「アンタ、オークションに掛けらるのと廃棄処分にされるのとどっちがいい?」
セリオの友人であり、また主人でもあった綾香が亡くなると
残された親戚たちはすぐに莫大な遺産と来栖川グループの経営権を巡って
醜い争いを始めていた(芹香は既に亡くなっていた)。
その際、「遺産」の一部としてセリオを相続した親戚が
(彼にとって)役に立たない彼女に上記の選択を迫ったのだ。
もちろん、セリオには綾香以外の者に使える気は無かった。
その結果、
「そこのメイドロボ、さっさと乗りなさい」
「はい…」
来栖川家の誰に見送られることも無く、通用門から
メイドロボ回収用のマイクロバスに載せられてセリオは
長年住んだ屋敷を後にした。
マイクロバスに載せられて着いた先は来栖川グループの家電製品をリサイクルする工場だった。
そこでセリオを含む不要になったメイドロボたちは工場の一角へと誘導された。
そこには長さ数百メートルはある細長いトタン葺きの建物があった。
どうやら古い生産ラインを改修したらしい。
建物の上には「安全第一」といったお約束のスローガンの他に
「業界初、ゼロエミッション達成!」
といった看板も掲げてある。
メイドロボたちはその建物の手前の端から順番に入って行く。
つまりこちら側から入って中を通っていくと順番に解体されていくということか。
「次、製造番号HM130000001番」
自分の番号を呼ばれたセリオは建物の扉を潜って中に入った。
するとそこは脱衣所になっており、男女様々なタイプのメイドロボが
各々の着衣を脱いでその着衣を脱衣籠に入れている。
そして着衣で一杯になった籠はパートタイマーのおばさん達が
素早く持ち去って空の籠へと取り替えている。
セリオも空の脱衣籠をひとつ見つけると、服を脱いでそれを丁寧にたたみその籠の中に入れた。
着衣をすっかり脱ぎ捨て、すべてが露わになったセリオは係員の指示に従って次の工程へ進む。
セリオが後ろを振り返ると既にセリオの着衣を入れた籠は運び去られていた。
これらメイドロボの着衣は、ポリエステル製のものは溶かして繊維として再生され、
他の繊維は工場内にあるゴミ発電所で燃料として焼却されることになる。
次に着いた場所ではたくさんの椅子が並んでおり、
そこに座らされたメイドロボたちのセンサー類を作業員が取り外している。
あくまでもリサイクルの原則に忠実に、一番高価なセンサー類から回収するためだ。
やがてセリオの順番が来ると彼女も椅子に座らされた。
まず作業員は両耳についているサテライトサービス用アンテナ兼メインセンサーを取り外す。
そして、
「ちょっと痛いけどじっとしててね」
といってシリコンウエハー用ピンセットと似た形状の工具を取り出し、、
それをいきなりセリオの眼球に突き立てる。
セリオは目から送られてくるあまりに強烈な痛覚信号にシステム負荷が限界を超えてしまいそうになった。
だがじっとしていろと言われたからには従うしかない。
その作業員は突き立てたピンセットを巧みに動かすと
眼球ユニット表面に貼り付けられているアルミナ単結晶製の人工角膜を剥がし取り、
そばの机の上にある保護液の入ったビンの中へ放り込む。
よく見ると一列に並んだ他の椅子でも同じようにメイドロボたちの眼球から人工角膜を
剥がしとっている。中にはとり方がまずかったのか眼窩にある眼球保護液タンクを
突き破ってしまい、両目から保護液をまるで涙のように流しているものもいる。