1 :
名無しさんだよもん:
――ひとが、
この世にうまれる前から、この星は輝き、
そして、
ひとが、この世を去った後も、
この星は輝き続ける
漆黒の海、宇宙をたゆたう星々の下、
生きる人々の、熱い希望や情熱を、
その汽笛の調べに載せて、
汽車は往く――
ま た 七 夜 か
3 :
1:02/11/19 02:14 ID:QQY98zDp
ピィィーッ!
鮮やかなオレンジ色に染められた機関車が、ブルーの客車を牽いてやってき
た。
銀河鉄道の誇る超特急998号は、碧く輝く惑星――地球へと、その長い身体を
くねらせながら、おりてゆく。
夕暮れ時の大都市――巨大な建物の並ぶメトロポリスへと、向かってゆく。
空間をわたってきた998は、エントランス・レールへと滑り込む。接輪、そし
て、車軸ブレーキによる金属の軋み音。
都市の空中を這わされた線路を走り、巨大な駅舎の中に吸い込まれて行く…
…
時に、2859年。
人類は2極に別れ、争いあっていた。
一方は人間の脳(正確にはその神経組織の一部)を機械の身体に移植した、
機械化世界。
そして、その機械化世界に対抗して、もう一方は、人間が生まれもった生身
を直に強化する、生体強化陣営である。
自らの能力の優越感を主張するあまり、敵をつくる事になった機械化世界
は、新たに生まれた有力な勢力の前に、徐々に縮小を余儀無くされ、そして、
元来の本営である地球からは追い出されてしまった。
そして、今。
その戦いは、今も続いている。
にもかかわらず、地球は人類史上何度目かの大繁栄を遂げていた。
機械化世界の統制から独立し、復興はやがて大きな成長へと繋がったのだ。
その中心地が、ここ、東京だった――
しかし……
4 :
1:02/11/19 02:14 ID:QQY98zDp
一見華やかな高層都市群の下に、封印された廃虚があった。
かつては、世界になの知れた繁華街だったその場所は、しかしそれ故に犯罪
によってやがて見捨てられた場所となり、寂れ、滅びて行った。
今、ここは貧困層の居住場所――スラム街と化している。
貧困層は、この時代ではすなわち、機械化、生体強化、いずれの手術も受け
る事のできない弱者層である。
しかし、彼らは、じっと耐え、その日を強く生き抜いていた。
なぜなら、彼らがこの地球を支え続けなければ、機械化世界がいつ息を吹き
返すかわからない。
機械化人達は、冷酷で、非道――人間を燃料程度しか思っていない、という
のが、かつての彼らの統治下にあった地球での現状だった。
だから、彼らは必死に、生産に励む。
生体強化陣営を支えるために。
5 :
1:02/11/19 02:15 ID:QQY98zDp
『宇宙海賊キャプテン・カルラII世と40人の海賊』
『生死を問わず・賞金\100,000,000,000(JpnYEN)』
お尋ね者のポスターは、スラム街にもはり出されていた。
「…………」
ポスターの前に、1人の少女が歩み寄り、それをじっと見つめる。
スポーツ刈り、シャツに半ズボンの少年は、振り返って2・3歩前に出ると、
おもむろに指をくわえ、
「ピュイィーッ!」
口笛を高く吹き鳴らし、そしてその場から駆け出した。
路地裏を駆け抜けて行くと、あたりの横道から1人、2人と、少年よりやや
年下の少年、少女達が集まってくる。
「耕一兄、今日はなにを狙うんだい?」
「さっきポスターの前にいたけど、もしかして賞金首でも狙うの?」
少年たちは口々に聞き返す。
「そうなるかもな! まずは、宇宙の海に飛び出すんだ」
耕一と呼ばれた少年はそう応えた。
「宇宙へ? へえ、どうやって?」
「簡単だよ。まず、駅へ行くんだ」
そう言うと、少年をリーダー格にして、散らかった道路を走って行く。
6 :
1:02/11/19 02:15 ID:QQY98zDp
東京駅。
巨大な鉄筋の、モニュメントのような建物。その中には、赤いレンガの、20
世紀に建てられた建物が保管されている。
そして、その上層には、銀河鉄道の乗車券センターが丸まるワンフロア、と
られている。
そこには、スラムに住んでいるような、ボロボロの衣服を着た貧困層の人た
ちがたむろしている。
と言うのは、銀河鉄道の、超特急998に乗れば、その終着駅で生体強化陣営の
戦士になる事ができると言う話が、流布されているからである。
もっとも……その終着駅への切符は、彼らが買えるような価格ではない。し
かし、それがあれば最高水準の手術が受けられる上、その後の身分まで保証さ
れる。
そのため、退勤時間前後になると、買えないと知りつつ、何人もの人間がこ
こに集まってきてしまうのだ……
専用エスカレーターで上がってきた、高級なスーツと、同じく毛皮のコート
に身を包んだ男女連れ。強化体をもつ上流層の人間だ。
「切符も買えないくせに……目障りな」
男の方が、あたりにたむろする人間達を見回し、不機嫌そうな表情でそう
言った。
2人連れは、券売機の前まで歩いてきた。
券売機のディスプレイに受付の表示が出ると、女の方がそれに注文を言う。
「無期限の全線有効定期券を。そう、超特急998に乗れるものをお願い」
券売機が反応し、ディスプレイに金額が表示される。それは天文学的な値段
だった。
女が財布の中からICクレジットカードを取り出して、券売機にかざすと、瞬
時に支払い手続きが行われ発券に入る。
そして、券売機の取り出し口に、定期券がのぞいたその瞬間――
7 :
1:02/11/19 02:16 ID:QQY98zDp
バッ!
女が手を伸ばすより早く、脇からすり抜けてきた腕が、定期券をかすめ取っ
た!
「えっ!?」
「なにっ!」
男女が声を上げるが早いか、定期券を奪った主は、スケートボードを駆って
反転、その場から離脱する。
「へへっ、998の定期券、確かにもらったぜっ!」
スケートボードの主、耕一は、そう言って専用エスカレーターへ……その直
前でジャンプし、手すりの上を駆けおりる!
「泥棒だ、捕まえてくれ!」
男が叫びながら、エスカレーターを駆けおりて行く。
赤レンガの旧駅舎を展示しているホールに抜ける。
「こらぁっ、待たんか!」
警官隊が押っ取り刀で駆け付けてくる。さらに、耕一の前からも警官が迫っ
てきた。挟み撃ちにするつもりなのだ。
「ほーらっ」
耕一がぽんっ、と定期券を投げる。
「なにっ!?」
驚愕の声。弧をえがいて、飛んでいった定期券だが……それを、吹き抜けの
2階通路から、伸ばされた手がつかみ取る。
「いただきぃ〜っ」
耕一と一緒にいた悪ガキ軍団が、掴んだ定期券とともにその場から走り去る。
一方、耕一は、警官隊が定期券に気を取られた好きに、ひゅっと腰を落とし、
低い姿勢ですり抜ける。
「ぎぃぃっ、くそっ!」
警官隊は、一瞬どちらを追うべきか迷い、
「くそっ! 1班はスケボーのガキを、2班は定期券を追え! 署に応援を要請
しろ! 相手はあの柏木耕一だ! 絶対逃がすなっ!」
と、ふた手に別れて耕一達を追う。
8 :
1:02/11/19 02:16 ID:QQY98zDp
「はっ、遅い遅ーいッ」
夕暮れ時で、混雑する駅のコンコースを、耕一はスケボーで器用にすり抜け
て行く。
そして、出口へ……飛び出すため、ジャンプ――
……プチンッ!
「あっ! まずっ!」
短い階段を飛び降りた、その着地の瞬間、耕一の首から下がっていた、ペン
ダントの鎖が千切れ、宙を舞う。
カランカランカラン……
勢いで、ペンダントは路面を転がり、そして、1人の足元に当たって止まっ
た。
耕一は身体をひねって、スケボーを停める。
「…………えっ?」
耕一は、足元に転がったペンダントを、拾い上げたその人物を見て、一瞬絶
句した。
それはストレートのロングヘアーと、穏やかな瞳をもつ女性だった、だが、
その姿は……
「楓従姉ちゃん……?」
ファンファンファンファン……
パトカーのサイレンが近付いて来る。
「兄貴! パトカーがきやがったぜ!」
背後から、悪ガキ軍団が声をかけてきた。
「わかってらぁっ!」
そう言うと、耕一は投げて寄越された定期券を手に、スケボーで路上へと飛
び出した。
9 :
1:02/11/19 02:17 ID:QQY98zDp
歩行者をかいくぐり、パトカーの追跡を撒く。
「っへへーっ、パトカーごときにつかまらなるもんかっ」
路地を縫い、高架の犬走りを通過し、さらには、高架から別の高架道に飛び
うつる。
「こっこまでおいで〜」
と、並走する高架を行くパトカーを、からかうように振り返る。
そして、再び前を向いた時。
「えっ!」
なんと、目の前に迫っていたのは工事中の看板と、高架道の途切れ目。
「うわぁぁぁぁーっ!」
ガシャンッ!
急停止しようとしたが間に合わず、耕一はスケボーごと看板にぶつかり、そ
のまま高架から転落してしまった……
10 :
1:02/11/19 02:18 ID:QQY98zDp
ヴィイィィーッ!
甲高い、重力波の警笛を鳴らしながら、銀河鉄道の急行列車が、流線形の鋭
角的なボディをひけらかすように降りてくる。
「銀河鉄道だー」
と、まだ10歳かそれより小さいであろう少年が声を上げる。列車は、一筋の
光芒と化しながら、一大メトロポリス・東京に降りていく。
「今夜最終着の急行列車ですね……」
銀河鉄道を眺めている彼よりは、いくらか年上の少女が、光溢れる都市に消
えていく光芒を見て、言う。
しかし、少女達の立っているあたりは、繁栄を謳歌する東京とはまったく異
なる世界――急速な過疎化、続く戦乱とそれに伴う気候変動で寂れ、打ち捨て
られた街並を、雪が覆っている光景だった。
「銀河鉄道に乗れば、ただで強い身体に……しかも、地球をこんなにしたやつ
らをやっつけられるんだよね? 楓従姉ちゃん」
「ええ、そうですよ。耕一さん」
少年は自分より年上の少女を楓と呼び、そう呼ばれた少女は、幼い少年を耕
一と呼んだ。
はしゃぐ、幼い耕一に、しかし楓はどこか物憂いげな表情で、ため息をつい
た。
幼い従弟は、地球を荒らした連中――機械化人との戦争に赴くことの意味
を、全て理解してはいないのだ――すくなくとも、楓はそう思っていた。
「ごめんなさい……叔父さん達が生きていれば……こんなことに……」
楓が呟くように言うと、耕一は歩みを止めてくるりと振り返った。
「お従姉ちゃん、そうやって泣くの……やめようよ。ねっ?」
そう言いながら、耕一は楓の足元に歩み寄る。
「俺も頑張って働くよ。そして、銀河鉄道の切符を買おうよ。2人で998に乗る
んだ」
耕一はあくまで明るく振るまい、そう言った。
「そうですね……」
従弟の振る舞いに、ようやく、楓も笑顔を見せた。
11 :
1:02/11/19 02:18 ID:QQY98zDp
2人は、鉄筋の建物が植物によって覆われた街の中を、雪の積もった路面を
踏み締めながら歩いていく。
「!?」
楓は急に歩みを止め、驚いたような表情で背後を振り返る。
「? どうしたの?」
耕一はきょとんとした表情で、歩みを止めた楓を振り返る。
「…………」
楓が呆然と視線を向けている方向に――耕一は未だ、気付いていなかったが
――闇の中から、赤い染みが1つ、2つとあらわれる。
「走りますよ、耕一さんっ!」
慌てたような表情で、楓は耕一の手をとって走り出す。
「なに、なに、どうしたの?」
耕一は従姉の行動が理解できず、引きずられるようにしながら、楓に聞き返
す。
「人間狩りです! 機械化人の……」
「えっ!」
耕一も表情を一変させた。噂には聞いていた。しかし、遭遇するのは初めて
だ。
一応、機械化陣営の勢力は、地球を撤収したことになっている。しかし……
いま彼達が立っているような、その存在そのものが放棄された地域では、生
体強化陣営の管理が行き届いていない。そのため、なお混沌とした事態が続い
ている。それを利用して、今なお自らの優性を示そうと、地球の放棄地帯や辺
境惑星などで、そこにへばりつくようにして生きている人間を一方的に虐殺す
る機械化人が存在している。
従姉の言葉を証明するかのように、ライフルの銃火が彼達を掠める。
「うわっ、うわぁぁっ!」
光芒が自分達を追い抜く度、耕一が悲鳴を上げる。
12 :
名無しさんだよもん:02/11/19 02:18 ID:PM+vnLqX
で、どのサイトからパクってきてんだ?
13 :
1:02/11/19 02:19 ID:QQY98zDp
雪の降り積もる、かつては商店街だったらしい一帯を抜け、ツタ科の植物に
よってねじ曲げられた信号機の傍をすり抜ける。
打ち捨てられた、自動車の廃車体が築く丘を越えようとした時。
ギュウゥイン
「きゃうっ!」
「お、お従姉ちゃん!」
従姉の上げた悲鳴に、耕一は反射的に振り向く。
そこには、腹部を手で押さえながら、よろめく楓の姿があった。その手のお
さえたあたりから、衣服に赤い染みが広がっていく。
「耕一……止まらないでください……走って……私……も……」
しかし、言葉とは裏腹に、楓はやがて歩みを完全に止め、耕一の足元に倒れ
込む。
「お従姉ちゃん! しっかりしてよぉ!」
半ば泣き声で、耕一は姉に声を上げる。
「お従姉ちゃん……うわっ!」
楓に駆け寄ろうとする耕一の足元に、ライフルの着弾があり、耕一は背中か
ら転げて、丘の下に落ちてしまう。
「おねえちゃ……!」
なおも楓に声をかけようとして、耕一ははっと息をのんだ。
丘の反対側に、モーターの音を響かせて、機械化人達の車が停止する。
「ふぅん……」
ざっと、雪を蹴散らすようにして、数人の機械化人が倒れている楓に向かっ
て歩いてきた。リーダー格の男が、銃身に金のエンブレムの付いたライフルを
手にしている。
「ちょっと若いが、なかなか美人だな」
リーダー格の男が、楓の肢体を値踏みするように一瞥して、そう言った。
なんとなく割り込みカキコ
15 :
1:02/11/19 02:19 ID:QQY98zDp
「良い収穫でしたね、伯爵……」
「まぁな……ちょうどホールに飾る剥製が欲しかったところだ。これならば相
応しい」
取り巻きらしい1人が言うと、伯爵と呼ばれたリーダー格は、そういって笑
い声を上げた。
「もう1人のガキはどうした?」
伯爵が、車の方に問う。
「それが……空気の汚染と、さっきからのこの雪でセンサーが不調なんでさぁ」
車のコクピットに座っていた、別の1人がそう答える。
「ふぅん……まぁいい、ガキなんぞ剥いでも面白くない。放っておいてもこの
寒さなら直に死ぬ」
伯爵は、そう言ってから、おもむろに楓の身体を抱きかかえると、車の方に
歩き出す。
「引き上げだ、時間城で祝杯を上げよう」
「へいっ!」
伯爵がそう言って、楓の身体を抱えたままリヤシートにおさまると、取り巻
き達もそれに続き、やがて、車はタイヤの軋む音を残して、雪の廃虚へと消え
ていった。
「伯爵……時間城……」
耕一は、そう呟きつつ、機械化人達が完全に立ち去ったことを確認してか
ら、その場に立ち上がった。
足元の雪が紅い。耕一も脚に銃火を受けていた。だが見た目の出血程傷は深
くなく、致命傷には程遠い。
しかし、耕一は睨み付けるように顔をしかめた。しかしそれは、痛みではな
く、怒りからのものだった。
「おぼえてろ……機械伯爵!!」
16 :
1:02/11/19 02:20 ID:QQY98zDp
「ん…………」
耕一がゆっくりと目を覚ますと、見なれない、豪華な部屋の中にいた。
「こっ、ここは……?」
がばっ、と起き上がる。するとそこは、ふかふかで、大きなベッドの上だっ
た。あたりを見回す。隣に、同じベッドがもう1つおいてある。……ホテルの
1室だろうか?
そっと、ベッドから床におりる。するとその床が、するっと動いた。
「うわっ!」
耕一は不意のことに受け身がとれず、その場にどすんと尻餅をついてしまう。
「あいたた……あ、俺のスケボー!」
お尻をおさえた耕一の視界の中で、古びたスケートボードがガラガラと転が
っていき……クロゼットの扉にあたって、軽く跳ね返って止まる。
――いいか……このことはくれぐれも内密にするんだぞ……
「!?」
不意に聞こえてきた声に、耕一は跳ね返るように振り向いた。
その視線の先には、扉があって……それに取り付けられた換気ガラリから、
湯気が漏れ出ている。バスルーム? 誰かいるのか……耕一はそう思い、よっ
と扉に歩み寄っていく。
――いい? エディフェル。お前はその子に影のように寄り添い、最後まで
見守り届けるんだからね……
「はい、わかっています……けれど……」
「!?」
耕一は驚いて目を白黒させた。中からは聞こえて来る声は、若い、おそらく
自分と10はかわらない女性のものであったが……それは、明らかに2人の、別
々の声が交互に発されていた!
中で何を離話しているのか……不審に思った耕一は、ドアノブに手をかけ
る。鍵はかかっていなかった。
ごくっ、と唾を飲み込んでから、ドアノブをひねり、そして、一気に開いた!
もいっちょうぇありこみかきこみ
18 :
1:02/11/19 02:21 ID:QQY98zDp
「誰かいるのかッ!?」
と、中に向かって大声を発する。しかし、かえって来たのは、
「きゃっ!?」
という、小さな悲鳴。
目の前にいたのは、一糸纏わぬ姿の若い女性。そこがどんな場所であるか考
えれば、当然のことだ。
だが、耕一は驚いたように目を見開き、女性の顔をまじまじと見つめてしま
った。
「お……ねえ……ちゃん?」
その顔――ストレートの長髪、優しげな、そしてどこか物憂れいげな表情…
…瞳の色さえのぞけば、その女性は、機械伯爵に射殺されたはずの従姉、楓に
そっくりだった。
「ど、どうかしましたか……?」
驚いたような、そして半ば心配げな女性の声に、はっと耕一は我に返り、
「え、えと……その……」
そして、思わずかぁっと赤面する。
「ご、ごめんっ!」
気恥ずかしさに、そう叫んでドアを乱暴に閉めた。
「はぁ……」
ドアを背にして、思いきり息を吐き出す。まだ心臓がドキドキ言っている。
「……あれ?」
と、そこで気がつく。バスルームの中には、1人しかいなかったぞ?
「どうなってるんだ……?」
耕一は、そう言って、腕を組んで小首をかしげる。
カチャ……
内側からドアが開かれ、バスルームから下着姿の女性が出てきた。
19 :
1:02/11/19 02:22 ID:QQY98zDp
女性を改めて見てみる。小柄だが、すらりと細身で、やはり耕一よりは年上
そうだ。胸は小さいが、全体的には女性らしいプロポーションになっている。
「あわわ……」
耕一は慌てて、じたばたと手を動かす。
「どうかしました……?」
「話し声が……いやその……」
耕一は、言いかけて、その言葉そのものを飲み込むかのように、ごくりと喉
を鳴らしてから、体勢を整える。
「へ、変な夢を見ちゃって……」
と、照れたように顔を赤らめて、苦笑した。
「ああ……それはきっと、ドリームソナーのせいですね」
「どりーむそなー?」
女性が言うと、耕一はその、初めて聞く単語を、思わず反芻した。
「これです」
女性はそう言って、紫色の、一見メイクセットのような外観の箱を手渡した。
耕一が、それを開いてみると、中は小型のパームトップコンピューターのよ
うになっていた。
「それを使うと、相手の夢の内容を見たり、あるいは、過去の記憶を夢として
再現させることも可能なんです」
女性はそう良いながら、クローゼットの中から洋服を取り出し、身につけて
いく。
「どうしてわざわざそんなことを……いえ、そもそもどうして、俺を助けたん
だい?」
耕一は落ち着いた口調で、問いただす。
「そうね……あんな必死なあなたが、気になったからですか」
女性は、苦笑しながらそう言った。
「でも……だからって……」
20 :
1:02/11/19 02:23 ID:QQY98zDp
耕一がさらに問いただそうとすると、女性は微笑んだまま、その言葉を遮る
ように、逆に耕一に聞き返す。
「なら、どうして、998の定期券を盗んだりしたんですか?」
「う……それは……」
耕一は、一瞬、視線を反らしたが、やがて、軽くため息をついてから、
「盗んだのは悪いことだと思ってるよ……でも……」
「どうしても、998に乗りたかった?」
女性の問いかけに、耕一は頷く。
「998に乗って、どうするつもりですか?」
女性が再度尋ねると、耕一は、少し俯いて答える。
「あなたも噂ぐらい聞いたことあるだろ……998に乗れば、強化体をタダでくれ
る惑星に連れていってくれるって……」
「ええ……そうですか……あなたは、生体強化世界の戦士になることが目的な
んですね……」
女性も、少し俯いた姿勢でそう言って、軽く目を閉じた。
「俺は……両親や、それに、俺の面倒を見てくれた従姉を、機械化人に殺され
たんだ……だから、俺は機械化人と戦いたいんだ! こんな、俺の気持ちはお
かしいか? あんたにだって、家族がいるんだろう?」
耕一は徐々に興奮していき、最後は怒鳴るような口調で一気にしゃべり終え
た。
すると、女性は不意に顔を上げて、耕一の顔を見据える。
「な、なに……」
じっと見据えられて、少したじろいだ耕一は、やがて、急にそれに気が付い
たように、はっとして、
「あ……まさか、あんたも家族を機械化人に……?」
そう問いかける耕一。女性は何も言わずに、耕一から視線を反らした。
21 :
1:02/11/19 02:24 ID:QQY98zDp
「ご、ごめん……変なこと……言っちゃったみたいだ……その……」
耕一が言葉をつまらせていると、不意に、女性は立ち上がり、微笑んだ。
「きにしないで」
「え、でも……」
耕一は気まずそうな瞳で女性を見上げたが、女性は優しげに微笑んだまま、
すっと手を伸ばす。そこには、恐らく彼女のものと思われるトランクがおいて
あった。
「あなたの目的はわかりました……だったら、私が定期券を差し上げましょう
か……?」
「え……?」
耕一は、一瞬、彼女の言ったことを理解できず、きょとんとしてしまった。
「そ、そんな、俺をからかってるのか?」
「そんなことはありませんよ?」
耕一の抗議するような声に、女性はしかし、そっとトランクを開けて、その
中から一枚の紙片を取り出した。
耕一は、差し出されたそれを、思わず受け取り、まじまじと見つめる。
地球−アンドロメダ、無期限の文字。そして、うっすらとカラーで印刷され
た998のエムブレム。
「正真正銘、本物の銀河鉄道の定期券です」
女性は言う。
「でも……いいのか? ただでもらっちゃって?」
耕一が、恐る恐る聞き返すと、女性は微笑みをたたえたまま応える。
「1つだけ条件があります」
「条件?」
耕一は、定期券から視線をあげ、女性の顔を見る。
「私も一緒についていっても良いのなら、その定期券をさしあげます」
「一緒に……それだけで良いのか?」
22 :
1:02/11/19 02:25 ID:QQY98zDp
耕一は再度聞き返す。
「そう、998の旅は長いですから……あなたのような明るい人がいると、退屈し
ないでしょう?」
「誉められてるのかなぁ……」
女性の言葉に、耕一は困ったように苦笑してから、
「でも、いいよ。旅は道連れって言うしね」
といって、にっこりと笑った。
「じゃあ、よろしく。えと……おっ、俺の名前は耕一」
それまで名乗りあっていなかったことに気が憑いた耕一は、明るい表情でそ
う自己紹介した。
「私の名前はエディフェル。よろしく、耕一」
エディフェルと名乗った女性も、微笑み返す。
「あ、そうそう……」
エディフェルは、思い出したように、開けたままのトランクを再び覗き込ん
で、
「それから、これ……返しておきますね」
と、取り出した物は、
「あ! 俺のペンダント!」
耕一は、それを確認すると、ペンダントをひったくるようにして受け取っ
た。それから、そのフタになっている部分を開く。そこには、目の前のエディ
フェルから、特徴的な紅の瞳をのぞいたような女性と、幼い頃の耕一が一緒に
写された、写真が貼付けられている。
「それが……従姉さんなのですか……」
「ああ……ちっちゃい時の記憶しかないけど、だけど、とても優しいお従姉ち
ゃんだった……それなのに……」
過去を思い出してか、耕一がまた震え出した。
が、再び過去に浸っている時間は、与えられなかった。
23 :
1:02/11/19 02:25 ID:QQY98zDp
ドンドンドンドン!
激しく、ドアをノックする音が聞こえた。
「ドアをあけろ! 生身の人間の犯罪者をかくまっているだろう!」
と、外で度なっているのは、おそらく警官か。
エディフェルはトランクを閉じ、ドアの方に身体を向ける。
「いいですか? 一度998に乗ったら引き返せません。終点まで行きつくか、途
中で降りたどこかの惑星で一生を終えるか……」
真剣な面持ちで言うに、耕一は、気合いを入れるように息を吐いてから、
「構わないよ、今は。998に乗れる、それだけでいい!」
そう言って、足元に転がっていたスケートボードを拾い上げた。
その間に、警官は強行突入に踏切ろうと言うのか、金属製のドアをバーナー
で焼き切りはじめた。
ドアが焼き切られ、警官が踏み込んできた瞬間、エディフェルが何かを放っ
た。
閃光が、室内を満たす――
ありふれたフラッシュグレネード。だが、強化体である警官達は、なまじそ
れ故に視神経を焼かれ、のたうつ。
視界を失った警官達を押し退け、2人は部屋から走り去った。
24 :
1:02/11/19 02:26 ID:QQY98zDp
再び、東京駅。
2人はコンコースを歩いていく。耕一は紐で前軸を縛ったスケートボードを
背負うようにして歩いているが、エディフェルがまっすぐに歩いていくのとは
対称的に、彼はきょろきょろと余所見をしている。
旧煉瓦駅舎保存ドームより上、銀河鉄道のコンコースは、今耕一が初めて踏
み込む場所だった。
しかし、それでも、周囲には人がたくさんいる。
「23時30分発、火星行き列車は、38番線からまもなく発車いたします。御利用
の方は、御乗車になってお待ち下さい……23時59分発、超特急998は、13番線か
らの発車となります……」
構内放送が案内する、その13番線に、エスカレーターで上がっていくと、そ
こに横たわっていたのは、濃いブルーの車体、20世紀中ごろの、丸みを帯びた
客車。
「こ、これが噂の998!?」
その古めかしいスタイルに唖然として、耕一は思わず声を上げてしまった。
「おどろきましたか?」
エディフェルが、笑顔のままできいてくる。
「驚いたって……銀河超特急がこんな旧式なスタイルだなんて……」
最後尾の電源車が、今となっては頼り無さげなうなり声を上げている。
「大丈夫、こう見えても無限シールドを張った最高の宇宙列車なんですから」
エディフェルはそう言って、先頭の機関車まで耕一を連れていく。
外観は20世紀の日本型、オレンジ色のディーゼル機関車。だが、内部は、耕
一には見たこともないようなメカニズムが詰め込まれていた。
「ヨウコソ、998ヘ」
「わっ! しゃべった!?」
突然、機関車のメカニズムに声をかけられて、耕一がビクッと驚いたような
表情になる。
25 :
1:02/11/19 02:28 ID:QQY98zDp
「998は、それ自身が知能を持った機関車によって牽引されているんです」
「へぇ……」
エディフェルに説明されると、耕一は感心したように声を上げた。
「私ハ、機関車DF50ノ48。特急998ヲ安全カツ正確ニ運行スル事ガ私ノ役目デ
ス」
機関車が、耕一に自己紹介した。
「どう? 安心した?」
エディフェルの問いかけに、
「ああ!」
耕一は元気よく、返事をした。
「見た目は心安らぐように、鉄道列車が旅の主役だった頃のブルートレインに、
それも一番優雅だと言われた車両を再現してあるのです」
エディフェルが説明をしながら、2人は車内の通路を歩いていく。
「二度と帰らない旅人のためには、これくらいの心配りが必要なんですよ……」
「二度と……帰らない……」
“B寝台”と書かれた車内で、脚をとめる。改札のチケッターで、指定され
た2人の席だ。
「俺は……いつかここに帰って来るつもりだよ! いつになるかわからないけ
ど、強化体を手に入れて、必ず!」
耕一はボックスの前に立って、既に座席に座ったエディフェルに、強い口調
でそう言った。
エディフェルは黙って、耕一を見つめた。
27 :
1:02/11/19 02:28 ID:QQY98zDp
998に乗り込む人たちが、ホームやデッキで別れを惜しむ中、けたたましい発
車ベルが鳴り響く。
「出発信号、受信……知力燃焼制御正常。機関運転暖気完了、主回路負荷正常。
全機構異常無シ」
ベルが届く、機関車DF50 48の内部で、計器類のバックランプが点灯してい
く。
ピイィィーッ!!
ベルが鳴り止むと共に、警笛が一声。
続いて機関車がそろそろと動き始め……ガクン、とその力が客車に伝わりは
じめたところで、エンジンのうなりが響きはじめる。回転数が上がる間、煙突
から煤煙を吹き出す。そして、機関車は力強く客車を引きはじめ、列車はホー
ムを滑り出す。
ホームを出て、屋内の誘導線路を走っていく。
耕一は、窓から、まだ無機質な壁が後ろへ流れていくのを、窓から見つめて
いた。
「とうとう……俺は行くんだ……とうとう……」
998は、走りに弾みをつけつつ、空へとのびるカタパルト・レールへと進む。
列車はぐんぐんと空へと進んでいく。その先で、レールはくるっと巻き込ん
で終わっていた。998はしかし、そこをまるで継ぎ目のない線路のように通過
し、そのまま空へと向かっていく。
景色は空に星々が、地上には灯の光が輝き、まるで既に宇宙空間にいるよう
な光景になっている。
列車は雲を掠めるように走っていく。星明かりに照らされたミルクような雲
が、途切れ途切れに窓の傍を過ぎ去っていく。
28 :
1:02/11/19 02:29 ID:QQY98zDp
耕一がそれを眺めていると、地上の灯の瞬きとともに、スラムの仲間達が浮
かんで来る。
「元気でやってろよ……お前ら……」
と、耕一は呟く。すると、それと入れ替わりに、今度は、エディフェルに
そっくりな、少女が浮かんできた。
「お従姉ちゃん……」
切なそうに窓の外を眺めている耕一を、エディフェルは、真剣なまなざしで
見つめていた。
998は、警笛を鳴らしながら、地球の大気圏を後にする――
>>28 終わった? で、どこからコピってきたの?
30 :
名無しさんだよもん:02/11/19 02:30 ID:dvLx+jpA
鉄郎、これが最新の銀河鉄道998よ。
外見はアレだけど中身もアレなの。
超合金ニューZとガンダリュウムの合金で出来た強靭な装甲。
エネルギーは人力よ。
人さえいれば無限のエネルギーを生み出す素晴らしいシステムなの。
何でも機械にたよっちゃダメ。
さぁ鉄郎、一緒にタダでゲームがもらえる星に行きましょう。
.
.
.
鉄郎、鉄郎〜どこ逝ったの?お願いだから帰って来て〜!
時は流れ
>>1 は消えて行く
大抵の
>>1 が 立て逃げして二度とかえらないように
このスレの
>>1 もまた 去ってかえらない
ひとは言う
998は
>>1 の心の中を走った
「駄スレ」という名の列車だと
今一度 万感の想いを込めて 汽笛が鳴る
今一度 万感の想いを込めて 汽車が行く
さらば
>>1 さらば 銀河鉄道998
さよなら銀河鉄道998とかエターナルファンタジーとかで
駄次スレ立てんなよ
33 :
1:02/11/19 21:08 ID:QQY98zDp
ピイィィーッ
汽笛を鳴らし、998は地球から離れて行く……
耕一達の窓越しには、青く澄んだ地球の姿があった。だが、耕一はその地球
から、わざと眼を反らした。
「耕一さん……これが、肉眼で見る最後の地球になりますよ、しっかりと見て
おかなくていいのですか?」
「いいんだよ……」
エディフェルの言葉に対し、耕一は少しぶっきらぼうに返事をした。
「地球にはもう、辛い思い出しかないからね」
「今は辛い思い出でも、いつかきっと、懐かしいと感じる時がきますよ」
エディフェルがさらに言うと、耕一は苦笑して、
「それは、年寄りになってから後悔すればいいさ」
「そうですか……」
なぜか、エディフェルが物悲しそうな表情をした。耕一はそれが気になって、
笑顔を消し、問い返そうとした。
だが、その時、耕一の背後から、
「失礼します、乗車券を拝見に参りました」
と、別の声がかけられた。
耕一が振り返ると、そこに、小柄な、少年のような容姿の、車掌が立ってい
た。
着ている制服は銀河鉄道乗務員のそれとしてお馴染みのものではなかった。
998の姿がそうであるように、かつての日本国有鉄道の濃紺のそれを模したもの
だった。ただし帽子には998のエンブレム、そして同じく998と大きく書かれた
腕章をつけている。
34 :
1:02/11/19 21:09 ID:QQY98zDp
エディフェルと、それに習うようにして耕一が定期券を見せる。
すると、車掌は敬礼し、軽く頭も下げて、
「お手数おかけしました。自分は銀河鉄道株式会社・地球管理区・第一車掌分
科の霧島香織と申します。これより長い998の旅に御同行させていただくことに
なりました、よろしくお願いいたします」
見かけとは裏腹に、真剣と言うより、杓子定規な感じで挨拶をする。
「あ、ど、どうも……」
反射的に、礼をしてしまう耕一。
『この度は特急998号を御利用いただきまことに有り難うございます、次は、タ
イタン、衛星タイタンに停車いたします。停車時間は地球時間で16日となりま
す』
と、これはスピーカーから流れてきた、車内放送である。
「16日……随分長く停車するんですね……」
少しあっけにとられ、耕一が呟くように言う。
「998の停車駅での時間は、1自転周期、すなわちその星での1日と言うことに
なります」
「自転周期はその星々によって違いますから、1日が30分しかない星もあれ
ば、1年近い星もあるんですよ、耕一さん」
霧島に続いて、エディフェルが説明した。
「へぇ〜、なるほどね」
「停車中の期間は、その星を自由に観光することができます。ただし、乗り遅
れた場合は、それは死を意味しますから、気をつけて下さい」
「し、死ぬー!?」
エディフェルの言葉に、耕一は素頓狂な声を出してしまう。すると、霧島が
顔色も変えずに、付け加える。
「つまり、おいてきぼりにされてしまうのです」
「へぇ〜、ずいぶん厳しいんだね」
耕一が、ため息を付くように言うと、霧島はそこで初めて、少し微笑んで、
「規則厳守が、我が銀河鉄道の誇りでもありますので」
と、言ってから、再び表情を引き締める。
「では、自分は職務がありますので」
再び敬礼し、霧島は歩き去って行った。
35 :
1:02/11/19 21:09 ID:QQY98zDp
月、火星の環境改造に成功した地球人が、次に着手したのが土星の衛星、タ
イタンだった。
ただし、月や火星のそれが植民計画に基づいて行われたものであるのに対し、
タイタンは、『太陽系に人間の第2の楽園をつくろう』という、有志による計
画だった。
そして彼等の制定した『楽園法』は、現在も侵されることなくタイタンに根
付いていた。
998は、土星の美しい輪をすり抜けるようにして、その『楽園』へと降り立っ
て行く……
37 :
1:02/11/19 23:58 ID:QQY98zDp
>>36 むぅ、これはどこに在籍してたときの写真?
というか、九州に在籍してたことってある?
C62 48が実在するのはよく知られているところだと思うけど……
(ラストは49号機)
39 :
1:02/11/20 00:46 ID:HBs8p5xB
>>38 ということは、実車は20系との組み合わせは経験しなかったのか。
残念…………
40 :
1:02/11/21 00:38 ID:RI8Y/n88
萌える広葉樹に包まれた、時代がかった西洋風の小さな駅舎。タイタンの銀
河鉄道の駅は、意外にもそんなこぢんまりしたものだった。
その駅を出て、やはり中世の欧風建築で立てられた、淡色系の町並みを歩く。
気候は程よく暖かい。
「なるほどね……楽園か」
耕一少年はにまっと笑って、町並みを見回した。
エディフェルは無言で、そんな耕一のあとについてくる。
耕一が鼻歌まじりに、1人の青年とすれ違った瞬間!
ギュルルゥゥーンッ……ガッ!
それは物理的な弾丸や、あるいは熱線の類いではなかった。強烈な衝撃波、
ソニック・ブラスター。
しかしそんなことは問題ではない。
「わ……」
耕一が驚愕の声を上げた、次の瞬間、そのすれ違った青年はどさり、と地面
に突っ伏した。
口から血反吐を吐き、目には既に生気がない。
「う……撃たれた、人が撃たれたぞ……っ!!」
間近で人が狙撃され、パニックになりかける。耕一。
だが、それとは対照的に、人々はまるで何ごともなかったかのように通りを
通過して行く。
「だ、誰か、人、ひとがっ!!」
耕一が泡を食ったように声を出しても、誰も振り向こうともしない。
故意に無視しているのではない、もとより感心がない、と言った感じだ。
「ど、どうなってんだよ、エディフェル……えでぃ……?」
耕一は彼女に話し掛けようとして、その時、それまですぐ背後にあった、彼
女の気配がないことに気が付いた。
41 :
1:02/11/21 00:38 ID:RI8Y/n88
「あ!」
耕一が振り返ると、そこには、タオルを口にかまされ、3人がかりで連れ去
られて行くエディフェルの姿。
「待てっ、こらぁっ!」
耕一は慌てて、追い掛ける。
「んぉんふふぁぬ、んふんん゛ー!!」
エディフェルが必死に何かを叫ぶが、猿ぐつわのせいで言葉にならない。耕
一は構わず走り続けた。
と。
ギュルルゥゥーンッ…………
「うわっ!」
左足に激痛が走る、耕一も狙撃されたのだ。
そのまま路地に転がり――ブラック・アウト。
42 :
1:02/11/21 01:01 ID:RI8Y/n88
ぐつぐつぐつぐつ…………
そんな、柔らかい音を耳にして、耕一は目が覚めた。
ふと目を開き、起き上がる。そこは……
「……どこだ?」
きょろきょろと周囲を見渡す。
そこは、降り立ったタイタンの街の、その家並みの中にでもあるかのような、
古風なつくりのリビングだった。
「お目覚めになられたようですね」
声をかけられ、その声の方へと、耕一は視線を向けた。
「君は…………」
「私の名は栞と申します、よろしく」
耕一の視線の先に立っていた、ローブ姿の少女が、笑顔でぺこりとおじぎを
した。
「あ……えっと、俺は……柏木耕一って言います……その」
いきなり丁寧に挨拶され、耕一は自分より小柄な少女に向かって、少しども
りながら挨拶をかえした。
「いったい、俺は……どうしてここに?」
耕一が栞に向かってたずねると、栞は苦笑しながら説明する。
「狙撃されたんですよ。でも、運がよかった……そうでなければ、今頃もう1
人の方のようにバラバラにされているか、あるいは、私のようになっているか
のどちらかです」
「私のように?」
耕一は意味が解らず、栞に問い返した。
「はい……こんなふうにです」
43 :
1:02/11/21 01:02 ID:RI8Y/n88
栞はためらいのそぶりさえ見せず、ローブの前をはだけた。その下は、なん
と光沢のあるレザーのビキニ……ボンデージと言うには皮地の部分か少ないか、
とにかくそう言う格好だった。
耕一は、最初、面喰らって、目を手で覆ったが、やがて、栞の真意を理解す
る。
栞の肢体は、股関節の周りが、生殖器の部分であろう一部をのぞき、金属の
部品で構成され、腹部にまで計器類が露出していた。
「き、機械化人!? あわわわ……」
耕一は今度は真っ青になって、後ろへと飛び退く。
「もー、そんな態度とるひと嫌いですっ! 別に、とって食ったりしませんよ
っ」
栞は少し不機嫌そうな声で、耕一に向かって言った。
「私は病弱で……この身体にならなければ生き長らえなかったんです、だから
……」
「え…………あ……ご、ごめん、酷いこと……しちゃったみたいだ……」
栞の言葉に、耕一はいたたまれなくなり、立ち上がって、頭を下げた。
「いいんですよ、気にしないで下さい」
栞は、そういってにこっと笑った。
「でも……どうして、見ず知らずの俺を助けてくれたんだ?」
「そうですね、きまぐれ……でしょうか?」
耕一の問いに、栞はさらりと答え、悪戯っぽく笑った。
「きまぐれって……」
耕一が苦笑して聞き返す。ところが……
「そうですか?」
そう言って、栞は急に深刻そうな表情になる。
「きまぐれ、は、ここではとても重要な要素なんですよ、この『楽園タイタン』
ではね……」
44 :
名無しさんだよもん: