1 :
名無しさんだよもん:
葉鍵キャラ100名を超える人間達が、とあるリゾートアイランド建設予定地に招待された。
そこで一つのイベントが行われる。
「葉鍵鬼ごっこ」。
逃げる参加者。追撃する鬼。
だだっ広い島をまるまる一つ占拠しての
壮大な鬼ごっこが幕を上げた。
増えつづける彼らの合間を掻い潜って、
最後まで逃げ切るは一体どこのどちら様?
「――それでは、ゲームスタートです」
関連サイト
葉鍵鬼ごっこ過去ログ編集サイト
http://hakaoni.fc 2web.com/
(IP抜き対策にスペースを入れてあります)
葉鍵鬼ごっこ議論・感想板
http://jbbs.shitaraba.com/game/5200/ ルールなどは
>>2-10を参照。
・鶴来屋主催のイベントです。フィールドは鶴来屋リゾートアイランド予定地まるまる使います。
・見事最後まで逃げ切れた方には……まだ未定ですが、素晴らしい賞品を用意する予定です。
・同時に、最も多く捕まえた方にもすてきな賞品があります。鬼になっても諦めずに頑張りましょう。
ルールです。
・単純な鬼ごっこです。鬼に捕まった人は鬼になります。
・鬼になった人は目印のために、こちらが用意したたすきをつけてください。
・鬼ごっこをする範囲はこの島に限ります。島から出てしまうと失格となるので気を付けましょう。
・特殊な力を持っている人に関しては特に力を制限しません。後ほど詳しく述べます。
・他の参加者が容易に立ち入れない場所――たとえば湖の底などにずっと留まっていることも禁止です。
・病弱者(郁美・シュン・ユズハ・栞・さいかetc)は「ナースコール」所持で参加します。何かあったらすぐに連絡してください。
・食料は、民家や自然の中から手に入れるか、四台出ている屋台から購入してください。
・屋台を中心に半径100メートル以内での交戦を禁じます。
・鬼は、捕まえた人一人あたり一万円を換金することができます。
・屋台で武器を手に入れることもできますが、強力すぎる武器は売ってません。悪しからず。
・キャラの追加はこれ以上受け付けません。
・管理人=水瀬秋子、足立さん及び長瀬一族
能力者に関してです。
・一般人に直接危害を加えてしまう能力→不可。失格です。
・不可視の力・仙命樹など、自分だけに効く能力→可(割とグレーゾーン)。節度を守ってご使用ください。
・飛行・潜水→制限あり。これもあんまり使い過ぎると集中砲火される恐れがあります。
・特例として、同程度の自衛能力を有する相手のみ使用可とします。例えば私が梓を全力で襲っても、これはOKとなります。
| _
| M ヽ
|从 リ)〉
|゚ ヮ゚ノ| < 以上が主なルールです。守らない人は慈悲なく容赦なく万遍なく狩るので気を付けてくださいね♪
⊂)} i !
|_/ヽ|」
|
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
fils:ティリア・フレイ、【サラ・フリート】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂、【新城沙織】、【太田香奈子:2】、【月島拓也:1】
痕:柏木耕一、柏木梓、柏木楓、柳川祐也、日吉かおり、【相田響子】、小出由美子、ダリエリ、
【柏木千鶴:10】、【柏木初音】、【阿部貴之】
TH:藤田浩之、神岸あかり、長岡志保、マルチ、来栖川芹香、松原葵、姫川琴音、
来栖川綾香、佐藤雅史、岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ、神岸ひかり、
【保科智子】、【宮内レミィ】、【雛山理緒:2】、【セリオ:2】、
【坂下好恵】、【田沢圭子】、【矢島】、【垣本】、【しんじょうさおり】
WA:【篠塚弥生】、観月マナ、七瀬彰、緒方英二、
【藤井冬弥】、【森川由綺:2】、【緒方理奈:3】、【河島はるか】、【澤倉美咲】
こみパ:千堂和樹、高瀬瑞希、牧村南、猪名川由宇、大庭詠美、
御影すばる、立川郁美、九品仏大志、澤田真紀子、風見鈴香、
【長谷部彩】、【芳賀玲子】、【桜井あさひ:2】、
【塚本千紗:2】、【立川雄蔵】、【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】
NW:城戸芳晴、ユンナ、【コリン】、『ルミラ』、『アレイ』、
『イビル』、『エビル』、『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』、『ショップ屋ねーちゃん』、
まじアン:江藤結花、高倉みどり、【宮田健太郎:1】、【スフィー】、【リアン】、【牧部なつみ】
誰彼:砧夕霧、桑島高子、岩切花枝、杜若きよみ(黒)、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】、【杜若きよみ(白)】、
【御堂:6】、【光岡悟:1】、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ、アルルゥ、ユズハ、ベナウィ、クロウ、カルラ、カミュ、クーヤ、サクヤ、
【エルルゥ】、【オボロ:1】、【ドリィ】、【グラァ】、【ウルトリィ:1】、【トウカ】、【デリホウライ】、
【ゲンジマル】、【ヌワンギ】、【ニウェ:1】、【ハウエンクア】、【ディー:6】、『チキナロ』
Routes:湯浅皐月、リサ・ヴィクセン、梶原夕菜、
【那須宗一:1】、【伏見ゆかり】、【立田七海】、【エディ】、【醍醐】、【伊藤:1】
同棲:【山田まさき:1】、【皆瀬まなみ:2】
MOON.:巳間晴香、名倉友里、A棟巡回員、
【天沢郁未:3】、【名倉由依】、【鹿沼葉子:1】、【少年】、【巳間良祐:1】、【高槻:1】
ONE:里村茜、上月澪、柚木詩子、深山雪見、氷上シュン、
【折原浩平:4(3)】、【長森瑞佳】、【七瀬留美:1】、【川名みさき】、
【椎名繭】、【住井護】、【広瀬真希:1】、【清水なつき】
Kanon:沢渡真琴、天野美汐、
【相沢祐一】、【水瀬名雪:3】、【月宮あゆ:4】、【美坂栞】、【川澄舞】、
【美坂香里:8(1)】、【倉田佐祐理:1(1)】、【北川潤】、【久瀬:4】
AIR:神尾観鈴、霧島佳乃、遠野美凪、神尾晴子、霧島聖、みちる、柳也、裏葉、しのさいか、
【国崎往人:2】、【橘敬介】、【神奈:1】、【しのまいか】
その他のキャラです。
管理:長瀬源一郎(雫)、長瀬源三郎、足立(痕)、長瀬源四郎、長瀬源五郎(TH)、フランク長瀬(WA)、
長瀬源之助(まじアン)、長瀬源次郎(Routes)、水瀬秋子(Kanon)
支援:アレックス・グロリア、篁(Routes)
スレ立て乙。でも、参加キャラの中にみさき先輩が入ってないよん。
糞スレ
乙です。では、さっき中途半端に上げたやつを改めて。
「ふっふっふっ…順調だな」
MOON.脇役コンビ、名倉友里とA棟巡回員が割かし元気そうに歩いている。
「出番がない、の間違いじゃないの?」
「…言うな」
郁未をカタパルトで撃退して以降、2人は屋台での食事を交えつつひっそりと移動してきた。
「それにしてもあなた、案外役に立つじゃない。小さな物音にも気がつくし、罠もすぐ見つけるし」
「見回りで飯を食ってきたからな…。半ば職業病だ」
鬼に見つかることもなく、罠にかかることもないまま時は深夜。場所は海岸近くの防砂林。
「………ん?」
今まで何度もしてきたように、巡回員が異常を発見する。
「なに? どうしたの?」
「…なぁ、あれ、何に見える」
何かが――いや、誰かが倒れている。
「…人間?」
「そうらしいな…。駄目だ、襷をかけてやがる」
それは、先ほど葉子に粛清されたエディと敬介。
流石に気絶はしていないが、ボコられて動けないようだ。呻き声を出している。…何故か、微妙に嬉しそうだが。
とにかく無視だ。わざわざ鬼に近づく必要はない。
物音をたてないよう、慎重に――
――しかし、運が悪かった。もう少し時間がずれていれば、あるいは出会わなかったかもしれないのだが。
「獲物だの、葉子殿」
「そのようですね。気配を消していて正解でした」
「「げっ…」」
ボコられている人間がいるということは、ボコった人間がいるというわけで。
ボコられた人間が襷をかけているということは、ボコった人間は鬼だったわけで。
人をボコれるということは、人数にもよるだろうがそれなりに強い人間なわけで。
もっと言うと、ボコられたのは2人でボコったのは1人だったりする。
「――お久しぶりですね、名無しさん」
そのボコり犯、鹿沼葉子が巡回員をジッと見つめた。会話の対象ははなから彼のみ。
「まったくだ、A‐9…いや、今は鹿沼葉子と呼んだ方がいいんだろうな」
巡回員もそれに応える。友里と神奈は蚊帳の外。
「――ところで、名無しさん」
「頼むからその呼び方は勘弁してくれ」
「――そこで倒れている2人に、気づきましたか?」
「(無視かよ)…ああ」
「――彼らは、悪事を働きました」
「ほう。見たところ善良そうな人間だが、何をやらかした?」
「覗きです」
静寂。
「名無しさん」
「…は、はぃ」
「前々から、聞きたいことがあったのですが――よろしいですか?」
「……よろしくないです」
「却下します」
「………」
「郁未さんの話によると貴方は……昔、私の着替えを覗いたことがあるそうですね」
再び、静寂。
「何か、反論は?」
「……そりゃあいつの嘘だr」
「却下します」
「………」
「名無しさん」
「…はい」
「とりあえず、鬼としてタッチさせていただきます。――話は、その後です」
みたび、静寂。
「――名倉姉」
巡回員が小声で指示する。
天沢郁未は撃退できた。だが――
「さっきみたいなハッタリは通じなさそうね」
「そう言うことだ。逃げるぞ」
「了解」
「――神奈さん」
葉子が神奈に確認を取る。
「話が見えんが、ようは捕まえれば良いのであろ」
「そうです。詳しいことは、後でゆっくりと」
「うむ」
逃げ手2人が考える。
「どっちに逃げるか…」
追いかけっこの戦場を選ぶのは逃げ手の特権だ。右手に砂浜。他方は防砂林。
「砂浜の方が有利だと思うわ」
「…同意だ。死ぬ気で逃げるぞ」
追い手2人が視認する。
「砂浜へ逃げるつもりのようだの」
「好都合です。この勝負――勝ちました」
賽は投げられた。海岸の細かな砂は、どちらの味方か。
【友里、A棟巡回員 砂浜へ逃げる】
【葉子、神奈 追う】
【エディ 敬介 未だ復活できず】
【深夜】
スレ立て乙です。
14 :
愚者たち:03/04/03 23:44 ID:oR9F2eQM
「こっ。これはッッ!!」
「書き損じッ!? べたミスッ!?」
「馬鹿ナ!」
「フザケルナ!」
「コンナモノ、ゴミデハナイカッ!」
「コノヨウナ物ニ騙サレルトハ、不覚ッ!」
「許サン!」
「本物ノ生原稿、何トシテモ奪イ取ラネバッ!」
「……アッチダッ! 匂イガスルッ!」
「我輩モ感ジタゾッ! イザ参ロウ!」
そして、縦と横は蠢き始める。
灯台のある岬、崖になっているその下で――
海を眼前に控えた岩場で――
二人は、サインと生原稿を求め、動き始める。
「でも、これは持っていくんだな」
「であるな。これもレアアイテムと言えばレアアイテムでござる」
しっかりと、書き損じは持って、ね。
【縦あーんど横、行動再開】
【灯台真下の岩場】
【午後】
「……なんか、いやな予感がする」
「……うちもや」
「どうした、二人とも?」
【由宇 詠美、悪寒を感じる】
15 :
S島日吉:03/04/04 00:40 ID:rzFzoHlC
「梓先輩どいて下さい!その人殺せません!!」
どこぞの世界ではあまりにも有名なセリフに良く似たセリフを興奮した口調で口走るのは、
もちろんトリップ中の日吉かおり。
小さな小屋の入り口に立っている彼女は、小屋の中央にあるテーブルを挟んで
梓・結花の2人と対峙している。
「な、なんなのよアンタ…正気!?」
「お、落ち着けかおり。お前が何のつもりかしらないが、とにかく話し合おう。…結花も刺激するな」
腕っぷしには自信のある2人だが、なぜか2人はかおりを前にして強気に出れないでいる。
理由は簡単。
かおりが、どう見ても本物と思われる斧を持って構えているからである。
この斧は小屋の入り口に立てかけてあった。
もしかしたら、この小屋を作ったときに使ったのかもしれない。
小屋に踏み込み、梓と結花が2人で1つのベッドに腰掛けていた(この小屋にはベッドとテーブル、それに物置棚がそれぞれ1つしかなかった)
場面を見て誤解し、とうとう切れてしまったかおりは思わずそれを手にしてしまった。
「うふふふふ…梓先輩。待っていてください。今先輩を騙しているそこの魔女を殺して助けてあげますから」
にやり、それこそ本物の魔女のように無気味な笑いを浮かべ、一歩一歩2人の方へにじり寄るかおり。
梓と結花の後ろは壁であり、逃げ場は無い。
「だから、どいてくださいよ梓先輩。じゃないとその魔女を殺せないじゃないですか…」
疲労、空腹、さらには純粋すぎるが故の周りの見えない愛情などが重なり、今のかおりにはかなり妄想の気もあるようだ。
今のかおりには、何を言っても聞き入れてくれないであろうことは2人にもよく分かる。
16 :
S島日吉:03/04/04 00:42 ID:rzFzoHlC
「かおり、早まるな。このゲームでは人を傷つけるのはルール違反だ。ましてや殺すなんて、冗談でも言うな」
梓は必死にかおりをなだめようと説得を続ける。
「うふふ、冗談じゃないですよ…先輩のためなら私はなんだって出来ます。ゲーム?そんなものどうだっていいんです。
先輩さえ側にいてくれれば、それで…」
だが、かおりは予想通り聞く耳を持たない。
その目は本気だった。
肉食動物が飢えて獲物を狙うときのような、血走った目をしている。
「……やめろ、かおり!」
「…どうしてそこまでしてその魔女を庇うんです!?先輩は私なんかよりそんなペチャパイ女の方がいいんですか!?」
「……ペチャパイ?(ボソリ)」
そのとき、結花の中で何かが切れたのだが、梓もかおりもそれに気づくことは無かった。
「馬鹿!あたしはお前に人を傷つけるようなことをして欲しくないから言ってるんだ!正気に戻れ!」
「…ダメです。先輩はその魔女に騙されているんです。先輩がなんと言おうと…」
いったん言葉を切ったかおりは、目の前に構えていた斧を上段に振りかぶった。
「私は先輩を助けてあげますよ!!」
そう叫ぶと、斧を振りかぶったまま梓達の方へテーブルを乗り越えて突っ込んでくる。
その勢いにはまるでためらいというものが感じられない。
このままでは、かおりは間違いなく結花を傷つけ――最悪、殺してしまうかもしれない。
(…仕方が無い!かおり相手に使いたくは無いけど…エルクゥの力を解放するしかないのか!?)
梓が最終手段も考えたその時―――
結花が梓を押しのけ、かおりと対面した。
かおりは止まらず、真っ直ぐに結花向けて突っ込んでくる。
「…結花!!何をやっているんだ!かおりの狙いはお前なんだぞ!逃げろ!!」
だが、遅かった。
梓が叫ぶと同時に、かおりはその斧を結花の頭上に振り下ろして―――
17 :
S島日吉:03/04/04 00:43 ID:rzFzoHlC
バキッ!!
「「…え?」」
ヒュンヒュンヒュン…ガスッ。
梓とかおりの声が重なる。
その次に、柄の真ん中から折られた斧が回転して跳んでいき、天井へ突き刺さった。
その斧の真下には、何が起こったのか理解できずに折れた柄の半分を握り締めているかおりと、
ハイキックを放ったポーズで硬直していた結花だった。
だが、結花の硬直は一瞬のことで、再び体制を整えるとしっかり腰を落とした。
「さっきから聞いてれば、勝手なことをペラペラと…。
だ・れ・が……ペチャパイだあぁぁぁぁぁっ!!」
ゴスッ。
結花の2度目のハイキックが、今度はかおりの後頭部にクリティカルヒットした。
「………ガクリ」
梓が呆然と見守る中、かおりはその場に崩れ落ちた―――。
18 :
S島日吉:03/04/04 00:44 ID:rzFzoHlC
「軽い脳震盪で気絶しているだけです。命に別状はありません」
その後。
急遽駆けつけたHM−12により、かおりの無事が確認された。
かおりは小屋のベッドに寝かされ、今までについた体中の傷を含めたあちこちの応急手当てがされた。
「…そっか。ならまあいいんだけどさ」
「申し訳ございませんでした。この小屋にはまだ監視カメラが設置されていなかったため、異変に気づくのが遅れました」
「全く。下手すりゃ大参事だったわよ」
まだ少し不機嫌そうに結花が言う。
しかし、下手をすれば死んでいたかもしれないというのに、彼女も意外と元気なものである。
「本当に申し訳ありません」
深々とHM−12が頭を下げる。
「まあ、済んだことは仕方ないけどね。それより、あたし達これからどうなるの?」
「今回の件に関しては、江藤結花様は正当防衛ということで問題にはなりません。
日吉かおり様に関しては、さすがに何らかの処分が下るとは思いますが―――」
そこに、梓が割り込んだ。
「あの…さ。勝手な話かもしれないけど、あまり厳しい処分にしないで欲しいんだ。こいつも普段はここまでしない―――
せいぜい、無邪気にうるさく付きまとってくるだけで悪気はない奴なんだ。
疲労とか、空腹とか、誤解とか、いろんな不運が重なっちゃっただけなんだ」
「…それは承知いたしましたが、被害者である結花様は?」
「ん?…まあ、二度とこんなことにならないんなら別に構わないわよ。とりあえず、その子に十分な手当てと休息を与えてあげて」
「了解いたしました」
その後、かおりはヘリで運ばれていった。
「…ごめんな、結花。あたしの知り合いが迷惑かけちまって」
「いいわよもう。それより…」
「な、何?」
急に声を落とし、真面目な顔つきになった結花に、思わず梓の緊張が高まる。
「梓、あなたどうやったらそんなに胸が大きくなったのよ!!」
ガクッ!!
思わず体制の崩れる梓。
結花もやはりというかなんと言うか…
結花と自分の胸の差については気にしていたようである。
19 :
S島日吉:03/04/04 00:46 ID:rzFzoHlC
【梓&結花、とりあえずの危機は脱出。今後の行動未定】
【かおり、脳震盪に加えて疲労・空腹・ダメージが激しいため、一時手当てのためリタイヤ。
復帰時期及び処分に関しては不明】
【2日目昼過ぎ】
20 :
S島日吉:03/04/04 00:50 ID:rzFzoHlC
失礼、
>>18の最後の文章、
結花と自分の胸の差については気にしていたようである。
は
梓と自分の胸の差については気にしていたようである。
の間違いです。
修正しておいてください、すみません…。
全参加者一覧及び直前の行動(
>>14まで)
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
レス番は直前行動、うち()内のレス番は前スレのもの、無いキャラは前回(前スレ
>>413-416)から変動無しです
fils:ティリア・フレイ、【サラ・フリート】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂、【新城沙織】、【太田香奈子:2】、【月島拓也:1】
痕:柏木耕一、柏木梓
>>15-19、柏木楓、柳川祐也、日吉かおり
>>15-19、小出由美子、ダリエリ、
【柏木千鶴:10】、【柏木初音】、【相田響子】(
>>440-442)、【阿部貴之】
TH:藤田浩之
>>14、神岸あかり、長岡志保
>>14、マルチ(
>>356-358)、来栖川芹香、松原葵、姫川琴音
>>14、来栖川綾香、
佐藤雅史(
>>451-455)、岡田メグミ(
>>451-455)、松本リカ(
>>451-455)、吉井ユカリ(
>>451-455)、神岸ひかり、
【保科智子】、【宮内レミィ】(
>>436-439)、【雛山理緒:2】、【セリオ:2】、【坂下好恵】、
【田沢圭子】、【矢島】(
>>451-455)、【垣本】、【しんじょうさおり】
WA:観月マナ、七瀬彰(
>>458)、緒方英二、【藤井冬弥】(
>>440-442)、【森川由綺:2】(
>>440-442)、
【緒方理奈:3】、【河島はるか】、【澤倉美咲】、【篠塚弥生】(
>>440-442)
こみパ:千堂和樹、高瀬瑞希、牧村南、猪名川由宇
>>14、大庭詠美
>>14、
御影すばる、立川郁美、九品仏大志、澤田真紀子、風見鈴香、
【長谷部彩】、【芳賀玲子】、【桜井あさひ:2】、【塚本千紗:2】(
>>433-435)、
【立川雄蔵】、【縦王子鶴彦】
>>14、【横蔵院蔕麿】
>>14 NW:城戸芳晴、ユンナ、【コリン】、
『ルミラ』、『アレイ』、『イビル』、『エビル』、『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:江藤結花
>>15-19、高倉みどり、【宮田健太郎:1】、【スフィー】、【リアン】、【牧部なつみ】
誰彼:砧夕霧、桑島高子、岩切花枝、杜若きよみ(黒)、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】、【杜若きよみ(白)】、【御堂:6】、【光岡悟:1】、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
Kanon:沢渡真琴、天野美汐、
【相沢祐一】(
>>464-472)、【水瀬名雪:3】、【月宮あゆ:4】(
>>464-472)、【美坂栞】、
【川澄舞】(
>>464-472)、【美坂香里:8(1)】、【倉田佐祐理:1(1)】、【北川潤】(
>>420-423)、【久瀬:4】
AIR:神尾観鈴、霧島佳乃、遠野美凪、神尾晴子、霧島聖、みちる、柳也、裏葉、しのさいか、
【国崎往人:2】(
>>433-435)、【橘敬介】
>>10-12、【神奈:1】
>>10-12、【しのまいか】(
>>436-439)
管理:長瀬源一郎(雫)、長瀬源三郎、足立(痕)、長瀬源四郎、長瀬源五郎(TH)、フランク長瀬(WA)、
長瀬源之助(まじアン)、長瀬源次郎(Routes)、水瀬秋子(Kanon)
支援:アレックス・グロリア、篁(Routes)
毎回微妙にマイナーチェンジをしてるので読んでほしいこと&連絡事項↓
スレ以降直後で格キャラ前話が確認しづらいですが出来るだけ確認を。
このリレーは余程の反則(電波で他の参加者を操る、魔法で自分を触れなくする)が無い限り能力使用はOKです。
但し原作外のオリジナル設定は基本的に抜きで。ていうか基本ギャグで済ませましょう。
細かいところに拘るより鬼ごっことしての状況を進める方向で
致命的なミスがない限りは脳内保管しましょう。
NGはできるだけ避けるよう書く話のキャラの前話くらいは読みましょう。
前スレも健在なのでリストをたどれば最終行動はわかる筈なので。
また他のスレのネタは知ってる人はニヤリ、あ、このネタ上手いなーくらいにしておきましょう。
能力に関してグレーゾーンな話を書く際には
『葉鍵鬼ごっこ議論・感想板』 へどうぞ
>
ttp://jbbs.shitaraba.com/game/5200/ 後記
なんだかんだで拘束中の逃げ手が2人。
フェードアウトだけだと罰にどころか得なのでそろそろ考えるべきですかね。
対神奈のため、海岸へと――いや、砂のあるところならどこでも良いのだが――向かっていた柳也と裏葉。
しかし、その道中で、いささか厄介な鬼と遭遇してしまった。
鬼の名は、ニウェ。
ニウェは、柳也を一目見て思った。
こやつは、自分と同じ漢だ、と。
すなわち、武芸の腕ひとつで成り上がってきた、一人の武人である、と。
すなわち、
狩人の心根、かきたてられるわ。
柳也は、裏葉の手を引いて走り出した。
後を追うニウェ。
森の中、木陰から突然現れた、鎧を着た鬼。
間髪入れず駆け出した柳也に、ニウェは笑みを浮かべる。
女の手を引いている。
女と言えども、あなどれぬか。なかなかに場慣れしておるらしい。
互いの信頼感も充分か。
これは――
「楽しい狩りになりそうじゃ」
ニウェは独語した。
もはやこれは、追いかけっこと言うより――むしろ闘いというべきか。
森の中、続いていく。
「裏葉、大丈夫か」
「もちろんです。この程度で、音を上げるはずはありません」
「よし、もう少し上げるぞ」
さらに速度を上げる柳也。
木の根を避け、走りやすい道を巧みに選んで駆けている。
後ろから追撃するニウェ。
重厚な鎧、高齢という、二つのハンデを背負っているはずだが、
その速度は、二人の走りに引けを取るものではない。
いや、二人のほうが、若干ながら遅い。
柳也の全力疾走であれば、逃げきることもできるであろうが。
彼に手を引かれ、顔を上気させて必死で駆けている裏葉を、見捨てることなどできようはずがない。
徐々に差が詰まっていく。
少しずつ、少しずつ。
そして、両者は気付いていない。
このまま、直進していけば、罠が――
――北川製作、後期型罠が、仕掛けてあることに――
【ニウェと柳也&裏葉、追いかけっこ始まり】
【三時頃で】
【さて、罠に気付くかどうか?】
【どんな罠であることか?】
さてと。
草原に取り残された、襷をかけた三人の少女。
桜井あさひ、長谷部彩、杜若きよみ(白)の面々である。
元は鬼と逃げ手に別れていたとはいえ、共に緒方兄妹に導かれていたという共通点がある。
その緒方兄弟と言えば、草原の彼方にすっ飛んでいってしまったわけで。
「あ、えと、これからどうしましょうか……」
「……どうしましょう」
「(ふるふる……)」
揃いも揃って、主導権という物を母親の胎内に置き忘れてきてしまったようだ。
三人が顔を見合わせ、やることを思案する前に、体内の欲求が忠実に事象として現された。
ぐ〜、と。
彩ときよみが目を合わせ、首を振り、次いで一斉にあさひに向く。
はたしてあさひは顔を真っ赤にして、うつむいていた。
「あ、あの、私、朝からなにも食べてなくって……」
「……わかりますわかります」
彩がポンポンと肩を叩く。こみパキャラ同士の美しい友情シーンと見えなくもない。
その輪に入り損ねたきよみが、
「とにかく、なにか食べるものを探しましょう……ここら辺なら、イナゴとかいるかもしれませんね」
カルチャーショックにあさひは泡を食い、彩は珍しくブンブンブンと、勢いよく首を振る。
お嬢様とはいえ、自然が残っていた戦前の日本を駆けめぐっていた世代は、やはりサバイバル能力が違う。
だが現代人のあさひと彩にしてみれば、あんな生物は食べるどころか見るのも触るのも嫌だった。
「……見あたりませんね」
探してるし。
そんな折り、タイミング良く響くチャルメラの音。
「えー、屋台、屋台はいかがっすかー」
「別に屋台を売っているわけじゃない」
「いいんだよ。こまけーことうるせーぞ」
彩とあさひは屋台ごと買い取ってもいいというほどの思いで、現れた屋台へと駆け出した。
その後ろを、きよみがお嬢様走りでとてとてと追う。
「へいらっしゃい! なんにする?」
「一応色々揃えてある」
兄妹であるくせに似ていない緒方兄妹とは対照的に、姉妹でもないのにやたら似ているイビルとエビルが三人を迎える。
極度の空腹状態にも関わらず、三人は行儀良く席に着いてから注文を始める。
「もずく……」
相変わらずだな、彩よ。
「とろろと麦飯をお願いします」
さすがぜいたくは敵の戦前派。
「あ、えとえと……じゃ、じゃあ私もなにかねばねばする物を……」
無理に合わせんでもいいのに。
「へい、ちょっとまってな!」
が、ちょっと待つまでもなくカップもずくが、
「お待たせした」
と彩の前に置かれる。
彩は無表情なまま、器用に両目だけを輝かせ、ミネラルの塊みたいなもずくをつるつるとすする。
「おいしい、です……」
その後ろでごりごりとなにかを擂る音が聞こえ、やがて、
「とろろお待ちどうっ!」
と、ほかほかの麦飯と共にとろろが差し出された。
きよみは軽く醤油を一差しし、混ぜてかけて両手を合わせ、「いただきます」と、一口頬張る。
丁寧に何度も何度も噛んで味わい、こくんと飲み込み、ほうっとため息、至福の笑顔と共に一言。
「日本人に生まれてよかったです」
分かります分かります。
その様を見て、あさひがつばを飲み込んだ。
「あ、あの、私のは……?」
ところがイビルは難色を示し、
「あー、わりいけどどっちもそれが最後でさ。ねばねばするのってーから、こいつをゆでてみたんだけど……これでもいいよな?」
どん、とあさひの目の前に置かれた、数本の細長い緑色の物体。
「……オクラ?」
「ねばねばしているよな?」
「しているな」
していますね。
「どうぞ」
「あ、ありがとございます……」
と、きよみから渡された醤油をちゃーっとかける。
「いただきます……」
パクリと一口。やや固い外皮を噛み割ると、確かに内部はねばねばしている。同時に青臭い香りが口内に広がった。
空腹のせいで無性においしいのがなんだか悲しい。
イビルが屋台の奥から身を乗り出し、
「どうだ? ねばねばしてたか?」
「あ、はい……ねばねばしてます……」
「おー、そいつはよかった」
なんだか良く分からないが満面の笑みにつられ、あさひもたははと愛想笑い。
「そうだな。よかった」
エビルからは小さく拍手を提供。
「よっし、オクラならまだまだあるぜ。ガンガンゆでてやるからなっ!」
そのせいか、イビルはすっかりノリノリに。
「あ、えとその、オクラだけじゃなくって他にも……」
「イビル、少し火力が強すぎないか?」
「いいんだよ、中華は火力が基本だろっ!」
「中華じゃない」
だがしかし、あさひのか細い声は騒乱の中に掻き消され、山盛りのオクラがひたすら目の前に並べられることになった。
かくしてあさひはひたすらオクラを喰らい続け、彩ももう少しお腹に溜まる物を追加しつつ、揃って日本茶で後口を締める。
「「「ごちそうさまでした」」」
ぺこりと、3つの頭が綺麗に揃って下げられる。
「へい、まいどっ! ……で、勘定の方だけどよ」
「お支払いですか。これで足りるでしょうか?」
率先してきよみは財布をとりだし、札を渡す。
イビルは万札かと、揉み手+ほくほく笑顔で受け取るが、なにやら手触りも大きさもデザインも違う。
「……なんだ、この札?」
「百円札ですが……?」
ええ、まぁ、当時なら結構な価値があったでしょうな。三人分の食事を軽くまかなえる程度には。
「なーめとんのかぁーーーっ!」
「え? え?」
きよみの頭がイビルによって激しくシェイクされた。
あまりいたいけな病弱少女をゆさぶらんでほしいのだが。
「……しかし、ある意味、一万円札より稀少だな」
と、透かして見るエビル。
「結構高値で取り引きされそうです……」
なんとなく古くさい物が好きな彩は、羨ましそうだ。
「うう……ねばねば……」
そしてあさひは後遺症に悩まされていた。
【あさひ、彩、きよみ(白) お腹一杯】
【あさひ、もうオクラは見たくない】
【イビエビ 百円札ゲット 彩とあさひは普通に支払いを済ませたと言うことで】
31 :
とある悩み:03/04/04 01:28 ID:9fIBvX36
「む」
岩切は目線を右に向けた。
森の中、自然の食料で昼食を済ませ、さてこれからどうしようかと、
思索を練っていたときのこと。
誰かが、こちらに向かってやってくる。
静謐な森の中に、わずかに響く足音。
足音は一人分。
訓練された者のようだ。
確実にこちらへ近づいてくる。
偶然か、故意か……
岩切は立ち上がる。
今は真昼。実力の幾分の一すら出せない。
やってくる相手はかなりの実力者。
もし、その者が鬼であれば……
川は遠い。
逃げ切るのは難しい。
いや、待て……
相手が鬼であっても、逃げる必要は無いのではないか?
明日は雨。
私の力が、存分に発揮できる。
であれば……
ここで鬼になっていたほうが、成績を稼げるのではないだろうか?
残り75人か・・・
33 :
とある悩み:03/04/04 01:29 ID:9fIBvX36
葛藤が始まる。
やってくるものの姿が見えた。
鬼。初老の男。鎧姿。
自分のことには、やはり気付いていたらしい。
そして
【岩切、悩んでいる】
【やってきた鬼はゲンジマル】
【昼過ぎ】
34 :
大凶:03/04/04 01:58 ID:9fIBvX36
「……あ」
「どうした?」
「大凶」
「・……は?」
月代は、水の中に落ちた。
「わ、わ。! ちょ、え、なに、わー」
海らしい。
海岸からはそんなに遠くないが、足は余裕でつかない。
「ちょ、ちょ、わっ、ふぁ」
「んぁ」
「ひゃぁ」
「助けて蝉丸ー」
良い感じにパニクっていた。
「……む」
蝉丸は暗い空間に現れた。
目を凝らして、周りをじっと見る。
一条の光すら差さない。
洞窟か?
壁面に手をついた。
いや、人工のものか。
……ここはいったい?
こちらも、混乱していた。
【神社で大凶を引き当てる】
【月代、海に落ちる】
【せみー、鶴来屋地下ダンジョンへ】
【時間変わらず、昼】
「あなた、意外に持ってるのね」
ぼったくり屋台の支払いをあっさり済ませた和樹を見て、晴香が感心したように言った。
お腹に入れるものを入れたためか、和樹の表情に先ほどまでの険はない。
食べ物の恨みは恐ろしいとはよく言ったものだ。
「まあ、それなりに」
多少のコツさえ覚えれば、本編では一千部二千部は軽くハケてしまう同人作家の和樹である。
こみパ終了後であればそれなりに収入もあった。
まさかこういう使い方をすることになるとは、つゆほど思っていなかっただろうが。
「にゃあ☆ お兄さんです」
独特な掛け声をあげて、向こう側から歩いてくるのは、塚本千紗(とその一行)。
「あ、千紗ちゃん?……って鬼!?」
千紗の肩にかけられている襷を目にして、和樹は思わず駆け出そうとするが、
「大丈夫、大丈夫」
晴香に肩をつかまれた。
「屋台ルールが適用されるから」
―――屋台の団欒。
「そういえば、さっきお兄さんのこと聞かれたですよ?」
素うどんをちゅるりと吸って、千紗が言った。
和樹や晴香にとっては昼食の後のコーヒーブレイク。
往人はラーメンセット。ウルトはモロロ。
なお千紗が猫缶でないのはご愛嬌である。
「俺? 瑞希か大志に会ったの?」
「にゃあ☆ 違う女の人です。…ええと、森川由綺の話をしていたら、この間の同人誌……
表紙フルカラー、84Pの大作☆ 森川由綺と、緒方理奈2大アイドルが『監
「わーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!!!!!!」
「な、なによ、いきなり」
「にゃあ? どうしたですか? お兄さん」
「あ、い、いや別になんでもないよ」
背筋に冷や汗をかきながら、わざとらしくとぼけてみせる。
まかりなりにも女性が四人もいるところでする話題ではない。
自分で描いたとはいえ、
森川由綺と、緒方理奈2大アイドルが
『監禁、陵辱で奴隷化、しかもレズシーン有り』
というのはいくらなんでも不味いだろう。その、色々と。
「……そういえば、いまの今まで聞いてなかったけど、この人何してるの?」
さりげなくこれまで疑問に思っていた点を探り出そうとする、晴香。
このあたりは抜け目無い。
「はいです☆ お兄さんは同人ジゴロのお兄さんです」
「……は?」
「……え?」
「ドージン……ジゴロ?」
ドージンが何かはともかく、ジゴロという言葉はわかったようだ。
少なくともそれが良い意味でないことくらいは。
晴香とウルトの視線が目にみえて険しくなった。
往人はもちろんラーメンセットでそれどころではない。
「ちょ、ちょっと、千紗ちゃん。それ『四堂和巳』だし……」
和樹がささやかな抗弁を試みる。
「黙 っ て な さ い」
「……はい」
「ねえ。あなた、……ええと、千紗ちゃん? ちょっと聞きたいんだけど。……この人もしかして見かけによらず極悪人?」
「そんなことはないですよ。お兄さん、千紗にエビくれましたです☆ みなさんとも仲良しさんですよ」
にっこりと無邪気な笑みを浮かべる、千紗。
「この間も、瑞希お姉さんが言ってました。『周りに女はべらせて、さぞいい気分なんでしょうね』って」
沈黙。
「……おいおい。マジか?」
ラーメンをすすりながら、往人が呟いた。
「仲良く、というのとは少々違うと思いますが……」
「…………」
「……い、いや、だからそれは『四堂和巳』で……」
「みゃぁああっ、もしかして千紗、また言ってはいけないこといいましたか?」
「いいや、まったくぜんぜんそんなことはないぞ」
と他の鍵主人公のような台詞を吐く往人。
「…そうね。その点は後でゆっくり追求するとして、とりあえずその女性のことを聞かせてくれない」
【和樹・晴香 往人・千紗・ウルト 遭遇】
【場所 零号屋台】
【時間 二日目昼〜夕方】
【弥生の話題】
悩みに悩んだ末の結論。
戦略的に考えればここで鬼化しておいて、やがて訪れるであろう雨天下で撃墜数を稼ぐ方が効果的だ。
それも一つの方法だし、もちろん禁じ手では無い。ないのだが、
「フフッ……」
はっきりいって興ざめだろう。それは。
ここは戦場ではない。わざわざこちらから進んで鬼になる道理はないのだ。
自分を鬼にするのは鬼自身に任せておけば良い。
だから、岩切は思いっきり駆けだした。
「……むっ」
その気配を鬼は察知し、反射的にそれに向かって行動を開始する。
若干の雲がある。
森の茂みがある。
だが昼間という絶対的状況は覆せない。
容赦なく体力を削る日差し。
加えて鬼は、かなりの手練だ。
彼我の距離がみるみるうちに縮まってゆくのも当然であろう。
「解せんな」
ゲンジマル。
彼もまた、幾多もの戦場を駆け抜けてきた生粋の軍人である。
その彼の、戦いの中で研ぎ澄まされた洞察力が妙な違和感を落としていた。
あの女。あれは戦場を経験している。それだけは断言できる。
的確な判断力、一欠けの油断も見せぬ集中力。一朝一夕で身につくものではない。
が、それらを会得するために必要不可欠な要素――基本身体能力が追いついていないのだ。
矛盾している。一般人のそれと大差ない。
手を抜いているわけでは無いらしい。
……ならば、なぜ。
「――解せんな」
ゲンジマルは再度呟き、速度を上げた。
雰囲気、挙動、威圧感。
それら全てが身体の外へ放出されている。平時にはそんなことはないのだろうが、
しかしいざ戦闘状態になれば隠し難いほどの圧力を放つ。秩序と混沌を所有・統制した、個の存在。
そんな印象を岩切は受けた。
彼女の時代にそのようなタイプの人間は存在しない。軍人は本来臆病に育てられるものであり、
また一片の思想を持つことすら禁忌とされている。御堂のような独立したタイプに近い物があるのだが、
しかしあの者からは軍部に所属していたどの人間からも(無論御堂からも)感じられないモノがある。
意志。
何人たりとも犯すことの出来ない神聖な領域に、一本の大きな支柱が立っている。
それは一つの方向を差しており、いくら力を加えようとも折れ曲がる気配すら見せない。
「――サムライ、か」
岩切はその古い言葉を思い出した。
どうやら鬼は正真正銘の士らしい。
それと対峙する事を選んだ自らの決断に岩切は後悔し、そしてこの鬼とめぐり合った事に感謝した。
この擬似戦場空間で、絵に書いたような侍と出会えたのだ。
「(――私はこんなにも好戦的だったのか?)」
そろそろ仕留めようかとゲンジマルが算段している時、女は奇怪な行動に出た。
「――あれは」
ゲーム開始前の説明で進行役の女性が持っていた――たしかペットボトルとかいう水を蓄える道具だったか。
それを懐から取り出した。
「っ…」
走りながらキャップを空ける。手元が定まらないために困難を要したが、なんとか成功した。
「(――まさか、いきなりこれを使う事になるとは、な)」
とっておきの非常手段。出発する前に一つ拝借しておいて正解だった。
ボトルの水を1/4ほど体内に容れ、残りを頭からかぶる。
その瞬間。
女は息を吹き返したように速度を上げる。
岩切の特異体質を知らないゲンジマル。当然、驚く。
そして。
全力を出す口実が出来た事に喜んだ。全力を以ってして、
全力で遊ぶという快楽にゲンジマルもまた気付きつつあった。
擬似的に水中と同様の状態を作り出す。
付け焼き刃の手段ではあるが、どうやら効果はあったようだった。
ようやく本領を発揮出来るとなって、岩切は思わず微笑してしまう。
「――いくぞ、女よ」
「……来い、侍」
【岩切・ゲンジマル 鬼ごっこ真っ盛り】
【岩切 ペットボトル(500ml)の水をかぶる 有効時間は不明】
【時間→昼過ぎ】
【場所→森】
突如、俺を含む百名もの人間が、とあるリゾートホテル建設予定地に招待された。
そこで開催された一つの大イベント、それが葉鍵鬼ごっこだったんだ。
逃げる参加者、追撃する鬼。
この過酷な状況下で、鬼になった者は、賞金と言う欲望に駆られ、残る参加者を追いつめる。
次々と狩られていく参加者。その都度増えていく、欲望の覇者達。
もう、全ての者がゲームに飲まれたと言っても過言ではない。
そんな中で、自分を見失わない、一人の少年がいた。それが俺だ。
敵となりうるかもしれない男を罠から助け、すでに鬼となった貴婦人も、その寛大な心から、手を差し出し、助け出した。敵であるにも関わらずだ!
しかし、その後、悲劇は起こり、俺はあえなく鬼と化してしまった。
そう、それは自分の甘さからでた、ある種の定めだったのかもしれない。
しかし俺はそれでも自らの使命を全うすることを選んだ!
気絶し、倒れ伏している少女達を助け、その場で出来る最善の処置を施した!
さらにはその後、現れた強敵に対し、自らを囮にすることにより、仲間に貢献し、更には、灯台で得体の知れない二人組をこれ又助け、介抱した!
「で、まあ現在に至る訳だ。――なんだ、その不満そうな顔は?」
ぎゃースペルミスだ。
>>39-41タイトルは
『Samurai meets a Soldier』
です。申し訳ない。
「うぐぅ…どこが介抱なの…?」
そう唸ったあゆは、何故か置いてあったロープにより、亀甲縛りを咬まされていた。
「郁美に言え」
「しょうがないじゃない。あなたが暴れてどうしようもない状態だったんだから」
そう言って郁美は、空中にぶら下がっているあゆの頭をぽんぽんと叩いた。
「うぐぅ…降ろして…」
「どうせ、降ろしたらまた暴れるでしょ?」
「しかし、何故亀甲縛りなんだ?」
そして何故お前にそれが出来る?
しかしまあ、なんだか怖いので聞かないことにしよう。
「さあ…、普通に縛ろうとしたらこうなっただけよ」
なんと!本能で?!DNAにそれが刻まれていると言うのか!?恐るべし、天沢郁未…。
「あんた、今失礼なこと考えてなかった…?」
天沢さん。目が怖いです。
「全然そんなことないぞ」
と、祐一はおきまりの台詞でそれを回避した。
「まあいいわ、次は私ね…――」
【祐一 郁美 暇なのでこれまで経緯についてお話中】
【由依 舞 不明】
【あゆ 亀甲縛りで拘束中】
>>45 気にしてないですよ。
郁美じゃなくて郁未でした。
47 :
脇役ふたり:03/04/04 17:23 ID:9oiFGRld
どうもお久しぶり、脇役界の期待の新星、伊藤こといとっぷッス。
鬼ごっこ開始以来悲惨な目にあい続けた私もついに一人目をゲットし、感激の涙があふれています。
獲物は脇役でしたが、ここからが僕の快進撃の予感がビシビシしてきますです、ハイ。
そんで今は、脇役どうし自己紹介したあと、お腹が減ってた事に気づいた僕に
なんとこの阿部貴之と名乗った男が食料を分けてくれると言うので、情報交換などを
しながら食事をしています。
「なるほど、この商店街は罠だらけで、しかも人がほとんど通らないって事ですか…」
「うん、ここは目立つし逃げ手の人はみんな目立たない森の中なんかにいるんだと思うよ」
う〜ん、それじゃここで待ち伏せ作戦ってのは有効じゃないってことですか
やはり次は主人公・ヒロインクラスを狙いたい私としては移動した方がいいと言う事ですな。
「それで伊藤君、もし良かったら僕もいっしょに行動していいかな?
エディさん達とも別れちゃったし、一人でここに居てもしょうがないから」
ふむどうしたものか、コレが可愛い女の子だったら願ってもないのですが、野郎と二人ってのがなんとも…
でも貴之さんには食事の恩もあるし、2人で協力したほう相手を捕まえやすくなりますしな。
「わかりました、貴之さん。脇役同士力を合わせて目立ってやろうじゃないですか」
「うんそれじゃあ暗くならないうちに早速出発しよう」
【いとっぷ貴之共に行動】
【時間は昼過ぎ 3時ごろ?】
星明かりが段々と黒い雲にかき消されていく中、静かだった森に歌声が響いていた。
「ちゃら〜へっちゃら♪何が起きても気分は へのへのカッパ♪」
すばるは両手いっぱいに買い物袋を抱え、上機嫌で歌っていた。
壱号屋台での騒動の後、アレイに潰れたお菓子を格安で大量に売ってもらったのだ。
「高子さんも、きっととっても喜んでくれますの。今夜はカラオケパーティですの」
そう言って浮かれるすばるの前に、一人の少女がとぼとぼと歩いてきた。
正義感の強いすばるがそんなところを放っておけるはずもなく、やってきた女の子に訊ねてみた。
「どうしたんですの?こんなところを一人で歩いてたら危ないですよ」
すると女の子はすばるのほうに駆け出してきた。
いままでよっぽど不安だったのか、お下げを震わせ半べそをかいている。
すばるが女の子にあめ玉をあげると、ようやく落ち着いた女の子が自分の事情をぼそぼそと話してくれた。
「───わたし…砧夕霧といいます…
連れと…はぐれてしまって……でも全然帰ってこなくって……
わたしはどうしたらいいのか──」
夕霧から話を聞いたすばるは、とびっきりの提案をした。
「歌うですの」
「御影さん、歌…ですか?」
「あたしはすばるって呼んでいいですよ…
──夜中にダリエリさんを探すのはやっぱり危険だと思いますの。
街にあたしと高子さんの隠れ家があるので、明日まではパーと騒ぐですの」
「鬼ごっこの最中ですよ?隠れ家、見つかっちゃうんじゃあ…」
「静かに歌えばいいですの。
…ちゃら…へっちゃら…胸がパチパチするほど…騒ぐ元気玉」
小声で歌いだしたすばるに、夕霧は五段階中で四点ぐらい変わってますねと、くすりと笑いかけた。ちなみに五点満点はダリエリさんだそうだ。
「そういえば……」
すばるは今まで大変なことを、すっかり忘れていたことに気が付いた。
「夕霧ちゃんは街の場所、わかりますか?あたし、道に迷っちゃっていて……」
【すばると夕霧 高子のいる隠れ家にもどる、大量のお菓子を持っている】
【夜中 川の近くの森】
49 :
相棒?:03/04/04 21:51 ID:9fIBvX36
「っと」
クロウはウォプタルの足を止めた。
軽い動作で地に降り立ち、郁美を抱き上げて
「きゃ」
姫君を扱うような丁重な動作で、地に立たせる。
「あ、ありがとうございます」
ちょっと頬を染めて、郁美が言った。
「何、お嬢ちゃんは軽いからな」
軽く笑って言うと、ウォプタルを引いて手近な木に繋ぎに行く。
後ろからちょこちょこ歩いてついていく郁美。
なんとなく照れくさそうにしながら、クロウが愛獣を繋ぐ。
少し体を撫でてやる。気持ちよさそうに目を閉じ、その場に座りこんだ。
「しばらく待っててくれ」
後ろで一連の光景を見ていた郁美、一言。
「よくしつけられられてるんですね」
「まぁ、な。命預ける相棒だからな、こいつは」
50 :
相棒?:03/04/04 21:52 ID:9fIBvX36
「で、だ」
二人の目の前には、でかい建物が聳え立っている。
海岸からでも充分に見えたほどの高さを持つその建物は、鶴来屋別館。
『鶴来屋』の看板が、エントランスにでかでかと掲げられている。
「ここには食べ物があると思うか?」
「あると思いますけど……」
「よし、行くか」
「えっと……はい」
少しためらったが、空腹には勝てないらしい。
「よっしゃ」
クロウが歩き始める。槍は持っていかない。屋内戦では、槍では取りまわしが利かないからだ。
代わりに、腰剣を携えている。
手押しの扉を開け、中の様子を覗い、安全を確認する。
で、後ろを振り向くと、
「……はぁ、はぁ、待ってください……」
彼の連れは、まだ大分後方にいた。
「……へへ」
苦笑して、クロウは郁美を迎えに行った。
【クロウ&郁美 鶴来屋別館に到着】
【二時過ぎ】
【大志&瑞希、すでに食堂にいるはず】
――彼女は今、選択を迫られていた。今後の人生に大きく影響する選択であるといっても過言ではないだろう。
(〜〜〜…っ! も、もう限界だよぉ〜っ…!)
汗と共に涙をも浮かべる。このままでは“自爆”だ。それこそ、最悪の結末である。
その所為で、彼女は多くの物を失う事になるだろう。
しかし…
「…? どうしたの、松本さん?」
鬼の居る一階を監視していた雅史が、顔を真っ赤にしている松本に心配そうな目を向けた。
「気分でも悪いの? だったら…」
「あ、あのさ、佐藤君………実は――」
「だっ、ダメ…!」
見かねた吉井が事情を説明しようとしたが、松本が彼女の腕を掴み、必死な様子で引き止める。
「言わないでっ…、お願い…!」
「で、でも、松本…」
只ならぬ様子の少女達を見やり、雅史は小首を傾げ――そして、何かを察したかの様に目を瞬かせた。
「緊急事態――だね?」
「っ……、あう〜っ…」
流石は気配りの人。雅史は松本の体に訪れた“のっぴきならない状況”を察したらしい。――松本の顔が、
更に更に赤くなった。口で説明するのも恥ずかしいが、何も語らずに洞察されるのも、同じ以上に恥ずかしい。
「さ、佐藤く…ん」
「何も言わないで。大丈夫。何とかしよう」
優しく微笑む雅史。その微笑だけで安心し、松本は思わず“して”しまいそうになったが、正に背水の陣――
驚嘆する程の気迫を以て、彼女はそれを押し留めた。
「……お手洗いは、階段を下りて、リビングとは反対の方向にある。お手洗い自体は階段が壁になってリビング
からは死角になってるけど、この部屋から階段下までは丸見え……鬼がこっちから目を離した隙を狙うしかない」
囁く様な声で説明する雅史に、必死な表情で松本が頷く。
「速さと同時に、音を立てない動きが要求される………OK?」
「うん……解った」
「岡田さんと吉井さんは、念の為にさっき言ってた“最終手段”を考えておいて。矢島がいるから、松本さんが
捕まったら、他の二人も近くに居るはずだって思うだろうし。連鎖的に鬼になって全滅――っていうのは避けたい」
「……解ったわ」
「あくまでも、最後の手段ね」
頷く岡田と吉井であったが、返してくる眼差の中には、別種の光がある。彼女達にとって、その“最終手段”……
ベランダから庭へ飛び降りて逃げる……さえ、皆が一緒でなければ意味が無いのだろう。
「ごめんね…」
最早半泣き状態の松本が、声を震わせる。
そんな彼女に、雅史は優しく微笑して見せた。
「まだ何も終ってないのに謝らないで、松本さん? ――大丈夫。きっと巧く行く」
一階。リビング――
七瀬はソファーにでーんっと腰を下ろし、その心地好い感触を楽しんでいた。
「ん〜……、いいソファー使ってるわねぇ〜……何か、ウトウトして来そう…」
「腹は? お勝手があったから、探せば何か食べ物が出て来るかも」
一方の矢島は、リビングをうろついて、辺りを物色し回っていた。
「……お腹は空いてるけど、疲れたから面倒くさいわ」
「………ワガママなお人だ」
「何か言った?」
「いいえ。何も言っておりやせんぜ、お武家様」
…妙なやり取りをしている二人の目線は、階段の方には向いていない――
「――よし、行くよ…!」
「…う、うんっ」
好機…!――と判断した雅史は、松本を連れて階段を下りる。
寄り添って、体をピッタリと着けて、慎重に、音も無く…
ミシ…
――と、ほんの微かに階段が音を鳴らしたが、会話をしている鬼の二人には聞こえなかった様だ。
雅史と松本は、呼吸する事さえ忘れていた…
やがて……足が階下に触れる。
寄り添っている松本の震えが、いよいよ限界寸前である事を雅史に告げていた。
二人は階段の影――リビングから死角となっている箇所へ体を滑り込ませ、トイレへと向かう。
「―――――」
――その時、耳が捉えた声と言葉に肩を震わせ、雅史はトイレに入ろうとしていた松本の腕を掴み、引き止めた。
「っ………!?」
松本は、雅史が何故止めるのか解らず、困惑した。――限界…破局は、すぐそこまで来ているというのに…!?
「――結局、今のところ捕まえたのは折原一人だけかぁ…」
「……その折原って奴が、最初のギセイシャってやつか…」
「ギセイシャって何よギセイシャって。コロシてないわよ別に」
「…(…多分、殺す程のイキオイでトッ捕まえたんだろうな。そしてそいつは死ヌル程コワい思いを)」
「………何か言いたそーね」
「シャワーもありましたよ。ひとっぷろ浴びて来たらどうっすか?」
あからさまに話題を逸らした矢島を、胡乱な目付きで見やる七瀬であったが、シャワー…―その意見や良し!
とばかりに、鷹揚にソファーから立ち上がり、七瀬は凛々しくも胸を反らせる。
「いいわね。先に入らせて貰うわ」
「どーぞど−ぞ」
「……覗いたりしたら――」
「そんな滅相もない事しませんぜ、お武家様。その間、あっしは食い物を探しているですよ」
「いるですよ……って…ま、いいけど。――ん、その前にお手洗いね」
――と、ここで浩平であったなら、「ちゃんと男子トイレの方を使うんだぞ」の様な返しをしたかも知れないが、
「はいはい。ごゆっくり」
どことなく疲れた顔で、頭なんかを掻きながら、矢島。
「………(…何だか物足りないわ)」
そんな思いを抱きながら、七瀬は階段の向こうにあるトイレへと向かった。
「……ん?」
二階で何か動いた様な気が――と、七瀬は階段上の方へと目を向ける。…が、二階は真っ暗。誰も居ない。
「…気のせいか」
どうやら、自分は大分疲れて来ているらしい。今はゆっくり休むに限る。
「トイレトイレっと♪」
…トイレのドアに手を掛ける――男子トイレ。
はっ…!――として振り向くが、誰の目線も無い。…浩平がいれば、この光景をニヤ〜っとしながら見ていたに
違いない。
「…(何考えてるのかしら、私は…!?)」
ボケの張り合いツッコミ合いに、心のどこかが飢えているのだろうか…?――七瀬は、頭をぶんぶんと振って、
女子トイレのドアを開けた。
中は、多人数が同時に使えるよう、幾つかの個室があり、広い洗面台も備えられていた。
個室のドアは全て開け放たれており、誰も居ない。
「……そりゃそーよね」
実は、誰かが隠れているのではないかと、淡い期待を抱いたりしていたのだ。
「――そーいや、広瀬の奴、元気にしてるかしら…?」
個室に入りドアを閉じつつ、七瀬はかつての戦友(笑)を思い出していた…
個室トイレの洋式便座に座り、松本は恍惚とし、そして安堵した表情を浮かべていた。
彼女がいるのは、男子トイレの方である。
――あの時、女子トイレに入ろうとした所を雅史に止められ、男子トイレの方へ引っ張り込まれたのだ。
雅史の意図は解らなかったが、何れにせよトイレはトイレ。松本は個室トイレに駆け込み、事無きを得たのであった。
「……(…こんな事になるんだったら、岡田達と一緒に済ませておくんだった。お…音も聞かれちゃったし…)」
出すものを出して落ち着くと、改めて込み上げて来る羞恥心。――個室の外には、共に隠れた雅史もいるのだ。
…後悔、先に立たず。
が、いつまでも個室の中に閉じ篭っている訳にもいかない。鬼に気付かれぬよう、水は“小”を少しずつ使って流し、
全て流し終えてから個室を出る。顔は真っ赤っ赤だ。
「――男子トイレの方に入って正解だったね」
何故かハンカチで手を拭きながら、雅史が小さな声で言う。
――あの時、松本がトイレに入る直前、鬼役の少女(※七瀬)が、「お手洗い」と言うのを耳にしたのだ。
当然、少女は女子トイレの方に来るであろう。そうすると、松本と鉢合わせになってしまう。
「…それで、咄嗟にこっちへ来たんだ」
手を洗いながら松本は、雅史の咄嗟の機転に感心した。
「うん。…でも、何でかあの子、男子トイレの方に入ろうとするからびっくりしちゃったけど」
七瀬があの勢いのままこちらに入って来ていたら、二人は鬼にさせられていただろう。
「……助かったよ、佐藤君。その……あ、ありがとう…」
「ん? 気にしないで。実を言うと僕も来たかったし…。それに――」
ドアを僅かに開き、雅史は外の様子を窺う。
「――礼を言うのはまだ早いよ。皆の所に戻らなければ意味が無い」
「あ……そうか。――も、戻れるかなぁ…?」
「戻れる……いや、戻ってみせるさ」
不安そうに表情を翳らせる松本に対して、優しく、しかし不敵に笑って見せる雅史。
「――尤も、戻らないでここから外に逃げるって手もあるし」
「えっ…? でも――」
「外に出れば、上の二人も気が付くはずはずだよ。それで、ベランダから飛び降りて貰えば…。
庭も草地だし、そんなに危なくはないと思う」
「うん…。…どうしようか」
松本自身のぴんちは脱したが、チームとしては依然として危機的状況なままなのだ――
【松本 乙女のぴんちから取り敢えず脱する】
【雅史と松本は、一階男子トイレの中。岡田と吉井は二階に待機】
【七瀬はトイレ後、シャワー室へ。矢島はキッチンで食べ物探し】
【松本と雅史、二階へ戻るか、或いは建物の外へ逃げてから皆と再合流するかを審議中…】
【出入り口はリビングの方にしか無く、裏口はキッチンにある】
【七瀬と矢島は、四人の存在に依然気付かず】
【夜】
全参加者一覧及び直前の行動(
>>56まで)
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
レス番は直前行動、無いキャラは前回(
>>21-24)から変動無しです
()で括られたキャラは一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)
fils:ティリア・フレイ、【サラ・フリート】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂、【新城沙織】、【太田香奈子:2】、【月島拓也:1】
痕:柏木耕一、柏木梓
>>15-19、柏木楓、柳川祐也、日吉かおり、小出由美子、ダリエリ、
【柏木千鶴:10】、【柏木初音】、【相田響子】、【阿部貴之】
>>47 TH:(藤田浩之、長岡志保、姫川琴音)、神岸あかり、マルチ、(来栖川芹香、来栖川綾香)、松原葵、
(佐藤雅史、岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ)
>>51-56、神岸ひかり、
(【保科智子】、【坂下好恵】)、【宮内レミィ】、【雛山理緒:2】、
【セリオ:2】、【田沢圭子】、【矢島】、【垣本】、【しんじょうさおり】
WA:観月マナ、七瀬彰、緒方英二、
(【藤井冬弥】、【森川由綺:2】)、【緒方理奈:3】、【河島はるか】、【澤倉美咲】、【篠塚弥生】
こみパ:千堂和樹
>>35-38、(高瀬瑞希、九品仏大志)
>>49-50、(牧村南、風見鈴香)、
(猪名川由宇、大庭詠美)、御影すばる
>>48、立川郁美
>>49-50、澤田真紀子、
(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)
>>27-30、【芳賀玲子】、
【塚本千紗:2】
>>35-38、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】)
NW:城戸芳晴、ユンナ、【コリン】、(『ルミラ』、『アレイ』)、(『イビル』、『エビル』)
>>27-30、
(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
>>35-38 まじアン:江藤結花、高倉みどり、【宮田健太郎:1】、【スフィー】、【リアン】、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)
>>48、岩切花枝
>>39-41、杜若きよみ(黒)、
【坂神蝉丸:5(4)】
>>34、【三井寺月代】
>>34、【杜若きよみ(白)】
>>27-30、【御堂:6】、【光岡悟:1】、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ、(アルルゥ、カミュ)、ユズハ、ベナウィ、クロウ
>>49-50、カルラ、クーヤ、サクヤ、
【エルルゥ】、【オボロ:1】、(【ドリィ】、【グラァ】)、【ウルトリィ:1】
>>35-38、【トウカ】、【デリホウライ】、
【ゲンジマル】
>>39-41、【ヌワンギ】、【ニウェ:1】
>>25-26、【ハウエンクア】、【ディー:6】、『チキナロ』
Routes:(湯浅皐月、梶原夕菜)、リサ・ヴィクセン、
【那須宗一:1】、【伏見ゆかり】、【立田七海】、【エディ】、【醍醐】、【伊藤:1】
>>47 同棲:【山田まさき:1】、【皆瀬まなみ:2】
MOON.:巳間晴香
>>35-38、(名倉友里、A棟巡回員)、
(【天沢郁未:3】、【名倉由依】)
>>42-44、【鹿沼葉子:1】、【少年】、【巳間良祐:1】、【高槻:1】
ONE:(里村茜、上月澪、柚木詩子)、深山雪見、氷上シュン、
(【折原浩平:4(3)】、【長森瑞佳】)、【七瀬留美:1】、【川名みさき】、
【椎名繭】、【住井護】、【広瀬真希:1】、【清水なつき】
Kanon:沢渡真琴、天野美汐、
(【相沢祐一】、【月宮あゆ:4】、【川澄舞】)
>>42-44、【水瀬名雪:3】、
【美坂栞】、【美坂香里:8(1)】、【倉田佐祐理:1(1)】、【北川潤】、【久瀬:4】
AIR:神尾観鈴、(霧島佳乃、霧島聖)、(遠野美凪、みちる)、神尾晴子、(柳也、裏葉)
>>25-26、しのさいか、
【国崎往人:2】
>>35-38、【橘敬介】、【神奈:1】、【しのまいか】
管理:長瀬源一郎(雫)、長瀬源三郎、足立(痕)、長瀬源四郎、長瀬源五郎(TH)、フランク長瀬(WA)、
長瀬源之助(まじアン)、長瀬源次郎(Routes)、水瀬秋子(Kanon)
支援:アレックス・グロリア、篁(Routes)
毎回微妙にマイナーチェンジをしてるので読んでほしいこと&連絡事項↓
祐介、月島兄、かおりの3人は処罰待ち状態です。
適当な処置が思いついたら出来れば議論板の方で意見をお願いします。
このリレーは余程の反則(電波で他の参加者を操る、魔法で自分を触れなくする)が無い限り能力使用はOKです。
但し原作外のオリジナル設定は基本的に抜きで。ていうか基本ギャグで済ませましょう。
細かいところに拘るより鬼ごっことしての状況を進める方向で
致命的なミスがない限りは脳内保管しましょう。
NGはできるだけ避けるよう書く話のキャラの前話くらいは読みましょう。
前スレも健在なのでリストをたどれば最終行動はわかる筈なので。
また他のスレのネタは知ってる人はニヤリ、あ、このネタ上手いなーくらいにしておきましょう。
能力に関してグレーゾーンな話を書く際には
『葉鍵鬼ごっこ議論・感想板』 へどうぞ
>
ttp://jbbs.shitaraba.com/game/5200/ 後記
ちょっと表記を変えてみました。
「で、だ。これからについてだが…」
これまでの経緯を解説し終わったところで、俺は切り出した。
「俺は天沢を全面支援する。逃げ手ゲットのポイントを天沢に集中させる。」
言い放った俺に対して4人の注目が集まる。その表情からは驚きの色が見て取れる。
…舞のは俺か佐祐理さんくらいしか分からないが。
「うぐぅ…たいやき…」
自分のポイントにならない=たいやきが増えない
という事に対しての呻きだろう。当然のごとくスルーして話を進める。
「つまり、こういうことだ。香里と遭遇した時点で考えていたのだが…」
俺達が香里と遭遇して栞を撃墜した時点で香里の撃墜数は8。
この数を超えていかなければ撃墜王にはなれない。また、俺の知り合いでは俺が把握しているだけでも、
名雪・栞・香里・北川(香里から聞いた)が既に鬼であり、あゆ・舞も鬼として今確認した。
佐祐理さん・天野・真琴が不明。希望的観測で不明者が全員逃げ手であっても
人数比は2:1、全参加者に換算すると逃げ手は50人前後という計算になる。
パーティーメンバーでポイントを均等に振り分けていったら残りの半分以上を
俺達で捕まえたとしても香里に追いつく程度。
もっと数を稼いでいる鬼や、アクティブな鬼がいれば目標値はさらに高くなる。
ということは俺が撃墜王になるのは難しい。だからせめてパーティー内から
撃墜王を出そうと思ったのだ。
「…そこでこの中で撃墜数が高く、能力面でも安心できる天沢を選んだわけだ。
あゆは撃墜数はあるが能力面に不安があるし、舞は能力があっても撃墜数がゼロだ。
というわけで、俺の案に賛成な奴だけ連れて行く。反対なら一緒には行けない。」
この案にはあゆをこのメンバーと同行させないという目的も多少ある。
今のたいやきしか頭に無いあゆなら間違いなくこの案は蹴るだろう。
撃墜王を目指すなら他の鬼からの妨害、場合によっては反則にならない程度に
バトル等もあり得る。いくら過度の攻撃が禁止であっても、あゆには厳しいだろう。
俺には武器、天沢には能力、舞の剣はマトモに斬れないから武器として使えるし
超能力も使える。由依は…某必殺技の成立に不可欠な存在だ。
ボソッ「なにか不適切なこと考えてません?」
ボソッ「ぜんぜんそんなことないぞ」
…ゴホン。しかしながらそれらの要素を持ち合わせていないあゆの安全は保障できない。
「で、どうする?」
「わたしにとっては得な提案だから全く異存ないけど…」
言いながら天沢は残り三人の方を見る…
残り三人の反応は?
【祐一 郁未撃墜王化計画発動】
【郁未 計画に乗る】
【残り面子 計画参加or離脱?】
「ハーイ、みんなお待たせ。今日の朝ご飯は昨日の残りのカレーを使ったカレーうどんだよ♪」
「おーそーかそーかそれは美味そうだな。一晩寝かせたカレーは美味いからなぁ」
「……………………」
「それじゃあまいかちゃん、エプロンを付けてね」
「んん? どうしてだレミィ?」
「だってカレーうどんだよ。汁がほとばしっちゃって大変だよ! 服に染みが付いちゃうよ!」
「おおなるほど、それは確かに!」
「……………………」
いつも通り賑やかなDの食卓。だが、今日はちょっと……物足りない。
「……ねぇまいかちゃん、機嫌直そうよ。ネ? 雨は仕方がないよ……」
「そうだ。それにまだ一日は始まったばかりだ。何とかならないことも無いかもしれない」
「…………………」
ぶっすーと膨れっ面になっているのはまいかだ。今日は花火の予定だったのに、朝起きたら雨がざんざんと降りしきっている。
これではとても出来そうにない。
従って、まいかは朝からとってもご機嫌斜めです。
Dやレミィがわざと明るく振る舞っても、乗ってくれそうな気配はありません。
「……だって……こんなに降ってるんだよ……」
外を見る。洞穴入り口から見える外の様子は、雨がしっかりと降りしきる光景。
「……夜までに止むわけなんてないよ……」
だんだんと語尾が震えてくる。やばい。このままでは泣いてしまいそうだ。
(……確かに、そうだろうな……)
D自身も口にこそ出さないもののまいかの意見には賛成だった。現在の雲模様では少なくとも今日一日は雨は止むまい。
そして、明日の夜……はあるかどうかかなり微妙だ。Dの見立てでは、すでに半分以上の参加者が鬼になっているはずだ。
この鬼ごっこ、ルールを考えると鬼の数は等比数列的に増加していく。ならば、時間が無い。無さすぎる。時間が経てば経つほど、そして鬼の数が増えれば増えるほど展開は早くなっていくのだ。
……明日の夜があるとは、限らない。
(どうしたものか……)
泣きそうな顔でうどんをすする娘を前に、父親は思案する。
うどんを半分ほど啜ったところで、
「ところでD」
レミィがいきなり話題を切り替え、Dに話しかけてきた。
「ん? どうした?」
「実は……ワタシ、雨具をほとんど持ってきてなかったんだけど……」
「雨具……?」
雨具と言えば、傘とかカッパとか。
「……お前、水着やら何やらといった怪しいものは持ち込んできたくせに雨具を持ってなかったのか……?」
呆れたような、Dの声。
「てへへ……」
レミィは恥ずかしそうに頭を掻く。
「ケド、折りたたみ傘は一つだけ持ってきたから。後でワタシが屋台探して買ってくるよ。その間Dはまいかちゃんと遊んでて」
「うっ……」
思わずまいかと目線が合う、が。
「………………………(ぷいっ)」
すぐに逸らされた。
(……まずいな。かなり虫の居所が悪いようだ……)
Dは考える。
考えて、考える。哲学士やウィツァルネミテアとしての知識を総動員し、考える。
そして結論。
(……これしか、なさそうだな)
ずぞぞぞぞぞぞっっっっ!!!
一気に残りのうどんをかっ喰らうと、
「いや、私が行ってこよう」
レミィの脇に置いてあった折りたたみ傘を掴み、立ち上がった。
「え……けど……?」
遠慮がちなレミィの視線。
「いや、気にするな。どうせ私も欲しいものがあったからな。ついでだ。雨具の他に何か要りようなものはあるか?」
「ウウン、とりあえずご飯は足りてるし、それだけで十分だよ」
そしてハイ、とDにお小遣いを渡す。
「よしわかった。それじゃ、行ってくる」
踵を返し、そそくさと穴を出ようとする。だが、その背中に向かい……
「……でぃー……」
まいかが、言葉を投げた。
「なんだ?」
ふり向くD。彼が見たまいかの表情は、先ほどまでの憮然としたものとは違い、ひどく儚げなものだった。
「……花火、出来るかなぁ?」
遠慮がちに……そして、不安げに訊ねてきた。
「……ああ、大丈夫だ」
ニコリと優しく微笑みつつ、Dは答える。
「私が、何とかしてみせる」
【D 折りたたみ傘を差しつつ屋台を探す。雨具+αを購入予定】
【『プロジェクト・D』発動】
【レミィ&まいか Houseでお留守番】
【時間:3日目朝。降雨】
雨が降ってきた。
実の姉の手によってどでかい穴に放り込まれた栞は究極の選択を
迫られていた。その内容は…
激 辛 セ ッ ト に 手 を 出 す か 否 か
であった。普通なら雨に濡れた状態が長続きするのは危険である。
しかしながら栞にはほぼ完璧な寒さ耐性が備わっている。
雪国での野宿や青姦を敢行したり、雪に埋もれながら丸一日名雪を待つ等
驚異的な寒さ耐性を見せつけた相沢祐一ですら根をあげた、
『雪の上でアイス』の荒行を平然とやってのけた栞はこの状況でも
健康面では問題がなかった。
ただ、それでもやはり多少寒いものは寒い。
しかし彼女には激辛セットに手を出して体は暖めるという手段が残されていた。
そういえば若干腹も減っている。
しかし辛いものが苦手な彼女にとってはそれは不自由な2択であった。
【栞 究極の選択を前に思案中】
67 :
対電波対策:03/04/05 01:36 ID:oQ4EDAGY
「はぁ……」
祐介は一人ため息をついた。
なにかの建物のどこかの部屋。
監視カメラらしきものが、天井からぶら下がっている。
「こんなものつけなくても、逃げたりしないよ……」
ここに入れられてから、小一時間は経っただろうか。
椅子とベッドだけがある、非常に殺風景な部屋である。
「留置所か刑務所みたいだなぁ……」
何も、こんな部屋にほうりこまなくても良いのにな。思わず使っちゃっただけなのに。
そう思った。
話が始まった。
「秋子さん」
「はい。何でしょう」
千鶴と秋子、管理人側の重鎮二人が、とある一室で会談を始めたのだ。
「月島さんについてなのですが……」
管理人たちにとっての、現在の最懸案事項。
今は、たまりにたまった疲労によって、昏々と眠っている彼。
本来なら、そのまま監禁でもしておきたいところだが、そうもいかない。
いや、彼を監禁しておくのは、管理者たちにとっても危険である。
といって、あっさりゲームに復帰させるというわけにもいくはずがない。
彼の性格から考えて、譴責くらいではまた同じことを繰り返す可能性が高いからだ。
早々に対応できたため、今回は無難に収まった。
が、下手をすると参加者の命にかかわる危険性もある。
電波の力を良く知っている千鶴には、特にそう思えた。
「電波……なにか、使えなくさせる方法でもあれば良いのですが」
「……」
悩む二人。
「何か、そんな装置でもあれば良いのですけれど」
「……装置、ですか……」
沈黙が、部屋を支配した。
68 :
対電波対策:03/04/05 01:37 ID:oQ4EDAGY
しばし、後。
秋子が、ぽんと手をたたいた。
「何か思いつきましたか?」
同じように思索に沈んでいた千鶴が、ぱっと顔を上げる。
「ええ。ちょっと思いつきました。たしか、源一郎さんの弟さんも電波使いでしたよね」
「はい」
「そして、彼もルール違反でここにいる、と」
にこり、と秋子が笑って言った。
彼を、連れてきてください。と。
「……叔父さん」
「あー。だ。とりあえず、来い」
祐介は叔父に連れられて、部屋を出た。
なんとも狭い通路である。
「ここ、どこなの?」
少し、沈黙。
「……ああ、とある空母の中だよ」
冗談だよね、と、祐介は思った。
「祐介さん」
「はい」
まるで、高校の三者懇談のような光景。
千鶴と秋子が隣り合って座り、それと正対している祐介。
「ルール違反です」
千鶴が言った。
「はい」
肩を小さくして、答える祐介。
「分かっていますね?」
「はい」
69 :
対電波対策:03/04/05 01:38 ID:oQ4EDAGY
肩を小さくして、答える祐介。
「分かっていますね?」
「はい」
「まぁ、状況的に見て、情状酌量の余地はありますから」
軽く笑って言う千鶴。すごいおおごとのような言いかただな、と、祐介は思った。
「もう、二度とこんなことをしないように、お願いしますね」
「はい。すみませんでした」
「さて」
秋子に語り手が変わる。
「これは、私たちからのお願いなんですが」
「はぁ」
「ちょっと、頼まれてくださいますか?」
「……やることによります」
秋子は、いつもの笑みを浮かべながら、事情と頼みごととを、語った。
月島は非常に困惑していた。
いま、自分の置かれている状況がさっぱりわからないからだ。
なぜ、自分はこんな狭い部屋にいる?
なぜ、自分の前に柏木千鶴がいる?
彼女の後ろで、何かわからないことをしている男は誰だ?
そして、
なぜ、自分は電波が出せない?
「すみません、月島さん」
千鶴が言った。
「……」
無言の月島。
「あなたは、重大なルール違反を犯しました」
「……」
「そこで、このゲームの間だけ、あなたの力を封じさせていただくこととなりました」
「……? 封じた? 僕の電波を? そんな、馬鹿な!」
「あなたには、口で言っても分かってもらえないだろうと言うのが、共通見解ですので」
「……どうやった!? どうやって僕の電波を封じたんだ?」
70 :
対電波対策:03/04/05 01:38 ID:oQ4EDAGY
「あなたの首についている首輪」
はっと、月島はその存在に気付く。手でさわり、存在を確認する。
「それには、ちょっとした仕掛けがしてあります。人の持つ特殊能力を、すべて封じてしまうことができます」
月島は唖然としている。
「このゲームの開催が決まったとき、念のため源之助さんに頼んで、作ってもらっていたものです……あぁ、あなたは源之助さんを知りませんか」
知るはずが無い。
「そんな馬鹿なっ!」
月島は精神を集中する。いつもの、電波を使うときの独特な感覚がやってくる。
眠れ。眠れ。眠れッ!
狂えッ!
しかし、出ない。感覚はあるのに、体外に放出されていかない。
「どうなっているんだっ!」
「無理です。その首輪をはずさない限り、あなたは電波を使えません。鍵は、私ともうお一人が持っています。
二つの鍵で同時に開けないと、外れない仕組みになっています」
「……っ」
「あなたにはそれをつけていてもらいます。その上でなら、ゲームに復帰していただいてかまいません。
それとも、棄権しますか?」
「棄権した場合、この首輪はどうなるんだ」
「つけていてもらいますよ、もちろん。ゲーム終了時まで。あなたが、力を使って脱走する危険性もありますので」
「……くっくっく、ずいぶんと、恐れられたものだね」
「私は、電波の力を良く知っていますから」
沈黙。千鶴の後ろで、何かを行っている男性の動きは、止まらず続いている。
71 :
対電波対策:03/04/05 01:39 ID:oQ4EDAGY
「……分かったよ。だがッ! この首輪をつけている限り、僕の行動に口出しは許さないッ!」
「ルールを遵守してくださる限りにおいては、もちろんです」
「……電波の使えない僕に、何ができるって言うんだい、柏木さん」
「……復帰は、明日の朝食後です。一晩、ゆっくりと体を休めていてください」
「……いますぐ、はだめなのか」
「だめです。それでなくても、あなたは相当に疲れているはずですから」
月島は思う。
瑠璃子……早くあいたい瑠璃子……
しかし、今の自分にはこの状況を打破することができない。
知らずの内、電波と言う力に、頼りきってしまっている自分に、ふと気がついていた。
分かったよ。電波無しで、瑠璃子をみつけてやるよ。それなら、文句は言えないだろう?
最後に、
「これを飲んでください。軽い睡眠薬です」
「そこまでするのか」
「ゆっくりと、眠ってください」
「……分かったよ」
千鶴は部屋に入った。
月島のいる部屋の隣、薄い壁で阻まれた、同じつくりの部屋である。
「ご苦労様、祐介さん」
「少し疲れましたよ」
「お疲れ様でした。あなたも、復帰は翌朝です。ゆっくり休んでいてくださいね」
「はい」
72 :
対電波対策:03/04/05 01:39 ID:oQ4EDAGY
そして、千鶴は秋子の元へ行く。
「成功したようですよ、秋子さん」
「それは良かったですね」
ようやく肩の力を抜いて、千鶴は暖かな紅茶を一口。
「首輪のおかげで、どうにか思いこんでくれました。祐介さんも、巧くやってくれました」
「電波は電波で妨害できる……正解でしたね」
「ええ。とりあえず、できることはやりました。あとは、彼自身の問題です」
「はい。電波という力を無くした状態で、本来の、自分自身の力だけで、ゲームを乗り切ってほしいものです」
「それが、彼のためにもなります。狂気にとらわれたままでは、せっかくの人生が無駄になってしまいますからね」
二人は、静かに笑った。
月島の首輪……あれはただの飾りである。単なる小道具である。
人の特殊能力を封じるアイテムなど、端から用意されていなかった。
そんなアイテム、そうたやすく作れるはずが無いし、そんなものが必要になるとも思っていなかった。
無論、この土壇場で急遽作れるはずも無い。
しかし……
その、首輪をつけられた相手が、思いこんでくれたらどうだろうか?
自分は、力が使えない、と。
そのための小道具である。実際に、あの二人の会話中に、電波を妨害していたのは、隣室で、監視カメラの映像を見ていた祐介だった。
ついでに、軽く月島の思考にも干渉してもらっていた。
そして、千鶴の後ろで何かしていた男……大統領に要請し、呼び寄せてもらった催眠術師である。
月島に、電波を使えないと言う暗示をかけるのが、彼の役目。
そして、月島は見事、暗示にかかってくれた。
祐介の電波と、催眠術、小道具の首輪。
三つの要素のおかげで、月島の電波は見事に封じられたのだった。
73 :
対電波対策:03/04/05 01:41 ID:oQ4EDAGY
「……それにしても、よく催眠術師なんて、呼び寄せられましたね」
「……あの人に、一言言ったんですよ」
「何と言ったんですか?」
「彼を放置しておけば、あなたの応援している人たちが、とんでもないことになりますよ、って」
それを聞いた千鶴は、思わずあっけに取られた後、何とも言えない笑いを漏らした。
【月島、催眠術にかかり、電波使用不可と思いこむ】
【祐介と月島の復帰は、翌朝】
【ちなみに、沖合いに浮かぶ空母の中だったりする】
「ふふふ、それで宗ちゃんは学校で元気にやっているかしら?」
「はい、まぁ授業中は寝てますけどそれ以外の時は元気にやっています」
「あらそれは大変、だめだめちゃんとお勉強しなきゃだめだからね
今度から皐月ちゃんが起こしてあげてね」
「えっ?、あ〜でもあいつ何故かテストの点数はいいんですよね」
とりあえず私(皐月)と夕菜姉さんはチキナロとか言う人にに3万円クーポン券をもらい、
早速その屋台を目指すことにしたのだが、私がいろいろ探しまわり家中散らかしてしまったのを見て夕菜さんが
「だめだめ皐月ちゃん、人様の家なんだからちゃんとかたづけてなきゃだめだからね」と言い出し
結局散らかした家中を元の状態にまた戻したので、出発した時にはかなりの時間が経ってしまっていた。
そして今お喋りしながらで屋台とやらを目指して歩いているのだが
聞けば夕菜さんは宗一のお姉さんなんだというじゃないか、しかも「あ、でもね血はつながってないの」
と付け加えた時の夕菜さんの優しい顔を見て宗一に対する想いがなんとなく判ってしまった。
くそぉ…、ゆかりとリサさんだけじゃなくここにも思わぬ伏兵が…
しばらく歩いた頃小さな湖が見えてきた
「あ、夕菜さんちょっとここで休みましょう。あと実はさっき家で体がほこりっぽくなっちゃったから少し水浴びもしたいし」
「え、でももうすぐ日も暮れるだろうし風邪ひいちゃうよ?」
「大丈夫さっきの家からタオルも持ってきたし、ほんの5分10分ですから」
「う〜んわかった、じゃあ私は見張りをしてるね」
「はい、お願いします」
「…このゲームには楽しみに来たから。祐一と一緒にいると楽しい。」
「それは俺と来ると判断していいのか?」
舞は首を縦に振る。
舞はこのゲームには遊びに来たため、優勝には欲は無いらしい。
これで戦力を確保。
「祐一君、ボクたちはライバルだねっ。負けないよ!」
「やはりタイヤキを選んだか」
「ううん、祐一君にいつもいぢわるばかりされてるから、復讐のチャンスなんだよ」
「俺の野望を砕く…と?」
「うんっ。絶対に負けないからねっ!!」
あゆは一緒に来なかった。
だが、タイヤキを選んだのではなくあゆはあゆなりに考えた結果。
…負けられないな。
「私もそれでいいですよ。でも…」
「でも?」
「お 姉 ち ゃ ん だ け は 、 私 に 捕 ま え さ せ て く だ さ い !」
ここに、香里と同じく復讐に燃える人物がいた。
さきほどの今までの経緯を話していたとき、カタパルトされたことを思い出したらしい。
美坂姉妹とは、逆で妹が復讐する立場だが。
さて、どうしたものか。
カタパルトに利用するには必要不可欠だが…。
1ポイント減るのは痛いかもしれない。
だが…由依の姉(仮に香里2号と命名)が逃げ手で、しかも出会う確立は少ない。
香里2号に出会いさえしなければ充分戦力…いや、兵器となる。
メリットの方が大きい、か。
「うし、分かった。なら、明日からは、由依、舞、郁未、俺がともに行動だな」
【由依・舞・郁未・祐一 パーティー決定】
【あゆ 別行動。ちょっと、冷静に】
【時間 夜。一晩、休憩】
いっぽう同じ頃のいとっぷ・貴之
「うう、逃げ手どころか鬼にすら会わないっすね…」
「伊藤君、まだ出発してから少ししか経ってないんだし…、ってシッ」
「え、どうしたんですか?」
「あっちから声が聞こえないか?」
貴之の指差した方を見ると森が開けた湖みたいなのがあってそっちから確かに声が聞こえる
しかも女の子の声だ!よっしゃ!たぶん水辺で休んでいるのだろう、ポイントゲット&女の子に接触するチャンスってやつですか!?
いとっぷは早速相手に気づかれないように近づき大きい木の影から覗いてみる
まず水辺のほとりに居る女性が目に入る、鬼の襷を掛けてないし人外能力者にも見えない。よしあの人なら捕まえられそうだ。
続いてその女性の話相手の方に目をやると裸で水あびをしている女性が…
ってえぇっ!?ななな、なぜ我が愛しの湯浅皐月さまがこんな所で水浴びをしているのですか?
コレは夢なのですか、確かにそんな姿を想像した事は何度かあったが、って何を言わせるどうのこうので…
いきなりの衝撃映像に錯乱気味のいとっぷだが
「ああもう伊藤君落ち着いて、見つかっちゃうって」
「え、え、じゃあやっぱり夢じゃないのですね…」
と貴之が木の影に引っ張りこんで、ようやく正気戻った
あぁ神様ありがとう信じられんがこれは現実なんですね、しかし先ほどは驚きのあまり良く見えなかった
よってもう一度この映像を脳内HDに右クリック・名前を付けて保存しなくては…
そして再び木の影から顔をだそうとするいとっぷ
「伊藤君ダ、ダメだよ覗きなんて男らしくないよ…、とりあえずあの子が服を着るまで待とうって」
「か、かまわん!たとえ男らしくなかろうとも…俺は覗くっ!!ヽ(`Д´)ノ」
「変なところだけ男らしいー(がびーん)Σ(゜д゜lll)」
「あれ、誰かそこに居るのかな?」
や、やばい騒いだから水辺の女性に気づかれた、ここで皐月さんに覗きがバレたらえらい事になる誤魔化さないと
「にゃ、ニャ〜ゴ♪」
「バ、バカ!!こんな森の中に猫が居るわけないしかえって怪しまれるじゃないか!!(ヒソヒソ)」
猫真似したいとっぷに突っ込みを入れる貴之、しかし
「なぁんだ猫ちゃんか」
「「誤魔化せてる〜!(がび〜ん)」」
「あれ〜、夕菜さん誰か居るんですか?」
「いや、いま猫ちゃんがね…」
森の方を向いている夕菜に皐月が話しかける
「いまだ、貴之さん逃げよう!!」
「え!ちょっと、ちょっと待って〜」
伊藤「あの女の人がボケボケで助かった (´Д`;)」
貴之(⊃Д`).。oO( なんで俺達、鬼なのに獲物から逃げてるんだろう)
【いとっぷ・貴之森に逃げる】
【皐月・夕菜覗きに気づいてない】
【皐月・夕菜 屋台を目指す】
【時間は日が落ちる頃】
もはや涙など、流し尽くしたと思っていた。
それなのに、あの苦しみが繰り返されるたび、また涙が溢れてくる。
涙を流しても、何も解決するわけではないというのに。
それなのに、肉体は言う事を聞いてくれない。
頬を流れ落ちる涙はただ、地面へと吸い込まれていく。
…ああ、またあの苦しみを味わう目にあわなくてはいけないのか。
分かっている。出来ることなら避けたい。
しかし、生きるためには背に腹は変えられない。
地獄のようなあの灼熱地獄に見舞われ、また大量の涙を流す目にあうことは確定しているのに、
そうしなければ生きていけない今の自分の境遇があまりに悲しすぎる。
―――ああ。覚悟を決めよう。
こんなことになったのも自分の責任だ。
こうでもしないと、命を繋ぐことが出来ないのだから…。
やがて、口の中に、燃えるような熱さと舌を刺す痛みが………
「えうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ―――!辛いです―――――!!」
…美坂栞が、深い穴の中であまりの辛さに涙を流しながらのた打ち回っていた……。
彼女の傍らには、キムチがぎっしり詰まった瓶と辛子明太子が転がっていた。
優しい彼女のお姉さんが彼女のためにわざわざ用意してくれた食糧であった。
こんなものを夕食として、水も飲まずに食べていたら、そりゃあ彼女にとっては地獄であろう。
もっとも、体は温まっていた。
温まりすぎてなぜか涙が出てくる。
「うう…ぐすっ…。もうイヤですこんなの〜。
もう二度とあんなことしないから、誰か助けてください〜」
栞の叫びは、穴の中にむなしく響き渡った―――。
…と思われたのだが、天が栞の願いを聞き入れたのだろうか。
穴の上に人影が見えた。
暗くて誰かは分からない。だが、確実にその人物は栞の存在に気づいていた。
「ど、どこの誰かは存じませんが、この可愛そうな子羊を助けてくださいませんか?
もう二度と人道に外れた行為はしませんから〜!!」
必死で訴えかける栞。
まだキャラが完璧には戻っていないようだが、少なくとも彼女は本気で反省していた。
鬼になってしまった以上、もう他人を利用する必要は無くなったし、何よりもこの仕打ちによって
一連の「悪女」関連はトラウマと化していたから。
「…あ、あの〜、美坂栞様ですか?」
「そうです。そういうあなたはどなたですか〜?」
「わ、私は、運営側のHMシリーズです。美坂栞様に警告がありまして…」
「け、警告!?」
思わずその単語にビクッとしてしまう栞。
「はい。明日の天候とナースコールについてです。本来は紙で通達するんですけど、
そこでは暗くて文字が読めないと思いますから、口頭で申し上げますね」
そう言って、HM−13はユズハやシュンへ伝えられた内容と同じ内容を語り始めた――。
「分かりました。雨ですか…って、もう雨降ってるじゃないですか!!」
「はわわ、ごめんなさいごめんなさい〜!もっと早くにお伝えするべきだったんですけど、
ちょっと近くの落とし穴に引っかかってしまってたんです〜」
「…どうしてよりによってあなたみたいなのが来るんですかぁ〜!?」
「わ、私が一番現場から近かったからだそうです…」
「ううっ、神様…この仕打ちはあまりにも酷ではないですか…?」
「ふえぇ、本当にごめんなさいです〜!と、とにかく健康には気をつけて下さい〜」
そう言うと、HM−13は逃げるように去っていった。
「はい。気をつけます―――って、え?…助けてくれないんですか!?
ちょ、ちょっと、助けてくださいよ!
えうぅ〜!もう悪いことしませんから〜!!
誰か、助けてくださ―――――――――――い!!!」
栞の叫びは、誰にも届くことはなかった。
今度は神様も、すぐには聞き入れてくれないのだろうか…?
【栞、激辛セットを食べてえらい目に遭うw 一連の出来事についてはもう懲り懲りということで、反省】
【雨と言う情報を聞くも、時すでに遅し。しかも、助けてもらえずにいまだ雨の中】
【2日目深夜?】
『お前は人の上に立つ者だ』
……父のことは尊敬していた。
『だから、下らん情は持つな。利用できると者は利用しろ。愚者には愚者の使い方がある』
……だから父のその教えを守ろうと思った。
『いいな、常に冷徹であれ。迷いは捨てろ。それが久瀬家の教えだ』
……でも、その教えに全く疑問を覚えたことはないのだろうか?
「全く、そのときの栞ったら……ねぇ、久瀬君、聞いてるの!?」
「ん……」
美坂香里の声に、久瀬は屋台のカウンターから身を起こし目をこすった。
「ああ、ごめん。少し寝ていたみたいだ」
「そう。ま、しょうがないか。もう朝だしね」
そう答える香里は昨晩の興奮の余韻からか、まだまだ眠そうな様子はない。
昨夜の大捕物の後、仲間との合流場所に行くという香里に久瀬もついていった。
セリオや香奈子とともにオボロが現れることを期待してのことだ。
幸いその場所に屋台が来ており、深夜の祝勝会が行われたのだが、一向にセリオと香奈子の姿が現れない。
智子組もしばらくは付き合っていたのだが、夜が更けるにつれ
もっと落ち着いたところで睡眠をとりたいと立ち去っていった。
結果、待ち人のいる香里と久瀬だけが場に残り、久瀬は一晩かけて香里の武勇伝を聞かされる羽目に。
そんなこんなで、ただ今の久瀬は疲労困憊の極地にあった。
「しかし、遅いわね。セリオも香奈子も」
「道に迷ったんじゃないか?夜だしね……雨も降ってきたからどこかで雨宿りしているかもしれない」
「香奈子だけならともかくセリオに限って迷うことなんてないと思うんだけど……」
「まあ、とにかく彼女達がきたら起こしてくれないか?流石に限界だよ」
そういって、再度屋台に久瀬は突っ伏す。
(全くオボロ君……何をしてるんだ……そもそも、僕はなぜここまでして彼を待っている……)
考えのまとまらない頭でそんなことを思いながら、久瀬の意識が闇に解けようとして……
「おお、久瀬君じゃないか!!オボロ君はいっしょじゃないのかい?」
「え……あ、月島さん!?」
月島拓也の声によって強制的に久瀬の意識は現実に戻された。
「全くひどいと思わないかね!!ルリコと僕との間を引き裂くなんて!!」
朝食をつつきながら(なぜか久瀬のおごりだ)月島は大声で久瀬に同意を求める。
「えー……はい、そうですね……」
死んだ魚のような目をしながら適当なあいづちをうつ久瀬に、
香里は同情とからかい半々の視線を送る。
「12時間だぞ、12時間!!それだけの間僕を閉じ込めた挙句、僕の素晴らしい電波を奪ってしまうとは!!」
(いや、重要な情報ではあるんだがな)
月島の言葉に集中できるようう必死に意識を繋ぎとめようとする。
管理者による強制召喚。そんなものが本当にあるとは。いや、確かに月島のやったことは問題ではあるが。
なにか、いやな感じがする。
「ねえ、月島さん……」
質問を投げかけようとする久瀬だが、それは別の声によってさえぎられた。
「つ、月島先輩!?何でこんなところに!」
「おや、太田さんか。奇遇だね」
いつの間にか太田香奈子が現れていた。香里が立ち上がる。
「香奈子!?遅かったじゃない!」
「あ……」香奈子はまだ何か月島にいいたげだったが香里の方に振り向くと。
「大変よ、香里!!セリオつかまちゃったの!!」
(な、何の音だ!?)
一瞬久瀬は立ち上がりかけて、すぐにその音が自分の心音だと気づく。
(な、なんだ?僕はどうしてしまったんだ?)
胸が……痛い……のか?
(何を考えている?手駒がなくなっただけだろう?)
しかも自業自得だ。こちらは迷惑をこうむった形じゃないか。
だけど、あいつをたきつけたのは僕じゃないのか?
利用しただけだ。このゲームがゼロッサムゲームである以上、だまされるほうが悪いだろう?
だけど、あいつは僕を待っていてくれて、鬼になった僕を見ても逃げなかった。
熱くなってルールを忘れたあいつが悪いんだ。
だけど、僕はそんなあいつに「作戦はまかせろ」なんて言葉を吐いたんじゃなかったのか?
(き、気分が悪い…寝不足のせいか?)
「ごめんね、香里。もっと早く来たかったけど、雨に降られるし、道に迷っちゃうし……」
「それはしょうがないわよ。だけど、参ったわね……私のせいかな……」
うつむく香里。だが、久瀬の混乱はさらに深い。
(なんだっていうんだ。考えがまとまらない……!)
だというのに、久瀬の頭のどこか醒めたな部分は香里、月島、香奈子から得た情報を冷静に分析していた。
そして、一つのプランが浮かび上がる。
……オボロを探すための。
……馬鹿げてる!論理的じゃない!!無理してオボロを探す必要がどこにある!?
だけど、「非論理的な思考もたまにはいいものです」とあのロボットは言っていた。
それでどうなった!!待っていたのは強制召喚なんていう最も下らなく萎えた結果じゃないか!!
このプランは危険が大きすぎる!第一、倉田さんに会うという目的はどうした!?
聞く限りスコアも悪くないし優勝だって狙えるんだぞ!?
……いくら言い聞かせても、気分の悪さは消えなかった。
「……一つ提案がある」
久瀬の言葉に、香里と香奈子は振り返った。
「セリオさんとオボロ君に会う方法だ」
「会うって……二人は今拘束されてるんじゃ……」
「どうかな?月島さんの拘束時間は12時間だが、明らかに二人の方が罪は軽い。
拘束されたのが不思議なぐらいにね。とっくに開放されていると考えたほうが自然じゃないかな」
「だったらセリオ、ここに来るわよ」
「僕もそう思ってた。だけどね……香里さんの話の中に、
おそらくユズハさんを目撃した、という情報があったろう?」
「あったけど……それに何の関係が?」
「ひょっとしたらだが、二人は今その場所にいるのかもしれない。
オボロ君を君達から引き離すためにね」
「「な……」」顔を見合わせる二人。
「そっか、あいつ栞を捕まえたこと知らないんだ」
「ありそうよ、香里……あいつ結構融通利かないし……」
「で、でも、それだったら、ここにいればいずれは必ずセリオに会えるわ」
「もちろんそうだろう。それはそうとして今、
セリオさんは無駄な使命のために駆けずり回っているわけだ。この雨の中を」
久瀬の痛烈な言葉に、二人はうつむいた。
「だけど、久瀬君の言うことって確実かしら?それに変に行き違いになるかもしれないじゃない?」
「だったら書置きでも残しておけばいい。屋台に伝言を頼んでおいてもいいだろう。
結果としてかえって時間がかかってしまうかもしれないが、自分のことを探してもらえるというのは
セリオさんにとっても気分のいいものじゃないかな?」
「……口がうまいわね、久瀬君」
悪態をつきながら香里は考え込む。
「私だってすぐにでもセリオにあいたいけど……
仮にセリオ達がその場所に向かったとしても、そう都合よく会えるものかしら?
時間的にずれてしまうかもしれないでしょう?」
「セリオさんは、電波使いを感知していたよね?半径500mの範囲で」
「してたけど……まさか!?」
「月島さん!!」
久瀬は、我関せずと朝食を食べていた月島に声をかけた。
「あなたに、協力してもらいたい。オボロ君のために」
「むう……オボロ君は同好の士だから助けてはやりたいが……
僕にはルリコを探す使命があるしなぁ」
「ついて来てもらうだけでいいんです」
「しかし……」
「もちろん、ただじゃありません。まず資金的な援助。それから首尾よくオボロ君に出会えた時は……」
しばし、逡巡する。
「瑠璃子さんを一緒に探すことを約束しましょう」
「あんた何考えてるのよ……!!」
小声で香里が久瀬に怒鳴る!
「あんな基地外、何の役に……!?」
「長瀬祐介は電波を使用していない状態でも、セリオのセンサーに引っかかった。
おそらく、今の月島さんでも同じことが起こるだろう。
センサーに引っかかれば、セリオさんの注意がこちらに向くかもしれない」
半径500というのはこの島でみれば本当に狭い範囲でしかないが、
ある程度限定された地域内ならば引っかかる可能性が高い。それが久瀬の見立てであった。
「セリオさんと出会ったら、君達は分かれたらいい。香里さんたちに迷惑はかけないよ」
香里はしばらく久瀬を見つめていたが。やがて一言言った。
「最後の質問よ。なんでそこまでしてオボロってやつと合流しようとするの?
久瀬君に、それほどメリットないわよね?」
「……分からない」
しばしの沈黙の後、久瀬は答えた。
「分からないから、会いたいんだ」
そう、こんな状態では「迷いを持つな」という父の教えは守れない。
だから、今は、倉田さん探しも優勝のことも忘れてやる。
【久瀬、香里、香奈子、月島 チームを組む。セリオとオボロの探索へ】
【久瀬はオボロが見つけたらという条件で、月島に協力を約束】
【時間は三日目早朝】
昼も過ぎ、太陽がやや傾きかけた頃。
きよみ(黒)は空のペットボトルを川の流れに沈めていた。
中には既に細かくちぎられたハンテンタケが入れられている。
それらが流れ込んできた水に踊り、含有成分が放出されていく(確認できないが)。
これで新たに反転紅茶キノコならぬ、反転水キノコの完成である――
自分で言って、激しくネーミングに問題ありね、と彼女は思う。
名前が何にせよ、これで紅茶と合わせ、実弾の装填が完了した。使わないに越したことはないが。
ばっしゃーん!
ここからやや下流の方で、盛大な音としぶきがあがった。
しぶきの中からユンナの裸身が跳び上がってくる。
彼女は「ぷあーっ!」っと思い切り呼吸をすると、岸辺のきよみ(黒)の方を見て
えへへと笑い、大きく手を振る。
はいはいといった感じで、こちらも手を振り返す。
現在の状況に至るまでの経緯を説明すると、二人はあの後鬼に見つかることなく
小川に辿り着いた。その際、ユンナが川の水が飲みたいという旨を再三主張。
これに対しきよみ(黒)が「生水はお腹を壊すから屋台まで我慢しなさい」と叱ったところ、
喉の渇きが一向に癒されないという現実に、ユンナが抗議の意思を表示した。結果
「…………しっ、仕方ないわねぇ。ええと…水飲むのは駄目だけど、汗をかいたでしょう?
見ててあげるから、そこの川で泳いできていいわよ」
「…ホント?」
「……本当だから涙目で頬を膨らませて上目遣いでにらむのは止めて」
「うはーい♪ きよみ大好きー!」
一転、上機嫌。ユンナはあっという間に着ている服を全て脱ぎ散らかすと、
ばしゃばしゃと川に突入していった…というわけなのである。
ユンナはまた、勢いをつけて川中に潜る。
ペットボトルの蓋を閉めながら、きよみ(黒)は彼女の消えたあとの波紋を見ていた。
暢気なものね。
岩切みたいなのが鬼になって、この中で待ち構えているかもしれないのに。
…まあ許可を出したのはわたしだけど。だって仕方ないじゃない、あんな顔されちゃ。
それ以前に、誰か男に見られたりしても恥ずかしくないのかしら。
ええ、それは気持ちいいでしょうねえ。こんな気持ちのいいお天気の昼下がり、
まだ春だというのにむしろ少し暑いくらいで、川の流れはひんやりと冷たくて澄み切ってて。
そんなせせらぎの中で、何も身に付けずに体洗ったり泳いだり潜ったり飛び跳ねたりしたら。
さっきまで全身汗まみれ泥まみれだったりしたら、なおのことよね。
…そうよ、何で汗まみれ泥まみれって、あなたと取っ組み合いをしたり
あなたのお友達に追いかけられたりしたからじゃないの!わたしだって同じなのよ!
結局昨日はお風呂にも入ってないし。
ああ、いやだ。張り付いた服がじっとりと気持ち悪い。汗臭い。髪がバサバサしてもつれてる。
わたしもこの服を脱いで清冽な流れに身をひたせたら、どんなに素晴らしいかしら。
でも私が入ってきたりしたら…あの子、嬉しそうな顔しながらかけ寄ってきて、
はしゃいでバシャバシャ水ひっかけてくるんでしょうね。
で、最初無視していたわたしもかけられ続けて、ついカッとなって
ひっかけ返して、なし崩しにかけっこになって。
ふと、ユンナが足を滑らせて、わたしの方に倒れこんできて
慌てて受け止めようとするんだけど、止まらなくて、凄いしぶきと共に川底に倒れこんで。
気が付くと、流水の中、お互いの腕に足が差し込むように絡み合って、
冷たく濡れたおなかとおなかが触れ合って、それがあたたかくって
胸では四つのささやかなふくらみがつぶれ合って、二つの鼓動が交じり合って、
わたしのがどんどん大きくなって、わけがわからなくなって。
かかる吐息が、なんだか甘い。
きょとんとしてこっちを見つめてる、生まれたままの姿のユンナ、その
つやつやと光る唇が
前に
ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる!!!!
降って湧いた精神的疾患を振り払うべく、頭を振りまくった。
「ねぇねぇ、きよみったらぁー」ユンナに大声で呼びかけられていた。
「っっっうるわいわね?
濡れた肌が触れ合ったりなんてしないんですからね!?」
頭を振りすぎて酔ってしまったところに不意をつかれ、とんでもないことを口走った。
「??違うよう。これ見て、これ」
見ると、岸に上がったユンナが、その足元を指差している。
きよみ(黒)は表情を引き締めると、周りに人を居ないのを確認しながら彼女の元に駆け寄る。
そこには衣服が脱ぎ捨てられていた。手にとって確認する。
不思議な衣装だった。
一見、弓道の胴着と丈の短い袴に見える。帯に胸宛て、籠手に草履もあった。
丈から言って、持ち主は12〜15歳くらいの子供だろうか。
だが胴着の袖口には、見慣れない柄の刺繍があしらってある。
ヘッドバンド…ではない、額当て?も見たことがないものだ。
何かの仮装…でなければ、日本ではない、どこか異国の民族衣装だろうか。
そういえばスタート会場に集まっていた人々のうち、
こんな感じの格好をした者も何人かいた気がする。
更に奇妙なことに、それら一式は複製したようにほとんど同じ取り合わせで、2組あったのである。
とりあえず、鬼の襷は見当たらなかった。
「誰かがここで泳いでたのかなぁ?」髪から滴を滴らせながら、裸のユンナが首を傾げる。
「多分そこで鬼に見つかって、慌てて逃げたのね……」
先程の精神的疾患がまだ頭に残っていたため、微妙に目の前の彼女から目をそらしながらも、
きよみ(黒)は表情を硬くする。
だが、彼女の推理と真相は微妙に違っていた。
見つかって慌てて逃げたのは正しかったが彼らを見つけたのは鬼ではなく、
それより格段にタチの悪い存在であった。
「若様ー!心からごめんなさーい!」「ですから、助けに来てくださーい!」
「ああん待ってよぉ〜。んも〜、ドリ君グラ君ったらテレ屋さんなんだからぁ〜☆
にゃはははハァハァハァハァ……」
そして、真相たちは事件現場に戻りつつあった。
【黒きよみ 川で反転水用の水を汲んだ後、ドリィ、グラァの衣服を発見】
【反転ユンナ 水浴び中にドリィ、グラァの衣服を発見】
【現在の持ち物はペットボトル入り反転紅茶キノコ×1、同じく反転水キノコ×1
(共に使用回数は4回程度)、空袋×3】
【ドリィ、グラァ 依然芳賀玲子より逃亡中。現在、黒きよみたちのいる場所に接近中】
【時間は午後3時前後】
(すみません。91と92の間に2行分の空きをつけてください)
ユズハを乗せた丸太をかついで光岡は疾走する。
人一人の重量を担ってなお維持できるその速度は、流石強化兵といったところか。
だが、その強化兵であっても追跡者たるオボロとセリオの前では荷が勝ちすぎた。
(グゥ……このままでは追いつかれてしまう!!)
額に降りかかる小雨の中に汗が混じる。
だが、動揺しているのはセリオも同じであった。
まず、このままではこの追跡劇が終わってしまうということ。
次に、光岡自身は気づいていないようだが、追い詰められるにつれて彼の動きに無理が生じているということ。
そして……セリオは横を走るオボロの顔を見る。その顔は刻一刻と険しさを増していく。
(そろそろ我慢の限界ですか。もう抑えられないかもしれません)
何かあれば、例えば光岡が転倒などしようものなら、オボロは爆発するだろう。その可能性は徐々に増していってる。
いっそのこと暴力沙汰が起こる前に離脱してしまおうか、そんな考えも浮かぶ。もうずいぶんオボロを引き離したし……
その時セリオのセンサーが電波の乱れを感知した。あわてて、そちらの方向を振り返る。
「香里様!!香奈子様!!」
視線の先の、茂みの生えた斜面の上、果たしてそこには別れた仲間の姿があった。
「セリオ!!よかった、やっぱりここにいたのね!」
「香里様……栞様へのお仕置きは終わられたのですか?」
「ええ。ごめんね、面倒かけて」
再会を喜び合う香里たちであったが、それを久瀬がさえぎった。
「すまない、それは後にしてくれ!オボロ君は!?」
「久瀬様?」眉をひそめながらセリオは一点を指差す。
そこには小雨の中、いましも光岡とユズハを追い詰めようとするオボロの姿があった。
「あ、あの馬鹿……!」
顔をゆがめて駆け出そうとする久瀬であったが、
「久瀬様、下はぬかるんでおられるのでご注意を……遅かったですね」
「うぎゃああああああ!?」
足をとられて、斜面を転がる久瀬の叫び声がこだました。
「キャァッ!」
オボロの手を逃れようとする光岡の急動作に、丸太の上のユズハが叫ぶ。
「いい加減……あきらめろ!」
体勢を崩した光岡に飛び掛ろうとするが。
「うががががえtじゃこてああ!!」
そんな奇声と共に、斜面を転がってきた泥人形が、バチャアァンとうつぶせに地面にめり込み、その異様な姿が二人の動きを止めた。
「な・・・?」
泥人形はしばらく顔面を泥の中に埋めていたが、
「本っ……当にっ……!」ガバッと顔を上げる「学習しない男だな君は……!!」
「く、久瀬か?なんでこんなところに?」
「やかましいわぁ!!」勢いに任せて叫ぶ。
「雨だぞ!!寒いぞ!!いい感じに泥だぞ!!おまけに丸太だし、振り回すし、どうしたらいいんだ僕はぁっ!!」
「久瀬……?頭、打ったのか?」
「それを言いたいのは僕の方だ!お前らは今ここでなにをしやがり下さいますか!!」
泥だらけの顔で、どういう物理現象か眼鏡だけを怪しく光らせて怒鳴る久瀬に、唖然とする三人。
「つまりだね、同好の友よ。同士久瀬が言いたいのは、
この状況で追跡するのはかえってユズハさんが危険ではないのかな、ということじゃないかな?」
「月島……」いつの間にか下におりていた月島にオボロが振り返った。
同士にすんなよ、とか内心思いながら久瀬は幾分冷静さを取り戻す。
「小雨とはいえ、けしてユズハさんの体によくないだろう!それにこのスピードで接触したらどうなる!?」
「あ……うう……」うなだれるオボロ。それを尻目に久瀬は光岡のほうに振り返る。
「お前もお前だ、ストーカー!漢字で書いて追跡者!!素人目にも君の動きには無理があったぞ!」
「な、なにぃ!?」
「その様子では、ユズハさんの悲鳴にも気づいていなかったんじゃないか?」
問われて光岡は抱えていた丸太の先を伺う。そこには寒さに震えながら気丈に首を振るユズハの姿があった。
「全く、嘆かわしいことだね。愛する人は大事にするものだよ?」
「つ、月島さん…あなたがそれを言っちゃいますか?」
一気に脱力した久瀬のツッコミは呻き声のようであった。
「でもよかったわ、本降りになる前に会えて」
そういって、香奈子は屋台で購入したレインコートをセリオに着せる。
「ありがとうございます、香奈子様。わざわざこちらに来させて申し訳ありません」
「謝るのは私よ、セリオ。強制拉致なんて大変だったでしょ?」
「いいえ、香里様。それに私は後悔はしてません」
「そう?そういってくれるのは嬉しいけど……」コツンと、セリオの額を小突く。「こういうのは、二度となし。いいわね?」
「……分かりました」
少しシュンとするセリオに香里は微笑むと、斜面の下を見る。
「しかし久瀬君、苦戦しているわね」
「なら、俺はどうすればいい!!教えてくれ、久瀬!!」
「そうだ、そこまで言うのならいい考えがあるのだろうな!?久瀬とやら!」
すいません勢いだけで何も考えてませんでした、とも言えず久瀬は押し黙る。
「そうだね、早く状況を打開してくれないかな?久瀬君?」
いや月島さん、お前も考えろよ、とか心の中で愚痴りながら久瀬は冷や汗を流す。
「久瀬!!」
「久瀬とやら!!」
「久瀬君!」
なぜか追い詰められた久瀬はしばしの沈黙の後、
「………………腕相撲とか、どうかな?」
と、ボソリと答えた。
「……え?」
「そう、腕相撲!腕相撲だよ腕相撲!!英語で言うとアームレスリング!!何か決めるときには、これ最強!!
体に安全、健康第一!刃なんか使わないから素人にもお勧めできるし!!」
勢いに任せてまくし立てる。
「久瀬君、やけくそね……」
「彼の脳から多量のα波が検出されています」
「徹夜ハイなわけね……」
「かの有名なフェザー級日本チャンピオンとミドル級世界チャンピオンもこれで争ったって言うし!
知ってるかな!?古代中国では海での居住権を決めるときに、それぞれの国から代表者を出して
この競技で争ったんだ。この故事が訛る事によって、この競技が腕相撲と呼ばれるようになったことは言うまでもない!
詳しくは大民明書房「古代中国にみられる喜怒哀楽」を参考にしてくれたまえ!」
「ちょっと待って。何でその故事が訛ると腕相撲なのよ」
「おそらく海で住まう → うですまう → うですもう ではないでしょうか」
「なるほど……って日本語じゃん」
「どうかな、そんな由緒正しい方法で二人の決着をつける!!これが今のトレンド最先端!!
神が図ったかのようなタイミングでそこに小屋があるし!!もうこれしかないね!レッツだGO!!」
「いや、久瀬。ちょっと落ち着けよ」
「うむ。急いてはことを仕損じるぞ」
そんな感じで諭してくるオボロと光岡に、お前らだけには言われたくないわぁっと心の中で叫ぶ久瀬であったが
ようやく我に返ると、
「オボロ君が勝ったらユズハさんは鬼に。貴方が勝ったらオボロ君は退く。
このまま追跡をするより安全ではあるし悪くない案だと思うな。どうかな?」
そう説得すると、オボロと光岡はなるほど、と首肯する。
「あ、あの私は……」
「不満があるのは分かるよ、ユズハさん。だけどまずは安全第一だ。雨もしのぎたいだろう?」
ユズハはまだ何か言いたげだったが、渋々とうなずいた。
「おお、すごい。なんかまとめちゃったわよ、久瀬君」
「もうすでに鬼ごっこじゃないような気もするけどね」
「しかし、不可解です。久瀬様はもっと冷徹で理知的な性格だと分析していましたが」
「そうね……多分、あいつ自分でも何がしたいのか分かってないんじゃないかしら?
まあ、普段の気取ってる久瀬君よりはまだ魅力、あるかもね」
セリオの疑問に香里は笑って答えると、仲間二人の肩をポンっと叩いた。
「さ、合流場所に行きましょ。うまくすれば、屋台がまだいるかもしれないし、
暖かいご飯と服にありつけるかもしれないわよ?」
【久瀬 オボロと光岡に腕相撲で決着をつけることを提案】
【久瀬、オボロ、月島、光岡、ユズハ 小屋へ】
【香里、香奈子、セリオ 合流】
【時間は早朝〜朝】
坂神蝉丸・三井寺月代両名、消失。
それは俺達に一つの問題をつきつけた。今後の行動についてである。二人の生死すら分からないのだ
(ま、でも生きている事は確かだろうね。あの祭好きの大統領が米国軍事技術の粋を集めて参加者の安全を監視しているんだから).。
この状況で敢えて蝉丸を捜索するというのは雲を掴むようなものだろう。
蝉丸とは今後遭遇する可能性はかなり低いと考えられる。
試しにドラ○ンレーダーを使ってみたものの、近隣にそれらしき参加者はいなかった。
仮に両名を、何らかの技術によってどこか別の場所に瞬間移動してしまったとする。
では、これからどうするべきか。
予定通り撃墜王を狙う――順当に行けばそうなるが、しかしすでに複数人撃墜しているであろう鬼たちを相手に競うのは些かキツい。
蝉丸を始め、柏木一族や月島兄弟、法術使いとかいう国崎往人。おまけにリサや醍醐隊長までいる。
ざっと名簿を見た限りでもこんな感じだ。加えて思わぬ伏兵が潜んでいるか知れない。とんでもなくハードな鬼ごっこであると言える。
「那須とかいう者。何してるの?」
「考え中です。――せめて名前か苗字で呼んでくれ」
河島はるか。先ほど証明されたように身体能力に関しては平均以上ある。底知れぬ無気力さはものすごく問題ありだが。
「なあ……河島はこのあとどうするんだ?」
「んー――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――どうしようか」
「なんだその異様に長いダッシュは」
「あはは、気にしない気にしない」
ものすごく気になるが、まあこの際どうでもいい。話を聞いている限りでは特に目標があるようでもないみたいだ。
ならば話は早い。強化兵の穴を埋めるまでにはいかないが、少なくとも足手纏いにはならないと思う。河島を誘う事にした。
「組むか?」
「ん」
はい、めでたく交渉成立です。
ホントに早いですね。
って、河島さん。
「――マジでいいのかよ!!!」
「なにが?」
「ああ……確かに貴方はこの後予定はないと仰りましたよ。でもねこんないきずりに出会ったどこぞの馬の骨ともつかない
ボウイにそうあっさりとくっついていくとこの先あんまり良い思いしないと思いますよ主に経験上から言わせて戴くと!」
「別に予定は無いと言った覚えはないんだけど」
「ぐぬっ」
痛いところをついてきた。曖昧に済ます美徳を持つ日本人め。
「……んじゃぁどうするんだよこの後」
もーヤケクソである。
河島なる女性はしばし沈思黙考し、
「どうせだから那須くんに付いて行こうかと」
こう陳述された。ぶち。
「んがあああ! だったら最初からそう言え!!」
「だからそういってるんだけどなぁ」
「紛らわしいわ!!」
「そりゃ那須くんの性格だ」
「それは言うなぁぁ!! ライターが二人いる以上ある程度はしょうがないだろ!?」
「メタ発言を乱用するとボキャブラリーを疑われるって」
「お前が先に言ったんだろーが!」
「まあまあ、とにかく落ち着いて落ち着いて」
「ぬがっ……!!」
やり手だ。
河島はるか、相当のやり手である。
日本が世界に誇る人間暴れ馬・皐月を日ごろ手なずけているこの俺が、
いつの間にか手なずけられる側になってしまっているではないか。
これほど恐ろしい事は短い人生の中でもそうそう無いだろう。うん。
ひとまず呼吸を整え、あくまでもさりげなく河島に提案する。
「――あー、なんだ。とにかくまずは腹ごしらえ?」
「ん。とにかく腹ごしらえって方向で」
またもや記録的に短い会話を終えた我々二人は空腹を満たすべく屋台を目指すことにした。
昨日に比べると今日はあまり移動していないから、まぁすぐに見つけられるだろう。
「あ、お昼は那須君のおごりでおねがいしたい」
「何故!?」
「一万円」
「ぬぅ…」
とっても先が思いやられます。
【宗一・はるか 目標:昼餉(出来れば屋台がいいなぁ/はるか談)】
【時間→午後2時くらい?】
【場所 超神社→屋台を目指す】
深夜の、海岸沿いにて。
「「はっ…はっ…はっ…」」
リズミカルに呼吸をしながら、A棟巡回員と名倉友里が走っている。
「どう、鹿沼さん、来てる?」
「あぁ…だが、俺たちの方が速いぞ!」
少し遅れて鹿沼葉子が追う。距離は充分。
「やっぱり、こっちに逃げて正解だったわね」
「そうだな」
葉子は幼少の頃からFARGOに入っており、運動能力は非常に低い。
純粋な追いかけっこなら巡回員達のほうが有利であり、それゆえ彼らは障害物の無い砂浜を選んだ。
細かな砂に足を取られ決して走りやすいとは言えないが、それは相手も同じ。
―――ただ、あくまでそれは『純粋な追いかけっこ』での話。
突如、葉子が弾けた。
「―――来た!」
不可視の力を足元に発動させ、砂の上を滑るように走ってくる。
速い。砂と格闘しながら進んでいる2人にとって、このスピードは脅威だ。
「準備はできてるわ! さっさと掴まりなさい!」
「頼んだぞっ…!」
(―――いただき、ですね)
この速度差はどうしようもない、葉子は勝利を確信した。
巡回員に正拳突き…もといタッチを仕掛ける。
――が。
「頼んだぞっ…!」
巡回員がジャンプし、友里に抱き着いた。
(―――!?)
直後。視界から2人が消えた。
正確には、視界が何かで覆われた。
巡回員に触れようとした右手が空を切る。
(――なるほど)
不可視の力で爆発を起こし、その爆風でベクトルを無理矢理変えて葉子をかわしたのだ。
同時に砂を巻き上げて視界を塞ぐ――。
そして、今度は葉子のすぐ後ろで爆発が起こった。
(――追い討ち付きとは…やられましたね)
風が葉子を、前方へと吹き飛ばす。
もともと異常なスピードで走っていた上にそれを後押しされ、また視界は依然として塞がれたまま。
たまらずバランスを崩し、勢いよく転倒した。
「鹿沼さん、戦いとは駆け引きなのよ」
「力押ししか考えられんからそうなる。昔と比べると丸くなったが、まだまだだな…A−12にいろいろ教えてもらえ」
再び2人は走り出す。葉子は動けなくなったわけではないのだ。もたもたしてはいられない。
今のうちに防砂林にでも隠れこんで――。
「待つがよい。余のことを忘れたとは言わさぬぞ」
それは、すっかり忘れ去られていた神奈の声。
「―――?」
「…しまった、連れがいたんだった!」
2人は慌てて神奈を探すが…。
「――え? どこ?」
「声はすぐ近くから聞こえたよな――」
…見つからない。
「ぬしらの目は節穴か…。空を見よ空を!」
「「―――は?」」
上。2人の上。
そこには、翼を広げた神奈が浮いていた。
「「………」」
絶句。
「……そんなに人が浮いておるのが珍しいか」
「そりゃあね」
「初めて見る」
「…まあ、それもそうよの」
ふよふよと、地面すれすれまで降りて2人の行く先を遮る神奈。
「…名倉。逃げ切れると思うか?」
「無理ね。森の中ならともかく、ここじゃあ…」
彼らは逃げ場を間違えた。この砂浜に神奈の飛行を遮る物は無い。
鬼が葉子だけなら、あるいは逃げ切れたかもしれないのだが。
「――名無しさん。レディに対して、あの仕打ちはどうかと思いますが」
しかも悪いことに、その葉子はあっという間に復活していた。
ちなみに全身砂まみれ。もし今が昼なら、ブチギレ葉子というある意味翼人より珍しいものが見られただろう。
(お前をぶっ飛ばしたのは俺じゃない、名倉だ――)
心の中で突っ込む巡回員。さすがに口に出す勇気はない。
「神奈さん。時間稼ぎ、ありがとうございました」
「うむ。これは葉子殿の獲物だからの。余が横取りするわけにはいかぬ」
「ありがとうございます」
状況は振り出しを通り越し、明らかに悪化している。
「………名倉。巳間に遺言を頼む」
「なんて伝える?」
「『かぎのおと おやがわたしや もうだめぽ』」
「……とりあえず落ち着きなさい」
「無理」
「…そう」
「――お別れは済みましたか?」
「「………」」
万事休す。このままでは2人とも捕まってしまう。
「………巡回員さん、悪く思わないでね。貴方の前科のとばっちりを受けるのは御免だから」
友里が深呼吸をして、意識を集める。
「ん? どうした名倉…って」
そしてがしっ、と。巡回員の腕を掴んだ。
「え、ちょっ、貴様、まさか」
「…どりゃぁっ!」
不可視の力を上乗せした巡回員カタパルト!
「「―――!?」」
「お前はそれしかできんのかぁぁぁっ…!」
葉子や神奈を狙ってはいない。目的は、2人の注意を逸らすこと。
海へと放られた巡回員は、闇に紛れ――
ばちゃーん。
水しぶきをあげながら、波打ち際に落下した。同時に友里は防砂林の中に入る。
「じゃあ、私は行くわ。見逃してくれると嬉しいんだけど」
「――わかりました。この隙に彼に逃げられるわけにはいきませんから」
「ふむ。余も1人でぬしを追う気は無いの」
「感謝するわ……それじゃ」
「…1人になったのは痛いわね。いいパートナーだったんだけど」
そう呟いて、友里は腰を下ろした。ほぼ同時に海の方から男の叫び声が聞こえたが気のせいだろう。
「…ちょっと、力を使いすぎたし」
連続して3回の発動は無茶だったか。海岸からほとんど離れていないが、もう動けない。
深く息をつき、友里は半ば気絶するように眠りについた。
目が覚めたときに、自分に襷がかかっていないことを祈りながら。
【葉子 巡回員を捕まえる。砂まみれ】
【神奈 葉子と一緒にいる】
【巡回員 鬼になる。尋問中】
【友里 逃亡成功。力を使い果たし、睡眠。防砂林の中】
【深夜】
「…ここなわけ?」
「…(こくこく)」
ある日、森の中。
来栖川姉妹は井戸を見つけていた。
芹香が持っている振り子は、この井戸の真上でくるくると回っている。
さてさて、こんなところに果たして食べ物があるのだろうか…。
「………」
「なになに?間違いなくここに何かがあります?
『何か』って…食べ物という保障はないわけね…」
じっと井戸を見つめる。
井戸は深く、覗き込んでも底が見えない。
まるで黄泉の国への入り口であるかのように、不気味にその口を開いている。
「…なんだか、中から魔人でも出てきそうね」
綾香の呟きは、決して某井戸を調べることのできるゲームにちなんだだけではなかった。
本当に、何かが潜んでいてもおかしくないような異様な雰囲気を放っているのだ。
ためしに石を入れてみる。
ヒュ―――――――――
音はだんだん小さくなっていき、やがて
ポチャン
かすかではあるが、水の音が聞こえた。
水を汲むための桶は井戸の中に投げ入れられているようで、それを繋ぐ縄が
井戸の上に設置されている滑車へと延びている。
おそらく、この井戸は天然水を汲むために作られたものだろう。
飲める水かどうかは分からないが。
「どうする姉さん?」
「………」
「喉が渇いた…?確かにね。で、この水を汲んでみようって?」
「………」
「そうね、お腹の足しにはなるかもね…飲めればだけど。
それじゃ、ちょっと離れてて。私がやるから」
芹香を下がらせると、芹香は空腹に耐えながら縄を引っ張り続けた。
「け、けっこう重いわね、この桶…」
空腹のせいか、水を汲むだけなのにやけに重く感じる。
それでも、綾香は力いっぱい引っ張った。
だんだん手ごたえが大きくなり、水のたっぷり入った桶が近づいてくるのが感じられる。
しかし、重い。
「あと…ちょっと…せやぁっ!!」
渾身の力を込めて、最後のひと引きをする綾香。
そして、綾香が出迎えたのは…
「おめでとうございま〜す!!」
どうやってか桶に乗っている細めの男と、その男が鳴らしたクラッカーの紙吹雪だった。
「………へ?」
思わずぽかん、と固まる綾香。
だが、それがいけなかった。
思わず縄から手を離してしまった綾香。
当然、チキナロの乗っている桶は再び地獄の深淵へと…。
「ちょ、ちょっと待って下さいです、ハイィィィィィ……」
チキナロの声が井戸の底に響き渡っていった。
綾香は何が起こったか理解できず、呆然としている。
「………」
「え?今の人を助けよう?
…本当に人なのかしらあの人?」
今の男に明らかに警戒しながらも、綾香は仕方なく再び桶を上げ始めた。
今度は芹香も手伝う。
なるほど、どうりで重かった訳だと、綾香は妙に納得していた。
「いやはや、死ぬかと思いましたよ、ハイ」
ようやく引き上げられたチキナロが、井戸のふちに腰掛けながら言う。
言葉とは裏腹に、表情はいたって平静である。
「………」
「え?なんであんなところにいたのかって?
ハイ、では説明しましょう。
この鬼ごっこには、『チキナロを探せ!』というミニゲームがございまして…」
「…というわけで、この屋台専用商品券3万円分はあなた達のモノです、ハイ。
まことにおめでとうございます」
そう言って、綾香の手に封筒を握らせるチキナロ。
綾香が中身を確認する。確かに、3万円分の商品券が入っていた。
「これはラッキーだったわね。さすがは姉さんのダウジングだわ。見直したわよ」
そう言って、芹香に商品券を見せ付けながら微笑む芹香。
「ただし、その商品券はこの鬼ごっこ期間中しか効果はありませんので、ご使用はお早めに。
では、私はまた次の隠れ場所を探しますので。ご武運を祈りますです、ハイ」
そう言うと、チキナロは井戸へと飛び込んだ。
「え…?ちょっ……」
ヒュ――――
井戸の中へと落ちていく音。
だが、いくら経っても一向にチキナロが水に落ちる音が聞こえてこない。
井戸を覗き込んでみても、何も見えない。
ためしに桶を引き上げてみたが、今度はちゃんと冷たく澄んだ水がいっぱい入っていただけだった。
「…変な人だったわね」
「…(こくこく)」
【綾香&芹香、チキナロを森の中の井戸にて発見。商品券3万円ゲット。2日目夕方】
【水を飲んでとりあえず空腹はしのいだが、依然食糧はゲットできず】
【チキナロ、また新たな隠れ場所を探す】
全参加者一覧及び直前の行動(
>>111まで)
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
レス番は直前行動、無いキャラは前回(
>>57-60)から変動無しです
()で括られたキャラ同士は一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)
fils:ティリア・フレイ、【サラ・フリート】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介
>>67-73、月島瑠璃子、藍原瑞穂、【新城沙織】、【太田香奈子:2】
>>95-99、【月島拓也:1】
>>95-99 痕:柏木耕一、柏木梓、柏木楓、柳川祐也、日吉かおり、小出由美子、ダリエリ、
【柏木千鶴:10】
>>67-73、【柏木初音】
>>83-88、【相田響子】、【阿部貴之】
>>74-77 TH:(藤田浩之、長岡志保、姫川琴音)、神岸あかり、マルチ、(来栖川芹香、来栖川綾香)
>>108-111、松原葵、
(佐藤雅史、岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ)、神岸ひかり、
(【保科智子】、【坂下好恵】)
>>83-88、【宮内レミィ】
>>63-65、【雛山理緒:2】、
【セリオ:2】
>>95-99、【田沢圭子】、【矢島】、【垣本】、【しんじょうさおり】
WA:観月マナ、七瀬彰、緒方英二、
(【藤井冬弥】、【森川由綺:2】)、【緒方理奈:3】、【河島はるか】
>>100-102、【澤倉美咲】、【篠塚弥生】
「はてさて……屋台を探すと言ってもな……」
諸君、久しいな。私の名前はD、汝等に崇められ、うたわれるものでもある。
ついでに言うなれば現在のお天気は雨。ウィツァルネミテア in the rain.というわけだな。
どうでもいいか。ごめんね。
「この霧雨模様の中……どうやって見つけ出したものか……」
森の中、私は路頭に迷っている。
小さな折りたたみ傘を広げ、朝靄の中を彷徨っている。
考えてみれば屋台など、見つけようとしてすぐに見つかるわけではない。
屋台だけに、常に移動しているのだからな。
仕方がない。ここは気長に探すとするか……
「探しものは何ですか……♪」
雨具と……ちょっとした物だ。
「見つけにくいものですか……♪」
あの品揃えならたぶん大丈夫だろう。
「カバンの中も……♪ 机の中も……♪ 探したけれど見つからないのに……♪」
いや、そこまで探してはないんだけどな。
「まだまだ探す気ですか……♪」
無論だ。見つけ出さなければならない。
「それより僕と踊りませんか……♪」
全てが終わった後なら、な。
「夢の中へ……夢の中へ……行ってみたいと思いませんかぁー……♪」
夢の中……か……。
「ウウッウー♪ ウウッウー……♪ ウーウーウー……♪ さ〜あ〜……♪」
考えてみれば私はなぜこんな歌を知っているのだろうか。
こみパ:千堂和樹、(高瀬瑞希、九品仏大志)、(牧村南、風見鈴香)、(猪名川由宇、大庭詠美)、
御影すばる、立川郁美、澤田真紀子、
(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)、【芳賀玲子】
>>89-93、【塚本千紗:2】、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】)
NW:城戸芳晴、ユンナ
>>89-93、【コリン】、(『ルミラ』、『アレイ』)、(『イビル』、『エビル』)、
(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:江藤結花、高倉みどり、【宮田健太郎:1】、【スフィー】、【リアン】、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)、岩切花枝、杜若きよみ(黒)
>>89-93、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】、【杜若きよみ(白)】、【御堂:6】、【光岡悟:1】
>>95-99、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ、(アルルゥ、カミュ)、ユズハ
>>95-99、ベナウィ、クロウ、カルラ、クーヤ、サクヤ、
【エルルゥ】、【オボロ:1】
>>95-99、(【ドリィ】、【グラァ】)
>>89-93、【ウルトリィ:1】、【トウカ】、【デリホウライ】、
【ゲンジマル】、【ヌワンギ】、【ニウェ:1】、【ハウエンクア】、【ディー:6】
>>63-655、『チキナロ』
>>108-111 Routes:(湯浅皐月、梶原夕菜)
>>74-77、リサ・ヴィクセン、
【那須宗一:1】
>>100-102、【伏見ゆかり】、【立田七海】、【エディ】、【醍醐】、【伊藤:1】
>>74-77
同棲:【山田まさき:1】、【皆瀬まなみ:2】
MOON.:巳間晴香、名倉友里
>>103-107、(【天沢郁未:3】、【名倉由依】)
>>75、
【鹿沼葉子:1】
>>103-107、【少年】、【巳間良祐:1】、【高槻:1】、【A棟巡回員】
>>103-107 ONE:(里村茜、上月澪、柚木詩子)、深山雪見、氷上シュン、
(【折原浩平:4(3)】、【長森瑞佳】)、【七瀬留美:1】、
【川名みさき】
>>83-88、【椎名繭】、【住井護】、【広瀬真希:1】、【清水なつき】
Kanon:沢渡真琴、天野美汐、
(【相沢祐一】、【川澄舞】)
>>75、【月宮あゆ:4】
>>75、【水瀬名雪:3】、【美坂栞】
>>79-82、
【美坂香里:8(1)】
>>95-99、【久瀬:4】
>>95-99、【倉田佐祐理:1(1)】、【北川潤】
AIR:神尾観鈴、(霧島佳乃、霧島聖)、(遠野美凪、みちる)、神尾晴子、(柳也、裏葉)、しのさいか、
【国崎往人:2】、【橘敬介】、【神奈:1】
>>103-107、【しのまいか】
>>63-65 管理:長瀬源一郎(雫)、長瀬源三郎、足立(痕)、長瀬源四郎、長瀬源五郎(TH)、フランク長瀬(WA)、
長瀬源之助(まじアン)、長瀬源次郎(Routes)、水瀬秋子(Kanon)
支援:アレックス・グロリア、篁(Routes)
毎回微妙にマイナーチェンジをしてるので読んでほしいこと&連絡事項↓
日吉かおりは現在管理側に拘束されてますので注意。
このリレーは余程の反則(電波で他の参加者を操る、魔法で自分を触れなくする)が無い限り能力使用はOKです。
但し原作外のオリジナル設定は基本的に抜きで。ていうか基本ギャグで済ませましょう。
細かいところに拘るより鬼ごっことしての状況を進める方向で
致命的なミスがない限りは脳内保管しましょう。
NGはできるだけ避けるよう書く話のキャラの前話くらいは読みましょう。
前スレも健在なのでリストをたどれば最終行動はわかる筈なので。
また他のスレのネタは知ってる人はニヤリ、あ、このネタ上手いなーくらいにしておきましょう。
能力に関してグレーゾーンな話を書く際には
『葉鍵鬼ごっこ議論・感想板』 へどうぞ
>
ttp://jbbs.shitaraba.com/game/5200/ 後記
ソロ活動で忘れられ気味なキャラを除いて各チームが良い具合に絡まってるような。
とまあ、そんな風に歌なんか口ずさみながら歩いていた折だ。
『えう〜……すみませ〜ん』
ん?
『そこの井上●水さん……聞こえますか?』
何だ? 誰かが私を呼んでいる?
『あのぉ〜……』
何処だ? 何処から聞こえる?
『こっちです……』
……下?
「なるほど、姉妹喧嘩の果てに穴に落とされた、と……」
「そうなるんでしょうか……」
助けを求める声を引き上げてみれば、昨日ヘタレ男と行動を共にしていた少女だった。まぁ、今は私と同じ鬼になってるわけだが。
「そうか。では強く生きろ。さらばだ」
「って、ちょ、ちょっと待ってください!」
……用が済んだので立ち去ろうとしが、栞と名乗った少女はがっしと私の裾を掴む。
「まだ何か用があるのか?」
「私、お腹が空いてるんです」
「だからどうした」
「目の前にお腹を空かせた病弱で薄幸の美少女が倒れているんですよ? 何かやるべきことや言うべきことはありませんか?」
「ない」
再度立ち去る。
「ああすいませんごめんなさい私が悪かったです! お願いですから助けてください! 私一人ではどうしようもないんですっ!」
「最初から素直にそう言え。私もちょうど屋台へ行くところだ。そこまででいいのなら、付いてこい」
「あ、ありがとうございますっ、ディーさん♪」
……私が肯定の意を示すと、うって変わって笑顔になり、そそくさと私の傘に入ってきた。
やれやれ……これはまた。私は面倒な拾い物をしてしまったのだろうか?
【ディー 栞を穴から助け出す。引き続き屋台を探す】
【栞 願いが叶う(『神様』が助けてくれた)。とりあえず屋台までは行動を共に】
【時間:3日目朝 場所:森】
凄まじいタイミングで投下してしまったな。
栞キモイ
120 :
団欒:03/04/06 00:45 ID:JypNsEtZ
「あの、瑠璃子さん」
「なに? 美汐ちゃん」
「さっきから、何をしているんですか?」
美汐は瑠璃子に尋ねる。上半身を鐘楼の窓から外へ出し、そのままの態勢でじっとすることそろそろ三十分。
奇妙なことには比較的耐性のある美汐でも、遠慮しいな彼女でも、好奇心を押さえているのには限界がある。
「電波を集めているんだよ。家の中より、外のほうが良く届くでしょう?」
「そうですか……」
美汐には、いまいち良く分からない電波というもの。人間、感覚的に理解できないものは、言葉でいくら説明されても、理解しにくいもの。
しかも、もともと空気のように捕らえどころのない、瑠璃子の説明で……分かれと言うほうが、酷というものだろう。
「ねぇ、美汐ちゃん」
突然、瑠璃子が言った。美汐は落ち着いてそれに答える。
「なんですか?」
「お腹すいたね」
「……そうですね」
予想外の言葉に、ちょっと沈黙した後軽く笑って答える。
「真琴ちゃんや葵ちゃん、大丈夫かな」
「大丈夫ですよ、きっと。そのうち戻ってきますから」
「電波、届かないよ」
そんな会話をしながら、二人は仲間たちを待っている。
もう日も暮れる。鐘楼の窓から見える夕日は、はかなくも美しい。
窓から身を乗り出している瑠璃子の姿、沈みゆく夕日に重なり合い、美しく輝いている。
ちょっと、かないませんね、と美汐は思った。
121 :
団欒:03/04/06 00:46 ID:JypNsEtZ
夕方の電波を集め終わった瑠璃子が屋内に戻って、十分くらい経った。既に、日は残光を地平線に残すのみとなっている。
突然、下から声がした。
美汐にとっては、絶対に忘れられないその声。
「真琴っ?」
窓から顔を出し、下を覗き降ろす。図らずも、先ほどまでの瑠璃子と似たような体勢になる。
そのことには気付かず美汐、見つけた相手は、
べちゃ
山桃をひとつ、見事、美汐の顔にぶつけてくれた。
「ごめんっ、ごめんねっ、美汐っ」
礼拝堂に降りてきた二人、平謝りに謝る真琴。美汐の顔には山桃の残骸。あちこちにこびりついたまま。
「まさかぶつかるとは思わなかったのっ。本当だからねっ」
「もういいですよ、真琴。それより、良くこれだけいっぱい食べ物を見つけられましたね」
やさしく頭を撫でる美汐。山桃が少し苦笑を誘うが、それでも心温まる光景。
「うん。やさしいおばさんに手伝ってもらったの」
「そうですか。ちゃんとお礼は言いましたか?」
「もちろん!」
まるで、母親と子供のような会話。しかしそれが、二人にとっては日常のこと。
「後は、葵さんですね。戻ってきたら、夕食にしましょう」
「うん。お腹すいたよ」
「ごめんね。森の中で、道に迷っちゃって」
「いいですよ。仕方ありませんから」
重厚な音を立てて、扉が開いた。一瞬はっとする三人。が、すぐに相好を崩して、
「お帰り、葵ちゃん」
瑠璃子が、先頭切って言った。
122 :
団欒:03/04/06 00:46 ID:JypNsEtZ
「お兄ちゃんが、ひどいことしたんだね。ごめんね」
「もう大丈夫ですから。それに……お兄さんも、反省していると思います」
「うー、そんな悪い奴、真琴が仕返ししてやるんだからっ」
「くすくす……やりすぎてはだめですよ、真琴」
団欒。その一言。鬼ごっこ会場とは思えない、穏やかな団欒。
真琴と葵が持って帰って来た、たっぷりの食べ物で、腹を満たす四人。瑠璃子の足首には湿布が張られている。
穏やかな空気が、教会を包んでいた……
【真琴、葵 教会に帰還】
【日暮れ直後】
【ただいま、礼拝堂で夕食中】
ディーである。前々から思っていたが、この島は一体どうなっているのだろうか?
そこら中に罠らしきものが仕掛けてあって、たかが森ひとつ抜けるのだけで
とんでもない騒ぎだった。
閃光弾にワイヤートラップ、唐辛子噴射に落とし穴、この辺はまあゲームの趣旨を
考えれば納得もいくが、ピコピコハンマーまであったのには流石に閉口した。
まあ、最近ゲームを忘れつつある私が言っても説得力はないが。
ようやく屋台で目的のブツをゲットした時には大分時間が過ぎてしまった。
あまりのんびりもしていられないので、すぐに元来た道を戻る。
やや小腹が減ったので途中で助けた小娘から礼として貰い受けた激辛セット
からキムチをつまむ。ほどよい辛さで美味。何故あの小娘はこの程度の辛さ
のモノが食えないのだろう?…って、その小娘はどうした!?
っと、先程唐辛子噴射を食らった辺りに人がのた打ち回ったような跡を発見。
そしてその先には落とし穴。また落とし穴に落ちやがりましたか。
声をかけても返事がない。というか底が見えない。
試しに小石を穴に投げるが、落ちた音がしない。とんでもなく深そうだ。
これはもう空を飛べない限り救出は不能だろう。今の私では無理だ。
待たせている者達もいるし、多少心苦しいが見捨てることにしよう。
まあ、一度は助けてやったのだし、あとは自己責任だろう。
栞が落ちた落とし穴は主催者が用意した地下ダンジョン用の穴であったが、
激辛で弱っていたところに落下のショックで完全に気を失っていた。
落下地点のふわふわクッションのおかげでダメージは無く、結果的に雨も
凌げるし、食事も辛さに耐えて多少摂ったおかげで当分飢えないだろう
ことは不幸中の幸いであるかもしれない。
【ディー 買い物成功 待ち人のもとへ 栞ロスト】
【栞 隠しダンジョンへ 気絶】
朝一番、というか夜が明けたかどうかというころ、あゆは雨が降り始めたの中去っていった。
この灯台で待っていれば自ら探さずとも逃げ手のほうから雨宿りに来ることもあるだろうから
待ち伏せにはもってこいなのだが、俺達と同じ場所で待ち伏せしても俺達に簡単に妨害され、
獲物にありつくのは難しいと判断してのことらしい。あゆあゆのくせに賢明な判断だ。
……単にたいやきのために屋台探してる可能性の方が高い気がするのは気のせいだろうか?
ともかくあゆを見送ったあと、俺達は今後の方針について話し合っていたのだが…
ゴトン! 「きゃあああぁぁ!」
なにやら不穏な物音と女の悲鳴が聞こえたので俺達は急いで音のした方、入り口に向かった。
すると現場では、以前天沢と同じ能力の男とのバトル中に消えていた香里似の女が宙吊りに
されていた。とりあえず香里2号…は由依の姉の名だからプロトタイプ香里と命名するが、
ともかく彼女が罠にひっかかってこちらに助けを求めてきた。
鬼の襷が見えていないのか、それともそれはもう諦めて今の状態から助かりたいのか。
まずは天沢にタッチさせて襷をかける。
それにしても、こんなところにまで罠があったのか。香里からは北川が
罠メーカーらしいことを聞いていたが、1チームでこれだけの罠が作れる
ものなのだろうか?他にも罠師がいるのだろうか?
「もうタッチは済んだんだし、早く助けてよ!」
言うPT香里に待ったをかける俺。
「助ける理由はない。解放すれば俺達のライバルを増やすだけだからな。
このまま放置っていうのは可哀想だが、タダというわけにはいかないな。」
タッチ後すぐに救出に入った天沢は『タダで』という辺りに俺の意図を読んだのか、
すぐに従う。舞は俺の意見に無条件に従う。由依もそれにならう。
こう見えても俺は名雪から極悪人の称号を得た漢。そして恐らくPT香里は
PT名雪の言う"親友の雪ちゃん"であろう。PT名雪の言っていた"雪ちゃん"
の印象と酷似している。だとすればこのPT香里も極悪人の称号を持つモノ。
ここは極悪人対決といこうではないか。
「何が望みなのよ?」
PT香里も俺に従うしかないらしく、解放の条件を問う。
まずは情報だ。この島にはまだ俺達の知らない情報や秘密も多いだろう。
特に、明らかにサバイバル能力の無い彼女が一人で今までどうやって
食いつないできたのか、それが分かれば絶好の待ち伏せポイントになる。
また、彼女の知り合いでカモになりそうな面子の情報があれば発見時に
積極的に狙いにいける。
あとは何か役に立つアイテムや食料があれば少し貰い受けよう。
さて、PT香里からどこまで引き出せるか。
【雪見 鬼になる 罠脱出のため祐一と交渉】
【郁未 雪見ゲット】
【祐一 極悪人モードで雪見と交渉】
夜中よりぽつぽつと降り出した雨。
鳥獣の声も無く、宵闇との間で辺りに生まれた束の間の静謐。
しかし、やがて夜は明ける。厚い雲ははれなくとも空に下りた夜の帳は開けつつあった。
森を包む湿った空気、木々の生の匂いがあたりに充満している。
少女は髪を掻き揚げた。
肌に貼りつく髪がなんとも不快だ。
「……初音?」
その少女―――柏木楓は、極めて不快だった。
湿り気を帯びた髪が、ではない。
濡れて透けつつある制服が、でもない。
想い人と別れ、雨にぬれ、森をさまよい、ようやく見つけた妹。
しかし、今その妹はあの襷をかけ二人の鬼と共に自分を囲んでいるのだから。
「か、楓お姉ちゃん、ごめん、ごめんねっ。これも鬼ごっこだから……」
申し訳なさそうに声を震わせる、初音。
ただの鬼ごっこなのにも関わらず、相手に謝ってしまうあたり彼女らしいといえば彼女らしかった。
しかし、
「ふ、ふふふ。……そう。そういうつもりなのね、リネット。……」
彼女の姉―――柏木楓は残念ながらそうはとらなかったようだ。
「「…………リネット?」」
思わず声をハモらせる、二人の鬼――――智子と好恵。
「……前世でわたしの後釜におさまっただけじゃ飽き足らず、現世でわたしを亡き者にして……再び次郎衛門の妻の座に就こうだなんて……」
「前世?」
「次郎衛門の妻?」
聞きなれない、というよりはこの状況下であまりに場違いな単語を発する少女に当惑する二人。
このあたりの事情を知らない彼女達の眼には、なにやらアヤシイ電波を受信している人にしか映らない。
問い掛けるような視線を妹である初音に向ける――――が、
「え? え? え?」
哀しいかな、当の初音もわかっていなかった。その、置かれている状況が。
耕一がダリエリを知っている以上、誰のシナリオで進行してきたのか……ここでは深くは触れない。
SSはその辺、フレキシブルである。
……ともかくこれまでの疲労と孤独、せっかく耕一と再開しておきながら泣く泣く妹探しを優先させたにも関わらず、
初音のこの仕打ち。楓の精神状態もなかなかいい具合にできあがってきていた。
「……ふふふふふふ。リネット。あなたには悪いけれど、あんな不覚はもうとらない。エルクゥと人と間の不和も、今は遠い昔の話……。
二人を燃え上がらせる障害はないけれど、後は微睡みの平穏と甘い蜜月が残るだけ」
一瞬浮かべた恍惚とした表情に淫靡な雰囲気を漂わせたが、次の瞬間には少女の纏ったのは凄惨な殺気。
端正な顔に似合わない濁った眼、黒い髪に凹凸の少ない身体は、某長女を連想させた。
ここで『……あなたを、殺します』などといいだしても違和感無いだろう。
「あ、あ、……」
「え、う……」
「か、楓お姉ちゃん……」
目の前の少女のあまりの変貌と放たれる殺気に、刺し貫かれたかのように全身を硬直させる三人。
彼らは鬼なのだが、悪いことに相手は『鬼』だった。
鬼は動けず、『鬼』は動かない。
誰が追い詰め、追い詰められているのか。
強まりつつある雨の中、四人の間の均衡は危ういバランスの上で成り立っていた。
―――ちなみ一度も登場しなかった先輩は、
「……カレーの罠だなんて、極悪人だよ……」
と他の三人の直面している問題とは別次元の問題にぶつかっていたりする。
いい加減、学習してください。
【楓 初音・智子・好恵に囲まれ、ピンチ(?)】
【みさき カレートラップにまたもやひっかかる】
【時間 三日目早朝のちょっと前】
【雨はまだ小雨】
>>124-125にNG提案。
『自分の望まぬ展開を叩き潰しただけの作品』
では賛否両論どうぞ。
まあNGにしたい気持はわかるが矛盾は無いし。
ギリギリセーフなんじゃないの?
うーむ。俺もあのやり方はかなりどうかと思ったが、
まだ話的にフォローが効く状態なので、NGにしたらいけないと思う。
愛する人を殺されたからといって、その相手を殺そうとするのはいいのか、
みたいなことでは?これって。
それに、議論スレのほうには、ダンジョン編やる気ある人いるみたいだし。
そう。矛盾はない。よってNGには反対。
だからといって、この手のひっくり返し方は非常に醜い。
>>124-125作者には大いに反省してもらいたいものだ。
しかし、見てて萎えるんだよな。ここまですぐに、しかもあからさまだと。
できれば改訂してほしい。同じ別れさせるにしてももっと自然な方法がいくらでもあるだろう。
本来の目的が「屋台までの同行」であるわけだし。
>136
同意。何が困ってしまうって、みんなSSを書く際は多かれ少なかれ
読む人に楽しんでもらおうとして書いていると思うんだけど。
>124−125にはそれが一切ない。ただ事務的に栞をDと引き離しただけ。
あれが、話として面白かったら、議論スレとかでも
あそこまで文句は出なかったと思うんだけど。
…まあ本人は「いけない!このままではまた栞問題で荒れる!」って
危機感にかられて、速攻で話を修正しようとしたのかもしれないけど。
>>134 >愛する人を殺されたからといって、その相手を殺そうとするのはいいのか
いや、違うな。このNGは『愛する人を殺された』歴史を抹消する行為だ。
相手を殺そうとするのは、この後『無茶な方法で栞とDが再会する』展開だろう。
そうなったら俺としてはいっそ
>>113からNGにしちまえとか思うがな。
仮定の話をしても仕方がないんだが。
というか私的には栞がDと行動を供にして毒気を抜かれる展開を期待していたんだがな。
「ふはははは!俺達はよくやった!」
「この島全土が既にオレ達の罠で埋め尽くされているぞ!」
いい感じに酔ってきた地雷原ズは自画自賛を始めた。
確かによくやっている、というか超シナリオも真っ青の仕事量だ。
「…いや、待て!まだやり残した場所があったぞ北川!」
「馬鹿を言うな同士。現にこのホテルで最g…って、ホテルといえば地下!」
思い当たった瞬間急遽酔いが覚める。
「ああ、速攻で脱出してしまってすっかり忘れていたぞ!」
「ぬぅぅ!この北川、一生の不覚!」
「そうと分かれば!」
「早速特攻だ!」
そして1階の自分たちの空けた穴へ……たどり着けない。穴が消えていた。
「どういうことだ北川?」
「オレにも分からん。しかし元からあった罠があった筈だ。そこから行くぞ!」
そして罠に特攻。地下ダンジョンに突入する。
「ふむ、多少疑問が残るが早速行動開始だ。っていうか人がいるぞ?」
「む?あれは運営側のロボット?」
「美坂栞様、ここでの鬼の待機は禁止されています。起きてください。」
ペチペチと栞の頬を叩きながら懸命に起こそうとするHM-13。
「美坂?なあ、北川、もしかしてあれ…」
「ああ、栞ちゃんだな。鬼になったのか。ちゃんと美坂が捕まえたのだろうか?」
そんな事を言い合っているうちにHM-13が2人の存在に気が付く。
「住井様に北川様ですね。隠しエリア『超ダンジョン』にようこそ。
ここは特殊なエリアですので説明をさせていただきますがよろしいですか?」
「超ダンジョン?説明?俺達がさっき来たときはそんな話無かったぞ?」
「先程いらっしゃった時は説明に駆けつける間もなく脱出されましたので。
実はあのような手段で脱出されなくとも、棄権ルートは用意してあったのですが」
「まあいい、とりあえず説明を聞こうか。」
「このエリアは特殊能力所持者の方々が能力をフルに発揮できるように設計されています。
このエリアでは特殊なフィールドにより、プレイヤーは完全に保護されます。
一例を挙げますと、本来致死ダメージであるような攻撃を受けても一切ダメージが無く、
かわりにダメージに相当する分吹き飛ばされます。また、爆破などを受けても一時的に
髪が縮れる程度で済みます。分かりやすく言うと『ここにいる間だけギャグ体質』になります。
ですので能力者の方も反則や相手への障害を気にすることなく能力を発揮できます。
例えば、ここまで落下する衝撃は通常は十分即死ダメージですが、これも特殊フィールドの
効果で全くの無事なのです。ここで気絶している美坂栞様も落下中に気絶してしまったので
あり、落下の衝撃で気絶しているのではありません。」
「なるほど、なら今まで設置できなかった致死トラップとかもアリ?」
「問題ございません。ダメージになりませんので捕獲トラップと比較して、
使用する価値があるとは思えませんが。」
「なるほど分かった。ところでさ、栞ちゃん…そこの女の子のことなんだけど、
話聞きたいから連れて行っていい?」
「むしろそうしていただけると助かります。この入り口は複数の隠し通路
(落とし穴に近いものばかりですが)から繋がっているため、鬼の待機は
禁止されているエリアですので、気絶して目を覚まさない事に困っていました。」
「つーか北川、何故気絶してる女の子なんか連れていくんだ?」
「美坂とは会ったかとか、誰に捕まったのかとか聞いておきたくてな。ともかく行くぞ。」
「お待ち下さい。最後に一つだけ。このエリアから離脱される場合は脱出用の魔方陣を
ご利用下さい。エリア内の各所に設置されております。脱出後の場所はランダムですが、
パーティー単位で移動されたい場合は手を繋ぐなどしてご利用されますと、
同一地点に出れます。ご自身で穴を開けて離脱されるのはどうかご遠慮下さい。」
「「あ、ああ。分かった。」」
こうして地雷原ズ+αは最後の開拓地を求めて超ダンジョンに突入した。
【地雷原ズ 超ダンジョン突入】
【栞 まだ気絶中 北川に背負われる】
【超ダンジョン 一切の対人ダメージ等無効】
【超ダンジョンへの入口は 建物の隠し通路、落とし穴等多数】
【超ダンジョンインフォメーションは数箇所
これより前の時間軸で突入した場合別の入口から入ったということで】
144 :
超心理戦:03/04/06 06:50 ID:0TLA42SR
交渉において大切なのは「心を読まれてはいけない」こと。
そして、弱みも握られたら失敗である。
ここでの弱みは…「郁未は無条件であっても助ける気でいる」ことだな。
そして、高望みしていればある程度譲歩しても情報はたくさん聞ける。
まぁ、こっちが優位にたっていれば…だが。
「食料の提供。お前の知っているゲームの情報。出合った人の情報。サバイバル能力のないお前がどうやって過ごしたか。
カモになりそうな知り合い。この辺りを提供してくれるとありがたいんだが。」
思い付く限りの情報とアイテムを上げてみる。
武器は持っていないので、言わなかったが。
「………」
PT香里は考えていた。
おそらく、PT名雪の言うとおりの極悪人ならばこのまま素直にOKはしないだろう。
さて…相手はどう来る?
相手は首を横に振った。
「交渉不成立…か」
不味いな。
こちらの弱みに気付いたんじゃないだろうか。
由依も郁未(会話してるときにこう呼んでいいと言われた。)も舞も心配そうな眼でPT香里を見ている。
気付かれる要素はある。
「なら…お前はどこまで提供できるんだ?」
相手に任せる。
交渉においてやってはいけないことだろう。
主導権を相手に渡すのは不利だからな。
予想通り相手は動揺している。
「じゃぁ…食料のみでどう?」
…こうなったら…。
145 :
超心理戦:03/04/06 06:51 ID:0TLA42SR
「いいだろう。それでいいぞ」
「!?」
かなり、動揺している。
「郁未、俺が助けておくから先に行っておいてくれ。もう誰も来ないだろうし」
「分かったわ」
「さて…お前を助けるやつは俺だけだが。条件どうする?」
こちらの弱みをなくす。
そうすれば、相手に希望はない。
「…仕方ないわね、さっきの条件でいいわ」
「ちなみに、情報がさきだぞ」
PT香里は知ってることを全て話し、俺はPT香里を解放した。
【雪見 知ってる限りの情報を話す。食料を少し分ける。開放される】
【祐一 心理戦勝利。情報ゲット。食料ゲット】
【郁未・由依・舞 灯台入り口】
146 :
悪謀?:03/04/06 12:43 ID:JypNsEtZ
「ま、こんなものですか、ね」
長瀬源之助。職業、骨董修繕師。そしてその実態は、グエンディーナの王族にして、優秀な魔法使い。
鶴来屋別館の、地下隠しダンジョン――超ダンジョン。そこに張られた、ダメージ緩和結界と脱出用魔方陣の数々。
そのすべては、彼の手になるものである。
源之助は今、先ほどの北&住による、壁面破壊・強行突破が、結界に変な影響を与えていないか、を調べて回っている。
調査の結果は、白。自身の成した仕事に満足する。
「それでは、戻るとしますか」
手近な魔方陣に入り、短く呪を唱える。普通に飛びこんだ場合はランダム移動のこの魔方陣を、制御するための呪だ。
すっと、源之助の姿は消えた。
「……い、いま、人が消えませんでしたかぁ?」
「何も見ていない、何も見ていないぞ! 見間違いだ見間違い!」
その光景を見ていた二人。懐中電灯を手に、鍾乳洞を探索していた、マルチ&クーヤである。
「でっ、でも、確かに」
「うるさい! それより、早く出口を探すぞ!」
鍾乳洞の底にあった扉。開けてみれば人工の迷宮。
「大体、おまえが帰り道を見失うから」
「クーヤさんこそ、ちゃんと覚えていてくださいよぉ」
「そういうことは付き人の役目だろう」
「わたし、付き人になった覚えなんてないですよぉ……」
などと言い合いながら、二人はダンジョンの奥へと進んでいった。
「参加者を確認……説明行動に移ります」
そして、最寄の位置に待機していたHM−12が、その二人を感知して追いかけ始める。
147 :
悪謀?:03/04/06 12:44 ID:JypNsEtZ
「ふぅ、井戸の中も、あっさりと見つかってしまいましたね」
チキナロが、迷宮の中をてろてろ歩いている。どうも調子が悪い。こんなにあっさりと見つかって良いはずがない。
「もう九万円ですからね。いやいやどうも」
次はどこに隠れましょうかねぇ……と考えつつ、歩いていく。
井戸の底入り口から、ダンジョンに入った彼。源之助から制御用の呪を教えてもらっているため、ここの魔方陣からなら、どこでも好きなところに移動することができる。
神出鬼没の種が、これだ。
さって。さって。次はどこに隠れましょうかねぇ。ああ、しばらくこの中で時間をつぶすのもありかもしれませんね。あんまり私が見つかってしまうと、安定が崩れてしまうかもしれませんからねぇ。
【夜】
【マルチ&クーヤ、ダンジョンに突入】
148 :
悪謀?:03/04/06 12:45 ID:JypNsEtZ
「源之助さん源之助さん、ちょっと」
「はいはい。何でしょうか足立さん」
管理者待機室に戻ってきた源之助を、足立が呼びつける。
「あの……ダンジョンの件なのですが」
「はい」
「あそこに待機させておいたHMシリーズが、私達のプログラムと違った行動をしているようなのですが」
「ほぉ」
「……何かしましたね?」
「はて」
「あのダンジョンはあなたの管轄でしょう。何かしたとするなら、あなたしかいませんからね」
「私は何も知りませんがねぇ」
しばし問い詰められるが、柳に風と受け流す。やがて、大きくため息をついて、足立。
「……とにかく。あのダンジョンは、もともとルール違反に対するペナルティ用として企画されたところ。あまり、変な仕掛けはしないでくださいよ」
「はいはい」
言い残して、不満そうではあるが、去っていく。
「……それじゃぁつまらないじゃないですか。ね、そうでしょう? 皆さん」
源之助はひとりごちる。
「せっかく作ったのに、使われないまま終わるなんて、悲しすぎますよ。一箇所くらい、全力を出しまくって暴れられる所があっても、いいじゃないですか。ね?」
せっかくこっそりと、あちこちに出入り口を作ったり、あの神社にちょっとした細工をしたんですから、ね。苦労したんですよ? 千鶴さんの目をごまかしながら作るのは……
チキナロさんに見つかったときは、どうなるかと思いましたが、わたしと同じのりの人で良かったです。
さて、みなさん。思う存分、暴れまわってください。久しぶりに、面白そうなイベントなんですからね。
おや、来ましたね。ごめんなさいねリアンさん。なるべく大勢を集めておきたいので……
探索魔法に介入させてもらいましたが、悪く思わないでくださいね。
【超ダンジョンは源之助が勝手に作ったもの】
【ダンジョン内での出来事は、源之助にしか知らされないようになっていたりする】
【リアン&エリア ダンジョン入り口に到達 夜】
――森の小道にて…
……歩く二人は、無口だった。
元々、無口な二人では無い。弁が立つ訳でも無いが、陰気な人柄でも無く、普段ならざっくばらんな雰囲気で会話を
していたであろう。
…あの事件さえなければ――
「……もうすぐ朝なのに、空が暗い…。一雨来るかもね…」
「……そう…ですね」
「………」
「………」
「…(溜息) …余り、自分を責めない方がいいよ? そのー…何て言うか、“トドメ”刺したのは寧ろ私だし…」
「…大丈夫。大丈夫…ですよ」
とぼとぼといった歩調で歩くのは、結花と梓の二人組であった。
あの事件――かおりの暴走と、それに関わる一騒動以来、二人の…特に梓の表情が冴えない。食欲も減退している
様だし、考え込んで思い詰めてもいる様子だし…
こんな状態で鬼に――それも、所謂“戦闘力の高い”鬼に狙われたら、逃げ切れないだろう。例の騒ぎで鬼を招いて
しまう可能性があった為、あの小屋からは離れざるを得なくなったし、その所為で体力も余り回復出来ていない。
結花は悩んだ。これは、チームのピンチである。梓には立ち直って貰わなければ、最悪、共倒れにもなりかねない。
「…(うーん…、とは言っても……ホットケーキ食べて立ち直る様なタイプでもないしなぁ…)」
どう励まして立ち直らせようかと、結花が考えていると――
「――私も悪いのかなぁ…って」
「え? え? な、何が?」
「かおりに…、あいつの気持ちに、何時までも逃げてばっかりで応えないあたしが悪いのかも…」
独白するかの様に、梓が言葉を紡ぐ。
「…いや、あの勢いで来られたら、誰でも逃げたくもなるって……。オノ持ってたし」
「そう…ですね。はは…、ははは…。………―――――っ!」
――と、突然、梓は頭を抱え込み、そのまま髪の毛をグシャグシャグシャ!…と掻き回した。
「な、何!? どしたの!?」
「やめたやめたやめた! 考え込むのはもーやめた! 性に合わないしあたしのキャラでもない気がする!」
「おおっ!?」
「あいつにも…かおりにも、ちゃんと言おう! トモダチ! あいつはトモダチであり、後輩! それだけ! 以上!」
立ち上るオーラと共に、梓の気迫が蘇って行く。引っ掻き回した所為で頭はボッサボサだったが、そんな事は構わない。
外野がとやかく言って立ち直る様なタイプでは無いのかも知れない――梓は。とにかくこれで――
「…(立ち直った…、立ち直ったのね…!)」
「ごめん、結花さん! なんか今迄辛気臭くなってて! もー何やってたんだろ、あたしは!
はんかくさいっ、はんかくさいっ!」
「はんかくさいって…どこの言葉よ、それ…?」
「結花さん! あたし達が狙うは、優勝これあるのみ!」
びしぃっ!――と、結花を指差し燃え上がる梓。今迄の鬱憤を晴らすかの様に、今度は逆に妙にハイテンションに
なっているらしい。
「ま、まぁ…、立ち直ったみたいなんで、良しとしとこうかな…」
「フフフフ…、見てろよちづ姉…、あたしは逃げ切ってやる…!」
『――私も、お手伝いさせて下さいっ♪』
突然、梓と結花のどちらでもない声が響く。
「誰…!?」
「…って言うか、その声は…」
「わたっしでっす♪」
気の陰からぴょこっと頭を出したのは、あの、かおりであった。
「かおり…!? あんた…」
驚く二人の前に、かおりが、申し訳なさそうな自嘲する様な表情を浮かべ、歩いて来る。
そして――
「御免なさい!」
深々と、頭を下げて見せた。
「かおり…」
「私、どうかしてました! 先輩に私の気持ちを押し付ける様な事ばかりしてて、その所為で迷惑掛けて、
結花さんにまで迷惑掛けて…! 御免なさい! 本当に御免なさい!」
…どうやら、本気で反省しているらしい。梓と結花は、互いの顔を見合わせ、苦笑した。
「いや、いいんだよ、別に…。もう、済んだ事だし」
「そうね。その…、私が蹴っちゃった所、大丈夫? もう走ったりも出来るの?」
「はいっ。もう元気バリバリです♪ ご飯も食べさせて貰いましたし…、プラス、お説教もたっぷりと」
てへへ…と笑うかおりに、他の二人も笑いあった。
「――っていう事は、ゲーム復帰って事か?」
「はいっ。先輩と一緒に♪」
「え゛? い、一緒?」
かおりの言葉に、先程あれだけハイになっていた梓のテンション・オーラが、急激にブルーへ変わってゆく。
「あ、もう前みたいには迫ったりしませんよ? 冷静になって考えてみたら、あれは誰だって逃げたくなりますよね…。
――オノ持ってたし」
そう言って、顔を翳らせるかおり。
「…い、いや、だから、もう終った事だから…」
「――じゃあ、私も一緒に居ても、良いですよね!?」
「う゛……」
ここへ来てたじろぐ梓に、結花が軽く肘打ちした。
「深く考えない。トモダチであり、後輩である――それだけなんでしょ?」
「――そ、そうだった…。よ、よし…――かおり? ヘンな事はもう無しだからな?」
「はいっ♪」
「あんたはあたしの後輩であり、トモダチ。それだけ。OK?」
「はいっ♪ トモダチから――ですね!」
「………“から”ってなんだ“から”って…」
…三人のやりとりを離れた所から見ている者がいた。監視スタッフのHM−13である。
「――日吉かおり様のゲーム復帰を確認致しました」
『了解♪ 彼女を梓さん達の所まで案内してくれて、有難うね』
「いえ。――只、よろしいのでしょうか?」
『? 何がですか?』
「また前回の様な事が起こる可能性も捨て切れませんが」
『大丈夫ですよ。あの時の彼女は、空腹と、梓さんに遭えない焦燥感や不安で、正常な判断が出来なくなって
いただけです。今は見える所に居ますし、前回の様な事は起きないでしょう。また同じ様な事を繰り返したら
即刻退場になるとも伝えておきましたしね。
――離しておくよりも、傍に置いておく方が、安全な場合もあるんですよ♪』
「…解りました。――これより、監視任務に戻ります」
『ご苦労様。貴女達も、頑張ってね♪」
「――了解…」
【日吉かおり ゲームに復帰…⇒梓・結花チームと合流】
【森 三日目早朝(雨がそろそろ降り出す頃)】
(SHIT!ナメられてる!)
リサは正直鬱入っていた。御堂とのチェイスの場を林から市街地に変えた
のだが、これがいけなかった。
対千鶴戦でやったようにそこら中に仕掛けてある罠を使って御堂を撃退
しようとしたのだが、肝心の罠が読みきれなくて自身も何度かひっかかって
しまっているのだ。
実際には8割以上の罠を見切って回避しているのだが、それでも一流エージェント
たるリサには罠にかかったというショックは大きい。しかもかかった罠が、
金ダライ、ハリセン等の有効性のないものばかりなのが余計癪に障る。
そう、ナメられているとは、鬼に対してではなく罠設置者に対してである。
まるでセオリーを無視した設置のしかたなのだが、精度自体は完璧に近い。
しかも時折冗談のような罠が混ざっている。いくらなんでもわけが分からない。
この一帯が千鶴のときと違って北川作後期型トラップだというのもあるだろう。
御堂が善戦していて罠だけに集中できないのもあるだろう。しかし一流たるため
にはそれらは言い訳にはならない。
御堂の方も同じくらい、あるいはそれ以上に罠にかかっているので戦況的には
決して悪くなっていないのだが、リサも人の子、精神的には追い詰められていた。
そこでリサは罠で撃退する作戦から、建物を利用してやりすごす作戦に転向した。
御堂もそれに続く。…が、いざ建物に入ってみると誰もいない。
「…どうなっているんだ?」
警戒しながら建物に侵入する。屋内戦は願ったりだ。外に出た形跡が無い以上、
どこかに隠れている筈なのだが、どこにもいなく、あるのは罠ばかり。
こう罠がぎっしりだと隠れる場所もない筈なのだが。と、突然視界が反転する。
(おぉっと!テレポーター!)
そんな声が聞こえた気がした。
(シャレが効いているが今までの罠とは毛色が違う。別の設置者の罠か?)
などと無駄に冷静に考える御堂。
そして気が付くと洞窟の中にいた。
「御堂様ですね。隠しステージ『超ダンジョン』にようこそ。」
説明を受ける御堂。
(ヤツはここに入ったのか、それとも入らなかったのか…どっちだ?)
自問する御堂。全力で戦えるなら自分のほうが有利だからリサがここに
突入するとは思えないが、そろそろ雨が降りそうなのでそれが致命傷に
なりかねない以上、外に出るのはできれば避けたい。
ちなみにリサは超ダンジョンに突入していた。意表を突くという意味もあるが、
雨で体力を奪われることを警戒しての判断だった。
【リサ 超ダンジョンへ突入】
【御堂 超ダンジョン入り口 どうするか思案中】
題名は
「おぉっと!テレポーター!」
でよろ。
麗子とダリエリは暗い森を歩いていた。
途中で幾人の人とすれ違ったのだが、不思議のことに誰も二人には気が付かない。
まるで夜の闇が二人を覆うベールになったかのように……
「──楽しみね、どんな素敵な所にエスコートしてくれるのかしら?」
麗子はこの夜のデートに期待に胸を膨らませて……フフフッと笑った。
「軽口を叩くな、人在らざるモノよ…見えてきたぞ、ここだ」
ダリエリは麗子の余裕の態度など全く意に返さず、目的地のホテルの前にある穴の中に入っていった。
「やっぱりココを選んだのね、勝負の方法は?」
「──無論、どちらかが死ぬまで……と言いたいところだが、そうもいくまい。
貴様が俺に触れたら貴様の勝ち、貴様が俺を追えなくなったら俺の勝ちだ」
「あら、随分とあなたに不利な勝負なのね………
エルクゥの力を信じるあまりの余裕かしら?」
「そうではない、人在らざるモノよ。
お主の力が我を遥かに凌駕していることなど、一目で理解したわ。
お主のようなモノと戦うと思うだけで肌が粟立つ…」
「ふふっ、私を褒めても何も出てこないわよ」
そう言いながら、麗子は指を口の前に当て、小声でぶつぶつと呟きだした。
麗子の指が複雑に動き、見えない光の糸が迷宮を包み込んでいく。
「迷宮の一部に結界を張ったわ……誰にも、このゲームを邪魔されたくないから──」
「俺は別に構わぬ、では始めるとするか──」
人外同士の死闘が幕を開けた。
まず始めに動いたのはダリエリだった。
ダリエリは手近にあった宝箱を担ぎ上げるとブンと麗子に投げつけた。
プロ野球の剛速球以上のスピードで飛んでくる一抱えほどの大きさの宝箱を、麗子は片手で衝撃を完全に止めてキャッチする。
「あなたからのプレゼント、一体何が入っているのかしら」
麗子はそう言って宝箱を開けると、『ハズレ』の紙とともに迷宮にジリリリリィとアラームが響いた。
「これが狙い?結界が張ってあるここには誰も入ってこれないわよ」
麗子は失望した顔でダリエリに向かって歩き出した。
「──そうではない。人が入って来れなくても、こいつらは違うらしいな」
麗子が突然後ろから気配を感じて振り返ると、ゾンビに足首をガッチリと掴まれていた。
(来栖川製のモンスターロボット!?)
迷宮を騒がす不届きモノ、石原麗子に向かって吸血鬼や狼男などのモンスターロボが次々襲い掛かってくる。
(──うかつだったわ、さっきのアラームが呼び寄せたのね)
ダリエリは麗子がモンスターロボに群がられている様を見物していた。
「どうしたどうした!貴様の力はそんなもので終わりか!!」
ダリエリが麗子を挑発する。
「もちろん………違うわ」
麗子に覆い被さっていたモンスターロボが、糸の切れた操り人形のように次々と動かなくなっていく。
「意外と小細工がお好きなのね、狩猟者さん。──でも、もう通じないわよ」
麗子は一瞬の内にモンスターロボの動力部を見抜き、襲ってきたロボを動かなくしていたのだった。
ダリエリはチィと舌打ちすると、通路の奥へと疾走した。
ダリエリは滑るが如くのスピードで、迷宮の通路を駆けていく。
常人では目にも止まらない速度の逃亡者を、麗子は歩いて追いかけた。
「…貴様、バケモノと呼ぶには生温過ぎるな」
ダリエリの全力疾走の後ろを、歩く麗子がどんどんと差を詰めていく。
「ダリエリさん、後ろを振り返る余裕はあるのかしら?」
麗子がそう注意すると、通路を曲がったダリエリの床が抜けた。
迷宮の通路の一部に穴が開き、もくもくと土煙が舞う。
ダリエリが落ちた落とし穴は暗い迷宮内では底が見えないほどの大きく深いものだ。
麗子は穴の前で、罠に掛かった哀れな獲物のダリエリが出てくるのを待った。
「さあ、出てきなさい狩猟者さん。私にその姿を見せて」
待ちくたびれた麗子が落とし穴を覗き込む。
──ウオオオオオオオオオオオォォォッ!!!!!!
鬼の絶叫が迷宮内を震わす。
巨大な鬼が穴の底から飛び上がってくる。
それを見た麗子は自分もエルクゥに向かって飛び掛ると、
「獲った!!」
歓喜の声を震わせ空中で鬼に抱きついた。
「勝ったわ──違う!!」
鬼の肌触りが明らかに生きているソレとは違う。
(エルクゥのモンスターロボット!?)
空中から麗子が穴の底を見下ろすと、ロボを投げつけたダリエリがニヤリと嘲笑った。
麗子は体勢を整えようとするが、エルクゥロボががっちり掴んで動きが取れない。
麗子が落とし穴に落ちたとき、ダリエリはすでに穴から這い出て別の道に逃げていった。
(──第一ラウンドは私の完敗ね、でも…逃がさないわ…ダリエリさん)
【ダリエリ 迷宮内へ、麗子との死闘は第一ラウンド勝利】
【石原麗子 ダリエリにリベンジを誓う】
【深夜 迷宮内 麗子の結界で一般人は近づけない】
「さて……」
昼飯を終えたDは、おもむろにバッグの中から何かを取りだした。
「D? What's that?」
「ああ、これか」
レミィが指し示したのは、Dの手の中に抱えられている巨大な一升瓶だ。
「でぃー、ひるまっからおさけ?」
「馬鹿者、違う。これは霊薬『エリクシール』。まぁ簡単に言えば使用者の魔力を回復する薬だな」
「おくすり……いやぁん」
いきなりDから距離を取るまいか。
「……なんだ?」
「おくすりは、いや」
「……いや、別にお前に飲ませるというわけではない。というか飲ませれるか。高かったんだぞ、これ」
「幾らだったの?」
「一本3万円だ」
「Wow」
「うわっ」
途端、目の色を変える2人。
「さて、それでは一気に……と?」
キュポッと蓋を開け、飲み口を銜えて一気に中身を飲もうとするD。が……
「じー…………………」
「じぃぃぃぃ…………」
……2人の無遠慮な視線がDを刺していた。
「……なんだ、どうした?」
「D……それ、一人で全部飲んじゃうつもり?」
「ずるい。まいかもほしい」
「……お前、さっきお薬は嫌だと……」
「さんまんえんならべつ。おいしそう。まいかものみたい」
「ワタシもちょっと……気になるかな?」
「……はぁ」
頭を抱え大きなため息を一つ吐くと、Dは近くのカップを手に取り、中身の液体を注いだ。
「気を付けろよ。最初は舐める程度にしておけ。合わないヤツが飲んだらあまり体によくない」
「Yeah」
「はーい」
やれやれ……とやや呆れながらも、Dは次のアイテムをバックから取り出した。
「……探知機、か……」
奇妙な形をしたその機械は、Dの手の中でチカチカと点滅を繰り返している。安物ゆえ精度はそんなに高くないが、無いよりはマシであろう。
「……とりあえず、多少なりとも法力を回復せねば、な……」
呟きながら、傍らに置いておいたエリクシールに手を……
「……んぐっ、んぐっ、んぐっ、んぐっ……」
「………………………」
……まいかがラッパ飲みであおっていた。
「ば、ば、ば、馬鹿者! まいか、何をしている!?」
慌てて幼女の手から瓶をもぎ取るD。
「ああん」
「何が『ああん』だ! お前、これ高いんだぞ! 世が世なら七代遊んで暮らせるほどだ!」
「だって、あまくっておいしかったから」
「甘くて美味しければお前なんでも飲むのかッ! ……というかお前、体は大丈夫なのか? 慣れない人間が霊薬の類を飲んだら……」
「ウウ〜ン、D、コレ、かなり強いネ……。さすがのワタシも、結構キツイよ……」
傍らではレミィがひっくり返っていた。カップ一杯以下を飲んだだけで、この有様だ。
「……ああなるはずだ。お前、体は?」
「ううん、べつに。なんともないよ」
……まさか。
「まいか、ちょっとこっちに来い」
「え? え?」
まいかの手を引っ張り、自分の膝に座らせるD。
「ど、どうしたのでぃー?」
「まいか。連想しろ。お前は、好きなところへ行ってもいい。何をしてもいいと言われたらまずはどこへ行く? 何をする?」
「え……? なぁに? どういうこと?」
「ちょっとした想像ゲームだ。質問に答えろ」
「うーん、そうだなぁ……」
ちょっと訝しげに思いつつも、顎に指をあて考える仕草。
「やっぱり……うみかなぁ。おねぇちゃんたちやおともだちみんなといっしょに、うみいってずっとおよいでたい。みんなとあそんでたい」
(海……やはり、水神か)
そう判断するとDは、まいかの両手に自分の手を添え、出口の方向へと向けた。
「ん? どうするの?」
「まいか。お前はいい。何も考えるな。私が手伝う。何も考えず、体の力を抜き、水神(クスカミ)を解放しろ」
「くすかみ?」
「……まぁ何というかな。人は皆、己の中に己だけの神を宿しているのだ。私の場合は大神ウィツァルネミテア(分身)だが、お前たち小さき者は一部の例外を除いて
『火神』(ヒムカミ)『水神』(クスカミ)『風神』(フムカミ)『土神』(テヌカミ)のいずれかだ。そして、各神の間には相性があって……」
「うー……よくわからない。でぃーのいってること、むずかしい」
非難めいた声をまいかが漏らす。一瞬キョトンとした後、思わずDはフッと唇を綻ばせ。
「そうだったな。すまない。ついいつもの教師としての癖が出てしまってな。そうだな。お前にはこんなことは関係のないことだった。では、早速本題に入るとするか」
まいかの手に添えた手に、法力を集中させる。ただし、『Dの』ではなく、『まいかの』なのだが。
「あ……なんか、あったかい……かも……」
確かに。徐々にまいかの手は熱と光を放ち始めた。
「今回は私が手伝う。だが、次からは自分だけでこれを全て行うんだ。今回の感覚を忘れるな。いいな」
「わ、わすれるな……っていわれても……あっ!」
歳に不相応な色っぽい声を漏らす。
「あっ……な、なにかくるよぅ。なにかでるよぅ……」
「恐れるな。初めてだから少し慣れていないだけだ。全てはお前の力、お前の一部なのだからな」
そうこうしている間にもDのレクチャーは止まらない。
「そら、そろそろだぞ。出るぞ。来るぞ。構えておけよ」
頬を上気させ、喘ぐまいか。
「あっ……でちゃうっ! く、くるっ! なんか……なんかくるよぅ! あっ……あっ、あっ、あっ! ……ああんっ!」
一際光りが強くなり、次の瞬間……!
ぱしゃっ。
……まいかの手から放たれた一塊りの水が、出口から雨の降りしきる外へと飛び出していった。
「これが水の術法の基礎だ。もしお前がもっと法力を鍛えたいと望むのならば、覚えておけ……って、どうした、まいか?」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
Dの胸の中で、不規則に胸を上下させているまいか。だいぶ正体を失っている。
「いっぱい……でちゃった……」
音声だけ聞いているヤツがいたら危なかっただろう。
【D一家 雨具をゲット】
【D 6ポイントを換金し、霊薬(まいかに少し飲まれた)と探知機を購入】
【まいか 水の術法(0.1)を覚える。まだまだ弱い】
【レミィ ちょっとグロッキー】
【時間:3日目昼ごろ 場所:D邸宅】
感想スレで指摘があり、Ogre Battle の内容を一部訂正させて頂きます。
>>159 【ダリエリ 迷宮内へ、麗子との死闘は第一ラウンド勝利】
【石原麗子 ダリエリにリベンジを誓う】
【深夜 迷宮内 麗子の結界で一般人は近づけない】
から
【ダリエリ 迷宮内へ、麗子との死闘は第一ラウンド勝利】
【石原麗子 ダリエリにリベンジを誓う。
結界を張るが落とし穴に落ちたショックで外れる。麗子はそれに気付いていない】
【深夜 迷宮内 】
に修正してください。
「あははははっ、水が冷たくて気持ちいいよぉ♪」
「佳乃、岩場は滑るから、足元に気をつけてな」
「大丈夫大丈夫♪ うわっ、今のは結構大きい波だったよぉ、やるねぇ」
霧島姉妹は海岸に来ていた。
赤く沈む夕陽を背景に、波飛沫を避けながら、岩場をぴょんぴょんと跳ねる佳乃。
聖はその様を優しい眼差しで見守りつつ、足を滑らせでもしたら即座に助けに入れるよう、注意を払っていた。
静かだった。
ただ寄せては返す波の音と、家路につく海鳥の声だけが、世界を包んでいる。
奇跡的に鬼の1人とも遭遇せず、ただまったりとリゾートアイランドを楽しむ霧島姉妹。
聖は夕陽を見ながら、ふと、思いだしたように呟く。
「――ポテトも一緒に遊べれば良かったのにな」
追い出したのが自分であることは、すっかり忘れているようで。
「でもポテトが海に入ったら、綿毛が水分を吸い込んで、もこもこ膨らんで大変かもしれないよぉ」
「ふむ、それもそうか」
「だからこれなくてラッキーだったねぇ」
「うむ、まったくだな」
ポテトが聞いたらどう思うやら。
そして佳乃は、陸の不思議生物から海の不思議生物へと興味を移し、
「わわっ、世にも奇妙なナマものがいるよぉ。君を海棲怪獣ナマコング君と命名するねぇ」
と、2センチほどの、うねうねしたナマものをつついている。
聖が後ろから覗き込むと、
「うわっ、墨を吹いたよおっ!」
紫色の煙が、海中に広がった。
「佳乃。それはナマコではない。あめふらしだ」
「あめふらし?」
「うむ。命名するならアメフラッシーとかのほうがいいだろう」
「うんうん、それは素敵な名前だねぇ。よーし、アメフラッシー、その名の通り雨を降らして、世界中を水浸しにしてしまうのだぁ」
佳乃は容赦なくアメフラッシーをつつき回し、きゃらきゃら笑っている。
「そういえば――」
聖は空を見上げた。
「新聞の週間予報では、明日あたりから雨が降ると書いてあったな」
呟いた矢先、空から。
「む?」
人が降ってきた。
「わ、わ。! ちょ、え、なに、わー」ひゅーん「ちょ、ちょ、わっ、ふぁ」どっぱーん
「んぁ」ざぱあっ「ひゃぁ」ばしゃばしゃ「助けて蝉丸ー」
突如空中から現れた少女は、いきなり水の中に放り出されてパニックに陥り、むやみに手を振り回している。
「わわっ、あの子、溺れてるよぉ」
「む、いかん」
現象の奇妙さよりも、医者としての使命感に駆られた聖は白衣を脱ぎ捨て、岩を避けて海に飛び込み、波を掻き始めた。
ふわりと舞った白衣は、佳乃がキャッチする。
「お姉ちゃん頑張れーっ!」
声援を受け、聖のスピードが一段上がる。元よりそれほど離れていたわけでもない。
瞬く間に距離は縮まってゆき、あと、ほんの一掻きというところで……聖は見てしまった。
月代の胸にかかった鬼を示す襷を。
――ちょっと待て、あの子は鬼か? 鬼なのか? この鬼ごっこのルール上、鬼に触れた者はいかな例外を問わず鬼になったはず。
ここで私が鬼になってしまったら、佳乃はどうなる? この孤島で佳乃は1人寂しく亡者共の牙から逃げねばならない。
なのに私はそれを手伝うこともできなくなってしまう。よしんば、私が鬼のまま佳乃と行動を共にするとしても、
ご飯をよそって茶碗を渡す際に、指先が触れ合う偶然を楽しむこともできないし、
テストで八十点取ってきた佳乃を、良し良しと、頭を撫でて褒めてやることもできないではないか!
この鬼ごっこを通じて姉妹の絆を深めつつ、共に勝利を目指し、並み居る鬼共を蹴散らし続け、
最後の2人になったら佳乃に勝者の栄光を譲り、「ありがとうお姉ちゃん、大好きだよぉ♪」
と、感謝されるという私のパーフェクトな計画はどうなってしまうのだ!?
この間わずか0.05秒。
「だが――」
聖は唇を噛んだ。
「だがそれでも、私は医者だっ!」
そして、伸ばした聖の指先が、月代の腕に届こうとした瞬間――2人の間を割って水柱が立ち上る。
「なっ!?」
「ナマコング!?」
違う。
それはそんな怪しげな生物ではなく――そう、人魚だった。
水しぶきを蹴散らしながら飛び上がった人魚は、しっかりとその腕に月代を抱えている。
二本のセンサーを耳に装着した、人魚が。
「……メイドロボ?」
夕陽に似た色をした髪が、波飛沫と陽光を反射して輝いた。
「けほっ、こほっ」
「大丈夫ですか、三井寺様」
海中用オプションレッグ・マーメイドエディションを外したHM−13が、砂浜で月代を介抱する。
「う、うん、ありがと……。おかしいなぁ……泳ぎは得意なんだけど、こほっ」
聖と佳乃はやや距離を取りつつも、心配そうに見守る。
「水を飲んでパニックになると、泳ぎが達者なものでも溺れることがある。気をつけた方がいい。
それと、水は吐けるようなら吐いておいた方がいいぞ」
「はぁい……。あ、あの、さっきはありがとうございました。あと、メイドロボさんも」
「う、うむ――」
ほんの一瞬とは言え、助けるのを迷った聖は気まずく視線を逸らす。
「仕事ですからお気になさらず。
周囲が海である以上、いつ海難事故が発生しないとも限りませんので、常時我々メイドロボレスキュー隊が控えております」
「……ちょっと待て。では私が鬼になる危険を冒してまで、助けに入ることはなかったということか?」
「本部に伺いを立てなければ断言はできませんが、さすがに人命救助した者にまで、タッチルールは適用されないと思われますが」
ぐ、と聖が言葉に詰まる。
――ええい、私の葛藤はなんだったのだっ!
だが、その苛立ちは口に出すわけにはいかない。
「もう平気だろう、私達は行くぞ。鬼と逃げ手なのだからな」
聖は海水のまとわりついた髪を、乱暴に払って水分を飛ばす。
水に濡れた衣服を乾かすには、先ほどまで隠れていた詰め所に戻った方が都合がいいだろう。
「……じゃあねぇ」
名残惜しそうな顔をしながら、佳乃は別れの言葉を投げる。
「うん、じゃあまたっ……くしゅんっ」
「大丈夫ですか?」
「う、うん、ちょっとびっくりしちゃっただけ……くしゅんっ」
……う。
先ほどの葛藤が生んだ後ろめたさが、聖の後ろ髪を引っ張っている。
「お姉ちゃん……」
そして佳乃が、聖の服の裾を引っ張った。
この佳乃の懇願する瞳に、今まで無条件降伏以外したことがないのだ、聖は。
コホン、と照れ隠しに一つ咳払い。
「あー、三井寺君、とか言ったな」
「あ、はい……」
「少し離れた場所に、私達が隠れていた詰め所がある。そこでなら服も乾かせるし、食料も残っている。
……そうだな、今夜一晩。その間だけ私達にタッチしないと約束するのなら、同行を許そう」
「え、あ、あの……あたしは助かりますけど……いいんですか?」
ちら、とHM−13に目をやると、彼女は澄ました表情のままで、
「逃げ手にタッチするかどうかは、鬼の方が判断なさることです。もっとも暴力による威し等の場合はその限りではございませんが」
「ということだが、三井寺君?」
「は、はいっ、よろしくお願いしまっくしゅんっ!」
「やったああっ♪ あたし霧島佳乃、こっちは聖お姉ちゃん、よろしくねぇっ」
そして、バンダナの巻かれた手を差し出し、
「待て、佳乃っ! 握手はこの鬼ごっこが終わってからだっ!」
「あ、そうだったよぉ。失敗失敗」
てへへと笑った。
「少々お待ちを」
HM−13はオプションレッグの内側から、防水された小さな箱を取りだし、聖に手渡す。
「こちらをどうぞ、応急処置キットです。風邪薬を含めたいくつかの薬品や、傷の治療に役立つものが入っております」
「――私は助かるが、いいのか、管理側が一方に肩入れするようなことをして?」
「あなたなら有効活用して頂けそうだと判断しました。それに、荷物にはなっても、有利になるような代物ではございません」
「分かった。使わせてもらおう」
「よろしくお願いいたします。では」
一礼して去ってゆくHM−13に、佳乃と月代が手を振る。
「じゃあねぇっ、人魚さんっ♪」
「助けてくれて、ありがとおーっ」
HM−13は海の中に入ると、再びオプションレッグをつけ、波の合間に跳ねながら、沖へと消えていった。
2メートルほどの距離を取りつつ、暮れ始めた道を急ぐ三人。
少しばかり冷えてきて、濡れた衣服を纏う聖と月代はやや寒そうだ。
通天閣Tシャツが張りついた豊満な胸を、自分のぺったんこな胸と見比べる。
まだ感じている感情の影響が残っている……ということもなく、月代は小さくため息をついた。
心なし、外ハネも元気なく垂れている。
そんな月代の視線に気づいて――何を勘違いしたか、聖はずい、と顔を突き出し、
「三井寺君、念を押させてもらうが……いいか、今夜一晩、私と佳乃には指1本触れるな。
もし触れようものならこのゲーム終了後、君を人類医学の発展に役立たせてもらう。ついうっかりなどとは聞かないからなっ」
「は、は、はいいいいっ!」
色々な意味で、月代は震え上がった。
【霧島姉妹=三井寺月代間で協定。今夜一晩、タッチはしない】
【月代 ちょっと風邪気味】
【聖 応急処置キットを入手】
【詰め所に向かって帰還中】
【日が暮れる】
170 :
昼:03/04/06 19:41 ID:JypNsEtZ
少年 郁未たちとの戦闘→鬼になる。雪見を追うか? 昼。
コリン 反転ジュースにより反転中。小山にいる。反転している時間は不明。昼
マナ 醍醐 森の中で鉢合わせ。マナ、ピンチ。昼。
沙織 だだっ広い平原。可塑性粘液の打撃から回復。祐介の追跡再開。昼頃。
真紀子 屋台零号車でジャージ購入。閃光手榴弾×二購入。昼頃。
芳晴 由美子 壱号屋台で食事中。由美子、ルミラの正体を聞いてびっくり。昼頃。
ベナウィ 晴子 森の中。御堂をやり過ごして、海岸へ向かう。昼過ぎ
あさひ 白きよみ 彩 弐号屋台で昼食。ねばねば……と百円札。昼過ぎ?
英二 理奈から逃走中。草原から丘へ。素晴らしい逃げ足。空腹。昼過ぎ?
理奈 英二を激しく追撃中。草原から丘へ。怒りのため人を超えている。多分空腹。昼過ぎ?
ゲンジマル 岩切と追いかけっこ中。ものすごく楽しんでいる。昼過ぎ。
岩切 森の中、ゲンジマルと追いかけっこ中。水をかぶって力全開。やるきまんまんで楽しんでいる。昼過ぎ。
霧島姉妹 海岸沿いでバカンス中、突如降ってきた月代を救出。タッチしないという条件で、一晩保護することに。昼くらい。
月代 超先生神社から海にワープ。聖に助けられる。人類医学の発展に尽くすことになってしまうのか?
蝉丸 超先生神社から隠しダンジョンへワープ。昼くらい。
宗一 はるか 超先生神社から屋台を探しに行く。とりあえず同行している。午後二時くらい。
瑞希 大志 鶴来屋別館。食堂へ突貫する。二時過ぎ。
クロウ 郁美 鶴来屋別館に到着。食べものを探そう。二時過ぎ。
柳也 裏葉 森の中を海岸へ向かっていたところ、ニウェと遭遇、追いかけっこ始め。行く先に罠。三時。
ニウェ 森の中。柳也&裏葉を追っている。行く先に罠。三時。
ドリィ グラァ かなりヤバイ姿で玲子から逃げている。黒きよみたちの居る場所に接近中。三時ごろ。
玲子 腐女子満開。双子を追って、背中に矢をくっつけて、どこまでも。三時ごろ。
反転ユンナ 黒きよみ 川。秘密兵器いくつか完成。きよみ、惑いの午後。ドリ&グラの服発見。三時ごろ。
ひかり 真琴から山桃のお裾分けをもらう。午後。
おた縦 おた横 偽原稿に激怒。匂いでもって詠美を追い始める。午後。
浩之 志保 琴音 由宇 詠美 サクヤ 灯台から脱出。午後。
牧村南 風見鈴香 高倉みどり ぴこ 灯台近辺で鬼を発見。逃走。午後。
名雪 理緒 美咲 さおり 猫騒動。名雪が二人ゲット。どこかの小屋の中。時間不明。
彰 冬弥に恨まれている。ぴろを拾う。食料ゲットで、小屋へ帰る。時間不明。さて、小屋の中はどうなっているか?
垣本 平原。川を見る。誰かの声に起こされ、行動再開。夕方。
耕一 瑞穂 楓と別れる。祐介探しを再開。夕方、場所不明。
芹香 綾香 ダウジングで食料探索→井戸の中でチキナロ発見。クーポン券ゲット。相変わらず空腹。夕方。
往人 千紗 ウルト 壱号屋台で食事中。千紗、和樹を窮地に陥れる。夕方。
和樹 晴香 壱号屋台で食事中、千紗一行と遭遇。和樹、かなり壮絶なピンチを迎えている。夕方。
神尾観鈴 海岸そばの林→どこかへ。訳もわからないまま、とにかく逃げている。夕暮れ
エディ 敬介 夕暮れ時の海岸で、天女を発見。見事に彼女らの策にはまり、ほどよくボコにされる。
ハウエンクア まなみ 落とし穴の中。ハウちゃん、(゚∀゚)アヒャ中。夕暮れ時。
皐月 夕菜 湖にて水浴び。終了。屋台を探そう。三万円クーポン所持。夕暮れ時。
伊藤 貴之 主役クラスを狙って行動開始→湖で覗き敢行。森に逃げる。夕暮れ時。
相田響子 篠塚弥生 とある情報を入手。冬弥一行と接触、修羅場と化させる。夕暮れ。場所不明。
冬弥 由綺 七海 弥生らと接触。冬也、由綺に刑の執行を告げられる。場所不明。夕暮れ。
瑠璃子 美汐 真琴 葵 森の中の教会にて、団欒中。ほのぼの。夕暮れ頃。
ヌワンギ 商店街。雅史の策により、頭をぶつけ気絶。日暮れ前。
ビル 商店街。松本のパンツ目撃。眼福。つか、本当に背景だな、これ。日暮れ前。
172 :
夜:03/04/06 19:43 ID:JypNsEtZ
デリホウライ 御堂に捕まった後、どこかへ。現在地不明。時間不明だが、恐らく夜。
雄蔵 行方不明。郁美を見つけたか? 時間は二日目夜まで進んでいる。
佐祐理 灯台のそば。七味手榴弾の影響により、観鈴を取り逃がす。意地でも捕まえると決意。とりあえず夕食。夜。
清(略 田(略 死闘中、D一家と接触。禍日神? 夜。死闘も残り少しで終わる。鬼になったことには気付いていない。
エリア リアン 超ダンジョンの入り口へ到達。さて、中に入るかな? 夜。
マルチ クーヤ 鍾乳洞の奥から超ダンジョンへ侵入。夜。
シュン あかり 駅。明日の天気を知る。傘と食料ゲット。疲れたため早々に就寝。夜。
浩平 瑞佳 トウカ ゆかり スフィー 突如来襲のカルラに困惑。トウカ、クケー。夜。
留美 矢島 海の近くの小屋一階にて、シャワーを発見。七瀬、浴びにいく。雅史一行のことには気付いていない。相変わらず空腹。夜。
岡田 吉井 松本 雅史 海の近くの一軒屋。七瀬一行とかち合ってピンチ。さぁ、どう逃げる? 夜。
ティリア サラ 山道→? 真希の追跡を逃れる。茸を落とす。睡眠不足。サラは、知らずのうちに鬼になっている。夜。
真希 まさき 山道。ティリアたちを逃がす。茸ゲット。空腹の真希、まさきに食べ物を無心。夜。
茜 詩子 澪 零号屋台にて夕食&買い物。バイクのガソリン購入。重いよ。夜七時。
カルラ さいか 壱号屋台で夕食を取り、移動。夜遅い。
ハクオロ 美凪 みちる 壱号屋台で夕食、お代に困る。エルルゥ来襲。お題をつけにして逃走。夜遅い。
エルルゥ 破壊された屋台の弁償費として、宝玉を一個残して、ハクオロたちを追っていく。夜遅い。
巳間 海岸。高槻をタッチして、柳川追撃開始。深夜。
柳川 海岸。職務放棄して巳間から逃げる。天蓮華を食らう。疲労度高。深夜。
高槻 繭 海岸。高槻疲労困憊につき、爆睡中。繭は、おじさんと、いっしょ。深夜。
ダリエリ 麗子 超ダンジョン内で鬼ごっこ中。ダリエリ、麗子をまく。深夜。
葉子 神奈 巡回員 海岸にて、巡回員を捕まえ、尋問中。巡回員の悲鳴が上がった。深夜。
友里 葉子から逃れるのに力を使いすぎたため、熟睡。防砂林の中。深夜。
173 :
三日目:03/04/06 19:44 ID:JypNsEtZ
夕霧 さまよっていたらすばるに出会う。共に商店街を探すことに。夜中。
すばる (高子) すばる、大量のお菓子を持って高子のところに戻ろうとするが、道に迷う。夕霧と出会う。夜中。
リサ 御堂 リサ、超ダンジョンに突入。御堂は入り口で逡巡中。三日目午前三時。
あゆ 灯台から移動。祐一たちとは別行動。少し理性を取り戻す。三日目、夜明け直後。小雨。
智子 初音 好恵 楓を取り囲むが、エディフェルの気に圧倒され、近寄れない。三日目、夜明けすぐ。小雨。
楓 初音一行に取り囲まれる。エディフェル発現。周囲を圧倒中。三日目、夜明けすぐ。小雨。
みさき 罠にかかってじたばた。みんなどこ〜? 小雨中。
祐一 郁未 由依 舞 灯台で待ち伏せ中、雪見を捕まえ、尋問。心理戦に勝利し、情報と食料ゲット。三日目、夜明け直後。小雨。
雪見 祐一との心理戦に敗退。食料を分け与え、情報を与える。三日目、夜明け直後。小雨。
北川 住井 ダンジョンから脱出。管理人室を発見→退室。ホテルを罠だらけにする。三日目明け方。
光岡 ユズハ オボロ 月島 久瀬 ユズハ争奪戦。腕相撲で決着をつけるため、手近な小屋へ。三日目早朝。雨。
香里 香奈子 セリオ 無事再開&合流。屋台へ向かう。三日目早朝、雨。
アルルゥ カミュ ムックル ユズハを後に残して、去る。ガチャタラは? 三日目早朝。雨。
梓 結花 かおり かおり、千鶴の計らいにより梓と合流。森の中。三日目早朝。雨はまだ降り出していない。
北川 住井 栞 超ダンジョンを罠で埋めんと突貫。入り口で気絶中の栞を拾う。軽く酔ってる。三日目、七時以降。
D一家 HOUSE。D、まいかを目覚めさせる。レミィ、グロッキー中。三日目昼。雨。
健太郎 なつみ 時間場所共にまったく不明。とにかく同行中。
祐介 月島を引っ掛けるのに一役買う。空母の中。ゲーム復帰は三日目の朝。
現在状況投下完了です。
二日目午前中の組、ついにいなくなりました。
どんどん三日目に入ってきてますね。
「サラ…本当にやるの?」
「当たり前だ!宝箱を前に何もしないサラ様ではない!」
ティリアとサラは隠しダンジョンで宝箱と対峙していた。
二人の現在地は隠しダンジョンである。
サラが道中で隠し通路を発見し、『隠し通路といえばお宝!』
ということで突入したのだ。実際にお宝がある保障など無いが。
ちなみにティリアはサラが鬼になった事に気がついた瞬間に捕まって鬼になっていた。
帰る手段を探さなくていいのか疑問だったティリアだが、結局サラの
『魔法に関するお宝もあるかもしれない。』の一言に従わざるをえなかった。
そして入り口で説明を聞いてみればなにやら魔術じみた説明を受けたではないか。
こっちの世界にはそういうものは無いと思っていたのだが。
ともかくこれは何か思わぬ収穫になるかもしれない。
そんなこんなで先程の会話に戻るのだが、
「またファイアーボール食らったらヤだよ…」
「大丈夫!死にゃしない!」
この前にも宝箱を開けたのだが、開いた途端ファイアーボールが飛び出して
直撃を食らったのだ。しかもお宝が食パン1切れという泣ける戦果だったため、
ティリアはかなり消極的だった。
「いや、確かに全く傷は無いけど、痛いものは痛いよ?」
「罠があると分かれば油断はしない!それともオレの腕が信じられないか!?」
対照的に非常に積極的なサラ。入念に罠を調べ、徐々に解除していく。
「よし、開いたぞ!罠も動作しないはずだ!」
そして開かれる宝箱。その中身はお宝か、それともハズレか…
【ティリア&サラ 超ダンジョン 宝箱開錠】
【宝箱 中身??】
>>174 毎回乙です〜
>真紀子 屋台零号車でジャージ購入。閃光手榴弾×二購入。昼頃。
ジャージ、購入してませんけど・・・。
「祐クン…どこにいるの?」
祐介を探してもはや半日以上経過してしまった。
現在3日目夜明けのちょっと前。
これだけさがしても全然見当たらない。そらそうだろう。
祐介は夜連行されてからまだ解放されていないのでどこ探しても
見つかるはずが無い。というか人影すら見当たらない。
おばけが苦手な沙織は暗い森の中を避けて平原を歩き続けているのだから
人に会うわけがない。
そんな沙織に追い討ちをかけるように雨が降り出す。
思えば香里の試し撃ちの的にされて以来良いことが無い。
そして一軒の民家に辿り着く沙織。
「はぅ…もうダメ。」
気絶するように倒れこむ沙織。
先客がいるかどうかとか、そんなことを気にする余裕は今の彼女にはなかった。
【沙織 一軒屋の入口でダウン】
【一軒屋 先客・罠の有無等は不明】
水の音が聞こえる……川だろうか…?
――いや、川の流れる音では無い…。これは…
「…(雨…)」
ぼんやりと目を開く…。――青空や夕焼けはそこには無く、世界は暗灰色に染まり、濡れていた。
雨の所為か、何となく空気も肌に冷たい。眠りから醒めたばかりの体が、その寒さに震える。
「…が、がお…」
観鈴は、はっとして自分の体を調べた。道路脇にある小さな屋根の下にあるベンチで休んでいたら、何時の間にか
眠ってしまっていたのだ。鬼役の少女を見かけて海岸から逃げて疲れていたし、ひかりと別れてから殆ど何も食べて
いないしで、かなり疲労が溜まって来ていたのだろう。
――だが、眠っている内に誰かにタッチされてはいない様だった。襷は掛けられていないし、傍にも置かれていない。
「にはは…、観鈴ちん、らっきー」
と、安心して笑った時、
くぅ〜…
「が、がお…」
お腹の虫が鳴いた。いい加減、何かしっかりと食べないと、これ以上逃げ続けるのは無理の様な気がする。
観鈴は、ベンチから立ち上がった。
「食べ物を探さないと」
だが、今は雨だ。観鈴は雨具を持っていないし、雨足はそれ程強くないとはいえ、この中を歩けばやがてはズブ濡れ
だろう。……しかし、ここに居続ける訳にもいかない…
「……がお…、どうしよう…」
困り果てた観鈴は、キョロキョロと辺りを見回した。
「…? これは――」
ベンチの背凭れに、ちょこんと引っ掛けられている物がある。
コンビニや駅の売店など、何処にでも売っている様な、ビニール傘だった。
「にはは、観鈴ちん、だぶるらっきー♪」
迷わずそれを手に取り、巻き紐のホックを外して傘を開く。
密着していたビニール同士が引き剥がされ、パリパリと音を立てた。
「これで雨も、大丈夫っ。にははっ」
傘を手に、観鈴は雨の下を歩き始めた。
「食べ物…。どこかに隠されてるのかなぁ…」
雨に濡れる路面を歩きながら、観鈴は独り呟いた。
「……建物の中…とかかなぁ」
だが、建物の中は危険だろう。この雨を避ける為に鬼が雨宿りしているとも充分考えられるし、森で見掛けた様な
罠の類も仕掛けられているかも知れない。
「………どうしよう」
くぅ〜〜…
――また、お腹が鳴った。
「…ん。観鈴ちん、がんばるっ…! …しかないよね」
背に腹は変えられない。取り敢えずこのまま歩き続けて、建物を見つけたら調べてみる事に決めた。
…そうして暫く歩く内に、雨の中に薄っすらと浮かび上がる建物の影が彼女の目に映った。
――建物の入り口…
入り口にいきなり罠が仕掛けられている場合もある。
「…ちゃれんじ!」
観鈴は、意を決してドアに手を掛け、一気に押し開いた。
――が、
「………?」
思わず目を閉じる観鈴ちん。…だが、何かが落ちてきたり、何かがバクハツしたりするといった気配は、無い。
「…ほっ。罠、無しっ。らっきー、にはは♪」
罠は無いと解り、観鈴は安心して建物の中に足を踏み入れた。
そこは、別荘か何かの様だった。家具も置いてあり、このまま暮らせそうな雰囲気である。
「…誰も、いないよね…」
おっかなびっくりな足取りで、部屋を歩き回る観鈴ちん。
取り敢えずは食べ物探しだ。――奥の方に厨房がある。すぐに食べられる物でなくとも構わない。材料があり、
ガスが使えれば、料理が出来る。
――と、
ガタッ…――
物音。
その音に、観鈴の肩が大きく震えた。
――背後に、人の気配…
「………が、がお…」
…観鈴は、恐る恐る、後ろへ振り返る。その先に居るのが鬼であったら、ここでアウトである。
逃げ出せる自信は、無い――
「…観鈴ちゃん?」
厨房の反対側、リビングを挟んだ向こう側にある部屋の入り口に立つ人影――赤味がかった頭髪が、まず目を惹いた。
「………ひ…かり……さん?」
観鈴の目が見開かれる。――間違い無い。振り向いた先に立っているのは、あのひかりだった。
視界が震える。ぼやける。胸の奥から、何かが込み上がって来る。
ああ、自分は泣いているのだと解った時、観鈴はひかりの方へ駆け出していた。
「――っ、観鈴ちゃんっ、すとっぷ!」
やや慌てた様子でひかりが声を上げた時――
カチッ…
――駆け出した観鈴の足が、何かを踏んだ。直後――
ごぉんっ…!!
観鈴の頭に、上から落下してきた金ダライが見事なまでに直撃した。
「が…がお……」
ダメージが脚へモロに来る観鈴ちん。ふらふら〜っと数メートル更に進み、そこで、びたーんっ!とスッ転ぶ。
更に――
しゅるるるっ…!
「ががががお〜っ…!?」
カーペットの下に隠されていた縄に引っ掛かり、巻き上げられた網トラップが、そのカーペットごと観鈴を
宙へ吊り上げてしまった。
「あらあら…、折角再会出来たと思ったら…」
「に…にははがお………ひかりさん、お久し振り…」
困った顔で見上げるひかりに、ぷらーんとぶら下がる網の中、観鈴は照れた様な笑顔を浮かべて見せた。
…とにかくこうして、ほぼ丸一日振りに、二手に別れた両者は再会を果たしたのである。
「おばさん、もうちょっと感動的に再会したかったなぁ〜」
「……み、観鈴ちん、どぢ…」
「ふふっ、でも、また逢えて嬉しいわ♪」
「わ、私もです。とっても嬉しい。にははっ♪」
「お腹空いてる? 何か作ってあげるから、それまでこの山桃を食べてて?」
「わ、桃だ。ぴーち」
「真琴ちゃんっていう子から頂いたのよ? 後でお礼を言わなきゃね♪」
「はいっ。……ぱくっ………………美味しい…にはは♪」
【観鈴 ひかり 海沿いの道の脇にある別荘風建物にて再会】
【但し、観鈴ちんのどぢ全開で、感動的な再会ならず】
【三日目の朝 雨】
「へ、へ、へ」
変態ィィィィィ!!!!
――そう叫ぶや否や、マナはとんでもない速度で逃げ出した。
いつものマナなら一蹴り二蹴りくれてやったあとで走り出すのだろうが、
しかしかろうじて残っていた平常心が巨漢の肩に掛かる襷の存在を見咎めている。
「……変態」
言われた方の醍醐はたまったもんじゃぁない。
そりゃ容姿に自信がないというか夜道でいきなり挨拶したらビックリするくらいは自覚しているのだが、
「変態」
ときたもんだ。いくら篁の走狗になろうがドーピングで人間辞めようがレーザーで焼き肉にされようが、
幼女に手を出した覚えは無い。幼女に手を出した覚えは無い。幼女に手を出した覚えは無い。
と、思う。
が、これだけストレートに思いっきり言われてしまってはいくら醍醐とてショックは隠せないだろう。
「――俺は変態じゃないぞ嬢ちゃぁぁん…!」
ということで醍醐は誤解を解くために突進した。
「!!!!!!」
しかし醍醐のその様子はどう見たってヤバイ。
なんというか、いたいげな幼女を東南アジアに売り飛ばそうと目論んでいる人身売買業者に見えなくも無いというかまんまそんな感じだ。
当然ながら追われる身のマナはたまったもんではない。もうとにかく迫りくる鬼の魔の手から逃げるべく森の小道を全力で駆けぬけた。
「はぁっ、はぁ……っ」
しかし。所詮一般人にすぎないマナがその道のプロ(人攫いのそれではないぞ断じて/醍醐談)から逃げおおせられるわけも無く、
必死の逃走も空しく無常にも二者間の距離は縮まっていた。へろへろになりかけているマナとは対照的に醍醐は余裕そのものである。
しかし表情は困惑に満ちていた。なんか鬼ごっこという雰囲気がまるでしないのが原因であろう。栄枯衰勢、とは若干違うっぽいが、
ついさっきまではあんなに男前に立ち回ってたのに、今やただのアブナいおっさん(40前)なのだ。
「待てぃ!!」
そのおっさんが葉鍵有数のゴリラ顔でそんなこと叫ぶもんだから、ヘンな目で見られるのもある意味しょうがなかったりするのだけれど。
「……ん?」
悲しい男の叫び声に反応するをのこ、一人あり。
Tacticsは『MOON.』にて八面六臂の大活躍をする郁未を色々サポートした少年である。
彼の妙な好奇心、というか風変わりな思考は醍醐の悲痛な声によって雪見追撃の任からそちらへ傾いた。
木々を押し分け声のする方向に進んでゆくと、鬼の人間が逃げ手を追いかけているのである。鬼ごっこではよくある光景だが、
しかし状況がいささか込み合っている。
「どうみても人さらいにしか見えないんだけど……」
平静を崩さないまま少年が呟く。少し逡巡した後、彼は動いた。
「!」
ものすごいスピードで移動する物体を醍醐は認識する。
影は襷を付けていた。
鬼だ。
「まずい」
鬼はその勢いで少女に向かう。醍醐の目的はあくまでも少女の誤解を解く事にあるわけだから、別に獲物を横取りされようが大した事ではない。
ないのだが、一応ここで焦っておかないと本気でソッチの気があると疑われてしまう、という謎の危機感が彼を襲ったのだ。
従って彼は加速せざるを得なくなるが――どうも遅すぎたみたいだった。
影は着地し、少女を抱きかかえて跳ねた。
「うわぁっ…!」
瞬間、マナのミニマムボディが空を飛ぶ。いきなり視界が2m弱伸びたので彼女は混乱した。
ややあって背中の方から申し訳なさそうに、
「ごめん。こうするしかなかったみたいだ」
と謝る声が聞こえた。
「あ、それと――ちゃんと捕まってて」
「え? ちょっ…だれっ…!?」
後ろを振り向く間もなく、強烈なGがマナを襲う。
辺りは森林。成人男性の足ほどにもある木の枝が生い茂っている。それらをまるでサルの如くひょいひょいとつたってゆく。
ジェットコースターほどのスピードは出ていなかったが、スリルと体感速度の面でそれを凌駕していた。
マナにとってそれは恐ろしく長く感じられた時間だった。実質3分も無かったが。
「ふぅ……」
少年はため息一つついてから、マナを下ろした。
彼の姿を見、呆然とするマナ。超人的運動をこれだけやってのけたのだ、さぞゴツイ外見を想像していた。
それこそさっきのヤツにも勝るとんでもないのを。それが――
「なんか……ずいぶん普通なのね」
「ん?」
「外見。あんな無茶するんだからもっとすごいの想像してた」
「ああ」
少年は服についた枝葉を払い、
「見た目は普通の人間だよ。見た目はね」
そんな含みのある言葉で説明する。
「ふぅん…」
が、特に気にする風でもなく、軽く腕組みしつつ少年の顔をまじまじと見つめるマナ。
彼の肩にかかっている襷もあまり驚かない様子だ。さっきの少年の一言はこれだったと理解したらしい。
「――ま。なんにせよ、助けてくれてありがと」
いつもの調子で礼を述べるマナ。
「いや、むしろ礼を言うのはこっちだよ」
少年は襷を差し出した。いくら結果的に助けたとはいえ、撃墜したことには変わり無い。マナはしばしそれを睨んでいたが、わりとあっさりそれを受け取った。
「助けてくれたことには変わり無いんだし、文句ないわよ」
「…それは本心?」
「どうでしょうね」
マナは軽く笑い、少年もそれに応じた。
――こうしてマナは助かったのだった。
「(変態……変態、か。……フフフフ、酷いものだな……)」
大いなる誤解を残しつつ。
【マナ→鬼になる】
【少年 マナを助けつつ器用に撃墜】
【醍醐 マナに勘違いされたまま】
ウザイと思う書き手読み手には申し訳ないが一言
原作に無いオリキャラオリ設定は
お前の脳内だけで勘弁がこのリレーの最前提だった筈だが
これまででも出る時は少なくともギャグか相応の説得力のある描写を踏まえてという手順が踏まれてたけど
原作にない麗子の結界やらが何で存在してるのか
鬼ごっこに関係無いおまけ要素の追加は議論板で相談の上
議論板に行きたくないなら最低限本スレ内で意思表示が
来栖川姉妹の話のときに決まったと思うのだがどうか
宝箱とかモンスターロボとかでてるしな。
鬼ごっこがいつのまにダンジョンRPGになったんだか。
同意同意。
愚痴スレのほうでもいってますが、
いいかげんに、余計な設定やらをぶちこむのは止めてほしいところ。
ダンジョンというバトルフィールド、まではいいとして、
その他のはどうかと。
まあなんだ、とりあえず
鬼 ご っ こ や ろ う ぜ
ってことだな
宝箱はまあ問題なかろう。
今までもボーナスアイテムが供給された例は少なくないし、
罠と併用できるし。
モンスターロボは拙いと思うが。
オリ設定っていうと、住井北川に共通の過去があるかのように解釈できる
描写が一時期多かったな。
>>192 なるほど。それは知らなかった。
つーか他からネタ持ってくるのは構わんが、元ネタ知らない人でも
違和感がないように書いて欲しいものだ。
オフィシャル設定以外はなるべく避けて欲しいところ。
まぁ、なんでも良いから話題ふった奴はここでさっさと話まとめろ
んで続きは感想掲示板だか何だかでやってくれ、どんだけの人が見てるかは知らんが。
設定どうのこうのはただの巡回スレの一つだと思ってる奴からすれば、ぶっちゃけどうでも良いよ
つ話が並列に進むとわけわかんないし、似たような議論をこっちとあっちで
やってるのもおかしいし、それでいて結論が二分したりしたら
目も当てられんから、できれば全部こっちでやってほしい。
まあとにかくダンジョンだ。
漏れとしては、基本的にはOK。
ただ、モンスターロボに超結界はいかがなものか。
ぶっちゃけ麗子VSダリエリ。
あれはアナザーにして再挑戦してもらいたいというのは潔癖すぎるか
ダンジョンよりもモンスターロボが問題だと思う。
もはや鬼ごっこじゃない。
とりあえず、能力全開で好きに暴れられるフィールドは、あっても良いんじゃないかな、と。
ただ、それはそれだけで独立させておくべき。
宝箱やモンスターなどの、RPG的要素は、ないほうが良いと思います。
麗子の結界うんぬんは言わずもがなで。
議論板でも書きましたが、これが私の意見です。
最初の”つ”はけし忘れ。スマソ。
で、肝心の議論だが、漏れ的意見。
宝箱:他でもアイテム供給や食料供給あったし、度が過ぎなければ(中身が粗品なら)可
テレポーター:超神社の前例があるし問題なしかと。
敵ロボ:エキストラ系はあまり歓迎されなさげなので微妙。
と、あくまで前例を元に考えてみた結果は、こうなりそう。
とりあえず議論が終わるまでダンジョン関係の話はストップさせときましょう
とにかくモンスターは全面禁止でいいと思う。
麗子の結界はどうしましょ?
まあ他のキャラもいるし急いで結論出すことでもないでしょう
今いない人の意見も必要ですしじっくりいきましょう
>>200 ごめん。超神社の前例ってなに?
ハカロワかなにか?
そういう例をだされても・・・その・・・困る。
>>203 それに関しては、作者の見解を聞いてみたいですね。
宝箱、使うなら、食料オンリーが希望。
アイテムが入っているとなると、屋台の存在価値が薄れるような。
208 :
207:03/04/07 00:22 ID:9rK3p2nK
……いいかんじ。
忘れてた。
うぁーん。
あ〜、伸びてると思ったらSSじゃね〜のかよ
なんでもいいから早く結論だして、この「作品を投下しづらい空気」をなんとかしてってくれや
>>195も言ってるが「ただの巡回スレのひとつ」として投下されたSSだけ読みに来てる奴にはホントどうでもいいんだわ。
続きは得意のなんとか掲示板でやってくれ、マジで
>>209 ま、色々あるんですよ。もうちょい我慢してくだせぇ。
ということで意見をば。
・ダンジョンモンスターロボは無しの方向で
・麗子の結界はオリ要素があるんでリライトキボンヌ
このままの流れでいくとなると、オーガバトルは
モンスター削除・結界再検討の半分リライト版を筆者に要求?
もしそうなら、あれって結末がモンスターがいないと成り立たないから難しいな。
>>209 外部掲示板で結論を出すのを、見えないところで仕切ると
気持ち悪がる奴もいるんだからお前の意見を押し付けるな。
213 :
皇の朝:03/04/07 01:28 ID:kF9/Pr+J
「うーむ、やはり雨か」
目を覚まし、ハクオロは空を見上げて呟いた。
「……雨ですね」
「雨だな」
後ろから出てきた美凪とみちるも揃って呟く。
ハクオロの勘は当たった。
昨夜、エルルゥを撒いた後、身を隠すため森の中で一夜を明かそうとした一行ではあるが……
『……空模様が怪しい。明日……いや、朝には降るな……』
というハクオロの一言に従って、雨をしのげそうな場所……それでいて人、つまりは鬼の集まりにくい……洞穴を探していたのだ。
結果的に言えば洞穴は見つからなかったのだが、大きな木の『うろ』を見つけ、3人でそこで折り重なるようにして就寝した。
まぁハクオロは他の2人の犠牲になり、かなーりイヤンな感じの格好で眠ってしまっていたから、
「腰が痛い……」
という状態になってしまっているわけであるが。
「……大丈夫ですか?」
さすりさすり。
「あ、ああ……ありがとう、美凪」
漏らしてしまった一言を聞きつけ、美凪がかいがいしくハクオロの腰をさする。
「……私たちの為に……すみません。ハクオロさんに、このようなご苦労を……」
「い、いや、気にするな。お前たちを守るのは私の使命だからな。これくらい軽いものさ」
……男の腰を撫でる女。
まぁ、見ようによっては……アレな感じだ。
214 :
皇の朝:03/04/07 01:29 ID:kF9/Pr+J
「……ところでみちるはどこだ?」
「……ええと確か、このあたりに……」
そろそろツッコミが来るだろうと思い、身構えていたハクオロ。だが意外にもいくら待っても腰の乗ったいいミドルが飛んでこなかったので、逆に不思議に思った。
「……はぁなるほど、あの方があるじ様の新しい……」
「うんうん。ずーっと美凪のことをスケベな目で見てる。絶対あれは何か狙っているよ」
「フフフ……相変わらずお盛んですわね」
……いた。
少し離れた場所で。
「お前は……カルラ!」
カルラと一緒に。
「おはようございますあるじ様。いい朝……」
と言いかけたところで、空を見上げる。
「……とは言えませんけど」
「カルラ、お前、いつの間に来てたんだ?」
全く気配を察知できなかったハクオロさん。かなり情けない。
「あら? 一晩中、ですわ。昨夜エルルゥに追われてあるじ様が脱兎のごとく逃げ出していた場面。あのあたりから」
……やや気まずい沈黙。
「で、夜は? どこで寝ていたんだ?」
「あるじ様たちがお休みになっていた木。そのすぐ上で。私たち、折り重なるように」
全然気付かんかったハクオロさん。
「そ、そうだそれよりカルラ! お前昨晩、夕飯代を……」
そう。もとはと言えば借金が結構な額になってしまったのはカルラのせいだ。ここは取り立てなければ。
「ああそのことですわね。全く申し訳ありません。私としたことが。まさかあるじ様が文無しになっていたとは」
「うっ……」
痛いところを突かれた。
「本当、驚きました。まさかあまねく諸国を統治し、文武を尽くして民を治め、賢帝名高いハクオロ皇がこんな孤島の外れで赤貧に喘いでいるとは思いもよりませんでしたので」
うぐぅ、うぐぅ、うぐぅ。
「……アルルゥにサイフの中身を持って行かれてしまったのでな。まぁそれはいい。ともかくカルラ、お前の分は返してもらえるのだろうな。知っているだろうが、今私は借金に追われる身なのだ」
とりあえず何と言われようが、金が入れば万事オーケーなハクオロさん。これでもトゥスクルの皇様。
「無理ですわ」
即答された。
215 :
皇の朝:03/04/07 01:30 ID:kF9/Pr+J
「実は私も身銭は持たないたちでして、お返ししようにも現金がありませんの。というわけなのであるじ様、その類い希なる知恵と知識でどうにかしてくださいな」
そんなこと言われても。
「か、カルラっ! お前、人の借金まで私に肩代わり……」
さすがにそれは看過できないハクオロさん。一喝しようとするが……
「そらさいか、優しい優しいハクオロ皇が私たちの分の借金まで引き受けてくださるそうです。きちんとお礼をしなさいな」
「うにゅ……」
「ほら、目を覚まして。しゃんとしなさい」
……カルラは背負ってた幼女をゆり起こし、地面に下ろして2人、並ぶと……
「あるじ様、毎度毎度ありがとうございます」
「おじさん……ありがと」
……そろって頭を垂れた。
「あ、ああ……」
天使の笑み。幼女の笑み。……ハクオロさん、負けです。
「……強く、生きろよ」
結局ハクオロはそのままカルラを見送ることにした。ことにしたというか、せざるをえなかった。
「もちろんですわ。一度預かったからには、どこかの誰かさんと違って最後までしっかり面倒は見ます。さいかは最後まで私が守りきってみせますわ」
「そうか。ならいいんだ」
なんだかんだ言いつつもそう断言するカルラにハクオロはホッとするものを感じた。
「私たちも一応優勝を狙っている。お互いライバル同士ということになるが……」
「互いに、健闘を祈りましょう。どちらが勝っても、恨みっこなしですわ」
「ああ」
「ばいばいね、はくおろのおじさん」
カルラの背中からさいかが小さな手を振る。
「ああ、ばいばい」
「……さようなら」
「がんばれよー」
それに答えるハクオロ一行。
「では、失礼致します……。縁があれば、また」
一言残すと、カルラの姿は一瞬にしてかき消えた。
まるで、彼女の体そのものが朝靄になってしまったように。
「……で、ハクオロさん」
ややあって、美凪がポツリと漏らす。
「ん、なんだ?」
「……結局のところ、借金はどうなさるのですか? 怖い怖い取り立て屋さんは待ってはくれません……。それこそ、親が倒れようと、子が泣こうと……」
「うにゅ……。借金生活は辛いよ……」
「……そうだったな」
泣こうが喚こうが、借金は逃げてくれない。ハクオロは頭を抱えつつ。
「とりあえず、アルルゥを探すしかあるまい。アルルゥさえ探し出せばサイフが戻る。そうすれば借金も返せる。……今夜までに、アルルゥを探すぞ」
【カルラとハクオロ 別れる】
【カルラ・死の裁可 どこかへ消える。優勝狙ってる】
【ハクオロ・遠野美凪・みちる とりあえず借金を返すためアルルゥ探し】
【結局カルラの分も借金を背負うことに】
【時間:3日目朝 場所:森の中 天候:雨】
死の裁可ってなんだよ。
訂正。
死の裁可→しのさいか
死の裁可ワロタw
死の裁可、最高(笑
WA:七瀬彰、緒方英二、
(【藤井冬弥】、【森川由綺:2】)、【緒方理奈:3】、【河島はるか】、【澤倉美咲】、【観月マナ】
>>184-186、【篠塚弥生】
こみパ:千堂和樹、(高瀬瑞希、九品仏大志)、(牧村南、風見鈴香)、
(猪名川由宇、大庭詠美)、御影すばる、立川郁美、澤田真紀子、
(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)、【芳賀玲子】、【塚本千紗:2】、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】)
NW:城戸芳晴、ユンナ、【コリン】、(『ルミラ』、『アレイ』)、(『イビル』、『エビル』)、
(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:江藤結花
>>149-152、高倉みどり、【宮田健太郎:1】、【スフィー】、【リアン】
>>146-148、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)、岩切花枝、杜若きよみ(黒)、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】
>>165-169、【杜若きよみ(白)】、【御堂:6】
>>153-154、【光岡悟:1】、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ
>>213-215、(アルルゥ、カミュ)、ユズハ、ベナウィ、クロウ、カルラ
>>213-215、クーヤ
>>146-148、サクヤ、
【エルルゥ】、【オボロ:1】、(【ドリィ】、【グラァ】)、【ウルトリィ:1】、【トウカ】、【デリホウライ】、
【ゲンジマル】、【ヌワンギ】、【ニウェ:1】、【ハウエンクア】、【ディー:6(6)】
>>160-163、『チキナロ』
Routes:(湯浅皐月、梶原夕菜)、リサ・ヴィクセン
>>153-154、
【那須宗一:1】、【伏見ゆかり】、【立田七海】、【エディ】、【醍醐】
>>184-186、【伊藤:1】
連絡事項
>>156-159Ogre Battleに関しては
原作に全く無い能力の使用とモンスターの存在が議論の対象となっているので現時点では加えていません。
書き手の人は麗子、ダリエリの話の続きは今しばらく控えてください。
筆者の方はお手数ですが確認次第議論板の方にお越しください。
このリレーは余程の反則(電波で他の参加者を操る、魔法で自分を触れなくする)が無い限り能力使用はOKです。
但し原作外のオリジナル設定は基本的に抜きで。ていうか基本ギャグで済ませましょう。
細かいところに拘るより鬼ごっことしての状況を進める方向で
致命的なミスがない限りは脳内保管しましょう。
NGはできるだけ避けるよう書く話のキャラの前話くらいは読みましょう。
また他のスレのネタは知ってる人はニヤリ、あ、このネタ上手いなーくらいにしておきましょう。
能力に関してグレーゾーンな話を書く際には
『葉鍵鬼ごっこ議論・感想板』 へどうぞ
>
ttp://jbbs.shitaraba.com/game/5200/ 後記
改めてスレ内の温度差を痛感。
進行を不用意に止めて申し訳ありませんでした。
「いとっぷ〜いとっぷ〜白い色にいとっぷ〜
――いとっぷが午後9時をお知らせします」
はーいこんばんはー今夜も始まりましたいとっぷの一人でGO!!
司会はおなじみ”世界の伊藤/熊野藩のいとっぷ”こと伊藤と、
「……伊藤君、何さっきからブツブツ言ってるんだ?」
ゲストの阿部貴之さんですいえーいぱちぱち。
ということで僕ら脇役二人組は例のごたごたを経てからというもの湖から流れ出る川に落ちる事4回、
道のど真ん中に生えましたる樹齢数百年の巨木に顔面カミカゼする事2回と不運続きでありました。
そのうち辺りは暗くなるわお腹は減っちゃうわでいとっぷちょっと泣きたくなっちゃいましたが、まぁそれも過去のお話。
只今我々は夕餉を調達すべく夜釣りなどしているところであります。
「伊藤君きてるよ!」
「ぬぉお4匹目キター!!」
はい、ご覧の通り半入れ食い状態だったりしてます。私いとっぷが4匹(ニジマス)、貴之さんが3匹(ニジマス)とゴイスーな爆釣です。
問題のニジマスもなかなかに大きく、これで今夜の晩餐はニジマスの刺身に始まりニジマスの塩焼き、ニジマスのカルパッチョ、
果てはニジマスのアーモンド焼き等などステキに無敵にリラックス!
我が脳内に目下生息中のVR篠原もイイ感じにトリップしとりますきゃー伊藤さんすごいですねぇぇぇ。
――え、なんでおまいら釣り道具なんて持ってるかって? 愚問ですね。あちらを見て下さい!(んばっっと下流の河原を指差す)
「なー…アイツこっち見てるぞ」
「余所見するなイビル。鍋が吹いてる」
「うわ、いけねっ」
と、例の屋台から一人1200円で釣りセットをレンタルしている訳です(ルアー別料金)。
なんかもーやるせないくらいに高いですが、しかしこのいとっぷの並外れた交渉力を以ってすればニジマス7匹と引き換えに
半額に負けてもらうのは造作もないこと。おまけに釣った魚を捌いてくれるそうでいとっぷ感激しちゃいましたー。
「伊藤君!」
「はい五匹目キター!」
と、いうことで、その後も我が親愛なるニジマス諸兄はアフォみたいにルアーに食いつき、最終的に二人合わせて11匹も釣ってしまいました。
これには流石の屋台の方々もびっくりしております。
「お、なかなか釣ったじゃねぇか!」
「…どれ、貸してみろ」
……ムチャクチャ苦労して持ってきたニジマス入りバケツを片手でひょいと持ちあげるエビルさん(名前はあとで聞いた)
にちょっとばかりげんなりしつつも話の種はもっぱら釣果について。
「いやぁ、びっくりしたねぇ。殆ど入れ食いだったし」
「ですよねぇ。もうニジマスから釣ってくれと言わんばかりに」
卓上には熱燗。なんだかんだで結構長いあいだ水に浸かっていたため身体の芯から温まります。うーん、んまい。
そうこうしているうちに先ほどのニジマスを捌いた刺身と、これは別途に頼んだ白米・味噌汁・おつけものが卓上に並べられていきます。
「おっ、うまそうじゃないか」
「なんせとれたてだからな。さ、遠慮なく喰ってくれ」
「では、いただきまーす」
イビルさんの申す通り、文字通りとれたてのニジマスが我が脳天直撃セガサターン、
胃液と水分しか収まっていなかったまいすとまっくに蓄積されてゆきます。
つい6時間ほど前に起きた身の不幸が嘘のよう。僕はごはんを2杯おかわりし、貴之さんもちゃっかり二杯食べてました。
このまま至福の時が永遠に続けばいいのに……
だけど。
それは、唐突に終わりを告げたわけで。
「こんばんわー」
「いらっしゃい!」
「あー、伊藤君だ」
「ふぁkjふぁsl負雄んふぁsfなskl;ふぽういおpふぁsfjか!?!!!??」
味噌汁を口にしてなくて、ほんと良かったと思いました。
【いとっぷ・貴之 メシを喰らうものの皐月・夕菜組と遭遇】
【時間→午後9時半くらい】
>>223 >リスト製作者だよもんさん
乙。ですが一つ疑問。
葉子は橘敬介とA棟巡回員を捕まえているので、
【鹿沼葉子:1】→【鹿沼葉子:2】
じゃないでしょうか?
巳間晴香は空を見上げた。
ソレはまだいる。
おそらくは索敵行動なのだろう。
一定の軌道を描いて、森の上をいったりきたり。
ソレが肩からかけているのは明らかに襷――――すなわち、鬼の証。
全く。鬱陶しくて仕方ない。
幸いにもこちらにはまだ気づいていないようだけれど。
考えてみれば、空を飛べるというのはこのゲームを進めるうえで有利な能力である。
周囲の地理の把握、索敵行動、緊急回避...etc、特性を活かすバリエーションは無数にある。
逃げ手であれば自ら位置を示すことになりかねないのだが、鬼にとってはそれでもメリットのほうが大きい。
管理者の設定したルール上、鬼にしても逃げ手にしても互いを潰しあうような攻撃態勢をとることは出来ない。
能力による直接的な攻撃は禁止、その他使用上の制限もある。
”飛ぶ”という能力はそれ自体用途の限られるものであるが、このルールでは必ずしもデメリットにならない。
投射式武器の使用などで迂闊にも撃ち落してしまった場合、管理者の介入を引き起こすおそれがあるからだ。
結果、飛翔能力使用者が本来抱えるべきリスクは減少している。
つまり、彼らの”飛ぶ”という能力はある程度制限があるにせよルールによって守られていることになる。
だから、有利なのだ。
「…晴香ちゃん」
横で座り込んでいる和樹が、顔をあげた。
「その晴香ちゃんっての、やめてくれない? そりゃわたしはあなたより年下だけど」
ジロリと睨む、晴香。
「そう、年下だからね。年上に使う表現じゃない」
「だ、だから……他に呼び方あるでしょ。晴香とか、晴香さんとか晴香様とか」
「……で、晴香。ものは相談だけど、上のアレなんとかならないかな?」
真上を指差す、和樹。
雨が止んだ頃から、翼をはばたかせ少女が滑空している。
獲物を探してるのか、あるいは特定の誰かを探しているのか、二人にはわからない。
「忘れたの? 能力を使用した直接攻撃は、ルール違反よ。……アレが一般人といえるかはともかく」
「ちゃんと覚えてるよ。……使うのは、これ」
和樹は足元から泥玉を取り出した。
握り固められてないのか、おはぎのような形をしている。
場所も場所、雨に降られていただけあって、見事なまでの『泥』だった。
さっきから何をしていたかと思えば、年甲斐も無く泥遊びか。
ジト目でねめつけた後、泥にまみれた手を見て、晴香が一歩引いた。
「ちょっと。本気? 確かに直接的な能力使用じゃないけれど下手に墜落させたしたりしたら、あの高さ、ただじゃすまないわよ」
少女の姿はまだ消えていない。ざっとみても地上との距離は10m前後はありそうだ。
まっさかさまに落ちて地面に激突などしたら、命に関わる。
最初に提示されたルールの中の能力の使用制限。
『一般人に直接危害を加えてしまう能力→不可』
破って即失格ということはまさかないだろうが、なんらかのペナルティが科せられるおそれは十分にある。
でなければ、この不思議集団で”ゲーム”など成り立たないだろう。
「もちろんそんなつもりじゃないさ。撃ち落すんじゃなくて当てるだけ」
得心のいかない表情の晴香。
撃ち落すと当てるとの間にどれだけの差があるのか。そういわんばかりだ。
「うーん。つまり、俺の見る限り、翼で飛んでいるのは年頃の女性だけなわけだ」
その反応に説明の必要を感じたのか、和樹が続ける。
年頃の女性だけ、というのは屋台で出会ったウルトリィも含んでいる。
「……また女の話?」
晴香が呆れたように顔をしかめた。
屋台で千紗に埋め込まれた誤解の種はとてもとても深く根付いているようだった。
あるいは彼女の中では既に和樹=外道という公式ができあがっているのかもしれない。
そういえば篠崎弥生という女性はどうしているのだろう。
「い、いや、だからそれは誤解で……じゃなくてっ。想像してみてほしいんだけど、晴香が飛ぶたびに泥をかぶる
ことになるとしたらどうする? 顔も服も土や泥だらけ。着替えようとかシャワーを浴びようとか思うんじゃないか?
それとも開き直って泥まみれで飛んだりする?」
「……さすがはドージンジゴロ。女性の心理をつくのはお手のもの、と」
和樹の意図を汲み取ったのか、晴香は皮肉めいた微笑をひらめかせた。
どうやら和樹に一本取られたのが、悔しいらしい。
「その呼び方、かなりやめて欲しいんだけど」
「おっけー。敵は一体。せいぜい撃ち落してしまわないように、当ててみせるわ」
和樹のささやかな要望を黙殺して、いうや、不可視の力で泥玉を浮かべ始めた。
目標は頭上で翼をはばたかせている少女――――彼らは知らないが、神奈だったりする――――。
狙いは精密に、威力は最小限に、だ。
「姿がみえなくなったら、即離脱だからね」
「わかってるわよっ!!」
泥球を浮かべている少女と隣で泥をこねている青年。
作戦はともかく、その光景は傍から見れば相当に間抜けだった。
【和樹・晴香 対空射撃、後、離脱】
【目標 神奈 ろっくおん】
【葉子 巡回員を小一時間尋問中と思われる】
【時間 三日目早朝】
【場所 森】
【天候 まだ小雨】
「ふう、死ぬかと思った」
いつものようにお仕置きを受けた冬弥は、いつものように回復した。
ギャグパートってのは便利だね。
無論その横にはお仕置きを終えた由綺がいる。
「浮気して無いならそういえばいいのに」
「……言ったよ」
「あれ、そうだっけ?」
ああ、原作由綺さんは一体何処に…?
冬弥はあきらめたようなため息をつき、自分を追走していたシェパードに目を向ける。
七海になでられていた。
シェパードの方も満更ではなさそうに目を細めている。
「由綺さん、この子の名前は何ですか?」
「えっと、そういえばまだつけてないね……
あっそうだ、七海ちゃんつけてあげてくれる?」
「えっ、いいんですか!」
目をきらきらさせる動物好き七海。
「冬弥君、いいよね?」
「ああ、この藤井冬弥を捕まえたつわものだ。かっこいい名前をつけてくれよ、七海ちゃん」
「はい、ありがとうございます!」
お礼や返事はしっかりと。それが七海だ。
二人の許可を得た七海は、早速名前を考え始める。
「うんと… かっこいい名前…かっこいい名前…」
冬弥の冗談交じりの発言をまじめに受け取っている。正しく七海だ。
しばし考えててをぽんと手を打つ。
「そうだ、『そーいち』というのはどうでしょう?」
珍しく自信満々の七海。
普段がとても謙虚なだけに本当にレア物だ。
「…いいんじゃないかな」
「…そうだよね」
相手がはるかなら突っ込みを入れただろうが、七海には突っ込めない二人。
「名前はそーいちだよ」
「バウ」
美しいコミニケーションではあるが、冬弥と由綺はどことなく複雑そうだった。
「さて、暗くなってきたしそろそろどこかで休むか?」
「そうだね。建物があると嬉しいね」
「あ、あっちの方に何かあります」
そして一行は「そーいち」を連れ、移動し始めた。
【冬弥 金無し】
【由綺 シェパードマイク所持】
【七海 シェパードに『そーいち』と命名】
【時間 夜】
【建物と思われる方向へ移動】
「………………………ずずっ……」
食後の骨休み。Dは何をするでもなくぼーっと見ていた。
「えいっ! やあっ! とうーーーっ!」
部屋の外れでまいかがぴゅっぴゅと水を飛ばしている姿を。覚え立ての自分の術が嬉しいのだろう。
「……さて、そろそろ出発するか」
そんなDだが、不意に荷物を掴むと、立ち上がった。
「ン? どこ行くの?」
レミィが笑顔のまま、訝しげに訊ねた。
「少し出かけてくる」
「Huntの時間?」
心なしか嬉しそうだ。やはりレミィの性格を考えるに、家の中で缶詰というのはあまり面白くないのだろう。
「……いや……違う」
「え? なら……ナニ?」
「……………………」
少しの沈黙の後、
「この雨を、止める」
微塵の躊躇も無く、言い切った。
「.....Stop the rain? What are you talking about? D、本気?」
さすがにその言葉に驚きを隠せないレミィ。だが
「本気も本気だ。私には、それが可能だ。……ある男を、捕まえさえすればな」
目があったはずみに、レミィは気付いた。今の彼は、これまでのおちゃらけた彼とは一線を画している。……獲物を狙う、狩猟者の目になっていることを。
「ある……男?」
「……そうだ。そいつは我が空蝉であり、我が片割れ……双子の弟のようなものだ。名前はハクオロ。趣味の悪い仮面を付けている。
私の力のみでは、ただでさえ弱っている私の力では天候に影響を与えることなど不可能だ。ヤツもまた然り。だが……我らの、我らの力を合わせれば。
今一度我らが一つになり、我らの真の力を行使すれば……雨雲の一つや二つ、霧散させることなど造作も無い」
「け……けど、なんでそんなに……雨に拘るの?」
Dはその質問に答える代わり、チラリと水遊び真っ最中のまいかに視線を投げた。
「私は約束したんだ」
決意は揺るがない。
「……まいかと、私と、お前で、花火をやる。その為には、この雨を止める必要があるんだ」
その様子から、レミィもDの決意の程を読みとった。
「……本気、なんだね」
「ああ。鬼になっていればよし。力を貸すよう何としてでも頼み込む。……だが、まだ逃げ手だった場合は……」
……ごくりと、レミィの喉が、小さく鳴る。
「どのような手段を用いようとも、捕らえてみせる。この、ウィツ……。いや、Dの名に賭けて」
「本当に……一人で大丈夫なの?」
全身をすっぽりとカッパで覆ったDが、洞穴の前でふり返る。
「ああ、問題ない。そのために霊薬と探知機を購入した。全快とまではいかないが、飲めば一時的にある程度の法力は戻るはずだ」
「けど、やっぱりまいかたちもついていったほうが……。でぃーは、まいかたちのためにいくんだし……」
心底心配げなまいかの申し出。その気持ちは、Dには嬉しかったが、しかし彼は頭を振った。
「……ありがとう。だが、これは私とヤツの問題でもある。それに、お前たちに見せるわけにはいかない。私の、あの姿を」
「……姿?」
突然出てきた意味の介せない単語。
「……喋りすぎたな。それじゃあ私は行ってくる。……夜には戻る。待っていてくれ。さらばだ」
「あっ……でぃー……」
一言で別れをすませると、Dは消えていった。雨間の霞の中に。
そして、後に残された2人は……
「……まいかちゃん」
「うん、れみぃおねぇちゃん」
当たり前のように雨ガッパを着こむと。
「追うよ」
「うん!」
Dの後を追った。
【D ハクオロを探しに旅立つ。霊薬(一時的に法力回復)、探知機所持】
【レミィ・まいか Dの後を追う。Dは気付いていない】
【Dの計画 ウィツァルネミテアの分身と空蝉を融合させることにより真の力を発現。天候を変える】
【時間:3日目昼 場所:森の脇の小道】
いや、もう何が起こりやがっていらっしゃるのでしょうか。
生臭い息を嗅ぎ、ぬらぬらしたピンク色のものを間近で見ながら
久瀬は混乱した頭で考えた。
分かることが一つある。どうやら自分の頭は…
「ヴォフ…」
「ムックル、がまんする」
ムックル君とやらの口に咥えられている様だ。
―――― 数分前
小雨の中、巨大な虎に乗った少女二人は、ある小屋を目前にしていた。
「カミュち〜、あの小屋?」
「うん。ユズっち、オボロお兄さん達といっしょにあの小屋の中に入ってたよ」
ユズハと分かれてすぐ、カミュは上空を飛んでユズハを探していた。
木々のせいで見失ってしまったのだが、あの小屋に入るところを目撃したのだ。
「大丈夫かな〜?カミュが見た時はまだ鬼になってなかったけど。
でもなんか4人の男の人に囲まれてたんだよね」
「ん。急ご」
その小屋の中、久瀬の提案によってオボロVS光岡の腕相撲がはじまっていた。
「オオオオぉォォ」
「ヌグググ」
両者は顔をゆがませて右腕に力を込める。
その様子を月島は興味なさげに見つめ、ユズハも含むところはあるにせよ今は静観し
(いや見えないのだが)、そして久瀬はあくびを噛み殺していた。
昨晩ほとんど寝ていないのだ。先ほどまでのハイテンションが我ながら信じられない。
「なぜ…ユズハに付きまとう…!」
「あの美しい…長い御髪に隠された…可憐な眼差しに惹かれたのだ…!」
「確かに…ユズハは美しく…可憐だ…!」
「うむ…あんな方はみたことがない…!」
「ちょっと待て、異論があるね今の流行はショートカットのちょっと虚ろな目をした不思議少女だぞ!」
「それは邪道だ…黒髪の可憐な大和撫子…これ最強…!」
「そうだ…!不思議少女なんて…ただの電波だ…!」
「くっ。電波をなめるな!来年当たり来るぞ、マジで!」
(馬鹿め。常に世界を制するのは笑顔の似合うお嬢様だ)
久瀬は自分の意見を胸の中で言うと、ユズハのほうをみた。
目茶苦茶バツが悪そうだ。そりゃ目の前であんな事いわれたらそうだろう。
(っていうか、腕相撲中に会話するなよ、器用だな)
この突っ込みも胸の中にしまうと、久瀬は眠気を振るうべく新鮮な空気を吸おうと窓のほうに向かった。
と、窓の向こうで犬の耳と尻尾に黒い羽根がヒョコヒョコ動いている。
(……隠れているつもりか?)
窓の近くに忍び寄ると会話が聞こえる。
『カミュち〜、やって』
『んー…いいのかな?まあ、やっちゃうか。闇の…』
(何をやるんだ?)
久瀬は窓を開け、身を乗り出す。
窓の下には犬の耳を生やした少女と、黒い翼を生やした少女と、巨大な虎がいた。
…翼の少女のかめはめ波を撃つような姿勢が激しく気になる。だが、その疑問を口にする前に、
「ムックル」
「ヴォフ」
それで冒頭に戻るわけである。
そういえば、訓練された犬は吼えも唸りもせずに黙って襲いかかるんだよな…
そんな思い出したくもないことが久瀬の頭に浮かぶ。
今のところ甘噛みされてるだけだがムックル君がひとたびやる気を出せば
さぞや不愉快な事態が起こるだろう。
「えーと、さすがにこれはまずいんじゃないかなぁ?」
ナイス判断だ少女1。
「ユズっちをいじめる奴だから大丈夫」
それは誤解だ少女2。
「そうだね。まあ、いっか」
自分の意見は大切にしたまえ少女1。というかな、
「…いいはずないだろ…」
とりあえずムックル君の口に頭を突っ込んだまま抗議してみる。
「ん。ユズっちを逃がしてくれたら離す」
それは脅迫というんだぞ、少女2。
犯罪だぞ、親の顔が見たいぞこん畜生。
「ぶえっくしょい!!」
「誰かに噂されているで賞、進呈」
「おお、ありがとう。ブビー」
「…お米券で鼻をかみましたね?」
(み、美凪が怒ってる…!!)
さて、状況を把握してみよう。まず絶体絶命。何はともあれ絶体絶命。
どうにもこうにも絶体絶命。小屋の中の4人は…
「電波の…時代は終わったんだ…!」
「うむ…正統派万歳…!」
「くぅ、みてろ!今に巻き返しがあるからなぁ!」
「…………」
なんか、聞く限りでは盛り上がっててこっちに気づいてないし。
OK,、頼れるのは自分だけ、シンプルでいいじゃないか。
選択肢1 ユズハさんを逃がさない。
結果 ムックル君、大ハッスル。さようならこの世。こんにちはあの世。
感想 素晴らしい。
選択肢2 ユズハさんを逃がす
結果 オボロ君、光岡さん大ハッスル。さようならこの世。こんにちはあの世。
感想 素晴らしい。
いやもうどないせいっちゅーねん。
フウ、と久瀬はため息をついた。ふざけている場合じゃないな。
「確認させてもらうが、君達はユズハさんのご友人かい?」
「うん、そうだよ〜」
「ん。まぶだち」
「そうかい、分かった。ところで鬼ごっこのルールは把握しているのだろうね?」
「んーと…やっぱりまずいかなぁ?」
「まずいだろうね。君達はただの脅しのつもりでやってるんだろうが、
このままでは強制逮捕や失格の可能性もあるよ」
「え、ええっ!やっぱり?」
「実際そうなっってしまった奴を僕は知っている。こういうことをしていると
あまり面白いことにはならないよ?」
「ん〜〜」
少女2、すねられた顔をされても見えないんだな、これが。
「どうだ、ここは僕に任せてみないか?悪いようにはしないよ。約束する」
ようやく解放された久瀬は首をふった。唾液と泥で顔はすごいことになっているだろうな、
とかボンヤリと思う。まあ、それはそうとして…
激しい腕相撲だか論争だかをやっている三人を尻目に、
久瀬はユズハに近づくと耳打ちした。
「君の友達が迎えに来ている」
「え…アルちゃんとカミュち〜ですか!?」
「そのようだね。そこで君に質問したいのだが…君はここから逃げたいのか?」
「それは、逃げたいですけど…」
「あの二人は君の事を本当に心配しているよ?
オボロ君とはかなり長い間同行していたが、彼はずっと君のことばかり気にかけていた」
「…それは本当に感謝しています。ですが…」
うつむいていたユズハだが、光を灯さない目でまっすぐに久瀬を見た。
「ですが、あんなふうに景品のように扱われるのはユズハの本意ではないです」
それに、と、ちょっと赤面してユズハは続ける。
「お兄様も光岡様も…すこし恥ずかしいかも…」
(うわぁ、それ聞いたら二人とも泣くぞ)
「…分かった。友達は戸口に待たせている。そこまで行けるね?」
うなずくユズハをみて久瀬は続ける。
「次に万が一会った時は鬼として捕まえさせてもらう。
そのときはどうかムックル君はおとなしくさせておいてくれ」
そうして、戸口から消えていくユズハ達を見とどけると、久瀬は嘆息した。
さて、どう後始末をつけたものか。
「しかし貴様…なぜ、そこまでユズハを詳しく知っている…!」
「知れたこと…!ユズハは我が妹…!」
「な…!お前が…!?」
いまさらに真実を語られ動揺する光岡。その隙が致命的であった。
ダァッン
光岡の手の甲がテーブルに叩きつけられた。
「俺の…勝ちだ!ユズハ!」
喜び勇んで振り返るオボロの視界に、しかしユズハの姿はいない。
「ユ、ユズハ…?」
「ユズハさんなら出て行かれたよ、友人と一緒にね」
「く、久瀬!?どういうことだよ!」
「なぜ行かせたのだ!」
詰め寄る二人を久瀬は手を上げて制す。
「出て行く前に伝言を残していったのだが、聞くかい?」
「で、伝言だと…」
「まずオボロ君にだが…
『ご心配かけてしまい申し訳ありませんお兄様。確かに、この鬼ごっこは辛く苦しいものです。
ですが、これがユズハに課せられたことならば、
ここでお兄様に甘えてしまったらユズハの成長はないと思います。
かわいい子には旅をさせよ、と申します。
どうかお兄様、お辛いでしょうがユズハの事は放っておいてください。
そしてユズハが見事この鬼ごっこをやり遂げたとき、お兄様、ユズハをお褒めください』だそうだ」
「ユ、ユズハがそんな事を…」
呆然とつぶやくオボロの肩に久瀬はポンと手をかける。
「すまないオボロ君。ユズハを守るために鬼にしてやれと言ったのは僕だが、
ユズハさんの真剣な眼差しを前にして何も言う事が出来なかった。許してくれ」
「いや…いいんだ久瀬。むしろお前には礼を言わせてくれ。ユズハ…頑張れよ」
まあ、嘘も方便というじゃないか。久瀬は自分の良心を慰めた。
それにこの嘘は、きっとこの兄妹にとっていい嘘になる。そんな気がした。
「次に光岡さんだが…ええと…」
「う、うむ。あの方はなんと言っていた!?」
「えーと…(考え中)…そう、確か
『光岡様、ユズハを影から守ってくださった事にまずはお礼を言わせてください。
ですがお兄様にも申し上げたとおり、光岡様に甘える事はユズハの本意ではありません。
また光岡様にも、この鬼ごっこにおける目的、使命というものがあるはずです。
ユズハの事を構うよりも、まずはそちらのほうをご優先ください。
そして、お互いが己の責務を果たしたとき、改めて堂々とお会いしましょう』
とのことだ」
「ぐう…安易に馴れ合いよりもまずは互いの切磋琢磨か…!
お厳しいながらなんと優しさあふれるお言葉なのだ!この光岡感服した…!」
うん、世のストーカーを一人減らしたと思えばこれだっていい嘘さ、と久瀬は思った。
「ユズハ…体だけは冷やすなよ…」
「ユズハさんに比べてこの俺はなんと至らぬのだ…!」
やれやれ、願わくば再会の時にユズハ嬢が機転をきかせてくれる事を。二人を見ながら久瀬は思う。
まあ、僕はよくやったさ。誰にとってもそれなりにいい結末じゃないか?
泥まみれになったり、虎の口の中に頭を突っ込んだりしたが、なにはともあれ一件落着…
「終わったね!さあ久瀬君、瑠璃子を探しに行こう!」
(してないじゃ〜ん)
久瀬は何も言わず崩れ落ちた。
【アルルゥ、ユズハ、カミュ 合流 逃走成功】
【久瀬 睡眠不足】
【オボロ、光岡 感涙】
【月島 さあ瑠璃子を探しに行こう!】
「………遅い――」
暗い部屋の中、ぽつりと呟いたのは、ラブリーなツインテールとは相反して、目元がクールな岡田である。
「…確かに、ね」
頷きつつ、二階部屋から下の一階の様子を窺っているのは、岡田軍団良識担当の吉井だ。
「戻ってくるタイミングを掴もうとしてるのかもよ?」
「そうだとしたら、ますます遅すぎるわ」
二人は、“乙女のピンチ”に陥り、それを打開する為に鬼が二人もうろつく一階へと降りて行った松本と、そのエスコート
役を買って出た雅史の帰還を待っているのだ。
先程から一階の様子を窺っているのだが、下へ降りた二人が鬼に捕まったという気配は無い。二人の鬼の内、少女
―― 七瀬の方はシャワー室へ入ったきりだし、彼女達の知己でもある矢島は、キッチンの方へ行ったきり戻って来ない。
「タイミングを掴もうとしているんなら、今がチャンスじゃない」
「うーん…そうね。松本はともかく、佐藤君がこの好機を利用しないとは考え難いわ」
「でしょ? …はは〜ん、読めたわ。さては松本、トイレに行ったついでに――」
どこぞの名探偵よろしく、形の良い顎に指を添えつつ、双眸をキラリと光らせる岡田。
「大きい方も――」
ゴしっ…!
何やらハシたない事を言い掛けた岡田の脳天に、吉井のカラ竹割りが見事に極まる。
「の゛ォ〜〜〜……っ!!?」
「うら若い乙女がそういうボケを口にしない」
…普段は松本がボケで岡田がツッコミ、吉井は良識派(或いはネタフリ?)の様だが、松本が抜けると、ボケは岡田に、
ツッコミは吉井の方へとシフトするらしい。
「………でも、確かに遅すぎるわ」
「そう――遅すぎる」
再び、キリリとクールに表情を引き締める岡田だが、その頭にはタンコブが煙を上げつつ乗っかっていた。
……二人だけで逃げたという可能性は…?――
雅史を憎からず思っている松本にとって、これから先、二人きりになれるチャンスであると言えよう。
だが――
「「 ――それはない 」」
一瞬だけ目を合わせた岡田と吉井は、互いの脳裏に浮かんだ仮定をその一瞬のみで察し、苦笑し合いながら
同時に否定した。
「奴はそういう事はしない。あー見えてかなり身持ち固いし」
「うん。私もそう思う。愛情表現が犬チックだから誤解され易いけど」
付き合いの長い者同士が持ち得る、確信に満ちた“信頼”が、そこにあった。
例え二人が下から逃げ出していても、上の二人へ何らかの方法でその事を伝えて来るはずだ。――何れにせよ、
もう少し待ってみるべきであろう。
「…もうちょっと待ってみよう」
「うん…」
頷き合う二人――…その二人の鼻腔を、何かの香りがくすぐった。
「……いい匂い」
「…これって…」
匂いが漂って来るのは、キッチンの方かららしい。何かを炒める音も聞こえて来る。どうやら――
「もしかして、矢島君が料理してるの…!?」
「へぇ〜、彼、料理とか出来たんだ」
…実際は、キッチンを物色していた矢島が、冷蔵庫の中から冷凍食品のチャーハンが出て来たので、適当に中華鍋で
炒めているだけなのだが、そんな事は知る由も無い二人は、ちょっぴり感心したりしていた。
「ふーん…。…岡田ぁ、あんたも少しは料理くらい出来ないとね(ニヤ〜」
「う、うるさいわねっ…! 私だって料理くらいするわよっ…――め、目玉焼きとか、スクランブルエッグとか…」
「卵ばっかりじゃないの」
「やかましい。今はまだ修行中の身なのよ…!」
「料理出来る男の子にお弁当作ってあげるのなら、もっとレベルアップしないと…」
「わ、解ってるわよ、そんなの…」
顔を俯かせ、もじもじモードに入っている岡田を見やり、吉井は優しく微笑んだ。
普段はツッコミ役で、他二人の恋愛話にも色々と突っ込んだ意見を向けて来るくせに、逆に自分が問われると、すぐに
これだ。恐らく、三人の中で一番恋愛には奥手で臆病であろう。その上、なかなか素直になれない性格と来ている。
「……(…萌える。萌えるのよねぇ〜、この子のこーゆートコ…)」
何となく小動物チックになっている岡田に吉井は、自分の顔が「はにゃ〜ん…」となるのを感じていた。
――そんなおり、
カチっ…
何か、硬くて軽い物が何処かに当たる様な音――二人の顔に、緊張が走る。
一階は――先程と様子は変わっていない。矢島は相変わらずキッチンで何かを作っており、七瀬もまだシャワー室だ。
「「 ……? 」」
岡田と吉井は、不審そうな顔を見合わせた。
カチっ…
――再び、あの音。
「…? …ベランダ?」
大きなガラスの填め込まれたサッシ戸。そこを開けた先にはベランダがある。
カチっ…
「――石?」
音の正体が解った。――小石だ。建物の外、下からここのベランダに向けて、誰かが小石を投げているのだ。
その小石がガラスに当たって――
カチっ…
吉井は、音を立てぬ様にサッシ戸を開け、ベランダから下の方を見やった。
――ベランダ下…地上には、雅史と松本が居た。雅史が小石を持ち、その隣では松本が能天気な顔で手を振っている。
「岡田っ…、岡田っ…!」
吉井の手招きに応じて、岡田もベランダ下に目を向ける。――下へ降りたまま消息を絶っていた二人の姿を見て、
そして鬼の襷が掛けられていないのを見て、一瞬だけ安堵した表情になり、次の瞬間には眉をギリリと吊り上げていた。
「何やってんのよ!? 何で外に出ちゃってる訳!?」
表情と共に妙なボディランゲージで、岡田は松本に詰問する。
「ごめーん。トイレの窓から外に出たんだよ。とにかくここから離れよ? 鬼に気付かれる前に」
対する松本も、くねくねと妙なボディランゲージで応える。
…傍で見ている雅史には、何が何だかちんぷんかんぷんだったが、取り敢えずちゃんと対話は出来ているらしい。
「離れよ…って、ここから飛び降りれってかい!?(くねくねくねっ…!」
「いざという時にはそうすればいいって、岡田が言い出したんじゃない(くねっ…くねくね」
「確かに言ったけど、下から見た時と上から見た時とじゃ、体感的な高さが意外にアレだったというか…(くね…くねっ」
「大丈夫だよ〜っ。草地だし柔らかいし、アタマから落っこちない限りへーきだってば♪(くねっくねっくね〜っ」
「うー…(くね〜…」
悩みに唸る声までもボディランゲージで表す岡田を尻目に、吉井が自分達の荷物を下の二人に投げて渡し、
準備体操よろしく屈伸なんぞをやり始める。
「っ…吉井……!? やる気なの…!?」
「行くしかないでしょ。――松本〜、佐藤君にあっち向いててって伝えて(くねくねっ」
吉井のボディランゲージを通訳された雅史が、OK――とばかりに手を振り、素直に背を向けた。…ここで浩之で
あったなら、「しっかり見てないと危ないだろ?」とでも言いながら目を見開いていたであろうが。
――トサッ…
…と、意外に小さな音が、雅史の背に響く。肩越しに見やると、吉井が何事もなかったかの様に佇んでいた。
「後は岡田だけだね〜(くねくね…」
「ほらほら早く早くっ。言い出しっぺでしょ?(くねくねくね〜っ」
「わ、解ったわよ…!(くねっ…くねくね〜っ!」
岡田は意を決した。…と言うより、意を決するしかない。
「………(ゴクッ!)」
ベランダに足を掛け――そして、岡田は宙へと体を投げ出した。
――――
「…ん?」
しっかりとエプロンなんぞを引っ掛け、両手に大盛りチャーハンを乗せた皿を持つ矢島が、何か外で音がした様な
気がして、小首を傾げた。
チャーハンをリビングにあるテーブルへ置き、一応玄関から顔を出して外の様子を窺う。
――…誰もいない。
「…気の所為か」
小さく肩を竦め、再びキッチンへ。戻って来た時には、チャーハンには付き物の碗に入った中華スープを持っていた。
…この男、なかなかどうして芸が細かいと言うべきか。
「――へぇ、こんなの作れるんだ?」
シャワーを終えて戻って来た七瀬が、いい匂いを放っているチャーハンとスープを見て、感心した様な声を上げた。
「こんなん誰だって出来るっしょ」
「(うぐっ…、ズキッ……!)――そ、そうね。チャーハンなんて簡単よね」
「冷凍食品だし」
「…って、そんなオチかいコラ」
――その後、何だかんだ言いつつ、七瀬は腹を空かせたドカタのおっさんよろしく大盛りチャーハンを貪る様に
カッ食らった挙句、矢島にお代わりまで作らせたという…
…鬼の棲家となってしまったペンションから脱出を果たした三人娘と雅史は、早い歩調で海岸沿いの道を歩いていた。
「私の胸があって助かったね〜、岡田」
「うるさいわよ…」
からかって来る松本を、岡田が「ガルルル…」とばかりに一睨みする。
――あの時、岡田は着地に失敗して脚をよろめかせ、松本の胸に顔面軟着陸を果たしたのであった…
「これが岡田みたいにペッタンコなムネムネだったらエライ事に」
「ペッタンコじゃないわよっ! 小振りで品があると言いなさいっ!」
「岡田、うるさいって…! 近くに鬼が居たらどーすんのよっ…!?」
「…悪いのは私か…!? 私が全部悪いのか……!?」
緊迫した状況から脱した所為もあって、三人娘は賑やかなくらいだった。
そんな少女達を見やり、微笑を浮かべていた雅史であったが――
「………」
不意に夜空を見上げ、眉の辺りを翳らせた。
「…星が見えないね」
「え? ――………そうね。昨日は天然プラネタリウム状態だったのに」
「雲が掛かってるみたい…」
「ええ〜? もしかして、雨とか降りそうな訳〜?」
「…かも知れない。野宿はやめた方がいいね。どこか別の建物を探そう」
「……そうね」
三人娘も、星明りの見えぬ夜空を見上げ、やがて訪れるであろう雨を想い、表情を翳らせる。
――四人の足音は、夜闇の中、静かに響くさざなみの音に溶けて行き、やがて消えた。
…後日談として――
ゲーム終了後、この時、正に自分の目と鼻の先に雅史達が居た事を――しかも四人も(!)居た事を知った七瀬は、
ショックと怒りで、猛り狂う草原の覇者の如く吼えたと言う。
そして、「チャーハンなんかカッ食らってるからだよ。漢っつーか、おっさんかおまいわ」と、言わなくても良い事を
言った浩平を、張り手で地表と水平に数メートル吹っ飛ばしたとか…
――それはまた、別のお話。
【岡田・吉井・松本 雅史 七瀬・矢島の鬼ペアが居るペンションを脱出】
【岡田軍団、再び夜の中へ…。星明りの無いの夜空を見上げ、雨が近い事を知る】
【雨に備え、野宿は避ける⇒別の建物探し】
【七瀬・矢島、岡田軍団に全く気付かず。七瀬チャーハンお代わり】
【海岸沿い 二日目の夜遅め】
253 :
鬼丸:03/04/07 22:55 ID:aPqUIFJy
「――以上が大まかな説明となります。何がご質問は?」
メイドロボは丁寧且つ簡潔な紹介を終えた。
四方を煉瓦らしき壁に囲まれたここは『超ダンジョン』なる施設らしい。
――言ってみれば能力者のために作られたようなものだ、ここは。
一般人も含め様々な人間が(人でない者もいたが)この超巨大遊戯に参加している。
少なくとも参加者の位置は逐一捕捉しているだろうが
(きよみが身体の心配をせずに参加している事からもそれが言える)、
しかし仙命樹など特殊能力に対する強制的制御方法はなく、
能力使用の判断は完全に我々の善意に依っている。
そうなってくると多少の『不穏分子』が――言い方が穏やかでないが――
出現するのではないだろうか。本来なら開始する前に篩にかけておくべきなのだろうが、
御堂が参加している時点でそれが行われたかどうかすら疑問だ。
ならばこのような限定的・閉鎖的空間を別途設け、特殊技術で参加者の身体を物理的に保護してやれば、
そのような者でも欲求不満になるのを未然に防ぐことも出来るのではないか。
全力で戦いたければここでやれ。
要はそう言いたいらしい。
無論、あくまでも憶測に過ぎないが。
254 :
鬼丸:03/04/07 22:56 ID:aPqUIFJy
「一ついいか?」
「ご質問ですね。どうぞ」
「ここで参加者に触れてもルールに適用されるのか?」
「はい。1ポイントとして換算されます」
「もう一つ。俺のほかに他の参加者は」
「少々お待ちを」
メイドロボの耳障りのよい稼動音が辺りに響く。
やがてそれがおさまると彼女は静かに述べた。
「現在の時点では坂神様お一人です」
「……俺、一人か」
整理する。
ここに留まる事で得られる利点。
一つ。能力が開放できる。
――余計な力加減をしないで相手に直接攻撃を加えられるという点で大きい。
一つ。鬼ごっこルールは同じ。それゆえ有利に捕まえられる。
――これも同様だ。
一つ。宝箱が点在しており、何らかの役に立つ道具が納まっている。
――青年が所持していた小型電探器のようなものに当たればしめたものだが。
これらを考慮すればここに留まっているほうが有利である。
「脱出する場合は、その……魔方陣とか言ったか」
「はい。ここから外へ出る際には魔方陣をご利用ください。エリア各所に点在しております」
このような物が床面に書かれています――そういって紙に書かれたサンプルを示した。
「分かった。いろいろすまなかったな」
「いえ、お役に立てて光栄です」
自動機械と分かっていても挨拶してしまう。世話になったのは本当の事だから別に問題は無かろう。
255 :
鬼丸:03/04/07 22:56 ID:aPqUIFJy
彼女が去っていった後。
試しに壁面を思いっきり殴りつけてみた。
がきぃん。
「…む」
傷一つついていない。
さっきのメイドロボの言った事は本当らしかった。
「――これだな」
思っていたより手間取ってしまったが、数十回ほど曲がり角を抜けたあと、それはあった。
硬質の床に直径3メートル程の二重円が、その内側に五芒星が引かれている。
線はかすかに光を発しており、辺りを薄暗く照らしている。これが所謂魔法陣らしい。
『円陣の中央に5秒ほどお立ちください。そうすれば自動的にワープします』
円陣の中央に乗っかる。
光がより一層強さを増し、
やがて目の前が真っ白になった。
参加者がいないとなれば、もうここに用はない。
256 :
鬼丸:03/04/07 22:56 ID:aPqUIFJy
気付くと、光は太陽に変わっていた。
「――っ」
暗いところにいたせいか、夕日が眩しい。数秒ほど目を馴染ませ、そしてここがどこだか調べる。
「…海だな」
前方に広がる青い海。沖に見えるのは確か米国空母だったか。
右側には港がある。係留された小型船。簡素な建物。左方も同様だ。
どうやらここは港の桟橋の、それも一番先端らしい。後方に木の床が伸びている。
「……」
当座の目標。撃墜王を目指す。
多少寄り道はしたが、今に至るまでそれは変わっていない。
「――月代」
無事だろうか。少し心配になったが、死にはしないと思う。というか、
既に撃墜数をあげているのではないだろうか。
「む」
……こんなところでのんびりしている暇は無い。
悟ちんとの競争もあることだし、とにかく先を急がねばなるまい。
そうと決まれば善は急げ、だ。
【蝉丸 ダンジョン脱出。割と薄情】
【時間 午後5時くらい】
【場所→港】
全参加者一覧及び直前の行動(
>>256まで)
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
レス番は直前行動、無いキャラは前回(
>>220-223)から変動無しです
()で括られたキャラ同士は一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)
fils:【ティリア・フレイ】、【サラ・フリート:1】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂、【新城沙織】、【太田香奈子:2】、【月島拓也:1】
>>238-244 痕:柏木耕一、(柏木梓、日吉かおり)、柏木楓、柳川祐也、小出由美子、ダリエリ、
【柏木千鶴:10】、【柏木初音】、【相田響子】、【阿部貴之】
>>224-226 TH:(藤田浩之、長岡志保、姫川琴音)、神岸あかり、マルチ、(来栖川芹香、来栖川綾香)、
松原葵、(佐藤雅史、岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ)
>>246-252、神岸ひかり、
(【保科智子】、【坂下好恵】)、【宮内レミィ】
>>235-237、【雛山理緒:2】、
【セリオ:2】、【田沢圭子】、【矢島】
>>246-252、【垣本】、【しんじょうさおり】
WA:七瀬彰、緒方英二、
(【藤井冬弥】、【森川由綺:2】)
>>233-234、【緒方理奈:3】、【河島はるか】、【澤倉美咲】、【観月マナ】、【篠塚弥生】
こみパ:千堂和樹
>>228-232、(高瀬瑞希、九品仏大志)、(牧村南、風見鈴香)、
(猪名川由宇、大庭詠美)、御影すばる、立川郁美、澤田真紀子、
(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)、【芳賀玲子】、【塚本千紗:2】、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】)
NW:城戸芳晴、ユンナ、【コリン】、(『ルミラ』、『アレイ』)、(『イビル』、『エビル』)、
(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:江藤結花、高倉みどり、【宮田健太郎:1】、【スフィー】、【リアン】、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)、岩切花枝、杜若きよみ(黒)、
【坂神蝉丸:5(4)】
>>253-256、【三井寺月代】、【杜若きよみ(白)】、【御堂:6】、【光岡悟:1】、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ、(アルルゥ、カミュ、ユズハ)
>>238-244、ベナウィ、クロウ、カルラ、クーヤ、サクヤ、
【エルルゥ】、【オボロ:1】
>>238-244、(【ドリィ】、【グラァ】)、【ウルトリィ:1】、【トウカ】、
【デリホウライ】、【ゲンジマル】、【ヌワンギ】、【ニウェ:1】、【ハウエンクア】、【ディー:6(6)】
>>235-237、『チキナロ』
Routes:(湯浅皐月、梶原夕菜)
>>224-226、リサ・ヴィクセン、
【那須宗一:1】、【伏見ゆかり】、【立田七海】
>>233-234、【エディ】、【醍醐】、【伊藤:1】
>>224-226 同棲:【山田まさき:1】、【皆瀬まなみ:2】
MOON.:巳間晴香
>>228-232、名倉友里、(【天沢郁未:4】、【名倉由依】)、
【鹿沼葉子:2】
>>228-232、【少年:1】、【巳間良祐:1】、【高槻:1】、【A棟巡回員】
>>228-232
ONE:(里村茜、上月澪、柚木詩子)、氷上シュン、
(【折原浩平:4(3)】、【長森瑞佳】)、【七瀬留美:1】
>>246-252、【川名みさき】、
【椎名繭】、【深山雪見】、【住井護】、【広瀬真希:1】、【清水なつき】
Kanon:(沢渡真琴、天野美汐)、
(【相沢祐一】、【川澄舞】)、【月宮あゆ:4】、【水瀬名雪:3】、【美坂栞】、
【美坂香里:8(1)】、【久瀬:4】
>>238-244、【倉田佐祐理:1(1)】、【北川潤】
AIR:神尾観鈴、(霧島佳乃、霧島聖)、(遠野美凪、みちる)、神尾晴子、(柳也、裏葉)、しのさいか、
【国崎往人:2】、【橘敬介】、【神奈:1】
>>228-232、【しのまいか】
>>235-237 連絡事項
このリレーは余程の反則(電波で他の参加者を操る、魔法で自分を触れなくする)が無い限り能力使用はOKです。
但し原作外のオリジナル設定は基本的に抜きで。ていうか基本ギャグで済ませましょう。
細かいところに拘るより鬼ごっことしての状況を進める方向で
致命的なミスがない限りは脳内保管しましょう。
NGはできるだけ避けるよう書く話のキャラの前話くらいは読みましょう。
また他のスレのネタは知ってる人はニヤリ、あ、このネタ上手いなーくらいにしておきましょう。
能力に関してグレーゾーンな話を書く際には
『葉鍵鬼ごっこ感想・討論スレ
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1049719489/l50 または『葉鍵鬼ごっこ議論・感想板』(2ch外部)へどうぞ
>
ttp://jbbs.shitaraba.com/game/5200/
260 :
胡桃割り:03/04/08 00:14 ID:1EX+TfiP
違和感。
それを嗅ぎ取ったのは裏葉の方であった。
今進んでいる森の道、進行方向にある微妙なズレ。
何が違うとも言えない、それに今は――――
「ククク、もっと…もっと楽しませるのだっ」
文字通りの「鬼」が追撃してきている。
相手の装備から狭い所が有利と判断した2人は
木々の間ををかいくぐり、ニウェを振り切ろうとしていたのだが――
「ぬぅんッ」
ザガァッ
相手はその長い柄がついた鉈のような武器で軽々と木々を薙ぎ払い、直進して追ってきた。
(余計なことを考えていてはっ……)
彼女は追ってくる男に意識を集中させ、夫に掛けようとしたその言葉を飲み込んだ。
「この天檄が、主らを直接叩けぬことを悔しがっておるわっ」
また背後で木の破壊される音。一歩近くなっていることを確信する。
そして――結局眼の前の罠を発見することは出来なかった。
261 :
胡桃割り:03/04/08 00:15 ID:1EX+TfiP
そのころ、某所では2人の少年が熱く語り合っていた。
アルコールでも入っているのか、2人はノリノリである。
それも当然か、飲んでいるのはあの世界に誇る高級酒『来栖川の怒り』、しかも無料。
真実は――まぁ置いておこう。
今、ノッてきた二人の語らいは、昼間こなした「仕事」のことで佳境に達していた。
「しかし、さきほどのアレは会心の出来であった…」
グラスに残っていた僅かな液体を飲み干し、北川は息をついた。
「ほほー、越後屋自らが会心の出来とは。んで、どんなのなんだ?」
尋ねられた少年の目がキランッと輝く。そして、一気にまくし立てた。
「ある一定区域に入ると地面に仕掛けられた砲弾が上に飛び出し、上空からとりもちを撒き散らす。
罠そのものと、センサーが別になっているため、どんな玄人にも見分けることは困難、
その上とりもちの方角は360度万遍なくだ。どんな兵どもでもアレにかかれば仔羊と成り下がる代物よ!」
どっちかってーと、色物ではないかと思えなくも無いが、彼のパートナーは本気で感心し、賛辞を送る。
「完っ璧、ですな。ふーむ、なかなかやるなぁ」
「もちろんだ、アレを発動させないことが出来るやつなど、おらぬわ、わははははは!」
「わははははは! ところで、俺の方はだな……」
そして、二人は朝まで語り尽くすのであった……
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
2人が、屋台に辿り着き、真実を知るのは何時になるのであろうか?
とにかく、何も知らない2人は今、とてもとても幸せだった。
そして同時刻――
その話題のワナが、発動した。
262 :
胡桃割り:03/04/08 00:16 ID:1EX+TfiP
恐ろしく近くまで、途方もない獣が迫ってきている。
こんな状況で柳也は己の感覚が、大地を蹴り、枝葉を掻い潜るたびに
細く、鋭く、尖っていくのを感じていた。
(なんて奴だ…人間の域を越えている……だが、まだっ)
自分の連れ添いの手を握り、駆ける。その一歩がまた一つ速くなった。
ズガンッ
「この天檄が、主らを直接叩けぬことを悔しがっておるわっ」
また木の幹が切断されたのだろう。だがその音は確実に近くなっている。
後ろに感覚を残し目の前の木々の隙を
そして次の瞬間、柳也の眼前で大地が膨らんだ。
キンッッ!!!!!
柳也は欠片も気が付いていなかった。追ってくる相手にばかり集中して
この森に罠が仕掛けてあることなんて頭の片隅にも無かった。
裏葉のように違和感も覚えなかった。当然、予想だってしてなかった。
だが、柳也の抜き打ちは眼の前を跳ねた「何か」を真っ二つにしていた。
つい先程まで妻の手を握っていたはずの手には今、愚直な、だが強堅な刀が、握られている。
いきなりの出来事に、ニウェも少し呆けたように口元を半開きにしていた。
その刹那を裏葉は見逃さなかった。
派手なことをしながら一時も気を緩めなかった鬼。
その高く堅い壁のような心が、今、少しだけ隙間を見せたのだから。
263 :
胡桃割り:03/04/08 00:18 ID:1EX+TfiP
空をプカプカと浮かぶ相手にニウェは臍を噛んでいた。
「ふははは、この妖刀・無骸。空を飛ぶことなど、造作も無いわっ」
女を抱きかかえ、ふわふわと浮かんでいく男。もう既に遠いはずなのにその声はとてもはっきりと聞こえる。
「おのれぇい! このような結末、認めはせぬぞ!!」
空に向かって叫び、天檄を上に振るう。だが相手は強烈な風にもびくともしていなかった。
「クッ、妖刀・無骸か……クククッ、そこから叩き落し、その刀も手に入れてくれるわっ」
シケリペチムの皇はドンヨリと薄暗い夜空に向かって吼えた。
264 :
胡桃割り:03/04/08 00:20 ID:1EX+TfiP
一方、空に向かって語りかけるニウェのその脇の茂みを移動する男女が一組。
『何もない』空に語りかけている男を後ろにし、さくさくと移動していた。
「見事、だな。眩惑の術とはあそこまで……」
「それもこれも、柳也さまが隙を作って下さったおかげでございます」
「そ、そうか……」
照れる。が、ふと思い出したことでもあったのか、にやけた口元が元に戻った。
「ところで裏葉よ……」
「何でございましょう?」
「こいつは銘無し(ななし)だ。無骸なんてけったいな名前じゃないぞ」
少し拗ねた、と言うか、呆れた様子で語る夫に対し妻は笑顔で返す。
「柳也さまは、もう二度と人を殺めることは無いのでございましょう?」
「それは……そうだが。何の関係がある」
はるか昔、少女と約束した殺さずの誓い。
だがこの鬼ごっこで人を殺めないのは当然のこと、妻が何を言いたいのか分からなかった。
「ですから、その子は人に対して『無害』なのでございますよ」
おあとがよろしいようで。
【柳也、裏葉夫妻 二ウェを撃退】
【二ウェ 空に向かって毒づく。2人に逃げられたことに気付いていない】
訂正です〜。
特に話の流れに関係しないとこで恐縮なのですが…
>264
>『何もない』空に語りかけている男を後ろにし、さくさくと移動していた。
の後に
その片手はしっかりとお互いを握り締めている。
という一文をいれてくださいませ。
スレ汚しスマソでした。
訂正です。
繰り返し繰り返し、申しわけありません。
>262
× 後ろに感覚を残し目の前の木々の隙を
○ 後ろに感覚を残し目の前の木々の隙間を抜ける――
です……あー、なんであんなとこを(;´Д`)
時間、先の柳也裏葉の話が3時とあるんですけど、
北川たちの宴会って午前7時だったような。「そのころ」「同時刻」というのは・・・
>七瀬チャーハンお代わり
なっ、七瀬チャーハン!?(;゚∀゚)ハァハァ
「あー、びっくりした。まさか今日一日で、エクソシストと魔族と同時に知り合いになるとは思わなかったな」
「そりゃ、普通はね……」
未だ興奮醒めやらぬ由美子に、芳晴が苦笑で答える。
インタビューよろしく、ルミラに矢継ぎ早に質問を繰り出した由美子だったが、時間制限により屋台を追い出され、
少々不満を残しつつも、今は人目に付かない森の中を、2人、腹ごなしついでに歩いている。
満腹状態で気分がいいので、逃げていると言うよりは、食後の散歩のような、のんびりした雰囲気があった。
「日本にもまだ、ああいう魔族とか妖怪みたいなのが残っていたのね……」
「絶滅した日本狼じゃないんですから」
芳晴にしてみれば職業柄、というより周りに雀鬼ーズがいるから見慣れたものだが、普通、なかなかお目にかかれるものではない。
加えてバイト先で一緒に働いている、というと、更に由美子は眼鏡の奥の瞳をまん丸にして、驚くわけだ。
「うわー、なんかいいなぁ。ちょっとうらやましい」
「そ、そうですか?」
「うん。私、民間伝承とか結構興味があるから、そういう歴史の裏に潜む魔族とお知り合いだなんて、垂涎ものね」
そんな彼女は学友に、『鬼』そのものがいたりするのだが。
「でも魔族って言っても、さっきのルミラさんを見れば分かると思いますけど、普通の人間と変わりないですよ。
そりゃ、とんでもなく長生きだったり、不思議な力とかは使えますけど、俺もある意味、不思議な力使いですから」
「あははっ。そりゃそうかもね。ふふーーん? じゃあ、ちょっと君にも興味がわいて来ちゃったかな?」
と、意味ありげな視線を芳晴に向ける。
「え、えええぇっ!?」
「お友達として、ね。それとも研究者かな?」
動揺する芳晴を見て、くすくすと忍び笑う。
芳晴はほっとしたような、ちょっと残念なような、複雑な感情を胸に走らせた。
「……からかわないでくださいよ」
「ごめんごめん。でもその焦りようからすると、意中の人がいたりするのかな……?」
ぎく。
>>156-159 『Ogre Battle』ですが、都合により大幅改訂した『伝説のオウガバトル』に差し替えさせて頂きます。
これにより『Ogre Battle』は完全にアナザーになります。
展開など幾つか変化がありますので、次の話は以下『伝説のオウガバトル』に続けてください。
芳晴の脳裏に江美さん――エビルの顔が浮かぶ。その隅っこではコリンがぷんすか文句を言いつつ睨んでいるが。
「しかもその魔族さんの中にいたりして……?」
ぎくぎくぎくぎくっ。
鋭い。というか、分かりやすい。さすが嘘をつくことがひたすら苦手な芳晴だけのことはある。
「あ、えーと、それは、その……」
しどろもどろに答える間に、由美子は乙女チックに目を閉じ両手を組んで、
「エクソシストと魔族の道ならぬ恋かぁ……頑張ってね。応援するよっ」
ぺしぺしと、軽く背中を叩いて応援してくれる。
「どうも……」
一部誤解されつつも、否定しきるほどの材料もなく。むしろ告白一つできない自分の不甲斐なさを思ってため息をついたり。
「?」
「あはは……」
そんなのんきに恋話(こいばな)をしている間にも、運命の風は容赦なく叩きつけてくるのである。
断続的な力強い足音。背筋を伸ばし、指を揃え、典型的なスプリンターの姿勢でダッシュしてくる白い影。
振り向く由美子の眼鏡に映った、もう1人のメガネっ子。否、眼鏡男。
「悪い悪い、ちょぉっと通してくれないかなぁーーっ?」
土煙を立てながら恐ろしい勢いでこちらに近づいてくるのは、意外にも、鬼でもなければ元気盛んな若者でもない。
「――緒方、英二?」
CDショップのバイトという立場柄、その手の雑誌に目を通すことも多い芳晴は、その顔を知っていた。
「お、俺もまんざら捨てたものでもないねぇーーーーー…………っ」
慌てて左右に分かれた2人の間を、ドップラー効果を残しつつ、満足顔の緒方英二が駆け抜けてゆく。
「本物……か?」
「なんだったの、あれ……」
「さぁ……?」
そして。
遠ざかる足音の代わりに、再び後ろから迫り来る足音がもう一つ。
「まーちーなーさぁぁーーーーーーいっ!」
かなりの距離があるにもかかわらず、良く通る声が森の中を抜け、芳晴と由美子の元に届く。
振り向いた、と思ったら次の瞬間には、2人の間をツインテールが素晴らしい速さで通り過ぎる。
全力疾走にも関わらず、どこか優雅さを残した綺麗なフォーム。
今度は由美子もその顔を知っていた。
「緒方……理奈?」
その僅かな呟きを耳にして。
理奈はとっさに頭上の木の枝を掴み、即放し、ふわりと浮きつつ回転と浮遊で慣性を綺麗に打ち消して、あくまでも優雅に着地する。
2人に向き直ったときには、汗の一つも残していない。
「もう……急いでいるんだけど、しょうがないわね」
理奈は愛用のマジックを取りだし、キャップを外す。立ったままなどいつものことと、慣れた様子で手早く布地にサインした。
「はい、どうぞ」
と、2人に掛けられるサイン入り襷。
そして理奈は、片手を腰に、片手で髪を掻き上げて。
「じゃあねっ」
ウインク一つをサービスし、振り向く勢いそのままで、凄まじい勢いで駆けだした。
後に残るは呆然としたままの芳晴と由美子。
「だから、なんだったのよ一体……」
と、聞くともなしに聞いてみたら、芳晴はやや顔を赤らめて、彼方に消えた理奈の姿を見送っている。
「ぼーっとしてないの」
由美子はいささかの嫉妬を込めて、芳晴の脇腹をつねり上げた。
【芳晴・由美子 緒方理奈のサイン入り襷ゲット。鬼に】
【緒方理奈 2ポイントゲット】
【緒方英二 まだまだ逃げます】
【緒方理奈 まだまだ追います】
【時間 二日目午後】
麗子とダリエリは暗い森を歩いていた。
途中で幾人の人とすれ違ったのだが、不思議のことに誰も二人には気が付かない…が、
──片や超設定の超存在、石原麗子。
──片や参加者の中で最もグレーゾーンにいるエルクゥのダリエリ。
この二人に積極的に関わりたいと思う人がいるか疑問だ……
「楽しみね、どんな素敵な所にエスコートしてくれるのかしら?」
麗子はこの夜のデートに期待に胸を膨らませて……フフフッと笑った。
「見えてきたぞ、ここだ。誰にも黙っていたが初日にここを見つけていたのだ。
本当は柏木のいっちゃんと一緒に入るつもりだったのだがな」
ダリエリは月灯りのネオンに照らされた怪しいホテルを指差した。
「…あなたと耕一君、そんな仲だったの。禁断の関係ね」
麗子が真顔で茶々を入れる。
「勘違いするな、今の俺は眼鏡が可愛い夕霧嬢一筋だ。
…いっちゃんと『ウホッ!いいエルクゥ…』『やらないか』のパラダイスな関係も、ちょっと悪くないかな…とは思うが」
柏木耕一が聞いたら思わず『うれしいこと言ってくれるじゃないの』と口走ってしまいそうになる会話を交わしながら、麗子とダリエリはホテルの近くにある穴から秘密のダンジョンに入っていった。
ダリエリと麗子は迷宮の奥の部屋に入った。
「やっぱりココを選んだのね、勝負の方法は?」
「──無論、どちらかが死ぬまで……と言いたいところだが、そうもいくまい。
貴様が俺に触れたら貴様の勝ち、貴様が俺を追えなくなったら俺の勝ちだ」
「あら、随分とあなたに不利な勝負なのね………
エルクゥの力を信じるあまりの余裕かしら?」
「そうではない、人在らざるモノよ。
お主の力が我を遥かに凌駕していることなど、一目で理解したわ。
お主のようなモノと戦うと思うだけで肌が粟立つ…」
「ふふっ、私を褒めても何も出てこないわよ」
「人外には人外の闘い方が在るのだ。このようにな!!」
まず始めに動いたのはダリエリだった。
彼は迷宮に何故か落ちていた『DANGER』の赤いテープで厳重に包まれた御土産箱を拾い上げると、思い切り麗子にブン投げた。
プロ野球の剛速球以上のスピードで飛んでくる一抱えの大きさの箱を、麗子は片手で衝撃を完全に止めてキャッチする。
「あなたからのプレゼント、一体何が入っているのかしら」
麗子はそう言って土産箱を開けると、『鶴来屋特製おみやげ ちーちゃん鬼饅頭 試作品』の包み紙の中からサッカーボールほどの大きさの巨大な饅頭?がドンと出現した。
「出来たてホヤホヤみたいね、早速頂くとするわ」
麗子は顔の前に饅頭を持ち上げると、歯をウイイィンと高速振動バイブさせた。
巨大な饅頭は風船が萎むように小さくなって麗子の腹の中に収まっていった。
「ご馳走様。この鬼饅頭、鼻にツンとくる香りとドクッとした舌触りが絶妙なハーモニーを奏でているわ。…千鶴さん、腕を上げたわね」
食後の感想を述べた麗子に、ダリエリは必殺のケミカルウエポンさえ通じないことに戦慄した。
「どうしたの、まさかこれで終わり、ダリエリさん?」
ダリエリはこの超存在には通常の手段は全く通用しないと悟った。
こうなると打つ手は一つだけだ。
ダリエリは麗子に背を向けると、脱兎のごとく走りだした。
「あら?狩猟者さんが敵前逃亡かしら」
麗子がダリエリに向かって挑発する。
「違うな。逃げるのではない。戦術的撤退だ」
ダリエリは滑るが如くのスピードで、迷宮の通路を駆けていく。
常人では目にも止まらない速度の逃亡者を、麗子は歩いて追いかけた。
「…貴様、バケモノと呼ぶにも生温過ぎるな」
ダリエリの全力疾走の後ろを、歩く麗子がどんどんと差を詰めていく。
逃走先の通路の曲がり角に今度は人が入れるほどの大きさの御土産箱があった。
ダリエリはそれを確認すると(投げつけるか、それとも…)とほんの一瞬注意をとられた。
「ダリエリさん、よそ見する余裕はあるのかしら?」
麗子がそう注意すると、曲がり角の床が抜け、ダリエリは落とし穴の底に落ちていった。
迷宮の通路の一部に穴が開き、もくもくと土煙が舞う。
ダリエリが落ちた落とし穴は暗い迷宮内では底が見えないほどの大きく深いものだ。
麗子は穴の前で、罠に掛かった哀れな獲物のダリエリが出てくるのを待った。
「さあ、出てきなさい狩猟者さん。私にその姿を見せて」
待ちくたびれた麗子が落とし穴を覗き込む。
──ウオオオオオオオオオオオォォォッ!!!!!!
鬼の絶叫が迷宮内を震わす。
巨大な鬼が穴の底から飛び上がってくる。
それを見た麗子は自分もエルクゥに向かって飛び掛ると、
「獲った!!」
歓喜の声を震わせ空中で鬼に抱きついた。
「勝ったわ──違う!!」
鬼の肌触りが明らかに生きているソレとは違う。
(エルクゥの風船!?)
空中から麗子が穴の底を見下ろすと、穴に一緒に落ちた御土産箱の中に入っていた『名物エルクゥ風船 試作品』を投げつけたダリエリがニヤリと嘲笑った。
ダリエリは穴の中で目にも止まらぬ早さでエルクゥ風船をふうふうと膨らますと自分の服を着せ、麗子の方へ投げつけたのだ。その間わずかに3秒。エルクゥだからこそ可能な早業だった。
麗子が落下する一瞬のスキにダリエリは落とし穴から脱出した。
麗子はエルクゥ風船に抱きついたまま、空中で二回転半捻りして落とし穴の底に着地した。
上には半裸のダリエリが、お尻をペンペン叩いている。
「待ってなさいよ、こんな落とし穴すぐに這い出て見せるから」
麗子はそう言った後、大変なことに気がついた。
「───私の眼鏡がない!あれがないと私のアイデンティティが……
…めがね、めがね」
麗子は慌てて落とし穴の底に手探りで眼鏡を探し出した。
ダリエリは『麗子嬢、オデコに眼鏡が引っかかってますよ』とつっこみたくなったが、
この強敵に塩を送るのは止めて、一目散に逃げ出した。
【ダリエリ 麗子から半裸で逃走】
【麗子 迷宮の落とし穴の底で、自分の眼鏡を探している。眼鏡はオデコに引っかかっている】
【二日目 深夜 迷宮内】
「ん…匂う! まだ遠くへは行っていない!」
と言うが早いか、彼女は嗅覚の導く方向へ駆け出していた。
「あ、なんならまた焼くけど…」
ショップ屋ねーちゃんの声は、風に掻き消されていった…
一方こちらは浜辺沿いの休憩所。詩子さんが唸っていた。
「どうですか、詩子?」
「うううーーー、ダメ。 全然分かんない」
ガソリンを入れたバイクで快適(?)な旅路を終え、目的地の海までは来れた。
が、そのバイクが再び不調となり、折からの雨も重なって、彼女達は動けなくなってしまっていたのだ。
「ガソリンは入ってるしなー…なんか、エンジンが死んじゃったような感じ…」
「詩子、人が来ます。 …鬼じゃないみたいですが…あれは…」
と、座り込んで色々試している詩子に茜が促す。
279 :
278:03/04/08 22:40 ID:aeIw1DiS
うああ、コピペミス。
↓からです…
「ぜ、全部売れちゃった!?」
「ええ、ついさっき。 派手なお姉さんが全部買っていったわよ」
「う、うぐぅぅぅ〜!」
屋台の情報を聞き、まずは腹ごしらえとばかりに駆けつけたあゆだったが、目の前に有ったのは残酷な現実だった。
しかし
「ん…匂う! まだ遠くへは行っていない!」
と言うが早いか、彼女は嗅覚の導く方向へ駆け出していた。
「あ、なんならまた焼くけど…」
ショップ屋ねーちゃんの声は、風に掻き消されていった…
一方こちらは浜辺沿いの休憩所。詩子さんが唸っていた。
「どうですか、詩子?」
「うううーーー、ダメ。 全然分かんない」
ガソリンを入れたバイクで快適(?)な旅路を終え、目的地の海までは来れた。
が、そのバイクが再び不調となり、折からの雨も重なって、彼女達は動けなくなってしまっていたのだ。
「ガソリンは入ってるしなー…なんか、エンジンが死んじゃったような感じ…」
「詩子、人が来ます。 …鬼じゃないみたいですが…あれは…」
と、座り込んで色々試している詩子に茜が促す。
「ん? トラブルかいな?」
やがて、話題の人物が詩子に話し掛けてきた。
茜が絶句したのも無理はない。 彼女は恐竜に跨り、従者を引き連れて現れたのだ。
しかも、タイヤキを食しながら。
「う…うん、エンジンがね、掛からないの」
異色の取り合わせに一瞬引いたものの、女性(神尾晴子)から何か暖かいものを感じた詩子は、会話に応じてみる。
「ふーん、ちょっと見してみ?」
晴子は気軽にバイクを見て回す。 そして、色々と動作を確かめ、エンジンからプラグキャップを引き抜いた。
「ああ、やっぱり。 プラグコードが切れかけてるやん」
「おおー!」
実にあっさりと原因を突き止めた晴子に、詩子は喝采を送った。
「…んー、これで、どうやろ?」
バイクの車載工具で応急処置を行い、晴子はエンジンを掛けてみた。
−−ドゥルン! ドッドッドッドッ…
バイク、復活。
やんやの喝采を受け、晴子がそれに応えようとした、その時。
「見つけたーー!」
視界の隅から、猛スピードで駆けてくる鬼、一匹。
鬼は、人の領域を超える速度で晴子達5人の前に到達した。
「ふっふっふ…タイヤキを追ってきてみれば、獲物が5匹も居るとはね〜」
不適な笑みを浮かべる鬼、月宮あゆは御満悦だ。
「タ、タイヤキ? って、コレかいな」
晴子がポーチからタイヤキの入った袋を取り出す。
「まだ残ってたんだ! うう〜、ツイてる!」
「タイヤキが欲しいならくれてやるけどな。 その代わり、ウチ達を見逃すってのはどうや?」
今にも飛び掛らんとするあゆに、ショックから立ち直った晴子は交渉を持ち掛けた。
「ふっふ〜ん♪ タイヤキも貴女達も、両方戴くに決まってるよ!」
だが、鬼は聞く耳を持たなかった。
「そか…じゃあタイヤキをひとつ…」
「ひとつふたつ増やしても無駄だよ〜♪」
「食う」
晴子は隣りに居た澪の口に、タイヤキを押し込んだ。
「うぐぅ!?」
澪は驚愕顔をしたものの、美味なタイヤキに心奪われ、あっという間に平らげてしまった。
「な、なんて事を…ボクのタイヤキ…」
「どや? 心は変わったか?」
「ぜ、全員捕まえれば…食べきれないほどのタイヤキが…」
「じゃ」
今度は茜の口に押し込む。
「ああああーーー!!」
茜は平然と平らげた。
「う、うぐ、うぐぐぐ…」
「あー、もー。 面倒やな、ホラあんた、残り全部…」
晴子が詩子にタイヤキを向けた瞬間
「うぐうううううううう!!」
鬼が飛び掛ってきた。
「行くで! べなの兄ちゃん!」
あゆが飛び掛ってきた瞬間、晴子はアクセルを吹かし、派手に砂塵を撒き散らしながらターンし、そのまま走り出した。
ドカで神社の石段を掛け登り、砂道でも爆走&フルブレーキをかます鬼ライダー晴子。
雨が降っていて、ここが砂浜だろうと、彼女にとって50ccのバイクなど思い通りになる玩具でしかなかった。
「は、はい!」
虚を点かれたベナウィだったが、一瞬で晴子の思惑を読み取り、ウォプタルに跨って走り出す。
「ま、待てぇぇぇぇぇ!!」
あゆは呆然とする詩子達3人に目もくれず、走り去るタイヤキを追いかけていった。
取り残された3人。
「……あ、バイクが…」
「美味でした」
『ごちそうさまなの』
【晴子&ベナウィ 飲酒運転+ノーヘル+速度違反であゆを引き付けて逃げ出す】
【詩子&茜&澪 バイクを摂取される】
【あゆ 目の前の誘惑に勝てず】
全参加者一覧及び直前の行動(
>>284まで)
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
レス番は直前行動、無いキャラは前回(
>>257-259)から変動無しです
()で括られたキャラ同士は一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)
fils:【ティリア・フレイ】、【サラ・フリート:1】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂、【新城沙織】、【太田香奈子:2】、【月島拓也:1】
痕:柏木耕一、(柏木梓、日吉かおり)、柏木楓、柳川祐也、ダリエリ
>>273-277、
【柏木千鶴:10】、【柏木初音】、【相田響子】、【小出由美子】
>>269-272、【阿部貴之】
TH:(藤田浩之、長岡志保、姫川琴音)、神岸あかり、マルチ、(来栖川芹香、来栖川綾香)、
松原葵、(佐藤雅史、岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ)、神岸ひかり、
(【保科智子】、【坂下好恵】)、【宮内レミィ】、【雛山理緒:2】、【セリオ:2】、【田沢圭子】、【矢島】、【垣本】、【しんじょうさおり】
WA:七瀬彰、緒方英二
>>269-272、
(【藤井冬弥】、【森川由綺:2】)、【緒方理奈:5】
>>269-272、【河島はるか】、【澤倉美咲】、【観月マナ】、【篠塚弥生】
こみパ:千堂和樹、(高瀬瑞希、九品仏大志)、(牧村南、風見鈴香)、
(猪名川由宇、大庭詠美)、御影すばる、立川郁美、澤田真紀子、
(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)、【芳賀玲子】、【塚本千紗:2】、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】)
NW:ユンナ、【城戸芳晴】
>>269-272、【コリン】、(『ルミラ』、『アレイ』)
>>269-272、(『イビル』、『エビル』)、
(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:江藤結花、高倉みどり、【宮田健太郎:1】、【スフィー】、【リアン】、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)、岩切花枝、杜若きよみ(黒)、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】、【杜若きよみ(白)】、【御堂:6】、【光岡悟:1】、【石原麗子】
>>273-277 ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ、(アルルゥ、カミュ、ユズハ)、ベナウィ
>>280-284、クロウ、カルラ、クーヤ、サクヤ、
【エルルゥ】、【オボロ:1】、(【ドリィ】、【グラァ】)、【ウルトリィ:1】、【トウカ】、【デリホウライ】、
【ゲンジマル】、【ヌワンギ】、【ニウェ:1】
>>260-264、【ハウエンクア】、【ディー:6(6)】、『チキナロ』
Routes:(湯浅皐月、梶原夕菜)、リサ・ヴィクセン、
【那須宗一:1】、【伏見ゆかり】、【立田七海】、【エディ】、【醍醐】、【伊藤:1】
同棲:【山田まさき:1】、【皆瀬まなみ:2】
MOON.:巳間晴香、名倉友里、
(【天沢郁未:4】、【名倉由依】)、【鹿沼葉子:2】、【少年:1】、【巳間良祐:1】、【高槻:1】、【A棟巡回員】
ONE:(里村茜、上月澪、柚木詩子)
>>280-284、氷上シュン、
(【折原浩平:4(3)】、【長森瑞佳】)、【七瀬留美:1】、【川名みさき】、
【椎名繭】、【深山雪見】、【住井護】、【広瀬真希:1】、【清水なつき】
Kanon:(沢渡真琴、天野美汐)、
(【相沢祐一】、【川澄舞】)、【月宮あゆ:4】
>>280-284、【水瀬名雪:3】、【美坂栞】、
【美坂香里:8(1)】、【久瀬:4】、【倉田佐祐理:1(1)】、【北川潤】
AIR:神尾観鈴、(霧島佳乃、霧島聖)、(遠野美凪、みちる)、神尾晴子
>>280-284、(柳也、裏葉)
>>260-264、しのさいか、
【国崎往人:2】、【橘敬介】、【神奈:1】、【しのまいか】
バシャッ、バシャッ、バシャッ………。
森の中、ぬかるむ地面を規則的な水音、踏みしめる足が水を飛ばす音が響いていた。
しかし、それはあたりへと広がるより先に、何倍もの雨音によってかき消される。
走っている男の名はディー。いや、D。
オンカミヤムカイの哲学士。
または、場所によっては解放者とも呼ばれ、宗教ウィツァルネミテアにおける大神、ウィツァルネミテアそのものでもある。
だが、今の彼は……ただの、走る男にすぎなかった。
吐く息は白く変わり、濡れた髪は顔にへばりつく。雨合羽を着ているとはいえ、激しく動いている以上全ての雨粒を防ぐことなどできない。服もだいぶ濡れてきた。
だが、止まることはできない。
「チッ、安物はこれだから! 使えん!」
手の中の探知機に毒づく。安物だけあって、その性能は悪かろうであった。
周囲に参加者がいる/いない(鬼・逃げ手判別せず)、そして対象の大雑把な方向が指し示される。それだけであった。
「無いよりマシだが……こんなもので、特定個人を見つけ出せるのか!?」
焦燥感は苛立ちへと変わり、冷静なDの思考をも阻害し始めた。
「否……。落ち着け、Dよ。落ち着け。今の私には翼も法力も残されていない。残っているのは……この、頭だけなのだから」
余計な感情で最後の手札すら自ら捨てるようなことがあってはならない。
Dは考える。ハクオロを探す方法を。見つけてからならばどうとでもなる。だが、見つからないことにはどうにもならない。
そして……
「よし、やはりこれしかないな」
一つの手段に到達する。決まれば行動は早い、Dは近くの木に駆け寄り、太めの枝を一本ヘシ折った。
「頼むぞ……」
持ったまま道のど真ん中に歩み寄り、地面に突き立て、添えていた手を放す。
……ぱたっ。
「……あっちか!」
枝が倒れた方向に向かい、全力で駆け出す。
彼が考え抜いて編み出した方法。要は、勘だ。
だってそれしかないんだから。
情報は皆無に等しい、というか皆無なのだから。
だがDすら知らないことがある。
かつて壱であった大神は弐に分かたれ、
お互いに引きつけ合い、憎しみ合い、惹かれ合い、殺し合う。
死ぬことは無いのに、終わることは無いのに、お互いが同じゆえに、どこまでも傷つけ合う。
そんな2人の運命は、どこかでぶつかり合い、交錯する。
そう……それは……たとえ ────
「……ん?」
「……どうしましたか、ハクオロさん?」
森の中、木々の葉の鬱蒼と繁った場所を狙って歩き、雨露をかわしていたハクオロ一行。
そんな中ハクオロは不意に頭の隅に違和感を覚えた。
「……いや……」
「お腹でも空いたのか?」
「…………いや。気のせいだろう」
それは、自分が迫る予感。
分かたれた半身との、出会いの予感。
──── この、小さな島の中でも。
【D 全力疾走中。ハクオロ一行に迫る】
【ハクオロ 僅かな違和感を覚える。まだDの接近には気付いていない】
【時間:3日目午後 場所:森の中 天候:降雨】
これから
>>260-264の『胡桃割り』を一部改定したものを投下します。
展開に変化はありませんが、時間が大幅に変化しますので、
次の作品をかかれる方は、以下の作品から繋げることをお願いします。
違和感。
それを嗅ぎ取ったのは裏葉の方であった。
今進んでいる森の道、進行方向にある微妙なズレ。
何が違うとも言えない、それに今は――――
「ククク、もっと…もっと楽しませるのだっ」
文字通りの「鬼」が追撃してきている。
相手の装備から狭い所が有利と判断した2人は
木々の間ををかいくぐり、ニウェを振り切ろうとしていたのだが――
「ぬぅんッ」
ザガァッ
相手はその長い柄がついた鉈のような武器で軽々と木々を薙ぎ払い、直進して追ってきた。
(余計なことを考えていてはっ……)
彼女は追ってくる男に意識を集中させ、夫に掛けようとしたその言葉を飲み込んだ。
「この天檄が、主らを直接叩けぬことを悔しがっておるわっ」
また背後で木の破壊される音。一歩近くなっていることを確信する。
そして――結局眼の前の罠を発見することは出来なかった。
そんなシリアスな展開から10数時間後、
某所で2人の平和な少年は熱く語り合っていた。
アルコールでも入っているのか、2人はノリノリである。
それも当然か、飲んでいるのはあの世界に誇る高級酒『来栖川の怒り』、しかも無料。
真実は――まぁ置いておこう。
今、ノッてきた二人の語らいは、昼間こなした「仕事」のことで佳境に達していた。
「しかし、さきほどのアレは会心の出来であった…」
グラスに残っていた僅かな液体を飲み干し、北川は息をついた。
「ほほー、越後屋自らが会心の出来とは。んで、どんなのなんだ?」
尋ねられた少年の目がキランッと輝く。そして、一気にまくし立てた。
「ある一定区域に入ると地面に仕掛けられた砲弾が上に飛び出し、上空からとりもちを撒き散らす。
罠そのものと、センサーが別になっているため、どんな玄人にも見分けることは困難、
その上とりもちの方角は360度万遍なくだ。どんな兵どもでもアレにかかれば仔羊と成り下がる代物よ!」
どっちかってーと、色物ではないかと思えなくも無いが、彼のパートナーは本気で感心し、賛辞を送る。
「完っ璧、ですな。ふーむ、なかなかやるなぁ」
「もちろんだ、アレを発動させないことが出来るやつなど、おらぬわ、わははははは!」
「わははははは! ところで、俺の方はだな……」
そして、二人は朝まで語り尽くすのであった……
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
2人が、屋台に辿り着き、真実を知るのは何時になるのであろうか?
とにかく、何も知らない2人は今、とてもとても幸せだった。
―――そして幸せな彼らは知らない。今から時を遥か遡った森の中で、
話題のワナは、すでに発動していたということを。
「ぬぅんッ」
ザガァッ
恐ろしく近くまで、途方もない獣が迫ってきている。
こんな状況であるというのに、いや、それ故にか――柳也は己の感覚が大地を蹴り、
枝葉を掻い潜るたびに、細く、鋭く、研ぎ澄まされていくのを感じていた。
(今なら……裏葉一人なら逃がせるか!?)
左手を腰の鞘に軽く添えて――だが、思い直す。
(だめだ。これはあくまで鬼ごっこ。峰打ちといえど相手を叩くわけにはいかぬ。
それに……こいつは人間の域を越えている……もしもの時、裏葉1人では…)
後ろをちらと見やると、いつ何時でも涼やかな姿を崩さなかった裏葉の顔は真っ赤に染まり、
どれほど苦痛なときでも穏やかであった呼吸は強く、そして激しく乱れていた。
それでもなお、一瞬合った目が、優しく、力強く返事をしてくる。
(そうだ、まだっ)
諦めない。
こんな相手でも、2人でなら行ける。そんな気がした。
自分の連れ添いの手を強く握り、駆ける。
その一歩がまた一つ速くなった。
ズガンッ
「この天檄が、主らを直接叩けぬことを悔しがっておるわっ」
また木の幹が切断されたのだろう。だがその音は確実に近くなっている。
後ろに感覚を残し目の前の木々の隙間を抜けたと思った、その次の瞬間。
柳也の眼前で、大地が膨らんだ。
キンッッ!!!!!
北川潤渾身の後期型罠の存在。柳也はそれに欠片も気が付いていなかった。
追ってくる相手にばかり集中して、この森に罠が仕掛けてあることなんて頭の片隅にも無かった。
裏葉のように違和感も覚えなかった。当然、予想だってしていなかった。
だが、柳也の抜き打ちは眼の前を跳ねた「何か」を真っ二つにしていた。
つい先程まで妻の手を握っていたはずの手には今、腰の鞘に納められていた刀が、握られている。
愚直で、それゆえに力強い輝きを持つ、柳也の愛刀。
その一閃は、発動したら全てを無力化させるはずであった罠を、完全に無意味な物体へと変えていた。
いきなりの出来事に、ニウェも少し呆けたように口元を半開きにし、歩みを止める。
その刹那を裏葉は見逃さなかった。
派手なことをしながら一時も気を緩めなかった鬼。
その高く堅い壁のような心が、今、少しだけ隙間を見せたのだから。
それから少し後―――
空をプカプカと浮かぶ相手にニウェは臍を噛んでいた。
「ふははは、この刀は神刀・無骸。地上に残りし神を宿すこの刃。空を飛ぶことなど、造作も無いわっ」
女を抱きかかえ、ふわふわと浮かんでいく男。もう既に遠いはずなのにその声はなぜか良く通っていた。
「おのれぇい! このような結末、認めはせぬぞ!!」
空に向かって叫び、天檄を上に振るう。だが相手は強烈な風にもびくともしない。
「クッ、神刀・無骸か……クククッ、そこから叩き落し、その刀、我が物にしてくれるわっ」
シケリペチムの皇は、雲の隙間から覗く青空に向かって吼えた。
一方、空に向かって語りかけるニウェのその脇の茂みを移動する男女が一組。
『何もない』空に語りかけている男を後ろにし、さくさくと移動していた。
その片手はしっかりとお互いを握り締めている。
「見事、だな。眩惑の術とはあそこまで……」
「あの御仁も、精一杯であったのでございましょう。それだけに効き目もより良く」
「そうか」
「ですが、それもこれも、柳也さまが隙を作ってくださったおかげでございます」
「……そうか……」
照れる。が、ふと思い出したことでもあったのか、にやけた口元が元に戻った。
「ところで裏葉よ……」
「何でございましょう?」
「こいつは銘無し(ななし)だ。無骸なんてけったいな名前じゃないぞ」
少し拗ねた、と言うか、呆れた様子で語る夫に対し妻は笑顔で返す。
「柳也さまは、もう二度と人を殺めることは無いのでございましょう?」
「それは……そうだが。何の関係がある」
はるか昔、少女と約束した殺さずの誓いを思い出す。
だがこの鬼ごっこで人を殺めないのは当然のこと、妻が何を言いたいのか分からなかった。
「ですから、その子は人に対して『無害』なのでございますよ」
おあとがよろしいようで。
【柳也、裏葉夫妻 二ウェを撃退】
【二ウェ 空に向かって毒づく。2人に逃げられたことに気付いていない】
以上です。
今回、皆様にご迷惑をおかけしたこと、まことに申し訳ありませんでした。
リサは超ダンジョンに入り一先ずは御堂を撒いて、HM-13に超ダンジョンの説明を受けていた。
「―――――――というようになっております。リサ様ご理解頂けましたでしょうか?」
説明が済み確認に移るHM-13。
これまで超ダンジョンに入ってきた参加者は説明を聞いた時点で方針をほぼ決定していた為
確認作業そのものが必要無い状態であったが、リサは説明中ずっと何かを考てる様子で爪を噛んでおり
普通の人間なら話を聞いてるかどうかも不安になるような様子であった。
勿論メイドロボにそんな様子は関係無く、確認も純粋に自分の仕事をこなしているに過ぎないが。
「ええ、聞いてるわ……」
聞きながらずっと考えていたのはこのダンジョンのメリットとデメリット。
(メリットは確実に雨からは身を守れる事と食料取得機会の増加といった所かしら。
対するデメリットは……あの柏木千鶴や先程の男のような人を超えた存在が全力を出せる事でしょうね)
パチンッ!
噛まれた爪が音をたてる。
(私もID13のエース『地獄の雌ギツネ』と呼ばれる身。参加者の中でも相応の実力は備えているという自負はあるけれど
相手の能力が多少は制限されてる外なら兎も角この中じゃ逃げ切るのは難しいでしょうね。
喩え銃を撃っても彼らみたいな相手には効果も薄いでしょうし……)
パチンッ!
再び爪が音をたてた直後、リサは結論を出した。
「帰るわ。出口は其処のmagic circleでいいのね?」
「はい。今後のご検討を期待致しております」
そしてリサが出た先は……
「人が気持ちよく寝てるとこに雨が降りだすとはなー」
「ん、自然現象だししょうがない。雨宿りできる場所探すのが建設的」
降りだした雨を避けるため移動しようとしていた宗一とはるかのすぐそばであった。
「おや、誰かが突然現れた」
「その反応はどうかと思うんだが。とはいえ昨日おっさん達が消えたの目の当たりにしたからなーってリサ!?」
「宗一!?」
【リサ 超ダンジョンから離脱】
【宗一、リサ ある意味運命の出会い】
【3日目明け方】
「………………………………………」
「・……………………………・………」
そして二人は倒れた。
倒れるというより、崩れ去ったというほうが正解か。
夜の砂浜に、半裸の少女と全裸の少女が、くず折れるように倒れ付した。
ああ。端から見れば、いったい彼女らにどんな不幸が襲いかかったのだろうと、気を持つことであろう。
ああ。いったい誰が、二九時間におよぶ死闘を、この二人が繰り広げていたのだと思おう。
ああ。その死闘の内容が、あっちむ(略)であったことなど、神ですら想像することはできまい。
ああ。
「。。。。。。。。。。。。。。。。ごくり」
そして垣本は息を飲んだ。
いや、待ってくだせぇよ。なんでこんなかわいい子二人が、裸でぶっ倒れてるんデスカ?
たすきだけかけられてる姿が、なんか、こう、えらく、ものすごくエロティックじゃありませんカ?
ごくり。
茂みの中から二人の様子を覗う垣本。
顔が赤く、息が荒い。心ここにあらずといった様子。
いったい何があったとですカ?
困惑している脳内に、次々と選択肢が浮かぶ。
1 二人に近寄って様子を見る。これがきっかけにお近づきになれるやも。
2 厄介なことになる前に、早々に逃げ出す。男としてそれはどうか。
3 やっty
ぶるぶるブル。脳内に浮かんだとんでもない選択肢をかき消す。
……ここは。何番で行こう。悩む垣本である。
「さて、その様子を見ている人がここにいるんですね」
佐祐理は、唐辛子手榴弾を手に取った。ねらいを定めて、投擲準備に入る。
先ほど夕食のため、屋台に立ち寄ったとき、いくつか補充しておいたから、弾数に不足は無い。
「あははー、女の子の敵は、佐祐理が成敗です」
激しく勘違いしている佐祐理であった。
垣本の選択にかかわらず、厄介なことは、すぐそこまで来ていたりするのだった。
【垣本 困惑中。混乱中】
【略コンビ ついに力尽きる】
【佐祐理 垣本へ手榴弾投擲用意】
【夜】
「…はっ…はっ……はっ……はっ……はっ…」
私――――澤田真紀子は森の中を疾駆していた。
理由は簡潔にして明快。
運の悪い、遭遇。
よりによって複数の鬼のチームに出くわすことになるとは。
歯噛みをして、草むらを走り抜ける。
顔にかかる雨。走るには具合の悪すぎる足場。
最悪だった。
ヒールからシューズに替えたのは正解だったが、スーツ姿というのはやはり辛い。
ストッキングがどんな有様になっているか、考えたくも無かった。
着替えくらいは購入しておくべきだったかもしれない。 まあ、あのジャージだけは勘弁して欲しいが。
ざっ
一瞬、草を切る音と共に視界の端に黒い影が―――
しまった。回り込まれたっ!
立ちふさがる影に足をとめる私。
目の前に現れたのは、傍らに剣を携える黒髪の少女。
自分の動きにあわせて、間を外させない。”立ちふさがる”という表現が正しい所作だ。
―――動けない。
しかし、少女の方も一定の距離をおいたまま近づいてこようとはしなかった。
まるで誰かを待っているように。
「……舞ーっ!、天沢ーっ! みつけたかーーっ!?」
そして現れたのは、襷をかけた二人の鬼。
一人は男。噴射式ノズルを持っている。何を噴射するのか知らないが、あまり愉快でないものなのは確かだろう。
もう一人は天沢と呼ばれた少女。こちらは何も身につけていない。
「お見事。あなたやっぱり速いわねー。……ではいただきます、と」
微笑を浮かべて近づいてくる少女。
他の二人は傍らで見ているだけで動こうとはしない。
彼女が捕まえるのだろうか?
私の頭に、ひとつのアイデアが浮かんだ。
「――――聞いていいかしら?」
「……なに?」
訝しげに、延ばしかけた手を止める少女。
「なぜ、あなたがタッチするの? 追い詰めたのは彼女なのに」
天沢と呼ばれた少女ともうひとりの少女を交互に見る。
黒髪の少女―――舞といったか―――は何も言わない。
「チームで行動しているからよ。捕獲するのは、わたし。役割分担ね」
やはり。そういうことか。
「――――ああ、なるほど。あなたたち、鬼としての優勝を狙っているのね。それで、獲得数を稼いでどうするつもりなのかしら?」
「どうする?」
『天沢』という少女が、不審気にわたしを見つめる。
ここからが本番だ。
「なんのためにチームを組んでいるのか、と聞いているのよ」
「なんのために……ってそのほうが効率がいいからに決まってる」
後ろで男の方が答えた。
「本気でいってるのかしら。私の記憶では主催者は賞品が何かについて言及してなかったと思うけど」
私の指摘で彼らの頭に疑問符が浮かんだようだ。
まずは主導権を握った。
これは、上手くやれるかもしれない。
「にも関わらず、あなたたちは賞品が何かもわからないのに、チームを組んでいるというのね。しかも、協力し合ってトップになっても
賞品が分けられるものとは限らないのにこの子にトップを譲ると?」
「そ、それは……」
男の方が口ごもる。どうやらそこまで考えていなかったらしい。
『確率』が少々上昇した。
「―――そっちのあなたは、どうしてチームに?」
小柄な少女。
「ふ、復讐です! お姉ちゃんを捕まえるのには、協力してもらったほうが有利ですから」
なるほど。経緯も姉がどういう人か知らないが、ともかく彼女一人でなんとかできるとは思えない。
納得できる理屈だ。
「―――そう。でも、お姉さんは既に鬼になっているかもしれないわよ。そうすれば意趣返しもできないのではない?」
「ゆ、優勝して、舞台を設定してもらいますっ!」
反射的に答える、少女。
こちらも扱いやすいかもしれない。
「あなたが撃墜数を稼いでいるわけではないのに? 賞品が何かもわからない、要望だって通るかわからない。
それでもあなたがチームにこだわる意味ってあるのかしら?」
「分けられるものかもしれないだろ?」
まずい雲行きと思ったのか、男のほうが反論した。
「もちろん、その可能性もある。例えば、お金とかね。でも、これだけ不思議時空満載な人たちを満足させられるような
賞品が金銭でありうると思う?」
微笑を浮かべて余裕で切り返した。
「それで、そちらのあなたは?」
あの黒髪の少女だ。
「……祐一と一緒だから。…あと佐祐理を、探さないといけない」
「……佐祐理? あなたの友達?」
「……祐一と佐祐理は親友だから」
「そうね。親友は大切だわ。でもそれなら他人が獲得数を稼ぐ手伝いをしている暇はないんじゃないかしら。
”ゲーム”参加者が必ずしも紳士的な人たちだけとは限らない」
少女が再び黙り込んだ。
あとは――――、
「面白いわね、あなた…名前を聞かせてもらえる?」
彼女。天沢、と呼ばれた少女だ。
「―――澤田、真紀子よ」
「おっけー、真紀子さん。あなたの意見には聞くべきところがあるのは認めるわ。それは後で話し合うとしましょう。
でも、それはそれとして一つ明らかなことがある。―――あなたはここでジ・エンドよ」
「―――冷静、なのね」
思わず目を見張った。
この状況下で私の意図を見通すこと自体はさして難しいことではない。彼らは鬼で私は逃げ手なのだから。
ただある状況下で問題を単純化し的確な対応を講じるには、相応の知性と経験が必要だ。
彼女にはそれがある。
「あなたには残念でしょうけどね」
「でも、ないわ。罪悪感をそれほど覚えなくて済むから」
本当はもう少し、粘っていたかったけれど。
ここらが潮時だろう。
手に忍ばせていたそれを、チンッ、という音と共に彼女たちの目の前に転がす。
そう。屋台で購入した、あの金属の塊だ。
自然、彼女たちの視線がそれに集まる。刹那、
閃光と爆音が轟いた。
まったく。本当に不公平なルールだと思った。
逃げ手が圧倒的不利におかれるこの”ゲーム”の特性についてはさんざん言ったが、主催者が予め賞品を
決めておかなかったのは、参加者がチームを作りゲームバランスを壊さないようにするためではないかとすら思えてきた。
つまり、参加者間に相互不信の種を植え付けることでチームを成立させないという意図ではないか。
まあ、ともかく。
それはともかくだ。
不審の種は蒔いた。後は滋養と時間があれば実りをつけることだろう。
今回はなんとか逃れられたけれど、次もおなじように行くという保証はどこにもない。
あまりリスクは犯せないのだ。
なにせ自分は参加者中数少ない一般人なのだから。
つまり、数少ない何の力もない『まともな人』。
鬼になった場合、獲物を捕まえて数で挽回できるとも思えない。自分にとって捕獲されることは事実上のリタイアを意味する。、
――――まずは、身を隠さないとね。
【真紀子 祐一・郁未・由依・舞 遭遇】
【真紀子 チームに亀裂を入れる】
【真紀子 シューズ着用 カロリーメイト 閃光手榴弾×1】
【時間 三日目朝】
【場所 森】
【天候 雨】
「うにゅ〜眠いよ〜」
「……」
「眠いよ〜眠いよ〜」
「……うるさいぞ、スフィー!」
「だって眠いんだもん!」
真夜中の小さな市街地で浩平とスフィーは怒鳴りあう。
「だからあれだけさっさと寝ろって言っただろ!」
「そんなのこーへーの勝手じゃん!」
「まあまあ、二人とも落ち着きなされ」
「うん、ほらスフィーさん、もうちょっと頑張ってみよ?」
だが、そう言うトウカも瑞佳も相当に眠そうだ。それを見て浩平の胸中に焦燥の念が湧き上がる。
(クソ、いい考えだと思ったのに!)
……カルラとの一件があった後、宴の続きという雰囲気でもなくなった一行であったが、
そこで浩平は新しい作戦を思いついた。
『今から寝て、深夜に起きて獲物を探すぞ!』
深夜であれば逃げ手も寝ているだろうし、
その時に市街地の家を一軒一軒しらみつぶしにすれば寝込みを襲える。これが浩平の考えであった。
かくして、浩平一行は21時に就寝、3時に起床というスケジュールで動く事になったのだが……
現在時刻、4時30分。これまでのところ成果はまるでなかった。さらに、
「トウカ、おきてるのか!?」
「……ハッ!?す、すまぬ浩平殿!」
「しょうがないよ、トウカさんなかなか寝付けなかったみたいだし……」
「う…むぅ。あの女狐への怒りが収まらなくてな……申し訳ない……」
「あーあ、ゆかりみたく寝てれば良かった〜。罠もあるしさー」
各メンバーの士気は極端に低く、スフィーはそれを隠そうともしていなかった。
ちなみに、ゆかりは起きる事さえしなかった。
浩平の作戦には確かにそれなりの理があったが、残念ながら誤算もまた含まれていた。
まず、人間はそんな簡単に就寝時間帯をずらせないという事。
次に何者かが市街地に大量の罠を作成していたという事。そのせいで家探しは遅々として進まなかった。
そして、多くの逃げ手が寝込みを襲われる事を嫌って、市街地を寝る場所として避けていた事。
最後に……これが一番重要であるが、彼らのチームはもともとたいしてやる気がないという事である。
瑞佳は浩平に付き合っているだけだし、スフィーもホットーケーキにつられているだけで、
逃げ手を捕まえる事に全く執着していない。ゆかりは完全な成り行きである。
唯一トウカだけは、カルラとの喧嘩を穏便に収めてくれた浩平に感謝し一目もおいているのだが……
「浩平殿……貴殿の策、某も拝聴したときは見事なものだと思った。
しかし、この状況では早々に就寝をとって明日への英気を養ったほうがよいと思う」
(そんなことは分かってるけどさ……!)
そのトウカの気遣いも、浩平をいらだたせるだけだ。
仲間の士気が下がっている事ぐらい浩平にも分かる。だからこそ、それを振り払うような成果がほしいのだ。
「スフィー!寝るな!ほら、さっさと歩けって!」
かなり乱暴にスフィーを小突く。
「う……うるさーい!!私帰る!後はこーへーひとりでやってなよ!」
その暴挙にスフィーの堪忍袋の緒も切れたらしい。
「な、なんだと!?」
「フンだ、ばーか!」
「馬鹿っていうほうが馬鹿なんだこの馬鹿!」
険悪な雰囲気はもはや止まらない。だが、
「浩平、もうやめよ?今のは浩平が悪いよ」
その場に瑞佳の静かな声が流れる。
「どうしたってうまくいかない時ってあるよ。ね?」
幼馴染の静かな目に浩平は押し黙る。
―――― そんな泣きそうな目、すんなよ
一息つく。徐々に冷静になっていくのが分かる。
―――― だけど、そんな眼にさせてるの、俺なんだよな。
もう一度深呼吸をする。夜の冷えた空気が肺に満たされ、頭を冷やす事が出来た。
―――― 俺、リーダーなんだよな、一応。だったらもう少ししっかりしないとな。
「スフィー、俺が悪かったよ。」
「……」
「意地になってたんだ。うまくいかなくてさ。本当にすまん」
「……DXホットケーキセット4枚で許したげる」
スフィーの一言に、ようやくホッとした空気が流れた。
(ちぇっ、いい作戦だと思ったのにな。せめてここに獲物がいない事が分かればあきらめも付くんだが)
最後に未練がましく市街地のほうを振り返る。だが、そこで浩平の頭に閃くものがあった。
「すまん、最後のわがままだ!ちょっと試してみたい事があるんだけどいいか!?」
住宅街のこじんまりとしたマンションの一室。
その中ではただ今南・みどり・鈴香の天然おねーさんチームWith
毛玉が就寝中であった。
灯台での難を逃れた後は、特にハプニングもなくこのねぐらを見つけ(幸運にもこのマンションには罠がなかった)布団に付いたのであるが……
ドカーン !!!
往来から鳴り響く爆音に、南・みどり・鈴香の天然おねーさんチームWith
毛玉は飛び起きた。
「な、なんですか?」
「あらあら、なにかしら。騒がしいですね〜」
「あちらの通りでしょうか?なんか光ってますけど」
三人は、明かりをつけるとベランダに出てそちらのほうを見る。
「うーん、見えますか?」
「ちょっと見えないですねぇ」
「爆竹でもしてるんでしょうか?」
そんなのどかな会話がベランダでかわされる。その様子を……
「浩平殿!あそこだ!」
「うん、三人いる!」
「ご丁寧に明かりまでつけちゃってな!捕まえさせてもらう!」
スフィーの魔法による爆音の場所とは、南たちのマンションを挟んで反対側の
わりと高い建物の上で浩平達が見ていた。
「だけど本当にうるさいですね」
「これじゃ眠れませんね」
「うーん、注意してきましょうか」
依然そんな会話を交わしている背後で、別の声が流れた。
「えーと、ごめんなさい。すぐやめさせます」
「あんたらをタッチした後でな」
「逃げ場はないぞ、覚悟なされよ」
振り返る三人の目の前にはいつのまにか、三人の鬼がいた。
ここは3階のベランダ。確かに逃げようがない。
「なんでここが……あ、なるほど」
ポンと、南が手を打つ。
「あの爆音は私達を見つけるためのものだったんですね」
寝ているときにいきなり爆音が鳴り響き光が発すれば、よほど用心深くない人でない限り
窓から身を乗り出して何事かと確認しようとするだろう。
そこを別のところから監視し、逃げ手を見つけようというのが浩平の策であった。
全ての場所を監視できるわけでもないし、死角になっているところもあるだろうから
ダメもとの作戦であったのだが……まさか明かりまで灯もしてもらえるとは。
(ひょっとしたらこの人たち寝ぼけてるのかもな)
どーもこの人たちの天然ぷりを見てるとそう思う。
なお副次効果として、この爆音のせいで南達は、浩平達が侵入してくることに気づかなかった。
ポテトは番犬としてまるで役に立たなかった。
「さて、どんなふうにポイントを振り分けようか?」
「私はいいよ。スフィーさんもいらないと思う」
「うむ。浩平殿、これは貴殿の手柄だ。彼女達のぽいんととやらで、
南蛮菓子をスフィー殿にご馳走してやればよろしかろう」
「そうか。ありがとう」
微笑む二人に、浩平も笑顔を見せた。
こうして気の良くした一行は別のところでもこの作戦を実行したのだが、
程なくして雨が降り始めたので続行は断念せざるを得なかった。
なお。後日談として――
ゲーム終了後、浩平は七瀬留美にこの作戦の事を自慢したのだが、
「あの爆音のせいで眠れんかったわ、どあほう!!」
との怒声と共に掌底で上空を垂直に数メートル吹っ飛ばされたとか…
――それはまた、別のお話。
【折原浩平 3ポイントゲット】
【牧村南、風見鈴香、高倉みどり 鬼化】
【三日目午前5時ごろ】
【小さな市街地】
失敗した。最後は(6)ですね。
祐一達のチームワークが乱れた。
優勝賞品をどうするか。
まったく考えていなかった。
「優勝賞品か…」
祐一はなにげなく呟いた。
「……祐一、何で悩むの?」
「え?」
舞の問いに、祐一は困惑する。
祐一は、郁未、由依と眼を合わせるが、誰一人舞の言いたいことが分からないらしい。
「チームを組んだのは成績を上げる為もあるけど……皆でいた方が楽しいからじゃないの?」
舞はもとから優勝賞品目的で組んだわけでもない。
佐祐理と祐一さえ一緒にいれば楽しい。
鬼ごっこだってこんなに大人数なら楽しい。
小さいころは虐められていてできなかったけど…今は子供のころにできなかった分まで楽しんでいる。
祐一や郁未、由依もそうなんだと舞は思っていた。
――舞らしいな。
祐一はそう思った。
「そうだな、楽しめたらそうでいいんだよな、俺たちは。優勝賞品なんて二の次だ」
優勝できるかもしれない郁未は問題ない。
それに、郁未は祐一を一目おいていたし、それなりに信頼もしている。
反論があるのはカタパルト要員、由依。
「わ、私は…」
「由依、お前のお姉ちゃんってどんなやつだっけ?」
祐一は由依の反論を遮り、質問した。
由依は不満に思いつつも、姉に八つ当たりするように言いたい放題に言う。
「極悪人で、人を無理やりカタパルトするし、自分のためなら平気で生贄にささげるし……」
「ああ、もういい。お前は、自分の姉がそう簡単に鬼になると思うか?
妹を投げるほど力もあるし、味方を生贄にして生き延びるさ。それに…」
祐一は周りが引くような邪な笑顔を浮かべていった。
「鬼でも復讐なんてできるしな」
――鬼だ。ここに一人、本当の鬼がいる。
この場のメンバー全員の返答が一致した。
がさがさ。
がさがさ。
その時、草陰から複数の人間が出てきた。
「みゅー♪」「迷ったぁぁぁ、道に迷ったぁぁぁ!!」
台詞だけで、誰かが分かるような二人組。
親子に見えないこともない。
祐一組は、その二人に襷がかかっているのを確認すると無視しようとした。
髪が逆立ってきている一人の少女を除いて。
「た・か・つ・き!!」
叫びと同時に不可視の力を高槻に向けて放つ。
鬼同士の本気の勝負は御法度。
誰もが反応できなかったはずの出来事に一人だけ反応した。
「待て! 鬼同士に戦闘は禁止――」
反応したのは祐一。
魔物との戦闘の賜物だろう。
舞は反応はしたが、動くことはしなかった。
あれを止める自信はなかったから。
祐一は、不可視の力を身をもって止めた。
高槻を庇う形で。
「祐一!?」
一番驚いたのは郁未。
さっきは、つい感情的になってしまったが祐一が庇ったことで正気に戻った。
「高槻さん、今のうちに逃げて下さいっ」
なんとなく状況を把握した由依が高槻に撤退を施す。
そんなこと、言われなくても撤退しているが。
ふと、郁未はうしろで殺気を感じた。
殺気の正体は――――舞。
郁未はそのことに気付き、舞に謝る。
「ごめんなさいっ。まさか、こんなことになるなんて…」
「…謝るのは私じゃない」
「そうね……祐一にも謝っておくわ…」
【祐一 気絶。傷は舞や郁未がいるので大丈夫】
【由依・郁未 高槻に遭遇】
【舞 郁未を恨んでいるかも? 今は祐一優先】
【祐一達 優勝賞品による揉め事は解決。信頼関係修復&固まる。】
【高槻・繭 逃走】
317 :
垣本:03/04/09 19:00 ID:dO82Ka+h
さぁ垣本選手、ゆっくりと息を整えております。
空気中の酸素を肺に取り込み、赤血球へと送る作業。それはあたかも戦に向かう直前のもののふのようだ。
目の前には艶めかしき姿で倒れる2人の女性。果たして彼女らは垣本の勝利の女神なり得るのか。
そして垣本はいかなる選択肢を選び取るのか。緊張の一瞬です。
「……ふぅっ」
おおっとまだ行かない。まだ行かない。
しっかりと地面を踏みしめ、もう一度呼吸を整えます。心臓の鼓動がここまで聞こえてきそうだ。
緊張しております。垣本!
「よしっ!」
誰もがいつかは歩み、歩んだはずのステアウェイトゥアダルティ! 今日この日が垣本のメモリアルデイとなるのか!?
全ての鍵を握っているのは本人のみです!
「や、やってやる! やってやるぞ!」
砂浜を緊張の面持ちで一歩一歩突き進むその姿はさながら戦場に向かうダヴィデのようであります。
果たして放たれた石つぶてはクリティカルとなりうるのか!?
彼もとうとう脇役というヒエラルキーの最下層から脱することができるのか!? 今こそ下克上の時か!?
現状、立ち絵すらない久瀬やしの姉妹が活躍している状況下、本来一枚とはいえグラフィックを伴う彼の地位は相応の高みにあるはずです!
しかし、しかぁし! なぜだ。なぜ活躍出来ないんだ垣本!
というよりもその存在はボーダーギリギリだったのだ垣本! 一歩間違えれば出演すらすることすら危うかったのだ垣本!
行け行くんだ垣本! グラディエーターはコロッセオの戦いに勝利してのみそのレゾンテールが確立されるのだ!
進め進むんだ垣本! ここで2人の女神をその手に掴み、最脇役の地位から今こそ羽ばたく時だ!
「はいそこまーーーーでーーーーですよおにーーーーーーさーーーーーーーーーん!」
おおっと現れたるはゴリアテこと倉田佐祐理! 金にものを言わせたその装備、とても身一つで荒れ野を進む垣本が勝利出来る相手ではない!
「女の子の寝込みを襲って手込めにしようとはふてぇお方です! 天に代わってこの佐祐理が成敗してくれちゃいます!」
318 :
垣本:03/04/09 19:01 ID:dO82Ka+h
数々の凶悪虐殺ウェポンを有する彼女。しかし彼女はあえてかつて自分を苦しめた唐辛子手榴弾を手に取った。
そうそれはまさにリベンジ・マッチ。
己のプライドを賭けた武器選択だ!
「……は? アンタ、何を言って……」
「問答無用!」
ピッチャー第一球を振りかぶったァ! がおがおみすずちん戦の際には落ちぶれた大神に邪魔された、その分の怨みもこもっているのかそのモーションは深いっ。深すぎる!
トルネード投法だ!
かつてそれを武器に大いなる太平洋を渡った男がいた。その名は野茂●雄! 大リーグにおける日本人選手の地位を確立した偉大なるアイアンリーガー!
その大いなる絵姿を彷彿とさせる。まさしく今の倉田佐祐理はぁ……ロンリーウルフ!
「脇役逝ってよし!」
投げたァ!
投げたァァァァァァァ!!
投擲したァァァァァァァァァァァァ!!!
宵闇を切り裂く鉄の塊は上空から急襲するハヤブサの如き勢いで垣本へと迫る!
さぁーどうするんだ垣本!? お前はここで終わってしまうのか!? ここでジ・エンドなのか!? お前はその程度の男だったのか!?
違うだろう……? 垣本ォォォォォォーーーーーーーーーーーーッ!!!!!
「あたぼうよ!」
おおっとなんかキャラが変わったァ! その姿に後光が差して見えるのは私の錯覚かぁ!?
否ァ! 断じて錯覚ではない! 彼の背中には今、散っていった黄金聖闘士たちの想いが詰まっているのだ! 言い換えれば主演することができなかった脇役たち!
確かにィ! 彼ら一人一人の力は小さいかもしれない。だが、その想いは誰にも負けない! 彼ら一人一人にも相応の人生があり、物語があり、心がある!
たとえ、たとえ! 相手が難攻不落の最萌2位! アウシュヴィッツ以上に凶悪たる存在倉田佐祐理であったとしても!
想い! 気持ち! その点においては引けを取ることなど……
「ありえないっ! 見える。見えるぞ! 涙を飲んで出演を諦めた、俺の仲間達の姿が! 俺のこの足が光って唸るゥ! 勝利をつかめと……!」
319 :
垣本:03/04/09 19:02 ID:dO82Ka+h
飛んだ。飛んだァ! 垣本が羽ばたいた!
人の身たる彼に翼は無い。しかし彼は飛んだ。高々と飛び上がった! 17年間の脇役生活の全てを賭して、彼は飛び上がったァ!
幾千年の星霜を経て、イカロスの翼はここに完成したのだ!
「とォどォろォきィさァけェぶゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!! 見ていろ南、城島! 俺は……やってやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
天と地を逆さにした垣本の右脚に全ての光が集束する!
これは……!?
「オーーーーーヴァーーーーーーーーーヘーーーーーーーーーーッド、キィィィィィーーーーーーーーーーーーック!!!!!」
出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出た出たァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
サッカー部の面目躍如! 大技必殺極限のオーーーーーーバーーーーーヘッドキックだぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!
「なんですとぉ!?」
さすがの倉田佐祐理もこれには驚きを隠せない。脇役が、立ち絵一枚出番は一瞬の脇役が! 今まで歯牙にもかけなかった一脇役が! 路傍のゴミクズに等しかった脇役が!
正ヒロインを遙かに超える限りなく神に近い存在の佐祐理の球を打ち返したのだ!
ガッツゥゥゥゥゥゥーーーーーーーン!
鳴った鳴った鳴ったァァァァァーーーーーーーーーーーッ!
眉間、それは致命的人体急所の一ツッ!
打ち返された手榴弾はあやまたず佐祐理の眉間に直撃ッ!
佐祐理はその場に悶絶するッ! しかしッ! さらにッ! ピンはッ! 抜かれているッ! 佐祐理自身がッ! 抜いたのだッ! 自らの極刑を、彼女は自分自身で宣告していたのだッ!
即ちそれの求むるところはただ一ツッ!
ちゅどどーーーーーーーーーーん!!!!
深紅の霧が爆裂し、悶絶佐祐理を包み込んだ! 当然のごとく五感の全てで煮えたぎる灼熱の七味を感応し、激痛と激辛に七転八倒する佐祐理ッ!
「またこのオチですかーーーーーーーーーーーっ!!!!」
負けた。負けたのだ。倉田佐祐理が負けた……。
無敵の倉田佐祐理が……ここに沈んだ……。
それは……アルマダの戦い……。
そして、自らの成した偉業に佇む垣本……。
「やった……。やった……? 俺は……やったのか!?」
産まれた。
この瞬間、産まれたのだ!
ザ・ベスト・ナイス・ガイ・オヴ・WAKIYAKU!
垣本、ここに誕生!
「いやっほーーーーーーーーーぅ! 俺様最高ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
【垣本 倉田佐祐理に勝利】
【佐祐理 自分の放った唐辛子弾に悶絶】
【時間:二日目夜 場所:砂浜 天候:まだ雨は降っていないようだ】
――耕一…耕一…
なんだい山神様? 今ゲーム中だぜ?
――いや調子はどうかと思ってね。
調子? 結構いいよ。それが?
――あ、それならいいんだ。是非頑張って優勝してくれよ。
へえ、山神様応援してくれてるんだ。
――ん? ああ…
うん解った。できるだけ頑張るよ。
――ああ、是非優勝してくれ。
――おい山神。お前は耕一にかけてるんだったよな? でも甘いよ。この広い場所では、存在感を消した方が勝ちだ。つまりは夕霧だな。
――あー! 今繋いでくるなよガディム。混線するじゃないか。
――私は宗一にかけてたんだけどなあ…
――リサを忘れてもらっちゃ困るよ。
――タカムラ、アレックス。繋ぐなって言ってんだろ!
山神様…?
――あ! ゴホン。…では切るぞ耕一。健闘を祈る。
あ、ちょっと…
ブチッ
……
…神様や社長や大統領ってわかんないや。
「耕一さん。さっきからどうしたんです」
休憩した小屋で、偶然見つけた傘を差した瑞穂ちゃんが、怪訝そうに聞いてくる。
先程から、ずっと山神様と話していたため、不審に思われるのも無理は無い。
「いやね。ひょっとして世界ってアホしかいないのかなー、と思ってね……」
「え?」
無論あのアホ話を聞いてない瑞穂ちゃんは何のことやらわからない。
苦笑しながら、説明しようとしたとき、ちょうど以前から知っている気配を感じた。
「あれ?」
「どうしました?」
「これは…、祐介か?」
雨で鈍った五感でも、それとわかるくらい近くに祐介の存在を感じた。
【耕一 祐介を感知 一号の仮面所持】
【祐介 耕一&瑞穂のすぐ近くに】
【時刻 早朝】
【天気 雨】
323 :
321:03/04/09 21:24 ID:ExD10RdO
すまぬ改定
>苦笑しながら、説明しようとしたとき、ちょうど以前から知っている気配を感じた。
「ちょうど」を抜いてください
>雨で鈍った五感でも、それとわかるくらい近くに祐介の存在を感じた。
「祐介の存在を感じた」も切り落としてください
チキナロから貰ったクーポン券をシャツの胸ポケットに仕舞い込み、綾香は、パンッと手を叩いた。
「――さてと。じゃ、今度は屋台をさがしましょっか?」
「…(こくこく」
現金に代わるクーポン券を手に入れたからには、次に目指すのは食料が確実に手に入る屋台である。
井戸水で空腹は一時的に凌げたとはいえ、エネルギーの回復量としてはゼロに近い。何か食べなければ、
この先で起こり得る激しい追跡劇をこなす事は出来ないだろう。
「善は急げね。――姉さん、また頼むわ」
「…(こく…」
――そして、芹香が再びダウジングを行い始める…
…一方、来栖川姉妹の居る場所から、そう離れてはいない森の中――
「……陽が暮れて来たわ…」
落とし穴の中、トリモチに足元を囚われつつぽつりと口にするのは、策士(?)まなみ嬢である。
その傍らには、虚ろな目をして何やらブツブツと呟き続ける、ハウエンクアが居る。…今一様子が変なのは、言動の
割りには臆病である事をまなみに見抜かれ、精神的な調教を受けた為である――らしい。
「――冗談抜きで、遭難状態かもね…これは」
声は小さけれど、然程深刻でもないまなみの呟きに、ハウエンクアの肩がピクリと震えた。
「ごめんなさいごめんなさい許して下さいすいませんここから出してここから出してタスケテタスケテダレカタスケテ…」
「もぉ〜っ、ハウ君、シャキっとしなさいってば。大丈夫よ。最悪ゲーム終了迄このままでも、ちゃんと救助してくれるって」
「…………その…ゲーム終了ってのは、いつやって来るんだい……?」
「………………………………………………………………………………………………………………………さあ?」
「バカぁ〜!!!」
叫び、ハウエンクアは烈火の如く泣き出した。
「一週間も二週間も続いたらどーするつもりなのさ!? 僕達飢え死にしちゃうじゃないかぁっ!!
飢え死になんて僕はまっぴらだからね!!
どうにかしろよぉ!! どーにかしてくれよぉうわぁぁぁぁぁぁあああああんっっ!!!」
「ああ…、可哀相なハウ君…。おーよしよし……大丈夫よ、私が付いててあげるからね」
ハウエンクアをこの穴に引き摺り込み、挙句怖い話をしてパニック&虚脱状態にさせた張本人は、泣きじゃくる彼を
そっと抱き締め、あやす様に頭をナデナデ。ハウエンクアの方も大分参っているのか、自分を陥れた相手の事も忘れ、
まなみにしがみ付いて泣き続けた。
…森の中、茂みを掻き分け歩く二つの人影。芹香と綾香である。
「……こっとの方で合ってるの? 何か…森の奥の方へ来てるみたいなんだけど」
「………」
「直線的に向かっている様です? ――うーん、まあ、それが一番早いのは解るけど……罠とか無い事を祈るわ」
そうやって森の中を歩き続けていた二人の耳に――
「……? …………泣き声?」
「…(…こく) ………」
「このまま真っ直ぐ歩いた先の様です? ………誰かしらね…」
――程なくして二人は、泣き声らしき音が響いて来る場所へと辿り着いた。
そこでは落とし穴らしき穴がぽっかりと口を開いており、前に佇む二人を見上げていた。
…綾香が、穴の中を覗き込む。
「――ああっ!? 人っ!? 人がっ! 助けてっ! ここから出してくれよぉっ!!」
穴の中では、二人の男女がトリモチに囚われて座り込んでいて、男の方が綾香に気付き、哀願する様な声を上げた。
「あら、本当だ。すいませーん、もしよろしければ、ここから引き上げて貰えませんか?」
半ばパニック状態な男の方とは違い、女の方は至って落ち着いている様だった。
「………どうする、姉さん?」
困った様な笑みを浮かべて、綾香は姉を顧みる。――芹香も、困った様に眉を垂れ下げ、小首を傾げていた。
「うーん…。――…って、良く見たら貴方達、襷掛けてるじゃない? 私達、逃げ手なのよねぇ」
「タッチしたりしないから。本当よ?」
「せめて僕だけでも引き上げてくれよっ!!」
……妙に温度差のある穴の中の二人に、綾香は首を捻る。先程穴を覗いた時には、励まし合うかの様に抱き合って
いた風に見えたのだが。
「私達が貴方達を引き上げても、メリットが無いわ。わざわざ追跡者を増やしてしまう様な事、すると思う?」
笑顔であるのに冷徹な事を言って来る綾香を見て、顔から血の気を引かせたのはハウエンクアである。
「タッチしない! この先も僕は君達を追わないと約束するよっ! だから助けてよっ! もう半日以上もここに
いるんだっ! 穴の中にいるのはイヤだよぉっ!! ここから出してくれお願い頼む頼みますぅ〜っ!!!」
若い娘相手に恥も外聞も無く、泣きながら助けを求めるハウエンクア。
――彼の必死な様子を見やり、綾香は再び姉の芹香を顧みた。
「…(こくこく」
「…オッケー。ま、見過ごすのもなんだしねってか。――解ったわ。貴方達を助けましょ。但し、タッチしない事、
私達を追わない事が条件よ?」
「本当っ!? やったぁっ! 助かるっ! 助かるよぉ!」
泣いて喜ぶハウエンクアの横で、まなみがニヤリと笑っていた。
「…フフフ、また獲物が掛かったわ…。流石はハウ君、迫真の演技ね…」
「バカっ! 僕は本当に冗談抜きで上へ戻りたいんだよっ!」
「ええっ!? そんなっ…! プロの俳優顔負けの引き込みテクかと思ってたのに…!」
「君と一緒にすんなっ! 僕はもうこんな所こりごりだからね! 君一人で好きなだけ蟻地獄でもやってりゃいいさっ!」
「酷いわ、ハウ君……あんなに仲良くやってたじゃない、私達」
「そんな服の袖かじりながら上目遣いで訴えて来たって駄目だからね! 僕はここから出る! 出るったら出るっ!!」
――穴の中から響いて来るそんなやり取りを聞きながら、綾香は苦笑して肩を竦めた。
「…なる程ね」
どうやら、女の方が先に穴へ落ち、その後やって来た男を、助けを求める振りをして逆に引き摺り込んだらしい。
――女の方には注意すべきの様だ。
…縄の代用となる蔦を見つけて拾い、綾香はそれを穴の中へと垂らした。
「いいわよ。登って来て」
「――じゃ、レディ・ファーストね」
「ああっ!? 汚いぞっ!」
ハウエンクアが喚くが、まなみは問答無用。トリモチに足を囚われてもたつく彼を尻目に、まなみは蔦を掴み――
思い切り引っ張った。
………
「――…あれ?」
「何してるの?」
穴の縁にしゃがんで見下ろしながら、綾香が小首を傾げていた。
「…いえ、あの……蔦を掴んでくれないと、なんていうかその」
「大丈夫よ。近くの木に“舫い結び”で括ってあるから、蔦自体が切れない限りは平気ヘーキ♪」
「………そ…そう」
内心で、がっくりと肩を落とすまなみ。これで、蟻地獄作戦もギャフンでオジャンである…
「じゃあ、私達はもう行くからね。追って来ちゃ駄目よ? もしタッチなんかしに来たら、ルール無用で踵落としを
プレゼントしちゃうわよン(w ――さ、姉さん、行きましょ♪」
「…(こくこく」
遠ざかる足音。…芹香と綾香は去って行ってしまった。
――まなみは、そこで初めて、落胆した様に肩を落とし、大きな溜息を吐いた。
「フン、ざまぁ無いね(プ」
落ち込むこちらを見やり冷嘲するハウエンクアを、まなみはチラと一瞥すると、蔦を掴み直し、身軽な動作で上へと
登って行ってしまった。そして――
「――ハウくーん。この蔦、解いちゃってもいいよねー?」
「!!!?? や、やみろゴルァァァっ!!」
ハウエンクアが物凄い勢いで蔦を掴み登って行ったのは、言うまでも無い…
【まなみ・ハウエンクア 通り掛った芹香・綾香に穴から救われる】
【まなみタン蟻地獄作戦、半日粘ったものの満足な結果は得られぬまま終了】
【まなみ・ハウエンクア 取り敢えず空腹…】
【芹香・綾香 ダウジングが示す一番近い屋台へ一直線に向かっている】
【二日目 日没前後】
329 :
哀愁:03/04/09 23:03 ID:JkdtN+ax
「無事到着ですの!」
「そうですね」
「夕霧ちゃん凄いですの。あっという間についちゃったですの」
「たまたまです、たまたま」
すばると夕霧は、夜の商店街にたどり着いた。完璧に迷っていたすばるだったが、夕霧の素晴らしい勘に助けられて、二十分もかからず入り口まで帰りついていた。
時間。夜も夜中の午前二時。古人曰く、草木も眠る丑三つ時、というやつだ。
百鬼夜行が横行する時間帯である。
「なんだか、不気味……」
「な、なんてことないですの。さ、こっちですのっ」
かなりおびえている夕霧と、若干声が上ずっているすばる。いささか頼りない二人は、すばるが先に立って、とある建物へ向かって進んでいく。
「うたうですの。歌いながら行くですの。そうすれば怖くなんか無いですの」
「そ、そうですねっ」
「あさはやく めざめた きょうは……」
「た、たそがれのこうやに かなしき……」
曲の選定には、何も言うまい。
しかし、夜の町は不気味である。
街灯も無く、空に深くかかる雲のために、月明かりも無い。真っ暗闇の中に、黒くたたずむ建物建物……
何か出るにはまさしくうってつけ。これほどにふさわしいシチュエーションはあるまい。
ほら……君の後ろに、何か居ないかい?
「うきゃぁああああああああああっ!」
「ふやぁあああああああああっ!」
突如、横合いから現れた影に、充分緊張していた二人は、脱兎のごとく遁走していった。
「お、お化けですのーーーーーーーーーーっ」
「助けてくださいー!!!」
「……何事ですか?」
「あれ、ここは?」
「あれ、高子さん?」
「あら、夕霧さん?」
恐怖に駆けて行った二人は、故意にかあるいは偶然にか、高子が隠れている建物へ、飛びこんでいた。
「……お帰りなさい」
動転してあたふたしている二人に、高子はとりあえずそれだけ、言った。
330 :
哀愁:03/04/09 23:04 ID:JkdtN+ax
「……どうすればいいんだ」
一方、こちらはすばる一行が駆け出した現場。
一人の男が、所在なげに佇んでいた。
「……闇にまぎれすぎたのが、敗因か……?」
微妙に差し出されたまま固まっている右手が、なんともいえない哀愁を誘っていた。
むろん。
いまだに眠ったままのヌワンギに、出番なぞあるはずが無かった。
【すばる&夕霧 高子と合流】
【ビル 固まっている】
【ヌワンギ 寝てる】
【三日目午前三時 商店街の一角にて】
331 :
自爆遊戯:03/04/10 01:28 ID:AqlJFSnn
「――んふ、んふふふっふふふへへへははは」
「ふほほほっふっへはははぬふぐっふふふ」
「すぅー……」
「くにぃふははこやへふはあははああーーーっがはは」
「ぶげげうそおおうぐぐうふふふふふ」
「……ん…」
――訳が分からないだろうから補足しておく。
最後にして最強の開拓地を目の前にして珍妙な笑い声と武者震いに呑まれている地雷原ズの横で、
栞が安らかな息を立てて寝ているという構図である。
「はあっはははは、……いやぁ住井よ」
「ふはははぁぁ……――ああ、このままじゃアブナイ人だしな」
しばらくした後、二人はようやくトラップ敷設という使命を果たそうとしていた。指をコキコキ鳴らして材料を再確認する住井。
上気した頬でなにやら計算を始める北川。片手にはなぜか『バトルロワイアル』の新書。ページをぱらぱらめくりつつ、
よさげなシチュエーションをメモしてはぶつくさ喋っている。
「『ここにいる間だけギャグ体質』」
住井はニヤっとしてHM-13の云っていた言葉を繰り返す。
計算していた北川が顔を上げる。
「ということは、ですよ」
「ああ。ということはだ」
住井は別の本を取り出した。『ジサツのための100の方法』、それに諸条約で
禁止条項に指定されたブービートラップについての解説冊子。
バトロワと違い、前者には人体のありとあらゆる急所が、後者はベトナム戦争で
使われた数々のトラップについてそれぞれリアルに書かれている。
素人判断でトラップを仕掛け、万が一急所にでも当たれば大惨事は免れない。
それを避けるため住井はそういった書籍を持ち歩いているという訳だ。
332 :
自爆遊戯:03/04/10 01:29 ID:AqlJFSnn
ここで彼らが構想しているトラップを説明しよう。
まずは北国のアンテナ魔人・北川潤。彼は数ある方法のなかでも特に肥料爆弾に焦点を当てた。
ゲーム開始当初から落とし穴や網などを効果的に演出するため絶えず肥料爆弾を持ち歩いていたのだが、
しかし人死にが出ない程度に火薬量を抑えざるを得なかった。だが、当然ながらこのダンジョンでは
手加減する必要は無い。彼は食堂から拝借してきた圧力鍋にどばどば火薬をつぎ込む。
どちらかと云うと発破用に持ってきたのだが、よもや人間に向かって使用するとは想像もつかなかったろう。
一方の住井護はというと、まるで前衛芸術を拵えているかのごとき繊細さでワイアーを巡らしている。
ワイアーには色々とやんごとなき物品が吊るしてあり、もし足を引っ掛けてしまえば
一巻の終わりが訪れる仕組みになっている。むろんダンジョンのオーナーである長瀬源之助の手が掛かっている
訳だからそんなことは起こり得ないが、まあ物の例えだ。気にしないで欲しい。
今までの『参加者どもを小一時間ばかり困惑させ、逡巡させ、ついでに女性ならばひと肌ふた肌露出しちゃうような』
トラップではなく、本来の意味でのトラップを手加減無しに作れる状況にある彼らは、もはや生半可な作品では満足しないだろう。
一度この手でモノホンのトラップを……それが二人に課せられた使命であり命題であり任務なのだ。
とまあ、あれやこれやの押し問答を間に挟みつつも二人は順調に致死性トラップ(末期型)
を構内に構築していったわけであるが、その小休止中、ようやく栞の目が醒めた。
「……あれ?」
「おお、お姫様がお目目を醒ましましたぞ!」
「まことか同志住井!?」
んなことのたまっている二人を目の前にして、栞は良く状況が飲み込めてない。
「ここは……どこですか…?」
そう訊いてくる栞に北川が素早く当たる。もう栞に恩を売っておいて、後で姉の香里に(以下略)な魂胆みえみえだ。
333 :
自爆遊戯:03/04/10 01:29 ID:AqlJFSnn
「――と、まあそんな感じかな?」
「そうですか……」
ねぼけているせいで栞はイマイチ要領を得ないと言った感じだったが――おもむろに立ち上がり、歩きだした。
「お、おい栞ちゃんどこいくんだ!?」
「お小水です…レディにそんなこと聞く人嫌いですよ……」
慌てふためく二人。いや、栞の反応にではない。
だってそっちは……
「ちょ、ちょっとウエイトぷりーずぅっっ!! ままま待て待て待て!!」
「そっちはトラップだらけだぞ!!!! トラップを無事に回避するにはX軸36°Y軸29°Z軸64°の迎角で時速4キロ未満で通過しないと!!!」
「んなの一瞬で分かるかボケちんがッ――」
北川のツッコミも空しく、突如あたりは爆音と閃光、そして硝煙に包まれた。
【北川・住井・栞 自爆】
全参加者一覧及び直前の行動(
>>333まで)
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
レス番は直前行動、無いキャラは前回(
>>285-287)から変動無しです
()で括られたキャラ同士は一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)
fils:【ティリア・フレイ】、【サラ・フリート:1】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂
>>321-322、【新城沙織】、【太田香奈子:2】、【月島拓也:1】
痕:柏木耕一
>>321-322、(柏木梓、日吉かおり)、柏木楓、柳川祐也、ダリエリ、
【柏木千鶴:10】、【柏木初音】、【相田響子】、【小出由美子】、【阿部貴之】
TH:(藤田浩之、長岡志保、姫川琴音)、神岸あかり、マルチ、(来栖川芹香、来栖川綾香)
>>324-328、
松原葵、(佐藤雅史、岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ)、神岸ひかり、
(【保科智子】、【坂下好恵】)、【宮内レミィ】、【雛山理緒:2】、【セリオ:2】、
【田沢圭子】
>>299-300、【矢島】、【垣本】
>>317-320、【しんじょうさおり】
WA:七瀬彰、緒方英二、
(【藤井冬弥】、【森川由綺:2】)、【緒方理奈:5】、【河島はるか】
>>297-298、【澤倉美咲】、【観月マナ】、【篠塚弥生】
こみパ:千堂和樹、(高瀬瑞希、九品仏大志)、(猪名川由宇、大庭詠美)、
御影すばる
>>329-330、立川郁美、澤田真紀子
>>301-306、
(【牧村南】、【風見鈴香】)
>>307-312、(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)、
【芳賀玲子】、【塚本千紗:2】、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】)
NW:ユンナ、【城戸芳晴】、【コリン】、(『ルミラ』、『アレイ』)、(『イビル』、『エビル』)、
(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:江藤結花、【宮田健太郎:1】、【スフィー】
>>307-312、【リアン】、【高倉みどり】
>>307-312、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)
>>329-330、岩切花枝、杜若きよみ(黒)、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】、【杜若きよみ(白)】、【御堂:6】、【光岡悟:1】、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】
>>329-330、『ジョン・オークランド』
「我輩思うのだがな」
「……」
「もし参加者がこのような旅館にたどり着いたとき、まずどこに向かうであろうか」
「……食堂でしょ」
「明快かつ簡潔な答だ。食料の確保が最重要項目のことを考えれば、
過度なダイエット中でもない限りそうするだろうな」
「……なにがいいたいのよ」
「つまりだ。もし罠を仕掛けたいのであれば、食堂に用意すれば成功率は飛躍的に高くなる。
ふむ、誰が仕掛けたのかは知らんが、実に理にかなっている。感心するぞ」
「ねえ、大志」
「なんだね、マイシスター」
「感心している場合か!!ていうかもっと早く気づけー!!」
時は二日目午後二時ごろ。鶴来屋別館の食堂入り口には奇妙なオブジェが天井からぶら下がっていた。
「ふむ。しかしこのように逆さに吊るされては頭に血が上るな」
「何でそんなのんきなのよ!大志……見えてないでしょうね」
瑞希の背後に大志がぶら下げられているため、大志の姿勢が分からない。
「見えている?何がだね?特に目新しいものは眼にしてないが」
「そ、そう。よかったわ」
「しかし、マイシスター。レースのショーツか。しかも黒。いわゆる勝負下着というものだな?」
「……!?」
「同士和樹とのアバンチュールを期待してのものかね?
なかなかどうしていじらしいではないか、マイシスター」
「……殺してやるわ……」
「ハハハ!これは面白い!このような姿勢でどのようにして我輩を害するというのだね?
まったく呆れたぞ!ハーハッハッハ」
「なんであんたこの状況で勝ち誇れんのよ!!」
高らかに笑い続ける大志と、下着を見せたまま怒鳴り続ける瑞希。その光景は、
「……なんつーか刺激的な光景だな、こいつは」
「な、何してるんですか……お二人とも……」
食堂に入ってきたクロウと郁美を唖然とさせるに足りるものであった。
「見ないで、見ないでよー!」
「と、言われてもな嬢さん、見ないと助けてやる事ができきないんだが」
「なるべく見ないように助けてー!」
「おお、マイシスター!顔を赤らめて、手でスカートを押さえようとするその無駄な努力!
萌えというものが分かっているな!!」
「なるほどー確かにこれは萌えますね」
「あんちゃんも嬢ちゃんも、あんまりいじめてやりなさんな」
クロウは郁美とすでに助けられた大志を苦笑交じりにたしなめると、テーブルクロスを引っ張る。
「ほれ、これで覆えば平気だろ?頼むから暴れてくれるなよ」
「さて、と。改めて御礼を言わせてね」
そういう瑞希の足元には、かなりすごい状態となった大志が転がっていた。
「ああ……まあ気にするなよ。嬢さんの料理で腹も膨れたしな」
「そうですね、おいしかったです」
瑞希と大志を罠から救い出した後は、瑞希は大志をしめて、他の二人は食料を探した。
結果、それなりの食料が見つかり、瑞希がそれを調理して3人の腹は満たされたわけである。
「いや、我輩のお腹は依然として……」
「黙れ」
大志の頭に瑞希の踵がのしかかる。
「しかしずいぶん長居しちまったな。もう夕方だぜ」
「ほんとうね。これからクロウさん達はどうするの?」
「んー、特にあてもないしなぁ。嬢ちゃんどうする?」
「そうですね。ちょっと疲れちゃったかな」
「そうかい、そんじゃ今日はここに泊まって……伏せろ!」
クロウの一喝に、瑞希と郁美は身をこわばらせる。
「伏せろって!テーブルの下に入りな!」
「……どうしたの?」
言われたとおりにしながら瑞希が問う。
「外に人がいる……」
クロウは窓の下にその巨体を収め、外の様子を伺う。
「三人とも鬼か。しかもウルト姉さんか」
「知り合いかね」
いつの間にか復活していた大志。いつもと違った真面目な視線をクロウに送る。
「ああ、怖くて手ごわい姉さんだぜ。幸いこちらには気づいていないようだが……」
「食堂でのんびりしていたのはうかつだったな。おそらく奴らはここに来るぞ」
「そ、そっか!食料を確保したいはずだもんね」
「チッ、本当だぜ、こっちに来る!」
「ど、どうするんですか?」
「客室のほうにいればいくらでも逃げ場があったのだがな……」
郁美の問いに大志が歯噛みして答える。
「ここにいたのは本当にうかつだった。この食堂につながっている
厨房のほうから裏口に抜けるしかあるまい」
「にゃあ〜、大きな建物ですねぇ。今日はここにとまるんですか?」
「まだそんな時間じゃないだろ。まずは食いもんの確保だ」
「はぁ、お兄さん食いしんぼさんですね。さっき屋台で食べたばかりじゃないですか」
「ばーか」
千紗の頭を軽く小突く。
「今食べるんじゃなくてためておくんだ。こんなの旅人の常識だぞ」
「そいういうことですね。それでは食堂と厨房に向かいま……?」
「どうした?」
言葉を止めたウルトリィに往人がいぶかる。
「あそこに止めているウマ……あれはクロウ様のものですね。
ひょっとしたらクロウ様がここにいられるかもしれません」
「……そうかもしれんが、まずはメシの確保だ。いいな?」
「……そうですね」
少し腑に落ちないウルトであったが、気を取り直すと食堂のほうへ足を向けた。
その様子を物陰から見ている男女の鬼二人がいた。
「ま、まなみ、あいつら怖そうだよ……」
「だらしないわね、ハウ君。
もう半日も何も食べてないっていうからここに来たんじゃない」
男のほうはハウエンクア、女のほうはまなみ。
彼らは先ほど来栖川姉妹に助けられた後、
食料を求めて鶴来屋別館のほうまで来たのだ。
「け、けどさぁ、あの男なんてものすごい目つきだよ。あれは絶対誰か殺してるよ、間違いなく!」
「そんなわけないじゃない……」
そういいながら、まなみ自身も男の風貌に少しビビっていた。
「けど、確かにあんな体格の奴と食料めぐって争いたくないわね……」
「だろう!それなら別のところでご飯探そうよ!」
「やーよ、めんどくさい……そうね、それなら」
パチンと指を鳴らす。
「裏口から厨房のほうに入りましょ。で、さっさと食料を回収して逃げる。
これならハウ君でも怖くないでしょ?」
「う、うーん……分かったよ」
【大志、瑞希、郁美、クロウ 厨房へ。往人達には気づいているが、まなみ達には気づいていない】
【往人、ウルトリィ、千紗 食堂へ。大志達にもまなみ達にも気づいていない】
【まなみ、ハウエンクア 裏口から厨房へ。大志達に気づいていない】
【食堂と厨房はつながっている】
【二日目夕方】
「ぬおー、夕霧嬢がいない!」
鬼ごっこ中屈指の力を持ちながらも、順調に三枚目キャラの道を歩んでいるダリエリ。
麗子からどうにか逃げ切った彼は、麗子との追いかけっこ開始地点、つまり夕霧と涙の別れ(ダリエリ視点)をした場所に来ていた。
無論夕霧を探すために。
しかし夕霧上の前で無様な格好をするわけにはいかんと、服を探しに行ったのが運のつき。どうにかTシャツを一枚調達できたものの、ときすでに遅く、そこに夕霧の姿は無い。
「狩猟者たる我の嗅覚をもってしても無理か…」
雨が匂いを流す。
これではたとえエルクゥ化したところで、匂いを追うのは不可能だろう。
「まあいい。俺と夕霧嬢の赤い糸は、この程度のことで切れるような細いものではない。
いつか再び会えるときも来よう…」
どうもそういうことらしい。
しかしダリエリのもうひとつの運命はすでにそこに迫ってきていた。
「もう少し行った先に、小屋があったと思うから、そこでまた休憩しよう」
「うん、わかった。体が持たないもんね」
若い男女の声が近づいてくる。
(夕霧嬢を思うあまり、気配を探るのを怠っていたか…)
しかし慌てはしない。
感じ取れる気配からも、そして己が勘からも、相手に脅威を感じない。
この相手からなら逃げ切れる。そう確信できる。
(ついでだから顔を見てみるか。夕霧嬢の情報を持ってるかもしれんしな)
そして、ダリエリは邂逅した。
最初見たときは女神かと思った。
きびきびとした動き。しっかりと女性のラインを主張するそのスタイル。童顔な中にも理知と茶目っ気を同時に内包する眼差し。そして何より、その眼差しを包み込む眼鏡!
ヨーク内での暇つぶしの一つとして、次郎衛門ウォッチをしていたときから知ってはいたが、実際の女神は予想以上のインパクトだ。
「由美子嬢…」
思わず女神の名を漏らす。
その声は予想以上に大きかったらしく、女神とその連れ…由美子と芳晴にもダリエリの存在を気づかせることとなった。
「え、誰?」
突然目の前で自分の名を呼んだ男に戸惑う由美子。
まあ、誰でも知らない男に名前を呼ばれたら、びっくりすることだろう。
女神の戸惑いを見、放心していたダリエリも、どうにか落ち着きを取り戻した。
「ああ、失礼をした。
我が名はダリエリ。
狩猟者の中の狩猟者にして、いっちゃん…柏木耕一の友。
貴方のことは友から聞いていた」
いつの間にか宿敵から友に変化してたり、本当は耕一から聞いたわけではなかったりといろいろ突っ込みどころはあるが、それは言わないでおこう。
まあそれはともかく、男を耕一の友と理解した由美子は、ふに落ちた様子だ。
「ああ、柏木くんのお友達? へえ、柏木くん私の事話すんだ?」
「由美子さん下がって…」
目の前の男…ダリエリにただならぬものを感じた芳晴は由美子を後ろに下がらせた。
自分の勘が最大限の警鐘を鳴らしている。
(殺し合いなら負けるだろうな… しかしこれは鬼ごっこ)
気合を込めてダリエリを見つめる。
そのダリエリは由美子を見て、少し残念そうに頭を振った。
「…鬼か…」
注意がそれた。
(いまだ)
しかし、飛び掛からんとした次の瞬間に間合いが広がり、虚を突かれた芳晴は思わず動きを止める。
「では由美子嬢、失礼する」
「あ、うん」
由美子にだけ声をかけ、ダリエリはすさまじいスピードで駆けていった。
由美子はしばし呆然として、横で同じく呆然としている芳晴に問いかける。
「なにあれ? 魔族?」
「いや違うと思うんだけど…」
ダリエリが実は自分の興味の対象「雨月山の鬼」であると知ったら彼女はどういう反応を示すのだろう。
「ひょっとして、魔物、化け物って珍しくない?」
「いやそんなことは無いと思うんだけど…」
一方逃げたダリエリ。
(くっ、すまぬ夕霧嬢。消して浮気心などでは… でも由美子嬢可愛かったなあ…鬼じゃなかったら… いや俺は夕霧嬢一筋… いやしかし…)
かつて無いほど葛藤していた。
【ダリエリ 二号仮面所持 揺れ動くエルクゥ心】
【芳晴&由美子 ダリエリと遭遇 休憩はかなり取っている】
【時刻 午前5時くらい】
「いやっほ――――――ゥ!俺様サイコ―――――――ゥッ!!!!!」
倉田佐祐理を奇跡のオーバーヘッドで撃沈した垣本、佐祐理が悶絶するすぐ横でまだ歓声を上げていた。(時間にすると約五分)
その間くるくるバック宙返りは決めるわ諸手を上げて走り回るわそうかと思ったら突然跪き神に祈るわ、まるで試合に勝ったJリーガーのようなパフォーマンスを見せていた。
脇役だからといって舐めてはいけない。垣本だって立派なサッカー部員なのだ。
そして、天と地ほどの扱いの差があったはずの佐祐理を撃沈した事で、垣本のテンションは果てしなく上がっていた。
――もう俺は雑魚でも塵屑でもないぞー!!!
しかし、諌める声が、遠くから。
――…き…と――…きもと…――かきもと…――
遠くから声が聞こえる。
その声は幾度か垣本の脳に響き、そして垣本ははたと我に帰った。
――こんな所でいつまでも歓声を上げていてはいけない――後始末をしっかりつけろ――
果たして誰の声なのか、そんなことはどうでもいい。(きっと忘れ去られた脇役達の魂なのだ)
そうだ、後始末だ。
確かにここで華麗に倉田佐祐理を撃沈した。これで俺の好感度と存在感は一気に上がったはずだ。
だがしかし、このまま彼女等(略コンビを含む)を放置すれば、俺は一気に下衆へと成り下がってしまう。
しかもいつか佐祐理ファンの書き手にエライ目に合わされるかもしれない!?
それでなくても、復讐心に心を燃やす佐祐理に付狙われる危険性もある。
――そうだ、冷静になれ――
声が聞こえる。そして垣本は思い出した。サッカー少年ならではの故事を。
その昔、Jリーグがまだ開幕して間もない頃、浦和レッ●というチームがあった。
ていうか今もしっかりJ1だが。
当時レッ●は最弱チームとして扱われ、無得点など当たり前、万年最下位を走り続けるチームだった。
だが、そんな頃にでもストライカーはいた。そして、初めての先制点を取った試合があった。
垣本は当時レッ●に等興味は無かったが、流石にあの時は驚愕したものだ。
だが、愚かだったのだ、彼らは。
滅多に手に入れられなかった先制点。彼らは浮かれに浮かれまくった。試合中だというのに。
そしてホイッスルが鳴った事に気付かず、浮かれたまま気がつけばゴールを奪われていたのだ。
そして、レッ●はまたその試合に負けた――
そうだ、このまま歓喜の声をあげ続けていてはあの頃のレッ●と同じ運命をたどる事になる。
そして現在、レッ●は最弱チームの汚名を返上し、しっかりJ1でやっているではないか。
すなわち、ここで冷静にならなければ、俺はまたあの脇役として泥を啜る生活を続けなくてはならなくなる!
垣本は自分の頬を二度叩くと、まず眠る略コンビに近づき、とりあえず自分の制服のブレザーを布団代わりにかけることにした。
このままでは風邪をひいてしまう。とにかくどこかで着る物を調達してやらなければ。
そして、上手くいけばチームを組んで…とりあえずこの先は自主規制。
そして、次に進んだのは佐祐理の元へ。
唐辛子手榴弾の威力は十分過ぎたらしく、佐祐理は悶絶してそのまま力尽きたのか動かない。
ていうか眉間に手榴弾を蹴り込んだ事が原因なのだが…
まあそれはそれとして、佐祐理を介抱しなければならない。それが男としての勤めであろう。
このような美しい女性なのだ。たとえかませ犬となってしまっても、ギャグキャラと化していようと、観鈴ちんをずっと付狙っていようと、やはり美女――いや乙女は乙女なのだ。
そして、上手くいけばチームを組んで…そう、リレーSSの醍醐味は他作品カップリング! 上手くやればあろうことに乙女は乙女でも戦乙女(漢女)七瀬についていってしまった矢島以上に俺は輝く事が出来る!
そして、そして…いや、この先はやめておこう。漢が廃る。
そう! 俺は! 弱き乙女を守り抜く漢なのだ! 脇役であったことなど! ギャグキャラであったことなど! そんな過去など笑止! 俺はこの人たちを守り抜く! そして俺はこの鬼ごっこで輝くのだ!
キャラが某グラフィックすら無い名前のみのキャラでいつの間にか華音高校生徒会書記になっていた脇役になってきているような気がするのは気のせいなのだろうか?
いやしかし、これはこれでいいのだろう…と思う。
「ウォォー!!!!!!!」
垣本は吠えた。それは、塵屑同然だったあの頃の垣本と決別するための叫び。ありったけの力を込めて。腹の底から搾り出した。
しかし、全裸で倒れる女子二人と、悶絶した上に倒れた佐祐理の間で吠える垣本は、端から見ればただの変態にしか見えなかった。
雨がぽつり、と降り始めた。
【垣本 漢になる】
【略コンビ とりあえず垣本のブレザーを布団代わりに】
【時間 二日目夜 雨が降り始めました】
…海岸沿いの道から森の中へ少し入った所にあるその一軒家を見つけた時には、もう時間は深夜になっていた。
罠が仕掛けられてしる可能性もあったが、それは幸いな事に杞憂で終った。
「電気は点くみたいだけど、流石に点けない方がいいわよね」
「佐藤君と吉井の持ってる懐中電灯の出番だね〜」
その一軒家に入った岡田軍団三人娘と雅史は、暫く家の中を調べ回り、二階の寝室に、二つの寝台とソファーベッドが
置いてあるのを発見したのである。
「今晩はここで泊まりかしら…」
「そうだね。ベッドもあるし…明日に備えて、もう寝よう」
雅史のその提案に、三人娘も頷いて見せた。
――見張りは、一人ずつで行うのではなく、雅史と三人娘とで、ニ交代制で行う事にした。
今、一階にいるのは、雅史である。影の中に身を潜め、椅子に座りながら窓の外を注視する…
三人娘は、二階の寝室で眠っている。…雅史は、2・3時間も眠れば充分疲れを取る事が出来る。
だが、三人娘の方は、そうもいかないだろう。彼女達には夜明け位まで休んで貰い、自分はそれから休めばいい。
――雅史が初めの見張り役を買って出たのは、その為だ。
実際の所、雅史は疲れも眠気もそれ程感じてはいなかった。むしろあるのは、心地好い位の高揚感と充実感。
このゲームを楽しんでいる証拠であろう。
「…他の皆は、楽しくやってるかな…?」
…浩之やあかりや志保は、巧く逃げ回っているだろうか? それとも、もう鬼になってしまっているだろうか?
今は誰と一緒にいるのだろうか? それとも、一人きりでいるのだろうか…?
――…雅史は、ぼんやりとそんな事を考えていた。
そして、程なくして思考の小舟は、上で眠っている三人娘の所へと辿り着く。
ゲーム開始当初、まさか彼女達と行動を共にするとは、考えてもいなかった。
…彼女達とは、級友であると同時に、間接的ではあるが少々の因縁がある。浩之を間に置いた、クラスの委員長である
智子と三人娘の確執だ。
浩之が色々と頭を突っ込んだお蔭か、委員長と三人娘の間にあった好ましからざる流れは、無くなった様に見える。
三人娘は反省して謝罪した様だし、委員長も特に思う所は無い様子だ。…未だに岡田だけが牙を――というか、何か
対抗意識めいた物を持っているらしいが。
――だが、三人娘と接してみると、やはり根っからの悪人は居ない事が解る。委員長とのイザコザも、恐らくちょっとした
誤解から始まってしまった物であったのだろう…
そんな彼女達と行動を共にしていると知ったら、浩之は少なからず驚くであろう。驚きつつ、「やるじゃねーか、この色男」
などと、笑いながらからかって来るかも知れない。
ふ…と、顔を綻ばせる。…――
「……何処まで逃げられるかな…?」
ぽつり、雅史は呟いた。……だが、その呟きの持つイメージの中には、何故か自分は含まれていなかった。上に居る
三人娘に対してだけ、紡ぎ出された言葉だったのだ。
後々雅史は、考えてみるとその時何かしらの“予感”を抱いていたのかも知れない――と、友人達に語ったのである…
朝は、暗かった。
陽は昇り始めているはずだが、空を覆う暗い雲の所為で、眩いはずの朝は暗灰色に染まっている。更に、雨も降っており、
景色を重く濡らしていた。
その雨の中、雅史は外に佇んでいた。そして、その眼差の先には――
佇む男が、一人。
大きい。雅史よりも、ずっと。
一目で只者では無いと解る。格闘や戦闘に関する技術も身に付けているだろう。間違いなく。そして何より――
――鬼の襷。
(……逃げられないな)
自分達はもう既に追い詰められているのだと、雅史は悟った。だが…
(…せめて、彼女達だけでも――)
その決意を胸に、雅史は大男と対峙する。
「……逃げないのか?」
醍醐と名乗ったその男が、太い声で尋ねて来る。――雅史は彼を見つめ返しながら、頷いた。
「逃げ切れそうも無いと思いますから」
「やってみなければ解らぬだろう?」
再び問うて来る、醍醐。だが、雅史は弱々しげな微苦笑を浮かべ、小さく首を振って見せた。
「……ふむ。いいだろう」
ぽん…と、醍醐は雅史の肩に触れ、襷を渡した。そして、雅史の背後にある一軒家へと歩を進める――
「――ストップ」
「む?」
横を通り過ぎようとした醍醐の手首を、雅史が掴んだ。
「そこの中には誰もいません」
「…調べてみなければ解らぬだろう?」
「必要ありませんよ」
「必要かそうで無いかは、それに対する本人が判断する事だ」
「ええ。僕もそう思います。――ですけど、時間の無駄です。何もありません」
雅史の手は、醍醐の太い手首をがっしりと掴み、放そうとする気配さえ見せず、その力は存外に強い。
そんな雅史の目を見据えた醍醐は、顔を歪ませた。――笑ったらしい。
「…その目。先程の柔弱そうな表情は、言わば“鞘”か。
――失敗した。お前を標的とし、追跡者としてゲームを楽しむべきだった。存外、面白い事になっていたかも知れん」
「もう遅いですよ。鬼同士で追い掛け合ったって仕方が無いでしょう?」
「確かにな」
そう答え、醍醐はまた顔を歪めて見せた。
窓や屋根を打つ小雨の音を遠くに聞きながら、ぼんやりと目を開ける…
(…何となく明るい……?)
窓から入り込んで来る、薄暗い灰色の光を目にして、松本は寝台の上でガバッ!と起き上がった。
「……朝…!?」
枕脇に置いてあった腕時計を掴み、今の時刻を確認する。――朝の八時ちょっと過ぎ。
「タイヘン〜っ! 起きて岡田〜っ! 吉井も〜っ!」
松本は枕を掴み、岡田と吉井の体を叩いて回った。
日の出頃になったら見張りを交代しようと雅史と約束していたのに、その時間は既に大分過ぎてしまっている。
「何よぅ〜……?」
「やだっ、もうこんな時間…っ!?」
まだ半分寝たままで目を醒ます、髪がどっちらけ状態の岡田に対し、吉井は松本と同じ様に、時計を見て一気に目を
醒ました。
コンコン――
と、扉をノックする音が寝室に響く。
「おはよう、皆。やっぱり雨が降って来ちゃったね」
その扉の向こうからの声。雅史だ。
「家の中を探したら傘が何本も出てきたから、後で必要な分だけ持って行ってね?」
「佐藤君ごめーんっ! 夜通し見張らせちゃったよぉ〜っ」
「大丈夫だよ。よく眠れたでしょ?」
申し訳無さそうな声を上げる松本に、雅史の声が微笑みを帯びる。
「……佐藤君、何も起きなかった?」
「うん。――僕は鬼になっちゃったけどね」
問い掛けた吉井が、そして寝室の扉を開けようとしていた松本が、固まった。
「…………え?」
「え〜っと…説明するのも何だから省くけど、僕、鬼になっちゃったから」
いつもと何ら変わらぬ様子で言う雅史の声が、少女達の上へと積もって行く。
「――あ、でも君達は大丈夫だよ。まだ誰にもタッチされてないから」
「ちょ……ちょっと待ってよ…。じゃ、じゃあ……佐藤君一人だけが鬼になっちゃったの…!?」
「うん。だから、一緒に居られるのはここ迄。残念だけどね」
「そんなぁ…っ!? やだよぉ〜っ…!」
松本が、泣きそうな声を上げる。扉の向こうに居る雅史が、申し訳無さそうに苦笑するのが見えた気がした。
「御免ね、松本さん…。……じゃあ、僕は行くから」
「待って…! 待って佐藤君っ…!」
扉から雅史の気配が離れて行く。それを察して松本がドアノブを掴むも、焦っている為か巧く開けられない。
「松本…、松本…!」
吉井が松本の服を引っ張り、窓の外を指差した。
窓辺へ駆け寄った松本が、涙目で見下ろした先に――
――雨の中、傘を差して佇む雅史の姿があった。微苦笑を浮かべ、手を振って…――その体には、鬼の襷が。
「さ……とう………く…ん」
震える、松本の声。
その声に応えたかの様に、雅史の唇が動く。音としては聞こえない。只、“頑張って”――と、言っているのが解った。
「っ……、うんっ…、ガンバる…! 頑張って逃げるからねっ……!!」
震える声で、松本は答えた。
そして、涙で濡れたその双眸の中、雅史は背を向け、仄暗い雨に煙る景色へと消えていった…
「……佐藤君………行っちゃったよぉ……グスッ」
「同志・佐藤雅史…――惜しい人物をなくしたわ」
ようやくちゃんと目を醒ました岡田が、寝台の上で腕組み仁王立ちになりながら、遠い目で感慨深げに呟く。
「うああぁあんっ! シんでないもんっ、シんでないモンっ! 岡田のバカバカ岡田のバカァっ!!」
「ちょっと雰囲気出しただけでしょ……!? ぐるじいぐびをじべるな゛…!!」
「――佐藤君……私達の身代わりに…」
雅史の去っていった景色を窓越しに見つめながら、吉井が目元を悲壮な想いで翳らせていた。
「…私達、無駄に終る訳にはいかなくなったわね。彼の為にも…」
【雅史 醍醐にタッチされ、鬼になる。…但し、岡田軍団三人娘にまでその手が伸びるのを防ぐ】
【雅史 岡田軍団から離脱。雨の中、傘を差して何処かへ】
【三日目 朝八時頃 海岸沿いの道から森の方へ少し入った所にある一軒家】
全参加者一覧及び直前の行動(
>>353まで)
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
レス番は直前行動、無いキャラは前回(
>>334-336)から変動無しです
但しうたわれは前回抜けていたので前々回(
>>257-259)以降のレス番になっています
()で括られたキャラ同士は一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)
fils:【ティリア・フレイ】、【サラ・フリート:1】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂、【新城沙織】、【太田香奈子:2】、【月島拓也:1】
痕:柏木耕一、(柏木梓、日吉かおり)、柏木楓、柳川祐也、ダリエリ
>>342-344、
【柏木千鶴:10】、【柏木初音】、【相田響子】、【小出由美子】
>>342-344、【阿部貴之】
TH:(藤田浩之、長岡志保、姫川琴音)、神岸あかり、マルチ、(来栖川芹香、来栖川綾香)、
松原葵、(岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ)
>>348-353、神岸ひかり、
(【保科智子】、【坂下好恵】)、【宮内レミィ】、【雛山理緒:2】、【セリオ:2】、【佐藤雅史】
>>348-353、
【田沢圭子】
>>345-347、【矢島】、【垣本】
>>345-347、【しんじょうさおり】
WA:七瀬彰、緒方英二、
(【藤井冬弥】、【森川由綺:2】)、【緒方理奈:5】、【河島はるか】、【澤倉美咲】、【観月マナ】、【篠塚弥生】
こみパ:千堂和樹、(高瀬瑞希、九品仏大志、立川郁美)
>>337-341、(猪名川由宇、大庭詠美)、御影すばる、澤田真紀子、
(【牧村南】、【風見鈴香】)、(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)、【芳賀玲子】、
【塚本千紗:2】
>>337-341、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】)
NW:ユンナ、【城戸芳晴】
>>342-344、【コリン】、(『ルミラ』、『アレイ』)、(『イビル』、『エビル』)、
(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:江藤結花、【宮田健太郎:1】、【スフィー】、【リアン】、【高倉みどり】、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)、岩切花枝、杜若きよみ(黒)、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】、【杜若きよみ(白)】、【御堂:6】、【光岡悟:1】、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ
>>288-289、(アルルゥ、カミュ、ユズハ)、ベナウィ、クロウ
>>337-341、カルラ、クーヤ、サクヤ、
【エルルゥ】、【オボロ:1】、(【ドリィ】、【グラァ】)、【ウルトリィ:1】
>>337-341、【トウカ】
>>307-312、【デリホウライ】、
【ゲンジマル】、【ヌワンギ】、【ニウェ:1】
>>291-295、【ハウエンクア】
>>337-341、【ディー:6(6)】、『チキナロ』
Routes:(湯浅皐月、梶原夕菜)、リサ・ヴィクセン、
【那須宗一:1】、【伏見ゆかり】、【立田七海】、【エディ】、【醍醐:1】
>>348-353、【伊藤:1】
同棲:【山田まさき:1】、【皆瀬まなみ:2】
>>337-341 MOON.:巳間晴香、名倉友里、(【天沢郁未:4】、【名倉由依】)、
【鹿沼葉子:2】、【少年:1】、【巳間良祐:1】、【高槻:1】、【A棟巡回員】
ONE:(里村茜、上月澪、柚木詩子)、氷上シュン、
(【折原浩平:7(3)】、【長森瑞佳】)、【七瀬留美:1】、【川名みさき】、【椎名繭】、
【深山雪見】、【住井護】、【広瀬真希:1】、【清水なつき】
>>345-347 Kanon:(沢渡真琴、天野美汐)、
(【相沢祐一】、【川澄舞】)、【月宮あゆ:4】、【水瀬名雪:3】、【美坂栞】、
【美坂香里:8(1)】、【久瀬:4】、【倉田佐祐理:1(1)】
>>345-347、【北川潤】
AIR:神尾観鈴、(霧島佳乃、霧島聖)、(遠野美凪、みちる)、神尾晴子、(柳也、裏葉)、しのさいか、
【国崎往人:2】
>>337-341、【橘敬介】、【神奈:1】、【しのまいか】
「「助けてくださーいっっ!!」」
持ち主不明の服を見やる杜若きよみ(黒)と、自分の服を着ていたユンナは
その叫び声が、自分たちに向けられていることに気づいた。
振り向くと瓜二つの少年二人が、弓と矢を手に
下穿き一枚に上着を肩にかけただけという格好で、彼女らのもとに駆けてくる。
驚いたことに、彼らの頭には犬のような大きな耳が、
尻からは同じくふっさりとした尻尾が生えていて、ぴくぴくはたはたと動いている。
…人間以外の種族?双子?…ひょっとして、この服の持ち主だろうか?
だが、きよみ(黒)には浮かんだ疑問を確認する余裕はなかった。
「怖い人に追われてるんです!」「お願いです、かくまってください!」
半裸の少年たちは目尻に涙を浮かべ、必死の表情でこちらに近寄ってくる。
その肩には、そろって襷。
「ちょ、ちょっと待ちなさい、待ちなさいってば!」
抱きつかれそうになって、慌てて距離をとろうとする。
が、二人はよっぽど追い詰められているのか、すぐに縋ってくる。
わけがわからない。逃げ手ならぬ鬼である彼らが、一体誰から逃げる必要があるのだ?
「…きよみぃ。よくわかんないけど、この子たち、助けてあげようよぉ…」
ユンナも彼らの保護を訴える。というか、このままだと彼女も少年たちに抱きつかれかねない。
「ああ、もう!
わかったわ。匿ってあげるから、わたしたちに触らないで」
その一言でドリィとグラァはようやく動きを止めた。
こうなったら仕方ない。とはいえ、この辺りにはろくに身を隠せるような場所はない。
追っ手がここに来、去るまでの間、目の前の川中に潜っていろと言うのも酷な話だ。
少し向こうの方に、それなりに大きな常緑樹が一本生えている。選択の余地はなかった。
「二人とも、木登りは出来るわよね?」問う。彼らはうなづいた。
だが隠れ場所がそこしかない以上、見つかるのも時間の問題だ。どうしたものか。
枝の繁みの中に少年たちが消えたのを見送った頃。
まるで落ち武者のごとく全身に矢をつきたてた、ショートカットの少女がやって来た。
「ねぇねぇ、そこのお二人さん。ちょっといい?」
にこやかに話し掛けてくる。これが追っ手か。普通の明朗な女性にしか見えない。
だが、その双眸には獣の欲望がごうごうと燃え、渦巻いていた。
きよみ(黒)は少年たちのあられもない風体を思い出し、大方の事情を察した。
なるほど。これなら、上手くいくかもしれない。
「こっちにステキな双子の男の子たちが来たと思うんだけど、知らないかな?」
「ええ、来たわ」
きよみ(黒)はあっさりと言った。
「よっしゃいえーい!」彼女は手を叩いて喝采する。「で、どこ?どこ?教えて教えて」
「待って。その子たちの場所に連れて行ってもいいけど、条件があるわ。
あなたは鬼で、私たちは逃げ手よ。案内する代わり、私たちのことは見逃すと約束して」
命乞い。返事は迅速だった。
「おっけ〜☆商談成立っと。ほんじゃナビのほうよろしくっ!
にゅふふふふ、二人とも待っててね〜♪じゅるる…」
「…なるほどねぇ。わたしたち、こんな立場じゃなければいい友達になれそうね」
「うんうん。きよみさんも今度こみパに来てみれば?楽しいよ〜。
それまでドリグラくんたちには鼻血もののコスプレ仕込んでおくから!ハァハァ……」
ドリィたちのいる樹まではそれなりに距離がある。
その間、きよみ(黒)と玲子は自己紹介込みのたわいもない話(?)をしていた。
彼女らの後には、ユンナが心配げな顔をしながらついてきている。
彼女の持つペットボトルの中の水キノコが、強い日差しを受けてキラリと光る。
「それにしても、今日は暑いわねぇ。まだ春なのに」
何気なく呟くと、きよみ(黒)は手にしていた、もう一つのペットボトルを口に含む。
喉がこくんと上下する。
「ぬるいけれど、あなたも飲む?」そう言って、彼女の目の前にボトルを差し出す。
「ありがと、ゴチになるよ〜。ホント今日は暑いよねぇ」
玲子はペットボトルを受け取ると、紅茶キノコを喇叭飲みにした。
「ここよ」
すくすくと伸びた常緑樹。
その上方、生い茂った枝の中をきよみ(黒)は顎で示した。
「……結構」
先程までの陽気さとは一転した、冷めた言葉を玲子は発した。
「あら、どうしたの?あんなにあの子達に会いたがっていたのに」
「…急に気が乗らなくなったから。
逃げ手でもないのに、なんであんなにあの子らを追いまわしてたのか
自分でも理解に苦しむわ。……馬鹿馬鹿しい、まるで変質者じゃないの」
苦い顔で吐き捨てる玲子。吸盤で体中に張り付いていた矢を
引き剥がすと、足元に落とす。
そのままじり、ときよみ(黒)とユンナに向き直るが。
「約束したわよ?」小さく口を動かして、きよみ(黒)は目の前の鬼を牽制する。
「……………………」
鋭い一瞥を向け。
性格反転し、美少年への情熱を失った玲子は、その場を去っていった。
なお数十分後に我に返った彼女は、猛速でこの樹の元にとって返すことになる。
無論、後の祭りであった。
彼女が去ったのを見届けてから、きよみ(黒)はそうっと口の中に指を突っ込む。
その中から、反転紅茶の入ったチョコレートパンの空き袋を引っ張り出すと
逆さにして中身を捨てる。
「もう大丈夫だよー!」
ユンナの呼びかけに応え、枝葉の中から顔をほころばせた双子が姿を現す。
「ありがとうございます!」「売られたんじゃないかと心配しましたよ〜」
「ごめんなさいね。本人に諦めてもらうよう、
心変わりしてもらうのが一番いいかと思ったの」
きよみ(黒)の言っていることがよくわからずに、彼らは揃って「?」と首を傾げた。
当初は、追っ手に出会ったら、嘘の居場所を教えるつもりだった。
が、飢えた玲子を目にし、それは無理だと思った。
『嗅ぎつけそう』な感じがしたのだ。ハイエナのように。
だから、念のために仕込んでいた作戦を発動した。
何にせよ獲物を狙う動機を、反転により喪失させる。
先程の空き袋は、警戒されずに紅茶キノコを飲ませるための細工であった。
ちなみに、もし飲まなかった場合は、ユンナが玲子に水キノコをかける算段だった。
「いいから早く降りてきたらどう?いつまでもそんな格好じゃ、またあの娘が来るわよ。
あっちにあるの、あなたたちの服よね?」
「「はいっ!」」
いい返事と共に二人は、降りようと足を運ばせる。
ずるっ。
ドリィが枝を踏み外した。
着慣れない上着が枝に引っかかっているのに気付かず、バランスを崩したのだ。
「あっ」と言う間だけがあり、落ちた。
そして、その真下には
「っっ!」
気が付いたら、ユンナを突き飛ばしていた。
どしん。
「…………きよみぃっ!大丈「触っちゃ駄目!!」
鋭い声に、肩に触れる寸前ではっと手を引っ込める。
きよみ(黒)はユンナの代わりに、ドリィの下敷きになって倒れていた。
彼女の右腕に鈍い痛みが走る。彼の華奢な膝がめりこんでいた。
気付いたドリィが慌てて身を起こして、「ご、ごめんなさいっ!」と頭を下げる。
急いで樹を降りてきたグラァも、どうしようといった顔で彼女たちを見ている。
ユンナは、なんだか泣きそうな顔をしている。
腫れた腕に手を伸ばそうとして、留まり、きよみ(黒)の顔を見つめる。
咄嗟とはいえ、心配してくれた彼女を叱ってしまったことに、ちくりと痛みがした。
「だから、駄目。……わたしはもう、鬼なのよ?」
それが思った以上に優しい声だったので、自分で驚いた。
【黒きよみ 鬼になる。右腕に軽症を負う】
【反転ユンナ 黒きよみに触らないように言われる】
【ドリィ、グラァ 貞操の恩人を鬼にしてしまい、困惑。
ドリィは図らずも1ポイントゲット】
【玲子 一時的に反転。ドリィたちに興味を無くし、去る。数十分後に回復。
ドリィ、グラァの吸盤付き矢は樹の近くに落としていく】
【反転紅茶キノコの残り回数→約3回に 反転水キノコは残数そのまま】
【現在二日目午後三時過ぎ。川べり近くの樹の根元】
ユンナたんにメロメロです。
>>361 ×【反転紅茶キノコの残り回数→約3回に】
○【反転紅茶キノコの残り回数→約2回に】
リミットが約4回で、二人が一回ずつ飲んでいたので。
「へぇ、じゃあ久瀬は今から月島の妹を探しに行くのか。あ、サバ味噌定食もういっちょ追加!」
「ああ、そういうことになってしまった」
全くよく食べるな。そう思いながらオボロの問いに久瀬は答える。
「ずいぶんお人よしなんだな、お前」
「いや、なんていうか成り行きだよ」
投げやりにつぶやくと、ブラックコーヒーをすする。
「月島の自慢の妹か。今更優勝を狙う気もないし、俺も見物に行こうかな?」
「フン!瑠璃子の美しさにせいぜい腰を抜かすがいいさ!」
ユズハの一件の後、一行は雨のおかげでで地面に残っていた屋台の轍を追い、
幸運にもすぐに屋台に追いつく事が出来た。
「だけど、残念だね。美坂さん達が立ち去った後だなんてね」
月島のぼやきに、久瀬はうなずく。瑠璃子探索をセリオに手伝ってもらうつもりだったのだが。
「でもあなた達幸運よ?もうすぐ転移魔法で別のところに移動するつもりだったの」
ショップ屋のねえちゃんが言うには、屋台の移動は通常手段以外にも魔法によるテレポートも使用されているらしい。
なるほど、この広い島全体を賄うならそれも必要だろう。
(ということは、轍を追っていっても必ずしも屋台につけるわけじゃないのか)
まあ食に関する限り、自分は恵まれているのだろう、と久瀬は思った。もうすでに
三度も屋台を利用できているのだから。
(とはいえ、睡眠のほうは恵まれているとは言い難いな)
再度、ため息。月島はすぐにでも瑠璃子探索に向かいたがっている。寝るのは当分お預けになりそうだ。
意識は自然と三大欲求の最後のもの―――性欲にむき、
不覚にもそこから倉田佐祐理のことを連想して、久瀬は赤面した。
(倉田さん……清楚で可憐なあなたがひどい目にあっていなければいいが……)
脳裏に浮かぶひどい事は……まあ、健康な男子が浮かべそうな事で、久瀬は勝手に自己嫌悪に陥る。
「やれやれ、僕もオボロ君達を笑えないな」
「ん、俺がどうしたって?」
「いや、男なんてみんな馬鹿だなぁと」
倉田さんの事だ、きっとこの鬱陶しい天気の中でも明るい笑顔を振りまいているに違いない。
と、そのときノレンの外から騒がしい声が聞こえた。
「あーもう、こーへーのせいで眠いよー」
「うるせーなー。ホットケーキセットおごってやらないぞ」
「うにゅーひどいー!先に注文しちゃうもんねー。DXホットケーキセット4枚!!」
「あ、お前!お姉さん、俺も同じ奴2枚頼む!」
ずいぶんと朝からにぎやかな事だ、と思い久瀬は新しくやってきた一行を見る。
「ねー浩平君。私も同じの頼んでいい?」
「ダメ。伏見なにもしてないじゃん」
「浩平、意地悪はよしなよ。私はサンドイッチセットにホットミルクお願いします」
「某はこの紅鮭定職を頼もう」
鬼の一団は口々に朝食を注文する。と、その一人がこちらに気づいたらしく声をかけてきた。
「おお、オボロ殿であったか。息災だったか?」
「ああ、トウカか。そっちも元気そうだな」
知り合いだろうか?そう思いながら、久瀬も一行のリーダーらしい男に声をかける。
「朝からずいぶんと豪勢だな?景気がいいようじゃないか」
その男はちらりと目を上げてと答える。
「そっちだって良く食べてるように見えるぞ?」
(ふむ、誘いに乗ってこないか)
相手の獲得ポイントを聞き出そうと思っていたのだが。
「トウカも鬼になってたんだな」
「うむ。鬼として働いたほうが武士らしいといわれてな」
「ほう、じゃあもう大分捕まえたのか?」
「い、いや……それは……」
「俺は一人しか捕まえてないけどな。それより低いという事はないだろう?」
「え……ああ……」
「昨日夕食にありつけなくてね。その分もここで食いだめさ。余裕があるわけじゃない」
「俺達だってそうだぞ」
「そのわりに頼んだメニューは贅沢なもののように感じるが?」
「これを食べないと死んでしまうんだ。必要経費だ」
久瀬のカマかけを浩平はのらりくらりとはぐらかす。
ちょっとした駆け引きというところか。
「じ、自分の事よりも集団のことを第一とするのが武士の務め!
浩平殿はすでに7人捕まえている!」
「な、なにぃ!?久瀬はまだ4人しか捕まえていないのに!
……何で突っ伏してんだ?お前ら」
「い、いや別に」
ズッコケてずれてしまった眼鏡をなおしながら久瀬は答える。
「しかしたいしたもんだな、7ポイントとは」
「ああ、まあ朝方一気に3ポイント手にいれる事が出来たんでね」
「なるほど、そちらのチームは君にポイントを集中させているんだな」
「な、なんで……あ、しまった」
一人にポイントを集中させる以外には、一度に3ポイント獲得というのはなかなかないだろう。
もちろん、大人数で行動を共にしている逃げ手を捕まえたとか、
捕まえるときの成り行きでそうなってしまったとか他の可能性は考えられるが……
久瀬のカマかけに対する浩平の態度が答を明らかにしてしまっていた。
「ちぇっ、性格悪いなお前」
ふてくされる浩平に、久瀬は苦笑する。
「すまないな。こういう性分なんだ。まあ、漏らした所でたいした情報でもないだろう?」
「そうだけどな。くそ、なんか悔しいぞ」
まあ、実際たいした情報でもないのだが、このちょっとした駆け引きは眠気覚ましの思考ゲームとしては面白かった。
それに具体的に優勝を目指しているチームがいるという情報は刺激になる。
だが、先ほどまで黙々と朝食をとっていた光岡にとって見れば刺激どころではなかったらしい。
「七点に四点だと!それは真か!」
バァンッとカウンターを叩いて身を乗り出す。
「く……なんたること!俺はまだ一点だというのに……
すまぬ、久瀬、浩平とやら。貴様らの事、武芸の心得もないただの学徒であると侮っていた!」
事実そのとおりなのだが、と久瀬と浩平は顔を見合わせる。
「なのにその成績とは……つくづくこの俺は至らぬ!」
「……いや、ただの偶然ですよ」
「謙遜はよしてもらおう、久瀬!」
本当に偶然なんだけどな、と久瀬は思う。
「くぅ!このままではユズハさんや蝉ちゃんに顔向けできん!!このままではいられぬ!
この光岡奮起させてもらう!!」
そう叫びながら、光岡は屋台を飛び出していった。
「……なんなんだ?あれ」
「色々あってね……しかし君達、具体的に優勝を狙ってるんだな」
「ポイントが集中しているのは成り行きだけどな。けどお前らだって優勝は狙ってるんだろ?」
「いや、僕達は他に野暮用があってね」
瑠璃子のこと、倉田佐祐理のことをかいつまんで話す。
「……その二人は見かけなかったぞ」
「そうか。まあとにかく、どうも僕らは優勝争いのスタート地点にも立てていないようだ」
そうつぶやく久瀬に、いつの間にか話を聞いていたのかはオボロとトウカが声を張り上げた。
「そんな悠長な事を言っててどうする!久瀬!!狙うのは優勝のみだ!」
「そうはさせん、優勝は某達のものだ!なあ、浩平殿!」
どうもこの二人、先ほどの会話から妙な競争意識が生まれたらしい。
つーかさっきといっている事が違うじゃないか、オボロ君。
「ちょっと待ちたまえ!まずは瑠璃子を探すはずだぞ、久瀬君!」
倉田さんのことは無視ですか、月島さん。
「浩平殿!悠長に朝餉を取っている場合ではないぞ!」
まだ紅鮭定食来てないですけどね、トウカさん。いや、他人事だけど。
浩平と久瀬は、お互い大変だな、と顔を見合わせ、苦笑した。
「さて、僕達はそろそろ行かせてもらうよ。今更だが僕は久瀬という。縁があったらまたどこかで」
「折原だ。獲物の取り合いになったら容赦しないからな」
「お手柔らかに」
そうクールに告げて立ち去ろうとする久瀬の肩に、ショップ屋のねーちゃんの手が万力のように食い込む。
「光岡様のお代がまだです」
「……光岡さん?」
唖然とする久瀬に、浩平は
「ほんとに大変だな」
とニヤリと笑った。
【光岡 単独行動。優勝に向けてやる気をだす】
【浩平チーム 朝食タイム】
【オボロ、久瀬、月島 まずは瑠璃子探索へ】
【オボロ トウカに触発されてやる気を出す】
おっと忘れてた。分かると思うけど、
【時間は 三日目朝】
「もうすっかり真っ暗ね…」
綾香は空を見上げようとしたが、視線は鬱蒼と茂った木の葉に遮られていた。
「これ以上動くのはちょっと危ないわね。今日はここで休みましょ」
彼女らの前にある木には大きな洞が出来ている。二人で入って休むには十分な大きさだ。
「それにしても、お腹空いたわね…」
綾香は手にした紙束を恨めしそうに見つめていた。
「ここなの?」
芹香のダウジングに従って、二人がやってきたところは、森の中にぽっかりと開けた空き地。
しかし、周りを見渡しても屋台らしきものは見当たらない。
「……(こくこく)」
「どう見てもただの空き地だけど…?」
森との境目であたりを窺っている綾香をよそに、芹香はすたすたと空き地の真中辺りまで踏み込んで行ってしまった。
あまりに無防備な芹香の行動に、綾香は慌てて走り寄っていく。
「ちょ、ちょっと姉さん、鬼に見つかったらどうするのよ」
近寄ってみると、芹香はしゃがみこんで何かをじっと見つめていた。
その視線の先にあるのは、一株の花。
美しいが、どことなく毒々しい、小さな花。綾香の知識にはない植物だった。
「なあに、それ?」
一応訊いてはみたものの、綾香にはだいたい答えが予想できていた。
「……」
「とっても珍しい薬草? はぁ、やっぱりね…」
「……」
「抜いてくださいって? 今はそんなことしてる場合じゃないでしょ」
そうして先に進むことを促すが、芹香は動こうとしない。しゃがんだまま、捨てられた子犬のような眼差しで綾香を見上げていた。
「あーもう、分かった、分かったから、そんな目で見ない」
結局、折れたのは綾香の方だった。普段おとなしい姉の意外な頑固さを知っている為でもあるが、これほど芹香がこだわるこの花に、彼女自身も興味を引かれたというのが正直な気持ちなのかもしれない。
「で、どうすればいいの?」
「……」
「根菜類の一種だから、思いっきり引っ張ればいい? 要するに、ダイコン抜くようなものね」
「……」
「結構深くまで根が伸びているはずだから、折らないようにって? はいはい、気をつけるわ」
芹香から抜き方の細かいレクチャーを受けて、綾香は花に手をかけた。
「…んっと、意外としっかりしてるわね」
植物はほっそりとした印象に反して茎もしっかりしていて、多少力を込めても折れる心配はなさそうだった。
「それじゃ、いくわよ…せーのっ!」
渾身の力を込めて、一気に植物を引き抜く綾香。
そして二人の前に姿を現したのは…
「おめでとうございま〜す!!」
地面の中から引き抜かれたのは、頭に花をつけた細身の男。
「って、おや、またあなた達ですか。これは参りましたね、ハイ」
チキナロだった。
しばし唖然としていた綾香は、気を取り直すと芹香を振り返って問いかけた。
「えっと…こういう植物なの?」
「……(ぶんぶん)」
芹香も驚いていたらしい。目を丸くして激しくかぶりを振る。
「まさか同じ方々に2回も見つかってしまうとは…私も未熟ですねぇ、ハイ」
「2回目からは金券は差し上げられませんが、代わりにこちらの食券をどうぞ」
そう言って何か書きこんだ紙切れを二人に渡す。
「この食券は、屋台で何か一食分の食事と引き換えが出来ます。ただし、ご利用いただけるのはそこに名前の書かれているご本人のみとなります。その他、使用上の諸注意は裏面に記載してございますので、よく読んでからご利用ください」
「それでは、ご武運をお祈りしております、ハイ」
そしてまた、出てきた穴の中に飛び込むと、どこへとともなく姿を消してしまった。
「……えっと……」
「……………」
二人が混乱から立ち直ったのは、チキナロがいなくなってから数分経過してからだった。
「やっぱり…変な人よね…」
「……(こくこく)」
「ま、まあ、食券も貰えたし、さすがは姉さんのダウジングね」
綾香は手にした食券を裏返して注意書きを読みはじめた。
「なになに…使用期間は鬼ごっこ中――これは商品券と一緒ね。メニューはイートインに限る――携帯食には使えないってことね。一度に使えるのは1枚だけで、使用は記名者に限る――要するに本人しか使えないと」
「なんにせよ、屋台を見つけなくっちゃ役に立たないわね。姉さん、この調子でダウジング頼んだわよ」
「……(こくこく)」
うなずく芹香の表情は、珍しい薬草を手に入れ損ねたせいか、ちょっとだけ残念そうだった。
空き地を出てからも、芹香のダウジングは絶好調だった。
ただし、成果が非常に偏っていたのが欠点といえば欠点だったが。
「この石動かすの?」
「おめでとうございま〜す!!」
「この木の上?」
「おめでとうございま〜す!!」
「この池?」
「おめでとうございま〜す!!」
・
・
・
行く先々でチキナロを発見しまくり。
そうやって貯まりに貯まった食券が、実に25枚。二人合わせて50枚。
しかし、実際に口にできるものは収穫0。
まして、屋台は影も形も見つからず。
一度、チキナロに食券はいいから何か食べるものを貰えないかと訊いてみたものの、
「申し訳ありませんが、私は商品券の類しか取り扱っておりませんので、ハイ」との答え。
かくして、お嬢様2人はかつてない経験――飢え――を味わうことになったのである。
「……」
「ごめんなさい…って、姉さんは悪くないわよ。ちゃんとダウジングは成功してたじゃない」
食券の束を見つめていた綾香に、芹香が申し訳なさそうに声をかける。
「確かにちょっと…お腹空いたけど…」
しゅんとする芹香を見て、綾香はあえて明るい声をだす。
「ほら、今日は休んで、明日こそ屋台見つけましょ。そしたら嫌ってほど食べられるわよ」
「…(くー)」
芹香の返事は声より大きな腹の虫だった。
【2日目夜】
【芹香・綾香 とっても空腹】
【記名式食券25食分げっと】
あ〜食券はチキナロが名前を書き入れてから渡してます。
曇天が星空を覆い隠す深夜。いや、もうすぐ東の空が白んできそうな気配から明け方、と言うべきか。
御堂は砂浜を歩いていた。
リサを追い、超ダンジョンへ歩み入った彼。その後は蝉丸とほぼ同じ説明を聞き、ほぼ同じ思考を巡らせ、ほぼ同じ決断を下した。
すなわち、魔法陣を使った離脱。彼にとってあそこはあまり魅力的な狩場とは言えなかった。
ただ、蝉丸と彼で違ったのは唯一。あのダンジョン内においては
「狙撃ができねぇじゃねぇか」
という部分が大きかったことを付け加えておこう。入り組んだ閉鎖空間において、彼の十八番である狙撃はほとんど意味を成さない。
確かにそれでも『強化兵』たる彼には一般人を軽く凌駕する身体能力はあったが、あそこに集まるような連中……他の人外な奴等……と渡り合うにはいささか辛い。
もう一つ。彼にとっては致命的でもある雨。それを防げるというのも確かに大きくはあったが、獲物がいなくては話にならない。
『攻』と『守』。どちらが重要かと言われれば当然のごとく
「獲物のいねぇ狩場に興味はねぇ」
と答える。
従って現在は見通しのきく砂浜を中心に手頃な雨をしのげそうな建物を探している。
罠や他の人間がいるかもしれない。だが構わない。罠など少し調べれば見抜くことができるし、他の人間は逃げ手ならば万々歳、鬼でも少なくともデメリットにはならないからだ。
主たる目的は雨露をしのぐことなのだから。
「……ん? あれは……」
そんな折、御堂の視界の端に小さな小屋が目に止まった。簡素な作りのプレハブ小屋。係員か何かの詰め所だろうか?
「……ほぅ」
目を細め、様子を伺いつつ御堂は笑った。静かに笑い、唇を歪めた。
「……やれやれ」
窓際の椅子に腰掛けながら、聖は疲労のこもったため息を一つ吐き出した。
部屋の奥では妹の佳乃と、色々な経緯の末拾うことになった『鬼』の三井寺月代が平和な顔で眠りこけている。
……寝相で迂闊にタッチなどされないよう、段ボールで簡単な『しきい』を作ってあるのだが。
「……やれやれ」
もう一度ため息を吐く。
いい気なものだ。
月代の風邪……と言っていいかどうかもわからない症状……は、とりあえず簡単な問診をし、スタッフのメイドロボから受け取った薬を飲ませておいたから、まぁ大丈夫だろう。
夕飯は念のため彼女の分だけはお粥にしておいたし、今は暖かくして寝ている。少なくともこれで悪化することはないはずだ。
これが、彼女が同じ逃げ手であったら団欒とした食卓であっただろう。だが、食卓を囲む風景はただ一人がたすきをかけているという風景。
迂闊に食器を渡すことも、醤油を取ってもらうことも、後かたづけを手伝ってもらうこともできない、『ぎこちない』もの。だいぶ違和感バリバリだった。
……もっとも、当人2人は気にする様子もなく、少々聖自身が神経過敏になっているだけの気もするが、妹を心配する気持ちは『足りぬ』ことはあっても『過ぎる』ことはない。
そう自分に結論付け、もう一度外の様子を見渡したところで……
「!?」
『影』
そうとしか形容し難い存在が、こちらに向かってきているのが見えた。
影は一ツ。だが、その距離はあまりに近い!
しまった! 聖は己に毒づいた。余計な思考に注意を捕らわれ、こんなものに気付かなかったとは!
「佳乃! 三井寺君! 逃げ……!」
ドバァン!
叫ぶのも間に合わず、ドアは蹴破られた。申し訳程度に掛けてあった鍵が弾き飛ぶ。
「ケーーーーッケッケッケッケ! 俺ァついてるぜ! 建物と獲物を同時に発見できるとはなぁ!」
【御堂 聖・佳乃・月代の詰め所を急襲】
【佳乃・月代 まだ寝てる】
【時間:3日目明け方 場所:海岸詰め所 天候:降り出す直前】
全参加者一覧及び直前の行動(
>>376まで)
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
レス番は直前行動、無いキャラは前回(
>>354-356)から変動無しです
()で括られたキャラ同士は一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)
fils:【ティリア・フレイ】、【サラ・フリート:1】、【エリア・ノース:1】
雫:長瀬祐介、月島瑠璃子、藍原瑞穂、【新城沙織】、【太田香奈子:2】、【月島拓也:1】
>>364-369 痕:柏木耕一、(柏木梓、日吉かおり)、柏木楓、柳川祐也、ダリエリ、
【柏木千鶴:10】、【柏木初音】、【相田響子】、【小出由美子】、【阿部貴之】
TH:(藤田浩之、長岡志保、姫川琴音)、神岸あかり、マルチ、(来栖川芹香、来栖川綾香)
>>370-374、
松原葵、(岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ)、神岸ひかり、
(【保科智子】、【坂下好恵】)、【宮内レミィ】、【雛山理緒:2】、【セリオ:2】、
【佐藤雅史】、【田沢圭子】、【矢島】、【垣本】、【しんじょうさおり】
WA:七瀬彰、緒方英二、
(【藤井冬弥】、【森川由綺:2】)、【緒方理奈:5】、【河島はるか】、【澤倉美咲】、【観月マナ】、【篠塚弥生】
こみパ:千堂和樹、(高瀬瑞希、九品仏大志、立川郁美)、(猪名川由宇、大庭詠美)、御影すばる、澤田真紀子、
(【牧村南】、【風見鈴香】)、(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)、【芳賀玲子】
>>357-363、
【塚本千紗:2】、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦】、【横蔵院蔕麿】)
NW:ユンナ
>>357-363、【城戸芳晴】、【コリン】、(『ルミラ』、『アレイ』)、
(『イビル』、『エビル』)、(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
>>364-369 まじアン:江藤結花、【宮田健太郎:1】、【スフィー】
>>364-369、【リアン】、【高倉みどり】、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)、岩切花枝、
【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】
>>375-376、【杜若きよみ(白)】、【御堂:6】
>>375-376、
【光岡悟:1】
>>364-369、【杜若きよみ(黒)】
>>357-363、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】、『ジョン・オークランド』
うたわれ:ハクオロ、(アルルゥ、カミュ、ユズハ)、ベナウィ、クロウ、カルラ、クーヤ、サクヤ、
【エルルゥ】、【オボロ:1】
>>364-369、(【ドリィ:1】、【グラァ】)
>>357-363、【ウルトリィ:1】、【トウカ】
>>364-369、
【デリホウライ】、【ゲンジマル】、【ヌワンギ】、【ニウェ:1】、【ハウエンクア】、【ディー:6(6)】、『チキナロ』
>>370-374 Routes:(湯浅皐月、梶原夕菜)、リサ・ヴィクセン、
【那須宗一:1】、【伏見ゆかり】
>>364-369、【立田七海】、【エディ】、【醍醐:1】、【伊藤:1】
同棲:【山田まさき:1】、【皆瀬まなみ:2】
MOON.:巳間晴香、名倉友里、
(【天沢郁未:4】、【名倉由依】)、【鹿沼葉子:2】、【少年:1】、【巳間良祐:1】、【高槻:1】、【A棟巡回員】
ONE:(里村茜、上月澪、柚木詩子)、氷上シュン、
(【折原浩平:7(3)】、【長森瑞佳】)
>>364-369、【七瀬留美:1】、【川名みさき】、
【椎名繭】、【深山雪見】、【住井護】、【広瀬真希:1】、【清水なつき】
Kanon:(沢渡真琴、天野美汐)、(【相沢祐一】、【川澄舞】)、【月宮あゆ:4】、【水瀬名雪:3】、【美坂栞】、
【美坂香里:8(1)】、【倉田佐祐理:1(1)】、【北川潤】、【久瀬:4】
>>364-369 AIR:神尾観鈴、(霧島佳乃、霧島聖)
>>375-376、(遠野美凪、みちる)、神尾晴子、(柳也、裏葉)、しのさいか、
【国崎往人:2】、【橘敬介】、【神奈:1】、【しのまいか】
現在リストが進度に対して容量喰いすぎなのと一身上の都合から
今後のリスト投下は不定期にさせて頂きます
「はむはむ…悪いわね。思いっきり蹴った挙句に食べ物まで貰っちゃって」
「いや、いいよ…」
闇の中、広瀬はまさきから貰ったクロワッサンをはむはむと食べていた。
まさきは相変わらず道端に寝っころがっている。
「あんた大丈夫? さっきからずいぶん調子が悪そうだけど」
「………いや、ちょっと吐きそうなだけ」
食事したばかりの上、腹にいい蹴りを2発も食らったのだ。逆流してもおかしくない。
「…せめて私が食べ終わってからにして」
「努力するよ」
「……(はむはむ)」
「………」
「……(はむはむはむはむはむはむ)」
「…あ。口の中が酸っぱい」
「!! ちょっと、頑張ってよね!?」
「頑張れって言われてもなぁ…」
胃液の味を感じ出したらもはや決壊は不可避。それが21年間の経験で知った人体の限界。
まさきはゆっくりと立ち上がり、木の根元へと移動する。
「……うぅ…勘弁してよ…」
それで察したのか、広瀬も食事の手を止めて目を瞑り耳を塞いだ。
※しばらくお待ちください※
「あーすっきりした」
「………」
ペットボトルの水で数度うがいをしたまさきは健康そのもの。
少々腹に痛みが残っているがあまり気にはならない。
「うーん。腹減ったな。何か食べることにしよう」
「好きにして…」
一方の広瀬はげんなりしている。もしかするとまさきより気分が悪いのではないか。
「何食べようかなぁ…軽いものがいいなぁ…」
本当に食べるつもりらしい。まさきは食料を入れた袋の中をガサゴソと漁っている。
「お。きのこ」
それはサラが落としたきのこ。
広瀬が食べ物を要求したとき、
『女の子に生きのこを食べさせるのはよくない』
ということでとりあえず鞄の中に入れておいたのだが。
「こんなもの買った記憶ないんだけどなぁ…まあいいや。折角だから食べちゃおう。量的にちょうどいいし」
「…生のまま? 種類もわからないのに?」
「屋台で売ってるんなら毒キノコってことはないだろ」
「それはそうだろうけど…」
「じゃ、いただきま――」
ガサガサッ
「――す?」
突如森の中から物音が聞こえ、同時にまさきの手が止まる。
2人揃って音のした方を見ると…
「山田まさき様。御連絡があります」
量産型メイドロボ、HM−13が立っていた。
「「………」」
「…山田様、よろしいですか?」
((そこはさっき、俺が/こいつが 吐いた場所……))
「…山田様?」
「はぁ。なるほど…」
「代理として他のHMがサラ様に襷を渡しております――何か、ご質問は?」
「いや、特に無いよ」
「――では、私はこれで」
「うん。ご苦労様」
サラの件を手短に話し、HM−13は何処かへと去っていった。
足元の云々は、果たして気づいていたのか気づいていなかったのか…。
「蹴り2発で1万円ね…結構お得だけど、嬉しくはないわね」
「…それでも、ポイントはポイントだ」
まさきは立ち上がって、ズボンについた土をパンパンと払った。
ポイントを得た喜びからか。まさきから、やる気と意志が感じられる。
「下手したら1人も捕まえられずに終わるかもしれないと思っていたけど…君のおかげだよ。これはほんのお礼だ」
そう言ってまさきは、結局食べなかったきのこを広瀬に差し出した。
「…お礼ならもっといいものが欲しいんだけど」
「だから『ほんの』お礼。焼くなりなんなりして食べるといい」
「まったく…どうせ袋に入れなおすのが面倒くさかったんでしょ」
広瀬はきのこを受け取り――袋の類を持っていないので、スカートのポケットに無理やり捻じ込む。
「じゃあ、俺は行くよ」
「案外あっさりしてるのね。何かの縁だし協力しよう、なんて誘いは無いわけ?」
「会いたい奴がいるんだ。できれば、自分だけの力で探し出したい」
「…ふーん。それで、鬼ごっこはどうするのよ」
「誰も捕まえられない、なんてカッコ悪い事態は避けられたからね。後回しだ」
「そう」
広瀬は鬼として1人でも多く捕まえたい。まさきに鬼としてのやる気がない以上、一緒にいてもメリットはない。
そしてまさきは単独での行動を望んでいる。
「せいぜい頑張りなさいよ」
「ああ。ありがとう」
だから2人は、挨拶もそこそこに逆の方向へと歩き出した。
暗闇の中、互いの顔も満足に見えないまま。
【まさき サラを捕まえたことを知る。まなみを探すことに】
【広瀬 食事完了。きのこをもらう。まさきと別れる】
【森の中、3日目 未明】
少し歩き、ふと広瀬は振り返る。
そして、闇に紛れ薄っすらとしか見えないまさきの――
「…なにかしら、あれ」
――何故かぼんやりと光っているカードマスターピーチのコスプレ服を凝視し、首を傾げた。
【まさき コスプレ服は手放せないらしい】
「……誰か来る」
ハクオロは、木陰の下で思う。夜が近づいてくると共に、雨足も徐々に強まり、木の下に待避していようとかまわず落ちてくる雨粒が、三人の体を確実に濡らしていく。
先ほども感じた感覚。より強く、より確かに感じるそれは、邂逅が迫っていることを告げるもの。
「どうしたのだ、ハクオロ」
「……隠れていろ、二人とも。なにか──とてもいやなものが来る」
「……鼻が利かない?」
「すまん、ネタが分からん。ともかく、木の陰にでも隠れているんだ」
強い調子のハクオロの言葉。皇としての威厳ある語気。二人に否応を言わせぬ語意。
そして──数分後。
「やはり──おまえか、ディー」
「──見つけたぞ、我が空蝉よ」
二人は出会った。この、狭くて広い島の中で。雨降る森の一角で。
ディーの、長時間雨にさらされた体は、雨ガッパもかまわずずぶぬれている。腕の先、服の端から水滴がぽつり、ぽつりと雨粒に混ざって落ちる。
「おまえは、鬼になったのか」
仮面の男が言った。むしろ静かに。自然煮えたぎってくる激情によって。
「そうだ。だが、おかげで今まで知らなかったことを知ることができた──」
細身の男が言った。静かに、とても静かに。再開を悦びながら。
「それは?」
「おまえに話す必要は無いだろう」
「確かに、な。聞く必要は無い」
そしてハクオロは身構える。一戦を交えようとする心を押さえ、一人の逃げ手として、どちらに逃げるか、一瞬のうちに判断を下し──
「動くな、空蝉」
「──────!?」
瞬間、ハクオロの総身が硬直する。ディーの、静かに告げた絶対の言葉によって。
「なぜ──? ルール違反ではないのか──」
それに何故──同じ力を持つ私に、おまえの力が通るのだ──
「今の私に、ルールは関係無い。これは鬼ごっことは離れた出来事。単に私は──動くな」
草陰から飛び出そうとしたHM-13に告げる。大神の言葉は、世に存在するすべてのものを従わせるのか。来栖川の誇るメイドロボは、その場に固まり停止する。
「単に私は、おまえをこの場から逃がしたくない──我が前から逃したくない──それだけだ」
かつてのディーではないことに、ハクオロは気付いた。表層こそ冷静に見えるが、どこかにすさまじき激情が渦巻いている。おそらく、本人も気付いていないのだろう。
そしてハクオロは納得する。今のディーならば、私にも術を通すことが出来るだろう──と。何の根拠も無い、それは二にして一たるものだけが判る、唯一の現実。
「ディー──私を捕らえてなんとする」
「知れたこと──おまえを取りこみ、一へと帰るのだ──」
「──なんのために」
「我が──何と言うのだったか────ああ。そうか。愛する者たちのために──」
「愛する者──?」
ハクオロは驚くと同時に、理解する。ディーの違和の理由。言葉にする必要すらない。激情と、違和感と、すべての訳が、ハクオロの心に飛び込んでくるように。
「ディー」
「最後に、ひとつ言っておこう」
ハクオロに向け、一歩踏み出す。
「今の私の名は、ディーではない」
さらに一歩。左手から新たに現れたHM−13を一睨みし、硬直せしめる。
「今の我が名は、Dだ──」
ハクオロに向かって手を差し伸べる。不意に浮かぶ、微かな笑み。自嘲とも、歓喜とも取れる、そして本当に微かな、笑みが──浮かんで
「何をする気か知らないが、ディー」
ハクオロが言う。
「一に帰るのは、私はごめんだ」
ハクオロが告げる。
「動くな」
そして、Dの動きが止まる。
二人がにらみ合っている光景を、少女と幼女が見ている。
「どうなってるの?」
「判りません……」
「おねぇちゃん……」
「何が起こってるノ?」
それぞれは別の位置で。にらみ合う二人からは見えない位置で。雨が木の葉に当たる音、二人の声を掻き消して。
四つの視線が、動かない男二人を見つめている。
「貴様……ッ」
ディーは力を振り絞る。薬の効果、徐々にうせていく効果、その残滓をかき集めるように。
「考えてみろ、ディー」
「何をだ……ッ」
しかしほどけない。全力を使えるハクオロと、分力すら発揮し得ないD。元が同じ存在ゆえ、力の衰えた側に、勝ち目のあろうはずが無い。
「おまえは、愛する者のために、と言った」
「そうだ……」
「それは、おまえだけの思いか」
「違う──はずだ。そう信じたい──」
と言いかけて、自分を恥じる。何を馬鹿なことを、あの二人の心を、私は疑うのか──
「違う。ああ。絶対に違う」
大神たる彼が恥じる。その滑稽な事実に気付くことも無く、Dは断言する。そして──あの二人のために──この雨を──
「だからこそ──私は」
「落ち着け、ディー」
「落ち着いている、空蝉」
「われわれが一に帰って」
「私は彼女らのために」
「その後、元の二人に戻れるのか──」
「この雨を止ませなければならないのだ──」
今──この男は何と言った?
雨を、止ませるだと──?
元の二人に戻れるのかだと──?
「何を馬鹿なことを──!」
二人の声が重なり、雨中の森に響く。
そしてにらみ合う。いまだに二人の術は解けず、身じろぎ一つできず、ただ、木漏れの雨に打たれながら。
「雨を止ませるため、ただそれだけのために──その身を捨てると」
「元に戻れるかなど、私にはどうでもよい──この雨さえ止めば」
「馬鹿な──ディーよ、馬鹿か──おまえが消えて──おまえを愛するものたちが喜ぶとでも──?」
「私が居なくとも──彼女らにはそれぞれに繋がる者たちが居る──そう、私が居なくとも──」
「ダメだよッ!」
「D,何言ってるノッ!」
「レミィ……まいか……? 何故」
「よくわからないけど、いなくなっちゃダメだよっ」
「よくわからないけどッ! Dが居ないとダメだよ、花火、二人でしても、つまらないヨッ!」
木陰から飛び出してきた二人。身動きの取れないDにすがりつくように、訴える。本心から、真情のこもった、訴えかけ。
「でぃーがいなくなるんだったら、雨やまなくても良いよぉ……まいか、花火できなくてもいいよぉ……だから」
「D、消えたりしないでヨ……お願いだから……ネ?」
半ば呆然とたち尽くすD。ハクオロはそんな三人を見て、苦笑する。
まったく……馬鹿な男だ。人との付き合い方、人の心を知らないにも、ほどがある……仕方ないと言えば言えるが、な。
そして、生まれて始めてかもしれない、貴重な体験をした。
Dが、泣いた。
偉大なる大神は、雨の中、二人の少女にすがりつかれながら、泣いた。
【D。一に帰るのをやめる。泣く】
【一家の繋がりがますます深くなる】
【周囲には、HMシリーズがいくつか転がってる】
【森の一角。三日目、五時くらい。雨足が徐々に強くなっている】
あ……題名忘れてた……
「滴」でよろしくです。
住「うーむ…やはりここだけは判らんな北者…」
北「ああ、なんかこう、根本的に仕組みが違う気がするぞ。」
栞(この2人はなんでこんなに元気なんですか…)
例によって例のごとく地雷原ズ+1。現在超ダンジョンの中。
馬鹿デカイダンジョンを物凄い勢いで罠一色に染めた彼らであったが、
最後の最後で最大の難関に直面していた。それはダンジョン脱出装置。
これを改造できれば相当面白い仕掛けを作ることが出来るのだが、
その原理が全く理解できないのだ。
まあこれは厳密には装置ではなくて魔法なのだから常人には理解できなくて
当然なわけだが。
住「そもそも仕掛けらしい仕掛けが全然無いのが判らない。」
北「というかオレはこの空間自体、実はよくわからないぞ住者。」
栞(これも今までの悪事の天罰なのでしょうか…)
栞がパーティーに加わったことで調子が狂ったのか、途中何度も自爆して、
通常なら5回は死ぬほどのダメージを食らっている。いくら物理的に
ノーダメージだと言っても痛いものは痛い。栞は既に懲りていた。
住「そもそもなんなんだ、この模様は?」
北「ただの目印か?それとも意味があるのか?」
逆に懲りずにいる2名。
栞(はぁ…もう何があっても受け入れます…)
そしていいかげん開き直った栞がヤケクソ気味に一言。
栞「魔方陣なんてファンタジーみたいでかっこいいですね。」
と、それにおもいきり反応する2人。
住「魔方陣…これが?」
北「なるほど!魔法ならこのダンジョンの説明がつく!」
栞(というかなんとなくでも気がつかなかったのかおまいら。)
そして魔方陣を調べながら…
住「しかし困ったぞ北者。さすがに魔法のことは判らん。」
北「魔法に詳しい者を引き込むしかないな。」
栞「でも人っ子一人いませんよ?」
などと言い合ううちに…
”ダンジョン脱出装置が発動します。”
住「あ”!」
北「しまっt…」
栞(もうどうにでもしてください…)
調べるのに熱中しすぎていつの間にか魔方陣に入ってしまった3人に
謎のアナウンスが聞こえる。
そして3人の影はダンジョンから消えた。
一方その頃…
綾「こんどこそ食べ物にありつきたいわ…」
芹「…(こくこく)」
3日目になっても食券ゲットばかりが続き、ついに40枚目を先程ゲットして、
かなりテンションが下がってきた来栖川姉妹。雨まで降ってきてまさに
泣きっ面に蜂である。
綾「さっきのあからさまに罠っぽいカレーライス…手を出しておいた方がよかったかも。」
芹「…(こくこく)」
もはや正常な判断も期待できない。
綾「ってゆうか姉さん。ここにはさすがに何もないんだけど?」
芹「…(ふるふる)」
綾「姉さんがここでいいって言うなら、ここにも食べもの絡みの何かがあるはずなんだけど…」
などと言い合っていると、
?「あ”」
?「しまった!」
?「ここはどこですか?」
唐突に出現する地雷原ズ+1。
綾「…今回はハズレ?」
芹「…(かも…)」
もはや逃げる気力も無く観念する来栖川姉妹。
しかし地雷原ズは元から鬼の自覚などなく、注目するのは芹香の帽子。
住「…(なあ北者。あの似た顔の2人組の帽子の方…)」
北「…(ああ、いかにも魔法と関係あるっぽいな住者。)」
そんな2人の様子が変なことに気がついて綾香が声をかける。
綾「…?貴方達鬼でしょ?捕まえないの?」
芹「…(こくこく)」
しかし一瞬何のことかわからない地雷原ズ。
住「…!ああ、そういえばそうだったな。」
北「いや、今はそんなことより!…つかぬことを伺うがそっちの帽子の人、
いかにもといった風貌だが、もしや魔法と何か関係が?」
芹「…(こくこく)」
綾「えーと、『黒魔術なら少々…。』と言ってるわ。
ところでこっちもいきなりで悪いんだけど……何か食べ物持ってない?」
綾「地下ダンジョンで魔法トラップを作りたい?」
住「ああ、俺達の野望達成まであと一歩なんだ!」
北「恐らくはあそこを攻略すれば島全体を網羅できる!」
綾「ってゆーか島中の罠は貴方達の仕業だったのね…。はぁ…。」
とりあえず地雷原ズから食料を恵んでもらって少し元気になった来栖川姉妹に
語る地雷原ズ。食料トラップ作成のために食料を大量に用意しているため、
食い扶持が2人増えた程度では全く問題ない。
ちなみにさっきから話に参加していない栞には、もう会話に参加する気力も無い。
そりゃあ文字通り何度も死ぬ思いをしたダンジョンに舞い戻る為の計画の会話に
参加なんぞしたくなかろう。
住「で、だ。是非ともお姉さんの方の…芹香さんだっけ?に力を貸してもらいたいのだが。」
北「我等の野望達成のために!」
綾「普通に鬼ごっこしなさいよ…。でもまあ、食料の恩もあるし見逃してもらってる
恩もあるし、なによりなんか面白そうだし、いいわ!姉さんさえよければ私はいいわよ!」
芹「…(お手伝いします。)」
栞(やっぱり戻るんですね…)
問題児がさらに増えた瞬間であった。
住「よし!では早速特攻するぞ!」
北「ではよろしく頼むぞ新たな同士よ!」
綾「まかせなさい!大船に乗ったつもりでいいわよ!」
ポンポンと北川の背中を叩く綾香。
芹(くいくい…。)
綾「ん?なによ姉さん。え?『触ったら鬼になっちゃう』?……あ”!」
栞「ということはそれに触った芹香さんは…」
芹「!!…(ふるふる)」
住「折角見逃したのに(汗)」
北「幸先悪いな…」
一同「……」
なんともちぐはぐな集団になってしまったようだ。
【北川 期せずして綾香ゲット】
【綾香 自爆して鬼になる 芹香ゲット】
【芹香 自爆して鬼になる】
【来栖川姉妹 地雷原ズに協力 空腹回復】
【栞 全てを受け入れる】
【一同 ダンジョンに再突入予定】
【3日目】
>>391-394 題名は
「マジック×マジック」で。
あと、
【来栖川姉妹 食券40枚に増加】
も参考までに。
「参りましたね…。今回のディーさんの件、どうしましょう?」
「今回の場合は同じ能力持ちだしセーフじゃないの?」
「そこはとりあえずセーフですね。ただ、『一になる』というあたりは、
厳密には違いますが、現在のハクオロさんの人格が消えるという意味では
殺人に近いものがありますし、何か一言必要でしょう。」
「でも、連行する…にしても万一本気出されたら全戦力投入しても勝てないよ。
なんだかんだ言って神だし。どーする、ちーちゃん?」
「確かに今彼等を引き離したら本気で抵抗するかもしれません。
しかし、第三者から見れば今回の彼の振る舞いは非常に自己中心的な行動です。
ここまでの大事はもうないでしょうけど、考え方を改めていただかない限り、
絶対に話をする必要があります。」
「
「こちらから出向くっていうのはどう?これなら連行しなくてもお説教できるよ?」
「それができれば問題ないんですが、他にも問題児が多すぎて、今私がここの席を外すのは
なんとも…。私が行っている間、残った人達だけで他の方々を抑えられますか?」
「ちょっと厳しいかも。ならHMシリーズ使って警告メッセージだけで済ます?
どの道『次やったら失格』くらいは言わなくちゃならないし。」
「いえ、こういう影響が大きい方にこそしっかりと言わないといけません。
彼等の心情も分からないこともありませんし、今彼等の中に割り込むのは
野暮というものでしょう。ですが、他の人達を巻き込む恐れのあった行動を
許すわけにはいきません!」
「でも、他にいい方法があまりないよ?それこそ上手く言い聞かせられる
メッセージ用意するくらいしかできないよ?」
「…一番理想なのは、私達が介入しないでも参加者の間で気がついてくれる
ことなのですが。」
「とりあえず様子見て、深く反省しているようなら事務連絡だけ、っていうところか。」
「それにしてもこれでディーさんまでブラックリスト行き。監視用のHMシリーズを
数体向かわせる事にしますが…正直ここまで問題起こす人が増えるとは思ってませんでした。」
「危険人物と思われる人には監視を増やすっていう今の方法…そろそろ無理が
出てきたね。」
「「はぁ…」」
管理者達のため息は絶えない。
【千鶴 足立 ディーをどうするかと、問題人物の増加に悩む】
「そうか、花火がしたかったのか」
「そうだ。どうしても、あの二人と花火がやりたかった」
木の下で、二人は話す。お互いに触れ合うことも無く。顔を合わせることも無い。
そもそもそばに居るだけで互いに自制を失いかねない間柄。それぞれ木の反対側に陣取って、こうして話しているだけでも。
別の大木の下では、少女と幼女のペア二つが、微妙な距離を置きながらも楽しげな会話を続けている。
鬼と逃げ手という関係とは思えない、和やかな光景。
四人の話し声だけと、ますます強くなってくる雨の音だけが、森の中に響いて。
「──すまない」
「なにがだ」
「私は、自分を見失っていたらしい。冷静に考えていれば、一に帰れば、元へと変えることは至難ということなど、判っていたはずだった」
「それが、人というものだからな。どんな冷静な男でも、窮地になれば、一事に心となれば視野が狭まり、判断を失う。そういうものだ」
「ああ──そうだな。そのことが、ようやくわかったような気がする──」
くくっ、と自嘲気味の笑い声が聞こえてくる。ハクオロは上を──茂る枝葉に覆われて見えない、曇天であろう空を見上げて、
「止めば──いいのにな」
そう、小さく言った。
「──ああ。止んで、ほしいな」
Dも、それに小さく答えた。
天に向かって祈る二人。大神二人が祈ると言うのも不思議な光景だが、当人達はいたって真剣なもの。
Dは、大切に思う人々のために。
ハクオロは、自身の半身のために。
神々の願いは、空へ届くのか──
数分後。
「……やはり、無駄か」
「ああ。そうだな」
そう。祈りでは、天候は変えられない。
力を失ったDと、力を使わないハクオロ。
力無しでは、天候を変えることはできない。
「……私は、行く。エルルゥを探さなければいけないからな」
そして現実に立ち返る仮面の皇。今は借金取りに追われる身なのだから。
「……ああ。私も、行こう。夜が更けるころに、雨が止むよう思いながら」
そして立ち上がる力失いし大神。今は家へと帰り体を休めたいから。
「次に会ったときは捕まえにかかるぞ」
「ならば逃げ切ってみせよう」
「ふ、ならば──それまで、捕まるな」
「ああ──もとより、たやすく捕まる気は無い」
ならば──
「また、いずれ」
「次は、穏やかに」
それだけ言い残して、二人は立ち去っていく。
「美凪。みちる、行くぞ」
「レミィ、まいか、帰るぞ」
互いの連れと共に。
それぞれ逆の方向へ。
【D一家 HOUSEへ帰っていく】
【ハクオロ一行 エルルゥ探し再開】
【時刻ほぼ変わらず、五時くらい。場所変わらず、森の一角】
私、澤田真紀子は一般人である。
この島に数多く存在する『異能』の者たちのような能力は何一つ無い。
一応、それなりに有名な雑誌の編集長を務め、漫画を見る目だけは自信があるが、そんなものはこの『ゲーム』では一切合切なんの役にも立たない。
繰り返す。私、澤田真紀子は一般人である。
今朝の鬼グループとの接触。あれを切り抜けられたのは幸運だった。
上手い具合に相手方がこちらの口車に乗ってくれた。
だが、何回もあんな危ない橋を渡るわけにはいかない。極力鬼とは接触しないに越したことはないのだ。
その上、雨も降ってきた。
人は体を濡らすと本能的に嫌悪感を覚え、運動能力も落ち、体力の減少も早くなるという。
繰り返す。私、澤田真紀子は一般人である。
雨に濡れたところで利など一つもない。ひょっとすると世の中には濡れた方が都合がいい御仁がいるのかもしれないが、少なくとも私は違う。
現在の私の切り札は二枚。
一ツ、閃光手榴弾。
残りは一発だ。まさしくこれは奥の手。どうしようもない時にのみ使うべきだろう。
一ツ、カロリーメイト。
逃亡劇にはとても使えないが、非常に重要だ。大目に買っておいて正解だった。これ一つを囓るだけでだいぶ体力が回復できる。
繰り返す。私、澤田真紀子は一般人である。
いくら『異能』の者たちが多いとはいえ、大方の参加者は私と同じ一般人であろう。
そして、現在の天候は降雨である。しかもなかなかの勢力。この中を歩き回りたいと思う人間は少なくとも『一般人』ならばいないだろう。
自然、雨宿りの屋根を求める……つまりは、建物に集中する。
自然、そこは格好の鬼の狩場となる。
自然、そんな場所に近づくわけにはいかない。雨宿りの屋根は、屋外にこそ求めるべきだ。
ただでさえ建物に人間が集中している現状、かえって外におけるエンカウント率は低下していると考えてしかるべきだろう。
繰り返す。私、澤田真紀子は一般人である。
以上のことにより、私は木陰……ぽっかりと開いた木の『うろ』。そこに隠れ家を定めた。
ここならば少なくとも視覚のみで逃げ手を探している鬼には見つかりにくいはずである。その上、雨露もしのげる。
しのげる……はず……だったのだが……
「……まさか、よりによってぶつかったのが探知機持ちだったとはね……」
木漏れ日ならぬ木漏れ雨の中、私は囲まれている。
一人、やや痩せ気味の白髪青年。手には探知機と思しき機械有り。
一人、金髪碧眼の少女。私に劣らず胸が大きそうだ。そんなことはどうでもよろしい。
一人、まだ年端もいかない……幼稚園か、小学校低学年といったところの幼女。まさかこんな子供まで参加しているとは。
三人に共通しているのは、雨合羽を着こんでいること(うらやましい。私も購入しておけばよかった)と……鬼のたすきを掛けていること。
ああ、なんてついてない。
……自分の中に浮かんだネガティヴな感情を打ち消す。
まだだ。まだ諦めるには早い。まだ捕まったわけではないのだ。……まだ、チャンスはある。
チャンスは、自分で作るものだ。
「……一つ、聞いていいかしら?」
私は、口を開く。
突破『口』は、口で開くのだ。
「どうした。諦めたのか」
かかった。まずは相手が話しに乗ってくれることが第一条件。……問答無用にタッチすればいいものを。
「ええ。とても逃げ切れそうにないわね。その前に一つ、質問がしたいのよ」
「なんだ」
私との受け答えには白髪の男性が答える。機械を持っていることと、この状況から見て、リーダーはこの人で間違いない。
「あなたは……どうしてこんなところに潜んでいた私を見つけ出せたのかしら?」
一分前まで自分が潜んでいたうろを指さす。
「ああ、これに反応があったのでな」
言いながら、機械を私に示してきた。……やはり、探知機だったようだ。
「安物ゆえ大雑把な方向しか特定できなかったが、そこはまいかのお陰だ。意外に背が小さいというのも有利な一面も持っているのだな」
「うん! まいかのおてがら!」
……場違いな幼女の歓声。なるほど、そういうことか。
確かにうろは『大人の目線』には有効だったかもしれないが、『子供の目線』に対してはあまり効果を成さなかった……と。
だが、今は反省をするべき時ではない。話の内容が、探知機へ行った。彼が自分で、行かせたのだ。ここで探知機の話題を続けても、違和感はない。
「けど……私も屋台で探知機は見たことがあるけど、探知機って軒並み高かったでしょう? それは、いくらだったの?」
「3万円だ」
「3万円! ……それは、あなたのポケットマネーから?」
そんなワケはない。
「いいや、今まで捕まえた参加者を換金して、だ」
……かかった。
「それはすごいわね。あなた、今まで何人くらい捕まえてきたの?」
「捕獲数か……ええと……。そう、六人だな。六人。レミィ、まいか、謎の男、禍日神2人組。……あれ?」
……おかしい。今の話では五人しか名前が出てきていない。
「……ああそう、そうだ。そういえば最初に神奈を捕まえたな。これで、六人だ。それがどうした?」
六人……。かなりのハイスコアだ。
私の推測が正しければ、この男はスコアランキングのかなり上位にいるはず。
では……次だ。
「そちらのお嬢さんとお嬢ちゃん、ちょっといいかしら?」
「What?」
「なーにー?」
……非常に素直に返事してくれる。気持ちいいくらいだ。これだけ単純な方々なら上手くいくかもしれない。
「あなた達のポイントはおいくつ?」
「Zeroだネ」
「うん。まいかもぜろ」
……しめた。ならばこのグループは……今朝の一団と、同じ!
「ああ、なるほど。あなたたち、鬼としての優勝を狙っているのね。それで、獲得数を稼いでどうするつもりなのかしら?」
「どうする、だと?」
ここからが本番だ。
「なんのためにチームを組んでいるのか、と聞いているのよ」
「なんのために……」
よしよし。これで揺れてくれれば……
「……なんのためだ?」
あれ?
男は、心底不思議そうな顔で金髪少女に視線を送った。
「……ウーン、そういえば何でだろうね。まいかちゃんはわかる?」
……ちょっと待ちなさい、アンタたち。
「まいか、わかんない。けど……」
何でチームを組んでるのかわからないって……
「……みんなでいると、楽しいから?」
「「ああ、なるほど!」」
大人2人はパン、と手を打つ。
「確かに、そうだろうな。みんなでいると楽しいから今まで我等は行動を共にしてきたんだ」
「ウンウン、そうだよネ。私たち、もう家族だからね。やっぱり家族みんながいると楽しいしね」
……雲行きが怪しくなってきた。
「だ、だったらなんで……。なんであなただけにポイントを集中させているの? まさかあなた、他の2人を騙してる?」
「騙してる? 人聞きの悪いことを言うな。だが……なぜ集中してると言われてもな……なぜだ?」
「自然に」
「なりゆきだよね」
「……だそうだ」
……まずい。ひじょーにマズイ予感がする。
「あ、あのね? 私が今朝会った鬼のグループはしっかりと計画を決めて、グループの中の一人にポイントを集中させるよう計画立ててたのよ!? そうすれば鬼の優勝も狙いやすいでしょう!?」
「おおっ、なるほど!」
「あなた、頭イイねー!」
「そういうてがあったか!」
素直に感心してくれる一行。……頭が頭痛で痛くなってきた。
「そうか。そうだな。その手を使えば確かにまだ私にも優勝の可能性が残されてるかもしれん」
「ウン! 花火は出来なかったけど、まだまだDには優勝のチャンスがあるヨ!」
「うん! がんばれでぃー!」
「よし、私は頑張るぞ。優勝してみせる。そしてその勝利はお前たちに捧げよう。花火の代わりに、これでもかまわないか?」
「off-course!」
「もっちろん! がんばれ!」
「というわけでタッチさせてもらう。悪く思わないでくれ」
ぷよんっ。
……男はおもむろに手を伸ばし、私の豊満な胸に触ってくれた。
だが、もう、私には怒る気力も残されていなかった。
「はは……ははは……」
つまり……私は……やる気のなかった鬼を、その気にさせてしまった、と……。
ヤブヘビ、だったわけ、ね……。
【編集長 鬼になる】
【D ポイント+1】
【Dの脳内 最優先事項変化。「みんなで花火」→「優勝を2人に捧げる」】
【時間:3日目夕方 場所:森 天候:強雨】
二日目、そろそろ夜の闇が陽の赤を駆逐しようとするころ。
鶴来屋別館の食堂には今、三人の鬼が訪れていた。彼らは知らない。
この食堂の奥の厨房から裏口に逃げようとしている逃げ手4人組がいる事を。
そしてその4人組はしらない。その裏口から、別の鬼二人組みが厨房に入ろうとしている事を。
「大志、急いで! 鬼の奴らすぐ後ろまで来てるわよ!」
「承知している!」
障害物の多く通路が広いとはいえない厨房を、音を立てないように細心の注意を立てながらなるべくすばやく移動する。
そうして、ついに裏口の扉の前に到着する。ここを抜ければ問題なく逃げられるはず……
だが、いましも大志がドアノブに手をかけようとした時、
「さあ、ハウ君! ぐずぐずしないで食べるものとってくるのよ!」
との声と共に、ドアが外から開けられる。
そして、現れる鬼二人。
鬼と逃げ手、互いに顔を見合わせ、時が止まる。
「――――――― 嘘でしょ!?」
先に動いたのは鬼のほう。
「4人ゲットー!!これで一気に優勝候補!!」
「……僕の分は無視か!?」
口々に叫びながら、二人は厨房に入ろうとする。大志達はそれに反応できない。だが―――
ガシュッ
という音とともに、まなみとハウエンクアが逆さまになって天井にぶら下げられる。
先ほど大志と瑞希の二人がかかった罠と同じタイプだ。
「な、なによこれー!」
泣き喚くまなみに、大志がつぶやく。
「……なるほど、表に罠を仕掛けるのなら、裏にもか。道理だな」
「今度ばっかりは、罠を作った奴に感謝よね。ついでにかかってくれたこいつらにもね」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇぞ!これで裏口が使えねぇ!」
まなみとハウエンクアはちょうど戸口でぶら下げられている。狭い裏口の事、確かにこの二人に接触しないで通り抜ける事は無理だった。しかも―――
『今、厨房のほうで音がしなかったか?』
『しましたね。いってみましょう』
そんな声が食堂から聞こえる。そして近くなる足音。
「お、鬼さん達来ちゃいますよ!」
「なにやってんだ、お前ら?」
「うるさいわね! 見ないでくれる!?」
厨房に入ってきた往人にまなみは赤面して怒鳴りつける。
まあ、お約束という奴で彼女も男性に見られたくないような格好になっていたわけだ。
「見せる程のものかよ?」
「失礼ですよ」
鼻で笑う往人をウルトは軽くたしなめる。
「まなみの事なんてどうでもいいから助けてくれよぅ!」
「そ、そうね、助けてくれないかしら」
「はい、今助けちゃいますね」
厨房の巨大な冷蔵庫の中……
「ウルト姉さん達は、三人連れか」
「最初の鬼さんたち、私達がここに隠れている事を教えませんねぇ」
往人達がここに来る直前に、大志達はまなみたちの前で冷蔵庫にとびこんだのだ。
大志はその前にちょっとした小細工をしていたが……
「我輩達がここにいる事を教えたら、むざむざ目の前で獲物を取られてしまうからな。
おそらく助けてもらった瞬間に、こっちに飛び込んでタッチしてくる気であろう」
だが、まなみの目論見はうまくいかなかった。
「やめろ、千紗。助けるのは食料を手に入れてからだ。食いもんを横取りなんてされたらかなわないからな」
「よこどりなんてしないわよ!」
「そうか?それはそうとして……」
往人は油断なく周りを見回す。
「食堂に食った後の皿が残っていたのがどうも気になってな。ウルト、念のためだ。そこの入り口のところから動くな」
「まずい成り行きだな、オイ」
「全くだ……今回の我輩たちはどうかしていたとしか思えん」
大志は歯噛みする。
「だが、絶望するな、我が同士たち。道はまだ残されているぞ」
大志は、冷蔵庫のすきまごしに配膳運搬用のエレベーターを凝視していた。
エレベーターのボタンが光っている。
大きな戸棚等をあけて食料を手早くあさる往人。その背後で音がした。
「……? エレベーターか?」
おそらく厨房で作った料理を客室へ持っていく為のものだろう。
そのエレベータが、今一階に到着し扉を開いていた。
いぶかる往人。その背後で千紗は、
「にゃあ?電子レンジが動いてますですよ?」
そうつぶやいて、電子レンジに手をかけようとしたその刹那、
バァアン!!
と、すさまじい音が、その電子レンジから響く。
「にゃあ!!」
腰を抜かす千紗。往人の注意もそちらにそれる。
「いまだ!続け!」
その好機を逃さず、冷蔵庫から飛び出す逃げ手四人。
「……! お前ら!?」
そう叫ぶ往人の背後を走って、先ほど大志が呼び寄せたエレベーターに乗り込む。
「くそ! 行かせるかよ!!」
叫けんで駆け寄る往人の眼前で金属の扉が閉まり、往人はその扉に拳を叩き付けた。
歯噛みをしているのは大志も同じだった。苦々しくつぶやく。
「上に行くのは気に食わないのだがな……」
ウルトリィの位置しだいでは、先ほどの爆発 ――― 電子レンジで生卵を温めたのだ――― に乗じて食堂のほうから逃げることも可能だったのだが。
この一点においては往人の用心が勝ったといえる。
「でもあそこから抜け出せてよかったですよね。これなら逃げられるんじゃないでしょうか?」
「そうだといいがな。さあ、着いたぞマイ同士達」
5階で一行はエレベーターを降りた。
「5階だな」
5のランプをさしたまま動かないエレベーターを見て往人は言う。
「このホテルの階の移動手段は、東と西の階段だけだ。ウルトは東の階段を、千紗は西の階段を抑えろ。一階ずつ俺が部屋をしらみつぶしにしていく。手間がかかるがこれが確実だ。分配はこの際考えるな。タッチできる奴はすぐタッチして構わない」
「ちょっと待ってください」
ウルトが往人の指示に異論を唱える。
「階段のほかにもエレベーターがありますよ?」
その問いに往人はにやっと笑った。
「エレベーターは使わせないさ」
「我輩は間抜けか!?」
突然叫んだ大志に瑞希がビクッと肩を震わせる。
「な、何よいきなり……!」
「これでは我輩達が何階にいるかまる分かりではないか……!!
他の階のボタンも押しておくべきだったのだ!」
「……なるほどな。そうかもしれんがあの状況でそんな事を思いつくのは総大将ぐらいだぜ
大志、あんま自分のミスを責めなさんな」
「そうね、はっきり言って柄じゃないわよ?反省してるあんたなんか気持ち悪いだけだっての」
「ひどいいいようだな、マイシスター。我輩ちょっとセンチメンタルなハートがブレイクだぞ」
「はいはい、それでこれからどうしようか?」
「うーん、使えるのは東と西の階段と、このエレベーターと、お客様用のエレベーターが二つですよね。
えーと、向こうの人数が3人だから、2/5で逃げることが出来るのかな?」
「そう単純なものではあるまい」
すでに大志は客用エレベーターのボタンを押していた。だが……
階数を示すランプは1の所で止まったままだ。
「やられたな。エレベーターはもう使えんぞ」
エレベータは一階に止められていた。開いたままのそのドアは閉じられる事がない。
ドアに挟まった椅子を取り除かない限り。
「エレベーターを止めた以上、向こうの考えは分かっている。
一階、一階しらみつぶしにするつもりだろう」
大志はしばし言葉を切る。
「やれやれ、同士達。いよいよ進退窮まったぞ?」
【大志、瑞希、クロウ、郁美 5階】
【往人、ウルトリィ、千紗 階段を抑えながら下から一階ずつ虱潰し】
【まなみ ハウエンクア 吊るされたまま】
410 :
名無しさんだよもん:03/04/13 13:45 ID:A2n17F7F
>>398-399 神々の祈りについてですが、ハクオロが探しているのはエルルゥではなく
お金を持っているアルルゥだと思われます。
一応報告させていただきます。
すみません。下げそこねました。
それにしてもDとハクオロの会話に禿しく感動しました。・゚・(ノД`)・゚・。
>>410 すんませんです。ぼけてました。
【ハクオロ一行 エルルゥ探し再開】→【ハクオロ一行 アルルゥ探し再開】
に差し替えてください。すいませんでした。
「Dさん」
とりあえず、優勝を狙うにせよ、雨の中をうろつきまわるのは効率がよくない。まして、幼いまいかの体にも障る。
というわけで、一旦Houseに戻るべく家路を急ぐ三人の前に女性が一人姿を見せた。
「誰だ? 鬼ではないようだが…逃げ手だというなら、遠慮なく捕まえさせてもらうぞ。今の私には大いなる目標がある」
女性は頬に手をあてながら、ちょっと困ったように微笑んだ。
「いいえ、私は運営本部から参りました。水瀬秋子と申します」
「運営本部…というと…」
Dの顔が少し引きつる。彼には運営側に目をつけられる心当たりがあったのだから。
「お察しのとおり、先ほどのハクオロさんとの件ですが」
「ああ…あれは私が愚かだった。家族のためという目的に囚われ、物事の本質を見失っていたのだからな」
「そうですね。あれはやはり、運営本部としては見逃すことは出来ないほどの重大なルール違反という見解です」
秋子は淡々と告げた。
「そこでDさんには処分が与えられることになりました」
それを聞いてレミィとまいかが顔色を変えた。
「でぃーはわるくないよ! わたしがわがまま言ったから…」
「Dが怒られるなら、ワタシも同罪ヨ! Dだけ処分なんてヒドイよ!」
しかし、Dは二人を嗜める。
「いや、二人とも。私はそれほどの事をしてしまったのだ」
「愚かな思考の果ての行動とはいえ、犯してしまった罪は償わなければならぬ。それが掟というものだ」
「D……」
「でぃー……」
「それでは運営本部からの処分を伝えさせていただきます」
秋子の声が雨音を圧して静かに響き渡る。
414 :
警告:03/04/13 18:05 ID:03QvcCWA
「めっ」
「は?」
Dの口から漏れた声は、自分で思うよりもはるかに間抜けな響きだった。
「以上です。あなたはもう全てを分かってらっしゃるようですからね。これ以上は必要ないでしょう」
秋子は三人を見つめてにっこり微笑んだ。
「家族と言うのは、みんな揃っているのが一番幸せなんですよ。一人でも欠けたら、残された人はどんな思いをするか…」
そう言う秋子の目は、三人を通して何か他のものを見ているようだった。
「それでは、優勝目指して頑張ってくださいね。失礼します」
そして秋子は雨の中に消えていった。
「D……」
「でぃー……」
レミィとまいかは目を潤ませながらDに飛びついた。
『よかったねー』
一気に二人に抱きつかれたDはバランスを崩して水溜りに倒れこんでしまったが、三人はそんなことを気にも止めずにゴロゴロと転げまわる。
「ははははは、あはははは」
「キャハハハハ」
「でぃー、でぃー、でぃー」
一通り、歓喜の波が収まったあと、Dは二人を抱きしめて言った。
「私はもう、おまえ達を離さないぞ。絶対だ」
「ウン、何があってもワタシたちは一緒だヨ」
「だって、かぞくだもんね」
三人は笑いながら…泣いていた。
415 :
警告:03/04/13 18:07 ID:03QvcCWA
【3日目 夕方】
【D一家 泥だらけ】
うがータイトル変え忘れた…
浜辺で見知らぬおじさんに吊り上げられてきます…
「ただいま、美咲さんっ!」
本来なら扉を開けたその瞬間から、彼の栄光のロードは再開するはずであった。
だが、小屋に戻った彰を出迎えたのは、歓喜の叫びでも暖かい笑顔でもなく、
「お、お帰りなさい、七瀬君……」
美咲のどこかぎこちない笑みと、
「お兄ちゃん、お帰りー」
無邪気に手を上げるさおりと、
「あ、お邪魔してます」
触角を2本生やした、どこかくたびれた服を身につけた少女と、
しゅこーっ。
不気味な呼吸音だった。
――増えてる。
出るときには二人だったはずの人数が、いつの間にか四人に。
しかも全員が全員、見事なまでにお揃いの襷を肩から掛けて。
「み、美咲さん……それ……」
震える指で襷を指すと、美咲は申し訳なさそうに、
「うん……ごめんなさい」
16tヘビーボムが彰の脳天を直撃した(イメージ画像)。
かくも運命とは残酷なものか。
守るべき対象を守れなかったばかりか、自ら大口を開けた虎の檻の中に飛び込んでしまった彰。
この悲劇的状況を作ってしまったのは、あのくたびれた少女か、
しゅこーっ。
はたまた、ダイビング用の鼻まで覆うゴーグルをつけ、シュノーケルを装備し、猫じゃらしを握った、
一心不乱に太助をかまい続けているこの少女かっ!? って、呼吸音の原因はそれかっ! でもなんでっ!?
彰の物々しい視線に気づいたか、少女はゴーグルの奥の大きな瞳を、ようやくこちらに向ける。
「ふにゅ……? ふぁれ?」
お前こそ誰だ。どこのクリーチャーだ?
喉まで出かかったその言葉を、彰はようやくのみこんだ。代わりに胸元からネコが出た。
「うにゃ」
猫じゃらし、とはなんと凶悪な装備であろうか。
ぴろは彰のシャツから身を乗り出し、懸命に手を伸ばしている。
「あ、ふぃろだ♪」
鳴き声に気づいた少女はゆらりと立ち上がり、猫じゃらしを握ったまま、こちらに寄ってくる。
「ふぃろー、ふぃろー」
その合間にも、しゅこーっ、と。
笑顔なだけに余計恐い。彰はメデューサの邪眼を浴びたかの如く、固まったまま一歩も動けない。
ぱたぱたと揺れる猫じゃらしが、少しずつ彰の視界で大きくなってゆき――、
「七瀬君、逃げてっ!」
美咲の声に、はっと我に返る。
伸びてきた手から逃れようと、反射的に一歩下がる。だが小屋の玄関は一段高くなっていて、彰の足は空を切った。
僅かな段差が驚愕と共に彰からバランスを奪い去り、逃れようのない魔手が眼前に迫る。
しゅこーっ。
――殺られるっ!
彰は戦慄した、が。
「ふぃろーっ♪」
名雪の手は見事にぴろだけを掴み、彰は草原に無様にひっくり返りつつも、一命は取り留めた。
「なんなんだよ、もう……」
「えーと、つまり、僕のいない間に水瀬さんと雛山さんがやってきて、なんやかんやあって、鬼になってしまったと」
しゅこーっ。ぱたぱた。うにゃーっ。ごろごろ。
「う、うん……ごめんね。せっかく七瀬君が1人で、危険を顧みずに外に出てくれたのに……」
しゅこーっ。ぱたぱた。うにゃーっ。ごろごろ。
「い、いや。美咲さんのせいじゃないから」
しゅこーっ。ぱたぱた。うにゃーっ。ごろごろ。
「……」
ムードぶちこわし、である。
ネコ好きのネコアレルギーというのも気の毒ではあるが、鬱陶しいことこの上ない。
が、本人はアレルギーを気にせずネコと遊べるとあってか、お気に入りのようだ。
元は可愛い顔立ちなのに、すっかり台無しである。
かたやもう一人の雛山理緒は、先ほどからうずうずした様子で、
「あ、あのー、タッチしちゃ、ダメですか?」
と、聞いてくる。
「いや、せめて捕まるのなら美咲さんの手でっ!」
理緒はそんな指図を受ける理由はないのだが、負い目があるのか元来人がいいせいか、胸元で指付き合わせて、しょぼんと諦める。
「ううっ、せっかくの獲物がっ。私の貧乏脱出プロジェクトが……」
それを言うなら、君たちこそ僕と美咲さんのスイートライフプロジェクトの邪魔をしてくれたんだけど。と、彰は思う。
本当なら美咲と二人切りの一夜を過ごすところ、どこからともなく扶養家族が1人にネコまで加わり、
『こうしていると、僕たち、家族みたいだよね』などと自己暗示をかけつつ、一家の長らしく食べ物を調達してきたのもつかの間、
自宅は占拠され、妻と娘(彰主観)は鬼の手の内にあり、状況はまさに四面楚歌。ついでにネコが、また増えた。
……どうすればいいんだ。
くいくい。
「ん?」
「お兄ちゃん、ご飯はー?」
お腹を押さえたさおりが、彰の袖を引いていた。
「ああ、そうだね。とりあえず食事に……あ」
「あっ……」
「ああぁっ!」
「ふぉうひふぁふぉ?」
「? なーに?」
『葉鍵的鬼ごっこ条約第一条 鬼に触れられた者は鬼となる』
かくして、一家(?)仲良く鬼となってしまったわけだが。
「太助ー、ぴろー、ご飯だよー♪」
無邪気に猫にエサをあげているさおりを見ていると、文句を言うこともできない。
「ううっ。こんなことなら、私にタッチさせてくれても……」
「あはは……もういいや、どうでも」
彰はなげやりに突っ伏した。
「お待たせ。ありあわせだから、大したものじゃないけど……」
「いやっ、もう、美咲さんの料理だったら、なんでも大歓迎だよっ」
美咲の料理を目の前にすると、たちまち彰は幸せを覚えてしまうのであった。
――まぁいいや。これはこれで幸せだし。……せめて冬弥には頑張ってもらいたいな。
自分で由綺に居場所を教えといて、それはないだろう。とっくに捕まってるし。
いやさ。ホワルバ勢は彰が鬼になったことで、残す逃げ手はわずかに1人。
それはヒロインでもなければ主人公でもなく、サブキャラの割には重要な役回りと存在感を示す、
場合によっては由綺をゲットしかねない、おいしい男。その名は緒方英二。
その緒方英二といえば――。
――あー、疲れた。
さすがにこの年になると、全力で走るのはきついなぁ。理奈ちゃんは俺が鍛えただけあって、スタミナ全開だし。
このままではいずれ捕まるよな。ここで擬装してやり過ごすという、俺の選択は間違っていないはずだ。
完全に気配は殺した。微動だにせず、音一つ立てずにいれば、この極めて自然な状況下では、
だれもが『ああ、例のあれか』と思って通り過ぎるはずだ。
ついでに足跡をわざとあさっての方向に残すというカムフラージュも施してある。完璧だね、俺。
――お、足音だ。来た来た。
思ったよりは引き離せていたみたいだったけど、理奈ちゃん、姿が見えなくても、俺のあとをぴったりついて来ちゃって。
兄妹愛の為せる技ってやつ? それはそれで嬉しいけど、今回ばかりはちょおっと迷惑だね。
さぁ、理奈ちゃん。お兄様はとっくのとおに向こうに行ってしまいましたよー。
こんなところはとっとと通り過ぎて、急いで追わないと逃げられちゃいますよー。
……って理奈ちゃん、なんで真っ直ぐにこっちに向かってくるかなぁ?
ほら、足跡はあっちの方に付いてるじゃん。俺はただのどこにでもある……、
「こんなところにクラーク像があるわけないでしょっ!」
「うわちゃあっ!」
俺は例のポーズを慌てて解除し、理奈ちゃんの跳び蹴りを回避して、岩から飛び降り走り出した。
「どうして分かるかなぁ? ほら、観光地によくあるじゃん、ああいうの」
「クラーク像は北海道にあれば十分よっ!」
「それもそうだけどさぁ。この際、この島にも観光名所の一つや二つ……」
「緒方英二像なんて建てたら、フセイン像みたいにことごとく引き倒すからね」
あらら。理奈ちゃん本気の目だよ、あれは。
休めたのはいいけど、すっかりアドバンテージ失っちゃったなぁ。
俺様、大ピンチ継続中です。
【彰、鬼になる】
【さおり、1ポイントゲット】
【緒方英二 スタミナがピンチ】
【緒方理奈 ターゲット補足】
【時間 二日目、そろそろ日が暮れてもいいだろう】
【場所 彰一行 出番の割にはどこにあるのかよく分からない小屋の中
緒方姉妹 かけずり回っているので、どこにいるんだかもうさっぱり】
姉妹ってなんだ。兄妹だ。失礼。
「良いか、千紗。あいつらが来たら大声で俺を呼べ。何が何でもあいつらを通すな。いいか」
「はいっ。千紗がんばりますっ」
そして西階段を二階に上がっていく往人。東階段にはすでにウルトが待機して、逃げ手達の強行突破を防がんと構えている。
東西両階段ともに、一人ずつでは不安なため、食堂から長テーブルを運んできて、降り口に急造のバリケードをつくってある。
机を二段重ねてあるから、そうたやすく突破は出来まい。
往人は確信していた。これで、四万円ゲットだ、と。
そして、二階。201 202 203 と順に捜索していく。まったく根気のいる作業だが、ほかに有効な手が無い以上仕方ない。
それに、往人は仕事柄、徒労には慣れている。
204……205……206……20
そのとき。通路を歩く往人の目に、あるものが飛び込んできた。
こういう高層の建物には、有ってしかるべき──むしろ、なければおかしい、とある施設が。
「あ──しまった! 俺は馬鹿か!」
そして駆け出す。その施設へ向かって。
大志は悩んでいる。自身の判断ミスで、返って皆を窮地に陥れてしまったのだ。責任を感じている。
なんとか、脱出法を見つけんと、その頭脳をフル回転させているのだ。
急いで三階まで降り、窓から飛び降りる? 郁美嬢には不可能。
鬼達が捜索しに来た所を、急襲して沈める? 奴らの戦闘力がわからない。無謀。
通気口や換気口を使って……馬鹿な。我輩は何を考えている。
やはり、強行突破しかないのか……いや、奴らも馬鹿ではあるまい。バリケードくらいは構築していてしかるべきだ。
「──ふ」
落ち着け、我輩。焦ってはならん。冷静に、周囲の状況を観察し、分析するのだ。必ず脱出ルートは見つかる──
ここはエレベーターホール。周りには三人の同志が、それぞれに知恵を絞っている。
大志は一人立ちあがり、壁に張られている、この建物の地図をじっと見る。
階段は東と西にひとつずつ。エレベーターは止められた。階段は押さえられていて使えない。
ならば──まて。これは────っ
「──くくっ、はっはっはっは!」
突如笑いだす大志。何事かと、三人が一様に彼を見る。
「ふっふふ、我輩は心底間抜けだな。こんなことにも気がつかないとは」
「どうしたのよ大志」
「よろこべ、同志諸君。さぁ立ちあがれ。脱出口へと向かうぞ──」
「非常階段ですか……」
「まったく盲点だった。焦っていては、これほど簡単なことすら判らぬものか」
「さっさと行くわよ、鬼達が気付くかもしれないし」
「クロウさん、すみません、おぶってもらって」
「かまやしねぇよ、譲ちゃん。それより、しっかり捕まってろよ」
四人は非常階段を早足で降りていく。
狭くて降りづらい、普段はまったく用なしのこの階段が、今の四人にとってはなによりもありがたい脱出口。
しかし──気付くのが少し遅かった。
二階まで降りてきた、後少しで逃げ切れる、そのとき、
まるで弾けるように、扉が開いた。間髪いれず、中から黒いTシャツの男が飛び出してくる。
急停止する逃げ手達。期せずして両者は、真正面から向き合う形になる。
「はぁ、っ。間に合ったみたいだな」
軽く息をついて、往人が言う。そして四人を捕まえんと駆け
「逃げるぞ!」
同時に、クロウが言って、
手すりを乗り越えて、地上へと飛び降りた。
【往人 非常階段で逃げ手達発見】
【郁美を背に負ったクロウ 飛び降りる】
【大志 瑞希はさてどうする?】
【夕方 鶴来屋別館の非常階段】
「―――――――――――――――と、いうわけなのよ」
私は、鬼になった。
失礼。誤解を招きかねない表現だった。
私―――澤田真紀子は現在『鬼』である。
無論のことなりなくてなったわけではない。鬼になったのは思い出したくもない経緯があってのことだが、
それはそれ。今、私は『その思い出したくもない経緯』を話し終えたところだった。
目の前の、彼女たちに。
「ええ、と。つまり……」
「――――澤田様。仮に協力するとして賞品はいかが致しましょう?」
太田香奈子を押さえ、口火を切ったのは、来栖川重工製HMX-13・セリオである。
噂には聞いていたものの、目にするのは初めてだ。
「――――いらないわ」
「権利を放棄されると仰るのですか?」
セリオ、小首をかしげる。
言いたいことは良くわかる。
というか、良くできている……。あの耳はなんだろう。
「賞品賞品って目を輝かせるような歳じゃないから。―――――とはいえ、ぜんぜん無欲にもなれないけれど。
そうね、賞品が可分なモノであれば多少分けてもらえばそれでいいわ。それ以外なら、あなたに差し上げるわ」
美坂香里――――といわれる少女を見つめて、そう言った。
確かに賞品は私の目的じゃない。
その問題で分裂する懸念のないチームに出会ったのは、僥倖といっていいだろう。
鬼になってどうするか。
不本意極まる経緯で鬼にされて、まず考えたのはそれだった。
言うまでもなく私は非力だ。物理的な力は一般女性のそれと大差ない。特殊能力も皆無。SS設定で追加機能など
というのも無論ない。このまま終了まで傍観を決め込んでもいいが、それは私のプライドが許さない。
たとえ”ゲーム”でも勝負事は、勝たなければ意味がないのだ。でなければ、この歳で編集長など務まらない。
……となると、自然、チームを組む、ということになる。
最初あの『天沢』という少女のいるチームも選択肢に入れていたが、結局考慮から外した。
不審の種というのはとても深く根付く。あの後彼女達がどうなったか知らないが、表面は繕うことは出来ても
後々響いてくるだろう。自分でやったことだが、わざわざその始末に追われるつもりは無かった。
「言うまでもないけれど、鬼は多いほうが有利よ。逃げ手と違ってね」
そして、とりあえず食事を屋台に向かって、出会ったのが彼女たち。
「とはいっても、――――ね」
香里が困ったように、肩をすくめた。
みたところ彼女がこのチームの中核のようだが、”ゲーム”への興味は既に無くしたらしい。
話によれば、「妹」を捕獲―――もとい、復讐――――するのが目的だったというから、目的を果たした今、
彼女のこの状態は無理なからぬことなのかもしれない。
もっともそれでは困るのだが。
「……そうね。考えてみれば、ここは絶海の孤島。あるのは、手付かずの自然。広い海。白い砂浜。”ゲーム”という
枠から離れてみれば、ちょっとした旅行気分よね。一応リゾートと謳っているし」
「ええ。そうですね」
「適度に鬼を捕まえて換金すれば、資金に困ることもないし」
「ええ」
「バカンスだと思えば、そう悪い状況でもないわよねぇ」
にっこりと笑って
「――――ほんの半月くらい」
「「…………え?」」
香里と香奈子の声が図ったようにユニゾンした。
今気づいたが、どちらも「香」がつくのは偶然だろうか。
いや、どうでもいいことだが。
「い、いえ。そんなには続かない、……と思いますけど」と香里。
「そうかしら? 主催者が期限を指定していたという記憶は無いけれど」
「……そう……だったかしら?」
眉間に指を置いて、思い出そうとする仕草の香奈子。
「――――セリオ?」
冷静に香里が向かいに佇むセリオに問いかけた。
「残念ですが、Yesです。香里様。澤田様の仰るとおり、期限はきられていません」
「…………」
香里の目つきが変わった。
なるほど、確かにこの不思議時空満載な集団のなかで、8ポイント取ったというのは伊達ではないかもしれない。
……これは当たりだったかも知れない。
「――――いいかしら? 現時点で想像しうる”ゲーム”の結末は三つ。『逃げ手』が一定数(もしくは一人)になるか、
『鬼』が全員を狩り尽くすか。或いは、『逃げ手』が一定数で終了し『鬼』は獲得数で賞品を手に入れる、か。どれにせよ、
時間が必要なの。少なくとも、逃げ手がある程度減らない限りこの”ゲーム”は終わらない」
「積極的同意です、香里様、香奈子様。主催者側のこれまで費やしてきたコストを考慮しても、この”ゲーム”を半端に
終わらせることはないでしょう。不測の事態が生じない限り、数日かかる可能性はあります。消極的参加にメリットはありません」
「つまり、こういうこと? 鬼を捕まえない限り終わらない?」
香奈子が続ける。
飲み込みが早い。彼女も賢いようだ。
「そうなるわね。――――もちろん、アクシデントで中断ってこともありうるけれど」
「……簡単に終わる遊びはつまらないけれど、終わらない遊びはもっとつまらない。――――わかりました、協力してもらいます、真紀子さん」
すっと香里が立ち上がった。
本当に、当たりだったようだ。
「けれど、……使える武器の類は売ったじゃない」
「あの唐辛子噴霧器? いいのよ。どうせあと3、4回くらいしか使えないんだし」
「……それで一万円? 詐欺ね」
「商売上手といってほしいわね」
といいながら、香里と香奈子が屋台の武器を物色し始めた。
――――実は、彼女達に言っていない事がある。
換金システムのある『鬼』側と違って、逃げ手側には資金を調達する手段がない。
彼らが所持しているのは基本的に開始初日に持っていただけ――――つまり、日常的に所持している程度の金額だ。
ぼったくり屋台で食を充たすことができるとはいえ、そう長くは持たない。
極々少ない例外があるにしても、勝負期間は、おそらく五日。遅くても七日というところだろう。
半月も続くはずがないのだ。
ふと視線を感じて顔をあげると、セリオがこちらを見ていた。
「…………あなたは、わかっているのよね? 騙していることになるけれど、いいの?」
「――――構いません。あの方は、ああしているほうが自然ですから」
驚いた。
来栖川のメイドロボというのはこういう思考をするのだろうか。
「香里さん――――彼女、あなたのマスター、ではないでしょう?」
「はい。…………ですが、たまにはこういうのも悪くありません」
セリオは微笑を―――多分そうなのだろう―――浮かべた。
これは、楽しめそうだ。
【真紀子 香里・香奈子・セリオに合流】
【場所 屋台】
【時間 三日目夕方〜夜】
【天候 雨】
訂正です。
>「つまり、こういうこと? 鬼を捕まえない限り終わらない?」
>香奈子が続ける。
を、
>「つまり、こういうこと? 逃げ手を捕まえない限り終わらない?」
>香奈子が続ける。
に。
ご迷惑かけます。すみません。
「……誰か来るよ」
突然瑠璃子が言った。四人、教会の中で、談話していたときのこと。
「どうしてわかるんですか?」
「ちょっと変な電波を感じたの。すぐそこまで来てるよ。葵ちゃん」
「あうー、本当? 誰か来るの?」
「うん。絶対来るよ、真琴ちゃん」
「あうー」
「長椅子の影に隠れましょう」
美汐が言う。葵もうなずいて、あうあう言っている真琴を二人がかりでなだめながら、長椅子の影に。
そして、扉が開く。
「あー、つっかれたー」
「だらしないなぁ詠美。ちゃんと運動せなあかんでー」
「あの……お邪魔しますぅ」
「誰かいますか?」
「しかし今日は良く歩いたわねー」
次々入ってくる六人連れ。たすきはかけていないことに、こそりと見ていた四人は安堵する。
「良い寝床が見つかって良かったな」
扉が閉められる。扉を閉めた男性の声は、葵には聞き覚えのある声。
「あれ、藤田先輩?」
立ちあがる。
「あれ、葵ちゃん?」
浩之もあっけに取られた風でそれに答えた。
「こ、こっちなんだな」
「そうでござるな」
くんくん、と鼻をひくつかせながら森の中を邁進する二人の男。
縦と横。正体不明な力でもって、匂いをたどって詠美を追う。
「あ。あの建物が怪しいんだな」
「同意でござる。あの中から匂うでござるよ」
そして、二人は教会へ迫っていく。
そして──ある意味、詠美以上に危険な人物も、そこに向かっていく。
その名は桜井あさひ。無論、彩ときよみも一緒にいるが。
おたく二人にとっては、神以上の存在──
「……建物です」
「良かったです……」
「えと、寝床……ですね」
おたく二人とは反対の方向から。教会へと接近していく。
教会の中には十人もの人。
灯台に引き続き、浩之達は逃げ場の無い建物の中で、鬼の襲撃を受けようとしている。
最悪に危険な二人と、
おっとりのんびりあたふたトリオ。
良くわからない組み合わせの鬼二組を前に、
十人の運命はいかに。
【教会内にいる人々 瑠璃子 浩之 志保 葵 琴音 由宇 詠美 サクヤ 舞 美汐】
【教会南側から迫る、縦と横。目標、詠美のサイン&生原稿】
【教会北側から迫る、あさひと彩ときよみ 目標、寝床確保】
【総勢十五名】
【森の中の教会 二日目夜】
二人の男の間に緊迫した空気が流れている。
「悪いが捕まえさせてもらう…」
一方は藤井冬弥。浮気ゲーム『ホワイトアルバム』の主人公。
葉鍵一のイケメンという評価もあるが、彼を指す言葉としてはさらに世に浸透しているものがある。
すなわちヘタレ。
しかし今の彼は、未熟ながらも確かに漢の顔つきをしていた。
この島での経験は、冬弥にとって大きな糧となったようだ。
「復帰したばっかりで鬼になるわけにはいかない!」
その冬弥に対するのは長瀬祐介。
LVNの初代主人公。
そのゲーム開始直後にかまされる常人を超えた妄想は、プレーヤーの度肝を抜く。
電波使いという状況から、おそらくは瑠璃子エンドかと思われるが、LF97設定のようなのではっきりとした所はわからない。
電波による反則のため拘束されていたが、どうやら開放されたようだ。
そして今、葉が誇る二大内面ドロドロ主人公が激突する。
「フッ」
先手を打ったのは祐介。
その外見を裏切る意外な瞬発力で、冬弥を引き離しにかかる。
「逃がすか!」
しかし、冬弥も伊達に体力勝負のADをやっているわけではない。
祐介の動きにほとんど遅れず、大地を蹴る。
体力なら間違いなく、冬弥の方が上だ。
雨の中濡れるのも構わず、全力で走る二人。
速度はほぼ互角である。
しかし、元々体力に自信の無い祐介は、自分の限界がそう遠くないことを感じた。
「……まずいな」
しばらくの追走劇の後、持久戦では勝ち目が薄い事を悟る祐介。
しかし電波は使えない。近くに熊でもいれば別だろうがそんな様子もない。
このままでは間違いなく捕まってしまう。
(ん? あれは…)
そんな時、先に見えたのは川。
幅は5,6mくらいだろうか?
それほど、深くはないものの雨で増水していてとても渡れそうにない。
川に丈夫そうなあの板が架かってなければ、だが。
見たところ、板はしっかりと打ちとめられているわけではない。
人一人の力でも、十分動かすことができるだろう。
祐介は冬弥との距離、互いの速度、自分の筋力と相談。
瞬時に結論、板に向かって走る。
「そうはさせるか!」
祐介の目的を看破した冬弥はスパートをかけた。
25メートル以上あった差がどんどん縮まる。
20メートル…15メートル…12メートル…10メートル…8メートル
しかしそこまでだった。
そのとき祐介は、すでに板を蹴っていた。
どんぶらこー、どんぶらこーと川に流れさていく板。
それを見、フゥと安堵のため息を漏らす祐介。
「すいません、こうでもしないと捕まりそうだったので」
そして、川の前で立ち往生しているはずの鬼に向かい声をかける。
「……」
冬弥は何も言わない。
「運がよかっただけです」
「……」
冬弥は何も言わない。
「…ゲームなので」
「……」
冬弥は何も言わない。
しかし、次の瞬間その葉鍵一のイケメンに浮かんだのは笑み。
「悪いな」
「ゴメンね」
声は前後から同時に聞こえた。
森川由綺からたすきを受け取りながら、祐介は呆然としていた。
冬弥は最初からあそこに追い込むのが目的だったらしい。
確実にしとめるための袋のネズミを作り出す為に。
たとえ祐介が体力で勝っていても、あの場では板を渡ったことだろう。
それが冬弥によって置かれたものだということも気づかず。
そして板をはずしたことだろう。
もう一人の狩人が迫っていることも知らずに。
結局自分は冬弥の手のひらの上で遊んでいただけだ。
「落とし穴だけがトラップじゃないぜ」
少し離れたところの橋を渡ってきた冬弥は笑いながら言った。
【由綺 +1ポイント シェパードマイク所持】
【冬弥 金無し】
【七海 由綺の側にいたんだけどセリフ無し】
【祐介 鬼に】
【朝】
そしてそのすぐ近くでは…
「祐介の奴捕まったみたいだ」
「そうですか、仕方ありません離れましょう」
【耕一&瑞穂 祐介の捕獲現場を見た後離れる】
440 :
孤独:03/04/14 20:09 ID:MG8sSxXv
限界が来た。いくらタイヤキが掛かれば無類の脚力を発するこの足も、文明の利器には敵わないか。
相手はこちらと一定の距離を取って逃亡しているようだ。全く腹立たしい。
しかし、いくら立腹しても一度疲労を感じてしまえば御仕舞いだ。月宮は頭から砂浜に突っ伏した。
(うぐぅ…)
ああ、まだバイクの鼓動が聞こえるというのに。
(そういえば、お腹空いたから屋台に行ったんだっけ…)
しかし、バイクの鼓動は消えない。 それどころか…近づいてくる?
「アンタ、頑張るなあ。こんなに走る予定やなかったんやけどな」
バイクに跨る女性が喋っている。微妙に距離を取っているのは、油断していない証拠なのだろう。
「まあ、ウチもあの子に会うまで鬼になるのは避けたいんでな。堪忍し」
「…あの子?」
ボクは顔を上げた。
「…土、積もってるで?」
「…全力でコケたから…」
泥だらけの顔で、恨めしそうに見上げる。
「ほな、お詫びや」
そういうと、女性は袋を投げて寄越してきた。 こ、コレは…タイヤキ!?
正直、踊りだしたいほど嬉しかったが、なんだか悔しかったので愚痴てみた。
「冷めてる…」
「もうちょっと早くギブアップしてたらなー」
軽くかわされてしまった。
まあ、元々文句を言える立場じゃない。 大人しく貰っておこう。
441 :
孤独:03/04/14 20:09 ID:MG8sSxXv
すぐに貪りたいところだが、生憎髪から顔まで土まみれだ。 顔を洗うまで我慢しよう。
それに、女性の言う「あの子」とやらに興味もあった。
「で、あの子って?」
「あー、ウチの娘や」
娘が居たのか。
「ちょうどアンタと同じくらい、かな?」
ていうかアンタいくつだ!?
女性は娘が自慢なのか、少々過熱気味に話してくれた。
「でな、まあリゾートっちゅーんで、たまには遊んでやろと思ってな。 来てみたっちゅーわけや」
…やっと言葉が途切れた。 一体何万語語ったのか。
「しかしなー、あの子トロいから」
いや、まだ続く!
このままでは折角のタイヤキが、更に冷めてしまう。 ここは、話を切り上げるべきだろう。
まずは話に割り込まねば。
「でも、その年齢でお母さんと鬼ごっこってのもね」
女性の表情が曇る。 話に割り込まれて機嫌を害したか?
「…あの子な、子供の頃から友達おらんねん」
え…
442 :
孤独:03/04/14 20:10 ID:MG8sSxXv
「ヘンな病気のせいでな、小さい頃から誰も一緒に居てくれへんのや…」
(び、病気?)
「まあ、そんな訳でな、鬼ごっこってのも今回が初めてかも知れへん」
(ボクは…祐一君と…でも…)
「ずーーーっと独りでな。 この島でも、ひょっとして独りで寂しくしてるかもしれん」
(ずーっと、独り…)
「あの子トロいからな、多分もう鬼や。 でも、誰も捕まえられへんと思うんよ」
女性は悲し気に顔を伏せた。
「せやから、せめてウチは逃げ手のままあの子に会って、本気の鬼ごっこをしてやりたいねん」
「…もし、会った時に鬼じゃなかったら?」
「そん時は一緒に逃げるのも、また楽しそうやん?」
女性は屈託が無い。
隙あらば飛び掛ろうと思っていた。 ゲージを溜めて、飛び掛る準備もOKだった。
でも。
「うん、じゃあ、頑張って逃げてね」
ボクは立ち上がり、髪と顔の土を払う。 タイヤキは懐に入れた。
「ん、もう動けるか」
女性はバイクを空ぶかしする。 牽制されているのか。
「その子、どんな格好?」
「栗色の長い髪を、後ろで縛ってる。 がおがお言ってたら間違いない」
「…もし、まだ鬼じゃなくて、ボクが見つけたら…」
「本気で、追い掛けてな」
「…うん」
この女性には敵わない。
「…うん。 じゃあね、おばさn」
「誰がおばさんじゃーーーーいっっ!!」
ホイルスピンにより、大量の土(いや、泥か)が降ってきた…
443 :
孤独:03/04/14 20:11 ID:MG8sSxXv
「貴女は…」
隣りを走るべナやん(縮めた)が話し掛けてきた。
「良い、です。 正直、見直しました」
「それを言うなら惚れ直したって」
睨まれた。 茶化すのは止めようかな。
「まあ、でもな、これはウチの我侭やから。
観鈴が鬼やったら、アンタまで巻き込む気はない。 遠慮せんと逃げてな」
「ええ、逃げますよ。 標的が多いほうが鬼も楽しいでしょうからね」
「べナやん…」
「いや、べナやんは如何かと」
「結構時間を食いましたね。 あの娘達の元へ戻るのでしょう?」
「そやな。 バイク借りっぱなしやし。
やっと人に会えたのに、鬼が来たせいで観鈴の事聞けへんかったしな」
「常識的に、視界の広い場所には逃げ手は来ないでしょう…」
「観鈴ちんはアホやから。 海が有れば、そこへ来る」
「…」
【ベナウィ&晴子 あゆを倒して茜達の元へ】
【あゆ 『ガイア式砂地での武闘術』会得。姿は隠せどもタイヤキを食せない諸刃の剣】
【3日目昼過ぎ】
夜の闇に覆われた森の奥の教会。三流ホラー映画にはバッチリのロケーションで
あったが、
今現在、教会の中はにぎやかなものであった。
それもそうだろう。なんと逃げ手が10人もいるのだから。
「急ににぎやかになりましたね」
「そうですね〜」
「にぎやかなの、楽しいよ」
「ふみゅ〜ん、お腹すいたぁ! これもも〜らいっと」
「あう〜!それも真琴の!」
「恥ずかしい事すんな、この大庭か詠美!」
「いいですよ、また作りますから」
「サンキュ〜、ごちになっちゃうわね」
「ねこっちゃ、これいらないのか? もらっちゃうぞ」
「……ねこっちゃ言わないでください」
台詞を考えるだけでも一苦労である。いやまじで。
だが、そんな団欒の雰囲気を裏切るように、瑠璃子が緊迫した声を出す。
「……! また誰か来るよ」
「本当ですか?」
「うん。なにかいやな電波を感じるよ……」
そうこういううちにも、正面入り口がギィッと音を立てて開かれた。
「うわぁ、あいつら縦と横じゃない!?」
「しつこいな。あいつらここまで追ってきおったんかい」
間一髪長いすの裏に隠れた詠美と由宇とサクヤは、入り口のほうを伺う。
他の逃げ手達も別々の場所に隠れているようだ。このすぐ近くの長椅子の裏には浩
之と志保が隠れており、他の5人もカーテンの裏に隠れる事が出来たらしい。
「むぅ……誰もいないんだな」
「いや、大庭詠美の匂いがするぞ」
「匂いがするんだな……生原稿いただきなんだな」
「やっぱり、詠美さんの事狙ってますね」
「匂いなんてしないわよ!」
「そんな事いっとる場合か! こっちに来るで!」
本当に匂いがするのだろうか。縦と横はうろつきながら徐々にこちらに向かってきている。
(ふみゅーん。どうしよう、あいつら私のことだけ狙ってるのよね)
詠美は迷う。
(このままだったら、みんなに迷惑かけちゃう……逃げたくても、瑠璃子足に怪我してるし)
「どうしたんや、詠美」
詠美の様子に気づいたのか由宇は問う。詠美はその由宇にニヤッと笑うと、
「……あんた達、こみぱくいーんの生き様みせてあげるんだから!」
そういって、詠美は立ち上がる。
「ちょっと!縦に横!!詠美ちゃん様はここにいるわよ!」
その声に、縦と横は振り返る。
「ぬぅ!そこに隠れていたか!」
「グフフフ……探したんだな」
(き、気持ち悪ーい)
ちょっと泣きそうになるちゃん様。だが、がんばって虚勢を張る。
「フン! くいーんは逃げも隠れもしなんいだから!
みじめなあんた達にちょお優しい詠美ちゃん様が原稿恵んでやるわよ!」
その横で、由宇がスクッと立ち上がった。
「サービスや。今やったら、辛味亭の生原稿も付けたる」
「な、何であんたまで!」
慌てる詠美に、由宇はニヤリと笑い返す。
「大庭か詠美だけやったら、可哀相やしな。ま、これも付き合いや」
「えへへ、そうですね」
今度は反対側でサクヤが立ち上がる。
「私は絵は描けませんが、付き合わせてください」
「ふ、ふみゅ……あんた達……」
ちゃん様、ちょっと涙目。
教会の外には、正面入り口とは反対の方から教会に近づく鬼が三人いた。
「……なにか騒がしいですねぇ」
きよみの意見に、彩とあさひもうなづく。
「誰かいらっしゃるのでしょうか?」
「うーん、いそうですね。ゆっくり泊まれるようなところだとといいなぁ」
改めて教会の中、カーテンの裏。
「詠美さん達、犠牲になるつもりですよ!」
「どうしましょう、何とかしてあげたいのですが」
焦る一同に瑠璃子が口を挟んだ。
「……いやな電波があるよ」
「嫌な電波? あの鬼達からですか?」
「ううん。あっちの方から」
瑠璃子は浩之と志保が隠れている方を指差した。
(落ち着け浩之、これはチャーンス)
(チャンスよチャンス、志保ちゃん優勝できちゃうかも)
二人して同じことを考える。
(ここであえて鬼になって)
(他の人を捕まえれば、一気に9ポイント!)
フェイレス司令もビックリなイイ笑顔を二人は浮かべる。
(主人公の割には今まで活躍する機会もなかったけど、これで一気に優勝候補!!)
(超先生キャラと蔑まれる日もここまでだわ!!)
浩之は優しい眼差しで、志保を見る。
(志保……超先生キャラの中でもトップクラスに人気がないお前だけど、
ちゃんと俺の踏み台として役に立ててやるからな)
志保は優しい眼差しで、浩之を見る。
(ヒロ……主人公の中でトップクラスに出番がないあんただけど、
ちゃんと志保ちゃんの優勝の糧にしてあげるからね)
「ひょっとしてあの二人、あえて鬼になって私達を捕まえようとしているのではないでしょうか?」
「うん、そんなどす黒い電波だよ」
「あうーっ……にやにや笑ってる……」
「ふ、藤田さん、それはちょっと……ねこっちゃさん、なんとかならないでしょうか」
「ねこっちゃ言わないでください。サイコキネシスで直接攻撃はできませんし……」
「グフフフ……さあ、捕まえて原稿をかかせるんだな」
「あんたら、ファンとして最低やな」
だが、もっと最低な二人がいたりする。
浩之と志保、長椅子の背から飛び出すと、浩之は縦を、志保は横をタッチする。
「な、お前!」
「ひ、ヒロ!?」
お互いの行動に驚く。
「「こ、この裏切りものー!!」」
お互いに、こいつにだけは言われたくないだろう。
「ね〜琴音、カーテン使えない?」
真琴の提案に、カーテンの裏の4人は顔を見合わせる。
「(ねこっちゃって言わないでくれた!)……それならいけます!」
「俺がタッチする!!」
「抜けがけはなしよ!!」
「き、貴様ら汚いぞ!!」
「醜いんだな!!」
あまりの展開に反応できない詠美達に、醜い争いを続けながら鬼達が迫まろうとする。
だがその鬼達の上に、
バフッ
カーテンが覆いかさぶる。
「な、え?何?」
「ねこっちゃや! 逃げるで三人とも!!」
「はい!!」
この隙に裏口の方から逃げようと、走る由宇達。
「逃がすかよ!!」
いち早く這い上がった浩之が後を追おうとするが、
「抜け駆けすんなぁ、ヒロ!!」
志保に足首をつかまれて転倒する。
「ふざけんな、この!!離せ、テメェ!!」
「ポイントゲットは志保ちゃんのものよ〜!!」
通路に転がったまま、低レベルな争いをする二人。その二人の上を、
「待て〜!!」
「逃がさないんだな!!」
「グア!?」
「フギャッ!?」
容赦なく、縦と横が踏みつけていった。
(よし、これなら逃げられそうや!!)
裏口を潜り抜け、森の中へ逃走しようとする。だが、新たな鬼三人とばったりと出くわしてしまう。
「あ、あれ? 由宇さんに詠美さん?」
「……お久しぶりです」
「あさひはんに彩はんか……」
三人に掛けられた襷を見て、由宇は顔をゆがめる。
「なんであんた達がこんな所にいるのよ〜!」
「え、えとえと……寝床を求めていまして……」
「じゃあ見逃せ、ええな!!」
「え、ええと、でも……」
由宇の剣幕にタジタジとなるが、あさひ達も獲物を逃がすつもりはないようだ。
「……申し訳ないですが……ポイントゲットです」
由宇達にあさひ達の手が伸ばされる。だが、
「あ、あさひちゃんなんだな!!」
「ぬぅぅぅ……拙者自分の目が信じられぬ!!」
裏口から由宇達を追ってきた縦と横の大声が、それを阻んだ。
「え、えええ?」
オタク二人に取り囲まれて、あさひは対応できない。匂いとかかかれちゃってるし。
ちゃん様、それにご立腹。
「……したぼくってなんですか?」
サクヤが問うが、詠美は答えない。
「そ、それがそんな女にうつつを抜かして……生原稿ずえーったいあげないからあっ!!」
「う、うう、それは困るよヤングウーマン」
「困るんだな、確かに」
「フン!!そんな女、台本がなければアドリブもろくにできない大根役者じゃない!!」
「ひ、ひどい……!! そんな、そんなこというなんて……!!」
詠美の暴言に、あさひも激昂した。
「お、お二人とも! サイン差し上げますから、詠美さん達を捕まえるの手伝ってください!!」
「縦に横!!生原稿よ生原稿!! いらないの!?」
「うう……どっちもほしいぞ、切実に」
「俗に言う板ばさみなんだな」
迷う二人に、彩がおずおずと口を出す。
「……よろしければ、私の原稿も差し上げますが」
「それはいらんな」
「ゴミにしかならないんだな」
「…………」
プライド被傷害者少女、もう一人追加。
「まったくあほらしいわ」
ガリガリと由宇は頭をかく。と、あさひの肩にポツン、と黒いものが落ちた。
「あさひ、なんやそれ?」
言われて自分の肩をみるあさひ。その黒いものは。
「ク、クモーーーー!!」
そのあさひの悲鳴に触発されるように、草むらから鼠や昆虫の群れが這い出して、あさひ達の方へ向かってくる。
「い……」
言葉を失う、鬼三人。気絶しなかっただけでも僥倖か。
「「「いやーーーーー!!」」」
口々に叫びながら一目散に走り出す。
由宇達もパニックになりかけるが、わりと大自然に強いサクヤが叫んだ。
「瑠璃子さんです!! この隙に逃げましょう!!」
そういって、固まっている由宇と詠美の手を強引に引っ張ると走り始めた。
「ど、どっちを追えばいいんだな?」
「ぬ、ぬぅ……と、とりあえず大庭詠美のほうだ!!」
かなり迷った末、縦横コンビは詠美達の追跡にかかった
教会の中、裏口から葵は外の様子を伺う。
「由宇さん達、うまく逃げれたようですね」
「ふう、少し疲れちゃったよ」
葵の報告に、瑠璃子は息をついた。
「うまく詠美さんが時間稼ぎをしてくれて助かりましたね……」
詠美とあさひの口げんかのおかげで、電波によって鼠や昆虫を集める時間が稼げたのだ。
無論、詠美にそんなつもりがなかったのは言うまでもないだろう。
「あうー、琴音、由宇達と分かれちゃたね」
「(ねこっちゃ言わないこの子はいい子です……) 仕方ないです。こちらのチームに入らせてもらっていいですか?」
「喜んで。よろしくお願いしますね。それでは念のためここから移動しましょう」
「そうですね。それじゃ、瑠璃子さんおぶりますね」
「ありがとう、葵ちゃん」
こうして賑やかだった教会に残されたのは踏み潰されて失神した浩之と志保だけ。
もう一度教会が騒がしくなるのは、数時間後襷を持ってきたメイドロボによって起こされた二人が
壮絶な罵りあいを始めるまで待たなくてはならない。
【瑠璃子、葵、真琴、美汐、琴音 チームを組んで教会から移動】
【詠美、由宇、サクヤ 縦、横から逃走】
【縦、横 各一ポイントゲット。詠美達を追走】
【きよみ、彩、あさひ 昆虫に追われて教会から逃走】
【浩之 縦によって鬼化。教会で失神中】
【志保 横によって鬼化。教会で失神中】
し、しまった。コピペミス。
>>450の冒頭が一行たらない。
ちゃん様、それにご立腹。
「……したぼくってなんですか?」
↓
「ちょっと!!あんたら詠美ちゃん様のしたぼくじゃなかったの!?」
ちゃん様、それにご立腹。
「……したぼくってなんですか?」
こんな感じに、訂正です。
――…
祐一が意識を回復した時、場は、殺伐とした雰囲気に包まれていた。
郁未と舞が睨み合っている為だ。
…いや、正確には、睨み付けているのは舞の方で、郁未はバツの悪そうな表情を浮かべていた。
「……何してんだ、二人とも…?」
横になりながら、呆れた様な声音でそう口にする、祐一。その声に、舞と郁未が――いや、郁未が弾かれた様に
彼の方へ向き、舞は郁未から顔を逸らさぬまま、目線だけをよこして来る。
「祐一っ…! そ、その……ごめんなさい」
「……もしかして、俺の所為で喧嘩してたのか?」
謝って来る郁未にではなく、自分の傍でオロオロしていた由依に問い掛ける。
「は、はい…」
「…祐一、大丈夫か?」
申し訳無さそうな顔で佇む郁未の後ろから、元々あまり変化を見せない表情を気遣いの色に染めながら、
舞が顔を覗かせた。
「大丈夫、大丈夫。…でっかいフライパンか何かで全身を叩かれた様な気分だが」
「ごめん…、本当に、ごめんなさい…。アイツの顔見たら、ついカッとなっちゃって…」
「あー…、いいからさ、もう。色々込み入った事情があるんだろうけど、今は……な?」
皆まで語らず、微苦笑を浮かべて郁未を見つめる祐一。…郁未も、まだ苦い物を含みつつも、微笑んで頷いた。
「…解ったわ。只……ごめんなさいって言いたかったのよ」
「ああ、ありがとう。もう大丈夫だよ。――舞も、天沢はもう謝ったんだから、そんなに怒るなって」
「……解った」
舞は、まだ何か納得の行かない様な色を眼差に浮かべていたが、祐一がそれ以上郁未を咎めないのを見やり、
静かに了承した。
「ふぅ…」
「動ける…?」
立ち上がり、体中を捻ったり伸ばしたりしてコキコキ骨を鳴らす祐一。そんな彼に、郁未が心配そうな声を掛ける。
「ん…異常なし。――ハリキッて行こうぜ?」
実はちょっと痩せ我慢が入っていたのだが、落ち込んでいる郁未の為に、祐一は殊更力強く笑って見せた。
…もしかすると、郁未は彼の痩せ我慢に気付いていたのかも知れないが(舞は気付いていた)そんな彼の微笑に
応えるべく、彼女も明るく笑った。
「さて、と…。じゃ、次の標的を探さなくちゃな。今度は何を尋ねられても、タッチしてから応えよう。問答無用でまず
タッチ。話はそれからだ」
「うん。肝に銘じとく」
「…皆さん、皆さんっ…! 誰か来ますよ…!?」
由依のその小さな声に、他の三人は茂みや木の陰に身を潜め、近付いて来る人影を注視する。
「三人か…」
彼等の鋭い眼差の先には、森を歩く三人組の少女の姿があった。
雨の森、折り畳み式の傘を差して歩くのは、雅史を失った岡田軍団である。
「しょぼーん…」
「…ったく、いつまでショボ暮れてんのよ松本は? シャキっとせんかいシャキっと……って、巨乳大阪女の口調が
伝染っちゃったじゃない。どーしてくれんのよ…っ!?」
「保科さんは大阪じゃなくて神戸だってば、岡田」
「あー、はいはい。神戸牛の神戸ね……って、だからあんなに胸でかいのかあの女わ…!? 牛だけに…!」
「神戸云々は関係無いよ…、単に岡田のムネムネが小っさいだけだよ…」
「岡田、落ち着け岡田。傘で突くのは流石にマズい」
「放せ吉井…! この女は一度脳ミソ穿り返してやらんと…!」
相変わらずどっちらけなやり取りをしている三人娘であったが、心強い味方であった雅史を失い、落ち込んでいる
のは、何も松本だけではない。他の二人も同様なのだ。
「…(…こうしておバカな会話でもしてないと、不安なのよね…)」
表情に出している松本も、素直でない為に決して口には出さない岡田も、内心でかく呟く吉井も、今更ながらに、
雅史に大きく頼っていたのだという事を実感しているのだった。
「――ま、いいわ。とにかく、我々は最後まで逃げ延びる…!」
「…うん。…でも、いいの? あの家から出ちゃっても…」
「あそこに留まり続ける方が危険でしょ。佐藤君のお蔭で充分睡眠も摂れたし」
「確かにそうだけど…――? どうかした、松本?」
突然、松本が立ち止まったので、吉井が怪訝な顔で見やる。
「……………視線を感じる…」
ぽつりと呟く松本の表情は、緊張に強張っていた。――その表情を目にして、他の二人の顔にも緊張が奔る。
森――小雨が弱々しく枝葉を打つ音以外は、静かだった……
――むしろ、余りにも。
「走れ!」
岡田が叫ぶ。
三人娘は、一斉に森の中を走り出した。
「――気付かれた…!?」
「勘の良い奴がいるらしいわね…!」
「よし、作戦Bで追跡!」
祐一に頷く少女達。
作戦Aは、このまま静かに追跡しつつ、包囲網を作り上げ、一気に捕らえる物だった。――B案は、背後と左右を
固めつつ逃げ手を追い掛け、先回りした舞のいる地点へ追い込む。
行き当たりばったりの度合いが大きい即席の作戦だが…
「巧く行く!」
その意志を胸に、祐一チームは岡田軍団の追跡を開始した。
――実際、“作戦B”は巧く行った。
左を祐一、後方を郁未、そして右側を由依――その三人の中で由依の足が遅めな事もあってか、岡田軍団は
迫り来る左と後方の鬼から逃れる為に、右へ右へと進路が流れつつあった。
「…(――よし、このまま行けば…!)」
逃げ手の三人が走る先には、舞の待ち伏せポイントがあるはずだった――
「っ…!? ――岡田、すとっぷぅっ!!」
松本が叫び、三人娘は急停止した。
「なっ、何よ!?」
「……あれ」
息を上げながら、吉井が進む先にある大木を指差した。
――その大木の陰から、先回りしていた舞が、剣を携えて姿を現す。
「………」
沈黙と鋭い眼差を以てして、三人娘を迎える舞。…ほどなくして、後続の祐一達も到着し、三人娘を取り囲んだ。
「っ……、こ、ここまでなの、私達っ…!?」
「こんなんじゃ、佐藤君に逢わせる顔がないよぅ…!」
悔しげに呻く、吉井と松本。ここで逃げ手として脱落となれば、あの時の雅史の犠牲が無駄となる。
「――――いえ、まだよ」
一人、舞に背を向けていた岡田が、ゆらりと彼女の方へ振り返った。――折り畳み式の傘は小さく畳まれてバッグ
の中に捻じ込まれ、代わりにその手が携えるのは、落ちていた木の棒。
「岡田…?」
鋭い眼差で舞を見据えつつ、岡田は他に拾っておいた同じ様な木の棒を、吉井と松本に渡す。
「道は切り開く!」
「…!?」
ビュンッ!――と、棒を一振り、舞を指し示す岡田。…そんな彼女から只ならぬ気迫を感じ取り、舞は戦慄に身構えた。
――岡田の考えを、両隣に立つ二人も読み取った様だ。折り畳み式傘を畳んでバッグやザックの脇に捻じ込み、岡田
と同様に棒で風を切り、舞を指し示す。
「我々はここで挫ける訳にはイカヌ…!」
「だから道は切り開く…!」
「私達を庇ってくれた佐藤君の為にも…!」
舞を指し示していた棒を剣の如く掲げ上げ、天高く互いに打ち合わせる。
「我等!」
「岡田軍団!」
「三身一体!」
「「「 三 銃 士 !!! 」」」
見事にハモる掛け声。まるで勝鬨の如く――そして同時に、三人娘の逆撃が始まった。
「っ……!」
三人娘の逆襲の意外な激しさに、舞は息を飲んだ。――完全に素人剣術であるのに、見事と言うより他に無いチームワークで、
隙無く打ち出されて来る連撃を、舞は自分の得物で捌くだけで精一杯の状況へ追い遣られようとしていた。
「ウソっ…、舞さんが押されてる…!? ――って、コレって反則では!?」
「真剣とか傘の尖った先っちょとかでやりあってたら反則かも知れないけど…」
「天沢っ、例のヤツで舞の援護…!」
振り回される三人娘の棒と、舞の無刃剣の所為で、迂闊に近寄れない。
「間にある地面を――軽くでいい!」
「OK!」
祐一が叫んだ事で“何かを行う”事は知れても、不可視パワーを知らない三人娘には対処のし様がないだろう。舞に
関しては心配無用だ。むしろ、その“目眩まし”に乗じて三人娘の持つ木の棒を払い落とすくらいの事はやってくれる。
「―――…!」
気勢に呑まれて押されてゆく舞と三人娘の間にある地面に、意識を集中させる郁未。
だが――
ドッ!ドッ!ドッ!
「ぐっ…!」
三人娘の各々の強烈な一撃が、舞の肩、脇腹、、そして向こう脛に命中する。
そして空かさず――
「「「 とああっ!!! 」」」
「っふぅっっ……!!?」
三本の棒が、動きの止まった舞の腹を突き、彼女の体を吹っ飛ばした。
「ああっ…!?」
由依の悲鳴じみた声。郁未も、まさか舞が打ち負けて突き飛ばされるとは思っていなかった為、微かな驚きが
集束しかけていた“力”を霧散させてしまった。
だが、それでも一瞬在るか無しの隙――
その僅かな隙を見逃さず、三人娘は棒を投げ捨てて逃げ出していた。
「――追うぞ!」
「この先は川――巧くすればまた追い詰められる!」
無情な様だが、大したダメージは無いと見て、舞には構わずに祐一は走り出す。その後に、郁未も続く。
三人娘の逃げ出した先には、川がある。広くはないが、雨の所為で深さと勢いを増している為、渡る事は出来ない
はずだ。また、橋のある場所まで着く前に、郁未と祐一の足で追い着く事が出来るだろう。
しかし――
「…!? あの子達、何してんの…!?」
――三人娘は互いに肩を組み合って走っていた。しかも、その速さまでも増している様で、離されはしていないが、
彼我の距離が縮まらず、追い着くことが出来ない…!
「仕方ないわ! 地面を吹き飛ばしてスッ転ばせる!」
「けっ、怪我させちまわないか!?」
「そん時はそん時! 屋台にでも連れて行ってケアしたげればいいでしょ!? 直接当てる訳じゃないから、ルールにも
触れてないはず! ――いくわよ!!」
「走れ走れ走れ走れぇぇぇえええええっっっ!!!」
真ん中で走る岡田の掛け声と共に、彼女達は走った。見事なまでに合致した呼吸とフットワークで、三人娘はまるで
機関車か何かの様に、雨風を切って突っ走った。
たかが鬼ごっこで、ここまで必死にならなくても――という考えは、今の彼女達の内には無かった。ゲーム開始当初は、
どこかダラけた物が心の中にあったが、今は違う。
何としてでも逃げ残る。三人の内の最後の一人が捕まるまで…!――
その想いが、彼女達の体にブーストを掛け、更に加速させる。
「――前方に川! 距離、20!」
「飛び越えて!――」
「みせるよ!――」
雨の為に勢いを増している川を前に、三人娘は減速を掛けるどころか、より増速した。
そして――
ドバぁァァッッ!!
――と、三人娘の走っていた大地が爆発する。が、その寸前に、彼女達は大きく跳躍――加えて、大地を吹き飛ばした
その爆圧を踏み台にしたかの様に、更なる飛躍力を見せ、見事に川を飛び越えて向こう岸に着地したのである…
…川のほとりに、些か呆然として佇む人影が、二つ。郁未と祐一だ。
「……ウソ…」
「んー…、見事なチームワークだ。完敗だな、俺達の」
ややショックを受けている郁未に対して、祐一はむしろ微笑みさえ浮かべていた。こうまで見事に逃げられると、
却って胸が空くと言おうか、天晴れである。
「……祐一」
――遅れて、舞と由依がやって来た。
「…すまない。私の所為だ…」
「そんな事ない。舞も頑張った。――俺達が、向こうのチームワークに負けたんだ」
「――それより、怪我は無い?」
郁未に尋ねられ、舞は一瞬、目を瞬かせたが、すぐに首を振って見せる。
「無い…」
「そ。それなら問題無しね」
そう言って微笑む郁未に、舞はやや戸惑いらしき物を揺らめかせていた。
「それにしても、逃がした魚は大きいというか、大量だったわよねぇ――三人も…トホホ」
「ま、あっさり捕まえられたら面白くないだろ?」
「そんな余裕かましてる場合ですか、祐一さん?」
「うぐ、正直スマンカッタ…。――ま、次はもっと巧くやれるさ。今度また彼女達に会ったら、遅れを取る気は無いよ。
“チームワーク”ってのがどんなに大事か、学んだ気がするし」
「そうね。やっぱりチームワークって大切よね。そう思わない?」
ぽんっ…と肩に手を回して言って来る郁未を眺めやり、舞は……微かに微笑み、頷いた。
「…はちみつくまさん」
――その頃、祐一チームの包囲網を見事に突破した岡田軍団は…
「うへぇ〜…、雨の中走ったから、ビショ濡れになっちゃったよ〜」
「今更傘を差し直しても…って感じね。逃げ切れたからいいけどさ♪」
「――へみ゛っ…!」
「……相変わらずヘンなくしゃみね、岡田」
「やかましい。…とっとと安全な場所、探すわよ」
「はいはい、団長殿」
「あはは、皆服が濡れて体のラインがいや〜んな感じ♪ 岡田の薄いムネムネラインもくっきりで、いや〜んな感じ〜♪」
「うぉのれ小娘…、こやつだけそこいら辺に埋めてやろうか…!?」
「やめなさいっての…。さっさと行くわよ〜?」
…逃げ果せた途端に、いつもの調子に戻っているのであった――
【祐一チーム 岡田軍団を包囲するが、取り逃がす…】
【岡田軍団 見事なチームワーク(?)で祐一チームの包囲を突破】
【三日目 午前中 森】