953 :
名無しさんだよもん:03/08/10 19:43 ID:VHejjocW
乙彼!
>>952 稚拙ながら、今スレも穴埋めSS準備中。
ただいま、長いので分割中。
あとでうpさせてもらいやす。
熱海から帰ってきた僕は、普段の暮らしに戻った。
あいかわらず、つまらない仕事仕事の毎日だったが、
セリィストと判明した先方の担当者や
熱海で出会った、ゴトウさんとのメールのやりとりもあり、
以前ほどには孤独じゃなかった。
そんな時、僕はあの子と出会った……。
[セリィストの午後・軍手]
信号待ちをしていた時だった。
夏の日差しが苛酷に照りつけていた。空は腹だたしいほどに晴天で、
風もない。道路の向こうに陽炎みたいなモヤモヤが見える。
僕は汗だくになり、お得意まわりからの帰り、信号を待っていた。
もう帰社するだけなので、上着は脱いで片手に持っていた。
片耳に差し込んだPDAのイヤホンから、ネットニュースが流れている。
チェック柄のショッピングカートを押すおばあさんが、
よたよたと向こうの方で道路を渡っている。
どこにでもある、夏の光景だった。
…暑い。もう倒れそうだ。
ご苦労なことに、この暑いのに道路工事なんかやってる。
隣の線路脇に、黄色くでっかい(*)マルタイが止まってるんだけど、
そのマルタイよりも大きな作業車がブンブン唸ってる。
地下ケーブルでも埋設し直してるんだろうか?
僕も外回りだけど、この中で肉体労働とは大変だなぁ。
やれご苦労さん、と僕はそれを横目に見ていた。
「…あれ?」
なんだ?作業員にHM-12が混じってるぞ。珍しいな。
初期型らしい。ちっこい身体でしっかり働いてるよ。
すごいなぁ。
あ、でも軍手してないぞあの子。
僕は迷わず、現場監督らしいおっさんに声をかける事にした。
かわいそうだから、というのが第一の理由ではあるけど、
こういう場所でメイドロボを使う場合、人間同様に防御させないと
長持ちしないものだからだ。
メイドロボの怪我は自然治癒しないから。で、
たいがいの場合、そういえばどこの業務でもちゃんと処置をしてくれる。
わざわざ寿命を縮める必要はないんだからさ。
「あの〜、すみません」
「あん?なんだい?」
「つまんない事なんですが、あのメイドロボ、手袋させた方がいいですよ。
皮膚とか痛めたら、そこから水とか入って故障の原因になるんで」
「へ?あんた、ディーラーかなんかの人かい?」
「違いますけど、いちおう整備の資格は持ってます」
嘘じゃない。軽整備くらいしたいと思って資格はとったんだ。で、
一般人のチャチャはこういう人は聞いてくれないけど、
専門家となると結構きいてくれるんだよな。
…でも。
「へぇ〜そうなんだ。そりゃいい事聞いたな。
…まぁでもね、あいつはいいんだよ」
「え?」
「もう破棄が決まってるし…それに今日は軍手が出払っててね。」
嘘だ。単に軍手を消費したくないだけだ。
どうせ廃棄するもんならってんで、余計な金かけたくないんだ。
たかが軍手なのに…なんてせこいんだろう。
「そうですか…ん〜でもなんか見てられないなぁ。
じゃあ、おせっかいついでで僕のあげますよ。よければ
使ってやってください」
そういうと、得意先用秘密兵器である軍手を二つばかり渡した。
え?なんの秘密兵器かって?
僕の得意先ってのは資材倉庫とか持ってるとこが多いんだよ。
ただ商談するだけならいいけど、
忙しい最中なんかだと、ちょっと手伝ってから…なんて事もあるのさ。
せこいといえばそうだけど、こういうのの積み重ねが結構効くもんだ。
現場ではね。
「へぇ。なんだか悪いね」
おっさんは、思ったより気のいい人のようだった。
余計なおせっかいをする僕に怒りもせず軍手を受け取ると、
「おい、ロボット!」
「?」
「ちょっと来い」
「はい。すみません、ちょっとお願いします」
HM-12は頷くと、とことこと走ってきた。…ちょっとあぶなっかしい。
「…なるほど、廃棄前ですね」
「さすがだね。わかるのか」
「アクチュエイターが寿命みたいです。ずっとここで仕事を?」
アクチュエイターが壊れても修理はできる。
でも、分解修理しなくちゃならない。旧式もいいとこのHM-12だ。
最近はここまでいったらディーラー返ししてしまう事もすくなくない。
「あぁ。電話番くらいできるかって買ったんだけどまるで使えなくてな。
事務所に置いとくのももったいないからって使ってるのさ。
コストかかるから人間のかわりにゃなんねえけど、結構よく働くぜ。」
「あぁ、わかります。HM-12は電話番にはちょっと辛いですね。
あ、おいで。手袋つけてあげるから」
「…」
HM-12は、不思議そうな顔をして僕を見ていた。
「あの…」
「おう、この兄ちゃんのプレゼントだ。もらってやんな」
「…あ、はい…ありがとうございます」
僕はHM-12の手をとると、軍手をはめてあげた。
「…」
ずっと道具として使われていたんだろう。あまりAIの学習度は高くないみたいだ。
もしかしたら、何をされているかも理解できてないかもしれない。
「さ、これでいい。ボロボロになったら交換するんだ。
替えがなくなりそうだったら監督さんに頼むか、服といっしょに洗濯するといい。
君がやってるんだろう?」
「はい」
ほったらかしにしては手足や服装がきれいなのを、僕はそう判断した。
業務によっては服も替えずにほったらかしなんて事がよくあるけど、
この子はそうじゃなかったから。
「よし、これでいい。がんばってね」
「はい。ありがとうございます」
お、素直だな。よしよし。
「んじゃどうも失礼しました。お仕事中に」
「いやいや、ありがとよ兄ちゃん」
「いえ」
それっきり、僕はHM-12の事を忘れた。
二ヶ月ほどが過ぎた。
いつのまにか工事は終わり、道路には平穏が戻った。
もちろん、あのHM-12もいなくなった。僕はそんな中、
いつものように帰社するため信号待ちをしていた。
「マスター!」
「へ?」
いきなり、背後から瀬理奈の声がして、僕は跳び上がりそうになった。
会社は自宅から結構距離がある。買い物にくるにしても少し遠すぎる。
いきなりの不意打ちだった。
「な、なんだよ瀬理奈。どうしたのこんなとこ来て…って?」
「……」
振り返って瀬理奈を見ると、彼女は何故かHM-12の手を引いていた。
「……あれ?この子」
「マスターにお届けものがあるという事で、うちに来られたのです。
マスター、携帯の電源をお切りになられてるでしょう?」
「!あ、いけね。さっきA商事さんとこで切ったんだっけ」
「ですから急遽来たのです。この子には時間がありませんので」
「…時間がない?」
僕は、そのHM-12をじっと見て……はたと気づいた。
「ま、まさか君?」
「…」
間違いない。この間の工事現場の子だ!
「で、でも僕に何を?届けものって?」
「…」
無言のままHM-12は、僕に何かを差し出した。
「!」
…それは、見る影もなくぼろぼろになった軍手だった。
繰り返し、繰り返し洗ったんだろうそれは、
元の素材もわからないほどひどいありさまだった。それでも、
きちんと糊をかけたんだろうか、まだ軟らかさを残してる。
「?なぜこれを?僕はこれ、君にあげたんだけど?」
「……」
「?」
「…発声回路が故障しているのです。しゃべれません」
「!…そうか。瀬理奈、通訳できる?」
「はい。…この子のいうには、今日で廃棄が決まったんだそうです。
もうこれは使わないので、お返ししたいと」
「そんな、いいのに。これは君のものなんだから好きにすれば」
「…」
でも、HM-12は首を横に振った。
「…捨てたくない、そうです」
「え?」
「これは大切なプレゼントだから、捨てるのは嫌だそうです。
できれば、それをくださったマスターの手で廃棄して欲しい、と。
メーカーで破壊される場合、服といっしょに取られてしまいますし」
「…大切な、プレゼント……これが!?」
「はい。おそらく、誰かに頂いた唯一のものなのかと」
「……」
…そんな。
ずっと仕事してきたんだろ?いろんな人にも逢って来たんだろ?
それなのに…唯一もらったプレゼントが、
こんな、こんな軍手ひとつだけ!?
「……」
気がつくと僕はひざまづき、HM-12をだきしめていた。
「……」
「服が汚れます、だそうです」
「いいんだ…いいんだよそんなこと…」
かける言葉がみつからない。
僕には何もできない。直してあげることも、もう少しマシな思いでをあげる事も、
僕には、何もできない!
「…今日までおつかれさま。……本当によくがんばったね」
「…」
「いいんだよ、そんな顔しなくて。
そうだ。君、名前はなんていうの?」
「…」
名前はないそうです、と瀬理奈が言った。
ま、そっか。あの監督も、ロボットって呼んでたしな。
「……わかった。じゃあ、軍手は返してもらうよ。ありがとう」
「…」
「代わりに、君に名前をあげる。これなら荷物にならないし取られないだろ?
君が君でなくなってしまうまで、持っていけるよ」
「…」
反応がない。どう返したらいいか困ってるのかな?
「なぁ瀬理奈、君の名前から貰っていい?」
「…はい。かまいません」
「よし………じゃあ君の名前は、理奈。いいね」
「…」
こくん、と頷いた。うんうん、と僕は笑顔を作った。
…ちょっと、崩れた笑顔だったと思うけど。
「ではマスター、会社にお戻りください。まだ業務時間です」
「あ、でも」
「お戻りください。私はこのままこの子を、センターまで送っていきます」
「……」
「ついて来るのはやめてください。…見せたくありませんから」
「…わかった。……じゃあね、理奈」
そう言って僕は、理奈に手を振って立ち去ろうとした。その時、
(ありがとう……マスター)
…言葉を発しない理奈の口が、確かにそう動いた気がした。
「……」
僕はあわてて背を向け、そのまま歩きだした。
願わくば、涙が見えてませんように。
「…」
「大丈夫です。あれは別れを惜しんで泣いているのです。病気ではありません」
「…」
…あとでおぼえてろよ、瀬理奈。
会社に戻って、今日の報告と残務整理をした。
今日はエス工業についての報告があったから手間取ったのだけど、
フロアのHM-13たちがいつにもまして熱心にあれこれ手伝ってくれたおかげで
どうやら定刻で仕事が終わりそうだった。
「…ん?あれ、メールだ」
個人メールだ。誰だ?このアドレスは瀬理奈しか知らないはずなんだが?
『たった今、理奈ちゃんが眠りました』
「……」
メールにはただ、それだけ書いてあった。
(ありがとう……マスター)
理奈の最後の言葉を、ふと思い出した。
本来の主人でない僕を、マスターと呼ぶ。普通はありえないことだ。
でも、僕はその意味を知っていた。
あの子は、箱から出され電源を入れられすぐ、働かされたんだ。
社用メイドロボなんかだとたまにある事で、
その場合所有者が個人じゃないから、
きちんと会話して呼び名を決めてあげてあげるか主人を特に指定しないと、
誰をマスターと呼んでいいのかもわからないんだ。
なんだか、悲しかった。
「?どうしたんだい木下君?元気ないじゃない?」
バーコード頭の課長がそんなこと言ってきた。
「…すみません。友達が亡くなったんですよ」
「!そうか。駆けつけなくていいのかい?かまわないよ?そういう事なら」
どうやら、人間の友達だと思っているようだ。
「いえ、特に必要ないんです。本人がそれを望まないので」
「…そうか。ま、最近はそういうこともよくあるからな。
まぁ、元気出しなさい」
「どうもありがとうございます」
じっと作業パソコンのモニターを見ていると、
事務のえっちゃんがコーヒーを置いていってくれた。
そこには紙片が沿えてあり、
「元気出してください」と書いてあった。
「……ありがとう」
えっちゃんもHM-13だ。こんな機転がきくなんて、すごいな。
僕はカップを持ち、それをゆっくりと飲み干した。
…そっか。みんな、心配してくれたんだ。
机の上の、ぼろぼろになった軍手がさびしそうだった。
なんだか、涙の味のするコーヒーだった。
…おしまい。
…おわりです。
ありがちな内容でごめんなさい。
とっても泣けますた。
えぇ話や。・゚・(ノД`;)・゚・。
だからさぁ…、なんでこーいう話書くかなぁ〜…。
最近年食った所為か、涙腺弱くなってるんだよ〜
ホロリどころかジョビジョバになっちまいそーじゃねーかぁ!(ノД`;)・゚・。
良きお話を読みました。
ありがとう
|ノД`)・゚・。 ・ ゚ ・ 。 ・ ゚ ・ 。
理奈ちゃん。・゚・(ノД`;)・゚・。
ドライアイ気味だったのだが、一発で潤いを取り戻した感じで、その、ありがとう
>>954 久しぶりにSSを読んで泣きました。
ありがとうございます。
あ・・・なんか・・・久しぶりに心に響く話だった・・・
最後はどうか・・・幸せな記憶を・・・
理奈との別れに涙するのと同時に
おそらくはちょっとジェラシってる瀬理奈に萌え(w
「私の知らない間によその子(HM)にプレゼント……(ジト目)」
ナイスカールビンソン ・゚・(ノД`;)・゚・。
978 :
名無しさんだよもん:03/08/11 00:31 ID:2MIKjhrg
どうもです。多大なご評価、光栄です。
さて、
>>マルチプルタイタンパ
はい、そうです。注釈忘れてました。
>>ナイスカールビンソン
そこまで読んでいただき、ありがとうございます。
はい。マルチプルタイタンパー君にひっかけてました。
>>976 …わりとジェラシっ子に育ってます。
前スレの穴埋めでは、よそのHM-13に膝枕されてたし。
…でも、人間の女の子には全然モテないんですよね。
きっと、「いいひと」すぎるんでしょう。
ちょうど今日熱海に行って来たワケだが…
・゚・(ノД`)・゚・
くっ……
涙腺ゆるいよ、最近の俺……
話に泣かされたのもそうだが、こんな話を書けない自分が悔しいわ。
くっ。
ありがとう。
これで「家来るか?」なんつって引き取ってたらただの駄作だったな。
きっちりケジメを付けた主人公には好感が持てる。
>947のインタビューは面白いな。
人間でも「無意識」と「身体的な反応」を選別する事は困難だし。
セリオさんも精神と肉体、つーか、
ロボット的な部分と精神活動(無意識も含めて)に明確な線引きは出来ないような気もする。
985 :
名無しさんだよもん:03/08/11 21:22 ID:KV0XfU6G
986 :
猫アルク:03/08/11 23:52 ID:aTGn/xgy
いい話ですにゃぁ。
猫だけど涙しました。
関係にゃいけど、俺の今の壁紙蚊取り猫アルク。
>>986 セリオスキーでバイク糊か、おめでてーな。
・・・漏れモナー。
989 :
名無しさんだよもん:03/08/12 02:15 ID:LhzP6djH
990 :
:03/08/12 05:40 ID:U3OVFz/7
作業員のおっちゃんも、名前をつけると情が移るから、という
理由があったのやもしれんですな。
992 :
:03/08/13 03:27 ID:JX3RHDxs
おはようせりお
おはせり。
SERIO−A、TOP絵〜。
>理奈
(´д⊂
今回のSSは泣けるな…
ああ…
私……なんて…
幸せ者…
なんでしょう……
美しい… 森の…中で…
こんなに…
たくさんの 方々に…囲まれ…て…
生きて…き…て…
よかっ……
ます… … …たー
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1001:
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もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。