そしておれは、みどりを抱ひた。
予想はしてゐたが、みどりは生娘であつた。
初花を散らせるのが場末の連れ込み宿と云ふのは気の毒な気もしたが、
みどりはひと言の愚痴もこぼす事無く、その小さき唇を噛み締めながら
己が身に起こつてゐる事を健気に耐へ、感じてゐた。
ここに至るまで、ひと時の逢瀬すら許されなかつたと云ふ事もあつてか、
おれ達は唯唯ひたすらにお互ひを求め貪り合つてゐた。
真に夢見心地であつたと言ひたいのであるが、実は何をだうしたのか、
良く覚えてゐない。兎に角人と云ふ箍を外して野生の獣に戻つたひと晩で
あつたと云ふ所であらうか
翌朝、おれが起きた時には、既にみどりの姿は無く、短い文が枕元に
慎ましやかに置かれてゐるだけであつた。
文を開ひてみると、大晦の日まで高倉の家には戻らず、知人の家を頼ると
云つた内容の事が書かれてゐた。
大晦と言へば例の勝負の期日であるが、文面から察するに、おれが勝負に
勝つた上で晴れて戻つて来ると云ふ算段なのであらう。
期日まであとひと月足らず、毎日が瀬戸際のやうなものである。
まだ日の出前へと云ふ事もあつて薄暗かつたが、ほんの僅かな時も惜しく
感じられ、おれは大急ぎで仕度を整へると、遅い帰途に就ひた。
おー、ついにやったか健太郎(w。
もうすぐクライマックスだと思うと。待ち遠しい反面少しの寂寥感が……。
五月雨堂は当然の如く灯りが消えてゐた。
てつきり鍵も掛かつてゐるだらうと、半ば期待もせずに玄関の扉に手を
やつてみると、造作も無く開ひた。スフィイの奴め、無用心にも鍵を掛け
忘れたかと、呆れながらも物音を立てぬやうにそつと家の中に入る。
居間の前へを通ほると、奇妙な事に人の気配を感じたやうな気がしたので
そつと障子を開けてみると、薄暗がりの部屋に鮮やかな桃色の髪が
目に映り、朝帰へりと云ふ疚しさもあつて、おれはどきりとした。
スフィイはへたり込むやうに座り、人形のやうに放心してゐる。
怯み掛けたが何とか気を取り直ほすと、おれは改めて障子を開け、
さもたつた今気付ひたやうな顔をして、スフィイではないか、灯りも点けずに
何をしてゐるのだ、と問ふと、スフィイは一瞬ではあるが脅へたやうに肩を
強張らせた。そして慌てて顔を擦ると立ち上がつて、ゆつくりとおれの方を
見返へつた。何やら半笑ひのやうな表情を無理矢理に浮かべてをり、
口元の皮膚が突ッ張つてゐる。
奇妙である、何時ものスフィイならば不平の十や二十は平気で飛ばして来ても
不思議ではないのだが、今朝に限つては、遅かつたんだねと搾り出すやうな声で
ひと言呟くやうに言つただけであつた。
気味が悪くなつて、一体だうしたのだと言つたその時、スフィイの目から
頬を伝つて涙がこぼれ始めた。スフィイもそれに気付ひて、慌てておれに背を
向けて、ごしごしと目を擦り始めるのであるが、一度こぼれ始めた涙は容易には
止まらなかつた。
あの太陽のやうな明るさのスフィイが、か細い肩を震はせて、泣ひてゐる。
何ゆへ泣くのだ。
朝帰へりした事に対ひして怒りの余り涙まで出て来たのか、女が一晩中独りきりで
居た事が心細かつたのか。
否、そのやうな理由で無い事はおれ自身も良く分かつてゐる。
分かつてはゐるのだが、その答へを出す事に因つて、今まで維持して来た物を
失ふ事をおれは恐れてゐたのだ。
けんたろ、と泣き声でスフィイは呼び掛ける。
言ふな、スフィイ、頼むから言はないでゐてくれ。
おれの心の叫びも空しく、スフィイは積年の想ひを吐き出した。
こんな子供のやうな身体で無かつたなら、けんたろに女として見てもらへるのに。
ハーレムエンドのヨカーン(*´Д`)
むむむ、ラスト近し!?
すひーたん・・・萌えますた。
ここの健太郎すげー格好イイな、結花スレの健太郎と大違いだw
いっぺん真似して書いてみるか・・・
嘘です。もうドツキ漫才しか書けねーや
昨夜の熱い情事の余韻さへ一時に冷ましてしまふ程の、重い告白であつた。
眼の前を覆つてゐた靄のやうなものが晴れて行き、おれは全てを覚つた。
あゝさうだ、おれが真に好ひてをつたのはこの娘であつたのだ、以前からおれの
空ッぽの頭の中でがらんごろんと鳴つてゐた警鐘はこれの事だつたのだ。
若しかすると、おれの意識はスフィイが成熟に至るまで待てと言つてゐたのであらうか。
しかしながらスフィイは余りに近しい存在になり過ぎて、最早色恋の対象と云ふ
観念が失はれつつあり、この警鐘も錆び付ひてゐたやうである。
この期に及んで漸く肝心な事に気付く己の鈍感さをおれは激しく呪つた。
スフィイは声を殺して尚ほも泣き続けてゐる。
このまゝ泣かせて置くのも忍び無いと、おれはスフィイの肩に手を置ひて何か
気の利ひた事を言つてやらうとしたのであるが、スフィイが間髪入れずおれの
手を叩ひて拒絶の意志を表はした。
直きに故郷に還へる者の心配なんぞしてゐる暇があつたら、想ひ人に気遣ひの
一つでもしろと取り付く島も無い。
おれは迷つた。ここでだうするべきか、手段は二つしか無い。
スフィイを受け入れるか、拒絶するかである。しかし、スフィイを受け入れると云ふ事は
同時に高倉みどりを拒絶する事である。即ち、どちらを捨てるのか今この場で決めろと
言つてゐるやうなものだ。犬の子を貰ふ訳では無し、ではこちらをいただきます、と
簡単に決められやうか。
しかしながら、ここで決めずして事が解決するとは到底思へぬ。おれは断腸の思ひで
一つの結論を導き出した。
ごくり。
どきどき
チリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリ
↑ワラタ、受信しそうだYO
最終話はきっと「みどりの日」に発表されるのでしょう。
一気読みした。まじアン再プレイしてきます。
>>541 ズガーン煤i;´Д`)ムリポ……