スフィー降臨3HC with まじアン総合スレ#5
「なあ、どうしても帰らないといけないのか?」
つい、そんな問いを投げかけてしまう。
「うん、だって私、王女だもん」
「だからって、代わりがいないってもんじゃないだろう?他の王族とか……」
「王族はね、果たさないといけない義務があるんだよ」
「昔からおじいちゃんにずっと言い聞かされてきたんだ。王族には国のみんなに尽くさないと
いけない義務があるって。国民が幸せに暮らせるよう努力しなくちゃいけないんだって。あた
しもそう思うんだ」
それはまるで、自分に言い聞かせているかのようだった。
チョコと、約束
見聞を広げるために魔法のないこちらの世界に来たスフィーはひょんな事故(思い出したく
もないが(怒))から俺の家に居候することになった。その後姉を追ってきた妹のリアンと幼馴
染の結花たちと一緒に過ごした半年間は、あっという間に過ぎていった。本当は十二月
三十日に帰るはずだった二人は何とか帰還を引き伸ばしてきたのだが、とうとうこの日がや
ってきてしまったのだ。二人の帰る、その日が。
「ねえ、けんたろ。今日が何の日だか知ってる?」
「急にそんなことを言われてもなぁ。スフィーの誕生日……じゃなかったよな」
「もう。けんたろが教えてくれたんでしょ、この国の風習」
しょうがないなぁ、というように苦笑しながら、スフィーは綺麗に包装された小箱を差し出した。
そうだ、今日は二月十四日。バレンタインデーだったっけ。この一週間スフィーとの別れに気
をとられて、まともな時間感覚がなかった気がする。
スフィーのやつ、昨日は遅くまで何かやっていて、てっきり帰り支度をしていると思ってたのに……
「けんたろ、どうしたの?もしかして……気にいらなかった?」
「ば、ばかやろ!そんなことないって。その、ありがと」
「……うん。そう言ってくれてよかった。あたしね、けんたろにいろんなものをもらったのに、私
があげたものはほとんどないなって。それで、これはどうしても渡したかったんだ」
こいつは。なんかその言葉を聞いていて、急に苛立たしい気持ちがこみ上げてきた。スフィ
ーは俺にいろんなものをくれたのに、そんなふうに思っていたなんて。
「スフィー!!!!!」
「は、はぃぃぃーーーーっ!」
「おまえ、何がほしい。日本にはバレンタインデーにチョコをもらった男は、ホワイトデーに何か
お返しをするという習慣もあるんだ。スフィーは何がほしい?」
「で、でもあたしその頃にはもう」
「いいから。何がほしいか言ってみろ。何でも贈ってやるから」
スフィーは戸惑うように俯き、やがておずおずと顔を上げた。
「じゃあ、けんたろが作ったチョコレートがほしいな」
「チョコレート?そんなのでいいのか?」
「うん。あたしね、昨日チョコレートを作ってて。なかなかうまくいかなかったんだけど、これをけ
んたろにあげるんだと思うととっても楽しくて。でね、けんたろがあたしに作ってくれたらなぁっ
て、ずっと考えてたんだ」
「わかった。ホワイトデーには健太郎特製のチョコを送ってやろう。約束な」
「……あ」
そう。ほんとはプレゼントなんてどうでもよかったんだ。あげたかったのは、もう一度会えるん
じゃないかという、希望。そしてそれを信じさせてやれる繋がりだった。スフィーも多分わかっ
てくれただろう。
「うん。ありがとね、けんたろ。それじゃ、そろそろ行かなくちゃ。きっとおじいちゃんたちが待ってる」
「じゃあけんたろ、とりあえずお別れだね」
「そうだな。とりあえずお別れだ。また来られるんだろう?」
「うん。結花のホットケーキとけんたろのチョコを食べに、ぜったいくるよ」
「はは、あいかわらずだな」
「…………」
「けんたろも、店番をサボらずにちゃんとやるんだよ」
「おう、スフィーの分もきちんとやってやる」
「結花や、みどりさんたちにもよろしくね」
「ああ、まかせとけ」
「…………」
沈黙が流れる。もう話すことはないのに、スフィーはその場を動かなかった。
スフィーのやつ、どうしたんだろう。
「あはは、おかしいよね、けんたろ。自分で決めたことなのに、もういかなくちゃいけないのに、
なんだか足が動かないんだ」
「あたし、意気地なしだよね。みんなが待ってるってわかってるのに、けんたろと離れるのが
怖い……」
俯いたスフィーが元気なく呟く。そうか。あいつもやっぱり怖かったんだ。明るい顔して、何
でもない風に装ってたけど。
そんなスフィーを見て、力いっぱい抱きしめてやりたくなる。ずっとここにいていいんだぞって、
言ってやりたくなる。でも、それはスフィーを苦しめることにしかならない。なら、俺に出来るこ
とはどんなことだろう。
「スフィー、よーい、どんってしようぜ」
「え、な、なにそれ、けんたろ」
「合図だよ、合図。こう、背中合わせに立ってな、よーい、ドン、で歩き出すんだ。スフィーは、
スフィーの世界へ。俺は、俺の世界へ」
「けんたろ……うん、わかった!」
ようやくスフィーに笑顔が戻ってくる。そうだよな、スフィーはそうでなくっちゃ。
「よし、じゃ向こう向け。背筋を伸ばしてな」
「うん。こう?あ、こらけんたろ、変なとこさわんないでよ」
「ばか、触ってないだろ。準備いいか?」
「うん、いいよ」
スフィーと背中合わせに立つ。
「じゃあいくぞ。よーーーーーい」
「よーーーーーいっ」
「どんっ」
俺たちは歩き出す。新たな約束を胸に、自分たちの世界へと。
(END)
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S.F:03/02/15 03:32 ID:oCHnA77K
どうも、通りすがりのS.Fです。
このSSのネタは、去年の葉鍵板最萌えトーナメントのときに考え付いたものですが、書き出
す前にスフィータンは負けてしまいました。今回ふとこの骨董祭を見かけてあわてて書いてみ
ました。有名な某ゲームの某シーンのパクリです。よくありそうなネタですので、誰か他の人
が使っていたらすいませんです。キャラがつかめてねーとかいろいろ批判はあるでしょうが、
枯れ木も山の賑わいということで許していただけたら、と思います。それでは、SS作家の皆
さんもがんばってくださいねー。