられなかった。
「朝だ! 急げっ!!」
「ああ……」
急いで携帯電話と、結局まだ返していない石ころぼうしをランドセルに入れた。
学校に着いた。教室はいつものように騒がしい。
「……静香ちゃん」
「……のび太さん」
静香ちゃんはぼくとはあんまり目を合わせたくない様子だった。
「昼休みに話があるんだけどいい?」
「え? ええ……いいけど」
「それじゃ」
ぼくは席に戻った。そして今日も退屈な授業が始まった……。
そして、昼休みになった。ぼくは静香ちゃんの席に走った。
「場所を変えよう。ついて来て」
ぼくはそれだけ言うと教室を出た。
「あ、待って」
静香ちゃんは慌てて駆け寄ってきた。
「ねえ、のび太さん。昨日のことなら謝るわ。あたしったら、ついカッとなっちゃって!」
「そんなことは、どうでもいいんだ」
「え?」
「ついて来てよ。そしたらわかるって」
階段を上る。昨日の踊り場を通り抜け、さらに上がる。
「……のび太さん」
静香ちゃんは少しずつだけど焦り始めていた。そんなことは構いやしないでどんどん上った。
そして屋上のドアにぶつかった。
「合鍵持ってきたよ。職員室から黙って持ってきた。もちろん、石ころぼうしを使って姿を隠してね」
「……どういうつもりなの?」
「そんなの決まってるだろ」
鍵を差し込む。ガチャガチャって金属音がこの場の静寂な空気を壊した。
「あの人の話をするのは、ここが一番ふさわしいだろ」
ドアを開けると同時に冷たい風が吹き込んできた。
「……そうね」
ぼく達は屋上で話すべきことがあった。それは言うまでもなく雪緒さんのことであった。
ぼく達は10メートル程距離を取っていた。30秒間ぐらいだっただろうか、お互い何も喋らずに黙っていた。
そして、ぼくは口を開いた。相手は心を開く覚悟を決めたと思ったから。
「静香ちゃん。どこで雪緒さんの事を知ったのさ?」
「……ピアノのレッスンだったわ」
「え?」
「以前、雪緒さんはピアノをやっていたのよ。あたし、その時はまだコンクールがあったから随分練習してたわけ。そして、参考になるからってビデオを見せられた。何年か前のクリスマスコンクール。そこに雪緒さんが映ってたの」
「ピアノ……」
聞かされたことがなかった。
「そこに映ってる雪緒さんはまだ中学生だったけど、その時から雪緒さんは何とも言い表せられない程のオーラがあった。凄かったの。それは見る者を夢中にさせるほどにね」
「……なるほど」
「今は高校生になってるって聞いた。だから今はどんな姿になっているのか一目見たかったの。だから借りたの、石ころぼうし。流石に家まで押しかけるのも何だから、通ってる高校に入り込もうと思って。でも、あたし小学生だったから」
「石ころぼうしで透明人間になれば目立たないって思ったわけ」
「そう。でも、あたしったら何年何組だがわからずに行っちゃててね。仕方ないから一つ一つ調べまわってた。そしたら、ギターの音色が聞こえてきてね。覗いてみたら雪緒さんだった」
「ギター弾いてたの? あの雪緒さんが」
「ええ。凄く綺麗だった。それはもう人じゃないんじゃないかってくらいに。……例えるなら、それはもう天使のようだった」
……天使。
「なんていうか、物凄く悲しい曲だった。それを弾いている姿が心在らずって感じ。本当に、かっこよかったわ……。だから声もかけるのもためらわれた。ほんとうに素敵だった……」
最初に静香ちゃんが雪緒さんのことを好きになったことを気づいたとき、正直どうかしてんじゃないかって思った。だって女同士なんてちょっと気持ち悪いかも、って思ってしまった。
でも、語るその姿を見ててなんとなく理由がわかった。好きになるのは理屈じゃない、いつか聞いたそんな言葉が頭を過ぎった。
「でも……。でも、あの日。あんな……あんな……! あんなことになってるなんて!」
静香ちゃんは恐々と目の前の欄干を見つめる。指先は震えが止まらず、目は開ききっている。昨日のあの時と一緒だった。
雪緒さんを追いかけているうちに、あれに出くわしてしまったのか。
ぼくはたまたまその場を通り過ぎようとしてた時で全くの偶然だったけど、静香ちゃんは全然違う。好きな人が自殺しようとしてるなんてショックの度合いが違うんだろう。
「あたし逃げちゃった。本当に怖かったのと、あまりに信じられない光景だったから! だって、雪緒さん笑ってるだもの! それもおかしいの! 笑い方が普通じゃなくて、明らかにこれから死んじゃうことを楽しんでるような、そんなおかしな顔してて……」
泣き出しそうな顔に声もかけられない。
「そんな姿にあたし逃げちゃった。もうあれから怖くて怖くて……。余計なことに熱まで出て倒れちゃって精神病院に入院することになっちゃった。ママが物凄く心配してくれるのはいいけど、『どうしたの? 何があったの!?』ってしつこく聞かれる度に辛かった。
なんとなくあの人のことは言えなかった。……何となく言ってはいけないような気がしてた」
「ぼくは本人から直接口止めされたけどね」
「……あたし、ほんとうに最低だった。雪緒さんの事を忘れようとしてたの。もう2度と会うことはない。そう思ってたのに」
俯く姿に表情はない。だけどその底から色々な感情が見え隠れしてるような気がした。
「そして、後でなんとなくだけどわかったの。のび太さん、あなたがそこで働いている格好してた理由。それはきっと雪緒さんが絡んでるって、なんとなくだけど」
「……そうさ。ぼくがあの場所にいるのはそれ以外にないよ」
「のび太さんもちょっとおかしいわね。どうして死にたがってる人の側にいてあげようなんて考えたのかしら?」
それは決してぼくのことを馬鹿にした口調ではなかった。
「……わかんない、気がついてみればそんなことになってた」
「やっぱりね、そう言うと思ってた。のび太さんは誰よりも素直だけど、本気で考え込んでいるときは誰よりもひねくれているって思うわ」
「それって、どういうことさ?」
「さあ。じゃあ、ひとつ聞いていいかしら? のび太さんは雪緒さんのことが好きなの?」
「え?」
それは……。
「それは……違うよ。静香ちゃんは間違いなくあの人のことが好きなんだろうけど、ぼくにはそんな感情はないんだ」
「そうなの。じゃあ……」
静香ちゃんはぼくに手を差し伸べてきた。
「……?」
「協力しましょう」
「エ?」
「雪緒さんにやめさせるのよ、死のうと考えてることなんか。その為にのび太さんはあの場所にいるんでしょう? だから、あたしも今度からそれに協力してあげる。ふたり一緒になれば、きっと雪緒さんを止められるわ」
「……で、でも、どうやって!?」
ぼくは今でもそれがわからないままだった。あの人を止める方法なんかあるのだろうか。
「大丈夫よ。あたし、あの人を精一杯好きになってみせるわ!」
「――!?」
「たくさんたくさん好きになってみせれば、きっと雪緒さんは心開いてくれるはずよ! 好きって気持ちが相手に届けば、きっと死ぬことなんか考えられないはず……。きっとそうよ!」
「そ、それは――、そうかもしれないけど――」
「だから、のび太さんも雪緒さんのことを好きになってあげて! のび太さんならきっと雪緒さんを止められるわ」
「……」
「ね? だから、あたしと協力して。だって、のび太さんだって雪緒さんの事が好きなんでしょう?」
「それは……」
「とにかく、お願い。あまりこんなこと言いたくないけど、あの人を止める時間の余裕はないの!」
かなりの迫力だった。その必死さに負けてしまって、つい差し伸べた手を握ってしまった。
「わかったよ。やれるだけやってみる」
「ありがとう。あたしもがんばってみるわ!」
静香ちゃんはしっかりとぼくの手を握った。でも、ぼくはどこか吹っ切れていなかった……。
乙。
なるほど。静香ちゃんはそういうスタンスなのか。
男気あふれとる、ある意味。
ほ
し
451 :
名無しさんだよもん:04/03/07 18:59 ID:trSJEJw4
ゅ
授業が終わり、放課後になった。
「それじゃ、また」
「ええ、今日は維納夜曲に顔を出すわ」
「そう。じゃあ待ってるよ」
静香ちゃんは走り去っていった。一刻も早くうちに帰って、一刻も早く維納夜曲に来るつもりなんだろうか。
「……どうしたらいいんだろ」
静香ちゃんはひとつ勘違いしている。いや、ひとつ気づいていないことがある。
――「心が壊れている」。雪緒さんは自分のことをそう言った。そんな人を精一杯好きになってみせたらどうなるんだろう。
静香ちゃんは知らない。あの人は全く他人のことなんかに興味がないことに。それはたぶん静香ちゃんは雪緒さんのことを好きになっているから、美化されて見えているのかもしれない。
夢見てるあの子が、死神のようなあの人の心をそう簡単に解かすことはできないだろう。ぼくにはわかっている。もしかすると余計に事が混乱するかも知れないことも。
ぼくは、ただ成り行きを見守るしかなかった。それしか成す術がなかったのもわかっていたから。
維納夜曲では静香ちゃんは既にそこにいた。敢えて話しかけることはしない。好きにやらせておけばいいと思ってたから。
やがて雪緒さんがやってくると最初はやはり静香ちゃんはドキマギしてたけど、だんだん慣れてきたのか会話が弾んできた。もちろん雪緒さんは最初からずっとクールな対応しかしてなかったけど。
「そうなの、ピアノのコンクールがあるの」
「ええ! 今年のクリスマスに。一度はママに止めろって言われてたんですけど、結局がんばってみることにしたんです!」
「そう」
「それで……、もし良かったらの話なんですけど演奏を聞きに来てくれませんか?」
「どうかしらね、クリスマスにこのアルバイトを休めるかどうか……」
「そうですよね。来れませんか……」
「でも店長に言ってはみるわ。もし許可が下りたら考えておくわね」
「ほ、ほんとですか!」
「ええ」
傍から見てるぶんにはなんて事もない微笑ましい会話。でも静香ちゃんの反応はやはり尋常じゃない。
なんだかんだでややこしい理屈抜きで真剣に好きになっているんだろう。一度逃げてしまったことも後悔してるのかもしれない。
「あらら、あれは噂の彼女じゃない。あの子も雪緒チャンに夢中ってわけ? アタシの立場がないわねー」
「……明日菜さん」
「あのコ、なんか近づきがたいオーラがあるって感じなんだけど、それがいいのかしら? それともあのツインテール? アタシもあんなふうに伸ばしてみようかな」
「全然似合わないと思いますけど」
「……失礼ね。あ、そうそう。のび太クン明日あたり一度休んでみたら?」
「え?」
「明日は雪緒チャンもお休みだし、ここ最近ずっとここに来てて結構疲れてるみたいだし。そうしておいたら?」
「じゃあ、そうさせてもらいます」
今日は木曜、明日は金曜。1度くらい休んでおいてもいいかもしれない。
時刻は6時。外はもう真っ暗だ。
「じゃあ、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないかしら?」
「ええ、これ以上遅くなってもいけませんし。また来ます」
「のび太君。静香ちゃんのことを送ってあげてくれない?」
「え?」
そこへ話を聞いたおやっさんがやってきた。
「そうだな。小学生の女の子が一人で帰るのは危険だし、男のお前が送っていってやれ。それも店員としての仕事だ」
「わかりました、そうします」
さっそく着替えて荷物をまとめた。相変わらずおみやげをくれるのが嬉しい。
「それじゃ、雪緒さん。さようなら」
「ええ、さようなら」
「……本当に素敵な人よね、雪緒さんって。優しくてかっこいいわ」
「……静香ちゃん」
「ごめんなさい。どうしても浮かれちゃって」
ぼくたちは街中を並んでいた。ここ数日はますます冷え込んできている。今年初めての雪が降るのも近いだろう。
「大丈夫。きっと、助けてみせるわ」
「……そうだといいんだけど」
「もう、のび太さんがそんなことでどうするの!」
何となく気が晴れない。
「でも、やっぱり死にたがってるようには見えないわね」
「ときたま忘れそうになるよね」
「でも、雪緒さん言ってたわ。『わたしのような人間になっちゃ駄目』って……」
「……」
それからはたいした話も出来ずに静香ちゃんの家まで着いてしまった。
「それじゃ、また明日。学校で」
「さよなら、また明日ね」
ぼくは家路に向かって歩き出した。ここから20分弱、北風が顔に突き刺さる。
考えてみたら、ぼくはいくつか静香ちゃんに話していないことがあった。そのひとつが『ぼくの前では死なない』って言ってたこと。
これはかなり重要なことだと思うけど何故か言い出せなかった。
家で静香ちゃんは反対するおばさんを振り切ってピアノの練習をしてるに違いない。でも、きっとそれは無駄に終わる。そんな気がする……。
「ちゃんとやってるの? お手伝いのほうは」
「……え?」
「あ、またボーッとしてたでしょ」
「ああ……」
ドラえもんか。なんか最近構ってあげられなくなったな。働いてて忙しいっていう理由もあるけど、なんか最近敢えて距離を置いている気がする。
「で、どうなの?」
「それなりにやってるよ。色々とキビシイ所もあるけど、それなりに頑張ってるつもり。少しは鍛えられたかなー」
そこで思わずあくび。8時だって言うのにもう眠くなってきた。
「でも、明日はお休みもらったからさ、久しぶりに一緒にキャッチボールでもしようよ」
「そうかい? 明日はしっかり休んだほうがいいんじゃない」
「いや、たまには頭を空っぽにする時間が欲しくってさ」
「頭を空っぽ?」
……あ。いけない。
「またまた、なんか悩みでもあるの?」
「……まあね。でも――」
「『――相談せずにひとりで解決したい』か。それでもいいよ、悩むといいさ」
「……」
ドラえもんはそれ以上何も言ってこなかった。
――ひょっとして、ぼくが今どういう状況にあるか知ってるんじゃないか? あまりにアッサリしてるところが逆に怪しい。
「……なんなんだろ。何もかもわかんなくなってきた」
静香ちゃんのこと、雪緒さんのこと、ドラえもんのこと、……そしてぼく自身のこと。
これからどうなるのか、まったく予想がつかなかった。
難しいところにさしかかってるようですが。
続き楽しみにしとります。
保守
次の日も学校である。だけど維納夜曲の手伝いはない。
「行ってきます!」
「気をつけて行ってくるのよ!」
体も心も疲れているせいか、やたらと早く寝る習慣がついた。そのおかげで遅刻しなくなったけど素直に喜べない。
学校は相変わらず雑音で満ちていた。
――まったく雰囲気に溶け込めない。なんかぼくだけ部外者のようだった。
「のび太さん、おはよう」
「ああ、おはよう」
静香ちゃんの明るい声が何だかぼくを余計に暗くさせるような気がした。
「今日は維納夜曲に行くの?」
「いや、今日は雪緒さんアルバイトに来ないから」
「そうなんだ。じゃ、今日はあたしピアノに打ち込むことにするわね」
笑顔でやる気に満ちていた。ぼくだけ落ち込んでいる様は傍から見たら滑稽な気がしてきた。
いつものどうでもいい授業はあっという間に過ぎ、放課後になった。
「……」
ボヤッと夕陽を眺めていた。これから何もすることがない。
たった今気づいた事がある。それは今まで忙しいという事実が、雪緒さんが死ぬかもしれないという恐怖を少しだけ忘れさせてくれていた事だった。
――ぼくの前では死なない。それなら、ぼくが見ていない間はどうなる?
会いに行きたい。いつの間にかそんな気持ちが高ぶってどうすることもできなかった。
今、ぼくの手には石ころぼうしもタケコプターもある。雪緒さんの学校の場所は知っている。
意を決してランドセルを背負う。
ぼくは校門を出た後、タケコプターで大空へ飛んだ。
高校の屋上に到着したのは、それから20分後のこと。そこは以前、透子さんがポイをどうすることも出来なくて泣いていた場所であり、ぼくが雪緒さんと初めて出会った場所でもある。
……そして、静香ちゃんがあの光景に出会ってしまった場所。
――そこに、雪緒さんの姿はなかった。
ここから眺める夕陽は美しい。思わず吸い込まれそうになる、そんなことをあの人は言っていたけど、ぼくには欄干を越える勇気はなかった。
そう言えばあの日、なんか嫌な先生と出会ったんだっけ。また会うのはゴメンだなあ。
そこで石ころ帽子を被った。これで姿を隠して雪緒さんを探すことが出来る。静香ちゃんと同じ方法で。
校舎内に通じるドアの鍵はこちら側から外せるようになっている。それを手で回して開けた。
一歩踏み出す。校舎の中は思ってたより静かで誰もいないかのようだ。外から聞こえてくるのは気合の入った部活の掛け声。まるでここの校舎だけ異次元に隔離されたかのようである。
どこへ行けばいいのかわからないまま前へと歩き出した。そう言えば静香ちゃんも教室を知らないままここに来たという。その時の2人を結んだのはギターの音色とのこと。今日も弾いているのだろうか。
誰にもすれ違わない校舎を彷徨う。外の雑音に気を取られないよう耳を傾けながら。
その時、何かが聞こえた。それはギターの音色、悲しいメロディ。
そこの奥の教室、そこから細々と聞こえるひどく暗い曲。……もしかして。
一瞬躊躇ったけど、ここまで来て帰っても仕方ないと自分を説得するように首を振った。そして、ぼくはそっと教室のドアの影に隠れながらそれを見た。
夕陽を背にひとりギターを弾いているその姿、髪をキラキラ輝かせながらも淡々と悲しい曲を演奏するその姿は人ならざる雰囲気を持っていた。
……それはまるで天使だったと言えるかもしれない。
ぼくは突っ立っていた。教室内に入り込めない。その雰囲気、とても汚すことなんか出来そうにもない。
ギターはスローなテンポの悲しい曲。それが余計に空気を神聖なものにしている。それを弾いているのは雪緒さんだってことも……。
無表情だった。演奏する曲に何も感情がこもっていないのか、いやわからない。
一度中に入ってみようか、と思ってたときにふらついて足を教室のドアにぶつけてしまった。
「!?」
演奏が止まった。そしてこちらに顔を向ける。驚いた様子はないけど誰もいないことに不思議がっている。当然のことだったけど、ぼくの姿は見えていない。
だけど姿を隠していることがなんとなくだけど、雪緒さんを裏切っているような気がした。
「ぼくです、雪緒さん」
石ころ帽子を外す。それは他の人から見れば急に人が現れたように思えるかもしれないけど、相変わらず雪緒さんはクールであった。
「……のび太君、来たのね」
「はい」
「座ったら? ここにはわたしたちの他に誰にもいないわ」
「いえ、けっこう」
なんとなくだけど、雪緒さんは誰かに聴いてもらいたくて演奏してるわけじゃなさそうだった。そんな人に向かって聴く態度を取るのは演奏の邪魔をするだけのような気がした。
「そう……」
雪緒さんはそう言うと、なんでもなかったかのように再びあの曲を演奏し始めた。
曲が終わったと思うとまた同じ曲。ずっと同じ曲が続く。あの悲しい曲が。
ぼくが入ってきたことで雰囲気は微塵も変わることはなかった。悲しい曲と窓から見える壮大な夕陽はこの人の心を映し出しているようだった。
……息が詰まる。ツバを飲み込む。最初からそんな雰囲気に耐えられるわけがなかったのかも知れない。
「雪緒さん……」
「何?」
「死ぬのはやめてくれませんか?」
そこで演奏が止まる。邪魔をしたのはわかっているけど、この場でどうしても言いたいことがあったんだ。
「気づいているんでしょ! 静香ちゃんのあなたへの気持ち。そういうことも考えてよ!」
口調が荒くなった。何故だかわからない。単に焦っていたのかもしれない。
「だって、静香ちゃんは……、静香ちゃんは……!」
「それは出来ないわ」
「!」
ぼくの高ぶった気持ちを切り裂くような冷たい一言。
「努力はする。君の前じゃ死なない。でも、その約束は出来ないわ」
肩の力が抜けた。まったく何を言っても無駄だってことぐらいわかっていたのに……。
「じゃあ。せめて静香ちゃんには演技でもいいからそれなりに振舞ってくれませんか。静香ちゃんは真剣そのものなんですから。あんな冷え切った態度を取るのはいくらなんでも失礼です」
「わたしは心が壊れているの。他人の心なんてわからないわ。……人並みの感情なんてないの」
「……そうですか。もう、いいです……」
ぼくは何だか心を切り刻まれたような思いで教室を出た。結局何もあの人にしてやれることなんか最初から何もなかった、ここに来てわかったのはその1点だけだった。
屋上から飛び立つ。ぼくの家へ。
結局、何も出来なかった。その事実がまたぼくの気持ちを暗くさせた。
「なあ、ドラえもん。なんか何にも考えられなくなるような道具出してよ」
「はあ?」
「なんかもう考えるのに疲れちゃってさ」
思わずため息混じりで呟いた。ドラえもんは困った顔をしながらポケットを探り始めた。
「『ガチガチン』」※(「ぼく、ドラえもん」第1号付録、未収録作品集1「にっくきあいつ」参照)
ドラえもんが出したのは錠剤が入ったビン。いや、四角形の妙な薬。
「これを飲むと何も考えられなくなるの?」
「そう」
ぼくは口の中に放り込んだ。
「……ム!」
シャキーンと目が覚めたような感触!
「勉強しなくちゃ! こんな頭の悪いぼくじゃ、いくら考え込んでても意味ないぞ!!」
今まで維納夜曲の手伝いを理由にしてほったらかしてた宿題を片付ける。考えてみれば通信簿がもうそろそろじゃないか! こんな時こそまず勉強だ!
「『ガチガチン』。飲むとくそまじめなガチガチの勉強家になる。まあ勉学に勤しんで雑念をはらってちょうだいな」
「うるさーい! 勉強の邪魔をするなよ!」
「はいはい」
,'´ ヽ
,=、ノリ^)))〉、
((ヾゝ´ヮ`ノヾ)
/ ̄ヽ/,― 、 )) 。。。
☆ | ||三∪●)三∩三Ε∃.
* \_.へ--イ〉 ゚ ゚ ゚ ♪*
..♪.゚ し'ノ ..♪.゚
遂に400KB超えた…。次スレまで持ち越しそう…。
500Kまで大丈夫じゃない?
500kに収まらないという意味でしょう
ho
syu
宿題は6時間かかってすべて終わった。それにしてもこんなにもたまっていたとは……。
「ハァ〜、疲れたなー」
さすがにもうくたくただ。時刻は11時。我ながらよく続いたもんだ。
「おめでとう、のび太君。やれば出来るじゃない」
ドラえもんは嬉しそうだ。勉強が続いたのはあの薬のせいだってことに今気づいた。
「まあいいや。もう寝よう」
肩を回しながら布団に入る。でもその瞬間から勉強の間忘れさせてくれたあの感情が再び蘇った。
「なあ、ドラえもん。厄介な問題に巻き込まれたとき、悩みに悩みぬいたら答えが出るのかな……?」
何故かそんな話をドラえもんにしてみたくなった。その時、押入れの戸が開いた。
「答えが出る時もあるし、結局悩んでいたのが全て意味のないことだったこともあるかもね。でもね、どちらにしろ無駄にはならないと思うよ」
「無駄にならない?」
「そう。何故なら悩むことはまたひとつ君を大人にさせるから。じゃ、おやすみ」
そう言って戸は閉まった。
「チェ、大人ぶっちゃって」
だけど自然と心が安らいだ。ドラえもんはぼくのことを少しは信頼してくれているのかも、そんな考えが湧いた。
でも、あの人を止める方法が全く見つからないのも、また事実だった。
次の日も学校……と、思いきや今日は土曜。学校はない。
「あれから1週間か。早いもんだなあ」
初めて雪緒さんと出会った日のことである。今日まで1週間の間はあっという間だった。
「でも何も話は全く進んでないんだよなあ」
朝ごはんを食べた後、誰にも見られないように携帯電話のメールをチェックする。明日菜さんからは『今日も待ってるわ』でハートマーク付き。実は仕事のある日はそんなんばっかりだ。まったくもってこの携帯電話は家族に知られたくない存在である。
……あれ? もう1通来てる。静香ちゃんから。
『今日も維納夜曲に行くわね』
はぁ。みんな女の人のメールだっていうのに、まったくもって気分を落ち込ませるものばかりだ。
維納夜曲には言い方が悪いけど美人の死神がいるってのに。
午前中は町なかをダラダラと歩いて過ごしていた。また勉強して時間を潰すのもいいけど宿題がないとやる気が起きない。昨日のあの道具を使ってもいいけど、あまり薬には頼りたくない。
どこからか聞こえてくる救急車の音。
思い出す。静香ちゃんはあの雪緒さんの姿を見て熱を出してしまった。原因不明の発熱、きっと救急車で運ばれたに違いない。今思えば、おばさんがその事をぼくに話してくれなかったのは娘の世間体を気にしてたんだろう。
それはあのおばさんですら、何故静香ちゃんが熱を出したのかも知らないせいでもある。
どうしても口を割らなかった静香ちゃんに対し、おばさんは携帯電話を与え、ピアノやバイオリンのレッスンも止めさせた。おばさんも辛いんじゃないのか。それもこれも雪緒さんのせいのような気がしてきた。
そう言えばギターやってたっけか。何でギターなんかやってるんだろう。
色々考えていたせいだろうか、ぼくは周囲のある異変に気づかなかった。
悪寒、そして頭を締め付けるような痛み。そしてめまいに吐き気。
「あっ……!?」
そこは空き地、そして目の前には土管の上で気持ちよさそうに歌う男ひとり。
「よぉ、のび太。おれさまの歌声に釣られてきたか! ちょっとお前、歌の練習に付き合えよ。拍手する奴がいないと気分が乗らねえからよ!」
いきなり最悪の場面に遭遇した。無意識だったけど本当に歌声に乗せられてやってきたらしい。いつもなら5キロ離れていても感知出来ていたはずなのに。ここにやってきたのはぼくだけ。まるでなんかの電波のようだった。
「今度の新曲は心にしみる悲し〜い歌だ。いいと思ったら遠慮なく泣け」
それはありえない。
「おいらの〜胸の心はよ〜、星に流れて〜夜ぎりの〜むせぶよ〜。お〜〜あの子は2度と帰るぞ〜〜♪」
当たり前のことだけどこれはジャイアン作詞の曲、意味が全くわからない。と、いうよりは吐き気に耐えるので必死で意味なんか考えられなかった。
「いやあ、感動したよ」
心にもないお世辞を言いつつ拍手。実に辛い。
「だろう? おれさまの自信作だ。歌いながら涙が出てくるぞ、ウウッ」
本当に泣いている。実にわかりやすい。わかりやすいのはいいことだ。
「……ジャイアンに聞きたいんだけどさ、どうしてそんな悲しい曲を作ったの?」
「そりゃあお前、表現したいからだよ。おれさまのナイーブなハートをみんなにな」
「そうか……。普通そうだよね」
そういう理由だと思うんだけどな……。
……と、その時携帯の着信音が。
「あらら!」
「なんだよ、お前携帯電話なんかもってんのか!」
「まあね」
「電源を切っておけ。それがリサイタルのマナーだからな!」
「はいよ」
ぼくは電源を切った。
「じゃあ今度は名曲シリーズでいこうじゃねえか! まいにちまいにちぼくらはてっぱんのお〜♪」
地獄はまだまだ続くみたいだ。
「オエ〜」
結局3時間にも渡って聴かされた。歌の毒はなかなか抜け切れない。
ぼくは部屋で畳の上でダウンしていた。
「『夜霧の咽ぶ』か。ジャイアンもなかなかかっこいいこと言うねえ」
「感心してる場合じゃないって!」
「ごめんごめん」
舌を出してドラえもんは謝る。
……それにしても、多少は心が軽くなった気がしなくもない。結果的に毒で毒を征したのか。なんだかなあ。
「でも歌の毒はなかなか尾を引くからなー。お手伝いに影響しないといいけど」
「いま1時だよ。後3時間半もあるから大丈夫じゃないの」
「いやあ、そうだといいけどね」
と、その時だった。ドアのチャイムが鳴ったのは。
「はーい」とママが応対する声が聞こえる。
「え、あのどちらさま? え、維納夜曲の? のびちゃーん!」
「誰かしら?」
維納夜曲の関係者であることには違いない。おやっさんだろうか。わざわざウチにやってくる人なんて他に思いつかない――。
「こんにちは、のび太君」
「!?」
そこにいた人物が信じられなくて一瞬夢なんじゃないかしら、とさえ思ってしまった。
須磨寺雪緒、その人が何故かウチの玄関先に立っていたからだ。
「お出迎えに来たわ。行きましょう」
屈託のない笑顔で言われると、少し言い方が悪いけど不気味に感じる。
「……エ、しかし、まだ時間が」
「たまには早く行ってもいいじゃない?」
――何か話でもあるのだろうか。
「のびちゃん、せっかくわざわざ遠い所から来てくださったんだから行きなさい」
「わかった。それじゃ今から行きましょう」
「ええ」
何を考えてるんだろう……。
次回から多少急ぎます。
乙ディス、急いで断片的になるよりも
場面ごとにまとまっているほうがうれしいかも
でもご判断にお任せします。
h
475 :
ゾリンヴァ:04/03/21 03:41 ID:g98oKrt5
ィエア!! ニッポン ァ ドラえもん・カカ!! カッ・・・カカッ!
\
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/ ____ヽ /  ̄  ̄ \
| | /, −、, -、l /、 ヽ
| _| -| ・|< || |ヘ |―-、 |
, ―-、 (6 _ー っ-´、} q -´ 二 ヽ |
| -⊂) \ ヽ_  ̄ ̄ノノ ノ_/ー | |
| ̄ ̄|/ (_ ∧ ̄ / 、 \ \ | /
ヽ ` ,.|  ̄ | | O===== |
`− ´ | | _| / |
| (t ) / / |
ィエオゥゥゥゥ!!! キィィィ ひひひひぃ ィエアッハッハッハ!!
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
/ )
| ノノ_ノノ_ノノノ
| / / ヽ/ ヽ |
|i⌒ ─| ・ | ・ | | ィエア!! コレ 見て クデサイ
???????????●卍●?ゾリンヴァデス?●卍●???????????
ワタシ コノ コレ 衝撃 受けマスタ!!!
| ∂ \__人__
「携帯に電話してみたんだけど、切られちゃったから直接行ってみようと思って。のび太君の家も見てみたかったし」
「……それで、ぼくの家を見た感想は?」
「普通ね」
「そりゃあ、まあ」
電話した? ああ、ジャイアンの歌の練習の時か。確かに切ったけど……。
「それじゃあぼくのほうも聞きますけど、雪緒さんの家ってどんな感じなんですか」
「わたし? わたしは汚いソバ屋さんなのよ」
「ソバ屋?」
全然イメージが合わない答えが返ってきた。何だか嘘くさい。
「嘘ついても仕方ないと思うけど」
「そりゃあ、まあ」
いい加減な会話をしながら、足は維納夜曲に向かってる。
「……それで、どういうつもりなんですか?」
「え?」
「わざわざウチまで来た理由です」
「それは、のび太君には駅まで送ってもらってるから。たまにはわたしのほうから迎えに行こうかなって。本当なら年上のわたしがそういうことをすべきなのにね」
「そうじゃない。そんなことじゃないんでしょう? だって雪緒さんは他人の事なんか構いやしないんだから!」
少しまた苛立っていた。何でそういう態度を静香ちゃんに見せてあげられないんだろ!
「……そうね。じゃあ、本当の理由を言う前に来て欲しい場所があるわ」
「どこですか?」
「屋上」
――! なんだって……。
「大丈夫よ。ちょっと話したいことがあるだけだから」
「……はい」
雪緒さんの高校に人の姿はほとんどない。基本的に土曜は高校でも休みなんだ。
「わたしと一緒なら、小学生の君でも目立たないと思うから」
ぼく達は堂々と昇降口から入っていった。
屋上に通じるドアには当然の事ながら鍵がかかっている。
「合鍵を持ってるの。黙って持ってきたあと、こっそりと作ってきちゃった」
「へえ、ぼくとおんなじですね」
「……え?」
「いえ、なんでもないです」
ドアが開いた。そこには澄み切った冬の青空が広がっていた。
ぼく達は黙ってその場に踏み込んだ。目線は欄干の向こう。綺麗な青空の向こう。
「のび太君、この場所は好き?」
「え?」
顔はいつの間にかぼくのほうに向けられていた。
「あんまり。どうもいい思い出がないもんで」
「そう。わたしは好きなんだけどな。この場所が」
「それは死に近い場所って意味ですか」
「それだけじゃないわ」
再び雪緒さんは空を眺める。
「空に一番近い場所だから」
「空?」
「わたしは飛べない。空を飛ぶことが出来ない。結局は地べたに這いつくばってるだけ。だから想像してみるの、空を飛べたら、手に届くかなって……」
空を、……飛ぶ。
「君もなんとなくなんだけど、そういう考えを持ってる気がする」
「ええ、ぼくも自由が一番だと思います。でも……」
「でも?」
「空はいつも笑っているんです。眺める人の心にね。だから大きな空を眺めていると誰かさんの笑顔に見えてくる。それは一番好きな人の姿に」
「……なかなか詩的な事を言うのね」
「そういう歌を聴いたことがあります」
「そう……。でも、そんなこと聞かなければよかったかな。これから空を見るのが辛くなるかも」
「え?」
「なんでもないわ」
一瞬だけ動揺したように見えたけど……。
「のび太君、本題に入るわ」
――!
「もう、終わりにしよう」
「……え?」
「もう、わたしのせいで君を苦しめるのは本意じゃない。だから、もう終わりにしましょう」
「それは、どういうことですか?」
「……言っていいわ、わたしが死にたがってる狂人だってこと。大勢の人に言っていいわ。
『須磨寺雪緒は自殺願望があります、早く病院に連れて行かないと学校の屋上から飛び下りますよ』って。そしたらわたしは素直に『はい、そのとおりです』って言ってあげる」
「……」
「何もかも、わたしの頭がおかしいせい。目の前にいつ死ぬかわからない女がいて、普通でいてくれなんて無理だったのね。大したことないって思ってた、本当よ。せいぜい焼肉食べられなくなるくらいだって思ってた。
でもこれ以上、関係ない君を巻き込みたくない。だから、もう何もかも言っていいわ」
「……」
「あ、それともわたしが直接言ったほうがいいのかな? それとも君が言う? どちらか、君が選んで。わたしはどちらでもいいわ」
「……ぼくも、もうどうでもいいですよ。なんか雪緒さんが死にたがってることなんか、もうどうでもよくなってきました」
「……そう」
何を言っても無駄、ならば……、もう成す術もない。それなら……。
「空が綺麗ね。手に届くかしら……」
雪緒さんはいきなりそう言うとフラッとよろめいたと思うと、欄干に手をかけていた。
「なっ!?」
慌ててぼくはその体を抱きとめる。
「……ああ、わたしが死のうと思ったの? でも、心配することないわ。言ったでしょう? 『君の前では死なない』って。でも人間は死ぬことを許されてる、自らの命を絶つことが。そう仕組まれてる。だからいつかは……」
「……嫌です!」
「え……」
「いやだいやだいやだ! どこに行っても死んじゃ駄目です!! 死なないでください! 言ったでしょ! 空は笑ってるんです、誰も死ぬことなんか望んでないよ!!」
「……」
「死んじゃ……やだよ……。ぼくは、どうしたらいいんだ……!」
「それじゃもう一度だけ約束して……」
「え?」
「君には笑っていて欲しい」
――!!
「約束、忘れたの? 『君の前では死なない』っていう引き換えの条件がそれなのに」
「……ごめんなさい」
「涙を拭いて、それじゃお店に出られないわ」
貸してもらったハンカチで顔を拭う。
ああ……、すっかり忘れていた。約束したじゃないか。でも、……それは結構厳しい条件だって今わかった。不釣合いかもしれないような。
「ハンカチ、ぼくのほうで洗っておきますから」
「そう」
「それと、誰にも言いません。何も言うつもりはありませんから」
「もう、そのことはいいわ。何も言わないで……」
「……もう維納夜曲に行きませんか? 少し早いかもしれないけど」
「そうね。それもいいかも知れないわね」
本当はここからもう離れたかった。それに雪緒さんが同意してくれたことが、何だか切なかった。
歌ってのは「青空っていいな」
ドラえもんの平成1年4月〜4年10月のEDです。
>>473 あんまり間を開けるのもちょっと…な気がするので
ダラダラやっていきます。
>>475 応援よろしく
保守
のび天で盛り上ってる所で申し訳ないのですが・・。
このスレに来るのは初めてなのですが、初代スレの「星の記憶の伝承者」
に惚れ込みまして先程迄初代スレから過去ログ編集サイトまで一通り
見させて頂きました。
現行の、のび天(天丼に入ってそうな呼び方ですね)
は原作未Playなので読んでも大丈夫か少し迷ってますが(ネタも余り知らないので)。
質問なのですが、編集サイトで「星の記憶〜」の原作者さんの続編が
「へっぽこロボ製造工場」で書かれてるそうなのですがリンクから繋がりません。
Googleで検索してもサイトはあるのですが同じくサイトが開けず
「ページが見つかりません」と出てしまいます。
これについて何か知っている方いないでしょうか?
それは維納夜曲までの道程での事だった。
「静香ちゃん、今もピアノの練習してるのかな」
「!」
そういえば静香ちゃんは全てを知っている。そのことに今更ながら気づかされた。
「そういえばもうそろそろクリスマスですよね! 今年はぼくは何をもらえるんだろ!」
慌てて無理やり話題を変えることにする。
「ああ、そうか。まだのび太君は小学生だものね」
「どうせ、『いろはかるた』とか『世界の偉い人の伝記』とかそんなもんです。たまには為にならないプレゼントが欲しいんですけどね。雪緒さんはどうだったんです?」
「わたし? わたしはゴールデンレトリバー」
「え?」
「グランドピアノに大きなケーキ。父と母が幸せそうに笑ってる……」
「ヘエー。いいクリスマスだったんですね。うらやましい〜」
いかにもお嬢様って感じだ。流石だと思った。
……ところが雪緒さんが口に出した言葉は意外なものだった。
「そんなことないわ。わたしは嫌いなの」
「……え、どういうことですか?」
「誰にも祝福されたくないの。クリスマスは世界中が祝福してるようで……嫌い」
「……?」
その凍り付くような言い方に、ぼくは何も言えなくなってしまった。
維納夜曲に着いたのは4時。いつもより30分も早かったけど、おやっさんはぼく達が働くことに快く許可してくれた。
「2人揃って来るなんて。デートでもしてたの?」
と、いうのは明日菜さん談。ぼくはヘラヘラ笑う事でごまかした。
「あの店長、静香ちゃんがいない間にお聞きしたいんですけど、クリスマスに休み頂けませんか? あの子のコンクールに誘われてて……」
「25日か……。微妙だな。もしかしてのび太も誘われているのか?」
「え、えっと――。はい」
「店側としては2人両方同時に休まれると困るんだがな。……やはり駄目だ、のび太にはいつ休んでもらってもいいが須磨寺のこの店のアルバイトだ。正直、こちらの都合も考えて欲しい」
「そうですか」
「……」
静香ちゃんが今ピアノの猛練習してるのは、雪緒さんをコンクールに誘う為なんだがな……。
「さあ、仕事だ。早く支度しろよ」
「はい」
もうじき静香ちゃんもここに来る。なんだかそれが憂鬱だった。
「それでね、ポイちゃん元気にしてる。のび太クン。飼うのは無理かもしれないけど、預かることぐらいは出来ないの? 一度会わせてあげたくてしょうがないんだけどな」
明日菜さんは雪緒さんとぼくにいつものように色々と喋りまくっていた。
「預かるなんて無理ですよ。そんなんでママの気が変わるとも思えないし。あ、そう言えば明日菜さんはもう一匹犬飼ってるって言ってましたね、何て名前なんです?」
そこで明日菜さんは少し考えた後、ちょっとニヤリと笑った。
「『逆蟻OH!』」
「え? ぎゃくありおー?」
「クイズです」
……何が何だかわからない。雪緒さんもさっぱりみたいだ。
「じゃあ『逆蟻OH!』の仲間に『巻く墨』、『紅雪みとめる』、『アマ無線列島』、『沢田研二明日静かに雨』、『呂夫婦沢田研二考え込む』……、ああ最後の2つはちょっと難しいわね」
「ダメです。余計に訳がわからなくなりましたよ!」
ぼくは頭を抱えている隣で雪緒さんはまだ考えていた。
「わかったわ。『逆蟻OH!(蟻が逆さ)』がリア王、『巻く墨(ベース)』が、マクベース、『紅雪(スノー)みとめる(承認)』が、でベニスの商人、
『アマ無線(ハム)列島』、がハムレット、『沢田研二(ジュリー)明日静かに(シー)雨(ザー)』、でジュリアスシーザー、』、
『呂(ろ)夫婦(めおと)沢田研二(ジュリー)考え込む(えーっと)』でロミオとジュリエット。全てシェークスピアの作品名ね」
「ご名答! よくわかったわね」
「リア王ということはひょっとしてコーデリア?」
「そう! さすがは雪緒チャン、博識ね」
全然会話についていけない……。
「可愛いのよコーデリア。今度雪緒チャンにも見せてあげるわね」
「……わたしはあまり犬はスキじゃないから」
「そうなんだ」
明日菜さんはちょっとガッカリしている。まあ犬に限らず物を愛するって感情に乏しい雪緒さんじゃ、犬が好きじゃないってのも当然かもしれない。
「ところで……静香ちゃん来ないな。メールでは確かにここに来るって言ってたのに」
「ピアノの練習に夢中になっているとか」
時刻は4時35分って所。昨日の様子じゃ遅れるはずがないと思ってた。それどころか、きっとぼく達よりも先に来てて待ってると思ってたんだけどな。
と、その時ドアのベルの音。ぼくが出た。
「いらっしゃ――、あ、静香ちゃん」
「……」
声を掛けたってのに、何も反応してくれず俯いたまま。表情は冴えない。
「静香ちゃん、いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
「……はい」
雪緒さんが笑顔で声をかけているのに、昨日と打って変わっていまひとつの反応。まさか、また何かあった?
静香ちゃんは無言のまま席に座り、適当にケーキを注文した。「チーズケーキでいいです」なんて連れない言い方。一体どうしたって言うんだろ?
「一体どうしたのかしら?」
雪緒さんも一応気にかけている。
「雪緒さんは心当たりないんですか?」
「全く思い当たらないけど……」
「ぼくも、あんまりわかんないなあ」
それからというもの雪緒さんは静香ちゃんに積極的に声をかけるようになった。
無論、それは静香ちゃんの応対をするのが最も雪緒さんにふさわしいというだけであって、言わばあの笑顔は営業スマイルで店員としての業務サービスであることをぼくは知っている。
しばらくして……、店に来てから30分ぐらい経っただろうか。ようやく静香ちゃんも機嫌が直ったのかハキハキと笑顔で雪緒さんと喋りだすようになった。ひとまず一安心である。
先程から適当にふたりの会話を聞いているけど、クリスマスコンクールの話題が尽きない。曲のこの部分はどうだの、ピアノの先生はどうだの、今度のコンクールにはグランドピアノで演奏するだのと。
もちろん雪緒さんも経験者だから、「それはこうね」とか話題についてアドバイスなりしているけど、「ああ、そうなの」とやっぱり冷めている適当な相づちが多かった。
6時、今日はおやっさんが直に「そろそろ帰ったほうがいいんじゃないか?」と言いにきた。
「それじゃ……」
名残惜しそうに静香ちゃんはレジで代金を支払う。なんと800円なり。昨日は1200円だった。1時間半もこの店にいるんだから色々と注文しなくちゃ居づらいのはわかるけど、どっからそんな大金持ってくるんだろう?
「のび太、今日も送っていってやれ。この店をご贔屓にしてくださっている大切なお客様だからな」
「わかりました」
ぼくの返事を聞くと同時に静香ちゃんのウキウキしてた雰囲気が消えた。その代わりにまた俯き加減の冴えない顔。一体どうなってんの?
どこか引っかかりながらも、ひとまずぼくは帰宅への準備をすることにした。
妙なクイズの元ネタは藤子F先生が考えたもの。「ドラカルト」にも載ってます。
>>482 サイトが消滅していると思われます。
作者さんはYahoo!ジオシティーズにスペースを借りていたのですが
ジオシティーズは一定期間の間、まったく更新されていないとサーバーから消されてしまうのです。
ちなみにシナリオは中盤あたりまで進んでいたのですが、完結には至ってなかったです。
妙なクイズというかすごいダジャレだw
「偉い人のお話」はパパが必ず勧めるんだよな・・・
428kbか、どうなるんでしょう。
保守しとく
>>489 続けるにしては少なすぎるし終わるにしては中途半端だね
じゃあどうするの?
「それじゃ、お疲れ様でしたー。雪緒さん、また明日」
「ええ、また明日。じゃあね、のび太君、静香ちゃん」
「……はい、また明日来ます」
ぼくは店を出た。沈み気味な静香ちゃんと共に……。
「ねえ、静香ちゃん。なんか元気ないじゃん。どうしたの?」
「……別に、何でもないわよ」
言葉とは裏腹に明らかにおかしいことはわかってるんだけど……。
それからは声を掛けることすら許されないような雰囲気だった。ぼくっていつ嫌われたんだろう――? 歩きながらのん気にそんなことを考えていた。だいたいぼくにはまったく心当たりがない。どうしたもんだかなあ……。
「ねえ、のび太さん」
ふと突然、向こうから声を掛けられて気がついた。
「おっと。なんだい?」
静香ちゃんはぼくと目線を合わせることなく語り始めた。
「明日でいいわ。のび太さんに話したいことがあるの。明日の適当な時間にうちに来てちょうだい」
「え、えっと……。明日のいつでもいいの?」
「ええ。……明日は維納夜曲に行かないから」
「……!?」
「雪緒さんにはあたしは来ないって適当に言っておいて」
「あ、ああ……」
思いつめたような顔に思わず焦った。すぐぼくの隣にいるっていうのに、何を考えているのかさっぱりわからなかった。
「それじゃ……」
送っていったが礼もなく静香ちゃんは立ち去ってしまった。
後姿が何だか疲れているように思えた。
窓からこぼれる暖かい光。ようやく家が見えてきた。ここまで随分長い距離を歩いてきたかのように、体は疲れきっていた。
「ただいま」
玄関の光が眩しい。
「おかえりなさい。今日はかなり早く出たみたいだけど、どうだったの?」
「とんでもなく疲れたよ。早くご飯にしてくれないかな」
「はいはい」
「それにしても飽きっぽいのびちゃんが随分続いてるじゃない。決して楽じゃないんでしょう?」
「まあね。大変といえば大変だし、面倒くさいと言えば面倒くさくなってきたよ。でも、簡単に止める訳にはいかないんだよ。……自分で決めたことだし、維納夜曲のみんなも結構ぼくのこと大事にしてくれてるし」
決して終わりには出来ない。終わらせるわけにはいかない……。
「ヘエー。まあ毎日昼寝してるよりましね。これからも頑張りなさい」
「うん」
ドラえもんはテレビを見て爆笑している。本当にのん気なもんだ。
「あー、面白かった。それにしてもさ、のび太君。タケコプターを貸してるんだからさ、もうちょっと早く帰ってこれないの? こんなに面白いテレビが見れないなんて、ちょっともったいなくない?」
「そうだねー。なんか最近残業しなくちゃいけなくなってさ」
「へえ、それってどんなことなの?」
「……いや、言えない」
「なんだよ、つまんないの。どちらにしろ、もうちょっと早く帰れるようにしてもらいたいもんだね。晩ご飯は一緒に食べたいんだから」
そうだった。ぼく一人だけでこの居間で食べているこの状況は普通じゃなかった。最初、みんなぼくが帰ってくるまで待ってくれていたのだけれども、
なんか迷惑掛けたくなかったから先に食べておいてくれと頼んでおいたのだった。確かにひとりだけで取る食事はちょっと寂しいかもしれない。でも……。
「慣れるよ、きっと。ぼくがいない食事も」
「そういう問題じゃないんだけど……」
それからぼくは口を閉じることにした。昨日知ったばかりだった、こうして普通でいられるのは忙しいおかげだって。暇が出来ればきっと死の恐怖に怯えるに違いない。雪緒さんの死に……。
――それは、静香ちゃんもおんなじじゃないのか?
そうに決まってる。だってあの子は本気で雪緒さんのことが好きなんだから……。
それじゃ、今頃ぼくと同じように怯えて生きているんだろうか。
それを、少しでも忘れるためにピアノの猛練習をしてるとしたら……。
ぼくはその晩、8時半には布団に潜り込んでしまった。
今日も疲れきっていたという事実と、明日静香ちゃんから何を宣告されるかわからない不安を少しでも軽くしたい為に。
明日を迎える恐怖。――今、この瞬間にも雪緒さんが死んでいる可能性。
再びあの悪寒が戻ってきた。
「何もかも言っていい」。あの時のことを今になって少し後悔していた。でも、あの人を裏切ることは出来ない。裏切ることなんか、できない。
……そして、ぼくは何もできない。再びあの悪寒が戻ってきたのだ。
「うう……」
真冬の朝は寒い。起きるのがおっくうになる。
今日は日曜、のんびりしていたかった。
昨日は結局なかなか寝付けなかったんだし。
「11時だぞ! いい加減起きなさい!」
ドラえもんに布団をひっぺ返される。ぼくは畳の上を転げた。
「なんだよ、もう少し寝かせてくれたっていいじゃんか〜」
「11時まで寝てて何言ってるの! ホラ、とっとと着替えた!」
「わかったわかった、ドラえもんはうるさいなあ……。グゥ」
「立ったまま寝るなー!」
「いいかい、規則正しい生活こそが健康の基本なんだよ」
「だから、ぼくは疲れてるんだってば〜」
「疲れが抜け切らないのも、いい加減な生活を送ってる証拠だよ!」
ひとりでノロノロと朝ごはんを食べる。食パン2枚に玉子焼きに適当に作られたサラダ。
「まずは健康に気を使わないと。風邪をひいたらお手伝いどころじゃないんだからね!」
――思い出した! 静香ちゃんの家に行くって約束してたっけ。
「ゆううつ……」
「シャッキリしろよ!」
ドラえもんは相変わらず騒々しかった。
1時になった。そろそろ行ってみるか。
「ちょっと静香ちゃんのとこまで出かけてくる」
「維納夜曲のお手伝いは?」
「ちゃんとわかってる。じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
ドラえもんに見送られて家を出た。外は北風がピューと音を立てて木をざわめかせている。
「こりゃあ寒いや」
体より心のほうが憂鬱で寒いのだけど。
源家の門構えは借家の我が家よりも多少立派である。今日は何だか威圧感を感じるほど大きく感じた。
玄関先で10秒ほど躊躇した後、結局インターホンを押した。
「……のび太さん」
20秒ほどで静香ちゃんが出てきた。とんでもなく暗い顔、間違いなく疲れきってる。まるで幽霊のようである。
「や、やあ!」
精一杯の作り笑いで、その場の雰囲気を和らげようと努力してみる。
「入って。今は誰もいないから」
「……はい」
無駄だったらしい。早くも冷や汗をダラダラと流しながら靴を脱ぎ始めた。
連れられた先にはリビング。そこはピアノがある。
静香ちゃんは何も言わないまま、ピアノ専用と思われるイスに座った。
「ああ、のび太さんは適当に座って」
相変わらず冷たい。まるで言葉に温度がなかった。
「……」
黙りこんだままソファーに座った。ふかふかのソファーが心地いいのだけど、それよりも静香ちゃんから放たれてるオーラがトゲトゲしくて痛かった。
それから苦しい程の沈黙、約1分。ぼくはひたすら向こうからの言葉を待つことにした。
「……ねえ、ひとつ聞いていい?」
「な、なに……?」
静香ちゃんはぼくのほうを振り向くことをせずに話し始めた。
「あたしたち、『協力する』って言ったわよね。おとといのことだったかしら?」
「あ、ああ……。そうだよ」
「あれ、撤回させてもらうことにするわ」
「え――!」
言いだしっぺは君じゃないか! って言おうとした時だった。
「あの時と今。少し状況が違ってきちゃったみたいだから」
「なんだって?」
そんなことはない。だって問題は何も解決してないはずなんだから。
「あなたは何も変わってない。けど……、問題は雪緒さんなのよ」
「雪緒さん?」
「……一言で言うわ。雪緒さんはのび太さんのことを好きになってる」
「――ハ?」
そ、そんなバカな!
「そうよ。そうに決まってるわ。雪緒さんの心にあるのはのび太さんなのよ」
「そんなワケないよ! あの人はまったく変わってない! だってあの人は今でも死にたがってる! それは間違いない!!」
「違うわ! それは問題じゃないのよ!」
「……え?」
それは、もんだい、ではない?
「問題なのは……、雪緒さんが誰が好きなのかってこと! それは間違いなくのび太さん! あなたなの!」
「それは……。そんなことは……」
あるわけがない。だってそんなハズはない。あの人の心は壊れている。心がない人は物を好きになることは出来ない。それは今まで何度も思い知らされている。
「証拠だってあるわ」
「しょうこ?」
「……昨日、のび太さんの家に雪緒さんが訪ねていったでしょう!」
「な! なんで知ってるの!」
「たまたま見たのよ。本当にピアノの練習に疲れてちょっとだけ散歩してたら、街中でたまたま雪緒さんの姿を見かけたの。家はこの辺じゃない。普通なら遠くて気軽に歩いて来れる距離じゃない。それが何で? って後を追いかけてみたら、のび太さんの家だった」
「……それは」
言い訳しようにも言葉が見つからない。静香ちゃんは、そんなぼくの様子を無視するかのように話を続けた。
「その後、2人であの高校に入っていった。あたしが見たのはそこまで。さあ、話してみなさいよ。昨日、あの屋上で何を話したの!?」
今でも静香ちゃんはこちらを振り返ることはない。でも気迫に満ちたその声はぼくを震わせていた。
「それは……、それは説得してたんだよ。雪緒さんに死なないでくれって。これは本当だよ!」
「本当にそれだけなの?」
一瞬だけ声が和らいだような……。
「ああ、そうだよ。だから、君にはこれからも協力してほしい。だって、ぼく達の目的は一緒じゃないか!」
ぼくは早口で一気に言った。これは本心だ。
「……そうね。だから、もう協力できない」
「ハ?」
「あたし、あの時言ったわよね? あたしものび太さんも、雪緒さんのことが好きなんだって。だから、一緒に協力しようと言った。けど、あの時気づかなかったことがひとつだけあった」
その時、ガララッっと何かが開くような音。どうやら静香ちゃんはピアノの鍵盤を覆う棚をしまいこんだ様だった。剥き出しになるピアノの鍵盤。
「それは……」
言い切らずに静香ちゃんはピアノを弾き始めた。本当にゆっくりとした曲をポツリポツリと。
――! あ!!
「のび太さんも聞いたことがあるんでしょう? 『もういない誰かとわたし』」
もちろんだ。あの日、あの時、あの場所であの人が弾いていたあの曲!
「……雪緒さんの曲よ」
間違いなかった、あの悲しいメロディ、テンポはまったく同じ。それはピアノになっても、あの暗い雰囲気はまったく変わらない。
「一昨日から練習してる。それは指がヘトヘトになるくらい。学校が帰ってから寝る寸前まで何度もね。指が疲れるわ、肩も痛くてたまらないの。
でもね、正直言うと学校に行く時間すらもったいなく思えちゃうの。出来るならずっと家で引きこもって練習していたいと思っちゃう。何でだと思う?」
答えられない。今も演奏されてるピアノは静香ちゃんの言葉以上に鬼気迫る勢いで物語っていた。その異様なまでの雰囲気がぼくを縛り付けていた。
「――それは、あたしが雪緒さんを本気で愛しているからよ!!」
ダンッ!! と凄まじい勢いで静香ちゃんは鍵盤を叩きつけた。耳障りな不協和音が部屋に響きわたった。
「だから……、だから、もうあなたと協力することなんかできないわ。だって、この気持ちはもうどうすることも出来ないもの……」
静香ちゃんは独り言のように呟いた後、崩れるようにピアノにもたれかかった。
気持ちはわからないわけではない。人を好きになったら自分ひとりで独占したいって考えることは普通なんだ。
ぼくの事を恋のライバル視してる静香ちゃんにとって、ぼくは邪魔者でしかないんだろう。
でも……!!
「言いたいことはそれだけ。だから出て行ってちょうだい……」
あのピアノの束縛から、ようやく逃れたぼくは口を開くことが出来た。
「し、静香ちゃん。でも雪緒さん側は君のことを……!」
その時だった。死んだような静香ちゃんが恐ろしい勢いで起き上がったのは。
「聞きたくない! そんなのあんたの口から聞きたくない!! さあ、出て行きなさい!!」
「――っ!」
どうしようもない感情がぼくをその場から走らせた。
玄関先から自分の靴を履き、どこかへ――! ここではないどこかへ!!
走った。デタラメに走った。
なんだよ……、そんなの、あんまりじゃないか!
ぼくが何したっていうんだ。何でぼくが怒鳴られなくちゃいけないんだ。何でぼくはあの子に怒鳴られた事がこんなにも悲しいんだろう!
ひとりになりたい……。
>>500 スレの残りサイズでしょ。あと60kbか。まだ大丈夫だと思うけど。
そして気がつけば裏山にいた。何でだかは自分でもまったくわからない。
携帯電話で時間を確認する。午後2時10分。今のうちに維納夜曲にメールでもしておこう。
『風邪引いちゃって出られません。今日は休むことにします』と。
寒い。指が何度も震えた。その度に打ち直した。本当にこんなんじゃ仕事に出られない。
20分ぐらいかかって、ようやく打ち終わった。そして電源を切った。……誰も電話にかけられないように。
裏山はとんでもなく寒かった。このままじゃ凍え死ぬかもしれないくらい。
――それも、いいかもしれないな。
ふと、そんなつまらない事を考えてみた。
涙が出てきた。
――そして、何かを思い出した。
夕陽が落ちかけていた。ぼくはそれを見つめていた。
まるで、この世界から捨てられたようだ……。
ああ……。そうか、ここはポイを持ってきた所。あの日、拾ったはいいけど、どうすることも出来なくてここに移動させたんだっけ。
なんだかな。今度はぼくが静香ちゃんに捨てられたってわけか。裏切られたってほうが正しいのかな? あの日、ぼくがポイをここに置き去りにした時も本当は怨んでたんじゃないかな。そうかも……、きっとそうなのかも。
少しだけ落ち着いてきた。凍えるような寒さが頭を冷やしてくれたと思う。
「どうしようかな、これから」
重たい腰をどっこらせと持ち上げた。やっぱりうちに帰るべきだろう。
「明日も学校か……。でも、もうそろそろ終わりだよな」
冬休みが始まってクリスマスが来て大晦日が来てお正月が来て……。これから楽しいことばかりのはずなのに今はただ時間が過ぎていくことが怖い。目の前には底無しの絶望感しかない。
「……家に帰ろう。本当に風邪引いたってみんなに迷惑掛けるだけだもんな」
自分がここにいる意味ってなんだろう。そんなことを考えてみたら雪緒さんが死にたいって言ってたのを思い出した。
ああ、そうだ。確かぼくのせいで子孫に迷惑をかけてたんだっけ。ぼくって本当にろくでもない奴だったんだな。今更こんなことになってわかった。
「ただいま」
家に帰ったのは5時30分くらいのことだっただろうか。
「おかえりなさい。随分早かったのね」
「え?」
「維納夜曲のお手伝い。いつもならもっと遅くまでやってるじゃないの」
「……ああ、そうなんだ。今日日曜だし、早く帰っていいってさ」
維納夜曲からうちへの連絡はなかったのか。まあ、それならそれでいいさ。
「ちょっと昼寝しとく。明日も学校あるし、お手伝いもしなくちゃいけないんだ。少しだけ寝ておく」
「はぁ。晩ご飯までには起きるのよ」
それから、布団の中でダラダラとマンガを読みながら過ごした。体も心も疲れているのに寝ることは出来なかった。
「どうなの、最近、具合のほうは?」
「最悪ってところ」
「ふーん。で今日はちゃんと維納夜曲に行ったわけなの?」
「行ってないよ」
「ふーん、そう……」
さっきからそんな会話がドラえもんとの間に交わされていた。
「それじゃ、ご飯が出来たら呼ぶから……」
「はいはい」
それからまもなく階段を下りていく音が聞こえた。ぼくを一人きりにしてくれたのかもしれない。
ご飯を食べても味がわからず、テレビを見ても面白くもなかった。『世の中ってあんまりリアルじゃない』。そんな言葉が頭を過ぎった。まるでその通りだ。
ぼくはウスラボンヤリと窓から月を眺めていた。寝る時間になっても寝る気にならなかった。眠たくなかった。
「じゃあ、ぼくは先に寝るから……」
後ろでそっと押入れの戸が閉まる音がした。ぼくはドラえもんの邪魔にならないように電気を消した。
今もあの子は気が狂ったようにピアノの練習をしてるに違いない。それを周囲に咎められても決して止める事はないだろう。
他人を気にすることなくひたすらに、一途にただ一人をを苦しくなるまでに想ってたあの姿。……そういうのが『本気』で人を好きになるってことなのかもしれない。
それなら、ぼくがそれを邪魔する権利もないし、逆に応援してやるくらいが友達としての役割なんじゃないか。
……それでぼくは満足できるのだろうか。
それで、いいのなら、ぼくはこんなに悩まなくていいのに。
「朝だ! 遅刻するぞー!!」
「ああ……」
もう朝が来たのか……。それすら実感がなかった。
朝ごはんを適当に食べた後、学校へ向かった。
フラフラとおぼつかない足取りだったから何度かつまづきそうになった。
……それでも助けてくれる人はいないんだ。
教室に着いた時はもう1時間目が始まっていた。廊下に立たされたことは言うまでもないだろう。
廊下から教室の中を覗いてみる。すると一つの空席があることに気づいた。
それは静香ちゃんの席だった。
顔を合わせなくていいっていう安心感の後に、妙な不安感がぼくを襲った。まさか……これからずっと学校に来ない、つまり不登校なんてことはないだろうな……。
休み時間、クラスのみんなに聞いてみると静香ちゃんは風邪だと言う。入院してた時の風邪がぶり返したんじゃないかって心配する子もいた。本当はそんなわけがないのだけど、何も言えることはなかった。
どうでもいいような授業はあっという間に終わり、放課後になっていた。今日も維納夜曲に行かなくちゃいけない。いや、それと言うよりは行くべきなんだろう。ぼくはお手伝いなんだから。
……そういえば昨日は維納夜曲に行っていない。雪緒さんはどうしているだろうか。
その時、突然ぼくの頭にひとつの考えが浮かんだ。
行ってみようか。もう一度、あの場所へ。
それで、雪緒さんという人ををもう一度考えてみよう。あの曲を聴きながら。あの演奏に雪緒さんが何か想いを込めていることを信じて。
ようやく昨日から止まってた頭が正常に動き出した気がした。そうだ、まだぼくには知らなくちゃいけないことがあるんだ!
もう誰もいない教室、ぼくは席を立った。そして夢中で走り出した。廊下、階段、昇降口、校庭、校門、そして大空へ!
綺麗な冬の青空、日はもうそろそろ落ちようとしている。まだ間に合う。雪緒さんはまだ学校にいる。まだ終わってない!
200レス突破…でも、あと50は続きそうです。
>>501 とりあえず自分がテンプレでも作っておきます。
乙、いやあ、いい修羅ー場ですねえ
ところで「もういない誰かとあたし」が正式らしいのでよろすく…。
乙保守
保守新党
保守印船
高校の屋上に到着した。そこには誰もいない。するとやはり教室にいるのか? 石ころ帽子を被った。
「行くか……」
ドアを開ける。そこから広がるのは静まり返った校舎。
ぼくはそっと足を踏み込んだ。そして耳を傾ける。ギターの音、雪緒さんの音を確かめるために。
……聞こえない。校舎内からは何も聞こえることはなかった。
でも、教室の場所はだいたいどこら辺だかはわかってる。前にもここには来たことがあるんだし。
ぼくは足を進めた。耳を澄ましながら、一歩一歩注意深く。それでも何も聞こえてくるものはなかった。それは前、ここに来た時には確かに聞こえていた場所ですら。
もしかして、ここにはもういない? 既にバイトに行っているんじゃないか。でも時間的にはまだ……。
ぼくは気持ち的に急ぐことにした。焦っていたというべきかもしれない。
――ここで会わなきゃ意味がない。あの場所、あの雰囲気じゃなきゃ、ぼくはあの人のことを考える意味がないのに。
そしてたどり着いた。この前来た教室、あの場所へ。……だけどギターの音なんか聞こえてはきやしない。
やっぱり誰もいない。そう思って閉められたドアを開けた時だった。
信じられない光景がそこにはあった。壮大な夕陽の中、ある一人の少女が眠ってる誰かに口づけしていた。
その特徴的な髪型、見間違えるはずもない。その人は間違いなく源静香。それじゃ、そこの机の上に眠っているのは……。
教室のいう空間はまるで幻想的な世界、夕陽はその一途な想いを称えているかのようであった。
ぼくが呆けている間、静香ちゃんはそこから顔を離し、こちらを振り向いた。
「……」
動揺した様子はない。確かに静香ちゃんにはぼくの姿が見えていないはずなのに、その視線はぼくだけを見つめてる。
「のび太さんでしょう? 隠れてないで出てきていらっしゃいよ」
「……」
ぼくは帽子を取った。静香ちゃんは黙り込んだままだった。
「なあに? 何か言いたいことがあればハッキリ言えばいいじゃない!」
「……!」
言葉が出ない。出せない。何を言えばいいってんだ!
「女同士で気持ち悪いとでも思ったの? そうよ、あたしはしたことは普通じゃない。そんなことぐらいわかってるわよ! でも……、でも、あたしは……」
その時だった。静香ちゃんの声で寝ていた雪緒さんが目を覚ましたのは。
「――!?」
雪緒さんは何でぼくたちがここにいるのか分からないみたいでちょっと驚いている。
「雪緒さん……」
静香ちゃんがぎこちない様子で雪緒さんに近づいていく。その有様はまるで死人のような動きだった。
「あたし、雪緒さんにキスしました」
「え?」
雪緒さんは自分の口元に手を当てる。残ってる感触を確かめようとしてるんだろう。
「キス……したの?」
「あ、そ、その! あたしは雪緒さんのことを本気で好きだから!!」
静香ちゃんは一歩踏み出す。しかしそれに合わせるかのように雪緒さんは一歩退いてしまう。
「……ゆ、雪緒さん?」
「やめて……、そんなことしないで……」
「えっ?」
静香ちゃんが凍りつく。
「もう2度とわたしに近よらないでぇ!!」
全てを拒絶する声が教室内に響いた。その時、ぼく達は呆然とするしかなかった。
「――あっ!」
雪緒さんは我に返ったように動揺していた。それは自分が何を言ったか気づいたのだろう。
「そう……ですよね。女の子同士なんて気持ち悪いですもんね。あたしったら何も考えずに……!」
「ち、ちがう……の。静香ちゃん!」
「あ……!」
「ごめんなさい! さようなら!!」
静香ちゃんは振り返ったと思ったら物凄い勢いで教室から走り去って行った。
その顔に涙が見えたかも知れない。
「静香ちゃん!!」
声を出したのはぼく。雪緒さんの方に視線を移すと。
「あ、ああ……!」
口から言葉にならない嗚咽を漏らしながら酷くうろたえている。震えが止まらないみたいだ。
そこまで取り乱した様子は今まで見たことがなかった。
静香ちゃんも放っておくわけにもいかないけど、雪緒さんもなんかおかしい!
ここは……!
次の瞬間には全力で地面を蹴っていた。ぼくはひとまず静香ちゃんを追いかけることに――っ!
「――あっ!?」
左腕を誰かに強い力で掴まる感覚。腕は完全に伸びきったまま、ぼくはバランスを崩して勢いをなくした。後ろを振り返るとその腕は雪緒さんによって掴まれていた。
「お願い――、行かないで!!」
「で、でも!」
「お願いぃ!」
だが、ぼくは精一杯の力で強引にそれを振りほどいていた。
「!?」
余程ぼくの行動が意外だったのか、雪緒さんは目を見開いている。
「……ここで待っていてください。ぼくはあの子を放っておく訳にはいかない!」
「のび太君っ!」
後ろを振り返る暇はなかった。何が何でも追いつかなきゃあの子は――!!
>>507 な、なんだってー!! 雪緒の一人称は「わたし」なのに!?
>>514 そこが不思議なところ
ライターと作曲者の単なる意思の疎通ミスか
あるいは意図的なものか
保守新党
保守
最下層民には変なスクリプトがついてるから気をつけろよ。
( ´_ゝ`)フーン