とにかくモンスターは全面禁止でいいと思う。
麗子の結界はどうしましょ?
まあ他のキャラもいるし急いで結論出すことでもないでしょう
今いない人の意見も必要ですしじっくりいきましょう
>>200 ごめん。超神社の前例ってなに?
ハカロワかなにか?
そういう例をだされても・・・その・・・困る。
>>203 それに関しては、作者の見解を聞いてみたいですね。
宝箱、使うなら、食料オンリーが希望。
アイテムが入っているとなると、屋台の存在価値が薄れるような。
208 :
207:03/04/07 00:22 ID:9rK3p2nK
……いいかんじ。
忘れてた。
うぁーん。
あ〜、伸びてると思ったらSSじゃね〜のかよ
なんでもいいから早く結論だして、この「作品を投下しづらい空気」をなんとかしてってくれや
>>195も言ってるが「ただの巡回スレのひとつ」として投下されたSSだけ読みに来てる奴にはホントどうでもいいんだわ。
続きは得意のなんとか掲示板でやってくれ、マジで
>>209 ま、色々あるんですよ。もうちょい我慢してくだせぇ。
ということで意見をば。
・ダンジョンモンスターロボは無しの方向で
・麗子の結界はオリ要素があるんでリライトキボンヌ
このままの流れでいくとなると、オーガバトルは
モンスター削除・結界再検討の半分リライト版を筆者に要求?
もしそうなら、あれって結末がモンスターがいないと成り立たないから難しいな。
>>209 外部掲示板で結論を出すのを、見えないところで仕切ると
気持ち悪がる奴もいるんだからお前の意見を押し付けるな。
213 :
皇の朝:03/04/07 01:28 ID:kF9/Pr+J
「うーむ、やはり雨か」
目を覚まし、ハクオロは空を見上げて呟いた。
「……雨ですね」
「雨だな」
後ろから出てきた美凪とみちるも揃って呟く。
ハクオロの勘は当たった。
昨夜、エルルゥを撒いた後、身を隠すため森の中で一夜を明かそうとした一行ではあるが……
『……空模様が怪しい。明日……いや、朝には降るな……』
というハクオロの一言に従って、雨をしのげそうな場所……それでいて人、つまりは鬼の集まりにくい……洞穴を探していたのだ。
結果的に言えば洞穴は見つからなかったのだが、大きな木の『うろ』を見つけ、3人でそこで折り重なるようにして就寝した。
まぁハクオロは他の2人の犠牲になり、かなーりイヤンな感じの格好で眠ってしまっていたから、
「腰が痛い……」
という状態になってしまっているわけであるが。
「……大丈夫ですか?」
さすりさすり。
「あ、ああ……ありがとう、美凪」
漏らしてしまった一言を聞きつけ、美凪がかいがいしくハクオロの腰をさする。
「……私たちの為に……すみません。ハクオロさんに、このようなご苦労を……」
「い、いや、気にするな。お前たちを守るのは私の使命だからな。これくらい軽いものさ」
……男の腰を撫でる女。
まぁ、見ようによっては……アレな感じだ。
214 :
皇の朝:03/04/07 01:29 ID:kF9/Pr+J
「……ところでみちるはどこだ?」
「……ええと確か、このあたりに……」
そろそろツッコミが来るだろうと思い、身構えていたハクオロ。だが意外にもいくら待っても腰の乗ったいいミドルが飛んでこなかったので、逆に不思議に思った。
「……はぁなるほど、あの方があるじ様の新しい……」
「うんうん。ずーっと美凪のことをスケベな目で見てる。絶対あれは何か狙っているよ」
「フフフ……相変わらずお盛んですわね」
……いた。
少し離れた場所で。
「お前は……カルラ!」
カルラと一緒に。
「おはようございますあるじ様。いい朝……」
と言いかけたところで、空を見上げる。
「……とは言えませんけど」
「カルラ、お前、いつの間に来てたんだ?」
全く気配を察知できなかったハクオロさん。かなり情けない。
「あら? 一晩中、ですわ。昨夜エルルゥに追われてあるじ様が脱兎のごとく逃げ出していた場面。あのあたりから」
……やや気まずい沈黙。
「で、夜は? どこで寝ていたんだ?」
「あるじ様たちがお休みになっていた木。そのすぐ上で。私たち、折り重なるように」
全然気付かんかったハクオロさん。
「そ、そうだそれよりカルラ! お前昨晩、夕飯代を……」
そう。もとはと言えば借金が結構な額になってしまったのはカルラのせいだ。ここは取り立てなければ。
「ああそのことですわね。全く申し訳ありません。私としたことが。まさかあるじ様が文無しになっていたとは」
「うっ……」
痛いところを突かれた。
「本当、驚きました。まさかあまねく諸国を統治し、文武を尽くして民を治め、賢帝名高いハクオロ皇がこんな孤島の外れで赤貧に喘いでいるとは思いもよりませんでしたので」
うぐぅ、うぐぅ、うぐぅ。
「……アルルゥにサイフの中身を持って行かれてしまったのでな。まぁそれはいい。ともかくカルラ、お前の分は返してもらえるのだろうな。知っているだろうが、今私は借金に追われる身なのだ」
とりあえず何と言われようが、金が入れば万事オーケーなハクオロさん。これでもトゥスクルの皇様。
「無理ですわ」
即答された。
215 :
皇の朝:03/04/07 01:30 ID:kF9/Pr+J
「実は私も身銭は持たないたちでして、お返ししようにも現金がありませんの。というわけなのであるじ様、その類い希なる知恵と知識でどうにかしてくださいな」
そんなこと言われても。
「か、カルラっ! お前、人の借金まで私に肩代わり……」
さすがにそれは看過できないハクオロさん。一喝しようとするが……
「そらさいか、優しい優しいハクオロ皇が私たちの分の借金まで引き受けてくださるそうです。きちんとお礼をしなさいな」
「うにゅ……」
「ほら、目を覚まして。しゃんとしなさい」
……カルラは背負ってた幼女をゆり起こし、地面に下ろして2人、並ぶと……
「あるじ様、毎度毎度ありがとうございます」
「おじさん……ありがと」
……そろって頭を垂れた。
「あ、ああ……」
天使の笑み。幼女の笑み。……ハクオロさん、負けです。
「……強く、生きろよ」
結局ハクオロはそのままカルラを見送ることにした。ことにしたというか、せざるをえなかった。
「もちろんですわ。一度預かったからには、どこかの誰かさんと違って最後までしっかり面倒は見ます。さいかは最後まで私が守りきってみせますわ」
「そうか。ならいいんだ」
なんだかんだ言いつつもそう断言するカルラにハクオロはホッとするものを感じた。
「私たちも一応優勝を狙っている。お互いライバル同士ということになるが……」
「互いに、健闘を祈りましょう。どちらが勝っても、恨みっこなしですわ」
「ああ」
「ばいばいね、はくおろのおじさん」
カルラの背中からさいかが小さな手を振る。
「ああ、ばいばい」
「……さようなら」
「がんばれよー」
それに答えるハクオロ一行。
「では、失礼致します……。縁があれば、また」
一言残すと、カルラの姿は一瞬にしてかき消えた。
まるで、彼女の体そのものが朝靄になってしまったように。
「……で、ハクオロさん」
ややあって、美凪がポツリと漏らす。
「ん、なんだ?」
「……結局のところ、借金はどうなさるのですか? 怖い怖い取り立て屋さんは待ってはくれません……。それこそ、親が倒れようと、子が泣こうと……」
「うにゅ……。借金生活は辛いよ……」
「……そうだったな」
泣こうが喚こうが、借金は逃げてくれない。ハクオロは頭を抱えつつ。
「とりあえず、アルルゥを探すしかあるまい。アルルゥさえ探し出せばサイフが戻る。そうすれば借金も返せる。……今夜までに、アルルゥを探すぞ」
【カルラとハクオロ 別れる】
【カルラ・死の裁可 どこかへ消える。優勝狙ってる】
【ハクオロ・遠野美凪・みちる とりあえず借金を返すためアルルゥ探し】
【結局カルラの分も借金を背負うことに】
【時間:3日目朝 場所:森の中 天候:雨】
死の裁可ってなんだよ。
訂正。
死の裁可→しのさいか
死の裁可ワロタw
死の裁可、最高(笑
WA:七瀬彰、緒方英二、
(【藤井冬弥】、【森川由綺:2】)、【緒方理奈:3】、【河島はるか】、【澤倉美咲】、【観月マナ】
>>184-186、【篠塚弥生】
こみパ:千堂和樹、(高瀬瑞希、九品仏大志)、(牧村南、風見鈴香)、
(猪名川由宇、大庭詠美)、御影すばる、立川郁美、澤田真紀子、
(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)、【芳賀玲子】、【塚本千紗:2】、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】)
NW:城戸芳晴、ユンナ、【コリン】、(『ルミラ』、『アレイ』)、(『イビル』、『エビル』)、
(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:江藤結花
>>149-152、高倉みどり、【宮田健太郎:1】、【スフィー】、【リアン】
>>146-148、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)、岩切花枝、杜若きよみ(黒)、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】
>>165-169、【杜若きよみ(白)】、【御堂:6】
>>153-154、【光岡悟:1】、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ
>>213-215、(アルルゥ、カミュ)、ユズハ、ベナウィ、クロウ、カルラ
>>213-215、クーヤ
>>146-148、サクヤ、
【エルルゥ】、【オボロ:1】、(【ドリィ】、【グラァ】)、【ウルトリィ:1】、【トウカ】、【デリホウライ】、
【ゲンジマル】、【ヌワンギ】、【ニウェ:1】、【ハウエンクア】、【ディー:6(6)】
>>160-163、『チキナロ』
Routes:(湯浅皐月、梶原夕菜)、リサ・ヴィクセン
>>153-154、
【那須宗一:1】、【伏見ゆかり】、【立田七海】、【エディ】、【醍醐】
>>184-186、【伊藤:1】
連絡事項
>>156-159Ogre Battleに関しては
原作に全く無い能力の使用とモンスターの存在が議論の対象となっているので現時点では加えていません。
書き手の人は麗子、ダリエリの話の続きは今しばらく控えてください。
筆者の方はお手数ですが確認次第議論板の方にお越しください。
このリレーは余程の反則(電波で他の参加者を操る、魔法で自分を触れなくする)が無い限り能力使用はOKです。
但し原作外のオリジナル設定は基本的に抜きで。ていうか基本ギャグで済ませましょう。
細かいところに拘るより鬼ごっことしての状況を進める方向で
致命的なミスがない限りは脳内保管しましょう。
NGはできるだけ避けるよう書く話のキャラの前話くらいは読みましょう。
また他のスレのネタは知ってる人はニヤリ、あ、このネタ上手いなーくらいにしておきましょう。
能力に関してグレーゾーンな話を書く際には
『葉鍵鬼ごっこ議論・感想板』 へどうぞ
>
ttp://jbbs.shitaraba.com/game/5200/ 後記
改めてスレ内の温度差を痛感。
進行を不用意に止めて申し訳ありませんでした。
「いとっぷ〜いとっぷ〜白い色にいとっぷ〜
――いとっぷが午後9時をお知らせします」
はーいこんばんはー今夜も始まりましたいとっぷの一人でGO!!
司会はおなじみ”世界の伊藤/熊野藩のいとっぷ”こと伊藤と、
「……伊藤君、何さっきからブツブツ言ってるんだ?」
ゲストの阿部貴之さんですいえーいぱちぱち。
ということで僕ら脇役二人組は例のごたごたを経てからというもの湖から流れ出る川に落ちる事4回、
道のど真ん中に生えましたる樹齢数百年の巨木に顔面カミカゼする事2回と不運続きでありました。
そのうち辺りは暗くなるわお腹は減っちゃうわでいとっぷちょっと泣きたくなっちゃいましたが、まぁそれも過去のお話。
只今我々は夕餉を調達すべく夜釣りなどしているところであります。
「伊藤君きてるよ!」
「ぬぉお4匹目キター!!」
はい、ご覧の通り半入れ食い状態だったりしてます。私いとっぷが4匹(ニジマス)、貴之さんが3匹(ニジマス)とゴイスーな爆釣です。
問題のニジマスもなかなかに大きく、これで今夜の晩餐はニジマスの刺身に始まりニジマスの塩焼き、ニジマスのカルパッチョ、
果てはニジマスのアーモンド焼き等などステキに無敵にリラックス!
我が脳内に目下生息中のVR篠原もイイ感じにトリップしとりますきゃー伊藤さんすごいですねぇぇぇ。
――え、なんでおまいら釣り道具なんて持ってるかって? 愚問ですね。あちらを見て下さい!(んばっっと下流の河原を指差す)
「なー…アイツこっち見てるぞ」
「余所見するなイビル。鍋が吹いてる」
「うわ、いけねっ」
と、例の屋台から一人1200円で釣りセットをレンタルしている訳です(ルアー別料金)。
なんかもーやるせないくらいに高いですが、しかしこのいとっぷの並外れた交渉力を以ってすればニジマス7匹と引き換えに
半額に負けてもらうのは造作もないこと。おまけに釣った魚を捌いてくれるそうでいとっぷ感激しちゃいましたー。
「伊藤君!」
「はい五匹目キター!」
と、いうことで、その後も我が親愛なるニジマス諸兄はアフォみたいにルアーに食いつき、最終的に二人合わせて11匹も釣ってしまいました。
これには流石の屋台の方々もびっくりしております。
「お、なかなか釣ったじゃねぇか!」
「…どれ、貸してみろ」
……ムチャクチャ苦労して持ってきたニジマス入りバケツを片手でひょいと持ちあげるエビルさん(名前はあとで聞いた)
にちょっとばかりげんなりしつつも話の種はもっぱら釣果について。
「いやぁ、びっくりしたねぇ。殆ど入れ食いだったし」
「ですよねぇ。もうニジマスから釣ってくれと言わんばかりに」
卓上には熱燗。なんだかんだで結構長いあいだ水に浸かっていたため身体の芯から温まります。うーん、んまい。
そうこうしているうちに先ほどのニジマスを捌いた刺身と、これは別途に頼んだ白米・味噌汁・おつけものが卓上に並べられていきます。
「おっ、うまそうじゃないか」
「なんせとれたてだからな。さ、遠慮なく喰ってくれ」
「では、いただきまーす」
イビルさんの申す通り、文字通りとれたてのニジマスが我が脳天直撃セガサターン、
胃液と水分しか収まっていなかったまいすとまっくに蓄積されてゆきます。
つい6時間ほど前に起きた身の不幸が嘘のよう。僕はごはんを2杯おかわりし、貴之さんもちゃっかり二杯食べてました。
このまま至福の時が永遠に続けばいいのに……
だけど。
それは、唐突に終わりを告げたわけで。
「こんばんわー」
「いらっしゃい!」
「あー、伊藤君だ」
「ふぁkjふぁsl負雄んふぁsfなskl;ふぽういおpふぁsfjか!?!!!??」
味噌汁を口にしてなくて、ほんと良かったと思いました。
【いとっぷ・貴之 メシを喰らうものの皐月・夕菜組と遭遇】
【時間→午後9時半くらい】
>>223 >リスト製作者だよもんさん
乙。ですが一つ疑問。
葉子は橘敬介とA棟巡回員を捕まえているので、
【鹿沼葉子:1】→【鹿沼葉子:2】
じゃないでしょうか?
巳間晴香は空を見上げた。
ソレはまだいる。
おそらくは索敵行動なのだろう。
一定の軌道を描いて、森の上をいったりきたり。
ソレが肩からかけているのは明らかに襷――――すなわち、鬼の証。
全く。鬱陶しくて仕方ない。
幸いにもこちらにはまだ気づいていないようだけれど。
考えてみれば、空を飛べるというのはこのゲームを進めるうえで有利な能力である。
周囲の地理の把握、索敵行動、緊急回避...etc、特性を活かすバリエーションは無数にある。
逃げ手であれば自ら位置を示すことになりかねないのだが、鬼にとってはそれでもメリットのほうが大きい。
管理者の設定したルール上、鬼にしても逃げ手にしても互いを潰しあうような攻撃態勢をとることは出来ない。
能力による直接的な攻撃は禁止、その他使用上の制限もある。
”飛ぶ”という能力はそれ自体用途の限られるものであるが、このルールでは必ずしもデメリットにならない。
投射式武器の使用などで迂闊にも撃ち落してしまった場合、管理者の介入を引き起こすおそれがあるからだ。
結果、飛翔能力使用者が本来抱えるべきリスクは減少している。
つまり、彼らの”飛ぶ”という能力はある程度制限があるにせよルールによって守られていることになる。
だから、有利なのだ。
「…晴香ちゃん」
横で座り込んでいる和樹が、顔をあげた。
「その晴香ちゃんっての、やめてくれない? そりゃわたしはあなたより年下だけど」
ジロリと睨む、晴香。
「そう、年下だからね。年上に使う表現じゃない」
「だ、だから……他に呼び方あるでしょ。晴香とか、晴香さんとか晴香様とか」
「……で、晴香。ものは相談だけど、上のアレなんとかならないかな?」
真上を指差す、和樹。
雨が止んだ頃から、翼をはばたかせ少女が滑空している。
獲物を探してるのか、あるいは特定の誰かを探しているのか、二人にはわからない。
「忘れたの? 能力を使用した直接攻撃は、ルール違反よ。……アレが一般人といえるかはともかく」
「ちゃんと覚えてるよ。……使うのは、これ」
和樹は足元から泥玉を取り出した。
握り固められてないのか、おはぎのような形をしている。
場所も場所、雨に降られていただけあって、見事なまでの『泥』だった。
さっきから何をしていたかと思えば、年甲斐も無く泥遊びか。
ジト目でねめつけた後、泥にまみれた手を見て、晴香が一歩引いた。
「ちょっと。本気? 確かに直接的な能力使用じゃないけれど下手に墜落させたしたりしたら、あの高さ、ただじゃすまないわよ」
少女の姿はまだ消えていない。ざっとみても地上との距離は10m前後はありそうだ。
まっさかさまに落ちて地面に激突などしたら、命に関わる。
最初に提示されたルールの中の能力の使用制限。
『一般人に直接危害を加えてしまう能力→不可』
破って即失格ということはまさかないだろうが、なんらかのペナルティが科せられるおそれは十分にある。
でなければ、この不思議集団で”ゲーム”など成り立たないだろう。
「もちろんそんなつもりじゃないさ。撃ち落すんじゃなくて当てるだけ」
得心のいかない表情の晴香。
撃ち落すと当てるとの間にどれだけの差があるのか。そういわんばかりだ。
「うーん。つまり、俺の見る限り、翼で飛んでいるのは年頃の女性だけなわけだ」
その反応に説明の必要を感じたのか、和樹が続ける。
年頃の女性だけ、というのは屋台で出会ったウルトリィも含んでいる。
「……また女の話?」
晴香が呆れたように顔をしかめた。
屋台で千紗に埋め込まれた誤解の種はとてもとても深く根付いているようだった。
あるいは彼女の中では既に和樹=外道という公式ができあがっているのかもしれない。
そういえば篠崎弥生という女性はどうしているのだろう。
「い、いや、だからそれは誤解で……じゃなくてっ。想像してみてほしいんだけど、晴香が飛ぶたびに泥をかぶる
ことになるとしたらどうする? 顔も服も土や泥だらけ。着替えようとかシャワーを浴びようとか思うんじゃないか?
それとも開き直って泥まみれで飛んだりする?」
「……さすがはドージンジゴロ。女性の心理をつくのはお手のもの、と」
和樹の意図を汲み取ったのか、晴香は皮肉めいた微笑をひらめかせた。
どうやら和樹に一本取られたのが、悔しいらしい。
「その呼び方、かなりやめて欲しいんだけど」
「おっけー。敵は一体。せいぜい撃ち落してしまわないように、当ててみせるわ」
和樹のささやかな要望を黙殺して、いうや、不可視の力で泥玉を浮かべ始めた。
目標は頭上で翼をはばたかせている少女――――彼らは知らないが、神奈だったりする――――。
狙いは精密に、威力は最小限に、だ。
「姿がみえなくなったら、即離脱だからね」
「わかってるわよっ!!」
泥球を浮かべている少女と隣で泥をこねている青年。
作戦はともかく、その光景は傍から見れば相当に間抜けだった。
【和樹・晴香 対空射撃、後、離脱】
【目標 神奈 ろっくおん】
【葉子 巡回員を小一時間尋問中と思われる】
【時間 三日目早朝】
【場所 森】
【天候 まだ小雨】
「ふう、死ぬかと思った」
いつものようにお仕置きを受けた冬弥は、いつものように回復した。
ギャグパートってのは便利だね。
無論その横にはお仕置きを終えた由綺がいる。
「浮気して無いならそういえばいいのに」
「……言ったよ」
「あれ、そうだっけ?」
ああ、原作由綺さんは一体何処に…?
冬弥はあきらめたようなため息をつき、自分を追走していたシェパードに目を向ける。
七海になでられていた。
シェパードの方も満更ではなさそうに目を細めている。
「由綺さん、この子の名前は何ですか?」
「えっと、そういえばまだつけてないね……
あっそうだ、七海ちゃんつけてあげてくれる?」
「えっ、いいんですか!」
目をきらきらさせる動物好き七海。
「冬弥君、いいよね?」
「ああ、この藤井冬弥を捕まえたつわものだ。かっこいい名前をつけてくれよ、七海ちゃん」
「はい、ありがとうございます!」
お礼や返事はしっかりと。それが七海だ。
二人の許可を得た七海は、早速名前を考え始める。
「うんと… かっこいい名前…かっこいい名前…」
冬弥の冗談交じりの発言をまじめに受け取っている。正しく七海だ。
しばし考えててをぽんと手を打つ。
「そうだ、『そーいち』というのはどうでしょう?」
珍しく自信満々の七海。
普段がとても謙虚なだけに本当にレア物だ。
「…いいんじゃないかな」
「…そうだよね」
相手がはるかなら突っ込みを入れただろうが、七海には突っ込めない二人。
「名前はそーいちだよ」
「バウ」
美しいコミニケーションではあるが、冬弥と由綺はどことなく複雑そうだった。
「さて、暗くなってきたしそろそろどこかで休むか?」
「そうだね。建物があると嬉しいね」
「あ、あっちの方に何かあります」
そして一行は「そーいち」を連れ、移動し始めた。
【冬弥 金無し】
【由綺 シェパードマイク所持】
【七海 シェパードに『そーいち』と命名】
【時間 夜】
【建物と思われる方向へ移動】
「………………………ずずっ……」
食後の骨休み。Dは何をするでもなくぼーっと見ていた。
「えいっ! やあっ! とうーーーっ!」
部屋の外れでまいかがぴゅっぴゅと水を飛ばしている姿を。覚え立ての自分の術が嬉しいのだろう。
「……さて、そろそろ出発するか」
そんなDだが、不意に荷物を掴むと、立ち上がった。
「ン? どこ行くの?」
レミィが笑顔のまま、訝しげに訊ねた。
「少し出かけてくる」
「Huntの時間?」
心なしか嬉しそうだ。やはりレミィの性格を考えるに、家の中で缶詰というのはあまり面白くないのだろう。
「……いや……違う」
「え? なら……ナニ?」
「……………………」
少しの沈黙の後、
「この雨を、止める」
微塵の躊躇も無く、言い切った。
「.....Stop the rain? What are you talking about? D、本気?」
さすがにその言葉に驚きを隠せないレミィ。だが
「本気も本気だ。私には、それが可能だ。……ある男を、捕まえさえすればな」
目があったはずみに、レミィは気付いた。今の彼は、これまでのおちゃらけた彼とは一線を画している。……獲物を狙う、狩猟者の目になっていることを。
「ある……男?」
「……そうだ。そいつは我が空蝉であり、我が片割れ……双子の弟のようなものだ。名前はハクオロ。趣味の悪い仮面を付けている。
私の力のみでは、ただでさえ弱っている私の力では天候に影響を与えることなど不可能だ。ヤツもまた然り。だが……我らの、我らの力を合わせれば。
今一度我らが一つになり、我らの真の力を行使すれば……雨雲の一つや二つ、霧散させることなど造作も無い」
「け……けど、なんでそんなに……雨に拘るの?」
Dはその質問に答える代わり、チラリと水遊び真っ最中のまいかに視線を投げた。
「私は約束したんだ」
決意は揺るがない。
「……まいかと、私と、お前で、花火をやる。その為には、この雨を止める必要があるんだ」
その様子から、レミィもDの決意の程を読みとった。
「……本気、なんだね」
「ああ。鬼になっていればよし。力を貸すよう何としてでも頼み込む。……だが、まだ逃げ手だった場合は……」
……ごくりと、レミィの喉が、小さく鳴る。
「どのような手段を用いようとも、捕らえてみせる。この、ウィツ……。いや、Dの名に賭けて」
「本当に……一人で大丈夫なの?」
全身をすっぽりとカッパで覆ったDが、洞穴の前でふり返る。
「ああ、問題ない。そのために霊薬と探知機を購入した。全快とまではいかないが、飲めば一時的にある程度の法力は戻るはずだ」
「けど、やっぱりまいかたちもついていったほうが……。でぃーは、まいかたちのためにいくんだし……」
心底心配げなまいかの申し出。その気持ちは、Dには嬉しかったが、しかし彼は頭を振った。
「……ありがとう。だが、これは私とヤツの問題でもある。それに、お前たちに見せるわけにはいかない。私の、あの姿を」
「……姿?」
突然出てきた意味の介せない単語。
「……喋りすぎたな。それじゃあ私は行ってくる。……夜には戻る。待っていてくれ。さらばだ」
「あっ……でぃー……」
一言で別れをすませると、Dは消えていった。雨間の霞の中に。
そして、後に残された2人は……
「……まいかちゃん」
「うん、れみぃおねぇちゃん」
当たり前のように雨ガッパを着こむと。
「追うよ」
「うん!」
Dの後を追った。
【D ハクオロを探しに旅立つ。霊薬(一時的に法力回復)、探知機所持】
【レミィ・まいか Dの後を追う。Dは気付いていない】
【Dの計画 ウィツァルネミテアの分身と空蝉を融合させることにより真の力を発現。天候を変える】
【時間:3日目昼 場所:森の脇の小道】
いや、もう何が起こりやがっていらっしゃるのでしょうか。
生臭い息を嗅ぎ、ぬらぬらしたピンク色のものを間近で見ながら
久瀬は混乱した頭で考えた。
分かることが一つある。どうやら自分の頭は…
「ヴォフ…」
「ムックル、がまんする」
ムックル君とやらの口に咥えられている様だ。
―――― 数分前
小雨の中、巨大な虎に乗った少女二人は、ある小屋を目前にしていた。
「カミュち〜、あの小屋?」
「うん。ユズっち、オボロお兄さん達といっしょにあの小屋の中に入ってたよ」
ユズハと分かれてすぐ、カミュは上空を飛んでユズハを探していた。
木々のせいで見失ってしまったのだが、あの小屋に入るところを目撃したのだ。
「大丈夫かな〜?カミュが見た時はまだ鬼になってなかったけど。
でもなんか4人の男の人に囲まれてたんだよね」
「ん。急ご」
その小屋の中、久瀬の提案によってオボロVS光岡の腕相撲がはじまっていた。
「オオオオぉォォ」
「ヌグググ」
両者は顔をゆがませて右腕に力を込める。
その様子を月島は興味なさげに見つめ、ユズハも含むところはあるにせよ今は静観し
(いや見えないのだが)、そして久瀬はあくびを噛み殺していた。
昨晩ほとんど寝ていないのだ。先ほどまでのハイテンションが我ながら信じられない。
「なぜ…ユズハに付きまとう…!」
「あの美しい…長い御髪に隠された…可憐な眼差しに惹かれたのだ…!」
「確かに…ユズハは美しく…可憐だ…!」
「うむ…あんな方はみたことがない…!」
「ちょっと待て、異論があるね今の流行はショートカットのちょっと虚ろな目をした不思議少女だぞ!」
「それは邪道だ…黒髪の可憐な大和撫子…これ最強…!」
「そうだ…!不思議少女なんて…ただの電波だ…!」
「くっ。電波をなめるな!来年当たり来るぞ、マジで!」
(馬鹿め。常に世界を制するのは笑顔の似合うお嬢様だ)
久瀬は自分の意見を胸の中で言うと、ユズハのほうをみた。
目茶苦茶バツが悪そうだ。そりゃ目の前であんな事いわれたらそうだろう。
(っていうか、腕相撲中に会話するなよ、器用だな)
この突っ込みも胸の中にしまうと、久瀬は眠気を振るうべく新鮮な空気を吸おうと窓のほうに向かった。
と、窓の向こうで犬の耳と尻尾に黒い羽根がヒョコヒョコ動いている。
(……隠れているつもりか?)
窓の近くに忍び寄ると会話が聞こえる。
『カミュち〜、やって』
『んー…いいのかな?まあ、やっちゃうか。闇の…』
(何をやるんだ?)
久瀬は窓を開け、身を乗り出す。
窓の下には犬の耳を生やした少女と、黒い翼を生やした少女と、巨大な虎がいた。
…翼の少女のかめはめ波を撃つような姿勢が激しく気になる。だが、その疑問を口にする前に、
「ムックル」
「ヴォフ」
それで冒頭に戻るわけである。
そういえば、訓練された犬は吼えも唸りもせずに黙って襲いかかるんだよな…
そんな思い出したくもないことが久瀬の頭に浮かぶ。
今のところ甘噛みされてるだけだがムックル君がひとたびやる気を出せば
さぞや不愉快な事態が起こるだろう。
「えーと、さすがにこれはまずいんじゃないかなぁ?」
ナイス判断だ少女1。
「ユズっちをいじめる奴だから大丈夫」
それは誤解だ少女2。
「そうだね。まあ、いっか」
自分の意見は大切にしたまえ少女1。というかな、
「…いいはずないだろ…」
とりあえずムックル君の口に頭を突っ込んだまま抗議してみる。
「ん。ユズっちを逃がしてくれたら離す」
それは脅迫というんだぞ、少女2。
犯罪だぞ、親の顔が見たいぞこん畜生。
「ぶえっくしょい!!」
「誰かに噂されているで賞、進呈」
「おお、ありがとう。ブビー」
「…お米券で鼻をかみましたね?」
(み、美凪が怒ってる…!!)
さて、状況を把握してみよう。まず絶体絶命。何はともあれ絶体絶命。
どうにもこうにも絶体絶命。小屋の中の4人は…
「電波の…時代は終わったんだ…!」
「うむ…正統派万歳…!」
「くぅ、みてろ!今に巻き返しがあるからなぁ!」
「…………」
なんか、聞く限りでは盛り上がっててこっちに気づいてないし。
OK,、頼れるのは自分だけ、シンプルでいいじゃないか。
選択肢1 ユズハさんを逃がさない。
結果 ムックル君、大ハッスル。さようならこの世。こんにちはあの世。
感想 素晴らしい。
選択肢2 ユズハさんを逃がす
結果 オボロ君、光岡さん大ハッスル。さようならこの世。こんにちはあの世。
感想 素晴らしい。
いやもうどないせいっちゅーねん。
フウ、と久瀬はため息をついた。ふざけている場合じゃないな。
「確認させてもらうが、君達はユズハさんのご友人かい?」
「うん、そうだよ〜」
「ん。まぶだち」
「そうかい、分かった。ところで鬼ごっこのルールは把握しているのだろうね?」
「んーと…やっぱりまずいかなぁ?」
「まずいだろうね。君達はただの脅しのつもりでやってるんだろうが、
このままでは強制逮捕や失格の可能性もあるよ」
「え、ええっ!やっぱり?」
「実際そうなっってしまった奴を僕は知っている。こういうことをしていると
あまり面白いことにはならないよ?」
「ん〜〜」
少女2、すねられた顔をされても見えないんだな、これが。
「どうだ、ここは僕に任せてみないか?悪いようにはしないよ。約束する」
ようやく解放された久瀬は首をふった。唾液と泥で顔はすごいことになっているだろうな、
とかボンヤリと思う。まあ、それはそうとして…
激しい腕相撲だか論争だかをやっている三人を尻目に、
久瀬はユズハに近づくと耳打ちした。
「君の友達が迎えに来ている」
「え…アルちゃんとカミュち〜ですか!?」
「そのようだね。そこで君に質問したいのだが…君はここから逃げたいのか?」
「それは、逃げたいですけど…」
「あの二人は君の事を本当に心配しているよ?
オボロ君とはかなり長い間同行していたが、彼はずっと君のことばかり気にかけていた」
「…それは本当に感謝しています。ですが…」
うつむいていたユズハだが、光を灯さない目でまっすぐに久瀬を見た。
「ですが、あんなふうに景品のように扱われるのはユズハの本意ではないです」
それに、と、ちょっと赤面してユズハは続ける。
「お兄様も光岡様も…すこし恥ずかしいかも…」
(うわぁ、それ聞いたら二人とも泣くぞ)
「…分かった。友達は戸口に待たせている。そこまで行けるね?」
うなずくユズハをみて久瀬は続ける。
「次に万が一会った時は鬼として捕まえさせてもらう。
そのときはどうかムックル君はおとなしくさせておいてくれ」
そうして、戸口から消えていくユズハ達を見とどけると、久瀬は嘆息した。
さて、どう後始末をつけたものか。
「しかし貴様…なぜ、そこまでユズハを詳しく知っている…!」
「知れたこと…!ユズハは我が妹…!」
「な…!お前が…!?」
いまさらに真実を語られ動揺する光岡。その隙が致命的であった。
ダァッン
光岡の手の甲がテーブルに叩きつけられた。
「俺の…勝ちだ!ユズハ!」
喜び勇んで振り返るオボロの視界に、しかしユズハの姿はいない。
「ユ、ユズハ…?」
「ユズハさんなら出て行かれたよ、友人と一緒にね」
「く、久瀬!?どういうことだよ!」
「なぜ行かせたのだ!」
詰め寄る二人を久瀬は手を上げて制す。
「出て行く前に伝言を残していったのだが、聞くかい?」
「で、伝言だと…」
「まずオボロ君にだが…
『ご心配かけてしまい申し訳ありませんお兄様。確かに、この鬼ごっこは辛く苦しいものです。
ですが、これがユズハに課せられたことならば、
ここでお兄様に甘えてしまったらユズハの成長はないと思います。
かわいい子には旅をさせよ、と申します。
どうかお兄様、お辛いでしょうがユズハの事は放っておいてください。
そしてユズハが見事この鬼ごっこをやり遂げたとき、お兄様、ユズハをお褒めください』だそうだ」
「ユ、ユズハがそんな事を…」
呆然とつぶやくオボロの肩に久瀬はポンと手をかける。
「すまないオボロ君。ユズハを守るために鬼にしてやれと言ったのは僕だが、
ユズハさんの真剣な眼差しを前にして何も言う事が出来なかった。許してくれ」
「いや…いいんだ久瀬。むしろお前には礼を言わせてくれ。ユズハ…頑張れよ」
まあ、嘘も方便というじゃないか。久瀬は自分の良心を慰めた。
それにこの嘘は、きっとこの兄妹にとっていい嘘になる。そんな気がした。
「次に光岡さんだが…ええと…」
「う、うむ。あの方はなんと言っていた!?」
「えーと…(考え中)…そう、確か
『光岡様、ユズハを影から守ってくださった事にまずはお礼を言わせてください。
ですがお兄様にも申し上げたとおり、光岡様に甘える事はユズハの本意ではありません。
また光岡様にも、この鬼ごっこにおける目的、使命というものがあるはずです。
ユズハの事を構うよりも、まずはそちらのほうをご優先ください。
そして、お互いが己の責務を果たしたとき、改めて堂々とお会いしましょう』
とのことだ」
「ぐう…安易に馴れ合いよりもまずは互いの切磋琢磨か…!
お厳しいながらなんと優しさあふれるお言葉なのだ!この光岡感服した…!」
うん、世のストーカーを一人減らしたと思えばこれだっていい嘘さ、と久瀬は思った。
「ユズハ…体だけは冷やすなよ…」
「ユズハさんに比べてこの俺はなんと至らぬのだ…!」
やれやれ、願わくば再会の時にユズハ嬢が機転をきかせてくれる事を。二人を見ながら久瀬は思う。
まあ、僕はよくやったさ。誰にとってもそれなりにいい結末じゃないか?
泥まみれになったり、虎の口の中に頭を突っ込んだりしたが、なにはともあれ一件落着…
「終わったね!さあ久瀬君、瑠璃子を探しに行こう!」
(してないじゃ〜ん)
久瀬は何も言わず崩れ落ちた。
【アルルゥ、ユズハ、カミュ 合流 逃走成功】
【久瀬 睡眠不足】
【オボロ、光岡 感涙】
【月島 さあ瑠璃子を探しに行こう!】
「………遅い――」
暗い部屋の中、ぽつりと呟いたのは、ラブリーなツインテールとは相反して、目元がクールな岡田である。
「…確かに、ね」
頷きつつ、二階部屋から下の一階の様子を窺っているのは、岡田軍団良識担当の吉井だ。
「戻ってくるタイミングを掴もうとしてるのかもよ?」
「そうだとしたら、ますます遅すぎるわ」
二人は、“乙女のピンチ”に陥り、それを打開する為に鬼が二人もうろつく一階へと降りて行った松本と、そのエスコート
役を買って出た雅史の帰還を待っているのだ。
先程から一階の様子を窺っているのだが、下へ降りた二人が鬼に捕まったという気配は無い。二人の鬼の内、少女
―― 七瀬の方はシャワー室へ入ったきりだし、彼女達の知己でもある矢島は、キッチンの方へ行ったきり戻って来ない。
「タイミングを掴もうとしているんなら、今がチャンスじゃない」
「うーん…そうね。松本はともかく、佐藤君がこの好機を利用しないとは考え難いわ」
「でしょ? …はは〜ん、読めたわ。さては松本、トイレに行ったついでに――」
どこぞの名探偵よろしく、形の良い顎に指を添えつつ、双眸をキラリと光らせる岡田。
「大きい方も――」
ゴしっ…!
何やらハシたない事を言い掛けた岡田の脳天に、吉井のカラ竹割りが見事に極まる。
「の゛ォ〜〜〜……っ!!?」
「うら若い乙女がそういうボケを口にしない」
…普段は松本がボケで岡田がツッコミ、吉井は良識派(或いはネタフリ?)の様だが、松本が抜けると、ボケは岡田に、
ツッコミは吉井の方へとシフトするらしい。
「………でも、確かに遅すぎるわ」
「そう――遅すぎる」
再び、キリリとクールに表情を引き締める岡田だが、その頭にはタンコブが煙を上げつつ乗っかっていた。
……二人だけで逃げたという可能性は…?――
雅史を憎からず思っている松本にとって、これから先、二人きりになれるチャンスであると言えよう。
だが――
「「 ――それはない 」」
一瞬だけ目を合わせた岡田と吉井は、互いの脳裏に浮かんだ仮定をその一瞬のみで察し、苦笑し合いながら
同時に否定した。
「奴はそういう事はしない。あー見えてかなり身持ち固いし」
「うん。私もそう思う。愛情表現が犬チックだから誤解され易いけど」
付き合いの長い者同士が持ち得る、確信に満ちた“信頼”が、そこにあった。
例え二人が下から逃げ出していても、上の二人へ何らかの方法でその事を伝えて来るはずだ。――何れにせよ、
もう少し待ってみるべきであろう。
「…もうちょっと待ってみよう」
「うん…」
頷き合う二人――…その二人の鼻腔を、何かの香りがくすぐった。
「……いい匂い」
「…これって…」
匂いが漂って来るのは、キッチンの方かららしい。何かを炒める音も聞こえて来る。どうやら――
「もしかして、矢島君が料理してるの…!?」
「へぇ〜、彼、料理とか出来たんだ」
…実際は、キッチンを物色していた矢島が、冷蔵庫の中から冷凍食品のチャーハンが出て来たので、適当に中華鍋で
炒めているだけなのだが、そんな事は知る由も無い二人は、ちょっぴり感心したりしていた。
「ふーん…。…岡田ぁ、あんたも少しは料理くらい出来ないとね(ニヤ〜」
「う、うるさいわねっ…! 私だって料理くらいするわよっ…――め、目玉焼きとか、スクランブルエッグとか…」
「卵ばっかりじゃないの」
「やかましい。今はまだ修行中の身なのよ…!」
「料理出来る男の子にお弁当作ってあげるのなら、もっとレベルアップしないと…」
「わ、解ってるわよ、そんなの…」
顔を俯かせ、もじもじモードに入っている岡田を見やり、吉井は優しく微笑んだ。
普段はツッコミ役で、他二人の恋愛話にも色々と突っ込んだ意見を向けて来るくせに、逆に自分が問われると、すぐに
これだ。恐らく、三人の中で一番恋愛には奥手で臆病であろう。その上、なかなか素直になれない性格と来ている。
「……(…萌える。萌えるのよねぇ〜、この子のこーゆートコ…)」
何となく小動物チックになっている岡田に吉井は、自分の顔が「はにゃ〜ん…」となるのを感じていた。
――そんなおり、
カチっ…
何か、硬くて軽い物が何処かに当たる様な音――二人の顔に、緊張が走る。
一階は――先程と様子は変わっていない。矢島は相変わらずキッチンで何かを作っており、七瀬もまだシャワー室だ。
「「 ……? 」」
岡田と吉井は、不審そうな顔を見合わせた。
カチっ…
――再び、あの音。
「…? …ベランダ?」
大きなガラスの填め込まれたサッシ戸。そこを開けた先にはベランダがある。
カチっ…
「――石?」
音の正体が解った。――小石だ。建物の外、下からここのベランダに向けて、誰かが小石を投げているのだ。
その小石がガラスに当たって――
カチっ…
吉井は、音を立てぬ様にサッシ戸を開け、ベランダから下の方を見やった。
――ベランダ下…地上には、雅史と松本が居た。雅史が小石を持ち、その隣では松本が能天気な顔で手を振っている。
「岡田っ…、岡田っ…!」
吉井の手招きに応じて、岡田もベランダ下に目を向ける。――下へ降りたまま消息を絶っていた二人の姿を見て、
そして鬼の襷が掛けられていないのを見て、一瞬だけ安堵した表情になり、次の瞬間には眉をギリリと吊り上げていた。
「何やってんのよ!? 何で外に出ちゃってる訳!?」
表情と共に妙なボディランゲージで、岡田は松本に詰問する。
「ごめーん。トイレの窓から外に出たんだよ。とにかくここから離れよ? 鬼に気付かれる前に」
対する松本も、くねくねと妙なボディランゲージで応える。
…傍で見ている雅史には、何が何だかちんぷんかんぷんだったが、取り敢えずちゃんと対話は出来ているらしい。
「離れよ…って、ここから飛び降りれってかい!?(くねくねくねっ…!」
「いざという時にはそうすればいいって、岡田が言い出したんじゃない(くねっ…くねくね」
「確かに言ったけど、下から見た時と上から見た時とじゃ、体感的な高さが意外にアレだったというか…(くね…くねっ」
「大丈夫だよ〜っ。草地だし柔らかいし、アタマから落っこちない限りへーきだってば♪(くねっくねっくね〜っ」
「うー…(くね〜…」
悩みに唸る声までもボディランゲージで表す岡田を尻目に、吉井が自分達の荷物を下の二人に投げて渡し、
準備体操よろしく屈伸なんぞをやり始める。
「っ…吉井……!? やる気なの…!?」
「行くしかないでしょ。――松本〜、佐藤君にあっち向いててって伝えて(くねくねっ」
吉井のボディランゲージを通訳された雅史が、OK――とばかりに手を振り、素直に背を向けた。…ここで浩之で
あったなら、「しっかり見てないと危ないだろ?」とでも言いながら目を見開いていたであろうが。
――トサッ…
…と、意外に小さな音が、雅史の背に響く。肩越しに見やると、吉井が何事もなかったかの様に佇んでいた。
「後は岡田だけだね〜(くねくね…」
「ほらほら早く早くっ。言い出しっぺでしょ?(くねくねくね〜っ」
「わ、解ったわよ…!(くねっ…くねくね〜っ!」
岡田は意を決した。…と言うより、意を決するしかない。
「………(ゴクッ!)」
ベランダに足を掛け――そして、岡田は宙へと体を投げ出した。
――――
「…ん?」
しっかりとエプロンなんぞを引っ掛け、両手に大盛りチャーハンを乗せた皿を持つ矢島が、何か外で音がした様な
気がして、小首を傾げた。
チャーハンをリビングにあるテーブルへ置き、一応玄関から顔を出して外の様子を窺う。
――…誰もいない。
「…気の所為か」
小さく肩を竦め、再びキッチンへ。戻って来た時には、チャーハンには付き物の碗に入った中華スープを持っていた。
…この男、なかなかどうして芸が細かいと言うべきか。
「――へぇ、こんなの作れるんだ?」
シャワーを終えて戻って来た七瀬が、いい匂いを放っているチャーハンとスープを見て、感心した様な声を上げた。
「こんなん誰だって出来るっしょ」
「(うぐっ…、ズキッ……!)――そ、そうね。チャーハンなんて簡単よね」
「冷凍食品だし」
「…って、そんなオチかいコラ」
――その後、何だかんだ言いつつ、七瀬は腹を空かせたドカタのおっさんよろしく大盛りチャーハンを貪る様に
カッ食らった挙句、矢島にお代わりまで作らせたという…
…鬼の棲家となってしまったペンションから脱出を果たした三人娘と雅史は、早い歩調で海岸沿いの道を歩いていた。
「私の胸があって助かったね〜、岡田」
「うるさいわよ…」
からかって来る松本を、岡田が「ガルルル…」とばかりに一睨みする。
――あの時、岡田は着地に失敗して脚をよろめかせ、松本の胸に顔面軟着陸を果たしたのであった…
「これが岡田みたいにペッタンコなムネムネだったらエライ事に」
「ペッタンコじゃないわよっ! 小振りで品があると言いなさいっ!」
「岡田、うるさいって…! 近くに鬼が居たらどーすんのよっ…!?」
「…悪いのは私か…!? 私が全部悪いのか……!?」
緊迫した状況から脱した所為もあって、三人娘は賑やかなくらいだった。
そんな少女達を見やり、微笑を浮かべていた雅史であったが――
「………」
不意に夜空を見上げ、眉の辺りを翳らせた。
「…星が見えないね」
「え? ――………そうね。昨日は天然プラネタリウム状態だったのに」
「雲が掛かってるみたい…」
「ええ〜? もしかして、雨とか降りそうな訳〜?」
「…かも知れない。野宿はやめた方がいいね。どこか別の建物を探そう」
「……そうね」
三人娘も、星明りの見えぬ夜空を見上げ、やがて訪れるであろう雨を想い、表情を翳らせる。
――四人の足音は、夜闇の中、静かに響くさざなみの音に溶けて行き、やがて消えた。
…後日談として――
ゲーム終了後、この時、正に自分の目と鼻の先に雅史達が居た事を――しかも四人も(!)居た事を知った七瀬は、
ショックと怒りで、猛り狂う草原の覇者の如く吼えたと言う。
そして、「チャーハンなんかカッ食らってるからだよ。漢っつーか、おっさんかおまいわ」と、言わなくても良い事を
言った浩平を、張り手で地表と水平に数メートル吹っ飛ばしたとか…
――それはまた、別のお話。
【岡田・吉井・松本 雅史 七瀬・矢島の鬼ペアが居るペンションを脱出】
【岡田軍団、再び夜の中へ…。星明りの無いの夜空を見上げ、雨が近い事を知る】
【雨に備え、野宿は避ける⇒別の建物探し】
【七瀬・矢島、岡田軍団に全く気付かず。七瀬チャーハンお代わり】
【海岸沿い 二日目の夜遅め】
253 :
鬼丸:03/04/07 22:55 ID:aPqUIFJy
「――以上が大まかな説明となります。何がご質問は?」
メイドロボは丁寧且つ簡潔な紹介を終えた。
四方を煉瓦らしき壁に囲まれたここは『超ダンジョン』なる施設らしい。
――言ってみれば能力者のために作られたようなものだ、ここは。
一般人も含め様々な人間が(人でない者もいたが)この超巨大遊戯に参加している。
少なくとも参加者の位置は逐一捕捉しているだろうが
(きよみが身体の心配をせずに参加している事からもそれが言える)、
しかし仙命樹など特殊能力に対する強制的制御方法はなく、
能力使用の判断は完全に我々の善意に依っている。
そうなってくると多少の『不穏分子』が――言い方が穏やかでないが――
出現するのではないだろうか。本来なら開始する前に篩にかけておくべきなのだろうが、
御堂が参加している時点でそれが行われたかどうかすら疑問だ。
ならばこのような限定的・閉鎖的空間を別途設け、特殊技術で参加者の身体を物理的に保護してやれば、
そのような者でも欲求不満になるのを未然に防ぐことも出来るのではないか。
全力で戦いたければここでやれ。
要はそう言いたいらしい。
無論、あくまでも憶測に過ぎないが。
254 :
鬼丸:03/04/07 22:56 ID:aPqUIFJy
「一ついいか?」
「ご質問ですね。どうぞ」
「ここで参加者に触れてもルールに適用されるのか?」
「はい。1ポイントとして換算されます」
「もう一つ。俺のほかに他の参加者は」
「少々お待ちを」
メイドロボの耳障りのよい稼動音が辺りに響く。
やがてそれがおさまると彼女は静かに述べた。
「現在の時点では坂神様お一人です」
「……俺、一人か」
整理する。
ここに留まる事で得られる利点。
一つ。能力が開放できる。
――余計な力加減をしないで相手に直接攻撃を加えられるという点で大きい。
一つ。鬼ごっこルールは同じ。それゆえ有利に捕まえられる。
――これも同様だ。
一つ。宝箱が点在しており、何らかの役に立つ道具が納まっている。
――青年が所持していた小型電探器のようなものに当たればしめたものだが。
これらを考慮すればここに留まっているほうが有利である。
「脱出する場合は、その……魔方陣とか言ったか」
「はい。ここから外へ出る際には魔方陣をご利用ください。エリア各所に点在しております」
このような物が床面に書かれています――そういって紙に書かれたサンプルを示した。
「分かった。いろいろすまなかったな」
「いえ、お役に立てて光栄です」
自動機械と分かっていても挨拶してしまう。世話になったのは本当の事だから別に問題は無かろう。
255 :
鬼丸:03/04/07 22:56 ID:aPqUIFJy
彼女が去っていった後。
試しに壁面を思いっきり殴りつけてみた。
がきぃん。
「…む」
傷一つついていない。
さっきのメイドロボの言った事は本当らしかった。
「――これだな」
思っていたより手間取ってしまったが、数十回ほど曲がり角を抜けたあと、それはあった。
硬質の床に直径3メートル程の二重円が、その内側に五芒星が引かれている。
線はかすかに光を発しており、辺りを薄暗く照らしている。これが所謂魔法陣らしい。
『円陣の中央に5秒ほどお立ちください。そうすれば自動的にワープします』
円陣の中央に乗っかる。
光がより一層強さを増し、
やがて目の前が真っ白になった。
参加者がいないとなれば、もうここに用はない。
256 :
鬼丸:03/04/07 22:56 ID:aPqUIFJy
気付くと、光は太陽に変わっていた。
「――っ」
暗いところにいたせいか、夕日が眩しい。数秒ほど目を馴染ませ、そしてここがどこだか調べる。
「…海だな」
前方に広がる青い海。沖に見えるのは確か米国空母だったか。
右側には港がある。係留された小型船。簡素な建物。左方も同様だ。
どうやらここは港の桟橋の、それも一番先端らしい。後方に木の床が伸びている。
「……」
当座の目標。撃墜王を目指す。
多少寄り道はしたが、今に至るまでそれは変わっていない。
「――月代」
無事だろうか。少し心配になったが、死にはしないと思う。というか、
既に撃墜数をあげているのではないだろうか。
「む」
……こんなところでのんびりしている暇は無い。
悟ちんとの競争もあることだし、とにかく先を急がねばなるまい。
そうと決まれば善は急げ、だ。
【蝉丸 ダンジョン脱出。割と薄情】
【時間 午後5時くらい】
【場所→港】
全参加者一覧及び直前の行動(
>>256まで)
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
レス番は直前行動、無いキャラは前回(
>>220-223)から変動無しです
()で括られたキャラ同士は一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)
fils:【ティリア・フレイ】、【サラ・フリート:1】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂、【新城沙織】、【太田香奈子:2】、【月島拓也:1】
>>238-244 痕:柏木耕一、(柏木梓、日吉かおり)、柏木楓、柳川祐也、小出由美子、ダリエリ、
【柏木千鶴:10】、【柏木初音】、【相田響子】、【阿部貴之】
>>224-226 TH:(藤田浩之、長岡志保、姫川琴音)、神岸あかり、マルチ、(来栖川芹香、来栖川綾香)、
松原葵、(佐藤雅史、岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ)
>>246-252、神岸ひかり、
(【保科智子】、【坂下好恵】)、【宮内レミィ】
>>235-237、【雛山理緒:2】、
【セリオ:2】、【田沢圭子】、【矢島】
>>246-252、【垣本】、【しんじょうさおり】
WA:七瀬彰、緒方英二、
(【藤井冬弥】、【森川由綺:2】)
>>233-234、【緒方理奈:3】、【河島はるか】、【澤倉美咲】、【観月マナ】、【篠塚弥生】
こみパ:千堂和樹
>>228-232、(高瀬瑞希、九品仏大志)、(牧村南、風見鈴香)、
(猪名川由宇、大庭詠美)、御影すばる、立川郁美、澤田真紀子、
(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)、【芳賀玲子】、【塚本千紗:2】、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】)
NW:城戸芳晴、ユンナ、【コリン】、(『ルミラ』、『アレイ』)、(『イビル』、『エビル』)、
(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:江藤結花、高倉みどり、【宮田健太郎:1】、【スフィー】、【リアン】、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)、岩切花枝、杜若きよみ(黒)、
【坂神蝉丸:5(4)】
>>253-256、【三井寺月代】、【杜若きよみ(白)】、【御堂:6】、【光岡悟:1】、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ、(アルルゥ、カミュ、ユズハ)
>>238-244、ベナウィ、クロウ、カルラ、クーヤ、サクヤ、
【エルルゥ】、【オボロ:1】
>>238-244、(【ドリィ】、【グラァ】)、【ウルトリィ:1】、【トウカ】、
【デリホウライ】、【ゲンジマル】、【ヌワンギ】、【ニウェ:1】、【ハウエンクア】、【ディー:6(6)】
>>235-237、『チキナロ』
Routes:(湯浅皐月、梶原夕菜)
>>224-226、リサ・ヴィクセン、
【那須宗一:1】、【伏見ゆかり】、【立田七海】
>>233-234、【エディ】、【醍醐】、【伊藤:1】
>>224-226 同棲:【山田まさき:1】、【皆瀬まなみ:2】
MOON.:巳間晴香
>>228-232、名倉友里、(【天沢郁未:4】、【名倉由依】)、
【鹿沼葉子:2】
>>228-232、【少年:1】、【巳間良祐:1】、【高槻:1】、【A棟巡回員】
>>228-232
ONE:(里村茜、上月澪、柚木詩子)、氷上シュン、
(【折原浩平:4(3)】、【長森瑞佳】)、【七瀬留美:1】
>>246-252、【川名みさき】、
【椎名繭】、【深山雪見】、【住井護】、【広瀬真希:1】、【清水なつき】
Kanon:(沢渡真琴、天野美汐)、
(【相沢祐一】、【川澄舞】)、【月宮あゆ:4】、【水瀬名雪:3】、【美坂栞】、
【美坂香里:8(1)】、【久瀬:4】
>>238-244、【倉田佐祐理:1(1)】、【北川潤】
AIR:神尾観鈴、(霧島佳乃、霧島聖)、(遠野美凪、みちる)、神尾晴子、(柳也、裏葉)、しのさいか、
【国崎往人:2】、【橘敬介】、【神奈:1】
>>228-232、【しのまいか】
>>235-237 連絡事項
このリレーは余程の反則(電波で他の参加者を操る、魔法で自分を触れなくする)が無い限り能力使用はOKです。
但し原作外のオリジナル設定は基本的に抜きで。ていうか基本ギャグで済ませましょう。
細かいところに拘るより鬼ごっことしての状況を進める方向で
致命的なミスがない限りは脳内保管しましょう。
NGはできるだけ避けるよう書く話のキャラの前話くらいは読みましょう。
また他のスレのネタは知ってる人はニヤリ、あ、このネタ上手いなーくらいにしておきましょう。
能力に関してグレーゾーンな話を書く際には
『葉鍵鬼ごっこ感想・討論スレ
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1049719489/l50 または『葉鍵鬼ごっこ議論・感想板』(2ch外部)へどうぞ
>
ttp://jbbs.shitaraba.com/game/5200/
260 :
胡桃割り:03/04/08 00:14 ID:1EX+TfiP
違和感。
それを嗅ぎ取ったのは裏葉の方であった。
今進んでいる森の道、進行方向にある微妙なズレ。
何が違うとも言えない、それに今は――――
「ククク、もっと…もっと楽しませるのだっ」
文字通りの「鬼」が追撃してきている。
相手の装備から狭い所が有利と判断した2人は
木々の間ををかいくぐり、ニウェを振り切ろうとしていたのだが――
「ぬぅんッ」
ザガァッ
相手はその長い柄がついた鉈のような武器で軽々と木々を薙ぎ払い、直進して追ってきた。
(余計なことを考えていてはっ……)
彼女は追ってくる男に意識を集中させ、夫に掛けようとしたその言葉を飲み込んだ。
「この天檄が、主らを直接叩けぬことを悔しがっておるわっ」
また背後で木の破壊される音。一歩近くなっていることを確信する。
そして――結局眼の前の罠を発見することは出来なかった。
261 :
胡桃割り:03/04/08 00:15 ID:1EX+TfiP
そのころ、某所では2人の少年が熱く語り合っていた。
アルコールでも入っているのか、2人はノリノリである。
それも当然か、飲んでいるのはあの世界に誇る高級酒『来栖川の怒り』、しかも無料。
真実は――まぁ置いておこう。
今、ノッてきた二人の語らいは、昼間こなした「仕事」のことで佳境に達していた。
「しかし、さきほどのアレは会心の出来であった…」
グラスに残っていた僅かな液体を飲み干し、北川は息をついた。
「ほほー、越後屋自らが会心の出来とは。んで、どんなのなんだ?」
尋ねられた少年の目がキランッと輝く。そして、一気にまくし立てた。
「ある一定区域に入ると地面に仕掛けられた砲弾が上に飛び出し、上空からとりもちを撒き散らす。
罠そのものと、センサーが別になっているため、どんな玄人にも見分けることは困難、
その上とりもちの方角は360度万遍なくだ。どんな兵どもでもアレにかかれば仔羊と成り下がる代物よ!」
どっちかってーと、色物ではないかと思えなくも無いが、彼のパートナーは本気で感心し、賛辞を送る。
「完っ璧、ですな。ふーむ、なかなかやるなぁ」
「もちろんだ、アレを発動させないことが出来るやつなど、おらぬわ、わははははは!」
「わははははは! ところで、俺の方はだな……」
そして、二人は朝まで語り尽くすのであった……
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
2人が、屋台に辿り着き、真実を知るのは何時になるのであろうか?
とにかく、何も知らない2人は今、とてもとても幸せだった。
そして同時刻――
その話題のワナが、発動した。
262 :
胡桃割り:03/04/08 00:16 ID:1EX+TfiP
恐ろしく近くまで、途方もない獣が迫ってきている。
こんな状況で柳也は己の感覚が、大地を蹴り、枝葉を掻い潜るたびに
細く、鋭く、尖っていくのを感じていた。
(なんて奴だ…人間の域を越えている……だが、まだっ)
自分の連れ添いの手を握り、駆ける。その一歩がまた一つ速くなった。
ズガンッ
「この天檄が、主らを直接叩けぬことを悔しがっておるわっ」
また木の幹が切断されたのだろう。だがその音は確実に近くなっている。
後ろに感覚を残し目の前の木々の隙を
そして次の瞬間、柳也の眼前で大地が膨らんだ。
キンッッ!!!!!
柳也は欠片も気が付いていなかった。追ってくる相手にばかり集中して
この森に罠が仕掛けてあることなんて頭の片隅にも無かった。
裏葉のように違和感も覚えなかった。当然、予想だってしてなかった。
だが、柳也の抜き打ちは眼の前を跳ねた「何か」を真っ二つにしていた。
つい先程まで妻の手を握っていたはずの手には今、愚直な、だが強堅な刀が、握られている。
いきなりの出来事に、ニウェも少し呆けたように口元を半開きにしていた。
その刹那を裏葉は見逃さなかった。
派手なことをしながら一時も気を緩めなかった鬼。
その高く堅い壁のような心が、今、少しだけ隙間を見せたのだから。
263 :
胡桃割り:03/04/08 00:18 ID:1EX+TfiP
空をプカプカと浮かぶ相手にニウェは臍を噛んでいた。
「ふははは、この妖刀・無骸。空を飛ぶことなど、造作も無いわっ」
女を抱きかかえ、ふわふわと浮かんでいく男。もう既に遠いはずなのにその声はとてもはっきりと聞こえる。
「おのれぇい! このような結末、認めはせぬぞ!!」
空に向かって叫び、天檄を上に振るう。だが相手は強烈な風にもびくともしていなかった。
「クッ、妖刀・無骸か……クククッ、そこから叩き落し、その刀も手に入れてくれるわっ」
シケリペチムの皇はドンヨリと薄暗い夜空に向かって吼えた。
264 :
胡桃割り:03/04/08 00:20 ID:1EX+TfiP
一方、空に向かって語りかけるニウェのその脇の茂みを移動する男女が一組。
『何もない』空に語りかけている男を後ろにし、さくさくと移動していた。
「見事、だな。眩惑の術とはあそこまで……」
「それもこれも、柳也さまが隙を作って下さったおかげでございます」
「そ、そうか……」
照れる。が、ふと思い出したことでもあったのか、にやけた口元が元に戻った。
「ところで裏葉よ……」
「何でございましょう?」
「こいつは銘無し(ななし)だ。無骸なんてけったいな名前じゃないぞ」
少し拗ねた、と言うか、呆れた様子で語る夫に対し妻は笑顔で返す。
「柳也さまは、もう二度と人を殺めることは無いのでございましょう?」
「それは……そうだが。何の関係がある」
はるか昔、少女と約束した殺さずの誓い。
だがこの鬼ごっこで人を殺めないのは当然のこと、妻が何を言いたいのか分からなかった。
「ですから、その子は人に対して『無害』なのでございますよ」
おあとがよろしいようで。
【柳也、裏葉夫妻 二ウェを撃退】
【二ウェ 空に向かって毒づく。2人に逃げられたことに気付いていない】
訂正です〜。
特に話の流れに関係しないとこで恐縮なのですが…
>264
>『何もない』空に語りかけている男を後ろにし、さくさくと移動していた。
の後に
その片手はしっかりとお互いを握り締めている。
という一文をいれてくださいませ。
スレ汚しスマソでした。
訂正です。
繰り返し繰り返し、申しわけありません。
>262
× 後ろに感覚を残し目の前の木々の隙を
○ 後ろに感覚を残し目の前の木々の隙間を抜ける――
です……あー、なんであんなとこを(;´Д`)
時間、先の柳也裏葉の話が3時とあるんですけど、
北川たちの宴会って午前7時だったような。「そのころ」「同時刻」というのは・・・
>七瀬チャーハンお代わり
なっ、七瀬チャーハン!?(;゚∀゚)ハァハァ
「あー、びっくりした。まさか今日一日で、エクソシストと魔族と同時に知り合いになるとは思わなかったな」
「そりゃ、普通はね……」
未だ興奮醒めやらぬ由美子に、芳晴が苦笑で答える。
インタビューよろしく、ルミラに矢継ぎ早に質問を繰り出した由美子だったが、時間制限により屋台を追い出され、
少々不満を残しつつも、今は人目に付かない森の中を、2人、腹ごなしついでに歩いている。
満腹状態で気分がいいので、逃げていると言うよりは、食後の散歩のような、のんびりした雰囲気があった。
「日本にもまだ、ああいう魔族とか妖怪みたいなのが残っていたのね……」
「絶滅した日本狼じゃないんですから」
芳晴にしてみれば職業柄、というより周りに雀鬼ーズがいるから見慣れたものだが、普通、なかなかお目にかかれるものではない。
加えてバイト先で一緒に働いている、というと、更に由美子は眼鏡の奥の瞳をまん丸にして、驚くわけだ。
「うわー、なんかいいなぁ。ちょっとうらやましい」
「そ、そうですか?」
「うん。私、民間伝承とか結構興味があるから、そういう歴史の裏に潜む魔族とお知り合いだなんて、垂涎ものね」
そんな彼女は学友に、『鬼』そのものがいたりするのだが。
「でも魔族って言っても、さっきのルミラさんを見れば分かると思いますけど、普通の人間と変わりないですよ。
そりゃ、とんでもなく長生きだったり、不思議な力とかは使えますけど、俺もある意味、不思議な力使いですから」
「あははっ。そりゃそうかもね。ふふーーん? じゃあ、ちょっと君にも興味がわいて来ちゃったかな?」
と、意味ありげな視線を芳晴に向ける。
「え、えええぇっ!?」
「お友達として、ね。それとも研究者かな?」
動揺する芳晴を見て、くすくすと忍び笑う。
芳晴はほっとしたような、ちょっと残念なような、複雑な感情を胸に走らせた。
「……からかわないでくださいよ」
「ごめんごめん。でもその焦りようからすると、意中の人がいたりするのかな……?」
ぎく。
>>156-159 『Ogre Battle』ですが、都合により大幅改訂した『伝説のオウガバトル』に差し替えさせて頂きます。
これにより『Ogre Battle』は完全にアナザーになります。
展開など幾つか変化がありますので、次の話は以下『伝説のオウガバトル』に続けてください。
芳晴の脳裏に江美さん――エビルの顔が浮かぶ。その隅っこではコリンがぷんすか文句を言いつつ睨んでいるが。
「しかもその魔族さんの中にいたりして……?」
ぎくぎくぎくぎくっ。
鋭い。というか、分かりやすい。さすが嘘をつくことがひたすら苦手な芳晴だけのことはある。
「あ、えーと、それは、その……」
しどろもどろに答える間に、由美子は乙女チックに目を閉じ両手を組んで、
「エクソシストと魔族の道ならぬ恋かぁ……頑張ってね。応援するよっ」
ぺしぺしと、軽く背中を叩いて応援してくれる。
「どうも……」
一部誤解されつつも、否定しきるほどの材料もなく。むしろ告白一つできない自分の不甲斐なさを思ってため息をついたり。
「?」
「あはは……」
そんなのんきに恋話(こいばな)をしている間にも、運命の風は容赦なく叩きつけてくるのである。
断続的な力強い足音。背筋を伸ばし、指を揃え、典型的なスプリンターの姿勢でダッシュしてくる白い影。
振り向く由美子の眼鏡に映った、もう1人のメガネっ子。否、眼鏡男。
「悪い悪い、ちょぉっと通してくれないかなぁーーっ?」
土煙を立てながら恐ろしい勢いでこちらに近づいてくるのは、意外にも、鬼でもなければ元気盛んな若者でもない。
「――緒方、英二?」
CDショップのバイトという立場柄、その手の雑誌に目を通すことも多い芳晴は、その顔を知っていた。
「お、俺もまんざら捨てたものでもないねぇーーーーー…………っ」
慌てて左右に分かれた2人の間を、ドップラー効果を残しつつ、満足顔の緒方英二が駆け抜けてゆく。
「本物……か?」
「なんだったの、あれ……」
「さぁ……?」
そして。
遠ざかる足音の代わりに、再び後ろから迫り来る足音がもう一つ。
「まーちーなーさぁぁーーーーーーいっ!」
かなりの距離があるにもかかわらず、良く通る声が森の中を抜け、芳晴と由美子の元に届く。
振り向いた、と思ったら次の瞬間には、2人の間をツインテールが素晴らしい速さで通り過ぎる。
全力疾走にも関わらず、どこか優雅さを残した綺麗なフォーム。
今度は由美子もその顔を知っていた。
「緒方……理奈?」
その僅かな呟きを耳にして。
理奈はとっさに頭上の木の枝を掴み、即放し、ふわりと浮きつつ回転と浮遊で慣性を綺麗に打ち消して、あくまでも優雅に着地する。
2人に向き直ったときには、汗の一つも残していない。
「もう……急いでいるんだけど、しょうがないわね」
理奈は愛用のマジックを取りだし、キャップを外す。立ったままなどいつものことと、慣れた様子で手早く布地にサインした。
「はい、どうぞ」
と、2人に掛けられるサイン入り襷。
そして理奈は、片手を腰に、片手で髪を掻き上げて。
「じゃあねっ」
ウインク一つをサービスし、振り向く勢いそのままで、凄まじい勢いで駆けだした。
後に残るは呆然としたままの芳晴と由美子。
「だから、なんだったのよ一体……」
と、聞くともなしに聞いてみたら、芳晴はやや顔を赤らめて、彼方に消えた理奈の姿を見送っている。
「ぼーっとしてないの」
由美子はいささかの嫉妬を込めて、芳晴の脇腹をつねり上げた。
【芳晴・由美子 緒方理奈のサイン入り襷ゲット。鬼に】
【緒方理奈 2ポイントゲット】
【緒方英二 まだまだ逃げます】
【緒方理奈 まだまだ追います】
【時間 二日目午後】
麗子とダリエリは暗い森を歩いていた。
途中で幾人の人とすれ違ったのだが、不思議のことに誰も二人には気が付かない…が、
──片や超設定の超存在、石原麗子。
──片や参加者の中で最もグレーゾーンにいるエルクゥのダリエリ。
この二人に積極的に関わりたいと思う人がいるか疑問だ……
「楽しみね、どんな素敵な所にエスコートしてくれるのかしら?」
麗子はこの夜のデートに期待に胸を膨らませて……フフフッと笑った。
「見えてきたぞ、ここだ。誰にも黙っていたが初日にここを見つけていたのだ。
本当は柏木のいっちゃんと一緒に入るつもりだったのだがな」
ダリエリは月灯りのネオンに照らされた怪しいホテルを指差した。
「…あなたと耕一君、そんな仲だったの。禁断の関係ね」
麗子が真顔で茶々を入れる。
「勘違いするな、今の俺は眼鏡が可愛い夕霧嬢一筋だ。
…いっちゃんと『ウホッ!いいエルクゥ…』『やらないか』のパラダイスな関係も、ちょっと悪くないかな…とは思うが」
柏木耕一が聞いたら思わず『うれしいこと言ってくれるじゃないの』と口走ってしまいそうになる会話を交わしながら、麗子とダリエリはホテルの近くにある穴から秘密のダンジョンに入っていった。
ダリエリと麗子は迷宮の奥の部屋に入った。
「やっぱりココを選んだのね、勝負の方法は?」
「──無論、どちらかが死ぬまで……と言いたいところだが、そうもいくまい。
貴様が俺に触れたら貴様の勝ち、貴様が俺を追えなくなったら俺の勝ちだ」
「あら、随分とあなたに不利な勝負なのね………
エルクゥの力を信じるあまりの余裕かしら?」
「そうではない、人在らざるモノよ。
お主の力が我を遥かに凌駕していることなど、一目で理解したわ。
お主のようなモノと戦うと思うだけで肌が粟立つ…」
「ふふっ、私を褒めても何も出てこないわよ」
「人外には人外の闘い方が在るのだ。このようにな!!」
まず始めに動いたのはダリエリだった。
彼は迷宮に何故か落ちていた『DANGER』の赤いテープで厳重に包まれた御土産箱を拾い上げると、思い切り麗子にブン投げた。
プロ野球の剛速球以上のスピードで飛んでくる一抱えの大きさの箱を、麗子は片手で衝撃を完全に止めてキャッチする。
「あなたからのプレゼント、一体何が入っているのかしら」
麗子はそう言って土産箱を開けると、『鶴来屋特製おみやげ ちーちゃん鬼饅頭 試作品』の包み紙の中からサッカーボールほどの大きさの巨大な饅頭?がドンと出現した。
「出来たてホヤホヤみたいね、早速頂くとするわ」
麗子は顔の前に饅頭を持ち上げると、歯をウイイィンと高速振動バイブさせた。
巨大な饅頭は風船が萎むように小さくなって麗子の腹の中に収まっていった。
「ご馳走様。この鬼饅頭、鼻にツンとくる香りとドクッとした舌触りが絶妙なハーモニーを奏でているわ。…千鶴さん、腕を上げたわね」
食後の感想を述べた麗子に、ダリエリは必殺のケミカルウエポンさえ通じないことに戦慄した。
「どうしたの、まさかこれで終わり、ダリエリさん?」
ダリエリはこの超存在には通常の手段は全く通用しないと悟った。
こうなると打つ手は一つだけだ。
ダリエリは麗子に背を向けると、脱兎のごとく走りだした。
「あら?狩猟者さんが敵前逃亡かしら」
麗子がダリエリに向かって挑発する。
「違うな。逃げるのではない。戦術的撤退だ」
ダリエリは滑るが如くのスピードで、迷宮の通路を駆けていく。
常人では目にも止まらない速度の逃亡者を、麗子は歩いて追いかけた。
「…貴様、バケモノと呼ぶにも生温過ぎるな」
ダリエリの全力疾走の後ろを、歩く麗子がどんどんと差を詰めていく。
逃走先の通路の曲がり角に今度は人が入れるほどの大きさの御土産箱があった。
ダリエリはそれを確認すると(投げつけるか、それとも…)とほんの一瞬注意をとられた。
「ダリエリさん、よそ見する余裕はあるのかしら?」
麗子がそう注意すると、曲がり角の床が抜け、ダリエリは落とし穴の底に落ちていった。
迷宮の通路の一部に穴が開き、もくもくと土煙が舞う。
ダリエリが落ちた落とし穴は暗い迷宮内では底が見えないほどの大きく深いものだ。
麗子は穴の前で、罠に掛かった哀れな獲物のダリエリが出てくるのを待った。
「さあ、出てきなさい狩猟者さん。私にその姿を見せて」
待ちくたびれた麗子が落とし穴を覗き込む。
──ウオオオオオオオオオオオォォォッ!!!!!!
鬼の絶叫が迷宮内を震わす。
巨大な鬼が穴の底から飛び上がってくる。
それを見た麗子は自分もエルクゥに向かって飛び掛ると、
「獲った!!」
歓喜の声を震わせ空中で鬼に抱きついた。
「勝ったわ──違う!!」
鬼の肌触りが明らかに生きているソレとは違う。
(エルクゥの風船!?)
空中から麗子が穴の底を見下ろすと、穴に一緒に落ちた御土産箱の中に入っていた『名物エルクゥ風船 試作品』を投げつけたダリエリがニヤリと嘲笑った。
ダリエリは穴の中で目にも止まらぬ早さでエルクゥ風船をふうふうと膨らますと自分の服を着せ、麗子の方へ投げつけたのだ。その間わずかに3秒。エルクゥだからこそ可能な早業だった。
麗子が落下する一瞬のスキにダリエリは落とし穴から脱出した。
麗子はエルクゥ風船に抱きついたまま、空中で二回転半捻りして落とし穴の底に着地した。
上には半裸のダリエリが、お尻をペンペン叩いている。
「待ってなさいよ、こんな落とし穴すぐに這い出て見せるから」
麗子はそう言った後、大変なことに気がついた。
「───私の眼鏡がない!あれがないと私のアイデンティティが……
…めがね、めがね」
麗子は慌てて落とし穴の底に手探りで眼鏡を探し出した。
ダリエリは『麗子嬢、オデコに眼鏡が引っかかってますよ』とつっこみたくなったが、
この強敵に塩を送るのは止めて、一目散に逃げ出した。
【ダリエリ 麗子から半裸で逃走】
【麗子 迷宮の落とし穴の底で、自分の眼鏡を探している。眼鏡はオデコに引っかかっている】
【二日目 深夜 迷宮内】
「ん…匂う! まだ遠くへは行っていない!」
と言うが早いか、彼女は嗅覚の導く方向へ駆け出していた。
「あ、なんならまた焼くけど…」
ショップ屋ねーちゃんの声は、風に掻き消されていった…
一方こちらは浜辺沿いの休憩所。詩子さんが唸っていた。
「どうですか、詩子?」
「うううーーー、ダメ。 全然分かんない」
ガソリンを入れたバイクで快適(?)な旅路を終え、目的地の海までは来れた。
が、そのバイクが再び不調となり、折からの雨も重なって、彼女達は動けなくなってしまっていたのだ。
「ガソリンは入ってるしなー…なんか、エンジンが死んじゃったような感じ…」
「詩子、人が来ます。 …鬼じゃないみたいですが…あれは…」
と、座り込んで色々試している詩子に茜が促す。
279 :
278:03/04/08 22:40 ID:aeIw1DiS
うああ、コピペミス。
↓からです…
「ぜ、全部売れちゃった!?」
「ええ、ついさっき。 派手なお姉さんが全部買っていったわよ」
「う、うぐぅぅぅ〜!」
屋台の情報を聞き、まずは腹ごしらえとばかりに駆けつけたあゆだったが、目の前に有ったのは残酷な現実だった。
しかし
「ん…匂う! まだ遠くへは行っていない!」
と言うが早いか、彼女は嗅覚の導く方向へ駆け出していた。
「あ、なんならまた焼くけど…」
ショップ屋ねーちゃんの声は、風に掻き消されていった…
一方こちらは浜辺沿いの休憩所。詩子さんが唸っていた。
「どうですか、詩子?」
「うううーーー、ダメ。 全然分かんない」
ガソリンを入れたバイクで快適(?)な旅路を終え、目的地の海までは来れた。
が、そのバイクが再び不調となり、折からの雨も重なって、彼女達は動けなくなってしまっていたのだ。
「ガソリンは入ってるしなー…なんか、エンジンが死んじゃったような感じ…」
「詩子、人が来ます。 …鬼じゃないみたいですが…あれは…」
と、座り込んで色々試している詩子に茜が促す。
「ん? トラブルかいな?」
やがて、話題の人物が詩子に話し掛けてきた。
茜が絶句したのも無理はない。 彼女は恐竜に跨り、従者を引き連れて現れたのだ。
しかも、タイヤキを食しながら。
「う…うん、エンジンがね、掛からないの」
異色の取り合わせに一瞬引いたものの、女性(神尾晴子)から何か暖かいものを感じた詩子は、会話に応じてみる。
「ふーん、ちょっと見してみ?」
晴子は気軽にバイクを見て回す。 そして、色々と動作を確かめ、エンジンからプラグキャップを引き抜いた。
「ああ、やっぱり。 プラグコードが切れかけてるやん」
「おおー!」
実にあっさりと原因を突き止めた晴子に、詩子は喝采を送った。
「…んー、これで、どうやろ?」
バイクの車載工具で応急処置を行い、晴子はエンジンを掛けてみた。
−−ドゥルン! ドッドッドッドッ…
バイク、復活。
やんやの喝采を受け、晴子がそれに応えようとした、その時。
「見つけたーー!」
視界の隅から、猛スピードで駆けてくる鬼、一匹。
鬼は、人の領域を超える速度で晴子達5人の前に到達した。
「ふっふっふ…タイヤキを追ってきてみれば、獲物が5匹も居るとはね〜」
不適な笑みを浮かべる鬼、月宮あゆは御満悦だ。
「タ、タイヤキ? って、コレかいな」
晴子がポーチからタイヤキの入った袋を取り出す。
「まだ残ってたんだ! うう〜、ツイてる!」
「タイヤキが欲しいならくれてやるけどな。 その代わり、ウチ達を見逃すってのはどうや?」
今にも飛び掛らんとするあゆに、ショックから立ち直った晴子は交渉を持ち掛けた。
「ふっふ〜ん♪ タイヤキも貴女達も、両方戴くに決まってるよ!」
だが、鬼は聞く耳を持たなかった。
「そか…じゃあタイヤキをひとつ…」
「ひとつふたつ増やしても無駄だよ〜♪」
「食う」
晴子は隣りに居た澪の口に、タイヤキを押し込んだ。
「うぐぅ!?」
澪は驚愕顔をしたものの、美味なタイヤキに心奪われ、あっという間に平らげてしまった。
「な、なんて事を…ボクのタイヤキ…」
「どや? 心は変わったか?」
「ぜ、全員捕まえれば…食べきれないほどのタイヤキが…」
「じゃ」
今度は茜の口に押し込む。
「ああああーーー!!」
茜は平然と平らげた。
「う、うぐ、うぐぐぐ…」
「あー、もー。 面倒やな、ホラあんた、残り全部…」
晴子が詩子にタイヤキを向けた瞬間
「うぐうううううううう!!」
鬼が飛び掛ってきた。
「行くで! べなの兄ちゃん!」
あゆが飛び掛ってきた瞬間、晴子はアクセルを吹かし、派手に砂塵を撒き散らしながらターンし、そのまま走り出した。
ドカで神社の石段を掛け登り、砂道でも爆走&フルブレーキをかます鬼ライダー晴子。
雨が降っていて、ここが砂浜だろうと、彼女にとって50ccのバイクなど思い通りになる玩具でしかなかった。
「は、はい!」
虚を点かれたベナウィだったが、一瞬で晴子の思惑を読み取り、ウォプタルに跨って走り出す。
「ま、待てぇぇぇぇぇ!!」
あゆは呆然とする詩子達3人に目もくれず、走り去るタイヤキを追いかけていった。
取り残された3人。
「……あ、バイクが…」
「美味でした」
『ごちそうさまなの』
【晴子&ベナウィ 飲酒運転+ノーヘル+速度違反であゆを引き付けて逃げ出す】
【詩子&茜&澪 バイクを摂取される】
【あゆ 目の前の誘惑に勝てず】
全参加者一覧及び直前の行動(
>>284まで)
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
レス番は直前行動、無いキャラは前回(
>>257-259)から変動無しです
()で括られたキャラ同士は一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)
fils:【ティリア・フレイ】、【サラ・フリート:1】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂、【新城沙織】、【太田香奈子:2】、【月島拓也:1】
痕:柏木耕一、(柏木梓、日吉かおり)、柏木楓、柳川祐也、ダリエリ
>>273-277、
【柏木千鶴:10】、【柏木初音】、【相田響子】、【小出由美子】
>>269-272、【阿部貴之】
TH:(藤田浩之、長岡志保、姫川琴音)、神岸あかり、マルチ、(来栖川芹香、来栖川綾香)、
松原葵、(佐藤雅史、岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ)、神岸ひかり、
(【保科智子】、【坂下好恵】)、【宮内レミィ】、【雛山理緒:2】、【セリオ:2】、【田沢圭子】、【矢島】、【垣本】、【しんじょうさおり】
WA:七瀬彰、緒方英二
>>269-272、
(【藤井冬弥】、【森川由綺:2】)、【緒方理奈:5】
>>269-272、【河島はるか】、【澤倉美咲】、【観月マナ】、【篠塚弥生】
こみパ:千堂和樹、(高瀬瑞希、九品仏大志)、(牧村南、風見鈴香)、
(猪名川由宇、大庭詠美)、御影すばる、立川郁美、澤田真紀子、
(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)、【芳賀玲子】、【塚本千紗:2】、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】)
NW:ユンナ、【城戸芳晴】
>>269-272、【コリン】、(『ルミラ』、『アレイ』)
>>269-272、(『イビル』、『エビル』)、
(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:江藤結花、高倉みどり、【宮田健太郎:1】、【スフィー】、【リアン】、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)、岩切花枝、杜若きよみ(黒)、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】、【杜若きよみ(白)】、【御堂:6】、【光岡悟:1】、【石原麗子】
>>273-277 ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ、(アルルゥ、カミュ、ユズハ)、ベナウィ
>>280-284、クロウ、カルラ、クーヤ、サクヤ、
【エルルゥ】、【オボロ:1】、(【ドリィ】、【グラァ】)、【ウルトリィ:1】、【トウカ】、【デリホウライ】、
【ゲンジマル】、【ヌワンギ】、【ニウェ:1】
>>260-264、【ハウエンクア】、【ディー:6(6)】、『チキナロ』
Routes:(湯浅皐月、梶原夕菜)、リサ・ヴィクセン、
【那須宗一:1】、【伏見ゆかり】、【立田七海】、【エディ】、【醍醐】、【伊藤:1】
同棲:【山田まさき:1】、【皆瀬まなみ:2】
MOON.:巳間晴香、名倉友里、
(【天沢郁未:4】、【名倉由依】)、【鹿沼葉子:2】、【少年:1】、【巳間良祐:1】、【高槻:1】、【A棟巡回員】
ONE:(里村茜、上月澪、柚木詩子)
>>280-284、氷上シュン、
(【折原浩平:4(3)】、【長森瑞佳】)、【七瀬留美:1】、【川名みさき】、
【椎名繭】、【深山雪見】、【住井護】、【広瀬真希:1】、【清水なつき】
Kanon:(沢渡真琴、天野美汐)、
(【相沢祐一】、【川澄舞】)、【月宮あゆ:4】
>>280-284、【水瀬名雪:3】、【美坂栞】、
【美坂香里:8(1)】、【久瀬:4】、【倉田佐祐理:1(1)】、【北川潤】
AIR:神尾観鈴、(霧島佳乃、霧島聖)、(遠野美凪、みちる)、神尾晴子
>>280-284、(柳也、裏葉)
>>260-264、しのさいか、
【国崎往人:2】、【橘敬介】、【神奈:1】、【しのまいか】
バシャッ、バシャッ、バシャッ………。
森の中、ぬかるむ地面を規則的な水音、踏みしめる足が水を飛ばす音が響いていた。
しかし、それはあたりへと広がるより先に、何倍もの雨音によってかき消される。
走っている男の名はディー。いや、D。
オンカミヤムカイの哲学士。
または、場所によっては解放者とも呼ばれ、宗教ウィツァルネミテアにおける大神、ウィツァルネミテアそのものでもある。
だが、今の彼は……ただの、走る男にすぎなかった。
吐く息は白く変わり、濡れた髪は顔にへばりつく。雨合羽を着ているとはいえ、激しく動いている以上全ての雨粒を防ぐことなどできない。服もだいぶ濡れてきた。
だが、止まることはできない。
「チッ、安物はこれだから! 使えん!」
手の中の探知機に毒づく。安物だけあって、その性能は悪かろうであった。
周囲に参加者がいる/いない(鬼・逃げ手判別せず)、そして対象の大雑把な方向が指し示される。それだけであった。
「無いよりマシだが……こんなもので、特定個人を見つけ出せるのか!?」
焦燥感は苛立ちへと変わり、冷静なDの思考をも阻害し始めた。
「否……。落ち着け、Dよ。落ち着け。今の私には翼も法力も残されていない。残っているのは……この、頭だけなのだから」
余計な感情で最後の手札すら自ら捨てるようなことがあってはならない。
Dは考える。ハクオロを探す方法を。見つけてからならばどうとでもなる。だが、見つからないことにはどうにもならない。
そして……
「よし、やはりこれしかないな」
一つの手段に到達する。決まれば行動は早い、Dは近くの木に駆け寄り、太めの枝を一本ヘシ折った。
「頼むぞ……」
持ったまま道のど真ん中に歩み寄り、地面に突き立て、添えていた手を放す。
……ぱたっ。
「……あっちか!」
枝が倒れた方向に向かい、全力で駆け出す。
彼が考え抜いて編み出した方法。要は、勘だ。
だってそれしかないんだから。
情報は皆無に等しい、というか皆無なのだから。
だがDすら知らないことがある。
かつて壱であった大神は弐に分かたれ、
お互いに引きつけ合い、憎しみ合い、惹かれ合い、殺し合う。
死ぬことは無いのに、終わることは無いのに、お互いが同じゆえに、どこまでも傷つけ合う。
そんな2人の運命は、どこかでぶつかり合い、交錯する。
そう……それは……たとえ ────
「……ん?」
「……どうしましたか、ハクオロさん?」
森の中、木々の葉の鬱蒼と繁った場所を狙って歩き、雨露をかわしていたハクオロ一行。
そんな中ハクオロは不意に頭の隅に違和感を覚えた。
「……いや……」
「お腹でも空いたのか?」
「…………いや。気のせいだろう」
それは、自分が迫る予感。
分かたれた半身との、出会いの予感。
──── この、小さな島の中でも。
【D 全力疾走中。ハクオロ一行に迫る】
【ハクオロ 僅かな違和感を覚える。まだDの接近には気付いていない】
【時間:3日目午後 場所:森の中 天候:降雨】
これから
>>260-264の『胡桃割り』を一部改定したものを投下します。
展開に変化はありませんが、時間が大幅に変化しますので、
次の作品をかかれる方は、以下の作品から繋げることをお願いします。
違和感。
それを嗅ぎ取ったのは裏葉の方であった。
今進んでいる森の道、進行方向にある微妙なズレ。
何が違うとも言えない、それに今は――――
「ククク、もっと…もっと楽しませるのだっ」
文字通りの「鬼」が追撃してきている。
相手の装備から狭い所が有利と判断した2人は
木々の間ををかいくぐり、ニウェを振り切ろうとしていたのだが――
「ぬぅんッ」
ザガァッ
相手はその長い柄がついた鉈のような武器で軽々と木々を薙ぎ払い、直進して追ってきた。
(余計なことを考えていてはっ……)
彼女は追ってくる男に意識を集中させ、夫に掛けようとしたその言葉を飲み込んだ。
「この天檄が、主らを直接叩けぬことを悔しがっておるわっ」
また背後で木の破壊される音。一歩近くなっていることを確信する。
そして――結局眼の前の罠を発見することは出来なかった。
そんなシリアスな展開から10数時間後、
某所で2人の平和な少年は熱く語り合っていた。
アルコールでも入っているのか、2人はノリノリである。
それも当然か、飲んでいるのはあの世界に誇る高級酒『来栖川の怒り』、しかも無料。
真実は――まぁ置いておこう。
今、ノッてきた二人の語らいは、昼間こなした「仕事」のことで佳境に達していた。
「しかし、さきほどのアレは会心の出来であった…」
グラスに残っていた僅かな液体を飲み干し、北川は息をついた。
「ほほー、越後屋自らが会心の出来とは。んで、どんなのなんだ?」
尋ねられた少年の目がキランッと輝く。そして、一気にまくし立てた。
「ある一定区域に入ると地面に仕掛けられた砲弾が上に飛び出し、上空からとりもちを撒き散らす。
罠そのものと、センサーが別になっているため、どんな玄人にも見分けることは困難、
その上とりもちの方角は360度万遍なくだ。どんな兵どもでもアレにかかれば仔羊と成り下がる代物よ!」
どっちかってーと、色物ではないかと思えなくも無いが、彼のパートナーは本気で感心し、賛辞を送る。
「完っ璧、ですな。ふーむ、なかなかやるなぁ」
「もちろんだ、アレを発動させないことが出来るやつなど、おらぬわ、わははははは!」
「わははははは! ところで、俺の方はだな……」
そして、二人は朝まで語り尽くすのであった……
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
2人が、屋台に辿り着き、真実を知るのは何時になるのであろうか?
とにかく、何も知らない2人は今、とてもとても幸せだった。
―――そして幸せな彼らは知らない。今から時を遥か遡った森の中で、
話題のワナは、すでに発動していたということを。
「ぬぅんッ」
ザガァッ
恐ろしく近くまで、途方もない獣が迫ってきている。
こんな状況であるというのに、いや、それ故にか――柳也は己の感覚が大地を蹴り、
枝葉を掻い潜るたびに、細く、鋭く、研ぎ澄まされていくのを感じていた。
(今なら……裏葉一人なら逃がせるか!?)
左手を腰の鞘に軽く添えて――だが、思い直す。
(だめだ。これはあくまで鬼ごっこ。峰打ちといえど相手を叩くわけにはいかぬ。
それに……こいつは人間の域を越えている……もしもの時、裏葉1人では…)
後ろをちらと見やると、いつ何時でも涼やかな姿を崩さなかった裏葉の顔は真っ赤に染まり、
どれほど苦痛なときでも穏やかであった呼吸は強く、そして激しく乱れていた。
それでもなお、一瞬合った目が、優しく、力強く返事をしてくる。
(そうだ、まだっ)
諦めない。
こんな相手でも、2人でなら行ける。そんな気がした。
自分の連れ添いの手を強く握り、駆ける。
その一歩がまた一つ速くなった。
ズガンッ
「この天檄が、主らを直接叩けぬことを悔しがっておるわっ」
また木の幹が切断されたのだろう。だがその音は確実に近くなっている。
後ろに感覚を残し目の前の木々の隙間を抜けたと思った、その次の瞬間。
柳也の眼前で、大地が膨らんだ。
キンッッ!!!!!
北川潤渾身の後期型罠の存在。柳也はそれに欠片も気が付いていなかった。
追ってくる相手にばかり集中して、この森に罠が仕掛けてあることなんて頭の片隅にも無かった。
裏葉のように違和感も覚えなかった。当然、予想だってしていなかった。
だが、柳也の抜き打ちは眼の前を跳ねた「何か」を真っ二つにしていた。
つい先程まで妻の手を握っていたはずの手には今、腰の鞘に納められていた刀が、握られている。
愚直で、それゆえに力強い輝きを持つ、柳也の愛刀。
その一閃は、発動したら全てを無力化させるはずであった罠を、完全に無意味な物体へと変えていた。
いきなりの出来事に、ニウェも少し呆けたように口元を半開きにし、歩みを止める。
その刹那を裏葉は見逃さなかった。
派手なことをしながら一時も気を緩めなかった鬼。
その高く堅い壁のような心が、今、少しだけ隙間を見せたのだから。
それから少し後―――
空をプカプカと浮かぶ相手にニウェは臍を噛んでいた。
「ふははは、この刀は神刀・無骸。地上に残りし神を宿すこの刃。空を飛ぶことなど、造作も無いわっ」
女を抱きかかえ、ふわふわと浮かんでいく男。もう既に遠いはずなのにその声はなぜか良く通っていた。
「おのれぇい! このような結末、認めはせぬぞ!!」
空に向かって叫び、天檄を上に振るう。だが相手は強烈な風にもびくともしない。
「クッ、神刀・無骸か……クククッ、そこから叩き落し、その刀、我が物にしてくれるわっ」
シケリペチムの皇は、雲の隙間から覗く青空に向かって吼えた。
一方、空に向かって語りかけるニウェのその脇の茂みを移動する男女が一組。
『何もない』空に語りかけている男を後ろにし、さくさくと移動していた。
その片手はしっかりとお互いを握り締めている。
「見事、だな。眩惑の術とはあそこまで……」
「あの御仁も、精一杯であったのでございましょう。それだけに効き目もより良く」
「そうか」
「ですが、それもこれも、柳也さまが隙を作ってくださったおかげでございます」
「……そうか……」
照れる。が、ふと思い出したことでもあったのか、にやけた口元が元に戻った。
「ところで裏葉よ……」
「何でございましょう?」
「こいつは銘無し(ななし)だ。無骸なんてけったいな名前じゃないぞ」
少し拗ねた、と言うか、呆れた様子で語る夫に対し妻は笑顔で返す。
「柳也さまは、もう二度と人を殺めることは無いのでございましょう?」
「それは……そうだが。何の関係がある」
はるか昔、少女と約束した殺さずの誓いを思い出す。
だがこの鬼ごっこで人を殺めないのは当然のこと、妻が何を言いたいのか分からなかった。
「ですから、その子は人に対して『無害』なのでございますよ」
おあとがよろしいようで。
【柳也、裏葉夫妻 二ウェを撃退】
【二ウェ 空に向かって毒づく。2人に逃げられたことに気付いていない】
以上です。
今回、皆様にご迷惑をおかけしたこと、まことに申し訳ありませんでした。
リサは超ダンジョンに入り一先ずは御堂を撒いて、HM-13に超ダンジョンの説明を受けていた。
「―――――――というようになっております。リサ様ご理解頂けましたでしょうか?」
説明が済み確認に移るHM-13。
これまで超ダンジョンに入ってきた参加者は説明を聞いた時点で方針をほぼ決定していた為
確認作業そのものが必要無い状態であったが、リサは説明中ずっと何かを考てる様子で爪を噛んでおり
普通の人間なら話を聞いてるかどうかも不安になるような様子であった。
勿論メイドロボにそんな様子は関係無く、確認も純粋に自分の仕事をこなしているに過ぎないが。
「ええ、聞いてるわ……」
聞きながらずっと考えていたのはこのダンジョンのメリットとデメリット。
(メリットは確実に雨からは身を守れる事と食料取得機会の増加といった所かしら。
対するデメリットは……あの柏木千鶴や先程の男のような人を超えた存在が全力を出せる事でしょうね)
パチンッ!
噛まれた爪が音をたてる。
(私もID13のエース『地獄の雌ギツネ』と呼ばれる身。参加者の中でも相応の実力は備えているという自負はあるけれど
相手の能力が多少は制限されてる外なら兎も角この中じゃ逃げ切るのは難しいでしょうね。
喩え銃を撃っても彼らみたいな相手には効果も薄いでしょうし……)
パチンッ!
再び爪が音をたてた直後、リサは結論を出した。
「帰るわ。出口は其処のmagic circleでいいのね?」
「はい。今後のご検討を期待致しております」
そしてリサが出た先は……
「人が気持ちよく寝てるとこに雨が降りだすとはなー」
「ん、自然現象だししょうがない。雨宿りできる場所探すのが建設的」
降りだした雨を避けるため移動しようとしていた宗一とはるかのすぐそばであった。
「おや、誰かが突然現れた」
「その反応はどうかと思うんだが。とはいえ昨日おっさん達が消えたの目の当たりにしたからなーってリサ!?」
「宗一!?」
【リサ 超ダンジョンから離脱】
【宗一、リサ ある意味運命の出会い】
【3日目明け方】
「………………………………………」
「・……………………………・………」
そして二人は倒れた。
倒れるというより、崩れ去ったというほうが正解か。
夜の砂浜に、半裸の少女と全裸の少女が、くず折れるように倒れ付した。
ああ。端から見れば、いったい彼女らにどんな不幸が襲いかかったのだろうと、気を持つことであろう。
ああ。いったい誰が、二九時間におよぶ死闘を、この二人が繰り広げていたのだと思おう。
ああ。その死闘の内容が、あっちむ(略)であったことなど、神ですら想像することはできまい。
ああ。
「。。。。。。。。。。。。。。。。ごくり」
そして垣本は息を飲んだ。
いや、待ってくだせぇよ。なんでこんなかわいい子二人が、裸でぶっ倒れてるんデスカ?
たすきだけかけられてる姿が、なんか、こう、えらく、ものすごくエロティックじゃありませんカ?
ごくり。
茂みの中から二人の様子を覗う垣本。
顔が赤く、息が荒い。心ここにあらずといった様子。
いったい何があったとですカ?
困惑している脳内に、次々と選択肢が浮かぶ。
1 二人に近寄って様子を見る。これがきっかけにお近づきになれるやも。
2 厄介なことになる前に、早々に逃げ出す。男としてそれはどうか。
3 やっty
ぶるぶるブル。脳内に浮かんだとんでもない選択肢をかき消す。
……ここは。何番で行こう。悩む垣本である。
「さて、その様子を見ている人がここにいるんですね」
佐祐理は、唐辛子手榴弾を手に取った。ねらいを定めて、投擲準備に入る。
先ほど夕食のため、屋台に立ち寄ったとき、いくつか補充しておいたから、弾数に不足は無い。
「あははー、女の子の敵は、佐祐理が成敗です」
激しく勘違いしている佐祐理であった。
垣本の選択にかかわらず、厄介なことは、すぐそこまで来ていたりするのだった。
【垣本 困惑中。混乱中】
【略コンビ ついに力尽きる】
【佐祐理 垣本へ手榴弾投擲用意】
【夜】
「…はっ…はっ……はっ……はっ……はっ…」
私――――澤田真紀子は森の中を疾駆していた。
理由は簡潔にして明快。
運の悪い、遭遇。
よりによって複数の鬼のチームに出くわすことになるとは。
歯噛みをして、草むらを走り抜ける。
顔にかかる雨。走るには具合の悪すぎる足場。
最悪だった。
ヒールからシューズに替えたのは正解だったが、スーツ姿というのはやはり辛い。
ストッキングがどんな有様になっているか、考えたくも無かった。
着替えくらいは購入しておくべきだったかもしれない。 まあ、あのジャージだけは勘弁して欲しいが。
ざっ
一瞬、草を切る音と共に視界の端に黒い影が―――
しまった。回り込まれたっ!
立ちふさがる影に足をとめる私。
目の前に現れたのは、傍らに剣を携える黒髪の少女。
自分の動きにあわせて、間を外させない。”立ちふさがる”という表現が正しい所作だ。
―――動けない。
しかし、少女の方も一定の距離をおいたまま近づいてこようとはしなかった。
まるで誰かを待っているように。
「……舞ーっ!、天沢ーっ! みつけたかーーっ!?」
そして現れたのは、襷をかけた二人の鬼。
一人は男。噴射式ノズルを持っている。何を噴射するのか知らないが、あまり愉快でないものなのは確かだろう。
もう一人は天沢と呼ばれた少女。こちらは何も身につけていない。
「お見事。あなたやっぱり速いわねー。……ではいただきます、と」
微笑を浮かべて近づいてくる少女。
他の二人は傍らで見ているだけで動こうとはしない。
彼女が捕まえるのだろうか?
私の頭に、ひとつのアイデアが浮かんだ。
「――――聞いていいかしら?」
「……なに?」
訝しげに、延ばしかけた手を止める少女。
「なぜ、あなたがタッチするの? 追い詰めたのは彼女なのに」
天沢と呼ばれた少女ともうひとりの少女を交互に見る。
黒髪の少女―――舞といったか―――は何も言わない。
「チームで行動しているからよ。捕獲するのは、わたし。役割分担ね」
やはり。そういうことか。
「――――ああ、なるほど。あなたたち、鬼としての優勝を狙っているのね。それで、獲得数を稼いでどうするつもりなのかしら?」
「どうする?」
『天沢』という少女が、不審気にわたしを見つめる。
ここからが本番だ。
「なんのためにチームを組んでいるのか、と聞いているのよ」
「なんのために……ってそのほうが効率がいいからに決まってる」
後ろで男の方が答えた。
「本気でいってるのかしら。私の記憶では主催者は賞品が何かについて言及してなかったと思うけど」
私の指摘で彼らの頭に疑問符が浮かんだようだ。
まずは主導権を握った。
これは、上手くやれるかもしれない。
「にも関わらず、あなたたちは賞品が何かもわからないのに、チームを組んでいるというのね。しかも、協力し合ってトップになっても
賞品が分けられるものとは限らないのにこの子にトップを譲ると?」
「そ、それは……」
男の方が口ごもる。どうやらそこまで考えていなかったらしい。
『確率』が少々上昇した。
「―――そっちのあなたは、どうしてチームに?」
小柄な少女。
「ふ、復讐です! お姉ちゃんを捕まえるのには、協力してもらったほうが有利ですから」
なるほど。経緯も姉がどういう人か知らないが、ともかく彼女一人でなんとかできるとは思えない。
納得できる理屈だ。
「―――そう。でも、お姉さんは既に鬼になっているかもしれないわよ。そうすれば意趣返しもできないのではない?」
「ゆ、優勝して、舞台を設定してもらいますっ!」
反射的に答える、少女。
こちらも扱いやすいかもしれない。
「あなたが撃墜数を稼いでいるわけではないのに? 賞品が何かもわからない、要望だって通るかわからない。
それでもあなたがチームにこだわる意味ってあるのかしら?」
「分けられるものかもしれないだろ?」
まずい雲行きと思ったのか、男のほうが反論した。
「もちろん、その可能性もある。例えば、お金とかね。でも、これだけ不思議時空満載な人たちを満足させられるような
賞品が金銭でありうると思う?」
微笑を浮かべて余裕で切り返した。
「それで、そちらのあなたは?」
あの黒髪の少女だ。
「……祐一と一緒だから。…あと佐祐理を、探さないといけない」
「……佐祐理? あなたの友達?」
「……祐一と佐祐理は親友だから」
「そうね。親友は大切だわ。でもそれなら他人が獲得数を稼ぐ手伝いをしている暇はないんじゃないかしら。
”ゲーム”参加者が必ずしも紳士的な人たちだけとは限らない」
少女が再び黙り込んだ。
あとは――――、
「面白いわね、あなた…名前を聞かせてもらえる?」
彼女。天沢、と呼ばれた少女だ。
「―――澤田、真紀子よ」
「おっけー、真紀子さん。あなたの意見には聞くべきところがあるのは認めるわ。それは後で話し合うとしましょう。
でも、それはそれとして一つ明らかなことがある。―――あなたはここでジ・エンドよ」
「―――冷静、なのね」
思わず目を見張った。
この状況下で私の意図を見通すこと自体はさして難しいことではない。彼らは鬼で私は逃げ手なのだから。
ただある状況下で問題を単純化し的確な対応を講じるには、相応の知性と経験が必要だ。
彼女にはそれがある。
「あなたには残念でしょうけどね」
「でも、ないわ。罪悪感をそれほど覚えなくて済むから」
本当はもう少し、粘っていたかったけれど。
ここらが潮時だろう。
手に忍ばせていたそれを、チンッ、という音と共に彼女たちの目の前に転がす。
そう。屋台で購入した、あの金属の塊だ。
自然、彼女たちの視線がそれに集まる。刹那、
閃光と爆音が轟いた。
まったく。本当に不公平なルールだと思った。
逃げ手が圧倒的不利におかれるこの”ゲーム”の特性についてはさんざん言ったが、主催者が予め賞品を
決めておかなかったのは、参加者がチームを作りゲームバランスを壊さないようにするためではないかとすら思えてきた。
つまり、参加者間に相互不信の種を植え付けることでチームを成立させないという意図ではないか。
まあ、ともかく。
それはともかくだ。
不審の種は蒔いた。後は滋養と時間があれば実りをつけることだろう。
今回はなんとか逃れられたけれど、次もおなじように行くという保証はどこにもない。
あまりリスクは犯せないのだ。
なにせ自分は参加者中数少ない一般人なのだから。
つまり、数少ない何の力もない『まともな人』。
鬼になった場合、獲物を捕まえて数で挽回できるとも思えない。自分にとって捕獲されることは事実上のリタイアを意味する。、
――――まずは、身を隠さないとね。
【真紀子 祐一・郁未・由依・舞 遭遇】
【真紀子 チームに亀裂を入れる】
【真紀子 シューズ着用 カロリーメイト 閃光手榴弾×1】
【時間 三日目朝】
【場所 森】
【天候 雨】
「うにゅ〜眠いよ〜」
「……」
「眠いよ〜眠いよ〜」
「……うるさいぞ、スフィー!」
「だって眠いんだもん!」
真夜中の小さな市街地で浩平とスフィーは怒鳴りあう。
「だからあれだけさっさと寝ろって言っただろ!」
「そんなのこーへーの勝手じゃん!」
「まあまあ、二人とも落ち着きなされ」
「うん、ほらスフィーさん、もうちょっと頑張ってみよ?」
だが、そう言うトウカも瑞佳も相当に眠そうだ。それを見て浩平の胸中に焦燥の念が湧き上がる。
(クソ、いい考えだと思ったのに!)
……カルラとの一件があった後、宴の続きという雰囲気でもなくなった一行であったが、
そこで浩平は新しい作戦を思いついた。
『今から寝て、深夜に起きて獲物を探すぞ!』
深夜であれば逃げ手も寝ているだろうし、
その時に市街地の家を一軒一軒しらみつぶしにすれば寝込みを襲える。これが浩平の考えであった。
かくして、浩平一行は21時に就寝、3時に起床というスケジュールで動く事になったのだが……
現在時刻、4時30分。これまでのところ成果はまるでなかった。さらに、
「トウカ、おきてるのか!?」
「……ハッ!?す、すまぬ浩平殿!」
「しょうがないよ、トウカさんなかなか寝付けなかったみたいだし……」
「う…むぅ。あの女狐への怒りが収まらなくてな……申し訳ない……」
「あーあ、ゆかりみたく寝てれば良かった〜。罠もあるしさー」
各メンバーの士気は極端に低く、スフィーはそれを隠そうともしていなかった。
ちなみに、ゆかりは起きる事さえしなかった。
浩平の作戦には確かにそれなりの理があったが、残念ながら誤算もまた含まれていた。
まず、人間はそんな簡単に就寝時間帯をずらせないという事。
次に何者かが市街地に大量の罠を作成していたという事。そのせいで家探しは遅々として進まなかった。
そして、多くの逃げ手が寝込みを襲われる事を嫌って、市街地を寝る場所として避けていた事。
最後に……これが一番重要であるが、彼らのチームはもともとたいしてやる気がないという事である。
瑞佳は浩平に付き合っているだけだし、スフィーもホットーケーキにつられているだけで、
逃げ手を捕まえる事に全く執着していない。ゆかりは完全な成り行きである。
唯一トウカだけは、カルラとの喧嘩を穏便に収めてくれた浩平に感謝し一目もおいているのだが……
「浩平殿……貴殿の策、某も拝聴したときは見事なものだと思った。
しかし、この状況では早々に就寝をとって明日への英気を養ったほうがよいと思う」
(そんなことは分かってるけどさ……!)
そのトウカの気遣いも、浩平をいらだたせるだけだ。
仲間の士気が下がっている事ぐらい浩平にも分かる。だからこそ、それを振り払うような成果がほしいのだ。
「スフィー!寝るな!ほら、さっさと歩けって!」
かなり乱暴にスフィーを小突く。
「う……うるさーい!!私帰る!後はこーへーひとりでやってなよ!」
その暴挙にスフィーの堪忍袋の緒も切れたらしい。
「な、なんだと!?」
「フンだ、ばーか!」
「馬鹿っていうほうが馬鹿なんだこの馬鹿!」
険悪な雰囲気はもはや止まらない。だが、
「浩平、もうやめよ?今のは浩平が悪いよ」
その場に瑞佳の静かな声が流れる。
「どうしたってうまくいかない時ってあるよ。ね?」
幼馴染の静かな目に浩平は押し黙る。
―――― そんな泣きそうな目、すんなよ
一息つく。徐々に冷静になっていくのが分かる。
―――― だけど、そんな眼にさせてるの、俺なんだよな。
もう一度深呼吸をする。夜の冷えた空気が肺に満たされ、頭を冷やす事が出来た。
―――― 俺、リーダーなんだよな、一応。だったらもう少ししっかりしないとな。
「スフィー、俺が悪かったよ。」
「……」
「意地になってたんだ。うまくいかなくてさ。本当にすまん」
「……DXホットケーキセット4枚で許したげる」
スフィーの一言に、ようやくホッとした空気が流れた。
(ちぇっ、いい作戦だと思ったのにな。せめてここに獲物がいない事が分かればあきらめも付くんだが)
最後に未練がましく市街地のほうを振り返る。だが、そこで浩平の頭に閃くものがあった。
「すまん、最後のわがままだ!ちょっと試してみたい事があるんだけどいいか!?」
住宅街のこじんまりとしたマンションの一室。
その中ではただ今南・みどり・鈴香の天然おねーさんチームWith
毛玉が就寝中であった。
灯台での難を逃れた後は、特にハプニングもなくこのねぐらを見つけ(幸運にもこのマンションには罠がなかった)布団に付いたのであるが……
ドカーン !!!
往来から鳴り響く爆音に、南・みどり・鈴香の天然おねーさんチームWith
毛玉は飛び起きた。
「な、なんですか?」
「あらあら、なにかしら。騒がしいですね〜」
「あちらの通りでしょうか?なんか光ってますけど」
三人は、明かりをつけるとベランダに出てそちらのほうを見る。
「うーん、見えますか?」
「ちょっと見えないですねぇ」
「爆竹でもしてるんでしょうか?」
そんなのどかな会話がベランダでかわされる。その様子を……
「浩平殿!あそこだ!」
「うん、三人いる!」
「ご丁寧に明かりまでつけちゃってな!捕まえさせてもらう!」
スフィーの魔法による爆音の場所とは、南たちのマンションを挟んで反対側の
わりと高い建物の上で浩平達が見ていた。
「だけど本当にうるさいですね」
「これじゃ眠れませんね」
「うーん、注意してきましょうか」
依然そんな会話を交わしている背後で、別の声が流れた。
「えーと、ごめんなさい。すぐやめさせます」
「あんたらをタッチした後でな」
「逃げ場はないぞ、覚悟なされよ」
振り返る三人の目の前にはいつのまにか、三人の鬼がいた。
ここは3階のベランダ。確かに逃げようがない。
「なんでここが……あ、なるほど」
ポンと、南が手を打つ。
「あの爆音は私達を見つけるためのものだったんですね」
寝ているときにいきなり爆音が鳴り響き光が発すれば、よほど用心深くない人でない限り
窓から身を乗り出して何事かと確認しようとするだろう。
そこを別のところから監視し、逃げ手を見つけようというのが浩平の策であった。
全ての場所を監視できるわけでもないし、死角になっているところもあるだろうから
ダメもとの作戦であったのだが……まさか明かりまで灯もしてもらえるとは。
(ひょっとしたらこの人たち寝ぼけてるのかもな)
どーもこの人たちの天然ぷりを見てるとそう思う。
なお副次効果として、この爆音のせいで南達は、浩平達が侵入してくることに気づかなかった。
ポテトは番犬としてまるで役に立たなかった。
「さて、どんなふうにポイントを振り分けようか?」
「私はいいよ。スフィーさんもいらないと思う」
「うむ。浩平殿、これは貴殿の手柄だ。彼女達のぽいんととやらで、
南蛮菓子をスフィー殿にご馳走してやればよろしかろう」
「そうか。ありがとう」
微笑む二人に、浩平も笑顔を見せた。
こうして気の良くした一行は別のところでもこの作戦を実行したのだが、
程なくして雨が降り始めたので続行は断念せざるを得なかった。
なお。後日談として――
ゲーム終了後、浩平は七瀬留美にこの作戦の事を自慢したのだが、
「あの爆音のせいで眠れんかったわ、どあほう!!」
との怒声と共に掌底で上空を垂直に数メートル吹っ飛ばされたとか…
――それはまた、別のお話。
【折原浩平 3ポイントゲット】
【牧村南、風見鈴香、高倉みどり 鬼化】
【三日目午前5時ごろ】
【小さな市街地】
失敗した。最後は(6)ですね。
祐一達のチームワークが乱れた。
優勝賞品をどうするか。
まったく考えていなかった。
「優勝賞品か…」
祐一はなにげなく呟いた。
「……祐一、何で悩むの?」
「え?」
舞の問いに、祐一は困惑する。
祐一は、郁未、由依と眼を合わせるが、誰一人舞の言いたいことが分からないらしい。
「チームを組んだのは成績を上げる為もあるけど……皆でいた方が楽しいからじゃないの?」
舞はもとから優勝賞品目的で組んだわけでもない。
佐祐理と祐一さえ一緒にいれば楽しい。
鬼ごっこだってこんなに大人数なら楽しい。
小さいころは虐められていてできなかったけど…今は子供のころにできなかった分まで楽しんでいる。
祐一や郁未、由依もそうなんだと舞は思っていた。
――舞らしいな。
祐一はそう思った。
「そうだな、楽しめたらそうでいいんだよな、俺たちは。優勝賞品なんて二の次だ」
優勝できるかもしれない郁未は問題ない。
それに、郁未は祐一を一目おいていたし、それなりに信頼もしている。
反論があるのはカタパルト要員、由依。
「わ、私は…」
「由依、お前のお姉ちゃんってどんなやつだっけ?」
祐一は由依の反論を遮り、質問した。
由依は不満に思いつつも、姉に八つ当たりするように言いたい放題に言う。
「極悪人で、人を無理やりカタパルトするし、自分のためなら平気で生贄にささげるし……」
「ああ、もういい。お前は、自分の姉がそう簡単に鬼になると思うか?
妹を投げるほど力もあるし、味方を生贄にして生き延びるさ。それに…」
祐一は周りが引くような邪な笑顔を浮かべていった。
「鬼でも復讐なんてできるしな」
――鬼だ。ここに一人、本当の鬼がいる。
この場のメンバー全員の返答が一致した。
がさがさ。
がさがさ。
その時、草陰から複数の人間が出てきた。
「みゅー♪」「迷ったぁぁぁ、道に迷ったぁぁぁ!!」
台詞だけで、誰かが分かるような二人組。
親子に見えないこともない。
祐一組は、その二人に襷がかかっているのを確認すると無視しようとした。
髪が逆立ってきている一人の少女を除いて。
「た・か・つ・き!!」
叫びと同時に不可視の力を高槻に向けて放つ。
鬼同士の本気の勝負は御法度。
誰もが反応できなかったはずの出来事に一人だけ反応した。
「待て! 鬼同士に戦闘は禁止――」
反応したのは祐一。
魔物との戦闘の賜物だろう。
舞は反応はしたが、動くことはしなかった。
あれを止める自信はなかったから。
祐一は、不可視の力を身をもって止めた。
高槻を庇う形で。
「祐一!?」
一番驚いたのは郁未。
さっきは、つい感情的になってしまったが祐一が庇ったことで正気に戻った。
「高槻さん、今のうちに逃げて下さいっ」
なんとなく状況を把握した由依が高槻に撤退を施す。
そんなこと、言われなくても撤退しているが。
ふと、郁未はうしろで殺気を感じた。
殺気の正体は――――舞。
郁未はそのことに気付き、舞に謝る。
「ごめんなさいっ。まさか、こんなことになるなんて…」
「…謝るのは私じゃない」
「そうね……祐一にも謝っておくわ…」
【祐一 気絶。傷は舞や郁未がいるので大丈夫】
【由依・郁未 高槻に遭遇】
【舞 郁未を恨んでいるかも? 今は祐一優先】
【祐一達 優勝賞品による揉め事は解決。信頼関係修復&固まる。】
【高槻・繭 逃走】
317 :
垣本:03/04/09 19:00 ID:dO82Ka+h
さぁ垣本選手、ゆっくりと息を整えております。
空気中の酸素を肺に取り込み、赤血球へと送る作業。それはあたかも戦に向かう直前のもののふのようだ。
目の前には艶めかしき姿で倒れる2人の女性。果たして彼女らは垣本の勝利の女神なり得るのか。
そして垣本はいかなる選択肢を選び取るのか。緊張の一瞬です。
「……ふぅっ」
おおっとまだ行かない。まだ行かない。
しっかりと地面を踏みしめ、もう一度呼吸を整えます。心臓の鼓動がここまで聞こえてきそうだ。
緊張しております。垣本!
「よしっ!」
誰もがいつかは歩み、歩んだはずのステアウェイトゥアダルティ! 今日この日が垣本のメモリアルデイとなるのか!?
全ての鍵を握っているのは本人のみです!
「や、やってやる! やってやるぞ!」
砂浜を緊張の面持ちで一歩一歩突き進むその姿はさながら戦場に向かうダヴィデのようであります。
果たして放たれた石つぶてはクリティカルとなりうるのか!?
彼もとうとう脇役というヒエラルキーの最下層から脱することができるのか!? 今こそ下克上の時か!?
現状、立ち絵すらない久瀬やしの姉妹が活躍している状況下、本来一枚とはいえグラフィックを伴う彼の地位は相応の高みにあるはずです!
しかし、しかぁし! なぜだ。なぜ活躍出来ないんだ垣本!
というよりもその存在はボーダーギリギリだったのだ垣本! 一歩間違えれば出演すらすることすら危うかったのだ垣本!
行け行くんだ垣本! グラディエーターはコロッセオの戦いに勝利してのみそのレゾンテールが確立されるのだ!
進め進むんだ垣本! ここで2人の女神をその手に掴み、最脇役の地位から今こそ羽ばたく時だ!
「はいそこまーーーーでーーーーですよおにーーーーーーさーーーーーーーーーん!」
おおっと現れたるはゴリアテこと倉田佐祐理! 金にものを言わせたその装備、とても身一つで荒れ野を進む垣本が勝利出来る相手ではない!
「女の子の寝込みを襲って手込めにしようとはふてぇお方です! 天に代わってこの佐祐理が成敗してくれちゃいます!」
318 :
垣本:03/04/09 19:01 ID:dO82Ka+h
数々の凶悪虐殺ウェポンを有する彼女。しかし彼女はあえてかつて自分を苦しめた唐辛子手榴弾を手に取った。
そうそれはまさにリベンジ・マッチ。
己のプライドを賭けた武器選択だ!
「……は? アンタ、何を言って……」
「問答無用!」
ピッチャー第一球を振りかぶったァ! がおがおみすずちん戦の際には落ちぶれた大神に邪魔された、その分の怨みもこもっているのかそのモーションは深いっ。深すぎる!
トルネード投法だ!
かつてそれを武器に大いなる太平洋を渡った男がいた。その名は野茂●雄! 大リーグにおける日本人選手の地位を確立した偉大なるアイアンリーガー!
その大いなる絵姿を彷彿とさせる。まさしく今の倉田佐祐理はぁ……ロンリーウルフ!
「脇役逝ってよし!」
投げたァ!
投げたァァァァァァァ!!
投擲したァァァァァァァァァァァァ!!!
宵闇を切り裂く鉄の塊は上空から急襲するハヤブサの如き勢いで垣本へと迫る!
さぁーどうするんだ垣本!? お前はここで終わってしまうのか!? ここでジ・エンドなのか!? お前はその程度の男だったのか!?
違うだろう……? 垣本ォォォォォォーーーーーーーーーーーーッ!!!!!
「あたぼうよ!」
おおっとなんかキャラが変わったァ! その姿に後光が差して見えるのは私の錯覚かぁ!?
否ァ! 断じて錯覚ではない! 彼の背中には今、散っていった黄金聖闘士たちの想いが詰まっているのだ! 言い換えれば主演することができなかった脇役たち!
確かにィ! 彼ら一人一人の力は小さいかもしれない。だが、その想いは誰にも負けない! 彼ら一人一人にも相応の人生があり、物語があり、心がある!
たとえ、たとえ! 相手が難攻不落の最萌2位! アウシュヴィッツ以上に凶悪たる存在倉田佐祐理であったとしても!
想い! 気持ち! その点においては引けを取ることなど……
「ありえないっ! 見える。見えるぞ! 涙を飲んで出演を諦めた、俺の仲間達の姿が! 俺のこの足が光って唸るゥ! 勝利をつかめと……!」
319 :
垣本:03/04/09 19:02 ID:dO82Ka+h
飛んだ。飛んだァ! 垣本が羽ばたいた!
人の身たる彼に翼は無い。しかし彼は飛んだ。高々と飛び上がった! 17年間の脇役生活の全てを賭して、彼は飛び上がったァ!
幾千年の星霜を経て、イカロスの翼はここに完成したのだ!
「とォどォろォきィさァけェぶゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!! 見ていろ南、城島! 俺は……やってやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
天と地を逆さにした垣本の右脚に全ての光が集束する!
これは……!?
「オーーーーーヴァーーーーーーーーーヘーーーーーーーーーーッド、キィィィィィーーーーーーーーーーーーック!!!!!」
出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出たァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
サッカー部の面目躍如! 大技必殺極限のオーーーーーーバーーーーーヘッドキックだぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!
「なんですとぉ!?」
さすがの倉田佐祐理もこれには驚きを隠せない。脇役が、立ち絵一枚出番は一瞬の脇役が! 今まで歯牙にもかけなかった一脇役が! 路傍のゴミクズに等しかった脇役が!
正ヒロインを遙かに超える限りなく神に近い存在の佐祐理の球を打ち返したのだ!
ガッツゥゥゥゥゥゥーーーーーーーン!
鳴った鳴った鳴ったァァァァァーーーーーーーーーーーッ!
眉間、それは致命的人体急所の一ツッ!
打ち返された手榴弾はあやまたず佐祐理の眉間に直撃ッ!
佐祐理はその場に悶絶するッ! しかしッ! さらにッ! ピンはッ! 抜かれているッ! 佐祐理自身がッ! 抜いたのだッ! 自らの極刑を、彼女は自分自身で宣告していたのだッ!
即ちそれの求むるところはただ一ツッ!
ちゅどどーーーーーーーーーーん!!!!
深紅の霧が爆裂し、悶絶佐祐理を包み込んだ! 当然のごとく五感の全てで煮えたぎる灼熱の七味を感応し、激痛と激辛に七転八倒する佐祐理ッ!
「またこのオチですかーーーーーーーーーーーっ!!!!」
負けた。負けたのだ。倉田佐祐理が負けた……。
無敵の倉田佐祐理が……ここに沈んだ……。
それは……アルマダの戦い……。
そして、自らの成した偉業に佇む垣本……。
「やった……。やった……? 俺は……やったのか!?」
産まれた。
この瞬間、産まれたのだ!
ザ・ベスト・ナイス・ガイ・オヴ・WAKIYAKU!
垣本、ここに誕生!
「いやっほーーーーーーーーーぅ! 俺様最高ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
【垣本 倉田佐祐理に勝利】
【佐祐理 自分の放った唐辛子弾に悶絶】
【時間:二日目夜 場所:砂浜 天候:まだ雨は降っていないようだ】
――耕一…耕一…
なんだい山神様? 今ゲーム中だぜ?
――いや調子はどうかと思ってね。
調子? 結構いいよ。それが?
――あ、それならいいんだ。是非頑張って優勝してくれよ。
へえ、山神様応援してくれてるんだ。
――ん? ああ…
うん解った。できるだけ頑張るよ。
――ああ、是非優勝してくれ。
――おい山神。お前は耕一にかけてるんだったよな? でも甘いよ。この広い場所では、存在感を消した方が勝ちだ。つまりは夕霧だな。
――あー! 今繋いでくるなよガディム。混線するじゃないか。
――私は宗一にかけてたんだけどなあ…
――リサを忘れてもらっちゃ困るよ。
――タカムラ、アレックス。繋ぐなって言ってんだろ!
山神様…?
――あ! ゴホン。…では切るぞ耕一。健闘を祈る。
あ、ちょっと…
ブチッ
……
…神様や社長や大統領ってわかんないや。
「耕一さん。さっきからどうしたんです」
休憩した小屋で、偶然見つけた傘を差した瑞穂ちゃんが、怪訝そうに聞いてくる。
先程から、ずっと山神様と話していたため、不審に思われるのも無理は無い。
「いやね。ひょっとして世界ってアホしかいないのかなー、と思ってね……」
「え?」
無論あのアホ話を聞いてない瑞穂ちゃんは何のことやらわからない。
苦笑しながら、説明しようとしたとき、ちょうど以前から知っている気配を感じた。
「あれ?」
「どうしました?」
「これは…、祐介か?」
雨で鈍った五感でも、それとわかるくらい近くに祐介の存在を感じた。
【耕一 祐介を感知 一号の仮面所持】
【祐介 耕一&瑞穂のすぐ近くに】
【時刻 早朝】
【天気 雨】
323 :
321:03/04/09 21:24 ID:ExD10RdO
すまぬ改定
>苦笑しながら、説明しようとしたとき、ちょうど以前から知っている気配を感じた。
「ちょうど」を抜いてください
>雨で鈍った五感でも、それとわかるくらい近くに祐介の存在を感じた。
「祐介の存在を感じた」も切り落としてください
チキナロから貰ったクーポン券をシャツの胸ポケットに仕舞い込み、綾香は、パンッと手を叩いた。
「――さてと。じゃ、今度は屋台をさがしましょっか?」
「…(こくこく」
現金に代わるクーポン券を手に入れたからには、次に目指すのは食料が確実に手に入る屋台である。
井戸水で空腹は一時的に凌げたとはいえ、エネルギーの回復量としてはゼロに近い。何か食べなければ、
この先で起こり得る激しい追跡劇をこなす事は出来ないだろう。
「善は急げね。――姉さん、また頼むわ」
「…(こく…」
――そして、芹香が再びダウジングを行い始める…
…一方、来栖川姉妹の居る場所から、そう離れてはいない森の中――
「……陽が暮れて来たわ…」
落とし穴の中、トリモチに足元を囚われつつぽつりと口にするのは、策士(?)まなみ嬢である。
その傍らには、虚ろな目をして何やらブツブツと呟き続ける、ハウエンクアが居る。…今一様子が変なのは、言動の
割りには臆病である事をまなみに見抜かれ、精神的な調教を受けた為である――らしい。
「――冗談抜きで、遭難状態かもね…これは」
声は小さけれど、然程深刻でもないまなみの呟きに、ハウエンクアの肩がピクリと震えた。
「ごめんなさいごめんなさい許して下さいすいませんここから出してここから出してタスケテタスケテダレカタスケテ…」
「もぉ〜っ、ハウ君、シャキっとしなさいってば。大丈夫よ。最悪ゲーム終了迄このままでも、ちゃんと救助してくれるって」
「…………その…ゲーム終了ってのは、いつやって来るんだい……?」
「………………………………………………………………………………………………………………………さあ?」
「バカぁ〜!!!」
叫び、ハウエンクアは烈火の如く泣き出した。
「一週間も二週間も続いたらどーするつもりなのさ!? 僕達飢え死にしちゃうじゃないかぁっ!!
飢え死になんて僕はまっぴらだからね!!
どうにかしろよぉ!! どーにかしてくれよぉうわぁぁぁぁぁぁあああああんっっ!!!」
「ああ…、可哀相なハウ君…。おーよしよし……大丈夫よ、私が付いててあげるからね」
ハウエンクアをこの穴に引き摺り込み、挙句怖い話をしてパニック&虚脱状態にさせた張本人は、泣きじゃくる彼を
そっと抱き締め、あやす様に頭をナデナデ。ハウエンクアの方も大分参っているのか、自分を陥れた相手の事も忘れ、
まなみにしがみ付いて泣き続けた。
…森の中、茂みを掻き分け歩く二つの人影。芹香と綾香である。
「……こっとの方で合ってるの? 何か…森の奥の方へ来てるみたいなんだけど」
「………」
「直線的に向かっている様です? ――うーん、まあ、それが一番早いのは解るけど……罠とか無い事を祈るわ」
そうやって森の中を歩き続けていた二人の耳に――
「……? …………泣き声?」
「…(…こく) ………」
「このまま真っ直ぐ歩いた先の様です? ………誰かしらね…」
――程なくして二人は、泣き声らしき音が響いて来る場所へと辿り着いた。
そこでは落とし穴らしき穴がぽっかりと口を開いており、前に佇む二人を見上げていた。
…綾香が、穴の中を覗き込む。
「――ああっ!? 人っ!? 人がっ! 助けてっ! ここから出してくれよぉっ!!」
穴の中では、二人の男女がトリモチに囚われて座り込んでいて、男の方が綾香に気付き、哀願する様な声を上げた。
「あら、本当だ。すいませーん、もしよろしければ、ここから引き上げて貰えませんか?」
半ばパニック状態な男の方とは違い、女の方は至って落ち着いている様だった。
「………どうする、姉さん?」
困った様な笑みを浮かべて、綾香は姉を顧みる。――芹香も、困った様に眉を垂れ下げ、小首を傾げていた。
「うーん…。――…って、良く見たら貴方達、襷掛けてるじゃない? 私達、逃げ手なのよねぇ」
「タッチしたりしないから。本当よ?」
「せめて僕だけでも引き上げてくれよっ!!」
……妙に温度差のある穴の中の二人に、綾香は首を捻る。先程穴を覗いた時には、励まし合うかの様に抱き合って
いた風に見えたのだが。
「私達が貴方達を引き上げても、メリットが無いわ。わざわざ追跡者を増やしてしまう様な事、すると思う?」
笑顔であるのに冷徹な事を言って来る綾香を見て、顔から血の気を引かせたのはハウエンクアである。
「タッチしない! この先も僕は君達を追わないと約束するよっ! だから助けてよっ! もう半日以上もここに
いるんだっ! 穴の中にいるのはイヤだよぉっ!! ここから出してくれお願い頼む頼みますぅ〜っ!!!」
若い娘相手に恥も外聞も無く、泣きながら助けを求めるハウエンクア。
――彼の必死な様子を見やり、綾香は再び姉の芹香を顧みた。
「…(こくこく」
「…オッケー。ま、見過ごすのもなんだしねってか。――解ったわ。貴方達を助けましょ。但し、タッチしない事、
私達を追わない事が条件よ?」
「本当っ!? やったぁっ! 助かるっ! 助かるよぉ!」
泣いて喜ぶハウエンクアの横で、まなみがニヤリと笑っていた。
「…フフフ、また獲物が掛かったわ…。流石はハウ君、迫真の演技ね…」
「バカっ! 僕は本当に冗談抜きで上へ戻りたいんだよっ!」
「ええっ!? そんなっ…! プロの俳優顔負けの引き込みテクかと思ってたのに…!」
「君と一緒にすんなっ! 僕はもうこんな所こりごりだからね! 君一人で好きなだけ蟻地獄でもやってりゃいいさっ!」
「酷いわ、ハウ君……あんなに仲良くやってたじゃない、私達」
「そんな服の袖かじりながら上目遣いで訴えて来たって駄目だからね! 僕はここから出る! 出るったら出るっ!!」
――穴の中から響いて来るそんなやり取りを聞きながら、綾香は苦笑して肩を竦めた。
「…なる程ね」
どうやら、女の方が先に穴へ落ち、その後やって来た男を、助けを求める振りをして逆に引き摺り込んだらしい。
――女の方には注意すべきの様だ。
…縄の代用となる蔦を見つけて拾い、綾香はそれを穴の中へと垂らした。
「いいわよ。登って来て」
「――じゃ、レディ・ファーストね」
「ああっ!? 汚いぞっ!」
ハウエンクアが喚くが、まなみは問答無用。トリモチに足を囚われてもたつく彼を尻目に、まなみは蔦を掴み――
思い切り引っ張った。
………
「――…あれ?」
「何してるの?」
穴の縁にしゃがんで見下ろしながら、綾香が小首を傾げていた。
「…いえ、あの……蔦を掴んでくれないと、なんていうかその」
「大丈夫よ。近くの木に“舫い結び”で括ってあるから、蔦自体が切れない限りは平気ヘーキ♪」
「………そ…そう」
内心で、がっくりと肩を落とすまなみ。これで、蟻地獄作戦もギャフンでオジャンである…
「じゃあ、私達はもう行くからね。追って来ちゃ駄目よ? もしタッチなんかしに来たら、ルール無用で踵落としを
プレゼントしちゃうわよン(w ――さ、姉さん、行きましょ♪」
「…(こくこく」
遠ざかる足音。…芹香と綾香は去って行ってしまった。
――まなみは、そこで初めて、落胆した様に肩を落とし、大きな溜息を吐いた。
「フン、ざまぁ無いね(プ」
落ち込むこちらを見やり冷嘲するハウエンクアを、まなみはチラと一瞥すると、蔦を掴み直し、身軽な動作で上へと
登って行ってしまった。そして――
「――ハウくーん。この蔦、解いちゃってもいいよねー?」
「!!!?? や、やみろゴルァァァっ!!」
ハウエンクアが物凄い勢いで蔦を掴み登って行ったのは、言うまでも無い…
【まなみ・ハウエンクア 通り掛った芹香・綾香に穴から救われる】
【まなみタン蟻地獄作戦、半日粘ったものの満足な結果は得られぬまま終了】
【まなみ・ハウエンクア 取り敢えず空腹…】
【芹香・綾香 ダウジングが示す一番近い屋台へ一直線に向かっている】
【二日目 日没前後】
329 :
哀愁:03/04/09 23:03 ID:JkdtN+ax
「無事到着ですの!」
「そうですね」
「夕霧ちゃん凄いですの。あっという間についちゃったですの」
「たまたまです、たまたま」
すばると夕霧は、夜の商店街にたどり着いた。完璧に迷っていたすばるだったが、夕霧の素晴らしい勘に助けられて、二十分もかからず入り口まで帰りついていた。
時間。夜も夜中の午前二時。古人曰く、草木も眠る丑三つ時、というやつだ。
百鬼夜行が横行する時間帯である。
「なんだか、不気味……」
「な、なんてことないですの。さ、こっちですのっ」
かなりおびえている夕霧と、若干声が上ずっているすばる。いささか頼りない二人は、すばるが先に立って、とある建物へ向かって進んでいく。
「うたうですの。歌いながら行くですの。そうすれば怖くなんか無いですの」
「そ、そうですねっ」
「あさはやく めざめた きょうは……」
「た、たそがれのこうやに かなしき……」
曲の選定には、何も言うまい。
しかし、夜の町は不気味である。
街灯も無く、空に深くかかる雲のために、月明かりも無い。真っ暗闇の中に、黒くたたずむ建物建物……
何か出るにはまさしくうってつけ。これほどにふさわしいシチュエーションはあるまい。
ほら……君の後ろに、何か居ないかい?
「うきゃぁああああああああああっ!」
「ふやぁあああああああああっ!」
突如、横合いから現れた影に、充分緊張していた二人は、脱兎のごとく遁走していった。
「お、お化けですのーーーーーーーーーーっ」
「助けてくださいー!!!」
「……何事ですか?」
「あれ、ここは?」
「あれ、高子さん?」
「あら、夕霧さん?」
恐怖に駆けて行った二人は、故意にかあるいは偶然にか、高子が隠れている建物へ、飛びこんでいた。
「……お帰りなさい」
動転してあたふたしている二人に、高子はとりあえずそれだけ、言った。
330 :
哀愁:03/04/09 23:04 ID:JkdtN+ax
「……どうすればいいんだ」
一方、こちらはすばる一行が駆け出した現場。
一人の男が、所在なげに佇んでいた。
「……闇にまぎれすぎたのが、敗因か……?」
微妙に差し出されたまま固まっている右手が、なんともいえない哀愁を誘っていた。
むろん。
いまだに眠ったままのヌワンギに、出番なぞあるはずが無かった。
【すばる&夕霧 高子と合流】
【ビル 固まっている】
【ヌワンギ 寝てる】
【三日目午前三時 商店街の一角にて】
331 :
自爆遊戯:03/04/10 01:28 ID:AqlJFSnn
「――んふ、んふふふっふふふへへへははは」
「ふほほほっふっへはははぬふぐっふふふ」
「すぅー……」
「くにぃふははこやへふはあははああーーーっがはは」
「ぶげげうそおおうぐぐうふふふふふ」
「……ん…」
――訳が分からないだろうから補足しておく。
最後にして最強の開拓地を目の前にして珍妙な笑い声と武者震いに呑まれている地雷原ズの横で、
栞が安らかな息を立てて寝ているという構図である。
「はあっはははは、……いやぁ住井よ」
「ふはははぁぁ……――ああ、このままじゃアブナイ人だしな」
しばらくした後、二人はようやくトラップ敷設という使命を果たそうとしていた。指をコキコキ鳴らして材料を再確認する住井。
上気した頬でなにやら計算を始める北川。片手にはなぜか『バトルロワイアル』の新書。ページをぱらぱらめくりつつ、
よさげなシチュエーションをメモしてはぶつくさ喋っている。
「『ここにいる間だけギャグ体質』」
住井はニヤっとしてHM-13の云っていた言葉を繰り返す。
計算していた北川が顔を上げる。
「ということは、ですよ」
「ああ。ということはだ」
住井は別の本を取り出した。『ジサツのための100の方法』、それに諸条約で
禁止条項に指定されたブービートラップについての解説冊子。
バトロワと違い、前者には人体のありとあらゆる急所が、後者はベトナム戦争で
使われた数々のトラップについてそれぞれリアルに書かれている。
素人判断でトラップを仕掛け、万が一急所にでも当たれば大惨事は免れない。
それを避けるため住井はそういった書籍を持ち歩いているという訳だ。
332 :
自爆遊戯:03/04/10 01:29 ID:AqlJFSnn
ここで彼らが構想しているトラップを説明しよう。
まずは北国のアンテナ魔人・北川潤。彼は数ある方法のなかでも特に肥料爆弾に焦点を当てた。
ゲーム開始当初から落とし穴や網などを効果的に演出するため絶えず肥料爆弾を持ち歩いていたのだが、
しかし人死にが出ない程度に火薬量を抑えざるを得なかった。だが、当然ながらこのダンジョンでは
手加減する必要は無い。彼は食堂から拝借してきた圧力鍋にどばどば火薬をつぎ込む。
どちらかと云うと発破用に持ってきたのだが、よもや人間に向かって使用するとは想像もつかなかったろう。
一方の住井護はというと、まるで前衛芸術を拵えているかのごとき繊細さでワイアーを巡らしている。
ワイアーには色々とやんごとなき物品が吊るしてあり、もし足を引っ掛けてしまえば
一巻の終わりが訪れる仕組みになっている。むろんダンジョンのオーナーである長瀬源之助の手が掛かっている
訳だからそんなことは起こり得ないが、まあ物の例えだ。気にしないで欲しい。
今までの『参加者どもを小一時間ばかり困惑させ、逡巡させ、ついでに女性ならばひと肌ふた肌露出しちゃうような』
トラップではなく、本来の意味でのトラップを手加減無しに作れる状況にある彼らは、もはや生半可な作品では満足しないだろう。
一度この手でモノホンのトラップを……それが二人に課せられた使命であり命題であり任務なのだ。
とまあ、あれやこれやの押し問答を間に挟みつつも二人は順調に致死性トラップ(末期型)
を構内に構築していったわけであるが、その小休止中、ようやく栞の目が醒めた。
「……あれ?」
「おお、お姫様がお目目を醒ましましたぞ!」
「まことか同志住井!?」
んなことのたまっている二人を目の前にして、栞は良く状況が飲み込めてない。
「ここは……どこですか…?」
そう訊いてくる栞に北川が素早く当たる。もう栞に恩を売っておいて、後で姉の香里に(以下略)な魂胆みえみえだ。
333 :
自爆遊戯:03/04/10 01:29 ID:AqlJFSnn
「――と、まあそんな感じかな?」
「そうですか……」
ねぼけているせいで栞はイマイチ要領を得ないと言った感じだったが――おもむろに立ち上がり、歩きだした。
「お、おい栞ちゃんどこいくんだ!?」
「お小水です…レディにそんなこと聞く人嫌いですよ……」
慌てふためく二人。いや、栞の反応にではない。
だってそっちは……
「ちょ、ちょっとウエイトぷりーずぅっっ!! ままま待て待て待て!!」
「そっちはトラップだらけだぞ!!!! トラップを無事に回避するにはX軸36°Y軸29°Z軸64°の迎角で時速4キロ未満で通過しないと!!!」
「んなの一瞬で分かるかボケちんがッ――」
北川のツッコミも空しく、突如あたりは爆音と閃光、そして硝煙に包まれた。
【北川・住井・栞 自爆】
全参加者一覧及び直前の行動(
>>333まで)
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
レス番は直前行動、無いキャラは前回(
>>285-287)から変動無しです
()で括られたキャラ同士は一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)
fils:【ティリア・フレイ】、【サラ・フリート:1】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂
>>321-322、【新城沙織】、【太田香奈子:2】、【月島拓也:1】
痕:柏木耕一
>>321-322、(柏木梓、日吉かおり)、柏木楓、柳川祐也、ダリエリ、
【柏木千鶴:10】、【柏木初音】、【相田響子】、【小出由美子】、【阿部貴之】
TH:(藤田浩之、長岡志保、姫川琴音)、神岸あかり、マルチ、(来栖川芹香、来栖川綾香)
>>324-328、
松原葵、(佐藤雅史、岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ)、神岸ひかり、
(【保科智子】、【坂下好恵】)、【宮内レミィ】、【雛山理緒:2】、【セリオ:2】、
【田沢圭子】
>>299-300、【矢島】、【垣本】
>>317-320、【しんじょうさおり】
WA:七瀬彰、緒方英二、
(【藤井冬弥】、【森川由綺:2】)、【緒方理奈:5】、【河島はるか】
>>297-298、【澤倉美咲】、【観月マナ】、【篠塚弥生】
こみパ:千堂和樹、(高瀬瑞希、九品仏大志)、(猪名川由宇、大庭詠美)、
御影すばる
>>329-330、立川郁美、澤田真紀子
>>301-306、
(【牧村南】、【風見鈴香】)
>>307-312、(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)、
【芳賀玲子】、【塚本千紗:2】、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】)
NW:ユンナ、【城戸芳晴】、【コリン】、(『ルミラ』、『アレイ』)、(『イビル』、『エビル』)、
(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:江藤結花、【宮田健太郎:1】、【スフィー】
>>307-312、【リアン】、【高倉みどり】
>>307-312、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)
>>329-330、岩切花枝、杜若きよみ(黒)、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】、【杜若きよみ(白)】、【御堂:6】、【光岡悟:1】、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】
>>329-330、『ジョン・オークランド』
「我輩思うのだがな」
「……」
「もし参加者がこのような旅館にたどり着いたとき、まずどこに向かうであろうか」
「……食堂でしょ」
「明快かつ簡潔な答だ。食料の確保が最重要項目のことを考えれば、
過度なダイエット中でもない限りそうするだろうな」
「……なにがいいたいのよ」
「つまりだ。もし罠を仕掛けたいのであれば、食堂に用意すれば成功率は飛躍的に高くなる。
ふむ、誰が仕掛けたのかは知らんが、実に理にかなっている。感心するぞ」
「ねえ、大志」
「なんだね、マイシスター」
「感心している場合か!!ていうかもっと早く気づけー!!」
時は二日目午後二時ごろ。鶴来屋別館の食堂入り口には奇妙なオブジェが天井からぶら下がっていた。
「ふむ。しかしこのように逆さに吊るされては頭に血が上るな」
「何でそんなのんきなのよ!大志……見えてないでしょうね」
瑞希の背後に大志がぶら下げられているため、大志の姿勢が分からない。
「見えている?何がだね?特に目新しいものは眼にしてないが」
「そ、そう。よかったわ」
「しかし、マイシスター。レースのショーツか。しかも黒。いわゆる勝負下着というものだな?」
「……!?」
「同士和樹とのアバンチュールを期待してのものかね?
なかなかどうしていじらしいではないか、マイシスター」
「……殺してやるわ……」
「ハハハ!これは面白い!このような姿勢でどのようにして我輩を害するというのだね?
まったく呆れたぞ!ハーハッハッハ」
「なんであんたこの状況で勝ち誇れんのよ!!」
高らかに笑い続ける大志と、下着を見せたまま怒鳴り続ける瑞希。その光景は、
「……なんつーか刺激的な光景だな、こいつは」
「な、何してるんですか……お二人とも……」
食堂に入ってきたクロウと郁美を唖然とさせるに足りるものであった。
「見ないで、見ないでよー!」
「と、言われてもな嬢さん、見ないと助けてやる事ができきないんだが」
「なるべく見ないように助けてー!」
「おお、マイシスター!顔を赤らめて、手でスカートを押さえようとするその無駄な努力!
萌えというものが分かっているな!!」
「なるほどー確かにこれは萌えますね」
「あんちゃんも嬢ちゃんも、あんまりいじめてやりなさんな」
クロウは郁美とすでに助けられた大志を苦笑交じりにたしなめると、テーブルクロスを引っ張る。
「ほれ、これで覆えば平気だろ?頼むから暴れてくれるなよ」
「さて、と。改めて御礼を言わせてね」
そういう瑞希の足元には、かなりすごい状態となった大志が転がっていた。
「ああ……まあ気にするなよ。嬢さんの料理で腹も膨れたしな」
「そうですね、おいしかったです」
瑞希と大志を罠から救い出した後は、瑞希は大志をしめて、他の二人は食料を探した。
結果、それなりの食料が見つかり、瑞希がそれを調理して3人の腹は満たされたわけである。
「いや、我輩のお腹は依然として……」
「黙れ」
大志の頭に瑞希の踵がのしかかる。
「しかしずいぶん長居しちまったな。もう夕方だぜ」
「ほんとうね。これからクロウさん達はどうするの?」
「んー、特にあてもないしなぁ。嬢ちゃんどうする?」
「そうですね。ちょっと疲れちゃったかな」
「そうかい、そんじゃ今日はここに泊まって……伏せろ!」
クロウの一喝に、瑞希と郁美は身をこわばらせる。
「伏せろって!テーブルの下に入りな!」
「……どうしたの?」
言われたとおりにしながら瑞希が問う。
「外に人がいる……」
クロウは窓の下にその巨体を収め、外の様子を伺う。
「三人とも鬼か。しかもウルト姉さんか」
「知り合いかね」
いつの間にか復活していた大志。いつもと違った真面目な視線をクロウに送る。
「ああ、怖くて手ごわい姉さんだぜ。幸いこちらには気づいていないようだが……」
「食堂でのんびりしていたのはうかつだったな。おそらく奴らはここに来るぞ」
「そ、そっか!食料を確保したいはずだもんね」
「チッ、本当だぜ、こっちに来る!」
「ど、どうするんですか?」
「客室のほうにいればいくらでも逃げ場があったのだがな……」
郁美の問いに大志が歯噛みして答える。
「ここにいたのは本当にうかつだった。この食堂につながっている
厨房のほうから裏口に抜けるしかあるまい」
「にゃあ〜、大きな建物ですねぇ。今日はここにとまるんですか?」
「まだそんな時間じゃないだろ。まずは食いもんの確保だ」
「はぁ、お兄さん食いしんぼさんですね。さっき屋台で食べたばかりじゃないですか」
「ばーか」
千紗の頭を軽く小突く。
「今食べるんじゃなくてためておくんだ。こんなの旅人の常識だぞ」
「そいういうことですね。それでは食堂と厨房に向かいま……?」
「どうした?」
言葉を止めたウルトリィに往人がいぶかる。
「あそこに止めているウマ……あれはクロウ様のものですね。
ひょっとしたらクロウ様がここにいられるかもしれません」
「……そうかもしれんが、まずはメシの確保だ。いいな?」
「……そうですね」
少し腑に落ちないウルトであったが、気を取り直すと食堂のほうへ足を向けた。
その様子を物陰から見ている男女の鬼二人がいた。
「ま、まなみ、あいつら怖そうだよ……」
「だらしないわね、ハウ君。
もう半日も何も食べてないっていうからここに来たんじゃない」
男のほうはハウエンクア、女のほうはまなみ。
彼らは先ほど来栖川姉妹に助けられた後、
食料を求めて鶴来屋別館のほうまで来たのだ。
「け、けどさぁ、あの男なんてものすごい目つきだよ。あれは絶対誰か殺してるよ、間違いなく!」
「そんなわけないじゃない……」
そういいながら、まなみ自身も男の風貌に少しビビっていた。
「けど、確かにあんな体格の奴と食料めぐって争いたくないわね……」
「だろう!それなら別のところでご飯探そうよ!」
「やーよ、めんどくさい……そうね、それなら」
パチンと指を鳴らす。
「裏口から厨房のほうに入りましょ。で、さっさと食料を回収して逃げる。
これならハウ君でも怖くないでしょ?」
「う、うーん……分かったよ」
【大志、瑞希、郁美、クロウ 厨房へ。往人達には気づいているが、まなみ達には気づいていない】
【往人、ウルトリィ、千紗 食堂へ。大志達にもまなみ達にも気づいていない】
【まなみ、ハウエンクア 裏口から厨房へ。大志達に気づいていない】
【食堂と厨房はつながっている】
【二日目夕方】
「ぬおー、夕霧嬢がいない!」
鬼ごっこ中屈指の力を持ちながらも、順調に三枚目キャラの道を歩んでいるダリエリ。
麗子からどうにか逃げ切った彼は、麗子との追いかけっこ開始地点、つまり夕霧と涙の別れ(ダリエリ視点)をした場所に来ていた。
無論夕霧を探すために。
しかし夕霧上の前で無様な格好をするわけにはいかんと、服を探しに行ったのが運のつき。どうにかTシャツを一枚調達できたものの、ときすでに遅く、そこに夕霧の姿は無い。
「狩猟者たる我の嗅覚をもってしても無理か…」
雨が匂いを流す。
これではたとえエルクゥ化したところで、匂いを追うのは不可能だろう。
「まあいい。俺と夕霧嬢の赤い糸は、この程度のことで切れるような細いものではない。
いつか再び会えるときも来よう…」
どうもそういうことらしい。
しかしダリエリのもうひとつの運命はすでにそこに迫ってきていた。
「もう少し行った先に、小屋があったと思うから、そこでまた休憩しよう」
「うん、わかった。体が持たないもんね」
若い男女の声が近づいてくる。
(夕霧嬢を思うあまり、気配を探るのを怠っていたか…)
しかし慌てはしない。
感じ取れる気配からも、そして己が勘からも、相手に脅威を感じない。
この相手からなら逃げ切れる。そう確信できる。
(ついでだから顔を見てみるか。夕霧嬢の情報を持ってるかもしれんしな)
そして、ダリエリは邂逅した。
最初見たときは女神かと思った。
きびきびとした動き。しっかりと女性のラインを主張するそのスタイル。童顔な中にも理知と茶目っ気を同時に内包する眼差し。そして何より、その眼差しを包み込む眼鏡!
ヨーク内での暇つぶしの一つとして、次郎衛門ウォッチをしていたときから知ってはいたが、実際の女神は予想以上のインパクトだ。
「由美子嬢…」
思わず女神の名を漏らす。
その声は予想以上に大きかったらしく、女神とその連れ…由美子と芳晴にもダリエリの存在を気づかせることとなった。
「え、誰?」
突然目の前で自分の名を呼んだ男に戸惑う由美子。
まあ、誰でも知らない男に名前を呼ばれたら、びっくりすることだろう。
女神の戸惑いを見、放心していたダリエリも、どうにか落ち着きを取り戻した。
「ああ、失礼をした。
我が名はダリエリ。
狩猟者の中の狩猟者にして、いっちゃん…柏木耕一の友。
貴方のことは友から聞いていた」
いつの間にか宿敵から友に変化してたり、本当は耕一から聞いたわけではなかったりといろいろ突っ込みどころはあるが、それは言わないでおこう。
まあそれはともかく、男を耕一の友と理解した由美子は、ふに落ちた様子だ。
「ああ、柏木くんのお友達? へえ、柏木くん私の事話すんだ?」
「由美子さん下がって…」
目の前の男…ダリエリにただならぬものを感じた芳晴は由美子を後ろに下がらせた。
自分の勘が最大限の警鐘を鳴らしている。
(殺し合いなら負けるだろうな… しかしこれは鬼ごっこ)
気合を込めてダリエリを見つめる。
そのダリエリは由美子を見て、少し残念そうに頭を振った。
「…鬼か…」
注意がそれた。
(いまだ)
しかし、飛び掛からんとした次の瞬間に間合いが広がり、虚を突かれた芳晴は思わず動きを止める。
「では由美子嬢、失礼する」
「あ、うん」
由美子にだけ声をかけ、ダリエリはすさまじいスピードで駆けていった。
由美子はしばし呆然として、横で同じく呆然としている芳晴に問いかける。
「なにあれ? 魔族?」
「いや違うと思うんだけど…」
ダリエリが実は自分の興味の対象「雨月山の鬼」であると知ったら彼女はどういう反応を示すのだろう。
「ひょっとして、魔物、化け物って珍しくない?」
「いやそんなことは無いと思うんだけど…」
一方逃げたダリエリ。
(くっ、すまぬ夕霧嬢。消して浮気心などでは… でも由美子嬢可愛かったなあ…鬼じゃなかったら… いや俺は夕霧嬢一筋… いやしかし…)
かつて無いほど葛藤していた。
【ダリエリ 二号仮面所持 揺れ動くエルクゥ心】
【芳晴&由美子 ダリエリと遭遇 休憩はかなり取っている】
【時刻 午前5時くらい】
「いやっほ――――――ゥ!俺様サイコ―――――――ゥッ!!!!!」
倉田佐祐理を奇跡のオーバーヘッドで撃沈した垣本、佐祐理が悶絶するすぐ横でまだ歓声を上げていた。(時間にすると約五分)
その間くるくるバック宙返りは決めるわ諸手を上げて走り回るわそうかと思ったら突然跪き神に祈るわ、まるで試合に勝ったJリーガーのようなパフォーマンスを見せていた。
脇役だからといって舐めてはいけない。垣本だって立派なサッカー部員なのだ。
そして、天と地ほどの扱いの差があったはずの佐祐理を撃沈した事で、垣本のテンションは果てしなく上がっていた。
――もう俺は雑魚でも塵屑でもないぞー!!!
しかし、諌める声が、遠くから。
――…き…と――…きもと…――かきもと…――
遠くから声が聞こえる。
その声は幾度か垣本の脳に響き、そして垣本ははたと我に帰った。
――こんな所でいつまでも歓声を上げていてはいけない――後始末をしっかりつけろ――
果たして誰の声なのか、そんなことはどうでもいい。(きっと忘れ去られた脇役達の魂なのだ)
そうだ、後始末だ。
確かにここで華麗に倉田佐祐理を撃沈した。これで俺の好感度と存在感は一気に上がったはずだ。
だがしかし、このまま彼女等(略コンビを含む)を放置すれば、俺は一気に下衆へと成り下がってしまう。
しかもいつか佐祐理ファンの書き手にエライ目に合わされるかもしれない!?
それでなくても、復讐心に心を燃やす佐祐理に付狙われる危険性もある。
――そうだ、冷静になれ――
声が聞こえる。そして垣本は思い出した。サッカー少年ならではの故事を。
その昔、Jリーグがまだ開幕して間もない頃、浦和レッ●というチームがあった。
ていうか今もしっかりJ1だが。
当時レッ●は最弱チームとして扱われ、無得点など当たり前、万年最下位を走り続けるチームだった。
だが、そんな頃にでもストライカーはいた。そして、初めての先制点を取った試合があった。
垣本は当時レッ●に等興味は無かったが、流石にあの時は驚愕したものだ。
だが、愚かだったのだ、彼らは。
滅多に手に入れられなかった先制点。彼らは浮かれに浮かれまくった。試合中だというのに。
そしてホイッスルが鳴った事に気付かず、浮かれたまま気がつけばゴールを奪われていたのだ。
そして、レッ●はまたその試合に負けた――
そうだ、このまま歓喜の声をあげ続けていてはあの頃のレッ●と同じ運命をたどる事になる。
そして現在、レッ●は最弱チームの汚名を返上し、しっかりJ1でやっているではないか。
すなわち、ここで冷静にならなければ、俺はまたあの脇役として泥を啜る生活を続けなくてはならなくなる!
垣本は自分の頬を二度叩くと、まず眠る略コンビに近づき、とりあえず自分の制服のブレザーを布団代わりにかけることにした。
このままでは風邪をひいてしまう。とにかくどこかで着る物を調達してやらなければ。
そして、上手くいけばチームを組んで…とりあえずこの先は自主規制。
そして、次に進んだのは佐祐理の元へ。
唐辛子手榴弾の威力は十分過ぎたらしく、佐祐理は悶絶してそのまま力尽きたのか動かない。
ていうか眉間に手榴弾を蹴り込んだ事が原因なのだが…
まあそれはそれとして、佐祐理を介抱しなければならない。それが男としての勤めであろう。
このような美しい女性なのだ。たとえかませ犬となってしまっても、ギャグキャラと化していようと、観鈴ちんをずっと付狙っていようと、やはり美女――いや乙女は乙女なのだ。
そして、上手くいけばチームを組んで…そう、リレーSSの醍醐味は他作品カップリング! 上手くやればあろうことに乙女は乙女でも戦乙女(漢女)七瀬についていってしまった矢島以上に俺は輝く事が出来る!
そして、そして…いや、この先はやめておこう。漢が廃る。
そう! 俺は! 弱き乙女を守り抜く漢なのだ! 脇役であったことなど! ギャグキャラであったことなど! そんな過去など笑止! 俺はこの人たちを守り抜く! そして俺はこの鬼ごっこで輝くのだ!
キャラが某グラフィックすら無い名前のみのキャラでいつの間にか華音高校生徒会書記になっていた脇役になってきているような気がするのは気のせいなのだろうか?
いやしかし、これはこれでいいのだろう…と思う。
「ウォォー!!!!!!!」
垣本は吠えた。それは、塵屑同然だったあの頃の垣本と決別するための叫び。ありったけの力を込めて。腹の底から搾り出した。
しかし、全裸で倒れる女子二人と、悶絶した上に倒れた佐祐理の間で吠える垣本は、端から見ればただの変態にしか見えなかった。
雨がぽつり、と降り始めた。
【垣本 漢になる】
【略コンビ とりあえず垣本のブレザーを布団代わりに】
【時間 二日目夜 雨が降り始めました】
…海岸沿いの道から森の中へ少し入った所にあるその一軒家を見つけた時には、もう時間は深夜になっていた。
罠が仕掛けられてしる可能性もあったが、それは幸いな事に杞憂で終った。
「電気は点くみたいだけど、流石に点けない方がいいわよね」
「佐藤君と吉井の持ってる懐中電灯の出番だね〜」
その一軒家に入った岡田軍団三人娘と雅史は、暫く家の中を調べ回り、二階の寝室に、二つの寝台とソファーベッドが
置いてあるのを発見したのである。
「今晩はここで泊まりかしら…」
「そうだね。ベッドもあるし…明日に備えて、もう寝よう」
雅史のその提案に、三人娘も頷いて見せた。
――見張りは、一人ずつで行うのではなく、雅史と三人娘とで、ニ交代制で行う事にした。
今、一階にいるのは、雅史である。影の中に身を潜め、椅子に座りながら窓の外を注視する…
三人娘は、二階の寝室で眠っている。…雅史は、2・3時間も眠れば充分疲れを取る事が出来る。
だが、三人娘の方は、そうもいかないだろう。彼女達には夜明け位まで休んで貰い、自分はそれから休めばいい。
――雅史が初めの見張り役を買って出たのは、その為だ。
実際の所、雅史は疲れも眠気もそれ程感じてはいなかった。むしろあるのは、心地好い位の高揚感と充実感。
このゲームを楽しんでいる証拠であろう。
「…他の皆は、楽しくやってるかな…?」
…浩之やあかりや志保は、巧く逃げ回っているだろうか? それとも、もう鬼になってしまっているだろうか?
今は誰と一緒にいるのだろうか? それとも、一人きりでいるのだろうか…?
――…雅史は、ぼんやりとそんな事を考えていた。
そして、程なくして思考の小舟は、上で眠っている三人娘の所へと辿り着く。
ゲーム開始当初、まさか彼女達と行動を共にするとは、考えてもいなかった。
…彼女達とは、級友であると同時に、間接的ではあるが少々の因縁がある。浩之を間に置いた、クラスの委員長である
智子と三人娘の確執だ。
浩之が色々と頭を突っ込んだお蔭か、委員長と三人娘の間にあった好ましからざる流れは、無くなった様に見える。
三人娘は反省して謝罪した様だし、委員長も特に思う所は無い様子だ。…未だに岡田だけが牙を――というか、何か
対抗意識めいた物を持っているらしいが。
――だが、三人娘と接してみると、やはり根っからの悪人は居ない事が解る。委員長とのイザコザも、恐らくちょっとした
誤解から始まってしまった物であったのだろう…
そんな彼女達と行動を共にしていると知ったら、浩之は少なからず驚くであろう。驚きつつ、「やるじゃねーか、この色男」
などと、笑いながらからかって来るかも知れない。
ふ…と、顔を綻ばせる。…――
「……何処まで逃げられるかな…?」
ぽつり、雅史は呟いた。……だが、その呟きの持つイメージの中には、何故か自分は含まれていなかった。上に居る
三人娘に対してだけ、紡ぎ出された言葉だったのだ。
後々雅史は、考えてみるとその時何かしらの“予感”を抱いていたのかも知れない――と、友人達に語ったのである…
朝は、暗かった。
陽は昇り始めているはずだが、空を覆う暗い雲の所為で、眩いはずの朝は暗灰色に染まっている。更に、雨も降っており、
景色を重く濡らしていた。
その雨の中、雅史は外に佇んでいた。そして、その眼差の先には――
佇む男が、一人。
大きい。雅史よりも、ずっと。
一目で只者では無いと解る。格闘や戦闘に関する技術も身に付けているだろう。間違いなく。そして何より――
――鬼の襷。
(……逃げられないな)
自分達はもう既に追い詰められているのだと、雅史は悟った。だが…
(…せめて、彼女達だけでも――)
その決意を胸に、雅史は大男と対峙する。
「……逃げないのか?」
醍醐と名乗ったその男が、太い声で尋ねて来る。――雅史は彼を見つめ返しながら、頷いた。
「逃げ切れそうも無いと思いますから」
「やってみなければ解らぬだろう?」
再び問うて来る、醍醐。だが、雅史は弱々しげな微苦笑を浮かべ、小さく首を振って見せた。
「……ふむ。いいだろう」
ぽん…と、醍醐は雅史の肩に触れ、襷を渡した。そして、雅史の背後にある一軒家へと歩を進める――
「――ストップ」
「む?」
横を通り過ぎようとした醍醐の手首を、雅史が掴んだ。
「そこの中には誰もいません」
「…調べてみなければ解らぬだろう?」
「必要ありませんよ」
「必要かそうで無いかは、それに対する本人が判断する事だ」
「ええ。僕もそう思います。――ですけど、時間の無駄です。何もありません」
雅史の手は、醍醐の太い手首をがっしりと掴み、放そうとする気配さえ見せず、その力は存外に強い。
そんな雅史の目を見据えた醍醐は、顔を歪ませた。――笑ったらしい。
「…その目。先程の柔弱そうな表情は、言わば“鞘”か。
――失敗した。お前を標的とし、追跡者としてゲームを楽しむべきだった。存外、面白い事になっていたかも知れん」
「もう遅いですよ。鬼同士で追い掛け合ったって仕方が無いでしょう?」
「確かにな」
そう答え、醍醐はまた顔を歪めて見せた。
窓や屋根を打つ小雨の音を遠くに聞きながら、ぼんやりと目を開ける…
(…何となく明るい……?)
窓から入り込んで来る、薄暗い灰色の光を目にして、松本は寝台の上でガバッ!と起き上がった。
「……朝…!?」
枕脇に置いてあった腕時計を掴み、今の時刻を確認する。――朝の八時ちょっと過ぎ。
「タイヘン〜っ! 起きて岡田〜っ! 吉井も〜っ!」
松本は枕を掴み、岡田と吉井の体を叩いて回った。
日の出頃になったら見張りを交代しようと雅史と約束していたのに、その時間は既に大分過ぎてしまっている。
「何よぅ〜……?」
「やだっ、もうこんな時間…っ!?」
まだ半分寝たままで目を醒ます、髪がどっちらけ状態の岡田に対し、吉井は松本と同じ様に、時計を見て一気に目を
醒ました。
コンコン――
と、扉をノックする音が寝室に響く。
「おはよう、皆。やっぱり雨が降って来ちゃったね」
その扉の向こうからの声。雅史だ。
「家の中を探したら傘が何本も出てきたから、後で必要な分だけ持って行ってね?」
「佐藤君ごめーんっ! 夜通し見張らせちゃったよぉ〜っ」
「大丈夫だよ。よく眠れたでしょ?」
申し訳無さそうな声を上げる松本に、雅史の声が微笑みを帯びる。
「……佐藤君、何も起きなかった?」
「うん。――僕は鬼になっちゃったけどね」
問い掛けた吉井が、そして寝室の扉を開けようとしていた松本が、固まった。
「…………え?」
「え〜っと…説明するのも何だから省くけど、僕、鬼になっちゃったから」
いつもと何ら変わらぬ様子で言う雅史の声が、少女達の上へと積もって行く。
「――あ、でも君達は大丈夫だよ。まだ誰にもタッチされてないから」
「ちょ……ちょっと待ってよ…。じゃ、じゃあ……佐藤君一人だけが鬼になっちゃったの…!?」
「うん。だから、一緒に居られるのはここ迄。残念だけどね」
「そんなぁ…っ!? やだよぉ〜っ…!」
松本が、泣きそうな声を上げる。扉の向こうに居る雅史が、申し訳無さそうに苦笑するのが見えた気がした。
「御免ね、松本さん…。……じゃあ、僕は行くから」
「待って…! 待って佐藤君っ…!」
扉から雅史の気配が離れて行く。それを察して松本がドアノブを掴むも、焦っている為か巧く開けられない。
「松本…、松本…!」
吉井が松本の服を引っ張り、窓の外を指差した。
窓辺へ駆け寄った松本が、涙目で見下ろした先に――
――雨の中、傘を差して佇む雅史の姿があった。微苦笑を浮かべ、手を振って…――その体には、鬼の襷が。
「さ……とう………く…ん」
震える、松本の声。
その声に応えたかの様に、雅史の唇が動く。音としては聞こえない。只、“頑張って”――と、言っているのが解った。
「っ……、うんっ…、ガンバる…! 頑張って逃げるからねっ……!!」
震える声で、松本は答えた。
そして、涙で濡れたその双眸の中、雅史は背を向け、仄暗い雨に煙る景色へと消えていった…
「……佐藤君………行っちゃったよぉ……グスッ」
「同志・佐藤雅史…――惜しい人物をなくしたわ」
ようやくちゃんと目を醒ました岡田が、寝台の上で腕組み仁王立ちになりながら、遠い目で感慨深げに呟く。
「うああぁあんっ! シんでないもんっ、シんでないモンっ! 岡田のバカバカ岡田のバカァっ!!」
「ちょっと雰囲気出しただけでしょ……!? ぐるじいぐびをじべるな゛…!!」
「――佐藤君……私達の身代わりに…」
雅史の去っていった景色を窓越しに見つめながら、吉井が目元を悲壮な想いで翳らせていた。
「…私達、無駄に終る訳にはいかなくなったわね。彼の為にも…」
【雅史 醍醐にタッチされ、鬼になる。…但し、岡田軍団三人娘にまでその手が伸びるのを防ぐ】
【雅史 岡田軍団から離脱。雨の中、傘を差して何処かへ】
【三日目 朝八時頃 海岸沿いの道から森の方へ少し入った所にある一軒家】
全参加者一覧及び直前の行動(
>>353まで)
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
レス番は直前行動、無いキャラは前回(
>>334-336)から変動無しです
但しうたわれは前回抜けていたので前々回(
>>257-259)以降のレス番になっています
()で括られたキャラ同士は一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)
fils:【ティリア・フレイ】、【サラ・フリート:1】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂、【新城沙織】、【太田香奈子:2】、【月島拓也:1】
痕:柏木耕一、(柏木梓、日吉かおり)、柏木楓、柳川祐也、ダリエリ
>>342-344、
【柏木千鶴:10】、【柏木初音】、【相田響子】、【小出由美子】
>>342-344、【阿部貴之】
TH:(藤田浩之、長岡志保、姫川琴音)、神岸あかり、マルチ、(来栖川芹香、来栖川綾香)、
松原葵、(岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ)
>>348-353、神岸ひかり、
(【保科智子】、【坂下好恵】)、【宮内レミィ】、【雛山理緒:2】、【セリオ:2】、【佐藤雅史】
>>348-353、
【田沢圭子】
>>345-347、【矢島】、【垣本】
>>345-347、【しんじょうさおり】
WA:七瀬彰、緒方英二、
(【藤井冬弥】、【森川由綺:2】)、【緒方理奈:5】、【河島はるか】、【澤倉美咲】、【観月マナ】、【篠塚弥生】
こみパ:千堂和樹、(高瀬瑞希、九品仏大志、立川郁美)
>>337-341、(猪名川由宇、大庭詠美)、御影すばる、澤田真紀子、
(【牧村南】、【風見鈴香】)、(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)、【芳賀玲子】、
【塚本千紗:2】
>>337-341、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】)
NW:ユンナ、【城戸芳晴】
>>342-344、【コリン】、(『ルミラ』、『アレイ』)、(『イビル』、『エビル』)、
(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:江藤結花、【宮田健太郎:1】、【スフィー】、【リアン】、【高倉みどり】、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)、岩切花枝、杜若きよみ(黒)、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】、【杜若きよみ(白)】、【御堂:6】、【光岡悟:1】、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ
>>288-289、(アルルゥ、カミュ、ユズハ)、ベナウィ、クロウ
>>337-341、カルラ、クーヤ、サクヤ、
【エルルゥ】、【オボロ:1】、(【ドリィ】、【グラァ】)、【ウルトリィ:1】
>>337-341、【トウカ】
>>307-312、【デリホウライ】、
【ゲンジマル】、【ヌワンギ】、【ニウェ:1】
>>291-295、【ハウエンクア】
>>337-341、【ディー:6(6)】、『チキナロ』
Routes:(湯浅皐月、梶原夕菜)、リサ・ヴィクセン、
【那須宗一:1】、【伏見ゆかり】、【立田七海】、【エディ】、【醍醐:1】
>>348-353、【伊藤:1】
同棲:【山田まさき:1】、【皆瀬まなみ:2】
>>337-341 MOON.:巳間晴香、名倉友里、(【天沢郁未:4】、【名倉由依】)、
【鹿沼葉子:2】、【少年:1】、【巳間良祐:1】、【高槻:1】、【A棟巡回員】
ONE:(里村茜、上月澪、柚木詩子)、氷上シュン、
(【折原浩平:7(3)】、【長森瑞佳】)、【七瀬留美:1】、【川名みさき】、【椎名繭】、
【深山雪見】、【住井護】、【広瀬真希:1】、【清水なつき】
>>345-347 Kanon:(沢渡真琴、天野美汐)、
(【相沢祐一】、【川澄舞】)、【月宮あゆ:4】、【水瀬名雪:3】、【美坂栞】、
【美坂香里:8(1)】、【久瀬:4】、【倉田佐祐理:1(1)】
>>345-347、【北川潤】
AIR:神尾観鈴、(霧島佳乃、霧島聖)、(遠野美凪、みちる)、神尾晴子、(柳也、裏葉)、しのさいか、
【国崎往人:2】
>>337-341、【橘敬介】、【神奈:1】、【しのまいか】
「「助けてくださーいっっ!!」」
持ち主不明の服を見やる杜若きよみ(黒)と、自分の服を着ていたユンナは
その叫び声が、自分たちに向けられていることに気づいた。
振り向くと瓜二つの少年二人が、弓と矢を手に
下穿き一枚に上着を肩にかけただけという格好で、彼女らのもとに駆けてくる。
驚いたことに、彼らの頭には犬のような大きな耳が、
尻からは同じくふっさりとした尻尾が生えていて、ぴくぴくはたはたと動いている。
…人間以外の種族?双子?…ひょっとして、この服の持ち主だろうか?
だが、きよみ(黒)には浮かんだ疑問を確認する余裕はなかった。
「怖い人に追われてるんです!」「お願いです、かくまってください!」
半裸の少年たちは目尻に涙を浮かべ、必死の表情でこちらに近寄ってくる。
その肩には、そろって襷。
「ちょ、ちょっと待ちなさい、待ちなさいってば!」
抱きつかれそうになって、慌てて距離をとろうとする。
が、二人はよっぽど追い詰められているのか、すぐに縋ってくる。
わけがわからない。逃げ手ならぬ鬼である彼らが、一体誰から逃げる必要があるのだ?
「…きよみぃ。よくわかんないけど、この子たち、助けてあげようよぉ…」
ユンナも彼らの保護を訴える。というか、このままだと彼女も少年たちに抱きつかれかねない。
「ああ、もう!
わかったわ。匿ってあげるから、わたしたちに触らないで」
その一言でドリィとグラァはようやく動きを止めた。
こうなったら仕方ない。とはいえ、この辺りにはろくに身を隠せるような場所はない。
追っ手がここに来、去るまでの間、目の前の川中に潜っていろと言うのも酷な話だ。
少し向こうの方に、それなりに大きな常緑樹が一本生えている。選択の余地はなかった。
「二人とも、木登りは出来るわよね?」問う。彼らはうなづいた。
だが隠れ場所がそこしかない以上、見つかるのも時間の問題だ。どうしたものか。
枝の繁みの中に少年たちが消えたのを見送った頃。
まるで落ち武者のごとく全身に矢をつきたてた、ショートカットの少女がやって来た。
「ねぇねぇ、そこのお二人さん。ちょっといい?」
にこやかに話し掛けてくる。これが追っ手か。普通の明朗な女性にしか見えない。
だが、その双眸には獣の欲望がごうごうと燃え、渦巻いていた。
きよみ(黒)は少年たちのあられもない風体を思い出し、大方の事情を察した。
なるほど。これなら、上手くいくかもしれない。
「こっちにステキな双子の男の子たちが来たと思うんだけど、知らないかな?」
「ええ、来たわ」
きよみ(黒)はあっさりと言った。
「よっしゃいえーい!」彼女は手を叩いて喝采する。「で、どこ?どこ?教えて教えて」
「待って。その子たちの場所に連れて行ってもいいけど、条件があるわ。
あなたは鬼で、私たちは逃げ手よ。案内する代わり、私たちのことは見逃すと約束して」
命乞い。返事は迅速だった。
「おっけ〜☆商談成立っと。ほんじゃナビのほうよろしくっ!
にゅふふふふ、二人とも待っててね〜♪じゅるる…」
「…なるほどねぇ。わたしたち、こんな立場じゃなければいい友達になれそうね」
「うんうん。きよみさんも今度こみパに来てみれば?楽しいよ〜。
それまでドリグラくんたちには鼻血もののコスプレ仕込んでおくから!ハァハァ……」
ドリィたちのいる樹まではそれなりに距離がある。
その間、きよみ(黒)と玲子は自己紹介込みのたわいもない話(?)をしていた。
彼女らの後には、ユンナが心配げな顔をしながらついてきている。
彼女の持つペットボトルの中の水キノコが、強い日差しを受けてキラリと光る。
「それにしても、今日は暑いわねぇ。まだ春なのに」
何気なく呟くと、きよみ(黒)は手にしていた、もう一つのペットボトルを口に含む。
喉がこくんと上下する。
「ぬるいけれど、あなたも飲む?」そう言って、彼女の目の前にボトルを差し出す。
「ありがと、ゴチになるよ〜。ホント今日は暑いよねぇ」
玲子はペットボトルを受け取ると、紅茶キノコを喇叭飲みにした。
「ここよ」
すくすくと伸びた常緑樹。
その上方、生い茂った枝の中をきよみ(黒)は顎で示した。
「……結構」
先程までの陽気さとは一転した、冷めた言葉を玲子は発した。
「あら、どうしたの?あんなにあの子達に会いたがっていたのに」
「…急に気が乗らなくなったから。
逃げ手でもないのに、なんであんなにあの子らを追いまわしてたのか
自分でも理解に苦しむわ。……馬鹿馬鹿しい、まるで変質者じゃないの」
苦い顔で吐き捨てる玲子。吸盤で体中に張り付いていた矢を
引き剥がすと、足元に落とす。
そのままじり、ときよみ(黒)とユンナに向き直るが。
「約束したわよ?」小さく口を動かして、きよみ(黒)は目の前の鬼を牽制する。
「……………………」
鋭い一瞥を向け。
性格反転し、美少年への情熱を失った玲子は、その場を去っていった。
なお数十分後に我に返った彼女は、猛速でこの樹の元にとって返すことになる。
無論、後の祭りであった。
彼女が去ったのを見届けてから、きよみ(黒)はそうっと口の中に指を突っ込む。
その中から、反転紅茶の入ったチョコレートパンの空き袋を引っ張り出すと
逆さにして中身を捨てる。
「もう大丈夫だよー!」
ユンナの呼びかけに応え、枝葉の中から顔をほころばせた双子が姿を現す。
「ありがとうございます!」「売られたんじゃないかと心配しましたよ〜」
「ごめんなさいね。本人に諦めてもらうよう、
心変わりしてもらうのが一番いいかと思ったの」
きよみ(黒)の言っていることがよくわからずに、彼らは揃って「?」と首を傾げた。
当初は、追っ手に出会ったら、嘘の居場所を教えるつもりだった。
が、飢えた玲子を目にし、それは無理だと思った。
『嗅ぎつけそう』な感じがしたのだ。ハイエナのように。
だから、念のために仕込んでいた作戦を発動した。
何にせよ獲物を狙う動機を、反転により喪失させる。
先程の空き袋は、警戒されずに紅茶キノコを飲ませるための細工であった。
ちなみに、もし飲まなかった場合は、ユンナが玲子に水キノコをかける算段だった。
「いいから早く降りてきたらどう?いつまでもそんな格好じゃ、またあの娘が来るわよ。
あっちにあるの、あなたたちの服よね?」
「「はいっ!」」
いい返事と共に二人は、降りようと足を運ばせる。
ずるっ。
ドリィが枝を踏み外した。
着慣れない上着が枝に引っかかっているのに気付かず、バランスを崩したのだ。
「あっ」と言う間だけがあり、落ちた。
そして、その真下には
「っっ!」
気が付いたら、ユンナを突き飛ばしていた。
どしん。
「…………きよみぃっ!大丈「触っちゃ駄目!!」
鋭い声に、肩に触れる寸前ではっと手を引っ込める。
きよみ(黒)はユンナの代わりに、ドリィの下敷きになって倒れていた。
彼女の右腕に鈍い痛みが走る。彼の華奢な膝がめりこんでいた。
気付いたドリィが慌てて身を起こして、「ご、ごめんなさいっ!」と頭を下げる。
急いで樹を降りてきたグラァも、どうしようといった顔で彼女たちを見ている。
ユンナは、なんだか泣きそうな顔をしている。
腫れた腕に手を伸ばそうとして、留まり、きよみ(黒)の顔を見つめる。
咄嗟とはいえ、心配してくれた彼女を叱ってしまったことに、ちくりと痛みがした。
「だから、駄目。……わたしはもう、鬼なのよ?」
それが思った以上に優しい声だったので、自分で驚いた。
【黒きよみ 鬼になる。右腕に軽症を負う】
【反転ユンナ 黒きよみに触らないように言われる】
【ドリィ、グラァ 貞操の恩人を鬼にしてしまい、困惑。
ドリィは図らずも1ポイントゲット】
【玲子 一時的に反転。ドリィたちに興味を無くし、去る。数十分後に回復。
ドリィ、グラァの吸盤付き矢は樹の近くに落としていく】
【反転紅茶キノコの残り回数→約3回に 反転水キノコは残数そのまま】
【現在二日目午後三時過ぎ。川べり近くの樹の根元】
ユンナたんにメロメロです。
>>361 ×【反転紅茶キノコの残り回数→約3回に】
○【反転紅茶キノコの残り回数→約2回に】
リミットが約4回で、二人が一回ずつ飲んでいたので。
「へぇ、じゃあ久瀬は今から月島の妹を探しに行くのか。あ、サバ味噌定食もういっちょ追加!」
「ああ、そういうことになってしまった」
全くよく食べるな。そう思いながらオボロの問いに久瀬は答える。
「ずいぶんお人よしなんだな、お前」
「いや、なんていうか成り行きだよ」
投げやりにつぶやくと、ブラックコーヒーをすする。
「月島の自慢の妹か。今更優勝を狙う気もないし、俺も見物に行こうかな?」
「フン!瑠璃子の美しさにせいぜい腰を抜かすがいいさ!」
ユズハの一件の後、一行は雨のおかげでで地面に残っていた屋台の轍を追い、
幸運にもすぐに屋台に追いつく事が出来た。
「だけど、残念だね。美坂さん達が立ち去った後だなんてね」
月島のぼやきに、久瀬はうなずく。瑠璃子探索をセリオに手伝ってもらうつもりだったのだが。
「でもあなた達幸運よ?もうすぐ転移魔法で別のところに移動するつもりだったの」
ショップ屋のねえちゃんが言うには、屋台の移動は通常手段以外にも魔法によるテレポートも使用されているらしい。
なるほど、この広い島全体を賄うならそれも必要だろう。
(ということは、轍を追っていっても必ずしも屋台につけるわけじゃないのか)
まあ食に関する限り、自分は恵まれているのだろう、と久瀬は思った。もうすでに
三度も屋台を利用できているのだから。
(とはいえ、睡眠のほうは恵まれているとは言い難いな)
再度、ため息。月島はすぐにでも瑠璃子探索に向かいたがっている。寝るのは当分お預けになりそうだ。
意識は自然と三大欲求の最後のもの―――性欲にむき、
不覚にもそこから倉田佐祐理のことを連想して、久瀬は赤面した。
(倉田さん……清楚で可憐なあなたがひどい目にあっていなければいいが……)
脳裏に浮かぶひどい事は……まあ、健康な男子が浮かべそうな事で、久瀬は勝手に自己嫌悪に陥る。
「やれやれ、僕もオボロ君達を笑えないな」
「ん、俺がどうしたって?」
「いや、男なんてみんな馬鹿だなぁと」
倉田さんの事だ、きっとこの鬱陶しい天気の中でも明るい笑顔を振りまいているに違いない。
と、そのときノレンの外から騒がしい声が聞こえた。
「あーもう、こーへーのせいで眠いよー」
「うるせーなー。ホットケーキセットおごってやらないぞ」
「うにゅーひどいー!先に注文しちゃうもんねー。DXホットケーキセット4枚!!」
「あ、お前!お姉さん、俺も同じ奴2枚頼む!」
ずいぶんと朝からにぎやかな事だ、と思い久瀬は新しくやってきた一行を見る。
「ねー浩平君。私も同じの頼んでいい?」
「ダメ。伏見なにもしてないじゃん」
「浩平、意地悪はよしなよ。私はサンドイッチセットにホットミルクお願いします」
「某はこの紅鮭定職を頼もう」
鬼の一団は口々に朝食を注文する。と、その一人がこちらに気づいたらしく声をかけてきた。
「おお、オボロ殿であったか。息災だったか?」
「ああ、トウカか。そっちも元気そうだな」
知り合いだろうか?そう思いながら、久瀬も一行のリーダーらしい男に声をかける。
「朝からずいぶんと豪勢だな?景気がいいようじゃないか」
その男はちらりと目を上げてと答える。
「そっちだって良く食べてるように見えるぞ?」
(ふむ、誘いに乗ってこないか)
相手の獲得ポイントを聞き出そうと思っていたのだが。
「トウカも鬼になってたんだな」
「うむ。鬼として働いたほうが武士らしいといわれてな」
「ほう、じゃあもう大分捕まえたのか?」
「い、いや……それは……」
「俺は一人しか捕まえてないけどな。それより低いという事はないだろう?」
「え……ああ……」
「昨日夕食にありつけなくてね。その分もここで食いだめさ。余裕があるわけじゃない」
「俺達だってそうだぞ」
「そのわりに頼んだメニューは贅沢なもののように感じるが?」
「これを食べないと死んでしまうんだ。必要経費だ」
久瀬のカマかけを浩平はのらりくらりとはぐらかす。
ちょっとした駆け引きというところか。
「じ、自分の事よりも集団のことを第一とするのが武士の務め!
浩平殿はすでに7人捕まえている!」
「な、なにぃ!?久瀬はまだ4人しか捕まえていないのに!
……何で突っ伏してんだ?お前ら」
「い、いや別に」
ズッコケてずれてしまった眼鏡をなおしながら久瀬は答える。
「しかしたいしたもんだな、7ポイントとは」
「ああ、まあ朝方一気に3ポイント手にいれる事が出来たんでね」
「なるほど、そちらのチームは君にポイントを集中させているんだな」
「な、なんで……あ、しまった」
一人にポイントを集中させる以外には、一度に3ポイント獲得というのはなかなかないだろう。
もちろん、大人数で行動を共にしている逃げ手を捕まえたとか、
捕まえるときの成り行きでそうなってしまったとか他の可能性は考えられるが……
久瀬のカマかけに対する浩平の態度が答を明らかにしてしまっていた。
「ちぇっ、性格悪いなお前」
ふてくされる浩平に、久瀬は苦笑する。
「すまないな。こういう性分なんだ。まあ、漏らした所でたいした情報でもないだろう?」
「そうだけどな。くそ、なんか悔しいぞ」
まあ、実際たいした情報でもないのだが、このちょっとした駆け引きは眠気覚ましの思考ゲームとしては面白かった。
それに具体的に優勝を目指しているチームがいるという情報は刺激になる。
だが、先ほどまで黙々と朝食をとっていた光岡にとって見れば刺激どころではなかったらしい。
「七点に四点だと!それは真か!」
バァンッとカウンターを叩いて身を乗り出す。
「く……なんたること!俺はまだ一点だというのに……
すまぬ、久瀬、浩平とやら。貴様らの事、武芸の心得もないただの学徒であると侮っていた!」
事実そのとおりなのだが、と久瀬と浩平は顔を見合わせる。
「なのにその成績とは……つくづくこの俺は至らぬ!」
「……いや、ただの偶然ですよ」
「謙遜はよしてもらおう、久瀬!」
本当に偶然なんだけどな、と久瀬は思う。
「くぅ!このままではユズハさんや蝉ちゃんに顔向けできん!!このままではいられぬ!
この光岡奮起させてもらう!!」
そう叫びながら、光岡は屋台を飛び出していった。
「……なんなんだ?あれ」
「色々あってね……しかし君達、具体的に優勝を狙ってるんだな」
「ポイントが集中しているのは成り行きだけどな。けどお前らだって優勝は狙ってるんだろ?」
「いや、僕達は他に野暮用があってね」
瑠璃子のこと、倉田佐祐理のことをかいつまんで話す。
「……その二人は見かけなかったぞ」
「そうか。まあとにかく、どうも僕らは優勝争いのスタート地点にも立てていないようだ」
そうつぶやく久瀬に、いつの間にか話を聞いていたのかはオボロとトウカが声を張り上げた。
「そんな悠長な事を言っててどうする!久瀬!!狙うのは優勝のみだ!」
「そうはさせん、優勝は某達のものだ!なあ、浩平殿!」
どうもこの二人、先ほどの会話から妙な競争意識が生まれたらしい。
つーかさっきといっている事が違うじゃないか、オボロ君。
「ちょっと待ちたまえ!まずは瑠璃子を探すはずだぞ、久瀬君!」
倉田さんのことは無視ですか、月島さん。
「浩平殿!悠長に朝餉を取っている場合ではないぞ!」
まだ紅鮭定食来てないですけどね、トウカさん。いや、他人事だけど。
浩平と久瀬は、お互い大変だな、と顔を見合わせ、苦笑した。
「さて、僕達はそろそろ行かせてもらうよ。今更だが僕は久瀬という。縁があったらまたどこかで」
「折原だ。獲物の取り合いになったら容赦しないからな」
「お手柔らかに」
そうクールに告げて立ち去ろうとする久瀬の肩に、ショップ屋のねーちゃんの手が万力のように食い込む。
「光岡様のお代がまだです」
「……光岡さん?」
唖然とする久瀬に、浩平は
「ほんとに大変だな」
とニヤリと笑った。
【光岡 単独行動。優勝に向けてやる気をだす】
【浩平チーム 朝食タイム】
【オボロ、久瀬、月島 まずは瑠璃子探索へ】
【オボロ トウカに触発されてやる気を出す】
おっと忘れてた。分かると思うけど、
【時間は 三日目朝】
「もうすっかり真っ暗ね…」
綾香は空を見上げようとしたが、視線は鬱蒼と茂った木の葉に遮られていた。
「これ以上動くのはちょっと危ないわね。今日はここで休みましょ」
彼女らの前にある木には大きな洞が出来ている。二人で入って休むには十分な大きさだ。
「それにしても、お腹空いたわね…」
綾香は手にした紙束を恨めしそうに見つめていた。
「ここなの?」
芹香のダウジングに従って、二人がやってきたところは、森の中にぽっかりと開けた空き地。
しかし、周りを見渡しても屋台らしきものは見当たらない。
「……(こくこく)」
「どう見てもただの空き地だけど…?」
森との境目であたりを窺っている綾香をよそに、芹香はすたすたと空き地の真中辺りまで踏み込んで行ってしまった。
あまりに無防備な芹香の行動に、綾香は慌てて走り寄っていく。
「ちょ、ちょっと姉さん、鬼に見つかったらどうするのよ」
近寄ってみると、芹香はしゃがみこんで何かをじっと見つめていた。
その視線の先にあるのは、一株の花。
美しいが、どことなく毒々しい、小さな花。綾香の知識にはない植物だった。
「なあに、それ?」
一応訊いてはみたものの、綾香にはだいたい答えが予想できていた。
「……」
「とっても珍しい薬草? はぁ、やっぱりね…」
「……」
「抜いてくださいって? 今はそんなことしてる場合じゃないでしょ」
そうして先に進むことを促すが、芹香は動こうとしない。しゃがんだまま、捨てられた子犬のような眼差しで綾香を見上げていた。
「あーもう、分かった、分かったから、そんな目で見ない」
結局、折れたのは綾香の方だった。普段おとなしい姉の意外な頑固さを知っている為でもあるが、これほど芹香がこだわるこの花に、彼女自身も興味を引かれたというのが正直な気持ちなのかもしれない。
「で、どうすればいいの?」
「……」
「根菜類の一種だから、思いっきり引っ張ればいい? 要するに、ダイコン抜くようなものね」
「……」
「結構深くまで根が伸びているはずだから、折らないようにって? はいはい、気をつけるわ」
芹香から抜き方の細かいレクチャーを受けて、綾香は花に手をかけた。
「…んっと、意外としっかりしてるわね」
植物はほっそりとした印象に反して茎もしっかりしていて、多少力を込めても折れる心配はなさそうだった。
「それじゃ、いくわよ…せーのっ!」
渾身の力を込めて、一気に植物を引き抜く綾香。
そして二人の前に姿を現したのは…
「おめでとうございま〜す!!」
地面の中から引き抜かれたのは、頭に花をつけた細身の男。
「って、おや、またあなた達ですか。これは参りましたね、ハイ」
チキナロだった。
しばし唖然としていた綾香は、気を取り直すと芹香を振り返って問いかけた。
「えっと…こういう植物なの?」
「……(ぶんぶん)」
芹香も驚いていたらしい。目を丸くして激しくかぶりを振る。
「まさか同じ方々に2回も見つかってしまうとは…私も未熟ですねぇ、ハイ」
「2回目からは金券は差し上げられませんが、代わりにこちらの食券をどうぞ」
そう言って何か書きこんだ紙切れを二人に渡す。
「この食券は、屋台で何か一食分の食事と引き換えが出来ます。ただし、ご利用いただけるのはそこに名前の書かれているご本人のみとなります。その他、使用上の諸注意は裏面に記載してございますので、よく読んでからご利用ください」
「それでは、ご武運をお祈りしております、ハイ」
そしてまた、出てきた穴の中に飛び込むと、どこへとともなく姿を消してしまった。
「……えっと……」
「……………」
二人が混乱から立ち直ったのは、チキナロがいなくなってから数分経過してからだった。
「やっぱり…変な人よね…」
「……(こくこく)」
「ま、まあ、食券も貰えたし、さすがは姉さんのダウジングね」
綾香は手にした食券を裏返して注意書きを読みはじめた。
「なになに…使用期間は鬼ごっこ中――これは商品券と一緒ね。メニューはイートインに限る――携帯食には使えないってことね。一度に使えるのは1枚だけで、使用は記名者に限る――要するに本人しか使えないと」
「なんにせよ、屋台を見つけなくっちゃ役に立たないわね。姉さん、この調子でダウジング頼んだわよ」
「……(こくこく)」
うなずく芹香の表情は、珍しい薬草を手に入れ損ねたせいか、ちょっとだけ残念そうだった。
空き地を出てからも、芹香のダウジングは絶好調だった。
ただし、成果が非常に偏っていたのが欠点といえば欠点だったが。
「この石動かすの?」
「おめでとうございま〜す!!」
「この木の上?」
「おめでとうございま〜す!!」
「この池?」
「おめでとうございま〜す!!」
・
・
・
行く先々でチキナロを発見しまくり。
そうやって貯まりに貯まった食券が、実に25枚。二人合わせて50枚。
しかし、実際に口にできるものは収穫0。
まして、屋台は影も形も見つからず。
一度、チキナロに食券はいいから何か食べるものを貰えないかと訊いてみたものの、
「申し訳ありませんが、私は商品券の類しか取り扱っておりませんので、ハイ」との答え。
かくして、お嬢様2人はかつてない経験――飢え――を味わうことになったのである。
「……」
「ごめんなさい…って、姉さんは悪くないわよ。ちゃんとダウジングは成功してたじゃない」
食券の束を見つめていた綾香に、芹香が申し訳なさそうに声をかける。
「確かにちょっと…お腹空いたけど…」
しゅんとする芹香を見て、綾香はあえて明るい声をだす。
「ほら、今日は休んで、明日こそ屋台見つけましょ。そしたら嫌ってほど食べられるわよ」
「…(くー)」
芹香の返事は声より大きな腹の虫だった。
【2日目夜】
【芹香・綾香 とっても空腹】
【記名式食券25食分げっと】
あ〜食券はチキナロが名前を書き入れてから渡してます。
曇天が星空を覆い隠す深夜。いや、もうすぐ東の空が白んできそうな気配から明け方、と言うべきか。
御堂は砂浜を歩いていた。
リサを追い、超ダンジョンへ歩み入った彼。その後は蝉丸とほぼ同じ説明を聞き、ほぼ同じ思考を巡らせ、ほぼ同じ決断を下した。
すなわち、魔法陣を使った離脱。彼にとってあそこはあまり魅力的な狩場とは言えなかった。
ただ、蝉丸と彼で違ったのは唯一。あのダンジョン内においては
「狙撃ができねぇじゃねぇか」
という部分が大きかったことを付け加えておこう。入り組んだ閉鎖空間において、彼の十八番である狙撃はほとんど意味を成さない。
確かにそれでも『強化兵』たる彼には一般人を軽く凌駕する身体能力はあったが、あそこに集まるような連中……他の人外な奴等……と渡り合うにはいささか辛い。
もう一つ。彼にとっては致命的でもある雨。それを防げるというのも確かに大きくはあったが、獲物がいなくては話にならない。
『攻』と『守』。どちらが重要かと言われれば当然のごとく
「獲物のいねぇ狩場に興味はねぇ」
と答える。
従って現在は見通しのきく砂浜を中心に手頃な雨をしのげそうな建物を探している。
罠や他の人間がいるかもしれない。だが構わない。罠など少し調べれば見抜くことができるし、他の人間は逃げ手ならば万々歳、鬼でも少なくともデメリットにはならないからだ。
主たる目的は雨露をしのぐことなのだから。
「……ん? あれは……」
そんな折、御堂の視界の端に小さな小屋が目に止まった。簡素な作りのプレハブ小屋。係員か何かの詰め所だろうか?
「……ほぅ」
目を細め、様子を伺いつつ御堂は笑った。静かに笑い、唇を歪めた。
「……やれやれ」
窓際の椅子に腰掛けながら、聖は疲労のこもったため息を一つ吐き出した。
部屋の奥では妹の佳乃と、色々な経緯の末拾うことになった『鬼』の三井寺月代が平和な顔で眠りこけている。
……寝相で迂闊にタッチなどされないよう、段ボールで簡単な『しきい』を作ってあるのだが。
「……やれやれ」
もう一度ため息を吐く。
いい気なものだ。
月代の風邪……と言っていいかどうかもわからない症状……は、とりあえず簡単な問診をし、スタッフのメイドロボから受け取った薬を飲ませておいたから、まぁ大丈夫だろう。
夕飯は念のため彼女の分だけはお粥にしておいたし、今は暖かくして寝ている。少なくともこれで悪化することはないはずだ。
これが、彼女が同じ逃げ手であったら団欒とした食卓であっただろう。だが、食卓を囲む風景はただ一人がたすきをかけているという風景。
迂闊に食器を渡すことも、醤油を取ってもらうことも、後かたづけを手伝ってもらうこともできない、『ぎこちない』もの。だいぶ違和感バリバリだった。
……もっとも、当人2人は気にする様子もなく、少々聖自身が神経過敏になっているだけの気もするが、妹を心配する気持ちは『足りぬ』ことはあっても『過ぎる』ことはない。
そう自分に結論付け、もう一度外の様子を見渡したところで……
「!?」
『影』
そうとしか形容し難い存在が、こちらに向かってきているのが見えた。
影は一ツ。だが、その距離はあまりに近い!
しまった! 聖は己に毒づいた。余計な思考に注意を捕らわれ、こんなものに気付かなかったとは!
「佳乃! 三井寺君! 逃げ……!」
ドバァン!
叫ぶのも間に合わず、ドアは蹴破られた。申し訳程度に掛けてあった鍵が弾き飛ぶ。
「ケーーーーッケッケッケッケ! 俺ァついてるぜ! 建物と獲物を同時に発見できるとはなぁ!」
【御堂 聖・佳乃・月代の詰め所を急襲】
【佳乃・月代 まだ寝てる】
【時間:3日目明け方 場所:海岸詰め所 天候:降り出す直前】
全参加者一覧及び直前の行動(
>>376まで)
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
レス番は直前行動、無いキャラは前回(
>>354-356)から変動無しです
()で括られたキャラ同士は一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)
fils:【ティリア・フレイ】、【サラ・フリート:1】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂、【新城沙織】、【太田香奈子:2】、【月島拓也:1】
>>364-369 痕:柏木耕一、(柏木梓、日吉かおり)、柏木楓、柳川祐也、ダリエリ、
【柏木千鶴:10】、【柏木初音】、【相田響子】、【小出由美子】、【阿部貴之】
TH:(藤田浩之、長岡志保、姫川琴音)、神岸あかり、マルチ、(来栖川芹香、来栖川綾香)
>>370-374、
松原葵、(岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ)、神岸ひかり、
(【保科智子】、【坂下好恵】)、【宮内レミィ】、【雛山理緒:2】、【セリオ:2】、
【佐藤雅史】、【田沢圭子】、【矢島】、【垣本】、【しんじょうさおり】
WA:七瀬彰、緒方英二、
(【藤井冬弥】、【森川由綺:2】)、【緒方理奈:5】、【河島はるか】、【澤倉美咲】、【観月マナ】、【篠塚弥生】
こみパ:千堂和樹、(高瀬瑞希、九品仏大志、立川郁美)、(猪名川由宇、大庭詠美)、御影すばる、澤田真紀子、
(【牧村南】、【風見鈴香】)、(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)、【芳賀玲子】
>>357-363、
【塚本千紗:2】、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】)
NW:ユンナ
>>357-363、【城戸芳晴】、【コリン】、(『ルミラ』、『アレイ』)、
(『イビル』、『エビル』)、(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
>>364-369 まじアン:江藤結花、【宮田健太郎:1】、【スフィー】
>>364-369、【リアン】、【高倉みどり】、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)、岩切花枝、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】
>>375-376、【杜若きよみ(白)】、【御堂:6】
>>375-376、
【光岡悟:1】
>>364-369、【杜若きよみ(黒)】
>>357-363、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ、(アルルゥ、カミュ、ユズハ)、ベナウィ、クロウ、カルラ、クーヤ、サクヤ、
【エルルゥ】、【オボロ:1】
>>364-369、(【ドリィ:1】、【グラァ】)
>>357-363、【ウルトリィ:1】、【トウカ】
>>364-369、
【デリホウライ】、【ゲンジマル】、【ヌワンギ】、【ニウェ:1】、【ハウエンクア】、【ディー:6(6)】、『チキナロ』
>>370-374 Routes:(湯浅皐月、梶原夕菜)、リサ・ヴィクセン、
【那須宗一:1】、【伏見ゆかり】
>>364-369、【立田七海】、【エディ】、【醍醐:1】、【伊藤:1】
同棲:【山田まさき:1】、【皆瀬まなみ:2】
MOON.:巳間晴香、名倉友里、
(【天沢郁未:4】、【名倉由依】)、【鹿沼葉子:2】、【少年:1】、【巳間良祐:1】、【高槻:1】、【A棟巡回員】
ONE:(里村茜、上月澪、柚木詩子)、氷上シュン、
(【折原浩平:7(3)】、【長森瑞佳】)
>>364-369、【七瀬留美:1】、【川名みさき】、
【椎名繭】、【深山雪見】、【住井護】、【広瀬真希:1】、【清水なつき】
Kanon:(沢渡真琴、天野美汐)、(【相沢祐一】、【川澄舞】)、【月宮あゆ:4】、【水瀬名雪:3】、【美坂栞】、
【美坂香里:8(1)】、【倉田佐祐理:1(1)】、【北川潤】、【久瀬:4】
>>364-369 AIR:神尾観鈴、(霧島佳乃、霧島聖)
>>375-376、(遠野美凪、みちる)、神尾晴子、(柳也、裏葉)、しのさいか、
【国崎往人:2】、【橘敬介】、【神奈:1】、【しのまいか】
現在リストが進度に対して容量喰いすぎなのと一身上の都合から
今後のリスト投下は不定期にさせて頂きます
「はむはむ…悪いわね。思いっきり蹴った挙句に食べ物まで貰っちゃって」
「いや、いいよ…」
闇の中、広瀬はまさきから貰ったクロワッサンをはむはむと食べていた。
まさきは相変わらず道端に寝っころがっている。
「あんた大丈夫? さっきからずいぶん調子が悪そうだけど」
「………いや、ちょっと吐きそうなだけ」
食事したばかりの上、腹にいい蹴りを2発も食らったのだ。逆流してもおかしくない。
「…せめて私が食べ終わってからにして」
「努力するよ」
「……(はむはむ)」
「………」
「……(はむはむはむはむはむはむ)」
「…あ。口の中が酸っぱい」
「!! ちょっと、頑張ってよね!?」
「頑張れって言われてもなぁ…」
胃液の味を感じ出したらもはや決壊は不可避。それが21年間の経験で知った人体の限界。
まさきはゆっくりと立ち上がり、木の根元へと移動する。
「……うぅ…勘弁してよ…」
それで察したのか、広瀬も食事の手を止めて目を瞑り耳を塞いだ。
※しばらくお待ちください※
「あーすっきりした」
「………」
ペットボトルの水で数度うがいをしたまさきは健康そのもの。
少々腹に痛みが残っているがあまり気にはならない。
「うーん。腹減ったな。何か食べることにしよう」
「好きにして…」
一方の広瀬はげんなりしている。もしかするとまさきより気分が悪いのではないか。
「何食べようかなぁ…軽いものがいいなぁ…」
本当に食べるつもりらしい。まさきは食料を入れた袋の中をガサゴソと漁っている。
「お。きのこ」
それはサラが落としたきのこ。
広瀬が食べ物を要求したとき、
『女の子に生きのこを食べさせるのはよくない』
ということでとりあえず鞄の中に入れておいたのだが。
「こんなもの買った記憶ないんだけどなぁ…まあいいや。折角だから食べちゃおう。量的にちょうどいいし」
「…生のまま? 種類もわからないのに?」
「屋台で売ってるんなら毒キノコってことはないだろ」
「それはそうだろうけど…」
「じゃ、いただきま――」
ガサガサッ
「――す?」
突如森の中から物音が聞こえ、同時にまさきの手が止まる。
2人揃って音のした方を見ると…
「山田まさき様。御連絡があります」
量産型メイドロボ、HM−13が立っていた。
「「………」」
「…山田様、よろしいですか?」
((そこはさっき、俺が/こいつが 吐いた場所……))
「…山田様?」
「はぁ。なるほど…」
「代理として他のHMがサラ様に襷を渡しております――何か、ご質問は?」
「いや、特に無いよ」
「――では、私はこれで」
「うん。ご苦労様」
サラの件を手短に話し、HM−13は何処かへと去っていった。
足元の云々は、果たして気づいていたのか気づいていなかったのか…。
「蹴り2発で1万円ね…結構お得だけど、嬉しくはないわね」
「…それでも、ポイントはポイントだ」
まさきは立ち上がって、ズボンについた土をパンパンと払った。
ポイントを得た喜びからか。まさきから、やる気と意志が感じられる。
「下手したら1人も捕まえられずに終わるかもしれないと思っていたけど…君のおかげだよ。これはほんのお礼だ」
そう言ってまさきは、結局食べなかったきのこを広瀬に差し出した。
「…お礼ならもっといいものが欲しいんだけど」
「だから『ほんの』お礼。焼くなりなんなりして食べるといい」
「まったく…どうせ袋に入れなおすのが面倒くさかったんでしょ」
広瀬はきのこを受け取り――袋の類を持っていないので、スカートのポケットに無理やり捻じ込む。
「じゃあ、俺は行くよ」
「案外あっさりしてるのね。何かの縁だし協力しよう、なんて誘いは無いわけ?」
「会いたい奴がいるんだ。できれば、自分だけの力で探し出したい」
「…ふーん。それで、鬼ごっこはどうするのよ」
「誰も捕まえられない、なんてカッコ悪い事態は避けられたからね。後回しだ」
「そう」
広瀬は鬼として1人でも多く捕まえたい。まさきに鬼としてのやる気がない以上、一緒にいてもメリットはない。
そしてまさきは単独での行動を望んでいる。
「せいぜい頑張りなさいよ」
「ああ。ありがとう」
だから2人は、挨拶もそこそこに逆の方向へと歩き出した。
暗闇の中、互いの顔も満足に見えないまま。
【まさき サラを捕まえたことを知る。まなみを探すことに】
【広瀬 食事完了。きのこをもらう。まさきと別れる】
【森の中、3日目 未明】
少し歩き、ふと広瀬は振り返る。
そして、闇に紛れ薄っすらとしか見えないまさきの――
「…なにかしら、あれ」
――何故かぼんやりと光っているカードマスターピーチのコスプレ服を凝視し、首を傾げた。
【まさき コスプレ服は手放せないらしい】
「……誰か来る」
ハクオロは、木陰の下で思う。夜が近づいてくると共に、雨足も徐々に強まり、木の下に待避していようとかまわず落ちてくる雨粒が、三人の体を確実に濡らしていく。
先ほども感じた感覚。より強く、より確かに感じるそれは、邂逅が迫っていることを告げるもの。
「どうしたのだ、ハクオロ」
「……隠れていろ、二人とも。なにか──とてもいやなものが来る」
「……鼻が利かない?」
「すまん、ネタが分からん。ともかく、木の陰にでも隠れているんだ」
強い調子のハクオロの言葉。皇としての威厳ある語気。二人に否応を言わせぬ語意。
そして──数分後。
「やはり──おまえか、ディー」
「──見つけたぞ、我が空蝉よ」
二人は出会った。この、狭くて広い島の中で。雨降る森の一角で。
ディーの、長時間雨にさらされた体は、雨ガッパもかまわずずぶぬれている。腕の先、服の端から水滴がぽつり、ぽつりと雨粒に混ざって落ちる。
「おまえは、鬼になったのか」
仮面の男が言った。むしろ静かに。自然煮えたぎってくる激情によって。
「そうだ。だが、おかげで今まで知らなかったことを知ることができた──」
細身の男が言った。静かに、とても静かに。再開を悦びながら。
「それは?」
「おまえに話す必要は無いだろう」
「確かに、な。聞く必要は無い」
そしてハクオロは身構える。一戦を交えようとする心を押さえ、一人の逃げ手として、どちらに逃げるか、一瞬のうちに判断を下し──
「動くな、空蝉」
「──────!?」
瞬間、ハクオロの総身が硬直する。ディーの、静かに告げた絶対の言葉によって。
「なぜ──? ルール違反ではないのか──」
それに何故──同じ力を持つ私に、おまえの力が通るのだ──
「今の私に、ルールは関係無い。これは鬼ごっことは離れた出来事。単に私は──動くな」
草陰から飛び出そうとしたHM-13に告げる。大神の言葉は、世に存在するすべてのものを従わせるのか。来栖川の誇るメイドロボは、その場に固まり停止する。
「単に私は、おまえをこの場から逃がしたくない──我が前から逃したくない──それだけだ」
かつてのディーではないことに、ハクオロは気付いた。表層こそ冷静に見えるが、どこかにすさまじき激情が渦巻いている。おそらく、本人も気付いていないのだろう。
そしてハクオロは納得する。今のディーならば、私にも術を通すことが出来るだろう──と。何の根拠も無い、それは二にして一たるものだけが判る、唯一の現実。
「ディー──私を捕らえてなんとする」
「知れたこと──おまえを取りこみ、一へと帰るのだ──」
「──なんのために」
「我が──何と言うのだったか────ああ。そうか。愛する者たちのために──」
「愛する者──?」
ハクオロは驚くと同時に、理解する。ディーの違和の理由。言葉にする必要すらない。激情と、違和感と、すべての訳が、ハクオロの心に飛び込んでくるように。
「ディー」
「最後に、ひとつ言っておこう」
ハクオロに向け、一歩踏み出す。
「今の私の名は、ディーではない」
さらに一歩。左手から新たに現れたHM−13を一睨みし、硬直せしめる。
「今の我が名は、Dだ──」
ハクオロに向かって手を差し伸べる。不意に浮かぶ、微かな笑み。自嘲とも、歓喜とも取れる、そして本当に微かな、笑みが──浮かんで
「何をする気か知らないが、ディー」
ハクオロが言う。
「一に帰るのは、私はごめんだ」
ハクオロが告げる。
「動くな」
そして、Dの動きが止まる。
二人がにらみ合っている光景を、少女と幼女が見ている。
「どうなってるの?」
「判りません……」
「おねぇちゃん……」
「何が起こってるノ?」
それぞれは別の位置で。にらみ合う二人からは見えない位置で。雨が木の葉に当たる音、二人の声を掻き消して。
四つの視線が、動かない男二人を見つめている。
「貴様……ッ」
ディーは力を振り絞る。薬の効果、徐々にうせていく効果、その残滓をかき集めるように。
「考えてみろ、ディー」
「何をだ……ッ」
しかしほどけない。全力を使えるハクオロと、分力すら発揮し得ないD。元が同じ存在ゆえ、力の衰えた側に、勝ち目のあろうはずが無い。
「おまえは、愛する者のために、と言った」
「そうだ……」
「それは、おまえだけの思いか」
「違う──はずだ。そう信じたい──」
と言いかけて、自分を恥じる。何を馬鹿なことを、あの二人の心を、私は疑うのか──
「違う。ああ。絶対に違う」
大神たる彼が恥じる。その滑稽な事実に気付くことも無く、Dは断言する。そして──あの二人のために──この雨を──
「だからこそ──私は」
「落ち着け、ディー」
「落ち着いている、空蝉」
「われわれが一に帰って」
「私は彼女らのために」
「その後、元の二人に戻れるのか──」
「この雨を止ませなければならないのだ──」
今──この男は何と言った?
雨を、止ませるだと──?
元の二人に戻れるのかだと──?
「何を馬鹿なことを──!」
二人の声が重なり、雨中の森に響く。
そしてにらみ合う。いまだに二人の術は解けず、身じろぎ一つできず、ただ、木漏れの雨に打たれながら。
「雨を止ませるため、ただそれだけのために──その身を捨てると」
「元に戻れるかなど、私にはどうでもよい──この雨さえ止めば」
「馬鹿な──ディーよ、馬鹿か──おまえが消えて──おまえを愛するものたちが喜ぶとでも──?」
「私が居なくとも──彼女らにはそれぞれに繋がる者たちが居る──そう、私が居なくとも──」
「ダメだよッ!」
「D,何言ってるノッ!」
「レミィ……まいか……? 何故」
「よくわからないけど、いなくなっちゃダメだよっ」
「よくわからないけどッ! Dが居ないとダメだよ、花火、二人でしても、つまらないヨッ!」
木陰から飛び出してきた二人。身動きの取れないDにすがりつくように、訴える。本心から、真情のこもった、訴えかけ。
「でぃーがいなくなるんだったら、雨やまなくても良いよぉ……まいか、花火できなくてもいいよぉ……だから」
「D、消えたりしないでヨ……お願いだから……ネ?」
半ば呆然とたち尽くすD。ハクオロはそんな三人を見て、苦笑する。
まったく……馬鹿な男だ。人との付き合い方、人の心を知らないにも、ほどがある……仕方ないと言えば言えるが、な。
そして、生まれて始めてかもしれない、貴重な体験をした。
Dが、泣いた。
偉大なる大神は、雨の中、二人の少女にすがりつかれながら、泣いた。
【D。一に帰るのをやめる。泣く】
【一家の繋がりがますます深くなる】
【周囲には、HMシリーズがいくつか転がってる】
【森の一角。三日目、五時くらい。雨足が徐々に強くなっている】
あ……題名忘れてた……
「滴」でよろしくです。
住「うーむ…やはりここだけは判らんな北者…」
北「ああ、なんかこう、根本的に仕組みが違う気がするぞ。」
栞(この2人はなんでこんなに元気なんですか…)
例によって例のごとく地雷原ズ+1。現在超ダンジョンの中。
馬鹿デカイダンジョンを物凄い勢いで罠一色に染めた彼らであったが、
最後の最後で最大の難関に直面していた。それはダンジョン脱出装置。
これを改造できれば相当面白い仕掛けを作ることが出来るのだが、
その原理が全く理解できないのだ。
まあこれは厳密には装置ではなくて魔法なのだから常人には理解できなくて
当然なわけだが。
住「そもそも仕掛けらしい仕掛けが全然無いのが判らない。」
北「というかオレはこの空間自体、実はよくわからないぞ住者。」
栞(これも今までの悪事の天罰なのでしょうか…)
栞がパーティーに加わったことで調子が狂ったのか、途中何度も自爆して、
通常なら5回は死ぬほどのダメージを食らっている。いくら物理的に
ノーダメージだと言っても痛いものは痛い。栞は既に懲りていた。
住「そもそもなんなんだ、この模様は?」
北「ただの目印か?それとも意味があるのか?」
逆に懲りずにいる2名。
栞(はぁ…もう何があっても受け入れます…)
そしていいかげん開き直った栞がヤケクソ気味に一言。
栞「魔方陣なんてファンタジーみたいでかっこいいですね。」
と、それにおもいきり反応する2人。
住「魔方陣…これが?」
北「なるほど!魔法ならこのダンジョンの説明がつく!」
栞(というかなんとなくでも気がつかなかったのかおまいら。)
そして魔方陣を調べながら…
住「しかし困ったぞ北者。さすがに魔法のことは判らん。」
北「魔法に詳しい者を引き込むしかないな。」
栞「でも人っ子一人いませんよ?」
などと言い合ううちに…
”ダンジョン脱出装置が発動します。”
住「あ”!」
北「しまっt…」
栞(もうどうにでもしてください…)
調べるのに熱中しすぎていつの間にか魔方陣に入ってしまった3人に
謎のアナウンスが聞こえる。
そして3人の影はダンジョンから消えた。
一方その頃…
綾「こんどこそ食べ物にありつきたいわ…」
芹「…(こくこく)」
3日目になっても食券ゲットばかりが続き、ついに40枚目を先程ゲットして、
かなりテンションが下がってきた来栖川姉妹。雨まで降ってきてまさに
泣きっ面に蜂である。
綾「さっきのあからさまに罠っぽいカレーライス…手を出しておいた方がよかったかも。」
芹「…(こくこく)」
もはや正常な判断も期待できない。
綾「ってゆうか姉さん。ここにはさすがに何もないんだけど?」
芹「…(ふるふる)」
綾「姉さんがここでいいって言うなら、ここにも食べもの絡みの何かがあるはずなんだけど…」
などと言い合っていると、
?「あ”」
?「しまった!」
?「ここはどこですか?」
唐突に出現する地雷原ズ+1。
綾「…今回はハズレ?」
芹「…(かも…)」
もはや逃げる気力も無く観念する来栖川姉妹。
しかし地雷原ズは元から鬼の自覚などなく、注目するのは芹香の帽子。
住「…(なあ北者。あの似た顔の2人組の帽子の方…)」
北「…(ああ、いかにも魔法と関係あるっぽいな住者。)」
そんな2人の様子が変なことに気がついて綾香が声をかける。
綾「…?貴方達鬼でしょ?捕まえないの?」
芹「…(こくこく)」
しかし一瞬何のことかわからない地雷原ズ。
住「…!ああ、そういえばそうだったな。」
北「いや、今はそんなことより!…つかぬことを伺うがそっちの帽子の人、
いかにもといった風貌だが、もしや魔法と何か関係が?」
芹「…(こくこく)」
綾「えーと、『黒魔術なら少々…。』と言ってるわ。
ところでこっちもいきなりで悪いんだけど……何か食べ物持ってない?」
綾「地下ダンジョンで魔法トラップを作りたい?」
住「ああ、俺達の野望達成まであと一歩なんだ!」
北「恐らくはあそこを攻略すれば島全体を網羅できる!」
綾「ってゆーか島中の罠は貴方達の仕業だったのね…。はぁ…。」
とりあえず地雷原ズから食料を恵んでもらって少し元気になった来栖川姉妹に
語る地雷原ズ。食料トラップ作成のために食料を大量に用意しているため、
食い扶持が2人増えた程度では全く問題ない。
ちなみにさっきから話に参加していない栞には、もう会話に参加する気力も無い。
そりゃあ文字通り何度も死ぬ思いをしたダンジョンに舞い戻る為の計画の会話に
参加なんぞしたくなかろう。
住「で、だ。是非ともお姉さんの方の…芹香さんだっけ?に力を貸してもらいたいのだが。」
北「我等の野望達成のために!」
綾「普通に鬼ごっこしなさいよ…。でもまあ、食料の恩もあるし見逃してもらってる
恩もあるし、なによりなんか面白そうだし、いいわ!姉さんさえよければ私はいいわよ!」
芹「…(お手伝いします。)」
栞(やっぱり戻るんですね…)
問題児がさらに増えた瞬間であった。
住「よし!では早速特攻するぞ!」
北「ではよろしく頼むぞ新たな同士よ!」
綾「まかせなさい!大船に乗ったつもりでいいわよ!」
ポンポンと北川の背中を叩く綾香。
芹(くいくい…。)
綾「ん?なによ姉さん。え?『触ったら鬼になっちゃう』?……あ”!」
栞「ということはそれに触った芹香さんは…」
芹「!!…(ふるふる)」
住「折角見逃したのに(汗)」
北「幸先悪いな…」
一同「……」
なんともちぐはぐな集団になってしまったようだ。
【北川 期せずして綾香ゲット】
【綾香 自爆して鬼になる 芹香ゲット】
【芹香 自爆して鬼になる】
【来栖川姉妹 地雷原ズに協力 空腹回復】
【栞 全てを受け入れる】
【一同 ダンジョンに再突入予定】
【3日目】
>>391-394 題名は
「マジック×マジック」で。
あと、
【来栖川姉妹 食券40枚に増加】
も参考までに。
「参りましたね…。今回のディーさんの件、どうしましょう?」
「今回の場合は同じ能力持ちだしセーフじゃないの?」
「そこはとりあえずセーフですね。ただ、『一になる』というあたりは、
厳密には違いますが、現在のハクオロさんの人格が消えるという意味では
殺人に近いものがありますし、何か一言必要でしょう。」
「でも、連行する…にしても万一本気出されたら全戦力投入しても勝てないよ。
なんだかんだ言って神だし。どーする、ちーちゃん?」
「確かに今彼等を引き離したら本気で抵抗するかもしれません。
しかし、第三者から見れば今回の彼の振る舞いは非常に自己中心的な行動です。
ここまでの大事はもうないでしょうけど、考え方を改めていただかない限り、
絶対に話をする必要があります。」
「
「こちらから出向くっていうのはどう?これなら連行しなくてもお説教できるよ?」
「それができれば問題ないんですが、他にも問題児が多すぎて、今私がここの席を外すのは
なんとも…。私が行っている間、残った人達だけで他の方々を抑えられますか?」
「ちょっと厳しいかも。ならHMシリーズ使って警告メッセージだけで済ます?
どの道『次やったら失格』くらいは言わなくちゃならないし。」
「いえ、こういう影響が大きい方にこそしっかりと言わないといけません。
彼等の心情も分からないこともありませんし、今彼等の中に割り込むのは
野暮というものでしょう。ですが、他の人達を巻き込む恐れのあった行動を
許すわけにはいきません!」
「でも、他にいい方法があまりないよ?それこそ上手く言い聞かせられる
メッセージ用意するくらいしかできないよ?」
「…一番理想なのは、私達が介入しないでも参加者の間で気がついてくれる
ことなのですが。」
「とりあえず様子見て、深く反省しているようなら事務連絡だけ、っていうところか。」
「それにしてもこれでディーさんまでブラックリスト行き。監視用のHMシリーズを
数体向かわせる事にしますが…正直ここまで問題起こす人が増えるとは思ってませんでした。」
「危険人物と思われる人には監視を増やすっていう今の方法…そろそろ無理が
出てきたね。」
「「はぁ…」」
管理者達のため息は絶えない。
【千鶴 足立 ディーをどうするかと、問題人物の増加に悩む】
「そうか、花火がしたかったのか」
「そうだ。どうしても、あの二人と花火がやりたかった」
木の下で、二人は話す。お互いに触れ合うことも無く。顔を合わせることも無い。
そもそもそばに居るだけで互いに自制を失いかねない間柄。それぞれ木の反対側に陣取って、こうして話しているだけでも。
別の大木の下では、少女と幼女のペア二つが、微妙な距離を置きながらも楽しげな会話を続けている。
鬼と逃げ手という関係とは思えない、和やかな光景。
四人の話し声だけと、ますます強くなってくる雨の音だけが、森の中に響いて。
「──すまない」
「なにがだ」
「私は、自分を見失っていたらしい。冷静に考えていれば、一に帰れば、元へと変えることは至難ということなど、判っていたはずだった」
「それが、人というものだからな。どんな冷静な男でも、窮地になれば、一事に心となれば視野が狭まり、判断を失う。そういうものだ」
「ああ──そうだな。そのことが、ようやくわかったような気がする──」
くくっ、と自嘲気味の笑い声が聞こえてくる。ハクオロは上を──茂る枝葉に覆われて見えない、曇天であろう空を見上げて、
「止めば──いいのにな」
そう、小さく言った。
「──ああ。止んで、ほしいな」
Dも、それに小さく答えた。
天に向かって祈る二人。大神二人が祈ると言うのも不思議な光景だが、当人達はいたって真剣なもの。
Dは、大切に思う人々のために。
ハクオロは、自身の半身のために。
神々の願いは、空へ届くのか──
数分後。
「……やはり、無駄か」
「ああ。そうだな」
そう。祈りでは、天候は変えられない。
力を失ったDと、力を使わないハクオロ。
力無しでは、天候を変えることはできない。
「……私は、行く。エルルゥを探さなければいけないからな」
そして現実に立ち返る仮面の皇。今は借金取りに追われる身なのだから。
「……ああ。私も、行こう。夜が更けるころに、雨が止むよう思いながら」
そして立ち上がる力失いし大神。今は家へと帰り体を休めたいから。
「次に会ったときは捕まえにかかるぞ」
「ならば逃げ切ってみせよう」
「ふ、ならば──それまで、捕まるな」
「ああ──もとより、たやすく捕まる気は無い」
ならば──
「また、いずれ」
「次は、穏やかに」
それだけ言い残して、二人は立ち去っていく。
「美凪。みちる、行くぞ」
「レミィ、まいか、帰るぞ」
互いの連れと共に。
それぞれ逆の方向へ。
【D一家 HOUSEへ帰っていく】
【ハクオロ一行 エルルゥ探し再開】
【時刻ほぼ変わらず、五時くらい。場所変わらず、森の一角】
私、澤田真紀子は一般人である。
この島に数多く存在する『異能』の者たちのような能力は何一つ無い。
一応、それなりに有名な雑誌の編集長を務め、漫画を見る目だけは自信があるが、そんなものはこの『ゲーム』では一切合切なんの役にも立たない。
繰り返す。私、澤田真紀子は一般人である。
今朝の鬼グループとの接触。あれを切り抜けられたのは幸運だった。
上手い具合に相手方がこちらの口車に乗ってくれた。
だが、何回もあんな危ない橋を渡るわけにはいかない。極力鬼とは接触しないに越したことはないのだ。
その上、雨も降ってきた。
人は体を濡らすと本能的に嫌悪感を覚え、運動能力も落ち、体力の減少も早くなるという。
繰り返す。私、澤田真紀子は一般人である。
雨に濡れたところで利など一つもない。ひょっとすると世の中には濡れた方が都合がいい御仁がいるのかもしれないが、少なくとも私は違う。
現在の私の切り札は二枚。
一ツ、閃光手榴弾。
残りは一発だ。まさしくこれは奥の手。どうしようもない時にのみ使うべきだろう。
一ツ、カロリーメイト。
逃亡劇にはとても使えないが、非常に重要だ。大目に買っておいて正解だった。これ一つを囓るだけでだいぶ体力が回復できる。
繰り返す。私、澤田真紀子は一般人である。
いくら『異能』の者たちが多いとはいえ、大方の参加者は私と同じ一般人であろう。
そして、現在の天候は降雨である。しかもなかなかの勢力。この中を歩き回りたいと思う人間は少なくとも『一般人』ならばいないだろう。
自然、雨宿りの屋根を求める……つまりは、建物に集中する。
自然、そこは格好の鬼の狩場となる。
自然、そんな場所に近づくわけにはいかない。雨宿りの屋根は、屋外にこそ求めるべきだ。
ただでさえ建物に人間が集中している現状、かえって外におけるエンカウント率は低下していると考えてしかるべきだろう。
繰り返す。私、澤田真紀子は一般人である。
以上のことにより、私は木陰……ぽっかりと開いた木の『うろ』。そこに隠れ家を定めた。
ここならば少なくとも視覚のみで逃げ手を探している鬼には見つかりにくいはずである。その上、雨露もしのげる。
しのげる……はず……だったのだが……
「……まさか、よりによってぶつかったのが探知機持ちだったとはね……」
木漏れ日ならぬ木漏れ雨の中、私は囲まれている。
一人、やや痩せ気味の白髪青年。手には探知機と思しき機械有り。
一人、金髪碧眼の少女。私に劣らず胸が大きそうだ。そんなことはどうでもよろしい。
一人、まだ年端もいかない……幼稚園か、小学校低学年といったところの幼女。まさかこんな子供まで参加しているとは。
三人に共通しているのは、雨合羽を着こんでいること(うらやましい。私も購入しておけばよかった)と……鬼のたすきを掛けていること。
ああ、なんてついてない。
……自分の中に浮かんだネガティヴな感情を打ち消す。
まだだ。まだ諦めるには早い。まだ捕まったわけではないのだ。……まだ、チャンスはある。
チャンスは、自分で作るものだ。
「……一つ、聞いていいかしら?」
私は、口を開く。
突破『口』は、口で開くのだ。
「どうした。諦めたのか」
かかった。まずは相手が話しに乗ってくれることが第一条件。……問答無用にタッチすればいいものを。
「ええ。とても逃げ切れそうにないわね。その前に一つ、質問がしたいのよ」
「なんだ」
私との受け答えには白髪の男性が答える。機械を持っていることと、この状況から見て、リーダーはこの人で間違いない。
「あなたは……どうしてこんなところに潜んでいた私を見つけ出せたのかしら?」
一分前まで自分が潜んでいたうろを指さす。
「ああ、これに反応があったのでな」
言いながら、機械を私に示してきた。……やはり、探知機だったようだ。
「安物ゆえ大雑把な方向しか特定できなかったが、そこはまいかのお陰だ。意外に背が小さいというのも有利な一面も持っているのだな」
「うん! まいかのおてがら!」
……場違いな幼女の歓声。なるほど、そういうことか。
確かにうろは『大人の目線』には有効だったかもしれないが、『子供の目線』に対してはあまり効果を成さなかった……と。
だが、今は反省をするべき時ではない。話の内容が、探知機へ行った。彼が自分で、行かせたのだ。ここで探知機の話題を続けても、違和感はない。
「けど……私も屋台で探知機は見たことがあるけど、探知機って軒並み高かったでしょう? それは、いくらだったの?」
「3万円だ」
「3万円! ……それは、あなたのポケットマネーから?」
そんなワケはない。
「いいや、今まで捕まえた参加者を換金して、だ」
……かかった。
「それはすごいわね。あなた、今まで何人くらい捕まえてきたの?」
「捕獲数か……ええと……。そう、六人だな。六人。レミィ、まいか、謎の男、禍日神2人組。……あれ?」
……おかしい。今の話では五人しか名前が出てきていない。
「……ああそう、そうだ。そういえば最初に神奈を捕まえたな。これで、六人だ。それがどうした?」
六人……。かなりのハイスコアだ。
私の推測が正しければ、この男はスコアランキングのかなり上位にいるはず。
では……次だ。
「そちらのお嬢さんとお嬢ちゃん、ちょっといいかしら?」
「What?」
「なーにー?」
……非常に素直に返事してくれる。気持ちいいくらいだ。これだけ単純な方々なら上手くいくかもしれない。
「あなた達のポイントはおいくつ?」
「Zeroだネ」
「うん。まいかもぜろ」
……しめた。ならばこのグループは……今朝の一団と、同じ!
「ああ、なるほど。あなたたち、鬼としての優勝を狙っているのね。それで、獲得数を稼いでどうするつもりなのかしら?」
「どうする、だと?」
ここからが本番だ。
「なんのためにチームを組んでいるのか、と聞いているのよ」
「なんのために……」
よしよし。これで揺れてくれれば……
「……なんのためだ?」
あれ?
男は、心底不思議そうな顔で金髪少女に視線を送った。
「……ウーン、そういえば何でだろうね。まいかちゃんはわかる?」
……ちょっと待ちなさい、アンタたち。
「まいか、わかんない。けど……」
何でチームを組んでるのかわからないって……
「……みんなでいると、楽しいから?」
「「ああ、なるほど!」」
大人2人はパン、と手を打つ。
「確かに、そうだろうな。みんなでいると楽しいから今まで我等は行動を共にしてきたんだ」
「ウンウン、そうだよネ。私たち、もう家族だからね。やっぱり家族みんながいると楽しいしね」
……雲行きが怪しくなってきた。
「だ、だったらなんで……。なんであなただけにポイントを集中させているの? まさかあなた、他の2人を騙してる?」
「騙してる? 人聞きの悪いことを言うな。だが……なぜ集中してると言われてもな……なぜだ?」
「自然に」
「なりゆきだよね」
「……だそうだ」
……まずい。ひじょーにマズイ予感がする。
「あ、あのね? 私が今朝会った鬼のグループはしっかりと計画を決めて、グループの中の一人にポイントを集中させるよう計画立ててたのよ!? そうすれば鬼の優勝も狙いやすいでしょう!?」
「おおっ、なるほど!」
「あなた、頭イイねー!」
「そういうてがあったか!」
素直に感心してくれる一行。……頭が頭痛で痛くなってきた。
「そうか。そうだな。その手を使えば確かにまだ私にも優勝の可能性が残されてるかもしれん」
「ウン! 花火は出来なかったけど、まだまだDには優勝のチャンスがあるヨ!」
「うん! がんばれでぃー!」
「よし、私は頑張るぞ。優勝してみせる。そしてその勝利はお前たちに捧げよう。花火の代わりに、これでもかまわないか?」
「off-course!」
「もっちろん! がんばれ!」
「というわけでタッチさせてもらう。悪く思わないでくれ」
ぷよんっ。
……男はおもむろに手を伸ばし、私の豊満な胸に触ってくれた。
だが、もう、私には怒る気力も残されていなかった。
「はは……ははは……」
つまり……私は……やる気のなかった鬼を、その気にさせてしまった、と……。
ヤブヘビ、だったわけ、ね……。
【編集長 鬼になる】
【D ポイント+1】
【Dの脳内 最優先事項変化。「みんなで花火」→「優勝を2人に捧げる」】
【時間:3日目夕方 場所:森 天候:強雨】
二日目、そろそろ夜の闇が陽の赤を駆逐しようとするころ。
鶴来屋別館の食堂には今、三人の鬼が訪れていた。彼らは知らない。
この食堂の奥の厨房から裏口に逃げようとしている逃げ手4人組がいる事を。
そしてその4人組はしらない。その裏口から、別の鬼二人組みが厨房に入ろうとしている事を。
「大志、急いで! 鬼の奴らすぐ後ろまで来てるわよ!」
「承知している!」
障害物の多く通路が広いとはいえない厨房を、音を立てないように細心の注意を立てながらなるべくすばやく移動する。
そうして、ついに裏口の扉の前に到着する。ここを抜ければ問題なく逃げられるはず……
だが、いましも大志がドアノブに手をかけようとした時、
「さあ、ハウ君! ぐずぐずしないで食べるものとってくるのよ!」
との声と共に、ドアが外から開けられる。
そして、現れる鬼二人。
鬼と逃げ手、互いに顔を見合わせ、時が止まる。
「――――――― 嘘でしょ!?」
先に動いたのは鬼のほう。
「4人ゲットー!!これで一気に優勝候補!!」
「……僕の分は無視か!?」
口々に叫びながら、二人は厨房に入ろうとする。大志達はそれに反応できない。だが―――
ガシュッ
という音とともに、まなみとハウエンクアが逆さまになって天井にぶら下げられる。
先ほど大志と瑞希の二人がかかった罠と同じタイプだ。
「な、なによこれー!」
泣き喚くまなみに、大志がつぶやく。
「……なるほど、表に罠を仕掛けるのなら、裏にもか。道理だな」
「今度ばっかりは、罠を作った奴に感謝よね。ついでにかかってくれたこいつらにもね」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇぞ!これで裏口が使えねぇ!」
まなみとハウエンクアはちょうど戸口でぶら下げられている。狭い裏口の事、確かにこの二人に接触しないで通り抜ける事は無理だった。しかも―――
『今、厨房のほうで音がしなかったか?』
『しましたね。いってみましょう』
そんな声が食堂から聞こえる。そして近くなる足音。
「お、鬼さん達来ちゃいますよ!」
「なにやってんだ、お前ら?」
「うるさいわね! 見ないでくれる!?」
厨房に入ってきた往人にまなみは赤面して怒鳴りつける。
まあ、お約束という奴で彼女も男性に見られたくないような格好になっていたわけだ。
「見せる程のものかよ?」
「失礼ですよ」
鼻で笑う往人をウルトは軽くたしなめる。
「まなみの事なんてどうでもいいから助けてくれよぅ!」
「そ、そうね、助けてくれないかしら」
「はい、今助けちゃいますね」
厨房の巨大な冷蔵庫の中……
「ウルト姉さん達は、三人連れか」
「最初の鬼さんたち、私達がここに隠れている事を教えませんねぇ」
往人達がここに来る直前に、大志達はまなみたちの前で冷蔵庫にとびこんだのだ。
大志はその前にちょっとした小細工をしていたが……
「我輩達がここにいる事を教えたら、むざむざ目の前で獲物を取られてしまうからな。
おそらく助けてもらった瞬間に、こっちに飛び込んでタッチしてくる気であろう」
だが、まなみの目論見はうまくいかなかった。
「やめろ、千紗。助けるのは食料を手に入れてからだ。食いもんを横取りなんてされたらかなわないからな」
「よこどりなんてしないわよ!」
「そうか?それはそうとして……」
往人は油断なく周りを見回す。
「食堂に食った後の皿が残っていたのがどうも気になってな。ウルト、念のためだ。そこの入り口のところから動くな」
「まずい成り行きだな、オイ」
「全くだ……今回の我輩たちはどうかしていたとしか思えん」
大志は歯噛みする。
「だが、絶望するな、我が同士たち。道はまだ残されているぞ」
大志は、冷蔵庫のすきまごしに配膳運搬用のエレベーターを凝視していた。
エレベーターのボタンが光っている。
大きな戸棚等をあけて食料を手早くあさる往人。その背後で音がした。
「……? エレベーターか?」
おそらく厨房で作った料理を客室へ持っていく為のものだろう。
そのエレベータが、今一階に到着し扉を開いていた。
いぶかる往人。その背後で千紗は、
「にゃあ?電子レンジが動いてますですよ?」
そうつぶやいて、電子レンジに手をかけようとしたその刹那、
バァアン!!
と、すさまじい音が、その電子レンジから響く。
「にゃあ!!」
腰を抜かす千紗。往人の注意もそちらにそれる。
「いまだ!続け!」
その好機を逃さず、冷蔵庫から飛び出す逃げ手四人。
「……! お前ら!?」
そう叫ぶ往人の背後を走って、先ほど大志が呼び寄せたエレベーターに乗り込む。
「くそ! 行かせるかよ!!」
叫けんで駆け寄る往人の眼前で金属の扉が閉まり、往人はその扉に拳を叩き付けた。
歯噛みをしているのは大志も同じだった。苦々しくつぶやく。
「上に行くのは気に食わないのだがな……」
ウルトリィの位置しだいでは、先ほどの爆発 ――― 電子レンジで生卵を温めたのだ――― に乗じて食堂のほうから逃げることも可能だったのだが。
この一点においては往人の用心が勝ったといえる。
「でもあそこから抜け出せてよかったですよね。これなら逃げられるんじゃないでしょうか?」
「そうだといいがな。さあ、着いたぞマイ同士達」
5階で一行はエレベーターを降りた。
「5階だな」
5のランプをさしたまま動かないエレベーターを見て往人は言う。
「このホテルの階の移動手段は、東と西の階段だけだ。ウルトは東の階段を、千紗は西の階段を抑えろ。一階ずつ俺が部屋をしらみつぶしにしていく。手間がかかるがこれが確実だ。分配はこの際考えるな。タッチできる奴はすぐタッチして構わない」
「ちょっと待ってください」
ウルトが往人の指示に異論を唱える。
「階段のほかにもエレベーターがありますよ?」
その問いに往人はにやっと笑った。
「エレベーターは使わせないさ」
「我輩は間抜けか!?」
突然叫んだ大志に瑞希がビクッと肩を震わせる。
「な、何よいきなり……!」
「これでは我輩達が何階にいるかまる分かりではないか……!!
他の階のボタンも押しておくべきだったのだ!」
「……なるほどな。そうかもしれんがあの状況でそんな事を思いつくのは総大将ぐらいだぜ
大志、あんま自分のミスを責めなさんな」
「そうね、はっきり言って柄じゃないわよ?反省してるあんたなんか気持ち悪いだけだっての」
「ひどいいいようだな、マイシスター。我輩ちょっとセンチメンタルなハートがブレイクだぞ」
「はいはい、それでこれからどうしようか?」
「うーん、使えるのは東と西の階段と、このエレベーターと、お客様用のエレベーターが二つですよね。
えーと、向こうの人数が3人だから、2/5で逃げることが出来るのかな?」
「そう単純なものではあるまい」
すでに大志は客用エレベーターのボタンを押していた。だが……
階数を示すランプは1の所で止まったままだ。
「やられたな。エレベーターはもう使えんぞ」
エレベータは一階に止められていた。開いたままのそのドアは閉じられる事がない。
ドアに挟まった椅子を取り除かない限り。
「エレベーターを止めた以上、向こうの考えは分かっている。
一階、一階しらみつぶしにするつもりだろう」
大志はしばし言葉を切る。
「やれやれ、同士達。いよいよ進退窮まったぞ?」
【大志、瑞希、クロウ、郁美 5階】
【往人、ウルトリィ、千紗 階段を抑えながら下から一階ずつ虱潰し】
【まなみ ハウエンクア 吊るされたまま】
410 :
名無しさんだよもん:03/04/13 13:45 ID:A2n17F7F
>>398-399 神々の祈りについてですが、ハクオロが探しているのはエルルゥではなく
お金を持っているアルルゥだと思われます。
一応報告させていただきます。
すみません。下げそこねました。
それにしてもDとハクオロの会話に禿しく感動しました。・゚・(ノД`)・゚・。
>>410 すんませんです。ぼけてました。
【ハクオロ一行 エルルゥ探し再開】→【ハクオロ一行 アルルゥ探し再開】
に差し替えてください。すいませんでした。
「Dさん」
とりあえず、優勝を狙うにせよ、雨の中をうろつきまわるのは効率がよくない。まして、幼いまいかの体にも障る。
というわけで、一旦Houseに戻るべく家路を急ぐ三人の前に女性が一人姿を見せた。
「誰だ? 鬼ではないようだが…逃げ手だというなら、遠慮なく捕まえさせてもらうぞ。今の私には大いなる目標がある」
女性は頬に手をあてながら、ちょっと困ったように微笑んだ。
「いいえ、私は運営本部から参りました。水瀬秋子と申します」
「運営本部…というと…」
Dの顔が少し引きつる。彼には運営側に目をつけられる心当たりがあったのだから。
「お察しのとおり、先ほどのハクオロさんとの件ですが」
「ああ…あれは私が愚かだった。家族のためという目的に囚われ、物事の本質を見失っていたのだからな」
「そうですね。あれはやはり、運営本部としては見逃すことは出来ないほどの重大なルール違反という見解です」
秋子は淡々と告げた。
「そこでDさんには処分が与えられることになりました」
それを聞いてレミィとまいかが顔色を変えた。
「でぃーはわるくないよ! わたしがわがまま言ったから…」
「Dが怒られるなら、ワタシも同罪ヨ! Dだけ処分なんてヒドイよ!」
しかし、Dは二人を嗜める。
「いや、二人とも。私はそれほどの事をしてしまったのだ」
「愚かな思考の果ての行動とはいえ、犯してしまった罪は償わなければならぬ。それが掟というものだ」
「D……」
「でぃー……」
「それでは運営本部からの処分を伝えさせていただきます」
秋子の声が雨音を圧して静かに響き渡る。
414 :
警告:03/04/13 18:05 ID:03QvcCWA
「めっ」
「は?」
Dの口から漏れた声は、自分で思うよりもはるかに間抜けな響きだった。
「以上です。あなたはもう全てを分かってらっしゃるようですからね。これ以上は必要ないでしょう」
秋子は三人を見つめてにっこり微笑んだ。
「家族と言うのは、みんな揃っているのが一番幸せなんですよ。一人でも欠けたら、残された人はどんな思いをするか…」
そう言う秋子の目は、三人を通して何か他のものを見ているようだった。
「それでは、優勝目指して頑張ってくださいね。失礼します」
そして秋子は雨の中に消えていった。
「D……」
「でぃー……」
レミィとまいかは目を潤ませながらDに飛びついた。
『よかったねー』
一気に二人に抱きつかれたDはバランスを崩して水溜りに倒れこんでしまったが、三人はそんなことを気にも止めずにゴロゴロと転げまわる。
「ははははは、あはははは」
「キャハハハハ」
「でぃー、でぃー、でぃー」
一通り、歓喜の波が収まったあと、Dは二人を抱きしめて言った。
「私はもう、おまえ達を離さないぞ。絶対だ」
「ウン、何があってもワタシたちは一緒だヨ」
「だって、かぞくだもんね」
三人は笑いながら…泣いていた。
415 :
警告:03/04/13 18:07 ID:03QvcCWA
【3日目 夕方】
【D一家 泥だらけ】
うがータイトル変え忘れた…
浜辺で見知らぬおじさんに吊り上げられてきます…
「ただいま、美咲さんっ!」
本来なら扉を開けたその瞬間から、彼の栄光のロードは再開するはずであった。
だが、小屋に戻った彰を出迎えたのは、歓喜の叫びでも暖かい笑顔でもなく、
「お、お帰りなさい、七瀬君……」
美咲のどこかぎこちない笑みと、
「お兄ちゃん、お帰りー」
無邪気に手を上げるさおりと、
「あ、お邪魔してます」
触角を2本生やした、どこかくたびれた服を身につけた少女と、
しゅこーっ。
不気味な呼吸音だった。
――増えてる。
出るときには二人だったはずの人数が、いつの間にか四人に。
しかも全員が全員、見事なまでにお揃いの襷を肩から掛けて。
「み、美咲さん……それ……」
震える指で襷を指すと、美咲は申し訳なさそうに、
「うん……ごめんなさい」
16tヘビーボムが彰の脳天を直撃した(イメージ画像)。
かくも運命とは残酷なものか。
守るべき対象を守れなかったばかりか、自ら大口を開けた虎の檻の中に飛び込んでしまった彰。
この悲劇的状況を作ってしまったのは、あのくたびれた少女か、
しゅこーっ。
はたまた、ダイビング用の鼻まで覆うゴーグルをつけ、シュノーケルを装備し、猫じゃらしを握った、
一心不乱に太助をかまい続けているこの少女かっ!? って、呼吸音の原因はそれかっ! でもなんでっ!?
彰の物々しい視線に気づいたか、少女はゴーグルの奥の大きな瞳を、ようやくこちらに向ける。
「ふにゅ……? ふぁれ?」
お前こそ誰だ。どこのクリーチャーだ?
喉まで出かかったその言葉を、彰はようやくのみこんだ。代わりに胸元からネコが出た。
「うにゃ」
猫じゃらし、とはなんと凶悪な装備であろうか。
ぴろは彰のシャツから身を乗り出し、懸命に手を伸ばしている。
「あ、ふぃろだ♪」
鳴き声に気づいた少女はゆらりと立ち上がり、猫じゃらしを握ったまま、こちらに寄ってくる。
「ふぃろー、ふぃろー」
その合間にも、しゅこーっ、と。
笑顔なだけに余計恐い。彰はメデューサの邪眼を浴びたかの如く、固まったまま一歩も動けない。
ぱたぱたと揺れる猫じゃらしが、少しずつ彰の視界で大きくなってゆき――、
「七瀬君、逃げてっ!」
美咲の声に、はっと我に返る。
伸びてきた手から逃れようと、反射的に一歩下がる。だが小屋の玄関は一段高くなっていて、彰の足は空を切った。
僅かな段差が驚愕と共に彰からバランスを奪い去り、逃れようのない魔手が眼前に迫る。
しゅこーっ。
――殺られるっ!
彰は戦慄した、が。
「ふぃろーっ♪」
名雪の手は見事にぴろだけを掴み、彰は草原に無様にひっくり返りつつも、一命は取り留めた。
「なんなんだよ、もう……」
「えーと、つまり、僕のいない間に水瀬さんと雛山さんがやってきて、なんやかんやあって、鬼になってしまったと」
しゅこーっ。ぱたぱた。うにゃーっ。ごろごろ。
「う、うん……ごめんね。せっかく七瀬君が1人で、危険を顧みずに外に出てくれたのに……」
しゅこーっ。ぱたぱた。うにゃーっ。ごろごろ。
「い、いや。美咲さんのせいじゃないから」
しゅこーっ。ぱたぱた。うにゃーっ。ごろごろ。
「……」
ムードぶちこわし、である。
ネコ好きのネコアレルギーというのも気の毒ではあるが、鬱陶しいことこの上ない。
が、本人はアレルギーを気にせずネコと遊べるとあってか、お気に入りのようだ。
元は可愛い顔立ちなのに、すっかり台無しである。
かたやもう一人の雛山理緒は、先ほどからうずうずした様子で、
「あ、あのー、タッチしちゃ、ダメですか?」
と、聞いてくる。
「いや、せめて捕まるのなら美咲さんの手でっ!」
理緒はそんな指図を受ける理由はないのだが、負い目があるのか元来人がいいせいか、胸元で指付き合わせて、しょぼんと諦める。
「ううっ、せっかくの獲物がっ。私の貧乏脱出プロジェクトが……」
それを言うなら、君たちこそ僕と美咲さんのスイートライフプロジェクトの邪魔をしてくれたんだけど。と、彰は思う。
本当なら美咲と二人切りの一夜を過ごすところ、どこからともなく扶養家族が1人にネコまで加わり、
『こうしていると、僕たち、家族みたいだよね』などと自己暗示をかけつつ、一家の長らしく食べ物を調達してきたのもつかの間、
自宅は占拠され、妻と娘(彰主観)は鬼の手の内にあり、状況はまさに四面楚歌。ついでにネコが、また増えた。
……どうすればいいんだ。
くいくい。
「ん?」
「お兄ちゃん、ご飯はー?」
お腹を押さえたさおりが、彰の袖を引いていた。
「ああ、そうだね。とりあえず食事に……あ」
「あっ……」
「ああぁっ!」
「ふぉうひふぁふぉ?」
「? なーに?」
『葉鍵的鬼ごっこ条約第一条 鬼に触れられた者は鬼となる』
かくして、一家(?)仲良く鬼となってしまったわけだが。
「太助ー、ぴろー、ご飯だよー♪」
無邪気に猫にエサをあげているさおりを見ていると、文句を言うこともできない。
「ううっ。こんなことなら、私にタッチさせてくれても……」
「あはは……もういいや、どうでも」
彰はなげやりに突っ伏した。
「お待たせ。ありあわせだから、大したものじゃないけど……」
「いやっ、もう、美咲さんの料理だったら、なんでも大歓迎だよっ」
美咲の料理を目の前にすると、たちまち彰は幸せを覚えてしまうのであった。
――まぁいいや。これはこれで幸せだし。……せめて冬弥には頑張ってもらいたいな。
自分で由綺に居場所を教えといて、それはないだろう。とっくに捕まってるし。
いやさ。ホワルバ勢は彰が鬼になったことで、残す逃げ手はわずかに1人。
それはヒロインでもなければ主人公でもなく、サブキャラの割には重要な役回りと存在感を示す、
場合によっては由綺をゲットしかねない、おいしい男。その名は緒方英二。
その緒方英二といえば――。
――あー、疲れた。
さすがにこの年になると、全力で走るのはきついなぁ。理奈ちゃんは俺が鍛えただけあって、スタミナ全開だし。
このままではいずれ捕まるよな。ここで擬装してやり過ごすという、俺の選択は間違っていないはずだ。
完全に気配は殺した。微動だにせず、音一つ立てずにいれば、この極めて自然な状況下では、
だれもが『ああ、例のあれか』と思って通り過ぎるはずだ。
ついでに足跡をわざとあさっての方向に残すというカムフラージュも施してある。完璧だね、俺。
――お、足音だ。来た来た。
思ったよりは引き離せていたみたいだったけど、理奈ちゃん、姿が見えなくても、俺のあとをぴったりついて来ちゃって。
兄妹愛の為せる技ってやつ? それはそれで嬉しいけど、今回ばかりはちょおっと迷惑だね。
さぁ、理奈ちゃん。お兄様はとっくのとおに向こうに行ってしまいましたよー。
こんなところはとっとと通り過ぎて、急いで追わないと逃げられちゃいますよー。
……って理奈ちゃん、なんで真っ直ぐにこっちに向かってくるかなぁ?
ほら、足跡はあっちの方に付いてるじゃん。俺はただのどこにでもある……、
「こんなところにクラーク像があるわけないでしょっ!」
「うわちゃあっ!」
俺は例のポーズを慌てて解除し、理奈ちゃんの跳び蹴りを回避して、岩から飛び降り走り出した。
「どうして分かるかなぁ? ほら、観光地によくあるじゃん、ああいうの」
「クラーク像は北海道にあれば十分よっ!」
「それもそうだけどさぁ。この際、この島にも観光名所の一つや二つ……」
「緒方英二像なんて建てたら、フセイン像みたいにことごとく引き倒すからね」
あらら。理奈ちゃん本気の目だよ、あれは。
休めたのはいいけど、すっかりアドバンテージ失っちゃったなぁ。
俺様、大ピンチ継続中です。
【彰、鬼になる】
【さおり、1ポイントゲット】
【緒方英二 スタミナがピンチ】
【緒方理奈 ターゲット補足】
【時間 二日目、そろそろ日が暮れてもいいだろう】
【場所 彰一行 出番の割にはどこにあるのかよく分からない小屋の中
緒方姉妹 かけずり回っているので、どこにいるんだかもうさっぱり】
姉妹ってなんだ。兄妹だ。失礼。
「良いか、千紗。あいつらが来たら大声で俺を呼べ。何が何でもあいつらを通すな。いいか」
「はいっ。千紗がんばりますっ」
そして西階段を二階に上がっていく往人。東階段にはすでにウルトが待機して、逃げ手達の強行突破を防がんと構えている。
東西両階段ともに、一人ずつでは不安なため、食堂から長テーブルを運んできて、降り口に急造のバリケードをつくってある。
机を二段重ねてあるから、そうたやすく突破は出来まい。
往人は確信していた。これで、四万円ゲットだ、と。
そして、二階。201 202 203 と順に捜索していく。まったく根気のいる作業だが、ほかに有効な手が無い以上仕方ない。
それに、往人は仕事柄、徒労には慣れている。
204……205……206……20
そのとき。通路を歩く往人の目に、あるものが飛び込んできた。
こういう高層の建物には、有ってしかるべき──むしろ、なければおかしい、とある施設が。
「あ──しまった! 俺は馬鹿か!」
そして駆け出す。その施設へ向かって。
大志は悩んでいる。自身の判断ミスで、返って皆を窮地に陥れてしまったのだ。責任を感じている。
なんとか、脱出法を見つけんと、その頭脳をフル回転させているのだ。
急いで三階まで降り、窓から飛び降りる? 郁美嬢には不可能。
鬼達が捜索しに来た所を、急襲して沈める? 奴らの戦闘力がわからない。無謀。
通気口や換気口を使って……馬鹿な。我輩は何を考えている。
やはり、強行突破しかないのか……いや、奴らも馬鹿ではあるまい。バリケードくらいは構築していてしかるべきだ。
「──ふ」
落ち着け、我輩。焦ってはならん。冷静に、周囲の状況を観察し、分析するのだ。必ず脱出ルートは見つかる──
ここはエレベーターホール。周りには三人の同志が、それぞれに知恵を絞っている。
大志は一人立ちあがり、壁に張られている、この建物の地図をじっと見る。
階段は東と西にひとつずつ。エレベーターは止められた。階段は押さえられていて使えない。
ならば──まて。これは────っ
「──くくっ、はっはっはっは!」
突如笑いだす大志。何事かと、三人が一様に彼を見る。
「ふっふふ、我輩は心底間抜けだな。こんなことにも気がつかないとは」
「どうしたのよ大志」
「よろこべ、同志諸君。さぁ立ちあがれ。脱出口へと向かうぞ──」
「非常階段ですか……」
「まったく盲点だった。焦っていては、これほど簡単なことすら判らぬものか」
「さっさと行くわよ、鬼達が気付くかもしれないし」
「クロウさん、すみません、おぶってもらって」
「かまやしねぇよ、譲ちゃん。それより、しっかり捕まってろよ」
四人は非常階段を早足で降りていく。
狭くて降りづらい、普段はまったく用なしのこの階段が、今の四人にとってはなによりもありがたい脱出口。
しかし──気付くのが少し遅かった。
二階まで降りてきた、後少しで逃げ切れる、そのとき、
まるで弾けるように、扉が開いた。間髪いれず、中から黒いTシャツの男が飛び出してくる。
急停止する逃げ手達。期せずして両者は、真正面から向き合う形になる。
「はぁ、っ。間に合ったみたいだな」
軽く息をついて、往人が言う。そして四人を捕まえんと駆け
「逃げるぞ!」
同時に、クロウが言って、
手すりを乗り越えて、地上へと飛び降りた。
【往人 非常階段で逃げ手達発見】
【郁美を背に負ったクロウ 飛び降りる】
【大志 瑞希はさてどうする?】
【夕方 鶴来屋別館の非常階段】
「―――――――――――――――と、いうわけなのよ」
私は、鬼になった。
失礼。誤解を招きかねない表現だった。
私―――澤田真紀子は現在『鬼』である。
無論のことなりなくてなったわけではない。鬼になったのは思い出したくもない経緯があってのことだが、
それはそれ。今、私は『その思い出したくもない経緯』を話し終えたところだった。
目の前の、彼女たちに。
「ええ、と。つまり……」
「――――澤田様。仮に協力するとして賞品はいかが致しましょう?」
太田香奈子を押さえ、口火を切ったのは、来栖川重工製HMX-13・セリオである。
噂には聞いていたものの、目にするのは初めてだ。
「――――いらないわ」
「権利を放棄されると仰るのですか?」
セリオ、小首をかしげる。
言いたいことは良くわかる。
というか、良くできている……。あの耳はなんだろう。
「賞品賞品って目を輝かせるような歳じゃないから。―――――とはいえ、ぜんぜん無欲にもなれないけれど。
そうね、賞品が可分なモノであれば多少分けてもらえばそれでいいわ。それ以外なら、あなたに差し上げるわ」
美坂香里――――といわれる少女を見つめて、そう言った。
確かに賞品は私の目的じゃない。
その問題で分裂する懸念のないチームに出会ったのは、僥倖といっていいだろう。
鬼になってどうするか。
不本意極まる経緯で鬼にされて、まず考えたのはそれだった。
言うまでもなく私は非力だ。物理的な力は一般女性のそれと大差ない。特殊能力も皆無。SS設定で追加機能など
というのも無論ない。このまま終了まで傍観を決め込んでもいいが、それは私のプライドが許さない。
たとえ”ゲーム”でも勝負事は、勝たなければ意味がないのだ。でなければ、この歳で編集長など務まらない。
……となると、自然、チームを組む、ということになる。
最初あの『天沢』という少女のいるチームも選択肢に入れていたが、結局考慮から外した。
不審の種というのはとても深く根付く。あの後彼女達がどうなったか知らないが、表面は繕うことは出来ても
後々響いてくるだろう。自分でやったことだが、わざわざその始末に追われるつもりは無かった。
「言うまでもないけれど、鬼は多いほうが有利よ。逃げ手と違ってね」
そして、とりあえず食事を屋台に向かって、出会ったのが彼女たち。
「とはいっても、――――ね」
香里が困ったように、肩をすくめた。
みたところ彼女がこのチームの中核のようだが、”ゲーム”への興味は既に無くしたらしい。
話によれば、「妹」を捕獲―――もとい、復讐――――するのが目的だったというから、目的を果たした今、
彼女のこの状態は無理なからぬことなのかもしれない。
もっともそれでは困るのだが。
「……そうね。考えてみれば、ここは絶海の孤島。あるのは、手付かずの自然。広い海。白い砂浜。”ゲーム”という
枠から離れてみれば、ちょっとした旅行気分よね。一応リゾートと謳っているし」
「ええ。そうですね」
「適度に鬼を捕まえて換金すれば、資金に困ることもないし」
「ええ」
「バカンスだと思えば、そう悪い状況でもないわよねぇ」
にっこりと笑って
「――――ほんの半月くらい」
「「…………え?」」
香里と香奈子の声が図ったようにユニゾンした。
今気づいたが、どちらも「香」がつくのは偶然だろうか。
いや、どうでもいいことだが。
「い、いえ。そんなには続かない、……と思いますけど」と香里。
「そうかしら? 主催者が期限を指定していたという記憶は無いけれど」
「……そう……だったかしら?」
眉間に指を置いて、思い出そうとする仕草の香奈子。
「――――セリオ?」
冷静に香里が向かいに佇むセリオに問いかけた。
「残念ですが、Yesです。香里様。澤田様の仰るとおり、期限はきられていません」
「…………」
香里の目つきが変わった。
なるほど、確かにこの不思議時空満載な集団のなかで、8ポイント取ったというのは伊達ではないかもしれない。
……これは当たりだったかも知れない。
「――――いいかしら? 現時点で想像しうる”ゲーム”の結末は三つ。『逃げ手』が一定数(もしくは一人)になるか、
『鬼』が全員を狩り尽くすか。或いは、『逃げ手』が一定数で終了し『鬼』は獲得数で賞品を手に入れる、か。どれにせよ、
時間が必要なの。少なくとも、逃げ手がある程度減らない限りこの”ゲーム”は終わらない」
「積極的同意です、香里様、香奈子様。主催者側のこれまで費やしてきたコストを考慮しても、この”ゲーム”を半端に
終わらせることはないでしょう。不測の事態が生じない限り、数日かかる可能性はあります。消極的参加にメリットはありません」
「つまり、こういうこと? 鬼を捕まえない限り終わらない?」
香奈子が続ける。
飲み込みが早い。彼女も賢いようだ。
「そうなるわね。――――もちろん、アクシデントで中断ってこともありうるけれど」
「……簡単に終わる遊びはつまらないけれど、終わらない遊びはもっとつまらない。――――わかりました、協力してもらいます、真紀子さん」
すっと香里が立ち上がった。
本当に、当たりだったようだ。
「けれど、……使える武器の類は売ったじゃない」
「あの唐辛子噴霧器? いいのよ。どうせあと3、4回くらいしか使えないんだし」
「……それで一万円? 詐欺ね」
「商売上手といってほしいわね」
といいながら、香里と香奈子が屋台の武器を物色し始めた。
――――実は、彼女達に言っていない事がある。
換金システムのある『鬼』側と違って、逃げ手側には資金を調達する手段がない。
彼らが所持しているのは基本的に開始初日に持っていただけ――――つまり、日常的に所持している程度の金額だ。
ぼったくり屋台で食を充たすことができるとはいえ、そう長くは持たない。
極々少ない例外があるにしても、勝負期間は、おそらく五日。遅くても七日というところだろう。
半月も続くはずがないのだ。
ふと視線を感じて顔をあげると、セリオがこちらを見ていた。
「…………あなたは、わかっているのよね? 騙していることになるけれど、いいの?」
「――――構いません。あの方は、ああしているほうが自然ですから」
驚いた。
来栖川のメイドロボというのはこういう思考をするのだろうか。
「香里さん――――彼女、あなたのマスター、ではないでしょう?」
「はい。…………ですが、たまにはこういうのも悪くありません」
セリオは微笑を―――多分そうなのだろう―――浮かべた。
これは、楽しめそうだ。
【真紀子 香里・香奈子・セリオに合流】
【場所 屋台】
【時間 三日目夕方〜夜】
【天候 雨】
訂正です。
>「つまり、こういうこと? 鬼を捕まえない限り終わらない?」
>香奈子が続ける。
を、
>「つまり、こういうこと? 逃げ手を捕まえない限り終わらない?」
>香奈子が続ける。
に。
ご迷惑かけます。すみません。
「……誰か来るよ」
突然瑠璃子が言った。四人、教会の中で、談話していたときのこと。
「どうしてわかるんですか?」
「ちょっと変な電波を感じたの。すぐそこまで来てるよ。葵ちゃん」
「あうー、本当? 誰か来るの?」
「うん。絶対来るよ、真琴ちゃん」
「あうー」
「長椅子の影に隠れましょう」
美汐が言う。葵もうなずいて、あうあう言っている真琴を二人がかりでなだめながら、長椅子の影に。
そして、扉が開く。
「あー、つっかれたー」
「だらしないなぁ詠美。ちゃんと運動せなあかんでー」
「あの……お邪魔しますぅ」
「誰かいますか?」
「しかし今日は良く歩いたわねー」
次々入ってくる六人連れ。たすきはかけていないことに、こそりと見ていた四人は安堵する。
「良い寝床が見つかって良かったな」
扉が閉められる。扉を閉めた男性の声は、葵には聞き覚えのある声。
「あれ、藤田先輩?」
立ちあがる。
「あれ、葵ちゃん?」
浩之もあっけに取られた風でそれに答えた。
「こ、こっちなんだな」
「そうでござるな」
くんくん、と鼻をひくつかせながら森の中を邁進する二人の男。
縦と横。正体不明な力でもって、匂いをたどって詠美を追う。
「あ。あの建物が怪しいんだな」
「同意でござる。あの中から匂うでござるよ」
そして、二人は教会へ迫っていく。
そして──ある意味、詠美以上に危険な人物も、そこに向かっていく。
その名は桜井あさひ。無論、彩ときよみも一緒にいるが。
おたく二人にとっては、神以上の存在──
「……建物です」
「良かったです……」
「えと、寝床……ですね」
おたく二人とは反対の方向から。教会へと接近していく。
教会の中には十人もの人。
灯台に引き続き、浩之達は逃げ場の無い建物の中で、鬼の襲撃を受けようとしている。
最悪に危険な二人と、
おっとりのんびりあたふたトリオ。
良くわからない組み合わせの鬼二組を前に、
十人の運命はいかに。
【教会内にいる人々 瑠璃子 浩之 志保 葵 琴音 由宇 詠美 サクヤ 舞 美汐】
【教会南側から迫る、縦と横。目標、詠美のサイン&生原稿】
【教会北側から迫る、あさひと彩ときよみ 目標、寝床確保】
【総勢十五名】
【森の中の教会 二日目夜】
二人の男の間に緊迫した空気が流れている。
「悪いが捕まえさせてもらう…」
一方は藤井冬弥。浮気ゲーム『ホワイトアルバム』の主人公。
葉鍵一のイケメンという評価もあるが、彼を指す言葉としてはさらに世に浸透しているものがある。
すなわちヘタレ。
しかし今の彼は、未熟ながらも確かに漢の顔つきをしていた。
この島での経験は、冬弥にとって大きな糧となったようだ。
「復帰したばっかりで鬼になるわけにはいかない!」
その冬弥に対するのは長瀬祐介。
LVNの初代主人公。
そのゲーム開始直後にかまされる常人を超えた妄想は、プレーヤーの度肝を抜く。
電波使いという状況から、おそらくは瑠璃子エンドかと思われるが、LF97設定のようなのではっきりとした所はわからない。
電波による反則のため拘束されていたが、どうやら開放されたようだ。
そして今、葉が誇る二大内面ドロドロ主人公が激突する。
「フッ」
先手を打ったのは祐介。
その外見を裏切る意外な瞬発力で、冬弥を引き離しにかかる。
「逃がすか!」
しかし、冬弥も伊達に体力勝負のADをやっているわけではない。
祐介の動きにほとんど遅れず、大地を蹴る。
体力なら間違いなく、冬弥の方が上だ。
雨の中濡れるのも構わず、全力で走る二人。
速度はほぼ互角である。
しかし、元々体力に自信の無い祐介は、自分の限界がそう遠くないことを感じた。
「……まずいな」
しばらくの追走劇の後、持久戦では勝ち目が薄い事を悟る祐介。
しかし電波は使えない。近くに熊でもいれば別だろうがそんな様子もない。
このままでは間違いなく捕まってしまう。
(ん? あれは…)
そんな時、先に見えたのは川。
幅は5,6mくらいだろうか?
それほど、深くはないものの雨で増水していてとても渡れそうにない。
川に丈夫そうなあの板が架かってなければ、だが。
見たところ、板はしっかりと打ちとめられているわけではない。
人一人の力でも、十分動かすことができるだろう。
祐介は冬弥との距離、互いの速度、自分の筋力と相談。
瞬時に結論、板に向かって走る。
「そうはさせるか!」
祐介の目的を看破した冬弥はスパートをかけた。
25メートル以上あった差がどんどん縮まる。
20メートル…15メートル…12メートル…10メートル…8メートル
しかしそこまでだった。
そのとき祐介は、すでに板を蹴っていた。
どんぶらこー、どんぶらこーと川に流れさていく板。
それを見、フゥと安堵のため息を漏らす祐介。
「すいません、こうでもしないと捕まりそうだったので」
そして、川の前で立ち往生しているはずの鬼に向かい声をかける。
「……」
冬弥は何も言わない。
「運がよかっただけです」
「……」
冬弥は何も言わない。
「…ゲームなので」
「……」
冬弥は何も言わない。
しかし、次の瞬間その葉鍵一のイケメンに浮かんだのは笑み。
「悪いな」
「ゴメンね」
声は前後から同時に聞こえた。
森川由綺からたすきを受け取りながら、祐介は呆然としていた。
冬弥は最初からあそこに追い込むのが目的だったらしい。
確実にしとめるための袋のネズミを作り出す為に。
たとえ祐介が体力で勝っていても、あの場では板を渡ったことだろう。
それが冬弥によって置かれたものだということも気づかず。
そして板をはずしたことだろう。
もう一人の狩人が迫っていることも知らずに。
結局自分は冬弥の手のひらの上で遊んでいただけだ。
「落とし穴だけがトラップじゃないぜ」
少し離れたところの橋を渡ってきた冬弥は笑いながら言った。
【由綺 +1ポイント シェパードマイク所持】
【冬弥 金無し】
【七海 由綺の側にいたんだけどセリフ無し】
【祐介 鬼に】
【朝】
そしてそのすぐ近くでは…
「祐介の奴捕まったみたいだ」
「そうですか、仕方ありません離れましょう」
【耕一&瑞穂 祐介の捕獲現場を見た後離れる】
440 :
孤独:03/04/14 20:09 ID:MG8sSxXv
限界が来た。いくらタイヤキが掛かれば無類の脚力を発するこの足も、文明の利器には敵わないか。
相手はこちらと一定の距離を取って逃亡しているようだ。全く腹立たしい。
しかし、いくら立腹しても一度疲労を感じてしまえば御仕舞いだ。月宮は頭から砂浜に突っ伏した。
(うぐぅ…)
ああ、まだバイクの鼓動が聞こえるというのに。
(そういえば、お腹空いたから屋台に行ったんだっけ…)
しかし、バイクの鼓動は消えない。 それどころか…近づいてくる?
「アンタ、頑張るなあ。こんなに走る予定やなかったんやけどな」
バイクに跨る女性が喋っている。微妙に距離を取っているのは、油断していない証拠なのだろう。
「まあ、ウチもあの子に会うまで鬼になるのは避けたいんでな。堪忍し」
「…あの子?」
ボクは顔を上げた。
「…土、積もってるで?」
「…全力でコケたから…」
泥だらけの顔で、恨めしそうに見上げる。
「ほな、お詫びや」
そういうと、女性は袋を投げて寄越してきた。 こ、コレは…タイヤキ!?
正直、踊りだしたいほど嬉しかったが、なんだか悔しかったので愚痴てみた。
「冷めてる…」
「もうちょっと早くギブアップしてたらなー」
軽くかわされてしまった。
まあ、元々文句を言える立場じゃない。 大人しく貰っておこう。
441 :
孤独:03/04/14 20:09 ID:MG8sSxXv
すぐに貪りたいところだが、生憎髪から顔まで土まみれだ。 顔を洗うまで我慢しよう。
それに、女性の言う「あの子」とやらに興味もあった。
「で、あの子って?」
「あー、ウチの娘や」
娘が居たのか。
「ちょうどアンタと同じくらい、かな?」
ていうかアンタいくつだ!?
女性は娘が自慢なのか、少々過熱気味に話してくれた。
「でな、まあリゾートっちゅーんで、たまには遊んでやろと思ってな。 来てみたっちゅーわけや」
…やっと言葉が途切れた。 一体何万語語ったのか。
「しかしなー、あの子トロいから」
いや、まだ続く!
このままでは折角のタイヤキが、更に冷めてしまう。 ここは、話を切り上げるべきだろう。
まずは話に割り込まねば。
「でも、その年齢でお母さんと鬼ごっこってのもね」
女性の表情が曇る。 話に割り込まれて機嫌を害したか?
「…あの子な、子供の頃から友達おらんねん」
え…
442 :
孤独:03/04/14 20:10 ID:MG8sSxXv
「ヘンな病気のせいでな、小さい頃から誰も一緒に居てくれへんのや…」
(び、病気?)
「まあ、そんな訳でな、鬼ごっこってのも今回が初めてかも知れへん」
(ボクは…祐一君と…でも…)
「ずーーーっと独りでな。 この島でも、ひょっとして独りで寂しくしてるかもしれん」
(ずーっと、独り…)
「あの子トロいからな、多分もう鬼や。 でも、誰も捕まえられへんと思うんよ」
女性は悲し気に顔を伏せた。
「せやから、せめてウチは逃げ手のままあの子に会って、本気の鬼ごっこをしてやりたいねん」
「…もし、会った時に鬼じゃなかったら?」
「そん時は一緒に逃げるのも、また楽しそうやん?」
女性は屈託が無い。
隙あらば飛び掛ろうと思っていた。 ゲージを溜めて、飛び掛る準備もOKだった。
でも。
「うん、じゃあ、頑張って逃げてね」
ボクは立ち上がり、髪と顔の土を払う。 タイヤキは懐に入れた。
「ん、もう動けるか」
女性はバイクを空ぶかしする。 牽制されているのか。
「その子、どんな格好?」
「栗色の長い髪を、後ろで縛ってる。 がおがお言ってたら間違いない」
「…もし、まだ鬼じゃなくて、ボクが見つけたら…」
「本気で、追い掛けてな」
「…うん」
この女性には敵わない。
「…うん。 じゃあね、おばさn」
「誰がおばさんじゃーーーーいっっ!!」
ホイルスピンにより、大量の土(いや、泥か)が降ってきた…
443 :
孤独:03/04/14 20:11 ID:MG8sSxXv
「貴女は…」
隣りを走るべナやん(縮めた)が話し掛けてきた。
「良い、です。 正直、見直しました」
「それを言うなら惚れ直したって」
睨まれた。 茶化すのは止めようかな。
「まあ、でもな、これはウチの我侭やから。
観鈴が鬼やったら、アンタまで巻き込む気はない。 遠慮せんと逃げてな」
「ええ、逃げますよ。 標的が多いほうが鬼も楽しいでしょうからね」
「べナやん…」
「いや、べナやんは如何かと」
「結構時間を食いましたね。 あの娘達の元へ戻るのでしょう?」
「そやな。 バイク借りっぱなしやし。
やっと人に会えたのに、鬼が来たせいで観鈴の事聞けへんかったしな」
「常識的に、視界の広い場所には逃げ手は来ないでしょう…」
「観鈴ちんはアホやから。 海が有れば、そこへ来る」
「…」
【ベナウィ&晴子 あゆを倒して茜達の元へ】
【あゆ 『ガイア式砂地での武闘術』会得。姿は隠せどもタイヤキを食せない諸刃の剣】
【3日目昼過ぎ】
夜の闇に覆われた森の奥の教会。三流ホラー映画にはバッチリのロケーションで
あったが、
今現在、教会の中はにぎやかなものであった。
それもそうだろう。なんと逃げ手が10人もいるのだから。
「急ににぎやかになりましたね」
「そうですね〜」
「にぎやかなの、楽しいよ」
「ふみゅ〜ん、お腹すいたぁ! これもも〜らいっと」
「あう〜!それも真琴の!」
「恥ずかしい事すんな、この大庭か詠美!」
「いいですよ、また作りますから」
「サンキュ〜、ごちになっちゃうわね」
「ねこっちゃ、これいらないのか? もらっちゃうぞ」
「……ねこっちゃ言わないでください」
台詞を考えるだけでも一苦労である。いやまじで。
だが、そんな団欒の雰囲気を裏切るように、瑠璃子が緊迫した声を出す。
「……! また誰か来るよ」
「本当ですか?」
「うん。なにかいやな電波を感じるよ……」
そうこういううちにも、正面入り口がギィッと音を立てて開かれた。
「うわぁ、あいつら縦と横じゃない!?」
「しつこいな。あいつらここまで追ってきおったんかい」
間一髪長いすの裏に隠れた詠美と由宇とサクヤは、入り口のほうを伺う。
他の逃げ手達も別々の場所に隠れているようだ。このすぐ近くの長椅子の裏には浩
之と志保が隠れており、他の5人もカーテンの裏に隠れる事が出来たらしい。
「むぅ……誰もいないんだな」
「いや、大庭詠美の匂いがするぞ」
「匂いがするんだな……生原稿いただきなんだな」
「やっぱり、詠美さんの事狙ってますね」
「匂いなんてしないわよ!」
「そんな事いっとる場合か! こっちに来るで!」
本当に匂いがするのだろうか。縦と横はうろつきながら徐々にこちらに向かってきている。
(ふみゅーん。どうしよう、あいつら私のことだけ狙ってるのよね)
詠美は迷う。
(このままだったら、みんなに迷惑かけちゃう……逃げたくても、瑠璃子足に怪我してるし)
「どうしたんや、詠美」
詠美の様子に気づいたのか由宇は問う。詠美はその由宇にニヤッと笑うと、
「……あんた達、こみぱくいーんの生き様みせてあげるんだから!」
そういって、詠美は立ち上がる。
「ちょっと!縦に横!!詠美ちゃん様はここにいるわよ!」
その声に、縦と横は振り返る。
「ぬぅ!そこに隠れていたか!」
「グフフフ……探したんだな」
(き、気持ち悪ーい)
ちょっと泣きそうになるちゃん様。だが、がんばって虚勢を張る。
「フン! くいーんは逃げも隠れもしなんいだから!
みじめなあんた達にちょお優しい詠美ちゃん様が原稿恵んでやるわよ!」
その横で、由宇がスクッと立ち上がった。
「サービスや。今やったら、辛味亭の生原稿も付けたる」
「な、何であんたまで!」
慌てる詠美に、由宇はニヤリと笑い返す。
「大庭か詠美だけやったら、可哀相やしな。ま、これも付き合いや」
「えへへ、そうですね」
今度は反対側でサクヤが立ち上がる。
「私は絵は描けませんが、付き合わせてください」
「ふ、ふみゅ……あんた達……」
ちゃん様、ちょっと涙目。
教会の外には、正面入り口とは反対の方から教会に近づく鬼が三人いた。
「……なにか騒がしいですねぇ」
きよみの意見に、彩とあさひもうなづく。
「誰かいらっしゃるのでしょうか?」
「うーん、いそうですね。ゆっくり泊まれるようなところだとといいなぁ」
改めて教会の中、カーテンの裏。
「詠美さん達、犠牲になるつもりですよ!」
「どうしましょう、何とかしてあげたいのですが」
焦る一同に瑠璃子が口を挟んだ。
「……いやな電波があるよ」
「嫌な電波? あの鬼達からですか?」
「ううん。あっちの方から」
瑠璃子は浩之と志保が隠れている方を指差した。
(落ち着け浩之、これはチャーンス)
(チャンスよチャンス、志保ちゃん優勝できちゃうかも)
二人して同じことを考える。
(ここであえて鬼になって)
(他の人を捕まえれば、一気に9ポイント!)
フェイレス司令もビックリなイイ笑顔を二人は浮かべる。
(主人公の割には今まで活躍する機会もなかったけど、これで一気に優勝候補!!)
(超先生キャラと蔑まれる日もここまでだわ!!)
浩之は優しい眼差しで、志保を見る。
(志保……超先生キャラの中でもトップクラスに人気がないお前だけど、
ちゃんと俺の踏み台として役に立ててやるからな)
志保は優しい眼差しで、浩之を見る。
(ヒロ……主人公の中でトップクラスに出番がないあんただけど、
ちゃんと志保ちゃんの優勝の糧にしてあげるからね)
「ひょっとしてあの二人、あえて鬼になって私達を捕まえようとしているのではないでしょうか?」
「うん、そんなどす黒い電波だよ」
「あうーっ……にやにや笑ってる……」
「ふ、藤田さん、それはちょっと……ねこっちゃさん、なんとかならないでしょうか」
「ねこっちゃ言わないでください。サイコキネシスで直接攻撃はできませんし……」
「グフフフ……さあ、捕まえて原稿をかかせるんだな」
「あんたら、ファンとして最低やな」
だが、もっと最低な二人がいたりする。
浩之と志保、長椅子の背から飛び出すと、浩之は縦を、志保は横をタッチする。
「な、お前!」
「ひ、ヒロ!?」
お互いの行動に驚く。
「「こ、この裏切りものー!!」」
お互いに、こいつにだけは言われたくないだろう。
「ね〜琴音、カーテン使えない?」
真琴の提案に、カーテンの裏の4人は顔を見合わせる。
「(ねこっちゃって言わないでくれた!)……それならいけます!」
「俺がタッチする!!」
「抜けがけはなしよ!!」
「き、貴様ら汚いぞ!!」
「醜いんだな!!」
あまりの展開に反応できない詠美達に、醜い争いを続けながら鬼達が迫まろうとする。
だがその鬼達の上に、
バフッ
カーテンが覆いかさぶる。
「な、え?何?」
「ねこっちゃや! 逃げるで三人とも!!」
「はい!!」
この隙に裏口の方から逃げようと、走る由宇達。
「逃がすかよ!!」
いち早く這い上がった浩之が後を追おうとするが、
「抜け駆けすんなぁ、ヒロ!!」
志保に足首をつかまれて転倒する。
「ふざけんな、この!!離せ、テメェ!!」
「ポイントゲットは志保ちゃんのものよ〜!!」
通路に転がったまま、低レベルな争いをする二人。その二人の上を、
「待て〜!!」
「逃がさないんだな!!」
「グア!?」
「フギャッ!?」
容赦なく、縦と横が踏みつけていった。
(よし、これなら逃げられそうや!!)
裏口を潜り抜け、森の中へ逃走しようとする。だが、新たな鬼三人とばったりと出くわしてしまう。
「あ、あれ? 由宇さんに詠美さん?」
「……お久しぶりです」
「あさひはんに彩はんか……」
三人に掛けられた襷を見て、由宇は顔をゆがめる。
「なんであんた達がこんな所にいるのよ〜!」
「え、えとえと……寝床を求めていまして……」
「じゃあ見逃せ、ええな!!」
「え、ええと、でも……」
由宇の剣幕にタジタジとなるが、あさひ達も獲物を逃がすつもりはないようだ。
「……申し訳ないですが……ポイントゲットです」
由宇達にあさひ達の手が伸ばされる。だが、
「あ、あさひちゃんなんだな!!」
「ぬぅぅぅ……拙者自分の目が信じられぬ!!」
裏口から由宇達を追ってきた縦と横の大声が、それを阻んだ。
「え、えええ?」
オタク二人に取り囲まれて、あさひは対応できない。匂いとかかかれちゃってるし。
ちゃん様、それにご立腹。
「……したぼくってなんですか?」
サクヤが問うが、詠美は答えない。
「そ、それがそんな女にうつつを抜かして……生原稿ずえーったいあげないからあっ!!」
「う、うう、それは困るよヤングウーマン」
「困るんだな、確かに」
「フン!!そんな女、台本がなければアドリブもろくにできない大根役者じゃない!!」
「ひ、ひどい……!! そんな、そんなこというなんて……!!」
詠美の暴言に、あさひも激昂した。
「お、お二人とも! サイン差し上げますから、詠美さん達を捕まえるの手伝ってください!!」
「縦に横!!生原稿よ生原稿!! いらないの!?」
「うう……どっちもほしいぞ、切実に」
「俗に言う板ばさみなんだな」
迷う二人に、彩がおずおずと口を出す。
「……よろしければ、私の原稿も差し上げますが」
「それはいらんな」
「ゴミにしかならないんだな」
「…………」
プライド被傷害者少女、もう一人追加。
「まったくあほらしいわ」
ガリガリと由宇は頭をかく。と、あさひの肩にポツン、と黒いものが落ちた。
「あさひ、なんやそれ?」
言われて自分の肩をみるあさひ。その黒いものは。
「ク、クモーーーー!!」
そのあさひの悲鳴に触発されるように、草むらから鼠や昆虫の群れが這い出して、あさひ達の方へ向かってくる。
「い……」
言葉を失う、鬼三人。気絶しなかっただけでも僥倖か。
「「「いやーーーーー!!」」」
口々に叫びながら一目散に走り出す。
由宇達もパニックになりかけるが、わりと大自然に強いサクヤが叫んだ。
「瑠璃子さんです!! この隙に逃げましょう!!」
そういって、固まっている由宇と詠美の手を強引に引っ張ると走り始めた。
「ど、どっちを追えばいいんだな?」
「ぬ、ぬぅ……と、とりあえず大庭詠美のほうだ!!」
かなり迷った末、縦横コンビは詠美達の追跡にかかった
教会の中、裏口から葵は外の様子を伺う。
「由宇さん達、うまく逃げれたようですね」
「ふう、少し疲れちゃったよ」
葵の報告に、瑠璃子は息をついた。
「うまく詠美さんが時間稼ぎをしてくれて助かりましたね……」
詠美とあさひの口げんかのおかげで、電波によって鼠や昆虫を集める時間が稼げたのだ。
無論、詠美にそんなつもりがなかったのは言うまでもないだろう。
「あうー、琴音、由宇達と分かれちゃたね」
「(ねこっちゃ言わないこの子はいい子です……) 仕方ないです。こちらのチームに入らせてもらっていいですか?」
「喜んで。よろしくお願いしますね。それでは念のためここから移動しましょう」
「そうですね。それじゃ、瑠璃子さんおぶりますね」
「ありがとう、葵ちゃん」
こうして賑やかだった教会に残されたのは踏み潰されて失神した浩之と志保だけ。
もう一度教会が騒がしくなるのは、数時間後襷を持ってきたメイドロボによって起こされた二人が
壮絶な罵りあいを始めるまで待たなくてはならない。
【瑠璃子、葵、真琴、美汐、琴音 チームを組んで教会から移動】
【詠美、由宇、サクヤ 縦、横から逃走】
【縦、横 各一ポイントゲット。詠美達を追走】
【きよみ、彩、あさひ 昆虫に追われて教会から逃走】
【浩之 縦によって鬼化。教会で失神中】
【志保 横によって鬼化。教会で失神中】
し、しまった。コピペミス。
>>450の冒頭が一行たらない。
ちゃん様、それにご立腹。
「……したぼくってなんですか?」
↓
「ちょっと!!あんたら詠美ちゃん様のしたぼくじゃなかったの!?」
ちゃん様、それにご立腹。
「……したぼくってなんですか?」
こんな感じに、訂正です。
――…
祐一が意識を回復した時、場は、殺伐とした雰囲気に包まれていた。
郁未と舞が睨み合っている為だ。
…いや、正確には、睨み付けているのは舞の方で、郁未はバツの悪そうな表情を浮かべていた。
「……何してんだ、二人とも…?」
横になりながら、呆れた様な声音でそう口にする、祐一。その声に、舞と郁未が――いや、郁未が弾かれた様に
彼の方へ向き、舞は郁未から顔を逸らさぬまま、目線だけをよこして来る。
「祐一っ…! そ、その……ごめんなさい」
「……もしかして、俺の所為で喧嘩してたのか?」
謝って来る郁未にではなく、自分の傍でオロオロしていた由依に問い掛ける。
「は、はい…」
「…祐一、大丈夫か?」
申し訳無さそうな顔で佇む郁未の後ろから、元々あまり変化を見せない表情を気遣いの色に染めながら、
舞が顔を覗かせた。
「大丈夫、大丈夫。…でっかいフライパンか何かで全身を叩かれた様な気分だが」
「ごめん…、本当に、ごめんなさい…。アイツの顔見たら、ついカッとなっちゃって…」
「あー…、いいからさ、もう。色々込み入った事情があるんだろうけど、今は……な?」
皆まで語らず、微苦笑を浮かべて郁未を見つめる祐一。…郁未も、まだ苦い物を含みつつも、微笑んで頷いた。
「…解ったわ。只……ごめんなさいって言いたかったのよ」
「ああ、ありがとう。もう大丈夫だよ。――舞も、天沢はもう謝ったんだから、そんなに怒るなって」
「……解った」
舞は、まだ何か納得の行かない様な色を眼差に浮かべていたが、祐一がそれ以上郁未を咎めないのを見やり、
静かに了承した。
「ふぅ…」
「動ける…?」
立ち上がり、体中を捻ったり伸ばしたりしてコキコキ骨を鳴らす祐一。そんな彼に、郁未が心配そうな声を掛ける。
「ん…異常なし。――ハリキッて行こうぜ?」
実はちょっと痩せ我慢が入っていたのだが、落ち込んでいる郁未の為に、祐一は殊更力強く笑って見せた。
…もしかすると、郁未は彼の痩せ我慢に気付いていたのかも知れないが(舞は気付いていた)そんな彼の微笑に
応えるべく、彼女も明るく笑った。
「さて、と…。じゃ、次の標的を探さなくちゃな。今度は何を尋ねられても、タッチしてから応えよう。問答無用でまず
タッチ。話はそれからだ」
「うん。肝に銘じとく」
「…皆さん、皆さんっ…! 誰か来ますよ…!?」
由依のその小さな声に、他の三人は茂みや木の陰に身を潜め、近付いて来る人影を注視する。
「三人か…」
彼等の鋭い眼差の先には、森を歩く三人組の少女の姿があった。
雨の森、折り畳み式の傘を差して歩くのは、雅史を失った岡田軍団である。
「しょぼーん…」
「…ったく、いつまでショボ暮れてんのよ松本は? シャキっとせんかいシャキっと……って、巨乳大阪女の口調が
伝染っちゃったじゃない。どーしてくれんのよ…っ!?」
「保科さんは大阪じゃなくて神戸だってば、岡田」
「あー、はいはい。神戸牛の神戸ね……って、だからあんなに胸でかいのかあの女わ…!? 牛だけに…!」
「神戸云々は関係無いよ…、単に岡田のムネムネが小っさいだけだよ…」
「岡田、落ち着け岡田。傘で突くのは流石にマズい」
「放せ吉井…! この女は一度脳ミソ穿り返してやらんと…!」
相変わらずどっちらけなやり取りをしている三人娘であったが、心強い味方であった雅史を失い、落ち込んでいる
のは、何も松本だけではない。他の二人も同様なのだ。
「…(…こうしておバカな会話でもしてないと、不安なのよね…)」
表情に出している松本も、素直でない為に決して口には出さない岡田も、内心でかく呟く吉井も、今更ながらに、
雅史に大きく頼っていたのだという事を実感しているのだった。
「――ま、いいわ。とにかく、我々は最後まで逃げ延びる…!」
「…うん。…でも、いいの? あの家から出ちゃっても…」
「あそこに留まり続ける方が危険でしょ。佐藤君のお蔭で充分睡眠も摂れたし」
「確かにそうだけど…――? どうかした、松本?」
突然、松本が立ち止まったので、吉井が怪訝な顔で見やる。
「……………視線を感じる…」
ぽつりと呟く松本の表情は、緊張に強張っていた。――その表情を目にして、他の二人の顔にも緊張が奔る。
森――小雨が弱々しく枝葉を打つ音以外は、静かだった……
――むしろ、余りにも。
「走れ!」
岡田が叫ぶ。
三人娘は、一斉に森の中を走り出した。
「――気付かれた…!?」
「勘の良い奴がいるらしいわね…!」
「よし、作戦Bで追跡!」
祐一に頷く少女達。
作戦Aは、このまま静かに追跡しつつ、包囲網を作り上げ、一気に捕らえる物だった。――B案は、背後と左右を
固めつつ逃げ手を追い掛け、先回りした舞のいる地点へ追い込む。
行き当たりばったりの度合いが大きい即席の作戦だが…
「巧く行く!」
その意志を胸に、祐一チームは岡田軍団の追跡を開始した。
――実際、“作戦B”は巧く行った。
左を祐一、後方を郁未、そして右側を由依――その三人の中で由依の足が遅めな事もあってか、岡田軍団は
迫り来る左と後方の鬼から逃れる為に、右へ右へと進路が流れつつあった。
「…(――よし、このまま行けば…!)」
逃げ手の三人が走る先には、舞の待ち伏せポイントがあるはずだった――
「っ…!? ――岡田、すとっぷぅっ!!」
松本が叫び、三人娘は急停止した。
「なっ、何よ!?」
「……あれ」
息を上げながら、吉井が進む先にある大木を指差した。
――その大木の陰から、先回りしていた舞が、剣を携えて姿を現す。
「………」
沈黙と鋭い眼差を以てして、三人娘を迎える舞。…ほどなくして、後続の祐一達も到着し、三人娘を取り囲んだ。
「っ……、こ、ここまでなの、私達っ…!?」
「こんなんじゃ、佐藤君に逢わせる顔がないよぅ…!」
悔しげに呻く、吉井と松本。ここで逃げ手として脱落となれば、あの時の雅史の犠牲が無駄となる。
「――――いえ、まだよ」
一人、舞に背を向けていた岡田が、ゆらりと彼女の方へ振り返った。――折り畳み式の傘は小さく畳まれてバッグ
の中に捻じ込まれ、代わりにその手が携えるのは、落ちていた木の棒。
「岡田…?」
鋭い眼差で舞を見据えつつ、岡田は他に拾っておいた同じ様な木の棒を、吉井と松本に渡す。
「道は切り開く!」
「…!?」
ビュンッ!――と、棒を一振り、舞を指し示す岡田。…そんな彼女から只ならぬ気迫を感じ取り、舞は戦慄に身構えた。
――岡田の考えを、両隣に立つ二人も読み取った様だ。折り畳み式傘を畳んでバッグやザックの脇に捻じ込み、岡田
と同様に棒で風を切り、舞を指し示す。
「我々はここで挫ける訳にはイカヌ…!」
「だから道は切り開く…!」
「私達を庇ってくれた佐藤君の為にも…!」
舞を指し示していた棒を剣の如く掲げ上げ、天高く互いに打ち合わせる。
「我等!」
「岡田軍団!」
「三身一体!」
「「「 三 銃 士 !!! 」」」
見事にハモる掛け声。まるで勝鬨の如く――そして同時に、三人娘の逆撃が始まった。
「っ……!」
三人娘の逆襲の意外な激しさに、舞は息を飲んだ。――完全に素人剣術であるのに、見事と言うより他に無いチームワークで、
隙無く打ち出されて来る連撃を、舞は自分の得物で捌くだけで精一杯の状況へ追い遣られようとしていた。
「ウソっ…、舞さんが押されてる…!? ――って、コレって反則では!?」
「真剣とか傘の尖った先っちょとかでやりあってたら反則かも知れないけど…」
「天沢っ、例のヤツで舞の援護…!」
振り回される三人娘の棒と、舞の無刃剣の所為で、迂闊に近寄れない。
「間にある地面を――軽くでいい!」
「OK!」
祐一が叫んだ事で“何かを行う”事は知れても、不可視パワーを知らない三人娘には対処のし様がないだろう。舞に
関しては心配無用だ。むしろ、その“目眩まし”に乗じて三人娘の持つ木の棒を払い落とすくらいの事はやってくれる。
「―――…!」
気勢に呑まれて押されてゆく舞と三人娘の間にある地面に、意識を集中させる郁未。
だが――
ドッ!ドッ!ドッ!
「ぐっ…!」
三人娘の各々の強烈な一撃が、舞の肩、脇腹、、そして向こう脛に命中する。
そして空かさず――
「「「 とああっ!!! 」」」
「っふぅっっ……!!?」
三本の棒が、動きの止まった舞の腹を突き、彼女の体を吹っ飛ばした。
「ああっ…!?」
由依の悲鳴じみた声。郁未も、まさか舞が打ち負けて突き飛ばされるとは思っていなかった為、微かな驚きが
集束しかけていた“力”を霧散させてしまった。
だが、それでも一瞬在るか無しの隙――
その僅かな隙を見逃さず、三人娘は棒を投げ捨てて逃げ出していた。
「――追うぞ!」
「この先は川――巧くすればまた追い詰められる!」
無情な様だが、大したダメージは無いと見て、舞には構わずに祐一は走り出す。その後に、郁未も続く。
三人娘の逃げ出した先には、川がある。広くはないが、雨の所為で深さと勢いを増している為、渡る事は出来ない
はずだ。また、橋のある場所まで着く前に、郁未と祐一の足で追い着く事が出来るだろう。
しかし――
「…!? あの子達、何してんの…!?」
――三人娘は互いに肩を組み合って走っていた。しかも、その速さまでも増している様で、離されはしていないが、
彼我の距離が縮まらず、追い着くことが出来ない…!
「仕方ないわ! 地面を吹き飛ばしてスッ転ばせる!」
「けっ、怪我させちまわないか!?」
「そん時はそん時! 屋台にでも連れて行ってケアしたげればいいでしょ!? 直接当てる訳じゃないから、ルールにも
触れてないはず! ――いくわよ!!」
「走れ走れ走れ走れぇぇぇえええええっっっ!!!」
真ん中で走る岡田の掛け声と共に、彼女達は走った。見事なまでに合致した呼吸とフットワークで、三人娘はまるで
機関車か何かの様に、雨風を切って突っ走った。
たかが鬼ごっこで、ここまで必死にならなくても――という考えは、今の彼女達の内には無かった。ゲーム開始当初は、
どこかダラけた物が心の中にあったが、今は違う。
何としてでも逃げ残る。三人の内の最後の一人が捕まるまで…!――
その想いが、彼女達の体にブーストを掛け、更に加速させる。
「――前方に川! 距離、20!」
「飛び越えて!――」
「みせるよ!――」
雨の為に勢いを増している川を前に、三人娘は減速を掛けるどころか、より増速した。
そして――
ドバぁァァッッ!!
――と、三人娘の走っていた大地が爆発する。が、その寸前に、彼女達は大きく跳躍――加えて、大地を吹き飛ばした
その爆圧を踏み台にしたかの様に、更なる飛躍力を見せ、見事に川を飛び越えて向こう岸に着地したのである…
…川のほとりに、些か呆然として佇む人影が、二つ。郁未と祐一だ。
「……ウソ…」
「んー…、見事なチームワークだ。完敗だな、俺達の」
ややショックを受けている郁未に対して、祐一はむしろ微笑みさえ浮かべていた。こうまで見事に逃げられると、
却って胸が空くと言おうか、天晴れである。
「……祐一」
――遅れて、舞と由依がやって来た。
「…すまない。私の所為だ…」
「そんな事ない。舞も頑張った。――俺達が、向こうのチームワークに負けたんだ」
「――それより、怪我は無い?」
郁未に尋ねられ、舞は一瞬、目を瞬かせたが、すぐに首を振って見せる。
「無い…」
「そ。それなら問題無しね」
そう言って微笑む郁未に、舞はやや戸惑いらしき物を揺らめかせていた。
「それにしても、逃がした魚は大きいというか、大量だったわよねぇ――三人も…トホホ」
「ま、あっさり捕まえられたら面白くないだろ?」
「そんな余裕かましてる場合ですか、祐一さん?」
「うぐ、正直スマンカッタ…。――ま、次はもっと巧くやれるさ。今度また彼女達に会ったら、遅れを取る気は無いよ。
“チームワーク”ってのがどんなに大事か、学んだ気がするし」
「そうね。やっぱりチームワークって大切よね。そう思わない?」
ぽんっ…と肩に手を回して言って来る郁未を眺めやり、舞は……微かに微笑み、頷いた。
「…はちみつくまさん」
――その頃、祐一チームの包囲網を見事に突破した岡田軍団は…
「うへぇ〜…、雨の中走ったから、ビショ濡れになっちゃったよ〜」
「今更傘を差し直しても…って感じね。逃げ切れたからいいけどさ♪」
「――へみ゛っ…!」
「……相変わらずヘンなくしゃみね、岡田」
「やかましい。…とっとと安全な場所、探すわよ」
「はいはい、団長殿」
「あはは、皆服が濡れて体のラインがいや〜んな感じ♪ 岡田の薄いムネムネラインもくっきりで、いや〜んな感じ〜♪」
「うぉのれ小娘…、こやつだけそこいら辺に埋めてやろうか…!?」
「やめなさいっての…。さっさと行くわよ〜?」
…逃げ果せた途端に、いつもの調子に戻っているのであった――
【祐一チーム 岡田軍団を包囲するが、取り逃がす…】
【岡田軍団 見事なチームワーク(?)で祐一チームの包囲を突破】
【三日目 午前中 森】