誰も居ない建物の中。そこには、静寂たる闇が満ちていた…
「……逃げ切れたかな…?」
「多分ね…」
「………ったく、だから言ったのよ。あんな所に居たらやばいって…」
「しつこいわね、あんたも…! 巧く撒けたんだから、もういいじゃないっ…!」
「ねえねえ、二人ともぉ〜」
「「何よ…!?」」
「――んばぁ♪」
闇の中にいきなり浮かび上がったのは、ライトアップされた女の顔。
「「○△◇@☆□▽――――――――――――――――っっっっっっ!!!!!???!?」」
「…ううぅ〜……痛いよぉ〜…。本気で殴ったぁ〜…」
「当たり前でしょ…!? 仲間を驚かせてどーすんのよっ!」
頭にでっかいタンコブをこさえた松本が、涙目で殴られた箇所を撫でていた。それをプンスカと叱るのは、岡田である。
「…この懐中電灯、どこで見つけたの?」
松本が発見した懐中電灯は、今は吉井の手の中にあった。
「え〜っとねぇ、隣の部屋に置いてあったよー?」
「でかした、松本! 流石はこの岡田軍団の右大臣!」
「〜♪」
褒められたと思い、先程脳天に食らった岡田の鉄拳の事など忘れて、にへら〜っと微笑む松本。
「…(小さな溜息) ――で、他には何か無かった?」
「え〜? 解んないよ。暗かったし」
「何の為に懐中電灯を見つけたんだか…」
…多分、懐中電灯を見つけた時、先程の様にこっちを驚かせる事が真っ先に思い浮かんだのだろう。
出たての芸人かいこいつわ……と、吉井はへらへら微笑む松本を見やり、また溜息をついた。
「よし。じゃ、千鶴さんも撒けたし、何か使えそうな道具とか探してみましょっか」
「隠れてるんじゃないの? さっきは下手に動く方が危ないって」
何やら意気込んでいる様子の岡田を見て吉井が小首を傾げるが、岡田はふんぞり返ってきっぱりと答えた。
「ものの見事に気が変わったのよ」
「行き当たりばったり…」