マイタケ秋子さん

俺のダチ公に広瀬ってヤツがいたんだ。
そいつのねーちゃん（２コ上）が結構かわいかったんだがどーにもドキュソ。
厨房に酒飲ましちゃ喰っちまうっていう有り難くもちょっとヤバげな人だったんだよ。
なんでも年下が好みだったらしい。騙さないから、だそうだ。
ナニが彼女をそうしたかまではわからない。
便宜上、彼女のことは真希と呼ぶことにする。

で、当然俺等の仲間内も真希さんのお世話になってたワケでして。
つーか無理矢理喰われちまうワケだが。縛ったりもして。

するとみんな言うわけよ、広瀬に。
お前のねーちゃんにこんなことしてもらった、あんなことされたってナ。

ちょっとシスコン気味だった広瀬はそれがめっさ気に入らないワケで。
アンパンきめてらりぱっぱになったとき思わず隣で寝てるねーちゃんに攻め込んでしまったワケだ。
「なんで真希ねーちゃんは俺だけ誘ってくれねーんだよぅ！」
とか叫びながら。

広瀬真希ってONEじゃねーか。

寝込み襲うのに大声張り上げてどーすんだとか笑ってたら
真希さんのマジ悲鳴と広瀬の怒鳴り声。
ごつ！　ごつ！　とか壁になにやら叩きつける音。
そーいえば真希さんのベッドは壁際だったなあとか思ってたら急にシーン……と。

直後、真希さんのすすり泣く声。
なんかヤバくね？　と仲間と目配せして廊下に出ると
開けッぱの真希さんの部屋から今まで聞いたこともないほど弱々しい真希さんの
「やめてぇ…お願いだからやめて……」
てな呻き声が……。嗚咽も混じってる。

「なあ、止めた方がよくねえか？」
とみんなでひそひそ。
なんだか恐くなって部屋を覗こうという気もなくしてしまう結構チキンな俺等。

すると騒ぎを聞きつけてお父さんが起きてきた。
普段から子供達に振り回されッ放しの冴えないパパさんだ……ったハズだった。さっきまでは。

俺達を見てあからさまな恐怖混じりに顔をしかめるお父さん。
しかし流石にその尋常ならざる雰囲気を察したのか、恐る恐る部屋を覗いてみると。
「いや…いやあ……マジでやめて……やめてよぉ……」

……固まるお父さん。
あちゃー……、な俺達。
あっちの世界にイッっちゃって知ったこっちゃない広瀬。
ふらふら〜とお父さんが引き返していったと思ったら。

パパさんものスゴい勢いで帰ってまいりました！
ズダダダダッって階段を駆け上がって。

そのままの勢いで真希さんの部屋に駆け込んだ、と思ったら……。

「うぎゃあ―――！」
広瀬の叫び声。
何事かとみんなで部屋になだれ込むと。

はあふう荒い息をついてるお父さんと、
小便漏らしてガタガタ震えてる真希さんと、
包丁の柄を生やして一生懸命背中に腕を回そうとのたうち回ってる広瀬の姿。
声も出ない俺達。

かなり熱いな。

その後、お父さんがこれまた凄い勢いで電話に直行。
息子が刺された！　とかぬかしてやがる。自分で刺したくせに。
受話器を置いてその場で泣き崩れるお父さんにみんなマジ恐怖。
こー言う怖さは初体験。なんだかいたたまれなくなってみんな家の外に避難。
誰も広瀬のことを心配してない友情っぷり大爆発。
救急車のサイレンが聞こえてくると同時にみんなでダッシュ。
後のことは知らないし知りたくもなかったワケで。てへ♪

その後、ご両親はめでたく離婚し真希さんは高校を転校したらしく親戚のお家へ。
広瀬は一週間で近くのアパートから登校してきた。
お母さんと住んでたみたい。口数が減って不登校ぎみに。
お父さんはわかんない。まあそんな話。


広瀬、今なにしてんのかナー。

な、面白くなかったやろ？
書いてたら思い出しちゃって泣きそうになってもうたよ……。

朝の散歩に行ってた。
けっこうおもろい話だったぜ。

そうか？
俺ちょっとブルー入った。切ねえ……。