気楽にSS その3

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680名無しさんだよもん
唐突に掃除がダルくなったマルチは、モップとバケツを放り出し上履きのまま学校を出る。
靴に履き替えるのも億劫だった。どうせ後で自分が掃除するのだから構いやしない。
特に行くあてもなく、ぶらぶらと町を歩く。
時々こうして、訳もなく無気力になる事が多い。バグだろうか。
仕事に嫌気がさした訳ではない。自分は掃除が好きだし、人間の役に立たねばというプログラムに不満はない。
級友から掃除を全て押し付けられるのは日常茶飯事。
昼ご飯の調達係りは当然として、さらに代金を払ってもらえなかった事もあるが、それも仕事だと割り切っている。
しかし現にこうして精神的なバグが出ている以上、ストレスは知らないうちに溜まっていたのだろう。
このバグを上に報告するか思索を巡らせていると、人通りの多い商店街についた。
同じ場所をうろうろするのも視線が痛いので、金が無くてもたむろできるゲーセンに足を運ぶ。
そう。テスト稼動中のメイドロボは、必要最低限以上の金銭所持を認められていないのである。
これではゲームどころかよけいな駄菓子すら買えない。買ったらバスに乗れない。
テスト稼動中というわずかな自由を前に、この仕打ちはどうか。メイドロボだって格ゲーやりたいと思う時くらいある。
運用テストの項目に娯楽の欄を追加して欲しいと頼もうか真剣に考える。
ただでさえテレビの話題についていけずに窮屈な思いをしているというのに、このうえ男子生徒の最頻出娯楽であるゲームの話題をも奪おうというのか。
店内の椅子に座って一人難しい顔をしていたマルチは、男子生徒のくだりで破顔する。
学校に通い始めて出来た、唯一の友達である男子生徒。
彼はいい人だ。人間様だというのに、どんな酔狂かメイドロボに対して色々手伝ってくれる。
彼の下で働く事ができるなら、きっとこれ以上ないほど楽をできるだろう。
真面目に掃除洗濯、適当に料理。午後はテレビ三昧などという贅沢も許してくれそうだ。
しばし妄想に浸ったあと、ひたひたとゲームセンターから出て学校へ戻った。
「……」
一連の行動に、一体なんの意味があったのだろう。
モップを水に浸しながら考えた。