ルミラの濡れた舌がねっとりとイビルの陰茎に絡む。唾液と、先走りにまみれててらりと光るペニスが、大きく打ち震えた。
「んっ……ふぅーっ」
服を加えた唇の端から、荒い息が漏れる。皺の寄った布端は、唾液で黒く変色していた。
ルミラの舌がゆっくりと蠢き、吸い付くたびに、唾液の染みが大きくなってゆく。
後ろ手に縛られた指が、閉じられ、開かれ、救いを求めるようにせわしなく動く。
一番敏感な器官はルミラの指と舌に絡め取られ、逃げるどころか、もっとと求めるように、腰は突き出された。
が、そこでルミラは唇を引いてしまう。
「!?」
泣き顔でイビルが腰を身悶えさせた。息を吐いた拍子に、タンクトップの裾が口から離れて、胸を覆い隠した。
「あら、どうしたの、イビル? 離しちゃダメっていったわよね?」
ルミラは薄く笑って、添えただけの手でイビルの幹をそっとさする。
あまりにも薄い刺激に、かえって先端が熱く疼いた。
「すっ、すみません……でも、あたい……その……ふぅっ」
ルミラの指が、会陰部から正中線を辿るように、割れ目を軽く擦り、ペニスを這い上がってくる。
くっと持ち上げ、先端部に到達したところで跳ね上げた。上下に揺れる様がおかしいのか、ルミラが喉を鳴らして笑う。
「分かってるんだろ……ねぇっ、ルミラ様……」
普段の乱暴な口調に慣れているだけに、あまり聞けないイビルの懇願が耳に心地いい。
ルミラの息がかかるたびに、ぴくぴく反応するペニスは、まるでルミラを誘っているようでしゃぶり尽きたくなる。が、
「『僕』、って言いなさい」
「え?」
「『あたい』じゃなくて、『僕』。そう言わなきゃ、してあげない」
「なっ、なんで、そんなこと……」
「口を離してしまった罰……というより、趣味ね」
ちょん、と舌で鈴口をつついた。
「はあっ!」
「言うの? 言わないの? まぁ、私は言われなくってもいいんだけど……」
わざとらしくルミラは立ち去ろうとする。振り向き様にルミラの髪が、イビルのペニスを嬲った。
ざら、と異質な感触がペニスを叩く。そんな些細な刺激が呼び水になった。
「まっ、待って、ルミラ様っ!」
ルミラは去る足を止めようとしない。
「ルミラ様っ! ぼっ……僕の……」
「僕の……なに?」
ルミラが笑顔で振り返る。彼女が何を言わせようとしているか分かった。分かってしまった。
普段、男のようななりと口調をしているが、だからこそ、男そのものの言葉を発するのには抵抗があった。
だけど、熱く疼くその部分が耐え難い。
「僕の……」
ルミラは無言でその言葉を待つ。
「僕の……」
イビルはうつむいていた顔を上げ、一瞬、息を飲み込んだ。
羞恥と屈辱が涙になって流れるが、衝動が止まらない。目をきつくつむって、半ばヤケになって叫ぶ。
「僕の……僕のおちんちん、扱いてくださいっ!」
イビルの声が、狭い地下室に反響する。
沈黙の中、自分の声が耳に返ってきて、更にイビルを打ちのめした。恐る恐る顔を上げ、ルミラの顔を見る。
「……良くできました」
ゆっくりとルミラが戻ってくる。期待と焦燥に腰を揺らすイビルを見て、
「まるで発情した犬みたいね」
と、更に言葉で責める。
「う……」
「でもそういうイビルは可愛いわ……いつもがいつもだけに、余計、ね」
イビルの顔を上向かせ、唇を重ねる。積極的に自らも舌を差し入れてきたイビルが、突然、びくん、と震えた。
ルミラが、逆手にペニスを握り、しごいていた。自らの髪を絡めて。
髪のざらつきと唾液のぬめりと手のひらの感触と。三重の刺激がペニスから腰を、背筋を這い上がる。
「んふうううーーっ!」
快感から逃れるように、イビルは舌を滅茶苦茶に動かし、きつく吸う。その乱れる様が、ルミラの興奮も呼ぶ。
ほとんど起伏のない胸にも指を滑らせ、マニキュアの塗られた爪で、きゅっとつまむ。
「――!!」
イビルは声にならない悲鳴を上げて、背を弓なりに反らせた。
「んっ……ぷはあっ」
ルミラは唇を離し、赤く火照った頬を、涙と一緒に舐め上げる。そして耳の複雑なラインを、舌で丁寧に辿る。
「あっ……はぁっ……ルミラ様ぁ……」
「ぼ、く」
きゅっとペニスを握る手に力を込める。今にも射精するかのように、力強く跳ね上がる。
だが、ルミラは巧みに力を調節し、限界寸前で収めては高ぶらせ、高ぶらせては押さえるのを繰り返す。
込み上がってきた熱いものがペニス一杯につまっているのに、どうしても出せない。
「ルミラ様……ぼっ、僕……」
「なに?」
耳の奥に深く舌を差し入れ、唾液を耳の奥にこぼす。じんと熱い感触が脳の奥に流れ込んでくるような錯覚。
「ああっ……僕っ、いきたい、いきたいんですっ! いかせてくださいっ……」
僕、という一人称に酔ったのか、いつもとは違う弱々しい声、頼りない上目づかいのイビル。
嗜虐欲がルミラをぞくぞくと震わせる。
「いいわ……たっぷりと、いかせてあげる……」
耳から首筋、鎖骨を舌でなぞり、ピンと赤く隆起した、乳首をくわえ、軽く噛んだ。
「ひゃあっ!」
唇を離すと唾液に濡れた乳首が震え、濡れ光る。
そこにもう一度キスをすると、ルミラの頭は更に下がり、へそをくじり、顎に当たったペニスに、柔らかい頬をすり寄せる。
驚くほど、固く、熱く高ぶっているペニスに、ルミラは陶然としたため息をこぼした。
イビルは固く唇を噛んで、放出しないように耐えている。
「そうそう、もうちょっと我慢しなさい……」
言うが早いが、唇の奥にペニスを飲み込んだ。
「はあぁっ!」
ペニス全体が熱く、柔らかで、湿度の高い洞窟の中に飲み込まれ、柔らかい内壁が扱き立ててくる。
押し寄せる快感の波が、ペニスを通じて身体に流れ込んでくる。
「ルミラ様あっ! 僕っ、僕っ!」
すっかり少年になりきったイビルが、僕と連呼しながら役割のまま叫び、身悶える。
ハスキーボイスが耳に心地良く響き、ルミラも夢中になってペニスをくわえ込む。
舌はカリ全体に巻き付き、鈴口に潜り込もうと暴れる。
吸われると真空状態が得も言われぬ快感を導き、何もかもが吸い出される錯覚に陥る。
熱く滾った溶岩のような精液は、もう暴発寸前だった。
「だめっ! ルミラ様っ……僕、出ちゃう、出ちゃうよおおっ!」
泣き声に答える代わりに、ルミラはいっそう激しく唇を動かした。
「いっ……やああああっ!」
イビルが絶叫し、仰け反る。
白濁は恐ろしい勢いで先端から噴出し、ルミラの喉を打つ。
熱く、どろりとした感触と精の匂いが、口に広がり、喉の奥に流れ込む。
留まることなく溢れる白い精を、ルミラは音を立てて吸い、飲み込んだ。
吸い出されるたびに、イビルのペニスは熱く脈打つ。
イビルは息も絶え絶えになりながら、未だ続くその快感の余韻を味わっていた。
「……もういやですからね、あたい」
「あらそんなこと言っちゃって、ホントはまんざらでもなかったんでしょ?」
「怒りますよ。あたいだって、一応、女なんだからさ……」
「あらあら」
くすくすと笑いながら、ルミラはイビルの戒めを解く。
そこで初めて、なにかに気がついた、という風に振り向き、忍び足でドアによる。
「?」と首を傾げるイビルをよそに、ルミラは勢いよくドアを引き開けた。
「わにゃきゃああああああっ」
と、混ざった悲鳴と共に、雀鬼メンバーが総勢で流れ込んできた。
「……ずっと聞いてたの、あなた達」
メイフィアがばつが悪そうに頭を掻く。
「あはは……ばれちゃいました? いや、好奇心が湧いちゃったもんで、つい……」
「あのっ、私は止めましたからねっ。止めたんですけど……」
「……」
アレイに賛同し、こくこくと頷くフランソワーズ。が、手にしたコップがそれを裏切っている。
「にゃにゃっ! いやいや、イビルが『僕、出ちゃうよおっ!』なんて叫んでいたこと、全然聞いてないにゃりん」
一斉にニヤニヤ笑いを浮かべるメンバーたち。ぼっ、とイビルの顔がこれ以上ないほど赤く染まった。
エビルがいつもと同じ無表情で――僅かに熱に潤んだ視線をイビルの男性に向けつつ――言った。
「……今夜はつきあってもらえるか」
「て・め・え・ら……」
ゆらと灼熱の炎がイビルを取り巻く。
「全員ぶっころーすっっっ!」
炎が渦を巻き、竜となって、爆発した。
暴れ回るイビルは先ほどの羞恥プレイの反動か、いつになく怒りとエネルギーに満ちていて、
全員総出で取り押さえるまでに、地下室を含む、館の三分の一が消失した。
かくして、借金がまた増えた。
いじょ。逃げるように去る。さらば。