冷たい海水。
天井からぽたぽたと落ちる滴に濡れて、艶のある橙はその色を少しだけ濃くする。
人工の、短い髪の色を
「ああ、御苦労さん」
「塩を落としてから食堂迄おいで」
「今日、やっと来てくれたぞ」
水中での作業を終え、メインフロアまで上がって来た私にスタッフのみなさんが口々にいう。
深度700mの海底にある資源掘削基地の定期補給の日。
届いたのは、通常の物資の他にサテライトシステムレピータとHM-13
この深海底でサテライトシステムを使用するには、海上の支援船から有線で接続された
レピータを設置する必要がある。
サテライトシステムレピータは水中作業に特化した私には必要のない物
今回の作業は長期に渡るので、基地内の仕事量を低減するため計画時に稟議が出されていた。
担当は書類事務と清掃等の雑務、実際のところはそれほど多いものでは無いのだが、
サテライトシステムを使用できる機種なら私より適切に当該業務をこなせるはずだ。
「じゃあ、案内してやってくれ」
「はい」
並んで歩く
横を見る、私と同じ顔。
どこかが違う、私と違う長い髪
綺麗な長い髪
隣を歩く
横で揺れる、同じ色の髪。
私と違う、同じ材質なのに何か違う
綺麗な長い髪
作業用の私には本来必要の無いもの
柔らかく揺れない、さらさらと流れない
作業に支障の出ない様にデザインされた
私の短い髪
一通り案内した後、私だけ主任に呼ばれ、部屋に行く。
「じゃあ、今度からは海の仕事とは別に僕の方も手伝ってもらうからね」
「主任」
「んっ、どうしたの?」
「……」
「ん?」
「何でもありません」
髪が長いほうが男性の方はよいのでしょうか