スフィー降臨3HC with まじアン総合スレ#5

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371ぱいなつぷる−1
 商店街のはずれ、とあるマンションの一角から子供達の歓声が
聞こえる。
「「じゃーん、けーん、ぽーん!」」
 そして歓声。時折非難の声も混じるが、おおむね子供達はわいわ
いとはしゃぎながら遊び続けている。
 その様子を、買い物篭を両手にぶら下げたスフィーは時間を忘れ
てじっと見入っていた。


「ただいまー」
 自動ドアが開き、スフィーが帰宅を告げた。
 買い物を頼んで送り出してから、たっぷり2時間は経過していた。
頼んだ物は全て商店街の中で買いそろえられる物だし、新聞広告を
チェックして、安売りの店を探して遠くまで足を延ばすような殊勝
な性格を持ち合わせているとも思わなかったので、俺は、
(どこで油を売ってやがるんだ、あいつは)
と、いい加減いらいらしていたところだった。
 そこで、やや嫌みっぽく、
「今日はお子魔女の新製品でも見つけたのか?」
とため息を付きながら言った。
372ぱいなつぷる−2:03/02/17 00:25 ID:gBay9gRi
「ちがうよ、はいコレ。ところでさ」
 スフィーは全く意に介さずと言った感じで続けた。
「ジャンケンして『ぱ・い・な・つ・ぷ・る』ってするの、あれな
に? けんたろ」
「はぁ?」
 スフィーの唐突な質問に思わず情けない声を出してしまう。
「…何が?」
「だーかーら! ジャンケンして、『ぱ・い・な・つ・ぷ・る』っ
て言って、子供が遊んでたんだよ。あれなに?」
「……」
 真剣な目をして、触覚までピコピコと揺らしながらスフィーが
詰め寄ってくる。どうやらそれを見ていて時間を浪費したらしい。
 やれやれ、と俺は呆れながら説明しようとして、ふと悪戯心が沸
く。さっきまでの腹立たしさがまだ消えていなかったのも手伝って、
少し意地悪をしてみる気になった。
373ぱいなつぷる−3:03/02/17 00:26 ID:gBay9gRi
「それって、階段で遊んでいただろ?」
 うん、とスフィーは頷く。
「階段って言うのは、こっちの世界では呪術的な意味合いもあって
な。絞首台に上るときに13階段を登るってのこないだテレビでやっ
てたろ?」
 スフィーは思わず息をのむ。どうやら想像していたよりかなり
ハードな代物だと勝手に解釈したらしく、目も真剣さがいや増して
いく。こううまく乗ってくれるとからかいがいがある。
「階段を登りきると、悪魔の呪いが掛かって、不幸になる。そうい
う伝承があるんだな。で、さっきのぱ・い・な・つ・ぷ・るだが」
 うんうん、と頷きながらもスフィーはやや及び腰である。両手を
しっかと握り、口も真一文字に結んで次の台詞を待っている。
「ジャンケンしてグーならグ○コ、パーならパイナップル、チョキ
ならチョコレートなんだが。出して勝った者が階段を登っていく。
これはな、甘い物を思い出して恐怖を忘れようとする意識の現れなんだな」
「そ、そうなんだ……」
「勝っているのに不幸に近づいていくという不条理。これは、そう
いうことを子供の頃から教え込んで、一足飛びに成功するよりも
地道に暮らした方がいいという深い意図が隠されているんだ」
 なんだか自分で言っててもよく判らなくなってきたが、当の
スフィーが納得しているようなので気に留めるのはやめた。
374ぱいなつぷる−4:03/02/17 00:27 ID:gBay9gRi
「ちなみにこれは1000年前の中国から伝わってきた伝統的な
遊びでな……」
「1000年前の中国にグ○コがあるかー!」
 激しい衝撃を後頭部に浴び、一瞬意識が跳ぶ。
「いててて、結花、お前いつから……」
 振り返ると、結花とリアンが立っていた。結花は怒気を、リアン
は微妙に疲れた表情を浮かべている。
「さっきからいたわよ。またスフィーちゃんにでたらめ教えて!」
「え? でたらめだったの?」
 スフィーがきょとんとして言うので、
「いや、でたらめじゃないぞ」
「え?」とスフィーは思わず聞き返した。
「ただのネタだ」
 自信たっぷりに俺が言い切ったので、他の3人は脱力したようだった。
「だいたい結花、お前が話の腰を折るのがいけない」
「なんでよ」
「ちゃんと最後にオチがあるんだ、この話は」
「どんな?」
 そこで再度きっぱりと俺は言う。
「『愚理呼・隠された真実』民明書房刊 より抜粋」
「そんなオチがスフィーちゃんに判るかー!」
 少なくとも結花には判ったようだった。
375ぱいなつぷる−5:03/02/17 00:28 ID:gBay9gRi
「はぁー、せっかく良い物持ってきてあげたのに、こんなヤツに
あげるのやめようかしら」
「ん?」
「まぁ、しょうがないな、捨てるのも勿体ないし。ハイ」
 手渡されたのは綺麗にラッピングされた小箱。
「お、サンキュ。今年もくれるのか」
「健太郎さん、私も」
 リアンからもチョコレートを渡される。
「いつもお世話になってますから」
「サンキュ、リアン。倍にして返すから、期待しといてくれよ」
 と、リアンの頭をなでると、恥ずかしそうにうつむく。
「結局今年は2個か」
「え? それは?」
 結花がめざとく何かを見つける。見ると、机の上にもう一つ、
綺麗なラッピングのチョコレートがあった。
「さっきあたしが渡したでしょー! ひどーい、けんたろ」
「え? さっき? いつだ?」
 記憶をたどる。が、思い出せない。
「はいコレ、って」
「……あ、って、おいスフィー、そんな渡し方があるか?」
 俺が呆れて言うと、スフィーはさっとチョコレートを取り上げた。
「でも、あげるのやめようかなぁ、けんたろには」
 悪戯っぽいその顔は、明らかにさっきの仕返しだろう。
「甘い物って不幸を招くんでしょ?」
 その言葉に、結花とリアンからぷっと笑い声が漏れた。
 俺は、苦笑いとともに両手を挙げた。