「はい、どうぞ」
芳晴はニコニコと満面の笑みを浮かべながら、コーヒーカップの乗ったト
レイを差し出した。
「ありがとう」
座布団の上に正座していた江美――エビルが、ニュートラルな表情でカッ
プに手を伸ば。
一口口付けてから、あたりを見回すように視線を泳がせた。
「今日は、あの小うるさい天使はいないのか?」
「コリンですか? 一度遊びに出たらいつ帰ってくるか解りませんから」
エビルの問いに、芳晴は困ったように苦笑しながら答えると、すぐに嬉し
そうな笑顔に戻る。
「でも感激だなぁ、江美さんが俺の部屋まで来てくれるなんて……あんなこ
とがあった後だから、もう口も聞いてくれないかと思ってましたよ」
「あれは事故のようなものだ、あんなものをずるずると引きずる程私もおろ
かではない」
エビルは芳晴にそう答えてから、再びカップを口に近付けた。
ひとすすりしてから、ふはぁっ、とため息をつく。
「とは言いながら、人間の男に呼ばれて来てしまうあたり、私も相当俗化し
たかな」
「俗化って……」
自分のカップを手に、芳晴が苦笑する。
「芳晴」
エビルはおもむろに顔を上げ、じっと芳晴に視線を向けた。
「わかっているとは思うが……私は…………だぞ?」
相変わらずニュートラルな表情が、物悲し気に見えた。
「別に……俺にとって江美さんは江美さんですから」
少し照れくさそうに言い、それをごまかすようにおどけてみせた。
「まさか、俺の命をもらうぞー、とか? 江美さんにならとられてもイイか
も知れないけど……」