気楽にSS その3

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704名無しさんだよもん
―来栖川製の汎用メイドロボット、HMX−12型。
通称マルチと呼ばれる彼女は、バグ持ちだった。
労働力として作り出されたロボの癖に、すぐに仕事をさぼる事ばかり考える。
気に入らない事があれば、人間に聞かれないよう心の中でそっと愚痴る。
サボりが見つからないように色々と細工する等と、中学生レベルの悪知恵も働く。
人間なら「だらしない」の一言で済むが、仕事が嫌いなメイドロボなど論外である。
プログラム通りに仕事をこなし、そこに自らの感情など挟まない他のロボとは大違いだ。
「面倒臭い…もう帰ろうかな」
メイドロボが決して口にしてはいけない言葉を吐きながら、廊下端に立て掛けてある鏡を見る。
周りを警戒する猫の目ではなく、それは待ち人の目だった。
この学校には、自分を馬車馬のように扱う人間がほとんどだが、中には変った人間もいるのだ。
見ず知らずのメイドロボの仕事を理由もなく手伝ってくれるような、一風変った感性の人間。
変わり者。そう、彼は悪い人ではないが変わり者だった。
マルチが、他のメイドロボと違うように。
「こらっ! サボるな!」
背後からいきなりの怒号に、油断していたマルチは尻を十センチほど浮かす。
見つかるとは思っていなかっただけに、激しく狼狽し思考回路が一瞬停止するほどだった。
サボっている所を、これほど完璧な形で見つかったのは初めてなのだ。
物事に絶対は無い。鏡は自分の死角を見通すことができるが、それによって新たな死角も生まれる。
策士、策に溺れるとはこの事か。マルチにまた一つ、苦い人生経験が増えた。
(まずは、落ち着いて…状況を整理…)
背後に立つ相手は誰だろう。掃除をさぼる生徒を悪と認識するのは教師くらいか。
事なかれ主義の現代教師なら大事にはならない。が、体育教師などの生徒指導系はまずい。
もし事が発展して、万が一上に報告されたら、色々と不利益を被ることになる。
何か上手い事を言って、場を切り抜けねば。
この状況で言い訳は不味い。ここは変に口答えせず正直に………泣き落としだ。