* 空想科学あさひたん * 《カードマスター編》
「今のテイク良かったよ、あさひちゃん!お疲れ〜」
「は、はい。お、お疲れ様でしたー」
今日の分の収録をようやく終えてスタジオを後にした頃には、時計の針が
既に日付が変わった事を告げていた。
あたしは事務所に戻り、控え室のソファに倒れこむようにして深く身を沈めると、
いつの間にかウトウト眠ってしまっていた。
「……モ、……モモ、……モモッ!」
え?……何?どこからかあたしを呼ぶ声が……
「モモ!さっさと起きんかい!!」
うーん、んん?まだ寝ぼけた目を擦りながらゆっくりと辺りを見回すが
真っ暗な空間がどこまでも続くだけで、どこにも人の姿は見えない。
「あ、あれ?ここはどこだろ……、それに誰かがあたしを呼んでいたような……」
「モモ、ここや!」
不意に発せられた声に驚いて足元に目をやると、そこにはなんとも目つきの悪い
一匹のネコが直立していた。それに良く見るとなんだかマンガチックな体型で
どことなく縫いぐるみじみた風貌をしている。
驚いた事に、それはあたしが幼い頃から思い描いていた
「理想のネコちゃん」の姿そのものだった。
「か……可愛いっ!!」ぎゅ〜〜〜〜っ
あたしは思わずそのネコを抱え上げると、ほお擦りして抱きしめた。
「ど、どアホゥ!何すんじゃ、下ろさんかーい!!」
「ええ!?……今、このネコ喋った!!」
「ネコちゃうわ!わいにはヘモヘモっちゅう立派な名前があんねん!」
「へ……ヘモヘモ?」
「そや!」
「…………」
「ヘモヘモッ!!」ぎゅ〜〜〜〜っ
「せやから、それは止めぇちゅうねんっ!!」
,,.. ..,,
,. '" _,..,_ `ヽ
/ >こ)く >、 ヽ
ー==ァ゙^'´`y / i ! .ハ`く ⌒ヽ. i
⌒) { ,' ,' / /ハ从ハノムル込ヘ l かわいいー
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(⌒ニ二ニ=ー /XX __ r'^ヘ-イ^/ /\ヽ. !
, '´ ̄フ /) /━}(⌒ヽ)' / / 〉 l l
(⌒~フ //´ヽ# `ー' ノ r'"フノ ,.ィ,! l ! !
/'´ 从 >ニ二ニゝ一く__/ (´ / //}ノノハ
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<は、離さんかーーーい!> /##i/ノ)) )\ \
ふう、ふう、ふう
暫くそのネコは大声でなにやらわめき散らしていたけど、次第に落ち着きを
取り戻すと、キッとあたしを睨みつけこう言った。
「ええか、モモッ!お前は今日から正義のために働くんや!」
「せ、せいぎ?あ、あの……」
「ゴチャゴチャ言わんと、この契約書にサインしい!」
「え?え?……け、契約書?」
「世界平和のためや!モモ一人の犠牲で世界が平和になるんや、安いモンやろ」
「あ……、ええっ!!だ、だ、ダメだよ。あ、あたしお仕事あるしっ」
そ、そだ。あたし声優のお仕事してて……それに、モモ?あたしの名前……
「ちゅう訳で契約成立やな!キビキビ働きや!」
「えぇーーっ!?い、いつの間に……」
「おっと、契約違反したら慰謝料50万ドルキャッシュで払ってもらうでぇ!」
「そ、そんなぁ……」
「ま、今日の所は勘弁しといたるわ。また来るさかい首洗って待っとき!」
う、う〜〜〜ん、そんな〜〜〜、う〜〜〜ん
う〜〜〜ん、ご、50万ドルなんて無理だよ〜〜〜、う〜〜〜ん
「……ひちゃん、……さひちゃん、……あさひちゃん」
え?……あれ?あたし……、こ、ここは……
「あさひちゃん、どうしたの?うなされてたよ、気分でも悪いの?」
あたし……、そっか、あのまま寝ちゃったんだ。
気がつくと事務所の管理人さんが心配そうにあたしを覗き込んでいた。
「な、なんでもないです。す、すいません、ご心配かけちゃって☆」
慌ててそう答えたら声が裏返ってしまっていた。は、恥ずかしい……
「あ、あたし、じゃあこれで帰ります、お休みなさい」
管理人さんの「送ってやろうか」と言う申し出を丁寧に断るとあたしは事務所を後にした。
帰り道のタクシーの中でさっきの夢を思い出そうとしてみたけど、どうしても
思い出せない。
それから何事もなく数日が過ぎ、今日もあたしはいつも通り仕事を終え帰宅すると
家の入り口になにやら大きな荷物が置かれていた。
ファンが贈ってくれたのかなと、差出人の名前をみるとそこには「地球防衛軍司令本部」
と印が押してある。
「うふふ、あのファンクラブの変な眼鏡かけた人かも……」
| , -‐‐- 、
ちょっと変わった人だし .| / ~\
, -─‐- 、 | j彡 .r~}i ii i i ヽ
. /´ ∠}≫≪{ヽ | ヾ,∩/~ =.;、ヾリ}}i i }
| y(( 从ノノ))) .| y、} "0‐0,tリリリ
| d ( i ,i)|j| 。o O | i/ \ ー‐/ ふふふ、吾輩の愛をあさひちゃんに
. ノ ,リ、" (フノ j | /ヽ二エ´ 捧げますぞ!
((( /###f^l.《 | /⌒ 、 \ ノ\
(⌒ヽ#/ヾ#l | { \ \iゝヽ
\. " /#| \ \ ヾア^ y^ヽ
)####|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
部屋に荷物を運び入れて包装をとくと、中から派手なピンクの衣装、ステッキ、そして
タロットカードのような束が出てきた。
「な、何これ?」
何か手紙でも付いてないかと箱を調べたが、それ以外何も無い。
お礼の手紙を出そうにも住所もなにも書いてない。
なんとも不可解な贈り物だったが、とりあえず気にせず今夜は眠ることにした。
「……モ、……モモ、……モモッ!」
んん?この声どこかで……
「モモッ!さっさと起きんかい!!」
あ……
「ヘモヘモッ!」ぎゅ〜〜〜〜っ
「だから、それはええっちゅーんねん!!」
「あ、ご、ゴメン☆」
「早速、今日の指令や!某国立博物館に明日から展示される、時価ウン億円のダイヤモンド
を保護するんや!」
「え?ほごって……」
「皆まで言わすナや、要するにかっぱらって来いっちゅうこっちゃ!」
「え、ええーーーっ!!だ、だ、だってそれドロボウじゃ……」
「世界の平和のためなんや、多少の犠牲はしゃあないやろ」
「で、でも、そ、それと世界の平和と何の関係が……」
「一々末端の人間が知らんでもええがな。とにかくちゃんと計算されとる、角度とか」
「む、ムチャクチャだよ〜〜〜、ぐすっ」
「分ったら、さっさとその戦闘服に着替えて出撃するでぇー!」
「せ、戦闘服って……もしかして、このピンクのヒラヒラした?」
「当たり前田のクラッカーや!マジックアイテムも忘れんなや!!」
「うわーーーん、は、恥ずかしいよ〜〜〜」
訳のわからない内にあたし達は某博物館に着いた。
「ね、ねえ……け、警備の人が沢山いるよぉ〜〜」
「安心するんや、何のためのマジックアイテムやねん」
「ど、どうやって、つ、使うの……?」
「その戦闘服とステッキを装着したモンは、カードに宿る精霊を召喚してその力を自由に
使う事ができるんや。詳しくは説明書を見ぃ」
「え、えと……カードの取り扱いは用法・用量を守って正しくお使いください……って何これ?」
「細かい事は気にすなや!取りあえずモモ、スタングレネードの精霊を召喚や!」
「う……うん。すたんぐれねーど、さーもん!」
どかーーーん!!
「今のうちに突入するでぇ!それっ!!」
ジリジリジリジリジリ!!!!
「次はこの大金庫の扉を爆破や!」
「ぷらすちっく爆弾、さーもん!……ぐす」
ぐわーーーーーーん!!
「よっしゃ、ブツは頂いた!ずらかるでぇ!!」
ウーーーーー!!ウーーーーー!!
ピーポー、ピーポー、ピーポー
翌日……
「あさひちゃん、おはよう」
「あっ、お、おはようございます☆」
「今朝のニュース見た?時価ウン億円のダイヤ強奪だって」
「え!ほ、ホントですか?」
「ウン、なんでもプロの手口による犯行らしいよ」
「ぶ、ぶっそうな話ですね。 こ、こわい……、ふぁ〜」
「あ、ご、ごめんなさい☆ な、なんだかあたし寝不足で……」
こうして何も知らないあさひたんは夜な夜な「正義の使者・カードマスターピーチ」
として世界の平和を守るのであった。