葉鍵的 SS コンペスレ 8

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 豪華客船だろうがなんだろうが、沈むときは沈むのである。
 乗客であった来栖川綾香と姉の芹香、それにメイドロボのセリオは、海に投げ出され漂流した。
 そして彼女たちが流れ着いたのは、無人島だった。

 砂浜に打ち上げられた三人のうち、最初に目覚めて起き上がったのは綾香だった。
「姉さん、しっかりして……セリオ、大丈夫?」
 芹香もその声に目を開けた。どうやら無事なようだ。
 セリオもスリープ状態から意識を回復させたが、彼女は電力のほとんどを消費してしまっていた。
「申し訳ありません、お嬢様方。節電モードに入らせていただきます」
 節電モードになると、動力系への電力供給はストップされる。
「動くことはできなくなりますが、会話はまだしばらくできますので」
「ええ、これ以上無理しないでね、セリオ。あなたは本当によくやってくれたわ」
 綾香も言う通り、セリオは実によく働いた。
 船が沈み、海に投げ出されてからの彼女の活躍は、まさにメイドロボの鑑というべきものであった。
 芹香はもともと泳ぎは不得手だし、運動能力抜群の綾香といえども体力には限りがある。
 そんな二人を励まし助けつつ、この島まで泳ぎついたのだ。

 さらに悪いことに、セリオのサテライト・システムは完全にダウンしてしまっていた。
「本来ならば、衛星に私たちの位置を知らせることができるのですが……」
 セリオは大変に無念な様子である。
「肝心な時にお役に立てず、申し訳ありません」
「何を言うのよ、セリオ……あなたはあんなに一生懸命やってくれたじゃない」
 綾香は胸は痛めた。セリオ自慢のサテライト・システムの故障も、自分たちを助けるために体に過重な負荷をかけた結果なのだ。
「バッテリーはあとどれくらいもつの?」
「通常モードで1分30秒、節電モードで約1時間です」
「そんな少しなの……?」
 綾香は絶句したが、もともとメイドロボの稼動時間はそんなに長いわけではない。まして、激しい救助活動の後である。
 まだ残量があるだけでも奇跡的なくらいだ。セリオがエネルギー配分を必死で調整した成果といえた。

 とはいえ、セリオはもうすぐ止まってしまうのだ。綾香も芹香も、不安は隠しきれない。
「あまり悲観しないで下さい。航路からさほど離れていない筈ですから、救助が来る可能性は低くないでしょう」
「ええ……そうね」
「お役に立てないのは残念ですが、それまでなんとかお二人で力を合わせて生き延びて下さい」
「わかったわ」セリオの言葉に二人は頷いた。
「きっと一緒に帰りましょうね、セリオ」
「はい。及ばずながら、サバイバル技術について簡単にお伝えしておきます」
 セリオは、水や食料の確保や、寝る場所の選び方など、無人島での生存に必要な基本的な情報を二人に教えた。
 サテライト・システムが故障する前に、セリオはこれらのデータをダウンロードしておいたのである。
 二人はセリオが口頭で伝えるこれらの情報を必死で学習した。幸いにして二人とも記憶力は良い。

「それから、船からナイフを二本持って来ました。ベルトに挟んでありますので、使って下さい」
「ありがとう。使わせてもらうわ」
 綾香はセリオのベルトからナイフを抜き取ると、一本を姉に渡し、もう一本を自分で持った。
 使いやすそうなサバイバルナイフで、無人島では非常に役に立ちそうだ。
 セリオの機転に、二人とも改めて感心した。

「もう時間がありません。最後にお伝えしておくことがあります。もしも何か私の助言が必要なことがありましたら、非常用の発電方法があります」
「どうするの?」
「風力発電です」
「風力発電……?」
 綾香にとってそれは意外だった。セリオに風力発電とは、イメージが噛み合わない。
「はい。電圧が不安定になるので、短い時間しか稼動できませんが」
「ちょっと待ってよ。それなら風車がいるんじゃないの?」
「私の脚部に必要な部品が組み込まれています。脚を分解して、組み立てて下さい」
「どうやって?」
「詳しいマニュアルは右腿の側面にあります。皮膚を切って下さい」
「そ、そんな可哀想なこと、できないわよ!」
「私は痛みを感じませんので、お気遣いはご無用です」
「で、でも……」
「申し訳ありません。このような作業は本来私が行うべきなのですが……」
「そういう問題じゃないのよ。あなたの体を傷つけるなんて、私には……」
「私の体は修理すれば直ります。しかしそのためには、お嬢様方に日本に帰っていただかねばなりません」
 彼女の言う事はもっともである。自分たちが生き延びなければ、セリオもどのみち再起動できないのだ。
「……わかったわ、セリオ。あなたの知恵が必要な時は、そうする」
「お願いいたします。……どうやら、そろそろ…バッテリーの限界のようです……」
 彼女の声は次第にか細く、途切れがちになっていった。
「芹香様…綾香様…どうか、ご無事で……」
 それを最後に、セリオの言葉は絶えた。完全な静寂が彼女を支配した。
「セリオ……」綾香は忠実なメイドロボを抱擁し、その額にそっと口づけた。
 永遠にこのままというわけではないが、死んだように動かなくなってしまうのは心細い。
 自分たちのことばかり心配してくれたセリオ。その心情を思いやると、涙をこらええない綾香だった。

 ふと気がつくと、芹香はセリオを囲むように地面に何かを書いている。
「姉さん……何してるの?」
「………………」
「『セリオちゃんが起きるように魔法をかけてみます』? ちょっと、馬鹿なことはやめてよ!」
 綾香はつい声を荒げた。
 平生なら姉の変な趣味につきあうのもいいが、今はそんな場合ではない。
「セリオは科学技術が生んだロボットなのよ!? 魔法なんかで動くはずがないじゃない!!」

「………………」
 芹香は、綾香の剣幕にたじろぎ、悲しそうに肩を落とした。
「あ……」姉の様子を見て、すぐに綾香は後悔した。
 もちろん、芹香だってセリオのためを思っていたはずだ。
 今まで自分が足手まといになっていた、とすら思っていたのかもしれない。
 芹香は芹香なりに、何か役に立とうと必死だったのだろう。
「ごめん、姉さん……力を合わせないといけない時なのに」
 今度は綾香のほうがうなだれた。
 姉の気持ちを傷つけた自分が、とても恥かしい人間である気がした。

 そんな綾香を見て、芹香は頭を撫でてやった。
 ──気にしないでください。綾香ちゃんが悲しむと、私も悲しくなります。
 そう言ってくれていることは、妹である綾香にはすぐにわかる。
「姉さん……」
 姉の手に、綾香は不思議な心のやすらぎをおぼえた。やっぱり自分はこの人の妹なのだな、と思う。
 心の深い部分で、姉の存在に頼っているところがある。自分もできる範囲で姉を守らなければならない。綾香はそう決心した。
 気がつけば、日が暮れるまでさほど時間がなくなっていた。いつまでもそうしているわけにもいかない。
 セリオがポケットに少しだけ缶詰を持ってきてくれていた。今日はそれを食べて、明日から食料を探すことにする。

 暗くなる前に寝る場所も探さなければならない。深入りしないように注意しながら、浜辺のそばの森に行ってみた。
 幸い、浜に面した場所に、洞のある大きな木が見つかった。眠るにはちょうどよさそうだ。

 セリオを砂浜に放置することもできないので、二人は彼女をそこまで運んだ。
「………………」
「え? 『セリオちゃんも一緒に寝ましょう』って? そうね、そのほうがきっと喜ぶわ」
 二人はセリオを挟んで横になった。セリオの人工皮膚は保温力が高いのか、その体は思ったよりも冷たくない。
「おやすみ、姉さん。おやすみ、セリオ……」
 どちらからともなく、姉妹はセリオの体越しに手を繋いだ。
 お互いの手の温もりが伝わりあう。
 こんな状況だが、さほどの不安を感じずに眠りに落ちることができた。

 とんでもない災難に遭ったが、自分が孤独でないことに、綾香は感謝したい気分だった。
 次の日。
 食料を調達するのに、綾香は狩猟担当、芹香は採集担当と、自然と役割分担が決まった。
 綾香はナイフを手に獲物を探しに行った。

 彼女の並み外れた運動神経のおかげで、それはうまくいった。
 何かはわからないが、サケのような川魚やら、ネズミの化け物のような獣やら、飛べない大きな鳥やらが獲れた。
(これ、何ていう生き物だろ……? まあ、食べられないことはないでしょ)
 こんなときに細かいことを気にしては生きていけない。それより早く帰って姉さんに見せてあげよう。

 綾香が上機嫌で帰ってくると、芹香はかまどを作って火の準備をしていた。
「ただいま、姉さん。ほら、凄いでしよ。いろいろ獲れたわよ」
 すごいです、と芹香も大喜びだ。
「姉さんは何を採ってきたの?」
 芹香は地面にならべたものを指さした。
 綾香は木の実か何かを期待していたのだが、それは見事に裏切られた。
「これは……キノコ?」
 芹香はこくりと頷いた。ちょっと得意げだ。
 しかし姉には悪いが、綾香としてはイヤな予感がする。
「姉さん、キノコって素人が採ると危ないわよ。これなんか、いかにもヤバげな色してるし」
 細かい事は気にしないと言っても、限度というものがある。
「………………」
「『でもかわいいです』って、そういう問題じゃ……」
 芹香は自分が採ったキノコに随分と執着があるらしい。

 困った。姉も変なところで頑固な一面があるのだ。
 この様子だと、自分だけでも食べかねない。

 これはセリオに聞いてみたほうがいいかもしれない。彼女の言う事なら、芹香も納得するだろう。
 ちょうど、浜への風が吹いている。綾香は風力発電を試してみる決心をした。
 ナイフを手に、綾香はセリオに近づいた。
「右の太ももの側面、だったわね……」
 その部分に刃を当てたが、やはり躊躇せずにはいられない。
(セリオ、ごめんなさい……日本に帰ったら、すぐに直してあげるから)
 心の中で呟きつつ、綾香は思い切ってナイフの刃を横に引いた。

 それは意外に軽い手応えで切れた。切り口から機械部分が覗いている。
 皮膚をめくると、数枚綴りの薄いプラスチック製のプレートが出てきた。
『緊急用風力発電ユニット取扱マニュアル』とある。
 綾香はそのマニュアルに目を通した。

「ええっと……まず工具を取り出して……ふむふむ」
 解説に沿って両脚の部品を分解し、組み立て始める。
「ふうん。骨格の外板が風車の羽になるわけね」
 よく出来ている、と綾香は感心した。

 半時間程度で組み立て終わった。
 今のセリオは脚の代わりに風車へと伸びたケーブルを接続した形となっている。

 綾香は風の通り道に風車を設置し、ストッパーを外した。
 風車はすぐに回転しだし、だんだんとその勢いを増していく。
 やがて、緑色のランプが点灯した。それを見て、綾香は起動スイッチを押した。
 ぶうん、と低い音がしたと思うと、セリオはゆっくり目を開けた。
 セリオは目を覚ますと、両脚の感覚がいつもと違うことを認識した。
 非常用風力発電装置で目を覚ましたのだ、と彼女はすぐに気がついた。
 脚が使えないのは不便ではあるが、どうせ節電モードの時も動けないのだ。そのことに特に感慨はない。

「セリオ、気分はどう?」綾香が顔を覗きこんできた。
「──良好です」彼女はそう答えたが、実は電圧がこうも不安定だと、非常に気分が悪い。
 だが、そんなことは報告する必要はない。

「しかし、この電圧状態で連続稼動できるのは、せいぜい三分です。ご用は早くお願いいたします」
「わかったわ。セリオ、あなたの知恵を借りたいの」
「はい。なんでしょう」
「キノコがあるんだけど、どれが食べられるのか教えて欲しいの」
 綾香は、キノコをセリオの視界に持って行った。
 セリオは前にダウンロードしていた植物に関するデータを参照した。

「これはベニテングダケといって、幻覚症状が出る毒キノコです。決して食べてはいけません。
 それはワライダケです。食べると異常な興奮状態になり発作的に笑い出します。食べられません。
 それからこれはセイカクハンテンダケといって……」

 こうしてセリオは芹香の採ってきたキノコを鑑定した。
「………………」
「……結局、全部食べられないじゃない」
 危ないところだった。
 やっぱりセリオの意見を聞いて良かった。綾香は心からそう思った。

 ともかくも、姉妹は力を合わせて生活した。

 綾香はナイフやら石器やら、時には素手で獲物を倒し、芹香は芹香で何処からか食料らしき物を集めてくる。
 食べられるのかどうか怪しいときは、セリオの意見を聞いてからにする。芹香の集めた物は半分くらい駄目だったが。
 そうして何日かが過ぎた。

 綾香はいつも通り、狩りに出ていた。
 その日は見晴らしの良い高台に登ってみた。島全体が見渡せる。
 ふと海に目をやっととき。
 綾香の鋭い眼力は、水平線付近にあった小さな点を見逃さなかった。

 あれは……船だ。
 助かった。日本に帰れる。
 心臓がドキドキする。宝くじに当たった人はこんな気持ちだろうか。
「そうだ、早く姉さんに知らせてあげなくちゃ」
 はずむ足取りで斜面を駆け下り、姉のもとへと急いだ。
「姉さん、船よ、船が来た!! 日本に帰れるわ!!」勢い込んで帰ってきた綾香。
「………………」芹香も興奮しているようである。見た目は普段と変わらないが。
「早く私たちのこと知らせないと。えーっと、どうしよう」
 回転の早い綾香の頭も、から回りしているようだ。
「そうよ、狼煙よ、のろし! 姉さん、火をおこしましょう」
「………………」
「えっ、『薪を切らしてしまって、すぐには用意できません』? そんな、こんな時に……」
 綾香は嘆いたが、そもそも普通の焚き火の煙が遠くの船に発見してまらえるのかも疑問である。

「えーっと、それじゃあどうすればいい? うーーーんと、えーーーっと……」
 いくら考えても、焦って混乱した綾香の頭にアイデアは出そうにない。
「そうだ! こういう時こそセリオに……」
 綾香は風力発電装置をセットしたが、大きな問題に遭遇した。

 風がない。
 凪になる時間帯でもないのに、なぜかそよ風ひとつそよいでいなかった。
 
「なんでよ!?」
 綾香は運命の非情を呪った。
 風車を手で回してみたが、もちろんそんなことで十分な回転は得られない。
「どうすればいいのよ……!?」
 綾香は、もう泣き出したい心境だった。
 その時、芹香は地面に何かを書いていた。
「姉さん……何してるの? え、『魔法で風を呼びます』?」
 まかせて下さい、と芹香は自身ありげに頷いた。

「そう……じゃあ、やってみて」
 綾香は魔法なんて信じていなかったが、この時は姉に賭けてみる気になった。
 セリオを直すのは無理だろうが、相手は風という自然現象である。魔法の効く余地はあるかもしれない。

 芹香は魔方陣を書き終わると、何やら妖しげな呪文を唱え始めた。
 どうしていいのかわからないが、いつのまにか綾香も風が吹くことを一心に祈っていた。

(風よ、吹いて……お願い、吹いて!)
 しばらくして突然、芹香の呪文が止んだ。
「どうしたの、姉さん?」
 どうやら、儀式に必要なものがあるらしい。
「何? 何が必要なの?」
 もうこうなったら、全面的に協力するつもりだった。

「『処女の滴り』? ……何それ?」
 芹香の説明を必死で聞き取ろうとしたが、なかなか意味がわからない。
「まだ異性と交わらない清らかな乙女の体液? それも性的な……つまり、愛液!?」
「………………」
「『私もやってみますが、できれば綾香ちゃんも手伝って下さい』って……な、何よ、それ!?」

 確かに綾香には男性経験が無いので、その資格はあるだろう。
 だがいきなり愛液を出せ、と言われてすぐ出せるほど器用な体質はしていない。
 それに第一、姉とはいえ人前でそんなことをするのは心理的抵抗が大きすぎる。

 綾香が逡巡しているうちに、芹香は服を脱ぎ捨て全裸になっていた。
 白日のもとに晒されたその裸体は、同性である綾香でさえ息を飲むほど見事なものだった。
 豊かな乳房や、張りのある腰のライン。白い肌も、こんな生活にもかかわらず、瑞々しさをいささかも減じていない。
 魅せられたように視線を注ぐ妹の前で、芹香は自らを愛撫し始めた。
 円を描くように乳房を這う手。その円は次第に狭まり、桃色をした頂上を目指す。
 ふくらみの頂点に達した指は、その先の突起物をつまみ上げる。指先が乳首を転がし始めた。
 片手は乳房をまさぐったまま、もう片方の手は愛撫の範囲を次第に下の方にずらしていった。
 その手はやがて、彼女の秘密の花園へと到達した。
 しなやかな指が、蜘蛛の脚のように妖しく律動する……。
 綾香は、姉のあられもない姿から目を離せなかった。
 いつも大人しくて淑やかな姉が、こんな痴態を演じるとは。しかも白昼に。
 目の前で、芹香の息づかいは次第に荒くなり、肌は紅く染まってゆく。
 それを見ていると、なぜか綾香も体の奥が疼くような、変な感覚に襲われるのだった。
「わ、わかったわよ姉さん。私も手伝うわ」

 服を脱いだ綾香は、姉と向き合った。
 対峙する二つの肢体。その均整の美しさは、やはり似通ったものがある。
 ただ、より丸みを帯びて柔らかい芹香の体と比べると、綾香の体の方が引き締まっていて無駄が無いという違いはあった。

 綾香は姉に倣って自らの体を愛撫し始めた。
 乳房を弄びつつ、秘部へと手を伸ばす。
 自分の手の動きは姉に比べて不器用だと感じつつも、綾香は懸命に自分の肉体を刺激する。
(えっと、こういう時は何を考えればいいのかしら?)
 幼い頃の淡い初恋の相手や、姉の学校の藤田浩之とかいう男の子、さらにはなぜか格闘技のライバル坂下好恵や松原葵の顔までが、頭の中をぐるぐる回る。
(ああっ、もう、集中できない!)
 必死になって掌で恥丘をこねまわすも、いっこうに濡れてこなかった。
 その時、綾香は顔の前に気配を感じた。
 姉の顔がそこにあった。
 綾香が身構えもしないうちに、芹香は唇を重ねてきた。
 一瞬、身を硬くしたが、すぐに綾香は力を抜いた。思わず目を閉じる。
 芹香は大胆にも舌を絡めてくる。綾香もおずおずとそれに応えた。
 実の姉とこんなにも濃厚なキスを演じているという背徳感が、綾香の頭を痺れさせる。

 やがて芹香はゆっくりと唇を離していった。混じり合った二人の唾液が糸を引く。
 綾香は目を開けた。頬を染めた芹香の、とろんとした瞳と視線がぶつかる。
 姉のその蠱惑的な表情に、綾香の中で何かが決壊した。

「姉さん……っ!」
 綾香は芹香を抱きしめると、その唇を貪った。
 溢れる唾液は顎を伝って、胸までも濡らした。

 体と体を密着させて、全身で互いを愛撫する。
 滑らかな芹香の肌は、上等の絹よりもはるかに心地良い。
 肌と肌との触れ合いがかくも甘い陶酔をもたらすことを、綾香は生まれて初めて知った。

 二人は自らの乳房を握ると、やや荒々しく相手のそれになすりつけた。
 乳首どうしが擦れ合い、弾き合う。その刺激がますますそれを硬く尖らせていく。

 綾香の秘部は、すでにいくらか潤いを帯びていた。
 激情のままに、彼女は姉とその部分を重ね合わせた。
 二人は体を後ろに反らせるかたちとなった。いまや密着しているのは秘部のみである。
 しかしお互いの最も敏感な部分、最も秘められた部分が触れ合っていることで、何よりも二人は一体感を得ていた。
 互いの蜜がその部分をぬめらせ合う。
(なんか……あったかいコンニャクみたい)
 こんな時に変な事を考えている自分に、綾香は内心で苦笑した。
 いまや、溢れ出た蜜は二つの柔肉のあいだで泡立たんばかりである。
 愛液そのものが呼び水となって、さらにその部分を濡らしていくようだった。
 やがて綾香は、体の奥から何かが高まりつつあるのを感じた。
「姉さん……私、いっちゃいそう……」
 芹香は黙って、こくん、と頷いた。芹香も達しようとしているらしい。
 全身を貫く、甘く激しい快美の感覚。
 綾香はもはや声を押し殺すこともしなかった。
「ああッ、姉さん…だめ……いく……いく、いくッ……いっちゃうッッッ!!!」
「………………」
 二人はまるでシンクロしたように、同じタイミングで絶頂に達した。
 ひくひくと痙攣する蜜壷から、いっそう激しく熱い奔流が溢れ出た。

 交じり合った二人の愛の蜜が、魔方陣を描いた地面に滴り落ちる。
 けだるい体を横たえた綾香は、汗ばんだ肌にひんやりとしたものが走るのを感じた。
「風……?」
 はっとして身を起こした綾香の髪は、たしかに風になびいていた。
「風だわ……風が吹いた……魔法が、姉さんの魔法が効いたんだわ!」
 普段の綾香なら単なる偶然と片付けただろうが、その時ばかりは魔法の効果としか思えなかった。

「早くセリオを……」
 まだ腰に力が入らない。綾香は這うように風車に近づいた。
 すでに風車は勢いよく回転していた。起動可能の緑ランプが点灯している。
 綾香は起動スイッチを押した。

 セリオが目を覚ますと、視界に入ったのは全裸の綾香と芹香だった。
 二人とも頬を紅潮させ、息づかいが荒い。
「綾香様、芹香様、これは一体……?」
 どういう状況なのか、セリオには全く見当もつかない。
「説明は後よ。セリオ、船が遠くにいるんだけど、連絡を取る方法がないの。どうすればいい?」
「私の腕に信号弾が装備されています。それをお使い下さい」
 セリオは手首のロックの外し方を説明した。

「ありがとう、セリオ。早速やってみるわ」
 綾香はセリオの手首を外した。充電用コネクタの隣に、銃身のようなものがある。
 それを真上に向けて、安全装置を解除し、トリガーボタンを押した。

 風を引き裂く甲高い音を立てて、信号弾が空中高く撃ち出された。
 無事に救出された三人は、日本への帰りの航路に就いていた。

 セリオは船上で充電と応急の修理を受けた。
 一応は動けるようになったとはいえ、脚などは機械が剥き出しのままだ。
「ごめんね、セリオ。あなたをこんな目に合わせて……」
「いいえ。少しでもお二人の役立てたのなら、私にはそれ以上の喜びはありません」
「もちろん、私たちが助かったのはあなたのおかげよ。ねえ、姉さん」
 芹香がこくこくと頷いた。
「帰ったら、すぐに修理できるよう準備をしてもらってるからね。なんならドリルでもロケットパンチでも、好きな装備にしていいわよ」
「……お気持ちだけでけっこうです。今まで通りの体にして下さい」
 セリオは表情こそ変えないが、心底嫌がっているようだった。
 相変わらず冗談が通じないところがセリオらしくて、綾香はなんだかほっとする。

「じゃあ、何か欲しい物とかない? セリオのお願いだったら、何でも聞いてあげる」
「それでは一つ、お二人にお願いしたいことが……」
「何なに?」二人は身を乗り出した。
「次に風を祈る儀式をする時は、ぜひ私にもお手伝いさせてください」

「………………」
「や、やだもう、セリオったら」
 姉妹は、ひどく赤面してうつむいた。