葉鍵キャラをペットにしたい

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183名無しさんだよもん
 俺は歩くのが速い。
 雑踏を歩くと、前の人を追い抜かずにいられない。
 だからその場を通り過ぎるのは、一瞬だった筈だ。ほんのちょっとずれて
いれば、それが届く範囲から離れていた筈だ。
 だがそれが響いたのは、丁度俺の耳に届く距離でだった。
「にゃあ」
 聞き逃してもおかしくない、小さな声。
 気付かない振りをして通り過ぎる事も出来たが、実家で飼っていた為か、
思わず立ち止まり、道端に置かれた段ボール箱を見てしまう。
 止めておけ、と俺の中のクールな部分が囁く。以前拾ったそれの中には、
ガリガリに痩せ手の施し様の無い赤ん坊が入っていた。
 30秒ほど悩んでから、とりあえず中身を確認する事にする。
 見てしまえば、見捨てることは出来ないだろうが。
『名前は楓です。可愛がって下さい』
 能天気な走り書きがむかつく。
 しかしその中身は、俺の予想とは大分外れていた。
184名無しさんだよもん:03/06/12 00:53 ID:oD575mqa
 蓋を開けて目に飛び込んだのは、ちょこんと正座した女の子だった。
 バービー人形くらいの大きさ……か? その辺の知識は無いけど。
 肩口で揃えた髪が日本人形っぽいけど、顔や体型はかなり写実的だ。
 服は着てなく、黄色い布を身体に巻いている。
 露出した肩周りの素肌が艶かしい。って、人形相手に何興奮してるんだ?
 そう、精巧に出来た人形。彼女を見た瞬間から、そう信じて疑わなかった。
 このサイズの人間など、いる訳ないから。
 けど、さっきの猫の鳴き声は?
 ほんの数秒でそこまで考えてから、彼女が口を開いた。
「こんにちは」
 顔に似合う可愛い声。
「楓といいます。どうかよろしくお願いします」
 ぱたん。
 蓋を閉めて、硬直する。
 あのサイズの人間など、いる訳ないから。
 そう、いる訳ない。何かの見間違いだろう。
「あの〜、話だけでも聞いて下さい」
 そうしている間にも、彼女の声はダンボールの中から聞こえ続けている。
 聞こえているんだから、しょうがない。
 自分でも驚くほどあっさりと開き直り、再び蓋を開けた。
185名無しさんだよもん:03/06/12 00:54 ID:oD575mqa
「何してるの?」
「飼い主を募集しています」
 妙に平静な俺の問いに、彼女は更に平静な口調で答える。
「何で?」
「この身体では一人で生きて行けませんから」
「家族は?」
「この身体では帰れませんから」
「そっか」
 つまり彼女は、もともと普通の人間だったけど、このサイズになったらしい。
「って何でやねん!」
「知りません」
 突っ込みにも、見事なまでの平静っぷりで答える。
「食事は食べ残しで良いです。トイレその他のしつけも不要です」
 無機的な口調で、ペットとしての自分を売り込む。
「あ、これ少ないですけど、持参金です」
 そう言って、普通サイズの財布を差し出す。中身は5千円1枚と千円札数枚。
 持参金持ちの捨てペットなど、前代未聞だろう。
 別にそれが決め手では無かったけど、
「とりあえず、うち、来る?」
「はい」
 彼女を連れ帰ることにした。
「制服も入ってますから、箱ごと持っていって下さい」
「へいへい。そういやさっきの鳴き声は?」
「誰も拾ってくれなかったので、猫の真似でもすれば拾ってくれるかと」
「そんなの成功するか?」
「成功しました」
「そうだっけな」
 この上ない異常事態なのに、マイペースな彼女に釣られたのか、家までの
道中も間抜けな会話を交わすだけだった。