葉鍵鬼ごっこ 第七回

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1名無しさんだよもん
葉鍵キャラ100名を超える人間達が、とあるリゾートアイランド建設予定地に招待された。
そこで一つのイベントが行われる。

「葉鍵鬼ごっこ」。

逃げる参加者。追撃する鬼。
だだっ広い島をまるまる一つ占拠しての
壮大な鬼ごっこが幕を上げた。

増えつづける彼らの合間を掻い潜って、
最後まで逃げ切るは一体どこのどちら様?
「――それでは、ゲームスタートです」

関連サイト

葉鍵鬼ごっこ過去ログ編集サイト
新サイト(現在は641話まで):http://www.geocities.co.jp/Playtown-Domino/5154/
旧サイト:http://hakaoni.fc2web .com/
(IP抜き対策にスペースを入れてあります)

葉鍵鬼ごっこ議論・感想板
http://jbbs.shitaraba.com/game/5200/

前スレ
葉鍵鬼ごっこ 第六回
/http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1053679772/

ルールなどは>>2-10を参照。
2名無しさんだよもん:03/07/13 11:42 ID:7DeepEGo
・鶴来屋主催のイベントです。フィールドは鶴来屋リゾートアイランド予定地まるまる使います。
・見事最後まで逃げ切れた方には……まだ未定ですが、素晴らしい賞品を用意する予定です。
・同時に、最も多く捕まえた方にもすてきな賞品があります。鬼になっても諦めずに頑張りましょう。

ルールです。
・単純な鬼ごっこです。鬼に捕まった人は鬼になります。
・鬼になった人は目印のために、こちらが用意したたすきをつけてください。
・鬼ごっこをする範囲はこの島に限ります。島から出てしまうと失格となるので気を付けましょう。
・特殊な力を持っている人に関しては特に力を制限しません。後ほど詳しく述べます。
・他の参加者が容易に立ち入れない場所――たとえば湖の底などにずっと留まっていることも禁止です。

・病弱者(郁美・シュン・ユズハ・栞・さいかetc)は「ナースコール」所持で参加します。何かあったらすぐに連絡してください。
・食料は、民家や自然の中から手に入れるか、四台出ている屋台から購入してください。
・屋台を中心に半径100メートル以内での交戦を禁じます。
・鬼は、捕まえた人一人あたり一万円を換金することができます。
・屋台で武器を手に入れることもできますが、強力すぎる武器は売ってません。悪しからず。
・キャラの追加はこれ以上受け付けません。
・管理人=水瀬秋子、足立さん及び長瀬一族

能力者に関してです。
・一般人に直接危害を加えてしまう能力→不可。失格です。
・不可視の力・仙命樹など、自分だけに効く能力→可(割とグレーゾーン)。節度を守ってご使用ください。
・飛行・潜水→制限あり。これもあんまり使い過ぎると集中砲火される恐れがあります。
・特例として、同程度の自衛能力を有する相手のみ使用可とします。例えば私が梓を全力で襲っても、これはOKとなります。

  | _
  | M ヽ
  |从 リ)〉
  |゚ ヮ゚ノ| < 以上が主なルールです。守らない人は慈悲なく容赦なく万遍なく狩るので気を付けてくださいね♪
  ⊂)} i !
  |_/ヽ|」
3名無しさんだよもん:03/07/13 11:42 ID:G+9CSnvs
にゃううん
4参加キャラ一覧:03/07/13 11:42 ID:7DeepEGo
全参加者一覧及び直前の行動(第六回スレ最終>>428まで)
レス番は直前行動、無いキャラは前回(第五回スレ)から変動無しです
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
()で括られたキャラ同士は一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

fils:
(【ティリア・フレイ】、【サラ・フリート:1】)、 【エリア・ノース:1】

雫:
【長瀬祐介:1】, 【月島瑠璃子】 , 【藍原瑞穂:1】>110-113
【新城沙織】>234-238, 【太田香奈子:2】>216-220 , 【月島拓也:1】>270-277

痕:
柏木楓、 柳川祐也>392-397, 【柏木梓】>228-233.【日吉かおり】>398-404
【ダリエリ】>270-277.【柏木耕一:1】>110-113.【柏木千鶴:10】
【柏木初音】>161-165.【相田響子】>424-428.【小出由美子】>389-391
【阿部貴之】>110-113

TH:
(【岡田メグミ】、【松本リカ】、【吉井ユカリ】、【藤田浩之】、【長岡志保】)>424-428
(【来栖川芹香】 、【来栖川綾香:1】).
(【保科智子】、【坂下好恵】、【神岸あかり】)>161-165.(【姫川琴音】、【松原葵:1】)
(【雛山理緒:2】、【しんじょうさおり:1】)>300-306.【宮内レミィ】, 【マルチ:1】
【セリオ:2】>216-220,【神岸ひかり】,【佐藤雅史】>234-238, 【田沢圭子】
(【垣本】、【矢島】)>349-356
5参加キャラ一覧:03/07/13 11:43 ID:7DeepEGo
WA:
(【藤井冬弥】、【森川由綺:3】)>241-244, (【緒方理奈:6】、【緒方英二】)>87-91
(【澤倉美咲】、【七瀬彰】)>300-306 , 【河島はるか:2】>398-404
【観月マナ】>384-388, 【篠塚弥生】>424-428

こみパ:
(【猪名川由宇】、【大庭詠美】、【立川郁美】)>365-374
(【高瀬瑞希:1】、【九品仏大志】)>389-391, (【牧村南】、【風見鈴香】)
(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】), (【縦王子鶴彦:2】、【横蔵院蔕麿:1】)
【千堂和樹】>405-414, 【塚本千紗:2】>228-233, 【芳賀玲子】
【御影すばる】, 【澤田真紀子】>216-220,. 【立川雄蔵】

NW:
ユンナ>290-298, (【城戸芳晴】、【コリン】)>389-391

まじアン:
【江藤結花】>398-404, (【宮田健太郎:1】、【牧部なつみ】)>290-298
【スフィー】>378-383, 【リアン】, 【高倉みどり】

誰彼:
岩切花枝>308-313, 【砧夕霧:1、桑島高子】>270-277, 【坂神蝉丸:5(4)】>82-85
【三井寺月代:1】>87-91, 【杜若きよみ(白)】, 【杜若きよみ(黒)】
【石原麗子:1】, 【御堂:7】>82-85, 【光岡悟:1】>82-85

ABYSS:
【ビル・オークランド】
6参加キャラ一覧:03/07/13 11:43 ID:7DeepEGo
うたわれ:
カミュ>290-298, ハクオロ>392-397,. ベナウィ>378-383
(【アルルゥ】、【ユズハ】)>290-298 . 【トウカ】>378-383. 【ヌワンギ:1】>345-348
(【ウルトリィ:1】、【ハウエンクア】)>228-233. (【ドリィ:1】、【グラァ】)
【エルルゥ】>54-59. 【オボロ:3】>349-356. 【クーヤ】, 【サクヤ】
【ディー:7(6)】, 【ニウェ:1】
(【カルラ】、【クロウ】、【ゲンジマル:2】、【デリホウライ:3】)>365-374

Routes:
リサ・ヴィクセン, (【湯浅皐月】、【梶原夕菜】), 【那須宗一:1】>398-404
【伏見ゆかり】>378-383, 【立田七海】>241-244, 【エディ】
【醍醐:1】, 【伊藤:1】>110-113


同棲:
【山田まさき:1】>415-421, 【まなみ:2】>290-298

MOON.:
名倉友里>392-397, (【天沢郁未:7(2)】、【名倉由依】)>239-240
(【鹿沼葉子:2】、【A棟巡回員】)>180-187, 【巳間晴香】>405-414
【少年:1】>384-388, 【高槻:1】>167-170. 【巳間良祐:1】>415-421

ONE:
(里村茜、上月澪、柚木詩子、【折原浩平:7(7)】、【長森瑞佳】)>378-383
(【川名みさき:2】、【氷上シュン】)>161-165
(【深山雪見:2】、【広瀬真希:1】)>290-298
(【七瀬留美:3】、【清水なつき】)>349-356
【椎名繭】>167-170, 【住井護】>221-223
7参加キャラ一覧:03/07/13 11:43 ID:7DeepEGo
Kanon:
(【相沢祐一】、【川澄舞】)>239-240, (【美坂栞】、【北川潤:1】)>221-223
(【沢渡真琴】、【天野美汐:2】), 【月宮あゆ:4(4)】>308-313
【水瀬名雪:3】>300-306, (【倉田佐祐理:1(1)】、【久瀬:6】)>349-356
【美坂香里:8(7)】>216-220

AIR:
(遠野美凪、みちる)>392-397, (柳也、裏葉)>361-364
(神尾観鈴、神尾晴子)>378-383, 【しのさいか:1】>365-374
(【霧島佳乃】、【霧島聖】)>87-91, 【国崎往人:4】>228-233
【神奈:1】>180-187, 【橘敬介】, 【しのまいか】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

その他のキャラ

屋台:
零号屋台:ショップ屋ねーちゃん(NW)>378-383
壱号屋台:ルミラ、アレイ(NW 出張ショップ屋屋台バージョン支店「デュラル軒」一号車)>234-238
弐号屋台:メイフィア、たま、フランソワーズ(NW 同二号車)>415-421
参号屋台:イビル、エビル(NW 同三号車)>330-335

管理:
長瀬源一郎(雫)、長瀬源三郎、足立(痕)、長瀬源四郎、長瀬源五郎(TH)、フランク長瀬(WA)、
長瀬源之助(まじアン)、長瀬源次郎(Routes)、水瀬秋子(Kanon)

支援:
アレックス・グロリア、篁(Routes)

その他:
ジョン・オークランド(ABYSS)、チキナロ(うたわれ)
8名無しさんだよもん:03/07/13 11:43 ID:7DeepEGo
感想・意見・議論用にこちらをご利用ください。

葉鍵鬼ごっこ感想・討論スレ2
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1052876752/
葉鍵鬼ごっこ感想・討論スレ
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1049719489/

過去ログ

葉鍵鬼ごっこ 第五回
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1050336619/
葉鍵鬼ごっこ 第四回
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1049379351/
葉鍵鬼ごっこ 第三回
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1048872418/
葉鍵鬼ごっこ 第二回
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1048426200/
葉鍵鬼ごっこ
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1047869873/

その他の情報

※ 三日目明朝から雨が降っております。いつ止むかはまだ書かれておりません。
第五回 >216「セリオさんの天気予報」
    >430-433「自信と不安」等をご参照下さい。
9名無しさんだよもん:03/07/13 12:47 ID:viNjq5/t
【前スレ】
がおがおレーシング
http://cheese.2ch.net/leaf/kako/1001/10016/1001609886.html

               -= Δ〃⌒⌒ヽ
             -=≡ ∠/ミfノノリハ))))  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
            -=≡    f ヘ|| ´∀`)| < がおーがおー
           -=≡ /⌒⌒ヽ/⌒ヽ†\  \______
    -=≡ ./⌒ヽ,  /     ̄   \\ ヽ/⌒ヽ,
   -=≡  /   |_/__i.ノ ,へ _    _/ \\/   | /ii
   -=≡ ノ⌒二__ノ__ノ  ̄ ̄     \ヽ  |./ |i
  -=≡ ()二二)― ||二)        ()二 し二) ― ||二)
  -=≡ し|  | \.||             .|   .|\ ||
   -=≡  i  .|  ii               i  |  .ii
    -=≡ ゙、_ ノ               .゙、 _ノ    ころころ〜
10彼女を見た、その大気の下で:03/07/13 13:03 ID:sbRWH0Eg
「腹減った」
黒いTシャツの青年が一言。苛立っているのか、普段以上に目つきが悪い。
「もうお昼過ぎですから。私が何か作りますね」
と、青年をなだめるように微笑む金髪の女性。
「千紗、お手伝いしますですよ、羽根のお姉さん」
女性につられるように笑い、パタパタと歩みを速める少女。
国崎往人以下3名は今、ホテルのロビーから厨房目指して歩いていた。

「ははっ、確かに僕もおなk「あのさ、千紗。そろそろやめないか、その羽根の〜とか、
 目付きの悪い〜とか。俺のことは往人でいいから」
「そうですね。私のこともウルトで結構ですよ、千紗さん」
「はいです♪ それじゃあ、ウルトお姉さん、往人お兄さん☆」
「僕のことはハウ「往人お兄さん、ね。まあいいか」
何かしっくりこない、とでも言いたげにつぶやく往人。
目をそらし、無表情を保っているかに見えて微妙に頬が緩んでいるようにも見える。
「クスクス」
それを見るウルトリィは何やら楽しげで、なんともアットホームな雰囲気が3人を包み込んだ。

11彼女を見た、その大気の下で:03/07/13 13:03 ID:sbRWH0Eg
「それにしても、朝から走り回って収穫ゼロ、か」
げんなりと呟く。
それもそのはず、朝一に見つけた相手を昼まで追いまわし続け、結局この三人が捕まえた数は0。
肉体的にも疲れていたが、それ以上に精神的にキツイ状況である。
「にゃあ……」
「まったくキミ達はだらしg グハッ! オグッ! ッガッ!」
「まあ、こういう時もあります。だからこそしっかりと食事を摂って、
 次の機会に掛けましょう。『腹が減ってはイクサはできぬ』とハクオロ様も仰っていましたし」
穏やかに2人を励ますウルト。手の平にかすかに見える残光は多分気のせい。
「だな。じゃ、ウルトリィ、千紗、たのむ」
何故か右足を後方に突き刺すような奇妙な体勢で往人。
「はいです☆ それじゃ、ウルトお姉さん、行きますです」
ゴトリ、と大きめの花瓶を横に置きなおし、ぽてぽてとウルトの後についていく千紗。
って、……それはちょっとやばくないか?
「なんでだろう、この3人だけじゃなくって世界中から無視されてる気分だよ……ガクリ」
先程からちょろちょろしていたハウエンクア。理由はわからないが気絶したようである。
12彼女を見た、その大気の下で:03/07/13 13:03 ID:sbRWH0Eg
女性2人が厨房へ向かってしまった、と言うことは、当然往人とハウエンクアが2人きりで残ることとなる。
そして、気絶していたシャクコポル族の狂人は、結構早くに気を取り戻していた。
その後はしばらく、なんともいえない緊張感の漂う空間が場を支配した。
なにしろ往人はもう1人の存在を無いことにしているかのように一瞥もくれない。
その上で、不機嫌そうな瞳はギラギラと鋭さを増す。が、睨むのは何も無い空間。
その直線上にある窓枠に、もしも手足があるならば、とうの昔にガラスを投げ捨て、
森の中に逃げ込んでいることであろう。
結局、その雰囲気に耐えられなくなったハウエンクアが1人、べらべらと愚にもつかぬ、
この島で自分におきたことを誇張して語る、といった、さらに奇妙な空間が出来上がることとなった。

「だからさ、鬼のほうももっと頭を使うべきなんだよ。チームを組むなら一人にポイントを集めるとかさ、
 ほら、4人いれば色々できるし。そのうち1人が最優秀の鬼になればきっと何かいいことがあるはずさ」
さり気に4人などという言葉を混ぜている。つまりはこの男がダラダラしゃべくっていたのは自分の売り込み。
おかげで往人のボルテージがさらに増す。そろそろ、足の付いていない窓ガラスも逃げ出すかもしれない。
「まったく、この程度のことにも考えが及ばないなんて、これだからオンカミヤムカイなんかを……まったく、
 その点、この僕の知恵なら、オンカミヤリューの巫女なんかより゛っ」
刹那、往人の右手は数メートル離れた場所にいたハウエンクアの胸元に一瞬で喰らいついていた。
「黙っていれば好き放題、だな」
金の瞳は今度こそハウエンクアを直接射抜く。
「朝はウルトにかしづいて、さっきは俺達の邪魔をしてみて、
 それが終わったら今度は、俺、か。この蝙蝠野郎が」
そう冷たく言い放ち、押し出すように突き放した。
13彼女を見た、その大気の下で:03/07/13 13:05 ID:sbRWH0Eg
元来臆病なハウエンクア。押された勢いそのまま、後ろに駆け出す。
(やっぱり、あいつ絶対誰か殺してるよ、間違いなく! くそッ、まなみの奴め〜、なにがそんなわけない、だよっ!)
ウサギ耳の男は、文字通り、脱兎のごとく逃げ出した。

その情けない後ろ姿を見ながら、往人はふと我にかえった。
(俺はなんで、あんなにイライラしてたんだ?)
「往人お兄さん。御飯できましたですよ〜」
「さ、食事に致しましょう」
(腹が、減ってたからか……まあ、気にするこた無いか)


料理はじゃが芋と肉を煮たもの。ウルトが適当に味見した調味料から色々と考えて作った創作料理である。
千紗の助力のためか、それはいわゆる肉じゃがと呼ばれるものに結構似ていた。
ちなみに用意されていた皿はきっかり3枚。彼女もなかなかに容赦が無い。

しばらく食事は進み、往人が2杯目の皿を片そうとしている時。
「先程の、あの男の話。一理あるかもしれませんね」
「何がだ?」
「?」
往人、千紗、両名に好評だった料理を自ら確かめながら、ウルトリィがつぶやいた。
「ほら、捕まえる人を一人に絞る、といったことを……」
「聞いていたのか?」
「?」
意味の良くわかっていない千紗を置いて、二人の話は進む。
「はい」
「そんなよくわからない上、3人で分けることができるかどうかすら怪しいことに
 気を使う必要ないだろ」
「……それは、そうですけれど」
「結局、1人一万円になるってことは確かなんだからそれを3人で分けて使っていくほうが賢明だと思うぞ」
ちなみに某美人会長との約束はスカッと忘れている往人。幸運なのか、それとも悲劇の先送りか。
14彼女を見た、その大気の下で:03/07/13 13:05 ID:sbRWH0Eg
(?? 千紗を忘れて話をすすめないで欲しいですよ〜)
一方、千紗、やはり置いていかれる。しかし、2人の様子に口をはさむタイミングをつかめない。
「それに……例えば、だ。ありえないけど何でも願いをかなえてくれる〜
 みたいな都合にいいものだとしても、俺には、今は、あまり意味が無い」
もしそれが賞金だったとしても……確かに金は生きるのに必要だ。しかし、自分が欲し、求め続けたのは―
「今は、とおっしゃいますと?」
微妙に引っかかる往人の台詞に食いついてくるウルトリィ。
「探していたものがあったんだ。いや、探している人がいたんだ、ずっと。
 それで、うむ、なんて言うんだ……上手く簡単に説明できないな……」
往人が今までの人生全てをかけた、と言って過言の無い『彼女』は今、ちゃんと心から笑っている。
彼は知らないが『2人』とも。だから、意味が『今はもう』無い。
「簡単じゃなくてもかまいませんから」
「千紗も聞きたいですよ(やっと戻れたですよ〜☆)」
言いよどむ往人になおも2人が催促する。
(こいつらになら、まあいいか)
空になった皿と箸を置き、ある程度の覚悟を決めて、
「少し長くなるけど、いいか?」
そう尋ねると、2人はこくり、と肯いた。


15彼女を見た、その大気の下で:03/07/13 13:06 ID:sbRWH0Eg


そして、彼は話し始めた。
母親と旅したこと。1人で旅したこと。
「力」のこと。
「力」を持つものに課せられた、はるか遠い約束のこと。
そして、少女達と出会ったあの夏のこと。
彼が、彼の祖先が求め続け、そして大気の下で出会った羽根を持つ少女のこと。
――彼女が笑ったこと。彼女を笑わせたこと。
それはとても抽象的で、あいまいで、誰も信じられないようなお話。
子供しか、いや、子供だって信じてくれないかも知れない、おとぎ話。
だけど、青年の顔はほんとうに真剣で。だから、ウルトリィも千紗も、その物語を――

…風を切っていく。
…幾層もの雲を抜けていく。
「どこまでも、どこまでも高みへ。」
たぶん、辿り着いたのだと思う。
そこら辺は良く覚えていない。
ただ、自分がいて、観鈴も、晴子も笑っていたから。
だから、多分辿り着いたのだろう、きっと。

16彼女を見た、その大気の下で:03/07/13 13:06 ID:sbRWH0Eg
「ま、こんな感じだ。よくわかんなかっただろ。今喋ってて俺もわからなくなったし」
そう言って、往人は破顔した。
「難しいけど、いいお話です〜、千紗はかんどーしましたですよ☆」
本当にわかったのか、感極まって涙をにじませてすらいる。
「その、観鈴さんを愛しているのですね」
対照的になぜか不安げな顔。
「あいしっ、ってなんてこと言いやがる。違う違う、まあ、あれだ、晴子とひっくるめて家族みたいなもんだ」
「家族、ですか」
何となく思い浮かぶ自分の2つ目の家族。血は繋がってなくとも、トゥスクルの皆は家族と言える。
うってかわる顔色。彼女は今、自分がどのような表情を浮かべているのか、わかっているのか?
「でもでも、結局そのみすずおねーさんは、
 ウルトお姉さんみたいに、背中に翼がついていたわけじゃないですよね?」
「そうだな。俺も、ずっと探して探して、結局頭で考えていた羽根を持つ少女ってのには出会えなかった。
 だから、これを見たときは、もう、なんともな」
急にウルトの翼を摘み上げる往人。
いきなりの行為に、きゃっと可愛らしい悲鳴をあげるウルト。
その話題と触れられたことで、初めての出会い、抱きしめられたあの瞬間を思い出してしまう。
「〜〜〜〜っ!」
その真っ赤に染まる顔を見て、驚いた往人は慌てて手を離した。
それでも、微妙に心残りがあるのか、手が中途半端に宙をさまよっている。
それを見たウルトはふう、とため息を一つ吐き、それで気持ちを切り替えたように微笑んだ。
「触りたかったらかまいませんよ。先程はいきなりで驚いただけですから。あ、でも、その代わりに―――」
「マジか? そん位ならいくらでもやるぞ。じゃ、遠慮なく」
さわさわさわさわさわさわ
「やんっ、あ、あまり強く引っ張らないで下さいませ」
17彼女を見た、その大気の下で:03/07/13 13:07 ID:sbRWH0Eg

(なんかまた、置いていかれてるですよ?)
千紗の目にはぶっちゃけ、二人が乳繰り合っているようにしか見えない。
(そういえばなんか、会った時からこの2人変だったですよ)
いきなり呼びつけて、ちゃんと飛んで来たかと思えばいきなり大喧嘩。
よくよく考えればあれは俗に言う痴話げんかというものではなかろうか?
しかし、
(なんかもー、ここまでくるといっそ清々しいというですか、見ているだけで楽しいですよ、はい)
昔、誰かが言っていた。こういうことは第三者で引っ掻き回すのが一番面白い、と。
(格言です。千紗がお2人を、面白おかしく……もとい、えっちぃ…もとい、素敵な仲にして見せるですよ)
18禁同人誌を幼い頃から見続けていた印刷屋の娘は、意外と耳年間だった。


「おらっ、7回転半、スペシャル月面宙返りっ」
「とっとと、あれ?」
派手なアクションと、それとは落差のあるどじな人形の動き。
それを見つめる2人の見物客が笑う。
熱をもった眼差しに、送るほう、送られるほう共に気付いているのか、いないのか。

18彼女を見た、その大気の下で:03/07/13 13:07 ID:sbRWH0Eg

今、ある小さな歯車が動き始めた。
残りの長くは無いであろう時の中で、
それはどれほど廻ることができるのか。
それはより大きな歯車につながり、そして動かすことができるのか。
それは、神のみぞ知る……

「ふぁ…はっくしょい!! シャー、コノヤロー」
「ハクオロさんがくしゃみ…………噂話……………………なるほど」
「なるほどって……何がだ?」
「女性関係?」
「違うっ! それ以前になにゆえ疑問系!?」


もとい。それは、神も知らない。


【3日目昼過ぎ〜夕方】
【場所 ホテル】
【国崎一行、何か微妙な関係に】
【ハウエンクア 1人でホテルを飛び出す (昼過ぎ)】
【登場 【国崎往人】、【ウルトリィ】、【塚本千紗】、【ハウエンクア】】
19策士たちの庭:03/07/13 17:43 ID:4BcqUomU
 がやがやと騒ぎながら家の中に入っていく五人組の鬼を、ベナウィは見送ることしかできなかった。
「鬼さん、ですか?」
 いつの間にか側に寄ってきた観鈴にベナウィは首を縦に振ることで答える。その顔には苦渋の色が浮かんでいた。
 ここには他にいくらでも家があるのに、何故よりによって彼らはこの家を選んだのか。そんな、不運の一言で片付けるには
あまりにも都合のいい現実がベナウィの顔を曇らせていた。
 シャッターを上げて外に飛び出し、彼らを引きつけるという手もあるにはあった。しかしそれは現実的ではない。
シシェも疲れているし、それに
(トウカさん……)
 あの中にいた知り合いの顔を反芻する。
 日頃オボロやカルラにからかわれることの多い彼女だが、本気になったときの実力はベナウィも認めている。その彼女が
何やら知らないがやたら気合いに満ちていた。少なくともベナウィにはそう見えたのだ。
 そんな彼女を先頭に五人もの鬼を、相棒無しで相手をする気には流石のベナウィもなれなかった。
 とはいえ、ここでこうして手をこまねいているわけにもいかない。家の中には晴子たちが居るのだ。
「お母さん……みんな大丈夫かな?」
 呟くような観鈴の声がベナウィの耳に届く。見れば、その目には不安の色が浮かんでいた。
 その顔を見てベナウィは思い出す。晴子がどれだけ、観鈴のことを気に掛けていたか。
 三日目にしてようやく出会えた母と娘。詩子たちと楽しそうに喋る観鈴を見て「明日も頑張ろなー」と言った晴子。
 嬉しそうな顔でそう笑っていたのがつい先程のことなのに。
 それがこんな場所で終わっていい筈が無いとベナウィは思い、またそんな風に思った自分に少しだけ驚いた。
 だがそんな感情はおくびにも出さず、あくまで静かな顔と声でベナウィは観鈴に告げる。
「……とりあえず、私が様子を見てきます。あなたはここで待っていて下さい。いざというときは……シシェ」
 主の呼びかけに首を動かしてこたえるシシェ。その瞳に宿るのは、疲れではなく意志。
 相棒の頼もしさにベナウィは相好を崩し、その笑顔を不安がる観鈴に向ける。
 そして、なるべく音を立てないように最大限の注意を払いながらシャッターを上げて表に出た。
20策士たちの庭:03/07/13 17:44 ID:4BcqUomU
「おじゃましまーす」
「しまーす」
 暗闇に向かって律儀に挨拶をする瑞佳とゆかり。浩平はそれを見て苦笑しながら電気を付けた。
 すぐに人工の光が家中を照らす。玄関に靴はない。
「あ〜、腹減った。長森、飯にするぞ飯に。英語で言うとディナーだ。フランス語ならシルブプレだ」
「はいはい、ちょっと待っててね浩平」
 傘を畳み、玄関のすぐ側にある階段に目もくれずに奥の台所へ向かう瑞佳。ツッコミは無し。
「ふふ…食いしん坊さんですね、浩平くんは」
「ちょっといじきたないよ、浩平」
「そりゃお前らは屋台でホットケーキ食ったからいいだろうがよ」
 浩平が、ツッコミのかわりに飛んできた不名誉な称号の返上に全力を傾けようとしたとき、キッチンから瑞佳の声があがった。
「あれ〜? うーん……」
「どうしたのー、瑞佳さん」
 まだ何か言いたげな浩平を残して、ゆかりはキッチンに入る。そこには何やら難しい顔をした瑞佳の姿があった。
「あ、伏見さん……ううん、何でもないよ。ただちょっと違和感があったというか何というか……」
「違和感?」
「うん。大したことじゃないと思うんだけど、何かちょっと気になって」
 そう言う瑞佳の顔は晴れない。ゆかりもそれにつられた。一緒になってその違和感の正体を突き止めようと洗い場を凝視する。
 と。
「ん? 何じゃこりゃ」
 リビングの方で未だスフィーと舌戦を繰り広げていた浩平のその一言が、二人の意識をそちらに向かせた。
21策士たちの庭:03/07/13 17:46 ID:4BcqUomU
(まいりました)
 だらしなく眠る女三人を尻目に、茜は心中でため息を付いた。
 酔っぱらいたちを放り込んだこの部屋で、茜は偶然窓からこの家に入ってくる色とりどりの傘を目にしていた。
 その中で透明なビニール傘越しに見えた鬼の襷。それの意味するところは一つ。
 この家に上がる際、もしもの場合を考えて一応靴を持っておくことを提案したのが活きた。あの鬼たちはまだ、逃げ手がここに
潜んでいる事を知らない。その筈だ。
(まさか本当に鬼が来るとは思いませんでしたけど……)
 もう一度、今度は寝転ける友人たちを視界におさめて息を吐く。と、窓の外で動く影が見えた。
 ベナウィだ。
 彼は茜の姿を認めると何やらおかしな動きを始めた。左肩に置いた右手を右腰に滑らせ、次に掌を広げて突き出してみせる。
それが「鬼が五人」ということを表すジェスチャーだということに茜はすぐに悟る。
 大きく頷いてみせる茜。それを見て僅かに目を見開くが、すぐに小さく頷き返すベナウィ。
 これからどうするか。それを決めるべきなのだろうが、声を出すことは出来ない。
 ならば、喋らなければいい。
 ベナウィが今度は両手で四角を作る。同じ事を考えていた茜は窓から離れ、一旦奥に引っ込む。
 目当ての物はすぐに見つかった。澪のスケッチブックだ。
 澪には悪いがここから無事に逃げるためだ。勝手に使わせて貰うのは後ろめたいが、まあ納得して貰おう。
 聞こえるはずもない言い訳をしながらスケッチブックを手に取り立ち上がる。
 そこで、気付いた。
(……無い?)
 茜の形のよい眉が歪む。何故今の今まで気付かなかったのか。それは分からない。
 酔っぱらって手放した澪が悪いのか、無理矢理飲ませた詩子が悪いのか、それとも片付けの時に気付かなかった自分が悪いのか。
 とにかく、茜は思った以上に自分たちが窮地に立たされていることを知った。
 スケッチブックに付き物の、あれがないことで。
22策士たちの庭:03/07/13 17:47 ID:4BcqUomU
「ペン、だね」
 スフィーが呟く。そう、浩平が手にしたそれは何の変哲もない黒のサインペンだった。
「何かこれどっかで見たことあるな」
 そう言いながらくるくるとサインペンをもてあそぶ。と、何を思ったのか見るだけでは飽きたらず鼻にペンを寄せ、
あまつさえがじがじと囓ってみせた。
「どうかしたの浩平……って、なにやってるんだよ!」
「む、むむむ! 分かったぞ、これは澪がいつも使ってるヤツだ!」
「それで分かるの!?」
「そんなわけないだろ。ほれ、ここに名前が」
 キッチンから出てきて絶叫する瑞佳にしれっと返す浩平。それに瑞佳は「ハァー」と深いため息を付く。いつもの光景。
ただ今回はスフィーとトウカも瑞佳にならっていたりするが。
 同時に三人に呆れられ、流石の浩平も怯む。
 わざとらしく咳き込んだりして空気を変えようと無駄な努力をしていたところで、
「あ、分かっちゃいました」
 さっきから何やらキッチンでごそごそやっていた少女の声がリビングに届いた。
「どうした伏見、何が分かったんだ?」
 これ幸いとばかりにその話題に乗る浩平。その声にゆかりは流しの水滴をなぞり、
「これですよ」
と、濡れた指を掲げて見せた。
23策士たちの庭:03/07/13 17:48 ID:4BcqUomU
「何だ? 伏見の濡れた指がどうかしたのか……ははぁ、成る程。そういうことか」
「分かりました?」
 したり顔で首肯する浩平にゆかりは笑顔を向ける。が、瑞佳はそんな浩平を見て嫌な予感がした。
「そんなに指をつきだして……あいや、みなまで言うな。つまりこの俺にその指を舐め」
「浩平、ちょっと黙って」
 恐ろしく冷たい声、そのくせにっこりと笑顔。浩平は瑞佳のその声にまるで縫いつけられたかの様にピタリと動きを止めた。
「それで、何が分かったの?」
 真顔に戻りゆかりに問いかける瑞佳。それを受けてゆかりはまるで気にした様子もなく説明を始めた。
そんな二人を見て何となく、女って怖いなと浩平は思った。
「考えてみて下さい。私たちが入ってきたとき、この家は真っ暗だった。冷蔵庫の中身も手がつけられていないし、
 リビングもキッチンも綺麗。鬼ごっこが始まってもう三日目だというのにこうだということは、今までこの家に
 入った人は居ないと、普通は思います。でも……」
 備え付けの冷蔵庫をパカンと開けて言葉を紡ぐゆかり。彼女の言う通り、そこには整然と並べられた食材の数々が入っていた。
 冷蔵庫の扉を閉めてから、さらにゆかりは言葉を続ける。
「流しが濡れているということは、誰かがこのキッチンを使ったということです。しかも、ついさっきまで」
 まるで真実を全て見通す名探偵のように断言する。その言葉で一同は理解した。
 ゆかりの言葉の意味するところ、それはつまり、この家に潜んでいることを悟られたくない人物がほんの数刻前まで此処に居た……
もしかしたら、今も。
「なるほどな。お前の言いたいことは分かった。しかしよく気付いたな」
「凄いよ、ゆかり!」
「うむ。お手柄ですな、ゆかり殿」
 浩平のからかい無しの賞賛と、スフィーとトウカの言葉にゆかりはほんの少し身を縮こませて照れた。
24策士たちの庭:03/07/13 17:49 ID:4BcqUomU
 普段はほやほやとしているが、こう見えてもゆかりは学年一の秀才だ。努力家でPCの扱いにも長け、観察力も高い。
その潜在能力は宗一やエディも認めるところだ。いざとなれば、強い。普段は外に出ない、内に秘めた実力を持つ少女。
それがここで出た。細心の注意を払って痕跡を消そうとした茜にとって、彼女の存在は不運としか言いようがないだろう。
ゆかりは見事に茜の隙をついた。
「まだ逃げ手が居ると決まった訳じゃないが……気を引き締めていくぞ」
 浩平の言葉に頷く四人。もうこのゲームが始まって丸三日経とうとしている。逃げ手の数もかなり少なくなっているだろう。
そこで掴んだチャンス。そして浩平は鬼としての優勝が狙える地点にいる。欲を出してもいいだろう。
 例え徒労に終わろうとも、油断はしない。
 そして、浩平は己の空きっ腹を無視して仲間に指示を出し始めた。



【浩平チーム ゆかりの機転で逃げ手の存在を察知】
【晴子、詩子、澪 二階の寝室で爆睡中】
【茜 二階の寝室、澪のサインペンがないことでピンチに気付く】
【ベナウィ 家に面した道路で茜と逃げるための作戦会議を開こうとする】
【観鈴 ガレージ、シシェの側でおとなしくしてる】
【場所 市街地外れ、ガレージつきの一軒屋】
【時間 三日目夜遅く】
【登場逃げ手 神尾観鈴、神尾晴子、里村茜、柚木詩子、上月澪、ベナウィ】
【登場鬼  【折原浩平】、【長森瑞佳】、【伏見ゆかり】、【スフィー】、【トウカ】】
25コテとトリップ:03/07/13 21:51 ID:UzY0CHce
・・・読んで損した
26名無しさんだよもん:03/07/13 22:02 ID:ipWRt1Zs

女子小学生のつるつるタテスジ
http://sexyurls.com/shoojo
禁断ガゾー(^^;)

27名無しさんだよもん:03/07/13 23:22 ID:4Gyuxi52
さて、ベナウィ捕まえる話書くか。
28名無しさんだよもん:03/07/14 00:25 ID:4oR9Yp5Q
それより神尾親子捕まえれ。
29名無しさんだよもん:03/07/14 12:07 ID:J7STuY6n
ねえ、デッパまだ〜?
30Time Up:03/07/15 02:44 ID:dtBdM57i
(ペンは……まさか下に置いてきてしまいましたか)
 茜は歯噛みした。その可能性は十分にある。後片付けは懐中電灯の中で行ったのだ。
(これは急がないと駄目です)
 あのペンのせいで自分達の存在が気取られることもありえるし、
そうでなくても鬼達がすぐにもこの部屋に上がってくるかもしれない。
 茜はすばやく状況を確認した。
 ここは二階。あいにくと下はコンクリートで舗装された道路だが、窓から飛び降りる事は可能かもしれない。
五体満足ならば、だ。
 茜は依然酔いつぶれたままの晴子達を見てため息をつくと、
自分のバッグから手帳からペンを取り出した。
『何かロープを』
 そう書きなぐり、窓の下のべナウィに見せる。
 下のべナウィはうなずくと、ガレージに踵を返した。
(時間の勝負になりそうです)
 その間に茜は手早く荷物をまとめ始めた。

「何かこれどっかで見たことあるな」
 そう言いながらくるくるとサインペンをもてあそぶ。と、何を思ったのか見るだけでは飽きたらず鼻にペンを寄せ、
あまつさえがじがじと囓ってみせた。
「どうかしたの浩平……って、なにやってるんだよ!」
「む、むむむ! 分かったぞ、これは澪がいつも使ってるヤツだ!」
「それで分かるの!?」
「そんなわけないだろ。ほれ、ここに名前が」
 階下では、浩平達が澪のペンに気付いていた。
31Time Up:03/07/15 02:45 ID:dtBdM57i
 時間の勝負になることはべナウィもまた悟っていた。
大急ぎでガレージに戻ると、中を見渡す。
「べナウィさん、どうしたんですか?」
「ロープを使って晴子さん達を下に下ろします」
 べナウィは観鈴に短く答えながら、あたりを物色する。
すぐに電気コードが見つかった。
(細いですが、強度はありそうですね) 
 これをつかんで昇り降りするのは非常に難しそうだが、グズグズしている暇はない。
「あなたはここで待機していてください。すぐにお母様方を連れてまいります」
「あ……はい」
 うなずく観鈴を尻目にべナウィはガレージの外に飛び出すと、再び窓の下に戻った。
 既に茜が顔を出している。べナウィが電気コードの束を持ち上げ、茜はうなずくのを確認すると、
べナウィはコード束を上に投げ上げた。
 二階にいる茜がそれを受け取り、その一端を手早く窓の柵に幾重にも結びつけると、他端を下に垂らした。
(大丈夫そうですね)
 何度か引っ張り強度を確認すると、べナウィは上によじ登り始めた。
 雨に濡れた樹脂製の手触りは滑りやすかったが、それでもほとんど間お空けずべナウィは上にたどり着く。 
32Time Up:03/07/15 02:46 ID:dtBdM57i
 窓をくぐりながら、べナウィは口を開いた。
「三人の様子はどうですか?」
「今、起こしているところですが……」
 茜は首を振った。三人とも完全に眠りこけてしまっている。
「一人ずつ下ろしていってひとまずガレージに運びましょう」
 べナウィの提案は既に茜も考えていたようだ。
背負われた詩子とべナウィに手早くシーツを巻き、固定した。
「これで両手が使えると思います。荷物もまとめておきましたのでよろしくお願いします」
(随分と聡明な事ですね)
 べナウィは感心した。よく状況が見えていると思う。
 彼なら人を抱えても飛び降りる事もできるだろうが、
下はコンクリート。着地音がするのは止められないし、そのせいでトウカ達に気づかれてしまう。  
そのため、彼女達を運搬するのはやはりコードを使わねばならず、両手が開いている必要があるのだ。
「こんな酔っ払い達のせいで捕まえられるなんて嫌です」
「そうですね」
 べナウィは苦笑すると、コードを伝って下に降り始めた。

「まだ逃げ手が居ると決まった訳じゃないが……気を引き締めていくぞ」
 浩平の言葉に他の4人はうなずいた。
「うむ。この機会は逃さぬ!!」
 雄雄しくトウカが拳をあげる。
「で、どうするの? 浩平」
「とりあえず、隠れている奴がいないかめぼしいところを探っていくぞ」 
それからちょっと考えて口を開く。
「まず一階から。念のために逃げられないように玄関と裏口に人を置いて、
三人で探る。次に階段を押さえて二階だ」
「うん。いい考えだと思いますね」
「へへへ、ホットケーキゲットのチャンスだね」
 茜達に残された時間は確実に残り少なくなっていた。
33Time Up:03/07/15 02:47 ID:dtBdM57i
「あ、あれ? 詩子さん?」
「ここでとりあえず休ませます。具合を見てあげてください」
 ガレージの中で、べナウィは依然寝たままの詩子を下ろした。
(残り二人ですか)
 茜には自力で降りてもらうにしても、晴子と澪の二人を運ぶ必要がある。
べナウィは足早に窓の下に戻ると、再度コードを登って二階に上がった。
 出迎えてくれたのは茜と、そして
「ベナやん……ホンマにすまん」
 目を覚ましたらしい晴子だった。酔いが回ってしまったのか顔色が悪くふらついてしまっている。
「こんなに飲むつもりなかったねん。 こんな時に情けないことや」
 晴子は頭を抑えてため息をついた。既に茜から事情を聞いているようだ。
 ベナウィは澪を背負いながら、首を振った。
「先日は私が面倒を掛けました。今度は私の番です」
「急いでください。一階があわただしい気がします」
「分かりました。しばしお待ちを」
 先程と同じように、くくり付けられた澪を背に、ベナウィは下に降り始めた。

 逃げ手を捜すといっても、隠れられそうな場所なんてたかが知れている。
探索に時間はかからなかった。
「浩平、こっちはいなかったよ」
「うむ……影も形も見当たらぬ」
「そうか、そんじゃ二階な。ゆかり、スフィー、悪いな。
念のためそのまま入り口は抑えておいてくれ」
 ゆかりとスフィーがうなずくのを見ると、浩平達三人は階段を登り始めた。
34Time Up:03/07/15 02:48 ID:dtBdM57i
「―――!!」
「来てしもうたんか!?」
 その階段を登る音は茜達の耳にも届いていた。
(これは、困ります……!)
 迷いが茜の頭の中で渦巻く。
 なぜ鬼が上がってきたのか、自分達に気づいたのか、それとも偶然か、ならば隠れるべきか、それとも―――
 そう思う間にもドアノブが回され、
 ほとんど反射的に茜はドアを押し返していた。

「こ、浩平、トウカさん!! ここ!!」
 瑞佳の声に、二階の一室を調べていた浩平は顔を上げた。
「どうした?」
 廊下に顔を出すと、一室のドアを開こうと奮闘している瑞佳の姿が目に映る。
「向こうから押さえつけられてるんだよ!! 手伝って!」
「OK! 任せろ!! いくぞトウカ!」
「承知!」

 瑞佳の声は、扉の向こうの茜にも届いていた。
(やはり浩平と、長森さんですか)
 ビニール傘ごしに見たので確証が持てなかったが……妙な偶然もあったものだと思う。
「ダメや!! もたへん……!」
 ドアにかかる圧力が高まり、茜の隣でドアを押さえていた晴子がうめいた。
「このままでは……!」
 ジリジリとドアが開いていく。
 
 澪と共に下に下りたべナウィにも瑞佳の声が届いていた。
「気取られましたか!!」
 うめく。
 一瞬の迷い。どうする?
 べナウィは澪の体を庇の下に置くと、再びコードを登り始めた。
35Time Up:03/07/15 02:48 ID:dtBdM57i
「くぅ……い……や……です!」
 茜も晴子も力があるほうではない。ドアをはさんでの力勝負は不利に過ぎた。
 次第にそのドアが開かれていく。そして、
「せぃっ!!」
 一際高いトウカの裂帛の声と共にドアがこじあけられたのと、
「おふた方!!」
 べナウィが窓から飛び込んでくるのが同時だった。


「べナウィ殿!?」
「茜か!!」
 顔見知りの姿を見て、先頭を切ってドアをこじ開けたトウカと浩平の動きが、一瞬だけ止まる。
 そして、べナウィに与えられた時間はその一瞬だけであった。
「…………!!」
 その刹那の刻に、べナウィと晴子の視線が絡み合い―――
 べナウィは茜を抱きかかえて、窓から飛び降りた。

 ピィー という口笛に、ガレージの中で寝ていたシシェは立ち上がった。
「シシェさん?」
 そして、そう問いかける観鈴を無視して、開いたままのシャッターをくぐってガレージの外へ駆け出す。
「シシェさん……」
 それを見送って、置いていかれたと思って、
 それでなんとなく母はもう戻ってこないのだと分かったから、
観鈴はシャッターを閉じると未だ眠り続ける詩子と共に暗闇のガレージの隅にうずくまった。
36Time Up:03/07/15 02:49 ID:dtBdM57i
 茜をおろし澪を抱きかかえると、口笛の合図に従って駆け寄ってきたシシェの背にべナウィは飛び乗った。
「茜さん! あなたも!」
「ですが……!」
 馬上から差し出された手に茜は一瞬躊躇する。が、
「分かりました……」
 べナウィの手をとると、その後ろでシシェにまたがった。
「ハイッ」
 べナウィは一瞬だけ後ろを見ると、シシェに掛け声をかけた。
 既に鬼がこちらに追いかけてきている。
(見捨てることになってしまうとは……!)
 観鈴に会ってはしゃぐ晴子のことを思い出して、べナウィは歯噛みした。
 せめて、あの刹那の刻に晴子が微笑んだことが、自分の気のせいではないと思いたかった。

「べナやん……ほんまに世話になったわ。がんばりや」   
 二階の一室で、窓から外を見下ろしながら晴子はつぶやいた。
 その身には既にタスキがかけられている。
べナウィが茜を抱えて逃げたすぐ後に、男の鬼にタッチされたのだ。
 その鬼たちは今、晴子の眼下で、シシェにまたがって逃げるべナウィ達を追いかけていた。 
「うまくいかへんもんやなぁ……」
 ガリガリと頭をかく。観鈴と合流できたと思った数時間後に自分だけ鬼になってしまうとは。
 それだけではなくて、チームもまた二つに分かれてしまった。
 とはいえ、自業自得だという意識もある。率先して飲酒して、詩子や澪に飲ませたのは自分なのだから。
「いや、むしろ観鈴が一人きりやなくて、
詩子といっしょにいることを感謝すべきかもしれへんなぁ」
 自分のことを師匠と呼ぶ元気な少女の顔を浮かべる。
きっとあの子なら観鈴の良い友達になってくれるだろう。そう願うしかない。
「ほんま……酒はあかんな」
 酔いの頭痛に耐え切れなくなり、晴子はベッドにその身を投げ出した。
37Time Up:03/07/15 02:50 ID:dtBdM57i
【晴子 鬼化】
【浩平 一ポイントゲット】
【観鈴、詩子 バイクと共にガレージの中】
【べナウィ、茜、澪 シシェに乗って逃走】
【浩平チーム、べナウィ達の後を追う。全員かどうかは分からない】
【三日目夜、市街地の一角】
【登場 神尾観鈴、神尾晴子、里村茜、上月澪、柚木詩子、べナウィ】
【登場鬼 【折原浩平】、【長森瑞佳】、【トウカ】、【伏見ゆかり】、【スフィー】】
【登場動物 『シシェ』】
38名無しさんだよもん:03/07/15 12:24 ID:2uGebAQ2
シシェキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
39DreamWalker:03/07/17 01:30 ID:u9CMTkAJ
「……ここは?」

 諸君、かなり久しぶりだな。
 私はD。汝らに崇められうたわれるものウィツァルネミテア。その分身である。同時にオンカミヤムカイの哲学士でもある。
 最近忘れ去られ気味ではあるが、そこだけはしっかり押さえておいてほしい。

『……久シイナ。我ガ憑代ヨ……』
 不意に、頭の上から声が聞こえた。
「……ん? ……のわっ!?」
 声の方向に従い、その場で首を上に折る。するとそこには……
「貴様は……!」
 我であり神である……

『ソウダ……汝ガ大神、解放者ウィツァルネミテア……ソノ分身ダ……』
「通称黒ウィツ!」
『ソノ名デ呼ブナ!!!』
 
 そこに佇んでいた黒いデカブツは私の中に巣くう大神、ウィツァルネミテアの分身であった。
 直接相対するのは久しぶりだ。あの時のオンカミヤムカイ以来だな。
 
「……で、こんなところで何の用だ。我が大神よ」
『冷タイナ我ガ憑代ヨ。我ハ貴様ヲ助ケ出シテヤッタトイウノニ』
「助け出した……?」
『ソウ。教エ子ニパフパフサレ、窒息死寸前ノ汝ヲ我ハ助ケテヤッタノダ。モウ少シ感謝シテモイイダロウ』
「そうか……確かにな」
 教え子の胸に埋もれて死んだとあっては一族末代までの恥だ。
「感謝しよう。我が大神よ」
『ワカレバヨロシイ』

40DreamWalker:03/07/17 01:31 ID:u9CMTkAJ
「しかし……それはそれとして、だ。我が大神よ。貴様は何をしに我の前に現れた? まさか我を助けるためだけではあるまい」
『ソノ通リ。今回……我ハ貴様ニ悪クナイ話ヲ持ッテキタ』
「悪くない話だと?」
『ウム。貴様ノ状況ハ我モ知ッテイル……一瞬ノ油断カラ鬼トナリ、シカモ法力マデ失イ、正ニ踏ンダリ蹴ッタリノ状態デアロウ』
「うっ……」
 ……さすがは我が神。全てお見通しというわけか。
『ソコデ……我ガ汝ノ手助ケシテヤロウトイウノダ。我ガ力ヲ持ッテスレバ法力ノ一ツヤ二ツ。復活サセルコトナド造作モナイ』
「なにっ!?」
『ダガソノ為ニハ貴様ニイクツカノ我ガ問イニ答エテモラワネバナラナイ……ソノ覚悟ハアルカ?』
「問い……だと? ……まあいい。今の我は法力の回復が急務。力さえ戻れば残りの逃げ手を捕まえることなど赤子の手を捻るようなものだ。
 いいだろう。その話……乗ろうではないか」
『マァソウ緊張スルナ……難シイ事ハ無イ。汝ハタダ我ノ質問ニ答エ続ケレバヨイノダ。……準備ハヨイカ?』
「いつでも来い」
『デハ……行クゾ! ミューズィック・スタートゥッ!』


 ちゃらららちゃらららら〜♪

 
「……なんだこのいけ好かない音楽は」

 ちーちゃん・栞・まいか・神奈・ムツミ・カミュ・レミィ・ウルトリィ
 8つのバストを選ぶとしたら 汝ならどれが好き〜

「……は?」
『……問イニ答エヨ。真面目ニ答エヨ小サキ者ヨ……。モウ一度行ク。次ハ、シッカリナ』

41DreamWalker:03/07/17 01:32 ID:u9CMTkAJ

 ちゃらららちゃらららら〜♪

 
「…………」

 ちーちゃん・栞・まいか・神奈・ムツミ・カミュ・レミィ・ウルトリィ
 8組のバストを選ぶとしたら 汝ならどれが好き〜

「……カミュ」

 カミュ好きは自分に素直 思ったことを隠せない
 でも 昼間と夜でだいぶ違うから夢から覚めなさい〜

「……では、ムツミ」

 ムツミ好きは少しお利口さん カミュ好きより少しはお利口
 それでもまだまだファザコン気味だから大人になりなさい〜

「ならば……神奈か」

 神奈好きはだぁ〜いぶお利口 カミュ好きよりもいくらかCOOL
 そこまで現実わかっているなら 呪いはやめなさい〜

「じゃあまいか」

 まいか好きは正解に近い もっとも限りなく正解に近い
 でも ロリじゃない女性も多いので油断は禁物で〜す

『おっぱいチョイスのセンスでその後の人生は大きく左右されます。
 まるで左右のおっぱいのように……』
42DreamWalker:03/07/17 01:36 ID:u9CMTkAJ
「栞……」

 栞好きは中途半端 好みとしては中途半端
『(胸は)無くてもいいけど、パンツは履いた方が……』
 そんなの微妙すぎ〜
 
「ちーちゃんて……誰だそれは?」

 ちーちゃん好きは卑屈すぎます 自分に自信のない証拠です
 おっぱいは決して怖くな〜い
 覚悟を決めてくださ〜い

  | _
  | M ヽ
  |从 リ)〉
  |゚ ヮ゚ノ|  <………
  ⊂)} i !  
  |_/ヽ|」  
  |'

「なんだか見えてはいけないものが見えてしまった気がするのは精神的疾患の一種なのだろうか」

 ウルトリィ好きとレミィ好きは でかけりゃいいってもんじゃない事を肝に命じておいてください!
 女性の敵ですよ〜

 | _
 | M ヽ
 |从 リ)〉
 |゚ ヮ゚ノ| <………
+ミ⊂)} i !   
 |_/ヽ|」
 |'  
43DreamWalker:03/07/17 01:38 ID:u9CMTkAJ
「人の話を……うわっ! 来た!」
 
 いろんなおっぱい見てきたけれど 最後に我が言いたいことは
 女の人を胸で判断するのは良くない事ですよ!
 
「おい我が大神! イイ感じにノリノリになってるんじゃない! 来たぞ! 来たぞ来たぞ! 最凶の禍日神が!」
 
 ラ〜ラララ〜ラララ〜ラララ〜ラ♪
 
「ッ! 逃げる! 逃げる私は逃げるぞ! 私は悪くない! 私は関係ない!」

 ラ〜ラララ〜ラララ〜ラ………(バシュッ!)グオオォォォッ!?

「な、なんだと……解放者が一撃で!? おのれ化け物めが! こ、ここは一刻も早く逃げな……
 う、うわっ! こっちに来た! 向かってきた! ご、ごめんなさいすいません! じ、ジョークジョーク! ほんの些細なジョークです!
 うわああっ!? ま、待て! 待て待て待って待て鎮まりたもう!
 ああっ! ああっ! ああ……ああ! ああああああ〜〜〜〜〜っ…………………!!!!!!!」
 
『……あなたを、殺します』




「…………がはあっ!?」

 懐かしのD邸宅。寝床の中心で、Dは飛び起きた。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ……………」
 乱れる呼吸を整えながら、胸に手を当ててみる。
 
 ドキドキドキドキドキドキドキドキ……
44名無しさんだよもん:03/07/17 01:40 ID:u9CMTkAJ
 動悸が激しいビートを刻んでいる。額の生え際にはうっすらと汗が滲んですらいる。
 ……喉が渇いた。とても乾いた。どうやら、相当の寝汗をかいたらしい。
「……あるいは脂汗か」
 毒づきながら、近くに置いてあったペットボトルを手に取り、中身を一気に飲み干す。
「……ふぅ」
 水分補給が完了し、ようやく少し落ち着きが取り戻せた。

「……夢か」
 夢だ。先ほどまでの非常に恐ろしい事態は、どうやら全て夢の産物であったらしい。
「……助かった……」
 心底の、大きなため息を漏らす。それは安堵の象徴だった。
「……ん?」
 そこでふと気づく。何か、物足りないものに。現実に帰ってきた彼が、まず探すものといえば……
「……レミィ? まいか?」
 そう。レミィとまいかがいない。昨晩は自分の両隣で就寝したはずの2人が、どこにもいないのだ。
「……どこに……?」
 と室内を見渡したところで気づいた。ちゃぶ台の上に残された一枚の紙切れに。
「ん……? なになに……?」

『Dear D
   まいかちゃんとちょっと出かけてくるね。すぐ帰ってくるからNo problemだヨ。心配しないでね。
      Helen
 
 でぃーへ
   ねぼすけ!
     まいかより』

「……やれやれ」

 頭をボリボリと掻きつつ、ため息一つ。
45名無しさんだよもん:03/07/17 01:41 ID:u9CMTkAJ
【D 起床】
【レミィ&まいか ちょっとお出かけ】
【三日目朝。D邸宅】
【登場 【D一家】】
46名無しさんだよもん:03/07/19 02:30 ID:6ybECw56
( ^▽^)つホ
47名無しさんだよもん:03/07/20 00:02 ID:J1vq+lzv
( ^▽^)つ
48名無しさんだよもん:03/07/20 23:51 ID:4OpDLoWt
一応保守
49マルちゃんクーヤとあゆあゆ:03/07/21 16:44 ID:hGp2Wtlr
「うぐぅ〜暗いよ〜…」
鯛焼きを齧りながら月宮あゆは、暗い森の中を歩いていた。
香里に怒られたり、岩切に慰められたりしたので、あゆがこの鬼ごっこ始まって以来貫いていた、
“鯛焼きの亡者”というスタンスはもはや消えていた。
そして鯛焼きを久しぶりに口の中に入れたことによって、幾分か精神も落ち着いていた。
ただ。
「うぐぅ〜暗いよ、怖いよ〜…」
恐怖観念まで戻ってきてしまったのはご愛嬌である。
あゆはそのままうぐぅうぐぅと嗚咽を漏らしていた。

「はわわ〜…疲れました〜…」
マルチは、とっぷりと夜の暮れた森の中で腰をおろした。
クーヤはその背に捕まって眠っている。
二人は石原麗子に捕まった後、クーヤが呆然としていたので、麗子についていくのを忘れてしまった。
そして暗い超ダンジョンの中で二人きりになってしまい、はわわ〜わひゃぁ〜、などと再びやっていたうちに、クーヤが疲れて眠ってしまった。
それをマルチはなんとか抱えて、必死で出口を探し、なんとか見つけて外に出たら、既に日が落ち月も落ちた真夜中の森だったわけで。
つまり一日中彷徨ってた訳だ。
兎にも角にも脱出できた安堵と、ずっとクーヤを抱えてきた疲労(?)によって、とりあえず省電力モードに入ろうとしていたときだった。
「ふぁぁ〜、よく寝たぞぉ〜…」
クーヤが目を覚ました。
「あ、クーヤさん、起きたんですね。おはようございます〜」
「ん…マルチか…! 暗いぞ! まだあの洞窟の中なのか!?」
起き抜けにでっかい声を出すクーヤ。
「違いますよぅ、あのダンジョンからはなんとか抜け出しました…ここは森です…夜中の森です…」
「ほ、本当に抜けることが出来たのか!?」
「はい、出来ましたっ!」
感情表現が豊かなマルチ、無い胸反らしてえっへん。
「よ、よくやった〜…でも、暗いぞ〜…」
「はわわ〜…」
そんなやりとりをしている時だった。
50マルちゃんクーヤとあゆあゆ:03/07/21 16:44 ID:hGp2Wtlr
――ぅ〜…ぅ〜…
そんな声が聞こえてきた。その声はマルチの声と酷似していた。
「へ、変な声を出すでないマルチ!」
「はわわ〜…わ、私じゃないですよぅ〜」
――ぅ、ぅ〜…
「や、やめろマルチ〜!」
「はわわ〜、わ、私じゃありません〜」
殆ど涙目の二人。そうこうしているうちにもマルチボイスのうめき声は近寄ってきた。

「うぐぅ〜うぐぅ〜…誰か居るの…?」
あゆは、森の置くから感じる人の気配に向かって歩いていった。
それに大分近づいた時、そのうちの一人の声が自分の声に酷似していることに気がついた。
「う、うぐぅ…」
――もしかして、ボクの声を真似るお化け!?
あゆはそんなことを思ってしまった。足が止まる。
うぐぅうぐぅとうめく。
そして。
「わひゃぁあ〜!! にっ、逃げるぞマルチ!!」
「はわわわわ〜!! はっ、はい〜!!」
いきなり飛び出てきた二つの人影に驚いて。
「うぐぅぅぅ〜!!!!!!」
あゆもビックリして走り出した。
3人は何故か並んで走っていた。

ちなみに、あゆとマルチは声優が同じであった。

【マルチ クーヤ 超ダンジョン脱出 マルチボイスのお化けが出て来た】
【あゆ 鯛焼き食べ尽くす 自分の声のお化けがいきなり飛び出した】
【3人 恐慌状態で何故か3人並んで走ってる】
【森の中】
【3日目深夜】
【登場鬼:【月宮あゆ】【HMX−12マルチ】【クーヤ】】
51和みと言う名の鎮魂歌:03/07/23 00:34 ID:g3zlu0l6
 室内には、シクシクと啜り泣く少女の声がか細く漂い、それ以外は重い沈黙に沈んでいた。
 リビングに当たる部屋で、一人の少年と幾人かの少女達が、些か憮然と、そして悄然とした面持ちで椅子やらソファー
やらに腰を掛けている。――泣いているのは、その少女達の内の一人だ。
 …言ってしまえば傍観者として彼等を見る事が出来た和樹は、彼等よりは心情的に暗くならずに済んでいた。色々
込み入った問題も取り敢えずは落着したし、加えて、これ迄パートナーであった巳間晴香は、“鬼潰し”が初戦から
見事に失敗に終った為か、戦意を失った様子で――と言うより、毒気をすっかり抜かれてしまった様で、今は和樹の
隣でパックのフルーツ牛乳なぞを暢気にちうちうと吸っていたりする。
「……ま、してやられたって訳ね」
 ソファーに脚を組んで座るショートカットの少女――志保…とか言ったか、彼女が沈黙を破ったので、和樹は視線だけ
を彼女の方へと向けた。
「…そーね。寝てる間に…」
 志保に応えるかの様に、続けて沈黙を破る少女。ポップな髪型の割に目付きの鋭い…確か、岡田とか言う子。――昨
晩迄は逃げ手であったはずの彼女の体には今、鬼である事を示す襷が掛けられている。
「…卑怯よね、ホント」
「――そう?」
 憮然とした志保の物言いに、岡田は寧ろ、反駁するかの様な言葉を返す。…和樹は、そんな岡田をやや興味深げに
見やった。
「そう……って、卑怯でしょーが!? 人が寝てる間にタッチしてくなんて…!」
「でも、あの人達鬼だったし」
 あの人達――とは、昨日迄は一緒にこの別荘に居て、今は居ない人達。――森川由綺のマネージャー・篠塚弥生と、
“レディ・ジョイ”のライター・相田響子の二人の事だ。
「タッチはしないって約束してたじゃない!」
「それも今思えば、所詮は口約束。別に証書とかを書いた訳でも無いしさ」
「っ…! い、一応は危ない所を助けたんでしょ!? それを……義理を欠くとは思わないの!?」
「義理ィ…? ハッ! そんなモンそこらでうろついてる犬にでも食わせたんなさいや。信じる者はバカを見る――で、
信じた私らがバカを見た。それだけでしょ」
「そんなんで納得出来る訳、あんたはっ!!?」
「――納得出来てると思う!!?」
52和みと言う名の鎮魂歌:03/07/23 00:35 ID:g3zlu0l6
 睨み合う少女二人。再び舞い降りる沈黙。シクシクと泣く声だけが漂い…――再び沈黙を破ったのは、岡田の方
だった。…彼女は激昂しかけた自らを鎮めるかの様に深々と溜息を吐き、言葉を紡ぐ。
「……寧ろ、私はあの人達よりも自分を責めるわ。易々とあの人達を信じちゃった自分をね。…松本と吉井には悪い事
しちゃったわ…」
 岡田が目を向けた先に居る二人の少女を、和樹も見やる。――“ガンパレ”のコスチュームを着た少女と、茶髪の少女。
先程から啜り泣いているのは、茶髪の方…松本という少女だった。彼女も逃げ手であったのだが、今はもう鬼だ。そんな
シクシクと泣く松本を慰める様にして、ガンパレコス少女…吉井が、彼女の頭を撫でてやっている。
「うぇぇ…ん………いいの、いいんだよ、岡田ぁ…。…私だって悪いもん。ぐーすか寝ちゃってたし…」
「…あははは…、私もね。何の為にこんな服まで着たんだか…」
「……ごめん、本当に…」
「――てかよ、オレ達の事は責めないのか、岡田達は?」
 先程から黙したままだった少年…浩之という名の彼が、後ろ頭で組んでいた手を解き、岡田の顔を覗き込む様に身を
前へと乗り出して尋ねた。
「…護衛役を買って出ておいて、このザマだ。責められるべきは寧ろ、オレ達なんじゃないのか?」
 問われた岡田は、彼を鋭い目で見返しながら小首を傾げ――
「そうね――と、言ーたいトコだけど、簡単にあの人達を信用しちゃった私にも責任はある訳だしさ、藤田達だけの所為
にするには、何てゆーか……そう、気が咎める」
「岡田…」
「何?」
「…丸くなったな、お前。いいんちょをいぢめてたとは思えねー」
「終った事をムシ返すんじゃねーわよ」
「ひっく…ひっく………丸くなったのに、どうしてムネムネはペッタンコのままなの〜…?」
 ――と、宣った松本に、椅子から射出されたかの如く飛びつき、両頬をぐにぃ〜んと引っ張って抓る岡田。
「またムネの話をするかあんたわ…! 泣くかボケるかどっちかにしやがれ天然!」
「んにぃ〜〜…、いはいお、おはらぁ…」
53和みと言う名の鎮魂歌:03/07/23 00:36 ID:g3zlu0l6
「………ま、過ぎた事をウダウダ悩んでも仕方ねーか。岡田達がそれでいいんなら、オレ達も気兼ねなく諦められる」
「っ!? ちょっとヒロォ!? あんた何を言って…!」
 叫んで咎めてくる志保に、浩之は苦笑を向けた。
「これ以上フン張っても仕方ねーべ? これから他の逃げ手を捜すのはこれ迄以上に分の悪い賭けだし、例え運好く
見つけても、岡田達みてーにこっちを知ってる奴等とは限らんだろ。その場合、信用や信頼を得るには時間が必要だ
ろうし、そんなこんなしてる内にゲーム終了って事もあり得る訳だ。無駄骨ってやつだな」
「………」
「よーするに、今からジタバタしよーと、オレ達には時間が余りにも少ないって事さね」
 浩之に諭され、志保は不機嫌そうに頬を膨らませる。そして、やおら目を光らせ、その眼差を剣呑な物へと変えた。
「ヒロ……あんた、単にやる気失くしただけでしょ?」
「バレたか?―――ごぁっ…!?」
 志保は、ソファーに座ったままの浩之の頭に踵落としを炸裂させた。
「ま、藤田の言い分も解るけどね。……寧ろ私達が気懸かりなのは、佐藤君の事よ」
「? 雅史がどうかしたの?」
「…私達、佐藤君に助けられたのよ。知ってるでしょう…?」
 小首を傾げる志保に、吉井が沈みがちな声で答える。
「頑張るって約束したのに………会わせる顔が無いよ。昨日の今日の話なのに…」
「うぇえ〜んっ…! 佐藤君に嫌われちゃうよぅ〜…っ」
「……大丈夫よ。そんなに気にしないでも」
 暗い顔を見合わせる吉井と松本に、志保は、やれやればかりに肩を竦めながら笑った。
「その後も何度か鬼に追われながらもここ迄来れたんでしょ? 嫌うどころか褒めてくれるって」
「………ホント…?」
「賭けてもいいわよ? 雅史は“超”が付くくらいにイイ奴だしね」
「――志保の言う事は殆どの場合信憑性皆無だが、雅史に関しては間違いねーぜ」
 踵落としのダメージから復活した浩之が、ゲシゲシと入れて来る志保の蹴りを避けつつ、吉井と松本に微笑み掛ける。
「だから安心しろって。不安なら、オレの方からもあいつに謝っとくからよ」
 そして、まだ少し涙目の松本の頭にポンと手を置き、撫で撫で――
 浩之に頭を撫で撫でされ、思わず「はにゃ〜ん」な顔になる松本を見て、吉井がちょっぴり羨ましげな表情になる。
54和みと言う名の鎮魂歌:03/07/23 00:38 ID:g3zlu0l6
「あ、あの…藤田君、わ、私も――」
「――なかなか…美しい青春の情景って所かしら?」
 それ迄、黙したままフルーツ牛乳を飲んでいた晴香が、不意に口を開いた。
 …何となく嫌な予感がした和樹は、晴香の横顔に少々胡乱な眼差を送った。――そんな和樹の視線に気付いていた
か否か、晴香は全く取り合わぬまま、続けて言葉を紡ぐ。
「でも、本当にそれでいいの? ――たかが口約束。されど、約束は約束。所詮言葉の上だけ、文書として残されている
訳でも無い……だからと言って、簡単に反故にして良い物じゃあないわ。
 …その上、危機に瀕していた所を助けられたというのに――」
「…その危機へ追いやっていたのは君じゃなかったっけ――ぎゃっ!?」
 和樹の横槍は、足の上へドスンと落とされた踵で以て報いられた。
「――それなのに、この仕打ち。恩を仇で返すとは正にこの事じゃない? そこの…長岡さんも言っていたけど、
余りにも義理を欠いた行為でしょう。悔しくはないの? 本当に? 諦められる訳?」
「………何が言いたいの?」
 す……と、目を細め、晴香を見据える岡田。そして、鋭いその眼差を、一切物怖じする事無く受け止める晴香。
 ――岡田にフライパンでノックアウトさせられた晴香であるが、そんな岡田に対する蟠りや憤りといった物は、無い様
だった。元々サバけた性格だからであろう。…そんな事を、和樹は足の痛みに耐えながら思った。
 …その晴香の横顔が、薄い笑みを張り付かせる。
「仕返し――したくはないのかって聞いてるのよ。もしするなら、手伝うわよ?」
「……ちょぃと晴香さん?」
 和樹は、やや咎める様な口調で彼女の横顔に声を掛けたが、返って来たのは黙殺だけであった。
「私、貴女…岡田さんの事、ちょっと気に入っちゃったのよ…――そんな目をしないで。変な意味じゃなくてさ」
「…何よ?」
「貴女は、私の隙を突いてノックアウトしたわ。私の不可視の力を目の当たりにした上で、ね。なかなか見上げた物よ」
「そりゃどーも」
55和みと言う名の鎮魂歌:03/07/23 00:39 ID:g3zlu0l6
「ええ。…でも、あの人達は違うわ。――そうね。確かにルールには触れてない。でも、私が貴女なら、絶対に納得出来
そうもない。第一…私はその時気を失ってたから解らないけど、後で聞いた話だと、岡田さん、あの人達にここで休んで
いいって決めたのだって、あの弥生って人が足を挫いてたのを見たからでしょう?」
 晴香のその言葉に、室内の視線が岡田へと集まる。――岡田は…
「――ンな訳ないでしょ。私が甘かった。只それだけの話よ」
 ヘラヘラと、小馬鹿にするかの様な笑みを浮かべ、手をパタパタと振って見せた。
「…大体、私がそんな人の好い奴に見える? 平気で人の頭フライパンで殴るよーな奴よ。私は冷血女なの」
「……………………そう」
 と、一言だけ答え、晴香は微笑んだ。
 代わりに、晴香は吉井と松本に目を向け、
「――貴女達は?」
 問われた二人は目を瞬かせ、互いの顔を見合わせた。
「別に……確かに悔しいし、納得出来ないけど…」
「仕返しとか、そーゆーのは、よくないよね。油断してた私達が悪いんだしぃ」
「…そっちの二人は?」
 続けて、志保と浩之にも目を向ける。
「さっき言った通りだ。これ以上ジタバタすんのは無駄だろ」
 答えたのは浩之だけだったが、やれやれと方を竦めて苦笑する志保も、彼と同じ意見であるらしい。
「……そう。フフっ……“冷血女”の岡田さんが、あの人達を助けた上に休み場所迄与えちゃったお蔭でこんな結果に
なっちゃって、残念ね」
「うるさいわよ…!」
 クスクスと晴香にからかわれ、岡田はギヌロと目を剥いて睨み返した。
「フン…ま、いいわ。――さて、と。これからどーする? 藤田達も」
「岡田……お前、ちょっと顔が赤くなってるぞ」
「っ、やかましいっ!」
「岡田って、こー見えても結構テレ屋だからぁ。この前もねぇ〜、歩道橋で」
「ダダ黙レーーーーーっ!!!」
 松本がまた余計な事を言い出す前に、真っ赤になった岡田が飛び掛って両頬を引っ張った。
 先程迄は落ち込んでいたが、今ではもう充分に立ち直ったらしい。騒がしくも微笑ましい彼女達を見やり、和樹も
顔が綻ぶのを感じた。…そして、あの襲撃は失敗に終って良かったのだと、何となくそう思ってもいた。
 ――と、
「あんたらはどーすんだ?」
56和みと言う名の鎮魂歌:03/07/23 00:40 ID:g3zlu0l6
 浩之が和樹達に訊いて来る。
「オレ達は天気が良くなる迄ここでのんびりダベってる事にするよ。幸い、トランプとか人生ゲームとかの遊び道具が
幾つか置いてあったからな。時間を潰すには事欠かないだろうし」
「…鬼ごっこはもうやらないのか?」
「これでようやくまったり出来る」
「うーん…」
 彼等の様に、ここでのんびりするのも悪く無いだろう。或いは、瑞希や大志、由宇や詠美達といった、馴染みの面子
を探すという手もあるが――
「…どうする?」
 取り敢えず、晴香にも意見を伺ってみる。…晴香は、明るく微笑みながら、
「……人生ゲーム…か。………――やってみようかしら」
 呟く。
 …これで決まりか――和樹は、微苦笑を浮かべつつ、何とは無しに自分の頭を軽く叩いた。


 別荘の中には、このゲームの敗者達――或いは、“死者”達が居た。
 だが、何故かその顔は、一様にして明るい。
 そこに流れるのは、或いはレクイエムであっただろう。
 ――しかし、その旋律は、何処迄も楽しげであり、和やかであり…
「おっ? 吉井ぃ〜、お前ルーレット運強いな。やるじゃん」
 ポン――と、吉井の頭に手を置き、浩之が撫で撫で。
「あ……」
「ここで“6”は、なかなか出ねーよ。(撫で撫で…」
「う、うん…(はにゃ〜ん…」
 ――何処迄も楽しげ。そして、和やかに。


57和みと言う名の鎮魂歌:03/07/23 00:40 ID:g3zlu0l6
【岡田、吉井、松本  現状を受け入れる】
【浩之、志保  諦めモード、及びマターリモードへ移行】
【和樹、晴香  同じくマターリモードへ】
【全員、天気が良くなる迄、別荘でのんびりする事に】
【四日目。朝(遅め)。場所は変わらず、別荘】

登場:【千堂和樹】 【巳間晴香】
    【藤田浩之】 【長岡志保】
    【岡田メグミ】 【吉井ユカリ】 【松本リカ】
58二兎:03/07/23 06:28 ID:56gLtVH8
「朝になってしまったか」
 森の中で一人ごちる。昨日はとうとう一日中雨模様だった。天から降り注ぐ水滴がようやくその姿を消した頃には、
既にこの遊戯が始まって三度目の朝日が昇っていた。
 雨雲が空の向こうに消えるのを待って、蝉丸は活動を再開した。
 夜間ほど実力を発揮できない日中に動き回るのは出来れば避けたかったのだが、そうも言っていられない。
結局丸一日無為な時間を過ごしてしまったし、何より腹も空いてきた。
(何か腹に入れられるような物は……む)
 屋台か建物、最悪食べられる野草でもないかと蝉丸が辺りを見渡していたとき、ふと人の気配を感じた。
 そう遠くない。蝉丸は見つからないように慎重に移動し、程なくその出所に辿り着いた。
 そこにいたのは二人の女。一人は少女とも言える小ささでまるで日本人形のような静かな雰囲気を携えており、
もう一人は陽光が映える見事な金髪が目に残る。
 そして、いずれも襷を掛けていない。
(これは『らっきー』というやつだな)
 思いがけず遭遇したこの好機に、草むらの影でほくそ笑む。いつでも飛びかかれるように足に力を入れ、
蝉丸は彼女らの隙をうかがい始めた。
59二兎:03/07/23 06:30 ID:56gLtVH8
 楓とリサは雨上がりの緑の匂いに囲まれながら遅い朝食を取っていた。
 楓が起きている間は何事もなく、夜明け前にリサと見張りを交代してから約五時間、その間も結局鬼が来ることはなかった。
 だからこうしてのんびりサンドイッチとペットボトルのアイスコーヒーをつまんでいられる。
 ぽつぽつと言葉を交わしながら、静かに食事をしている二人。
 と、リサのコーヒーがいつの間にか空になっていた。
 少し楓の分をわけてもらおうと思ったリサが楓に近づき……耳打ちする。
「ねえ楓さん、気付いてる?」
「はい。先程からこちらを伺っている気配がします。……相手が何処かまではちょっと分かりませんけど」
「上出来、ね」
 楓の答えにリサは上機嫌な声を返す。
 職業柄奇襲を受けることも多いリサは、楓より正確に相手の気配を掴んでいた。
 この辺り、リサのエージェントとしての経験が楓のエルクゥとしての本能より一枚上手だったということだろう。
「私の右斜め後方、距離は……おおよそ7メートル。人数は一人ね。いい? 1・2の3で行くわよ」
「どっちを追ってきても恨みっこ無し、ですね」
 先程まで口を付けていたペットボトルをリサに渡しながらさりげなく会話する。
 一緒にいた時間も交わした言葉も少ないが、この二人は割と反りが合っていた。
 少なくとも別れの間際、こうして軽口が出るくらいには。
「それではリサさん、お気をつけて」
「あなたもね。じゃあ……one、two──three!!」
 叫ぶと同時に楓から渡されたペットボトルを草むらに向かって投げるリサ。その向こうで僅かに慌てたような
気配がしたのと同時、リサと楓は地を蹴っていた。
60二兎:03/07/23 06:30 ID:56gLtVH8
 突然こちらに飛んできた何かを咄嗟に手で払う蝉丸。
 その僅かな隙の間に、二人の女は残像すら残さず消えていた。
『二兎を追う者は一兎をも得ず』
 追おうとした刹那、そんな言葉が脳裏をよぎるがすぐ一笑に付す。
(あの二人のどこが兎だ。そんな可愛いものではない。あの俊敏さ、まるで猫と狐だ)
 余計な思考を断ち切り、すぐさま走りだす。標的は──リサ。
 特に理由は無い。強いて言うなら、旧帝国軍人としての本能だろうか。

 帝国陸軍特殊歩兵部隊、その唯一の『完成体』である坂神蝉丸。
 そしてアメリカ軍大統領直属諜報機関ID13のエース、『地獄の女狐』リサ・ヴィクセン。
 
 新旧の軍人のチェイスはこうして幕を開けた。

「Good Luck、楓さん」
 そんな女狐の呟きを森に残して。



【リサと蝉丸、チェイス開始】
【楓は二人とは別の方向に逃走】
【場所 森】
【時間 四日目午前十時】
【登場 柏木楓、リサ・ヴィクセン、【坂神蝉丸】】
61御裾分け:03/07/23 22:08 ID:G22dFb0W
 三日目の夜、アパートの一室からは美味しそうな夕餉の匂いが漂っていた。
 肉じゃが、冷奴、茶碗蒸しと和食を中心としたかなり豪華なメニューが七瀬達の前の食卓に並ぶ。
 矢島が見つけた食料が豊富だった事、そしてなにより佐祐理の技量による結果だった。
「うわぁ……すごいわ」
「OK、流石だな俺。佐祐理さんに作ってもらって正解だったぜ」
「流石だ矢島者! 肉じゃがこそ漢のロマン!!」
「なるほど。料理で男心を獲得というわけか……これで折原浩平を……」
 口々に七瀬達は歓声を上げる。佐祐理は照れたようにパタパタと手を振った。
「あはは〜 たくさん作りましたので遠慮しないでくださいね〜」
 遠慮する者なんて誰もいなかった。

 熱い涙を流しながら肉じゃがをかみ締める垣本の隣で、七瀬は口を開いた。
「それで、これからどうしよっか? いっそのこと一緒に行動する?」
「そうですね。もう逃げ手の方々もあまり残っていないでしょうし、協力した方がよいと思います。
今更佐祐理の優勝は望めないでしょうが、
それならせめて一度ぐらいチームとして逃げ手の方に勝ってみたいです」
 わりと獲物との接触のある佐祐理だが、依然ポイントは0。
それほど勝負事にこだわる性格でもないのだが、やっぱりこれはちょっと悔しい。
「そうね……それならポイントの集中も考えないようにしよっか。
私も3ポイントしかゲットできてないし、優勝はちょっと無理だと思う。
なら、ポイントを手に入れるのは誰でもいいからチームで勝たない?」
「……賛成っすね。なんだかんだいって一万円ってのも馬鹿になんねぇし」
 5人で割るにしても2千円は学生には無視できない額である。
まあ、中には佐祐理のような例外もいるわけだが。
「垣本となつきさんもそれでいい?」
「俺は、佐祐理さんの望むままに……!!」
「出番さえあればそれで構わぬ」
 シンプルな二人の回答に七瀬と佐祐理は顔を見合わせて苦笑した。
「オッケー、それじゃ食べ終わったらもうちょっと今夜頑張ろうか!」
62御裾分け:03/07/23 22:13 ID:G22dFb0W
 それから数十分後、食卓の上の料理は綺麗に片付けられ、
5人は後片付けを始めていた。
「佐祐理さん、余った料理どうするの?」
 七瀬が持っている鍋の中にはまだ肉じゃがが残っている。
「あ、それお隣さんへのお裾分けのつもりでちょっと多めに作ったんですよ〜」
「お隣さん? ああ、確かにちょっと迷惑掛けちゃったもんね」
「はい。見つかった食材がたくさんありましたし、折角ですから」
 最初に注意されたにもかかわらず騒いでしまってお隣さんの安眠妨害をしてしまったのだ。
佐祐理には直接の関係はなかったが、悪い感情を持たれたまま分かれるというのも後味が悪いと思う。

 佐祐理は鍋から肉じゃがをタッパーに移すと、
「それではちょっとお渡ししてきますね」
 と、七瀬達に声をかけて外に出た。

 コンコン、と相手がまだ寝ている事を考えて、佐祐理は遠慮がちにノックする。
(怒らないでくれるといいんですが……)
そう懸念する佐祐理の前で、さほど待つことなく扉が開かれた。
 背の高い穏やかな顔をした青年が佐祐理を出迎える。
「はい……おや、お隣さん。何か用かな?」
 最初に部屋に入る時に会った男だ。エプロンをつけているところを見ると、何か料理中らしい。
 佐祐理はタッパーを上げると、男の方に差し出した。
63御裾分け:03/07/23 22:15 ID:G22dFb0W
「あの、こちらが迷惑を掛けてしまったようなので、そのお詫びにと……」
「迷惑?」
 首を傾げた男に佐祐理は顛末をかいつまんで説明した。
「ああ……なるほど。こちらこそすまなかったね。僕が食糧を探している時に、
まさかそんなことになるなんて」

 タッパーを受け取りながらチラッと部屋の中を見る。
「彼らはまだ寝ているんだけど……」
「いえ、いいんです。ごめんなさいってお伝えください」
「……そうだね。本当は起こして挨拶した方がいいんだろうけれど、
彼らも本当に疲れているし勘弁してやってくれないかな」
「いえ、そんなお構いなく」

 ふと佐祐理は好奇心を覚えた。
「あの、それほどお疲れなんですか? まだ床に就くには早い時間だと思いますが」
「ああ……彼らには僕の妹を探してもらうために随分と無理をさせてしまってね。
申し訳ないことをしたと思ってるよ」

 青年は穏やかな視線をそっと伏せた。
「妹さんですか?」
「うん。瑠璃子といってね、本当に素敵な妹なんだが」
 フゥ、と青年はため息をつく。
「どうも僕には過保護なところがあってね……瑠璃子の都合や気持ちも考えずに追い掛け回してしまったよ」
「あの……喧嘩してしまったのですか?」
「喧嘩というか、うん、嫌われてはしまったかな。自分の気持ちを押し付けしすぎてね。
馬鹿なことをしたと思うよ、今では。それに仲間達にも負担を掛けてしまったしね」
 青年は頭を下げた。
64御裾分け:03/07/23 22:19 ID:G22dFb0W
「彼らにも打算があったんだろうけど……それでも僕の我侭に無理して付き合ってくれてね。
だからすまない。君の友人に手荒な事をしたようだけど、許してやってくれないかな」
 青年の謝罪に、佐祐理はたおやかに首を振った。
「悪いのはこっちです。それに……」
 相手の目を見て、静かに言う。

「妹さんの事、たとえ間違ってしまったとしても、
思わないよりは思った方がずっといいって、そう思います」
 自分でも気づかないうちに、佐祐理は右手で左の手首を掴んでいた。
「―――本当に、本当に、そう、思います」

 佐祐理の真剣な様子に青年は少し驚いた眼をしたが、やがてフッと微笑んだ。
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ」
 それからワシャワシャと頭をかく。
「いや、つまらない愚痴を言ってしまったね。
ええと、彼らが起きたのならそちらに挨拶にいかせるけど……」
「あ、すいません、もう出ちゃいます。よろしくお伝えください」
「そうかい。分かったよ。……それじゃ頑張ってね」
 はい、と佐祐理はいうと、ペコリと頭を下げた。

「どうだった? なんか怒られちゃったりしちゃった?」
「大丈夫でしたよ〜 感じの良い人でした」
「そっか良かったわね」
 七瀬はグッと拳を上に突き上げた。
「うっし!! まずは一勝! 頑張るわよ!!」
 オウ! と他の4人も声を上げ5人の鬼の姿は夜の闇の中に消えた。
65御裾分け:03/07/23 22:21 ID:G22dFb0W
「そうか……これは、お隣さんが差し入れなのか」
 久瀬は肉じゃがを箸で摘み口に入れた。美味しい。
月島の作ってくれた料理もなかなかの味だったし、
オボロが初日に用意してくれたサバイバルな食事も良かったが、
この肉じゃがはそれと比しても群を抜いていると思う。
(つくづく僕は食に関して恵まれているみたいだね)

 オボロも満足そうだった。凄いスピードで箸を進める。
「たいしたもんだな。これなら寝てるところを起こされた分を指しい引いてもお釣りが来るな」
「そうだね。お礼を言わないと」
 久瀬の言葉に、月島は首を振った。
「いや、もう行ってしまったらしいよ……しまったな、名前を聞くのを忘れてしまったよ」
「そうか。残念だな」
「まあ、この鬼ごっこが終われば会えるだろう。多分ね」
「それもそうだな……それで、これからどうする? 久瀬の女を捜すんだよな?」
 オボロの言葉にブッと久瀬はご飯を吐いた。顔を真っ赤にしてむせる。

「な、何だって……!?」
「どうした? 倉田佐祐理って奴を探すんじゃなかったのか?」
 キョトンとした顔でオボロは首を傾げる。
「それは探すつもりだが!! 倉田さんは僕の……」
 ガックリと肩を落として、久瀬は呟いた。
「別に恋人ってわけじゃないんだよ……」
「そ、そうなのか……?」
「そうさ……というか……」
 さらに肩を落とす。
「……どっちかというと嫌われていると思う」
「……嫌われているのかい?」
「うん、おそらくは……」
 ドヨーンと場の空気が重くなる。
66御裾分け:03/07/23 22:22 ID:G22dFb0W
 久瀬はうつむくと、続けた。
「いや、悪いのは僕なんだけどね……ちょっと姑息な事をしてしまって」
 佐祐理の親友の川澄舞の素行に問題があったこと、彼女に退学を求める声が上がっていた事、
彼女の復学と引き換えに佐祐理を生徒会に入れようとしたことを告げる。
「それは……確かにちょっと……姑息かも、な」
「でも、それで川澄さんは復学できたんじゃないのかい? 素行に問題があったのは事実なんだよね?」
 月島がフォローするが、久瀬は首を振った。

「いや、今では川澄さんにも何か理由があったのだと思うよ。なんといっても倉田さんのご友人なわけだしね。
まあ、その理由を話さなかった川澄さんにも非はあるだろうけど、
僕達が原因究明に積極的でなかったのもまた事実だ」
 少し黙った後、久瀬は目を閉じて付け加えた。
「結局のところ、僕は川澄さんに嫉妬していたのかもね。
本当に倉田さんとは仲の良い親友同士みたいだったから」
 フッと自嘲する。
「それで悪いのは川澄さんと思うことで、自分の行動を正当化したわけだ。
全く、相手の気持ちも考えずに自分の好意の押し付けをしていたんじゃ世話がないな、僕は。お隣さんを笑えないよ」
「好意の押し付け、か……耳が痛いな」
「そうだね……」
 久瀬とオボロと月島はしばし押し黙り、それぞれの想い人のことを考えた。
接し方を間違えてしまった想い人のことを。
67御裾分け:03/07/23 22:23 ID:G22dFb0W
 やがてオボロは舌打ちをした。
「チッ……どうにも湿っぽい空気だな。酒が欲しいところだ」
 月島がニヤッと笑った。
「そうだろうと思ってね。ほんの少しだがビールを屋台で買ってきたよ。
今夜はここでのんびりしないかい?」
「……そうだね。うん、そうしよう」
 久瀬はうなずいた。いつもの自分だったら、『未成年の飲酒なんて!』と、
騒いでいたのかもしれないな、とかそんなことを思う。
「まあ、パーッとやろうぜ。久瀬もその倉田ってやつをまだ諦めるつもりはないんだろ?」
「……当然だろう?」
 暗い雰囲気を吹き飛ばすようにバンバン背を叩くオボロに、久瀬もニヤリと笑い返した。

 いつか、恋人といわないまでも、せめて普通に会話できる仲にはなりたいと、
できれば昼ごとに舞に食べさせているという佐祐理の手料理が口にできる日がくればいいと、
肉じゃがをつつきながら、そう思った。

【三日目夜 アパートの一室】
【登場鬼 【倉田佐祐理】【七瀬留美】【清水なつき】【矢島】【垣本】【久瀬】【オボロ】【月島拓也】】
68ホテルの攻防戦再び:03/07/24 01:13 ID:hBNiKelR
 芳晴と別れた大志と瑞希はホテルの二階、その中のある一室に戻って来た。
 その部屋では今起きているホテル組が一堂に会していた。
 メンバーは往人、ウルト、雪見、真希、まなみ、健太郎、なつみ。千紗とアルルゥは睡魔に勝てず、またユズハは
体調が体調のため、今は別室で夢の中である。
「で、相手は何だって?」
 大志の姿を認めるや問いかけてくる往人。それに大志はメガネに手をそえて返す。
「うむ。奴等の提示してきた条件は『不干渉なれども邪魔もせず』、我輩はそれに同意した」
「どういうことです?」
「つまりお互いに協力して逃げ手を追いつめる事もなければ、彼らを潰すこともこちらが潰されることもない。
 逃げ手を捕まえたくばこちらの全力をつくすしかないというわけだ、同志ウルトリィ」
「おい待て、いつからウルトがお前の同志になった」
「いつからも何も、我々は今から協力してここに飛び込んできた夏の虫を追いつめる、いわばチームではないか。
 違うか? 同志国崎往人よ」
「……勝手にしろ」
 吐き捨てる。今は呼び方のことで言い争っている場合ではない。なにしろ。
「お前がそんな協定を結んだと言うことは、相手はただの鬼じゃないな」
 往人の目が鋭くなる。そもそもこの深夜にホテルに乗り込んできた連中の様子を大志が見に赴いたのは
もし交渉に事が及んだ場合、この男の右に出るものはいないと踏んだからだ。
 それが向こうの言い分を飲む形で帰ってきた。ということは少なくとも相手は常人ではない。
 なぜなら、まともな神経の持ち主ならこの男と相対して無事に済むはずがないからだ。
 それが今ここにいる人間全員の共通見解だった。
 昨日から行動を共にしている往人たちはともかく、出会って半日しか経っていない健太郎や真希たちまでに
そう思わせている辺り、この男の性格が窺い知れる。
69ホテルの攻防戦再び:03/07/24 01:15 ID:hBNiKelR
「うむ。相手はいわゆるエクソシストらしい。少なくとも力は本物だ」
 目の前で石像を破壊したことを語る。と、それまで黙っていた真希が不安げに口を開いた。
「ちょっとお、そんなのが必死になって追っかけてるなんて、相手は悪魔か何かじゃないでしょうね」
 無い、とは言いきれない。悪魔の一匹や二匹くらい居てもおかしくないのだ、今のこの島は。
「それはないと思うわ。いくらなんでも悪魔がこんな所で鬼ごっこして遊んでるって事はないでしょ」
 真希の言葉を些か強引な理論で否定したのはまなみだ。まあ鬼ごっこに興じている悪魔は居なくても、屋台で
必死に商売をしている魔族は居たりするのだが、それは彼女の知るところではない。
 ともあれ作戦会議を開こうとしたとき、二人の少女の声があがった。
「まあ頑張ってちょうだい。私は寝るから」
「私もそうさせてもらいます」
 そう言って立ち上がったのは雪見となつみ。そのまま部屋を出ていこうとするのを、まなみと健太郎が慌てて引き留める。
「ちょ、ちょっといいの? これはチャンスなのよ!」
「そう言われてもねえ。まだ足が本調子じゃないし、私は昼間に二人捕まえたからもういいわ。じゃ、お休み」
「なつみちゃん、せっかくの出番を棒に振る気か!?」
「私はそれなりに出番ありましたし……そんな情けない顔しないで下さい、店長さん」
 挨拶と一礼を残して去っていく二人。まなみと健太郎はまだ納得していない様子だったが、無理に引き留めることもないと
考え直し、作戦会議の輪の中に戻っていった。
70ホテルの攻防戦再び:03/07/24 01:16 ID:hBNiKelR
 五分後、彼らは部屋をあとにした。
 作戦といっても大したものではない。しらみ潰しに探して、見つけて、捕まえる。もし万が一協定が破られた場合、
芳晴の力にはウルトの術で対抗する。
 人数はこちらの方が多い。下手に色々決めてしまうより、状況に応じて動こうということになった。
「足を引っ張るなよ」
「フン、誰に向かって言っているつもりだ」
 不敵に笑う往人と大志。それを見て他のメンバーは何故か不思議な頼もしさを感じた。
 昨日、敵として知力の限りを尽くした二人が、今は手を取りチームとして動いている。
 何やら不思議な縁のような物を感じつつ、彼らは行動を開始した。



【大志、瑞希、往人、ウルト、広瀬、まなみ、健太郎 ポイントゲット目指し始動】
【雪見、なつみ 戦線離脱、就寝】
【千紗、アルルゥ、ユズハ 既に夢の中。側にはガチャタラとムックルも】
【場所 鶴来屋別館、二階】
【時間 三日目深夜】
【登場 【久品仏大志】、【高瀬瑞希】、【国崎往人】、【ウルトリィ】、【塚本千紗】、【深山雪見】、【広瀬真希】、
    【皆瀬まなみ】、【宮田健太郎】、【牧部なつみ】、【アルルゥ】、【ユズハ】、『ムックル』、『ガチャタラ』】
71おとーさんの怒り:03/07/24 19:57 ID:G5WdxiYi
「しっかし、このホテル大きいわね。しらみ潰したって時間がかかるんじゃない?」
 コリンの言葉に芳晴はため息をついた。
 確かにそのとおりだ。忌々しいことに何者かが客室に罠を張っているせいでなおさら手間がかかっている。
「時間は気にしなくていいさ。根気よくやれば必ず獲物が見つかるはずだ」
「あの眼鏡の男とその仲間達に上前はねられるかもよ?」
「あいつらだって手間はかかっているはずだ。俺たち以上にね」
「そりゃまあ、あいつらにはあたしみたいに壁抜けはできないだろうけどね」
 コリンはトリモチ銃を担ぎ直すと言った。
「確認するけど、獲物はあたしがタッチしちゃっても構わないのね?」
「ああ。俺たちの目的は由美子さんのところに柳川さんを連行する事だからな」
「ふーん、随分と入れ込んでるのね?」
 コリンは面白くなさそうに呟くと、
「ま、こっちはポイントゲットできるから文句ないけどね」
 と付け足した。
「だろ? なら、ほら頼むよ」
「へーいへいっと」
 コリンは投げやりに呟くと壁をすり抜け、部屋の中へと消えていった。

 芳晴達の戦術は単純だった。一つずつ部屋を調べ獲物を探る。
多少工夫している点を上げるならば、コリンを壁抜けさせて先行させ、
自分は扉の前で待ち構えているという事だ。
 コリンが不意打ちをできればよし。コリンのトリモチ銃でしとめられたのなら言う事はない。
だが、奇襲が失敗したとしても獲物は扉から廊下の方に逃げるはず。
そこを芳晴が待ち構えるというわけだ。

 そうやって、芳晴達は既にいくつもの部屋を調べていた。依然として獲物には遭遇できないが、
確実に追い詰めているはずだ、と自分に言い聞かせる。
 そして―――
72おとーさんの怒り:03/07/24 19:58 ID:G5WdxiYi
(誰かいるわね?)
 音もなく客室の一室に侵入したコリンはスッと目を細めた。
この客室は随分と大きい。おそらく多人数用だろう。ベッドのいくつかの上にこんもりと黒い山が見え、
クークーと寝息まで聞こえてくる。
(呑気なもんね。そんじゃゲットしちゃいましょうか)
 内心でほくそ笑みながら、ジリジリとベッドに近づく。が、
「グルルルルウゥ」
 そのコリンの背に奇妙なうなり声と生臭い息が降りかかった。
 
「ギニャー!!」
「……な!? コリン!?」
 客室の中から聞こえてきたコリンの叫び声に、芳晴は驚きの声を上げる。
「どうした!?」
 慌てて扉を開けて中に踏み込む。
 暗い。状況がつかめない。
 コリンの悲鳴となにか獣のうなり声が聞こえ、部屋の端のベッドの上でムックリと何かが起き上がるのが見えた。
「……!? 獲物か!?」
 芳晴はベッドの方に飛び掛り、相手を押し倒す。
 ムニュっと柔らかい感触が右手を包む。
「ん〜!?」
「おとなしくしろ!!」
 じたばたと暴れる相手を芳晴は押さえつける。 
「い、いや! 芳晴助けて〜!?」
「な……!?」
 コリンの声が響き、獣が吼え、芳晴は半分パニックに襲われて―――
「あんたら……何やってるのよ?」
 戸口からの呆れたような声とともにパッと明かりがついた。
73おとーさんの怒り:03/07/24 20:00 ID:G5WdxiYi
(いかん……眠いぞ)
 ハクオロは己の頬を叩いた。本当に疲労がたまっているらしい。今すぐ床に横になりたい。
(とはいえ彼女たちを起こすのも不憫だしな)
 ベッドでは美凪とみちるがかわいい寝息を立てている。
美凪は見張りを代わるといっていたが、やはり起こすのは忍びなかった。
(しかし、私とてこの眠気なのだ。外の由美子とやらは大丈夫なのか?)
 相手の能力が分からない以上、なんともいえないが……

 ヴォフゥゥゥ……!!

 階下から聞こえてくる獣のうなり声に、ハクオロは顔を上げた。
「ムックルか?」
 特徴のあるうなり声だ。おそらくは間違いないだろう。
(ムックルはアルルゥと共にいるはずだが……)
 しばし躊躇した後、ハクオロは美凪を起こした。
「ん……ハクオロさん……おっぱよー」
 目をこすりよく分からないことを(これはいつものことだが)つぶやく美凪に、
ハクオロは申し訳なさそうに告げた。
「すまぬ、美凪。目を覚ましてくれ。どうも階下で騒ぎがあるようだ」
「ん……ほんとですね。鬼さん?」
「かもしれぬ」
 ハクオロは慎重に窓の外をうかがった。由美子の姿は見えない。
こちらの面にはいないのだろうか……?
「様子を探ってくる。しばらく見張りのほう、頼むぞ」
 美凪がうなずくのを確認して、ハクオロはベランダに出て身を乗り出し下の方を見る。
果たして、二階下に明かりが付いている部屋が見つかった。
(ベランダを伝っていけば、近くまではいけそうだが……)
 その途中で、外にいるはずの由美子に発見される可能性もある。だが―――
(アルルゥのことが気にかかるしな)
 美凪に向かって手振りで合図すると、ハクオロは音を立てず慎重にベランダを渡り始めた。
74おとーさんの怒り:03/07/24 20:01 ID:G5WdxiYi
(なるほど、エクソシストってこいつらなんだ)
 軽い頭痛を覚えながら雪見は思った。となりでなつみも唖然としている。
 隣室の騒ぎに起きて駆けつけてみれば、眼前に移るのは4人の鬼と一匹の獣。
男の鬼はベッド上のアルルゥにのしかかり、女の鬼はムックルに襲われて、ユズハは部屋の隅でガタガタ震えていた。
「あー……鬼か……」
 しばしの静寂の後、アルルゥの襷にきづいて男の鬼の方がきまり悪げに呟いた。
「いや、迷惑を掛けました……」
「とりあえず、さ」
 雪見は冷たく告げた。
「いい加減アルルゥさんの胸揉むのやめたら?」
「あ……え!? あの!?」
 雪見の指摘に男は右手がアルルゥの胸を掴んでいるのに気づき、右手を引っ込めるよりも早く、
「ムックル」
 冷たいアルルゥの声が響き、ムックルは男に襲い掛かった。

 身軽にハクオロはベランダを伝って、明かりのついている部屋のすぐ上のベランダに移動した。
スッと金属製の扇を開き、慎重に下に突き出す。扇に反射して部屋の様子が伺えた。
「アルルゥにユズハか……」
 既に声が届いていた事もあり、驚きはしなかった。
金が入った途端に探していたアルルゥにめぐり合うというのも皮肉だと思ったが。
 階下では他に4人の鬼がいた。そのうちの一人も知った顔だ。
「由美子と共にいた青年か。やはり追ってきたのだな」
 ハクオロは歯噛みすると、息を潜め階下の様子を探った。

「いや、本当に申し訳ない」
 ボロボロになった芳晴は頭を下げた。プイッとアルルゥは顔をそむける。
 既に互いの素性は明かしていた。雪見達に獲物をつかまえる意図がない事も告げている。
(まあ、健太郎さん達のことを教えてあげるほどおひとよしでもないけどね)
 と、雪見は胸中でつぶやいた。
 逃げ手の取り合いに興味はないが、別に彼らに協力的になる理由もない。
75おとーさんの怒り:03/07/24 20:02 ID:G5WdxiYi
「それにしても、ずいぶん重装備ですね」
 なつみが呆れたように聞いた。
 トリモチ銃、唐辛子銃、ネットランチャーに十字架等の良く分からない装備。
 よくそれだけお金があるわね、と雪見も思った。
「ああ。この島限定の商品券を見つけたんです」
「へぇ……そりゃうらやましいわ」
「あの、そういえばコリンさんはどうやって部屋の中に入ったんですか?」
 今度はユズハが聞いた。
「ユズハは耳には少し自信があるんですが、扉を開かずに部屋の中に入りましたよね?」
「ああ、あたし壁抜けができるのよ。ほら」
 雪見達にやる気のない事を知って油断しているのか、あっさりコリンは己の能力を明かした。
壁に手をやり、突き抜けさせる。
 だが、それは誤りであった。

(豊富な装備に壁抜けか……これは強敵だな)
 ハクオロは上のベランダで嘆息した。
(身を隠す事も難しいかも知れぬ……なにか策が必要かもしれないな)
  
「そんじゃ、邪魔したね。お休みー」
「それでは良い夢を」
 別れの言葉を告げる芳晴達にアルルゥはボソッとつぶやいた。
「……煉獄に行っちゃえ。主に芳晴」
 その言葉に、芳晴が凍りつく。
「いや、アルルゥさん……?」
「ま、しょうがないわよアルルゥさんだって乙女なわけだし、
寝込みに教われて胸をもまれたら怒りもするわ」
 プイッと再び顔を背けるアルルゥにかわって、雪見が肩をすくめて言った。 
76おとーさんの怒り:03/07/24 20:03 ID:G5WdxiYi
 ホゥ、とハクオロはつぶやいた。
 なるほど、アルルゥの胸を揉んだ、と。なるほど。ふむ、そうか。
 揉んだわけだ。胸を。あの男は、その手で。アルルゥの、愛娘の、胸を。
 揉んだのだな、揉みしだいたのだな。我ノ、娘ノ、胸ヲ。
 ククク、とハクオロは咽喉の奥で笑うと、
芳晴達がアルルゥ達の部屋から逃げるように移動するのを確認して、元の部屋へ戻り始めた。  

 ソ ノ 行 イ 決 シ テ 許 サ ヌ ゾ ―――

「お〜 オロ、戻ったか……って、オロ?」
 ハクオロが無事に部屋に戻ってきた時は、みちるも既に起こされていた。
 寝ぼけなまこで目をこすっていたが、ハクオロのどす黒い雰囲気にびびって目が覚める。
「ど、どうしたオロ。目が赤いぞ」
「ハクオロさん、血の涙?」
「フッ、フフフフ……許さん……許さんぞ、おとーさんは」
 ブツブツとハクオロはつぶやく。美凪はフゥ、とため息をついた。
「みちる、GO」
「帰って来いゴルァ!!」
 みちるの脛がハクオロの鳩尾にめり込んだ。

「なるほど……確かに強敵さんです……」
「うにゅ……逃げ切れるのかな……」
 報告を聞いて不安そうに二人に、ハクオロは首を振った。
「難しいかもしれないな。特に壁抜けの能力の方は厄介だ。特にこのようなところではな」
 実際この瞬間にも、床から手が伸びてきてもおかしくないのだ。
「どうしたものかな」
 あまり時間はない。虱潰しもすぐにここまでくるだろう。移動するなら早くしなければ。
 だが、できることならこの二人をもっと休ませたい。自分もまた休む必要がある。
(いや、相手の行動は読めてるのだ。あるいは―――)
 しばらくの沈黙のあと、ハクオロは口を開いた。
「自分が怒りによって行動しているわけではないと信じたいが……一つ考えがある」
77おとーさんの怒り:03/07/24 20:05 ID:G5WdxiYi
 アルルゥ達との一件の後、懲りずに芳晴達はしらみ潰しを続けていた。
アルルゥ達のすぐ上の階を終え、さらに上の階にうつる。
 だが、そこで芳晴は目を見開いた。
「な、なに!?」
 芳晴達の視線の先、廊下の暗がりの中で仮面の男をはじめとした三人の獲物が仁王立ちしていたのだ。
(ど、どういうつもりだ?)
 意外な展開に芳晴は戸惑った。いや、チャンスなのは間違いない。コリンによる奇襲はできなくなってしまったけど……
 だが、駆け出そうとする芳晴を前にして、仮面の男はスッと手を上げた。
「待て。話がある」
「……話ですか?」
「君たちの目標は我らではないはず。ここは見逃してもらえないだろうか?」
 言われて芳晴は目を細めた。確かにここにはターゲットたる柳川の姿はない。
 だが―――
「甘いですね! 問答無用です!!」
 芳晴とコリンは駆け出した。確かに彼らはターゲットではない。だが獲物には他ならない。
なにより、ここで仮面の男を鬼にすれば柳川達はもうその力に頼る事はできなくなる。
「ちっ!! 止むをえん!! ウィツアルテネミアになって脱出するぞ!!」
 仮面の男は舌打ちしながら、二人の少女と共に横の部屋の中に飛び込む。
 バタン、とその扉が閉められる。
(窓の外から脱出する気か!?)
 それは厄介な事態だ。再度あの化け物に変身されて逃げられてしまう。
 由美子がいるとはいえ、彼女が仮面の男を追いかけたら、今度は柳川達がホテルから脱出してしまう。
(ならばその前に捕まえる!!)
 芳晴は叫んだ。
「コリン!!」
「分かってるわ!!」
78おとーさんの怒り:03/07/24 20:05 ID:G5WdxiYi
 先行したのはコリンだ。
 全速力で扉に駆け抜ける。
(こんな扉なんて!)
 仮にこの扉に鍵が掛けられているとしても、そんなことはコリンには無意味だ。
 扉を開けるためにスピードを落とす必要さえない。
 スッとコリンは扉をすり抜け、
 速度を落とさぬまま部屋の中に入り、

 ゴツン

 部屋の中、扉のまん前に不自然に立てられていた箪笥に激突して、
 目から火花が散って、
 あっさり意識を失った。

「……!?」
 コリンがすり抜けた扉の向こう、
 ゴツンという音、そしてバシュっという発射音がして、芳晴の頭に一瞬だけ疑問符が浮かんだ。
 だが、その疑問符が行動に影響するより前に、客室の扉を開き室内に飛び込もうとして―――
「一度は機会を与えたぞ」
 扉が開いた先、
 眼前に銃身、コリンのトリモチ銃を構える仮面の男。
 己の敗北を悟るより早く、トリガーが引かれ、
 ゼロ距離からトリモチをくらい、吹っ飛ばされて、壁に叩きつけられて、芳晴は意識を失った。
79おとーさんの怒り:03/07/24 20:05 ID:G5WdxiYi
「まあ、こんなところだな」
 念のために、鬼二人にトリモチ弾を何発か発射し、
身動きを完全に取れないようにするとハクオロは息をついた。
「パチパチ、お見事でした」
「いや、運がよかっただけだ」
 壁をすり抜ける能力があったとしても、壁をすりぬける瞬間は目の前が見えなくだろう。
 だからあらかじめ逃げ込む部屋を決め、扉の前に激突するような障害物を置き、罠とした。
 その後は、コリンからトリモチ銃をうばい(相手の意識がなくなったのは幸運だった)、コリンを仕留め、
さらに飛び込んできた芳晴への不意打ち、ゼロ距離射撃。
(まあ、おとーさんの怒りだな。悪く思うな)
 ハクオロは胸中でつぶやくと、芳晴の持っていた唐辛子銃とネットランチャーを調べる。
「それももっていくのですか?」
「いや……こうもトリモチまみれだとおそらく使えないだろう」
 それでも一応は弾を銃から取り出して、無害化させる。
「さて、そろそろ移動するぞ。まだ旅館内に鬼はいるようだからな。油断はできん」
 
 三日目、長い夜。夜明けまであと数時間。

【三日目深夜 鶴来屋別館】
【ハクオロチーム トリモチ銃ゲット】
【芳晴、コリン ダウン。トリモチによって動けない。トリモチ銃、唐辛子銃、ネットランチャーロスト】
【登場 ハクオロ、遠野美凪、みちる】
【登場鬼 【城戸芳晴】、【コリン】、【アルルゥ】、【ユズハ】、【深山雪見】、【牧部なつみ】、【小出由美子】】
【登場動物 『ムックル』、『ガチャタラ』】
80川澄舞:03/07/26 11:40 ID:P7cBhp0a

(大白蓮華 昭和31年4月号)
「国立戒壇の建立こそ、悠遠六百七十有余年来の日蓮正宗の宿願であり、また創価学会の唯一の大目的なのであります」

(大白蓮華、昭和34年6月号)
「大聖人様の至上命令である国立戒壇建立のためには、関所ともいうべき、
どうしても通らなければならないのが、創価学会の選挙なのでございます」

ttp://society.2ch.net/test/read.cgi/koumei/1057065225/

私は選挙に勝つ者だから
81Bookmark:03/07/27 02:16 ID:Yu18n3MW
 ●月△日 雨
 突然私は鶴来屋のリゾートアイランドに招かれました。
 話を聞いてみれば祐一さんも一緒とのことです。
 病み上がりの美少女が恋人(暫定)と一緒に小旅行なんてドラマみたいで素敵ですよね。
 島へ向かう船の中、いきなりお姉ちゃんが私に言いました。
「あなたの部屋は私と同じだから。くれぐれも相沢君と二人っきりになんてしないわよ」
 嗚呼マイ・ラヴァー・シスターミサカカオリ。なぜあなたは美坂香里なの? なぜ私の心を見透かしたようにそんな台詞を吐くのですか?
 せっかく今回は祐一さんとのアヴァンチュール・ナイトを過ごさんと毎日の楽しみだったドラッグ咀嚼ごっこを一ヶ月も我慢して
 浮いたお金で勝負パンツ(黒レース・ガーター付き)を履いてきたといいますのに。
82Bookmark:03/07/27 02:16 ID:Yu18n3MW
 そんなように渡世の不条理に我が憂鬱をたなびかせていると、いつの間にかあゆさんが私の後ろに立っていますか。
 私はテレビで見たファッションショーのモデルのように鋭角的ターンをかますと、天使の微笑みとともに問いかけます。
「どうなさったんですかこの時期にも関わらずミトンの手袋アァンドダッフルコートなんていう季節感超絶シカトって感じの服装を極めてくれてる月宮あゆさん?」
「ウンちょっとご都合主義の名の下にボクの奇跡を忘れし恩知らずなる栞ちゃんに聞きたいことがあるんだよ」
「手短にお願いしますよ私は大至急思考という名の人類にのみ許された至高の脳内活動に時をゆだねなければならないのですから」
「プ。それってひょっとして思考と至高を掛けた洒落のつもり? やっぱり黄泉返りのギャグセンスはひと味違うね。ボクみたいな常人には理解できないよ」
「七年間も病院のベッドの上で過ごした半死人ていうかほとんど怨霊の存在に言われたくありませんねていうか塩撒くぞゴルァ」
「やれるものならやってみるがいいんだよこう見えてもボクは普通の怨霊とは格が違うんだよ格がね。ボクはどこにでもいてどこにもいない。
 自由自在にアストラルバディとマテリアライズの狭間を行き来できる堕天使ルシフェルもびっくりな特殊能力を持ってるんだよ。そこらの不浄の霊とは一緒にしてもらいたくないねへへん」
「あーあーそうですかそうですか。つまりあなたはルーシェ・レンレンと言うわけですねよぉくわかりましたアイアンダスタン。
 だったらせいぜい設定の継ぎ接ぎに溶接と歪曲を加えた上ペースの崩壊した連載間隔に意味不明な物語を乗せてせいぜい好き勝手に絵を描いててください誰も止めはしないですから」
83Bookmark:03/07/27 02:17 ID:Yu18n3MW
「うぐぅ、ひどいよ栞ちゃん。そんなネタ、今の若い者にはわからないよ」
「病弱少女のお茶目なジョークです。それであゆさん、何のご用ですか?」
「ボクのたい焼きが無くなっちゃったんだよ。最後の一つ、大事に大事にとっておいたのに……栞ちゃん、知らない?」
「あゆさんのたい焼きは知りませんけど先ほど祐一さんの同居人のフォクシーガールが嬉しそうにたい焼きを頬張っていましたね。
 こんな海の上でどこから持ってきたのか言われてみればとっても不可思議です」
「そうかよし殺す!」

 いきみ勇んで包丁を手に、あゆさんは船倉の中へと戻っていきました。
「善いことをした後は気持ちがいいです…………」
 甲板の先に立つと、おだやかな潮風が頬を撫でてきます。
 後ろから聞こえてきた断末魔の悲鳴も今はまるで極上のオーケストラのよう……
 ああ、これで。あとはこれで。私の隣に祐一さんがいてくれれば。
 ちょっとはにかんだ微笑みとともに、ゆっくりと私の肩に手を回し、2人の顔は向き合って、
 そして、そして、そして……ゆっくりと……
 
84Bookmark:03/07/27 02:18 ID:Yu18n3MW
「だ、ダメだよ栞ちゃん……。確かに君が可愛いのは認めるけど、やっぱり親友の妹と『そいういうこと』をするってのは……」
 ………………。
 えーとえーと。落ち着け私。クールダウンミー。栞、状況を把握しなさい。
 私は今森の中。木の根本。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。オーケーそれは問題ない。オールライトだ美坂栞。
 だがしかしここからが問題だ。そうだ。
 私の隣には北川潤が座っている。どうやら眠っていた私に肩を貸してくれていたようだ。ノープロブレム役得だな潤。
 しかしその顔は今尋常じゃなく赤くなっており、私の目の前数センチという場所に位置している。
 つまりこれはそのなんだ、先ほどの夢と状況を合致させると……
 
 ドボッ!
 
 起き抜けの一撃。みぞおちに黄金の膝を叩き込んでやりました。
 足下で悶絶する触角男に向かい、言ってやります。
「北川×栞が(・∀・)イイ! なんて言う人嫌いです。脇役は脇役とくっついていればいいんです。せいぜいお姉ちゃんと仲良くしててください」
 鬱だ。
 結局解読は全然進んでない。
 もっと頑張って英語の勉強しておけばよかった……
 
【栞 起床】
【場所 森の一角】
【時間 四日目朝】
【登場 【美坂栞】【北川潤】【住井護】】
85名無しさんだよもん:03/07/27 02:43 ID:l7NsUWuV
イイ!
86詩子タイフーン:03/07/27 15:36 ID:8qh4VrJh
「う、うーん、あれ、暗い…」
詩子は、程なくして薄暗いガレージの中で目を覚ました。
「詩子さん、起きた?」
隣りで蹲っていた観鈴がそれに気付く。
「観鈴ちゃん…? あれ…茜は…師匠は…?」
詩子は身体を起こして辺りを見る。そこには観鈴以外誰の姿も見受けられない。
頭を振ると、猛烈に頭が痛い。二日酔いだ。
「いつつ…」
「詩子さん、大丈夫?」
観鈴が心配そうに訊ねるが、詩子は大丈夫、と薄く笑ってみせた。
「ところで、師匠は?」
「お母さんは……がぉ…鬼さんに捕まっちゃった…」
観鈴が痛みをこらえるような顔をしてぽつりと呟く。
「ええぇぇっ!?」
詩子は信じられない、と頭の痛みも忘れ、大声を上げて驚いた。
「そんな…師匠が…一体誰が!」
掴みかからんばかりの勢いで詩子は観鈴に近づく。
「が、がぉ…知らない…」
「そっか…」
観鈴がすまなさそうに答えると、詩子はガックリと肩を落とした。
「…ところで、何でこんな所に居るの?」
詩子はふらつく頭を押さえて観鈴に訊いた。
「ベナウィさんが、ここに連れてきてくれたの」
「で、当のベナやんは?」
いつの間にかベナやん呼びの詩子。
「どこかに行っちゃった…シシェさんも一緒…」
「じゃあ、茜は? 澪ちゃんは?」
「多分、ベナウィさんと一緒…」
詩子は、はぁ、と息をついた。つまり置いていかれたのだ、自分達は。
87詩子タイフーン:03/07/27 15:37 ID:8qh4VrJh
「でも、バイクはあるから…」
「それだけが救いってことね…」
はぁ、ともう一度溜め息をついた。
多分、酔ってしんどいからだろう。

「結局逃げられちまったなあ…」
浩平達は、逃げた茜たちを追ってはみたものの、一緒に居た男(確かトウカがベナウィと呼んでいた)の謎の恐竜の足が思うよりも速く、結局追跡を断念したのだった。
「ホットケーキ…」
「むぅぅ…某としたことが…」
スフィーとトウカが悔しそうに呟く。
「残念だったね…」
「はい、残念でした…」
瑞佳とゆかりも残念そうだ。
「仕方ない、夕飯にするか…あー、腹減った…」
戻ってきた家を見上げ、浩平が言った。
「あ、ちょっと待ってください」
浩平がまさに家の前の階段を上ろうとしたとき、ゆかりが全員を呼び止めた。
「どうした伏見。今度は何だ?」
先ほどの名推理のこともあって、浩平は少し期待しつつ階段を戻った。
「このガレージ、見てください」
ゆかりがガレージを指差す。
「それがどうしたの?」
瑞佳が頭に?の文字を浮かべてそちらを見る。
「ちょっと思い出したんですけど、このガレージ、私達がここに来た時、閉まってましたっけ?」
「あれ、どうだったっけ…?」
「そういえば開いてたような気も…」
88詩子タイフーン:03/07/27 15:38 ID:8qh4VrJh
「確か、開いてました。考えてみてください、さっきの人たちと逃げていった恐竜、あれは多分このガレージの中にいたんですよ。だって、あんなのを家の中に入れるわけには行きませんから。
そして、そうなると世話をしていた人が居てもおかしくありません。そしてその人は、運悪く私達がこの家に入るのを見た」
ゆかりの勘は冴えわたる。一同はそれで理解した。
つまり、ここにもまだ逃げ手が潜んでいる可能性があるということだ。
いや、確実に居る。さっきの逃げ手たちにガレージを閉める余裕も必要性も無い。
「よっしゃ! ここで一気に稼ぐぞ! ガレージのスイッチはどこだ!?」
「えっと、えっと…ここ!」
瑞佳がガレージ脇に見つけたスイッチを、浩平が上げる。
ガレージのドアはゆっくりと上がる。逃げ手が現れるその瞬間をゆっくりと待つ。
果たして、逃げ手は現れた。
バイクに跨った、二人の逃げ手。
浩平と瑞佳はハンドルを握るほうに見覚えがあった。
ガレージが開ききると共に、バイクのエンジンを思い切りふかす、柚木詩子の姿が、そこにはあった。

観鈴と詩子は、ガレージの外が騒がしいのに気がついた。
「ま、まさか、鬼!?」
「が、がぉ…」
耳を澄まして会話を聞く。
すると、このガレージの中に逃げ手がまだ潜んでいることを示唆している少女の声があった。
「が、がぉ…ガレージ開けられちゃう…」
そうなれば万事休すだ。
――折角師匠が身を犠牲にして助けてくれたのに!
  このままじゃ師匠に合わせる顔が無い!
  こ、こうなったら!
詩子のテンションは、酔っているにもかかわらず再び上がり始めていた。
いや、テンションが上がってきたからこそ、酔いを忘れることができた。
ちなみに、晴子が捕まったのは自業自得なのだが、そんなツッコミはテンションの上がりきっている詩子に届くはずがない
89詩子タイフーン:03/07/27 15:39 ID:8qh4VrJh
「観鈴ちゃん、後ろに乗って!」
小声で詩子は観鈴に指示をだす。
観鈴が乗ったことを確認すると、詩子はキーを差込み、エンジンをふかし始めた。
狙うは強行突破。
ガレージが開ききると共に一気に突っ込んで逃げ切る。
そしてガレージが開ききった時、詩子の目に見慣れた顔が二つ飛び込んできた。

「お、折原君!? 瑞佳さん!?」
「ゆっ、柚木!?」
「詩子さん!?」
鬼の襷をかけている二人の知り合い。
確か話していた内容はここから逃げた鬼のこと。つまり茜たちのこと。
そして晴子はこの家で捕まった。
ということはつまり。
「そうか…折原君! あなたが師匠をその手にかけたのね!」
あっという間にテンション最高潮の詩子。普通に捕まえたと言えばいいものを、まるで殺したかのように、ビシィ! と指を突きつけて叫んだ。
「なっ、は、はぁ? 手にかけた…っていうか師匠って…」
いきなりとんでもない台詞を聞いた浩平、混乱状態に陥る。
それは周りの人間も同様で、いきなり現れ、いきなりとんでもないことを言うテンション最高潮の少女。
言わば詩子タイフーンに巻き込まれた一同は(観鈴含む)、動けなくなっていた。
「問答無用! あなたが師匠とこの観鈴ちゃんとの繋がりを裂いた罪は変わらないわ!」
そこまで言うことは無いだろうに。ていうか晴子はむしろ観鈴が友達と遊べることを望んでいるはずで。
浩平は何も言えず固まる。他の人間もそれは同様だった。
「ああ、師匠…師匠の意思は、この一番弟子! 柚木詩子が受け継ぎます!」
詩子さん、お母さん死んでない、死んでないよ。
観鈴はそんなツッコミを頭の中で思う。
90詩子タイフーン:03/07/27 15:39 ID:8qh4VrJh
「観鈴ちゃん捕まって! とうりゃー!」
いきなり詩子が浩平一行に突っ込む。
「おわっ! 危ねえ!」
我にかえった浩平がそれを避ける。
そして全員が我に帰った時目にした物は、見事なターンを決めて止まり、叫ぶ詩子の姿だった。
「師匠ー! 観鈴ちゃんは、この詩子ちゃんが守り抜きますからねー! 安心してくださーい!!!」
そして、
「詩子、いっきまーすっ!!!」
詩子はぶろろぉん、とエンジンの爆音を響かせて、走り去った。

残された浩平一行は。
「どうする…浩平殿…」
「いい…なんか疲れた…飯にしよう…」
『賛成ー…』
すごすごと家の中に戻っていった。

そして詩子はというと。
「あ痛たたたた…無茶しすぎたー…」
「が、がぉ…大丈夫? 詩子さん…」
二日酔いで苦しんでいた。
「ところで…茜たちはどこなの…?」

実は、茜達とは方向が逆だったんですよ、詩子さん。

【詩子 観鈴 詩子のテンションでなんとか逃げ切る 茜達とは逃げた方向が逆】
【浩平 瑞佳 スフィー ゆかり トウカ 家の中で夕食の準備】
【晴子 寝てる】
【三日目夜】
【登場逃げ手:柚木詩子 神尾観鈴】
【登場鬼:【折原浩平】【長森瑞佳】【スフィー】【伏見ゆかり】【トウカ】【神尾晴子】】
91名無しさんだよもん:03/07/27 15:44 ID:9lioQiYT
(・∀・)イイ!
92探し物はなんですか?:03/07/28 15:49 ID:pyeS6NBf
「じゃあ、料理作っちゃうね」
「ああ、任せた…って、あれ?」
 ダイニングに入った浩平は、ふと違和感を覚えた
「浩平?」
「…俺たちは、とんでもない見落としをしていたのかもしれない」
「な…なんだってーー!?」
 調子を合わせてくれたのはスフィーのみ
「あ、そうか」
 瑞佳も浩平の思うところに気付いたようだ
「メシはもうちょっと先な。 まずは2階だ」

 一応ノックしてから扉を開ける
「よし、徹底的に探せ」
 浩平の指示の元、それぞれが思い思いの場所を捜索する。当然ドタバタと五月蝿い
「お前ら」
 中央にでん!と敷かれた布団の中から、怨嗟の声が響いてきた
「なんのつもりや」
 ふて寝していた晴子さんは、当然の事ながら極不機嫌だった

「ひとつ、あんたに訊きたいことがある」
「ほお?」
「あんたと一緒に居た逃げ手は、さっきの連中だけか?」
 詩子の絶叫に続きいきなりの家捜しでそろそろ眼の覚めてきた晴子は、浩平の何か含むような言質を敏感に感じ取った
「…答える必要はないようやね」
 無難な解答で誤魔化し、布団に潜り込もうとする
「いいのか? この部屋を徹底的に荒らすぞ?」
(さて、まずは良く考えなあかんな)
93探し物はなんですか?:03/07/28 15:50 ID:pyeS6NBf
Q1.この鬼の言う「連中」とは、誰を指しているのか
Q2.この部屋を探しに来た以上、鬼はまだ何か逃げ手が居るという確証を得ているハズ
 以上を踏まえた上で、無難な解答は?
A1.ベナやんと茜は確実、外に出てひと悶着あったようなので観鈴や詩子も安定か
  詩子の言葉から察するに、観鈴は連れて行ってくれたようだ
A2.ベナやんの行動を鑑みるに、茜を連れて逃げ去った時に澪を連れてはいなかった
  時間的にガレージを往復したとは思えないので、澪が観鈴達と合流したかも怪しい
(目的は澪ちゃん、か)
 この少年は茜と知り合いのようだった。澪とも知り合いな確率は高い
 澪がまだこの家に残っている証拠でも手に入れたか?

「…逃げた連中ってのは、誰やねん」
 しばらく沈黙した後、晴子は口を開いた
「言う必要は無いな」
「ならウチかて言う事はない」
「この部屋を捜索するぞ?」
「邪魔せんと思うか?」
 浩平はフム、と考え込む。 考える時間を与えてしまったのが失敗だったか
「…俺は、かなりの確率でこの家にまだ逃げ手が潜んでいると思っている」
「ほう?」
「あんたと一緒に居た茜と、さっき叫んでいた詩子は知り合いだ」
「ふむ」
「俺はある事実を掴んで、この家に知り合いが居ると判断し、あの二人を見てほぼ確信した」
「うーん、ウチはあんたの事知らんがなあ」
「…ちっ、まともに返答する気は無しか」
「当たり前やん。 誰か残ってようが残ってまいが、これ以上ヘマやる訳にはいかんからなあ」

 浩平は晴子から情報を引き出す事を諦め、部屋の捜索に戻った
「あー、その押入れは…」
「さて、隣りの部屋で寝るか…」
 勿論、晴子は散々に邪魔したが
94探し物はなんですか?:03/07/28 15:50 ID:pyeS6NBf
 その頃、澪は
(蜘蛛怖いの暗いの怖いのゲジゲジ怖いの雨嫌なの)
 結構修羅場だった

【浩平 瑞佳 スフィー ゆかり トウカ ハラペコで2階の家捜し】
【晴子 家捜しの邪魔】
【澪 目覚めるものの、身動きとれず】
【三日目夜】
【登場逃げ手:上月澪】
【登場鬼:【折原浩平】【長森瑞佳】【スフィー】【伏見ゆかり】【トウカ】【神尾晴子】】
95Sign:03/07/29 00:56 ID:w2Iexo+3
「ねぇ、さっきから聞きたかったんだけど」
 客室の冷蔵庫から取ってきたカルピスのビンを空けながら、友里は柳川にを問うた。
「なんで私を助けたの?」
「前に答えなかったか? 行き倒れを助けてくれた礼だが」
「あのね……」
 友里は呆れたような声を出した。
「あれはあなたを味方につけようとしてやったのよ。別に礼を言われるような事じゃないわ」
「貸しをを作った事にはかわらないさ……それに」
 柳川は肩をすくめた。
「狩猟者たる俺にはこれぐらいのハンデがあって調度いいしな」
「ハンデね……それであの由美子って人に追い込まれてたら世話はないわ」
 憎まれ口に憎まれ口を返すと、友里はカルピスの原液を口に含んだ。
「甘いわね」
 顔をしかめて、それでもさらに咽喉に流し込む。
「糖分補給か?」
「そう。なんだかんだでハードな一日だったしね。力、つけとかないとね」
「頼もしいことだな」
「そりゃあね……ここであっさり捕まろうものなら、流石にあいつらに申し訳ないもの」
 口元を拭い、笑みの形をくって、挑戦的な目で柳川を見る。
「私ね、ここまで来るのに二人ほど同行者を犠牲にして逃げてるのよ」
 天沢郁未に追いかけられたときは、妹の由依を。
 鹿沼葉子に追いかけられたときは、A棟巡回員を。
「だから、柳川さんも気合入れなさいよ? 気を抜いたらすぐに犠牲にしてあげるから」
「フン、いいだろう。そうでなくては面白くない」
 柳川はニヤリと笑った。
96Sign:03/07/29 00:57 ID:w2Iexo+3
「あれが、先程の騒音と遠吠えの正体ですか」
 闇夜の中、ウリトリィは翼をはためかせる。屋上まで上がり、闇の中に潜む巨躯の異形の姿を確認した。
「ハクオロ様とは違うようですが……しかし似ています」
 多少慄きながら、ウルトリィは遠巻きにその姿を観察する。角にタスキがかかっている。
 このホテルに潜んでいるという逃げ手達は、おそらくこれから逃げてきたのだろう。
そして、恐らくこれがいるから、逃げ手はホテルから逃げ出さないでいる。
 だが……
「様子が変ですね」
 ウルトリィは首をかしげた。異形は必死に首をふり、時にその手で顔を叩いている。それはまるで―――

「眠そうだったぁ?」
 ホテル内に戻ってきたウルトリィの報告に、往人は呆れたような声を上げた。
「はい。遠くからしか見てないので確信はもてませんが……少なくとも私にはきづいていないようでした」
「そりゃ、まあこんな時間に一人でじっとしてたら、眠くなるのも無理はないかもしれんがな」
 往人は首を振った。
「だがそいつ、見張りとして機能してんのか?」
 往人達にとっても逃げ手が外に逃げられたら厄介なのだ。
 大志が口を開いた。
「同士国崎往人、今はそれを考えても仕方あるまい。仮にその化け物が眠ってしまったとしても、
 獲物達がそれに気づかなければ、やはり外には出ようとはせんだろう。今はそれよりも―――」
「あのエクソシスト達より早く獲物を見つけるのが先、か」
「そういうことだ。ミーティングをしていたぶん、我輩達は芳晴達に出遅れている。急いだ方がよいぞ?」
「ちょ、ちょっとまちなさいよ!」
 まなみが口を挟んだ。
「獲物を見つけた場合、誰がポイントゲットするのよ!?」
「そうねぇ……信用できない奴もいるしねぇ」
 広瀬が皮肉っぽく言い、
「俺やだぜ、また盾になるの」
 健太郎もボソッとつぶやいた。
(チッ……そこなんだよな)
 往人は顔をしかめた。
97Sign:03/07/29 00:58 ID:w2Iexo+3
 本来なら大志を追い詰めた時のように、逃げ場所を封鎖して幾人かで階毎に虱潰していく方法をとりたい。
 だが、この方法には時間がかかるという欠点があり、
それ以上に、役割分担によってポイントゲッターが決まってしまうため、
誰がポイントを取っても構わないというチームワークが必要なのだ。
 あいにくとこの7人にそのようなチームワークはないようだ。
特に健太郎、まなみ、広瀬の三人は昼間に何かあったらしく、微妙な緊張感が相互にある。
 チラっと大志の方に視線を走らせると、大志も往人の方を向いてうなずいてきた。
(こいつも同じ考えか)
 大志に対してうなずき返し、肩をすくませる。大志は苦笑いをチラリと浮かばせると、口を開いた。
「我ら同士も、基本的にはあのエクソシストとの関係と同じでよいだろう。
すなわち、『不干渉なれども邪魔もせず』、これだ」
「た、大志、それってちょっと心細くない?」
「フム、ならばもう少し協力的になるか。基本的には個々で獲物を探し、
発見したのなら気にせずポイントを獲得してかまわん。
ただし、定期的に集まり情報を交換し、また罠にかかった場合の救出、
エクソシストや獲物と戦闘になった時の加勢を互いに約束する。どうだ、良い案だろう?」
「それでいいと思うぜ。個々で動いた方が時間も短縮できるしな。組んで行動したい奴は勝手にしろ」
 大志の案に往人も同調する。内心ではこの口約束にどれほどの効果があるのか疑問に思ってはいたが。
 他の5人も大志の案で納得したらしい。 ある程度の細かい打ち合わせを終えると、
往人はウルトリィと、大志は瑞希と、他の三人はバラバラに行動を開始し始めた。
98Sign:03/07/29 01:00 ID:w2Iexo+3
「騒がしいわね……」
 睡眠を取っていた友里は顔を上げた。暗がりの中、外から人の声が聞こえてくる。
「随分の数の鬼がいるみたいね……」
「おきたのか? もう少し寝ておいた方がいいぞ?」
「そうしたいんだけどね……ここ狭いし埃っぽいし寝るには最悪だわ」
「文句を言うな。安全に眠れる場所などここぐらいしかないだろう。この―――」
 自分の座っている足場、エレベーターの天井をポンポンと叩く。
「エレベーターの上ぐらいしかな」

 柳川達は、今エレベーターが昇り降りする縦穴の中にいた。
 ハクオロ達と別れた後、どこか安全に身を隠せる場所を考えた末、
自分達のいた階にエレベーターを呼び寄せ、天井のふたを開けてエレベーターの上に上がったのだ。
 このホテルのエレベーターが点検やいざという時脱出できるようにするために、
天井にふたを設けているタイプである事が幸いだった。
「まあ、快適な環境とは言いがたいがな。ここなら鬼達も気づくまい」
「だといいわね……ハクオロさん達大丈夫かしら?」
「奴なら自分のことは何とかするさ。友里、可能ならもう少し寝ていろ」
 友里はあくびを一つすると、再び縦穴の壁にもたれかかり目を閉じた。

「チッ……大丈夫か、ウルトリィ」
 往人は舌打ちすると罠にかかったウルトリィの救出にかかった。
「……すいません」
「気にすんな」
 恐縮するウルトリィにぶっきらぼうに言葉を返す。
「しかしいらつくな。どこのどいつだ、罠なんか仕掛けた奴は」
「本当ですね」
 ため息混じりにウルトリィは同意した。おそらく他の鬼達も罠によって何度も痛い目にあっているはずだ。
99Sign:03/07/29 01:01 ID:w2Iexo+3
「調子はどうだね、国崎往人」
「……!? 大志か」
 背後から声をかけられ、振り向くと大志と瑞希がいた。
「どうもこうも、成果はないぞ」
 イライラと往人は返事する。
「芳しくないようだな。我輩達も痛い目にあっている。主にマイシスターがな」
「っていうか、なんで私ばっか罠にかかるのよ!!」
「世のニーズだな、マイシスター。主に吊り下げトラップ」
「だそうだぞ、ウルトリィ。今度かかる時は吊り下げトラップだな」
「馬鹿なこといわないでください!」
 ウルトリィは真っ赤になって怒鳴ると、それから我に返ってため息をついた。
「しかし……こうも騒いでしまっては逃げ手の方に私達の行動は筒抜けなのではないでしょうか?」
「まあな。かといって部屋探しをやめるわけにもいかないだろ……」
 大志が往人の言葉をさえぎった。
「待て、同士達。誰かエレベーターが動いている事に気付いたか?」
 問われて三人は顔を見合わせる。
「いや……獲物が使うかもしれないから注意していたつもりだが、動いては無かったぞ」
「我輩もエクソシストの連中に獲物のことを教えられてから注意してきたが、
エレベーターは使用されなかったと記憶している」 
 往人は大志が一点を見つめている事に気づいた。
(なんだ……?)
 大志の視線を追う。その先にはエレベーターのランプがあった。
ランプは一階と四階を指している。
 そこに違和感を感じ、往人もまたランプを凝視した。
「……四階だと?」
 ポツリと漏らす。
「四階だな」
 大志も短く呟いた。
100Sign:03/07/29 01:02 ID:w2Iexo+3
「ん? どうしたのよ二人とも?」
「昨日、俺はエレベーターを一階に止めたんだ。椅子を使って、全部な」
「でも椅子は昨日の夜かたづけましたよ」
 一階ロビーのトラップを解除している時だ。
「だが、それからエレベーターは動かしていないはずだ。昨日の夜も、今日の朝もな」
 往人達が使っている客室は二階なのだ。
「つまり、エレベーターが動かいたとすれば、今日の昼以降エクソシストの到来以前ということになるな。同士諸君」
 クイッと大志は眼鏡を押し上げると、大志は問うた。
「同士健太郎達が使ったのかもしれないが……」
 往人が答える。
「かもしれないが、奴らの寝室も二階だ。
四階にはゲーセンのようなものもないし、用がないはずだぞ」
「そ、それじゃあ、エクソシストの人達が来る前に、逃げ手の人達が使ったの?」
「では、逃げ手の方々は四階にいるのでしょうか?」
 だが、大志は首を振った。
「無論、単に移動のため、というのもありえる。だが……」
「エレベーターなんてばったり鬼とであったら致命的なもん使うってのもな。
まあ、ありえなくはないが……もう一つ可能性があるな」
 往人は首を振った。そうして、エレベーターの扉に手を合わせる。
「ウダウダ考えてるより確認した方が早いか」
「そうだな同士。存外、互いに的外れな事を考えているのかもしれん」
「ちょ、ちょっと!! 全然話が見えないんだけど!!」
 耐え切れなくなった瑞希が怒声をあげる。
 だが二人が答えるより早く、やはり同じように考え込んでいたウルトリィが声を上げた。
「まさか、その縦穴の中……昇降機の上に逃げ手がいるというんですか!?」
「可能性の一つだ、同士ウルトリィ。だが、まあ―――」
「確認するのは一瞬だ」
 往人は短く答えると、エレベーターの扉をにらんだ。
101Sign:03/07/29 01:03 ID:w2Iexo+3
【三日目深夜 ホテル】
【柳川、友里 エレベーターの上に潜む】
【往人、ウルトリィ、大志、瑞希  エレベーターを調べる事を思いつく】
【他の鬼の所在は不明】
【登場 柳川祐也、名倉友里】
【登場鬼 【久品仏大志】、【高瀬瑞希】、【国崎往人】、【ウルトリィ】、【広瀬真希】、
    【皆瀬まなみ】、【宮田健太郎】、【小出由美子】】
102Faster than a bullet!:03/07/29 03:42 ID:hN1NQkP+
「あの……詩子さん?」
 三日目深夜。島に敷かれた砂利道の上を、詩子の駆るバイクに跨って観鈴は走っていた。
「これからどこへと向かうつもりですか?」
 風を切って突っ疾る詩子の後頭部へと問いかける。
「もちろん茜たちを追いかけるわ。ちゃちゃっと合流して師匠の霊を弔わないと」
「お母さん死んでない……」
 哀れ、弟子に勝手に殺された神尾晴子。
「けど……どこにいるのかわかがぶおっ?」
 問いを投げかけようとした瞬間、バイクが大きな轍を乗り越え、観鈴は盛大に舌を噛んでしまった。
「走ってる最中話すと危ないわよ」
「がお……ほういうほとははやゆりっれほしい……」
(そういうことは早く言ってほしい)

「うーん、それにしても確かに。参ったわね。茜たちを探すとは言っても、考えてみれば場所も何もわからなかったんだわ」
 爆走するバイクの上で腕を組む。危ない。非常に危ない。無茶苦茶危ない。
「……ほれはらほうひほう?」
「うーん、うーん、すぐに探しに行きたいのは山々だけど、もうすっかり暗くなって来ちゃったし……
 下手に動いたらまた鬼に見つかりかねないしね……どうしたものかし……」
「……う! う! う! うらろらん! うらろあん! あ、あえっ!」
「え? なに?」
「あえっ! あえっ! ……ま、ま、ま、前っ! 前ぇっ!」
「前……ってきゃぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!」
 観鈴が慌てて指した方向には、まさにバイクの正面で道を横切らんとする一組の男女がいた。

 Pa! Pa! Paaaaaa!!!!
 
103Faster than a bullet!:03/07/29 03:42 ID:hN1NQkP+
「そこの人そこの人! 危ない危ない危なーーーーいっ!!! どいてどいてどいて!」
「え……? ってのうわぁっ!?」
 クラクションを鳴らすと同時にハンドルを切りさらに大声で警告する。
 小柄な女性を抱えた目の前の男が身を翻してくれたお陰もあり、ギリギリのところをすり抜けることができた。
「ごめんなさーーーーーーーーーーーい!」
 去り際にドップラー効果を伴いながら詫びを入れる。
「気をつけてくださーーーーーーーーーいっ!!!」
 女性の方が何か叫んだような気もしたが、エンジン音その他にかき消され、詩子の耳には届かなかった。

「……ふう」
 サイドミラーの男女の姿が闇に消え、詩子は大きなため息を一つ吐く。
「危ない危ない……危うくこの歳で前科持ちになることろだったわ」
「詩子さん、前はしっかり見て運転してほしいな……」
「OKOK,わかってますって安心しなさい。今度はかっちり運転しながら考えるからね」
「がお……わかってない」

「ところで詩子さん」
「ん? どしたの?」
「さっき詩子さんが轢きかけた2人の人……」
「……人聞きの悪い言い方はしないでね。あの人たちがどうかしたの?」
「あの人たち、鬼さんだった……」
「ん? まあ……始まってから時間もだいぶ経ってるし。もうほとんどの参加者が鬼でしょうね。けど、それがどうかしたの?
 まさか走って追いかけてきてるわけじゃないでしょ。このスピードに追いついてこれる人間なんて……」
「……なんか、いるっぽい」
「え……?」
 恐る恐るもう一度サイドミラーを覗き込み……バイクの後ろを、見てみると……

「その君! スピード違反だ! 道路交通法違反で逮捕するっ! なーんてね」
「もう耕一さん! 真面目に追いかけてくださいっ! いくら耕一さんの脚が速くたって、相手は文明の利器バイセコーですよ! 油断したら置いていかれかねないんですからっ!」
 先ほどの男女が、男の方が少女を背負って、追いかけてきていた。
104Faster than a bullet!:03/07/29 03:43 ID:hN1NQkP+
 思わず2人で顔を見合わせる。
「…………嘘、でしょ?」
「……なんか、ホントっぽい」
 詩子は恐る恐る、手元のスピードメーターを覗き込んでみた。
 
 ……………………。
 
「………………………アクセル全開! 逃げきってみせる! 師匠! ヴァルハラから見守っていてください!
 詩子は、詩子はきっと逃げきってみせます! 師匠の娘さんを守りきってみせますっ!」
「だからお母さんは生きてる……」

 エンジンを一際大きく吹かし、さらに加速。
「あっ! 行っちゃいますよ耕一さん!」
 その後ろ姿を見て、耕一も唇を歪める。
 

 文明の力 VS 最強生物の力……
 ……相手にとって、不足はない。

 
【詩子&観鈴 VS 耕一&瑞穂 追撃戦開始】
【時間 三日目夜】
【場所 砂利道】
【登場 柚木詩子・神尾観鈴・【柏木耕一】・【藍原瑞穂】】
105睥睨するモノ――:03/07/29 22:17 ID:nEgyCQet
 ――それは、不思議な感覚だった。
 頭の中で光が点滅すると言うか、ある方向へ向くと、ぼんやりと、“そういう物”を感じるのだ…が、上手く言葉で
説明出来そうも無い。もどかしい…――沙織は、歯痒く思い、頭をカリコリと掻いた。
「……これがルミラさんの言ってた“おまじない”って奴かな?」
「うん……だと思うよ」
 闇の中、懐中電灯の輻射光によって淡く浮かび上がる雅史の顔。――彼は、辺りを電灯で照らしつつ、頷く。
 数時間前……雅史と沙織は、ルミラによって血液を吸われていた。それと引き換えに、二人の持つ二本の懐中
電灯と、この“能力”――『人物探知』の力を得たのであるが…
『――ま、細かく説明するとヤヤコシーから省くとして、要は方位磁針みたいな物と思っていいわ。探している人の
いる方向へ向けば“何か”を感じるから、そっちの方へ進んでみて。少なくとも、何かの手掛りは見つかるはずよ♥」
 ――などと宣っておられたルミラ様を思い出す。
 …何やらそこはかとなく胡散臭い。ぶっちゃけてしまえば、魔法だの何だのは大抵何処か胡散臭い物だが…
「ま、まぁ、タダみたいな物だしね」
「ふふっ、そうだね。……沙織ちゃんは、体の方、もう平気?」
「ん、大丈夫」
 ルミラに血を吸われ、やや貧血気味となってしまった二人は、結局無理はせずに、あの後暫く小休止を摂った
のである。軽く食事も済ませ、エネルギーと水分を再充填。体力は少しばかり回復している。
(…でも、血を吸われるの、ちょっぴり気持ち良かったなぁ…。何だか……“あの瞬間”の感覚に似ている気が)
「――沙織ちゃん? 本当に大丈夫?」
「のわ!? ――あ、あははは…、ダイジョブダイジョブ。ちょっと考え事してただけ」
 妙な事を考えていた最中に雅史に顔を覗き込まれたので、沙織は我に還り、慌てた。陽の差す時間帯であれば、
彼女の顔は耳迄真っ赤に染まって見えていただろう。
106睥睨するモノ――:03/07/29 22:17 ID:nEgyCQet
「と〜…取り敢えず、どっちの方向に“感じる”か、一緒に指差してみよっか。雅史くん」
 沙織が何を慌てているのか解らない雅史は、小首を傾げた頭の上で「?」マークを浮かべながらも、頷いた。
「うん、解った。じゃ、せーので、ね」
「ん。―――せーのっ」
 タイミングを合わせて二人が同時に指差し示したのは――
「あ、やっぱりこっち?」
「うん。どうもこっちの方向が妙に気になる」
 ――同じ方角であった。


 …“妙に気になる方向”へ歩き始めてから小一時間。
 二人は未だに、しとしとと降り続く雨と夜闇の中を歩いていた。
「……本当にこっちの方にいるのかなぁ…?」
 不安げな声でそう口にする沙織。――尤も彼女の不安の大部分は、辺りを支配する夜闇に対しての物だったのだが。
「ルミラさんのおまじないを信じよう。少なくとも何かの手掛りは掴めるはずって言ってたし」
 沙織にがっちりと腕を掴まれているにも拘らず、答える雅史の声と表情には余分な気負い等もなく、普段と変わりない。
「ハクオロさんかな。それとも七瀬さんか…」
「出来れば鬼ごっこが続けられている間に渡したいね…――――……っ!」
 ――不意に、沙織が顔を強張らせ、立ち止まった。
 沙織が立ち止まれば、彼女に腕を掴まれている雅史も、引き止められる形で立ち止まる事になる。
「? どうかしたの…?」
「……………………あれ」
 指を差す代わりに、電灯の光線で指し示す沙織。その先には――
「…光?」
 闇深い森の木々の切れ間から、何か光の様な物が揺れて見えた。
107睥睨するモノ――:03/07/29 22:18 ID:nEgyCQet
「なななななななな何かかかななぁ……あああぁアあれ…」
「うーん…」
 …確かに、何か発光体がユラユラと揺れている。が、それが何であるかは解らない。考え込む雅史。沙織など、雅史の
腕を掴む所か、既にしがみ付いている。
「お、おおおおっおっおっオバオババお化けっ、けけっ……ととととかっ、かっかっかかかかかかにゃっ…?」
 得体の知れぬ、良からぬ物を想像したか、沙織の言葉は戦慄の所為で破綻寸前であった。――…この鬼ごっこには、
お化けなどよりも更に兇悪な面々が多数参加しているはずだが、彼女はその事を心得ているのだろうか。
「――取り敢えず、あの光の方へ行ってみよう」
「ええ゛ーーーっっっ!!?」
「大丈夫だよ。お化けなんかじゃないって。多分、何かの建物から漏れてる光だと思うよ」
「ほ、本当? ホントに? お、おお、お化けだったりしたら、ヒドいんだからねっ!?」
 さおりん、必死。
「あはは…。もしお化けがいたら、ヤックで好きなセットメニュー奢るよ」
「……………………L・Lセット?」
「うん。L・Lセット」
 ――こうして沙織は、今ある恐怖を未来の食い気によって、無理矢理捻じ伏せたのであった。


 ――更に歩く事、十数分。
 二人は、幽かに見えていた光の正体の前に佇んでいた。
「これって……ホテル…?」
「そう……みたいだね」
 森の中に鎮座するのは、鶴来屋旅館――その別館であった。
「ね? お化けなんかじゃなかったでしょ?」
「う、うん、そうだね…。なんとかの正体見たり、枯れおば………………………………………」
 …と、何気なくその建物を見上げた沙織が、その格好のまま、凍て付いたかの様に固まる。
「…………………………ぁぐ…」
108睥睨するモノ――:03/07/29 22:19 ID:nEgyCQet
「? どうしたの?」
 引き攣り張り付いた笑みの様な表情を浮かべたまま固まってしまった沙織を見やり、雅史は小首を傾げた。そして、
自分も彼女の視線の先を追う…
「…………」
 そこには――
「……雅史くん」
「……何、沙織ちゃん?」
「……ヤックでL・Lセット、奢りだね」
「……そう…みたいだね……」
 ――別館の屋上に佇み、光る目でこちらを見下ろす巨人の姿が、闇夜の中に浮かび上がっていた。


『……新手ノ鬼デスカ…。サテ、ドウシマショウカネェ…。………芳晴サンノ方ハ、ウマク行ッテイルノデショウカ……』
 ちっぽけな二つの人影を据わった目付きで見下ろしながら、大神と化した由美子は、眠気を覚えつつある頭で
ぼんやりとそう考えていた。




【【雅史】 【沙織】 ルミラから与えられた微弱な探知能力によって、鶴来屋別館に辿り着く】
【【雅史】 【沙織】 別館の屋上にいる巨人と思い切り目が合う…】
【【ユミコネミテア】 別館屋上から、眠たげな据わった目付きで【雅史】、【沙織】を見下ろす】
【三日目。深夜。雨。鶴来屋別館前】

登場:【佐藤雅史】 【新城沙織】 【小出由美子】
    『ルミラ=ディ=デュラル』
109残っていた負の遺産:03/07/29 22:20 ID:/eBiskCy
 祐一達4人は朝食を取り終わり逃げ手の捜索を開始しようとしていた。
 その時一人の少女が近くを横切る。
 郁未が気付き、郁未が追いかけ、それに舞、祐一、由依と順に追う。
 襷を掛けていない少女――柏木楓を追うがその差はなかなか縮まらない。
 それどころか差は開く一方である。
 舞は周りを見渡し、トロッコを発見する。
 見たところ、楓の逃げている方向に続いている。
 舞は、郁未や祐一に指を指し、アレを利用しようと伝えた。
 それに同意して3人が乗り、少し遅れて由依が乗った。
 だが、トロッコは思ったよりもスピードは出ない。
 郁未は不可視の力を行使し、その反動などでスピードを出させる。
 適度に楓に向かっても放ち、相手を邪魔しつつこちらのスピードも上げる。
 トロッコのスピードが上がり、差が少しずつ縮まったが楓がトロッコの進行方向から離れた。
 楓は横に逸れて、森へと突入する。
 郁未はトロッコを減速させるが、出すぎたスピードはなかなか止まることはなかった。
「仕方ない……飛び降りるか?」
 祐一が提案し、そのままトロッコから飛び降りた。
 祐一や由依は多少バランスを崩して遅れたが、舞や郁未はそのまま楓を追った。
 縮まりかけたその差は再び、開いていく。
 舞台を森へと移し、郁未は楓を更に追跡する。
 郁未が楓を追跡していると――楓が横に飛んだ。
 遅れて発動する罠。
110残っていた負の遺産:03/07/29 22:20 ID:/eBiskCy
 まだこの辺りには北川達の残した負の遺産が大量に残っているらしい。
 舞や郁未、楓が疾走しながらも辺りを見渡すと、いくかの罠を確認できた。
 とはいえ、それは初歩的な罠のみでおそらくそれは囮に使うような罠だろう。
 凝った罠までは確認できない。
 チェイスは罠に邪魔されて、なかなか進まない。
 うまく罠を避けながら逃亡を図る楓と、楓に発動した罠の残骸の上を安全に追跡する4人。
 だが、差は縮めるとまではいかなくともこれ以上広がることはないと判断した。
「勝負は五分五分、か。運がよければ捕まえられるかもな」

【場所 罠の残っている森】
【時間 4日目午前十時過ぎ】
【郁未 祐一 由依 舞 逃げ手の追跡。やや不利】
【楓 逃亡中。罠が邪魔】
【登場 柏木楓】
【登場鬼 相沢祐一 天沢郁未 名倉由依 川澄舞】
111flying enemy:03/07/29 23:57 ID:3VsqXSF6
「ふふふ……外に出て早々逃げ手を見つけるとは幸先がいいぞぉ。さすがは俺様だぁぁ!」
 時は既に四日目の朝、海岸線にて。結局12時間以上も惰眠を貪り、ひかりと観鈴の用意してくれた軽食をぺろりと平らげ、
上機嫌に出発した矢先に発せられた高槻の台詞がこれである。ちなみに彼のすぐ横には、このいきなり笑い出したおじさんの
白衣をしっかりと握りしめている繭の姿もちゃんとある。
 高槻の言葉通り、彼の前方には逃げ手の姿があった。
 人数は二人。しかもどちらも少女。
 それだけ確認した高槻は、駆け引きも何もなく全力で彼女らに向かって走っていった。
「そうら、これでこの女二人は俺の物だあ! お前ら二人ともまだ乳臭いガキだがそのデカい胸と白い羽に免じて
 たっぷりと可愛がってや……って、羽えぇぇ!!?」
 今さらこの二人の背中にある羽に気付いた高槻が素っ頓狂な叫びを上げたとき、件の少女二人はその羽の力をもって
既に青空へと逃げていた。
 それも当然だろう。いかに背を向けていたとはいえ、あんな台詞を大声で叫んでいれば気付かない方がどうかしている。
 にもかかわらず高槻は、
「くそう、降りてこい! 空を飛ぶなんてそんなの有りかあ! いいのか、こんなことが許されていいのかあぁぁ!
 いい訳がないだろう! 参ったあ、俺は参ったあぁぁ!!」
「みゅー、おじさん五月蝿い。ちょっと静かにして」
「何だとう! お前は悔しくないのか繭うぅぅ!!」
 わめく高槻を諫める繭。どちらが保護者か分かったもんじゃない。あ、どうでもいいけど昨日までみたいに「うるさいぞ小娘え!」
とか怒鳴られなくて、繭ちょっぴり嬉しそう。しっかり耳は押さえてるけど。
 そして二人の逃げ手はその間に、海岸近くの森の中へと降りていった。
112flying enemy:03/07/29 23:58 ID:3VsqXSF6
「何かひどいこと言われてるよ、カミュちー」
「気にしちゃ駄目だよユンユン。たとえ何て言われたって、カミュたちは絶対に最後まで逃げきるって決めたんだから」
 森の中へと降下しながら、カミュはユンナの言葉にそう返した。
 昨日は結局、あれからホテルへは戻らなかった。たとえ戻っても、アルちゃんもユズっちも喜ばないと思ったから。
それよりももっと、あの二人が喜んでくれることがあると思ったから。
 あれから逃げて逃げて、ようやく辿り着いた防砂林の木の上で誓ったのだ。
 次にアルちゃんとユズっちに会うのは、表彰式のときだと。
「ね、ユンユンだって勝ちたいでしょ?」
「うん!」
 カミュの言葉に首肯するユンナ。
 二人には負けられない理由がある。そして、二人には勝つための力がある。
 鬼ごっこというゲームにおいて、空を飛べるというのはそれだけで圧倒的なアドバンテージだ。その力を持つ自分たちを
捕まえられる者など、そうそう居やしない。
 カミュはそう思っていた。あとは姉かディーに見つかりさえしなければ、自分とユンナのどちらかが優勝するとも。
 だが、地に着き羽をたたんだところで出くわした二人組は、そんなカミュの思惑を粉々に打ち砕いた。
113flying enemy:03/07/29 23:59 ID:3VsqXSF6
 僅か五歩ほど向こう側に、出し抜けに現れた二人の女性。
 女らしい体つき。綺麗な金髪に鬼の襷。
 少女と形容した方がいい背丈。長い黒髪とその背にある真っ白な、翼。
「逃げるよ!」
 それを見て、カミュはユンナの手を取り再び大空へと舞い上がる。
「飛行能力者、ですか」
「あれは……カミュ殿か」
 それを見て、葉子と神奈が同時に呟いた。
「知り合いですか?」
「そうではない。ただ、前に一度逃げられた相手だ。連れが変わっているようだがな」
「そうですか。何にせよ、彼女たちが逃げ手なら捕まえるのみです」
「そうだな。行くぞ、葉子殿」
「はい」
 張り切った声と共に翼を広げる神奈を見て、葉子も足と心に力を込めた。
114flying enemy:03/07/29 23:59 ID:3VsqXSF6
 忘れていた。初日に会った、ディーに鬼にされたと言った少女。
 この島で飛べる人間は、何も自分たちだけじゃなかったのだ。
「わ、わ、カミュちー。何かあの女の人も凄いスピードで追っかけてくるよお!」
 しかも敵は神奈ばかりではなかった。あの金髪の女性も、まさに「跳ぶ」勢いで追いかけてくる。
「落ち着いてユンユン。大丈夫、絶対逃げ切るんだから!」
 だからといって易々と捕まるつもりはない。
 うろたえるユンナを一喝し、彼女が力強く頷いたのを見てカミュは再び前を向いた。



【カミュ、ユンナ 飛んで逃げる】
【神奈 飛んで追いかける】
【葉子 見失わないように時折跳躍しながら追いかける】
【場所 海岸近くの森】
【時間 四日目朝、雨は止んでいる】
【登場 カミュ、ユンナ、【高槻】、【椎名繭】、【神奈備命】、【鹿沼葉子】】
115忘れられた男:03/07/30 20:29 ID:e4RWq7MO
「ふいー、すっきりした……あれ?」
 戻ってきたらそこには誰も居なかった。A−9──鹿沼の姿も神奈の姿もない。
 どこ行ったんだあいつら? 確かここで良かったよな……離れたのはほんの数分前のことだし、
場所を間違えるなんてあり得ないが……。
 おい待て、まさかあいつら、俺を置いていったのか!?
 いや、そりゃ確かに昨日合流してから俺殆ど目立ってないけど! 名誉挽回とか言って張り切ってた割に
逃げ手の一人も見つけられてないけど! さっきも「ちょっと小便」なんてダイレクトな言い方してちょっと
引かせてしまったけど!
 でも食料とか家見つけたり、地味だけど頑張ってるんだぞ!?
 名無しさんとか益体無しとか言われてちょっと挫けそうにもなったけど、それでもいつか陽の目を見ることが
出来ると信じていたのに……!
 俺は絶望に打ちひしがれた。今から俺のような名無しが一人で活躍できる可能性などハッキリ言ってゼロに等しい。
(武運、ここに尽きたか)
 似合わないって? ほっとけ。台詞の一つもパクらなきゃやってられない気分なんだ。
 だが、神はまだ俺を見捨てていなかった。

「よかった、まだここに居ましたか」
116忘れられた男:03/07/30 20:29 ID:e4RWq7MO
「鹿沼……お前どこに行」
「あなたが居ない間に逃げ手に遭遇したので追うことにしたのですが……すいません、忘れていました」
 俺の台詞を遮って謝罪するA−9。あんまり謝罪になってない気もするが。
「とりあえず、話は後にしてください。少し急ぎますよ」
 そう言うやいなや、奴は俺の手を取り──跳んだ。
 不可視の力全開だ。空気の壁が俺の顔を叩く。いかん、風圧で唇が変形してるのが手に取るように分かる。
「ま、待て! もう少しゆっくりゅがあっ!」
 舌噛んだ。
「我慢してください」
 とりつく島も無しか。文句の一つも言ってやろうかとも思ったが、まあ俺のことを忘れてなかったということと、
握られた手が意外に柔らかかったことに免じて黙っておくことにした。
 ……どっちにしろ喋れないしな。


 あと、実はまだ手を洗ってなかったことも永久に俺の心の中に秘めておくことにした。



【葉子 巡回員を拾って再びカミュたちを追う】
【巡回員 舌噛んで喋れない、葉子に引きずられるような形】
【登場 【鹿沼葉子】、【A棟巡回員】】
117D-LIVE!!:03/08/01 01:10 ID:VxMnF8hI
 夜の道を疾走する二つの影。こう言えば格好はいいが、追うものも追われるものもある意味ノリにノっているため、
実際はやかましいことこの上ない。
「あー、そこのノーヘル。止まりなさい、止まりなさい……止まれって言ってるでしょ!」
「だから耕一さん、真面目に追いかけてって言ってるでしょ!」
「もーしつこいなあ! 止まれって言われて止まるわけないでしょ!」
「詩子さん、ちゃんと前見てえ……」
 後ろから聞こえてくる男の声に、詩子は怨嗟の声をあげる。しかも律儀に振り返りながら。
 それを注意する観鈴の声は小さい。もう何を言っても届かないと悟ってしまったのか。
 ちなみにこの時点で詩子さん、速度超過、ノーヘル、飲酒運転、脇見運転で満貫確定。なのに耕一相手にもう十分ほど
チェイスを繰り広げている。ほんとにスクーター歴半年なのか、この女。
 しかし、言葉こそノリノリだが詩子は内心焦っていた。
 夜の雨の砂利道。しかも二人乗り。これだけの悪コンディションで出せる最高のスピードで逃げているのに、
相手を一向に振りきれないからだ。
 しかも相手は何やらさっきから軽口を叩いている。それだけの余裕があるということだろうか、このことも詩子から余裕を奪っていた。
(ほんとに何者よ、あの人たち! 折原君より得体が知れないわ!)
 逃げ切れないかも知れない。一瞬、そんな弱い考えが鎌首をもたげる。
「……ハッ、何言ってんのよ! この柚木詩子、師匠から『諦める』なんて教えを受けた覚えはないわ!
 逃げ切ってみせる! じゃないと彼岸で晴子師匠に合わせる顔がないわ!」
 しかしそこは詩子さん、天井知らずに上がるテンションにまかせて叫ぶ。その後ろで。
(いや、詩子さん、お母さんから何か教えてもらったようには見えないし、それ以前にお母さん死んでないし、
 そもそも彼岸でって、詩子さんも死ぬつもりなの……?)
 そんな観鈴のツッコミはもう声になることはなかった。
118D-LIVE!!:03/08/01 01:11 ID:VxMnF8hI
 一方、追う立場である耕一も実は困っていた。
 相手は50ccのバイク、これくらいならエルクゥにならなくても力ずくで止められるだろう。
 だが。
(あのスピードじゃあなあ)
 そう、向こうのスピードが思ったより速いせいで手が出せないのだ。
 このスピードで無理矢理リアを引っ掴んだりしたら、濡れた路面と相まって転倒してしまうかも知れない。
そうなったとき、彼女たちを怪我一つ負わすことなく受け止められる自信が100パーセントあるかと言えば、無い。
 よってこの案は没。
 じゃああのバイクを飛び越えて真っ正面から受けて立つのはどうか。
 これはこれで今度は背負っている瑞穂に負担がかかるし、彼女たちもいきなり正面に現れたバイクに驚いて
やっぱり転倒してしまうかも知れない。
 じゃあ思い切って見逃すか?
(それこそ冗談じゃない)
 せっかくのチャンスを棒棒に振る気は毛頭ない。
(鬼としても、そして……男としても!)
 ……この男、まだ懲りてない。あの二人を捕まえて、あわよくばお近づきになろうとか考えている。
 とまあそんなわけで、相手を危険にさらすわけにもいかず、とりあえず止まるように呼びかけながら追いかけているのだが、
相手は一向に止まる気配が無い。
 どうしたもんか、と耕一が考えを張り巡らしたとき。
「ん?」
 何故か、それまでスピードを上げるだけだったバイクが徐々に減速しだした。
 諦めてくれたのか、それともガス欠か何かだろうか。
「まあどっちでもいいけど、さ!」
 この好機を逃すまいと、耕一はバイクに向かって突っ込んでいった。
119D-LIVE!!:03/08/01 01:11 ID:VxMnF8hI
 詩子は考える。
 逃げ切ってみせる、などと言ってはみたものの、ただ走っているだけで逃げられるほど相手は甘くないようだ。
 なら何か手を講じるべきだ。あの鬼から二人で無事に逃げ切るための手を。
 そして、自分はその手段を知っている。
 でも。
(……出来るの? あたしに……)
 自問する。答えは返ってこない。
 このままじゃいつか捕まる。だからって、ぶっつけ本番でやるにはあまりにも無謀すぎる。
 もう後ろの鬼の声も聞こえない。詩子は考える、考える、考える────
「どうしたの、詩子さん?」
 ハッとした。
 肩越しに振り返ってみる、そこにあるのはこの島で友達になった女の子の顔。
 心配そうな顔。だめだよ、観鈴ちゃんは笑ってる方が可愛いのに。師匠だって、そう言ってた。
 
 ──だから、あたしは、覚悟を決めた。

「ねえ、観鈴ちゃん。あたし、今からちょーっとムボーな事するけど、信じてくれる?」
 それに対する彼女の答えは。
「うん!」
 満面の笑顔。だからあたしも笑顔になれた。
「オッケーイ! じゃああたしが合図したら目をつぶって、しっかりあたしに捕まって! 大丈夫、一瞬で終わらせるから!」
 そう言って、あたしはアクセルを緩めた。

 さあ、いざ尋常に、勝負!!
120D-LIVE!!:03/08/01 01:12 ID:VxMnF8hI

 自分は知っている。
 師匠が見せてくれた、師匠の後ろで体験したあの技を。
 自分には味方がいる。
 信頼してくれる、師匠の娘。友達。守ってみせると、約束した。
 自分には師匠の技が、魂がしみこんだこのバイクがある。師匠の英霊が見守っていてくれる。

 出来ないことなんて、何もない!

(一度だけでいい……)
 アクセルをぎゅっと握る。

(あなたに魂があるのなら……)
 下っ腹に力を入れる。

「行くよ、観鈴ちゃん!」
 回された手に力がこもるのを感じる。

(応えて!!)
 ハンドルを、思いっきり切った。
121D-LIVE!!:03/08/01 01:12 ID:VxMnF8hI
 耕一が手を伸ばし、バイクのリアに手を掛けようとした、その刹那。
 一際大きなエンジン音が夜の闇の中で唸りをあげた。
 その音と共にバイクは急発進、そして間髪入れずに今度は耳をつんざけとばかりに響くブレーキ音。
 横滑りするバイク、巻き上がる砂利と泥水。
 その結果。
「うわあっ!!」
(前が、見えな…!)
 走るバイクを捕まえようとしたスピードはそう簡単に殺せるものではない。慣性に引きずられ、巻き上げられた水に
突っ込んだ耕一は一瞬視界を閉ざされ、獲物の姿を見失ってしまった。
 しかも悪いことに、ここはカーブの手前だった。
 当然、耕一は曲がることなど出来ない。水柱から抜けてそのまま直進する耕一の目の前にあったのは、一本の木。
「くそっ!」
 声を張り上げ、左足でフルブレーキ、右腕と右足を木にぶつけて衝撃を殺し、左腕を無理矢理瑞穂へ回す。
 ドカン、という激突の音がし、巻き上げられた砂利と水が再び地面に還ったとき、そこに居たのは耕一と瑞穂だけだった。
122D-LIVE!!:03/08/01 01:13 ID:VxMnF8hI
「だ、大丈夫か、瑞穂ちゃん?」
「ええ、何とか……耕一さんのおかげで」
 その声にホッとして瑞穂を下ろす耕一。しかし、彼女の眼鏡は見事に泥にまみれていた。
「プッ! ……あははははははは!!」
「わ、笑わないでください!」
 眼鏡を取り、ハンカチで拭きながら耕一を叱る瑞穂。
「ああ、ゴメンゴメン……クックック……」
「もう……ふぅ、でもしてやられましたね……」
「ああ……スピードを落として俺に追いつけると思わせておいて、捕まる直前にフルターンで水を巻き上げて視界を塞ぐ……
 さすがの俺も慣性の法則には勝てなかった。まったく、よくやるよ。あんな女の子がこんなことするなんて思いもしなかった」
 そう言って、笑う。何となく、掌を見つめてみる。
 この身に眠る、鬼の力。その圧倒的な力を前にして、諦めなかった人がいる。逃げ切った人がいる。
「どうしたんですか、耕一さん」
「あ、いや、何でもないよ。ただ……」
「ただ?」
「明日は、もう少し本気を出してもいいかも知れないなって思ってさ」
 一歩間違えれば大切な人の命を奪いかねないこの力。それなのに今はこの力をどうやって鬼ごっこに活かそうかなんて
考えていることがおかしくて、耕一はまた笑った。
「行こうか瑞穂ちゃん。服、何とかしなくちゃ」
「あ、そうですね」
 そして耕一と瑞穂は追撃を諦め、来た道を戻っていった。
123D-LIVE!!:03/08/01 01:13 ID:VxMnF8hI
「何とか、逃げ切れたね」
 ベッドに座った詩子が嬉しそうに言う。あれから詩子たちは逃げるために時折道無き道を無理矢理進み、今は
一件の民家に潜伏していた。近くには教会もあったが、そんな目立つ建物に隠れるのは得策ではないと判断した。
 ちなみにバイクは家の裏手に止めてある。
「うん、でも……」
 観鈴の顔が曇る。
「もう、あんな危ないことしないで欲しい」
「あー、ゴメンね。怖かった?」
「それもあるけど……あんなことして、詩子さんがケガしたら嫌だから」
「…………」
「? 詩子さん?」
「……ん〜〜〜、もう! 観鈴ちゃんったら可愛いこと言ってくれちゃって!」
「わ、わ、やめ……」
「やめな〜い!」
 はしゃぐ二人。その姿はまるで、長年連れ添った親友のようで。
「はぁ、はぁ……大丈夫だよ。もうやんないから。って言うか、もう一度やれっていわれてもたぶん出来ない。
 その証拠に、ほら」
 手を差し出す詩子。その手は小刻みに震えていた。
「さっきから震えが止まんなくて。自分でもよく成功したと思ったわ、あのフルターン。
 きっと師匠が涅槃から力を貸してくれたのね……」
 ……訂正。遠い目をしてそんなことを言う詩子に何となくどでかい不安を覚えた観鈴ちんであった。



【詩子、観鈴 晴子直伝(?)のフルターンで何とか逃げ切る。教会近くの民家】
【耕一、瑞穂 惜しくも獲物を取り逃がす。砂利道】
【時間 三日目深夜】
【登場 柚木詩子、神尾観鈴、【柏木耕一】、【藍原瑞穂】】
124名無しさんだよもん:03/08/02 00:45 ID:5/cdBzE9
125不安と愚痴と:03/08/02 05:40 ID:7Z4+2ajR
 腕だけの動きで、左の拳を突き出す。
 左の拳を引くと同時に、体重を移動させ、右足が前に。
 右足の踏こみと連動して腰をひねらせ、右の拳をつきだす。
 左、右のワンツー、ワンツー、ワンツー。
 四日目の早朝、そろそろ晴れ間が見えてきたとはいえ、依然小雨が降り続く中、
葵は愚直なまでに基本動作を繰り返していた。
 脇のドライブインでは今、美汐達が朝食の余りものを使って昼食用のお弁当を作っている。
「ねぇ美汐、ちょっと食べていい?」
「駄目ですよ、真琴」
「えへへっ、もーらいっと」
「あ、こら!」
 そんな談笑する声が、ドライブインの中から聞こえてきた。
 葵は一度大きく息をつくと、額の雨雫と汗玉を拭い、再度基本動作を繰り返す。
 打撃、体重移動、踏み込み、打撃……
 幾百幾千となく今まで繰り返してきたその動作に淀みはない。
 はっ、はっ、ふぅ。はっ、はっ、ふぅ。
 呼吸もまた乱れることなく、葵は動作をくりかえした。
 スッと、葵は目を閉じた。
 その状態でも、自分の体は自然に動く。修練は決して自分を裏切らない。
 そのはずなのに―――
 葵は瞼の裏に狐耳の男のイメージを描いた。
(オボロさんっていってましたよね……) 
 スッと腰を落とし、タックルの姿勢に入り―――次の瞬間には、もう間合いを詰められ、肩をつかまれていた。
「フゥ」
 葵は目を開けて息をつく。
「あんなにも体術のレベルが違うなんて……」
 葵は沈んだ顔見せる。
126不安と愚痴と:03/08/02 05:41 ID:7Z4+2ajR
 彼女はそれほどプライドの高い性格というわけではない。むしろ謙虚な方だ。
 だが、それでも修練を積み重ねた自分の技量には多少の自信があったし、
だからああも次元の違う相手を見たら平静ではいられなかった。 
「私、こんなのでポイントゲッターなんて務まるのかな……」
 この島にはオボロのような突出した身体能力を持つ者や、琴音や月島兄妹のような特殊能力を持つ者がいる。
 そのような者を相手にしたとき、自分の技量はどこまで通用するのか。
「綾香さんだったらどうするんだろう」
 あの人だったら、どこまで通用するんだろう。もし歯が立たなかったとき、どんな風に思うんだろう。
 そんなふうに思った矢先、背後から声をかけられた。
「おっは〜葵。どうしたのよ、しょぼくれちゃって」
「え……!?」
 慌てて後ろを向く葵。振り返った先には、
「……なんて綾香の真似をしてみたんだけど……」
 ちょっと罰の悪そうにしている坂下がいた。

「さ、坂下さん……?」
「ああ、おはよう葵。あなたも鬼になってたんだね」
「あ、はい。昨日の昼ぐらいに鬼になってしまいました」
「そうか。なら、私より後だね。私は一昨日の夜に捕まってしまったから」
「坂下さんはずっと一人で行動していたんですか?」
「ああ、いや数人で行動しているよ。この道の先の駅に泊まっている」
 坂下は舗装道路の先を親指で指した。どうやらこの道を下っていくと駅にいきつくらしい。
「今は日課の朝のランニング中だ。そこでたまたまあなたを見つけてね」
「こんな日にまでランニングですか?」
 葵はやや呆れた声を出した。確かに雨が降っているといっても小雨ではあるが……
そもそもこのイベント中まで練習を欠かさないとは。
「……なんか、坂下さんらしいですね」
 葵はちょっとおかしくなってクスリと笑った。
「習慣になってて、やらないと落ち着かないだけだ」
 坂下はやや照れたように答えた。
127不安と愚痴と:03/08/02 05:42 ID:7Z4+2ajR
 それから、額の汗をぬぐい、ややためらった後、真面目な顔を見せた。
「葵、あなたはどう?」
「どうって……」
「なにか弱気な事つぶやいていたじゃないか。それに、さっきの型もなにか迷いがあったようだったよ」
「あ……」
 葵はうつむいた。そして、首を振る。
「別に……なんでもないです」
「そう……」
 坂下はフゥ、と息をついた。まあ、話したくないならそれでもいいけど、と口の中でつぶやく。
 それから、しばらく黙った後、ポツリとつぶやいた。
「私は今少し自分の拳に自信をなくしていてさ」
「え……?」
 葵は驚きの声を上げた。
「だから、それで走りたくなったのかもね」
「坂下さんが、ですか?」
「なんだ? 私だって弱気になることぐらいあるよ」
「いえ……それはそうですけど」
 だが、やっぱり意外だった。この人が弱気になる事自体はともかく、それを告白するなんて。
「あの、なにかあったんですか?」
「いや、単に自分の実力が全く及ばない相手に出会っただけだ」
 坂下は手短に、楓のこと、柳也達のことを伝えた。
「自分の未熟は百も承知だけれど、それでもあそこまでの格の違いを見せ付けられてしまうとね。
おまけに―――」
 坂下は、フッと自嘲した。
「今まで正直足手まといと思っていた人が、獲物を仕留めていたこともまたショックだったよ」
「…………」
 葵には返す言葉が見つからなかった。
128不安と愚痴と:03/08/02 05:42 ID:7Z4+2ajR
 坂下は再度沈黙したあと、ボソリと言った。
「綾香だったら」
「え?」
「綾香だったらどうするんだろう。こういう目にあったとき」
「それは……ええと」
 葵は考えをめぐらせる。正直、綾香が負ける事など想像がつかない。
 それとも、やはり綾香のような人でも悔しい思いをする事があるのだろうか。
 だが、葵の考えがまとまる前に坂下は言った。
「まあ、考えても仕方のないことだな。私は綾香じゃないんだから」
 坂下は肩をすくめた。
「結局のところ、己の修練を信じるしかないか。それで駄目ならそれはそれだ。
所詮この鬼ごっこは遊びだ。
己の力が及ばなかったところで死ぬ事はないよ。そうでしょ?」
「あ、はい」
 同意を求められて、つい葵は返事をしていた。
 それから、
「はい、そう思います」
 今度ははっきりと返事した。
129不安と愚痴と:03/08/02 05:43 ID:7Z4+2ajR

「さて―――」 
 坂下はクルリときびすを返した。
「長居したね。そろそろかえるよ。智子達も起きる頃だし」
「はい。坂下さん―――」
 葵はペコリと頭を下げた。
「ありがとうございました!」
「あのね……」
 坂下はガリガリと頭をかいた。
「礼を言われるようなことはしてない。単に私はここで愚痴っただけだ」
「いえ……だけど―――」
 葵は何かをいいかけようとして、それより早く坂下は背を向けて手を上げた。
「それじゃ、葵……頑張ってね」
「はい! 坂下さんも!!」
 再度頭を下げる葵に、坂下は背をむけたまま一瞬だけチラリと笑うと、道路を走っていった。
  
【四日目早朝 森の近くのドライブイン】
【登場鬼 【松原葵】、【坂下好恵】、【姫川琴音】、【月島瑠璃子】、【沢渡真琴】、【天野美汐】】
130逃げ手たち&鬼二日目:03/08/02 23:54 ID:fQY1WiaE
ベナウィ 茜 澪 シシェに乗って市街地から逃走。行き先不明。三日目夜。>>30-37

詩子 観鈴 師匠直伝のフルターンで耕一を撒く。教会近くの民家。三日目深夜。>>117-123

柳也 裏葉 手を握りながらの休憩中。海岸から少し内陸の森の中。三日目深夜。>>361-364

岩切 樹上で寝ようとしたら子供の泣き声が。たい焼きをあげる。森。三日目深夜。>>308-313

***********ここから鬼二日目*************

リアン エリア 超ダンジョン。こわごわ芹香捜索中。マルチ&クーヤと接触。悲鳴を上げて遁走。夜。

黒きよみ ドリィ グラァ 怪しい老人を見かける。逃げるように河原から移動。夜。

麗子 超ダンジョンでマルチとクーヤを捕まえた。それ以外は不明。深夜。

あさひ 白きよみ 彩 森の小屋。休息中。服を乾かしたい。彩、妄想驀進中。あの人を捜そう。深夜。
131鬼三日目 朝〜昼すぎ:03/08/02 23:55 ID:fQY1WiaE
サクヤ 縦 横 超ダンジョンに突入させられる。夜明け前。

エディ 敬介 登山道。追撃戦中、エディ転倒。雨の山に取り残される。早朝。

雄蔵 ホテル付近の森。郁美が楽しくやっていることを知り、安心する。傘をもらう。午前九時。

英二 理奈 月代 佳乃 聖 どこかの小屋。佳乃の持っていた食べ物で談笑中。十時ぐらい。

冬弥 由綺 七海 岩切と接触。追いつめるものの、今一歩のところで取り逃がす。午前。

玲子 湖。マナー違反のカメコに説教をたれる。三日目昼前。

名雪 理緒 美咲 さおり 彰 名雪起床。とりあえず小屋の雨漏りを直そう。昼前。改訂スレ78-80

梓 ホテル付近の森。往人そのほかの物量作戦により、逃げ場を失い降参。休息後、キャンプ場へ向かう。昼。

マナ 少年 張り切ってたのに起きたら昼。色々複雑だけど気にしない。森。昼。>>384-388

まさき 良祐 弐号屋台と共に鶴来屋別館屋上に孤立。酒飲んでぼやいてる内に眠った。昼頃。>>415-421

醍醐 南 鈴香 みどり 市街地のマンション。マターリ空気に当てられた醍醐、とりあえず昼食をいただくことになった。三日目昼頃。

すばる 商店街。仲間二人を逃がすため敢えて鬼になる。混戦。服を乾かすため屋内へ。昼すぎ。
ビル 相変わらず商店街で背景してる。昼すぎ。

ハウエンクア 往人に睨まれてびびる。一人でホテルを飛び出す。昼過ぎ。>>10-18

結花 かおり かおりが暴走しかけてプチ修羅場。おかげで鬼に見つかった。キャンプ場。昼過ぎ。>>398-404
はるか ちゃっかり2ポイントゲット。
宗一 結花のハイキックと獲物を捕られたショックで崩れ落ちる。不憫。
132鬼三日目 午後〜夜:03/08/02 23:56 ID:fQY1WiaE
ティリア サラ 超ダンジョン。宝箱を開けたらどかん爆発。焦げ。長瀬源之助が近づいてきている。午後二時。

皐月 夕菜 教会付近。抵抗空しく耕一一行に鬼にされてしまう。皐月、悔し泣き。二時頃。

芹香 綾香 超ダンジョンから脱出。出現場所不明。午後三時。

伊藤 貴之 場所不明。耕一達と出会う。伊藤のカメラ、無駄使いさせられてしまう。四時頃。

圭子 人のふり見て……。(略地獄脱出。雅史を捜し放浪中。場所不明。三日目午後五時半くらい。

ダリエリ 夕霧 高子 市街地のアパートで佐祐理たちと別れ、すばるを探しに行く。夕方〜夜。>>270-277

ヌワンギ 気絶している間に浩平と瑞佳によって小屋から離れたところに捨てられる。場所不明。>>378-383

エルルゥ 平原の一軒家。足を治療。眠っているところにハクオロがやってきた。夜。

ひかり 祐介 川近くの小屋。机を囲んでお茶をすすっている。まったり。夜。

御堂 港の詰め所。暇をもてあましている。

光岡 どこかの小屋。濡れた服を脱ぎ、裸で横になっている。夜。

ニウェ ウィツ化した由美子さんに吹っ飛ばされて一番星と化してしまった夜のこと。

久瀬 月島 オボロ 差し入れをもらってビール片手に夕食。結局お隣さんには気付かず。アパートの一室。夜。>>61-67
留美 佐祐理 矢島 垣本 清(略 夕食も済んでチームで行動することに決定。目指せ一勝! 市街地。夜。>>61-67

浩平 瑞佳 ゆかり トウカ スフィー 色々あって疲れた。家の中で食事の準備。市街地の外れの一軒家。夜。>>86-90
晴子 茜たちを逃がすため犠牲に。飲酒をちょっぴり後悔。頭痛、就寝。二階の一室。夜。>>86-90

あゆ マルチ クーヤ 同じ声のお化けが出たと思ってパニック。何故か3人で併走。森。夜。>>49-50
133鬼三日目深夜〜四日目:03/08/02 23:56 ID:fQY1WiaE
香里 香奈子 セリオ 真紀子 森。あゆと接触。たい焼きを返す。セリオ、レーダー使用不能。逃げ手を探しに出発。深夜。

耕一 瑞穂 バイクに乗った逃げ手を追いかけるも逃げられる。二人ともびしょ濡れ。砂利道。深夜。>>117-123

詠美 由宇 郁美 カルラ さいか 森の中の簡易テントにて就寝。四日目午前三時頃。>>365-374
クロウ ゲンジマル デリホウライ テントの外にて就寝。四日目午前三時頃。>>365-374

D もの凄い夢を見て起床。置き手紙に気付く。D邸宅。四日目朝。天候不明。>>39-45
レミィ まいか ハウスに手紙を残してどこかに出かけた。四日目朝。天候不明。>>39-45

栞 北川 住井 栞起床。北川起床のち悶絶。住井まだ寝てる? 最終兵器の解読進まず。森。四日目朝。天候不明。>>81-84

浩之 志保 岡田 松本 吉井 晴香 和樹
人生ゲームしながらマターリ中。半分鬼ごっこからリタイア状態。森が途切れたところにある別荘。四日目朝。まだ雨。>>51-57

響子 弥生 岡田と松本を寝てる間に鬼に。他のメンバーが起きない内に別荘を離れる。四日目朝。晴れ。>>424-428

高槻 繭 海岸で逃げ手を見つけるも飛んで逃げられ高槻絶叫。うるさい。四日目朝。晴れ。>>111-114
134イベント中:03/08/02 23:57 ID:fQY1WiaE
柳川 友里 エレベーター上部に潜伏。休息中だが、外が騒がしい。鶴来屋別館。三日目夜。>>95-101
【大志 瑞希 往人 ウルト】エレベーターの階表示ランプに違和感を持ち、エレベーターを調べることに。
【健太郎】細かい打ち合わせのあと、一人で逃げ手を探す。どこを探しているかは不明。
【広瀬】健太郎と同じく、単独行動で逃げ手を探す。同上。
【まなみ】こちらも単独行動。同上。
【千紗】睡魔に勝てず睡眠中。二階の一室。>>68-70
ハクオロ 美凪 みちる
ハクオロ、愛娘が痴漢の被害にあったと思い激怒。策を使って芳晴たちを撃沈。トリモチ銃ゲット。四階から移動。>>71-79
【芳晴 コリン】ハクオロたちを発見するも返り討ちあう。両名トリモチまみれで気絶中。四階の一室。
【アルルゥ ユズハ 雪見 なつみ】雪見となつみ、騒ぎを聞いて駆けつける。アルルゥプンプン。二階の一室。
【由美子】ぶっちゃけ眠い。でも頑張って見張っている最中、ホテルに近づく鬼発見。どうしよう。あと芳晴も心配。屋上。>>105-108
【雅史 沙織】不思議な感覚に導かれて進んでいる内にホテルを発見。お化けも発見。賭けは沙織の勝ち。鶴来屋別館前。
135イベント中:03/08/02 23:57 ID:fQY1WiaE
リサ 気配を感じて逃亡、追跡される。森。四日目午前十時。晴れ。>>58-60
【蝉丸】一瞬の隙をつかれるもすぐに追撃開始。

楓 祐一チームに遭遇。罠をいくつか発動させつつ逃亡中。森。四日目午前十時過ぎ。晴れ。>>109-110
【祐一 舞 郁未 由依】楓を補足、追撃中。

カミュ ユンナ 高槻から逃げるもすぐに別の鬼に見つかる。そして逃亡。海岸近くの森上空。四日目朝。晴れ。>>111-114
【神奈】以前一度逃がした相手と再び遭遇。張り切って追いかける。
【葉子 巡回員】用足しの間に置いて行かれた巡回員、でもすぐ葉子が迎えに来た。一般人には辛い速度で追撃。>>115-116

【葵】不安を感じてるところに坂下と出会い、励まされる。四日目朝。まだ雨。>>125-129
【坂下】日課の早朝ランニング中葵を見かけ、愚痴を告白。その後駅に戻っていく。
【瑠璃子 美汐 真琴 琴音】ドライブイン。朝食完了、余り物で昼食用のお弁当作り。
【智子 初音 みさき あかり シュン】駅舎でまだ睡眠中?
136Calm time or not:03/08/03 17:17 ID:YwDGFE4K
 例えば、諦めが人を殺すように。
 例えば、驕りが恐れを無くすように。
 過信が平静を覆う事も、あるのかもしれない。
             
「何で、当たんないのよ!」
 数メートル前を走る獲物の牽制のために、威力を抑えた不可視の力を撃っても郁未がどこにに撃つかがわかっているかのように避けられてしまう。
 この"鬼ごっこ"が始まってから目の前の少女は一度も後ろを振り返っていない。
 郁未の予備動作を見て、避けているわけではないのだ。
 当たらないのは、事実として仕方が無い。それはまだ、諦められる。
 それでも、少女は不可視の力とそこら中に散乱してる罠を避けているから、相当逃げる速度落ちているはずなのだ。
 なのに、なんで
 差が縮まらないのだ。
 郁未は陸上部の元エースだ。
 頭脳戦ならともかく、ただのチェイスで負けるのはプライドが許せなかった。
「これで!」
 掛け声と同時に前を走る少女の前方の地帯に不可視の力を一気に叩きつける。
 巻き上がる砂埃。
 そして、その中から網が飛び出してきた。
 不可視の力によって、遍在する罠を強制的に発動させたのである。
 更に、これまでに経験で落とし穴が数多く存在する事はわかっている。
 当然、あの範囲にも落とし穴があるはずだ。
 だから、今のあの範囲には足場が少ない。
 少女が砂煙の中突っ込んでいけば、落とし穴に落ちるかもしれない。
 少女の姿が砂埃の中に消える。

 そして、視界が晴れたとき――少女の姿はそこに無かった。
137Calm time or not:03/08/03 17:17 ID:YwDGFE4K
 柏木楓にとって不可視の力は決して脅威になるものではなかった。
 楓は勘が良い。
 それはエルクゥとしての本能が相手の意思を感じ取っているからである。
 もちろん、相手がどんな風に思考して、という言う意図で動くかが全てわかる訳ではないは無い。
 ただ、ぼんやりとこの辺が危ないとか、そういう感じがするだけである。
 その感覚が楓は姉妹の中でも一番鋭い。実践で役立つのに十分なほどに。
 だから、不可視の力という、ただの『視えない』ことだけがアドバンテージである分には全く脅威にはなりえない。
 それを使うのが人間である限り、そこに意志が存在するからだ。
 だから、楓の目の前がはじけた時も、ただ冷静に、跳んだ。
 そして、一番近い木の枝に着地。そして、後ろを確認する。
 鬼は四人。
 髪の長い少女二人が先行し、後ろから少年と髪の短い少女がついて来ている。
 青い髪の少女が落とし穴の中を調べている。
 姿の消えた楓が落ちたものと思っているらしい。
 彼女の注意は穴の方にいっておりこちらには気付いていない。
 これならば、このままこっそり逃げる事も可能かもしれない。
 そう楓が考えたとき、
 剣を手にした黒髪の少女と――眼があった。
 ――見つかった。そう判断するより早く、足場を蹴って飛び出す。
 後ろは見ない。けれど、気配で二人追って来てるのがわかった。
 やっぱり、あの二人只者じゃない。
 逃げ切れるだろうか? ふと、わいた疑問に答えにかかった時間は一瞬。
 その答えは、まだ捕まるわけにはいかない、と。
138Calm time or not:03/08/03 17:18 ID:YwDGFE4K
そして、また"鬼ごっこ"が始まった。
「いいかげんにっ……!」
 郁未が再度、不可視の力を楓に向けて放つ。キレたのか、楓なら平気だと判断したのか先ほどよりも、速く、強い力だ。
 楓は当たるよりも一瞬早く横に跳ぶ。しかし、今度は避けきれずぐらりと楓の体勢が崩れた。
 それとほぼ同時に、上から金ダライが落ちてくる。
「もらった!」
 これ以上ないチャンスに勝利を確信し、郁未は、撃った。
 しかし、
 聞こえてきたのは、かぁんという耳障りな金属音。
 防がれた。まただ。
 この娘には、さっきからやる事なすことすべてが通用していない。
 ……勝てない。
 心の奥底で認めた、敗北。それを認めたくなくて、郁未は走った。
 冷静になんていられなかった。捕まえる。それが全てだった。
 だから、郁未は気付かなかった。
 舞は気付いていたかもしれないし、少なくとも違和感は感じていた事だろう。
 祐一や由衣は前の二人を見失わない事に必死で気付いていなかった。
 すこし考えれば、おかしいと思うはずだ。
 なぜ、祐一達は『安全に追跡』などをすることが出来たのか。
 いくら罠が楓に発動してるといっても、なにもその道を通っただけで罠が発動するわけでないだろう。
 落とし穴ならそこを踏まなければならないし、先ほどのタライの様なものの場合は足元に仕掛けられている糸に引っかからなければならない。
 つまり、その道を通っても発動条件を満たさなければ罠は発動しない。
 それなのに、祐一チームが『安全に追跡』出来た理由、それは、
139Calm time or not:03/08/03 17:19 ID:YwDGFE4K
楓が全ての罠を発動させていたからに他ならない。
 いや、こういうと語弊がある。正確には落とし穴以外の全ての罠である。
 落とし穴は楓の通った道を進めば落ちることは無い。
 このぬかるんだ道では足跡も残る。それを見て進めば良いのだ。
 もしかしたら、祐一たちにはそうやって自分たちで罠を避けてきた意識があって、その所為で違和感に気付かなかったのかもしれない。
 ともかく、全ての罠を発動させられるという事は、ある罠を意図的に残す事も可能であるということである。
 郁未が足元に何かを感じたときには既に遅く、郁未の足にロープが絡みついた。
「きゃっっ」
 襲い掛かった罠は今までに幾人もの被害者を出してきた吊り下げトラップ。
 身体中に浮き、逆転する。不快とも快楽ともとれる上昇感。
 しかし、今までに何人もの女性を苦しめた、この罠も郁未にとっては大した意味をなさない。
 ロープを不可視の力で切れば良いだけの話だ。
 郁未がそれを実行しようとしたとき、自分に向けたれた視線を、感じた。
 楓がこちらを見ている。その理由がわからない。
 舞や祐一や由衣だって後ろから追ってきてるのに、なんで逃げないの。
 私だったら今のうちに少しでも逃げ――
「……安心して下さい。下は落とし穴ですから」
 呟くようなかすかな声、その意味を理解するよりも速く、楓の手が、指先が、否、爪が
 郁未の吊り下がる、その木を、斬り倒した。
 襲い掛かる落下感。
 その中で、郁未は自らの敗北を認めた。
140Calm time or not:03/08/03 17:19 ID:YwDGFE4K
「「郁未っ!」さん!」
 その光景を見て、祐一と由衣が更にスピードをあげて駆け寄る。
 最初は優勝するために組んだだけの関係だった。
 だけど、このチームを組んでから、三日経った今、祐一はこのチームのメンバーをただの駒として見れなくなっていた。
 ありていな言葉でいれば仲間。ここまで戦い抜いてきた戦友。
 ただの友達とは一線を画する関係として、祐一は彼女らの事を認めていた。
 だから、がむしゃらに郁未に向かって駆け寄った。
 ただ
「祐一、そこ落とし穴」
 その舞の一言が聞こえるまで間だったが。

 一人取り残されたように、ぽつんと立つ、舞。
 首を曲げて最初に郁未が吊り下がっている木を見て、
 次に祐一と由衣が落ちた穴を見ると
「ど う す れ ば い い ん だ」
 手の中にある超先生人形が舞の心境を代弁した。

【郁未 吊り下げあーんど半分落とし穴に落ちる】
【祐一、由衣 郁未とは別の落とし穴の中】
【舞 ど う す れ ば い い ん だ】
【楓 逃亡成功】
【登場 柏木楓】
【登場鬼 【相沢祐一】、【天沢郁未】、【名倉由依】、【川澄舞】】
141名無しさんだよもん:03/08/03 17:20 ID:YwDGFE4K
のわっ、あげちまった…… すいません。
142名無しさんだよもん:03/08/05 00:16 ID:eN2JdmW7
143名無しさんだよもん:03/08/06 07:30 ID:BTNuclrN
144名無しさんだよもん:03/08/06 08:24 ID:xKkyM7JI
保守
145名無しさんだよもん:03/08/06 18:18 ID:jrIuvPz4
146咆哮:03/08/06 20:12 ID:HxUdKMD2
「ね、ねぇ雅史君。逃げたほうがいいんじゃないかなぁ……?」
 夜のホテルの上の異形に見つめられて、沙織の腰は完全に引けていた。
ギュっと雅史の服を掴む。だが、雅史はは首を振った。
「うーん、僕も正直怖いけど……やっぱり何もしてない人に
いきなり逃げだしちゃうのもちょっと失礼だと思うよ」
「ひ、人じゃないよぉ、あれ。襲われたらどうするの?」
「落ち着いて、新城さん。襲う気があるならもうそうしているよ」
 雅史は沙織の肩をポンポンと叩いて落ち着かせると、
ホテルの屋上へ視線を戻した。
(うーん……やっぱりこっちのこと見つめてるみたいだけど……
どうしたんだろう、あんなに体を揺らして)
 ゆらゆらと屋上の巨獣は体を揺らしている。首も何度もうなずくように
上下に動かしている。
「ねぇ、新城さん。あの人眠いんじゃないかなぁ。なんか危なっかしいよ」
「だから人じゃないって。うん、でも確かに居眠りの直前って感じだね。
 私も授業中よくやっちゃうよ」
「大丈夫かな。あんなふうに体を揺らしてたら落っこちちゃうんじゃ……」
 雅史が心配する間にも、巨獣の体がひときわ大きく傾き、
巨獣の大きさには面瀬の小さすぎる屋上から大きく体がはみ出して―――
「あ、あれ……?」
「うそぉ!?」
 完全にバランスを崩して、驚愕の声を上げる雅史達の方へ落っこちてきた。
147咆哮:03/08/06 20:14 ID:HxUdKMD2

 ユミコが最初に眠気を自覚したのは、芳晴達と別れて1時間後ぐらいだった。
 最初はそれがハイテンションの反動だと思っていた。単調な見張りによる退屈から
 きたものだと思っていた。
 だが、それからほどなくして信じられないほどの眠気がユミコを襲い始めた。
(ナ、ナンデコンナニ……)
 鉤爪のついた手で何度も顔を叩くが効果が得られない。
 ゆらゆらと景色が揺らぐ。視界が暗くなる。思考が鈍くなる。
 ユミコは必死で頭を振った。考えがまとまらない。
 今来た男女一組の鬼達のことだってどうするか決めなくてはならないのに。
(モシカシテ、コノ眠気ハコノ力の代償……?)
 力を行使した事による疲労から眠気が来ているのか……
 それとも最初から仮面の力の制限として眠気がくるようになっているのか……
 そんな考えをまとめることすら出来ずにユミコの思考は心地のよい闇にのまれ、、
ひときわ大きく体が揺らぎ、浮遊感が身を包んだ。

 ドォォォォォン!! と、地を揺るがす大音響が響き、
ビリビリと鶴来屋別館の窓ガラスが振動し、派手な土煙が立って……
 恐る恐る雅史が目を開いた時、土煙の中その目に映ったものは、
「大丈夫か? 貴様ら」
 自分と沙織を腕に抱える巨躯の男と、数体のメイドロボの姿だった。
「ご協力感謝します、ダリエリ様」
「いや、余計な手出しだったな」
 雅史はダリエリと呼ばれた男の腕の中で、ゆっくりと辺りを見回した。
すぐ側では巨獣が地に伏している。いや、伏しているというよりめり込んでいるといった方が正しいか。 
 どうやら自分達はあれに押し潰される寸前にこの男の手によって救い出されたらしい。
 そういえば、目を瞑る前に自分達に横から迫る黒い影を見たような気がする。 
正直、あの刹那に人二人を抱えて脱出するなんて、ちょっと信じがたいのだが。
148咆哮:03/08/06 20:15 ID:HxUdKMD2
 ダリエリは地に二人をおろした。
「あ、あれ? えっと?」
「あの、あなたが僕達を助けてくれたんですか?」
 まだ状況をつかめていない沙織に代わって、雅史が確認する。
「ああ。たまたま通りがかってな」
「ありがとうございます。助かりました」
「礼には及ばない。どうせ奴らが助けただろうしな」
 ダリエリは親指でメイドロボ達のほうを指差した。彼女達は既に撤収にかかっている。
 その向こうで、こちらに駆け寄ってくる二人の女性の姿が見えた。
「ダリエリさーん。大丈夫ですか〜!?」
「当然だ夕霧嬢。狩猟者の力を持ってすればこの程度の救助、造作もないこと」
 ダリエリはその無骨な顔に笑顔を浮かべて、眼鏡の少女を迎える。
一緒に走ってきたポニーテールの女性はその様子に多少の苦笑いを作ると、
ペタンと地面に座り込んだままの沙織を助け起こした。
「大丈夫? 怪我とかしなかった?」
「新城さん?」
「え、あ……うん。大丈夫だよ」
 ようやく我に返ったらしい沙織にほっと一息つくと、雅史は再度ペコリと頭を下げた。
「本当に助かりました。礼を言わせてください」
「気にするな。さっきも言ったがこれは余計な手出しだったのだ。
それにどの道今夜はここを宿とするつもりだったしな。
それはそうとして―――こやつは何者なのだ?」
 ダリエリに言われて、雅史は巨獣の方を振り返った。
「あ、あの? 大丈夫ですか? こんな高いところから落ちちゃったら……」
「ま、雅史君! 危ないよ!」
 沙織の制止を聞かず、雅史は巨獣の顔に近づいた。
「怪我とかしてないですか? うわ、気絶しちゃってるのかなぁ」
 気遣わしくその顔を撫でる。と、巨獣はそれに反応したのか呻き声をあげた。
149咆哮:03/08/06 20:16 ID:HxUdKMD2
「ウ……ン……アレ? ココハ……?」
 ゆっくりと頭を起こし、あたりを見渡す。
「ネチャッテタノ……ワタシ? ン……ダリエリサン?」
「その声……! まさか由美子さんか!?」
 ダリエリが驚きの声を上げた。

「うわ、その柳川って人本当に女の敵じゃない!!」
 かなり眠そうなユミコから事情を聞いて、沙織は怒りの声を上げた。
気持ちの切り替えが早いのか、既にユミコのことも恐れてはいないようだ。
「でも、由美子さん。無理をしたら体に毒だと思うわ」
「ダ……ケド……柳川サンニ……逃ゲラレ……チャウ。芳晴サン……達……ダッテ……」
 ほとんどうわごとに近い形でユミコは高子に反論する。
「その能力だってどんなものか明らかじゃないんだし……ここは寝てしまった方がいいと思う」
「デ……モ……」
「あの、由美子さん? よかったらお手紙という形で柳川さんに想いを伝えてみたらどうでしょうか?」
「あ、うん。雅史君、それナイスアイデア! 
あのね、由美子さん。私達郵便配達人、やってるの。良かったら私達でお手紙届けようか?」
 雅史と沙織の提案に、だが先ほどから黙っていたダリエリが首を振った。
「悪いが少年少女、この件は貴様らの手に余る。奴もまた狩猟者の端くれなのだからな」
 それから、天を仰ぎ歯軋り交じりにつぶやいた。
「青二才の分際で由美子さんに無礼を働くとは、断じて許さぬ……
夕霧嬢、申し訳ないが……」
 ダリエリは問いかけるような視線を夕霧に送った。
 夕霧は少し微笑んで首を振る。
「私達のことは気にしないでください。このホテルで待っています。
ダリエリさん……今度は戻ってきてくださいね」
 ダリエリはうなずいた。ただ、胸中で夕霧の寛容に礼を言う。
「由美子さん。この一件俺に任せてくれ。必ずや奴をあなたの前に連れてこよう」
 ダリエリの猛った視線に、ユミコはしばらく沈黙した後うなずいた。
「オネガイ……ス……ル……ネ……」
 そして、限界が来たのかゆっくりと目を閉じた。
150咆哮:03/08/06 20:16 ID:HxUdKMD2
「ダリエリさん行っちゃったね。由美子さん、どうしようか」
 雅史は猛スピードでホテルへと駆けて行ったダリエリを見送ると、
ユミコのほうに視線を戻した。そして息を呑む。
「み、見て!! 由美子さんが!」
 雅史に言われてユミコを見て他の三人も驚いた。
 由美子の巨大な輪郭がぼやけ、徐々に縮まってきている。
「ア、アイテムの効果が切れたんでしょうか?」
「う、うん。そうみたい」
 そう言う間にも、由美子の姿が巨獣から一糸まとわぬ人の姿に変化を続けていた。
「雅史君! 回れ右!!」
「あ、ごめん!!」
 雅史は顔を赤らめてクルリと後ろを向いた。
「うわ、完全に寝むちゃってるね」
「とにかく由美子さんをホテルの中に運びましょう」
「あ、あのこの仮面が例のアイテムでしょうか」
「うん、そうなんじゃないかな。変にかぶっちゃうと危ないかもしれないね」
 そんな声が背後から聞こえてきた。

 ホテルに向かってダリエリは翔ける。
「力を持たぬ弱き者を手にかけるほどこのダリエリ無粋ではないが……」
 口元に凄絶な笑みがその顔が浮かぶ。
 怒りと狂喜が胸に浮かぶ。
 ダリエリは胸中で咆哮した。
「柳川、貴様なら相手にとって不足なし!! 不埒者が貴様であることを神に感謝するぞ!!」

【ダリエリ ホテルへ】
【由美子ダウン。仮面の効果が切れる。仮面にまだ効果が残っているかは不明】
【三日目深夜 鶴来屋別館】
【登場鬼 【佐藤雅史】、【新城沙織】、【小出由美子】、【ダリエリ】、【砧夕霧】、【桑島高子】 】
151意地と約束:03/08/07 04:41 ID:3EvOnOiG
 ズゥゥゥゥンという地響きのような音に、眠っていた友里は慌てて身を起こした。
「な、なに……!? なんなの?」
「さあな。ここからじゃわからない」
 暗闇の中、柳川が答える。
「全く……何がおきているのかな」 

「全く、何が起きてるんだ? このホテルじゃ」
 往人は呆れたようにつぶやいた。
 四階で見つけたエクソシストの亡骸に今度はこの地響きだ。
 いったいなにがどうなっているのやら。
「アルルゥさん達大丈夫でしょうか。起きなければよいのですが」
「さあな」
 往人はぶっきらぼうにウルトリィに答えた。
「で、ウルトリィ。じゃんけんのやりかたは分かったか?」
「はい、分かりました。チョキが難しいですね」
「グーを出すとよい事があると言うぞ?」
「あ、そうなのですか」
「んなわけあるか!」
 鶴来屋別館。四階のエレベータ前で、大志達はウルトリィにじゃんけんを教えていた。
「っていうか、誰が土台かを決めるじゃんけんに私やウルトリィさんも入るの?」
「古いなマイシスター。今や時代はジェンダーフリー! ゆくぞ!! ジャンケンポン!!」
 大志の掛け声によって四人の手がそれぞれ形を作った。その結果――――
152意地と約束:03/08/07 04:42 ID:3EvOnOiG
 エレベーターの中、ウルトリィは土台として肩車をしてもらっている往人に謝った。
「すいません、往人さん。このような狭いところではうまく飛べませんから」
「気にすんな。俺はいい」
「私はよくないわよ!!」
「諦めろマイシスター。これも日ごろの行いだ」
「あ、あんたにだけは日ごろの行いを諭されたくないわよ!!」
 往人達の隣では、やはり同じように瑞希が土台となって大志を支えている。
 大志はエレベーターの天井を調べると、留め金に手をかけた。
「ふむ、ここを外せば蓋が開くようであるな」
「な、なんでもいいから早くしてよぉ〜 もう、持たないわよ!!」
「焦るなマイシスター。それではご開帳〜」
 大志は留め金を外すと、天井の扉を押した。

 エレベーターが通過する縦穴の中、異変に気づいたのは柳川が最初であった。
 下から何か物音や声がしてきたのだ。
(エレベーターを使うつもりか?) 
 自分達にきづかないまま、単にエレベーターを使いたいだけということは確かにある。
ならば下手に動くのは軽率なのだが……
 だが、柳川はすぐに自分の考えが甘いと知らされた。
下からエレベーターの天井をこするような音が聞こえてきたのだ。
「まずいわね。ここにいるの、気付いたみたい」
 友里は自分達のすぐ上、5階のフロアにつながる扉を指差した。
「やむをえないわ、柳川さん。あの扉をこじ開けて逃げましょ」
 無論、今はその扉は閉ざされている。エレベーターが着いたときだけ、その扉は開かれる。
 無理にこじ開けようとするならかなりの力が必要になるが、
柳川の狩猟者の力をもってすれば造作もないことのはずだ。
 だが、柳川は力をためようとして、己のミスに気づいた。
153意地と約束:03/08/07 04:45 ID:3EvOnOiG
 己の力に付随する法則を忘れていたのだ。即ち――――

 『狩猟者の力を解放するとき、質量もまた増大する』

 ここが硬い地面の上ならば問題ない。だが、ここはエレベーターの上なのだ。
 果たしてここで力を解放して、エレベーターは持つのだろうか? 
 持たなかった場合、友里は、あるいはおそらく下にいるであろう鬼達はどうなるだろうか?
「ク……なんてことだ」
 呻く。まさかこんな落とし穴があったとは。
「柳川さん……!?」
 友里が慌ててひざまずき、手でエレベーターの天井を押した。
「扉が開こうとしてる! 一緒に抑えて!」

「クク、同士達、どうやらビンゴのようだぞ?」
 歯を食いしばり天井の扉を押し上げようと力を込めながら大志はニヤリと笑った。
「何者かが、向こうで抑えているようですね」
 ウルトリィも大志を手伝う。
「た、大志……ごめん! 本当に持たない……!!」
 瑞希が大志を支えたままガクガクと揺れる。大志もその声が本気だと分かったのだろう。
「ぐ……そうか……」
 素直に瑞希の肩から下りた。
「確かにこう抑えられているのであれば、突破は難しいな」
「ウルトリィ、法術でなんとかならないか?」
「光の法術で吹き飛ばす事は可能ですが……むこうに害を与えてしまうかもしれません」
 ウルトリィは食いしばった歯の間から答えた。
 力を込めて天井のふたを押しているのだが、やはり開く事は難しそうだ。
「分かった……大志、俺が土台になるからウルトリィに代わって蓋を押してくれ。
ウルトリィと瑞希はもう一台のエレベーターを使うんだ」
154意地と約束:03/08/07 04:45 ID:3EvOnOiG
「どうするの? このまま抑えているの?」
 友里と柳川はいっしょにエレベーターの天井のふたをおさえていた。
 ふたにかかる圧力はそれほどのものではない。確かにすぐに押し切られるという事はなさそうだが…… 
 柳川は答えようとして、何かの作動音に気づき顔を上げた。
(なんだ……?)
 ほどなくして、その正体が分かる。もう一機のエレベーターが一階から上がってきたのだ。
 エレベーターは柳川達のエレベーターと同じ高さに達して、そこで制止した。

「エレベーターが着ました」
「ああ。頼んだぞウルトリィ、瑞希」
 依然蓋を押し開けようとする大志と、それを支える往人を尻目に
ウルトリィと瑞希はエレベーターを出て、今呼び寄せたもう一機のエレベーターに乗り込む。
「お願いします、瑞希さん」
「うん、頑張ってねウルトリィさん」
 ウルトリィはうなずき、すばやく瑞希の肩に乗ると、天井の蓋の留め金を外し始めた。

「まずい、あっちから来る気か!?」
 隣のエレベーターの天井から聞こえてくるカチャかチャという音に、柳川と友里は歯噛みした。
 今、エレベーターは隣り合っている。
あっちのエレベーターの上にでて、こちらにわたって来る気なのだ。
「つっ……仕方ない!!」
 友里は向こうの蓋を抑えている暇はないと判断。すぐ上の5階の扉に手をかざし意識を集中させる。

 バァァァンッッ

 不可視の力によって強制的にロックが外され、5階の扉がこじ開けられた。

 ダリエリは顔を上げた。
「そこか……」
 そう、低くつぶやいた。
155意地と約束:03/08/07 04:46 ID:3EvOnOiG
 ウルトリィはエレベーターの天井の蓋を開けて、その上に上った。
 埃っぽいエレベーターの縦穴の中、いましも二人の逃げ手が5階の扉から縦穴から外に逃げようとしている。
 ウルトリィは下に向かって叫んだ。
「瑞希さん!! 逃げ手の方々は5階に逃げました!!」
 ウルトリィもまた、友里のこじ開けた扉をくぐって5階のフロアに出た。

 縦穴から脱出した柳川は友里を抱えて5階の廊下を走る。
「だ、大丈夫か! 友里!!」
「大丈夫よ……おろして」
 友里はそういうが、それは強がりだった。体がぐったりしている。
ほとんどまともに休息も睡眠も取れていないところでかなり本気で不可視の力を使ってしまったのだから。
 柳川はチラリと後ろを向いた。
 羽根を生やした、金髪の女性が追いかけてくる。それなりに俊敏な動きのようだ。
 だが、たとえ友里のウェイト分のハンデがあったとしても引き離せないという事はなさそうだ。
 だが、次の瞬間柳川は目を見開いた。
 廊下の向こうから三人の鬼が現れたのだ。
 それは、4階から移動してきた大志達だった。
(チッ……どうする? 抜けるか?)
 廊下は狭い。前の鬼達はさほど機敏な動きはしていないが、それでも友里を抱えたまま抜くスペースがあるのかどうか……
 だが、後ろの女性を抜くのも難しそうだ。かなり隙のない動きをしている。
 一瞬の逡巡のあと、柳川は客室に飛び込んだ。
156意地と約束:03/08/07 04:47 ID:3EvOnOiG
「ちょ、ちょっと、柳川さん!! 窓から逃げる気なの!? 由美子さんはどうするのよ!?」
「外に出て、それから由美子に捕まる前にまた中に逃げ込む!!」
 窓に向かって走りながら柳川は答えた。
「しゃべるなよ! 舌かむぞ!!」
 窓枠を蹴って外に飛び出す。
「〜〜〜!!」 
 胃がよじれるような感覚に友里はうめき声を上げた。
 柳川は友里をしっかりと抱きかかえながら着地。身にバネをためたままで辺りを素早く伺う。
(由美子が……いない?)
 どこにも姿かたちが見当たらず、あの巨大な気配を感じる事も出来ない。
(罠かもしれないが……しかし……)
 柳川は友里の顔色をうかがった。自分のミスで疲弊させてしまったのだ。
叶う事ならこのホテルを抜け出してゆっくりと休むところに連れて行ってやりたい。
「友里、予定変更だ!! このままここから抜け出す!!」
 柳川はそう叫ぶと、地を蹴って近くの森に向かって走り始めた。

「な、なによあれ! 反則じゃない!!」
「ククク……ここまで来るとまるで詐欺だな」
 5階の窓から、大志たちは猛スピードで走る逃げ手たちを眺めていた。
 そのスピードはあまりに速い。
「ウルトリィ、追えるか?」
 ウルトリィは黙って首を振った。ここから飛び降りる事は出来てもあの速度を追跡する事は不可能だ。
「そうか……やってられないな……」
 往人はつぶやいた。
 世の不条理に対するあきらめの空気が場を流れる。
 あれだけ知恵を絞ったというのに、そんなものはあの身体能力の前には儚いものでしかなかったのだ。
 だが、そんな雰囲気を切り裂くかのように、階下の窓から一つの影が外に飛び出してきた。 
157意地と約束:03/08/07 05:04 ID:3EvOnOiG
「……!!」
 森まで後一歩というところで、柳川は急停止した。
その前方に影が走りこんできたのだ。
「お前が、柳川だな」
 その影、巨躯の男はゆっくりとこちらに歩いてくる。
 徐々にその姿が膨らみ、巨大になっていく。
「由美子嬢に行った不埒な行為の責、とってもらうぞ?」
 口が裂け、牙が生えてくる。
「お前も……狩猟者か……」
「そうだ。貴様と同じく、な」
 柳川は歯噛みした。
 強敵だと分かる。重圧感が違う。そのプレッシャーに、己の中の狩猟者が呼応する。
 柳川は我知らずのうちに、自分もまた力を開放し始めた。
「我が名はダリエリ。由美子嬢の命により貴様を捕らえる」
 その姿はもはや異形というにふさわしい。
 友里は苦笑いを浮かべた。
「柳川さん、放してくれる?」
「友里……だが……」
「柳川さん、私なんかに構っている場合じゃないわよ? 本気でやらないとヤバイと思うわ」
「賢明な判断だな。柳川、女を抱えていては勝負にもならんぞ」
(そんなことは分かっている……!!)
 柳川は心の中で叫んだ。
 分かっているのだ、そんな事は。だが―――
(まだ俺はこいつに借りをかえしてないんだ!!)
 それどころか、助けられてばかりだと思う。
 柳川はチラリとホテルの方を見た。こちらが立ち止まっているのを見たのか、
その入り口からは先ほどの4人の鬼達がこちらに駆け寄ってきている。
 今ここで友里を放り出したらどうなるだろう。ずいぶんとまだ距離があるとはいえ、疲弊した友里一人で彼らから逃げることができるのか?
158意地と約束:03/08/07 05:04 ID:3EvOnOiG
 だが、友里は首を振った。
「言ったでしょ? 足手まといにはなりたくないの。あいつらぐらいなら何とかなるわ」
 それから友里はチラリと笑った。
「ね、柳川さん。お互いこのピンチが終わったら、最初に出会ったあの小屋で会わない?
そのとき、お互いに逃げ手や鬼だったらそれでよし。どっちかだけが鬼になってしまったのなら―――」
 挑戦的な笑みを、雨にぬれたその顔に作る。
「上手く逃げ切った方が、片方を思いっきりあざ笑ってやるの。どう?」
 柳川はちょっと黙った後、ニヤリと笑い返した。
「そうだな。面白い考えだ」
 そして、ダリエリの方を向く。
 ダリエリは問うた。
「話は終わったか?」
「ああ」
 柳川は答えた。
 既に柳川も異形と化している。
 互いにその力を完全に解放している。
「ならば、勝負」
 そのダリエリの声とともに、二人の狩猟者の姿は風のように掻き消えた。
 一人残された友里は、フゥと大きく息をつくと、森の中へ走り始めた。

【三日目深夜 鶴来屋別館】
【柳川、ダリエリ 共にエルクゥの力を解放して一騎打ち】
【友里 疲弊中。大志たちから逃げる】
【大志、瑞希、往人、ウルトリィ 友里を追う】
【登場 柳川祐也、名倉友里】
【登場鬼 【九品仏大志】、【高瀬瑞希】、【国崎往人】、【ウルトリィ】、【ダリエリ】】
159名無しさんだよもん:03/08/07 19:58 ID:gl0XyqcV
160名無しさんだよもん:03/08/08 14:15 ID:bz8eipeU
161名無しさんだよもん:03/08/08 17:26 ID:qOetU0iM
162名無しさんだよもん:03/08/09 09:28 ID:6uxhmkqC
163名無しさんだよもん:03/08/09 13:03 ID:v5RK4Jhb
164名無しさんだよもん:03/08/09 17:47 ID:v5RK4Jhb
165名無しさんだよもん:03/08/09 20:36 ID:v5RK4Jhb
166名無しさんだよもん:03/08/10 08:49 ID:nuEGaQr2
167名無しさんだよもん:03/08/10 19:44 ID:VHejjocW
168名無しさんだよもん:03/08/11 00:32 ID:2MIKjhrg
169名無しさんだよもん:03/08/11 21:23 ID:KV0XfU6G
170名無しさんだよもん:03/08/11 23:43 ID:dfMSs5Y6
荒れ放題だね、ここも。
171名無しさんだよもん:03/08/11 23:49 ID:+18arWc6
だな
172名無しさんだよもん:03/08/12 00:18 ID:UnPqLyX1
bbspink全土がやられているらしいよ。
夏が過ぎればこの嵐も終るのかねぇ? まぢで。
173名無しさんだよもん:03/08/12 02:16 ID:LhzP6djH
174名無しさんだよもん:03/08/12 13:01 ID:pzyhoshm
こっちも保守
175_:03/08/12 13:02 ID:Gej3S+9a
176名無しさんだよもん:03/08/12 13:53 ID:/n8QwxDF
美女系!!ロリ系!!人妻系!!外人系の超エロエロ画像多数あり!!!
新作がどこよりも早い!!!!!!!!!!

http://d-jupter.net
177Lock ON:03/08/12 18:16 ID:eCXvaV+i
(俺は石だ。物言わぬ石だ)
 草木の間に潜み、トリモチ銃を構えじっと御堂は一点をにらみ続ける。
(俺は石だ。石は動かず、待つ事を厭わず、ただ耐える)
 鋭い視線の先、草木の向こう、川のせせらぎの中に一人の逃げ手の姿が見えた。
 その女のことは良く知っている。岩切花枝、自分と同じ強化兵。強敵だ。
 パシャッという音とともに、岩切の手によって一匹の魚が跳ね上がり、川辺の方に投げられる。
(昼飯の準備か? のんきなもんだぜ)
 岩切を発見したのは僥倖だった。既に、トリモチ銃の弾も補充してある。だが―――
(焦るな。がっつくんじゃねぇ)
 川の中は奴のフィールド。しかも弾速の遅いこの銃の事、この距離では狙撃したとしてもかわされてしまいかねない。
 だが、チャンスは必ず訪れるはずだ。
 いかな奴とて食事をとる時ぐらいは川から上がるだろう。魚にだって火を通したいはずだ。
そして奴は日に弱い。おそらく木陰に入りたいと考えるはずだ。すなわち川から離れることになる。
 幸いにして魚が打ち出されているのはこちら側の岸辺。
食事はこちら側でとるはずだし、木陰に入ろうというのなら、今御堂が潜んでいる茂みに相当近づくはずだ。
 だから、今は待つ。狙撃にもっとも大切な事は絶好の機まで待つことなのだ。
トリガーをひく事は最後のささいな仕上げに過ぎない。
(待ってろよ岩切。がっついてその魚に大口開いたその瞬間が手前の最後だぜ)
 石と化し、気配をたって最大限に集中して御堂は獲物を狙い続ける。
全ての集中は岩切に注がれ、だから御堂は自分を見つめるもう一人の逃げ手の存在に気付かなかった。
178Lock ON:03/08/12 18:17 ID:eCXvaV+i
(……これはやっぱり運が悪いのかな)
 木の上で楓は嘆息した。彼女が見下ろす茂みの中には一人の鬼が銃を構え川の方を狙っていた。
 彼女と鬼の距離は本当にない。一度鬼が見上げれば自分の事を発見してしまうだろう。
 今は川の方のもう一人の鬼を狙っているようだが。
(どうしようかな……)
 木の上、鬼のすぐ上で気配を立ちながら楓は逡巡していた。

 時間を少し巻き戻そう。
「ふぅ……さすがにちょっと疲れたかな」
 祐一達から逃げ切って、罠が集中している地帯を逃げ切って、楓はようやく緊張を解いた。
 流石に疲れた。罠を感知するのだって気を使う。
「飲み水がどこかにあるといいんだけど……ん?」
 楓は顔を上げた。木々の向こうからパシャパシャと水をはねるような音が聞こえてきたのだ。ごく近い。
 少し迷ったあと、結局楓は様子を見に行くことにした。
(水飲み場は確認しておきたいし、リサさんかもしれない)
 リサと分かれてからまだそれほど時間もたっていなく、
距離的にもそれほど移動したというわけでもないので、あるいは、ということもある。
 楓は気配を絶ち、静かに茂みの間を移動し、木に登って川の方を観察した。
(あれは……リサさんじゃないか。でも逃げ手みたい)
 川の中では一人の女性が、魚を狩猟していた。なかなかたいした手際だと思う。
 楓は、少し迷ったが女性に声をかけようと木から降りようとして、下を見下ろし、
そして愕然とした。
 木の下、すぐ側の茂みの中に、いつの間にか鬼の狙撃手が潜んでいたのだ。

 木の上、葉の間に身を隠しながら楓は逡巡する。
 自分が先に鬼を発見したのは幸運であり偶然であった。
狙撃手の気配の絶ちかたは実に見事であり、上から見下ろしたのでなければちょっと発見できなかっただろう。
そのことからもこの鬼が高い実力を持っていることが伺えた。
(今は私には気付いていないようだけど……)
 だが、少しでも身動きすればこちらに気付くだろう。それを承知でスピードにまかせてここから離れるか?
 楓は胸中で首を振った。
179Lock ON:03/08/12 18:18 ID:eCXvaV+i
 それは危険だ。今の楓はそれなりに疲れている上に、おそらくあの狙撃手は強い。
その上、性質の分からない銃をもっているのだ。
 連射がきくものなのか?
 どんな弾をうちだすのか?
 弾速はどの程度なのか?
 射程距離、効果範囲はいくらなのか?
 それが分からずに行動するのは軽率だ、と楓は思った。
 結局楓は待つ事に決めた。下の狙撃手は、川の中の逃げ手を狙っている。いずれ行動を起こすはずだ。
 その時の機を逃さず、ここから離脱しよう。それまでは最大限に下の鬼に注意を払いながら待つ。

……結局、楓もまた御堂と同じミスを犯していた。一点に集中するあまり、他への注意を怠っていたのである。

 初音、みさき、智子、坂下。それからシュンにあかり。
昨晩駅の宿舎で一晩を明かしたメンバーは、今海に往くために森の中の道をテクテクと歩いていた。
「今更鬼として活躍するのも、僕じゃちょっと無理だし……折角温暖な海に来たんだ。
どうせだったら海で遊びたいかな」
「うん、そうしよっか氷上君。今日は晴れみたいだしね。水着持ってないけど」
「そんなら私達も海いこか。そういえばまだ海の方は行ってないしな。そこまで一緒に行こうか」
「あ、いいね。うん、賛成だよ」
 と、まあそういうわけで彼女達は雨が上がった頃を見計らって海に移動していたのである。
180Lock ON:03/08/12 18:19 ID:eCXvaV+i
「ん……? あれ?」
 不意にみさきが顔を上げた。
「どないしたんや? 川名さん」
「うん……ねぇ、水の音が聞こえない? パシャパシャって」
 そういって木々の向こうを指差す。
 一行は足を止め、耳をそば立てた。すこしたって智子が口を開く。
「いや……聞こえへんなぁ」
「でも誰かもいるかもしれないわね。川名さん耳がいいみたいだから」
「そういえばこの近くに川が流れているはずですよね」
「それならいってみよか。ひょっとしたら獲物がいるかもしれへんし」
「そうですね……あ……これって……」
 初音が顔を凍ばらせた。初音は一度頭を振り、それから木々の向こうを凝視する。
 かなり長い間そうした後、初音はポツリといった。
「多分だけど……楓姉さんがいる……」
「楓ちゃんが?」
「はい……はっきりとはいえないんですが、たまにわたし達、
お互いのこと感じる事があるんです。テレパシーっていうか感応力っていうか、
それほど確かなものではないんだけど……
今だってみさきさんに注意を向けらけなければ気付かなかったと思います」
「へぇ、すごいね、初音さん」
「でもそれだったら楓さんも初音にきづくんじゃないかしら?」
「そのはずなんだけど……楓姉さんの方が鋭いし」
 初音は少し迷った後、
「少し待っていてください」
 初音はそういって、道から外れて木と茂みの間を移動し始めた。
181Lock ON:03/08/12 18:20 ID:eCXvaV+i
 初音もまたエルクゥの一員だ。姉達には及ばないとはいえ、
その気になればある程度ならば気配をたち音立てず移動する事が出来る。
やがて、初音はぴたりと止まった。茂みの中から一点をじっと見て、自分の気のせいではないと悟る。
「やっぱりいた……楓姉さんだ」
 エルクゥ同士の感応力がなければきっと気付かなかっただろう。
 まだ少し距離がある木の上で、その葉の間から楓の姿が微かに見て取れた。
 こちらに気付いた様子もなく、何か下の方を見つめている。
「見つけたけれど……どうしよう?」
 茂みの中で初音は迷う。
 姉はまだ鬼になっていないようだ。すなわちまだ続いている。
 楓が一方的に押し付けた賭けが。
「わたし、姉さんと勝負するの?」
 賭けを宣告されたときの楓の冷たい眼差しを思い出す。
(どうしよう、どうしよう……?)
 茂みの中、姉をみつめたまま初音は迷い続けていた。

【四日目昼前 川辺とその周辺の森】 
【岩切 川で魚とり。誰にも気付いていない】
【御堂 川近くの茂みから岩切に狙いをつけている。トリモチ銃補充完了。楓、初音に気付いていない】
【楓 御堂のすぐ近くの木の上 初音に気付いていない】
【初音 茂みの中で楓を発見 岩切、御堂に気付いていない】
【智子達 森の道の中で待機中】
【登場 岩切花枝、柏木楓】
【登場鬼 【御堂】、【柏木初音】、【川名みさき】、【保科智子】、
【坂下好恵】、【神岸あかり】、氷上シュン】】
182名無しさんだよもん:03/08/12 20:53 ID:ezsf54PD
新作キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
183望まざるして…:03/08/14 19:23 ID:OaPb2cW6
雛山理緒は、ずっと考えていた。
朝ご飯と昼ごはんがごっちゃになった食事をしている時も。
彰が雨漏りを直そうと提案した時も。
朝に迷惑かけた償いとして、名雪が率先して行動している時も。
小屋から釘と金槌を探している時も。
板を屋根裏に打ち付けている時も。
その作業が終わって一息ついた時も。
名雪が踏ん張って、『ねこ〜ねこ〜』と言う対象をぴろにのみ搾った時も。
早めの夕食を摂っている時も。
毛布に包まって横になった時も。
そして夢に落ちるその時まで、ずっと考えていた。
四日目の朝、他より早く目覚めた時、雨は既に小ぶりになっていた。
これなら止むのもそう遅くない、理緒はそう確信した。
理緒は、顔を洗ったり等して時間を埋め、雨が上がるのを待った。
そして理緒は、考えていた事を実行に移すことを決意した。
184望まざるして…:03/08/14 19:23 ID:OaPb2cW6
彰が起き、美咲がさおりを起こし、そして今日も悪戦苦闘しつつ名雪を起こし、朝食を食べ終わった時には既に雨が上がっていた。
「雨、上がったなあ」
彰が窓から外を眺め、誰にともなく言った。
「本当だ。やっと上がったね」
美咲がそれに答える。
「晴れてるー」
さおりも嬉しそうに窓越しに空を眺める。
一日小屋の中で暇そうにしていたから、久しぶりの晴れ間が嬉しいのだろう。太助が自分のもとに帰って来たこともあるが。
「グスッ…う〜ん、なんか久しぶりって感じだよ〜」
名雪も朝っぱらからは憚られるのか、猫狂いはとりあえず理性で押しとどめている。ただ、服についた猫の毛のせいでアレルギーは治まっていないのだが。
「理緒ちゃんも、そう思うよね? …あれ? 理緒ちゃん?」
名雪が理緒に話を振る。そこで名雪は理緒の異変に気がついた。
理緒は真剣な表情で窓の外を見ていたのだ。
「…どうしたの?」
美咲が首をかしげて訊いた。
理緒はゆっくりと振り返り、一息ついた。
「そろそろ私、出て行こうと思ってます」
185望まざるして…:03/08/14 19:24 ID:OaPb2cW6
「グスッ…え…どうして…?」
訊ねたのは名雪だった。
全員の視線が理緒に集中する。
「私は、家計を助けるためにこの鬼ごっこに参加したんです…ほら、鬼が逃げ手を捕まえたら1万円に換金できるでしょう?」
ああ、と彰が相槌を打つ。
「本当は優勝したかったんですけど、今からじゃ多分無理があると思います。だからせめて、その1万円が欲しいんです。1万円あれば…弟に美味しい物を食べさせてあげられますから」
そういえば、と彰は思う。
自分が理緒に捕まえていいかと尋ねられて断った時、理緒は『私の貧乏脱出プロジェクトが…』と言っていた。
理緒はそこまで貧乏だったのか、と思う。そういえば、身なりも何所となく貧しい。
「偉いな…そこまで家の事考えてるなんて…」
思わずそんな言葉が零れた。理緒は恥ずかしそうに俯く。
「でも…そんな今すぐじゃなくても…」
美咲がすこし下がり目の口調で言う。理緒は首を振った。
「早くしないと、逃げ手がどんどん減っていきます。私は、最後の最後まで頑張らないといけないんです。どうしても…」
「分かった」
彰は言った。
「彰君?」「お兄ちゃん?」
美咲とさおりがハモる。
「来るもの拒まず去るもの追わず、だよ美咲さん。それに、本人がこんなに必死なんだから、それを邪魔しちゃいけないと思う」
「そう…だね」
「ありがとうございます。じゃあ、私行きますね」
理緒は玄関の靴に足を入れた。その時だった。
186望まざるして…:03/08/14 19:25 ID:OaPb2cW6
「グシュ…待って、理緒ちゃん!」
ぴろを抱いた名雪が呼び止めた。
「どうしたんですか、名雪さん?」
理緒が振り返る。
「わたしも一緒に行くよ!」
その言葉に理緒は軽く目を見開いた。
「だって、今まで一緒にいたんだもん。私も理緒ちゃんに協力するよ」
「でも、名雪さんは…」
「…うん、猫さんと離れるのは嫌だよ…でも、ぴろがいるもん…グシュ」
名雪は一瞬太助を振り返る。不思議そうに眺めるさおりと一瞬目があった。
「だから、ね?」
名雪はニッコリ笑う。理緒は少し考えた。
確かに、協力者は居た方がよい。孤軍奮闘するよりも、二人で行動した方がやりやすいだろう。
「分かりました…一緒に行きましょう、名雪さん」
理緒も笑い返した。

彰と美咲とさおりが手を振るのを背に受けながら、二人は小屋を離れる。
「で、まずはどこに行きましょう名雪さん」
「うーん…グスッ…えーっと…グシュ…まずは…クチュン!…商店街にでも行く?」
「でも…商店街じゃみんな警戒して来ないんじゃないでしょうか?」
「うーん…でも、森の中も危ないよー…クチュン!…罠がいっぱいあるもん…グスッ…」
二人は網トラップや落とし穴にかかりまくった覚えがある。
「…どうしましょう…」
「…うにゅ〜…クシュ! クシュン! クチュン!」
頭にぴろを乗っけた名雪はさっきからアレルギーで鼻をぐずぐず言わしている。
これじゃあ逃げ手を見つけてもすぐ逃げられるんじゃないか、と理緒は言い知れぬ不安に襲われた。
先行きは果てしなく不安だった。
187望まざるして…:03/08/14 19:26 ID:OaPb2cW6
(ゲッツ! アンドターン! アンドリバース!)
「何やってるの彰君…」
二人が出て行った後、すぐに挙動不審に陥った彰を見て、美咲が呆れたような声を出した。
「ううん! なんでもないよ美咲さん!」
なにせ、意図せずに邪魔者二人と猫一匹が居なくなり、元の自分と妻と娘(彰主観)と猫一匹の家庭に戻ったのだ。
舞い上がるのも無理はないというものだ。
そして。
(どさくさに紛れて美咲さんの手もがっちり掴んだし! ヒャッホウ!)
手を振るとき美咲の手をしっかり握っていたのだった。
そんな些細な事で舞い上がる、ちょっとウブな七瀬彰、十七歳だった。

【理緒 名雪 ぴろ 彰一家の元を離れて逃げ手捜索 しかし先行きは果てしなく不安】
【名雪 ぴろを頭に乗っけているため猫アレルギー】
【彰 美咲 さおり 太助 小屋に残る 彰 舞い上がる】
【四日目朝】
【登場鬼:【雛山理緒】【水瀬名雪】【七瀬彰】【澤倉美咲】【しんじょうさおり】】
【登場動物:『ぴろ』『太助』】
188望まざるして…作者:03/08/14 22:25 ID:2oe8jkOa
>>187
指摘されて気がついたー!!
彰は大学生でした…ごめんなさい…素で間違えました…

最後の「、十七歳」を削除お願いします…
189名無しさんだよもん:03/08/16 07:34 ID:PKehTvJZ
保守しておきますか。
「んー、犯人はこの中にいます」
 はるかの宣言に、さっと一同に緊張が走る。
 ここはショップ屋ねーちゃんの零号屋台。
 屋台を囲んでいるのは、はるかを始めとして、宗一、冬弥、由綺(+ソーイチ)、七海、来栖川綾香、芹香、緒方英二、理奈、月代、聖、佳乃、梓、13人の鬼と柳也、裏葉の逃げ手二人だ。
 彼らは今、軽い食事を取りながらある事案について話し合っていた。
 逃げ手の柳也、裏葉の首にはどこから持ってきたのか「死体」と書かれたプレートがかけられている。
「…この”板”はなんとかならないのか?」柳也が心より情けなさそうに不満を訴えた。
「死体は黙っててください」にべもなくはるかが却下する。
 
 ――――さて、状況を整理しよう。三日目深夜、逃げ手の柳也の言うことには、休憩のつもりが不覚にも彼が寝入ってしまったところ、二人が目を覚ますと襷が胸元に置かれていたという。
言うまでもなくここでいう襷というのは、鬼が捕まえた逃げ手に渡す、例の「鬼の襷」のことだ。
彼らは、はたと困った。そして、自分たちが捕まったのかどうか確認することにしたらしい。周囲を探索して、襷を置いた鬼を探し、そして
俺たちに遭遇した。最初に会ったのは、冬弥組(冬弥、由綺、七海)――――つまり自分たちで、
以降、緒方・霧島組(緒方英二、理奈、月代、聖、佳乃)、来栖川姉妹、柏木梓の順になる。このことは俺たちも確認している。
問題は、この中に犯人がいるかということだが――――

証言そのいち――――森川由綺
え? うん。冬弥君とずっと一緒だった。だって見張っていないと
冬弥君、浮気するから。…え? 逃げ手の人たち? うん。最初に会ったのは私たちだったけど、…いままで? 会ったことないよ。ああ、でも、途中で居なくなったこともあった。うん。でも、五分くらい。

証言そのに――――霧島聖
いや。…別に一緒にいたと言っても、監視していたわけではないからな。
行動をすべて把握して把握していたのかと聞かれると…ん? こ、こら、佳乃。あっちで。キミを探偵さん二号に任命するよぉ。

証言そのさん――――来栖川芹香
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふるふる。

証言その(略
 と言った具合で、アリバイ崩しは早々に頓挫した。
「んー、つまり明確に除外される人はいない、ということになるね」
 いかにもそれらしい台詞を吐く、はるか。どうやらノリノリのようだ。
「自己申告にしても、捕まえたと主張する人はいない」
「…タッチはしたけれど、鬼がそのことに気づいてなかったというのは?」
 と言ったのは、柏木梓という少女。経過はともかく、彼女は現在一人で行動しているらしい。
「それはないだろう。鬼が気づいていなかったにもかかわらず、その鬼が襷を置いたというのは矛盾だな」霧島聖という女性が指摘した。
「お姉ちゃん、さっすが〜」「そ、そうか、佳乃」
 ……この人たち、大丈夫だろうか。
「じゃあ、表立っては口にできない目的のためだった、とか。これなら、自己申告しないのも理解できるでしょ」来栖川…ええと、綾香の方が口を開いた。 これだけ人数が多いと、わかりにくい。
「口にできない目的ですか?…例えば何でしょう?」
「ワイセツ目的」月代の問いに綾香は間髪入れずに答えた。
 自然、数少ない男性陣に女性陣の視線が集中する。
 またこのオチか!
 このままではまたお仕置きになってしまう。何とか反論を試みるため頭をひねっていると、言下に否定したのは、
自称他称敏腕プロデューサー緒方さんだった。
「それはありえないな」
「どうして?」
「だって、彼女、年増じゃないk」ガンッと鈍い音がして、緒方さんはあっけなく沈没した。
石が飛んできた方向にはどうみても裏葉という女性しかいないが、きっと気のせいだろう。
 ちなみに緒方さんは、倒れながらこちらを見て、
「…ジ・エンドだな、青年」と言った。
 それはアンタだ。
「でも、ワイセツって男のひとがするとは限らないよねぇ」
 佳乃という少女がそういった。
「え? 私には冬弥君がいるから」「アタシには…こ、耕い」「私はノーマルよ!」「私には佳乃が」
 …いま聞き捨てならない台詞を聞いた気がするのが、やはり気のせいなのだろう。
 この島には嫌な電波が飛んでいるに違いない。毒電波とか。
「うーん、残念」……この少女の精神構造はいったいどうなっているのか。
「こういうのはどうかな?タッチした鬼と襷を置いた鬼とは別だった。先に
触れた鬼は気づいていなくて、後の鬼の人が襷を渡した」と、由綺。
 確かに一見理屈としては合っていそうだが…。
「それはおかしいわよ。タッチした鬼が気づいていようがいまいが、後の鬼は普通、逃げ手に捕まえたことを知らせようとするんじゃない? 襷だけじゃ
誰に捕まったのかわからないし。それに、今、自己申告したって良い。黙っている理由はないわ」と、的確に指摘する理奈ちゃん。
「実は、その鬼はシャイだったの」
「シャイって、そんな人間がこのなか…に…」
 理奈ちゃんの語尾が弱まった。
 一同の視線が、ある人物に注がれる。
 ええと…あのコは…そう。来栖川芹香。
「姉さん?」
「………ふるふる」
「え? 違うって? …そうよね、捕まえていたら私に言うよね」

 ――――沈黙が場にのしかかる。また仮説がひとつ消えた。
 一体誰が、犯人なのだろう。

「この際、この襷は無かったことにして、鬼ごっこをやりなおすっていうのはどう?」理奈ちゃんが妥協案をだす。
 確かにここに犯人がいるのかすら定かでない状況では、これ以上推論に時間を費やしても浪費にしかならないかもしれない。
 理奈ちゃんの提案はきわめて妥当だ。
 賛同の雰囲気が充満しつつあるなか、
「その必要はないよ」
 と、声をあげたのは――――
「…はるか?」
「ん。…犯人がわかった」
【はるか、只今探偵役】
【登場人物は嘘をつかない。犯人はこの中に居る】
【三日目深夜〜未明、零号屋台】
【登場 柳也、裏葉】
【登場鬼 【河島はるか】【那須宗一】【森川由綺】【藤井冬弥】【七海】【来栖川綾香】【来栖川芹香】【緒方英二】【緒方理奈】【霧島聖】【霧島佳乃】【月代】】【登場動物 『ソーイチ』】
196曙光:03/08/16 20:13 ID:6A7hJ8S9
 島の東側。ポツンと突き出た岬の上で、一匹の獣がただ立ち竦んでいた。
 眼前には曙光。
 夜の終わりと昼の初まりの境界線に訪れる朱色。
 そろそろ弱くなってきた雨の帳のむこう、赤紫の海を隔てて、陽はその姿を見せ始め、
 身に降る雨も流れ出る汗も荒い呼吸も意に介さず、獣はただそれを見つめていた。

「何を呆けている、柳川?」

 名を呼ばれ、獣は振り返った。
 数十メートルほどの距離を置いて、もう一匹の獣が陽に照らされていた。

「よもや諦めたというわけではあるまいな?」

 案外そうかもしれないな、と獣―――柳川は思った。
 ホテルで友里と分かれてダリエリとのチェイスが始まってから、どうやら3、4時間たっているらしい。
時間の感覚なんて等に失われているが。

「これまではそれなりに勝負を楽しめたのだがな」
 
 (楽しめた、か。
 随分と余裕のある事だ。
 こっちは必死に逃げてきたというのに)
 
 ここまで逃げてくるのに、様々な手を使った。
 目くらましに、フェイント、気配を絶って森の中に潜んでもみたし、
街の建造物を利用したり、誰が作ったのかも分からぬ罠を利用したりもした。
狩猟者としての身体能力だけではなく、刑事として覚えた追跡術を応用して逃走に役立てようともした。 
 まあ、とにかく色々やったのだ。必死に、思いつく限り。
197曙光:03/08/16 20:14 ID:6A7hJ8S9
 (それも全部無駄、か)

 いや、無駄ということもないのかもしれぬ。現に今まで柳川は捕まえられていないのだから。
 結局、実力差があるということなのだろう。奴と自分とでは。
 それに、疲労の差。
 とにかく柳川は疲れていた。考えてみれば、もう半日も逃げ続けているのだ。
 最初は武人の二人。身体能力はともかく、その立ち回りはまるで刃のような鋭さを見せていた。
 次に由美子。あの常識はずれの化け物じみた能力。
 ホテルでは翼の女とその連れども。己のミスがあったとはいえ、その機転は見事だったと思う。
 そして、目の前のダリエリと名乗る狩猟者。
 その実力差を埋めるために、柳川は必死で色々考えて―――

「てっきり、そこから海に飛び込んで姿をくらませるつもりだと思っていたのだがな」

 そう、数分前までは
 まだ暗いであろう海の中に飛び込めば、奴も自分を見失うかもしれぬ、
とかそんなことを考えてここまできたのだけれど。
 どうも自分は朝日を見て、それが綺麗だな、とかそんなことをちょっと思って
それでプツン、と集中力が途切れてしまったらしい。
 まさか、こんなささいなことでこうなってしまうとは自分でも驚きだが―――

 (ようするに、限界か)

 柳川はため息をついた。
その様子をみてダリエリは眉をひそめる。

「フン……ここまでか。まあいい。夕霧嬢をこれ以上待たせるのも気が引ける」
198曙光:03/08/16 20:16 ID:6A7hJ8S9
 待ち人か。そういえば、自分にも待たせている奴がいた。

 ――― お互いこのピンチが終わったら、最初に出会ったあの小屋で会わない? ―――

 あいつはどうしているだろうか。うまく逃げ切っただろうか。
 
 ――― 上手く逃げ切った方が、片方を思いっきりあざ笑ってやるの。どう? ―――

(……嘲笑われるのは嫌だな)
 そう、それは嫌だ。だから、柳川は無理やり呼吸を整えて口を開いた。
「ダリエリとかいったな。なぜ俺を追う?」
「知れた事。由美子嬢に頼まれたからだ。俺自身、貴様のやった不埒な行為を許せんと思っている」
「フン……」
 柳川は口を歪ませた。笑みの形になってくれればよいと思う。
「狩猟者が女の使い走りか。その誇りも地に落ちたものだ」
「ほう?」
「由美子とお前にどんな関係があるのかは俺も知らんが……狩猟者は自由にして奔放。
お前にとやかくいわれる筋合いはない」
「なるほど。良く吠えた」
 ダリエリの目が限りなく細く、鋭くなる。

(やれやれだ。ようやく本気か?) 
 
 別に好きで軽口を叩いたわけではない。
 こうやって自分を追い込まないと、気力が続かない。そう思ったからだ。
 友里が事あるごとに生意気な口を利いていたのも、ひょっとしたら自分を鼓舞するためじゃないだろうか、
とか、そんな考えがふと頭によぎる。
199曙光:03/08/16 20:17 ID:6A7hJ8S9
 柳川はスッと手を上げた。
「ダリエリ、ここで最後の勝負をしないか? これ以上長引くのはお前にとっても本意じゃないだろ?」
「勝負だと?」
「ああ。これから俺はお前を抜く。抜ければ俺の勝ち。二度と俺を追うな。
捕まえられればお前の勝ち。由美子の元だろうとどこだろうと行ってやるさ」

 柳川は今岬の先にたっている。
 ダリエリは岬の付け根にたっている。
 柳川は海に飛び込まずに、ダリエリの脇を抜くといっているのだ。

「ほう……確かに面白いかもしれん。一瞬の勝負もまた一興。夕霧嬢を待たせずにすむしな。
だが、この勝負、貴様の方が不利だぞ? かまわないのだな?」

 柳川とダリエリの距離は、柳川の脚力を持って二跳び。
 岬の横幅は、中心に立つダリエリの脚をもってすれば一跳びで端まで跳べる。
 
 だが、柳川はうなずいた。
 もはや自分には一瞬にかける分の体力、気力しか残ってはいないのだから。

「そうか。ならば……いつでも来い」
 ダリエリは腰を落とし、身構えた。左右の足均等に体重を振り分ける。

「ああ、いくさ」
 柳川は極端な前傾姿勢をとると―――

 前に跳び出した。
200曙光:03/08/16 20:18 ID:6A7hJ8S9
 一跳び目。
 あらん限りの力を込めて、柳川は地を蹴る。
(妙だな……?)
 柳川は思った。何も音が聞こえない。
 狩猟者の渾身の一蹴りだ。とんでもない爆音が聞こえてきてもよさそうだが―――
(音速を超えたとか……まさか、な)

 二跳び目。
 最後の躍動。最後の選択。最後の抵抗。
 
 地を割ってのめくらましとか、
 ぎりぎりまで曙光をかくして目をくらませるとか、
 石か何かを握って投げつけるとか、
 あるいはもっと単純な体重移動によるフェイントとか、
 そんなことを考えて、
 考えたけど柳川は全て放棄した。
 ただ、己の力を信じ、着地すら考えずに全ての力を込め、右に跳ぶ。

「……!?」
 
 それがかえってダリエリの意表をついたらしい。
 わずかに反応が遅れた、と思えた。
 
 高速で流れる視界は静止に近く、
 迫るダリエリの腕がスローモーションでみえる。
 だというのに身の自由が利かないのだというから始末におえない。
 放たれた矢は、打ち出された弾丸は途中で軌跡を変えることをできず、
ただ結果を待つだけ。
 だから柳川は全ての思考を閉じて、待った。

 ダリエリの左手が空を切った。
201曙光:03/08/16 20:19 ID:6A7hJ8S9
「この勝負、お前の勝ちだ柳川」
「……勝ち、か」
 柳川は右手の甲で己の左頬をぬぐった。
「勝ちだ。そのはずだ」
 柳川はぬぐった手を見た。赤いものがついている。
「それは偶然だ、柳川。たまたま俺の爪がお前の頬に触れたに過ぎぬ。
まして、触れただけ。捕まえたとは到底言えぬ」
 ダリエリの爪がかすって、切れてしまった頬を柳川は再度拭うと、口を開いた。
「だが、ルールはルールだ。お前が納得いかないといってもな」
「ぐぅ……しかし!!」
 ダリエリは呻いた。
 勝負を重んじる事、勝者に対する敬意。それがダリエリの中で重要な価値観を持っているのだろう。
 だからこの結果は不本意なのだ。
 柳川に対する怒り、由美子との約束があったとしても。
 柳川は首を振った。
「勝ったのはお前だ、ダリエリ。だが、そうだな……」
 一つだけ、果たさなければならないことがある。
「もしそれに納得がいかないというのなら、一つ頼みを聞いてくれ」
「頼みだと?」
「ああ頼みだ。日没まで待ってくれないか?
それまでにはかならずあの旅館へ、由美子のもとへ行くから」
「それは……」
「約束だ」
「…………」
 ダリエリは少し迷った後、うなずいた。
「分かった。お前を信用しよう。約束をたがえるなよ、柳川」
「ああ。必ず日没までには旅館へ行く。そう由美子に伝えておいてくれ」
「承知した」
202曙光:03/08/16 20:19 ID:6A7hJ8S9
 ダリエリが去った後、柳川は溜息をつくと、傷む体を鞭打って、立ち上がった。
もう、本当は一歩も動きたくないのだけれど、それでも行かなくてはならない。
 あの小屋へ。最初に友里が助けてくれた、約束のあの小屋へ。

【四日目早朝】
【柳川 鬼化。約束の小屋へ】
【ダリエリ 一ポイントゲット】
【登場 柳川祐也、【ダリエリ】】
203名無しさんだよもん:03/08/17 13:49 ID:ftqIklQ0
名探偵(?)河島はるかの事件簿[解答編]

「ん。…犯人がわかった」
 はるかの宣言に、十四対の視線が注がれた。
「ホントに犯人がわかったの? この状況で?」
 不審を隠さずに、綾香が問いかける。
 うん。ようやく名前と対象が一致するようになったようだ。
 人の名前を覚えるのは特に苦手というわけではないが、このパート、いくらなんでも人数が多すぎる。
「答えはとてもシンプルだと思うよ」
 はるかはあっさり肯定した。
「アリバイは皆にない、犯人を特定するような証拠もない、自白もない。誰でも犯人でありうるように
見えるけど……いいわ、とりあえず聞かせてもらえる?」
 自分が身を乗り出しつつあるのに気づいたのか、そこまで言って綾香はあっさり引いた。
「ん。…さて、犯人は森で寝ている二人を見つけ、襷を置いたわけだけど。普通の鬼であれば、
タッチしたらそのことを逃げ手に言うよね。後で『なかったこと』にされないためにも。でなくとも、
捕まえたことをこの場で言う。鬼ごっこは逃げる相手を捕まえるゲーム。優勝者には賞品もあるし。
何か事情がない限り、このどちらも行わないとは考えられない」
「知らせなかった、言わなかった事情があった…ということか?」
 宗一が確認するように、反芻する。
 といっても、ここまではさきほどとなんら変わらない。
 本当にただの確認ということになる。
「そう。ただ、犯人は逃げ手に知らせなかったのではなく、知らせることができなかった。同じように
犯人は自分が捕まえたと言うことだって、やっぱりできないんだよ」
「…また、ワイセツ云々なのか?」
 またか、というように柳也がつぶやいた。
 その気持ちはよくわかる。
 向かいには、いまだに撃墜されたままの緒方さんが見えてるし。
「そうじゃないよ。…というより、この犯人にはね、そういう発想がなかったんだ」



「発想がなかった? 捕まえて、襷を渡す。単純な鬼ごっこでしょう? 後は人並みに機転が利くか
どうかくらいだけど…この鬼ごっこのルールを知っていれば、そのくらいのこと当然じゃない?」
 いちいち相手の反応をみながら話を進めるはるかに、耐えかねたように理奈ちゃんが突っ込んだ。
「でもね、この犯人には『それくらいのこと』ができなかった。そもそもルールすら知らなかったんだから」
 はるかの言葉に聴衆がざわめいた。
 納得したというのではない。驚愕してるのでもない……なんというか、一言で言うなら、
皆、当惑しているといった感じだ。
 管理側にあれだけはっきり提示された、鬼ごっこのルールを知らない参加者がいるはずがないという思いがあるのだろう。
 だけど、俺には心当たりがあった。
 ――――ああ、つまりそういうことか。
 由綺の隣に鎮座しているはずの”犯人”に視線を向ける。
 俺の動作に気づいたのか、周りもつられるように、”犯人”に視線を走らせた。
 その先では――――
 

 そーいちが小首をかしげていた。


「ん。鬼が、二人に通知しなかったこと。この場で、自己申告がなかったこと。また、
襷を掛けたのではなく、置いていたこと。こうしたケースでおそらくはあるであろう主催者の介入がないこと。
状況証拠としても厳しいけど、これらを満足させる”犯人”はそーいちしかいないんじゃないかな」
「で、でも…どうしてそーいちが?」
 まだ理解がついていっていないのか、由綺がはるかに問いかける。
「由綺。いままで鬼を追跡したことは?」
「何度かあるけど…」
「たぶん、そーいちは今までの由綺たちの行動をみて、『襷を持たない人間に
襷を渡す』ことが
このゲームの目的だと捉えたんじゃないかな。で、運良く…か、悪くか、逃げ手の二人を見つけた。
それからそーいちは何をしたか。襷を持ってきて、二人のところへ置いたんだよ」


 ――――沈黙。


「とすると、つまり…どういうことになる?」
 数秒後、場を支配する得心したような、何かしら騙されているような、微妙な雰囲気を断ち切るように、
聖が口を開いた。
「え、ええと、そーいちは、正式な参加者でない動物なわけですから…」
 今、気がついたといわんばかりに、慌てて思考を整理しようとする七海。
「ノー・ゲーム、ということになるわね」
 気が抜けたように、綾香がため息をついた。


【はるか、探偵役】
【犯人は『そーいち』。柳也、裏葉は鬼化ならず。ノーカン】
【三日目深夜〜未明、零号屋台】
【登場 柳也、裏葉】
【登場鬼 【河島はるか】【那須宗一】【森川由綺】【藤井冬弥】【立田七海】
【来栖川綾香】【来栖川芹香】【緒方英二】【緒方理奈】【霧島聖】【霧島佳乃】【月代】】
【登場動物 『そーいち』】
あげてしまった…
209名無しさんだよもん:03/08/19 07:38 ID:qmBS4TIG
保守
210名無しさんだよもん:03/08/20 09:19 ID:WUXtu7ET
211名無しさんだよもん:03/08/21 16:47 ID:C2vr7cNE
誰か友達になって
 
 
 
212名無しさんだよもん:03/08/23 19:51 ID:lWnwgosQ
保守しておきまっさ。
213名無しさんだよもん:03/08/26 00:39 ID:3TLCrLSn
ほしゅーーー
214名無しさんだよもん:03/08/27 23:01 ID:ULT2ocOt
保守
215名無しさんだよもん:03/08/29 23:30 ID:qUmrc0bV
保守
216月が沈む時:03/08/30 02:27 ID:xVRPNVnf
 4日目、そろそろ日も天高く上ったころ。 
 キィ、という扉の音に、小屋の壁にもたれてうたた寝をしていた柳川は目を開けた。
 ゴシゴシと目をこすり、扉の方を見る。
 カーテン等を閉め切っていたため薄暗かった小屋の中に、開いた扉から陽の光が差し込み、
その光を背に女性のシルエットが扉の向こうに立っていた。
 今まで寝ていた柳川は陽の光を見て軽く顔をしかめ、そして口を開いた。 
「遅かったな」
「ずいぶんと粘ったからね」
 スッと女性は小屋の中に入り、パタンと扉を閉めた。
「それでも結局……」
 投げやりに肩をすくめ、倒れこむように女性は柳川の隣に座り込み、チラリと笑った。
「駄目だったけどね」
 女性―――名倉友里の肩には襷がかけられていた。


「本当に色々足掻いてはみたんだけどね……」
 グッタリとベットに横たわり、腕で目を押さえながら友里はポツリポツリと説明を始めた。
実際、相当無理したのだろう。ボロボロな様子からそれが伺えた。
217月が沈む時:03/08/30 02:29 ID:xVRPNVnf
「最初はね、難なく逃げ切れると思ったの。私一人で逃げ始めたときには、
あいつらとはかなり差がついていたし」

「あいつらって、あの翼の女達のことだな?」
 手持ちの食料で軽い食事を整えながら、柳川は口を挟んだ。

「うん、そうよ。
 それでね、あいつらに追いつかれる前に森に逃げ込めれた時には勝ったなって思ったの。
まだ夜明けまでには間があったし、森の中で潜んでいればうまくやりすごせるかなって。
 でもその見通しは甘かった。
確かにあいつらは私のことは見失ったようだった。
だけど翼の女性が……ウルトリィって呼ばれていたかな……その人が森の上から照らし始めたの。
 どこからか持ってきた懐中電灯と怪しげな術を使ってね。
それで、結局私は身動きが取れなくなってしまった。うかつに動いたら気づかれそうだしね」

 そこまで話して、友里は一度言葉を切った。咽喉が渇いたわね、とポソッと言う。
 柳川は料理の手を止め、水をコップに注ぐと友里に渡した。
「それで長期戦になったのか?」

「ええ。ウルトリィさんは上から照らして、他の三人も懐中電灯を照らして私を探し始めたわ。
だから私はじっと待って彼らが諦めてくれるのを待つしかなかった」
「わざわざ懐中電灯を用意していたのか」
「多分、ホテルの備品か何かを取ってきたんじゃないかしら。森の中の捜索を予想していてね」

 もしそうだとしたら、随分と気の利く連中だ、と柳川は思った。
218月が沈む時:03/08/30 02:30 ID:xVRPNVnf
「でも、それでも勝つのは私だと思ったわ。
上から照らしているといっても程度があるし、懐中電灯の光もそう強いものじゃないしね。
森の中なんていくらでも隠れる場所があるから、人一人探すのだって難しいだろうし、
じっと潜んで待っていたらそのうち諦めてくれると思ってた。雨も降っていたから。
 すぐ側まで来られてヒヤヒヤした時もあったけど、結局気づかれなかったし。
 でも、彼らも執念深かったわ。いくらたっても音を上げなかった」
 
 そこで友里はクスリと笑った。

「ちょっと面白かったのわね、最初は変な眼鏡をかけた変な髪形をして変な口調でしゃべる変な男がみんなを鼓舞していたの。
『あきらめるな、マイ同氏達。必ず獲物はこの近くにいる。勝利の時は近いぞ』
みたいな感じで。
 で、逆に髪をサイドにまとめている女性が乗り気じゃなかったみたいね。
『ね〜 もう帰って寝たほうがいいわよ。明日もあるんだし……』
 ってね。
 それがね、後の方になると、その女の人のほうがみんなを励ましていたの。
『ここまで頑張ったんでしょ!! 絶対見つけるわよ!!』
 って。ね、少し面白いでしょ?」

 そういえばそんな容姿をしていた連中だったな、
とホテルで一瞬だけ見た鬼達の姿を思い出しながら柳川はうなずいた。
確か、最後の一人は目つきの鋭い長身の男だったはずだ。

「友里、食欲あるか?」 
「そうね。正直眠気の方が強いけど……ちょっと何か食べた方がいいかも」
「そうか」
 柳川はレンジの火を止め、手早く作った野菜炒めを皿に移し、ベッドの方に持っていった。
「ありがと。へえ、結構料理できるんだ」
「こんなもの、一人暮らしいていれば誰でもできるようになる」
 起き上がってベッドに腰掛ける友里に向かい合うように、柳川は椅子を一つ持ってきて座った。
219月が沈む時:03/08/30 02:33 ID:xVRPNVnf
「それで……どうなったんだ?」

「もう勝負は長期戦っていうより、消耗戦って感じだったわ。
私もきつかったけど、向こうもきつかったみたい。
ウルトリィさんって人は翼をレインコートの下にしまえないから特に辛かったようね。
人相の悪い男がいたの覚えてる? 
その人が特にウルトリィさんを気遣っていたのが意外といえば意外だったかな」
 遠目から見たから確かってわけじゃないけど、と友里は付け加える。
「でも、体力勝負に持ち込まれると辛いのはこっちの方だった。
やっぱりそれまでの無理がたたっていたのね。特に朝方になると寒くなって震えも抑えられなくなった。
それに、辺りも明るくなり始めてきたし、このままだと見つかっちゃうのも時間の問題かなって思って、
結局、月が沈む前、まだ暗くて体力の残っているうちに勝負をかけることにしたの」

 あの時間から夜明け近くまで雨の中じっと潜んでいたのか、と柳川は軽く驚いた。
それをいうならそんな友里を探し続けた鬼達の根性もたいしたものである。

「一番厄介なのは空を飛べるウルトリィさんだったから、まずはその人を黙らせる事にしたの。ちょっと荒っぽい手を使ってね。
 つまり、不可視の力を使って泥玉を飛ばして羽にぶつけてやったわけだけど」

「なるほど……それは確かに荒っぽいな」
 顔をしかめる柳川に、友里は軽く肩をすくめた。

「そんな高いところを飛んでいたわけじゃないし、
下は草木と泥の地面だったわけだから大丈夫だと思ったのよ。
 でもそれが敗因になっちゃったかな。
 泥玉は確かに命中したし、ウルトリィさんは落ちて行ったわ。
私はそれと同時に、隠れていた茂みから飛び出した。
かなりいいスタートを切れたと思ったし、逃げ切れそうだと思ったの。ところが……」

 友里は箸を止めて、柳川が淹れたインスタントコーヒーに手をつけた。
220月が沈む時:03/08/30 02:34 ID:xVRPNVnf
「チラッと落ちていったウルトリィさんの方に目を向けると、
彼女は国崎さんに……目つきの悪い男の事よ……抱きかかえられていた。
 ひょっとしたら国崎さんが受け止めたのかもね。
 それで、国崎さんと目があったわけなんだけど……
 多分、私その人を怒らせちゃったのね。ただでさえ悪い目つきがもう凶悪なものになっていたわ。
 で、そいつは私に手をかざしたの。こんな感じで」
 
 スッと友里は右手を上げて、前に掲げる。

「なんだろ? と思った時にはあっちこっちからは泥玉が私を襲い始めたわ。
 私と同じ様な力を向こうが持っていたみたい。正直驚いたわ」
 
 でも、それはお互い様よね、と友里は付け加える。

「私も不可視の力でカードしたし、逆襲もしようとしたけど……気負されちゃったのね。
 実力は私のほうが上って感じだったのに、互角のところまで勝負を持ち込まれてたわ。
 そうなった時点で、私の負け。
 勝負に手一杯な私の後ろに、いつの間にか瑞希さんって人が回りこんで、
肩を叩かれて、はい、おしまい」

 フッと、友里は鼻で笑った。
「まあ、これが私の負けた顛末、かな。
正直言っちゃうとね、ここに来るのちょっと迷ったの。
もうヘトヘトで動きたくなかったし―――
柳川さんがまだ逃げ手だったらって思うとやっぱり悔しいしね」
「だが、ここまで来てくれたわけだ」
「そりゃ……言いだしたのは私だしね。
そうね、白状しちゃうと、柳川さんが鬼になっててちょっと安心しちゃったわ」
 友里は悪びれずにペロッと舌をだす。
「それは、正直いうと俺も同じだな」
 柳川は苦笑すると、今度は自分がダリエリに捕まった顛末を話し始めた。
221月が沈む時:03/08/30 02:36 ID:xVRPNVnf
「夕方までにホテルに戻る、か。そんな約束しちゃったんだ?」
「してしまった」
「大変じゃない?」
「大変だな」
「由美子さん怖そうよ?」
「俺もそう思う」
「約束なんて無視しちゃえば?」
「実に魅力的な提案だ」
 柳川は顔をしかめた。
「が、まあいつまでも逃げるわけにも行かないだろう」
「まあ、そうかもね。覚悟決めたほうがいいかもね」
「簡単に言ってくれるな」
 柳川はため息をつくと、立ち上がった。
「そう言うわけでな、俺はそろそろ行かなくちゃならないが……」
「あ、ちょっと待って。私、荷物まとめるから」
「……ちょっと待て、ついて来る気か?」
「ええ。ハクオロさん達がどうなったかちょっと気になるしね。それに―――」
 悪戯っぽく笑う。
「こんなイベントは見逃せないじゃない?」
「……もう動きたくないんじゃなかったのか?」
「もちろん、柳川さんに連れて行ってもらうのよ。そっちの方が早いでしょ」
 手早く荷物をまとめながら、友里はさらに笑みを深める。
「安心してね、柳川さん。ホテル前で下ろしていいわよ。由美子さんに見つかったら大変だもの」
222月が沈む時:03/08/30 02:37 ID:xVRPNVnf
 スッと手を柳川のほうに差し出す。
「エスコート、よろしくね。ヘイ、タクシーでもいいけど」
「……チッ」
 柳川は手を上げた。
 
 降参だ。
 つくづくこいつは手に負えない。

「分かった。しっかりつかまってろよ!!」
 柳川は友里を掴み、抱き上げると小屋から駆け出し、ホテルの方へ跳んだ。


【四日目、昼前 小屋】
【友里鬼化、瑞希一ポイントゲット】
【登場 名倉友里、【柳川祐也】、【九品仏大志】【高瀬瑞希】、【ウルトリィ】、【国崎往人】】
 
223名無しさんだよもん:03/09/01 06:43 ID:ddkZshsf
保〜守
224名無しさんだよもん:03/09/01 09:49 ID:H7bmusOT
age!
225名無しさんだよもん:03/09/03 06:52 ID:XJmm32Ww
みんなガンガレ! 保守〜
226おさかな天国:03/09/04 02:39 ID:0cIPWDkb
 晴れ上がった空の下、芳しい緑の匂いがする森の中でリサ嬢と蝉丸おじさんは鬼ごっこを続けておりました。
 こう表現すると、ひどく和やかな光景のように思えるが、まあ実際のところは、

「Sun of bitch! しつこいわね!!」
「所詮婦女子と思っていたが、なかなかに侮れないな!」

 そんな感じで両者ともに必死で木々の間を駆け抜けちゃったりしている。
 どちらに余裕がないのかと問われれば、そりゃぁやはりリサの方。
 いかなエージェントといえど、かよわい女性にゃ変わりわない。
しかも、御堂の時とは違って、蝉丸には油断がない。
今もまた、無茶な勝負はせずに、体力勝負にもちこみ確実な勝利を得ようとチェイスを続けている次第。

(やはりこのままではジリ貧ね……)
 
 それはリサもわかってらっしゃる。それだけに辛いわけです。
確実に追い込まれているというのに打つ手がないという事実が。
なんどか一か八かの勝負を持ちかけようとフェイントめいた事を試してみたのだけれど、
そこは冷静な蝉丸のこと、そう簡単には挑発にはひっかりらない。
 そのようなわけで、真綿で首を絞められるかのごとく徐々に窮地に立たされ、
歯噛みするリサなのだが、そこに奇妙な歌声が聞こえてきた。

「さかなさかなさかな〜〜♪ さかなを食べると〜〜♪」

 その歌声に、一瞬蝉丸さんの足が止まった。
「む……岩切だと!?」
 短く鋭く、つぶやいた。
227おさかな天国:03/09/04 02:41 ID:0cIPWDkb
 件の歌の聞こえてくる先、川の真ん中で、岩切さんは水と戯れていた。
昨日の雨による増水があったとはいえ、川の深さも流れの速さもたいしたことはなく、
溺れる心配など無用のところ。
 まあ、どんな川だろうと彼女が溺れる事などありえないのだけれど。

「さかなさかなさかな〜〜♪ よっと」

 岩切さん、妙に上機嫌。どこかで聞き覚えた童歌なんぞを口ずさみながら魚を探し、
手刀によってはじき出す。

「ふぅ……晴れてしまったか……」
 手をかざし、太陽を仰ぎ見ますが、その口調もどこか浮かれたもんである。
「さて、あゆの奴はどうしているかな……っと」
 今まで単独行動で、さらに鬼からも逃げ手からも微妙に放置され気味で寂しい思いをしていた岩切さん、
どうやら、昨夜この鬼ごっこで初めてゆっくり誰かと話した事が結構嬉しかったご様子。
もっとも、本人はそんな事など頑として認めないだろうけれど。

「魚を食べると〜〜♪」
 と、まあそんなわけで、岩切さんはいい気分で歌いながらノリノリに魚を取っていたわけであります。
228おさかな天国:03/09/04 02:42 ID:0cIPWDkb
 さて、対照的なのが御堂のおじ様に楓お嬢様。
一人は茂みの中に潜んで狙撃体制をとり、もう一人は木の上でじっと様子を伺っているわけなのだが……

「さかなさかなさかな〜〜♪ 魚を食べると〜〜♪」
(ゲェーック! 岩切、お前は一体何匹喰うつもりなんだよ……!!)

「さかなさかなさかな〜〜♪ 頭が良くなる〜〜♪」
(その歌そのものがあまり頭よさそうじゃない……)

 茂みの中で、あるいは木の上でイライラと二人は岩切さんの歌にツッコミ。
 御堂にしてみれば、さっさと岩切に川の中から移動してほしいし、
楓にしてみてもさっさと下の男にアクションを起こしてほしいわけだ。

(捕まえる、絶対捕まえてテメェが浮かれポンチやってた事を蝉丸達に言いふらしてやるからな!!)
(お水、気持ちよさそう……のど渇いたな……)

 まあ、そんなふうに焦らされながらも気配を消して
好機を伺い続ける二人の忍耐力はやはりたいしたものではある。


 そして、この場に潜む最後の一人、初音お嬢さん。
あいにくと彼女は姉ほどには意志も決断力も強くないご様子。

(うう……どうしよう、わたしお姉ちゃんを捕まえるの?)

 そんな感じで、茂みに潜んで頭を抱えるばかり。
 実のところあまり迷う暇があるってわけじゃない。
 いつ状況が変わるかも分からないってのもあり、それから、

(智子さん達待たせちゃってるし……)
229おさかな天国:03/09/04 02:44 ID:0cIPWDkb
 彼女達もそれなりに聡明だろうし、自分が戻ってこない事から
こっちの状況を悟ってくれているのだろう。
 だから下手にこっちに様子を見に来たりとかしないで待っていてくれてるのだろうけれど。
(だけど、それって申しわけないよ)
 そりゃ、智子達は笑って許してくれるだろうけど、やっぱりずっと待たせておくのは心苦しい。
 じゃあ、どうするのか? 今すぐ楓お姉ちゃんをつかまえるのか?
 そうするならば、今は絶好のチャンスなわけであるけれど。

(でも、それも……楓お姉ちゃん怒っちゃいそうだし……)

 そっと、木の上の楓を盗み見る。
 普段からわりと無表情な人だが、今は鋭く張り詰めた目をしてじっと状況をうかがっている。
 どうやら、楓の近くに鬼がいてうかつに動けないようだ。
 川の方から歌が聞こえてくるが、それが鬼によるものだろうか?
初音の位置からでは判断できない。
 初音に分かるのは、今姉が真剣に逃げようとしていることだけだ。

(お姉ちゃん本気なんだ)

 ここでどこぞの病弱娘なら、お姉ちゃん必死だな(プ、
とでも笑っていたんだろうけれど、そこは生真面目な初音ちゃん、
(もう、何もなかったことにして戻っちゃおうかな)
 そんな考えが頭に浮かんでおります。
 それもありなんだろうし、智子達だってきっと何も言わないだろうけれど、
とはいえなんかそれもちょっと悔しい。

(うう……なんかおなか痛くなってきちゃった)

 初音お嬢さん、この年にしてストレスによる胃痛を経験。たかが鬼ごっこによって頭をグルングルン回している。
230おさかな天国:03/09/04 02:45 ID:0cIPWDkb
(で、でも考えてみたらなんでお姉ちゃんそんなに必死なんだろ)

 初音ちゃん、ようやくそこに考えが及んだ。
 賭けを宣告されたときのことを思い出す。良くわからないけどすっごく怒ってた。
 っていうか、本当に良く分からない。
 なぜに捕まえようとしたら、あんなに怒るんだろう?
 これは鬼ごっこなわけで、鬼は逃げ手を捕まえなくちゃゲームが成り立たないわけで、
それなのに捕まえようとして怒られたらそりゃ理不尽ってもんである。
 そんでもって、今彼女はその理不尽な原因で頭をグワングワンさせながら胃痛を経験しているわけだ。
 蒸し暑い茂みの中で、頭の悪そうな歌を聞かされながら。

(あ、なんだかちょっとムッと来ちゃったかも……)

 ようやく初音ちゃんの薄っぺらな胸に怒りが湧いてきました。
 まあ、楓にだって初音を心配して、好きな人と別れてまで探しに出かけたら
鬼として出迎えられるっという、そりゃやってらんねーよってな事情があるわけだが。。
 そこら辺は初音ちゃんのしるところではない。

(そ、それに賭けに勝ったら耕一お兄ちゃんが楓お姉ちゃんの
ものになっちゃうってのも良く分からないよ!!)

 この一言も、楓にしてみたら勢いに任せた発言だったわけだけど、
生真面目な初音ちゃんはやっぱり真面目に受け取っちゃったわけで、

(でも、賞品というからには、ここでお姉ちゃんが逃げちゃったら、
楓お姉ちゃんと耕一お兄ちゃんはハァハァな関係に!? そんなのダメだよ!!)

 とか、暑さも手伝って妄想は加速していってます。
 ここに至り、ついに初音ちゃんも決意を固めた。
(ぜったい……捕まえちゃうから!!)
闘志にランランと光る目で、依然あさってのほうを向いている姉をにらみつけた。
231おさかな天国:03/09/04 02:47 ID:0cIPWDkb
 さて、場面を戻してリサ嬢と蝉丸おじさんの追いかけっこ。
 一瞬、岩切さんの歌に気を取られた蝉丸であったが、
リサのほうに目を移してさらに驚いた。
なんと、リサは歌のするほうに向かっているではないか。

「む。なるほどな……少しでも紛れを起こそうというのか」

 このまま体力の勝負を続けたならば勝つのは蝉丸。
だから例え不利になる可能性があったとしても、状況が変化する事を選んだのだろう。
「いい判断だ」
 蝉丸はそうつぶやくと、前を行くリサ嬢の背をにらみ後を追った。

 
 かくして、場にそろったのは6人。

(いい加減川から出ろ岩切……!!)
 散々じらされて、それでも不動の姿勢で狙撃体制をとり続ける御堂。

(大丈夫……冷静に行動すれば逃げ切れる……)
 その御堂のすぐ上で、息を潜め離脱する機会を待つ楓。

(ぜったい、ぜったい捕まえちゃうもん!!)
 少し離れた茂みの中、闘志を秘めて姉を狙う初音。

(吉とでるか凶と出るか……all or notingね!)
 一縷の望みを賭け、火薬庫に迫る火種のごとく迫り来るリサ。

(しかし、ここで岩切とは……迷いが出てしまっている事は認めなくてはな)
 昨日の雨の中での因縁を思い出し、多少困惑する蝉丸。
232おさかな天国:03/09/04 02:50 ID:0cIPWDkb
 そして―――

「さかなは僕らを〜〜♪ 待っている〜〜♪ Oh!」
 事態の中心で、一人何も知らず岩切さんは能天気に歌っておりましたとさ。
 
【四日目昼前 川辺とその周辺の森】 
【智子達 森の道の中で待機中】
【登場 岩切花枝、柏木楓、リサ・ヴィクセン】
【登場鬼 【御堂】、【柏木初音】、【坂神蝉丸】【川名みさき】、【保科智子】、
【坂下好恵】、【神岸あかり】、氷上シュン】】
233As your lover:03/09/04 16:24 ID:0JFv0kI6
 諸君、また会ったな。
 我が名はD,汝ら小さきものに崇められうたわれるものウィツァルネミテア、その半身である。黒い方だ。
 さらにオンカミヤムカイの哲学士でもあり、ウルトリィとカミュの教師も勤めている。
 劇中では悪役っていうか黒幕一直線な勢いだが覚えておいてほしい。

 さて、今の私であるが

「……フウ、一休みするか」

 という状況である。

 なぁに、話は簡単だ。
 目が覚めた私。しばらくの間レミィとまいかを待ってみた。
 すぐ帰って来るとのメモの談。迂闊に動くのは愚考であろう。

「……だがしかし」

 遅い。
 遅すぎる。
 小一時間ほど待ったが一向に帰って来る気配はない。
 ……考えてみれば、いつ出発したかはわからんのだ。
 私が目覚める直前に出立したのかもしれない。
 しかもレミィの性格からしてみて奴の『ちょっと』は私の『ちょっと』とは著しい隔たりがある可能性も捨てきれない。
 ってーかオチはそんなんな気がする。

「……まぁ、ただ呆けているのも時間がもったいないだろう」

 というわけで私は薪集めのついでに我が家の周囲を掃除することに決めた。
 竹箒でさっさっさと地面を掃き、数日間にわたる滞在で撒き散らされたゴミを一箇所に集めていく。
 そうしてあらかたの作業が終わり、手近にあった大きめの石に腰掛けて一休みしているというわけだ。
234As your lover:03/09/04 16:25 ID:0JFv0kI6
「それにしても……」

 薄目に東の空を見上げてみる。
 ……暑い。
 まだ太陽は大して昇っていないにも関わらず、早速気温が上がり始めている。
 幸い風も出ているため体感的にはそうキツイこともないだろうが、それでも今日は暑くなりそうだった。

「……さて」

 茶の入ったやかんと空の湯飲みを脇に置き、どっこいしょと立ち上がる。

「まだ帰って来ないようだし。少し本格的にやってしまうか」

 ううんと一つ伸びをして、お掃除再開。

 ……といきたいところであったのだが……


 * * *


「はあっ、はあッ……はあ、ッ……!」
「……ん?」
 再度庭掃除を再開したD.がその時、突如として木々の間から転がり出る人影があった。
「く、くそぅっ、くそっ! くそっ! くそっ……! なんで、なんで僕がこんな目に……」
 服はボロボロ顔は泥だらけ。まさに満身創痍と言うのが相応しい風貌だ。
 だが……
「……お前は……」
「んっ? ……あ、き、キミは……!?」
 Dはそいつに見覚えがあった。
 そう、奴の名は……
235As your lover:03/09/04 16:27 ID:0JFv0kI6
「ハウエンクア!」
「ディーじゃないかッ!!!!」
 かつての部下……クンネカムン右大将、ハウエンクア。

「ディィィィィィ〜〜〜〜〜…………会いたかったよぼぼぼぼぉぉぉぉ〜〜〜〜〜…………」
 久しぶりに会えた人間。しかも顔見知り。
 歓喜にむせび泣くクンネカムンの右大将。顔中を涙で崩して朋友に駆けy
「寄るな。キショイ」


 ガスッ。


 ……Dの突き出した竹箒。その柄がカウンターでハウの額に突き刺さった。
 眉間。それは致命的人体急所の一ツ!


「もぉ、ひどいじゃないかディー」
「……突然襲い掛かってくるからだ」
「襲い掛かるだなんて。僕はただキミを抱擁したかっただけなのに」
「もっと御免だ」
 ハウも蘇生し、Dも落ち着きを取り戻して一段落。2人は腰掛代わりに石に座り込み、向かい合って茶を啜っていた。
「それにしてもディーまで参加してただなんてねぇ。意外だよ」
「お前まで来ていたとはな……汝らの皇(オゥルォ)……クーヤとか言ったか。奴とヒエンはどうしている」
「あはぁ、聖上は来ているみたいだけどね。まだ見つけてはいないよ。ヒエンは不参加さ。今頃國で僕ら不在の公務に追われているころだと思うよ。まったく、糞真面目なんだからねぇ」
「お前が不真面目なだけだと思うが……」
 しばし俯き、厳かに口を開く。
「……それより、ゲンジマルはどうした」
「ああ大老(タゥロ)? 確か大老も来てたよ。よくもまぁあの歳でがんばるよねぇあっはっはー」
「……そうか」
236As your lover:03/09/04 16:28 ID:0JFv0kI6
 もう一口茶を啜ったところで、話題を変える。
「ところで今キミはどうしてるんだい?」
「私か。私は今2人の少女と行動を共にしている」
「キミが……女の子と?」
「うむ。レミィとまいかといってな。2人とも私が捕まえた。今はここで一緒に暮らしている。
 初めは色々あってな。利用しようとして組んだんだが今はまぁあいつらと過ごすのも悪くないかもしれんと思っている。
 レミィは凶暴で残忍で殺人癖があって天然ボケの気もあるが意外に鋭い一面もあるし、家事・育児・サバイバル一通りに精通していて頼りになるしな。
 まいかはレミィに輪をかけて暴れ者でやかましくてクソ生意気で二枚舌を駆使するがまぁょぅι゛ょとはえてしてそういうものだからな……」

 ……かくかくしかじかと今までの出来事を話していくD.

「……ということがあった。今まで私は大神として孤高に生きてきたが……まぁたまにはこういうのも悪くないんじゃないかとっておいハウエンクアお前どうしたんだ」
「ウッ、ウッ、ウッ……」
 気づくと、ハウはさめざめと泣いている。
「き、気にしないで……気にしないで……続けていいよ……」
「……?」
 Dにその理由がわかるはずもない。
 この島に来てから人間関係に恵まれ、2人の少女に出会い幸せに暮らしてきたDには、ハウが泣く理由など。
 ……今まで会った人間に、ハウがどれだけ苦労してきたのかなど。
 まなみに騙され落とし穴にはめられ、しかも鬼にされ、世にも奇妙な物語をとうとうと聞かされ、半遭難の末助かったと思ったら連れて行かれたホテルで罠に引っかかり、
 真空飛びヒザでまなみがダウンしたと思ったら今度は追激戦に巻き込まれて前科十三犯殺人上等(ハウ私観)な国崎に恐喝されて逃げ延びてきた。
 ……そんなハウの身の上など、Dには知る由もない。
237As your lover:03/09/04 16:29 ID:0JFv0kI6
「とまあそういうわけでな。私はボチボチやっている。ああそうそう、これだこれ」
 言いながらDが指したのはD.M.Hの表札、そこに掛けられた三つのてるてるぼうずだ。
 一日雨に打たれてだいぶ汚れているが、まだ書いてある文字や顔の判別はつく。
「見ろ。どうやらこれは私のことらしい。全然似てないだろう。クククククク。だがまぁ今日これだけ晴れたということは多少は効果があったのかもしれんな。残念ながら昨日は雨が降ってしまったが」
 自分の名が書かれたてるてるぼうずをハウに見せる。
「ウン……よかったね。よかったよ」
「だからなぜ泣く」
 またもハウは涙を流した。
 今度は喜びの涙だ。
「D……キミは今、幸せかい?」
「………」
 顎に手をあて、しばし熟考。
 やがて、
「……まあ、どちらかといえば幸せだろうな」
「そう……」
 頬をつたう涙をぬぐう。

「そうそう、後はあれがあったな。バレたらまずいが……ちょっと待っていろ」
 何かを思い出したように立ち上がると、Dは洞穴の中へと戻っていった。
「……ディー……」
 その後姿が消えたのを確認すると、ハウも立ち上がる。

(だって、彼女たちのことを話すディーは……本当に嬉しそうだった)

「あったあった。これだ。まいかの日記なんだがな。この間私のことが書いてあって……って、あれ?」
 先日盗み読みした日記帳。それを発見、庭へと戻ったD.だが、そこには誰もいなかった。
「……ハウエンクア?」
 誰もいない。どこにもいない。ハウはもちろん、人っ子一人。
「……もう行ったのか。忙しない奴だ」
 と、再度一度洞穴に戻ろうとしたところで、
238As your lover:03/09/04 16:30 ID:0JFv0kI6
「……ーぃ、…ぃー……!」

 ……声が、聞こえた。
「ん?」
「おーい! でぃー!」
 確かに、聞こえた。
 道の向こう側から、2つの人影と、まいかの声が聞こえてくる。


 * * *


「ふう……やっと帰ってきたか。遅いぞ、2人とも」
「Sorry,思ったより洗濯物が多くてネ」
「そうだぞでぃー。まいかたちはでぃーのふくをあらってきてやったんだから、かんしゃしなさい」
 2人の抱えるカゴに詰まった大量の服。それを見てDは理解する。
「なるほどな、そういうことか。が、それとこれとは別にしても腹が減った。朝食は早めに頼む。準備の間私とまいかでこれは干しておこう」
「OK! Thank you,D!」
「気にするな」
「えぇー? まいかもー?」
「どうせお前が料理を手伝ったところで邪魔にしかならん。大人しく私と物干しだ」
「ぶぅー……って、でぃー! なにもってるの!? これ、まいかのにっきちょう!」
「っぐっ!? しまっ……!」
「まてぃでぃー! よんだのか! なかを読んだのかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 近くの木の影。そんなやり取りを一部始終見ていたハウエンクア。
 涙をこぼしつつ、ゆっくりと振り向くと突然、全速力で走り出した。
239As your lover:03/09/04 16:31 ID:0JFv0kI6
(さようなら……ディー……。
 キミはもうキミの居場所を見つけたんだね……。
 もう、昔の男は邪魔なだけだね……。
 さようなら……さようなら、ディー……。
 僕はキミを困らせたくないから……素直にお別れするよ……。
 さようなら……さようなら、ディー……。
 なぜなら僕はキミのことが本当に好きだから……。
 さようなら……さようなら、ディー……。
 だから、キミの幸せが一番大切なのさ……。
 さようなら……さようなら、ディー……。
 結婚式には呼んでね……。
 引き出物はAs you likeがいいな……)


 多分に間違った解釈に危険な妄想を加えつつ、恋に破れた男が一人、島の中を駆けて行く……


【D一家 合流】
【ハウエンクア 愛ゆえに、人は苦しまねばならぬ!】
【四日目午前 邸宅前 快晴】
240名無しさんだよもん:03/09/05 20:33 ID:RiAUVWB0
(゚∀゚)イイ!w
241すばるを探して三千里:03/09/07 16:48 ID:cfdTJZfE
「ぱぎゅう〜……また出番がありませんですの……」
一日ぶりの晴れ間を眺めつつ、御影すばるはひとりごちた。
出番が欲しい出番が欲しいといいつつも、かなり放置プレイをくらい続けている彼女。
最初の出番が遅めの132話。最後の出番が534話。そして大体150話近くほったらかしになっている。
家の中に乾燥機が無かったため、半日近くちょっと破廉恥な格好で服が乾くのを待ち、やっと乾いたと思ってもどのみち雨で、外に出られない。
「高子さんと夕霧ちゃん……どこに行ったんですの……」
そして今すばるがすべきことは、ヌワンギとの戦闘のせいで離れ離れになった桑島高子と砧夕霧を待つ事。
かなりアクションの無さそうな状況である。
まあ、つまりどう書けばいいか分からない状況であった訳で。出番が無いのも当然だったのかもしれない。
「暇ですの……」
すばるは溜め息をついた。
242すばるを探して三千里:03/09/07 16:48 ID:cfdTJZfE
一方こちらは大混戦がとりあえず一段落したホテル。
朝陽が雨露に反射し輝く森の奥から、その男は帰って来た。
ホテルの一室から、夕霧はそれを認めた。
「高子さん! ダリエリさん帰って来ました!」
その声に呼ばれた高子も、窓の外のダリエリを認め、目を細める。
「本当……でも、柳川さんはどうしたのかしら?」
「いませんね……とにかく、迎えに行きましょう!」
夕霧は本当に嬉しそうだ。高子は微苦笑して後ろをついていく。
ホテルの廊下で、同じくダリエリを見つけたのであろう雅史と沙織と合流する。由美子はまだ眠っているらしい。
二人は『ハクオロ』という人物を探していたらしいのだが、結局昨日は見つからずにここで一泊したのだ。
急ぎ足の夕霧を追いかける形でホテルの玄関を(何故か大破していた)抜ける。
ダリエリは少々複雑そうな表情で立っていたが、夕霧たちの姿を認めるなり歩み寄ってきた。
「ダリエリさん、おかえりなさい!」
夕霧が心底嬉しそうにダリエリを迎える。
ダリエリは笑って(といっても仮面をつけているので、口がその形に歪んだだけだが)、
「ただいま、夕霧嬢」
と答えた。
「ダリエリさん、柳川さんはどうしたんですか?」
ダリエリの後ろに誰も居ないのを見て取って、雅史が尋ねる。
ダリエリはああ、と一つ呟くと、
「柳川は捕まえた」
243すばるを探して三千里:03/09/07 16:51 ID:cfdTJZfE
「え……じゃあなんで連れてきてないんですか?」
沙織が少々困惑して尋ねる。
「奴には何か約束があるらしい……日没まで待ってくれと言われた。由美子嬢はまだ眠っているのか?」
「はい。しばらく起きそうに無いです」
「そうか……ならば、そう由美子嬢に伝えておいてくれ。『日没までにはこの旅館へ来る、由美子の元へ行くから』だそうだ」
「はい」
雅史と沙織は頷いた。
「さて、そろそろ俺たちは行く。夕霧嬢、高子嬢、すばる嬢を探しに行くか」
「はい!」
夕霧は笑顔で頷いた。ダリエリが帰って来たことがよほど嬉しいのだろう。
「「さようならー」」
去って行く3人を眺めながら、雅史と沙織は手を振った。

「しかし、ああは言ったものの、どこを探したものか……」
ダリエリは歩きながら、顎に手を当てて考える。
「そうですね……やっぱり、最後に別れた所……高子さん、すばるさんと最後に別れたのは何所でしたっけ?」
夕霧は唇に指を当てる。高子はそれを受けてちょっと考える。
「……えーっと……住宅街……でした……」
そこで3人はふと気付く。
七瀬たちと別れたのは住宅街なのだ。
「……振り出しに戻る、か?」
「そうですね……」
高子と夕霧の口から、溜め息が自然と零れた。
244すばるを探して三千里:03/09/07 16:52 ID:cfdTJZfE
「うー……やっぱりこのままじーっとしてると出番が消えそうですの……」
すばるは相変わらず家で高子と夕霧を待っていた。
陽は大分昇っている。起きてから1時間は経っただろうか。
自然と貧乏揺すり。このまま出番が消えそうになるのをじっとただ耐える。
――そんな酷な事は無いでしょう。
誰かの台詞が頭をよぎる。
すばるは意を決した。
「よし、ですの!」
だんっ、と立ち上がる。靴下を履いて玄関に出る。
「やっぱり待っているのは駄目ですの! こっちから探しに行くんですの!」
靴を履いて、意気揚揚とすばるは飛び出した。

ちなみに。
迷子の鉄則は動かない事、である。
少し事情は異なるが、いずれにせよすばるは探される側。迷子と似たようなもんである。
お互いが探しあうと、大抵すれ違ってしまうのが常である。
だから、マルコ少年は母を探して、母もマルコ少年を探して、結局すれ違いを繰り返し、マルコ少年は三千里、現在の単位に直して約一万二千km、母を訪ねて放浪する羽目になる訳だ。
という訳で。
「すばるさん、居ませんね……」
「元の家にいる、って思ったんですけど……やっぱり駄目でしたか……」
「まぁ、そう気を落とす事もないだろう」
ダリエリと高子と夕霧がすばるの居た家に到着。しかし時既に遅しな事になっていた訳で。
「他をあたりましょうか……」
そしてすばるが進んだ方と逆の方に行ってしまう3人組であった。
245すばるを探して三千里:03/09/07 16:53 ID:cfdTJZfE
この鬼ごっこが終わるまでに、再開はあるのだろうか?

【すばる 出番を求めて高子と夕霧を探しに出かける でもすれ違い】
【ダリエリ 高子 夕霧 すばる探しを再開 でもすれ違い】
【雅史 沙織 柳川のメッセージを受け取る】
【由美子 ぐっすり就寝】
【登場鬼:【ダリエリ】【桑島高子】【砧夕霧】【御影すばる】【佐藤雅史】【新城沙織】】
246すばるを探して三千里:03/09/07 17:49 ID:paHZiEX1
スマソ、誤字訂正。
桑島→桑嶋
247彼女が立つ、その屋上の上で:03/09/08 14:08 ID:OlLmALYK
 両の瞳から、涙が零れる。
 顔を濡らすその雫を拭うことは、きっと無駄なことなのだろう。
「…素晴らしい」
 その男…山田まさきは、日に照らされた海を眺めていた。
 酷い有様だった。
 頬はこけ、目の下には真っ黒なクマができ、全身がずぶ濡れ。多分、下着ごと濡れているだろう。
 疲労と睡眠不足のため、その足取りは覚束ない。
 満身創痍と言う表現が実にしっくり来る。軽く小突いてやるとばったりと倒れてしまうに違いない。
 それでも彼は、笑っていた。
 心の底から嬉しそうだった。
「ああ。そうだな」
 隣に立っている巳間良祐も、まさきに倣って海を見つめた。

 思い出してほしい。彼らは今、どこにいるのか。
 思い出してほしい。彼らはいつから、ここにいるのか。
 思い出してほしい。昨晩、この場所で何があったのか―――。


 ここは鶴来屋別館屋上。
 昨日の昼頃、ここに閉じ込められた彼らは、そのまま救いを得ることなく夜を迎えた。
 明かりのない屋上。相変わらず雨は降っており、2人は屋台の連中と共に酒を飲んでいた。
「こりゃこのまま夜を明かすしかないのかねぇ…」
 まさきが愚痴る。
「だろうな。仕方ないさ」
 良祐がなだめる。
「たまにはこんな夜もいいじゃない。お酒代まけといてあげるから」
 メイフィアは女将っぷりが板についている。
「タダにはならないんだな…」
 とまぁ、そんな風に静かに過ごしていたのだ。
 彼女が来るまでは。

248彼女が立つ、その屋上の上で:03/09/08 14:09 ID:OlLmALYK
 繰り返される騒音。激しい地鳴り。
 それは、どんどん鶴来屋別館へと近づいていた。
 そのこと自体は特に問題はない。
 この鬼ごっこには人外が多く参加している。
 体の動き1つで地鳴りを起こす化物がいても、それが自分に危害を与えなければいいのだ。
 むしろ、この来訪者は歓迎されるべきものである。
 たとえ化物でも、参加者ならば理性がある。
 頼めば自分たちを屋上から下ろしてくれるかもしれない。
 だから屋上の人間たちは、メイフィアが言って聞かせるまでまさきや良祐が怯えていたりしたが、かなり穏和な雰囲気で来訪者を迎えたのである。

 しかし実際のところ、来訪者の片割れであるハクオロはあっさりと変身を解いてホテルに入り、残ったユミコはと言うと…。
『……新手ノ鬼デスカ…。サテ、ドウシマショウカネェ…』
 屋上に登り、寝惚けながら見張りをしていた。
 その足元には屋台の残骸がある。ユミコが屋上に飛び乗った時点で踏み潰されてしまった。
 フランソワーズが素早く危険を察知しなかったら、回避が間に合わず屋台ごとペチャンコにされた者がいたかもしれない。
「なんでホテルの下にいる人間に気づいて俺たちには気づかないんだっ!」
 まさきのツッコミは雨に吸い込まれ、ユミコには届かない。
「灯台下暗し、と言う奴だな…」
「冷静にしてる場合かっ!」
「いいから走る準備をしておけ。いつ足を動かすかわかったもんじゃない…うおっ!」
 ユミコがちょっとふらついた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 ずしーん。
 動く足。踏み潰されたら多分死ぬ。
 限られた足場で逃げる人間&魔族たち。
 眠気に耐えられないのだろうか。ユミコは小刻みにバランスを崩した。
 ふらふら。ずしーん。ふらふら。ずしーん。
 その度に屋上の人間たちは逃げ惑い、叫び声を上げるのだ。
「あー、そっち行ったら詰むわよ。こっちこっち」
「うにゃぁっ! たまもその絵の中に入れるにゃぁっ! メイフィアばっかり卑怯だにゃぁっ!」
 ずしーん。
249彼女が立つ、その屋上の上で:03/09/08 14:10 ID:OlLmALYK
『ネムイ…』
「うわぁぁぁっ!」
 ずしーん。
「うにゃーっ!」
 ずしーん。
「せめて屋台の道具があれば対処のしようがあるんだが…」
「どうしたの? やけに冷静じゃない」
「足の動きはゆっくりだし、俺たちを狙っているわけでもないようだ。十分避けられる」
「それもそうね…って、やばいわよ」
「っ!?」
 ずしーん。
「…危なかった……」
「よそ見してるからよ」
 ずしーん。
「メイフィアさん、リンクスの魔法瓶を見つけました」
「あら、よく見つけたわね」
 ずしーん。
「それで、その魔法にはどんな効果があるんだ?」
「防御力上昇です」
「…少々丈夫になったところで、踏み潰されれば即死は免れないと思うんだが」
「それもそうですね。できれば、ホネスの魔法瓶があるといいんですが」
「ほう。どんな効果だ?」
「戦闘不能者を復活させる、だったかしら」
「……死人にも効くのか?」
「さぁ? 私たちもあんまり詳しく知らないから…って、来たわよ!」
「!?」
 ずしーん。
「助けてぇぇぇ…」
「うにゃぁぁぁぁっ!」
 ずしーん。
 ずしーん。
 ずしーん…。
250彼女が立つ、その屋上の上で:03/09/08 14:10 ID:OlLmALYK
 …とまぁ、そんな風に。
 ユミコが屋上に登ってから落っこちるまで、彼らは逃げ回っていたわけである。
「もう、ゴールしてもいいよな…」
 皆それぞれ疲れていたが、特にまさきは闇雲に走り回って無駄な体力と精神力を使ってしまい、今にも逝きそうだ。
「…寝るな。この雨の中で寝たら死んでしまうぞ」
 一応全員が無事だった。だが状況は悪化している。
 何より、雨よけとなっていた屋台を失ったのが辛い。
 彼らは雨に打たれながら夜明けを待つことになった…。

 そのまま時は過ぎ、雨が上がった頃。
「…生きているって素晴らしい」
 海を眺めていたまさきがそんなことを言った。
「ああ。そうだな」
 良祐もまさきに倣って海を見つめた。実のところ、酒のせいで昨晩のことは漠然としか覚えていない。
 まさきは屋台が潰された時点で酔いが吹っ飛んだのだろう。そう考えると、自分は幸運だったのではと思えてくる。
「日が出てきた。眠っても風邪をひくことはないだろう」
「……そっか。じゃ、もう寝る…」
「あら、お休み?」
「ああ。そうさせてもらう」
「雨水をたっぷり吸った毛布ならあるけど、使う?」
「そうだな。さすがに、コンクリートの上で眠る気にはなれない」
「寝てるネコもいるけどね」
「ネコだからな…まったく、羨ましい」
「寝てる人間もいるわよ」
「…ぐぅ……」
「よっぽど疲れていたんだな。まあ、俺ももう、倒れてしまいそうだが…」
 傍で大の字になっているまさきと、遠くで丸くなっているたまをちらと見て。
 良祐はぐっしょりとした感触の毛布を受け取り、崩れ落ちた。
 次に目覚めるまでに、別の化物にふんずけられていませんように…そんなことを祈りながら。
251彼女が立つ、その屋上の上で:03/09/08 14:11 ID:OlLmALYK
【四日目昼前 鶴来屋別館屋上】
【良祐、まさき、たま ダウン】
【屋台弐号屋 ユミコに踏み潰され全壊。積荷もほぼ全滅】
【登場 【巳間良祐】、【山田まさき】、【小出由美子】、『メイフィア』、『フランソワーズ』、『たま』】
252A Diamond is Forever:03/09/08 17:04 ID:nl1S1GXO
 似て非なるもの。
 等しく異なるもの。

 ――――ダイヤモンド。
 永遠の輝きを湛える宝石。

 ――――黒鉛。
 鉛筆の芯に使われている結晶。

 ――――炭素。
 元素記号C,原子番号六。

 ――――価値の差。
 宝石ダイヤモンド。
 工業結晶黒鉛。
 共に、炭素の同素体である。


 ……話題を変えよう。

『一瞬』という言葉がある。

 辞書によれば「一回またたきをするほどのごく短い時間。またたく間。刹那」とある。

 仮に、この『一瞬』を流れる時間の最小単位としてみよう。

 ―――― 一瞬。

 その価値は、時と場所と場合により、いくらでも変容する。
253A Diamond is Forever:03/09/08 17:05 ID:nl1S1GXO

 * * *


 気づかぬ岩切。

 岩切へと照準を定める御堂。

 御堂を観察する楓。

 楓を見据える初音。


 破裂直前の風船のように、空気が限界まで張り詰める。


 うららかな昼下がり。穏やかに水の流れる川原。
 ……しかし現在、この一角は、壮絶な修羅の庭と化していた。


 状況が停滞してからどれほどの時が経ったのか。
 あるいは経っていないのか。
 わからない。誰にもわからない。
 全員が目の前の存在に全神経を集中させ、もはや誰もそれ以外のことなど意に介してもいなかった。


 ――――針。


 そして、時は、動き出す。

254A Diamond is Forever:03/09/08 17:07 ID:nl1S1GXO

『――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!』


「な!?」
 「に!?」
「ッ!?」
 「え!?」


 風船を割ったのは叫び声。
 言葉にならぬほど甲高い、誰かの叫び。
 慟哭を伴った衝撃が全員の背後から迫る。


「YEA―――――――――――――HAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 全員がその叫びの元を凝視する。
 そこには一人の女性。
 まさに今自分らに向かって走ってくる、
『逃げ手』の女。

 そして、次の一瞬。
 状況を構築していたパーツ達は『一つ前』に気づいた。

 すなわち、
 岩切は御堂を。
 御堂は楓を。
 楓は初音を。
 その存在を。そして、何を狙っているのかを。
255A Diamond is Forever:03/09/08 17:07 ID:nl1S1GXO
 全ては刹那の出来事だった。


 森へと入ったリサは、まず目の前にしゃがみ込んでいた初音の頭上を越える。
 あまりに突然のこと。初音は髪の先ほども動くことができなかった。

 すると目の前には茂みの中で銃を構える御堂と、その真上の楓が現れる。

「………!」

 楓が何か叫んだ。突然目の前に現れたリサへと何かを言ったのだろう。
 だがリサの耳にはそんなものは届かない。否、彼女は気づいてもいなかった。そこに楓がいることを。

 現在、彼女の頭の中には余計な情報が入り込む隙間は無い。

 現在、彼女の頭の中では
 ―――木の位置。
 ―――足元の地形。
 ―――後ろから迫る鬼。
 ―――目の前の鬼。
 ―――そいつが持っている銃。
 ―――直情に存在する『一人の逃げ手』
 全てを駒として組み合わせる。
 モデリング、マッピング、シミュレーション。
 そして高速演算。模索し続ける。
 針の穴。針の穴ほどでいい。
 ここを抜けることができる一筋の道を。
256A Diamond is Forever:03/09/08 17:09 ID:nl1S1GXO
「ゲーーーック! なんだってんだ!!」
 御堂は狼狽した。
 ――――結果から言えばこれが失敗だったのだが。
 岩切という名の獲物。目の前の一匹。狙いの一匹。
 一匹だったはずの獲物。だが、それが瞬時に三倍に増えたのだ。
 しかも一匹は自分の真上。もう一匹は一直線に自分へと迫る。
 本来ありえぬ状況。
 歴戦の戦士御堂も、この状況に一瞬で対応できるほどの柔軟性は持ちえていなかった。

「――――ッど畜生めが!」

 だが事実として目の前に獲物は存在する。ならば仕留めなければならない。
 御堂は岩切へと向けられていた銃口を反転、自分に向かってくる女狐に―――

 ざんっ!

「―――チッ!」
 が、瞬間頭の上から音が聞こえた。
 楓が動いた。
 体重をかけて枝をしならせ、その反動で一気に飛びのいたのだ。

 迷い。

 一瞬の迷い。

 目の前の獲物から注意を逸らし、一瞬にでも別の存在を気にかけてしまった。

 ―――Exodus!

 その一瞬をリサは見逃さない。
 地を蹴り、さらに加速するとそのまま御堂の懐に飛びこむ。
257A Diamond is Forever:03/09/08 17:10 ID:nl1S1GXO
「……なんだと!? チィィ!!」

 即座にリサへと視線を戻し、引き金を引く。

 BANG!

 銃口から弾ける白い塊。
 それはリサの頭部ギリギリを掠めるとそのまま直進。リサを追っていた蝉丸に当たることすらかなわず、あらぬ方向へと消え去った。

「―――AT PIN - HOLE!」
「なんだと!?」

 さらにリサは信じられぬ動きを見せる。
 今までの前傾姿勢をさらにきつく、もはや地面を這うように腰を落とすと、そのまま御堂の脇を抜けた。
 冗談ではなく、互いの体の隙間は数センチ、ない。

「な……な……!」

 自分の身に起きたことが解せない御堂。銃を構えたその姿勢のまま硬直する。
 すでにリサは御堂の背後で森を抜け、川へと迫っている。

 ……水音が聞こえた。おそらく岩切だろう。岩切が水に飛び込んだのだろう。

「二兎を追ったな。御堂!」

 一瞬遅れて蝉丸の姿。彼はすれ違いざまに一言だけ吐き捨てると、そのままリサを追った。

「……ふざっけるな!」

 悪態をはき捨てる御堂。だが、それはリサに対してでも蝉丸に対してでもない。
 自分に対してだ。
258A Diamond is Forever:03/09/08 17:11 ID:nl1S1GXO
 ―――獲物を迷った!
 ―――最初から岩切だけに集中していれば!
 ―――真上の獲物を気にしなければ!
 ―――それ以前に自分に迫る存在に、なぜ銃を使った!
 ―――岩切を狙っていたからとはいえ、なぜ自分に向かってくる奴に向かって銃を使った!
 ―――そのまま手を伸ばせばよかったのだ!
 ―――俺の馬鹿野郎! 俺の馬鹿野郎! 俺のクソッタレめが!
 ―――それでも俺は……俺は……

「狩人と言えるのかッ!!!!!」

 蝉丸に遅れること一瞬。背にライフルを構えなおすと、御堂もまた森を飛び出す。
 そして見た。
 川原を上流に向かって走るリサ。その背を追う蝉丸。
 さらに水底の黒い影。下流へ向かう、岩切の影。

 ―――今度は悩まねぇ! 追うは一兎だ!

 御堂は90°体を傾けると一路、下流へ向かって駆け出した。


 そうだ。俺は狩人だ。
 そして岩切は俺の獲物だ。
 俺が最初に目をつけた獲物だ。
 ならば奴は俺が仕留める。
 地の果てまで追ってでも、アイツは俺が仕留めてやる!


 ダイヤを手にするのは誰か。
 鉛を掴まされるのは、誰か。

259A Diamond is Forever:03/09/08 17:11 ID:nl1S1GXO
【リサ 川原を上流へ】
【蝉丸 リサを追撃】
【御堂 リサをすんでのところで取り逃がす。そのまま岩切追跡へ】
【岩切 水中を下流へ】
【登場 リサ・柏木楓・岩切花枝・【坂神蝉丸】・【御堂】・【柏木初音】】
260必殺必中:03/09/08 17:14 ID:nl1S1GXO
 一方初音は淡々と全てを眺めていた。
 最初から全てを認識していたため、状況を静観する余裕があった。

 背後からはリサが迫っているが、もとより彼女の狙いは楓一人。
 御堂は半端な武装と実力を有するがゆえに獲物を迷ったが、対して初音は一点集中。ただ楓のみに狙いをつけていた。

 リサが頭上を飛び越える。
 ――――楓が何かを叫ぶ。
 蝉丸が脇を駆け抜ける。
 ――――楓がヒザを曲げた。
 御堂とリサが交錯する。
 ――――楓が飛んだ!

「……お姉ちゃんッ!!」
「初音……ッ!」

 空中と地面の姉妹の目線が交錯する。
 片方にはやや殺意がこもっている気もするが、それはそれ。

 楓の体はそのまま空中でゆるやかな放物線を描くと、初音の背後十数メートルの位置に着地……しようとする。

 おおよそ、楓と初音では勝負にならない。
 エルクゥとしての記憶も力も相当行使できる楓と違い、初音はまだ十分に鬼の力を振るうことはできず、せいぜい「一般人よりマシ」程度だ。
 ことに身体能力においては大人と子供以上の差があるだろう。

 ……だが、それが返ってよかったのかもしれない。
 一点集中。そう、まさに一点集中だ。
 もとより初音とて正面切って楓に勝てるとは思っていないし、勝負する気もない。
 ならばどうするか。
 一つ。たった一つの可能性に賭けることにした。
 最後の切り札。
 楓と視線をぶつけながらも気取られぬよう、初音は密かにポケットの中へと手を入れる。
261必殺必中:03/09/08 17:15 ID:nl1S1GXO

 弱者の必殺兵器。


 正面から使ってもかわされるのがオチだろう。
 だが、空中なら。もっと言うなれば着地点なら、いくら楓といえど体勢を変えることはできない。

「……えーーーーいっ! ごめん! おねえちゃんっ!!!!」

 可愛らしい咆哮とともに、自分の後ろに降り立とうとする楓に向かい……投げつける。

「……あああっ!? やっちゃった!」

 一瞬遅れて気づいた。
『投げて』しまったことに。
 本来の用途とは全く違う使い方をしてしまったことに。

「ッ!?」
 楓もそれに気づく。
 着地したところで背後から迫る『何か』に。
 かわすことは……できないこともない。
 受け止めることも……できないこともない。
 が、少々初音に対して苦い感情も持ち合わせている彼女は、右手に鬼の爪を具現化させると、振り向きざまに一閃した。

 少し、おどかしてやろうと思った。
 それだけだった。

 だが……

 それは楓にとって最悪であり、

 初音にとって最良の選択だった。
262名無しさんだよもん:03/09/08 17:16 ID:nl1S1GXO

 パシャッ!!!!


 プラスチック製の安物は音もたてずに両断された。
 だが、代わりに水音が聞こえた。

 ……たとえ、外側を叩き割ろうとも、中身の液体は止まらず、そのまま楓の顔にぶちまけられる。

 最初から素直にかわしていれば。
 あるいは普通に受け止めていなければ。
 状況は全く別のものになったのだろうが……

「づうううう………ッッッッッ!!? こ、これは……!」

 一瞬遅れ、楓が顔を手で覆ってその場にうずくまる。
 否定はできない。彼女は、初音を眼前にわずかながらも油断していたことを。
 そのツケは高くついた。



 ……目と、鼻と、口に、思いっきりレモン汁の侵入を許すことで。



【初音 レモン汁アタックがクリティカルヒット】
【楓 目と鼻と口に思いっきり汁を浴びる】
【レモン銃 大破】
【登場 リサ・柏木楓・【坂神蝉丸】・【御堂】・【柏木初音】】
263Attraction in the AIR:03/09/09 05:44 ID:4e+ijjsz
空を舞う3対の翼。
「うわあ! さっきの人、もう追いついてきたっ!」
「葉子殿っ、きたか!」
「か〜みゅ〜ち〜〜、ふええぇ」
それを目指し、上空を突き抜ける金色の弾丸――その姿、まるで目に見えぬ階段を十段飛ばしで登るかのごとく。
あー、あとそれに附随する……おまけ約一名。

「―――――――――――――――――――ッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

言葉も無い。
それもそのはず、恐ろしいまでの風圧が彼の口に動くことを許さな――――違う。
唇を動かし、咽から空気を押し出すことができても、彼の口からは何も発せられることはないであろう。
現在地上60M上空。シャレにならない速度で空を裂く。
支えは己の右手を握る葉子の左手。
――ただ、それだけ。

ファーゴと呼ばれた組織において、実はそれなりに、微妙に、エリートだったA棟巡廻員。
(だから、A棟まかされてたんだゼ)
彼は今、本気でぶちきれた天沢郁未に対峙するのと同じくらいの恐怖が、
この世に他にも存在することを知った。

264Attraction in the AIR:03/09/09 05:45 ID:4e+ijjsz

「うう〜〜〜〜〜っ!」

カミュは焦っていた。金髪の女性が反転したとき、戻ってくる前に必ず逃げおおせるつもり、だったからだ。
しかし、実際は神奈の懸命な邪魔に想像以上にてこずり、しかも、その金髪はあっという間に戻ってきて、
今にも自分達に追いつかんとしている。

(うう〜〜〜っ! お姉さまの光の術じゃないんだからあっ!)
自分達に真っ直ぐ跳んでくる姿にそう1人ごちた瞬間――気付いた。

「!! ユンユン、反転ッ!!!」
「ふえ、え? う、うん!」

翼をはためかせ、颯爽とUターンする2人。
ちょうど、横から前方に回り込もうとしていた神奈の裏をつく形ともなったが、それ以上に――


ズジャッ! ザザザッ! ザザザザザッ――――――――――――――――ッ!
何もないはずの空に強烈な摩擦音が響く。
目には見えぬが土煙ならぬ風煙が舞い上がっている錯覚すら覚える。


――それ以上に、直線的にしかスピードを出せない葉子の裏をつく形となった。

「疾ィッ!!」
『重り』の分も含めた強烈なGがこたえたのか、らしくない舌打ちが葉子の口から飛び出す。
そして、ようやく反転。再度、加速をはじめた。

ちなみに『重り』の彼は、非常に運の『無い』ことに
身体の末端の血液が逆流するのを感じながらも、気絶することが出来ずにいた。
265Attraction in the AIR:03/09/09 05:47 ID:4e+ijjsz

数瞬後、葉子は神奈の少し上の位置に追いつくと、

「回り込みます。神奈さん、お願いします」

と一言だけ残した。
『何を』お願いするのか、は全く告げられなかったものの、神奈にそれを理解することはたやすかった。
――すなわち、

「いいいいイイいいいい以はyhjかhlkgはlk;hjgヵkがッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」

眼の前を自由落下しようとしている、ソレ。
神奈備命の小さな身体がガッシリと、なんとか巡回員を捕まえることに成功した。

距離にして1M以内、ほんの数瞬の、ではあるが、 上空80MにおけるFree-fall。
ファーゴと呼ばれた異常な宗教団体において、実は(後略)。
(覗きばっかやってたわけじゃないんだゼ☆)
彼は今、また1つ経験を増やすこととなった。


一方、重りを捨てた葉子はさらに速度を増して空を駆ける。
狙う方向は目指す獲物の5M下。
武○術という言葉が恐ろしく似合うその姿で、重力をも速さに換えて滑空していった。


266Attraction in the AIR:03/09/09 05:48 ID:4e+ijjsz
「カミュち〜、あの人またくるよ〜」
「うう〜〜、どうしよう?」
必死に羽を動かしながらも、後を見やるカミュ。
葉子の進む道から、直接狙ってきているのではなく、下から回り込み、神奈と挟み撃ちしようとしているのがわかった。
それなら追いつかれるのはまだ先。相手が上向きに方向を変えた後でこちらも進行方向を変えればいい。
どんなに速くとも彼女は自由に空を舞うことが出来るわけではないのだ。
彼女に先にこちらの動きを見られるほうが狙い撃ちされる恐れがある。
とにかく、基本的に速過ぎる相手に、こちらのスピードを緩める急上昇や、急な方向転換は禁物だ。
そう、考えた。
「よーし、このまま、真っ直ぐ。ユンユン、合図したら横に方向転換、ね」
「う、うん」
自分もユンナも疲れてきているが、後ろの神奈は男1人を抱えながら飛んでいる為か、動きが芳しくない。
やはり注意すべきは金髪の凄い人。
もうそろそろ自分達のすぐ下のほうまで近付いてきているその姿を、じっと見つめた。


いかな、特殊な力である程度の衝撃は和らげるとしても、葉子の基本的な骨格、体格は女性のもの。
先程は追いつくまで無茶な速度をを出したため、反転は想像以上に身体に負荷をかけてくれた。
しかし、今はチャンス。ここで引くわけにはいかない。

(もって下さい! 私の身体!)

自分に叱咤激励すると同時に、不可視の力で強烈に反動をつけ、
そして、身体をねじりながら鋭角に跳ね上がった。

267Attraction in the AIR:03/09/09 05:49 ID:4e+ijjsz





「!! 横っ!!」
いきなり、眼の前に跳ね上がったその姿に立ち止まらず、さらには横に行く指示を出せたのは、
カミュの観察力が生み出した英断と言えるだろう。

だが――
叫びながら身体を右に傾け、急なカーブをかけるカミュ。
同時に、その声に反応し、ユンナも急激なカーブに身を委ねた――鋭く、左へと。


自分を避け、左右に散ってゆく相手。
――失敗。一瞬気が抜けかけ、はるか下に落下しそうになる葉子。
だが、予定通りではなかったが、2手に分かれたこの機会を逃すわけにはいかない。
気を振り絞り、足元に発生させた力場を強く蹴りつけた。
そして上のほう、追いついてきた神奈たちに目配せ。狙うは―――

「ど、ど、ど〜しよう〜〜カミュち〜〜」
「ユンユン、とまっちゃダメッ!」

慌てふためくユンナに向かって神奈with巡回員が身を寄せる。
そして下方から葉子が迫る。
その様子をみたカミュは何も考えずに身を翻し、ユンナのもとへと飛ぼうとした。
だが、その時すでに神奈の体には誰も掴まってはいなかった。




268Attraction in the AIR:03/09/09 05:50 ID:4e+ijjsz
――数瞬前
(いきますよ)
(あ、アレか!?)
(アレです)
(ま、またか! またなのかっ!)
(そんなこと私は知りません)
(うう、や、やってやらぁ!)

目配せしている2人の間にこんな会話があったとか無かったとか。
ちなみに、その間コンマ数秒。
実は葉子からアレという単語が出ている時点で神奈の手はフリーダム。
A棟巡回員、本日二度目の自由落下。距離は一気に5mオーバー。
嫌がっていたわりには、最初から美しい人間弾頭フォーム。
その姿、腹筋、背筋を駆使し、空中なのに背筋をピンと伸ばし軽く海老ゾリ。
顎はしっかりと引いて、手は気をつけの形。
(ズボンの縫い目に中指が来るようにすんのがコツだ)

その体勢のまま、下方、葉子の掲げた右手―その 力場 へ。
片手を挙げ、不可視の力を全開に待つ彼女の見つめる先には
――黒い翼の少女。

「いきますっ……A棟巡回員カタパルトッッッッッ!!!!!   ……です」

鋭い弾頭が
ドッカッ――――ン
着弾した。


269Attraction in the AIR:03/09/09 05:56 ID:4e+ijjsz
「痛ッーー! 痛ッいッ わねっ!!」
刹那、鬼のような…もとい、天使の様な速さでカミュとの間に割って入った、ユンナに。

その背には先程までのぽわぽわしていたものと違い、力強く輝く鋭く雄大な光の翼。
頭には日の光にも負けぬくらい神々しく輝くリング。

何がおきたのか誰も把握できない中、A棟巡回員を抱えたユンナ、彼女だけが冷静に、素早い判断を下した。

「逃げなさいッ! カミュ!!」
カミュに声をかけると同時に、
「全てを焼き尽くす 浄化の光よ!!」
辺りが眩い光に包まれる。

「くっ」
「あうっ」

「ごめん。ごめんね、ユンユン」

怯んでしまった神奈、葉子と対照的にカミュはわき目も振らず飛んでいく。

そして、
「いいわよ、気にしなくて……沢山ある借りを返しただけなんだから……」
聞こえない距離にカミュがいるのを確認したユンナが呟いた。

「で、まだあの娘を追いかける? ちなみに私、気絶してるこの人をこれ以上抱えている気は無いわよ」
「とうぜんであろ「いいえ。……すみません神奈さん。私がもう限界です」
「うむう、葉子殿がそういうのなら、しかたあるまいな」
残念そうに、もう小さくてほとんど見えない黒い翼を見つめる神奈。
「……あなたを捕まえたというのに、なんなのでしょう、この敗北感は……」
「知らないわよそんなの。……あ、コレ返すわね。それじゃ」
そう言ったが早いか、巡回員を葉子に投げ、さっそうとカミュとは反対側の空へと羽ばたいていった。
270Attraction in the AIR:03/09/09 05:57 ID:4e+ijjsz
「もう少し…なんつーか、労りってヤツ? ですか? そうゆーの希望しちゃ…ダメでスか?」
意識を取り戻したあと、涙ながらに訴るA(以下略。
実に哀れで涙を誘う――――かもしんない、一般の人が相手なら。

「……確かに。今回は少し、酷いことをしてしまったのかもしれません」
「うむ、それにそれなりには役に立ったぞ」
「お詫び、及びご褒美として……」
少し? かも? それなり? いくつかの言葉が引っかかったものの、
『ご褒美』
この単語が希望の光を巡回員の目にともらせる。
効果音をつけるなら、 

キュピィィ―――――ン!!!

こんな感じか。


「この遊戯の後のお説教、4時間に減らして差し上げます」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ぎゅび…ぃぃ……ぃいいぃ…ん………

今度はこんな感じか。

【ユンナ A棟巡回員によって鬼化。キノコ反転とける。そのままどこかへ】
【A棟巡回員 ちゃっかり一ポイントゲット】
【カミュ 逃走成功】
【葉子 無茶をしすぎる?】
【四日目 朝10時前後 海の近く舗装された道】
【登場 カミュ、ユンナ】
【登場鬼 【鹿沼葉子】、【神奈備命】、【A棟巡回員】 】
271名無しさんだよもん:03/09/10 14:13 ID:lESauq0N
こっちも念のため。
272続、負の遺産:03/09/11 14:58 ID:Proh1vp4
「坂下さん達、もう出かけちゃったみたいですね」
 駅の宿舎の中、葵は口を開いた。
「もう、10時ですしね。坂下さん達も頑張っていらっしゃるのでしょう」
 宿舎で見つけた湯飲みにお茶を注ぎながら美汐が答える。
 
 朝、ドライブインを発った彼女達はそのその周辺の山道を、逃げ手を捜して歩いた。
結局逃げ手の数が少なくなった事もあり、成果は得られず一休みしようという話になり、
それならば坂下が泊まったという駅に行ってみよう、とのことになったのだ。

「ねぇ、美汐〜」
 外にいた真琴がひょっこりと窓から顔を出した。
「なんかこの駅変わってるよ? 電車がないもん」
「真琴、これは電車のための駅じゃないと思います。送電線……線路の上にある電線がないでしょう?
おそらく、まだこの島の道路の整備がされていないころに、トロッコを使って色々なものを運んでいたようですね」
「ふ〜ん……トロッコってこれ?」
 線路の上におかれていたトロッコを軽く押す。
「そうです。真琴、危ないですから変に動かさないようにね」
「わ、わかってるわよぅ」
 真琴はちょっと口を尖らせると、山間に続く線路の先を仰ぎ見た。

 おそらくは美汐のいうとおり、トロッコによる運搬は道路が整備される前、まだこの島の開発が進んでいないころの手段だったのだろう、
線路は森の間を通され、その幅も狭く、またどこか粗雑なつくりをしている。

「ねぇねぇ、これに乗って上から滑り下りたら楽しいと思わない?」
「思いません」
 美汐、即答。
「相沢さんだってそんな危険な事はしないと思います。ほら、お茶が入りましたよ」
「は〜い」
 渋々、真琴は線路から目を離し宿舎の中に入っていった。
273続、負の遺産:03/09/11 15:00 ID:Proh1vp4
 その同時刻、駅より上方の線路上にて。
「あれ、昨日逃した奴よね……」
 七瀬達は息を潜め、木々の向こう、線路と並走する道路の方睨む。
 果たしてそこには、三人の逃げ手と一匹の恐竜めいたクリーチャーがいた。

 昨日は海を中心に逃げ手を捜していた彼女達だが、今日は山の方を中心に探索を続けていた。
 ようやく鬱陶しい雨も上がり、どこかハイキング気分だった彼女達。
途中でトロッコ用の線路を見つけ、
『へぇ〜 トロッコ用の線路なんて初めて見たわ』
『そうですね。佐祐理も初めてです。でもいいですね〜 何か雰囲気があって』
 そんな感じで興味を持つ。
 森の中、緑のトンネルを通る古ぼけた木造の線路は、確かに都会で目にするようなものではなく、
『ねぇ、どうせだったら線路の上を歩いて駅まで行かない? スタンドバイミーみたいでかっこいいじゃない』
『線路を歩いてちゃ獲物なんか見つけられねぇと思うけど……ま、いっか。たいした距離じゃないみたいだしな』
 と、いった按配で七瀬達は線路の上を移動していたのだが……

「まさか、獲物を見つけちゃうとはねぇ……しかも昨日の相手とは」
 矢島は呆れたようにつぶやいた。
 道路の逃げ手は、女性二人が恐竜に乗り、男が手綱を引いている。まだ、こちらには気づいていないようだ。
「七瀬さん達も、あの方々にあったのですか?」
「うん、あの男の人だけね。里村さん達はそのときいなかったけど」
 昨日の灯台で取り逃した事をかいつまんで話す。
「はぇ〜 奇遇ですね。佐祐理も昨日あの方々を逃してしまったんですよ」
「そっか。それじゃリベンジマッチってことになるわね」
「おお、燃える展開だぜ!!」
「燃えるのはいいけどさ……あいつら、あの馬使ってんでしょ? 追いかけっこになったら勝ち目ないんじゃないすか?」
 燃え上がる垣本に水を差すように矢島が口を挟む。
「いや、佐祐理殿がまじかる☆さゆりん(ハァト に変身すれば問題なかろう?」
「清(略さん……そういうのは無しの方向なんですよ……」
 苦笑いしながら佐祐理は木の裏から道路の方を伺う。
274続、負の遺産:03/09/11 15:02 ID:Proh1vp4
「不意をつくにしても、これ以上は近づけないですね……あの男の方はかなり鋭い方のようですし」
「うん……近づいているのがばれちゃったらあれに乗られて、逃げられちゃうしね……」
 
 線路と道路の間にはかなり密な木立がある。
その木立のおかけでこうやって気づかれずに潜むことができているのだが、
そんな中を音立てず移動するスキルはこの5人の誰も持ち合わせてはいなかった。

「やはり、これしかないと思います」
 佐祐理はトリモチ銃を取り出した。
ずいぶんアイテムを買い込んだ彼女だが今はもうアイテムはこれと唐辛子銃、それからスタンガンしか残っていない。
「これで狙撃して、相手の乗馬を封じ、それから一気に捕まえる。この方法が一番だと佐祐理は思います」

『詩子さん達見つからないの』
 澪もなんだかんだいって、シシェに乗ったまま文字を書くことになれてきたらしい。
ちゃんと漢字とか使ったりしている。
「……申し訳ありません」
 苦渋の顔でベナウィは謝った。
『べ、別に怒ってるわけじゃないの』
 慌てて澪がスケッチブックに書きなぐる。慌てている割に、
最初の文字が繰り返し書かれている辺り、芸が細かいというかなんというか。

 昨日、浩平達の襲撃によって詩子、観鈴とはぐれてしまってから、ベナウィはなんとか彼女たちと合流しようとしていた。
町からここに至る間、砂利道でタイヤ跡が見つけたものの、結局彼女たちが見つからないままこんな森の方まで来てしまっている。

「ベナウィさん。やはり合流は難しいと思います」
「いや、しかし……」
 ベナウィが、返答する前に、茜は首を振った。それからフッと微笑む。
「詩子のことです。どうせ能天気に楽しくやっているでしょう。心配するだけ損です」
「……そうですね」
 やや逡巡した後、ベナウィはうなずいた。
275続、負の遺産:03/09/11 15:04 ID:Proh1vp4
 どうやらこの少女には、自分がこの離散について責任を感じてしまっていること、
晴子を見捨ててしまった事を気に病んでいることを見透かされてしまっているらしい。
気を使わせてしまったようだ。
(我ながら情けない事です)
 たかだか鬼ごっこと割り切れぬ己の生真面目な性格も情けないと思うが、
心中を隠し切れぬ事もまた情けないと思う。
「日も高くなりましたし、昼食のことを考え……?」
 ベナウィは途中で言葉を切った。木立の向こうからガラガラと何かを転がすような音が聞こえてくる。
 ベナウィが音をする方を振り返ったのと、

 バシュッ

 木立の向こうから白い塊が飛んできたのが同時だった。

 狙われたのは、シシェ。移動手段。
「ク……!!」
 反射的に手を振るい、ベナウィは愛馬とその上にまたがる茜と澪を守った。
 圧力が左腕を襲い、跳ね飛ばされそうになるが、身を回転させ衝撃を受け流す。
「ベナウィさん……!!」
 馬上で茜が叫ぶ。叫びながら体を澪ごとシシェの前に移動させ、ベナウィが乗るスペースを空けようとする。
 ベナウィはその機転に感謝しながら、茜の後ろに飛び乗った。
トリモチのせいで左腕が自由にならない。だが、それでも右手で手綱をひっぱりシシェを駆けさせようとする。

 バシュッ

 木立の間よりもう一射。だが、シシェの方が早かった。
 駆け出したシシェの後ろをトリモチが通り過ぎていった。
276続、負の遺産:03/09/11 15:05 ID:Proh1vp4
 木立の向こうの線路上。

「ぐ……すまない」

 坂道を下ってくベナウィ達を睨みながら垣本が構えていたトリモチ銃を下ろし、頭を下げた。
男を上げるチャンスと自ら狙撃手に志願したのだが、結局失敗してしまった。
 歯噛みする垣本を佐祐理が慰める。

「仕方ないですよ、垣本さん。射撃は正確でしたし……」
「つーか、あの乗り物卑怯すぎ。どうしろってんだよ」
「うむ。一般人の我らには辛いところよ」
「でも、どうして気づいたんだろ? 発射の音より早く、こっちを向いていた気がするんだけど……」

 七瀬の疑問に他の4人が答える前に、ガラガラと何か転がる音が、ベナウィよりも聴覚の劣る七瀬達にもようやく聞こえてきた。

『だいじょうぶなの』
 馬上で差し出されたスケッチブックをべナウィはチラリと走り読みして、べナウィはうなずいた。
「大丈夫ですよ。たとえ手放しでも、シシェを操ることは可能です。難しい動作でなければ、ですが」
「鬼の人達は追ってこないのですか?」
「先ほど一瞬ですが、鬼の姿を見ました。数は五人。内三人は見知った顔、武芸の心得のない者達です。
この速度に追いつくことは叶わぬでしょう」

 だが、その直後べナウィは顔をしかめて手綱を握る右手に力を込めた。

『どうしたの?』
「前言を撤回します。こちらを追ってきてます」
 この道と並走する道でもあるのだろうか、木立の向こう、こちらより少し後方から駆けてくる
複数の人数の足音をべナウィの耳が捉えていた。
277続、負の遺産:03/09/11 15:08 ID:Proh1vp4
(しかし、腑に落ちません)
 確かに、今の速度はシシェの本気には程遠い。
 三人乗り、下り坂、脚を痛めやすい硬い道路、片手による操馬と、悪条件が重なっているのだから。
 しかし、それでも常人ではおいそれとは追いつけない速度で駆けさせているのだ。
(それだけの走力の持ち主ではないはずなのですが……)
 それとも見知らぬ二人の方にそのようなものがいたのだろうか。
 それともあの5人とは違う追っ手か。
(いずれにせよ、このまま駆けるしかないですか!)

 道からそれて木立の中へ駆けさせるには、操馬の条件が悪すぎる。
速度を落とせば別かもしれないが、それでは後ろの追っ手に追いつかれるかもしれないし、
先ほどのような狙撃をされるかもしれない。

『どうす』
「しっかり捕まってください!」
 スケッチブックに文字を書く澪に注意の声を上げる。
「このまま分かれ道が出るまでシシェに駆けさせます! シシェ、無理をさせますが頼みましたよ!」
 主人の激にシシェは一声上げ、駅へと至る道を疾走した。 

(しかし、やはりおかしいですね)
 再度、べナウィは首をひねった。
 追っ手の足音に加えて、叫び声と、それからガラガラと妙な音が聞こえてくるのだから。
278続、負の遺産:03/09/11 15:09 ID:Proh1vp4
 七瀬達は線路の上を走っていた。
 歯を食いしばり、流れる汗もそのままに五人は走る。
 速かった。
 その速度は速かった。
 まさしく、飛ぶがごとく。跳ぶがごとく。
 きっと、今まで生きてきた中で一番の走りだったに違いない。
「な、なんで……」
 っていうか。

「なんでトロッコが走ってくるんですか〜〜!!!?」
 その生も今、終わりを告げようとしていた。

「なんで、なんでなんですか〜〜!!?」
「まずい、マジでやべぇぞ!!」

 ガラガラガラという、トロッコが滑り降りてくる音が七瀬たちに迫る。
 誰も何も乗っていない空のトロッコとはいえ、下り坂のせいでかなりの勢いがついている。
ひかれたら、まあちょっとただではすまないだろう。

「ぬ、ぬぅぅ……流石汚れ役が5人そろうと、かのような奇異がおきるのか」
「汚れ役って佐祐理もですか〜〜!!?」
「むしろうぬが筆頭」
「ふぇぇ〜〜ん、まーい、ゆーいちさーん! たすけてぇぇぇ!!」

 脇にそれて回避しようにも、線路は木々のトンネルの中を通っていて、
脇に密に木立が生い茂っている。
しかもいつの間にやら線路と脇の木立の間にはかなりの段差ができてしまっていて―――
「ちょ、ちょっと本当に逃げ場がないっていうの!? 誰よ、スタンドバイミーみたいだって言ったの!?」
「姉さん、あんただ!! クソ、これじゃインディジョーンズじゃねぇかよ!!」
 結果、わめきながら5人はひたすらに走るしかなかった。
「どこのスットコドッコイなんですか〜〜!? トロッコ動かしたのは〜〜!!」
279続、負の遺産:03/09/11 15:10 ID:Proh1vp4
「ん……?」
 落とし穴を覗き込んでいた舞が、ふと顔を上げた。
「どうした、舞?」
「……トロッコがどうなったか……気になった」
「あの乗り捨てた奴? どっかで走ってるんじゃない? 下り坂だったし。物理法則って奴に従ってね」
「っていうか、その物理法則のせいで落とし穴に落ちちゃった私達のことを気にしてください〜」

 
「佐祐理殿!! ここはマジカル☆サンダーで事態の解決を!!」
「そんな特技は持ち合わせてないです〜〜!!」
「か、垣本!! 漢になるチャンスだ! お前盾になれ!!」
「そ、そうか!! いや、しかし……いかに漢といえど……いや、だが佐祐理さんのためとあらば……!!」
「垣本、待ちなさい!! 今回ばかりはそれ、シャレにならないわ!!」
「じゃ、どうすりゃいんすか!?」
「走るのよ!! とにかく!!」

 ガラガラという音、回る車輪、迫る黒の鉄塊、線路、坂道、重力、加速、運動。
物理法則に対する人間の必死の抵抗が続く。

「ふぇぇ〜ん!! あんまりです〜〜!!」
280続、負の遺産:03/09/11 15:14 ID:Proh1vp4
「はぁ、お茶がおいしいですねぇ」
 うららかな日の光のなか、チチチという鳥の鳴き声以外はシンとして静かな緑に囲まれた駅の宿舎で、 美汐達はお茶をすする。
「はい、のどかですね。いい天気だし」
「うん、こんな日は電波がよく届くよ」
「空気もおいしいですしね」
「ふぁあ、眠くなってきちゃった」
 そんなふうに、美汐達は和やかな時を過ごす。
すぐ近くで起きている修羅場も、やがて自分達がそれに巻き込まれる事も知らないまま。

【三日目 10時ごろ】
【美汐達 駅の宿舎にてマターリ】
【べナウィ達 線路と並走する道を駅に向かって駆ける。べナウィ左腕にトリモチ被弾】
【七瀬達 線路上を駅に向かってトロッコと追いかけっこ】
【登場 べナウィ、里村茜、上月澪、【七瀬留美】、【倉田佐祐理】、【清水なつき】、【垣本】、【矢島】、
【天野美汐】、【沢渡真琴】、【姫川琴音】、【松原葵】、【月島瑠璃子】、【川澄舞】、【天沢郁未】、
【相沢祐一】、【名倉由依】】
281名無しさんだよもん:03/09/12 15:33 ID:eW+A81YW
安全の為…
282名無しさんだよもん:03/09/12 23:27 ID:6cMKDHZA
保守しておきますね
283名無しさんだよもん:03/09/15 11:22 ID:m8tTBgzi
|/゚U゚|  + 激しく保守 +
284名無しさんだよもん:03/09/18 07:09 ID:ezNJNrbS
ほしゅな〜
285最悪と最良:03/09/18 12:07 ID:S2LV5Ckg
「っっ!!!!!!」
 悲鳴を上げて楓がうずくまる。さすがに強酸が目に入るのは、楓にとっても辛すぎる。
 想像を絶する苦痛に、一瞬、思考が焼かれる。真っ白になる。
 状況をも忘れて迂闊にもしゃがんでしまった。
 立ち上がるにせよ、跳ぶにせよ、ブランクが生まれる無防備な、瞬間。
 たとえ初音であっても、意を決すれば触ることができるほどの。
 そして、初音は、投げた直後――

「あ、ごめ、ごめんなさ……」
 狼狽していた。
 目に涙を浮かべて。手を口元に添えて、思わず一歩下がって。
 それがただのトリモチ粘弾であったなら、初音は手を伸ばしていただろう。
 あるいはただの食塩水でも。
 ただの、水だったとしても。
 そして、怯んだ一瞬、楓が動きを止めた一瞬を狙ってえいっ、と手を
伸ばせば、至近距離で無防備な楓に触れることができたはずだ。
 けれど。

 投げたのはレモン汁だった。それが目や鼻に入った瞬間の苦痛たるや、
想像を絶するモノである。
 そして。
 彼女は柏木初音だった。怒りがあったとはいえ、手違いがあったとはいえ、
自分のしてしまったコトに喜ぶより驚き、相手の苦痛を想像して心を痛めて
しまう。
 そして、なにより致命的なことに。
 柏木楓と柏木初音はエルクゥ、だった。
286最悪と最良:03/09/18 12:08 ID:S2LV5Ckg
「うわああああああああっっっ 痛い、痛い、痛いよおおおおっっ」
 初音が悲鳴を上げ、倒れる。
 無表情で通り、声も滅多に上げない楓が、戦闘モードですら膝をつき
悲鳴を上げたほどの激痛。その衝撃が初音を襲う。 

   エルクゥはね、意識を信号化して伝えあうことができるの。
   その力は遠いと上手く働かないんだけど、近いほどその力は強くなるんだよ――

   初音は、私ら姉妹のなかで一番感応能力が強いから――

「うう、うう、ううううううッッ…」
 目の奥に、針を何本も突き刺されたかのよう。
 口も鼻も辛いけれど、目に直撃した大量のレモン汁の刺激、これが一番キツい。
 痛くてもその感情を押し殺すことに慣れている楓と違って、初音にこの衝撃は
あまりに痛すぎた。
 目を押さえ、丸まり、ひっく、ひっくとしゃくりあげている。 
 もはや楓に触れるだのといった状況ではなかった。
「馬鹿…」
 初音からの衝撃のリバウンドに耐えながら、楓がよろよろと立ち上がる。
 苦しんで転がる初音に手を伸ばそうとして、躊躇い、一転して一気に川を
目指す。
 レモン汁を受けている自分のダメージを取り除かなくては自分が困る
し、なにより一度リンクした初音の精神ダメージも続いてしまう。なにより
距離を取るのが初音のダメージを軽減させる一番の方法だった。
287最悪と最良:03/09/18 12:11 ID:S2LV5Ckg
 目を閉じたまま、気配だけを頼りに木々を避け、森を疾走し、河に飛び
込んで手早く目やその他を洗う。
 まずはレモン汁の大半を取り除くこと。そして、丹念に顔を洗って痛み
を取り除く。

 痛みが、ずいぶん収まる。
 おそるおそる目を開ける。まだ痛いが、モノは見える。霞んでいるが。
 周囲に強敵の気配がないことを確認して、目を閉じ、ついでなので汗を
かいていた全身も河の水に浸し、手早く簡単に全身を洗う。
 ほんの数秒〜十数秒なのであまりたいしたことはできないが、それでも
汚れを取り身体を洗う最低限のことはできる。レモンの匂いも落とせるだけ
落としていく。
 どんな形であっても水浴びはいいものだ。ずっと木の上にいた疲れが、
ほんの一部といっても回復できる。
 また薄目を開ける。
 大丈夫。
 これなら、なんとか、見える。
 この数十秒、最低限の警戒と動作以外の体力を全て目の回復に宛てた甲斐があった。
 これなら初音の痛みも随分消えたことだろう。

 そして、掌で水を汲んで、初音の元へと戻る。
288最悪と最良:03/09/18 12:11 ID:S2LV5Ckg
「初音、初音…」
 小声で優しく囁いて、水を少しかける。
「うう…」
 涙目で初音が目を空ける。
「か、楓お姉ちゃん、ごめ、ごめんなざい…」
 えっく、ひっく、と初音が謝る。
 より痛みが辛かったのは、自分のほうだというのに。
「馬鹿…」
 楓が優しく言う。
「初音がそうしようと思ったわけじゃない。だよね?」
 涙を流したまま、こくこくと初音はうなずく。
「伝わった。後悔してた。驚いてた。ごめんなさい、って、伝わったよ」
 楓お姉ちゃんが優しい。声もだけど、心も。
 いつものように。
 いつもより、ずっと。
「お水汲んできたよ? 飲むと少し、楽になるから」
「うん」
 楓がすっ、と掌を傾けて零す水を飲む。
 (夢みたいだ…)
「初音の痛さと一緒に、いろいろ伝わった。ごめんね、初音、何も悪気はなかっ
たんだよね」
289最悪と最良:03/09/18 12:14 ID:S2LV5Ckg
 楓お姉ちゃんが優しい。
 この数時間はとても怒ってるようだった楓お姉ちゃんが今は優しい。
 目は痛かったけれど、初音には、それが嬉しい。
 思わず楓に手を伸ばす。嬉しくて飛びついてしまう。
「楓お姉ちゃんっ」
「それはダメ」
 ひらりと回避された。
「うう……」
 別に鬼ごっこで掴まえたいわけじゃないのに。
 あ、でも、触ったら鬼になっちゃうんだったっけ。
「だね。だから、また逃げるけど。面白くなってきたから、このまま本気で
逃げ続けるけど。喧嘩のほうは、終わり。いい?」
「うんっ」
 初音は笑顔で微笑んだ。
 楓にとっては激痛で散々だったけれど。
 初音にとっては、痛かったけれど、お姉ちゃんと仲直りできて最高に幸せだった。
 
290最悪と最良:03/09/18 12:15 ID:S2LV5Ckg
一方そのころ。
「えっと、アレは何をしてるのかな?」
「初音ちゃんが捕まえたんじゃないかな」
「でも避けてた」
「鬼の襷はまだ渡されてへんようやね」
「お腹減ったよ〜〜」
 えらく優しいムードで楽しそうに談笑してる楓と初音を遠くの茂みから
観察しながら、あかり・シュン・坂下・智子・坂下・みさきの駅宿メンバー
は協議している。
 それからしばらく様子見した後、あの距離なら初音ちゃんがその気な
らもうタッチしてるんじゃないかという結論に達して、それでも念のため
隠れて近づこうということで意見が一致する。

「ん、ちょっと邪魔が来たかも。じゃ、だいぶ体力も回復したから」
 しゅた、と片手を上げて森の中に跳んで消えていく楓。
「うん、気をつけてね、楓お姉ちゃん」
 最高に幸せそうな笑顔でぶんぶんと手を振る初音。
 完璧に鬼ごっこのことは忘れて、久しぶりの姉との会話を楽しんでいた。
291最悪と最良:03/09/18 12:16 ID:S2LV5Ckg
 5分後、初音は楓が置いていった紙に気づくことになる。
『ちなみに賭けは有効』
「え、え、えええ〜〜〜〜〜っ」
 姉妹喧嘩は終わったが、二人の耕一争奪戦はまだまだ続きそうだった。

【楓    森のなかへ】
【初音  楓お姉ちゃんと仲直りして幸せ。でも争奪戦は続行】
【駅宿s 茂みから出て初音と合流】
【登場  柏木楓・【柏木初音・【川名みさき】・【保科智子】・【坂下好恵】・
      【神岸あかり】・【氷上シュン】 】
292名無しさんだよもん:03/09/20 15:08 ID:NSPuc2sq
保守age
293名無しさんだよもん:03/09/20 15:29 ID:NMSKQ334
終了したスレを無理に保守するなよ( ´,_ゝ`)プッ
**************

  あたしの鬼ごっこ三日目は超ダンジョンの中で始まりました。
 由宇さんと詠美さんを逃がすために、縦さんと横さんを巻き込んでこの中に転送したのが
今日の明け方少し前の事です。
あの後、縦さんと横さんに対して、原稿を取ろうとするなんてひどい、
と説教をしたところ(お爺ちゃんの癖が移ったのかもしれません)お二人とも素直に反省したようです。
「むぅ……確かに興奮しすぎてしまったようでござる」
「すまなかったんだな」
 そう、頭を下げました。
 きっと二人ともそんなに悪い人じゃなくて、漫画のことが好きすぎるだけなんだと思います。
 あたしも、由宇さんと詠美さんが描かれた作品はとても面白いと思ったので(漫画というものを読んだのはこれが初めてですが)
お二人の気持ちは分かります。
 だから、あたしもお説教を切り上げて(お爺ちゃんのお説教は長すぎるんです)、お二人と別れて眠りにつきました。

 そんなことがあったから、あたしが目を覚ましたのは三日目の昼近くになっていたと思います。
 もっとも、迷宮の中のことだから起きた時には時間は分かりませんでしたけど。
 起きてから、迷宮の中を出口を探して歩きました。
 お爺ちゃんならともかく、あたしなんかじゃここでの戦いに巻き込まれたらきっとひどい目にあっちゃうからです。
 でも、迷宮では他の方とは誰も出会いませんでした。この迷宮が広すぎるせいなのか、
それとも本当に誰もいないからかなのかは分かりません。
 一度だけ、クーヤ様のお声をお聞きしたような気がしましたが、多分気のせいだったんだろうと思います。
クーヤ様もこんなジメジメした嫌なところにはいたくないだろうって思いますし。
 あ、でもいいこともあったんです。
 あたしはそこで宝箱を見つけました。開いてみると、中には肩から提げる革帯のついたもう一つの箱が。
後で聞いたのですが、クーラーボックスって言うんだそうです。
 それで、その中には氷のように冷たい袋と(保冷剤って言うそうです)、お肉に野菜といったたくさんの食材が入ってました。
 あたし、その時は嬉しかったです。二日目の夜、教会で美汐さん達から夕食をいただいて以来、もう何も食べてませんでしたし。
 でも中に入っていたのは調理しないとちょっと食べられないようなものばかりでした。
だからあたしは、ちょっと重たかったけどクーラーボックスをかついでお腹をすかせたまま、さらに迷宮の中を移動しました。
 
 外に出る魔方陣が見つかったのは、もう日が赤くなるころでした。
あたしはもうヘトヘトで、お腹も空いていたし、それなのに朝方の雨も止んでなくて、
転送された先が市街地とは離れた先でとてもガッカリしてしまいました。
 白状しちゃうと、ちょっと泣きそうだったです。
こんな事言っちゃうと、それでも武人の子かって、お爺ちゃんにもお兄ちゃんにも怒られちゃいますけど。
 だから、市街地の端にようやくたどり着いて、皐月さんを見つけたときはすごく嬉しかったです。
 あたしが皐月さんを見つけたとき、皐月さんはペンションのテラスにある椅子に座ってうつむいていました。
 多分、泣いていたんだと思います。
 あたしが外から、こんにちわって声をかけると、驚いた感じで顔をあげて目をこすってましたから。
それからあたしの様子を見て、下目使いで(皐月さんの癖みたいです)言いました。
「ずいぶん、ボロボロな格好ね? なんの用?」
「え、えーと……」
 あたしは困りました。特に目的もなく声をかけたからです。
でも、今まで一人きりでさまよっていたせいでこの場を離れたくはありませんでした。
それに、やっぱり皐月さんが何故泣いていたのか気になっていたんだと思います。
「用がないんだったら……」
「あ、あのあたしと一緒にお食事しませんか!?」
 だからあたしはそういいました。
「え、えっと……ひょっとしてナンパ?」
 皐月さんは慌てたようでした。
「ちちちち、ちがいます! あたしみたいな子がナンパだなんてそんな大それたこと……!!」
 あたしはもっと慌ててましたけど。
 二人でしばらくトンチンカンな会話をした後、皐月さんがあたしのクーラーボックスに気づきました。
「それ、何? 見ていい?」
 あたしがうなずくと、
「うわ、食糧がこんなに一杯……それに結構いいものじゃん、これって」
 と、驚きました。
「はぁ、そうなんですか〜 あの、あたし一人じゃこんなに食べきれないし、一緒に食べませんか?」
「うん……そうだね」
 この時皐月さんはちょっと微笑んだ気がします。
「いいよ。入ってきて」
 調理は皐月さんが一人でやると言って聞きませんでした。あたしも手伝おうって思ったんですが。
 ペンションの中にはもう一人夕奈さんって方がいらっしゃいました。夕菜さんが言うには、
「ごめんねサクヤちゃん。でも皐月ちゃんってお料理が本当に上手なのよ。
それに、気分転換にもなると思うし」
 ってことだそうです。
 あたしは少し迷いましたけど、やっぱり聞いてみる事にしました。
「あの……何かあったんでしょうか?」
「うん、あのね。ついさっき私達捕まっちゃったの、すっごく強い鬼さんにね」
 夕奈さんが話してくれたことには皐月さん達はものすごく強い鬼の方に襲われて、
(お兄ちゃんより強いかもしれません。お爺ちゃんほど強いはずはないですけれど)
ほとんど抵抗できないまま鬼にされてしまったそうです。
「皐月ちゃんは、頑張ってたんだけどね」
 あたしは、それは悔しいだろうなぁ、って思いました。
そんな鬼に襲われて、それでも頭を使って抗おうとした皐月さんもすごいって思いましたけど。
「うん、でもおなかが一杯になれば気分もきっとウキウキになるよ。
サクヤちゃん、期待していてね。皐月ちゃん、本当に料理が得意なんだから」
 夕奈さんの言った事は間違いじゃありませんでした。
 皐月さんの作ってくれたカレーライスは本当においしかったんです!
きっとクンネカンムの宮廷料理にも負けないと思います。
「皐月ちゃんね、将来コックさんになりたいんだって」
 感激の声を上げるあたしに、夕奈さんがそういいました。
「だから今から練習でいろいろお料理を作ってるんだよね〜」
「べ、別に……まだまだです、私なんて」
 皐月さんは照れていたようです。でも、ちょっと嬉しそうでした。
「うん、でもこれだったらお金を払っても食べますよ、あたし」
「うんうん、私もお金払うよ。あ、そうだ!」
 夕奈さんがポンと手を打ちました。
「ね、皐月ちゃん。まだまだ材料余ってるよね。ここでレストランを開くのはどうかなぁ?」
「レ、レストラン、ですか?」
「うん。なんか看板とか作って、皐月ちゃんのお料理を食べさせてあげるの。
きっとみんなお腹減らしているだろうし、喜んでくれるよ!」
「うーん……今更鬼ごっこをする気にもなれないからいいんだけど……サクヤはいいの?」
 あたしは少し迷いましたけど、うなずきました。
 クーヤ様や由宇さん達を探す事も考えましたけど、あの人たちがまだ鬼になってなかったら
迷惑になってしまう、そう思ったからです。
「そっか……うん、確かに色々作ってみたい料理はあるかな。
限られた食材と設備でどれだけのものが作れるかっていう修業にもなるし……」
 それから、皐月さんはうなずきました。
「そうですね。それじゃ材料が切れるまでなにか作って、きた人に食べさせようと思います。
暇つぶしにもなりますし。この雨じゃ誰も来ないと思いますけど」
「きっと来るよ〜 皐月ちゃんのお料理、ほんとに美味しいもの」
「私の料理の腕と人が来るかどうかははあんまり関係ないですけどね……」
 こうして、あたし達はお店を出す事にしました。ペンションの中にあったベニヤ板をとってきて、
『あったかいカレーライスあります』
 そう書いて正門の上に張って、看板にしました。
 もうすぐ暗くなるので、ペンションの中でみつけた懐中電灯で看板を照らし

**************

「サクヤ、日記書いているんだ?」
 皐月の言葉に、サクヤは顔を上げた。
「はい。クーヤ様からお話をするよう命じられたとき、便利なんですよ」
「ふーん……」
「お客様、くるといいですね」
「別に……まあ、暇つぶしだし。お金を取るって決めたわけでもないし」
 皐月はちょっと照れたように顔をそむけると、続けた。
「でも、気分転換にはなったかも……ありがと、サクヤ」
 サクヤはちょっと笑って首を振ると、日記の続きを書き始めた。

【三日目夕方近く 市街地の外れのペンション】
【登場 【サクヤ】、【湯浅皐月】、【梶原夕菜】、【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】 】
失礼、
クンネカンム → クンネカムンだ。
301名無しさんだよもん:03/09/21 16:37 ID:2aSPPwCj
( ・∀・ )イイ!
302名無しさんだよもん:03/09/23 16:04 ID:RmXWB4M1
303名無しさんだよもん:03/09/23 17:14 ID:RynvbFjw
304名無しさんだよもん:03/09/23 21:08 ID:tsQMGPgg
305Dの主釣り:03/09/24 03:51 ID:lfRNQiPn
 諸君、久しいな。
 我が名はD,汝ら小さき者に崇められうたわれるものウィツァルネミテアの分身である。
 すでにこの挨拶もあきられているとは思うが、まぁ定型句というのは得てしてそういうものだ。
 呆れずについて来てほしい。

 さて、現在の私だが……

「ところで二人とも、こんな話を知っているか?
 かつて古代の中国、殷の時代。後に太公望と呼ばれる呂尚は渭水の畔で釣り糸を垂れていたところを周の文王に見いだされ
 そのまま文王と武王の二人を導き見事殷王朝、暴虐悪政の限りを尽くしていた紂王を打ち倒したという」
「で?」
「でだな。私は思うのだ。ただ闇雲に山路を走り回ったり、相手を追いかけ回そうとするとチャンスというものは得てして失ってしまうものだ。
 ならばここは一つ、腰を落ち着けて向こうから来るのを待ってみるのも一つの手だと思うのだ」
「つまり?」
「つまりだな。ちょうど目の前には澄みきった湖がある。ここは山道の分岐点でもあり人通りも多そうだ。
 そして先ほど発見した屋台もここにある」
「おーう、久しぶりだな。とはいっても一昨日会ったばっかだけどな」
「あ、エビのおねえちゃん」
「あたいはイビルだっての」
「エビルは私だ。『赤い方がエビ』とか言ったら怒るぞ」
「そう。話を聞くに屋台には釣り具一式が揃っているそうだ。常々思っていたが無意味なほどに品揃えがいいなこの島の屋台は。
 まぁそれはともかく……私はあくまでも建設的な意見として──」

「……要は、釣りがしたいんだネ、D」

「……その通りだ……」

 ……朝食を済ませた後、山腹の湖まで来ていたりする。
306名無しさんだよもん:03/09/24 03:52 ID:lfRNQiPn
「最近全然釣りにも行ってなかったからな。この辺りで少々息抜きをしたかったりするのだが……ダメか?」
 大神とは思えないほど気弱な視線を、器用に上目遣いでレミィとまいかへ向ける。
 そこには以前までの面影は無い。
「私は……いいケド、まいかちゃんは?」
「う〜……つり?」
 レミィとは対照的に、ほっぺを膨らませ、だいぶ不満げなまいか。
 彼女の性格からするに、延々と『待つ』必要がある釣りというスポーツはいまいち歓迎しにくいものだったりする。
「ん〜〜〜〜……………」
 が、まいかはしばし唸った後、意外にも
「……うん、いいよ」
 と肯定の意を示した。
「なにっ!? 本当か!?」
「まー……きのーはでぃーもいろいろがんばってたし、たまにはいいんじゃないかな。でぃーのわがままをきいてあげても」
 完璧に手前のことは棚に上げてるまいか。しかし今のDはそんなことは気にせず、速攻で屋台の二人に向き直る
「というわけで釣り具一式よこせ。三人分だ。なに1200円!? 高い。500円にしろ!」

「……結局833円にされちまった」
「まぁそう言うな。別売りのルアーで一応の儲けは出たんだ」
「チッ」
 ぶつぶつと呟きながら屋台のブレーキを外すイビエビコンビ。
 その後ろでは一家が三人揃って釣り糸を垂らしている。
「いいかディー、あくまでそれは貸してるだけなんだからな。壊したり汚したりすんなよ!」
 念を押すように声をかけるイビル。
「ああ、わかってるわかってる」
 背中を向けたまま答えるディー。
「私たちはその辺りを一回りしてくる。1〜2時間後またここに来るからな。その時魚が釣れていれば料理してやろう。
 あまり遠くには行かないようにな」
「ああ、わかってるわかってる」
「ホントにわかってんのか?」
「ああ、わかってるわかってる」
307名無しさんだよもん:03/09/24 03:53 ID:lfRNQiPn
「……お前の感じている感情は精神的疾患の一種だ」
「ああ、わかってるわかってる」
「……なら私が鎮めてやろう」
「あ……?」

 ゴ ツ ン !

「……人の話は聞くものだぞ。ではしばしさらばだ」
「レミィにまいかだったか? おめーらはしっかりしといてくれよ」
「OK,任せといて」
「チッ……何も殴ることはないだろうに……」
「いまのはでぃーがわるい」
「クッ……」

〜10分後〜

 まいかは激怒した。
 必ず、かの邪智暴虐のDを超えねばならぬと決意した。まいかには釣りがわからぬ。
 まいかは、田舎のょぅι゛ょである。海で泳ぎ、姉と遊んで暮らしてきた。
 けれども勝負事に對しては人一倍に敏感であった。

 ……というのは少々オーバーだが、実際まいかは不機嫌だった。
 開始十分でDは一匹釣り上げ、まいかはいまだゼロだったからだ。
 ……釣りというものを考えるに開始十分の一匹差を気にする必要はあまりないのだが、彼女にしてみれば無為に過ごす間などは
 たとえ10分でも永劫の時間に等しく、自制心の針を振り切るのには充分であった。
「……………」
「……ん? まいか、どうした?」
 無言のまま、まいかはすっくと立ち上がるとリールをある程度巻き直し、竿を高々と掲げた。
「……どしたの?」
 なんだかんだで3匹も釣ったレミィが訝しげな視線を向ける。
「……とおくにとばす」
「……は?」
308名無しさんだよもん:03/09/24 03:53 ID:lfRNQiPn
 などと言うやいなや、突然ぶんぶんと竿を振り回し始めた。糸が針の遠心力でどんどん加速していく。
「な、あ、危なっ! 危ないぞまいか! 遠くにキャストしたところで大して変わりはない! あ、危なっ! やめろっ!」
「ま、まいかちゃん落ち着いて……」
 が、二人の声は完璧シカト。針の先端が最高速にノったところで……
「………っっっ……! ええーーーーいっ!」
 キャスト!
 
「あ」「あ」
 ……ポチャン。
 がしかし、哀れな釣り針はてんで見当違いの方向──湖の中央部を外れ、斜め向かいの──川の水が流れ込む河口部近くに着水した。

「……大外れだな」
「ぐぅぅ……っ!!」
 さらにイライラをつのらせ、顔を紅く染めるまいか。
「まいかちゃん……慌てちゃダメだよ。Fishingっていうのは、根気よく……心穏やかにしてお魚さんを待つものなんだから。
 慌てたっていいコトなんか一つもないよ。私の釣ったの一匹あげるから……って、Wow!」
 ……などと優しく諭すレミィ。が、その言葉は思いっきり中断された。なぜなら……
「え!? わ……っ!!!!」
 瞬間、まいかの体が宙に舞ったからだ。
 
「まいか!」
 一瞬の判断。Dは己の竿を投げ捨て、水上に躍り出たまいかの背を掴む。
「うきゅっ! ……で、でぃー……くるし、い……」
「が、我慢しろ……! な、なんだこの力は……!? これは、大物……のうわっ!?」
 あまりに強烈な引き。慌ててまいかを掴んで体勢を崩していたとはいえ、Dの力を持ってすらあがないきれるものではなかった。
 岩場から身を乗り出したまま、Dも水中に……
「D! まいかちゃん!」
 が、そこはレミィの出番。慌ててDの首根っこをひっ掴み、二人を無理矢理岸へと戻す。
「た、助かったぞレミィ……まいか、大丈夫か!?」
「う、うん、まいかはへいきだけど……このおさかな、すごいよ!」
 まいかの手に握られた竿は今にもすっぽ抜けそうだ。慌ててDがその上から己の手を添える。
「チッ、なんだこの引きは……まさかこの湖の主(ヌシ)か!?」
309名無しさんだよもん:03/09/24 03:54 ID:lfRNQiPn
「がんばってD! 油断しちゃダメだよ……! 力を抜いたら……湖に引きずりこまれちゃうよ!」
 まいかが竿を持ち、その体をDが抱きかかえ、さらにそのDをレミィが後ろから引っ張る。
「わかっている!」
 どこかの童話のような体勢になりながら、一家とヌシの戦闘は始まった。
 
〜in the water〜

 一方、当のヌシご本人に目を向けると……
(がぼおあああっ!!?)
 大量の気泡を吐き出し、慌てて水を掻く。
(な、なんだなんだ!? 何が起きたと言うんだ!?)
 ……ある意味、パニックの度合いではこちらの方が大きかった。
 水中のヌシ……岩切花枝は自分の体の後ろに手を回してみる。
(こ……これは!?)
 首筋……奥襟の部分から伸びる一本の細い糸に指が触れた。
(まさか……これは……釣り糸……!? 私は……釣られたのか!? そんな馬鹿な……ってうぐおぉぉ!?)
 物思いに耽る間もどんどん糸は手繰り寄せられていく。瞬時に我に返り、改めて水掻きを再会。
(いかん! 御堂も迫ってきているというのに……こんなところで足止めを喰っている暇はない!
 それ以前に! もし釣り人が鬼だったら……いや、現在はその可能性の方が高い! いかん、いかん! いかんぞ!
 こんな……こんな捕まり方をするワケにはぁぁぁぁぁっ!!!!)
 
「でぃー! またこいつあばれだしたよ!」
「気合いだ! 押さえ込め! こいつはでかいぞ! なんとしても釣り上げるのだ!」
「ラジャー! 行くよD!」


 ──ある意味、Dの見立ては正しかったとも言える。
 太公望が文王を釣り上げたように、ここにきて逃げ手を釣り当てることができたのだから。
 だが、勝負はここからだ。
 逃げる岩切。追う御堂。そこに割って入ったD一家。
 運命の女神は、一体誰に微笑むのか──
310名無しさんだよもん:03/09/24 03:56 ID:lfRNQiPn
【D一家 釣る】
【岩切 釣られる】
【御堂 接近中】
【弐号屋台 そのへんを回ってくる】
【四日目昼前 快晴 山腹の湖】
【登場 岩切花枝・【御堂】・【ディー】・【しのまいか】・【宮内レミィ】・『イビル』・『エビル』】
311名無しさんだよもん:03/09/25 10:59 ID:ep7BKfrC
312Mission:03/09/27 15:21 ID:qRK1P/Sf
「ノーゲーム、ってことは……」
「振り出しに戻ったってことだね」
 当惑した声を出す由綺に答えたのはようやく復活した緒方英二。ずれた眼鏡を直しながら溜息を一つ吐く。
「と、言う訳らしいから、早く逃げた方がいいんじゃない? お二人さん。もっとも、慌てなくてもこの屋台から半径
 100メートル以内ではどうせ鬼は手出しできないけどね」
「そうか、わかった」
「これはお代です。ではこれにて」
 不名誉なプレートをさっさと捨てながら答える柳也と、懐から金子を出して会計を済ませる裏葉。
この場の誰よりも早く事態を把握した逃げ手の二人は、鬼たちが頭を切り換える前に互いに手を取りこの場から立ち去っていった。
 それは彼らに軽い口調で逃走を促したショップ屋ねーちゃん自身も口をぽかんと開けて見送るしかないほど素早いものだった。

「で……どうするの?」
 柳也たちが茂みの向こうに消えたのち、再起動した来栖川綾香が探るような目つきで全員を見ながら言う。
「追いかけるに決まってるじゃない」
 何を当たり前のことを聞いてるんだとばかりにそう返したのは緒方理奈。
「ゴメンね冬弥君、由綺。せっかく会えたけど、積もる話はまたあとでね」
 にこりと笑って顔見知りにそう言い残し、
「ほら兄さん、さっさとついてくる!」
「うーん、彼女は僕の守備範囲じゃないんだけどな……ぐぇ!」
 相変わらずの兄を文字通り引きずりながら先陣を切るように、あるいは他の面子を出し抜くように理奈は屋台から離れていった。
313Mission:03/09/27 15:23 ID:qRK1P/Sf
 それを端として、鬼たちは次々と行動を開始する。
「ま、道理ね。じゃあ行くわよ姉さん。鬼になってからいいとこ無かったし、張り切って行きましょう!」
「(こくり)」
 来栖川綾香、芹香姉妹。
「今度はどっちがあの二人を捕まえるか競争だねっ」
「うん。今度は負けないよぉ」
「ふむ、そうと決まれば早速行くとするか」
「はい、聖先生!」
「あっ、待ってお姉ちゃん」
 月代と佳乃、それに聖。
 彼女たち五人も、緒方兄妹に続くように茂みの向こうへと消えて行った。
 残されたのは冬弥たち三人と一匹、それに宗一、はるか、梓のこれまた三人組。
「俺らはどうする?」
「どうするも何も、アタシらにはそんな余裕無いよ?」
「うん。もともと私たち朝ご飯のための買い出しに来たところだからね。早く帰らないとグーパーで負けて留守番してる
 結花とかおりがぶーたれるかも」
「やけに説明的だな、河島」
 そう言いながら、宗一は昨日のことを思いだしていた。
314Mission:03/09/27 15:25 ID:qRK1P/Sf

 昨日の昼過ぎくらいだったか、俺があの江藤とか言った女にKOされ、ちょーっとばかし落ち込んでいるところに
びしょ濡れの柏木梓がやってきたのは。
 三人とも鬼になってしまったことに少し落胆していたようだったが、気持ちの切り替えが早いのか、柏木たちはこれから
張り切って逃げ手を捕まえようと息巻いていた。
 一方俺もこのまま終わるわけにはいかんと一念発起、残った逃げ手を狩り尽くさんと鼻息を荒くしたのはいいものの。
「外、すごい雨だよ」
 眠そうな河島の声の通り、外は柏木が訪れたときよりさらに勢いを増した雨に覆われていたわけで。
 いくら何でもこんな天候の中のんきに外を歩いている逃げ手は居ないだろうと言う結論に達したわけで。
 しょうがないからってんで柏木と江藤お手製の昼飯をみんなで食べたんだが、これが皐月に負けず劣らずってくらい美味かったわけで。
 古来より美味い飯を食った後は腹を押さえて横になると言う決まりがあると俺は思うわけで。
 その決まりに忠実に従った俺はいつの間にかそのまま二度目の昼寝に誘われたわけで。
 目が覚めたらまた美味そうな晩飯が目の前に広がっていたわけで。
 それ食って、また寝て、目が覚めたらもう明け方だったわけで。
 昨日の晩飯で食材が切れたってんでこうして買い出しに来てみたら何やら揉めている現場に遭遇したわけで──。
315Mission:03/09/27 15:27 ID:qRK1P/Sf

(……って、俺ちっともいいとこねえじゃねえか! 何だこのヒモっぽい過ごし方は!)
「──ちさん? そ〜いちさん?」
「ん? あ、ああ、何だ七海」
 愕然としているところにくいくいと裾を引かれ、宗一は回想から帰ってきた。少し顔色が悪そうに見えるのは
自分の気付いてはいけない部分に気付いてしまったからか。
「そ〜いちさんはあの人たち追いかけないんですか?」
 だが七海はそんな宗一の様子に気付くことなくそんなことを問うてきた。
「そうだな……名誉挽回のために捕まえてやりたいのは山々だが、留守番待たせてるし、それに……」
 そこまで言って宗一は柳也たちの消えた茂みの方を見る。
(あいつらは、ただ者じゃない)
 何というか、彼らはこういった「追われる」シチュエーションに慣れているとでも言おうか、そんな様子が見て取れた。
統率の取れた兵衆ならともかく、素人が何人で追ったところで捕まりはしないだろう。
 だがそんなことを告げる必要もない。突然黙った宗一に「?」といった顔を向ける七海に向かって、宗一は笑って言った。
「頑張れよ」
「あ……はい!」
「おーい、行くぞ宗一! アンタも荷物持ってくれ」
「七海ちゃん、俺たちも行こう」
「じゃ、頑張ってね由綺」
「うん、はるかも」
 語るべきことは多くなく、それ故簡素な言葉だけを交わして彼らは別れた。
 屋台ももういない。梓に食材を売ったショップ屋ねーちゃんはさっさと転移してしまっていた。追いかけっこが始まった以上、
この場にいつまでも留まっていては進行の妨げになるからだ。
 宗一たちはこのままキャンプ場に戻り、梓特製の美味しい朝食に舌鼓を打つ、はずであった。

 宗一が七海の発した悲鳴でその足を止めたのは、このすぐ後のことである。

316Mission:03/09/27 15:29 ID:qRK1P/Sf
「お姉ちゃん、いたぁ?」
「いや、こちらにはいないようだ。向こうを探してみよう」
「私はあっちを探してみます」
「じゃあ私たちは……えっ? ダウジングで探してみるって?」
「(こくこく)」……ゴソゴソ
「そっちはどう、兄さん?」
「いーや、影も形も見あたらないねえ」
 そんな鬼たちの声を小さく聞きながら、柳也はスタンガンを構えていた。
 そこは零号屋台があった場所のすぐ近く──今も冬弥や宗一たちを見ることのできる木陰だった。
 さっさと安全圏に逃げたと見せておいて、未だこんな所にいる理由はただひとつ、このままただ逃げたところで確実に自分たちを
追ってくる存在が彼らの中に居たからだ。
 今はまだ雨が降っているから大丈夫だろうが、それもいつまで保つか分からない。事実、東の空は白んできており、雨雲はもうすぐ
消えようとしている。このまま晴れてしまえば、その脅威──そーいちにいつまでも追われる羽目になるかも知れない。
 それがどんなに低い可能性でも、不安要素は取り除いておくべきだ。
 だから。
(悪く思うな……!)
 未来の脅威を無くすために、柳也はその小さな影に向かって、射出式スタンガンの引き金を引いた。
317Mission:03/09/27 15:31 ID:qRK1P/Sf
 バチィッ
 
「キャウンッ!!」
「そ、そーいち!」
 突然大声で名前を呼ばれ、宗一は立ち止まった。
 いや、大声と言うよりそれは最早悲鳴に近かった。
「……っ!」
「あ、宗一!?」
 そんな聞いたこともない七海の声に、宗一は慌てて七海のもとへ向かった。
「なんだ、どうした七海!?」
 駆けつけた宗一が見たもの、それは泣きながら動かない犬に必死に呼びかけている七海の姿だった。
「あ、そ〜いちさん! そーいちが、そーいちが……」
 同じ名前を呼びながら宗一にすがる七海。ややこしいな、と苦笑しながら宗一は地面に横たわる犬に手を当てる。
「……死んではいないな。何か強烈なショックを受けて身体が動かなくなっているだけだ。しばらく休ませておけば大丈夫だろう」
 そう言うと七海は目に見えてホッとした。だがこぼれた涙のあとは消えない。それを見て宗一はゆっくりと立ち上がり、言った。
「河島、柏木。悪いけど先に帰っててくれ」
 それは宗一の後を追ってきたはるかと梓に向かっていった言葉。
 その返事も聞かず、宗一は今度は七海のすぐ側で立ちつくしていた冬弥と由綺に向かって厳しい顔を向ける。
「二人とも、七海のこと頼む」
「あ……ああ、うん」
「そ〜いちさん?」
 冬弥の気の抜けた返事も七海の怪訝な声も意に介することなく、ただその掌をまた七海の頭に置いて、宗一は前を見据えていた。
318Mission:03/09/27 15:33 ID:qRK1P/Sf
 傍らの七海でなくただ前を見ながら、宗一は思っていた。
 自分と同じ名前の犬が撃たれたのは、やはりあまりいい気分ではない。
 だがそんなことよりも。
(七海を泣かせたのは、ちょっとやりすぎだな)
 思えばこの鬼ごっこに参加して以来、自分はあまり本気になったことはなかった。
 トップランカーエージェントとして世界中を飛び回り、時には命すら懸けたミッションをこなし、それなりの報酬も
受けている身にとって、これはどこまでいっても「遊び」でしかなかった。
 もちろん手を抜いていたわけじゃない。蝉丸に追いかけられたときも、結花たちを追いつめたときも常に本気だった。
 それでも心のどこかで「たかが鬼ごっこ」と思っていたのも事実だった。
 しかし、今はそんな思いは微塵もない。
 今、宗一の心にある思いはただひとつ。
「絶対に捕まえてやる」
 それだけだった。
「ん、頑張ってね」
 宗一の声にはるかが返す。それがスタートの合図だった。
319Mission:03/09/27 15:35 ID:qRK1P/Sf
「じゃあ行こうか」
「お、おいはるか!?」
 くるりと宗一に背を向け当たり前のようにそう言ったはるかに、梓は思わず声を上げた。
「ん?」
「いや、ま、待ってなくていいのか?」
「大丈夫でしょ。何か那須君自信まんまんみたいだし」
「でも……」
 まるで疑いの色を見せないはるかに、梓は言葉を詰まらせる。
 その時。
「ああ、そうだ柏木」
 宗一が首だけ振り返って、まだ困惑の表情を浮かべる梓に向かって言った。
「朝メシはちゃんと残して置いてくれよ」
 ポカンとする梓、ニヤリと笑う宗一。
「すぐ終わらせるからさ」
 そして、一介の学生から一変、エージェントの顔つきになった宗一は、不敵な笑みを浮かべたまま駆け出していった。
320Mission:03/09/27 15:39 ID:qRK1P/Sf

「動物を撃つ、というのはあまり気分のいいものではございませんね」
「そうだな……勝つためとはいえ、あの少女と犬には申し訳ないことをした」
 電極がそーいちに命中したのを確認した後すぐさま逃走した柳也と裏葉、距離をかせいだと思い人心地ついたところで
ふとそんな言葉が漏れた。
 主のためとはいえ、あんないたいけな少女を悲しませてまでやるようなことだっただろうか。
 見たところ神奈よりも年下に思える少女を泣かせてまで……。
 柳也の心にいいようのない、澱のようなものが生まれる。それは次第に量を増やし、柳也に迷いを抱かせる。
 知らず唇を噛み、己の考えに溺れそうになった柳也を引き上げたのは、右手にそえられた裏葉の手であった。
「全てが終わったら、あの少女に謝らなければなりませんね」
 その声に、笑顔に、心に救われる。
「ああ……」
 そうだな、と柳也が肯こうとしたところで

「っ! 柳也様!!」
「悪いけど、今すぐ謝ってもらいたいんだな、こっちは」

 裏葉と男の声が重なって聞こえた。

 ハッとする。振り返る。そこにいたのは一人の少年。その後ろに、さらに七人の鬼。
 それを見た柳也はそえられた妻の手を反射的にぎゅっと握りしめて走りだした。
321Mission:03/09/27 15:41 ID:qRK1P/Sf
「ホントにこっちに逃げてたとはね……やるじゃないか、少年」
「エージェントを欺こうなんて10年早いってなもんですよ」
 追いかける宗一の横で緒方英二が感嘆の声を上げる。走りながら器用に口笛を吹いて賞賛する英二に軽口で答える宗一。
「情報提供感謝するわ。でも、彼らを捕まえるのは私だからね!」
「むむむ、負けないよう!」
 張り切った声を上げる後ろの少女たちの声を受け、宗一は不敵に笑う。
 確かにあの二人の逃げた方向を教えたのは宗一だが、それは彼らを追いつめるには一人よりも複数の方がいいと判断しただけ。
譲る気など、毛頭ない。
(やってみろよ……俺を出し抜けるもんならな!)
 あの二人を捕まえるという自らに課したミッションを成し遂げるため、宗一はさらにスピードを上げた。



【NastyBoy 始動】
【柳也、裏葉 逃走】
【宗一、理奈、英二、綾香、芹香、月代、佳乃、聖 夫妻を追いかける。結託はしていない】
【冬弥、由綺、七海 そーいちの側にいる】
【そーいち スタンガンをまともに受け動けない】
【はるか、梓 キャンプ場へ向かう?】
【場所 海岸近くの森】
【時間 四日目明け方、小雨】
【登場 柳也、裏葉、【河島はるか】、【那須宗一】、【柏木梓】、【森川由綺】、【藤井冬弥】、【立田七海】、【緒方理奈】、
   【緒方英二】、【来栖川綾香】、【来栖川芹香】、【三井寺月代】、【霧島佳乃】、【霧島聖】、『そーいち』、『ショップ屋ねーちゃん』】
322親切の見返りは:03/09/28 12:09 ID:OmYOdTTf
「さてと。こうして無事に朝を迎えられたわけだが」
 鶴来屋別館6階の一室にて。ハクオロはつぶやいた。
「美凪、みちる。良く眠れたか?」
「うん、ばっちしだぞ!」
「……ハクオロさんはおねむじゃないですか?」
「うむ……まあ平気だ」
 本音を言えば、まだ眠い。日が出る直前まで見張りを勤め、
その後美凪と交代してから2時間ほどしか眠っていないのだから。
(まあよいか)
 元気そうなみちるの様子をみて、それだけの甲斐はあったのだ、とハクオロは思った。
 下手に動かずにホテル内の一部屋にとどまり防衛に努めたのは正解だと思う。
(うむ。やはり睡眠はよくとらせんとな)
 それなりの満足感をこめてハクオロはうなずくと、部屋の入り口に転がる三つの白い塊の方へ目を向けた。
「さて……こやつらも眠ってしまっているようだが……」
 転がっている三つの塊は、トリモチによって床に固定された鬼達……健太郎、広瀬、まなみの三人だった。

 彼らが取った作戦……一部屋ごと虱潰しにして逃げ手を探るという作戦は、
合理的なように見えて、大きな欠点を含んでいた。
 よほど隠密の技に長けた者でない限り、部屋を探るという行動は音をたててしまう。
まして、これだけの部屋数を虱潰しとなれば、根気のいる仕事だ。
つい、行動が杜撰になってしまう。
 要するに、彼らの行動はハクオロ達に筒抜けであり、しかも規則正しく虱潰しをしていたために、
行動の予測もされてしまっていた。
 いつ鬼が来ると知れているのだ。
 部屋の中に引き込んで待ち伏せをし、トリモチ銃で仕留めることはハクオロにとってそう難しい事ではなかった。
 おかげでトリモチ銃の弾丸は使い切ってしまったのだが―――
323親切の見返りは:03/09/28 12:10 ID:OmYOdTTf
「こいつら、このまま放置プレイなのか?」
 モップの先でつつく真似をしながらみちるが問う。
「いや、それも気の毒な気がするが……まあ、後でなにか考えよう」
「もう出発するのですか? もう少し眠った方が……」
 美凪の気遣いに、だがハクオロは首を振った。
「これでも寝すぎた方だ。本来なら、こいつらの様に獲物を狙って動いていた鬼達がもっとも疲労しているとき、
そして、アルルゥの様に獲物を無視して床についていた鬼達が起き出す前に動くべきだった」
「んに? あのでっかい怪獣はどうすんだ、オロオロ?」
「今は、気配を感じないな……確信は持てないがな。
とにかく、旅館の外に出るという賭けをするのなら、もっとも分の良い機は今、この時だろう」

「あの……大丈夫ですか? うわ、これどうやって剥がせばいんだろ?」
「うーん……水に溶けるといいけどなぁ」
 場所を少し移動して、鶴来屋別館、4階。雅史と沙織はトリモチによって床に固定された
まま眠っている芳晴とコリンを前に首をひねっていた。
 ダリエリを見送った後、”なんとなく”まだハクオロ達がここにいると思った二人は、
散歩がてらにホテルを適当に上にむかってぶらついていたのだが、
その途中で、ハクオロの手によって仕留められた二人を発見したのだ。
「この人達、芳晴さんとコリンさんだよね。由美子さんの仲間の」
「だと思うよ。神父の格好しているって言ってたし。
とりあえず、この人達起こそう? 何か話が聞けるかもしれないしね」
324親切の見返りは:03/09/28 12:11 ID:OmYOdTTf
「一階に到着〜♪」
「んに、到着〜♪」
「なんとか、な」
 ハクオロの予想が当たったのか、それとも幸運に恵まれたのか今のところは鬼達に出会わずにここまで来ることができた。
(アルルゥやユズハはまだおきてないのか……?)
 彼女達になんの挨拶もしないでここから立ち去るのも情のないことだと思う。
 騒がしかった昨日の夜、よく眠れたのならよいのだが……
「ハクオロさん……どうしちゃいました?」
「ん……ああ、いやなんでもない」
 美凪の問いかけるような視線に、ハクオロは首を振った。
もちろん、彼女達に会うわけにはいかない。今は逃げ手と鬼なのだから。
(いかんな、どうも思考がまとまらん)
 美凪はそんなハクオロをずっと見つめていたが、やがて口を開いた。
「……ロビーには人がいないようです……今がチャンス」
「そうだな……ああ、いやちょっと待て」
 ハクオロは手で静止すると、懐から部屋からとってきたボールペンとメモ帳を取り出した。
「やはり奴等があのままでは後味が悪いのでな」
 そう、つぶやきながら己が仕留めた5人鬼の名前と居場所をメモ帳に何枚か記し、
半壊したロビーにばら撒いた。
「これだけやっておけば、誰かが彼らを助けるだろう」
「おお! かしこいぞ〜ハクオロ」
「いや、これはあまりよい手ではないのだがな……止むを得ぬ」
 ハクオロは再度首を振ると、パァンと己の頬を叩いた。
「よし……! では行くぞ。何か腹ごしらえもしたいしな」
 こうして、ハクオロ達はついにホテルから脱出することができたのである。
325親切の見返りは:03/09/28 12:14 ID:OmYOdTTf
 結局のところ、ハクオロの気遣いは無駄であった。
ロビーにばらまかれたメモを見る前に、雅史と沙織が五人とも助けてしまったからである。

「いや、助かったよ。雅史君、沙織さん。
しかし、そっか……結局ダリエリって奴が柳川さんを捕まえちゃったのか……」
 芳晴はうつむいた。
「ちょっと情けないかな……あれだけ大口叩いたのに。装備の代金のこともあるしさ」
 うつむいたまま由美子が寝ている隣部屋の方を横目で見て、申し訳なさそうにつぶやく。
「結局、俺は役立たずだった」

 雅史はそんな芳晴を見て、少し考えた後、口を開いた。
「そうですか? 僕はそんなことないって思いますけど」
 目を上げる芳晴に、雅史が続ける。
「僕もこういう経験があまりあるわけじゃないけど……
なんていうか、好きな人に逃げられているときに、味方してくれる人がいて、
その人が自分のために頑張ってくれたって、それだけで嬉しい事だと思います」

「う、うん、そうだよ! 雅史君いいこと言うね!」
 雅史の背中を沙織がバンバン叩く。
「それにさ、芳晴さん! こう言っちゃ何だけど、由美子さんこれから振られるかもしれないじゃないですか。
そしたら、チャンスですよ! こう、うまく慰めちゃってゲットチャーンス! みたいな」
「い、いや新城さん……ちょっと先走りすぎなんじゃぁ……」
「えーなんでよ〜! 私だったらコロッといっちゃうなぁ」
「だからそれが先走りなんじゃないかなぁ……
う、うん。でもとにかく由美子さんが目を覚ました時、誰かが側にいるって結構違いますよ」
「そうか……うん、そうだな。ありがとう二人とも」
 芳晴は深々と頭を下げた。
326親切の見返りは:03/09/28 12:17 ID:OmYOdTTf
「っていうか、私ってだいぶ不幸だと思うんだけど」
 それを横目で見ながらコリンが口を尖らせてつぶやく。
「い、いやすまん、コリン。迷惑をかけた」
「ま、いいけどさ〜 勝負に負けたのは私もなんだしさ〜」
 投げやりにつぶやくと、コリンは今度は雅史達に目を向けた。
「私としては、あの仮面の男たちにリベンジしたいんだけど、あんた達、それじゃ困るのよね?」
「えっと……はい、本音を言っちゃうとそうですね」

 雅史達の目的はエルルゥの手紙をハクオロに届けてあげる事だ。
その際に相手を鬼にしてしまうようでは、手紙に対する心象だって悪くなるだろうし、
それではエルルゥに申し訳ないと思う。

「もちろん、僕たちに強制する権利なんてないですけど……」
「まあ、いいわよ。助けてもらった恩があるし、
しばらくはここでマッタリしてるわ。ぶっちゃけ眠いしね……あんた達はどうするの?」

 コリンは、ソファの上でぐったりとしている健太郎達に話しかけた。

「いや、俺も眠いっす……好きにしてくれって感じ……」
「あいつらに返り討ちにあったの朝方だしね……それまでも罠にかかったりとか色々あったし、
ちょっとやる気でないかも……」
 目を閉じたまま、健太郎と広瀬がつぶやく。まなみに至っては返事すらしなかった。
「分かりました。それじゃお言葉に甘えて……僕達、ハクオロさん達を追いますね。
芳晴さん、申し訳ないですけど、由美子さんに伝言お願いします。僕達もう旅館から出ちゃいますから」
327親切の見返りは:03/09/28 12:18 ID:OmYOdTTf
 その言葉に、まなみが初めて口を開いた。
「……その人達旅館の中にいるかもしれないわよ?」
「いや……多分ですけど、もうここにはいないと思います。ね、新城さん?」
「あ、やっぱり雅史君もそう思うんだ。やっぱりルミラさんのおまじないってすごいんだね」
「おまじない?」
「はい。昨日のことだけど……」
 昨晩の話をかいつまんで沙織が話す。
「そんな力があるんだ……」
「私達もちょっと半信半疑だったけどね。うん、でもこれなら当てにできそう。
それじゃ、みなさんお休みなさい。ちゃんとベッドで寝た方がいいですよ〜」
 雅史と沙織はペコリと頭を下げると、部屋から出て行った。
 まなみがニヤリと笑ったのには気づかなかった。


「こちらのわき道を通った方がよいだろう」
 ホテルからだいぶ離れた場所で、ハクオロは本道から離れるようなわき道を指差した。
「えー? 歩きにくそうだよ?」
「それはそうだが、やはり人目につくようなところは移動したくないしな。それに……」
 既に点のように見える旅館の方を睨む。
「……追っ手さん?」
「うむ。旅館から追っ手がかかる可能性は高いだろうな」
「んに? なんで?」
「それはだな……」
 わき道に入りながら、ため息混じりにハクオロは説明を始めた。
328親切の見返りは:03/09/28 12:19 ID:OmYOdTTf
「へー、やっぱりエルルゥさんの想い人なだけあるよね。いい人じゃん、ハクオロさん」
 ロビーで見つけて拾ったメモの一枚を眺めながら、沙織が言った。
「ちょっと安心しちゃったかな。5人も鬼をやっつけてるの見て、ひょっとしたら怖い人かも、って思っちゃった」
「うん、そうだね。それに……」

 沙織の手からメモを受け取る。

「どうやら、ハクオロさん達が外に出て行ったのは間違いないみたいだね。こんなメモを残していったんだし」
「あ、そうか。うん、そうだよね」
「それに、ハクオロさん達が出て行ったのはそんなに前じゃないみたいだよ」
「え……どうして?」
「ダリエリさん達が出て行ったとき、このメモがなかったからね。
彼らが出て行ってからせいぜい二時間……ひょっとしたら一時間もたってないかも」

 沙織はポンっと手を叩いた。それからバシバシ雅史の背を叩く。

「雅史君冴えてる! それじゃ追いつけそう!?」
「うん。芳晴さんやエルルゥさんの話だと、ハクオロさんと一緒に小さな子もいるようだし、そんなに早く移動できないんじゃいかな」
「こっちには”おまじない”もあるしね! うっし! 初めてのミッションコンプリートなるかも!」
 沙織はガッツポーズを取ると、雅史の手を引いて走り始めた。
329親切の見返りは:03/09/28 12:20 ID:OmYOdTTf

「ふふん、動き始めたみたいね……」
 そんな雅史達の後をつける影一人。
「この、山田まなみ。あんなことぐらいじゃくじけないわよ」
 ニヤリと邪悪な笑みを浮かべながら、前を行く雅史達に気づかれぬよう一定の距離を開けてまなみも後を追う。
「私は健太郎さんや、広瀬みたいな腰抜けとは違うわよ……チャンスはぜーったい逃さないわ……!」

 ”おまじない”の力で雅史達がハクオロ達に追いついたのならば、手紙を渡そうとするはず。
そしてそのときは、ハクオロ達だって油断するはずだ。
 そう考えてまなみはこっそり旅館を抜け出し、雅史達を尾行していたのだ。

「ククク……雅史君たちには悪いけど……絶対にポイントゲーッツ!! してみせるわよ!」

【四日目 朝】
【ハクオロ達のトリモチ銃、弾倉が空に】
【登場 ハクオロ、遠野美凪、みちる】
【登場鬼 【佐藤雅史】、【新城沙織】、【山田まなみ】、【城戸芳晴】、【コリン】、【小出由美子】
【宮田健太郎】、【広瀬真希】】
330親切の見返りは:03/09/28 16:45 ID:OmYOdTTf
申し訳ないです。
山田まなみ → 皆瀬まなみ です。
331名無しさんだよもん:03/10/01 00:31 ID:vOpN53kH
H
332名無しさんだよもん:03/10/01 08:04 ID:cJMafV3s
O
333名無しさんだよもん:03/10/03 00:56 ID:/tG9S7St
S
334名無しさんだよもん:03/10/03 01:10 ID:F0BNqC5H
335名無しさんだよもん:03/10/03 22:44 ID:5i19XfVU
u
336名無しさんだよもん:03/10/04 00:47 ID:UveWynG/
S
337名無しさんだよもん:03/10/05 07:54 ID:cIJ39l7D
338名無しさんだよもん:03/10/05 15:49 ID:wZdN10+7
339名無しさんだよもん:03/10/06 00:07 ID:Hn1XxSZM
N
340名無しさんだよもん:03/10/06 01:06 ID:WLo4eHSv
E
**************

 最初のお客様がいらっしゃったのは、晩ごはんを食べるのにちょうどいい時間のことでした。
「あ、あの、こちらで食事ができるって書いてあったんですけど……」
「あ、はい! いらっしゃいませ〜 って、あれ?」
 そのときはちょっと驚きました。
 
 いらっしゃったお客様は、昨日の夜教会でであった鬼の方々―――
あさひさん、彩さん、きよみさんの三人だったからです。
 その時はまだあたしは逃げ手で、わずか一日前のことなのに少し感傷にひたっちゃいました。
由宇さん、詠美さんはまだ逃げ手なのかどうか、やっぱり気になります。
それにクーヤ様も。元気でおられるといいんですが。

 あさひさん達もあたしの事は覚えていたようでした。
「あ……昨日由宇さんや詠美さんといっしょにいた……」
「はい! あの時は虫なんてけしかけちゃってごめんなさい。あの後大丈夫でしたか?」
「大丈夫、でした……」
「サクヤ? 知り合いなの?」
「昨日の夜、会ったんです。えーと、あさひさんに彩さんですよね。それから―――」
「きよみと申します。よろしくお願いします」
 あたし達がお互いに自己紹介を終えると、夕奈さんがタオルを持ってきてくれました。
「サクヤちゃん、駄目だよ? お客様を濡れたまま玄関に立たせてちゃ」
「あ、そうでしたね」
 あたしはコホンと咳払いをして、口調を改めました。
先ほど夕奈さんに教えてもらった口上を述べます。
「失礼しました、お客様。三名様ですね。おこし頂きありがとうございます。どうぞ、お入りください」
 最初は遠慮がちだったあさひさん達も皐月さんが作ったカレーライスを口にして、感激していました。
「うわぁ、本当においしいですねぇ」
「うん……おいしいです」
「もう少し煮込んだ方がおいしいんだけどね」
 皐月さんは謙遜気味にそんなことを言っていましたが、やはり褒められて嬉しいようです。
「これは……不思議な味わいですね。少し癖になりそうです」
「そ、そうかな? かなりオーソドックスに作ったつもりなんだけど……」
 きよみさんはちょっとこの料理を食べなれていないようでした。
 
 食事の合間に情報交換です。これまでの出来事をお互いに話合いました。
あさひさん達は教会の一件の後、主に彩さんの希望で、千堂和樹さんという方を探しているそうです。
 残念ながらあたしも皐月さん達もその方には会っていないので役には立てなかったのですが……
「でも、なんでわざわざこのイベント中に探すの? 終わった後でゆっくり会えばいいじゃん」
この皐月さんの疑問に、彩さんは赤くなってうつむいてしまいました。
よく聞き取れませんでしたが、
「……チャンス……ゲットしたいです……雨は私の武器……」
とか、つぶやいていました。水の法術を使えるんでしょうか?
あたしは法術を使えないのでちょっとうらやましいです。

「ところで、いくらお金をお支払いすればよろしいのでしょうか」
 きよみさんの言葉に、あたし達は顔を見合わせました。
お料理のお値段を決めるのを忘れていたんです。
「うわぁ、私たちうっかりしてたねぇ」
 夕菜さんがそういって首を傾げます。
 とりあえず、屋台と同じにしようかと決めかけていたとき、玄関の方からチャイムの音が聞こえてきました。
 新しくいらっしゃったお客様はお二人でした。
「あれ、エディさんじゃない!」
「OH!! サツキちゃん! 奇遇だネェ」
 お二人のうちの一人は皐月さんと知り合いでした。
「夕菜さん、この人宗一のナビゲーターやってる人です」
「え、宗ちゃんの?」
「イエス、お姉さん。あなたのブラザーのせいでオレッチだいぶエキサイトな人生送ってるっス!」
「あらあら、宗ちゃんがご迷惑かけて申し訳ありません」
 
 あたしは盛り上がる三人にやや取り残された感じになっていた、もう一人のお客様、
橘さんにタオルを渡しました。
「いらっしゃいませ、すぐにお席に案内しますね」
「ああ、うん。それはありがたいんだけど……君達は参加者なのかい?」
あたしはうなずくと、お店を出すことになったいきさつを簡単に説明しました。
すると、ちょっと橘さんは顔をしかめました。
「そうか……それは少しまずいかもしれないな」
「そんなことないですよ! 皐月さん本当に料理お上手なんです」
 あたしはちょっとムキになりましたが、これは勘違いでした。
橘さんは首を振ると、困ったような顔して説明し始めました。
「いや、そうじゃなくてね。私有地で、しかもイベント中に管理者の断りを入れずに
営利活動を行なっていいものかちょっと気になってね……」
「あ―――」
 その場にいた全員が言葉を失いました。

 確かにそのことは考えていませんでした。
「……こみっくパーティで非公認のお店開いたら……確かに怒られます……」
「あ、あわわ。どうしよう……わ、私、もう食べちゃいました!」
「困りましたね……」
 慌てるみんな(特にあさひさんは目を回していました)を前に、
橘さんは気まずそうに続けました。 
「いや、まあこのゲームでは食料の譲渡を駆け引きして行う事を認めている―――
むしろ推奨しているふしがあるから、その延長と言えなくもないけど……」
 橘さんの言葉を遮って、皐月さんはあっけんからんといいました。 
「うん、じゃあタダにしよう。もちろん夕菜さんとサクヤが良ければだけど」
「しかし、それでは申し訳ないと思いますが……」
「気にしなくていいわよ、きよみさん。もともと私は暇つぶしと腕試しが目的なんだし」
 エディさんが慌てて首を振りました。
「イヤイヤ、サツキちゃん。そいつはいけネェ。払うもん払わないのは粋じゃないってもんだヨ」 
 それから、ちょっと考えてエディさんはニヤッと笑いました。
「OK、ならミンナ。As you like ってのはドーダイ?」
「As you like、お気に召すまま、か。
うん、それなら互いに送り物を交換しているとも言えなくないし、営利性は薄れそうだね」
「なるほど、私の腕に見合った値段を客の方で付けるってことね。
うん、そっちの方が面白そう」
あたしもエディさんの考えはいい考えだと思いました。

「Yhar〜サツキちゃん! 相変わらずウマイねぇ!」
「うん、たいしたものだね。これだけ美味しい手料理は久しぶりだよ」
「あはは、ありがとう」
「コイツは、お代は弾まなきゃならねェなァ……OK。ソレジャこうしよう!」
 エディさんは再びニヤリと笑いました。
「ソーイチの仕事のマル秘ポカ話がお代ってのはドウダイ?
 ユーナサンもエージェントの話にはキョーミあるだロ?」
「うんうん、宗ちゃんのお話ききたいなぁ」
 うなずく夕奈さんに、エディさんのテンションは上がっていきました。
「今ならおトクの一挙二話コーカイ! ケースケの分だけどネ」
「いや、それはありがたいけど……」
「気にすんない。今朝助けてもらったしナ!」
 バンバンと橘さんの背中を叩くエディさんを尻目に、皐月さんがあたしに小声で話しかけてきました。
「エディさんちゃっかりしてるなぁ……あれで、タダ飯食べようとしてるのよ」
 あたしもささやき返しました。
「でも、お金だけじゃなくてこういう物々交換も楽しそうじゃないですか?」
「私もそう思うけど……サクヤはいいの? 宗一のこと直接は知らないのに」
 えーじぇんとって仕事は面白そうなので、あたしはうなずきました。
もともとタダでもいいと思ってましたし。

「あの……お金でなくても……いいんですか?」
 彩さんが問いかけてきました。
「はい、いいですよ。お金でもそうでなくても。タダでもいいですし……あ、そうだ」
 ちょっと閃くものがありました。
「そういえば彩さん、由宇さんや詠美さんのように漫画を描いているんですよね?
教会で原稿を持っているって言ってましたし。それを読ませてもらうのがお代でいいですか?」
 あたしがそう言うと、彩さんの目が光りました。
 こう、なんていうかキュピーンと。
「……いいんですか……?」
「ええと、はい。ご迷惑じゃなければですけど……」
 フルフルフルフルと凄い勢いで彩さんが頭を降り始めました。
「読んでください……是非……」
 ちょっぴり怖かったのは内緒です。

「私は、あまり手持ちがないのですが……」
 きよみさんがそう言って、財布から引き出してきたお札は見たことのないものでした。
「これは……よく価値が分からないのですが……」
「これって百円札よね? 珍しいものじゃない」
 皐月さんが言いました。
「うん、かなり価値のあるものよ」
 あたしが詳しいですね、っていうと、皐月さんはちょっと複雑な顔をして、
古美術品に触れる機会があったから、と答えました。
「では、私のお代金はこれにしようと思います」
「え、えと、じゃあ、後は私ですよね……えっと、私は皆さんみたいに面白いものは持ってないんですけど……」
 うつむくあさひさんに、エディさんがチッチッチッと口で言いながら、指を振りました。
「馬鹿を言っちゃぁいけねぇなァ? 世界NO1ナビゲーターのオレッチの目はごまかされネェゼ?」
「え、え、えええええ?」
 微妙に怯えるあさひさんの肩に手をかけてエディさんが畳み掛けます。
「オレッチ日本の文化ニャ詳しくてなァ、お嬢ちゃんの正体は先刻ご承知ヨ!!」
「……正体、ですか?」
「Yes! 何を隠そう彼女の名は桜井あさひ! 
その声と歌は全世界の(かなり一部の)男の心を掴んで放さない! 
歌ってOK、踊ってOK、喋ってOK、(かなり特殊な世界の)トップアイドルヨ!!」
 あさひさん、なんだかすごい人みたいです。ちょっと良く分かりませんでしたが。
「そーいうワケで、お嬢ちゃんのお代はお歌にケッテイ!! OKネ、みんな!?」
「……単にエディさんが聞きたいだけじゃん」
 ジト目で皐月さんがボソリとつぶやきましたが、エディさんの耳には届かなかったようです。
「え、えとえと、でも、ここには衣装もマイクもないですし……」
「そんなこたぁ気にちゃいけネェ! 要は心意気ってもんよ!
ドーダイ? ユーナさんもサクヤちゃんも聞きたいよナ?」
「うん、あさひちゃんのお歌、聞いてみたいね」
「はい! 良かったら聞きたいです!」
 良く分からなかったのですが、あたしも夕奈さんもうなずきました。
「ううう……はい、分かりました……」
 あさひさんも渋っていたようですが、歌ってくれるって言いました。
 そういえば、皐月さんがこの時、
「天然って強いわよね……」
 って、つぶやいていましたが、どういう意味だったんでしょう?
これも良く分からなかったです。

 こうして、皆さんのお代が決まりました。
 エディさんと橘さんは宗一さんという方のマル秘話。
 彩さんはご自分でお描きになった漫画。
 きよみさんは珍しいお札を。
 そして、あさひさんは歌を一曲です。
 それからのお食事会は楽しかったです。

 まずは、エディさんがお話しをしてくれました。
エディさんは本当にお話し上手で、二つといわず、いくつもお話をしてくれました。
えーじぇんとっていう仕事、すごく大変そうです。
 宗一さんは夕奈さんの弟だということで、夕奈さんは宗一さんが大変な目にあう度に、
目をつぶったり、手を握ったりしていました。
 聞いたところによると、宗一さんもこの鬼ごっこに参加されてるそうで、
きっと今頃大活躍してるんじゃないかと思います。

 彩さんは後でえーじぇんとの事を漫画のもとにするというそうで、メモを取りながら真剣に話を聞いてました。
後でそのメモを複写してくれるという事なので、
そのうちそのメモをもとにクーヤ様にもお話してあげたいと思います。

 その後は、あさひさんのコンサートです。
 あさひさんは、最初は緊張して上手く歌えないようでした。
「えーと、下手でも怒らないでくださいね……」
 何度もそう念を押していました。
 ですがしばらくすると、気が乗ってきたのか、上手に歌えるようになりました。

歌う時のあさひさんは、いつもの様子と違ってとても自信に満ち溢れていて、
とてもキレイだって思いました。
 雨の音を伴奏に、おぼろげに見える月を背景に、たった7人の観客の小さなコンサート。
感動をうまく文章にすることは難しい事ですけど(皐月さんのお料理のこともそうですね)
あたしきっと、このことは忘れないと思います。
 コンサートが終わったのは、もうだいぶ夜も遅くなったころでした。
引き止めたのですが、みなさん今日はもうしばらくは移動するそうです。
「そんじゃ、楽しかったゼ、待ったなァ〜」
「お店のほううまくいくといいね。それじゃ失礼するよ」
 エディさんと橘さんはやっぱり逃げ手を捜してみるんだそうです。
「それではお世話になりました」
「ああ、あの、皐月さん、お料理美味しかったです!」
「あの……サクヤさん……いつか、漫画の感想、聞かせてください……」
 あさひさん達もまた、やっぱり和樹さんを探すそうです。
彩さんは持っていた漫画を(こぴー誌っていうそうです)全部渡してくれました。
今書かれている原稿は、もう少し手直しをしたいそうで、
完成したらいつか見せてくれるって約束してくれました。
 こうして、あたしの鬼ごっこ三日目は終わりました。

 最初は大変だったけど、やっぱり楽しい一日だったです。
今から読む彩さんの漫画も楽しみですし。
 あ、楽しみといえば、皐月さん。もうカレーが残り少なくなったという事なので、
まだ使っていない食材をもとに、何か新しいメニューを作るんだそうです。
明日が待ち遠しいです。
 クーヤ様もこの鬼ごっこで楽しい時間を過ごされていればいいなぁって思います。

**************

 風呂上りの上気した肌をタオルで拭きながら、皐月はサクヤに声をかけた。
「サクヤ日記書き終わった?」
「あ、はい。書き終りました」
「それじゃお風呂どうぞ」
「はーい」
 サクヤは日記をしまうと、あくびをした。
「サクヤ眠そうだね?」
「うーん、昨日ダンジョンの中だったから、良く寝られなかったんですよ。
あ、でも彩さんから貸してもらった漫画読まないと」
「ほどほどにね。さて、と。私、明日の下ごしらえだけして寝ちゃおうかな」
「はい、じゃあお疲れ様です、皐月さん。お休みなさい」
「サクヤもお疲れ様。うん、色々あったけど悪くない一日だったかな……お休みなさい」

【三日目夜 町外れのペンション】
【登場鬼 【サクヤ】、【湯浅皐月】、【梶原夕菜】、【桜井あさひ】、【長谷部彩】、
【杜若きよみ(白)】、【エディ】、【橘敬介】】
350名無しさんだよもん:03/10/07 23:26 ID:+IqeVnsN
次は?
351名無しさんだよもん:03/10/08 00:07 ID:vsNGPUUg
まァもう少し待て。
352名無しさんだよもん:03/10/11 14:15 ID:P6dIq4Ro
a
353名無しさんだよもん:03/10/11 17:08 ID:SuDTZvmz
h
354名無しさんだよもん:03/10/11 17:34 ID:sE78olRZ
355名無しさんだよもん:03/10/11 23:29 ID:SuDTZvmz
a
356名無しさんだよもん:03/10/12 13:37 ID:8w+iIGFH
(゚∀゚)
357名無しさんだよもん:03/10/13 02:53 ID:/r1Lp5zS
358名無しさんだよもん:03/10/14 02:35 ID:v5MSSGd0
359CROSSING†CHALLENGERS:03/10/15 01:13 ID:A2qSsD0z
(やってみろよ……俺を出し抜けるもんならな!)
誰よりも速く、どこまでも疾く。
あいつらは他の誰のものでもなく、この俺、NASTYBOYただひとりのエモノ。
前を走る姿を凝視する。
2人の男女。柳也と裏葉という名の夫婦。
力強くお互いを握り締めている手が、実に器用にバランスをとるもんだ。
お互いを支えていない手も、今はぎゅっと強く握られている。
(手を繋ぎながら走ってるわりにやたら速いな……)
相手もさすが、山中での移動を熟知している―――

ザザザザザッ

「って、なんだあ!?」

後方からこれだけの大人数で追い詰めた。
で、ある以上、
彼らの選択肢はそのままの進行方向に全力で逃げる、逃げ続ける――それ以外無いはずだった、のに。

(立ち止まった!?)
「どう言うつもりかしら?」 「ま、とりあえずヤルことは一つ、かな?」
「観念したのか?」 「よーし、ちゃんすだよ! お姉ちゃん」 「負けないよっ」
「……姉さん、気をつけて」  コクコク
(関係ないっ!!)
俺を含め、全員が加速した。

そしてこちらに振り返った2人を見る。
すると、男が女の手を離し、腰につけた刀に手をやった。
360CROSSING†CHALLENGERS:03/10/15 01:15 ID:A2qSsD0z


   チャリッ

鯉口が音を奏でたその刹那、

   ゾクゥッ

ただ、男が腰に手をやっただけなのに。
ただ、それだけで途方の無い殺気が全身に浴びせられる。

   ザッ  ザザッ ズッ    ズザザーッ

「兄さんっ……」 「こいつは……」
「佳乃っ!! 止まれ!」 「えー?」 「なにこれッ!!」
「姉さん、私の後ろにっ!!」 「・・・・・・・・・・ッ」

背後に、皆が気圧されて足を止める気配と、警告しあう声を感じる。
一般人にもひしひし伝わる、ヤな予感、ってか。
――だけど、
一人、俺だけが、止まらない。

(抜くわけが無い……ッ)

あたりまえだ、もしも俺達に何かあったら失格どころか、やばいコトになるのはあちら。
会話を交わした感触から見る以上、キ○○イではなかった。
そいつ等が、たかだか鬼ごっこで、そんなリスクを負うはずがない。
切羽詰まって脅しで切り抜けようとしているだけ。これはハッタリだ。
361CROSSING†CHALLENGERS:03/10/15 01:15 ID:A2qSsD0z

それでも、

本能が叫ぶ。
――――――ニゲロ、と。
理性は語る。
――――――ブラフだと。

(くっそっ!!)
結局、身についた反射神経が仇となった。
意志を上回った何かが身を翻し、右方向へ迂回、距離をとる。

(それだけで、終わるかよ!)
だが、それと同時に右袖に仕込んであるワイヤーの端を二人に向かって投擲。
(もいっちょ、こいつが本命っ!!)
踵を打ち鳴らし、右手を振るう反動に見せかけて、鋭く小さく左膝下を振る。
投擲したものとは絶妙にずれる時間差で、靴に仕込んだワイヤーを低空に滑らす。
狙いはそれぞれ男の右腕と、女の左足首。

――が、

居合一閃。
先に付いた重りを弾くのではなく、
高速で移動しているときは視認するのも難しい糸の部分が、真っ二つ。

(1tの重さにも耐える特性チタン合金製だぞ!?)
端と端を繋げてピンと張ってある状態ならともかく、
片方宙に浮いてるのを一刀両断。
でも、女の足元にも―――って、跳んでやがる!?
狙いを外したワイヤーが近くの木に絡みつく。
362CROSSING†CHALLENGERS:03/10/15 01:17 ID:A2qSsD0z

――両方外された。

「陰陽師服(あんなもん)着てるくせに!」
なんという反射神経。
それとも最初から読まれていたのか?

「っ! 足に目でもついてんのか!?」
「まあ、なんとはなしに、ですが」

わかってしまうのですよと、クスクスと笑いながら、1人ごちた俺に答える女。
気合十分とばかりに、右拳をグッと胸まで持ち上げる。
(やってくれるじゃねーか……)
とりあえずその問答のあいだに、手首と靴に仕込んだ仕掛けを外して捨てる。


――後にして思えば、ここがポイントだった。
その何気ない会話、動作から、場には空白が。
皆の足は止まったまま。
膠着状態が出来上がり、奇妙な『間』が形成してしまった。


このペースは、ヤバイ。
理由はないが、マズイ。
今、動かないと。
足に力を込めて。
と、同時にもう1人左後の――おそらくは来栖川綾香――気配。
彼女も理解ってるってことだろう。
363CROSSING†CHALLENGERS:03/10/15 01:18 ID:A2qSsD0z
だが、悟る。俺達は遅すぎたということを。
俺と軽口を交わしている時点で既に用意されていたのだろう。
走っているとき男とつながれていた女の左手には、一枚の札が。
俺が動き出すのとほぼ同時に、いつ取り出したのかすら分からないそれを、軽く放り投げる。
と、その札は瞬く間に、大きな炎へと姿を変えた。

(森の中でそれわ、シャレになってないんじゃないか!?)
が、俺の心配をよそに、その炎は最初に広がっただけで、すぐさま小さくなっていく。
(?? 攻撃じゃない?)
「って、なんだ!?」

その焔が消えると同時に、その場所から何かが、ぽてっと土に落ちた。
そいつはムクッと起き上がると、

テケテケテケテケテケテケテケテケ―――――――――
走り始めた。

「む? 何だ?」「わー♪ お姉ちゃん、にんぎょーさんだよー!」

人形が走ってる――――あ、こけた。

それに意識を奪われたそのとき、柳也という男が一番端、
つまりは俺と正反対にいる緒方兄妹の方に向かって弾け飛ぶ姿を、
偶然、少しだけ彼らにむけて残していた意識が、俺の目の端に掠め取らせた。

注視すると、ごてーねーなことに、女が札を放って空いたその左手を
しっかりと右手で握り締めてやがる。
364CROSSING†CHALLENGERS:03/10/15 01:19 ID:A2qSsD0z

恐らくは男が鯉口を切ったときすでに、女は準備していたのだろう。
そして女のパフォーマンスをする裏で、男が行動を開始する。
――お互いが注目される中、もう片方が準備をしている。
(典型的な奇術師のテクじゃねーかっ!!)

つまり、本命は『これ』か!!
大人数を連れて来たのは、皆の位置などから、
逃げ道を減らし、彼らの行動を予測しやすくするため。
しかし、それを有効活用するには自分が、1人で、先頭を走らなければならない。
なぜなら、自分と敵の間に、その間に入った瞬間、

連れてきた『仲間』は、相手の『盾』へと変貌してしまうから。

「やらせるかっ!!」

今の時点で一番近いのは自分。
指先を掠めるだけで構わない。
(捕らえるっ!)

心の中で叫んで身をひるがえす。
その刹那。
女と目が会った気がした。

ひらひらと振られる右手。

「しまっ…!!」
この一連の行動、その全てがワナ。
365CROSSING†CHALLENGERS:03/10/15 01:20 ID:A2qSsD0z
発見したときから、その右手がずっと握ったままでいたことにいまさら気が付いたのは、
その手の中にある土くれの粒子がまるで何者かに操られるがごとく、
俺の目の中に飛び込もうとしていたからだった。
いや、操ってるのだ、あの裏葉という女性が。


不十分な視界の中、記憶を頼りに緒方英二さんのがいるであろう場所に駆ける。
しかし、目に当たった不純物は、見事俺の足止めを果たし、
俺の指先が彼らの身体に触れることを認めてくれなかった。

それでもなお、身体をひねり、もう一度追いかける。
そして進行方向の英二さんは、炎や人形に気をとられ、
いきなり目の前に現われた相手に出来たのは驚くことだけ。なすすべもなかった。

「俺の連れ添いに好き勝手言いやがって……」
滑るように左手を突き出す柳也という男。
その手には、鞘に収まった刀一振り。
「結構、頭に来ていたんでなっ!!」

ドスッ

柄が英二さんの鳩尾にねじ込まれる。

「おウッ!」

そのまま刀でコントロールされた英二さんの身体が、横に振られ、近くにいた緒方理奈を巻き込んで倒れた。
「きゃあああぁ…ッ……」 「…ジ・エンドだな、青年」
だから、それはあんただ、緒方英二。ついでにオガリナも。つーか藤井さんはここにいねーぞ。
366CROSSING†CHALLENGERS:03/10/15 01:22 ID:A2qSsD0z

「うあわわわわっっ!」
ビタ――ン
十重二十重の展開についていけず、混乱していたのだろう。
慌てた三井寺も2人につっかかり顔から倒れ伏す。
霧島姉妹は完全に遅れをとった形に――って、

「よーし、君をお人形くん2号に任命するよー!」
人形拾ってやがる……。てゆーか、何で2号? 柏木にあげるのか?


そして、俺と――こいつもあの目潰しの被害にあったのだろう――
目を擦りながら走ってきた来栖川が近くまで来た頃には、見事なバリケードが完成。
見事、相手のシナリオ通りの展開が目の前に広がっていた。
結局、女の子を踏みつけるわけにもいかず、迂回して後を追う。

「まだだっ!!」
「姉さん、その人たちと……お願いっ!!」
完全に遅れをとった。
(けど、まだ背中が見える!)
四肢に更なる力を込める。

(それにしても……)
俺達が見つけたときの反応は、間違いなく本物。
つまり、今の全ての行動は相談とか一切なしのぶっつけ本番。
アイコンタクトをしたようにすら見えなかった。
それでも、
あの、絶妙なタイミング。
あの、秀逸なコンビネーション。
367CROSSING†CHALLENGERS:03/10/15 01:23 ID:A2qSsD0z

体力、運動能力、技術。
神に祝福された才能と霊感。
その上にとある施設のモルモットとして特殊なカリキュラムを重ねたこの身体。
個々のポテンシャルだけを比べれば、恐らくは自分に分があるだろう。
知識や経験という面だって、多分、負けてない。
確かにあの2人は元々、剛と柔、虚と実という、お互いを補う良い組み合わせ。
理想的とすらいえる。
だけど、それが熟練を重ねるだけで、あれだけの存在となりうるのか。
その事実に、身が、震えた。

思い出す。

初めは、
ただ、金が必要だった。
姉さんの負担にならないため。姉さんの可能性……未来のため。
ただ、守りたかった。
俺のために全てを捨てようとしていたあの人を。
ただ、不幸にさせたくなかった。
エージェントの道を選んだのは、そんな些細なこと。
3年間を施設で暮らして、全てぶっ壊して、その後、巨万の富を手にいれて、
それでも、このエージェントという職にこだわった、

その、理由を。

368CROSSING†CHALLENGERS:03/10/15 01:24 ID:A2qSsD0z
何でもできるように造られた俺が、
どんな情報でも、手に入れられる。そう自惚れてた俺が、
挑戦できる世界。
新しい発見ばかりさせられる、未知の世界。
エディ、リサ、長瀬館長、醍醐隊長。そんな素敵に突き抜けたヤツらのいる世界。

――――七海、俺は嘘つきかもしれない。
お前の泣く姿が、心に火をつけたのは本当。
絶対今すぐに謝らせてやるって、そう思った。
でも今は、それ以上に、

ドキドキする―――あの2人の凄さに。
ワクワクする―――あの2人に挑みたくて。

七海、
俺は
誰のためでもなく
俺のために

      あいつらを捕まえたい!!!


前を見る。
あくまで二手には分かれず、一緒に行動、か。
あれだけの2人。共にいることのほうが有利に働くのだろう。
――ただのバカップルの可能性も捨てきれないけど。
「上等っ!!」
369CROSSING†CHALLENGERS:03/10/15 01:25 ID:A2qSsD0z
全力で駆ける俺のすぐ後ろから並びかける気配。
――来栖川 綾香。
口元が笑ってやがる。
必死で走りながら、押さえ切れない感情を隠せない、そんな感じ。
それを見て、今俺がどんな表情をしているのか、とてもよく理解できた。

左後方に向かって握り締めた手を伸ばす。
来栖川の右拳が、俺の左拳に、コツン とあたった。

――臨時の共同戦線、成立。
リサや、皐月と共にいるときに、ほんの少しだけ似た感覚。
似たようなタイプ同士のコンビってのも、なかなかオツなもんだぜ?

『そいつは〜、おいらがヒッシニ裏からテ、回してるから何とかなってンでショ〜』
(うるせえよ)
頭に浮かんだいやらしく笑う黒人に胸の中で毒づく。
そして、もう一度、前を見据えた。

(……やってやる)

勝負。
あんた達、年季の入ったペアが奏でるワルツと、
俺達が踊る即席コンビのブレイクダンス。

経験値は低いけど、潜在能力の高さは恐らくハンパないぜ!!


俺達の進む方向には太陽が完全に姿を現していた。
逆光で逃げてゆく夫婦の姿が霞む。
ふと気付く。
雨は、何時の間にかやんでいた。
370CROSSING×CHALLENGERS:03/10/15 01:26 ID:A2qSsD0z


「楽しそうでございますね、柳也さま」
「……え?」
色々策を弄じてみたものの、結局はまだ完全に脱しきれていないこの状況で、
右手から伝わる温もりがいつもと同様、クスクスと笑みを浮べて語りかけてくる。
「大変よろしいことかと。先程までの柳也さまは少し張り詰めていらっしゃいましたから」

妻の言うとおり、昨夜葉子からあの話を聞いて、
自分は自身に枷をはめ込みすぎていたかもしれない。
最初に神奈に会ったとき、

『あいつが楽しんでいるなら、俺達も、
 童になった心持ちで、遊びと、出会いを精一杯楽しむ』

そう言いあったはず。
ならば、今のこの状況がまさにそれ。
後から追ってくる『友達』は、間違いなく極上の一品だ。
371CROSSING×CHALLENGERS:03/10/15 01:27 ID:A2qSsD0z

『知らない』のは神奈だけではなかった。
柳也が幼い頃から知っていたのは、刀の扱い方。
ただ、それだけ―――生きる、ために。
『遊び』など、彼も知らなかった。
そのことに彼自身が気がついてさえいなかった。


あとからあとから湧いてくる、不思議な感情を抑えきれず、
柳也は、笑った。
走りながら、声を出して、笑った。



【柳也、裏葉 囲みから抜ける(チェイス続行中)東へ】
【宗一、綾香 柳也たちを追う】
【理奈、英二、月代 こける】
【佳乃、聖 裏葉の策にはまり、距離をとられる。(追跡する? しない?)】
【佳乃 裏葉の手作り人形ゲット】
【時間 完全に日の出、雨は止んだ】
【登場 柳也、裏葉、【那須宗一】、【緒方理奈】、 【緒方英二】、
   【来栖川綾香】、【来栖川芹香】、【三井寺月代】、【霧島佳乃】、【霧島聖】】
372雨降る森で:03/10/15 01:33 ID:p1vKJ15u
降りしきる雨が島全体を覆っている。森も川も海も、あらゆる建物が雨に濡れ、植物は恵みの時を謳歌している。
しかし島の一角、半径4メートルあまりであろうか、ぽつねんと、円状に雨をはねのけている一角がある。
円は常に移動している。降りしきる雨もその一角には通らない。奇妙なことに、雨粒以外の物体には、なんの影響も及ぼしていないようである。
円の中心には一組の男女がいる。円は常に彼女らを中心としているようであった。
「ねぇ」
「なんだい?」
「どうしてこう、誰にも会わないのかしらね」
「さぁ?」
少女が問い、少年は答えた。
時は薄暮か。厚い雲に覆われた空は、すでに光の大半を失っている。足下に留意しつつ歩かなければ、木の根やなんやに足を引っかけてしまいかねないほどに、森は暗くなっている。
夜はもう目の前に来ている。
だというのに、昼すぎから休み無く動き続けているのにもかかわらず、二人は、いまだに誰一人とも遭遇していなかった。
少女――観月マナの苛立ちは沸点に達しようとしている。
この三日間、折角この壮大な鬼ごっこに参加しているというのに、
初日はなんのイベントもないまま終わり、
二日目はパーティ分断のあげくに人さらいの魔の手にかかりそうになって、
助けてもらったかわりに鬼になってしまったのはまぁいいとしても、
この一日、逃げ手はおろかまったく誰とも出会わないまま終わろうとしているのだから、
まったく、なんのために参加したのかわからないというものだ。
出番は少ない影は薄い、いつの間にやら時がたち、この三日間に出会った、延べ人数でさえ10人に達しない内に、三日が経とうとしている。
――そりゃ、腹も立つわな。
373雨降る森で:03/10/15 01:37 ID:p1vKJ15u
一方の少年は、たゆることなく笑みをたたえ続けている。放置プレイ同然のこの状態を、意に介する様子もない。
マナの少し右斜め後ろを歩く彼の笑顔は、見事なまでに純粋であった。

もっとも、そのこともまた、苛立ち募るマナのカンに触っていたりもする。
何をそんなにいつもいつもいつもいつもいつまでもずっととことんまでに笑っているのか、何を笑うネタがあるのか。
怒りを募らせている人間には、すぐ側にいる他人の笑みほどしゃくに思えることはない。

――遠く、すすり泣きのような声がする。

神経の高ぶっているマナには、その微かな音でさえ聞き逃すことはない。
「何か声しなかった?」
「したね。あっちの方だと思う」
「鬼かしら、逃げ手かしら」
「さぁ? 近づいてみないと解らないね」
飄々と、というか泰然自若というか。まるで様子の変わらない少年に、すね蹴りを入れてやりたくなるマナである。
が、まぁ、それはおいといて。
「行きましょ」
一言だけ言い、早足で歩み行くマナ。少年は変わらぬペースで悠々と後に続いていく。
濡れて足場のゆるんでいる森の中、誰かの声がする方向へ速歩で向かう。あたりの闇はますます濃さを増し、時間が夜へ入っていることを告げている。
マナが、すっ転ぶこともなく無事に目標を捕捉できたのは、一つの幸運ではあろう。
374雨降る森で:03/10/15 01:37 ID:p1vKJ15u
「……あれ」
圭子は雨に濡れそぼった顔を上に向けた。さっきまで強く降り注いでいた雨が、突然止んだことに気付いたのだ。
まだ雨の音はしている。ザァザァと、雨が激しく木の葉に当たる音は残っているのに、なぜか雨粒は落ちてこない。
状況が把握できず混乱する。混乱したままに彼女の耳は、草を人が踏みしだく音を捉える。
そちらを向くと、そこには男女の一組がいて、どうやらこちらに歩いてきているようだった。
圭子は先ほどまで流していた涙を再びあふれさせて、見も知らぬ二人の方に駆けよっていく。
――つまりは、彼女も一人きりに耐えられなくなっていたのである。おそらく、自分が逃げ手であっても、構うことはなかったであろう。
ぬれねずみの体を揺らして駆け寄ってくる少女に、マナは不機嫌そうに、少年はにこやかに迎えた。

【マナ&少年 圭子と出会う】
【圭子は服から下着からずぶ濡れている】
【少年の半径4メートル以内の円内には雨は降っていない】
【時間 三日目夜の入り】
【登場鬼 観月マナ 少年 田沢圭子】



すんません。ageてまいました。
375Howling to the Sun:03/10/15 03:38 ID:Y4k+ZvZ8
 諸君! 久しいな!
 私だ! Dだ!
 現在我らは戦闘真っ最中だ! すまんが前文は略させてもらうッ!

「てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぃっ!!!!」
「おおおおおおおおおおおっっっっ!!!!」
「HAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
 竿を握るまいかをDが抱きかかえ、さらにその後ろからレミィが二人を引っ張る。
「くっ……なんだこいつは! いくら引いてもビクともしないぞ!」
「もっとちからいれろでぃー! さおごともってかれちゃうぞ!」
「おのれ……ッ!」
 偉そうにしているまいかだが、当然体勢的に何の役にも立っていなかったりする。
「ワタシも……こんなスゴイのは……初めて、かも……ッ!」
「おのれ……この私がたかだか大きめ魚類などに、負けてたまるか……ッ!」

(勝手にヒトを魚扱いするな!)
 一方水中の岩切さんもかなり焦っていた。
 だいぶ善戦しているものの、やはり体を支えるもののない水中と『地に足を』着けていられる陸上とでは込められる『力』に大きな差が出てしまう。
 これが同条件であれば勝負にもならなかっただろうが……
(それにしても……何なんだこの糸は!)
 岩切とてただ漫然と水を掻いていただけではない。諸悪の根元である首筋の糸。何度も小刀を振り回し、断ち切ろうとしていた。
 ……が、ビクともしない。
(普通の釣り糸ならとうの昔に切れていてもいいはず……この糸は一体……!?)

「説明しよう。これはルミラ様手製の特性魔鋼糸だ。
 極限まで細く薄く研ぎ澄まされたその刀身はもはや並の刃など軽く凌駕し、ぶ厚い鎧ごと敵の体を寸断することも容易い。
 さらには使い方次第でトラップとしても使用可能で一軍を一度に葬り去ることもできる。
 熟達の使い手にもなれば指先を僅かに動かすだけで2Km先の小石を狙って両断することも可能という優れものだ。
 今ならルアーを購入するだけでもれなくこれが付いてくる。お買い得だろう」
「…………」
「…………」
376Howling to the Sun:03/10/15 03:39 ID:Y4k+ZvZ8
「……おいエビル、お前、なに何もない空間に向かって力説してんだ……」
「……いや、今誰かに説明を求められた気がしてな」
「……少し休憩するか?」
「……いや、大丈夫だ。たぶん」

(よ、よくわからんが今誰かに説明された気がするっ! 要は並の手段ではこの糸は切れんということかっ……!)
 ガリガリと水底を引っ掻きながら思考を巡らせる岩切。
 巨大な岩でもあれば幸いなのだが、あたりは延々と泥・砂・小石が広がるのみだ。体を固定できるようなものは一つもない。
(ならば……どうする!?)
 ゴポリ、と気泡を吐き出した。
 
「でぃー! みえてきたよ!」
 一家の最前線。竿を握るまいかが湖底に蠢く黒い影を発見した。
「ムゥ……!? これは……予想以上の大きさだ! 人間と同じぐらいはあるではないか!」
 当たり前だ。人間なんだから。
「Harpoon! D! Do you have a harpoon!?」
 目に見える位置まで獲物が迫ってきたことを受け、レミィが叫ぶ。
「スマン! 持ってない!」
「Shit!」

(物騒なことを言うな!)
 湖底の岩切にも陸上の一家の声が聞こえるようになってきた。距離は相当縮まっている。
 ちなみにHarpoonとは銛のことである。
 死ぬ。
(ええい……このままでは!)

 ……その瞬間だった。

「ぱぷら!?」

 まいかと一緒に竿を握っていたDの体が、突如として中空に吹き飛んだ。
377Howling to the Sun:03/10/15 03:40 ID:Y4k+ZvZ8
「……へ?」
「……What?」

 一瞬何が起きたのかわからず、つい先ほどまでDの体があった場所……に割って入った、悪役面の男を呆然と見つめる二人。
「ヘッ、すまねぇな!」
 その男は着地と同時にまいかから竿を奪い、さらに片腕で事も無げにレミィの体を投げ飛ばす。
「Wooooooooow!?」

「き……貴様、何をするか……」
 体重と加速の乗ったいい跳び蹴りでぶっ飛ばされたD。岩場に叩きつけられながらも、頭を押さえつつよろよろと立ち上がる。だが、
「雑魚はひっこんでな!」
 BANG!
「な……がッ!!」
 視線すら合わせてもらえぬまま、とりもち銃によってもう一度撃ち抜かれてしまった。
 
「アーーーーーッハッハッハッハァ! ドジったな岩切! いい様だ、似合ってるぜ! 水戦体が一本釣りされちまうたぁな!」
 御堂は勝利を確信した高笑いとともに、リールをギリギリと撒いていく。その力は、先ほどまでの一家とは比べ物にすらならない。
(ガッ……ぐっ!?)
 当然、その衝撃は水中の岩切へとダイレクトに伝わる。一気に水底から引きはがされ、陸に向かって引きずられていく。
(来たか……御堂!)
 しかし、岩切は抵抗しない……それどころか、逆に糸が導く方向に向かい、自ら泳ぎ始めた。二つの力が合わさり、その速度は凄まじい。
(だがな……相手がキサマなら、かえって上手くいく公算が出てきたわ!)

「ケッケッケ……これで……終わりだァァァァァァァァ!!!!!!」
 最後に一際大きくリールを巻き上げ、竿を上段に向かって振り上げる。
 目の前の湖面に轟音を伴った凄まじいまでの水柱が爆裂し、すかさず御堂は竿を投げ捨てると銃を構えた。
「来いや!」

 ヒュッ!
「!?」
 弾ける水滴の中に影が見えた。見逃さず、御堂は引き金を引く。
「死ね岩切!」
378Howling to the Sun:03/10/15 03:41 ID:Y4k+ZvZ8
 BANG!

「…………なッ!?」
 弾は直撃した。直撃……したのだが……!
「石ィ!?」
 それは狙いの岩切ではなく、拳大のただの石でしかなかった。
 撃ち抜かれた衝撃で彼方へはじき飛ばされる小石。ワンテンポ遅れ、さらに大きな影が御堂の前に飛び出した。
「かかったな! 御堂!」
 巨大な水柱を背に、御堂らが足場にしている大岩の淵へ足の指をかける岩切。
「な!? 岩切……!?」
 すかさず銃を構え直す御堂、だが、
「させん!」
 岩切はそのまま反動を利用して跳躍しつつ、左腕を中空に振り抜いた。
 一見、何の意味もないように見えた行為だが、刹那、御堂がその構えを解き、己の顔を両腕で覆った。
「チィッ! 岩切テメェ……味な……真似を!」
 歯噛みする御堂に向かい、岩切は唇の端を歪めて答える。
「お前の『大好きな』水だ! ありがたく受け取るがいい!」
 
「シィッ!」
 空中で一回転して体勢を整えつつ、御堂の直後に降り立つ岩切。
 そのまま脇目もふらず一目散に森へと向かう。
 森に入り込めれば……何とかなる。岩切はそう考えていた。
 だがこの作戦は、ここからが一番の難関だった。
 御堂の狙撃を避けれるであろう、森へと入り込むには数十メートルの間、遮蔽物の無い岩場・平原を駆け抜けることになる。
 大量の水でも御堂にぶちまけられれば話は別だろうが、あの状況下では手の平のひとすくいがやっとの話である。大したダメージもなく、すぐに体勢を立て直すであろう。
 森へ入るまでの数秒間――――取りも直さず、この僅かな時間は、岩切にとってこの島での四日間を賭したまさしく『賭け』であった。
379Howling to the Sun:03/10/15 03:41 ID:Y4k+ZvZ8
「クッ! どうも魚にしては大きすぎると思ったら、水中タイプの禍日神であったか!」
 一方岩場に叩きつけられたD。なんとか苦労しつつも上着ごと、とりもちのべっとりついた外套をようやく脱ぎ捨てることができた。
 普段からヒラヒラさせてかなりうざったいマントではあったが、この状況では役に立った。
 戒めから抜け出た彼が見たのは、水中から飛び出して逃げようとする禍日神――『逃げ手』の姿。
「ならば逃がさん! 私はお前を捕まえる! 私には、お前を捕まえねばならんワケがあるのだッ!」
 上半身裸のまま、地を蹴り、逃げようとする岩切の背中を追う。
 
「ケッ! 面倒な服着やがって!」
 一方御堂。苦手な水を浴びたとはいえほんのひとすくい。大したダメージにもならず、すかさず銃を構え直す。
 だが今撃つべきは岩切ではない。先に撃つべきは、自分の競争相手……岩切以上に直接な敵、Dだ。
 今岩切を撃ったとて、Dの手助けをすることにしかならない。
 Dを撃ち殺し(※殺しません)、さらに逃げる岩切にブチ当て、あとはゆっくりとタッチしにいく。
 一連の動作など数秒あれば充分だった。そして御堂にはその実力があり、また状況もそれを認めている。
 決して慢心ではなく、御堂は勝利を確信していた。

 ――――だが、たった一つ、彼にも計算違いがあった。
 
 しのまいか。
 御堂から竿を奪われ、彼の足下に転がっていた彼女は全てを見ていた。
 竿を引く御堂。銃を構える御堂。最初に飛び出した小石。発射されるとりもち銃。続いて現れた岩切。水を浴びた御堂。怯んだ御堂。
 10点満点の着地を見せつけた岩切。すかさず駆け出した岩切。御堂の攻撃から復帰したD。岩切を追うD。
 銃を構える御堂。狙っているのは――――D。
380Howling to the Sun:03/10/15 03:42 ID:Y4k+ZvZ8
 まいかにもわかった。今Dが銃弾を受ければ自分たちの『負け』だ。
 もう一度Dがあの弾を受ければ、今度こそ本当に身動きが取れなくなるだろう。
 そうなったら――――もう、勝ち目はない。
 男はさらに苦もなく女に銃弾を打ちつけ、そのまま悠然とポイントを奪うだろう。
 ならばここで自分がすべきことは――男の邪魔をすること――どうやって?――体格も――力も違いすぎる――ただの幼女である自分にできること――
 そんなことは――
 そんなことは――
 
 ――――ある。

 確証はないが、確信していた。
 先ほどの女の行動。
 先ほどの二人のやりとり。
 ヒントはその二つだけだが、それだけで充分だった。

「……はぁ……っ……」
 仰向けに倒れたまま、両手を真上に構え、まいかは精神を集中する。
『言われたこと』を思い出す。
 何も考えず、体の力を抜き、自分の中の水神(クスカミ)を解放する。
 かざした両手に『力』を集中させる。
 ディーに手伝ってもらった時の感覚を思い出す。
 心配ない。もう自分一人でも何度もやったことだ。今回だってきっと上手くいく。
 手の平が熱と光を放ち始め、徐々に『力』が集束していく。
『力』はだんだんと膨れあがっていき、そしてやがて……臨界点を、突破する。
 
「みずの……じゅっほう!」

 力は炸裂の瞬間その身を具現化させ、一塊りの水となってほとばしった。
 目の前の獲物に全神経を集中させ、足下の、ただの一人の幼女などには微塵も注意を払っていなかった御堂。
 その突き出た顎に、水の塊が――――直撃した。
 
 …………ぱしゃっ。
381Howling to the Sun(ラスト):03/10/15 03:57 ID:eGshsH+K

 小さな音が水辺に響く。

「…………………?」

 呆然としたまま、己の顔に手を当てる御堂。
 手の平にはべっとりと、水が、彼がこの世で最も忌み嫌う、その水が、こびりついている。
「……な……な……」
 あまりの出来事にカタカタと手が震え、奥歯がガチガチと鳴る。己の身に起きたことが信じられない。
 そして、絶叫。


「…………なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


【御堂 水の術法の直撃。殉職はしませんよ。ええ】
【岩切 森へ向かって一直線】
【D 岩切を追う。上半身裸】
【まいか 水の術法がクリティカル。御堂の足下】
【レミィ 御堂に投げ飛ばされる】
【エビイビ お仕事中。疲れてる?】
【登場 岩切花枝・【御堂】【ディー】【宮内レミィ】【しのまいか】『イビル』『エビル』】
382HUNTER × HUNTER:03/10/15 12:56 ID:ey1EZfST
 とうとう、自分一人になってしまった。
島の端である海岸から、中心部にある市街地まで飛んできたカミュは、その可愛らしい顔を寂しさに歪めていた。
 羽ばたきを止め、後ろを振り返る。
 しかしその瞳に映る影はなく、中天に浮いた太陽がただ自分を照らすだけ。
 初日から、ずっと一緒にいた友達、この島で、新しくできた友達。

 今は、誰も隣に居ない。

 それがこんなに寂しいなんて、カミュは思ってもいなかった。
いっそ、適当な誰かに鬼にしてもらおうか。そうすれば、最後までみんなと一緒にいられる──。

 でも、それじゃあダメなんだ。
383名無しさんだよもん:03/10/15 12:57 ID:ey1EZfST
 思い出す。

『アルちゃーーーーん!! カミュっちーーーーー!! ユンユンーーーーーー!!
ユズハは捕まってしまいましたーーーーー!!!!
 だから、戻ってこないで全力で逃げてーーーーーーー!!!!』

 ユズハの、力強い声。

『カミュち〜!! ここで捕まったら絶交!! ユンユンのこと考える!!』

 アルルゥの、力強い眼差し。

『逃げなさいッ! カミュ!!』

 ユンナの、力強い心。

 これは鬼ごっこで、普段やってる遊びと何も変わらなくて、でも、自分は彼女たちから色んな物をもらって、今此処にいるから。

 それを無駄にすることなんて、出来ない。

 前を見る。顔を上げて、顎を引く。
「待ってて。ユズっち、アルちゃん、ユンユン」
 自分は勝ち残ってみせるから。そうしたら、みんなで一緒に喜ぼう。
 もう後ろは見ない。追ってこなかったユンナに刹那、感謝してカミュは再び力強く翼を羽ばたかせた。



 ──そして、カミュは翼持たぬ者が地からこちらを見つめていることに、まだ気付いていなかった。
384名無しさんだよもん:03/10/15 12:59 ID:ey1EZfST


「なかなか幻想的、と言えなくもないかな」
 貫くような陽光と、それすら拒絶するような闇色の翼。背景を彩るは、何よりも広い蒼天。
 俺ってなかなか詩人の才能あるんじゃないか、などと梓あたりが聞いたら爆笑しそうなことを考えながら、
柏木耕一はカミュに朝食を取った屋台で買ったカメラを向けていた。
「耕一さん、それくらいにして」
 シャッター音が5回ほど響いたところで瑞穂が声を上げる。
「ああ、それじゃあ……」
 カメラをひょいと瑞穂に投げ渡し、準備運動代わりに2回屈伸。
 そして。
「行きますか!」
 声だけをその場に残し、耕一は青の中にぽつんとあった黒点に向けて飛び上がった。

385HUNTER × HUNTER:03/10/15 13:00 ID:ey1EZfST


 翼が、震えたような気がした。

 背中を貫く怖気よりも早く、何かを捉えたような感覚が翼を走る。
 それが何か、脳が判断を下す前に、カミュは身を翻してその場から逃げる。
 トゥスクルという國を支える一員として戦場に幾度か出たとは言え、歴戦の戦士とはお世辞にも言えないカミュの、
それはまさしく英断だった。あのカルラやトウカ、クロウたちにも劣らぬほどの。
 果たして、数瞬前までカミュがいた場所に一人の男が現れていた。
「へぇ、よく避けたもんだ」
 その声に紛れているのは、紛れもない感嘆の声。しかし、その顔はむしろ喜色にまみれていた。
 重力が再び耕一を捉え、地面へと導く前のほんの一瞬。カミュと耕一の視線が交わる。
 呆気にとられるカミュに対し、耕一は人好きのする笑顔で
「でも、二度目はないよ。次はキミを捕まえ」

  スパコーーン!

 キメの台詞を言い終える前に、そんな気持ちいい擬音を付けたくなるような勢いで、「何か」が耕一のこめかみに突き刺さった。
386HUNTER × HUNTER:03/10/15 13:02 ID:ey1EZfST
「…………え?」

 何か嫌な予感がしたと思ったら、いきなり鬼が現れて、そしたらその人はにっこり笑って何かに飛ばされて…………

 突然の出来事に熱暴走しかけたカミュの思考を冷却したのは、こちらに向かって飛来する三つの「何か」であった。
 訳のわからぬままとりあえず旋回して避ける。目標を失った「それ」は山なりの軌跡を描き、民家の壁へと突き刺さった。
「あれって……!」
 一瞬だけ見えた、朱色の矢羽。
 それを見て、カミュは自分を狙うもう一方の狩人の正体を知った。

 こめかみに突然衝撃を受けた耕一は、多少バランスを崩しつつも何とか着地に成功した。まあ着地の際、歌舞伎役者のように
片足で5メートルほど横移動してしまったが。
「だ、大丈夫ですか耕一さん」
「あ、ああ……しかし何だこりゃ」
 駆け寄る瑞穂に答えつつ、耕一は「それ」を外して見る。
「……矢?」
 耕一と瑞穂の声が重なる。耕一に突き刺さった──正確には張り付いたそれは、パーティーなどで使われる吸盤付きの矢であった。
387HUNTER × HUNTER:03/10/15 13:03 ID:ey1EZfST
「外したの?」
 市街地の一角にて。
 奇襲に失敗したことを悟った杜若きよみ(黒)の声に、第二射の矢をつがえながら、ドリィとグラァは答える。
「大丈夫です。次は外しません」
「予備の矢もまだありますし」
 顔に似合わず、というのは失礼だが、自信満々に答える二人の声に頼もしさを覚え、きよみ(黒)は青空に佇む少女を再び睨み付ける。
 日をまたいでようやく訪れた、他者との遭遇。それが獲物ならば、為すべきことはただ一つ。
「待ち望んだわ……絶対、逃がさない!」
 
「どうやらあの娘を狙ってるのは俺たちだけじゃないみたいだな」
「そうみたいですね」
 そう言う耕一の声は一層楽しげで。
 瑞穂は何となく呆れてしまった。
(この人、実は相当子供っぽいんじゃ……)
 そんな、半ば確信へと変わりつつある瑞穂の疑念を裏付けるかのように、耕一は実に嬉しそうに笑っていた。
388HUNTER × HUNTER:03/10/15 13:04 ID:ey1EZfST
 そして。
 彼らに狙われる身となったカミュはと言えば。
「あーん、ついてないなあ!」
 実に悔しそうな声で毒を吐く。
 空を飛べる自分は、このゲームで絶対的有利な位置に立てるはずなのに。
 そんな理屈を吹っ飛ばしかねない輩が、神奈に続いて同時に複数現れたことに対する、愚痴。
 それでも、その顔に悲嘆はない。

 自分はもう、やることを決めたから。
 最後まで逃げきると。
 だから、後はそれをやるだけだ。

 捕まえられるものなら捕まえてみろと、
 口の代わりに伝えるように、
 漆黒の双翼が広がった。



【カミュ 鬼二組に遭遇。矢の射手はグラァ(&ドリィ)と気付いている】
【耕一、瑞穂 カミュを補足】
【杜若きよみ(黒) しばらくぶりの獲物に発奮】
【ドリィ&グラァ カミュ射程圏内。矢の予備はたくさんある】
【場所 市街地の一角】
【時間 四日目昼】
【登場 カミュ、【柏木耕一】、【藍原瑞穂】、【杜若きよみ(黒)】、【ドリィ】、【グラァ】】
389名無しさんだよもん:03/10/15 22:09 ID:6vNQNPM8
 アイツだ。
 冬弥は木上で身を潜めながら一人ごちた。
 思い出すのは、あの只者ではない二人組を追っていった、只者ではない学生。
 その目を見たとき確信した。なぜそう思うのかは解らない。
 しかし、
(間違いない……。あいつが『クソガキ』だ)
 

 師は訓練中実に容赦なくしごいてくれたが、一度面白そうに笑みを浮かべたことがあった。
 あれは訓練の成果が小なりとはいえ出てきた時だっただろうか。
 そう自分の成長の足音が聞こえ、訓練が面白くなり始めた時だった気がする。
 てっきり認めてもたえたのだと思って、とても嬉しかったのを覚えている。
『まだまだクソガキだな』
 その直後そう言われてしまったが……
 しかもそれからの訓練はさらに激しさを増し、冬弥を更なる地獄へと叩き込んだ。
 やたら『クソガキ』を連発されだしたのもこの頃だ。
(でも)
(不思議と反発を覚えなかったよな)
 むしろクソガキという呼ばれ方には、どことなく親しみすら覚えた。
 さらに今では尊敬してるのだからホント世の中は解らない。
 最初は大熊だと思ったのに。
 あれゴリラだっけ?
 ともあれ、訓練終了直前に尊敬すべき師は言った。
『良いか、自分を腐らせるなよ。常に目標を目指せ。自身を磨いてろ』
 冬弥が目標などないと言った趣旨の事を述べた時、醍醐は容赦なく拳骨を落としてきた。
『このクソガキが! なければつくれ! 地位、名誉、金、女、何でもいい!』
 確かこのとき、涙目になりながら『師匠はどうなんです?』とすぐに聞いたはずだ。
 すると師匠はニヤリと唇を半分歪め自信満々に言ったのだ。
『まあ、候補はな』
 その時、そういう風に何かを語れる男になりたいと思った。
390ADの戦い方(嘘):03/10/15 22:12 ID:6vNQNPM8
 そして今、七海を由綺に任せ自分はここにいる。
 クソガキ……候補……那須宗一、完全に一本の線に繋がった。
 そして醍醐がそこまで言うからには間違いなく実力者なのだろう。
 醍醐自身に匹敵するほどの。
 追っ手の人数や宗一の実力を考えてみれば、いくら只者ではないとはいえあの二人の逃げ手が逃げおおせる可能性はそれ程高くない。
 しかし、自分があの戦いに参加して捕まえることが出来る可能性はさらにとんでもなく低い。
(俺には俺のやり方がある)
 あの後、乱戦を横目に、真っ直ぐここに来た。
 最もここが可能性が高いだろうと予想したが故だ。
 かつて単独行動をとっていたとき、地形をしっかり把握していたのが役に立ったわけだ。
 罠は地形からである。
 いや、まだ役には立っていないが。
(逃げ切れていたとして、ここに来るのは40%……いや多分もっと低いな)
 気配の殺し方などという漫画っぽい技も教えるには教えてもらったが、正直上手かったとは言いがたい。
 おそらく醍醐のような熟練者がちょっと気をつければすぐに看破できる程度のものだろう。
 時間もあまりないため、こった罠を仕掛ける暇もない。
(結局これだけか)
 木に引っ掛け、張った紐をいじくりながら苦笑。
 しかし、相手が追っ手を振り切れてないなら十分に勝ち目はある。
 罠は相手の心の隙をつく。
(ただ、今回のような強敵相手だとそれでもつらいかもな)
 頭より先に体が動いてるような反射神経の塊なのだ。
 少し会っただけだがそれは解る。
(ならばその、反射神経を突く)
 反射神経で劣っていようと、武術で劣っていようとやりようはある。
(反応、その瞬間を見切る!)
391ADの戦い方(嘘):03/10/15 22:15 ID:6vNQNPM8
 これは宗一との勝負、あの二人との勝負、そして醍醐との勝負である。
 これに勝てば、一つ自分は強くなれる気がする。
 冬弥は未だ気付いていなかった。
 今の行動が紛れもなく目標に向かった挑戦であることを。

「賭けに勝ったな……」
 小さくつぶやく。
 その視線の先からかけてくる男女。
 鬼になってもいなくば、追っ手を振り切ってもいないらしい。
 理想的である。
 しかし真の勝負はむしろこれから。
 どんな状況でも決して油断できる相手ではない。
 逃げ手も、鬼も。

(絶対に……勝つ!)

【冬弥 地形を利用して近道、罠はちょっとしたのが一個だけ】
【柳也 裏葉 宗一たちから逃げてる】
【宗一 綾香 柳也たちを追ってる】
【時間 朝、雨は止んでる】
【登場 冬弥、柳也、裏葉、【那須宗一】、【来栖川綾香】】
392ハイキングと罰ゲーム:03/10/16 01:53 ID:Eq+8xqUV
雨だれの音。小鳥の鳴き声。窓から入ってくる陽光。
窓から良い角度で差し込んでくる光が、三人が一夜を明かした小屋の中を照らし出す。
まず目を覚ましたのは彩である。眠っていた位置が、顔の上に直接日の光が当たる場所だったからだ。
彩は小さく声を上げて、むくりと身を起こす。ぼやっとした表情で、まず一言。
「……おはようございます……」
誰にともなく言う。少しずつ覚醒していく頭。外から差し込む日の光。
「……雨、やんでしまいましたね……」
ことのほか残念そうである。

しばらく後。

「どこかに屋台は……」
「そうですね……」
小屋のトイレで用を足し、身支度をすませて(といっても睡眠中に乱れた服を整えたくらいのものだが)三人は朝食を手に入れに、小屋を出た。
森の中、日の光は明るく木々の間を照らし出している。が、一晩中降り続いていたらしい雨のおかげで、土はぬかるみすべりやすくなっている。
いきおい、すべらないように気をつけて歩かねばならず、移動速度は遅い。
まぁ、のんびりと景色を眺めつつ移動するというのも、彼女ららしいと言えるか。
393ハイキングと罰ゲーム:03/10/16 01:54 ID:Eq+8xqUV
「あーっ!!!!」
岡田がへこんでいる。
「こ、こんな、こんなときに"3"なんで……」
「おめでとう(・∀・)ニヤニヤ」
「藤田っ!」
「まぁまぁ、こんなゲーム一つで、そんなに熱くならない……の……」
続いてルーレットを回した晴香が固まった。ルーレットが導き出した数字は4。それはすなわち、最悪の数字。
「はい、おめでとう(・∀・)ニヤニヤ」
すでに上がっている浩之はにやにやしながら戦況を見つめている。岡田・志保の激烈なビリ争いに、今晴香も加わって、
端から見ているには非常に面白い状態ができあがっているのだ。
「……殴って良いかしら」
「ゲーム一つにそんなに熱くなるなっての」
晴香、言い返せない。
「……くぅ」
「それじゃ、次行くよ〜っと」
吉井がルーレットを回す。出目は5。悪くない。素晴らしい強運である。
「ああ、そういや、外雨やんでるけども」
和樹がルーレットに手を伸ばしながら言った。
「誰か、食べ物買ってきてくれないか? 腹減ってきたし」
「そうだねぇ。そろそろご飯にした方が良いね」
松本も同意する。
「しかし、この建物、なんでこんなもんは置いてあるのに、肝心の食い物が置いてないんだ? まったく」
浩之が愚痴る。まぁ言っても詮無いことである。置いてないものは仕方がない。
和樹がルーレットを回した。
394ハイキングと罰ゲーム:03/10/16 01:57 ID:Eq+8xqUV
「んじゃ、ヒロ行ってきてよ。もう上がってるんだしさ。暇でしょ?」
「そりゃないだろ。こういう場合、ビリになった奴の罰ゲームってのが基本だろ?」
「藤田……自分が絶対ビリにならないからって……」
「あたしはそれで良いわよ。何か罰ゲームがあった方が真剣になれるし」
晴香が同意。くるりと見渡して、まぁ岡田は若干不満そうではあったが、特に文句を言うことはなかった。
「罰ゲームってほど大変なコトじゃないような気もするけどな。さて、出目は……っっと、ちょ、まず」
「あーあ」
「あーあ」
「やっちゃった」
395ハイキングと罰ゲーム:03/10/16 01:59 ID:Eq+8xqUV
志保と和樹のワースト2が、森の中を屋台を探し歩いている。
罰ゲームが決まったとたんに壊滅的な出目の連続で一気に滑り落ちた和樹。
それはまさに、劇的としか言いようのない展開であった。
「まさか2位からビリまで落ちてくるなんて思わなかったわ」
どう答えたらいいものやら苦笑しつつ、森を行く和樹である。


「屋台、見つかりませんね」
「……そうですね……」
一方こちらの彩一行も、森の中をゆっくりと進んでいる。
鳥の声、時折走る小動物。虫。
お腹が減っていることを除けば、楽しいハイキングのような光景だ。


森の木々が二つのグループを遮っている。
距離はほんの100メートルあまり。
お互い気付かぬまま、別れてしまうのか。
それとも、何かの拍子に鉢合わせるのか……
それはまだ、分からない。

【彩・白きよみ・あさひ 屋台探してうろうろ】
【和樹・志保 屋台探してうろうろ】
【別荘組はゲームをしつつ待機】

【4日目午前10時ごろ 森の一角】
【登場鬼 千堂和樹 長岡志保 
     藤田浩之 岡田メグミ 吉井ユカリ 松本リカ 長岡志保
     長谷部彩 桜井あさひ 杜若きよみ(白)】
396名無しさんだよもん:03/10/20 06:59 ID:AE9TTMLg
保守しまっす。
397名無しさんだよもん:03/10/22 18:23 ID:tAnGotWu
ほしゅ
398名無しさんだよもん:03/10/25 01:06 ID:hWv+gy+D
保守
399相沢くんと水瀬さん達と:03/10/26 11:37 ID:oTQ6sgD2
水瀬名雪と雛山理緒、そしてぴろは森の前にやってきた。足下に線路が走っている。
「うー、これなんだろ、理緒ちゃん? グスッ」
線路を指差し、鼻水と涙で既にえらい顔になっている名雪が理緒に訊ねる。
「線路……電車……じゃないですよね……」
既に慣れてしまった理緒は、特に何事もなかったように返す。
「うにゅー……電車が走ってたら気がつくよね……何だろう?」
「他に線路を使う物は……うーん……」
「うーん……クシュ! ……駄目だよ、思いつかない」
「まあいいでしょう。早く逃げ手を捜しましょう」
「ハクシュン! そうだねー」
ちなみに、現在この線路の下のほうでもの凄い修羅場が展開されているが、それは今は関係ないことである。
「この森、入ります?」
「うーん……入ってみようか。クシュン!」
こうして、二人と一匹は森の中に入っていった。
400相沢くんと水瀬さん達と:03/10/26 11:39 ID:oTQ6sgD2
いよう! 水瀬ぴろだぜ! こういう挨拶は久しぶりだねぇ!
俺は今名雪の頭の上で活躍の機会を虎視眈々と狙ってるのさ!
なんせこの葉鍵鬼ごっこ、初登場は遅いし出て来たかと思えばしばらく名雪のおもちゃだしと散々な俺だったが、
このままくすぶってるような俺じゃないぜ。
まあ見てなって、今に大活躍してやるよ。楽しみにしてくれよな!
……っと、お二人さんは森に入るのかい?
まぁこのままじゃにっちもさっちもいかねえし、何かしらアクションを起こすのは必要かもな。
……って何なのかね、この森は。
ぼこぼこ穴は開いてるし、そこら中に縄とかいろんな物が散乱してる。
とてもじゃねえが俺はこんな森に居たくはないね。
「うわー、罠がいっぱいだよー、グシュッ」
「凄いですね……でも、全部発動した後みたいですね……」
罠、か……陰険な事する奴居るんだな……この量は尋常じゃねえぞ……
……ん? あそこに誰か居るぞ?
っておい……穴ぼこだらけに木まで倒れてるぞ……何があったんだ……
……あれ? この臭いはひょっとして祐一かね?
姿は見えねえが……ってまさかあの穴の中とか?
……プ、情けねえ奴だな。流石だよな水瀬家ヒエラルキー最下位の男。
どーんな情けない格好してるやら。
ちょっくら覗きに行ってやろうかね。
「あ、ふぃろー、何所行くのー?」
401相沢くんと水瀬さん達と:03/10/26 11:40 ID:oTQ6sgD2
超先生人形はなおも舞の心境を代弁し続ける。
「……ねぇ舞。いい加減その人形壊しちゃ駄目?」
それを受けて郁末。その手にはなんとなく青筋が浮かんでいるような気がする。
妙にこの人形は神経を逆なでするらしい。
「……駄目」
「ていうかそろそろ助けちゃくれんかねー?」
「ど う す れ ば い い ん だ」
「いや、それもういいから」
「とりあえず郁末さんのロープを切ったらどうですか?」
由依の言葉に舞が頷く。
「やってみる」
「あ、大丈夫。自分でやるから」
舞が剣を抜き出す前に、郁末はロープを不可視の力で断ち切った。
かなり深い穴だったが、そこは郁末。ひらりと華麗に着地した。そしてそのままジャンプして地面に飛び上がる。
「最初からそれやってれば良かったんじゃないか?」
穴から祐一が言う。それを受けて郁末は、軽く笑った。
「まあ、ちょっと疲れてたし」
「宙吊りの姿勢で休憩か?」
「まあ、そんなところ」
恐るべし、天沢郁末。祐一は内心そう思った。
402相沢くんと水瀬さん達と:03/10/26 11:41 ID:oTQ6sgD2
「さて、次は俺たちだな。舞、郁末。そのロープ使って助けてくれよ」
「そうね、ちょっと待ってて」
郁末と舞は木からロープを解き、穴の中に垂らした。
「よし、と……それじゃ由依。先に上がれ」
「いえ、いいです。祐一さんが先に上がってください」
「遠慮するなって……あ、そう言うことか……」
由依がスカートを見ていることに祐一は気がついた。
「それじゃ、お先に……」
祐一はロープに手をかけた。穴のわずかな足がかりを使って昇る。
そして地上が見えたその時、猫の声が聞こえた。そちらを見る。すると、
「あ、ぴろ」
言った瞬間だった。祐一の脳天に凄まじい一撃が走った。
祐一はその一撃で力を無くした。
マンガなら大体3コマぐらい使う感じで。
ゆっくりと、底に落ちた。

「わー、ふぃろー、待ってー」
突然自分の頭から飛び降りたぴろを追って、名雪は駆けた。
名雪はぴろしか目に入っていなかった。
その先に居るのが祐一の知り合いの川澄舞であるとか、丁度穴の中から一人の女性が飛び出てきた事とか、そんなことは一切目に入っていなかった。
ただ、目の前を駆けるぴろだけが名雪の視界に入っていた。
ぴろは舞と郁末がロープを垂らす落とし穴の周りを走って向こう側で止まった。
名雪は駆けた。全力で駆けた。その足のばねを生かして。踏みしめる足にしっかり力を込めて。
力を、込めて。
正に今外に出ようとした祐一の天倒を。
思いっきり、踏みしめた。
403相沢くんと水瀬さん達と:03/10/26 11:42 ID:oTQ6sgD2
「うわぁ!」
名雪は踏んだ足を何かに捕らわれ、派手に転んだ。
「誰……」
「名雪さん……」
突然現れた名雪に多少動揺する舞と郁末。
「いたたたたた……あれ、川澄さん……」
「舞、あなたの知り合い?」
「……祐一のいとこ……」
「あ、ふぃろー」
ぴろを再び抱き上げる名雪。穴の中を覗き込む。
「……あ!!」
中に居る者に気がついた名雪。
「大変! 女の子が落ちてるよ! グスッ……」
「え? あ、はい……」
穴の中の由依が自分のことを指されていると気がつく。
「早く抜け出して! ハクシュン!」
名雪の勢いに押されて、由依はロープに手をかけて昇る。
上まで来ると、名雪が上まで引っ張りあげてくれた。
「良かった……怪我は無いんだね……クシュ」
「あ、はい……」
「名雪さーん! いきなり走るからびっくりしましたよ……」
その時理緒が追いついた。
舞と郁末、由依を代わる代わる見て、首をかしげる。
「あれ? そちらは……」
「私の学校の先輩だよ。グスッ……」
「あの、それより……」
由依が穴の底を見やって、遠慮がちに言う。
404相沢くんと水瀬さん達と:03/10/26 11:43 ID:oTQ6sgD2
「そういえば、川澄さんたちはどうしてこんなところに? クシュン!」
が、名雪が遮るように舞に訊ねた。
「……逃げ手を追っかけてたら、こうなった……」
「悔しいわ……次は負けないんだから……」
「え? 逃げ手と遭遇したんですか?」
理緒が驚いたように叫んだ。
矢継ぎ早に質問をする。
「どんな人だったんですか?」
「凄くすばしっこかったわ。あの分じゃあの子も人間じゃないわね……」
「……凄く勘が良かった……」
「……人間じゃない……ですか?」
「捕まえようと思っても、常人じゃちょっと無理ね……」
こくこく、と舞が頷く。
「ううう……もうそんな人しか残ってないんでしょうか……私の貧乏脱出プロジェクトが……」
理緒が肩を落とす。
「断言は出来ないけどね。ま、諦めなければなんとかなるでしょ」
「ううー……」
「駄目だよ、理緒ちゃん、悲観的になっちゃ。クシュン! 早く逃げ手を捜しに行こうよ、ね?」
名雪が理緒の眼を覗き込んで優しく言う。
「そうですね……」
「ま、頑張りなさい。私達もそろそろ次の逃げ手を捜さないとね。出来る事ならあの子にリベンジよ」
郁末が舞を見る。舞は頷いた。
「じゃあ、私達いきますね。クシュン! 捕まえられるといいですね」
「ええ、お互いに、ね」
405相沢くんと水瀬さん達と:03/10/26 11:43 ID:oTQ6sgD2
そして名雪はぴろを再び頭に乗せた。そして穴の中を覗き込み、ニッコリと笑い、
「祐一も頑張ってね」
「てめェやっぱり気付いてるんじゃねーか―――――ッ!!!!」
祐一はもの凄い形相で穴の底から思い切り叫んだ。

【祐一 名雪に思いっきり頭を踏まれる 穴の底】
【郁末 由依 罠脱出】
【郁末 舞 再び逃げ手捜索の決意を固める できるなら楓にリベンジ】
【名雪 理緒 逃げ手捜索を再開】
【名雪 相変わらず猫アレルギー】
【四日目11時ごろ】
【登場鬼:【相沢祐一】【天沢郁末】【川澄舞】【名倉由依】【水瀬名雪】【雛山理緒】】
【登場動物:『ぴろ』】
406相沢くんと水瀬さん達と:03/10/26 14:53 ID:gBMgiVFj
>>401
最初に
「ど う す れ ば い い ん だ」
の台詞が抜けてました。訂正します。
407名無しさんだよもん:03/10/27 22:37 ID:9rakjxte
保守
408まじっくあいてむ:03/10/28 03:59 ID:K1hkhgCV
「食事だな」
  「ご飯、かな」
「めし」
    「では、私も食事を……」
4つの声が重なる。……重なると言うにはおこがましい位バラバラなタイミングだったが。

「ふむ、満場一致か。……マーヴェラス! それでこそマイ同士たちだ!」
ふはははは! と、高笑いする男――九品仏大志を中心に男女4名。
ちなみに先刻瑞希が捕らえ新しく鬼となった友里は、約束があるから、と一人で移動。
あっという間に森の茂みへと姿を消した。
で、残った4人はこれからどうしようか、と言う段になって全員初めて気が付いた。


――ここはどこ?



409まじっくあいてむ:03/10/28 04:00 ID:K1hkhgCV

一晩中逃げ手を追いかけまわし、体力は皆限界に近い。
必要とされるのは、
「ふむ、なかなかやまんな、しっかりとしたところを探さねばなるまい」
暖のとれる屋根のある場所、
「はらへった……」
そして食事。
「うう……お風呂入りたい……」
――出来うるならば体の洗浄と着替えも。
ホテルに戻れば全て揃う気もするが――

 ぱたたっ ……すたっ

「どのお屋敷もここからはかなり遠いようです。
 あの『ほてる』がどれなのか、皆目見当つきません」
と、空から降りてきたウルト。――もう少し高く飛べればと、悔しそうに呟く。
徹夜で長時間飛び続けたこと。
ずいぶん弱くなったとはいえ、まだ雨が降り注いでいること。
そして、一応泥を払ったとは言え、羽についた異物をしっかり洗い流したわけでは無いこと。
これらの要因が彼女の背中にある自由を奪っていた。

結局、ここから戻るとなると何時間かかるか判ったものではないということで、
どちらを最優先事項にするかを取りあえず挙げた結果、先程の満場一致。

本来なら一歩も動きたくない、寝たいと言った意見が多く出そうなものだが、
彼らは今さっき一晩中追っていた獲物を捕まえたばかり。
その疲れさえもがアドレナリンを過剰に分泌している状態を促進し、
いわゆるハイな状態を演出していた。
410まじっくあいてむ:03/10/28 04:01 ID:K1hkhgCV
「ふははははははは! それでは皆の集、レッツプレイツー!!」
何も考えてなさそーなのが先陣を切ってズカズカ突き進む。
こいつのテンションにかぎれば、まあ、いつも通りかもしれない。

「で、大志。あんた当てでもあるの?」
「愚問だな、マイシスター。神が囁くのだよ我輩に正しきルートを」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「……まあ、いいけどな。特に目的の場所があるわけでもない」
あきれた往人が呟いたその刹那だった。

  ピカッ!!

目の前の少し開けた場所が光り輝く。そして、


 ぱらぴ〜らぽ、ぱらぴらぽら〜♪
「呼ばれて、飛び出て、 ……以下しょーりゃく」
大志たち5人の前に現われたのは、一台の屋台とメガネの女性。
「キムチラーメンから捕獲・逃走用の兵器まで、何でも取り揃えてあるわよ。
 ただしお金があれば、だけど。……で、お客さん、何がご入用かしら?」
屋台零号機と共にショップ屋ねーちゃん登場。

411まじっくあいてむ:03/10/28 04:01 ID:K1hkhgCV

 ズルズルズル ズゾゾッ
「ウルトもラーメンでよかったのか?」
ちなみに往人が食べているのはラーメンライスではなく、チャーハンとのセット。ちょっと贅沢。
 ちゅるちゅるちゅる はむはむ
「はい。こういった形状の物は食べたことがなかったので。
 先日、国崎さんが食べているのを見たときから試してみたいと」
同じ物を食べているのにどうしてこうも効果音が違うのか。
「へー、じゃ、パスタも食べたことないんですか?」
三種きのこのパスタ、クリームソース(大盛り)をフォークに絡めたまま
その形状をウルトに見せるように手を掲げる瑞希。
「です。基本的にお芋が主食でしたから、往人さんが食べているような……おコメ……でしたか、
 そのような形状の穀物も、初めて見ました」
質問に箸を止め、たおやかに答えるウルト。
「やっぱ、ハグッ、ライスよか、ガッツ、チャーハンだな、ズゾゾッ、いやいや、ガッ、白米も、モグ」
「ふ〜〜、いやっほうーコシヒカリ最高!! なんてな」
往人は、自らの皿が話題にされていることなど露知らず、自分の世界。
赤みを帯びてきた空に向かって何事かつぶいていた。


あれから、飢えた獣のように食事を注文。
待っている間に女性陣の下着等の買い物を瑞希がまとめて済ませ、やっと一息、というところか。
往人、ウルト、瑞希の3人はようやくありつけた食事を満喫していた。

そして、マスタードタラモサンドを片手に屋台で武器を物色する男が一人。
それを見咎めた瑞希が立ち上がり、近付いていった。
「ちょっと、大志。一人でなにしてんのよ」
「ふむ、捕獲に使えそうな兵器を少し、な……しかし」
眉をひそめる大志。
「何でも揃うが謳い文句のわりに、つまらんな」
412まじっくあいてむ:03/10/28 04:02 ID:K1hkhgCV
その一言に、ショップ屋ねーちゃんのこめかみがピクッと震える。
  ガタンッ  ――無言で立ち上がり、屋台の裏に。
そして少しの間ごそごそしてたかと思うと、一本のステッキを手に帰ってきた。

「こんなのもあるんだけど」

「あ」
「こ、これは!!」
「カードマスターピーチ、変身ステッキよ。こうやって振ると」

 ズギャアアアァァァァァァッンッッ!!!

「派手な効果音が」

「さらに「マイシスター瑞希! お主のためにあるようなものだ。これも何かの導き、買え、さあ、買うのだ!!!」
説明を続けようとした彼女を黙殺し、ステッキを手に瑞希ににじり寄る大志。
「いらないってば。大体、私それ持ってるし」
すげなく突っ返す瑞希。

その態度に漢は激昂した。
413まじっくあいてむ:03/10/28 04:03 ID:K1hkhgCV
「愚かものーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
「ひゃうっ」
「ふん。よいか、マイシスター瑞希。以前貴様がコスプレで使うため、げるまんずで購入したあれは第一期バージョンのもの。
 これは当初全二十六話を想定されていたピーチが予想以上の人気を集め、改変期を乗り越え、
 記念すべき第3期へ突入した先月にDAKARA社から発売された最新グッズ!
 そう第3期! 我々が夢にまで見た新シリーズ!! それもこれも我らが女神、
 あさひちゃんの実力による所が大きいのは言うまでもない!!!!!
 もちろん作監の―――

 (注・長くなりそうなので、場面を変えてお送りします。 中略・始め)
「こすぷれ……?」
「なんだろな……あー、いわゆるごっこ遊びってヤツか……」
「ああ、なるほど……そう言えばアルルゥ様がユズハ様の彫ったお面をかぶって
 遊んでいたことがありました。おとーさんごっことかなんとか」
 (微笑ましい風景ですな……では、 中略・終わり)

 ―――原作ではピーチが成長した証として受け取った―――

 (まだかよ……中略その2・始め)
「国崎さん、ええと、ちゃーしう一枚いります?」
「マジかっ(キュピ―ン!)」
「はい。ちょっと量が多かったですし……その、先ほど助けていただいたお礼といいますか……」
「そ、そうか……じゃあ、なんだ…遠慮なく……」
「はい☆ どうぞどうぞ」
 (もーいいかな……中略その2・終わり)

 ―――つまりは友情!! その証として、このステッキの中央の星型がっ……」
「うん、ラインが鋭角になって、色が変わったんでしょ? 横に付いてる羽根の大きさも違うし」
長々と、脱線しながら語っていた大志の口が止まる。
414まじっくあいてむ:03/10/28 04:22 ID:K1hkhgCV
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「あと、スイッチを切り替えると、効果音がヘモヘモの突っ込みボイスになるのよね」
大志の全てが凍りついた。
「?? …………………………………………おや??」
「だーかーら、持ってるって言ったじゃない。ちゃーんと、初期出荷のやつだよ、発売日に買ったんだから……
 って、あ、……べ、別に私が自分で欲しくて買ったんじゃなくて、和樹が資料でいるから買って来てくれーって」
「……ほう。で?」
大志再起動。ずれ落ちていたメガネを人差し指で直すと共に、口元がいやらしく吊りあがる。
「あ、ある程度写真とって、その後クロッキーにスケッチした後、それやるよって」
「なるほど、コスプレモデルの謝礼、と言うことか(ニヤソ」
「な、なななななななな何であんたが資料作るのにコスしたこと知ってんのよ!」
コスした、などと自然に略してしまっている瑞希。……嗚呼、時が見える……

「ふん、やはりそうか。同士和樹の気を引くためとは言え、なかなか涙ぐましい努力だな」
「ああああああああ、あんたはーーーー!!」
一瞬にして瑞希の脳内にあるヤカンが笛を鳴らす。
だが、その時、激昂しかけた瑞希に予想もしてないところから突っ込みが入った。


「さすがはドージンジゴロ。高瀬も手玉、か」
「そう言えば一昨日千紗さんが……『周りに女はべらせて、さぞいい気分なんでしょうね』は、瑞希さんでしたか」
415まじっくあいてむ:03/10/28 04:23 ID:K1hkhgCV

「? ……和樹のこと、知ってるの? あ、千紗ちゃんか」
一瞬にして話題がずれる。
瑞希のハイカロリーバーナー最大火力は、ただの五徳へと姿を変えた。
「いや、一度こんな感じの屋台であってな」
「へー。あいつ、もう鬼? 誰かと一緒?」
「襷は……もってなかったな……つっても一昨日の昼飯の時だしな」
「晴香さんと言う女の子とご一緒でしたよ」
「(ピクッ)……その人、だけ?」
「だな。2人っきりのペアだ」
「(ピクピクッ)……へー。で、その晴香さんって、どんな人? ちゃんと仲良くやってるのかな?」
「こう……ウェーブヘアで、かなりの美人だな」
「この島で会ったばかりで、元々のお知り合いではないそうです。あ、仲は大変よろしかったですよ」
「つーか、尻に敷かれてるって言うだろ。あーゆー状態は」
一つ一つ思い出しながら楽しげに語らう往人とウルト。
逆に瑞希のこめかみにはっきりと青筋が浮かぶ。
一度冷めたヤカンは既に再点火。徐々に温度を上げている。

「ふははははは!!! 英雄、色を好むとは良く言ったもの!! さすがはマイ同士、
 相変わらず見事なシチーボーイっぷりよ!!」
臨界点突破。ヤカンの湯は水蒸気へと姿を変えた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ガッシ
無言で屋台にあった棒を握り、引っこ抜く瑞希。
416まじっくあいてむ:03/10/28 04:24 ID:K1hkhgCV

 ザンッ
その痛そうな棒を地面につき立て、仁王立ち。
それは生まれたとき、野球に使う道具だった。
だが、金属の飾りをつけたとき、それは凶器以外の何者でもなくなった。

それは釘バット。
よーしゃなく釘バット。
誰がなんと言おうと釘バット。

「ふふ、うふふふ、ふふふふふうふふふふふふ……」
「お、お客さんお目が高い。その釘バットは自慢の一品よ」
怪しげな笑い声をこぼす瑞希に周りが唖然とし、言葉を失っている中、
ショップ屋のねーちゃんは商魂たくましく、商品の解説を始めた。
「って、おい、マズイだろ、あれは!?」
我に返り突っ込む往人。
「大丈夫。あのバットはただのバットじゃない。わが商店自慢の特殊なアイテムよ。
 あれを使って攻撃された人は、やたら派手に吹っ飛ばされる代わりに、数秒後にはピンピンしている。
 つまりは全てがギャグにされちゃうってワケ。アレは道具というよりそういう特殊な力場、
 通称コミック力場を発生させる装置。ちなみにさっきのマジカルステッキも普通とは違う一品だったんだけどねえ……」
掌をひらひらと振り、安全性をアピールしながら説明するショップ屋。
「そ、そうなのか!?」
「しかし! あれは精神にも作用するのですか!? 瑞希さんの様子がいくらなんでもおかしいです!」
だが、その言葉に反し、慌てて警戒態勢を取るウルトリィ。
「おかしいって、いや、そんな……ことは…………な……い………?」
一本足で立ち、バットを構えているその姿。あの偉大なホームラン王(優勝おめでとうございます)を知らなければ、
確かに異様といえる行動である。否、わかっていても十分異常な光景といえる。
417まじっくあいてむ:03/10/28 04:25 ID:K1hkhgCV
「……うーん。たまーに武器との相性が良すぎると、こゆこともあるらしいわよ?
 波長が重なっちゃうというか……ほら、なんせマジックアイテムだし」

「笑止!! 世界に名だたるフラメンゴ打法を真似しておきながら、右打席とは嘆かわしい!!」
攻撃対象にされているのに関わらず、さらに煽る馬鹿が一人。
瑞希のバットが獲物を求めるようにゆらゆら揺れ始める。
「まー取りあえず、一発スカッとすれば元に戻るでしょ」
「なるほどな。てことは」
 ゲシィッ
「何をする!? 同士国崎往人!!」
大志の背を蹴倒し、瑞希の側に転がす往人。
そして激しく抗議する大志を黙殺し、歌い始めた。

「……ヘイヘイヘーイ、ピッチャービビってる――♪」
「く、国崎さん?」
「いや、何か、今これを歌うべきだと、幼いときの記憶が囁いてな……」
「まあ……」
なぜか納得、ウルトリィ。

「リー、リー、リー」
負けじと声を掛けるショップ屋ねーちゃん、心からこの状況を楽しんでると推測される。

ようやく立場を理解した男は必死に懇願した。
「落ち着け、マイシスター! 待て、待つんだジョー!!!」
これがとどめ。
瑞希の躰がより深く捻られ、その反動で鋭い初速を得る。そして――
418まじっくあいてむ:03/10/28 04:26 ID:K1hkhgCV


「逝ってこい!! 大!! 霊!!! 界!!!!」

「……待ッ、ま゛ッ!」
鋭い一撃が空を切るッ!

「NO゛うッ!!」
  グワァラゴワガキーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
大志のわき腹を深くえぐるバット。――そして、

「をおおおおおおオオぉぉォぉォぉォォォォォ・・・・・・・・・・・・・・・・………」

キラ――ン☆
文字通り、星となった。

「おおー、T・ウッズ顔負け。場外ホームランねー」
「売りつけた本人がのんきな……」
「まだ売ってないわよー」
「そうだったな……さすが4大メジャー制覇」
テンポのずれたぼけをかます青年が約一名。
残念なことに突っ込める者は誰一人いなかった。
419まじっくあいてむ:03/10/28 04:28 ID:K1hkhgCV


東から降り注ぐ朱色にさらされる女性二人。

「ごめんなさいねー。さすがにこれは売れないわー。主催者に怒られちゃう」
「いえ、いいんです。こちらこそ勝手に使ってしまって……」
「いーのいーの、こっちのミスなんだし。それより、こっち」
「?」
「これはね、衣装無くても一瞬でピーチになれる特別製なのよ、モノホンの変身ステッキってわけ。
 ちなみに変身する時は、ハ○ーフ◇ッシュとおんなじ要領」
「!!?? ……ボソボソ(おいくらですか?)」
「・・・・・・・・・・」
「うう、絶対無理です……その、持ち合わせが……」
「……鬼ごっこが終わったあと、代引きで購入ってのはどうかしら? ペンギン便だから、デビット、分割、リボ払いOK」
「買います(0.5秒)」
「まいど〜♪」
楽しげな会話を交わす二人の足元には、頭を地面にめり込ませている物体が一つ。
彼が息を吹き返すまでには、もうしばらくの時間が要りそうである。


後日、和樹の部屋で彼が大ハッスルする事件が起きたそうな。
同時に△ニー☆ラッシュを知らなかった瑞希がひどく錯乱したらしい。
しかし、これらはまた、別のお話。


【大志 地面に頭をめり込ませ、震えている】
【瑞希 棒商品を手に入れ(予約)、ご満悦】
【時間 4日目日の出】
【登場 『ショップ屋ねーちゃん』】 】
【登場鬼 【九品仏大志】、【高瀬瑞希】、【国崎往人】、【ウルトリィ】】
420M.G.D. :03/10/29 02:37 ID:eL/eAV6d
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 御堂の断末魔をBGMに、しかし岩切とディーの刹那の決戦は続いていた。

「逃さん女! お前は私が捕まえる!」
 目の前を走る岩切に向かい、ディーが叫ぶ。
「やれるものならやってみるがいい! 私とて大人しく捕まるつもりは毛頭ない!」
 真後ろを追ってくるディーに向かい、岩切が答える。

 確かに仙命樹は日光に弱い。水戦試挑躰である岩切ならば尚更だ。
 が、それを差し引いても今回の追激戦、岩切に分があった。
 仙命樹の効果が薄れようとも、岩切は歴戦の勇士。対するディーは現在並みの人間以下。
 身体能力の差は歴然だ。その差は見る間に開いていく。

「フッ! なんやかんやと大きな口を叩いておいて、所詮この程度か!」
 後ろを振り向いて挑発をかます余裕すらある。
「おのれ……おのれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
 悔しそうに歯噛みするディー。
「けっぱれ! でぃー!」
 さらに背後からまいかの声。
「言われなくとも!」
 元気付けられ、さらに膝に力を込める。だが悲しいかな、決定的な彼我戦力差は埋まらない。無情にも彼の目の前で、岩切は森の入り口に佇む大きな木の枝に足をかけた。
「作戦やタイミングは悪くなかった……だが肝心の実力が伴わなければ獲物を捕らえることはできないな。では、さらば……」
 そして茂みの間に消えようとする。
421M.G.D.:03/10/29 02:38 ID:eL/eAV6d
 ……だがしかし。

「Don't miss it!」

「なッ!?」
 空間にレミィの甲高い声が響き渡った。同時に岩切の体が何かに引っ張られたかのように木の上から転げ落ちる。
「こ……これは! しまった!」
 引っ張られる水着の襟を必死に押さえる岩切。そう、まだ彼女の首には針が引っかかったままだった。
 遥か後ろの水辺では竿を拾い上げたレミィが全力でリールを巻いている。
「D! 今だヨ! 捕まえて!」
「よくやった! レミィ!」
 見えた勝機。疲れた体に鞭打ち、ラストスパートをかけるディー。
「……おのれェ!!!」
 だが岩切も大人しく捕まる性格ではない。すぐさま起き上がると、森の奥へと向かい、再度駆け出す。
 一対一で岩切の力にかなうはずもなく、再度引き戻されていくリール。レミィがいくら力を込めようとも、それはあがないきれるものではなかった。
 しかし……
「速度は確実に落ちている! 女! その首もらった!」
 彼我の戦力差は逆転した。どんどん二人の間の距離は縮まっていく。
422M.G.D.:03/10/29 02:40 ID:eL/eAV6d
「……フッ」
 そんな最中、ふと岩切が唇を綻ばせた。
「……何がおかしい」
「正直驚いた。御堂がいたとはいえ……ここまで私が一般人に追い詰められるとは……はっきり言おう。私に残された手はあと一つ、それが正真正銘の切り札だ。……お前はどうだ?」
 ギリギリの戦いに似合わぬほど、落ち着き払った岩切の言葉。それにつられたのか、ディーも素直に答える。
「切り札も何も。私は常に全力だ。一つ一つに全てを賭している。言わば、我が挙動全てが奥の手よ!」
「フフフ……常に全力、全てが奥の手か……愚かだな。そんな素直な奴は……戦場では真っ先に死ぬ」
 首を後ろに曲げ、ディーと目線を合わせる。
「だが、嫌いではない。……お前、名前は?」
「……Dだ。それが今の我が名だ」
「……Dか。私は岩切花枝。では……いくぞ! 最後に勝つのは……私だ! ハァァァァァァァァッ!!!!」

 一際高い鬨の声。気合一閃、岩切は腰の短刀を抜き放つ。

「なに!?」
「私は水戦試挑躰岩切花枝! 勝利のためなら……この程度!」

 シュラッ……!

 切っ先の煌めきが糸状に走り、次の瞬間、

 パッ!

 ……岩切の上半身を覆っていた水着が宙に舞った。
「きゃうっ!」
 突然手ごたえを無くしたレミィが尻餅をつく。が、ディーにしてみりゃそれどころではない。
423M.G.D.:03/10/29 02:41 ID:eL/eAV6d
「お、お、お、お、お……お前……」
「うるさい! ジロジロ見るな!」
 二つのたわわなメロンを腕で抱えつつ、必死で逃げる岩切さん。

 首に引っかかっていた針ごと、自らの水着を切り裂いたのだ。

「お前……正気か!? そこまでして勝ちたいか!?」
「う、うるさい! 何か文句があんのかコラ!? お前だって上半身裸だろう! お前と同じ格好になっただけだろうが!」
「た、確かに……それはそうだが。……いや、だがそれにしても……男と女で同じに考えるわけにもいかんだろう!」
「うるさい! 戦場において男とか女とか関係あるかっ! 私が恥をしのんでここまでやってるんだ! お前も真面目に追いかけないか!」
「異議あり! 岩切花枝、今のお前の発言は矛盾している! 本当にお前が男も女も関係ないと思っているのなら、胸を覆い隠す必要はないはずだ!
 その腕を開け! 二本の腕を振り、一目散に走って逃げてみろ! そんな体勢では走りにくかろう!」
「そ、そんなことは私の勝手だろう! 私の走り方に文句をつける権利がお前にあるのか!? あぁん!? 大体今重要なのは私とお前の戦いだろう! 話をそらすな!」
「異議あり! お前の今の発言は詭弁だ! 詭弁のガイドライン第十八条、『自分で話をずらしておいて、「話をずらすな」と相手を批難する』に該当する! お前の発言は認められない!」
「黙れぃこのムッツリスケベが! ンなこた今どうでもいいことだろーーーーーがぁっ!!!!」
「むっつ……!?」

 ぐさっ。

 突き刺さった。
 抉り取った。
 岩切の発言が、ディーの心の中の、一番ピュアな部分にクリティカルした。
424M.G.D.:03/10/29 02:42 ID:eL/eAV6d
 誰もが思いつつしかし言わなかったその台詞を、無遠慮な強化兵は微塵もオブラードに包まず、叩きつけてしまったのだ。

「だ……だぁれがムッツリスケベだこの淫乱めが! 上半身裸で密林を駆けずり回る女に言われたくはない!」
「その淫乱をジロジロとスケベな目で舐め回すように見ているのはどこのどいつだ!? あぁ!? 私だって裸で女を追い回す鶏ガラチックな男にそんな台詞を言われたくはないな!」
「ああもうああもう! なぜこんな事態になってしまったのだ! つい先ほどまでは近年稀に見るほどにシリアスチックでロマンチックでアクロバチックでヴァイオレンスチックな戦いが繰り広げられていたというのに!
 超久々に私のまともな見せ場が来たと思っていたのに! 敵と熱い刹那の会話なんかしちゃったりしたのに! なんなんだこの空気は! 返せ! 返せ岩切! 先ほどまでの緊張感あふれる張り詰めた空気を返せ! 責任はお前にある!」
「逆ギレとは見苦しいぞD!」
「知った……ことかァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

 お互いをひたすら罵ることにのみ集中していた二人は気づかなかった。いや、気づけなかった。
425M.G.D.:03/10/29 02:45 ID:eL/eAV6d
「でぃー! でぃー!」
「それとそっちのお姉サーーーン!!」
 後ろから聞こえてくる二人の警告の声に。
「あぶないあぶない! あーーーぶーーーなーーーいーーー!」
「その先は……その先は……!」

「なんだ!? よく聞こえんぞ!」


「……崖だよーーーーーー!!!!」


「……あ?」
「ん?」

 岩切とディー、二人は同時に気づく。
 不意に、足元の地面が消えうせたことに。
426M.G.D.:03/10/29 02:46 ID:eL/eAV6d
 森の中、藪を一枚抜けた先に広がるは果てしなき急勾配。下へ下へとまっ逆さま。


「おぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!? ああああ!!」
「なんだとぉぉぉぉぉぉ!!!?」

 レミィとまいかが最後に見たのは二人の後姿が崖下に消え行く光景。
 まぁ崖と言っても多少の斜面はある。上手い具合に転がっていってくれれば、下に岩場でもない限り……

「……ダイジョーブ……だよね?」
「たぶんね。でぃーだし」
「ウン。Dだし」

 確かに。ディーだし。
427M.G.D.:03/10/29 02:48 ID:eL/eAV6d
「あ〜……ヒマだな〜……」
「うむ……暇だな……」

 場面は変わってイビル・エビルの弐号屋台。
 ディーと別れた後、彼女らは山腹をぐるりと一回り。お客を探して練り歩いていたのだが、人っ子一人発見するに至らなかった。

「ホントにこの島……150人以上がウロウロしてんのかぁ? あたいたちが今まで会った人数……から考えるととてもそんな頭数いるとは思えないぜぇ?」
「まぁ……全員が全員山や森にいるとも限らんからな。ましてやこのあたりは見通しも悪い。相当近づかねばお互い発見するのは困難だ」
「やっぱアレじゃねぇか? 住宅街とかホテルの方。あっちうろついてた方がもっと人間いたんじゃねぇのか?」
「しかしあまり一所に留まりすぎても本来の私たちの目的である参加者への食糧配給が困難になってしまう。たまにはこういうところにも回る必要があるだろう。
 実際、ディーたちは見つかったわけだしな」
「つってもなー。家族連れが一組じゃ……たいした儲けには……」

 ……などとダレきっているところに。

「ああああああああああああああああああ!? やっぱり私はこういう目に遭う運命なのか!? Oh神よ! 嗚呼神よ! つか神は私か!」
「うるさい黙れ! しがみつくな! どこを触っている! あ……っ……。ッ! 違う! 受身が取れないだろう!
 というかその翼は何だ!? 伊達か!? 羽生やしてるのなら空の一つや二つ、飛んでみせろ!」
「そのことは言うな! 飛べるのなら最初から飛んでるわ!」
「やる前からあきらめるのか!!」
「やってからあきらめたのだ!!」
「うるさい! この根性なしめが!」
「何か言ったか! この半魚人めが!」
「っ……! 地面が!」
「なんだと!?」
「仕方ないD! お前、クッションになれ! そぉらぁっ!」
「あっ!? えっ!? ちょっ……待っ……!」
428M.G.D.:03/10/29 03:04 ID:eL/eAV6d

 どっごーーーーーーーーーんっ!


「…………」
「…………」

 凄まじき轟音と土ぼこり、ついでに驚いて飛び立つ小鳥を伴い、道路脇の藪の中にうるさい塊が落っこちた。

「……おいイビル。今のは……」
「……放っておく訳にもいかんだろうな」

「イツツツツ……」
 もうもうと立ち込める土ぼこりの中、岩切はゆっくりと顔を上げる。
 とりあえず確認するのは自分の体の状態だ。手足の腱、骨、五感、順々に一つづつ確認していく。
(目よし、耳よし、指よし、手よし、足よし、腱もよし、骨にも異常なし……よし、大丈夫そうだな)
 所々、枝や葉で切ったのか、体に浅い切り傷ができているが岩切にしてみれば無傷に等しい。程なく血も止まり、仙命樹が傷をふさぐだろう。
「……ディーは?」
 自分の確認が終わったところでディーを探す。一応、目の前で死なれては寝覚めが悪い。

「う……うう……」

 と、体の下から苦しげなうめき声が聞こえてきた。

「おお、生きていたか。思ったよりも丈夫だな……って……」
429M.G.D.:03/10/29 03:05 ID:eL/eAV6d
 そこで気づく。自分の下から、すなわちディーの体から、二本の腕が伸びていることに。
 それ自身は問題ない。問題なのは……

 むにぃ。

 ……ディーの手が、わっしと岩切の双乳を握り締めていることだ。
 意識は朦朧としているにも関わらず、その手だけは、力強い。

「うう……大きさは中の上だが……形がよい……張りも上々……」

「……………」

「ななじゅう……ご……てん……。ごうかく……だ……」

「……ひゃっぺん死んで地獄を巡れ!!!!!」


「珍しい光景だな」
「ああ」
 そんな二人を藪の隙間から見守る二人。
「血まみれの女が男を騎乗位で逆レイプ。しかもマウントポジションで左右に激しく殴打。筋金入りのサディスト」
「男の方もボコボコにされながら手だけは胸から離さねぇ。ある意味賞賛に値するほどだな……」

「死ね! 死ね死ね! 死ね死ね死ねェェェェェェェェ!!!!!!」

「……そろそろヤベェんじゃねぇか?」
「……そうだな。さすがに助けるか」
430M.G.D.:03/10/29 03:06 ID:eL/eAV6d


【岩切 鬼に】
【ディー +1】
【岩切・ディー・イビル・エビル 崖下】
【レミィ・まいか・御堂 崖上、湖畔】
431名無しさんだよもん:03/10/30 06:21 ID:tBGM1dU6
432シオリンサーガ:03/10/31 03:08 ID:3d/9EsWm
「見ろよマイブラザー」
 岸壁の高台に立った住井が、自分の隣に佇む北川に囁く。
「素晴らC眺めじゃないか」
 指をさすのは青々と広がる大海原。
「ああ。だがな、こっちも見ろよマイブラザー」
 さらに北川はどこまでも広がる空を仰ぐ。
「抜けるような青空じゃないか」
「おいおいマイブラザー、可憐な少女の前で18禁なセリフを言うモンじゃないぜ」
「ん?」
 突然の場違いな単語に北川は目を丸くする。

「『ヌケる』ような青空だなんて、『北川さんのエッチ!』とか言われちまうぜ?」
「おおっと、こりゃすまない」
 などとくだらない小噺を繰り広げている地雷原ズ。

 ……んで、当の可憐な少女と言うと……

「Fuck it aaaaaaaaaaaall!!! Fuck this wooooooooooooooorld!!!!!!!」

 動詞! be動詞! 進行形!

「Fuck everything that you stand foooooooooooooooooor!!!!!!」

 比較! 現在! 過去完了!

「Don't beloooooooooooooooong!!!! Don't exist!!!!!」

 不定! 間接! 動名詞!

「Don't give a shit! Don't ever judge meeeeeeeeee!!!!!!!!!!!!」

 英単語の集団兵を前に、18禁じゃ済まない単語を吐きまくっていた。
433シオリンサーガ(2):03/10/31 03:09 ID:3d/9EsWm
「日本の教育は間違っています!」

 森の入り口で朝日を浴びつつ、国政について苦言を呈す。

「生きた英語をちっとも教えていません! 受験対策だけ! どこが英語は地球語ですか!?」

 常人なら近寄れる状況ではない。

「だいたい英語英語ってったって! 中国語なら十二億人と仲良くできるんですよ!」

 だんだんヤバイ方向に向かっていく。

「でもやっぱシナはダメですね! 毛沢東(けさわ・ひがし)の食い散らかした砂上の楼閣になんて興味ナッシング!」

 毛沢東(けさわ・ひがし)さん。ただの日本人ですよ。大丈夫。ダイジョーブ。

「そうだそうです! 今からでも遅くありません! 帰ったら英会話教室に行きます! 通っててよかった駅前留学! 英語を話してブッシュと仲良くなって、残りの国と喧嘩しよう!」

「…………」
 ちょっとだけ静寂。

「遅いわバッキャローー!!!!」

 突然ブチ切れたように近くの石を蹴り飛ばす。

「今! 私に必要なのはNowなんです! そりゃ帰ってからならいくらでもEnglishのStudyできますよ! ええ! 私の才覚を持ってすれば半年もありゃMITにだって行けますよ!
 But, However, だがしかし! 今この説明書! おそらく私へのStairway to HeavenになるであろうこのUltimate WeaponのRead me! 今翻訳できなきゃ仕方がないんですよぅぅぅ………」

 そしてヘナヘナと座り込んでしまった。昨晩からの英単語との格闘のせいか、ところどころ英語が混じるようになってしまったのはご愛嬌というものだろう。
434シオリンサーガ(3):03/10/31 03:10 ID:3d/9EsWm
「栞ちゃん、そろそろ終わったかい?」
「そろそろ腹が減ったかもな」
 そんなヤバ気な栞に二人は平然と声をかける。
 ひとえにこんな躁鬱病寸前の少女に二人がついていけてるのも、要は似た者同士である地雷原ズならではという部分が大きいのだろう。
「終わってりゃとっくの昔にこのWeaponを駆って数多の逃げ手どもを駆逐してますって! 役に立たないならせめて邪魔しないでくださいブツブツブツブツ……」
 などとまくし立て、再度自分の中に入り込んでしまう。
 それを見た北川と住井は
(ダメだこりゃ)
 とお互い肩をすくめた。

 お前たちに言われちゃお終いだ。

 …………ポク、ポク、ポク………

「……ん?」

 その時だ。どこからともなく、木魚のような音が聞こえてきた。
「何か言ったかマイブラザー」
「いいや、俺は何もしてないが……」

 ポク、ポク、ポク……

「それじゃあこれは……」
「いったい……?」

 訝しげに顔を向け合う二人。まぁ、彼らの世代では知らないのも無理からぬことであろう。早朝の再放送を見ていれば話は別だが。

 チーン!

 最後の音はいきなり甲高い鐘の音になり、栞の頭から聞こえてきた。
435シオリンサーガ(4):03/10/31 03:10 ID:3d/9EsWm
「閃きました!」
「のわっ!?」
 栞、今度は満面の笑みで突然起き上がる。

「そもそも私が自分で解こうと思ってたのが間違いだったんですよ! 私は大器晩成型。まだ花も開かぬ蕾の私ではこんな難解なロジックなんて解きようがなかったんです!」
 中学生レベルなのだが……
「そ……それじゃ誰か英語できる人でも探すのかい?」
「NON! NON!! NON,NON,NON!!! 人間なんて信じられるモンじゃないですよ。迂闊な人に訊いたら適当なこと吹き込まれて下手すりゃ奪われることにもなりかねません!
 てか、もし私が逆の立場だったら絶対そうしますから!」
 自慢にならん。
「私では不可能! 住井さんや北川さんは役立たず! 他の人に訊くのもデンジャラス! なら、どうするか……?」
「どうするか……?」
 と、不意に栞は北川と住井に流し目を向けると、囁いた。
「確か……お二人は、ホテルから来たと仰ってましたよね……?」
「ああ。その通りさ」
「栞ちゃんと会う直前、ホテル全土に罠を仕掛けてきたんだよ。おそらく今頃は無数の子羊たちが俺たちの芸術作品の最中で苦しんでいることだろうさ」
「設備は……どうでした? 営業体制には入ってましたか?」
「ん〜……どうだったかマイブラザー?」
「冷蔵庫に酒や食い物が入ってたくらいだからな。もう準備はあらかた終わってるんじゃないか?」
「YEAH.......YEAH! YEAH!! YEAH,YEAH,YEAH!!! 急ぎますよ! 希望の芽が出てきました!」
 などと叫ぶやいなや、突然駆け出す。
「な、なんだ!?」
「ちょ、栞ちゃん!?」
「案内してください! ホテルに向かいます! そこに……私の予想が正しければ!」

 その瞳は、爛々と輝いていた。

 栞の野望は終わらない。
436シオリンサーガ(5):03/10/31 03:11 ID:3d/9EsWm
【栞、北川、住井 ホテルへ】
【栞 イイ感じ】
【美坂栞、北川潤、住井護】
【四日目朝、岸壁、晴れ】
437名無しさんだよもん:03/11/01 17:48 ID:4mi9vGFA
438皮肉から出た正論:03/11/03 17:43 ID:87o6n396
なんだかなぁ…。
 祐一はボンヤリと穴から見上げた木々を眺めながら、物思いに耽っていた。
 そのあまりの脱力感漂う木偶な表情に、上から覗く郁未達も、心配はするものの声をかけれないでいた。

 このチームを組んでから…どう言う訳か行く先々で踏んだり蹴ったりな事ばかり起こった。
 今までそう言った障害にぶつかる度に皆で考え、或いは一人で思い悩み、気を取りなおしてきた。しかしこれで何度目だろう。
 俺達のチームワークが足りなかったのか?だから落とし穴にはまったり、あの名雪の糞野郎に踏まれたり?
 冗談じゃない。
 なら相性?俺と舞は夜の学校でそれなりに息は合ってたし、郁未と舞の連携もなかなかだ。由衣も取りたて邪魔になっていない。
 ポイントゲッターである郁未にポイントを集める戦術も悪くは無いはずだ。舞が足止め、俺が囮になり、郁未が仕留めると言う基本的なモノだが、その分確実性がある。
 いや、あるはずなんだ。
 じゃあ一体何が悪いと言うのだ。一体何が悪くて、俺は土まみれ、擦り傷だらけの流血塗れなんだ!?
 運か?
 星の巡りか?
 冗談じゃないさ…。

 「ちょっと祐一…?」
439皮肉から出た正論:03/11/03 17:44 ID:87o6n396
 郁未はさっきから穴の中でぶつぶつと一人、謎の呪文を呟いている祐一に声をかけた。
 が、返ってくる言葉は無く、ただジャンキーのような表情でひ弱な微笑を返すだけだった。
 これは本気でやばいかもしれない。
「ちょ、ちょっとしっかりしなさいよ。なによ、一度や二度落ちたくらいで!」
 それは二浪の決定した奴の下手な励まし方に似通っていた。
「どうって事ないわよ、犬に噛まれたと思って忘れちゃなよ、ねえ?」
 それは可憐乙女を無理矢理辱しめにした後の台詞に似通っていた。
「祐一…頑張れ…」
「また来年がありますよ…」
 音信不通。
「……」
「いい加減にしなさいよ!そんなんじゃ何時までたっても動けないじゃ無いっ!!」

 うるさい女だ。大体こいつが敵を見つける為に飛び出すからいけないんじゃないのか?
 ガキの頃やった鬼ごっこと勘違いしてないか?ただ見つけたら闇雲に突っ込めば好いってもんじゃない。
 この広いフィールドの中でどれだけの戦力を保持してようと、それを存分に生かす状況なんて限られている。
 ましてやさっきのようなこちらを上回る敵ならば、捕まえられる訳がないのだ。
 野原で蝶を捕まえるのに棒を振り回したって、ひらひらと避けられるに決まっている。大事なのは網だ。
 そう、罠だ。敵を見つけてもすぐには手を出さず、論理に基づいた物理的、心理的罠を仕掛けるべきなんだ。
 それを突進ばかりして。
 群れて行動する狼のする事じゃないな。どっちかというと猪だ。
 豚の品種改良前だ。
440皮肉から出た正論:03/11/03 17:45 ID:87o6n396
何だか険しい表情になってきた祐一を見下げながら、舞は心配そうになんとか声をかけようとしていた。
 「祐一、頑張れ……」
 だがその為のボキャブラリーがあまりに少ない舞にとって、それは至難の技である。
 祐一は今、あまりにも深い所にいた。
 そんな言葉知らずな彼女の心を代弁するように、胸に抱いた人形が口を開く。
 「ど う す れ ば い い ん だ 」

 うぜぇ…その人形引っ込めろ。そもそも舞にしたって攻撃が直線的だ。魔物の戦闘と一緒にしてないか?
 それから敵傷つけないように加減して体以外を狙うのもいい加減歯がゆい。
 別に手ぐらい当てても違反じゃないんだ。正面から競り合ってたら後ろに逃げられるのがオチだ。「逃げられた…」逃がすな馬鹿。
 
 「もうほっとく…?」
441皮肉から出た正論:03/11/03 17:46 ID:87o6n396
いい加減疲れた郁未がそう言った。
 さすがにそれは本気ではないが、もうこうして30分以上が経っていた。
 このロスでは楓を追いかけるのはもう敵わない。是が非にも先ほどの屈辱を晴らしたい郁未はだんだん苛立ちの表情を見せ始めていた。
 「そんなの酷いですよ!祐一さーんっ!」

 なんだ郁未の奴、またさっきの奴追いかけたいって顔しやがって。表情見たら分かるぞ。
 馬鹿か。さっき全然敵わなかった奴にどうして今勝てようか。ちょっとは考えろ。
 それから由衣。ホント栞に似てるよな。お前もついてくるだけじゃなくてチームになんか貢献しろ。居る意味が無い。
 別に鬼のシールなんて隠せるんだから、逃げてのふりして油断させるとか。
 そうだ、こいつはなりがこんなんだから、案外怪しまれずにいけるんじゃないのか?
 逃げてを発見したら後をつけて、頃合いを見て由衣を放ち、油断しているところを攻める。内と外の囮。こんくらい考えつくべきだった。

 そうだ、始めからそうしておけばよかったんだ。
 ポイントを一人に集中させるのは効率がいいが、それだけ制限が出来る。それだけスキが出来るのだ。
 そのスキをカバーする戦術…、これを良く考慮するべきだったんだ。
 俺は馬鹿だ。
 こう言った戦術は夜のほうが効率が良い。それには地形や逃げ道などを逃げてよりもよく調べて……
 忘れてた。俺って暗視ゴーグル持ってたんだっけ。
442皮肉から出た正論:03/11/03 17:47 ID:87o6n396

 祐一はゆっくりと立ち上がった。
 呆然とする一同を尻目に、某ホラー映画の如く、ゆっくりと素手で穴から這い上がってくる。
 その顔はえてして不気味に笑っていた。
 「ど う す れ ば い い ん だ 」
 無言で舞の手から超先生を奪うと、穴ほうりこんだ。
 だみ声が穴に反響する。
 「さあ行こうか」
 祐一はやけに爽やかな表情そう言った。

【相沢祐一 自問の後半壊? 罠脱出】
【超先生人形 土に埋もれる】
【四日目 11時半頃】
【登場鬼:【相沢祐一】【天沢郁末】【川澄舞】【名倉由依】】
443希望の星に向かって:03/11/04 03:25 ID:3qeKvUMB
 絶望とは死に至る病だ、とセーレン・キルケゴールは言った。
 絶望とは愚か者の答だ、とイッパイアッテナは言った。

 そう、どんな時でも、人には抵抗する権利があり、またそうする義務がある。
 例えば、今二人の少年と三人の少女が走っている。
ガラガラと死を思わせる音が、その後ろを追っている。
 彼らの顔は一様に恐怖に満ちている。
 だが、彼らは絶望しているのであろうか? 
 答は否である。
 恐怖とは、生を渇望と希望からくるものだからだ。

 人間にはもはや不可能と思われる速度で彼らは走る
約束の地へ。希望の待つ場所へ。
 より具体的には駅にむかって。
444希望の星に向かって:03/11/04 03:27 ID:3qeKvUMB
 四日目、日が高くなった頃。この島に一日のうちでも最も快適な時間が訪れた頃。
折りよく雨も上がり、うららかな日がさし、駅舎を囲む緑がその日に照らされて
鮮やかに映える。
 そんな穏やかな空気をかき乱す蹄の音に最初に気付いたのは、瑠璃子だった。
ふいっと顔を上げて、窓の外を見る。
「あれ? どうかしたんですか、瑠璃子さん?」
「うん。恐竜さんだね」
「…………?」
 不可解な瑠璃子の言葉に誘われて、窓の外を見た葵達四人の目に映ったのは、
何かしら得体のしれない爬虫類にのって駆けてくる三人の逃げ手の姿だった。


 べナウィは軽く舌打ちをした。
 後方から鬼に追撃を受けている状態で、前方の駅舎から鬼が飛び出してきたのだ。
数は5人、いずれも女性である。
 チラリと目を落とすと、自分の方に振り向いている茜と目があった。
(どうしますか?)
 そう、目で問いかけている。
 
 べナウィは再度、前方の鬼達に目を走らせ、観察した。
 みたところ、5人の動きは武芸者のそれではない。
せいぜい先頭にいる短髪の少女にその片鱗がみてとれるといったところか。
 なにか武装をしているのであればそれなりの注意も必要であろうが、5人共に空手である。

(やはり、強行突破、ですね)

 速度を落として回避行動をとるより、ここでは怪しげな銃を持つ後方の鬼達に追い
つかれるのを警戒すべきだった。
 彼女達ではシシェの足は止められまい。
445希望の星に向かって:03/11/04 03:28 ID:3qeKvUMB
 再度茜の方に目を移すと、既にべナウィの判断を察したのか、前に座する澪に覆い
かさぶるようにして、より強くシシェの首にしがみついていた。
(そう考えが出る顔ではないはずなのですが……)
 べナウィは軽く苦笑を浮かべると、
「ハッ!!」
 強く気合の声を上げ、それに呼応してシシェの速度があがった。
 片腕で操馬しながら、前方をにらむ。
(問題ないようですね)
 彼女達がこちらの前をふさぐよりはやく、駆け抜けることが出来るだろう。
 この後はかなり長時間シシェを休ませなくてはならないな―――そんな考えが頭に
浮かんだ矢先だった。

「…………シシェ!!?」

 めったな事では驚愕という感情が表に出る事のないべナウィであったが、今度ばか
りは別であった。
 長年連れ添ってきた愛馬が主人の命に背き、
ソロソロと足の運びを遅くして、そして止まってしまったのだから。
「ど、どうしたというのです!?」
 過去にムックルの襲撃を受けた時にシシェが取り乱し、一時的にこちらの命令を聞かなかった事はある。
だが、今回はそれとは別のようであった。いくら、合図を送っても反応そのものがないのだ。

 そう、それはまるで脳を停止させられているかのごとく―――

「ちょっと動きを止めているだけだから……ごめんね?」
「葵さん、行きます!!」
「どうぞ、琴音さん!!」
 
 場にそぐわないどこか浮世離れした声と、それとは対象的な二人の掛け声に、ベナウィは貴重な時間を無駄にしたことを悟る。
慌てて鬼の方を振り返えると、
 「な…………!?」
 文字通り一直線に飛んでくる一人の少女の姿が見えた。
446希望の星に向かって:03/11/04 03:29 ID:3qeKvUMB
 琴音からのサイコキネシスの力をうけ、葵は馬上の三人の逃げ手に向かって飛ぶ。

―――とれる!!

 まだ、相手は反応しきっていない。これならタッチできるはずだ。

 瑠璃子の電波によってシシェの動きを止め、琴音のサイコキネシスによって葵を飛ばす。
逃げ手を見つけてから、ほんのわずかな間に美汐が考えた作戦だ。
(そう、折角みんなが力を貸してくれたんです! ここで失敗するわけには……!)

 だが―――

「……外した!?」
 タッチ寸前に、ベナウィが茜と澪を抱えて身を傾かせ、落馬したのだ。
 視界の端で、女性二人を片腕で抱えたままクルリと一回転して受身をとるべナウィの姿が映った。
「…………ッ! 琴音さん、もう一度です!!」
 シシェの上を跳び越した葵は、着地と同時に身をよじり獲物方に向き直る。
無理な動きに、だが日ごろの鍛錬による筋肉は答えてくれた。

 再度、琴音の不可視の力を受け、ベナウィの方に強襲。
相手は落馬によって体勢を崩している。今度こそ―――

「ご無礼!!」
「うっくぅ……!!」
「…………!!」

 体勢を崩したまま、ベナウィは抱えていた茜と澪を突き飛ばした。
その反動で自分も別方向に転がる。
 茜と澪、そしてベナウィと二つに分かれた調度真ん中を弾丸と化した葵が通り過ぎていった。
447希望の星に向かって:03/11/04 03:29 ID:3qeKvUMB
(―――すごい! この人……!)
 純粋な尊敬の念が葵を満たした。
 二度の強襲の失敗。
 琴音の力を受け、相手の体勢が整っていない瞬間を狙ったというのにだ。
 武の道において自分の遥か先を行っている人だということが、葵には良く分かった。
(やっぱり―――)
 着地と同時に葵は叫んだ。
「琴音さん! もっと強くお願いします!! 私なら大丈夫です!」
 琴音は、葵が安全に着地できるように手加減をしている。
 そこらへんは、まあどこぞの極悪不可視シスターズとはちがうのだ、やっぱり。

(だけど、それじゃ駄目だ!)
 そう何度も通用する手じゃない。今はまだ最初の不意打ちのアドバンテージが生きているが、
完全に立ち直られたら、もはやこの逃げ手を捕まえることはできないだろう。
(大丈夫、きっとこれより速いスピードでもできるはずだ!!)
 これまでに積み重ねてきた己の修練を信じろ、と葵は自分に言い聞かせた。
 きっとできる。できるはずだ。どんなに強い相手でも、ちゃんと集中して自分のベストを尽くせば―――
「……分かりました、葵さん!」
 葵の考えは琴音にも伝わったようだ。先程よりもより強い力が葵を押した。

 狙うのは、ベナウィの方だ。
 より捕まえやすい茜達よりも先にベナウィに仕掛けるが、葵の葵たる所以か。
「勝負です―――!」
 砂煙をあげ、まだ完全に立ち上がっていないベナウィの方に跳ぶ葵。
  対するベナウィの、冷静で涼やかな漆黒の瞳が葵のほうを向き、その膝に力がこもるのが見て取れて―――

「あああgjkao@gdagah[ahaaaあぁぁぁ!!!!」

 この世のものとは思えない複数の奇声とともに、視界の隅で何かかが高速に駆け抜けていって、
すさまじい轟音とともに、駅舎に激突した。
448希望の星に向かって:03/11/04 03:30 ID:3qeKvUMB
 美汐は困惑し、呆然としていた。
 自分がとっさにたてた作戦は、まあまあの効果を見せて、
ポイントゲッターである葵は後一歩のところまで相手を追い詰め、自分は遠巻きにそれを観戦していたのであるが……
 
 軽く頭を振り、自分がみたことに整理をする。
 まず、山間の線路の方から人が数人走ってきた。
ちょっと人の声帯で発音するのが可能とも思えぬ音を立てながら。
 で、その後ろを何か黒いものが……
「あれ、トロッコだね」
 美汐の隣で瑠璃子がそう、つぶやいた。例のごとくマイペースな口調で。
「えーと、そうですね……」
 目をホームの向こうに向ける。
 ずいぶんと速いスピードでガラガラとどこかのどかな音を立てながら疾走していたトロッコは、
ゆるやかにカーブを描くレールに沿って、ホームの向こうへと走り去り、美汐の視界から消えていった。

 美汐は再度首を振ると、目を駅舎のほうに戻した。
 トロッコはレールに沿って走っていった。が、人間のほうはそうもいかなかったらしい。
 一直線に走ってきた鬼達は、そのまま曲がることも止まる事もできずに、レールから逸れて行って、
駅舎の壁に激突し、そして、そのまま折り重なって倒れていた。
「美汐ちゃんと同じ制服着ている人がいるね」
 瑠璃子の、冷静だけどどこかピントのずれている意見に、
「はい……そうですね……」
 美汐もどこか呆けたまま、そう答える。
 
 そういえば、倒れている鬼の中に確かに一人そんな服装をしている人がいる。
 スカーフの色からみて三年生か。そういえば、どこかで見たような気がする。
なにか生徒会に入るとか入らないとかでもめていて、あんまり興味がなかったのでよくは覚えていないけれど―――
449希望の星に向かって:03/11/04 03:35 ID:3qeKvUMB
「あ、あはは、あはは……」
 と、その女性が呻き声とも笑い声ともつかぬ声を上げた。
「あは、あはっ、あははは、あははははははははは!!」
 次第に声は大きくなり、女性は立ち上がった。
「あはははははははっはははは!! なんなんですか、こんちくしょーーーーっ!!」
 握りこぶしを作り、空を見上げ、そう叫ぶ。
「佐祐理が何をしたって言うんですか、ばっきゃろーーーーっ!!
ええ、そりゃしましたよ、佐祐理だって悪いことちょっとはしてきましたよ!
赤点とった舞のために、教師脅して点数改竄したりとかしましたよ!!
どーしても眠くて朝起きれなくて、家のシェフに作らせたお弁当を
ちゃっかり自分が作った事にして舞に食べさせたりとかしましたよ!!
コロッケの中に激辛唐辛子コロッケを混ぜて、涙目になった舞に萌えてみちゃったりしましたよ!!
でもこの扱いはちょっとあんまりなんじゃないですかーーーーー!?」
 一気にまくし立てる。
「ふぇーん……もういいです、もう知らないです! 鬼ごっこなんてどうでもいいですーーーっ」
 笑い声が泣き声に変わったとき、倒れていた鬼の一人が立ち上がって佐祐理の頬をパーで叩いた。
 パチーンと乾いた音が響く。
「な、七瀬さん……」
 頬を押さえて、佐祐理が七瀬の方を見る。
「駄目よ佐祐理さん! ここであきらめちゃ!」
「で、でも佐祐理、辛くて……いやな目ばっかりにあって……」
「うん、分かるわ。私だっていつもそんな役回りだもの」
 そういって、七瀬と呼ばれた少女が佐祐理をギュッと抱きしめた。
「でもね、佐祐理さん、よく考えて。ここであきらめちゃったらその今までのいやなこと、全部無駄になっちゃうのよ? それでもいいの?」
「七瀬さん……」
「そして、きっと鬼ごっこなんかに参加するんじゃなかったって、きっとそう思っちゃうわ。そうでしょ?」
「でも、でも……」
「大丈夫! きっと何とかなるわよ。今回だって絶対絶命のピンチだったけど、
ちゃんと生き延びることができたじゃない!」

 いつからこの鬼ごっこは生死が賭けられる様なものになったんだろう、と美汐は思った。
450希望の星に向かって:03/11/04 03:36 ID:3qeKvUMB
「七瀬殿のいうとおりだぞ、佐祐理殿」
 今度は眼鏡をかけた少女が立ち上がって抱き合っている、佐祐理達の肩に腕を回した。
「見よ、垣本と矢島の顔を。実に(・∀・)イイ!笑顔で逝っておるわ」
 彼女が指差すその先には、実に幸せそうな顔を浮かべた垣本と矢島が転がっていた。
「こいつら、真っ先に壁にぶつかってクッションになってくれたのよね……」
「こやつらは汚れだ。どうしようもなく救いようもなく汚れだ。だが、そんな汚れなこやつらでもこんな(・∀・)イイ!笑顔で逝くことができるのだ。何か一つの事をやり遂げた漢としてな」

 なんとなくそれは、壁にぶつかった時、彼らの顔が佐祐理の胸にうずまったことと
相関関係があるのではないのかと、美汐は思ったがあえて口にはしなかった

「……佐祐理、間違ってました」
 佐祐理が手の甲で涙をぬぐう。
「佐祐理がんばります! 垣本さんと矢島さんの死を無駄にしないためにも!!
トロッコを動かした糞野郎に倉田財閥の力を思い知らせるという新しい生きがいも出来ましたし!!」
「その意気よ佐祐理さん!」
 七瀬がビシッとあさっての方向を指差した。
三人の少女が抱き合ったまま目を輝かせて指した指の先を見る。
「さあ、あの希望の星に誓いましょう!! 私達の勝利を!!」

 美汐もとりあえず七瀬の指差す方を見たが、星らしきものは見えなかった。
その代わり、どういう理屈か澄み切った青い空にぽっかりと黒い雲が浮いていた。
 美汐の隣で、琴音がぎこちない動きで財布を取り出した。
100円玉を取り出し―――多分、おひねりだろう―――佐祐理たちのほうへ投げた。

 チャリーン

 どうしようもなく乾いた音が、響いた。

 ややあって、真琴がつぶやいた。
「あうー……葵は?」
 それで、美汐達はようやくべナウィ達の存在を思い出した。
451希望の星に向かって:03/11/04 03:37 ID:3qeKvUMB
 葵はというと―――たくましい腕の中でやはり美汐達と同じように困惑していた。
「えーと……」
 思い出す。
 自分は確か、男の逃げ手に最後の勝負をかけて、突然の奇声に集中を乱して、それで―――
 ハッと顔を上げると、少し困ったような顔でこちらを見つめる端正な男性の顔があった。
「大丈夫ですか?」
「――――――――!?」
 一気に顔が真っ赤になる。
「え、えええと、あの!!」
 そう、集中を乱して、体勢を崩して、地面に激突するところを助けられたのだ、自分は―――
「あ、あああのご、ごめんなさい、すいません……!!」
「いえ、お気になさらずに」
 混乱する葵に、べナウィは落ち着いた声を返す。
「べナウィさん」
 ついで、やはり冷静で落ち着いた声がかけられる。
「今までお世話になりました。感謝しています」
 見上げると、やや離れた位置で、逃げ手の少女が頭を下げていた。
もう一人の逃げ手もペコペコとおじぎをして『ありがとうなの』と書かれたスケッチブックをかかげている。
「いえ、最後までお供できなくて申し訳ありません。ご武運を」
 べナウィがそう告げると、二人の逃げ手は再度お辞儀をして、走っていった。
452希望の星に向かって:03/11/04 03:39 ID:3qeKvUMB
 シシェの首に手をかけ、なでてやると主人の命に答えられなかった事を
恥じているのだろうか、シシェは目を伏せ、哀しげに嘶いた。
 べナウィは落ち着かせるようにシシェの首を軽く叩くと、茜たちが逃げていった方を見つめた。
 既に彼女達を二組、7人の鬼が追跡している。
「―――ご武運を」
 再度、短くつぶやく。

「あの……」
 年のわりに大人びた少女が声をかけてきた。確か美汐という名前の子だ。
「ありがとうございます。葵さんを助けてくれて。そして申し訳ありません。
あんな怪我するかもしれない危険な方法をとってしまって」
 べナウィは頭を振った。
「いいえ。あなた方はおそらく誤解しています。
確かに私が受け止めていなかったら葵さんは怪我をしていたかもしれない。
ですが、仮に受け止めなかったとしても私は葵さんを避ける事は出来なかったでしょう。
あの時の彼女はそれだけの気合と覚悟を持っていた」

 そこで一度言葉を切り、告げる。
「見事です」

「そうですか……そういってくれると嬉しいですね」
「あなたは、追跡には参加しないのですか?」
「はい。体力には自信がありませんし、特に能力を持っているわけではないですしね。
それに、駅舎に荷物を残していますし……」
 倒れている男性の鬼二人のほうに、顔を向ける。
「あの倒れているおふたりも気になりますし」
 そういうと、美汐はべナウィの方に微笑みかけた。
「申し訳ありませんがこの二人を駅舎に運んでくださいませんか?
よろしければお茶をご馳走いたしますので」
453希望の星に向かって:03/11/04 03:42 ID:3qeKvUMB
【四日目10時ごろ 駅】
【べナウィ鬼化】
【葵一ポイントゲット】
【垣本、矢島ダウン。美汐も駅に残る】
【登場 べナウィ、里村茜、上月澪】
【登場鬼 【松原葵】、【天野美汐】、【沢渡真琴】、【姫川琴音】、【月島瑠璃子】
     【倉田佐祐理】、【七瀬留美】、【清水なつき】、【垣本】、【矢島】】
454:03/11/05 00:11 ID:2V0veeH/
「わひゃぁぁぁっ!? わぁぁぁぁっ!!?」
「うーん、さっすが空を飛べるってのは大きいなぁ。ちょっと手間取りそうだ」
「勝てそうですか?」
「もちのロン。最後に勝つのは俺さ」
 三者三様の、カミュと、耕一と、瑞穂の追撃戦。
 通常ならばFlying可能で地上クリーチャーをすり抜けることができるオンカミヤムカイの小娘、カミュが有利なところである。
 ところがどっこい相手は自称地上最強の生物柏木耕一。レベルを上げれば異次元の怪物ガディムもを単体で狩ることができるその戦闘能力に加え、
 尋常ならざる跳躍能力、疾走能力、いかなカミュが翼を有するオンカミヤリューの末裔であろうとも、そうそう高い場所を飛行できるわけではないのでこの勝負、徐々にカミュの側が押されつつあった。
 しかもその上……

「射れ射れィ! 矢の雨を降らせろ!」
 地上。黒きよみが手近な枝を鞭のごとく振りかざし、従者のドリグラに命を下す。
「き、きよみさん……」
「なんか、キャラ違ってきてますよ……」
「いいじゃない。一回言ってみたかったのよ、この台詞。それより二人とも、急がないとマヂで逃げられちゃうわよ」
「あ、そ、そうでした!」
「カミュ様ごめんなさい! てぇぇぇーーーーーっ!!!!」

「わ! ちゃ! ええっ!? ど、ドリ君グラ君手加減してよぉ〜……」
 上空から弓なり軌道を描いて飛来する矢の雨が遅い来る。確かに鏃がペタンコに付け替えられているため殺傷能力自体はないが、
 すでにカミュの体に張り付いたいくつかは彼女の飛行能力に少なからず影響を与えており、ただでさえとり難い高度をさらに阻害する結果になっていた。
 かと言って、ちょっとでも高度を下げると……

「そぉぉ……りゃあっ!」
「わきゃっ!?」
「チッ、惜しい! あと10cm!」
 ……自称最強の生物の一撃が待ち構えている。
455:03/11/05 00:12 ID:2V0veeH/
「ああ〜ん、キッツイよぉ。ハードモードだよ!」
 上と下からの波状攻撃。右へ左へフラフラ飛行。かわすのが精一杯。
 ……気をとられ、カミュは気づいていなかった。
「……フフフ、いい感じね。作戦通りだわ」
 黒きよが含み笑いを漏らす。もとより、飛行生物を弓矢のみで仕留められるとは思っていない。
 仮に打ち落とせたとしても、相手はただの鳥ではない。二本の脚とついでに大きな胸を持っている。
 下手をして森の中に降りられたりしては、見失いかねない。
「なら……逃げ場のないところに追い込めばいいのよね」
 目の前にそびえるV字谷と流れ出す川を見据えると、黒きよはおもむろにスカートの裾をめくり上げた。

「しまったぁ!!」
 前方にV字に切り立った狭い崖が現れたところで、ようやくカミュも事態に気づいた。
 己が追い詰められてしまったことに。いいように誘導されてしまったことに。
「むむむ……ドリ君グラ君やるなぁ……ってきゃあっ!!?」
 第六感が警告を叫ぶ。反射的に空中で身を翻した刹那、自分の羽のすぐ裏側を巨大な塊が通り過ぎていった。
「また外したか! やったら勘の強い子だな!」
「しっかりしてください耕一さん!」
「だが……ここなら、俺の方が有利だ!」
 叫ぶと同時に崖の斜面を蹴る。
 反動を得た耕一の体は狭い渓谷の斜面間で反対側の崖へ接地、さらに同じことを繰り返し、まるで踊るパチンコ玉かスーパーボールのような動きと勢いでカミュへと迫っていった。
「HAHAHA! どうだい瑞穂ちゃん! 俺にかかればこんなモンさぁ!」
「ちょっと……気持ち悪いです……」

「ああーーーん! かんべそプリーズぅ!!」
 だがカミュにしてみれば堪ったものではない。ただでさえ押され気味だったものが、さらに相手に有利な、そして自分に不利なフィールドになってしまったのだ。
 慌てて翼を羽ばたかせ、渓谷の上に出ようとするがするとすかさず川の浅瀬中をひた走ってくる黒きよ&ドリグラ部隊の狙撃を受けることになる。
 それ以前に、カミュの体に張り付いた矢もだいぶ数を増してきた。
 このままでは……そう遠くないうちに飛ぶこと自体ができなくなる事態もありうるかもしれない。
(なら……どうすればいいの!?)
 
 ぺたんっ!
456:03/11/05 00:14 ID:2V0veeH/
「あちゃっ!?」
 自分に呟いたその時、カミュの後頭部を鈍い衝撃が襲った。
 そのまま前方につんのめってバランスを崩し、川の中へ頭から突っ込む破目になる。
「あう〜〜〜……ドリ君ひどいよぉ……」
 ざばぁ、と顔中の穴から水を垂れ流して起き上がるカミュ。
 頭の後ろに手を回し、見事ド真ん中を直撃した矢の吸盤部分をペリッと剥がす。
 いくら鏃自体は玩具といえ、実戦で鍛えられたドリグラの矢は『重い』

「もらった!」
 この機を逃す耕一ではない。二、三度崖を蹴り飛ばして方向修正。
 さらに最後の一撃で一際強く斜面を蹴り飛ばし、一直線にカミュへと迫る。

「なんの! 目の前で獲物を奪われてなるものですか! ドリィ! グラァ! 討ち落としなさい!!!!」
「サー・イエッサー!」
 ビシッ! と黒きよが耕一を指差し、ドリグラが連弩の雨を耕一に浴びせかける。
 しかし今度の相手はカミュとは耐久力の桁が違う。
「HAHAHA! 悪いねお嬢ちゃんたち! この子は俺がもらうよ!」
 などと軽口を吐きながら迫る矢群を叩き落していく。
「くぅ! あの人強いです!」
「どうしますか黒きよさん!」
「むむむむむむむむむむ……」
 困惑する三人を尻目に、耕一は勝利を確信する。
「MUHAHAHAHAHAHAHA! もらったぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!」

「くっ!」
 川底に倒れたまま、カミュは上空から己に迫る耕一を見据える。
「ここまで……!?」
 この状況からでは、この体勢からではどうしようもない。
 飛ぶこともできない。
 立ち上がる暇もない。
 転がっても無駄だろう。
457睦(4):03/11/05 00:16 ID:2V0veeH/
(…………ああ……)

 耕一の豪腕が目の前に迫る。
 カミュの脳裏に、今まで出会った人たちの顔が浮かび、そして消えていく……

 ウルトリィ……きっとお姉さまだから素敵に鬼ごっこを楽しんでるよね……
 ディー……神奈さんの話からすると鬼になってるみたいだけど……どうしてるかなんて想像できないな……
 アルルゥ……カミュを叱ってくれた……カミュを励ましてくれた……
 ユズハ……がんばってくれたのに……どうやらカミュ、ここまでみたい……
 ユンナ……助けてもらったばかりなのに……

 ごめんね……

 ごめんねみんな……

 諦めかけた、その時。

(……ひどいね)

 え?

 ドクン!

 心臓が一つ、大きく鳴った。

 ドクン! ドクン!

(私のことを忘れるなんて……)

 躰の内側から声が聞こえてくる。

 あなたは……?
458睦(5):03/11/05 00:17 ID:2V0veeH/
(お父様のことを思い出したなら、連鎖的に私に考えが及んでもいいはずだけど……)

 ……あなたは、まさか!

(そう。私はあなた。もう一人のあなた。……私の名は……)

「…………!?」

 ゾクッ!!

 一瞬、カミュと目が合った耕一。

 刹那、耕一のエルクゥとしての本能が叫んだ、けたたましく。

『危険だ!』

「……くっ!」
 体の内部から湧き出る怖気を無理やり押さえ込むと、慌ててカミュから十数Mの距離をとる。

「ど……どうしたんですか耕一さん……?」
 瑞穂が訝しげに耕一の顔を覗き込む。が、そこにあった耕一の顔はいつものおチャラケた表情とは違い、マジな目つき……恐ろしいぐらいの形相に変貌していた。
「瑞穂ちゃん……悪いけど、ちょーっと……このへんで待っててもらえるかな?」
 言いながら、近くの大きな岩の上に瑞穂を置く。
「え……?」

「どうやら……本気を出さなきゃならないみたい……だッ!!!!」
459睦(6):03/11/05 00:18 ID:2V0veeH/
 咆哮。耕一は大きく吼えると体の中から吹き出る鬼の力をすべて発現、最強の鬼へと姿を変え、弾丸のごとくカミュへと疾った。
「ちょ……! 耕一さん!?」
 いくら耕一自身にその気がなかろうとも、あの質量の物体が加速をつけてぶつかれば常人ではただではすまない。ましてや今回の相手は華奢な女の子。
 下手をすると怪我ではすまないかもしれない。それを警告しようとする瑞穂。
 だが、耕一はわかっていた。頭ではわからずとも、鬼の本能が叫んでいた。
 これでも足りない。これでやっとかもしれない。たとえ自分の力を全て尽くそうとも、目の前の存在……

 ……カミュではない誰か、に勝てる保障など、ない。

「おおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」

 轟音を伴ってカミュが倒れていた地点へと耕一の一撃が決まる。
 水面が弾け、川底がえぐれる。巻き上がった土砂と水は崖を超えてぶちまけられた。
 思わず目を覆ってしまう瑞穂。だが、一瞬後目を開くとそこには耕一しかいなかった。
 先ほどまでへたれこんでいた少女は、どこにも……いや。
 
 耕一の背後、己のすぐ横に……佇んでいた。

「………でも、大丈夫?」
「任せて……。私も今までカミュが頑張っていた姿は見てきた。カミュと一緒にすごした人たちの姿を見てきた……その気持ちを無駄にはしない」
「う〜ん、いざ面と向かって言われるとちょっと恥ずかしいかも……」
「それに……カミュばっかり鬼ごっこを楽しんでるのはちょっとズルイい。今まではずっとカミュが出てたんだから、今度は私の番になってもいいかもしれない」
「うっ……そ、そりは……」
「……決定だね……。今度は私の鬼ごっこ……」

 あたりの状況などまるで気にしないかのように、ブツブツと独りで何やら言っている。

(ひょっとしてこの人も電波さん?)
 即座に彼女がそんな判断を下したのも、普段の環境があってものだろう。ちょっと気味悪いが、この手の人間は慣れている。
(と、とにかく、チャンス……そーっと後ろから近づいて、タ……)
 忍び足で歩み寄り、手を伸ばすが……
460睦(7):03/11/05 00:18 ID:2V0veeH/
 フッ

「……え?」
 目の前でその姿が突然掻き消え、いつの間にか空中1Mほどの位置に浮かんでいた。飛び上がったモーションなどは、見えない。
「……なんですか今の?」
 瑞穂の疑問は無視し、カミュ『だった者』、漆黒を超える暗黒の双翼、燃えるような緋色の目、かつてない程の威圧感を伴う、『彼女』は口を開く。

「私の名前はムツミ……」

 ヒュッ!

「!?」

 名を名乗りつつ、突如として具現化させた剣を抜き放つと一回転、密かに一行の背後に迫っていた黒きよ小隊が射掛けた矢郡を切り払う。

「オンカミヤリューの始祖。解放者ウィツァルネミテアが娘」

 さらにムツミがパチン! と指を弾くと、彼女の体にまとわりついていた矢が全て燃え落ちた。

「………………」

 無言のまま、耕一は構えを取る。

 今度は、おチャラケも、ギャグも、一切ない。
 完璧なる狩猟者としての、狩りだ。狩りが始まる。狩りのはじまりだ。
461睦(8):03/11/05 00:19 ID:2V0veeH/
「鬼さんこちら……」

 呟きつつフッ、とムツミの姿が消える。

「……手の鳴るほうへ!」

 続く言葉は耕一が呟き、彼の姿もまた消えた。

「!?」

 次の瞬間、空を見上げる瑞穂たち。

 交錯する二つの影。

 極限の対決が始まった。


【カミュ ムツミ化。力を全て発現】
【耕一 鬼化。全能力開放】
【黒きよ小隊 V字谷に流れる川の中】
【瑞穂 岩の上】
【四日目昼 谷】
【登場 ムツミ(カミュ)、【柏木耕一】、【藍原瑞穂】、【杜若きよみ(黒)】、【ドリィ】、【グラァ】】
462ランカーズ:03/11/05 20:37 ID:2V0veeH/
 Dだ。

「OK,結構釣ったみてぇだな。こりゃニジマス定食がよさそうだな。ちょっと待ってろ」
「Thanks♪」
 湖畔の屋台。先ほどまでのピリピリした雰囲気とは打って変わり、今はぽややんとした空気が場を支配している。
「私は刺身定食を。御堂、貴様は何にする」
「……食欲なんてねぇよ」
「何か食わんと治る傷も治らなくなるぞ。仙命樹があるとはいえお前の体力そのものはお前の体が回復するしかないのだからな」
「ケッ、言われるまでもねぇ……カツ丼よこせ。あと、茶だ」
「わかった」
 注文を受けたエビルが手際よく調理を済ませていく。

 屋台には今、岩切、御堂、D一家がそれぞれ腰掛けており、各々が自分の料理を口に運んでいた。
「にしても……とんでもねぇガキだぜ」
 先に出された茶を啜りながら御堂が毒づく。
「ヒトの顔に思いっきり水ぶっかけるとは……おかげでまだヒリヒリしやがる」
 御堂の顔は包帯でグルグル巻きにされており、さらにその下は軟膏がコテコテに塗られてある。
 火戦試挑躰としての体と引き換えに手に入れざるを得なかった致命的な弱点――水。
 さしもの仙命樹も弱点を突かれてはお得意の治癒能力を見せ付けることもできず、結果御堂は顔の傷は自然に任せるより他になかった。
「ま、油断した俺が悪りィんだけどよ……」
 もう一杯茶を啜りながら、言葉を続ける。
「とはいえ次はねぇぞ。所詮クソガキの賭けの一撃が偶然決まっただけだ。知ってりゃいくらでも対処のしようがある」
 さすがに少し悔しいのか、言い訳という名の悪態をつく。
「なにかいった? お ぢ さ ん ?」
 が、まいかは笑顔のまま立ち上がると、静かに手のひらを御堂に向けた。
「……やめろ。おっかねぇ真似をするな」
 体半分ずり下がる御堂。
「負けは負けだ。素直に認めろ御堂。戦場ではその偶然の一撃が生死を分かつ境界線となる。お前とてそのぐらいはわかっているだろう」
 岩切は醤油にわさびをあえつつ、彼女にしては珍しく優しく御堂を諭す。
「そりゃわかってるがな……」
 わかっているが、認め難い。
 蝉丸への羨望と同じく、御堂のこのあたりは己でも御しがたい心のロジックだった。
463ランカーズ(2):03/11/05 20:38 ID:2V0veeH/
「……フフ、次会ったら坂神に教えてやるか。お前が幼女に負けたことを」
「ゲーーーック! やめろ! やめやがれ!」


「……静かね」
 場面は変わり、美坂香里。さらに彼女に率いられるセリオ、香奈子、編集長のインテリジェントレディースご一行様。
 昨晩、様々な……あまり思い出したくない不運が重なり、大幅な戦力減退に追い込まれた一行。
 森の中で偶然発見した小屋で一晩を過ごし、明けた今日は森の中を中心に歩き回っていた。
「セリオ……どう?」
 斜め後ろを歩くセリオに向かい、香里が視線を向ける。
「申し訳ありません……やはりダメなようです。各センサーの精度は著しく減退、レーダーもほとんど意味を成しません。
 現在の私の外部情報収集能力は皆様とあまり変わらないかと。ほぼアイセンサーの見渡せる範囲しか索敵できません」
「そう……」
「申し訳ありません」
 いつも通りの無表情、しかしどこか寂しげなその顔で、セリオは深々と頭を垂れた。
「気にしなくていいのよ。駆動機関にはさして影響ないんでしょう?」
「はい……それは大丈夫ですか」
「ならいいわ。気長に待ってればまたチャンスもあるでしょ」

 苦笑、という言葉がピッタリな笑顔で、セリオに微笑んだ。

「さて、それはともかくとして香里。これからどうするの?」
 話がひと段落したと見て、香奈子が二人の会話に割って入る。
「気長に待てば、とは言っても本当に何もせずに待ってるわけにもいかないでしょ?」
「……ま、それはそうよね」
 肩を竦めながらうなづく香里。
「とりあえず情報が欲しいわね。今私たちは武器を無くし、センサーも使えなくて文武両道ならぬ文武両盲状態。とにかく何らかの外部情報がほしいわ」
 さらに編集長も口を開く。確かに、今の香里チームはほとんど武器らしい武器、上手く使えば何者よりも役に立つ『情報』という武器を含め、ほとんど武装解除に等しい状態だった。
「情報を得るといえば人の集まるところよね」
「人の集まる場所なら屋台が最も有力でしょうね」
「言われるまでもないわ。ま、残金もほとんど無いから碌な物は買えないでしょうけど……他の人に会えれば何かわかるかもしれないしね」
「あの……香里様」
464ランカーズ(3):03/11/05 20:39 ID:2V0veeH/
「ん? どしたのセリオ?」
 話し合う三人に、今度はセリオが口を挟む。
「屋台でしたらちょうど目の前にありますが」
「……え?」
 セリオが指差す方向を眺める。
 ……森が開き、湖が広がり……その脇に、確かに言われてみればポツンと何かがあるようにも……見えないこともないかもしれない。
「……確かに何かあるけど……あれって屋台?」
「はい。確かです」
「セリオ……あなた、センサー類使えないんじゃなかったの?」
「はい。使えません。ですから、『目で見える範囲』しか策敵できません」
 しばしの沈黙。
「……ちなみにセリオ、あなた、視力いくつ?」
「人間の視力に当てはめるならば……6.0から7.0、といったところでしょうか」
「…………十分使えるわ。サンコンさん並じゃない」


「誰かいたかい?」
「いや、人っ子一人いないな」
 こちらは久瀬一行。アパートで一晩、十分な睡眠をとった彼ら。
 朝方には隣への挨拶もそこそこに再出発。今日は山の方を探索することと相成った。
「やっぱりハズレだったかな……午前いっぱい歩き回って成果ゼロとは」
 大木に寄りかかり、バツの悪そうにボリボリと頭を掻く。
「ま、そう腐るな。見通しの甘さは誰だってある」
 ポン、とオボロが久瀬の肩に手を置く。
「月島さん……あなたはどう思いますか?」
「ん、僕かい?」
「ええ。あなたの意見を伺いたい」
「そうだね……」
 不意に話題を振られた月島兄。少々呆けながらも、顎に手を当て、思考開始。
「うん……君の見立てもあながち間違ってはいないと思うよ。確かにこれだけ時間が経てば、残りの逃げ手は少なくなり、逆に鬼の数はかなり増えているはずだ。
 残された逃げ手は、なるべく鬼の少ないところ……すなわち人の少ないところ。山間部に向かう可能性が高くなる。
 昨日と違って今日は晴れた。これなら一般人でもさして行動に支障なくどこへでも行ける。……ただね……」
465ランカーズ(4):03/11/05 20:40 ID:2V0veeH/
「……ただ?」
「うん、やっぱりその『どこへでも行ける』っていうのがネックだと思うんだよ。数の少ない逃げ手が、どこへでも行ける。
 わかりきっていたことだけど、やっぱりこうなっては僕ら個々の鬼グループが逃げ手と会える確率はトコトン低くなってしまうんだよ。
 いくら山間部が可能性が高いといってもそれはあくまで可能性。山間部は人が少ないと同時に見通しが利かないというのも大きいからね。
 どっちにしろ、戦いは辛くなるってことさ。ごめんね、結局なんの具体策も提示できなくて」
「そんな……十分ですって」
 すまなそうに頭に手を当てる月島兄。
 久瀬とオボロは口々にそんな彼を慰める。
「いやいや、そこまで考えられるってだけでも大したモンだ。俺なんざ人が少ないから人がいないものだと思ってたからな。はっはっは」
「君はもう少し物事を深く考える癖をつけた方がいいと思うけどね」
「なんだとコラ」
「はっはっは……」

「……ま、それはそれとして、だ。これだけ歩いて誰も発見できないんじゃしょうがない。反対側を一回周って、それでもダメだったら一度住宅街に戻って作戦を練り直そう」
「それが適当だろうな」
「そうだね、そうしようか」
 こうして再度歩き始める一行。
 と、歩き出したところでオボロが傍と足を止めた。
「お、そうだ」
「ん? どうしたんだい?」
「たぶん向こう側のどっかにゃ湖か、それでなくとも川が流れてるぜ。上のほうに源流があった」
「水……?」
「ならひょっとしたら人もいるかもしれないね。人は、というか生物というのはどうしても自然に水場に集まるものだから」
「まぁ期待せずに行きましょう。水場があるなら僕らも一休みできるでしょうし」
466ランカーズ(5):03/11/05 20:40 ID:2V0veeH/
「……誰か起こせよ」
「ごめんね……浩平……」
 さらに移り変わって折原部隊。
 晴子をとっ捕まえた家で一晩を明かしたご一行。
 ……一晩というより、正確には一晩と半日ぐらいを家で明かした、とも言える。
 浩平はもちろん、珍しいことに瑞佳も、そしてスフィーも、ゆかりも、なんとトウカまで、まとめて……
「……ここまで豪快な寝坊は俺だって久しぶりだぞ」
「某としたことが……面目ない」
 ……昼近くまで寝過ごしてしまったのだ。いくら疲れていたとはいえ、かなり気合の入ったドジである。
「でも浩平、確か学校で瑞佳過ごしたことなかったっけ?」
「…………あれは早寝早起きだ。健康のバロメータだ」
「早すぎる気がするけど」
「うっさいスフィー。一番豪快に寝てたクセに」
「うっ……」

「まぁそれはそれとして、だ」
 話が逸れかけたところで、無理やり本題に戻す。
「とりあえずの目的地も無いし、今日は川沿いを歩いてみようと思うんだが、どう思う?」
「某は異存はないが……」
「お前たちはどうだ?」
「別にかまわないよ」
 というわけで決定。
「んじゃ、タラタラと川を上流に上っていくとするか。上手い具合にいけば休憩中の逃げ手にも会えるかもしれないしな」
「そうそう都合のいいことは無いと思うけど……」
「うっさい」
「む、浩平殿。あれを」
「ん?」
 話がまたしても逸れかけたところを、今度はトウカが軌道修正。
「あの先で森が途切れている。どうやら湖があるようだ」
「ほぅ……湖か……。……うっし」
467ランカーズ(6):03/11/05 20:42 ID:2V0veeH/
「つまり俺が言いたいのはな。このゲーム、ほとんどルールらしいルールは聞かされてないんだよ。ウン。つまりな、『罰則が決まっていないことは罪ではない』ってことなんだよ。ウン。
 つまりな、ルール説明していたあのおばさんも、『鬼のたすきを外すな』なんて言ってないんだよ。で、外したらどうする、ってもんも一切説明してないんだよ。ウン。
 言ったことといえばな、『島から出ると失格』このくらいなんだよ、ウン。つまりなこの鬼ごっこ、ほとんど無法に近い状態なんだよ。ウン。
 そこでな、俺の作戦なんだが――――――――――」

 徘徊老人の戯言のように、具にもつかない言葉を延々とまくし立てる祐一。
 先行する郁未と由依は祐一の説明を右から左に流しつつ、二人でヒソヒソと話し合っていた。
(郁未さん……どうします? 祐一さん、あれマジでヤバイですよ。チョベリバですよ)
(う〜ん……そうねえ。アレは危険だわ。何度かFARGO信徒の危険な連中にあんなのがいたけど……)
(ホントもうMK5って感じですね。何かいい方法ないでしょうか?)
(ん〜、ん〜、ん〜……放っとく、ってのはダメ?)
(いくらなんでもそれは……)
 昭和54年と53年産まれ。会話のそこかしこに死語が混じるお年頃。

「……でな? いい方法だろう舞。聞いてるか? さすが俺様。俺の頭脳が冴え渡る。なんで誰もこんな単純な手を思いつかないんだろうな―――――」
「うん、うん、聞いてる、聞いてる。祐一はすごい。祐一はえらい。祐一はあたまがいい……」
 舞は介護人のように祐一の傍らに寄り添い、戯言に一々うなづいて返している。ひょっとすると、50年後の風景を映し出しているのかもしれないが……
468ランカーズ(7):03/11/05 20:44 ID:2V0veeH/
「……う〜ん、仕方ないわね。よし」
 何やら決心した様子の郁未。くるっと180度向き直ると、虚ろな目をする祐一の前に立つ。
「おお天沢か。お前も聞いていただろう? 俺の史上最大の作戦を。いいか、まずはな……」
 舞は何やら雰囲気から察したのか、祐一から一歩離れ、完全に郁未に任せた。
「―――――祐一」
「お、なんだ? お前もノリノリだろう?」
「ええ、ノリノリよ……」
 ガッ、と両手で祐一の頭を固定すると、右膝を曲げ、後ろに溜める。
「おいおい天沢、まだお天等さまの高いうちから、しかも人前で、こんな……」
「はぁぁぁ……ッ! 目ェ覚ましなさいこのヴァカ! アホ! タコ助! ゴォォォォォォォルデンレトルトカレェ、キーーーーーック!!!!!!」
「―――――祐一、頑張れ!」

 ずぶしゃぁ!

「おぼっ、はがぁ!?」
 閃光と化した黄金の右膝が祐一の鼻っ面に決まった。
 1Mほど後ろにぶっ飛ばされ、顔面を押さえ込んで七転八倒する祐一。
「がっ、はぁ!? くはっ!? な、なんだ何をする郁未!? え? お、あ……?」
 鼻血を拭きつつ起き上がる祐一。しかしその瞳は再び輝きを取り戻していた。
「あれ……俺、何を……?」
「目ェ覚めた?」
 憮然とした表情で祐一の顔を覗き込む郁未。
「―――――祐一、頑張った?」
「頑張ったって……なんのことだ、舞」
「―――――うん、頑張った……」
「ええっと、俺は確か、すばしっこい中学生を追ってて、逆に穴にはめられて、出ようとして、んでもって名雪に踏まれて―――――あれ?」
 順々に記憶を整理していく祐一。が、郁未たちはそれならばよしとそんな祐一は無視し、
「さて、目が覚めたんなら話は早いわ。さっさと先に進み……」
469ランカーズ(8):03/11/05 20:44 ID:2V0veeH/

『……ーック! …めろ! ……やがれ!』

「!?」
 郁未と舞が顔を見合わせる。
「聞こえた!?」
 郁未の問いに、舞が首を縦に振る。
「……人の声……」
 そうと決まれば話は早い。瞬間、声の方向に向かって駆け出す。
「…………」
 一瞬遅れ、舞もその後を追う。
「あっ、待ってくださいよ郁未さん!」
 さらに数秒遅れ、由依も舞の背中を追いかけて駆け出した。

「………それで、ええっと、名雪の声が聞こえて、怒鳴り返して、それから……ええっと……」

 一分後、祐一は戻ってきた舞に支えられ、ゆっくりと郁未を追いかけていった。
470ランカーズ(9):03/11/05 20:45 ID:2V0veeH/
「しかしよかったのか? ……その、宮内とやら。上着代、お前に出させてしまって」
 屋台組の食事もひと段落。食後の茶を飲みながら雑談を交わしていた。
「ウン、かまわないよ。もともと私たちのせいで破いちゃったようなものだし。Dが一万円GETしたんだから、水着の一枚ぐらい平気だヨ」
「そうか……うむ、すまんな。どうやら私は少々アメリカ人への印象を変えねばならぬようだ。お前のような者もいるようだからな」
「Hmm....一応私、日本人なんだけど……」

「……で、おっさん」
「おっさんじゃねぇ。御堂と呼べ」
「なんでれみぃおねぇちゃんがおっさんのめしだいやくすりだいまでださなきゃならないの?」
「ンだと? 俺の怪我ァ手前のせいなんだぞ? ガキの不手際で迷惑こうむったんだ。なら親が保障すんのは当たり前だろうが?」
「さきに手をだしてきたのはそっちなんだけどねぇ〜……」
「あぁ? うっせぇぞ。あんまりギャーギャーわめくと……」
「わめくと……なに?」
 まいかは手をかざし、再度力を収束させる仕草を見せた。
「ぐっ……ひ、卑怯だぞテメェ!? ヒトの弱点突けると思っていい気になりやがって! おい保護者! お前からなんとか言え! 言ってやれ! おい! お前!」
 ガクガクとDの肩を揺する御堂。だが、Dからは何の反応もない。
「おいコラ! ヒトの話を……聞……って!?」
「……うるさい」
 ようやくDの口から出たのは、そんな言葉だった。
「なんだとテメェ!? あんま人をなめると……」
「……うるさい、と言っている」
「つっ……!?」
 睨み。一睨み。
 Dが気だるそうに一睨みすると、一瞬にして御堂は黙ってしまった。
(な、なんなんだコイツ……?)
 少しDから距離をとる御堂。
 だがけっして、彼はけっしてDに胆で負けたわけでない。
 彼が恐ろしかったのは……

(なんなんだアイツの眼。……あれは……まるで……)
471ランカーズ(10):03/11/05 20:46 ID:2V0veeH/
 ピキッ。


「ん、どうした?」
 その時、エビルが磨いていたガラスのコップに突然、亀裂が入った。
「……イビル」
 それを確かめると、静かに口を開く。
「……火を灯せ。湯を沸かせ。食器を並べろ。仕込みの準備だ」
「ああ、そうみたいだな……」
 エビルも言われたとおりに準備を整えていく。
「……ほぅ、なるほど」
 数秒後、岩切と御堂も唇をゆがめた。


 ―――――千客万来だ。


「……相沢君? それに、久瀬君!?」

「相沢……だと? あっちは……美坂さん?」

「……アイツは、確か、久瀬!?」

「香里か? 久瀬……お前も来てたのか!?」


 かくして、図らずも鬼のトップランカーたちが集結した。

 この邂逅が何をもたらすのか。

 それは今は誰にもわからない。
472ランカーズ(11):03/11/05 20:47 ID:2V0veeH/
【四日目昼下がり 山間部の湖畔】
【D一家、御堂、岩切 弐号屋台で食事】
【香里一行、久瀬一行、浩平一行、祐一一行 集結】
【セリオ 眼がイイんですよ〜】
【祐一 我に返る】
【御堂 顔に包帯】
【登場:
【御堂】【岩切花枝】【ディー】【宮内レミィ】【しのまいか】
【美坂香里】【セリオ】【太田香奈子】【澤田真紀子】
【久瀬】【オボロ】【月島拓也】
【折原浩平】【長森瑞佳】【スフィー】【伏見ゆかり】【トウカ】
【相沢祐一】【天沢郁末】【川澄舞】【名倉由依】
『イビル』『エビル』
(多分これで全員だと思います)】
473ランカーズ(12):03/11/05 20:48 ID:2V0veeH/
 さて、今回やったら静かだったDであるが。

 懸命な読者諸兄ならばもうお気づきであろう。

 彼は先だって、岩切との格闘の末、崖下に転げ落ち、お互い少々の傷を負った。

 すなわち……

 仙命樹。

 足すことの。

 異性の身体。

 求むるところは……?


(なんだなんなんだ! どうしてしまったんだ私の身体は!?
 こんな……こんなことなど! なぜこんな状態に……おおおっ!?
 わ、私の感じている感情は精神的疾患の一種なのか!? 鎮める方法は誰が知っている!? 誰に任せればいいと言うのだ!?)

「でぃー……どしたの?」

(いかんやめろまいか! 今私の視界に入るな! うぉお! 私に触るな! ゆするな! がふぅ……こ、これは、まずい! 非常にまずい! 最上級に危険だ!)

 静かだったのではなく、騒げる状態ではなかったのだ。


【D 精神的疾患真っ最中】
474名無しさんだよもん:03/11/06 09:57 ID:e/F5pWsv
Dワラタ
475Shioly Brownie :03/11/07 03:34 ID:wQMMFLsR
 鶴来屋別館、参加者の間では通称『ホテル』と呼ばれている建物。

 ギギィ……

 と小さな軋みを立て、そこの厨房にある裏口が僅かに開かれた。

「…………よし、誰もいないみたいだ」
 隙間から中を覗き込んだ住井が安全を確認する。
 改めて扉は全開に開かれ、地雷原ズこと住井&北川、そして……

「はぁ、はぁ、はぁ……」
「……栞ちゃん、大丈夫かい?」
 ……北川の背中でへばっている栞が現れた。
「なんとか……」

「ふぅ……さすがに飛んだり跳ねたり走ったりといった野蛮な行動は病弱可憐な薄幸の少女には重荷ですね……」
 北川が冷凍庫から持ってきたシャーベットをつまんでひと段落。三人は厨房の中で小休憩をとっていた。
「ところで栞ちゃん、ホテルにいったい何があるっていうんだい?」
「ああ、まだ俺たち聞かせてもらってないな。ホテルで英語の翻訳ができるのか?」
 訝しげな二人。栞の自信満々な態度とは裏腹に、ちっとも教えてくれないその『希望の芽』に興味津々のようだ。
「わかりませんか……?」
 だが栞はトコトンもったいぶるつもりなのか、挑発的な上目遣いの目線を二人に送るだけで、答えようとはしない。
 ただ、嬉々として唇を歪めるのみだ。
「まぁ楽しみにしていてください。すぐにわかりますよ」

 休憩もそこそこに、二人は廊下を抜けてホールへと出た。
 だいぶ日も高くなってきているのだが、まだ寝ているのか、それともどこかへ出かけているのか。近くに先行者たちの姿は見えない。建物内は静まり返ったままだ。
「……好都合です」
 栞はそのままズカズカとホールの側面、カウンターの台の中に入ると、さらにその奥、従業員詰め所になっていると思しき部屋に繋がるドアノブに手をかけた。

 ガチャガチャ、ガチャガチャ。
476Shioly Brownie:03/11/07 03:34 ID:wQMMFLsR
 ……鍵が掛かっていて開かない。

「まぁそうでしょうね。さすがにそこまで無用心じゃありませんか……」
 キョロキョロとあたりを見回す。某サバイバルホラーゲームならここで別の地点からキラキラ光る鍵を探すところであろうが、当然我らがペテン師栞はそんな面倒な真似はしない。
 自分の後ろに立っている北川に向き直ると、
「破ってください」
 笑顔のままちょっと首をかしげ、命令した。
「……え?」
「ですから、鍵が掛かっていて開かないので、北川さんにブチ破ってほしぃなぁ……とか思ちゃったりするわけです」
「……破るって……」
 もう一度扉を見る。
 確かに木製ではあるが、安普請な気配など微塵もなく、重厚な天然の木目が鈍い光を放っている。
 おそらく職人手製の高級品だ。そう簡単に素人には手が出せそうにない。
「あのー……栞ちゃん、何か武器とか道具は……」
「そんなモンありません。ありゃ私が使ってます。ここは『どーん!』と男の人らしく北川さんのパワーでブッ壊しちゃってください」
「…………」
 もう一度扉を見る。
「……まあ、それじゃ一回……」
 数歩下がって、助走距離をとる。
「死ぬなよマイブラザー」
 少々不吉な住井の応援。
「…………とりゃっ!!」
 たったった、と助走をつけ、渾身のタックルを扉に……

 ぐきぃっ!!!
477Shioly Brownie:03/11/07 03:36 ID:wQMMFLsR
「やっぱりダメでしたか」
 北川の死体を脇に追いやり、栞は次善策を講じる。
「それじゃ次は鬼塚●吉先生直伝のこれでいきましょう」
 どこぞで見つけたガムテープをゴソゴソとストールの裏から取り出すと、
「では住井さん、がんばってください」
 はい、と丸っこいその束を住井に手渡した。
「………は?」
「ですから、奥の部屋に繋がるそっちの窓ガラスを叩き割ってください。音がするとマズイですから、そのガムテープを貼り付けてから」
 平然と説明する。
「割るってったって……」
 確かに壁の一面はドア以外にも大きな窓ガラスで奥の部屋へと繋がっている。今はカーテンで仕切られていて向こうの様子は伺えないが、叩き割れば部屋に入ることもできるだろう。
 だが……
「……これって危なくないの? ガラス片とか刺さったら……」
「(たぶん)大丈夫ですよ。(今までさんざん無茶やってきた)住井さんならやれます。(ダメならダメで私には影響ないから)頑張ってください」
 若干言葉を省いた言葉で応援する。
 可愛いめの女の子にそう言われては住井も引き下がるわけにはいかない。
 覚悟を決めるとガラスの中心部にペタペタとガムテープを貼り付け、
「……(ゴクッ)」
 生唾を飲み込み、勢いをつけた肘をテープの真ん中に……

 ガショッ!!!


「痛てっ! 痛てっ!! 痛ててててっ!! 痛ててっ!! は、挟まった挟まった! 引っかかった引っかかった! 刺さる! 刺さるぅ〜〜!!!!」

 さすがは高級旅館。ガラスもいいものを使っている。
 強化ガラスではないのは幸いであったが、ワイヤーで補強されていたガラスは砕け散るところまでいかず、中途半端に住井の腕に噛み付いた状態で耐えしのいでいた。
 服の袖が引っかかり、下手に動かせば腕を切りそうになるといった状態で住井は身動きが取れなくなる。
「これでもダメですか……秋子さんやりますね……」
 顎に手を当てしばし熟考。とりあえず何か役に立つものはないかと改めてカウンター周辺を調べてみることにした。
478Shioly Brownie(4):03/11/07 03:39 ID:wQMMFLsR
「……あ」
 ちょうどそこで目に入った。フロント横の壁に、無数の鍵の束がまとめて掛けられていることに。
「手屁っ♪ 私としたことが。ちょっとドジしちゃいましたね」


 改めて鍵を使って扉を開錠。悠々と中に進入する。
「暗いですね……」
 窓という窓全てには暗幕がかけられており、外の光が一部も入って来ず、まるで夜のような暗さだ。
「ええと、スイッチスイッチ……っと」
 手探りで入り口近くの壁を探る。ほどなくして、それらしきポッチリが指先に触れた。
「じゃ、スイッチオン……っと」

 ぱぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

 流れるように蛍光灯に灯がともっていく。
「……フフフ……思ったとおりです」
 白色の光に照らし出され、部屋に再び人の活力が吹き込まれた。
 そこに広がる光景を見て、栞は勝利を確信する

 オフィスルームとなっているその部屋には、無数の机と、その上に据えられたデスクトップ型PCが無数に鎮座していた。
479Shioly Brownie(5):03/11/07 03:41 ID:wQMMFLsR
「Power,ON!」
 とりあえず部屋の中の電源という電源全てをコンセントに繋ぎ、一際大きいサーバマシンに電気を通した後手近な一台のPowerボタンを押す。
 ブゥゥゥン……と鈍い起動音とともに、徐々に液晶モニタに光が満ちていく。
「なかなかいいモニタですね……余裕があったら帰り際、一枚貰っていきましょうか……」

「な、なるほど……そういうことか……」
 ようやくガラス片の戒めから抜け出た住井。ぐったりとした北川を肩に担ぎ、PCルームへと入ってきた。
「ええ、そうです……今の時代、ある程度大規模な施設を運営しようとしたらネットワークを組まなきゃやってられません。
 食品を仕入れる段階まで来ているのなら、確実にLANの設定もすんでいるはずです。さらにLANを組んだのならWANに繋がぬはずはない。
 インターネット。情報の混沌インターネット。今の時代は誰かに聞くまでもなく、WWW上に無数に翻訳サービスなど存在するのですよ」
 回転椅子に座ったまま勝ち誇る栞。そうこうしている間に、モニタにログインウィンドウが現れた。
「ユーザID……それに、パスワード……?」
 それを見た住井の顔が落胆に沈む。
「くっ……けどやはりセキュリティも万全か。思いつきはよかったけど、運営の方が一枚上手……」
「……フッ、まだまだですね住井さん。いいですか? 大抵この手のシステムは……」
 カタカタ、とキーボードを打ち込んでいく。
「ユーザID……guest……Password……無し……チッ、弾かれた。なら……」
 ピポ!
 最後に栞がリターンキーを押すとウィンドウは消え、十数秒後デスクトップ画面が現れた。
480Shioly Brownie(6):03/11/07 03:42 ID:wQMMFLsR
「やはりですか。まだまだセキュリティが甘いですねぇ秋子さん。ま、営業前のシステムにあまり大きな期待を寄せるのも酷といえるかもしれませんが」
「パスワード……知ってたのかい栞ちゃん? それとも君あれ? ハッカーってやつ?」
「…………フッ」
 住井に背中を向けたまま、栞は当然の疑問に答える。
「こういうシステムはですねぇ、本格起動する前ならIDは無くてもOKか、あってもせいぜい『guest』というところ。
 Passも無い場合も多いですし、それでなくとも大抵今回のように会社名、『tsurugiya』とかで済んでしまうものなんですよ。
 学校とかのセキュリティが根本的に甘いところなら起動した後もこんな状態が続いてることも多いですからね。中学時代、よくPCルームに忍び込んで勝手にネットサーフィンしたものです」
「はぁ、なるほど……」
 電脳機器に疎い住井としてはただ素直に頷くことしかできない。北川もコンピュータに関しては超一流の腕前を持っていたりする場合もあるが、それは別のところの北川である。第一今は死んでるし。
「さてと、それじゃ情報の海へ……DIVE!」
 デスクトップに存在するInternet Explorerのアイコンをダブルクリック。いざWWWへと飛び込む。

 トップページに鶴来屋のWebサイトが現れる。しかし栞はそんなものにはまるで興味ないかのようにアドレスバーにカーソルを合わせると、慣れた手つきで常用の検索サイトのURLを打ち込んでいく。
 全てブラインドタッチだ。住井にはその手の動きは人外のレベルにしか見えない。
「栞ちゃん……君ってPCとか詳しいの?」
 手は止めず、モニタを向いたまま栞は答える。
「まぁ人並みには触っていると思いますよ。入院中は暇で暇でしょうがなかったんで病室にノート持ち込んで延々とネットサーフィンしてましたから」
「はぁ……それにしても打つの早いねぇ。どんくらいなの?」
「どのくらいと言われましても……それじゃちょっと計ってみましょうか。最近私もやってませんでしたので」
 栞はちゃちゃっと目的のサイトに移動すると、なにやらFlashで作られたゲームで計測を始めた。
「OMAEMONA-……っと」
481Shioly Brownie(7):03/11/07 03:42 ID:wQMMFLsR
 一分後。
「終わりました。慣れないキーボードだったのでちょっと調子が悪いですが……こんなモンでしょうね」
 モニタに出たリザルトを住井に示す。

 タイピング●ナー ver 3.20
 タイプ数:392
 ミスタイプ:4(1%)
 平均速度(keys/s):6.466

 スコア:2560
 ランキング:44位/2931人中
 あなたは「神!!++」レベルです

「……2931人中の44位って……結構すごいんじゃ……」
「そうでもありませんよ。慣れればこのくらい楽勝です。あ、住井さんも北川さんも一休みしてていいですよ。ネットでもしてたらいかがです?
 今取説の文章テキストに起こしてるとこですけど、小一時間もあれば終わるでしょうから。あ、そうだその前に。もう一回厨房に行って冷たいジュースとお菓子とアイスを持ってきてください。
 しばらく私集中しますから、話しかけないでくださいね。そのへんに置いといてくだされば結構ですから。それじゃ、お願いします」

 一方的にまくし立てると回転椅子を半回転。モニタに向かい、高速のタイプを再開した。

【栞 ホテルからWWWへ接続。翻訳サービスで解読に挑戦】
【北川 ぐったり】
【住井 ほとんど小間使い】
【四日目午前 ホテル コンピュータルーム】
【登場 【美坂栞】【北川潤】【住井護】】
482セパレイト:03/11/08 23:10 ID:2OSww8Ew
「……ねぇ、美凪……」
「……みちる?」
 ホテルの暗がりの中、みちるは美凪の耳元に囁く。
「……まだ寝てなかったの……?」
「んに……目が覚めた……」
 時刻は、ちょうど先ほどハクオロと美凪が見張りを交代したところだ。
 二人の背後ではソファに腰掛けたまま、トゥスクル皇が瞑想しているかのような静かな寝息を立てている。
 美凪の睡眠も十分とは言えず、頭にはうすぼんやりとした睡魔がこびり付いているが、我慢が効く程度だ。
 少なくとも、ほぼ不休で動いているハクオロに比べればはるかにマシなはずである。ここで弱音を吐くわけにはいかない。
 しかしそれにしても、みちるは今夜一晩はゆっくりと睡眠を取らせる予定だったのだが……
「……ダメですよ……寝ていなくては……。二日続けて動き回ったのです……みちるもだいぶ疲れているはず……」
「んん、それは平気」
 諭す美凪だが、みちるは首を横に振る。
 むしろ、幾分か真面目な顔に頬を引き締め、話を続けた。
「それより、美凪にちょっと話がある」
「お話……?」
「ん。みちる、ずっと思ってたんだけど……」



「ん?」
 場面は移って四日目午前。ホテルから離れ、わき道をひた走るハクオロ一行。
 みちるを小脇に抱え、美凪の手を引いてずっと走ってきたハクオロだが、その美凪が森の中途で不意に足を止めた。
「どうした美凪。まだ旅館からは十分離れきっていない。悪いが、休憩はもう少し先で……」
 しかし美凪はハクオロの言葉をさえぎり、ふるふると首を横に振る。
「ハクオロさん……」
 そして、静かに口を開くと、
「……このあたりでお別れしませんか……?」
 ……と言った。
483セパレイト(2):03/11/08 23:11 ID:2OSww8Ew
「な!?」
 仰天のハクオロ。
「ど、どういうことだ!?」
 美凪の手を引き、問い詰める。
「痛いです……」
「あ、す、スマン」
 慌てて手を離す。二人は50cmの距離を取り、お互いに向き合った。

「その……何故だ? 急に。何か……私はお前を怒らせるような真似をしてしまったか? いや確かにお前たちの疲労のことも考えず、連れまわしてしまった。だが……」
 自分が気づかぬうちに粗相をしてしまったかと思うハクオロ。先に謝罪しようとするが……
「いいえ。それは違います」
 それは美凪が彼女にしては強く否定する。
「……ハクオロさんには感謝しています……。それこそ、感謝してもしきれないぐらい……いっぱいお世話になっちゃいました。
 ハクオロさんは自分のことも省みず、ずっとずっと私たちを庇い続けてくださいました……ありがとうございます」
 いきなりペコリと深くお辞儀する美凪。ついつられてハクオロも頭を下げる。
「あ、いや、感謝されるほどのことではない。当たり前のことをしただけだ。……だが、それならなぜ……?」
「……それは……」
「……そこからはみちるが説明するよ」
「みちる?」
 いつの間にか、みちるはハクオロの腕をすり抜け、美凪に寄り添うように立っていた。

 ずいと体半分を美凪とハクオロの間に割りこませ、神妙な顔でみちるは口を開く。
「思ったんだ。……思ってたんだ。みちるたち、全然鬼ごっこしてないなぁ、って」
「……え?」
「みちるたち、最初にオロに会って、エルルゥとアルルゥを探すって言って一緒になって、そのままずっと過ごしてきた」
 続けて美凪も口を開く。
「楽しかったです……」
「エルルゥと追いかけっこしたり、駅に行ったり、トロッコに乗ったり。ずっと三人で一緒に過ごしてきた」
「借金生活も、それはそれでオツなもの……」
「オロと同じようなでっかいのとの追いかけっこも、スリルがあって面白かった」
「柳川さんたちはご無事でしょうか……」
「……なら」
484セパレイト(3):03/11/08 23:16 ID:2OSww8Ew
 語り口がいったん止まったところでハクオロが割って入ろうとする。しかし。

「でも、それだけなんだ」

「……?」
「ずっとずっと、みちるたちはオロに守られてばっかだったなぁ、って」
「『人探ししながら逃げま賞』ではなく、『守られちゃいま賞』になってしまいました……」
「今まで会ったほとんど人たちは、逃げ手の人も、鬼も、自分の力で『鬼ごっこに参加していた』」
「これ以上ハクオロさんにご迷惑はかけられません……」
「それは!」
 その言葉を聴き、ハクオロは語調を強くした。
「それは違う! 私は、迷惑など!」
「……うん、わかってる」
「わかっています。ハクオロさんは、そういう方ですから……人がいいで賞、進呈」
 はい、と紙袋をハクオロに手渡す。
「あ、ありがとう……」
 ……改めて、説明再開。
「オロはみちるたちのわがままをずっと聞いてくれた」
「……だから、これが最後のわがままだと思ってください……」
「……?」

「みちるたちは」

「私たちはは」

「……自分の力で、鬼ごっこをしたいのです」
485セパレイト(4):03/11/08 23:17 ID:2OSww8Ew
 しばしの沈黙。
「それはつまり、私に一人で行け……ということか?」
「……そうなります。ここで私たちはお別れして、ハクオロさんはご自分の優勝を目指してひた走る、私たちは自分の力で鬼ごっこに挑戦する。
 ……このまま私たちがいれば足手まとい。そのうちハクオロさんに取り返しのつかないご迷惑をおかけしてしまうことになるかもしれません」
「それに、もしみちるたちが最後の三人になれても結局優勝できるのは一人なわけだしね」
 しかしハクオロが素直に首を縦に振るわけがない。
「そんなことは、そんなことはどうでもいい。お前たちのせいで私が鬼になろうとも、それがどれほどのことか。私たちが三人一緒にいることの方がはるかに尊い。違うか?」
「違いません。違いません。違いません。私も、できればそうしたいです。けれど……」
「……それでも、やっぱり、こうした方がいいと思うんだ。みちるたちは、ハクオロに優勝してほしいと思う。みちるたちは自分の力で鬼ごっこをするべきだと思う。
 だから、みちるたちは、ここで別れた方がいいと思う……んだ」
「馬鹿な!」
 ハクオロは声を荒げる。
「私がいいと言っているのだ! 私はお前たちを守りきってみせる。最後の、最期まで! 私の優勝を望んでくれるのなら、私たちが三人になったところで、そこでもう一度考えればいい問題だ!
 第一このゲームも最早終盤戦! 島にいる人間はほとんど鬼だ! お前たちだけで……逃げ切ることなど!
 お前たちは、お前たちがそんなことを気にする必要はない。私たちが別れる必要も理由も、ただの一つもないのだ!」
「……ありがとうございます。けど、やはり……」
「……これが、みちるたちの、わがままだから。最後のわがままだから」
「今までさんざんご迷惑おかけしてこんなことを言うのは失礼なことだとわかっています。しかし……けれど……」
「みちるたちの最後のわがまま、聞いてほしい」
 それだけ言うと二人は手を取りあい、草むらの奥、道も無いような森の中に消えようとした。
 だが、納得できないハクオロはその背中に追いすがる。
「待て! 待ってくれ美凪、みちる! 私は、私はお前たちを……」
「……ごめんなさい」
486セパレイト(5):03/11/08 23:19 ID:2OSww8Ew
 ちょうど、それと同じタイミングで。
「……あの〜……お取り込み中、すいません」
 一行がやってきた方向から、突然二つの人影が現れた。
 二人の方には、たすきが。鬼を示す御印であるその鬼のたすきが掛けられている。

「しまった! 気配を探るのを……忘れていたッ! 美凪! みちる! 話は後だ! 今は……逃げるぞ!」
 ハクオロはそのまま後ろから美凪とみちるを抱きかかえ、森の中へと走り去ろうとする。
 しかし、鬼の片割れ……佐藤雅史は慌てて叫ぶ。
「ま、待ってください! 僕らは怪しいものではありません! ……鬼ではありますけど、あなたを捕まえる気はありません! ハクオロさん!」
 傍とハクオロが足を止める。
「……私の、名を……?」

 息を整えると、雅史は言葉の続きを伝える。
「突然失礼しました。僕の名前は佐藤雅史。……ハクオロさん、あなたへのお手紙を預かっています。差出人は……エルルゥさんです」
「……エルルゥだと!?」


【美凪、みちる 決別の意思をハクオロへ伝える】
【雅史、沙織 ハクオロに追いつく】
【まなみ 近くにいる】
【四日目午前 森の中】
【登場 ハクオロ・遠野美凪・みちる・【佐藤雅史】・【新城沙織】・【皆瀬まなみ】】
487名無しさんだよもん:03/11/09 22:24 ID:QHy5Tqng
保守
488名無しさんだよもん:03/11/09 23:51 ID:oHClTC0Y
べつにいいと思うが・・・
489名無しさんだよもん:03/11/10 03:20 ID:hME+vJuK
そろそろ次スレだしね。
490名無しさんだよもん
次スレです……
申し訳ない。タイトルまちがっとる

ごめんなさい! やってもうた。
スレタイ変えてない…… 

葉鍵鬼ごっこ 第七回
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