某スレの魑魅魍魎共に捧げるU-1Kanon〜あゆ編〜
俺が商店街を何の気もなしに歩いていると、突然背後から大声が聞こえた。
「うぐぅ〜!どいてどいて〜!!」
「誰かそいつを捕まえてくれ!食い逃げだ〜!!」
相沢流殺人術免許皆伝特別師範代の俺は振り向くのと同時に背後の人物に当身を喰らわせる。
「うぐっ…!?」
見れば小学生ぐらいの女の子がグッタリとして俺の手にぶら下がっていた。
「いや〜、どうもありがとうございました」
少し遅れてエプロンを首から提げたおじさんが走ってきた。
「この娘は食い逃げの常習犯でしてねぇ。私も困っていたんですよ」
「いえいえ、当然の事をしたまでですよ」
「それじゃあこれから警察に行かなければいけないので…おらっ!立たんかっ!」
おじさんはうずくまって震えている少女を無理矢理立たせた。
「うぐぅ、許して!ごめんなさい!警察だけは許してください〜!」
「何言ってやがる!何度目だと思ってるんだっ!」
俺は良い事をした後の爽やかな気分と共に、おじさんに連れて行かれるうお〜ん泣きをする少女を見送った。
某スレの魑魅魍魎共に捧げるU-1Kanon〜栞編〜
「どうしても栞を助けたいか?」
俺は香里に尋ねた。
「そんなの当たり前じゃない!でも…起こらないから奇跡って言うのよ!」
香里の痛々しい叫び、だが俺はそんな香里に対してあくまで冷静に答えた。
「俺なら治せる」
「え…?」
「俺はこう見えても医療の方も多少嗜んでいてでね。何…俗に言うモグリってやつだけどな」
「治せるの!?」
「ああ、栞の病気を治せるのは俺だけだ。だけど手術には少々金が必要だ」
「…いくらなの?」
「そうだな…一千万円払ってもらおうか!」
「一千万円!?それはいくらなんでも暴利だわ!」
「そうかな?俺だったらたった一人の妹のために一千万円払う事ぐらいなんでもないぜ」
「…払うわ。一生かかってでも、この体を売ってでも払うわ!」
「その言葉が聞きたかった。それじゃあこれから手術を始める。出て行ってもらおうか!」
しずしずと手術室から出て行こうとする香里の背中に俺は言った。
「奇跡なんてものは起こらないさ。俺が栞を治せるのは事実なんだからな」
某スレの魑魅魍魎共に捧げるU-1Kanon〜真琴編〜
「そうか。真琴、お前はあの時の狐だったんだな」
「あ…う〜……」
「俺があの時お前をものみの丘に捨てたから、成仏できずに俺の所に戻って来たってわけか」
「あ……う……」
「待ってろ。今、お前の魂を救ってやるからな」
そう言いながら俺は真琴に向かって左手をかざした。
俺の左手には仏舎利が組み込まれている。これはどんな魂も、たとえ悪霊でも成仏させるという代物だ。
「あう……ゆ…いち……」
そのうちに俺の左手は淡い光を発し始め、真琴の存在がだんだんと希薄になっていくのがわかる。
「ゆ…いち……ゆういち……」
最後に真琴は微笑んだ。
「祐一、ありがとう……」
真琴が消えた後も俺はしばらくその場を離れられなかった。
「あばよ、真琴……」
某スレの魑魅魍魎共に捧げるU-1Kanon〜舞編〜
五匹の魔物が同時に俺に向かってくる。一人ずつ始末しようって腹か!
「…!祐一!逃げて!」
舞の悲鳴のような叫び声が聞こえる。だが五匹の魔物による同時攻撃は常人には避けられるものではない。
「…常人にはな」
もし魔物に視覚という概念が存在するのならば見えただろう。にやりと口の端を歪めながら軽々と魔物の攻撃を全て回避する俺の姿が。
「相沢流殺人術免許皆伝特別師範代のこの俺にそんな攻撃が通用するとでも思ったかっ!」
俺は持っていた日本刀を左手に持ち替えた。左手に組み込まれた仏舎利に反応して日本刀が光り輝く。
「これで…終わりだぁー!」
一閃。その一撃で五匹の魔物は全て消滅した。深夜の校舎を舞台にした戦いはたった今その幕を降ろしたのだ。
「やったぞ!舞!」
「祐一……」
舞は呆然と俺を見つめたまま、やがて床に崩れ落ちた。
「舞!どうしたんだ!?」
「……魔物は…もう一人の私だったの……全ての魔物を倒した時…私は……」
俺はその言葉だけで全てを悟ってしまった。
「だったらなんでもっと早く言わなかったんだ!」
知っていたら、別の方法だってあったかもしれなかったのに。
「これで…いいの……これで…学校の皆が私に怯える事もなくなる……これで…佐祐理も私のために辛い思いをしなくてすむから……」
「そんな…そんなのって!」
「ありがとう…祐一……」
舞はそう言って微笑みながら逝ってしまった。
「……馬っ鹿野郎!お前それじゃ、真琴とオチが一緒じゃないか!!」
それが俺が見た最初で最後の舞の笑顔だった。
某スレの魑魅魍魎共に捧げるU-1Kanon〜名雪編〜
「どうしても、行っちゃうの?」
「名雪……」
名雪は泣いていた。
「わたし…祐一と離れたくないよ。一日だって離れていたくないよ!わたし…せっかく祐一と一緒になれたのに……」
「すまない、名雪…この世界には俺の力を必要としている人達がまだたくさんいるはずなんだ」
「祐一のバカっ!」
「名雪……」
「ほんと、バカなんだから……」
そっと、俺から名雪が離れた。
「…ゴサンデー7つ」
「へ?」
「イチゴサンデー7つ。わたし、ずっと待ってるから。ずっとずっとこの家で祐一の事、待ってるから!」
「…ああ!俺は必ずビッグになって帰ってくる!秋子さんにも奢ってやるよ!」
「うんっ!行ってらっしゃい!」
そうして俺は水瀬家を旅立った。まだ見ぬ、俺の力を求める者を探す旅に。
俺がこの家に帰る事ができるのがいつになるのかはわからない。
だが俺は挫ける事はない。いつも、いつまでも、あの家で名雪が俺の帰りを待っていてくれるのだから。