気楽にSS その3

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716長谷部悠作 ◆QaQ4.DcHqQ
目覚めが悪いというか、何か変な気持ち悪さを頭に残したような気分だ。
気持ち悪い何か…そうだ、例えれば油の上の虹色を
そのままぶち込んだような、そしてそれをぐちゃぐちゃにかき混ぜた感じ。
ぐらぐらとして頭が取れそうだ。
あぁ、もう面倒だから頭を取ろう。こうなったらやけだ。
俺は自分の頭をくるくると回転させて、取り外した。
手の上に置かれた俺の頭は、猿の顔をしていた。
茶色い毛に覆われた赤く堀の深い顔。

首に巻かれた鎖は俺の部屋に繋がれている。
どこまでもどこまでも遠くまで伸びるらしい。
あぁ、迷わなくて済む!すばらしい生活!

そうだ。あかりはまだかな。
俺は時計を見た。いちいち手に持った頭を時計の方に
向けなくては行けないのは面倒だったが、もうどうでもよかった。
いちいちまた付けなおす方が面倒だから。

時計の上では志保が白い蟻に乗って、昔はやったような
西部劇の真似事をしていた。両手にはピンク色のレーザーガン。
「よぉ、おはよう」
「あら、浩之おはよう」
彼女はそう言いながら僕にレーザーを向け、トリガーを引いた。
ビームは俺の足を吹き飛ばし、その断面からまた新しい白い足が
ぬるぬると生えて来る。気持ちがいい、すがすがしい。
「どう?」
「最高だ」
俺の頭の中では志保はすっぱだかで俺に犯されているのに、
あまり気にしていないのか、彼女はシロアリにむしゃむしゃと食べられている。
717長谷部悠作 ◆QaQ4.DcHqQ :03/11/22 22:33 ID:+ERw+SLW
外に出ると水色のロケットに乗った琴音ちゃんがいた。
彼女はいつものようにイルカの燻製を食べながら、彼女の日課らしい、
両手に抱えた写楽の絵の破壊に勤しんでいた。
「おはよう、今日は早いんだね」
俺は彼女にそう声をかける。
「あら、浩之さん。昨日のサボテンはどうなりました?」
「あぁ、20メートルくらい伸びたらさすがに痛くてね」
「捨てたんですか?」
「食べたよ」
「それはよかった…」
「何か理由でも?」
「あれが捨てられると、また公害でうるさいんです」
「なるほど」
彼女はそうしてもう一度、写楽の絵に落書きを開始する。

白い馬に乗った綾香が、彼女の姉である芹香先輩を引きずりながら
俺の横を通っていった。
俺はそこらに落ちていた爆弾を彼女達に投げ、こっちに気付かせよう
としたのだが、彼女達の体はばらばらに吹き飛んでしまった。
仕方が無いから彼女達を戻そうとパテでくっつけたのだけれど、
パーツがいくつかタリなかったので、心臓の変わりにタンバリンを入れた。
彼女達は白い馬からにょっきりと生えた姉妹になった。
手は片方が芹香で、逆が綾香。
足もそう。
「ありがとう、これで離れないで済むわ」
綾香が言った。先輩は何も言わなかった。
彼女達の白い逞しい胸から、タンバリンの弾む音を聴いた。
718長谷部悠作 ◆QaQ4.DcHqQ :03/11/22 22:35 ID:+ERw+SLW
「浩之ちゃん、こんなところにいたんだ」
あかりが地面から顔を出してそう言っていた。
「よぉ。今日も元気そうだな」
「うん、雨も降らないし」
「晴れの方が気持ちいいよな」
彼女は地面から出ている首だけを器用に使い、頷く仕草をする。
「弁当、ちゃんと持ってきたの?」
あかりも随分と世話焼きなやつだ。
「いや。別に腹減らないし」…」
俺は言いながら、彼女の頭を地面から抜き取り、
俺の頭を持ってるほうとは逆の手でそれを抱えた。
羊が13匹いる。
きりんが52匹いる。
ぞうが半分。

虹の上を歩くと、雅史と琴音がロケットに乗り海に向かっていた。
レミィは白い布に乗せたマルチと葵のパーツを付け替えて遊んでいたが、
すぐに飽きたのか、それを川へと捨てている。
委員長は律儀に、そのパーツをひとつひとつ拾い上げ、そこに
自分の名前を油性のピンクのペンで書いていた。
川は遠くまで繋がっている。永遠にどこまでも繋がっている。
全長5キロメートルはあるサボテンが笑いながらそこを泳いでいる。
俺達は虹の向こうにある巨大な卵を割りにいく。
卵はでかい。無茶苦茶でかい。
でかすぎて視界に収まらない。
昨日やっと、カラがちょっとだけ壊れた。殻の厚さは50メートルくらいだった。

でも、卵は今日、羽を生やして飛んでいってしまった。
あかりはマルチと葵のパーツで作った群青色のミサイルでそれを
追い駆けていってしまった。
僕は一人で、虹の上に座った。
世界はどこまでも続いていた。