スフィー降臨3HC with まじアン総合スレ#5

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302『ふたりの三幕』(1/4)
 その日は、昨日までの大雨が嘘のように晴れ渡った朝から始まった。
 朝飯を食べながら眺めていたニュースでお天気お姉さんが驚いていたり、母さんが慌てて
今日中に干す分の洗濯物を運んでいたりしたのが、見ていてなんとなく面白かった。

「行ってきまーす」
 勢いよく家のドアを閉めると、昨日までの雨で出来た水溜りを避けながら走り出す。
 今日は創立記念日。休日に早くから出かけるなんて、我ながら随分珍しい。
 出来ればほんわかとした布団の柔らかな温みの中で、ずっと眠っていたかったけど、
さすがにこの日ばかりはそういうわけにもいかないのだ。
 それもこれもみんな、あきらの奴のせいだ。

 とりあえず、あきらに会ったらまず文句を言ってやることに決めた。

「あ、ようくんおはよー」
 いつもの通学路、いつもの交差点。あきらはそこにいつものように立っていた。
 ぽややんとした雰囲気に緊張感のない顔で、にこにことこちらに手を振っていたりする。
 違うのは、服装が学校の制服じゃなくて私服だってことだけ。それは俺も一緒だけど。
「おうあきら、おはよう」
 そう挨拶がてらに片手を上げながら、駆け足であきらに近づく。
 そのままあきらの目前で急停止すると。そのまま上げていた手を軽く振り下ろした。
303『ふたりの三幕』(2/4):03/02/11 22:14 ID:8IwiNFrv
 ――ぺしっ。
「あうっ」
 狙い済ました一撃は、狙い違わずにあきらのふんわりした髪の上から頭部に直撃した。
 叩かれた部分を押さえながら、あきらは涙目になりながら文句をつけてきた。
「痛いよー、いきなり何するのさー」
「うっさい。休日の朝、布団に今生の別れを告げてきた男の気持ちがお前にわかるか」
「わかるよ? ふかふかで暖かくて気持ちいいよねえ」
 素で言い返してくるあきら。ちょっとムカついたのでさらにもう一撃加えることにする。

 ――ぴんっ!
「はうっ」
 眉間に炸裂したデコピンが、あきらをうずくまらせ、再び涙目で俺を見上げさせた。
「さっきよりもっと痛いよぉ……」
「お前が悪い」
「うう……わけがわかんないけどごめんなさい」
 さすりさすりと被害個所を撫でながらぺこりと頭を下げるあきら。
 いや、お前は悪くない。悪くないんだがお前が悪い。
 慰めと言い訳の混じった葛藤を心の中で行いつつ、とりあえず手を伸ばしてやる事にした。

 ほどなく復活したあきらと二人で、近所の商店街に足を向ける。
 とりあえずどこに行くかを、昼でも食べながら考えようということになったからだ。
「今日は何食べよっか?」
「俺はナポリタンかな」
「ぼくはやっぱりホットケーキかなぁ」
 何処で食べようか、ではなく何を食べようか、から会話が始まっているのはいつもの事。
 そんなの、いちいち確認しなくても『HONEYBEE』に決まってるからである。
304『ふたりの三幕』(3/4):03/02/11 22:15 ID:8IwiNFrv
 とりとめのない会話をしつつ、あきらの服装を軽く上下に眺めてみた。
 上はだぶっとしたパーカー、下はジーパン、頭に遠鉄の野球帽と、実に女らしくない格好。
 腰まで届く長さの髪は、首のあたりで括って無造作に下げてあるから、ひょっとしたら
長髪の男に見られるかもしれないなぁ、という感じの格好だ。
 まあ、俺のほうもそんなに気合入れた服装なんかしてないからおあいこだが。
 ……というか、制服以外であきらがスカートを穿いてるのを見たことがない気がする。
 いや、一度くらいあったかな? で、その時なんか言ったんだっけ……?

 と、そこまで考えたところで目的地に到着する。今日も『HONEYBEE』は営業中だ。

 カランカラン♪

「いらっしゃいませー」
 ドアにつけられたカウベルが鳴ると同時に、客を歓迎する声が店内に響く。
 ぱたぱたとやってくるのは、この店の小さな看板娘だ。
「あ、ようすけお兄ちゃん! あきらお姉ちゃんも」
「あすかちゃん、こんにちは」
「おっす」
「はーい、それじゃ、こちらへどうぞー」
 あすかちゃんに案内され、いつもの席に二人で向かい合って座る。
 窓辺のこの席は、店が空いてると大抵、知り合いが埋めることになっているらしい。
 以前来たときはうちの担任が座って、結花さんと二人でなんか話してたし。
305『ふたりの三幕』(4/4):03/02/11 22:16 ID:8IwiNFrv
「二人ともいらっしゃい。なになに、休みで朝からデートとか?」
「そんなんじゃないもんねー?」
 よほど暇なのか、結花さんがメニューを持ってくるあすかちゃんについてきた。
 ここらの学校はみんな創立記念日が一緒なので、その辺説明する手間が省けて便利である。
「デート……じゃないと思うけど」
「そっかそっか。デートじゃないんだ。ふふーん」
「お母さんはあっちいっててよー!」
 あきらの返答に、意味ありげな笑みを浮かべる結花さん。そしてそれを追い払おうとする
あすかちゃん。ここに二人で来るといつもの光景だ。
 ちなみに、俺も特にこれをデートだとは思っていない。二人連れはいつものことだし。

「はい、ご注文をどうぞー!」
 カウンターの奥に結花さんを追い返すと、あすかちゃんが注文を取りに来た。
 頼むものは決まってたりするのだが、まあ新メニューがないか確認するのも楽しいし。
「ナポリタンひとつ」
「ぼくはホットケーキで」
「はーい、ナポリタンとホットケーキですね。かしこまりましたっ!」
 伝票にかりかりと注文を書き込むと、カウンターの奥に駆けて行くあすかちゃん。
「おかーさん、オーダー!」
「はいはい、あんたの大声で全部聞こえてるから」

 そのやり取りに、俺は思わずあきらと顔を見合わせて笑ってしまう。
 今日もここでの食事は、楽しいことになりそうだった。