葉鍵ヒロインに現実的な死を

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 縁側に座り込んでしゃぼん玉を飛ばしてたら(みちるはもうだいぶしゃぼん玉がうまくなったのだ、えへん)、どこからともなくいい匂いがしてきた。
そういえばそろそろお母さんが夕ご飯の支度を始める時間なのだ。
そのことに気がついたとたん、みちるはなんだか急にお腹がすいてきてしまった。
いてもたってもいられなくなっちゃって、しゃぼん玉の後片付けもそこそこに、ダッシュで台所へ!

台所はもうおいしそうな匂いでいっぱいになっていた。
お母さんは忙しそうに流しとコンロの間を行ったり来たりしている。
それでもみちるが声をかけると、手を止めて振り返ってくれた。
みちるの聞きたいことはただ一つ! 今日のお夕飯のメニュー!
お母さんはにっこりと笑って、今日のメニューはあなたの好きなハンバーグですよ、と教えてくれた。
うわーいっ、やったーっ! お母さん大好きっ!
そのままお母さんに後ろから抱き付こうとおもったけれど、料理のじゃまをしてしまうことになる。
しかたがないので、もう少しで出来上がるからもうちょっと待ってて下さいねというお母さんの言葉に、はーいと元気良く返事して台所を出ることにした。

夕ご飯が出来上がるのを待つあいだ、もう一度縁側でしゃぼん玉をすることにした。
ふわふわと飛んでいくしゃぼん玉をずっと見ていたら、いつのまにか美凪が隣に座ってた。
みちるといっしょになってしゃぼん玉を見ている。
えへへみちるしゃぼん玉うまくなったでしょ、と笑いかけたら、美凪もにっこり笑って
ええそうですねと答えてくれた。
美凪はあんまりしゃべらないけど、こうやって二人並んで座ってるだけですごく楽しい。
そのまましばらくしゃぼん玉だけ二人で見てた。

あ、そうそう美凪、今日のお夕飯のメニュー知ってる? 
ふと思い立って美凪に聞いてみた。
いえ、知りませんと答える美凪。
むっふー、なんと今日はハンバーグなんだよっ! っとなんとなく自慢げに言ってみた。
それは良かったですね、と目を細めて答える美凪。
 
―――その瞬間。
突然みちるの胸に差し込むような激痛が走って

   痛たたたたたたた
    息ができない
     目の前が白くなって
 でも
  ああ
   なんだか―――満足―――
 
どんどん目の前が白くなる
 でももう苦しくない

みちるが
 みちるが最期に聞いた声は

         美凪の
              の―――

    _
   '´    ヽ
  .卯 jリノ)))〉       / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ,イl〉l ゚ -゚ノ|ヽ   <  ……通報しますた(病院に)
  li⊂I!†!つ       \________
  |! lく/_|〉ノ
     し'ノ
エピローグ

「ふぅー、やっと一段落つきましたね」
「ええ、お疲れさまです」
「お疲れ様です。でもまあ、遅かれ早かれのことでしたからね」
「そうですね。なんせ九十のご高齢でしたから」
「しかし―――こう言っちゃなんですが―――年寄りの葬式にしちゃあ、ずいぶんと湿っぽい葬式でしたね」
「まあ、それだけ美凪さんが生前慕われていたってことでしょう」
「でも大変だったんじゃないんですか? その、お婆さん、すっかりボケてらしたんでしょう?」
「可愛らしいモンだったそうですけどね。なんというか、気持ちだけ若返ってたって言うか」
「ほう」
「別にことさら手がかかるわけでもなし。それなりにご遺族の方々も、可愛がってらしたそうです」
「可愛がる?」
「ああ、ちょうど小さな子供のようになってた、ってことです」
「なるほど。ボケるとそうなる人もいるそうですね。記憶が子供の頃に戻ってしまうって奴ですか」
「ええ。ただ、美凪さんのはちょっと特殊でしたけど」
「?」
「何故かはわからないんですけどね。美凪さん、自分のことをみちる小母さんだと思い込んで、そう振舞っていたそうですよ」
「みちる……ああ、昨年亡くなられた彼女の妹さんですか」
「で、ご自分の末の娘さんを『お母さん』、お孫さんをご自身、『美凪』と呼んでらしたみたいで」
「そりゃまた変な話ですね。混乱しませんでした?」
「ご家族の方々も優しいというか、ノリがいいというか、付き合ってあげてたみたいですけど」
「はあ。しかしまたなんでそんなボケ方したんでしょうかね」
「さあ……。ま、今となっては誰も分からない話ですよ」