気楽にSS その3

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589名無しさんだよもん
妖刀ムラサメ。北川はそう言った。
家宝の刀だ。快く貸してくれた。
「何かあったら遠慮なく呼んでよ」
「あぁ、わざわざありがとな。」
詮索もせずに帰っていった。気の利くやつだ。
辺りはすでに、日が沈んで蒼暗い。ススキが月を浴びていた。
一気に駆け抜けた。つま先立って、空を飛んだ。
学校の正面まで来ると、流石に太ももあたりが痛かった。
目の前の校舎がドス黒い。
ガラスを通して、邪気がうごめく。はらわたにひびく、生ぬるい風。
肩に背負ったムラサメを手前に降ろして、一度深呼吸をする。
気合と同時に、抜刀する。鈍く、そして恐ろしく、重い。
・・うぉおおぁあああーー!!
突きを噛ましつつ、三角飛びで宙を斬った!
バチバチバチィッ!!とカミナリの爆ぜた音が聞こえたかと思うと、
廊下のタイルが四方中そこらに飛び散った!!
煙が黙々と立つ。すぐに奴の気配がする。そら、すかした!!
腹辺りに斬り付けると、前から身を分散させた。
凄まじい風と共に、見えない波動が、俺を歪める。
590名無しさんだよもん:03/09/16 02:35 ID:DEpAAJKI
ぐぬぅうぁがはあああ!
比較にならん強さだ。舞を、今舞をここに連れてくるわけには
いかんのだ!! 転げた体を立ち上げ、血を拭って剣を両手持つ。
閃光を放ち、前がぐらついたかと思うと、今度は背後から。
刀を斜めに押し上げ、それに対処しつつ、後退して態勢を整える。
「祐・・一・・。」
突然背後から女の声がする。・・舞だ。
「ダメだ! ぐっ・・! 舞ィ! 帰るんだ!!」
みぞおちを抱えて足を引きずる。舞はいつものように剣を構えようとする。
心なしか、舞が影に、飲み込まれそうだった。
「下がるんだ、舞!」 「祐一、前!」
慌ててそれを避けると、刀を盾に舞に駆け寄った。
「今日はぁ・・ 安静にして・・ 佐祐理さんと・・はぁ・・はぁ・・
 一緒に居るって・・ 約束したじゃないか・・!」
「ダメ・・ 舞の・・ 赤ちゃんも悲しむから・・」
「えっ? 赤ちゃん?」
「そう・・ お父さんといないと・・ 寂しいから・・」
顔が真っ赤になっていた。俺は、おどおどして舞を見た。
「調子が悪いって・・ 吐いたりするから・・ 病院にも行って・・ 
 ・・つわり! 俺が、お父さん!?」
591名無しさんだよもん:03/09/16 02:36 ID:DEpAAJKI
眼に、小さく涙を溜めていた。
もう、戦いどころじゃなかった。舞の頬にやさしくキスをした。
舞も、俺に体を預けてくれた。
舞の俺を見ている眼が、やけに艶っぽかった。
細い指で、俺の顔を優しく撫でる。
腕を頭から抱えて、舌を絡ませてキスを繰り返す。
肩から抱きしめると、少し冷たかった。
「ずっと、ずっと一緒だよ・・ 祐一・・。」
「あぁ。ずっとだ。」
そう言うと、舞は俺に忘れることのできない笑みをくれた。


そういえば”奴”の気配がさっきからなくなっていた。
月明かりを浴びた妖刀が、鈍く光っていた。