「面白い技ですのね」
「あぁ、そうだろ。糸で吊っているわけじゃないぞ」
(もしそうだったら自分を抑えられたかしらね…)
ゆっくりとだが遅滞ない動きで初音は手を伸ばす。
「な、急になんだ」
「あら、ごめんなさい」
初音はそっと掴んだ往人の前髪から名残惜しそうに手を離した。
その間も金の瞳と漆黒の瞳は互いを見たまま凍ったように動かない。
頬を染めて視線をそらしたのは往人からだった。
自分らしくないその行動に戸惑い、逃げるように立ち上がる。
「ごきげんよう、国崎さん。またお会いしましょうね」
「……あぁ。じゃあな。初音と、深山だったか」
「ふふ、かなこ。ちゃんとご挨拶なさい」
立ち尽くしていた影がぴくりと震える。
「は、はい。さようなら、国崎さん」