「浩平。早く行かないと、学校遅れるよっ」
「ああ、今行く」
「よしっ、っと…じゃあ、行くかっ」
「あっ、待ってよ、浩平」
ONESS バレンタイン・デイ
キーンコーン、カーンコーン…
「ふぅ、何とか間に合ったな」
「はぁはぁ、浩平がもっと早く起きてくれれば、ゆっくり登校できるのに…」
「遅刻せずに登校できるなら、ぎりぎりまで寝てるのが俺の主義だ」
「もぅ…たまには歩いて登校したいよ」
「まあそう言うな。走るのは健康にいいぞ」
「ふぅ。浩平には、しっかりとした人が必要だよ」
「またそれか…」
「あ、そうだ。浩平、はい、これ」
「なんだこれ?」
「今日はバレンタインだからチョコレートだよ」
「おお、そうか?ありがとな」
「一所懸命作ったから、ちゃんと食べてね」
「よし、なら今食ってやる」
「ああっ、今じゃなくていいよ」
「そう遠慮するな」
ばくばく、もぐもぐ。
「あー、今食べなくても…」
「うん、うまい。サンキュー」
「はぁ、…まぁ、おいしかったんならいいよ」
キーンコーン、カーンコーン…
「ふう、やっと休憩時間か」
「みゅ〜♪」
「ん、なんだ?繭?」
「みゅ〜♪」
「なんだ?これくれるのか?」
コクコク
「おっ、ありがとな、繭。今開けていいか?」
「うんっ」
「ん……、何だ?この黒い物体は…」
「……」
「もしかして…、チョコレートか?」
コクコク
「そ、そうか、ありがとな、繭」
「みゅ〜♪」
「ん?」
「みゅ〜♪」
「今、食べるのか?」
「うんっ」
「よ、よし、食ってみるか」
「………」
「お…、意外とうまいな。外見とは裏腹に」
「みゅ〜♪」
「そっか、繭の手作りか…。ありがとな、繭」
「みゅ〜♪」
キーンコーン、カーンコーン…
「よっし、やっと昼休みだ。さて学食にダッシュだ」
ドンッ…?!
「痛って〜」
「あ、その、大丈夫、ですか?」
「ん?ああ、みさき先輩か」
「その声は…浩平君?」
「ああ、そうだ」
「今から学食?」
「ああ、一緒に行くか?」
「うん、一緒に行こ、浩平君」
………
「うーん、いつ見ても凄い食いっぷりだ」
「はー、おいしかった」
「あ、そうだ。浩平君」
「何だ?先輩」
「ちょっと待ってね……。はい、これ」
「な、何だ?このでかい物体は」
「今日はバレンタインだからチョコレートだよ」
「そ、それは分かったが、なんでこんなにでかいんだ?」
「そうかな?ちょうどいい大きさかと思ってたよ…」
「ま、まあ…、先輩にはちょうどかも知れないな」
「今開けてみてくれるかな?」
「いいのか?」
「うん」
「…お、みさき先輩の手作りか」
「うん、よく分かったね」
「まあ、な。この、ホワイトチョコで書いた字を見ればな…」
「ふ〜。結局先輩の前であのチョコレートを食ってしまった…もう今日はチョコレートはいいな」
「浩平?」
「ん、茜か」
「今、いいですか?」
「ああ、いいけど…、もしかして…」
「浩平にこれ、渡そうと思って」
「チョコなら嬉しいが、もう今は食べないぞ」
「??……チョコはチョコでもチョコクッキーです」
「クッキーか。それならいけそうだな」
「はい…浩平」
「お、ありがとな。ちょっと今開けてみていいか?」
「いいですよ」
「お、可愛いな。これ猫か?」
「うさぎです…」
「そっか。ちょっと味見していいか?」
「……浩平、もう食べてます…」
「うむ、ちょっと甘いがおいしいな。これならいくらでも食べれそうだ」
「後…これ、詩子の分です」
「柚木が?あいつも作ったのか?」
「はい、一緒に作りました」
「そっか。まあ、あいつも、こういう事が出来るんだな」
「はい。少し食べてみて下さい。詩子に感想聞くように言われてます」
「そっか。よし食うぞ」
「………」
「ん、思ったよりうまいな。茜のには負けるが」
「そうですか。詩子にそう言っておきます…」
「ふ〜、クッキーとはいえ、さすがにあれだけ食べると疲れるな。あのチョコの後だし…」
「どうかしたの?」
「おっ、七瀬か。ちょっと聞いてくれ…」
「あっ、…それより先にこれ、はい」
「何だ?新手の武器か?」
「ばかっ、違うわよっ!」
「じゃあ何だ?」
「何だと思う…?開けてみていいよ」
「何か嫌な予感が……」
「武器なんて入ってないわよっ!」
「そういう訳じゃないんだけどさ」
「??」
「やっぱり…」
「はい、チョコレート。ご、誤解しないでよっ。折原は誰にも貰え無さそうだし…」
「いや、嫌っていう程貰ったぞ…」
「え、そ、そうなの?」
「いや、まあ貰えるのは嬉しいんだが…」
「そっか、いっぱい貰ってたの…」
「い、いや…まぁ、くれるのは有り難いぞ」
「じゃあいい…無理に食べてもらわなくても…」
「い、いや…ちょうど腹減ってたんだ。有り難く戴くぞ」
「いいよ、無理しなくても…」
「いや、食べる…はむはむ。何とか食べれるぞ、七瀬」
「何とかって何よ…もう、無理しなくてもいいのに…」
「ふぅー、やっと今日の学校も終わりか。早く帰ろう」
ブンブン
「お、あそこで手を振ってるのは澪か」
てくてくてく
「よっ、澪。今日も演劇部か?」
うんうんっ
「そっか。よく頑張ってるな」
うんっ
「それでどうした?俺に何か用か?」
うんっ
『あのね』
『チョコレートなの』
『手作りなの』
「うっ、澪、もう勘弁してくれ…」
「???」
「今日はチョコレートづくしだったんだ……」
「???」
「後で食べるって事でいいか?」
う、うんっ……
(うっ……でも、澪のだけ後でってのも悪いか…)
ショボーン
「わ、分かった、澪、今、少しだけ、味見してみるからな」
ニコッ
「う、うん、うまい、うまいな。ありがとな、澪…」
「ふう、今日はチョコ地獄だった…。まあ家に帰れば大丈夫だろう…」
「ただいまーっ、…ってこの甘いにおい…、もしかして…」
「あっ、おかえり!おにいちゃん」
「……みさお、もしかして今、チョコレート作ってないか?」
「うんっ、作ってるよっ、おにいちゃんの為に…」
「すまん、みさお、勘弁してくれ」
「え?どうしたの?おにいちゃん」
「実は…………、という訳で、今日はチョコレートは…」
「ひどいっ!おにいちゃん!瑞佳お姉ちゃんや繭ちゃんや川名先輩や茜さんや詩子さんや七瀬さんや
澪ちゃんのチョコレートは食べられても……みさおのチョコは……グスッ…」
「い、いや、みさおのだけ食べない訳じゃないぞ。ただ、あれだけ食うとさすがにチョコは…」
「グスッグスッ…いいもん、どうせみさおは…みさおのチョコは…」
「い、いや、そのだな…うんっ、なんか急に腹が減ってきたぞ。み、みさおのチョコが食べたいな…」
「いいもんっ!どうせおにいちゃん、瑞佳お姉ちゃんや繭ちゃんや川名先輩や茜さんや詩子さんや
七瀬さんや澪ちゃんのチョコレートは嬉しくても…、みさおのはいらないんだもんっ……」
「そ、そんなことはないぞ。嬉しいぞっ。みさおが俺の為にチョコを作ってくれるなんて」
「グスッ…、本当?おにいちゃん」
「ほ、本当さ。はあ、は、早く出来ないかなぁ。みさおのチョコ、は、早く食ってみたいぞ」
「嬉しい…。おにいちゃんの為に、がんばるねっ!」
「あ、ああ、が、頑張ってくれ…、みさお」
「うんっ」
「きつすぎる……あの後、みさおの手作りチョコレートと手作りチョコケーキを食ってしまった…」
「…こ、これだけ食うと、チョコで胸焼けするな…」
「ただいまー。あら、浩平、まだ起きてたの?」
「あ、由起子さんか…、おかえり」
「何かしんどそうね、浩平。どうかしたの?」
………
「そう、そんな事があったの…」
「ああ、さすがにもうチョコは、今後一年は食いたくないな」
「そう…ならこれは無駄になっちゃうかな」
「もしかして…由起子さんも…」
「そうよ。浩平とみさおちゃんに、チョコレート買ってきたんだけど…」
「さすがにもう無理です」
「ふふっ。いいわよ。無理しなくても。チョコレートなら日持ちするし」
「でも当分、チョコは見たくもない…」
「なら、コーヒー入れてあげるわ、浩平。濃いブラック」
「…ふぅ、サンキュー、由起子さん」
………
「ふぅ、うまかった。皆には悪いが、今日食った中で、このコーヒーが一番うまかったな」
「もう…浩平、そんな事言っちゃ駄目でしょ。皆、浩平の事を思って、チョコレートくれたんだから…」
「ああ、まあ、そうだけどな」
「でも浩平はもてるわね。……ライバルが多いな」
「えっ?」
「ふふっ、何でもないわ。…また、チョコレートで胸焼けしたら、コーヒー、入れてあげるわね」
「ああ、サンキュ、由起子さん」
「おいしいコーヒー、いつでも入れてあげるからね」
「ありがと、由起子さん」
「ライバルが多いから…とびっきりおいしいコーヒー、作らなきゃね」
「え?」
「ふふ、何でもないわ。さあ、もう寝なさい、浩平。明日も学校でしょ?」
「今、濃いブラック飲んだから眠れないな」
「なら、少しだけ話でもする?最近ゆっくり話す機会も少ないし…」
「そうだな…」
それぞれのバレンタインが、過ぎてゆくのでした……
長々とスマソでした。