アンドロメダ銀河まで残り200万光年。
そこで立ち尽くす。
――岡崎朋也航宙日誌より
CLANNAD
―クラナド―
まだ地球上に、海と陸がそれぞれひとつだったはるかな太古。
その船は、クラナドと名付けられた。
恒星間航行船“CLANNAD”――ゲール語で「家族」を意味する言葉。
地上のあらゆる生けとし生きるものを、ひとつがいずつ収めた巨船。
選ばれたヒトの男女の名は、トモヤと、ナギサ。
「見つければいいだけだろ」
人々の期待と歓声を背に、船は空へ旅立つ。
あまねく天の星々に、生命の楽園を築くために……。
楽園への渇望は、ついに叶うことはなかった。
「朋也くん、変です! 通信が!?」
*こコハ わタクシどもノ ウチュう フミアらすコと ゆルサぬ*
姿なき来襲者。
光にも敵うばかりの速度、幾世代の生命を収めうる巨躯を誇る船に、異変が起こる。
人類の知恵と技術の粋たるクラナドに、挑みかかる敵。
*オマえは チキュうかラ キた おトコか?*
「何だよ、何なんだよ! 知的生命なら礼儀正しくしやがれ!」
*わタクシは オマえを コろシ シンの おトコとナろウ*
無音の空間を、無数の光が走る。
要する時間は、ほんの一瞬。
船の構造材は無残に引き裂かれ、同乗した生物の過半は焼き殺された。
戦うことを目的とせぬ船。
乏しい武器。ただ破滅を先延ばしにするだけの巨体。
辛くも敵を退ける頃には、船はもはや本来の使命を果たせなかった。
光の速さへの挑戦。
数年の旅から戻ってきた船を迎えるのは、数億年の時を経た地球。
大陸が五つに分かれ、海洋が七つに隔てられる頃、
時間の大河は、既に人々の記憶を忘却の地層に押しやっていた。
「……何もかも、変わらずにはいられないです」
それは、人の手が枉げることを許さない、科学の真実。
男は決然と、告げる。
「次の楽しいこととか、うれしいことを見つければいいだけだろ。
あんたの楽しいことや、うれしいことはひとつだけなのか? 違うだろ」
そう。
何も知らなかった無垢な頃。
誰にでもある。
俺たちは登り始める。
長い、長い坂道を。